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膝に水が溜まる原因とは?初期症状や治療法を専門医が解説【写真・動画あり】
病院やクリニックの外来で「膝の水は抜いてもクセになりませんか」といった声がよく聞かれます。
結論からいうと、膝の水は抜いてもクセになりません。
膝に水が溜まる主な原因は、炎症による関節液の多量分泌です。膝に溜まった水を放置すると、炎症が長引いて、痛みが悪化する可能性があるため注意しましょう。
今回は、膝に水が溜まる原因や初期症状、対処方法などを専門医が動画を交えて説明していきます。
膝に違和感を感じる方や、水が溜まって対処法に困っている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
膝に水が溜まる原因・メカニズム
なぜ膝に水が溜まるのか、まず仕組みを説明していきます。
膝に水が溜まる症状は、病名として「関節水腫」と呼ばれます。膝の関節は関節包という組織で覆われており、その内側に存在する滑膜から、「関節液(滑液)」が作り出される仕組みです。
正常な状態でも膝には多少の水が存在しており、なんらかの原因で滑膜が炎症を起こすと反応としてより多くの関節液を放出します。その結果、膝に水が溜まります。
なお、関節液の役割は、関節の栄養と関節の潤滑の2つです。以下で、それぞれの役割について詳しく解説します。
関節液の役割①栄養
膝の関節液には、ヒアルロン酸やタンパク質などの栄養素が含まれており、関節内の軟骨や組織に必要な栄養を供給します。膝関節の軟骨は血管を持たないため、関節液からの栄養供給はとても重要です。
関節液は、同時に老廃物を取り除く役割も担います。関節液は栄養分になった後、老廃物として骨膜から吸収されます。関節内には1〜3ccほどの関節液が常に存在しており、循環することで、膝の組織を健康に保つことが可能です。
関節液の役割②潤滑
膝の関節液には、潤滑の役割もあります。関節包の中の関節液は、膝関節の軟骨同士がぶつからないように関節を保護し、スムーズな関節の曲げ伸ばしを可能にするために潤滑剤の役割を果たします。そのため、関節液は人が歩いたり、座ったりする仕草のあらゆる場面でなくてはならない存在です。
たとえば、機械の歯車に油を差して滑りをよくし、摩耗を防ぎつつ、滑らかな動きもサポートするイメージに似ています。関節液による潤滑作用が十分に機能しなければ、膝を動かす際に痛みを感じたり、関節がすり減ったりするリスクが高まるでしょう。
▼ 膝の水が溜まる原因やメカニズムについては、下記の動画でも詳しく説明しているので、ぜひご覧ください。
滑膜に炎症が起こる3つの原因
ここでは、なぜ膝の滑膜に炎症が起こるのか、主な3つの原因を解説します。
原因①変形性膝関節症
膝の骨膜に炎症が起こる原因として、変形性膝関節症が挙げられます。変形性膝関節症とは、膝関節の軟骨がすり減って変形が進行する病気です。
とくに、40代以降の中年層や高齢者に多く、すり減った軟骨や半月板のかけらが原因となり滑膜を刺激して水が溜まります。
変形性膝関節症によって水が溜まった状態を放置していると、軟骨のすり減りが進行していくので、できるだけ早く対処することが重要です。(文献1)
原因②半月板損傷・靭帯損傷・骨折
半月板や靭帯の損傷、骨折なども膝の骨膜に炎症が起こる原因の一つです。スポーツや怪我などによって関節内の組織が損傷すると、同時に滑膜が炎症を起こします。靭帯や骨、半月板に血管が通っているため、関節液に血液が混じって赤くなることが多く見られます。(文献2)
とくに、半月板や靭帯を損傷すると関節の安定性が失われ、膝にかかる負担が増して慢性的な炎症を引き起こす可能性もあるため注意が必要です。
原因③感染症・偽痛風・リウマチなど
感染症や偽痛風によって、関節液の中に炎症の原因となる細菌やピロリン酸カルシウムなどが入り込むと滑膜に炎症を引き起こします。また、リウマチのような自己免疫疾患も関節液が溜まる原因になります。
この場合、抜いた関節液は濁っていることが多く、関節液の検査を行うことで原因を特定することが可能です(文献3)
膝に水が溜まったときの初期症状
膝に水が溜まったときの初期症状としては、膝が少し腫れて重たい感じから始まり、溜まった水の量が増えてくると、歩行や階段の上り下り、正座などが困難になります。
膝関節は関節包と呼ばれる袋に閉じ込められており、多くの水が溜まるって関節包が張ってしまうことで痛みが出ます。一旦、水を抜くと張りがなくなり痛みは激減するでしょう。
以下で、膝に水が溜まったときの初期症状をまとめているので、ぜひ参考にしてください。
膝全体が腫れている
膝に水が溜まっている兆候の一つは、膝全体が腫れていることです。初期段階では、膝の周囲に軽い膨らみを感じ、溜まった水の量が増えると、膝全体が腫れて見た目にも明らかな異常を感じられます。
▼ 膝に水が溜まったときの写真(左足)
写真では、左足の膝が明らかに腫れているのがわかります。ただし、溜まっている水が少ないと見た目ではわかりづらく、触診だけではなく、エコーMRIなどの画像検査による判断が必要です。経験上10cc程以下の水の量では、触診だけではわからないことがあります。
膝が重く違和感を感じる
膝に水が溜まる初期症状として、重たさや違和感を覚える場合があります。
膝を動かすたびに違和感を感じるようになると、普段どおりに立ったり歩いたりできなくなるケースも珍しくありません。
膝の重さや違和感は、主に膝関節の圧迫によるものです。水が溜まっている状態で膝を動かすと内力がかかり、膝関節を覆っている関節包が引き伸ばされて、詰まりや引っ掛かりを覚えます。なお、関節内の炎症によって血流が増加し、重たさと同時に熱を持つこともあります。
膝の曲げ伸ばしがしづらい
膝の曲げ伸ばしがしづらくなることも、水が溜まったときの初期症状の一つです。膝に水が溜まると、関節包が突っ張って膝の動きに抵抗が生じるため、曲げ伸ばしがスムーズにできなくなります。
膝の曲げ伸ばしがしづらくなると、歩くときや階段の上り下りをするときに痛みが伴うことが増えるでしょう。無理に膝を動かすと痛みが強くなる可能性が高いため、注意が必要です。
膝に水が溜まったときは自分で治せる?セルフケアの方法
ここでは、膝に水が溜まっているか自分で調べる方法や自宅でできるセルフケアについて解説します。
膝に水が溜まっているか自分で調べる方法
膝が腫れたり、曲げ伸ばしがしづらいと感じたりしたときは、水が溜まっていないか確認してみましょう。
▼ 膝の水セルフチェック方法
まず、膝を伸ばした状態で座ります。次に、片方の手で膝のお皿の上をしっかりと掴み、もう一方の手でお皿の骨を軽く押しましょう。やわらかく動いてお皿が浮くような感じがあれば、膝に水が溜まっている可能性があります。
リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングも実施しているので、膝に水が溜まっているか自己判断できない場合は、気軽にご連絡ください。
膝に水が溜まったときに自分で治す方法
膝に水が溜まったときは、自分でマッサージすることも可能です。
▼ 膝に水が溜まったときのマッサージ方法については下記の動画で説明しています。
ただし、あくまで慢性期の痛みを緩和するためのものなので、外傷の急性期や感染症、偽痛風などのケースでは基本的にマッサージはしないほうが良いでしょう。また、痛みが強くなる場合はマッサージを中止して医療機関に相談してください。
なお、変形性膝関節症などによる慢性的な痛みの場合は温めるのが基本です。逆に、外傷後や感染、偽痛風などの急性期の痛みや膝が熱を持っている場合は冷やすほうが良いでしょう。湿布に関しては冷湿布と温湿布のどちらでも大丈夫です。
また、膝の関節を安定させるためには、サポーターの使用も有効です。いずれにせよ、自分だけで治そうとせずに、必ず医療機関と相談しながら行いましょう。
▼ サポーターの有効性について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
膝に溜まった水は自然になくなる場合もある
膝に水が溜まっても、自然に治癒することがよくあります。
原因である膝の炎症が落ち着けば、滑膜から放出される関節液は減少します。同時に余分な関節液が滑膜から吸収されることで、膝に溜まった水が減っていく仕組みです。自然治癒する期間としては1日から数週間で水が吸収されます。
注意点として、膝関節に水が溜まると膝の屈伸がしばらくできなくなり、膝の関節が固まって拘縮と呼ばれる状態になります。そのため、膝の水を1カ月以上放置することはおすすめしません。
また、膝の水が自然になくなった後でも、拘縮は残ります。対処法として、膝の水が引いた後や病院やクリニックで膝の水を抜いた後には、必ずリハビリで関節の可動域訓練をして拘縮を予防することが大切です。
なお、膝関節が熱を持っていたり、安静にしていても痛みが強かったりする場合は、感染や自己免疫疾患などが疑われるため、早めに整形外科にかかることをおすすめします。
▼ 膝に水が溜まった場合の対処法については、下記の動画でも詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
膝に水が溜まったときの病院での治療方法と流れ
膝に水が溜まったときの治療方法は、病院やクリニックで水を抜くことが一般的です。以下で、膝に水が溜まったときの治療方法や具体的な流れについて解説するので、ぜひ参考にしてください。
主な治療方法は注射を使った水抜き
膝に水が溜まったときは、注射を使って水抜きをします。
【写真①】
【写真②】
水を抜く(写真①)ときには、普段採血やヒアルロン酸の注射やブロック注射などの注射針より太い注射針を使用します。(写真②)水の量は多いときで、100ccにもなります。
膝の水を抜くときの注射は針が太い分、一般的には痛いものです。しかし、実際の感じ方は個人差によるものでしょう。また、水を抜いた後、針は刺したまま注射のシリンジを入れ替え、ヒアルロン酸やステロイドなどの炎症止めを注入します。
透明の薄い黄色であれば問題ないものの、、抜いた水の色(見た目)や濁りを見て感染症の疑いがある場合には、薬液の注入をしません。水が茶色や褐色をしていたり、濁ったりしている場合は、先に感染や骨折などの外傷があるか検査結果を待つ必要があります。
▼ 膝の水を抜く方法を詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
膝の水の色(見た目)と原因疾患
膝に溜まった水の色によって、以下のような原因疾患が考えられます。
抜いた水の色 |
考えられる原因 |
褐色・赤色 |
骨折・半月板損傷・靭帯損傷などの外傷 |
白濁色 |
感染症・痛風 |
濃い黄色で透明 |
変形性膝関節症 |
膝に水が溜まった場合は、医療機関で受診し、それぞれの原因に応じた治療を受けることが大切です。
膝の水を抜いた後の過ごし方や安静期間
膝の水を抜いた後の過ごし方や安静期間は、原因となる疾患によってやや異なります。
骨折や半月板損傷、靭帯損傷などの外傷が原因で水が溜まっていた場合は、根本の外傷の安静期間に準じます。また、感染症や偽痛風などが原因の場合は、痛みや炎症が落ち着くまではあまり動かさない方が良いでしょう。
変形性膝関節症が原因の場合は、とくに安静期間は必要ありません。膝の水を抜いた後でも、積極的にウォーキングや筋力トレーニングなどのリハビリテーションを行い、痛みが軽度であれば運動や仕事も可能です。
膝の水を抜いた後の注意点
膝の水を抜いた後、24時間はお風呂やシャワーなどを避けたほうが良いでしょう。
針を刺した場所が痛む可能性がありますが数日で痛みが消えることが多いので心配はいらないでしょう。ただし、注射をした後に膝が熱を持って腫れがひどくなったり、体温が高くなったりする場合は細菌感染の疑いがあります。
膝の水を抜いた後に状態が悪化した場合には、できるだけ早くかかりつけ医で受診することをおすすめします。
膝の水を抜く間隔
膝の水を抜いた後に再び腫れたときは、あらためて治療が必要です。膝の水を抜く間隔は、症状によってさまざまですが、すぐに繰り返し水が溜まるケースも珍しくありません。
なお、骨折や半月板損傷、靭帯損傷などが原因で膝に水が溜まっている場合は、外傷が治ってくると同時に水も自然に吸収されます。そのため、痛みがそれほど強くなければ、膝が多少腫れていても放置する場合があります。
再生医療による治療の可能性
膝に水が溜まっている状態を放置すると、症状が悪化する可能性があるので注意が必要です。とくに、変形性膝関節症が原因で膝に水が溜まっている場合、症状が末期になるとかかりつけ医から人工関節の手術をすすめられるケースも少なくありません。
ただし、近年は医学の目覚ましい発展により人工関節を避ける方法もあります。「再生医療」といわれる先端医療なら、傷ついた膝の軟骨を自力で修復させることで症状の改善を目指せます。。人工関節を避けられるだけではなく、手術も必要ありません。
もし、人工関節などの手術しか選択肢がないと診断を受けて迷っている場合は、先端医療分野を検討しても良いでしょう。
まずは膝の腫れや痛みを放置せず、手遅れになる前に整形外科をはじめとした専門医に膝の状態を診察してもらい、適切な治療を受けるようにしてください。
▼ 再生医療で膝の痛みを治療する
繰り返し膝に水が溜まらないようにするための具体的な予防法
ここでは、膝に水が溜まらないようにする具体的な予防方法を紹介します。
筋トレやマッサージ・ストレッチ
膝に水が溜まらないようにする予防法として、筋トレやマッサージ・ストレッチが挙げられます。膝を支える筋肉を鍛えることで、関節の負担軽減が可能です。また、マッサージやストレッチによって筋肉に柔軟性を持たせると、血行を促進して炎症を抑えられます。
▼ 自宅で簡単にできる!変形性膝関節症の筋力トレーニングは下記の動画で紹介しています。
ウォーキング
変形性膝関節症が原因で膝に水が溜まる場合は、痛みが軽度であればウォーキングをしたほうが良いでしょう。軽いウォーキングを継続的に行うことで、関節周りの筋力強化や軟骨の修復が期待できます。(文献4)
ただし、ウォーキングの際は、膝関節に負担がかからないよう配慮が必要です。舗装された道よりも、柔らかい土や芝生の上を歩くようにすると、膝にかかる衝撃を軽減できるでしょう。
サポーターやテーピング
膝関節に過度な負担をかけないためには、サポーターやテーピングの使用も効果的です。膝の安定性を保持し、動きを制限することで、膝関節の炎症を防ぎます。とくに、膝の痛みが強いときや予防のために使用すると良いでしょう。
アイシング・湿布
外傷による膝関節の炎症には、アイシングが効果的です。運動後に膝が熱を持っていて、腫れそうな場合には、冷やすことで炎症を抑えられます。
また、湿布は冷・温湿布いずれでも消炎鎮痛作用が期待できます。膝の状態や状況に応じて使い分けると良いでしょう。
漢方薬
漢方薬の使用も、膝に水が溜まらないようにするための方法の一つです。とくに、膝の痛みや関節の炎症を抑える効果があるとされる防己黄耆湯(ぼうきおうぎとう)がよく使用されるものの、効果には個人差があります。
なお、漢方薬を使用する際は、事前にかかりつけ医に相談しておくと安心です。
まとめ・膝に水が溜まっているなら早めに専門医に相談しよう
膝に水が溜まっている場合は、早めに抜いてもらうことが大切です。
膝関節には滑膜と呼ばれる組織があり、内部は滑膜から分泌される関節液で満たされています。通常、関節液は約1~3mL程度ですが、滑膜部が炎症を起こすと、概ね20~30mLまで増加します。水が膝に溜まるとは、まさにこのような状態を意味します。
膝の痛みや腫れ、違和感を感じたら、悪化を防ぐためにも早期に医療機関を受診してください。必要に応じてMRI画像を撮影して診断してもらい、生活スタイルに合った治療方法を提案してもらいましょう。
膝に水が溜まったときの治療に関するよくある質問
膝に水が溜まったときの治療に関するよくある質問をまとめているので、ぜひ参考にしてください。
膝の水を抜くとクセになる?
膝の水を抜くからクセになることはありません。
膝に水が溜まる原因は、炎症が強く関与しています。炎症が続いているから、水が繰り返し溜まり、「クセになっているのではないか」と感じるのです。
したがって、膝に水が溜まったときは、炎症をしっかり抑制してコントロールすることが重要です。
なぜ繰り返し膝に水が溜まるの?
繰り返し水が溜まるのは、関節液の中に炎症を引き起こす物質(炎症性サイトカイン)が含まれているからです。(文献5)
繰り返し水が溜まるからといって放置すると、膝関節の炎症が長引く可能性が高まります。そのため、水を抜きながら、根本的な症状の改善を目指すことが適切なアプローチだといえます。
膝の水を放置するとどうなる?
水が溜まった状態で放置すると、膝の重苦しい感覚が続いて動きがさらに悪くなり、日常生活にも支障が出るでしょう。
また、細菌感染が原因で水が溜まっている場合は、放置するほど膝関節内部で細菌がますます繁殖し、関節の軟骨そのものに悪影響を及ぼすことも十分に考えられます。ほかにも、変形性膝関節症が原因の場合は、末期になると人工関節の手術を選択せざるを得なくなる可能性があるため注意してください。
リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングも実施しているので、膝に溜まった水を放置する前に、気軽にご相談ください。