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「最近、疲れやすい」「立ちくらみやめまいが増えた」とお悩みの方は多いのではないでしょうか。これらの症状は単なる疲労やストレスと思われがちですが、実は貧血が原因の可能性があります。 さらに、貧血の背景には胃がんや腎不全、子宮筋腫などの重大な病気が隠れている場合もあるため、軽視してはいけません。 この記事では、貧血の原因となりうる病気や症状のチェックリスト、受診の目安などを解説します。貧血の症状が気になる方は、ぜひ参考にしてください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しています。 再生医療について興味がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 貧血の原因は病気?なぜ自分が貧血になるのかを理解しよう 貧血の主な原因と、それに関連する主な病気は以下の通りです。 貧血の主な原因 主な病気・病態 栄養不足 鉄欠乏性貧血・巨赤芽球性貧血 出血 胃潰瘍・胃がん・子宮筋腫 血液を作る力の低下 再生不良性貧血・慢性腎不全・白血病 自身の貧血が病気のサインではないかと不安に感じる方は、貧血の原因を知り、日常生活での対策や医療機関での検査につなげましょう。 栄養不足が原因の貧血 栄養不足は貧血の大きな原因の一つで、不足する栄養素によって主に以下の2種類に分けられます。 種類 鉄欠乏性貧血 巨赤芽球性貧血 概要 鉄分不足により身体に酸素が行き渡りにくくなる貧血 ビタミンB12や葉酸不足で、正常な赤血球を作れなくなる貧血 主な要因 月経 妊娠・出産 胃潰瘍 痔 胃の摘出手術 偏った食事 アルコールの過剰摂取 主な症状 疲れやすさ 息切れ 顔色の不良 爪の変形(端が反る) 疲労感 しびれ ふらつき 息切れ 対策 血液検査で確認 鉄剤の内服 食生活の見直しも大切 血液検査や内視鏡検査で確認 ビタミンB12や葉酸の補給 原因が病気の場合は治療も 鉄欠乏性貧血は栄養不足が原因と考えがちですが、背景に病気が隠れている可能性があるため注意が必要です。 出血によって起こる貧血 出血は貧血の重要な原因の一つです。体内で継続的に出血が起こると、血液中の鉄分が失われ、やがて鉄欠乏性貧血を引き起こします。 とくに慢性的な出血は自覚症状が少ないことが多く、気づかないうちに貧血が進行してしまう場合があります。以下のような病気・病態では慢性的な出血が起こりやすいため注意が必要です。 項目 月経過多子宮筋腫・子宮内膜症 胃潰瘍・十二指腸潰瘍 胃がん・大腸がん 主な症状 月経の出血量が多い 強い生理痛 動悸や息切れ みぞおちの痛み 胃の痛み 黒色便 倦怠感 胃の痛み 黒色便 受診すべき科 婦人科 消化器内科 消化器内科 注意ポイント 月経量が増加すると体内の鉄が不足し鉄欠乏性貧血を引き起こす場合がある 自覚症状が少なくても慢性的に出血している場合がある 初期は症状が乏しい 貧血と共に上記に該当する症状がある方は、早めに専門医に相談して血液検査や必要な検査を受けましょう。 血液をつくる働きが低下して起こる貧血 骨髄や臓器の機能低下によって赤血球が十分につくられないタイプの貧血もあります。 血液をつくる働きが低下して起こる貧血は、以下の通りです。 病気 特徴 ポイント 再生不良性貧血 骨髄が血液成分を十分に作れなくなる 赤血球・白血球・血小板の数が減少する 感染症や出血リスクが高い 早期治療が必要 白血病 血液のがんの一種 白血球が異常に増え続ける 血液のがんの一種 白血球が異常に増え続ける 多発性骨髄腫 骨髄でがん化した細胞が増える 血液の正常な機能が妨げられる骨の内部にあり血液を作る場所(骨髄)でがん化した細胞が増える 高齢者に多い 貧血の症状以外に感染症やむくみなどが現れる 腎性貧血 腎臓の機能が落ち、赤血球を十分に作れなくなる 慢性腎臓病の人はとくに注意 症状がゆるやかに進行する病気もあり、疲れやすさや息切れを見過ごすことも少なくありません。 慢性的な疲労や息切れが続く方、腎臓の病気を抱えている方、健康診断の数値が気になる方は早めに医療機関で相談することも大切です。 そもそも貧血は病気なの? 貧血は病気ではありません。貧血とは、血液中の赤血球やヘモグロビンが不足し、体に必要な酸素や栄養が十分に届かない状態を指します。病名ではなく症状の状態名であり、疲れやすさ、めまい、立ちくらみなどが主な症状です。 血液検査でヘモグロビン値や赤血球数を調べることで診断できます。自身が貧血かどうか知りたい方や気になる症状がある方は、血液検査を受けて適切な治療や生活の改善につなげましょう。 貧血の症状チェックリスト 貧血は初期段階では気づきにくいこともありますが、体はさまざまなサインを出しています。 以下のチェックリストで、ご自身の症状を確認してみましょう。 疲れやすい・倦怠感がある 顔色が悪いと言われる 動悸や息切れがする めまい・立ちくらみがある 爪がスプーンのように反っている 症状を確認し、早めの受診や日常生活での改善行動に役立てましょう。 以下の記事では、貧血の症状や貧血で倒れる原因などを解説していますので、あわせてご覧ください。 【関連記事】 貧血の症状一覧|原因や治療法についても医師が詳しく解説 貧血で倒れるのはなぜ?原因・対処法や病院に行くべきタイミングを医師が解説 貧血の受診目安 貧血の受診目安は、以下の通りです。 慢性的な立ちくらみや息切れ 経血量が多い日には、ナプキンやタンポンを1~3時間ごとに取り替える 血液検査でヘモグロビン値が男性は13g/dL未満、女性は12g/dL未満(文献1) 貧血は消化管の異常が隠れている場合もあるため、必要に応じて消化管の検査を受けるのが重要です。 また、慢性的な月経過多は本人が異常に気づきにくい傾向にあります。自身の月経量を振り返って確認してみましょう。 血液検査でヘモグロビンや赤血球数などの数値が低い場合は、早めに内科や婦人科、消化器科を受診しましょう。 貧血の予防法 疲れやすさや立ちくらみ、めまいに対して食事や生活習慣で改善できるのか疑問を抱く方は多いのではないでしょうか。 日常生活で無理なく取り入れられる貧血予防の方法を、症状やライフスタイルに寄り添いながらわかりやすく解説します。 鉄分を効率よく摂る食品と組み合わせ 鉄分を効率よく摂れる食品は、下記の通りです。 豚レバー あさりの水煮缶 牛もも肉(赤身) 小松菜 ほうれん草 納豆 また、鉄分を摂るときは、ビタミンCを含む食材や動物性たんぱく質と一緒に食べると、より吸収が良くなります。(文献2)(文献3)ビタミンCはパプリカやピーマン、ゴーヤ、ブロッコリーなどに多く含まれ、たんぱく質は鶏ささみや豚ロース、豚ももなどから効率よく摂取できます。 一方で、コーヒーや緑茶に含まれるタンニンという成分が鉄の吸収を妨げる可能性があるため、鉄分を多く含む食事の前後30分程度は控えましょう。 食事で鉄分を補っても疲れやめまいが続く場合は、別の病気が隠れている恐れがあるため、早めに血液検査を受けましょう。医師と相談して原因を特定できれば、適切な対策につながります。 生活リズムの見直し 貧血改善には、鉄分やビタミンの摂取だけでなく、生活習慣の見直しも重要です。 以下のポイントを意識しましょう。 禁煙する:喫煙は鉄の吸収を阻害し、貧血になりやすい 十分な睡眠を確保:睡眠が足りていないと鉄の吸収がうまくいかず、貧血を招く一因となる 軽い運動やストレッチを取り入れる:内臓の働きが整い、鉄の吸収効率が上がるほか、赤血球の生成も促されやすくなる 趣味や休息の時間を作る:ストレスがたまると鉄分の吸収が下がる恐れがある 食事から鉄分やビタミンを補うだけでなく、睡眠・運動・ストレス管理といった日々の生活習慣を整えることが、貧血改善には欠かせません。生活習慣の中で、できることから1つずつ見直してみましょう。 貧血と病気の関係を正しく理解して早めの対処をしよう 「疲れやすい」「めまいがする」といった症状は、単なる体調不良ではなく体からの重要なサインかもしれません。症状チェックで当てはまる項目があれば、まずは血液検査を受けて原因を確かめましょう。 貧血は、胃がんや大腸がんなど重大な病気の前触れの可能性があります。食事や生活習慣の見直しに加え、定期健診で早めに発見・対処することが健康維持につながります。 気になる症状がある方は、早めに内科や産婦人科へご相談ください。 また、当院「リペアセルクリニック」では、がんの再発予防や免疫力のサポートを目的とした免疫細胞療法を行っています。免疫細胞療法について詳しく知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。 貧血の病気に関してよくある質問 男性が貧血になる原因は? 男性が貧血になる主な原因は、以下のとおりです。 胃潰瘍や胃がんなどによる消化管からの出血 栄養不足 慢性疾患(腎臓病やがん)による赤血球の減少など 中高年の男性では、自覚のない慢性的な出血が背景にあるケースが多く、貧血が重大な病気のサインの場合もあります。倦怠感や息切れが続く場合は、早めに医療機関を受診しましょう。 貧血が続くとどんな病気になる? 貧血が続くと、全身の酸素供給が不足した状態が長引き、慢性的な疲労感や集中力の低下、息切れ、動悸などが悪化していきます。 重度になると日常生活に支障をきたすだけでなく、心臓や脳に負担がかかり、心不全やめまい・失神を引き起こすリスクもあります。原因となる病気の発見が遅れることにもつながるため、早期の検査と治療が大切です。 貧血に良い食べ物は? 貧血に良い食べ物には、鉄分・ビタミンB12・葉酸など、赤血球の生成を助ける栄養素を含むものがあります。たとえば、以下のような食品が効果的です。 赤身の肉やレバー(鉄分が豊富で吸収率も高い) あさりやかきなどの貝類(ヘム鉄を多く含む) ほうれん草、小松菜、ひじき、大豆製品(植物性鉄分・葉酸が豊富) 卵や乳製品(ビタミンB12を含む) 柑橘類やブロッコリー(鉄の吸収を助けるビタミンCが豊富) バランスの良い食事とあわせて、必要に応じて鉄剤の補給も検討しましょう。 参考文献 (文献1) 貧血について|国立研究開発法人国立がん研究センター (文献2) ビタミンC|厚生労働省eJIM (文献3) 鉄の吸収に関する研究|J-Stage
2025.06.30 -
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糖尿病治療中の方の中には、ケトアシドーシスを経験された方もいらっしゃることでしょう。糖尿病ケトアシドーシスとは、合併症のひとつであり、時には脳や心臓、筋肉などに後遺症を残す可能性があるものです。 一度経験された方は、後遺症や再発に関する不安を抱えている場合も少なくありません。本記事では、糖尿病ケトアシドーシスの後遺症やケトアシドーシスの症状、後遺症の予防に関して詳しく解説します。ケトアシドーシスに関する不安を解消するため、ぜひ最後までご覧ください。 糖尿病ケトアシドーシスの後遺症一覧 後遺症 詳細 脳浮腫 意識障害、けいれん、記憶障害などの神経障害 低カリウム血症 筋力低下、しびれ、不整脈などの心筋機能障害 低血糖 意識消失、けいれん、脳機能障害のリスク増加 糖尿病ケトアシドーシス(DKA)は治療の過程や重症化した場合、後遺症が出る可能性があります。その中でもとくに脳浮腫、低カリウム血症、低血糖は注意すべき障害です。脳浮腫は意識障害やけいれん、最悪の場合は永続的な神経障害を残すリスクがあります。 低カリウム血症は筋力低下や不整脈を引き起こし、心停止のリスクもあるため注意が必要です。また、治療中に急激に血糖値が下がりすぎると低血糖を起こし、意識障害やけいれんなどが現れることもあります。 これらの合併症は早期発見と適切な治療で予防や軽減が可能なものも多く、早期対応とその後の管理により、症状の軽減が期待できます。 脳浮腫 項目 内容 主な原因 血糖や電解質の急激な補正 発生の仕組み 血液中から脳内への水分移動による腫れ 主な症状 頭痛、意識障害、けいれん、視覚異常 重症時の影響 昏睡、命の危険、後遺症 とくに注意すべき人 小児、若年者、高齢者、慢性高血糖の方 主な後遺症 記憶障害、集中力の低下 予防のポイント 血糖値の緩やかな補正と慎重な治療管理 (文献1)(文献2) 脳浮腫は、糖尿病ケトアシドーシスの中でも、とくに重篤な合併症のひとつです。血糖値や血中電解質を急激に補正すると、脳内に水分が移動し脳浮腫を引き起こすことがあります。 症状としては、頭痛、意識障害、けいれん、視覚異常などが現れ、重症化すると昏睡や生命に関わる重大なリスクもあります。とくに小児や若年者に多いとされますが、高齢者や長期にわたる高血糖状態の方でも注意が必要です。 脳浮腫は一時的に回復するケースもありますが、重度の場合は記憶障害や集中力の低下など、後遺症が出る可能性もあります。治療では血糖を急に下げすぎないことが大切です。 低カリウム血症 項目 内容 主な原因 インスリン投与によるカリウムの細胞内移動 主な役割 心臓や筋肉の正常な働きの維持 主な症状 筋力低下、脱力感、しびれ、不整脈 重症時のリスク 心停止、生命に関わる重篤な状態 観察のポイント 血中カリウムの定期的なモニタリング 予防の方法 点滴や食事によるカリウム補給 退院後の注意 食事管理と定期的な血液検査の継続 (文献2)(文献3) 糖尿病ケトアシドーシスの治療中には、インスリン投与によって血液中のカリウムが急速に細胞内へ移動し、低カリウム血症を引き起こすことがあります。 カリウムは心臓や筋肉の正常な動きを保つために重要な電解質であり、不足すると筋力低下、脱力感、しびれ、不整脈、最悪の場合は心停止に至るリスクもあります。軽度の場合は無症状のこともありますが、重度になると命に関わるため、血中カリウムの綿密なモニタリングと補正が欠かせません。 また、入院期間中に加え、退院後も継続的にカリウムを含む食事の管理や定期的な血液検査を通じて、低カリウム状態を早期に発見し、対処することが大切です。後遺症を残さないためには、治療中の適切な電解質バランスの管理が必須です。 低血糖 項目 内容 主な原因 インスリン投与による血糖値の急低下 配慮の必要性 DKA治療中の慎重な血糖管理 主な症状 冷や汗、ふるえ、動悸、意識障害、けいれん 重症時 昏睡、脳機能障害、命に関わるリスク 軽度の対応 回復可能、ただし頻回の発生に注意 入院中の措置 医療チームによる厳密な血糖モニタリング 退院後の注意 インスリン、薬量、食事、運動バランスの維持 (文献1)(文献4) 低血糖は、糖尿病ケトアシドーシスの治療中にインスリン投与で血糖値が急激に下がることで起こります。とくに重症の糖尿病ケトアシドーシスでは、普段よりも慎重な血糖コントロールが必要です。 低血糖になると冷や汗やふるえ、動悸、意識障害、けいれんなどの症状が現れ、放置すると昏睡や脳機能障害を引き起こす危険もあります。 軽度であれば回復しますが、重度かつ長時間続くと後遺症になる場合があります。入院中は医療スタッフによる厳密な管理が行われますが、退院後もインスリンや内服薬の量、食事、運動のバランスに注意し、血糖の急変を防ぐことが重要です。 糖尿病ケトアシドーシス後遺症の治療 治療 詳細 脳浮腫に対する治療 補液速度の調整、マンニトールやグリセオール投与、脳圧管理、集中治療室での厳重管理 低カリウム血症に対する治療 血中カリウム値の定期測定とカリウム補充、不整脈予防のための心電図モニタリング 低血糖に対する治療 ブドウ糖の静脈投与や経口摂取、インスリン量の調整、血糖値の頻回測定 糖尿病ケトアシドーシスの後遺症は、早期発見と適切な治療により回復が期待できます。脳浮腫、低カリウム血症、低血糖などの合併症には、それぞれの管理と迅速な対応が必要です。 入院中の治療に加え、退院後も定期的な通院やモニタリングを続けることが再発や悪化の予防につながります。後遺症が生じた場合は、リハビリや医師による継続的なフォローに加えて、再生医療も近年注目されています。 以下の記事では、糖尿病に対する再生医療の有効性を詳しく解説しています。 脳浮腫に対する治療 治療内容 詳細 マンニトールの点滴投与 脳内の水分を排出して脳圧を下げる治療 高張食塩水の点滴(3%) マンニトールが効かない場合に検討される 頭部挙上(30度) 脳の血流と圧力のバランスを整えるための体位調整 人工呼吸器による呼吸管理 自発呼吸が困難な場合の呼吸補助 集中治療室での管理(ICU) 脳圧や全身状態の厳密なモニタリング CT・MRIによる画像検査 脳の状態や治療効果の確認 電解質・血糖の調整 浸透圧バランスの安定による後遺症予防 神経科・リハビリ科の支援 認知機能障害への継続的フォローアップ (文献5)(文献6) 糖尿病ケトアシドーシスによる脳浮腫の治療では、まず脳の圧力(脳圧)を下げることが最も重要です。 一般的には、マンニトールと呼ばれる浸透圧利尿薬を点滴で投与し、脳にたまった余分な水分を排出する治療が行われます。マンニトールが効かない場合には、3%高張食塩水の点滴が使われることもあります。(文献5)(文献6) また、頭部を約30度挙上して安静を保つことが推奨されます。これは、脳の血流と圧力のバランスを整えるための重要な処置です。(文献6) 低カリウム血症に対する治療 治療内容 詳細 カリウムの補充 点滴や内服で不足したカリウムを補う治療 インスリン投与の一時停止 カリウム値が十分に補正されるまでインスリンを一時的に中止 インスリンの慎重な再開 インスリン再開時は通常より少ない量から慎重に開始 合併症の注意 横紋筋融解症や心臓の合併症などのリスクに注意 (文献1)(文献6) 低カリウム血症の治療では、まず血液検査でカリウムの量を確認します。軽い場合は経口カリウム製剤で補えますが、重い場合は点滴でのカリウム補充が必要です。 治療中は心電図で心臓の状態をチェックし、カリウムが多すぎたり少なすぎたりしないように慎重に進めます。 また、カリウムが体から出て行きやすくなる薬を使っている場合は、薬剤の見直しや調整も必要です。退院後も、カリウムを多く含む食品を意識してとることや、腎臓の働きを定期的に調べることが再発防止に役立ちます。 低血糖に対する治療 治療内容 詳細 ブドウ糖液の点滴開始 血糖値が約250mg/dL未満になった時点で、10%ブドウ糖液の点滴を開始 インスリン量の調整 インスリンの点滴速度を半分(例:0.1→0.05単位/kg/時)に減らすことを検討 低血糖の予防 インスリンによる過剰な血糖低下を防ぐ 血糖値の厳密な管理 入院中は医療チームが頻回に血糖値を測定し、低血糖や急変を防ぐ 退院後の生活指導 インスリンや薬の量、食事、運動のバランスに注意し、血糖の急変を避ける (文献7) 糖尿病ケトアシドーシスの治療中には、低カリウム血症が起こることがあります。カリウムが不足すると、筋肉の低下や心臓に負担がかかり不整脈を起こすおそれがあるため、早急な対応が必要です。 治療では、まず血液検査でカリウムの量を調べ、不足の程度に応じて補います。軽い場合は飲み薬、重い場合は点滴でカリウムを補充します。補充中は、心臓の動きを確認する心電図モニターを使いながら、治療を進めます。 カリウムは不足しても過剰になっても体に悪影響を及ぼすため、補充の量やスピードに関しては、医師の調整が不可欠です。さらに、服用中の薬や腎臓の機能もカリウムのバランスに影響するため、これらの要因もふまえて治療方針が決められます。 退院後も、食事からのカリウム摂取や腎臓の状態を定期的に確認し、必要に応じて栄養指導や薬の調整を受けることが、再発予防につながります。 糖尿病ケトアシドーシスの後遺症に対する予防法 後遺症に対する予防策 詳細 血糖コントロールを徹底する 血糖測定、薬の調整、食事と運動による血糖値の安定化 体調管理を継続する 発熱、倦怠感、体重減少などの体調変化への早期対応 定期的に必要な検査を受ける 血糖、HbA1c、電解質、腎機能などの定期的な数値チェック 心理的サポートを受ける 不安やストレスの軽減による自己管理意欲の維持 糖尿病ケトアシドーシスの後遺症を防ぐためには、日頃から血糖コントロールと体調管理をしっかり行うことが大切です。血糖値の安定には、食事や運動、薬の調整、定期的な検査による数値チェックが欠かせません。 体調に変化があれば早めの対応を心がけ、心理的なサポートも受けつつ、継続的に管理を行うことが重要です。 血糖コントロールを徹底する 項目 内容 食事 身長、体重、活動量に応じた適切なエネルギー摂取と栄養バランスの維持 運動 有酸素運動や筋力トレーニングを週3日以上実施(事前に主治医へ相談) 内服薬 医師の指示に従った服薬の継続 インスリン 注射の打ち忘れ防止と適切な自己注射の継続 血糖値の乱高下を防ぐことが、糖尿病ケトアシドーシスの基本的な予防策です。毎日の血糖測定やHbA1cの定期チェックを通じて、自分の血糖傾向を把握し、インスリンや内服薬を適切に調整することが重要です。 とくに風邪や感染症、過度なストレスなどによって血糖が急上昇するケースがあります。そのため、体調の変化には注意が必要です。 また、食事や運動の内容が血糖にどのように影響するかを知ることも、自己管理の第一歩です。 以下の記事では、糖尿病の血糖コントロールについて詳しく解説しています。 【関連記事】 糖尿病!運動療法なら改善はもとより予防にも効果を発揮 糖尿病|食事で予防する、食生活を整えて病気の悪化や合併症を防ぐ 体調管理を継続する 予防内容 詳細 感染症、脱水、ストレスへの注意 発熱、下痢、疲労、精神的ストレスによる血糖上昇の予防 シックデイへの対応 水分と糖分の十分な補給(おかゆ、果汁、麺類などの摂取) 医療機関の早期受診 食事がとれない、発熱、嘔吐、下痢などの強い症状時の速やかな受診 ワクチンの接種 インフルエンザ、肺炎球菌、新型コロナウイルスの予防接種の推奨 (文献8)(文献9) 糖尿病ケトアシドーシスの再発を防ぐには、日ごろの体調管理が重要です。発熱や下痢、体重の急な変化など、いつもと違う症状があれば早めに医師へ相談しましょう。 感染症や脱水、強いストレスが糖尿病ケトアシドーシスの再発の原因になるケースもあります。 とくに体調が悪く血糖管理が難しい、シックデイには、水分とエネルギー補給を心がけ、食事がとれない場合は医療機関を受診してください。予防には、インフルエンザや肺炎球菌、新型コロナのワクチン接種も推奨されます。 定期的に必要な検査を受ける 検査の目的・内容 検査項目・留意点 治療の継続 すでに治療中の方は治療を中断しないこと 定期的な受診・検査 定期的に医療機関を受診し、血液検査や尿検査を受ける 血糖値の検査 空腹時血糖、ヘモグロビンA1c、グリコアルブミンなど インスリン分泌の検査 血液中のインスリン濃度やCペプチドの測定 ケトアシドーシス予防の検査 尿中ケトン体検査 合併症発見のための検査 腎機能検査、眼底検査、神経・知覚検査、動脈硬化に関する検査など (文献10) 糖尿病の状態や体への影響を早期に把握するには、定期的な検査が不可欠です。血糖値やHbA1cに加え、腎機能(クレアチニン、eGFR)や電解質、尿中ケトン体などを総合的に確認することで、再発や後遺症の早期発見につながります。 退院後に症状が緩和しているように見えても、身体の中では変化が進んでいるケースがあります。医師の指示に従い、定期的に通院して必要な検査を受けましょう。 以下の記事では、糖尿病で起こりうる失明について詳しく解説しています。 心理的サポートを受ける 糖尿病ケトアシドーシスを経験した後に、不安や恐怖を抱くのは自然な反応です。こうしたストレスは血糖コントロールを乱す原因にもなるため、心のケアも大切です。 退院後に気分が落ち込んだり、自己管理がつらく感じたりするときは、一人で悩まずに医療スタッフやカウンセラーに相談しましょう。不安が強い方には、同じ病気を持つ人との交流(ピアサポート)や、糖尿病に特化した心理支援の利用も有効です。 心の負担を軽くすることで、前向きに病気と向き合いやすくなり、再発の予防にもつながります。 糖尿病ケトアシドーシスの後遺症は自己管理と継続治療が大切 糖尿病ケトアシドーシスの後遺症を防ぐ上で重要なのは、退院後の自己管理と継続的な治療です。 急性期を乗り越えた後も、血糖コントロールや体調の変化に対する注意、定期的な検査を怠らないことが、後遺症の進行や再発を未然に防ぐカギとなります。 食事や運動、薬の服用を含む自己管理と継続治療を徹底することが重要です。また、後遺症に関する不安はひとりで抱え込まず、医療スタッフやカウンセラーを活用しましょう。 糖尿病ケトアシドーシスの後遺症についてお悩みは、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、後遺症に関するどんな些細なお悩みや不安にも真摯に耳を傾け、丁寧にアドバイスいたします。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 糖尿病ケトアシドーシス後遺症に関するよくある質問 糖尿病でケトン体が増える理由は何ですか? 糖尿病ではインスリンの働きが弱くなり、糖が細胞に取り込まれなくなります。すると、身体は代わりに脂肪をエネルギー源として使い始め、そのときにできる物質が、ケトン体です。 ケトン体が増えすぎると、血液が酸性になり、ケトアシドーシスという危険な状態を引き起こします。ケトン体を増やさないためには、血糖値を安定させることが大切です。(文献11) インスリンや内服薬が必要であれば、正しく服用し、食事や運動のバランスを保ちます。体調が悪いとき(シックデイ)は、こまめに水分と糖分をとり、無理せずエネルギーを補給しましょう。気になる症状があれば、早めの医療機関への受診が重要です。 糖尿病ケトアシドーシスの死亡率はどのくらいですか? 糖尿病ケトアシドーシスの死亡率は1%未満とされています。(文献1) しかし、一部のデータでは1〜9%の患者が亡くなっているとも報告されています。(文献11) 少なからず命に関わる危険があるため、疑わしい症状が生じた場合は、ためらわずにすぐ医療機関を受診しましょう。 参考資料 (文献1) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)」MSD マニュアルプロフェッショナル版, 2022年9月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/10-%E5%86%85%E5%88%86%E6%B3%8C%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85%E3%81%A8%E7%B3%96%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E7%95%B0%E5%B8%B8%E7%97%87/%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85%E6%80%A7%E3%82%B1%E3%83%88%E3%82%A2%E3%82%B7%E3%83%89%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9-dka?query=%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85%E6%80%A7%E3%82%B1%E3%83%88%E3%82%A2%E3%82%B7%E3%83%89%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9(最終アクセス:2025年06月18日) (文献2) Glucagon Physiology. NCBI https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK279127/(最終アクセス:2025年06月18日) (文献3) Diabetic ketoacidosis. Mayo Clinic https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/diabetic-ketoacidosis/symptoms-causes/syc-20371551?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月18日) (文献4) 金澤 康.「搬送時に糖尿病性ケトアシドーシスを呈し,治療開始前に著明な脳浮腫を認めた成人糖尿病の1例」『症例報告』, pp.1-7 https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/60/4/60_288/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年06月18日) (文献5) CEREBRAL EDEMA IN DIABETIC KETOACIDOSIS. PEDIATRIC, pp.1-6 https://achpccg.com/wp-content/uploads/2021/06/tms-picuc-physician-diabetic-ketoacidosis-cerebral-edema-dka-guideline.pdf(最終アクセス:2025年06月18日) (文献6) Nicole Glaser. (2019). Cerebral Edema in DKA: Symptoms and.Signs.CancerTherapyADVISOR https://www.cancertherapyadvisor.com/home/decision-support-in-medicine/pediatrics/cerebral-edema-dka/(最終アクセス:2025年06月18日) (文献7) The Management of DiabeticKetoacidosis in Adults.JBDS-IP, pp.1-50 https://abcd.care/sites/default/files/site_uploads/JBDS_Guidelines_Current/JBDS_02_DKA_Guideline_with_QR_code_March_2023.pdf(最終アクセス:2025年06月18日) (文献8) 糖尿病情報センター「シックデイ」糖尿病情報センター, 2015年10月27日 https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/040/060/06.html(最終アクセス:2025年06月18日) (文献9) 「20章 糖尿病における急性代謝失調・シックデイ(感染症を含む)」,pp.1-19 https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/20.pdf(最終アクセス:2025年06月18日) (文献10) 糖尿病情報センター「糖尿病と関連する検査」糖尿病情報センター, 2024年10月24日 https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/030/010/02.html(最終アクセス:2025年06月18日) (文献11) 「くす通信」『熊本医療センターのミ二医療情報誌』227(号), pp.1-2, 2020年 https://kumamoto.hosp.go.jp/files/000208263.pdf(最終アクセス:2025年06月18日)
2025.06.29 -
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「脳梗塞の後遺症で手足が動かしづらくなった」 「筋肉がつっぱってうまく歩けない」 痙縮や麻痺があると、服の着脱や階段の上り下り、立ち上がりといった動作も困難になり、こうした症状により、日常生活の質(QOL)は大きく低下します。このような状態に対して注目されているのがボトックス注射です。 ボトックスは美容だけでなく、医療でも活用されており、痙縮の軽減を目指す選択肢のひとつです。本記事では、脳梗塞の痙縮・麻痺に対するボトックスの効果や影響について現役医師が詳しく解説します。 脳梗塞後の痙縮・麻痺に対するボトックスの効果・影響 ボトックスの効果・影響 詳細 筋緊張と痙縮による違和感の軽減 筋肉の過剰な収縮を抑え、不快なつっぱり感やこわばりの軽減 日常生活動作(ADL)の向上とリハビリテーションの促進 動作しやすい状態の維持による着替え・歩行・排泄などの日常動作の改善 拘縮の予防 関節可動域の維持と筋肉の柔軟性保持による拘縮の進行抑制 脳梗塞後にみられる痙縮は、筋肉が異常に緊張し、手足のつっぱりや動かしにくさを引き起こします。 ボトックス治療は、ボツリヌストキシンを緊張した筋肉に注射し、神経から筋肉への信号を一時的に遮断することで、過剰な収縮を抑えます。これにより筋緊張が緩和され、痙縮によるこわばりや不快感が軽減されます。 ただし、ボトックス治療は脳梗塞そのものを治すものではなく、痙縮の改善やリハビリ効果の向上を目的とした補助的な治療です。 以下の記事では、医療ボトックスについて詳しく解説しています。 筋緊張と痙縮による違和感の軽減 項目 内容 痙縮のメカニズム 脳梗塞に伴う神経障害により筋肉の過度な緊張、関節を動かしにくくなる状態 ボトックスの作用機序 神経から筋肉への伝達物質(アセチルコリン)をブロック、筋肉の過剰な収縮の抑制 筋緊張の緩和 筋肉のつっぱりやこわばりの軽減、関節の可動域拡大 違和感の軽減 動作のしやすさ向上、日常生活の動作(ADL)の改善、リハビリ効果の向上 治療のポイント 効果の持続期間(約3~4カ月)、副作用や禁忌事項の確認、リハビリとの併用の重要性 (文献1) 脳梗塞の後遺症として現れる痙縮は、筋肉が自分の意思とは関係なく突っ張り、動かしにくくなる状態です。 ボトックスは、過剰に緊張した筋肉に直接注射することで、神経から筋肉への信号を一時的に遮断し、筋肉の過度な収縮を抑える作用があります。 その結果、手足のつっぱりやこわばりが和らぎ、安静時に感じる不快感や違和感の軽減が期待されます。ボトックスの効果は一時的なため、定期的な治療が必要です。継続して行うことで、痙縮の負担を軽減し、より自然な動作や姿勢の維持につながります。 日常生活動作(ADL)の向上とリハビリテーションの促進 項目 内容 痙縮による日常生活動作(ADL)の制限 手足の動きの制限、食事・着替え・歩行・排泄などの日常生活動作の困難 ボトックスの効果 筋肉の過度な緊張の緩和、手足の動かしやすさの向上 日常生活動作(ADL)の改善 食事、更衣、排泄、入浴、移動など基本動作のしやすさ リハビリテーション効果 筋肉の柔軟性向上、関節の可動域拡大、機能回復の促進 介護負担の軽減 補助動作のしやすさ、介護者の負担軽減、生活の質の向上 治療のポイント 効果の持続期間、副作用や禁忌事項の確認、リハビリとの併用の重要性 (文献2) ボトックス治療によって筋肉の緊張が緩和されると、関節の可動域が広がり、手足が動かしやすくなります。筋緊張を抑えることでこうした動作が改善され、リハビリの効果を引き出しやすくする点でも重要です。 また、着替えや入浴、歩行といった日常生活動作(ADL)が改善され、患者自身の自立度が向上します。筋肉のつっぱりが減ることでリハビリテーションが行いやすくなり、リハビリ効果の向上も期待できます。治療とリハビリを組み合わせることが、生活機能の維持・向上に欠かせません。 拘縮の予防 項目 内容 痙縮と拘縮の関係 脳梗塞後の筋肉の過度な緊張による痙縮、長期間続くことで筋肉や関節の硬化、可動域の制限、拘縮の発生 拘縮による影響 日常生活動作(ADL)の制限、違和感の発生、生活の質の低下 ボトックスの作用機序 筋肉を動かす神経からの伝達物質(アセチルコリン)のブロック、過剰な筋収縮の抑制 筋緊張の緩和 関節の可動域拡大、動作のしやすさ向上、痙縮による違和感や不快感の軽減 拘縮の予防 筋肉の柔軟性維持、関節の可動域保持、リハビリ効果の向上 リハビリとの併用 筋肉の柔軟性維持、機能回復の促進、拘縮予防の強化 痙縮が長期間続くと、筋肉が縮こまった状態で固まり、関節が動かなくなる拘縮へ進行するケースがあります。医療ボトックスは、拘縮の進行を抑えるための手段として有効です。 筋肉の過度な収縮を抑えることで、関節や筋肉が適度に動く状態を保ちやすくなります。その結果、拘縮の発生リスクを軽減できる可能性があります。拘縮を完全に防ぐことはできませんが、進行を遅らせる手段として医療現場で広く活用されている治療法です。 【脳梗塞】ボトックス治療を受ける際の注意点 注意点 詳細 禁忌事項に該当する方は治療不可 特定の持病やアレルギー歴、妊娠・授乳中などに該当する場合の治療制限 効果の持続と再投与の必要性 効果が一時的であり、数カ月ごとの定期的な再注射の必要性 筋力低下や表情の変化 意図しない筋肉への影響による一時的な動かしづらさや見た目の変化 副作用と体調不良のリスク 注射部位の腫れ・違和感、全身倦怠感・軽度の発熱などの一時的な体調変化 医療ボトックス治療を受けるにあたっては、いくつかの注意点があります。禁忌事項に該当する方は治療を受けられず、持病や妊娠中などの条件で制限がかかる場合もあります。 また、効果は一時的で定期的な再投与が必要です。副作用として筋力低下や全身の倦怠感などが現れる可能性があります。そのため、治療を受ける際は、事前に医師の診断が不可欠です。 禁忌事項に該当する方は治療不可 該当する方 起こり得るリスク 主な副作用の内容 妊婦・授乳中の方、妊娠の可能性がある方 胎児・乳児への影響の懸念 使用に関する有効性・影響が明確になっていないためのリスク ボトックスに対してアレルギーがある方 アナフィラキシーの危険性 全身のアレルギー反応 神経筋接合部の疾患をもつ方(例:重症筋無力症など) 筋力低下の悪化 全身性筋肉麻痺、嚥下障害、呼吸困難 筋弛緩剤を内服中の方 筋肉への作用の過剰な増強 筋力低下、嚥下障害、呼吸困難 ボトックス治療は、すべての方が受けられるわけではありません。全身性の筋力低下を引き起こす疾患(重症筋無力症など)がある方や、過去にボトックスに対して強いアレルギー反応を起こした経験がある方は、原則として治療が行えません。 また、妊娠中や授乳中の方も胎児や乳児への影響を考慮し、治療の適応外とされます。治療前には、既往歴や現在の内服薬、体調を医師に漏れなく伝える必要があります。副作用のリスクを避け、適切な治療方針を立てるためにも、事前の問診と診察が非常に重要です。 効果の持続と再投与の必要性 項目 内容 効果の持続期間 注射後2~3日から効果発現、3~4カ月持続 効果減弱後の状態 時間経過とともに効果減弱、再び注射前の筋緊張や痙縮の状態に戻る 再投与の必要性 効果維持のため3~4カ月ごとの定期的な再注射 再投与間隔の注意点 投与間隔が短すぎると抗体産生による効果減弱のリスク ボトックスは一度の注射で効果が長く続く治療ではなく、一般的に効果の持続はおおよそ3〜4カ月程度とされています。効果が薄れてくると、再び痙縮の症状が強くなることがあるため、定期的な再投与が必要です。 治療のタイミングや回数は、症状の強さや部位、日常生活への影響などを考慮し、医師と相談しながら決定されます。また、繰り返しの投与により耐性が形成され、効果が減弱する可能性があります。そのため、毎回の診察で効果や副作用の有無を確認しながら、必要最小限の量で適切な頻度を保つことが大切です。効果の維持には、ボトックス単独ではなくリハビリとの併用が推奨されます。 筋力低下や表情の変化 症状 主な原因 起こり得る影響 過度な筋力低下 注射部位や注入量が適切でない場合 嚥下困難、首や肩・顎まわりの筋力低下 表情の変化 表情筋への過剰な注射、注入位置の不均衡 額や眉間のこわばり、笑顔の不自然さ、左右差の発生 ボトックスは筋肉の動きを一時的に抑えるため、目的以外の筋肉にも影響が及ぶと、思わぬ筋力低下や表情の変化が起こることがあります。腕や手の筋肉に注射した際、力が入りづらくなることがあり、日常の細かな動作に影響を及ぼすこともあります。 顔周りに使用した場合には、表情が作りづらく感じることもあるため、適切な部位選定と投与量の調整が重要です。とくに高齢の方や筋力の低下が進んでいる方では、必要以上の筋弛緩が起きないよう、慎重な治療設計が求められます。 副作用と体調不良のリスク 副作用・リスク 内容 過度な筋力低下や脱力 投与量や注射部位による筋力低下、手足の動かしにくさや全身の脱力感 嚥下障害や呼吸困難 のみ込みづらさや呼吸しにくさ、とくに神経筋疾患や大量投与時の重篤なリスク 注射部位の腫れ・赤み・皮下出血 注射部位の一時的な腫れ、赤み、皮下出血、不快感 全身症状や体調不良 倦怠感、頭痛、めまい、発熱、吐き気、食欲不振などの全身的な体調変化 アレルギー反応 発疹、かゆみ、顔やまぶたの腫れ、呼吸困難、アナフィラキシーショックなど生命に関わる重篤な症状 (文献3)(文献4) ボトックス治療には、注射部位に軽い腫れや内出血、違和感が生じることがあります。また、ごく稀に全身のだるさ、頭重感、軽い発熱などの体調不良を伴う場合があります。 これらの副作用は一時的で自然におさまることが多いものの、症状が強い場合や長引く場合には、速やかに医師へ相談してください。 とくに初回は体の反応が不明なため、当日は激しい運動や長時間の外出を避け、安静に過ごすことが望まれます。持病の有無や他の治療との兼ね合いも考慮が必要なため、体調管理と医師との連携が重要です。 【ボトックス以外】脳梗塞後の痙縮・麻痺を軽減するための治療法 治療法 詳細 注意点 保存療法 ストレッチ・温熱・運動療法による筋緊張の軽減と関節可動域の維持 即効性は乏しく、継続的な取り組みが必要 薬剤療法 筋弛緩薬や抗不安薬による神経伝達の調整と痙縮の緩和 眠気や倦怠感などの副作用に注意が必要 再生医療 幹細胞を用いた神経や筋肉の修復・再生による根本的な機能回復の可能性 対象施設に制限があり、効果や適応に個人差があるため事前確認が必要 痙縮や麻痺の治療には、症状や目的に応じてさまざまな方法があります。ストレッチなどの保存療法から薬による症状の緩和、さらには再生医療による機能回復を目指す方法まで、治療の選択肢は多岐にわたります。それぞれの特徴と注意点に対する理解が大切です。 脳梗塞の症状や原因など、包括的な解説は「脳梗塞とは|症状・原因・治療法を現役医師が解説」をご覧ください。 また、以下の記事では脳梗塞の後遺症について詳しく解説しています。 保存療法 保存療法の種類 目的・効果 主な方法や特徴 持続伸長(ストレッチ) 筋肉や腱の短縮・関節拘縮の予防・改善 徒手ストレッチ、装具使用、段階的ギプス固定(シリアルキャスティング) 装具療法 不良肢位の矯正、関節可動域の保持、動作能力の維持 手足の変形予防や矯正のための装具使用 FES(電気刺激療法) 麻痺筋の活性化、痙縮緩和、随意運動の再建 筋肉への電気刺激による収縮促進、日常生活動作(ADL)向上への活用 振動刺激 筋肉の緊張緩和、ストレッチ・運動訓練の補助 痙縮筋への局所的な振動刺激 姿勢修正・バランス訓練 過度な筋緊張や二次障害の予防、全身の安定性向上 正しい座位・立位姿勢の保持、体幹や四肢のバランス改善 (文献5) 保存療法とは、手術や注射を用いず、日常のケアやリハビリによって症状の軽減を目指す治療法です。脳梗塞後の痙縮や麻痺に対しては、ストレッチや運動療法、温熱療法などが組み合わされます。 ストレッチでは、固くなった筋肉を定期的に伸ばすことで、拘縮の進行を防ぎ、関節の可動域を保ちます。また、温熱療法は血流を促進し、筋肉のこわばりを和らげるのに有効です。 運動療法では、麻痺した部位に刺激を与えながら、筋肉の再学習を促すことで、生活動作の改善を目指します。保存療法は即効性こそありませんが、根気強く続けることで効果が出やすく、ボトックスなど他の治療との併用で相乗効果も期待できます。 薬剤療法 治療法 主な目的・効果 特徴・注意点 中枢性筋弛緩薬(経口薬) 脳や脊髄の神経活動の抑制による全身の筋緊張の緩和 チザニジン・バクロフェンなどを内服、副作用(脱力・眠気)に注意 バクロフェン髄注療法(ITB療法) 脊髄への直接投与による強い痙縮の緩和 少量で高い効果、副作用が少なく重度の痙縮に適応 神経ブロック療法 神経伝達の遮断による筋肉の異常収縮の抑制 フェノールやアルコールを使用、特定の部位に注射 ボツリヌス療法(ボトックス注射) 局所的な筋緊張の緩和と動作の改善 注射による効果は3~4カ月持続、繰り返しの投与が必要 (文献1) 痙縮の症状が強い場合には、内服薬による治療も選択肢です。バクロフェンやチザニジンなどの筋弛緩薬は、脳や脊髄から筋肉への過剰な信号を抑制し、筋肉のつっぱりの緩和に効果を示します。 ジアゼパムなどの抗不安薬は、筋緊張だけでなく精神的な緊張の緩和にも役立ちます。これらの薬剤は、眠気や倦怠感などの副作用が現れることがあるため、医師の管理下での使用が不可欠です。 ボトックス注射や保存療法と組み合わせることで、日常生活の負担軽減やリハビリ効果の向上が期待できます。薬物療法だけに頼らず、複数の治療法を組み合わせて総合的に症状のコントロールを目指すことが重要です。 再生医療 脳梗塞後の痙縮や麻痺に対する再生医療は、従来の治療では改善が難しかった後遺症に対して、新たな選択肢となる治療法です。 患者自身の骨髄や脂肪から採取した幹細胞を体内に戻すことで、損傷した神経や血管の修復・再生が促され、麻痺や痙縮の改善が期待されます。さらに、幹細胞治療とリハビリとの併用で、より高い回復効果が期待できます。ただし、治療の効果や適応には個人差があるため、医師との相談が重要です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 ボトックスでは改善しにくい脳梗塞後の痙縮・麻痺に再生医療というアプローチ ボトックスは痙縮の一時的な緩和に有効ではあるものの、すべての症状に効果はありません。筋肉のこわばりだけでなく、脳や神経の損傷が原因となっている場合には、根本的な改善が難しいこともあります。ただし、ボトックス治療に加えて適切なリハビリや他の治療を継続することで、脳梗塞による後遺症を軽減できる可能性があります。 ボトックス治療を含む脳梗塞後の後遺症についてのお悩みは、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、脳梗塞後の後遺症に対するアプローチとして、再生医療をご提案することも可能です。 再生医療は、患者自身の幹細胞を使って損傷した神経や組織の再生を促す治療法です。神経機能の回復や関節の可動域改善が期待でき、原因に直接働きかける新たな治療の選択肢として注目されています。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 脳梗塞によるボトックス治療に関するよくある質問 脳梗塞によるボトックス治療はどの診療科で受けられますか? 脳梗塞によるボトックス治療は、以下の診療科で実施しています。 診療科名 主な特徴と役割 脳神経内科 脳卒中後の痙縮や麻痺に対する薬物療法の専門、ボトックス治療の実施 脳神経外科 脳卒中などの神経障害後の症状に対する治療、ボトックス治療の実施 リハビリテーション科 ボトックス治療と併用したリハビリによる機能回復の支援 受診前には、医療機関のホームページや電話で診療情報を事前に確認しておきましょう。 ボトックス治療後に日常生活にすぐ戻れますか? 脳梗塞後の痙縮や麻痺に対するボトックス治療後は、基本的に当日から日常生活に戻れます。ただし、治療効果を安定させ、副作用を防ぐためにいくつかの注意が必要です。 治療当日は激しい運動を避け、飲酒も控えましょう。アルコールは薬剤の拡散を促す可能性があるため、24〜72時間の間は控えることが推奨されます。また、サウナや長時間の入浴など高温環境は避け、注射部位を揉んだり擦ったりしないようにしましょう。 日常生活の中で少しでも異変を感じた場合は、速やかに医師に相談してください。 ボトックス治療を受けるとリハビリは不要ですか? ボトックスは痙縮を緩和する治療であり、リハビリの代わりになるものではありません。むしろ、ボトックスによって筋肉の過緊張が和らぐことで、リハビリが行いやすくなり、より効果的な訓練が可能になります。 治療後にリハビリを適切に行うことで、関節の動きや筋力の維持・改善を図るなど、生活機能の向上につながります。 ボトックス治療に健康保険は適用されますか? 脳梗塞後の痙縮に対するボトックス治療は、一定の条件を満たすことで健康保険が適用されます。たとえば、診断名が明確で、痙縮によって日常生活に支障があると医師が判断した場合などが該当します。 保険が適用されると、自己負担は通常1〜3割となりますが、治療の内容や施設によって異なるため、事前に確認しておきましょう。また、障害者手帳や特定疾患の医療費助成制度を活用できるケースもあり、経済的な負担を軽減できる可能性があります。 参考資料 (文献1) 最先端の医療をお伝えする活動推進委員会「脳卒中の今」先進医療.net, 2012年3月26日 https://www.senshiniryo.net/stroke_c/01/index.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月17日) (文献2) 医療法人社団永生会「ボツリヌス(ボトックス)療法」医療法人社団永生会 https://www.eisei.or.jp/clinic/eiseiclinic-gairai/botulinum/?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月17日) (文献3) 一般社団法人日本小児神経学会「Q35:ボツリヌス(ボトックス)治療の副作用について教えてください。」一般社団法人日本小児神経学会, https://www.childneuro.jp/general/6502/(最終アクセス:2025年06月17日) (文献4) 金久研究所「医療用医薬品 : ボトックス」KEGG, https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00058180(最終アクセス:2025年06月17日) (文献5) 松元 秀次.「論最新のリハビリテーション-痙縮のマネジメント-」『2007 年/第 2 回 リハビリテーション科専門医会 学術集会/札幌』巻(号), pp.1-7,2008年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/45/9/45_9_591/_pdf(最終アクセス:2025年06月17日)
2025.06.29 -
- 内科疾患
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「医療ボトックスの効果を知りたい」 「医療ボトックスを打ち続けると、どうなるのか心配」 医療ボトックスを検討しているものの、「副作用が心配」「一度始めたらやめられなくなるのでは」と不安を感じていませんか。ボトックス治療は主に医療目的で使用され、症状の緩和や生活の質の向上に効果が期待できます。 一方で、「続けるうちに効きにくくなる」「中止すると症状が戻り悪化する」といった情報に不安を感じる方も少なくありません。正しい知識を持ち、自分に合った治療かどうか、慎重に判断しましょう。 本記事では、現役医師が医療ボトックスについて詳しく解説します。 医療ボトックスの効果 医療ボトックスを打ち続けるとどうなるのか 医療ボトックスをやめるとどうなるのか 医療ボトックスの副作用 医療ボトックスの治療期間 本記事の最後には、医療ボトックスに関するよくある相談について回答していきますので、ぜひ最後までご覧ください。 医療ボトックスとは 医療ボトックスは、ボツリヌス菌由来のタンパク質(ボツリヌス・トキシン)を少量注射し、筋肉の過剰な緊張や動きを一時的に抑える治療法です。 主に痙攣、筋肉のこわばり、多汗症、顎関節症、歯ぎしりなどの症状改善や機能回復を目的として用いられ、美容目的とは異なり、症状によっては健康保険の適用もあります。 効果は通常、注射後1〜2週間で現れ、1〜2カ月でピークに達します。その後、3〜6カ月ほど持続し、徐々に効果が薄れていきます。効果を維持するには、3〜6カ月ごとに注射を継続するのが一般的です。効果の持続期間や治療間隔には個人差があるため、実施前に医師への相談が不可欠です。 以下の記事では、脳梗塞に対してのボトックス効果について詳しく解説しています。 医療ボトックスの効果 期待できる効果 詳細 筋肉の過剰な緊張や痙縮の緩和 神経伝達の遮断による筋肉の収縮抑制 眼瞼けいれん・片側顔面けいれんの改善 けいれんを起こす筋肉の動きの抑制 多汗症の治療 発汗を促す神経信号の遮断による汗の抑制 顎関節症や歯ぎしりの緩和 咬筋の過活動抑制による顎や歯への負担軽減 医療ボトックスは、過剰に働く筋肉や神経の異常な伝達を一時的に抑えることで、症状を緩和する治療法です。もともとは眼瞼けいれんや斜視などの神経疾患に対して開発されましたが、現在では痙縮、顔面けいれん、多汗症、顎関節症、歯ぎしりなど、幅広い症状に対して効果が認められています。 注射により筋肉や汗腺の働きを抑え、日常生活への支障を軽減することが期待されます。効果は3〜6カ月程度持続します。効果や持続期間には個人差があるため、医師と相談の上で継続的に治療することが重要です。 筋肉の過剰な緊張や痙縮の緩和 適応疾患 症状の特徴 ボトックスの作用 期待される効果 痙性斜頸 首の筋肉が勝手に収縮し、頭が傾く・ねじれる状態 異常な筋肉の動きを抑制 姿勢の改善、違和感や不快感の軽減 脳性麻痺による運動障害 手足の筋肉がこわばり、動かしにくくなる状態 筋肉の緊張を和らげ、動きをスムーズにする 関節の可動域改善、歩行や手の動作の向上 脳卒中、脳性まひ、脊髄損傷などの後遺症では、筋肉がこわばり、思うように動かせなくなる痙縮(けいしゅく)と呼ばれる症状が現れることがあります。医療ボトックスは、過剰に収縮している筋肉への信号を一時的にブロックすることで筋肉の緊張を緩和する治療法です。 この作用により、関節の動かしやすさが改善し、日常動作がスムーズになるケースもあります。リハビリの効率が高まり、より効果的な訓練が可能となるのも利点のひとつです。また、強い筋緊張によって起こる違和感や変形、皮膚トラブルを防ぐ効果も期待されています。 このような症状に対するボトックスの効果は3〜4カ月ほど続き、時間の経過とともに効果が薄れ、徐々に元の状態に戻ることがあります。 再発を防ぐには、症状に応じて定期的な注射を検討することが大切です。適切なタイミングと用量で継続することで、生活の質の向上が見込めます。 眼瞼けいれん・片側顔面けいれんの改善 疾患名 症状の特徴 ボトックスの作用 期待される効果 眼瞼けいれん まぶたのけいれん、勝手に閉じてしまう状態 眼輪筋の異常収縮の抑制 まぶたの開けやすさの改善、けいれんの軽減 片側顔面けいれん 顔の片側の筋肉のピクピクとした不随意な動き 顔面筋の過剰な緊張やけいれんの抑制 表情のゆがみの軽減、不快感の改善 眼瞼けいれんは、まぶたが無意識にピクピク動いたり、強く閉じてしまう症状で、まぶしさや目の疲れ、視界の遮りを引き起こすことがあります。片側顔面けいれんは、顔の片側にけいれんが生じ、笑ったり話したりすると症状が強まるのが特徴です。いずれも筋肉の異常な収縮が原因とされ、医療ボトックスは有効な治療法です。 けいれんを起こしている筋肉にボトックスを注射することで、神経から筋肉への信号を一時的に抑え、不随意な動きを一定期間抑える効果があります。 効果は注射後2〜5日で現れ始め、2〜4週間で最大となり、2〜4カ月持続します。症状や筋肉の反応を見ながら、定期的に治療を行うことで、日常生活の不便を大きく軽減できる可能性があります。 多汗症の治療 医療ボトックスは、多汗症の原因となる神経の働きを一時的に抑え、汗の分泌を軽減する治療法です。脇や手のひらなど汗が気になる部位に注射することで、2〜3日後から効果が現れます。 効果は通常4〜9カ月続くため、再発時には定期的な治療が必要です。手術とは異なり、傷跡が残らず日常生活への影響もほとんどありません。発汗を抑えることで、日常の不快感や精神的なストレスの軽減に大きく役立ちます。 顎関節症や歯ぎしりの緩和 症状・効果 ボトックス治療の作用 顎関節症の緩和 咬筋の緊張を抑制し、顎関節への負担軽減。違和感や開口障害、クリック音の改善 歯ぎしり・食いしばりの軽減 無意識の歯ぎしり・食いしばりの減少。歯や顎関節へのダメージ予防 歯の摩耗や補綴物の破損予防 噛む力の抑制による歯のすり減りや詰め物・被せ物の破損リスク低減 顔の輪郭の変化 咬筋のボリューム減少によるエラ張りの改善。フェイスラインのすっきり感 効果の持続 効果は通常3~6カ月持続。時間経過とともに徐々に元の状態へ戻る。定期的な再注射で効果維持 治療の特徴 治療時間は短く、ダウンタイムほとんどなし。個人差あり 顎関節症や歯ぎしり(ブラキシズム)は、睡眠中の強い食いしばりや日中の無意識な筋緊張によって、顎やこめかみの違和感、咬筋の発達、歯のすり減りなどを引き起こす症状です。 これらに対して医療ボトックスを用いることで、噛む筋肉である咬筋の過剰な収縮を一時的に抑え、食いしばりや歯ぎしりの頻度や強さを軽減できます。 咬筋の緊張が緩和されることで、顎の違和感や開口障害が改善し、歯や関節への負担も軽減します。効果は3~6カ月程度持続し、筋緊張の軽減によりフェイスラインがすっきりする場合もあります。 治療を受ける際は、目的や副作用を十分に理解し、医師と相談しながら進めることが重要です。 医療ボトックスを打ち続けるとどうなる? 打ち続けると起こりうるリスク 詳細 効果の変化と抗体形成のリスク 抗体の産生により薬剤が効きにくくなる可能性 表情の変化や筋力低下の可能性 周囲の筋肉への影響による違和感や動きの制限 効果の減弱と元の状態への回帰 薬の効果が切れることで症状が再発する可能性 副作用のリスク 内出血・違和感・頭痛・倦怠感などが現れる可能性 医療ボトックスは効果の持続期間が限られているため、症状のコントロールには定期的な注射が必要です。ただし、長期間の治療に対して効果が薄れたり副作用が蓄積されたりすることに不安を感じる方も少なくありません。 実際には、ボトックスは時間とともに体外に排出されるため、成分が身体に蓄積することはありません。ただし、稀に抗体による効果の減弱、または表情の変化・筋力低下などの副作用が起こる可能性があります。そのため、治療は医師と相談の上、適切な間隔と投与量で行うことが求められます。 効果の変化と抗体形成のリスク 医療ボトックスは、筋肉の動きを一時的に抑えることで、しわやエラ張り、食いしばりなどの改善に用いられます。効果は通常3〜6カ月持続し、薬剤が分解されると徐々に筋肉の動きが戻るのが特徴です。継続的に適切な間隔(目安は3カ月以上)で治療を受けることで、効果が期待できます。筋肉が萎縮することで1回ごとの効果が長く続く場合もあります。 短期間に頻繁な注射を繰り返すと、ボトックスに対する抗体ができて効果が弱まるため、自己判断で注射の間隔を詰めるのは避け、必ず医師の指示に従うことが大切です。また、効果の変化には筋肉の状態や生活習慣も関係するため、定期的に診察を受け、治療間隔や投与量を調整しながら無理のない継続治療を行いましょう。 表情の変化や筋力低下の可能性 ボトックスは、筋肉の動きを一時的に抑えることでしわやたるみを改善しますが、同じ部位に繰り返し注射を行うと、表情筋の動きが制限されやすくなります。笑顔が不自然に見えたり、表情が乏しく感じられたりするのは、筋肉が長期間動かないことで徐々に萎縮し、筋力が落ちるためです。 また、咬筋などの大きな筋肉に繰り返し注射をすると、フェイスラインがすっきりする一方で、噛む力が弱くなるといった筋力低下も起こる可能性があります。額や目元などの部位では、表情のバリエーションが減ることもあります。 ボトックスの効果は3~6カ月程度持続し、回数を重ねることで効果が長く続く傾向がありますが、治療の頻度が高すぎると、副作用や表情の不自然さが目立ちやすくなります。そのため、3〜4カ月以上の間隔を空けることが、自然な表情と筋力を保つためには、重要です。 無理に回数を増やすのではなく、医師と相談の上、適切な量とタイミングで治療を継続することが、健康的で自然な仕上がりを保つポイントです。 効果の減弱と元の状態への回帰 医療ボトックスの効果は通常3〜4カ月程度持続し、時間とともに徐々に消失します。治療を中止すると、抑えられていた筋肉の活動が回復し、もともとの症状が元に戻る可能性があります。 たとえば、痙縮やけいれん、多汗症、食いしばり・歯ぎしりなどが再び現れることがあります。これは、薬の効果が切れて神経と筋肉の伝達が元に戻るためです。中には、再開後すぐに十分な効果が得られにくいケースもありますが、多くは再投与によって症状が再び緩和されます。 一方で、治療を中断しても症状が軽度のまま維持される場合もあるため、無理に継続せず一度経過を観察する選択も可能です。症状の戻り方には個人差があるため、医師と相談しながら、症状の経過に応じて柔軟に治療方針を決めていくことが大切です。 副作用のリスク 副作用の種類 内容と注意点 注射部位の腫れ・内出血・むくみ 針を刺すことで一時的に現れる反応。通常は数日〜1週間で自然に消失 アレルギー反応 発疹、赤み、かゆみ、息苦しさなど。ごく稀に発症し、早めの医師相談が必要 表情の違和感・筋力低下 筋肉の動きが抑制されることで起こる違和感や噛む力の低下。過剰投与でリスク増加 左右差や皮膚のたるみ 筋肉の使い方の偏りや注射の入り方による影響。個人差あり 頭痛・めまい・吐き気 一部の方に起こる全身症状。多くは軽度かつ一時的 嚥下障害・呼吸困難 首や咽頭周囲への注射、大量投与でごく稀に報告される重篤な副作用 医療ボトックスには、副作用のリスクがあります。注射部位に腫れや内出血、赤み、軽い違和感が出ることがありますが、これらは一時的で自然におさまることがほとんどです。まれに、隣接する筋肉に薬剤が拡がることで、意図しない筋力低下や表情の変化が起こることもあります。 また、ボトックスに対してアレルギー反応を示す人もごく少数ながら存在し、息苦しさや発疹などが現れる場合もあります。副作用の有無や治療前後の体調変化に気づいた際は、速やかに医療機関へ相談することが大切です。 医療ボトックスをやめるとどうなる? やめると起こりうる症状 詳細 もとに戻る可能性がある 抑えられていた症状の再発 見た目の変化に対する違和感 シワや輪郭の戻りによる印象の変化 筋肉の活動が再開する けいれんや緊張など筋肉の動きの再出現 医療ボトックスを中止すると、薬の効果が切れるのに伴い、神経と筋肉の伝達が徐々に元の状態へ戻ります。その結果、けいれんや痙縮、過度な発汗、歯ぎしりなど、これまで抑えられていた症状が再発する可能性があります。 ただし、症状が悪化するというよりは、治療前の状態に戻ると考えるのが一般的です。症状の戻り方や強さには個人差があり、すぐに再発する場合もあれば、一定期間は落ち着いた状態が続くこともあります。また、長期間治療を継続していた方ほど、効果が切れた際に見た目や感覚の変化に強い違和感を感じることがあります。 治療を継続するか中止するかは、症状の経過や日常生活への影響を踏まえ、医師と相談しながら柔軟に判断することが大切です。 もとに戻る可能性がある ボトックスは、筋肉にA型ボツリヌストキシンを注射し、神経と筋肉の伝達を一時的に遮断することで、筋肉の動きを抑え、しわ・エラ張り・食いしばりなどの症状を軽減する治療です。 ただし、効果は一時的で、通常3〜6カ月程度で薬剤が分解され、神経伝達が回復します。すると筋肉が再び動き始め、治療前の状態に戻る可能性が高くなります。 元に戻る現象は、ボトックスが筋肉を破壊するのではなく、動きを一時的に抑える仕組みであるためです。たとえばエラボトックスを中止すると、咬筋が再び発達し、エラ張りや食いしばりが戻ることがあります。治療を中止しても症状が悪化したり、老化が進むことはありません。 また、長期間(数年〜十数年)ボトックスを継続したごく一部のケースでは、筋肉の動きが弱まる廃用性萎縮に似た状態が起こることがありますが、非常に稀です。多くの場合は中止により自然回復します。継続治療を希望する場合は、症状や目的に応じて医師と相談し、適切なタイミングと頻度での治療が推奨されます。 見た目の変化に対する違和感 医療ボトックスの効果は3〜6カ月ほどで徐々に消失し、筋肉の動きが元に戻ります。それに伴い、しわやエラの張り、フェイスラインなどが治療前の状態に近づいていきます。 これはボトックスの効果が自然に切れた結果であり、異常ではありません。治療中の若々しく整った見た目に慣れていると、効果が切れて元の状態に戻ったときに老けた印象や疲れた印象を受けやすくなります。見た目が悪化したわけではなく、治療前の状態に戻っただけです。 また、長期間ボトックスを続けていた場合は、筋肉の動きが抑えられていた分、効果が切れたときに違和感を強く感じやすくなります。こうした見た目の変化は副作用ではなく、心理的なギャップによるものです。治療を中止する際は、あらかじめ医師と相談し、必要に応じて他の治療を検討することで、違和感を抑えながら自然な変化に対応できます。 筋肉の活動が再開する 医療ボトックスの効果は一時的で、3〜6カ月ほどで神経と筋肉のつながりが回復し、抑えられていた筋肉の活動が再開します。これは、神経から筋肉への信号をブロックするボトックスの作用が切れ、神経枝が再生するためです。 筋肉の動きが戻ると、けいれんや痙縮、歯ぎしりなどの症状が再び現れることがありますが、これは自然な反応であり異常ではありません。もともと症状が強かった人では、変化に違和感や不安を覚えることもあります。 ボトックスは筋肉を壊す薬ではないため、基本的に機能は元に戻ります。ただし、長期間にわたる連続使用では、まれに筋肉が使われにくくなり、萎縮が見られることもあります。再治療が必要かどうかは、症状や生活への影響を見ながら判断し、医師と相談の上で治療方針を決めることが大切です。 医療ボトックスの副作用 副作用 詳細 局所的な副作用 注射部位の腫れ・赤み・内出血・違和感など 筋力低下や動作の制限 力が入りにくい・動かしづらい感覚の一時的出現 全身的な副作用 頭痛・倦怠感・吐き気・まれにアレルギー反応など 医療ボトックスは高い治療効果が期待できる一方で、副作用の可能性もあります。多くは軽度かつ一時的なもので、注射部位の腫れ、赤み、内出血、違和感などが見られますが、通常は数日以内に自然に改善します。 注射する部位や筋肉の範囲によっては、表情が不自然に感じられたり、噛みにくさ、飲み込みにくさが出ることもあります。さらに、非常にまれではありますが、アレルギー反応、全身のだるさ、頭痛、吐き気などが起こるケースもあるため注意が必要です。これらの症状が現れた場合は、早めに医師へ相談することで適切に対応できます。 また、以下のような方にはボトックス治療は推奨されません。(文献1) 神経筋接合部の障害(例:重症筋無力症)を持つ方 妊娠中または授乳中の女性(影響が十分に明らかになっていないため) 副作用への理解を深め、体調や持病に応じて医師と十分に相談しながら治療を進めることが、医療ボトックスの活用につながります。 局所的な副作用 副作用の種類 主な原因 詳細 腫れ・内出血 注射針の刺激・血管損傷・身体の反応 注射時の物理的刺激による反応。多くは軽度で数日以内に自然に消退する 刺激・違和感 皮膚や筋肉への刺激・注入圧 注射直後に生じやすい一時的な感覚。数時間から数日で改善 赤み・かゆみ・発疹 アレルギー反応や炎症反応 ごく稀に発生する。軽度で短期間の経過が多い 副作用の対策 技術・衛生管理・事前の体調確認 適切な治療とリスク管理で副作用の頻度や重症化を最小限に抑えることが可能 医療ボトックスの局所的な副作用は、注射による物理的な刺激や体の自然な防御反応が原因で起こることがほとんどです。腫れ、内出血、違和感などは一時的な症状であり、通常は数日以内に自然に治まります。まれにかゆみや発疹、赤みが見られることもありますが、これらも軽度で、アレルギー反応としてはごく稀なケースです。 副作用を最小限に抑えるには、施術者の技術や衛生管理、アレルギー歴の確認が不可欠です。副作用が長引く場合や不安を感じた際は、早めに医師へ相談することが重要です。 筋力低下や動作の制限 ボトックスによる筋力低下や動作の制限は、神経から筋肉への信号が一時的に遮断されることで起こります。これは、しわを目立たなくするために筋肉の動きを抑える作用によるものです。 その結果、注射部位の筋肉に力が入りにくくなることがあります。ただし、これらの反応は一時的であり、時間の経過とともに自然に回復します。 これらは薬の効果が持続する2~4カ月間の一時的な変化です。ただし、左右差や違和感が強い場合は、早急に医療機関を受診しましょう。 全身的な副作用 副作用の種類 原因・仕組み 特徴・注意点 頭痛 神経伝達の変化・炎症反応・筋緊張バランスの乱れ 多くは軽度で一時的。数日以内に自然に軽快 アレルギー反応 ボツリヌストキシンや添加物への免疫反応 発疹、かゆみ、腫れ。稀にアナフィラキシーなどの重篤反応 呼吸困難・嚥下困難 薬剤の過量・全身への広がり・基礎疾患の影響 重症筋無力症や呼吸器疾患のある方はとくに注意。異常を感じたら早期受診が必要 倦怠感・だるさ 神経や筋肉への作用による一時的な全身的影響 軽度で自然に回復することが多い 心臓への影響 ごく稀に報告される自律神経系や循環器系への影響 不整脈や心不全の既往がある方は慎重な判断が必要 医療ボトックスは主に局所に作用する治療ですが、ごく稀に全身的な副作用が現れることがあります。頭痛や倦怠感は比較的よく見られますが、多くは軽度で数日以内に自然に改善します。 稀にアレルギー反応として発疹やかゆみが出ることがあり、重症の場合はアナフィラキシーを起こす可能性もあるため注意が必要です。また、薬剤が広がることで呼吸や嚥下に関わる筋肉に作用し、呼吸困難や全身の筋力低下を引き起こすことがあります。 とくに、神経筋疾患や呼吸器疾患のある方には慎重な対応が求められます。症状が強く現れたり長引いたりする場合は、速やかに医師へ相談してください。 医療ボトックスの治療期間 項目 内容 効果発現時期 注射後2週間ほどで効果出現。1〜2カ月目にピーク 効果持続期間 通常3〜4カ月持続。その後徐々に消失 治療間隔・頻度 3〜4カ月ごとに年数回の注射が一般的 抗体形成リスク 過度な頻度での投与は抗体形成による効果減弱リスク増加 治療の目的 一時的な症状改善。根本治癒目的ではない 治療計画の調整 症状や目的、個人差に応じて調整。医師との継続的な相談が不可欠 (文献2) 医療ボトックスの効果は、注射後2週間ほどで現れ始め、1〜2カ月目に効果のピークを迎えます。効果は通常3〜4カ月持続し、その後徐々に消失します。症状の改善を継続したい場合は、3〜4カ月ごとに年数回の注射を繰り返すことが一般的です。ボトックスはあくまで一時的な治療であり、根本治癒を目的とするものではありません。効果を持続させるには、長期的な治療と定期的な経過観察が必要です。 治療間隔や期間は、症状や目的、個人差に応じて調整されます。無理のない治療計画を立てるためにも、医師との継続的な相談が重要です。 医療ボトックスで改善しない症状に再生医療という新たな選択肢 医療ボトックスは多くの神経筋疾患や過活動による症状に対して効果が期待できますが、すべての症状に適応するわけではありません。 たとえば、筋肉の損傷が進んでいる場合や、神経に重度の障害がある場合には、ボトックス単独では十分な改善が得られないことがあります。こうしたケースで注目されているのが再生医療です。 再生医療は、自己の幹細胞などを用いて損傷した組織や神経の修復を目指す治療法です。ボトックスでは改善が難しい症状に対して、新たな選択肢として注目されています。ただし、すべての症状が再生医療で改善するわけではなく、治療の適応や効果は症状によって異なります。 医療ボトックスに関するお悩みは、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、医療ボトックスに関するご相談に対応しており、症状やご希望に応じて再生医療のご提案も可能です。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 医療ボトックスに関するよくある相談 医療ボトックスに関しての相談はどの診療科へするべきでしょうか? 医療ボトックスは、適応となる症状や疾患によって相談先の診療科が異なります。対応する診療科は以下を参考に受診ください。 主な症状・疾患 対応する診療科 顔面けいれん・眼瞼けいれん 神経内科、脳神経外科 手足の痙縮(脳卒中後など) リハビリテーション科、整形外科 多汗症(腋窩・手のひら・足の裏など) 皮膚科、形成外科、耳鼻咽喉科 咬筋の緊張・食いしばり・歯ぎしり 歯科口腔外科、矯正歯科 美容目的(表情じわ、エラ張りなど) 美容皮膚科、美容外科 ボトックス治療を実施しているかどうかは医療機関によって異なるため、事前にホームページや電話で確認するとスムーズです。 医療ボトックスの治療を受ける前に確認すべきポイントはありますか? 医療ボトックスの治療を受ける前に以下の7点をしっかり確認しましょう。 確認項目 内容 1.信頼できる医療機関か 症例数、製剤の種類、衛生管理、アフターケア体制を確認する 2.カウンセリングの内容 希望や不安を伝え、リスクや副作用の説明をしっかり受ける 3.持病や服薬の申告 神経筋疾患、重い心疾患、肝障害がある場合は治療できないことがある 4.妊娠・授乳の有無 妊娠中・授乳中・妊娠希望の方は治療を避ける 5.当日の体調管理 発熱や不調がある日は治療を延期する 6.薬や飲酒の管理 飲酒は控える。抗凝固薬や一部の薬は事前に医師へ申告する 7.治療前の準備 顔のバランスや筋肉の状態を医師が確認してから注射を行う 上記以外にも不安な点がある場合は、医師に事前に相談することが大切です。 医療費控除は適用されますか? 医療ボトックスが医療費控除の対象となるかどうかは、治療目的か美容目的かによって判断されます。医療費控除の対象となるケースとしては、歯ぎしり、食いしばり、顎関節症、多汗症など、医師の診断に基づく治療目的のボトックスは、医療費控除の対象です。確定申告時に、診断書や治療内容が記載された領収書を提出することで、控除を受けられます。 一方、医療費控除の対象外となるケースは、小顔やしわ取り、ガミースマイル改善など、美容を目的とした治療は医療費控除の対象にはなりません。また、医療費控除は、1月1日から12月31日までの1年間に支払った医療費が一定額(通常10万円)を超えた場合、その超過分が控除されます。 治療目的であることを証明できるよう、診断書や領収書は必ず保管しておきましょう。 参考資料 (文献1) アッヴィ合同会社 アラガン・エステティックス「医療用医薬品 : ボトックスビスタ」 KEGG データベース, 2025年3月 https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00056431(最終アクセス:2025年06月16日) (文献2) 医療法人社団永生会「ボツリヌス(ボトックス)療法」医療法人社団永生会 https://www.eisei.or.jp/clinic/eiseiclinic-gairai/botulinum/(最終アクセス:2025年06月16日)
2025.06.29 -
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「ALS(筋萎縮性側索硬化症)は食べ物が原因なのでは?」 「化学調味料は身体に有害と聞いたけど、実際どうなのか?」 外食や加工食品を頻繁に摂取する人の中には、「食べ物がALS(筋萎縮性側索硬化症)の原因ではないか」と不安を抱く方もいるでしょう。なかでも、化学調味料がALSを引き起こす噂が広まっており、不安に感じる方も少なくありません。 本記事では、ALSの原因と食べ物との関係について、現役医師が科学的根拠に基づいて解説します。記事の最後には、ALSの原因となり得る食べ物に関するよくある質問もまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 ALSと食生活の関係性は?科学的に見た因果関係 項目 内容 明確な原因食の有無 現時点でALSの原因となる特定の食品は確認されていない グルタミン酸の影響 神経細胞に影響を及ぼす、興奮毒性の可能性が一部で指摘されている グルタミン酸ナトリウムの評価 通常の摂取量であれば、健康リスクはないと評価されている 食品添加物のリスク 適量であればALSを含む神経疾患との因果関係は認められていない 推奨される食生活 極端な摂取を避け、栄養バランスの取れた食事を継続する (文献1)(文献2) ALSと食生活の関連についてはさまざまな説がありますが、現在の科学的知見では、特定の食べ物がALSの原因になる証拠は確認されていません。うま味成分として使われるグルタミン酸や味の素に含まれるグルタミン酸ナトリウムも、通常の摂取量であれば健康への悪影響はないとされています。 ただし、ALSの発症には遺伝や環境要因などが複雑に関与しており、日常的な食生活で過度に心配しすぎる必要はありません。神経の健康維持には、バランスの良い食事を心がけることが大切です。 ALSの原因になりうる食べ物 食品・調味料 詳細 グルタミン酸を含むうま味調味料 味の素などに含まれるグルタミン酸ナトリウム。通常の摂取量では健康リスクはないとされているが、ALS患者の一部ではグルタミン酸の代謝異常が指摘されていることもある BMAAを含む可能性がある食品 藍藻類(シアノバクテリア)に含まれる神経毒性物質。特定地域での摂取との関連が報告されているが、日本の食環境での曝露リスクは極めて低いとされる 鉛や水銀などの重金属を含む食品 一部の大型魚介類などに含まれることがある。過剰摂取で神経に影響を与える可能性があるが、通常の食生活で可能性は低い 現在のところ、特定の食品がALSを引き起こす明確な科学的根拠はありません。一方では、神経毒性物質との関連が一部研究で示唆されています。たとえば、うま味調味料に含まれるグルタミン酸、藍藻由来のBMAA、一部の魚介類に含まれる重金属などがあげられます。 ですが、通常の摂取量でリスクが高まるとは考えにくく、食事に過度な不安を抱える必要はありません。普段からバランスの良い食生活を意識することが大切です。 グルタミン酸を含んでいる調味料 項目 内容 グルタミン酸毒性仮説 脳や脊髄でグルタミン酸が過剰になると運動神経細胞が過剰に刺激され、細胞死を招く仮説があるが、現時点では因果関係を裏付けるエビデンスは不足している ALS患者のグルタミン酸異常 脳脊髄液や細胞外液でグルタミン酸濃度が高い傾向。アストロサイトや受容体の異常も関与しているのではないかといわれている グルタミン酸ナトリウムとの関連 食品添加物として広く利用。摂取がALSリスクになるとの誤解が生まれやすい 明確な科学的根拠 通常の食事や調味料の使用量でALSリスクが上がる明確な証拠はない (文献1)(文献3) ALSの発症メカニズムのひとつに、グルタミン酸毒性仮説があります。これは、神経伝達物質であるグルタミン酸が過剰に存在することで神経細胞が過度に刺激され、細胞死が引き起こされる考え方です。 ALS患者の一部では脳脊髄液中のグルタミン酸濃度の上昇や、グルタミン酸を回収するアストロサイトの機能低下が確認されています。 こうした背景から、うま味調味料に含まれるグルタミン酸ナトリウムとの関連が取り沙汰されることがありますが、経口摂取されたグルタミン酸が直接脳に影響するわけではありません。現時点では、グルタミン酸の摂取がALSリスクを高める科学的証拠はありません。 BMAA(β-N-メチルアミノ-L-アラニン)を含む食品 項目 内容 神経毒性作用 BMAAは運動ニューロンの興奮性受容体を介して毒性を示し、長期間の摂取で神経細胞死を引き起こす可能性がある 疫学的観察 グアム島や紀伊半島南部などでALS・PDCが多発し、BMAAを含む食物(ソテツやそれを食べた動物)が伝統的に摂取されてきた 生体内蓄積の報告 グアムのALS・PDC患者の脳内にBMAAが高濃度で蓄積している例が報告されている 動物実験での再現 BMAAを投与されたラットでは神経変性や運動障害が認められ、ALSモデル動物として利用される 科学的限界 すべてのALS患者にBMAA蓄積があるわけではなく、地域や食習慣に依存した限定的なリスク因子と考えられている (文献4)(文献5)(文献6)(文献7) BMAA(β-N-メチルアミノ-L-アラニン)は、藍藻や一部の珪藻が産生する天然の神経毒性アミノ酸で、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経疾患との関連が指摘されています。グアム島や紀伊半島南部などでは、BMAAを含む植物やそれを食べた動物を摂取する文化があり、患者の脳内からBMAAが検出された例も報告されています。 動物実験でも神経障害を引き起こすことが確認されていますが、すべてのALS患者に該当するわけではありません。日本の一般的な食生活ではBMAAへの曝露はごくわずかであり、現時点では普遍的なリスク因子である確定的な結論は得られていません。 鉛や水銀などの重金属を含む食品 項目 内容 重金属の神経毒性 鉛や水銀は神経細胞の機能障害や炎症、酸化ストレス、ミトコンドリア障害、タンパク質の異常蓄積などを引き起こすことが報告されている 疫学調査・症例報告 鉛や水銀への曝露とALS発症リスクの上昇を示す研究や、ALS患者の生体試料で重金属濃度が高いケースが報告されている 地域性や生活習慣との関連 特定地域で飲料水や食事を通じた重金属曝露が多く、ALS患者の血液や髪の毛から高濃度の鉛や水銀が検出されている 他疾患との関連 鉛や水銀はALSだけでなく、アルツハイマー病など他の神経変性疾患との関連も指摘されている 因果関係の整理 重金属曝露とALS発症リスクの相関関係は示されているが、直接的な因果関係を証明するデータは現時点でない 食品を通じた曝露例 大型魚介類(マグロ、カジキ等)に水銀、土壌汚染を受けた野菜や穀物に鉛が蓄積することがある (文献8)(文献9)(文献10) 鉛や水銀などの重金属は神経への毒性が強く、長期間体内に蓄積すると神経細胞の障害や酸化ストレス、ミトコンドリア異常などを引き起こすことが知られています。これらの重金属が神経変性に関与する可能性が示唆されており、魚介類や飲料水などを通じた環境因子との関連も指摘されました。 特定地域では、飲料水や食事を通じて重金属に曝露される機会が多く、疫学調査でも重金属曝露とALS発症率の相関が報告されています。また、米国神経学会第69回年次総会で発表された予備研究によると、魚に含まれる水銀の摂取量が多いグループでは、ALSの発症率が少ないグループの2倍に上昇する調査結果もあります。(文献10) ただし、これらの研究は相関関係を示しているにとどまり、重金属がALSの普遍的な原因であるとは断定できません。通常の食生活でリスクは高くありませんが、汚染源を避けた食品選びが大切といえます。 ALSを予防・抑制するための食習慣 食習慣 詳細 注意点 高カロリー・高脂肪食の摂取 進行に伴う体重減少を補う目的でカロリー摂取を意識する。オリーブオイルや魚の脂に含まれる良質な脂肪が推奨されている 栄養バランスを考慮し、自己判断での極端な摂取は避け、医師や管理栄養士の指導のもとで行うこと 高GI・高GL食品の摂取 糖質によるエネルギー確保の手段として、一部で取り入れられている 糖尿病や血糖異常がある場合はリスク増大。医師と相談しながら適切な範囲で活用する 食物繊維と水分の摂取 運動量低下による便秘予防として、野菜や果物、海藻類の摂取が推奨されている 摂り過ぎは下痢や腹部膨満の原因になるため、適量を守り医療者の助言を得ること 嚥下機能に応じた食事形態の調整 嚥下障害に対応し、誤嚥を防ぐためにとろみ付けやきざみ食などの工夫を行う 誤嚥性肺炎のリスクを避けるため、医師や言語聴覚士の評価を受けて実施する ALSの進行に伴い、体重減少や便秘、嚥下障害などの栄養面での問題が生じやすくなります。これに対しては、高カロリー・高脂肪の食事、食物繊維と水分の十分な摂取、嚥下機能に応じた食事形態の調整が有効とされています。 これらの食事法がALSの進行を確実に抑える明確な根拠はなく、過剰な摂取や自己判断での食事変更は避けるべきです。ALSの栄養管理は、医師の指導のもと、個々の状態に合わせて適切に行うことが重要です。 高カロリー・高脂肪食の摂取 項目 内容 代謝亢進によるエネルギー不足 ALS患者の多くが代謝亢進状態となり、通常より多くのエネルギーが必要。高カロリー・高脂肪食で不足分を補う 体重減少と生命予後の関連 体重減少が進行や生命予後の悪化に関与する。高カロリー・高脂肪食で体重維持や増加を目指すことが重要 進行の速い患者への効果 高脂肪食の追加で生存期間延長や体重維持が認められた臨床試験の報告あり。とくに進行が速い患者で有効性が示唆 脂質代謝異常との関連 ALSでは脂質代謝異常が進行の予測因子。高カロリー・高脂肪食による栄養療法が生命予後改善に寄与する可能性 (文献11)(文献12) ALSでは発症初期から代謝が活発になり、通常より多くのエネルギーを消費するのが特徴です。間接カロリーメーターによる測定でも、約40%の患者が病初期に代謝亢進状態にあり、1日の総消費エネルギー量は25〜40kcal/kgと高いことが報告されています。(文献12) この代謝亢進は生命予後不良の予測因子とされ、エネルギー不足による体重減少や筋力低下を防ぐため、高カロリー・高脂肪食の摂取が推奨されることがあります。とくに進行が速い患者では体重維持や生存期間延長が期待されていますが、根本的なエビデンスは十分ではありません。 また、過剰摂取は糖尿病や脂質異常症など他の病気を引き起こす可能性もあるため、医師の指導のもとで行うことが大切です。 高GI・高GL食品の摂取 項目 内容 ALS患者の代謝特性 安静時でもエネルギー消費が多く、体重減少が進行因子となる傾向 高GI・高GL食品の特徴 白米やパン、じゃがいもなど。短時間で血糖とエネルギーを上げやすい食品群 摂取の意義 少量で効率よくエネルギーを補える利点がある。進行抑制との関係が示唆されている 注意点 根本的なエビデンスは乏しく、過剰摂取で生活習慣病リスクもあるため、医師の指導が必要 (文献11) ALSでは病気の影響により代謝が亢進し、体重減少が進行や予後の悪化に関与するとされています。高GI・高GL食品(白米、パン、じゃがいもなど)は、消化吸収が速く、短時間で効率的にエネルギーを補えるため、食事量が限られがちなALS患者にとって有用と考えられています。近年の研究では、これらの食品を多く摂取していた患者で進行が緩やかだった報告もあります。(文献11) ただし、こうした栄養戦略の有効性については根本的なエビデンスがまだ十分とはいえず、過剰摂取は糖尿病や肥満など他の疾患リスクを高める可能性もあります。自己判断での摂取は避け、医師や管理栄養士と相談しながら、個々の状態に応じた適切な量を取り入れることが重要です。 便秘予防のための食物繊維と水分の摂取 項目 内容 ALSと便秘の関係 筋力低下・活動量減少・嚥下障害による便秘発生 便秘の影響 QOL低下、不快感、食欲不振の原因 食物繊維の効果 水溶性:便をやわらかくし善玉菌増加 不溶性:便のかさ増・腸運動促進 水分摂取の効果 便をやわらかくし排便をスムーズに。脱水は便秘や食欲低下の悪循環原因 摂取の注意点 食物繊維は水分と一緒に摂取、過剰摂取は便秘悪化の恐れ 便秘対策の基本 バランスの良い食事、十分な水分、適度な運動、排便習慣の確立 (文献2)(文献13) ALSでは筋力の低下や活動量の減少により、便秘が起こりやすくなります。便秘は日常生活の質(QOL)を下げるだけでなく、食欲不振や不快感の原因にもなるため、予防と対策が重要です。水溶性食物繊維は便をやわらかくし、不溶性食物繊維は腸の動きを促すことで、排便を助けます。これらの効果を高めるには、1日2リットル程度の水分摂取が目安です。 ただし、食物繊維を摂りすぎると便秘が悪化するおそれがあるため、過不足のないバランスが大切です。排便習慣の確立や適度な運動もあわせて取り入れることで、ALS患者の便秘予防とQOL向上に役立ちます。 嚥下機能に応じた食事形態の調整 項目 内容 誤嚥・窒息リスクの軽減 嚥下機能に応じたとろみ付けや刻み食による誤嚥防止 栄養・水分摂取量の確保 疲労や食事量減少への対応として食形態を工夫 QOL(生活の質)の維持 食べやすさを保ちつつ、食事の満足感を維持 進行抑制・予後の改善 低栄養・体重減少の予防による進行リスクの抑制 工夫の具体例 ペースト状・とろみ付き・ゼリー状の活用による飲み込みやすさの向上 (文献14)(文献15) ALSの進行に伴い、多くの患者で嚥下障害が現れ、誤嚥や窒息、低栄養、脱水のリスクが高まります。固形食や水分の摂取が困難になるため、ペースト状やゼリー状、とろみをつけた食事へ調整することで、無理なく摂取できるようになります。 嚥下の負担を軽減することで、食事量や水分量の維持が可能となり、体重減少や予後の悪化を防ぐ一助になります。とくに、細かく刻んだ食事よりも、まとまりのある形態の方が飲み込みやすい場合も多く、個々の状態に応じた工夫が重要です。食事形態の調整は、栄養状態の管理だけでなく、生活の質を保つためにも早期からの対応が求められます。 ALSの原因となりうる食べ物を把握して食生活に気をつけよう 現在、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の発症に直接関与する特定の食品や添加物は、科学的に明確には特定されていません。 そのため、特定の食品を過剰に避けるのではなく、栄養バランスの取れた食生活を継続することが、健康的な体調管理において重要です。疑わしい症状や不安がある場合は、医師に相談し、適切な検査や指導を受けましょう。 また、症状の進行や体調の変化に応じた適切な栄養管理を行うことで、日常生活の質(QOL)を維持しやすくなります。 食生活の不安や疑問がある方は、ぜひ当院「リペアセルクリニック」までご相談ください。当院では、ALSに関する具体的な栄養指導や、患者様一人ひとりに合わせた食事支援を行っております。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 ALSの原因になる食べ物についてよくある質問 紀伊半島でALSの発症が多いのは飲食物と関係があるのでしょうか? 紀伊半島南部、とくに古座川地区や穂原地区は、世界的にALSの多発地域として知られています。この地域では、遺伝子変異による家族性ALSに加え、グアム島型に類似した病理を示す孤発性ALSの症例も報告されています。(文献16) グアム島では、ソテツの実に含まれる神経毒BMAAや、それを摂取した動物の食用が発症リスクと考えられてきました。一方、紀伊半島においては、水や特定の食品などの飲食物とALSの関連を示す明確な証拠は、これまでの疫学調査では確認されていません。(文献4) 現時点では、紀伊半島でのALS多発には遺伝的要因や地域特有の病理が関与していると考えられており、環境要因や生活習慣を含めたさらなる研究が必要とされています。 ALSの原因は食べ物以外に何がありますか? ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、食べ物だけでなく、さまざまな要因が複雑に関与して発症すると考えられています。まず、ALSの約90%は孤発性(遺伝とは関係のない発症)であり、約10%は家族性で、SOD1、C9orf72、FUS、TARDBPなどの遺伝子変異が関与しています。 また、紀伊半島やグアム島など特定地域で発症率が高いことも、環境要因の存在を示唆していますが、明確な原因物質は特定されていません。(文献4) さらに、神経細胞の老化、グルタミン酸の代謝異常、酸化ストレス、ミトコンドリア機能障害、タンパク質分解の異常など、生物学的・分子的な異常もALSの発症に関与していると考えられています。現在では、遺伝的要因・環境因子・加齢など、複数の要素が長期にわたり相互作用する多因子モデルが有力視されており、ALSは、単一の原因で発症する疾患ではないと考えられています。 以下の記事では、ALSの原因について詳しく解説しております。 特定の栄養素の不足がALSの発症に影響を与えることはありますか? 特定の栄養素の不足がALS(筋萎縮性側索硬化症)の発症リスクを直接的に高めるという明確な証拠は、現時点では確認されていません。ただし、栄養不良や特定の栄養素の欠乏が、ALSの進行や生命予後に悪影響を及ぼすことは多くの研究で示されています。(文献17) ALS患者の一部では、嚥下障害や筋力低下、代謝亢進の影響により、エネルギーやたんぱく質、ビタミン・ミネラルが不足しやすくなります。 筋力や免疫機能の低下、全身状態の悪化を招き、症状の進行や予後の悪化につながる可能性があります。たとえば、たんぱく質やエネルギー不足は筋肉量の低下を招き、ビタミンB群、鉄、亜鉛、カルシウムなどの欠乏は神経・筋機能に悪影響を及ぼすとされています。また、L-アルギニンなどのアミノ酸補給により、体重維持や予後改善が期待される報告もあります。(文献17) 参考資料 (文献1) 公益財団法人長寿科学振興財団「筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因」健康長寿ネット, 2016年7月25日 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/als/shindan.html(最終アクセス:2016年06月16日) (文献2) 中島健二ほか.「筋萎縮性側割索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023」『南江党』, pp.1-311, 2023年 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdf/als_2023.pdf?20231212(最終アクセス:2016年06月16日) (文献3) 柴田 亮行ほか.「筋萎縮性側索硬化症における興奮性神経毒性に関する研究」『新潟大学脳研究所「脳神経病理標本資源活用の先端的共同研究拠点」共同利用・共同研究報告書』, pp.1-2 https://www.bri.niigata-u.ac.jp/uploads/2013/07/2220%E6%9F%B4%E7%94%B0H24.pdf(最終アクセス:2016年06月16日) (文献4) 小久保康昌.「紀伊半島の家族性認知症-パーキンソン症候群における」『厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)三重県南部に多発する家族性認知症-パーキンソン症候群 発症因子の探索と治療介入研究班(分担)研究報告書』, pp.1-47 https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2012/123151/201231159A_upload/201231159A0012.pdf(最終アクセス:2016年06月16日) (文献5) JTS 国立研究開発法人科学技術復興機構「J-GLOBAL」BMAAの新たな科学:シアノバクテリアは神経変性疾患に関与しているか?, 2021年3月 https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201202250044503100(最終アクセス:2016年06月16日) (文献6) 草間(江口)國子.「天然物に由来する運動神経疾患に関する研究―ニューロラチリズムを中心に―」, pp.1-7, 2018年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/139/4/139_18-00202/_pdf(最終アクセス:2016年06月16日) (文献7) 株式会社エクスメディオ「L-BMAA処理ラットで見られる形態計測および神経化学的変化」Bibgraph(ビブグラフ), 2015年4月22日 https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/26002186?click_by=rel_abst(最終アクセス:2016年06月16日) (文献8) Free Peter E A Ash, et al. (2023) Heavy Metal Neurotoxicants Induce ALS-Linked TDP-43 Pathology. Oxford Academic https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30371865/(最終アクセス:2016年06月16日) (文献9) 紀平 為子.「科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書」『科研費』, pp.1-6, 2013年 https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-22590967/22590967seika.pdf(最終アクセス:2016年06月16日) (文献10) Mercury in Fish, Seafood May Be Linked to Higher Risk of ALS. American Academy of Neurology: Neurology Resources | AAN https://www.aan.com/PressRoom/Home/PressRelease/1522(最終アクセス:2016年06月16日) (文献11) 日本神経摂食嚥下・栄養学会「ALSにおける栄養療法 UP TO DATE(2013/07)」日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会, 2013年 https://www.jsdnnm.com/column/als%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E6%A0%84%E9%A4%8A%E7%99%82%E6%B3%95%E3%80%80up-to-date%EF%BC%88201307%EF%BC%89/?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2016年06月16日) (文献12) 株式会社日本医事新報社「筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する栄養療法について」日本医事新報社, 2024年6月17日 https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_24463(最終アクセス:2016年06月16日) (文献13) 著者名,著者名.「ALS(筋 萎縮性側索硬化症)」『特集:神経筋疾患における入工呼器 治療のリスクマネジメント』, pp.1-3, 2002年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/iryo1946/56/5/56_5_271/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2016年06月16日) (文献14) 兵庫県難病相談センター「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」兵庫県難病相談センター https://agmc.hyogo.jp/nanbyo/ncurable_disease/disease05_shiryo.html(最終アクセス:2016年06月16日) (文献15) 清水 俊夫.「筋萎縮症側索硬化症(ALS)の嚥下障害,栄養障害とその対策*」『特集/シンポジウム18:筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療の最前線–4』, pp.1-5,2023年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/40/4/40_580/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2016年06月16日) (文献16) 小久保康晶ほか.「紀伊半島南部に多発するALSとALS-parkinsonism-dementina complexに関する診療マニュアル」, pp.1-31, 2019年 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdf/als_pdc.pdf(最終アクセス:2016年06月16日) (文献17) 公益財団法人難病医学研究財団「筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)」難病情報センター, 2023年 https://www.nanbyou.or.jp/entry/52(最終アクセス:2016年06月16日)
2025.06.29 -
- 内科疾患
- 内科疾患、その他
「最近、肩こりがひどくてつらい」 「ふくらはぎが重だるくて動きにくい」 これらの一見ありふれた症状は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の初期症状として挙げられます。 ALSはごく軽い身体の違和感から始まることもあり、日常生活でよくある症状のため、見過ごされやすい点が特徴です。 本記事では、ALSについて現役医師が詳しく解説します。 本記事の最後には、ALSに関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは ALS(筋萎縮性側索硬化症)の概要 詳細 ALSの病気の詳細 運動神経が障害されることにより、筋肉が徐々にやせ細り、力が入らなくなる進行性の神経疾患 ALSの初期症状 手足が不自由になる、筋肉の収縮、話しにくい、飲み込みにくさがある、左右どちらかから始まることが多い ALS発症からの余命 発症から3〜4年が一般的、個人差が大きく10年以上生存する例もあり ALSになりやすい人 50~70歳代に多く、男性にやや多い、家族歴がある場合は遺伝性の可能性 ALSの完治の有無 完治は困難、進行を遅らせる薬や症状緩和の治療、生活の質向上をめざす治療が中心 進行しても残る機能 視力・聴力・感覚は保たれる、目や排尿排便の筋肉は初期には障害されにくい 治療薬 リルゾール、エダラボン、トフェルセンなど 支持療法 リハビリテーション、栄養管理、呼吸補助 今後の治療開発 遺伝子治療、再生医療、医療機器開発など研究進行中 (文献1)(文献2) ALSは、運動神経が障害されることで筋肉が萎縮し、動かしにくくなる進行性の神経疾患です。初期症状には手足の使いにくさや筋肉の収縮、話しにくい、飲み込みにくさがあり、左右いずれかから始まることが多いです。 余命は発症から3〜4年が一般的ですが、進行には個人差があり、10年以上生存される方もいます。発症しやすいのは50~70歳代の男性で、家族歴がある場合は遺伝性の可能性も考えられます。 現在、ALSを完治させる治療法はありません。しかし、進行を遅らせる薬やリハビリ、栄養管理、呼吸補助などで生活の質を保つ治療が行われています。今後の治療法の進展が期待されます。 ALSの初期症状 初期症状 詳細 筋萎縮 指先や足先の力が入りにくくなり、日常動作に支障をきたす。徐々に筋肉が痩せてくる 筋肉のびくつき(線維束性収縮) 静止時に筋肉がピクピクと動く。とくに手足に多く、意識しなくても動くのが特徴 筋肉のこわばりや痙攣 関節まわりが固まり、身体が動かしにくくなる。痙攣を伴う場合もある 筋肉の疲れやすさと脱力感 軽い運動でも疲れやすく、動作の途中で力が抜ける感覚がある 肩こりや関節に違和感がある 筋力低下による姿勢の崩れや負担で、肩や関節に違和感や重だるさを覚えることがある ALSの初期症状は、筋力低下や筋萎縮、筋肉のびくつき、こわばりや痙攣、疲労感や脱力感、肩こりや関節の違和感など多岐にわたります。これらは運動神経の障害によって現れ、最初は身体の一部に限局していても、徐々に全身へ広がっていきます。 ALSは進行が止まらない、比較的早く進む神経疾患です。個人差はありますが、複数の症状が同時に現れる場合や進行が早い型も存在します。初期症状が気になる場合は、早めの受診が重要です。 筋力低下と筋萎縮 症状 原因 筋力低下 運動神経細胞の障害による筋肉への命令の伝達不全 筋萎縮 筋肉への刺激減少による使用機会の減少と筋肉量の低下 症状の始まり方 手足などの一部の筋肉から進行する局所発症 進行の特徴 筋力の低下と筋萎縮が広がり、全身の運動機能が次第に障害される特徴 日常生活への影響 細かい作業や歩行困難、生活動作の制限の拡大 (文献3)(文献4) ALSでは、運動をつかさどる神経細胞(運動ニューロン)が障害されることで、筋肉を動かす命令が届かなくなります。そのため、筋肉が使われにくくなり、力が入りにくくなる筋力低下が起こります。 筋肉が十分に刺激を受けない状態が続くことで筋萎縮が生じ、このような症状は手足などの限られた部位から始まり、やがて全身へと広がるのが特徴です。進行に伴い、歩行や食事などの日常動作が難しくなり、生活の質にも大きく影響を与えます。筋力低下と筋萎縮は、ALSの初期から見られる大切なサインです。 筋肉のびくつき(線維束性収縮) 項目 詳細 運動ニューロンの障害 ALSで運動ニューロンが徐々に壊れていき、筋肉に動くための命令が届かなくなる現象 筋力低下の仕組み 運動ニューロンからの信号が途絶え、筋肉が動かせなくなり、物を持つ・歩くなどが困難になる状態 筋萎縮の仕組み 筋肉が使われない状態が続き、筋肉のボリュームが減り、見た目にも細くなる現象 具体的な症状 初期は手や足で力が入りにくい、細かい作業がしづらい、歩きにくいなどが現れる 進行と影響 筋力低下や筋萎縮が全身に広がり、日常生活に大きな影響が及ぶ ALSでは、初期症状として筋肉のびくつき(線維束性収縮)がみられることがあります。これは皮膚の上から確認できるような、小さな筋肉のピクつきや細かな動きです。 原因は筋肉自体の異常ではなく、筋肉を動かす運動神経が障害されることによって起こります。運動ニューロンが壊れ始めると、一部の筋線維が異常に興奮し、自発的に動くようになるのが特徴です。 線維束性収縮は、筋力低下や筋萎縮に先行して現れることがありますが、ストレスや疲労などでも一時的に起こることがあるため、これだけでALSとは限りません。 ALSではこのびくつきが長く続き、次第に筋力低下や萎縮へと進行します。気になる症状がある場合は、早急に医療機関を受診しましょう。 筋肉のこわばりや痙攣 項目 詳細 運動ニューロン障害 上位・下位運動ニューロンの変性による筋肉への信号制御の崩壊 筋肉のこわばり(硬直・痙性) 上位運動ニューロンの抑制信号消失による筋肉の緊張状態の持続 筋肉の痙攣(びくつき・痙性) 下位運動ニューロンの過剰興奮による自発的収縮・ピクつき現象 症状の現れ方 四肢や体幹にこわばりや痙攣が生じ、違和感や動作の困難を伴う場合もある 日常生活への影響 歩行や身体の動きの制限、就寝時の不快感や睡眠障害などの誘発 (文献4) ALSでは、脳や脊髄の上位・下位運動ニューロンが進行性に障害され、筋肉への正常な制御信号が途絶します。筋肉のこわばり(痙性硬直)は、上位運動ニューロンから筋肉への抑制信号が失われることで起こり、筋肉が緊張状態に陥るためです。 一方、痙攣やびくつき(線維束性収縮)は、下位運動ニューロンの異常興奮により、筋線維が意図せず自発的に短時間収縮する現象です。これらは小規模なピクつきから筋痙攣として自覚されることもあります。 こうした症状はALSの初期から四肢や体幹に広がりやすく歩行や動作を困難にし、夜間には痙攣による不快感や睡眠障害を引き起こすこともあります。 こわばり・痙攣は、筋力低下や筋萎縮と並行して進行するALS特有の経過であり、気になる症状がある場合は、早期に医療機関を受診して適切な検査と対策を受けることが重要です。 筋肉の疲労感と脱力感 症状 詳細 筋肉の疲労感 運動神経からの信号が弱まり、筋肉の活動効率が低下し、少しの動作でも疲れやすくなる現象 筋肉の脱力感 筋肉が十分に使われなくなり、力が入りにくくなり、物を持つ・歩くなどの動作が難しくなる状態 筋肉の萎縮や硬直 筋肉が使われないことでやせ細り、硬直も進行し、疲労感や脱力感をさらに強める要因 症状の広がり 初期は身体の一部で始まり、進行とともに全身へ広がる特徴 (文献2) ALSでは、脳や脊髄の運動神経が障害されることで、筋肉に司令がうまく伝わらなくなります。そのため筋肉の活動効率が低下し、日常の動作でもすぐに疲れやすくなるのが筋肉の疲労感の正体です。 筋肉が使われなくなると、力が入りにくくなり、脱力感として自覚されます。さらに、筋肉の萎縮や硬直も進行し、これらの症状を強める要因となります。 ALSの初期症状は体の一部から始まり、進行とともに全身へ広がるのが特徴です。進行スピードには個人差がありますが、症状が止まることなく進行するため、早めの受診と対応が重要です。 肩こりや関節に痛みを感じる ALSの初期には、肩こりや関節の違和感、筋肉痛を感じることがあります。これらの症状は、運動神経の障害によって筋肉や関節に余分な負担がかかることで起こるのが特徴です。 筋力が低下すると、使われなくなった筋肉の代わりに他の筋肉や関節に負担がかかり、その結果、肩こりや違和感が生じます。さらに、筋肉が意図せず動いたり、つったりする痙攣も、不快感の原因です。 筋肉の萎縮が進むと動きがぎこちなくなり、無意識に体の一部に力が入り続けることで、肩や関節への負担が増します。また、筋肉を必要以上に使いすぎたり、逆に動かさなくなることでも痛みが起こることがあります。 これらの症状は、年齢による変化や他の病気と区別がつきにくいため、長く続く場合は早めに医療機関を受診してください。 ALSが発症する原因 原因 詳細 遺伝子異常 一部のALSは遺伝によるもので、特定の遺伝子の変化が神経細胞に影響を与える 酸化ストレス 体内で過剰に発生した活性酸素が神経細胞を傷つけ、機能を低下させると考えられている グルタミン酸毒性 神経伝達物質のグルタミン酸が過剰に働き、神経細胞に負担をかけて壊してしまう ミトコンドリア機能不全 細胞内のエネルギーをつくる働きが弱くなり、神経細胞が生きていく力を失っていく タンパク質の異常な蓄積(凝集) 本来分解されるべきたんぱく質が細胞内に溜まり、神経の働きを妨げる ALSの発症要因は複数あり、現在も研究が進められています。中でも、神経細胞を守る働きが弱まることが重要な要因です。 たとえば、遺伝子の異常、活性酸素による酸化ストレス、神経伝達物質の過剰な作用などが重なり、運動神経が徐々に壊れていきます。さらに、エネルギーをつくるミトコンドリアの機能低下や、異常なたんぱく質の蓄積も神経細胞を障害します。 これらの要因は単独ではなく、複数が同時に進行することが多いため、早期の対応が必要です。症状に気づいた段階で医師に相談することが、進行を遅らせるための第一歩となります。 以下の記事では、ALSの原因になる可能性のある食べ物について詳しく解説しています。 遺伝子異常 ALSの発症には多くの要因が関与しますが、中でも遺伝子異常は明確な原因のひとつです。全体の約5%を占める家族性ALSでは、家族内で複数人が発症し、これまでに30種類以上の原因遺伝子が報告されています。(文献2)(文献5) 代表的な遺伝子には、SOD1、C9orf72、TARDBP、FUSなどがあります。異常なたんぱく質の蓄積や、細胞保護機能の喪失により、運動神経が障害され、筋力低下や筋萎縮といった初期症状が現れるのが特徴です。 家族歴のない孤発性ALSにも、感受性遺伝子や環境要因が複雑に関与していると考えられています。 酸化ストレス 原因 詳細 酸化ストレス 活性酸素やフリーラジカルが過剰になり、運動神経細胞のDNAやタンパク質、脂質などを傷つける SOD1遺伝子異常 SOD1酵素の異常で活性酸素の分解がうまくいかず、酸化ストレスが高まる ミトコンドリア障害 酸化ストレスがミトコンドリアの機能を損ない、神経細胞のエネルギー産生が低下する 環境因子 化学物質や重金属、喫煙・飲酒などの生活習慣も酸化ストレスを増やしALSリスクに関与 (文献2)(文献6) ALSの発症原因として酸化ストレスが挙げられるのは、活性酸素などの有害な物質が運動神経細胞を傷つけ、DNAやたんぱく質、脂質に障害を与えるためです。 とくにSOD1遺伝子に異常があると、活性酸素を分解する酵素の働きが低下し、酸化ストレスが強まります。また、酸化ストレスはミトコンドリアの機能を妨げ、神経細胞がエネルギーを十分に作れなくなります。 さらに、化学物質や喫煙などの環境因子も酸化ストレスを高め、ALSの発症や進行に影響を与える原因です。こうした要因が重なり合うことで、筋力低下や筋萎縮などの初期症状が現れます。 グルタミン酸毒性 原因 詳細 グルタミン酸毒性 神経伝達物質グルタミン酸が過剰に働き、運動ニューロンを過剰に刺激し続けることで細胞死を引き起こす現象 興奮性毒性 グルタミン酸の過剰によって運動ニューロン内にカルシウムイオンが大量に流入し、細胞障害や死滅を招く 再取り込み障害 グルタミン酸を回収する機能が低下し、シナプスにグルタミン酸が残りやすくなり神経細胞へのダメージが続く ALSの症状発現 運動ニューロンの死滅が積み重なり、筋力低下や筋萎縮などALSの初期症状が現れる (文献2) ALSの発症要因のひとつに、グルタミン酸毒性があります。神経伝達に重要なグルタミン酸が、ALSでは再取り込み機能の低下によってシナプスに過剰に蓄積し、運動神経細胞を過剰に刺激することで障害を引き起こします。こうした仕組みが、ALSの発症に関わる要因です。 その結果、運動ニューロンが過剰に興奮し、細胞内にカルシウムイオンが大量に流入して神経細胞が死滅します。この神経障害が進行することで、筋力低下や筋萎縮などの初期症状が現れます。 ミトコンドリア機能不全 原因 詳細 エネルギー産生の低下 ミトコンドリア機能が低下すると神経細胞のエネルギー(ATP)不足が起き、運動神経細胞が弱まる 活性酸素種(酸化ストレス)の増加 ミトコンドリア障害で活性酸素が増え、細胞内のDNAやタンパク質、脂質が損傷しやすくなる 異常タンパク質の蓄積・除去障害 ALS関連遺伝子異常でミトコンドリア内に異常タンパク質が蓄積し、機能がさらに悪化する カルシウムイオン調節異常 ミトコンドリア機能不全でカルシウム調節が乱れ、神経細胞に有害な影響が及ぶ (文献2)(文献7) ミトコンドリア機能不全では、神経細胞に必要なエネルギーの産生が低下し、細胞の機能が著しく低下します。さらに、障害を受けたミトコンドリアでは活性酸素が増加し、たんぱく質やDNAが傷つきやすくなります。 ALSでは、異常なたんぱく質がミトコンドリアに蓄積しやすく、傷んだミトコンドリアが適切に除去されずにいると細胞への負担がさらに大きくなります。 また、ミトコンドリアはカルシウム濃度の調節にも関わっており、機能が乱れると神経細胞の働きが崩れ、その結果、筋力低下や筋萎縮といった初期症状が現れます。 タンパク質の異常な蓄積(凝集) 原因・現象 詳細 神経細胞の機能障害 異常なたんぱく質が細胞内に溜まり、本来の働きを妨げる状態 細胞死の誘発 凝集体が細胞内のバランスを崩し、神経細胞がストレスを受けて死滅しやすくなる状態 TDP-43の異常移動 通常は細胞核にあるTDP-43が細胞質に漏れ出て凝集し、神経細胞を障害する状態 (文献8) 本来、細胞内のたんぱく質は決まった形と役割を保っていますが、異常なたんぱく質が蓄積すると、神経細胞の働きが妨げられます。ALSでは、TDP-43というたんぱく質が本来あるべき細胞核から細胞質に移動し、異常な凝集体を作ることが多くの患者で確認されています。(文献8) 細胞内のバランス(プロテオスタシス)が崩れることで、神経細胞全体の機能も維持できなくなり、こうした変化が進行すると、筋力低下や筋萎縮といったALSの初期症状が現れるため、定期的な診察が不可欠です。 ALSの治療法(進行の抑え方) 治療法 詳細 注意点 薬物療法 リルゾールやエダラボンなどが進行を遅らせる目的で使用される 根本的な治療ではなく、効果に個人差がある 対症療法 呼吸補助、栄養管理、筋肉のこわばりや不安への対処 症状に応じた調整が必要で、定期的な評価が求められる 手術療法 PEG(胃ろう)や気管切開など、摂食や呼吸機能を補助する目的の処置 タイミングや本人の意思を尊重し、生活の質とのバランスを考慮する必要がある 再生医療 幹細胞治療は、手術や薬物療法に比べて副作用などのリスクが少ないとされている 一部の医療機関で実施されており、検証段階 現在の医学では、ALSを根本的に治す治療法は確立されていません。 治療法はあくまでも完治ではなく、進行を遅らせたり症状を緩和したりすることで、生活の質を保つことを目的としています。治療法は症状に応じて選択され、医師と相談の上で実施されます。 薬物療法 項目 内容 有効な理由 病態(グルタミン酸毒性・酸化ストレス)に直接作用し、進行を抑制する効果 主な薬剤 リルゾール、エダラボン、高用量メコバラミン 対応のポイント 診断後はできるだけ早期に開始し、対症療法と組み合わせて実施 (文献2)(文献9)(文献10) ALSは進行性の病気ですが、薬物療法によって進行を遅らせることが可能です。主にグルタミン酸毒性や酸化ストレスといった神経細胞を傷つける仕組みに働きかける薬剤が使われます。 リルゾールやエダラボンは、ALSの進行抑制や生存期間の延長に有効とされています。高用量メコバラミンも、早期かつ軽症の患者に効果がある薬剤です。 これらの薬は、呼吸補助や栄養管理、リハビリなどの対症療法と併用することが重要です。治療の効果を高めるためには、診断後できるだけ早い段階での開始が推奨されます。 対症療法 症状 対応方法 呼吸障害 非侵襲的換気療法(NIV)、人工呼吸器の使用による呼吸の補助 嚥下障害・栄養障害 胃瘻(いろう)による経管栄養、体重減少の予防と予後の改善 身体の違和感・筋肉のつっぱり(痙縮) 筋弛緩薬、漢方薬(芍薬甘草湯)、理学療法やマッサージによる緩和 よだれ・むせ込み 抗コリン薬、三環系抗うつ薬、吸引装置、必要に応じた喉頭摘出術の検討 不眠・精神的な不調 睡眠導入薬、抗うつ薬、カウンセリング、呼吸補助療法による根本対応 情動の不安定さ・認知症状 三環系抗うつ薬、SSRI、非薬物療法の活用、社会参加支援や生活の質の維持 ALSの対症療法は、ただ延命を目指すだけでなく、日々の苦痛を軽減し、生活の質(QOL)を保つための重要な治療です。 ALSでは、呼吸困難や嚥下障害、筋肉のこわばり、精神的な不調など、症状が人によって異なります。それぞれの症状に応じた対処が重要で、呼吸補助にはNIVや人工呼吸器、嚥下障害には胃瘻による栄養管理が行われます。 筋肉のこわばりには薬や理学療法、精神的な症状には薬物療法やカウンセリングが効果的です。多方面からの支援を組み合わせることで、患者自身が少しでも不自由のない生活を続けられるようサポートします。 手術療法 手術療法 詳細 気管切開・人工呼吸器装着 呼吸筋の低下に対応し、呼吸不全や窒息のリスクを回避する処置 胃瘻(いろう)造設術 嚥下障害により経口摂取が難しくなった際の栄養補給の手段 合併症への外科的対応 がんなどの他疾患を合併した際に実施される手術(例:がん切除、腹腔鏡手術など) (文献11)(文献12) ALSは根本的に完治する手術はありませんが、病状に応じた手術療法は生活の質(QOL)を保つ上で重要です。呼吸が苦しくなった場合は気管切開や人工呼吸器で呼吸を補助し、嚥下が難しくなった場合は胃瘻を造設し、栄養補給を補助します。 また、がんなど他の病気を併発した際には全身状態や希望に応じて外科的治療も検討され、必要に応じて適切な時期に実施されます。手術後は多職種によるケアやリハビリが不可欠です。 再生医療 取り組み内容 詳細 神経細胞の再生 iPS細胞や幹細胞を用いた新たな神経細胞の作製と機能回復の試み 病態モデルの構築 患者由来のiPS細胞を使ったALSの病態再現とメカニズム解明 創薬の促進 iPS細胞モデルによる新薬開発や既存薬の効果検証(ドラッグリポジショニング) 個別化医療の実現 患者自身の細胞を使った治療により、免疫拒絶の回避と比較的低リスクな治療の提供 幹細胞を使った治療法 乳歯や骨髄由来の幹細胞による神経保護や炎症抑制の試み (文献13) ALSの新たな治療法として、神経の働きを回復させる再生医療が注目されています。自身の細胞から作ったiPS細胞や幹細胞を使い、傷ついた神経を修復したり、病気の進行を遅らせたりすることを目指しています。 最近では、患者の細胞をもとに病気の特徴を再現し、個別化された治療薬を探す研究も進行中です。幹細胞には、神経を守ったり体内の炎症をおさえる効果も期待されています。再生医療による治療はまだ研究段階にありますが、ALSの進行を抑える有力な手段になると期待されています。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 ALSの初期症状が疑われたら早めの受診を ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、肩こりや筋肉のびくつき、手足の脱力感など、日常でもよくある症状から始まることがあります。 とくに、腕や足が動かしにくい、階段の上り下りがしづらい、言葉が話しにくい、食べ物が飲み込みにくいといった症状が続く場合は早急に医療機関を受診しましょう。 ALSの初期症状でお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。 当院では、ALSに関する些細なお悩みにも真剣に耳を傾け、丁寧にアドバイスさせていただきます。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 ALSの初期症状に関するよくある質問 ALSの初期症状がある場合はどの診療科を受診すれば良いですか? ALSが疑われる場合は、脳神経内科の受診が基本です。手足の筋力低下や筋肉の収縮、話しにくさ、飲み込みにくさなどの症状が1か月以上続く場合は、早急に検査と診断を受ける必要があります。 初期症状によっては整形外科や耳鼻咽喉科を先に受診することもありますが、ALSの確定診断には脳神経内科での評価が必要です。症状が改善しない、または他の診療科で原因がはっきりしない場合は、迷わず脳神経内科を受診してください。 ALS診断後の気分の変化は病気の影響ですか? ALSと診断された後に気分が落ち込んだり不安を感じたりするのは、病気そのものと心理的ショックの両面が関係しています。 一部の患者では、感情のコントロールや性格に変化をきたす前頭側頭型認知症(FTD)を伴うことがあり、無気力や感情の起伏、こだわりが強くなるといった症状が見られます。また、ALSは進行性の難病のため、診断を受けたショックや将来への不安から、抑うつ状態になる方も少なくありません。 こうした精神的な変化に対しては、早めに医師や専門スタッフへ相談し、必要に応じて精神科医やカウンセラーの支援を受けることが大切です。適切なサポートを受けることで、気持ちが少しずつ整い、生活の質を保つことが期待できます。 ALSと診断後の将来不安への対処法を教えてください ALSと診断された後の将来への不安には、いくつかの対処法があります。まずは、症状の変化について相談できる環境を整えることが重要です。また、ALSへの理解を深めることで、不安を軽減する助けになります。 専門のカウンセラーによる心理的サポートも有効で、感情の整理やストレスの緩和につながるでしょう。家族や友人、患者会とのつながりを持つことで、孤独を感じにくくなります。こうした支えを活用しながら、ひとりで抱え込まずに過ごすことが大切です。 当院「リペアセルクリニック」は、症状への不安で押しつぶされそうなときも、患者様に寄り添い、少しでも前向きな日々を送れるよう、サポートいたします。不安をひとりで抱え込まず、ご相談ください。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にご連絡ください。 ALSと診断されましたが支援制度や保険制度は利用できますか? ALSと診断された場合、さまざまな公的支援や保険制度を利用できます。以下の内容がALSで利用できる主な支援制度です。 制度名 内容 指定難病医療費助成制度 治療費の自己負担を軽減(所得に応じて上限あり) 身体障害者手帳 医療費助成、福祉サービス、税の減免、交通機関の割引など 障害者福祉サービス 介護・生活支援、補装具の給付、訪問介護などのサービスが利用可能 介護保険 40歳以上のALS患者は介護保険サービスの利用が可能(特定疾病として対象) 各支援は自己申請が必要なため、医療機関や保健所、市区町村の福祉窓口に早めに相談し、手続きを進めましょう。 参考資料 (文献1) 日本神経学会事務局「神経内科の主な病気」一般社団法人 日本神経学会 https://www.neurology-jp.org/index.html(最終アクセス:2025年06月15日) (文献2) 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター「筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)」難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/52?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月15日) (文献3) 兵庫県難病相談センター「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」兵庫県難病相談センター https://agmc.hyogo.jp/nanbyo/ncurable_disease/disease05.html(最終アクセス:2025年06月15日) (文献4) 公益財団法人長寿科学振興財団「筋萎縮性側索硬化症(ALS)の症状」健康長寿ネット,2019年2月7日 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/als/genin.html(最終アクセス:2025年06月15日) (文献5) QLife「筋萎縮性側索硬化症」遺伝性疾患プラス, 2020年5月1日 https://genetics.qlife.jp/(最終アクセス:2025年06月15日) (文献6) 株式会社メディカルノート「筋萎縮性側索硬化症」MedicalNote https://medicalnote.jp/diseases/%E7%AD%8B%E8%90%8E%E7%B8%AE%E6%80%A7%E5%81%B4%E7%B4%A2%E7%A1%AC%E5%8C%96%E7%97%87(最終アクセス:2025年06月15日) (文献7) 鈴木陽一.「ADSに対する生活支援機器筋萎縮性索硬化症の疾患の特徴」『日本義肢装具学会誌』, pp.1-7, 2023年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo/39/4/39_272/_pdf/-char/en(最終アクセス:2025年06月15日) (文献8) 「ALS/FTD の原因となる凝集体形成機構を解明 ~神経細胞の毒となるタンパク質凝集を抑制する薬剤などの研究発展に期待~」『北海道大学』, pp.1-5,2024年 https://www.amed.go.jp/news/seika/files/000129135.pdf(最終アクセス:2025年06月15日) (文献9) 阿部 康二.「ALS の臨床,病態と治療」『認定医-指導医のためのレビュー・オピニオン』, pp.1-8, 2012年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/26/3/26_270/_pdf(最終アクセス:2025年06月15日) (文献10) 祖父江 元.「ラジカットによる筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療を受けられる患者さんとご家族の方へ」『田辺三菱製薬』, pp.1-16 https://www.pmda.go.jp/RMP/www/400315/6eba6676-657f-43cb-a9ad-b00dd4a8b6e6/400315_1190401A1023_03_002RMPm.pdf(最終アクセス:2025年06月15日) (文献11) 牛久保美津子ほか.「国内における過去12年間の筋萎縮性側索硬化症とがんの併存症例報告の検討」『がんと ALS の併存症例報告の文献検討』, pp.1-7,2022年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kmj/72/4/72_407/_pdf(最終アクセス:2025年06月15日) (文献12) 国立研究開発法人科学技術振興機構 [JST「日本臨床麻酔学会誌」J-STAGE, 2015年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/35/7/35_711/_article/-char/ja/(最終アクセス:2025年06月15日) (文献13) 国立研究開発法人日本医療研究開発機構「iPS細胞を用いて筋萎縮性側索硬化症の新規病態を発見―早期治療標的への応用に期待―」AMED: 国立研究開発法人日本医療研究開発機構, 2019年7月2日 https://www.amed.go.jp/news/release_20190702-01.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月15日)
2025.06.29 -
- 内科疾患
- 内科疾患、その他
「最近、疲れやすくなった気がする」 「筋肉のこわばりを感じる」 筋ジストロフィーは難病指定されており、一般的には子どもに多い疾患ですが、大人になってから発症するケースもあります。放置すれば徐々に日常生活に支障をきたす恐れもある重大な疾患です。 本記事では、大人になってから発症する筋ジストロフィーについて医師が詳しく解説します。 大人になってから発症する筋ジストロフィーの前兆 大人になってから発症する筋ジストロフィーの原因 大人になってから発症する筋ジストロフィーの治療法(進行の抑え方) 筋ジストロフィーは難病指定されており、完治が難しい疾患ですが、早期発見と適切な治療の継続で、進行を抑制できる疾患です。本記事の最後には、大人になってから発症する筋ジストロフィーに関する質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 筋ジストロフィーにおける「大人になってからの発症」について 筋ジストロフィーは子どもに多い病気と思われがちですが、大人になってから症状が現れる遅発性タイプも存在します。中でも筋強直性ジストロフィー(筋緊張性ジストロフィー)は、成人期に最も多く見られるタイプで、軽い筋力低下や筋肉のこわばり(ミオトニア)が年齢とともに進行して発症に気づくケースが多くあります。 発症後の平均寿命は約55歳とされ、ここ20年で大きな改善はみられていません。(文献1) 呼吸不全や心臓の伝導障害などが主な合併症となるため、早期からの適切な管理が重要となります。高齢で発症する場合は、筋力低下などの症状が目立たず、白内障や糖尿病といった合併症が先に現れることもあり、診断が遅れることがあります。 進行のスピードには個人差があり、緩やかに進行する例が多い一方で、合併症によって急激に悪化するケースもあります。定期的な経過観察と医師による適切な対応が不可欠です。 大人になってから発症する筋ジストロフィーの前兆 前兆 詳細 見分けるポイント 筋力低下や筋肉のこわばり(ミオトニア) 手足や首の筋肉が弱くなり、動かしづらくなる。強く握った手がすぐに開かないこともある 階段の上り下りや立ち上がりがつらい、手足に力が入りにくい 多臓器への影響 心臓・呼吸・内分泌など筋肉以外の臓器にも症状が現れる 息切れ、不整脈、白内障、糖尿病、認知機能の低下などがみられる 外見上の変化 前頭部の脱毛→まぶたが下がる→筋肉の萎縮 顔や体つきの変化を家族や周囲から指摘される、鏡で気づくことが多い 疲労感が抜けにくくなる 少し動いただけでも強い疲れやだるさが残り、休んでも回復しない 日常生活で疲れやすくなり、休んでも疲労感が抜けない 大人になってから発症する筋ジストロフィーでは、いくつか特徴的な前兆が見られます。主な症状は、手足や首の筋力低下や筋肉のこわばり(ミオトニア)で、階段の上り下りや立ち上がりが難しくなるなどの異変が起こります。 また、心臓や呼吸器、内分泌など多臓器に影響が及び、息切れ、不整脈、白内障、糖尿病、認知機能の低下などの合併症が現れることもあります。 さらに、顔や手足の筋肉が萎縮する、まぶたが下がる、前頭部の脱毛といった外見の変化や、少しの動作でも強い疲労感が残り、休んでも回復しないといった症状も特徴です。これらの症状が続く場合は、早急に医療機関を受診してください。 以下の記事では、筋ジストロフィーの初期症状について詳しく解説しています。 筋力低下や筋肉のこわばり(ミオトニア) 前兆 詳細 日常生活での気づき方 筋力低下 手足や首などの筋力が低下し、動作が困難になる傾向 ペットボトルのふたが開けにくい、細かい作業がしづらい、階段の昇り降りが大変、つまずきやすい、転びやすい、じっと立っているのがつらい、首が疲れやすい 筋肉のこわばり(ミオトニア) 筋肉を動かした後に力が抜けにくく、こわばりや硬さが残る現象 強く手を握った後すぐに手を開けない、寒い朝に手足がこわばる、固いものが噛みにくい、運動後に筋肉が硬く感じる、手足を動かした後に力が抜けない (文献2)(文献3) 手足や首の筋肉が徐々に弱くなり、力が入りにくくなるのが特徴です。とくにミオトニアと呼ばれる現象では、手を強く握った後にすぐに開けなくなるなど、筋肉がこわばり動作の遅れが生じます。 こうした症状は日常の細かな動作で気づくことが多く、進行すると転倒や物が持ちにくくなるなどの問題が現れます。軽い症状でも進行性の可能性があるため、気になる違和感がある場合は早期受診が必要です。 多臓器への影響 臓器・系統 前兆・症状例 注意点・見分けるポイント 心臓 不整脈、心不全、動悸、息切れ、めまい 定期的な心電図・心エコー検査、突然死リスク 呼吸器 呼吸筋の弱化、睡眠時無呼吸、日中の過眠 呼吸機能低下、呼吸不全、肺炎リスク、早期の呼吸機能評価 消化器 便秘、下痢、胃食道逆流、嚥下障害 誤嚥性肺炎リスク、食後すぐ横にならない、食事姿勢の工夫 内分泌・代謝 耐糖能異常、糖尿病、高脂血症、脂肪肝、肥満 血糖・脂質検査、食事管理 中枢神経 認知機能低下、性格変化、日中の過眠 周囲の観察と支援、本人の自覚が乏しいことに注意 眼・耳 白内障、眼瞼下垂、難聴 視力・聴力低下時は早めに眼科・耳鼻科受診 生殖機能 不妊症、月経異常 生殖に関する相談は医療機関へ (文献1)(文献4) 筋ジストロフィーは筋肉だけでなく、心臓や呼吸器、消化器、内分泌、中枢神経、眼や耳、生殖機能など全身のさまざまな臓器に影響を及ぼす病気です。初期の症状は動悸や息切れ、便秘や下痢、認知機能の低下、視力や聴力の変化など、加齢や他の病気と間違われやすいものが多く見られます。 これらの症状が複数重なる場合や、徐々に進行する場合は、早急に医師へ相談しましょう。定期的な検査や医師のサポートを受けることで、症状の進行を抑え、生活の質を維持できる可能性があります。気になる症状がある方は、遠慮せず医療機関を受診しましょう。 外見上の変化 外見上の変化 具体的な症状例 日常生活での気づき方 顔つきの変化 額の生え際の後退(前頭部禿頭)、まぶたの下がり(眼瞼下垂)、顔下半分の筋肉のやせ、表情の乏しさ 顔がやせてきた、まぶたが重い、表情が乏しいと指摘される 目や口の動きの変化 目を強く閉じてもまつげが隠れない、白目が見える(閉眼困難)、口笛が吹けない、口から物がこぼれる 鏡での違和感、口周りの動作がしづらい 体型や姿勢の変化 肩や腕、太ももの筋肉のやせ、背骨の曲がり(脊柱変形)、姿勢が悪くなる 身体のバランスが崩れやすい、姿勢の変化を家族に指摘される その他のサイン 顔や体の筋肉のやせ、まぶたの下がり、表情の乏しさが加齢以外で進行 鏡での変化や周囲からの指摘はサインとなる (文献1)(文献5) 筋ジストロフィーでは筋肉の萎縮や仮性肥大が起こり、外見にも変化が現れることがあります。ふくらはぎが太く見える、肩や背中の筋肉が痩せて姿勢が変わるといった特徴は、進行のサインの可能性もあります。 こうした体型の変化は加齢によるものと混同されがちですが、筋疾患の可能性も視野に入れることが大切です。日常生活で違和感を感じたり、人から指摘されたりした場合は、手遅れになる前に医療機関を受診しましょう。 疲労感が抜けにくくなる 主な原因 内容 睡眠障害と日中の過眠 睡眠時無呼吸症候群、呼吸調節障害による熟眠感の低下と日中の強い眠気 呼吸機能の低下と低酸素血症 呼吸筋の弱化による酸素不足と日常動作での著しい疲労感 中枢神経の障害 認知機能の低下、抑うつ傾向、意欲低下による精神的な倦怠感 内分泌・代謝異常 耐糖能異常や甲状腺機能低下によるエネルギー代謝の低下と慢性疲労 疲労感が前兆となる理由 明確な筋症状よりも先行して現れる、なんとなく疲れやすい、休んでも回復しない自覚症状 (文献2) 筋ジストロフィーでは、運動後の疲れが取れにくい、日中に強い倦怠感が続くといった慢性的な疲労感が初期症状として現れることがあります。これは、筋肉の再生能力が低下し、日常の動作でも体に負担が蓄積しやすくなるためです。 さらに、睡眠障害や過度な日中の眠気(過眠)、呼吸機能の低下による低酸素血症、中枢神経系の障害、内分泌・代謝異常など、複数の要因が重なることで疲労感はより強くなります。 これらの疲労感は、筋力低下や筋肉のこわばりといった明らかな症状よりも先に現れることもあります。疲労感が長く続く場合は、早期受診で評価を受けましょう。症状の進行を抑制し、生活の質の担保に繋がります。 大人になってから発症する筋ジストロフィーの原因 原因 詳細 遺伝子の異常(遺伝子変異) 親から受け継いだ遺伝子や体内で生じた異常により、筋肉の正常な働きが損なわれる DNA配列の異常な繰り返し(リピート伸長) 遺伝子の特定部分(例:CTG配列)が異常に繰り返されることで発症。筋強直性ジストロフィーに多い 突然変異による発症 家族歴がなくても、遺伝子に新たな変異が起きて発症する場合がある 筋ジストロフィーの発症には、遺伝子の異常が深く関与しています。大人になってから発症する場合でも、多くは遺伝的な要因や突然変異が原因です。家族歴がなくても発症することがあり、診断には遺伝子検査が重要な役割を果たします。 遺伝子の異常(遺伝子変異) 筋ジストロフィーは遺伝性の疾患であり、遺伝の形式には常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖性遺伝などがあり、病型によって異なるのが特徴です。筋強直性ジストロフィーは常染色体優性遺伝形式で、親のどちらかが変異遺伝子を持っている場合、子どもに50%の確率で遺伝します。 また、親に遺伝子異常がなくても、精子や卵子の形成時、あるいは受精後の細胞分裂中に突然変異が起こり、新たに発症するケースも少なくありません。 筋ジストロフィーでは、筋肉の構造や機能を支えるタンパク質を作る遺伝子に変異が生じることで、筋細胞が壊れやすくなり、筋力低下や多臓器障害が進行します。筋強直性ジストロフィーでは特定の遺伝子配列が異常に繰り返されるリピート拡大が原因となり、筋肉だけでなく心臓や内分泌系など全身に影響が及びます。 遺伝子異常による症状は、早期の診断と適切な管理が極めて重要であり、医師の診察を受けることが推奨されます。 DNA配列の異常な繰り返し(リピート伸長) 項目 内容 原因 DNA配列の異常な繰り返し(リピート伸長) 具体例 筋強直性ジストロフィーではDMPK遺伝子内のCTGリピートが数百~数千回に伸長 病気発症の仕組み CTGリピートの伸長でDMPK遺伝子の働きが乱れ、異常なRNAが細胞内に蓄積。他のタンパク質と結合し核内に閉じ込める 症状の多様性 筋肉だけでなく心臓、脳、内分泌など多臓器に症状が現れる 世代間の特徴 世代を重ねるごとにリピートがさらに伸長し、子や孫でより重症化する傾向(表現促進現象) 年齢とともに進行する可能性 リピート伸長は年齢とともに進行し、中年以降で症状が現れることもある (文献6)(文献7) 大人で発症する筋ジストロフィーの中でも、筋強直性ジストロフィーは、DNAの一部にあるCTG配列が異常に繰り返されること(リピート伸長)が原因です。 本来は数回程度の繰り返しであるはずの配列が、数百〜数千回にも増えることで遺伝子の働きが乱れます。その結果、異常なRNAが細胞にたまり、他の重要なタンパク質の働きも妨げられ、筋肉や心臓、脳など複数の臓器に障害が起こります。 この異常は世代を重ねるごとに増加し、子や孫の世代でより重症化することがあり、年齢とともに進行する可能性もあるため、早期に遺伝子検査を受けて適切な管理を行うことが重要です。 突然変異による発症 筋ジストロフィーは遺伝性の病気ですが、家族に同じ病気の人がいなくても発症するケースがあります。これは、突然変異によるもので、体内で偶然、遺伝子に異常が生じることが原因です。 突然変異は、精子や卵子がつくられる過程や、受精後の細胞分裂の際に、遺伝子のコピーにミスが起こることで発生します。また、化学物質や紫外線、ウイルスなど、外部からの影響で遺伝子が傷つくこともあります。 筋ジストロフィーの原因となるジストロフィン遺伝子は非常に大きく、とくに変異が起こりやすい遺伝子のひとつです。実際、デュシェンヌ型筋ジストロフィーでは約4割が突然変異による発症とされており、他のタイプでも家族歴のない発症が多く見られます。(文献8) このように、遺伝的な背景がなくても発症する可能性は十分にあるため、気になる症状があれば専門医への相談が重要です。 大人になってから発症する筋ジストロフィーの治療法(進行の抑え方) 治療法 詳細 注意点 保存療法(対症療法) リハビリや理学療法、呼吸管理、栄養管理、生活指導などで症状の進行を遅らせ、生活の質を保つ 根本的な治療ではなく、症状の緩和や進行抑制が目的。定期的な評価と多職種連携が重要 薬物療法 ステロイドや心不全・不整脈治療薬、抗菌薬(例:エリスロマイシン)、エクソンスキップ薬などの投与 副作用や適応の確認が必要。新薬や治験薬は医師の指導のもと使用する。個々の症状に応じた選択が必要 手術療法 呼吸補助のための気管切開、関節拘縮や側弯症に対する整形外科的手術など 手術の適応や時期は慎重な判断が必要。全身状態やリスクを十分に評価 再生医療 幹細胞治療や遺伝子治療 適応条件を医師と相談する 現在の医学では、筋ジストロフィーを根本から完治する治療法はありません。筋ジストロフィーの治療は、完治ではなく、進行を遅らせて生活の質を保つことが目的です。 リハビリや呼吸・栄養管理などの保存療法を中心に、必要に応じて薬物療法(ステロイドや心不全治療薬など)や手術が行われます。治療は、症状に応じた多角的なケアが大切です。副作用や適応には注意し、治療は医師や専門スタッフと連携しながら進めていきます。 保存療法(対症療法) 治療法 詳細 注意点 身体機能の維持と拘縮予防 リハビリテーション、ストレッチ、関節可動域訓練、装具の使用、姿勢保持訓練 無理のない範囲で継続、専門家の指導が必要 合併症の管理と予防 呼吸リハビリ、人工呼吸器の使用、心臓検査・薬物、嚥下訓練、栄養管理、骨折予防 定期的な検査と早期対応、合併症のサインに注意 生活の質の維持と精神的支援 福祉サービスの利用、住宅改修、自助具の活用、就労・教育支援、カウンセリング、患者会参加 社会的サポートの活用、心のケアも大切 (文献8)(文献9) 筋ジストロフィーは、根本的な治療法はまだありませんが、保存療法(対症療法)によって進行を緩やかにし、生活の質を維持することが大切です。 リハビリや装具の活用で身体機能を保ち、呼吸や心臓、栄養などの合併症を予防・管理します。また、福祉サービスやカウンセリングなど社会的・精神的なサポートも重要です。患者の状態に合わせて、医療スタッフやご家族と協力しながらケアを続けることが、日常生活をしっかり送るためのポイントです。 薬物療法 薬剤・治療法 効果 ポイント ステロイド薬 筋肉の炎症や壊れやすさの軽減、筋力低下の進行抑制、歩行期間や呼吸機能の維持 筋肉のダメージを抑え、自立した生活期間を延長 新規治療薬(エクソンスキッピング薬、ビルトラルセン) ジストロフィン産生促進、運動機能低下の抑制、一部の遺伝子型に有効 遺伝子異常に応じた治療 エリスロマイシン(筋強直性ジストロフィー) 遺伝子のスプライシング異常の改善、筋障害指標(CK値)の低下、病気進行の抑制 病気の本態に直接作用し、進行抑制や症状改善が期待 (文献8)(文献10) デュシェンヌ型などでは、ステロイド薬が病気の進行を抑える目的で使用されます。心機能や呼吸機能の低下に対しては、心不全治療薬や気管支拡張薬などを症状に応じて併用します。 薬の効果と副作用を確認するために、定期的な診察と検査が欠かせません。体調の変化や副作用が疑われる場合は、早めに医師へ相談することが大切です。 手術療法 手術療法の種類 詳細・目的 注意点・ポイント 脊柱側弯症の矯正手術 背骨の曲がりをまっすぐに矯正し、座位の安定や呼吸機能の悪化を防ぐ 麻酔や手術リスクが高いため、全身状態や適切な時期の判断が重要 関節拘縮・変形に対する手術 固まった関節の可動域を回復し、装具や車椅子の利用をしやすくする 身体への負担が大きいため、慎重な適応判断が必要 嚥下障害に対する手術 胃ろう造設術などで十分な栄養摂取を可能にする 栄養状態や感染予防への配慮が必要 眼瞼下垂に対する手術 まぶたを上げて視界を確保し、日常生活の不便を軽減 術後の経過観察が必要 (文献11) 手術療法は、筋ジストロフィーによる重度の変形や機能障害を改善し、呼吸機能や日常生活の質を守るために有効です。たとえば、背骨の曲がり(脊柱側弯症)を矯正する手術は座りやすさや呼吸機能の維持に役立ち、関節の拘縮解除術は装具や車椅子の利用をしやすくします。 また、飲み込みが難しい場合の胃ろう造設術や、まぶたが下がる場合の眼瞼下垂手術も生活の質向上に貢献します。ただし、筋ジストロフィー患者は麻酔や手術後の合併症リスクが高いため、十分な全身管理と医師による慎重な判断が必要です。 再生医療 特徴 詳細・具体例 注意点・課題 筋肉の再生促進 幹細胞や筋前駆細胞の移植による筋肉の修復・再生 移植細胞の生着率向上が課題 遺伝子の修復 iPS細胞を使い、遺伝子異常を修復後に筋肉細胞へ分化・移植 腫瘍化リスクへの対策が必要 免疫系の調整 幹細胞による炎症抑制や免疫反応の調整 長期的な効果や副作用の検証が必要 具体的な治療アプローチ 筋前駆細胞移植、iPS細胞治療、メソアンジオブラスト(MABs)療法など 現在は臨床試験・研究段階 (文献12) 再生医療は、大人の筋ジストロフィーに対する新たな治療法として注目されています。幹細胞やiPS細胞を使って、筋肉の修復や遺伝子異常の改善を目指し、筋力低下や炎症による損傷の進行を抑える効果が期待されています。 ただし、現時点では実施している医療機関が限られているため、対応可能な医療機関で適応を含め医師への相談が必要です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 大人になってからの筋ジストロフィーは進行の抑制がカギ 現在の医学では、筋ジストロフィーに対する根本的な治療法はありません。しかし、早期の対応によって進行を遅らせることが可能です。 運動や栄養、生活動作を見直し、医師の指導のもとでケアを継続することで、生活の質を維持しやすくなります。症状が軽いうちから診断とサポートを受けることが、今後の選択肢を広げる第一歩となります。 筋ジストロフィーの症状に関するお悩みは、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、筋ジストロフィーに関するご相談に丁寧に対応し、必要に応じて再生医療も選択肢のひとつとしてご案内しています。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 大人になってからの筋ジストロフィーに関するよくある質問 筋ジストロフィーは仕事や生活に影響しますか? 筋ジストロフィーは進行性の病気であり、症状に応じた生活の工夫や支援が必要になります。 定期的な診察やリハビリ、福祉用具の活用などにより、変化に応じた改善を目指していく必要があります。不安や疑問があるときは、一人で悩まず、専門の医療機関や支援団体に相談しましょう。 筋ジストロフィーの影響によるうつ病や不安障害のリスクはありますか? 筋ジストロフィーは進行性の病気であるため、将来への不安や喪失感から、うつ病や不安障害を発症するリスクがあります。 精神的な負担が長期化しやすいため、身体面だけでなく心のケアも重要です。必要に応じて心理的評価やカウンセリングを行い、早期の対応が望まれます。 また、日本筋ジストロフィー協会などの支援団体を活用することで、同じ立場の方との交流や相談が精神的な支えになります。気になる症状がある方は早めの相談が大切です。(文献13) 症状の進行が怖くて毎日不安で仕方ありません 不安を感じるのは自然なことです。大切なのは、一人で抱え込まず、信頼できる医療機関や支援機関に相談することです。筋ジストロフィーの進行には個人差があり、正しい情報と適切な支援を受けることで、不安は少しずつ和らいでいきます。不安を感じたときこそ、相談を始める大切なタイミングです。 日本筋ジストロフィー協会では、同じ病気を経験した方との交流や、専門家による心理サポートを受けられます。ピアカウンセリングや相談窓口を活用することで、気持ちを整理し、前向きに過ごすための支えとなります。(文献13) リペアセルクリニックでも、症状に対する不安や心配事について丁寧にご相談をお受けしています。ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。 筋ジストロフィーの患者が受けられる支援制度にはどんなものがありますか? 筋ジストロフィーは指定難病に該当し、医療費助成を受けられる場合があります。また、障害者手帳の取得によって、通院支援、就労支援、介護サービス、住宅改修助成など幅広い制度が利用可能です。地域の保健所や福祉窓口に相談することで、必要な支援につながる情報が得られます。 参考資料 (文献1) 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター「筋疾患分野|筋強直性ジストロフィー(筋緊張性ジストロフィー)(平成22年度)」難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/718(最終アクセス:2025年06月14日) (文献2) 筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究班「筋強直性ジストロフィー」MD Clinical Station https://mdcst.jp/md/dm/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献3) 筋強直性ジストロフィー患者会「この病気とは」筋強直性ジストロフィー患者会 https://dm-family.net/whatsdm/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献4) 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費筋ジストロフィー臨床研究班「DM 筋強直性ジストロフィー」神経筋疾患ポータルサイト https://nmdportal.ncnp.go.jp/information/dm.html(最終アクセス:2025年06月14日) (文献5) 筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究班「顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー」MD Clinical Station https://mdcst.jp/md/fshd/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献6) 石垣景子.「筋強直性ジストロフィーの先天型と遺伝」『筋強直性ジストロフィー』, pp.1-7 2022年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/59/2/59_59.144/_pdf(最終アクセス:2025年06月14日) (文献7) 笹川 昇.「筋強直性ジストロフィーの分子機構解明」『東京大学 大学院総合文化研究科 生命環境科学系』, pp.1-4, 2000年 https://lifesciencedb.jp/houkoku/pdf/001/b096.pdf(最終アクセス:2025年06月14日) (文献8) 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター「筋ジストロフィー(指定難病113)」難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/4522(最終アクセス:2025年06月14日) (文献9) 著者名,著者名.「筋ジストロフィー患者さまのためのストレッチ運動と体幹変形の予防について~関節拘縮と変形予防のための手引き~」『国立病院機構刀根山病院 理学療法 2008_9』, pp.1-17, 2008年 https://toneyama.hosp.go.jp/patient/forpatient/pdf/reha-05.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月14日) (文献10) QLife「筋ジストロフィーとその最新治療、専門医がわかりやすく解説!」遺伝疾患プラス, 2023年10月2日 https://genetics.qlife.jp/interviews/dr-takeda-20231002(最終アクセス:2025年06月14日) (文献11) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「デュシェンヌ型筋ジストロフィーとベッカー型筋ジストロフィー」MSD マニュアルプロフェッショナル版, 2022年1月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-%E5%B0%8F%E5%85%90%E7%A7%91/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E6%80%A7%E7%AD%8B%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%83%87%E3%83%A5%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%8C%E5%9E%8B%E7%AD%8B%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E3%83%99%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E5%9E%8B%E7%AD%8B%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC(最終アクセス:2025年06月14日) (文献12) 文部科学省「筋ジストロフィーに対する幹細胞移植治療の開発」 https://www.jst.go.jp/saisei-nw/stemcellproject/kobetsu/kadai03-02-01.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月14日) (文献13) 一般社団法人日本筋トロフィー協会, 一般社団法人日本筋トロフィー協会 https://www.jmda.or.jp/what-jmda/(最終アクセス:2025年06月23日)
2025.06.29 -
- 内科疾患
- 内科疾患、その他
「最近、子どもがよく転ぶようになった」 「以前より疲れやすく感じるようになった」 その症状は、筋ジストロフィーの初期症状かもしれません。医師にそう言われても、病名を聞いても状況が把握できず、不安に感じる方も多いでしょう。自分の子どもが筋ジストロフィーと診断された際に不安を感じるのは自然です。 早期発見と適切な受診判断が、その後の生活や支援体制を整える第一歩となります。お子さまやご自身の症状に不安がある方は、ぜひ最後までご覧ください。 筋ジストロフィーとは 項目 内容 病気の特徴 筋肉が徐々に壊れ、力が入らなくなる進行性の筋肉の病気 原因 筋肉機能に関わる遺伝子に異常が起こる遺伝性疾患 発症の仕方 遺伝によるものと突然変異によるもの 主な症状 筋力低下、歩行困難、呼吸や心臓の障害 治療法 進行を遅らせる薬やリハビリなどの対症療法 完治の可否 現時点では完治が難しい病気 寿命への影響 心臓や呼吸への影響による生命予後の変化 受診すべき科 神経内科、小児神経科、整形外科などの専門科 成人の発症 子どもだけでなく大人でも発症するタイプの存在 (文献1)(文献2) 筋ジストロフィーは、筋肉が徐々に弱くなる進行性の疾患です。遺伝子の異常により、筋肉を支えるたんぱく質が作られず、壊れやすくなるのが特徴です。筋ジストロフィーは進行に伴い、筋力低下や運動機能障害がみられるようになります。 筋ジストロフィーは主に小児期に発症し、歩行や立ち上がりが困難になることがあります。症状の現れ方や進行の速さはタイプによって異なり、早期発見と適切な対応が重要です。現在の医学では完治が難しく、進行を遅らせる薬やリハビリといった対症療法が中心です。 筋ジストロフィーは厚生労働省の指定難病に認定されており、成人後に発症するタイプもあるため、年齢にかかわらず早急に医療機関を受診することが大切です。(文献1) 以下の記事では、大人になってから発症する筋ジストロフィーについて詳しく解説しています。 筋ジストロフィーの初期症状 初期症状 詳細 歩行異常・転倒しやすい 階段の昇降が難しくなる。頻繁につまずく、転倒が増える 筋力低下・疲れやすい 少しの運動で疲れやすくなる。階段の上り下りや走る動作が困難になる 筋肉の変化 ふくらはぎが不自然に盛り上がるなど、筋肉の見た目が変わる。実際には筋力が低下している 発達の遅れ(乳幼児期の場合) 首すわりや寝返り、歩行の開始が遅い。発達の節目でつまずきやすい その他の症状 側弯症、呼吸の浅さ、心機能の異常、嚥下機能の低下など、筋力以外の全身症状が現れることがある 筋ジストロフィーの初期症状は、病型や年齢によって異なりますが、共通して筋力低下や運動発達の遅れが目立ちます。子どもの場合、よく転ぶ、階段の昇り降りが苦手、ふくらはぎの肥大傾向が見られるなど、成長の個人差と区別がつきにくいのが特徴です。 進行すると、筋肉の硬直や関節の可動域制限に加え、疲れやすさも見られるようになります。これらのサインが現れた場合、早急に医療機関を受診することが大切です。 歩行異常・転倒しやすい 症状 詳細 アヒル歩行 腰を左右に揺らすような歩き方。股関節まわりの筋力低下による歩行障害 つま先歩き かかとを地面につけずにつま先で歩く傾向。ふくらはぎの筋肉のアンバランス 頻繁な転倒 平地や階段などで転びやすくなる。脚や体幹の筋力低下によるバランス障害 走りにくさ 走るのが遅くなったり、すぐ疲れたりする。下肢の筋肉の持久力・瞬発力の低下 ガワーズ徴候 床から立ち上がるときに手を使って太ももを押さえる特徴的な動作。筋力不足の代償動作 筋ジストロフィーでは、太ももや骨盤周辺の筋肉が弱くなり、足を持ち上げにくくなることで歩き方が不安定になります。とくに骨盤周辺の筋肉が初期に影響を受けやすく、アヒル歩行やつま先歩きといった特徴的な歩き方が現れます。 筋肉や関節の硬さが加わることで、動作がぎこちなくなるのが特徴です。また、ガワーズ徴候と呼ばれる、手を使って立ち上がる独特な動作も初期のサインです。 歩行の違和感や頻繁な転倒に気づいたら、早急に医療機関を受診しましょう。放置せず、日常の小さな変化に注意を向けることが、筋ジストロフィーなどの早期発見につながります。 筋力低下・疲れやすい 症状 解説 全身の筋力低下 体幹・股関節・肩甲骨まわりの筋肉から目立ち始める筋力の衰え 腕が上がりにくい 肩より上に腕を上げる動作や、物を持ち上げることが困難になる状態 疲れやすさ 日常動作で息切れしやすく、階段の昇降や活動を避けるようになる傾向 筋力低下の左右差 両側均等ではなく、片側から先に筋力が落ちる場合もある非対称性の症状 (文献3) 筋ジストロフィーの初期には、筋力低下や疲れやすさといった症状が現れます。とくに体幹や股関節、肩まわりの筋肉が弱くなりやすく、立ち上がるときに太ももを手で押して身体を支える、ガワーズ徴候が見られることもあります。 肩の筋力が低下すると、腕が上がりにくくなり、物を持つ動作も困難になります。また、とくに子どもが疲れを訴えて、活動を避けるようになった場合も初期症状のサインです。このような変化は病気の進行と関係している可能性があるため、医療機関への受診が必要です。 筋肉の変化 症状 詳細 偽肥大 ふくらはぎが太く硬く見えるが、筋線維の減少と脂肪・結合組織の置換による変化 筋萎縮 筋肉が細くなり、筋力が低下し見た目にもやせてくる変化 筋肉の硬直 筋肉や関節の動きが硬くなり、動作のぎこちなさや朝のこわばりが出現 翼状肩甲 肩甲骨が浮き上がるように見える変化。肩甲骨周囲の筋力低下による (文献4) 筋ジストロフィーでは、筋肉の一部に見た目の変化が現れることがあります。代表的なのが偽肥大と呼ばれる症状で、ふくらはぎの筋肉が太く盛り上がって見える一方、実際には筋力が低下している状態です。 これは筋線維が壊れ、再生が追いつかないことで、脂肪や結合組織に置き換わるために起こります。見た目は発達しているようでも、触れると硬く弾力がないのが特徴です。また、肩や背中の筋肉が痩せてきたり、左右の筋力バランスが崩れたりすることもあります。 とくにデュシェンヌ型筋ジストロフィーは、ふくらはぎの筋肉が太く見える、偽肥大が目立ち、歩きにくさや転倒と一緒に現れることが多く、病気の進行を示す重要なサインです。 筋肉が硬く弾力に乏しくなるなどの見た目の変化は筋力低下の兆候であり、早期発見につながる大切な手がかりです。違和感を覚えたら、早めに医療機関を受診しましょう。 発達の遅れ(乳幼児期の場合) 症状 詳細 首のすわり・お座りの遅れ 筋力低下による首のすわりや、お座りの安定の遅れ ハイハイ・寝返りの遅れ 筋肉の弱さによるハイハイや寝返りの開始の遅れ 歩行開始の遅れ 1歳半以降まで歩き始めない、歩行が不安定 転びやすさ・立ち上がり困難 歩行時のふらつき、立ち上がりの不安定さ 言葉や知的発達の遅れ 一部病型でみられる言語発達や知的発達の遅れ、てんかんなどの神経症状 フロッピーインファント 先天性筋ジストロフィーでみられる全身の筋緊張低下による、だらりとした状態 (文献4) 乳幼児期に発症するタイプでは、首がすわるのが遅い、寝返りができない、立ち上がりに時間がかかるなど、運動発達の遅れが最初のサインになることがあります。また、他の子どもと比べて歩き始めるのが遅い、転びやすいといった違和感も初期症状のひとつです。 成長の個人差と思われがちですが、このような遅れや症状が継続する場合、筋疾患の可能性も視野に入れて検査を受ける必要があります。 その他の症状 病型名 特徴的な初期症状 具体的な症状例 筋強直性ジストロフィー(DM) ミオトニア(筋強直) 把握ミオトニア、叩打ミオトニア、舌のクローバー状変形 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD) 顔面筋の筋力低下 表情の乏しさ、口笛が吹けない、まぶたが閉じにくい (文献5) 筋ジストロフィーは病型によって初期症状が異なります。筋強直性ジストロフィーでは、筋肉が収縮後にうまく緩まないミオトニア(筋強直)が特徴です。手を握った後すぐに開けられない、筋肉を叩くと収縮が続く、舌が変形するなどの症状が見られます。 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーでは、早期から顔の筋肉が弱くなり、笑顔が作りにくい、口笛が吹けない、まぶたが閉じにくいといった症状が現れます。これらの変化は食事の際にむせやすくなるなど、日常生活に影響するため、早急に医療機関を受診しましょう。 筋ジストロフィーの原因 主な原因 詳細 遺伝子の異常(遺伝子変異) 筋肉の働きに関わる遺伝子に変異が生じることで発症 遺伝形式 親から子へ遺伝する場合があり、X連鎖性遺伝、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝などの形式がある 遺伝子の突然変異 家族歴がなくても、突然新たに遺伝子変異が生じて発症する場合がある 筋ジストロフィーの主な原因は、筋肉の働きに必要な遺伝子に異常があることです。遺伝子に異常が生じることで、筋肉の細胞構造を保つたんぱく質が十分に作られず、筋肉が壊れやすくなります。 異常が起こる遺伝子やその影響の範囲によって、発症年齢や進行の速さ、症状の程度に違いがあります。多くは先天的なものですが、家族歴がない場合でも突然変異として発症するケースもあるのが特徴です。 遺伝子の異常(遺伝子変異) 病型名 関連遺伝子 主な特徴 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD) ジストロフィン遺伝子 ジストロフィンがほとんど作られず、重症で進行が早い筋力低下 ベッカー型筋ジストロフィー(BMD) ジストロフィン遺伝子 ジストロフィンが部分的に作られ、DMDより軽症で進行が緩やか 筋強直性ジストロフィー(DM) DMPK遺伝子 CTGリピートの伸長による多臓器障害を伴う進行性筋疾患 福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD) フクチン遺伝子 筋力低下に加え、脳や眼の形成異常を伴う先天性の重度障害 (文献1)(文献4)(文献6) 筋ジストロフィーは、筋肉の働きに関わる遺伝子に変異が起こることで発症します。異常がある遺伝子の種類によって、病型や症状、進行の速さが異なります。代表的なのがジストロフィン遺伝子の変異で、ジストロフィンがほとんど作られない場合は重症のデュシェンヌ型、一部作られる場合は進行の緩やかなベッカー型です。 筋強直性ジストロフィーは、DMPK遺伝子の異常により筋肉だけでなく心臓や内分泌、脳にも影響が及ぶのが特徴です。また、日本で多く見られる福山型先天性筋ジストロフィーでは、フクチン遺伝子の変異によって筋力低下に加え、脳や眼の異常も見られます(文献7)。遺伝子変異の特定は、診断と治療方針を決める上で重要な手がかりとなります。 遺伝形式 遺伝形式 代表的な病型例 詳細 X連鎖劣性遺伝 デュシェンヌ型、ベッカー型筋ジストロフィー 原因遺伝子がX染色体上に存在。男性は1本のX染色体に異常があると発症。女性は2本のうち1本が正常なら保因者となる 常染色体優性遺伝 筋強直性ジストロフィーの一部、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー 常染色体上の遺伝子に変異があり、両親のどちらか一方から異常な遺伝子を受け継ぐだけで発症 常染色体劣性遺伝 肢帯型筋ジストロフィーの一部、先天性筋ジストロフィーの一部 常染色体上の両方の遺伝子(父母由来)に異常がある場合に発症。両親が保因者でも1本ずつなら無症状 (文献1)(文献6) 筋ジストロフィーにはいくつかの遺伝形式があり、病型によって遺伝の仕方が異なります。デュシェンヌ型やベッカー型はX連鎖劣性遺伝で、主に男性が発症します。 母親が保因者の場合、子どもに遺伝する可能性がありますが、女性は2本のX染色体のうち1本が正常なら多くは発症しません。筋強直性ジストロフィーや顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの一部は常染色体優性遺伝で、両親のどちらか一方から異常な遺伝子を受け継ぐだけで発症します。 肢帯型や先天性筋ジストロフィーの一部は常染色体劣性遺伝で、両親からそれぞれ異常な遺伝子を受け継いだ場合に発症します。家族歴がなくても突然変異によって発症することがあり、遺伝形式に応じてリスクや進行の程度が異なるため、専門医への相談が重要です。 遺伝子の突然変異 原因・メカニズム 詳細 DNA複製時のエラー 細胞分裂中にDNAをコピーする際のミスにより発生する変異 外部要因による損傷 放射線や化学物質などがDNAを傷つけ、その修復時のエラーで生じる変異 自然発生的な化学変化 細胞内で起こる化学反応により、DNAが自然に変化する現象 先天的な変異(遺伝性) 親の卵子や精子にある変異が受精卵に伝わり、全身に影響する変異 新生変異(de novo変異) 受精卵や細胞分裂の過程で新たに発生し、家族歴がなくても発症する場合がある 体細胞モザイク 変異のある細胞とない細胞が混在し、身体の一部にだけ影響する状態 筋ジストロフィーの中には、家族に同じ病歴がないにもかかわらず、本人にだけ発症するケースがあります。このような発症ケースは両親から受け継いだ遺伝子ではなく、胎児の発育過程で突然変異が生じたことが原因です。 遺伝子の突然変異による場合でも、症状や進行の程度は遺伝性のものと変わらないため、医療機関への受診が必要です。 筋ジストロフィーの治療法(進行の抑え方) 治療法(進行の抑え方) 詳細 保存療法 リハビリテーションやストレッチ、装具の使用などで筋力や関節の動きを維持し、合併症を予防 薬物療法 ステロイド薬などで筋力低下や進行を遅らせる。心臓や呼吸機能低下にはそれぞれの症状に応じた薬を使用 手術療法 側弯症や関節拘縮など保存療法で対応できない場合に手術を検討。呼吸や嚥下の補助目的での手術も選択肢 再生医療 手術や薬物療法に比べて副作用が少ない可能性がある近年注目されている治療法 筋ジストロフィーには、現在のところ根本的な治療法は確立されていませんが、症状の進行を遅らせたり、生活の質を維持したりすることを目的とした治療が行われています。発症の早い段階から適切な治療を始めることで、病気の進行を緩やかにし、日常生活の自立を支えることが期待されます。 保存療法 項目 内容 関節可動域訓練・ストレッチ 関節のこわばりを防ぐための毎日の柔軟体操と家族への指導 低負荷の筋力トレーニング 過度な負荷を避けながら筋肉の萎縮を防ぐ軽めの運動 呼吸リハビリテーション 呼吸筋の維持・強化を目的としたトレーニングや人工呼吸器の活用 補助具・福祉用具の活用 車椅子や自助具を使って日常動作や移動を支援 姿勢管理・側弯症予防 姿勢の調整や体位変換による背骨の変形予防 摂食・嚥下機能のサポート 誤嚥防止のための食事形態の工夫と嚥下訓練 定期検査と合併症への対応 心肺機能の定期検査と薬物・医療対応による合併症の早期発見・治療 (文献8)(文献9) 筋ジストロフィーに対する保存療法は、病気の進行をできるだけ緩やかにし、生活の質(QOL)を保つために欠かせません。関節の動きを保つストレッチや、筋肉に無理のない範囲で行う筋力トレーニングが基本です。 呼吸機能の低下を防ぐためのリハビリや、必要に応じた人工呼吸器の導入も検討されます。また、歩行や日常生活を支えるための補助具、自助具の活用も不可欠です。 姿勢の調整や体位変換で側弯症の予防を行い、食事が困難な場合には嚥下機能のサポートも行います。症状の進行や個々の状態に応じて、医師の指導を受けながら継続的に取り組むことが大切です。 薬物療法 治療法 主な目的・特徴 ステロイド療法(プレドニゾロンなど) 筋細胞の壊れやすさを軽減し、運動・呼吸機能の維持、側弯症の進行予防 HDAC阻害薬(デュヴィザット) 炎症と筋肉減少を軽減。非ステロイドですべてのDMD患者に使用可能。2024年にFDAが承認 エクソンスキッピング療法 特定の遺伝子変異に対し、mRNAを修正し機能的なジストロフィン産生を促す治療法 その他の新規治療薬 筋強直性ジストロフィーなどに対し、スプライシング異常や筋壊死を抑える薬剤の開発進行中 定期評価と副作用管理 運動・呼吸機能、血液検査などによる薬効・副作用のモニタリング 個別化治療の調整 遺伝子変異や体調に応じた薬剤選択と投与量の調整 副作用対策 骨粗鬆症、肥満、感染症などに対する予防策と生活指導 (文献1)(文献10) 筋ジストロフィーにおける薬物療法は、進行を抑え、運動機能や呼吸機能を維持する上で欠かせない治療法です。とくにデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)には、ステロイド(プレドニゾロン)による長期療法が標準治療とされ、筋力低下や側弯症の進行を抑えます。 2024年にアメリカFDAが承認した非ステロイド薬デュヴィザット(HDAC阻害薬)は、遺伝子変異の種類に関係なく使用でき、ステロイドとの併用で運動機能の低下を有意に抑える効果が確認されています。(文献10) また、2020年に日本で承認されたエクソンスキッピング療法(ビルトラルセン)は、特定の遺伝子変異に対して機能的なジストロフィンの産生を促し、進行の抑制が期待されています(文献1)。いずれも、筋ジストロフィーの治療に有効な選択肢として位置づけられています。 手術療法 有効な理由 主な手術内容・効果 側弯症の進行抑制と矯正 背骨の曲がりを金属製ロッドなどで矯正し、座位保持や呼吸機能の改善を図る 骨盤の傾き・座位の安定化 側弯症手術により骨盤の傾きを改善し、車椅子やベッドでの安定した姿勢を実現 関節拘縮や変形の改善 固まった関節の動きを回復するための腱延長術などで、日常生活動作や介助のしやすさを向上 嚥下障害への対応 経口摂取が難しい場合に胃ろうを造設し、栄養補給を確保 呼吸補助の整備 重度の呼吸障害に対する気管切開術で、人工呼吸器の使用を容易にし、呼吸を安定させる 麻酔・術後管理の注意 呼吸合併症リスクが高く、医療機関での手術と慎重な管理が必要 (文献11) 筋ジストロフィーの手術療法は、病気そのものを治すものではありませんが、側弯症や関節拘縮などの合併症に対して有効です。とくに側弯症矯正手術は背骨の曲がりを大きく改善し、呼吸や消化機能の低下を防ぎます。 骨盤の傾きや座位の安定性も向上し、日常生活の自立度が高まります。関節拘縮解除、胃ろう造設、気管切開術なども症状に応じて行われ、生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)の維持・向上が期待できるでしょう。手術は麻酔や呼吸管理のリスクがあるため、医師と相談の上での実施が不可欠です。 再生医療 再生医療の施策 内容 期待される効果 iPS細胞を使った筋前駆細胞の移植 患者自身の細胞から作ったiPS細胞を筋肉の細胞に変えて移植 筋肉機能の回復、免疫拒絶の低減 ゲノム編集技術の応用 iPS細胞の遺伝子を修復し、正常な筋細胞に育てて移植 ジストロフィンの発現、病気の根本的治療の可能性 メソアンジオブラストの移植 血管のまわりの幹細胞を使い、筋肉へと分化させて移植 筋力の維持・向上、筋肉の再生促進 再生医療は、失われた筋肉機能の回復を目指す新しい治療法として注目されています。幹細胞を用いた治療や遺伝子を補うアプローチが期待されており、手術と比べて、感染症や麻酔に伴うリスクが少ない点も利点です。 ただし、すべての症状に適用できるわけではなく、対象となる条件が限られるため、治療の可否については医師と十分に相談する必要があります。また、再生医療は限られた医療機関でのみ実施されているため、事前の確認が必要です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しております。 筋ジストロフィーの初期症状を理解して早めの受診を心がけよう 筋ジストロフィーは進行性の疾患であり、早期発見が将来の生活に大きく影響します。歩き方の違和感、転びやすさ、筋肉の張りや発達の遅れなど、些細な変化が初期症状のサインであることも少なくありません。とくに小児では成長の遅れと誤解されやすいため、筋ジストロフィーの初期症状が少しでも疑われる場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。 筋ジストロフィーの症状にお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、筋ジストロフィーに関する些細なことでもお話を伺います。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 筋ジストロフィーに関するよくある質問 女性が筋ジストロフィーを発症する確率はどのくらいですか? 筋ジストロフィーは多くのタイプがあり、女性にも発症する可能性があります。中でもデュシェンヌ型(DMD)やベッカー型はX染色体劣性遺伝で、主に男性に発症しますが、女性も保因者としてまれに症状が現れます。DMDの女性保因者のうち約2.5〜7.8%が、筋力低下などの症状を示すと報告されています。(文献12) 筋ジストロフィーの患者数については、日本全体の正確な統計はありませんが、有病率は人口10万人あたり約17~20人と推定されています。(文献1) 大人になってから発症した筋ジストロフィーは遺伝するのでしょうか? 成人期に発症する筋ジストロフィーの一部は遺伝性で、常染色体優性や劣性遺伝として家族内に症状が現れることがあります。とくに親に変異遺伝子があると子に約50%の確率で遺伝し、筋強直性ジストロフィーでは、世代を重ねるごとに症状が重くなる表現促進現象も知られています。 一方、家族歴がなくても突然変異によって発症する場合もあり、デュシェンヌ型では約4割が該当します(文献1)。将来の遺伝リスクを正しく理解するためにも、医療機関での遺伝子検査やカウンセリングの受診が推奨されます。 筋ジストロフィーの子どもは学校や進路にどんな影響がありますか? 筋ジストロフィーのあるお子さんは、病状の進行に応じて、通常学級、特別支援学級、または特別支援学校で学べます。通学や授業参加には、疲労への配慮や補助具・車いすの使用など、身体的な支援が必要になる場合があります。 進学や進路選択では、医療的ケアやサポートの必要性を踏まえ、学校や教育委員会と連携して無理のない環境を整えることが大切です。近年では大学や専門学校への進学、在宅就労や遠隔学習といった多様な進路が広がっており、早期からのキャリア教育や進路指導を通じて、お子さんの可能性を広げる支援が求められます。(文献13) 保護者としては、日々の体調管理や心の支えとなることに加え、教育や福祉制度を活用しながら、子どもの意思を尊重した支援を行うことが重要です。 子どもが筋ジストロフィーと診断されたときの心の向き合い方を教えてください 筋ジストロフィーと診断されたお子さんを支える上で、まずはご家族がご自身の感情を受け止めることが大切です。ショックや不安は自然な反応であり、無理に抑え込む必要はありません。 その上で、病気のタイプや進行について正しい情報を医師やカウンセラーから得ることで、今後の見通しが立てやすくなります。医療や福祉の支援、患者会なども積極的に活用し、孤立せず相談できる環境を持つことが大切です。 また、家族全体で協力し合い、お子さんの気持ちに寄り添いながら、前向きに日々を重ねていくことが、最も大きな支えになります。 筋ジストロフィーと診断された場合に利用できる障害者登録や支援制度はありますか? 筋ジストロフィーと診断された場合、身体障害者手帳の取得や障害年金の申請が可能です。 手帳は障害の程度に応じて等級が認定され、医療費助成や補装具支給などの福祉サービスが受けられます。障害年金は、症状の進行に応じて障害基礎年金または障害厚生年金の1級または2級に該当することが多く、生活支援の一助となります。 また、障害者総合支援法や小児慢性特定疾病医療費助成、特別児童扶養手当なども対象になる場合があります。申請には医師の診断書や病歴申立書が必要なため、早めに医療機関や自治体窓口に相談しましょう。 参考資料 (文献1) 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター「筋ジストロフィー(指定難病113」難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/4522(最終アクセス:2025年06月14日) (文献2) レジストリと連携した筋強直性ジストロフィーの自然歴およびバイオマーカー研究班「筋強直性ジストロフィーと診断された方へ」専門家が提供する筋強直性ジストロフィーの臨床情報 http://dmctg.jp/shindan.html(最終アクセス:2025年06月14日) (文献3) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究」班「筋強直性ジストロフィー」MD Clincal Station https://mdcst.jp/md/dm/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献4) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「デュシェンヌ型筋ジストロフィーとベッカー型筋ジストロフィー」MSD マニュアル家庭版, 2024年 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/23-%E5%B0%8F%E5%85%90%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E4%B8%8A%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E7%AD%8B%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%81%A8%E9%96%A2%E9%80%A3%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%83%87%E3%83%A5%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%8C%E5%9E%8B%E7%AD%8B%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%81%A8%E3%83%99%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E5%9E%8B%E7%AD%8B%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC(最終アクセス:2025年06月14日) (文献5) 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費筋ジストロフィー臨床研究班「デュシェンヌ型筋ジストロフィーとベッカーFSHD 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー」NMDPS 神経筋疾患ポータルサイト, https://nmdportal.ncnp.go.jp/information/fshd.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月14日) (文献6) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究」班「病型と治療」MD Clincal Station https://mdcst.jp/md/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献7) 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター内 小児慢性特定疾病情報センタ「対象疾病」小児慢性特定疾病情報センター, 2014年10月1日 https://www.shouman.jp/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献8) 「筋ジストロフィー患者さまのためのストレッチ運動と体幹変形の予防について~関節拘縮と変形予防のための手引き~」『国立病院機構刀根山病院 理学療法 2008_9』, pp.1-17, 2008年 https://toneyama.hosp.go.jp/patient/forpatient/pdf/reha-05.pdf(最終アクセス:2025年06月14日) (文献9) 「4.リハビリテーション」, pp.1-11 https://neurology-jp.org/guidelinem/pdf/dmd_04.pdf(最終アクセス:2025年06月14日) (文献10) QLIFE「遺伝性疾患プラスデュシェンヌ型筋ジストロフィー、どの遺伝子変異でも使える新たな治療薬をFDAが承認」遺伝性疾患プラス, 2024年5月10日 https://genetics.qlife.jp/news/20240510-w043(最終アクセス:2025年06月14日) (文献11) 「筋強直性ジストロフィーの手⾡・麻酔に関する注意(一般・医療者向け)」, pp.1-4 https://plaza.umin.ac.jp/~DM-CTG/pdf/dmmasuic.pdf(最終アクセス:2025年06月14日) (文献12) Yu Na Cho.& Young-Chul Choi. (2013). Female Carriers of Duchenne Muscular Dystrophy https://www.e-kjgm.org/journal/view.html?uid=180&vmd=Full&utm_source=chatgpt.com&(最終アクセス:2025年06月14日) (文献13) 鈴木 理恵ほか.「Duchenne 型筋ジストロフィー患者の学校生活に関する保護者へのアンケート調査」『脳と発達 2018』, pp.1-8, 2018年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/50/5/50_342/_pdf(最終アクセス:2025年06月14日)
2025.06.29 -
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「外傷性脳出血と診断された」 「外傷性脳出血の治療や後遺症はどうなるのか?」 外傷性脳出血は、転倒や交通事故などで脳内の血管が損傷し、出血を起こす疾患です。脳出血が起きると、頭痛や吐き気、意識障害、手足の麻痺など、多岐に渡る症状が現れます。 本記事では、外傷性脳出血について、現役の医師が詳しく解説します。 外傷性脳出血の症状 外傷性脳出血で起こりうる後遺症 外傷性脳出血の治療法 記事の最後には、外傷性脳出血に関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 外傷性脳出血とは 種類 出血部位 主な原因 主な症状 主な治療法 硬膜外血腫 頭蓋骨と硬膜の間 硬膜動脈損傷 意識消失と一時的回復 外科的血腫除去 硬膜下血腫 硬膜とくも膜の間 脳表静脈損傷 頭痛、意識障害、麻痺、認知機能低下 保存的治療、外科的治療 くも膜下出血 くも膜と軟膜の間 脳表血管損傷 激しい頭痛、嘔吐、意識障害、けいれん 脳圧管理、必要時手術 脳内出血 脳実質内 脳挫傷・血管損傷 意識障害、けいれん、麻痺、言語障害 保存的治療、外科的治療 (文献1)(文献2) 外傷性脳出血とは、転倒や交通事故などの強い衝撃によって、脳の中やその周囲で出血が起こる病気です。脳の血管が傷つくことで出血が広がり、脳を圧迫してさまざまな障害を引き起こします。 外傷性脳出血は高齢者から若い方まで、年齢を問わず発症します。出血の場所や量によって、症状の出方や重さは異なるのが特徴です。診断にはCTやMRIといった画像検査が使われ、早めの発見と対応が重要です。治療は、安静を保つ保存療法から、血腫を外科的に除去する手術療法まで多岐にわたります。 また、治療後には記憶力の低下や感情の変化といった、外見では分かりにくい後遺症が出ることもあります。多くの場合、時間とともに改善しますが、完全に元どおりになるとは限りません。そのため、リハビリを行ったり、生活環境を整えたりといった支援が必要になる可能性もあります。日常生活や社会復帰への影響を理解し、早い段階から適切な対応を進めることが大切です。 また、「【医師監修】脳出血とは|症状・種類・原因を詳しく解説」の記事では、脳出血について詳しく解説しています。脳出血の知識を深めたい方は参考までにご覧ください。 外傷性脳出血の症状 症状 詳細 全身症状 頭痛、吐き気、嘔吐、発熱、倦怠感、意識障害、昏睡 局所神経症状 手足の麻痺、しびれ、歩行障害、言語障害、視覚障害 けいれん発作 脳損傷部位を中心に突然起こる筋肉のけいれんや発作 認知機能の低下 記憶力や集中力の低下、判断力の鈍化、見当識障害 外傷性脳出血では、出血の場所や程度によってさまざまな症状が現れます。初期には頭痛、吐き気、意識の混濁など全身的な症状がみられるのが特徴です。一方、出血が特定の部位に限られる場合には、片側の手足の麻痺や言語障害など、局所的な神経症状が現れることがあります。 また、けいれん発作や突然の意識消失がきっかけで受診に至ることもあり、受傷直後に症状が軽くても、時間の経過とともに悪化する場合もあるため、頭部外傷後はわずかな変化にも注意が必要です。 全身症状 原因・機序 具体的な全身症状 詳細 脳幹・視床下部の損傷による自律神経系の乱れ 発熱、頻脈、高血圧、呼吸困難 生命維持機能の中枢損傷による自律神経障害 頭蓋内圧の上昇による脳灌流圧低下と全身への影響 意識障害、けいれん発作、倦怠感 脳血流不足による脳機能低下 炎症反応とサイトカイン放出による全身症状 発熱、倦怠感、食欲不振 脳損傷による炎症反応の全身波及 (文献2) 外傷性脳出血による全身症状には、頭痛、嘔吐、意識の低下、倦怠感などが含まれます。とくに出血量が多い場合や脳圧が上昇している場合には、急激な意識障害を起こすことがあり、命にかかわる可能性もあります。このような症状は、脳全体への影響を反映しているため、局所的な症状と比べて初期に気づきやすいのが特徴です。 ただし、症状が徐々に進行することもあり、外傷直後は元気に見えても、数時間後に急変するケースもあります。そのため、頭部に強い衝撃を受けた場合は、症状の有無にかかわらず、医療機関を受診する必要があります。 局所神経症状 障害の種類 主な原因・部位 具体的な症状 詳細 運動・感覚障害 一次運動野・一次体性感覚野・被殻 片麻痺、感覚鈍麻、しびれ 運動や感覚を司る領域の損傷・圧迫による障害 言語障害 ブローカ野・ウェルニッケ野・左被殻 失語症、構音障害 言語中枢の損傷による言葉の理解・発話・発音の障害 視覚障害 一次視覚野・視神経路 視力低下、複視 視覚情報処理領域や経路の損傷による見え方の異常 外傷性脳出血では、出血の部位によって障害される神経機能が異なります。たとえば、脳の左側が損傷すると右半身、右側が損傷すると左半身に麻痺や運動障害が現れます。また、視覚や聴覚、言語機能も影響を受けることがあり、失語症や視野障害などが生じる場合もあります。 これらの症状は出血の場所や深さによって大きく異なり、脳の特定の機能が損なわれているサインです。診断には、神経学的な所見に加え、CTやMRIといった画像検査が重要です。 けいれん発作 理由・機序 詳細 脳組織の損傷による神経興奮の異常 出血周囲の神経細胞が損傷し、電気的興奮性が増加することによる異常な電気信号の発生 血腫周囲の浮腫・炎症による神経伝達異常 血腫の圧迫や炎症反応により神経伝達物質のバランスが崩れ、神経細胞の興奮性が高まる状態 外傷性てんかんの発症 損傷部位が異常な電気活動の焦点となり、持続的な発作を引き起こす状態 発作の分類と発症時期 直後てんかん(24時間以内)、早期てんかん(7日以内)、晩期てんかん(7日以降)に分類される けいれん発作は、外傷性脳出血の急性期または慢性期に現れる可能性がある神経症状のひとつです。出血により脳内の神経回路が異常をきたし、突然の筋肉の収縮や意識消失を伴う発作が起こることがあります。 発作の頻度や重症度によっては、抗てんかん薬による治療が必要になるケースもあります。とくに頭部外傷後の数週間から数か月の間は、けいれん発作のリスクが高まるため、医師の指導と注意深く経過観察を行うことが重要です。 認知機能の低下 原因・メカニズム 具体的な症状 詳細 脳組織の直接損傷 記憶障害、注意力低下、判断力低下 前頭葉・側頭葉・海馬の損傷による認知機能の低下 高次脳機能障害の発症 集中力低下、計画力障害、実行力障害 脳挫傷や出血による高次脳機能障害の出現 慢性的な血腫による圧迫 徐々に進行する記憶障害、性格変化 慢性硬膜下血腫などによる脳の圧迫で認知機能障害が進行 外傷性脳出血により、前頭葉や側頭葉、海馬が損傷されると、記憶力や判断力、集中力などの認知機能が低下することがあります。感情のコントロールが困難になるほか、実行力や計画力の低下、性格の変化など、高次脳機能障害の症状が現れることがあります。 慢性硬膜下血腫のように進行がゆるやかな場合は、異変に気づきにくく発見が遅れることがあり、認知機能の低下は日常生活に大きな影響を及ぼすため、早期受診と適切なリハビリが重要です。 外傷性脳出血で起こりうる後遺症 起こりうる後遺症 詳細 運動・感覚機能障害 片麻痺や手足のしびれ、筋力低下、歩行障害。触覚や痛覚が鈍くなる、または過敏になることもある 言語・認知機能障害 言葉が出にくい、理解しにくい、会話が難しい失語症。記憶力や判断力、集中力の低下など高次脳機能障害 感覚・知覚障害 視野が欠ける、物が二重に見える(複視)、片側の感覚が鈍くなる、めまいなどの症状 てんかん・発作 繰り返すけいれん発作や意識消失。外傷後に発症しやすく、抗てんかん薬による治療が必要なことが多い 慢性症状(頭痛など) 慢性的な頭痛、倦怠感、吐き気、めまい。症状が長期間続くこともあり、生活の質に影響する場合がある 外傷性脳出血では、治療により出血が止まった後も、脳への損傷が残ることでさまざまな後遺症が現れることがあります。 症状は出血部位や広がりによって異なり、身体の麻痺やしびれ、言語機能の障害、てんかん発作、慢性的な頭痛など多岐にわたります。また、認知機能や感情の変化といった外見からは判断しにくい後遺症が出るのも、外傷性脳出血の特徴です。 以下の記事では、脳出血の後遺症になる確率について詳しく解説しています。 運動・感覚機能障害 障害の種類 主な原因・部位 具体的な症状 説明 運動麻痺・感覚障害 皮質運動野、感覚野、内包、被殻 片側手足の麻痺、しびれ、感覚鈍麻・過敏 血腫や損傷が運動・感覚を司る領域を圧迫・損傷 平衡機能障害・歩行障害 小脳、前庭系、橋、延髄部 バランス低下、歩行時のふらつき、運動失調 身体のバランスや協調運動を担う部位の障害 嚥下障害 橋、延髄部 飲み込みにくさ、むせ込み、誤嚥 嚥下動作を制御する中枢神経の圧迫・損傷 外傷性脳出血で運動野や感覚野が損傷されると、片麻痺や筋力低下、手足の動かしづらさ、バランス感覚の乱れなどの症状が現れます。 これらの後遺症の程度には個人差がありますが、中等度以上の場合は医師の指導のもとで継続的なリハビリが必要です。リハビリを続けることで脳の可塑性を活かし、機能回復を目指すことが重要です。 言語・認知機能障害 主な障害 原因部位・要因 代表的な症状 詳細 失語 ブローカ野・ウェルニッケ野の損傷 言葉が出にくい、意味が分からない、話がまとまらない 言語の理解や表現を担う中枢神経の損傷による言語機能の障害 構音障害 運動野や神経回路の損傷 滑舌が悪い、発音が不明瞭、言葉が聞き取りにくい 発音や話し方を制御する運動機能の障害による話しにくさ 記憶力・判断力の低下 前頭葉・側頭葉の高次脳野の損傷 物事を覚えられない、判断が鈍くなる、感情のコントロールが困難になる 記憶や判断などの認知機能の低下による日常生活への支障 注意力・実行力の障害 前頭葉の認知機能中枢神経の障害 集中できない、段取りがつかない、行動に一貫性がない 注意や実行機能の障害による社会生活への影響 外傷性脳出血によって、言語の理解や発話に障害が生じることがあります。失語症や構音障害、会話の流暢さの低下などが代表的です。また、認知機能の低下により、記憶力や注意力、判断力に支障をきたすこともあります。 言語・認知機能障害は、日常生活や仕事に大きな支障をきたす可能性があります。後遺症の進行を防ぐため、早期発見と発音や話し方の継続的なリハビリが重要です。回復の程度には個人差がありますが、適切な支援と継続的な取り組みによって、生活の質の向上が期待されます。 感覚・知覚障害 障害の種類 主な原因・部位 具体的な症状(体言止め) 詳細 視覚障害 後頭葉の視覚野、視神経経路、視床 視野欠損、視力低下、物がぼやけて見える 視覚情報を処理・伝達する部位の損傷・圧迫による障害 聴覚障害 側頭葉の聴覚野、聴覚伝達経路 音が聞き取りにくい、耳鳴り 聴覚情報を処理・伝達する部位の損傷・圧迫による障害 嗅覚障害 前頭葉下部、嗅球・嗅索 匂いがわかりにくい、全く感じない 嗅覚を司る領域や神経経路の損傷・圧迫による障 外傷性脳出血では、視覚・聴覚・嗅覚を司る脳の部位が血腫や損傷によって障害され、感覚や知覚の異常が後遺症として現れることがあります。 後頭葉の視覚野が損傷されると視野欠損や視力低下、側頭葉の聴覚野が損傷されると聴力低下や耳鳴りが、嗅球や前頭葉下部の損傷では嗅覚障害が起こります。いずれも感覚情報を処理する中枢神経系の部位や経路の圧迫・損傷が原因であり、早期の診断と適切な対応が重要です。 てんかん・発作 ポイント 詳細 発作の主な原因 脳損傷や出血による神経細胞の異常な電気的興奮 発作の発生時期分類 早期発作(7日以内)、晩期発作(7日以降) 晩期発作の特徴 外傷性てんかんとして長期的な管理が必要 リスク要因 脳皮質への出血、出血量の多さ、高齢 重要な対応 発作リスクを考慮した経過観察と必要に応じた治療 (文献3) 外傷性脳出血後のてんかん発作は、脳の電気的興奮の乱れによって再発性のけいれんとして現れ、発症時期は直後から数か月後までさまざまです。 発作の頻度やタイプに応じて抗てんかん薬が処方され、薬の種類や用量は個別に調整されます。定期的な通院と経過観察により、発作が抑えられれば日常生活への影響は少なくなります。 慢性症状(頭痛など) 原因 詳細 脳組織の損傷と炎症反応 脳損傷による炎症が神経を刺激し、中枢性感作による慢性頭痛の発生 慢性硬膜下血腫の形成 血腫による脳圧迫で頭痛や認知障害などの症状が進行 脳脊髄液の漏れ 低髄液圧症候群による起立時の頭痛、吐き気やめまいの出現 神経障害性疼痛の発生 神経回路の異常で通常は違和感がない刺激でも疼痛が生じる 心理的要因と脳震盪後症候群 不安や抑うつ、ストレスによる頭痛の悪化や長引く脳震盪後症状 (文献4) 外傷性脳出血後に頭痛が長く続く場合、脳の炎症や血腫の圧迫、脳脊髄液の漏れ、神経の過敏化、心理的ストレスなど、複数の要因が関与していることがあります。たとえば、慢性硬膜下血腫では脳が徐々に圧迫され、頭痛や認知障害が生じることがあります。 神経回路の損傷により、軽い刺激でも強い違和感が出る神経障害性疼痛に移行することもあり、症状の進行には注意が必要です。脳震盪後症候群では、頭痛に加えて集中力の低下や倦怠感が持続することがあります。このような症状が続く場合は、早期に医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。 外傷性脳出血の治療法 治療法 詳細 保存療法 軽度の出血や症状が安定している場合に選択。点滴や安静、血圧や脳圧の管理、経過観察、リハビリの早期開始が中心 薬物療法 脳圧降下薬や止血薬、抗けいれん薬、抗浮腫薬などを使用し、症状や合併症のコントロールを図る 手術療法 血腫が大きい場合や症状が重い場合に実施。開頭血腫除去術、減圧術、穿頭手術、髄液ドレナージなどで脳圧を下げ血腫を除去 再生医療 損傷した神経や組織の修復を目指す治療。神経再生や機能回復を促す新しい治療法で、リハビリと組み合わせて効果が期待される 外傷性脳出血の治療は、出血の量や部位、症状の程度に応じて異なります。一般的には保存療法から開始されますが、症状の悪化や脳の圧迫が強い場合には手術が検討されます。治療法の選択は、画像検査や症状の進行状況をもとに医師が総合的に判断します。 以下の記事では、脳出血の入院期間や治療法について詳しく解説しています。 保存療法 保存療法が適用されるケース 詳細 出血量が少なく圧迫が軽度 脳内出血が少量で自然吸収が期待でき、手術リスク回避のため保存療法が適用される 全身状態が手術に耐えられない 高齢者や全身状態不安定な患者に対し、安全性を考慮して保存療法が選択される 出血部位が手術困難な場所 脳の深部など手術が難しい部位の出血に対して保存療法が適用される 症状が安定し進行の兆候がない 意識や神経症状が安定し、出血拡大や新症状がない場合に保存療法が適する 定期的な画像検査とモニタリング CTやMRIで出血の吸収状況や新出血の有無を確認し、症状変化に迅速対応が必要 血圧管理の重要性 高血圧は再出血リスクを高めるため、降圧薬使用や生活習慣改善による適切な血圧管理が必須 外傷性脳出血で保存療法が選択されるのは、出血量が少なく脳の圧迫が軽度で自然吸収が見込まれる場合や、手術リスクが高い高齢者・全身状態が不安定な方、手術が難しい部位での出血がある場合です。保存療法は、症状が安定しており進行の兆候がない場合も適応されます。 また、再出血予防のための血圧管理が重要です。状態が安定した段階で理学療法・作業療法・言語療法を開始し、機能回復と合併症の予防を図ります。 薬物療法 治療内容 詳細 血圧コントロール 降圧薬による出血拡大や再出血の予防 脳浮腫の軽減 抗浮腫薬による脳の腫れと頭蓋内圧上昇の抑制 合併症の予防・管理 抗てんかん薬や抗生物質による発作や感染症の予防・管理 モニタリング 血圧や頭蓋内圧などの定期的なチェック 医師の指導遵守 薬の服用は自己判断せず、医師の指示に従うことが重要 (文献2)(文献5) 外傷性脳出血に対する薬物療法は、手術を行わずに症状の安定や再発予防を目指す治療法です。血圧を適切にコントロールして出血の拡大を防ぎ、抗浮腫薬で脳の腫れを抑えます。 さらに、抗てんかん薬や抗生物質によって発作や感染症などの合併症を予防・管理します。薬の種類や量は患者ごとに調整し、血圧や頭蓋内圧などの定期的なモニタリングが大切です。治療薬は、医師の指示に従い、自己判断で中止や増減をしないようにしましょう。 手術療法 ポイント 詳細 血腫の除去 血腫を取り除くことで脳圧を下げる 出血源の止血 出血部位を直接止血し、再出血や症状悪化を防ぐ 脳浮腫の軽減 脳の腫れを手術で軽減し、頭蓋内圧を下げる 手術のリスク 感染症や出血、麻酔合併症、新たな神経障害の可能性 術後管理とリハビリ 集中管理と早期リハビリによる後遺症軽減・機能回復 手術適応の慎重な判断 出血部位・量、全身状態を総合評価し手術の必要性を判断 外傷性脳出血に対する手術療法は、血腫による脳圧の上昇を軽減する治療法です。血腫を除去することで脳への圧迫が軽くなり、意識障害や呼吸・循環の異常を防ぎます。 手術により出血源を直接止血できるため、再出血のリスクを抑えることが可能です。また、脳の腫れを軽減することで神経機能の低下を防ぐ効果もあります。 ただし、手術には感染や出血、麻酔合併症などのリスクが伴うため、出血の部位や量、患者の全身状態をふまえた上で慎重な判断が不可欠です。術後は集中管理により脳の状態を安定させ、リハビリテーションを通じて後遺症の軽減と機能回復を目指します。 再生医療 ポイント 詳細 脳神経細胞の修復・再生 幹細胞の再生能力を利用し、損傷した脳細胞や神経の修復と機能回復を目指す 自己細胞の使用による低リスク 患者自身の細胞を使い、免疫反応や拒絶反応のリスクを低減 リハビリ効果の増強 再生医療とリハビリを併用し、脳機能回復とリハビリ効果の強化を促進 再発予防の可能性 幹細胞が血管の修復や保護に関与し、将来的な脳出血や脳梗塞のリスクを軽減できる可能性があると考えられている 外傷性脳出血に対する再生医療は、損傷した脳神経細胞の修復や再生を目指す治療法です。自己の幹細胞を用いることで免疫反応や拒絶反応のリスクが低く、感染症の心配も少ないのが特徴です。 また、リハビリテーションと併用することで機能回復の促進が期待されるほか、脳血管の保護作用による再発予防の可能性も指摘されています。ただし、効果には年齢や損傷の程度によって差があり、すべての患者に均一な結果が得られるとは限りません。 再生医療を検討する際は、対応可能な医療機関や治療内容を十分に確認した上で判断することが大切です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しております。 外傷性脳出血における後遺症のお悩みは当院へご相談ください 外傷性脳出血の後遺症は、身体機能だけでなく、日常生活や社会生活にまで影響を及ぼします。回復の程度には個人差があり、日常生活や仕事への復帰に対して不安を抱えている方も少なくありません。 当院「リペアセルクリニック」では、外傷性脳出血による後遺症のお悩みを丁寧にお伺いし、患者様一人ひとりに適した治療法をご提案いたします。なかでも再生医療(幹細胞治療)は、手術を伴わず、感染症や出血のリスクが少ない治療法として近年注目されています。 後遺症に関する些細なお悩みでも当院「リペアセルクリニック」にご相談ください。ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で承っておりますので、お気軽にお申し付けください。 外傷性脳出血に関するよくある質問 外傷性脳出血の主な原因は? 外傷性脳出血の主な原因は、交通事故や転倒、転落、スポーツ中の衝突などによる頭部への強い衝撃で、脳内の血管が損傷し出血が生じることです。受傷後は重症化を防ぐため、早めに医療機関を受診しましょう。 外傷性脳出血の死亡率は? 外傷性脳出血の死亡率は、出血の種類や重症度によって大きく異なりますが、とくに急性硬膜下血腫のような重度の出血では予後が非常に厳しいとされています。社会福祉法人 恩賜財団 済生会によると、急性硬膜下血腫に対して手術を行った場合の死亡率は65%に上り、一方で社会復帰できる人はわずか18%と報告されています。(文献6) この数値は、脳の重度な損傷や頭蓋内圧の上昇による神経機能の障害が関係しているためです。 米国のデータでは、重度の外傷性脳損傷のうち25〜33%が死亡し、けがによる死亡の約30%を占めると報告されています。外見上は軽傷でも重篤な内出血を伴うことがあるため、頭部に強い衝撃を受けた場合は早期に医療機関を受診することが重要です。(文献7) 後遺症はどのくらいで回復しますか 後遺症の回復には個人差があり、出血した部位や神経の損傷程度によって回復の経過は大きく異なります。改善には、定期的なリハビリと医師の継続的な評価が重要です。 外傷性脳出血からの職場復帰はできますか? 外傷性脳出血からの職場復帰は可能ですが、出血の部位や後遺症の程度、職種や職場環境によって状況は大きく異なります。 独立行政法人労働者健康安全機構の報告によると、復職率は平均44%(範囲0〜100%)、原職復帰は約42%、配置転換や新規就労を含めると約51%とされています。(文献8) 復職には継続的なリハビリ、職場環境の調整、周囲の理解とサポートが不可欠です。医師と相談しながら、無理のないペースで段階的に進めることが大切です。 参考資料 (文献1) 社会福祉法人 恩賜財団 済生会「外傷性脳内血腫」社会福祉法人 恩賜財団 済生会, 2023年7月19日 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/traumatic_intracerebral_hematoma/?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日) (文献2) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「外傷性脳損傷(TBI)」MSD マニュアルプロフェッショナル版, 2023年2月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/22-%E5%A4%96%E5%82%B7%E3%81%A8%E4%B8%AD%E6%AF%92/%E5%A4%96%E5%82%B7%E6%80%A7%E8%84%B3%E6%90%8D%E5%82%B7-tbi/%E5%A4%96%E5%82%B7%E6%80%A7%E8%84%B3%E6%90%8D%E5%82%B7-tbi?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日) (文献3) 黒田徹.「脳外科手術,脳卒中,頭部外傷により生じる続発性てんかん~続発性てんかんの進展をいかに予防するか?〜」『ユービーシージャパン株式会社・大塚製薬株式会社』, pp.1-4 https://nara.hosp.go.jp/img/health/igaku04.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日) (文献4) 柴田 靖.「頭部外傷による急性頭痛と遷延性頭痛」『(日本頭痛学会誌,51:155―158,2024)』巻(号), pp.1-4 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjho/51/1/51_155/_pdf/-char/ja?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日) (文献5) 「Ⅲ.脳出血」 pp.1-51 https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/nou2009_03.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日) (文献6) 社会福祉法人 恩賜財団 済生会「急性硬膜下血腫」社会福祉法人 恩賜財団 済生会, 2020年2月5日 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/acute_subdural_hematoma/(最終アクセス:2025年06月13日) (文献7) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「頭部外傷の概要」MSD 家庭版, 2023年3月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/25-%E5%A4%96%E5%82%B7%E3%81%A8%E4%B8%AD%E6%AF%92/%E9%A0%AD%E9%83%A8%E5%A4%96%E5%82%B7/%E9%A0%AD%E9%83%A8%E5%A4%96%E5%82%B7%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81(最終アクセス:2025年06月13日) (文献8) 豊田 章宏.「脳卒中に罹患した労働者に対する治療と就労の両立支援マニュアル」『平成29年3月独立行政法人 労働者健康安全機構』, pp.1-52, https://www.johas.go.jp/Portals/0/data0/kinrosyashien/pdf/bwt-manual_stroke.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日)
2025.06.29 -
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「頭皮マッサージは再出血のリスクにつながらないか」 「頭皮マッサージを受けるのはやめるべきなのか」 脳出血を経験したことのある方にとって、血流を刺激する施術には少なからず警戒心があるはずです。とくに美容院や整体で頭皮マッサージを普段から受けている人であれば、なおさら再発に対する不安や疑問があることでしょう。 本記事では、頭皮マッサージと脳出血の関係や以下の内容について医師が詳しく解説します。 脳出血後に頭皮マッサージを行う際の禁忌事項 脳出血の既往がある方が頭皮マッサージを行う際の注意点 再出血を防ぐために気を付けるべきこと 頭皮マッサージがすべての人にリスクがあるとは限りませんが、状態によっては避けるべきケースもあります。記事の最後には、頭皮マッサージと脳出血の関係に関するよくある質問をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 頭皮マッサージと脳出血の関係 リスク要因 対策 高血圧の管理が不十分 血圧コントロールを優先し、安定後に医師の許可を得る 抗凝固薬(血液サラサラ薬)服用中 マッサージ前の出血傾向チェック 脳動脈瘤・血管異常の既往歴 マッサージが禁止となる場合もあるため、自己判断では行わないこと 脳出血発症後3カ月未満 原則マッサージ禁止 頭皮マッサージが脳出血を直接引き起こすことは、医学的にほとんどありません。頭皮マッサージは頭皮表面の血行促進を目的としており、脳内の血管に直接影響を与えるものではないため、通常の強さで行う分には心配いりません。ただし、脳出血を経験されている方は注意が必要です。 出血後間もない時期や血圧が不安定な場合、強い刺激は再出血につながるおそれがあるため、自己判断でマッサージを行うのは避けましょう。 マッサージを希望される場合は、医師の指導のもと、優しい力加減で行うことが大切です。気になることがあれば、遠慮なく医師に相談しましょう。 また、脳出血について詳しく知りたい方は「【医師監修】脳出血とは|症状・種類・原因を詳しく解説」で解説しています。ぜひ参考にしてください。 脳出血後に頭皮マッサージを行う際の禁忌事項 禁忌事項 詳細 強い刺激・圧迫 強い力でのマッサージや頭部への過度な圧力は、デリケートな血管に負担をかけ出血リスクを高める 頭部の腫れや血管異常が残っている場合 動脈瘤や血管などの異常や脳の腫れ(浮腫)が残っている場合、マッサージで状態悪化や再出血のリスクがある 発症後間もない時期(急性期) 脳出血発症直後は脳の状態が非常に不安定で、マッサージが血圧変動や脳への負担となるため、医師の許可が出るまで実施しない 脳出血後の頭皮マッサージは、誤った方法で行うとリスクを伴う場合があります。再出血などの合併症を防ぐため、強い刺激や頭部の腫れや、血管異常が残っている場合は頭皮マッサージを行ってはいけません。 強い刺激・圧迫 禁忌事項 詳細 脳内血管への影響 脳出血後の脆弱な血管への再出血リスク増加 頭皮毛細血管への影響 頭皮の毛細血管損傷による内出血や炎症発生 感覚障害によるリスク 感覚低下による過度な刺激の継続と皮膚・血管損傷リスク 一般的な頭皮マッサージが直接脳出血を引き起こす可能性は低いと考えられています。脳出血の主な原因は高血圧や脳動脈瘤の破裂などです。 脳出血は血管そのものの状態によるため、頭皮の血行を促す頭皮マッサージで、脳出血が再発する可能性は低いと考えられます。ただし、強い刺激や圧迫を加えると、脳内血管に負担がかかり、再出血のリスクが高まるおそれがあります。 脳出血に限らず、頭皮への強い刺激は血管損傷や炎症を発生させる可能性があるため、控えるようにしましょう。 頭部の腫れや血管異常が残っている場合 項目 説明 脳浮腫 出血周囲の炎症による水分貯留と脳組織の腫れ 頭蓋内圧亢進 脳浮腫による頭蓋骨内圧の上昇と脳血流障害の危険性 頭部のむくみ 外見上のむくみが脳内浮腫の残存を示唆し、マッサージによる圧力変化で悪化リスク 血管異常(動脈瘤・奇形) 脆弱で破裂しやすい血管異常の存在とマッサージによる血流変動での負担増加リスク 回復期の脳組織のデリケートさ 修復途中の脳組織への不必要な刺激による回復阻害や合併症リスクの増加 脳出血後は脳にむくみ(脳浮腫)が生じやすく、脳を圧迫して頭蓋内圧が上昇し、血流障害や脳損傷のリスクが高まります。外見上、頭や顔にむくみがある場合は脳内にも浮腫が残っている可能性があり、頭皮マッサージによる血流やリンパの変化で状態が悪化するケースもあります。 また、脳動脈瘤などの血管異常が残っている場合、わずかな刺激でも再出血の危険性があるため、注意が必要です。脳は回復期に非常にデリケートなため、頭部の腫れや血管異常がある間はマッサージを控え、医師の指示に従うようにしましょう。 発症後間もない時期(急性期) 禁忌事項 理由 再出血リスク 出血部位の血管が脆弱なため、刺激や血流変化で再出血の危険性増加 頭蓋内圧上昇 血流増加による頭蓋内圧の上昇で脳損傷悪化の可能性 血圧変動 マッサージによる血圧変動で再出血リスク増加 脳出血後の急性期(発症から1〜2週間)は、脳や血管が非常に不安定な状態のため、頭皮マッサージを行うと、血管が修復されておらず、再出血のリスクが高まります。 マッサージによって血流や血圧が変動し、結果的に頭蓋内圧が上昇する可能性もあります。急性期のマッサージは禁忌であり、安静と医師の管理のもとで治療を受けるようにしましょう。 脳出血の既往がある方が頭皮マッサージを行う際の注意点 注意点 詳細 体調不良時は頭皮マッサージを行わない 発熱やだるさ、血圧が高いときなど体調が悪い場合は、マッサージを控える 脳に強い圧迫や刺激を与えない 強い力や圧迫は脳や血管への負担になるため、優しい力加減で実施する 体調に異変を感じたらすぐに中止する 頭痛、めまい、吐き気などの異変を感じた場合は、すぐにマッサージを中止し医師に相談する 脳出血の既往がある方は、体調不良時の頭皮マッサージや脳への強い圧迫は危険です。頭皮マッサージを行う際は自己判断ではなく、医師に相談したうえで実施するようにしましょう。 体調不良時は頭皮マッサージを行わない 理由 解説 全身状態の不安定化 発熱や倦怠感などで体力・免疫力が低下し、血圧や血流の変動が起こりやすい状態 血圧・脳圧の変動リスク 自律神経の乱れやマッサージ刺激による血圧・脳圧の急激な変動 回復力低下による合併症リスク 体調不良時は回復力・抵抗力が落ち、軽微な刺激でも頭痛や吐き気などの合併症が生じやすい状態 症状悪化や見逃しのリスク 体調不良時は体調変化に気づきにくく、症状悪化や異常の見逃しにつながる危険性 熱、頭痛、めまい、吐き気など、体調が優れない時は頭皮マッサージを控えましょう。体調不良時は血圧が不安定になりやすく、再出血や脳圧上昇などのリスクを招く可能性があります。倦怠感や疲労を感じる際も無理はせず、まずは体調の回復を優先しましょう。 脳に強い圧迫や刺激を与えない 理由 説明 再出血リスク 急性期の脆弱な血管への負担増加による再出血の危険性 頭蓋内圧上昇 マッサージ刺激による頭蓋内圧の上昇と脳損傷悪化の可能性 血圧変動による影響 血圧の急激な変動による再出血や脳血管障害のリスク 脳出血の既往がある方が頭皮マッサージを行う際は、脳に強い圧迫や刺激を与えないことが重要です。とくに発症後24〜48時間の急性期は再出血のリスクが非常に高く、この時期に頭部へ刺激が加わると、脆弱な血管に負担がかかり再出血を引き起こす恐れがあります。 再出血は初回より広範囲な脳損傷や重篤な後遺症、生命の危険を伴うこともあります。頭皮マッサージの刺激は頭蓋内圧の上昇や血圧変動を招き、脳損傷や再出血リスクを高める要因です。 頭皮マッサージを行う場合は医師の許可を得て、軽い刺激で短時間にとどめ、体調変化に注意しましょう。また、頭皮マッサージ中に少しでも違和感があれば、すぐに中止し医師に相談してください。 体調に異変を感じたらすぐに中止する 理由 説明 再出血や脳圧上昇の早期察知 頭痛・めまい・吐き気など異変は再出血や脳圧上昇の兆候である可能性 血圧変動による再出血リスク防止 マッサージによる血圧変動が再出血や脳血管障害の引き金となる危険性 神経系への過度な刺激回避 マッサージ刺激による神経系の過剰反応や血流変化による症状悪化の危険性 脳出血の既往がある方は、頭皮マッサージ中や後に頭痛、めまい、吐き気など体調に異変を感じた場合、すぐに中止し、医師に相談する必要があります。これらの症状は再出血や脳圧上昇の兆候の可能性があります。 また、マッサージは血圧変動を引き起こしやすく、その中でも、高血圧や血圧管理が必要な方は再出血リスクが高く危険な状態です。さらに、神経系への過度な刺激も症状悪化の原因となります。異変を感じたら無理せず中止し、必要に応じて速やかに医療機関へ相談しましょう。 再出血を防ぐために気を付けるべきこと 気を付けるべきこと 詳細 血圧と服薬の管理を徹底する 血圧測定とコントロールの継続、降圧薬の指示通りの服用、自己判断での服薬中止や変更の厳禁 健康的な生活習慣を実践する バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、塩分・脂肪控えめ、禁煙・節酒、ストレス管理の徹底 定期的な医師の診察を受ける 定期受診と検査の継続、医師によるリスク評価と指導、症状がなくてもスケジュール通りの受診 再出血を防ぐためには、毎日血圧を測定し、降圧薬を医師の指示通りに服用することが大切です。バランスの良い食事や適度な運動、十分な睡眠、禁煙・節酒、ストレス管理も心がけましょう。また、症状がなくても定期的に医師の診察や検査を受け、リスク管理や指導を受けることが重要です。 以下の記事では、脳出血の再発率や血圧管理を含む予防法を詳しく解説しています。 血圧と服薬の管理を徹底する 理由・有効性 解説 高血圧は再出血の最大リスク要因 血圧上昇による脳血管への負担増加と再出血リスクの直結 血圧管理で再出血のリスク大幅低減 毎日の血圧測定と目標値維持による再出血予防効果 服薬管理は血圧安定のカギ 降圧薬の継続服用による血圧コントロールと再出血リスク低減 服薬継続と血圧測定が予防に直結 定期的な血圧測定と指示通りの服薬の継続による再発予防の実証 具体的な管理方法 家庭での血圧測定・記録、降圧薬の毎日服用、自己判断せず医師相談、定期的な診察・検査の実施 (文献1) 脳出血の再出血を防ぐ上で、血圧管理と服薬継続は最も重要なことです。高血圧は再出血の最大リスク要因であり、血圧が高いと脳の血管に大きな負担がかかります。毎日血圧を測定し、医師が目標とする血圧値、130/80mmHg未満(75歳以上では140/90mmHg未満)を維持できるよう努めましょう。 降圧薬は血圧を安定させるために不可欠であり、中断や変更を自己判断で行わず、医師の指示通りに服用することで、再出血予防が期待できます。 健康的な生活習慣を実践する 生活習慣 内容 効果 食事 減塩・栄養バランスの取れた食事 高血圧予防・血管の健康維持 運動 ウォーキングやストレッチの習慣化 血圧低下・ストレス軽減 睡眠 規則正しい生活と十分な睡眠時間 血圧安定・自律神経の調整 禁煙 たばこを控え、禁煙外来の活用 血管収縮の防止・再発リスク低減 節酒 飲酒量を適正に保つよう意識する 血圧の上昇抑制・肝機能保護 ストレス管理 趣味やリラックス法の導入 血圧変動の抑制・心身の安定 (文献2) 脳出血の再発を防ぐためには、健康的な生活習慣の実践が欠かせません。とくに塩分を控えた食事や、軽めの運動習慣は、血圧の安定に大きく寄与します。また、睡眠の質を保つことで自律神経が整い、血圧の変動も抑えられます。喫煙や過度の飲酒は血管に強い負担をかけるため、禁煙や節酒を心がけましょう。 さらに、趣味やリラックス法を取り入れてストレスをコントロールすることで、再出血のリスクを軽減し、健康的な日常を維持しやすくなります。 以下の記事では脳出血の退院後の生活習慣について詳しく解説しています。 定期的な医師の診察を受ける 有効性 解説 血圧管理の徹底 定期的な血圧測定と降圧薬調整による血圧コントロールと再出血リスク低減 再発リスク因子の早期発見と対応 高血圧・糖尿病・高脂血症などリスク因子の早期発見と治療による再発予防 薬物療法の適正な管理 薬剤の効果・副作用の評価と必要に応じた薬剤調整による効果的な治療の実現 脳出血の再発予防には、定期的な医師の診察が不可欠です。診察では血圧や再発リスク因子を細かくチェックし、必要に応じて薬の調整や生活習慣の指導を受けられます。 薬の効果や副作用も定期的に確認することで、状態に合わせた処方が可能です。症状がなくても受診を続けることで、再出血リスクを大きく減らせます。 脳出血後の頭皮マッサージは医師と相談したうえで実施しよう 脳出血の既往がある方が頭皮マッサージを実施する場合は自己判断は避け、医師に相談した上で正しく行うようにしましょう。脳出血は再発すると最悪の場合、命に危険が及ぶ可能性がある病気です。頭皮マッサージだけでなく、生活習慣を見直すなどの再発防止にも努めましょう。 脳出血の後遺症に関するお悩みは、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では脳出血に対する頭皮マッサージに加えて、後遺症や生活習慣の改善についても丁寧にアドバイスいたします。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 頭皮マッサージと脳出血の関係に関するよくある質問 頭皮マッサージで死亡した事例はありますか? 2025年6月現在、ヘッドマッサージやヘッドスパによる死亡事例は報告されていません。しかし、いくつかの状況下では重篤な健康被害が発生する可能性があるため注意が必要です。 たとえば、美容院で首を後ろに反らせたまま長時間過ごすと、椎骨動脈が圧迫され美容院脳卒中症候群を起こすことがあります。飲酒後は血管が拡張しやすく、マッサージによる刺激で血圧が急変し、脳出血や心筋梗塞のリスクが高まります。 ヘッドスパは脳出血の直接的な原因になりますか? ヘッドスパが脳出血の直接的な原因になることは、まずありません。通常のヘッドスパや頭皮マッサージで脳出血が起こることは極めて稀であり、多少力を入れても脳出血につながるケースは考えにくいとされています。 ただし、美容院で首を後ろに反らせた姿勢が長時間続くなどで、椎骨動脈が圧迫されて脳への血流が低下し、美容院脳卒中症候群と呼ばれる脳卒中を引き起こす可能性があります。 既往症がある方や首への負担が大きい姿勢を長時間続ける場合は体調の変化に気を付けましょう。 頭皮マッサージで血管が切れることはありますか? 通常の頭皮マッサージによって血管が切れることはほとんどありません。ただし、強い力でマッサージを行うと、頭皮の毛細血管が損傷し、炎症や出血を引き起こす可能性があります。また、飲酒後は血管が拡張しているため、マッサージの刺激で血管が破れやすくなるリスクがあるため、注意が必要です。 過去に頭部の外傷や脳出血などの既往がある方は、頭皮マッサージによる再出血が懸念されるため、事前に医師に相談するようにしましょう。 参考資料 (文献1) 佐藤祥一郎.「脳出血の血圧管理」『脳卒中 J-STAGE 早期公開 2018年 2月 27日』, pp.1-5, 2017年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke/advpub/0/advpub_10605/_pdf(最終アクセス:2025年06月10 日) (文献2) 「Ⅲ.脳出血」 pp.1-51 https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/nou2009_03.pdf(最終アクセス:2025年06月10日)
2025.06.29 -
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「肩から腕、指先にかけて、しびれやだるさを感じる」 「肩や腕に違和感があり、つらい」 その症状は頸椎椎間孔狭窄症と呼ばれる疾患の可能性があります。頸椎椎間孔狭窄症は、首の神経の通り道が狭くなることで腕や手に異常を引き起こす疾患です。症状が進行すると日常生活に影響が及ぶため、早期の対処が重要です。 本記事では、現役医師が、頸椎椎間孔狭窄症の原因や症状、治療法の全体像をわかりやすく解説します。また、記事の最後には、頸椎椎間孔狭窄症に関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 頸椎椎間孔狭窄症とは 症状の分類 主な症状例 特徴や注意点 首・肩・肩甲骨の違和感 首の付け根や肩、肩甲骨周辺の鈍痛や重だるさ 姿勢や動作で悪化しやすい違和感。首の可動域制限や放散痛を伴うことも多い 腕や手のしびれ 指先まで広がる「ジンジン」「ピリピリ」「チクチク」などの感覚異常 神経根ごとに症状の出る場所が異なる。片側性が多く、麻痺感や焼けるような違和感もあり得る 筋力低下・脱力 握力低下、物を落とす、細かい作業の困難 神経の圧迫が続くことで起こる。日常動作に支障が出ることもある 感覚異常 触られても感覚が鈍い、熱さ冷たさがわかりにくい、アロディニア しびれとは異なる、感覚の異常。異痛症を訴えるケースもある 足の症状(稀) 歩行障害、排尿・排便障害、体幹のしびれ 脊髄圧迫を伴う重度例であり、早急な受診が必要 頸椎椎間孔狭窄症は、首の骨(頸椎)の間にある神経の通り道(椎間孔)が狭くなることで、神経が圧迫され、さまざまな症状が生じる疾患です。椎間孔は脊髄から分かれた神経が手や腕へ向かう重要な経路であり、そこが狭くなると、神経の流れが妨げられます。 頸椎椎間孔狭窄症は、加齢による骨や椎間板の変化が主な原因であり、長時間同じ姿勢を続ける習慣も悪化の要因です。足のしびれや排尿障害などがある場合は、できるだけ早く医療機関を受診してください。 頸椎椎間孔狭窄症の症状 症状 詳細 首や肩の違和感 神経根の圧迫による神経刺激、周囲組織の炎症や緊張による不快感やこわばり、長時間同じ姿勢や首の動作で悪化 腕や手のしびれ・脱力感 神経根の圧迫によるしびれや感覚異常、筋力低下や脱力感、首の動作や同じ姿勢で悪化 足の症状(稀に発症) 椎間孔や脊柱管の高度な狭窄による脊髄圧迫。足のしびれ、脱力、歩行障害、排尿・排便障害。重症例で発症 頸椎椎間孔狭窄症は、神経根の圧迫により首や肩の違和感や腕のしびれ、筋力低下が生じる疾患です。 まれに脊髄まで圧迫されると、足のしびれやふらつき、排尿・排便障害といった重い症状が出ることがあります。症状が悪化する前に、気になる症状があれば早めに医療機関を受診しましょう。 首や肩の違和感 原因 詳細 神経根の圧迫による神経刺激 狭くなった椎間孔で神経根が圧迫され、局所的な違和感や不快感が生じる状態 周囲組織の炎症や緊張 筋肉や靭帯の炎症・緊張によるこわばりや違和感。長時間同じ姿勢や動作によって悪化する傾向 頸椎椎間孔狭窄症では、最初に首や肩に軽いこわばりや違和感を覚えることがあります。この症状は、神経が圧迫されはじめているサインであり、無理な姿勢や長時間の同一姿勢によって悪化しやすい傾向があります。 とくに、振り返る動作や上を向く姿勢で違和感が強まる場合は、神経への負担が強くなっている可能性があるため注意が必要です。気になる症状がある場合は、できるだけ早く医師に相談しましょう。 以下の記事では、右肩(左肩)がズキズキする症状について詳しく解説しています。 腕や手のしびれ・脱力感 症状 詳細 しびれや感覚異常 神経根の圧迫による腕や手のしびれ、チクチク感。感覚の鈍さや違和感の出現 筋力低下や脱力感 圧迫が進行すると腕や手の筋力低下、物を持つ力の低下。細かい作業や動作の困難 違和感の悪化 首を後ろに反らせる、長時間同じ姿勢で症状が悪化 神経の圧迫が進行すると、腕や手にしびれや力の入りにくさが現れます。しびれは片側に出ることが多く、親指から中指、または薬指にかけて広がることもあるのが特徴です。 物を落としやすくなるなど日常動作に支障をきたす場合は、神経の損傷が進行している可能性があるため、症状が続くようであれば、医療機関への受診が必要です。 以下の記事では、手足のしびれについて詳しく解説しています。 足の症状(稀に発症) 特別なケース 詳細 椎間孔・脊柱管の高度狭窄 神経根だけでなく脊髄自体も圧迫。頸椎脊髄症の合併。足のしびれ、脱力、歩行障害、排尿・排便障害の出現 骨変形や椎間板膨隆の合併 骨棘や椎間板の膨隆で脊髄の通り道(脊柱管)が狭くなり、脊髄自体が圧迫。足の運動・感覚異常、巧緻運動 頸椎椎間孔狭窄症では、神経根の圧迫によって主に腕や手に症状が現れます。しかし、狭窄が高度になり、脊髄を通る脊柱管全体が狭くなると、脊髄そのものが圧迫される、頸椎脊髄症を合併するケースがあります。 このような場合、足のしびれやふらつき、小走りしにくいといった歩行障害に加え、尿が出にくい、頻尿、尿失禁、便秘などの排尿・排便障害が生じることがあります。これらは重症のサインであり、早急な医療機関での受診と精密検査が必要です。 頸椎椎間孔狭窄症の原因 原因 内容 加齢と身体の変性 年齢とともに椎間板の変性や骨の変形、靭帯の肥厚が進行し椎間孔が狭くなる。自然な老化現象で個人差あり 椎間板ヘルニア 椎間板の髄核が外へ飛び出し神経を圧迫。急な首の違和感やしびれ。若年層にも発症しやすい 生活習慣や外的要因 長時間の前傾姿勢、運動不足、重い荷物、交通事故や転倒などによる頸椎への慢性的な負担や外傷 先天的な要因 生まれつき椎間孔が狭い体質。若年でのしびれや脱力の原因。家族歴も考慮し総合的な評価が必要 頸椎椎間孔狭窄症は、加齢による椎間板や骨、靭帯の変性が主な原因です。椎間板ヘルニアや長時間の前傾姿勢、重い荷物の持ち運び、事故などの外傷も発症の一因となります。 また、生まれつき椎間孔が狭い体質の方もおり、若い方でも症状が現れることがあります。どの原因でも、早期発見と適切な治療が重要です。 加齢と身体の変性によるもの 主な要因 内容 椎間板の変性 加齢により椎間板の水分が減少し弾力性が低下。椎間板が潰れて椎間孔が狭くなり、神経根の圧迫を招く 骨棘(こつきょく)の形成 椎間板や関節の摩耗で椎体の縁に骨棘ができ、椎間孔を狭くし神経根を圧迫。違和感やしびれの原因となる 黄色靭帯の肥厚 加齢やストレスで黄色靭帯が厚くなり、椎間孔内に突出。神経根を圧迫し症状を引き起こす 頸椎椎間孔狭窄症は、加齢により椎間板の変性や骨棘の形成、靭帯の肥厚が進むことで神経の通り道が狭くなり、首や腕に違和感やしびれが生じる疾患です。 これらは中高年に多くみられる自然な変化ですが、姿勢不良や喫煙、首への過度な負担が進行を早めるため、早期の予防と対策が重要です。 椎間板ヘルニア メカニズム・原因 内容 椎間板ヘルニアの発生機序 椎間板の髄核が線維輪を破って飛び出し、神経根を直接圧迫。椎間孔内のスペースが狭くなり症状を誘発 炎症反応の関与 飛び出した髄核による炎症で神経周囲が腫れ、違和感やしびれを助長 よく見られる症状 腕や手のしびれ・違和感、指先の感覚異常や筋力低下、巧緻障害。首を後ろに反らすと症状悪化しやすい 加齢変性との違い 加齢変性は中高年に多く進行は緩徐。骨棘や靭帯肥厚が特徴。椎間板ヘルニアは若年~中年にも発症、急激な症状 椎間板ヘルニアは、椎間板の中心部(髄核)が外に飛び出し、神経根や脊髄を直接圧迫することで、頸椎椎間孔狭窄症と同じような腕や手のしびれ・違和感、筋力低下などの症状を引き起こします。 加齢による変性は進行がゆっくりで中高年に多いのに対し、椎間板ヘルニアは若い方にも起こりやすく、急に強い症状が出るのが特徴です。症状が続く場合は、早急に医療機関を受診する必要があります。 以下の記事では、椎間板ヘルニアの症状を詳しく解説しています。 生活習慣や外的要因 頸椎椎間孔狭窄症は、加齢による椎間板や骨、靭帯の変性だけでなく、日常生活や仕事、スポーツによる首への負担や外傷、喫煙習慣なども発症の大きな要因です。 交通事故や転倒などの強い衝撃、長時間の悪い姿勢、重い荷物の持ち運び、同じ動作の繰り返しなどは、頸椎にストレスを与え椎間孔の狭窄を進めます。喫煙も椎間板や骨、靭帯の栄養を低下させ、変性を促進します。 これらの生活習慣や外的要因を見直し、適切な姿勢や禁煙を心がけることが予防や進行抑制につながります。症状が続く場合は早めに医療機関を受診しましょう。 先天的な要因 頸椎椎間孔狭窄症は、先天的な要因によっても発症するケースもあります。生まれつき椎間孔が狭い体質の方は、神経の通り道がもともと限られているため、わずかな骨の変形や椎間板の膨らみでも神経が圧迫されやすくなります。 椎骨の形態異常や脊柱の発育異常も、椎間孔の形や大きさに影響を与える要因です。このような先天的な特徴に加え、加齢や外傷、生活習慣の影響が重なることで症状が出やすくなります。とくに若い年代で原因不明のしびれや脱力がある場合は、先天的な狭小化が疑われるため、家族歴も含めた専門的な評価が必要です。 頸椎椎間孔狭窄症の治療法 治療法 詳細 薬物療法 神経の炎症を抑え、違和感やしびれを軽減。消炎鎮痛薬、神経痛治療薬、筋弛緩薬、ビタミン剤などを使用 理学療法(リハビリ) 筋力強化や柔軟性向上、姿勢改善、血流促進を目的にストレッチや運動、温熱療法を実施。症状の緩和と再発防止に有効 神経ブロック注射 神経の違和感や炎症を局所麻酔とステロイドで直接抑制ができ、即効性も見込める 手術療法 保存療法で改善しない場合に検討。神経の圧迫を取り除くため、椎間孔拡大術や椎弓形成術などが行われる 再生医療 幹細胞を用いて神経の修復を促す新しい治療法。手術に比べて身体への負担が少なく、保存療法が無効な場合の選択肢となりうる 頸椎椎間孔狭窄症の治療は段階を追って進められます。まずは薬で炎症や違和感を抑え、リハビリによって筋力や姿勢を整えます。 症状が強い場合には、神経ブロック注射によって一時的に違和感やしびれを緩和できます。これらの保存療法で効果が不十分な場合は、神経の圧迫を取り除く手術の検討が必要です。また、近年では再生医療も、手術以外の新たな選択肢として注目されています。 薬物療法 薬の種類 内容 消炎鎮痛薬(NSAIDs) 違和感や炎症の緩和。ロキソプロフェンやセレコキシブなどの飲み薬や湿布を使用 神経障害性疼痛治療薬 神経痛やしびれの軽減。プレガバリン、デュロキセチンなどを少量から段階的に服用 筋弛緩薬 筋肉の緊張緩和と血流促進。エペリゾンやチザニジンなどを使用 ビタミンB群製剤 神経機能の維持や修復。メコバラミンなどを使用。神経回復をサポート ステロイド薬(内服・注射) 強力な抗炎症作用。急性期の違和感や炎症に短期間使用されることが多い 薬物療法は、頸椎椎間孔狭窄症による違和感やしびれ、筋肉の緊張を和らげるのに有効です。違和感やしびれを緩和するために、消炎鎮痛薬や筋弛緩薬が処方されます。症状の程度によっては神経の炎症を鎮める治療が行われることもあります。 薬物療法はあくまで一時的な対処であり、根本的な改善にはほかの治療と併用するのが一般的です。副作用や効果の持続性を考慮しながら、医師の指導のもと行われます。 理学療法(リハビリテーション) 目的 内容 筋力の強化・柔軟性向上 首や肩、背中の筋肉を鍛え、柔軟性を高めることで頸椎への負担を軽減。再発予防にも有効 姿勢の改善 正しい姿勢を維持することで椎間孔への圧迫を減らし、神経への負担を軽減 血流の促進 適切な運動や温熱療法で血流を改善し、組織の修復や炎症の軽減を促進 具体的な施策 ストレッチや筋力トレーニング、姿勢指導、温熱療法などを理学療法士が個別にプログラムし指導 (文献1) 首や肩の筋肉を柔軟に保ち、神経への圧迫を軽減するために行われます。ストレッチや軽い運動療法、温熱療法などが組み合わされることが多く、継続することで徐々に症状の緩和が期待できます。 また、正しいリハビリの継続は頸椎椎間孔狭窄症の再発防止にも有効です。個々の症状に応じてプログラムが組まれるため、医師の指導のもとで実施されます。 神経ブロック注射 種類 内容 神経根ブロック 圧迫された神経根の周囲に麻酔薬とステロイドを注射。腕や手の強い違和感やしびれに有効 硬膜外ブロック 脊髄周囲の空間に薬剤を注入。広範囲に作用し、首・肩・腕の広い範囲の症状に対応可能 トリガーポイント注射 筋肉の硬結部に麻酔薬を注射。筋緊張や血行不良による首・肩の違和感を改善するのに有効 神経ブロック注射は、頸椎椎間孔狭窄症による強い違和感やしびれを一時的に緩和する有効な方法です。比較的即効性があり、症状が強い場合に短期的な緩和を目的として実施されます。 ただし、神経ブロック注射は根本的な治療ではないため、繰り返しの使用には限度があり、通常は他の治療と併用して行われます。また、血圧の低下やめまいなどの副作用が起こる可能性もあるため、実施にあたっては医師と十分に相談した上での判断が大切です。 手術療法 手術法 詳細 内視鏡下頚椎椎間孔拡大術(MECF) 小さな切開から内視鏡を用いて椎間孔を拡大し、神経の圧迫を解除。筋肉や骨への負担が少なく、回復が早い 頚椎前方除圧固定術(ACDF) 首の前方から椎間板や骨棘を除去し、神経の圧迫を解除して椎体を固定。神経圧迫の解除と症状改善が期待できる場合に適応 頚椎椎弓形成術 首の後方から椎弓を形成し、脊柱管を拡大して神経の圧迫を解除。脊髄症状がある場合に適応 頸椎椎間孔狭窄症の手術療法は、保存的治療で効果が得られない場合や、症状が重く日常生活に支障がある場合に検討されます。手術は神経の圧迫を直接解除し、症状の改善や進行防止が期待できます。 代表的な方法には、内視鏡下椎間孔拡大術、前方除圧固定術、後方椎弓形成術があり、症状や状態に応じて選択されるのが特徴です。ただし、手術には感染や出血、神経損傷などのリスクもあるため、十分な説明を受けた上で慎重な判断が求められます。 再生医療 有効性の理由 内容 神経の再生と修復を促進 幹細胞を用いて損傷した神経組織の再生・修復を目指す。脊髄腔内ダイレクト注射療法で損傷部位へ直接作用 身体への負担が少ない 注射や点滴が中心で手術に比べて身体への負担が少ない。自分の細胞を使うため拒絶反応のリスクも低減 新たな治療選択肢の提供 手術や保存療法で効果が得られない場合にも適応可能。慢性的な違和感やしびれの改善を目指す新しい選択肢 再生医療は、手術や保存療法で効果が不十分だった場合の選択肢のひとつです。注射や点滴で幹細胞を直接損傷部位に届け、神経の再生・修復を促すことで、症状の改善が期待できます。 低侵襲であり、自家細胞使用により拒絶反応のリスクも小さいのも利点です。ただし、効果には個人差があり、すべての方に同じ効果が得られるわけではありません。 再生医療は限られた医療機関でのみ実施されているため、検討する際は事前に対応可能な施設を確認し、治療を希望する場合は医師と十分に相談した上で進めることが大切です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 頸椎椎間孔狭窄症の再発防止策 再発防止 詳細 日常姿勢の見直し 首への負担を避ける姿勢の工夫と寝具の見直し 過度な負荷を避ける 重い荷物の回避と衝撃予防、柔軟性維持のための運動習慣化 体重管理・生活習慣の改善 適正体重の維持と生活習慣の改善による首への負担軽減 頸椎椎間孔狭窄症の再発を防ぐには、正しい姿勢の維持や無理のない動作、適度な運動、体重管理を含む生活習慣の改善が欠かせません。 これらの対策は、自己判断で行うのではなく、医師の指導のもとで実践することが再発防止において大切です。 日常姿勢の見直し 項目 詳細 正しい立ち姿勢の維持 頭をまっすぐ引き上げ、あごを軽く引く。肩の力を抜き、腹部に力を入れて背筋を伸ばす姿勢の意識 正しい座り姿勢の実践 浅く座って背もたれに寄りかかる。膝は股関節よりやや高く、足組みは長時間継続しないこと 長時間の同一姿勢を回避 1時間に1回の休憩とストレッチ。首を前に突き出す姿勢の回避と、適度な姿勢変化の実践 頸椎椎間孔狭窄症の再発を防ぐには、日常の姿勢を見直すことが重要です。前かがみや猫背などの悪い姿勢は、頸椎の自然なカーブを崩し、椎間孔を狭めて神経を圧迫しやすくなります。 正しい立ち方や座り方を意識し、長時間同じ姿勢を避けてストレッチを取り入れることで、首への負担を軽減できます。症状の再発を防ぐためにも、姿勢改善を継続し、異変を感じた際は早めに医師へ相談しましょう。 過度な負荷を避ける 頸椎椎間孔狭窄症の改善や再発予防には、首に過度な負荷をかけないことが重要です。椎間孔が狭くなると神経が圧迫され、首や肩、腕に違和感やしびれが生じやすくなります。長時間同じ姿勢を続けると頸椎に負担がかかり、症状の悪化や再発を招く原因となります。 重い物を持つ際は、腰を落として膝を曲げ、首に負担がかからない姿勢を意識しましょう。また、ストレッチや軽い運動を習慣づけることで筋肉や靭帯の柔軟性が保たれ、頸椎への負担軽減につながります。再発防止には、姿勢の見直しを継続し、症状が現れたときは医師に相談しましょう。 体重管理・生活習慣の改善 取り組み 詳細 頸椎への負担軽減 適正体重の維持により、首や肩への物理的な負担を軽減 血流の改善 運動とバランスの取れた食事で血流を促進し、神経や椎間板への栄養供給を改善 筋力の維持・強化 首・肩周辺の筋肉を鍛え、頸椎の安定性を向上させ、姿勢保持力の強化に寄与 姿勢の改善 正しい座り方と長時間同じ姿勢を避ける工夫で、頸椎への継続的な負荷を予防 適度な運動の習慣化 ウォーキングや水中運動など、無理なく継続できる軽めの運動による全身の血流と筋力維持 ストレッチの導入 首や肩甲骨周辺のストレッチで柔軟性を高め、筋肉のこわばりを防止 頸椎椎間孔狭窄症の再発を防ぐには、体重管理と生活習慣の見直しが不可欠です。体重が増えると首への負担が増し、狭窄の進行を助長します。適正体重の維持と正しい姿勢の意識、定期的なストレッチや軽い運動は、頸椎への負担を減らし、血流や神経機能の改善にもつながります。 とくにウォーキングや水中運動は関節に優しく、継続しやすい方法です。無理のない範囲で取り組み、身体の違和感が強い場合は運動を中止し、医療機関を受診しましょう。 頸椎椎間孔狭窄症が疑われる場合は迷わず医療機関へ 腕や手のしびれが続く場合や、首を動かしたときに違和感がある場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。 頸椎椎間孔狭窄症は、早期に発見すれば適切な治療を開始でき、症状の悪化を防止できます。放置すると悪化し、日常生活に支障をきたす恐れがあるため、注意が必要です。 当院「リペアセルクリニック」では、頸椎椎間孔狭窄症に対して幹細胞を用いた再生医療を提供しています。手術を行わずに症状の改善が期待でき、拒絶反応のリスクが低く、身体への負担が少ない点が特徴です。 頸椎椎間孔狭窄症が疑われる方は、どうぞお気軽にご相談ください。ちょっとしたお悩みや不安にも丁寧に耳を傾け、改善に向けた適切なアドバイスをさせていただきます。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にご連絡ください。 頸椎椎間孔狭窄症に関するよくある質問 頸椎椎間孔狭窄症は放置するとどうなりますか? 頸椎椎間孔狭窄症は放置すると、しびれが悪化し、腕の動かしにくさや筋力低下が進行する可能性があります。さらに進行すると、歩行困難や排尿障害などを引き起こすこともあり、日常生活に大きな支障が出ることがあります。重症化を防ぐには早期の対処が不可欠です。 頸椎椎間孔狭窄症は自然に治ることはありますか? 頸椎椎間孔狭窄症は、症状の原因や進行度によって適切な対応が異なります。しびれや違和感が長引く、または悪化している場合は、放置せず早めの受診が重要です。 頸椎椎間孔狭窄症の改善に手術は必須ですか? 頸椎椎間孔狭窄症は、多くの場合、薬やリハビリなどの保存療法で改善が見込まれます。手術が必要になるのは、これらの治療で効果が不十分な場合です。ただし、保存療法で十分な効果が得られず、違和感やしびれが続く場合や、筋力低下・歩行障害などの神経症状が進行している場合は、手術が検討されます。 参考資料 (文献1) 森山 知美.「腰部脊柱管狭窄症の椎間孔狭窄が起こる機械的要因を分析し 理学療法を行った1例」『理学療法の科学と研究 Vol. 3 No. 1 2012』, pp.1-4, 2012年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/srpt/3/1/3_3_27/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年06月11日)
2025.06.29 -
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「手足に違和感がある」 「アッヘンバッハ症候群は脳梗塞の前兆なのか」 アッヘンバッハ症候群は、指や手のひらなどに突然の違和感やしびれ、紫色の腫れや内出血が現れる病気です。アッヘンバッハ症候群の症状は脳梗塞の前兆と似ており、心配される方も少なくありません。 本記事では、以下について医師が解説します。 アッヘンバッハ症候群とは? アッヘンバッハ症候群と脳梗塞の関係性 アッヘンバッハ症候群の危険性 アッヘンバッハ症候群と似た病気 アッヘンバッハ症候群の治療法 症状の特徴を知ることで、自己判断のリスクを知り、受診の必要性を理解することで、適切な対応につなげましょう。 アッヘンバッハ症候群とは? 項目 内容 主な症状 突然の違和感・しびれ・つっぱり感、紫色の腫れやあざ、血の塊、自然消失、再発可能 発症しやすい人・部位 50代以降の女性、人差し指や中指の中節部・基節部、稀に足の指や足の裏 原因 血管の脆さ、加齢、軽い刺激による毛細血管の出血、血液検査で異常は見られない 治療と経過 治療は不要、自然回復、長引く場合は検査、重い合併症は稀 (文献1) アッヘンバッハ症候群は、外傷や血液の異常がないにもかかわらず、突然、指先や手のひらに違和感やしびれ、つっぱり感が現れ、その部分が紫色に腫れて内出血を起こす病気です。とくに50代以降の女性に多く、指の中節部に発症がよく見られます。 原因ははっきりしていませんが、加齢による血管のもろさや、日常生活での軽い刺激が関係していると考えられています。 多くの場合、数日〜1週間程度で自然に回復し、特別な治療は必要ありません。ただし、症状が繰り返す場合や長引く場合には、他の血管や血液の病気との鑑別が必要になるため、医療機関の受診をおすすめします。 アッヘンバッハ症候群と脳梗塞の関係性 観点 アッヘンバッハ症候群 脳梗塞 主な症状 指先の急激な違和感・しびれ、青紫色の内出血(紫斑) 顔面や手足の片側しびれ・麻痺、言語障害、歩行障害、意識障害 発症速度 数分〜数時間で急に出現 突然発症(数分〜数時間) 発症部位 主に指(示指・中指) 脳内の血管領域により変化(例:片麻痺、構音障害など) 皮膚変色 青紫色の局所的な内出血(皮下出血)を伴う 皮膚変色は伴う場合もある 自然経過 自然治癒、自己限定的 迅速な医療対応が不可欠 鑑別に必要な検査 血液検査・超音波で他疾患除外、通常は不要 CT/MRIなどの画像検査で迅速診断、治療開始が必要 重篤度 良性疾患、生命に関わらない 重篤(後遺症や死亡のリスクあり)、緊急治療対象 全体の影響度 指に限定され、数日〜1週間で自然回復し後遺症ほぼなし 脳の血流途絶により神経障害が残りやすく、生命や機能に重大な影響あり (文献1)(文献2) アッヘンバッハ症候群と脳梗塞はいずれも血管に関係しますが、発症の仕組みや重症度は大きく異なります。アッヘンバッハ症候群は、指先の細い血管が一時的に破れて内出血を起こす病気で、突然、指や手のひらが紫色に腫れたり、しびれやつっぱり感が出たりします。通常は数日〜1週間ほどで自然に回復し、後遺症も残らず、命に関わることはほとんどありません。 一方で、脳梗塞は脳の血管が詰まり、手足のしびれや麻痺など重大な神経障害を引き起こします。両者は症状が似ている場合もあるため、自己判断は禁物です。気になる症状があるときは、早めに医療機関を受診し、正確な診断を受けましょう。 以下の記事では、脳梗塞の症状について詳しく解説しています。 【関連記事】 脳梗塞とは|症状・原因・治療法を現役医師が解説 BAD(脳梗塞)とは?症状や予後・他のタイプとの違いも解説 脳梗塞は症状が軽いうちの治療が大切!原因と対策を解説【医師監修】 アッヘンバッハ症候群の危険性 危険性の種類 内容 対応のポイント 誤認による精神的ストレス 指先の違和感やしびれ、青紫色の変色から脳梗塞や心筋梗塞などと誤解し、過度な不安に陥るケース 症状の正しい理解と医療機関での確認 他の病気との見分けの難しさ レイノー現象、デジタル動脈閉塞、血管炎、血液凝固異常症、バージャー病など、重大な疾患の可能性 専門医による鑑別診断の重要性 再発への不安と生活の質の低下 発作の再発を恐れることで日常生活や趣味、仕事に支障が出るリスク 再発予防と不安軽減に向けた正しい対処法の実践 (文献1)(文献2) アッヘンバッハ症候群は、指先に突然の違和感や紫斑が現れる良性の病気で、見た目のインパクトはあるものの、多くは数日で自然に回復し、命に関わることも後遺症もほとんどありません。ただし、脳梗塞や心筋梗塞など重大な病気と誤解されやすく、強い不安を感じる方もいます。 また、レイノー現象や血管閉塞、血管炎など重篤な病気と症状が似ているため、医師による鑑別診断が重要です。とくに高血圧や動脈硬化といった持病がある方は注意が必要です。再発や症状の拡大、全身症状がある場合は、単なるアッヘンバッハ症候群でない可能性もあるため、早めの受診を心がけましょう。 アッヘンバッハ症候群と似た病気 病名 主な症状・特徴 主なきっかけ・原因 レイノー現象 寒さやストレスで指先が白→紫→赤と変化。しびれ・違和感・冷感。発作的に繰り返す 寒冷刺激、精神的ストレス 血管炎 発熱、倦怠感、体重減少、皮膚の紫斑、結節、潰瘍、関節痛、むくみ、しびれなど多様な全身症状 自己免疫異常、感染症、薬剤など 単純性紫斑 下肢や腕などに赤紫色~暗褐色のあざ。違和感や腫れはほとんどない 毛細血管の弱さ、体質、加齢、薬剤など 老人性紫斑 前腕や手の甲に違和感を伴わない赤紫色のあざ。数週間で消失し、色素沈着が残ることも 加齢、紫外線曝露、血管の脆弱化、薬剤など 後天性血友病A 皮下・筋肉内・消化管の広範囲な出血。止まりにくく、重篤な貧血や生命の危険も 自己免疫反応(凝固因子への抗体) バージャー病 手足の冷感、しびれ、違和感、潰瘍、壊死。進行すると切断が必要なことも 喫煙(主なリスク因子) アクロシアノーシス 手足の指先が左右対称に持続的に青紫〜赤紫色に変色し、冷たさや軽い腫れ、しびれを伴うことがある 寒冷刺激、精神的ストレス、末梢血流低下 アッヘンバッハ症候群の症状は、他の病気と見間違えやすい特徴があります。過去に脳梗塞や心臓病を経験された方、あるいは生活習慣病をお持ちの方は、自己判断を避け、他の病気の可能性も考慮することで、重大な疾患の早期発見につながります。 レイノー現象 比較表 アッヘンバッハ症候群 レイノー現象 主な症状 指先の紫色のあざ、腫れ、違和感 指先の白→紫→赤の色変化、冷感、しびれ 誘因 とくになし(軽い刺激など) 寒さ、ストレスなど 出血の有無 あり(皮下出血) なし 血流障害 なし 血管収縮あり 原因疾患 基本的に良性 膠原病などが背景にあることも 注意点 見た目が似ており誤解されやすい 繰り返す場合は基礎疾患の検査が必要 (文献1)(文献3) レイノー現象は、寒さやストレスなどの刺激で末梢の血管が一時的に収縮し、指先が白くなった後に紫色や赤色に変色する現象です。 とくに女性に多く、左右対称に手足の指先に起こるのが特徴です。発作は数分から数十分で自然に回復し、温めると軽快します。アッヘンバッハ症候群と同様に色の変化がありますが、レイノー現象では皮下出血や腫れは伴いません。 多くは生理的反応として経過しますが、症状が頻繁に続く場合や関節のこわばり、全身の疲労感を伴う場合は、膠原病の可能性もあるため、医療機関での受診が必要です。 血管炎 比較項目 アッヘンバッハ症候群 血管炎 主な症状 指の紫色のあざ、腫れ、違和感、しびれ、つっぱり感 紫斑、皮下結節、潰瘍、関節痛、しびれ、むくみ、全身症状、多臓器障害 皮膚の変化 指に限局した紫色のあざや腫れ(皮下出血) 赤紫色のあざ、点状出血、結節、潰瘍、網目状の赤み 発症のきっかけ 軽い刺激や日常動作 感染症、薬、膠原病、自己免疫異常など 全身症状の有無 なし あり(発熱、倦怠感、体重減少など) 臓器への影響 基本的になし 腎臓、肺、消化管、神経、脳など多臓器に障害が及ぶ可能性あり 合併症・重症度 良性疾患で合併症は少ない 腎不全、神経障害、失明など重篤な合併症の恐れ 原因疾患の有無 基本的に単独で発症 自己免疫疾患や全身性疾患を背景に持つことが多い (文献1)(文献4) 血管炎は、体内の血管に炎症が起こる病気です。原因は自己免疫反応や感染症などさまざまで、炎症によって血管が傷つくと血流が悪くなり、皮膚に紫斑や赤み、しこり、潰瘍などが現れます。 指先だけでなく、手足全体や体幹にも症状が広がることがあり、発熱や倦怠感、関節の腫れなど全身症状を伴うのが特徴です。アッヘンバッハ症候群は指先に限局し自然に治ることが多いのに対し、血管炎は進行性で放置すると内臓にも影響が及ぶ可能性があります。皮膚の変化に加え、慢性的な体調不良が続く場合は、早めに医療機関を受診しましょう。 単純性紫斑 比較項目 アッヘンバッハ症候群 単純性紫斑 主な症状 突然、指などに紫色のあざや腫れ(皮下出血)が現れ、違和感・しびれ・つっぱり感を伴うことが多い 下肢などに打撲の覚えがないまま赤紫〜暗褐色のあざが現れ、違和感や腫れを伴わないのが特徴 好発部位 主に手指(とくに中年以降の女性) 主に下肢(膝から下)、臀部、上腕。若い女性に多い 誘因 軽い刺激や日常動作がきっかけになるが、明らかな外傷はない 明確なきっかけがなく発症しやすく、毛細血管の脆弱性や体質、過労、月経、栄養状態、薬剤の影響などが関与することがある 持続時間 数日〜1週間程度で自然に回復 あざは自然に消える。特別な治療は不要 合併症・危険性 良性で重篤な合併症は少ないが、他の疾患との鑑別が必要 基本的に良性で、全身症状や他の出血はなく、治療は不要で経過観察のみで対応可能 (文献1)(文献5) 単純性紫斑は、皮膚の毛細血管がもろくなり、軽い刺激や加齢によって出血しやすくなる状態です。とくに女性に多く、腕や脚などに突然紫斑が現れますが、違和感やかゆみはほとんどありません。 多くの場合、数日〜1週間ほどで自然に消えるのが特徴です。アッヘンバッハ症候群と同様に見た目の変色が目立ちますが、単純性紫斑は繰り返し出現しやすく、症状の範囲も広がることがあります。 血液検査では異常が見られないことが多く、治療は不要なケースがほとんどですが、高齢者で多発する場合は血管の健康や内出血の原因を確認するため、内科での診察が勧められます。どちらの病気も自然に軽快するケースが多いですが、症状が急に強くなったり広がったりした場合は、早めに医師の診察を受けることが大切です。 老人性紫斑 比較項目 アッヘンバッハ症候群 老人性紫斑 主な症状 突然の手指の違和感・腫れ・紫斑(皮下出血) 前腕や手の甲の赤紫色のあざ 原因 血管の脆弱性・軽微な外力(加齢の影響) 加齢・紫外線曝露・血管の脆弱化 好発部位 手指(とくに示指・中指)、手のひら 前腕、手の甲、顔面 治療法 自然軽快、特別な治療は不要 自然消失、特別な治療は不要 注意点 他疾患との鑑別が必要、再発の可能性もある 他の出血性疾患との鑑別が必要 (文献1)(文献6) 老人性性紫斑は、加齢により皮膚の毛細血管がもろくなることで起こり、前腕や手の甲に違和感のないあざが繰り返し現れます。2〜3週間ほどで自然に消えるのが一般的です。 アッヘンバッハ症候群と同様に皮膚の変色が見られますが、単純性紫斑は広範囲かつ繰り返し起こるのが特徴です。血液検査で異常が見られないことが多く、多くは治療不要ですが、高齢者で頻発する場合は、内出血の背景に病気が隠れていないか確認のために医療機関への受診が推奨されます。 後天性血友病A 比較項目 アッヘンバッハ症候群 後天性血友病A 主な症状 手指の違和感、腫れ、紫斑(皮下出血) 皮下出血、筋肉内出血、消化管出血などが突然発生し、広範囲に及ぶ 原因 血管の脆弱性や軽微な外力によると考えられている 自己免疫反応により第VIII因子への自己抗体が産生され、血液が固まりにくくなる 出血の範囲 限局的(主に手指) 広範囲、深部組織や消化管にも及ぶ 治療の必要性 通常は不要で、数日〜1週間程度で自然に軽快 早急な治療が必要。放置すると重篤な貧血や生命の危険を伴う 予後 良好(自然軽快) 重篤な後遺症や生命の危険があり、早期診断と治療が不可欠 (文献1)(文献7) 紫色のあざが突然現れる症状には、いくつかの原因が考えられます。アッヘンバッハ症候群は、手指に限定して腫れや違和感を伴う皮下出血が起こる一過性の病変で、自然に治まることがほとんどです。 老人性紫斑も加齢により前腕や手の甲に違和感のないあざが繰り返し現れる良性疾患です。しかし、後天性血友病Aは、全身に出血が広がる危険な病気で、血液が固まりにくくなる自己免疫反応が原因です。 皮下や筋肉、内臓にも出血が及び、命に関わることもあるため早期の治療が必要です。見た目が似ていても、原因や重症度は異なるため、出血症状が気になる場合は早めに医療機関を受診しましょう。 バージャー病 比較項目 アッヘンバッハ症候群 バージャー病 主な症状 突然の手指の違和感、腫れ、紫色のあざ(皮下出血) 手足の冷感、しびれ、違和感、潰瘍、壊死。進行すると指や足の切断が必要になることも 原因 明確な原因は不明。加齢に伴う血管の脆弱性や軽微な外力が関与と考えられる 喫煙が主なリスク因子。血管の炎症や血栓形成による血流障害が原因。特定の遺伝的素因も関与 発症年齢・性別 50代以降の女性に多い 20〜40代の男性、とくに喫煙者に多い 治療法 特別な治療は必要なく、数日で自然に軽快することが多い 禁煙が最重要。薬物療法や血行再建手術、重症例では手足の切断が必要な場合も 予後 良好。再発もあるが重篤な合併症は少ない 進行すると手足の切断が必要になることもあり、生活の質(QOL)に大きな影響 注意点 数日で自然軽快。症状が繰り返されることがあり、他疾患との鑑別が必要 症状が似ているため誤診リスクあり。喫煙歴の確認が重要。進行性疾患のため早期診断・治療が必要 (文献1)(文献8)(文献9) バージャー病(閉塞性血栓性血管炎)は、手足の末梢血管に炎症が起き、血流障害により違和感・しびれ・潰瘍などを引き起こす病気です。とくに喫煙者の若年〜中年男性に多く、皮膚が白や紫に変色することがあり、アッヘンバッハ症候群と見分けがつきにくいこともあります。 ただし、バージャー病は進行性で、放置すると指先が壊死し、切断に至るケースもあります。禁煙が最も重要な対策であり、変色や冷感、しびれが持続する場合は医療機関への受診が必要です。 アクロシアノーシス 比較項目 アッヘンバッハ症候群 アクロシアノーシス 主な症状 突然の違和感、腫れ、紫色のあざ(皮下出血) 持続的な指先の青紫色の変色、冷感 原因 微小血管の破裂による皮下出血 末梢血流の慢性的な低下 誘因 軽微な外力や血管の脆弱性 寒冷刺激、精神的ストレス 経過 数日で自然に軽快 症状は持続的で、とくに寒冷時に悪化 治療法 特別な治療は不要 生活習慣の改善(保温、ストレス管理、禁煙など) (文献1)(文献10) アクロシアノーシスは、手足の先が青紫色に変色し冷たく感じる状態で、寒さやストレスによる末梢血流の低下が原因とされています。症状は左右対称に持続するのが特徴です。 アッヘンバッハ症候群は突然の出血や腫れを伴い、数日で自然に治まるのに対し、アクロシアノーシスでは出血や腫れはなく、寒い季節に悪化する傾向があります。 重篤な病気ではありませんが、膠原病などが隠れていることもあるため、症状が続く場合は内科や皮膚科を受診しましょう。 アッヘンバッハ症候群の治療法 治療法 目的・効果 具体的な対応・内容 注意点 安静・患部の冷却 出血の拡大防止・違和感の軽減・自然治癒促進 安静保持、冷却(15〜20分を目安に繰り返し実施) 過度な冷却は避ける。氷はタオルに包んで使用 薬剤療法 症状の緩和・出血抑制・血管強化による再発予防 止血薬、血管強化薬を医師の判断で処方・服用 症状が軽い場合は薬は不要。自己判断での服用は避ける 食事療法 血管の健康維持・再発防止への寄与 ビタミンC・E、DHA/EPA、タンパク質を含む食品を摂取。減塩も重要 即効性はないため、あくまで補助的な予防策として継続が必要 アッヘンバッハ症候群は、多くの場合で数日〜1週間ほどで自然に軽快し、特別な治療を必要としない良性の病気です。紫斑や腫れは後遺症を残さずに治まりますが、症状が強い場合や繰り返す場合は、患部の安静や冷却が有効です。 まれに血管や全身の病気が隠れていることもあるため、症状が続く場合は医療機関での診察が必要です。血管の健康を保つためには、食生活や生活習慣の見直しが再発予防に有効です。数日たっても改善しない場合や、しびれ・脱力を伴う場合は、他の疾患の可能性もあるため、早めに受診しましょう。 安静・患部の冷却 アッヘンバッハ症候群の初期対応では、患部の安静と冷却が有効です。指先の内出血によって紫斑が生じた場合、動かしすぎると症状が悪化することがあります。 手はできるだけ使わず、心臓より高い位置で保つことで腫れの拡大を防げます。氷や保冷剤をタオルで包んで10〜15分程度冷やすと、血管が収縮し出血を抑える効果が期待できます。 ただし、冷やしすぎは血流を悪化させるため注意が必要です。症状が落ち着くまでは、家事や細かい作業など手に負担のかかる動作を控えるようにしましょう。 薬剤療法 目的 有効な理由 補足・ポイント 症状の緩和 止血薬で出血を抑え、血腫の拡大を防止。血管強化薬で腫れや違和感の軽減 医師が症状や体質に応じて適切に処方 再発予防 血管の耐久性を高め、再発リスクを低減 血管が脆い方は繰り返しやすいため予防が重要 不安の軽減 薬剤療法により不安の軽減や精神的安定につながる 突然の症状に備える手段として有効 アッヘンバッハ症候群は多くの場合自然に回復しますが、症状が強い場合や再発を繰り返す場合には薬剤が用いられることがあります。 出血の拡大を防ぐためにビタミンCなど血管強化作用のある成分を補ったり、腫れや違和感が強いときにはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が処方されることもあります。ただし、これらは対症療法であり根本治療ではありません。 再発や紫斑の拡大がある場合は、他疾患との鑑別を目的とした検査が必要です。自己判断使用は避け、医師の指導を受けましょう。 食事療法 栄養素 期待される効果 主な食品例 ビタミンC 血管の強化、脆弱性の改善 トマト、ピーマン、柑橘類 ビタミンE 抗酸化作用、血行促進、血管の健康維持 アーモンド、植物油、卵 DHA/EPA 血流の改善、血管の柔軟性向上 イワシ、サバ、サンマ タンパク質 血管の構成要素としての役割、健康維持 肉類、魚、卵、大豆製品 血管の健康維持には日頃の食生活が大切です。ビタミンCやE、DHA/EPAなど抗酸化作用のある栄養素を含む食品(柑橘類、ブロッコリー、ナッツ類、青魚など)を意識して摂取することが血管の老化予防に役立ちます。また、高血圧や糖尿病がある方は、塩分・糖分・脂質の摂りすぎに注意が必要です。 体重増加や喫煙は血管に負担をかけるため、生活習慣の改善が再発予防に有効です。症状が続く場合は、他の病気が隠れている可能性もあるため、早めに医療機関を受診しましょう。 アッヘンバッハ症候群と脳梗塞に不安を感じたら医療機関へ アッヘンバッハ症候群は多くが良性ですが、類似の症状に重大な疾患が隠れていることもあります。高血圧や糖尿病、脳梗塞の既往がある方は血管障害の可能性もあるため、症状が長引く、繰り返す、しびれなど神経症状を伴う場合は早めの受診が大切です。 不安を感じている方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。脳梗塞の前兆かどうかを含め、丁寧に診察いたします。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。 参考資料 (文献1) 一般社団法人 町田市医師会 「Achenbach(アッヘンバッハ)症候群」一般社団法人 町田市医師会, https://www.machida.tokyo.med.or.jp/?page_id=3300(最終アクセス:2025年06月10日) (文献2) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「脳卒中の概要」MSDマニュアル家庭版, 2023年6月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/09-%E8%84%B3-%E8%84%8A%E9%AB%84-%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%84%B3%E5%8D%92%E4%B8%AD/%E8%84%B3%E5%8D%92%E4%B8%AD%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81(最終アクセス:2025年06月10日) (文献3) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「レイノー症候群」MSDマニュアル家庭版, 2023年7月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/06-%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E5%8B%95%E8%84%88%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%83%BC%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4(最終アクセス:2025年06月10日) (文献4) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「血管炎の概要」MSDマニュアル家庭版, 2022年5月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/08-%E9%AA%A8-%E9%96%A2%E7%AF%80-%E7%AD%8B%E8%82%89%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%A1%80%E7%AE%A1%E7%82%8E%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%A1%80%E7%AE%A1%E7%82%8E%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81(最終アクセス:2025年06月10日) (文献5) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「単純性紫斑病」MSDマニュアル家庭版, 2023年5月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/13-%E8%A1%80%E6%B6%B2%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%95%B0%E5%B8%B8%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%87%BA%E8%A1%80/%E5%8D%98%E7%B4%94%E6%80%A7%E7%B4%AB%E6%96%91%E7%97%85(最終アクセス:2025年06月10日) (文献6) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「老人性紫斑病」MSDマニュアルプロフェッショナル版, 2023年5月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/11-%E8%A1%80%E6%B6%B2%E5%AD%A6%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E8%85%AB%E7%98%8D%E5%AD%A6/%E8%A1%80%E7%AE%A1%E7%95%B0%E5%B8%B8%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%87%BA%E8%A1%80/%E8%80%81%E4%BA%BA%E6%80%A7%E7%B4%AB%E6%96%91%E7%97%85(最終アクセス:2025年06月10日) (文献7) 田中一郎ほか.「後天性血友病A診療ガイドライン」, pp.1-30, https://www.jsth.org/wordpress/wp-content/uploads/2015/04/ssc01_guidelines.pdf(最終アクセス:2025年06月10日) (文献8) 公益財団法人難病医学研究財団「バージャー病(指定難病47)」難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/170(最終アクセス:2025年06月10日) (文献9) 恩賜財団済生会「バージャー病」恩賜財団済生会 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/buerger_disease/(最終アクセス:2025年06月10日) (文献10) iLiveポータル「アクロシアノーシス」HEALTHY LIFE https://ja.iliveok.com/health/akurosianosisu_110163i15949.html(最終アクセス:2025年06月10日)
2025.06.29 -
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「脳梗塞や神経痛の治療で使われるメコバラミンとはどんな薬なのか?」 「メコバラミンの効果や副作用が心配」 脳梗塞の後遺症による麻痺に悩む中、処方されたメコバラミンの効果や副作用について、不安を感じていませんか。 メコバラミン(メチコバール)は、ビタミンB12の一種で、神経の治療を目的として脳梗塞の後遺症に処方される薬です。 本記事では、メコバラミン(メチコバール)の有効性や副作用について詳しく解説します。 脳梗塞の後遺症による麻痺にお悩みでメコバラミンの服用について不安がある方は、ぜひ参考にしてください。 また、薬に頼らずに脳梗塞後の麻痺症状やしびれを治したい方は、再生医療も選択肢の一つです。 \脳梗塞後のしびれに有効な再生医療とは/ 再生医療は、患者さまの細胞や血液を用いて自然治癒力を高めることで、従来の治療では難しかった脳梗塞の後遺症改善にも期待できる治療法です。 【こんな方は再生医療をご検討ください】 脳梗塞の後遺症による麻痺やしびれを早く治したい 薬だけに頼るのではなく、より根本的な改善を目指したい 現在の治療で期待した効果が得られていない 当院リペアセルクリニックは、脳梗塞の後遺症改善や再発予防として再生医療を提供しており、患者さまの将来の健康を守るサポートに力を入れています。 再生医療の具体的な治療法の適応症例については、無料カウンセリングを行っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。 まずは脳梗塞の後遺症治療について無料相談 脳梗塞に使われるメコバラミン(メチコバール)とは 作用・特徴 内容 神経細胞の修復・再生促進 核酸やたんぱく質の合成を促進し、損傷した神経や軸索の修復・再生をサポート 髄鞘(ミエリン鞘)形成促進 神経伝達を助ける髄鞘の形成を促進し、レシチンの合成もサポート 神経伝導速度の改善 神経伝達を高めることで、しびれや感覚障害、麻痺の改善が期待できる ホモシステイン代謝の正常化 ホモシステインの代謝をサポートし、動脈硬化や脳梗塞の再発予防に役立つ可能性がある 位置づけ・有用性 急性期ではなく、回復期以降のしびれや感覚障害などの後遺症改善を補助する 注意点 重い麻痺を単独で改善する薬ではなく、リハビリと併用して神経修復を支える メコバラミンは、ビタミンB12の一種で、神経の修復や再生を助ける医療用医薬品です。脳梗塞後に生じるしびれや麻痺などの神経障害に対し、神経細胞の核酸やたんぱく質の合成を促進し、軸索や髄鞘の再生を支えることで、症状の改善を補助します。 通常は1日1,500μg(500μg錠を1日3回)を服用し、食前・食後どちらでも服用できます。副作用は少ないとされますが、まれに発疹や消化器症状が現れることがあり、体調に変化があれば医師や薬剤師に相談が必要です。 直射日光や湿気を避け、涼しい場所での保管が推奨されます。 メコバラミンは神経修復を補助する薬であり、リハビリなど他の治療と併用することで、より高い効果が期待されます。服用は医師の指導のもとで行いましょう。 脳梗塞後の神経回復に対するメコバラミンの有用性 作用カテゴリー 作用の概要 末梢神経および中枢神経の修復 神経細胞や軸索・髄鞘の再生を促し、末梢・中枢神経の回復を支えて後遺症の改善をサポート 神経伝導速度の改善 髄鞘と軸索の修復により神経伝達が改善され、しびれや麻痺の軽減が期待できる 抗酸化作用・神経保護作用 活性酸素による酸化ストレスから神経を守り、神経細胞の損傷を抑制 リハビリ効果の補助 神経の再生や伝達を支え、リハビリによる運動や感覚の回復効果を後押しする 脳梗塞による後遺症では、神経が損傷を受けることでしびれや麻痺などの症状が現れます。メコバラミンは、損傷を受けた神経の修復を促す作用を持ち、神経障害の改善に役立つとされています。 効果には個人差があるため、症状や体質に応じて医師と相談しながら服用してください。メコバラミンは脳梗塞そのものを治療する薬ではなく、あくまで後遺症の改善や軽減を目的として用いられます。 神経回復を目指すには、メコバラミンの服用だけでなく、リハビリテーションの継続や生活習慣の見直しもあわせて行うことが大切です。 末梢神経および中枢神経の修復促進 作用カテゴリー 作用の概要 核酸・たんぱく質の合成促進 神経の構造維持や再生に必要な核酸・たんぱく質の生成促進 軸索の再生・伸長促進 損傷した神経線維の再生や機能回復の促進 神経細胞体の維持・回復 神経伝達物質を作る細胞体の機能維持と修復 髄鞘の形成・修復促進 電気信号の伝達効率を高める髄鞘の再形成促進 神経細胞内輸送の正常化 神経内のたんぱく質や物質の輸送機能の回復 酸化ストレスの軽減 活性酸素による酸化ダメージの抑制 神経細胞の保護と再生 神経細胞の細胞死の抑制と修復環境の整備 末梢神経・中枢神経への包括的な作用 中枢神経と末梢神経の両方に対する修復作用の発揮 メコバラミンは、神経の修復や再生を助けるビタミンB12の一種です。神経細胞の働きを整え、しびれや軽い神経痛の改善が期待されます。 メコバラミンは根本的な治療薬ではありませんが、脳梗塞後の神経回復においてリハビリとの併用により補助的な効果が期待できます。 近年の治療では、患者さまの細胞を用いて損傷した神経の再生・修復を促す再生医療が注目されていますので、根本治療を行いたい方はぜひ確認してください。 >神経損傷の改善に有効な再生医療について見る 神経伝導速度の改善 メコバラミンの働き 具体的な作用 髄鞘(ミエリン鞘)の形成促進・修復 神経線維を絶縁し、電気信号の伝達効率を高める髄鞘の再形成を助け、伝導速度を改善 軸索(神経線維)の修復・再生 損傷した軸索の再生を促し、電気信号が途切れずスムーズに伝わるようサポート 神経細胞の代謝改善・機能維持 エネルギー代謝や神経伝達物質合成を補助し、神経細胞全体の正常な働きを維持 感覚障害の改善 しびれや違和感の軽減、触覚や温痛覚など感覚の正常化を期待 運動機能の回復 神経と筋肉の信号伝達が円滑になり、筋力低下や麻痺の改善に寄与 QOL(生活の質)の向上 日常生活動作が円滑になり、生活の質向上につながる メコバラミンは神経を修復するビタミンB12製剤で、脳梗塞後のしびれや麻痺の改善に用いられる治療薬です。 髄鞘や軸索の再生を促し、神経伝導を整えることで感覚・運動機能の回復を支援します。神経代謝を助け、日常生活の動作向上にもつながります。リハビリとの併用で効果が高まります。 抗酸化作用・神経保護作用 項目 内容 酸化ストレスと神経障害 脳梗塞後、血流再開で発生する活性酸素が神経細胞の膜やDNAを傷つけ、細胞死の原因となる メコバラミンの抗酸化作用 活性酸素の生成を抑え、細胞膜の脂質過酸化を防ぐことで神経細胞の損傷を抑制 神経保護作用のメカニズム 神経細胞の死を抑え、神経成長因子の働きを高めることで、神経の再生や修復をサポートする 期待できる効果 神経細胞の修復を助けることで、脳梗塞後のしびれや感覚障害の改善が期待される 注意点 効果には個人差があるため、医師と相談しながら治療を進めることが大切 メコバラミンは、脳梗塞後の神経回復を支えるビタミンB12製剤です。脳梗塞の後に血流が再開すると、活性酸素と呼ばれる物質が大量に発生し、神経細胞の膜やDNAを傷つけて細胞死を引き起こすことがあります。 メコバラミンは、活性酸素の発生を抑えて神経細胞の損傷を防ぐ抗酸化作用を持ちます。 さらに、神経代謝を支え、神経成長因子の働きを高めることで、修復・再生を助ける神経保護作用により、脳梗塞後のしびれや感覚障害の改善が期待されます。効果には個人差があるため、治療は医師と相談の上で進めることが不可欠です。 リハビリ効果の補助 メコバラミンの働き リハビリ効果への影響 神経細胞の修復・再生促進 損傷した神経の修復や再生を助け、リハビリによる運動・感覚機能の回復をサポート 神経伝導速度の改善 神経伝導が改善されることで、リハビリ中の運動指令が伝わりやすくなり、回復効果が高まる 髄鞘(ミエリン鞘)形成の促進 髄鞘の形成を助けて神経伝達効率を上げ、リハビリによる神経機能の回復を支援 ホモシステイン代謝の正常化 血管の健康を維持し脳梗塞の再発予防に貢献、リハビリの継続性と長期的な回復を後押し 補助的な役割 神経の修復や保護、伝達機能の改善を通じて、リハビリの効果を高め、脳梗塞後の回復を支援 メコバラミンは神経修復を助け、脳梗塞後のリハビリ効果を高める補助薬です。 神経伝導の改善や髄鞘の再形成により運動や感覚の回復を支え、ホモシステイン代謝を整えることで再発予防にも寄与します。 リハビリと併用することで、日常生活の質の向上が期待されます。リハビリを行う際は、自己判断ではなく、医師の指導に従い実施しましょう。 脳梗塞に使われるメコバラミンの副作用 メコバラミンの副作用 内容 過敏症反応 発疹やかゆみ、じんましん、顔の紅潮などは薬に対するアレルギー反応で起こり、稀にアナフィラキシーを引き起こすこともあるため注意が必要 消化器症状 稀に食欲不振や吐き気などの消化器症状が現れることがあり、異常を感じた場合は医師に相談 頭痛・めまい 神経の影響で一時的に頭痛やめまいが起こることがあり、症状が続く場合は医師に相談 肝機能異常(稀に起こる症状) 倦怠感や黄疸、吐き気が出た場合は肝機能異常の可能性があるため、長期服用時には定期的な肝機能検査が必要 その他の症状(熱感・全身倦怠感・不眠など) 血流や神経の働きが高まることで、熱感や倦怠感、不眠が出ることがありますが、体質による差があるため、気になる症状が続く場合は医師に相談 メコバラミンは体質や体調によって、かゆみ・発疹・胃の不快感・下痢・頭痛・めまいなどの副作用が現れることがあります。 稀に肝機能の異常や倦怠感、不眠が出ることもあるため、異変を感じた場合は早めに医師に相談してください。 過敏症反応 要因 概要 注意点 体質的なアレルギー反応 ビタミンB12や代謝産物に対する免疫系の過剰反応 アレルギー体質や類似薬の過敏症歴がある場合の事前相談が必要 製剤中の添加物による反応 乳糖・着色料などの添加物によるアレルギー反応 薬剤過敏症の既往がある方への慎重な投与 継続使用による遅発型反応 初回使用で感作され、後の投与で発疹やかゆみなどが出現 継続使用中の症状発現時には早期受診 メコバラミンを使用する際は、過敏症反応に注意が必要です。体質によっては、ビタミンB12や添加物に対する免疫反応で、発疹・かゆみ・蕁麻疹などの皮膚症状が出ることがあります。 重症例では、呼吸困難や顔の腫れなどアナフィラキシー様反応が起こる可能性もあります。 初回だけでなく、継続使用中に突然発症するケースもあるため、服用前にアレルギー歴を医師に伝えることが重要です。服用中に異変を感じた場合は自己判断は避け、速やかに医療機関を受診しましょう。 消化器症状 症状 詳細 食欲不振 胃での吸収過程で胃の動きが変わり、一時的に食欲が落ちることがある 吐き気・嘔吐 胃酸の分泌が増えて胃粘膜が刺激されることで、吐き気や嘔吐が起こることがある 下痢 腸内環境への影響により、消化管の動きが乱れ、一部の方で下痢が生じることがある メコバラミンは末梢神経障害に有効ですが、まれに食欲不振・吐き気・下痢などの消化器症状が現れることがあります。 発症頻度は0.1〜0.5%未満と低く、多くは軽度で一時的とされます。空腹時の服用を避けるなどで軽減する場合もありますが、症状が続く場合は自己判断は避け医師に相談しましょう。 頭痛・めまい 原因 内容 神経機能の調整による影響 神経細胞修復や再生過程での神経伝達バランス変化による一時的な頭痛・めまいの発現 自律神経への影響 自律神経系の調整による血圧・心拍数変動が頭痛やめまいの原因となる場合あり 個人差による反応 体質や併用薬の影響で頭痛やめまいが生じることがあり、過敏体質の方や他の薬を使っている場合は注意が必要 軽度・一時的な場合の対処 経過観察と症状改善の確認 症状持続時の対処 医師の指導を受けて中止も検討 メコバラミンは神経障害の治療に用いられる薬ですが、まれに頭痛やめまいなどの副作用が生じることがあります。頭痛・めまいは神経修復過程での伝達バランスの変化や、自律神経の調整による血圧・心拍数の変動が原因と考えられます。 体質や体調、他の薬との併用によって症状が出やすくなることもあり、とくに高齢者や持病のある方は注意が必要です。 日常生活に支障がある場合や改善が見られない場合は、自己判断で服用を続けず、異変を感じた場合は、早めに医師の診察を受けるようにしましょう。記録を残すと診療時の判断に役立ちます。 肝機能異常(稀に起こる症状) 原因・注意点 内容 薬物性肝障害の可能性 薬剤の代謝産物が肝細胞に影響を与え、肝機能異常を引き起こすことがある 個人差による代謝の違い 遺伝的要因や体質によって代謝が異なり、肝臓に過度な負担がかかる場合がある 症状の早期発見 倦怠感、食欲不振、黄疸、発疹、吐き気・嘔吐、かゆみなどの症状出現時の速やかな医師相談 定期的な検査 長期服用時の定期的な肝機能検査の推奨 医師との相談 副作用が疑われる場合の自己判断での中止を避け、医師の指示に従う メコバラミンの服用により、まれに肝機能異常が起こることがあります。薬が肝臓で代謝される際、その代謝産物が肝細胞に影響を与える薬物性肝障害が原因となることがあります。 また、体質や遺伝的要因によって薬の代謝能力に差があり、肝臓に過剰な負担がかかる場合があります。初期は無症状のことが多いですが、倦怠感や黄疸、吐き気、かゆみなどの症状が出た場合は早めの受診が必要です。 とくに長期間服用する場合や他の薬と併用する場合には、定期的な血液検査で肝機能を確認することが大切です。副作用が疑われても自己判断で服用を中止せず、医師に相談した上で対処を受けましょう。 近年の治療では、患者さまの細胞を用いて損傷した神経の再生・修復を促す再生医療が注目されていますので、薬に頼らず根本治療を行いたい方はぜひ確認してください。 >神経損傷の改善に有効な再生医療について見る その他の症状(熱感・全身倦怠感・不眠など) 症状 主な原因 備考 全身倦怠感 代謝や神経伝達が活発になることで、一時的に疲労感やエネルギーの消耗がみられる 身体が慣れるまでに時間が必要な場合あり 熱感(ほてり) 血流改善によって末梢血管が拡張し、体質によっては感覚の違いを生じることがある 顔や手足にほてりを感じやすい 不眠 神経が興奮しやすくなり、就寝前の服用で眠れなくなることがある 個人差により感じ方が異なる メコバラミンは、まれに熱感(ほてり)、全身倦怠感、不眠などの副作用が現れることがあります。熱感は血流改善による末梢血管の拡張、倦怠感は代謝や神経活動の一時的な活性化、不眠は神経の興奮が原因と考えられます。 これらは体が薬に慣れる過程で一時的に現れることもありますが、症状が続く場合や生活に支障がある場合は、自己判断で服用を中止せず、医療機関への受診が必要です。 脳梗塞後に用いられるメコバラミン以外の治療法 治療法 内容 抗血小板薬・抗凝固薬 脳梗塞の再発を防ぐ薬剤で、タイプに応じて使い分ける。副作用に注意しながら慎重に管理 リハビリテーション 症状に応じて理学療法、作業療法、言語療法、認知訓練などを早期に組み合わせて行う 栄養療法 神経や筋肉の回復に必要なビタミンB群やたんぱく質などの栄養を補うことで、筋力の維持や免疫力の向上、感染症の予防につながる 再生医療 幹細胞治療などで損傷した脳組織の再生や神経機能の回復を目指す治療法。リハビリと組み合わせることで後遺症改善や日常生活復帰の可能性が広がる 脳梗塞後の回復には、メコバラミンに加え、抗血小板薬・抗凝固薬による再発予防、リハビリによる機能回復、栄養療法による体力や神経機能の維持などが重要です。治療は段階に応じて選択されるため、医師と相談しながら実施しましょう。 抗血小板薬・抗凝固薬 脳梗塞の再発を防ぐには、血液が固まりにくい状態を保つことが大切です。非心原性脳梗塞では、血小板の働きを抑える抗血小板薬(アスピリン・クロピドグレル・シロスタゾールなど)が使われます。 薬によっては胃の不調や頭痛、肝機能への影響などの副作用があるため注意が必要です。一方、心房細動などが原因の心原性脳塞栓症では、血液を固まりにくくする抗凝固薬(ワルファリンやDOAC)が用いられます。出血のリスクがあるため、定期的な検査と医師の指導のもとで服用を続けることが不可欠です。 リハビリテーション リハビリの種類 目的・内容 期待される効果 理学療法 筋力強化、関節の可動域改善、歩行訓練など 反復運動で脳の再学習を促し、歩行や立ち上がりなどの基本動作の回復を支援 作業療法 着替え、食事、入浴などの日常動作(ADL)の訓練、手先の機能訓練 日常生活に合わせた個別の訓練で、自立と機能回復を目指す 言語療法 発話・言語の回復、嚥下機能の訓練 言語や嚥下の機能を改善し、会話や食事のしやすさを高めていく 認知機能訓練 記憶力、注意力、判断力の訓練 認知機能を活性化し、高次脳機能の回復と生活の質の向上を支援 リハビリ全体の方針 できるだけ早期に開始し、継続が重要 合併症(筋萎縮・関節拘縮)の予防、日常生活への早期復帰、脳の機能再編成の促進 脳梗塞後のリハビリテーションは、失われた機能の回復や再発予防において重要な役割を果たします。損傷を受けた脳の代わりに、他の神経が代償機能を担う脳の可塑性を活かすためには、早期からのリハビリが効果的です。 リハビリでは、筋力や歩行の訓練、着替えや食事などの日常動作の練習、会話や飲み込みの機能回復を行います。症状に合わせたプログラムを続けることで、生活の質を向上させることが期待できます。リハビリは医師と連携し、長期的に取り組む姿勢が大切です。 以下の記事では脳梗塞後のリハビリについて詳しく解説しています。 栄養療法 有効である理由 解説 神経機能の回復を支援する栄養素の補給 ビタミンB群(B1・B6・B12)を含む豚肉や魚、卵、乳製品、緑黄色野菜などを摂ることで、神経の修復や再生を助ける 筋力維持とサルコペニア予防 十分なエネルギーとたんぱく質(肉、魚、大豆製品、卵など)の摂取による筋肉量維持とリハビリ効果の向上 免疫機能の強化と感染症予防 適切な栄養状態による免疫力維持と誤嚥性肺炎など感染症リスクの低減。ビタミンC、亜鉛、良質なたんぱく質の摂取 リハビリテーションの効果を最大化 良好な栄養状態による運動・訓練効果の向上と日常生活動作(ADL)改善。栄養不良時のリハビリ効果の低下防止 脳梗塞後の回復を支える上で、栄養療法は欠かせない要素のひとつです。神経や筋肉の再生にはたんぱく質やビタミン、ミネラルなどの栄養素が重要であり、ビタミンB群やオメガ3脂肪酸、抗酸化成分の摂取が注目されています。 脳梗塞の再発を防ぐためには、食生活を見直し、高血圧や糖尿病などの病気をコントロールすることが大切です。栄養療法は一時的なものではなく、生活習慣として継続し、医師の指導のもとで行いましょう。 以下の記事では、脳梗塞の予防・再発防止に食べてはいけないものを詳しく解説しています。 再生医療 再生医療は、傷ついた脳細胞や神経の再生・修復を促し、脳梗塞の後遺症改善を目指す先端医療です。 患者さまの細胞や血液を用いて自然治癒力を向上させることで神経の働きを回復させ、歩きにくさや麻痺、しびれなどの症状の軽減が期待できます。 自己細胞のみを用いることで、アレルギー反応や拒絶反応などの副作用リスクがす少ない治療法です。 当院リペアセルクリニックは、脳梗塞の後遺症改善や再発予防として再生医療を提供しており、患者さまの将来の健康を守るサポートに力を入れています。 以下の動画では、当院の再生医療を受け、脳梗塞の後遺症が改善した症例を紹介しているため、併せて参考にしてください。 https://youtu.be/AoMLP77h-c4?si=B7-Rsd1PQUrwngyE 【こんな方は再生医療をご検討ください】 脳梗塞の後遺症による麻痺やしびれを早く治したい 薬だけに頼るのではなく、より根本的な改善を目指したい 現在の治療で期待した効果が得られていない 再生医療の具体的な治療法や適応症例については、無料カウンセリングを行っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。 まずは脳梗塞の後遺症治療について無料相談 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しているため、併せて参考にしてください。 メコバラミンで改善しない脳梗塞の後遺症にお悩みなら再生医療も選択肢のひとつ メコバラミンは脳梗塞の後遺症に有効な治療薬ですが、過敏症反応や頭痛・めまいなどといった副作用が起こる可能性があります。 薬を服用してもしびれや麻痺といった神経症状が十分に改善しないときは、再生医療も選択肢の一つです。 再生医療は、幹細胞などを活用して損傷した神経を再構築し、機能回復を目指す治療法です。 当院リペアセルクリニックでは、メコバラミンで改善しない神経痛やしびれに対して再生医療(幹細胞治療)を提供しています。 脳梗塞の患者さまの約8割の方が幹細胞投与(再生医療)によって、筋力がついたり、しびれなどが改善・軽減する効果が見られます。 もちろん早期の方が効果は高いですが、10年以上経過した方でも、驚くべき改善を認める例はたくさんあります。 【こんな方は再生医療をご検討ください】 脳梗塞の後遺症による麻痺やしびれを早く治したい 薬だけに頼るのではなく、より根本的な改善を目指したい 現在の治療で期待した効果が得られていない 再生医療の具体的な治療法や適応症例については、無料カウンセリングを行っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。 まずは脳梗塞の後遺症治療について無料相談 脳梗塞に使われるメコバラミンのよくある質問 メコバラミン(メチコバール)における飲み合わせの禁忌はありますか? メコバラミンを服用する際は、一部の薬やサプリメントとの併用に注意が必要です。葉酸製剤や高用量のビタミンCは、ビタミンB12の吸収や代謝に影響を与える可能性があります。 また、抗がん剤や抗てんかん薬の一部でも相互作用が生じることがあります。現在服用中の薬や市販薬、サプリメントがある場合は、自己判断せず、医師や薬剤師に相談してください。 メコバラミン(メチコバール)の服用で血圧上昇しますか? メコバラミンによって血圧が直接上昇する報告は多くありませんが、体質や服用状況によっては一時的に自律神経が変動し、血圧に影響を与える可能性があります。 気になる症状がある場合は、血圧を定期的に測定し、変化が大きいようであれば医師に相談してください。 メコバラミンの服用で効果が出るまでの期間は? メコバラミンは即効性のある薬ではなく、効果が現れるまでに時間がかかります。一般的には、継続して服用することで、数週間から数か月かけて徐々に神経症状の改善が見られることが多いとされています。 とくに、しびれや麻痺などの神経障害は回復に時間がかかるため、途中で判断せず、根気強く治療を続けることが大切です。ただし、まったく改善が見られない場合や症状が悪化する場合には、早めに医師へ相談してください。
2025.06.29 -
- 内科疾患
- 内科疾患、その他
健康診断で「尿酸値が高い」と指摘され、不安に感じていませんか? 「痛風になったらどうしよう」「日常生活で何に気を付ければ良いの?」といったお悩みを持つ方もいらっしゃることでしょう。 尿酸値が7.0mg/dLを超えると、痛風のリスクが高まるだけでなく、さまざまな生活習慣病にもつながる可能性があります。 ですが、ご自身の尿酸値の状態を正しく理解し、適切な対策を行うことで、健康な毎日を送ることは十分に可能です。 本記事では、尿酸値の基準値や高くなる原因、そして具体的な治療法について、わかりやすく解説します。 なお、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 尿酸値や痛風について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 尿酸値が高いと痛風発作のリスクが上昇! 尿酸値が高い状態、いわゆる「高尿酸血症」は、痛風発作を引き起こす要因です。 健康診断などで尿酸値の高さを指摘されたものの、自覚症状がないため放置してしまう方も少なくありません。 しかし、尿酸値が高い状態が続くと、ある日突然、足の指の付け根などに激しい痛みが走る痛風発作が起こる可能性があります。 ご自身の尿酸値がどのくらい危険な状態なのか、正しく理解しましょう。 8.0mg/dLは危険?尿酸値の診断結果を見てみよう 結論、尿酸値8.0mg/dLは注意が必要な状態です。 血液中の尿酸値が7.0mg/dLを超えると、高尿酸血症と診断され、合併症がある場合は8.0mg/dLを越えると治療が検討されます。(文献1) この状態は、血液中に溶けきれなくなった尿酸が結晶化し、関節などに蓄積しやすくなることを意味します。 尿酸の結晶が関節に溜まると、痛風発作と呼ばれる激しい痛みを引き起こしてしまいますので、以下の表で、ご自身の尿酸値がどのレベルに該当するか確認してみましょう。 尿酸値(mg/dL) 評価 状態 7.0以下 正常値 とくに問題ありませんが、生活習慣には注意しましょう。 7.1~7.9 要注意 高尿酸血症の状態です。生活習慣の見直しが必要です。 8.0~8.9 危険 痛風発作のリスクが高い状態です。専門医への相談をおすすめします。 9.0以上 非常に危険 いつ痛風発作が起きてもおかしくない状態です。直ちに医療機関を受診してください。 (文献2)(文献3) 尿酸値が高い状態は、痛風だけでなく、腎臓の機能低下や尿路結石、さらには心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気のリスクも高めることが知られています。 尿酸値が高いことによる体への具体的な影響については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。 尿酸値の基準値|痛風になりやすいライン 尿酸値の基準値は、一般的に7.0mg/dL以下とされています。この数値を超えると「高尿酸血症」と診断され、痛風やその他の生活習慣病のリスクが高まります。 尿酸値が9.0mg/dLを超えると、痛風発作が起こる可能性が非常に高くなりますが、尿酸値が7.0mg/dLを超えたからといって、すぐに痛風になるわけではありません。 高尿酸血症の状態が長く続くことで、徐々に尿酸の結晶が関節に蓄積し、ある日突然痛風発作として症状が現れます。 そのため、自覚症状がなくても健康診断で尿酸値の高さを指摘された場合は、早期に生活習慣の改善に取り組むことが重要です。 男女別|尿酸値の基準値 尿酸値の基準値は、男女で若干異なります。 一般的に、男性の方が女性よりも尿酸値が高くなる傾向があります。 性別 基準値(mg/dL) 男性 3.7~7.8 女性 2.6~5.5 (文献4) 男性の尿酸値が女性より高い理由は、男性ホルモンに尿酸の排泄を抑える働きがあるためです。 一方、女性ホルモン(エストロゲン)には、腎臓からの尿酸の排泄を促す働きがあります。そのため、女性は男性に比べて尿酸値が低く痛風になりにくいとされています。(文献5) しかし、注意が必要なのは閉経後の女性です。閉経を迎えると女性ホルモンの分泌が減少し、尿酸値が上昇しやすくなります。 その結果、閉経後の女性は痛風のリスクが高まるため、女性も食生活や運動習慣に気を配ることが大切です。 年代別|尿酸値の基準値 尿酸値に、年代別の明確な基準値は設けられていません。しかし、年齢を重ねるにつれて尿酸値は上昇する傾向にあります。これは加齢に伴う腎機能の低下が影響していると考えられています。 腎臓は尿酸を体外へ排出する重要な役割を担っているため、その機能が低下すると、体内に尿酸が溜まりやすくなるのです。 実際に、日本の国民健康・栄養調査によると、高齢になるほど血清尿酸値の増加が報告されています。(文献5) とくに、40代以降の男性や閉経後の女性は、尿酸値が高くなりやすい傾向があるため、定期的な健康診断でご自身の数値を把握し、生活習慣を見直しましょう。 若い世代であっても、食生活の乱れや運動不足、ストレスなどにより尿酸値が高くなるケースも増えていますので、油断は禁物です。 尿酸値が高くなる原因 尿酸値が高くなる主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。 プリン体の過剰摂取 尿酸の排泄低下(腎機能低下) 飲酒 肥満・メタボリックシンドローム ストレスや過度な運動 遺伝的要因 尿酸は、私たちの体内で「プリン体」という物質が分解されて作られる老廃物です。通常であれば、尿酸は腎臓から尿と一緒に排泄され、体内の量は一定に保たれています。 尿酸が過剰に作られたり、うまく排泄されなくなり、血液中の尿酸値が上昇する原因について解説します。 プリン体の過剰摂取 尿酸の元となるプリン体は、細胞の核に含まれる成分で、私たちの体内でも生成されますが、食事から摂取されるものも少なくありません。 とくに、レバーや魚卵、干物など、プリン体を多く含む食品を過剰に摂取すると、体内で作られる尿酸の量が増え、尿酸値が上昇する原因となります。 一般的に、食品100gあたりに含まれるプリン体が200mg以上のものはプリン体の多い食品とされています。(文献1) 日常的にこれらの食品を好んで食べている方は、注意が必要です。 以下に、プリン体を多く含む食品の例をまとめましたので、ご自身の食生活を振り返ってみてください。 食品カテゴリ 食品カテゴリ プリン体含有量(mg/100g) 肉類 豚レバー 284.8 鶏レバー 312.2 牛レバー 219.8 魚介類 マイワシ干物 305.7 大正エビ 273.2 イサキ白子 305.5 アンコウ肝 399.2 魚卵 イクラ 15.7 スジコ 2.9 その他 干し椎茸 379.5 ビール酵母 2995.7 ただし、プリン体の摂取を極端に制限する必要はありません。大切なのは、バランスの取れた食事を心がけ、プリン体の多い食品は控えめにすることです。 プリン体と尿酸値の関係については、こちらの記事も参考にしてください。 尿酸の排泄低下(腎機能低下) 体内の尿酸は、約70%が腎臓から尿として排泄されます。(文献1) そのため、腎臓の機能が低下すると、尿酸を十分に排泄できなくなり、体内に蓄積して尿酸値が上昇します。 腎機能が低下する原因はさまざまですが、加齢のほか、糖尿病や高血圧といった生活習慣病が大きく関わっています。 これらの病気は、腎臓の血管にダメージを与え、徐々に腎機能を悪化させてしまうのです。 また、一部の降圧薬や利尿薬なども、尿酸の排泄を妨げることがあります。 現在、なんらかの薬を服用している方で尿酸値が高い場合は、一度かかりつけの医師に相談してみることをお勧めします。 腎機能の低下は自覚症状が現れにくいため、定期的な健康診断で腎臓の状態をチェックすることが非常に重要です。 飲酒 アルコールは、尿酸値を上げる大きな要因の一つです。 その理由は、主に3つあります。 理由 説明 アルコールが尿酸値を上げる アルコールが肝臓で分解される際に、尿酸の元となるプリン体が生成され、体内の尿酸量が増加します。 アルコールが尿酸の排泄を妨げる アルコールは腎臓からの尿酸排泄を抑制します。 とくに、ビールはプリン体を多く含むため、尿酸値を上げやすいお酒として知られています。 利尿作用による脱水 アルコールの利尿作用により体内の水分が失われ、血液が濃縮されることで一時的に尿酸値が上昇します。 お酒の種類に関わらず、アルコールの摂取量が多いほど尿酸値は上がりやすくなります。 休肝日を設けるなど、適度な飲酒を心がけることが大切です。 肥満・メタボリックシンドローム 肥満、とくに内臓脂肪が多いメタボリックシンドロームの状態は、尿酸値を上昇させることがわかっています。 内臓脂肪からは、インスリンの働きを悪くする物質が分泌され、インスリンの働きが悪くなると、体は血糖値を下げるためにより多くのインスリンを分泌しようとします。 この血液中のインスリンが過剰になった状態(高インスリン血症)が、腎臓での尿酸の排泄を妨げ、結果的に尿酸値を上げてしまうのです。 また、肥満の方は、過食や運動不足の傾向があり、それ自体が尿酸値を上げる原因にもなります。 肥満を解消し、適正体重を維持することは、尿酸値のコントロールにおいて非常に重要です。 BMI(肥満度を表す体格指数)が25以上の方は、まずは減量から始めてみましょう。 BMIの計算方法:体重(kg) ÷ {身長(m) × 身長(m)} ストレスや過度な運動 意外に思われるかもしれませんが、生活習慣全般の乱れによるストレスや激しい運動も尿酸値を上げる一因となることが示唆されています。 また、短距離走や筋力トレーニングといった、息が上がるほどの激しい運動(無酸素運動)を行うと、体内でエネルギーが大量に消費されます。 このとき、エネルギーの燃えカスとしてプリン体が多く作られ、結果として尿酸値が一時的に上昇します。 ですが、もちろん健康維持のために運動は欠かせません。 ウォーキングやジョギング、水泳といった、軽く汗ばむ程度の有酸素運動であれば、肥満の解消にもつながり、尿酸値の改善に効果的です。 ご自身の体力に合わせて、無理のない範囲で運動を続けましょう。 遺伝的要因 生活習慣に気をつけていても、尿酸値が高くなってしまう場合があります。 その背景には、遺伝的な要因が隠れていることもあります。 尿酸を体内で作る能力や、腎臓から排泄する能力には個人差があり、これらは遺伝によってある程度決まると考えられています。 実際に、家族に痛風の患者様がいる方は、そうでない方に比べて痛風になりやすいとされています。(文献1) ご自身の体質を理解し、人一倍、食生活や運動習慣に気をつけることが重要です。 食事と痛風の関係については、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。 痛風と高尿酸値の治療法 尿酸値が高いと指摘された場合、どのような治療法があるのでしょうか。 高尿酸血症や痛風の治療の基本は、生活習慣の改善です。 具体的には、「食事療法」「運動療法」「薬物療法」の3つが柱となります。 食事療法:プリン体を含む食品を控え、バランスの良い食事を心がける。 運動療法:有酸素運動を中心に肥満の改善を目指す。 薬物療法:生活習慣の改善で効果が不十分、または痛風発作の既往がある場合に尿酸降下薬を使用。 食事療法では、プリン体を多く含む食品を控え、バランスの取れた食事を心がけることが基本です。 また、水分を十分に摂取し、尿の量を増やすことで、尿酸の排泄を促せます。 運動療法では、ウォーキングなどの有酸素運動を中心に、肥満の解消を目指します。 これらの生活習慣の改善だけでは尿酸値が十分に下がらない場合や、すでに痛風発作を起こしたことがある場合には、尿酸値を下げる薬(尿酸降下薬)を用いた薬物療法が行われます。 治療法の詳細については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。 【関連記事】 痛風治療と生活習慣の見直してみる?!今すぐ始める具体的ステップ 尿酸値を下げて腎臓の健康を守る!今すぐ始めたい痛風・腎臓病予防の生活習慣 まとめ|尿酸値が高いときは放置せず早めに医療機関へ! 尿酸値が7.0mg/dLを超える高尿酸血症は、痛風発作のリスクを高めるだけでなく、腎機能低下や尿路結石、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気の危険性も上昇させます。 とくに尿酸値8.0mg/dL以上の方や、痛風発作の既往がある方は、早急な対応が必要です。自覚症状がないからといって放置せず、健康診断で異常を指摘された場合は、専門の医療機関を受診しましょう。 食事療法や運動療法といった生活習慣の改善は、尿酸値をコントロールする基本です。高尿酸血症は腎機能の低下や動脈硬化のリスクを高め、放置すると全身の健康に影響を及ぼします。 痛風発作による関節の痛みだけでなく、高尿酸血症に伴う生活習慣病は、ひざや股関節など他の関節疾患のリスクも高めることが知られています。 当院「リペアセルクリニック」では、変形性ひざ関節症や股関節症など、加齢や生活習慣によって生じる関節疾患に対して再生医療を提供しています。 膝や股関節の痛みでお悩みの方は、当院の公式LINEで発信している再生医療の情報をご確認してください。 尿酸値と痛風に関するよくある質問 尿酸値が高いと必ず痛風になりますか? 尿酸値が高い「高尿酸血症」の状態であっても、必ずしも全員が痛風になるわけではありません。 痛風発作を起こすのは、高尿酸血症の方の一部です。 しかし、尿酸値が高い状態が長く続くほど、また、数値が高ければ高いほど、痛風発作のリスクは確実に上昇します。 自覚症状がないからといって安心せず、尿酸値が高いと指摘されたら、将来の痛風発作を予防するために、生活習慣の改善に取り組むことが大切です。 尿酸値は下がっても再び上がることはありますか? あります。食事療法や薬物療法によって一度尿酸値が下がっても、治療を中断したり、生活習慣が元に戻ってしまったりすると、再び尿酸値は上昇します。 薬物療法は、高血圧の薬と同様に、継続して服用することで尿酸値をコントロールするものです。 自己判断で薬をやめてしまうと、尿酸値が再上昇し、痛風発作を繰り返す原因となります。 医師の指示に従い、根気強く治療を続けることが重要です。 尿酸値が高いと痛風以外にも病気のリスクはありますか? 高尿酸血症の方は、痛風以外の病気リスクもあります。 血液中に溶けきれなくなった尿酸の結晶は、関節だけでなく、腎臓や尿路にも蓄積します。 腎臓に蓄積すると腎機能が低下する「痛風腎」に、尿路に蓄積すると激しい痛みを伴う「尿路結石」になることがあります。 さらに、高尿酸血症は、高血圧や脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病を合併しやすく、心筋梗塞や脳卒中など、命に関わる動脈硬化性疾患のリスクを高めることも明らかになっています。(文献1) 参考文献 (文献1) 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版|日本痛風・尿酸核酸学会 (文献2) 高尿酸血症・痛風の診断と治療|日本内科学会雑誌 (文献3) 共用基準範囲に関するガイドライン|公益社団法人 日本臨床検査標準協議会 (文献4) Analysis of a Japanese Health Insurance Database|Journal of Clinical Medicine (文献5) 国民健康・栄養調査結果|厚生労働省
2025.06.29 -
- その他、整形外科疾患
「若くてもサルコペニアになるって本当?」と疑問をお持ちではないでしょうか。 サルコペニアは高齢者に多い疾患であり、若年層で発症するイメージが湧かない方も多いかもしれません。 サルコペニアは加齢とともに進行するケースが多いものの、20〜30代の若年層でも発症リスクがあります。 進行を防ぐには早めに気がつき、定期的な運動や食事の見直しなど適切な対策を取ることが大切です。 本記事では、若年層のサルコペニアにおける原因やチェック方法、予防策までをわかりやすく解説します。 「サルコペニアかもしれない」と気になる方は、本記事を参考に症状をチェックしてみてください。 若年層のサルコペニアの原因は「生活習慣」にある 前提として筋肉が減少する病気がない場合、若年層でサルコペニアを発症する原因の多くは、日々の生活習慣にあるとされています。 なかでも、次の2つはとくに注意すべきポイントです。 運動不足による筋力低下 筋肉をつくる栄養の不足 ぜひ、現在の生活習慣と照らし合わせて確認してみてください。 原因1. 運動不足による筋力低下 日常的に体を動かす機会が少ないと、筋肉量は徐々に減り、サルコペニアのリスクが高まります。とくに、日頃から運動習慣がない人は注意が必要です。 次のような生活に心当たりがある方は、日常に運動を取り入れてみてください。 休日は家でゆっくり過ごすことが多い 階段よりもエレベーターやエスカレーターを使いがち デスクワーク中心の仕事をしている サルコペニアの進行による歩行困難や寝たきりを防ぐためにも、まずは「体を動かす意識」から始めることが大切です。階段を使う、少し早歩きするなど、日常の中に取り入れやすい行動から始めてみてください。 原因2. 筋肉をつくる栄養の不足 日々の偏食により栄養が不足すると、筋力の低下が進みサルコペニアのリスクが高まります。 なかでも、筋肉の材料となるたんぱく質や、筋肉の合成を助けるビタミン類が不足すると、筋力維持が難しくなります。 筋力を維持するのに必要な栄養素と、それを多く含む食品類の一例は以下の通りです。(文献1)(文献2)(文献3) 栄養素 豊富に含まれる食品類の例 たんぱく質 卵類 肉類 豆類 ビタミンD 魚類 キノコ類 ビタミンB6 肉類 くだもの類 偏食や欠食が続いているのであれば、まずはこれらの食品を1日に1食以上取り入れることから始めてみてください。 若年層でもサルコペニアになりやすい人の特徴 若年層であっても、以下のような特徴がある人はサルコペニアになりやすい傾向があります。 過度な食事制限をしている人 座りっぱなしの生活をしている人 筋肉の少ない痩せ型の人 思い当たる項目があれば、本章を参考に生活習慣を見直してみましょう。 過度な食事制限をしている人 過度な食事制限による無理なダイエットは、脂肪と同時に筋肉も減らしてしまうリスクがあります。また、栄養不足によりサルコペニアのリスクを高めるおそれがあるため、注意が必要です。 とくに次のようなダイエット法はリスクが高いため、避けるようにしましょう。 単品ダイエット 誤った糖質制限ダイエット 絶食ダイエット 野菜や果物のみの食生活 ダイエットは、栄養バランスを意識しながら無理のない方法で行うことが大切です。不安がある場合は、専門家と相談しながら自分に合った健康的なダイエットプランを立ててみてください。 座りっぱなしの生活をしている人 長時間座りっぱなしでいると、下半身の筋肉が使われず、気づかないうちに筋力が低下してしまうことがあります。 デスクワーク中心の方や、長時間車の運転をする仕事に従事している方などはとくに注意が必要です。体を動かさない時間が長くなると筋力が衰えやすくなり、歩行困難や寝たきりの原因にもなりかねません。 こうしたリスクを防ぐためにも、長時間座り続けないようこまめに体を動かすことが大切です。「1時間に1回は立ち上がる」「階段を使用する」「短時間の散歩をする」など、日常の中で無理なくできる工夫を取り入れてみてください。 筋肉の少ない痩せ型の人 細身でも筋肉が少なく脂肪が多い「やせ型体型」の人は、サルコペニア肥満のリスクがあるため注意が必要です。 「サルコペニア肥満」とは、BMIが標準または低体重でありながら体脂肪率が高い状態を指し、見た目では判断が困難です。(文献4) 見た目は細くても、筋肉量と脂肪量のバランスによっては健康リスクが隠れている場合があります。「痩せているから肥満ではない」と決めつけず、体組成計を用いて筋肉量や脂肪量をチェックし、自分の体の状態を正しく把握するようにしましょう。 サルコペニア肥満については、以下の記事で詳しく紹介しています。 若年層のサルコペニアに見られる初期症状 若年層にも見られるサルコペニアの初期症状として、次のような症状があります。 ペットボトルの蓋が開けにくい 転びやすい ふくらはぎが細くなったと感じる 階段を登るのがつらい 手を使わないと立ち上がれない こうした兆候を見過ごしてしまうと、気づいたときにはサルコペニアが進行していることもあります。 そのため、初期のサインを見逃さないことが大切です。少しでも心当たりがある場合は、早めに専門医に相談してみましょう。 若年層のサルコペニアのセルフチェック方法 すぐに実践できるサルコペニアのセルフチェック方法には、以下の3つがあります。 指輪っかテスト 片足立ち 歩行速度 「サルコペニアかもしれない」と感じたら、ぜひ試してみてください。 指輪っかテスト 指輪っかテストとは、ふくらはぎの太さから筋肉量を測る方法です。以下の手順で行ってみてください。(文献5) 両手親指と人差し指で輪をつくる つくった輪で、利き足と反対側のふくらはぎの一番太い部分を囲む 判定の目安は以下のとおりです。 指とふくらはぎの間に大きな隙間がある場合:サルコペニアのリスクが高い 指が届かない、またはぴったりと囲める場合:リスクは比較的低い ただし、指輪っかテストは主に高齢者向けの簡易的なセルフチェック方法のため、若年層のサルコペニアリスクを正確に評価できるかは不明確な部分があります。気になる場合は、日頃の食事や運動習慣を見直すとともに、必要に応じて専門医に相談しましょう。 片足立ち 片足立ちできる時間の測定は、下半身の筋力やバランス能力を確認する方法です。サルコペニア専用の評価項目ではありませんが、自宅での簡単なセルフチェックに役立ちます。やり方は以下のとおりです。 両手を腰に当てる 片足立ちをして立っていられる時間をタイマーで測る 片足立ちが15秒未満しか保てない場合は、サルコペニアの可能性があるため注意が必要です。(文献6) また、片足立ちによるセルフチェックを行う場合は、転倒しないように壁や家具の近くで行うようにしましょう。 歩行速度 筋力が低下すると、普段の歩くスピードにも影響が出ることもあります。サルコペニアの進行により歩行速度が遅くなることは、よくある兆候のひとつです。 日常生活の中で歩行速度を確認する方法として「横断歩道を青信号のうちに渡り切れるか」を目安にするのも一つの手段です。 ただし、実際に試す場合は安全に配慮してください。 若年層のサルコペニアを予防する方法 若年層のサルコペニア予防には、次の2つの方法が効果的です。 筋力トレーニングを定期的に行う たんぱく質を積極的に摂る いずれも手軽に始められる方法なので、自分のペースで今日から少しずつ取り組んでみてください。 筋力トレーニングを定期的に行う 運動不足を自覚している場合は、まずは軽い筋力トレーニングから始めて、定期的に続けてみましょう。 若年層が手軽に始められる筋トレの一例は、以下のとおりです。 スクワット プランク ウォーキング 階段の利用 これらは自宅や日常生活の中で取り入れやすく、続けると筋力維持やサルコペニア予防につながります。運動のハードルを上げすぎず、自分のペースで少しずつ習慣化することを心がけてみてください。 また、サルコペニア予防に効果的な筋力トレーニングは以下の記事にて詳しく解説しています。こちらも合わせてご覧ください。 たんぱく質を積極的に摂る サルコペニアの前兆があり、栄養不足を自覚している方は「たんぱく質」を十分に摂るよう意識しましょう。 いくら運動をしても、筋肉の材料となるたんぱく質が不足すると、筋肉はなかなかつきません。一方で、たんぱく質を十分に摂取できれば筋肉は効率よくつくられ、サルコペニアの予防にもつながります。 手軽に取り入れやすいたんぱく質が豊富な食材には、以下のようなものがあります。(文献7) 豚肉 卵 鮭 ほたて貝 また、食事から十分にたんぱく質を摂れない場合、プロテインやサプリメントを活用するのもひとつの方法です。日頃からたんぱく質を取り入れた栄養バランスの良い食事を心がけ、サルコペニアの予防に取り組んでみてください。 若年層のサルコペニアは早めの対策で進行を防ごう 本記事で解説したとおり、サルコペニアは若年層でも起こり得る病気です。とくに運動不足・栄養不足など生活習慣が引き金となりサルコペニアのリスクもあります。 早期発見と適切な対策により進行を防ぐことができます。本記事を参考にセルフチェックを行い、生活習慣を見直して若年からサルコペニアの予防に取り組んでみてください。 筋力の低下が進むと、膝や腰などの関節に負担がかかりやすくなり、痛みや動きにくさなど別の症状が生じることもあります。 こうした症状がある場合は、早めに専門医へ相談し、適切な処置を受けることが大切です。 当院「リペアセルクリニック」では、膝の痛みや関節の不調に対する再生医療を行っております。現在、メールまたはオンラインカウンセリングにて無料相談を受け付け中です。一人で悩まず、気になる方は当院までお気軽にご相談ください。 若年層のサルコペニアに関してよくある質問 病院ではどんな治療をしますか? サルコペニアの治療は、主に「運動療法」と「栄養療法」が有用であるとされており、病院でもこの2つが中心に行われます。(文献4)特効薬は存在しないため、根本的な生活習慣の改善が治療の基本です。 具体的には、専門家のもとで以下のような治療が行われる場合がほとんどです。 治療の種類 治療内容の例 運動療法 治療可能か確認したのち、長期間かけて筋力トレーニングを行う 栄養療法 管理栄養士が個別に栄養指導を行う より詳しい治療については、以下の記事にて解説しています。気になる方は、合わせて参考にしてください。 サルコペニアは何歳から進行しますか? サルコペニアは、30代頃から徐々に進行するリスクがあると言われています。実際に、骨格筋量は30代から毎年1〜2%ずつ減少するとの報告もあるため、若年層でも発症する可能性は否定できません。(文献8) 目立った症状がなくても、日頃から意識的に筋力を維持する食事や運動を心がけ、サルコペニアの予防に取り組んでいきましょう。 参考文献 文献1 厚生労働省 「たんぱく質」e-ヘルスネット https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/food/ye-044.html (最終アクセス:2025年6月17日) 文献2 厚生労働省 「ビタミンD」eJIM(イージム) https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/10.html (最終アクセス:2025年6月17日) 文献3 厚生労働省「ビタミンB6」eJIM(イージム) https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/08.html (最終アクセス:2025年6月17日) 文献4 日本サルコペニア・フレイル学会「サルコペニア診療ガイドライン2017年版」2020年 https://minds.jcqhc.or.jp/common/wp-content/plugins/pdfjs-viewer-shortcode/pdfjs/web/viewer.php?file=https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00426.pdf&dButton=false&pButton=false&oButton=false&sButton=true#zoom=auto&pagemode=none&_wpnonce=3b871a512b (最終アクセス:2025年6月17日) 文献5 厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業) 分担研究報告書「新規考案した3種類の簡易スクリーニング法(指輪っかテスト・ピンチカ・第1-2 指間厚) における筋肉減弱症(サルコペニア)を視野に入れた臨床的有用性の検討 ~継続性の高いコミュニティー健康活動を目指して~」 https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2012/123011/201217016A/201217016A0006.pdf (最終アクセス:2025年6月17日) 文献6 日本整形外科学会「運動器不安定症」 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/mads.html (最終アクセス:2025年6月20日) 文献7 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂) 増補2023年」2023年 https://www.mext.go.jp/content/20230428-mxt_kagsei-mext_00001_011.pdf (最終アクセス:2025年6月17日) 文献8 荒井 秀典.「サルコペニアの科学と臨床 1)サルコペニア診療ガイドライン」『日本内科学会雑誌』107(9), p1697-p.1701, 2018年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/9/107_1697/_pdf (最終アクセス:2025年6月17日)
2025.06.29 -
- その他、整形外科疾患
「最近つまずきやすくなった」「階段の上り下りがつらい」といった症状で悩んでいませんか。 それは、加齢による筋力の低下からくる「サルコペニア」の初期サインかもしれません。進行すると筋肉がさらに衰え、歩行や立ち上がりなど日常生活に支障をきたすこともあります。 サルコペニアを防ぐには、筋力トレーニングが効果的です。筋肉を定期的に動かすことで進行を抑えられ、結果として健康寿命を延ばすことにもつながります。 この記事では、サルコペニア予防におすすめの筋力トレーニングや注意点、日常生活でできる工夫について解説します。 今日から筋力トレーニングを始め、サルコペニア予防に取り組んでみてください。 サルコペニアの予防に効果的な筋力トレーニング4選 サルコペニアの予防に効果的な筋力トレーニングを4つご紹介します。 椅子スクワット つま先立ち運動 膝の曲げ伸ばし運動 背筋トレーニング 本章を参考に、無理のない範囲で今日からチャレンジしてみてください。 椅子スクワット 椅子スクワットは、下半身を鍛えたいものの、転倒に不安のある方におすすめのトレーニングです。以下の方法を参考に実践してみましょう。 足を肩幅に開いて立ち、椅子の背もたれを両手でつかむ ゆっくりと膝を落とし、しゃがむ 数秒キープしたら、元の立位の姿勢に戻る 数回繰り返す 下半身の筋力低下が気になる方は、ぜひ取り入れてみてください。 つま先立ち運動 つま先立ち運動(ヒールレイズ)は、ふくらはぎの筋肉を鍛えるのに効果的なトレーニングです。以下のステップで行ってみてください。 足を肩幅に開いて立つ 立った状態でかかとを上げる かかとをゆっくりと床に降ろす 1〜3.を10回程度繰り返す 慣れてきたら、片足で行うとさらに効果的です。転倒が心配な方は、壁や椅子の背もたれ、手すりなどに手を添えて行いましょう。 膝の曲げ伸ばし 椅子に座ったまま行える膝の曲げ伸ばし運動です。下半身の筋力を鍛え、膝関節の柔軟性を保つのに効果的です。以下のステップで行ってみましょう。 背筋を伸ばした状態で、椅子に浅く座る 片足の膝をゆっくりと伸ばし、足を前方に上げる 膝が伸びた状態で数秒キープする ゆっくりと膝を曲げらがら足を床に降ろす 反対側の足も同様に、左右交互に10回ずつ行う 長時間のデスクワークの合間や、自宅でテレビを見ているときなど、スキマ時間に始められます。こまめに続けることでより効果が期待できるため、ぜひ今日から取り入れてみてください。 背筋トレーニング サルコペニアを予防するには、背筋を鍛えることも大切です。 タオルを使って自宅で手軽に行える背筋トレーニングをご紹介します。以下の手順で、背筋トレーニングを行ってみましょう。 タオルの両端を持ち、ピンと張る 腕を肩より少し高く上げ、タオルを外側に引っ張るように力を入れる 肘を曲げながら、肩甲骨を寄せるように意識して、腕をゆっくり下ろす 肘を伸ばして再び腕を上げ、2.の姿勢に戻る 2.~4.を10回程度行う 背中の筋肉が衰えてしまうと、姿勢が崩れ、サルコペニアの悪化にもつながってしまいます。(文献1)正しい姿勢を維持するためにも、背筋のトレーニングを日常的に取り入れていきましょう。 サルコペニアに筋力トレーニングが効果的な理由 サルコペニアとは、加齢や生活習慣の影響で体を動かす筋肉量や力が減少する状態です。進行すると筋力の低下により、歩行困難や寝たきりになるリスクも高まります。 サルコペニアの予防には、骨格筋のトレーニングが効果的です。 筋力トレーニングは特別な器具がなくても自宅で行えるものが多く、誰でも今日から始められます。 継続すると、健康寿命を延ばすことにもつながるため、ぜひ日常生活に取り入れてみてください。 さらに筋トレは、サルコペニアだけではなく、将来的なフレイルやロコモティブシンドロームの予防にも有効です。これらの違いや特徴について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。 サルコペニア予防で筋トレをするときの注意点 筋トレをする際には、以下の3つの点に注意が必要です。 こまめに休憩をはさむ 呼吸を止めない 週2~3回ほど定期的に行う トレーニングを始める前に本章の注意点を意識し、無理のない範囲で運動を続けましょう。 こまめに休憩をはさむ 長時間連続で筋力トレーニングをせず、途中でこまめに休憩をはさむことが大切です。疲労や関節への負担を防ぐためにも、体調に合わせてペースを調整しながら取り組みましょう。 たとえば、「20分運動して5分休む」といったリズムがひとつの例です。 運動の強度やその日の体調に応じて、無理のない範囲で柔軟に休憩を取り入れてみてください。 呼吸を止めない 筋トレ中は力む際に息を止めがちですが、常に自然なリズムで呼吸するように意識しましょう。 呼吸を止めて力んでしまうと酸素が不足し、血圧の急上昇や頭痛・吐き気など体調不良を引き起こすおそれがあります。(文献2) 筋トレ中の正しい呼吸法は以下のとおりです。 タイミング 呼吸 力を入れるとき 息を吐く 力を抜くとき 息を吸う このリズムを意識すると、筋トレ中の体への負担を軽減できます。筋トレを行う際は、意識してみてください。 なお、「筋トレ頭痛」の対策方法については、以下の記事で詳しく解説しています。気になる方は、あわせてご覧ください。 週2~3回ほど定期的に行う サルコペニアを予防するには、週に2〜3回のペースで筋トレを継続することが効果的です。 筋肉は一度きりの運動では鍛えられません。こまめに運動を重ねることで筋肉に刺激を与えられます。 また、厚労省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」では、成人・高齢者のどちらにも週2〜3回の筋トレを推奨しています。(文献3) 定期的な筋トレは、サルコペニアに加え、座りっぱなしによる代謝低下や筋力低下、糖尿病や高血圧などの合併予防にも効果的です。 忙しい方も1日15〜20分のスキマ時間から始めて、生活の一部に筋トレを取り入れてみてください。 【日常的にできる】筋トレ以外のサルコペニア予防法 忙しくて筋トレの時間が取れない人の場合、日常生活の中に「ながら運動」を取り入れましょう。 サルコペニアを予防するには、時間がなくても、普段から少しずつ体を動かすことが大切です。 活動量が増えることで筋肉に刺激を与えられるため、筋力の低下を防ぐ効果が期待できます。 以下を参考に、毎日の生活に取り入れやすい工夫を実践してみましょう。 エスカレーターやエレベーターではなく、階段を使う 通勤や買い物の際に、敢えて遠回りして歩く いつもより少し早歩きをする これらを意識するだけでも、筋肉を鍛えられ、サルコペニアの予防につながります。 サルコペニア予防には筋力トレーニングを取り入れよう サルコペニアとは、加齢や生活習慣により筋力が低下する状態です。 放置すると、将来的に歩行困難や寝たきりのリスクがあります。 こまめに筋力トレーニングを行うことで筋肉が鍛えられ、サルコペニアの予防につながります。 本記事を参考に、今日からできる運動を実践してみてください。 なお、筋力の衰えが不安な方や、より専門的なケアを希望する方は、専門家に相談するのも一つの選択肢です。 当院「リペアセルクリニック」では、人体に備わる幹細胞を活用した再生医療を提供しています。今なら「メール」または「オンラインカウンセリング」にて無料相談を受け付け中です。 「加齢による体の変化が気になる」「将来に向けて病気予防を始めたい」と感じている方は、ぜひお気軽にご相談ください。 サルコペニアに関する質問 サルコペニアを防ぐ食事は? サルコペニア予防には日頃から栄養バランスの良い食事を意識することが大切です。中でも、筋肉の材料となる「たんぱく質」は意識的に摂取するようにしましょう。 たんぱく質を多く含む食品には、次のようなものがあります。(文献4) 豚肉 牛乳 卵 豆類 さけ・ます類 体重1kgあたり1g/日以上のたんぱく質の摂取が、サルコペニアの予防に効果的であるとされています。たとえば体重60kgの人の場合、1日あたり約60gのたんぱく質の摂取が必要です。(文献5) まずは、こうした食材を毎食の中に1品でも取り入れることから始めてみましょう。 サルコペニアの判断方法は? サルコペニアは「指輪っかテスト」でセルフチェックが可能です。両手の親指と人差し指で輪を作り、ふくらはぎの一番太い部分を囲んでみてください。(文献6) その際、指の輪とふくらはぎの間に隙間ができる場合は、サルコペニアのおそれがあります。 ただし「指輪っかテスト」はあくまで目安です。セルフチェックで不安がある場合は、医療機関にて詳しい検査を受けましょう。 参考文献一覧 文献1 厚生労働省 「サルコぺニア」 e‑ヘルスネット, 最終更新日:2024年1月30日 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/exercise/ys-087.html (最終アクセス:2025年6月15日) 文献2 久米 大祐ほか.「間欠的な息止めが運動時の生理応答に及ぼす影響」『体力科学』60(6), pp.641-647, 2011年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/60/6/60_6_641/_pdf (最終アクセス:2025年06月17日) 文献3 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」令和6年1月 https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf (最終アクセス:2025年06月15日) 文献4文部科学省「日本食品標準成分表(八訂) 増補2023年」2023年 https://www.mext.go.jp/content/20230428-mxt_kagsei-mext_00001_011.pdf (最終アクセス:2025年06月15日) 文献5 日本サルコペニア・フレイル学会「サルコペニア診療ガイドライン2017年版」2020年 https://minds.jcqhc.or.jp/common/wp-content/plugins/pdfjs-viewer-shortcode/pdfjs/web/viewer.php?file=https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00426.pdf&dButton=false&pButton=false&oButton=false&sButton=true#zoom=auto&pagemode=none&_wpnonce=3b871a512b (最終アクセス:2025年6月17日) 文献6 厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業) 分担研究報告書「新規考案した3種類の簡易スクリーニング法(指輪っかテスト・ピンチカ・第1-2 指間厚) における筋肉減弱症(サルコペニア)を視野に入れた臨床的有用性の検討 ~継続性の高いコミュニティー健康活動を目指して~」 https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2012/123011/201217016A/201217016A0006.pdf (最終アクセス:2025年6月15日)
2025.06.29 -
- その他、整形外科疾患
「サルコペニアの治療は何をすればいいの?」「普段から意識すべきことはある?」と疑問をお持ちではないでしょうか。 病院でサルコペニアと診断されたものの、実際どのような治療をするのかイメージが湧かない方も多いかもしれません。 サルコペニアの治療は「運動」と「栄養」を中心に行います。サルコペニアが進行すると転倒や寝たきりの原因になるため、早期に治療を開始することが大切です。 この記事では、現役医師の見解をもとに、サルコペニアの治療法や受診すべき病院、治療薬の現状までわかりやすく解説します。 できることから一歩ずつ行い、将来の健康を守っていきましょう。 サルコペニアの治療法 サルコペニアの治療は、運動と栄養の2本柱で進めていきます。 筋力トレーニングやウォーキングなどの運動 たんぱく質やビタミンなどの栄養素を摂取 今の生活に取り入れられることがないか、ぜひチェックしてみてください。 また、サルコペニア自体についてや要介護や寝たきりを防ぐ生活については、こちらの記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 【関連記事】 要介護や寝たきりを避ける!元気で自立した生活を送るため大切になこと フレイルサルコペニアとは|ロコモとの違いや症状・予防法を医師が解説 運動治療|筋肉の量や機能を維持 サルコペニアの改善において、運動は大切な要素のひとつです。 なかでもよく行われているのが、レジスタンス運動と有酸素運動の組み合わせです。 これらを正しく取り入れることで、筋肉量や身体機能の維持・向上が期待できます。 日常生活に取り入れやすい運動から始める レジスタンス運動は、筋肉に抵抗をかけて鍛えるトレーニング、いわゆる「筋トレ」です。 スクワットや足の上げ下げ、かかと上げなどが代表的で、週2〜3回の頻度で行うと、筋力を保ちやすくなります。(文献1) 一方、有酸素運動は、ウォーキングや軽いジョギングなど、呼吸を意識しながら一定時間続ける運動です。 血流や代謝を促し、筋力だけでなく持久力や全身の機能向上にもつながります。(文献2) どちらも特別な器具や施設がなくても日常生活の中に取り入れやすい点が特徴です。 まずはウォーキングや軽いジョギングなどからスタートし、慣れてきたら筋トレを加えていきましょう。 筋肉の衰えを防ぐ生活習慣・運動については、こちらの記事もぜひ参考にしてみてください。 【関連記事】 介護のリスク!筋肉の衰えが心配な高齢者へ、必要な生活習慣とは サルコペニアの予防に効果的な筋力トレーニング一覧|やり方や注意点を医師が解説 理学療法士の指導の下運動する 運動に不安をもつ方や持病がある方は、理学療法士や医師と相談しながら運動を取り入れましょう。 自己流での運動はケガや悪化の原因になることもあります。 理学療法士や医師の指導のもとで、体の状態に合わせたプログラムを組んでもらうと、より効果的に続けられます。(文献1) 運動を治療として継続していくには、無理なく続けられる環境やサポート体制も大切です。 「自分の状態で何から始めれば良いかわからない」という方こそ、医療機関で相談してみると良いでしょう。 栄養療法|筋力強化を目指す 筋肉を保つには、以下の点を意識しながら必要な栄養をしっかりとることが大切です。 バランスの良い食事とたんぱく質摂取を意識する サプリメントや栄養補助食品も選択肢のひとつ 日々の食事で足りているか、振り返ってみましょう。 バランスの良い食事とたんぱく質摂取を意識する 筋肉の材料となるたんぱく質は、年齢とともに必要量が増えると言われています。 目安は、体重1kgあたり1.0g/日以上です。(文献1) 肉・魚・卵・大豆製品などを1日3食にバランスよく取り入れるよう意識しましょう。 また、ビタミンB群はエネルギー代謝や神経の働きを助け、ビタミンCは膝まわりの筋力や身体機能と関わるという報告があります。(文献3) さらにビタミンDには、筋肉の減少を防ぐはたらきもあるとされています。(文献4) 特定の食品や栄養素にかたよるのではなく、いろいろな食材を組み合わせて、バランスよく食べることが大切です。 食欲がわかないときでも、白ごはんにお味噌汁を添えたり、ヨーグルトを1品足したりして、少しでも品数を増やす工夫をしてみましょう。 サプリメントや栄養補助食品も選択肢のひとつ 「食事だけでは必要な栄養がとれていないかも」と感じるときは、サプリメントや栄養補助食品を使う方法もあります。 実際に、高齢女性を対象とした研究では、アミノ酸のサプリと運動を組み合わせることで、筋力や歩行スピードが改善したとの報告もあります。(文献5) 食事だけで無理なく補えるのが理想ですが、不足を感じるときは、医師や専門家と相談しながら取り入れてみましょう。 サルコペニアの治療薬について 現在のところ、サルコペニアに対して正式に承認された治療薬はありません。 サルコペニアは、2016年にようやく疾患として認められた比較的新しい概念です。 薬の研究や開発は進められているものの、実際に広く使える薬はまだ存在していないのが現状です。(文献6)(文献7) よって、今できるサルコペニア対策として、運動や食事の見直しが大切です。 「薬がないなら何もできない」と思わず、今取り組めることをひとつずつ実践していきましょう。 サルコペニアの治療で受診すべき医療機関 サルコペニアは、以下のような適切な医療機関での相談が大切です。 整形外科・老年科 専門外来 かかりつけ医 自分に合った受診先を確認しておきましょう。 整形外科や老年科 筋肉や骨、関節の不調があるときは、まず整形外科を受診します。 高齢者特有の体調変化が気になる場合は、老年科(老年内科)でも相談できます。(文献8) 「運動機能に不安がある」「筋力の衰えを指摘された」と感じたら、整形外科や老年科で評価を受けてみると今の状態がよりはっきりとわかるでしょう。 サルコペニア外来や長寿サポート外来などの専門外来 病院によっては、サルコペニアやフレイルに特化した外来を設けているところもあります。 これらの専門外来では、医師だけでなく理学療法士や栄養士などがチームとなって治療をサポートしています。 「専門的に診てもらいたい」「生活全体を見直したい」という方は、こうした専門外来のある病院を選ぶのも一つの選択肢です。 かかりつけ医 サルコペニアの疑いがあっても何科を受診すべきか悩んでいる場合、まずは身近なかかりつけ医に相談するのも良いでしょう。 かかりつけ医は、普段の健康状態をよく知っている存在です。 必要に応じて、整形外科や老年科、リハビリテーション科など、専門的な評価や治療ができる医療機関を紹介してもらうことも可能です。 受診するか迷っている段階でも、一人で抱え込まず、かかりつけ医に相談してみましょう。 サルコペニアの治療は早期対応が大切 「年のせいかも」と思って見過ごしてしまう方が少なくありませんが、サルコペニアは放っておくと徐々に進行し、転倒や骨折、寝たきりのリスクを高めてしまいます。 少しの運動でも疲れやすい、ふくらはぎが細くなってきたなどの変化を感じたら、早めに医療機関で相談しましょう。 日常生活に支障が出てからでは、回復に時間がかかることもあります。「まだ大丈夫」と思えるうちにこそ、治療や予防を始めるタイミングです。 筋力の衰えが気になる方は、リペアセルクリニックの「メール相談」や「オンラインカウンセリング」もご活用いただけます。 まずはお気軽にお問い合わせください。 サルコペニアの治療に関するよくある質問 サルコペニアの初期症状はどのようなものですか? 初期症状として多いのは、「ふくらはぎが細くなった」「よくつまずくようになった」「階段の上り下りがつらい」など、日常の小さな変化です。(文献9) たとえば、以下のような症状もサルコペニアの初期症状の可能性があります。 重たい荷物が前より持ちにくい 椅子から立ち上がるのが大変になった 歩く速度が遅くなった気がする 日常の些細なことがサインになっていることも少なくありません。 思い当たることがあれば、我慢せずに一度かかりつけ医へ相談してみてください。 サルコペニアの治療は病院に行った方が良いですか? サルコペニアの治療をするなら、病院に行くことをおすすめします。 サルコペニアは専門的な評価と治療が必要な病気です。 自己流の運動や食事改善だけでは、思うような効果が出にくかったり、逆に体に負担がかかってしまうケースもあります。 専門の治療を行う医療機関では、筋肉量や身体機能を客観的に測定しながら、適切な運動メニューや栄養指導が受けられます。 「まだ軽い症状だから」と放置せず、できるだけ早く専門家に相談し、将来の介護リスクを減らしましょう。 参考文献 (文献1) 荒井 秀典「フレイル・サルコペニア」『日本内科学会雑誌』107(12),pp2444-2450,2018 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/12/107_2444/_pdf(最終アクセス:2025年6月16日) (文献2) 公益財団法人 長寿科学振興財団「トレーニング:有酸素運動とは」健康長寿ネット 2025年2月12日 https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/shintai-training/yusanso-undou.html(最終アクセス:2025年6月16日) (文献3) 清水 昭雄,藤島 一郎「高齢者・サルコペニアの栄養療法」『神経治療』39,pp13-17,2022 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/39/1/39_13/_pdf(最終アクセス:2025年6月16日) (文献4) 亀井康富「ビタミンDは筋肉の萎縮を抑制し、高齢者のサルコペニアを予防・改善する」『あたらしいミルクの研究』2019年度 https://nutrition.life.kpu.ac.jp/wp-content/uploads/2020/05/%E4%BA%80%E4%BA%95%E5%85%88%E7%94%9F%E4%BA%AC%E9%83%BD%E5%BA%9C%E7%AB%8B%E5%A4%A7%E5%AD%A63_0323.pdf(最終アクセス:2025年6月16日) (文献5) Hun Kyung Kim「Effects of exercise and amino acid supplementation on body composition and physical function in community-dwelling elderly Japanese sarcopenic women: a randomized controlled trial」『J Am Geriatr Soc』60(1),pp16-23,2012 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22142410/(最終アクセス:2025年6月18日) (文献6) 早野元詞「サルコペニアに対する治療薬開発と老化創薬としての事業計画立案」慶応義塾大学 https://www.idp.ori.titech.ac.jp/wp-content/uploads/2021/09/%E6%85%B6%E5%BF%9C%E3%80%80%E6%97%A9%E9%87%8E.pdf(最終アクセス:2025年6月16日) (文献7) 一般社団法人 日本サルコペニア・フレイル学会「サルコペニア診療ガイドライン2017年版のCQとステートメント」日本サルコペニア・フレイル学会ホームページ https://www.jasf.jp/contents/guidelines.html(最終アクセス:2025年6月16日) (文献8) 東大病院「老年病科」東大病院ホームページ https://www.h.u-tokyo.ac.jp/patient/depts/rounen/(最終アクセス:2025年6月16日) (文献9) 公益財団法人 長寿科学振興財団「トレーニング:有酸素運動とは」健康長寿ネット 2023年7月14日 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/sarcopenia-about.html(最終アクセス:2025年6月16日)
2025.06.29 -
- その他、整形外科疾患
「フレイル、サルコペニアって何?」「ロコモとの違いは?」「予防はできるの?」との疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。 フレイル・サルコペニア・ロコモは、いずれも年齢とともに起こりやすい体の変化を示す言葉です。最近よくつまずくようになったり会話が減ったりするのは、これらの症状のサインかもしれません。 本記事ではフレイル・サルコペニア・ロコモの症状や違い、予防法などを解説します。健康寿命を延ばし、いつまでも自分らしく過ごすヒントとしてお役立てください。 また、ロコモの原因となる変形性関節症や軟骨損傷についてお悩みの方は、治療法として再生医療もご検討ください。 当院「リペアセルクリニック」では、公式LINEで再生医療に関する情報提供と簡易オンライン診断を実施しています。ぜひお気軽にご登録ください。 フレイル・サルコペニア・ロコモの違いと関係性 フレイル・サルコペニア・ロコモそれぞれの特徴は以下のとおりです。 種類 状態 特徴 フレイル 心身全体の活力が落ちた状態 ・些細なストレスや環境の変化でも体調を崩しやすい ・精神的にも落ち込んだり閉じこもりやすくなったりする サルコペニア 筋肉量と筋力が低下した状態 ・高齢になると起こりやすい ・フレイルの原因にもなる ロコモ(ロコモティブシンドローム) 移動機能にかかわる体の衰え ・歩く、立つ、座るといった日常動作が難しくなる ・進行すると介護リスクが高まる それぞれの違いを知り、自分に必要な対策を検討しましょう。 フレイルとは「心身全体の活力が落ちた状態」 フレイルとは、体の衰えに加えて、気力や社会とのつながりも弱くなっている状態であり、健康な状態と要介護状態の中間段階に位置づけられています。 些細なストレスや環境の変化でも、体調を崩しやすくなるのが特徴です。体だけでなく、気持ちの落ち込みや閉じこもりがちになる傾向も見られます。 また、フレイルが進行すると転倒や骨折、認知症のリスクが高まり、要介護状態へと移行しやすくなる点も見逃せません。 主に、以下のような症状が現れます。 筋力や持久力が低下する 気分の落ち込みや無気力になる 人との交流が減り、孤立しがちになる 生活の些細な変化にも対応しづらくなる 上記のような症状は加齢とともに徐々に進行し、本人や周囲が気づきにくい面があります。 とはいえ、フレイルを放置すると転倒や骨折、認知症、さらには要介護状態に移行するリスクが高まるため注意が必要です。 とくに、「疲れやすい」「外出が減った」「体重が減少した」といった変化が見られる場合は、早めの対応が欠かせません。 サルコペニアとは「筋肉量と筋力が低下した状態」 サルコペニアは、筋肉の量が減り、握力や歩く力が低下するのが特徴です。 高齢になると誰にでも起こる可能性があり、筋肉の低下により転倒や骨折、寝たきりにつながるケースもあります。また、サルコペニアはフレイルの原因のひとつでもあります。 サルコペニアによる筋力低下を放置すると、日常生活に支障をきたす恐れがあるため、早めの対策が必要です。筋肉は年齢とともに徐々に衰えていきますが、とくに脚の筋肉から先に弱っていく傾向があります。 「立ち上がりにくい」「階段がつらい」といった小さな変化が初期のサインとなるケースもあるため、注意深く観察しましょう。 適切な運動や栄養管理により、サルコペニアの進行を防いだり、改善したりすることは可能です。予防には、日々の生活習慣の見直しが欠かせない点に留意しておきましょう。 なお、肥満と筋肉減少が同時に進行する「サルコペニア肥満」になると、病気のリスクが高まるため注意しなければなりません。 サルコペニア肥満については、以下の記事でも詳しく解説しているので参考にしてみてください。 ロコモとは「移動機能にかかわる体の衰え」 ロコモティブシンドローム(ロコモ)は、関節や骨、筋肉などの体を動かす部位の衰えです。 歩く、立つ、座るといった基本の動作が難しくなっていくのが特徴で、進行すると寝たきりや要介護状態につながる場合もあります。 医学的には「移動機能の低下した状態」と定義されており、主に運動器の障害によって起こるのが特徴です。 加齢に伴う変化だけでなく、変形性膝関節症や骨粗しょう症、脊柱管狭窄症などの病気が原因になる場合もあります。 また、転倒による骨折や運動不足がさらなる筋力低下を招き、悪循環に陥るケースも少なくありません。 早期に気づいて継続的にケアを行い、健康寿命の延伸につなげていきましょう。 ロコモについては、以下の記事でも取り上げています。 フレイル・サルコペニア・ロコモが発症する順番 加齢とともに現れる体の衰えは、一般的に「サルコペニア → ロコモ → フレイル」の順に進行すると考えられています。 まず、加齢や運動不足、栄養の偏りによって筋肉量や筋力が低下し、サルコペニアがはじまります。次に、筋力の低下が原因で、歩行や立ち上がりといった移動機能が衰えるロコモへと移行します。 移動機能の低下が続くと外出機会や交流が減り、身体的・精神的・社会的な機能全体が低下するフレイルへと進展する順番です。必ずしもこの順番通りに発症するとは限りませんが、サルコペニアがきっかけとなって、ロコモやフレイルに波及するパターンが多くあります。 健康寿命を延ばすには、早期の予防が大切です。 フレイル・サルコペニア・ロコモの症状・診断基準・評価項目 ここでは、フレイル・サルコペニア・ロコモの具体的な症状や診断基準について解説していきます。 フレイルの症状 フレイルの症状は、体の働きだけでなく、気持ちや生活のリズムにも現れます。 次のような変化が見られたら、フレイルのサインかもしれません。 つまずきやすくなった、歩くのが遅くなった 握力が弱くなった、立ち上がるのに時間がかかる 食事の量が減った、体重が落ちてきた 会話が減った、趣味や外出に消極的になった 疲れやすくなり、気力が続かない 些細なことで気分が沈む 上記の一つひとつは小さな変化でも、重なることで日常生活に影響が出る場合があります。 フレイルは、身体的・精神的・社会的な機能が低下する多面的な脆弱性が特徴です。(文献1) 少しでも心当たりがある場合は、早めのチェックや対策を心がけましょう。 フレイルの診断基準・評価項目 フレイルの診断では、次のような項目を総合的に見て判断します。 歩く速度や体のバランス 筋力(とくに下半身) 認知機能(物忘れなど) 栄養状態(食欲の低下など) 社会的なつながり(会話や外出の頻度など) 外来では、以下の「簡易フレイルインデックス」を使って診断し、3点以上でフレイルと判定されます。(文献2) 質問 回答および点数 6カ月間で2~3kgの体重減少がありましたか? はい⇒1点 以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと思いますか? はい⇒1点 ウォーキング等の運動を週に1回以上していますか? いいえ⇒1点 5分前のことを思い出せますか? はい⇒1点 (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする。 はい⇒1点 体力だけでなく、心や生活全体を見るのが簡易フレイルインデックスの特徴です。 また、以下の「日本版CHS基準(J-CHS基準)」もフレイルの診断に利用されます。(文献3) 項目 評価基準 体重減少 6か月で2kg以上の意図しない体重減少 筋力低下 握力:男性<28kg、女性<18kg 疲労感 (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする 歩行速度 通常歩行速度<1.0m/秒 身体活動 ①軽い運動・体操をしているか? ②定期的な運動・スポーツをしているか? 握力・歩行速度・体重減少・疲労感・身体活動量の5項目で評価し、3項目以上に該当するとフレイルと診断されます。 サルコペニアの症状 サルコペニアでは、主に次のような変化が現れます。 ペットボトルのキャップが開けにくくなった 歩くスピードが落ちた 足が細くなってきた、筋肉が落ちた感じがする 椅子から立ち上がるのが大変になった また、疲れやすく外出が億劫になる、階段の上り下りがきつくなる、ちょっとした段差につまずきやすいといった日常動作の不自由さもサルコペニアのサインです。 とくに、下半身の筋肉は加齢とともに早く衰えるため、「歩幅が狭くなる」「立ち上がりに時間がかかる」といった変化が初期に目立ちやすい傾向があります。 症状が進むと転倒や骨折のリスクが増え、要介護状態に直結する可能性があるため、小さな変化を見逃さず早めに筋力維持の運動や栄養改善に取り組むことが大切です。 サルコペニアの診断基準・評価項目 サルコペニアは、主に以下の3つの項目で診断されます。 握力:男性28kg未満、女性18kg未満が目安 歩行速度:通常の歩き方で1秒に1.0m未満 筋肉量:体組成計やDXA法(骨塩定量検査)などで測定し、基準値以下かどうかを確認 加齢による自然な衰えと区別するために、客観的な数値評価が重視される点が特徴です。筋力または身体機能の低下が確認され、くわえて筋肉量の減少があればサルコペニアと診断されます。 また、簡単にできるセルフチェックとして、以下の「指輪っかテスト」も有効です。 両手の親指と人差し指で輪っかを作り、ふくらはぎを囲んでください。作った輪っかでふくらはぎを囲めるかどうかで、サルコペニアの危険度を推測できます。 結果 サルコペニアの危険度 囲めない 低 ちょうど囲める 中 隙間ができる 高 ふくらはぎは「第二の心臓」とも呼ばれる重要な筋肉であり、細くなるのは全身の筋力低下のサインです。 サルコペニアの危険度が高い場合は自己判断で放置せず、一度医療機関で専門医に相談しましょう。 ロコモの症状 ロコモは、骨・関節・筋肉などの運動器の機能が低下し、立つ・歩くといった基本的な移動動作が難しくなる状態を指します。 症状の初期には、「立ち上がるのに時間がかかる」「長い距離を歩くと疲れやすい」といった、小さな変化が現れるのが特徴です。 進行すると、次のような症状が見られるようになります。 膝や腰に痛みがあり、歩行や階段の上り下りがつらい ちょっとした段差でつまずいたり、転んだりする 正座やしゃがみ動作が困難になる 歩幅が狭くなり、歩行速度が遅くなる 体を支えるバランスが崩れやすくなる 上記の症状は、変形性関節症や骨粗しょう症、脊柱管狭窄症などの病気にともなって現れるケースも多く、進行すると転倒・骨折をきっかけに寝たきりや要介護状態に移行するリスクが高まります。 ロコモの診断基準・評価項目 ロコモは、運動器の機能がどの程度低下しているかを測ることで診断されます。 日本整形外科学会では、以下の「ロコモ度テスト」を推奨しており、3つの評価方法が用いられています。 評価方法 特徴 立ち上がりテスト 40cm、30cm、20cm、10cmの台から片脚または両脚で立ち上がれるかを調べ、下肢筋力を評価 2ステップテスト 2歩でどれだけ前に進めるかを身長で割って評価し、歩幅の広さから下肢筋力やバランス能力を確認 ロコモ25 「歩く」「階段を上る」「買い物に行く」といった日常生活動作に関する25項目の質問票に答え、点数化して総合的に判定 これらのテストを組み合わせることで、移動機能の低下度合いを客観的に把握できます。 ロコモは加齢に伴って徐々に進行しますが、定期的に評価を行い早期に気づくことで、運動や生活習慣の改善につなげることが可能です。 フレイル・サルコペニア・ロコモのセルフチェック方法 フレイル・サルコペニア・ロコモは、初期の段階で自覚しにくいため、定期的なセルフチェックが大切です。 それぞれ以下に当てはまるか、チェックしてみましょう。 <フレイルのセルフチェック例> 半年前に比べて体重が減った 疲れやすく、気力が続かない 外出や人との交流が減った <サルコペニアのセルフチェック例> 両手を腰に当てて片脚を5㎝ほど上げて60秒ほどキープ →キープできる時間が15秒未満の場合は要注意 6m以上のスペースを確保して0mから6mまで歩く →途中の1mから5mまでの4mの歩行に要した時間が0.8m/秒以下だと要注意 両手の親指と人差し指で輪を作りふくらはぎを囲う →作った輪で、ふくらはぎを囲んだとき隙間ができる場合は要注意 <ロコモのセルフチェック例> 片脚で40cmの椅子から立ち上がれない 2歩の歩幅を測る「2ステップテスト」で、身長に対して数値が小さい 「ロコモ25」の質問票で点数が高い いずれも、早期発見につながる重要なセルフチェック方法です。 小さな変化に気づいたら、生活習慣の見直しや医師への相談を検討しましょう。 フレイル サルコペニア・ロコモ予防のためには食事と運動が大切 フレイルやサルコペニア、ロコモの進行を防ぐには、日々の暮らしの中で以下を意識するのがポイントです。 軽めの運動で筋力低下を防ぐ たんぱく質中心に栄養バランスを整える 人や社会とのつながりを意識する 今日からできることを、無理のない範囲で始めてみましょう。 では、それぞれ詳しく解説します。 軽めの運動で筋力低下を防ぐ フレイル・サルコペニア・ロコモの予防には、軽めの運動が効果的です。 スクワットや足の上げ下げなどのレジスタンス運動(筋トレ)と、ウォーキングなどの有酸素運動を組み合わせるのがおすすめです。 <運動の例> 1日5,000歩以上歩く 負荷のかかる運動を8分以上(早歩き、社交ダンス、ウェイトトレーニング、水泳など) 片足立ちやストレッチでバランス・柔軟性を高める これらは特別な道具を使わなくても自宅で実践でき、継続しやすい点が特徴です。無理のない範囲で続けることで、筋肉の維持や転倒予防に役立ち、日常生活の自立を支えることにつながります。 筋肉の衰えを予防するために、さらに詳しい情報を知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。 たんぱく質中心に栄養バランスを整える フレイルやサルコペニア、ロコモを予防するには、筋肉のもととなる「たんぱく質」を毎日しっかり摂ることが大切です。 たんぱく質の摂取量は体重1kgあたり1.0g以上が目安とされているため、たとえば体重50kgの方なら1日あたり最低50g程度の摂取が推奨されます。 あわせて、筋力の維持に関係するビタミンDの摂取も意識しましょう。ビタミンDは、日光浴や、鮭・きのこなどの食品から摂取できます。 人や社会とのつながりを意識する 社会との関係が希薄になると、心身の機能低下が進み、フレイルのリスクが高まることがわかっています。 とくに高齢になると、退職や家族構成の変化によって人との関わりが減りやすく、孤立はうつ症状や認知機能低下にもつながるため注意が必要です。 たとえば、普段から会話や外出を心がけ、地域の行事や趣味のサークルに参加すれば、身体面だけでなく心の活性化にも役立ちます。 友人や家族との食事も、栄養バランスの改善につながる大切な機会です。 外出が難しい方は、近所の人にあいさつをしたり、電話やオンラインで交流したりするのも良いでしょう。 小さなきっかけでも積み重ねることで「誰かとつながっている」という安心感が生まれ、フレイル予防につながります。 まとめ|フレイル・サルコペニア・ロコモによる衰えを感じたら早めの対策を心がけよう フレイルやサルコペニア、ロコモは年齢とともに誰にでも起こりうる変化です。 「歩くのが遅くなった」「疲れやすい」など、ちょっとした変化があれば、生活習慣の見直しをはじめましょう。早めの気づきと対策が、寝たきりや介護のリスクを防ぎ、健康寿命をのばすことにつながります。 気になる症状がある方や、これからの健康に不安を感じている方は、医療機関で一度相談してみると良いでしょう。「まだ大丈夫」と思わず、「今からできることがある」と考えて、一歩踏み出してみてください。 また、ロコモの原因となる変形性関節症や軟骨損傷についてお悩みなら、「再生医療」での治療もご検討ください。 当院「リペアセルクリニック」では、公式LINEにて再生医療に関する情報提供と簡易オンライン診断を実施しています。 登録してぜひお気軽にご利用ください。 フレイル・サルコペニア・ロコモに関するよくある質問 フレイルやサルコペニア、ロコモを予防する運動はどのようなものですか? フレイルやサルコペニア、ロコモを予防する運動は、激しいものでなくて構いません。 無理のない範囲で身体を動かしたり、歩く量を増やしたりすることからはじめましょう。 とくに、太ももやお尻の筋肉を鍛えると、バランスが安定し転倒防止に役立ちます。 たとえば、椅子に座った状態で片脚ずつゆっくり持ち上げる運動(3秒かけて上げ、3秒かけて下ろす)を、左右10回ずつ行ってみましょう。 たんぱく質を摂るのが苦手ですが、どのように工夫すれば良いですか? 無理にたくさん食べようとせず、自分に合った方法で取り入れる点がポイントです。 たとえば、朝食にチーズを足したり、ヨーグルトにきなこをかけたりする方法があります。 また、プリンやどら焼きなど、卵や大豆が入ったおやつも、たんぱく質を手軽に摂る手段のひとつです。 フレイルとサルコペニアに関する学会は存在しますか? はい、存在します。 「一般社団法人 日本サルコペニア・フレイル学会」は、加齢に伴うフレイルやサルコペニアの研究と対策を推進する学術団体です。 高齢者の生活の質向上を目的に、医療・研究・教育の分野で活動しています。(文献4) 参考文献 (文献1) サルコペニアとフレイル|J-STAGE (文献2) 日本内科学会雑誌第107巻第12号|フレイル・サルコペニア (文献3) 2020年改定 日本版CHS基準(J-CHS基準|国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター (文献4) 一般社団法人 日本サルコペニア・フレイル学会
2025.06.29 -
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「体重はあるのに筋力が落ちてきた気がする」 「最近疲れやすくなった」 このように感じている方は、サルコペニア肥満かもしれません。 肥満と筋肉減少が同時に進行する「サルコペニア肥満」になると、日常生活に不便を感じたり、病気のリスクが高まりやすくなったりします。 ただし、早期にリスクに気づいて対策をおこなえば、予防・改善が期待できる状態です。 本記事では、医師の視点からサルコペニア肥満の原因やリスク、予防・改善法を解説します。 「サルコペニア肥満かも」と不安を抱いている方は、セルフチェックで自身のリスクを知ることから始めてみましょう。 サルコペニア肥満とは サルコペニア肥満とは、体脂肪が多い「肥満」に、筋肉量が減少している状態の「サルコペニア」が合併している状態を指します。(文献1) 「肥満」と聞くと太っている人をイメージしがちですが、見た目は普通でも体内では筋肉が減少し、脂肪が多い「隠れ肥満」のようなケースもあります。 そのため、サルコペニア肥満の人がかならずしも太って見えるとは限りません。 筋肉が不足すると、体の基本的な動作にも支障が出やすくなり、次のような不調を感じることがあります。 疲れやすい 歩くときにふらつく 階段を上るのがつらい 重いものが持ちにくい このようにサルコペニア肥満は、見た目では気づきにくいにもかかわらず、日常生活の質を下げる原因となるのです。 サルコペニアについては、以下の記事でも詳しく紹介しています。 肥満とサルコペニアの関係性|筋肉に与える悪影響 肥満、つまり体の中に脂肪組織が多い状態は筋肉を減らす方向に作用し、サルコペニアの進行を加速させてしまいます。 具体的には、以下の3つのメカニズムが考えられています。 運動不足 筋肉破壊 インスリン抵抗性 ひとつずつ見ていきましょう。 運動不足で筋肉が減少しやすくなる 肥満になると、体を動かすのが億劫になったり、関節に負担がかかったりして、無意識のうちに活動量が減少してしまいます。 筋肉は使用頻度が減ると萎縮し、筋力が低下していきます。 運動不足が続くと筋肉量がみるみる減少し、さらに体を動かすのがつらいと感じるようになるといった悪循環に陥りやすくなります。 筋肉内に脂肪が蓄積して筋力が落ちる 肥満の状態が続くと、全身に脂肪が過剰に蓄積されるだけでなく、筋肉の細胞内や筋肉と筋肉の間にも脂肪が入り込むことがあります。 この筋肉内への脂肪の蓄積は「異所性脂肪(いしょせいしぼう)」と呼ばれており、筋肉の質の低下を招きます。(文献2) 本来はぎっしり詰まっているべき筋肉の繊維の間に脂肪が入り込むことで、筋肉そのものの機能が落ちてしまうイメージです。 これによりインスリンの働きが妨げられたり、体内で炎症が引き起こされたりした結果、筋肉量の減少や筋力の低下が進むと考えられています。 インスリン抵抗性が筋肉の合成を妨げる 肥満は、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」を引き起こすことがあります。(文献3) インスリンは、食べたものからエネルギーを身体に吸収させるだけでなく、筋肉の合成にもかかわるホルモンです。(文献4) そのため、肥満によってインスリン抵抗性が生じると筋肉が作られにくく、筋肉量の低下が進む恐れがあります。 サルコペニア肥満が引き起こすリスク サルコペニア肥満は、サルコペニアまたは肥満単体の場合と比べて代謝機能が低下しやすく、健康リスクが高まると言われています。(文献5) 具体的に見ていきましょう。 転倒や骨折のリスクが高まる 筋肉量の減少は、日々生活に欠かせない「動く力」そのものを奪います。 具体的には、以下のような状況です。 階段を上るのが以前よりつらくなった 重いものが持てなくなり買い物が大変になった 歩くスピードが遅くなり、信号を渡りきれないことがある サルコペニア肥満は、バランスを崩して転倒しやすくなる、骨折のリスクを高めるなど、日常生活への支障をきたすケースが多く見られます。 進行すると、一人で買い物に行けなくなる、着替えが困難になるなど、介護が必要な状態につながる危険性も秘めています。 生活習慣病につながりやすくなる 筋肉は、食事から摂った糖を取り込み、エネルギーとして利用する重要な組織です。 筋肉量が少ないと、摂取した糖を効率よく使えなくなり、血液中の糖分が増えて糖尿病のリスクが高まります。(文献6) また、筋肉はエネルギーを多く消費するため、筋肉量が少ないと体のエネルギー消費量である「基礎代謝」が落ち、脂肪が蓄積しやすくなるのも問題です。その結果、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病を悪化させる要因にもなります。(文献7) 肥満と相まって、これらの生活習慣病のリスクはさらに増大してしまうのです。 【セルフチェック】サルコペニア肥満のリスクレベル サルコペニア肥満の診断基準は、世界的に統一されたものがなく、自己判断が困難なのが現状です。 しかし、サルコペニア肥満を放置すると将来的なリスクが高まるため、早期の気づきと対策が大切です。 まずは以下のセルフチェック表で、自身のサルコペニア肥満のリスクレベルを知っておきましょう。(文献1)(文献8) サルコペニア肥満と診断するものではありませんので、あくまでも目安としてとらえてください。 チェック内容 方法 サルコペニア肥満を疑う結果 指輪っかテスト ・両手の親指と人差し指で輪っかを作る ・ふくらはぎの一番太い部分を囲む ・隙間ができる場合は筋肉量の減少が疑われる 握力 ・握力計で計測する ・日常生活でチェックする 以下の場合で筋力低下が疑われる <握力の場合> ・男性:28kg未満 ・女性:18kg未満 <日常生活> ・ペットボトルのフタが自力で開けられない ・片足立ちで靴下を履けない 歩行速度 ・日常生活でチェックする 以下の場合で歩行速度の低下が疑われる ・横断歩道が青信号のうちに渡り切れない ・転びやすい、つまずきやすい BMI ・「体重(kg)÷身長(m)2」で計算する ・25以上 体脂肪率 ・体組成計で計測する ・32%以上 腹囲 ・メジャーで簡単に測定できる ・他者に計測してもらうと正確に測れる ・男性:85㎝以上 ・女性:90㎝以上 これらのチェック項目で当てはまるものが複数ある場合、サルコペニア肥満のリスクがあるかもしれません。 医療機関で相談することも検討しましょう。 サルコペニア肥満の予防・解消法 サルコペニア肥満の予防・解消するポイントは、筋肉量を増やして筋力を改善しつつ、体脂肪量の低下を目指すことです。(文献1) 紹介する予防・解消法をいくつか同時におこなうことで、脂肪の減少や筋力の改善に効果が期待できます。(文献9) ぜひ組み合わせて実施してみてください。 筋トレを中心とした運動習慣 筋肉を維持・増加させるためには、筋肉に適度な負荷を与える以下のような筋力トレーニングが効果的です。(文献2) 方法 具体例 筋トレ ・スクワット ・膝伸ばし ・後ろ蹴りだし 有酸素運動 ・ウォーキング ・水泳、アクアビクス ・早歩き ・階段を使用 時間は短時間でも、続けることが大切です。 はじめは10分程度から始め、徐々に時間や回数を増やしていきましょう。 筋肉と代謝を支える食事 筋肉を作るための材料となるタンパク質は、サルコペニア肥満の解消に欠かせません。 ダイエット中でも、タンパク質は不足させないように意識しましょう。 たんぱく質を毎食しっかり摂取する(肉・魚・卵・大豆製品など) 玄米や全粒粉パンなど、血糖値の上がりにくい炭水化物を選ぶ アボカド・ナッツ・青魚など、良質な脂質を適度に取り入れる 野菜や果物からビタミン・ミネラルをしっかり補給する サルコペニア肥満の改善には、バランスの取れた食事に加え、専門家の指導を受けることも重要です。 「この方法で本当にサルコペニア肥満のリスクを下げられる?」と感じたら、当院リペアセルクリニックのメール相談またはオンラインカウンセリングまでお気軽にご相談ください。 サルコペニア肥満を理解してできることから始めよう サルコペニア肥満は、肥満と筋肉の減少が合わさった状態で、見た目では気づきにくいのが特徴です。 早期に気づき適切な対策を始めることで改善できる可能性があります。 まずは自身のリスクを把握し、食事を見直す、体を動かす時間を少し増やすなど、できることから挑戦してみましょう。 「サルコペニア肥満のリスクが高いかもしれない。どうしたら良いの」と一人で悩んでしまうなら、専門家への相談をおすすめします。 当院リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを通じて、あなたの悩みをサポートしています。 自身の健康状態やライフスタイルに合わせた具体的なアドバイスをご提案しますので、ぜひお気軽にご相談ください。 サルコペニア肥満に関するよくある質問 サルコペニア肥満の診断基準はありますか? サルコペニア肥満は、診断基準が確立されていません。(文献1) これは、肥満や腹囲の基準が国によって異なることで、共通の基準を設けるのが難しいことが背景にあります。(文献1) しかし、医療機関での身体組成測定や専門家への相談によって、サルコペニア肥満のリスクを知ることは可能です。 ぜひ一度チェックしてみてください。 サルコペニア肥満は高齢者だけでなく若者もなりますか? サルコペニアと診断されるのは、原則的に65歳以上です。(文献8) ただし、病気をはじめとする何らかの原因によっては、若い方がなる可能性もあります。 また、今は問題なくても、以下のような生活をしている方は将来的にサルコペニア肥満になるリスクが高い可能性があるため、注意が必要です。 デスクワーク中心の仕事であるため運動不足である 加工食品中心の偏った食生活を送っている 無理なダイエットをしている 生活習慣が乱れがちな若い層では、見た目は痩せていても体脂肪が多く筋肉が少ない「隠れ肥満」の状態から、サルコペニア肥満に移行するリスクも考えられます。 「若いから」と油断せず、将来的なリスクを回避するためにも、運動習慣を身につけたりバランスの取れた食事を意識したりと準備しておきましょう。 サルコペニア肥満には症状があらわれますか? サルコペニア肥満は、初期にはっきりとした自覚症状があらわれにくいのが特徴です。 しかし、進行すると「疲れやすい」「つまずきやすくなった」「歩くのが遅くなった」といった身体機能の低下を感じる場合があります。 これらのサインに気づいたら、まずは医療機関で相談し、ほかの病気との区別をつけることが大切です。 サルコペニア肥満が女性に多いのはなぜですか? 男性に比べて女性は筋肉量が少なく脂肪量が多いため、サルコペニア肥満になりやすいと言われています。 しかし、サルコペニアの男女差についてはわかっていないことが多く、一概に「女性が多い」とも言い切れません。 とはいえ、女性の閉経後のホルモンバランスの変化は筋肉量の減少に関連する可能性があると指摘されていることから、早期のサルコペニア肥満対策が重要です。(文献10) 参考文献 (文献1) 若林秀隆「サルコペニア肥満」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/58/6/58_58.627/_pdf(最終アクセス:2025年6月13日) (文献2) 名古屋大学「高齢者の筋肉内への脂肪蓄積は サルコペニアと運動機能低下に関係する」 https://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20170209_htc.pdf(最終アクセス:2025年6月13日) (文献3) 石川耕,横手幸太郎「脂肪組織機能異常とインスリン抵抗性」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/102/10/102_2691/_pdf(最終アクセス:2025年6月13日) (文献4) 下村吉治「運動後の筋タンパク質合成のためのタンパク質・アミノ酸栄養」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/62/1/62_16/_pdf(最終アクセス:2025年6月13日) (文献5) PubMed「Muscle loss and obesity: the health implications of sarcopenia and sarcopenic obesity」 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25913270/(最終アクセス:2025年6月13日) (文献6) 東京大学大学院医学系研究科「筋肉における新しい糖取り込み調節機構の解明―肥満に伴う 2 型糖尿病の病態解明と治療への応用―」 https://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20110302.pdf(最終アクセス:2025年6月13日) (文献7) 山川佳那子ら「若年成人女性における安静時代謝量及び食事誘発性体熱産生と体組成との関連」 http://repo.kyoto-wu.ac.jp/dspace/bitstream/11173/3181/1/0100_075_002.pdf(最終アクセス:2025年6月13日) (文献8) 日本サルコペニア・フレイル学会、国立長寿医療研究センター「サルコペニア診療ガイドライン2017年版」 https://minds.jcqhc.or.jp/common/wp-content/plugins/pdfjs-viewer-shortcode/pdfjs/web/viewer.php?file=https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00426.pdf&dButton=false&pButton=false&oButton=false&sButton=true#zoom=auto&pagemode=none&_wpnonce=3b871a512b(最終アクセス:2025年6月16日) (文献9) 日本肥満症学会「肥満症診療ガイドライン」 https://www.jasso.or.jp/data/magazine/pdf/medicareguide2022_09.pdf(最終アクセス:2025年6月13日) (文献10) 熊本大学「骨格筋の発育と再生メカニズムに性差ありーエストロゲン受容体βの機能的重要性を解明ー」 https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei-sentankenkyu/20200821(最終アクセス:2025年6月13日)
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「熱中症になりやすい人は、どのような体質か」と疑問に思う方もいるでしょう。熱中症になりやすいのは、子どもや高齢者、持病がある方など、体温調整がうまく働きにくい体質や状態にある方たちです。 本記事では、熱中症になりやすい人の特徴や体質に加えて、具体的な予防・対策について解説します。熱中症になりにくい人の共通点や、よくある質問にも回答しているので、ぜひ参考にしてください。 熱中症になりやすい人の特徴 熱中症になりやすい人は、子どもや高齢者、肥満体質の方などです。ここでは、それぞれの特徴を解説するので、参考にしてください。 子ども 子どもは大人より、熱中症になりやすい傾向があります。基礎代謝が高く、体温が上がりやすい体質に加えて、発汗量を調整する汗腺がまだ未発達のため、体内に熱がこもりやすくなっています。 たとえば、夏の公園や校庭などで夢中になって遊んでいると、暑さや体温の変化に気づかず、突然ぐったりしてしまうケースも少なくありません。 また、照り返しによって地面に近いほど気温が高くなるため、外出時はベビーカーに載っている乳幼児にも注意が必要です。 このように、子どもは大人よりも体温調節が苦手なため、夏場や暑い環境ではとくに、熱中症リスクが高まります。 高齢者 高齢者は、熱中症になりやすい人の代表的な例です。加齢に伴い、発汗などの体温調整機能や体内の水分量が低下するためです。水分不足だと、汗をかく量が低下し、余分な体の熱が放出されにくくなります。また、暑さや喉の渇きを感じにくくなることも熱中症のリスクを高める要因です。 室内にいてもクーラーを付けずに過ごしていたり、喉が渇いていないと感じて水分を摂らなかったりする場合があります。こうした状態が続くと、気付かないうちに熱中症になっているケースもあります。 一人暮らしで体調の変化を周囲に伝えにくい場合は、対処が遅れて重症化する恐れもあるため注意が必要です。 肥満の人 肥満体型の方も熱中症になりやすい傾向にあります。皮下脂肪を多いため体内の熱を外へ逃がしにくく、体重が重い分、体を動かす際に多くのエネルギーを消費して熱として溜まりやすくなります。 くわえて、体温を下げるために大量の汗をかくことで、水分不足を起こしやすくなる点も一因です。 たとえば、暑い日に外を歩いているだけでも、体内に熱がこもりやすく、汗の量が増えて脱水症状に陥る可能性もあります。 暑い日は、通気性の良い服装を選んだり、日傘、帽子を使ったりして、体に熱がこもらないように工夫しましょう。 持病がある人 高血圧や糖尿病、腎不全などの持病は、熱中症リスクを高める要因の一つとされています。これらの疾患は、体温調整機能の乱れを起こしやすいリスクがあるためです。さらに、服用している薬によっては、発汗の抑制や利尿作用によって水分が失いやすくなり、熱中症リスクを高めます。 血圧の薬や利尿剤を服用している人は、汗が出にくくなったり、水分が過度に排出されたりして脱水症状を起こすケースもあります。 複数の薬を服用している高齢者の方はとくに注意が必要です。 運動不足や体調不良の人 運動習慣がないと、熱中症になりやすい傾向があります。運動不足によって筋肉量が減ると、心臓に血液を送る働きが低下し、熱が体に溜まりやすくなるためです。 日ごろあまり体を動かしていない人が暑い日に少し外出しただけで、ふらつきや軽い熱中症の症状を起こすケースも少なくありません。 また、寝不足や疲労が蓄積しているときも、熱中症になる可能性が高まります。体調が万全でないと、体温調整機能がいつも通り働かなくなるためです。 たとえば、二日酔いや下痢などで体内の水分が減っている場合には、脱水症状を引き起こしやすくなります。 熱中症になるリスクを下げるためには、運動習慣をつくり体調管理を意識することが大切です。 熱中症の主な原因とリスクを高める要因 熱中症の主な原因とリスクを高める要因には、そのときの環境や作業状況などが関わってきます。以下で、それぞれ見ていきましょう。 環境の要因 熱中症の原因となるのは、環境が大きく関わります。高温多湿や輻射熱、無風といった条件下での作業は体に熱がこもりやすく、発症リスクが高まります。 窓を閉め切った室内でエアコンを使わずに掃除や片づけなどの家事をしていたところ、気付かないうちに体が熱をため込み、めまいや吐き気を感じるケースも少なくありません。 熱中症は気温や湿度だけでなく、風通しの悪さや室内の状況などによっても引き起こされます。暑さを感じにくい場所でも油断をせず、室温や湿度を確認しながら、温度調整や休憩を取り入れることが大切です。 作業時の要因 長時間の屋外での作業や体力的に負担の大きい業務も熱中症リスクを高める要因です。休憩を十分にとれなかったり、水分補給ができない状態が続いたりすると体内に熱が溜まりやすくなります。 さらに、通気性の悪い制服や防護服の着用も注意が必要です。送風機能のある作業着や通気性の良い素材の服を着用するようにしましょう。 個人の要因 個人の体調や体質も、熱中症リスクを高める要因の一つです。屋外作業に慣れておらず、暑熱順化(体が暑さに慣れること)ができていなかったり、二日酔いで水分が不足していたりと原因はさまざまです。 発熱や風邪などの症状があるときは、もともと体温が上がっているため、気温の変化を受けやすくなります。 少しでも体調に違和感を覚えたら、こまめに水分補給をし、無理せず休憩をとることが重要です。 熱中症になりやすい人が講じるべき対策と予防 熱中症になりやすい人は、普段から暑さに負けない体づくりや工夫が求められます。ここでは、講じるべき対策と予防について解説するので、熱中症になりやすい人は、参考にしてください。 暑さに負けない体づくりをする 熱中症を予防するには、暑さに負けない体づくりが欠かせません。適度な運動やバランスのとれた食事、十分な睡眠など、日ごろの体調管理を意識すると、熱中症になりにくい体づくりにつながります。 また、喉が渇いていなくてもこまめに水分補給をしましょう。冷房や扇風機を上手に使い、寝苦しい夜も睡眠環境を整えると、夜間の熱中症予防にもつながります。さらに、質の良い睡眠は体力の回復を促すため、予防にも効果的です。 暑くなる前から無理のない範囲でウォーキングやストレッチなどの軽い運動を取り入れると、体力の維持や暑さへの順応にも効果が期待できます。 暑さに対する工夫をする 暮らしのなかに取り入れられる小さな工夫でも、暑さ対策としては有効です。適度な空調で室温を保ったり、衣服の素材を工夫したりすると熱中症リスクを軽減できます。 麻や綿といった通気性の良い服を選んだり、吸水性や速乾性に優れたインナーを身に付けたりすると汗をかいても快適に過ごせるのでおすすめです。また、外を歩くときはなるべく日傘や帽子を活用し、日陰を歩くようにしましょう。冷却グッズを取り入れるのも、暑さ対策として効果的です。 日々の小さな心がけが、熱中症予防につながります。 こまめな休憩と水分補給をする こまめな休憩と水分補給は熱中症対策には不可欠です。炎天下での屋外作業や高温多湿な環境では、体温が上昇しやすく、大量の汗をかくと体内の水分や塩分が失われやすくなります。 また、暑さが厳しい日は、テレビや天気予報のWebサイトで公開されている「熱中症警戒アラート」や「暑さ指数(WBGT)」も参考にして、活動時間やタイミングを工夫すると効果的です。 こまめに休憩をとり、定期的に水分と塩分を補給しましょう。 熱中症になりにくい人の特徴 熱中症になりにくい人には、日ごろの生活習慣や体の状態に共通点があります。主な特徴は以下のとおりです。 朝食をしっかり摂っている 睡眠時間が安定している 適度な運動を続けていて筋肉量がある 朝ごはんを食べないと、一日のエネルギーが不足し、体温調整機能がうまく働きません。朝食をしっかり摂ると、体内時計が整い外部の環境に順応しやすくなります。 また、睡眠時間が安定している人は、自律神経が整いやすく外気温の変化に適切に反応できます。さらに、筋肉量が多い人は体内の水分保有量が多く、発汗による脱水のリスクが低いため、熱中症を防ぎやすいでしょう。 食事では、夏野菜や果物、豚肉などを取り入れて汗で失われやすい栄養素を補うことも大切です。 熱中症になりやすい人はリスクを把握して備えよう 熱中症になりやすい人は、あらかじめリスクを把握しておきましょう。炎天下での長時間作業や締め切った部屋での家事などは、とくに注意が必要です。また、高血圧や糖尿病などの持病がある方も、体温調整が難しくなるためリスクが高まります。 日ごろから体調管理や適度な運動を心掛け、こまめに水分補給をとり、熱中症になりにくい体づくりを心掛けましょう。 【関連記事】 熱中症で脳梗塞のリスクが高まる?症状の見分け方と予防のポイント5選 熱中症の主な後遺症一覧|原因や治療方法を現役医師が解説 熱中症と「なりやすい」に関するよくある質問 女性は熱中症になりやすいですか? 女性は男性と比べて、熱中症になりやすい傾向があります。理由としては、水分を貯める役割を担う筋肉量が男性よりも少ないためです。 また、月経時には出血とともに水分も失われやすくなります。さらに、更年期による女性ホルモンの変化も一因です。自律神経が乱れやすくなり、体温調整機能がうまく働かず、熱中症のリスクが高まります。 一度熱中症を経験するとなりやすいのはなぜですか? 熱中症は一度経験したからといって、繰り返しなりやすくなるものではありません。しかし、「熱中症になりやすい」と感じている場合は、筋肉量の低下や暑熱順化ができていない可能性があります。 熱中症を防ぐためには、あらかじめ暑さに慣れておくことが大切です。とくに、冷房の効いた室内でデスクワークをしている方は注意してください。無理のない範囲でウォーキングを取り入れたり、一駅分歩いてみたりと、日常のなかで暑さに慣れる工夫をしてみましょう。 熱中症になりやすい時期はいつですか? 熱中症になりやすいのは、7月~8月の気温が高くなる時期です。とくに、真夏日(最高気温が30度以上)に患者数が増え始め、猛暑日(最高気温が35度以上)には急増する傾向があります。 また、梅雨の晴れ間や梅雨明けの蒸し暑い日にも注意が必要です。体が暑さに慣れていない時期は、気温や湿度の変化に対応しづらく、熱中症リスクが高まります。
2025.06.29 -
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「頭がズキズキするけれど、体調不良から起こる頭痛か熱中症のサインかわからない」 「少し休んでも痛みが改善されない」 熱中症が引き起こす頭痛は、疲れや寝不足などと混同されやすいため、受診のタイミングに迷う方もいるでしょう。単なる疲れと見逃されがちですが、放置すると重症化する危険があります。 本記事では、熱中症と頭痛の関係や見分け方を詳しく解説します。すぐに実践できる対処法や、日頃から心掛けたい予防策も紹介するので、ぜひ参考にしてください。 【重症度別】頭痛症状はどこに当てはまる?熱中症との関係性 熱中症による頭痛は、中等度の症状に該当し、ほかにも吐き気や嘔吐・倦怠感(けんたいかん)などが挙げられます。 熱中症とは日射病や熱射病の総称で、気温が高い環境で運動や仕事などを行った際に体温調節がうまくできなくなり起こる病気です。とくに、成長途中の子どもや、身体機能が低下しやすい高齢者は注意が必要です。 熱中症は、軽度から重度まで複数の症状がみられます。重症度別に症状を解説するので、参考にしてください。 また、熱中症の影響を受けやすいのは、どのような人か知りたい方はこちらの記事もチェックしてください。 軽度 軽度の熱中症は、発汗により体内の水分や塩分などの電解質が失われ始める段階で、主な症状は以下のとおりです。 めまい・立ちくらみ こむら返り 筋肉痛 大量の発汗 体内の水分が失われると血液量が減少し脳へ送られる血液の流れが不安定になるため、急に立ち上がった際にめまいや立ちくらみ(熱失神)を起こす場合があります。 熱中症では、汗とともに失われるのは水分だけでなく、筋肉の正常な収縮に不可欠なナトリウムなどの塩分も含まれます。塩分が欠乏すると、ふくらはぎや足の指、腹部などに痛みを伴うけいれんを指すこむら返り(熱けいれん)が起こるケースも珍しくありません。 軽度の熱中症で「頭痛」が主症状となるのは稀です。ただし、ズキズキと脈打つような激しい痛みではなく、脱水による血流の変化からくる「頭が重い感じ(頭重感)」を訴える場合もあります。 中等度 中等度の熱中症は「熱疲労」ともいわれ、頭痛に加えて以下の全身症状が現れます。 頭痛 気分の不快 吐き気・嘔吐 倦怠感 虚脱感 熱中症による頭痛は、体温の上昇に対処しようと脳の血管が過度に拡張するのが主な原因です。拡張した血管に心臓が血液を送り込むたびにズキズキと脈打つような拍動性の痛みを感じます また、体が熱を逃せるよう消化器系への血流を抑えるため胃腸の働きが低下し、強い吐き気や嘔吐を引き起こすケースも珍しくありません。体はエネルギーを使い果たし、立っていられないほどの倦怠感や虚脱感に襲われます。 集中力や判断力も著しく低下するため、自分自身で的確に対処するのが困難になり始めるのも中等度の特徴です。 中等度の熱中症は、意識がはっきりしていても臓器障害を起こしている場合があります。重症化すると命の危険につながるため、自己判断で様子を見ないよう注意してください。 重度 重度の熱中症は「熱射病」と呼ばれ、体温が上がりすぎたために以下の症状が現れます。 高体温 けいれん 意識障害 手足の運動障害 重度では体温調節を司る中枢機能が失われ、体温が40度を超えると発汗しなくなり体表に激しい熱感が残るのが特徴です。 重度の熱中症では高体温により、熱に弱い神経細胞が直接的なダメージを受けます。その結果、全身のけいれんや昏睡状態を引き起こす場合があります。 重度では頭痛を訴えていた中等度の段階とは異なり、痛みを感じたり、伝えたりする行動自体ができないほど、中枢神経系が深刻な影響を受けているといえます。 熱中症で起こる頭痛の特徴 熱中症が引き起こす頭痛には、日常的な片頭痛や風邪などの頭痛とは性質が異なり、以下の特徴があります。 拍動性の痛みを感じる 倦怠感・吐き気・嘔吐などを伴う なかでも特徴的なのは、心臓の拍動に合わせてズキズキと脈打つ拍動性の痛みです。頭全体が締め付けられるように感じたり、ガンガンと響くような重い痛みを伴ったりする場合も少なくありません。 頭痛だけが単独で現れるのは珍しく、倦怠感・吐き気・嘔吐など、全身状態の悪化を示す症状が伴う点も大きな特徴です。 上記の特徴が見られた際は、熱中症を疑い速やかな対応が求められます。 熱中症による頭痛の見分け方 熱中症による頭痛か否かを見分けるには、以下の状況と身体の変化を確認することが重要です。 状況 全身症状 ・高温多湿の場所に長時間いた ・激しい運動や屋外作業をしていた ・水分が十分に足りていなかった ・体温上昇や発汗の異常、脱水症状がみられる ・めまいや吐き気、倦怠感が伴う ・涼しい場所での安静や水分補給で症状が改善する 炎天下や蒸し暑い屋内で活動したあとに頭痛が出現した場合、まずは熱中症を疑います。 熱中症による頭痛は、ズキズキとした拍動性の痛みとして現れる場合が多く、体温が上昇して異常な発汗がみられる、全身に脱水の兆候が同時にみられます。また、めまいや吐き気・強い疲労感を伴うケースも多いため、全身症状の条件がそろえば熱中症が引き起こされる可能性が高まるでしょう。 涼しい場所で休み、水分とともに塩分などの電解質を補給して症状が和らぐようであれば、熱中症が原因であると考えられます。 ただし、重度では安静や補水でも改善しないケースがあるため、症状が徐々に悪化していく場合や症状が改善しない場合は、迷わず医療機関を受診してください。 熱中症の症状で頭痛が起きた際の対処法3選 熱中症による頭痛が発症した場合、迅速かつ的確な対応が症状の悪化を防ぐ鍵となります。ここでは、頭痛が起きた際の具体的な対処法を紹介します。 自己判断で放置してしまうと重症化する危険もあるため、理解を深めておきましょう。 涼しい場所へ移動する まずは、体温を上げる環境から離れるのが最優先です。屋外にいる場合は、直射日光を避けられる日陰や、可能であれば冷房が効いた室内や車内へ速やかに避難してください。 室内で発症した場合でも、窓を閉め切った暑い部屋から、風通しの良い涼しい部屋へ移動します。 自力で移動できる場合でも、めまいや立ちくらみ、一時的な失神によるふらつき・転倒を起こす可能性があるため、注意してゆっくり移動しましょう。自力で移動できない場合、周囲に人がいるなら協力を仰ぎ、迅速に安全な場所へ避難するのが大切です。 体を冷やす 涼しい場所へ移動したら、次は積極的に体を冷やす処置を行います。 ベルトやネクタイ、体に密着する衣服を緩めて、風通しを良くしてください。濡らしたタオルやハンカチを体に当てて、うちわや扇子などであおぎ、体温を下げます。 冷やす際は保冷剤や氷のう・冷えたペットボトルなどにハンカチを巻き、以下の部位に当てましょう。 首筋 わきの下 足の付け根 上記のような太い血管が皮膚の近くを通っている場所を冷やすと、効率的に全身の血液を冷やせて効果的です。 水分・塩分を補給する 脱水と電解質の不足が熱中症を引き起こすため、水分とともに塩分などの電解質の補給が欠かせません。 スポーツドリンクや経口補水液が望ましいですが、無ければ水でも良いのでゆっくり飲みます。一度に大量の水分を摂ると胃腸に負担がかかるため、こまめに少しずつ摂取すると良いでしょう。 ただし、吐き気や嘔吐を伴う場合は、無理に飲まないでください。また、意識がはっきりしない人に無理矢理飲ませると、誤って気道に水分が流れ込む可能性があるため、注意が必要です。 熱中症による頭痛症状が現れた際の受診目安 熱中症によって頭痛症状が引き起こされた際の受診目安は、以下のとおりです。 応急処置をしても改善がみられない 自力で水分を摂れない 嘔吐を繰り返している 意識障害がある 頭痛が軽度であり水分補給や休息によって速やかに軽快するなら、自宅で経過をみても問題ありません。 ただし、涼しい場所へ移動し十分に水分・塩分を補給しても改善がみられない場合や、症状が悪化する際は医療機関の受診が必要です。とくに、水分を自力で摂取できない、嘔吐を繰り返してしまう場合は、点滴での水分・電解質の補給が必要になる可能性があります。 呼びかけへの反応がおかしい、ろれつが回らない、けいれんを起こすなどの意識障害の兆候が見られる際は、救急車の要請を検討してください。 熱中症によって頭痛が生じた際、自己判断で様子を見るだけでは危険な場合もあるため、注意しましょう。 受診するかお悩みの際は、ぜひご相談ください。 熱中症による頭痛の予防法 熱中症による頭痛の予防法は、以下のとおりです。 高温多湿の環境では無理せずこまめに休憩する 服装に注意する こまめに水分・塩分を補給する 高温多湿の環境では無理な運動や長時間の外出を避け、適切に休憩を取り入れるのが基本です。睡眠不足や風邪など、体調が優れない場合は気温が高くなる日中の外出は控えましょう。 また、日差しを直接浴びないよう帽子や日傘を活用し、通気性の良い淡い色の服装を心がけると体温の上昇を抑えられます。 熱中症予防には、こまめな水分・塩分補給も欠かせません。喉の渇きを感じる前から水分や電解質を補うと、脱水を未然に防げます。とくに、大量の発汗が予想される場合には、スポーツドリンクや経口補水液の利用が効果的です。 ほかにも、十分な睡眠と食事を取って体調を整え、暑さに耐えられる体づくりも大切です。自分の体調や周囲の気温変化に注意を払い、早めの予防行動を意識できると、頭痛を含む熱中症の発症を大きく減らせます。 熱中症による長引く頭痛は当院へご相談ください 熱中症が引き起こす頭痛は中等度の症状であり、ズキズキとした拍動性の痛みや倦怠感・吐き気などを伴うのが特徴です。 熱中症による頭痛が疑われる場合は、涼しい場へ移動し体を冷やして適切な水分・塩分の補給が対処法の基本です。 ただし、対処法を行っても症状が改善しない場合は、重症化している可能性があります。また、症状が続く際は後遺症も考えられるため、自己判断で経過をみるのではなく、当院にご相談ください。 熱中症は稀に後遺症を残すケースがあります。後遺症については、こちらの記事で詳しく紹介しているので、参考にしてください。 熱中症と頭痛に関するよくある質問 熱中症で夜になってから頭痛を起こすことはある? 熱中症による頭痛は、日中の高温環境で受けたダメージが蓄積され、時間をおいて症状として現れるケースがあるのも事実です。 とくに、日中の屋外活動後、体温が高い状態で水分補給が不十分だった場合、夕方から夜にかけて頭痛や倦怠感が出るケースは珍しくありません。 軽度の熱中症でも、体が脱水状態に傾くと遅れて頭痛を起こす場合があるため、夜間でも症状が強ければ油断せず、水分・塩分の補給や体を冷やし、必要に応じて医療機関を受診しましょう。 熱中症で頭痛薬を飲んでしまった場合の対処法は? 既に頭痛薬を飲んでしまった場合は、体調変化に注意しつつ熱中症への基本的な対処を行ってください。 熱中症による頭痛に対して、自己判断で頭痛薬を飲むのは推奨されません。薬で頭痛を抑えても、原因である脱水や高体温は改善されず、かえって症状の悪化に気づきにくくなる危険があるためです。 また、一部の解熱鎮痛薬は、脱水状態の腎臓に負担をかける可能性もあります。熱中症に対する対処法を実施したあとも症状が改善しない場合は、医療機関を受診し、どの薬を飲んだか必ず医師へ伝えましょう。
2025.06.29






