【疑問】脳幹出血は回復の見込みある?治療や時期別のリハビリ内容も解説
公開日: 2023.07.10更新日: 2024.11.06
脳幹出血になったら回復の見込みはあるの?
回復にはどのような治療やリハビリが必要?
この記事を読んでいるあなたは、脳幹出血を起こした人が無事に回復できるのか、不安を抱いているのではないでしょうか。
どのような治療やリハビリが必要になるか疑問に思っているかもしれません。
結論、脳幹出血から回復する見込みがあるかは、出血の度合いをはじめとする重症度によって異なります。重度の脳幹出血は回復の見込みがなく、重い障害が残る、あるいは死に至るといったケースも珍しくありません。
本記事では、脳幹出血の回復の見込みや治療について、詳しく説明します。記事を最後まで読めば、脳幹出血の生存率や治療がわかり、今後の見通しを立てられるでしょう。
目次
脳幹出血の回復の見込みは重症度によって異なる
「脳幹」は、脳の中心部にあり、以下のような役割を果たす組織です。
- 循環
- 呼吸
- 眼球運動
- 体温調節
- 消化液分泌
- 自律神経の中枢
どの役割も、人間の生命維持に欠かせないものです。そのため、出血によって脳幹の機能が失われると、手足の麻痺や意識障害、呼吸停止などの重篤な症状を起こす可能性があるのです。
脳幹出血の回復の見込みは、出血量や意識の有無などの「重症度」によって大きく異なります。
重度の場合は回復が難しい可能性が高いものの、軽度〜中程度の場合は回復が期待できるケースもあります。
脳幹出血は助からない人が半分以上
脳幹出血は半分以上の人が助からないという、以下のような調査結果があります。(文献1)
- 良好な回復だった方:13人(6.1%)
- 中程度の障害:27人(12.7%)
- 重度の障害:27人(12.7%)
- 植物状態:23人(10.8%)
- 死亡:122人(57.5%)
発症時に呼びかけや痛みなどの刺激を与えても反応しない意識レベルの場合、回復の見込みは難しいかもしれません。
一般的には、意識レベルの評価指標である「GCS:グラスゴー・コーマ・スケール」が7点以下の場合は、予後不良とされています。
また、意識レベルの低さに加えて、以下のような症状がある場合も予後は悪いといわれています。
- 高熱
- 呼吸障害
- 瞳孔・眼球の異常
- 手足の麻痺や過緊張
ただし、脳幹出血後の死亡率は、調査によってばらつきがあります。
別の調査では、死亡率を31%や40〜50%としているものもあるため、具体的な回復の見込みは担当の医師へ確認しましょう。(文献2)(文献3)
脳幹出血の死亡率・生存率は発症時の意識状態が重要
脳幹出血の回復の見込みは、「意識レベル」「全身状態」「重症度」など、複数の要因が関係します。
一般的には、以下の要因があると回復の見込みは低いといわれています。
- 麻痺が重い
- 出血の範囲が広い
- 意識不明など、発症時の意識状態が悪い
また、脳幹出血の死亡率は、発症時の意識状態や出血量とも関係があります。海外の調査では以下のような死亡率が示されています。(文献4)
- 意識障害が低く、出血量が少ない場合:2.7%
- 意識障害が高く、出血量が多い場合:状態によっては100%
重篤な意識障害がみられ、出血量も多い場合は、助からない可能性が高いといえるでしょう。
後遺症の重さは受診スピードやリハビリの進行度によって変わる
脳幹は生命の維持に関わる重要な部位のため、機能が失われると重篤な後遺症が出る可能性があります。
元々の症状の重さに加え、発症後に受診までの時間がかかった場合や、リハビリテーションが進まない場合も後遺症が重くなりやすいでしょう。
しかし、重い後遺症が残ったとしても、諦めないことが大切です。失われた脳細胞や神経の再生は困難ですが、神経細胞群には新たなネットワークを築いて機能が改善する「可塑性」が期待できるからです。(文献5)
医師や理学療法士らの指導のもと、できる限りのリハビリテーションを行いましょう。
なお、半年後に歩けるようになるかは、発症後1カ月の状況で見通しがつくという報告もあります。(文献6)
脳幹出血の治療
出血直後である急性期のおもな治療法は、以下の2つです。
- 降圧療法:出血部位を拡大させないための治療
- 全身管理:呼吸や脈拍などをモニタリングして管理する
脳幹出血は他の脳出血と異なり、血腫を除去する手術はあまり適応されません。脳幹は脳の深い位置にあるため、手術の負担が大きく、メリットが少ないためです。
ただし、出血部位が広く、脳内の「脳室」という部位が拡大する「水頭症」になっている場合は、脳内の圧力を下げる「ドレナージ手術」を行うケースがあります。
また、意識状態が悪くて呼吸がうまくできない場合は、人工呼吸器による呼吸管理が必要です。症状が落ち着いて自力で呼吸ができるようになれば人工呼吸器を外しますが、自力で呼吸ができない場合には人工呼吸器を外せないケースもあります。
なお、症状によっては「気管切開」を行い、人工呼吸器の代わりに肺に空気を送るチューブを気管支につなぐこともあります。
【ステージ別】脳幹出血のリハビリの内容
脳幹出血の治療では、薬物治療に加えて、脳や身体の機能を回復させる「リハビリテーション(以下リハビリ)」も非常に重要です。
脳幹出血のリハビリ内容は、以下3つの時期で大きく異なります。
- 急性期(~3カ月)
- 回復期(3~6カ月)
- 生活期(6カ月以降)
本章の内容をもとに、リハビリの流れや概要を理解しておきましょう。
急性期のリハビリ
急性期のリハビリは「二次的合併症の予防」と「早期の機能回復」に重点をおきます。
最初は関節が固まらないためのリハビリを行い、麻痺が回復してきたら自力で動くための訓練へ移行します。具体的なリハビリの例は、以下の通りです。
- 座位訓練
- 嚥下訓練
- 移乗訓練(車いすに移る訓練)
- 立位歩行訓練
- 言語機能の回復訓練
近年、早くからリハビリを始めて寝たきりの時間を減らした方が、予後や後遺症の経過が良いといわれています。
脳幹出血は他の脳血管疾患よりも安静度が高いため、初期に行えるリハビリは限られますが、できる範囲で積極的に行います。(文献7)
回復期のリハビリ
急性期のリハビリで回復しなかった場合、「回復期リハビリテーション病棟」で集中的なリハビリを行います。(文献8)
また、回復期には「痙縮 (けいしゅく)」という手足の筋肉が緊張して突っ張る症状があらわれます。そのため、ストレッチや筋弛緩薬による適切な対応も重要です。
リハビリを行っても機能回復が困難な場合は、装具の使用やできる方法での動作練習、環境の調節などを行い、自立した生活ができるよう目指します。
生活期のリハビリ
発症6カ月以降の「生活期」は、症状が安定したあとの維持が目的です。
筋肉の痙縮をやわらげる治療や装具の訓練・調整をしながら、日常生活を送れるように環境を整えます。
また、デイケアや訪問リハビリテーションなどの、介護保険を使用したサービスもよく使われます。
まとめ|脳幹出血は程度によって回復の見込みあり!リハビリをしっかりと行おう
本記事では、脳幹出血の回復の見込みや治療、リハビリなどを詳しく解説しました。
脳幹出血の回復の見込みは、出血量や意識状態などの重症度によって異なります。軽症の場合は回復するケースもありますが、意識不明や呼吸障害などがある重症の場合は助からないケースが半分以上です。
脳幹出血のおもな治療は「降圧治療」と「全身管理」です。命が助かった場合は、日常生活に戻るためのリハビリテーションをできるだけ早期から開始します。
当院「リペアセルクリニック」では、再生治療(幹細胞)による脳卒中の再生医療を実施しています。再生治療は、脳幹出血の再発防止やしびれ、麻痺の改善が期待できる治療です。
もしあなたが脳幹出血の再発予防や治療の選択肢を広げたいと考えているなら、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」にて当院へご相談ください。
この記事が脳幹出血の回復の見込みを知るのに役立ち、今後の見通しを立てる助けになれば幸いです。
脳幹出血の回復の見込みについてよくある質問
脳幹出血の後遺症にはどのようなものがありますか。
脳幹出血の代表的な後遺症は、以下の通りです。
- 麻痺
- 痙縮
- 感覚障害
- 言語障害
- 嚥下障害
- 排尿障害
- 高次機能障害
どのような後遺症が出るかは、脳幹出血によってダメージを受けた部位や程度によって異なります。
脳幹出血にならないようにするにはどうしたら良いですか。
脳幹出血は、高血圧が引き起こす「動脈硬化」が大きなリスクとされています。そのため、脳幹出血を防ぐには、高血圧を招く以下の内容を避けることが大切です。
- 塩分の摂りすぎ
- 暴飲暴食
- 運動不足による肥満
脳幹出血の予防については、以下の記事も参考にしてください。
参考文献一覧
文献1
原発性脳幹出血患者の予後因子,Clinical Neurology and Neurosurgery,Volume 115, Issue 6, June 2013, Pages 732-735
文献2
急性期脳血管障害の臨床的研究,急性期脳血管障害の臨床的研究, 脳卒中, 1980, 2 巻, 4 号, p. 326-332,
文献3
特発性脳幹出血の外科的治療,Medicine (Baltimore). 2019 Dec; 98(51): e18430.
文献5
脳の機能回復と神経可塑性,石田和人,玉越敬悟,高松泰行,理学療法学, 40 (8 ) p535-537,2013
文献6
脳幹出血患者の予後予測,木村紳一郎,光眞邦哲ら,脳卒中の外科 39:262-266,2011
文献7
脳卒中急性期リハビリテーション診療の指針,日本脳卒中学会「脳卒中急性期リハビリテーションの均てん化および標準化を目指すプロジェクトチーム」