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- 手部、その他疾患
- 手部
手首にできるしこりの一種である「ガングリオン」は良性の腫瘍です。ただ、場合によっては痛みや動かしにくさのほか、見た目が悪くなるといった問題が起こることもあります。 治療法を調べると手術に関する情報が見つかりますが、「手術をしても大丈夫なのか?」「後遺症が出ることはないのか」といった不安を感じる人も多いでしょう。 実際、ガングリオンの手術は局所麻酔で行うため日帰りで受けられます。切開も小さく済むため、身体への負担やリスクが少ない手術といえるでしょう。ただし、ガングリオンが再発する可能性はゼロではありません。 本記事ではガングリオンの詳しい手術法や再発予防などを解説します。ガングリオンの治療で手術を検討している人は、ぜひ最後までチェックしてください。 ガングリオンの手術内容【日帰り可】 ガングリオンとは、関節の周りにできる「こぶのように膨らんだ良性の腫瘍」です。 関節の中で関節を包む膜(関節包)や筋肉の腱を覆う組織(腱鞘)から関節液が漏れ出し、袋の中でゼリー状に固まることで発生すると考えられています。 治療で手術をおこなう場合、日帰り手術で済むのが一般的です。本章ではガングリオンの手術について詳しく解説していきます。 また、ガングリオンの詳細や悪性腫瘍との見分け方は以下の記事で解説しているため、ぜひご覧ください。 ガングリオンの手術は局所麻酔でおこなう ガングリオンの手術は、局所麻酔を行い、関節や腱を包む膜についているガングリオンを袋ごと取り除きます。 基本的には日帰りが可能ですが、関節の奥深くにガングリオンができている場合は身体への負担が大きくなるため、1~2日の入院が必要なケースもあります。 手術はガングリオンの周囲を切開しを直接取り除く「切開法」と、関節液が漏れ出ている茎を破壊する「鏡視下手術」の2つが主流です。鏡視下手術の場合、ガングリオン自体は関節内に残るものの、茎の破壊により関節液の流れが止まるため、ガングリオンも自然に消滅します。 切開法と鏡視下手術では、鏡視下手術の方が比較的傷が小さく済むことが多く、術後の痛みも早く軽減しやすいのが一般的です。 ただし個人差があるため、どちらの手術を受けるかは主治医と相談の上で判断することをおすすめします。 ガングリオンの手術後は2週間程度の固定が必要 手の甲や手の関節にできたガングリオンを切除した場合、切開法・鏡視下手術いずれも術後1~2週間の固定が必要です。 どちらの手術も傷は小さく関節への影響が比較的少ないですが、炎症が起きる可能性があるため、固定して関節への負担を減らす必要があります。 ガングリオンの手術で考えられる2つのリスク ガングリオンの手術には、以下2つのリスクが考えられます。 血管や神経などを傷つける可能性がある 感染の可能性がある リスクについても十分理解した上で、ガングリオンの手術を検討しましょう。 血管や神経などを傷つける可能性がある ガングリオンの手術は、一般的に後遺症などのリスクは比較的低く、複雑ではないものといわれています。しかし、ガングリオンが関節の深い部分にできている場合、除去時に血管や神経を傷つけてしまう可能性はゼロではありません。 万が一手術で血管や神経が傷つくと、痛みやしびれといった後遺症が出る可能性があります。 ちなみに、当院リペアセルクリニックでは損傷した神経や筋肉の治療として再生治療を取り入れています。もし手術の後遺症でお困りの人は、お気軽にメール相談もしくはオンラインカウンセリングからご相談ください。 感染の可能性がある ガングリオンの手術の傷口から、細菌やウイルスが感染し感染症を引き起こす可能性があります。感染症は、ガングリオンの手術に限らず、メスを入れる以上避けられないリスクです。 感染症を引き起こした場合には入院による治療が必要になる可能性があります。そのため、術後は医師の指示に従い、数日間抗生剤を内服したり、傷口を清潔に保つなどのケアが重要です。 ガングリオンの治療には「注射やサポーターなどの保存療法」もある ガングリオンの治療では手術以外にも、注射やサポーターなどの保存療法を行うこともあります。とくに痛みがなく日常生活に支障がない場合には、まずは保存療法が選択されるでしょう。 ガングリオンは良性腫瘍のため、日常生活や見た目の問題がなければ放置しても問題ありません。多くの場合、保存療法を試して効果が見られなかった場合に手術が検討されます。 なお、ガングリオンは手にできることが多い良性腫瘍ですが、足にできることもあります。足にできるガングリオンは目立ちにくいため、痛みがなければ保存療法のみで対処できることが多いでしょう。 足にできるガングリオンについての詳細は以下の記事で詳しく解説しています。気になる人はぜひチェックしてみてください。 ちなみに、当院リペアセルクリニックでおこなっている再生医療は、神経や血管・筋肉の損傷に対して効果的な治療方法です。気になる人はぜひメール相談もしくはオンラインカウンセリングからご相談ください。 ガングリオンが痛むときの対処法【自宅でできる】 ガングリオンが痛む場合、自宅でできる以下2つの対処方法を試してみましょう。 安静にして様子を見る 痛いときにはアイシング 痛みがあるときには無理をせず、安静にしアイシングをすると痛みが落ち着く可能性があります。 なぜこれらの方法が有効なのかは以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひチェックしてください。 ガングリオン再発の予防法2選 ガングリオンは手術後の再発率が高く、再発を確実に予防する方法はありません。しかし、再発のリスクを少なくする対策は可能です。 具体的には、以下2つの方法を試してみましょう。 関節への負担を避ける 関節周囲の筋力や柔軟性を高める ガングリオンの再発に不安がある人は、本章で紹介する予防法を心がけてみましょう。 関節への負担を避ける ガングリオンは関節への負担がかかることで発症する可能性が指摘されています。そのため、日ごろから以下のような行動を心がけ、関節への負担を減らしましょう。 体重をかけたり重い物を持ったりしない 関節に疲れをためないようにする 不適切な姿勢を避ける サポーターや装具を使う たとえば、後ろに手をついて手で体重を支えるような長座位や、涅槃像(ねはんぞう)のように片手で頭を支え横になる姿勢は、手首に負担がかかるため避けたほうが良いでしょう。 また、違和感・痛みを感じた場合は、早めに整形外科を受診し、定期的に関節の状態を確認することも大切です。 関節周囲の筋力や柔軟性を高める ガングリオンは関節への負担によって発症するため、再発予防として普段から関節周りの柔軟性を高めることも大切です。 筋トレやストレッチによって筋肉の質が高くなると、関節を保護する働きが向上し、ガングリオンの再発予防につながります。 とくに運動不足は筋力の低下や姿勢の崩れにつながり、関節への負担をかける原因になるでしょう。 普段から無理のない範囲で運動やストレッチ取り入れて筋力や柔軟性を保ち、ガングリオンの再発予防に努めましょう。 まとめ|ガングリオンの手術は日帰り・局所麻酔で行う!痛みが続く場合は早めに受診しよう ガングリオンは関節への過剰な負担によって発症する良性の腫瘍です。治療には保存療法のほか手術も選択可能で、手術の場合は局所麻酔でおこないます。 手術方法は切開法もしくは関節鏡による鏡視下手術で、どちらのケースでも日帰りが可能です。 ちなみに、当院リペアセルクリニックは神経や血管・筋肉の損傷への再生医療に力を入れているクリニックです。 気になる人は、ぜひメール相談もしくはオンラインカウンセリングからお気軽にご相談ください。 この記事がガングリオンの手術を検討している人のお役に立てれば光栄です。 ガングリオンについてよくある質問 Q.ガングリオンの手術はどんなことをしますか? ガングリオンを外科的に取り除く切開法とガングリオンの茎を壊す関節鏡があります。 直接取り除く切開法と関節鏡を比較すると、関節鏡の方が早く痛みが引くといわれています。しかしどちらも日帰り手術が可能なので、リスクも低い手術です。 Q.ガングリオンは手術後再発しますか? 再発の可能性が高いといわれています。 ガングリオンは手術方法に関わらず、再発の可能性が高い疾患です。再発の予防には関節周囲の筋力強化や柔軟性向上が重要なので、日頃から筋トレ・ストレッチをおこないましょう。
2024.08.05 -
- 幹細胞治療
- 再生治療
- PRP治療
- 免疫細胞療法
エクソソームとは、体の中にある多くの細胞から分泌される顆粒状の物質です。 近年、アンチエイジングなどの美容や健康ために点滴などの方法で治療にも用いられるようになってきましたが、その安全性についてはまだ研究段階でもあります。 今回の記事では、エクソソームによって期待できる効果や課題について再生医療の専門医師が解説します。 エクソソーム(幹細胞上清液)と幹細胞の違い まずそもそも、エクソソーム、幹細胞上清液は再生医療でありません。幹細胞治療は再生医療法に守られた治療であり、安全性は確保されています。しかし、エクソソーム、幹細胞上清液は、再生医療法には含まれません。 幹細胞を培養する際に出てくる分泌液が、エクソソーム、幹細胞上清液となります。つまり、幹細胞培養の際の副産物なのです。 幹細胞培養し、治療では、幹細胞のみを使用します。そして副産物のエクソソーム、幹細胞上清液には、幹細胞を培養するときに出てくる不純物が含まれているので、本来は捨てる液体となります。 この液体を、点滴で体内に入れてしまうと、不純物があるので観戦などのリスクがあります。そういう理由で、当院では、開院以来エクソソーム、幹細胞上清液の治療を一才取り扱いはしていません。 再生医療の法律に含まれていないということは、エクソソーム、幹細胞上清液は、点滴投与をしてもいいという法律もなければ、点滴投与をしてはいけないという法律もないのです。 つまり、点滴をするかは、医師の判断ということになります。今後、このエクソソーム、幹細胞上清液には、近々、厚生労働省から何らかの規制やルールが作られるものと言われています。 エクソソームとは何か エクソソームとは、細胞から分泌される大きさ30~200mmほどの顆粒状の小胞です。 幹細胞を培養し、培養液から幹細胞を取り出し処理を行ったあとの上澄みのことを、ヒト幹細胞培養上清液(じょうせいえき)といいます。エクソソームは、この上清液の中に含まれます。*1 エクソソームは1980年代に見つかったのですが、当初は細胞内の不要な物質を捨てるための「ゴミ袋」のようなものだと考えられてきました。 しかし、研究が進むにつれて、エクソソームは細胞同士の相互作用に関して情報伝達の役割を果たすことが分かってきました。*2 つまり、エクソソームは細胞間の情報伝達物質の「運び手」とも言えます。 また、エクソソームはその分泌された細胞由来の細胞膜の成分や核酸、タンパク質などを含んでおり、その細胞の特徴や生理的な機能を持っているとも考えられており、いろいろな疾患に対する新しい治療方法の候補としても注目されています。*3 エクソソームは点滴や局所注射、塗布などの投与方法があります。エクソソームによる治療は自由診療のため、費用は各医療機関で幅があります。一般的な相場は、5万円から20万円程度のようです。 エクソソームの可能性 さて、再生医療の分野でよく用いられるものに、間葉系幹細胞(かんようけいかんさいぼう:Mesenchymal stem cell:MSC)があります。 これは、結合組織の中に存在する、多分化能を持つ幹細胞です。MSCは組織が損傷を受けた際に修復を手助けすることが知られています。 最近の研究ではMSCそのもののみならず、MSC由来のエクソソーム、つまりMSCから分泌されるエクソソームにMSC自身と同じような治療効果を示すことも明らかになりつつあります。*4 これまでに報告されている、MSC由来のエクソソームが治療効果を示す疾患には以下のようなものがあります。*5 腎臓疾患 心筋障害 脳疾患(脳卒中やアルツハイマー病) 肺疾患 このような病気に対して、MSC由来のエクソソーム治療は効果があることが分かってきており、今後の研究が期待されるところです。 また、MSC由来のエクソソーム治療は、MSC細胞よりサイズが小さいために、塞栓などの可能性が理論上は低いことや、組織へうまく移行してくれること、また複数回の投与ができることなどのメリットがあります。 また、厚生労働省のワーキンググループでの報告によると、日本の自由診療を行っている121医療機関で、美肌、毛髪再生、勃起不全などが期待される効果や対象疾患に含まれていたとのことです。*6 エクソソームの課題 一方で、エクソソーム治療については課題もあります。 MSC由来のエクソソーム治療では、MSC細胞による治療よりも多くの細胞数が必要なことや、安全性や有効性を確保するためのリスクがまだ研究段階であること、さらに品質の管理や製造管理とともに法律の整備がまだ未成熟なことなどがあります。*7 その他の課題としては、まだエクソソームに関しての基本的な理解が十分ではない可能性があることです。例えば、免疫系の細胞が貪食(どんしょく)作用によってエクソソームを取り込むことが知られているのですが、免疫系の細胞以外の細胞による取り込みの様子は世界でもまだほんのわずかしか報告がない、という状況です。このように、基礎的なメカニズムについて見解がまだ定まっていないという現状があります。 また、エクソソームを回収する方法が統一されていないということも問題となっています。 エクソソームの回収方法は、さまざまな企業が抽出試薬などを販売しつつあるのですが、果たして異なる方法で回収したエクソソームが「同じ」ものとして治療に用いてよいのかどうかという疑問が残ります。*8 さらに、副作用の危険性もあります。 実際に、正常なMSCが分泌するエクソソームには抗がん作用があるのに対して、異常なMSCが分泌するMSCが分泌するエクソソームは、がんの悪性化を促してしまうという報告もあるようです。*9 MSCでもMSC由来のエクソソームであっても、正常な自分の細胞から培養されたものであれば、拒絶反応などのリスクは高くないかもしれませんが、さらなる研究によって安全性が確保されることが期待されるでしょう。 まとめ リペアセルクリニックでは、エクソソームを産生する細胞の元の一つである、自己脂肪由来幹細胞による再生医療を行なっています。 当院での細胞加工の強みとしては、幹細胞を冷凍保存しない都度培養のため細胞の生存率や質が高いこと、2億個の細胞を投与できるので治療成績が良好であること、採取する脂肪の量は米粒3つ分くらいと少量であり負担が少ないこと、さらに患者さん自身の血液を用いるため安全性が高いことが挙げられます。 脳や神経の病気をはじめ、さまざまな疾患に効果があると示されている再生医療にご興味のある方は、ぜひ一度当院までお気軽にご相談ください。 再生医療専門クリニック リペアセルクリニック ✉ メール相談はこちら 💻無料オンラインカウンセリングはこちら ✉ webでの来院予約はこちら ☎ 無料電話相談はこちら: 0120-706-313(09:00~18:00) 診療時間:10:00~19:00(完全予約制) 休診日:不定休 各院へのアクセス:札幌院/東京院/大阪院 ▼その他のコラムはこちらからもお読み頂けます。 参考文献 *1 再生医療等のリスク分類・法の適用除外範囲の見直し 厚生労働省研究開発振興課 p11 *2 新規治療薬開発への間葉系幹細胞由来 エクソソームの応用可能性.Drug DeliverySystem.2014:29(2):140-151. p140 *3 再生医療等のリスク分類・法の適用除外範囲の見直し 厚生労働省研究開発振興課 p10 *4 新規治療薬開発への間葉系幹細胞由来 エクソソームの応用可能性.Drug DeliverySystem.2014:29(2):140-151. p141 *5 新規治療薬開発への間葉系幹細胞由来 エクソソームの応用可能性.Drug DeliverySystem.2014:29(2):140-151. p143-147 *6 再生医療等のリスク分類・法の適用除外範囲の見直し 厚生労働省研究開発振興課 p16 *7 エクソソーム等の調製・治療に対する考え⽅ 一般社団法人日本再生医療学会 p4,5 *8 新規治療薬開発への間葉系幹細胞由来 エクソソームの応用可能性.Drug DeliverySystem.2014:29(2):140-151. p147,148 *9 新規治療薬開発への間葉系幹細胞由来 エクソソームの応用可能性.Drug DeliverySystem.2014:29(2):140-151. p149 日本再生医療学会|エクソソーム等に対する日本再生医療学会からの提言
2024.08.02 -
- 幹細胞治療
- 再生治療
- PRP治療
- 免疫細胞療法
エクソソーム、幹細胞上清液での治療で知っておくべき安全性や副作用、医師が解説! 幹細胞をはじめとした種々の細胞から分泌されるエクソソーム。細胞同士の情報伝達に欠かせない存在であり、抗炎症効果などを示すこともわかっています。現在、がんの診断・多くの疾患の治療・化粧品や食品の研究開発など幅広い分野で注目を浴びています。再生医療においても、エクソソーム治療への期待が高まっています。 再生医療や美容医療を検討されている方の中には、エクソソーム治療を受けたいと考えたことがある方も多いでしょう。 では、エクソソーム治療が安全性の面から全く問題がないのでしょうか。実は一概にそうとも言い切れません。 本記事では、エクソソーム治療の安全性・起こりうる副作用について解説をしていきます。 エクソソーム(幹細胞上清液)と幹細胞の違い まずそもそも、エクソソーム、幹細胞上清液は再生医療でありません。幹細胞治療は再生医療法に守られた治療であり、安全性は確保されています。しかし、エクソソーム、幹細胞上清液は、再生医療法には含まれません。 幹細胞を培養する際に出てくる分泌液が、エクソソーム、幹細胞上清液となります。つまり、幹細胞培養の際の副産物なのです。 幹細胞培養し、治療では、幹細胞のみを使用します。そして副産物のエクソソーム、幹細胞上清液には、幹細胞を培養するときに出てくる不純物が含まれているので、本来は捨てる液体となります。 この液体を、点滴で体内に入れてしまうと、不純物があるので観戦などのリスクがあります。そういう理由で、当院では、開院以来エクソソーム、幹細胞上清液の治療を一才取り扱いはしていません。 再生医療の法律に含まれていないということは、エクソソーム、幹細胞上清液は、点滴投与をしてもいいという法律もなければ、点滴投与をしてはいけないという法律もないのです。 つまり、点滴をするかは、医師の判断ということになります。今後、このエクソソーム、幹細胞上清液には、近々、厚生労働省から何らかの規制やルールが作られるものと言われています。 エクソソームの安全性は不確実 エクソソームの医学への応用はまだごく初期の段階です。医薬品として承認されるために必要な臨床試験などをほとんど経ていません。 流通している「エクソソーム」製剤は医薬品医療機器等法の承認を得ていない試薬などという扱いです。つまり、再生医療の法律外となります。 試薬であっても、自由診療の場では医師の責任において投与することが可能です。幹細胞治療と同等の効果を発揮するためには、非常に高濃度のエクソソームを投与する必要があると考えられています。 しかし、実際に高濃度のエクソソームを投与したときにどのようなことが起こるのかはまだはっきりわかっていません。これまでのところ目立って「悪いこと」が起こったケースがほとんどないため、「安全だろう」ということで使われているのです。 エクソソームの材料とはなにか エクソソームの安全性について論じる時に問題になるのはエクソソームそのものの安全性だけではありません。 多くの「エクソソーム」製品は細胞を培養してその培養液の上澄みを精製することで作られています。そのため、エクソソームをつくる「材料」の安全性もしっかりと考えていく必要があります。材料とは「エクソソームを分泌する細胞」と「細胞培養のための培地」のことです。 一般的に「エクソソーム治療」で使われるものは、様々な細胞に変化できる「間葉系幹細胞」と呼ばれる幹細胞を培養する際に分泌されるものです。では、この幹細胞はどこから来たものでしょうか。ご自身の細胞を手術などで採取していない限りは、誰か「他人」の間葉系幹細胞を使って作られたものです。幹細胞は骨髄・歯髄・脂肪・臍帯血などから得たものが中心になっています。 また、幹細胞を培養するためには最適な環境を整える必要があります。植物を育てる際には、植える時期を選んだり日当たりを気にしたりするでしょう。同様に、細胞を育てるにも細胞に合った「培地」が用いられます。そしてホルモンの供給や有害物質からの保護作用などの役割のため、培地には「血清」が添加されることがほとんどです。培地によく用いられる血清は牛の血清です。 エクソソームの材料による副作用 エクソソームを作る過程で「他人の細胞」「他の動物」由来の成分が含まれていると、心配しなければいけない副作用が2つあります。 ひとつはアレルギー反応、もうひとつは感染症です。 アレルギーは外界から何かを体に投与するときには切っても切り離せない問題です。特に、自分以外のもの由来の成分へのアレルギーは誰にでも起こり得ます。当然、「他人」「他の動物」由来の成分が含まれるエクソソーム療法も例外ではないのです。 そして、残念ながら誰にどんな反応が起こるかを予測する手立てはありません。 製剤として販売されるのですから、細胞も血清も基本的には危険な感染症のスクリーニングを受けたものが使用されているはずと思うかもしれません。しかし、感染が起こった直後のごく微量の微生物や、現時点でまだ知られていないウイルスなどがいる可能性はどうしても否定できないのです。 「エクソソーム」と謳われている製品でも、純粋なエクソソームだけを抽出したものではないのです。エクソソームの回収技術はまだ完全に確立されたものではありません。不純物が完全に除去されている保証はどこにもないのです。 そして一番怖いのは他人の遺伝子が含まれているということです。他人の遺伝子があるということで将来的にどのような疾患が出てくるのか予期できなくなるのです。 幹細胞による再生医療は、再生医療等安全確保法という法律があるのですが、上清液やエクソソームには法律がなく無法地帯なのが現状です。いつどこで、誰から作られたかもわからないでのす。 リペアセルクリニックの幹細胞治療は、「ご自身の細胞と血液を使用」して、国内では珍しい「冷凍せず培養」する方法にこだわっています。これにより、「高い生存率と高い活動率」を持った生き生きとした幹細胞を投与でき、良好な治療成績を実現しております。 エクソソームについて気になるQ & A Q:エクソソーム含有の健康食品やサプリメントに病気の治療や予防効果はある? サプリメントや健康食品は医薬品ではありません。基本的には病気を予防したり治療したりするものでないのです。したがって、エクソソーム含有されていることで、病気にならない・病気を良くするという効果については期待できません。 Q:エクソソーム治療は高額と聞きましたが保険はききませんか? 残念ながら、いかなるエクソソーム治療も現時点(2024/7)で公的な保険の適応外です。 なお、混合診療(自由診療と保険診療を同時に行うこと)は禁じられています。エクソソーム治療と同時に何らかの検査や処方をうけると、それらも自費扱いになることに注意が必要です。 まとめ・エクソソーム・幹細胞上清液での治療について、知っておくべき安全性や副作用、医師が解説!! エクソソーム治療は美容や関節の痛み、神経の損傷の後遺症など幅広い分野で期待されています。しかし、安全性の面からはまだまだ検証の余地が多く残っています。 安全性について心配であれば、幹細胞治療も選択肢になるでしょう。当院では患者様ご本人の細胞・血液を使い、独自の技術で培養することで生き生きとした幹細胞を投与できる体制を整えています。ぜひ一度お問合せください。 ■参考文献落合孝広. 生物資料分析 42(5): 217-221,2019. 花井洋人, 下村和範, 中村憲正. 臨床スポーツ医学. 37(5):599-603, 2020. 一般社団法人再生医療抗加齢学会幹細胞培養上清液に関する死亡事例の発生について 岩崎剣吾, 森田育男. 最新医学 73(9): 1243-1253, 2018. 厚生労働省|再生医療などのリスク分類・法の適用除外範囲の見直し 第二回ワーキンググループ(R3.1.18)における議論 株式会社ケー・エー・シー 細胞.jp|細胞基礎講座 細胞培養基礎講座 第7回「血清はなぜ必要?」 厚生労働省|再生医療等安全性確保法における再生医療等のリスク分類・法の適用除外範囲の見直しに資する研究報告書 日本再生医療学会|エクソソーム等に対する日本再生医療学会からの提言 ▼その他、「エクソソームや幹細胞上清液」で参考にしていただける記事
2024.07.31 -
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
むちうち症は交通事故の衝撃やスポーツ中の激しい体の動きなどにより起こる疾患です。適切な治療やセルフケアによって症状の軽減が見込めるため、患者さんは正しい知識をもつことが大切です。 そこで本記事では、むちうち症の概要や治療方法、セルフケアや精神的なケアについて解説しています。 むちうち症と診断された方はぜひご参考ください。 むちうち症は交通事故の衝撃により起こる疾患です。適切な治療やセルフケアによって症状の軽減が見込めるため、患者さんは正しい知識をもつことが大切です。 むちうち症の概要 はじめに、むちうち症の概要について解説します。 むちうち症とは何か? むちうち症とは、自動車事故やスポーツ中の激しい体の動きなどによって生じるけがの一種です。交通事故の場合、事故の衝撃により頚部が鞭(むち)を打ったようにしなった結果、首の筋肉、脊髄や神経根などの神経、じん帯、頚部の椎間板などが損傷され、事故後に首や背中に痛みが出てしまいます。医学的には「外傷性頚部症候群」「頚椎捻挫」「頚部挫傷」などと呼ばれます。 むちうち症の症状は受傷部位や加わった衝撃の程度によりさまざまですが、頚部や肩、頭などに表れやすいです。よくみられる症状は下記のとおりです。 首や背中、腰の痛み 頭痛 耳鳴り 吐き気 しびれ 肩こり 腕や手のしびれ 腕や手の動かしにくさ 目が見えづらい 倦怠感 不眠 うつ状態 基本的に、これらの症状は受傷後数時間~数日後に自覚されることが多いです。受傷から発症までにタイムラグがある原因として、事故時に多く分泌されるアドレナリンの作用により症状を自覚しにくい、あるいは受傷部位の炎症の増強にともなって痛みが徐々に悪化していくなどの理由が考えられます。 また、むちうち症にはいくつかのタイプがあり、それによっても症状の種類が異なります。 むちうち症の種類 特徴 出現しやすい症状の例 頚椎捻挫型 椎間板やじん帯が損傷している可能性がある 首や肩の痛み、肩の動かしにくさ、肩や腕の重さ 神経根損傷型 腕の感覚を司る神経が椎間板に圧迫される 腕の痛み、知覚異常、しびれ、筋力低下 脊髄損傷型 脊髄が傷つく 手足のしびれ、麻痺、歩行障害、排泄障害 自律神経障害型 (バレー・リュー型) 首の自律神経が障害される 頭痛、めまい、耳鳴り、吐き気、後頭部の痛みなど 症状の発生原因 むちうち症が起こるのは、事故によって「首がしなった後、急激に戻る」のが原因です。後方からの追突事故の場合、ぶつかられた衝撃によって胴体が前方へ出た後、頚部が後ろに反るようにしてしなります。また、正面衝突の場合は胴体が後ろへ突き出し、頚部は前方へしなります。側面からの衝突事故においては、衝突された方向によって首が左右のどちらかにしなります。このように首に不自然な力が加わることで、頚椎を支えているじん帯や神経、結合組織などが損傷してしまうのがむちうち症発症のメカニズムです。 むちうち症の多くは交通事故によるものですが、スキーやローラースケート時の転倒などによっても首のしなりと急激な戻りが発生し、むちうち症を発症することもあります。 むちうち症の治療方法 むちうち症の治療は、正しい診断をもって始まります。事故に遭ったら必ず整形外科を受診し、画像検査、問診など必要な検査を受けましょう。むちうち症と診断されたら、投薬などの治療が始まります。むちうち症の治療では医学的アプローチはもちろんのこと、セルフケアも重要です。ここでは、医学的な治療とセルフケアについてそれぞれ解説します。 医学的アプローチ むちうち症の治療は、受傷部位や組織損傷の程度などによって異なります。痛みが強い場合は、消炎鎮痛剤を使用し安静にするのが基本です。冷湿布やアイシングによる患部の冷却も炎症を和らげるのに効果的です。 また、必要に応じて頚椎カラーの装着が必要となる方もいます。頚椎カラーの装着方法や装着期間は医師の指示に従いましょう。痛みが回復した後にも頚椎カラーによる固定を続けていると、首の筋肉の拘縮や萎縮の原因となりかえって症状が悪化する可能性があるため注意が必要です。 痛みが緩和されてきたら、徐々に首を動かすリハビリやストレッチを始めます。医師や理学療法士から指示されたストレッチがあれば、無理のない範囲で取り入れていきましょう。場合によっては、病院に通院してリハビリや牽引を行うケースもあります。 家庭でできる対処法 むちうち症は、セルフケアによって症状の悪化予防と改善が期待できる疾患です。 発症後3日~1週間程度の急性期は、首の安静を第一に心がけましょう。この時期に首に無理な力が加わると症状が余計に悪化するため、痛い部分を揉むことやマッサージすること、そして首を無理に動かすのは避けましょう。湿布を貼る場合は、急性期には冷湿布が適しています。 痛みが和らいできたら、入浴や温湿布、首のリハビリにより患部の血流を良くし筋肉をほぐすことがポイントです。リハビリは無理をせず、痛みのない範囲で毎日少しずつ行いましょう。ここでは自宅でできる簡単なリハビリ・ストレッチを3つ紹介します。 ①仰向けに寝てバスタオルを丸めて首の下に置き、リラックスする ②フェイスタオルを首に巻き、両手でタオルを前に引っ張りながら首をゆっくりと後ろに反らす ③正面を向き、首をゆっくりと上下左右に動かす ただし、動きによって痛みが増強した場合は決して無理をせず、安静にしましょう。 むちうち症の後遺症について むちうち症の患者さんのなかには、適切な治療をしても首や背中の痛み、上肢のしびれなどの後遺障害が生じることがあります。後遺障害の症状は人によって異なります。 長期的な影響 むちうち症は、発症時は軽症であっても歳を重ねて数十年後に急に症状が悪化するケースがあります。症状の悪化を迎える頃には、事故の影響以外に加齢による五十肩などの他のトラブルも重なることが予想されるため、むちうち症を発症した際にきちんと根本的な治療をしておきたいところです。万が一受傷からしばらく経過した後に痛みが出てきたら、その時点でもう一度医療機関を受診しましょう。 管理と予防策 むちうち症の後遺症による首の痛みは、首周りの筋肉の過緊張が原因です。こわばった緊張をほぐして動きを良くするために、日頃から首のストレッチや入浴を心がけましょう。 日常生活での調整 むちうち症の症状は、風邪のように数日間で完治することは少ないでしょう。治療期間が数週間から数ヵ月にわたる方もいるため、日常生活における痛みのコントロールや活動量の調整が必要です。 生活スタイルの変更 痛みがある場合は、鎮痛薬の内服や湿布などにより痛みのコントロールを図りましょう。鎮痛薬は、一般的に内服と次の内服の間に一定の時間を空ける必要があり、内服の適切なタイミングを考える必要があります。学校や仕事、家事など日中に活動する場合は、朝に内服しておくと日中の鎮痛効果が期待できます。また、痛みが睡眠に支障を来す場合には、就寝前にも内服しましょう。 湿布薬は種類が多数あるため、刺激感や皮膚の状態を踏まえ自分に合ったものを見つけましょう。湿布を同じ場所に貼り続けると皮膚がかぶれるリスクが高まるため、貼り替えの際は少しずつ場所をずらす、新しい湿布を貼るのは翌日にするなど、工夫が必要です。湿布薬のなかには肌の色に近い色のものもあるため、人目が気になる場合は使用してください。 また、むちうち症の症状のなかでも、頭痛やめまいなどの症状は社会生活に直接的な影響を及ぼすケースがあります。症状が強い時には無理をせず、家族や学校、会社などに事情を説明し、理解を得ることが大切です。在宅ワークであれば症状の程度によって仕事時間を調整できるため、無理なく働ける可能性があります。その際、会社や学校などに医師の診断書を求められることがあります。診断書は保険会社からも提示を求められるため、あらかじめ医師へ記載を依頼しておくとよいでしょう。 支援と専門家の助言 むちうち症は、適切な診断と治療を受け専門家の助言のもとでリハビリをすすめる必要があります。自己流の投薬やリハビリは、効果が得られないばかりかやり方を間違えると症状をさらに悪化させてしまうかもしれません。必ず受診し、医師や理学療法士など専門家に相談しアドバイスを受けながら治療をすすめていきましょう。症状が重いなどの理由で受診が難しい場合は、電話でも相談に応じてもらえる場合があります。 総合的なアドバイスとサポート 最後に、むちうち症の症状の緩和へのヒントと、精神的な健康の維持について解説します。 症状を和らげるためのヒント むちうち症の症状を和らげられる可能性があるものとして、鍼治療や電気治療なども選択肢の一つです。鍼治療には硬くなった筋肉をほぐす作用がありますが、人によっては「合わない」と感じる方や、鍼を刺す刺激が苦手な方もいるため注意が必要です。また、体質や体調などによって治療効果も異なります。 また電気治療も鍼治療と同様に筋肉の過緊張を一時的に緩められます。 いずれにせよこれらの施術には「合う」「合わない」があるため、医師や整骨院などの専門家に相談したうえで利用を検討するようにしましょう。 精神的な健康の維持 むちうち症は風邪のように数日で完治するのは難しく、苦痛な症状やいつ治るかわからない不安などから精神的にも落ち込んでしまう方も少なくありません。 気持ちがふさぎ込んでしまうと苦痛がより強くなってしまうため、痛みの許す範囲で趣味や仕事をしたり、外出したりと気分転換を図るとよいでしょう。痛みが少しでも紛れるような時間を作れるのが理想的です。 参考文献一覧 交通事故による いわゆる“むち打ち損傷”の治療期間は長いのか Whiplash associated disorders: a review of the literature to guide patient information and advice Australian Clinical Guidelines for Health Professionals Managing People with Whiplash-Associated Disorders Guidelines for the management of acute whiplash associated disorders The Treatment of Neck Pain-Associated Disorders and Whiplash-Associated Disorders: A Clinical Practice Guideline
2024.07.30 -
- 上肢(腕の障害)
- 下肢(足の障害)
- スポーツ外傷
「腰の疲労骨折と診断されたけれど、早く回復して仕事やスポーツに復帰したい…」 そんな悩みを抱えていませんか? 腰の疲労骨折は無理をすると状態が悪化しやすく、治りが遅くなります。しかし、安静を最優先し、適切な時期にストレッチやトレーニングを実施すれば早期回復を目指せます。 本記事では、腰の疲労骨折を早く治す方法を具体的に解説しています。治療中の注意点も紹介しているので、早期回復を目指したい方は参考にしてみてください。 【基礎知識】腰椎疲労骨折とは 腰椎疲労骨折は、腰椎の「椎体」と呼ばれる骨の部分に微小な亀裂が生じる状態を指します。 腰椎疲労骨折の主な原因は、以下のとおりです。 重労働や繰り返しの負荷 不適切な姿勢や体の使い方 加齢に伴う骨密度の低下 骨粗鬆症などの基礎疾患 このように腰椎疲労骨折は、一度の強い衝撃ではなく、長期的な負荷の蓄積によって引き起こされます。特にスポーツを積極的に行う10代の若年層に多く見られ、同じ動作を繰り返すことで発症しやすいです。 腰椎疲労骨折の症状は、単なる腰痛とは異なり、以下のような特有の特徴があります。 安静時にも持続する鈍い痛み 特定の姿勢や動作で増悪する痛み 腰の特定の場所を押すと痛みを感じる(圧痛) 腰の特定の場所をトントンとたたくと痛みを感じる(叩打痛) これらの症状は、時間の経過とともに徐々に悪化する場合が多いです。最初は軽度の痛みで済んでいても、放置すれば日常生活や仕事に大きな支障をきたすようになります。 そのため、疲労骨折が疑われる場合は、早期の診断と適切な治療が不可欠です。適切な治療を行えば、痛みの軽減と日常生活の質の向上が期待できます。 なお、腰の痛みを伴う原因はほかにもあり、以下は対象となる疾患です。クリックすると詳細記事をチェックできるので、症状や治療法が気になる方は参考にしてみてください。 腰椎椎間板ヘルニア 脊柱管狭窄症 ぎっくり腰 近年、腰の痛みを伴う腰椎椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症の治療法として「再生医療」が注目されています。再生医療とは人間の自然治癒力を活用した新しいの医療技術で、損傷した脊髄の再生を図ります。 「腰に関連のある疾患の治療法に興味がある」という方は、再生医療専門の『リペアセルクリニック』にお問い合わせください。 腰椎疲労骨折はどれくらいで治る?【完治までは約3カ月】 腰椎疲労骨折の回復には約3カ月かかると言われています。 亀裂または折れた骨が癒合するまでに時間が必要なため、焦らず適切な治療を続けましょう。 治癒までの期間は、年齢や症状の程度、個人の体質などによって左右されます。 症状が軽度の方や若い方ほど治癒が早い傾向があります。 腰椎疲労骨折を早く治す方法5選 腰椎疲労骨折からの早期回復を目指す上で、日常生活で意識したいポイントを5つ紹介します。 焦らず安静にする コルセットの着用ルールを守る 計画的にリハビリを進める 軽めのストレッチ・トレーニングを行う 栄養バランスのとれた食事を心がける 参考にしながら実践をして、早期回復を目指しましょう。 焦らず安静にする 腰椎疲労骨折の基本治療は、安静により骨の自然回復を待つ保存治療です。 骨に亀裂が入っている状態なので、体を無理に動かすと状態が悪化します。 安静期間は、症状や人によって異なり、4週間から12週間程度です。 この間は、腰に負担をかけないように、できるだけ安静にして過ごしましょう コルセットの着用ルールを守る 疲労骨折の状態によってはコルセットを装着して安静時期を過ごします。 コルセットの着用が必要になった場合、使用ルールを必ず守りましょう。コルセットを着用する際は以下のような点に注意が必要です。 装着方法:締め付け具合 装着時間:1日の中での装着時間 着脱のタイミング:入浴時や就寝時の取り扱い コルセットを正しく装着しなかったり、着用を怠ったりすると、症状が悪化してしまう場合があります。早期回復のためにも、医師の指示に従って使用しましょう。 軽めのストレッチ・トレーニングを行う 骨の回復が認められ医師の許可が出たら、軽めのストレッチやトレーニングを開始していきます。 回復期は、骨盤周囲の筋肉を伸ばすストレッチや、腰を支える筋肉を強化するトレーニングが効果的です。 具体的には、ハムストリングストレッチや腰回りのストレッチや、腰椎を支える筋肉を強化を目的とした体幹トレーニングです。 適切な強度でストレッチやトレーニングを継続すれば、腰の機能改善につながります。 日常生活で負担のかかる動きを制限する 腰椎疲労骨折の回復段階では、日常生活で腰に負担をかけない動きをとる意識をもちましょう。 腰に負担がかかる動作をとれば、回復が遅れる可能性があるほか、再発のリスクも高まるからです。 腰に負担がかからない主な動作は以下の3つです。 腰を反らさない 力を入れすぎない ねじらない たとえば、ベッドから起き上がるときは、腰を反らさないように気をつけ、横向きになってから腕の力を使って上体を起こします。体をひとまとまりにして動かせば、腰に余計な負担をかけずに済みます。 椅子から立ち上がる際は、両手で座面を押しながら、膝を伸ばして立ち上がりましょう。腰を前後に動かさず、脚の力を使うと負担が軽くなります。 重い物を持つときも注意が必要です。腰を曲げずに膝を曲げ、背筋をまっすぐにしたまま持ち上げると、腰への負担が減ります。また、物を持ったまま体をねじらず、向きを変えるときは足から動かしましょう。 このように日常生活の動作を見直し、腰にやさしい動きを意識してみてください。 栄養バランスのとれた食事を心がける 骨の修復には多くの栄養が必要です。栄養バランスのとれた食事を心がけると、より早い回復が期待できます。 以下は、骨の修復に大切な栄養素と食材です。 栄養素 働き 食材 カルシウム 骨の主成分となり、強化を助ける 牛乳、チーズ、小魚、ひじき、小松菜 ビタミンD カルシウムの吸収を助ける イワシ、秋刀魚、鮭、しいたけ、きくらげ ビタミンK カルシウムを骨に定着させる 納豆、小松菜、ほうれん草、わかめ たんぱく質 筋肉や血液の材料になり、骨の修復を助ける 赤身の肉、魚、豆腐、納豆、ヨーグルト マグネシウム 骨の健康を維持し、強化をサポートする アーモンド、ごま、わかめ、大豆製品 バランスの取れた食事で、骨の修復に必要な栄養を補給しましょう。 まとめ|腰の疲労骨折を早く治すには焦らず治療していくのがもっとも大切 焦らず治療に専念するのが、腰の疲労骨折を早く回復させる近道です。腰に負担のかかる動作や運動を控えて、完治までじっくり治療に取り組みましょう。 本記事で紹介した、回復後の運動や食事のアプローチも参考にして、早期回復を目指してみてください。 腰の疲労骨折に関するよくある質問 腰の疲労骨折について、不安や疑問を感じている方も多いのではないでしょうか。 ここでは、治療や予防、日常生活での注意点など、よくある質問とその回答を紹介します。腰の健康を守るための参考にしてください。 保存治療で症状がなかなか改善しない場合は手術が必要ですか? 保存的治療で十分な改善が見られない場合や、重度の骨折、神経症状を伴う場合などは、外科的治療が検討されます。 手術の方法は、骨折部位の固定や骨移植などです。 手術は、痛みの軽減、脊柱の安定化、神経症状の改善などを目的として行われます。 腰の疲労骨折における予防策を教えてください 腰椎疲労骨折の予防には、以下のようなポイントがあります。 適切な姿勢の保持 重量物の正しい持ち上げ方の習得 定期的な運動による腰部や体幹の筋力維持 骨密度の維持(バランスの取れた食事、適度な日光浴など) 日常生活の中で、腰への負担を減らす工夫を心がけるのが大切です。 重労働の仕事で腰が疲労骨折にならないためのポイントを知りたい 重労働に従事する人は、以下の点に注意をする必要があります。 項目 ポイント 詳細 1. 適切な重量制限の順守 無理なく持てる重量か確認する 重量物を分割して運ぶ 周囲と協力して持ち上げる 安全を優先して無理をしない 2. 重量物を持ち上げる際の正しい体の使い方 重心を低くし、物を体に近づける 膝を曲げ、脚の力で持ち上げる 急な動作を避ける 正しい姿勢で持ち上げ、腰への負担を減らす。定期的に訓練を受ける。 3. 休憩の確保と作業の分散 長時間の連続作業を避ける 同じ姿勢を続けない 作業を分散し負担を減らす 適切に休憩を取り、疲労を防ぐ。作業スケジュールを管理する。 4. 必要に応じた補助具の使用 台車や手押し車を使う 高所作業には脚立を使用する 腰ベルトの着用を検討する 補助具を活用し、負担を軽減する。正しい使い方を守る。 仕事と腰の健康は、切り離せない関係にあります。自分の体を守るためにも、リスク管理と予防策の実践を心がけましょう。 参考文献 MSDマニュアル家庭版."骨折の概要" 日本スポーツ整形外科学会.“スポーツ損傷シリーズ-疲労骨折" 日本臨床整形外科学会.”疲労骨折・腰痛” 日本脊椎脊髄病学会.”脊椎脊髄疾患について・主な症状” 日本生活習慣病予防協会.”骨粗鬆症” 村山医療センター.”腰椎分離症” 教えて!先生!腰痛の専門医による安心アドバイス.”腰の疲労骨折・脊椎分離症(腰椎分離症) 日本脊髄外科学会.”腰椎分離症・分離すべり症” 徳島県医師会.” 腰椎分離症 -病期・病態に応じて治療-” 日本整形外科学会.”「腰椎分離症・分離すべり症」” 厚生労働省.”腰痛予防対策” 厚生労働省.”職場における腰痛予防対策指針及び解説” ドクターズファイル.”疲労骨折” 医療法人大場整形外科.”腰椎疲労骨折” 日本骨折治療学会.”骨折の解説-疲労骨折”
2024.07.29 -
- 脊髄損傷
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
「脊髄硬膜外血腫」とは、背骨の中で出血が起きる病気の一種です。(文献1)脊髄を覆う「硬膜」の外側で出血し、激しい痛みが起きるほか、溜まった血が脊髄を圧迫すれば麻痺やしびれなどを引き起こします。 脊髄硬膜外血腫の患者様の中には、後遺症が出て日常生活に不便を感じ、お悩みの方もいるのではないでしょうか。 後遺症は今までリハビリテーションなどの対症療法でのみ治療されていましたが、現在では再生医療も選択可能となり、根治的治療として注目を浴びています。 今回は脊髄硬膜外出血の後遺症や、急性期の治療法と発症後のリハビリテーション、予後についてもお伝えします。また、後遺症の治療法(再生医療)についても解説するのでぜひ参考にしてください。 脊髄硬膜外血腫の主な後遺症 脊髄硬膜外血腫は、溜まった血を取り除くまでに脊髄が傷ついてしまうと、治療後に後遺症が出る可能性があります。 後遺症の症状や程度は、障害部位(頸髄や胸髄、腰髄、仙髄、馬尾)や脊髄へのダメージ具合(部分的か全体的なダメージか)によってさまざまです。 代表的な後遺症を以下にまとめました。 運動障害(麻痺) 感覚障害(温痛覚や振動感覚、位置感覚の障害など) 膀胱直腸障害(尿失禁、頻尿、便秘、頻便など) 呼吸障害 体温調節障害 起立性低血圧 など それぞれ説明していきます。 運動障害(麻痺) 筋肉がうまく動かせなくなるのが運動障害です。具体的には以下の症状が現れます。 手足に力が入らない しびれる まったく動かせない など 出血が起きた部位により、運動障害の範囲は異なります。首のあたりで起きれば両手足の麻痺が、胸や腰の背骨内で起きれば両足の麻痺が出やすいです。 一方で、左右の片方だけに麻痺が起きることもあります。 日常生活での困難は歩けない、座ったり立ったりしていられない、手の細かい動作ができないなどです。 着替えや食事、入浴といった日常生活動作が難しくなり、介助が必要となる場合もあります。リハビリテーションが重要となりますが、どれくらい回復するかは個人差があります。 感覚障害(温痛覚・振動感覚・位置感覚の障害など) 感覚障害とは、以下に示す感覚が鈍くなったり消失したりする障害です。 熱さ・冷たさ 痛み 触覚(触られている感覚) 振動感覚(震えを感じとる感覚) 手足の位置感覚 など 感覚障害も、出血が起きた部位によって範囲が異なります。首のあたりで出血が起きれば両手足に感覚障害が出やすく、胸や腰で起きれば下半身に症状が出ることが多いです。また、左右どちらかだけに症状が出ることもあります。 日常生活では、やけど・けがに気付きにくくなります。歩くときにバランスが取りにくい、箸を使いにくいなどもよくある症状です。 運動障害と同様、リハビリテーションによって回復が見込める場合があります。 膀胱直腸障害(尿失禁・頻尿・便秘・頻便など) 膀胱直腸障害とは、排泄に関する障害です。 排尿に関する症状は以下の通りです。 尿意切迫感 頻尿 尿失禁 排尿困難 残尿感 など また、排便に関する症状として以下が挙げられます。 便秘 排便困難 便失禁 頻便 など 日常生活では、突然の尿意や便意あるいは失禁により、生活に大きな支障をきたすでしょう。 逆に排尿困難や便秘があると、お腹の張りや不快感につながります。外出時のトイレの不安から、活動範囲が狭くなる方も多いです。 症状に応じて自己導尿や排便コントロールを身につけたり、薬の力を借りたりして適切に管理することが大切です。 その他(呼吸障害・体温調節障害・起立性低血圧など) 脊髄硬膜外血腫では、運動・感覚・膀胱直腸障害以外にもさまざまな後遺症の可能性があります。 呼吸障害は、頸椎の上の方で出血が起きた場合の症状です。呼吸に必要な筋肉が麻痺し、人工呼吸器が必要となる場合もあります。 自律神経が障害されれば、体温や血圧の自動調節がうまくいかず、体温調節障害や起立性低血圧などを引き起こします。自律神経への影響が大きくなるのは、胸椎より上で出血が起きた場合です。 筋肉が緊張しすぎる「痙縮」では手足が突っ張ったり、意識しないのに動いてしまったりします。ビリビリとした痛みや刺すような痛みを感じる場合は「神経障害性疼痛」かもしれません。これは神経が傷ついたことで、外傷がない部位でも痛みを感じる症状です。 脊髄硬膜外血腫の治療法 脊髄硬膜外血腫の治療法は、手術をしない保存的治療と、手術による外科的治療に分けられます。どちらを選択するかは、症状の程度や持続時間、出血が止まりにくい要因の有無を考慮して決定します。 保存的治療|症状が軽度の場合 保存的治療では安静を保ち、必要に応じて止血剤や降圧剤を投与します。保存的治療を選択する明確な基準はありません。(文献2)脊髄硬膜外血腫102例を分析した報告では、以下の両方に当てはまれば、保存的治療での回復も期待できるとされています。(文献3) 血をサラサラにする薬(抗凝固薬)を使っていない 運動機能が完全に麻痺していない 上記の片方だけに当てはまる場合も、保存的治療を選択する場合があります。抗凝固薬を使用中なら、必要に応じて効果を打ち消す薬を投与します。 保存的治療では、注意深い経過観察が重要です。症状の変化を定期的に確認し、保存的治療を続けるか手術に変更するかを判断するのです。 麻痺が出てから15時間以内に症状が回復に向かえば、出血が自然に止まって血腫の吸収が始まり、神経への圧迫がゆるんできていると考えられます。(文献3)この場合は自然に完治する可能性が高いとされます。 外科的治療|症状が重篤な場合 運動機能が完全に麻痺している場合や、神経症状の進行が見られる場合は速やかに外科的治療を検討します。少しでも麻痺が見られれば速やかに手術すべきとの考えもあります。 発症から24時間以内に手術できれば、重度の麻痺から回復できる可能性が高まるとの報告もあり、素早い判断が重要です。(文献3) 脊髄硬膜外血腫の手術では、血腫ができている部分の背骨の一部(椎弓(ついきゅう)と呼ばれる部分)を削り、奥にある血腫を取り除きます。(文献1)手術用の顕微鏡を使って血腫を除去し慎重に止血すれば、脊髄を圧迫する原因はなくなります。 脊髄硬膜外血腫に対するリハビリテーション 初期治療後に残った症状は、リハビリテーションを行いながら改善を目指します。 リハビリテーションとは、病気や怪我の後に社会復帰を目指して行う訓練の総称です。 病気や怪我以前の生活水準を目指し、日常生活を見据えた身体的訓練のほか、不安や無力感などの精神的な障害には心理的訓練、また必要に応じて職業訓練も行われます。 リハビリテーションに携わるスタッフは、医師や看護師に加えて、作業療法士や理学療法士、言語聴覚士などのスペシャリストです。 病院で行われることもあれば、リハビリ専門施設で実施されることもあります。 脊髄硬膜外血腫の急性期リハビリ 怪我や病気を患った直後の急性期は、まず全身状態を落ち着かせ、損傷や障害を最低限に抑えるためのリハビリテーションが必要となります。 具体的には、以下の訓練を実施します。(文献5) 頸髄や上位胸髄の損傷による呼吸機能低下に対しては呼吸訓練 手術後にうまく寝返りができない場合には、床ずれ予防のために体位変換訓練 ベッド上で動けない間に関節が固まってしまわぬように関節可動域訓練 全身状態が安定後のリハビリ 全身状態が落ち着いた後は、症状に合わせて積極的にリハビリテーションを進めていくことが重要です。 脊髄硬膜外出血によって脊髄が大きなダメージを受けた場合は、神経障害などを完全に取り除くのは難しく、後遺症が出ることが多いでしょう。 そのため、早期からのリハビリテーションを通じて、残存した能力を強化し、必要な筋力や柔軟性を取り戻します。 具体的には以下を実施し、合併症を避けて自分で尿路管理できることを目指します。 両下肢の麻痺(対麻痺)の場合には上肢の筋力を高め、プッシュアップ動作を練習し、車椅子の訓練 排尿障害を患っている場合は、腹壁徒手圧迫法や反射誘発、自己導尿法などの指導 脊髄硬膜外血腫の予後 脊髄硬膜外血腫はまれな疾患で、死亡率や予後についての情報も少ないのが現状です。 最初の運動麻痺が軽度の場合や、重度であっても早く血腫を取り除ければ良好に回復する傾向がありますが、確実に回復するかどうかは一概にはいえません。 海外で脊髄硬膜外血腫の報告を1000例以上集めて検討した論文では、死亡が確認された例は7%だったと報告されています。年齢別では40歳以上が9%、40歳未満が4%で、治療法によらず40歳以上では死亡率が有意に高くなると報告されました。(文献8) 後遺症については、初めの症状が軽度であった患者群では、8.5%がわずかな障害を示すのみでした。一方で、初めの症状が重篤だった患者群では、28.3%に軽度の障害が残っています。(文献8) また、日本国内のある病院では、自院で治療を行った16症例を分析しました。この報告では、完全治癒が10例(2回発症し2回とも完全治癒した例を含む)、軽度の運動麻痺が残ったケースが6例、死亡が1例でした。死亡例は、合併していた大動脈解離と腎不全が直接の原因とされています。(文献9) 脊髄硬膜外血腫の術後後遺症に対する再生医療 再生医療は、失われた身体の組織を再生する能力、つまり自然治癒力を利用した医療です。脊髄硬膜外血腫の手術後に残ってしまったしびれ、麻痺などの後遺症に対する治療として「幹細胞治療」が適応される可能性があります。 当院リペアセルクリニックで行う再生医療「自己脂肪由来幹細胞治療」では、患者様から採取した幹細胞を培養して増殖し、その後身体に戻します。自分自身の細胞から作り出したものを用いるため、アレルギーや免疫拒絶反応のリスクが極めて低い治療法です。 日本での一般的な幹細胞治療は、点滴によって血液中に幹細胞を注入するものです。しかし、それでは目的の神経に辿り着く幹細胞数が減ってしまいます。 そこで当院では、損傷した神経部位に直接幹細胞を注入する「脊髄腔内ダイレクト注入療法」を採用しています。注射によって脊髄のすぐ外側にある脊髄くも膜下腔に幹細胞を投与します。 幹細胞の培養には時間を要しますが、治療そのものは短時間の簡単な処置で、入院も不要です。 実際に当院では術後や外傷、脊髄梗塞、頚椎症による神経損傷に由来する麻痺やしびれ、疼痛などの後遺症に対して再生療法を施しております。 脊髄硬膜外血腫の術後後遺症にお悩みの方は、ぜひ一度リペアセルクリニックへお問い合わせください。 まとめ|脊髄硬膜外血腫の後遺症への理解を深めて正しい治療法を選択しましょう 脊髄硬膜外血腫を発症した場合、保存的治療または外科手術により治療を行います。麻痺の程度や、出血しやすい要因を考慮して治療を選択しますが、症状の変化に応じた素早い判断が重要です。 また、後遺症には運動障害や感覚障害、排尿・排便障害などがあります。回復には早期のリハビリテーションによる残存能力の強化や、合併症予防のための訓練が大切です。 さらに、多大なダメージを受けてしまった神経を元に戻す治療がなかった中で、近年になって再生医療が多くの患者様へ提供可能となりました。 当院では入院不要、外来診療のみで再生医療を受けられますので、気になる方はぜひ当院へ一度ご相談ください。 参考文献 (文献1) 日本脊髄外科学会「特発性脊髄硬膜外血腫」日本脊髄外科学会ホームページ https://www.neurospine.jp/original63.html(最終アクセス:2025年3月21日) (文献2) 中村直人ほか.「特発性脊髄硬膜外血腫の臨床診断と治療方針」『脊髄外科』32(3), pp.306-310, 2018年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/32/3/32_306/_pdf(最終アクセス:2025年3月21日) (文献3) 武者芳朗ほか.「急性脊髄硬膜外血腫に対する保存療法の適応と手術移行時期」『脊髄外科』29(3), pp.310-314, 2015年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/29/3/29_310/_pdf(最終アクセス:2025年3月21日) (文献4) 西亮祐ほか.「特発性脊髄硬膜外血腫に対する当院での治療成績の検討」『済生会滋賀県病院医学誌』32, pp.15-20, 2023 https://www.saiseikai-shiga.jp/content/files/about/journal/2023/journal2023_4.pdf(最終アクセス:2025年3月21日) (文献5) 日本リハビリテーション医学会「脊髄損傷のリハビリテーション治療」日本リハビリテーション医学会ホームページ https://www.jarm.or.jp/civic/rehabilitation/rehabilitation_03.html(最終アクセス:2025年3月21日) (文献6) 日本脊髄外科学会「脊髄損傷」日本脊髄外科学会ホームページ https://www.neurospine.jp/original62.html(最終アクセス:2025年3月21日) (文献7) 吉原智仁ほか.「当科で経験した脊髄硬膜外血腫の 3 例」『整形外科と災害外科』65(4), pp.845-848, 2016年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai/65/4/65_845/_pdf(最終アクセス:2025年3月21日) (文献8) Maurizio Domenicucci, et al. (2017). Spinal epidural hematomas: personal experience and literature review of more than 1000 cases.J Neurosurg Spine, 27(2), pp.198–208. https://thejns.org/spine/view/journals/j-neurosurg-spine/27/2/article-p198.xml?tab_body=pdf-27560 (Accessed: 2025-03-21) (文献9) 原直之ほか.「特発性脊髄硬膜外血腫の 16 症例の臨床分析 ―脳卒中との類似点を中心に―」『臨床神経学』54(5), pp.395-402, 2014年 https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/054050395.pdf(最終アクセス:2025年3月21日)
2024.07.23 -
- 手部、その他疾患
- 手部
「何だかガングリオンが急に痛い」 「手首のしこりが腫れてズキズキ痛む。放置しても大丈夫?」 そんな不安を抱えてこの記事に訪れた方は、今すぐの対応が必要かもしれません。 ガングリオンは良性の腫瘍の一種で放置しても自然に治ることもありますが、自己判断で対処すると、症状の悪化や他の病気を見逃す可能性もあります。 そこで本記事では、ガングリオンが痛いときの対処法や、やってはいけないことを解説します。 ただすでに強い痛みや違和感がある・不安を感じる場合は、まずはお気軽にお電話でご連絡ください。 当院ではガングリオンの神経圧迫や再発リスクに対し、手術なしでアプローチする「再生医療」のご相談を受け付けております。 ▼どんな些細なこともお気軽にご連絡ください >>お電話はこちらをクリック ガングリオンとは? ガングリオンは、関節内にある液体がガングリオンの袋に流れてコブになった良性腫瘍です。 2つの骨がつながる関節は、袋のような関節包で守られており、関節包の中は滑液(関節を保護する潤滑油)で満たされています。この滑液が、なんらかの理由でできたガングリオンの袋に流れるとコブ状の腫瘤(しゅりゅう)が形成されます。 なぜガングリオンの袋ができるのか原因は分かっていません。手首や足、足首などの関節周囲のほか、骨と筋肉をつなぐ部分の腱や、腱を支えるさやの役割である腱鞘(けんしょう)にもガングリオンができます。 以下の記事では、手首にできるガングリオンについて詳しく解説しています。手首にガングリオンらしいコブがある方はとくに参考にしてみてください。 ガングリオンの原因は特定されていませんが、体の様々な部位に痛みや不調が現れることがあります。 また、筋肉や腱、靭帯損傷の治療に効果が期待できる、人間の自然治癒力を活用した最新の医療技術である「再生医療」をご存じでしょうか。 当院の公式LINEでは、ひざ・肩・股関節の痛み・しびれ・スポーツによるケガなど、幅広い症状に関する情報や最新の治療法についてご紹介しています。 体の不調に対して手術以外の治療方法が知りたい方は、ぜひ当クリニックの公式LINEから症例や再生医療に関する最新情報をご確認ください。 ▼気になる症状の無料診断あり >>公式LINEはこちら ガングリオンはなぜ痛むのか ガングリオンは無症状の場合もありますが、以下のような症状を伴う方もいます。 コブのあるところが痛む 手足が痺れる・感覚が鈍くなる ガングリオンが神経にちかい場所にできると、神経を圧迫して痛みや手足の痺れ、感覚鈍麻といった症状がでます。 はじめは無症状でも、ガングリオンが大きくなると神経を圧迫しやすいため、大きくなるガングリオンは注意しましょう。 ガングリオンが痛いときの対処法2選 ガングリオンと疑われるコブが痛いと感じたときの対処法を解説します。 安静にして様子を見る 病院を受診する 症状に合わせて適切な対処法を選びましょう。 安静にして様子を見る ガングリオンは自然に治るものもあります。以下のように症状が軽度であれば、安静にして様子を見る選択もできます。 赤く腫れない 痛みや痺れが少ない コブが大きくならない ただし「この程度の症状であれば放置しても大丈夫だろう」と自己判断するのは危険です。症状が悪化して、痛みが強く出たり、関節の動きに支障が出たりする可能性があるためです。 ガングリオンの疑いがある場合は、なるべく医師に診てもらい、様子見で良いかを判断してもらいましょう。 病院を受診する ガングリオンの肥大化により関節が動かしにくくなったり、痛みやしびれが気になったりと生活に支障が出ている場合は、病院を受診して治療しましょう。 ガングリオンは小さくても、神経を圧迫していると痛みやしびれをともないます。大きさにかかわらず、気になる症状があれば専門医に診てもらうのがおすすめです。 ガングリオンの治療では、注射で内容物を吸引する方法が一般的です。ただし、この治療だとガングリオンの袋自体は体内に残ったままなので、再発する可能性があります。 再発を繰り返す場合は、手術でガングリオンの袋自体をとる手術も視野に入ってきます。 病院での治療を検討する中で、一般的な治療法に加えて手術を必要としない再生医療という選択肢があることをご存知でしょうか。 当院の公式LINEでは、再生医療を含む様々な治療法に関する情報を提供していますので、ご自身の症状や状況に合った治療法を選ぶための一助となれば幸いです。 ▼気になる症状の無料診断が可能 >>公式LINEはこちら ガングリオンが痛いときにやってはいけない3つの対処法 ガングリオンが痛いときにやってはいけない対処法を3つ紹介します。 強い痛みや長期の痛みを放置する 自分でガングリオンを潰す ガングリオンがある場所に負荷をかける 1つずつ見ていきましょう。 強い痛みや長期の痛みを放置する ガングリオンが強い痛みや長期の痛みを伴う場合、放置しておくのは危険です。以下のように、ガングリオンと似ているほかの病気の可能性があるためです。 病名 主な症状 粉瘤(ふんりゅう) 炎症が起き腫れる・悪臭が発生する 脂肪腫 悪性の場合がある 滑液包炎 炎症が強くなる・痛みが増す ガングリオンによく似ている粉瘤の中身は垢や老廃物で、放っておくと赤く腫れたり、悪臭が発生します。 ほかにガングリオンによく似ている腫瘍の1つに脂肪腫があります。脂肪腫は脂肪がつまったコブですが、まれに悪性腫瘍である脂肪肉腫の場合があります。悪性腫瘍はコブの成長が早い・コブの形がいびつなどの特徴があるため、当てはまる条件があれば病院を受診しましょう。 滑液包炎もガングリオンによく似ており、ケガや関節の使いすぎで炎症を起こしコブができます。中身は血混じりの滑液で、放置すると炎症が強くなって痛みが増したり、関節が動かしにくかったりする症状がでます。 見た目だけでガングリオン・粉瘤・脂肪腫・滑液包炎を見分けるのは難しいため、症状がなく放置したい場合でも病院へいき、医師に診てもらうと安心です。 腱や筋肉の損傷に効果的な治療法の1つに「再生医療」があります。人間の自然治癒力を活用した治療なので、身体への負担を最小限にできます。 ガングリオン以外で手や腕に痛みやしびれなどの症状がある方は、再生医療専門の『リペアセルクリニック』にお気軽にご相談ください。 ▼関節の症例・再生医療の情報を無料で配信中! >>公式LINEはこちら 自分でガングリオンを潰す ガングリオンの痛みが気になって自分で押し潰そうとする方もいますが、自分で処置するのは危険です。神経を圧迫して、新たなしびれや痛みを引き起こす可能性があるためです。 痛みが気になる場合は自分で対処しようとせず、病院を受診して適切な治療を受けましょう。 ガングリオンがある場所に負荷をかける 痛みの有無にかかわらずですが、ガングリオンがある場所に負担をかけてはいけません。関節に負荷がかかると、関節包にある滑液がガングリオンの袋に流れやすくなり、コブが肥大化してしまう可能性があるためです。 たとえば、手首にガングリオンができた場合、手をついて立ち上がったり、手首を大きくひねったりする動作を極力控えるようにしましょう。 まとめ|ガングリオンが痛いときの対処法を知って適切にケアしよう 強く痛みを伴うガングリオンの場合は、病院を受診て専門医に診てもらいましょう。適切な治療を受けられれば、気になる症状を早期に改善できるはずです。 また、コブの出現や痛みの原因が、ガングリオンと似ているほかの病気の可能性もあります。それが悪性腫瘍のケースもあります。 自己判断で痛みを放置するのはリスクを伴うので、早めに専門医の診断を受けましょう。 手や足の筋肉や腱、靭帯を損傷したときは「再生医療」が効果的です。再生医療は身体にメスを入れない治療法なので、患者の負担が少ないです。「実はガングリオン以外の症状も気になる…」という方は、再生医療専門の『リペアセルクリニック』にお気軽にご相談ください。 ガングリオンでよくある質問ガングリオンに関するよくある質問 最後にガングリオンに関するよくある質問と回答をまとめます。 ガングリオンと悪性腫瘍の見分け方は? ガングリオンは良性の腫瘍です。しかし、ガングリオンだと思っていたコブが悪性の脂肪肉腫だったケースや、炎症を繰り返していた粉瘤が悪性化するケースが極めてまれに起こります。 悪性の場合は、コブに以下のような特徴があります。 色むらがある 急に大きくなった 形がボコボコしている コブとまわりの境界線がはっきりしない 悪性の腫瘍は、まわりの組織ににじむように大きくなるため、コブとまわりの組織の境界がはっきりしません。また、違和感のある色や形のコブが出現したり、急速にコブが大きくなったりするなどの特徴があります。 自己判断するのは難しいため、該当する特徴があれば病院を受診して検査してもらいましょう。 以下の記事では、ガングリオンと悪性腫瘍の見分け方を解説しています。見分け方の知識を深めたい方は、参考にしてみてください。 ガングリオンは何科で受診すればいい? ガングリオンは関節が関係しているため、基本的には整形外科で治療します。ガングリオンに似ている脂肪腫や粉瘤などは皮膚科や形成外科で診察するのが一般的です。 ガングリオンが自然に消えた原因を知りたい 自然に消えるのはガングリオンの袋がやぶけるためです。 ガングリオンの袋は大きくなると、局所的に薄い部分ができます。薄い部分は、関節を動かしたり、ぶつけたりする衝撃でやぶれやすくなります。 ガングリオンの袋がやぶけると中身の液体が流れ出し、ガングリオンが小さくなったり、消失したりします。 ガングリオンができやすい人の特徴は? 臨床報告の資料には、ガングリオンは中年の女性に多いと記載されています。20〜30代の男女比の割合は1:3であると同資料に示されています。(文献1) ガングリオンが発症するメカニズムは、まだ明確にわかっていません。つまり、ガングリオンができる部位を動かしすぎているからといって発症するとは言い切れないのです。 ガングリオンが足にできたときの対処法は? ガングリオンが足にできた場合でも、本記事で紹介した対処法が適用できます。 ガングリオンは自然に消えるケースがあるので、コブが小さかったり、痛みがなかったりする場合は、安静にして様子を見る選択もできます。 コブが大きくなってきたり、痛みが出たりする場合は、病院を受診して今後の治療方針を専門医と考えていくのが良いでしょう。 以下の記事では、ガングリオンが足にできたときの原因や症状を解説しています。治療法についても解説しているので、足にガングリオンができて悩んでいる方は参考にしてみてください。 参考文献 文献1:https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed/67/4/67_371/_pdf/-char/ja 日本整形外科学会「ガングリオン」 Treatment of ganglion cysts Ganglions of the hand and wrist
2024.07.22 -
- 関節リウマチ
- 内科疾患
「関節リウマチってどのような病気?」「関節の痛みや腫れが続いているけど、どうすればいいの?」 このように悩んでいる方も多いのではないでしょうか。 関節リウマチは、関節の炎症と痛みを主な特徴とする慢性的な自己免疫疾患です。適切な治療を受けなければ、関節の変形や機能障害が進行し、日常生活に支障をきたす恐れがあるでしょう。 今回は、関節リウマチの症状や診断基準、最新の治療法に加えて、日常生活での管理方法について詳しく解説します。この記事が、関節リウマチと診断され症状に悩んだり、適切な治療法を探したりするあなたの助けになれば幸いです。 関節リウマチとは? 関節リウマチは、免疫システムの異常により、自分自身の関節を攻撃してしまう自己免疫疾患です。 関節の炎症が慢性的に続き、痛みやこわばり、腫れなどの症状が現れます。病状が進行すると、関節の変形や機能低下を引き起こし、日常生活の質(QOL:quality of life)に大きく関わってきます。 QOLとは、個人が日常生活において感じる身体的、心理的、社会的な幸福感や満足感を表わす概念です。関節リウマチによる関節の痛みや変形は、日常的な動作に支障をきたし、社会活動への参加を制限するなど、QOLを低下させる可能性があります。 疾患の概要と一般的な症状 関節リウマチは、関節滑膜の炎症を主体とする全身性の自己免疫疾患です。この疾患の特徴は以下のとおりです。 炎症が慢性的に持続することで、軟骨や骨の破壊が進行する 関節の変形や機能障害を引き起こす 関節リウマチの一般的な症状は、関節の症状と全身症状に分けられます。関節の症状には以下のようなものがあります。 痛み 腫れ 熱感 こわばり これらの症状は、とくに手足の小さな関節から始まるケースがほとんどです。 また、全身症状として以下のような症状をともなう場合もあります。 倦怠感 微熱 体重減少 前述のように、関節リウマチは関節の症状だけでなく、全身に影響を及ぼす可能性もある疾患です。 リウマチが体に及ぼす影響 関節リウマチは、関節の炎症と破壊を引き起こすだけでなく、全身のさまざまな臓器に影響を及ぼす可能性があります。 影響 理由 慢性的な炎症反応 関節リウマチでは、免疫システムの異常により、関節だけでなく全身で炎症反応が起こっています。 この炎症反応が長期間続くことで、関節以外の臓器や組織にも影響が及ぶ場合があります。 炎症性物質の全身への拡散 関節の炎症によって生じた炎症性物質(サイトカインなど)が血液を介して全身に拡散します。 これらの炎症性物質が他の臓器や組織に作用し、炎症や損傷を引き起こす可能性があります。 免疫システムの異常による臓器障害 関節リウマチでは、自己免疫反応によって関節が攻撃されますが、この異常な免疫反応が他の臓器にも影響を及ぼすことがあります。 例えば、血管や肺、心臓などの組織に対する自己抗体が生じ、これらの臓器に炎症や損傷が起こる可能性があります。 全身性の炎症による動脈硬化の促進 慢性的な炎症状態は、動脈硬化の進行を促進します。 動脈硬化が進むと、心臓病や脳卒中などの心血管疾患のリスクが高まります。 症状の詳細 関節リウマチの症状は多様で、その現れ方や重症度には個人差があります。また、同じ人でも症状は時期によって変動することがあります。 典型的な症状とその変動性 関節リウマチの代表的な症状は、以下のようなものがあります。 症状 特徴 関節の痛み、腫れ、熱感、こわばり 特に、手や手首、足、膝などの関節に多く見られます。 症状は左右対称に現れることが多いです。 朝のこわばり 朝起きた時に関節のこわばりを感じ、動かしにくいことがあります。 このこわばりが1時間以上続くことが特徴です。 これらの症状は、日内変動を示すことがあります。つまり、一日の中で症状が変化したり、日によって症状の強さが異なったりする場合がほとんどです。 また、症状は悪化と改善を繰り返すことがあり、症状が一時的に良くなったからといって、油断せずに継続的な観察と治療が必要です。 症状の初期識別とその重要性 関節リウマチの早期発見と治療開始は、関節の損傷の進行を抑え、長期的な予後を改善するために非常に重要です。 初期症状は軽度で一時的なものから始まるケースがほとんどです。 しかし、以下のような症状が数週間以上続く場合は、慢性関節リウマチの可能性を考えて、早めに医師に相談しましょう。 手足の小さな関節の腫れや痛み 朝のこわばりが1時間以上続く これらの症状を見逃さず、早期に診断し治療を開始することで、症状の進行を抑え、日常生活動作の維持や生活の質の向上が期待できるでしょう。 診断基準の解説 関節リウマチの診断は、症状や身体所見、血液検査、画像検査などを総合的に評価して行われます。早期診断と適切な治療開始のために、分類基準が作成されています。 リウマチ診断のための基準とプロセス 米国リウマチ学会と欧州リウマチ学会が共同で策定した分類基準では、以下の項目を評価します。 影響を受けた関節の数(大きな関節と小さな関節の数) 血液検査の結果(リウマトイド因子や抗環状シトルリン化ペプチド抗体の有無) 炎症の指標(CRP値や赤血球沈降速度) 症状の持続期間(6週間以上) これらの項目に基づいてスコアを計算し、一定以上のスコアになると関節リウマチと診断されます。診断の過程では、問診、身体診察、血液検査、画像検査(X線やMRIなど)を組み合わせて総合的に評価します。 診断における挑戦と注意点 早期の関節リウマチでは、典型的な症状や血液検査の異常が見られないことがあり、診断が難しい場合もあります。 また、他の関節疾患との区別も重要です。専門医は、豊富な経験をもとに総合的に判断します。 診断後も、定期的に患者の状態をモニタリングし、治療方針を適宜見直すことが必要です。 また症状や検査結果の変化を見逃さず、適切な治療を続けることが重要です。 現代の治療法 関節リウマチの治療は、炎症を抑えて症状を和らげたり、病気の進行を防いだりするのを目的とします。早期に診断し、治療をはじめることが大切です。 治療には以下の方法があります。 薬物療法 非薬物療法 それぞれについて解説します。 薬物療法:DMARDs、生物学的製剤、ステロイド 関節リウマチの治療では、いくつかの種類の薬が使用されます。それぞれの薬には特徴があり、患者さんの状態に合わせて選択されます。 以下の表は、関節リウマチの治療で使われる主な薬の種類と、その特徴をまとめたものです。 薬剤の種類 具体的な薬 特徴と効果 抗リウマチ薬(DMARDs) メトトレキサート(MTX) レフルノミド、サラゾスルファピリジンなど 第一選択薬 炎症と関節損傷を抑える効果が期待される MTXが不十分な場合に追加される場合がある 生物学的製剤 TNF阻害薬、IL-6阻害薬など 炎症を引き起こす物質をブロックし、抗炎症効果を発揮 ステロイド薬 プレドニゾロンなど 急な炎症時に短期間使用される 炎症を速やかに抑える効果が期待される これらの薬剤を適切に組み合わせることで、関節リウマチの症状管理と関節の損傷抑制が期待できます。 非薬物療法:物理療法、運動療法、生活習慣の調整 関節リウマチの治療では、薬物療法と並行して、薬を使わない治療法も大切な役割を果たします。非薬物療法は、関節の健康を維持し、日常生活の質を向上させるために重要です。以下の表に各治療法の内容、目的、説明をまとめました。 非薬物療法の種類 内容(例) 目的 説明 運動療法 水中での運動 ストレッチ 軽い負荷を使った筋力トレーニング 関節の動きの維持 筋力の維持 過度な負担を避ける 水中運動は関節に負担をかけずに運動ができるため用いられます。ストレッチや軽い筋力トレーニングも、関節の柔軟性と筋力を維持するために重要です。 物理療法 温熱療法 寒冷療法 光線療法 水治療 その他 関節の痛みの軽減 関節の腫れの軽減 関節の痛みや腫れを軽減し、症状の緩和が期待できます。 作業療法 日常動作の練習 職場復帰のための訓練 日常生活の改善 社会復帰の促進 手指の過度な負担を避ける 日常生活の動作を練習することで、自立した生活を送るためのサポートを行います。状況によっては職場復帰のための訓練も含まれます。 装具療法 頸椎カラー 手関節装具 足関節サポーター 傷んだ関節の保護 変形の予防 痛みの軽減 頸椎カラーや手関節装具、足関節サポーターなどを使用することで、関節を保護し、変形や痛みを軽減しやすくします。 生活習慣の工夫 疲労のコントロール 関節に負担をかけない生活 適度な体重の維持 バランスの取れた食事 禁煙 症状の改善 全身状態の改善 疲労管理や適切な体重の維持、バランスの取れた食事、禁煙などの生活習慣の改善は、症状の改善と全身状態の向上に期待できます。 これらの非薬物療法を適切に組み合わせることで、関節リウマチの症状を上手にコントロールし、日常生活の質を高めることが期待できます。人によって状況は異なるため、専門家の指導を受けながら、自分に合った方法を見つけていくことが大切です。 日常生活での管理とサポート 関節リウマチは、日常生活にさまざまな影響を及ぼします。症状のコントロールと合併症の予防のために、日常生活での適切な管理とサポートが重要です。 日常生活での調整と自己管理のヒント 関節リウマチとうまく付き合っていくには、日常生活での工夫が重要です。関節への負担を減らすために、以下のようなことを心がけてみましょう。 関節に負担をかけない動作を心がける 自助具を活用する 疲れをためすぎないよう、休息と活動のバランスを取る 適度な運動を行い、関節の機能を維持する(ただし、やりすぎは禁物) バランスの取れた食事を心がける 禁煙する ストレス対処法を身につける 患者サポートと地域リソースの活用 疾患と向き合っていくには、周りの人のサポートがとても大切です。 家族や友人に病気のことを理解してもらい、協力を求める 同じ病気の人と交流し、情報交換や精神的な支え合いをする 患者会や支援団体に参加し、さまざまな情報やサポートを得る 医療ソーシャルワーカーや看護師から、利用できる社会資源の情報を得る 訪問看護やリハビリ、介護サービスなどを上手に活用する まとめと次のステップ 関節リウマチは、適切なケアと上手な病気との付き合い方で、充実した生活を送ることができます。早期発見と早期治療が大切であり、患者さん自身が積極的に病気の管理にかかわることも重要です。 持続可能な管理戦略と医療チームとの連携 関節リウマチの管理は長期戦です。医師、看護師、薬剤師、理学療法士など、さまざまな専門家からなる医療チームと連携しながら、自分に合った管理方法を見つけていきましょう。 ステップ 内容 1 定期的な通院と検査を続ける 2 治療方針を医療チームと相談しながら調整する 3 体調の変化や副作用、生活上の問題を医療者に伝える 4 セルフマネジメントのスキルを身につけ、主体的に病気と向き合う 情報更新と自己啓発の重要性 医学は日々進歩しており、関節リウマチの治療法も新しい選択肢が増えています。信頼できる情報源から最新の情報を得ることで、自分に合った治療法を見つけやすくなります。 主治医や看護師から、新しい治療法や臨床試験について情報を得る 患者会や講演会に参加し、他の患者さんの経験や専門家の意見を聞く 関節リウマチの専門団体が発行するパンフレットやWebサイトで、最新の治療ガイドラインをチェックする 関節リウマチと診断されたからといって、諦める必要はありません。適切な治療と生活管理によって、症状をコントロールしやすいでしょう。 定期的に通院し、病気の活動性をモニタリングする 処方された薬は指示通りに服用し、副作用があれば医師に報告する 疲労を管理し、関節に負担をかけない生活を心がける 適度な運動とバランスの取れた食事で、全身の健康を維持する また、日常生活での工夫も大切です。 困難な作業は家族や友人に助けを求める 関節に負担のかかる動作を避け、自助具を活用する 患者会に参加し、同じ病気を持つ人と情報交換やサポートし合う 症状和らげたり、病気の進行を遅らせたりするには、医療チームとの連携と自己管理が重要です。あなたに合った方法を見つけ、必要な調整を行いながら、できる限り自分らしい生活を送ることを目指しましょう。 参考文献一覧 一般社団法人日本リウマチ学会.“関節リウマチ(RA)”.日本リウマチ学会ホームページ 厚生労働省.“第6章関節リウマチ” 厚生労働省.“内科的治療法“ 公益財団法人日本リウマチ財団.“関節リウマチの治療 – リハビリテーション”.リウマチ情報センター.2022-09 公益財団法人日本リウマチ財団.“初めから起こる症状”.リウマチ情報センター.2022-10 公益財団法人日本リウマチ財団.“中期以降の症状”.リウマチ情報センター.2022-10 公益財団法人日本リウマチ財団.“関節リウマチの診断”.リウマチ情報センター.2022-10
2024.07.22 -
- 股関節、その他疾患
- 股関節
大転子滑液包炎(だいてんしかつえきほうえん)は、特にランニングやスポーツなどをおこなう方に多く、1,000人中の5〜6人が発症します。 また、男性よりも女性、40~60歳の方が発症しやすいと言われてます。 大転子滑液包炎について以下のようなお悩みがありませんか? 痛みの改善方法が分からない 症状を悪化させる原因を知りたい ストレッチや運動などの予防策を知りたい この記事では大転子滑液包炎を改善・予防するための正しい知識を身につけ、原因や生活習慣、予防策について解説しています。 将来、自分の足が大転子滑液包炎になるのを防ぐためにも、適切な対策を行えるようになりましょう。 大転子滑液包炎とは? 大転子滑液包炎とは、 股関節の外側に存在する大転子という骨の周囲の滑液包が炎症を起こす症状 です。滑液包とは、関節や筋肉がスムーズに動くために存在する滑液という潤滑液を含む袋のことで、滑液包が炎症を起こすと関節や筋肉の動きが制限され、多くの場合、痛みを伴います。 大転子滑液包炎の原因には「大腿筋膜張筋」と「腸脛靭帯」の2つが関係しています。この2つの組織は大転子の上部を通過しているため、ランニングやサイクリングなどの同じ動作が行われ大転子滑液包と摩擦が起きることで炎症すると言われています。 また、大転子滑液包炎のリスクとなる要因は下記4つです。 転倒やスポーツなどによる外傷 大転子に付着する組織(中殿筋・小殿筋など)の損傷に伴う二次的な滑液包炎 滑液包自体の摩擦・微細損傷による炎症 関節リウマチや痛風などの疾患 外傷や内部の炎症性疾患が大転子滑液包炎を引き起こす要因です。 現在、股関節の疾患に対する治療法のひとつとして「PRP療法(再生医療)」 が注目されています。人間の自然治癒力を活用した治療なので、身体への負担を最小限にできます。詳しい治療方法や効果が気になる方は、再生医療専門の『リペアセルクリニック』にお気軽にお問い合わせください。 大転子滑液包炎の症状 発症初期のころの痛みは股関節の外側と局所的ですが、症状が悪化すると大腿の外側まで痛みの範囲が拡大します。また、大転子を圧迫すると痛みが出現するため、横を向いて寝ることが大変になります。 また、痛みの程度により、日常生活やランニングなどの趣味活動に制限される場合もあるのです。 下記の記事では、股関節の疾患についてまとめています。ほかの病気もチェックしたい方は、あわせてご覧ください。 大転子滑液包炎が発症する原因3つ 大転子滑液包炎の原因は大きく分けて以下の3つがあります。 大転子を動かす激しい運動 長時間の立ち仕事 肥満体型 それぞれ以下で詳しく解説します。 大転子を動かす激しい運動 ランニングやサイクリングなどを頻繁に行う方は、大転子滑液包に対する摩擦が増え、炎症を引き起こす可能性があります。 階段の上り下りや、登山といった関節の動きが活発な動作も、大転子滑液包に負担をかけるため、大転子滑液包炎になる要因のひとつです。 長時間の立ち仕事 一般的に長い時間立っている方は、大転子滑液包にストレスがかかりやすいため、大転子滑液包炎を発症しやすくなります。 また、散歩やランニングの際に体が左右どちらかに傾いていたり猫背などの不良姿勢であることも、大転子滑液包にストレスがかかる原因となります。 このため、立ち仕事が増えたことや、ランニングを始めてから大転子周囲に痛みが出現した方は、大転子滑液包にストレスがかかっているかもしれません。 肥満体型 生活習慣では肥満も大転子滑液包炎の発症に影響を与えます。なぜなら、体重が増えると大転子滑液包にかかる負担も増加するためです。 肥満傾向の方は、体重を少し落とすだけでも痛みや症状の進行を抑えられるでしょう。 また、大転子滑液包炎は「PRP療法(再生医療) 」でも治療できます。PRP療法(再生医療)とは、血液に含まれる血小板の力を利用して傷ついた組織を修復する医療技術です。身体に負担の少ない治療法として、今注目されています。 「PRP療法(再生医療)で大転子滑液包炎はどうやって治療するの?」と気になる方は、再生医療専門の『 リペアセルクリニック 』にお気軽にお問い合わせください。実際の治療例をお見せしながら、再生医療の仕組みをわかりやすくお伝えいたします。 大転子滑液包炎の診断方法 大転子滑液包炎の診断は以下を用いて総合的に行われます。 問診 身体所見の確認 MRI 問診では、これまでの病歴や痛みが出現する前に行っていたこと、どのような時に痛いのかを確認します。身体所見の確認では、大転子を圧迫し痛みが出現するのかを確かめます。関節包に水が溜まっているかどうかや関節包の炎症の有無の判断は、MRIを使用しなければ分かりません。 大転子滑液包炎の効果的な治療方法 大転子滑液包炎の治療方法は大きく分けて以下の3つです。 保存的治療 手術療法 PRP療法(再生医療) それぞれ以下で詳しく解説します。 保存的治療 大転子滑液包炎の保存的治療の重要な目標は、痛みの軽減を図ることです。大転子滑液包炎に限らず、炎症があり痛みが強い場合にはアイシングが有効です。アイシングをすることで炎症を抑え痛みを抑制できます。 また、大転子滑液包の炎症を抑えるためには、ステロイドの注射や消炎鎮痛剤の内服も有効です。しかし、30%の方は痛みが改善しないと言われているため、保存的治療で痛みを改善できない場合には以下の方法の検討も必要となります。 手術療法 大転子滑液包炎が長期化し慢性化すると、大転子滑液包内に異常な血管が生じてしまいます。この場合、ステロイドや消炎鎮痛剤の使用により一時的に痛みは軽減しますが、再度痛みが出現します。 そのため、大転子滑液包炎が長期化している場合は、運動器カテーテル治療を行い、異常な微小血管を減らす治療が有効です。施術時間は20〜30分ほどで終了します。 運動器カテーテル治療後は、大転子滑液包炎による痛みが改善します。しかし、他にも原因がある場合は、痛みが残存する可能性があるため、医師への相談が必要です。 PRP療法(再生医療) 「PRP療法(再生医療)」とは、患者さまの血液に含まれる血小板の治癒力を利用して、傷ついた組織を修復する医療技術です。 注射を打つだけなので、日常生活や仕事への影響はありません。普段どおりの生活を送りながら、早期回復を期待できます。 弊社『リペアセルクリニック』は、再生医療専門のクリニックです。国内での症例数は10,000例以上に及び、多くの患者さんの治療に携わってきました。 大転子滑液包炎は再生医療の治療対象です。弊社では無料相談を受け付けていますので、詳しい治療法や効果を知りたい方はお気軽にお問い合わせください。 大転子滑液包炎の予防法 大転子滑液包炎の予防法を解説します。主な予防法は以下の3つです。 ストレッチ 適度な運動 規則正しい生活習慣 順番に見ていきましょう。 ストレッチ 大転子滑液包炎を予防するためには、股関節周囲の筋肉、 特に「大腿筋膜張筋」の柔軟性を高めること が重要です。大腿筋膜張筋のストレッチは座った状態と寝た状態どちらでも行えます。 まずは座った状態でのストレッチから解説します。椅子に浅く腰掛け、片方の足を反対側の太ももの上に乗せます。上体をゆっくりと前に倒し、太ももの外側に軽い張りを感じるところで20~30秒ほど保持します。反対側も同様に行います。 次に、寝た状態でのストレッチを説明します。両膝を立てて膝を左右どちらかに倒し、20~30秒ほど保持します。膝を右側に倒した時は左足の大腿筋膜張筋、左側に倒した時は右足の大腿筋膜張筋が伸ばされます。 どちらのストレッチも、1日に数回行うことで筋肉の柔軟性を維持できます。ストレッチを行う際は、痛みを感じない範囲で行い、呼吸を止めないように注意しましょう。膝を倒した時に痛みが強い場合は、痛みが出る直前まで倒すことで痛みなくストレッチできます。 無理なストレッチは症状を悪化させる可能性があるため、痛みのない範囲で行うことが大切です。 適度な運動 大転子滑液包炎を予防するためには、股関節周囲の筋力アップが必要です。 ここでは、自宅で簡単に行える以下2つの運動をお伝えします。 スクワット 足を横に開く運動 スクワットの方法は以下のとおりです。 足を肩幅にひらく 膝がつま先より前に出ないように膝を90度ほど曲げる 膝を伸ばし1の状態に戻る 上記を10回繰り返す この時に1つ注意点があり、膝を曲げている時は膝が内側に寄らないようにしましょう。スクワットを行うことで「大腿四頭筋」や「大臀筋」などの筋肉を強化できます。 また、足を横に開く運動は以下のとおりです。 立った状態で椅子や手すりなどに軽くつかまる 体が横に傾かない範囲で片方の足を横に開いて戻す 上記を10回繰り返す この時に1つ注意点があり、足を横に開く時はつま先が外側へ向かないように注意しましょう。足を横に開く運動では「中臀筋」や「小臀筋」の筋肉を強化できます。 規則正しい生活習慣 大転子滑液包炎を生活習慣から予防するためには以下の2つが大切です。 定期的な運動習慣 バランスの良い食事 定期的な運動習慣がなければ足腰の筋力が低下してしまい、大腿筋膜張筋にストレスがかかりやすくなります。また乱れた食生活では肥満につながり、体重が増えることでも大腿筋膜張筋へのストレスが増加します。 これらの日常生活での予防策は、大転子滑液包炎の予防だけでなく、他の整形外科疾患の予防にもつながります。 大転子に関するよくある質問 最後に大転子に関するよくある質問と回答をまとめます。 大転子が痛いと感じたら何科を受診すればいい? 整形外科を受診しましょう。痛みを放置すると症状が慢性化するリスクがあるので、股関節周りに痛みや違和感を感じたら、なるべく早く病院を受診するのがおすすめです。 股関節が突然痛くなり歩けなくなりました。考えられる原因はなんでしょうか? 歩けないほど股関節に痛みが出る原因として考えられるのは、下記の外傷や疾患です。 骨折 大転子滑液包炎 変形性股関節症 変形性股関節症とは、股関節の軟骨がすり減り、骨の変形によって痛みがともなう疾患です。変形性股関節症も「再生医療 」の治療対象です。 まとめ|大転子が痛いと感じたら大転子滑液包炎の可能性あり 大転子滑液包炎は、ランニングやサイクリング、階段の上り下りなど、趣味のスポーツや日常の動作を繰り返す過程で発症します。 症状が悪化すると、歩いたり、横を向いて寝たりする際に強い痛みを感じます。症状の悪化を防ぐためにも、大転子に痛みを感じたら、早めに整形外科を受診しましょう。 現在、大転子滑液包炎の治療法のひとつとして「PRP療法(再生医療)」が注目されています。切らない治療法なので、手術の傷跡や術後の後遺症の心配がありません。 リペアセルクリニック では、無料相談も受け付けていますので「PRP療法(再生医療)で大転子滑液包炎をどうやって治療するの?」と気になる方は、再生医療を専門とする『リペアセルクリニック』にお気軽にお問い合わせください。 参考文献一覧 ・Effect of corticosteroid injection for trochanter pain syndrome: design of a randomised clinical trial in general practice. Brinks A, van Rijn RM, Bohnen AM, Slee GL, Verhaar JA, Koes BW, Bierma-Zeinstra SM BMC Musculoskelet Disord. 2007 Sep 19; 8():95. ・Lustenberger DP, Ng VY, Best TM, Ellis TJ: Efficacy of treatment of trochanteric bursitis: A systematic review. Clin J Sport Med 2011;21(5):447-453. ・Fox JL: The role of arthroscopic bursectomy in the treatment of trochanteric bursitis. Arthroscopy 2002;18(7):E34. ・渡邉 博史.静的ストレッチングの効果的な持続時間について.第47回日本理学療法学術大会.
2024.07.18 -
- 股関節、その他疾患
- 股関節
「人工股関節置換術を受けたのに痛みが続いてしんどい」 「痛みの原因がわからず不安」 人工股関節置換術を受けた方で、痛みが続いて本当に回復するのか不安に感じている方も多いでしょう。痛みが続くと日常生活に支障をきたしたり、回復しない焦りで不安になったりしますよね。 そうした術後の痛みに対しては、適切なリハビリテーションと痛みのコントロールが重要です。 そこで今回は、人工股関節置換術後の痛みの原因から自宅でできるリハビリテーションの方法、人工関節を長期的に保つためのケア方法まで紹介していきます。 人工股関節置換術後の痛みが生じる原因 まず人工股関節置換術後に痛みが生じるのは「遺残疼痛(いざんとうつう)」と呼ばれる状態です。 人工股関節置換術後、痛みは多くの場合数週間から3カ月程度で回復します。 しかし、痛みが気になる方や長引いている方は、主に以下の原因から生じている可能性があります。 手術による損傷 リハビリ不足 感染(合併症) 人工関節の耐久性の問題 それぞれ詳しく解説していきます。 原因1:手術による損傷 人工股関節置換術後に生じる痛みの原因は、手術による損傷が代表的な理由です。 人工股関節置換術は、患部の股関節の骨を削る工程があるため、体への負担がかかる治療法です。骨を削るだけでなく、人工関節の埋め込みに伴い、筋肉や血管などを傷つけてしまいます。 手術をしている最中に神経が引っ張られて損傷し、足の感覚が鈍くなる症例も認められています。 多くの場合、手術による損傷は一時的で回復する傾向にはありますが、長引いている方は早めに担当医師に相談しましょう。 以下の記事では、人工関節における年代別のリスクも取り上げているので、あわせてご覧ください。 原因2:リハビリ不足 人工股関節置換術後に痛みが生じる原因には、リハビリ不足もあげられます。人工股関節置換術後のリハビリは、関節の動きを改善するだけでなく、筋力強化が主な目的です。 リハビリが不足していると、筋肉や靭帯への負荷がかかります。無理に歩くと人工関節周辺にかかった負担が炎症につながってしまうのです。逆に早く痛みを改善しようと、無理なリハビリをおこなってしまうのも注意が必要です。 原因3:感染(合併症) 人工股関節置換術後の痛みは、合併症を引き起こした場合でも現れる可能性があります。 痛みを感じる合併症の代表的なものとして感染があり、痛みが長期的に続いたり、強くなったりする方は注意が必要です。 感染が起こると、痛みのほかに関節の腫れ、発赤、熱感、発熱、倦怠感を伴う場合もあります。 なお、以下の危険因子(特定の病気や状態を引き起こす可能性がある要因)がある方は感染症にかかるリスクが高いため、注意してください 肥満 糖尿病 関節リウマチ 心血管障害など 人工股関節置換術後に痛みだけでなく、感染を疑わせる症状を伴う場合は、早めに整形外科を受診しましょう。 高齢者の方は、危険因子以外に注意しておきたい手術のリスクがあるため、以下の記事もあわせてご覧ください。 原因4:人工関節の耐久性の問題 人工関節の耐久性も術後に痛みを感じる原因の1つです。 人工関節をできるだけ長持ちさせるには、定期的な診察が重要です。しかし、日常生活において過度に負担をかけていると、耐久性に問題が生じてしまいます。 術後は3カ月、6カ月、1年後、その後は年1回のペースでレントゲン検査や医師の診察を受けましょう。 人工関節への負担を抑えるために、杖のような生活支援用具を使用した生活がおすすめです。 さらに、運動をする場合には、ウォーキングや水中エクササイズ、ルームバイクなどの実施をおすすめします。 ジョギングや器械体操、シングルテニスなどを含め、走ったりジャンプしたりと急な動きは避けましょう。 万が一、違和感や痛みを感じた場合は、我慢せずに医師にご相談ください。早期発見や対処が、人工関節の長期的な機能維持につながります。 人工股関節置換術後の痛みに対処する方法 人工股関節置換術後の痛みが気になる方には、以下の方法で対処しています。 薬物療法 リハビリ 再手術 それぞれ詳しく解説していきます。 薬物療法 人工股関節置換術後の痛みに対処するため、まずおこなわれるのが薬物療法です。 主に、炎症を抑えるためにロキソニンのような痛み止めを処方します。ただし、薬物療法の場合は根本的な解決を目的にしているわけではないため注意してください。 また、薬によっては胃腸障害や眠気などの副作用が伴うケースがあります。長期間使用すると、効果が薄れてしまうため、あくまで一時的な対処と覚えておきましょう。 リハビリ 人工股関節置換術後の痛みには、適切なリハビリも重要です。 効果的なリハビリは、関節の動きを改善する運動や筋力をつける運動、日常動作の練習など複数あります。 具体例をあげると、以下のようなリハビリを実施しています。 種類 内容例 関節可動域訓練 下肢の曲げ伸ばし ストレッチポールなどを使った下肢のストレッチ 筋力増強訓練 踏み台昇降運動 椅子からの立ち上がり運動 歩行練習 平行棒内歩行 杖歩行 ひとり歩き バランス訓練 足踏み運動 日常生活動作の訓練 階段の昇り降り 着替え 入浴 トイレ動作 複数の運動を組み合わせ、患者様の状態に合わせて難易度を上げていくと、関節の機能回復と日常生活への復帰がしやすいでしょう。 再手術 人工股関節置換術後の痛みを感じる場合、以下の原因が考えられます。 インプラントの緩み 感染 関節の不安定性 周囲組織の炎症や損傷 診断により原因を特定し、必要に応じて再手術を検討します。 再手術では、緩んだインプラントの交換や、感染組織の除去、位置の修正などを行うことで、多くの場合症状の改善が期待できます。一方で、回復そのものに時間がかかってしまう点には注意が必要です。 人工股関節置換術前の再生医療も1つの選択肢 人工股関節置換術後の痛みは、薬物療法・リハビリ・再手術で対処しますが、そもそも術後の痛みを発症させないために、人工股関節置換前の再生医療も選択肢の1つとなります。 再生医療は、患者様自身の幹細胞を用いて関節の修復・再生を促す治療法です。手術と比べて体への負担が少なく、軟骨の再生や炎症の軽減により、痛みの改善が期待できます。 手術を受けるには入院期間や回復期間が必要で、手術に伴うリスクも考慮する必要があります。対して再生医療は、そのような手術のリスクを避けながら、痛みの軽減と関節機能の改善を目指す新しい治療選択肢です。 再生医療について、より詳しい情報は以下のページでご紹介しています。ぜひご覧ください。 ※再生医療は人工関節置換術後に実施できません。あくまでも人工関節置換術前の選択肢としてご考慮ください。 まとめ・人工股関節置換術後の痛みが気になったら早めの受診を! 今回は人工股関節置換術後の痛みを感じる原因や対処法について解説しました。 人工股関節置換術後の痛みの原因として、手術による損傷やリハビリ不足などがあげられます。 痛みを早く解決するために無理なリハビリをするのはおすすめできません。症状の改善には、専門医による適切な指導のもとでリハビリを進めることが大切です。 また、人工関節の不安定性や炎症が痛みの原因の場合は、再手術が検討されます。「手術を避けたい」「人工股関節置換術後の痛みを避けたい」とお考えの方は、人工股関節置換術前の再生医療も1つの選択肢になることも覚えておきましょう。 当院「リペアセルクリニック」では幹細胞を用いた再生医療を行っています。 当院では、メール相談やオンラインカウンセリングも受け付けているので、ぜひお気軽にご相談ください。 人工股関節置換術後の痛みの原因が知りたい方からのよくある質問 そもそも人工股関節置換術後の痛みはいつまで続くの? 人工股関節置換術後の痛みは、手術した日とその翌日をピークに、1週間程度続きます。痛みは次第に回復し、手術後に処方された痛み止めを徐々に減らしていきます。 術後のつっぱり感も多くの場合、半年程度で回復しますが、長期的な健康維持が大切です。 なお、仕事の完全復帰や旅行、スポーツなどを考えている方は6カ月〜1年程度と考えてください。 無理をしてしまうと、痛みが続く期間が伸びる可能性があるため、定期的な受診をおすすめします。 以下の記事では人工関節置換術について、知っておきたいポイントを網羅的に解説しています。 人工股関節置換術後にやってはいけないことは? 人工股関節置換術後、やってはいけない姿勢や動きがあります。 たとえば、横座りやあぐら、足組みなどがあげられます。和式トイレの使用や前傾姿勢も、脱臼の可能性があるので、控えてください。 また、人工股関節置換術後は適度な運動が推奨されていますが、野球やテニスのような関節の動きが多いスポーツは避けましょう。 日常生活でも階段の利用は控え、立ちっぱなしの時間が長くならないよう、座ってできる作業をおすすめします。 転倒にも注意が必要なため、術後はとくに杖やストックを使って歩くのがおすすめです。 ※上記はあくまでも人工股関節置換術後の禁忌行為です。術式によってやってはいけないことは異なります。 自宅でできる予防法はある? 自宅で簡単に行える予防法は、以下のようなエクササイズです。 エクササイズ 内容 目的 足関節ポンプ運動 仰向けに寝て足を台の上に乗せ、足首を上下に動かし、血流を促進する 浮腫の軽減 ストレートレッグレイズ 手術した脚を真っすぐに保ったまま持ち上げ、保持する 太もも前面の筋力強化 膝の屈曲・伸展運動 椅子に座り、手術した膝を曲げたり伸ばしたりする 太もも前面の筋力強化 上記のエクササイズを毎日行うと、筋力と関節の動きが改善され、日常の動作がスムーズに行える場合もあります。 しかし、人工関節の種類によっては関節の動きに制限があるため、必ず医師や理学療法士の指示に従い、痛みに注意しながら行ってください。 なお、エクササイズだけでなく、日頃の感染予防も大切です。手術した部位を清潔に保てるよう、定期的な受診や抗菌薬の服用が主な予防法です。 発熱や腫れ、痛みが生じた場合は速やかに担当医に相談してください。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングも受け付けているので、気軽にご連絡ください。
2024.07.17 -
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
脊髄出血という病態を聞き慣れない方もいらっしゃると思います。非常に稀な疾患であり、1826年から1997年まで、たった613例しか報告されていません。 脊髄出血は脊髄血管障害の一つであり、脊髄の血管奇形や血管腫による脊髄血管、加えて外傷によって引き起こされます。症状としては、痛みや麻痺、感覚障害を生じます。 この記事では、脊髄出血の原因や症状について、さらに詳しく解説しています。 脊髄梗塞については、こちらの記事をご参照ください。 脊髄血管障害【脊髄出血】について まず脊髄とは、脳から背骨の中を腰に向かって走る太い神経のことを言います。 脳からの指令を全身の筋肉に伝えて動かしたり、逆に筋肉や皮膚など末梢からの情報を脳に伝える伝導路としての役割を果たしています。 脳血管障害である脳梗塞や脳出血は聞いたことがあるかと思います。これと同じことが脊髄でも起きることがあり、それを【脊髄血管障害】と呼びます。 脊髄への血管が何らかの原因で閉塞してしまうと脊髄梗塞、脊髄内や脊髄周辺に出血を生じた場合には【脊髄出血】となります。 これらを専門的にみる診療科は、主に脳神経外科となります。 脊椎は上から頚椎、胸椎、腰椎、仙骨、そして尾椎から成り、それに合わせて脊髄も頸髄、胸髄、腰髄、仙髄、そしてそれより下の神経は馬尾と呼んでいます。 どのレベルの脊髄が障害されたかによって、出現する神経障害も変わってきます。 脊髄出血の分類 脊髄は3層の膜に覆われており、内側から順に軟膜、くも膜、硬膜となっています。 このうちどこから出血しているかによって、分類が変わります。 脊髄内の出血は髄内出血、軟膜とくも膜の間の出血は脊髄くも膜下出血、くも膜と硬膜の間の出血は脊髄硬膜下出血、そして硬膜よりも外側の出血は脊髄硬膜外出血と呼ばれます。 脊髄出血の頻度や患者背景、出血部位について 脊髄出血は非常に稀な疾患であり、1826年から1997年まで、たった613例しか報告されていません。 その後の医療発展や画像検査技術の向上により、脊髄出血の報告数も増えてきましたが、それでもなお稀な疾患であります。 脊髄出血1010症例を検討した報告では、患者さんの平均年齢は47.97歳(年齢幅:0〜91歳)であり、6割以上が男性でした。 障害部位として多かったのは下位頸髄や下位胸髄であり、病変範囲は2椎体間以上に渡ことが多く、最大で6椎体間分にも広がっていました。 脊髄出血の分類別に見ると、脊髄硬膜外出血の頻度が最も多くなっています。 脊髄出血の原因 下記が主な脊髄出血の原因一覧となります。 脊髄出血の原因の大半を占める 外傷性(交通事故や転落など) 外傷の次に多いのが血管奇形によるもの 脊髄髄内動静脈奇形 傍脊髄動静脈奇形 脊髄海綿状血管腫 傍脊髄動静脈瘻 脊髄硬膜動静脈瘻 その他 硬膜外動静脈瘻 医原性(腰椎穿刺や脊椎麻酔などの合併症) これらの血管奇形は、脈管の発生異常によって起きます。 海綿状血管腫も厳密にいうと腫瘍ではなく、血管奇形です。異常血管の塊が膨らんで海綿状になる病気で、大きくなると脊髄を圧迫したり、また出血することで症状を呈します。 動静脈瘻についてですが、通常は血液が動脈から毛細血管に入り、そこで脊髄やその外側の膜に栄養を届けた後に静脈に流れていきます。 しかし、血管奇形によって毛細血管を介さずに動脈からそのまま静脈に血液が流れてしまうことがあり、これを瘻、あるいはシャントと呼んでいます。 上記原因のほか、稀ですが下記のものも原因として知られています。 脊髄腫瘍 血液疾患 抗血栓薬(血液を固まりにくくする薬剤) 膠原病(全身性自己免疫疾患) 静脈性脊髄梗塞(脊髄静脈の静脈が閉塞する病態) 妊娠後期 抗血栓薬の使用は血栓塞栓症予防に必要な薬剤であり、リスクなしで休薬できるものではありません。 しかし、これに関しては、これ単独ではなく、他の誘因も合わせて脊髄出血を引き起こしていると考える人も少なくありません。 実際には全例で原因が特定されるわけではなく、原因不明のものも中にはあります。 脊髄出血の症状について 出血量が少ないうちは臨床的に症状を認めないこともありますが、神経を圧迫する出血量であれば症状が出現します。 出血は急に起きることが多いため、一般的には突発的に発症します。 しかし、中には症状が徐々に進行するものや、受傷時点から24時間以上、遅いものでは数日経ってから症状を呈した症例もあります。 多くの場合は急激な背部痛の後に、運動障害や感覚障害が現れます。 出血の起きた部位によって運動障害の出る部分が変わってきます。 ●胸椎部での出血の場合… 下肢麻痺、頚椎部ならば下肢に加えて上肢にも麻痺が及ぶことがあります。 出血量が多いほど血液の塊が大きくなるため、症状が重くなる傾向があります。 ●硬膜外や硬膜下での出血場合… ナイフで刺されたような激痛に加え、強い脊髄圧迫症状が出るとされます。 ●くも膜下での出血の場合… 発熱や頭痛、嘔吐などの髄膜炎症状を伴うことがあり、意識障害やけいれんも相まって、脊髄ではなく脳での出血を強く疑われることがあります。 多くの場合には対麻痺といって、両側下肢に対称性に筋力低下を認めます。 横断的に見て脊髄が全体的に圧迫されていると、両側下肢の完全麻痺を生じます。 脊髄が半側だけ、あるいは一部外側だけの障害となると、Brown-Séquard(ブラウン・セカール)症候群となり、特徴的な運動障害と感覚障害を認めます。 具体的には、障害された側の不全麻痺(一部の感覚や運動機能は残る麻痺)と触覚・位置覚・振動覚の消失、そして障害を受けていない側は温痛覚の消失を認めるというものです。 上記のような症状を認めた場合には、緊急手術になる可能性もあります。すぐに脳神経外科のある病院を受診し、検査してもらいましょう。 脊髄出血の検査所見 脊髄出血は早期発見・早期治療が予後を左右します。 検査としてはCT検査やMRI検査を行いますが、MRIの方が得られる脊髄に関する情報を多く得られるため、診断方法としてより有用とされています。MRIにおいて、時間経過とともに血腫の見え方は変わってきます。 さらに、外傷性の脊髄出血では複数の層にまたがって存在する場合があり、そのような状態では診断が難しいこともあります。 他には、血管内に細い管を入れ、そこから造影剤を流すカテーテル検査を行っている施設もあります。利点としては、MRIでは確認しにくい細かい血管もみることができます。 出血の箇所や範囲や治療戦略にも関わってくるため、専門医による的確な診断が必要となります。 脊髄出血の治療 基本的な治療は、手術によって神経への圧迫を除去することになります。 脳神経外科での外科的手術のほかに、放射線科にて血管からカテーテルという細い管を通し、それを用いて出血している血管を塞ぐ血管内治療があります。 後遺症として運動障害や感覚障害が残ってしまった場合、リハビリテーションでの機能回復を目指します。 さらに現代は、再生医療によってダメージを受けた神経を再生、あるいは神経を新生する根本的治療に注目が集まっています。 治療や予後に関する詳細は以下の記事で解説しています。 脊髄出血についてのQ&A Q:脊髄ショックと言われましたがよくなりますか? A:脊髄ショックは一過性と言われており、多くの場合は数時間で回復しますが、中には数週間かかることもあります。ショックから離脱すると、脊髄反射が回復しますが、まだ脳からの制御が完全に伝わるわけではありません。突っ張るような「痙性」が起こります。どこまで回復できるかは、その後の経過次第でしょう。 Q:MRIで脊髄血管奇形があると言われましたが、血管造影検査を勧められています。なぜいくつも検査をするのですか? A:血管の構造の評価や動脈と静脈が短絡した「シャント部」など細かい血管の評価はMRIでは難しいです。そのため、造影剤を用いた脊髄血管造影撮影(カテーテル検査)が行われます。この先の治療方針の決定に繋げるためにも必要な検査です。 まとめ脊髄出血とは?脊髄血管障害の原因や症状 脊髄血管障害の一つである脊髄出血は、脊髄内あるいはその周辺に出血を生じた状態のことを言います。多くは外傷性ですが、次に多いのは脊髄血管奇形によるものとされています。 一般的に症状は突然に見られ、背部痛の後に運動障害や感覚障害を認めますが、中には1日以上経ってから症状が出現する症例もあります。 出血の場所や程度によりますが、早急な治療を行えば回復も見込めます。 ただし、脊髄へのダメージが大きい場合や障害を受けてから時間が経ってしまった場合には、後遺症が残ります。 以前までは後遺症に対しての治療といえばリハビリーテーションのみでしたが、現代では再生医療による根本的治療が可能となり、実際に脊髄障害による長年の症状を改善できた症例も見受けられます。 当院では入院不要で外来のみで再生医療を受けることができます。気になる方はぜひ当院へ一度ご相談ください。 参考文献一覧 Kreppel D, Antoniadis G, et al. Spinal hematoma: a literature survey with meta-analysis of 613 patients. Neurosurg Rev. 2003; 26: 1–49. Domenicucci M, Mancarella C, et al. Spinal epidural hematomas: personal experience and literature review of more than 1000 cases. J Neurosurg Spine. 2017: 27;198–208. Moriarty H K, Cearbhaill R O, et al. Mr imaging of spinal haematoma: a pictorial review. Br J Radiol. 2019: 92; 20180532. Mashiko R, Noguchi S, et al. Lumbosacral Subdural Hematoma—Case Report—. Neurol Med Chir. 2006; 46: 258–261.
2024.07.16 -
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シンスプリントは、主にランナーやアスリートの間でみられる症状で、すねに痛みを引き起こす状態です。 オーバートレーニングや不適切な運動などが原因で、すねの骨に過度のストレスがかかると周りにある骨膜が炎症を起こします。 すねの痛みを抱えている方のなかには、「シンスプリントにストレッチは効果的なのか」「どのような治療法があるか」など、疑問を持っている方もいるでしょう。 今回は、シンスプリントに効くストレッチ方法のほか、治療法や具体的なリハビリテーションの方法を解説します。スポーツへの復帰時期についても詳しく解説するので、健康的な身体を維持するための参考にしてください。 シンスプリントの予防にはストレッチが効果的 シンスプリントの予防には、ストレッチをして筋肉や腱を柔軟に保つことが大切です。 シンスプリントは、運動時にすねの筋肉や腱に負担がかかることによって、痛みを引き起こします。初期症状の場合は主に運動中に痛みが現れ、重症化すると立っているときや安静時にも痛みを感じるようになります。 シンスプリントには、とくにふくらはぎや足裏、足首などのストレッチが効果的です。筋肉の緊張を和らげ、柔軟性を高めることで、筋肉の疲労が溜まりにくくなり、シンスプリントの発生リスクを減らせます。 シンスプリントの原因について詳しく知りたい方は、以下の記事もチェックしてみてください。 シンスプリントに効くストレッチ方法 シンスプリントに効くストレッチ方法として、以下の5つが挙げられます。 ふくらはぎ(ヒラメ筋・腓腹筋・後脛骨筋)のストレッチ 脛(すね)のストレッチ 足裏をほぐすストレッチ 足首まわりのストレッチ 股関節のストレッチ 以下で、それぞれのストレッチ方法を解説するので、ぜひ参考にしてください。 ふくらはぎ(ヒラメ筋・腓腹筋・後脛骨筋)のストレッチ ふくらはぎ(ヒラメ筋や後脛骨筋など)のストレッチは、シンスプリントの痛みを和らげるのに効果的です。 ヒラメ筋のストレッチ方法は、アキレス腱のストレッチに似ていて、足を前後に開いて後ろ足のヒラメ筋を伸ばします。この時、後ろ足の膝は曲げておこなうことが大切です。 このとき、後ろ足の膝を伸ばしておこなってしまうと、ヒラメ筋のストレッチにならなくなってしまうので注意してください。また、反動をつけると筋肉を痛めてしまう可能性があるため、ゆっくり30秒ほどかけてストレッチすると効果的です。 すねのストレッチ すねのストレッチも、シンスプリントの予防につながります。すねの前側に位置している前脛骨筋(ぜんけいこっきん)は、長時間の歩行などで硬くなりやすい筋肉です。 前脛骨筋のストレッチ方法は、まず椅子に座って片足を椅子の横に出します。出した足を少し後ろに引き、足の甲が床に触れる状態にします。そして、足の甲を床に押しつけるように体重をかけながら、ゆっくりと30秒ほどキープしてください。 片足ずつ、両足の前脛骨筋を伸ばしましょう。前脛骨筋をほぐすとシンスプリントによるすねの痛みを軽減できます。 足裏をほぐすストレッチ シンスプリントの予防には、足裏をほぐすストレッチも効果的です。足裏の筋肉が硬くなると、歩行時やランニング時に足首やすねに負担がかかりやすくなります。 足裏をほぐすためには、テニスボールのような硬めのボールを使用する方法がおすすめです。テニスボールを床に置き、足裏をボールの上に乗せて、体重をかけながら前後に転がします。両足とも1回40秒を目安におこないましょう。 体重を乗せた際、足裏に強い痛みが出る場合は、ストレッチを中止してください。 足首まわりのストレッチ 足首の筋肉や腱をほぐすと、足元の安定性が高まり、シンスプリントの予防につながります。 足首まわりのストレッチ方法は、踏み台や低めの椅子にかかとが出るように片足を置きます。そのまま、かかと側に体重をゆっくりとかけ、足首の後ろ側(アキレス腱周辺)が伸びる感覚を確認してください。1回40秒を目安に、反対の足も同様にストレッチしましょう。 なお、転倒しないように手すりや壁に手をかけておこなってください。 股関節のストレッチ シンスプリントの予防には、ストレッチポールを使った股関節のエクササイズも効果的です。股関節の柔軟性が低下すると、下半身全体に負担がかかりやすくなり、シンスプリントの痛みの原因になります。 股関節まわりの柔軟性を高める方法として、ストレッチポールを使った骨盤スライド運動があります。仰向けに寝転がり、両膝を曲げて足を床につけてください。骨盤を左右に揺らすように動かすと、骨盤の位置を整えて股関節の安定につながります。 腰が床と水平に動くように意識しながら、10〜20回ほど左右にスライドします。股関節の動きが良くなると、シンスプリントの予防につながります。 シンスプリントの治療法 シンスプリントの原因はオーバートレーニングやランニングフォーム、足の形状や筋力低下などであるため、症状に対する適切な治療が不可欠です。 シンスプリントの治療法は、痛みの程度に応じて以下の治療をおこないます。 保存療法 薬物療法による疼痛緩和 リハビリテーション 再生医療 それぞれ詳しく解説します。 保存療法 シンスプリントの治療は、保存療法が一般的です。シンスプリントによって痛みや腫れが現れている場合は、安静にして、疲労した筋肉や骨を休める必要があります。痛みを我慢して運動を続けていると、症状が悪化したり、最悪の場合は疲労骨折したりする可能性がある点に注意してください。 また、安静にすると同時にアイシングをして痛い部分を氷などで冷やすことも重要です。アイシングすると、腫れを抑えられるほか、痛みの軽減も期待できます。 ただし、アイシングする際は、以下に注意しましょう。 氷を袋に入れて患部を冷やす場合は、タオルを間に挟む 1回に冷やす時間は15~20分程度にする アイシングの際、短時間で急激に冷やそうとタオルを挟まず長時間あて続けると、凍傷になる可能性があります。 なお、1回アイシングをした後は、時間を空けてから再度行うことができます。特に怪我や炎症の初期(24〜48時間以内)は、定期的なアイシングが効果的です。 薬物療法 シンスプリントの治療法の一つが、薬物療法です。 薬物療法は主に疼痛緩和を目的におこなわれます。痛みが強く日常生活に支障をきたす場合には、整形外科で医師に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの使用を相談してみましょう。 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)に限らず、薬物療法には副作用のリスクもあるため、医師の指導のもと用法用量を守って使用する必要があります。 しかし、薬物療法は痛みを一時的に和らげるためのもので、腫れや炎症といった根本的な問題が解決するわけではありません。 なぜなら、シンスプリントの原因には、過度なトレーニングやランニングフォーム、足の形状や筋力低下などが関与しているからです。このため、薬物療法に併せて原因に対する根本治療も重要です。 リハビリテーション 薬物療法と並行して、痛みの予防や再発防止に向けたリハビリテーションに取り組むことも大切です。シンスプリントに対するリハビリテーションには、主に以下の目的があります。 筋肉や関節の柔軟性の向上 筋力強化 シンスプリントの痛み軽減・再発防止 リハビリテーションは自宅で取り組めるメニューから、歩行姿勢やランニングフォームの改善までさまざまです。 歩行姿勢やランニングフォームを改善する際は、理学療法士をはじめとする専門家の指導のもと、正しい運動方法を習得する必要があります。 また、リハビリテーションは正しい方法でおこなわなければ、痛みが増悪する可能性がある点にも注意してください。 再生医療 保存療法で症状が改善しない場合は、再生医療も治療選択肢として挙げられます。 再生医療では、幹細胞を採取・培養して注射する幹細胞治療や、血液を利用するPRP療法などがあります。 再生医療は手術を必要とせず、スポーツによる怪我に対しても実施されています。 スポーツ外傷に対する再生医療については、以下のページで詳しく解説しています。 シンスプリントのリハビリテーションに取り組むポイント シンスプリントのリハビリテーションに取り組むポイントとして、以下の2つが挙げられます。 筋肉強化を図る テーピングやサポーターを活用する それぞれ詳しく見ていきましょう。 筋肉強化を図る シンスプリントにはストレッチも効果的ですが、リハビリテーションにおいては筋力強化を図ることも大切です。 ここでは、ふくらはぎの筋力トレーニングと足指でタオルを引き寄せる運動について解説します。 ふくらはぎの筋力トレーニング ふくらはぎの筋力トレーニングには、ゴムチューブを用いた低負荷の運動がおすすめです。まず足指の付け根にゴムチューブを巻き、手前に引きます。かかとは床につけた状態で、ゴムチューブを伸ばすようにつま先を下に伸ばします。 最初は低負荷から始め、徐々に負荷量を上げていくのが一般的です。いきなり高負荷でトレーニングすると、筋肉が再び炎症する可能性があるので注意しましょう。 足指でタオルを引き寄せるトレーニング 足指でタオルを引き寄せるトレーニングは、床に敷いたタオルの上に足を置き、足指でつまんだり離したりを繰り返して、手前に引き寄せる運動です。 この運動では、すねの内側深部にある長母趾屈筋(ちょうぼしくっきん)と長趾屈筋(ちょうしくっきん)が強化され、筋肉の滑走性が滑らかになります。 テーピングやインソールを活用する 筋力トレーニングのほかに、テーピングやインソールを使用して痛みの軽減を図ることも可能です。 テーピングは、筋肉や靭帯に適度な圧力を加えて安定化させ、痛みの軽減や再発防止といった効果があります。 とくに、ランニングやスポーツをする際の足への負担を軽減するのに役立つため、スポーツ選手にとってテーピングは欠かせない存在です。 シンスプリントに対するテーピング(伸縮性)の巻き方は、以下の通りです。 1本目:外くるぶしから足裏を通って引っ張り上げながら膝下まで張る 2本目:1本目と同様に、数cmずらして貼る 3本目:痛い部分の上をテーピングで1周巻く(大体すね下1/3付近) 4本目:数cmずらして1本目と同様に1周巻く また、自分の足に合ったインソール(中敷)の使用もシンスプリントの痛みの予防に効果的です。足のアーチが崩れるとバランスをとる際に筋肉に余計な負担がかかるため、アーチをしっかり支えるインソールが重要になります。 足のアーチを支えるインソールは数千円と高額ですが、痛みの予防につながるほか、自分の足を守るための装具であると考えると、決して高い買い物ではありません。 ただし、テーピングやインソールの活用だけでシンスプリントが完治するわけではないので注意しましょう。 シンスプリント発症後にスポーツ活動を再開するタイミング シンスプリントがある場合の日常生活での注意点やスポーツ活動を再開するタイミングについては、以下に示す痛みの段階(Walsh分類)を参考にするとよいでしょう。 分類 内容 Stage 1 運動後にのみ疼痛あり Stage 2 運動中に疼痛あるが、スポーツ活動に支障なし Stage 3 運動中に疼痛あり、スポーツ活動支障あり Stage 4 安静時にも慢性的な持続する疼痛あり Stage1〜3の場合、痛みによる日常生活への影響は少ないケースがほとんどです。しかし、Stage4の場合は痛みの増悪を防ぐためにも、安静にしなければいけません。 また、スポーツ活動を再開するタイミングの目安は以下の通りです。 症状が軽度の場合:約2週間 症状が重度の場合:2〜3カ月 ただし、いきなり激しい運動をすると、再度シンスプリントを発症する可能性もあるため、初めはウォーキングなど低負荷な運動から始めましょう。 疲労骨折後のスポーツ活動再開のタイミングについて知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
2024.07.11 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
血友病は、一生付き合っていかなければいけない疾患です。 しかし、出血のリスクがあっても、しっかりコントロールできていれば、血友病ではない方と同じような生活を送ることも可能です。適切な治療と予防策で、関節の機能を維持し、生活の質を向上させることができます。 ところが、血友病性関節症を発症してしまうと、痛みや腫れをともない、日常生活にも影響を及ぼします。 今回の記事では、血友病性関節症の基礎知識や症状、治療などについて詳しく解説します。生活の中でできる対策も紹介しますので、血友病性関節症に対し不安を抱いている方は、ぜひ、最後までお読みください。血友病性関節症の知識を深めて、不安や心配事が少ない生活を送りましょう。 血友病性関節症とは? 血友病性関節症とは、血友病患者が関節内で出血を繰り返し起こした場合に発症します。血友病の特徴的な合併症です。ここでは、血友病性関節症の症状や診断、疾患が関節に与える影響について解説します。 症状と診断 関節内出血を起こすと、以下のような症状があらわれます。 関節の痛み 腫れ 熱感 こわばり 違和感 動きの悪さ 重い感じ 関節内は狭いため、少しの出血でも症状があらわれる場合が多いです。血友病性関節症の診断は、関節の状態を検査し評価して診断します。血友病性関節症を疑う場合、以下のような4つの検査をおこないます。 触診 レントゲン検査 MRI検査 超音波(エコー)検査 触診では、関節の可動域や変形を確認します。レントゲン検査では、骨の状況は評価できますが、出血の状況までは把握できません。レントゲン検査で、明らかな所見があらわれる頃には、骨破壊が進んでいる状況と考えられます。MRI検査は、骨だけでなく軟骨やじん帯、滑膜の肥厚など、関節内部を詳しく評価できます。 ただし、MRI検査は撮影に30分ほど時間がかかります。その間、静止していなければならないため、小さな子どもには難しい検査といえるでしょう。エコー検査では、パワードップラー法を用いると、血液の観察をおこない滑膜炎の評価も可能です。これら4つの検査を組み合わせて、関節の状態を評価し診断します。 疾患が関節に与える影響 血友病は、出血を起こしやすい病気です。出血を起こしやすい部位として最も多い関節が、足関節だとされています。 次いで、肘関節、膝関節が出血頻度が高い傾向です。関節内に出血を起こすと、滑膜が働いて、関節内に溜まった血液を取り除こうとします。 しかし、出血が繰り返されると滑膜の働きが追いつかなくなり、滑膜の増殖と炎症を引き起こします。増殖した滑膜は、脆弱で細い血管が多いために出血しやすい状態です。出血を繰り返すと、滑膜の増殖や炎症も繰り返し生じます。 その結果、関節の軟骨を攻撃し、軟骨の破壊や骨の変形を引き起こすのです。 血友病性関節症の治療 血友病の長期的な治療目標として、血友病性関節症を発症しない、進行させないを目標として治療方針を決めていきます。 現在の治療オプション 現在、血友病性関節症の治療の選択肢は、以下の通りです。 定期補充療法 予備的補充療法 出血時補充療法(オンデマンド療法) 基本的にこの3つの治療方法を組み合わせ、状況によって使い分けます。 <定期補充療法> 定期的に血液凝固因子製剤を投与する方法です。出血予防のため、「週に2回」や「5日に1回」など、決められたタイミングで注射をおこないます。使用する製剤の種類や血友病の重症度で注射のタイミングは医師が判断します。 医師の指示通り、忘れず注射しましょう。 <予備的補充療法> 足に負担がかかる予定の前に事前に血液凝固因子製剤を投与しておく方法です。スポーツや出張、遠足、旅行などが予定されている場合、事前に注射をおこないます。血液凝固因子製剤は、効果が持続する時間が短くて12時間程度です。 そのため、予定があるその日の朝に注射しておくとよいでしょう。 <出血時補充療法(オンデマンド療法)> 出血したときに血液凝固因子製剤を投与する方法です。出血時には、できるだけ早く血液凝固因子製剤を投与します。 また、出血の応急処置時に必要な4つの処置(RICE)をおこないましょう。RICEとは、処置方法の頭文字を取ったものです。ここでは、関節内出血をした場合の処置のポイントについて紹介します。 頭文字 処置方法 処置のポイント R (Rest) 安静 • 横になり、出血した部位を動かさないようにし安静にする。 I(Ice) 冷却 • 氷のうで20~30分持続的に出血部位を冷やす。 • 消炎作用がある湿布や冷却シートでもよい。 • 冷やし過ぎに注意する。 C (Compressi on) 圧迫 • 関節内の出血の場合、包帯やサポーターを使用し固定する。 E(Elevation) 挙上 • 出血部位を心臓より高い位置まで上げる。 関節内出血の治療以外に、直接関節内にヒアルロン酸やステロイドを注入する方法もあります。 しかし、感染や出血のリスクをともなうため、メリットが上回る場合のみおこなわれる方法です。 新しい治療法と臨床試験 血友病性関節症の新しい治療法として、「自己骨髄間葉系幹細胞輸注術」と呼ばれる治療法の研究や臨床試験が進められています。この治療で使用される「間葉系幹細胞」とは、骨や血管、心臓の筋肉などに分化することができる幹細胞です。 移植までは以下のような流れでおこなわれます。 事前に採血をおこない血清を準備 骨盤から間葉系幹細胞が含まれる骨髄液を採取 間葉系幹細胞を培養 移植前日に、関節内の滑膜組織を切除し移植環境を整える 間葉系幹細胞が多く含まれている血清を関節内に注入 関節内へ移植をした間葉系幹細胞が、関節軟骨への再生が期待されています。現在は膝関節での臨床試験がおこなわれていますが、今後はその他の関節や適応できる年齢を広げて研究が進められています。 関節保護のための戦略 血友病性関節症は、関節内の出血を繰り返し、関節の骨や軟骨を破壊します。 そのため、破壊され続けると、血友病患者は将来的に人工関節を入れる可能性が高くなります。人工関節は10年~15年で入れ替えが必要です。 早い段階で人工関節を入れると、その後に何度か入れ替えの手術が必要になります。人工関節を入れるまでの期間を延ばせれば、手術回数も少なくなります。そのため、日常の中でできる関節の保護や関節の健康を保つ運動、予防策など、関節のケアが重要です。 日常活動での関節保護テクニック 日常活動の中で、出血を起こさないために関節保護はとても大切です。関節保護には以下のようなポイントがあります。 血液凝固因子製剤の投与 定期健診 出血後の対応 適度な運動 患者の状態や生活スタイルを考慮して、血液凝固因子製剤の投与量や間隔を決めていきます。 そのためには、定期的に検査をおこない、関節の評価も必要なため、定期検診は欠かさず行きましょう。また、関節の保護には出血後の対応や管理も重要です。出血があった場合や出血した可能性がある場合には、血液凝固因子製剤を投与し、RICE処置をおこないます。 しかし、出血が治まり痛みや腫れなどの症状が消失すれば、適度な運動をして筋力をつけていくことも大切です。 関節の健康を保つ運動と予防策 関節の健康を保つためには、適度な運動が必要です。血友病患者は、「出血したらどうしよう」と不安な気持ちを抱えています。 しかし、出血を起こさないようにと安静にばかりしていると、筋力が衰え、筋肉の委縮を引き起こします。また、そのように筋肉が健康な発達をしていない関節は出血しやすい傾向です。 出血や症状が治まっているときには、出血の予防策を十分にしてから適度な負荷をかけ、運動をおこないましょう。出血予防は、血液凝固因子製剤の予備的補充投与をしてから運動をします。 運動は内容によっては、出血リスクが高いものがあります。水泳やアクアビクス、サイクリング、筋トレなどは、比較的負荷が少なく出血リスクが少ない傾向です。 しかし、ラグビーやレスリング、ボクシングなどは負荷が高く、出血リスクも高くなります。サッカーや野球、バスケットボールなどのスポーツは、運動強度に幅があるため、自己判断は難しいでしょう。 また、負荷が少なく出血リスクが少ない運動でも、血友病の重症度や関節の可動域、出血コントロールの状況など、人によりさまざまです。そのため、運動を始める際には、必ず整形外科医や理学療法士と、どの程度の運動から取り組むか相談してからおこないましょう。 生活の質を向上させるための日常生活での調整 血友病性関節症では、出血の予防だけでなく、食事やストレスなどさまざまな面でも調整が必要です。どのようなことに注意や意識をして生活をするか、生活の質を向上させるポイントを紹介します。 食生活と栄養 食事は、規則正しく栄養バランスを考えた食事をするよう心がけましょう。肥満は、関節や骨に大きな負担をかけます。 適切な体重を維持するよう、食べ過ぎに注意し、適度な運動を取り入れましょう。急なダイエットも関節には負担がかかるため、体重のコントロールについて、主治医と相談すると安心です。また、血友病患者は骨粗しょう症になる傾向があります。カルシウムやビタミンDの摂取、日光浴をおこない、骨粗しょう症の予防をしましょう。 ストレス管理と精神的健康のサポート 血友病性関節症の患者は、日常生活の中でも気を付けることや制限があり、ストレスを感じる場面が多いでしょう。一般的に、ストレスが溜まっているサインは以下のような症状があらわれます。 イライラしやすく怒りっぽくなる 食欲がなくなる 気分が落ち込みやる気が起きない 寝つきが悪くなり夜間に目が覚める ストレスをうまく発散し、ため込まないことがポイントです。ストレスによる症状がある場合、まずは、主治医に相談してみましょう。必要であれば、心療内科やカウンセリングを受け、精神的に安定して過ごすことが大切です。血友病患者には、血友病患者にしかわからない悩みや不安もあります。ほかの血友病患者との繋がりをもってみると、悩みが共有でき不安が解消できるかもしれません。 患者と家族への支援 血友病患者には血友病患者にしかわからない、悩みや不安があるでしょう。家族もまた同じです。そのような方々の集まりに参加してみてはどうでしょうか。さまざまな年齢の血友病患者とのコミュニケーションは、悩みや不安が共有でき、有意義な情報交換の場となるでしょう。 コミュニティリソースとサポートグループ 血友病患者が利用できる、コミュニティリソースやサポートグループは、以下のようなものがあります。 血友病友の会(ヘモフィリア友の会) 世界血友病連盟(WFH) 血友病患者のためのオープンチャット さまざまなコミュニティリソースやサポートグループがあります。血友病友の会(ヘモフィリア友の会)は、加盟する患者会が全国にあります。また、世界血友病連盟は、世界の血友病患者のコミュニティです。 海外在住の方には、心強い情報源となるでしょう。血友病患者のためのオープンチャットもあります。匿名で参加できるため、身近な人にできない相談事も気軽にできるところが利点です。 ただし、オープンチャットは誰でも参加できるものなので、情報の信憑性には注意が必要です。 長期的な健康管理の重要性 血友病は、長く付き合っていく病気であり、血友病性関節症はその後の生活の質(QOL)を大きく左右します。そのため、長期的な健康管理が非常に重要です。 無理をしたり、出血の管理をおろそかにすれば、関節内の出血が繰り返され、人工関節をいれなければならなくなります。人工関節の入れ替えをする回数を減らすためにも、人工関節にするのはできるだけ遅い方がいいでしょう。 また、出血を恐れ、安静にばかりしていても、骨や筋肉が衰えていきます。肥満になれば、関節への負担も大きくなります。出血しないよう血液凝固因子製剤の投与を忘れずにおこない、負荷が高くなる予定があれば、予備投与しておくなど対策が大切です。 長期的に健康管理をおこなうことで、血友病性関節症の発症を遅らせたり、発症しても進行させないようにしたりできるでしょう。 結論 血友病性関節症は、血友病患者にとっては身近であり心配な合併症です。しかし、血液凝固因子製剤の投与や出血時の適切な対応をおこなえば、骨破壊を抑え、血友病性関節症の発症や進行を遅らせることができるでしょう。 血友病性関節症は、適切な治療と予防策をおこなえば関節の機能を維持して、生活の質を向上させることが可能です。普段との違いや関節の違和感などがある場合は、早めに受診しておくと安心です。なにかあれば、まずは主治医に相談しましょう。 参考文献一覧 血友病性関節症診療のポイント-病態から治療・ケアまで 血友病ハンドブック 血友病性関節症を防ぐ5つのポイント
2024.07.10 -
- 肝疾患
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「アルコール性肝炎になったら、もう肝臓は元に戻らないの?」 「アルコール性肝炎は治る病気?」 そんな疑問や不安を抱える方は少なくありません。 長年の飲酒習慣で傷ついた肝臓ですが、完全に回復不可能なわけではないのです。 本記事では、アルコール性肝炎からの回復可能性や有効な治療法、肝臓が健康を取り戻すまでの期間について詳しく解説します。 肝臓の健康を取り戻すための知識を身につけ、今からできる対策を始めましょう。 【結論】アルコール性肝炎は治る病気 アルコール性肝炎は、適切な治療と生活習慣の見直しにより回復が期待できる病気です。 とくに早期発見と適切な対策により、肝臓へのダメージを最小限に抑えられます。 しかし、進行すると回復が難しくなるため、早めの対応が重要です。 早期発見と適切な治療で回復は見込める 重症度によっては回復が難しい場合も 本章では、アルコール性肝炎の回復の可能性や治療法について詳しく解説します。 早期発見と適切な治療で回復は見込める アルコール性肝炎は、早期発見と適切な治療により回復が期待できる病気です。 肝臓には再生能力があり、飲酒を避けて健康的な生活を続けることで改善が見込めます。(文献1) まず禁酒が最優先です。アルコールを摂取し続けると炎症が進み、回復が遅れるだけでなく、肝硬変へ進行するリスクが高まります。 さらに、栄養療法や薬物療法により、肝機能の回復を促します。 早期発見のためには、定期的な健康診断で肝臓の数値をチェックしておくのもポイントです。 今まで自覚症状がなくても異変を感じたら、すぐに医療機関を受診し適切な対応をとりましょう。 アルコール性肝炎の初期症状については、以下の記事でも詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。 重症度によっては回復が難しい場合も アルコール性肝炎は早期発見と適切な治療により回復が期待できますが、重症度によっては改善が難しい場合もあります。 とくに長年の飲酒で肝臓に深刻なダメージが蓄積すると、完全な回復は困難です。(文献2) たとえば、アルコール性肝硬変に進行すると、肝臓の線維化が進み、元の健康な状態への回復はほぼ不可能になります。 そのため、症状が軽いうちに適切な治療を受けるのが重要です。 「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓は、ダメージを受けても自覚症状が出にくいため、日頃から健康管理を意識しましょう。 アルコール性肝炎における4つの治療法 アルコール性肝炎の治療には、主に以下の4つの方法があります。 断酒する 栄養療法で肝臓の回復を促す 薬物療法で症状を緩和する 再生医療を受ける それぞれの方法を組み合わせることで、より高い回復効果が期待できます。 断酒する アルコール性肝炎の最も効果的な治療法は、断酒です。(文献1) アルコールを摂取し続けると肝臓の炎症が進行し、回復が難しくなります。 そのため、完全に飲酒をやめることが肝臓を守る第一歩となります。 断酒による精神的ストレスや誘惑を乗り越えるためには、家族や友人の理解とサポートが重要です。 また、アルコール依存により断酒が難しい場合は、精神科や心療内科の専門医による治療も有効な選択肢となります。 適切なサポートを活用しながら、無理のない範囲で断酒を継続しましょう。 肝臓の数値に異常がある場合の原因や対策については、こちらの記事でも解説していますので、参考にしてください。 栄養療法で肝臓の回復を促す 肝臓の回復を助けるには、適切な栄養摂取が不可欠です。(文献1) とくにタンパク質やビタミンを十分に摂取すると、肝細胞の再生が促進されます。 具体的には、高タンパク質の食品(肉、魚、大豆製品など)や、ビタミン類を多く含む食材を積極的に取り入れると良いでしょう。 一方で、脂肪分の多い食事や糖分の過剰摂取は肝臓に負担をかけるため、なるべく控えることをおすすめします。 薬物療法で症状を緩和する アルコール性肝炎の症状が進行している場合、アルコール依存症と同様に薬物療法を行う場合があります。(文献3) アルコール依存症は、本人の意思ではどうすることもできないため、抗酒薬や抗不安薬などの薬物療法が用いられますが、同様に断酒を目的として治療が挙げられます。 ただし、薬物療法はあくまで精神的な症状の緩和や断酒を補助するためのものであり、根本的な治療にはなりません。 そのため、断酒を継続しつつ生活習慣の改善と並行して行っていくのが重要です。 再生医療を受ける 肝臓疾患に対する治療法には再生医療という選択肢もあります。 再生医療は、患者様自身から採取・培養した幹細胞を用いて治療を行う、副作用のリスクが少ない治療法です。 当院「リペアセルクリニック」では肝臓疾患に対して、再生医療による治療を行っています。再生医療について詳しくは、以下のページをご覧ください。 アルコール性肝障害の分類における位置付け アルコール性肝障害は以下の五つに分類され、そのうちの一つがアルコール性肝炎です。 アルコール性脂肪肝 アルコール性肝線維症 アルコール性肝硬変 アルコール性肝炎 アルコール性肝がん 慢性的に過剰飲酒を続けると、脂肪肝→肝線維症→肝硬変と順番に進行していく可能性があるため、注意が必要です。 なお、アルコール性肝炎ではこの慢性経過とは別に、酒量の増加などをきっかけにして肝臓に強い炎症が起こります。 背景の肝臓の組織が軽度の脂肪肝であっても進行した肝硬変であっても、肝細胞が変性や壊死を起こしていればアルコール性肝炎と考えられます。 つまり、もともとアルコールによる肝臓の障害がある方が、さらに過剰飲酒することで肝臓に強い炎症とダメージが起こってしまっているのがアルコール性肝炎なのです。 本章では、アルコール性肝障害の五つの分類についてそれぞれ解説します。 アルコール性脂肪肝 アルコールの摂取により、肝臓に脂肪が蓄積する初期段階の状態です。 この段階で飲酒をやめれば、比較的早い回復が見込めます。 アルコール性肝線維症 アルコール性脂肪肝が進行すると、肝細胞がダメージを受け、線維化が始まります。 この段階ではまだ回復の可能性がありますが、飲酒を続けると悪化する恐れがあります。 アルコール性肝硬変 長期間の飲酒により、肝臓が硬化し、機能が低下します。 この段階になると回復は困難で、合併症のリスクも高まります。 アルコール性肝炎 アルコールの影響で肝臓に炎症が生じる状態です。 重症になると命に関わる場合もあり、早急な治療が必要です。 アルコール性肝がん アルコールによるダメージを肝臓が受けている状況下に肝がんができており、他の原因が除外できている状態です。 肝臓の重要な働きと注意すべき病気については以下の記事でも解説しています。 気になる症状がある方は、ぜひご覧ください。 アルコール性肝炎の検査と診断 アルコール性肝炎を診断するには、複数の検査が行われます。 正確な診断を受けることで、適切な治療を選択し、回復へつながる可能性も高まります。 肝生検 肝生検は、肝臓の一部を採取し、組織を詳しく調べる検査です。 この方法により、炎症の進行度や線維化の程度を把握できます。 検査は局所麻酔を行い、細い針を肝臓に刺して組織を採取します。 検査後は数時間(検査自体は20分程度、安静時間も含めて約4~6時間)の安静が必要ですが、肝臓の状態を詳しく知るために有効な方法です。(文献4) 肝硬変などの進行具合を診断する際にも用いられます。 血液検査・画像検査 血液検査は、肝臓の状態を把握する基本的な検査です。 とくにAST(GOT)やALT(GPT)などの肝酵素の数値を調べることで、炎症の有無を確認できます。 また、超音波検査やCTスキャン、MRIなどの画像検査も活用されます。 これらの検査では、肝臓の形状や脂肪の蓄積、線維化の進行具合を視覚的に確認できます。 血液検査との組み合わせによって、より正確な診断が可能になります。 まとめ|アルコール性肝炎は節酒や断酒で回復を目指そう 本記事では、アルコール性肝炎の回復の可能性や治療法について解説しました。 アルコール性肝炎になっても、断酒や栄養管理、薬物療法によって、肝臓の機能は改善し、健康を取り戻せる可能性があります。 ただし、早期発見と対策が重要なため、生活習慣を見直し、必要に応じて医師の診察を受けましょう。 適切な対応を続けることで、肝臓への負担を軽減し、病状の悪化を防げます。 また、当院「リペアセルクリニック」では肝臓(脂肪肝・肝硬変・肝炎)の再生医療・幹細胞治療を提供しています。 肝機能の治療に不安がある方は、まずはお気軽にご相談ください。 アルコール性肝炎の治療についてよくある質問 アルコール性肝炎の治療についてよくある質問肝臓は禁酒すると回復しますか? 肝臓は回復力の高い臓器であり、禁酒することでダメージが改善する可能性があります。 とくに初期段階であれば、断酒によって肝細胞が再生し、健康な状態に戻ることが期待できます。 しかし、肝硬変など病状が進行すると、完全な回復は難しくなります。 そのため、肝臓のダメージが深刻化する前に、禁酒を徹底する意識が大切です。 アルコール性肝炎が回復するまでの期間は? 回復期間には個人差がありますが、軽度のアルコール性肝炎であれば、数週間から数カ月で改善が期待できます。 一方、重度の肝障害がある場合は、回復に数年かかるケースもあります。 断酒を継続し、適切な治療を受けることが回復の鍵となるため、医師と相談しながら自分に合った治療計画を立てましょう。 また、当院「リペアセルクリニック」では肝硬変・肝炎に対し手術を伴わない「再生医療」を提案しています。 治療に不安がある方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にてお気軽にご相談ください。 参考文献 (文献1) 竹井謙之,アルコール健康医学協会「アルコール性肝障害の最新トピックス」 https://www.arukenkyo.or.jp/information/pdf/kirokusyu/09/04.pdf(最終アクセス:2025年3月26日) (文献2) 全国健康保険協会「アルコール性肝障害 (Alcoholic Liver Disease:ALD)」 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/2016120600012kannshougai.pdf(最終アクセス:2025年3月26日) (文献3) 山田隆子,秋元典子.「アルコール性肝障害入院患者が断酒を決意し断酒を継続するプロセス」『日本看護研究学会雑誌』 Vol. 35 No. 5.pp.25-34,2012https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsnr/35/5/35_20121030003/_pdf(最終アクセス:2025年3月26日) (文献4) 慶應義塾大学病院 KOMPAS「肝生検 - 慶應義塾大学病院 KOMPAS」 https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000439.html(最終アクセス:2025年3月26日)
2024.07.09 -
- その他、整形外科疾患
「仙腸関節のつらい痛みはどこで治療を受ければ良い?」 「仙腸関節炎の腰痛を治すためにできるセルフケアはある?」 仙腸関節は体重や外からの衝撃を常に受けるため、日常生活の中で不具合が起きやすい関節です。 仙腸関節炎の症状がでた場合は、適切な治療や自宅で行える予防策に取りくむ必要があります。 この記事では仙腸関節炎と診断されたときの治療法や、セルフケアの重要性をお話します。 ぜひこの記事を読んで仙腸関節炎の知識と症状を治す方法を知り、日ごろの腰痛改善につなげてください。 仙腸関節炎(仙腸関節炎障害)とは? 仙腸関節炎とは上半身と脚をつなぐ仙腸関節に余計な負担がかかり、不具合が生じて腰まわりに痛みが生じることをいいます。 仙腸関節は骨盤の中心にある仙骨と、その左右にある腸骨とのつなぎ目に存在する動く幅の小さい関節です。 上半身の重さや地面からの衝撃を常に受けているため、いつもとちがう動きや長時間の同じ姿勢などで負荷がかかり、緩みや硬さが生じやすくなります。 仙腸関節の緩みや硬さが生じると、関節を支えている靭帯や筋肉の緊張も高まるため、周辺の痛みにつながります。 仙腸関節炎は女性の出産後に多くみられますが、年齢や性別関係なく腰痛の原因になるともいわれています。 日常的に起こりやすい疾患であるため、正しい治療法や対策を知って症状の緩和や予防をすることが大切です。 仙腸関節炎(仙腸関節炎障害)の治し方とセルフケア 仙腸関節炎は、痛みや不快感が生活の質に影響を与えるため、適切な治療とセルフケアが大切です。 この章では、仙腸関節炎を和らげるための治療法と、自宅でできるケアについて詳しく紹介します。 専門的な治療から、日々の生活で取り入れられるセルフケアの方法まで、幅広くカバーしていますので、自分に合った対策を見つけて、仙腸関節炎の症状を軽減させ、日常生活をより快適に過ごしましょう。 リハビリテーションと物理療法 リハビリテーションや物理療法は仙腸関節炎の症状を緩和させる最もポピュラーな方法です。 痛みのある部位に対して運動療法や電気治療などを行うことにより、症状を和らげる効果が期待できます。 また、痛みが生じる根本にもアプローチすることで、腰痛を治すだけでなく再発の予防や日常生活の復帰も期待できます。 とくに仙腸関節炎による症状を繰り返している方は、長年のお悩みを解決できるでしょう。 AKA-博田法による治療 AKA-博田法(Arthrokinematic Approach:関節運動学的アプローチ)は、不適合をきたしている仙腸関節の動きを正常化させて痛みを改善させる手技です。 治療者の手で関節のわずかな動きや回旋などを治すことで、正常なはたらきに戻します。 しかしAKA-博田法は修得の難しい技術であるため、正しい方法で行わないと症状を悪化させる可能性があります。 治療を受けたい場合は、日本AKA医学会に認定されている医師に相談してみると良いでしょう。 参考:日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会 薬物治療 仙腸関節炎の痛みに対して、鎮痛薬の内服やブロック注射などの薬物治療も効果的です。 とくにブロック注射は仙腸関節の周囲に局所麻酔を行うことで痛みを減らし、関節の適合を良くすることが可能です。 始めは仙腸関節を覆っている靭帯に注射し、それでも、安静時や寝るときに痛みが残るようであれば、炎症がうたがわれる関節内にも注射します。 再生医療 仙腸関節炎の治療において、再生医療は新しい選択肢として注目されています。 リペアセルクリニックでは、幹細胞を用いた再生医療を通じて、関節の炎症を抑え、損傷した組織の修復を促す治療を提案しています。 幹細胞の持つ修復能力により、炎症の原因そのものに働きかけるため、従来の薬物治療やリハビリテーションでは得られない効果が期待でき、自然な治癒力を活かした治療で、患者さんが持つ本来の機能を取り戻すサポートをしています。 自宅でできるセルフケアと予防策 自宅では安静にするほか、骨盤ベルトの装着や梨状筋のマッサージなどを行いながら様子を見ます。 骨盤ベルトは仙腸関節の不適合をおさえる効果のあるゴム製のベルトです。 骨盤に装着して仙腸関節の適合を良くすることで、痛みを和らげたり再発を予防したりする効果が期待できます。 梨状筋は仙腸関節の外側に付着して股関節を外旋させる(つま先を外に回す)小さな筋肉です。 仙腸関節炎になると緊張が増して硬さや痛みがでやすいのが特徴です。 マッサージを行うと筋肉の血流や柔軟性が良くなり、痛みの緩和につながります。 画像付きでわかりやすく解説します。 梨状筋のマッサージ方法 ①膝を立てて座った状態で、マッサージをする側のお尻と座面の間にストレッチポールなどを置く ②ストレッチポールに体重をかけながらお尻を左右や前後に動かして梨状筋をほぐす 引用:園部俊晴.関節可動域.1版.㈱運動と医学の出版社.2023.329p.P38 仙腸関節炎(仙腸関節炎障害)の診断と治療 仙腸関節炎がうたがわれる場合は、整形外科やクリニックに行って医師の診断と理学療法士の治療を受けましょう。 実際の仙腸関節炎の診断と治療は以下のように行います。 専門医による診断プロセス 項目 点数 One finger test(※)で上後腸骨棘(仙腸関節の上部分にある突起)を指す 3 鼠径部(脚のつけね)に日ごろから痛みがある 2 椅子に座る時に痛みが増す 1 SIJ shear test(※)で痛みがでる 1 上後腸骨棘を押すと痛みがでる 1 仙結節靭帯(仙腸関節を覆う靭帯のひとつ)を押すと痛みがでる 1 ※One finger test…ひとさし指で痛みのある部位を指してもらう方法 ※SIJ shear test…うつ伏せで仙腸関節を押して痛みを確かめる方法 また靭帯にブロック注射をしたときに、痛みが7割以上減る場合も確定診断としています。 有効なエクササイズとストレッチ 治療には仙腸関節を安定させる腹横筋のトレーニングや、股関節や骨盤の周囲にあるハムストリングスと腸腰筋のストレッチが有効です。 これらの筋肉には以下のような特徴があります。 筋肉 ついている場所 はたらき 腹横筋 骨盤から腹部の全体 お腹を凹ませる 仙腸関節の適合を良くする ハムストリングス (大腿二頭筋と半腱様筋、半膜様筋) 骨盤から太ももの裏側 股関節を伸展させる(後ろに伸ばす) 骨盤を後ろに傾ける 腸腰筋 (大腰筋と小腰筋、腸骨筋) 腰椎や骨盤から太ももの表側 股関節を屈曲させる(前に曲げる) 骨盤を前に傾ける これらのエクササイズやストレッチを行うことで、仙腸関節の適合が良くなったり骨盤や股関節の動きがスムーズになります。 結果、日常生活で仙腸関節にかかるストレスを減らす効果が期待できます。 手術療法の検討 さまざまな治療を行っても日常生活に支障をきたすほど痛みが強い場合は、仙腸関節の動きを固定する手術を検討します。 手術が適応となる状態は以下が例として挙げられます。 6カ月以上の治療を行っても椅子に15分以上座れない 痛みによってうつ伏せでなければ就寝ができない 脚の強いしびれがでている 痛みにより歩行に杖が必要となった しかし別の疾患もうたがわれる場合は術後の改善が期待できないことも考えられるため、医師による慎重な判断が必要になります。 日常生活での予防策 仙腸関節炎は普段の生活から適切な姿勢やセルフトレーニングを習慣づけることによって、予防や再発防止が可能です。 以下に具体策を紹介していきます。 適切な姿勢の維持 日ごろから、仙腸関節や腰椎に負担のかからない立ち方や座り方を意識してとりましょう。 正しい姿勢を維持すると周囲の筋肉や靭帯が余計に緊張することがなくなり、仙腸関節の負担を減らす効果が期待できます。 気をつけるポイントを以下にまとめました。 <立ち方> ①軽くお尻の穴をしめることを意識して、お尻が後ろに出ないようにする ②背骨が曲がったり反ったりして、上半身の位置が骨盤より前や後ろにいかないようにする(鏡の前に立って身体の真横から姿勢を確認すると良い) <座り方> ①背もたれによりかからず、骨盤を前に起こした状態で背骨を伸ばすことを意識する ②脚を組んだり、左右どちらかに体重を偏ったりする姿勢はひかえる また、長時間の同じ姿勢は仙腸関節にストレスがかかる原因になりやすいので、デスクワークや立ち仕事では適度に姿勢を変えるようにしましょう。 運動とストレッチの重要性 日ごろから腹横筋やハムストリングス、腸腰筋のケアを行いましょう。 仙腸関節に関わる筋肉の強さや柔軟性を常にキープすることで、仙腸関節炎の予防が可能です。 以下に具体例を紹介します。 <ドローイン(腹横筋の筋力トレーニング)> ①膝を立てながら仰向けになり、手を左右のお腹(へそより下)に置く ②息をゆっくり吐きながらお腹を凹ませる。このときにお腹の奥の筋肉が硬くなっていることを確認する ③時間をかけて10回、1日2セット行う 引用:成田崇矢.成田崇矢の臨床 腰痛.1版.㈱運動と医学の出版社.2023.315p.P203 <ハムストリングスのストレッチ> ①膝を立てながら仰向けになる ②マッサージする側の膝を伸ばし、同時につま先を顔側に向ける ③筋肉が伸びた位置で20秒キープする。繰り返しながら3セット行う 引用:成田崇矢.成田崇矢の臨床 腰痛.1版.㈱運動と医学の出版社.2023.315p.P206 <腸腰筋のストレッチ> ①マッサージする側の膝を床につけて、片膝立ちの姿勢をとる ②骨盤を前にゆっくり倒しながら股関節から太ももの前側につく筋肉を伸ばす ③筋肉が伸びた位置で20秒キープする。繰り返しながら3回セット行う 引用:成田崇矢.成田崇矢の臨床 腰痛.1版.㈱運動と医学の出版社.2023.315p.P207 しかし運動とストレッチは痛みが強い時期に行うと、仙腸関節まわりの筋肉や靭帯の緊張を高めて症状を悪化させる可能性があります。 ある程度痛みが落ち着いてから無理のない範囲で行いましょう。 仙腸関節炎(仙腸関節炎障害)の治し方に関するよくある質問 この章では、治療方法の選び方やセルフケアの実践方法、再発防止のためにできることなど、日ごろ、患者さんから多く寄せられる質問に対してわかりやすく回答していきます。 仙腸関節炎の治療に関する不安や悩みを解消し、最適なケア方法を選択するためのヒントを得ることができますので、ぜひ参考にしてください。 Q:.仙腸関節炎のときにやってはいけないことは何ですか? A.仙腸関節に負担をかけるスポーツや動作は控えましょう。 野球やゴルフなどの回転動作が伴うスポーツは、症状を悪化させる可能性があります。中腰での作業や、重い荷物を持つ動作も仙腸関節にストレスがかかるためひかえましょう。 Q:.仙腸関節炎は温めたほうがいいですか? A.仙腸関節炎は周囲の筋肉や靭帯の緊張が高まることにより痛みがでやすいため、温めたほうが症状が和らぐでしょう。 温めて血流を良くすることによりこれらの緊張がほぐれ、腰痛の改善が期待できます。 Q:治るまでの期間は? 仙腸関節炎の治療期間は、それぞれの状況や症状、治療方法によって異なります。 軽度の症状であれば、数週間から1カ月程度のリハビリやセルフケアで改善することがありますが、慢性化した場合や重度の炎症がある場合には、治療が数カ月に及ぶこともあります。 再生医療や物理療法を組み合わせることで回復を早めることができますが、治療の効果を最大化するには、継続的なケアと生活習慣の見直しが必要です。 Q:仙腸関節炎とヘルニアの違いは? 仙腸関節炎とヘルニアは、どちらも腰や背中に痛みを引き起こしますが、原因や症状の発生部位が異なります。 仙腸関節炎は、骨盤にある仙腸関節に炎症が起こることで痛みが生じますが、ヘルニア(とくに椎間板ヘルニア)は、背骨の椎間板が突出し、神経を圧迫することで痛みが発生します。 そのため、症状の特徴や治療法も異なり、正確な診断が必要です。 まとめ:仙腸関節炎はセルフケアも重要になる この記事では仙腸関節炎の治療方法やセルフケアの重要性について解説しました。 整形外科やクリニックでの適切な治療や、日常生活で行える予防策を行って、仙腸関節にストレスがかかりにくい身体を作りましょう。 ぜひこの記事を参考にして腰痛に悩まされない毎日を送ってください。 関連:再生医療とは 参考文献 仙腸関節障害の確定診断法と手術療法の変法からみた低侵襲仙腸関節固定術の適応仙腸関節障害の今,そしてこれから 仙腸関節研究会 仙腸関節痛の発生・慢性化のメカニズム 日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会 後靭帯由来の仙腸関節痛の診断スコアリングシステム(海外論文) 成田崇矢の臨床 腰痛
2024.07.08 -
- ひざ関節
- 膝部、その他疾患
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)は、スポーツに取り組む方を中心に見られる疾患です。 とくにジャンプ動作が伴う競技では頻繁に見受けられます。 しかしジャンパー膝の症状や重症度、診断方法は、あまり知られていません。また初期症状などがほかの疾患と類似しており、判断するのが難しい部分もあります。 本記事ではジャンパー膝の症状や診断方法、セルフチェックリストや有効なストレッチなどを解説します。 ジャンパー膝(膝蓋腱炎)とは? 膝蓋腱炎(ジャンパー膝)は、バレーボールやバスケットボールなどのスポーツで生じやすい膝蓋腱に起こる炎症で、慢性的な膝の痛みが特徴的です。 以下に症状や診断方法、リスク要因を詳しく解説します。 膝蓋腱炎の症状・重症度・診断方法 ジャンパー膝は、膝蓋骨(膝のお皿の部分)のすぐ下にある膝蓋腱にストレスがかかり、炎症が起こる疾患です。 典型的な症状はジャンプや走る動作、階段の昇り降りのときに生じる膝蓋腱の痛みで、痛みの程度により軽症と中等症、重症に分類されます。 ジャンパー膝の重症度の分類 軽症 スポーツの後や歩いた後に痛む 中等症 活動開始時と終わった後に痛む 重症 活動中や後の痛みで続行困難 ジャンパー膝の診断は問診や触診、MRI、超音波検査などを行います。 膝蓋腱を指で圧迫したときに痛みが強まることや、MRIや超音波による画像診断で筋肉や腱の変性が確認できることで確定診断とされます。 メール相談 オンラインカウンセリング ジャンプスポーツにおけるリスク要因 ジャンパー膝はバレーボールやバスケットボール、サッカーなど、ジャンプやダッシュの動作が多いスポーツで起こりやすいです。 膝蓋腱は大腿四頭筋(太もも前面の筋肉)につながる腱で、膝蓋骨と脛骨(すねの骨)に付き、膝関節を動かしたり地面からの衝撃を吸収したりしています。 大腿四頭筋の伸び縮みにともなって膝蓋腱が脛骨や膝蓋骨の動きをコントロールし、膝の曲げ伸ばしが可能となっているわけです。 スポーツをしているときのジャンプやダッシュ、ストップ、ターンなどの動作は、急激な膝の曲げ伸ばしを繰り返し起こします。 この状態が慢性的に続くと膝蓋腱にストレスがかかり、組織に小さな損傷や炎症が起こってジャンパー膝につながります。 ジャンパー膝が軽症や中等症のうちは医師に相談しながらスポーツの継続が可能です。 しかし、ストレッチやウォーミングアップ、活動後のアイシングなどをおこない、常に膝のケアに努める必要があります。 また、重症例で腱に断裂がある場合は手術が必要になる可能性もあるため、疑わしい症状がでているときに放っておくのは危険です。 関連記事:ジャンパー膝といわれる大腿四頭筋腱付着部炎の原因と治療 ジャンパー膝(膝蓋腱炎)の症状のチェックリストと適切な対応 ジャンパー膝の症状が疑われるときは、自分で膝蓋腱に刺激を加えながらチェックできます。 家でもできる膝蓋腱の状態を確認する方法とその評価の意味を解説します。 家でできる症状チェックテスト スポーツや活動時に繰り返し膝が痛むときは、一度セルフチェックをおこない、ジャンパー膝の症状がでているか確かめてみましょう。 以下の状態が当てはまる場合は整形外科に受診してください。 膝蓋腱をゆびで押してみる 膝を曲げた状態と伸ばした状態で膝蓋腱をゆびで軽く押してみましょう。 どちらの状態でも痛む場合はジャンパー膝を疑います。(※曲げた状態のほうが痛みは走りやすいです) うつぶせで膝を曲げる うつぶせの状態で膝を曲げ、踵をお尻に近づけてみましょう。 股関節まわりが地面から浮いた場合は、ジャンパー膝が生じている可能性があります。 ジャンプする 何度かジャンプしてみましょう。 跳躍と着地の瞬間いずれか、または両方で違和感や痛みが感じられた場合、ジャンパー膝の発症が疑われます。 また痛みの懸念からジャンプを避けた、思い切り飛ばずに加減した際も、同様にジャンパー膝の発症が疑われます。 足に力が入りにくい いつものように足に力が入るか確かめてみましょう。 力が入りにくいと感じた場合には、ジャンパー膝の発症が疑われます。 また、どちらかというと膝の上(太ももの裏)が痛む場合は、以下の記事をご参考ください。 ジャンパー膝(膝蓋腱炎)が疑われる際の対応 ジャンパー膝が疑われる際は、ただちに診断を受けることをおすすめします。 ジャンパー膝は早期に対応すれば重篤な症状を呈する炎症ではありません。 しかし初期症状があるまま放置していると、痛みや腫れが悪化し、治療に時間がかかるようになります。 最悪の場合、腱の断裂が起こり、手術が必要になるかもしれません。 ジャンパー膝が疑われる場合は、可能な限りすみやかに医療機関で受診しましょう。 メール相談 オンラインカウンセリング ジャンパー膝(膝蓋腱炎)の治し方 ジャンパー膝の治療は以下の方法でおこなわれます。 物理療法|冷気や電気、低周波などを当てて、直接的に炎症の修復などを図る 体外衝撃波|特殊な衝撃波を当てて、痛みや痒みの緩和、患部の修復を図る リハビリ|大腿四頭筋を中心としたリハビリで、再発を予防する PRP(再生医療)|自己脂肪由来幹細胞などを用いて、患部の修復を図る PRP(再生医療)では、従来よりも容易にジャンパー膝を完治に導く期待があります。 興味がある方は以下を参考にしてください。 メール相談 オンラインカウンセリング ジャンパー膝(膝蓋腱炎)の痛みを緩和するストレッチ トレーニング前後のストレッチは、膝まわりの負担や痛みを減らすために重要です。 膝蓋腱の痛みを和らげる効果のあるストレッチや習慣づける方法を紹介します。 膝蓋腱を和らげる効果的なストレッチ 膝まわりやお尻の筋肉をストレッチで柔らかくすれば、膝蓋腱の負担軽減につながります。 以下の方法で大腿四頭筋やハムストリングス(太もも後面の筋肉)、殿筋(お尻の筋肉)のストレッチをおこないましょう。 必ず膝まわりに痛みがでない程度におこなってください。 大腿四頭筋のストレッチ ①床に両膝を伸ばして座った後、ストレッチをする側の膝を曲げて踵をお尻に近づける ②両手を床について身体を支えながら、上半身を後ろに倒して太もも前面の筋肉を伸ばす 大腿四頭筋のストレッチ(膝を曲げると痛む場合の方法) ①ストレッチをする側の膝を床につき、ストレッチをしない側の膝を立てて片膝立ちの姿勢になる ②上半身を起こしながら身体を前方に移動させ、太もも前面の筋肉を伸ばす ハムストリングスのストレッチ ①仰向けの状態でストレッチをする側の脚を上げる ②膝を伸ばしながら脚を胸に近づけ、太もも後面の筋肉を伸ばす 殿筋のストレッチ ①床に座り、ストレッチをする側の脚は膝を曲げて外側に開き、ストレッチをしない側の脚は後方に伸ばす ②上半身を前に倒しながらお尻の筋肉を伸ばす トレーニング前後のストレッチルーティン トレーニング前後では一つのストレッチを20〜30秒間かけておこない、10秒くらい休んだ後にもう一度施行しましょう。 とくに大腿四頭筋のストレッチは膝蓋腱にかかる負担が減るため、欠かさずおこなうことが大切です。 トレーニング前後のストレッチを習慣づけることで、ジャンパー膝の発症や再発の予防につながります。 メール相談 オンラインカウンセリング ジャンパー膝(膝蓋腱炎)を発症している際のテーピングテクニック 正しい方法でテーピングを施行すればスポーツや活動時における膝のサポートが可能です。 競技中の痛みを抑えるためにおこなう場合は必ず整形外科で専門家に相談しましょう。 以下に方法と注意点を詳しくお話しします。 膝のサポートに役立つテーピング方法 太さ50mmほどの伸縮性のあるテーピング(すねの上側から太ももの中間までの長さ)を3枚準備して以下のようにおこないます。 ①1枚目:膝を軽く曲げた姿勢ですねの外側から膝の内側、太ももの外側にかけて引っ張りながら貼る ②2枚目:膝の下から膝の外側、太ももの外側にかけて引っ張りながら貼る ③3枚目:1枚目のテープより少し上に重ねて、すねの外側から膝の内側、太ももの内側にかけて引っ張りながら貼る テーピングの正しいやり方と注意点 膝のサポートを目的としたテーピングは、運動に支障のない範囲で関節や筋肉の動きを制限させることが大切です。 テーピングをおこなうときは以下の内容に注意します。 外傷がある部位の接触を避ける 適切な巻き方でおこなう 正しい姿勢で巻く 巻くときにシワをつくらない 血管や神経、筋肉、腱の過度な圧迫は避ける パフォーマンスが低下するほど強く巻かない 水ぶくれや肌荒れ、かぶれ、湿疹などがないか確認する 適切な方法や姿勢でおこなわないと十分な効果が得られなかったり、逆効果になったりする可能性があります。 痛みが軽快しない、パフォーマンスが低下するなどの場合は正しいやり方でないこともあるので、一度見直してみましょう。 また、テーピングは肌に直接触れるため、汗で蒸れたりすると皮膚トラブルを起こしやすいです。 皮膚に外傷があったり、肌荒れやかぶれなどができた場合はできる限り接触を避けましょう。 予防策としてのトレーニング調整 スポーツを続けていく選手にとって、症状の再発や悪化の進行に対する予防策はかかせません。 ジャンパー膝の予防に向けたトレーニングや日常生活におこなう取り組みを紹介していきます。 適切なトレーニング方法とその頻度 ジャンパー膝の予防には、大腿四頭筋の筋力をきたえることが大切です。 また、過去の論文にはジャンパー膝に対するトレーニングに傾斜台上での片脚立ちスクワットが効果的であると報告されています。 トレーニングは症状が発症したばかりの時期はひかえ、専門家の指示のもとで痛みがない程度におこないましょう。 以下に方法を説明します。 大腿四頭筋の筋力トレーニング ①椅子に座り、膝を伸ばしたときに抵抗がかかるように足首と椅子の足をゴムバンドでつなぐ ②ゴムバンドによる抵抗を感じながら膝を伸ばす ③5秒ほど時間をかけて1回おこない、連続10回、1日2セットおこなう スクワット ①25度程度の傾斜台を準備し、降りの方向に顔を向けて立つ(※傾斜台がなければスロープの上や、踵に折りたたんだタオルを置いた状態でおこなう) ②片脚立ちになり、股関節と膝関節を曲げながらお尻を床に近づける。膝の位置が足の位置より前方に出ないように注意する ③股関節と膝関節を伸ばして片脚立ちの姿勢に戻る。10回連続でおこない、1日3セットほどおこなう。きつく感じるようであれば必要に応じて手すりなどを持ちながらおこなう。 再発防止のためのエクササイズと日常生活の調整 日常生活で膝のケアをおこないながら症状の再発や悪化の進行を防ぎましょう。 バンドを装着する ジャンパー膝の治療として、膝蓋腱の走行に横断して取り付けるバンド(サポーター)の装着が効果的です。 バンドによる膝蓋腱の圧迫は、腱の走行を変化させて負担を減らせることが明らかになっています。 スポーツや活動時の膝蓋腱の過剰なストレスが減り、痛みの緩和が期待できます。 患部の安静や練習を減らす 痛みが強いときはできるだけ患部の安静を保ち、ジャンプやランニングの練習を減らしましょう。 ジャンパー膝はジャンプ競技による膝のオーバーユース(使いすぎ)で生じることが多いので、活動量を減らすことで症状が軽快しやすいです。 重症化すると腱の断裂につながる可能性もあるため、痛みが強いときは無理をしないようにします。 練習後ににアイシングをおこなう 練習直後にアイシングを15〜30分ほどおこないましょう。 激しい運動の後は膝蓋腱により炎症が起きやすく、熱感や腫れが強まります。 できるだけ早く患部を冷やし、炎症を抑えることで症状の悪化を防げるわけです。 ジャンパー膝は皮膚から深い位置で起きている炎症なので、氷を入れた袋を弾性包帯で患部に巻きつけて固定すると効果的です。 ジャンプと着地の仕方を修正する 内股の状態で踏み切ったジャンプやバランスの悪い着地は、膝蓋腱のストレスを高める原因です。 ジャンプのフォームを客観的に確認したり、なわとびで正しいジャンプの方法を修得すれば、改善につながります。 硬い床を避ける底の厚いシューズも膝蓋腱の負担を減らせます。 炎症を抑える飲み薬やぬり薬などを使用する 痛みが強い場合は医師から処方された飲み薬やぬり薬、湿布などを使用しましょう。 医師の判断によってはステロイドの局所注射をおこなうこともあります。 炎症を抑える効果のある医薬品の使用で、スポーツや活動時の膝の痛みが抑えられます。 まとめ この記事ではジャンパー膝の概要やセルフチェックの方法、スポーツを継続するためのケアをお話ししました。 ジャンパー膝の痛みに悩まされてる方は以下の内容を守り、より長くスポーツを楽しめるようにしてください。 メール相談 オンラインカウンセリング 膝蓋腱炎の総合的な管理法 ジャンパー膝の症状に付き合いながらスポーツを続けていくためには、ストレッチやアイシングなどで、トレーニング前後に膝をケアするのが大切です。 また、発症や再発、重症化をを防止するためにも、専門家の指示のもと傾斜台でのスクワットもおこないましょう。 痛みが強い場合は安静にしたり、ジャンプのフォームを修正したりするのも重要です。 専門家との連携と更なる情報ソース ジャンプ競技への復帰や継続は必ず専門家と相談しながら決めていきましょう。 テーピングやトレーニングなどは症状の軽減や予防に効果がありますが、間違った方法でおこなわないためにも、専門家の指示を受けることが大切です。
2024.07.04 -
- 股関節、その他疾患
- 股関節
股関節唇損傷は、骨盤と太ももの骨が接続する股関節の部分で、関節のふちを囲むクッションのような役割をする「股関節唇(こかんせつしん)」という組織が裂けたり傷ついたりすることで起こる病気です。 安静に過ごす保存治療により症状緩和が期待できますが、股関節の可動域が狭くなってしまう可能性があります。可動域が狭くなると痛みを感じる原因となるため、ストレッチを取り入れるのが効果的です。 本記事では、股関節唇損傷の症状改善に役立つストレッチを5つ紹介します。 筋力強化トレーニングや回復をサポートする栄養もまとめているので、股関節唇損傷の症状改善へ向けた治療法が知りたい方は参考にしてください。 股関節唇損傷のリハビリにおけるストレッチの効果と重要性 股関節唇損傷の初期治療では、一般的に股関節への負担を軽減するため安静に過ごす保存治療を行います。 しかし、この安静期間が長引くと股関節の可動域が狭くなり、周囲の筋肉の動きも制限されてしまいます。 そこで回復段階では、股関節の可動域を広げるためのストレッチが効果的です。ストレッチは、痛みの軽減にもつながります。 股関節唇損傷に効果的なストレッチ方法 股関節唇損傷に効果的なストレッチ方法は、以下の5つです。 腸腰筋ストレッチ 大腿四頭筋ストレッチ 内転筋ストレッチ 外転筋ストレッチ お尻のストレッチ 柔軟性の維持や可動域を広げるために、ストレッチを取り入れましょう。 ただし、ストレッチを行う際に痛みがある場合は、無理をしないでください。 腸腰筋ストレッチ 腸腰筋(ちょうようきん)とは腰から脚の付け根に位置する筋肉の総称で、インナーマッスルの一種です。腰筋ストレッチのやり方は、以下の通りです。 床に仰向け状態になる 片膝を立てる 立てた膝を抱えながらお腹につけるように引き寄せる 30秒ほどキープする 1~4の動作を5回ほど繰り返す 膝を引き寄せる際は、反対側の脚が浮き上がらないよう注意します。また、背中を丸めると効果を得られにくくなるため、背筋を伸ばした状態で行うことを意識するのもポイントです。 大腿四頭筋ストレッチ 大腿四頭筋(だいたいしとうきん)とは、太ももの前側に位置する筋肉です。 大腿四頭筋が衰えると、股関節だけでなく膝関節も弱くなってしまい変形性膝関節症の原因になるため、可動域を広げて予防するのが重要です。 大腿四頭筋ストレッチのやり方は、以下の通りです。 立った状態で片方の手を壁につける もう片方の手で片足首を持ち、かかとをおしりに近づける 持ち上げた膝を後ろにゆっくり引く 太ももの前面が伸びる部分で30秒ほどキープする 1~4の動作を3回ほど行う バランスを崩さないよう、片手をしっかり壁につけるのがポイントです。体勢が不安定な場合は、横向きになって寝転がった状態で行いましょう。 内転筋ストレッチ 内転筋(ないてんきん)は股関節の付け根から太ももの内側にかけてある筋肉で、内ももと呼ばれる部分です。 股関節唇損傷を発症すると硬くなりやすい筋肉となるため、しっかりストレッチしましょう。 内転筋ストレッチのやり方は、以下の通りです。 いすに座って片脚を広げる 背筋を伸ばしたままお辞儀をするように上半身を軽く倒す 30秒ほどキープして上体をゆっくり起こす 2~3の動作を5回ほど行い、反対側の脚も行う 股関節部分の筋肉が硬いと痛みを伴いやすいため、無理のない範囲で行うのがポイントです。 外転筋ストレッチ 外転筋(がいてんきん)は股関節の付け根から太ももの外側にかけてある筋肉で、外ももと呼ばれています。 ストレッチにより股関節の可動域が向上するため、股関節唇損傷のリハビリに取り入れると効果的です。 外転筋ストレッチのやり方は、以下の通りです。 横向きの状態で寝る 下側の脚を上げ、ゆっくり下ろす 上げ下げを10回ほど繰り返す 体の向きを変えて、反対の脚も同様に行う 外転筋のストレッチをする際は、一つひとつの動作をゆっくり行うことが大切です。 お尻のストレッチ 股関節周囲筋群の柔軟性を高めるには、お尻のストレッチもおすすめです。お尻の筋肉が硬いのも、股関節の可動域が狭くなる要因になります。 お尻のストレッチのやり方は、以下の通りです。 仰向け状態で寝る 片膝を立て、反対側の脚と交差させる 立てた膝を横にゆっくり倒す 30秒ほどキープしてもとの体勢に戻す 10回ほど繰り返したあとに反対側を行う 片膝を倒して体をひねる際は、肩が床から離れないようにしましょう。肩が浮いた状態だと、ストレッチによる効果を得られにくくなるため注意が必要です。 また、膝を倒すときは無理に倒さず、気持ち良いと感じる程度の姿勢をキープするのがコツです。 股関節唇損傷に効果的な筋力強化トレーニング 股関節唇損傷では股関節の安定性や衝撃吸収能力が低下するため、ストレッチだけでなく筋力強化も大切です。筋力強化トレーニングにより、骨盤から股関節周辺の安定性や筋力が強化されるため、痛みの緩和につながります。 効果的な筋力強化トレーニングは、以下の3つです。 膝立て運動 伏せ運動 アンクルポンプ やり方とポイントを以下で解説するので、参考にしてください。 膝立て運動 膝立て運動はベッドで行える筋力トレーニングとなるため、寝る前など手軽に取り入れられます。 やり方は、以下の通りです。 仰向けの状態で寝る 片脚を立てる 立てた方の脚を伸ばす 2~3の動きを10回ほど繰り返す 一つひとつの動作をゆっくり丁寧に行うことが大切です。脚の曲げ伸ばしがスムーズに行える場合は、立てた脚と反対側の脚を真っすぐ上げて30秒ほどキープするトレーニングに挑戦してみましょう。 伏せ運動 伏せ運動も膝立て運動と同様に、ベッドで行える筋力トレーニングになります。やり方は、以下の通りです。 うつ伏せ状態で寝る 膝を伸ばした状態で片脚をゆっくり上げ、下ろす 上げ下ろしを10回ほど繰り返し、反対側の脚も行う 伏せ運動をする際は、骨盤が浮かないよう注意しながら行いましょう。また、無理のない範囲で脚を上げるのがポイントです。 アンクルポンプ アンクルポンプでは、血液循環や筋力の回復が期待できます。やり方は、以下の通りです。 脚を伸ばした状態で床に座る 片膝を立てる 足首を上下に伸ばす 10回ほど繰り返し、反対の足首も行う 痛みがない範囲内で、ゆっくり動かすことがアンクルポンプのポイントです。アンクルポンプは股関節唇損傷の手術を行った際、早期からはじめられるトレーニングになります。血液の循環が悪くならないよう、取り入れましょう。 股関節唇損傷におけるリハビリ期間の目安 股関節唇損傷におけるリハビリ期間は、3ヶ月ほどが目安になります。手術をした場合、術後に関節の癒着や可動域制限を引き起こさないよう、術後早期からのリハビリテーション実施が大切です。 また、術後1ヶ月~3ヶ月までの期間は、修復した組織へ徐々に負荷をかける筋力トレーニングを行い、筋力の回復を目指します。 体幹の筋力や骨盤、肩甲骨などの柔軟性を高めるのも股関節の負担を減らすのに重要です。そのため、無理のない範囲でストレッチや筋肉トレーニングをリハビリに取り入れましょう。 股関節唇損傷のリハビリ期間中にやってはいけないこと 股関節唇損傷のリハビリ期間中にやってはいけないことは、以下の通りです。 激しい動作や無理な体勢 長時間の座位や立位 股関節への過度の負荷 つま先立ちや深い屈曲 股関節に負担をかける行動は、股関節唇損傷の再発を誘発する要因となるため注意が必要です。また、筋力トレーニングの一環としてスクワットを取り入れるのは股関節への負荷がかかり、逆効果となります。 主治医からの指示によっては、移動する際に補助器具を使用したり、手すりを使ったりなどの工夫が必要です。股関節唇損傷の症状緩和を目指す場合は、股関節に負担がかかる動作は避けましょう。 股関節唇損傷の回復をサポートする栄養 股関節唇損傷の回復をサポートする栄養は、以下の通りです。 栄養素 期待できる効果 食品 タンパク質 筋肉や靭帯の修復を促す 赤身肉 卵 大豆食品 など オメガ3脂肪酸 炎症を抑える働きが期待できる 大豆 青魚や青魚から取れる魚油 くるみ など ビタミンC 組織の修復を助ける オレンジ いちご ブロッコリー など 筋肉や靭帯の修復や炎症を抑えるなどの働きが期待できる食品を積極的に摂取すると、股関節唇損傷の回復に役立つ可能性があります。 筋力トレーニングやストレッチとあわせて、栄養も意識した食生活を心がけましょう。 股関節唇損傷がリハビリで改善しない場合の治療手段「再生医療」 再生医療は、股関節唇損傷がリハビリで改善しない場合の治療手段の一つです。治療法の一つとなる幹細胞治療では、採取した幹細胞を培養して股関節に投与します。 当院「リペアセルクリニック」では、患者様自身から米粒2〜3粒程度の脂肪を採取し、幹細胞を培養、投与します。幹細胞は冷凍せず、投与のたびに採取するのが当院の特徴です。 また、再生医療は入院が不要のため、手術を避けたい方に適した治療法といえます。 当院では、無料のメール相談を受け付けておりますので、股関節唇損傷のリハビリに関する悩みをお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。 まとめ|股関節唇損傷の症状回復へ向けてストレッチを実践しよう 股関節唇損傷は、股関節に負担がかかることで軟骨の一部が剥がれたり傷ついたりすると引き起こされます。安静に過ごすことが治療の一つになりますが、股関節の可動域が狭くなり、周囲の筋肉を動かしにくくなるためストレッチを取り入れるのがおすすめです。 股関節唇損傷を発症した際は、自宅でできるストレッチや軽い運動により回復をサポートできる可能性があります。 また、ストレッチや筋力トレーニングなどのリハビリで回復が見られない場合は、再生医療を検討するのも手段の一つです。整形外科医や理学療法士などに相談しながら、社会生活への早期復帰を目指すリハビリを実施しましょう。
2024.07.03 -
- 幹細胞治療
- 再生治療
- 肝疾患
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
- 内科疾患
最近ニュースでも大きく取り上げられている“脊髄梗塞”ですが、稀な疾患で原因が不明なものも多く、現状では明確な治療方針が定められていません。 後遺症に対してはリハビリテーションを行いますが、最近では再生医療が新たな治療法として注目されています。 脊髄梗塞の症状や原因については以下の記事で詳しく解説しています。 【予備知識】脊髄梗塞の発生率・好発年齢・性差情報 ある研究においては、年齢や性差を調整した脊髄梗塞の発生率は年間10万人中3.1人と報告されています。 脳卒中などの脳血管疾患と比較し、脊髄梗塞の患者数はとても少ないです。 また、脊髄梗塞の患者さんのデータを集めた研究では、平均年齢は64歳で6割以上は男性だったと報告されています。 参考:A case of spinal cord infarction which was difficult to diagnose しかし、若年者の発症例もあり、若年者の非外傷性脊髄梗塞の発生には遺伝子変異が関係していると示唆されています。 脊髄梗塞は治るのか? 結論から言うと、脊髄梗塞を完全に治すことは困難です。現在のガイドラインでは、完治までの治療方法は確立されていません。 したがって、脊髄梗塞の後遺症に対するリハビリテーションを正しくおこなうことが症状改善に有効とされています。 脊髄梗塞の後遺症について 脊髄梗塞の発症直後には急激な背部痛を生じることが多く、その後の後遺症として四肢の運動障害(麻痺や筋力低下など)や感覚障害(主に温痛覚低下)、膀胱直腸障害(尿失禁・残尿・便秘・便失禁など)がみられます。 四肢の運動障害(麻痺や筋力低下など) 感覚障害(主に温痛覚低下) 膀胱直腸障害(尿失禁や残尿、便秘、便失禁など) これらの症状に関しては入院治療やリハビリテーションの施行で改善することもありますが、麻痺などは後遺症として残ることもあります。 歩行障害の予後に関して、115人の脊髄梗塞患者の長期予後を調査した研究報告では、全患者のうち80.9%は退院時に車椅子を必要としていましたが、半年以内の中間調査で51%、半年以降の長期調査では35.2%と車椅子利用者の減少がみられました。 出典:Recovery after spinal cord infarcts Long-term outcome in 115 patients|PubMed 同じ研究における排尿カテーテル留置(膀胱にチューブを挿入して排尿をさせる方法)の予後報告ですが、退院時には79.8%だったのが中間調査では58.6%、長期調査では45.1%へと減少がみられました。 症状が重度である場合の予後はあまり良くありません。 しかし、発症してから早い時期(1〜2日以内)に関しては症状が改善する傾向にあり、予後が比較的良好とされています。 【原因別】脊髄梗塞の治療方法 原因 治療方法 大動脈解離 手術 / 脳脊髄液ドレナージ(1) / ステロイド投与 / ナロキソン投与(2) 結節性多発大動脈炎 ステロイド投与 外傷 手術 動脈硬化・血栓 抗凝固薬 / 抗血小板薬(3) 医原性(手術の合併症) 脳脊髄液ドレナージ / ステロイド投与 / ナロキソン投与 (1)背中から脊髄腔へチューブを挿入し脊髄液を排出する方法 (2)脊髄の血流改善を認める麻酔拮抗薬 (3)血を固まりにくくする薬剤 比較的稀な病気である脊髄梗塞は、いまだに明確な治療法は確立されていません。 脊髄梗塞の発生した原因が明らかな場合にはその治療を行うことから始めます。 たとえ例えば、大動脈解離や結節性多発動脈炎など、脊髄へと血液を運ぶ大血管から中血管の病態に起因して脊髄の梗塞が生じた場合にはその、原因に対する治療がメインとなります。 一方で、原因となる病態がない場合には、リハビリテーションで症状の改善を目指します。 脊髄梗塞に対するリハビリテーション 脊髄梗塞で神経が大きなダメージを受けてしまうと、その神経を完全に元に戻す根本的治療を行うのは難しいため一般的には支持療法が中心となります。 支持療法は根本的な治療ではなく、症状や病状の緩和と日常生活の改善を目的としたものでリハビリテーションも含まれます。 リハビリテーションとは、一人ひとりの状態に合わせて運動療法や物理療法、補助装具などを用いながら身体機能を回復させ、日常生活における自立や介助の軽減、さらには自分らしい生活を目指すことです。 リハビリテーションは病院やリハビリテーション専門の施設で行うほか、専門家に訪問してもらい自宅で行えるものもあります。 リハビリテーションの流れ ①何ができて何ができないのかを評価 ②作業療法士による日常生活動作練習や、理学療法士による筋力トレーニング・歩行練習などを状態に合わせて行う 日常生活において必要な動作が行えるよう訓練メニューを考案・提供します。 脊髄梗塞発症後にベッド上あるいは車椅子移動だった患者さん7人に対して検討を行った結果、5人がリハビリテーションで自立歩行が可能(歩行器や杖使用も含まれます)となった報告もあります。 時間はかかりますし、病気以前の状態まで完全に戻すのは難しいかもしれません。しかし、リハビリテーションは機能改善に有効であり、脊髄梗塞の予後を決定する因子としても重要です。 再生医療が脊髄梗塞に有用! https://www.youtube.com/watch?v=D-THAJzcRPE このように、脊髄梗塞では確立された治療法がなく、場合によっては対症療法を中心に治療法自体を模索することも少なくありません。そのような中、近年では再生医療が脊髄梗塞を含めた神経障害に対して特異的な効果を発揮しています。 再生医療では、これまで回復が困難と言われてきた神経の障害に対しても常識を覆す効果を発揮し、これまでも脊髄梗塞におけるリハビリテーションの効果を向上させるとの報告や、脊髄損傷の重症度を改善したと報告がされており、これからの医療にとって新しい希望の光となっています。 再生医療とは、失われた身体の組織を修復する能力、つまり自然治癒力を利用した医療です。 当院で行なっている再生医療は“自己脂肪由来幹細胞治療”です。患者様から採取した幹細胞を培養して増殖し、その後身体に戻す治療法となっています。 幹細胞とは、いろいろな姿に変化できる細胞で、失われた細胞を再生・修復する機能をもちます。自分自身の細胞から作り出すので、アレルギーや免疫拒絶反応がなく、安全な治療法といえます。 日本における幹細胞治療では、一般的に点滴による幹細胞注入を行なっておりますが、それでは目的の神経に辿り着く幹細胞数が減ってしまうことが懸念されます。 そこで、当院では損傷した神経部位に直接幹細胞を注入する“脊髄腔内ダイレクト注入療法”と呼ばれる方法を採用しています。注射によって脊髄のすぐ外側にある脊髄くも膜下腔に幹細胞を投与する方法で点滴治療と組み合わせることにより、より大きな効果を期待できます。この治療は数分のみの簡単な処置で済み、入院も不要です。 実際に当院では術後や外傷、脊髄梗塞、頚椎症などの神経損傷に由来する麻痺や痺れ、疼痛などの後遺症に対して再生療法を施し、症状が大きく改善した例を経験しています。 脊髄梗塞に関するQ &A この項目では、脊髄梗塞に関するQ &Aを紹介します。 多くの方が抱えているお悩み(質問)に対して、医者の目線から簡潔に回答しているのでご確認ください。 脊髄梗塞の主な原因は? 脊髄梗塞の主な原因は以下のとおりです。 脊髄動脈の疾患 栄養を送る血管の損傷 詳細な原因については以下の関連記事で紹介しているのでぜひご確認いただき、症状改善の一助として活用ください。 脊髄梗塞の診断は時間を要する? そもそも脊髄梗塞は明確な診断基準がありません。 発症率が低い脊髄梗塞は最初から強く疑われず、急速な神経脱落症状(四肢のしびれや運動障害、感覚障害など)に加えてMRIでの病巣確認、さらに他の疾患を除外してからの診断が多いです。 また、MRIを施行しても初回の検査ではまだ変化がみられず、複数回の検査でようやく診断に至った症例が少なくありません。 ある病院の報告では、発症から診断に要した日数の中央値は10日となっており、最短で1日、最長で85日となっていました。 まとめ・脊髄梗塞は治るのか?治療法や後遺症のリハビリについて解説 脊髄梗塞は稀な疾患ゆえ、治療ガイドラインが確立されていません。 原因が明らかな場合にはその治療を行ない、原因が不明な場合には脱水予防の補液のみです。その後以降は後遺症を改善するべくリハビリテーションに努めるのがこれまでの一般的な治療でした。 しかし、2024年現在は再生医療に手が届く時代となり、今まで回復に難渋していた脊髄損傷も改善が見込めるようになりました。 脊髄損傷による後遺症に再生医療が適応となる可能性があります。気になる方はぜひ当院に一度ご相談ください。 ▼こちらも併せてお読みください。
2024.07.02 -
- 股関節、その他疾患
- 股関節
恥骨結合炎とはどんな病気? 恥骨結合炎になったら、何科を受診すればいいの? おへそのあたりが痛む病気として「恥骨結合炎(ちこつけつごうえん)」という病名を目にすることもあるかもしれません。 聞きなれない病名で不安になる方や、何科を受診すべきか悩む方もいるでしょう。 恥骨結合炎は歩いた後や運動後におへそあたりに感じる痛みが特徴の病気です。 恥骨に起きる炎症であるため、整形外科で治療を行うのが一般的です。 本記事では、恥骨結合炎の原因や症状、予防方法まで詳しく解説します。運動後におへそあたりに痛みを感じやすい人はぜひ最後までチェックしてみてください。 恥骨結合炎はおへその下あたりに起きる炎症!更年期やがんとの関係はない 恥骨結合炎(ちこつけつごうえん)は骨盤の一部である恥骨に起きる炎症です。 おへそから下に向かって触っていったときに陰毛付近で触れられる骨で、その周囲に痛みを感じます。 女性に多く妊娠や出産を期に発症することがありますが、婦人科系のがんや更年期障害と関係ありません。 そのほか、サッカーなど内ももの筋肉に負担がかかるスポーツや、尿道カテーテルや帝王切開などの術後感染によって発症する可能性もあります。 恥骨結合炎の3つの症状 恥骨結合炎には以下の症状があります。 恥骨部・鼠径部(そけいぶ)・下腹部の痛みや違和感がある いつものように歩けない・走れない 発熱がある ひとつずつ見ていきましょう。 恥骨部・鼠径部(そけいぶ)・下腹部の痛みや違和感がある 代表的な症状は恥骨部や鼠径部(足の付け根)・下腹部の痛みです。 ランニングなどの運動後や股関節周りの筋肉が強く働いたあとに痛みます。 最初は違和感や鈍い痛みですが、悪化していくと刺すような鋭い痛みで激痛となることも珍しくありません。 症状が重くなると、かがんだり立ち上がるといった日常的な動作でも痛むようになり、安静にしていても痛みが続きます。 いつものように歩けない・走れない うまく力が入らずいつものように歩けない・走れないといった症状も特徴です。 恥骨結合からお腹や内ももとつながる筋肉もいっしょに炎症を起こすため、痛みにより歩く・走ることが難しくなるケースもあります。 発熱がある 感染を起こしている場合は、身体が病原菌と戦うため発熱します。 感染を起こしていない場合は発熱はありませんが、恥骨部が痛くて熱も出てきた場合はかならず病院を受診しましょう。 恥骨結合炎(恥骨炎)の3つの原因 恥骨結合炎の原因は大きくわけて以下の3つです。 スポーツ 妊娠・出産 感染症 恥骨は陰毛のあたりで左右から向かい合い、中央で軟骨をはさんで合流する骨です。 この合流した部分を恥骨結合といい、スポーツや妊娠出産・感染症で炎症をおこすと恥骨結合炎になります。 原因を1つずつみていきましょう。 サッカーやランニングなどのスポーツ 恥骨結合炎を起こしやすいスポーツは以下のとおりです。 ランニング サッカー(ボールを蹴る動作) ジャンプ ランニングやサッカー、ジャンプは恥骨のあたりに体重がかかりやすく、反復する運動なので恥骨結合に負荷がかかります。 たとえば、1回や2回同じ場所を軽くぶつけても平気ですが、一定のリズムで何度もぶつけると赤くなり、痛みを感じるでしょう。 この状態が恥骨のあたりで起こり続けると、恥骨結合や恥骨結合にくっついている周りの筋肉に炎症を起こします。 妊娠・出産 女性は妊娠・出産時に恥骨結合炎を起こしやすいです。 骨盤がゆるむ妊娠後期 骨盤を赤ちゃんの頭が通る出産時 骨盤が不安定な出産後 妊娠後期では、産む準備のために出るホルモンで骨盤がゆるみ、赤ちゃんの頭が骨盤内におさまるため恥骨が圧迫されます。 赤ちゃんの頭が産道を通る出産時も、恥骨が強く圧迫されるので痛みがでやすいでしょう。 出産後、ゆるんだ骨盤は自然にもどりますが、すでに妊娠や出産で疲労がたまっている恥骨部は、赤ちゃんの抱っこなどの育児で炎症が起きやすい状態です。 妊娠後期から出産後まで恥骨のあたりが痛む場合は、はやめに助産師や医師に相談してください。 感染症 まれですが、感染症により化膿性の恥骨結合炎を起こします。 術後に感染する(術後感染) 尿道カテーテルを通して感染する(尿路感染) 日常生活での感染 泌尿器科や婦人科(帝王切開など)の術後感染や、尿道カテーテルなどで尿路感染を起こすと、骨盤内で炎症が起き恥骨結合炎になるケースがあります。 また、手術をしていなくても、健康な人が保菌している黄色ブドウ球菌や水まわりに常在する緑膿菌に感染することで化膿性恥骨結合炎を起こす可能性があることを頭に入れておきましょう。 恥骨結合炎の診断方法 恥骨結合炎の診断は以下の3つでおこないます。 触診 MRI検査 レントゲン検査・CT検査 それぞれ解説します。 触診 医師が実際に痛いところとその周辺を触り、痛みの正確な位置や痛みの程度を確認します。 痛いところを触られるのはつらいと思いますが、正しい診察のために触診は必要な検査なので、少しの間がんばりましょう。 MRI検査 MRI検査は、磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging)のことで、磁石と電磁波をつかって体内の組織を画像化します。 健康な組織と炎症(病変化)している部分とではコントラストが大きく違って写されるので、痛みの原因や場所をつきとめるために必要な検査です。 大きな筒状の機械に20分~1時間ほど入るため、閉所恐怖症の方は医師につたえましょう。 また、MRIは強い磁力があり、体内に金属が入っている場合は検査ができないため、事前に医師に相談してください。 レントゲンやCT検査 MRIは時間のかかる検査のため、素早く撮影できるレントゲンやCT検査をおこないます。 レントゲンやCTはX線をつかった検査で、骨の異常や炎症している部分の撮影が可能です。 また、レントゲンやCTは、MRIと違って金属が入っていても検査できます。 恥骨結合炎における2つの治療法 恥骨結合炎の主な治療法は以下の2つです。 安静・服薬などの内科的治療 内視鏡・カテーテルによる外科的治療 それぞれ解説します。 安静・服薬などの内科的治療 恥骨結合炎の治療では、手術をしない保存的な治療がメインです。 安静にする 痛み止めや炎症止めの薬を飲む マッサージやストレッチをする リハビリをする 炎症がおさまるまでは薬を飲んだり、冷やして安静にしましょう。 傷ついた筋肉や痛みをかばうためにほかの筋肉も疲労しているので、痛みがひいてきたら医師の指示のもとマッサージやストレッチをおこないます。 3週間ほどは運動を制限しながらのリハビリで筋肉を強化し、すこしずつ運動量を増やして数か月でスポーツができるまでに回復可能です。 ただし、恥骨結合炎は再発しやすい病気なので、無理をせず医師の判断のもと治療しましょう。 内視鏡・カテーテルによる外科的治療 恥骨結合炎は保存的治療がメインですが、外科的治療という選択肢もあります。 具体的に、2つの治療方法をご紹介しましょう。 内視鏡的恥骨結合掻把(ないしきょうてきちこくけつごうそうは) 運動器カテーテル治療 恥骨結合炎の重症例ではお腹をひらく開腹手術が一般的ですが、最近では内視鏡をつかってお腹をきらずに手術をおこなう内視鏡的恥骨結合掻爬がおこなわれます。 そのほか、手術適応ではないけれど再発を繰り返すケースに対して、運動器カテーテル治療も要注目です。 運動器カテーテル治療とは、足の付け根や手首などの結果から0.6mmほどのカテーテルを入れ、病変部位の細かい血管を減らす治療のことです。 炎症が起こると、その周囲に細かい異常な血管がたくさんできますが、カテーテルで異常な血管をなくすことで痛みや炎症をおさえます。 まだ新しい治療方法のため保険適用ではありませんが、いま注目されている治療法です。 また、恥骨結合炎をはじめ、歩行時や運動後の下腹部の痛みが気になる方は、当院「リペアセルクリニック」の「メール相談」や「オンラインカウンセリング」もご活用いただければ幸いです。 恥骨結合炎で受診すべき3つの目安!受診すべき診療科もご紹介 恥骨結合炎を疑ったときに受診すべき基準は以下に挙げる3つです。 歩行やスポーツで下腹部の痛みがある 下腹部の痛みと発熱がある 排尿時・月経時の痛みが強い なお、スポーツや下腹部の痛みでは整形外科へ、排尿時には泌尿器科・月経時には婦人科へ受診してください。 それぞれの理由をみてみましょう。 歩行やスポーツで下腹部の痛みがある 歩行やスポーツをした後に感じる痛みは、恥骨結合炎の特徴的な症状です。 これは運動により、恥骨や周囲の筋肉に繰り返し負担がかかるためです。この場合は骨・筋肉の痛みであるため、整形外科を受診しましょう。 歩行やスポーツ時の下腹部の痛みが気になる場合は、当院「リペアセルクリニック」でもご相談が可能です。 恥骨結合炎なのか判断がつかず悩んでいる方は、ぜひ「メール相談」や「オンラインカウンセリング」にてお気軽にお問い合わせください。 下腹部の痛みと発熱がある 帝王切開や尿道カテーテルの術後、あるいは風邪を引いた後に下腹部の痛みと発熱を伴う場合などは、感染による恥骨結合炎の可能性があります。 薬による治療が必要なため、可能な限り早い受診がおすすめです。 発熱が伴う場合でも、恥骨結合炎が疑われる場合は整形外科を受診してください。 排尿時・月経時の痛みが強い 恥骨結合炎は恥骨に負担がかかったときに生じる痛みが特徴の病気であるため、排尿時や月経時に痛みが出ることはあまりありません。 そのため、排尿時や月経時に痛みが強くなる場合は恥骨結合炎以外の病気の可能性があります。 排尿時の痛みがあれば泌尿器科へ、月経時の痛みが強いときには婦人科を受診してみてください。 恥骨結合炎と似ている病気 恥骨結合炎に似ている病気もあるため、症状や痛みの具合だけで自己判断しないようにしましょう。 恥骨結合炎とよく間違えられる病気は以下のとおりです。 グロインペイン症候群 恥骨結合離開(ちこつけつごうりかい) 子宮筋腫・子宮内膜症 膀胱炎・尿道炎 本章を参考にしつつ、該当する症状がある場合は早めに受診することをおすすめします。 グロインペイン症候群 グロインペイン症候群は鼠径部痛症候群ともいわれ、恥骨結合炎と症状が似ており間違えられやすい病気です。 鼠径部(そけいぶ)は足の付け根あたりを指しますが、グロインペイン症候群では足の付け根、下腹部、睾丸のうしろ、内ももが痛みます。 痛みの場所もですが、サッカー選手に多く見られることも恥骨結合炎と似ている特徴です。 恥骨結合炎と違うのは恥骨部分の炎症がないことで、グロインペイン症候群の治療では股関節だけを動かさないような運動の仕方や筋力強化のためのリハビリが主な治療となります。 炎症が起きている場合は運動制限が必要なので、似た症状でも治療内容が異なることを頭にいれておきましょう。 恥骨結合離開(ちこつけつごうりかい) 恥骨結合炎と間違えられやすい病気に恥骨結合離開があります。 症状は恥骨結合炎と同じく恥骨部の痛みですが、時折、痛みが非常に強くなるために、正常に歩行することが困難になるケースもある病気です。 通常は運動しただけで離開することはありませんが、事故などの外圧や出産などで左右からのびた恥骨を結合させている軟骨が離れてしまいます。 腰を強く強打したあとに痛み出した・出産後に強い痛みがある場合は医師に相談しましょう。 子宮筋腫・子宮内膜症 子宮筋腫・子宮内膜症は下腹部の痛みを伴うため、恥骨結合炎と間違えやすい病気です。 これらの病気は本来子宮内に存在する組織が子宮外で異常発育するために生じる病気で、恥骨へ痛みが波及します。 とくに月経時、子宮内膜が剥がれるときの強い痛みが特徴であり、恥骨結合炎のように運動後の痛みはあまりありません。 痛みを感じる部位は似ていますが、痛みを抑えるお薬の内容が大きく異なるため注意してください。 月経時に下腹部や恥骨の痛みを強く感じる場合は、婦人科に相談しましょう。 膀胱炎・尿道炎 膀胱と尿道は恥骨の後ろにある臓器であるため、膀胱炎・尿道炎も恥骨付近へ痛みを生じさせます。 しかし膀胱炎や尿道炎は排尿時の痛みが主であるため、運動時に痛みを感じる恥骨結合炎とは見分けやすいでしょう。 これらの病気はなんらかの原因で細菌が膀胱・尿道に入り込むために生じます。 排尿時の痛みや血尿・尿の色が本来と大きく異なるといった症状が特徴であり、内服治療が必要です。このような症状がみられたときには泌尿器科への受診をおすすめします。 恥骨結合炎の予防に効果的なストレッチ5選 恥骨結合炎は再発しやすく、一度症状が出ると治るのに時間がかかるため、日頃から予防したいですよね。 恥骨にくっついている筋肉は、大内転筋・小内転筋・長内転筋・薄筋・恥骨筋・腹直筋などで、内ももや股関節まわり・下腹部にあります。 これらの筋肉をほぐすストレッチで予防しましょう。 また、以下の記事でも恥骨結合炎のストレッチについて解説したいるため、気になる方はぜひご覧ください。 ただし、炎症が強い場合や痛みがあるときは自己判断でストレッチせず、かならず医師の診察を受けてください。 内もも・股関節のストレッチ(1) 1. 床にすわり、足の裏どうしを合わせて股関節をひろげます。 2. 手は両足のつま先をそっとつつみ、上半身を前へたおします。 3. ゆっくり3回ほど呼吸します。(約20~30秒) 背中が曲がらないように気をつけましょう。 内もも・股関節のストレッチ(2) 1. 大内転筋ストレッチの姿勢から、両足をすこし前に出します。(ダイヤの形) 2. 手は両足のつま先をつつみ、上半身を前へたおします。 3. ゆっくり3回ほど呼吸します。(約20~30秒) 両足の位置は少し調整し、気持ちの良いところでおこなってくださいね。 内もも・股関節のストレッチ(3) 1. 長内転筋ストレッチの姿勢から両足を伸ばしひらきます。(開脚している状態) 2. 手は前につきゆっくり上半身を前にたおします。 3. ゆっくり3回ほど呼吸します。(約20~30秒) 上半身を前にたおすときに、つま先が上になるように気をつけましょう。 お腹のストレッチ(1) 1. うつ伏せになり、足を肩幅ほどにひらきます。 2. 両手を肩の横につき、気持ちの良いところまで肘を伸ばします。 3. ゆっくり5回ほど呼吸します。(60秒前後) 目線はななめ上または正面に向け、無理せずおこないましょう。 お腹のストレッチ(2) 1. 手のひらと両膝を肩幅程度にひらき床につけ、よつんばいの姿勢になります。 2. 息を吐きながら背中を丸めおへそを見ます。 3. 息を吸いながら背中を反らし天井を見ます。 4. ゆっくり5回ほど呼吸しながら繰り返します。(60秒前後) 天井を見るときに顎が上がると首を痛めやすいので顎をひいておこないましょう。 恥骨結合炎には負荷の少ないトレーニングもおすすめ 負荷の小さいトレーニングであっても、恥骨結合炎の予防に効果的です。 恥骨結合炎は恥骨付近の筋肉が炎症を起こして発症する可能性があるため、内股や下腹部の筋力強化がおすすめです。 また、肥満でも体重の重みが恥骨に負担を与えるため、肥満改善も有効といえるでしょう。 もし恥骨結合炎を繰り返している方や予防したい方は、負担の小さいトレーニングをおすすめします。詳しい内容は以下の記事で解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。 恥骨結合炎で注意すべき生活習慣2選 恥骨結合炎は数週間~数か月と完治まで時間がかかり、再発もしやすい病気のため、日常生活に気をつけなくてはいけません。 骨盤に負担がかかる姿勢や動作 体重のコントロール 恥骨結合炎の治療・予防に重要な2つの注意点をまとめました。 骨盤に負担がかかる姿勢や動作 恥骨に負担がかかりやすいのは、体重が前にかかる・体重が左右に偏るときです。 前傾姿勢にならないように注意するのと、片方の足に体重をかけて立たないようにしましょう。 落ちたものを拾いたいときなどは、なるべく膝を曲げ体重が前にかからないようにします。 ベッドから起き上がる動作は下腹部・恥骨に力がかかるため、まず横向きになり、手で床を押しながら起き上がりましょう。 敷布団は起床時にに立ち上がる動作がどうしても負担になります。可能であればベッドを使用をおすすめします。 また、ビーズクッションなどの柔らかいソファは立ち上がる動作が負担になるので使用は控えましょう。 体重のコントロール 体重がかかると恥骨への負担が大きくなるため、肥満の場合は体重を落とすことも考えます。 とはいえ恥骨結合炎の治療中は運動は制限されるため、食事内容や量を見直しましょう。 肥満ではなくてもスポーツをしていて恥骨結合炎になった方は、運動を制限する治療期間中の消費カロリーが大幅に減ります。同じように食べていると体重が増えてしまうため、注意しましょう。 まとめ|恥骨結合炎はおへそ下に痛みを出す病気!悩んだら整形外科を受診しよう 恥骨結合炎は恥骨や周囲の筋肉の炎症によって痛みを生じる病気で、運動や出産が原因と考えられています。股関節周囲のストレッチやトレーニングが効果的で、適切な治療をすれば治る病気です。 しかし完治まで長い時間がかかり再発しやすい病気のため、日頃からストレッチをしたり、恥骨に負担をかけないよう動作に気をつけて過ごしましょう。 また、恥骨の痛みがなかなか治らない場合は似ているほかの病気も考えられるため、自己判断せず病院への受診をおすすめします。 ちなみに、当院リペアセルクリニックでは恥骨結合炎にも適応可能な再生医療へ取り組んでいます。従来の治療とは異なり、体への負担も少なく再発予防にも効果的です。 もし気になる方がいれば、お気軽に当院の「メール相談」や「オンラインカウンセリング」をご利用ください。 この記事が少しでも皆様の参考になれば幸いです。 恥骨結合炎についてよくある質問 恥骨結合炎はどんな症状がある病気ですか? 恥骨結合炎は歩行や運動によって恥骨や周囲の筋肉に炎症が生じ、下腹部に感じる痛みが特徴の病気です。 サッカーなど股関節を大きく動かすスポーツや妊娠・出産が原因で生じやすいと考えられています。 恥骨結合炎は何科を受診すれば良いですか? 恥骨結合炎は恥骨や周囲の筋肉に生じる炎症であるため、整形外科を受診してください。 しかし恥骨結合炎と似た病気で整形外科の病気ではない可能性もあります。 もし排尿時の痛みが強い時は泌尿器科へ、月経時の痛みが強いときには婦人科への受診がおすすめです。
2024.07.01 -
- 股関節、その他疾患
- 股関節
「恥骨結合炎に効果的なストレッチはある?」「ストレッチで恥骨結合炎の痛みを和らげたいけれど、どこを伸ばせばいいかわ分からない……。」と悩んでいませんか。 恥骨結合炎は、腹筋と内ももの筋肉を伸ばすようにストレッチを行うと症状が楽になる場合があります。また、お尻のトレーニングや水中歩行などの簡単な運動も効果的です。 本記事では、恥骨結合炎の症状を緩和してくれるストレッチを部位別にご紹介します。家でできるものも多いので、恥骨結合炎で悩んでいる方はぜひ最後までチェックして、ご自宅で実践してみてください。 恥骨結合炎では腹筋と内ももの筋肉をストレッチしよう! 恥骨はちょうど下着で隠れるところにあり、陰毛の生え際あたりに触れる骨です。左右に1つずつある恥骨は、真ん中で軟骨をはさむように結合しており、これを恥骨結合といいます。そしてその恥骨結合に起きる炎症が恥骨結合炎です。 腹筋や内転筋はこの恥骨結合についている筋肉なため、筋肉の固さが恥骨結合に悪影響となります。そのため、恥骨結合炎には腹筋や内転筋のストレッチが有効です。 恥骨結合炎の多くは、ランニングなどのスポーツによる腹筋や太ももの内側にある筋肉(内転筋)のオーバーユース(使いすぎ)が原因です。 腹筋や内転筋が恥骨結合に大きな負荷がかかることで発症するため、これらの筋肉を伸ばすように意識してストレッチを行いましょう。 ちなみに、恥骨結合炎の詳細は以下の記事で詳しく解説しています。ストレッチだけでなく恥骨結合炎についてもっと知りたいという方は要チェックです。 恥骨結合炎に効く腹筋のストレッチ2選 腹筋(腹直筋)は恥骨結合についている筋肉であり、骨盤や背骨の動きをコントロールする筋肉です。スポーツをはじめ、あらゆる日常生活動作で力が入る部位であり、腹筋に固さがあると少しの動作でも恥骨に負担がかかります。 この章ではうつ伏せと四つ這いでできる腹筋のストレッチをご紹介します。2つとも自宅で簡単にできるので、ぜひ実践してみてください。 うつ伏せでする腹筋(腹直筋)のストレッチ 1.手のひらをついた状態でうつ伏せになる 2.手で床を押しゆっくり体を起こす 3.体を起こしきったところで30秒ほど深呼吸する このストレッチのポイントはみぞおちをできるだけ床につけながら体を起こしていくことです。みぞおちを意識せずに思い切り体を起こすと腰を反りすぎてしまい、腰の痛みにつながります。 みぞおちをつけながらゆっくり体を起こしていき、腹部の伸びを感じてください。 四つ這いでする腹筋(腹直筋)のストレッチ 1.四つ這いの姿勢になる 2.両手を肩のまっすぐ下につき、膝を腰幅に開く 3.息を吸いながらお腹をのぞきこむように背中をまるめる 4.息を吐きながらななめ上を見るように背中を反らす 5.呼吸しながら5回ほど繰り返す このストレッチのポイントは腹筋と背筋に力を入れて動かすことです。肩や脚に力が入ると肩・骨盤の位置が前後に動きやすく、十分に腹直筋が伸びません。 腹筋と背筋にしっかりと力を入れて背骨を大きく動かすことで腹直筋にストレッチがかかりやすくなります。 恥骨結合炎に効く内転筋のストレッチ3選 内転筋は太ももの内側につき、脚を閉じたり立っているときに脚と骨盤を支える働きをする筋肉です。 脚を動かした時に骨盤と脚の支えをコントロールする筋肉であり、とくにランニングやサッカーで強く働きます。 オーバーユースにより内転筋が固くなると恥骨に負担がかかるため、恥骨結合炎の痛みに悩んでいる方は意識的にストレッチを行いましょう。 この章では3つの姿勢で内転筋をストレッチする方法をご紹介します。 内転筋が柔らかくなるとスポーツのパフォーマンスも向上しやすいので、スポーツをする方は必見です。 あぐらでする内転筋のストレッチ 1.あぐらの姿勢から両方の足裏をぴったりとあわせて座る 2.あぐらのままおへそをぐっと引き上げるようにして骨盤を立てる 3.背筋をのばし、ゆっくり前へ倒れる 4.呼吸しながら内転筋を伸ばし、30秒持続する ポイントは骨盤を立ててしっかりと背筋を伸ばすことです。 内転筋は骨盤が後ろに倒れると縮みやすいため、姿勢を正してストレッチを行いましょう。 また、前に倒れる時に背中が丸くなりやすいため、前に倒す時も骨盤を立てて背筋を伸ばすよう意識して行ってみてください。 開脚でする内転筋のストレッチ 1.床に座って膝を伸ばしたまま開脚する 2.骨盤を立てて背筋を伸ばす 3.背筋を伸ばしたまま骨盤から前に倒れる 4.呼吸をしながら内転筋を伸ばし、30秒持続する ポイントはストレッチしているときに膝・背筋を伸ばしたままにすることです。膝や背筋が曲がると内転筋のストレッチの効果が弱くなってしまうため、注意しましょう。 また、体を前に倒した時に膝のお皿やつま先が内側を向いていても内転筋の伸びが悪くなります。そのため、膝とつま先を上に向けるよう意識してください。 立ってする内転筋のストレッチ 1.立って脚を大きく開く 2.膝を曲げて四股の姿勢になり、膝の上に両手を乗せる 3.肘を伸ばしたまま伸ばしたい側の肩を内側に入れていく 4.片側を30秒ほど伸ばしたら、反対側も同様に伸ばしていく 肩を内側に入れるときに、膝が内側に向かないようしっかりと手で抑えることが大切です。 肩が内側に入るときに膝も内側に捻られると、内転筋のストレッチが弱くなってしまうため、膝をしっかり手で押さえましょう。 恥骨結合炎には簡単な運動もおすすめ!効果的なトレーニング4選 恥骨結合炎には腹直筋と内転筋のストレッチだけでなく簡単な運動も有効です。とくにおすすめなのは、腹直筋と内転筋をほぐす効果がある以下4つの運動です。 横のお尻のトレーニング 後ろのお尻のトレーニング 水中歩行 ジョギング 負担がかからない程度の運動によって恥骨結合炎の症状が軽減できるでしょう。 どれも簡単で実践しやすいため、ぜひ毎日の運動として取り入れてみてください。 横のお尻のトレーニング 横のお尻には中臀筋(ちゅうでんきん)という筋肉があります。中臀筋は内転筋とともに、外側と内側から骨盤と脚を支える筋肉です。中臀筋を鍛えることで内転筋の働きを助け、結果的に恥骨結合にかかる負担が軽減されるでしょう。 中臀筋を鍛えるトレーニングは以下のとおりです。 1.肩から脚がまっすぐなるよう横向きに寝る 2.4秒かけて上の脚を斜め後ろに引きながら持ち上げる 3.8秒かけてゆっくり戻す 4.10回繰り返し、反対側の脚も同様におこなう ポイントは、脚を持ち上げるときにつま先が上を向かないように脚を持ち上げることです。 つま先が上を向くと脚全体が捻られてしまい、中臀筋よりも太ももの前側に力が入ってしまいます。中臀筋にしっかりと力を入れるためにも、つま先が上を向かない意識を持ってください。 後ろのお尻のトレーニング 後ろのお尻には大臀筋(だいでんきん)という筋肉があります。大臀筋は恥骨結合に直接付着してはいませんが、骨盤と脚の支えに関わる重要な筋肉です。 大臀筋を鍛えることで骨盤と脚が安定し、恥骨結合炎の症状軽減につながります。 大臀筋を鍛えるトレーニングは以下のとおりです。 1.仰向けに寝て膝を90度に曲げる 2.肩・お尻・膝が一直線になるまでお尻を持ち上げる 3.10回ほど繰り返す。 ポイントはお尻を持ち上げたときに肩から膝までが一直線になるように持ち上げることです。 お尻が持ち上がらなかったり、腰を反ったりしてしまうと、大臀筋に力が入らず他の筋肉に頼った動作になるので注意しましょう。 水中歩行 水の中は浮力があり、自分の重さが軽減されるため負荷をかけずに運動できます。 ただし、バタ足は細かいキックを繰り返し恥骨に負担がかかるため、泳ぐのではなく水中歩行をしましょう。 歩くと水圧で全身にほどよく負荷がかかり、さまざまな筋肉をバランスよく鍛えられますし、10分ほどの運動で効果が得られます。慣れたら20分を週2回ほどおこないましょう。距離は10分あたり300m~500mほどが目安ですが、身長や水深によって負荷が変わるため、距離よりも時間を重視して歩いてください。 前歩きや横歩き、後ろ歩きなどさまざまな歩き方ができますが、とくに横歩きは内ももにある内転筋など股関節まわりの筋肉を鍛えられます。 3つの歩き方を組み合わせて、無理なく実践してください。 ジョギング ジョギングは運動強度が競歩と同レベルで、歩行よりも負荷のある運動かつ、ランニングほどの負担がなく運動療法として最適です。 ランニングよりも小幅で、息切れせず隣の人と話せるくらいのスピードで走ります。はじめは歩行とジョギングをくみあわせて10分程度から、すこしずつ歩行を減らしジョギングのみにしていき、時間も増やしていきましょう。 恥骨結合炎でストレッチ・トレーニングが効かなければ整形外科を受診しよう ここまでご紹介した恥骨結合炎に効果的なストレッチやトレーニングを実施しても痛みが続く場合、早めに整形外科を受診しましょう。 恥骨結合炎の炎症が強い場合は医師の指示にしたがって抗炎症薬などを使い、炎症が落ち着いてからストレッチ・トレーニングを再開してください。 また、婦人科や泌尿器科系の疾患など、恥骨結合炎以外の病気が隠れているケースもあります。適切な治療を受けるためにも、早めに医療機関を受診するようにしましょう。恥骨結合炎を含めた恥骨の痛みについて以下の記事で詳しく解説しています。興味がある方はぜひ一度ご覧ください。 なお当院リペアセルクリニックでは、恥骨結合炎にも適応可能なPRP療法などの再生療法に取り組んでいます。 恥骨結合炎で傷ついた軟骨組織の再生が可能であり、炎症や痛みの軽減につながる可能性があります。興味がある方は当院のメール相談もしくはオンラインカウンセリングでお気軽にご相談ください。 まとめ|恥骨結合炎には腹筋と内もものストレッチが有効!強い痛みがあれば受診も検討しよう 恥骨結合炎には腹直筋と内転筋のストレッチが有効です。これらの筋肉がオーバーユース(使い過ぎ)で固くなると恥骨結合炎の症状を強めるため、ぜひ習慣的にストレッチでほぐすようにしましょう。 ただしストレッチでも恥骨結合炎の痛みが緩和されないときは、無理せず整形外科で医師の判断を仰いでください。 ちなみに、当院リペアセルクリニックでは、恥骨結合炎の治療にも適用できる再生医療に取り組んでいます。傷ついた軟骨組織の修復も期待できるため、気になる人はぜひメール相談、もしくはオンラインカウンセリングでお問い合わせください。 この記事が少しでもお役に立てれば光栄です。 恥骨結合炎のストレッチに関するよくある質問 恥骨結合炎でもランニングは可能ですか? 炎症が強かったり、痛みがある場合はランニングはできません。 再発しやすい病気のため、治ったと思っても息が弾むようなランニングをすぐはじめるのはやめましょう。ただし、隣にいる人と会話できる程度のジョギングは、リハビリとしても推奨されており、痛みのない範囲で可能です。 しばらくはジョギングを続け、すこしずつペースをあげていくとランニングができるまでに回復します。 痛みが強かったり、大会など控えている場合はスポーツ専門医に相談しながらリハビリ計画を立てましょう。 恥骨結合炎は何科を受診しますか? 恥骨結合炎かなと思ったら、整形外科を受診しましょう。 整形外科医は骨や軟骨・靭帯・神経など、からだを動かすのに必要な器官を診る専門家です。診察の結果、恥骨結合炎と診断されるとはかぎりませんが、運動器官のスペシャリストなので痛みの原因をしっかり調べてくれます。 なお、妊娠中や出産後の恥骨痛はまず産婦人科や助産師に相談しましょう。 恥骨結合炎になったらどのくらい安静にすべきですか? 痛みが強い場合は2週間の安静が必要です。 安静中はスポーツや、走ったり重いものを持つといった負担のかかる日常生活の動作もやめ、患部を冷やしてください。そのあとは痛みの具合をみながらストレッチを開始しましょう。 恥骨結合炎はどのくらいで完治しますか? 2か月前後が目安ですが、再発を繰り返す場合はもっとかかる可能性があります。 恥骨結合炎は再発しやすいため、はやく完治させるには再発予防が重要です。痛みがひいても安静期間は十分にとってください。また、すぐにスポーツを開始せずストレッチをしながら少しずつ負荷をかけていきましょう。
2024.06.28 -
- 幹細胞治療
- 再生治療
- PRP治療
- 免疫細胞療法
「エクソソームって何?」「どんな効果があるの?」 近年、美容や医療で話題の「エクソソーム」ですが、体にどのような影響を与えるのか気になる方も多いのではないでしょうか。 エクソソームとは、内部にタンパク質やRNAを含んでいる小さな袋状の構造物です。 細胞の情報交換である「メッセンジャー」として機能しており、身体の健康を維持するのに重要な役割をはたしています。 本記事では、エクソソームの基本情報や美容・医療分野での活用例、注意点を解説します。美容や健康に興味があり、エクソソームについて理解を深めたい方は、ぜひ最後までご覧ください。 また、当院「リペアセルクリニック」では肌(皮膚)の再生医療が受けられる医療機関の1つです。まずはお気軽に「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にてご相談ください。 エクソソームとは「細胞から分泌される小さな袋」 エクソソームは、細胞から分泌される極小の袋のような構造です。 この袋の中には、細胞が作り出す重要な物質が含まれ、細胞間の情報伝達や体の機能維持に役立っています。 本章ではエクソソームの特徴や仕組みを以下のポイントで解説いたします。 エクソソームは内部にタンパク質やRNAを含んでいる 細胞間の情報伝達を担う物質 幹細胞培養上清液は「エクソソームを含む液体」 それぞれわかりやすく説明しているので、ぜひ参考にしてください。 エクソソームは内部にタンパク質やRNAを含んでいる エクソソームは、細胞から分泌される直径30〜150ナノメートルほどの小さなカプセル状の構造物です。 小さな袋の中には、タンパク質やRNAなどのさまざまな物質が含まれており、細胞間で情報を伝達する役割を担っています。(文献1) たとえば、エクソソーム内のRNAは特定の指示を細胞に届け、必要な働きを促進しており、この仕組みを活かして病気の診断や治療にも利用されています。 エクソソームが持つ情報伝達能力が、多くの研究で注目されている理由の1つです。 細胞間の情報伝達を担う物質 エクソソームは、細胞同士が情報を交換する「メッセンジャー」として機能します。 この情報伝達は、免疫系の調整や組織の修復過程において周囲の細胞に働きかけるなど、体内で起こる重要なプロセスを支えているのです。 たとえば、免疫系細胞から分泌されるサイトカインは、感染に対する免疫応答を調節する役割を果たし、他の免疫細胞を活性化させたり、炎症反応を誘導したりします。 また、エクソソームは組織修復過程において、様々な生理活性物質を周囲の細胞に運び、細胞間の情報伝達に関与していると考えられます。 このようにエクソソームは、体の健康維持に関与する重要な役割を担っています。 幹細胞培養上清液は「エクソソームを含む液体」 幹細胞培養上清液は、幹細胞を培養する過程で得られる液体で、エクソソームを含む成分が豊富にあるのが特徴です。 この液体には、成長因子やタンパク質なども含まれており、エクソソーム単体よりも多機能な性質を持ちます。 また、幹細胞培養上清液は、美容クリニックや医療分野で利用され、肌の再生や組織修復の効果が期待されています。 エクソソームにはどんな役割があるの? エクソソームが注目されている理由はさまざまありますが、具体的な役割として以下の3つが挙げられます。 細胞間コミュニケーションの仲介役 体の機能を調整する役割 病気の治療にも役立つ可能性 本章ではエクソソームの可能性と活用例を解説していきますので、チェックしてみてください。 細胞間コミュニケーションの仲介役 エクソソームは、細胞同士が情報を交換する際の仲介役です。 たとえば、免疫細胞から放出されたエクソソームは、炎症反応の調節に関与していると考えられています。また、組織の修復過程において、周囲の細胞に働きかける可能性があります。 細胞間のやり取りがスムーズになると体全体の健康が保たれると考えられ、この役割がエクソソームの研究や治療への応用を後押ししています。 体の機能を調整する役割 エクソソームは、体のさまざまな機能を調整する役割も持っています。 たとえば、ホルモンのように全身の細胞にメッセージを伝え、炎症を抑えたり、傷ついた組織の周囲の細胞に働きかける役割を持ちます。 エクソソームが担うこれらの役割が、病気の予防や治療に新たな可能性を提供していると言えるでしょう。 病気の治療にも役立つ可能性 エクソソームは、病気の治療にも応用が期待されています。 たとえば、がん治療ではエクソソームを使って薬を患部に直接届ける技術が研究されており、神経疾患や心血管疾患でも、情報伝達能力を活用した治療法が注目されています。(文献2) これらの応用例から、エクソソームは治療法の選択肢を広げる重要な要素といえるでしょう。 研究の進展が、さらなる可能性を示しています。 エクソソームが注目される3つの理由 エクソソームは医療や美容の分野で多くの可能性を秘めています。 近年の研究では、診断や治療への応用も進められています。 医療分野での応用 美容分野での効果に期待 病気の診断や治療への応用が研究 ここでは、エクソソームが注目される理由を3つのポイントで解説します。 医療分野での応用 エクソソームは、ドラッグデリバリーシステム(DDS)として医療分野で注目されています。(文献3) 薬剤を効率的に運ぶ役割を担い、副作用の軽減も期待されています。 たとえば、エクソソームを使ってがん細胞にだけ薬を届ける技術の研究です。 この技術は、治療効果を高めるだけでなく、患者の負担を軽減する大きな可能性を秘めています。 エクソソームを使った治療法は、これからの医療の革新を支える重要な要素と言えるでしょう。 美容分野での効果に期待 エクソソームは、美容業界でも多くの注目を集めています。 肌の再生やエイジングケアを目的とした治療法に活用され、細胞の修復を促すことで肌の若返り効果が期待されています。(文献4) また、美容クリニックではエクソソームを用いた施術が増えており、シワやたるみの改善、肌質の向上が報告されているのも現状です。 そのため、今後エクソソームの作用によって、美容分野での新しいトレンドが生まれる可能性があります。 病気の診断や治療への応用が研究 エクソソームは、病気の診断ツールとしても研究が進んでいます。 血液や尿中のエクソソームの分析によって、がんや神経疾患の早期発見が可能になるとのことです。 また、特定の疾患に関連する分子が含まれるため、個別化医療の発展にも寄与すると期待されています。 これらの研究は、診断の精度を向上させるだけでなく、患者一人ひとりに合った治療法を提供する道を切り開いています。 エクソソーム治療の4つの注意点 エクソソーム治療は、新しい治療法として期待されていますが、まだ発展途上の技術です。 そのため、いくつかの課題があります。 現時点で有効性や安全性が確実に証明されていない まだ技術的にしっかりと確立されたものではない 内容物や生体内での作用の確認技術が未確立 法規制が曖昧 ここでは、エクソソーム治療を受ける前に知っておくべき4つの注意点について解説します。 現時点で有効性や安全性が確実に証明されていない エクソソーム治療は研究段階にあり、有効性や安全性が十分に確認されているわけではありません。 期待される効果がある一方で、治療後の長期的な影響についてはまだ不明な点も多いです。 そのため、治療を受ける際には信頼できる専門機関で最新の情報を確認する必要があります。 過度な期待を抱く前に、正しい現状理解が大切です。 まだ技術的にしっかりと確立されたものではない エクソソームを利用した治療技術は、完全に確立された段階には至っていません。 たとえば、エクソソームの生成方法や質のばらつきが課題となっています。 技術が進化している途中であり、研究者や医療関係者の間でも意見が分かれるケースがあります。 新しい技術ゆえの限界を理解しつつ、最新の動向に注目することが必要です。 内容物や生体内での作用の確認技術が未確立 エクソソームにはさまざまな物質が含まれており、その内容物が生体内でどのように作用するかを完全に把握する技術は未確立です。 このため、想定外の反応が起こるリスクも否定できません。 現時点では適切な品質管理や作用メカニズムの解明が求められる段階です。治療を選ぶ際には、この点を理解しておきましょう。 法規制が曖昧 エクソソーム治療に関する法規制は、国や地域によって異なり、日本国内でも明確ではありません。 一部のクリニックでは法的な枠組みが十分整っていない中で施術が行われるケースもあります。 安全性や倫理面での問題を回避するためにも、治療を受ける前に施設の信頼性や規制状況を確認しておきましょう。 エクソソームの安全性や副作用についてはこちらの記事でも詳しく解説していますので、ご覧ください。 まとめ|エクソソーム治療は有効性や安全性を理解しておこう! エクソソームは細胞から分泌される小さな袋状の物質です。細胞間の情報伝達や体の機能調整など、さまざまな役割を担っています。 医療分野では、がん治療や再生医療などへの応用、美容分野では肌の再生や老化防止などの効果も期待されています。 しかしエクソソーム治療はまだ新しい治療法であり、注意すべき点もあるのが事実です。有効性や安全性、費用など注意点を確認の上、治療を受けるべきか判断しましょう。 また、当院「リペアセルクリニック」が提供する皮膚再生医療は、脂肪由来幹細胞を活用した最新の治療です。再生医療が気になる方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にてお気軽にご相談ください。 エクソソームに関するよくある質問 エクソソームは何に効くの? エクソソームは、細胞間の情報伝達を担う物質として研究されています。 がん、神経疾患、再生医療など、幅広い医学分野においてエクソソームの研究が行われています。 さまざまな分野で仕組みの解明や可能性の探求が進められており、将来の科学的な発見が期待されています。 エクソソーム点滴の費用はいくらですか? エクソソーム点滴の費用は、施術内容やクリニックによって異なりますが、1回あたり5万円から10万円程度が相場です。 美容や医療目的で利用されるケースが多く、複数回の施術が推奨される場合もあります。 費用の詳細や施術内容を事前に確認し、自分の目的や予算に合った治療を選ぶことが大切です。 また、過剰な価格設定を避けるためにも、信頼性の高いクリニックを選ぶようにしましょう。 エクソソーム点滴治療の有効性については以下の記事でも詳しく紹介しています。 また、当院「リペアセルクリニック」では手術や入院を必要としない「再生医療」を提供しています。 肌再生治療に興味がある方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にてお気軽にご相談ください。 参考文献 (文献1) 厚生労働省「エクソソーム等に対する日本再生医療学会からの提言|一般社団法人日本再生医療学会 理事長 岡野栄之」 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001165575.pdf (文献2) 一般社団法人日本再生医療学会「エクソソーム等の調製・治療に対する考え方」 https://www.jsrm.jp/cms/uploads/2021/04/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%86%8D%E7%94%9F%E5%8C%BB%E7%99%82%E5%AD%A6%E4%BC%9A_%E3%82%A8%E3%82%AF%E3%82%BD%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%A0%E8%AA%BF%E8%A3%BD%E3%83%BB%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E8%80%83%E3%81%88%E6%96%B9.pdf (文献3) 吉岡祐亮,落谷孝広「エクソソームによる新規 DDS キャリアの開発|Drug Delivery System(35,1) https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/35/1/35_35/_pdf (文献4) 金子剛,宮田晃史 ほか「ヒト脂肪由来間葉系細胞エクソソーム配合美容液の肌に対する有効性評価|診療と新薬(60) https://shinryo-to-shinyaku.com/db/pdf/sin_0060_10_0653.pdf
2024.06.27