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高次脳機能障害の症状とは?診断方法や対応の仕方などを現役医師が解説!
「同じ作業を長時間行っているとイライラする」
「新しい物事を覚えていられない」などの症状を訴えている方はいませんか。
実は高次脳機能障害の症状が発症している可能性があるのです。
そこで今回は、高次脳機能障害の発症でよくみられる症状について解説します。
家族や周囲の方がどう対処し支援できるのかも触れているので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは、脳の損傷や異常によりさまざまな知的能力や行動に影響を及ぼす状態を指します。
具体的には、記憶や注意、言語、社会的行動などの高次脳機能に影響を与え、日常生活におけるさまざまなシーンで困難を引き起こします。
高次脳機能障害の症状が発生する原因は多岐にわたり、交通事故や脳卒中、脳炎などの外的な要因によってもたらされるケースが大半です。
そもそも高次脳機能とは、人間が複雑な思考や行動を行うために欠かせない機能であり、以下のような重要な役割を担っています。
- 問題解決能力
- 計画力
- 感情のコントロール
- 他者とのコミュニケーション能力など
高次脳機能障害の症状が発症すると、自立した生活が難しくなり、社会行動において不適応さが目立ってしまうでしょう。
高次脳機能障害の症状一覧
高次脳機能障害を発症すると、以下のような症状がみられます。
症状 |
特徴 |
脳や神経の疲労 |
集中力や持続力の低下する |
注意障害 |
同じ作業を長時間できない |
記憶障害 |
新しい情報を記憶するのが困難になる |
失語 |
言葉を発したり物書き能力が低下する |
遂行機能障害 |
計画性や問題解決能力が低下する |
半側空間無視 |
空間把握能力が低下する |
社会的行動障害 |
感情のコントロールがつかなくなる |
それぞれの症状について詳しく解説していきます。
脳や神経の疲労
高次脳機能障害の症状が発症すると、脳や神経が疲労状態になり、日常生活における些細な作業でも極度の疲労感を感じやすくなります。
集中力や持続力が低下するため、日常生活や仕事において以下の症状を感じるでしょう。
- いつも眠かったりボーッとしたりする
- 仕事や作業のミスが多い
- ソワソワする
- イライラするシーンが増えた
高次脳機能障害の症状は、本人が自覚していないケースが多いため、周りからは「やる気がない」と思われてしまう傾向にあります。
注意障害
高次脳機能障害の症状としてあげられる注意障害は、集中力の持続が困難になる症状です。
複数のタスクを同時に処理するのが難しくなり、日常の作業効率が低下し、ミスが増えるでしょう。
同じ作業を長時間続けるのも難しい傾向にあり「うわの空」状態が続きます。
- 質問されると理解に時間がかかる
- すぐに疲れてしまう
- じっとしていられない
上記のような症状が高次脳機能障害で発症します。
一度に複数の作業をする「マルチタスク」は、高次脳機能障害の症状がみられる方には不向きです。
記憶障害
記憶障害も高次脳機能障害の代表的な症状であり、新しい情報を記憶するのが難しくなったり、過去の出来事を思い出すのが困難になったりします。
- 今日の日付を忘れやすい
- 普段とは違ったスケジュールを忘れて、いつも通りの行動を取る
高次脳機能障害の症状は認知症とは異なるため、脳腫瘍が発見される前に記憶した内容を忘れる事態はごく稀です。
つまり、発症後に何かを覚えようとした際に忘れやすい傾向なのが高次脳機能障害になります。
失語
失語は、高次脳機能障害の一部として現れる言語障害です。
主に言葉を理解したり話したりする能力に影響を及ぼします。
失語の症状は多岐にわたり、個々のケースによって異なりますが、一般的には以下のような特徴が見られます。
種類 |
症状 |
表出性失語 |
話したい内容が頭の中にあっても言葉を発するのが難しくなる。 |
受容性失語 |
他者の言葉を理解するのが難しくなる。 |
失読 |
文字の音読能力が低下する。 |
失書 |
文字を書く能力が低下する。 |
上記の症状は、日常生活における情報の受け取りや発信に大きな支障をきたします。
失語の症状が現れた場合、早期に専門医の診断を受け、適切な治療を受けるのが重要です。
失語はコミュニケーション能力に直接影響しますが、適切な支援を受ければ、日常生活での困難を軽減できます。
遂行機能障害
遂行機能障害とは、計画を立てたり、問題を解決する能力が損なわれたりする症状で、日常生活での意思決定や段取りが困難になります。
たとえば仕事で効率の良い方法を模索・実施する能力が損なわれ、優先順位をつけるのも苦手な傾向にあります。
自分から率先して行動に移せず、時間の見積もりも苦手なので、遅刻が多い傾向にもある症状です。
やるべき事項や、手順書が用意された仕事の方が向いています。
半側空間無視
高次脳機能障害の症状の1つに、空間的な認識や理解が困難になる症状もあります。
半側空間無視は、日常生活において方向感覚を失ったり、物体の位置関係を把握するのが難しくなったりするのが特徴です。
たとえば、以下のような症状がみられるでしょう。
- 部屋の中で物を探す際、目の前にあるはずのものが見つからない
- 道に迷いやすくなる
- 地図を読むのが困難になる
また、空間的な構造を理解するのが難しくなるため、立体的な物を描いたり、組み立てたりする作業も困難です。
社会的行動障害
高次脳機能障害は、日常生活への影響が大きく、社会的な活動においてもさまざまな困難をもたらします。
社会的行動障害では、感情のコントロールが難しくなり、他者との適切な関係を築くのが困難になるケースがあります。
孤立や誤解を招くだけでなく、物事に対して固執する傾向にもあるのです。
その場の空気が読めなかったり、すぐ怒ったりする症状もあります。
高次脳機能障害が発症する原因
高次脳機能障害の症状が発症する原因は、交通事故や脳卒中などがあげられます。
交通事故や高所からの落下により、硬膜外血腫や脳出血が発症し、高次脳機能障害の症状が認められるケースがあります。
つまり、脳へのダメージが加わり、脳組織が損傷した際に発症する傾向にあるのです。
感染症による脳炎でも高次脳機能障害が発症する原因でもあるため、脳へ何かしらのダメージを負った際は高次脳機能障害を疑いましょう。
以下の記事では「くも膜下出血」を例に、症状や後遺症などを解説したので、ぜひあわせてご覧ください。
高次脳機能障害の主な診断方法
高次脳機能障害の症状が疑われた場合、主に以下の方法で診断します。
- 神経心理学的評価
- CTやMRI検査の画像診断
それぞれの診断方法について詳しく解説していきます。
神経心理学的評価
高次脳機能障害の診断は、まず神経心理学的評価が行われます。
神経心理学的評価では、患者の知的能力、記憶、注意力、言語能力、視空間能力、遂行機能などの認知機能を詳細に調べます。
神経心理学的評価をすれば、日常生活での困難さを具体的に特定し、どの機能がどの程度障害されているかを把握できるのです。
神経心理学的評価は、臨床心理士や神経心理士が行うケースが多く、標準化されたテストや観察を通じて実施されます。
CTやMRI検査の画像診断
CTやMRI検査の画像診断では、脳の構造的な変化や損傷を視覚的に確認するために用いられます。
画像診断は、脳の損傷部位や範囲を特定し、具体的な病態を把握するのに有効です。
とくに、外傷や脳卒中の後に生じる高次脳機能障害では、画像診断がその原因を明らかにするのに重要な役割を果たします。
さらに、脳波検査やPETスキャンなどの生理学的検査が実施されるケースもあります。
脳波検査は、脳の電気的活動を調べ、異常なパターンを検出し、てんかんのような合併症の可能性を評価しているのです。
高次脳機能障害の対応の仕方や支援法
高次脳機能障害の症状がみられる方が家族にいる場合、適切な対応・支援が求められます。
ここからは、高次脳機能障害の症状がみられる方への対応や支援法を詳しく解説していきます。
なお、今回は厚生労働科学研究が公開している「高次脳機能障害支援マニュアル」をもとに紹介するので、ぜひ参考にしてください。(文献1)
高次脳機能障害の対策を立てるチェックリスト
高次脳機能障害に対する対応と支援は、個々の症状とニーズに応じてカスタマイズするのが重要です。
支援内容 |
具体的な方法 |
日常生活の支援 |
日記やメモで予定を管理。 タスクを細分化。 |
コミュニケーションの支援 |
簡潔な言葉やジェスチャーを使用。 スキルトレーニングやグループ活動。 |
専門的リハビリテーション |
作業療法士や言語聴覚士と連携し、個別のリハビリプランを作成。 |
具体的には、以下のチェックリストを埋め込んでいくイメージで実施してみるのも1つの手段です。
- どんなとき穏やかなのか
- どんなときイライラするのか
- いつ、どこで、誰と何をしているときに起きやすいのか
上記をまとめていき、最終的にはパターン化していきます。
できるだけ単純にできるよう、成功・失敗体験を言語化していきましょう。
【対策例】
- 混雑している場所に行くとイライラするため静かな場所で過ごす
- 眠いときに言葉がきつくなるため睡眠時間を十分に確保する
高次脳機能障害に対する支援のポイント
高次脳機能障害を持つ方への対応や支援は、個々の症状や生活環境に応じて柔軟に行う必要があります。
障害の種類 |
対策・支援方法 |
注意障害 |
作業を小さなステップに分け、集中しやすい環境を整える |
記憶障害 |
メモや記録を利用して情報を視覚的に整理する |
失語 |
言語療法士によるリハビリテーション |
遂行機能障害 |
タスク管理をサポートするデジタルツールの活用 |
半側空間無視 |
視覚的なリマインダーや特定の視覚訓練 |
社会的行動障害 |
社会スキル訓練や心理カウンセリング |
高次脳機能障害の症状でお困りの場合、生活環境を単純化するのが重要です。
1日のスケジュールをカレンダーに書いたり、チェックリストを用意するのが良いでしょう。
コミュニケーション能力が低下する傾向にはありますが、家族のサポートが重要な点は忘れないようにしましょう。
なお、各都道府県には支援コーディネーターが配置されているため、早めに相談するのも1つの選択肢です。
まとめ・高次脳機能障害の症状でストレスを溜める前に早期対策を!
高次脳機能障害の症状は、日常生活において自立した生活が困難になる症状がみられます。
問題解決能力や計画力、他者とのコミュニケーションで症状がみられるため、周囲からの理解が難しいと感じてしまう方もいるでしょう。
仕事でのミスが多かったり、じっとしていられなかったりなど、社会活動においても困難になってしまう傾向にあります。
高次脳機能障害の症状を家族を含めた周囲の方がよく理解し、適切な対処や支援をするのが重要です。
高次脳機能障害の症状で何かお困りな場合、当院ではメール相談やオンラインカウンセリングを実施しているので、気軽にお問い合わせください。