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野球で多い怪我と予防方法を解説【医師監修】

「肩や肘が痛いけれど、まだ投げられるから大丈夫」「チームに迷惑をかけられないから、少しくらい我慢しよう」
このような想いを抱きながら、痛みと向き合っている選手や保護者の方は決して少なくありません。
しかし、驚くべきことに高校球児の20人に1人が肩関節もしくは肘関節の手術や引退を余儀なくされるような重篤な怪我を経験しているのが現実です。(文献1)
さらに、1シーズンで100イニング以上投げた選手は、投球回数が少ない選手に比べて約3.5倍の確率で重篤な怪我のリスクが高まるという研究結果も報告されています。(文献1)
野球での怪我は運や偶然で起こるものではありません。そこには必ず原因があり、正しい知識と早期対応によって多くの怪我は予防できるのです。
本記事では、野球で発症しやすい代表的な怪我の種類と症状、そして最も大切な予防法について詳しく解説します。
怪我と正しく向き合うための知識を身につけることで、長く野球を続けられる体づくりを目指しましょう。
目次
野球で多い怪我と症状をチェック
野球は全身を使ってプレーする複雑なスポーツです。投球、打撃、守備、走塁のすべての動作で、さまざまな部位に負担がかかります。(文献2)
以下で詳しく解説する野球で多い怪我の症状や特徴を理解し、自分の症状がどのタイプに当てはまるかを把握しましょう。
野球肩
原因 | 投球動作の繰り返し、肩甲骨周囲筋の筋力低下、不適切な投球フォーム、体幹・股関節の柔軟性低下 |
---|---|
症状 | 投球時の肩の痛み、腕を上げる際の引っかかり感、夜間痛(炎症が強い場合)、肩の可動域制限 |
治療法 | 投球中止と安静(2〜4週間)、消炎鎮痛薬、ステロイド注射、リハビリテーション、重症例では手術 |
野球肩は投球動作で引き起こされる肩関節周辺の障害の総称で、発症のピークは15~16歳とされており、投手と捕手に多く見られます。(文献3)
投球動作は5つのフェーズに分けられ、各フェーズで異なる負荷がかかるため、痛みの出るタイミングによって損傷部位や重症度を推測できます。
- ワインドアップ期:投球動作開始からステップ脚を最も高く上げるまで
- アーリーコッキング期:ステップ脚が地面に着くまで
- レイトコッキング期:肩関節が最大外旋位に達するまで
- アクセラレーション期:ボールリリースまでの加速期
- フォロースルー期:ボールリリース後の減速期野球肩は段階的に進行する特徴があります。
初期段階では投球後の軽い違和感程度で、数日休むと症状が改善できるため、この段階での適切な対応が最も重要ですが、無理をしてしまうと日常生活に支障をきたすようになってしまいます。
初期段階で食い止められるように、違和感がある際は無理をせず休みましょう。
野球肘
原因 | 投球による肘への外反・回内ストレス、成長期の骨端線への負荷、オーバーユース、不良な投球フォーム |
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症状 | 投球時・投球後の肘痛、肘の伸展・屈曲制限、急に動かせなくなる(ロッキング)、握力低下(文献4) |
治療法 | 投球禁止と安静、内側型は保存療法中心、外側型は長期投球禁止または手術、後方型は炎症抑制治療 |
野球肘は投球動作の繰り返しによって肘関節に生じる疼痛性障害の総称で、発症の時期により「発育型野球肘」と「成人型野球肘」に分けられます。
年代別の特徴として、11-12歳が発生のピーク年齢とされており、成長期では骨端(骨にある軟骨や成長線)への影響が大きく、成人期では靱帯や筋腱付着部の障害が中心となります。
野球肘の診断で重要なポイントとして、野球肘は前兆となる自覚症状が乏しく、痛みを訴える時には重症化していることが少なくない特徴があります。
腰椎分離症・腰痛(バッティング・投球の負担)
原因 | 打撃練習での体幹回旋動作、投球時の腰部負担、中腰姿勢の維持、不適切なランニングフォーム |
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症状 | 体幹後屈時の痛み、長時間立位困難、慢性的な腰痛、進行すると下肢のしびれ |
治療法 | 早期発見時は保存療法(コルセット装着)、安静、完全分離時は手術を検討 |
腰椎分離症は、腰の背骨にある椎弓(ついきゅう)と呼ばれる腰椎が分離している状態のことを指します。疲労骨折が原因と言われており、発育期の代表的なスポーツ障害の一つです。
野球ではピッチングやバッティングで身体を反ったり、腰をひねる動作を繰り返し行うため、発症しやすい疾患として知られています。
日本の成人も約6%が腰椎分離症を患っていますが、未成年では小学校高学年~大学進学時の成長期のスポーツ部活生に起きることが多いとされています。
日本臨床スポーツ医学誌の研究では、大阪府で全国大会出場レベルの高校野球部に入学予定の中学3年生男子を258名研究した実験によれば、258名中55名(21.3%)が腰椎分離症を疑う初見を有しており、年齢に関係なく野球の練習に熱心な子どもは腰椎分離症を患いやすいことが判明しました。(文献5)
治療で重要なのは早期発見です。まだ骨折が早期の状態で発見できれば、手術をしない保存療法で治療を進められます。コルセットの着用など安静が正しく守れれば、骨は自然と癒合していきます。
足首捻挫・アキレス腱炎
原因 | 急激な方向転換、不整地でのプレー、ふくらはぎの筋肉の柔軟性低下、不適切なシューズ |
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症状 | 足首の痛み・腫れ、歩行困難、アキレス腱部の痛み・圧痛 |
治療法 | RICE処置(安静・冷却・圧迫・挙上)、テーピング、リハビリテーション |
野球では走塁時の急激な方向転換や、硬いグラウンドでのプレーにより足首の捻挫が頻繁に発生します。また、ダッシュやジャンプ動作の繰り返しによりアキレス腱炎も起こりやすい怪我の一つです。
アキレス腱炎は、ふくらはぎの筋肉とかかとの骨をつなぐアキレス腱に炎症が起こる状態です。野球では、ダッシュや方向転換の繰り返し、合わないシューズを着用することで発症しやすくなります。
野球で発症した怪我のリハビリについて
野球で発症した怪我のリハビリは、単に痛みを取り除くだけではなく、競技復帰に向けた段階的な機能回復と再発予防が重要な目的となります。
以下は野球肩と野球肘のリハビリにおいて、重要なポイントです。
野球肩のリハビリポイント
- 急性期:肩のアイシングと安静時のポジショニング
- 回復期:肩甲骨周囲筋の筋力強化、インナーマッスル強化
- 競技復帰期:投球動作の段階的練習、フォームチェック
野球肘のリハビリポイント
- 投球禁止と肘のアライメント改善
- 股関節・体幹の柔軟性向上
- 段階的な競技復帰プログラム
リハビリの成功には、選手、指導者、医療スタッフの連携が不可欠です。焦らずに段階的なプログラムを遵守し、より強い状態での競技復帰を果たしましょう。
野球での怪我リスクを予防するためには
野球での怪我リスクを効果的に予防するためには、まず怪我につながる主要因への理解が重要です。
適切な投球数制限を守る
まず、過度な投球数は怪我のリスクを引き上げてしまいます。
予防対策として、各年代の投球数制限のガイドラインに従って、以下の表を参考に球数制限をすると良いでしょう。
年代 | 投球数制限(1日) | 投球数制限(1週間) | 補足 |
---|---|---|---|
小学生 |
4年生以下60球以内 5・6年生70球以内(文献6) |
– | 2日間連続で投げる場合は合わせて100球以内 |
中学生 | 1日70球以内(文献7) | 350球以内 | 週に1日全力投球しない日を設ける 連続する2日間で120球以内 |
高校生 | – | 500球以内(文献8) |
投球フォームの改善
不適切な投球フォームは肩や肘に過度な負担をかける主要な原因です。
以下のようなフォームは、怪我のリスクを高め、選手生命を脅かしてしまうため改善を心がけましょう。
- 肘が下がったまま投げることで手投げになってしまい、肘に負担をかける
- 身体の開きが早く、肩関節に過度なストレスがかかってしまう
- 踏み出す足を投球方向に斜め、または横に踏み出すことで身体の回転を正しく使えずにフォームを崩す
癖になる前に指導者の指示に従い、修正しましょう。
股関節の柔軟性
また、股関節の柔軟性は野球での怪我予防の最重要ポイントです。股関節が固いと体を上手に使えず、その状態で野球特有のピッチングやバッティングを行うと怪我の危険性が高まります。
対策として、股関節の柔軟性向上のためのストレッチを日常的に行い、練習前には適切なウォーミングアップを実施することで、怪我のリスクを軽減しましょう。
そして、継続的な疲労の蓄積は怪我の大きな要因となるため、適切な休養により体の回復を図る必要があります。
十分な睡眠と栄養摂取により体調管理を徹底し、怪我をしにくい身体づくりを行ってください。
早期復帰が目指せる再生医療(PRP/幹細胞)について
メジャーリーガーをはじめとする野球選手が取り入れている「再生医療」について紹介します。
再生医療の一つ「PRP療法」には、日帰り治療が可能で手術を回避できるというメリットがあります。
患者様自身の血液を活用する治療法のため、副作用のリスクが少ないのが特徴です。
もう一つの再生医療「幹細胞治療」では、患者様から採取・培養した幹細胞を患部に投与いたします。幹細胞には、他の細胞に変化する能力があり、患部にアプローチします。
PRP療法だけでなく幹細胞治療も入院を必要としないため、短期間での治療を目指せるのが特徴です。
再生医療は、野球選手の怪我治療における新たな選択肢として確立されつつある治療法です。
ただし、予防が最も重要であることに変わりはありません。怪我をする前の予防策の実施と、万が一怪我をした場合の適切な治療選択が、長い競技人生を支える両輪となります。
まとめ||再発ゼロを目指すなら専門医の伴走が近道
野球での怪我は予防が最も重要です。正しい投球フォームの習得や年代に応じた投球数制限を守り、柔軟性を保つことで多くの怪我を防げます。
万が一怪我をした場合でも、メジャーリーガーも取り入れているPRP療法や幹細胞治療などの再生医療により、野球への早期復帰が目指せます。
1週間以上続く痛み、投球時の違和感、可動域の制限といった初期症状に気づいたら、すぐに専門医に相談してください。
あなたの野球人生をより良いものにするためにも、違和感があれば一人で悩まず、専門医へ相談しましょう。長く充実した野球人生を送るため、私たちが全力でサポートいたします。
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参考文献
(文献1)
古島弘三ほか「少年野球での”投げ過ぎ”が及ぼす影響 肩や肘の重篤な故障リスクは3.5倍」Full-Count, 2022年10月14日
https://full-count.jp/2022/10/14/post1294608/(最終アクセス:2025年5月24日)
(文献2)
公益財団法人スポーツ安全協会「障害予防のためのセルフチェック|スポーツ外傷・障害予防-野球編」
https://www.sportsanzen.org/syogai_yobo/baseball/page2.html (最終アクセス:2025年5月25日)
(文献3)
日本整形外科学会認定スポーツ医「野球肩」
https://jcoa.gr.jp/%E6%8A%95%E7%90%83%E8%82%A9/ (最終アクセス:2025年5月25日)
(文献4)
日本整形外科学会認定スポーツ医「野球肘」
https://jcoa.gr.jp/%E6%8A%95%E7%90%83%E8%82%A9/ (最終アクセス:2025年5月25日)
(文献5)
栗田剛寧ほか「発育期野球選手におけるポジション別の腰椎分離症と身体特性の関連」日本臨床スポーツ医学会誌 32(3), 446-453, 2024年
https://www.rinspo.jp/journal/2020/files/32-3/446-453.pdf (最終アクセス:2025年5月25日)
(文献6)
日本少年野球連盟「投球数制限ガイドライン」2021年12月
https://www.boys-fukuoka.com/download/tokyusuu_seigen/20211212_tokyuguideline.pdf (最終アクセス:2025年5月27日)
(文献7)
日本中学野球協議会「中学生投手の投球制限に関する統一ガイドライン」
https://littlesenior.jp/news/48.html (最終アクセス:2025年5月27日)
(文献8)
日本高等学校野球連盟「高校野球特別規則(2024年版)」2024年
https://www.jhbf.or.jp/summary/rule/specialrule/specialrule_2024_1.pdf (最終アクセス:2025年5月27日)