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「頭がズキズキするけれど、体調不良から起こる頭痛か熱中症のサインかわからない」 「少し休んでも痛みが改善されない」 熱中症が引き起こす頭痛は、疲れや寝不足などと混同されやすいため、受診のタイミングに迷う方もいるでしょう。単なる疲れと見逃されがちですが、放置すると重症化する危険があります。 本記事では、熱中症と頭痛の関係や見分け方を詳しく解説します。すぐに実践できる対処法や、日頃から心掛けたい予防策も紹介するので、ぜひ参考にしてください。 【重症度別】頭痛症状はどこに当てはまる?熱中症との関係性 熱中症による頭痛は、中等度の症状に該当し、ほかにも吐き気や嘔吐・倦怠感(けんたいかん)などが挙げられます。 熱中症とは日射病や熱射病の総称で、気温が高い環境で運動や仕事などを行った際に体温調節がうまくできなくなり起こる病気です。とくに、成長途中の子どもや、身体機能が低下しやすい高齢者は注意が必要です。 熱中症は、軽度から重度まで複数の症状がみられます。重症度別に症状を解説するので、参考にしてください。 また、熱中症の影響を受けやすいのは、どのような人か知りたい方はこちらの記事もチェックしてください。 軽度 軽度の熱中症は、発汗により体内の水分や塩分などの電解質が失われ始める段階で、主な症状は以下のとおりです。 めまい・立ちくらみ こむら返り 筋肉痛 大量の発汗 体内の水分が失われると血液量が減少し脳へ送られる血液の流れが不安定になるため、急に立ち上がった際にめまいや立ちくらみ(熱失神)を起こす場合があります。 熱中症では、汗とともに失われるのは水分だけでなく、筋肉の正常な収縮に不可欠なナトリウムなどの塩分も含まれます。塩分が欠乏すると、ふくらはぎや足の指、腹部などに痛みを伴うけいれんを指すこむら返り(熱けいれん)が起こるケースも珍しくありません。 軽度の熱中症で「頭痛」が主症状となるのは稀です。ただし、ズキズキと脈打つような激しい痛みではなく、脱水による血流の変化からくる「頭が重い感じ(頭重感)」を訴える場合もあります。 中等度 中等度の熱中症は「熱疲労」ともいわれ、頭痛に加えて以下の全身症状が現れます。 頭痛 気分の不快 吐き気・嘔吐 倦怠感 虚脱感 熱中症による頭痛は、体温の上昇に対処しようと脳の血管が過度に拡張するのが主な原因です。拡張した血管に心臓が血液を送り込むたびにズキズキと脈打つような拍動性の痛みを感じます また、体が熱を逃せるよう消化器系への血流を抑えるため胃腸の働きが低下し、強い吐き気や嘔吐を引き起こすケースも珍しくありません。体はエネルギーを使い果たし、立っていられないほどの倦怠感や虚脱感に襲われます。 集中力や判断力も著しく低下するため、自分自身で的確に対処するのが困難になり始めるのも中等度の特徴です。 中等度の熱中症は、意識がはっきりしていても臓器障害を起こしている場合があります。重症化すると命の危険につながるため、自己判断で様子を見ないよう注意してください。 重度 重度の熱中症は「熱射病」と呼ばれ、体温が上がりすぎたために以下の症状が現れます。 高体温 けいれん 意識障害 手足の運動障害 重度では体温調節を司る中枢機能が失われ、体温が40度を超えると発汗しなくなり体表に激しい熱感が残るのが特徴です。 重度の熱中症では高体温により、熱に弱い神経細胞が直接的なダメージを受けます。その結果、全身のけいれんや昏睡状態を引き起こす場合があります。 重度では頭痛を訴えていた中等度の段階とは異なり、痛みを感じたり、伝えたりする行動自体ができないほど、中枢神経系が深刻な影響を受けているといえます。 熱中症で起こる頭痛の特徴 熱中症が引き起こす頭痛には、日常的な片頭痛や風邪などの頭痛とは性質が異なり、以下の特徴があります。 拍動性の痛みを感じる 倦怠感・吐き気・嘔吐などを伴う なかでも特徴的なのは、心臓の拍動に合わせてズキズキと脈打つ拍動性の痛みです。頭全体が締め付けられるように感じたり、ガンガンと響くような重い痛みを伴ったりする場合も少なくありません。 頭痛だけが単独で現れるのは珍しく、倦怠感・吐き気・嘔吐など、全身状態の悪化を示す症状が伴う点も大きな特徴です。 上記の特徴が見られた際は、熱中症を疑い速やかな対応が求められます。 熱中症による頭痛の見分け方 熱中症による頭痛か否かを見分けるには、以下の状況と身体の変化を確認することが重要です。 状況 全身症状 ・高温多湿の場所に長時間いた ・激しい運動や屋外作業をしていた ・水分が十分に足りていなかった ・体温上昇や発汗の異常、脱水症状がみられる ・めまいや吐き気、倦怠感が伴う ・涼しい場所での安静や水分補給で症状が改善する 炎天下や蒸し暑い屋内で活動したあとに頭痛が出現した場合、まずは熱中症を疑います。 熱中症による頭痛は、ズキズキとした拍動性の痛みとして現れる場合が多く、体温が上昇して異常な発汗がみられる、全身に脱水の兆候が同時にみられます。また、めまいや吐き気・強い疲労感を伴うケースも多いため、全身症状の条件がそろえば熱中症が引き起こされる可能性が高まるでしょう。 涼しい場所で休み、水分とともに塩分などの電解質を補給して症状が和らぐようであれば、熱中症が原因であると考えられます。 ただし、重度では安静や補水でも改善しないケースがあるため、症状が徐々に悪化していく場合や症状が改善しない場合は、迷わず医療機関を受診してください。 熱中症の症状で頭痛が起きた際の対処法3選 熱中症による頭痛が発症した場合、迅速かつ的確な対応が症状の悪化を防ぐ鍵となります。ここでは、頭痛が起きた際の具体的な対処法を紹介します。 自己判断で放置してしまうと重症化する危険もあるため、理解を深めておきましょう。 涼しい場所へ移動する まずは、体温を上げる環境から離れるのが最優先です。屋外にいる場合は、直射日光を避けられる日陰や、可能であれば冷房が効いた室内や車内へ速やかに避難してください。 室内で発症した場合でも、窓を閉め切った暑い部屋から、風通しの良い涼しい部屋へ移動します。 自力で移動できる場合でも、めまいや立ちくらみ、一時的な失神によるふらつき・転倒を起こす可能性があるため、注意してゆっくり移動しましょう。自力で移動できない場合、周囲に人がいるなら協力を仰ぎ、迅速に安全な場所へ避難するのが大切です。 体を冷やす 涼しい場所へ移動したら、次は積極的に体を冷やす処置を行います。 ベルトやネクタイ、体に密着する衣服を緩めて、風通しを良くしてください。濡らしたタオルやハンカチを体に当てて、うちわや扇子などであおぎ、体温を下げます。 冷やす際は保冷剤や氷のう・冷えたペットボトルなどにハンカチを巻き、以下の部位に当てましょう。 首筋 わきの下 足の付け根 上記のような太い血管が皮膚の近くを通っている場所を冷やすと、効率的に全身の血液を冷やせて効果的です。 水分・塩分を補給する 脱水と電解質の不足が熱中症を引き起こすため、水分とともに塩分などの電解質の補給が欠かせません。 スポーツドリンクや経口補水液が望ましいですが、無ければ水でも良いのでゆっくり飲みます。一度に大量の水分を摂ると胃腸に負担がかかるため、こまめに少しずつ摂取すると良いでしょう。 ただし、吐き気や嘔吐を伴う場合は、無理に飲まないでください。また、意識がはっきりしない人に無理矢理飲ませると、誤って気道に水分が流れ込む可能性があるため、注意が必要です。 熱中症による頭痛症状が現れた際の受診目安 熱中症によって頭痛症状が引き起こされた際の受診目安は、以下のとおりです。 応急処置をしても改善がみられない 自力で水分を摂れない 嘔吐を繰り返している 意識障害がある 頭痛が軽度であり水分補給や休息によって速やかに軽快するなら、自宅で経過をみても問題ありません。 ただし、涼しい場所へ移動し十分に水分・塩分を補給しても改善がみられない場合や、症状が悪化する際は医療機関の受診が必要です。とくに、水分を自力で摂取できない、嘔吐を繰り返してしまう場合は、点滴での水分・電解質の補給が必要になる可能性があります。 呼びかけへの反応がおかしい、ろれつが回らない、けいれんを起こすなどの意識障害の兆候が見られる際は、救急車の要請を検討してください。 熱中症によって頭痛が生じた際、自己判断で様子を見るだけでは危険な場合もあるため、注意しましょう。 受診するかお悩みの際は、ぜひご相談ください。 熱中症による頭痛の予防法 熱中症による頭痛の予防法は、以下のとおりです。 高温多湿の環境では無理せずこまめに休憩する 服装に注意する こまめに水分・塩分を補給する 高温多湿の環境では無理な運動や長時間の外出を避け、適切に休憩を取り入れるのが基本です。睡眠不足や風邪など、体調が優れない場合は気温が高くなる日中の外出は控えましょう。 また、日差しを直接浴びないよう帽子や日傘を活用し、通気性の良い淡い色の服装を心がけると体温の上昇を抑えられます。 熱中症予防には、こまめな水分・塩分補給も欠かせません。喉の渇きを感じる前から水分や電解質を補うと、脱水を未然に防げます。とくに、大量の発汗が予想される場合には、スポーツドリンクや経口補水液の利用が効果的です。 ほかにも、十分な睡眠と食事を取って体調を整え、暑さに耐えられる体づくりも大切です。自分の体調や周囲の気温変化に注意を払い、早めの予防行動を意識できると、頭痛を含む熱中症の発症を大きく減らせます。 熱中症による長引く頭痛は当院へご相談ください 熱中症が引き起こす頭痛は中等度の症状であり、ズキズキとした拍動性の痛みや倦怠感・吐き気などを伴うのが特徴です。 熱中症による頭痛が疑われる場合は、涼しい場へ移動し体を冷やして適切な水分・塩分の補給が対処法の基本です。 ただし、対処法を行っても症状が改善しない場合は、重症化している可能性があります。また、症状が続く際は後遺症も考えられるため、自己判断で経過をみるのではなく、当院にご相談ください。 熱中症は稀に後遺症を残すケースがあります。後遺症については、こちらの記事で詳しく紹介しているので、参考にしてください。 熱中症と頭痛に関するよくある質問 熱中症で夜になってから頭痛を起こすことはある? 熱中症による頭痛は、日中の高温環境で受けたダメージが蓄積され、時間をおいて症状として現れるケースがあるのも事実です。 とくに、日中の屋外活動後、体温が高い状態で水分補給が不十分だった場合、夕方から夜にかけて頭痛や倦怠感が出るケースは珍しくありません。 軽度の熱中症でも、体が脱水状態に傾くと遅れて頭痛を起こす場合があるため、夜間でも症状が強ければ油断せず、水分・塩分の補給や体を冷やし、必要に応じて医療機関を受診しましょう。 熱中症で頭痛薬を飲んでしまった場合の対処法は? 既に頭痛薬を飲んでしまった場合は、体調変化に注意しつつ熱中症への基本的な対処を行ってください。 熱中症による頭痛に対して、自己判断で頭痛薬を飲むのは推奨されません。薬で頭痛を抑えても、原因である脱水や高体温は改善されず、かえって症状の悪化に気づきにくくなる危険があるためです。 また、一部の解熱鎮痛薬は、脱水状態の腎臓に負担をかける可能性もあります。熱中症に対する対処法を実施したあとも症状が改善しない場合は、医療機関を受診し、どの薬を飲んだか必ず医師へ伝えましょう。
2025.06.29 -
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「熱中症に後遺症はあるのか」「熱中症の後遺症にはどのような症状があるのか」 上記のように、熱中症の後遺症について気になっている方もいるでしょう。熱中症は、回復後に後遺症を起こす可能性があり、なかには重篤な症状を引き起こすケースも存在します。 本記事では、熱中症の後遺症を詳しく解説していきます。後遺症が起こる原因や防ぐポイントも紹介しているので、熱中症後の体調不良に悩んでいたり、気になっていたりする方はぜひご覧ください。 熱中症の主な後遺症一覧 熱中症は、重症化すると命に関わるだけでなく、回復後に後遺症を起こす可能性があります。熱中症の主な後遺症は、以下があげられます。 頭痛 食欲不振や倦怠感 めまい 臓器の障害 高次脳機能障害 日常生活に影響を及ぼす症状はもちろん、重篤な症状を引き起こすリスクもあるため、注意が必要です。熱中症の後遺症について詳しく見ていきましょう。 頭痛 熱中症から回復した後も、慢性的な頭痛に悩まされるケースがあります。頭痛を起こす原因としては、熱中症によって脳の血管が一時的に収縮したり、脱水による影響が残ったりがあげられます。 とくに、頭痛が長く続いたり、頻繁に発生したりする場合は、単なる体調不良と片付けてしまうケースも少なくありません。熱中症の後に、日常生活に支障をきたすほどの頭痛が生じる場合は、医療機関を受診し、医師から診断と治療を受けましょう。 食欲不振や倦怠感 熱中症の後遺症として、食欲不振や強い倦怠感もあげられます。熱中症によって体内の水分や電解質のバランスが崩れ、自律神経に影響が出るためです。 食欲がない状態が続くと、栄養不足に陥り、さらに倦怠感が悪化する悪循環に陥るケースもあります。熱中症後に、食欲不振や倦怠感が生じる際は、無理せず消化の良いものを摂取し、十分な休息をとりましょう。症状が長引く場合は、医療機関で相談してください。 めまい 熱中症の症状の1つであるめまいが、回復後も後遺症として続くケースがあります。熱中症による脱水や脳への血流不足が原因で、三半規管や脳の機能に一時的な障害が残る可能性があるためです。 立ちくらみやフワフワとした浮遊感が続くものまで、症状はさまざまです。めまいが続く場合は転倒のリスクも高まるため、回復しない際は医療機関の受診を検討しましょう。 臓器の障害 重度の熱中症の場合、体温が異常に上昇すると、肝臓や腎臓などの臓器にダメージが及ぶ可能性があります。たとえば、腎臓機能が低下して急性腎不全になったり、肝臓の細胞が破壊されたりするケースもあります。 臓器障害は、熱中症からの回復後も持続的な影響を及ぼす可能性があり、定期的な検査や治療が必要になるケースもあるでしょう。永久的な機能障害が残るリスクもあるため、重症熱中症の既往がある方は、医療機関での定期的な検査が必要です。 高次脳機能障害 熱中症で重篤な後遺症の1つが、高次脳機能障害です。熱中症により、脳へ血流が行き届かなくなることが原因です。精神状態の変化や神経過敏、けいれん発作などの中枢神経障害による症状が起こります。 高次脳機能障害も臓器の障害と同様、早い段階で処置を受けないと、永久的にダメージが残るリスクがあるため、注意が必要です。 熱中症の後遺症が起こる原因 熱中症は、体温が異常に上昇すると脳がダメージを受け、後遺症を起こします。高温状態が数分続くだけで神経細胞にダメージが生じ、長時間にわたると回復困難な後遺症が残ってしまうのです。 ここでは、熱中症の後遺症が起こる原因を3つ解説していきます。 ホルモンが過剰に生成される 熱中症により体温が異常に上昇すると、体は生命維持のために防御反応を起こします。防御反応を起こす際、「サイトカイン」と呼ばれる生理活性物質が過剰に生成されます。サイトカインは、炎症反応を調整する重要な役割を持つタンパク質です。 通常サイトカインは体を保つ上で重要な役割を持っていますが、過剰に生成されるとバランスが崩れ、さまざまな不調を引き起こす原因となります。サイトカインによって炎症が悪化し、脳や臓器などにも異常をきたします。 血栓が生じる 重度の熱中症で体温が上昇すると、体内で血栓(けっせん)ができやすくなるリスクが高まります。体温が約42℃を超えると、卵の白身が加熱によって固まるように、血液や細胞を構成するタンパク質も性質が変化し、固まりやすくなります。 結果、血液中のタンパク質が凝固しやすくなり、血栓を形成する原因となります。 また、大量の発汗による水分不足で血液がドロドロになるのも血栓が生じる原因です。血液がドロドロになり血流が悪化すると、血小板が集まりやすくなって血栓が形成され、結果として脳に影響を及ぼします。 血栓が血管に詰まると、脳に血液が届かない「脳梗塞」を引き起こします。 動脈硬化を起こす 熱中症によって体が暑さにさらされると、血管内皮細胞がダメージを受けます。その結果、動脈硬化を引き起こし、脳梗塞を引き起こす可能性が高まります。動脈硬化を起こすと、血管内の壁が厚くなるため血液の通り道が狭くなり、脳に十分な酸素が行き渡らなくなることで、脳梗塞を引き起こすのです。 動脈硬化から脳梗塞を発症すると、脳の一部が損傷するため、後遺症の1つである高次脳機能障害を引き起こす原因になります。 熱中症の後遺症における治療方法 熱中症の後遺症に対する治療は、症状の程度によってアプローチが異なります。めまいや倦怠感など比較的軽度な症状の場合、十分な休息と水分・塩分補給が基本となります。経口補水液などで体内の電解質バランスを整えることが大切です。必要に応じて、頭痛や吐き気などの症状を和らげるため、投薬治療が行われるケースもあります。 一方、脳機能への影響など重度な後遺症に関しては、現時点では根本的な治療法は確立されていません。ただし、症状の改善や機能回復を目指すため、継続的なリハビリテーションは可能です。理学療法や認知機能訓練など、専門家によるアプローチを通じて、失われた機能の回復を目指します。 また、近年では再生療法による後遺症の治療も提供されています。リペアセルクリニックでも再生療法を提供しているため、気になる方はぜひご相談ください。 いずれのケースでも、症状が長引く場合は自己判断せず、速やかに医療機関を受診し、専門医の診断のもと適切な治療を開始するのが重要です。 熱中症の後遺症を防ぐポイント 熱中症の後遺症は、長期にわたり生活に影響を及ぼす可能性があります。後遺症を起こさないためには、熱中症を予防するのが大切です。もし熱中症になったとしても、重症化を阻止すれば、重篤な後遺症のリスクを軽減できます。 ここでは、熱中症の後遺症を防ぐポイントを2つ紹介します。 熱中症を予防する 熱中症の後遺症を根本的に防ぐためには、熱中症そのものにならないことが大切です。具体的には、以下の予防策があげられます こまめな水分・塩分補給をする 暑さを避ける 吸収性や速乾性に優れた衣服を着用する 気温が高い時期は、のどが渇いていなくても定期的に水分を摂りましょう。とくに汗をたくさんかくときは、スポーツドリンクや経口補水液などで塩分やミネラルも補給するのが大切です。 吸湿性や速乾性に優れた素材の服を選んだり、日傘や帽子を着用したりするのも熱中症対策に効果的です。暑さによる体調不良が疑われる場合は、無理をせず涼しい場所で涼みましょう。 熱中症の重症化を阻止する 万が一熱中症になってしまった場合でも、症状の重症化を速やかに阻止すると、後遺症のリスクを軽減できます。熱中症後に、めまいや倦怠感、頭痛などを感じた際は、速やかに医療機関を受診しましょう。 「ただの体調不良かもしれない」「様子を見れば治るはず」と考えて放置していると、後遺症のリスクが高まるため、注意が必要です。些細な体調不良でも放置せず、念のため医療機関を受診するのが大切です。 熱中症の後遺症でお悩みの方は当院へご相談ください 熱中症の後遺症として、頭痛や食欲不振、めまいなどがあげられます。重篤な後遺症だと、臓器の障害や高次脳機能障害などを引き起こすリスクもあるため、注意が必要です。熱中症になると、ホルモンが過剰に生成されたり、血栓が生じたりすると、後遺症を引き起こします。 熱中症の後遺症を防ぐには、そもそも熱中症にならないことが大切です。気温の高い日は、こまめに水分や塩分補給をしたり、通気性の良い衣服を身に着けたりして対策しましょう。 頭痛やめまいなど体調不良を感じた際は、無理はせず休憩を取ってください。 リペアセルクリニックでは、熱中症の後遺症に対する再生医療を提供しています。熱中症の後遺症が疑われる方や、治療法を探している方は、ぜひ一度リペアセルクリニックのメール相談やカウンセリングにてご相談ください。
2025.06.29 -
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「健康診断で不整脈の疑いがあると指摘された」 「病院を受診した方がよいのだろうが、怖い気持ちもある」 「不整脈に良い食べ物があるなら、まずはそれを試してみたい」 不整脈を患っている方の中には、このように考えている人もいるでしょう。 不整脈の治癒に効果のある食べ物や飲み物は存在します。一方で、摂りすぎると不整脈を悪化させてしまう食品も複数あるため、食事の管理は非常に大切です。 本記事では、不整脈と食事の関係について紹介します。食事での注意に加えて、病院受診の目安についても解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。 不整脈に良い食べ物・飲み物一覧 不整脈を良くするためには、心臓の筋肉に良い食事や、不整脈の原因のひとつでもあるストレスを軽減する食事を摂ることが大切です。 不整脈に効果のある栄養素や、その栄養が多く含まれる食品を紹介します。 カリウムが多く含まれているもの カリウムは、人体に必要なミネラルの1つです。 ナトリウムを排出する働きがあるため、摂りすぎた塩分を調節する役目を担っています。 細胞や神経、筋肉が正常に機能するためにも必要な物質で、心臓の筋肉(心筋)の収縮にも関与しています。 カリウムの濃度が低下するとこういった働きに影響がでるほか、不整脈を起こすリスクも上がります。不整脈のほかにも脱力感、食欲不振などを起こす可能性があるため、積極的にとるようにしましょう。 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」によると、カリウムの目標摂取量は男性3,000mg/日、女性は2,000mg/日です。(文献1) カリウムが多い食品として、 バナナ(1本につき454mg) ほうれん草1/4束(生で621mg茹でて311mg) 干し芋(2枚588mg) などがあります。 ただし、カリウム濃度が高くなりすぎても不整脈を招くことがあるため、食べ過ぎないようにしましょう。 マグネシウムが多く含まれているもの マグネシウムは筋肉の収縮や神経情報の伝達、体温・血圧の調整に役立ちます。 心臓の筋肉が収縮するにはカルシウムも必要な要素になります。マグネシウムはカルシウムと競合することで、心臓の収縮をちょうど良い強さに調整しているのです。 また、マグネシウムは心臓の拍動を穏やかにし、不整脈の発生を防ぐ働きもあります。 マグネシウムの1日の推奨平均摂取量は男性で約350mg、女性で約300mgとされています。(文献1) マグネシウムは以下の食べ物などに多く含まれています。 乾燥カットわかめ(1人分10gにつき460mg) 殻付きあさり(10個あたり100mg) 納豆(1個につき100mg) ノンカフェイン飲料 カフェインが含まれていない飲み物は、心拍への刺激が少ないため、不整脈が気になる方にとってはおすすめです。 寝る前にコーヒーやアルコールを飲む人は、ノンカフェイン飲料に切り替えると睡眠の質が高まり、不整脈のリスクの1つであるストレス軽減につながります。 ノンカフェインの飲み物としては、麦茶やルイボスティー、黒豆茶、小豆茶、白湯などがあげられます。 嗜好品としてコーヒーが好きな人は味が似ているデカフェをコーヒーの代用として飲むのもおすすめです。 スーパーやデパート、コンビニなどで購入できます。自分の好きな味を模索するのも良いでしょう。 不整脈のために避けたい食べ物・飲み物 不整脈を良くするためには、摂取量を減らすべき食べ物・飲み物を理解し食事の調整を行うことが重要です。 以下で紹介している避けたい食べ物・飲み物は、過度な摂取を控えれば食べても問題はありません。 塩分が多い食品 塩分を過剰に摂ってしまうと、心臓で「アルドステロン」と呼ばれるホルモンが作られやすくなります。 アルドステロンは、心臓の筋肉を硬くしたり、不整脈を誘発することが知られています。 また、塩分そのものが、心臓の正常な電気のリズムを乱す原因となり、不整脈が起こりやすい状態を作り出します。 塩分を摂りすぎると、体内の塩分濃度を下げるために血液中の水の量が増えます。その結果血液量が増加すると、心臓への負担が増えてしまい血管にも強い圧力がかかってしまうのです。 1日の適正な食塩摂取量は、男性7.5g未満、女性6.5g未満とされています。 塩分の多い食品は以下の通りです。 カップ麺などの超加工品 ハム、ソーセージなどの加工食品 パスタ料理(ミートソースやカルボナーラなどの味の濃いソース) 漬物 塩魚(塩鮭、塩さばなど) 重要なのは、1日当たりの適正量を守ることです。極端な塩分制限は心身のストレスになる可能性があるため控えましょう。 動物性脂肪が多い食品 脂質の摂り過ぎは肥満や生活習慣病の原因となります。とくに動物性脂肪が多い食品は飽和脂肪酸が多く含まれており、血中コレステロールの増加や、心筋梗塞などの循環器疾患のリスクを高めてしまいます。 肥満および心疾患は、不整脈を引き起こす大きな原因になります。動物性脂肪が多い食品は食べ過ぎないように心がけましょう。 動物性脂肪は 脂身の多い肉 乳製品、バターやラードを多用した料理(菓子パンや洋菓子など) などに多く含まれています。 カフェイン飲料 カフェインは心臓を直接刺激して心拍数を増やし、心臓の収縮力を高める作用があります。アドレナリンのような興奮物質(カテコールアミン)の放出を促すためであるといわれています。 適量であれば不整脈の原因にはなりませんが、一日の推奨摂取量を越えると心臓の細胞に直接働きかけ、電気活動を乱してしまうことがあります。 その結果、頻脈(心拍が速くなること)、心室細動(命に関わる危険な不整脈)を引き起こすリスクが高まってしまうのです。 日本においては、カフェインの1日摂取量の目安は示されていませんが、カナダ保健省では健康な成人の場合最大400mg/1日(コーヒーをマグカップ3杯)までと設定しています。(文献2) エナジードリンクやコーヒーの多量摂取は控えましょう。 アルコール アルコールの多量摂取は心筋細胞の損傷や、自律神経を不安定にするため注意が必要です。 大量のアルコールを摂取すると、心臓に急性の電気的変化を引き起こし、心房細動と呼ばれる不整脈の発症リスクを高めてしまいます。 適切な飲酒量は、1日あたりの平均純アルコール量で男性は40g未満、女性は20g未満とされています。 純アルコール20gとは、日本酒1合、ビール500ml、缶チューハイ350ml程度の量です。 不整脈に良い食べ物を無理なく生活に取り入れる工夫 不整脈に良い食べ物を新たに取り入れることが難しいと感じる人もいるでしょう。 不整脈に良い食事習慣を長く続けるためには、少しずつ取り入れることが大切です。 普段の朝食にカリウムが豊富なバナナやマグネシウムが含まれる納豆をプラスする。 漬物を食べる量を今までより減らす。 寝る前に飲むものをノンカフェインのお茶や白湯に切り替える。 習慣としてコーヒーを飲んでいる人はノンカフェインのコーヒーに変える。 調味料を減塩タイプのものに変える。 普段の生活の中で少しずつ取り入れ、無理なく食生活を変えていきましょう。 不整脈予防・改善にはバランスの良い食事と治療が大切 不整脈に良いものを食べることから始める食生活の改善は、生活習慣病予防の観点から見ても非常に大切なことです。 不整脈の症状を改善するためには「カリウム」「マグネシウム」を食事の中で取り入れましょう。 一方で、「カフェイン」「塩分」「動物性油脂」「アルコール」は過剰に摂取すると不整脈のリスクを高めます。 心室細動と呼ばれる不整脈を引き起こすこともあり、命の危険に及ぶ場合もあります。 食生活を変えてもあまり効果を感じない、症状が長期化するといった場合は、ほかの原因も考えられます。 必要に応じて医療機関を受診しましょう。 不整脈の現状を正しく知り、食生活の改善や必要な治療といった適切な対処を行うことが症状を良くする第一歩です。 不整脈に良い食べ物に関するよくある質問 不整脈に良い飲み物の中にトマトジュースは含まれますか? トマトはカリウム量が多く(1個当たり315mg)、トマトジュースには200mlあたり546mgのカリウムが含まれています。 トマトジュースは生のトマトよりカリウム量が多いので、1日1パック程度にとどめましょう。 慢性の腎臓病がある方は、カリウムを摂り過ぎると高カリウム血症を引き起こす可能性があるため、トマトジュースは控えてください。 カリウム濃度が高すぎても不整脈が起こりやすくなってしまうため、適量を見極めることが重要です。 また、普段塩分を摂りすぎている方は減塩タイプのトマトジュースを摂りましょう。 不整脈に効くサプリメントはありますか? 不整脈に直接作用するサプリメントはありません。 カリウムやマグネシウムなど、不整脈に良い栄養を補うサプリメントは市販されています。 しかし、サプリメントは足りない栄養素を補助するものであり、サプリメントを過剰摂取すると体に悪影響を及ぼす可能性があります。 マグネシウムのサプリメントの過剰摂取は下痢や吐き気、カリウムの過剰摂取は不整脈や心電図異常、四肢のしびれなどを引き起こす可能性があります。 サプリメントの摂取を希望される方は、医師や薬剤師に相談しましょう。 参考文献 (文献1) 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年)策定検討会報告書」 2024年 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316585.pdf(最終アクセス:2025年6月26日) (文献2) 厚生労働省「食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000170477.html(最終アクセス:2025年6月26日)
2025.06.29 -
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「最近ストレスがたまっている」 「脈が飛ぶ感覚が頻繁に起こる。これはストレスによる不整脈ではないか」 「病院では異常なしといわれたが、やはり不安である」 不整脈の症状がある方の中には、このような不安を抱えている方もいるでしょう。 不整脈は心疾患が原因で起こることもありますが、「とくに異常なし」「ストレスが原因」と診断されることもよくあります。 明確な原因が見つからないと「具体的にはどのように治せばいいのか」「良くなっているのかどうかわからない」といった悩みが発生し、さらに不整脈を悪化させてしまう可能性もあります。 本記事では、ストレス性不整脈の治し方を解説します。 ストレスが心臓に与える影響や、早急に受診すべきタイミングも紹介しています。ぜひ最後までご覧ください。 ストレスと不整脈の関係性 不整脈が起こる原因として、ストレスは強く関係しています。 この項目ではストレスがどうして心臓に影響を与えるのか、そのメカニズムを説明します。また、心疾患が原因となる不整脈とのちがいについても解説します。 ストレスが心臓に与える影響 強いストレスは自律神経の乱れにつながり、不整脈を引き起こす原因となります。 自律神経は交感神経と副交感神経の2つの神経系によって構成されています。 ストレスを受けると、活発時や緊張時に優位になる交感神経が働き、心拍数や脈拍が多くなってしまいます。 通常の状態であれば副交感神経優位に切り替わり、心拍数は正常値に戻っていきますが、強いストレス状態が続き交感神経が働き続けると、心臓に負担がかかってしまいます。 その結果、不整脈、心臓の違和感、胸の痛みといった症状を引き起こしてしまうのです。 不整脈は頻脈(脈が速くなる)や期外収縮(胸が痛い、不快感を感じる)といった比較的軽度なものがほとんどです。 しかし、放置すると心不全や脳梗塞といった重篤な疾患を発症する場合もあるため注意が必要です。 ストレス性不整脈と心疾患による不整脈の違い ストレス性不整脈と心疾患による不整脈の違いを症状だけで見極めるのは非常に難しいです。 ストレスを解消しても不整脈が治らない場合、原因が違う場所にある可能性も考えられます。 いずれにせよ放置は危険なので、まずは専門の医師に相談を行いましょう。 ストレス性不整脈 ストレス性不整脈の場合、精神的・身体的なストレスが引き金となり、自律神経のバランスが崩れることで発症します。代表的なものは「期外収縮」で、正常な拍動の間に不規則な拍動が現れます。気づかない方も多い症状です。 ストレス性不整脈の場合、原因となっているストレスを解消したり、生活習慣を改善すれば症状が緩和されることがほとんどです。 心疾患による不整脈 心筋梗塞や狭心症、心臓弁膜症、心不全といった心疾患が原因で引き起こされる不整脈もあります。 心疾患による不整脈は長期間続く傾向にあり、動悸や息切れ、めまい、失神といった合併症状を伴うこともあります。 治療は重症度によっても変わりますが、薬物療法やカテーテルアブレーション、ペースメーカーの植込みなど、専門的な医療介入が必要となる場合もあります。 ストレス性不整脈の治し方 ストレスが原因で起きている不整脈の場合、原因であるストレスを解消しない限り完全に治ることはありません。不整脈が治らないことへの焦りや不安がさらに症状を悪化させることもあります。 ストレス性不整脈を治すポイントは、「ストレスをためこまない」「生活習慣を見直す」「睡眠の質を向上する」ことです。 それぞれ詳しく解説していきます。 ストレスをためこまない工夫をする 日々のストレスをためこまないため、日常生活での工夫が大切です。深呼吸や瞑想、ヨガなど、意識的にリラックスできる時間を作ると、副交感神経が働きやすくなります。 仕事や家事が忙しく常に慌ただしい生活を送っている方は、日々のやらなくてはいけないことから少し離れる時間を作ってみてください。 例えば、読書や旅行など自分の好きなことに没頭したり、ウォーキングや散歩など体を動かしたりすることでストレスの軽減につながります。 また、日記をつけたり、そのとき感じた感情をメモに書き留めておくと、心の中が整理され不安や焦燥感が軽減されることもあります。 それでもストレスが減らない、人間関係がストレスの原因になっている場合は、家族や友人、必要に応じて心理カウンセラーや医師などの専門家に相談してみましょう。 人と対話をすると、自分でも思いがけない感情を言葉にできることがあります。そういった対話の中で見つけた感情こそ、ストレス緩和の糸口になるかもしれません。 生活習慣を見直す ストレスと上手に付き合うためには、毎日の生活習慣をととのえることが大切です。 とくに重要視されるのは「食事」「運動」「睡眠」です。それぞれの気を付けるべきポイントをまとめました。 栄養バランスの良い食事 栄養バランスの良い食事は心臓疾患の予防になります。 無理な食事制限などは行う必要はありませんが、ジュースなど砂糖が多く含まれる食品、スナック菓子やカップ麺といった超加工食品は減らしましょう。 一方で野菜や魚、肉、大豆などの良質なたんぱく質を多く取り入れてください。 また、主食は精製されていないものを取り入れてみると効果が高まります。 普段食べている白米や白いパンは、「精製」という処理を経ています。精製を行うことで、原材料に本来含まれていた繊維質、ビタミンB、ミネラルといった心疾患の予防に有効な栄養素が失われてしまうのです。 主食を玄米や全粒粉を使ったパンなどに切り替えてみるのも良いかもしれません。 適度な運動 日常生活の中で無理のない範囲で体を動かすことが推奨されています。 運動習慣がない方や不整脈による症状がつらい方は、医師と相談のうえで軽いランニングやサイクリング、ウォーキングや散歩などから始めてみてください。 身体を動かすことに慣れ、医師の許可も出た場合は筋力トレーニングもおすすめです。いきなり高負荷の運動は避け、腕立て伏せやスクワットなど手軽に始められる自重トレーニングからはじめましょう。 ウォーミングアップとクールダウンの時間、水分補給は欠かさず行ってください。 筋力トレーニングは心理的ストレスの改善にも有効です。筋力トレーニングを行うことによって分泌される神経伝達物質が気分を安定させることがさまざまな研究で証明されています。 アルコールやカフェインの摂取を控える アルコールやカフェインの過度な摂取は、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。 適量を守り、規則正しい生活を送りましょう。 成人の1日当たりの適正飲酒量は純アルコールで約20g程度です。 ビールだと500ml、缶チューハイで350ml、ワインで200ml程度に換算されます。 また、喫煙はストレスに関係なく心臓や血管への負担を増やします。 喫煙をしている方は自分が一日あたり何本吸っているのかを理解し、できる限り禁煙を目指しましょう。 睡眠の質を高める 睡眠の質を高めることは、食事や運動と同様に心身の健康を保つ上で非常に重要です。 スマートフォンやパソコンは体内時計に影響を及ぼすブルーライトが発せられているため、就寝前の使用は控えることが望ましいです。 また、寝室環境の整備も睡眠の質を向上するために必要です。寝室や寝床の中は静かで暗い環境を保ちましょう。季節にもよりますが、室温は13~29度、湿度は40~60%程度が適切だといわれています。 また、就寝前の時間の使い方も重要です。就寝90分ほど前に、ぬるめのお風呂につかると身体が温まり眠りやすくなります。そのほか、好きな音楽を聴く、軽い読書をするといった自分がリラックスできることを取り入れることも望ましいです。 寝酒はかえって眠りを悪化させる可能性があります。適量以上の飲酒はできる限り避けましょう。 医療機関を受診すべき不整脈のサイン 不整脈の症状を感じた場合、早急に専門の医師を受診しましょう。 不整脈は突然死のリスクもあります。放置してしまうと血栓の発生や脳梗塞、心筋梗塞のリスクが高まります。 不整脈の症状が続いている、もしくは頻度が増えている 胸痛や息切れ、めまいなどの症状が伴う もともと心疾患がある これらに該当する場合は早急に医療機関にかかり、適切な治療を受ける必要があります。 上記に該当しないものの、健康診断で「精密検査が必要」と言われた方も、早急に受診しましょう。 【緊急性のない場合】ストレス性を含む不整脈の対処法 期外収縮など緊急性の低い不整脈の場合でも、はやく治療したい方もいるでしょう。ストレス性の不整脈だと診断された場合、病院では日常生活指導を受けられます。 もし、それだけでは不安な場合、医師と相談の上、抗不整脈薬の内服や、カテーテルアブレーション治療を受ける選択肢もあります。 カテーテルアブレーションとは、足の付け根の静脈から細いカテーテル(管)を心臓まで送り込み、不整脈の発生源となる部位にカテーテルの先端を当てて、高周波電流で焼灼する手術です。 カテーテルが不整脈発生部位に届くようであれば、この治療を受けることができます。 ストレス性不整脈はセルフケアと適切な医療でコントロールしよう 不整脈は心疾患が原因で起こる場合、ストレスが原因で起こる場合で大きく2つに分かれます。 ストレスが原因であったり、一過性の場合は、生活習慣を見直すことで症状が改善される可能性があります。食生活の見直しや日常的な運動、睡眠をしっかり取り、健康な体づくりを心がけましょう。 ストレスが多い生活をしている自覚がある方は、ストレスをためないよう生活を工夫したり、人に相談するなどして抱えているストレスを減らす必要があります。 それでも不安が残る場合には、医療機関を受診して適切な治療を受ける方法もあります。専門の医師に相談し、ストレス性不整脈の軽減に努めましょう。 ストレス性不整脈に関するよくある質問 不整脈の症状で脈が飛ぶ場合すぐに病院で治療すべきですか? 一拍だけ脈が飛ぶ、一瞬胸がドキッとするといった症状の主な原因は「期外収縮」であることが多いです。 心臓に電気を送る部分である洞結節と呼ばれる部位とは別の場所から、やや早いタイミングで心臓に電気が流れることにより起こります。 期外収縮は年齢や体質、ストレスの影響などで起こることが多い症状だといわれています。 持病で心疾患を患っている、脈が飛ぶ以外の症状がある場合は急ぎ病院にかかる必要がありますが、心当たりがない場合は急いで治療する必要はありません。 一方、症状が長期間で起こっている場合や不安が強い場合は、一度精密検査を受けるべきでしょう。 動悸を抑える薬はありますか? 市販薬では存在しません。 動悸を抑える「抗不整脈薬」はありますが、医師が処方する必要があります。 不整脈や息切れに効果があるとされる市販薬はありますが、あくまで一時的に症状を緩和するのみで、不整脈に直接作用するものではありません。 一時的に症状が治まったために病院受診が遅れると、知らず知らずのうちに悪化する可能性もあります。薬を内服したい場合は、医療機関を受診しましょう。
2025.06.29 -
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「高齢の親を病院に連れて行ったら低カリウム血症と診断されました」 「低カリウム血症って何ですか?どんな治療が必要なのでしょうか?」 このような疑問をお持ちの方もいるでしょう。 低カリウム血症とは、血液中のカリウム濃度が正常値より低くなった状態です。 高齢者が低カリウム血症になる主な原因は、食事量の減少や薬の副作用などが挙げられます。 本記事では、高齢者が低カリウム血症になる主な原因や症状、治療法についてわかりやすく解説します。入院が必要になるケースや、入院にかかる費用も紹介しているので、参考にしてみてください。 高齢者が低カリウム血症になりやすい4つの原因 低カリウム血症は、以下のような高齢者の身体的変化や生活習慣の変化が原因で発症しやすくなります。 食事量の減少 薬の副作用 消化器疾患の影響 ホルモンの過剰分泌 順番に見ていきましょう。 食事量の減少 高齢者では、加齢による嚥下機能の低下や嗅覚・味覚の機能低下といった身体的変化により食欲がなくなる方も多いです。食欲がなくなれば、当然ながら食事量が減少します。 カリウムは食材に含まれる栄養素です。そのため、食事量が減少すると、カリウムの摂取量も減り、カリウム不足に陥りやすいです。 薬の副作用 低カリウム血症は、薬の副作用が原因で発症するケースもあります。 低カリウム血症の原因として注意すべきなのが、利尿作用のある薬です。カリウムは尿や汗とともに体外に排出される性質があります。そのため、利尿作用のある薬を摂取すると、体内でカリウム不足が起こりやすいです。 例えば、心不全の治療には利尿薬がよく処方されます。(文献1) 心不全では、心臓のポンプ機能が低下して血液をうまく送り出せなくなり、体内に水分が溜まりやすくなります。そのため、利尿薬を服用して余分な水分を排出し、うっ血の改善を図るのです。 また、高血圧の治療にも利尿薬が使用されます。(文献2)体内の不要な水分を尿として排出すれば、血圧を下げる効果があるからです。 高齢者は加齢とともに、心不全や高血圧といった病気にかかりやすく、薬が処方される機会も増えます。利尿作用の薬を服用している場合は、低カリウム血症のリスクも高まることを理解しておきましょう。 消化器疾患の影響 低カリウム血症の原因として、消化器感染症が影響する場合もあります。消化器感染症には、嘔吐や下痢といった症状を伴うケースが多いです。 嘔吐や下痢により体内のカリウムが失われるため、低カリウム血症を引き起こしやすくなります。 嘔吐や下痢を起こす代表的な疾患として、胃腸炎や食中毒が挙げられます。 高齢者になると免疫力が低下して、下痢や嘔吐の症状が長引くケースも少なくありません。その結果、体内のカリウム不足が深刻化する可能性があるのです。 ホルモンの過剰分泌 アルドステロンというホルモンの過剰分泌が原因で、低カリウム血症を発症することがあります。 アルドステロンとは、体内の水分を調整する働きのあるホルモンです。(文献3) 副腎からアルドステロンが過剰につくられる病気は「原発性アルドステロン症」と呼ばれ、水分の調整機能の乱れからカリウム不足につながります。 高血圧患者のおよそ5〜15%が原発性アルドステロン症という報告もあります。(文献4) 高齢者は血管の弾力性が低下して、高血圧になりやすいです。そのため、原発性アルドステロン症を発症する機会も増えて低カリウム血症のリスクが高まります。 高齢者が低カリウム血症になったときの主な症状 ここでは、高齢者が低カリウム血症になったときの主な症状について解説します。 主な症状は以下の3つです。 筋肉のだるさ・こわばり 不整脈 息苦しさ 低カリウム血症の症状は、加齢による身体変化と捉えて見過ごされやすいです。 早期治療につなげられるよう、症状の理解を深めましょう。 筋肉のだるさ・こわばり 筋肉のだるさ・こわばりは、低カリウム血症の症状の1つです。カリウムは、筋肉を収縮させる役割を担っています。そのため、体内のカリウムが不足していると、筋肉機能に異常が生じます。 だるさ以外にも、以下のような症状が現れます。 筋肉痛 つっぱり感 力がぬける感じ 参考:重篤副作用疾患別対応マニュアル低カリウム血症|厚生労働省 高齢者は、加齢による筋肉の衰えとして、筋肉異常の変化を見過ごしがちです。 筋肉のだるさやこわばりは、転倒による怪我につながりやすいので、早期治療で症状の改善を図りましょう。 不整脈 低カリウム血症になると、不整脈の症状も現れる場合があります。 カリウムは、心臓の収縮やリズムの維持に役割を果たしています。よって、カリウムが不足すると、正常な心臓の動きを保てなくなり不整脈を誘発してしまうのです。 不整脈は加齢とともに増加する病気です。(文献5) 加齢に伴う老人性不整脈か、低カリウム血症による不整脈かによって、治療方針が変わってきます。不整脈になったら、発症した原因を特定して適切な治療を進めていく姿勢が大切です。 息苦しさ 低カリウム血症では、息苦しさも症状として現れます。 カリウムは呼吸筋を動かす機能に関与しているため、体内のカリウムが不足すれば、呼吸がうまくできなくなるのです。 重篤な場合は、呼吸筋障害による呼吸不全を引き起こします。(文献6) 呼吸不全は生命に関わる危険性を高めます。ただの息切れだろうと軽く考えずに、低カリウム血症の可能性も念頭に置いて早期受診を心がけましょう。 高齢者が低カリウム血症になったときの治療法 高齢者が低カリウム血症になったときの治療法は、症状の程度や発症した原因によって決まります。 ここでは代表的な以下3つの治療法を解説します。 食事やサプリメントでカリウムを補う 点滴や薬でカリウムを摂取する 薬の服用を中断する ご自身の状況に合った治療法を探してみてください。 食事やサプリメントでカリウムを補う 軽度の低カリウム血症であれば、食事やサプリメントで不足したカリウムを補えます。 以下の表は、カリウムが多く含まれる食品の一部を紹介したものです。 食品名(100g当) カリウム量(単位:mg) アボカド 590 バナナ 360 ほうれん草 690 納豆 690 木綿豆腐 110 刻み昆布 8,200 参考:食品成分データベース|文部科学省 特にカリウム含有量が多いのは、刻み昆布です。刻み昆布は乾燥させて商品化されているものが多く「すき昆布」の料理で良く使われる食品です。 また、ほうれん草や納豆にもカリウムが多く含まれます。カリウムが不足しているときは、ほうれん草の和え物を作ったり、食後のデザートにバナナを食べたりすると良いでしょう。 ドラッグストアで販売されているサプリメントで、カリウムを補給する方法もあります。サプリメントを使用する際は、容量・用法・用途を守り、医師や薬剤師に相談してから服用しましょう。 なお、カリウムは脳梗塞の予防や再発防止につながる栄養素でもあります。以下の記事では、脳梗塞の方向けに理想の食事を紹介しているのであわせてご覧ください。 薬や注射でカリウムを摂取する 通院している方は、カリウムの内服薬による治療を受けます。他の疾患との兼ね合いで内服が困難な方や、症状が重い方は、カリウムを注射で投与します。 注射は、カリウム製剤を血中に直接投与するため、体内に速やかに吸収されます。また、量を調整できるため、医師の判断のもと、足りないカリウムを効果的に補えます。 薬の服用を中断する 薬の影響で低カリウム血症になった場合は、薬の服用を中断する場合があります。 利尿作用のある薬は、尿とともにカリウムが流れてしまうため、服用に配慮が必要な薬剤です。 以下は、利尿作用のある薬が処方される病気や症状とその効果です。 疾患 利尿作用による効果 高血圧症 排尿によって体液量を減らすことで血圧を下げる効果がある 心不全・腎疾患による浮腫 余分な水分を排出して浮腫を改善する効果がある(文献7) 参考:高血圧治療における利尿薬の用量について|厚生労働省 担当医との相談のもと、持病と低カリウム血症の両方を考慮した治療方針を決定しましょう。 高齢者が低カリウム血症になる原因を知って適切な治療を受けよう 食事量が減少する傾向にある高齢者は、日頃からカリウム不足にならない食生活への配慮が必要です。また、持病の治療で利尿作用のある薬を飲んでいる方は、カリウムが失われる機会が多いため、服薬の継続については医師と相談しましょう。 低カリウム血症には、筋肉のだるさや息苦しさといった、加齢と混同しやすい症状が現れます。症状を見逃すと、状態が悪化してしまうリスクがあるため、本記事を参考に、低カリウム血症の判断力向上に役立ててみてください。 また、高齢の方や生活習慣の乱れがある方は、低カリウム血症以外に糖尿病や肝臓疾患といった他の病気のリスクも高まります。 これらの疾患の治療の選択肢として、再生医療があります。 再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。 高齢者の低カリウム血症に関するよくある質問 低カリウム血症は治る病気ですか? 頻繁な排尿や大量の下痢といった、一時的なカリウム不足の状態であれば、早期治療で回復が見込めます。症状の長期化や重篤化している場合は、長期的な治療が必要になるケースもあります。 低カリウム血症で入院することはありますか? カリウム値が大幅に低下したり、症状が悪化したりした場合は、入院する可能性があります。 国立がん研究センターの日本臨床腫瘍研究グループが公表している、低カリウムの重症度(グレード)を示した定義表では、カリウム値が3.0-2.5mEq/Lの場合を「入院を要する」と定義しています。(文献8) 低カリウム血症で入院する場合の期間や費用を教えてください 入院期間は症状の程度によって異なりますが、症状が軽度の方は数日〜1週間程度で退院できたという報告があります。 低カリウム血症における入院費用を提示する病院の情報は確認できなかったため、各病院に問い合わせをお願いします。 なお、公益財団法人生命保険文化センターの調査結果によると、入院1日あたりの入院費用は平均約20,700円です。(文献9) 参考文献 (文献1) 絹川 真太郎「慢性心不全の薬物治療」日本内科学会雑誌109巻2号 P207〜214 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/2/109_207/_pdf (最終アクセス2025年6月22日) (文献2) 国立循環器病センター高血圧腎臓内科 河野雄平 「高血圧治療における利尿薬の用量について」 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1022-11c.pdf (最終アクセス2025年6月22日) (文献3) 長瀬 美樹,藤田 敏郎ら「3)アルドステロンと生活習慣病」日本内科学会雑誌 第97巻 臨時増刊号・平成20年 2 月20日 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/Suppl/97_94b/_pdf (最終アクセス2025年6月22日) (文献4) 西川 哲男,大村 昌夫ら「2)高血圧症患者の 5~15% は原発性アルドステロン症?」日本内科学会雑誌 第97巻 臨時増刊号・平成20年 2 月20日 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/Suppl/97_94b/_pdf (最終アクセス2025年6月22日) (文献5) 森 拓也「老人性不整脈」日農医誌62巻2号 136〜143項 2016.7 P136〜143 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm/65/2/65_136/_pdf (最終アクセス2025年6月22日) (文献6) 吉田 雄一,柴田 洋孝ら「低カリウム血症と内分泌疾患」日本内科学会雑誌 109 巻 4 号 P718〜726 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/4/109_718/_pdf (最終アクセス2025年6月22日) (文献7) 木村玄次郎「9.利尿薬を使い分ける」日本内科学会雑誌 第102巻 第 9 号・平成25年 9 月10日 P2413〜2417 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/102/9/102_2413/_pdf (最終アクセス2025年6月22日) (文献8) 国立がん研究センター日本臨床腫瘍研究グループ「共用基準範囲対応CTCAE v5.0 Grade定義表」P1〜6 https://jcog.jp/assets/ChgJCOG_kyouyoukijunchi-CTCAE_50_20190905.pdf (最終アクセス2025年6月22日) (文献9) 公益財団法人生命保険文化センター「生活保障に関する調査/直近の入院時の1日あたりの自己負担費用」 https://www.jili.or.jp/research/chousa/8946.html (最終アクセス2025年6月22日)
2025.06.29 -
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「低カリウム血症って本当に治るの?」 「入院が必要なほど重い病気なのか知りたい」 血液検査の結果をきっかけにカリウム不足と言われ、不安になる方も多くいます。 結論から言えば、低カリウム血症の多くは、原因を見極めて適切な治療を受ければ回復が見込める病気です。 とはいえ、放置すると重症化し、入院や深刻な合併症につながるリスクもあります。本記事では、低カリウム血症はどのような病気で、どのように治療すれば治るのかについて解説します。 初期症状や原因、入院の基準や入院期間の目安を紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。 【結論】低カリウム血症の完治は可能 低カリウム血症は早期発見と早期治療により治る疾患です。 また、カリウムは嘔吐・下痢によっても体外に流れ出てしまいます。そのため、体調不良で嘔吐・下痢が続き一時的なカリウム不足の状態であれば、早期治療で回復が見込めます。 なお、低カリウム血症と似ている症状でギランバレー症候群があります。ギランバレー症候群の詳しい症状や原因については以下の記事で解説しているので、あわせてご覧ください。 低カリウム血症を早く治すためのポイント 低カリウム血症の早期回復には、以下2つの要素を取り入れることで効果的な治療が可能です。 初期症状の段階から治療を始める 原因を特定する 低カリウム血症を早く治すためのポイントを見ていきましょう。 初期症状の段階から治療を始める 初期症状での治療開始が、低カリウム血症の早期回復につながります。 初期症状にも含まれる低カリウム血症の主な症状は以下のとおりです。 筋肉痛 手足のだるさ 筋肉のこわばり 手足の力が抜ける感じ 心臓のリズムが乱れる(不整脈) 参考:重篤副作用疾患別対応マニュアル低カリウム血症|厚生労働省 初期症状を見逃してしまうと、呼吸不全や筋肉の麻痺などの重篤な合併症につながるリスクもありますので、早めに医療機関を受診しましょう。 原因を特定する 症状の原因を特定すると、早い段階で適切な処置をおこなえるため低カリウム血症を早く治せます。 原因を特定せずに自己判断で間違ったケアを進めてしまうと、症状をさらに悪化させてしまうケースもあります。 低カリウム血症を発症する主な原因は以下のとおりです。 下痢や嘔吐 薬の副作用 食事の偏りや絶食ダイエット 加齢 副腎疾患 自身の症状にあてはまる原因がないか特定していきましょう。 下痢や嘔吐 下痢や嘔吐で消化管から急激なカリウムが喪失します。 胃腸炎による下痢では、体内水分や電解質(カリウム)が失われるためです。 下痢や嘔吐による低カリウム血症は、水分とカリウムの同時補給で改善できます。また、経口補水液の使用により、入院せずに外来治療で回復も可能です。 とはいえ、症状が続く場合は早めに受診して、適切な補液治療を受けましょう。 薬の副作用 利尿薬やステロイド薬が腎臓からのカリウム排泄を増加させます。 利尿薬では服用開始から数週間で血清カリウム値が低下する場合もあります。しかし、薬剤による低カリウム血症は、薬の調整により速やかに改善可能です。 自己判断で薬を中止せず、医師と相談して薬の変更や減量をおこなうことで、副作用を回避できます。 食事の偏りや絶食ダイエット 極端な食事制限によりカリウム摂取量が不足し、体内貯蔵量が枯渇します。 1日のカリウム摂取量は成人男性では2,500mg、成人女性で2,000mgが必要とされています。(文献1) 栄養を意識した正しい食生活により、低カリウム血症は改善可能です。野菜や果物を意識的に摂取しバランスの良い食事を心がけて、健康的なダイエットをおこないましょう。 加齢 加齢により腎機能が低下し、カリウムの調節能力が弱くなります。65歳以上では腎機能が低下するとされています。(文献2) 定期的な血液検査により、早期発見と予防的治療が可能です。年齢に応じた健康管理を続けて、元気な毎日を過ごしていきましょう。 【関連記事】 血圧の正常値とは?内科医師が詳しく解説! 高齢者が低カリウム血症を発症する原因は?症状や治療法を医師が解説 副腎疾患 副腎からのホルモン分泌異常がカリウムバランスを崩します。 クッシング症候群などの疾患では、アルドステロンが増えることで腎臓に働きかけ、カリウムを体の外に出してしまいます。 このような場合でも、薬によって血圧やカリウムの値を整えることが可能です。 専門の医師と連携しながら治療を進めれば、改善が期待できるでしょう。 低カリウム血症の代表的な治療法 低カリウム血症の治療法は、発症原因や症状の程度に応じて異なります。 代表的な治療法は以下のとおりです。 カリウム量が多い食事を摂る サプリメントや内服薬を飲む 点滴を打つ 重症度や原因疾患の種類によっては入院治療する 自身の体の状態に適した治療法を医師と相談して決めていきましょう。 カリウム量が多い食事を摂る カリウム豊富な食事により、軽度の低カリウム血症は自然に改善されます。 以下は、カリウムが豊富に含まれる食材の一例です。 食品名(100g当) カリウム量(単位:mg) アボカド 590 バナナ 360 納豆 690 木綿豆腐 110 刻み昆布 8,200 参考:食品成分データベース|文部科学省 カリウムの多い食品としては野菜や果物、大豆や海藻類などがあります。意識してカリウム量が高い食事を摂取すれば、低カリウム血症の症状改善が期待できるでしょう。 サプリメントや内服薬を飲む 中等度の低カリウム血症に対しては、医師の指導のもとで薬物療法が効果的です。 たとえば、内服薬には塩化カリウムを含む飲み薬や、カリウムの排出を抑えるカリウム保持性利尿薬などが使われます。 また、ドラッグストアで購入できるサプリメントで補う方法もあります。服用を始める前に、必ず医師や薬剤師に相談し、使用量や飲み方を守りましょう。 注射を打つ 注射は、カリウム製剤を直接血管へ入れる方法です。注射は、体内への吸収が早い特長があり、不足している量に応じて細かく調整できるため、効率的にカリウムを補給できます。 特に、血中のカリウム濃度が2.5mEq/L未満の場合、命に関わる危険な状態です。この際、緊急処置として注射を打つ治療が進められます。 重症度や原因疾患の種類によっては入院治療する カリウム値が大幅に低下したり、症状が悪化したりした場合は、入院する可能性があります。 以下は、国立がん研究センターの日本臨床腫瘍研究グループが公表している、低カリウムの重症度(グレード)を示した定義表の一部です。 Grade 血清カリウム値 症状 治療 1 3.0mEq/L以上 なし なし 2 3.0mEq/L以上 ある 必要 3 3.0~2.5mEq/L ある 入院を要する 4 2.5mEq/L以下 ある 生命を脅かす 出典:JCOG共用基準範囲」に基づくGrade 定義|日本臨床腫瘍研究グループ カリウム値が3.0-2.5mEq/Lの場合を「入院を要する」と定義しています。入院により根本原因の精密検査と専門的治療も同時に実施できます。 低カリウム血症の初期症状を見逃さず早期受診を心がけよう 低カリウム血症は筋力の低下やだるさなど、一見よくある症状から始まるケースが多い病気です。しかし、初期サインを見逃さずに早めに対処すれば、外来治療のみでの改善も期待できます。 症状が続いたり、なんとなく体調がすぐれなかったりする場合は、自己判断せず医療機関に相談しましょう。 また、高齢の方や生活習慣の乱れがある方は、低カリウム血症以外に糖尿病や肝臓疾患といった他の病気のリスクも高まります。 これらの疾患の治療の選択肢として、再生医療があります。 再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、ぜひご活用ください。 低カリウム血症は治るのか?に関するよくある質問 低カリウム血症を治すためにおすすめの食事を教えてください カリウムは、野菜や果物、豆類に多く含まれます。 以下の表は、カリウムが多く含まれる食品の一部を紹介したものです。 食品名(100g当) カリウム量(単位:mg) 刻み昆布 8,200 ほうれん草 690 納豆 690 バナナ 360 木綿豆腐 110 参考:食品成分データベース|文部科学省 カリウムを豊富に含む食品の中でも、特に含有量が多いのが刻み昆布です。「すき昆布」の煮物を食べると、効率良くカリウムを摂取できます。 また、ほうれん草の副菜を食事に取り入れたり、デザートとしてバナナを選んだりするのもカリウム補給におすすめです。 低カリウム血症の治療で入院になった場合の期間と費用の目安を教えてください 入院の期間は症状の重さによって異なりますが、軽い場合は数日から1週間ほどで退院できた例もあります。 低カリウム血症に特化した入院費用の目安は公表されていないため、詳しく知りたい方は直接医療機関に問い合わせてみてください。 なお、公益財団法人生命保険文化センターの調査によれば、入院1日あたりの平均費用は約20,700円とされています。(文献3) 参考文献 (文献1)厚生労働省「日本人の食事摂取基準」,2020年 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf (最終アクセス2025年6月16日) (文献2) 日本老年医学会雑誌「高齢者の慢性腎臓病(CKD)」,2014年 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/review_51_5_385.pdf (最終アクセス2025年6月16日) (文献3) 公益財団法人生命保険文化センター「生活保障に関する調査/直近の入院時の1日あたりの自己負担費用」 https://www.jili.or.jp/research/chousa/8946.html (最終アクセス2025年6月16日)
2025.06.29 -
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「手足がだるい」「筋肉がこわばる」などの症状が続いている場合は、低カリウム血症を発症している可能性があります。 カリウムは筋肉や神経、心臓の働きに関わる重要なミネラルです。血中濃度が下がりカリウムの量が減ると体にさまざまな不調を引き起こします。 重症化すると不整脈による胸痛や呼吸困難、さらには命に関わる合併症に至ることもあるため、決して軽視できない状態です。 本記事では、低カリウム血症の主な症状や原因に加え、治療法や入院の基準・期間、再発予防のポイントまでを詳しく解説します。 現在、症状に心当たりがある方や、家族の体調に不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。 【重症度別】低カリウム血症の主な症状 低カリウム血症の症状は血清カリウム値によって異なります。 ここでは、重症度に応じた主な症状を以下の2つに分けて解説します。 軽度〜中等度の場合 重症化した場合 それぞれの段階で現れる症状の違いを把握して、早期発見につなげましょう。 軽度〜中等度の場合 軽度から中等度の低カリウム血症では、主に以下の症状が現れます。 筋肉痛 手足のだるさ 筋肉のこわばり 手足の力が抜ける感じ 心臓のリズムが乱れる(不整脈) 参考:重篤副作用疾患別対応マニュアル低カリウム血症|厚生労働省 具体的には、階段を上る際に息切れしやすくなったり、重いものを持ち上げにくくなったりします。 これらの症状のサインが出た場合はカリウム不足の可能性があるため、放置しないで適切な治療を行うことが大切です。 なお、低カリウム血症と似たような症状でギランバレー症候群という病気があります。ギランバレー症候群の症状や原因については以下の記事で解説しているので、あわせてご覧ください。 重症化した場合 低カリウム血症が重症化した場合の代表的な症状は、以下のとおりです。(文献1) 胸痛 息苦しさ 意識障害 血清カリウム値が2.5mEq/L未満になると、四肢麻痺や呼吸筋麻痺といった重篤な症状を引き起す可能性があります。(文献2)命に関わる危険性が高い状態なので、症状が現れたらすぐに医療機関を受診してください。 低カリウム血症の原因 低カリウム血症の主な発症原因は以下の3つです。 薬の副作用 食事や生活習慣 慢性疾患や体の機能低下 これらの複数の原因が重なって低カリウム血症を発症する場合もあります。ご自身が該当する原因を特定し、治療方針を考える姿勢が大切です。 薬の副作用 特定の薬剤の使用が低カリウム血症を引き起こす原因の一つです。 体内のカリウムバランスを崩しやすい薬剤は以下のとおりです。 利尿薬 尿と一緒にカリウムを放出 ステロイド薬 インスリンの作用による細胞外から細胞内へのカリウムの取り込み インスリン アルドステロン作用によるカリウムの排泄促進 参考:電解質異常低カリウム血症|特定非営利活動法人日本集中治療教育研究会看護部会 服用中の薬剤について医師と相談し、定期的な血液検査でカリウム値をチェックしましょう。 以下の記事では利尿薬の効果や副作用に触れているので、あわせてご覧ください。 食事や生活習慣 偏った食事や不適切な生活習慣が低カリウム血症の発症リスクを高めます。 極端なダイエットや偏食により、カリウムを含む食品の摂取量が不足するためです。 たとえば以下の行動が、体内のカリウム喪失を促進します。 野菜や果物を避けた食事 加工食品中心の食生活 過度な飲酒 嘔吐を繰り返す摂食障害 バランスの取れた食事と規則正しい生活習慣を心がけることが予防の基本となります。 慢性疾患や体の機能低下 腎臓や消化器系の慢性疾患が低カリウム血症の背景にあります。 慢性腎不全や副腎機能亢進症などの疾患では、カリウムの調節機能が低下するためです。 原発性アルドステロン症では過剰なホルモン分泌によりカリウムが失われます。(文献3) 慢性的な下痢や嘔吐を伴う消化器疾患も同様の問題を引き起こします。 基礎疾患の適切な管理と並行して、カリウム値の定期的なモニタリングが重要です。 低カリウム血症の治療法 低カリウム血症の治療は重症度に応じて段階的に行われ、適切な方法選択が大切です。 主な治療法は以下のとおりです。 カリウムが豊富な食品を摂取する サプリメントや飲み薬で補給する 注射薬で補給する 症状や血液検査の結果に基づいた治療法を選択していきましょう。 カリウムが豊富な食品を摂取する 食生活の改善によりカリウムが豊富な食品を摂取することで、低カリウム血症の治療につながります。 以下は、カリウムが豊富に含まれる食材の一例です。 食品名(100g当) カリウム量(単位:mg) アボカド 590 バナナ 360 ほうれん草 690 納豆 690 木綿豆腐 110 刻み昆布 8,200 参考:食品成分データベース|文部科学省 毎日の食事にこれらの食品を意識的に取り入れて、自然な形でのカリウム補給を目指しましょう。 サプリメントや飲み薬で補給する 中等度の低カリウム血症では、医師の処方による薬物療法が効果的です。 経口カリウム製剤やカリウム保持性利尿薬により、効率的にカリウム値を改善できます。代表的な薬剤は、塩化カリウム徐放錠やK.C.L. エリキシル® (塩化カリウム)などです。 ドラッグストアで買えるサプリメントでカリウムを補う方法もあります。 ただし、カリウムのとり過ぎは体に負担をかけるおそれがあるため、使用前に医師や薬剤師に相談し、決められた量と使い方を守りましょう。 注射薬で補給する 注射によるカリウム補給は、カリウムを血管に直接入れる方法で、体内にすばやく吸収されるのが特徴です。必要な量を細かく調整できるため、医師の判断により効率よく不足分を補えます。 血液中のカリウム値が2.5mEq/L未満の場合や、心電図に異常が出ている場合は、緊急の対応が必要になり、注射薬の投与が検討されます。 低カリウム血症の入院基準と入院期間 低カリウム血症の入院判断は血清カリウム値と症状の重篤度により決定されます。 国立がん研究センターの日本臨床腫瘍研究グループが示している重症度の目安では、血液中のカリウム濃度が3.0〜2.5mEq/Lの場合、「入院が必要なレベル」と定義しています。(文献4) カリウム濃度の数値だけでなく、四肢の麻痺や呼吸困難などの重篤な症状がある場合も緊急入院の対象です。 入院期間は症状の程度によって異なりますが、症状が軽度の方は数日〜1週間程度で退院できたという報告があります。重度の場合は、長期的入院が必要となる可能性があります。 低カリウム血症の症状が出たら早めに受診を心がけよう 筋肉の異常や動悸、脱力感などが続く場合は、体内のカリウム不足が影響しているかもしれません。 低カリウム血症の症状は日頃の疲れや加齢による体調不良と似ているため、見逃されやすいケースが多いです。そのため、不調が続くときは低カリウム血症を疑う視点を持ち、早めに専門機関を受診することが大切です。 なお、高齢の方や生活習慣の乱れがある方は、低カリウム血症以外に糖尿病や肝臓疾患といった他の病気のリスクも高まります。 これらの疾患の治療の選択肢として、再生医療があります。 再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、ぜひご活用ください。 低カリウム血症や症状に関するよくある質問 低カリウム血症は治療すれば治りますか? 低カリウム血症は適切な治療により改善できる疾患です。 軽度から中等度の場合、食事療法や内服薬により数日から数週間で正常値に回復します。ただし、原因となる基礎疾患がある場合は、その治療も並行して行う必要があります。 治療後も定期的な検査により再発を防ぎ、長期的な健康管理を続けていく意識が大切です。 低カリウム血症の治療期間はどれくらいですか? 治療期間は重症度と原因により大きく異なります。 軽度の場合、食事療法や経口薬により短期間での改善が多く見られます。ただし、中等度~重症例や慢性疾患が原因の場合は、入院治療や長期的な管理が必要になる場合もあります。 個人差があるため、医師と相談しながら治療計画を立て、焦らずに治療を継続していきましょう。 低カリウム血症は高齢者が発症しやすいですか? 高齢者は若年者と比較して低カリウム血症を発症するリスクが高い傾向にあります。 加齢により腎機能が低下し、カリウムの調節能力が衰えたり、高血圧・心疾患の治療で利尿薬を服用する機会が多かったりするためです。 また、食事摂取量の減少や消化吸収能力の低下も影響を与えます。 高齢の方は定期的な血液検査と適切な食事管理により、予防と早期発見に努めることが重要です。 参考文献 (文献1) 千葉大学医学部附属病院薬剤部横山威一郎「総論・検査値評価のコツ」2025年3月13日 掲載 https://www.ho.chiba-u.ac.jp/pharmacy/No26_20250313.pdf (最終アクセス2025年6月18日) (文献2) Richard A Oram,Timothy J McDonaldほか「Investigating hypokalaemia」, BMJ 2013; 347: f5137 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24065427/ (最終アクセス2025年6月18日) (文献3) 難病情報センター13 内分泌疾患「原発性アルドステロン症」 https://www.nanbyou.or.jp/wp-content/uploads/kenkyuhan_pdf2014/gaiyo031.pdf (最終アクセス2025年6月15日) (文献4) 国立がん研究センター日本臨床腫瘍研究グループ「共用基準範囲対応CTCAE v5.0 Grade定義表」P1〜6 https://jcog.jp/assets/ChgJCOG_kyouyoukijunchi-CTCAE_50_20190905.pdf (最終アクセス2025年6月15日)
2025.06.29 -
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「健康診断で心電図に異常があると指摘された」 「ときどき動悸がする」 「親も不整脈で治療していたため、自分も不整脈になったのではないか」 このような不安をお持ちの方も多いことでしょう。 心臓は電気的興奮により動き、全身に血液を送るポンプの役割を果たします。不整脈とは、電気的興奮のリズムや心拍数が一定しない状態を指します。 不整脈の原因は複数あるため、「不整脈になりやすい人の特徴」と一言であらわすことは難しいものです。不整脈の種類も複数あり、問題なく普通の生活を送れるものから、命に関わるものまでさまざまです。 本記事では、不整脈になりやすい方の特徴について、体質や生活習慣などの観点から説明します。 主な予防方法も解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。 不整脈になりやすい人の特徴は主に5つ 不整脈になりやすい人の特徴は、主に以下の5つです。 加齢 肥満 生活習慣 疾患および薬の影響 遺伝 加齢 年齢を重ねると、不整脈が生じやすくなります。原因は、刺激伝導系および周辺組織の老化です。 心筋と呼ばれる心臓の筋肉は、適切なタイミングで一定に動くための電気信号システムが備わっています。これが刺激伝導系です。 しかし、年齢を重ねると、刺激伝導系および周辺組織が衰えたり硬くなったりします。そのため、心臓内で電気信号がうまく伝わらないことが増えてしまい、不整脈が生じやすくなるのです。(文献1) 一般的には、60歳以上になると不整脈が増えるといわれています。(文献2) しかし、不整脈のうち期外収縮と呼ばれるものは、30代を過ぎる頃からほとんどの方に認められます。(文献3) 期外収縮とは、不整脈の中でもよく見られるタイプで、一定のタイミングから若干外れた心臓の収縮により発生するものです。 肥満 肥満は高血圧や糖尿病といった生活習慣病を引き起こす原因の1つです。生活習慣病により不整脈が生じやすくなるだけではなく、肥満そのものが、不整脈の大きな要因であると示されています。 イギリスの文献においても、「体重を減らすことが不整脈の予防や改善につながる」と記されています。(文献4) 生活習慣 不整脈の原因としてあげられる主な生活習慣は以下のとおりです。 睡眠不足 疲労 ストレスの蓄積 カフェインの過剰摂取 喫煙 過度の飲酒 これらの生活習慣により活性化されるのが、自律神経の1つである交感神経です。 交感神経が活性化されると、日中に不整脈が起こりやすくなります。もう1つの自律神経である副交感神経が活性化されると、就寝中に不整脈が発生しやすくなります。(文献5) 睡眠不足や疲労、ストレスの蓄積などは、自律神経の乱れや不整脈そのものを引き起こしやすい生活習慣です。 不整脈とストレスの関係は以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 過度の飲酒習慣は、発作性の心房細動と関連があるとされています。 心房細動とは、心臓上部の心房が1分間に400~600回も不規則に動く不整脈です。発作性心房細動は、短時間だけ発生して元に戻るものを指します。(文献6) 心房細動は、心臓が不規則に動くために血流が悪くなり、血栓が生じやすい不整脈です。心房にできた血栓が全身を流れると、脳の血管を詰まらせる原因になります。その結果生じる疾患が脳梗塞であり、心疾患が由来であるため「心原性脳梗塞」と呼ばれます。 心原性脳梗塞に関しては、以下の記事をご参照ください。 疾患および薬の影響 不整脈の原因の中でも比較的多いものは、狭心症や心筋梗塞、心臓弁膜症、心不全、先天性心疾患といった心臓疾患です。 心臓疾患以外に加えて、甲状腺機能低下症や甲状腺機能亢進症も、不整脈を引き起こす原因の1つです。 甲状腺機能低下症は徐脈性不整脈、甲状腺機能亢進症は頻脈性不整脈(心拍数の増加)と関連があるといわれています。 徐脈性不整脈は心拍数が減少するもので、以下のような種類があります。 洞不全症候群 房室ブロック 徐脈性心房細動 頻脈性不整脈とは心拍数が増加するもので、主なものは以下のとおりです。 発作性上室性頻拍 心房細動 心房粗動 心室頻拍 心室細動 風邪薬や抗うつ薬、心疾患の薬によって不整脈が生じる場合もあります。不整脈と診断された方で、該当する薬を内服されている方は、必ず担当医師に伝えましょう。 遺伝 心臓の電気的な活動をつかさどる遺伝子の変異により起こる不整脈の総称が、遺伝性不整脈です。 主な遺伝性不整脈としては、以下のようなものがあげられます。 先天性QT延長症候群 ブルガダ症候群 カテコラミン誘発多形性心室頻拍 QT短縮症候群 早期再分極症候群 遺伝性不整脈は、無症状のこともありますが、心室頻拍や心室細動といった命に関わる可能性もあります。 突然死の原因になるケースもあるため、適切な診断・治療が求められる不整脈です。 命に関わる不整脈 不整脈の中には、命に関わるものも存在します。 代表的なものは以下の3つです。 心室細動 心室頻拍 完全房室ブロック 心室細動 心室細動とは、心臓の下部である心室が非常に早く不規則に興奮して、小刻みに震えてしまう状態です。この状況では、心臓が拍動しなくなるため、全身に血液を送れなくなります。 全身に血液を送り出せなくなるため脳の血流も低下し、めまいや失神を起こし、意識を失います。迅速な救命処置や治療を行わないと命に関わる、最も危険な不整脈です。 心室頻拍 心室頻拍とは、心室が速く脈を打ち過ぎて血圧がほとんど出なくなる不整脈です。症状としては、強い動悸や胸痛、めまい、失神などがあげられます。 心室頻拍の大部分は重度の心疾患を抱えている方に発生し、心室細動を引き起こす場合もあります。 完全房室ブロック 房室ブロックと呼ばれる不整脈の中で最も重症なものです。 房室ブロックとは、心房からの電気信号を心室に伝える房室結節での連絡が途絶えてしまい、心室の脈がなくなるものです。房室ブロックはⅠ度からⅢ度に分類されており、完全房室ブロックと呼ばれるⅢ度は、房室結節での連絡が完全に途絶えています。(文献7) このまま放置すると心停止に至る可能性があるうえ、脈を速くする有効な内服薬がないためペースメーカー埋め込み手術が必要です。 不整脈にならないために気をつけること 不整脈にならないために気をつけると良い3つのポイントを以下に示しました。 食生活の見直し 適度な運動 持病の管理 食生活の見直し 食生活の見直しは、不整脈予防にとっても大切なものです。 バランスの良い食事を心がけましょう。具体的には、以下の3点がまんべんなくそろっている食事です。 主食(ご飯やパン、麺類など炭水化物の供給源) 主菜(肉や魚、卵などタンパク質の供給源) 副菜(野菜や果物、きのこ類などビタミンやミネラル、食物繊維の供給源) 不整脈に良い食べ物としては、バナナやほうれん草などのカリウムが多いもの、海藻類や豆類などマグネシウムが多いものがあげられます。 不整脈に悪い食べものとしては、塩分や動物性脂肪が多い食品などがあげられます。カフェイン飲料の過剰摂取も好ましくありません。 不整脈と食生活の関係は、以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 適度な運動 ウォーキングや水泳など、中程度の運動30分を週2.5時間以上行うことで、心血管疾患の予防や不整脈抑制の効果があるとされています。ただし、運動習慣がない方が急に運動したり、既に心疾患がある方が運動したりすると、不整脈が引き起こされる可能性があります。 運動習慣がない方、既に心疾患がある方は、運動を始める前に医師に相談しましょう。 アメリカの論文では、体重を10%減少させた方や体重減を維持させた方は、減らなかった方より、不整脈が起きない確率が6倍も高くなったとのデータが示されています。論文上では、体重減少により重症の心房細動が軽症になったケースも示されていました。(文献8) 同じ論文では、飲酒の習慣がある心房細動患者が禁酒したことで、不整脈の再発が大幅に減ったとの研究結果が示されています。加えて、禁煙が心房細動の予防戦略として強く推奨されています。(文献8) 持病の管理 心疾患をはじめ、高血圧や糖尿病などの生活習慣病がある方は、医師から指示を受けた薬の内服を続けて、治療を継続しましょう。 血圧の管理は、不整脈予防に効果的といわれています。 不整脈が繰り返し発生している方や、動悸・息切れといった症状がある方は、必ず医師に相談してください。 不整脈になりやすい人の特徴を理解して予防に努めよう 不整脈になりやすい方の特徴としては、「高齢である」「家族歴がある」「心疾患や高血圧、糖尿病などがある」といったことがあげられます。また、肥満や喫煙、飲酒といった生活習慣も関係するといわれています。 これらの特徴に少しでも当てはまる方は、生活習慣の改善や疾患の管理などできる範囲で不整脈の予防に努めましょう。 中には命にかかわる不整脈もあるため、強い胸痛や動悸、呼吸困難などの症状が出た場合は、早急に病院を受診してください。症状がない場合でも、心電図検査で異常を指摘された方は、ホルター心電図や運動負荷心電図、心臓エコーなどの詳しい検査を受けることが望ましいでしょう。 現在不整脈でお悩みの方は、当院へお気軽にご相談ください。メール相談やオンラインカウンセリングも実施しております。 参考文献 (文献1) 森拓也.「老人性不整脈」『日本農村医学会雑誌』65(2), pp.136-143, 2016 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm/65/2/65_136/_pdf (最終アクセス:2025年6月22日) (文献2) 独立行政法人国立病院機構岩国医療センター「不整脈とは?」独立行政法人国立病院機構岩国医療センターホームページ https://iwakuni.hosp.go.jp/junkanki-ab-huseimyaku.html (最終アクセス:2025年6月22日) (文献3) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター「不整脈」国立研究開発法人国立循環器病研究センターホームページ, 2023年09月22日 https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/arrhythmia/ (最終アクセス:2025年6月22日) (文献4) Kiran Haresh Kumar Patel, et al.(2022).Obesity as a risk factor for cardiac arrhythmias.BMJ Medicine, 1, pp.1-13. https://bmjmedicine.bmj.com/content/bmjmed/1/1/e000308.full.pdf (最終アクセス:2025年6月22日) (文献5) 渡部智紀.「自律神経と不整脈」『自律神経』56(4), pp.221-223, 2019 https://www.jstage.jst.go.jp/article/ans/56/4/56_221/_pdf (最終アクセス:2025年6月22日) (文献6) 日本不整脈外科研究会「不整脈とは 心房細動」日本不整脈外科研究会ホームページ https://plaza.umin.ac.jp/~arrhythm/arrhythmia/atrium/index.html (最終アクセス:2025年6月22日) (文献7) 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター「房室ブロック」独立行政法人国立病院機構大阪医療センターホームページ https://osaka.hosp.go.jp/department/cvm/kakushikkan/fuseimyaku/ba/boushitsu/index.html (最終アクセス:2025年6月22日) (文献8) Mina K. Chung, et al. (2020).Lifestyle and Risk Factor Modification for Reduction of Atrial Fibrillation: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation, 141(16) https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIR.0000000000000748 (最終アクセス:2025年6月22日)
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健康診断で「貧血気味」と言われたけれど、自覚症状もないし放っておいて大丈夫……そう思っていませんか? 実は、貧血には数値だけではわからない危険が潜んでいます。とくに女性に多い「隠れ貧血」は、基準値内でも体調不良を引き起こすことがあるのです。 本記事では、貧血の数値の見方や基準、症状がなくても注意すべき理由、受診のタイミング、そしてよくある誤解までをわかりやすく解説します。 血液検査における貧血の基準値 貧血の診断は血液検査の結果を基に行われ、複数の検査項目を総合的に評価すると正確な判断が可能です。ヘモグロビン値をはじめとする各種検査項目には、年齢や性別による基準値が設定されており、数値を理解すると自分の健康状態を把握できます。 以下では、貧血の診断に重要な各検査項目の基準値と、意味について詳しく解説します。 ヘモグロビン(Hb) ヘモグロビンは赤血球に含まれる鉄を含有したタンパク質で、体内で酸素を運搬する重要な役割を担っています。ヘモグロビンの基準値の目安は以下のとおりです。 対象 基準値 男性 13.1~16.6g/dL 女性 12.1~14.6g/dL (文献1) ヘモグロビンは、個人差を考慮した判断が重要です。ヘモグロビン濃度には個人差があるため、普段の数値と比較し、急に2g/dL以上の減少が見られた場合は、基準値内であっても貧血状態が疑われることがあります。(文献2) 緊急性の高い貧血として、7~8g/dLを下回った場合は早急な検査や対応が必要です。(文献2) この数値まで低下すると、日常生活に重大な支障をきたし、心臓や他の臓器への負担も大きくなるため、迅速な処置が求められます。定期的な血液検査で自分の基準値を把握し、数値の変化に注意すれば、貧血の早期発見と適切な治療につながります。 ヘマトクリット(Ht) ヘマトクリットは血液全体に対する血球成分の体積の占める割合を示す検査値です。血球成分の約95%が赤血球によって構成されているため、実質的には血液中の赤血球の占める割合を表す重要な指標となります。(文献2)ヘマトクリットの基準値の目安は以下のとおりです。 対象 基準値 男性 38.5~48.9% 女性 35.5~43.9% (文献1) ヘマトクリット値は年齢や性別によって基準値が異なり、女性の方が男性よりもやや低い傾向です。これは月経による鉄分の損失や、男性ホルモンの影響による赤血球産生の違いが関係しています。定期的な血液検査でヘマトクリット値を確認し、ヘモグロビン値と合わせて総合的に貧血の状態の評価が重要です。 赤血球数(RBC) 赤血球数は血液1μl中に含まれる赤血球の数を示す検査値です。赤血球は酸素を全身に運搬する重要な役割を担っているため、その数の増減は体の酸素運搬能力に直接影響します。赤血球数の基準値の目安は以下のとおりです。 対象 基準値 男性 400~539×10⁶/μl 女性 360~489×10⁶/μl (文献1) 男性の方が女性よりも赤血球数が多い傾向にあります。これは男性ホルモンが赤血球産生を促進することや、女性では月経による鉄分の損失が関係しています。 MCV(平均赤血球容積) MCV(平均赤血球容積)は赤血球の大きさを表す重要な指標です。この数値により、貧血の原因を特定する手がかりを得られます。MCVの基準値の目安は以下のとおりです。 対象 基準値 男性 82.7~101.6 fl 女性 79.0~100.0 fl (文献1) MCVの数値は貧血の分類において極めて重要で、治療方針の決定にも大きく影響します。MCV値が低い小球性貧血の場合は鉄剤の補充、MCV値が高い大球性貧血の場合はビタミンB12や葉酸の補給が主な治療となります。正常範囲内であっても、ほかの検査値と組み合わせることで、より詳細な貧血の状態の把握が可能です。 MCH / MCHC(赤血球中のヘモグロビン量・濃度) MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)とMCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)は、赤血球1個あたりに含まれるヘモグロビンの量と濃度を示す検査値です。 MCH基準値の目安は以下のとおりです。 対象 基準値 男性 28.0~34.6 pg 女性 26.3~34.3 pg (文献1) MCHC基準値の目安は以下のとおりです。 対象 基準値 男性 31.6~36.6% 女性 30.7~36.6% (文献1) 数値が低下している場合は、鉄欠乏性貧血や慢性疾患による貧血の可能性が考えられます。 フェリチン(貯蔵鉄) フェリチンは体内の鉄を貯蔵するタンパク質で、主に肝臓、脾臓、骨髄などに存在します。血中のフェリチン値は体内の鉄貯蔵量を直接反映するため、鉄欠乏や鉄過剰の診断において極めて重要な指標です。 ヘモグロビン値が正常でもフェリチン値が低い場合は、隠れ貧血や鉄欠乏状態の可能性があります。これは体内の鉄の貯蔵が枯渇し始めている状態で、早期の対策が必要です。逆にフェリチン値が異常に高い場合は、鉄過剰症や炎症性疾患の可能性も考えられます。フェリチンの基準値は以下のとおりです。 対象 基準値 男性 13~277 ng/ml 女性 5~152 ng/ml (文献1) フェリチン値は貧血の早期発見や治療効果の判定に有用で、鉄剤投与の必要性を判断する重要な検査項目です。 血清鉄(Fe) 血清鉄は血液中に存在する鉄分を測定した値で、体内の鉄の代謝や貯蔵状態を反映する重要な検査項目です。血液中の鉄は主にトランスフェリンというタンパク質と結合して運搬されており、この値により現在の鉄の利用状況を把握できます。血清鉄の基準値は以下のとおりです。 対象 基準値 男性 54~181 μg/dL 女性 43~172 μg/dL (文献3) 血清鉄値が低い場合は鉄欠乏性貧血の可能性が高く、高い場合は鉄過剰症や溶血性貧血などが考えられます。ただし、炎症性疾患や感染症では血清鉄が低下する場合があるため、ほかの炎症マーカーと併せて総合的な評価が必要です。 【貧血のタイプ別】数値の見方 貧血にはさまざまなタイプがあり、それぞれ検査数値に特徴的なパターンが現れます。以下では主要な貧血のタイプごとに、典型的な検査値の変化パターンを解説します。 鉄欠乏性貧血の特徴 鉄欠乏性貧血では以下のような検査値の変化が見られます。 Hb(ヘモグロビン:低下) MCV(平均赤血球容積:低下) MCH(平均赤血球ヘモグロビン量:低下) フェリチン(貯蔵鉄:低下) TIBC(総鉄結合能:上昇) これらの数値パターンは、鉄不足により赤血球が小さく色の薄い状態になることを示しています。フェリチンの低下は体内の鉄貯蔵量の枯渇を、TIBCの上昇は体が鉄を取り込もうとしている状態です。 悪性貧血(ビタミンB12欠乏)の特徴 ビタミンB12欠乏による悪性貧血では以下の特徴が見られます。 Hb(ヘモグロビン:低下) MCV(平均赤血球容積:上昇) 葉酸(葉酸:低下) ビタミンB12(ビタミンB12:低下) ビタミンB12や葉酸の不足により赤血球が正常よりも大きくなる特徴があります。これらの栄養素はDNA合成に必要なため、不足すると細胞分裂が正常に行われず、大きな赤血球が作られてしまいます。 慢性疾患に伴う貧血の特徴 慢性疾患に伴う貧血は、ほぼすべての感染症や炎症、悪性腫瘍で起こる可能性があります。自己免疫性疾患、心不全や腎疾患でも発生しやすい貧血です。 この貧血の特徴は、基礎疾患による慢性炎症が鉄の利用を阻害することにあります。フェリチンは正常または高値を示すことが多く、これは炎症により鉄が細胞内に取り込まれるものの、ヘモグロビン合成に利用されにくくなるためです。根本的な原因疾患の治療がもっとも重要で、単純な鉄剤補充では改善しにくいのが特徴です。 【要注意】隠れ貧血について 「隠れ貧血」は一般的な血液検査では見つかりにくい貧血の前段階で、ヘモグロビン値が正常範囲内でも体内の鉄貯蔵量が不足している状態です。自覚症状がないことも多く、見過ごされやすいため注意が必要です。早期発見には特定の検査項目に注目し、総合的な評価が重要になります。 フェリチンの重要性 フェリチンは体に蓄えられた鉄分の量を示す最も重要な指標です。ヘモグロビン値が正常範囲内であっても、フェリチン値が低い場合は体内鉄が枯渇し始めている可能性があります。これは、隠れ貧血や潜在性鉄欠乏と呼ばれる状態で、将来的に明らかな貧血に進行するリスクです。 フェリチン値が15ng/mL以下の場合は「隠れ貧血」のリスクが高いとされています。(文献4)一般的な基準値内であっても、この数値を下回ると体内の鉄貯蔵量が危険なレベルまで低下していることを示します。 女性では月経による鉄分の損失があるため、男性よりも注意深い観察が必要です。フェリチン値の定期的なチェックにより、症状が現れる前の早期段階で鉄欠乏を発見し、適切な対策を講じられます。 TIBC・UIBCもチェック 総鉄結合能(TIBC)は、トランスフェリン(鉄を運ぶためのタンパク質)に結合可能な鉄量の総量を示し、不飽和鉄結合能(UIBC)は鉄と結合していないトランスフェリンの量を表します。これらの検査値は鉄欠乏状態をより詳細に評価するために重要な指標です。 TIBCの基準値は300〜360μg/dLで、鉄欠乏においてTIBCは増加する傾向があります。(文献5)これは体が鉄不足を感知し、より多くの鉄を取り込もうとする代償反応です。トランスフェリン飽和率(血清鉄/TIBC×100)も鉄欠乏の評価に用いられ、16%以下で鉄欠乏と考えられます。(文献5) 数値を総合的に評価すれば、フェリチン値だけでは判断しきれない微細な鉄代謝の異常を発見できます。隠れ貧血の早期発見には、複数の検査項目を組み合わせた包括的な評価が不可欠です。 貧血と数値の関係性を理解して適切に対処しよう 体調の違和感は貧血のサインかもしれません。疲れやすさ、めまい、息切れなどの症状は日常的によくある不調として見過ごされがちですが、実は体が発しているサインの可能性があります。血液検査の数値も大切ですが、日々の不調を見逃さないことが何より重要です。 数値が正常範囲内であっても、普段と比べて明らかな体調の変化がある場合は、隠れ貧血や他の健康問題が潜んでいる可能性があります。自分の体の声に耳を傾け、小さな変化にも注意を払うことが早期発見につながります。 効果的な貧血対策には、医療機関での専門的な検査と食事・生活改善の両輪が不可欠です。正確な診断に基づいた適切な治療と、栄養バランスの取れた食事や規則正しい生活習慣の改善を組み合わせることで、根本的な解決が期待できます。 貧血の症状でお悩みの方や、検査数値に不安がある方は、ぜひリペアセルクリニックにご相談ください。当院では豊富な経験を持つ医師が、診断と治療をします。隠れ貧血の早期発見から個別の栄養指導、生活習慣の改善までサポートいたします。LINEにてお気軽にお問い合わせください。 参考文献 文献1 公立学校共済組合 近畿中央病院「血液検査基準一覧表」公立学校共済組合 近畿中央病院 臨床検査科 https://www.kich.itami.hyogo.jp/wp-content/uploads/2020/11/rk1.pdf (最終アクセス:2025年6月10日) 文献2 こころみクリニック上野御徒町 内科・血液内科・糖尿病内科「貧血はどのように見極める?貧血のタイプと検査」こころみクリニック上野御徒町 内科・血液内科・糖尿病内科ホームページ https://ueno-okachimachi-cocoromi-cl.jp/knowledge/anemia-test/ (最終アクセス:2025年6月10日) 文献3 国立循環器病研究センター「主な血液検査の基準値一覧」国立循環器病研究センター https://www.ncvc.go.jp/hospital/wp-content/uploads/sites/2/20210816_kizyuntiitiran_sougoukenshitu.pdf (最終アクセス:2025年6月10日) 文献4 医学書院「あなたも見逃している!? “隠れ貧血”」医学書院ホームページ https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/3488_04 (最終アクセス:2025年6月10日) 文献5 まえだクリニック「鉄欠乏性貧血の診断について」まえだクリニックホームページ、2023年11月22日 https://maeda.clinic/blog/20231122_diagnosis-of-iron-deficiency/ (最終アクセス:2025年6月10日)
2025.06.29 -
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「立ちくらみがして、そのまま倒れてしまった」「急に視界が暗くなって意識が遠のいた」 そんな経験に心当たりはありませんか?とくに女性に多い貧血は、放っておくと日常生活に支障をきたすばかりか、転倒やケガなどの事故にもつながりかねません。 本記事では、貧血で倒れてしまう原因や前兆となるサイン、倒れそうになったときの対処法、そして受診すべきタイミングについて、わかりやすく解説します。「また倒れたらどうしよう」といった不安を少しでも軽くできるよう、ぜひ参考にしてください。 貧血で倒れる原因 貧血による失神や倒れる症状には、さまざまな原因があります。もっとも多い鉄欠乏性貧血から、血圧の変化による起立性低血圧、さらには重篤な疾患に伴う貧血まで、背景はさまざまです。原因を理解すると、適切な対処と予防が可能になります。 鉄欠乏性貧血 日本で最も多くみられる貧血は鉄欠乏性貧血です。以下は検査項目における体内鉄分量の平均的な数値になります。 検査項目 数値 ヘモグロビン 2g(男性)、1.5g(女性) フェリチン 1g(男性)、0.6g(女性) ヘモジデリン 300mg ミオグロビン 200mg 組織酵素(ヘム鉄および非ヘム鉄) 150mg トランスフェリン 3mg (文献1) 鉄欠乏性貧血の主な原因は以下のとおりです。 単純な鉄の摂取不足 過多月経や慢性出血 腸の吸収不全 男性の場合:胃・十二指腸潰瘍、大腸がんなど消化器系の出血が中心 鉄欠乏性貧血はとくに女性に多く、症状は以下のとおりです。 動悸・息切れ めまい・立ちくらみ 耳鳴り 疲れやすさ 頭が重い感覚 顔色が青白い 集中力の低下 女性は月経による鉄分の損失が多いため、とくに注意が必要です。症状が続く場合は医療機関での検査をおすすめします。 起立性低血圧(脳貧血) 起立性低血圧は脳貧血や立ちくらみとも呼ばれ、血液の異常ではなく血圧の急激な低下が原因で起こります。症状は以下のようなタイミングで現れることが多いです。 朝の急な立ち上がり時 長時間の立位後 座位や臥位から急に立ち上がった際 起立性低血圧になりやすい人の特徴として、以下の要因が考えられます。 長時間立ちっぱなしの状況が多い 低血圧体質 睡眠不足が続いている 水分不足状態 特定の薬を服用中(降圧薬など) 対策としては、急な体位変換を避け、ゆっくりと立ち上がることが重要です。十分な水分摂取と適度な休息を心がけ、症状が頻繁に起こる場合は医師に相談しましょう。薬剤性の可能性もあるため、服用中の薬についても医師へ伝えることが大切です。 その他の疾患 慢性疾患やその他の疾患に伴う貧血は、基礎疾患の炎症や代謝異常により引き起こされる二次性の貧血です。原因となる主な疾患は以下のとおりです。 心不全 慢性腎臓病 全身性自己免疫疾患(関節リウマチ、SLEなど) 感染症(慢性感染症) がん(悪性腫瘍) 二次性の貧血は原疾患の治療が重要で、鉄剤の補充だけでは改善しにくいのが特徴です。基礎疾患による慢性炎症が鉄の利用を阻害するため、根本的な原因疾患の管理が必要となります。 中高年以降で原因不明の貧血が続く場合は、隠れた慢性疾患の可能性も考慮し、総合的な検査が重要です。 貧血で倒れる前のサイン 貧血では、倒れる際に前兆となるサインがあります。 感覚系の異常として、回転性のめまいやふらつき、体のバランス感覚の低下が現れます。「キーン」「ボーッ」といった耳鳴りにより外の音が遠く感じられたり、目の前が真っ暗になる、視野にちらつきが見えるなどの視覚異常も要注意です。 循環器系の症状では、心臓がバクバクする動悸や息切れ、呼吸が浅くなる症状が見られます。急に全身が冷えて冷や汗をかき、顔色が悪くなる顔面蒼白も典型的なサインです。 その他の症状として、おなかがムカムカする吐き気や腹部不快感、血の気が引くような手足の冷感や脱力感があります。集中できない、頭がフワフワするといった意識の朦朧や頭重感も現れます。 これらの症状が現れたら、すぐに座ったり横になったりすることが重要です。無理をせず、症状が続く場合は医療機関を受診しましょう。 貧血で倒れそうになったときの対処法 貧血の症状が現れて倒れそうになった際は、冷静に適切な対処が重要です。無理して動き続けると症状が悪化し、転倒や怪我のリスクが高まります。以下の手順に沿って、段階的に対応しましょう。 安全確保する まず最優先に行うべきは安全な場所の確保です。立っていると転倒の危険があるため、無理をせずその場でしゃがんだり、可能であれば横になったりして安全な体勢を取りましょう。 階段や道路、電車のホームなど危険な場所にいる場合は、周囲の人に助けを求めながら安全な場所への移動が大切です。頭を打つような転倒を避けるため、壁や手すりがある場所でゆっくりと体勢を低くしましょう。 一人でいる場合でも、慌てずに周囲の状況を確認し、転倒リスクの少ない場所で休息を取ることを心がけてください。安全確保は何よりも優先されるべきです。 服を緩める 安全な体勢が確保できたら、次に血流の改善を図りましょう。ベルトやネクタイ、襟元のボタンなど、体を締め付けている衣類をゆるめることで血行を促進し、症状の緩和につながります。 首周りや腹部を締め付けているものは、血液循環や呼吸を妨げる可能性があるため優先的に緩めましょう。靴のひもやブーツなども、きつく感じる場合は緩めてください。 可能であれば静かで人の少ない場所に移動し、安静に過ごすことが重要です。騒がしい環境は症状を悪化させる可能性があるため、落ち着いて休める環境を確保しましょう。リラックスした状態で休息を取ると、徐々に症状の改善が期待できます。 水分や糖分を補給する 意識がはっきりしている場合は、適切な水分や糖分補給をしましょう。脱水が貧血症状を悪化させる場合があるため、水やスポーツドリンクの摂取が効果的です。糖分不足も症状に関係する場合があるので、飴やジュースなども有効です。 ただし、意識がもうろうとしている場合は絶対に飲食させてはいけません。誤嚥の危険があり、窒息や肺炎のリスクが高まります。無理に口に含ませることは避けてください。 意識が戻らない、けいれんが起こる、呼吸困難などの重篤な症状が見られる場合は、迷わず119番通報をしましょう。これらは緊急事態のサインであり、専門的な医療処置が必要です。軽視せず、適切な判断を心がけてください。 貧血で倒れた場合の受診目安 貧血による失神や倒れるなどの症状が起きた場合、その後の対応が重要です。軽微な症状であっても、背景に重大な疾患が隠れている可能性があるため、受診の必要性を正しく見極める必要があります。以下の基準を参考に、適切な医療機関への相談を検討しましょう。 受診が必要なケースは 緊急性の高い場合は、以下のような症状がみられます。 繰り返し倒れる 失神の時間が長い けいれんがあった 頭を打った 呼吸が乱れている 意識がはっきりしない など このような状況では即座に医療機関を受診してください。 日常生活への影響が大きい場合も受診の目安となります。仕事や学校生活に支障をきたすような症状が継続する場合は、その時点で病院の受診が必要です。 貧血の原因は鉄欠乏症だけでなく、がんなどの重大な疾患が潜んでいる可能性もあります。とくに中高年で急に貧血症状が現れた場合や、通常の鉄分補給で改善しない場合は、詳しい検査が必要です。軽視せず早期の受診を心がけましょう。 何科に受診するのか 貧血症状で医療機関を受診する際は、まず内科がおすすめです。内科では血液検査や基本的な診察を通じて、貧血の原因を特定し、適切な治療方針を決定できます。 年齢や性別による選択肢として、子どもの場合は小児科、女性の場合は産婦人科でも対応可能です。女性の貧血は月経過多や婦人科疾患が原因となる場合が多いため、産婦人科での相談も良いでしょう。 受診科に迷った場合は、まずかかりつけの医療機関に相談をおすすめします。症状に応じて適切な診療科を案内してもらえます。 貧血でお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へお気軽にお問い合わせください。 貧血で倒れないための予防策 貧血による失神や倒れる症状を予防するには、日常生活での対策が重要です。食事や水分摂取、生活習慣の改善を通じて、体の状態を整えることで貧血リスクを大幅に軽減できます。以下のポイントを意識して、継続的な予防に取り組みましょう。 食事の見直し 基本的な食習慣の改善として、バランスの良い食事を1日3回規則正しく摂取しましょう。よく噛んで食べることで消化吸収を促進し、栄養素の効率的な利用につながります。 鉄分を多く含む食品(レバー、赤身肉、ほうれん草、小松菜など)を積極的に摂取しましょう。同時にタンパク質(肉、魚、卵、大豆製品)やビタミン類(とくにビタミンC、B12、葉酸)も重要です。ビタミンCは鉄の吸収を促進するため、一緒に摂ることが効果的です。 18歳以上の鉄の食事摂取基準(1日あたり)は以下のとおりです。 成人男性:7.0mg 成人女性:6.0mg(月経あり:10.5mg)(文献2) 注意点として、コーヒーや紅茶の飲みすぎは鉄の吸収を阻害するため控えめにし、食事と時間をずらしての摂取がおすすめです。 水分と塩分の適切な摂取 起立性低血圧の予防には、とくに朝の水分補給が重要です。起床時は血液が濃縮されているため、コップ1杯の水を飲むと血液循環を改善できます。立ち上がる際は急に動かず、ゆっくりと段階的に体勢を変えましょう。 夏場や運動時は発汗により脱水が進みやすいため、こまめな水分補給が必要です。スポーツドリンクなどで適度な塩分も同時摂取が効果的です。 食事後は消化のために血液が胃腸に集中し、起立性低血圧になりやすくなります。食後は急な立ち上がりを避け、ゆっくりとした動作を心がけてください。日常的に十分な水分摂取を維持すると、血液循環の改善と貧血症状の予防につながります。 睡眠・ストレス・運動習慣を整える 自律神経の安定が脳貧血予防のポイントです。質の良い睡眠を確保し、規則正しい生活リズムを維持すると、自律神経のバランスが整い、血圧や心拍数の調整機能が正常に働きます。 適度な運動も効果的で、軽いウォーキングやストレッチなどの有酸素運動は血液循環を改善し、心肺機能を向上させます。激しい運動は避け、継続可能な範囲で行いましょう。 ストレス管理では、リラックスや趣味の時間を作ると、心身の緊張が和らぎます。慢性的なストレスは自律神経の乱れを引き起こし、貧血症状を悪化させる可能性があります。深呼吸や瞑想、軽いヨガなども自律神経の安定に役立つでしょう。 生活習慣を総合的に改善すると、貧血による失神リスクを大幅に軽減できます。 貧血で倒れる頻度が多い方は放置厳禁! 頻繁に倒れる症状が続く場合は、背景に重大な疾患が隠れている可能性があります。鉄欠乏性貧血以外にも、慢性疾患や悪性腫瘍による貧血、血液疾患などが原因となることがあるため、繰り返す症状は必ず医療機関で詳しい検査を受けてください。 貧血の原因や症状は一人ひとり異なるため、個々の状況に応じた適切な治療が必要です。自己判断による対処では根本的な解決にならず、症状の悪化や合併症のリスクもあります。専門的な診断と治療を受けることで、効果的な改善が期待できます。 貧血でお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へお気軽にお問い合わせください。 参考文献 文献1 MSDマニュアル プロフェッショナル版「鉄欠乏性貧血」MSDマニュアル プロフェッショナル版 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/11-%E8%A1%80%E6%B6%B2%E5%AD%A6%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E8%85%AB%E7%98%8D%E5%AD%A6/%E8%B5%A4%E8%A1%80%E7%90%83%E7%94%A3%E7%94%9F%E4%BD%8E%E4%B8%8B%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E8%B2%A7%E8%A1%80/%E9%89%84%E6%AC%A0%E4%B9%8F%E6%80%A7%E8%B2%A7%E8%A1%80(最終アクセス:2025年6月9日) 文献2 厚生労働省「鉄の食事摂取基準(mg/日)」厚生労働省ホームぺージ https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4aq.pdf(最終アクセス:2025年6月9日)
2025.06.29 -
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「ふくらはぎが張っている」 「脚が赤く腫れてきた気がする」 脚やふくらはぎの違和感を加齢や疲労だと考えていませんか。その症状、血栓性静脈炎と呼ばれる静脈の異常が関係しているかもしれません。 血栓性静脈炎は静脈に血のかたまり(血栓)ができ、炎症が起こる状態です。放置すると血栓が肺などに移動し、命に関わる合併症を引き起こす恐れがあります。本記事では以下について解説します。 血栓性静脈炎の症状 血栓性静脈炎の原因 血栓性静脈炎における受診すべき診療科 血栓性静脈炎の治療法 血栓性静脈炎の再発防止策 記事の最後には、血栓性静脈炎に関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 血栓性静脈炎とは 血栓性静脈炎とは、静脈の中に血栓(血のかたまり)ができ、その部分に炎症が生じる病気です。とくにふくらはぎなどの下肢に多くみられ、腫れや熱感、赤みなどの症状を引き起こします。発症の原因としては、長時間同じ姿勢でいることや、血流が滞る生活習慣、基礎疾患などが挙げられます。 血栓が肺に流れ込むと、肺塞栓症と呼ばれる重大な合併症を招く恐れがあるため、早期の対応が必要です。血栓性静脈炎は軽い症状で始まることが多く、見逃されやすい特徴があります。脚の腫れや熱感などを感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。 血栓性静脈炎の症状 病気の概要 静脈の壁に炎症が起こり、血の塊(血栓)ができる 発症しやすい部位 とくに脚の静脈に多く見られますが、腕などにも起こることがある 主な種類 主な種類 血栓性静脈炎には、皮膚の浅い部分に起こる比較的軽症の表在性血栓性静脈炎と、筋肉内の深い静脈にできて重症化しやすい深部静脈血栓症(DVT)の2種類がある 代表的な症状 患部の違和感・腫れ・赤み・熱感・しこりなどが見られる 原因 血液が固まりやすい状態、血流の停滞、血管の損傷などが関係している 放置した場合のリスク 深部静脈血栓症や肺塞栓症に進行すると命に関わる可能性がある (文献1) 血栓性静脈炎の代表的な症状は、ふくらはぎや脚の腫れ、皮膚の赤み、熱感、押したときの硬さなどです。初期には違和感や張りを感じる程度のこともありますが、時間の経過とともに患部が熱をもち、歩行時に重さを感じるようになることもあります。 血栓性静脈炎には軽症が多い表在性と、重症化しやすい深部静脈血栓症(DVT)の2種類があります。DVTは気づかないうちに進行し、肺塞栓など命に関わる合併症を引き起こすこともあるため、早期に医療機関で診断と治療を受けることが大切です。 血栓性静脈炎の原因 原因 概要 血管の病気(ベーチェット病・バージャー病) 血管に炎症を起こす病気により、血管が傷つき血栓ができやすくなります。とくに喫煙者や持病がある方は注意が必要 血流の滞り(うっ滞) 長時間同じ姿勢や運動不足により血流が滞ると、血栓ができやすくなる 血管内皮細胞の損傷 血管の内側が傷つくと血液が固まりやすくなり、血栓ができやすくなる 加齢による影響 年齢とともに血管が硬くなり血流が悪化し、血栓ができやすくなる 血栓性静脈炎の発症には、複数の要因が関与しています。とくに静脈の血流が滞りやすい状況、血管が傷つき、血液が固まりやすくなると、血栓性静脈炎のリスクが高まります。 ベーチェット病やバージャー病などの血管に関する病気 要因 詳細 血管の炎症 ベーチェット病やバージャー病では血管の壁に炎症が起こり、血管が傷つくことで血栓ができやすくなる 免疫異常 自己免疫の異常により免疫が血管を攻撃し、血栓形成が助長される 血流の特徴 静脈は血流が遅いため、血栓ができやすく、炎症によってそのリスクがさらに高まる 喫煙との関連 バージャー病は喫煙者に多く、血管の閉塞や炎症を引き起こしやすくなる (文献2) ベーチェット病やバージャー病は血管に炎症を起こし、血管内が傷つくことで血栓ができやすくなります。とくに静脈は血流が遅いため、血栓が生じやすい状態です。 ベーチェット病は免疫異常により血管が攻撃され、バージャー病は喫煙と深く関係し、手足の血管に炎症や閉塞を起こします。これらの病気がある方は、足の腫れや赤みに早く気づくことが大切です。 静脈血流のうっ滞 原因 概要 血液成分の接触時間が長くなる 血流が遅くなると血液成分が静脈壁に長く接触し、凝固しやすくなる 凝固因子の蓄積 血液が滞ると凝固因子が流されずにたまり、血栓ができやすくなる 血管内皮細胞の機能低下 血流が悪いと血管内皮の働きが低下し、血栓を防ぐ力が弱まる 長時間の不動(旅行・手術後など) 足を動かさない時間が長いと血液が滞り、血栓ができやすくなる 下肢静脈瘤 静脈の弁が壊れやすくなり、血液が逆流・滞留して血栓ができやすくなる ギプス固定 筋肉が動かせないことで静脈の血流が悪化し、血栓のリスクが高まる 肥満・妊娠 腹部が圧迫され、足からの血流が悪くなり血栓の原因になる (文献3)(文献4) 血栓性静脈炎は、血流の滞り(うっ滞)によっても発症しやすくなります。とくに長時間のデスクワーク、飛行機や車での長距離移動、運動不足などで引き起こされます。 血流が滞ると血液が一カ所にとどまりやすくなり、血栓ができるリスクが高まります。エコノミークラス症候群のように、長時間足を動かさない状態も原因の一つです。とくに加齢や下肢静脈瘤がある方は、血液が心臓に戻りにくく、リスクがさらに増します。違和感があれば、早めの受診と生活習慣の見直しが大切です。 血管内皮細胞の障害 項目 概要 損傷による影響 内皮細胞が傷つくと血液が固まりやすくなり、血栓ができやすくなる 損傷の原因 喫煙や高血圧、糖尿病、感染症、外傷、カテーテルの留置などが原因になる 予防のポイント 生活習慣の改善と基礎疾患の管理が内皮細胞を守る鍵となる (文献5)(文献6) 血管内皮細胞は、血管の内側を覆い、血流を保ちつつ血栓の予防に重要な役割を果たしています。しかし、喫煙や高血圧、糖尿病、感染症、外傷、カテーテルの留置などにより内皮細胞が傷つくと、血液が固まりやすくなり、血栓ができやすい状態になります。 血栓が静脈内にできると血栓性静脈炎を引き起こす可能性があり、とくに深部静脈に生じた場合は命に関わる合併症につながることもあります。内皮細胞を守るには、生活習慣の見直しと持病の適切な管理が大切です。 加齢に伴うもの 加齢による変化 血栓性静脈炎との関係 血管内皮細胞の機能低下 内皮細胞の抗血栓作用が低下し、血液が固まりやすくなる 静脈弁の機能低下 血液の逆流や停滞が起こり、静脈うっ滞が血栓の原因になる 血液凝固系の変化 血液が固まりやすくなり、血栓形成のリスクが高まる 活動量の低下 ふくらはぎの筋肉のポンプ作用が弱まり、血液が滞りやすくなる 基礎疾患の増加 疾患による血管への影響や凝固異常が血栓形成を助長する (文献7) 加齢により血管内皮細胞の働きが低下し、血栓を防ぐ機能が弱まると同時に、血液が固まりやすくなる変化も起こります。加齢により静脈弁や筋肉の働きが弱まると血流が滞りやすくなり、血栓ができやすくなります。さらに、高血圧や糖尿病といった病気のリスクも高まることで、血栓のリスクが一層増加します。 とくに高齢者は、加齢による感覚の鈍化や持病との区別がつきにくいため、初期症状に気づきにくく、発見が遅れてしまうケースも少なくありません。ふくらはぎの腫れや赤みなどの違和感が出た場合はすぐに医療機関を受診しましょう。 血栓性静脈炎における受診すべき診療科 受診するべき診療科 受診の目安 特徴 皮膚科 皮膚が赤く腫れ、浅い血管がミミズ腫れのように見える場合 皮膚の見た目の異常が中心であり、軽症ならここで十分対応可能 血管外科・心臓血管外科 下肢が強く腫れている、再発を繰り返している、深部静脈が疑われる場合 エコー検査や抗凝固療法など、治療が必要なときに行われる 内科・総合内科 症状の原因がわからない、高齢者や持病が多く全身の管理が必要な場合 最初の相談窓口として適切 皮膚の赤みや軽い腫れといった症状がある場合は皮膚科で対応可能です。しかし、腫れが強い場合や血栓が深部に及ぶ可能性がある場合は、血管外科や心臓血管外科といった専門診療科の受診が推奨されます。 また、症状の判断が難しいときや持病が多い方は、まず内科や総合内科を受診し、医師に相談するのがおすすめです。受診先に迷った場合は、まずはかかりつけ医に相談し、必要に応じて適切な診療科へつなげてもらうのも方法です。 血栓性静脈炎の治療法 治療法 対象となる状態 治療の内容 特徴 保存療法 軽度の血栓性静脈炎、初期段階 安静・脚の挙上・弾性ストッキング・冷却など 身体への負担が少なく、自宅でも実施可能 薬物療法 炎症や血栓が進行している場合 抗炎症薬で炎症軽減、抗凝固薬で血栓形成予防 再発予防にも有効で、長期的な継続が重要 手術療法 重度または再発を繰り返す場合 血栓除去術やバイパス術で血流回復 侵襲が大きいため慎重な判断が必要 再生医療 既存治療で効果が乏しい、血管損傷が広範囲な場合 幹細胞などを用いた血管修復の研究的治療 保険外治療で実施施設が限られる 血栓性静脈炎の治療は、症状の程度や進行状態によって方針が異なります。治療の目標は、血流を回復させて血栓の拡大や移動を防ぐことです。 保存療法 対処法 目的 効果的な活用方法 注意点 安静 炎症の悪化を防ぎ、違和感を軽減する 無理のない範囲で日常生活を送りつつ、患肢を休ませる 活動の範囲は医師と相談が必要 挙上 静脈の血流を促進し、腫れを軽減する 寝るときや座るときにクッションで足を高く保つ 長時間の同じ姿勢は避け、適度な動きも必要 弾性ストッキング 血流改善・腫れ予防・血栓拡大の防止 医師の指示に従い、適切なサイズと方法で着用する 着用時間や圧迫度合いは個別に調整が必要 湿布(NSAIDs) 患部の炎症と違和感を軽減する 医師・薬剤師の指導に従って使用し、貼付時間を守る かぶれや副作用に注意し、皮膚に異常があれば中止する (文献8) 保存療法は軽度の血栓性静脈炎に用いられる治療で、安静や脚の挙上、弾性ストッキングの着用、湿布などで血流を改善し炎症を抑えます。自己判断で行わず、医師の指示に従い、違和感があればすぐに相談しましょう。 薬物療法 薬の種類 作用・目的 使用されるケース 注意点 抗凝固薬(ヘパリン・ワルファリン・DOAC) 血液が固まるのを防ぎ、血栓の拡大や新規形成を防ぐ 深部静脈血栓症(DVT)の治療、表在性でも進行リスクが高い場合に使用 出血リスクあり。医師の指示を守る。定期的な検査が必要な薬もある 血栓溶解薬(tPAなど) すでにできた血栓を溶かす 肺塞栓症など重症例で、発症初期に限定的に使用される 出血のリスクが高く、入院下で慎重に使用される NSAIDs(内服・湿布) 炎症や違和感を抑える。血栓を直接溶かす作用はない 表在性血栓性静脈炎での腫れや違和感の緩和に使用 胃腸障害や皮膚のかぶれに注意。長期使用は医師の指導が必要 (文献9) 血栓性静脈炎の薬物療法では、抗炎症薬や抗凝固薬が使用されます。抗炎症薬は炎症による腫れや赤みを軽減し、抗凝固薬は血液を固まりにくくする作用があり、新たな血栓の形成を防ぐために使用されます。 中には血栓を溶かす作用のある薬剤(血栓溶解薬)が用いられることもありますが、使用には出血のリスクを伴うため、慎重な判断が必要です。薬物治療は医師の指導に基づいて継続的に行われます。薬の量を自己判断で変えたり中止したりすると、効果が下がるだけでなく副作用のリスクが高まるため注意が必要です。 手術療法 手術法 有効な理由 手術の概要 注意点 血栓除去術(血栓摘出術) 巨大な血栓で血流が遮断されている場合、迅速な血流回復を目指す 静脈を切開し、血栓を直接取り除く手術。麻酔下で行われる 出血や感染のリスク、再発の可能性がある 下大静脈フィルター留置術 肺塞栓のリスクが高いが抗凝固薬が使えない場合に、血栓の肺移動を防止する カテーテルで下大静脈にフィルターを設置し、血栓を物理的に捕捉します フィルター自体が血栓の原因になる可能性があり、長期留置はリスクになる 静脈瘤手術 繰り返す表在性血栓性静脈炎の原因である静脈瘤を取り除くことで再発を予防する 静脈を切除、閉鎖、焼灼、注入など方法は多岐に渡る 急性炎症時は避け、落ち着いてから手術を行う、方法により侵襲度も異なる (文献10)(文献11)(文献12) 重度の血栓性静脈炎や再発を繰り返す場合には、手術療法が選択肢となることがあります。血栓除去術やバイパス手術などが代表的で、主な目的は血流を回復させて患部への負担を軽減できます。 手術療法を受けた後も、血栓の再発を防ぐためには、薬物療法や弾性ストッキングの使用を継続しましょう。ただし、手術は体への負担が大きいため、保存療法や薬による治療で十分な効果が得られない場合に限り検討されます。手術の実施にあたっては、出血や感染などのリスクもあるため、医師と十分に相談した上で判断する必要があります。 再生医療 再生医療は、幹細胞などを用いて損傷した血管細胞を修復・再生させることで、血管の機能を回復させ、症状の改善や再発の予防を目指します。通常の治療で効果が得られなかった場合や、血管のダメージが広範囲に及ぶ場合に、新たな選択肢として検討される治療法です。 再生医療は、新たな血管をつくる力を活用し、体内に血流の通り道(バイパス)を形成することで、血流の改善が期待できます。注意点としては、適用できる医療機関が限られているため、事前に実施しているかの有無を確認する必要があります。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 血栓性静脈炎の再発を防止するには 予防法 内容 生活習慣の改善 禁煙を徹底し、脂肪の多い食事を見直す。青魚・海藻・野菜などを取り入れ、ストレスや過度な飲酒も控える 適度な運動の実施 ウォーキングやストレッチ、かかとの上げ下げなどを日常的に取り入れ、長時間同じ姿勢を避ける 弾性ストッキングの着用 医師の指導のもとで適切な圧のストッキングを選び、朝から夜まで装着する 水分補給を怠らない 水や麦茶などでこまめに水分をとり、脱水を防ぐ 血栓性静脈炎は、一度治療を終えても再発の可能性があるため、日常生活での予防が大切です。 生活習慣を改善する 項目 対策 血液の凝固能の正常化 水分をこまめにとり、栄養バランスの良い食事で血液を固まりにくくする 静脈血流の改善 軽い運動や姿勢の工夫、体重管理によって下肢の血流を促進する 血管内皮細胞の健康維持 禁煙と抗酸化成分の多い食事、適度な運動で血管を健康に保つ 基礎疾患の管理 高血圧や糖尿病などの生活習慣病を適切にコントロールして血栓のリスクを下げる 血栓性静脈炎の再発を防ぐには、禁煙や食生活の改善が欠かせません。タバコは血流を悪化させ、血栓のリスクを高めるため控えましょう。 動物性脂肪を減らし、青魚や野菜など血液をサラサラに保つ食品を取り入れることも効果的です。過度な飲酒やストレスも血管に悪影響を与えるため、日常生活の中で無理なく見直していくことが予防につながります。 以下の記事では生活習慣の改善について詳しく解説しています。 適度な運動を取り入れる 静脈の血流を促すには、無理のない範囲で定期的に体を動かすことが大切です。とくに、ウォーキングや軽いストレッチ、かかとの上げ下げ運動など、下半身の筋肉を使う運動が効果的です。また、血管の健康を保ち、血液がサラサラになることで再発リスクを減らします。 運動は医師の指導を受けた上で、自分の体調に合わせて無理のない範囲で行うことが大切です。 以下の記事では有酸素運動のほかに高血圧の予防や改善方法について詳しく解説しています。 弾性ストッキングを着用する 項目 要点 静脈の拡張抑制と血流 適切な圧迫で静脈の拡張を防ぎ、血流を促進して血栓のリスクを低下させる 静脈弁の機能サポート 弁の働きを補い、血液の逆流を防ぐことで血液の滞りを軽減する 腫れの軽減と血栓予防 余分な水分を戻し腫れを軽減、血管への負担を減らす 着用時の注意点 医師の指示に従い、適切なサイズと方法で毎日清潔に着用する 弾性ストッキングは、足に一定の圧をかけて血液の流れを補助する医療用の靴下です。ふくらはぎから足首にかけて圧力を加えることで、静脈内の血液が滞るのを防ぎます。使用する際は、医師の指導のもと適切な弾性ストッキングを選ぶ必要があります。 市販の弾性ストッキングを自己判断で使うと、かえって症状が悪化する恐れがあります。医師の指示に従い使用しましょう。 水分補給を怠らない 血栓性静脈炎の再発を防ぐには、日ごろからこまめな水分補給が大切です。体の水分が不足すると血液が濃くなり、流れが悪くなることで血栓ができやすくなります。 また、血管の内側を守る血管内皮細胞の働きも低下しやすくなり、血液の流れがさらに悪くなる原因になります。水分をしっかりとることで、血液がサラサラに保たれ、血栓ができにくい状態が維持されます。 なお、コーヒーやアルコールなど利尿作用のある飲み物は逆効果になるため、水や麦茶などを選びましょう。日常の小さな意識が、再発の予防につながります。 血栓性静脈炎の疑いがある方は早急に医療機関の受診を 脚に腫れや赤み、熱っぽさを感じたとき、それが血栓性静脈炎におけるサインの可能性があります。その症状を放置してしまうと血栓が移動して肺塞栓症などの重篤な合併症を引き起こすため、早急の医療機関への受診が必要です。 ふくらはぎにしこりのような感触がある、押すと硬さを感じるといった場合は要注意です。症状が軽いうちに受診すれば、保存的な治療で改善が見込めるケースもあります。 当院リペアセルクリニックでは、再生医療を用いた血栓性静脈炎の治療を行っております。症状にお悩みの方は、「メール相談」や「オンラインカウンセリング」を通じて、お気軽にご相談ください。 血栓性静脈炎に関するよくある質問 血栓性静脈炎は自然に治りますか? 表在性の軽い血栓性静脈炎は自然に治ることもありますが、すべてが自然治癒するわけではありません。深部に広がるリスクや強い症状がある場合は、命に関わる合併症を防ぐためにも、早めに医療機関を受診しましょう。 血栓性静脈炎は再発しやすいですか? 血栓性静脈炎は、原因となる静脈瘤や血液の凝固異常、血管の損傷が残ると再発しやすくなります。再発予防には、原因疾患の治療、薬や弾性ストッキングの継続使用、生活習慣の改善、定期的な経過観察が重要です。 血栓性静脈炎は重症化するとどうなりますか? 血栓性静脈炎が重症化すると、血栓が深部静脈に進展し、肺に移動して肺塞栓症を引き起こす恐れがあります。突然の息切れや胸の違和感、呼吸困難、場合によっては意識消失やショックなど命に関わる状態になることもあります。 慢性的な腫れや色素沈着などの後遺症が出るケースもあるので、早期に医療機関を受診しましょう。 参考資料 (文献1) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「表在静脈血栓症」MSD マニュアル 家庭版,2023年12月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/06-%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%9D%99%E8%84%88%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%A1%A8%E5%9C%A8%E9%9D%99%E8%84%88%E8%A1%80%E6%A0%93%E7%97%87(最終アクセス:2025年5月10日) (文献2) 重松宏ほか.「血管型ベーチェット病の診療ガイドライン案」『厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)分担研究報告書』, pp.1-18 https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2019/192051/201911043B_upload/201911043B202005290902054150008.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月10日) (文献3) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「慢性静脈不全症および静脈炎後症候群」MSD マニュアル プロフェッショナル版,2022年9月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/04-%E5%BF%83%E8%A1%80%E7%AE%A1%E7%96%BE%E6%82%A3/%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E9%9D%99%E8%84%88%E7%96%BE%E6%82%A3/%E6%85%A2%E6%80%A7%E9%9D%99%E8%84%88%E4%B8%8D%E5%85%A8%E7%97%87%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E9%9D%99%E8%84%88%E7%82%8E%E5%BE%8C%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4(最終アクセス:2025年5月10日) (文献4) 伊藤 正明.「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に 関するガイドライン(2017年改訂版)」, pp.1-93, 2018年3月23日 https://js-phlebology.jp/wp/wp-content/uploads/2020/08/JCS2017.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献5) 川﨑富夫.「DVT の病態と臨床 ―DVT の診断,治療について―」『血栓止血の臨床─研修医のために II』, pp.1-4, 2008 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsth/19/1/19_1_18/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月10日) (文献6) 丸山征郎.「血管内皮細胞障害と血栓」『第42回 河口湖心臓討論会』, pp.1-7 https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/41/2/41_204/_pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献7) 金子 寛ほか.「四肢静脈血栓症の原因について」, pp.1-6,2001年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/phlebol/12/3/12_12-3-257/_pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献8) 「弾性ストッキング関連資料」『日本製脈学会 弾性ストッキング・コンダクター養成委員会作成(第1版)』, pp.1-20 https://js-phlebology.jp/disaster/wp-content/uploads/2020/11/stockings_hokenshi.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献9) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「深部静脈血栓症」MSD マニュアル 家庭版,2023年12月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/06-%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%9D%99%E8%84%88%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E6%B7%B1%E9%83%A8%E9%9D%99%E8%84%88%E8%A1%80%E6%A0%93%E7%97%87(最終アクセス:2025年5月10日) (文献10) 大谷 真二ほか.「大伏在静脈の静脈瘤に合併した上行性血栓性静脈炎の 2 手術例」, pp.1-5, 2005年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/phlebol/16/2/16_16-2-129/_pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献11) 山田 典一,中野 赳.「深部静脈血栓症:血栓溶解療法,下大静脈フィルター留置」, pp.1-8, 2009年 https://j-ca.org/wp/wp-content/uploads/2016/04/4903_10.pdf最終アクセス:2025年5月10日) (文献12) 荒名 克彦ほか.「上行性血栓性性脈炎3例の経験」, pp.1-4, 2014年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jca/54/3/54_13-00041/_pdf(最終アクセス:2025年5月10日)
2025.05.30 -
- 内科疾患、その他
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「最近、足が妙に重だるい」 「ふくらはぎに違和感がある」 その症状は閉塞性動脈硬化症のサインかもしれません。このサインを放置すると症状が悪化し、最悪の場合は壊死や足の切断につながるかもしれません。 本記事では、閉塞性動脈硬化症のセルフチェック方法や足に現れる具体的なサインについて、わかりやすく解説します。あわせて、重症度の目安や症状に応じた治療法についてもわかりやすく解説します。 閉塞性動脈硬化症のセルフチェック|1つでも当てはまる場合は要注意 チェック項目 詳細説明 タバコを吸う 喫煙は血管を傷つけ、動脈硬化を進める 血糖値が高いと診断された 糖尿病は血管をもろくし、動脈硬化の大きな要因 コレステロール・中性脂肪が高いと診断された 脂質が血管内にたまり、血流を妨げる 高血圧と診断された 血圧が高いと血管に負担がかかり、動脈硬化が進行する 過去に心筋梗塞を起こした 血管障害の既往があり、他の動脈にも影響する恐れがある 過去に脳卒中を起こした 一度脳卒中を起こすと動脈硬化を発症しやすい傾向がある 家族に心筋梗塞や脳卒中の人がいる 遺伝的に動脈硬化を発症しやすい傾向がある 閉経している 女性ホルモンの低下により、血管の柔軟性が失われやすくなる 透析を受けている 透析によって血管に負担がかかり、動脈硬化が進行しやすくなる 65歳以上である 加齢に伴い血管は硬くなりやすくなる 肥満体型である 生活習慣病のリスクが高く、動脈硬化を招く 閉塞性動脈硬化症は、動脈が徐々に細くなり血流が悪化する病気です。とくに足の血管に障害が出ると、歩行時のだるさやしびれといった症状が現れます。 初期の段階では自覚症状が乏しく、気づかないうちに進行しているケースも少なくありません。そのため、早い段階で閉塞性動脈硬化症に気づくには自分でできるセルフチェックを行うことが不可欠です。 1つでもセルフチェック項目に当てはまる場合は要注意です。 以下の記事では、閉塞性動脈硬化症の初期症状について詳しく解説しています。 タバコを吸う タバコが及ぼす影響 リスクとメカニズム 血管の収縮を引き起こす ニコチンなどにより血管が狭くなり、血流が悪化 血管内皮細胞を傷つける 血管内面が損傷し、動脈硬化の原因となるプラークがたまりやすくなる LDLコレステロールの酸化 酸化されたLDLコレステロールが血管壁に沈着しやすくなる 血小板の凝集促進 血液が固まりやすくなり、血栓形成のリスクが高まる HDLコレステロールの減少 善玉コレステロールが減り、血管の修復力が低下 血管壁の慢性的炎症 炎症により動脈硬化が進行 (文献1)(文献2) タバコは血管に多面的な悪影響を与え、閉塞性動脈硬化症の大きなリスク因子となります。喫煙により血管が収縮し、内皮細胞が損傷を受けることで、動脈硬化が進行しやすくなります。 また、血液が固まりやすくなり血栓のリスクも高まるため、喫煙歴のある方は足の違和感や冷えといった小さなサインも見逃さず、早めの受診が大切です。 血糖値が高いと診断されたことがある 高血糖は血管を傷つけ、動脈硬化を進行させます。血流が悪化すると足先まで血液が届きにくくなり、冷えやしびれを感じることがあります。 糖尿病の方は神経障害を伴いやすく、足の異常に気づきにくいため要注意です。血糖値がやや高めと診断された方も、足の症状があれば早めに医療機関を受診しましょう。 コレステロールや中性脂肪が高いと診断されたことがある 項目 概要 プラークの形成 悪玉コレステロールや中性脂肪が血管にたまり、プラークと呼ばれる塊を作り、血管を狭くする 血管の壁が弱る コレステロールが血管の内側にダメージを与え、血管がもろくなる 酸化LDLの影響 悪玉コレステロールが酸化すると、血管に炎症を起こして、さらに詰まりやすくなる 善玉コレステロールの働き低下 善玉コレステロールが少ないと、血管の掃除がうまくできず、脂質がたまりやすくなる 血栓ができやすくなる 傷ついた血管には血のかたまり(血栓)ができやすくなり、詰まりの原因になる 血管が硬くなる 血管に脂質がたまると、血管の弾力が失われ、血流が悪化する (文献3) コレステロールや中性脂肪が高い状態が続くと、血管の内側に脂質がたまり、血管が狭くなって血流が悪くなります。とくにLDLコレステロール(悪玉)が多いと動脈硬化が進み、血栓ができやすくなります。 逆に、HDLコレステロール(善玉)が少ないと、余分な脂質を回収できずリスクがさらに高まります。足の冷えやしびれ、歩きにくさを感じる方は、閉塞性動脈硬化症の可能性があるため、早めに医療機関を受診しましょう。 高血圧と診断されたことがある 高血圧は血管に強い圧力がかかる状態が続き、血管の内側を傷つけます。そこに脂質などがたまり、プラークができて血管が狭くなり、動脈硬化を引き起こします。とくに足の血管は細くて傷つきやすいため、冷えやしびれを引き起こしやすくなります。 高血圧と診断されたことがあり、冷えやしびれの症状が続く場合、閉塞性動脈硬化症の疑いがあるため、早急に医療機関を受診しましょう。 過去に心筋梗塞を起こしたことがある 観点 解説 全身の動脈硬化の可能性 心筋梗塞は全身の動脈硬化が進んでいる恐れがある 共通する生活習慣や病気 両者には高血圧や糖尿病など共通のリスク因子がある 血管の機能が低下している可能性 血管内の機能が弱まっており、足の血管も詰まりやすくなっている 血栓ができやすい状態 血栓ができやすい体質になっており、足の血管にも詰まりのリスクがある 慢性的な炎症の影響 慢性的な炎症が全身に及び、足の動脈硬化を進める可能性がある (文献4) 心筋梗塞を経験した方は、すでに全身の血管に動脈硬化が広がっている可能性があります。心臓だけでなく、足の血管にも同じような詰まりや変化が起きていることが考えられます。動脈硬化は一部の血管だけでなく、全身に影響する病気です。 そのため、足のしびれや冷えなどの違和感がある場合、単なる疲れではなく血管の詰まりによる症状の可能性も考えられます。再発を防ぐためにも、足の血流チェックを早めに受けることが大切です。 過去に脳卒中を起こしたことがある 観点 解説 全身の動脈硬化の可能性 脳の血管に問題が起きた方は、足など他の血管でも動脈硬化が進んでいる可能性がある 共通の危険因子がある 脳卒中と閉塞性動脈硬化症は、生活習慣病や喫煙など共通のリスク要因で起こる 血管の働きが弱っている 脳卒中を経験した方は、血管の内側の機能が低下している可能性がある 血栓ができやすい状態 脳の血管にできた血栓と同じように、足の血管にも詰まりが起こるリスクがある 慢性的な炎症の影響 脳卒中後は、体の中で炎症が続いており、それが足の血管にも悪影響を及ぼすことがある (文献5) 脳卒中(とくに脳梗塞)は、脳の血管が動脈硬化によって詰まることで起こる病気です。脳卒中を経験された方は、すでに全身の血管に動脈硬化が進行している可能性があり、足の血管も例外ではありません。 そのため、閉塞性動脈硬化症のリスクも高くなる恐れがあります。また、脳卒中と閉塞性動脈硬化症には、高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙などの共通する危険因子があります。足の冷えやしびれは、動脈の詰まりのサインかもしれません。気になる症状があれば、早めに医師に相談しましょう。 家族に心筋梗塞や脳卒中を起こした人がいる 観点 解説 遺伝の影響 コレステロールや血圧が高くなりやすい体質が、家族で受け継がれていることがある 生活習慣の共通性 家族内で似た食事や運動習慣は、動脈硬化を起こす傾向が強くなる 若いうちからの発症リスク 家族に若くして発症した人がいると、自分も早く発症するリスクが高まる可能性がある 血管が弱い体質の可能性 血管の構造や性質に遺伝的な傾向があり、動脈硬化を起こしやすいことがある リスクの見落としに注意 家族に心筋梗塞や脳卒中の方がいる場合は、自分もリスクがあると考え、早めの対策が重要です (文献6) 家族に心筋梗塞や脳卒中を起こした方がいる場合、自分も動脈硬化を起こしやすい体質を持っている可能性があります。 高血圧や脂質異常、糖尿病などのリスク因子は遺伝しやすく、生活習慣も似ていることが多いため、同じような病気を発症するリスクがあります。とくに家族に若くして発症した人がいる場合は、注意が必要です。 閉経している 観点 解説 女性ホルモンの減少 閉経でエストロゲンが減り、血管を守る働きが弱くなる 脂質のバランスが変わる 悪玉コレステロールや中性脂肪が増え、動脈硬化が進みやすくなる 血圧が上がりやすくなる 血管が収縮し、血圧が上がりやすくなる 血管の働きが低下する 血管の内側の機能が落ち、詰まりやすくなる (文献7) エストロゲンには血管をしなやかに保つ働きがありますが、閉経後はその分泌が減り、血管が硬くなりやすくなります。 コレステロールもたまりやすくなり、動脈硬化が進行しやすくなります。閉経後に体調の変化を感じたら、足の冷えやしびれなどにも注意し、異変があれば早めに医療機関を受診しましょう。 透析を受けている 観点 解説 血管に負担がかかっている 高血圧や糖尿病などの合併症により、血管が常にダメージを受けやすい状態 血管が硬くなりやすい カルシウムなどの影響で血管に石のような物質がたまり、硬くなりやすくなる 体にサビがたまりやすい 老廃物がうまく排出されず、酸化ストレスが血管に悪影響を与える 炎症が起こりやすい 体の中で炎症が続きやすく、それが血管を傷つける原因になる 血管の働きが弱くなる 血管の内側の細胞がうまく働かなくなり、詰まりやすくなる 透析の影響そのもの 透析中の体内環境の変化も、血管に負担をかけやすい要因 (文献8)(文献9) 透析を受けている方は、老廃物が体にたまりやすく、カルシウムやリンの代謝異常により血管が硬く狭くなりやすくなります。さらに、糖尿病や高血圧の併発も多く、動脈硬化を進行させる原因です。 透析中に足の冷えやしびれを感じたら、血流障害の可能性があります。放置せず、早めに医療機関を受診しましょう。 65歳以上である 観点 解説 血管の老化 年齢とともに血管が硬くなり、動脈硬化が起こりやすくなる 生活習慣病が増加する 高血圧や糖尿病など、動脈硬化の原因になる病気にかかりやすくなる 血管の調整機能が低下 血管を広げたり縮めたりする働きが弱まり、詰まりやすくなる 酸化ストレスがたまりやすい 長年の代謝活動で体内に有害物質がたまり、血管に悪影響を与える 血管の修復力が低下 傷ついた血管を元に戻す力が弱くなり、動脈硬化が進みやすくなる (文献10) 加齢とともに動脈の壁は硬くなり、血管の内腔も狭くなります。とくに65歳を超えると、血管の老化が進みやすく、血流が滞ることで足に冷えやしびれなどの異常が現れやすくなります。 65歳以上の方は、足の冷えやしびれを感じるようであれば、手遅れになる前に早めに医療機関を受診しましょう。 肥満体型である 肥満体型の方は、動脈硬化を進めるさまざまなリスクを抱えています。肥満は、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病を引き起こしやすく、血管に大きな負担をかけます。 さらに、インスリンの働きが低下して血糖や脂質のバランスが乱れやすくなり、動脈硬化のリスクが高まります。加えて、脂肪細胞から分泌される炎症物質が血管を傷つけ、悪玉コレステロールの増加や善玉コレステロールの減少も進行を助長します。血圧も上がりやすくなるため、注意が必要です。 【セルフチェックとあわせて確認】閉塞性動脈硬化症の重症度と治療法 重症度 症状・状態 詳細 治療法の概要 Ⅰ度|冷感やしびれがある重症度 足先に冷えや軽いしびれがあるが、歩行には支障がない状態 血流の低下による軽度の末梢循環障害 生活習慣の改善(食事・運動・禁煙)と薬物療法(抗血小板薬、血圧・脂質のコントロール) Ⅱ度|長距離が歩けない 歩行中に足がだるくなり、休むと症状が軽くなる(間欠性跛行) 歩行による酸素不足に伴う下肢筋肉の循環障害 運動療法と薬物療法の併用、必要に応じてカテーテル治療や生活習慣の見直し Ⅲ度|安静時に違和感が現れる 夜間や横になっているときにも足先に違和感が生じる・ヒリヒリする 安静時にも続く深刻な血流不足による末梢虚血 血管再建(バルーン・ステント・バイパス)、創傷ケア、感染管理 Ⅳ度|潰瘍や壊疽がある 皮膚が黒ずむ、潰瘍ができる、足先が腐りはじめるなどの末期状態 血流途絶による組織壊死および感染リスクの高い状態 外科的血行再建や壊死部の切除、重症時は切断、全身管理を含む包括的治療 閉塞性動脈硬化症は、足の血管が徐々に狭くなり血流が悪くなる病気です。初期(Ⅰ度)は冷えやしびれなど軽い症状ですが、進行すると歩行が困難になり(Ⅱ度)、さらに進むと安静時にも違和感が現れます(Ⅲ度)。 末期(Ⅳ度)では潰瘍や壊死が起き、非常に重篤な状態です。生活習慣の改善や適切な治療を継続すれば、重症化や足の切断リスクを減らせます。 以下の記事では、閉塞性動脈硬化症におけるマッサージについて詳しく解説しております。 Ⅰ度|冷感やしびれがある 項目 内容 症状の特徴 自覚症状はほとんどなく、健康診断や検査で偶然見つかることが多い状態 よくある症状 足先の冷えや軽いしびれ、皮膚の蒼白、足の脈が弱くなることがある 日常生活への影響 日常生活に支障はなく、多くの場合は無症状で気づかれにくい段階 治療法 禁煙や減塩、運動などの生活習慣改善と、必要に応じた薬物治療が行われる 注意点 初期でも放置せず、早めの対策が進行を防ぐ重要なポイント (文献11) Ⅰ度は閉塞性動脈硬化症の初期段階で、足先に冷たさや軽いしびれを感じる状態です。しびれや冷えは血管の内腔が少し狭くなり、血液の流れが悪化しているサインです。 歩行障害はないものの、足の皮膚が乾燥したり、爪の伸びが遅くなったりするケースもあり、血流の低下が進んでいる状態です。この段階で異変に気づければ、進行を防げます。 少しでも違和感を覚えたら、まずは循環器内科などでチェックを受けることをおすすめします。 Ⅰ度の治療法 項目 内容 治療の目的 動脈硬化の進行抑制と将来的な重症化の予防 治療の基本方針 生活習慣の改善と予防的薬物療法の併用 生活習慣の見直し 禁煙の徹底、適度な有酸素運動、減塩・低脂質の食事 薬物療法(予防目的) 抗血小板薬による血栓予防、スタチンによる脂質管理、ARB/ACE阻害薬による血管保護 生活習慣病の管理 糖尿病、高血圧、脂質異常症の安定化と定期的な内科受診 Ⅰ度の特徴 歩行時の違和感や強い症状がなく、検査で血流低下を指摘されることが多い段階 発見のきっかけ 健康診断や動脈硬化検査中の偶発的な発見 Ⅰ度の段階では、生活習慣の見直しと薬物療法が中心です。禁煙や塩分・脂質の摂取制限、適度な運動を通じて血管への負担を減らします。 血液の流れを良くする抗血小板薬や、血圧・コレステロールを下げる薬も併用されることがあります。自覚症状が軽いからといって油断せず、医師の指導のもとで早めに予防策を始めることが大切です。 Ⅱ度|長距離が歩けない 項目 内容 症状の特徴 歩行中にふくらはぎや太ももに違和感・だるさが出る間欠性跛行 具体的な状態 一定の距離を歩いた後に違和感やしびれが出て、立ち止まって休むと軽減する状態 歩行距離の変化 歩ける距離が徐々に短くなり、途中で休憩が必要になる状態 その他の症状 足の冷感やしびれの頻度や強さが増し、足の脈が弱くなるか触れなくなる状態 診断の手がかり 違和感が出る歩行距離の短縮と間欠性跛行の出現 重症度の目安 歩行可能距離によって進行度を評価する段階 治療法 生活習慣の見直し、有酸素運動を取り入れた運動療法、血流改善を目的とした薬物療法、必要に応じたカテーテル治療 (文献11) Ⅱ度では、一定の距離を歩くとふくらはぎにだるさやしびれが出て、立ち止まると症状が和らぐ間欠跛行が現れます。この状態は、運動に伴う酸素不足が足の筋肉に起きているためで、足の動脈が狭くなっている証拠です。 Ⅱ度の症状では、日常生活に支障が出始め、買い物や散歩など、歩くことが負担に感じる場面が多くなります。血流障害はまだ一定の回復が見込める段階であり、適切な対処により改善が期待できる状態です。 以下の記事では、間欠跛行について詳しく解説しています。 Ⅱ度の治療法 項目 内容 治療の目的 違和感の軽減、歩行距離の延長、重症化の防止、生活の質の維持、心血管疾患のリスク低減 治療の基本方針 生活習慣の改善を土台とした多角的な治療アプローチ 生活習慣の改善 禁煙の徹底、減塩・低脂質・糖質管理の食事、継続可能な有酸素運動の実施 歩行療法の導入 違和感が出たら休み、治ったら再開する反復歩行による血流改善 薬物療法 抗血小板薬による血栓予防、血管拡張薬・血流改善薬による間欠性跛行の軽減 血管内治療(必要時) バルーンによる血管拡張、ステント留置による血流確保と再狭窄防止 重要なポイント 医師との連携による個別治療計画の作成と定期的な経過観察の実施 Ⅱ度では、運動療法と薬物療法を組み合わせて治療を行います。ウォーキングにより血流の新たな経路が作られ、足の血行が改善されます。 さらに、抗血小板薬や血管拡張薬を使用し、血液の流れをスムーズに保ちます。あわせて、食事内容の見直しや禁煙、血圧の管理を継続し、症状の悪化を防ぐことが期待されます。 Ⅲ度|安静時に違和感が現れる 項目 内容 症状の特徴 安静時でも足に違和感が出る(とくに夜間や就寝時に強くなる) 違和感が出る部位 足先・かかと・すねなどに、焼けるような・締めつけるような違和感がある 姿勢による変化 足を下げる(椅子に座る、ベッドから足を下ろす)と違和感が軽くなる 冷感・しびれ 足の冷たさやしびれが強くなり、常に感じるようになる 皮膚の変化 皮膚が白っぽく乾燥し光沢が出る、毛が抜ける、爪が厚くなる・変形する 傷の治りにくさ 小さな傷が治りにくく、悪化すると潰瘍や壊死の原因になる可能性がある 足の脈拍 足の動脈の脈が弱くなる、またはまったく触れなくなる 病気の段階 重症な状態(重症下肢虚血:CLI)であり、早急な治療が必要 治療の目的 違和感の軽減・血流の改善・足の切断を避けるための救肢治療 (文献11) Ⅲ度になると、歩いていなくても足先にしびれや冷感、ヒリヒリした違和感が続くようになります。Ⅲ度では血流が極度に悪化している状態であり、安静にしていても筋肉や皮膚に必要な酸素が届かなくなっているサインです。 Ⅲ度の状態は非常に重篤であり、安静にしていても足に強い違和感が現れる段階です。下肢の血流が著しく低下し、組織が酸素不足に陥っている状態といえます。 放置すれば皮膚潰瘍や壊死に進行し、足の切断に至る可能性もあります。そのため、医療機関の早急な受診が必要です。 Ⅲ度の治療法 項目 内容 治療の目標 足の違和感を和げて血流を改善し、足の切断を防ぎながら、生活の質を保ち、心筋梗塞や脳卒中も予防する 生活習慣の改善 血圧・血糖・コレステロールの管理。禁煙、バランスの取れた食事、体重管理の徹底 薬物療法 血液をさらさらにする薬や血管拡張薬の使用を行いつつ、必要に応じた鎮痛薬の併用 血行再建治療 カテーテル治療による血管の拡張や、バイパス手術による血流の確保 疼痛管理・QOL維持 足の位置調整、皮膚・爪のケア、鎮痛薬の活用による不快感の軽減と生活の質の向上 Ⅲ度では、薬や運動だけでの対応が難しくなることも多く、血管の再建が必要となる場合があります。カテーテルを用いた血管拡張術(バルーン療法やステント留置)や、バイパス手術が検討される状態です。同時に、皮膚の状態によっては創傷ケアや感染管理も併せて行います。 放置すれば症状が急激に悪化するため、速やかに必要な治療方針を決めることが重要な段階です。 Ⅳ度|皮膚に潰瘍ができたり足先が腐ったりする 分類 解説 皮膚潰瘍 足先やかかと、指先などに潰瘍ができる状態であり、血流障害により小さな傷も治りにくく、感染を起こしやすい 壊疽(腐敗) 足先や指先が黒色や紫色に変色し、組織が死滅していく状態であり、酸素と血液の供給が完全に途絶える 激しい安静時痛 安静にしていても激しい違和感が続き、鎮痛薬でも効果が乏しいことがある 感染症の合併 潰瘍や壊疽部位から細菌感染が広がり、蜂窩織炎や敗血症など全身性の重篤な感染症を引き起こす危険がある 冷感と感覚麻痺 足が極端に冷たくなり、感覚が鈍くなるか麻痺する状態。神経への血流も止まっている可能性が高い 脈拍の消失 足の動脈の脈拍が触れず、血流がほぼ完全に停止している状態 重要なポイント 足の切断を回避が困難な段階であり、命に関わる可能性もあるため、速やかな診断と緊急治療が必要 (文献11) 閉塞性動脈硬化症のⅣ度は末期の状態で、足に潰瘍や壊死が起こり、感染や足の切断の危険が非常に高まります。足の変色や治りにくい傷などが見られる場合は、すぐに医療機関を受診してください。 Ⅳ度の治療法 治療項目 内容 治療の目的 感染の制御、違和感の緩和、血流改善による救肢、QOLと生命予後の改善 血流の回復(カテーテル治療) 動脈を内側から広げて血流を回復する治療法 血流の回復(バイパス手術) 血流の新しい通り道を外科的に作る手術 感染の管理と創傷 抗生物質の投与、壊死組織の除去(デブリードマン)、創傷管理(陰圧療法など)、フットケア 切断(最終手段) 血流改善や感染制御が困難な場合に実施され、足趾や膝下など、可能な限り小範囲に留める 再生医療(一部施設) 幹細胞移植などで血管新生を促す治療 重要なポイント 救肢には早期対応と多職種による集学的治療が不可欠 Ⅳ度の治療では、壊死した組織を除去し、足をできる限り温存するために血行再建術(カテーテル治療やバイパス手術)が行われます。 血流の改善が困難な場合や感染が重度な場合には、足指や膝下の一部を切断する処置が必要になるケースもあります。切断は壊死や感染の拡大を防ぎ、命を守るための最終手段です。 近年では、再生医療を活用した新たな治療法も注目されています。自家幹細胞の移植によって血流の回復を図る方法で、重度のCLI(重症下肢虚血)患者に対し、標準治療が困難な場合に選択肢として検討されます。再生医療の実施には専門的な判断が必要なため、対応している医療機関で医師とよく相談した上で進めることが大切です。 以下の記事では、リペアセルクリニックの再生医療について詳しく解説しております。 閉塞性動脈硬化症のセルフチェックで早めの受診を心がけよう 閉塞性動脈硬化症は、足の冷感や違和感など軽い症状から始まり、放置すると歩行障害や壊死に進行する可能性があります。初期の段階で気づき、適切に対処すれば進行を防止できます。 セルフチェックで1つでも当てはまる項目がある方、または足の異変を感じている方は、早めに医療機関で血管の状態を確認しましょう。 当院リペアセルクリニックでは、再生医療を用いた閉塞性動脈硬化症の治療を行っております。症状にお悩みの方は、「メール相談」や「オンラインカウンセリング」を通じて、お気軽にご相談ください。 参考資料 (文献1) 一般社団法人日本動脈硬化学会「禁煙は動脈硬化予防の第一歩」一般社団法人日本動脈硬化学会 https://www.j-athero.org/jp/general/kinen/#:~:text=%E5%96%AB%E7%85%99%E3%81%A8%E5%8B%95%E8%84%88%E7%A1%AC%E5%8C%96%E6%80%A7,%E6%98%8E%E3%82%89%E3%81%8B%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(最終アクセス:2025年5月11日) (文献2) 「喫煙と動脈硬化の関係」『一般財団法人 京浜保健衛生協会』, pp.1-4 https://www.keihin.or.jp/wpkeihin/wp-content/uploads/2023/08/2023%E5%B9%B48%E6%9C%88%E4%BF%9D%E5%81%A5%E5%B8%AB%E4%BE%BF%E3%82%8A.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献3) 岡村 智教.「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」, pp.1-214, 2022年 https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/jas_gl2022_3_230210.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献4) 磯部 光章ほか.「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」『日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン』, pp.1-22, 2018年 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000202651.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献5) 「閉塞性動脈硬化症(ASO:Arterio-Sclerosis Obliterans)」, pp.1-15, https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/doumyakukoukashou.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献6) 尾崎 浩一.「閉塞性動脈硬化症感受性遺伝子の同定と機能解析 」, pp.1-3 https://www.astellas-foundation.or.jp/pdf/research/23/h23_10_ozaki.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献7) 高橋 一広.「エストロゲンと血管」『日本生殖内分泌学会雑誌』, pp.1-5, 2013年 https://jsre.umin.jp/13_18kan/7-review2.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献8) 赤松 眞ほか .「血液透析患者における閉塞性動脈硬化症の診断と治療」, pp.1-8, https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/18-3/18-3_9.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献9) 新城 孝道.「透析患者の下肢閉塞性動脈硬化症に対する薬物療法とフットケア」, pp.1-7, 2004年 https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/20-1/20-1_5.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献10) 植山さゆりほか.「下肢閉塞性動脈硬化症バイパス手術後の 二人暮らし高齢男性患者と配偶者の在宅での日常生活体験」『老年看護学』25(2), pp.1-9, 2021年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jagn/25/2/25_89/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月11日) (文献11) 東 信良.「2022 年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン」『日本循環器学会 / 日本血管外科学会合同ガイドライン』, pp.1-160, 2022年 https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Azuma.pdf(最終アクセス:2025年5月11日)
2025.05.30