- 腱板損傷・断裂
肩腱板断裂の手術と入院期間について医師が詳しく解説

肩の痛み、腕が上がらない…もしかしたら、それは肩腱板断裂のサインかもしれません。
150万人を超える患者がいると言われるこの症状、手術が必要となるケースも少なくありません。
一体どんな手術があるのか、入院期間は?費用は?不安でいっぱいのあなたのために、肩腱板断裂の手術方法4つの選択肢、リバース型人工関節、内視鏡手術、腱板移植、それぞれのメリット・デメリット、そして気になる入院期間、リハビリ、費用まで、医師が解説します。。
目次
肩腱板断裂の手術方法4つの選択肢
肩の痛みや腕が上がらないといった症状に悩まされ、肩腱板断裂と診断された時、手術が必要と言われたら不安になるのも当然です。手術にはどんな種類があるのか、それぞれどのようなメリット・デメリットがあるのか、気になることでしょう。
この章では、肩腱板断裂の手術方法について、具体的な例を交えながらわかりやすく解説します。手術方法を選択する上で重要なポイントとなる、腱板の状態(断裂の大きさや筋肉の質)、年齢、生活スタイル、そして患者さん自身の価値観についてもお伝えします。
▼肩腱板損傷、断裂について、併せてお読みください。
鏡視下腱板修復術
肩腱板を修復する手術では、内視鏡技術を活用した最小限の切開で実施されます。
肩周辺に1cm弱の複数の小さな穴を開けます。これらの穴から細径の内視鏡カメラを挿入し、手術の全工程をモニター画面で確認しながら進めていきます。腱板の修復では、骨に専用の固定具(アンカー)を設置し、それに取り付けられた縫合糸を用いて断裂部位を引き寄せ、結合させます。
ただし、損傷の程度が深刻な場合、通常の修復が難しいケースもあります。そのような状況では、患者さんの大腿部から採取した組織を補強材として使用したり、可能な範囲での部分的な修復を行ったりするなど、状況に応じた対応が必要となります。
術後は装具を約6週間必要とします。約3ヶ月ごろから、徐々に筋力トレーニングを開始して、術後半年ぐらいまでリハビリを行います。
腱板移植
腱板移植は、自分の体の一部から腱を採取し、断裂した腱板に移植する手術です。主に、腱板の断裂が大きく、縫い合わせることが難しい場合に選択されます。腱を採取する部位としては、太ももの裏側や背中などが用いられます。移植した腱が周囲の組織とくっつき、新たな腱板として機能するまでには、時間と適切なリハビリが必要です。
メリット
- 自分の組織を使うため、拒絶反応のリスクがない。
- 比較的若い方やスポーツなど肩を活発に動かす必要のある方で、腱板の損傷が大きい場合に適応されることが多い。
デメリット
- 腱の採取部位に痛みや違和感が残る可能性がある。
- 移植した腱がうまくくっつかず、再断裂するリスクもゼロではない。
- 手術の難易度が高く、手術時間や入院期間が長くなる場合がある。
リバース型人工関節置換術
リバース型人工関節置換術は、特殊な人工関節を用いた手術方法です。通常の肩関節とはボールとソケットの位置が逆になっているため、「リバース型」と呼ばれています。
私たちの肩関節は、上腕骨側にボール、肩甲骨側にソケットがあり、腱板がこのボールをソケットに引き寄せ、肩の安定性を保っています。しかし、腱板が断裂すると、ボールがソケットから外れてしまい、腕をスムーズに動かせなくなります。
リバース型人工関節置換術では、このボールとソケットの位置を逆転させ、肩甲骨側にボール、上腕骨側にソケットを取り付けます。これにより、断裂した腱板がなくても、三角筋という筋肉の力を使って腕を上げることができるようになります。
メリット
- 腱板が大きく断裂していても、腕を上げられるようになる可能性が高い。
- 比較的早期にリハビリを開始でき、日常生活への復帰も早い傾向にある。特に、高齢者や腱板の状態が悪い方に向いている。
デメリット
- 肩甲骨にボールがあるため、腕を内側に回す動き(内旋)が制限される場合がある。例えば、背中に手を回す動作が難しくなることがある。
- 手術後、肩を動かす際に金属音がすることがある。これは人工関節の特性によるもので、ほとんどの場合、日常生活に支障はない。
- 以前は65歳以上の方に適応されることが多かったが、近年では、より若い方にも適応が広がっている。
再生医療の無料相談受付中!
リペアセルクリニックは「肩の痛み」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。
通常の人工関節置換術とその違い
通常の人工関節置換術は、肩関節本来の構造を模倣し、上腕骨側にボール、肩甲骨側にソケットを取り付けます。この手術は、腱板の機能がある程度残っている場合に適応されます。
リバース型人工関節置換術は、ボールとソケットの位置を逆にすることで、腱板がなくても三角筋の力を使って腕を上げられるようにします。これは、腱板が大きく断裂している場合や、筋肉の質が悪く修復が難しい場合に有効な選択肢です。
それぞれの術式にはメリット・デメリットがあり、最適な手術方法は患者さんの状態によって異なります。肩腱板断裂の手術をしても、再断裂や、術後に関節が固まる拘縮などの後遺症で、思うように痛みが取れないことが多く見られます。そういった理由で、我々整形外科医の間では、よほどの痛みがあったり、生活が困難でないと手術は行わないようにしています。
そんな中で、幹細胞による再生医療が今、注目されています。
再生医療
肩腱板断裂の症状が、なかなか改善しない時の選択肢として、今、注目の再生医療があります。
リペアセルクリニックでは、再生医療分野で豊富な経験を持つ専門医たちが、10,000症例の実績に基づく確かな技術と独自の培養方法で、患者様一人一人に最適な治療プランをご提案いたします。
国内で唯一の最新の『分化誘導技術』を用い、当院は『新時代の再生医療』による治療を提供します。
そんな再生医療に興味のある方は、こちらから当院独自の再生医療の特徴を紹介しています。
肩腱板断裂の手術後の入院期間・リハビリ・費用
肩腱板断裂の手術後、気になるのは入院期間やリハビリ、そして費用ですよね。不安な気持ち、痛いほどよく分かります。 私も医師として、患者さんのそういった不安に寄り添い、少しでも安心して治療に臨めるようにサポートしたいと思っています。
この章では、肩腱板断裂の手術後の入院期間、リハビリテーション、費用、そして日常生活での注意点について、具体的な例を交えながら分かりやすく説明します。 一緒に一つずつ確認していきましょう。
手術後の入院期間
入院期間は、手術の方法や患者さんの状態によって大きく異なります。 例えば、傷口が小さい内視鏡手術の場合、最短3泊4日で退院できるケースもあります。 これは、お腹を数cm切開する虫垂炎(いわゆる盲腸)の手術で、5~7日程度の入院が必要になるケースと比較すると、かなり短い期間と言えるでしょう。
一方で、リバース型人工関節置換術などのように、より身体への負担が大きい手術の場合は、1~2週間程度の入院が必要になることが多いです。 これは、人工関節を入れることで身体への負担が大きくなるため、術後の経過観察をしっかり行う必要があるためです。
手術方法 | 入院期間の目安 |
---|---|
関節鏡手術 | 3泊4日~1週間 |
リバース型人工関節置換術 | 1~2週間 |
また、高齢の方や一人暮らしの方の場合は、手術後の状態が安定するまで、少し長めの入院が必要となることもあります。 これは、自宅での生活に不安がある場合や、退院後のサポート体制が整っていない場合などに、入院中にリハビリテーションを進め、日常生活動作の練習を行うためです。 装具を装着する期間は約3週間程度ですが、その期間中ずっと入院する必要はありません。医師や看護師、理学療法士と相談しながら、ご自身の状況に合った入院期間を決めていきましょう。
手術後のリハビリテーション
肩腱板断裂の手術後は、リハビリテーションがとても大切です。 手術で損傷した組織の修復を促し、肩の機能を回復させるためには、適切なリハビリテーションを行う必要があります。 リハビリテーションは、多くの場合手術の翌日から開始します。
入院中は、理学療法士の指導のもと、肩関節の可動域訓練や筋力強化訓練を行います。 退院後も、週に1回から3回程度、通院してリハビリテーションを継続することが推奨されます。 リハビリテーションの内容は、腱の治癒段階に基づいて調整されます。初期のリハビリテーションでは、痛みを軽減し、肩関節の動きをスムーズにすることに重点を置きます。 その後のリハビリテーションでは、徐々に負荷を上げていき、筋力や持久力を強化していきます。 最近の研究では、ウェアラブルデバイスを使用して運動や姿勢のモニタリングを行うことで、より精密なリハビリテーションが可能になることが示唆されています。
肩腱板断裂の手術後のリハビリテーションに関する研究では、保存的なリハビリテーションと早期可動域訓練を比較した結果、可動域や機能状態に大きな差は見られませんでした。 しかし、早期可動域訓練は機能的な転帰にわずかな利点がある可能性がありますが、一方で再断裂のリスクもわずかに高まる可能性があることが示唆されています。 どちらのリハビリテーションプロトコルも、安全で再現性のある短期・長期的な転帰が示されています。
自宅でも、理学療法士に教えてもらったストレッチやエクササイズを毎日行うことが重要です。 手術から約3ヶ月後には、軽い作業ができるようになり、約6ヶ月後には、重労働やスポーツにも復帰できるようになります。 しかし、これはあくまで目安であり、実際には個人差があります。
手術費用
手術費用は、手術の方法、入院期間、使用する医療材料などによって異なります。 また、健康保険の種類や、高額療養費制度の利用によっても自己負担額が変わります。 費用の詳細は、事前に医療機関に確認することをおすすめします。
一般的には、関節鏡手術の方がリバース型人工関節置換術よりも費用が安くなる傾向があります。 これは、関節鏡手術の方が入院期間が短く、使用する医療材料も少ないためです。 費用の目安としては、関節鏡手術で20万円~40万円程度、リバース型人工関節置換術で50万円~80万円程度かかることが多いです。 しかし、これはあくまでも目安であり、実際には医療機関によって大きく異なる場合があります。
手術後の生活の注意点
手術後、日常生活で特に注意すべきことは、再断裂を防ぐことです。 再断裂は、手術後の無理な動きや過度な負担によって起こります。特に、手術後3ヶ月間は、重いものを持つ、硬いものを切る、雑巾がけなど、肩に負担のかかる動作は控えましょう。
また、手術後しばらくは、肩の痛みや動かしにくさが残る場合もあります。痛みがあるときは、無理せず安静にすることが大切です。 日常生活動作で痛みが出る場合は、装具や補助具を使用するなど、工夫してみましょう。 そして、医師の指示に従ってリハビリテーションを継続することも重要です。 リハビリテーションによって、肩の機能を回復させ、再断裂のリスクを減らすことができます。
再生医療の無料相談受付中!
リペアセルクリニックは「肩の痛み」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。
参考文献
- Bandara U, An VVG, Imani S, Nandapalan H, Sivakumar BS. “Rehabilitation protocols following rotator cuff repair: a meta-analysis of current evidence.” ANZ journal of surgery 91, no. 12 (2021): 2773-2779.
- Longo UG, Risi Ambrogioni L, Candela V, Berton A, Carnevale A, Schena E, Denaro V. “Conservative versus surgical management for patients with rotator cuff tears: a systematic review and META-analysis.” BMC musculoskeletal disorders 22, no. 1 (2021): 50.
- Di Benedetto P, Mancuso F, Tosolini L, Buttironi MM, Beltrame A, Causero A. “Treatment options for massive rotator cuff tears: a narrative review.” Acta bio-medica : Atenei Parmensis 92, no. S3 (2021): e2021026.
- Longo UG, Risi Ambrogioni L, Berton A, Candela V, Carnevale A, Schena E, Gugliemelli E, Denaro V. “Physical therapy and precision rehabilitation in shoulder rotator cuff disease.” International orthopaedics 44, no. 5 (2020): 893-903.
監修者

坂本 貞範 (医療法人美喜有会 理事長)
Sadanori Sakamoto
再生医療抗加齢学会 理事
再生医療の可能性に確信をもって治療をおこなう。
「できなくなったことを、再びできるように」を信条に
患者の笑顔を守り続ける。