【医師監修】膝のステロイド注射を打つ間隔を解説|いつから効果が出るのかも紹介
膝の痛みでステロイド注射を受けたら「しばらくは楽になったけれど、また辛くなってきた」と感じたことはありませんか。
再び注射をお願いしたところ、「前回から間隔が短いので、もう少し待ちましょう」と言われ、戸惑った方もいるでしょう。
ステロイド注射は、炎症を抑える力が強く、痛みが軽減される反面、頻繁に打つと軟骨や関節への負担が大きくなるおそれがあります。
本記事では、膝関節におけるステロイド注射の適切な間隔や回数の目安、副作用を防ぐための注意点を解説します。
また、変形性膝関節症の最新治療法として、再生医療をご紹介いたします。
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膝関節に用いられるステロイド注射とは
ステロイド注射(関節内コルチコステロイド注射)は、膝関節内の炎症や痛みが強い場合に用いられる治療法です。
変形性膝関節症では、軟骨のすり減りが進むにつれて関節内に炎症が生じやすくなり、この炎症を抑える目的でステロイドを関節内へ注射します。ステロイド注射はヒアルロン酸注射と比べ、強力な抗炎症作用により、痛みを抑えるのに非常に高い効果を発揮するとの報告が多くあります。
ただし、ステロイドの多用には注意が必要です。ステロイドは骨や軟骨の代謝に影響を及ぼし、「骨壊死」や「ステロイド関節症」という副作用が発現する可能性があります。
そのため、ガイドラインでも、必要性を見極めた上で慎重に用いることが推奨されています。(文献1)
変形性膝関節症にお困りの方は、以下サイトもご参照ください。
膝へのステロイド注射の間隔は3カ月が目安
変形性膝関節症へのステロイド注射は、強い炎症や痛みを短期間で抑える目的で使用されます。しかし、その作用は強力なため、使用頻度や間隔には注意が必要です。
変形性膝関節症診療ガイドライン2023では、「ステロイド関節内注射の効果は炎症の鎮静化や短期的な除痛に限定される」と記載されています。合併症リスク自体はプラセボ(偽薬)と比較して大きくはないものの、軟骨損傷や変形性膝関節症の進行の危険性があるため、次のような投与は推奨されていません。
頻回投与
間隔を空けずに反復する使用
長期間の継続
一方で、ガイドライン自体には「何週間空けるべきか」の明確な間隔についての記載は確認できません。(文献1)
米国での最近のガイドラインでは、「薬物動態・薬力学データに基づく最低間隔は2 〜 3週間、最大3カ月」とされており、この「最大3カ月」が実臨床での一つの判断基準として扱われています。(文献2)
ステロイド注射の効果が現れるタイミングについて
ステロイド注射による効果発現には、1週間程度かかります。
研究報告として、関節内コルチコステロイドが1週間程度で有意な痛みの軽減を示したとする報告があります。(文献3)
さらに、別のレビュー文献では、効果のピークは注射後2週間頃に達するとされています。(文献4)
これらの報告から、ステロイド注射後、数日~1週間程度で炎症が徐々に落ち着き始め、2週間前後で痛みがもっとも感じにくくなる時期と考えられます。
ステロイド注射の持続効果について
ステロイド注射の効果がどの程度続くかは、投与される薬剤や個人の状態によって異なります。しかし、複数の研究からおおよそ3カ月~6カ月が目安です。
メタ解析(複数の研究結果を統合して分析する手法)の報告では、およそ3カ月程度まで中等度の痛みの軽減効果が持続したと報告されています。(文献5)
また、ステロイド製剤の一種である非結晶性酢酸メチルプレドニゾロンでは、
効果のピーク:注射後2週間
持続期間:最大24週間(約6カ月)
とされています。(文献4)
さらに、別の報告では、
一般的な持続期間は1~4週間程度
2週間までは明確な有益性があり、16~24週間でも効果がみられた
と幅のある結果となりました。(文献6)
これらの情報より、ステロイド注射の「ピークは2週間程度」「持続期間は数週間~数カ月」と考えられます。
なお、痛みの改善度と持続期間には個人差があり、炎症の強さ・関節の状態・併用治療などによって大きく変わります。
膝へのステロイド注射でおこりうる副作用
ステロイド注射は、炎症を抑えて痛みを和らげる一方で、使い方によっては副作用のリスクが高まります。
とくに「骨壊死」や「ステロイド関節症」には注意が必要です。これらを避けるために、
最低でも6週間は間隔をあける
さらに可能であれば3カ月程度の間隔を確保する
また、短期間での連続投与や長期間に及ぶ継続使用は避けるべきです。
変形性膝関節症診療ガイドラインでは、合併症として注射部位の痛み、腫脹、紅斑、顔面紅潮、高血圧などが報告されています。重篤な合併症は多くないものの、ガイドラインは軟骨損傷や変形性膝関節症の進行リスクを指摘しており、ステロイド注射は「炎症が強い時期に短期的に用いる」ことを推奨しています。(文献1)
なお、ステロイド注射による痛みの改善は一過性であり、変形性膝関節症の痛みの原因である、すり減った軟骨が元に戻るわけではありません。痛みがあるからと、安易に投与回数を増やすと副作用の危険性があります。
ステロイド注射による副作用を避けたい場合や効果を感じにくくなった場合、次の投与まで待てない場合に、最新の注射による治療方法を紹介します。
ステロイド注射に代わる再生医療という膝の痛みへのアプローチ
ステロイド注射で痛みが十分に改善しない場合など、ステロイドの使用が難しい場合の選択肢に再生医療という選択肢があります。
再生医療による治療は主に、PRP治療(Platelet-Rich Plasma=多血小板血漿)と幹細胞治療の2種類です。
PRP治療は、自身の血液から血小板を多く含む血漿を抽出して、膝へ注射する方法です。多血小板血漿に含まれる成長因子により、組織修復を促します。高い治癒効果と自分の血液を使用するため、アレルギー反応が出にくいのが特徴です。
幹細胞治療は、皮下脂肪から採取した幹細胞を培養して膝の関節内へ注射して、傷んだ軟骨の再生を期待する治療法です。
いずれも自由診療で、厚生労働省によって認可された医療機関でしか行えません。
再生医療は手術や入院を必要としない点が大きな特徴で、従来の治療概念を大きく変えた新しい選択肢です。なかでも幹細胞治療は変形性膝関節症において、すり減った軟骨の再生が期待される先進的なアプローチとして注目されています。
再生医療については、以下ページもご参照ください。
ステロイド注射やヒアルロン酸注射を受けていたものの痛みが悪化して幹細胞治療を行った症例もあります。
https://youtu.be/2GCVH-Jw5Ps?si=0UYNMNDW7jaJuYwV
膝関節におけるステロイド注射の間隔を理解し再生医療も検討しよう
変形性膝関節症に対するステロイド注射の間隔と、近年注目されている再生医療について解説しました。ステロイド注射は炎症を抑えて痛みの軽減に有効ですが、その効果は一時的で、副作用を防ぐためにも頻繁な投与には注意が必要です。
一方、PRP治療や自己脂肪由来幹細胞治療といった再生医療は、治癒促進や軟骨再生により回復を目指す新しい治療法です。
変形性膝関節症に悩み、十分な効果が得られなかった方や、手術に抵抗がある方にとって、薬物療法と手術の中間に位置する再生医療は治療の選択肢となります。
現在の痛みや治療効果に不安がある場合は、これまでの選択肢に加えて再生医療という新たな治療も検討されてはいかがでしょうか。
膝へのステロイド注射の間隔に関するよくある質問
膝へのステロイド注射の金額はいくらですか?
使用する薬剤や投与量によって金額は異なります。
一般的にステロイド注射は、保険診療として実施されます。多くの方は3割負担ですが、診察料・検査料などが別途かかるため一概にお伝えできません。
なお、自由診療で受診する場合は、医療機関によって価格は異なります。詳細は受診予定の医療機関にご確認ください。
膝へのステロイド注射が効かない原因は何ですか?
ステロイド注射は炎症を抑えます。そのため、炎症が強くないタイプの痛みには効果が実感しづらい可能性があります。
また、症状が進行して軟骨が大きくすり減っている場合や、半月板損傷・関節内の構造的トラブルが原因の場合は、期待した効果が得られ難くなります。
さらに、肥満や日常の負担、歩き方の癖など、膝へのストレスが継続している場合も効果が限定的です。
ステロイド注射が効きにくい場合は、ヒアルロン酸注射、装具療法、リハビリ、減量、再生医療など、別のアプローチとの組み合わせが推奨されます。
参考文献
文献1
変形性膝関節症診療ガイドライン2023|南江堂
文献2
Reg Anesth Pain Med. 2025|Regional Anesthesia & Pain Medicine
文献3
J Am Acad Orthop Surg. 2009|Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons
文献4
Curr Pain Headache Rep. 2025|Current Pain and Headache Reports
文献5
Am J Phys Med Rehabil. 2020|American Journal of Physical Medicine & Rehabilitation
文献6
BMJ. 2004|British Medical Journal
2021.10.23