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脊髄出血とは?脊髄血管障害の原因・症状・後遺症のリハビリについて解説

脊髄出血と呼ばれる疾患に聞きなじみがない方も多いのではないでしょうか。
脊髄出血は脊髄血管障害の一つであり、外傷や脊髄の血管奇形などが主な原因です。
稀な疾患であり、研究症例数としては1826年から1996年までの170年間で613例しか報告されていません。しかし、脊髄出血は重大な脊髄損傷や神経障害を引き起こす可能性があります。(文献1)
この記事では、脊髄出血の原因や症状、治療について詳しく解説するので、脊髄出血の理解を深める手助けになれば幸いです。
目次
脊髄出血について
脊髄出血とは、脊髄内やその周囲の組織が出血した状態です。
脊髄は、脳から背骨の中を腰に向かって走る太い神経を指し、脳からの指令を筋肉に伝えるのが主な役割です。脊髄血管障害と呼ばれる病気を発症する場合があり、脳と同じように出血したり、血管が詰まったりします。
出血した場合は脊髄出血、血管が詰まった際は脊髄梗塞と呼びます。
脊髄梗塞について詳細は、以下の記事をご覧ください。
脊髄出血の種類
脊髄出血は、出血した場所により4つの種類に分けられます。
- 脊髄内出血(脊髄内部の出血):麻痺やしびれなど急激に症状が進行する場合が多い
- 脊髄くも膜下出血(軟膜とくも膜の間の出血):発熱や頭痛、嘔吐など
- 脊髄硬膜下出血(くも膜と硬膜の間の出血):首や背中の強い痛みなど
- 脊髄硬膜外出血(硬膜よりも外側の出血):4つのうちで症例が多い傾向にあり、首や背中の強い痛みなどがみられる
脊髄は軟膜・くも膜・硬膜の3層の膜に覆われていて、出血した場所によって疾患名は異なります。出血している部位の検査は、脳神経外科によるCTスキャンやMRIなどが一般的です。
脊髄出血の患者背景と特徴
1869年から2012年までの脊髄出血の症例1010件を検討した報告では、患者様の平均年齢は47.97歳(年齢幅:0〜91歳)であり、6割以上が男性でした。(文献2)
その後の医療発展や画像検査技術の向上により、脊髄出血の報告数も増えてきましたが、稀な疾患といえます。
脊髄を守る3つの膜の一番外側である、硬膜よりも外側の出血(脊髄硬膜外出血)が最も多い傾向にあります。出血が多い部位は、首の下方や胸の下方です。
また、出血は背骨の2つ以上に渡っていることが多く、最大で6つに広がるケースがみられました。そのため、出血が広がる前に医療機関で適切な治療を受けるのが重要です。
脊髄出血の原因
脊髄出血の主な原因は以下のとおりです。
- 外傷:交通事故や転落など
- 血管奇形:動脈や静脈、リンパ管などが異常に発生する
- 硬膜外動静脈瘻:動脈と静脈が硬膜の中でつながる
- 医療行為による合併症:髄液組成を調べる腰椎穿刺や脊椎麻酔など
- 脊髄腫瘍:脊髄やその周囲で腫瘍が発生し、脊髄を圧迫する
- 抗血栓薬:血液を固まりにくくする薬の服用
脊髄出血の原因は、交通事故や転落などによる外傷が一番多いとされています。
また、動脈と静脈がつながる血管の異常や腫瘍の発生、血液を固まりにくくする薬も原因に挙げられます。血液を固まりにくくする薬は、血栓や梗塞の予防に必要なので自分の判断で服薬を止めず、不安があれば医師に相談しましょう。
脊髄出血の症状
脊髄出血によって神経が圧迫されると、以下の症状を引き起こします。
- 首や背中の強い痛み
- 身体を動かしにくくなる(運動障害)
- 温度や痛みを感じない、しびれを感じる(感覚障害)
出血は急に起きることが多いので突発的に発症するのが一般的ですが、24時間~数日経ってから症状が現れることもあります。
また、出血した部位によって麻痺が及ぶ範囲が以下のように異なる場合があります。
- 胸部の脊髄が出血:股関節からつま先までの麻痺
- 首の脊髄が出血:下半身に加えて、肩から手の指まで麻痺
出血量が多いほど血液の塊が大きくなり、症状が重くなる傾向があるので、上記のような症状がみられる方は早急に医療機関を受診しましょう。
脊髄出血の診断
脊髄出血の診断には、以下の検査を用いるのが一般的です。
- CT:骨の損傷を調べる
- MRI:脊髄の出血や血のかたまり(血腫)を調べる
- 血管造影検査:血管を詳しく調べる
脊髄出血の検査はMRIが一般的で、出血や血のかたまりである血腫がないか調べます。
複数の層にまたがって出血している際は、MRIより詳しく調べられる血管造影検査を行います。血管造影検査とは、太ももの付け根の血管から細い管を入れ、造影剤を流して撮影する検査です。
出血量が多く疾患が早く進行した場合、麻痺や強い痛みなど日常生活に深刻な影響を与えるリスクが高まります。適切な診断を受けて回復の可能性を高めるには、正確な検査を受けることが重要です。
脊髄出血の治療
脊髄出血の治療について、以下の表にまとめました。
治療の種類 | 治療の内容 | 適用される条件 |
---|---|---|
外科的治療 |
|
身体に麻痺症状がある |
保存的治療 |
|
|
脊髄出血は、出血の原因や部位、出血によって治療の方法が異なります。そして、急を要する場合が多い疾患です。
脊髄出血では外科的手術を行うことが多く、特に麻痺症状が重篤な場合は早期の手術が重要です。不全麻痺の場合は48時間以内、完全麻痺の場合は36時間以内の治療で回復の見込みが高まるとされています。
手術では、背骨の一部を削り神経への圧迫を取り除くのが一般的です。血管の奇形が見られる際は、血管からカテーテルと呼ばれる細い管を通して出血している血管を塞ぐ血管内治療を行います。
一方、血液をサラサラにする薬を服用しておらず身体の麻痺症状もない場合は、薬物療法などの手術しない保存的療法を行うことがあります。
脊髄出血の詳しい治療や症状の見通しについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
脊髄出血の後遺症
脊髄出血の主な後遺症は以下の通りです。
- 運動麻痺:身体の麻痺やしびれ
- 感覚障害:痛みや温度などの感覚低下
- 膀胱直腸障害:排尿や排便に支障が出る
出血の量が多かったり、血腫(血管外に血液が漏れて固まった状態)による圧迫が強かったりすると、脊髄が損傷して身体の麻痺やしびれ、痛みや温度などの感覚低下を引き起こします。後遺症は脊髄が損傷した部位によって異なりますが、首や胸の部分の脊髄が損傷すると下半身が麻痺する場合もあります。
発症から早期に適切な治療を受けるほど回復の可能性が高くなるため、脊髄出血が疑われる場合は一刻も早く治療を受けることが大切です。
脊髄出血のリハビリ
脊髄出血のリハビリは、時期によって異なります。
- 急性期:可動域の訓練や呼吸筋の強化
- 回復期:寝返りや起き上がりなどの動作訓練
- 慢性期:日常生活の動作の訓練や精神的なケア
脊髄は一度損傷すると、組織の再生はほとんど見込めません。そのため、脊髄出血のリハビリの主な目的は残っている機能の維持や強化です。
脊髄出血を発症した直後の急性期では、寝たきりの防止や後遺症の軽減のためできるだけ早い時期からリハビリを始めます。麻痺によって動けない関節が固まらないように可動域の訓練をしたり、体位交換やエアマットの使用などで床ずれを予防したりします。
状態が落ち着いた回復期以降は、症状に合わせて寝返りや車いすに乗る動作、日常生活の動作などを練習します。
まとめ|脊髄出血とは?脊髄血管障害の原因や症状
脊髄出血は、脊髄内やその周辺に出血が生じた状態を指します。原因の多くは外傷ですが、脊髄の血管奇形も考えられます。脊髄出血の症状は突然に見られ、背中の痛みの後に運動障害や感覚障害を引き起こすのが一般的です。
出血の場所や程度によりますが、発症してから早急に治療を受けると回復する可能性があります。ただし、脊髄へのダメージが大きい場合や障害を受けてから時間が経ってしまった場合は、身体の麻痺や感覚の低下などの後遺症が出るリスクが高まります。
損傷した脊髄は、自然回復がほとんど期待できません。そのため、脊髄出血の後遺症には、残っている機能の維持や強化が目的のリハビリが一般的です。
医学分野ではさまざまな治療アプローチが研究されており、再生医療もその一つです。脊髄出血の後遺症にお悩みの方は、再生医療を提供している当院「リペアセルクリニック」までお気軽にご相談ください。
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脊髄出血についてよくある質問
脊髄ショックと言われましたがよくなりますか?
脊髄ショックの回復には、数日から数週間かかる場合が一般的です。
脊髄ショックとは、重度の脊髄損傷が見られた際、一時的に脊髄が機能不全を起こし、反射反応が無かったり、筋肉が緩んだ状態になったりします。身体の麻痺やしびれの評価は、脊髄ショックを離脱した後に行います。
脊髄出血はなぜいくつも検査するのですか?
脊髄出血では、CTで骨の損傷を調べたり、MRIで出血の状態を調べます。
出血が複数の層にまたがっている際や、血管の奇形が疑われる場合は、MRIよりも詳しく血管を調べるために血管造影検査を行います。血管造影検査とは、太ももの付け根や腕の血管から、カテーテルと呼ばれる細い管を入れ、造影剤を流して撮影する検査です。また、血管が細くなっている場所まで進み、血管の中から押し広げて血流を正常にしたり、塞栓物質と呼ばれる血管をふさぐ物質を注入して止血したりする治療ができます。
脊髄出血は、早期に適切な治療を受けると、後遺症が軽減する可能性があります。良好な予後のためにも、検査を受けて出血の状態を正しく把握しましょう。
参考文献
Springer Nature Link「脊髄血腫:613人の患者のメタアナリシスによる文献調査」Springer Nature Linkホームページ,2003年1月1日
https://link.springer.com/article/10.1007/s10143-002-0224-y
(最終アクセス:2025年5月8日)
Journal of Neurosurgery Publishing Group「脊髄硬膜外血腫:1000例以上の個人的経験と文献レビュー」Journal of Neurosurgery Publishing Groupホームページ,2017年6月2日
https://thejns.org/spine/view/journals/j-neurosurg-spine/27/2/article-p198.xml?tab_body=pdf-27560
(最終アクセス:2025年5月8日)