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「タチの悪い乳がんって言われたけど、どういう意味なんだろう」「治るのかどうかが心配」と不安になっていませんか。 医師の一言がずっと引っかかり、ネットで調べている方も多いかもしれません。 タチの悪い乳がんは「トリプルネガティブ型」の乳がんを指していることが多いと考えられます。 ”タチの悪い”と表現されるものの、治療法がないわけではありません。この記事では、タチの悪い乳がんの治療法や再発のリスク、手術後の生活などを解説します。 病気への不安が和らぎ、今後の生活をイメージするきっかけとなれば幸いです。 タチの悪い乳がんとされる「トリプルネガティブ型」とは 「タチが悪い」と言われると、治らないのではと怖くなりますよね。 正式な医学用語では「タチが悪い」といった表現は使いませんが、実際に“治りにくいがん”として扱われるタイプの乳がんはあります。それが「トリプルネガティブ乳がん」です。 これは、他のタイプと比べて再発しやすく、生存率が低い傾向にあるため「タチが悪い」と感じる方が多いのです。ただし、だからといって治療ができないわけではありません。早期発見や治療の進歩によって、治療の道はしっかりあります。 \まずは当院にお問い合わせください/ 乳がんのサブタイプ ここでは、トリプルネガティブを含む乳がんの「サブタイプ」について説明します。 サブタイプとは乳がんの性質による分類 がんの分類といえば「ステージⅠ」や「ステージⅡ」などの言葉を聞いたことがある方も多いかもしれません。これはがんがどこまで広がっているか、他の場所への転移があるかといった進行度の話です。 一方、「サブタイプ」とはがんの性質による分類のことを指します。 乳がんは「ホルモンが関係しているのか」や「HER2というたんぱく質があるかどうか」で分けられます。サブタイプごとに効果的な治療法が変わってくるため、最初の診断でしっかり見極めることが大切です。(文献1) 乳がんのサブタイプ一覧 以下が代表的な乳がんのサブタイプです。 サブタイプ分類 ホルモン受容体 HER2 (がん細胞の増殖に関係するたんぱく質) ER (エストロゲン受容体) PgR (プロゲステロン受容体) ルミナルA型 陽性 陽性 陰性 ルミナルB型 (HER2陰性) 陽性 弱陽性・陰性 陰性 ルミナルB型 (HER2陽性) 陽性 陽性・陰性 陽性 HER2型 陰性 陰性 陽性 トリプルネガティブ 陰性 陰性 陰性 ER、PgRは女性ホルモンとの関係をあらわし、HER2は細胞の増殖に関わるタンパク質との関係をあらわします。 トリプルネガティブとは、このER、PgR、HER2がすべて「陰性」である乳がんのことです。 「ネガティブ」と聞くと「よくないこと」というイメージを持つかもしれませんが、単に「検査結果が陰性」という医学的な意味で使われています。(文献2) 【サブタイプ別】乳がんの再発率・生存率 タチの悪い乳がんと言われると、再発のしやすさや今後がんは治るのか、といったことが心配になりますよね。 ここでは、乳がんのサブタイプごとの再発しやすさや、生存率について解説します。 サブタイプ別の再発率 再発とは、治療後に見えなくなったがんが再びあらわれることです。また、治療から5年以内に再発しない人の割合を「5年無再発率」として示すこともあります。 乳がんのサブタイプによって、再発のしやすさはさまざまです。5年無再発率がもっとも高いのは97.2%のルミナルA型、反対にもっとも低いのは79.3%のトリプルネガティブという報告があります。(文献3) 同じ「乳がん」でも、性質によって経過は大きく異なるため、サブタイプに応じた治療と経過観察が大切です。 サブタイプ別の生存率 「5年生存率」とは、診断から5年後に生きている人の割合のことです。再発率と同じく、乳がんのサブタイプごとに、生存率には違いがあります。 たとえば、ルミナルA型は5年生存率が99.4%と高く、10年後でも98.0%とのデータがあります。 一方で、トリプルネガティブは、5年生存率が81.6%、10年生存率が78.3%と、他のサブタイプよりもやや低い傾向です。(文献3) この違いは、使える薬や治療法の選択肢がサブタイプごとに異なるためだと考えられています。治療法が限られるトリプルネガティブは、化学療法が中心となるため、予後が厳しいと感じることがあるかもしれません。 【タチの悪い乳がん】トリプルネガティブ乳がんの治療は「化学療法」 ここでは、トリプルネガティブ乳がんに使われる「化学療法」について解説します。 乳がんの化学療法の特徴 化学療法の副作用 化学療法の特徴を知り、治療に備えましょう。 乳がんの化学療法の特徴 化学療法とは、いわゆる「抗がん剤治療」のことを指します。 サブタイプ別の治療方法は、以下の表の通りです。 サブタイプ分類 選択される薬物療法 ルミナルA型 ホルモン療法、化学療法 ルミナルB型(HER2陰性) ホルモン療法、化学療法 ルミナルB型(HER2陽性) ホルモン療法、化学療法、抗HER2療法 HER2型 化学療法、抗HER2療法 トリプルネガティブ 化学療法 ホルモン療法やHER2療法が効かないトリプルネガティブ乳がんは、化学療法が主な治療法です。 化学療法を行う目的やタイミングは、以下のとおりです。 手術の前にがんを小さくしてから切除しやすくする 手術のあとに、体内に残ったがん細胞をなくす 手術が難しい進行がんや、再発したがんに対して行う 手術前の薬の効き方を見て、手術後の薬を同じものにするか別の薬に変えるかを決めることがあります。(文献1) 化学療法の副作用 化学療法には、次のような副作用があります。(文献4)(文献5) 心筋障害 骨髄抑制 吐き気・嘔吐 食欲不振 脱毛 倦怠感 副作用には個人差があり、薬の種類によっても違います。つらさを感じたときは、我慢せず医師や看護師に相談しましょう。 乳がんの手術と後遺症の特徴 乳がんの手術をするかもしれない、と思うと「どんな手術なのか」「後遺症はあるのか」といった心配が出てきますよね。 ここからは、以下の項目に沿って解説します。 乳がん手術の特徴 乳がん手術の後遺症 ひとつずつみていきましょう。 乳がん手術の特徴 乳がんの手術は、以下の二つに分けられます。 腫瘍と周りの乳腺を切除する部分切除 乳房全体を切除する全摘術または乳頭乳輪温存乳房切除術 乳がんは進行すると乳房の中に広がりやすいのが特徴です。そのため、がんの範囲が広いと乳房全体を切除する(全摘)選択をするケースもあります。 また、わきの下のリンパ節にがんが転移していれば、リンパ節を含めた広い部分の切除を検討します。(文献6) 乳がん手術の後遺症 乳がんの手術で起こりやすい後遺症には、次のようなものがあります。 リンパ浮腫:腕がむくんで重い、だるいような感覚 乳房切除後疼痛症候群:胸の奥にチクチクした痛みや違和感が残る状態 リンパ浮腫は、手術でリンパ節を切除したことによって起こります。予防には「肌を清潔に保つ」「きつい下着や袖を避ける」「適度に運動する」「重たい荷物を持たない」などが大切です。 もしむくみや動かしづらさを感じたら、リハビリで改善をめざしていきます。重症化すると日常生活に支障が出ることもあるため、腕に違和感があれば早めに医療機関に相談しましょう。(文献7) 乳房切除後疼痛症候群については、こちらの記事も参考にしてください。 乳がんの治療後、痛みなどの後遺症に悩まされ、なかなか改善が見られないこともあります。こうした痛みには、従来の治療では限界があるとされてきました。 その一方で、再生医療という新しい選択肢も注目されています。とくに「幹細胞治療」は、ダメージを受けた神経の修復が期待される方法で、神経障害に対して新たな可能性を広げています。 当院では、この幹細胞治療を導入し、乳がん治療後のつらい痛みでお困りの方にも対応してきました。症状や状態に応じた個別の治療提案が可能ですので、気になる方はぜひご相談ください。 タチの悪い乳がんでも治療の余地はある 「タチの悪い乳がん」と言われると不安になりますよね。 実際には、これはトリプルネガティブ乳がんのことを指している可能性が高く、他のタイプに比べて再発や進行のリスクが高い面はあります。 しかし、治療法がないわけではありません。化学療法を中心に、手術や再発予防のケアまで、できることはたくさんあります。不安をひとりで抱え込まず、信頼できる医療チームと一緒に進んでいくことが大切です。 また、当院では乳がん治療の後遺症による痛みのご相談も受け付けています。気になる方は、「メール相談」または「オンラインカウンセリング」まで、気軽にご相談ください。 \まずは当院にお問い合わせください/ タチの悪い乳がんに関するよくある質問 乳癌トリプルネガティブの余命は何年ですか? トリプルネガティブ乳がんは、治療が難しいとされるタイプですが、余命は個人によって異なります。 がんの広がり方や、再発があるかどうか、治療にどのように反応するかによって大きく異なります。統計的に生存率がやや低めとのデータはありますが、近年では治療成績も向上しています。 「このがんだから何年」と決めつけず、できる治療を前向きに続けていくことが大切です。 乳がんの治療後はすぐに仕事に復帰できますか? 治療後は、体力が落ちていたり、だるさが残ったりします。 すぐにフルタイムで働くのは難しいケースもあるため、主治医と相談しながら、在宅勤務や時短勤務など、無理のない働き方を選ぶと良いでしょう。焦らず、少しずつ日常を取り戻していけるようサポートを受けてください。 参考文献 (文献1)国立研究開発法人国立がん研究センター「乳がん 治療」がん情報サービス2024年10月22日https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/treatment.html (文献2)一般社団法人日本乳癌学会「Q27 病理検査でどのようなことがわかりますか」患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版https://jbcs.xsrv.jp/guideline/p2023/gindex/40-2/q27/ (文献3)医療法人那覇西会「2023年」那覇西クリニックホームページhttps://www.naha-nishi-clinic.or.jp/about/achievement/1705018379/ (文献4)浅野雅嘉「乳がんの薬物療法」『月刊地域医学』Vol.33 No.1,pp.44-47,2019https://www.jstage.jst.go.jp/article/chiikiigaku/33/1/33_44/_pdf/-char/ja (文献5)独立行政法人医薬品医療機器総合機構「エピルビシン塩酸塩注射液10mg/5mL「サワイ」/エピルビシン塩酸塩注射液50mg/25mL「サワイ」」2023年10月https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/300119_4235404A1067_1_04#HDR_Warnings (文献6)一般社団法人日本乳癌学会「Q21 どのような場合に腋窩リンパ節郭清が必要でしょうか」患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版https://jbcs.xsrv.jp/guideline/p2023/gindex/40-2/q21/ (文献7)独立行政法人国立病院機構四国がんセンター「乳房の手術を受けられるあなたへ(乳房温存術・乳房切除術)」独立行政法人国立病院機構四国がんセンターホームページhttps://shikoku-cc.hosp.go.jp/hospital/support/clinical_path/mammary_gland/data/manma_kan_231221.pdf
2025.04.30 -
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「乳がんはセルフチェックで見つけられるのかな?」 「どこをどう触れば良いの?」 このような疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。 乳がんは、早期に見つけることで治療の選択肢が広がり、からだへの負担も軽くなる可能性があります。 乳房の異変に気づいたきっかけの多くは「セルフチェック」であるともいう報告もあり、日ごろから自分のからだに目を向けることが早期発見につながります。(文献1) とはいえ「どうチェックすれば良いのか」「乳がんのしこりはどんな感触なのか」と、わからないことも多いですよね。 本記事では、乳がんセルフチェックのやり方やしこりの特徴などをくわしく紹介します。 乳がんの罹患率が高まりはじめる30代以降の女性にとって、正しい方法を知るきっかけとなれば幸いです。(文献2) 乳がんにおけるセルフチェックのやり方 乳がんのセルフチェックは、以下のような方法で行います。 鏡の前で「見て」チェック 指の腹で「触って」チェック 「乳首の変化」をチェック 「わきの下」をチェック どれも特別な道具は必要なく、少しの時間で始められるやり方です。 それぞれのチェック方法を、具体的に説明します。 鏡の前で「見て」チェック 鏡の前に立ち、両腕を自然に下ろして乳房をじっくり観察します。 腕を上げたり、腰に手を当てて前かがみになったりしてみて、以下のポイントで乳房の状態を確かめましょう。 赤みやただれがないか 色が変わっている部分はないか 乳房の形に変化がないか ひきつれやくぼみ、ふくらみがないか 見た目の変化は、小さな異変に自分で気づくきっかけになります。 少しでも気になる違和感があれば、早めに受診しましょう。 指の腹で「触って」チェック 指の腹を使って乳房をやさしく触りながら確認します。 項目 くわしい説明 触り方 4本指で円を描くように触る 軽くなでる程度の強さで行う 触る場所 全体的にまんべんなく確かめる チェックポイント 違和感がないか しこりのような硬い部分がないか お風呂やシャワー中に濡れた手や石けんを使用すると、指の腹が肌の上をすべりやすくスムーズにまんべんなくチェックできます。 入浴タイムは、セルフチェックを習慣にするのにおすすめのタイミングです。 「乳首の変化」をチェック 乳首周りの変化にも注目しましょう。 乳首に左右差やひきつれ、ただれがないかを目で見て確認します。 乳首を軽くつまんでみて、分泌物が出ないかもチェックしてください。 血の混じった分泌物や異常な分泌物があれば、すぐに専門医へ相談しましょう。 「わきの下」をチェック わきの下も忘れずにチェックしましょう。 乳がんは、わきの下のリンパ節に影響を与えることがあるためです。 反対側の手でわきの下をやさしく触り、しこりや腫れがないかを調べます。 違和感やふくらみを感じた場合は、すぐに医師に相談してください。 \まずは当院にお問い合わせください/ 乳がんにおけるしこりの特徴 乳がんのしこりは、以下のような特徴があげられます。(文献1) 石のように硬い 根が張ったように動かない 豆のようないびつな形である ただし、医師であっても触診のみでがんかどうかを判断するのは困難です。 そのため、これまでなかったしこりに気づいた時点で放置せず、専門家に相談しましょう。 乳がんがもっともできやすいのは「外側上部分」 乳がんがもっとも発症しやすい部位は、外側上部と言われています。(文献3) 乳房の外側上部は胸の前面やわきの近くに位置しており、しこりや異常が気づきやすい位置でもあります。 ただし、乳がんは乳腺のある場所ならどこにでも発生する可能性があるため、上部のみのセルフチェックでは不十分です。 セルフチェックの際は、乳房全体をまんべんなく触りつつ、外側上部を念入りに確認するようにしてみてください。 セルフチェックで乳がんを早期発見するポイント 乳がんを早期に見つけるポイントは、以下のとおりです。 月1回の月経後のタイミングで行う ブレスト・アウェアネスと身につける 自分の乳房を知ることで、小さな変化にも気づきやすくなります。 くわしく見ていきましょう。 月1回の月経後のタイミングで行う 月経後はホルモンの影響で乳房がやわらかくなり、しこりや変化を確かめやすくなる時期です。 月に1回、自分の乳房に触れる習慣をもつことで、普段との違いに気づきやすくなります。 ただし「毎月1日」と日付で決めてしまうと、月経周期のズレによって乳房の状態が変わり、チェックの精度が下がることがあります。 そのため「月経後1週間」を目安にタイミングを決めておくと、毎回近い状態でセルフチェックができ、より正確に判断できるでしょう。 ブレスト・アウェアネスを身につける ブレスト・アウェアネスとは「自分の乳房に意識を向けて日常生活を送ること」を意味する、乳がん予防の新しい考え方です。(文献3) 従来の「しこりを探す自己検診」とは違い、より自然に自分の乳房の異常に気づくことを大切にしています。 実践のポイントは、次の4つです。(文献4) 自分の乳房の状態を知っておく(大きさや硬さ、左右差など) 日々の変化に目を向ける(へこみや赤み、分泌物など) 少しでも気になる変化を感じたら、すぐに医師に相談する 40歳を過ぎたら、2年に1回の乳がん検診を受ける ブレスト・アウェアネスは、検診だけに頼らず自分のからだを日常的に見守るためのセルフケアです。 検診の対象ではない方にも役立つため、若い世代を含めたすべての女性にとって大切な習慣といえるでしょう。 乳がんのセルフチェックで気になる症状があったときの対処法 セルフチェックで「しこりのようなものがある」「乳首から分泌物が出る」「皮膚にひきつれがある」といった変化に気づいた場合は、できるだけ早く乳腺外来や婦人科を受診しましょう。 良性のしこりやホルモンの影響による一時的な変化である場合も多いため、自分で判断せず、検査で確かめることが大切です。 受診の際は、変化に気づいた日や場所、くわしい症状などをメモしておくと診察がスムーズです。 「そのうち検診があるから」と先延ばしにせず、早めの行動が早期発見・早期治療につながります。 以下の記事では、乳がんの治療法やステージ分類について説明しています。 まとめ|セルフチェックで乳がんを疑う際は迷わず医療機関を受診しましょう 乳がんのセルフチェックは、自分のからだを守る大切な習慣です。 月に1回、月経後のタイミングでチェックし、日ごろから自分の乳房の状態を意識する「ブレスト・アウェアネス」を身につけておくことで、わずかな変化にも気づきやすくなります。 しこりや皮膚のひきつれ、乳首からの分泌物など、気になる症状があれば「大したことない」と自己判断せず、早めに乳腺外来をはじめとした専門医を受診しましょう。 当院「リペアセルクリニック」では、乳がん治療後の後遺症に対して、幹細胞治療を提供しています。乳がんについて気になる点がある方は、メール相談またはオンラインカウンセリングまで気軽にご連絡ください。 \まずは当院にお問い合わせください/ 乳がんのセルフチェックについてよくある質問 乳がんのセルフチェックのやりすぎはよくありませんか? 乳がんのセルフチェックは、基本的に月1回程度が目安です。 毎日のように行うと、小さな変化に過敏になりすぎて、不安が強くなることがあります。 大切なのは、自分の乳房の通常状態を知ることです。 月経後1週間ほど経過した、乳房がやわらかくなっている時期にチェックしてみましょう。 授乳中や妊娠中でも乳がんのセルフチェックはできますか? 授乳中や妊娠中でもセルフチェックは可能です。 ただし、授乳中や妊娠中はホルモンの影響で乳腺が発達し、乳房が張ったり硬く感じやすかったりするため、通常よりもしこりがわかりづらくなる可能性があります。 いつもと違う変化があるかどうかを意識して、気になる点があれば医師に相談しましょう。 乳がんのセルフチェックにおけるひきつれとは、どんな感覚ですか? 「ひきつれ」とは、乳房の皮膚や乳首が引っぱられたようにくぼんで見える、すじ状に引っぱられている状態です。 ひきつれによって皮膚のなめらかさが失われたり、動きに左右差が出たりする場合もあります。 鏡の前で腕を上げたり動かしたりして、左右差や皮膚の変化がないか確かめましょう。 少しでも違和感を覚えたら、早めに専門医の診察を受けてください。 参考文献 (文献1)がん情報サービスhttps://ganjoho.jp/public/cancer/breast/index.html (文献2)乳房:[国立がん研究センター がん統計]|がん情報サービスhttps://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/14_breast.html (文献3)乳がんの基礎知識|東京医科大学病院https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/cancer/breast/knowledge.html (文献4)乳癌診療ガイドライン2022年版|日本乳癌学会https://jbcs.xsrv.jp/guideline/2022/k_index/s1/
2025.04.30 -
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乳がんは日本人女性にとって、最も罹患率の高いがんの一つです。その中でも「ステージ3」と診断されると、不安や恐怖を感じる方も多いでしょう。 しかし、医療の進歩により、ステージ3の乳がんでも治療の選択肢は広がり、希望を持って治療に向き合える時代になっています。本記事では、ステージ3の乳がんについて基本的な知識から最新の治療法、心のケアまで、わかりやすく解説します。 乳がんのステージとは 乳がんのステージは、がんの進行度を表す重要な指標です。TNM分類と呼ばれる方法で評価され、腫瘍の大きさ(T)、リンパ節転移の程度(N)、遠隔転移の有無(M)に基づいて判断されます。 ステージ 特徴 0期 がん細胞が乳管内にとどまり、周囲組織への浸潤がない(非浸潤性) Ⅰ期 腫瘍が小さく(2cm以下)、リンパ節転移がない Ⅱ期 腫瘍は2〜5cmで、転移なし。または腋窩リンパ節転移あり Ⅲ期 腫瘍が大きく(5cm超)、または多数のリンパ節転移があるが、遠隔転移はない Ⅳ期 腫瘍の大きさやリンパ節状態にかかわらず、他の臓器への遠隔転移がある (文献1) ステージは治療方針の決定や予後予測において非常に重要な要素となります。 ステージ3の状態 ステージ3の乳がんは、より進行した状態を表し、さらに詳細な分類として3つのサブステージに細分化されます。それぞれの特徴は異なりますが、いずれも局所進行性であり、遠隔転移はまだ認められない段階です。 サブステージ 特徴 ⅢA期 ・腫瘍が5cm以下で、腋窩リンパ節転移の固定または内胸リンパ節転移がある ・腫瘍が5cmを超え、腋窩リンパ節または内胸リンパ節に転移がある ⅢB期 ・腫瘍が皮膚や胸壁に広がっている ・しこりのない炎症性乳がんもこの段階に含まれる ⅢC期 ・腋窩リンパ節と内胸リンパ節両方に転移がある ・鎖骨上にまで及ぶリンパ節転移がある (文献1) この段階では、手術や化学療法、放射線療法などを組み合わせた積極的な治療アプローチが必要となります。 乳がん(ステージ3)の予後について ステージ3の乳がんは進行した状態ですが、適切な治療によって良好な転帰が期待できるケースも少なくありません。治療法の進歩により、以前に比べて予後は改善傾向にあります。 しかし、サブステージや個々の状態によって予後は異なるため、個別の医学的評価が重要です。 生存率のデータの正しい見方 乳がんの生存率は参考情報であり、個人の予後を正確に予測するものではありません。年齢や全身状態、がんの生物学的特性など、さまざまな因子によって大きく左右されます。 「相対生存率」と「実測生存率」の違いも重要です。相対生存率はがん以外の死因を除外して計算され、がんによる影響のみを評価します。一方、実測生存率はすべての死因を含みます。(文献2) 医療情報を理解する際は、どの生存率指標が使われているか確認しましょう。 【最新データ】乳がんの生存率 乳がんの生存率はステージによって大きく異なります。 ステージ 5年相対生存率 ステージ0 100% ステージ1 99.8% ステージ2 95.5% ステージ3 80.7% ステージ4 38.7% (文献3) ステージ0〜2は予後が非常に良好で、とくに早期発見された場合は完全治癒が期待できます。ステージ3でも適切な治療を受ければ、5年生存率は80%以上です。ステージ4では治療の焦点は延命と生活の質の向上に移行します。 ステージ3の乳がんの治療目標 ステージ3の乳がんの治療は以下の目標に焦点を当てます。 腫瘍の縮小:手術実施が困難な大きさの腫瘍を縮小するため、術前化学療法(ネオアジュバント療法)を行う。これにより手術の成功率向上と乳房温存の可能性が高まる。 局所制御:手術で腫瘍とリンパ節転移を完全に除去し、その後の放射線治療で局所再発リスクを低減する。 全身治療:化学療法やホルモン療法、分子標的療法などを組み合わせて、目に見えない微小転移を排除し、遠隔転移の発生を防ぐ。 多角的アプローチにより、ステージ3であっても長期生存と完全寛解の可能性があります。 乳がん(ステージ3)の治療法 ステージ3の乳がんは局所進行性であり、治療には複合的なアプローチが必要です。このステージでは、腫瘍が大きく、リンパ節転移が広範囲に及んでいることが多いため、手術だけでなく、化学療法、放射線療法、および薬物療法を組み合わせた集学的治療が標準となります。 早期の段階よりも積極的な治療計画が必要ですが、適切な治療により良好な治療成績が期待できます。 術前化学療法(ネオアジュバント化学療法) 術前化学療法は、手術前に行う薬物療法で、腫瘍を縮小させることを目的としています。ステージ3の乳がんでは、腫瘍が大きく手術が困難なケースが多いため、術前化学療法によって腫瘍を小さくすることで、手術の実施可能性や乳房温存の可能性が高まるケースが多いでしょう。 術前化学療法への反応性を評価することで、治療効果を早期に判断でき、必要に応じて治療法を調整できるメリットもあります。とくに「病理学的完全奏効(pCR)」が得られた場合は、予後が良好とされています。 薬物療法 ステージ3の乳がんの薬物療法は、がんの生物学的特性に基づいて選択されます。 化学療法:アドリアマイシン系薬剤とタキサン系薬剤の併用が一般的 ホルモン療法:エストロゲン受容体(ER)またはプロゲステロン受容体(PR)陽性の場合に実施 分子標的療法:HER2強陽性の場合はトラスツズマブなどの分子標的薬を使用 これらの治療法は、肉眼では確認できない微小ながん細胞を排除し、再発を防止するために極めて重要です。治療全体の期間は、患者さんの状態や治療に対する反応に応じて調整されます。 手術 ステージ3の乳がんの手術は、腫瘍の状態により以下のいずれかが選択されます。 乳房全切除術:腫瘍と共に乳房全体を摘出する方法で、進行した乳がんでは最も一般的 乳房部分切除術:術前化学療法で腫瘍が十分縮小した場合に検討される また、リンパ節転移の評価のため、手術中のセンチネルリンパ節生検などで腋窩リンパ節にがんが転移していた場合、腋窩リンパ節郭清が行われます。 放射線治療 手術後の放射線治療は、ステージ3の乳がんではほぼ必須の治療です。標準では以下の部位に照射されます。 胸壁全体(手術した胸の範囲) 鎖骨上窩(首の付け根で鎖骨の上の部分) しこりが手術で取り切れていない可能性がある際は、しこりのあった周囲に追加照射します。症状によっては、内胸リンパ節にも照射する場合があります。 放射線治療は通常1日1回、週5回4〜6週間です。近年では、より精密な照射技術により、心臓や肺などの正常組織への影響を最小限に抑えることが可能になっています。(文献4) ステージ3を含む乳がん患者に対するサポート ステージ3のような進行した乳がんの状態で診断された患者さんは、身体的な治療だけでなく、精神的・社会的なサポートも必要とします。包括的なアプローチにより、治療効果の向上だけでなく、患者さんの生活の質も大きく改善が可能です。 適切なサポートシステムの構築は、治療成功のポイントとなります。 心の変化と向き合う 乳がんと診断されると、多くの患者さんは感情の波に直面します。 ショックと不安:診断直後は「これから何が起こるのか」と不確実性に対する強い不安や恐怖を感じるのが一般的 怒りや否定:「なぜ自分が?」との怒りや「何かの間違いではないか」と現実逃避的な感情が生じることもある 悲しみと喪失感:身体の変化や将来の不確実性に対する悲しみを経験する場合がある これらの感情はすべて正常な反応であり、感情を抑え込むのではなく、適切に表現していくと心の回復につながります。さまざまな感情を経験すれば、現実に向き合い、前向きな対処を見つけられるでしょう。 家族・専門家の協力 乳がんの治療過程では、患者さん一人だけで困難に立ち向かうのではなく、周囲の人々のサポートを受けることが重要です。ステージ3のような進行した状態では、長期間にわたる複合的な治療が必要となり、心身への負担も大きくなるため、支援ネットワークの構築が治療成功のポイントとなります。 家族や友人との共有:信頼できる身近な人に自分の気持ちを打ち明けることで、孤独感が軽減され、精神的な支えを得られる。家族も患者の気持ちに寄り添いながら、自身の心身の健康維持が必要 専門家へのアクセス:心理カウンセラーやがん専門医などの専門家に相談することで、専門的な精神的サポートを受けられる。「がん相談支援センター」や「患者会」も有用な社会的資源 多くの医療機関では、精神的、社会的なサポートチームが乳がん治療の一環として組み込まれており、必要に応じて利用できます。 情報を見極める 情報過多の時代において、質の高い情報源の選択が重要です。 信頼できる情報源:国立がん研究センターや日本乳癌学会などの公的機関や専門学会が提供する情報は、科学的根拠に基づいており信頼性が高い 情報の更新:乳がん治療は急速に進歩しているため、最新の情報を得ることが重要 個別化された情報:一般的な情報は参考になるが、最終的には担当医から自分の状態に合わせた具体的な情報を得ることが大切 正確な情報を得ていくと不確実性が減り、前向きに治療を受けようとする気持ちになります。 ステージ3の乳がんでもあなたらしい人生を歩むために ステージ3の乳がんの診断は、人生における大きな試練ですが、多くの患者さんが治療を乗り越え、充実した日々を取り戻しています。治療の過程では、自分のペースを大切にし、無理せず休息をとることも重要です。適切な医学的治療を受けながら、心のケアも怠らず、信頼できる人々のサポートを受け入れましょう。 病気と向き合う日々の中でも、自分らしさを失わないことが大切です。「患者」である前に、あなたは一人の人間です。趣味や楽しみを見つけ、小さな喜びを大切にしながら、自分自身の人生を送っていきましょう。 今この瞬間を生きることで、病気があっても豊かな人生を歩めます。 乳がんでお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」のメール相談やオンラインカウンセリングにてお気軽にお問い合わせください。 \まずは当院にお問い合わせください/ ステージ3の乳がんに関するよくある質問 ステージ3の乳がんの治療期間はどのくらいかかりますか? ステージ3の乳がんの治療は複数の段階に分かれており、全体としては1年前後の期間を要することが一般的です。個々の状況により異なりますが、主な流れと期間の目安は以下の通りです。 診断確定期間:針生検から病理検査、CT・MRIなどの画像診断まで、2週間程度 術前化学療法:ステージ3では腫瘍縮小のため、通常4~6カ月 手術入院:術式により異なるが、1~2週間 放射線治療:1日1回、週5日のペースで4~6週間 術後薬物療法:ホルモン療法や分子標的療法などは、状況により5~10年継続 (文献5)(文献6) ステージ3の乳がんに治療費の補助はありますか? ステージ3の乳がんの治療には高額な医療費がかかりますが、以下のような公的支援制度があります。 高額療養費制度 ・公的医療保険に基づき、1か月の医療費(保険適用分)が一定額(自己負担限度額)を超えた場合、その超過分が払い戻される ・自己負担限度額は年齢や所得によって異なり、事前に「限度額適用認定証」を取得すると窓口での支払いが軽減される 医療費控除 ・年間で支払った医療費が一定額を超えた場合、所得税の還付や住民税の軽減を受けられる ・治療費だけでなく、通院交通費なども対象になる場合がある 傷病手当金 ・健康保険に加入している会社員や公務員が対象で、治療のために仕事を休む場合、給与の一部が補填される 自治体独自の助成制度 ・各自治体が実施する医療費助成制度や生活福祉資金貸付制度などがある がん相談支援センター ・全国のがん診療連携拠点病院に設置されており、治療費や補助制度について無料で相談できる (文献7) 制度を活用すると、乳がん治療による経済的負担を大幅に軽減できます。具体的な手続きについては、加入している保険窓口や自治体に相談することをおすすめします。 ステージ3の乳がんは仕事を続けることはできますか? ステージ3の乳がんでも、多くの患者さんが治療と仕事を両立させています。治療内容や個人の体調、職種によって調整は必要ですが、工夫次第で継続可能です。 職場との早期相談が重要で、時短勤務やフレックスタイム、テレワークなどの柔軟な勤務形態を活用すると良いでしょう。通院スケジュールに合わせた勤務調整も効果的です。治療中は副作用による体調変化があるため、無理をせず体調に応じて働くことが大切です。 必要に応じて産業医や医療機関のソーシャルワーカーに相談するなど、サポートを受けながら社会とのつながりを維持していくと、精神面でも安定するでしょう。 参考文献 文献1 中外製薬「乳がんのステージ分類って?」おしえて乳がんのコト、2024年12月12日 https://oshiete-gan.jp/breast/diagnosis/stages/detail.html(最終アクセス:2025年4月13日) 文献2 国立研究開発法人国立がん研究センター「乳がんについて」がん情報サービス https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/print.html#blockskip(最終アクセス:2025年4月13日) 文献3 国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 がん登録センター 「院内がん登録 2013-2014年5年生存率集計 」2021年 https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/hosp_c/hosp_c_reg_surv/pdf/hosp_c_reg_surv_2013-2014.pdf(最終アクセス:2025年4月13日) 文献4 国立研究開発法人国立がん研究センター「乳がん 治療」がん情報サービス https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/treatment.html#blockskip(最終アクセス:2025年4月13日) 文献5 横浜市立みなと赤十字病院 ブレストセンター「治療にかかる期間」横浜市立みなと赤十字病院ホームページ https://www.yokohama.jrc.or.jp/breast-surgery/breast-info/treatment/summary-02.html(最終アクセス:2025年4月13日) 文献6 一般社団法人日本乳癌学会「Q32 ホルモン療法(内分泌療法)は,どのくらいの期間続けたらよいのでしょうか」患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版 https://jbcs.xsrv.jp/guideline/p2023/gindex/40-2/q32/(最終アクセス:2025年4月13日) 文献7 一般社団法人日本乳癌学会「Q13 乳がん治療に際して受けられる経済面や生活面での支援制度はありますか」患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版 https://jbcs.xsrv.jp/guideline/p2023/gindex/002-2/q13/(最終アクセス:2025年4月13日)
2025.04.30 -
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コロコロした便が続いていて「これって大腸がんの兆候?」と心配していませんか。 忙しい日常では病院に行く時間を確保しづらく、体調の悩みを後回しにしがちです。しかし、この症状が長引く背後には、なんらかの異常が隠れているかもしれません。 そこで本記事では、「もしかして大腸がん?」と心配を抱える方に向け、コロコロ便の原因から大腸がんの初期症状、そして検査や予防法まで網羅的に解説します。 前もって正しい知識を持つことで、必要以上に怖がらずに済むこともあれば「早めに検査しておこう」と行動を促すきっかけになるかもしれません。 ぜひ最後まで読み進めてください。 コロコロ便とは?どのような原因で起きるのか コロコロ便とは、小さな硬い塊状の便(ウサギの糞のような形状)を指します。腸内で便の水分が過剰に吸収されると硬く細切れになり、コロコロ便が生じます。 水分摂取不足や食物繊維不足、運動不足などで腸の蠕動(ぜんどう)運動が低下し便が長く留まると、必要以上に水分が吸収されて便が硬くなるため、生活習慣の乱れがコロコロ便の主な原因になります。 一方で、過度な緊張やストレスによる自律神経の乱れも腸の働きを弱め、便を硬くする要因となり得ます。(文献1)コロコロ便自体は便秘の一症状としてよくみられ、必ずしも大腸がんを意味するものではありません。 ただし、場合によっては過敏性腸症候群や大腸がんなどの疾患が背景にあることも報告されています。 大腸がんは早期にはほとんど自覚症状がありませんが、進行すると下痢や便秘を繰り返したり便が細くなる、血便が出現するなどなんらかの症状が現れることがあります。 しかし初期の大腸がんは無症状のことが多いため、コロコロ便だけで直ちに大腸がんを疑うことはできません。 他に血液が混じる、体重減少や腹痛を伴うなど明らかな異常がない限り、コロコロ便の多くは生活習慣の見直しで改善可能ですが、コロコロ便が長期間続く場合や便に血が付着する場合は念のため、医療機関で検査を受けることをおすすめします。(文献2) コロコロ便の原因と大腸がんの関係性 大腸がんに特徴的な症状として、便に血が混じる(血便)ことや便の表面に血が付着することがよく挙げられます。また腫瘍からの慢性的な出血により貧血(めまいなど)が起こることもあります。 このほか排便習慣の変化(下痢と便秘を繰り返す)、便が細くなる(鉛筆のような細い便)、残便感(出し切れていない感じ)、腹部の張りや痛みなどさまざまな症状が現れます。 がんが進行して腸管が狭くなると便が出にくくなり腹痛や嘔吐を伴うこともあります。 特に血便や便が細くなる症状は比較的頻繁にみられますが、これらは痔などの良性疾患でも起こり得るため自己判断は禁物です。少しでも気になる症状があれば早めに消化器科などを受診し、原因を調べてもらうことが大切です。(文献3) 大腸がんの症状と便の関係について 実は、大腸がんは初期段階ではほとんど症状がありません。そのため、コロコロ便だけでなく、便秘や便の形や色に違和感を感じたり、血が混じっていたりなどこうした変化が見られても、よほど意識していないと単なる食生活の乱れとして見過ごしがちです。 しかし、がんが進行して腸管が狭くなるほど、便は通りにくくなり、細くなったり詰まりやすくなったりします。(文献3) 便秘がちになったかと思えば急に下痢をするなど、排便リズムが大きく崩れる場合は要注意です。 加えて、腫瘍から出血している場合は便の表面に赤い線が入ったり、トイレの水が血で赤く染まることもありますが、切れ痔などが原因で血便が出ることもあるため、自己判断だけでは確定できません。 便が固くコロコロとしていると、肛門に負担がかかって痔を引き起こすケースもありますので、「血が出た=即がん」とは限りません。 大事なのは、普段との違いに気づいたときに早めに専門家へ相談することです。とくに、大腸がんは進行すると貧血や体重減少、腹痛、嘔吐などの症状を伴う可能性もあり、こうした変化が複数重なっている場合は放置せず検査を受けることをおすすめします。 大腸がんの検査方法・種類について まず、大腸がんが疑われる際に一般的なのは「便潜血検査」と呼ばれる検査方法です。市町村などが実施する検診で使われることが多く、便の中に血液が混じっていないかを調べるシンプルな仕組みになっています。結果が陽性でも、必ずしもがんと確定するわけではありませんが、次のステップである「精密検査」のきっかけとしては非常に重要です。 精密検査としては、「大腸カメラ(内視鏡検査)」が代表的でしょう。肛門からカメラを挿入して腸内を直接観察できるため、がんだけでなくポリープや炎症なども確認できます。 また、必要に応じて組織を採取して詳しく調べられます。ほかにはCT検査やX線検査、MRIなどで腸の状態や周辺臓器への転移をチェックすることもあります。 検診の時点で「要精密検査」となったのに、忙しさや怖さを理由に検査を先延ばしにすると、もしもがんが進行していた場合、取り返しのつかない事態になる可能性があります。 早期がんなら治療の選択肢が広いため、コロコロ便が気になる方や検診で引っかかった方は、余裕のあるうちに詳しい検査を受けてみてください。 検診の方法 自覚症状の少ない早期の大腸がんを発見するには、大腸がん検診を定期的に受けることが有効です。 日本では一般的に便潜血検査が一次検診として行われていますが、便潜血検査とは2日分の便を採取して肉眼では見えない微量の出血(ヘモグロビン)を検出する検査で、体への負担が少ない方法です。 大腸がん検診の対象年齢は40歳以上で、年に1回の検査が推奨されています。市区町村が実施する住民検診では数百~千円程度の自己負担で受けられる場合が多く、自治体によっては無料で検査できるところもあります。(文献4) 会社の健診や人間ドックに大腸がん検診が組み込まれている場合もありますので、まずはお住まいの地域の検診制度を確認し、適切な頻度で便潜血検査を受けましょう。 便潜血検査の結果陽性(血液反応あり)となった場合は、精密検査(二次検診)として大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受けなければなりません。(文献4) 検査で陽性となっても、まだ大腸がんと確定したわけではなく実際には痔など良性の要因やポリープによる偽陽性も多く、要精密検査となった人から大腸がんが見つかる割合は1%未満とも言われます。(文献5) しかし、大腸がんは便潜血検査で陽性が一度でも出たら見逃さず精密検査を受けることが重要です。「痔による出血だろう」と自己判断して二次検査を受けないのは危険ですので、必ず医師の指示に従い精密検査を受けてください。 精密検査の方法 大腸がんが疑われる場合に行われる代表的な精密検査は、全大腸内視鏡検査(コロノスコピー)です。(文献6) 大腸内視鏡検査では、事前に下剤で腸内を空っぽにした上で内視鏡(カメラ)を肛門から挿入し、直腸から盲腸まで大腸全域の粘膜を直接観察します。 ポリープや腫瘤が見つかれば、一部または全部をその場で切除・採取して病理検査(顕微鏡による組織検査)が可能です。 早期がんで粘膜内に留まるものなら内視鏡で完全切除できるため、診断と同時に治療まで行えるケースもあります。このように大腸内視鏡検査は診断から小さな病変の治療まで対応できる第一選択の精密検査です。検査自体は通常日帰りで実施され、鎮静剤を使用すると苦痛も軽減できますのでご安心ください。 大腸内視鏡検査以外の精密検査としては、大腸X線検査(注腸造影)や大腸CT検査(CTコロノグラフィ)などがあります。大腸X線検査はバリウム液と空気を肛門から注入してレントゲン撮影する方法で、内視鏡が挿入困難な場合に併用されることがあります。 一方、大腸CT検査は腸内を炭酸ガスで膨らませてCT撮影することで、仮想内視鏡のように大腸の内部を立体的に評価する検査です。CT検査は体への負担が少なく内視鏡に抵抗がある方には有用ですが、画像で異常が見つかった場合は組織検査のため結局内視鏡が必要になる点に留意が必要です。(文献7) いずれの方法も長所短所がありますが、まずは医師と相談の上で適切な検査を受けることが大切です。 \まずは当院にお問い合わせください/ コロコロ便から卒業!大腸がんを防ぐ生活習慣改善と予防法 検査を受けるとはいえ、日常の中で腸への負担を減らしていかないと、コロコロ便が改善しにくいだけでなく、大腸がんのリスクにも対応しづらくなります。忙しい方でも無理なく取り組める生活習慣の見直しポイントを、下記の見出しで具体例とともに紹介します。少しずつ行動を変え、コロコロ便から卒業しましょう。 食事改善 コロコロ便を解消するには、食生活の見直しが重要です。便の材料となる食事の量が少なすぎると便のかさが減り排出が滞るため、朝食を含め1日3食きちんと食べるよう心がけましょう。(文献8)ダイエットなどで極端に食事量を減らすと便の量も不足し、十分な排便ができなくなりがちです。 また、食物繊維や水分を食事からしっかり摂取も欠かせません。食物繊維には大腸で便に水分を与えて柔らかくする水溶性食物繊維と、便の量を増やして腸を刺激する不溶性食物繊維があります。 一般に現代人は食物繊維が不足しがちと言われており、便秘が続く人は意識的に野菜や果物、海藻類などに多く含まれる水溶性食物繊維を摂ると良いでしょう。 不溶性食物繊維も大切ですが、摂りすぎると便が硬くなる場合があるためバランスが重要です。食物繊維のバランスは水溶性:不溶性を1:2程度の割合が理想とされています。 腸内環境を整える食品も積極的に利用しましょう。たとえばヨーグルトなどの発酵食品に含まれるビフィズス菌や乳酸菌は腸内の善玉菌を増やしお通じを改善する働きがあります。 さらにオリゴ糖は大腸で善玉菌のエサとなり腸内環境の改善に役立つため、乳酸菌飲料やオリゴ糖を含む食品もコロコロ便の解消に有効です。(文献8) 毎日の食事でこれら善玉菌やオリゴ糖を上手に取り入れ、腸内フローラのバランス改善を図りましょう。 こまめな水分摂取 硬いコロコロ便が続く人は、日々の水分補給の量を確認してください。体内の水分が不足すると便から水分が奪われてしまい、うさぎの糞のようなコロコロ便になりやすくなります。 厚生労働省の資料によれば1日に必要な飲み水の量は約1.2リットルとされています。(文献9) 喉が渇いたと感じる前に、意識してこまめに水やお茶を飲む習慣をつけることが大切です。 特に起床時にコップ一杯の水を飲むことは胃を刺激して胃・大腸反射(胃に食べ物や水分が入ると大腸の蠕動(ぜんどう)が活発になる反応)を促し、朝のスムーズな排便につながります。 そのほか入浴前後や就寝前後などは脱水になりやすいタイミングですので、水分補給を忘れないようにしましょう。 日中も少量ずつ水分を摂り、常に体内の水分バランスを保つことで便を適度に柔らかく保てるようになります。 適度な運動 適度な運動習慣を身につけることもコロコロ便の改善に有効です。運動によって体を動かすと腸が刺激され、蠕動(ぜんどう)運動が活発になって排便を促します。(文献9) 逆に運動不足だと腸の動きが鈍くなり便が硬くなりがちです。特に腹筋が弱いと排便時に十分な腹圧がかけられず、便を押し出す力が不足して便秘につながってしまいます。 ウォーキングや軽い体操など無理のない範囲で構いませんので、日常的に体を動かす時間を作りましょう。 定期的な運動は腸の働きを整えるだけでなく、自律神経のバランス改善やストレス解消にも役立つため一石二鳥です。適度な運動習慣を続けることで硬い便を解消しましょう。 ストレスケア ストレスや緊張が続くことも、実はコロコロ便の一因になります。人間は強いストレスや疲労を感じると交感神経が優位になり、大腸の動きが抑制されて便が腸内に滞留しやすくなります。(文献10) 精神的なストレスによって自律神経のバランスが乱れると腸の蠕動(ぜんどう)運動が低下し、便の水分が過剰に吸収されてしまうためです。 ストレスが原因で便秘傾向になる人も多く、男性に多い下痢型の過敏性腸症候群でもストレスで症状が悪化すると言われています。 心身のリラックスを心がけてストレスを溜め込まないことも固い便を防ぐ方法の一つです。十分な睡眠をとり規則正しい生活リズムを維持する、趣味や入浴などで意識的にリラクゼーションの時間を作るなど、副交感神経が働くリラックス状態を増やすようにしましょう。 日頃から適度にストレス発散し、自律神経のバランスを整えることがコロコロ便解消につながります。 コロコロ便と大腸がんの関係性を理解し健康を維持しよう コロコロ便は主に生活習慣の乱れから生じますが、大腸がんの初期サインとしても見逃せません。とくに便の細さや形状の変化が顕著で、下痢と便秘を繰り返す場合は注意が必要です。 まずは水分補給、食物繊維の摂取、ストレスケアなど生活改善を試みましょう。 生活習慣の改善で便通が正常化した場合、機能性の便秘や過敏性腸症候群などが原因だった可能性が高いといえます。 ただし、大腸がんの初期は症状が軽微なこともあるため、40歳以上の方は症状の有無にかかわらず定期的な検診を受けることをおすすめします。 大腸がんは早期に見つけられれば治療成功率が高いがんとも言われています。検診や精密検査の手間を感じるかもしれませんが、自分や家族の健康を守るためには投資する価値があるはずです。日々忙しく過ごしている方ほど、後回しにせずアクションを起こしてみてください。 予防や早期発見によって、心の負担もぐっと軽減し、コロコロ便の悩みから卒業できるきっかけをつかめることでしょう。 参考文献 (文献1)医療法人良耕会大阪天王寺胃と大腸消化器内視鏡クリニック「便がコロコロ硬い原因と改善方法について医師が詳しく解説」大阪天王寺胃と大腸消化器内視鏡クリニック,2024年06月01日 URL:https://www.tennoji-endoscope.com/hard-stool/ (最終アクセス:2025年04月17日) (文献2)国立がん研究センター中央病院「大腸がんの症状について」国立がん研究センター中央病院, 公開日不明 URL:https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clnic/colorectal_surgery/150/index.html (最終アクセス:2025年04月17日) (文献3)国立研究開発法人 国立がん研究センターがん情報サービス「大腸がん(結腸がん・直腸がん)について」国立がん研究センター がん情報サービス, 2025https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/colorectal_surgery/150/index.html03月24日 URL:https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/about.html(最終アクセス:2025年04月17日) (文献4)公益財団法人日本対がん協会「大腸がん検診について」日本対がん協会, 公開日不明 URL:https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_checkup/%E5%90%84%E7%A8%AE%E3%81%AE%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/%E5%A4%A7%E8%85%B8%E3%81%8C%E3%82%93%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6 (最終アクセス:2025年04月17日) (文献5)公益財団法人 東京都予防医学協会「大腸がん検診」東京都予防医学協会, 公開日不明 URL:https://www.yobouigaku-tokyo.or.jp/gan/daichougan.html (最終アクセス:2025年04月17日) (文献6)国立研究開発法人 国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん検診について」国立がん研究センター がん情報サービス, 2024年09月20日 URL:https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/colon.html (最終アクセス:2025年04月17日) (文献7)国立がん研究センター中央病院「大腸がん検査について」国立がん研究センター中央病院, 公開日不明 URL:https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/colorectal_surgery/170/index.html (最終アクセス:2025年04月17日) (文献8)ロート製薬株式会社「コロコロ便が続く場合はどうする?原因と対策で気になる症状を改善しよう」ロート製薬, 公開日不明 URL:https://jp.rohto.com/learn-more/gastrointestinal/benpi/korokoroben01/(最終アクセス:2025年04月17日) (文献9)森永乳業株式会社「便が硬い.......コロコロうんちになる原因と対処法」毎朝爽快(森永乳業), 2024年06月01日 URL:https://www.morinagamilk.co.jp/products/brand/maiasa_soukai/column/hard/ (最終アクセス:2025年04月17日) (文献10)健栄製薬株式会社「コロコロ便しか出ない便秘の原因は?症状が続くリスクと解消方法を紹介」健栄製薬, 公開日不明 URL:https://www.kenei-pharm.com/ebenpi/column/column_115/ (最終アクセス:2025年04月17日)
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「なんか最近、お腹の調子が変かも。でも、きっと大したことないか」そんなふうに感じながら、つい忙しさを理由に後回しにしていませんか? お腹の不調は様々な原因で起こりますが、中には見過ごせない重要なサインが隠れていることもあります。実は、大腸がんは発症者が年間15万人いる日本で最も多い 「がん」です。(文献1) しかも、ほとんど初期自覚症状がないまま、静かに進行していく怖い病気ですので、早期発見、治療が非常に重要です。 この記事では、大腸がんを早期に見つけるための症状のヒントや、今からできる予防法、検査や治療のことまでまとめています。「病院に行くほどじゃないけど、ちょっと気になる」そんな方こそ、ぜひ最後まで読んでみてください。 大腸がんの症状チェックリスト 大腸がんで見られる症状にはどのようなものがあるでしょうか。以下に主な症状のチェックリストをまとめました。 症状 チェックポイント 血便・下血 便に血が混じる、または肛門から出血する症状です。便に鮮やかな赤い血が付着していたり、黒っぽいタール状の便が出ることがあります。 痔(じ)などでも起こり得ますが、便に血液が付く状態が続く場合は注意が必要です。 便通の異常 以前より便秘と下痢を繰り返す、便が細くなった(細い便)、排便してもまだ残っているように感じる(残便感)などの変化です。 腸の通り道が狭くなることで起こる症状で、普段のお通じのリズムと明らかに異なる変化が続く場合は要チェックです。 お腹の張り・痛み 腸にガスが溜まってお腹が張る、腹痛が起こる、お腹にしこり(腫瘤)が触れる症状があります。腸の一部がふさがってガスや便が滞留するとお腹が張って痛みを生じます。 進行すると腸閉塞(腸がふさがれて便が出なくなる状態)を引き起こし、激しい腹痛や嘔吐を伴うこともあります。 体重減少・貧血 食事量が変わっていないのに体重が減る、貧血によるめまいや疲れやすさ、動悸などが現れることがあります。 大腸がんが進行すると慢性的な出血や栄養吸収の障害により体重減少や貧血症状を引き起こすことがあります。 おならの回数・においの変化 最近おならが以前より頻繁に出る、臭いがきつくなったと感じる場合です。 後述しますが、大腸の状態変化によって腸内環境が乱れると、おならの発生量や臭いに影響が出ることがあります。 ただし大腸がんは早期の段階ではこれらの自覚症状がほとんど出ない点に注意が必要です。また、なかでも血便や下血といった症状は大腸がんでとくによく見られますが、痔など良性の病気でも起こりうるため自己判断で放置しないでください。(文献2) 便に血が混じる、便通異常が続くなど気になる症状がある場合は痔と決めつけず、早めに消化器科や肛門科など専門医を受診しましょう。 おならの回数・においの変化に注意 おならは大腸がんの典型的な症状として広く知られているわけではありませんが、腸内環境の変化を示すサインとなります。 大腸がんがある程度大きくなると腸の中の通り道が狭くなり、便やガスの流れが滞って腸内にガスが溜まりやすくなるため、その結果、おならの回数が増えることがあります。 また、腫瘍により腸内細菌のバランスが変化し、おならのにおいがいつもと違う強い臭いに変わる場合もあります。もちろん、おならの変化は食生活やストレス、腸内細菌の一時的な乱れなど、さまざまな要因でも起こり得ます。 そのため、 臭いがきついからといってすぐに大腸がんと結びつける必要はありません。 しかし、「最近明らかにおならの状況がおかしい」と感じる場合は、他の症状と合わせて注意してください。 日頃から自分の排便習慣やお腹の調子を観察し、少しでも不安な変化があれば検診を早めに受けましょう。 おならの状態は人に相談しにくいデリケートな内容ですが、恥ずかしがらずに専門家に伝えてください。 \まずは当院にお問い合わせください/ 大腸がんを防ぐために注意すべき生活習慣 大腸がんの発生には体質や遺伝的な要因もありますが、実はそれ以上に食事や運動などの生活習慣(環境因子)が大きく影響すると考えられています。(文献2) 日頃の生活を見直すことで、大腸がんのリスクを下げられる可能性があります。ここでは大腸がんを防ぐために気を付けたい生活習慣について、ポイントごとに解説します。 食事 食生活の欧米化に伴い、日本では大腸がんが増えていると言われます。実際、脂肪分の多い食事は大腸がんのリスクを高める要因のひとつです。(文献2) 肉類や揚げ物中心の高脂肪食ばかりではなく、野菜や果物、海藻類など食物繊維を豊富に含む食材を意識して摂りましょう。食物繊維は腸の働きを整え、発がん物質を絡め取って体外に排出するのを助けます。 さらにカルシウムの摂取も大腸がん予防に効果的な研究結果があるため、カルシウム豊富な牛乳や小魚、乳製品なども適度に取り入れ、栄養バランスの良い食事を心がけると良いでしょう。 逆に加工肉や赤身肉の過剰摂取は控えめにし、アルコールや香辛料の摂りすぎにも注意しましょう。 運動 日常的に体を動かす習慣も、大腸がん予防には重要です。運動不足の状態だと腸の動きが鈍り、発がん性物質が大腸粘膜に長く留まって影響を与えると考えられています。(文献2) 逆に適度な運動習慣は大腸がんの予防に効果的であるとされています。忙しい現代人はつい歩く時間が減りがちですが、通勤時に一駅分歩いてみる、エレベーターではなく階段を使うなど、日常の中でできる範囲で構いませんので意識的に体を動かしましょう。 定期的な運動は腸の蠕動(ぜんどう)運動を促し便通を良くする効果も期待できます。ウォーキングや軽いジョギング、サイクリングなど自分が無理なく続けられる運動から始めてみてください。 飲酒・喫煙のコントロール 喫煙と過度の飲酒は様々ながんのリスク要因です。大腸がんも例外ではなく、タバコを吸う人は吸わない人に比べて大腸ポリープや大腸がんが発生しやすいことがわかっています。また、アルコールの大量摂取は大腸の粘膜を傷つけ、がんのリスクを高めてしまいます。(文献3) 大腸がん予防のためにも、喫煙者の方はこれを機に禁煙にチャレンジしてみましょう。お酒はまったく飲まないに越したことはありませんが、難しい場合は休肝日を作る、一度に飲む量を減らすなど、できる範囲でコントロールしてください。 ストレス管理と睡眠 仕事や家庭の忙しさからくる慢性的なストレスや睡眠不足も、健康維持の大敵です。 ストレスそのものが直接がんの原因になるとまでは言えませんが、過度なストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、免疫力の低下や生活習慣の乱れを招きます。 その結果、間接的にがんのリスクを高める可能性がありますので、忙しい毎日の中でも自分なりのリフレッシュ方法(軽い運動、入浴、趣味の時間など)を見つけ、意識的に心身をリラックスさせる時間を作りましょう。 また、睡眠も非常に重要です。寝不足が続くと体の修復が追いつかず、腸の調子も乱れやすくなります。理想的な睡眠時間には個人差がありますが、日中に疲労感や眠気を感じない程度にしっかり眠るようにしましょう。 とくに働き盛りの30〜50代の方はつい休息を後回しにしがちですが、ご自身の体を労わることも長い目で見て大切です。ストレス解消と十分な睡眠で体調を整え、がんに負けない健康な体づくりを心がけてください。 大腸がんの初期症状は気づきにくいため定期健診が重要 大腸がんは日本で最も患者数が多いがんで、早期にはほとんど症状が現れず静かに進行します。そのため、症状の有無にかかわらず定期的に検診を受けることが極めて重要です。国は男女とも40歳以上に年1回の便潜血検査を推奨しており、多くの自治体や職場健診で受診できます。(文献2) ご家族に大腸がん歴がある方はとくに注意が必要です。家族性大腸ポリポーシスやリンチ症候群など遺伝的素因によって発症リスクが高まることがあり、近親者に若年発症者が複数いる場合は、40歳未満でも医師と相談し検査開始年齢を早めることをおすすめします。 検診直後でも安心は禁物です。検診と検診の合間にがんが新たに発生し、短期間で進行する例もありますので、血便や便通異常、便が細くなるなどの変化を感じたら、次回の検診を待たず速やかに精密検査を受けてください。 定期検診と、異変を自覚した際の早期受診が、早期発見と完治への鍵になります。忙しい日々の中でも年1回の検診を習慣化し、日々体から小さなサインを見逃さないよう心掛けましょう。 検査と治療の進め方 「便に血が付いていた」「検診で要精密検査と言われた」そのような場合、具体的にどのような検査を受け、どのように治療が進んでいくのでしょうか。 ここからは大腸がんの検査(診断)方法と治療の流れについて説明します。代表的な検査である便潜血検査と大腸内視鏡検査の手順、そして早期がんと進行がんそれぞれの場合の主な治療方法を見ていきましょう。 便潜血検査の流れ 便潜血検査は、便に混ざった肉眼では見えない微量の血液を調べる大腸がん検診です。自宅で簡単に受けられるため、忙しい方でも取り組みやすい検査といえます。 以下の流れで検査を進めます。 市区町村の検診案内や職場健診で配布されるキットを受け取る 採便は別々の日に2回行う 2日分採取し容器は健診機関などへ提出 結果を待つ 結果は「陰性」または「陽性」で通知されます。陰性なら便に血液反応がなかったことを示しますが、がんを完全に否定するものではありませんので継続して受診が重要です。 一方、陽性は必ずしも大腸がんを意味しませんが、ポリープや痔など何らかの出血源がある可能性を示します。陽性となった場合は放置せず、速やかに大腸内視鏡検査などの精密検査を受けてください。 事情により内視鏡が難しい場合は、注腸X線やCTコロノグラフィーといった代替検査も選択できますので、医師と相談し自分に合った方法で大腸を詳しく調べましょう。 大腸内視鏡検査の流れ 大腸内視鏡検査は、便潜血陽性や大腸がんが疑われる症状がある場合に実施する精密検査です。肛門から細い内視鏡を挿入し、大腸内部を直接観察します。 検査前日は消化の良い食事に切り替える 当日朝は下剤と水分で腸内を洗浄する 看護師の指示に従って検査室へ 横向きになり医師が内視鏡を挿入 医師が直腸から盲腸まで観察 検査中は空気や二酸化炭素で腸を膨らませるため、一時的にお腹が張ることがあります。不安な方は鎮静剤を使用して半睡眠状態で受けることも可能です。 検査中に炎症、ポリープ、がんが見つかれば、その場で組織を採取したり小さなポリープを切除(ポリペクトミー)できますが、粘膜表面にとどまる早期がんなら内視鏡切除だけで完全に取り切れる可能性があります。(文献1) 所要時間は通常20〜30分程度。鎮静剤使用時は回復後に帰宅できます。検査後のお腹の張りはガスが出れば解消します。結果は1週間程度で判明し、医師から説明を受けます。 合併症はまれで、多くの方が安全に受けられる重要な検査です。早期発見のためにも、医師におすすめされた場合は積極的に受けましょう。 早期発見の治療法と進行がんの場合 大腸がん治療は、病期によって方法もゴールも大きく変わります。ステージ0~I期の早期がんは粘膜内にとどまるため、内視鏡で病変を切除するか、腹腔鏡など最小限の手術で患部のみを取り除く治療が中心です。 切除できれば再発は少なく、入院期間も短く済みます。一方、がんが腸壁を越えたりリンパ節転移を伴うステージII~III期では、根治手術で腸と周囲リンパ節を広めに切除したうえで、再発予防を目的とした抗がん剤を数か月追加することが一般的です。 さらにステージIV期では完治より延命と生活の質維持が主眼となり、抗がん剤や分子標的薬を基本に、症状緩和のための手術・放射線を組み合わせます。肝臓や肺など転移が限局していれば、切除で長期生存をめざすケースもありますが、切除できない場合は放射線治療や薬物療法など外科手術以外の治療法を選択します。 いずれの段階でも年齢、体力、希望を踏まえ治療計画を個別に立てることが重要です。 早期で見つかれば内視鏡だけで完治できる可能性が高いのに対し、進行後は治療が複雑化し身体的・経済的負担も増します。便潜血検査と内視鏡検査を活用し、早期発見で負担の少ない治療につなげましょう。(文献2) まとめ|大腸がんの症状かな?と思ったらすぐに専門家に相談を! 大腸がんは日本で患者数の多い病気ですが、早期に発見さえできれば決して怖がる必要はありません。 「血便などの症状がないから自分は大丈夫」と油断せず、定期検診を受けて早期発見に努めることが何より重要です。 この記事でご紹介した症状チェックリストに該当するものがあれば、たとえ忙しくても放置せずに消化器の専門医に相談してください。とくに便に血が混じる、便秘と下痢を繰り返すなどの異変は、大腸がんに限らず体からの大切なサインです。 「恥ずかしい」「時間がない」と我慢して手遅れになる方がよほど大変ですので、勇気を出して受診してください。 また、普段からバランスの良い食事や適度な運動を心がけ、タバコやお酒を控えるといった生活習慣の改善も大腸がん予防に繋がります。 そして何より、おかしいなと違和感を感じたらすぐに専門家へ相談しましょう。一人で悩まず、早め早めの行動で大腸がんから自分と家族の健康を大切にしてください。 なお、当院「リペアセルクリニック」ではがん予防を目的とした「免疫細胞療法」を行っております。 詳しくは、以下のページをご覧ください。 参考文献 (文献1) 国立がん研究センター中央病院「大腸がんとは」https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/colorectal_surgery/140/index.html(最終アクセス:2025年04月22日) (文献2) 国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん(結腸がん・直腸がん)」2025年03月24日.https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/print.html(最終アクセス:2025年04月22日) (文献3)公益財団法人 日本対がん協会「がん予防・がん検診について」2022年10月5日https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_checkup/%E5%90%84%E7%A8%AE%E3%81%AE%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/%E5%A4%A7%E8%85%B8%E3%81%8C%E3%82%93%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AE%E6%84%8F%E7%BE%A9%E3%81%A8%E7%9B%AE%E7%9A%84.(最終アクセス:2025年04月22日)
2025.04.30 -
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大腸がんは年間約15万5千人が新たに診断される日本人に多いがんで、とくに女性のがん死亡原因第1位です。 早期発見が生存率を大きく左右しますが、初期症状はほとんどなく、進行してから気づくケースも少なくありません。 こうした中「おならの異変が大腸がんの初期症状の一つである可能性」が注目されています。おならは誰にでも起こる生理現象ですが、その回数や臭いの変化が体の不調を反映することがあります。 本記事では大腸がん初期症状とおならの関連性について、危険なおならと正常なおならの違いを含めて解説します。 また、おなら以外の大腸がん初期症状についてもわかりやすく説明し、早期発見のためのポイントを紹介します。異変に気づいた際に自己判断せず医療機関を受診する重要性についても触れますので、ぜひ最後までご覧ください。 大腸がん初期症状と「おなら」の関連性 大腸がんの初期症状としておならの状態変化が挙げられることがあります。実際、「おならの頻度が増えた」「おならの臭いが強烈になった」「おならの際に腹痛を伴う」といった変化が見られる場合には注意が必要です。 大腸がんがあると腸内の環境に変化が生じ、以下のような理由でおならに異常が現れる可能性があります。 腸内の変化 説明 腸内にガスが溜まりやすくなる 大腸内に腫瘍ができると腸の通り道が部分的に狭くなり、食べ物の消化やガスの排出がスムーズに行かなくなります。 結果として腸内にガスが溜まり、おならの回数が増える原因となります。 腸内細菌のバランス変化 腫瘍から分泌される代謝産物や腫瘍の存在そのものが腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう:腸内の細菌バランス)に影響を与えることがあります。 その影響でガスの成分が変わり、おならの臭いが以前より異常に強くなることがあります。 腸の運動変化 腫瘍による刺激で腸の蠕動運動(ぜんどううんどう:腸が内容物を送り出す動き)が乱れることも指摘されています。 その結果、お腹がゴロゴロ鳴ったりガスが頻繁に発生します。とくに腹痛を伴うおならが続く場合は腸内でなんらかの異変が起きているサインかもしれません。 もっとも、おならの変化だけで大腸がんと断定はできません。おならの臭い・回数は食生活や体調によっても日常的に変動します。たとえば芋類や豆類を多く食べればおならの回数は増えますし、肉や卵を多く摂れば硫黄のような強い臭いになることもあります。 重要なのは「普段と比べて明らかに異常なおならが続くかどうか」です。次の項で危険なおならと正常なおならの違いを整理しますが、おならの異変に気づいたときは他の初期症状がないかも確認し、少しでも思い当たることがあれば早めに医療機関で相談してみましょう。 危険なおならと正常なおならの違いについて おならの種類 説明 正常なおならの範囲 健康な人でも1日に数回~十数回程度のおならは出ます。臭いも食事内容によって強くなることがありますが、一時的なものがほとんどです。 お腹が張って苦しくなるようなこともなく、ガスは自然に排出されます。 注意すべき異常なおなら 以前と比べて急におならの回数が増えたり、逆にまったくおならが出なくなったりする場合は腸内異常の兆候です。 また、臭いが異常に強烈(腐敗臭や卵が腐ったような硫黄臭)になった状態が続くのも要注意です。 さらに、おならに腹痛や腹部の張りを伴う場合も正常ではありません。これらの変化が見られるときは、単なる食生活の問題ではなく消化器の病気(大腸がんを含む)の可能性を考えて早めに受診しましょう。 普段のおならと比べて明らかにおかしいと思われるおならの特徴を押さえておきましょう。一般的なおなら(正常範囲)と、大腸がんなど病的な原因が疑われるおならとで何が違うのかを比較します。 上記のような危険なおならに該当する場合でも、それだけですぐ大腸がんと決めつけることはできません。ただし、おならの異常に加えて後述するような他の症状がみられる場合は、大腸がんの初期症状として現れている可能性があります。 おならと他の症状、両方の異変が重なったときは早期発見のチャンスでもあるため、自己判断せず医療機関で検査を受けることが大切です。 おなら以外の大腸がん初期症状 大腸がんは初期には自覚症状がほとんどありませんが、腫瘍がある程度大きくなってくると徐々に体の変化が現れ始めます。(文献2) 代表的な初期症状としては、血便、排便習慣の変化(便秘・下痢)、便が細くなる(便の狭小化)、残便感、貧血、腹痛、嘔吐などが挙げられます。 これらはいずれも大腸がん以外の病気でも起こり得る症状ですが、複数の症状が重なっている場合や、明らかにいつもと違う状態が続く場合には注意が必要です。以下にそれぞれの症状について、具体的にどのような様子か説明します。 血便 血便(けつべん)とは、便に血液が混じる症状です。大腸がんができると腫瘍表面の血管が傷つきやすくなり、便が通過する際に出血して便に血が付着することがあります。血便の特徴として、出血カ所が肛門に近いほど鮮やかな赤色になりやすい傾向があります。 直腸やS状結腸(大腸の一番下の部分)にがんがある場合は鮮血が混じりやすく、上行結腸(右側の大腸)など上流にある場合は暗めの色になることもあります。 少量の血便だと痔(じ)かな?と放置してしまう人もいますが、痔と大腸がんの見分けは自己判断ができません。とくに40代以降で血便が続く場合は痔の持病があっても油断せず、一度大腸内視鏡検査などで確認しましょう。 便秘、下痢 便秘や下痢が続く、あるいは便秘と下痢を繰り返すのも大腸がんの初期にみられることがあります。腫瘍が腸内にできると腸の動き(ぜん動運動)が乱れたり、腸管が狭くなることで便通リズムが狂いやすくなります。 その結果、頑固な便秘になったり、下痢が増えたりします。特徴的なのは、便秘と下痢を交互に繰り返すパターンです。腸に便が溜まって便秘になった後、下痢で一気に出る場合、腸内に通過障害が発生している可能性があります。 普段は便秘をしないのに急に便秘が続くようになった、下痢をする頻度が増えた、あるいは以前と比べて明らかに排便の習慣が変わった場合、大腸の異常を疑ってみましょう。 食生活の変化やストレスでも一時的に便通は変わりますが、原因に心当たりがないのに数週間以上そうした状態が続くなら念のため検査を受けることをおすすめします。 便の狭小化 便の狭小化(きょうさいか)とは、便が細くなる症状です。腸内を通る便の太さが腫瘍によって物理的に制限されるため、鉛筆のように細い便が出ることがあります。 とくに直腸やS状結腸など大腸の下部にがんがある場合、便が形作られる段階で細く絞られてしまうため、狭いリボン状の便が続くことがあります。 「最近、便が細長くなった」「いつもより便の径が明らかに細い」と感じたら注意が必要です。便の狭小化自体は他の要因でも起こりますが、従来との明らかな変化は見逃さないようにしましょう。 便秘・下痢の項目で述べた便通異常とあわせて、便の形状変化も大腸がん初期のサインの一つです。 残便感 残便感(ざんべんかん)とは、排便した後にまだ腸に便が残っているように感じる症状です。大腸がんが直腸付近にできると、腫瘍が物理的に邪魔をしたり肛門付近を刺激したりするため、トイレに行ってもまだ出し切れていない感じが続くことがあります。 残便感は便秘や過敏性腸症候群などでも起こるため、それ単体では判断が難しい症状です。しかし残便感が長く続く場合や、残便感とともに便に血が混じる・お腹が痛いといった他の症状がある場合は、大腸がんの疑いも考慮する必要があります。 一度排便してもすぐまたトイレに行きたくなる、いつもお腹に何か溜まっている感じがする、といった状態が続けば医療機関で相談しましょう。 貧血 大腸がんによる貧血(ひんけつ)は、腫瘍からの慢性的な出血が原因で起こります。便に目に見える血が出ていなくても、少しずつ出血していると体内の鉄分が失われていき、鉄欠乏性貧血になります。貧血になるとめまいや立ちくらみ、疲れやすさ、動悸、顔色が青白くなるなどの症状が現れます。 日常的に疲労感が強かったり、階段を上っただけで動悸・息切れがしたりする場合、血液検査で貧血が判明することがあります。とくに中高年で原因不明の貧血が見つかった場合、大腸を含む消化管からの出血が疑われます。 女性の場合は月経など他の要因もありますが、長引く貧血症状があるときは一度消化器の検査(便潜血検査や内視鏡検査)を受けましょう。 腹痛 腹痛(ふくつう)も大腸がんがある程度進行すると出てくることがあります。 腫瘍が大きくなり腸の中が狭くなると便の通過に支障が出るため、腸が詰まったような張った痛みや差し込むような痛みを感じますが、とくに下行結腸やS状結腸など便が固形になってから通る下部の大腸にがんがある場合、腸閉塞(ちょうへいそく:腸の詰まり)を起こしやすく、強い腹痛が起こりやすいとされています。 一方、上行結腸(右腹側)など大腸の右側にがんがある場合、内容物が液状のまま通過するため比較的痛みは出にくいとも言われます。 痛みの有無はがんの場所によって異なりますが、お腹の痛みが慢性的に続く場合や、便通と関連して腹痛が起きる場合は精密検査を受けることを検討しましょう。 嘔吐 一見関係なさそうな嘔吐(おうと)も、大腸がんの症状として起こることがあります。これは主に腸閉塞(腸がふさがった状態)に陥った場合に見られる症状です。腫瘍が腸管をふさぐほど大きくなると、食べ物や消化物が先に進めず行き場を失ってしまいます。 その結果、腸の内容物が逆流して嘔吐を引き起こすことがあります。ひどい場合には便のような臭いの嘔吐(吐物が腸の内容物)になるケースもあり、これは緊急手術が必要な状態です。大腸がんの初期段階で嘔吐まで生じることは稀ですが、腹痛や膨満感がひどく吐き気を催す場合には注意が必要です。 とくに食事とは関係なく繰り返し吐き気・嘔吐が起こる場合、消化管のどこかに閉塞が起きている可能性があります。放置すると脱水や深刻な状態に陥るため、早急に医療機関を受診してください。 以上のように、大腸がんが進行し始めるとさまざまな症状が現れます。ただし繰り返しになりますが、初期の大腸がんでは目立った症状が出ないことが多い点に注意が必要です。 「なんとなく調子が悪いけど病院に行くほどではないかな…」と思っているうちに見過ごしてしまうケースもあります。少しでもおかしいと感じる症状があれば、無理に楽観せず専門医に相談しましょう。 大腸がんを早期発見するためのポイント 大腸がんから身を守るには、早期発見・早期治療が何より重要です。早期であれば大腸がんは高い確率で完治が可能で、内視鏡による日帰り手術で治療できるケースも多くあります。 そのため、症状が出揃ってからではなく症状が軽微なうち、あるいは症状がない段階で発見が理想です。 早期発見のために心がけたいポイントとして、日頃からのセルフチェックと定期的ながん検診の受診があります。以下に具体的に解説します。 初期症状チェックリスト|該当したら医療機関へ まずは自分で気をつけたい初期症状のセルフチェックです。次のような症状に心当たりがある場合は要注意です。当てはまる項目が一つでもあれば、一度消化器科など専門医療機関で相談してみましょう。とくに複数当てはまる場合は放置しないでください。 便に血液や粘液が混じる、黒っぽい便が出る(血便・下血がある) おならの臭いが急に強くなった、おならの回数が急に増えた 便秘と下痢を繰り返すようになり、排便のリズムが乱れている 便が細くなった、最近出る便の量が減ったと感じる トイレに行ってもまだ出し切れていない感じ(残便感)がある 腹痛やお腹の張りが慢性的に続いている めまい・立ちくらみなど貧血症状が見られる 原因不明の体重減少がこの数カ月でみられる 食欲不振が継続している こうした症状は大腸がん以外でも起こり得ますが、年齢が高くなってから現れた場合や症状が長引いている場合は大腸がんの可能性も考えて早めに検査を受けることをおすすめします。様子を見ようと放置せず、まずは専門のクリニックで相談しましょう。 とくに血便は重要なサインですし、おならの異常も軽視しない方が良いポイントです。おかしいと思った時点で消化器内科を受診すれば、万が一がんであっても早期に発見できる可能性が高まります。 大腸がん検診を受ける 自覚症状の有無にかかわらず、定期的に大腸がん検診を受けることも早期発見には欠かせません。日本では現在、40歳以上の方は年に1回、大腸がん検診(便潜血検査)を受けることが推奨されています。(文献1) 便潜血検査とは便の中に血液が混じっていないか調べる検査です。検査の結果、陽性(便に血が混じっている疑い)となった場合には、精密検査として大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を行います。大腸がん検診は自治体の健康診断などでも実施されており、症状がないうちに検診を受けましょう。 大腸がんは早期であれば症状がない場合が多く、検診によって早期に発見し治療すると大腸がんで亡くなるリスクを大きく下げられます。(文献1) 実際、大腸がんは早期に発見できれば高い確率で治癒可能ながんです。 内視鏡検査でポリープや早期がんが見つかった場合、その場で切除して日帰りで治療を完了できるケースも多数あります。逆に言えば、検診を受けずに症状が出るまで放置してしまうと、発見時には進行して手術が大がかりになる・完治が難しくなるといったリスクが高まります。 とくに40代以上の方は忙しくても年に一度は大腸がん検診を受ける習慣を持ちましょう。また、ポリープが見つかった場合は医師の指示に従い定期的なフォローを受けることも大切です。 まとめ|初期症状のチェックや検診で大腸がんを早期発見しよう 大腸がんは早期には目立った症状が出にくい病気ですが、おならの異常や便通の変化など日常のサインを見逃さないことが早期発見につながります。「最近おならの様子がおかしい」「腹痛や血便が続いている」など、少しでも気になる初期症状がある場合は自己判断せず消化器の専門医に相談が重要です。 血便・便秘や下痢の反復・便の狭小化・残便感・貧血症状・腹痛・嘔吐など、大腸がんの疑いを示す症状はいくつかあります。これらの初期症状チェックを日頃から意識し、該当する症状があれば早めに医療機関を受診しましょう。 また、症状がなくても定期的に大腸がん検診を受けることが最大の防御策となります。幸い、大腸がんは早期に発見し適切に治療すれば怖がる必要はありません。違和感を感じたタイミングで勇気を出して専門クリニックを受診すれば、万が一大腸がんであっても早期のうちに治療でき、あなたの健康と命を守ることにつながります。 なお、当院「リペアセルクリニック」では、がん予防を目的として「免疫細胞療法」を行っております。 免疫細胞療法について詳しくは、以下のページをご覧ください。 参考文献 (文献1) 国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん検診について」https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/colon.html .2024年9月20日.(最終アクセス:2025年4月22日) (文献2) 国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん検診について」https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/print.html .2024年9月20日.(最終アクセス:2025年3月24日)
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多忙な30代は外食や運動不足、睡眠不足などで体調変化を見逃しやすい傾向があります。しかし統計によれば、日本では大腸がんが増加傾向にあり、30代の患者も確実に増えています。 大腸がんは早期発見なら内視鏡だけで治せる可能性が高いですが、初期症状が少ないため、30代の検診受診率は40代以降に比べても低いのが現状です。また「痛そう」「恥ずかしい」といった検査への先入観から、若い世代の検診受診率は特に低い傾向にあります。 この記事では、30代で発症が増えている背景をまず整理し、つづいて初期症状や受診のきっかけとなるエピソードを医師の視点で詳しく紹介します。さらに、生活習慣の改善ポイント、遺伝的リスク、そして検査までを丁寧に解説するので、理解を深めて適切に行動しましょう。 30代で大腸がんに気づく人が増えている理由 大腸がんは一昔前まで「中高年の病気」と考えられてきましたが、近年のデータでは30代後半から罹患率が顕著に上昇し始めることが確認されています(文献1)。 背景にはまず食生活の欧米化があります。牛肉や豚肉など赤身肉や加工肉をメインにした食事が増えると、腸内で発がん性物質が産生されやすくなる上、野菜や海藻の摂取が不足して便通が滞り、発がん物質が長時間腸壁に触れやすくなるのです。 次に運動不足も原因の一つです。リモートワークや長時間のデスクワークが常態化すると内容物を肛門側へと移動させる腸蠕動(ちょうぜんどう)が低下し、便秘が慢性化します。 便が腸管にとどまる時間が延びるほど有害物質は腸粘膜を刺激し続けるため、異常細胞が増殖するリスクが高まります。さらに30代は昇進や転職、出産育児などライフイベントが重なる時期であり、慢性的なストレスや睡眠不足が免疫力を弱め、損傷を受けた細胞の修復が追いつきにくくなります。 こうした生活スタイルの変化が重層的に重なり、これまで発症しないと思われていた年代でも大腸がんが顕在化してます。「若いから大丈夫」という思い込みをまず手放すことが、早期発見への第一歩となります。 30代で大腸がんに気づくきっかけ|初期症状 若くして大腸がんになった場合、食生活が悪かったと結論づけられがちですが、実は生活習慣で説明できない発症例も一定の割合で存在します。 その最たるものが免疫異常を背景とする炎症性腸疾患です。潰瘍性大腸炎やクローン病は発症ピークが10〜30代で、慢性的な粘膜炎症が続くことでDNA修復エラーを招き、組織学的に正常でも突然がん化するリスクがあります。 食べすぎ・飲みすぎ・運動不足のようなわかりやすい生活習慣だけを律すれば安心ではありません。若い世代における大腸がんの実態は、免疫、腸内細菌、遺伝子修復能、内臓脂肪など複雑に絡み合って発生する可能性もあります。 若いし健康診断で異常が見つからないから大丈夫と気を抜かず、家系歴や既往症がある人はもちろん、健康診断に問題がない人であっても、便通の変化や腹部違和感を覚えた段階で健診を受けることも視野に入れましょう。 30代で大腸がんに気づく例 身近な診療現場でも30代で診断される症例は年々増えており、大腸がん発症のきっかけはごくささいな違和感から始まります。 便潜血検査で早期がんが見つかるケースもある 会社の定期健診などで行われる便潜血検査が陽性の場合、原因が生理でないと認められた後に消化器内科へ紹介され、大腸内視鏡検査に進むことがあります。 大腸内視鏡検査を実施した結果、大腸に数ミリ大の早期がんが見つかり、その場で内視鏡的切除が完了するケースもあります。 早期発見できた場合、翌日から通常の生活に戻れ、職場復帰も約1週間程度で済むうえ、入院手術と比べて治療費を大幅に抑えられます。 初期症状や会社の定期健診を経験を通じて、若くても大腸がんが早期発見できたケースも珍しくありません。 便のにおいや排便時間の変化から進行がんが見つかるケースもある 朝の排便で「いつもより時間がかかる」「においが強い」「下痢と便秘を繰り返す」といった小さな違和感が続く場合、仕事や家事の忙しさから後回しにしてしまうことがあります。 しかし違和感が2〜3週間以上続くようなら、消化器内科で検査しましょう。実際に大腸内視鏡を行うと、 大腸に数センチのポリープが見つかり、大腸内視鏡検査で切除できた事例もあります。 このように、普段の便に違和感やいつもと違う匂いなどが数週間続いて病院に行った事で早期発見ができたケースもあります。 あと少し受診が遅れれば内視鏡だけでは対応できなかったかもしれません。便のにおい・形・通過時間の変化は放置厳禁のサイン と考え、早めに検査へ踏み切ることが重要です。もし症状が軽微でも検査に踏み切ることは非常に重要です。 30代で大腸がんになる原因とは なぜ30代で発症するのか。そのメカニズムは一つではなく、食事、運動、体重、嗜好品、ストレス、遺伝など複数の因子が複雑に絡み合っています。赤身肉を多く摂ると腸内細菌が二次胆汁酸を産生し、DNAを損傷する物質が増えることがわかっています。(文献2) 同時に野菜や果物に含まれる食物繊維や抗酸化物質を十分に摂らないと、このダメージを打ち消す力が低下します。また、運動不足で腸の動きが鈍ると便秘が定着し、有害物質が長く腸壁に触れ続ける時間が延びます。 さらに肥満はインスリン抵抗性を高め、インスリン様増殖因子が過剰に分泌されることで細胞増殖が促され、がん化しやすい環境が整います。過度の飲酒や喫煙も発がんリスクを跳ね上げます。 肝心なのは、これらの大半が今日から修正できる行動である点です。「歳だから仕方がない」のではなく「習慣を変えればリスクを下げられる」ことを認識して、発症を防ぎましょう。 食事が大腸がんに与える影響 食卓を振り返ると、朝は菓子パンとコーヒー、昼はハンバーガーやカツ丼、夜はコンビニの唐揚げ弁当、こんな日が続いていないでしょうか。 加工肉を毎日継続して50グラム前後摂る食習慣が大腸がんのリスクを18%高めたという研究結果があります(文献3)。 脂質の多い肉は消化過程で胆汁酸が増え、その一部が腸内細菌によって発がん性をもつ二次胆汁酸に変換されます。しかも野菜不足で便量が少ないと二次胆汁酸は腸壁を長く刺激し続け、細胞の遺伝子に傷をつけやすくなります。 逆に和食中心で野菜や海藻、味噌汁を毎食取り入れると、水溶性と不溶性の食物繊維が便のかさを増やし、有害物質をからめ取って速やかに体外へ運び出します。 また、発酵食品に含まれる乳酸菌は腸内で短鎖脂肪酸を産生し、粘膜のバリア機能を高める上、がん細胞の増殖を抑える働きが報告されています。 忙しいときでも、昼にサラダを一品追加する、夜に納豆やキムチを添える、といった小さな工夫で腸内環境は着実に良い方向へ動きます。 運動不足がもたらす腸への影響 座りっぱなしの時間が長い生活は腸にダメージを与えます。理由は主に3つあります。 物理的に体幹が動かないため腸蠕動(ちょうぜんどう)が鈍くなり、排便が遅くなる 筋肉活動が減ることで血流が低下し、腸粘膜への酸素供給が不足して修復能力が落ちる。 エネルギー消費が少ないまま高カロリー食を摂ると内臓脂肪が蓄積し、慢性的な炎症状態を引き起こす。 デスクワークの方はとくに運動する機会が少なく座りっぱなしになるため、意識的に運動する必要があります。推奨される運動量として、18歳から64歳は歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分行い、また息がはずみ汗をかく程度の運動は1週間に60分行いましょう。(文献4) 激しいスポーツをいきなり始める必要はなく、十分に歩幅を取ったウォーキングを一日30分、週5日行うだけでも腸の動きは活発になり、大腸がんの予防につながります。 遺伝的要因がもたらす若年発症リスク 家族に大腸がんや大腸ポリープの患者がいる場合、自分も同じ遺伝子を受け継ぐことでリスクが高くなることが知られています。 とくにリンチ症候群は若年での発症率が高く、10代後半から30代前半でがんが見つかることも珍しくありません。リンチ症候群は遺伝確率が50%とも言われ、全大腸がんの約2%〜5%をしめているともいわれています。右側結腸に多発しやすく、がんが複数同時に生じるケースもあります。 こうした疾患が家系に疑われる場合は、20代から定期的に大腸内視鏡検査を受けることが推奨されています。遺伝的リスクは変えられませんが、早期モニタリングによって進行を防ぐことは十分に可能ですので、家族歴がある方は定期検診を受けましょう。(文献5) ストレス・睡眠不足が与える腸内環境への影響 精神的ストレスが高まると交感神経が優位になり、腸への血流が制限され、腸蠕動(ちょうぜんどう)が弱まります。同時にストレスホルモンのコルチゾールが分泌され、免疫細胞の働きが落ち、腸粘膜の修復スピードが低下します。 睡眠不足はメラトニンの分泌を減らし、細胞の酸化ダメージを修復を妨げます。就寝前1時間は強い光を避け、ぬるめの湯で15分程度の入浴を行うと副交感神経が優位になり、入眠がスムーズになります。 寝る直前のスマートフォン操作を控える、休憩時間に深い呼吸で筋の緊張をほぐす、といった小さな習慣を行い、腸の健康を支えましょう。 大腸がんのサインに気づいたら検診を! 便に血が混じった、いつもと違う腹部の張りが2週間以上続く、急に便秘と下痢を行き来する。こうした兆候が現れたら「仕事が一段落したら受診しよう」ではなく、すぐ医療機関へ足を運んでください。 まずは痛みもなく数分で済む便潜血検査を行い、陽性であれば大腸内視鏡検査に進みます。内視鏡は鎮静剤を使用すれば眠っているうちに終わり、検査時間はおおむね15~30分です。検査でポリープが見つかれば、その場で切除し病理検査へ回すため、追加の手術や入院を避けられる可能性が高まります。 さらにCTCや腹部超音波を組み合わせれば転移の有無も短時間で確認できるため、治療方針を迅速に決定できます。検査を先延ばしにする心理的ハードルは「痛そう」「時間がない」といった誤解が大部分ですが、実際はとても簡単ですぐにできる検査ですので、気軽に受診してください。 まとめ|30代でもあなどれない大腸がん!気づくきっかけがあれば即受診を 大腸がんは30代でも確実に発症しうる疾患であり、そのリスクは食生活の欧米化、運動不足、ストレス過多といった現代的ライフスタイルの中で静かに高まっています。 ですが、血便や便通の変化といった初期サインを見逃さず、便潜血検査や大腸内視鏡をためらわずに受ければ、早期に発見し、内視鏡のみで完治を目指せる確率は非常に高くなります。 今こそ、ご自身の食事や運動、睡眠を振り返り、少しでも異変を感じたら勇気を出して専門医へ相談してください。「忙しくて時間が取れない」「検査に不安がある」という方もまずはお気軽にお問い合わせください。早期発見によって負担を最小限に抑え、あなたの大切な未来を守りましょう。 なお、当院「リペアセルクリニック」では、がん予防を目的とした「免疫細胞療法」を行っております。 詳しくは以下のページをご覧ください。 参考文献 (文献1)国立がん研究センター「大腸がん種別統計情報」国立がん研究センターホームページ, 2025年3月24日.https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/67_colorectal.html.(最終アクセス:2025年4月22日) (文献2)順天堂医学「生活習慣病としての大腸癌」国立がん研究センターホームページ,不明.https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjmj/50/4/50_338/_pdf.(最終アクセス:2025年4月22日) (文献3)農林水産省「国際がん研究機関(IARC)による加工肉及びレッドミートの発がん性分類評価について」 2024年8月22日.https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/meat.html.(最終アクセス:2025年4月22日) (文献4)厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」健康づくりのための身体活動基準・指針の改訂に関する検討会, 2025年3月17日.https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001171393.pdf.(最終アクセス:2025年4月22日) (文献5)国立がん研究センター「大腸がん(結腸がん・直腸がん)について」国立がん研究センターホームページ, 2025年3月24日.https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/print.html.(最終アクセス:2025年4月22日)
2025.04.30 -
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自己免疫疾患にかかったとき、「性格と関係があるのでは?」と不安に思う方は少なくありません。 完璧主義や頑張りすぎる性格が影響しているのでは、と自分を責めてしまうこともあるでしょう。しかし、自己免疫疾患の原因は性格だけではなく、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。 本記事では、自己免疫疾患と性格の関係について正しく理解し、自分をいたわるためにできることをお伝えします。 自己免疫疾患と性格の関係 自己免疫疾患の発症メカニズムは複雑で、さまざまな要因が絡み合っています。近年、性格や心理的特性との関連性についても注目されていますが、その関係性は単純ではありません。 ここからは、自己免疫疾患と性格の関連性について説明していきます。 性格が原因と断言はできない 自己免疫疾患の発症には、遺伝的素因が大きく関わっています。家族内での発症傾向や特定の遺伝子変異が見つかっていることからも明らかです。環境因子(感染症、食事、有害物質への曝露など)も関連があります。 性格が自己免疫疾患と関連している可能性は示されていますが、病気の直接の原因ではありません。 真面目な性格だから病気になったわけではなく、以下のような流れで間接的に影響している可能性があります。 完璧主義の性格 → ストレスがたまりやすい → 睡眠不足や食生活の乱れ → 免疫系に負担 → 病気のリスク上昇 つまり、性格そのものではなく、性格によって生じる生活習慣の変化やストレスが、身体に影響を与えている可能性があるのです。 ストレスが影響する可能性 長期的なストレスは、神経系、内分泌系、免疫系に影響を与えます。慢性的なストレス状態では、自律神経が乱れて活性酸素やサイトカインが大量に発生し、細胞組織を破壊します。 完璧主義傾向や心配性といった性格の人は、同じ状況でもストレスを強く感じやすく、ストレス反応が長引く傾向があるでしょう。ストレスマネジメントが症状改善に効果的なケースが報告されていることからも、関連性があると言えます。 自己免疫疾患の人に多い性格傾向 研究や臨床観察から、自己免疫疾患を持つ方々に共通して見られる性格傾向があることが示されています。性格特性そのものが疾患を引き起こすわけではありませんが、ストレス反応や生活習慣を通じて健康状態に影響を与える可能性があります。 完璧主義・真面目 完璧主義者は高い基準を自分に課し、些細なミスも許せない傾向があります。もっと頑張るべきといった思いにとらわれ、達成感よりも足りない感覚に支配されがちです。この性格特性は、慢性的な緊張状態をもたらし、ストレスホルモンの分泌を促進させます。 真面目すぎる人は責任感が強く、「NO」と言えずに過剰な負担を抱え込みやすい傾向です。常に頑張り続ける姿勢が、休息不足や疲労の蓄積を引き起こし、免疫系の機能低下につながる可能性があります。 感情をためこみやすい とくに怒りや悲しみなどのネガティブな感情を適切に表現できない人は、それらを内側に抑え込む傾向があります。感情の抑圧は、自律神経系のバランスを崩し、交感神経優位の状態を長期間維持させることになるでしょう。 感情を溜め込むことで、免疫系の調節機能に悪影響を及ぼします。とくに、怒りの感情を表現できない場合、それが身体症状として現れることがあり、これが自己免疫反応を促進する可能性が指摘されています。感情を健全に表現し、処理するのが免疫機能の維持に重要です。 気を遣いすぎる 他者への過剰な配慮や気遣いは、社会的には高く評価される特性ですが、自分自身の健康を犠牲にする場合があります。常に周囲の期待に応えようとし、自分のニーズを後回しにする傾向は、慢性的なストレス源となります。 他者優先の生き方は、自己肯定感の低下や疲労感が蓄積し、免疫系の機能にも悪影響を与えます。自分の境界線が定まらずに断ることが難しい人は、エネルギーを使い果たし回復する時間を確保できないことで、免疫系のバランスが崩れやすくなります。 頑張りすぎる 限界を超えて努力し続ける性格の人は、休息や回復の重要性を軽視しがちです。もっとやらなきゃといった思いに駆られ、身体からの警告サインを無視して活動を続けることがあります。この止まれない性格特性は、慢性的な過労状態を引き起こします。 過度の頑張りは、交感神経の持続的な活性化を招き、コルチゾールなどのストレスホルモン分泌を増加させるのです。これにより、免疫系の調節機能が低下し、炎症反応が過剰になる可能性があります。 適切な休息をとることなく長期間にわたり高いストレス状態が続くと、自己免疫系の異常反応のリスクが高まります。バランスの取れた活動と休息のサイクルの確立が健康維持に重要です。 自己免疫疾患は性格だけが要因ではない 自己免疫疾患の発症メカニズムは複雑で、遺伝的要因、環境因子、ホルモンバランス、感染症など、さまざまな要素が絡み合っています。性格傾向はストレス反応を通じて影響する可能性はありますが、それだけで疾患が発症するわけではありません。 自分を責めない 自己免疫疾患を抱える方が「自分の性格が悪いから病気になった」と自責の念に駆られることがありますが、それは正確ではありません。疾患の発症には、以下の要因があります。 遺伝子 環境汚染物質への曝露 ウイルス感染 ホルモンバランスなど 以上のようなコントロールできない多くの要因が関係しています。 性格傾向がストレスに影響し、免疫系に影響を与える可能性はありますが、多くの要因の一部に過ぎません。完璧主義や頑張り屋といった特性は、社会的には高く評価されることも多く、それ自体が悪いわけではありません。 大切なのは、自分の特性を理解した上で、適切なセルフケアをすることです。自分を責めるのではなく、自分の体調と向き合い、必要なケアをしましょう。 病気の自分を受け入れる 自己免疫疾患は慢性疾患であることが多く、長期的な付き合いが必要です。まずは病気になった自分を受け入れることから始まります。自分の状態を認めることで、適切な対処法を見つける余裕が生まれるでしょう。 自分をいたわることは、ストレス軽減に直結します。以下の項目に気をつけましょう。 十分な睡眠 バランスの良い食事 適度な運動 リラクゼーション法の実践など このような基本的なセルフケアを大切にしましょう。また、断る勇気を持ち、自分の限界の尊重も必要です。 孤独はストレスを増大させるため、家族や友人との絆を大切にし、同じ疾患を持つ方々のコミュニティへの参加も心の支えになります。医師、心理士、栄養士などの専門家からの適切なサポートも、病気の管理には欠かせません。 自分の体調に合わせたライフスタイルの調整も必要です。無理をせず、体調の波に合わせて活動を調整しましょう。 自己免疫疾患と性格に向き合うためのセルフケア 自己免疫疾患と付き合っていく上で、性格傾向に由来するストレスの軽減は、病気の管理において重要です。完璧主義や頑張り屋といった性格特性を持つ方が、より健康的に日常生活を送るためのセルフケア方法を紹介します。 頑張りすぎない 自己免疫疾患を持つ方、完璧主義や責任感の強い性格の方は、体調が悪くても、やるべきことを優先しがちです。しかし、頑張り続ける姿勢が、実は免疫系に大きな負担をかけている可能性があります。 まずは自分の体調や限界を正直に認識することから始めましょう。今日はここまでといった境界線を明確に設け、それを超えないことが重要です。完璧を目指すのではなく、今の自分にとって適切なレベルを新たな目標として設定してみてください。 すべての依頼や期待に応える必要はありません。自分を守るための断る勇気を持ちましょう。過剰な責任感から解放されると、心身の緊張が緩和され、免疫系の働きにもポジティブな影響をもたらす可能性があります。 小さな休息をとる 忙しい日常の中でも実践できる短い休憩を意識的に取り入れましょう。5分から10分程度で行われる深呼吸やストレッチ、軽い運動など、短時間でもリラックスできる活動を日課にすると、ストレスホルモンの分泌を抑制し、自律神経のバランスを整えられます。 デスクワークが多い方は、長時間同じ姿勢でいると疲労が蓄積します。立ち上がって軽いストレッチをする、水分補給のために歩く、窓の外を眺めるなど、意識的に体の緊張をほぐす習慣をつけましょう。週末や休日には、完全に仕事から離れるデジタルデトックスの時間を設けることも効果的です。 自分が本当に楽しめる趣味や活動を見つけ、それを罪悪感なく楽しむ時間を確保するのも重要です。休むことも生産的な活動の一部だと捉えると、休息への抵抗感が減るでしょう。 気持ちを言葉にする 感情をためこみやすい方にとって、感情表現のトレーニングは重要です。信頼できる友人や家族に自分の気持ちを話すと、精神的な負担が軽減されます。話すことに抵抗がある場合は、まずは日記に書き出すことから始めてみましょう。日記をつけることで、自分の感情パターンを客観的に観察できます。 オンラインや対面の患者会など、同じ疾患を持つ人々とのつながりも心の支えになります。共感を得られる環境では、より自然に感情を表現できるようになるでしょう。自分の体験を共有すると、ほかの人の役に立つといった充実感も得られます。 専門家に頼る 自己免疫疾患と性格特性の両方に向き合うには、専門家のサポートが大切です。 定期的に主治医と相談し、症状の変化や治療の効果について率直に話し合いましょう。必要に応じて、栄養士や理学療法士、作業療法士など、多職種の専門家からのアドバイスを受けると、より包括的な健康管理が可能になります。 心身の健康は密接に関連しているため、心理面のケアが身体症状の改善にもつながることがあります。専門家に助けを求めることは、弱さではありません。自分一人で抱え込まず、利用できるサポートを最大限に活用するのは、病気との長い付き合いにおいて重要です。 なお、当院「リペアセルクリニック」では免疫細胞療法を行っております。主にがん予防に関する内容ではございますが、免疫力に不安を感じている方は、ぜひ下記ページもご覧ください。 自己免疫疾患と性格を正しく理解して前向きに善処しよう 自己免疫疾患の発症には、遺伝的要因や環境因子など複合的な要素が関わっており、性格は直接的な原因ではありません。完璧主義や頑張りすぎる傾向、感情を溜め込みやすいといった性格特性は、ストレス反応を通じて免疫系に影響を与える可能性はありますが、それだけで疾患が引き起こされるわけではないことを理解しましょう。 自分を責めるのではなく、自分の体と心に向き合うことが必要です。 頑張りすぎない 小さな休息をとる 気持ちを言葉にする 専門家に頼る このようなセルフケアの実践が大切です。自己免疫疾患といった現実を受け入れながらも、性格特性と上手に付き合うことで、ストレスを軽減し、心身のバランスを整えられます。 病気があっても自分らしく生きるための知恵と工夫を積み重ね、周囲のサポートも活用しながら、前向きな姿勢で日々を過ごしていきましょう。
2025.04.26 -
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自己免疫疾患と診断されると、「寿命に影響があるのでは」と不安を感じる方も多いでしょう。実際、病気によっては健康に影響を及ぼすものもありますが、適切な治療と生活習慣の工夫で、十分に健康的な人生を送れます。 なかには、臓器や神経に障害を与える疾患もありますが、近年は医療の進歩により、多くの人が病気と上手に付き合いながら生活できるようになってきています。 本記事では、自己免疫疾患と寿命の関係をはじめ、病名ごとのリスクや注意点、健康寿命を延ばすためのポイントをわかりやすく解説します。不安を解消し、前向きに過ごすためのヒントとして、ぜひ参考にしてください。 【病名別】自己免疫疾患の平均寿命 自己免疫疾患は、免疫が自分の体を攻撃してしまう病気の総称です。症状や進行度は病気によって異なり、予後(寿命の目安)もさまざまです。 以下に、主な病名ごとの特徴と平均寿命の目安をまとめました。あくまで目安であり、実際は個人差が大きいことを理解しておきましょう。 病名 主な症状 寿命の目安(参考) 関節リウマチ 関節の腫れ・痛み・こわばり 平均寿命が10年縮む(文献1) 全身性エリテマトーデス(SLE) 発熱・倦怠感・皮膚や腎臓の障害 5年生存率は95%以上(文献2) 橋本病(慢性甲状腺炎) 疲労感・むくみ・寒がり 適切な治療を受ければ寿命への影響はほとんどない 1型糖尿病 高血糖・多尿・体重減少 女性の場合は7.9年、男性の場合は8.3年程度寿命が短くなる(文献3) 多発性硬化症(MS) 手足のしびれ・視力低下・歩行困難 無治療の場合、寿命は10年減少する(文献4) クローン病 腹痛・下痢・体重減少 診断後10年の累積生存率は96.9%と生命予後は良好(文献5) シェーグレン症候群 目や口の乾き・関節痛 寿命への影響はほとんどない 強皮症(全身性硬化症) 皮膚の硬化・内臓障害 「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」では発症5~6年以内に皮膚硬化の進行及び内臓病変が出現することが多い(文献6) 治療の進歩により、かつては寿命を大きく左右するとされていた疾患も、今ではコントロール可能な慢性疾患として向き合えるようになっています。早期発見と定期的な通院、そして生活習慣の見直しが、より長く元気に過ごすポイントです。不安な症状がある場合は、早めに専門医に相談しましょう。 自己免疫疾患と寿命の関係 自己免疫疾患は、免疫が自分の体の組織や臓器を攻撃してしまう病気です。発症する部位や重症度には幅があり、寿命への影響も病気ごとに異なります。全身性エリテマトーデス(SLE)や強皮症、多発性硬化症(MS)などは、内臓や神経を攻撃するため、重症化すると生命にかかわるリスクが高まります。 治療が困難なケースでは、腎不全・間質性肺炎・肺高血圧症・心筋炎などの合併症を引き起こすことがあり、これが寿命を縮める要因です。全身性エリテマトーデス(SLE)では腎臓障害の進行や、強皮症では肺の機能低下で呼吸不全に至る可能性もあります。 一方で、橋本病(慢性甲状腺炎)やシェーグレン症候群などは、適切な治療を行えば寿命にほとんど影響を与えないとされています。重要なのは、早期発見と正しい治療、そして定期的な検査による合併症の予防です。自己免疫疾患と上手に付き合うことで、健康寿命を延ばせます。 寿命と関係性のある自己免疫疾患と合併症リスク 自己免疫疾患は種類によって寿命への影響が異なります。とくに内臓や血管、神経系に障害を及ぼす疾患では、合併症の発症が命に関わるケースも多いです。 ここでは、自己免疫疾患が引き起こす代表的な合併症について解説し、健康寿命を延ばすために知っておきたいリスクと対策を紹介します。 心血管疾患との関連 自己免疫疾患では、慢性的な炎症が血管の内側(血管内皮)を傷つけ、動脈硬化を進行させると考えられています。さらに、治療に使われるステロイド薬や免疫抑制剤は、副作用として高血圧や脂質異常を引き起こすことがあり、心血管系への負担が大きいです。 とくに全身性エリテマトーデス(SLE)や関節リウマチの患者では、心筋梗塞や脳梗塞といった血管に関するリスクが高いといった研究報告もあります。動脈硬化が早期から進行する可能性があるため、予防的な対策が欠かせません。リスクを抑えるには、定期的な血液検査や血圧・コレステロール値の管理が重要です。 禁煙・減塩・野菜中心の食事・適度な運動といった生活習慣の改善も効果的です。必要に応じて内科や循環器科と連携し、自分に合った管理方法の継続が、心臓や血管を守るポイントとなります。 感染症リスクとの向き合い方 自己免疫疾患の治療では、過剰に働く免疫を抑えるために、ステロイドや免疫抑制剤が用いられることが一般的です。しかし、副作用として本来体を守るべき免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなるといったリスクが伴います。 軽い風邪でも重症化しやすく、肺炎や帯状疱疹、インフルエンザ、新型コロナウイルスなどにも注意が必要です。感染後の回復が遅れやすい傾向もあり、体力や免疫の回復に時間がかかることがあります。 感染症を防ぐには、ワクチンの活用が有効です。インフルエンザや肺炎球菌のワクチンは、主治医と相談して積極的に接種しましょう。 日常生活では以下の項目に注意してください。 手洗い・うがい マスクの着用 人混みを避ける 十分な睡眠 栄養を摂取する など 感染症の重症化を防ぐには、わずかな体調の変化にも早く気づき、早期に受診することが重要です。 がん発症リスク 自己免疫疾患では、体内の慢性的な炎症が長期間続くため、細胞の異常増殖が起こりやすくなり、がんのリスクが高まるとされています。関節リウマチやシェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス(SLE)などの患者では、悪性リンパ腫の発症率が一般の人に比べて高いといったデータがあります。 治療に使われる免疫抑制剤は、長期使用によりがんの発症リスクを高める可能性があると指摘されているのです。こうした背景から、自己免疫疾患を持つ人は、がん検診を定期的に受けることが非常に重要です。 乳がんや大腸がん、子宮頸がんなど、年齢や性別に応じた検診を受け、早期発見・早期治療を心がけましょう。日々の生活では、バランスの取れた食事、禁煙、十分な睡眠、ストレス管理など、日々の生活習慣を整えると、がん予防にもつながります。医師と連携しながら、長期的な健康を守る意識を持ちましょう。 自己免疫疾患における健康寿命を延ばす方法 自己免疫疾患と長く付き合っていくためには、病気とうまく共存する工夫が欠かせません。適切な治療の継続と生活習慣や心のケアを意識すれば、病気の進行を抑えて健康寿命を延ばせる可能性があります。 ここでは、自己免疫疾患における健康寿命を延ばすためにできる、3つの具体的な方法をご紹介します。 適切な医療管理 自己免疫疾患は慢性的に経過する病気であり、病状の変化に応じた医療管理が不可欠です。まず大切なのは、定期的に医療機関を受診し、血液検査や画像診断などで病気の進行や合併症の有無を確認することです。これにより、悪化の兆候を早期に察知し、迅速な対応が可能になります。 また、処方されている薬も時間とともに見直しが必要です。体調や生活状況の変化に応じて、薬の種類や用量を調整したり、新しい治療法を取り入れたりすると、副作用を抑えながら効果的なコントロールが期待できます。 自己判断で薬の中断は危険なので、疑問や不安があれば主治医に相談しましょう。患者自身も病気の知識を深め、医療チームと協力して治療を続けていく姿勢が、健康寿命を延ばす大きな鍵となります。 生活習慣の見直し 自己免疫疾患の進行を抑え、心身の状態を良好に保つには、日々の生活習慣が大きく影響します。とくに栄養バランスのとれた食事は、体の炎症を抑える助けとなります。加工食品や糖分、脂質を控えめにし、野菜や魚、発酵食品などを積極的に取り入れましょう。 無理のない範囲での運動もおすすめです。軽いストレッチやウォーキングは、血流を促し、筋力や免疫力の維持にもつながります。運動の習慣は気分の安定にも役立ちます。 また、禁煙や節酒、十分な睡眠の確保も忘れてはいけません。タバコは血管や免疫系に悪影響を与えるため、とくに避けるべきです。生活を見直し、体に負担の少ない環境を整えると、より安定した日常が送れます。 メンタルケアの重要性 自己免疫疾患は長期にわたって治療が必要になるため、気持ちが落ち込んだり不安を感じたりする場合が少なくありません。 「いつまでこの治療が続くのか」「症状が悪化したらどうしよう」などの悩みが、ストレスとなって体調にも影響を与えることがあります。 心の負担を軽減するには、まず誰かに話すことが大切です。家族や友人に気持ちを共有するだけでも、安心感につながることがあります。必要に応じて心理カウンセリングを受けるのも有効です。 最近では、同じ病気を持つ人同士が交流できるサポートグループやオンラインコミュニティも増えています。自分だけじゃないと感じられる場所があることは、精神的な支えになります。 心と体は密接に関係しているため、心のケアも治療の一環と考え、自分を大切にする時間を持ちましょう。 自己免疫疾患は恐れすぎず健康寿命の最大化を図ろう 自己免疫疾患は、完治が難しい場合もありますが、正しく向き合えば長く元気に暮らせる病気です。大切なのは「病気と共に生きる」といった姿勢を、前向きに持つことです。恐れすぎて閉じこもるのではなく、自分にできるケアや対策を日々積み重ねて、生活の質を高く保ちましょう。 症状をコントロールしながら、心身ともに安定した生活を送ることは、決して夢ではありません。自己免疫疾患と上手に付き合いながら、自分らしい人生を歩み、ぜひ健康寿命の最大化を目指してください。焦らず、自分のペースで続けることが大切です。 参考文献 文献1 宗像靖彦クリニック「リウマチについて」宗像靖彦クリニックホームぺージ https://munakata-cl.jp/content/riumachi/(最終アクセス:2025年4月15日) 文献2 難病情報センター「全身性エリテマトーデス(SLE)(指定難病49)」難病情報センターホームページ、2024年4月1日 https://www.nanbyou.or.jp/entry/215(最終アクセス:2025年4月15日) 文献3 おかもと内科・糖尿病クリニック「1型糖尿病」おかもと内科・糖尿病クリニックホームページ https://www.okamoto-diabetes-cl.com/diabetes-types1/(最終アクセス:2025年4月15日) 文献4 地方独立行政法人 東京都立病院機構 がん・感染症センター 都立駒込病院「多発性硬化症(Multiple Sclerosis, MS)とは」がん・感染症センター 都立駒込病院ホームページ https://www.tmhp.jp/komagome/outpatient/special/PML_MS_NMOcenter/tahatsusei_kokasho.html(最終アクセス:2025年4月15日) 文献5 難病情報センター「クローン病(指定難病96)」難病情報センターホームページ、2024年4月1日 https://www.nanbyou.or.jp/entry/219(最終アクセス:2025年4月15日) 文献6 難病情報センター「全身性強皮症(指定難病51)」難病情報センターホームページ、2024年4月1日 https://www.nanbyou.or.jp/entry/4027(最終アクセス:2025年4月15日)
2025.04.26 -
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自己免疫疾患は、原因がはっきりとわかっていないことも多く、完治が難しいといわれています。しかし、実際には適切な治療と生活習慣の見直しによって、症状が大幅に改善し、日常生活にほとんど支障がない状態を目指すことが可能です。 本記事では、「自己免疫疾患は治ったと言えるのか?」といった疑問に対し、医学的な視点からわかりやすく解説。前向きに症状と向き合うための具体的なポイントも紹介します。 自己免疫疾患とは 自己免疫疾患とは、本来外敵から体を守るはずの免疫システムが誤って自分自身の細胞や組織を攻撃してしまう病気です。 この誤った免疫反応によって、体内で炎症が起こり、さまざまな症状や臓器障害を引き起こします。多くの場合、完全な治癒は難しく、長期的な管理が必要です。 ここからは、自己免疫疾患の基本的な仕組みや特徴を説明します。 自己免疫疾患の基本的な仕組み 自己免疫疾患は、免疫システムが正常な自己の細胞や組織を異物と誤認識し攻撃する疾患です。通常、免疫系は「自己」と「非自己」を区別して、ウイルスや細菌などの異物だけを排除します。 しかし、この識別機能に障害が生じると、自分の組織に対して免疫反応が起こります。自己免疫疾患は、全身に炎症が広がる「全身性自己免疫疾患」と、特定の臓器を攻撃する「臓器特異的自己免疫疾患」に分類されます。 たとえば、関節リウマチやSLEは「全身性自己免疫疾患」、1型糖尿病や橋本病は「臓器特異的自己免疫疾患」です。 自己免疫疾患の特徴 自己免疫疾患の大きな特徴は、慢性的な炎症や組織の破壊が長期にわたって進行する状態です。多くの場合、症状は寛解と再燃を繰り返し、徐々に悪化します。 自己免疫疾患の原因は複雑で、遺伝的要因、環境要因(感染、ストレス、紫外線暴露など)、自己抗原に対して免疫反応を示すなど複雑です。女性に多く発症する傾向があり、ホルモンの影響も示されています。診断は難しく、複数の検査や専門医の診察が必要です。 自己免疫疾患の完治が難しい理由 自己免疫疾患は一度発症すると、現在の医学では完全な治癒が難しい病気です。多くの場合、薬物療法などで症状をコントロールしながら共存していくことが治療の中心となります。病気と上手に付き合いながら、生活の質を維持していきましょう。 原因が完全には解明されていないため 自己免疫疾患の完治が難しい最大の理由は、その発症メカニズムや病態が複雑で、原因が完全には解明されていないことにあります。免疫システムのどの部分がどのように破綻し、なぜ自己を攻撃するようになるのかについては、多くの研究が進められているものの、まだ解明されていない点が多いです。 遺伝因子と環境因子の複雑な相互作用、個人差の大きさなども、治療法の開発を困難にしています。現在の治療は原因を取り除くのではなく、症状の緩和に主眼が置かれています。 自己免疫反応を完全に止めることが難しい 自己免疫疾患の治療では、異常な免疫反応の抑制が中心となりますが、自己免疫反応だけを選択的に抑える方法は限られています。現在の免疫抑制療法は、ステロイドや免疫抑制剤などを用いて免疫機能全体を抑制するため、症状の改善とともに、感染症へのリスク増加などの副作用も伴います。 特定の自己抗原に対する免疫反応のみを抑制する治療法の開発は進んでいるものの、実用化には至っていないケースが多いです。さらに、一度発症した自己免疫記憶は長期間持続するため、治療を中断すると再発が多いといった課題もあります。 自己免疫疾患における「治った」とは 自己免疫疾患では「治った」といった表現が医療現場と患者の間で認識のずれを生むことがあります。 多くの自己免疫疾患では真の意味での完治は難しく、むしろ「コントロールされている状態」や「寛解」といった概念が重要になります。患者様が自分の状態を正しく理解することが、長期的な疾患管理には欠かせません。 「完治」と「寛解」の違い 自己免疫疾患において、「完治」と「寛解」は医学的に異なる概念です。 項目 完治 寛解 定義 治療を終了しても症状が再発せず、病気が完全に消失した状態 症状が一時的に消失または軽減しているが、治療継続や経過観察が必要な状態 治療 投薬や治療が不要 治療の継続が必要 状態 疾患前の健康状態に戻る 体内では免疫学的な異常が継続していることが多い リスク 再発のリスクが極めて低い 治療を中断すると再燃するリスクがある 多くの自己免疫疾患では、完全な「完治」よりも「寛解」を目指した治療が現実的なアプローチとなります。寛解状態に達すれば、症状がない、または最小限の状態で日常生活を送ることが可能です。 重要なのは、たとえ症状がなくなっても定期的な検査や治療を継続することで、再燃を防ぎ長期的な健康を維持することです。 医療機関で使われる「寛解」の基準 医療現場では、自己免疫疾患の寛解を評価するため、いくつかの客観的な基準が用いられています。 臨床的寛解は、痛みや腫れなどの自覚症状や血液検査での炎症マーカーが消失した状態を指し、関節リウマチではDAS28(疾患活動性スコア)などの指標で評価されます。構造的寛解は、X線やMRIなどの画像検査で関節破壊や臓器障害の進行が停止している状態です。機能的寛解は、患者の日常生活動作に支障がない状態で、HAQ(健康評価質問票)などで評価されます。 これらの寛解基準を満たし、治療目標として設定されるケースが増えています。 自己免疫疾患の寛解を目指すためにできること 自己免疫疾患と診断されても、適切な治療と生活管理によって症状をコントロールし、寛解状態を目指せます。医師との協力関係を築き、治療を継続しながら、日常生活での自己管理にも取り組めば、病気と上手に付き合っていけます。 医師の指導に基づく適切な治療 自己免疫疾患と診断された場合の医師の指導に基づく適切な治療として、以下の2点を解説していきます。 薬物療法 定期的な検査と経過観察 薬物療法 ステロイド薬は多くの自己免疫疾患で治療の中心となり、強力な抗炎症作用によって症状をコントロールするために使用されます。急性期には高用量で開始し、症状の改善に伴って徐々に減量していくのが一般的です。 必要に応じて免疫抑制薬(アザチオプリン、メトトレキサートなど)を併用し、病状に応じて複数の薬剤を組み合わせることもあります。近年では、より標的を絞った生物学的製剤も選択肢として増えています。 ステロイド薬の減量後も、再燃予防のために免疫抑制療法を継続するケースが多く見られます。長期使用による副作用(眼圧上昇や緑内障、骨粗鬆症など)を防ぐため、定期的な検査が必要です。 定期的な検査と経過観察 自己抗体検査や血液検査で炎症や疾患活動性をモニタリングし、病態の進行や治療効果の確認は寛解の維持に欠かせません。炎症マーカーや自己免疫関連検査の数値変化は、目に見える症状が現れる前に体内の病気を反映する場合があります。 病状が安定していても、再燃のリスクがあるため定期的なフォローアップが推奨されます。検査結果は時期や体調によって変動するため、一時的な変化に一喜一憂せず、時間の経過を追うのが重要です。発熱や倦怠感などの症状悪化時には迅速に医療機関を受診し、治療方針の見直しを行う必要があります。 生活習慣の見直し 自己免疫疾患の管理には、薬物療法だけでなく日常生活の改善も重要な役割を果たします。 食事・運動・ストレス管理の3つの視点から生活習慣を見直しましょう。 バランスの取れた食事 自己免疫疾患には抗炎症作用のある食品が効果的です。 積極的に摂取したいもの 高たんぱく、高繊維食 新鮮な野菜や果物 青魚(オメガ3脂肪酸が豊富) 発酵食品(腸内環境を整える) セレン、鉄、亜鉛、マグネシウムなどのミネラル これらの食品は免疫システムのバランスを整え、炎症を抑制する働きがあります。特に個人の体質や症状に合わせた食事選択が重要です。 控えめにしたいもの 加工食品 高脂肪食品 精製糖質 これらの食品は体内の炎症を悪化させる可能性があるため、可能な限り自然食品を中心とした食生活を心がけましょう。 適度な運動と休息 適切な運動は炎症を抑制し、気分向上にも効果があります。 おすすめの運動 軽いウォーキング ヨガ 水中運動など低強度の運動 休息のポイント 十分な睡眠を確保する 疲労感を感じたらすぐに休む 体調に合わせて運動の強度や時間を調整する 無理のない範囲で定期的に運動することで、血流が改善され、免疫系の正常化を促進します。一日15~30分から始めてみましょう。 ストレス管理 ストレスは自己免疫疾患の発症や悪化の重要な要因です。 効果的な方法 深呼吸、瞑想、マインドフルネス 趣味や創作活動 自然の中で過ごす時間 患者会への参加や同じ疾患を持つ人との交流 必要に応じてカウンセリングや心理療法 ストレス管理は薬物療法と同じくらい重要な治療の一環です。自分に合ったリラクゼーション方法を見つけ、日常生活に取り入れていきましょう。 自己免疫疾患と向き合うために大切な考え方 自己免疫疾患は長期にわたって付き合っていく必要のある病気です。寛解と再燃を繰り返すことも多く、時に心理的な負担も大きくなります。しかし、適切な治療と心構えによって、病気があっても充実した人生を送ることは十分に可能です。病気と上手に付き合うための考え方を身につけましょう。 正しい情報を取り入れ自分に合った治療を続ける 自己免疫疾患と向き合うためには、まず医療機関や専門医からの正確な情報を基に、自分の病状やライフスタイルに合った治療法を選択しましょう。インターネット上には多くの情報がありますが、科学的根拠のない治療法や民間療法に惑わされないよう注意が必要です。 処方された薬を自己判断で中止したり、用量を変更したりせず、医師の指示に従うのが寛解への近道となります。治療には薬物療法だけでなく、食事や運動、ストレス管理などの生活習慣の見直しも含まれます。自分の体調の変化を記録し、医師との診察時に共有するのも効果的です。 自分を責めない・周囲に頼る 自己免疫疾患は本人の意思や生活習慣だけが原因ではなく、遺伝的要因や環境要因が複雑に絡み合って発症します。病気による制限や不安から自分を責めるのではなく、「今できること」に焦点を当てる姿勢が大切です。完璧を求めず、調子の良い日も悪い日も自分の体を尊重する心構えを持ちましょう。 一人で抱え込まず、家族や友人、患者会など周囲のサポートを積極的に活用し、孤立を防ぐことも重要です。必要に応じて心理カウンセラーなどの専門家に相談も、心理的な負担軽減になるでしょう。病気があっても自分らしい生活を送るためには必要です。 自己免疫疾患は「寛解」を目指して前向きに治療しよう 完治が難しい自己免疫疾患では、症状をコントロールし安定した状態(寛解)を目指すことが現実的な治療目標となります。現代の医療では、早期発見と適切な治療により、多くの患者様が症状を抑えながら日常生活を送っています。 医療機関や専門医から正確な情報を得て、自分の病状やライフスタイルに合った治療法の選択が大切です。薬物療法を基本としながら、バランスの取れた食生活や適度な運動、十分な休息、ストレス管理などの生活習慣の改善も治療の助けとなります。 病気による制限や不安から自分を責めず、できることとできないことを見極める柔軟性を持ちましょう。家族や友人、患者会などのサポートを積極的に活用して孤立感を防ぎ、必要に応じて専門家の心理的サポートを受けることも有効です。自己免疫疾患があっても、工夫と周囲の理解があれば、充実した人生を送ることは十分に可能です。 なお、当院「リペアセルクリニック」では免疫細胞療法を提供しております。 主にがん予防に関する内容ではございますが、免疫力に関してお悩みを抱えている方は、以下のページもあわせてご覧ください。
2025.04.26 -
- 内科疾患、その他
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「自己免疫疾患っていう名前は聞いたことあるけど、どんな病気かはよく知らない」 そんな方も多いのではないでしょうか?気になって調べ始めた方も多いかもしれません。 自己免疫疾患は、体を守るはずの免疫が、間違えて自分を攻撃してしまう病気です。名前だけ聞くと怖いイメージを持つかもしれませんが、正しく理解すれば、過度に心配する必要はありません。 この記事では、自己免疫疾患の基本や、よくある症状、治療についてわかりやすく紹介していきます。 自己免疫疾患とは 自己免疫疾患とは、私たちの体を守るはずの免疫システムが誤って自分自身の細胞や組織を攻撃してしまう病気です。通常は外敵から体を守る防御システムが、なんらかの理由で自分の体を敵と認識してしまい、慢性的な炎症や臓器障害を引き起こします。多くは完治が難しく、長期的な管理が必要となります。 免疫の基本的な役割 免疫とは、私たちの体に侵入したウイルスや細菌などの病原体を発見し、攻撃・排除するための防御システムです。白血球を中心とした免疫細胞が体内をパトロールし、異物を見つけると速やかに反応して体を守ります。 健康な免疫システムの最も重要な特徴は、「外敵」と「自己」を正確に区別できることです。免疫細胞は特殊なタンパク質を使って、体に入ってきた細菌やウイルスなどの異物を識別し、攻撃します。一方で、自分の体を構成する細胞や組織は「自己」として認識し、攻撃しないようプログラムされています。 この「自己」と「外敵」の区別が免疫システムの基本原理です。 自己免疫疾患の状態 自己免疫疾患では、本来味方であるはずの自分自身の組織や臓器を、免疫システムが「外敵」と間違えて攻撃してしまいます。これは、体を守るための軍隊が誤って自国の市民を攻撃しているような状態と言えるでしょう。 誤った攻撃は持続的に行われるため、攻撃の対象となる組織や臓器では慢性的な炎症が起こり、時間とともに機能障害が生じます。たとえば、膵臓のインスリン産生細胞が攻撃されれば1型糖尿病に、関節の滑膜が攻撃されれば関節リウマチになります。 自己免疫疾患の主な症状 自己免疫疾患の症状は非常に多様で、疾患の種類や進行度によって大きく異なります。共通する特徴として、慢性的な疲労感、原因不明の発熱、関節痛、皮膚の発疹などが見られます。症状が良くなったり悪化したりを繰り返す「寛解と再燃」のパターンを示すことも特徴的です。 症状が出る場所による違い 自己免疫疾患は攻撃される部位によって症状が大きく異なります。たとえば、関節リウマチでは免疫系が関節の滑膜を攻撃するため、関節の痛みや腫れ、朝のこわばりといった症状が特徴的です。全身性エリテマトーデス(SLE)では、皮膚や腎臓、心臓など複数の臓器が攻撃対象となり、蝶形紅斑と呼ばれる顔の発疹や腎機能障害などの症状が現れます。 消化器系が影響を受ける疾患としては、クローン病や潰瘍性大腸炎があり、腹痛や下痢、血便などの症状を引き起こします。甲状腺が攻撃されるバセドウ病では、動悸や発汗、体重減少などの甲状腺機能亢進の症状が現れるでしょう。 一つの自己免疫疾患であっても、複数の臓器や組織に影響を及ぼすことが少なくありません。たとえば、シェーグレン症候群では涙腺や唾液腺が攻撃され、ドライアイやドライマウスの症状が出現しますが、同時に関節や肺、腎臓にも影響が及ぶことがあります。 自己免疫疾患の代表的な種類 自己免疫疾患にはさまざまな種類があり、それぞれ特徴的な症状を示します。下記の表では、代表的な自己免疫疾患とその主な症状をまとめました。 疾患名 主な症状 バセドウ病 甲状腺機能亢進による動悸、体重減少、発汗過多、手の震え、目の突出など 関節リウマチ 関節の痛み・腫れ・こわばり、とくに手指や手首の関節に多く見られる、疲労感 橋本甲状腺炎 甲状腺機能低下による倦怠感、寒がり、体重増加、むくみ、皮膚の乾燥、便秘など 1型糖尿病 口渇、多飲、多尿、体重減少、疲労感、血糖値の上昇 全身性エリテマトーデス(SLE) 蝶形紅斑(顔の発疹)、関節痛、光線過敏、腎障害、貧血、発熱、疲労感 血管炎 血管の炎症による発熱、疲労感、体重減少、発疹、臓器障害(腎臓、肺、神経など) アジソン病 副腎皮質ホルモン不足による倦怠感、筋力低下、低血圧、皮膚の色素沈着、吐き気など 多発性筋炎 近位筋(肩や腰の筋肉)の対称性の筋力低下、筋肉痛、嚥下障害、間質性肺疾患 シェーグレン症候群 目や口の乾燥(ドライアイ、ドライマウス)、関節痛、疲労感、発熱 進行性の全身性強皮症 皮膚の硬化・緊張、レイノー現象(指先の色調変化)、関節痛、消化器症状、肺線維症 糸球体腎炎 血尿、蛋白尿、浮腫、高血圧、腎機能低下 (文献1) 症状は疾患によって大きく異なりますが、多くの自己免疫疾患では疲労感や発熱などの全身症状も共通して見られます。複数の自己免疫疾患を同時に発症する場合もあります。 自己免疫疾患の多くは完全な治癒は難しいものの、早期発見と適切な治療によって症状をコントロールし、生活の質を維持できます。 自己免疫疾患の原因 自己免疫疾患の正確な発症メカニズムは、現在も研究が進められています。単一の原因ではなく、遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。特徴的なのは、多くの自己免疫疾患で明らかな性差が見られることです。 遺伝的要因 自己免疫疾患には、家族内での発症傾向が認められるケースが多く、遺伝的な要素が重要な役割を果たしていると示唆されています。 とくに注目されているのが、HLA(ヒト白血球抗原)と呼ばれる遺伝子群です。これらの遺伝子は免疫システムの制御に関わっており、特定のHLA型を持つことで、特定の自己免疫疾患のリスクが高まることがわかっています。たとえば、HLA-DR4は関節リウマチと関連があるとされています。 しかし、遺伝的素因があるだけでは通常発症しません。同じ遺伝子を持つ一卵性双生児でも、両方が必ず発症するわけではないことから、遺伝子と環境要因の相互作用が重要と考えられています。 環境要因 環境要因は自己免疫疾患の引き金として働くことがあります。とくにウイルス感染は注目されている要因の一つです。たとえば、EBウイルス(エプスタイン・バーウイルス)は多発性硬化症や全身性エリテマトーデス(SLE)の発症リスクと関連があるとされています。 喫煙も重要な環境要因です。とくに関節リウマチでは、喫煙者は非喫煙者に比べて発症リスクが高くなります。また、全身性エリテマトーデス(SLE)では紫外線曝露が症状の悪化を引き起こすことが知られています。 強いストレスや過労も免疫系のバランスを乱す要因です。ストレスによるホルモンバランスの変化が免疫系に影響を与え、自己免疫疾患の発症や悪化につながる可能性が示唆されています。食生活や腸内細菌叢の変化も、近年研究が進んでいる分野です。 性差 自己免疫疾患の大きな特徴の一つに、女性の発症率が男性より高いことがあげられます。たとえば、アメリカでは、全身性エリテマトーデス(SLE)やシェーグレン症候群、関節リウマチなどでは、患者の80%が女性と報告されています。(文献2) この性差の主な原因は、女性ホルモン、とくにエストロゲンの影響と考えられています。エストロゲンには免疫系を活性化する作用があり、自己免疫反応を促進する可能性があるためです。 妊娠中や授乳期、更年期などホルモンバランスが大きく変化する時期に、自己免疫疾患の症状が変動する場合も多いです。関節リウマチは妊娠中に症状が改善し、出産後に悪化する症例がありますが、これはエストロゲンレベルの変動と関連していると考えられています。 自己免疫疾患の診断方法 自己免疫疾患の診断には複合的なアプローチが必要です。まず医師は詳細な問診をして、症状の経過や家族歴、生活習慣などを確認します。続いて身体診察で関節の腫れや皮膚の変化、内臓の異常などを評価します。 血液検査は、赤血球沈降速度(赤沈)や血算などです。必要に応じてX線検査、CT、MRI、超音波などの画像検査もして、関節や内臓の状態を詳しく観察します。場合によっては、生検(組織の一部を採取して顕微鏡で調べること)も診断には必要です。 自己免疫疾患の診断は単一の検査結果だけで確定できることは少なく、各種検査結果と臨床症状を総合的に判断します。 自己免疫疾患の治療方法 自己免疫疾患の治療では、免疫システムの過剰な反応を抑え、炎症を軽減させることが主な目標です。これにより症状をコントロールし、長期的な臓器障害を防ぎます。 治療薬としては、炎症を抑えるステロイド剤、免疫反応を抑制する免疫抑制剤などが用いられます。 治療は個々の患者の症状や重症度、年齢、合併症などを考慮して個別に計画されます。早期発見・早期治療が予後を大きく改善するため、症状に気づいたら早めの専門医への受診が重要です。定期的な通院と治療の継続が長期的なQOL(生活の質)の維持につながります。 自己免疫疾患における日常生活で気をつけたいポイント 感染症予防 ストレス管理 生活習慣の維持 自己免疫疾患と共に生きていく上で、日常生活での自己管理が重要です。多くの治療薬は免疫力を抑制するため、感染症にかかりやすくなります。手洗いやマスク着用などの基本的な感染予防策を心がけ、周囲に感染症の人がいる場合は接触を避けることも大切です。 ストレスは多くの自己免疫疾患の症状を悪化させる要因となるため、効果的なストレス管理法を見つけることが重要です。瞑想やヨガ、趣味に取り組むなど、自分に合ったリラックス法を取り入れましょう。 規則正しい生活習慣の維持も大切です。十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動は免疫の働きをサポートします。とくに疲労は症状悪化の引き金になることが多いため、無理をせず、必要に応じて休息を取りましょう。 自分の体調の変化に敏感になり、悪化のサインの早期発見も重要です。症状の日記をつけると、医師とのコミュニケーションに役立てられます。 自己免疫疾患を正しく理解し悩んだら早めの相談を 自己免疫疾患は、体の免疫システムが自分自身の組織を攻撃してしまう慢性疾患です。完全な治癒は難しいものの、医学の進歩により、多くの患者さんが症状をコントロールしながら充実した生活を送れるようになっています。 自己免疫疾患の多くは早期発見・早期治療が非常に重要です。関節の痛みや腫れ、原因不明の疲労感、皮膚の変化など、気になる症状が続く場合は、迷わず医療機関を受診しましょう。家族に自己免疫疾患の方がいる場合は、より注意が必要です。 インターネット上にはさまざまな情報が溢れていますが、自己判断で治療を中断したり、科学的根拠のない民間療法に頼ることは危険です。不安や疑問があれば、必ず担当医に相談しましょう。 患者会や支援グループなどのコミュニティも、情報共有や精神的なサポートを得る貴重な場です。同じ悩みを持つ人々との交流は、病気と向き合う勇気や知恵を与えてくれます。 自己免疫疾患と診断されても、適切な治療と自己管理によって、多くの方が充実した人生を送っています。正しい知識を持ち医療者と協力しながら、自分らしい生活を築いていきましょう。 参考文献 文献1 MSDマニュアル家庭版「自己免疫疾患」MSDマニュアル、2022年 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/15-%E5%85%8D%E7%96%AB%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E5%8F%8D%E5%BF%9C%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BB%96%E3%81%AE%E9%81%8E%E6%95%8F%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%87%AA%E5%B7%B1%E5%85%8D%E7%96%AB%E7%96%BE%E6%82%A3(最終アクセス:2025年4月13日) 文献2 早川純子ほか「性差医学からみた自己免疫疾患」『日大医誌』72(3).pp150-153、2013年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/72/3/72_150/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年4月13日)
2025.04.26 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
自己免疫疾患は、いまだにはっきりとした原因がわかっていない病気が多く、診断された方の多くが不安を抱えています。 「もしかしてストレスが原因?」「自分の生活に問題があったの?」と自分を責めてしまう人も少なくありません。 この記事では、自己免疫疾患の基本から原因に関する最新の考え方、そしてストレスとの関係についてわかりやすく解説します。 毎日の生活でできるストレスケアについても紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。 自己免疫疾患の基礎知識 自己免疫疾患とは、本来なら外敵から体を守るはずの免疫システムが、誤って自分自身の細胞や組織を「敵」と認識して攻撃してしまう病気です。つまり、私たちの体を守るべき免疫が、逆に自分自身に向かってしまう状態を指します。 免疫システムの誤作動によって、体内では慢性的な炎症反応が引き起こされ、さまざまな臓器や組織に障害が生じるようになります。症状や重症度は疾患によって大きく異なり、軽い体調不良から、日常生活に支障をきたす重症な状態、さらには命に関わるケースまで幅広く存在するのです。 発症の仕組みは完全には解明されていませんが、遺伝的要因、環境要因、ホルモンバランスの乱れなど、複数の要素が関与していると考えられています。 代表的な自己免疫疾患には、以下のような病気があります。 バセドウ病 関節リウマチ 橋本甲状腺炎 1型糖尿病 全身性エリテマトーデス 血管炎 アジソン病 多発性筋炎 シェーグレン症候群 進行性の全身性強皮症 糸球体腎炎 これらの疾患は、現代の医療でも完全な治癒が難しい場合が多いものの、早期発見と適切な治療により、症状の進行を抑えたり、生活の質を維持したりすることが可能です。 近年では新しい治療薬も登場し、より多くの患者様が日常生活を大切にしながら治療を続けられるようになっています。疾患への理解を深め、早めの対応を心がけることで、日常生活を送れるようになるでしょう。 【関連記事】 自己免疫疾患とは?原因・症状・代表的な病気をわかりやすく解説 関節リウマチの初期症状は?チェックリスト付きで現役医師が解説 自己免疫疾患の原因はストレスだけじゃない! 自己免疫疾患の発症メカニズムは複雑で、単一の原因ではなく複数の要因が組み合わさって発症すると考えられています。ストレスも一因ですが、それだけではありません。以下の要因が考えられます。 遺伝的な要因 自己免疫疾患には遺伝的な素因が大きく関わっています。家族に自己免疫疾患の患者がいる場合、ほかの家族も同様の、あるいは別の自己免疫疾患を発症するリスクが高まることが研究で示されています。特定の遺伝子変異が免疫系の調節機能に影響を与え、自己免疫反応を起こしやすくする体質を作ると考えられるのです。 ただし、遺伝的要因があるからといって必ず発症するわけではありません。同じ遺伝子を持つ一卵性双生児でも、片方だけが発症するケースも多く見られます。つまり遺伝は「発症しやすさ」を決める要因の一つに過ぎず、他の環境要因との相互作用が重要です。 環境要因 環境要因は自己免疫疾患の発症や進行に大きく関係します。特定のウイルスや細菌感染が免疫系を刺激し、その後の免疫反応の誤作動につながるケースです。 EBウイルス感染後に多発性硬化症や全身性エリテマトーデス(SLE)のリスクが高まることや、紫外線を過度に浴びることは、全身性エリテマトーデス(SLE)などの悪化要因と言われています。 喫煙も多くの自己免疫疾患のリスク因子として知られており、可能なら禁煙することをおすすめします。 ホルモンバランスや性差 自己免疫疾患の多くは女性の発症率が圧倒的に高く、その背景にはホルモンバランスの影響が考えられています。エストロゲンなど女性ホルモンは免疫系の活性化に関わる一方、テストステロンなど男性ホルモンには免疫反応を抑制する効果があるとされています。 思春期、妊娠期、産後、更年期など、女性のライフステージにおけるホルモン変動期に発症や症状変化が見られることも特徴的です。妊娠中に症状が改善する疾患がある一方、産後に症状が悪化したり発症したりする疾患もあり、ホルモンの複雑な影響が示唆されています。 ストレスと自己免疫疾患の関係 自己免疫疾患とストレスには複雑な関連性があります。近年の研究では、ストレスが免疫機能に影響を与え、自己免疫疾患の発症や悪化に関係する可能性が示されています。ストレスと免疫機能の関係性を正しく理解しておきましょう。 ストレスが免疫システムに与える影響 ストレスを感じると、人の体では以下のような変化が起こります。 交感神経が活性化する アドレナリンやノルアドレナリンなどのストレスホルモンが分泌される コルチゾールの分泌が増え、免疫系に影響を与える 長期的なストレスで免疫システムのバランスが崩れる 慢性的な炎症が進行し、自己免疫反応のリスクが高まる これらの変化は短期的には体を守りますが、長期間続くと問題が生じます。コルチゾールが長期間多い状態では、免疫機能を抑制する一方で炎症を促進し、このバランスの崩れが自己免疫反応を誘発しやすくします。 また、ストレスは睡眠や食生活にも悪影響を与え、間接的にも免疫機能を低下させます。心身の健康を保つためには、日常的なストレス対策が大切です。 ストレスが「引き金」になることもある 強い精神的ショックや、長く続くストレスの後に自己免疫疾患が現れることがあります。また、すでに病気がある人では症状が悪くなることもあります。 たとえば、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの患者様の多くが、発症前に大きなライフイベントや精神的ストレスを経験していたことを挙げています。 これは、ストレスによって遺伝的素因が「表面化」するものと考えられるでしょう。自己免疫疾患の素因をもともと持っていたとしても、通常の生活では発症しない場合が多いのですが、強いストレスを受けたことで発症に至る可能性が高まるのです。 慢性的なストレスによって免疫の働きが乱れ、自分の体を攻撃する抗体が作られやすくなるため、病気が進行する原因になる可能性があると指摘されています。こうした背景からも、心身のストレスマネジメントは、自己免疫疾患の予防や症状コントロールにおいて非常に重要な要素といえるでしょう。 ストレスだけが原因ではない ストレスは自己免疫疾患の発症や悪化において重要な要素の一つですが、それ単独で病気の原因になるわけではありません。 自己免疫疾患は典型的な「多因子疾患」とされ、遺伝的素因、環境因子、感染症、ホルモンバランスの変化など、さまざまな要因が複雑に絡み合って発症に至ります。ストレスはその中の一因にすぎず、必ずしも決定的な要素ではないのです。 患者様がこのことを理解するのは非常に重要です。「ストレスをためたから病気になった」と自分を責めるのではなく、複数の要因が重なった結果であると冷静に受け止めることが、前向きな治療への第一歩となります。 治療においても、ストレス管理は大切な柱ですが、それだけで完結するわけではありません。医学的な治療、適切な薬物療法、栄養バランスの取れた食事、十分な休養や運動など、生活全体を見直す総合的なアプローチが必要です。治療とセルフケアの両輪で症状のコントロールを目指していきましょう。 自己免疫疾患を防ぐストレスをためない方法 自己免疫疾患の予防や症状コントロールにおいて、ストレス管理は重要な要素の一つです。日常生活の中で無理なく続けられるストレス対策を取り入れ、心身のバランスを整えることが大切です。 自律神経や生活リズムを整える 日常生活でできるストレス対策として、以下の方法を取り入れてみましょう。 深呼吸や瞑想などのリラクゼーション法を実践する 趣味や好きなことに没頭する時間を確保する 規則正しい生活リズムを維持する 適度な運動を取り入れる バランスの取れた食事を心がける 質の良い睡眠をとる(就寝前のスマートフォン使用を控える) 自律神経のバランスを整えることは、ストレスに強い体づくりの基本です。朝起きた時や寝る前に5分間の深呼吸をするだけでも、リラックス効果が得られます。 また、音楽を聴く、読書をするなど、楽しい活動に集中する時間を意識的に作りましょう。趣味に没頭している時間は、ストレスホルモンの分泌が自然と抑えられます。 さらに、同じ時間に寝起きする習慣や適切な運動、バランスの良い食事も自律神経の安定につながります。特に質の良い睡眠は免疫機能の回復に欠かせません。 専門家との連携 自己免疫疾患を抱えている方のストレスケアは、自己流で行うよりも専門家のサポートを受けながら進めることが望ましいです。まずは主治医に現在のストレス状況や心配事を相談し、医学的見地からのアドバイスを受けましょう。 症状や状況によっては、心理カウンセラーや心療内科医など、メンタルヘルスの専門家のサポートを受けることも検討してください。認知行動療法などの心理療法は、ストレスへの対処法を学び、ネガティブな思考パターンを変えるのに効果的です。 自己免疫疾患の治療では、薬物療法による症状のコントロールと並行して、生活改善やメンタルケアをバランスよく取り入れることが大切です。患者会やオンラインコミュニティなどで同じ疾患を持つ人たちと交流するのも、精神的な支えになります。一人で抱え込まず、医療従事者や周囲の理解者と連携しながら、自分に合ったストレス管理法を見つけていきましょう。 自己免疫疾患とストレスの関係を正しく理解して、自分を守ろう 自己免疫疾患は、遺伝的要因、環境要因、ホルモンバランス、そしてストレスなど、さまざまな要素が複雑に影響し合って起こります。ストレスはその一部ですが、ストレスだけで発症するわけではありません。 大切なのは、「病気になったのは自分のせい」と自分を責めるのではなく、「自分の体と心を大切にする」という前向きな姿勢です。適切なストレス管理は症状の安定につながり、生活の質も向上します。自分のペースを尊重し、無理のない生活習慣を心がけましょう。 必要なときは周囲や専門家のサポートを求めることも大切です。小さな積み重ねが、自己免疫疾患とともに生きる上での大きな力になります。 なお、当院「リペアセルクリニック」では免疫細胞療法を提供しております。主にがん予防に関する内容ではございますが、免疫力に関して不安がある方は、以下のページもあわせてご覧ください。
2025.04.26