トピックスtopics

脳幹出血の後遺症|運動失調の特徴とメカニズム

脳幹出血の後遺症|運動失調の特徴とメカニズム

脳幹は意識を保ち、呼吸や循環を調整する役割を果たしています。脳幹出血が起こると、重度の場合は四肢麻痺や呼吸障害・意識障害をきたし、亡くなることもあります。その一方で、一部の方では出血が軽度で済むことがあります。しかし、軽症であっても、日常生活に支障をきたす後遺症を残してしまうことがあります。

脳卒中の後遺症として思い浮かぶものは何でしょうか。一般的には麻痺や感覚の障害、あるいは注意や記憶・遂行能力などにかかわる高次脳機能障害のイメージが強いと思います。

脳幹出血の後遺症でも、顔面神経麻痺や片麻痺(体の左ないし右半身どちらかの麻痺)、感覚障害などをきたします。さらに、「運動失調」に悩まされる方もいます。

今回の記事では、この「運動失調」について、どのような症状が起こるのか、なぜ脳幹出血で起こるのかについても解説していきます。

脳幹出血 運動失調

運動失調とはなにか?

運動失調とは、筋肉同士の連携がうまくいかず、姿勢やバランスを保ったり、動作をスムーズに行ったりすることができない状態を指します。

運動失調は原因により、次のように分けられます。

・小脳性

小脳は運動のコントロールを行う場所です。協調運動に関与する領域が侵されることで運動失調が起こります。

協調運動とは、動作を行う際に必要な関節・筋肉などを調整しながら活動することです。これができなくなることで、手足の細かい動きの調整ができなくなったり、歩くときにふらついたりなど多彩な症状が出現します。

・前庭迷路性

バランスをとるための平衡感覚に重要な前庭器官や、そこから情報を伝える神経の障害により起こります。そのため、立ったり歩いたりする際にバランスがとりづらいという症状が目立つようになります。

・脊髄性

脊髄に障害が起こると、筋肉の伸び縮みの具合や関節の状態についての感覚(深部感覚)が障害されます。その結果、自分の筋肉や関節の状態がうまく把握できず、ふらつきが起こります。一部は視覚情報で補完できるため、目をつぶるとふらつきが強くなり、立っていられなくなるという特徴があります。

・大脳性

大脳は小脳とともに協調運動に関わります。そのため、小脳性失調と症状が類似しています。

・その他

末梢神経の障害などによっても運動失調をきたすことがあります。

 

脳幹出血で運動失調が起こるメカニズムとは

脳幹出血で運動失調が起こるのはなぜでしょうか。

脳幹は小脳の前面にあり、神経線維でつながっています。脳幹出血が起こると小脳との連絡経路に障害が起こります。そのため、脳幹出血では、小脳性失調の症状を認めることがあるのです。

また、脳幹には前庭から情報を受け取る前庭神経核という部分があります。脳幹出血により前庭神経核が障害を受けると、前庭迷路性失調をきたします。

どのような症状が起こるのか

脳幹出血で起こる運動失調では、例えば次のような症状が認められます。

・体幹失調

体幹のバランスをとることができず、歩くときに足を広く開いて歩くようになります。また手足の動きがバラバラになり、まるで酔っ払っている時のような歩き方になります。体幹失調が強いと、座っている時も状態がぐらぐらと揺れてしまいます。

・構音失調

話し言葉のリズムが乱れ、音の高さや大きさがバラバラになります。そのため、酔っ払っているときのような呂律の回らない喋り方になります。

・四肢失調

手足の動きを目的のところで止めることができなくなる測定障害が起こります。結果、目の前に置いてあるものを上手く掴めなくなります。

また、反復拮抗運動障害と言って、素早く反復する動きを繰り返すことが苦手になります。例えば、手首を素早く裏表に返すような動作、「お星様キラキラ」のジェスチャーが上手くできなくなります。

・眼球失調

目の動きを上手くコントロールできず、ものが二重に見えたり、めまいが起こったりします。

・企図振戦

振戦とは震えのことです。何かをしようとしたときに手が震えます。特に、目的のものに手が届きそうになったときに震えが強くなります。

・嚥下障害

ものを飲み込むことは複雑な動作の組み合わせです。運動失調が起こると、噛んだり舌で食べ物を送ったり、喉の筋肉を動かしたりという動きが上手に調整できなくなるとされています。

脳卒中は手術しなくても治療できる時代です。

  • sbtn 01sbtn 01 sp
  • sbtn 00sbtn 00 sp

脳幹出血の運動失調についてよくあるQ&A

Q, 運動失調と麻痺の違いは?

A, 麻痺とは、医学的には運動麻痺のことを指すことが多いです。脳やそこから伸びる神経の障害により、手や足などの体の部分が自分の意思通りに動かせない状態です。「思ったように力が入らないので動かない」という状況になります。

一方、運動失調とは、運動麻痺がないのにも関わらず、筋肉が協力してうまく働かないことを指します。その結果、姿勢を保ったり、円滑に動作をしたりすることができなくなります。「ふらふらする」「スムーズに動くことができない」という状態です。

脳幹出血では、出血の部位や程度により、この両方がさまざまな程度で起こり得ます。

Q, 運動失調と協調運動障害の違いは?

A, 協調運動障害は、運動失調の一つの形と捉えることが多いようです。特に、手足の運動が上手くできないことを協調運動障害と呼ぶことが多いです。

Q, 脳幹出血後の運動失調の治療は?

A, 脳幹出血により傷ついてしまった神経を取り替えることはできません。そのため、失われた機能の回復と、残っている機能の維持のためのリハビリテーションが行われます。

リハビリを行う際は、上肢・体幹・下肢など部位ごとに、どのような症状がどの程度あるのかの検査・評価を行い、目標を設定していきます。個々人の目標毎にプログラムを組むため、焦りすぎず、セラピストと相談しながら継続しましょう。

まとめ・脳幹出血の後遺症|運動失調の特徴とメカニズム

脳幹出血後により運動失調が起こると、回復のためには長期的な訓練が必要になります。これまで無意識下にできていた動作が難しくなり、そのままでは日常生活に大きな影響を及ぼすからです。

目の前のコップをとる、まっすぐ歩くなど、これまで何気なく行っていたことができず辛い思いをされる方も多いです。

リハビリでは、失った機能を取り戻したり、残っている機能を伸ばして補完したりする訓練をしていきます。問題なく生活できるようになるまでには時間がかかりますが、少しずつ確実に継続していくことが大切です。

以上、脳幹出血の後遺症で運動失調の特徴とメカニズムについて記載させていただきました。

この記事がご参考になれば幸いです。

 

No.S139

監修:医師 加藤 秀一

 

▼以下もご参考下さい
脳幹出血の原因とは?今すぐ見直せる3つの生活習慣で予防を!

脳卒中の治療

  • 参考文献
  • 渡邊裕文. 関西理学. 6:15-19. 2006.
  • 水澤英洋. 日内会誌. 101:669-674.2012.
  • 後藤淳. 関西理学.14:1-9.2014.
  • 望月仁志、宇川義一. Jpn J Rehabil Med 2019;56:88-93
  • 福岡達之、道免和久. Jpn J Rehabil Med 2019;56:105-109

カテゴリ

人気記事ランキング

イメージ画像トップ