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「脳膿瘍の手術で後遺症が出るかもしれない」 「脳膿瘍の術後のリハビリで後遺症を改善したい」 脳膿瘍の手術に対して、不安や戸惑いを抱えている方は少なくありません。脳膿瘍の手術は症状の改善が見込まれる一方で、後遺症が生じるリスクもあります。 本記事では、脳膿瘍の手術で起こりうる後遺症について解説します。記事の最後には、脳膿瘍の手術と後遺症に関するよくある質問をまとめていますのでぜひ最後までご覧ください。 脳膿瘍の手術で期待される効果 症状の軽減 圧迫による視野障害・麻痺・けいれん発作などの症状の改善 神経機能の回復 脳機能の回復や維持を目指す 病状進行の抑制 膿瘍の切除により再発や悪化のリスク軽減 将来的な機能障害の予防 適切な時期の手術が機能障害の発症を防ぐことにつながる (文献1) 脳膿瘍の手術は、脳内に膿がたまり圧迫で生じる頭痛や麻痺、意識障害などの症状を軽減するために実施されます。 膿瘍を外科的に取り除くことで、神経への負担が減り、症状の改善や回復が期待できます。また、膿を取り除くことで抗菌薬が患部に届きやすくなり、感染の再発や重症化を防ぐ効果も高まります。適切なタイミングで治療を行い、将来的な後遺症の予防も視野に入れることが大切です。 脳膿瘍の手術内容 項目 内容 膿瘍の摘出による症状の改善 膿の除去や感染源の除去 頭蓋内圧の正常化 頭痛・吐き気・視覚異常・意識障害の改善 神経症状の改善 しびれ・運動障害・視覚や聴覚の異常の軽減 抗菌薬治療の効果を高める 膿瘍の縮小による薬剤効果向上 生活の質の向上 歩行や会話のしやすさ、社会復帰やコミュニケーションの円滑化 脳膿瘍の手術は、患者の全身状態や膿瘍の大きさ・部位を総合的に判断したうえで実施されます。 膿瘍の摘出による症状の改善 項目 内容 膿の除去 膿瘍によって生じる脳圧の上昇や周囲組織の圧迫が軽減される 頭痛や意識障害の改善 圧迫による神経症状(頭痛、吐き気、意識障害など)が軽減される可能性がある 神経機能の回復 膿瘍の位置によっては、言語障害や麻痺といった症状が手術後に改善する場合もある 感染源の除去 抗菌薬が届きやすくなり、全身状態の改善が促される (文献1) 脳膿瘍の手術では、膿を取り除くことで頭痛や吐き気、意識障害、手足の麻痺などの症状が改善することがあります。 膿の除去で脳の圧迫が和らぎ、抗菌薬が届きやすくなるため、全身の回復にもつながります。このような理由から、膿の除去は治療の重要な基盤です。 頭蓋内圧の正常化 項目 内容 頭蓋内圧が上がる原因 膿瘍の圧迫、脳の腫れ、脳脊髄液の流れの障害、出血によるスペースの圧迫 上昇による症状 頭痛、吐き気、意識障害、視覚異常、脈の乱れ、高血圧 手術による改善効果 膿瘍や出血の除去、脳の腫れの軽減、脳脊髄液の流れの回復 期待される結果 頭蓋内圧の正常化による症状の改善と脳機能の安定化 脳膿瘍が進行すると、膿の塊が脳を圧迫し、頭痛・吐き気・視覚異常・意識障害などの症状が起こるのが特徴です。 とくに、脳の腫れ(浮腫)や炎症により頭蓋内圧が上昇すると、命に関わるリスクも高まります。手術で膿瘍を除去し、脳の圧迫が軽減し、頭蓋内圧が正常に近づくことが期待されており、症状の改善と脳機能の安定化が見込まれます。 神経症状の改善 項目 内容 圧迫の解除 膿瘍による脳組織や神経への圧力の除去 脳脊髄液の流れの改善 膿瘍が脳脊髄液の通過路を圧迫している場合、摘出によりCSFの流れが正常化するケースがある 機能障害の原因除去 炎症や浮腫により障害されていた神経伝達機能の回復が期待される 薬剤効果の向上 抗菌薬治療の効果向上による間接的な症状の改善 改善が期待される主な症状 麻痺、感覚障害、言語障害、視力障害、頭痛、てんかんなど 膿瘍の場所や大きさによっては、運動麻痺や感覚障害、言語障害など、さまざまな神経症状が現れます。手術で膿瘍摘出を行うことで、運動麻痺などの症状が軽快する可能性があります。 ただし、神経細胞は一度損傷を受けると回復が難しい場合もあるため、早期の治療が大切です。 抗菌薬治療の効果を高める 要因 解説 膿瘍の除去 感染源である膿を取り除くことで、残った病巣に薬が届きやすくなる 脳圧の軽減 圧迫が減ると周囲組織の血流が改善し、薬剤が浸透しやすくなる 酸素環境の改善 酸素が届きやすくなることで、薬の効果が発揮されやすくなる (文献1)(文献2) 脳膿瘍では、抗菌薬による治療が実施されますが、膿が厚い膜に包まれているため、薬が届きにくいことがあります。手術で膿を取り除くと、薬が患部に届きやすくなり、治療効果の向上が望めます。そのため、手術は薬の効果を引き出す大切な治療法です。 生活の質の向上 項目 内容 症状の軽減・消失 頭痛・吐き気・麻痺・視力障害などの不快な症状の緩和 自立性の向上 着替え・移動・会話など日常動作の回復 精神的な安定 不安やストレスの軽減、前向きな気持ちの回復 社会生活への復帰 仕事や学校、家族・友人との交流の再開 将来への希望 手術を通じた治療効果の向上による予後改善への期待 注意点 QOLの感じ方には個人差があり、手術の効果にもばらつきがあるため注意が必要 膿瘍による症状が軽減されることで、日常生活における動作や思考の自由度が広がり、生活の質(QOL)が改善する可能性があります。 頭痛や麻痺などの症状がある程度改善されることで、家事や通勤に対する不安が軽減され、日常生活への自信が戻ってきます。その結果、社会復帰への意欲も高まりやすくなるでしょう。生活の質の向上は、身体機能だけでなく精神的な安定にもつながるため、術後の目標の一つといえます。 脳膿瘍の手術で起こりうる後遺症 運動麻痺 手足の動かしにくさや筋力低下、歩行困難 感覚障害 手足のしびれや触覚の鈍さ、感覚の違和感 言語障害 言葉が出にくい、話すスピードの低下、語彙の思い出しづらさ 高次脳機能障害 記憶力・注意力・判断力の低下、段取りの悪さ、集中困難 てんかん 手術部位周囲の瘢痕や炎症によって、けいれん発作が新たに起きたり、術前にあった発作が再発したりする可能性がある 頭痛 圧力変化や術後の影響による一時的または慢性的な頭痛 脳膿瘍の手術は、症状の改善が期待される一方で、運動麻痺や感覚障害などの後遺症が出る可能性があります。以下で、脳膿瘍の手術で起こりうる後遺症を詳しく解説していきます。 運動麻痺 原因 内容 膿瘍の圧迫の影響 手術前に神経が長期間押しつぶされていたことによる機能の低下 手術操作による刺激や損傷 膿瘍除去時の操作による神経線維への負担 血管の損傷や血流の障害 手術中の出血や血流の一時的な停止による神経の栄養不足 術後の脳のむくみ(浮腫) 炎症によって運動に関わる部位が一時的に腫れることによる圧迫 神経線維の切断や妨害 手術時に神経の通り道が遮られたことによる指令の伝達障害 (文献3) 脳膿瘍が運動を司る脳領域に及ぶと、手足の動かしにくさや筋力低下といった運動麻痺が起こることがあります。この状態は、膿瘍の圧迫による神経機能の低下、手術時の操作による刺激、血流障害や脳の腫れ(浮腫)などが原因です。 また、術後に神経伝達経路が一時的に遮られることで、麻痺が現れるケースもあります。症状の程度には個人差があり、軽度であればリハビリにより改善が期待できるものの、重度の場合は回復に時間を要するケースもあります。 感覚障害 項目 内容 膿瘍の位置と手術操作 感覚をつかさどる脳の部位や神経経路への影響 術中・術後の脳の変化 血流の変化、腫れ、炎症による一時的または永続的な障害 術前からの神経圧迫 膿瘍による慢性的な圧迫や損傷の影響が持続し、血流の変化や脳が腫れる、炎症による一時的または永続的な障害 起こりうる感覚障害の例 触れた感覚の鈍さ、違和感や温度の異常な感じ方、しびれ、自身で感じる手足の位置感低下 (文献3) 脳膿瘍が感覚を司る脳の領域に及ぶと、手足のしびれや感覚の鈍さ、温度の感じ方の異常、位置感覚の低下などが現れることがあります。 膿瘍の圧迫や炎症、または手術操作の影響で神経が傷ついたり、血流が一時的に障害されたりするためです。膿瘍による感覚障害は術後にも残ることがありますが、リハビリや時間経過で改善する可能性もあります。 言語障害 項目 内容 手術による直接的な影響 言語をつかさどる脳の領域が手術中に傷つく可能性 手術による間接的な影響 脳の腫れ・血流の変化・脳圧の上昇による言語機能への影響 運動性失語 言葉が出にくくなり、話す速度が遅くなる状態 感覚性失語 話はできても意味が通じず、相手の言葉も理解しづらくなる状態 全失語 話す・聞く・読む・書く能力が全体的に障害される状態 健忘性失語 人や物の名前が思い出せなくなる状態 構音障害 舌や口の動きがうまくいかず、発音が不明瞭になる状態 嚥下障害(関連症状) 飲み込みが難しくなる障害(発声や会話と同じ筋肉の影響) (文献4) 脳膿瘍の手術後に言語障害を訴える方が一定数見られます。これは、脳膿瘍が言語中枢に近い場合や、手術による刺激・腫れ・血流の変化が原因と考えられます。また、日常会話に支障が出ると大きなストレス、周囲とのコミュニケーションが難しくなることがあります。 手術後にこうした言語障害が現れた場合には、言語聴覚士によるリハビリが有効です。症状の程度は人によって異なるため、焦らず少しずつ会話ができるように努めていくことが大切です。 高次脳機能障害 原因 内容 脳組織の損傷 記憶・判断・言語などを担う脳の部位への直接的な影響 血流の障害 手術中の血管損傷や血流不足による脳細胞のダメージ 圧力変化や脳の腫れ 術後の脳圧上昇や脳浮腫による周囲組織への機能障害 術後の合併症 感染症・出血などによる追加の脳ダメージ 神経ネットワークの損傷 複数の脳領域をつなぐ神経回路の分断による連携機能の低下 高次脳機能障害とは、記憶力・注意力・判断力などの認知機能が低下する状態を指します。脳膿瘍が記憶や判断などをつかさどる領域に及ぶ場合、術後に高次脳機能障害がみられることがあります。症状に対して、本人が気づきにくいこともあるのが特徴です。 症状は軽度から中等度まで幅広く、日常生活や仕事に支障をきたす場合もあります。神経心理リハビリなどで認知機能の回復を促す取り組みを実践し、医師だけでなく、家族や周囲の理解や支援が改善の手助けになります。 てんかん 項目 内容 脳組織への手術の影響 神経細胞の不安定化や過剰な電気活動の誘発 術後の瘢痕形成 傷跡による電気信号の異常伝播 化学物質のバランス変化 興奮性や抑制性の神経伝達物質の乱れ 残存するてんかんの焦点 手術前にあったてんかんの原因部位の持続的な活動 術後の合併症 出血や感染による新たな脳ダメージ 脳膿瘍の手術後は、膿瘍周囲の脳組織がダメージを受け、けいれん発作が生じやすくなるのが特徴です。 とくに、術後1週間以降に起こる晩期発作は、てんかんと診断される場合があります。膿瘍が存在していた部位の神経細胞が興奮しやすくなるリスクがあり、傷跡(瘢痕)や血流障害、神経伝達物質のアンバランスが発作の引き金となるケースもあります。抗てんかん薬による予防や生活環境の整備が、再発予防には大切です。 頭痛 項目 内容 手術による刺激 頭皮・筋肉・硬膜の切開や縫合による違和感の発生 脳の腫れ 手術後の炎症による一時的な脳の腫れ(脳浮腫) 髄液の変化 術後の髄液循環障害や低髄液圧状態が頭痛を誘発する場合もある 血流の乱れ 脳内の血管の拡張・収縮による違和感の発生 経過 多くは自然に軽快、まれに慢性頭痛として残ることもありうる (文献1) 脳膿瘍の手術後に、頭痛が生じることがあります。開頭手術での頭皮・硬膜切開や、術中操作による周辺組織への刺激や、脳の腫れ(脳浮腫)、髄液の流れの変化、血流の乱れなどが原因としてあげられます。 多くの場合は時間とともに軽快しますが、まれに慢性頭痛として続くケースもあります。後遺症による頭痛が日常生活に支障をきたす場合は、早めに医師へ相談が大切です。 脳膿瘍手術における後遺症のリハビリ方法 リハビリの種類 対象となる症状 目的 理学療法 麻痺・筋力低下・歩行障害 体力回復と動作の自立支援 作業療法 日常生活動作(食事・着替えなど)の困難 実生活に即した動作の訓練と自信回復 言語聴覚療法 発語障害・言語理解障害・嚥下障害 会話や飲み込みの改善を通じた生活の質の向上 神経心理リハビリ 記憶障害・注意力低下・思考力の低下 認知機能の回復と社会復帰に向けた段階的支援 脳膿瘍の手術後は、症状に合わせたリハビリが必要です。効果を高めるには早期に始め、自己判断せず医師の指導のもとで行うことが大切です。リハビリは中断せず継続することで、回復の可能性を最大限引き出せます。家族や医師による継続的な支援も大切です。 理学療法 項目 内容 目的 麻痺・筋力低下・歩行障害の改善、日常生活動作の自立支援 訓練方法 筋力訓練、関節の柔軟性保持、歩行・バランス訓練、起居動作の練習 有効性 運動機能の回復、転倒や合併症の予防、体力向上、違和感の軽減 サポート体制 医師や専門職による個別指導、家族支援、他職種との連携による総合的サポート (文献4) 理学療法は、手足の麻痺や筋力低下、バランス障害といった身体的な後遺症に対して行われます。医師の指導のもと歩行訓練や関節の動きを保つ運動を継続的に実施します。 脳膿瘍の手術後は、安静による筋力低下も起こりやすいため、体力低下による合併症予防や再感染リスク軽減にもつながる有効な治療法です。リハビリは早期の開始で、効果が高まりやすくなります。 作業療法 項目 内容 目的 食事・着替え・入浴などの日常動作の自立支援 練習内容 動作練習、家事訓練、補助具の使い方指導 環境調整 自宅内の物の配置などの改善 支援面 自信回復、家族への介助指導 作業療法は、食事や着替え、家事などの日常生活動作(ADL)を自立して行えるよう支援するリハビリです。 脳膿瘍の手術後、手先がうまく使えないケースもあるため、作業療法は症状の改善を目指して実施されます。症状の回復には、患者と医師だけでなく、家族や周囲のサポートも大切です。 言語聴覚療法 項目 内容 目的 話す・聞く・読む・書く・飲み込む機能の回復、コミュニケーションの再構築 訓練例 発声練習、言葉の理解訓練、注意力や記憶のトレーニング、補助手段の活用、嚥下訓練 有効性 言語機能や飲み込みの改善、意思疎通の支援、認知機能の補強、生活の質の向上 (文献5) 言語聴覚療法は、言葉が出にくい・聞き取れない・飲み込みにくいといった症状に対して行われる訓練です。脳膿瘍が言語や嚥下を司る部位に影響していた場合、術後に会話や食事が難しくなるケースがあります。 言語聴覚療法では、発声・発語・理解のトレーニングや、食べ物の誤嚥を防ぐための嚥下訓練を医師の指導のもと行います。また、家族の協力で、日常生活における不安の軽減にもつながるでしょう。 神経心理リハビリテーション 項目 内容 目的 記憶力・注意力・判断力など認知機能の改善と、社会復帰への支援 訓練例 課題遂行訓練、集中力訓練、記憶訓練、見当識訓練、心理的サポート 有効性 認知機能障害への直接的対応、日常生活への適応支援、感情コントロールの強化、自己理解の促進 (文献6)(文献7) 神経心理リハビリは、記憶力・注意力・思考力などの認知機能に障害が残った場合に行われます。具体的には、課題を使って集中力を高める訓練や、日常生活での物忘れを補う工夫を習得するなどが挙げられます。 高次脳機能障害は見た目ではわかりにくく、本人だけでなく家族にも負担がかかりやすいのが特徴です。神経心理リハビリでは、段階的に機能回復を目指しながら、社会復帰につなげていくことが大切です。 脳膿瘍手術の後遺症でお悩みなら再生医療も選択肢のひとつ 脳膿瘍の手術後、運動麻痺や認知機能の低下などが長期的に残る場合、再生医療を検討するのも選択肢のひとつです。 リハビリでは改善が難しかった後遺症に対し、有効なアプローチ方法として再生治療が注目されています。当院リペアセルクリニックでは、脳膿瘍手術の後遺症の悩みに丁寧に対応し、必要に応じて幹細胞を使った再生医療で治療をサポートしています。 脳膿瘍手術の後遺症でお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 脳膿瘍の手術と後遺症に関するよくある質問 脳膿瘍の手術は必須ですか? 脳膿瘍の治療は薬物療法と手術が基本で、手術の必要性は膿瘍の大きさや症状の進行度などで判断されます。治療方針は自己判断せず、脳神経外科の医師の診断に従いましょう。 入院期間はどれくらいですか? 脳膿瘍の入院期間は、膿瘍の大きさ・部位・症状の程度や、治療に対する反応により異なります。 重症例や多発例、外科的な排膿処置が必要な場合は、抗菌薬治療の継続や合併症管理のために数週間から数カ月の入院が必要になるケースもあります。退院後も通院による経過観察や内服治療が必要になることが多いです。 脳膿瘍は再発しますか? 脳膿瘍は手術後に再発する可能性があります。原因菌の残存や感染源の治療不十分、免疫力の低下などが主な要因です。再発を防ぐには、適切な手術と抗菌薬治療、原因疾患の治療、定期的な経過観察、免疫力の維持が大切です。 脳膿瘍の手術に不安を感じていますが事前にできることはありますか? 脳膿瘍の手術を受ける前には、医師と話し合い、治療内容をきちんと理解しておくことが大切です。また、少しの悩みでも医師や家族に話しておくことで、不安を軽減できます。 手術に対して少しでも不安や迷いがある方は、どうか一人で抱え込まずにご相談ください。リペアセルクリニックでは、どんなに小さな悩みでも、丁寧に対応いたします。「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 参考資料 (文献1) Robyn S. Klein「脳膿瘍」MSDマニュアル 家庭版, 2024年7月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/09-%E8%84%B3-%E8%84%8A%E9%AB%84-%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%84%B3%E3%81%AE%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87/%E8%84%B3%E8%86%BF%E7%98%8D(最終アクセス:2025年5月12日) (文献2) 川副雄史ほか.「地域医療支援病院における細菌性脳膿瘍の臨床的特徴と 転帰不良因子の検討」, pp.1-14, 2022年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsne/27/1/27_15/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献3) 山根 清美ほか.「臨床クイズ解答 突然右麻痺を呈した 1症例」『日本内科学会雑誌』97(6),, pp.1-3, 2008年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/6/97_1395/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献4) 白井 誠「随意運動改善のための運動療法」, pp.1-5, 2003年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/icpt/2/1/2_1_15/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献5) 鶴川俊洋,生駒一憲.「脳腫瘍・頭頸部がんのリハビリテーション」『ガンのリハビリテーション エビセンス&プラクティス』, pp.1-6, 2016 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/53/2/53_124/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献6) 温井 めぐみほか.「小児脳腫瘍治療後の神経心理学的合併症についての手引き」『JCCG』, pp.1-59 https://jccg.jp/wp-content/uploads/tebiki_ver1.2_2020.9.30.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献7) 日本学術振興会「間脳・脳室内腫瘍患者の神経心理学的合併症および社会生活機能に関する調査研究」KAKEN, 2020年4月28日 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20K19342/(最終アクセス:2025年5月12日)
2025.05.30 -
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「側頭葉てんかんの手術後の後遺症に強い不安を感じている」 「側頭葉てんかんの手術の内容が気になる」 側頭葉てんかんと診断され、手術を勧められているものの、術後の生活や後遺症に不安を抱えている方も多いでしょう。手術への不安を抱えたままでは、冷静な判断が難しくなります。 本記事では、側頭葉てんかん手術について解説します。 側頭葉てんかん手術の内容 側頭葉のてんかん手術で期待される効果 側頭葉のてんかん手術で起こりうる後遺症 側頭葉てんかん手術で起こりうる後遺症の対策 記事の最後には、側頭葉のてんかん手術と後遺症に関するよくある質問をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 側頭葉てんかん手術の内容 区分 項目 内容 手術の基本 手術の対象 側頭葉が原因のてんかん発作 適応の目安 薬で発作が抑えられない場合 手術の目的 発作の軽減・消失、生活の質の向上 主な術式 選択的海馬扁桃体摘出術 海馬と扁桃体の摘出による発作源の除去 海馬多切術 海馬に小さな切れ目を入れて異常信号を遮断 前側頭葉切除術 側頭葉前部と海馬・扁桃体の広範囲な切除 手術後の効果と注意点 得られる効果 発作の回数や強さの軽減、薬の減量、精神的負担の軽減 手術後の注意点 記憶障害・視野障害などの後遺症の可能性 術後の評価 発作の変化と機能障害の有無を定期的に観察 (文献1) 側頭葉てんかんは、脳の側頭葉から発作が始まるタイプのてんかんです。薬だけでは発作を十分に抑えられない場合は手術が検討されます。手術の目的は、発作の原因となる異常な脳組織を切除し、発作の頻度や強さを減らすことです。 代表的な術式には前側頭葉切除術や選択的扁桃体海馬切除術があり、いずれも発作の原因部位に直接アプローチする手術です。 手術によって発作の改善が期待できる一方で、記憶障害や視野障害などの後遺症が生じるリスクもあります。また、まれに術後てんかんと呼ばれる新たな発作が起こることもあり、手術を受けるかどうかは、リスクや効果、今後の生活への影響について医師とよく相談し、納得した上での判断が大切です。 側頭葉のてんかん手術で期待される効果 効果 内容 発作の消失・軽減 発作の制御による生活の自由度の向上、転倒やけがの予防、運転・就労・学業への支障の軽減 高い発作抑制率 発作の軽減や消失が期待される 薬の減量・中止の可能性 長期服薬からの解放、副作用(眠気・集中力低下など)の軽減、薬剤数の減少 生活の快適さの向上 薬への依存度の低下による自立度や活動範囲の拡大 精神的負担の軽減 発作への不安や孤立感の緩和、気分の落ち込みや不安感の改善 社会生活への前向きさの回復 自己肯定感の向上、人間関係や仕事・学業への意欲の回復 生活の質(QOL)の向上 安定した日常の獲得 側頭葉てんかんに対する外科的治療は、発作のコントロールを目的とした有効な選択肢です。 発作の消失・大幅な軽減が期待できる 抗てんかん薬の減量・服用から解放される可能性がある 精神的・心理的負担の軽減が期待できる 手術にはリスクも伴いますが、てんかんの発作を根本から改善する手段として、期待できるため、医師と相談した上で実施されます。 発作の消失・大幅な軽減が期待できる 項目 内容 発作の完全消失 発作の原因となる脳組織の切除による根本的な発作の消失 発作頻度の減少 発作の回数や強さの大幅な軽減による生活の安定 社会生活への前進 就労・運転・学業などへの制限の緩和 QOLの改善 発作の心配が減ることで得られる日常生活への不安解消 手術の主な目的は、発作の繰り返しを抑えることです。意識を失うような発作が続く場合は、運転や就労などに大きな支障が出るため、手術によって障壁を取り除ける可能性があります。 手術効果の程度には個人差があるものの、術前に発作の焦点が明確であるほど効果が期待できます。 抗てんかん薬の減量・服用から解放される可能性がある 項目 内容 薬の必要性の低下 発作の消失・軽減による服薬依存度の軽減 副作用からの解放 眠気・倦怠感・認知機能低下などからの回復 生活の質の向上 薬の影響を受けにくい、自由な日常生活の実現 活動範囲の拡大 集中力や意欲の改善による社会参加の促進 薬剤数の減少 多剤併用からの移行による身体への負担軽減 薬だけで発作を抑えきれない場合や副作用が日常生活に支障をきたす場合、手術は選択肢です。側頭葉てんかんの手術によって発作が十分に抑制されれば、薬の量を減らす、または中止できる可能性があります。 臨床報告でも、手術によって薬を減らせた実績が示されています。東京医科歯科大学のデータでは、発作が消失した患者の84%のうち、35%が抗てんかん薬の中止に成功しています。(参考:東京医科歯科大学脳神経機能外科) さらに、静岡てんかん・神経医療センターの調査では、術後2年で91%、15年以上経過しても85%の患者が発作のない、またはごく軽い状態を維持し、薬に頼らず安定した生活を送っていることが報告されています。(文献2) 精神的・心理的負担の軽減が期待できる 項目 内容 発作間欠期の精神症状の改善 発作がない時に生じる不安や抑うつ、感情の不安定さの軽減 感情コントロールの安定 脳の電気的な不安定さの改善による情緒の安定化 自己効力感の向上 発作への不安の軽減による自信と行動範囲の拡大 社会参加の再開 就労・学業・趣味・交流の再開による生活満足度の向上 生活の質の向上 精神的な充実感と生活全体の質の向上 薬の副作用の軽減 抗てんかん薬の減量・中止による眠気や気分変化の改善 精神的負担の軽減 薬や発作によるストレスの緩和と心理的な安定 (文献3) てんかん発作は、単なる身体症状にとどまらず、精神的なストレスや社会的な孤立感にもつながります。側頭葉てんかん手術によって発作が軽減されることで、精神的負担も軽減されます。 また、抗てんかん薬の副作用として見られる気分の落ち込みや集中力の低下も、服用量の減少によって改善する可能性があります。 手術の効果は、発作の抑制だけでなく、日常の不安解消や人間関係の改善といった心理的側面にも良い影響をもたらすことが期待されます。 側頭葉のてんかん手術で起こりうる後遺症 後遺症の種類 内容 認知機能の低下 記憶力・注意力・思考力の低下による日常動作の困難 視野障害 見える範囲が狭くなることによる歩行や運転時の支障 言語機能の低下 言葉の理解や表現の困難、会話時の不自由さ 感情の不安定さ 怒りや不安、落ち込みなど情緒の変動の起こりやすさ 運動麻痺・感覚障害 手足の動かしにくさや、しびれ・感覚の低下 側頭葉は、記憶や言語、感情などの重要な機能を担っています。そのため、手術によって発作が抑制される一方で、一定の後遺症が生じる可能性もあります。 手術の有効性だけでなく後遺症についても理解しておく必要があります。 認知機能の低下 障害の種類 症状 発症のメカニズム 記憶障害 新しい情報の記憶困難、過去の出来事の想起困難 新しい情報の記憶困難、過去の出来事の想起困難 側頭葉(とくに海馬)への影響による記銘力・想起力の低下。左右で記憶の種類に差異あり 言語機能の低下 単語が出てこない、話や文章の理解が難しくなる 左側頭葉の損傷による言語中枢への影響(ウェルニッケ野など) 注意・集中力の低下 情報処理速度の低下、同時処理の困難 側頭葉と前頭葉の連携低下による認知負荷の上昇 遂行機能の低下 計画性の低下、問題解決の困難、行動の抑制低下 前頭葉とのネットワーク機能の変化による高次認知機能の障害 感情・社会性の変化 感情の起伏の変化、他者理解の困難 扁桃体や前頭側頭ネットワークの影響による情動調整や社会的認知の変化 側頭葉は記憶や理解力に関わる重要な領域です。そのため、側頭葉てんかんの手術後には、記憶力や集中力といった認知機能の低下がまれに起こることがあります。 記憶障害や注意力の低下といった認知面の変化が生活に支障をきたす可能性があるため、手術を検討する際は、このようなリスクもしっかり理解した上で、医師と相談しながら判断するのが大切です。 視野障害 障害の種類 原因 特徴や補足 上方視野欠損(上方同名性四分盲) 手術中の視放線下位線維の損傷 上1/4の視野が見えにくくなる。本の上部が読みづらい、標識に気づきにくいなど 半盲などの広範な視野欠損 広範囲の視覚経路の損傷 左右どちらかの視野が半分見えない可能性 一時的な視野障害 術後の脳浮腫や出血による圧迫 一時的に視覚情報の伝達が障害されることがある (文献4) 後遺症として起こる視覚障害は、手術によって視覚情報を処理する神経の一部が影響を受けた場合に生じるものです。視覚障害の中でも上1/4の視野が見えにくくなる症状が報告されています。 1/4の視野が見えにくくなる症状は日常生活に支障をきたすこともありますが、失明ではないため、見えない範囲を他の視覚で補う動作が習慣化し、時間とともに生活の不便さは軽減されていく傾向があります。 言語機能の低下 障害の種類 特徴 聴覚性言語理解の低下(ウェルニッケ失語) 他人の話す内容の理解困難、返答の不自然さ、自身の発話の意味不明瞭化 語想起困難(健忘失語) 名前や言葉の思い出し困難、指示語の多用、会話中の言葉詰まり 構文理解の低下 複雑な文や受動表現の理解困難 発語の流暢性の低下(ブローカ失語) 単語の区切り話し、不自然な文法、話すスピードの低下 呼称の錯誤 物の名前の言い間違い(例:「りんご」を「みかん」と言う) 失読・失書 読む力・書く力の低下(失読・失書) 高次言語機能の障害 比喩や冗談、文脈の理解の困難、不適切な言葉の選択 (文献5) 側頭葉の中でも、とくに左側にはウェルニッケ野や側頭回といった言語理解・記憶に関わる重要な領域が存在します。手術で影響を受けると、言語理解や発語の流暢性、記憶といった機能に障害(失語症)が生じる可能性があり、会話や業務に支障を及ぼしかねません。 対して、術後の言語リハビリで徐々に回復するケースも少なくありません。元の状態に戻るとは限りませんが、継続的なトレーニングで日常生活へ復帰は期待できます。 感情が不安定になる 側頭葉は感情のコントロールに関わる脳の重要な領域であり、内側には扁桃体や海馬など、感情処理を担う構造が含まれます。手術によってこれらの部位や、前頭葉との神経ネットワークに影響が及ぶことで、一時的に怒りっぽくなったり、涙もろくなったりするなど、感情の変化が生じることがあります。 感情の変化には個人差があるため、術後は医師やカウンセラー、家族と連携し、心のケアも含めたサポートを受けることが大切です。 運動麻痺や感覚障害 障害の種類 症状 片側の運動麻痺(不全麻痺を含む) 手足の力の入りにくさ、動作の鈍さ、細かい作業の困難 顔面神経麻痺(軽度なことが多い) 口角の下がり、まぶたの閉じにくさ 片側の感覚障害 手足のしびれ、ピリピリ感、鈍さ、ジンジンとした違和感 顔面の感覚障害 頬や唇などの感覚低下や違和感 側頭葉てんかんの手術は、通常、運動や感覚を司る領域からは離れていますが、まれに脳の深部にある神経経路(内包や視放線など)に近づくことで、影響が及ぶことがあります。その結果、手足の麻痺やしびれ、顔の感覚異常などが術後に現れる可能性があります。 万が一、術後に一時的な麻痺やしびれが現れた場合でも、早期からのリハビリによって改善が見込めるため、手や足の動き、顔や体の感覚に違和感を覚えた場合は、早急に医療機関を受診しましょう。 側頭葉てんかん手術で起こりうる後遺症の対策 対策 内容 手術前の準備を怠らない 精密検査によるリスクの把握と手術計画を立てる 手術後のリハビリテーション 運動・言語・感情面の機能回復を目指す継続的な訓練 メンタルケアを怠らない 感情の変化や不安への対応としてのカウンセリングや薬物療法 家族や職場への情報共有 周囲の理解とサポートを得るための適切な説明と連携 側頭葉てんかんの手術後に生じる後遺症に備えるには、事前の対策と周囲の協力が大切です。 術後は、運動や言語機能、感情面のリハビリを継続的に行うことで、回復が期待できます。 手術前の準備を怠らない カテゴリー 項目 内容 術前評価と情報収集 神経学的検査 運動や感覚の異常の有無を確認 MRI・脳波検査 病巣や発作の場所の特定と切除範囲の計画 神経心理学的検査 記憶・言語・注意などの認知機能の評価 MEG・PET検査 脳の活動領域や血流の確認 医師とのコミュニケーション 手術内容・効果・リスクの十分な理解と納得 健康状態の管理 基礎疾患の管理 高血圧・糖尿病などの安定化 禁煙・禁酒 術後合併症リスクの低減 栄養改善・睡眠 体力と免疫力の維持、心身の安定 感染予防 手洗い・うがいの徹底 術後の生活準備 リハビリ計画 術後の身体・言語機能の回復支援 生活環境の整備 家の段差・手すり設置などへの対策 精神的サポート 家族・専門家との連携による心のケア (文献6) 側頭葉てんかん手術に備えるには、術前の精密検査と体調管理が重要です。MRIや脳波、心理検査で脳の状態を把握し、医師と手術計画を立てます。 高血圧や糖尿病の管理、禁煙・禁酒、栄養や睡眠の改善、感染予防も大切です。術後に向けては、リハビリや生活環境の準備、家族との連携を整えることで、スムーズな回復と社会復帰が目指せます。 手術後のリハビリテーション 項目 内容 リハビリの目的 機能回復、日常生活の自立支援、社会復帰の促進 開始時期 容体安定後、医師の許可を得て開始 リハビリ内容 筋力や動作の訓練、感覚刺激、記憶や注意のトレーニング、言語や嚥下の練習 実施場所と期間 病院内または外来・訪問、数週間〜数カ月以上の継続もあり (文献7) 側頭葉てんかんの手術後は、発作の軽減に加え、機能の回復を目的としたリハビリが大切です。術後に現れる可能性のある運動麻痺、感覚障害、言語障害、記憶や注意力の低下、感情の不安定さなどに対して、医師の指導のもと、リハビリが実施されます。 理学療法では筋力やバランスの回復を、作業療法では日常動作の改善を目指します。言語聴覚療法では、言葉の理解や発話、飲み込みの訓練を行い、心理的な不安にはカウンセリングが効果的です。リハビリは術後の安定を確認し、早期に始めるのが望ましく、脳の回復力を引き出す上でも重要です。 期間には個人差がありますが、数週間から数カ月以上に及ぶこともあります。リハビリの継続や家族や医師のサポートが社会復帰への大きな助けとなります。 メンタルケアを怠らない メンタルケアの工夫 内容 感情の変化を受け止めること 不安・落ち込み・イライラを否定せず、手術後の一時的な影響として受け入れる姿勢 誰かに悩みを話すこと 家族・友人・医療スタッフとの会話による気持ちの整理 リラックスできる時間を持つこと 趣味、音楽、散歩、入浴など、心地よく過ごせる時間の確保 質の高い睡眠と休息の確保 睡眠環境の整備と、日中の適切な休憩による心身の回復 適度な運動の継続 医師の指導のもとでの軽い運動による気分転換とストレス軽減 栄養バランスの取れた食事 規則正しい食生活による心身の安定 焦らず自分のペースで回復を目指すこと 比較を避け、少しずつの変化を前向きに捉える姿勢 サポートグループへの参加(可能な範囲で) 同じ経験を持つ人との交流による孤独感の緩和と情報共有 (文献8)(文献9) 側頭葉てんかんの手術後は、身体的な回復だけでなく、心のケアも欠かせません。一方で後遺症や再発、社会復帰などの不安を抱える方もいます。また、側頭葉は感情を司る脳領域と深く関係しているため、術後に気分の浮き沈みや情緒の不安定さが生じることもあります。 このような変化は一時的な場合もありますが、放置すれば生活や人間関係に悪影響を及ぼすことがあるため、早めの対処が大切です。 家族や職場への情報共有 共有のタイミング 内容 手術前 検査内容の説明や不安の共有を行う 手術直後 手術結果や一時的な症状の可能性を家族に伝えておku 入院中 リハビリの進み具合や接し方の注意点を家族に理解してもらう 退院時 自宅での注意点や服薬・体調管理について家族と連携する 職場・学校への伝達 復帰時期や配慮が必要な症状について職場や学校と相談する 長期的なサポート 院や体調変化への理解と協力を周囲に求めておく (文献8)(文献10) 側頭葉てんかんの手術後の生活を円滑に進めるには、家族や職場との情報共有が欠かせません。術後は一時的に認知機能や感情面に変化が現れることがあり、周囲の理解があるかどうかで支援の質や生活のしやすさが大きく変わります。 家族には、手術内容や後遺症の可能性、リハビリの方針、日常生活での注意点をわかりやすく伝えることが大切です。職場にも復職に向けて、通院リハビリの調整や業務内容の見直しなどを相談しましょう。 不安を一人で抱え込まず、周囲と協力しながら環境を整えることが、回復に役立ちます。 側頭葉てんかん手術後の後遺症でお悩みの方はご相談ください 側頭葉てんかんの手術後に現れる後遺症は、生活の質に影響しやすく、人には相談しづらい悩みも多くあります。リペアセルクリニックでは、そうした小さな不安にも丁寧に耳を傾け、再生医療を用いた治療で回復をサポートしています。 ひとりで抱え込まず、「メール相談」や「オンラインカウンセリング」を通じて、お気軽にご相談ください。 側頭葉のてんかん手術と後遺症に関するよくある質問 側頭葉てんかんの手術は誰でも受けられますか? 側頭葉てんかんの手術は、すべての方が受けられるわけではありません。薬で発作が十分に抑えられないことや、発作の原因となる部位が明確に特定できること、さらに手術による効果とリスクのバランスが取れていることなど、いくつかの条件を満たす必要があります。 手術を受けるタイミングはいつですか? 側頭葉てんかんの手術を受けるタイミングは一概に決まっておらず、病状や年齢、生活状況、治療への希望によって異なります。医療機関での診察結果に基づき、医師の指示に従いましょう。(文献11) 手術の後遺症は元に戻すことはできますか? 側頭葉てんかんの手術後に生じる後遺症の回復には個人差があり、軽度なものは自然回復やリハビリによる改善が期待できます。 一方で、脳の損傷が大きい場合は、回復が難しいこともあります。根本的な治療法は限られますが、環境整備やリハビリによって機能の維持や生活の質の向上を図ることは可能です。(文献12) 退院後すぐに元の生活に戻れますか? 側頭葉てんかんの手術後の生活復帰には個人差があり、回復状況や生活の内容によって大きく異なります。 一般的にはすぐに元の生活に戻るのは難しく、術後は安静を保ちながら段階的に復帰を目指します。復帰までには数週間から数カ月かかることが一般的です。 参考資料 (文献1) 奥村 修三.「頭蓋内手術後の突発性脳波異常の出現とてんかん性痙攣発作の危険性及び抗痙攣剤の使用について」35(6), pp.1-4, https://www.jstage.jst.go.jp/article/iryo1946/35/6/35_6_527/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献2) 国立保険医療科学院「側頭葉てんかん外科手術後の記憶障害機構の解明」厚生労働科学研究成果データベース , 2015年5月21日 https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/21416(最終アクセス:2025年5月12日) (文献3) 原 広一郎ほか.「てんかんとメンタルヘルスについて」『千葉県循環器病センター/てんかんセンター医療法人静和会 浅井病院』, pp.1-20, 2024年 https://www.pref.chiba.lg.jp/junkan/shinryoka/shinkate/documents/mentaruherusu.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献4) 岩崎 真樹.「てんかんの外科治療」『国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経外科』, pp.1-21, 2020年 https://epilepsy-center.ncnp.go.jp/pdf/200808_document_03.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献5) 曽根大地ほか.「世界で初めて側頭葉てんかんの根治治療に最適な脳の切除範囲を同定〜術後の言語記憶障害のリスクを従来の 8 分の1に〜」『東京慈恵会医科大学』, pp.1-4, 2021年 https://www.jikei.ac.jp/news/pdf/press_release_20211126.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献6) 三嶋健司.「てんかん外科に必要な看護」『国立精神・神経研究センター病看護部3階南病棟』, pp.1-15, https://epilepsy-center.ncnp.go.jp/pdf/201219_document_07.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献7) 藤川真由.「てんかんリハビリテーションと社会制度の今」, pp.1-5, 2021年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/38/4/38_569/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月12日) (文献9) 「てんかんとともに働き暮らすために」『社団法人日本てんかん協会』, pp.1-128 https://www.jea-net.jp/wp-content/uploads/2018/11/useful_pdf_08.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献9) 田中優.「てんかん患者さんの社会復帰支援・精神科デイケアについて」『NCNP病医院 国立精神・神経医療研究センター』, pp.1-12 https://epilepsy-center.ncnp.go.jp/pdf/240721_document1_08.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献10) 福智 寿彦.「てんかん患者の自立と社会参加支援」, pp.1-7,2014年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjghp/26/1/26_21/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献11) 石下 洋平,川合 謙介.「てんかん外科治療の適切なタイミング」『脳と発達』, pp.1-7, 2020年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/52/4/52_223/_pdf/-char/en(最終アクセス:2025年5月12日) (文献12) 向野 隆彦.「側頭葉てんかんにおける記憶障害」『臨床神経学』34(7), pp.1-7, 2024年 https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/064070453.pdf(最終アクセス:2025年5月12日)
2025.05.30 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
「ふくらはぎが張っている」 「脚が赤く腫れてきた気がする」 脚やふくらはぎの違和感を加齢や疲労だと考えていませんか。その症状、血栓性静脈炎と呼ばれる静脈の異常が関係しているかもしれません。 血栓性静脈炎は静脈に血のかたまり(血栓)ができ、炎症が起こる状態です。放置すると血栓が肺などに移動し、命に関わる合併症を引き起こす恐れがあります。本記事では以下について解説します。 血栓性静脈炎の症状 血栓性静脈炎の原因 血栓性静脈炎における受診すべき診療科 血栓性静脈炎の治療法 血栓性静脈炎の再発防止策 記事の最後には、血栓性静脈炎に関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 血栓性静脈炎とは 血栓性静脈炎とは、静脈の中に血栓(血のかたまり)ができ、その部分に炎症が生じる病気です。とくにふくらはぎなどの下肢に多くみられ、腫れや熱感、赤みなどの症状を引き起こします。発症の原因としては、長時間同じ姿勢でいることや、血流が滞る生活習慣、基礎疾患などが挙げられます。 血栓が肺に流れ込むと、肺塞栓症と呼ばれる重大な合併症を招く恐れがあるため、早期の対応が必要です。血栓性静脈炎は軽い症状で始まることが多く、見逃されやすい特徴があります。脚の腫れや熱感などを感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。 血栓性静脈炎の症状 病気の概要 静脈の壁に炎症が起こり、血の塊(血栓)ができる 発症しやすい部位 とくに脚の静脈に多く見られますが、腕などにも起こることがある 主な種類 主な種類 血栓性静脈炎には、皮膚の浅い部分に起こる比較的軽症の表在性血栓性静脈炎と、筋肉内の深い静脈にできて重症化しやすい深部静脈血栓症(DVT)の2種類がある 代表的な症状 患部の違和感・腫れ・赤み・熱感・しこりなどが見られる 原因 血液が固まりやすい状態、血流の停滞、血管の損傷などが関係している 放置した場合のリスク 深部静脈血栓症や肺塞栓症に進行すると命に関わる可能性がある (文献1) 血栓性静脈炎の代表的な症状は、ふくらはぎや脚の腫れ、皮膚の赤み、熱感、押したときの硬さなどです。初期には違和感や張りを感じる程度のこともありますが、時間の経過とともに患部が熱をもち、歩行時に重さを感じるようになることもあります。 血栓性静脈炎には軽症が多い表在性と、重症化しやすい深部静脈血栓症(DVT)の2種類があります。DVTは気づかないうちに進行し、肺塞栓など命に関わる合併症を引き起こすこともあるため、早期に医療機関で診断と治療を受けることが大切です。 血栓性静脈炎の原因 原因 概要 血管の病気(ベーチェット病・バージャー病) 血管に炎症を起こす病気により、血管が傷つき血栓ができやすくなります。とくに喫煙者や持病がある方は注意が必要 血流の滞り(うっ滞) 長時間同じ姿勢や運動不足により血流が滞ると、血栓ができやすくなる 血管内皮細胞の損傷 血管の内側が傷つくと血液が固まりやすくなり、血栓ができやすくなる 加齢による影響 年齢とともに血管が硬くなり血流が悪化し、血栓ができやすくなる 血栓性静脈炎の発症には、複数の要因が関与しています。とくに静脈の血流が滞りやすい状況、血管が傷つき、血液が固まりやすくなると、血栓性静脈炎のリスクが高まります。 ベーチェット病やバージャー病などの血管に関する病気 要因 詳細 血管の炎症 ベーチェット病やバージャー病では血管の壁に炎症が起こり、血管が傷つくことで血栓ができやすくなる 免疫異常 自己免疫の異常により免疫が血管を攻撃し、血栓形成が助長される 血流の特徴 静脈は血流が遅いため、血栓ができやすく、炎症によってそのリスクがさらに高まる 喫煙との関連 バージャー病は喫煙者に多く、血管の閉塞や炎症を引き起こしやすくなる (文献2) ベーチェット病やバージャー病は血管に炎症を起こし、血管内が傷つくことで血栓ができやすくなります。とくに静脈は血流が遅いため、血栓が生じやすい状態です。 ベーチェット病は免疫異常により血管が攻撃され、バージャー病は喫煙と深く関係し、手足の血管に炎症や閉塞を起こします。これらの病気がある方は、足の腫れや赤みに早く気づくことが大切です。 静脈血流のうっ滞 原因 概要 血液成分の接触時間が長くなる 血流が遅くなると血液成分が静脈壁に長く接触し、凝固しやすくなる 凝固因子の蓄積 血液が滞ると凝固因子が流されずにたまり、血栓ができやすくなる 血管内皮細胞の機能低下 血流が悪いと血管内皮の働きが低下し、血栓を防ぐ力が弱まる 長時間の不動(旅行・手術後など) 足を動かさない時間が長いと血液が滞り、血栓ができやすくなる 下肢静脈瘤 静脈の弁が壊れやすくなり、血液が逆流・滞留して血栓ができやすくなる ギプス固定 筋肉が動かせないことで静脈の血流が悪化し、血栓のリスクが高まる 肥満・妊娠 腹部が圧迫され、足からの血流が悪くなり血栓の原因になる (文献3)(文献4) 血栓性静脈炎は、血流の滞り(うっ滞)によっても発症しやすくなります。とくに長時間のデスクワーク、飛行機や車での長距離移動、運動不足などで引き起こされます。 血流が滞ると血液が一カ所にとどまりやすくなり、血栓ができるリスクが高まります。エコノミークラス症候群のように、長時間足を動かさない状態も原因の一つです。とくに加齢や下肢静脈瘤がある方は、血液が心臓に戻りにくく、リスクがさらに増します。違和感があれば、早めの受診と生活習慣の見直しが大切です。 血管内皮細胞の障害 項目 概要 損傷による影響 内皮細胞が傷つくと血液が固まりやすくなり、血栓ができやすくなる 損傷の原因 喫煙や高血圧、糖尿病、感染症、外傷、カテーテルの留置などが原因になる 予防のポイント 生活習慣の改善と基礎疾患の管理が内皮細胞を守る鍵となる (文献5)(文献6) 血管内皮細胞は、血管の内側を覆い、血流を保ちつつ血栓の予防に重要な役割を果たしています。しかし、喫煙や高血圧、糖尿病、感染症、外傷、カテーテルの留置などにより内皮細胞が傷つくと、血液が固まりやすくなり、血栓ができやすい状態になります。 血栓が静脈内にできると血栓性静脈炎を引き起こす可能性があり、とくに深部静脈に生じた場合は命に関わる合併症につながることもあります。内皮細胞を守るには、生活習慣の見直しと持病の適切な管理が大切です。 加齢に伴うもの 加齢による変化 血栓性静脈炎との関係 血管内皮細胞の機能低下 内皮細胞の抗血栓作用が低下し、血液が固まりやすくなる 静脈弁の機能低下 血液の逆流や停滞が起こり、静脈うっ滞が血栓の原因になる 血液凝固系の変化 血液が固まりやすくなり、血栓形成のリスクが高まる 活動量の低下 ふくらはぎの筋肉のポンプ作用が弱まり、血液が滞りやすくなる 基礎疾患の増加 疾患による血管への影響や凝固異常が血栓形成を助長する (文献7) 加齢により血管内皮細胞の働きが低下し、血栓を防ぐ機能が弱まると同時に、血液が固まりやすくなる変化も起こります。加齢により静脈弁や筋肉の働きが弱まると血流が滞りやすくなり、血栓ができやすくなります。さらに、高血圧や糖尿病といった病気のリスクも高まることで、血栓のリスクが一層増加します。 とくに高齢者は、加齢による感覚の鈍化や持病との区別がつきにくいため、初期症状に気づきにくく、発見が遅れてしまうケースも少なくありません。ふくらはぎの腫れや赤みなどの違和感が出た場合はすぐに医療機関を受診しましょう。 血栓性静脈炎における受診すべき診療科 受診するべき診療科 受診の目安 特徴 皮膚科 皮膚が赤く腫れ、浅い血管がミミズ腫れのように見える場合 皮膚の見た目の異常が中心であり、軽症ならここで十分対応可能 血管外科・心臓血管外科 下肢が強く腫れている、再発を繰り返している、深部静脈が疑われる場合 エコー検査や抗凝固療法など、治療が必要なときに行われる 内科・総合内科 症状の原因がわからない、高齢者や持病が多く全身の管理が必要な場合 最初の相談窓口として適切 皮膚の赤みや軽い腫れといった症状がある場合は皮膚科で対応可能です。しかし、腫れが強い場合や血栓が深部に及ぶ可能性がある場合は、血管外科や心臓血管外科といった専門診療科の受診が推奨されます。 また、症状の判断が難しいときや持病が多い方は、まず内科や総合内科を受診し、医師に相談するのがおすすめです。受診先に迷った場合は、まずはかかりつけ医に相談し、必要に応じて適切な診療科へつなげてもらうのも方法です。 血栓性静脈炎の治療法 治療法 対象となる状態 治療の内容 特徴 保存療法 軽度の血栓性静脈炎、初期段階 安静・脚の挙上・弾性ストッキング・冷却など 身体への負担が少なく、自宅でも実施可能 薬物療法 炎症や血栓が進行している場合 抗炎症薬で炎症軽減、抗凝固薬で血栓形成予防 再発予防にも有効で、長期的な継続が重要 手術療法 重度または再発を繰り返す場合 血栓除去術やバイパス術で血流回復 侵襲が大きいため慎重な判断が必要 再生医療 既存治療で効果が乏しい、血管損傷が広範囲な場合 幹細胞などを用いた血管修復の研究的治療 保険外治療で実施施設が限られる 血栓性静脈炎の治療は、症状の程度や進行状態によって方針が異なります。治療の目標は、血流を回復させて血栓の拡大や移動を防ぐことです。 保存療法 対処法 目的 効果的な活用方法 注意点 安静 炎症の悪化を防ぎ、違和感を軽減する 無理のない範囲で日常生活を送りつつ、患肢を休ませる 活動の範囲は医師と相談が必要 挙上 静脈の血流を促進し、腫れを軽減する 寝るときや座るときにクッションで足を高く保つ 長時間の同じ姿勢は避け、適度な動きも必要 弾性ストッキング 血流改善・腫れ予防・血栓拡大の防止 医師の指示に従い、適切なサイズと方法で着用する 着用時間や圧迫度合いは個別に調整が必要 湿布(NSAIDs) 患部の炎症と違和感を軽減する 医師・薬剤師の指導に従って使用し、貼付時間を守る かぶれや副作用に注意し、皮膚に異常があれば中止する (文献8) 保存療法は軽度の血栓性静脈炎に用いられる治療で、安静や脚の挙上、弾性ストッキングの着用、湿布などで血流を改善し炎症を抑えます。自己判断で行わず、医師の指示に従い、違和感があればすぐに相談しましょう。 薬物療法 薬の種類 作用・目的 使用されるケース 注意点 抗凝固薬(ヘパリン・ワルファリン・DOAC) 血液が固まるのを防ぎ、血栓の拡大や新規形成を防ぐ 深部静脈血栓症(DVT)の治療、表在性でも進行リスクが高い場合に使用 出血リスクあり。医師の指示を守る。定期的な検査が必要な薬もある 血栓溶解薬(tPAなど) すでにできた血栓を溶かす 肺塞栓症など重症例で、発症初期に限定的に使用される 出血のリスクが高く、入院下で慎重に使用される NSAIDs(内服・湿布) 炎症や違和感を抑える。血栓を直接溶かす作用はない 表在性血栓性静脈炎での腫れや違和感の緩和に使用 胃腸障害や皮膚のかぶれに注意。長期使用は医師の指導が必要 (文献9) 血栓性静脈炎の薬物療法では、抗炎症薬や抗凝固薬が使用されます。抗炎症薬は炎症による腫れや赤みを軽減し、抗凝固薬は血液を固まりにくくする作用があり、新たな血栓の形成を防ぐために使用されます。 中には血栓を溶かす作用のある薬剤(血栓溶解薬)が用いられることもありますが、使用には出血のリスクを伴うため、慎重な判断が必要です。薬物治療は医師の指導に基づいて継続的に行われます。薬の量を自己判断で変えたり中止したりすると、効果が下がるだけでなく副作用のリスクが高まるため注意が必要です。 手術療法 手術法 有効な理由 手術の概要 注意点 血栓除去術(血栓摘出術) 巨大な血栓で血流が遮断されている場合、迅速な血流回復を目指す 静脈を切開し、血栓を直接取り除く手術。麻酔下で行われる 出血や感染のリスク、再発の可能性がある 下大静脈フィルター留置術 肺塞栓のリスクが高いが抗凝固薬が使えない場合に、血栓の肺移動を防止する カテーテルで下大静脈にフィルターを設置し、血栓を物理的に捕捉します フィルター自体が血栓の原因になる可能性があり、長期留置はリスクになる 静脈瘤手術 繰り返す表在性血栓性静脈炎の原因である静脈瘤を取り除くことで再発を予防する 静脈を切除、閉鎖、焼灼、注入など方法は多岐に渡る 急性炎症時は避け、落ち着いてから手術を行う、方法により侵襲度も異なる (文献10)(文献11)(文献12) 重度の血栓性静脈炎や再発を繰り返す場合には、手術療法が選択肢となることがあります。血栓除去術やバイパス手術などが代表的で、主な目的は血流を回復させて患部への負担を軽減できます。 手術療法を受けた後も、血栓の再発を防ぐためには、薬物療法や弾性ストッキングの使用を継続しましょう。ただし、手術は体への負担が大きいため、保存療法や薬による治療で十分な効果が得られない場合に限り検討されます。手術の実施にあたっては、出血や感染などのリスクもあるため、医師と十分に相談した上で判断する必要があります。 再生医療 再生医療は、幹細胞などを用いて損傷した血管細胞を修復・再生させることで、血管の機能を回復させ、症状の改善や再発の予防を目指します。通常の治療で効果が得られなかった場合や、血管のダメージが広範囲に及ぶ場合に、新たな選択肢として検討される治療法です。 再生医療は、新たな血管をつくる力を活用し、体内に血流の通り道(バイパス)を形成することで、血流の改善が期待できます。注意点としては、適用できる医療機関が限られているため、事前に実施しているかの有無を確認する必要があります。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 血栓性静脈炎の再発を防止するには 予防法 内容 生活習慣の改善 禁煙を徹底し、脂肪の多い食事を見直す。青魚・海藻・野菜などを取り入れ、ストレスや過度な飲酒も控える 適度な運動の実施 ウォーキングやストレッチ、かかとの上げ下げなどを日常的に取り入れ、長時間同じ姿勢を避ける 弾性ストッキングの着用 医師の指導のもとで適切な圧のストッキングを選び、朝から夜まで装着する 水分補給を怠らない 水や麦茶などでこまめに水分をとり、脱水を防ぐ 血栓性静脈炎は、一度治療を終えても再発の可能性があるため、日常生活での予防が大切です。 生活習慣を改善する 項目 対策 血液の凝固能の正常化 水分をこまめにとり、栄養バランスの良い食事で血液を固まりにくくする 静脈血流の改善 軽い運動や姿勢の工夫、体重管理によって下肢の血流を促進する 血管内皮細胞の健康維持 禁煙と抗酸化成分の多い食事、適度な運動で血管を健康に保つ 基礎疾患の管理 高血圧や糖尿病などの生活習慣病を適切にコントロールして血栓のリスクを下げる 血栓性静脈炎の再発を防ぐには、禁煙や食生活の改善が欠かせません。タバコは血流を悪化させ、血栓のリスクを高めるため控えましょう。 動物性脂肪を減らし、青魚や野菜など血液をサラサラに保つ食品を取り入れることも効果的です。過度な飲酒やストレスも血管に悪影響を与えるため、日常生活の中で無理なく見直していくことが予防につながります。 以下の記事では生活習慣の改善について詳しく解説しています。 適度な運動を取り入れる 静脈の血流を促すには、無理のない範囲で定期的に体を動かすことが大切です。とくに、ウォーキングや軽いストレッチ、かかとの上げ下げ運動など、下半身の筋肉を使う運動が効果的です。また、血管の健康を保ち、血液がサラサラになることで再発リスクを減らします。 運動は医師の指導を受けた上で、自分の体調に合わせて無理のない範囲で行うことが大切です。 以下の記事では有酸素運動のほかに高血圧の予防や改善方法について詳しく解説しています。 弾性ストッキングを着用する 項目 要点 静脈の拡張抑制と血流 適切な圧迫で静脈の拡張を防ぎ、血流を促進して血栓のリスクを低下させる 静脈弁の機能サポート 弁の働きを補い、血液の逆流を防ぐことで血液の滞りを軽減する 腫れの軽減と血栓予防 余分な水分を戻し腫れを軽減、血管への負担を減らす 着用時の注意点 医師の指示に従い、適切なサイズと方法で毎日清潔に着用する 弾性ストッキングは、足に一定の圧をかけて血液の流れを補助する医療用の靴下です。ふくらはぎから足首にかけて圧力を加えることで、静脈内の血液が滞るのを防ぎます。使用する際は、医師の指導のもと適切な弾性ストッキングを選ぶ必要があります。 市販の弾性ストッキングを自己判断で使うと、かえって症状が悪化する恐れがあります。医師の指示に従い使用しましょう。 水分補給を怠らない 血栓性静脈炎の再発を防ぐには、日ごろからこまめな水分補給が大切です。体の水分が不足すると血液が濃くなり、流れが悪くなることで血栓ができやすくなります。 また、血管の内側を守る血管内皮細胞の働きも低下しやすくなり、血液の流れがさらに悪くなる原因になります。水分をしっかりとることで、血液がサラサラに保たれ、血栓ができにくい状態が維持されます。 なお、コーヒーやアルコールなど利尿作用のある飲み物は逆効果になるため、水や麦茶などを選びましょう。日常の小さな意識が、再発の予防につながります。 血栓性静脈炎の疑いがある方は早急に医療機関の受診を 脚に腫れや赤み、熱っぽさを感じたとき、それが血栓性静脈炎におけるサインの可能性があります。その症状を放置してしまうと血栓が移動して肺塞栓症などの重篤な合併症を引き起こすため、早急の医療機関への受診が必要です。 ふくらはぎにしこりのような感触がある、押すと硬さを感じるといった場合は要注意です。症状が軽いうちに受診すれば、保存的な治療で改善が見込めるケースもあります。 当院リペアセルクリニックでは、再生医療を用いた血栓性静脈炎の治療を行っております。症状にお悩みの方は、「メール相談」や「オンラインカウンセリング」を通じて、お気軽にご相談ください。 血栓性静脈炎に関するよくある質問 血栓性静脈炎は自然に治りますか? 表在性の軽い血栓性静脈炎は自然に治ることもありますが、すべてが自然治癒するわけではありません。深部に広がるリスクや強い症状がある場合は、命に関わる合併症を防ぐためにも、早めに医療機関を受診しましょう。 血栓性静脈炎は再発しやすいですか? 血栓性静脈炎は、原因となる静脈瘤や血液の凝固異常、血管の損傷が残ると再発しやすくなります。再発予防には、原因疾患の治療、薬や弾性ストッキングの継続使用、生活習慣の改善、定期的な経過観察が重要です。 血栓性静脈炎は重症化するとどうなりますか? 血栓性静脈炎が重症化すると、血栓が深部静脈に進展し、肺に移動して肺塞栓症を引き起こす恐れがあります。突然の息切れや胸の違和感、呼吸困難、場合によっては意識消失やショックなど命に関わる状態になることもあります。 慢性的な腫れや色素沈着などの後遺症が出るケースもあるので、早期に医療機関を受診しましょう。 参考資料 (文献1) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「表在静脈血栓症」MSD マニュアル 家庭版,2023年12月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/06-%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%9D%99%E8%84%88%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%A1%A8%E5%9C%A8%E9%9D%99%E8%84%88%E8%A1%80%E6%A0%93%E7%97%87(最終アクセス:2025年5月10日) (文献2) 重松宏ほか.「血管型ベーチェット病の診療ガイドライン案」『厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)分担研究報告書』, pp.1-18 https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2019/192051/201911043B_upload/201911043B202005290902054150008.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月10日) (文献3) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「慢性静脈不全症および静脈炎後症候群」MSD マニュアル プロフェッショナル版,2022年9月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/04-%E5%BF%83%E8%A1%80%E7%AE%A1%E7%96%BE%E6%82%A3/%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E9%9D%99%E8%84%88%E7%96%BE%E6%82%A3/%E6%85%A2%E6%80%A7%E9%9D%99%E8%84%88%E4%B8%8D%E5%85%A8%E7%97%87%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E9%9D%99%E8%84%88%E7%82%8E%E5%BE%8C%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4(最終アクセス:2025年5月10日) (文献4) 伊藤 正明.「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に 関するガイドライン(2017年改訂版)」, pp.1-93, 2018年3月23日 https://js-phlebology.jp/wp/wp-content/uploads/2020/08/JCS2017.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献5) 川﨑富夫.「DVT の病態と臨床 ―DVT の診断,治療について―」『血栓止血の臨床─研修医のために II』, pp.1-4, 2008 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsth/19/1/19_1_18/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月10日) (文献6) 丸山征郎.「血管内皮細胞障害と血栓」『第42回 河口湖心臓討論会』, pp.1-7 https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/41/2/41_204/_pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献7) 金子 寛ほか.「四肢静脈血栓症の原因について」, pp.1-6,2001年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/phlebol/12/3/12_12-3-257/_pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献8) 「弾性ストッキング関連資料」『日本製脈学会 弾性ストッキング・コンダクター養成委員会作成(第1版)』, pp.1-20 https://js-phlebology.jp/disaster/wp-content/uploads/2020/11/stockings_hokenshi.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献9) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「深部静脈血栓症」MSD マニュアル 家庭版,2023年12月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/06-%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%9D%99%E8%84%88%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E6%B7%B1%E9%83%A8%E9%9D%99%E8%84%88%E8%A1%80%E6%A0%93%E7%97%87(最終アクセス:2025年5月10日) (文献10) 大谷 真二ほか.「大伏在静脈の静脈瘤に合併した上行性血栓性静脈炎の 2 手術例」, pp.1-5, 2005年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/phlebol/16/2/16_16-2-129/_pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献11) 山田 典一,中野 赳.「深部静脈血栓症:血栓溶解療法,下大静脈フィルター留置」, pp.1-8, 2009年 https://j-ca.org/wp/wp-content/uploads/2016/04/4903_10.pdf最終アクセス:2025年5月10日) (文献12) 荒名 克彦ほか.「上行性血栓性性脈炎3例の経験」, pp.1-4, 2014年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jca/54/3/54_13-00041/_pdf(最終アクセス:2025年5月10日)
2025.05.30 -
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- 内科疾患
「最近、足が妙に重だるい」 「ふくらはぎに違和感がある」 その症状は閉塞性動脈硬化症のサインかもしれません。このサインを放置すると症状が悪化し、最悪の場合は壊死や足の切断につながるかもしれません。 本記事では、閉塞性動脈硬化症のセルフチェック方法や足に現れる具体的なサインについて、わかりやすく解説します。あわせて、重症度の目安や症状に応じた治療法についてもわかりやすく解説します。 閉塞性動脈硬化症のセルフチェック|1つでも当てはまる場合は要注意 チェック項目 詳細説明 タバコを吸う 喫煙は血管を傷つけ、動脈硬化を進める 血糖値が高いと診断された 糖尿病は血管をもろくし、動脈硬化の大きな要因 コレステロール・中性脂肪が高いと診断された 脂質が血管内にたまり、血流を妨げる 高血圧と診断された 血圧が高いと血管に負担がかかり、動脈硬化が進行する 過去に心筋梗塞を起こした 血管障害の既往があり、他の動脈にも影響する恐れがある 過去に脳卒中を起こした 一度脳卒中を起こすと動脈硬化を発症しやすい傾向がある 家族に心筋梗塞や脳卒中の人がいる 遺伝的に動脈硬化を発症しやすい傾向がある 閉経している 女性ホルモンの低下により、血管の柔軟性が失われやすくなる 透析を受けている 透析によって血管に負担がかかり、動脈硬化が進行しやすくなる 65歳以上である 加齢に伴い血管は硬くなりやすくなる 肥満体型である 生活習慣病のリスクが高く、動脈硬化を招く 閉塞性動脈硬化症は、動脈が徐々に細くなり血流が悪化する病気です。とくに足の血管に障害が出ると、歩行時のだるさやしびれといった症状が現れます。 初期の段階では自覚症状が乏しく、気づかないうちに進行しているケースも少なくありません。そのため、早い段階で閉塞性動脈硬化症に気づくには自分でできるセルフチェックを行うことが不可欠です。 1つでもセルフチェック項目に当てはまる場合は要注意です。 以下の記事では、閉塞性動脈硬化症の初期症状について詳しく解説しています。 タバコを吸う タバコが及ぼす影響 リスクとメカニズム 血管の収縮を引き起こす ニコチンなどにより血管が狭くなり、血流が悪化 血管内皮細胞を傷つける 血管内面が損傷し、動脈硬化の原因となるプラークがたまりやすくなる LDLコレステロールの酸化 酸化されたLDLコレステロールが血管壁に沈着しやすくなる 血小板の凝集促進 血液が固まりやすくなり、血栓形成のリスクが高まる HDLコレステロールの減少 善玉コレステロールが減り、血管の修復力が低下 血管壁の慢性的炎症 炎症により動脈硬化が進行 (文献1)(文献2) タバコは血管に多面的な悪影響を与え、閉塞性動脈硬化症の大きなリスク因子となります。喫煙により血管が収縮し、内皮細胞が損傷を受けることで、動脈硬化が進行しやすくなります。 また、血液が固まりやすくなり血栓のリスクも高まるため、喫煙歴のある方は足の違和感や冷えといった小さなサインも見逃さず、早めの受診が大切です。 血糖値が高いと診断されたことがある 高血糖は血管を傷つけ、動脈硬化を進行させます。血流が悪化すると足先まで血液が届きにくくなり、冷えやしびれを感じることがあります。 糖尿病の方は神経障害を伴いやすく、足の異常に気づきにくいため要注意です。血糖値がやや高めと診断された方も、足の症状があれば早めに医療機関を受診しましょう。 コレステロールや中性脂肪が高いと診断されたことがある 項目 概要 プラークの形成 悪玉コレステロールや中性脂肪が血管にたまり、プラークと呼ばれる塊を作り、血管を狭くする 血管の壁が弱る コレステロールが血管の内側にダメージを与え、血管がもろくなる 酸化LDLの影響 悪玉コレステロールが酸化すると、血管に炎症を起こして、さらに詰まりやすくなる 善玉コレステロールの働き低下 善玉コレステロールが少ないと、血管の掃除がうまくできず、脂質がたまりやすくなる 血栓ができやすくなる 傷ついた血管には血のかたまり(血栓)ができやすくなり、詰まりの原因になる 血管が硬くなる 血管に脂質がたまると、血管の弾力が失われ、血流が悪化する (文献3) コレステロールや中性脂肪が高い状態が続くと、血管の内側に脂質がたまり、血管が狭くなって血流が悪くなります。とくにLDLコレステロール(悪玉)が多いと動脈硬化が進み、血栓ができやすくなります。 逆に、HDLコレステロール(善玉)が少ないと、余分な脂質を回収できずリスクがさらに高まります。足の冷えやしびれ、歩きにくさを感じる方は、閉塞性動脈硬化症の可能性があるため、早めに医療機関を受診しましょう。 高血圧と診断されたことがある 高血圧は血管に強い圧力がかかる状態が続き、血管の内側を傷つけます。そこに脂質などがたまり、プラークができて血管が狭くなり、動脈硬化を引き起こします。とくに足の血管は細くて傷つきやすいため、冷えやしびれを引き起こしやすくなります。 高血圧と診断されたことがあり、冷えやしびれの症状が続く場合、閉塞性動脈硬化症の疑いがあるため、早急に医療機関を受診しましょう。 過去に心筋梗塞を起こしたことがある 観点 解説 全身の動脈硬化の可能性 心筋梗塞は全身の動脈硬化が進んでいる恐れがある 共通する生活習慣や病気 両者には高血圧や糖尿病など共通のリスク因子がある 血管の機能が低下している可能性 血管内の機能が弱まっており、足の血管も詰まりやすくなっている 血栓ができやすい状態 血栓ができやすい体質になっており、足の血管にも詰まりのリスクがある 慢性的な炎症の影響 慢性的な炎症が全身に及び、足の動脈硬化を進める可能性がある (文献4) 心筋梗塞を経験した方は、すでに全身の血管に動脈硬化が広がっている可能性があります。心臓だけでなく、足の血管にも同じような詰まりや変化が起きていることが考えられます。動脈硬化は一部の血管だけでなく、全身に影響する病気です。 そのため、足のしびれや冷えなどの違和感がある場合、単なる疲れではなく血管の詰まりによる症状の可能性も考えられます。再発を防ぐためにも、足の血流チェックを早めに受けることが大切です。 過去に脳卒中を起こしたことがある 観点 解説 全身の動脈硬化の可能性 脳の血管に問題が起きた方は、足など他の血管でも動脈硬化が進んでいる可能性がある 共通の危険因子がある 脳卒中と閉塞性動脈硬化症は、生活習慣病や喫煙など共通のリスク要因で起こる 血管の働きが弱っている 脳卒中を経験した方は、血管の内側の機能が低下している可能性がある 血栓ができやすい状態 脳の血管にできた血栓と同じように、足の血管にも詰まりが起こるリスクがある 慢性的な炎症の影響 脳卒中後は、体の中で炎症が続いており、それが足の血管にも悪影響を及ぼすことがある (文献5) 脳卒中(とくに脳梗塞)は、脳の血管が動脈硬化によって詰まることで起こる病気です。脳卒中を経験された方は、すでに全身の血管に動脈硬化が進行している可能性があり、足の血管も例外ではありません。 そのため、閉塞性動脈硬化症のリスクも高くなる恐れがあります。また、脳卒中と閉塞性動脈硬化症には、高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙などの共通する危険因子があります。足の冷えやしびれは、動脈の詰まりのサインかもしれません。気になる症状があれば、早めに医師に相談しましょう。 家族に心筋梗塞や脳卒中を起こした人がいる 観点 解説 遺伝の影響 コレステロールや血圧が高くなりやすい体質が、家族で受け継がれていることがある 生活習慣の共通性 家族内で似た食事や運動習慣は、動脈硬化を起こす傾向が強くなる 若いうちからの発症リスク 家族に若くして発症した人がいると、自分も早く発症するリスクが高まる可能性がある 血管が弱い体質の可能性 血管の構造や性質に遺伝的な傾向があり、動脈硬化を起こしやすいことがある リスクの見落としに注意 家族に心筋梗塞や脳卒中の方がいる場合は、自分もリスクがあると考え、早めの対策が重要です (文献6) 家族に心筋梗塞や脳卒中を起こした方がいる場合、自分も動脈硬化を起こしやすい体質を持っている可能性があります。 高血圧や脂質異常、糖尿病などのリスク因子は遺伝しやすく、生活習慣も似ていることが多いため、同じような病気を発症するリスクがあります。とくに家族に若くして発症した人がいる場合は、注意が必要です。 閉経している 観点 解説 女性ホルモンの減少 閉経でエストロゲンが減り、血管を守る働きが弱くなる 脂質のバランスが変わる 悪玉コレステロールや中性脂肪が増え、動脈硬化が進みやすくなる 血圧が上がりやすくなる 血管が収縮し、血圧が上がりやすくなる 血管の働きが低下する 血管の内側の機能が落ち、詰まりやすくなる (文献7) エストロゲンには血管をしなやかに保つ働きがありますが、閉経後はその分泌が減り、血管が硬くなりやすくなります。 コレステロールもたまりやすくなり、動脈硬化が進行しやすくなります。閉経後に体調の変化を感じたら、足の冷えやしびれなどにも注意し、異変があれば早めに医療機関を受診しましょう。 透析を受けている 観点 解説 血管に負担がかかっている 高血圧や糖尿病などの合併症により、血管が常にダメージを受けやすい状態 血管が硬くなりやすい カルシウムなどの影響で血管に石のような物質がたまり、硬くなりやすくなる 体にサビがたまりやすい 老廃物がうまく排出されず、酸化ストレスが血管に悪影響を与える 炎症が起こりやすい 体の中で炎症が続きやすく、それが血管を傷つける原因になる 血管の働きが弱くなる 血管の内側の細胞がうまく働かなくなり、詰まりやすくなる 透析の影響そのもの 透析中の体内環境の変化も、血管に負担をかけやすい要因 (文献8)(文献9) 透析を受けている方は、老廃物が体にたまりやすく、カルシウムやリンの代謝異常により血管が硬く狭くなりやすくなります。さらに、糖尿病や高血圧の併発も多く、動脈硬化を進行させる原因です。 透析中に足の冷えやしびれを感じたら、血流障害の可能性があります。放置せず、早めに医療機関を受診しましょう。 65歳以上である 観点 解説 血管の老化 年齢とともに血管が硬くなり、動脈硬化が起こりやすくなる 生活習慣病が増加する 高血圧や糖尿病など、動脈硬化の原因になる病気にかかりやすくなる 血管の調整機能が低下 血管を広げたり縮めたりする働きが弱まり、詰まりやすくなる 酸化ストレスがたまりやすい 長年の代謝活動で体内に有害物質がたまり、血管に悪影響を与える 血管の修復力が低下 傷ついた血管を元に戻す力が弱くなり、動脈硬化が進みやすくなる (文献10) 加齢とともに動脈の壁は硬くなり、血管の内腔も狭くなります。とくに65歳を超えると、血管の老化が進みやすく、血流が滞ることで足に冷えやしびれなどの異常が現れやすくなります。 65歳以上の方は、足の冷えやしびれを感じるようであれば、手遅れになる前に早めに医療機関を受診しましょう。 肥満体型である 肥満体型の方は、動脈硬化を進めるさまざまなリスクを抱えています。肥満は、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病を引き起こしやすく、血管に大きな負担をかけます。 さらに、インスリンの働きが低下して血糖や脂質のバランスが乱れやすくなり、動脈硬化のリスクが高まります。加えて、脂肪細胞から分泌される炎症物質が血管を傷つけ、悪玉コレステロールの増加や善玉コレステロールの減少も進行を助長します。血圧も上がりやすくなるため、注意が必要です。 【セルフチェックとあわせて確認】閉塞性動脈硬化症の重症度と治療法 重症度 症状・状態 詳細 治療法の概要 Ⅰ度|冷感やしびれがある重症度 足先に冷えや軽いしびれがあるが、歩行には支障がない状態 血流の低下による軽度の末梢循環障害 生活習慣の改善(食事・運動・禁煙)と薬物療法(抗血小板薬、血圧・脂質のコントロール) Ⅱ度|長距離が歩けない 歩行中に足がだるくなり、休むと症状が軽くなる(間欠性跛行) 歩行による酸素不足に伴う下肢筋肉の循環障害 運動療法と薬物療法の併用、必要に応じてカテーテル治療や生活習慣の見直し Ⅲ度|安静時に違和感が現れる 夜間や横になっているときにも足先に違和感が生じる・ヒリヒリする 安静時にも続く深刻な血流不足による末梢虚血 血管再建(バルーン・ステント・バイパス)、創傷ケア、感染管理 Ⅳ度|潰瘍や壊疽がある 皮膚が黒ずむ、潰瘍ができる、足先が腐りはじめるなどの末期状態 血流途絶による組織壊死および感染リスクの高い状態 外科的血行再建や壊死部の切除、重症時は切断、全身管理を含む包括的治療 閉塞性動脈硬化症は、足の血管が徐々に狭くなり血流が悪くなる病気です。初期(Ⅰ度)は冷えやしびれなど軽い症状ですが、進行すると歩行が困難になり(Ⅱ度)、さらに進むと安静時にも違和感が現れます(Ⅲ度)。 末期(Ⅳ度)では潰瘍や壊死が起き、非常に重篤な状態です。生活習慣の改善や適切な治療を継続すれば、重症化や足の切断リスクを減らせます。 以下の記事では、閉塞性動脈硬化症におけるマッサージについて詳しく解説しております。 Ⅰ度|冷感やしびれがある 項目 内容 症状の特徴 自覚症状はほとんどなく、健康診断や検査で偶然見つかることが多い状態 よくある症状 足先の冷えや軽いしびれ、皮膚の蒼白、足の脈が弱くなることがある 日常生活への影響 日常生活に支障はなく、多くの場合は無症状で気づかれにくい段階 治療法 禁煙や減塩、運動などの生活習慣改善と、必要に応じた薬物治療が行われる 注意点 初期でも放置せず、早めの対策が進行を防ぐ重要なポイント (文献11) Ⅰ度は閉塞性動脈硬化症の初期段階で、足先に冷たさや軽いしびれを感じる状態です。しびれや冷えは血管の内腔が少し狭くなり、血液の流れが悪化しているサインです。 歩行障害はないものの、足の皮膚が乾燥したり、爪の伸びが遅くなったりするケースもあり、血流の低下が進んでいる状態です。この段階で異変に気づければ、進行を防げます。 少しでも違和感を覚えたら、まずは循環器内科などでチェックを受けることをおすすめします。 Ⅰ度の治療法 項目 内容 治療の目的 動脈硬化の進行抑制と将来的な重症化の予防 治療の基本方針 生活習慣の改善と予防的薬物療法の併用 生活習慣の見直し 禁煙の徹底、適度な有酸素運動、減塩・低脂質の食事 薬物療法(予防目的) 抗血小板薬による血栓予防、スタチンによる脂質管理、ARB/ACE阻害薬による血管保護 生活習慣病の管理 糖尿病、高血圧、脂質異常症の安定化と定期的な内科受診 Ⅰ度の特徴 歩行時の違和感や強い症状がなく、検査で血流低下を指摘されることが多い段階 発見のきっかけ 健康診断や動脈硬化検査中の偶発的な発見 Ⅰ度の段階では、生活習慣の見直しと薬物療法が中心です。禁煙や塩分・脂質の摂取制限、適度な運動を通じて血管への負担を減らします。 血液の流れを良くする抗血小板薬や、血圧・コレステロールを下げる薬も併用されることがあります。自覚症状が軽いからといって油断せず、医師の指導のもとで早めに予防策を始めることが大切です。 Ⅱ度|長距離が歩けない 項目 内容 症状の特徴 歩行中にふくらはぎや太ももに違和感・だるさが出る間欠性跛行 具体的な状態 一定の距離を歩いた後に違和感やしびれが出て、立ち止まって休むと軽減する状態 歩行距離の変化 歩ける距離が徐々に短くなり、途中で休憩が必要になる状態 その他の症状 足の冷感やしびれの頻度や強さが増し、足の脈が弱くなるか触れなくなる状態 診断の手がかり 違和感が出る歩行距離の短縮と間欠性跛行の出現 重症度の目安 歩行可能距離によって進行度を評価する段階 治療法 生活習慣の見直し、有酸素運動を取り入れた運動療法、血流改善を目的とした薬物療法、必要に応じたカテーテル治療 (文献11) Ⅱ度では、一定の距離を歩くとふくらはぎにだるさやしびれが出て、立ち止まると症状が和らぐ間欠跛行が現れます。この状態は、運動に伴う酸素不足が足の筋肉に起きているためで、足の動脈が狭くなっている証拠です。 Ⅱ度の症状では、日常生活に支障が出始め、買い物や散歩など、歩くことが負担に感じる場面が多くなります。血流障害はまだ一定の回復が見込める段階であり、適切な対処により改善が期待できる状態です。 以下の記事では、間欠跛行について詳しく解説しています。 Ⅱ度の治療法 項目 内容 治療の目的 違和感の軽減、歩行距離の延長、重症化の防止、生活の質の維持、心血管疾患のリスク低減 治療の基本方針 生活習慣の改善を土台とした多角的な治療アプローチ 生活習慣の改善 禁煙の徹底、減塩・低脂質・糖質管理の食事、継続可能な有酸素運動の実施 歩行療法の導入 違和感が出たら休み、治ったら再開する反復歩行による血流改善 薬物療法 抗血小板薬による血栓予防、血管拡張薬・血流改善薬による間欠性跛行の軽減 血管内治療(必要時) バルーンによる血管拡張、ステント留置による血流確保と再狭窄防止 重要なポイント 医師との連携による個別治療計画の作成と定期的な経過観察の実施 Ⅱ度では、運動療法と薬物療法を組み合わせて治療を行います。ウォーキングにより血流の新たな経路が作られ、足の血行が改善されます。 さらに、抗血小板薬や血管拡張薬を使用し、血液の流れをスムーズに保ちます。あわせて、食事内容の見直しや禁煙、血圧の管理を継続し、症状の悪化を防ぐことが期待されます。 Ⅲ度|安静時に違和感が現れる 項目 内容 症状の特徴 安静時でも足に違和感が出る(とくに夜間や就寝時に強くなる) 違和感が出る部位 足先・かかと・すねなどに、焼けるような・締めつけるような違和感がある 姿勢による変化 足を下げる(椅子に座る、ベッドから足を下ろす)と違和感が軽くなる 冷感・しびれ 足の冷たさやしびれが強くなり、常に感じるようになる 皮膚の変化 皮膚が白っぽく乾燥し光沢が出る、毛が抜ける、爪が厚くなる・変形する 傷の治りにくさ 小さな傷が治りにくく、悪化すると潰瘍や壊死の原因になる可能性がある 足の脈拍 足の動脈の脈が弱くなる、またはまったく触れなくなる 病気の段階 重症な状態(重症下肢虚血:CLI)であり、早急な治療が必要 治療の目的 違和感の軽減・血流の改善・足の切断を避けるための救肢治療 (文献11) Ⅲ度になると、歩いていなくても足先にしびれや冷感、ヒリヒリした違和感が続くようになります。Ⅲ度では血流が極度に悪化している状態であり、安静にしていても筋肉や皮膚に必要な酸素が届かなくなっているサインです。 Ⅲ度の状態は非常に重篤であり、安静にしていても足に強い違和感が現れる段階です。下肢の血流が著しく低下し、組織が酸素不足に陥っている状態といえます。 放置すれば皮膚潰瘍や壊死に進行し、足の切断に至る可能性もあります。そのため、医療機関の早急な受診が必要です。 Ⅲ度の治療法 項目 内容 治療の目標 足の違和感を和げて血流を改善し、足の切断を防ぎながら、生活の質を保ち、心筋梗塞や脳卒中も予防する 生活習慣の改善 血圧・血糖・コレステロールの管理。禁煙、バランスの取れた食事、体重管理の徹底 薬物療法 血液をさらさらにする薬や血管拡張薬の使用を行いつつ、必要に応じた鎮痛薬の併用 血行再建治療 カテーテル治療による血管の拡張や、バイパス手術による血流の確保 疼痛管理・QOL維持 足の位置調整、皮膚・爪のケア、鎮痛薬の活用による不快感の軽減と生活の質の向上 Ⅲ度では、薬や運動だけでの対応が難しくなることも多く、血管の再建が必要となる場合があります。カテーテルを用いた血管拡張術(バルーン療法やステント留置)や、バイパス手術が検討される状態です。同時に、皮膚の状態によっては創傷ケアや感染管理も併せて行います。 放置すれば症状が急激に悪化するため、速やかに必要な治療方針を決めることが重要な段階です。 Ⅳ度|皮膚に潰瘍ができたり足先が腐ったりする 分類 解説 皮膚潰瘍 足先やかかと、指先などに潰瘍ができる状態であり、血流障害により小さな傷も治りにくく、感染を起こしやすい 壊疽(腐敗) 足先や指先が黒色や紫色に変色し、組織が死滅していく状態であり、酸素と血液の供給が完全に途絶える 激しい安静時痛 安静にしていても激しい違和感が続き、鎮痛薬でも効果が乏しいことがある 感染症の合併 潰瘍や壊疽部位から細菌感染が広がり、蜂窩織炎や敗血症など全身性の重篤な感染症を引き起こす危険がある 冷感と感覚麻痺 足が極端に冷たくなり、感覚が鈍くなるか麻痺する状態。神経への血流も止まっている可能性が高い 脈拍の消失 足の動脈の脈拍が触れず、血流がほぼ完全に停止している状態 重要なポイント 足の切断を回避が困難な段階であり、命に関わる可能性もあるため、速やかな診断と緊急治療が必要 (文献11) 閉塞性動脈硬化症のⅣ度は末期の状態で、足に潰瘍や壊死が起こり、感染や足の切断の危険が非常に高まります。足の変色や治りにくい傷などが見られる場合は、すぐに医療機関を受診してください。 Ⅳ度の治療法 治療項目 内容 治療の目的 感染の制御、違和感の緩和、血流改善による救肢、QOLと生命予後の改善 血流の回復(カテーテル治療) 動脈を内側から広げて血流を回復する治療法 血流の回復(バイパス手術) 血流の新しい通り道を外科的に作る手術 感染の管理と創傷 抗生物質の投与、壊死組織の除去(デブリードマン)、創傷管理(陰圧療法など)、フットケア 切断(最終手段) 血流改善や感染制御が困難な場合に実施され、足趾や膝下など、可能な限り小範囲に留める 再生医療(一部施設) 幹細胞移植などで血管新生を促す治療 重要なポイント 救肢には早期対応と多職種による集学的治療が不可欠 Ⅳ度の治療では、壊死した組織を除去し、足をできる限り温存するために血行再建術(カテーテル治療やバイパス手術)が行われます。 血流の改善が困難な場合や感染が重度な場合には、足指や膝下の一部を切断する処置が必要になるケースもあります。切断は壊死や感染の拡大を防ぎ、命を守るための最終手段です。 近年では、再生医療を活用した新たな治療法も注目されています。自家幹細胞の移植によって血流の回復を図る方法で、重度のCLI(重症下肢虚血)患者に対し、標準治療が困難な場合に選択肢として検討されます。再生医療の実施には専門的な判断が必要なため、対応している医療機関で医師とよく相談した上で進めることが大切です。 以下の記事では、リペアセルクリニックの再生医療について詳しく解説しております。 閉塞性動脈硬化症のセルフチェックで早めの受診を心がけよう 閉塞性動脈硬化症は、足の冷感や違和感など軽い症状から始まり、放置すると歩行障害や壊死に進行する可能性があります。初期の段階で気づき、適切に対処すれば進行を防止できます。 セルフチェックで1つでも当てはまる項目がある方、または足の異変を感じている方は、早めに医療機関で血管の状態を確認しましょう。 当院リペアセルクリニックでは、再生医療を用いた閉塞性動脈硬化症の治療を行っております。症状にお悩みの方は、「メール相談」や「オンラインカウンセリング」を通じて、お気軽にご相談ください。 参考資料 (文献1) 一般社団法人日本動脈硬化学会「禁煙は動脈硬化予防の第一歩」一般社団法人日本動脈硬化学会 https://www.j-athero.org/jp/general/kinen/#:~:text=%E5%96%AB%E7%85%99%E3%81%A8%E5%8B%95%E8%84%88%E7%A1%AC%E5%8C%96%E6%80%A7,%E6%98%8E%E3%82%89%E3%81%8B%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(最終アクセス:2025年5月11日) (文献2) 「喫煙と動脈硬化の関係」『一般財団法人 京浜保健衛生協会』, pp.1-4 https://www.keihin.or.jp/wpkeihin/wp-content/uploads/2023/08/2023%E5%B9%B48%E6%9C%88%E4%BF%9D%E5%81%A5%E5%B8%AB%E4%BE%BF%E3%82%8A.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献3) 岡村 智教.「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」, pp.1-214, 2022年 https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/jas_gl2022_3_230210.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献4) 磯部 光章ほか.「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」『日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン』, pp.1-22, 2018年 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000202651.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献5) 「閉塞性動脈硬化症(ASO:Arterio-Sclerosis Obliterans)」, pp.1-15, https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/doumyakukoukashou.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献6) 尾崎 浩一.「閉塞性動脈硬化症感受性遺伝子の同定と機能解析 」, pp.1-3 https://www.astellas-foundation.or.jp/pdf/research/23/h23_10_ozaki.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献7) 高橋 一広.「エストロゲンと血管」『日本生殖内分泌学会雑誌』, pp.1-5, 2013年 https://jsre.umin.jp/13_18kan/7-review2.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献8) 赤松 眞ほか .「血液透析患者における閉塞性動脈硬化症の診断と治療」, pp.1-8, https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/18-3/18-3_9.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献9) 新城 孝道.「透析患者の下肢閉塞性動脈硬化症に対する薬物療法とフットケア」, pp.1-7, 2004年 https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/20-1/20-1_5.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献10) 植山さゆりほか.「下肢閉塞性動脈硬化症バイパス手術後の 二人暮らし高齢男性患者と配偶者の在宅での日常生活体験」『老年看護学』25(2), pp.1-9, 2021年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jagn/25/2/25_89/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月11日) (文献11) 東 信良.「2022 年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン」『日本循環器学会 / 日本血管外科学会合同ガイドライン』, pp.1-160, 2022年 https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Azuma.pdf(最終アクセス:2025年5月11日)
2025.05.30 -
- 内科疾患、その他
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「ふくらはぎが重だるく感じることが増えた」 「歩いていると途中で立ち止まることが多い」 足のだるさは、年齢や疲れのせいと考えがちですが、実は閉塞性動脈硬化症と呼ばれる血管の病気が原因かもしれません。症状が進行すると、日常生活に支障をきたすだけでなく、最悪の場合、足が壊死してしまう恐れがあります。 本記事では、閉塞性動脈硬化症の症状とともに以下について解説します。 閉塞性動脈硬化症の初期症状 閉塞性動脈硬化症の原因 閉塞性動脈硬化症の診療科 閉塞性動脈硬化症の治療法 閉塞性動脈硬化症は、早期発見と適切な治療により改善が期待できます。本記事では詳しく解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。 閉塞性動脈硬化症とは 閉塞性動脈硬化症とは足の血管に動脈硬化が起こり、血液の流れが悪くなる病気です。足の動脈が徐々に細くなり、十分な血液が届かなくなることでさまざまな症状を引き起こします。 主な原因としては、高血圧や糖尿病、脂質異常症、喫煙などの生活習慣が引き金となり、血管が硬く、狭くなることで進行します。閉塞性動脈硬化症は進行すると血液の流れは悪化し、皮膚の色が変化したりただれたりするのが特徴です。重症化すると足の組織が壊死し、切断の可能性も危惧されます。 原因や症状 概要 足の血管の詰まり 足の動脈が狭くなったり詰まったりする 血流が悪くなる 足への血液の流れが悪くなる 動脈硬化が原因 血管に脂肪が溜まり、それが原因で血管が硬くなって発症 生活習慣が影響 高血圧、糖尿病、喫煙などが影響する 初期症状として歩くと違和感を感じる 運動時に足に違和感が走る(間欠性跛行) 症状が悪化する 違和感がひどくなり、安静時でも症状が出るようになる 傷が治りにくくなる 小さな傷も治りにくくなる 皮膚の色が変わる 足の皮膚が青紫色になる(チアノーゼ) 皮膚がただれる 潰瘍(かいよう)ができる 壊死が起こる 足の組織が腐ってしまう 切断のリスク 足を切断しなければならないこともある (文献1) 足の血流障害は全身の動脈硬化のサインでもあり、少しでも足に違和感が出た場合は、手遅れになる前に医療機関を受診しましょう。 閉塞性動脈硬化症の初期症状 症状の種類 概要 歩くと足に違和感を覚える(間欠性跛行) 歩行中にふくらはぎが張る・疲れる・力が入らないが、休むと楽になる 足の冷え・しびれが続く 血流が悪くなることで、足が冷たく感じたり、しびれが続いたりする 足の傷が治りにくい・色が悪い(蒼白やチアノーゼ) 皮膚の血流が悪く、小さな傷が治らず、色が青白く変化するケースがある 足の脈拍の低下・消失 足先の血流が極端に悪くなり、脈が触れなくなることがある 閉塞性動脈硬化症の初期症状の多くは、年齢や疲れのせいと見過ごされてしまいがちです。しかし、歩いていると違和感や足の冷えやしびれが続く場合は閉塞性動脈硬化症の疑いがあります。 閉塞性動脈硬化症の初期症状が現れた場合は、早めの受診が必要です。 以下の記事では、自分でできる閉塞性動脈硬化症のセルフチェック方法について詳しく解説しています。 歩くと足に違和感を覚える(間欠性跛行) 状態 症状の内容 原因のしくみ 歩き始め ふくらはぎや太ももに違和感・しびれ・張り感 運動時に筋肉が酸素不足になり、違和感が出る 少し休むと改善 数分の休憩で症状が和らぐ・消える 筋肉の酸素需要が減り、一時的に血流が追いつく 再び歩くと再発 同じ場所・感覚でまた症状が現れる 血流が根本的に不足しているため繰り返される 進行すると悪化 歩ける距離が短くなり、日常生活に支障 血管の狭窄が進み、血流不足がさらに深刻になる (文献2) 閉塞性動脈硬化症の初期には、歩くと足に違和感やしびれ、重だるさなどが現れます。ふくらはぎや太もも、お尻に症状が出やすく、休むと治まるため、放置されがちです。しかし、症状を放置すると徐々に進行し、足の血管が狭くなり、運動に必要な酸素や栄養が筋肉に届きにくくなります。 血流不足が深刻化する前に、医療機関の受診が大切です。 以下の記事では、間欠跛行の症状について詳しく解説しています。 足の冷え・しびれが続く 症状の特徴 概要 慢性的な冷え 温めても改善せず、常に足が冷たいと感じる しびれの頻度が増加 ピリピリ・ジンジンとしたしびれが続くようになる 安静時にも感じる 座っている時や寝ている時にも症状を感じる 夜間に悪化しやすい 夜になると冷えやしびれが強くなることがある 左右差があることも 片足だけ、または左右で症状の程度が異なる場合がある 他の症状を伴う可能性 足の皮膚の色が悪くなったり、むくみが出ることがある (文献3)(文献4) 気温とは関係なく、片方の足だけ冷たく感じたり、しびれが続く場合、血流障害を引き起こしている可能性があります。閉塞性動脈硬化症では、血流が悪くなって足先に酸素や栄養が届きにくくなり、その影響で神経に異常が起き、しびれや冷えが生じます。 足の冷え・しびれは年齢からくるものだと思われがちですが、足の左右で温度に差や頻度が多い場合は、閉塞性動脈硬化症を疑うべきサインです。重症化すると足が壊死する可能性があるため、早めの医療機関への受診が大切です。 足の傷が治りにくい・色が悪い(蒼白やチアノーゼ) 症状の特徴 説明 小さなキズの治癒遅延 切り傷や擦り傷が通常より治りにくい 感染しやすい 傷口から細菌が入りやすく感染しやすい 皮膚の色が悪い(蒼白) 足を高く上げた時などに皮膚が白っぽく見える 皮膚の色が悪い(チアノーゼ) 皮膚が紫色や暗赤色になることがある 皮膚が薄く、つやがある 皮膚が栄養不足で薄く光沢を帯びる 毛が抜けやすい 足の毛が抜けやすくなる 爪の変形・変色 爪が厚くなる、変形・変色する (文献3) 閉塞性動脈硬化症が進行すると、血流が著しく低下し、足の皮膚や組織への酸素供給が不足します。酸素供給が不足するとちょっとした傷でも治りにくくなり、皮膚の色も悪く見えるようになります。足先が白くなったり、紫がかって見える状態はチアノーゼと呼ばれ、重度の血流不足状態です。 また、皮膚の乾燥や光沢、爪の変形も血流低下のサインであり、進行すると皮膚潰瘍や壊死に至る危険性もあります。チアノーゼは皮膚の色の変化として現れるため、足のしびれや歩行時の違和感よりも気づきやすいのが特徴です。皮膚が紫色や暗赤色に変色している場合は、早急に医療機関を受診してください。 足の脈拍の低下・消失 症状の特徴 説明 脈拍の触れにくさ 足の甲や足首で脈が弱くなったり、触れなくなったりする 左右差がある 片足だけ脈が弱い、または触れない場合がある 冷えやしびれを伴う 脈の変化と一緒に冷えやしびれを感じることが多い 皮膚の色や温度の変化 皮膚が青白くなり、足が冷たく感じることがある 運動後の変化 運動後に脈がさらに触れにくくなる場合がある 自己チェックの限界 自分で確認できても正確な判断は難しく、医師の検査が重要 (文献3) 足の甲や足首の脈が触れにくくなる、あるいはまったく触れなくなるのも、閉塞性動脈硬化症のサインです。足の動脈の詰まりが進行すると、足首や足の甲で触れる脈拍が弱くなったり、ほとんど感じられなくなったりするケースがあります。 足の脈拍の変化は自分ではわかりにくいため、医師の診察や超音波検査が必要です。とくに左右の脈に差がある場合や片足だけ脈が感じにくい場合は、動脈の詰まりが疑われます。早めに対応すれば血流を改善でき、重篤な合併症を防止できる可能性があります。 閉塞性動脈硬化症の原因 原因 なぜ関係するのか 防止策 具体的な説明 加齢 年齢とともに血管が硬くなり、動脈硬化が進行しやすくなる 血管をいたわる生活を心がける 食事の塩分や脂質を控え、適度な運動や定期的な健康診断を習慣にする 糖尿病 高血糖が血管の内側を傷つけ、血管が詰まりやすくなる 血糖値のコントロールが重要 食事療法・運動療法・内服治療などで血糖を安定させ、合併症の予防につなげる 脂質異常症 LDLコレステロールが血管にたまり、プラークとなって血流を妨げる 脂質管理と生活習慣の改善 動物性脂肪を控えた食事と、必要に応じたコレステロール低下薬の服用 喫煙 タバコに含まれる成分が血管を傷つけ、血流を悪くする 禁煙が最大の予防 禁煙外来の活用や代替品(ニコチンパッチなど)を利用して、段階的に習慣を断ち切る 閉塞性動脈硬化症は、動脈の内側にコレステロールなどの脂質がたまり、血管が狭くなる動脈硬化が原因で起こります。動脈硬化が引き起こされる原因は以下の4つです。 加齢 糖尿病 脂質異常症(高コレステロール血症など) 喫煙 以下では、閉塞性動脈硬化症の原因を詳しく解説します。 加齢 加齢に伴う変化 対策・予防方法 血管内皮細胞の機能低下 抗酸化作用のある食品をとる(野菜・果物)、定期的な検査を受ける 血管壁の弾力性の低下 ウォーキングなどの有酸素運動で血管の柔軟性を維持 酸化ストレスの増加 禁煙やバランスの良い食事で活性酸素を抑える 炎症反応の亢進 規則正しい生活・ストレス管理やEPAやDHAを含む食品 生活習慣病のリスク増加 高血圧・糖尿病・脂質異常症をきちんと治療・管理する (文献3)(文献5) 年を重ねると血管の弾力性が失われ、動脈硬化が進みやすくなります。その結果、閉塞性動脈硬化症を発症し、軽い動作でも足に違和感が出ることがあります。 年齢とともに血管は弱くなりますが、運動や食生活を見直すことで健康を保てます。足の冷えやしびれが気になる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。 糖尿病 影響の種類 概要 血管を傷つけやすい 高血糖が続くと血管の内壁が傷つきやすくなる 動脈硬化を促進 脂肪が血管壁にたまりやすく、動脈硬化が進行しやすい 末梢血管が障害されやすい 足先など細い血管が多い部分で血流障害が起こりやすい 神経障害を合併しやすい 足の感覚が鈍くなり、違和感に気づきにくくなる 小さな傷に気づきにくく、治りにくい 小さな傷に気づかず、治りにくくなることで悪化しやすい 感染症のリスクが高い 免疫力が低下し、傷口からの感染症リスクが高まる 血管の石灰化が起こりやすい 血管にカルシウムがたまり、血管が硬くなりやすい 他の危険因子を合併しやすい 高血圧や脂質異常症を併発しやすく、動脈硬化が進みやすい (文献6)(文献7) 血糖値が高い状態が続くと、血管の内側が傷つき、脂質や血小板がたまりやすくなります。脂質や血小板がたまると血管が詰まりやすくなります。糖尿病では神経障害も起こりやすく、足のしびれや違和感に気づきにくいため、とくに注意が必要です。 血管と神経の障害が重なると、傷の治りが遅くなり、感染が悪化しやすくなります。その結果、閉塞性動脈硬化症のリスクが高まります。糖尿病の方は、足の違和感や傷に気を配り、異常があれば早急に医療機関を受診しましょう。 脂質異常症(高コレステロール血症など) 影響の種類 概要 血管壁への脂質沈着 悪玉コレステロールが血管の内壁にたまりやすくなる プラーク形成の促進 たまった脂質がプラークを作り、血管を狭める 初期症状の発現を早める可能性 動脈硬化が早く進み、若いうちから症状が出ることがある 症状の悪化を加速 血流がさらに悪化し、違和感や歩行障害が進行する 他の危険因子との相乗効果 高血圧や糖尿病などと合併しやすく、リスクがさらに高まる 血管内皮機能の障害 血管の柔軟性が低下し、血栓ができやすくなる (文献8)(文献9) 血液中のコレステロールや中性脂肪が多いと、動脈の内壁に脂質が沈着し、プラークと呼ばれる塊ができやすくなります。プラークは血管を狭め、血流を妨げる原因です。 とくにLDL(悪玉)コレステロールが高い状態が続くと、動脈硬化が進行しやすくなり、閉塞性動脈硬化症を引き起こしやすくなります。脂質異常症は自覚症状がほとんどないため、健康診断で指摘された場合は放置せず、食生活の見直しや適切な治療を行うことが大切です。 喫煙 喫煙が与える影響 概要 血管の内側が傷つく タバコの有害物質が血管内皮細胞を傷つけ、血管機能が低下 動脈硬化が進みやすくなる コレステロールなどが沈着しやすくなり、血管が狭くなる 血管が収縮して血流が悪くなる ニコチンの作用で血管が細くなり、足の血流が悪化する 血液がドロドロになる 喫煙により血液の粘り気が増し、流れにくくなる 血栓ができやすくなる 血のかたまり(血栓)ができやすくなり、血管を詰まらせる 症状が早く現れる可能性が高くなる 非喫煙者より若い年齢で冷えやしびれなどの症状が出やすい 症状が急速に悪化しやすくなる 歩ける距離が短くなる、安静時にも違和感が出てくるなど悪化が早い 治療の効果が出にくくなる 薬や治療の効果が弱まり、改善しにくくなる (文献10) タバコに含まれる有害物質は血管の内側を傷つけ、炎症や動脈硬化を進行させます。とくにニコチンは血管を収縮させ、足の血流を悪化させる原因です。 そのため、喫煙者は非喫煙者より閉塞性動脈硬化症の発症リスクが約3〜5倍高く、若年で発症する傾向もあります。動脈硬化の予防や治療には禁煙が不可欠です。(文献11) 閉塞性動脈硬化症は何科を受診するべき? 診療科名 役割・特徴 受診の目安 循環器内科 血流や動脈硬化の評価・管理が可能。動脈の状態を総合的に診断 足の冷え・しびれ・歩行時の違和感などがある場合に最優先で受診 血管外科 動脈の狭窄・閉塞に対する検査・手術(カテーテル治療など)に対応 検査や手術が必要な場合、循環器内科から紹介されることも多い 内科(かかりつけ医) 必要に応じて専門科へ紹介してもらえる 専門科がない場合にまず相談。早期の受診・紹介が重要 整形外科(注意) 神経や筋肉の疾患が専門。血流の問題を見落とす可能性あり しびれや違和感で来院しても、血流障害が見逃されることがある 皮膚科(注意) 皮膚の異常は診られるが、血流の異常に気づかれにくいことがある 足の傷で受診しても、原因が血流障害と判断されにくい 閉塞性動脈硬化症が疑われる場合は、まず循環器内科または血管外科の受診が推奨されます。循環器内科または血管外科では、血管の状態を詳しく調べる検査や適切な治療方針の判断ができます。 とくに足が冷たい、足の色が悪いといった症状がある場合は、末梢動脈疾患の可能性があるため、早期受診が大切です。 どこを受診すべきか迷う場合は、内科やかかりつけ医に相談しましょう。初期診察で必要性があれば、専門科への紹介を受けられます。症状を放置すると潰瘍や壊死など重症化する恐れがあるため、異変を感じたら早めに医療機関を受診しましょう。 「どの診療科に行けば良いのかわからない」とお悩みの方は、お気軽にリペアセルクリニックへご相談ください。当院では、どんな小さなお悩みにも丁寧に耳を傾け、患者様一人ひとりに寄り添った治療のご提案をいたします。「メール相談」や「オンラインカウンセリング」もご利用いただけますので、ご不安なことがあればいつでもご相談ください。 閉塞性動脈硬化症の治療法 治療法 内容 適しているケース 注意点・ポイント 保存療法 ウォーキングや生活習慣の見直し 初期の症状がある方 運動を継続が大切。禁煙や減塩も効果的 薬物療法 抗血小板薬や高血圧・糖尿病の治療薬 軽度から中等度の症状がある方 医師の指示に従って服薬を継続が重要 手術療法 カテーテル治療やバイパス手術 血管の詰まりが進行し、日常生活に支障がある方 術式は症状によって異なるため、専門医とよく相談する 再生医療 幹細胞などを用いて血管の再生を促す治療 他の治療が難しく、重症の状態にある方 保険が適用されない場合があり、限られた施設で実施されている 閉塞性動脈硬化症の治療は、症状の進行度や原因となる病気の有無によって異なります。 保存療法 薬物療法 手術療法 再生医療 閉塞性動脈硬化症の治療法は医師の診断と指導のもと行われます。治療法について解説します。 保存療法 取り組み内容 概要 禁煙 最も重要な改善点。喫煙は血管を傷つけ動脈硬化を進行させるため、禁煙が必須 食事の見直し 塩分や脂質を控えた食事で動脈硬化の進行を抑える 適度な運動 ウォーキングなどの軽めの有酸素運動が血流改善に効果的 体重・血圧・血糖・脂質の管理 生活習慣病の管理を通じて、血管への負担を減らし、病気の進行を防ぐ (文献12) 保存療法とは、薬や手術を用いず、生活習慣の改善などで進行を抑える治療法です。代表的なのが運動療法であり、ウォーキングなどの有酸素運動を定期的に行い、血流の改善を促します。また、運動だけでなく、生活習慣の見直しも大切です。 禁煙や高カロリーな食事を控えるなど、動脈硬化の進行を抑える上で基本となります。保存療法は、医師の指導のもとで行うことが大切です。運動や食事制限は無理のない範囲で続け、少しでも違和感があれば、すぐに医師に相談しましょう。 以下の記事では、下肢閉塞性動脈硬化症でやってはいけないマッサージ方法について詳しく解説しています。 薬物療法 治癒カテゴリー 薬剤例 効果の概要 抗血小板薬 アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾール 血小板の凝集を抑え血栓を防ぎ、心筋梗塞や脳梗塞の予防にも有効 血管拡張薬 シロスタゾール、プロスタグランジン製剤 血管を広げて血流を改善し、歩行距離の延長や冷え・しびれに有効 プロスタグランジン製剤 プロスタグランジンE1製剤(注射・点滴) 末梢血流を改善し、潰瘍や壊死などの重症症状を緩和・治癒促進 脂質異常症治療薬 スタチン(ロスバスタチン、アトルバスタチンなど) LDLコレステロールを下げて動脈硬化を予防。心血管リスクの低減にもつながる 高血圧治療薬 ACE阻害薬、ARB、カルシウム拮抗薬、β遮断薬 血圧を下げて血管の負担を軽減し、動脈硬化の進行を抑える 糖尿病治療薬 SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬 血糖管理に加え血管保護作用もあり、心血管リスクの抑制に貢献 (文献13)(文献14) 閉塞性動脈硬化症の薬物療法は、病気の進行を抑え、症状を和らげるために行います。抗血小板薬は血栓を防ぎ、血流を保つのに役立ちます。 高血圧や糖尿病、脂質異常症がある場合は、それぞれの治療薬も併用します。薬は根本的な治療ではなく、進行を止めることが目的です。薬剤は医師の指示のもと、継続しての服用が大切です。 手術療法 治療法 手術方法 効果・特徴 適応病変 バイパス手術(外科的血行再建術) 閉塞部位の上下をつなぎ、静脈や人工血管で血流のバイパスを作る 長い範囲の血管閉塞に効果があり、歩行距離の改善や潰瘍の治癒、さらには足の切断を回避できる可能性がある 長い範囲の閉塞や血管内治療が難しい場合に向いている 血管内治療(カテーテル治療) カテーテルで血管を内側から広げ、必要に応じてステントを入れる 早期に血流改善が期待でき、違和感や冷えの症状が軽減しやすい 比較的短い範囲の狭窄・閉塞に対して有効 閉塞性動脈硬化症が進行し、薬や運動では十分な改善が見込めない場合、手術療法が検討されます。とくに足の血管が高度に狭くなったり詰まったりしている場合、血液の流れを回復させるには物理的な処置が必要です。 代表的なのがカテーテル治療で、狭くなった血管内に細い管を入れ、バルーンで広げ、金属製のステントを留置する方法です。より重度の場合には、詰まった血管を迂回するバイパス手術を行います。 手術療法は誰にでも適応できるわけではなく、血管や全身の状態を見て慎重に判断する必要があります。また、カテーテル治療後の再狭窄やバイパス手術後の感染などのリスクもあるため、医師とよく相談し、メリットとリスクを理解した上で治療を選ぶことが大切です。 再生医療 再生医療は、薬や手術で改善が難しい場合に検討されます。再生医療は患者自身の細胞を使用し、新たな血管の形成を促す治療です。 再生医療は比較的新しい治療アプローチであり、一部では保険適用外となりますが、重症例における有効性が報告されており現在も研究が進められています。名古屋大学大学院の報告によると、血管内治療やバイパス手術が難しい末期の患者でも、再生医療によって血流が改善し、足の切断を回避できたケースが確認されています。(文献13) また、京都府立医科大学附属病院の資料によると、バージャー病に対する再生医療では、足の切断を1年後・3年後ともに95.5%の確率で回避できたことが示されています。(文献15) 再生医療は限られた医療機関での実施となるため、事前に取り扱いのある医療機関への受診が必要です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 閉塞性動脈硬化症の初期症状が現れたらすぐに医療機関を受診しよう 閉塞性動脈硬化症の初期症状は見過ごされやすいですが、放置すると壊死を起こし、最悪の場合は足の切断に至ることもあります。 違和感を覚えた場合は、速やかに医療機関を受診してください。また、動脈硬化は全身に起こるため、足の症状だけでなく心臓病や脳卒中といった重篤な病気につながる可能性もあります。 当院リペアセルクリニックでは、症状や受診科の悩みに丁寧に対応し、必要に応じて幹細胞を使った再生医療で治療をサポートしています。 閉塞性動脈硬化症が改善せずお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 参考資料 (文献1) 玉木 正人ほか.「下肢閉塞性動脈硬化症に対する治療法の評価とQOL」, pp.1-8, 1995年 https://www.jsvs.org/jsvs/pdf/19950401/jsvs_1995_0401_0083.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献2) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「末梢閉塞性動脈疾患」MSD マニュアル 家庭版,2023年7月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/06-%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E5%8B%95%E8%84%88%E7%96%BE%E6%82%A3/%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E9%96%89%E5%A1%9E%E6%80%A7%E5%8B%95%E8%84%88%E7%96%BE%E6%82%A3(最終アクセス:2025年5月10日) (文献3) 宮田 哲郎,「末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン(2015 年改訂版)」『2014年度合同研究班報告』, pp.1-95, 2015年 https://plaza.umin.ac.jp/~jscvs/wordpress/wp-content/uploads/2020/06/JCS2015_miyata_h.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献4) 「臨床研究の概要をできる限り平易な用語を用いて記載した要旨」pp.1-3 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/07/dl/s0723-17c_0022.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献5) 「動脈硬化は怖い病気のはじまり」『一般社団法人 日本動脈硬化学会』, pp.1-4 https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/general/pdf/doumyaku_p2023.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献6) 一般社団法人日本糖尿病学会「糖尿病合併症について」一般社団法人日本糖尿病学会,2021年9月2日 https://www.jds.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=3(最終アクセス:2025年5月10日) (文献7) 厚生労働省「糖尿病」 https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b7.html(最終アクセス:2025年5月10日) (文献8) 寺本 民生.「動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療のエッセンス」, pp.1-12, 2014年 https://www.med.or.jp/dl-med/jma/region/dyslipi/ess_dyslipi2014.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献9) 「脂質異常症」国立循環器病研究センター https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/dyslipidemia/(最終アクセス:2025年5月10日) (文献10) 一般社団法人日本動脈硬化学会「禁煙は動脈硬化予防の第一歩」一般社団法人日本動脈硬化学会 https://www.j-athero.org/jp/general/kinen/#:~:text=%E5%8B%95%E8%84%88%E7%A1%AC%E5%8C%96%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E5%96%AB%E7%85%99%E3%81%A8%E3%81%AE%E9%96%A2%E4%BF%82&text=%E5%96%AB%E7%85%99%E8%80%85%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%80%81%E9%9D%9E%E5%96%AB%E7%85%99,%E6%98%8E%E3%82%89%E3%81%8B%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(最終アクセス:2025年5月10日) (文献11) Xu Y, et al. (2024). Smoking as a risk factor for lower extremity peripheral artery disease in women compared to men: A systematic review and meta-analysis. PLoS One, 19(4), pp.e0300963. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0300963(最終アクセス:2025年6月6日) (文献12) 林 富貴雄,伊東 春樹.「下肢閉塞性動脈硬化症のリハビリテーション」『『血管病と運動』シリーズ ASO編』, pp.1-8, 2018年 https://www.npo-jhc.org/image/pdf/aso.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献13) 「皮下脂肪由来幹細胞で血管病を治療 -皮下脂肪由来幹細胞を利用した再生医療が下肢切断を救う!-」『皮下脂肪由来間葉系幹細胞を用いた重症虚血肢に対する血管新生療法〜他施設共同研究〜』, pp.1-5, https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/Ang_220714.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献14) 横井 宏佳.「閉塞性動脈硬化症(PAD)の薬物療法 〜循環器内科医の立場から〜」日本フットケア学会雑誌, pp.1-4, 2017年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/footcare/15/3/15_16/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月10日) (文献15) 真田ほか.「先進医療B 総括報告書に関する評価表(告示旧24)」『第154回先進医療技術審査部会』, pp.1-15, 2023年 https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001163753.pdf(最終アクセス:2025年5月10日)
2025.05.30 -
- その他、整形外科疾患
「足の違和感で長く歩けない」 「ふくらはぎが張って立ち止まりたくなる」 その症状を年齢のせいにして、放置していませんか?違和感はあるけれど、休むと和らぐその症状は間欠跛行(かんけつはこう)かもしれません。動き出すと辛くなり、休むと楽になる繰り返しに、不安を覚える方も少なくありません。本記事では、間欠跛行の症状とともに、以下の内容について解説します。 間欠跛行の原因 間欠跛行の治療法 間欠跛行のリハビリ方法 記事の最後には、間欠跛行の症状に関してよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 間欠跛行とは 影響の種類 具体的な内容 外出の制限 違和感が出る距離が短くなり、買い物や散歩などの外出が億劫になる 活動量の低下 違和感を恐れて活動量が減り、筋力や体力が低下する可能性がある 精神的な負担 症状の再発への不安が常にあり、ストレスを感じやすくなる 生活の質の低下 趣味や社会活動が難しくなり、生活の満足度が低下する 間欠跛行(かんけつはこう)とは、一定の距離を歩くと足やふくらはぎにだるさやしびれを感じて歩けなくなり、しばらく休むと再び歩けるようになる症状です。発症の主な原因は神経の圧迫や血流障害で、加齢や生活習慣病と深く関係しています。歩行時の違和感は日によって変動し、一時的な不調と見過ごされやすい点も特徴です。 最初は軽い違和感でも、放置すれば歩行困難や日常生活への支障に発展するため、自己判断はせず、早期の段階で医療機関を受診するのが大切です。 間欠跛行の原因 特徴 神経性間欠跛行(脊柱管狭窄症など) 血管性間欠跛行(閉塞性動脈硬化症など) 原因 加齢による背骨の変形、椎間板の変性などによる腰部神経の圧迫 動脈硬化による足の血管の狭窄や閉塞による血流不足 発症のきっかけ 長時間の歩行、腰を反らす姿勢 歩行 症状の特徴 しびれ、脱力感、違和感 違和感、つっぱり感、冷感、皮膚の色が変化する 違和感が出る箇所 腰、お尻、太もも、ふくらはぎ、足 臀部から足(下肢全体) 悪化させる要因 加齢、不良姿勢、重労働など 高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、加齢など 日常生活の注意点 同じ姿勢を続けない、腰に負担のかかる動作を避ける、適切な運動 禁煙、食事療法、適度な運動、足を冷やさない 間欠跛行の原因は主に脊柱管狭窄症による間欠跛行(神経性)と閉塞性動脈硬化症による間欠跛行(血管性)の二つです。症状別に原因を解説します。 脊柱管狭窄症による間欠跛行(神経性) 項目 内容 原因 背骨の中を通る神経の通り道(脊柱管)が狭くなり、神経が圧迫される 起こりやすい病気 脊柱管狭窄症(とくに腰の部分で起こる) 主な症状 歩くと足がしびれる・力が入らない・つっぱるような感覚がある 症状の悪化 歩いたり立ったりすると悪化しやすい 楽になる姿勢 前かがみになる・座るなどで神経の圧迫がゆるみ、症状が軽くなる 特徴的な行動 自転車には乗れるが、歩くのがつらい 症状の現れ方 両足にしびれや脱力感が出ることが多い 注意点 血管の病気との見分けが難しいため、自己判断せず医療機関を受診する (文献1) 神経性の間欠跛行は、主に脊柱管狭窄症が原因で起こります。加齢などにより背骨の中を通る神経の通り道(脊柱管)が狭くなり、神経が圧迫されることで足にしびれや脱力感が生じ、歩くことが難しくなります。身体を前屈みにすると症状が軽くなり、歩いたり直立すると症状が悪化しやすいのが特徴です。 神経性の間欠跛行は、しびれや脱力感が強く出るのが特徴です。血管性とは異なりますが、症状が似ているため、しばしば混同されます。症状が似ているため、自己判断は避け、整形外科や脳神経外科での画像検査(MRIなど)を受けるようにしましょう。 以下の記事では、脊柱管狭窄症について詳しく解説しています。 閉塞性動脈硬化症による間欠跛行(血管性) 項目 内容 原因 動脈硬化で足の血管が細くなり、血液が十分に流れなくなる 起こりやすい病気 閉塞性動脈硬化症(ASO) 主な症状 歩行時のふくらはぎの重だるさ、締めつけられるような違和感 症状の悪化 歩行を続けると悪化する 楽になる姿勢 姿勢に関係なく、立ち止まると速やかに回復 特徴的な行動 自転車でも歩行時と同様に症状が出ることがある 症状の現れ方 片足に出ることが多い 注意点 放置すると潰瘍・壊死の恐れあり。進行する前に受診が必要 (文献2) 血管性間欠跛行は、閉塞性動脈硬化症(ASO)と呼ばれる血管の病気が原因で起こります。足の動脈が動脈硬化により狭くなったり詰まったりすると、歩行中に筋肉へ十分な血液が届かなくなります。血液が流れにくくなることで、ふくらはぎなどに違和感が現れるのが特徴です。 閉塞性動脈硬化症による血管性間欠跛行では、一定の距離を歩くと症状が現れますが、立ち止まって休息を取ることで、血流が回復し、再び歩けるようになります。しかし、症状が進行すると歩ける距離がどんどん短くなり、重症化すると、安静にしていても足が辛くなり、冷感や皮膚の色の変化、潰瘍などの深刻な合併症を引き起こすリスクがあります。 閉塞性動脈硬化症による間欠跛行は、早期治療に加えて、生活習慣の改善や禁煙が重要です。必要に応じて、薬物療法や血管手術での改善も行われます。 以下の記事では、閉塞性動脈硬化症について詳しく解説しています。 間欠跛行が治る可能性について 間欠跛行は、原因に合った治療を受けることで大きく改善し、普段の生活にほとんど支障がない状態まで回復も視野に入ります。運動療法や生活習慣の改善により歩ける距離が伸びれば、生活の質は大きく向上するでしょう。ただし、動脈硬化そのものを完全に元の状態に戻すのは難しく、完治よりも症状管理が治療の中心となります。 治療の目標は症状の完治ではなく、あくまで「改善」であることが大前提です。また、改善に加えて、心筋梗塞や脳梗塞などの合併症を防ぐことも目的です。間欠跛行が改善する可能性を少しでも上げるには、早期の受診と継続的なケアが求められます。 間欠跛行の治療法 治療法 内容 対象となるケース ポイント 保存療法 運動療法(ウォーキングなど)や薬の服用、生活習慣の改善 初期〜中等度の症状 症状を和らげ、症状の進行を防ぐ 手術療法 血管を広げるカテーテル治療や詰まった部分のバイパス手術など 保存療法で効果が不十分な場合や重症例 血流を改善し、歩ける距離を大きく伸ばせる 再生医療 自分の細胞や成分を使って血管の修復や再生をうながす先進的な治療法 他の治療が難しい場合や効果が乏しいケース 一部の施設で実施、効果や適応は限定的 間欠跛行の治療法は以下の3つです。 保存療法 手術療法 再生医療 治療法ごとに適したケースや効果の範囲が異なるため、医師の指示に従う必要があります。間欠跛行の治療法について解説します。 保存療法 治療法 内容 期待される効果・ポイント 運動療法 計画的な歩行訓練、下肢筋力トレーニング、ストレッチなど 側副血行路の発達、酸素利用効率向上、歩行距離の延長 薬物療法 抗血小板薬、血管拡張薬、鎮痛薬など(医師の判断で処方) 血流改善、血栓予防、症状の緩和 生活習慣の改善 禁煙、食事改善、体重・血糖・血圧管理、ストレス・冷え対策 動脈硬化の進行抑制、生活習慣病の改善、薬の効果を引き出す 間欠跛行に対する保存療法は、手術をせずに症状の改善と病気の進行を抑える方法です。運動療法では歩行訓練によって血流を改善し、歩行可能な距離を少しずつ延ばしていきます。薬物療法では、血液をサラサラにしたり血管を広げる薬で症状の軽減を目指します。また、生活習慣を根本から改善するのも動脈硬化を防ぐ上で大切です。 保存療法はすぐに効果が出るものではありませんが、長期的な歩行能力の回復と維持に重要な治療法です。 手術療法 項目 バイパス手術(血管バイパス術) 血栓除去術(血行再建術) 目的 狭くなった血管を迂回して、新たな血液の通り道を作る 詰まった血管から血栓(血のかたまり)を取り除いて血流を再開させる 対象となる状態 慢性的な血流障害(閉塞性動脈硬化症など) 急に血流が止まった場合(急性動脈閉塞など) 使用される血管 自分の静脈(自家血管)または人工血管 既存の血管を利用し、血栓を除去 麻酔・方法 全身または局所麻酔で行い、血管を縫い合わせる 同様に麻酔下で血管を開き、器具で血栓を取り出す 効果 血流の大幅な改善、歩行症状の軽減や重症化の予防 早期の血流回復で壊死や切断リスクを低下、症状の改善が見込める 注意点 感染、出血、再閉塞などの合併症リスクあり 同様に合併症や再閉塞のリスクがあり、術後管理が大切 間欠跛行の症状が進行しており、保存療法で改善が難しい場合は、手術療法が検討されます。代表的なのがバイパス手術で、狭くなった血管を迂回するように新しい通り道を作り、足への血流の改善を目指します。 血栓除去術では、急に詰まった血管を開き、血栓を取り除き、血液の流れを回復させる治療法です。 どちらの治療法も血流を改善し、歩行時の違和感や足の壊死リスクを軽減する効果が期待できます。ただし、保存療法に比べて体への負担が大きく、感染や出血、バイパス血管の詰まりといった合併症のリスクがあり、入院期間も長くなる傾向があります。 手術を検討する際は、医師とよく相談した上で決めることが大切です。 再生医療 原因のタイプ 再生医療のアプローチ 期待される効果 神経性(脊柱管狭窄症) 幹細胞などを用いて、傷ついた神経の修復や炎症の抑制 神経の伝達が改善し、しびれや違和感が軽くなる 血管性(動脈硬化) 新しい毛細血管をつくる(血管新生)よう促す治療を行う 足への血流が改善し、歩くときの違和感が緩和される可能性がある 間欠跛行は、神経の圧迫や血管の詰まりが原因で起こる症状です。再生医療では、身体が本来持つ修復力を利用して神経や血管の機能回復を目指す治療法であり、しびれや違和感の軽減、血流の改善が期待されます。 手術療法と比べ、長期の入院や感染症のリスクが少ないのがメリットです。ただし、再生医療は限られた医療機関でしか行われていないため、対応している施設での受診が必要です。 間欠跛行のリハビリ方法 種類 内容・目的 期待される効果 注意点 ふくらはぎストレッチ かかとを床につけたまま壁に向かって体を倒す 血流改善、筋肉の柔軟性向上 違和感が出る場合は中止 太もも裏のストレッチ 座って片脚を伸ばし、足先に向かって上半身を倒す ハムストリングの柔軟性向上 背中を丸めすぎないよう注意 お尻のストレッチ 仰向けで片膝を胸に引き寄せる 股関節周囲の柔軟性を保ち、神経の圧迫を軽減 無理に力を入れず、深呼吸をしながら行う 股関節前のストレッチ 片膝立ちの姿勢で体を前方に押し出す 血流と可動域の改善 バランスを崩さないよう、壁や椅子で支える 間欠跛行のリハビリでは、ストレッチを中心とした運動療法が症状の改善に非常に効果的です。ふくらはぎや太ももの裏、股関節まわりの柔軟性を高めることで、血流が促進され、症状の改善が期待できます。 実際に、腰部脊柱管狭窄症による間欠跛行の70代男性が、週1回の理学療法とセルフストレッチを続けた結果、歩行距離が500m未満から3km以上にまで改善した例があります。(文献3) 改善例からもわかる通り、ストレッチは毎日少しずつ無理のない範囲で続けることが大切です。リハビリ中に違和感が出る場合は、すぐに中止し、医師に相談しましょう。 間欠跛行における日常生活で気をつけること 項目 内容 無理に歩きすぎない 違和感を我慢すると悪化のリスクがあるため、無理せず休憩を挟む 姿勢に注意する 神経性の場合は前かがみが楽になることが多い 禁煙・食生活の改善 喫煙や高脂肪食は動脈硬化を進めるため、生活習慣の見直しが重要 血圧・血糖・コレステロール管理 生活習慣病のコントロールで症状の進行を抑える 適度な運動を継続する ウォーキングなど違和感が出ない範囲での運動が予防と改善につながる 足の状態を毎日チェックする 傷や潰瘍ができていないか確認し、早めに対処する 症状の変化があれば受診 一時的に良くなっても、病気が進行している可能性がある 間欠跛行の症状を悪化させないためには、無理に歩いたり、過度な運動は禁物です。違和感を抱えたまま歩くと神経や血管に負担がかかり、症状の悪化につながります。神経や血管に負担をかけないためにも適度な休憩を取りましょう。 また、間欠跛行を悪化させないためには、適度な運動に加え、食生活の改善や禁煙が大切です。とくに喫煙や高コレステロールは動脈硬化の原因になるため注意が必要です。また、足に傷や潰瘍がないか毎日確認し、異常があれば早めに受診しましょう。 間欠跛行が疑われる場合は迷わず医療機関へ 間欠跛行は歩くと辛くなり、休むと楽になるのが症状の特徴です。間欠跛行は休むと楽になるため軽視されがちですが、重症化すると足の壊死や切断を余儀なくされることもあります。 日常生活でわずかでも足に違和感があれば、症状が悪化する前に医療機関を受診しましょう。当院リペアセルクリニックでは、間欠跛行の初期症状にも丁寧に対応し、幹細胞を用いた再生医療で治療をサポートしています。 症状が改善せずお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 間欠跛行の症状に関してよくある質問 間欠跛行は何科を受診するべきでしょうか? 初期の段階では原因の特定が難しいため、整形外科の受診をおすすめします。動脈硬化が判明している場合は、循環器内科もしくは、血管外科を受診しましょう。また、間欠跛行を治療できる医療機関の探し方としては、口コミやGoogleマップで評判をチェックするのがおすすめです。 当院リペアセルクリニックでは、間欠跛行の治療も行なっておりますので「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、お気軽にご相談ください。 間欠跛行の症状は自然治癒しますか? 間欠跛行の自然治癒はほとんどありません。原因に応じた治療が必要で、放置すると症状が進行する恐れがあるため、早急に医療機関を受診しましょう。 運動はまったくしてはいけないのでしょうか? 運動は無理のない範囲であれば、問題ありません。ただし、違和感が出た場合はすぐに中止し、医師に相談しましょう。 間欠跛行の症状とがんは関係あるのでしょうか? 間欠跛行の原因は主に脊柱管狭窄症や閉塞性動脈硬化症による血流障害であり、がんとの直接的な関係性はありません。ただし、がんが神経や血管を圧迫することで似たような症状が出ることもあるので、原因が特定できない場合は精密検査を受ける必要があります。 参考資料 (文献1) 「腰部脊柱管狭窄症」『整形外科シリーズ8』, pp.1-2,2023 https://www.joa.or.jp/public/sick/pdf/MO0013CKA.pdf(最終アクセス:2025年5月9日) (文献2) 「閉塞性動脈硬化症(ASO:Arterio-Sclerosis Obliterans)」, pp.1-15 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/doumyakukoukashou.pdf(最終アクセス:2025年5月9日) (文献3) 国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) 「腰部脊柱管狭窄症の間欠性跛行が改善した一例」J-STAGE,2018年7月16日 https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/46S1/0/46S1_H2-166_1/_article/-char/ja/(最終アクセス:2025年5月9日)
2025.05.30 -
- その他、整形外科疾患
骨粗鬆症は治るのか、将来の健康に対して漠然とした不安を抱いていませんか。加齢とともに骨がもろくなる病気とされ「もう治らないのでは」と心配になる方も多いでしょう。 たしかに、骨粗鬆症は完治が難しい病気です。しかし、適切な治療と生活習慣の見直しによって進行を防げば、骨密度の改善や骨折のリスク軽減に期待できます。 この記事では、医師が骨粗鬆症の治療法や薬の種類、さらに食事や運動による予防法までわかりやすく解説します。 本記事を参考に「完治させる」のではなく「これ以上悪化させない」ことに目を向け、骨粗鬆症の治療や予防に前向きに取り組んでみましょう。 骨粗鬆症の完治は難しいが進行を抑えることは可能 骨粗鬆症の治療目的は、完治ではなく、進行を抑えて骨折を防ぐことです。(文献1) 骨は常に「骨吸収(骨を壊す)」と「骨形成(骨を作る)」を繰り返しています。(文献2)加齢やホルモンバランスの変化で骨を作り変えるリズムが崩れると、骨吸収が優位になり、骨密度が低下していきます。これが骨粗鬆症の本質です。 現在の医学では、一度減少した骨密度を完全に若年時の状態に戻すことは困難です。しかし、薬物療法や食生活・運動習慣の改善を継続すると、骨量の減少を抑えたり、骨密度を高めたりすることも可能です。 骨折リスクを減らして健康寿命を延ばすには、骨粗鬆症の完治を目指すよりも、進行を抑えることが大切です。早期から治療と予防に取り組み、骨の健康を守りましょう。 なお、骨粗鬆症の進行を防ぐには、原因を理解しておくことも重要です。原因については、以下の記事にて詳しく解説しています。気になる方は、あわせて参考にしてください。 骨粗鬆症の進行を防ぐ方法 食事や運動により、骨粗鬆症の進行を防ぐ方法として以下の2つがあります。 カルシウムやビタミンDなど骨を強くする栄養素を摂る かかと落としやウオーキングで骨に刺激を与える 骨粗鬆症は薬だけに頼るのではなく、日々の食事や運動が進行防止に大切です。ぜひ本章を参考に、生活習慣を見直してみてください。 カルシウムやビタミンDなど骨を強くする栄養素を摂る 骨粗鬆症の進行を防ぐには、骨の材料となる栄養素を意識的に摂取しましょう。 中でもカルシウム・ビタミンD・ビタミンK・たんぱく質は、骨の形成や維持に欠かせません。骨に必要な栄養素が豊富に含まれている食材として、以下のようなものがあります。 栄養素 食材例(文献3) カルシウム 牛乳 えび ビタミンD 鮭 きくらげ ビタミンK ほうれん草 納豆 たんぱく質 卵 豚肉 これらの栄養素を含む食材を、毎日の食事にバランスよく取り入れることが理想です。急に食生活を変えるのが難しい場合は、納豆や牛乳など取り入れやすい1品から始めてみると良いでしょう。 かかと落としやウオーキングで骨に刺激を与える 骨粗鬆症の進行を防ぐには、骨に刺激を与える運動を日常に取り入れることが有効です。 運動で骨に適度な刺激が加わると、骨の形成が促され、骨密度の維持や向上につながります。(文献4)実際に、50代男性に片脚ジャンプを1年間続けてもらったところ、大腿骨の骨密度が上昇したとの研究結果もあります。(文献5) ただし、骨折の経験がある方や高齢者の場合、無理をせずに医師や理学療法士の指導のもとで安全に行うことが大切です。日常生活に無理のない範囲で、継続しやすい運動を取り入れていきましょう。 骨粗鬆症の治療薬について 病院では、骨粗鬆症の進行を抑える薬を使った治療が一般的に行われています。本章では、病院で用いられる主な治療薬の種類と副作用について詳しく解説します。 納得して治療に取り組むためにも、薬の種類や副作用を知っておきましょう。 薬の種類 骨粗鬆症の治療薬は、大きく分けると「骨の吸収を抑える薬」と「骨代謝を調節する薬」の2種類です。また、骨の代謝バランスを整え、穏やかに両方の作用を助けるものもあります。 それぞれの薬は、患者の年齢や骨折歴、骨密度などをもとに、治療の目的に合わせて選択されます。 代表的な薬は以下の通りです。 薬の種類 代表例 骨の吸収を抑える アレンドロン酸(フォサマック®) デノスマブ(プラリア®) 骨を作る力を促す テリパラチド(フォルテオ®) 骨の代謝を調節する エルデカルシトール(エディロール®) 薬によっては、注射薬や週1回、月1回などの服用で済むものもあり、ライフスタイルに合わせて治療薬を選択できます。どの薬が適しているかは個人によって異なるため、定期的に検査を受け、医師と相談しながら治療を続けましょう。 薬の副作用 骨粗鬆症の薬は副作用リスクもあるため、医師の指導を受けながら正しく使用しましょう。 たとえば、ビスホスホネート系のような骨吸収抑制薬では、まれに「あごの骨に異常をきたす(顎骨壊死・がっこつえし)」の副作用が報告されています。(文献1)そのため、歯科治療を受ける際は、事前に歯科医と連携することが推奨されます。また、内服薬では胃もたれや吐き気などの消化器症状が出ることもあるため、服用方法や体調の変化には注意が必要です。 副作用は必ず起こるものではありませんが、適切に対策を取ることで症状の軽減や予防が可能です。副作用が疑われる場合でも、自己判断で薬を中止するとかえって悪化するおそれがあるため、必ず医師の指示を仰いでください。 なお、骨粗鬆症は薬だけに頼るのではなく、食事や運動といった生活習慣の見直しも予防に役立ちます。詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。 治療薬にかかる値段の目安 骨粗鬆症の薬には保険が適用されており、多くの場合自己負担は3割です。ただし、薬の種類や投与方法によって費用は異なるため、治療を継続するには経済面の確認も大切です。 たとえば、6カ月に1回の注射薬「デノスマブ(プラリア®)」は、3割負担の場合自己負担額が1回あたり5,000~8,000円程度かかります。 さらに毎日服用が必要な薬でも、月に数千円以上の医療費がかかるケースは珍しくありません。このように、骨粗鬆症の治療には一定の費用がかかるため、経済的な負担を感じる方も多いでしょう。 負担が大きい場合、一定の条件を満たすと「高額療養費制度」という一定金額以上の自己負担額が払い戻される制度を利用できる場合があります。(文献6)費用に不安がある方は、こうした制度を活用すると経済的負担を軽減できるでしょう。 骨粗鬆症は完治を目指すよりも進行を防ぐことが大切 骨粗鬆症の治療目的は完治ではなく、進行を抑えて骨折リスクを減らし、健康寿命をのばすことです。 薬の服用に加え、食事や運動の改善を組み合わせると骨の健康にも良いでしょう。ぜひ本記事を参考に、骨粗鬆症の進行予防に取り組んでみてください。 なお、薬や生活習慣の改善に加え、運動機能の維持も骨粗鬆症対策の一環として重要です。とくに膝や股関節に痛みを抱える方は、日常の運動が制限されてしまうこともあります。 当院「リペアセルクリニック」では、膝の痛みや半月板損傷などの運動器疾患に対して比較的新しい治療法「再生医療」をご提案しています。「痛みの少ない治療を検討したい」「手術以外の方法を探している」という方は、ぜひメール相談やオンラインカウンセリングをご利用ください。 骨粗鬆症についてよくある質問 骨粗鬆症はいつまで治療を続ける必要があるの? 骨粗鬆症の治療は長期間に及ぶことが多く、医師の判断に基づいて継続の可否を決めることが大切です。 治療により一時的に骨密度が改善しても、薬の中断により再び骨密度が低下し、骨折リスクが高まる可能性があります。 実際にデノスマブ(プラリア®)による治療を中断した後、急激な骨密度の減少と骨折の発生件数が増えたとの報告もありました。(文献5) 「薬はいつまで続ければ良いのか」と不安になった場合は、自己判断で中断はせず、必ず主治医と相談して今後の治療計画を立てましょう。 骨粗鬆症になったら避けるべきことは? 骨粗鬆症の進行を防ぐには、日常生活での悪習慣を見直すことが重要です。とくに喫煙・過度の飲酒・運動不足は、骨の形成や維持に悪影響を及ぼすリスクがあります。以下に、それぞれの習慣が骨に与える具体的な影響をまとめました。(文献1) 避けるべき生活習慣 骨に与える悪影響 喫煙 骨の材料であるカルシウムの吸収を阻害したり、尿への排出を促したりする 過度の飲酒 カルシウムの吸収を阻害し、骨密度を低下させる 運動不足 骨への刺激が減り、骨の強度が弱くなる まずは「禁煙に挑戦する」「お酒の量を1日1杯までに抑える」「週2回は軽い運動をする」など、無理のない範囲で行動を変えることから始めましょう。 骨粗鬆症の薬には後遺症がありますか? 骨粗鬆症治療薬によって後遺症のような障害が残るケースはごくまれですが、なかには注意すべき副作用も存在します。代表的な例として、以下のようなものが報告されています。 薬の成分の例 重篤な副作用の例 アレンドロン酸(ビスホスホネート系) 顎骨壊死(文献6) デノスマブ 低カルシウム血症(文献7) テリパラチド 骨肉腫(文献8) 定期的な血液検査や歯科受診などにより、重篤な副作用は予防・早期発見が可能です。気になることがある場合は、医師に相談し、治療内容に納得した上で進めていきましょう。 参考文献 文献1 日本骨粗鬆症学会 日本骨代謝学会 骨粗鬆症財団「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」2015年,http://www.josteo.com/data/publications/guideline/2015_01.pdf 文献2 川口浩.「骨粗鬆症の基礎と最近の話題」『脊髄外科』29巻(3号), p.259-p.266, 2015年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/29/3/29_259/_pdf 文献3 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年から出典」2023年,https://www.mext.go.jp/content/20230428-mxt_kagsei-mext_00001_011.pdf 文献4 佐藤哲也、小池達也.「運動と骨」『生活衛生』36巻(5号), p.239-p.245, 1992年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei1957/36/5/36_5_239/_pdf 文献5 藤田 博曉.「骨粗鬆症に対する運動療法」『日本内科学会雑誌』111巻(4号), p765-p771, 2022年.https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/4/111_765/_pdf 文献6 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「ベネット錠2.5mg 添付文書」2024年3月改訂https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/400256_3999019F1034_1_29 文献7 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「プラリア皮下注60mgシリンジ 添付文書」2023年11月改訂https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/430574_3999435G1023_1_15 文献8 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「フォルテオ皮下注キット600μg 添付文書」2022年10月改訂https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/530471_2439400G1020_1_18
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- その他、整形外科疾患
骨粗鬆症を放置すると骨がもろくなり、骨折のリスクが高まります。とくに高齢者では、骨折をきっかけに寝たきりになることもあり、見過ごせない問題です。 診断された方の中には「どのような運動をすれば良いのかわからない」「運動しても骨折しないか不安」と感じている方もいるでしょう。 しかし、適度な運動によって骨に刺激を与えることで、骨密度の低下を防ぐ効果があるとされています。骨粗鬆症の発症や進行の予防にもつながるため、運動は食事や薬物療法と同じくらい大切です。 本記事では、骨粗鬆症におすすめの運動方法や頻度、注意点についてわかりやすく解説します。ぜひ本記事を参考に、今日から無理のない範囲で運動を取り入れてみてください。 骨粗鬆症の運動は予防・改善につながる 人の体では、古い骨は壊され、新しい骨をつくる「骨代謝」が繰り返されています。(文献1)運動によって骨に軽い刺激(微細なストレス)を与えると、骨をつくる細胞が活性化され、新しい骨の形成が促進されます。(文献2) その結果、定期的な運動は骨の健康にも良い効果をもたらすのです。 あわせて骨粗鬆症の原因を知ることで、運動の必要性をより深く理解し、継続的な予防につなげやすくなります。原因について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。 骨粗鬆症におすすめの運動法|今すぐできる具体例を紹介 骨粗鬆症におすすめの運動は以下の4つです。 かかと落とし ウォーキング 下半身の筋トレ バランス運動 本章で紹介している運動は、骨に適度な刺激を与えて骨密度の低下やバランス感覚の維持につながります。結果として、転倒や骨折のリスクを減らす効果も期待できるでしょう。 本章を参考に、自分に合った運動を今日から少しずつ取り入れてみてください。 かかと落とし かかと落としは、床にかかとを落とす軽い衝撃が骨に適度な刺激を与え、太ももの骨を強化する効果的な運動として注目されています。(文献3)特別な道具を使わず、自宅でテレビを見ながらでもできるため、手軽に取り入れやすいでしょう。 かかと落としのやり方は以下の通りです。 壁や椅子の近くに立ち、足を肩幅に開く ゆっくりつま先立ちになる ストンとかかとを床に落とす 転びそうであれば、手すりや壁に掴まりながら行うのも良いでしょう。1日あたり10〜20回を3セットの実践が理想的であるものの、無理は禁物です。最初は少ない回数から始め、体が慣れたら徐々に増やすようにしましょう。 ウォーキング ウォーキングは骨に適度な負荷をかけながら、全身の健康維持にもつながる運動です。通勤や買い物のついでに実践できるため、日常生活に取り入れやすい運動のひとつです。 歩行時の骨への物理的な刺激が骨密度の維持・向上を促します。歩くことで下半身の筋力が鍛えられるため、転倒による骨折防止にもおすすめです。 1日30分を週3〜5回ほど、通勤や買い物のついでに歩く習慣をつけると続けやすくなります。普段歩く際には、以下を意識してみてください。 背筋を伸ばす 大股で歩く 腕を大きく振る いつもより早歩きする 最初は短時間から始め、徐々に時間を延ばすと無理なく継続できます。ぜひ日常生活の一部に取り入れてみてください。 下半身の筋トレ 下半身を鍛える筋力トレーニングは、骨に適度な刺激を与え、骨粗鬆症の予防に効果があるとされています。筋力アップによって転倒リスクも下がるため、骨折の防止にもつながります。 なかでも太ももやお尻の筋肉は骨盤や大腿骨を支える重要な部位で、筋力強化により骨にかかる負担を分散できます。とくに高齢者では筋肉量の低下が骨折の一因となるため、下半身の筋トレはおすすめです。 効果的なトレーニングとして、スクワット(膝の屈伸運動)やつま先立ちを繰り返すカーフレイズ(ふくらはぎの筋力トレーニング)などが挙げられます。転倒が不安な場合は、必ず椅子や壁を支えにしながら行いましょう。運動に慣れてきたら、無理のない範囲で回数を少しずつ増やしてみてください。 バランス運動 バランス力を鍛える運動は体幹を安定させ、日常生活でのふらつきを減らすのに役立ちます。 骨粗鬆症の方は骨がもろくなっているため、転倒による骨折リスクが高くなります。そのため、バランス感覚を養い、転倒を防ぐことが大切です。 おすすめのバランス運動には、以下のような方法があります。いずれも自宅で手軽にでき、歯磨き中や家事などの隙間時間を使って始められます。 バランス運動の例 具体的な方法 片足立ち 壁や椅子に軽く手を添え、片足を上げて数秒間キープする 体重移動 足を肩幅に開き、ゆっくりと左右に体重を移動させる 上体ひねり運動 椅子に浅く腰掛け、両手を広げてゆっくりと上体を左右にひねる こうした運動を毎日続けると自然に平衡感覚が養われ、転倒への不安も軽減されるでしょう。無理のない範囲で、ぜひこまめに取り組んでみてください。 骨粗鬆症における運動の推奨頻度 骨粗鬆症の予防や改善には、週に2〜3回の運動を習慣にすることが大切です。 定期的な運動は骨に適度な刺激を与え、骨密度や骨質の向上を促します。骨にストレスを与えすぎると疲労やけがの原因になりますが、頻度が少なすぎると効果が出にくくなります。そのため、バランスの取れたペースが重要です。 実際に、週に2〜3回以上の頻度でバランス運動や筋トレを行うと、転倒リスクの低減に効果的であるとされています。(文献4)骨粗鬆症と診断された方は、まずは週に2〜3回のペースで、自分に合った運動から始めてみてください。 骨粗鬆症の運動における注意点 骨粗鬆症の方が運動をする際の注意点は、以下の4つです。 急激な動作や転倒リスクの高い運動は避ける 運動のしすぎと誤ったフォームは避ける 痛みや違和感が出たらすぐに中止する 症状に不安がある場合は事前に医師へ相談する 骨粗鬆症の方にとって、転倒や骨折のリスクを避けながら安全に運動を心がけることが大切です。事前に本章の内容を確認し、けがを防ぎながら安全に運動を取り入れましょう。 急激な動作や転倒リスクの高い運動は避ける 骨粗鬆症では骨がもろくなっており、軽い衝撃でも骨折につながることがあります。さらに、バランス能力が低下していると、転倒による重篤な骨折のリスクも高まります。 骨粗鬆症の方が避けるべき運動や動作の例は以下の通りです。安全性が確保できない運動は、無理に行わないようにしましょう。 急な方向転換を伴う運動(激しいテニスやゴルフなど) 前かがみや体を強くひねる運動 過度に重いダンベルの持ち上げ運動 不安がある場合は、必ず医師や専門家に相談して自分に合った安全な運動を選ぶようにしてください。 運動しすぎと誤ったフォームは避ける 骨粗鬆症の予防に運動は効果的ですが、やりすぎたり誤ったフォームで行ったりすると、かえって体に悪影響を及ぼす恐れもあるため注意が必要です。とくに高齢者は筋力が低下しており、骨や関節にかかる負担が大きくなると、疲労骨折や関節の炎症も起こりやすくなります。 たとえば、長時間の歩行で膝を痛めたり、背中を丸めた姿勢でのウォーキングで腰を痛めたりする場合があります。また、無理な回数のスクワットも膝に負担をかけるため注意が必要です。 運動は理想的な回数や強度よりも、正しいフォームと自分の体調に合わせることが大切です。不安がある場合は、担当の医師や理学療法士などと相談しながら取り組みましょう。 痛みや違和感が出たときは中止する 運動中に痛みや違和感を覚えた場合は、すぐに中止しましょう。 骨粗鬆症の方は骨折のリスクが高く、痛みは骨や関節の損傷、あるいは骨折・捻挫の前兆の可能性もあります。無理に続けるのは避けましょう。 軽い筋肉痛であれば問題ありませんが、鋭い痛みや長引く痛みには注意が必要です。運動中に膝や腰などに強い痛みを感じた場合は、無理せず休憩し、必要に応じて整形外科を受診してください。 症状に不安がある場合は医師に相談する 骨の状態や体力には個人差があり、自分に合わない運動はかえって体を痛めるおそれがあります。医師は骨密度や持病の有無を踏まえて、より安全な運動方法を提案してくれます。不安がある場合は、あらかじめ相談しておくと安心です。 とくに以下に該当する方は、思わぬけがや症状悪化の予防のために事前の相談をおすすめします。 過去に骨折歴がある 歩行時にふらつきがある 他の持病を抱えている 少しでも不安がある方は自己判断せず、医師や理学療法士などの指導を受けながら安全に運動を続けましょう。 骨粗鬆症予防のためにも今日から運動を始めてみよう! 骨粗鬆症の進行を抑えるには、日常的に運動を取り入れることが大切です。骨に適度な刺激を与えることで、骨密度の維持や転倒リスクの軽減が期待できます。自分にとって無理のない運動を今日から始めてみてください。 ただし、骨粗鬆症の方は関節や筋肉が弱くなっていることも多く、運動によって膝や股関節に痛みが出る場合もあります。手術が必要になることもありますが、できるだけ避けたい方には切らずに治療できる「再生医療」もおすすめです。 当院「リペアセルクリニック」では幹細胞を活用した再生医療に対応しており、膝や股関節などの慢性的な痛みに対する治療も行っています。今ならメールまたはオンラインカウンセリングにて無料相談を受付中です。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。 骨粗鬆症の運動に関してよくある質問 骨におすすめの食べ物や飲み物は? 骨を強く保つには、以下のようなカルシウム・ビタミンD・ビタミンKが含まれた食材の摂取がおすすめです。 栄養素 働き 主な食材例(文献8) カルシウム 骨量を維持する(文献5) 魚介類(えびやかに)、牛乳など ビタミンD カルシウムの吸収を補助する(文献6) キノコ類(きくらげ)、魚介類(かつおやいわし)など ビタミンK 骨代謝のバランスを整える(文献7) 緑茶類、藻類(わかめやのり)など 毎日の食事で不足しがちな栄養素を意識して摂取すると、運動とあわせて骨の健康維持が期待できます。ただし、カルシウムやビタミンDは過剰症も報告されているため、摂りすぎには注意しましょう。(文献9) また、こうした栄養管理を通じて、薬に頼らずに骨粗鬆症の予防に取り組めます。詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。 かかと落としの効果が出るまでどのくらいかかりますか? かかと落としの効果が現れるまでには、少なくとも数カ月の継続が必要です。 骨の代謝サイクルは約1〜4年とされており、運動による刺激が骨密度に反映されるまでには時間がかかります。(文献1)骨粗鬆症の予防効果を得るには短期間で結果を求めず、日々の習慣として継続的に行うことが大切です。 骨密度が高い人の特徴はなんですか? 骨密度を高く保っている人には、以下のような特徴があります。 日常的に体を動かす習慣がある カルシウムやビタミンを意識して摂っている 栄養バランスの整った食事を心がけている 日頃から階段を使用している 骨密度は20〜30代にかけてピークを迎え、加齢とともに徐々に減少します。(文献4)だからこそ、これらの生活習慣を取り入れ、将来的な骨密度の低下を防ぐことが大切です。 今からでも遅くはありません。運動や食生活を見直し、骨密度の維持・改善に取り組みましょう。 参考文献 文献1 川口浩.「骨粗鬆症の基礎と最近の話題」『脊髄外科』29巻(3号), p.259-p.266, 2015年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/29/3/29_259/_pdf 文献2 佐藤哲也、小池達也.「運動と骨」『生活衛生』36巻(5号), p.239-p.245, 1992年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei1957/36/5/36_5_239/_pdf 文献3 藤田 博曉.「骨粗鬆症に対する運動療法」『日本内科学会雑誌』111巻(4号), p765-p771, 2022年.URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/4/111_765/_pdf 文献4 日本骨粗鬆症学会 日本骨代謝学会 骨粗鬆症財団「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」2015年,http://www.josteo.com/data/publications/guideline/2015_01.pdf 文献5 久保田 恵.「カルシウム摂取による骨折・骨粗鬆症予防のエビデンス」『日本衛生学雑誌』58巻(3合), p.317-p.327, 2003年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjh1946/58/3/58_3_317/_pdf 文献6 竹内靖博.「骨・カルシウム代謝異常症におけるビタミンDの役割」『臨床リウマチ』25巻, p.198-p.202, 2013年https://www.jstage.jst.go.jp/article/cra/25/3/25_198/_pdf 文献7 鈴木啓章.「ビタミンKの健康栄養機能に関する最近の知見」『オレオサイエンス』14巻(12号), p.555-p.561, 2014年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/14/12/14_555/_pdf/-char/ja 文献8 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年から出典」2023年,https://www.mext.go.jp/content/20201225-mxt_kagsei-mext_01110_011.pdf 文献9 厚生労働省「「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書」2024年,https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316585.pdf
2025.05.30 -
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「骨粗鬆症の予防や改善に効果的な食べ物はある?」と疑問にお持ちの方も多いのではないでしょうか。 骨密度の低下を未然に防ぐため、骨を強くする食材を普段の食事に取り入れたい人もいるかもしれません。 骨粗鬆症は、年齢とともに骨がもろくなり、骨折のリスクが高まる病気です。とくに女性は閉経後に骨密度が急激に低下しやすいため、日々の食事で骨を強く保つことが大切です。 この記事では、骨粗鬆症予防に役立つ食べ物や食事の工夫について、詳しく解説します。 今日から始められる骨ケアの秘訣を見つけてみましょう。 骨粗鬆症予防におすすめの食べ物は「牛乳・魚・野菜・大豆」 骨を丈夫に保つには、特定の栄養だけでなく、いくつもの栄養素をバランスよくとることが大切です。 特におすすめの食べ物は以下の4種類です。 食べ物の種類 骨粗鬆症の予防効果 牛乳(乳製品) カルシウムが豊富で骨を強くする 魚 ビタミンDがカルシウムの吸収をサポート 野菜 ビタミンKで骨にカルシウムを定着 大豆・卵・海藻 骨の形成と維持に役立つ栄養素が豊富 骨粗鬆症の予防に効果的な食べ物を知り、普段の食事に取り入れていきましょう。 牛乳(乳製品)|カルシウムが豊富で骨を強くする 牛乳や乳製品は、骨をつくるカルシウムの代表的な供給源です。 カルシウムは骨や歯をつくる材料として欠かせない栄養素で、筋肉や神経の働きにも関係しています。 不足すると骨がもろくなり、骨粗鬆症のリスクが高まってしまうため積極的に摂りたい食品です。(文献1) たとえば、牛乳1杯(200g)には約220mgのカルシウムが含まれており、1日に必要な量の約1/3を補えます。(文献2) チーズやヨーグルトを組み合わせれば、より摂り入れやすくなります。 毎日コップ1杯の牛乳から、骨の健康を意識してみましょう。 魚|ビタミンDがカルシウムの吸収をサポート 魚に含まれるビタミンDは、カルシウムを体に吸収しやすくする働きがあります。 ビタミンDが不足すると、カルシウムを摂ってもうまく吸収されず、骨密度が低下してしまいます。(文献1) また、ビタミンDは日光に当たることで体の中で作られますが、年を重ねるとその働きが弱くなってしまうのです。(文献3) そのため、日光に当たる機会が少ない人や高齢者は、食品からビタミンDをしっかり摂りましょう。 とくに、鮭、いわし、さんまなどの脂ののった魚には、ビタミンDが多く含まれています。 焼き魚や缶詰などでも手軽にとれるので、日々の食事に取り入れやすいのもポイントです。 魚を積極的に食べて、カルシウムの力をしっかり活かしましょう。 野菜|ビタミンKで骨にカルシウムを定着 ビタミンKは、カルシウムを骨にとどめるのに欠かせない栄養素です。 カルシウムをしっかりとっても、それが骨に定着しないと骨は強くなりません。 ビタミンKは、カルシウムが骨に沈着するのを助ける働きがあり、骨粗鬆症の予防薬としても活用されています。(文献4) たとえば、小松菜、ほうれん草などの緑の葉物や納豆はビタミンKが豊富です。 おひたしやみそ汁、炒め物などに取り入れやすく、栄養バランスも整います。 日々の健康管理に役立つ野菜は、骨の健康にも役立ちます。 毎日の食事に、少しずつでも取り入れていきましょう。 大豆・卵・海藻|骨の形成と維持に役立つ栄養素が豊富 大豆製品や卵、海藻には、骨をつくるために大切な栄養素が豊富に含まれています。 たとえば、大豆や卵に多く含まれるたんぱく質は、筋肉や皮膚だけでなく、骨の土台になる「コラーゲン」をつくる材料になります。(文献4) また、海藻に多いマグネシウムは、カルシウムと一緒に骨の形成をサポートしてくれる栄養素です。 不足すると骨がもろくなるリスクがあるため、積極的に摂りましょう。(文献1) さらに、大豆に含まれるイソフラボンには、女性ホルモンに似た働きがあります。 女性ホルモンは骨密度の維持を助ける働きがあるため、分泌が低下した閉経後の女性は骨粗鬆症になるリスクが上昇します。そこで、女性ホルモンに似たイソフラボンは、閉経後の骨の健康をゆるやかにサポートできる可能性があるのです。(文献5) 納豆や豆腐、味噌などの大豆製品は、日本人の食生活にもなじみ深く、日々の食事に取り入れやすいのが魅力です。 味噌汁や納豆、卵焼き、ひじきの煮物など、身近な和食メニューの中には、骨の健康を支える要素がたくさんつまっています。 できることから毎日の習慣にしていきましょう。 【過剰摂取に注意】骨粗鬆症で食べてはいけないもの 骨の健康を守るためには、摂取を控えた方が良い食品もあります。 以下の食品は、過剰に摂取するとカルシウムの吸収を妨げたり、カルシウムの排泄を促進したりするため、注意が必要です。 インスタント食品や加工食品|塩分が多い食べ物 コーヒーや紅茶|カフェインを含む飲み物 お菓子やジュース|糖分が多い食べ物・飲み物 ひとつずつ詳しくみていきましょう。 インスタント食品や加工食品|塩分が多い食べ物 インスタントラーメンやスナック菓子、加工食品には塩分が多く含まれています。 塩分を摂りすぎると、尿中にカルシウムが排泄されやすくなり、骨からカルシウムが失われる原因となります。(文献6) 日常的に塩分の摂取量を意識し、減塩を心がけましょう。 コーヒーや紅茶|カフェインを含む飲み物 コーヒーや紅茶、緑茶などに多く含まれるカフェインも、骨の健康に影響を与えるといわれています。 カフェインには、カルシウムの吸収を妨げたり、尿と一緒に排出されやすくしたりする働きがあります。(文献6) そのため、カルシウム不足を引き起こし、骨粗鬆症や骨折のリスクが高まることがあるのです。 「コーヒーを1日何杯までに抑えるべきか」については、明確な基準はありませんが、1日5杯以上飲むと骨に影響が出るとの報告もあります。(文献7) 骨の健康を守るためにも、飲みすぎには気をつけて、適量を心がけましょう。 お菓子やジュース|糖分が多い食べ物・飲み物 砂糖を多く含むお菓子やジュースは、カルシウムの吸収を妨げる可能性があるといわれています。 (文献8) さらに、これらをとりすぎることで、食事全体のバランスが崩れ、必要な栄養素が足りなくなるおそれもあります。 骨の健康を守るためにも、甘いものは控えめにして、栄養バランスの良い食事を意識しましょう。 骨粗鬆症に必要な栄養素一覧 骨の健康を守るには、栄養がどれくらい必要なのかも知っておきたいところです。 次の表で、必要な量と実際の摂取量を見比べてみましょう。(文献1)(文献9)(文献10)(文献11) <骨粗鬆症予防で大切な栄養素の目標量と平均摂取量> 栄養素 推奨量 平均摂取量(60代女性) カルシウム 656~669mg/日 518mg/日 ビタミンD 9.0μg/日 7.0μg/日 ビタミンK 150μg/日 252μg/日 たんぱく質 50g/日 67.7g/日 マグネシウム 310~320mg/日 252mg/日 ビタミンK、たんぱく質は足りている一方で、ビタミンDやカルシウム、マグネシウムは不足しがちなことがわかります。 日々の食事でこれらの栄養素を意識的に摂取することが大切です。 骨粗鬆症予防におすすめの食べ合わせ5選 毎日の食事に取り入れやすい、骨粗鬆症予防に効果的な食べ合わせをご紹介します。 これらの組み合わせを参考に、できることから始めていきましょう。 ヨーグルト × きな粉 ヨーグルトにきな粉をかけるだけで、カルシウム、たんぱく質、イソフラボンを一度に摂取できます。 腸内環境も整いやすく、骨の健康と合わせて整えたい人にぴったりです。 朝食やおやつにぜひ試してみてください。 ただし、きな粉はむせやすいため、よく混ぜてから食べると良いでしょう。 納豆 × 小松菜 × 味噌汁 納豆と小松菜を味噌汁の具にすると、ビタミンKとたんぱく質、イソフラボンを同時に補給できます。 納豆はご飯にかけるだけではなく、味噌汁の具にしたり、ゆでた葉物野菜と和えてもおいしく食べられます。 無理なく続けるためにも、いろいろな食べ方を楽しんでみてください。 鮭 × 干ししいたけ × オリーブオイル 鮭と干ししいたけをオリーブオイルで炒めたり焼いたりすると、ビタミンDの吸収率がぐんとアップします。 干ししいたけは日光に当てるとビタミンDがさらに増えるため、調理前に30分ほど日干しするのもおすすめです。(文献12) 豆腐 × ひじき 豆腐とひじきを組み合わせることで、マグネシウムとカルシウム、たんぱく質、イソフラボンを補えます。 煮物や白和えなどにすれば、日々の副菜として自然に取り入れやすく、食卓の栄養バランスが整いやすくなります。 チーズ × ブロッコリー × 卵 チーズ、ブロッコリー、卵を使った料理は、カルシウム、ビタミンK、たんぱく質が一皿でとれるメニューです。 たとえば、チーズオムレツにゆでたブロッコリーを添えるだけでもOKです。 彩りも良く、食欲をそそる一品になります。 【骨粗鬆症】食事で補いきれないときは受診も検討 骨に良い食事を意識していても、加齢や女性ホルモンの変化によって、骨密度が下がってしまうことがあります。 骨粗鬆症は、痛みなどの症状が出る前に進行しているケースも多いため、早めに気づくことが大切です。 とくに、腰や背中の痛み、身長の縮み、背中の丸まりが気になっている人は、骨がもろくなっているサインかもしれません。(文献13) 「まだ症状がないから大丈夫」と思っていても、骨密度の検査を受けておくと良いでしょう。 医師のアドバイスを受けながら、薬の力を借りることも予防につながります。 「自分で気をつけるだけでは心配」という方は、一度医療機関で相談してみましょう。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングも受け付けています。 骨粗鬆症について不安がある方や、どこに相談すれば良いかわからない方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。 乳製品や大豆製品を摂って骨粗鬆症を予防しよう 骨を丈夫に保つためには、毎日の食事でさまざまな栄養素をバランス良くとることが大切です。 年齢を重ねると、カルシウムやたんぱく質などの栄養が不足しやすくなり、骨がもろくなってしまいます。 毎回の食事でしっかり栄養を摂り、骨粗鬆症を予防しましょう。 たとえば、牛乳やヨーグルト、魚、大豆製品、緑黄色野菜などを組み合わせると、カルシウム・ビタミンD・ビタミンK・たんぱく質など、骨の健康に欠かせない栄養素を効率よく摂れます。 無理のない範囲で食事を見直しながら、不安があるときは医師に相談してください。 できることから、骨の健康づくりをはじめてみましょう。 骨粗鬆症の食事に関するよくある質問 骨粗鬆症におすすめの飲み物はありますか? カルシウムやたんぱく質を含む牛乳や豆乳は、骨粗鬆症対策になる飲み物です。 豆乳は毎日飲みやすく、女性にうれしい大豆イソフラボンも摂取できます。 また、小松菜やバナナ、牛乳や豆乳、ヨーグルトなどをミキサーにかけて作るスムージーは、栄養バランスもよく、骨の健康にもぴったりです。 栄養たっぷりのスムージーを、朝食の一杯として取り入れてみてはいかがでしょうか。 骨粗鬆症にお酢は良くないですか? 「魚の骨が酢でやわらかくなるから、自分の骨もやわらかくなるのでは?」と不安に思う方もいますが、心配はいりません。 酢には、むしろカルシウムの吸収を助けるはたらきがあります。 魚の骨がやわらかくなるのは料理中の変化で、体の中で骨が溶けてしまうわけではありません。(文献7) 酢の物や、魚の酢煮など、食事の中に上手にとり入れていきましょう。 参考文献 (文献1) 「日本人の食事摂取基準(2025年版」策定検討会報告書令和6年10月,https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf (文献2) 農林水産省「大切な栄養素カルシウム」みんなの食育,https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/minna_navi/topics/topics1_05.html (文献3) 厚生労働省「ビタミンD」eJIM,https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/10.html (文献4) 上西一弘「特集/「骨」から考えるリハビリテーション診療一骨粗髭症・脆弱性骨折一骨の健康のための栄養」『MB Med Reha』270,pp59-65,2022,https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/%E8%B3%87%E6%96%99%E2%91%A6%E9%AA%A8%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E6%A0%84%E9%A4%8A%E3%80%80MB%20Med%20Reha%20270%2059-65%202022%E3%80%80.pdf (文献5) 石見佳子「大豆イソフラボンの骨代謝調節作用」『日本栄養・食糧学会誌』76(5),PP291-296,2023,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs/76/5/76_291/_pdf (文献6) 厚生労働省「カルシウム」eJIM,https://www.ejim.mhlw.go.jp/pro/overseas/c03/01.html (文献7) 公益財団法人骨粗鬆症財団「予防について」骨粗鬆症財団ホームページ,https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/faq/faqprevention.html#Q4 (文献8) 津志田藤二郎ほか「アクティブシニア社会の食品開発指針」2006年9月7日,https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2006/063011/200619043A/200619043A0013.pdf (文献9) 厚生労働省「令和5年国民健康・栄養調査結果の概要 」,https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf (文献10) 公益財団法人長寿科学振興財団「ビタミンKの働きと1日の摂取量」『健康長寿ネット』2016年7月25日,https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/vitamin-k.html (文献11) 厚生労働省「マグネシウム」eJIM,https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/13.html#d02 (文献12) 厚生労働省「ケア・スポット 健康経営推進プロジェクト 健康だより9月」安全衛生課 衛生委員会2022年9月,https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzenproject/member/care-spot/images/2_b.pdf (文献13) 河路 秀巳,伊藤 博元「骨粗鬆症の診断と治療」『日医大医会誌』5(1),pp41-46,2009,https://www.jstage.jst.go.jp/article/manms/5/1/5_1_41/_pdf
2025.05.30 -
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「背中が痛い」 「最近腰が曲がってきた気がする」 その症状は、もしかしたら骨粗鬆症(こつそしょうしょう)かもしれません。 「骨粗鬆症」とは、骨の中がスカスカになってもろくなり、骨折しやすくなる病気です。自覚症状がないまま進行し、気づいたときには骨折をしていた、というケースもあります。 この記事では、骨粗鬆症であらわれやすい症状や、病院に行くべきタイミングについてご紹介します。骨粗鬆症の症状について知ることで、早めの対策ができれば幸いです。 骨粗鬆症の主な症状 骨粗鬆症の主な症状は以下の3つです。 背中や腰の鈍い痛みが続く 身長が縮む・姿勢が悪くなる 転倒や軽い動作でも骨折するようになる 今の自分に出ている症状に当てはまるものがないか、確認してみましょう。 背中や腰の鈍い痛みが続く 骨粗鬆症が進むと、背骨がもろくなって小さな骨折を起こすことがあります。 これを「脊椎圧迫骨折」といい、気づかないうちに起きているケースも珍しくありません。 また、骨の内部の「骨梁(こつりょう)」と呼ばれる細かい骨の構造が折れることによる痛みもあります。(文献1) 背中や腰の痛みが続くと「年のせいかな」「少し無理をしたからかな」と思いがちですが、実は骨粗鬆症が関係している可能性もあるのです。 身長が縮む・姿勢が悪くなる 「最近、昔より背が低くなった気がする」そんな変化も、骨粗鬆症のサインのひとつです。 背骨がつぶれるように骨折・変形してしまうと、自然と姿勢も丸くなり、身長が数センチ縮むことがあります。 とくに、若いころと比べて男性は6cm、女性は4cm以上の変化がある場合は、背骨の骨折が進んでいる可能性が高いといわれています。(文献2) 転倒や軽い動作でも骨折するようになる ふとした拍子に尻もちをついたり、重い荷物を持ち上げたりしただけで、骨が折れてしまうのも骨粗鬆症の症状のひとつです。 とくに背中、太もものつけ根、手首、腕のつけ根、肋骨などが折れやすくなります。 こうした骨折が重なると、さらに体を動かすのがつらくなり、生活に大きな影響を与えます。(文献1) 骨粗鬆症の初期症状は気づきにくい 骨粗鬆症は、骨がもろくなっても、痛みなどの自覚症状が出るとは限りません。多くの場合、初めて気づくのは「骨折してから」です。(文献1) とくに閉経後の女性は、女性ホルモンの減少によって骨密度が急激に低下しやすくなります。(文献2) 痛みがなくても、定期的に骨密度を測る、食事や運動に気を配るといった予防意識が大切です。 また、過度なダイエットやステロイドなどの薬の影響でも、骨が弱くなることがあります。(文献3) 骨粗鬆症の症状セルフチェックリスト 骨粗鬆症の兆候に気づくには、まずは自分の体の変化をチェックしてみましょう。 このチェックリストは、公益財団法人 骨粗鬆症財団が公開する「骨の健康度チェック表」より引用しています。(文献5) 次の項目のうち、当てはまるものの点数を合計してください。 あなたの骨の健康度がわかります。 1 牛乳、乳製品をあまりとらない 2点 2 小魚、豆腐をあまりとらない 2点 3 たばこをよく吸う 2点 4 お酒はよく飲む方だ 1点 5 天気のいい日でも、あまり外に出ない 2点 6 体を動かすことが少ない 4点 7 最近、背が縮んだような気がする 6点 8 最近、背中が丸くなり、腰が曲がってきた気がする 6点 9 ちょっとしたことで骨折した 10点 10 体格はどちらかと言えば細身だ 2点 11 家族に「骨粗鬆症」と診断された人がいる 2点 12 糖尿病や、消化管の手術を受けたことがある 2点 13 (女性)閉経を迎えた(男性)70歳以上である 4点 引用:公益財団法人 骨粗鬆症財団|骨の健康度チェック表 結果の見方 あなたの合計点数に当てはまる項目をご覧ください。 2点以下 今は心配ないと考えられます。これからも骨の健康を維持しましょう。 改善できる生活習慣があれば、改善しましょう。 3点~5点 骨が弱くなる可能性があります。気を付けましょう。 6点~9点 骨が弱くなっている危険性があります。注意しましょう。 10点以上 骨が弱くなっていると考えられます。 一度医師の診察を受けてみてはいかがですか。 引用:公益財団法人 骨粗鬆症財団|骨の健康度チェック表 ご自身の骨の状態を知る目安として、参考にしてみてください。 骨粗鬆症の症状を放置するリスク3選 骨粗鬆症の症状を放置すると、下記のようなリスクが考えられます。 骨折の連鎖で、さらに骨がもろくなる 痛みや動きにくさで、日常生活が制限される 寝たきりや介護が必要な状態になる 本章で骨粗鬆症を放置するリスクを理解し、早期発見・早期対策を考えましょう。 骨折の連鎖で、さらに骨がもろくなる 背骨が一カ所でも折れると、そこに負担が集中し、周りの骨まで折れやすくなります。 たとえば、太ももの付け根を骨折した場合、反対側の太ももの骨を骨折してしまう人は10人に1人というデータもあります。(文献6) 骨折の連鎖が起きる原因は、元々骨が弱くなっているためや骨折により転びやすくなること、反対側の骨に力が入りやすいことなどが考えられます。(文献6) 痛みや動きにくさで、日常生活が制限される 骨粗鬆症からの骨折による背中や腰の痛みは、日常生活にじわじわと影響を及ぼします。 掃除や洗濯、買い物といった家事が負担になったり、外出をためらうようになったりすることもあるでしょう。 また、重い荷物を持ち上げるのが怖くなったり、孫を抱っこしたくてもできなかったりと、これまで当たり前にできていた動作が困難になっていきます。 痛みや動きづらさのせいで行動範囲が狭くなると、日々の楽しみや穏やかな毎日がおびやかされる可能性があるのです。 寝たきりや介護が必要な状態になる 骨粗鬆症による背中や腰の痛み、そして度重なる骨折は、日常生活の自由を奪うだけでなく、寝たきりになるリスクにもつながります。 とくに注意したいのが、太もものつけ根(大腿骨)の骨折です。 この部位を骨折すると、長期間のリハビリが必要になるケースも少なくありません。 高齢になると手術やリハビリの負担は大きく、体力や筋力が一気に落ちがちです。 その結果、自分で歩けなくなり、介護が必要になるケースもあります。 転倒をきっかけに生活が一変することもあるため、日頃から骨の健康を意識しておくことが大切です。(文献7) 骨粗鬆症の症状が気になったら迷わず医療機関へ 骨粗鬆症は、痛みなどのはっきりした症状が出にくく、自分では気づきにくい病気です。 「少し背中が痛いだけ」「年のせいかな」と思っていても、実は骨がもろくなり、骨折のリスクが高まっていることもあります。 そのため、骨折してしまう前に、医療機関で骨の状態を確認しておくことが大切です。 病院では、骨密度の測定やレントゲン検査が行われ、現在の骨の状態や将来的なリスクがわかります。(文献6) 骨粗鬆症は、早めの対策で進行を防げる病気です。 「検査までは…」と迷っている方も、まずは相談だけでもしてみてはいかがでしょうか。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングも受け付けています。 骨粗鬆症の症状について不安がある方や、どこに相談すれば良いかわからない方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。 骨粗鬆症の症状が出たときの対策と治療法 骨粗鬆症の主な治療法は下記のとおりです。 外科治療 薬物療法 生活習慣の見直し かかりつけの医師とも相談しながら、適切な治療を進めていきましょう。 外科治療 骨折が見つかった場合は、状態に応じて外科的な治療が行われます。 もっとも一般的なのは、コルセットやギプスなどを使って骨を固定し、安静に過ごす方法です。 こうすることで骨の回復を促し、痛みを軽減させられます。 背骨の圧迫骨折などでは、簡易的なコルセットを数週間着けるだけで改善するケースもありますが、痛みが強い、骨のつぶれが大きい、骨が不安定な状態にあるといった場合には、手術が検討されることもあります。 おこなわれる手術は、骨を金属で固定する手術、骨にセメントを注入する手術などです。 再発や別の箇所の骨折を防ぐために、治療後も日常生活の工夫やリハビリの継続が大切です。(文献8) 薬物療法 骨粗鬆症の治療では、薬によるサポートも重要です。 薬は大きく分けて2種類あり、ひとつは「骨が溶け出すのを防ぐ薬」、もうひとつは「骨を新しく作る力を高める薬」です。 どちらの薬も「飲めばすぐ治る」わけではなく、継続して使うことで効果が発揮されます。 自己判断で中止してしまうと、せっかく改善していた骨密度が再び低下し、骨折のリスクが高まるおそれがあるため、続けることが大切です。 また、毎日服用するものや週に1回の服用で良いタイプなど、さまざまな種類の薬があります。(文献1) 気になることは医師や薬剤師に相談してみてください。 生活習慣の見直し 骨粗鬆症の予防や進行を抑えるためには、薬や治療だけでなく、毎日の生活習慣にも気を付ける必要があります。 なかでも重要なのが、栄養バランスのとれた食事と、無理のない運動の継続です。 食事の面では、カルシウム・ビタミンD・ビタミンKを意識してとるようにしましょう。(文献1) カルシウムは骨の材料となる栄養素で、牛乳やチーズ、小魚、大豆製品などに豊富に含まれています。 ビタミンDはカルシウムの吸収を助ける働きがあり、鮭や卵黄、きのこ類などから摂取可能です。 ビタミンKは骨の質を高める役割があり、納豆や小松菜などに多く含まれます。(文献9) 運動については、激しい運動をする必要はありません。 散歩や階段の上り下り、買い物など、日常の中で体を動かすことを意識するだけでも太ももの付け根の骨折予防になるといわれています。(文献1) また、喫煙や過度の飲酒は骨を弱くする原因になるといわれています。 これらを控えることも、骨を守る上で大切な生活習慣のひとつです。 生活の中でできる小さな工夫を積み重ねていくことで、将来の骨折リスクを下げ、健やかな毎日を送ることができます。(文献10) 骨粗鬆症の症状があらわれたら早めの受診を心がけよう 背中の痛みや身長の縮みは、骨粗鬆症のサインかもしれません。 骨粗鬆症は、自覚症状が出にくく、気づかないうちに進行してしまう病気です。 そして、いったん骨折すると、その後の生活に大きく影響してしまう可能性もあります。 背中や腰の痛み、姿勢の変化、骨折しやすさなどが気になるときは、できるだけ早めに医療機関に相談してみてください。 骨密度の検査やレントゲン検査を受けることで、自分の骨の状態がわかります。 予防も治療も、早いうちから始めることが大切です。 「まだ大丈夫」と思わず、体からのサインにしっかり目を向けてあげましょう。 骨粗鬆症の症状に関するよくある質問 骨粗鬆症の症状はどんな痛みがありますか? 骨粗鬆症による背骨の圧迫骨折では、「体動時腰痛(たいどうじようつう)」と呼ばれる特徴的な痛みがあらわれることがあります。 とくに、寝ている姿勢から起き上がろうとしたときに鋭い痛みが走り、一度立ち上がってしまえば痛みが軽減されるのが特徴です。(文献11) 骨粗鬆症は男性でもなりますか? 男性でも骨粗鬆症になるケースはあるため、注意が必要です。 骨粗鬆症というと女性の病気と思われがちですが、実は患者の4人に1人は男性だといわれています。 とくに病気や薬、栄養不足などが重なると、男性でも骨密度が低下しやすくなります。(文献12) 男性だから大丈夫とは思わず、違和感があれば早めに検査を受けることが大切です。 参考文献 (文献1) 河路 秀巳,伊藤 博元「骨粗鬆症の診断と治療」『日医大医会誌』5(1),pp41-46,2009,https://www.jstage.jst.go.jp/article/manms/5/1/5_1_41/_pdf (文献2) 折茂 肇「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年版」2015年6月,http://www.josteo.com/data/publications/guideline/2015_01.pdf#page=37 (文献3) 日本臨床内科医会「骨粗鬆症の原因」女性のミカタ,https://jyoseinomikata.jp/osteoporosis/cause.html (文献4) 公益財団法人骨粗鬆症財団「どんな人がなりやすい」骨粗鬆症財団ホームページ,https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/tabid250.html#:~:text=%E9%AA%A8%E7%B2%97%E9%AC%86%E7%97%87%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%9B%A0,%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82&text=%E3%81%BE%E3%81%9F%E3%80%81%E5%8D%B5%E5%B7%A3%E6%91%98%E5%87%BA%E3%83%BB%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85%E3%83%BB,%E9%96%A2%E4%BF%82%E3%81%AA%E3%81%8F%E7%99%BA%E7%97%87%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82 (文献5) 公益財団法人骨粗鬆症財団「骨の健康度チェック表」骨粗鬆症財団ホームページ,https://www.jpof.or.jp/Portals/0/images/osteoporosis/inspection_treatment/03/02/Op_health_check_Leaflet.pdf (文献6) 竹内 靖博.「骨粗鬆症の診断とガイドラインの変遷」『日本内科学会雑誌』111(4),pp732-738,2022,https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/4/111_732/_pdf (文献7) 日本臨床内科医会「骨粗鬆症ってどんな病気?」女性のミカタ,https://jyoseinomikata.jp/osteoporosis/ (文献8) 独立行政法人国立病院機構 村山医療センター「骨粗鬆症に関するご案内」村山医療センターホームページ,https://murayama.hosp.go.jp/orthopedics/illness/kotsusosho.html (文献9) 公益財団法人骨粗鬆症財団「骨粗鬆症における栄養」骨粗鬆症財団ホームページ,https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/nutrition/tabid257.html (文献10) 公益財団法人骨粗鬆症財団「タバコや酒の影響について」骨粗鬆症財団ホームページ,https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/nutrition/cigarette.html (文献11) 一般社団法人日本整形外相学会「骨折について」日本整形外傷学会ホームページ,2009年7月,https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip02.html (文献12) 日本医師会日医ニュース「男性の骨粗鬆症」健康ぷらざ,2018年6月20日,https://www.med.or.jp/dl-med/people/plaza/503.pdf
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「同年代の人が骨粗鬆症で骨折して大変そう。自分は大丈夫かな?」 「骨粗鬆症の検査を受けたことがないから、何をするのかわからない」 このような不安を抱えている方もいらっしゃるでしょう。 骨粗鬆症は自覚症状がないまま進行し、気づいたときには骨が折れやすい状態になっていることもあります。 知らずにそのまま放置してしまうリスクはさらに高まり、実際に骨折して日常生活に影響を及ぼすかもしれません。 だからこそ骨粗鬆症の検査は、自身の骨の状態を知り、早めに適切な対策を始めるための一歩となります。 本記事では、骨粗鬆症の4つの検査方法や検査を受けるべき人の特徴、検査が可能な場所を解説します。 骨の健康について考えるきっかけとなれたら幸いです。 骨粗鬆症の検査方法 骨粗鬆症のおもな検査は、以下のとおりです。 骨密度検査(骨量測定) 血液検査・尿検査(骨代謝マーカーの検査) レントゲン検査 身長測定 これらの検査の結果から、骨粗鬆症の診断や治療方針の決定に必要な情報が得られます。 それぞれ詳しく見ていきましょう。 骨密度検査(骨量測定) 骨密度検査は、骨の中にどのくらいのミネラル成分が含まれているかを調べる検査です。 一般的に、ミネラル成分が少ないほど骨密度が低いとされ、骨がもろく骨折しやすい状態だと考えられています。 骨密度のおもな測定方法は、以下のとおりです。 骨量の測定方法 説明 使用する機械 DXA(デキサ)法 ・脚の付け根と腰の骨密度を測定する ・精度が高い分、時間がかかる レントゲン(X線) MD法 ・手の骨密度を測る ・簡単だが、精度が下がる QUS法 ・かかとの骨密度を測る ・被ばくせず簡便だが、精度の誤差が大きい 超音波 自身の希望や、医療機関によって検査方法は異なります。 たとえば「少し時間がかかってもしっかりとした検査を受けたい」といった方にはDXA法がおすすめです。一方、「まずは手軽に検査してみたい」と考える方にはQUS法が適しています。 まずは、近くの医療機関にどんな検査があるか問い合わせてみるのが良いでしょう。 血液検査・尿検査(骨代謝マーカーの検査) 血液検査や尿検査では「骨代謝マーカー」とよばれる項目を調べます。 ヒトの骨は、新しい骨が作られ、古い骨が壊されて吸収される「骨代謝」のサイクルを常にくり返しています。(文献1) 骨代謝マーカーは骨の代謝の過程で出てくる物質のことで、これらの数値を調べることで骨の「壊れるスピード」と「作られるスピード」のバランスがどうなっているのかがわかるのです。 おもに以下の項目をチェックします。 骨代謝マーカーの種類 検査項目 説明 骨吸収マーカー ・TRAPC5b(酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ) ・DPD(デオキシピリジノリン) ・NTX(Ⅰ型コラーゲン架橋N-テロペプチド) ・CTX(Ⅰ型コラーゲン架橋C-テロペプチド) ・1CTP(Ⅰ型コラーゲンC末端テロペプチド) <高い場合> 骨吸収(骨の破壊)が進んで骨密度の低下を招くリスクがある <低い場合> 骨の代謝が低下している可能性がある 骨形成マーカー ・BAP(骨型アルカリフォスファターゼ) ・OC(オステオカルシン) ・ucOC(低カルボキシル化オステオカルシン) ・P1NP(Ⅰ型コラーゲンN-プロペプチド) ・P1CP(Ⅰ型コラーゲンC-プロペプチド) 骨吸収が起こってはじめて骨形成がはじまるため、単独で高くなることは少ない 参考:骨代謝とは|日本骨代謝学会(文献1) たとえば、骨吸収マーカーが高く、骨形成マーカーが正常である場合「骨が壊れるスピードは速くなっているのに、新しく骨が作られるスピードは普段どおり」といった状態を示しています。 つまり、骨の破壊に形成が追いつかず、骨の量が減少しやすい状況です。 骨代謝マーカーの検査は、骨の代謝のどの部分に異常があるのかを明らかにします。 それによって、将来的に骨密度がどのくらい減少しやすいのか、骨折のリスクが高いのかを評価できるのです。 レントゲン検査 レントゲン検査は、骨折や骨の変形の有無、骨の密度を確認するためにおこないます。(文献2) 骨粗鬆症が進行している場合、次のような変化が画像に現れることがあります。(文献3) 背骨が変形している 骨の中の網目模様がはっきり見えない 背骨全体がいつもより黒っぽく見える また、気づかないうちに起きている背骨の小さな骨折を発見するのにも、レントゲン検査は有効です。 たとえば高齢者では、骨粗鬆症によって軽い衝撃で背骨が折れてしまうケースが少なくありません。(文献4) こうした骨折を早期に発見し、治療や予防につなげる役割を果たすのが、レントゲン検査です。 なお、レントゲンによる被ばく線量は少なく、健康への影響もほとんどないと言われているため、過度に心配せず検査を受けてみましょう。 身長測定 身長の測定は、骨粗鬆症による背骨の圧迫骨折や変形を早期発見する手がかりになります。 とくに背骨がつぶれるように変形すると、数センチ単位で身長が縮むことも少なくありません。 いくつかの海外研究では、若いころと比較して身長の低下がある場合、背骨の骨折のリスクが高まると報告しています。(文献2) 25歳頃の身長と比較してどの程度縮んでいるかの確認が、骨粗鬆症の診断に役立ちます。 【検査推奨】骨粗鬆症になりやすい人の特徴 骨粗鬆症は、以下にあてはまる方に起こりやすいと言われています。(文献5) 閉経後の女性 高齢 やせ型 運動不足 喫煙、飲酒 骨折既往歴 ステロイド服用歴 遺伝(家族に骨粗鬆症の人がいる) これらの項目にあてはまるようでしたら、一度、骨の健康状態について検査を受けることをおすすめします。 「自分はどうなのだろう」と少しでも不安に感じたら、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。 メール相談やオンラインカウンセリングに対応しているため、来院する手間もかかりません。ぜひご活用ください。 骨粗鬆症の検査は「整形外科」で受けるのが一般的 骨粗鬆症の検査は、整形外科で受けるのが一般的です。 整形外科は「骨の専門家」であり、検査から診断、治療までスムーズに進められるメリットがあります。 整形外科に限らず、内科や婦人科でも検査に対応している場合があります。 とくに女性ホルモンの影響が気になる方は、婦人科で相談するのも選択肢の一つです。 また、自治体によっては健康診断の一環として骨密度検診を実施していることもあり、多くは指定された医療機関や検診センターで検査を受けます。 どこで検査を受けるか迷ったら、まずはかかりつけ医に相談したり、近くの整形外科のホームページで検査の実施状況を確認してみてはいかがでしょうか。 骨粗鬆症の検査にかかる費用 骨粗鬆症の検査を医療機関で受けた場合にかかる費用の目安は、以下のとおりです。 検査の種類 費用相場 骨密度検査(DXA法) 全額自己負担:約4,500円 3割負担:約1,350円 1割負担:約450円 血液検査 全額自己負担:約1万円 3割負担:約3,000円 レントゲン検査 全額自己負担:約2,500円 3割負担:約650円 自治体の検診や健康保険組合の補助で検査を受けるときは、自己負担が無料または数百円程度と安くすむことがあります。 骨粗鬆症の検査を受けるタイミング 骨粗鬆症の検査を受けるタイミングは、以下がおすすめです。 市町村の健診時期になったら 40歳を超えたら 関節痛・背が縮んだ感覚など気になる症状が現れたら 自身の状況と照らし合わせて、受けるタイミングを検討する参考にしてください。 市区町村の健診時期になったら 市区町村で実施される特定健診やがん検診の機会に、対象年齢に該当する場合や、追加で申し込むことで、骨粗鬆症の検査を受けられます。 骨粗鬆症の検診は、健康増進法にもとづき40歳〜70歳の女性を対象に5歳刻みの年齢でおこなわれています。(文献5) 自治体によっては男性も対象にしていたり、対象年齢を拡大したりしている場合もあるため、お住まいの市区町村のホームページで確認し、積極的に活用しましょう。 40歳を超えたら 骨粗鬆症は、閉経後の女性や50歳以上の高齢者に多い病気です。(文献7) 「まだ若いから大丈夫」と思いがちですが、実は骨の量は20代〜30代で最大となり、その後は徐々に減少します。そのため、40歳を過ぎたら一度骨の健康状態をチェックしておくことをおすすめします。 また、男性も決して他人事ではありません。 女性と同じく、年齢を重ねるごとに骨密度が低下するリスクは高まるため、少なくとも50歳を過ぎたら一度は検査を受けておきましょう。 関節痛・背が縮んだ感覚など気になる症状が現れたら 突然の背中や腰の違和感、身長が縮んだ感覚、姿勢の変化などがあれば骨折の兆候かもしれません。 骨粗鬆症が進み、気づかぬうちに骨折していることもあるため、気になる症状が現れたら早めに医療機関で検査を受けましょう。 骨粗鬆症の検査で「要注意」と言われたらすべきこと 骨粗鬆症の検査の結果「骨密度が少し低い」「要注意」などの診断を受けたときにすべきことは、以下のとおりです。 医師の指示をもとに再検査や適切な治療を受ける 骨を強くする栄養を意識した食生活に見直す 運動習慣を取り入れて骨への刺激を増やす 転倒を防ぐ生活環境へ整える 一つずつ見ていきましょう。 医師の指示をもとに再検査や適切な治療を受ける 検査結果について医師から詳しい説明を受け、今後の対応について相談しましょう。 必要に応じて、再検査や生活習慣の改善のアドバイスを受けたり、薬物治療を検討したりします。 「まだ大丈夫だろう」と自己判断で放置してしまうと、骨がもろくなり、骨折のリスクを高めてしまう恐れがあります。 医師の指示を守り、適切な対策を講じることが大切です。 骨を強くする栄養を意識した食生活に見直す 「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」によると、以下の3つの栄養素が骨粗鬆症の治療で重視されています。(文献2) 栄養素 骨への作用 おもな食材 カルシウム ・骨の主成分となる ・骨密度を維持する ・牛乳 ・チーズ ・ヨーグルト ・干しえび ビタミンD ・カルシウムの吸収を助けて骨に定着させる ・日光を浴びると体内でもつくられる ・鮭 ・サンマ ・きくらげ ・干ししいたけ ビタミンK ・骨にカルシウムを取り込むのを助ける ・納豆 ・ブロッコリー ・小松菜 ・ほうれん草 参考:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン|日本骨代謝学会(文献2) とくにカルシウムはビタミンDと一緒に摂ることで吸収率がアップします。 ヨーグルトにきな粉をかける、鮭ときのこを一緒に調理するのも、手軽に取り入れられるためおすすめです。 これらを取り入れた、バランスの良い食生活を心がけましょう。 運動習慣を取り入れて骨への刺激を増やす 活発にからだを動かしている方は、骨粗鬆症による骨折が少ないとした研究結果が多く報告されています。(文献2) 具体的には、以下の運動が骨密度の上昇をもたらしたとされています。(文献2) ウォーキング ジョギング ダンス ジャンプ まずは、自身に合った無理のない運動を見つけて、習慣にすることから始めてみましょう。 転倒を防ぐ生活環境へ整える 骨粗鬆症の方は骨がもろくなっているため、転倒による骨折のリスクが高まります。 日常生活の中に以下のような工夫を取り入れて、転倒を防ぎましょう。 室内の段差をなくす 滑りにくいマットを使用する 足元が明るいように照明を工夫する 階段や廊下には手すりを設置する 転倒防止が、骨折や寝たきりを防ぐ第一歩になります。 自宅内に危険な場所がないか、改めて確認してみてください。 生活習慣を見直す 喫煙や過度の飲酒は、骨折のリスクを高めることがわかっています。(文献2) ガイドラインでも、以下のように推奨されています。(文献2) 喫煙を始めない 喫煙習慣のある方は禁煙する 1日のエタノール量を24g未満とする また、塩分やカフェインの過剰摂取もカルシウムをからだの外に出しやすくしてしまうことがわかっています。(文献9) 骨の健康を守るため、これらの成分の摂りすぎには注意しましょう。 骨粗鬆症の検査で自分の骨の状態を知ろう 骨粗鬆症は静かに進行し、骨折として突然現れることがあります。 だからこそ、骨密度をはじめとする検査で、早期に骨の状態を知ることが大切です。 とくに女性や高齢の方、生活習慣に不安を感じる方には、積極的な検査をおすすめします。 「要注意」と診断された場合も、適切な食事や運動、医師との連携によって、骨の健康を維持できます。 自身の骨の状態と向き合うために、まずは検査を受けるところから始めましょう。 「自分の骨の状態は大丈夫なのかな」と不安を感じたら、当院「リペアセルクリニック」のメール相談またはオンラインカウンセリングまでお気軽にご相談ください。 骨粗鬆症の検査についてよくある質問 骨密度の検査はどうやってやるのですか? 骨密度の検査は、骨の中にあるカルシウムをはじめとしたミネラルの量を測定し、骨の強さ(密度)を数値化するものです。 もっとも一般的なのはDXA法と呼ばれる検査で、腰の骨や太ももの骨にX線を当てて測定します。 検査時間は、準備や着替えを含めて10〜15分程度です。 ほかにも手首やかかとを使うMD法やQUS法といった簡易検査もありますが、精度はDXA法がもっとも高いと言われています。 骨密度測定は自宅でできますか? 原則として、正確な骨密度測定は医療機関でおこなう必要があります。とくに検査の精度が高いDXA法は、医療機関の専用装置が不可欠です。 家庭用の体組成計で「推定骨量」を計測できるものも存在しますが、骨密度を測定するものではありません。 手首やかかとで骨密度を測れるものも家庭用で作られていないため、自宅で骨密度測定をおこなうのは現実的ではないでしょう。 本格的な診断を希望する場合は、医療機関で検査を受けるのをおすすめします。 参考文献 (文献1) 骨代謝とは|日本骨代謝学会 https://jsbmr.umin.jp/basic/kotutaisha_ma.html (文献2) 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン|日本骨代謝学会 https://jsbmr.umin.jp/pdf/GL2015.pdf (文献3) Q&A Vol.337 【どうやって見ればいい?】骨粗鬆症の画像に関するQ&A | 日本離床学会 https://www.rishou.org/for-memberships/qa/qa-vol-337#/ (文献4) 「脊椎椎体骨折」|日本整形外科学会 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/vertebral_compression_fracture.html (文献5) 健康増進事業実施要領|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/14.pdf (文献6) どんな人がなりやすい|公益社団法人骨粗鬆症財団 https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/tabid250.html (文献7) International Osteoporosis Foundation. Epidemiology. https://www.osteoporosis.foundation/health-professionals/about-osteoporosis/epidemiology (文献8) 骨そして筋肉の健康における栄養素・非栄養素の役割 骨と栄養素の視点から|田中清ら https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs/76/5/76_283/_pdf
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「中枢神経障害とは何か知りたい」「中枢神経障害の原因や治療法を知りたい」といった疑問を持っている方もいるでしょう。 中枢神経障害は、脳および脊髄の構造または機能に異常が生じる神経疾患です。原因疾患によって適切な治療法が異なるため、中枢神経障害が疑われる場合は、早めに医療機関を受診する必要があります。 今回は、中枢神経障害の初期症状から治療法までわかりやすく解説します。中枢神経障害について理解を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。 中枢神経障害とは 中枢神経障害とは、中枢神経系を形成する脳または脊髄の構造や機能に異常が生じて発症する神経疾患です。 中枢神経は、身体の動きや感覚、思考、記憶、感情など、あらゆる機能を制御する司令塔の役割を果たしています。そのため、中枢神経系に異常が生じると、障害を受けた部位やその範囲に応じて、さまざまな症状が現れる可能性があります。 なお、中枢神経障害は原因によって症状や治療法が異なるため、早期の診断と適切な治療が重要です。 中枢神経障害の原因と種類 中枢神経障害の原因は、主に以下の5つに分類できます。 原因疾患の特定は、中枢神経障害の適切な診断と治療につながります。以下で、それぞれ詳しく見ていきましょう。 血管性疾患 血管性疾患は、中枢神経障害の原因の一つです。血流が悪くなったり遮断されたりすると、脳や脊髄の神経細胞が損傷を受けます。代表的な血管性疾患は、以下の通りです。 脳梗塞 脳出血 くも膜下出血 身体の麻痺のほか、言語障害・視覚障害・意識障害などが現れる場合があります。 神経変性疾患 神経変性疾患も中枢神経障害の一因になります。神経変性疾患とは、神経細胞が徐々に変性・消失する疾患です。主な神経変性疾患は、以下の通りです。 パーキンソン病 アルツハイマー病 ALS(筋萎縮性側索硬化症) パーキンソン病を発症すると、ドーパミンを生産する神経細胞が減少し、運動障害を引き起こします。また、アルツハイマー病を発症すると、記憶を司る脳の神経細胞が徐々に破壊されることにより、認知機能が低下します。 炎症性疾患 免疫系の異常や感染症によって引き起こされる炎症性疾患も、中枢神経障害の原因の一つです。炎症性疾患の代表例は、以下の通りです。 多発性硬化症 脳炎 多発性硬化症を発症すると、免疫系が神経の保護膜を攻撃し、神経伝達に障害を引き起こします。また、ウイルスや細菌感染による脳の炎症も中枢神経障害の原因になります。 外傷性疾患 外傷性疾患も中枢神経障害の原因の一つです。交通事故やスポーツなど、外部からの物理的な衝撃が中枢神経に影響を与える場合があります。 脊髄損傷 頭部外傷 外傷性疾患による中枢神経障害は回復に時間がかかるほか、重篤な後遺症が残るケースも珍しくありません。 感染性疾患 ウイルスや細菌による感染性疾患によって、中枢神経障害に陥ることもあります。中枢神経障害の原因になる感染疾患は、主に以下の通りです。 髄膜炎 日本脳炎 中枢神経系がウイルスや細菌に感染すると、炎症を引き起こします。感染性疾患による後遺症が深刻化しないよう、適切な治療が必要です。 中枢神経障害の症状 中枢神経障害の症状はダメージを負った部位や程度によってさまざまです。具体的には、主に以下のような症状が現れます。 障害の種類 具体的な症状 主な原因疾患 運動障害 手足の麻痺や震え 手足が動かしにくい 脳卒中 パーキンソン病 感覚障害 視覚や聴覚、触覚に異常を感じる 脳腫瘍 脳卒中 認知機能障害 記憶力の低下 判断力の低下 アルツハイマー病 精神的障害 不安 抑うつ 幻覚 パーキンソン病 アルツハイマー病 なお、原因疾患によって、症状の進行は異なります。症状を改善するためには、それぞれ原因疾患に対する治療が必要です。 中枢神経障害の治療法 中枢神経障害の治療法として、主に以下の選択肢があります。 薬物療法 リハビリテーション 再生医療 中枢神経障害の原因疾患のなかには、根治が難しい疾患も少なくありません。それぞれの治療法について解説するので、医師と相談しながら、適切な治療法を検討してください。 薬物療法 中枢神経障害の治療では、原因疾患に応じて薬物療法が選択されることが多いです。症状に応じて、痛みを軽減するための鎮痛剤や、精神的な不安を抑える精神安定剤のほか、抗てんかん薬や抗うつ薬などが投与されます。 たとえば、神経変性疾患やパーキンソン病、アルツハイマー病などに対しては、症状の進行を遅らせるために薬物療法が選択されるのが一般的です。なお、中枢神経障害の疾患の多くは治療法が確立されておらず、薬物療法は単なる対症療法に留まるとされています。(文献1) リハビリテーション 中枢神経障害において、リハビリテーションは疾患により低下した運動機能や、認知機能の改善を目指す治療法です。 具体的には、理学療法士による運動療法、作業療法士による日常生活動作の訓練、言語聴覚士によるコミュニケーション能力の向上を図る訓練などがおこなわれます。 また、認知機能を維持・向上させるための脳トレーニングや、心理的な支援も中枢神経障害におけるリハビリテーションの一環です。 なお、中枢神経疾患のリハビリテーションは、数週間から数カ月にわたって継続されることが多いです。なかでも、パーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)など、進行性の疾患に対しては、リハビリ期間が長期化する場合があります。 再生医療 再生医療も、中枢神経障害の治療における選択肢の一つです。再生医療とは、自然治癒力を最大限に引き出すための医療技術で、幹細胞や血小板の投与によって症状改善を目指す治療法です。 リペアセルクリニックでは、中枢神経障害の原因となる脳梗塞や脳卒中、脊髄損傷に対する再生医療をおこなっています。 当院の幹細胞治療は、少量の脂肪を採取するだけで、十分な量の細胞を培養できる点が特徴です。そのため、身体への負担が少なくて済みます。 再生医療による治療法や具体的な症例について知りたい方は、以下のページをご覧ください。 なお、リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。中枢神経障害の症状でお悩みの方は、ぜひ気軽にご相談ください。 中枢神経障害は原因に合わせて適切な治療法を検討しよう 中枢神経障害とは、脳や脊髄などの中枢神経に異常が生じ、手足のしびれや感覚異常、認知機能の低下といったさまざまな症状を引き起こす疾患です。原因は脳卒中や脊髄損傷、パーキンソン病、アルツハイマー病など多岐にわたり、疾患ごとに治療法が異なります。 中枢神経障害は、早期発見と適切な治療により、症状を改善したり進行を遅らせたりすることが可能です。薬物療法やリハビリテーション、再生医療など、医師の診断のもと適切な治療法を検討しましょう。 中枢神経障害に関するよくある質問 中枢神経障害の診断方法は? 中枢神経障害の診断には、主に以下の検査が用いられます。 MRI(磁気共鳴画像法) CT(コンピュータ断層撮影) 脳波検査 脳脊髄液検査 脳や脊髄の構造や機能を評価するため、一般的に複数の手法を用いて診断されます。 中枢神経障害と末梢神経障害の違いは? 中枢神経障害は、脳や脊髄などの中枢神経系に発生する障害です。 一方で、末梢神経障害は、手足や体幹に伸びる末梢神経に生じる障害のことです。末梢神経障害は、糖尿病や自己免疫疾患などが原因で、手足のしびれや筋力低下といった症状を引き起こします。 中枢神経障害は治る? 中枢神経には再生を阻害する因子が多く存在し、自然に修復されにくいといわれています。(文献2)そのため、中枢神経障害は、原因疾患によって根治が難しい疾患です。 ただし、近年の医療技術の進歩により、リハビリテーションや再生医療を通じて、一定の改善が見込まれる場合もあります。 参考文献 ((文献1) 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「中枢神経疾患治療薬の承認審査の現状と DDS への期待」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/34/5/34_385/_pdf (最終アクセス:2025年5月20日) (文献2) 大阪大学大学院 医学系研究科 分子神経科学「失われた神経回路を取り戻すために」 https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/molneu/researchp1.html (最終アクセス:2025年5月20日)
2025.05.30 -
- 関節リウマチ
- 内科疾患
「最近、手や膝が痛むようになってきた」 「更年期の影響だと思っていたが、もしかするとリウマチなのではないか?」 更年期に入り、関節痛に悩まされている方の中には、このような不安を抱えている方もいらっしゃるでしょう。 ご家族にリウマチの方がいる場合は、とくに不安が強いのではないでしょうか。更年期関節痛とリウマチには、発症年齢や関節痛以外の症状などの違いがあります。 本記事では、更年期関節痛とリウマチの違いや治療法、セルフケアについて解説します。両者の違いを理解して適切な治療を受けるためにも、ぜひ最後までご覧ください。 更年期関節痛とリウマチの違い この章では、更年期関節痛とリウマチの違いについて説明します。 更年期関節痛とは 更年期関節痛とは、更年期に伴う身体症状の1つです。 近年になって、女性ホルモンの一種であるエストロゲンが減少すると、関節痛や腫れ、しびれが生じることが明らかになりました。エストロゲンには、関節や腱を保護する滑膜の腫れを抑える働きがあります。エストロゲン減少により生じた関節痛や腫れなどが、更年期関節痛と呼ばれます。 主な更年期関節痛は、以下のとおりです。 関節痛の種類 特徴 へバーデン結節 手指の第1関節に症状が現れる ブシャール結節 手指の第2関節に症状が現れる 母指CM関節症 親指の付け根に症状が現れる ばね指 曲げた手指が伸ばしにくくなる ドケルバン病 親指側の手首が痛む 手根管症候群 手のひらが痛んだりしびれたりする 手の関節だけではなく、膝や肩など複数の部分で関節痛が生じる場合もあります。 以下の記事では、ブシャール結節について詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 リウマチとは 関節リウマチは自己免疫疾患の1つです。 関節内の滑膜が自分の免疫によって攻撃されたために、手指の関節痛や腫れ、朝のこわばりといった症状が現れます。進行すると関節の変形や破壊が見られるようになります。 免疫システムの異常や、喫煙をはじめとする環境要因、遺伝的要因が発症に関与していると考えられていますが、現時点で原因は特定されていません。 関節リウマチについては以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 更年期関節痛とリウマチの違いを見分けるポイント 更年期関節痛とリウマチの違いを以下に示します。 更年期関節痛 関節リウマチ 発症年齢と性別による違い 40~50代の女性に多い 閉経前後の10年間に発症しやすい 30~50代の女性に多い 60代以上で発症する場合は、性別による差は少ない。 症状による違い 手指以外にも、膝や肩など複数の部分で関節痛が生じる 関節の腫れは見られない、もしくは軽度 更年期が過ぎると自然に軽減する 関節痛以外の症状としては、体のほてり、発汗、動悸、イライラなどが見られる 手指の関節痛が特徴的(膝や足にも症状が出る場合もある) 関節の腫れやこわばり、熱感などが見られる 徐々に進行し、関節の変形や破壊が生じるケースもある 関節痛以外に、微熱や食欲不振、倦怠感などが見られる 更年期関節痛では時間の経過とともに症状が軽減するケースが多い一方で、関節リウマチは症状が徐々に進行する点が大きな違いといえるでしょう。 更年期関節痛の治療とケア方法 更年期関節痛の治療やケア方法は、主に以下のとおりです。 ホルモン補充療法 薬物療法 日常生活におけるセルフケア ホルモン補充療法 更年期で減少したエストロゲンを補充する治療法です。 子宮を摘出された方の場合はエストロゲンのみを補充しますが、それ以外の方は、エストロゲンと黄体ホルモンを併用します。子宮がある方の場合、エストロゲンのみを補充すると、子宮内膜が異常に増殖する「子宮内膜増殖症」のリスクがあるためです。(文献1) 薬物療法 ホルモン剤以外の薬物療法では、アスピリンやロキソニンといった消炎鎮痛剤や漢方薬などが多く用いられます。 関節痛以外の症状がある場合は、向精神薬や自律神経調整薬も処方されます。 日常生活におけるセルフケア 痛みのない範囲でのストレッチやマッサージは、セルフケアとしておすすめです。血行が促進されて、関節が動きやすくなります。ただし、強く痛むときは安静にしましょう。 バランスの良い食事や適度な運動、睡眠などで生活リズムを整えることもセルフケアの1つです。規則正しい生活は、ホルモンバランスを整えることにつながります。(文献2) 食事においては、女性ホルモンに似た働きをする大豆イソフラボンや、ホルモンバランスを整える働きがあるビタミンEなどを積極的に摂りましょう。ビタミンEが多く含まれる食品は、かぼちゃやほうれん草、アーモンドなどです。(文献3)、(文献4) 更年期関節痛のセルフケアについては、以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 リウマチの治療とケア方法 関節リウマチの治療の中心は薬物療法です。 抗リウマチ薬や生物学的製剤、JAK阻害薬などが主に用いられるほか、ステロイド剤や非ステロイド性の消炎鎮痛剤が処方される場合もあります。 関節の変形や破壊が進んだ場合は、手術も選択肢に含まれます。 セルフケアとして第一に挙げられるのは禁煙です。それ以外のセルフケアとしては、栄養バランスの良い食事や適度な運動、休息などが挙げられます。 関節リウマチの治療や予防策については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 更年期関節痛とリウマチの違いに関わらず早めの受診を心がけよう 更年期関節痛とリウマチは原因や発症時期、症状に違いはあるものの、どちらも関節痛が続く疾患です。 更年期関節痛の場合は更年期が終わると徐々に回復しますが、リウマチは進行性であるため、放置しておくと関節の変形や破壊などの症状も現れます。 どちらの場合でも早期発見および、早期治療が大切です。関節痛が続いている方は、整形外科やリウマチ科、婦人科などの医療機関を受診しましょう。 当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。関節痛でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。 更年期関節痛とリウマチの違いに関するよくある質問 更年期関節痛とリウマチを同時に発症する可能性はありますか? 更年期関節痛とリウマチを同時に発症する可能性はあります。 更年期は、女性ホルモンの1つであるエストロゲン減少によりさまざまな心身の症状が発生する時期です。エストロゲンは、免疫系にも影響を与えるホルモンで、炎症を抑える働きがあります。 エストロゲン減少で免疫のバランスが崩れると、リウマチを発症するリスクが高まります。関節痛がある場合は、原因に関わらず、早急に医療機関を受診しましょう。 更年期障害による関節痛はいつまで続きますか? 更年期障害による関節痛は、更年期が終わると徐々に回復に向かいます。しかし、関節痛の原因が更年期ではなくリウマチの可能性もあります。 更年期関節痛とリウマチを同時に発症している場合もあるため、関節痛が続くときは放置せず、早急に医療機関を受診しましょう。 (参考文献) (文献1) 東京医科大学病院 薬剤部「お薬のしおり 更年期障害について」2022年 https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/yakuzai/data/240.pdf (最終アクセス:2025年5月22日) (文献2) 全国健康保険協会 栃木支部「ホルモンバランスを整えてグッドコンディションを手に入れよう!」 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/file/060911104606.pdf (最終アクセス:2025年5月22日) (文献3) 公益財団法人中国労働衛生協会「更年期の健康課題」2024年 https://churou-wp.sub.jp/wordpress2/wp-content/uploads/2024/02/2201f33f600bac8744116a4596d7c057.pdf (最終アクセス:2025年5月22日) (文献4) 国立研究開発法人 医療基盤・健康・栄養研究所「ビタミンE」「健康食品」の安全性・有効性情報, 2020年11月5日 https://hfnet.nibn.go.jp/vitamin/detail176/#002 (最終アクセス:2025年5月22日)
2025.05.30 -
- 関節リウマチ
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「関節リウマチで治療を受けているけれど、最近いつもと違う症状が出てきた」 「関節リウマチの合併症にはどのようなものがあるのだろう?」 関節リウマチの治療を受けている方の中には、合併症に関する不安を抱えている方も多いことでしょう。関節リウマチの合併症には、間質性肺炎や骨粗しょう症、シェーグレン症候群などがあります。 本記事では、関節リウマチの合併症および原因、予防のポイントなどを解説します。合併症に関する疑問や不安解消のきっかけになりますので、ぜひ最後までご覧ください。 関節リウマチの主な合併症 関節リウマチの主な合併症として挙げられる7つの疾患を以下に示します。 間質性肺炎 骨粗しょう症 シェーグレン症候群 貧血 アミロイドーシス 肝機能障害 腎機能障害 間質性肺炎 間質性肺炎とは、肺の間質(肺胞壁および肺胞を支える組織)を中心に炎症をきたす疾患です。炎症が進むと、肺全体が固くなります。 主な症状は、息苦しさや乾いた咳(痰を伴わない咳)などです。 進行すると呼吸不全の状態になるケースもありますが、呼吸不全まで進まない種類の間質性肺炎もあります。 骨粗しょう症 骨粗しょう症とは、骨量の減少や骨質の劣化などが原因で骨がもろくなり、骨折しやすくなる疾患です。骨粗しょう症の患者数は、全国で約1,280万人といわれています。(文献1) 骨粗しょう症には閉経後骨粗しょう症や続発性骨粗しょう症などの種類があり、関節リウマチ合併症由来のものは、続発性骨粗しょう症に分類されます。 骨粗しょう症自体は、自覚症状を感じにくい疾患です。症状がないまま徐々に骨が弱くなり、腰椎や大腿骨の骨折などを引き起こす可能性があります。 大腿骨の骨折は、歩行困難や寝たきりを引き起こす大きな原因の1つとされています。 骨粗しょう症については、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 シェーグレン症候群 シェーグレン症候群は、関節リウマチと同様、自己免疫疾患の1つです。(文献2) 涙腺や唾液腺などの慢性的な炎症が起こり、ドライアイやドライマウス、鼻の乾燥などの症状が現れます。 関節リウマチの合併症は二次性シェーグレン症候群と呼ばれており、他の合併症が見られないものは、一次性シェーグレン症候群と呼ばれます。一次性シェーグレン症候群には、病変が全身に及ぶタイプも存在します。(文献2) 貧血 関節リウマチの方は、慢性的な炎症や抗リウマチ薬の副作用などにより、貧血を合併しやすい状況です。 貧血にはさまざまな種類があり、関節リウマチによるものは、鉄分が足りなくなることで起こる小球性低色素性貧血に分類されます。 関節リウマチと貧血の関係については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 アミロイドーシス アミロイドーシスとは、アミロイドと呼ばれる異常なタンパク質が、脳や心臓、腎臓、消化管、神経などのさまざまな臓器に付着し、機能障害を起こす疾患です。 アミロイドーシスには、複数の臓器にアミロイドが付着する全身性と、特定の臓器にアミロイドが付着する限局性があります。 また、アミロイドーシスは遺伝性と非遺伝性にわかれており、多くの患者は非遺伝性です。関節リウマチ合併症によるものも、非遺伝性アミロイドーシスに分類されます。 肝機能障害 関節リウマチに合併する肝機能障害の多くは、薬剤性のものです。とくに、抗リウマチ薬であるメトトレキサートの副作用で肝機能障害が起こりやすいとされています。 リウマチの薬の影響でB型肝炎やC型肝炎のウイルスが活性化し、無症状の方が発症する場合もあります。 自己免疫疾患の一つである関節リウマチでは、他の自己免疫疾患を合併するケースも少なくありません。肝臓疾患としては、自己免疫性肝炎や原発性胆汁性胆管炎などがあります。 腎機能障害 関節リウマチ合併症としての腎機能障害は、ネフローゼ症候群や腎不全などアミロイドーシスに関係しているものが多い状況です。抗リウマチ薬や消炎鎮痛剤の副作用による腎機能障害もあります。 腎機能障害の症状としては、全身の倦怠感やむくみ、タンパク尿などが挙げられます。 関節リウマチと腎機能障害の関係については、以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。 関節リウマチの合併症が生じる原因 関節リウマチの合併症が生じる原因としては、疾患そのものに加えて薬の副作用が挙げられます。 間質性肺炎や骨粗しょう症、シェーグレン症候群などは関節リウマチ由来の合併症であり、肝機能障害は、薬の副作用であることが多い状況です。 腎機能障害には、アミロイドーシスに由来するものや薬の副作用によるものがあります。 関節リウマチの合併症予防と早期発見のポイント 関節リウマチの合併症予防および早期発見のポイントは、主に以下の2つです。 生活管理 定期的な受診 生活管理 関節リウマチ悪化予防のために一番望ましい行動は、禁煙です。(文献3)寝る前や食後の歯磨きや、歯科検診などの歯周病予防も欠かせません。歯周病は関節リウマチ発症や悪化に関係するためです。 貧血や骨粗しょう症といった合併症予防のためには、カルシウムや鉄分の多い、栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。 関節リウマチは抗リウマチ薬やステロイド剤の影響で、感染症を引き起こしやすいとされています。(文献4)手洗いやうがいといった日頃からの感染予防に加えて、必要に応じて各種予防接種を受けましょう。 定期的な受診 合併症の予防や早期発見のためには、定期的に医療機関を受診し、必要な診察および検査を受けることが大切です。いつもと違う症状があるときは、ためらわずに受診し、主治医へ状況を伝えましょう。 症状がないときに受診や内服を中断すると、関節リウマチそのものが悪化してしまい、合併症のリスクも高まります。自己判断での服薬中断は避けてください。 関節リウマチの薬については、以下の記事で解説しています。あわせてご覧ください。 関節リウマチで合併症を引き起こさないためにも継続的な治療が大切 関節リウマチの合併症は、疾患そのものによるものから薬の副作用まで多くの種類が存在します。 合併症予防および早期発見・治療のためにも、日頃から薬の内服を続け、いつもと違う症状があれば、速やかに医療機関を受診しましょう。いつもと違う症状を放置しないことが大切です。 当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。関節リウマチおよび合併症についても、お気軽にご相談ください。 関節リウマチの合併症に関するよくある質問 関節リウマチの合併症で亡くなることはありますか? 関節リウマチ合併症の中でも、狭心症や心筋梗塞、脳出血、脳梗塞などの心血管イベントを発症すると、重症の場合亡くなることもあります。(文献5) 関節リウマチは、関節だけではなく血管にも炎症を起こすことがあるため、血管の狭窄や血栓が発生しやすい状況です。そのため心血管イベントにつながる可能性が高いとされています。 合併症の1つである間質性肺炎も、重症化したり急激に悪化したりすると命に関わる場合も少なくありません。(文献6) シェーグレン症候群を治療しないとどうなりますか? シェーグレン症候群を治療しないと、別の病気を発症していることに気づけないリスクがあります。 シェーグレン症候群は現段階では完治が難しいものの、予後は良好とされる疾患です。しかし、経過観察中に間質性肺炎や腎不全、リンパ腫を発症する場合もあります。(文献2)そのため発症後は、定期的な治療や経過観察が必要です。 関節リウマチの合併症で多いのは何ですか? 関節リウマチの合併症はさまざまであるため、どれが一番多いとの断定は難しい状況です。 合併症の1つである間質性肺炎は、関節リウマチ患者の約10~30%に見られています。(文献6) それ以外の合併症としては、肝機能障害や腎機能障害、骨粗しょう症、貧血、シェーグレン症候群、各種感染症などがあります。 (参考文献) (文献1) 公益財団法人 骨粗鬆財団「病気について」 https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/faq/faqabout.html(最終アクセス:2025年5月22日) (文献2) 順天堂大学医学部附属順天堂医院「シェーグレン症候群」膠原病・リウマチ内科 https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/collagen/disease/disease03.html(最終アクセス:2025年5月22日) (文献3) 一般社団法人日本リウマチ学会「リウマチ・膠原病を心配したら」一般社団法人日本リウマチ学会ホームページ https://www.ryumachi-jp.com/general/collagen-diseases/(最終アクセス:2025年5月22日) (文献4) ファイザー株式会社「日常生活の注意点 関節リウマチと感染予防」リウマチeネット https://www.riumachi.jp/life/caution/infectionprevention(最終アクセス:2025年5月22日) (文献5) 公益財団法人日本リウマチ財団「心血管イベント」リウマチ情報センター https://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/rheuma/complications/shinkekkan_event/(最終アクセス:2025年5月22日) (文献6) 東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター「肺炎,間質性肺炎」,2015年6月1日 https://twmu-rheum-ior.jp/diagnosis/ra/ra-complications/ip.html(最終アクセス:2025年5月22日)
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「手の指が腫れていて、こわばる感じがする」 「これは関節リウマチの症状なのだろうか」 「血縁者にリウマチ患者がいるので、遺伝したのではないか」 関節リウマチと思われる症状と遺伝に関して、お悩みの方もいらっしゃることでしょう。 関節リウマチ発症には遺伝的要素もありますが、確実に遺伝するものではありません。環境要因も発症に関係するためです。 本記事では、関節リウマチと遺伝の関係性やその他の要因、予防法などについて解説します。 遺伝に関する疑問が解消できますので、ぜひ最後までご覧ください。 関節リウマチと遺伝の関係 関節リウマチは、自分の免疫が関節の滑膜を攻撃することで関節炎を引き起こす疾患です。 関節リウマチを発症する原因は現在も完全には解明されていません。しかし、関節リウマチを含む自己免疫疾患には遺伝的な背景があるとされています。 親が関節リウマチである場合、子の発症リスクは約3倍になるといった報告もあるほか、患者の三親等以内の血縁者は33.9%の確率で発症するとされています。(文献1)(文献2) 三親等以内とは、子や孫、ひ孫、きょうだい、甥、姪といった範囲です。親や祖父母、曾祖父母、おじ・おばも三親等以内の血縁者に入ります。 一卵性双生児での発症一致率は12~15%程度、二卵性双生児やきょうだい間の発症一致率は2~4%程度とされています。(文献3) しかし、関節リウマチは確実に遺伝する疾患ではありません。遺伝的背景に加えて環境要因も関係するためです。血縁者に関節リウマチ患者がいても発症しない場合がありますし、血縁者に関節リウマチ患者がいない方でも発症するケースがあります。 関節リウマチと遺伝の関係については、下記の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 関節リウマチの発症に関わる遺伝子 関節リウマチの発症に関わる遺伝子は、主に以下のとおりです。 HLA PTPN22 PADI4 CCR6 IL2RA TNFAIP3 TYK2 IRF5 IRAK1 CD40 この中でも、関節リウマチ発症に比較的大きな影響を持つのがHLA遺伝子(ヒト白血球抗原遺伝子)です。 HLA遺伝子は、クラスⅠからクラスⅢまでの3領域にわかれます。(文献4)クラスⅡの1つ「HLA-DRB1遺伝子」が関節リウマチと深い関係にあるとの研究結果が示されています。(文献5) 関節リウマチにおける主な検査 関節リウマチにおける主な検査は、血液検査や画像診断などです。 血液検査では免疫反応や炎症反応を調べ、画像診断では関節の炎症や破壊の状況を直接調べます。 関節リウマチの遺伝子検査は一部の民間遺伝子解析サービスで実施されていますが、医療機関で診断に用いられているケースはまれであると考えて良いでしょう。 一部の自己炎症性疾患に対して、遺伝子検査を実施している医療機関もあります。 関節リウマチの検査については、下記の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 【遺伝で諦めない】関節リウマチの予防法 関節リウマチ発症の予防法として考えられるのは、主に以下の3つです。 禁煙 歯周病予防 食生活改善 喫煙および受動喫煙は、関節リウマチ発症に大きな影響を及ぼすとされており、禁煙は大切な予防行動です。 歯周病菌も関節リウマチ発症に関与している可能性が高いとされています。(文献6)そのため、毎日の口腔ケアや定期的な歯科検診といった歯周病予防の実践も、関節リウマチ予防には大切です。 食生活改善のためには、サバやサンマ、鮭などの魚介類や大豆製品を積極的に摂ると良いでしょう。これらの食品には、関節リウマチの発症予防効果があるとされる多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれています。 関節リウマチにとって、望ましくない行動もあります。以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。 遺伝の有無にかかわらず関節リウマチの症状がある場合は早めに医療機関を受診しよう 関節リウマチの発症には遺伝的要素も含まれていますが、関節リウマチを遺伝性疾患と断定することは困難です。 関節リウマチ発症には環境要因も関係しているため、血縁者にリウマチ患者がいない場合でも発症するケースがあるためです。 手や指の関節痛や腫れなど、関節リウマチと思われる症状が見られた場合は、遺伝関係の有無に関わらず、早めに医療機関を受診しましょう。まずはかかりつけ医に相談し、リウマチ科や膠原病科、整形外科などにかかることが望ましい流れです。 当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しております。関節リウマチについて、不安や疑問がある方は、お気軽にお問い合わせください。 関節リウマチと遺伝に関するよくある質問 関節リウマチになりやすいのはどのような人ですか? 日本での関節リウマチ患者数は60万人〜100万人程度といわれており、人口の約0.5%から1%が関節リウマチ患者とされています。(文献2) 関節リウマチは女性に多い疾患であり、男女比は1対4程度です。 年齢で見ると、最も多いのは30代から50代とされてきました。しかし近年では、65歳以上で発症する「高齢発症関節リウマチ」も増えています。高齢で発症する場合、男女差は目立たない状況です。 関節リウマチ発症における遺伝以外の要因とは何ですか? 関節リウマチ発症における遺伝以外の要因として挙げられるものの中で、もっとも関係性が高いものは喫煙です。 喫煙は、関節リウマチの活動性を上昇させて、治療の効果も弱めます。喫煙歴がある方や現在喫煙中の方の場合、男性では2~3倍、女性では1.2~1.3倍程度発症率が高くなるとされています。(文献7) 歯周病も関節リウマチとの関連が注目されている要因です。 歯周病によって、口腔内を含めた体内のタンパク質がシトルリン化される可能性があります。(文献8)タンパク質がシトルリン化された結果作られる物質が、抗CCP抗体です。 抗CCP抗体は関節リウマチ発症に関連するとされています。 参考文献 (文献1) 京都大学医学部附属病院 リウマチセンター 京大リウマチ通信「関節リウマチと遺伝」2024年 https://www.racenter.kuhp.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2024/11/83433e4de1a85b5be643adaaefd24e8e.pdf(最終アクセス:2025年5月21日) (文献2) 厚生労働省「『リウマチ等対策委員会報告書』について」 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc4411&dataType=1&pageNo=1&(最終アクセス:2025年5月21日) (文献3) 山本一彦.「関節リウマチ(RA):トピックス診断と治療の進歩Ⅰ.病因 1.関節リウマチの遺伝的要因」『日本内科学会雑誌』101(10), pp.2818-2823, 2012 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/101/10/101_2818/_pdf(最終アクセス:2025年5月21日) (文献4) 藤尾圭志.「関節リウマチのゲノム医療の入り口としてのHLA遺伝子」『臨床リウマチ』33(2), pp.92-98, 2021 https://www.jstage.jst.go.jp/article/cra/33/2/33_92/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月21日) (文献5) Kwangwoo Kim, et al.(2016). Imputing Variants in HLA-DR Beta Genes Reveals That HLA-DRB1 Is Solely Associated with Rheumatoid Arthritis and Systemic Lupus Erythematosus.PLOS ONE, 11(2), pp.1-7. https://journals.plos.org/plosone/article/file?id=10.1371/journal.pone.0150283&type=printable(最終アクセス:2025年5月21日) (文献6) Anna Krutyhołowa, et al. (2022).Host and bacterial factors linking periodontitis and rheumatoid arthritis. Frontiers in Immunology,13,pp.01-17. https://www.frontiersin.org/journals/immunology/articles/10.3389/fimmu.2022.980805/full(最終アクセス:2025年5月21日) (文献7) 川人豊「関節リウマチ(RA):トピックス診断と治療の進歩Ⅰ.病因 2.環境的要因」『日本内科学会雑誌』101(10), pp.2824-2829, 2012 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/101/10/101_2824/_pdf(最終アクセス:2025年5月21日) (文献8) 山本一彦「関節リウマチの発症:遺伝要因と環境要因」『日本温泉気候物理医学会雑誌』77(10), pp.20-21, 2013 https://www.jstage.jst.go.jp/article/onki/77/1/77_20/_pdf(最終アクセス:2025年5月21日)
2025.05.30 -
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「健康診断の血液検査でリウマチの数値が高いと指摘された」 「リウマチの数値が高い上に、関節が痛んだり腫れたりしている」 「関節リウマチの血液検査の内容を知りたい」 このような疑問や不安をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。 結論から申し上げますと、関節リウマチの血液検査にはさまざまな種類があります。血液検査で異常がなくても関節リウマチと診断される場合も少なくありません。 本記事では関節リウマチの血液検査について詳しく紹介します。 お悩みの症状が関節リウマチに関係しているかの目安がわかりますので、ぜひ最後までご覧ください。 関節リウマチにおける血液検査の種類 関節リウマチにおける血液検査の種類は、主に以下の3つです。 免疫に関する検査 炎症に関する検査 その他の血液検査 免疫に関する検査 ここでは免疫に関する検査として、リウマトイド因子と抗CCP抗体、MMP-3について説明します。 リウマトイド因子 リウマトイド因子とは、リウマチの診断および治療に有効な検査値で、一般的な基準値は15IU/ml以下です。(文献1) リウマトイド因子が50や100といった高値を示し、関節症状がある場合、リウマチである可能性が高いとされています。 ただし、関節リウマチ以外でも高値を示すこともあるため、この検査だけでリウマチと確定させることは難しいでしょう。 抗CCP抗体 抗CCP抗体とは、関節リウマチの診断や予後の予測に関する検査値で、一般的な基準値は4.5U/ml未満です。(文献2)、(文献3) 検査値が高く、関節症状がある場合、関節リウマチの可能性がきわめて高いといえるでしょう。他のリウマチ因子とは異なり、リウマチ以外の疾患で高値を示すことはまれであるため、関節リウマチの診断に有効な検査です。 抗CCP抗体の数値が高い場合は、関節リウマチの中でも関節や骨の破壊が進みやすいタイプであることを意味します。 MMP-3 MMP-3は、関節リウマチにより炎症を起こしている滑膜で多く分泌される酵素であり、リウマチによる軟骨破壊の程度をあらわします。 MMP-3 の基準値は、以下のとおりです。 男性:36.9~121.0 ng/ml 女性:17.3~59.7 ng/ml (文献3) 関節リウマチの初期段階から上昇するといわれていますが、関節リウマチ以外の疾患やステロイド内服時でも高値を示す場合もあります。 関節リウマチ以外でMMP-3 が高値を示す疾患として挙げられるのは、全身性エリテマトーデスやリウマチ性多発筋痛症などです。 炎症に関する検査 ここでは炎症に関する検査として、CRPと赤血球沈降速度について説明します。 CRP CRPは、全身の急性炎症を示す指標です。 正常値は0.3mg/dl未満であり、炎症が強いときには10mg/dlを超える場合もあります。(文献3)、(文献4) 炎症や組織の破壊が起きたときに、白血球の仲間であるリンパ球や単球、マクロファージが炎症性サイトカインを分泌します。炎症性サイトカインにより肝臓の細胞が刺激された結果分泌されるタンパク質が、CRPです。 CRP値が高値を示す疾患は、関節リウマチ以外に複数存在します。主な疾患としては、以下のようなものが挙げられます。 肺炎 ウイルス性肝炎 腎盂腎炎 そのため、CRP値のみでの関節リウマチ診断は難しいといえるでしょう。 赤血球沈降速度 赤血球沈降速度は慢性炎症の指標です。 細長いガラス管の中に抗凝固剤(クエン酸)を加えた血液を入れて、1~2時間立てておきます。この間に、赤血球が沈んだ深さを検査値とします。 正常値は以下のとおりです。(文献3) 男性:1時間に10㎜未満 女性:1時間に20㎜未満 炎症が起こっているときは赤血球の沈む速度が速くなり、関節リウマチ患者では50㎜前後といわれています。(文献4) その他の血液検査 その他の血液検査として挙げられるのは、主に以下の4項目です。 貧血検査 肝機能検査 腎機能検査 肺機能検査 貧血検査 関節リウマチ患者は慢性的な炎症が原因で、貧血傾向にあります。これは炎症性サイトカインが原因で鉄分の吸収が抑制されるためです。 抗リウマチ薬(メトトレキサート)の副作用で貧血が出現する場合もあります。 貧血の程度を測るための検査値が、赤血球数やヘモグロビン値、血色素量などです。WHO(世界保健機構)の定義によると、成人男性ではヘモグロビン値13.0g/dl以下、成人女性ではヘモグロビン値12.0g/dl以下が貧血とされます。 貧血に関しては、以下の記事でも詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。 肝機能検査 関節リウマチ患者は、メトトレキサートをはじめとした薬の副作用により肝機能が低下する場合があるため、定期的に検査を実施します。 主な肝機能検査は、AST(別名GOT)やALT(別名GPT)です。医療機関ごとに異なりますが、どちらかの検査値が100U/Lを超えた場合は、内服薬を調整するケースが一般的です。(文献5) B型肝炎およびC型肝炎ウイルス検査を実施するケースもあります。肝炎ウイルスは感染しても無症状のことが多いのですが、リウマチの薬により免疫力が低下して、ウイルスが活性化する場合もあるためです。 関節リウマチと薬の関係については以下の記事でも解説しますので、あわせてご覧ください。 腎機能検査 関節リウマチ患者は薬の副作用により腎機能が低下する場合があるため、血液検査で経過を観察します。 主な腎機能検査は、クレアチニンやeGFRです。基準値は医療機関によって異なりますが、クレアチニン値が高い、もしくはeGFR値が低いと腎機能低下の疑いがあります。 リウマチのコントロールが不良の場合、「アミロイドーシス」と呼ばれる合併症を引き起こす可能性があります。アミロイドーシスとは、アミロイドと呼ばれるタンパク質が過剰に作られて、さまざまな臓器に付着した結果起こる疾患の総称です。 腎臓でアミロイドーシスが起きると、ネフローゼ症候群や腎不全を発症する場合があります。 肺機能検査 関節リウマチの合併症および副作用の1つとして、呼吸器疾患があります。重要な呼吸器疾患の1つが間質性肺炎(肺線維症)です。 一般的な肺炎は細菌やウイルス感染により肺に炎症が起こりますが、間質性肺炎は、肺胞の壁に当たる部分(肺胞壁)や肺胞を支える組織に炎症が起きます。その結果、肺全体が固くなります。 間質性肺炎の度合いを表す血液検査の1つが、KL-6です。医療機関ごとに異なりますが、一般的な基準値は500U/ml未満です。KL-6が高い場合は、間質性肺炎の発症もしくは悪化が考えられます。 関節リウマチにおける血液以外の検査 関節リウマチにおける血液検査以外の検査としては、画像検査があります。具体的には、レントゲン検査や超音波検査、MRI検査などです。 レントゲン検査では関節周囲の骨が薄くなる骨粗しょう症や、骨が削られたように欠ける骨びらんなどの状況がわかります。 超音波検査では炎症の状態がリアルタイムに把握できるほか、骨の状況も高感度で確認可能です。 MRI検査では、関節周囲の筋肉や軟骨などの炎症や腫れを確認できます。 血液検査で異常なしでも関節リウマチを発症している場合がある リウマトイド因子や抗CCP抗体などの血液検査が陰性であっても、関節リウマチと診断されるケースがあります。主に挙げられるのが、血清反応陰性関節リウマチとリウマチ性多発筋痛症です。 血清反応陰性関節リウマチの症状や治療法は、一般的な関節リウマチと同様です。血液検査が陰性であるため、超音波検査で関節の腫れや炎症を確認します。 60歳以上で発症する関節リウマチの場合、血清反応陰性例が多いとされています。(文献6) リウマチ性多発筋痛症は、両肩周囲のこわばりや痛みで発症し、手指や足指の腫れや関節痛が少ないのが特徴的です。(文献6) リウマチ性多発筋痛症は関節リウマチと異なり、少量のステロイド剤が治療に使われます。ステロイド剤の量は患者の状況によって調整します。リウマチ性多発筋痛症も高齢での発症が多い疾患です。 関節リウマチの治療については以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 血液検査の理解を深めて関節リウマチの改善に努めよう 関節リウマチにおける血液検査は、免疫や炎症に関する項目に加えて、貧血や肝機能、腎機能、肺機能などに関する項目があります。貧血や肝機能などの検査は、薬の副作用や合併症に関連したものです。 関節リウマチの場合、血液検査だけではなく画像診断も大事な指標です。 また、血液検査で異常なしであってもリウマチを発症しているケースもあります。関節痛や腫れ、変形など、リウマチと思われる症状でお悩みの方は、早めに医療機関を受診しましょう。 関節リウマチの方が日常で避けるべき行動について、下記の記事で紹介しています。あわせてご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。血液検査の結果に疑問や不安をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。 関節リウマチと血液検査に関するよくある質問 関節リウマチの有無は検査後にすぐわかるものですか? 関節リウマチの有無は、検査後すぐにわからないことが多いとされています。 血液検査、とくにリウマトイド因子や抗CCP抗体などは検査結果が判明するまでに数日から1週間程度かかるためです。 画像検査においても、レントゲン検査や超音波検査はすぐに結果がわかりますが、MRI検査の場合は結果がわかるまで数日かかることがあります。 これらの状況から見ても、関節リウマチの有無は検査後すぐにはわからないと考えた方が良いでしょう。 関節リウマチの検査は何科を受診すれば良いですか? リウマチ科や膠原病内科、整形外科などのリウマチ専門医がいる科の受診が望ましいでしょう。 近くの医療機関にこれらの診療科がない場合は、かかりつけの内科を受診して、専門医への紹介状を書いてもらうことをおすすめします。 当院「リペアセルクリニック」では、再生医療による関節リウマチの治療を実施しております。お気軽にご相談ください。 参考文献 (文献1) 一般社団法人日本リウマチ学会「リウマトイド因子標準化のガイドライン」一般社団法人日本リウマチ学会ホームページ https://www.ryumachi-jp.com/publish/guide/news110817/(最終アクセス:2025年5月19日) (文献2) 京都大学医学部附属病院リウマチセンター「関節リウマチに関わる血液の検査結果の見方」2013年 https://www.racenter.kuhp.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2013/01/ra2013011702.pdf(最終アクセス:2025年5月19日) (文献3) 順天堂越谷病院「膠原病・リウマチの検査」2020年 https://hosp-koshigaya.juntendo.ac.jp/wp-content/uploads/2020/05/49a86a7ddc1e3f5f01e26b8a369af6e8.pdf(最終アクセス:2025年5月19日) (文献4) Doctors Me 「健康診断の血液検査項目「CRP」 知っておきたい数値の意味」 https://doctors-me.com/column/detail/4886(最終アクセス:2025年5月19日) (文献5) 京都大学医学部附属病院 リウマチセンター「京大リウマチ通信 リウマチで注意する血液データ」2013年 https://www.racenter.kuhp.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2011/05/ra201303.pdf(最終アクセス:2025年5月19日) (文献6) 桑名正隆.「高齢者における診断・治療の進歩:関節リウマチ」『日本内科学会雑誌』111(3), pp.454-460, 2022 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/3/111_454/_pdf(最終アクセス:2025年5月19日)
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「関節リウマチと診断されて薬を飲み始めた」 「自分が今飲んでいる薬は、どのような効果があるのだろう」 「リウマチの薬は一生飲み続けるものだろうか」 このような疑問や不安を抱えている方も多く、とくに、関節リウマチと診断されて間もない方にとっては切実な問題です。 本記事では、関節リウマチの薬に関して詳しく解説します。 病気の進行が落ち着く「寛解状態」を目指すためにも、ぜひ最後までご覧ください。 関節リウマチの薬は主に5種類 関節リウマチの治療で用いられる薬は、主に以下の5種類です。 抗リウマチ薬 生物学的製剤 JAK阻害剤 非ステロイド性消炎鎮痛剤 副腎皮質ステロイド剤 抗リウマチ薬 抗リウマチ薬には、免疫異常や、関節の炎症およびリウマチの活動性を抑制するはたらきがあります。 メトトレキサート 抗リウマチ薬の第一選択肢がメトトレキサートです。一般的に抗リウマチ薬は、効果が出るまで1~2か月程度かかりますが、メトトレキサートは2~3週間程度で効果が出るといわれています。(文献1) メトトレキサートは、1週間に1日もしくは2日だけ内服する薬です。副作用軽減のために、内服日の2日後に葉酸を内服します。 メトトレキサートの副作用として挙げられるのは、口内炎や貧血、肝機能異常、間質性肺炎などです。 メトトレキサート以外の抗リウマチ薬 メトトレキサート以外の主な抗リウマチ薬を以下に示します。 薬剤名 特徴 内服方法 副作用 サラゾスルファピリジン 軽症から中等症の患者に有用 メトトレキサート内服不可の患者に用いられる 内服開始後1~2か月程度で効果が出る 朝食後と夕食後に1錠内服 1錠は250mgもしくは500㎎ 皮疹 かゆみ 発熱 肝機能障害 ブシラミン 日本で開発された抗リウマチ薬 軽症から中等症の患者に有用 内服開始後1~3か月程度で効果が出る 1日50㎎もしくは100㎎から開始 通常は1日100~200mg 消化器症状 皮疹 肝機能障害 腎機能障害 タンパク尿が出た場合は内服中止 タクロリムス 日本で開発された免疫抑制剤の一種 2005年に関節リウマチへの適応が認められた 血中濃度測定が保険適応になっている 夕食後に内服 成人は1回2錠(3㎎) 高齢者は1回1錠(1.5㎎) 腎機能障害 耐糖能異常 下痢 腹痛 (文献1) タクロリムス内服時にグレープフルーツを食べたり、他の薬剤を内服したりすると、血中濃度が必要以上に上昇する場合があります。 生物学的製剤 生物学的製剤とは、生物から産生されるタンパク質を応用して作られた薬の総称です。 関節リウマチは、免疫に関わる物質であるサイトカインが通常より増えて、関節の炎症や破壊が生じる疾患です。 生物学的製剤は、点滴や皮下注射によって、サイトカインおよびサイトカインを産み出す細胞の働きを抑えます。これにより炎症を和らげ、関節痛や腫れなどの症状を軽減させる仕組みです。 サイトカイン産生細胞には、炎症を引き起こすTNF-αや炎症に関与するIL-6などがあります。 主な生物学的製剤を以下に示します。 薬剤名 特徴 投与方法 投与間隔 インフリキシマブ TNF-αに作用する 点滴 4~8週間に1回 エタネルセプト TNF-αに作用する 皮下注射 1週間に2回 アダリムマブ TNF-αに作用する 皮下注射 2週間に1回 ゴリムマブ TNF-αに作用する 皮下注射 4週間に1回 セルトリズマブ TNF-αに作用する 皮下注射 2週間に1回 トシリズマブ IL-6に作用する 点滴 4週間に1回 サリルマブ IL-6に作用する 皮下注射 2週間に1回 アバタセプト T細胞に作用する 点滴 4週間に1回 T細胞とは、白血球の仲間であるリンパ球の1つであり、免疫機能をつかさどる細胞です。 生物学的製剤については以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 JAK阻害薬 JAK阻害薬は、分子標的型のリウマチ治療薬であり、関節に炎症を起こす分子「JAK」の働きを抑える効果があります。2013年3月にトファシチニブが日本で承認され、同年7月に発売されました。(文献2) 生物学的製剤は注射もしくは点滴での投与ですが、JAK阻害薬は内服可能な薬です。 トファシチニブ以外の主なJAK阻害剤としては、以下のようなものが挙げられます。(文献2) バリシチニブ ベフィシチニブ ウパダシチニブ フィルゴチニブ JAK阻害薬の副作用では、帯状疱疹の発症リスクが高いとされています。加えて、悪性腫瘍や狭心症、心筋梗塞などにも注意が必要です。 JAK阻害薬は費用が高額であるため、医療保険で自己負担3割の方の場合、毎月5万円程度の医療費が発生します。 非ステロイド性消炎鎮痛剤 主な非ステロイド性消炎鎮痛剤は、アスピリンやロキソニン、インドメタシンなどです。プロスタグランジンと呼ばれる、炎症を引き起こす物質の産生を抑えて、関節痛や腫れを軽減させる役割があります。 効き目が速い点が特徴ですが、関節変形を抑える効果は期待できないとされています。 主な副作用は胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍や、腎機能低下などです。 最近では、COX-2阻害薬と呼ばれる新しいタイプの薬剤が使用可能になりました。(文献3) 副腎皮質ステロイド剤 関節リウマチでは、症例により少量のステロイド剤を用いるケースがあります。主なステロイド剤は、プレドニンやリンデロン、デカドロンなどです。 炎症を抑える作用や免疫抑制作用が強く、はやく効果が出ます。しかし、骨粗しょう症や消化性潰瘍など、副作用も多いこともあり、リウマチ治療においては補助的な役割です。 抗リウマチ薬や生物学的製剤の使用により、ステロイドを減量もしくは中止する例も増えています。 関節リウマチにおける薬物療法の目的 関節リウマチにおける薬物療法の目的は、「症状を抑えること」から「寛解導入」に移行しています。寛解とは、病気の進行が落ち着いている状態です。 現在、関節リウマチ治療の最終ゴールは、以下3点の達成・維持とされています。 臨床的寛解(炎症がほぼ消えた状態) 構造的寛解(関節破壊の進行が抑えられている状態) 機能的寛解(身体機能の低下がみられない状態) 関節リウマチは進行性の疾患であり、進行を止めることは難しいと考えられていました。その考えに変化が生じたのは、2000年前後です。 1999年に抗リウマチ薬の1つであるメトトレキサートが保険適用され、2003年には生物学的製剤が国内で発売開始されました。これらの変化により、関節リウマチの進行を抑えられるようになったのです。 リウマチの薬を飲まないとどうなるのか 副作用が怖い、症状が改善されたなどの理由により、自己判断でリウマチの薬を飲まなくなる方も少なくありません。しかし、自己判断で薬を中止すると、症状が悪化する可能性が高まります。 とくに、メトトレキサートを中心とする抗リウマチ薬のみの治療を受けている場合は、自己判断で中止すべきではありません。内服をやめた場合、症状の悪化率が倍になったという研究データもあります。 日本リウマチ学会による「関節リウマチ治療ガイドライン2014」を要約すると、減薬の優先度は以下のとおりです。 ステロイド 生物学的製剤 抗リウマチ薬 薬を飲むことに不安や疑問がある方は、自己判断で中止せず、必ず主治医に相談しましょう。 関節リウマチの薬について理解した上で治療を受けよう 節リウマチの薬は、免疫に関係して関節の炎症を抑えたり、関節痛や腫れ、変形を軽減したりする効果があります。 関節リウマチは進行性の疾患ですが、新たな薬の開発が進んでいることもあり、寛解を目標にできるようになりました。しかし、寛解を目標にできるのは、指示どおりに薬を内服している場合です。 自己判断で薬を減らしたり止めたりすると、病気に良くない影響を与えます。副作用が不安である、症状が軽減されたなどの理由で、薬の減量や中止を考えている方は必ず主治医に相談しましょう。 当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。関節リウマチの薬や治療について疑問や不安のある方は、お気軽にお問い合わせください。 関節リウマチの薬に関するよくある質問 関節リウマチの薬が効かず症状が改善されない場合もありますか? 薬物治療の効果が得られないケースもあり、その場合は薬を見直します。 抗リウマチ薬の内服を始めて3か月経過しても効果が不十分であれば、量を増やすか、生物学的製剤に切り替えます。 生物学的製剤を投与する場合も、3~6か月程度の経過観察が必要です。経過観察の結果、効果が不十分と判明したときは、他の生物学的製剤やJAK阻害剤に変更します。 内服・投与治療による効果が見られない場合は、手術療法も選択肢に入ります。 リウマチの治療費が高すぎると感じます。医療費の補助はありますか? 生物学的製剤やJAK阻害剤などは薬代が高いため、医療保険で自己負担3割の方の場合、1か月の医療費が3万円以上になることも少なくありません。(文献4) 医療費を軽減する主な制度が、高額療養費制度です。1か月の医療費が所定の自己負担上限額を超えたときに、加入している医療保険から上限を超えた分が支給されます。 高額療養費制度について詳しく知りたい方は、加入している健康保険組合やお住まいの市区町村役場などにお問い合わせください。通院先の医療機関で確認できる場合もあります。 参考文献 (文献1) 順天堂大学医学部附属順天堂医院 膠原病・リウマチ内科「関節リウマチ」 https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/collagen/disease/disease01.html(最終アクセス:2025年5月16日) (文献2) 東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター「JAK阻害薬(ジャックそがいやく)」 https://twmu-rheum-ior.jp/diagnosis/ra/medication/biologics/jak.html(最終アクセス:2025年5月16日) (文献4) 公益財団法人日本リウマチ財団 リウマチ情報センター「非ステロイド抗炎症薬(消炎鎮痛薬)」 https://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/rheuma/dtherapy/nsaids/(最終アクセス:2025年5月16日) (文献4) 松野博明.「医療費を考慮した関節リウマチの治療」『臨床リウマチ』34(4), pp.268-274, 2022年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/cra/34/4/34_268/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月16日)
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「手の関節痛やこわばりのために病院を受診したら、関節リウマチと診断された」 「関節リウマチの原因は何だろう」 「なぜ自分が発症したのか知りたい」 このようにお考えの方も多いことでしょう。 関節リウマチは自己免疫疾患の1つですが、原因ははっきりと解明されていません。 本記事では、関節リウマチの原因と考えられる三要素や治療法などについて解説します。関節リウマチの概要がわかりますので、ぜひ最後までご覧ください。 関節リウマチの原因 関節リウマチとは、自己免疫疾患や膠原病の1つであり、好発年齢は30代から50代とされています。女性に多く、患者数は男性の約4倍といわれています。 関節リウマチ発症の仕組みは現在もはっきりと解明されておらず、原因不明です。(文献1) その中でも原因として考えられるものは、主に以下の三要素です。 免疫システム 環境要因 遺伝的要因 免疫システム 関節リウマチは自己免疫疾患の1つに含まれます。 体内の免疫システムに異常が起こり、関節中の組織である「滑膜」が免疫細胞によって攻撃され、炎症を起こすことが知られています。(文献2) 関節の炎症を引き起こす物質は、「サイトカイン」と呼ばれる免疫細胞から作られるタンパク質です。サイトカインの中でも、IL-6(インターロイキン6)やTNF-α(腫瘍壊死因子α)の影響が大きく、これらが過剰に生み出されると炎症が悪化します。 炎症の結果起こる症状として挙げられるのが、関節痛や腫れ、朝のこわばりなどです。関節以外の症状としては、微熱や倦怠感などが見られます。 関節リウマチの概要や症状については、以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 関連記事 関節リウマチの全貌!症状、治療、診断基準まで徹底解説 関節リウマチの初期症状は?チェックリスト付きで現役医師が解説 環境要因 関節リウマチと関連する環境要因は、主に以下のとおりです。 喫煙 ウイルス感染 細菌感染 歯周病 腸内細菌叢 喫煙は多くの研究において、関節リウマチの発症リスクを高め、治療効果を弱める因子であると示されています。(文献3) 遺伝的要因 ヒトの遺伝子の中でも、HLAと呼ばれる「ヒト白血球型抗原」が、関節リウマチの発症に関する代表的なものとされています。 それ以外にも、免疫に関わる遺伝子がリウマチ発症に関係しているとされています。リウマチ発症に関係するといわれる遺伝子は、主に以下のとおりです。 PADI4 CCR6 TNFAIP3 家系調査では、三親等以内に関節リウマチ患者がいる方は、発症率が33.9%との結果が示されました。(文献4)三親等以内とは、自分から見て以下の間柄に該当する方です。 親 祖父母 曾祖父母 おじ・おば 兄弟姉妹 子ども 孫 ひ孫 甥・姪 関節リウマチと遺伝の関係は下記の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 発症の原因?関節リウマチと各要因の関係性 この章では、関節リウマチと関係があると考えられるストレス、飲酒、性格の3つの要因について解説します。 関節リウマチとストレスの関係性 現時点では、ストレスが関節リウマチ発症の原因である明確なデータは示されていません。 しかし、ストレスは免疫機能の低下を引き起こすため、リウマチ発症に間接的な影響を及ぼすとも考えられます。規則正しい生活を心がけ、十分な休養をとり、身体的ストレスの軽減が大切です。 精神的ストレス軽減のためには、好きなことをする時間をとる、気の許せる友人と話すなど、自分なりのストレス解消法を持つことが大切です。関節リウマチの患者会に参加して、同じ病気を持つ方と気持ちをわかち合うのも1つの方法でしょう。 関節リウマチと飲酒の関係性 現時点では、飲酒が関節リウマチ発症を引き起こす明確なデータは示されていません。 米国の研究結果では、1日のアルコール含有量換算10g未満の飲酒は、関節リウマチの発症リスクを軽減する効果が期待できると示されています。アルコール含有量10g未満とは、少なめのグラスワイン1杯(約120ml)や日本酒0.5合程度です。 ただし、抗リウマチ薬であるメトトレキサートの副作用には、肝機能障害が含まれます。メトトレキサートは通常、1週間に1・2回服用するものですが、内服日は禁酒が望ましいでしょう。 主治医から飲酒を禁止されている方は、その指示を守りましょう。 関節リウマチと性格の関係性 関節リウマチの原因の中に、個人の性格は含まれません。しかし、ストレス耐性が低い方は、小さなことでもストレスをためやすいため、免疫力の低下を招きやすいといわれます。 神経症的傾向がある方は、関節リウマチ発症後、患部の様子を気にして何度も触れることが多く、病状を悪化させやすいといわれています。神経症的傾向とは、ストレスを感じやすく感情の浮き沈みが激しい性格傾向のことです。 我慢強い性格の方は、関節リウマチの症状が出現しても治療を受けずに我慢してしまい、重症化しやすい可能性があります。 関節リウマチの治療方法 関節リウマチの主な治療方法としては、薬物療法と手術療法が挙げられます。 薬物療法 関節リウマチの治療で使われる主な薬は、免疫異常に働きかける抗リウマチ薬と、関節痛を和らげる薬です。抗リウマチ薬の代表が、メトトレキサートです。メトトレキサートを最大限使っても効果が出ない場合は、生物学的抗リウマチ剤を注射します。(文献5) また、炎症性サイトカインの産生を阻害する効果を持つ、JAK阻害剤を内服するケースもあります。くわえて、炎症緩和のため少量のステロイド剤を併用する場合も少なくありません。 関節リウマチの薬に関しては下記の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 手術療法 関節リウマチで変形した関節を使いすぎると、変形がますます強まり、関節破壊も進みます。関節リウマチで手術対象となるのは、関節破壊が進み、変形や可動域制限が著しくなった場合です。 関節リウマチ患者に対して行われる手術は、主に以下のとおりです。(文献6) 人工関節置換術 頚椎および腰椎の手術 手指の腱断裂再建手術 外反母趾矯正手術 足関節固定術 人工関節置換手術を実施する部位としては、膝や股関節、足、肘、指などが挙げられます。 関節リウマチの悪化を防ぐ5つの生活習慣 関節リウマチの悪化を防ぐために大切な5つの生活習慣を以下に示します。 生活習慣 詳細 禁煙 喫煙は関節リウマチを悪化させる大きな要因であるため、禁煙が望ましい。 バランスの良い食事 関節リウマチの方は貧血や骨粗しょう症になりやすい。鉄分・カルシウム・ビタミンDを中心にバランスの良い食事を心がけよう。 適度な運動 ウォーキングやリウマチ体操などが望ましい。関節可動域の維持もしくは改善、痛みの軽減、筋力維持が期待できる。 適度な休息 関節リウマチは関節だけではなく全身が慢性的に消耗しやすい。疲れたときには、休憩や昼寝などで適度な休息を取ろう。 内服管理 自己判断で薬を減らしたり中止したりすると、症状の悪化につながる。指示通りに内服し、減量や中止を希望するときは、主治医に必ず相談しよう。 バランスの良い食事については以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 原因や治療法を知り関節リウマチの悪化を防ごう 関節リウマチの原因は、免疫システムの異常、環境要因、遺伝的要因の複合的な相互作用によると考えられますが、現時点では完全に解明されていません。 とくに、30代から50代の女性で、関節の腫れや痛み、原因不明の微熱や倦怠感などがある方は、早めに医療機関を受診しましょう。 関節リウマチと診断された場合は、薬物療法を続けつつ、悪化防止の行動につとめることが大切です。 当院「リペアセルクリニック」では、再生医療による関節リウマチの治療を実施しております。 以下の記事は、実際の関節リウマチ治療事例です。 関連記事:症例紹介 関節リウマチの症例 メール相談やオンラインカウンセリングも行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。 参考文献 (文献1) 東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター「関節リウマチとは」東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センターホームページ, 2023年10月13日 https://twmu-rheum-ior.jp/diagnosis/ra/about-rheumatism.html(最終アクセス:2025年5月14日) (文献2) 兵庫医科大学病院「関節リウマチ」兵庫医科大学PRESENTSもっとよく知る!病気ガイド https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/disease_guide/detail/8(最終アクセス:2025年5月14日) (文献3) 川人豊「関節リウマチ(RA):トピックス診断と治療の進歩Ⅰ.病因 2.環境的要因」『日本内科学会雑誌』101(10), pp.2824-2829, 2012 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/101/10/101_2824/_pdf(最終アクセス:2025年5月14日) (文献4) 湯川リウマチ内科クリニック「関節リウマチと遺伝」 https://yukawa-clinic.jp/knowledge/basicknowledge/genetic.html(最終アクセス:2025年6月5日) (文献5) 富山大学附属病院「最新の関節リウマチ治療―関節リウマチ」富山大学附属病院ホームページ https://www.hosp.u-toyama.ac.jp/amc/topic13/(最終アクセス:2025年5月14日) (文献6) 京都大学医学部附属病院リウマチセンター「関節リウマチの手術について」京都大学医学部附属病院リウマチセンター https://www.racenter.kuhp.kyoto-u.ac.jp/surgery(最終アクセス:2025年5月14日)
2025.05.30 -
- その他、整形外科疾患
「リウマチ検査は陰性なのに指や膝がズキズキする」 原因がわからず不安で情報の検索を続けていませんか? 本記事では変形性関節症や痛風など、リウマチ以外で関節痛を引き起こす主な疾患と見分け方、検査・治療の流れを整形外科医の視点で解説します。痛みを放置せず、早期に適切な対応を取るヒントを見つけてください。 リウマチではない関節痛とは 関節痛は多くの方が経験する症状ですが、必ずしも関節リウマチとは限りません。加齢や過度の使用、外傷、ほかの疾患によって引き起こされることがあります。適切な診断と治療で症状を緩和できることが多いので、長引く症状がある場合は早めに医師にご相談ください。 ここからは、リウマチではない関節痛について詳しく説明していきます。 関節リウマチとの決定的な違い 関節痛とリウマチは似た症状を示すことがありますが、決定的な違いがあります。一般的な関節痛は、使い過ぎや加齢による軽い違和感から始まることが多く、肩や手指、膝などに痛みやこわばり、腫れという症状です。関節の使用後に悪化し、休むと和らぐ傾向があります。 一方、関節リウマチは自己免疫疾患であり、関節の痛み・腫れ・こわばりといった症状に加え、関節を押したり動かしたりすると痛みが強まるのが特徴です。左右対称に症状が現れることが多く、両手の同じ指に症状が出るパターンが見られます。寒い季節や朝起きた直後に症状が強く出やすい傾向があります。 もっとも大きな違いは、リウマチが自己免疫疾患である点です。血液検査でリウマトイド因子(RF)や抗CCP抗体の存在を確認すると、診断の手がかりが得られます。リウマチは多発性の関節炎として左右対称に現れることが多いのに対し、一般的な関節痛は単関節に限られることもあります。 よくある誤解とチェックポイント 関節リウマチについては多くの誤解が存在します。まず、朝のこわばり=リウマチという考えがありますが、必ずしもそうとは限りません。朝のこわばりは変形性関節症や筋肉の硬直でも起こる症状であり、リウマチに特化したものではありません。 リウマチはどの年齢でも発症する可能性があります。日本リウマチ財団によると、人口の0.4%〜0.5%、30歳以上の人口の1%にあたる人が関節リウマチにかかると言われています。発症のピークは60歳代です。しかし、若い方でも症状が続く場合は専門医の診察を受けることが重要です。(文献1) リウマチの症状は個人差が大きく、典型的な症状が現れないこともあります。持続する関節の痛みや腫れがある場合は、自己判断せずに医療機関を受診してください。早期発見・早期治療により、関節の変形や機能障害を最小限に抑えられます。適切な治療を受けることで、多くの方が日常生活の質を維持しています。 リウマチではない関節痛を起こす主な疾患 関節痛の原因は実に多様で、リウマチ以外にも多くの疾患が関係しています。症状の特徴や現れ方を理解すると、より適切な対処につながります。以下の表では、リウマチと間違えやすい主な疾患とその特徴を紹介します。ご自身の症状に心当たりがある場合は、専門医にご相談ください。 疾患名 主な症状と特徴 更年期障害 ホルモンバランスの変化による関節痛、こわばり。肩や膝、手首などに現れやすく、他の更年期症状(ほてり、発汗など)を伴うことが多い。 変形性関節症(OA) 関節の軟骨がすり減ることで起こる痛み。負荷のかかる膝や股関節に多く、動かし始めに痛みが強く、徐々に和らぐ。年齢とともに発症リスクが高まる。 痛風 尿酸結晶が関節内にたまることで炎症を起こす。突然の激しい痛みが特徴で、足の親指の付け根など単関節に発症しやすい。 腱鞘炎・ばね指 指や手首を動かすための腱とその鞘の炎症。曲げ伸ばしで痛みが生じ、とくに朝に症状が強い。指が引っかかる感じや「バネ」のような動きが特徴的。 関節炎 手の関節の炎症。関節のこわばり、腫れ、痛みを伴うことが多い。 線維筋痛症 全身の広範囲に及ぶ慢性的な痛みがあり、中年以降の女性に多いのが特徴。手足のしびれや動悸、呼吸困難などを伴うことも多い。 手根管症候群 手首の「正中神経」と呼ばれる部分で神経が圧迫される状態。手のしびれや痛みを起こす。手首の反復運動や長時間のデスクワークなどが原因。 リウマチと通常の関節痛を見抜くセルフチェック方法 関節の痛みを感じたとき、それがリウマチなのか一般的な関節痛なのか気になるでしょう。医師の診断を受ける前に、ご自身でチェックできるポイントがいくつかあります。以下の項目を参考に症状を観察してみましょう。 ただし、これはあくまで目安です。正確に診断してもらうためにも医師の診察を受けてください。 痛みが強く出る時間帯・動作 痛みのパターンは疾患を見分ける重要な手がかりです。リウマチの場合、とくに朝起きたときや長時間同じ姿勢でいた後のこわばりがあり、微熱が出る場合もあります。また、だるさや食欲低下も見られます。 変形性関節症などの一般的な関節痛は、動き始めや負荷をかけたときに痛み、休むと痛みが和らぐ場合が多いです。日常生活の中で、どのようなときに痛みが増すのかを記録しておくと診断の参考になるでしょう。 部位と左右差 リウマチの特徴の一つに、左右対称に症状が現れることがあります。たとえば両手の同じ指や両膝など、体の左右で同じ部位に痛みや腫れが生じるケースです。対して、変形性関節症や腱鞘炎などは、使い過ぎや負担のかかり方によって片側に症状が出やすいことが多いです。 リウマチは手首や指の小さな関節から症状が現れることが多いのに対し、変形性関節症は主に体重のかかる膝や股関節などの大きな関節に生じやすいという違いもあります。 腫れ・熱感・発赤・可動域制限の有無 関節の炎症サインの有無も、リウマチを見分ける重要な手がかりです。リウマチでは、関節の腫れや熱感、発赤(赤み)などの炎症症状が明らかに見られることが多く、関節を動かす範囲(可動域)が制限されることもあります。全身症状として微熱や倦怠感、食欲不振などを伴うこともあります。 一方、一般的な関節痛では、軽度の腫れはあっても熱感や発赤が目立たないことが多く、全身症状も少ない傾向です。これらの症状に気づいたら、できるだけ早く医師に相談しましょう。 リウマチと関節痛における検査方法 関節痛の原因を特定するためには、さまざまな検査が必要です。医師は症状や経過に基づいて、適切な検査を選択します。 リウマチの診断には、画像検査と血液検査がとくに重要です。検査を組み合わせると、リウマチかそれ以外の関節痛かを見極められ、適切な治療につなげることができます。 画像検査 画像検査は関節の状態を視覚的に評価する重要な検査です。画像検査には以下の種類があります。 レントゲン検査:骨の変形や関節間隙の狭小化などを確認できる MRI:軟部組織の評価に優れており、関節の滑膜炎や骨髄浮腫、靭帯・腱の状態などを詳しく観察できる 関節超音波検査:リアルタイムで関節の炎症状態を評価でき、滑膜の肥厚や関節液の貯留、血流増加などを非侵襲的に検出できる 画像検査を適切に組み合わせれば、リウマチの早期発見や経過観察、ほかの関節疾患との鑑別が可能です。 血液検査 血液検査はリウマチの診断において必須の検査です。主な検査項目は以下のようになります。 検査項目 特徴 リウマトイド因子(RF) リウマチ患者の約80%で陽性となるが、健康な人やほかの疾患でも陽性になることがあるため、単独での診断確定は難しいとされている CRP(C反応性タンパク) 炎症の程度を示す指標で、関節の炎症が強いと値も高くなる 抗CCP抗体検査 リウマチの早期診断や予後予測に有用とされている 抗核抗体(ANA) リウマチだけでなく、ほかの膠原病の鑑別にも重要 (文献2) 血液検査の結果を総合的に判断し、臨床症状や画像所見と併せて診断が進められます。定期的な血液検査によって、病気の活動性や治療効果の評価も重要です。 リウマチではない関節痛の治療方法 関節リウマチではない関節痛の治療は、原因となる疾患や症状の重症度によって異なります。治療の目標は、痛みの軽減や炎症の抑制、関節機能の維持・改善、そして日常生活の質の向上です。 治療法は大きく分けて、薬物療法と注射治療があり、症状や病態に合わせて適切な治療法が選択されます。ここから詳しく解説します。 薬物療法 薬物療法は関節痛の治療においてもっとも一般的に用いられる方法です。症状や原因疾患に合わせて、適切な薬剤が選択されます。 非リウマチ性の関節痛に対しては、主に痛みや炎症を抑える対症療法が中心となります。使用される薬剤はさまざまですが、どの薬剤も効果と副作用のバランスを考慮して慎重に使用することが重要です。 自己判断での服用は避け、医師の指示に従いましょう。症状の変化や副作用が現れた場合は、すぐに医師に相談してください。 主な薬剤は以下のとおりです。 薬剤 特徴と効果 非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs) 炎症と痛みを抑える効果があり、速効性がある。胃腸障害や腎機能障害などの副作用に注意が必要。 アセトアミノフェン 鎮痛効果があり安全性が高い。比較的副作用が少なく、高齢者や他の薬剤が使用しづらい患者にも使用される。 オピオイド 強力な鎮痛効果があるが、依存性や呼吸抑制などの副作用があり、慎重に使用される。 漢方薬 さまざまな生薬の組み合わせにより、体質に応じた処方ができる。副作用が起こる場合もある。 注射治療 注射治療は、薬物療法で十分な効果が得られない場合や、より局所的な治療が必要な場合に選択されます。関節内や周囲の組織に直接薬剤を注入すれば、全身への副作用を最小限に抑えつつ、効果的に症状を緩和できるでしょう。 注射治療の種類によって効果の持続期間や適応疾患が異なるため、症状や病態に合わせて適切な治療法が選択されます。いずれの注射治療も、感染や出血などのリスクがあるため、清潔な環境で専門医により実施されることが重要です。 治療効果は個人差があり、一時的に症状が悪化する場合もありますので、医師の説明をよく聞いて判断しましょう。 以下は主な注射治療です。 注射治療 特徴と効果 ヒアルロン酸注射 関節内の潤滑機能を高め、クッション作用を補うため、直接患部に注射を行う。即効性はないが、定期的な注射で効果が持続する。 ステロイド注射 強力な抗炎症作用があり、即効性がある。頻回の使用は副作用をおこす可能性がある。 PFC-FD療法 自己血由来の成長因子を利用し、組織の修復・再生を促進する。比較的新しい治療法。 リウマチではない関節痛は放置せず早期の受診を心がけよう 関節痛を感じたとき、年齢のせいや、しばらく様子を見ようと放置してしまいがちです。しかし、持続する痛みは早めに医療機関を受診しましょう。 早期受診のメリットは多くあります。痛みの原因を正確に特定でき、早期に治療を開始すると効果が高まります。日常生活への支障も、最小限に抑えられるでしょう。 関節痛が起きたら、自己判断せず医師への相談が必要です。関節痛でお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」のメール相談やオンラインカウンセリングにてお気軽にお問い合わせください。 参考文献 文献1 公益財団法人 日本リウマチ財団「関節リウマチとは」公益財団法人 日本リウマチ財団 ホームぺージ https://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/rheuma/ (最終アクセス:2025年5月14日) 文献2 シーズン神奈川リウマチクリニック「リウマチで重要な3つの血液検査」シーズン神奈川リウマチクリニック ホームぺージ https://seasons-kanagawa.jp/blog/ra-bloodtest/ (最終アクセス:2025年5月14日)
2025.05.30 -
- その他、整形外科疾患
背中の痛みや手足のしびれが続くと「強いストレスが脊髄腫瘍を招いたのでは?」と不安になる方は少なくありません。 現代社会においてストレスは避けて通れないものとなっており、さまざまな健康問題との関連性が指摘されています。しかし、ストレスが腫瘍を直接つくるという科学的根拠は現時点で確認されていません。一方、慢性的なストレスは免疫低下や血流悪化を通じて症状を悪化させる恐れがあります。 本記事では脊髄腫瘍の主な原因とストレスとの関係性、早期発見のポイント、日常でできるセルフケアについてわかりやすく解説します。 脊髄腫瘍の原因とストレスの関係性 脊髄腫瘍の発生メカニズムについては、現在の医学でもまだ完全には解明されていません。しかし、もっとも有力な原因として考えられているのは、遺伝子の突然変異です。正常な細胞の遺伝子に変異が生じることで、細胞の増殖が制御できなくなり、腫瘍が形成されると考えられています。 まれなケースですが、家族性に発生する場合もあります。特定の遺伝子異常を持つ家系では、脊髄腫瘍を含むさまざまな腫瘍が発生するリスクが高まることが知られているのです。 現在の医学的知見では、ストレスそのものが脊髄腫瘍を引き起こす明確なエビデンス(科学的根拠)は確立されていません。しかし、後から説明するように、すでに発症した脊髄腫瘍の症状や経過に影響を与える可能性は否定できないと言えます。 脊髄腫瘍の主な原因 脊髄腫瘍は大きく分けて「原発性」と「転移性」の二つに分類されます。それぞれの特徴と発生原因について詳しく見ていきましょう。 原発性脊髄腫瘍 原発性脊髄腫瘍とは、脊髄や脊柱自体から発生する腫瘍のことを指します。これらの腫瘍は良性(進行が遅く、他の組織に広がりにくいもの)と悪性(進行が早く、浸潤性が高いもの)の両方があります。 原発性脊髄腫瘍の代表的なものには以下のようなタイプがあります。 髄膜腫:脊髄を覆う髄膜から発生する腫瘍で、多くは良性 神経鞘腫:神経の保護層(シュワン細胞)から発生する腫瘍で、多くは良性 星細胞腫:星状神経膠細胞から発生する腫瘍で、良性から悪性までさまざま 上衣腫:脳や脊髄の中心にある脳室系や中心管を覆う上衣細胞から発生する腫瘍で、良性から悪性までさまざま これらの腫瘍は通常、遺伝子の突然変異によって発生すると考えられていますが、その具体的なメカニズムはまだ完全には解明されていません。 転移性脊髄腫瘍 転移性脊髄腫瘍は、他の臓器で発生したがん細胞が血流やリンパ流を通じて脊髄に広がった場合に発生します。脊髄腫瘍全体の中では、この転移性のものが多くを占めています。 とくに転移しやすい原発巣(最初にがんが発生した場所)としては以下のがんが挙げられます。 肺がん 乳がん 前立腺がん 腎臓がん 甲状腺がん リンパ腫 黒色腫 (文献1) これらのがんは転移を起こしやすく、脊椎や脊髄周囲に転移する場合があります。転移性脊髄腫瘍の場合、原発巣でのがん発生が関与していることになります。 遺伝性疾患・放射線治療・年齢 脊髄腫瘍の発生リスクを高める要因として、いくつかの遺伝性疾患や環境因子、年齢などが挙げられます。 遺伝性疾患については、神経線維腫症2型が代表的です。この疾患では聴神経鞘腫を主とする腫瘍が特徴的であり、脊髄腫瘍のリスクも高まります。また、フォン・ヒッペル・リンドウ病では脳や脊髄のさまざまな部位に血管芽腫が発生することが知られています。 放射線治療との関連では、過去にほかの疾患の治療目的で放射線治療を受けた部位に、数年から数十年後に腫瘍が発生しているケースです。これは放射線被曝が、腫瘍形成のリスクを高める可能性があるといえます。 年齢も重要な要因の一つです。脊髄腫瘍はさまざまな年齢層で発生しますが、転移性脊髄腫瘍では中高年層での発症リスクが多い傾向です。 ストレスが脊髄腫瘍に及ぼす影響 ストレスそのものが脊髄腫瘍の直接的な原因となる明確な科学的根拠はありませんが、すでに発症した脊髄腫瘍の症状や経過に影響を与える可能性はあります。ここでは、ストレスが脊髄腫瘍患者の身体にどのような影響を与えうるのかを解説します。 免疫低下・炎症促進 ストレスが長期間続くと、体内でさまざまな生理的変化が起こります。とくに注目すべきは、免疫系への影響です。 長期的な心理ストレスが続くと、副腎皮質から分泌されるホルモンであるコルチゾールの分泌が慢性的に高まります。コルチゾールは本来、体のストレス応答を調整する重要なホルモンですが、過剰に分泌され続けると免疫機能に悪影響を及ぼします。具体的には、がん細胞を破壊するナチュラルキラー(NK)細胞やT細胞などの細胞性免疫の働きが鈍くなるのです。 コルチゾールは炎症性サイトカインの産生も促進し、神経組織にむくみや痛みを引き起こしやすい状態をつくります。免疫低下と炎症は、腫瘍そのものの増殖を直接促進する証拠はないものの、疼痛・しびれ・倦怠感といった自覚症状を強め、治療後の回復を遅らせる要因になる可能性があります。 痛み・しびれを増幅 慢性的なストレス状態では、交感神経が優位になり、痛み刺激を増幅する「中枢性感作」という現象が起こりやすくなります。中枢性感作とは、脊髄や脳の痛み伝達経路が過敏になり、通常なら痛みとして感じない程度の刺激でも痛みとして感じるようになる状態です。(文献2) 脊髄腫瘍による神経への圧迫がわずかであっても、中枢性感作によって実際に感じる痛みやしびれが強くなり、QOL(生活の質)が大きく低下する場合があります。痛みによる不眠や食欲不振が重なると、さらに痛みの閾値が下がる悪循環に陥りやすくなります。 脊髄腫瘍の予防につながるストレス解消法 現時点では、ストレスが脊髄腫瘍を直接引き起こす明確な科学的証拠はありません。しかし、ストレスが免疫機能に影響を与え、すでに発症した腫瘍の症状を悪化させる可能性は否定できません。 ここでは、日常生活で実践できるストレス解消法をご紹介します。脊髄腫瘍の直接的な予防にはならないかもしれませんが、全身の健康維持や症状緩和に役立つ可能性があります。 自律神経を整える 自律神経のバランスを整えることは、ストレス耐性を高め、免疫機能を維持する上で非常に重要です。食生活、運動、睡眠の3つの観点から自律神経を整える方法をご紹介します。 まず食生活については、規則正しく、バランスの良い食事を心がけることが基本です。とくに抗酸化物質を多く含む野菜や果物を積極的に摂取し、カフェインや刺激物の過剰摂取は避けましょう。また、日々の適切な水分補給も忘れないようにしましょう。 運動面では、ウォーキングやヨガなどの軽い有酸素運動を定期的に行うことがおすすめです。ただし、過度な運動は逆にストレスになるため、自分のペースで続けられる運動を選ぶことが大切です。可能であれば、自然の中で運動すると、より高いリラックス効果が得られます。 質の良い睡眠も自律神経のバランスを整えるために欠かせません。規則正しい睡眠スケジュールを維持し、寝る前のスマートフォンやパソコンの使用は控えましょう。ブルーライトは睡眠の質を下げることが知られています。 寝室の環境を整え(適切な温度、湿度、静けさを保つ)、就寝前には温かい入浴やストレッチ、読書などのリラックスルーティンを取り入れると良いでしょう。 趣味を楽しむ 日常生活の中で自分が純粋に楽しめる時間を持つことは、ストレス解消に非常に効果的です。音楽を聴くことはストレスホルモンの分泌を抑制し、リラックス効果をもたらします。読書によって物語の世界に没頭すれば、現実の悩みから一時的に離れられるでしょう。 また、以下のような趣味もおすすめです。 絵を描く 楽器を演奏する 料理をする 創作活動は脳内の報酬系を刺激し、幸福感をもたらします。 園芸や散歩など、自然と触れ合う活動もストレスホルモンの低下に効果的です。自分が心から楽しめる趣味を見つけ、定期的な時間の確保が重要です。 趣味の時間は「自分だけの時間」として大切にしましょう。日々の忙しさや責任から解放される時間を持つことで、心に余裕が生まれます。同じ趣味を持つ人々との交流も、新たな刺激や喜びをもたらしてくれます。趣味のサークルやオンラインコミュニティに参加すると、社会的つながりが広がり、それ自体がストレス耐性を高める効果があります。 脊髄腫瘍の治療中や経過観察中の患者さんにとっても、体調と相談しながら無理のない範囲で趣味の時間を持つことは、QOL(生活の質)の向上につながります。身体的な負担が少ない趣味から始めて、徐々に活動の幅を広げていくことも一つの方法です。趣味に没頭することで得られる時間は、痛みの知覚を和らげる効果もあるといわれています。 マインドフルネスを実践する マインドフルネスとは、「今この瞬間の体験に、評価や判断をせずに意識を向けること」を意味します。日常的にマインドフルネスを実践すれば、ストレスへの反応パターンを変え、心の平静を保ちやすくなるでしょう。 マインドフルネス瞑想の基本は、背筋を伸ばしリラックスした姿勢で座り、自然な呼吸に意識を向けることから始まります。息が入ってくる感覚、出ていく感覚に注意を払い、雑念が浮かんでも判断せず、優しく呼吸に意識を戻します。初めは5分程度から始め、徐々に時間を延ばしていきます。 日常生活の中でも、食事をするときは味や香り、食感に意識を向け、歩くときは足の裏の感覚や体のバランスを意識するなど、日常の行動に注意を向けることでマインドフルネスが実践可能です。何かを待つ時間があるときも、その間の呼吸や体の感覚に注意を向けてみましょう。 マインドフルネス実践は、特別な道具や場所を必要とせず、日常生活の中で簡単に取り入れられます。 ストレス解消を心がけて脊髄腫瘍の悪化・発症を防ごう 脊髄腫瘍の直接的な原因はストレスではありません。現在の医学的知見では、脊髄腫瘍の主な発生メカニズムは遺伝子の突然変異であり、家族性の要因や放射線被曝、加齢などがリスク因子となります。 しかし、すでに発症した脊髄腫瘍患者では、ストレスが免疫機能の低下や炎症の促進、痛みの増幅などを通じて症状を悪化させる可能性があります。そのため、日常生活におけるストレス管理が重要です。 脊髄腫瘍の症状(背部痛、しびれ、脱力感など)に気づいたら、早めに専門医を受診しましょう。 当院「リペアセルクリニック」では、脊髄腫瘍をはじめとする神経系疾患の診断・治療に経験豊富な医師が、一人ひとりに寄り添った医療を提供しています。メール相談やオンラインカウンセリングにてお気軽にお問い合わせください。 参考文献 文献1 MSDマニュアル家庭版「脊髄腫瘍」 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/09-%E8%84%B3-%E8%84%8A%E9%AB%84-%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB%E3%81%AE%E8%85%AB%E7%98%8D/%E8%84%8A%E9%AB%84%E8%85%AB%E7%98%8D(最終アクセス:2025年5月13日) 文献2 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター「心理的因子と痛みの関係における中枢性感作の媒介効果」畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターホームぺージ https://www.kio.ac.jp/nrc/2019/04/11/kio_nrc_press_20190411/(最終アクセス:2025年5月13日)
2025.05.30 -
- その他、整形外科疾患
「最近、足に力が入らない」「歩くときにふらつく」そんな症状が続き、病院で脊髄腫瘍と診断された方もいるかもしれません。 脊髄腫瘍で歩けなくなる可能性はあります。 この記事では、脊髄腫瘍によって歩けなくなる原因や、その後の治療・歩行機能回復の見通しについてわかりやすく解説します。 また、脊髄腫瘍に対しては、再生医療も治療選択肢の一つです。 脊髄腫瘍のお悩みを今すぐ解消したい・再生医療に興味がある方は、当院「リペアセルクリニック」の電話相談までお問い合わせください。 【結論】脊髄腫瘍で歩けなくなる可能性はある 脊髄腫瘍は、脊髄や周辺の神経・血管を圧迫し、歩けなくなる可能性があります。 脊髄腫瘍によって歩けなくなる過程は次のとおりです。 背骨(脊柱)内の脊髄に腫瘍ができ、徐々に大きくなる 腫瘍が脊髄やその周囲の血管を圧迫し、神経の電気信号や血流が遮断される 筋肉に指令が届きにくくなり、脚の力が入らない・しびれるなどの初期症状が現れる 腫瘍の増大や出血、骨折を起こすと、急激に麻痺が進行する場合がある 首・胸・腰といった発生部位によって症状の出方は異なりますが、放置すればするほど症状は進行しやすく、回復が難しくなる傾向にあります。 歩きづらさやしびれ、ふらつきといった症状が続く場合は、医療機関を受診し適切な治療を受けましょう。 脊髄腫瘍の歩行回復の可能性 脊髄腫瘍によって歩けなくなっても、手術後に歩行機能が回復する可能性はあります。 国立病院機構整形外科の研究によると、脊髄内の腫瘍を手術で切除した患者の84.6%がサポートなしで歩けるようになったという報告もありました。(文献1) 腫瘍が神経を圧迫すると歩けなくなることがありますが、原因を取り除けば再び歩ける可能性があります。 しかし、以下のようなケースでは、歩行の回復が難しい傾向にあるため注意が必要です。 腫瘍の発見が遅れ、長期間ベッド上での生活を送っていた方 高齢で神経や筋力の回復力が低下している方 脊髄腫瘍で歩けなくなる症状は、早期の発見と治療で回復の可能性が高まります。歩行に不安がある場合は、ひとりで抱え込まず脊椎や脳神経の専門医に相談しましょう。 脊髄腫瘍の症状|しびれや歩行障害 腫瘍ができた部位によって異なりますが、脊髄腫瘍の主な症状はしびれや筋力の低下、歩行のふらつきです。 一般的には手足の違和感や痛み、しびれといった軽度の神経症状から始まり、徐々に感覚障害や筋力の低下が進行します。放置すると歩くのが難しくなり、転倒を繰り返すようになる場合もあります。 脊髄腫瘍の症状は加齢による神経の衰えや腰痛と誤解されやすいため、注意が必要です。 腫瘍の発生部位ごとの主な症状と歩行への影響は、以下の通りです。 発生部位 主な症状 歩行への影響 頸髄(首) 手足や体幹の感覚障害や麻痺 首の痛み 足の感覚低下 しびれ ふらつき 転倒 胸髄(胸) 胸部以下の感覚障害 両足の筋力低下 背部痛 歩行時のふらつき バランス喪失 腰髄(腰) 足の痛みやしびれ 腰痛 下肢の筋力低下 歩行時に足が痛む しびれ 足がもつれる また、以下の症状がみられる場合は、脳神経外科や整形外科を受診しましょう。 首や腰、背中の痛みが長く続く 温度の感覚が鈍くなる 歩きにくい 症状に気づいた段階で専門医に相談できれば、進行を抑える可能性が高まります。 脊髄腫瘍の治療法 脊髄腫瘍によって歩けない場合の一般的な治療法は、以下の通りです。 外科的手術 放射線療法 投薬治療 再生医療 腫瘍を取り除き神経の圧迫を緩和できれば、症状の改善が期待できます。 手術を伴わない再生医療という新しい治療法も選択肢の一つとして紹介します。 外科的手術 脊髄腫瘍の外科的手術は、神経を圧迫している腫瘍を直接取り除く治療法です。良性腫瘍や、症状が進行しているケースでは第一選択となります。 以下は、手術のおおまかな手順の一例です。 全身麻酔をかける 顕微鏡で神経や腫瘍を確認しながら腫瘍を少しずつ摘出 背骨が不安定な場合は金属や人工骨で固定 術後は経過観察とリハビリを実施 良性腫瘍の場合、腫瘍が完全に摘出できれば再発の可能性はほとんどありません。一方で、腫瘍がすべて取り切れなかったり、再発のリスクがあったりする場合は、放射線などの治療を追加で行うこともあります。 入院期間は一般的に2〜3週間程度が目安で、術後にはリハビリが必要です。 脊髄腫瘍の外科的手術は、腫瘍を取り除くことで神経の働きが回復し、しびれや歩けない状態の改善が期待できます。しかし、脊髄を損傷するリスクもあるため、治療方針は医師と十分に相談しましょう。 放射線療法 脊髄腫瘍の放射線療法は、手術で取りきれなかった腫瘍や、切除が難しい部位に対して体の外から放射線を照射して、腫瘍細胞の弱体化や縮小を目指します。 脊髄腫瘍の放射線療法は、以下の副作用がみられることがあります。 疲労感 食欲不振 白血球や赤血球の減少など そのため、治療中は体調管理や定期的な検査が欠かせません。腫瘍の種類や部位によって効果に差があるため、医師と相談して治療計画を立てましょう。 投薬治療 脊髄腫瘍に対する投薬治療は、痛みや麻痺、排尿障害などの症状を和らげるための対症療法や、手術・放射線と組み合わせる補助療法として行われます。 腫瘍の種類や症状の程度に応じて、主に以下のような薬が使われます。 薬の名前 使用する場面 コルチコステロイド 多くは手術を前提とした処置 腫瘍が脊髄を圧迫している場合に腫れを抑える目的で使用 痛み止め 手術ができないケース 術後に腰や背中の痛み・しびれが残る場合 排尿しにくさを改善する薬 排尿コントロールが難しいとき 抗がん剤(化学療法) がん細胞の増殖を抑制する目的 主に悪性腫瘍や転移において使用 投薬治療には副作用のリスクも伴うため、定期的な検査が必要です。医師と相談しながら、症状や体調に合った薬を選びましょう。 再生医療 再生医療は、脊髄腫瘍による歩きにくさに対する治療の選択肢の一つです。 自身の細胞や血液を用いて、損傷した神経や組織にアプローチします。多くの場合、手術を伴わず通院で治療が可能なため、体への負担が少ないのも特徴です。 以下のお悩みを抱えている方は、再生医療による治療も選択肢としてご検討ください。 脊髄腫瘍で歩けないことに不安を抱えている 手術以外の治療法を探している 長期の入院が難しい リハビリの効果が十分に感じられない 手術後のしびれや痛みに悩んでいる 当院「リペアセルクリニック」では、再生医療による治療に対応しています。治療に関するご不安やご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。 脊髄腫瘍のリハビリ 脊髄腫瘍の治療では、手術や放射線治療と並行して行うリハビリが重要です。 主なリハビリの流れは、以下の通りです。 時期の目安 主なリハビリ内容 術後すぐ~2週間程度 関節の曲げ伸ばしをして可動域を保つ 呼吸に使う筋肉を鍛え、持久力の向上を図る 症状が安定し、訓練が可能になったら 寝返りや起き上がり、食事、排泄の訓練 松葉杖や歩行器の使用 体幹や太ももなどのトレーニング 関節の位置感覚を取り戻す訓練 手術後半年以降 残った機能の維持と強化を継続する 神経の損傷や圧迫によって低下した運動機能・感覚機能を取り戻すために、手術後できるだけ早い段階からリハビリが開始されます。 歩けるようになるためには、単に筋力を鍛えるだけでなく足やつま先が今どこにあるかを感じ取る感覚を取り戻すことも重要です。胸部の背骨にできた脊椎腫瘍の手術を受けた方では、この感覚が足の親指で低下していると、術後に歩けるようになるまで時間がかかるという報告があります。(文献2) 退院後も、外来・訪問・通所リハビリなどを活用して、残存機能の維持と強化を継続しましょう。医師やリハビリスタッフと相談しながら、無理のないプランを立てることが大切です。 脊髄腫瘍で歩けないことにお悩みの方は当院へご相談ください 歩こうとしたときのふらつきや脚に力が入らない感覚は、脊髄腫瘍が神経を圧迫している可能性があります。 脊髄腫瘍が進行すると、歩けない・立てないなど日常生活に影響を及ぼす状態につながるため、早期の受診が重要です。 脊髄腫瘍は、手術や放射線治療によって歩けるようになる場合があります。 また、再生医療も、脊髄腫瘍に対する治療法のひとつです。 再生医療は、患者様自身から採取・培養した幹細胞を利用する治療法です。手術や入院が不要なため、手術のリスクを避けたい方、長期入院が難しい方は、一度ご検討ください。 当院「リペアセルクリニック」では、患者様一人ひとりの状態に応じた治療計画を提案し、十分な説明とご相談の上で治療を進めております。 再生医療による治療に興味がある方は、お気軽にご相談ください。 脊髄腫瘍で歩けない方からよくある質問 脊髄腫瘍とはどんな病気ですか? 脊髄腫瘍とは、背骨の中を通る脊髄と呼ばれる神経の周囲に腫瘍ができ、神経を圧迫する病気です。発生部位や性質によって良性・悪性に分かれ、治療法も異なります。 脊髄腫瘍の発生場所や特徴は、以下の通りです。 場所 主な発生源 特徴 治療の考え方 硬膜外(骨と脊髄の外側) ほかの臓器からの転移が最多 骨を壊しながら大きくなり、神経を強く圧迫 手術+放射線・薬でコントロール 硬膜内髄外(脊髄の内側、脊髄の外) 神経の膜や鞘からできる良性腫瘍 大きくなるまで無症状のこともある 小さければ経過観察、大きければ手術 硬膜内髄内(脊髄そのもの) 脊髄内部の細胞 悪性が多く進行が速い 早期に手術・放射線を検討 腫瘍が大きくなると、背中や手足の痛み・しびれ、力の入りにくさが出現し、放置すると歩けなくなったり排尿が難しくなったりすることもあります。 症状が軽いうちにMRIなどの精密検査を受け、専門医と治療方針を相談しましょう。 脊髄腫瘍の診断・検査方法は? 脊髄腫瘍の診断では、痛みやしびれ、ふらつき、筋力低下、排尿・排便障害といった神経症状を確認します。 さらに、腫瘍の有無や位置を特定するために、必要に応じて以下のような検査を行います。 検査名 検査内容 実施の目的 MRI トンネル状の装置を使用し身体の断面を画像化する 神経や腫瘍の形・位置・血流を詳細に確認 CT レントゲンと同じX線を照射し、断面の画像を作成する 骨の破壊や変形の有無を確認 電気生理検査 筋肉に細い針を刺して筋肉の収縮を調べる ヘルニアとの鑑別・神経伝導の状態を確認 生検 細い針を刺して腫瘍の組織を採り顕微鏡で調べる 良性・悪性の確認や種類を確定 なお、脊髄腫瘍の確定診断には画像検査が不可欠です。 脊髄腫瘍の原因は? 脊髄腫瘍のはっきりとした原因は、まだ明らかになっていません。 原因として考えられている要因には、以下のようなものがあります。 体内の細胞がなんらかの理由で異常増殖する 肺がんや乳がんなど他の臓器からの転移 また、ストレスが免疫力や自律神経に影響を与えることで、症状の悪化や体調不良を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。 脊髄腫瘍の予後は? 脊髄腫瘍の予後は、腫瘍の種類によって大きく異なります。 腫瘍の種類と生存率について、253人を対象とした研究では以下のような結果が報告されています。(文献3) 腫瘍の種類 上衣腫瘍 血管芽腫 星状細胞腫瘍 特徴 脊髄の上衣細胞から発生する 比較的手術で取りやすい 脊髄内の血管が増殖してできる良性の腫瘍 全摘出しやすい 星状細胞(神経膠細胞)由来 悪性の場合もあり、手術で全摘出が難しい 5年後の生存率 86.7% 88.7% 67.8% 10年後の生存率 86.7% 88.7% 58.1% 15年後の生存率 76.3% 53.2% 記載なし 上衣腫瘍と血管芽腫は比較的全摘出が可能で、長期生存率も高い傾向にあります。一方、星状細胞腫瘍は全摘出が難しいことが多く、5年・10年後の生存率も低めです。 腫瘍の種類を正確に見極めることが、治療方針や予後の予測において重要です。 参考文献 (文献1) 硬膜内髄外脊髄腫瘍患者における腫瘍切除後も術前の歩行障害の程度は残るか? | 国際脊髄学会誌 (文献2) 足の親指の関節位置感覚の障害を伴う脊椎腫瘍患者では、初期段階での歩行機能の術後回復が遅れる|J-STAGE (文献3) 髄内脊髄腫瘍の外科的切除後の生存と機能的転帰:22年間にわたる253人の患者のシリーズ | PubMed
2025.05.30