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大腿骨頭壊死のリハビリ内容や期間・やってはいけないことを現役医師が解説

大腿骨頭壊死は、股関節を形成する大腿骨頭の血流障害によって大腿骨頭に壊死が生じ、骨の圧壊や疼痛を引き起こす疾患です。
仕事をしている方であれば、大腿骨頭壊死にはどのような治療があるのか、仕事復帰は出来るのかなど、不安に思う人もいるでしょう。
大腿骨頭壊死の治療方針は、壊死の範囲や進行具合によって異なります。たとえばリハビリテーションは、大腿骨頭壊死の治療を終えた後も社会復帰を果たすための重要なケアです。
今回は、大腿骨頭壊死の運動療法におけるリハビリメニューと期間について解説します。大腿骨頭壊死でやってはいけないことやそのほかの治療法についてもまとめているので、ぜひ参考にしてください。
目次
大腿骨頭壊死の治療・リハビリテーション
大腿骨頭壊死は診断されたら即手術が必要になる疾患ではありません。「壊死」と聞くと、どんどん骨が腐ってしまう恐ろしい病気のようなイメージを持つ方もいるでしょう。
しかし、実際には適切な治療をおこなうことで、壊死の進行を止めたり、壊死部を修復させたりできます。
大腿骨頭壊死は、診断時の病型(Type分類:大腿骨頭のどのあたりが壊死しているか)と病期(Stage分類:壊死と圧壊がどのくらい進んでいるか)によって治療方針が決まります。
- 病型(Type分類):大腿骨頭のどのあたりが壊死しているか
- 病期(Stage分類):壊死と圧壊がどのくらい進んでいるか
壊死範囲が広い場合や、すでに圧壊が進行してしまっている場合にはすぐに手術をするケースも少なくありません。
一方、壊死範囲が限定的な場合や、体重のかかりづらい部位にあるときは、保存療法を基本として治療を進めます。
保存療法ではリハビリテーションが欠かせない
保存療法の目標は、壊死部を圧壊させないことです。長期的には、軟骨がすり減り、変形性の関節症になってしまうリスクも防ぐ必要があります。
保存療法の基本的な方針は、股関節への直接の負担を減らすことです。そのためには、リハビリテーションを通して、股関節周囲の筋肉や下肢の筋力アップを図る必要があります。
ほかにも、松葉杖などを使用したり、股関節に負荷がかかる動作を避けたりして、股関節への負担を減らすことも大切です。
大腿骨頭壊死の初期症状や原因について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
大腿骨頭壊死のリハビリプログラム
大腿骨頭壊死のリハビリテーションでは、股関節の動きを良くすること、股関節周りの筋肉を鍛えることを目標とします。
大腿骨頭壊死は以下のような症状が現れることが特徴です。
- 股関節を痛みで動かせない
- 筋力や関節可動域(関節が動かせる範囲)、柔軟性の低下
- 股関節の負担が増加し、関節が硬くなる
- 痛みで日常生活に支障が出る
このような悪循環を繰り返さないためにも、大腿骨頭壊死の治療において、リハビリテーションが大きな役割を担います。
大腿骨頭壊死のリハビリメニュー
ここからは、実際にどのようなリハビリプログラムをおこなうのか、メニューの一例を紹介します。
ストレッチ
大腿骨頭壊死のリハビリテーションにおいて、ストレッチは股関節の柔軟性を良くするために欠かせません。
大腿骨頭壊死のリハビリテーションで取り組むストレッチは、主に以下の通りです。
股関節の屈曲 |
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---|---|
股関節の外転 |
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股関節の外旋 |
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うつ伏せ |
うつ伏せの体勢をとって、股関節を曲げる筋肉を伸ばす |
腰の曲げ伸ばし |
座った状態で腰を丸めたり、伸ばしたりする |
ただし、痛みやつらさを感じる強さのストレッチは逆効果になるため注意が必要です。ストレッチをする際は、呼吸を止めずにゆっくりとおこないます。
筋力トレーニング
大腿骨頭壊死のリハビリテーションでは、股関節への負担をなるべくかけないようにするため、過度なトレーニングは避けます。
トレーニング内容は、主に以下の通りです。
メニュー |
部位 |
トレーニング内容 |
---|---|---|
腰上げ(ブリッジング) |
お尻の後ろの筋肉 |
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足上げ(座位) |
大腿四頭筋 |
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足上げ(横向き) |
中殿筋 |
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足上げ(うつ伏せ) |
ハムストリング |
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ほかにも、痛みの程度や個々の運動能力などに応じて、水中ウォーキングやエアロバイクといったメニューを追加していきます。
なお、トレーニングメニューは、数回おこなっただけでは効果が現れません。定期的に通うことはもちろん、自宅でもできるトレーニングも多いので、時間を見つけて日頃から取り組む必要があります。
大腿骨頭壊死のリハビリ期間
大腿骨頭壊死のリハビリテーションは、一般的に医療保険でのリハビリが可能な150日を目安におこなうことが多い傾向です。
ただし、経過中は医師の診察やレントゲンによるチェックをおこない、壊死が進行していないか、どの程度改善しているのかを判断しながらリハビリ期間を決定します。患者一人ひとりの状態によってリハビリメニューや期間は変わるものの、続けていかないと効果が出ない点は共通しています。
大腿骨頭壊死の手術療法
リハビリテーションによる保存療法で改善が見込めない場合には、手術を検討するケースも少なくありません。
大腿骨頭壊死の手術には、主に骨切り術と人工関節(人工骨頭)置換術があります。
どちらもメリット・デメリットがあるほか、場合によっては適応しないため、主治医とよく相談する必要があります。
骨切り術
骨切り術は、骨を切って大腿骨頭を回転させ、壊死した部分に体重がかからないようにする手術です。
自分の骨を温存でき、将来的に人工関節の手術もできる利点があります。ただし、難易度が高く、限られた施設でしかおこなわれていない手術です。
また、手術をしたとしても、骨頭の圧壊が進んでしまったり、疼痛が残ったりする可能性がある点もデメリットです。
なお、骨切り術をおこなった場合は、平均して6週間程度の入院期間が必要になります。
人工関節置換術
人工関節置換術は、壊死した骨頭を除去して、人工関節を埋め込む手術です。
人工関節置換術の場合は、入院期間が10日ほどで退院できる場合がほとんどです。ただし、人工関節の耐用年数の問題から、若年層は避けるべきとされています。また、人工関節は脱臼してしまうリスクもあります。
このようなメリット・デメリットを含め、病型や病期、個々の状態を考慮して術式が決定されます。
大腿骨頭壊死になったらやってはいけないこと
大腿骨頭壊死になったらやってはいけないことには、以下の2つがあります。
- 股関節に負担がかかる動作
- 飲酒と喫煙
症状の進行を防ぐためにも、気をつけて生活を送りましょう。
大腿骨頭壊死を悪化させない理想の生活については、以下の記事で詳しく解説しています。
股関節に負担がかかる動作
大腿骨頭壊死になったら、できるだけ股関節に負担がかかる動作を避けましょう。具体的には、以下のような行動や姿勢に気をつけてください。
- 激しい運動
- 階段昇降
- 重量物の運搬
- 長時間の立ち仕事
- しゃがみこむ動作 など
なお、股関節への負担を軽減するためには、体重の増加にも注意が必要です。体重が増加すると、その分、股関節への負担が大きくなってしまいます。
飲酒と喫煙
大腿骨頭壊死になったら、飲酒と喫煙もやめましょう。アルコールは大腿骨頭壊死の原因の一つであるとされています。また、アルコールによって骨密度が低下する可能性も指摘されており、壊死した骨をさらに弱くするリスクがあります。
喫煙も血行を悪化させ、骨の壊死を加速させる可能性があるため注意が必要です。大腿骨頭壊死の治療効果を高めるためにも、飲酒と喫煙はやめましょう。
【体験談】大腿骨頭壊死に対する再生医療の可能性
大腿骨頭壊死を発症後、リハビリテーションによる保存療法で症状が改善しない場合には、再生医療を選択する方法もあります。
リペアセルクリニックでは、大腿骨頭壊死の再生医療・幹細胞治療をおこなっています。以下で、当院における大腿骨頭壊死の症例を紹介するので、ぜひ参考にしてください。
症例1.40代男性|大腿骨頭壊死による痛みが激減
40代の男性は、数カ月前から両股関節痛があり、海外から当院を受診しました。自国の整形外科では骨切り術をすすめられたようですが、大がかりな手術である上、術後の荷重制限が長期に及ぶため手術に踏み切れずにいたそうです。
レントゲンで確認すると、骨壊死部の圧壊は認めておらず、両股関節ともに痛みは10段階の4ということでした。
40代の男性は、当院で両股関節に1億個細胞ずつ計3回の投与をおこないました。初回投与後3カ月で両股関節の痛みが半分まで軽減した症例です。術後1年のレントゲンでも両股関節ともに骨壊死部の圧壊は認めず、関節裂隙も維持されていました。
こちらの症例について詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
症例2.30代女性|大腿骨頭壊死部分が縮小して痛みも消失
30代の女性は、当院を受診する半年前に両大腿骨頭壊死症と診断されたそうです。
すでに左大腿骨頭の圧壊と疼痛があり、骨切り術の適応ではあったものの、不妊治療中で手術を受けられない状況でした。また、股関節に疼痛や可動域制限があり、分娩時に不安があるとのことで再生医療に希望を持たれていました。
MRIで確認後、治療方針を決定します。圧壊を認めていない右股関節には2000万個の細胞を計2回、圧壊を認めて疼痛がある左股関節には8000万個の細胞を計2回投与しました。2回目の投与後1年の時点で、左股関節の痛みも完全に消失した症例です。
こちらの症例について詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
まとめ|大腿骨頭壊死になったら適切なリハビリを継続しましょう
今回は、リハビリテーションを中心に、大腿骨頭壊死の治療について解説しました。大腿骨頭壊死と診断されても、壊死の範囲や進行具合によっては保存療法を選択できます。
生活習慣を見直し、適切なリハビリテーションを継続しながら、無理なく仕事復帰を目指しましょう。また、リハビリテーションを中心とした保存療法で症状が改善しない場合は、医師と相談しながら適切な治療法を検討してください。
大腿骨頭壊死についてよくある質問
大腿骨頭壊死と診断されたらスポーツはもうできない?
スポーツができるかどうかは、大腿骨頭壊死の病期と病型によって決まります。壊死範囲が小さく圧壊の危険性が少ない場合は、ほとんど制限されないケースもあります。
しかし、壊死範囲が中程度になると、ゴルフなどの軽いスポーツはできても、股関節への負担が大きいジャンプ運動などは望ましくありません。
大腿骨頭壊死の発症を防ぐ食べ物やサプリなどはある?
現状では、明らかな発症予防効果が認められている食べ物やサプリメントなどはありません。
ただし、研究段階ではあるものの、ビタミンEが大腿骨頭壊死の発症を予防するといった報告もあります。(文献1)
今後さらに研究が進んでいくことが期待されます。
参考文献
(文献1)
栗林正明、藤岡幹浩「ビタミン E の骨壊死抑制効果の検討 」京都府立医大大学院医学研究科 運動器機能再生外科学)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2008/083141/200834009A/200834009A0007.pdf
(最終アクセス:2025年3月18日)
監修者

坂本 貞範 (医療法人美喜有会 理事長)
Sadanori Sakamoto
再生医療抗加齢学会 理事
再生医療の可能性に確信をもって治療をおこなう。
「できなくなったことを、再びできるように」を信条に
患者の笑顔を守り続ける。