-
- 幹細胞治療
- 脊椎
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 再生治療
椎間板ヘルニアのPELD(PED)手術のメリット・デメリット PELD(PED)をご存知でしょうか? これは、経皮的内視鏡的椎間板ヘルニア切除術(Percutaneous Endoscopic Lumbar Discectomy:PELD)は、通称「ぺルド」と呼ばれる手術の略称です。 または経皮的内視鏡的椎間板摘出術(Percutaneous Endoscopic Discectomy:PED)は、腰椎の椎間板ヘルニア治療のための侵襲を最小にすることを目的とした手術です。 この記事では、この手術法の主なメリットとデメリットについて解説していきます。 PELD手術とは 経皮的内視鏡的椎間板ヘルニア切除術(Percutaneous Endoscopic Lumbar Discectomy:PELD)では、7mmあるいは8mmの専用内視鏡を用いて、生理食塩水を流しながら腰椎椎間板ヘルニア摘出をすることを可能とする手術です。 PELDは、椎間板ヘルニアの病変そのものの摘出を目的とした方法です。 つまり、PELDでは健康な中心部分の椎間板組織をなるべく残し、将来の椎間板の高さの減少や不安定になることを予防し、術後に腰痛を併発するリスクを減らすことを目標としています。 PELDが適応となる疾患には、椎間板ヘルニアなどの変性疾患や、化膿性椎間板炎という炎症性疾患があります。 PELDのメリット それでは、PELDのメリットについて述べていきましょう。 体に与えるダメージが低い ・皮膚の切開部を小さくすることが可能 ・傷跡が小さく、術後の痛みが軽減される 脊柱周囲の構造のダメージを抑えることが可能 ・PELDでは、直接ヘルニア部分に到達することが可能です ・脊柱周囲の筋組織などのダメージを抑えられます。 ・入院期間が短縮され、回復も迅速となります。 局所麻酔下でも手術が可能 手術をする際には意識を完全に取り除く全身麻酔と、手術する部分に麻酔薬を注入する局所麻酔で行う場合があります。局所麻酔だけでは手術中の痛みが強く、手術を中止せざるをえない場合もあります。 しかしながら、局所麻酔では救急の場合、手術室と機材の都合がつけば麻酔科のスタッフに負担をかけずに緊急手術を行うことが可能です。 また、椎体などの骨の変形が著しくないなどの一定の条件を満たせば、高齢者や肥満の方など全身麻酔をかける際にリスクが高い方に関しても局所麻酔は有利であると考えられています。 日帰り手術可能 ・SPLDでは日帰りの手術も行われています ・忙しい現代人のニーズにも応えられる可能性を持った治療法 手術成績が良好 ・多くの研究でPELDは椎間板ヘルニアによる痛みの緩和に高い成功率を示す ・下肢の痛みの改善や合併症の発生率は、低侵襲を目指した顕微鏡手術同等とされる PELDのデメリット それでは、次にデメリットについても述べていきます。デメリットに関わらず、主治医や医療機関でご相談してみることをおすすめします。 合併症や後遺症が残る可能性がある 頻度としては低いものの、ヘルニアを摘出する際の神経損傷や脊髄損傷が起こり、後遺症として手足のしびれや麻痺などが残ってしまう場合があります。また、椎間板の再突出などの合併症が生じる可能性もあります。 高度な技術が求められる PELDは高度な技術を要する手術であり、経験豊富な専門医による施行が必要です。そのため、どの病院でも行うことができる手術という訳ではありません。 適応疾患が限定される すべての椎間板ヘルニアがPELDに適しているわけではなく、大きな突出や重度の変形がある場合は適応外となることがあります。 再発のリスクがある すべての椎間板手術と同様に、症状が再発するリスクがあります。 1回で2箇所以上の手術ができない 多椎間(2箇所以上)の手術を一回の治療でできないことがあります。もしも椎間板ヘルニアの病変が2箇所以上ある場合は、狭窄が強い部位から手術をします。 そして、症状の変化を見ながら改善が乏しいようであれば後日(数ヶ月後)に別部位を治療することになります。 椎間板ヘルニアに対してPELD手術を受けたい場合 ・PELD手術は低侵襲で術後の痛みの改善などの効果が期待できる ・通院中の病院でPELD手術を行っていない場合もある ・ご自身の病状などがPELDの適応となるかどうかも含め、PELDを行っている病院を最初から受診する まとめ・椎間板ヘルニアのPELD(PED)手術・メリット・デメリット 今回の記事では、PELDについて解説し、そのメリット・デメリットについて述べました。 PELD手術が失敗してしまう可能性は低いと考えられていますが、脊髄損傷や神経損傷の可能性は「0」ではありません。 また、椎間板ヘルニアの症状である、手足の痺れや麻痺といった症状が手術後にも残ったり、むしろ手術前よりも強い症状になったりしてしまうということも可能性としてはあります。 もしもそのような後遺症にお悩みの場合には、再生医療という方法もあります。当院では、脊髄損傷に対し、自己脂肪由来幹細胞治療という再生医療を行っています。 これは、自分の脂肪組織から培養した幹細胞の静脈注射や、あるいは当院独自の技術として脊髄腔内に直接幹細胞を投与することができる、脊髄腔内ダイレクト注射療法というものがあります。 椎間板ヘルニアの後遺症などにお悩みの方で再生医療にご興味のある方は、ぜひ一度当院までご相談ください。 No.168 監修:医師 坂本貞範 参考文献 経皮内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術の現状と今後の展望.Spinal Surgery.2016:30(2);152-158. p152 腰椎椎間板ヘルニアに対する経皮的内視鏡下腰椎椎間板摘出術(percutaneous endoscopic lumbar discectomy)の適応と限界.脳外誌.2017:26(5);346-352. p347 経皮内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術の現状と今後の展望.Spinal Surgery.2016:30(2);152-158. p157 経皮的内視鏡下腰椎椎間板摘出術(percutaneous endoscopic lumbar discectomy:PELD)の現状と今後の展望.Spinal Surgery.2014:28(3);310-312. p312 ▼ヘルニアの最新手術療法の手術後について PLDD とは?その概要と費用、再生医療の可能性について
最終更新日:2024.05.08 -
- 幹細胞治療
- 脊椎
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 再生治療
腰椎椎間板ヘルニアのPELD(PED)内視鏡下手術ついて つらい腰椎椎間板ヘルニアの症状にお困りではありませんか? 「薬もリハビリも効かず、根本的に良くしたい」「でも、できれば体に大きな負担がかかる手術はしたくない」 そう思っておられる方も多いでしょう。そんな方でも、近年技術の進歩が目覚ましい内視鏡を用いた負担の少ない手術なら、抵抗感が少ないかもしれません。 本記事では、内視鏡による椎間板ヘルニアの手術の一つである「PELD(PED)」の概要についてご説明します。PELD(PED)の費用や合併症、術後のしびれ、痛みなどの後遺症への治療についても解説をしていきます。 腰椎椎間板ヘルニアの内視鏡手術について 腰椎椎間板ヘルニアは、痛み止めやリハビリなど保存療法を行なっているうちに自然に改善する可能性のある疾患です。多くの場合、3ヶ月以内にはヘルニアは吸収されると言われています。ところが、一部の方は症状が残ってしまうことがあります。また、ヘルニアが神経を圧迫し、足の運動麻痺や排尿障害をきたすなど日常生活に影響を及ぼすケースもあるのです。 「早期の症状改善を希望する場合」「保存療法の効果が不充分である場合」「神経の症状が出た場合」は手術療法を行います。 手術療法の適応 ・早期の症状改善を希望する場合 ・保存療法の効果が不充分である場合 ・神経の症状が出た場合 その中でも、内視鏡による手術は手術の創(手術でできる傷)が小さく、体に負担がかかりにくいため注目を集めています。 内視鏡による椎間板ヘルニアの手術は、PELD(PED)とMED(※)と呼ばれる二つの術式に分かれます。とりわけ、手術侵襲が最小限に抑えられるのがPELD(PED)です。病院によっては日帰り手術が可能としているところもあるくらいです。 PELD(PED)とは PELD(PED)はPercutaneous Endoscopic Lumbar Discectomy (Percutaneous Endoscopic Discectomy)の略です。日本語では、経皮的内視鏡下腰椎椎間板摘出術と呼びます。おおよそ7mm程度のとても細い筒状の手術器具を用います。内視鏡を見ながら椎間板内に直接アプローチして脱出したヘルニアそのものを摘出する手術です。 なお、PELDとPEDの2つの違いはなく、どちらも同じものを指します。 近年は、同様の手術手技の適応が広がっています。ヘルニア以外の疾患の治療や、腰椎ではなく頚椎の疾患にも用いられることもあるのです。そのため、腰椎という意味の”Lumbar”ではなく、脊椎という意味の「スパイン」“Spine”という単語を使ってFESS: Full Endoscopic Spine Surgery(あるいはFED: Full Endoscopic Discectomy)とも呼ばれます。 PELD(PED) の適応 PELD(PED)は従来の手術よりも小さい手術の傷のみで手術ができます。そのため、体への負担が軽いです。また、全身麻酔を用いることもありますが、局所麻酔のみでも行う病院もあります。術後の安静が必要な期間も短く、日帰り〜数日の入院のみで退院できます。 PELD(PED)中は内視鏡の映像のみで進めていきます。視野を見やすくするため内視鏡の使用時には生理食塩水を流し続けます。そのため、従来の内視鏡を用いた手術よりも術後の癒着が起こりにくいです。 これらの特徴から、PELD(PED)は学業や仕事を休みにくい若い人・早く復帰をしたいスポーツ選手・全身麻酔のリスクが高いお年寄りや肥満の患者さんには良い治療法です。 PELD(PED)が向いている人 ・学業や仕事を休みにくい若い人 ・早く復帰をしたいスポーツ選手 ・全身麻酔のリスクが高いお年寄りや肥満の患者さん また、全身麻酔が必ずしもいらないので、急速に神経症状が進んだり排尿障害が起こったりなど緊急を要する場合にも良い選択肢となります。 PELD(PED)の弱点 一方で、PELD(PED)の手術に用いる器具がとても細いがゆえの弱点もあります。 まず、狭い筒を介してアプローチすることになるため、大きくて固いヘルニアに対応するのは困難です。 また、内視鏡をヘルニアに入れられる方向にも制限が生じるため、ヘルニアの飛び出し方によっては不向きと判断されることもあります。 PELD(PED)が不向きな人 ・大きくて固いヘルニア ・ヘルニアの飛び出し方の状態 上記のように、病状によっては不向きなことがあります。 PELD(PED)の手術費用 PELD(PED)は、公的医療保険の対象となっています。手術を受ける方の状況により1〜3割負担で治療を受けることができます。さらに「高額療養費制度」を使うことができるため、医療費は最終的に上限額を超えることはありません。 保険適応の場合の最終的な費用負担は、数万〜20万円程度と考えられます。手術の内容や入院の有無・期間、患者さんの世帯の収入などによって負担額は異なりますので注意が必要です。 ただし、病院によっては自費診療でPELD(PED)を行なっているところもあります。自費診療のほうが柔軟な対応ができるのです。公的保険は検査の日程や手術器具などにおいて様々な制約が生じます。 一方で自費診療では高額な費用がかかります。その金額もそれぞれの病院が設定するため、一概にいくらとは言えません。さらに、自費診療の場合、高額療養費制度の対象外となります。 PELD(PED)の合併症 PELD(PED)は比較的体への負担が少ない手術ではありますが、どのような手術でも合併症の可能性はあります。 特に注意すべき合併症は次の4つです。 注意したい合併症 ・神経障害 ・硬膜損傷 ・術後血腫 ・感染 ひとつずつ解説していきます。 神経障害 まず、神経障害が挙げられます。手術中にヘルニアの近くの脊髄やそこから伸びる神経の根本(神経根)を触ってしまうことで、神経の損傷が起こることがあります。足がしびれたり痛んだり、足の筋力が落ちたり、排尿機能の障害が起こったりすることがあるのです。 硬膜損傷 硬膜損傷とは、脊髄を包んでいる硬膜が手術手技により破れてしまうことです。脊髄神経は硬膜に包まれて、脳脊髄液に浮いています。硬膜が破れると、そこから脳脊髄液が漏れ出します。とくに起き上がった時に脳脊髄液が漏れ出して脳や脊髄を引っ張ることが多く、頭痛の原因になります。 術後血腫 また、手術後に出血がコントロールできずに血の塊(血腫)を作ってしまうことがあります。血腫が脊髄から出てくる神経を圧迫してしまうとやはりしびれ・痛みや麻痺などの原因となるのです。 感染 さらには、手術の傷が感染を起こすことがあります。ただし、PELD(PED)は非常に傷が小さく、しかも手術中に生理食塩水を流し続ける術式です。創の感染は他の術式に比べて非常に少ないとされています。 合併症による後遺症に対する再生医療の可能性 PELD(PED)による合併症が起こった時に心配すべきは、後遺症が残ってしまうことです。特に神経の損傷が起こると、しびれや痛み・麻痺などが残ってしまう可能性があります。 従来、神経が傷つくと再生は困難と言われていました。しかし、最先端の再生医療である幹細胞治療は組織の再生力を高めることができます。 再生医療により、治らないとされていた脊髄損傷など神経の障害も、改善する可能性が出てきたのです。PELD(PED)の術後後遺症も幹細胞治療の適応です。 当院では脊髄損傷後の後遺症に対して、幹細胞治療を行っております。当院の細胞加工室は細胞を冷凍することなく輸送・保存しています。そのため、生き生きとした幹細胞を大量に投与することが可能です。 さらに、点滴投与に加えて、損傷した脊髄に対して直接幹細胞を投与できるように脊髄腔内ダイレクト注射療法を行なっております。点滴単独よりも脊髄に届く幹細胞の数が多くなります。 「フレッシュな細胞」を「より多く」損傷部位に届けることで、脊髄損傷の治療において良好な治療成績をおさめてきました。 さらに、患者さん本人の脂肪細胞・血液を培養に用いることで、アレルギーや感染などのリスクを極力減らして安全性の高い治療を提供しております。 まとめ・腰椎椎間板ヘルニアのPELD(PED)内視鏡下手術とは PELD(PED)手術は、ヘルニアのつらい症状に対して有効な治療法の一つです。内視鏡を使用して行う治療で、傷は小さく体への負担も最小限です。手術後の安静期間も短く、早い社会復帰も望めます。 ただし、病状によっては不向きなこともあります。また、どんなに体への負担が小さいといっても、手術による合併症のリスクが全くないわけではありません。術前に事前情報をしっかり把握し、納得した上で受けましょう。 ▼何も起こらないことが一番ですが、万が一後遺症が残ってしまった場合には最先端の再生医療である幹細胞治療が適応になります。もし術後の後遺症にお困りであれば、ぜひ一度、当院にご相談ください。 https://www.youtube.com/watch?v=GcUDE6GCblE No.168 監修:医師 加藤 秀一 参考文献 八木 貴, 木内 博之. 日本医事新報 (4843): 54-54, 2017. 平野 仁崇, 伊藤 康信, 水野 順一, 沼澤 真一, 渡邉 貞義, 渡邉 一夫. 脊髄外科, 28(3):310-312, 2014. 平野 仁崇, 水野 順一, 沼澤 真一, 伊藤 康信, 渡邉 貞義, 渡邉 一夫. 脳神経外科ジャーナル, 26(5): 346-352, 2017. 南出晃人. 整形外科看護 25(11): 1094-1099, 2020. 出沢明. Loco CURE 5(2): 156-163, 2019. 日本整形外科学会, 日本脊椎脊髄病学会. 腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン2021 改訂第3版. ▼ヘルニアの治療法について 腰椎椎間板ヘルニアの症状レベルとは?医師が詳しく解説
最終更新日:2024.04.22 -
- 幹細胞治療
- 頭部
- 頭部、その他疾患
- 再生治療
減圧症による脳障害:その症状と後遺症に対する治療法 ダイバーや潜水を仕事にしている方にとって気をつけなければいけない減圧症。重症になると脳障害を起こすことはご存知でしょうか。 減圧症による脳障害は適切な治療で回復することが多いです。しかし、一部の患者さんでは治療を行っても後遺症が残ってしまいます。後遺症はダイビングや潜水作業のみならず日常生活にも支障をきたす可能性がああります。 本記事では減圧症による脳障害で起こる症状、およびその「後遺症と治療法について解説」していきます。ぜひ最後までお読みください。 減圧症とは 血液や組織に出現した気泡が血液の流れを阻害したり、直接的に組織・臓器にダメージを与えたりするのが減圧症のメカニズムです。 高い圧のかかる場所では窒素などの気体が血液や組織中に溶解してしまいます。低い圧の場所に移動すると、これらの気体が溶けきれなくなります。これが減圧症の原因となる気泡です。 体にかかる圧が急激に減少する場合に起こることが「減圧症」という名前の理由です。代表的なケースは潜水から急浮上するときであるため、「潜水病」とも呼ばれます。 減圧症の重症症状 減圧症は重症度別に軽症のⅠ型と重症のⅡ型の2つに分けられます。 Ⅰ型では肘や肩などを中心とした関節痛、皮膚の発赤や痒み、疲労感などの軽い症状が多くみられます。 一方、重症度の高いⅡ型では次のような重篤な症状を認め、時に命にも関わります。 脳の損傷 頭痛・意識障害・痙攣・片麻痺 脊髄の障害 四肢麻痺・排尿障害 内耳の障害 めまい・吐き気 肺の障害 呼吸困難・咳 なお、同様に急激な減圧により起こる動脈ガス塞栓症という病気もあります。こちらは圧変化により肺の一部が破れ、その気泡が血液内に入り臓器血管を閉塞してしまうことで起こるものです。肺が破れる気胸などとともに心筋梗塞や脳梗塞をきたします。 動脈ガス塞栓症は減圧症との区別がつきにくく、同時に起こることもあるため注意が必要です。治療方針は一緒であるため、とくに重症例では動脈ガス塞栓症も合併している可能性を念頭に置きます。 減圧症による脳障害の症状 気泡が脳実質に障害を起こしたり、脳の小さな血管の血流障害を起こしたりすることで脳障害をきたします。 症状は障害を受けた脳の部位により多種多様です。 例えば、次のようなものが挙げられます。 ・記憶障害 ・ふらつき(失調) ・まぶたや指の震え ・片麻痺症状 ・いつもと異なる異常な言動 ・意識障害 通常の脳梗塞と異なり、早期に適切な治療を行えば症状を残さずに回復する可能性があります。しかしながら広範囲のダメージを受けてしまうと、後遺症が残り、最悪の場合は死に至ることすらあります。 減圧症が起こった場合の治療 減圧症発症時は、100%の酸素投与とともに、全身状態を落ち着けることが必要です。全身状態により、輸液・昇圧薬投与・人工呼吸など必要な処置を行います。 同時に、発症の早いうちに再圧療法が必要です。治療ができる医療施設は限られているため、専門施設へ紹介をされて搬送されることになります。 再圧療法とは、高い濃度の酸素と高い圧をかけることができる特殊な装置を用いる治療です。気泡を再び血液や組織中に溶け込ませるとともに、酸素を投与して血流障害が起こっている組織の回復を目指すものです。 基本的には初回の治療で完治を目指すことが原則です。ただし、神経症状が残ってしまった場合は追加治療を行います。 後遺症の可能性と治療について 前述のように、一般的な脳梗塞と違って適切な治療で症状が改善することが多いです。しかし、脳の広範囲にダメージが起こった場合や適切な治療時期を逃してしまった場合などは、障害を残すことがあります。 麻痺や失調・高次脳機能障害などが固定化してしまった場合は、リハビリテーションを行う必要があります。時間をかけて徐々に機能回復できる場合もありますが、不便さが残る可能性も高いです。 減圧症について気になるQ & A Q:減圧症を起こさないために注意すべきことは? 潜水当日の体調不良は減圧症のリスクを高めるといわれています。体調を万全に整えておきましょう。 急激な浮上を行ったり、1日に何回も潜ったりすると窒素が気泡化しやすくなるため、手順を守って過剰に潜ることは避けるべきです。 また、潜水直後に飛行機に乗ることは危険です。上空は圧が低いので、より減圧症が発症するリスクが高くなるからです。 Q: 減圧症と減圧障害の違いはなんですか? 減圧症は圧の急激な変化により窒素などの気泡が生じて組織障害をきたす疾患です。減圧障害とは、減圧症と動脈ガス塞栓症の2つの状態を合わせたものです。 とくに脳障害をはじめとした重症例ではこの2つの病態の鑑別が難しいことも多くあります。また、基本的な初期対応も同じです。そのため、近年では2つを合わせた「減圧障害」の呼び方がより一般化してきています。 まとめ・減圧症による脳障害:その症状と後遺症に対する治療法 減圧症の脳障害は重篤で、後遺症が残ってしまう可能性もあります。ひとたび後遺症が残ると、根気強いリハビリが必要です。 ダイビングや潜水に関わるお仕事をされている場合はしっかりと減圧手順を守るとともに、「おかしいな」と思ったらすぐに受診をしましょう。 なお、当院では最新治療の一つとして注目されている幹細胞治療を用いて、脳卒中など脳の障害による後遺症の治療を行っています。減圧症による脳障害の後遺症でお困りであれば、再生医療専門の当院にぜひ一度ご相談ください。 No.167 監修:医師 加藤 秀一 参考文献 高谷陽一. 医学のあゆみ 276(4): 291-294, 2021. 梅村武寛, 堂籠博. 日本医事新報 (5120): 40-41, 2022. 工藤大介. 日本医事新報 (5062): 78-79, 2021. 日本高気圧環境・潜水医学会. 減圧症に対する高気圧酸素治療(再圧治療)と大気圧下酸素吸入. 2018年9月28日 土居浩, 朝本俊司, 荒井好範. 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 2020; 55: 26-33. 鈴木直子.柳下和慶, 外川誠一郎, 山見信夫, 岡崎史紘, 芝山正治, 椎塚詰仁, 山本和雄, 眞野喜洋. 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 2012; 50: 1-9. 合志 清隆, 森松 嘉孝, 玉木 英樹, 村田 幸雄, 合志 勝子, 石竹 達也, 井上 治. 医学のあゆみ 263(3): 261-262, 2017. 小濱正博 レジデントノート 8(5): 667-674, 2006.
最終更新日:2024.02.12 -
- 幹細胞治療
- 脳卒中
- 脊髄損傷
- 頭部
- 脊椎
- 大腿骨骨頭壊死
- 股関節
- 再生治療
減圧症の治し方と後遺症に対する最新の治療法!医師が解説 減圧症とは、高圧環境下で血中や組織中に溶解していた窒素などの空気が、急激な減圧により気泡化して起こる疾患です。潜水からの急浮上に伴うものが代表的であるため、「潜水病」と呼ばれることもあります。 軽い関節痛や痒み・発疹などの軽症から、脳障害や脊髄損傷をきたして死に至る重症まで症状は多様です。 本記事では発症直後の応急処置や再圧治療について解説します。後遺症に対する最新治療としての再生医療の可能性についてもご説明していきます。 減圧症の応急処置 減圧症をきたした際、専門的な治療ができる医療機関へ搬送を待つ間にできる応急処置をご紹介します。 もし患者さんに意識がなく、呼吸が止まっている状態であれば、速やかに胸骨圧迫(心臓マッサージ)や人工呼吸といった心肺蘇生を行う必要があります。AEDが準備できるのであれば速やかに装着しましょう。 脳の障害をきたすこともある減圧症では、脳圧をあげないために頭を下げる体勢は厳禁です。意識があれば仰向けで休ませましょう。 意識がなく、呼吸のみある状態であれば回復体位(上図)をとります。舌の付け根が喉を塞いだり嘔吐物で窒息をしたりしないために、下顎を突き出して横を向くような体勢にします。 呼吸の有無に関わらず必要なのが高濃度の酸素投与です。酸素には組織の窒素の洗い出し効果があるためです。設備があれば一刻も早く開始してください。 意識があれば水分補給を行いましょう。もし医療系の資格を持つ人がいて器材があれば点滴を行います。また、体を冷やしすぎないように保温に努めてください。 意識がなく、呼吸が止まっている状態 ・胸骨圧迫(心臓マッサージ)や人工呼吸で心肺蘇生する 意識がなく、呼吸のみある状態 ・回復体位をとる(上図参照) 意識がある場合 ・仰向けで休ませる ・水分補給を行う ・器材があれば点滴を行う(医療資格保持者がいる場合) 注意点 ・設備があれば呼吸の有無に関わらず高濃度の酸素を投与する ・頭を下げる体勢は厳禁 ・体を冷やしすぎないように保温する なお、再度潜水をして症状軽減をはかる「ふかし」は絶対に行ってはいけません。ふかしは空気を使用するため、酸素投与と比較しても窒素の洗い出し効果の効率が悪いためです。再度浮上した時に症状が再燃したり、場合によっては増悪したりするリスクもあります。 減圧症の治療 治療の原則は「再圧治療」です。 再圧治療とは 治療を受ける人は、専用の治療タンク内に入ります。タンク内の気圧は水中でかかるくらい高い圧まで上がります。その中で患者さんは純酸素を吸入します。 高い気圧により気泡は圧縮され、再度血液や組織中に溶け込みます。その結果、血流の回復が期待できる治療法です。 さらに高濃度酸素を投与することで、組織へ効率よく酸素が運ばれてきます。組織に酸素が届くと、窒素が洗い出されます。窒素は肺へ集まり、体外へ排出されるのです。 一定時間、高い気圧をかけたら、その後はゆっくり減圧行います。こうすることで、再度気泡ができることを防ぎます。 高い気圧をかける時間や減圧については、世界的に標準治療として使用されている「米海軍酸素再圧治療表6」に従って行うことが原則です。 初回で可能な限り症状をなくしてしまうことが重要であるため、経過を見ながら治療時間の調整が行われます。それでも症状が残ってしまった場合は、症状の回復の可能性があるのであれば複数回の再圧治療を行うこともあるのです。 減圧症の後遺症 減圧症により脳や脊髄の障害が起こっても、早期に適切な治療が行われれば症状の消失が期待できます。しかしながら、治療が遅れたり適切な治療がなされなかったりすると後遺症を残す可能性があります。 後遺症の症状は障害部位により多様です。以下に代表的な後遺症をお示しします。 内耳障害 聴覚と平衡感覚に関わる第Ⅷ脳神経の障害です。基本的には適切な治療で改善します。しかし、減圧症と気づかずに治療が遅れると耳鳴りやふらつきが残ります。 対麻痺 主に下肢の両側に左右対称に起こる運動麻痺です。脊髄の障害による後遺症です。 膀胱直腸障害 脊髄の障害により、排尿や排便のコントロールが困難になります。尿がうまく出なくなったり、失禁を起こしたりします。 感覚障害 脊髄および脳の障害いずれでも起こる後遺症です。痺れたり、感覚がわからなくなったりします。脳障害の後遺症として起こる場合は障害部位と反対側に認められます。一方、脊髄の障害の場合は障害された部位より下に両側に起こることが一般的です。 片麻痺 脳の障害により起こります。対麻痺と異なり、片側の手足の運動麻痺です。 これらの後遺症によりダイビングへの復帰が出来なくなるだけでなく、導尿が必要になったり車椅子生活を余儀なくされたりするケースもあるのです。このような場合にはリハビリを行い、少しでも生活しやすくなるように工夫するより他にありません。 また、急性期の症状は回復して残らずとも、のちに骨壊死を起こすことがあります。減圧症により骨の循環障害が起こることで骨の一部が壊死してしまうのです。 もっとも多いのは大腿骨頭壊死です。発症直後は無症状ですが、徐々に骨頭が潰れていくため股関節痛が起こります。最終的には関節が破壊され、歩行が困難になってしまいます。 骨壊死が起こってしまうと症状の進行を止めることはできず、生活に支障が出れば手術が必要になるのです。 後遺症は治せるのか?再生医療の可能性について 現在、最新の治療である幹細胞治療がさまざまな分野で注目を浴びています。減圧症の後遺症についても同様のことが言えるでしょう。 幹細胞治療は、「間葉系幹細胞」と呼ばれる色々な細胞に変化できる万能細胞の特性を活かした治療法です。幹細胞を採取して培養を行い、障害部位に投与することで組織の再生を促します。 一般的に回復しないとされていた脳卒中や脊髄損傷により傷ついた神経や、従来手術しかないと考えられてきた変形した関節の治療などが対象です。そのため減圧症の後遺症についても、幹細胞治療が役に立つ可能性があるでしょう。 ▼脊髄損傷に対する幹細胞治療についてはこちらの動画をご覧ください。 https://www.youtube.com/watch?v=5HxbCexwwbE まとめ・減圧症の治し方と後遺症に対する最新の治療法とは!医師が解説! 減圧症発症後の各段階での治療について解説をしました。 減圧症の後遺症は後の生活に大きな支障を及ぼします。まずは起こさないことが一番です。 不幸にして発症してしまった場合でも、速やかな治療により後遺症が残る可能性を抑えることができます。応急処置のための酸素の準備・心肺蘇生法の習得・搬送先の把握なども、潜水をする上で重要な準備と言えるでしょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.167 監修:医師 坂本貞範 参考文献 鈴木 信哉:潜水による障害,再圧治療. 高圧酸素治療法入門第6版. 日本高気圧環境・潜水医学会. 2017; 147-174. 小濱正博. レジデントノート 8(5): 667-674, 2006. 小島泰史, 鈴木信哉, 新関祐美, 小島朗子, 川口宏好, 柳下和慶. 日本渡航医学会誌 13(1): 27-31, 2019. 梅村武寛, 堂籠博. 日本医事新報 (5120): 40-41, 2022. 工藤大介. 日本医事新報 (5062): 78-79, 2021.
最終更新日:2024.03.25 -
- 脊髄損傷
- 幹細胞治療
- 脊椎
- 再生治療
減圧症による脊椎損傷の症状と治療法について解説 減圧症は、ダイビングなどで深いところから突然浅いところに浮上した際、高圧の環境で血液や組織に溶け込んでいた窒素が、減圧に伴って気泡を作り、様々な症状をもたらす病気です。気泡によって脊髄が損傷を受け、神経症状を起こしてしまうこともあります。 今回は、この減圧症についてわかりやすく解説していきます。 減圧症とは 減圧症とは、周りの圧力の低下に伴って、身体の中に溶解していた不活性ガス(主に窒素)が気化し気泡となることが原因となり、さまざまな症状が現れる病気です。 高気圧環境での労働や、高い場所での減圧によるものが知られているのですが、近年はダイビングによる発症が増加し、減圧症全体の20%以上を占めると言われています。 中高年のダイバーが増えている一方で、減圧症に対する知識の教育不足や治療環境が十分に整っているとは言えません。 さて、この減圧症は潜水後に発症することが多いために、潜水病と呼ばれることもあります。症状としては、関節痛や筋肉痛、めまい、意識障害といったものがあります。 減圧症の症状 減圧症では、身体の中にたまっていた窒素が気泡となり、膨張することで身体の組織を傷つけたり、血管を塞いだりすることでさまざまな症状が現れてきます。 脳の血管が気泡で詰まることで、脳卒中のような症状が現れてしまうこともあります。例えば、身体の片側の筋力低下、めまい、発語困難などです。また、窒素の気泡が生じると組織に炎症が起こり、筋肉や関節、腱の腫れや痛みも起こります。 さて、減圧症は大きく以下の2つのタイプに分けられます。 ・Ⅰ型(比較的軽症) 皮膚や筋肉の症状のみ。 腕や脚の関節、背中などに痛みが生じます。 初めは軽い痛みですが、徐々に増強し、鋭い痛みとなります。 軽度な症状であっても全てが自然治癒するわけではなく、徐々に症状が重くなることもあるので注意が必要です。 ・Ⅱ型(比較的重症) 呼吸器や循環器の症状、中枢神経症状を呈するもの。 軽いしびれから、重度の麻痺や死亡にまで至る場合もあります。 特に脊髄が障害を受けやすいとされています。脊髄が損傷を受けた場合は、腕や脚のしびれ、痛み、筋力の低下がみられます。 減圧症によって脊髄損傷を受けると、後遺症が残る場合もあります。つまり、治療が遅れてしまうか、十分に行われない場合に永続的な神経障害となる恐れもあり、減圧症による症状が治らないということになってしまうのです。 このⅡ型減圧症では、脊髄損傷が最も多いとされています。 脊髄は硬い硬膜で覆われているのですが、脊髄内に発生した気泡によって組織内の圧力が上昇し、血流障害などによって脊髄損傷が起こるとされています。 下位胸髄から腰髄、そして上部から中部胸髄が好発部位とされており、窒素と結びつきやすい脂質が多く含まれている部位が障害されやすいです。 症状は軽い痺れなどの異常感覚から、排尿・排便が難しくなる膀胱直腸障害を含む完全な四肢麻痺まで、さまざまです。 報告によっても異なりますが、日本では33-62%の脊髄損傷の方で後遺症が残ってしまうともされてます。 減圧症の長期的な影響として、減圧性骨壊死があります。骨壊死が進むと、日常の生活のレベルが著しく低下し、人工関節置換術などの手術も必要となることがあります。 さらに、減圧症では肺にも障害が現れることがあるのです。気泡が肺に及ぶと、咳や胸の痛み、呼吸困難が起こり、まれに死に至ることもあります。 減圧症の治療法 減圧症の治療法として最も大切なのは、高気圧酸素療法です。 重症であるⅡ型減圧症では、以下のような方法が用いられます。 高気圧酸素療法 ①水深18m相当の加圧下で、20分の酸素吸入 ②5分のインターバルを挟んで3回繰り返す ⇩ ③水深9m相当の加圧下で、60分の酸素吸入 ④15分のインターバルを挟んで2回繰り返す 水深18m相当の加圧下で、20分の酸素吸入を5分のインターバルを挟んで3回繰り返します。そしてその後、水深9m相当の加圧下で、60分の酸素吸入を15分のインターバルで2回行い、減圧します。 この治療法は以下のような作用があります。 ・血液や組織の中で気泡となった窒素を、血液や組織に再び溶解させる作用 ・窒素を身体から排泄させる作用 ・血液の流れが悪い部位に酸素を行き渡らせる作用 脊髄損傷において、高気圧酸素治療を繰り返すことで回復するケースもみられます。 高気圧酸素治療を行なっても、運動機能や知覚障害が残る場合、ステロイドの点滴治療や、歩行訓練・バランス訓練といった理学療法を行っていきます。 減圧症の予防法 ダイビングをするダイバーは、ガイドラインで決められているような減圧停止を行いながら浮上することで、減圧症を予防することができます。 また、注意点として、ダイビングをしてから12〜24時間以内に飛行機に乗ると減圧症のリスクが高まると言われています。そのため、ダイビングを行ったあとは飛行機に乗ったり高地に行ったりする前に、海抜0メートル地点に12-24時間ほど滞在することが勧められています。 まとめ・減圧症による脊椎損傷の症状と治療法について解説 今回の記事では、ダイビングを行う上では知っておくべき潜水病について解説しました。 脊髄損傷の後遺症が残ってしまった場合の最新の治療法として、再生医療があります。 当院では、幹細胞治療として、自分の脂肪から培養した脂肪由来間葉系幹細胞治療を行っています。この治療は、幹細胞を脊髄腔内に直接注入するというものです。 今までに、脊髄損傷の症状が改善されたという報告も寄せられています。 ▼減圧症などで脊髄損傷を起こしてしまった方で、再生医療にご興味のある方は、ぜひ一度当院までご相談ください。 https://www.youtube.com/watch?v=5HxbCexwwbE No.166 監修:医師 加藤 秀一 参考文献 スポーツダイビングによる脊髄型減圧症の1例.リハビリテーション医学.2006;43:454-459. p454 減圧症 (げんあつしょう)とは | 済生会 減圧症 - 25. 外傷と中毒 - MSDマニュアル家庭版 スポーツダイビングによる脊髄型減圧症の1例.リハビリテーション医学.2006;43:454-459. p456-457
最終更新日:2024.03.22 -
- 幹細胞治療
- 頭部、その他疾患
- 股関節、その他疾患
- 脊椎、その他疾患
減圧症の原因と6つの予防ポイント!わかりやすく解説 減圧症は、急激な高気圧から低気圧への移動時に生じる症状の総称です。減圧症は、潜水や高地登山など、急激な気圧の変化が起こる状況で発症することがあります。 この記事では、減圧症対策として、その原因や予防するためのポイントを6つに分け、わかりやすく解説します。 減圧症の原因 減圧症のメカニズムとしては、身体の周囲の気圧が急激に低下することで、体内の血液や組織に溶け込んでいる窒素ガスが血液や皮膚・筋肉・臓器などの組織の中で気泡を作り、血流障害や組織の破壊を引き起こすというものになります。 以下は、減圧症の主な原因です。 潜水における減圧症 潜水中に吸い込んだ空気中の窒素は血液や組織に取り込まれますが、水圧が高いところではその量が増えていきます。すると、窒素は急速にそして過剰に血液や組織に溶け込みます。その状態で急速に水面に浮上すると、周囲の水圧が低下するために血管内や組織内で窒素の気泡が形成されます。この気泡が、血管を詰まらせて血流を阻害したり、組織を破壊したり、炎症反応を引き起こすことで、さまざまな障害や症状を引き起こすのです。 減圧症は潜水後に起こることが多いので、潜水病とも呼ばれます。 減圧症の影響 減圧症では、水面に浮上した後に倦怠感や疲労感、食欲不振、頭痛などの初期症状が現れることがあります。そして、徐々に他のさまざまな症状も現れてきます。 減圧症には、以下の2つのタイプがあります。 ・ Ⅰ型:皮膚や筋肉の症状(ベンズ)のみ ・Ⅱ型:呼吸・循環器症状(チョークス)や中枢神経症状を伴うもの Ⅱ型は、Ⅰ 型よりも重症です。 減圧症では、脊髄損傷も起こりやすいとされています。その他には、脳障害、呼吸器系の障害(肺塞栓など)、循環器系(心不全や心原性ショックなど)もあります。 また、減圧症の長期的な影響として、減圧性骨壊死という骨の障害もあります。この骨障害は、肩関節や股関節によく起こります。特に、大腿骨頭壊死が起こると、歩行障害などの影響がでたり、重症な場合には手術が必要となることもあります。 減圧症の治療の応急処置としては、100%酸素吸入を行っていきます。そして、専門医療機関では、高気圧酸素療法が行われます。 減圧症の予防ポイント6つ! ダイビング時だけでなく、登山時にも引き起こされることがあります。減圧症を予防するためのポイントを6つに分けて解説します。 ①潜水前の注意 減圧症は、以下に述べるような要因があるとそのリスクが増大します。 ・卵円孔開存(らんえんこうかいぞん)や心房中隔欠損などの心臓の病気 ・疲労 ・肥満 ・高齢 このようなリスクがないかどうか、潜水前にチェックしておくことが大切です。 ここにあげたようなリスクがある方については、医師に事前に潜水をしてよいか、確認をしておく方がよいでしょう。また、潜水前には、適切な訓練と手順を確実にチェックし、それを守ることが必要です。 ②潜水時の注意 急激な深さへの潜水や長時間の潜水は避け、適切な休憩を取りましょう。 また、浮上の速度は15〜30cm/秒を超えないようにします。さらに、水深3~4mの地点で3~5分間の安全停止をすることも、圧力の平衡を保つために推奨されています これに関しては、米国海軍潜水マニュアル(United States Navy Diving Manual)といった正式なガイドラインなどを参考にして、浮上したりすることで減圧症の予防につとめましょう。 ③潜水後の注意 ダイビング後12〜24時間以内は飛行機に乗らないようにしましょう。 潜水活動を行った後に飛行機に乗るような場合には、12〜24時間は海抜0の場所にとどまり、一定期間の休息後が望ましいとされています。 ダイビング後12〜24時間以内に飛行機に乗ると、減圧症のリスクが高まることが知られているのです。 ④高地登山の適切な計画 登山中に急激な標高の変化があると、大気中の酸素濃度が減少し、それによって減圧症が引き起こされることがあります。 登山前には、適切な標高への適応期間を確保し、急激な標高の変化を避けるよう計画しましょう。適切な装備の使用や体調管理も欠かせません。 ⑤十分な水分摂取 どの状況においても、十分な水分摂取が重要です。 水分不足は体調不良を引き起こしやすくなりますので、こまめな水分補給を心掛けましょう。 ⑥専門家のアドバイスを仰ぐ 潜水や高地登山など、特定の状況における活動前には、専門の医師や指導者に相談し、適切なアドバイスを得ることが賢明です。 以上のポイントを守ることで、減圧症のリスクを最小限に抑え、安全にダイビングをしたり登山をしたりすることが可能となるでしょう。 まとめ・減圧症の原因と6つの予防ポイント!わかりやすく解説 今回の記事では、減圧症の原因やメカニズム、予防法について詳細に解説しました。 しかしながら、適切な予防法をとっていても、減圧症による脊髄障害や脳障害によって麻痺などの症状が残ってしまう場合もあります。 こうした減圧症による脊髄損傷に対しては、リハビリテーションを行ったり、場合によってはステロイドなどの薬物治療が行われることが一般的です。しかしながら、こうした方法は根本的な治療法ではありませんでした。 そこで当院では、幹細胞治療として、自分の脂肪から培養した脂肪由来間葉系幹細胞治療を行っています。この治療は、幹細胞を脊髄腔内に直接注入するというものです。 今までに、脊髄損傷の症状が改善されたという報告も寄せられており、今後に期待が持てる治療の一つと言えます。 ▼減圧症などで脊髄損傷を起こしてしまった方で、再生医療にご興味のある方は、ぜひ一度当院までご相談ください。 https://www.youtube.com/watch?v=5HxbCexwwbE No.166 監修:医師 坂本貞範 参考文献 減圧症 - 25. 外傷と中毒 - MSDプロフェッショナル版 素潜り漁中に発症した脳型減圧症の1例.臨床神経学. 2012;1052(10):757-761 潜水時の予防措置および潜水障害の予防 - 22. 外傷と中毒 - MSDマニュアル プロフェッショナル版 減圧症 - 25. 外傷と中毒 - MSDマニュアル家庭版
最終更新日:2024.03.25 -
- 幹細胞治療
- 頚椎椎間板ヘルニア
- 脊椎
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 胸椎椎間板ヘルニア
- 再生治療
ヘルニアの種類と後遺症に再生医療という新たな治療法を解説 ヘルニアには数多くの種類があります。代表的なヘルニアは椎間板ヘルニアです。 椎間板ヘルニアは、誰しも発症する可能性がある疾患の1つです。椎間板ヘルニアでは強い症状で悩んでいる場合などに手術療法を行います。しかし、場合によっては手術よりも、その後の後遺症に困ることがあり、注意が必要です。 本記事では、ヘルニアの種類と症状、そして再生医療と呼ばれる最新の治療方法について解説します。特に椎間板ヘルニアに不安がある方や、手術後の後遺症でお困りの方はぜひ参考にしてください。 ヘルニアの種類 ヘルニアとは、体の中にある臓器や器官などが本来あるべき部位から出てきてしまった状態です。さまざまな種類のヘルニアがありますが、ここでは代表的なヘルニアについて紹介します。 椎間板ヘルニアとは 椎間板ヘルニアとは、数多くある背骨の骨と骨の間の、椎間板と呼ばれる組織が飛び出した状態です。若い男性に比較的多い疾患であり、タバコを吸うことで発症しやすくなります。 椎間板には骨と骨とをつなぐクッションのような役割がありますが、飛び出すと周りにある神経を圧迫してさまざまな症状が出現します。 椎間板ヘルニアの症状 首(頚)にある椎間板が飛び出せば頚椎椎間板ヘルニアと呼ばれ、手のしびれや痛みなどの症状が現れます。 また、胸部や腰部の椎間板ヘルニアはそれぞれ胸椎椎間板ヘルニア、腰椎椎間板ヘルニアと呼ばれます。 椎間板ヘルニアの検査 椎間板ヘルニアを診断するためにはMRI検査やCT検査、レントゲン検査などを行います。MRI検査は神経の状態をチェックするのに優れており、椎間板ヘルニアを診断するために最も重要な検査です。 椎間板ヘルニアの治療方法 椎間板ヘルニアの治療は、手術以外の治療(保存療法)と手術療法の大きく2つに分けられます。 保存療法 一般的に、椎間板ヘルニアは痛み止めの飲み薬や注射、コルセットなどの装具療法やリハビリなどで改善することが多いです。 椎間板ヘルニアの治療 ・痛み止めの飲み薬や注射 ・コルセットなどの装具療法 ・リハビリ しかし、椎間板による神経圧迫の根本的な治療ではないため、再発する可能性が高いです。 手術療法 しびれや痛みなどの症状が強い場合や保存療法では改善しない場合などには手術療法を検討します。 手術療法は、目で見て確認しながら治療できるというメリットがありますが、体にかかる負担や入院が必要となるケースも多く、患者さんの苦痛になりやすいというデメリットもあります。 また、椎間板ヘルニアの手術にはリスクがある場合もあります。手術の際に脊髄と呼ばれる背中の神経を傷つけてしまうと、手や足のしびれ、感覚異常などの脊髄損傷による症状が現れます。 当クリニックでは脊髄損傷に対して有効な最新の再生医療を用いた治療を行っています。 鼠径ヘルニア 鼠径ヘルニアは、いわゆる脱腸の状態です。症状としては、太ももの付け根にある筋肉のすき間から腸がお腹の外に飛び出して、膨らみや痛みを感じる疾患です。 先天性により生まれつき鼠径ヘルニアがある場合や、重い荷物を持つ、排便する時にお腹に力を入れる、年を取ることなどが原因で発症する場合もあります。 鼠径ヘルニアは、触診や超音波検査、CT検査などで診断します。そして基本的には手術療法でのみ治療できます。 発見したら速やかに手術をしないといけないわけではありませんが、脱腸がお腹の中に戻らなくなる嵌頓(かんとん)という状態となり、激しい痛みが出て腸が腐ってしまう場合があるため、早めに手術をしておくのがおすすめです。 原因 ・先天性(生まれつき) ・重い荷物を持つ ・排便時にお腹に力を入れる ・加齢 大腿ヘルニア 大腿ヘルニアの症状は、鼠径ヘルニアの近くから腸がお腹の外に脱出する疾患です。やせ型の高齢女性に多く見られます。 鼠径ヘルニアよりも嵌頓する危険性が高いため、速やかな手術療法が望ましいです。 臍ヘルニア 臍ヘルニアは、一般的に「でべそ」と呼ばれる状態です。 子どもの場合、産まれた時にへその緒がついている部位が閉じきれなかった場合に臍ヘルニアになります。また、大人では肥満、妊娠などが原因で臍ヘルニアを発症することもあります。 子どもでは成長とともに改善する場合も多いです。一方で大人の場合は改善することはほとんどなく嵌頓する危険性も高いため、基本的には手術を行います。 原因 ・子供:出産時、へその緒が閉じきれなかった場合 ・大人:肥満、妊娠など 再生医療 再生医療とは、自身の体を再生する力(治癒力)を利用した最新医療です。例えば、怪我をした時に自然にかさぶたができてやがて元の状態に戻っていきますが、再生医療ではこのような自然治癒力を利用しています。 近年、さまざまな医療分野の最先端の治療法として再生医療が用いられています。当クリニックでは、椎間板ヘルニアの術後後遺症に対して再生医療である幹細胞治療を行っています。 再生医療「幹細胞治療」とは 幹細胞とは、さまざまな細胞に変化できる細胞のことです。まわりの細胞が傷ついたり細胞の個数が減ったりした時に、幹細胞が分裂してその細胞の代わりとなります。 幹細胞には、軟骨や皮膚などさまざまな細胞に変化できる分化能と呼ばれる機能があります。 当クリニックでは、お腹の脂肪(米粒2粒程度)を採取して幹細胞を培養し、規定量にまで増やしてから患部に戻す体への負担も少ない方法です。 自身の脂肪や血液を用いて再生医療を行うため、アレルギーや拒絶反応が起こりにくく、安全性が高いというメリットがあります。 当院独自の培養方法 当クリニックの幹細胞の培養方法は、一般的な医療機関で行われる冷凍して保存する方法とは異なり、冷凍せずに都度培養することで新鮮な幹細胞を投与することが可能です。 新鮮で元気、質の良い幹細胞を多く投与するほど治療効果が高いと報告されています。当クリニックは、独自の技術により幹細胞を1億個以上、増やせるため、高い治療効果を見込むことができます。 また、培養には余分な薬剤や不純物を使いません。さらに牛などの代替血液を用いません。ご自身の血液を用いて細胞を培養するためアレルギーや拒否反応などの合併症も極めて少ないです。 椎間板ヘルニアの術後後遺症に再生医療という選択肢 代表的なヘルニアの1つが椎間板ヘルニアです。椎間板ヘルニアは手足の痛みやしびれなどの症状が現れ、日常生活を送りにくくなる疾患です。 まずは保存療法を行いますが、改善が見られない場合や強い症状に悩む時には手術療法を選択するのですが手術後に手や足のしびれが残存したり、感覚異常などの術後、後遺症が出ることがあるため注意が必要です。 当クリニックでは、幹細胞を脊髄損傷部位に直接投与する脊髄腔内ダイレクト注射療法という国内でもほとんど行われていない最新の治療法で神経を再生することを目指しています。 一般的な再生医療では点滴によって細胞を体に戻しますが、損傷部位に到達する細胞は少なくなってしまいます。当クリニックの治療法では細胞を直接投与するためすべての細胞が損傷部位に到達でき、再生医療による効果がより期待できます。 治療自体は注射を行うのみであり数分で終了します。注射にともなう痛みも強くないため気軽に受けられる治療法です。また、幹細胞の点滴も同時に行えばさらに治療効果を期待できます。 椎間板ヘルニアの術後後遺症には、最新の再生医療である幹細胞治療がおすすめです。当クリニックでは独自の培養技術により高い安全性と効果をかねそなえた治療を数多く行っています。ご不明点がございましたらご遠慮なくお問合せ下さい。 https://youtu.be/4AOGsB-m63Y?si=sQ9ws8CluU_SRVWQ まとめ・ヘルニアの種類と再生医療の適応について ヘルニアは様々な種類があり、その中でも代表的な椎間板ヘルニアは比較的発症する可能性が高い病態です。保存療法での治療もできるものの、症状が強い場合には手術が必要となることもあります ただ手術は、術後に後遺症が残るケースも少なくありません。 そこで、注目されているのが再生医療です。再生医療はご自身の幹細胞を培養し、身体の治癒力を活用して再生を即す治療法です。当クリニックでは、椎間板ヘルニアの術後後遺症に対して、最新の再生医療である幹細胞治療をお勧めしています。 この治療法は、幹細胞を直接損傷部位に投与することで高い効果を期待できます。また、治療自体は注射のみであり、身体にも優しく、安全性が高いとされています。 椎間板ヘルニアの術後後遺症に悩む方にとって、再生医療は新たな希望となるかもしれません。当クリニックでは独自の技術と豊富な経験を活かし、患者様の健康と快適な生活のために最善の治療を提供しています。 気になる点やご相談事がありましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。 椎間板ヘルニアの術後後遺症にお困りの方はぜひご相談ください。 No.158 監修:医師 坂本貞範 ▼ヘルニアの手術の後遺症についても参考にされませんか 椎間板ヘルニアと手術後、後遺症の治療法について
最終更新日:2024.05.08 -
- 幹細胞治療
- 脊椎
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 再生治療
椎間板ヘルニアと手術後、後遺症の治療法について 椎間板ヘルニアは、高齢者はもちろんのこと、スポーツや重労働をする若い人もなりうる病気の1つです。手や足のしびれや痛みが出てくるので、生活の質を低下させてしまいます。 治療法として保存治療や手術がありますが、術後でも症状が残ってしまう可能性があります。 これまでは術後の後遺症に対しては、対症療法が中心でしたが、最新治療として再生医療(幹細胞治療)を用いた治療が注目されており、根治につながるのではないかと期待されています。 そこで、本記事では椎間板ヘルニアの概略から最新の治療までを紹介していきます。 椎間板ヘルニアとは 人間の背骨は、脊椎といわれる骨とその間にある椎間板という組織から構成されます。脊椎は場所により名称が変わり、頸椎・胸椎・腰椎・仙椎に分類されます。 また、椎間板は脊椎が柔軟に動くためのクッションの役割を果たしています。椎間板ヘルニアとは、何らかの原因で椎間板が変形してしまい後ろに飛び出してしまっている状態のことです。椎間板ヘルニアは先述したどの脊椎にも起こる可能性があり、生じた部位により名称が変わります。 椎間板ヘルニアの原因 原因は、加齢による椎間板の変性や、外力により椎間板に過度な負担がかかることが挙げられています。脊椎の中でも腰椎が最も外力による負担が大きいため、腰椎椎間板ヘルニアが最多です。 椎間板ヘルニアの症状 椎間板ヘルニアの症状としては、椎間板の脱出により脊椎内を通過している脊髄などの神経を刺激することで、痛みやしびれが生じます。どの部位の神経が刺激されるかにより、症状が生じる部位も変わります。 例えば、頚椎では首や肩、手のしびれや痛みが主に生じますが、腰椎では坐骨神経痛と呼ばれる足のしびれや痛みが生じます。 椎間板ヘルニアの治療法 椎間板ヘルニアの治療法は保存療法と手術療法とがあり、多くの場合、まずは保存療法が行われます。 保存療法 保存療法としては、椎間板にかかる負担が少なくなるように安静を保つことや、しびれや痛みを抑えるために鎮痛薬の内服や神経ブロック、リハビリをメインとした理学療法が行われます。 椎間板ヘルニア治療、保存療法の種類 ・鎮痛薬の内服 ・神経ブロック ・リハビリテーション これらの保存療法を行っても症状の改善が乏しい場合や症状が強い場合は手術を検討することになります。 手術療法 例えば、椎間板ヘルニアで最も多い腰椎の手術には、「顕微鏡下椎間板摘出術」や、「内視鏡下ヘルニア摘出術」、 「経皮的髄核摘出術」があります。 また、「経皮的レーザー椎間板減圧術」と呼ばれる治療法もあります。これは神経を圧迫しているヘルニアにレーザーを照射することで、ヘルニア内に空洞を形成します。それにより神経への圧迫を減らすことが出来るというものです。 各々アプローチは異なりますが、どの手術も脱出している椎間板を取り除くことで神経への刺激を軽減することが目的です。 椎間板ヘルニアの手術療法 ・顕微鏡下椎間板摘出術 ・内視鏡下ヘルニア摘出術 ・経皮的髄核摘出術 ・経皮的レーザー椎間板減圧術 手術後の後遺症について 先述した治療により、ヘルニアによる神経への刺激が軽減されることで手や足のしびれや痛みは改善することが多いです。 しかし、手術を受けたにも関わらず手足のしびれや痛みが残ったり、中には手術前よりも強い症状が見られる場合があります。このような後遺症を抱える原因としてはいくつかあります。1つはヘルニアの再発です。 1.ヘルニアの再発 腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン2021(改訂第3版)によると、症状の有無にかかわらず術後2年で23.1%(25/108)の患者が再発していたというデータがあります。 症状のない人も含めてですが、およそ4人に1人はヘルニアが再発してしまうということになります。仮にヘルニアが再発したとしても、症状がなければ様子をみるだけですし、症状があったとしても軽いものであれば保存療法がまず行われます。 しかし、保存療法でも奏功しない場合は再手術が必要となりますが、以前の手術による影響で難易度は高くなってしまうことが多いです。 2.脊髄神経の損傷 その他の後遺症が起こる原因としては脊髄の不可逆的な損傷があります。脊髄を含む神経は外力などの刺激により一度損傷が起こると、元通りに回復することはありません。 そのため、手術により神経を刺激する要因を取り除いたとしても、手術前に受けた損傷が激しい場合は、手術後も手足の痛みやしびれに悩まされる場合があります。 保存療法である鎮痛薬や神経ブロックなどが行われますが、どれも対症療法にしか過ぎません。そこで、最新の治療法として紹介したいのが、再生医療の1つである脊髄腔内幹細胞療法というものです。 この治療法を説明する前に、「再生医療」や「幹細胞」についてお話します。 再生医療による治療 再生医療とは、病気や外傷により失われた臓器や機能を正常な状態に回復させる医療のことです。その中でも特に注目されているのが、幹細胞を利用した再生医療です。 人間の体にある細胞は体細胞と生殖細胞に分けられます。体細胞は心臓や肺といった各臓器を構成する一般的な細胞で、生殖細胞は精子や卵子のように遺伝情報を伝えることの出来る細胞です。 この2つの細胞の元となるのが幹細胞で、その他の細胞と異なり自己複製能と多分化能をもちます。この2つの能力が再生医療に応用されているのです。 脊髄腔内 幹細胞療法 先に紹介した脊髄腔内幹細胞療法は幹細胞を直接脊髄に投与することで、損傷した神経の再生を促し、失った神経の機能を回復させることが期待できます。 幹細胞を用いた脊髄損傷の治療として血管内に点滴で幹細胞を投与することも行われていますが、その治療と比較すると脊髄に直接投与するため、損傷している神経に行き届く幹細胞が多くなります。 その結果、損傷した神経の再生効果を高めることが出来るのです。従来の対症療法に過ぎなかった治療法と異なり、脊髄腔内幹細胞療法は根本的な治療法になりえると考えられます。 まとめ・椎間板ヘルニアと手術後、後遺症の治療法について 今回は椎間板ヘルニアの術後後遺症と治療方法についてお話しました。 再生医療の1つである脊髄腔内幹細胞療法は、上述のように症状を根本的に改善させる可能性があり非常に期待されている治療法です。 https://www.youtube.com/watch?v=4AOGsB-m63Y&t=141s ▶椎間板ヘルニア術後の後遺症に悩んでいる方がいらっしゃいましたら、一度この治療法について検討してみてはいかかでしょうか。お困りの方はぜひ一度ご相談ください。 No.S157 監修:医師 加藤 秀一 参考文献 腰椎椎間板ヘルニアガイドライン2021年版 ▼椎間板ヘルニアの手術について参考されませんか 椎間板ヘルニアの内視鏡手術|PELD(PED)、MEDの違いについて
最終更新日:2024.05.08 -
- 幹細胞治療
- 脊椎
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 再生治療
腰椎椎間板ヘルニアの症状レベルについて医師が詳しく解説します 腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板の膨隆や脱出により、脊髄や神経根が圧迫されることで症状が生じるものです。その中でも腰椎のL4-L5の間に起こるものが多いとされています。 この記事では、腰椎椎間板ヘルニアの症状レベルや治療、そして再生医療の可能性についても触れていきます。 腰椎椎間板ヘルニアとは 腰椎とは、腰のあたりにある背骨のことで、5つの骨(椎体:ついたい)から成り立っています。 そもそも背骨は、椎体という骨が上下に積み重なっているような構造をしています。この椎体と椎体の間には、椎間板(ついかんばん)というクッションのようなものがあり、衝撃を和らげるなどの働きをしています。 椎間板ヘルニアは、この椎間板の中身(髄核:ずいかく)やその中身を包む袋のようなもの(線維輪:せんいりん)が膨らんだり、また外に脱出、飛び出したりすることで、神経を圧迫し、症状がでるものをいいます。 椎間板ヘルニアの分類 椎間板ヘルニアは、椎間板がどの程度飛び出しているかによって、4種類に分類されます。 分類としては、以下の図ようになります。 引用)腰痛を診る.日本医科大学医学会雑誌.2006(2):42-46. p44 この図で示されている後縦靭帯とは、椎体の後ろ側を走っているもので椎体と椎体を繋ぎ、脊椎の安定性を保つ強力な組織です。この椎間板ヘルニアが腰椎で起こったものが腰椎椎間板ヘルニアです。 人口の約1%がこの腰椎椎間板ヘルニアに悩んでいるという報告もあり、男女比はやや男性の方が多く(約2〜3:1)、好発年齢は20〜40才代、好発部位はL4-L5、L5-S1(※)とされています。 (※ L=腰椎 S=仙椎) 腰椎椎間板ヘルニアの症状 3つのレベル 腰椎椎間板ヘルニアでは、椎間板の変性などの度合いによって症状のレベルがあります。 1 , 軽症のレベル 椎間板が飛び出しても神経を圧迫するほどではない段階です。この時には、症状は腰痛のみなど軽い症状が見られます。 2 , 中等度のレベル 飛び出した椎間板が脊髄や神経根を圧迫するまでになると、お尻の痛みや下肢の痛み・しびれといった知覚障害が生じてきます。 3 , 重症のレベル 椎間板ヘルニアが重症化すると、筋力低下をきたし歩行障害も呈するようになります。また、排尿困難や排便困難などの膀胱直腸障害や種々の症状も現れます。 ヘルニアが起こる部位によって、様々な症状が現れますが、腰椎椎間板ヘルニアの主な症状は、腰痛と下肢の痛みです。 線維輪に断裂、つまり裂け目のようなものが生じると、新たな血管や神経が入り込み、痛みを自覚するようになります。また、膨らんだ椎間板が後縦靭帯を押し上げ腰痛を引き起こすと考えられています。 椎間板が膨らむことで、神経根という脊髄が外に出ていく部位を圧迫すると、下肢の痛みや知覚障害、筋力低下が生じます。 L4-L5間のヘルニアでは、第5腰椎の神経根が圧迫されます。そのため、スネの外側から足の親指にかけて知覚障害が生じます。 また足関節を背屈、つまり曲げるような力が弱まります。 腰椎椎間板ヘルニアの検査や治療 腰椎椎間板ヘルニアの画像検査としては、MRIが最も優れています。 変性してしまった椎間板は正常なものと異なっているように写し出されるため、脱出した椎間板の部位や分類診断についても役立ちます。 椎間板ヘルニアは、自然治癒する可能性があります。そのため、排尿や排便にも影響がでるような膀胱直腸障害など重い神経障害がある場合を除いて、まずは保存療法が選択されます。 保存療法と手術療法 保存療法としては、非副腎皮質ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの鎮痛薬の内服が用いられます。その他、神経ブロック注射も選択肢にあがります。 膀胱直腸障害や運動麻痺などの重い神経症状がある場合や、保存療法でも強い痛みが続く場合には、手術療法が行われます。その場合は、症状の原因となっている椎間板を摘出するような方法が取られます。 治療法 ・鎮痛薬の内服 ・神経ブロック注射 ・椎間板摘出手術 腰椎椎間板ヘルニアに関するよくある質問 Q1 椎間板ヘルニアの際は安静にした方が良いですか? A1 絶対安静が必要ということではありません。 腰の痛みや足の痛み、しびれ感がある場合には安静にしておく方が良いといわれることも多いかと思います。しかし、自宅で安静にした方が早く治るという科学的な根拠はありません。痛みが強すぎて動けない場合は自宅で安静にしている他ありませんが、動けるのであれば腰や足の筋力が弱くならないように、少しずつ動くようにすると良いでしょう。 Q2 保存療法としてコルセットは効果がありますか? A2 試してみる価値はあると考えられます。 腰椎椎間板ヘルニアの患者さんは、立っている方が座った姿勢よりも痛みが楽になります。そして、背中が丸まった状態よりもどちらかというと反らせた姿勢の方が楽なのです。一方、腰をそらせる姿勢を続けると腰が疲れてしまいます。そのため、コルセットを着用して姿勢の保持をしやすくするのは痛みを和らげるために効果があると言えます まとめ・腰椎椎間板ヘルニアの症状レベルについて! 今回は腰椎椎間板ヘルニアとは何か、そしてよく起こる部位であるL4-L5での症状、症状レベルについて解説しました。 腰椎椎間板ヘルニアで症状が重い方には手術療法が選択されます。しかし、手術を行っても圧迫され続けた脊髄や神経根の損傷が完全に修復されないこともあります。すると、しびれや痛みといった症状が残ってしまう、という場合もみられるのです。 そこで、当院では、脊髄腔内幹細胞投与という方法を用いて、傷ついた神経の再生を試みています。多くの症例を経験し、症状の改善がみられています。 https://www.youtube.com/watch?v=4AOGsB-m63Y&t=132s ▶腰椎椎間板ヘルニアの手術を受けてもなかなか症状が改善しない、というような方は、ぜひ一度当院までご相談ください。 No.S155 監修:医師 加藤 秀一 参考文献) 腰痛を診る.日本医科大学医学会雑誌.2006(2):42-46. p44 腰痛を診る.日本医科大学医学会雑誌.2006(2):42-46. p43 腰椎椎間板ヘルニアの治療 Mindsガイドラインアプリ p37 腰椎椎間板ヘルニアの治療 Mindsガイドラインアプリ p40 ▼腰椎ヘルニアの治療は以下も参考にしていただけます 腰椎椎間板ヘルニアの治療について|ブロック注射は有効か?
最終更新日:2024.04.10 -
- 幹細胞治療
- 大腿骨骨頭壊死
- 股関節
- 再生治療
大腿骨頭壊死の保存療法と骨切り術の予後について 大腿骨頭壊死とは股関節にある大腿骨頭が壊死してしまい潰れることで痛みを生じる原因不明の疾患です。 大腿骨頭を栄養している血管が障害されることが原因と考えられており、免疫を抑えるステロイドやアルコールなどが危険因子ですが、正確な原因は未だ明らかになっていない難病です。 一度壊死が起こってしまうと、その部分を再生させることは現代の医療でも不可能です。そのため、保存治療でも効果がない場合には骨を切って壊死した部分に体重がかからないようにする骨切り術や、人工関節での手術治療が行われてきました。また最近では、軟骨の再生を目的として自分の細胞を用いた再生医療も行われています。 この記事では、大腿骨頭壊死の保存療法と骨切り術の予後、また再生医療の可能性についても解説していきます。 大腿骨頭壊死の予後予測とは 予後というと“がん”のように生存できる期間のことを連想されると思いますが、大腿骨頭壊死自体で生命に危険が及ぶことはありません。 ここでいう予後とは壊死によって大腿骨が潰れてしまう割合や痛みのために、人工関節が必要になるまでの期間や割合のことを指します。 また大腿骨頭壊死は発症する年代や性別が様々であり、そういったもともとの患者さんの状態や壊死した領域の広さによっても予後が異なります。そのため、ここでご紹介する数値はあくまでも参考値であり、実際の予後については担当医と十分に相談することが必要です。 予後予測の重症度分類 原因不明である特発性大腿骨頭壊死では壊死の範囲によって重症度分類がありtype A~Cに分けられます。 重症になるほど壊死範囲が大きく、大腿骨頭が潰れてしまうリスクが高くなります。 保存治療の予後について 特発性大腿骨頭壊死症診療ガイドライン2019年版では保存治療を行なった場合の大腿骨頭の圧壊率について記載されています。 ガイドラインでは圧壊率は軽症であるtype Aで0%、type Bで0〜29%、type C1で13〜26%、type C2で50〜86%と報告されています。 大腿骨頭の圧壊率 ・type A 0% ・type B 0〜29% ・type C1 13〜26% ・type C2 50〜86% そのため、壊死領域が小さいtype Aでは圧壊がみられないので保存治療の予後は良好です。 保存治療では、安静にしたり、松葉杖やロフストランド杖を使ってできるだけ体重をかけないようにします。保存治療であれば基本的には入院は不要ですが、痛みのため自宅で生活ができない場合には病院に入院して治療を行う場合もあります。 骨切り術の予後について 骨切り術の目的は壊死した領域に体重がかかることで圧壊が進行しないように大腿骨を骨切りして移動・回転させ壊死範囲に体重がかからないようにすることです。 そのため、壊死した範囲によって術式が選択されますが、適切に術式を選択した場合には良好な成績が報告されています。 ガイドラインに記載されている代表的な骨切り術に、大腿骨内反骨切り術と大腿骨頭回転骨切り術があります。壊死範囲が比較的狭い場合には内反骨切り術が選択される傾向があり、壊死範囲の部位によっては大腿骨頭を回転させる骨切り術を行います。 一般的に回転骨切り術の方が手術侵襲(身体への負担)は大きく、可能であれば内反骨切り術が選択されます。 予後については様々な報告がありますが、目標通りの骨切り術が行えた場合は平均10年間観察して、関節温存率(人工関節が不要だった人の割合)は約90%と良好な成績が報告されています。 骨切り術は人工関節置換術と比べるとリハビリの期間や入院期間が長いのですが、自分の関節を残すことができるので若い方、スポーツを楽しみたい方などによい適応があると考えられます。 大体骨頭壊死症と再生医療 大体骨頭壊死症は原因不明の難病であり、これまで様々な治療が行われてきました。骨を移植したり、壊死した部分に穴を開けて減圧するなどの手術治療もありますが、ガイドラインでも効果については議論が分かれています。 そのため現時点では、保存治療と、保存治療では圧壊が危惧される広い範囲に壊死がある場合には「骨切り術」や「人工関節置換術」が選択されることが多くなっています。 しかし、最近になって最新の治療法である再生医療が導入されました。それが幹細胞治療です。 幹細胞は自分の細胞を採取して培養することで作成します。幹細胞を投与されると、その部分で組織の修復、再生が促されるため、大腿骨頭壊死にも行われ始めています。最新の治療なので、まだ医療保険の適応はありませんが、大きな手術が不要で、治る可能性があります。 治療法についてお悩みの方はぜひ一度ご相談ください。 まとめ・大腿骨頭壊死の保存療法と骨切り術の予後について 大腿骨頭壊死は何らかの原因で血管が障害されて起こり、現時点でも原因が不明の難病です。 壊死範囲が狭い場合は松葉杖などで体重がかからないようにする保存治療で症状がよくなる方もいます。しかし、壊死範囲が広い場合には骨切り術などの手術が必要となる場合があります。骨切り術の成績は良好ですが、手術の負担と、リハビリ、入院期間が長期間になるというデメリットがあります。 一方で自分の細胞を用いた幹細胞治療は最新の治療法であり、組織が再生されることで症状がよくなる可能性があります。 病院を受診して治らないと言われたり、手術しかないと言われてしまっていても、その他の選択肢として検討いただきたい治療法です。ご相談したいことがありましたら、いつでも当院にご連絡ください。 No.S152 監修:医師 加藤 秀一
最終更新日:2024.02.12 -
- 幹細胞治療
- 大腿骨骨頭壊死
- PRP治療
- 股関節
- 再生治療
大腿骨頭壊死の治療法?従来の治療と再生医療の可能性 大腿骨頭壊死は、骨盤と股関節を形成している大腿骨頭という部分への血流が何らかの原因で低下、流れなくなった結果、骨が壊死してしまう病気です。 治療としては、股関節への負担を減らすような生活をする「保存療法」や、のちぽど説明する「手術療法」があります。 その他にも新しい流れとして、大腿骨頭壊死に対して「再生医療」という手術をせず、入院もしない治療方法が可能となり、新たな選択肢として注目されるようになってきました。 今回の記事では、大腿骨頭壊死の従来の治療法、また最新の再生医療を用いた治療について解説してまいります。 大腿骨頭壊死症と特発性大腿骨頭壊死? 大腿骨頭壊死(だいたいこっとうえし)とは、大腿骨の股関節側、太ももの太い骨の先端である骨頭(こっとう)が、血流の低下によって壊死してしまう状態のことです。 また、大腿骨頭壊死の中でも、脱臼や骨折といった原因がはっきりしている場合以外のものを、「特発性大腿骨頭壊死」と呼びます。 ・大腿骨頭壊死:脱臼や骨折など原因がはっきりしている ・特発性大腿骨頭壊死:上記以外、原因がはっきりしないもの 特発性大腿骨頭壊死は、骨頭が壊死しているだけでは症状がでませんが、壊死が進行して骨頭の破壊が進むと次第に症状が出現するようになります。症状としては、急に生じる股関節痛が特徴的とされています。 骨頭壊死症の病期(ステージ)分類は以下のようになっており「*骨頭の圧潰」が進むにつれてステージが上がっていきます。 *骨頭の圧潰(あっかい)とは 大腿骨の骨頭が通常の球形が押しつぶされた状態をいい、骨頭が圧潰すると痛みといった明確な症状がでます。 以下、特発性大腿骨頭壊死について説明してまいります。 引用) 71 特発性大腿骨頭壊死症 特発性大腿骨頭壊死症の治療 特発性大腿骨頭壊死の治療法としては、早い段階、初期のステージであれば保存的治療も適応となります。具体的には、杖などでの免荷、つまり股関節にかかる体重を減らすことで負担を軽減し、痛みに対しては鎮痛剤を使用して対応します。 すでに症状があり、骨頭の圧潰が進行すると予想される場合には、手術が選択されます。 手術としては、若い方の場合、股関節を残す「骨切り術」が第一選択となります。一方、骨頭の壊死や圧潰が進んでいる方や、高齢者の場合には「人工骨頭置換術」が必要となることもあります。 保存療法の場合も、手術の場合にも、股関節の痛みを出さないような動作方法などを学ぶためのリハビリテーションが行われます。 特発性大腿骨頭壊死の治療方法 初期 ・保存的治療(杖などで股関節への荷重を減らし負担を軽減 ・痛みには鎮痛剤を使用 ・リハビリ 骨頭の圧潰が進行 ・若い方(股関節を残す「骨切り術」が第一選択) ・壊死や圧潰が進んでいる場合(「人工骨頭置換術」を検討) ・高齢者の場合(「人工骨頭置換術」を検討) ・リハビリ 特発性大腿骨頭壊死は治る?再生医療の可能性 特発性大腿骨頭壊死は、ステロイドの使用やアルコール多飲などの要因が考えられています。しかし、根本的な原因は未だ不明で、骨頭壊死の進行を防ぐことそのものは難しいとされてきました。 つまり、保存的治療や手術療法といった従来の治療では、骨壊死が完全に治るということは難しかったのです。 一方、最近では、骨頭の壊死した部分の骨再生を促すような、最新の治療法「再生医療」での臨床研究も行われています。 手術なし、入院も不要といった再生医療による治療とは 医療の進歩による再生医療という選択肢が従来の治療法に加わりました。その内容を簡単に説明してまいります。 当院では、患者さんの身体から取り出した幹細胞を体外で培養し、増殖させてから身体に戻す、という「自己脂肪由来幹細胞治療」を行っています。 保存の際に、幹細胞を冷凍しないために、幹細胞の生存率が高く、また採取する細胞の数が少ない(米粒2〜3粒分ほど)のため、身体への負担が少ない、といった特徴があります。 股関節の病気に対しては、特殊な針とエコー、特殊なレントゲン装置を利用し、股関節内の損傷している部位をよく調べ、ダイレクトに幹細胞を注入する当院独自の「関節内ピンポイント注射」という方法を用いています。 これによって、手術をしないにもかかわらず、股関節の痛みが軽減され、改善される効果を期待できる方法です。詳しくは、お気軽にお問い合わせ下さい。 また、自己脂肪由来幹細胞治療の他にも、「PRP(多血小板血漿)療法」という、患者さん自身の血液から抽出した血小板の濃縮液を利用する治療法も行っています。 このPRP療法も、自己脂肪由来幹細胞治療と組み合わせることで、痛みの軽減、改善効果が期待できるのです。 特発性大腿骨頭壊死症についてよくある質問 Q1. 特発性大腿骨頭壊死になってしまったら、必ず手術が必要? A1. 従来は、特発性大腿骨頭壊死が判明した場合には、保存的な治療か手術かが選ばれてきました。 保存的な治療を選択した場合も、骨頭壊死が進行すると手術を行わなければならないこともありました。 一方、最近では再生医療を用いることで、手術なしでも股関節の再生や痛みの改善が期待できるようになってきました。 Q2. 特発性大腿骨頭壊死に対する再生医療にはどのようなものがありますか? A2.特発性大腿骨頭壊死に対する再生医療には、自己脂肪由来の幹細胞による再生医療の他に、自分の血液の中にある血小板からでる成長因子(傷を修復させる効果がある)を利用した、 PRP治療法があります。このPRP療法は、ヒアルロン酸のように、関節の炎症を抑えるという効果があります。 まとめ・大腿骨頭壊死の治療法?従来の治療と再生医療の可能性 今回は、「特発性大腿骨頭壊死についての治療法」と「特発性大腿骨頭壊死に対する再生医療の可能性」について解説しました。 大腿骨頭壊死のために、「股関節の痛みがあり、手術を勧められている」。でも手術はしたくない、人工関節にも抵抗があり、手術をしない治療法を検討したいという方は、当クリニックの無料相談をご利用ください。当方は医療機関ですので無理に治療をおススメすることはございませんので安心してお問い合わせ下さい。 今回は、大腿骨頭壊死の治療法にいつて、従来の治療法と、新たな流れ、再生医療を用いた治療法を解説しました。参考にしていただければ幸いです。 No.153 監修:医師 坂本貞範 参考文献 特発性大腿骨頭壊死症(指定難病71) 71 特発性大腿骨頭壊死症 p4特発性大腿骨頭壊死症(指定難病71)
最終更新日:2024.02.12 -
- 大腿骨骨頭壊死
- 股関節
- 再生治療
大腿骨頭壊死|どこが痛み、どう動かなくなる、診断方法と治療について 大腿骨頭壊死は股関節を構成している大腿骨頭の血流が何らかの理由で途絶えてしまい、骨が壊死してしまう原因不明の難病です。 この記事では大腿骨頭壊死の初期症状としてどこが痛いのか、その動きの特徴や診断や検査の方法、治療の内容や最新治療についても解説していきます。 大腿骨頭壊死とは 大腿骨頭の一部が、何らかの原因で血流が途絶えてしまい、骨組織が壊死してしまう病気です。 特発性という原因が不明の大腿骨頭壊死では、危険因子としてステロイドの内服、アルコール、喫煙が関連していることがわかってきています。厚生労働省から指定難病に指定されており、医療費補助の対象となっています。 初期に現れる股関節の痛みや、動きの特徴に注意! 大腿骨頭は股関節を構成しています。大腿骨の先端にあるボールの形をした大腿骨頭と、骨盤側で大腿骨頭の受け皿になる深いお椀の形をした臼蓋との組み合わせで股関節は構成されています。 ①どこが痛む:足の付け根の痛み 大腿骨頭壊死の初期症状は足の付け根の痛みです。しかし、注意点として血流が途絶えて壊死が起きるごく最初の段階では痛みは起こりません。壊死に陥った部分に負荷が加わることで骨が潰れてくることによって、徐々に痛みが出現します。 骨壊死が起こることと、痛みが出現するタイミングには時間的に差があることに注意が必要です。そのため、骨壊死はあっても、壊死の範囲が小さい場合などでは痛みを起こさないこともありえます。 ②どう動かなくなる:股関節の関節可動域が制限 病気が進行して、壊死した部分が潰れて大腿骨頭が変形すると、陥没した部分で関節の不適合、不安定性から軟骨のすり減りが進行してしまいます。 その結果、変形性関節症を生じ、放置したままだと軟骨がなくなってしまい、骨同士がぶつかることで変形性関節症が悪化してしまいます。 変形性関節症が進行すると、痛みだけでなく、股関節の関節可動域が悪くなってしまいます。 股関節は曲げ伸ばしだけでなく、内旋、外旋などの動きがあるので、病気が進行すると胡座(あぐら)や爪切り、和式トイレ、階段の上り下りが困難になってしまいます。さらに進行すると、筋力が低下してしまい、歩行することが困難になってしまいます。 大腿骨頭壊死で困難になること ・胡座(あぐら) ・爪切り ・和式トイレ ・階段の上り下り ・筋力低下による歩行困難 そのため、初期症状である痛みがある段階で早めに病院で診察を受けることが重要です。 大腿骨頭壊死の診断方法 大腿骨頭壊死における画像検査にはレントゲンとMRI検査が有効です。それぞれの特徴について解説していきます。 レントゲン撮影 レントゲンは一般的な診断手法であり、大腿骨頭壊死の評価にも使用されます。レントゲンは骨の形状や変化を評価でき、簡便なので最初の検査として行われることが一般的です。しかし、大腿骨頭壊死の初期の段階ではレントゲンだけでは診断が難しいこともあります。 MRI MRIは大腿骨頭壊死の診断に非常に役立ちます。壊死の範囲の評価だけではなく、骨折や関節炎などの別の病気の診断にも使用することができます。 大腿骨頭壊死の治療 治療は年齢などのご本人の状態、病気の範囲や部位など総合的に判断して決定されます。 保存治療 早期の症状や軽度の大腿骨頭壊死では、痛みを緩和するために安静や杖による免荷、身体活動の制限、重量物の運搬禁止などを行います。痛みに対しては消炎鎮痛薬の内服や湿布などを行います。しかし、これらの方法で病気の進行を防ぐことはできないので、進行が考えられる状態や、進行しつつある状態のときには変形が進む前に手術治療を受ける方が治る可能性は高くなります。 手術治療 手術は大きく骨を切って関節を温存する骨切り術と、壊死した骨を切除して金属に置き換える人工関節置換術に分けられます。 骨を切る手術では壊死した部分に体重がかからないように大体骨頭を弯曲させたり、回転させる手術が行われます。骨を切った後は専用の金属で固定をするため、一定期間の安静が必要ですが、自分の関節を温存できるメリットがあります。しかし、病気が進行する可能性はゼロではありません。 人工関節手術では大腿骨頭だけを置き換える人工骨頭置換術、骨盤側にも金属をいれる人工股関節全置換術があります。基本的には手術翌日から歩行訓練が可能で、リハビリが早いというメリットがありますが、人工関節のためスポーツは制限が必要であり、将来的な再手術の可能性もあります。 大腿骨頭壊死に対する再生医療 人工関節手術に至らないようにする治療として再生医療があります。 再生医療は近年開発された新しい治療法で、ご自身の細胞から培養した幹細胞などを投与します。幹細胞を股関節に注射することによって、すり減った軟骨が再生され、痛みが和らぐので手術をしなくても改善する可能性が高まります。 大腿骨頭壊死に対する再生医療についてのQ&A 1.股関節への幹細胞の注射はどのようにするのですか。 回答:股関節は体の奥深くにあるので、注射をすることが難しい部位です。当院ではエコーや特殊なレントゲン装置を使うことによって、股関節内にピンポイントで注射をすることが可能です。 2.幹細胞はどのように作成するのですか。 回答:当院ではご自分の脂肪から幹細胞を培養して作成しています。脂肪は下腹部周辺に局所麻酔をして採取し、細胞加工室で時間をかけて培養します。脂肪由来の幹細胞は骨髄や滑膜内臓の幹細胞よりも体への負担が少ないことがわかっています。 まとめ・大腿骨頭壊死|どこが痛み、どう動かなくなる、診断方法と治療について 大腿骨頭壊死症は骨を栄養している血流が途絶えることによって発症する、現時点でも原因が不明の難病です。 初期症状は足の付け根の痛みであり、病気が進行すると人工関節手術を受けなくなってしまうかもしれません。当院の再生治療は幹細胞を股関節内に投与することで軟骨の修復が可能な最新の治療です。痛みでお困りの際にはいつでもお気軽にご相談ください。 No.148 監修:医師 坂本貞範 ▼こちらも参考にしていただけます 大腿骨頭壊死のリハビリ|運動療法で仕事復帰を目指す
最終更新日:2024.02.14