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インピンジメント症候群と五十肩の違いを解説!セルフチェック方法も紹介

「肩を動かすたびに痛みが走る…」このような症状でお悩みではないでしょうか。
肩の痛みは、多くの方が真っ先に五十肩を思い浮かべがちですが、実はインピンジメント症候群という別の疾患の可能性もあります。
この2つは症状が似ているため、自己判断は困難です。
しかし、原因や治療法が異なるため、正しい診断を受けて治療を受けることが痛みの早期改善につながります。
本記事では、インピンジメント症候群と五十肩の違いについて、医師の視点から詳しく解説します。
さらに、ご自宅でできるセルフチェック方法や、それぞれの症状に適した対処法もご紹介しますので、「この痛みの正体を知りたい」「適切な治療を受けたい」とお考えの方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
インピンジメント症候群と五十肩の違い
インピンジメント症候群と五十肩は、どちらも肩の痛みを引き起こしますが、その原因や症状には明確な違いがあります。
最も大きな違いは、肩の動かしやすさにあります。インピンジメント症候群の場合、痛みはあるものの肩を動かすことは可能です。
一方、五十肩では肩の可動域が著しく制限され、動かしたくても動かせない状態になります。
以下の表で、両者の主な違いを比較してみましょう。
項目 | インピンジメント症候群 | 五十肩(肩関節周囲炎) |
---|---|---|
主な症状 | 腕を上げる時の痛み | 肩の可動域制限と痛み |
可動域 | 痛みはあるが動く | 著しく制限される |
夜間痛 | あり(とくに寝返り時) | あり(じっとしていても痛む) |
発症年齢 | 傾向なし(スポーツ選手に多い) | 40〜60代 |
原因 | 肩峰下での組織の挟み込み | 肩関節周囲の炎症・癒着 |
病期 | 明確な段階分けなし | 炎症期→拘縮期→回復期 |
この違いを理解し、ご自身の症状がどちらに該当するか、ある程度の見当をつけられますが、正確な診断には医師による詳しい検査が必要です。
インピンジメント症候群とは
インピンジメント症候群は、肩関節内で腱や滑液包(関節の動きを滑らかにする袋状の組織)が骨と衝突し、炎症を引き起こす疾患です。
「インピンジメント(impingement)」は挟み込みや衝突を意味する英語で、まさにその名の通り、肩の中で組織が挟み込まれることによって痛みが生じます。
この症状の最大の特徴は、腕を横から上に上げる動作(外転動作)で強い痛みが現れることです。
とくに、腕が水平よりやや上の位置(60〜120度の範囲)で痛みがピークに達する「ペインフルアーク」と呼ばれる特徴的な症状を示します。
夜間痛も非常に特徴的で、寝返りを打った際や、痛む側の肩を下にして寝ようとした時に激痛が走ります。
これは、横になることで肩峰(肩甲骨の突起部分)と上腕骨頭の間のスペースがさらに狭くなり、炎症を起こした組織が圧迫されるためです。
テニスや水泳など腕を頭上に上げるスポーツ選手に多く見られますが、最近では長時間のデスクワークや猫背などの悪い姿勢による発症も増加しています。
猫背が続くと胸の筋肉が硬くなり、肩甲骨の位置がずれて筋肉バランスが崩れ、組織が骨に挟まれやすくなります。
また、40代以降は肩峰の形状変化や腱の柔軟性低下により発症しやすくなります。放置すると日常生活に支障をきたすため、早期の専門医受診が重要です。(文献1)
五十肩(肩関節周囲炎)とは
五十肩は、「肩関節周囲炎」や「凍結肩」とも呼ばれる疾患で、肩関節の周囲にある関節包や滑液包に炎症が生じ、最終的に癒着を起こすことで肩の動きが著しく制限される疾患です。(文献2)
「五十肩」という名前は、50代の方に多く発症することから付けられましたが、実際には40〜60代の幅広い年齢層で見られます。
五十肩の最大の特徴は、肩の可動域が段階的に制限されることです。
初期には痛みが主な症状ですが、徐々に肩が硬くなり、最終的には腕を上げることも後ろに回すこともできなくなります。
五十肩は3つの病期に分かれて進行します。
炎症期(急性期):この時期はジンジンする痛みが特徴で、悪化すると夜間痛が強く現れます。じっとしていても痛み、睡眠が妨げられることも少なくありません。肩を動かそうとすると激痛が走るため、自然と動かさなくなります。
拘縮期(慢性期):炎症による激しい痛みは徐々に和らぎますが、関節の癒着が進行し、可動域制限が顕著になります。痛みよりも「動かしにくさ」が主な症状となります。
回復期:癒着した組織が少しずつ緩み、可動域が改善していきます。ただし、完全に元の状態に戻るまでには相当な時間を要することが多いです。
五十肩の原因は完全には解明されていませんが、加齢による関節周囲組織の変性や、血流の悪化などが関与していると考えられています。
インピンジメント症候群との最大の違いは、五十肩では他人が強制的に腕を動かそうとしても動かない(他動運動の制限)ことです。
一方、インピンジメント症候群では、痛みはあるものの関節自体の可動域は保たれています。
セルフチェック|その痛みはインピンジメント症候群?五十肩?
ご自宅で簡単にできるセルフチェック方法をご紹介します。
ただし、これらのテストはあくまで目安であり、正確な診断には医師による詳しい検査が必要です。
【インピンジメント症候群のセルフチェック】
セルフチェック方法 | 説明 |
---|---|
ペインフルアークテスト |
腕を体の横から頭上にゆっくりと上げてみてください。上げ始めは痛みが少なく、60〜120度の範囲で強い痛みが現れ、それを超えると再び痛みが軽減する場合は、インピンジメント症候群の可能性があります。 |
ホーキンステスト |
肘を90度に曲げた状態で腕を前に伸ばし、そこから手首を下向きに回旋させます。この動作で肩の前面に痛みが生じる場合は陽性です。 |
夜間痛チェック |
痛む側の肩を下にして横になった時に激痛が走る、または寝返りで目が覚めることが頻繁にある場合は、インピンジメント症候群の特徴的な症状です。 |
【五十肩のセルフチェック】
セルフチェック方法 | 説明 |
---|---|
可動域制限テスト |
これらの動作で著しい制限がある場合は五十肩の可能性があります。 |
段階的悪化チェック |
このような経過を辿っている場合は五十肩の典型的なパターンです。 |
以下の症状がある場合は、より重篤な疾患の可能性もあるため、速やかに医療機関を受診してください。
- 腕や手に力が入らない
- しびれや感覚の異常がある
- 発熱を伴う
- 外傷後から症状が始まった
- 安静にしていても耐えがたい痛みが続く
これらのセルフチェックで該当する項目が多い場合でも、自己判断での治療は避けてください。
とくに、五十肩とインピンジメント症候群では治療法が大きく異なるため、専門医による正確な診断が回復への近道となります。
原因と悪化させる生活習慣
インピンジメント症候群と五十肩の発症には、現代のライフスタイルが大きく関わっています。
とくに、長時間のデスクワークや不良姿勢は、肩関節周囲の筋肉バランスを崩し、症状を悪化させる主要な要因となります。
ここからは、インピンジメント症候群や五十肩を引き起こしやすい生活習慣について詳しく解説します。
要因を理解し、日常生活で意識的に改善して症状の予防や悪化防止につなげましょう。
姿勢・デスクワークの影響
現代社会では長時間のデスクワークが一般的ですが、この環境こそが肩の痛みを引き起こす最大の要因です。
パソコン作業のように同じ姿勢を長時間続けていると、肩関節周辺の筋肉が緊張し、血行不良を起こしやすくなります。
デスクワーカーの方は、1時間に1回は席を立ち、肩甲骨を意識的に動かすストレッチを行いましょう。
また、モニターの高さや椅子の調整により、自然と良い姿勢を保てる環境を整えることも重要です。
加齢・ホルモン・代謝疾患の関与
加齢による身体の変化も、肩の疾患発症に大きく関わっています。
40代以降になると、関節周囲の組織が衰えます。その結果、腱や靭帯の柔軟性が低下し、関節軟骨の摩耗も修復機能も衰えてきます。
そのため、若い頃なら自然に治癒していた軽微な損傷も蓄積され、やがて痛みや機能障害として現れます。
また、更年期を迎えた女性では、エストロゲン(女性ホルモン)の減少が関節周囲組織に影響を与えます。
エストロゲンには抗炎症作用があるため、その分泌が減少すると炎症が起こりやすくなり、五十肩の発症リスクが高まります。
そして、糖尿病を患っている方は、五十肩の発症率が高いことが知られています。(文献3)
高血糖状態が続くと、肩の動きを補助する腱板の損傷部分も血行不良になり、五十肩を引き起こす要因となってしまいます。
加齢やホルモンの変化は避けられませんが、自己管理と医師のサポートにより肩の疾患のリスクを軽減していきましょう。
治療の選択肢と期待できる期間
肩の痛みの治療には、症状の程度や患者さんの生活スタイルに応じてさまざまな選択肢があります。
大きく分けて保存療法と手術療法、そして近年注目されている再生医療があります。
多くの場合、まずは保存療法から始めて、効果が不十分な場合に他の治療法を検討するのが一般的ですが、それぞれの治療法について解説します。
保存療法:薬・注射・リハビリ
多くの肩の疾患で最初に選択される治療法です。以下の表にまとめました。
治療法 | 解説 |
---|---|
薬物療法 | 痛み止めや筋弛緩薬により症状を緩和します。 |
注射療法 | ステロイド注射やヒアルロン酸注射で直接的に炎症を抑制します。 ただし、ステロイド注射は1カ月に2〜3回程度に制限されます。 |
理学療法・リハビリテーション | 関節の動きの改善、筋力強化、姿勢矯正を行います。 即効性はありませんが、根本的な改善が期待できる重要な治療です。 |
全体として、保存療法による症状の改善には3~6カ月程度を要することが多く、患者様には継続的な治療への理解と協力が必要です。
再生医療(PRP・幹細胞)の可能性
五十肩など肩の痛みに対しては、再生医療という治療の選択肢もあります。
再生医療では、主にPRP(多血小板血漿)療法と幹細胞治療の二つがあります。
PRP(多血小板血漿)療法とは、自己血液から血小板を濃縮した成分を注入する治療法です。
一方、幹細胞治療とは、脂肪由来あるいは脊髄由来の幹細胞を用いる治療法です。他の細胞に変化する能力を持つ幹細胞を、注射や点滴によって患部に届けます。
重度の症例でも適応となる可能性があり、手術を避けたい方にとって選択肢の一つとなるでしょう。
再生医療について知りたい方は以下のページリンクをご覧ください。
予防とセルフケア|今日からできること
肩の痛みは日常生活のちょっとした工夫で予防できることが多く、症状が出現してからでも適切なセルフケアにより悪化を防げます。
ここでは、今日からすぐに実践できる方法を簡単にご紹介します。
まず、姿勢の改善を意識しましょう。モニターは目から40cm以上離し、画面を見る角度は水平視線より下の15〜20度に調整しましょう。
椅子は座面の高さを調整でき、背もたれを活用して耳・肩・骨盤が一直線になるよう意識します。
日本人の平均座位時間は世界最長の7時間とされており、長時間の座位は疾患リスクを高めるため、こまめに立ち上がることが重要です(文献4)。
ストレッチでは、振り子ストレッチ(Codman体操)をやってみましょう。
- 肩をリラックスさせて立つ
- 体を前に傾けて痛みのある方の腕を下げる
- 机などに反対の手をついて体を支える
- 痛む側の腕を小さな円を描くように振る
- 前後左右に10回転ずつ行う
症状が改善してきたら徐々にスイングの直径を大きくしていきます。
このストレッチは重力を利用して肩関節の可動域を改善するため、五十肩やインピンジメント症候群の両方に効果が期待できます。
ただし、必ず痛みのない範囲で、無理をしないでください。
まとめ|最短で肩の痛みから解放されるには
肩の痛みに悩まれている多くの方が「五十肩だろう」と自己判断されがちですが、実際にはインピンジメント症候群の可能性も十分に考えられます。
本記事でお伝えした通り、この2つの疾患は症状が似ているものの、原因や治療法が大きく異なります。
二つの違いを見分けるには、以下のポイントが重要です。
- インピンジメント症候群は「痛みはあるが動く」
- 五十肩は「動かしたくても動かない」
セルフチェックである程度の判別は可能ですが、正確な診断には専門医による詳しい検査が不可欠です。
治療方法は保存療法の他に再生医療もあります。
当院「リペアセルクリニック」では、再生医療専門のクリニックとして、一人ひとりの症状に応じた幅広い治療選択肢を提供しております。
「この痛みがいつまで続くのか不安」「仕事に支障が出て困っている」といったお悩みをお持ちの方は、お気軽にご相談ください。
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参考文献
(文献1)
順天堂大学医学部附属順天堂医院「インピンジメント症候群」順天堂医院ホームページ
https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/seikei/disease/disease12.html(最終アクセス:2025年5月25日)
(文献2)
日本整形外科学会「五十肩(肩関節周囲炎)」
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/frozen_shoulder.html(最終アクセス:2025年5月25日)
(文献3)
村木孝行.「肩関節周囲炎 理学療法診療ガイドライン」『理学療法学』43(1), pp.67-72, 2016年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/43/1/43_43-1kikaku_Muraki_Takayuki/_pdf(最終アクセス:2025年5月25日)
(文献4)
健康管理事業センター「デスクワーク中の正しい姿勢について」健康管理事業センターニュースレター,2024年2月
https://www.kenkomie.or.jp/file/newsletter/k_202402.pdf(最終アクセス:2025年5月25日)