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視床出血による運動失調が起こる理由は?種類と特徴を医師が解説

視床出血 運動失調
公開日: 2023.07.27 更新日: 2026.07.31

「歩くとふらつく」「手が思うように動かない」といった症状に、戸惑いや不安を感じていませんか。こうした動きのぎこちなさは、運動失調(筋力だけでは説明できない動きの不正確さやふらつき)と呼ばれ、視床出血(ししょうしゅっけつ)の後遺症として現れることも珍しくありません。

本記事では、視床出血で運動失調が起こる理由や麻痺との違い、運動失調の種類と評価、リハビリ、予後、そして再生医療という選択肢までを、医師の視点で解説します。

なお、突然生じたふらつきや歩行困難は、脳卒中など緊急性の高い病気の症状のことがあります。発症した直後は、リハビリの情報を探すよりも先に、ためらわず救急要請を行ってください。

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視床出血とは【脳の視床で起こる出血】

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視床出血は、脳卒中の一つである脳出血のうち、脳の深部にある視床で起こる出血です

主な原因は高血圧で、脳出血の中では、被殻(ひかく)出血の次に視床出血の頻度が高いとされています。(文献1

また、視床は脳室に隣接しているため、視床出血では脳室まで出血が広がることがあります。

なお、視床出血は、重症度によってⅠ〜Ⅲに分類されます。

その中でも、脳室穿破(せんぱ:脳室と呼ばれる脳脊髄液がある部分まで出血が及んでいるか)の有無で「無=a」「有=b」とさらに細かく分類できるのがポイントです。

視床に限局しているものをⅠ、内包(運動や感覚の神経の通り道)に進展したものをⅡ、視床下部または中脳に進展したものをⅢとしています。

簡単に述べると、血腫が周囲へ広がるほど、数字も大きくなるようなイメージです。

視床出血による症状

視床にはさまざまな神経線維が集まっているため、視床出血ではいくつもの症状が同時に現れることがあります

主な症状を、以下の表に整理しました。

主な症状 どのような状態か
片麻痺 病変と反対側の手足が動かしにくくなる
感覚障害 片側の手足にしびれや感覚の鈍さが出る
顔面神経麻痺 病変と反対側の顔の動きが鈍くなる
眼球運動障害 瞳孔の変化や、両目が一方向へ寄る、目を外側へ向けにくいなど、目の向きや動きに異常が出る
視野の異常 見える範囲の一部が欠ける(半盲)ことがある
嘔吐 発症時に強い吐き気や嘔吐がみられることがある
運動失調 筋力の低下では説明できない動きのぎこちなさやふらつきが出る

文献2

このほか、失語や注意障害、体の片側を見落としやすくなる半側空間無視などの高次脳機能障害がみられる場合もあります。(文献3)また、症状が出たばかりの急性期には、飲み込みがうまくいかない嚥下(えんげ)障害が現れることもあります。(文献4

なお、これらの症状は、すべてのケースで現れるわけではありません。血腫の位置や大きさ、広がり方によって、現れる症状やその程度は異なります。

視床出血による運動失調が起こる理由

運動失調とは、筋力低下が目立たなくても、姿勢を保ったり、狙った動作を滑らか・正確に行ったりしにくくなる状態です。視床出血による運動失調は、主に以下2つの仕組みで起こります。

主な仕組み 起こること
小脳と大脳を結ぶ運動調節回路の障害 小脳から大脳へ動作を調整する情報が伝わりにくくなり、手足の動きや姿勢が不安定になる
深部感覚の障害 手足の位置や動きを感じにくくなり、目で確認しなければ体を正確に動かしにくくなる

なお、実際には片麻痺や感覚障害を伴うことが多く、運動失調だけが現れるケースはまれです。治療とリハビリで改善した症例もありますが、単一症例のため、すべてのケースで同じ経過が当てはまるわけではありません。(文献5

運動失調と麻痺の違い

運動失調と麻痺は、動きにくさという点では似ていますが、その中身は異なります。運動失調は力を出せても動きの正確さを保ちにくい状態で、麻痺は力そのものを出しにくい状態です

おおまかな比較は以下のとおりです。

比較項目 運動失調 麻痺
主な問題 動きの協調やタイミングの調整の障害 脳から筋肉への運動指令の伝わりにくさ
筋力 保たれていることが多い 低下する場合が多い
動きの特徴 距離・方向・力加減がずれ、ふらつく 力が入らず、随意的に動かしにくい
歩行・日常動作への影響 足を広げて歩く、手先がぶれるなど 手足が上がりにくい、支えられないなど
主な評価の観点 協調運動、姿勢、バランス、感覚 筋力、随意運動の可否

ただし、視床出血では運動失調と麻痺が同時に起こり得るため、筋力の有無だけで見分けることはできません。実際の判別には、医師やリハビリ専門職による診察と評価が必要です。

運動失調の種類と評価

運動失調は、症状が現れる部位や動作によって、四肢の失調、体幹失調、歩行失調に整理できます

また、これらは単独ではなく、複数が重なって現れる場合もあります。

主な現れ方 特徴 日常生活でみられる症状
四肢の失調 手足の動く距離や方向を調整しにくい 物に手を伸ばすと行き過ぎる
手先の動きがぶれる
素早く手を動かしにくい
体幹失調 座位や立位で体幹が安定しにくい 座っていても体が揺れる
姿勢を保ちにくい
歩行失調 歩く方向やバランスを保ちにくい まっすぐ歩きにくい
左右にふらつく

また、運動失調の評価では、姿勢や歩行、バランス、手足の協調運動、感覚、眼球運動、麻痺の有無などを確認します。

重症度を評価する尺度の一つに、SARA(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia)があります。歩行、立位、座位、発話、手足の協調運動など8項目で評価し、主に小脳性運動失調の評価に用いられます。(文献6

ただし、SARAは視床出血専用の検査ではなく、患者自身が採点して診断するためのものでもありません。必要に応じて歩行速度や立ち上がり、日常生活動作なども確認し、結果をもとにリハビリの内容を調整します。

視床出血の治療方法

視床出血の急性期の治療は、血腫の拡大や再出血を抑えるための血圧管理を中心とした内科的治療が基本です。視床は脳の深部にあるため、血腫を取り除く手術は一般的に選択されにくいとされています。

一方、出血が脳室へ広がって水頭症(すいとうしょう:脳脊髄液の流れや吸収が妨げられ、脳室が広がる状態)が生じた場合は、脳脊髄液を一時的に体外へ排出する脳室ドレナージが検討されます。水頭症が改善せず、長期的な排出が必要な場合には、脳脊髄液を腹部などへ流すシャント術が検討されることもあります。

脳室ドレナージは主に急性期の一時的な処置、シャント術は長期的な管理を目的とする手術です。

いずれもすべての症状に必要なわけではなく、脳神経外科医が画像所見や意識状態、全身状態を踏まえて判断します。

視床出血の原因や薬物療法、水頭症に対するシャント術については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

視床出血後のリハビリについて【後遺症が出る場合】

視床出血後のリハビリは、全身状態が安定し、医師が可能と判断した範囲で、できるだけ早い時期から始めます

また、視床出血では、運動失調だけでなく、麻痺、感覚障害、視床痛、高次脳機能障害、眼球運動障害などが併存する場合があります。そのため、単一の訓練で対応するのではなく、症状に応じたリハビリの組み合わせが大切です。

ここでは、以下の3つの視点から解説します。

それぞれ順に見ていきましょう。

運動失調・歩行へのリハビリ

運動失調に対するリハビリでは、従来からフレンケル体操、重錘(じゅうすい)負荷、弾性包帯による圧迫、立ち上がりや立位での荷重練習、視覚誘導によるバランス練習などが用いられてきました。

ただし、効果は症状によって異なるため、姿勢や歩行、ふらつきの現れ方などを確認した上で選択します。(文献7

方法 内容・注意点
フレンケル体操 目で手足の動きを確認しながら、正確な動作を繰り返し練習する
重錘負荷・弾性包帯 手足に重りや圧迫を加える方法。効果には個人差があるため、反応を確認しながら使用する
視覚誘導 目印や鏡を使って姿勢や動作を確認する。慣れてきたら鏡を見る時間を減らし、視覚に頼らず動く練習も行う

また、歩行練習では、体重を支える器具(ホイストや免荷式トレッドミル)を用い、体の負担を減らしながら歩く練習を行うこともあります。失調と片麻痺を伴う場合は、筋力や感覚、バランス、歩行状態などを確認し、介助方法や歩行補助具を調整します。

いずれの方法も、多く行うほど良いわけではありません。十分な評価に基づき、疲労や過剰な代償動作を避けながら進めることが重要です。転倒のおそれもあるため、医師や理学療法士・作業療法士などの指導のもとで行いましょう。

作業療法

作業療法では、食事や着替え、整容といった日常生活動作(ADL)を通して、運動失調による手先の不正確さやふらつきを補い、生活のしやすさを取り戻すことを目指します。

運動失調があると、狙った位置に手を伸ばす、細かい動作を行う際に、動きが行き過ぎたり、ぶれたりしやすくなります。そのため、以下のような工夫を組み合わせながら訓練を進めます。

主な内容 具体例
動作の反復練習 目で手の動きを確認しながら、食事やボタンの留め外しなどを繰り返し練習する
代償手段の活用 重みのある食器や太柄のスプーンなど、手元が安定しやすい自助具を使う
作業姿勢の工夫 手元の作業がしやすいよう、椅子や机の高さ・体の向きを調整する
生活動作への応用 更衣や整容など、実際の生活場面に近い動作の中で練習を重ねる

麻痺を伴う場合は、麻痺側の上肢(肩から指先)をできる範囲で積極的に使う練習も並行して行います。運動失調と麻痺の両方がみられる場合、それぞれの症状に応じて訓練内容を調整することが大切です。

自助具の選び方や動作の工夫は症状によって異なるため、作業療法士と相談しながら、無理なく続けられる方法を見つけていきましょう。

理学療法

理学療法では、寝返りや起き上がり、座る、立ち上がるといった、日常生活の土台となる基本動作を練習します。また、動かない状態が続くと関節が硬くなり、筋力も低下しやすいため、関節を動かす練習や筋力訓練も行います。

なお、視床出血後は、転倒を防ぐ工夫が欠かせません。手すりや歩行補助具の活用、動作の順序の見直し、住まいや生活環境の整え方まで含めて、理学療法士に相談してみましょう。

視床出血の時期別・後遺症別のリハビリや看護のポイントを詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

視床出血・運動失調の予後と再生医療という選択肢

視床出血後の予後は、以下の要素によって異なります。

  • 血腫の量や範囲
  • 脳室穿破の有無
  • 初期の意識レベル
  • 麻痺や感覚障害の併存
  • 年齢

運動失調が長く残る場合もあれば、治療やリハビリによって改善する場合もあります。回復の程度や経過には個人差があるため、一律に予後を示すことはできません。

なお、後遺症が続く場合、リハビリを補完する選択肢の一つに、幹細胞を用いる再生医療があります。幹細胞には損傷した神経や血管が修復しやすい環境を整える働きがあり、再生医療ではこの働きを活用します。

当院「リペアセルクリニック」では、患者様ご自身の脂肪から採取した幹細胞を用いる自己脂肪由来幹細胞治療を、点滴投与によって行っています。

ただし、すべての方が対象になるわけではありません。適応があるかどうかは、診察や検査の結果を踏まえて医師が判断します。ご自身が対象になるか気になる方は、一度ご相談ください。

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また、以下の記事は、視床出血後に左膝の強直を生じた70代女性の症例です。再生医療に興味がある方は、ぜひご覧ください。

視床出血の運動失調でお悩みの方は当院へご相談ください

視床は脳内ネットワークの中心で、視床出血が起こると運動失調などの症状が出る場合もあります。

視床出血は、血腫の大きさや部位によっては後遺症が残ることも少なくない疾患です。

ただ、当院ではリハビリに再生医療を組み合わせて、脳神経細胞の修復や身体機能の改善への取り組みを行っています。

運動失調をはじめとする脳卒中後の後遺症にお悩みの患者様やご家族は、一人で抱え込まず、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEからお気軽にご相談ください。

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視床出血の運動失調に関するよくある質問

視床出血で視床痛が起こることはありますか?

視床出血のあとに、視床痛(ししょうつう)が起こる場合があります。視床痛は脳卒中後の中枢性疼痛(ちゅうすうせいとうつう)の一つで、病変と反対側の手足や顔、体幹などに、焼けるような痛みや締めつけられるような痛み、強いしびれ、触れられることへの過敏などが現れることがあります。(文献8

また、視床痛は発症直後ではなく、数日から数カ月ほど経ってから現れる場合があるのも特徴です。睡眠や日常生活、リハビリの妨げになることもあるため、我慢せず主治医に相談してください。

視床出血で眼球運動障害(目の動きの異常)は起こりますか?

血腫の位置や広がりによって、眼球運動障害が起こる場合があります。視床出血の血腫が下方の中脳へ広がり、目の上下運動を調整する脳幹の神経核などへ影響すると、上下を見にくくなる垂直眼球運動障害が生じることがあります。(文献9

具体的には、目を動かしにくい、物が二重に見える、視線を合わせにくいといった症状が現れる場合があります。

目の症状を含めた後遺症全般のリハビリについては、以下の記事をご覧ください。

参考文献

(文献1)
加齢の面からみた脳出血の部位|日本脳卒中学会

(文献2)
脳出血部位と症状(CM Fisher)|秋田大学大学院医学系研究科

(文献3)
視床出血の高次脳機能障害|認知神経科学

(文献4)
急性期脳出血における摂食・嚥下障害の検討|日本リハビリテーション医学会

(文献5)
運動失調を主徴とした左視床出血の1例|日本脳卒中学会

(文献6)
Scale for the assessment and rating of ataxia: development of a new clinical scale|PubMed

(文献7)
運動失調に対するアプローチ|関西理学療法学会

(文献8)
視床痛に対する漢方治療の試み|日本東洋医学会

(文献9)
脳損傷者における眼球運動障害改善のためのリハビリテーション|日本作業療法士協会