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抗がん剤による末梢神経障害は治る?原因・対処法・治療薬を現役医師が解説

「抗がん剤による末梢神経障害は治るのか」「しびれや痛みが続いている」など、不安に感じている方も多いでしょう。抗がん剤による末梢神経障害は、多くのがん患者に現れる副作用の一つです。完治を目指すのは難しいケースもありますが、適切な治療やケアによって日常生活への影響を抑えられます。
今回は、抗がん剤による末梢神経障害の原因や対処法、治療薬について現役医師がわかりやすく解説します。症状の改善を目指している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
抗がん剤による末梢神経障害を完全に治すのは難しい
抗がん剤による末梢神経障害は、有効な予防法が確立されておらず、症状を完全に抑えるのが難しい疾患です。(文献1)そのため、症状の進行を抑えたり、日常生活を維持したりするためのケアや対処に努めることが重要です。
なかには、抗がん剤の中止後に症状が改善するケースもあります。一方で、しびれや痛みが長年にわたって残ることも少なくありません。抗がん剤による末梢神経障害が疑われる場合は、医師との連携や早期対応が大切です。
抗がん剤による末梢神経障害の症状
抗がん剤の副作用によって運動神経や感覚神経、自律神経がダメージを受けると、末梢神経障害として以下のような症状が現れます。(文献2)
神経の種類 |
主な症状 |
---|---|
運動神経 |
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感覚神経 |
|
自律神経 |
|
なお、症状の現れ方には個人差があり、日常生活や社会活動に支障をきたすケースも少なくありません。
抗がん剤による末梢神経障害が起こる原因
抗がん剤による末梢神経障害は、薬剤が末梢神経系にダメージを与えることによって生じるとされています。
抗がん剤による末梢神経障害の原因は、すべてが解明されているわけではありませんが、軸索あるいは神経細胞体への影響が考えられます。(文献1)それぞれのメカニズムについて詳しく見ていきましょう。
軸索障害
軸索障害とは、末梢神経の軸索(じくさく)が抗がん剤の攻撃を受けて生じる障害です。
軸索とは、神経細胞から伸びる長い神経線維のことです。次の細胞に情報を伝達するための役割を担っているほか、軸索には栄養素などを運ぶための微小管(びしょうかん)と呼ばれる細胞骨格があります。
抗がん剤のなかには、がん細胞の微小管を攻撃して増殖を抑える薬があります。このとき、軸索の微小菅が攻撃を受けて正常な働きができなくなると、神経の末端に必要な栄養や酵素が届かず、変性の進行につながりかねません。
長い軸索を持つ神経ほど、抗がん剤によるダメージを受けやすいのが特徴です。そのため、足先や手指などの遠位部を中心に、しびれやチクチク感、痛み、感覚鈍麻といった症状が現れやすくなります。
神経細胞体障害
神経細胞体が直接抗がん剤の攻撃を受けて、障害が生じるケースもあります。
神経細胞体とは、神経の中核部分で、タンパク質の合成や代謝、情報処理といった神経の生命維持に欠かせない機能を担っているのが特徴です。
抗がん剤の攻撃によって神経細胞体に障害が起こると、そのほかの部分も二次的にダメージを受け、神経全体の機能が失われやすくなります。
また、細胞体のダメージは神経再生能力の低下を招くとされています。一度損傷を受けると回復までに長期間を要したり、慢性的な神経障害としてしびれや異常感覚、感覚過敏といった症状が残存したりするケースも少なくありません。
そのため、神経細胞体への影響は、末梢神経障害の予後に大きく関与する重要な要素と考えられています。
末梢神経障害を起こしやすい抗がん剤の種類
末梢神経障害の症状は、抗がん剤の種類や投与量によって個人差があります。
ここでは、末梢神経障害を起こしやすい抗がん剤の種類をまとめました。
殺細胞性の抗がん剤
殺細胞性の抗がん剤は、化学物質を用いて細胞増殖が盛んながん細胞を死滅または抑制させる薬のことです。殺細胞性の抗がん剤は、主に以下のような種類があります。(文献1)
一般名 |
商品名 |
主な症状 |
---|---|---|
パクリタキセル |
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パクリタキセル (アルブミン懸濁型) |
アブラキサン |
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ドセタキセル |
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カバジタキセル |
ジェブタナ |
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ビノレルビン |
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対象になるがんの種類によって、ほかにもさまざまな種類の殺細胞性の抗がん剤があります。なお、殺細胞性抗がん剤は正常な細胞にも影響を及ぼすため、副作用の発生頻度が高い薬です。
分子標的型の抗がん剤
分子標的型の抗がん剤は、がん細胞に特異的に存在する分子を狙って、増殖や生存を抑制する薬です。代表的な分子標的型の抗がん剤として、以下のような薬が挙げられます。(文献1)
一般名 |
商品名 |
主な症状 |
---|---|---|
ボルテゾミブ |
ベルケイド |
|
トラスツズマブエムタンシン |
カドサイラ |
手足のしびれや痛み |
ブレンツキシマブベドチン |
アドセトリス |
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サリドマイド |
サレドカプセル |
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レナリドミド |
レブラミドカプセル |
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分子標的型の抗がん剤は、正常な細胞には影響しないとされており、副作用の軽減が期待できます。(文献3)
抗がん剤による末梢神経障害は治る?ケアと対処法
抗がん剤による末梢神経障害では、手足のしびれや痛みなどの症状が現れます。日常生活において症状とうまく付き合っていくためには、適切なケアや対処が必要です。
抗がん剤による末梢神経障害の対処法について解説するので、ぜひ参考にしてください。
医師に相談して治療薬を投与する
抗がん剤による末梢神経障害が疑われる場合は、できるだけ早く医師に相談しましょう。
末梢神経障害に対しては、神経障害性疼痛に有効な薬剤による対症療法がおこなわれるのが一般的です。また、抗がん剤による治療中に末梢神経障害が悪化した場合は、原因となる薬剤の投与延期や減量、中止が検討されます。
なお、リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。抗がん剤治療後に続くしびれや痛みなどでお困りの方は、ぜひ気軽にご相談ください。
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循環を良くする
抗がん剤による末梢神経障害のケアとして、血液の循環を良くするのもポイントです。とくに、末梢部の血流を良くすると、しびれや痛みが軽減する場合があります。
たとえば、入浴時にマッサージをしたり、手を握ったり開いたりする動きを取り入れることで、末梢の血行が促されます。また、無理のない範囲で軽い運動をするのもおすすめです。体調に応じて医師と相談の上、無理のない範囲でマッサージや軽い運動を継続しましょう。
寒冷刺激を避ける
抗がん剤による末梢神経障害は、寒冷刺激によって症状が悪化するケースがあります。とくに、急性の末梢神経障害は、寒冷刺激によって強いしびれや痛みが誘発されるといわれています。
日常生活において以下のような工夫をして、寒冷刺激を避けましょう。
- 冷たい飲み物を避ける
- 冬場や冷房の効いた部屋では手袋や靴下で保温する
- 炊事や洗濯の際はゴム手袋を着用する
- 皮膚が濡れたときはすぐに水分を拭き取る
- 冷たい床などに直接座らない
寒冷刺激を避けることは、抗がん剤による末梢神経障害の症状の悪化を防ぐポイントの一つです。
転倒やケガに注意する
抗がん剤による末梢神経障害は、手足のしびれや痛みのほか、筋力やバランス感覚の低下を引き起こす場合があります。そのため、転倒やケガには十分な注意が必要です。
とくに、高齢者の場合、転倒によって骨折すると入院や寝たきりの状態が長期化するリスクもあります。転倒やケガを防ぐためにも、以下のような点を中心に、住環境を見直しましょう。
- 床に物を置かない
- コード類をまとめる
- 滑りにくい靴やスリッパを履く
- 手すりを設置する
- 段差を解消する
- 夜間は足元灯を使用する
神経障害による感覚異常がある場合は、自覚しにくい小さなケガにも注意が必要です。
【症例紹介】末梢神経障害に対する再生医療の可能性
再生医療は、末梢神経障害の治療における選択肢の一つです。再生医療とは、幹細胞や血小板の投与によって自然治癒力を最大限に引き出し、症状改善を目指す治療法です。
ここでは、両足の長期的なしびれに悩まされた、80代男性の症例を紹介します。
80代の男性は、40年来の糖尿病患者で、内科主治医から糖尿病性末梢神経障害と診断されていました。薬物療法や食事・運動療法により、血糖値のコントロールはある程度良好でしたが、両足の症状はなかなか改善が見られず、再生医療による治療を決めました。
当院では、根本的なアプローチとして患者様の状態に合わせた幹細胞治療を提供しています。この患者様には1億個の細胞を3回に分けて点滴投与しました。治療前後の状態は、以下の通りです。
治療前の状態 |
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治療後の変化 |
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当院の幹細胞治療は、米粒2〜3粒ほどの脂肪を採取するだけで、十分な量の細胞を培養できるため、身体への負担が少ない点が特徴です。
こちらの症例について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
なお、リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。末梢神経障害の治療法でお悩みの方は、ぜひ気軽にご相談ください。
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抗がん剤による末梢神経障害を治すには早期発見・対処に努めよう
抗がん剤による末梢神経障害の症状は、薬の種類や治療期間によって個人差があり、完治が難しい場合もあります。しかし、早期に症状を発見し、適切な対処をおこなうことで、進行を抑えたり症状を軽減したりできます。
抗がん剤による末梢神経症状の主な対処法は、治療薬の投与や日常的なセルフケアなどです。医師の診断のもと、適切なケアや対処法を組み合わせることで、しびれや痛みといった症状を和らげ、生活の質を保つことにつながります。
抗がん剤治療後に手足にしびれや感覚の鈍さが現れた場合は、早めに信頼できる医師に相談しましょう。

手術をしない新しい治療「再生医療」を提供しております。
参考文献
静岡県立静岡がんセンター「抗がん剤治療と末梢神経障害」
https://www.scchr.jp/cms/wp-content/uploads/2016/02/sonota_mshinkei.pdf
(最終アクセス:2025年5月20日)
公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院「末梢神経障害 -症状とセルフケアについて- 」
https://www.kchnet.or.jp/kchnet/wp-content/uploads/departments/pdf_chemopamphlet_6.pdf
(最終アクセス:2025年5月20日)
横浜市立大学附属病院 化学療法センター「抗がん剤」
https://www.yokohama-cu.ac.jp/fukuhp/section/central_section/chemotherapy/anti-cancer_agent.html
(最終アクセス:2025年5月20日)