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スノボ・スキーなど冬のスポーツによる膝の怪我とは ウィンタースポーツシーズンになると、スキーやスノーボードを楽しむ方も多いと思います。 しかし、スポーツですので怪我のリスクについて十分に考えておく必要があります。 本記事では、ウィンタースポーツで生じやすいスポーツ外傷、膝の怪我に焦点を当てて解説していきます。 膝の怪我で多いのは、前十字靭帯損傷と半月板損傷 スキーやスノーボードなどのウィンタースポーツにおいては、膝の損傷、捻挫といった怪我が多く見られます。これは滑走中に膝を捻ってしまったり、ジャンプからの着地、転倒時に大きな負担がかかってしまうためです。 膝の怪我の中で最も頻度が多いのが、前十字靭帯損傷、半月板損傷です。 これらの怪我について詳しく見ていきましょう。 前十字靭帯損傷 前十字靭帯とは、膝の関節の中にある靭帯のうちの一つで、膝関節を安定化させる働きをしています。前十字靭帯は主に膝の捻りと、前後方向のぐらつきを抑えています。 ◇症状 受傷直後は激しい痛みのため、その場から動けなくなることが多いです。その際に「ぶちっ」という筋肉が切れるような音が聞こえることもあります。 受傷直後に動けていた方でも、約70%に関節内血腫(関節内に血がたまる)が生じるとされており、時間が経過するとともに、痛みや腫れが強くなり、動くことが出来なくなっていきます。 2~3週間後には腫れや痛みは軽減されることが多いですが、下記のような症状が継続してみられることがあります。 ・膝の不安定感 ・膝が外れる感じがする ・膝に力が入らない ・膝がすぐ腫れてしまう ・膝が伸びない ・正座ができない 膝を使う動作、特にスポーツ競技中などの様々な動作で症状が出ます。 ◇診断 医師による診察や、レントゲン検査で骨折の有無を確認します。 MRI検査が靭帯の評価(靭帯の形状や靭帯の走行など)に有用です。 ◇治療 前十字靭帯損傷の治療法には、保存療法と手術療法の2種類があります。それぞれについてみていきましょう。 保存療法 大腿四頭筋などの筋力訓練を行ったり、必要に応じて装具を作成して日常生活やスポーツ活動への復帰を目指します。 しかし、この場合は靭帯が完治したわけではなく、日常生活で膝が安定せず、痛みが続く場合もあります。症状が残る場合は、半月板の損傷などの二次損傷を起こすリスクが高くなります。 以前はスポーツをしない場合は、保存療法を選択する場合も多かったですが、現在では膝の老化の進行を早める可能性があり、若年者でも手術を勧められることが多くなっています。 手術療法 靭帯は自然に修復されることはなく、再建術が行われます。再建術は膝の後内側にある屈筋腱を移植する自家移植が一般的に行われます。 手術後はリハビリが必須となりますが、術後10~12か月後に元のスポーツに復帰できることが多いです。 前十字靱帯損傷を放置すると、膝が安定性を失い、膝崩れといいガクッと崩れ落ちてしまったり、膝があらゆる方向に捻じれやすくなります。 前十字靱帯損傷によって膝が安定しない状態が続くと、クッションの役割をしている半月板や、関節軟骨に負荷が多くかかってしまいます。その結果、半月板損傷など二次的な障害が生じることがあります。 半月板損傷 半月板とは膝関節の大腿骨と脛骨の間にある線維軟骨のことです。内側と外側にそれぞれにあり、膝にかかる衝撃を吸収する働きがあります。 ◇症状 症状としては膝の曲げ伸ばしが困難になることが挙げられます。また、動かそうとしたときに激しい痛みを伴うこともあります。 重症の場合には、膝に水(関節液)が溜まり腫れてしまったり、激痛を伴って関節が動かせなくなる「ロッキング」という症状が現れ、歩行困難になることもあります。 ◇検査 医師による診察やMRIが行われます。また、状況に応じて、関節の中に内視鏡を入れて調べる、関節鏡検査を行う場合もあります。 ◇治療法 半月板損傷の主な治療法には、保存治療と手術療法の2種類があります。 保存療法 サポーターなどで患部を固定し、抗炎症薬などの薬物療法やリハビリなどを行います。保存療法を行っても痛みや、ロッキングなどの症状が続く場合には手術を行います。 手術療法 断裂部位の幅が 1 cm以上と大きい場合や、保存療法を行っても症状が持続する場合は手術療法が検討されます。 手術法には、損傷した部分を切り取る切除術と、損傷した部分を縫い合わせる縫合術の2種類があり、関節鏡を使った鏡視下手術を行います。 切除術の場合は、半月板を取り除くことで膝軟骨の消耗が進んでしまうことがあるため、近年では縫合術が選択されることもあります。ただし、損傷した半月板の状態によって縫合が難しいと判断された場合は切除術を行います。 手術後はリハビリが必須であり、スポーツへ復帰できるタイミングは、半月板切除術で約3ヵ月、半月板縫合術で約6ヵ月程度とされています。 まとめ・スノボ・スキーなど冬のスポーツによる膝の怪我の予防・再発予防のために スキーや、スノーボードを行う際にはプロテクターを着用するようにしましょう。 これにより、怪我のリスクが格段に下がります。また自分の実力に見合った楽しみ方をすることも重要です。 治療後はケガをした時と同じ動作を続けると、再び膝を損傷する可能性があるため、スポーツの際などは特に注意が必要です。また、股関節や足首など下肢全体の関節が柔軟だと、膝へかかる負担が軽減されやすくなり、再発予防にもつながります。 下肢の筋力トレーニングも必須です。特に大腿四頭筋とハムストリングスを強化することが重要です。 普段からストレッチや筋トレを習慣づけ、運動する際には、準備運動や整理運動をしっかり行うようにして、体全体の柔軟性を保つようにしましょう。 スキーやスノーボードを行う際は、怪我のリスクについても備えておくことが重要です。膝の怪我は日常生活にも影響が出ることが多いので、安全にスポーツを楽しみましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.111 監修:医師 坂本貞範
2023.02.01 -
- ひざ
- 健康
必見!膝の裏側でリンパが詰まっていませんか?その原因と対策とは 「膝から下がむくんでいて気になる」 「膝の裏がふくらんでいるけど何が原因なの?」 このような症状に不安になっている方はいませんか?膝の裏側の腫れや痛み、膝から下のむくみは「リンパのつまり」が原因かもしれません。 今回は、膝裏のリンパの詰まりに関して、原因や具体的な対処法を解説します。 膝裏のリンパが詰まる原因 膝裏にはリンパの流れる管(リンパ管)の太くなっている部分があります。 このような部分を「リンパ節」と呼び、膝裏のリンパ節は「膝窩リンパ節(しっかリンパせつ)」と言います。 リンパ管を流れるリンパは体内の老廃物や細菌を運ぶ下水道のような役割を果たしています。そしてリンパ節はリンパ管を通ってきた異物を取り除くための部分です。 リンパそのものの流れが悪くなると、リンパ節でリンパ液がうまく循環しなくなってしまい、リンパ節が詰まってしまうような状態を引き起こします。 リンパの流れが悪くなる原因としては以下のようなものが挙げられます。 ・運動不足 ・肥満 ・偏った食生活 ・長時間同じ姿勢を続ける など 運動不足や肥満、長い時間同じ姿勢を続けることに共通して言えることは、「筋肉の働きが低下する」ことです。 リンパ管は筋肉に挟まれながら、体を巡っています。そのため、身体の曲げ伸ばし、しゃがんだり、伸ばしたり、押してみたり筋肉をほぐすことでリンパ管を刺激してリンパの流れを促します。 筋肉の働きが低下すると、リンパ管への刺激が少なくなり、リンパの流れを悪くしてしまうのです。 また、肥満は脂肪が邪魔して筋肉が働きにくくなるのに加えて、リンパ菅を狭くしてしまいリンパの流れを妨げます。 偏った食生活は、肥満に繋がるのはもちろんのこと、老廃物を増やしリンパ節の働きを妨げてしまうためリンパ節が詰まる原因となるのです。 膝裏のリンパが詰まっている時の3つの対策 膝裏のリンパが詰まっている場合は、先ほど説明したリンパの流れが悪くなる原因を考慮した対応が必要です。 そこで、具体的な方法を3つ紹介します。 1,適度な運動 筋肉を動かし血液やリンパの流れを促すことを「筋ポンプ作用」と呼びます。筋ポンプ作用を働かせるためには、筋肉を適度に動かす運動が必要です。 おすすめは膝や足首の屈伸運動です。特につま先を上げ下げする足首の運動は、第二の心臓と呼ばれるふくらはぎの筋肉を刺激して、血液やリンパ液の循環を促すのでおすすめです。 「テレビを見ながら」「トイレで座りながら」など、「ながら運動」でこまめに行うようにしましょう。 筋肉痛になるほど、きつい運動をすると疲労が蓄積してしまうため、無理な運動は控えるようにしましょう。 2,マッサージ リンパの流れを良くするためのマッサージを行いましょう。 膝裏やふくらはぎを軽くさする、推すなどの程度から始めて、徐々にほぐすようにしていきましょう。 押すなどして圧迫した場合に、痛みや違和感を感じる場合はリンパの流れが悪いだけではなく、他の病気が潜んでいる可能性があるので無理に行わないで中止しましょう。 専門家によるマッサージではなく、自分で行う場合は、あくまで気持ちいい程度の加減で行うことが大切です。 3,生活の工夫 リンパの流れを妨げる肥満を予防・改善するために、バランスの良い食事や運動の継続といった規則正しい生活習慣をすることは重要です。 また、生活の中で膝を圧迫したり、足を下ろし続けたりといった長時間椅子に座ることは膝窩リンパ節への負担の原因になります。 適度に休憩して歩いたり、しゃがんでみたり、伸ばしてみたり、運動やマッサージをしたりしましょう。 自宅などでリラックスできるときは、足の下に布団を引くなどして足全体を少し高く上げるようにしましょう。 そうすることで、足が心臓より高く位置することになり、リンパの流れを体の方に戻す効果があります。 膝裏が腫れている場合に注意したいポイント 膝の裏が腫れている場合に、リンパ節のむくみだけではなく、他の病気が潜んでいる可能性もあります。 以下のポイントを参照にして、気になる場合は自己判断で治療したり、放置したりせずに整形外科や循環器内科などを受診しましょう。 全身にむくみがある 全身にむくみがある場合は、心臓や腎臓など内科系の疾患によるむくみの可能性があります。 膝裏のむくみに気づいた場合には、他の部位にもむくみがないかどうかをチェックしましょう。 膝周辺に痛みや熱がある 膝裏のむくみだけでなく、痛みや熱がある場合は、膝関節の炎症や怪我などの可能性があります。また、リンパ節に細菌が入って感染症を起こしてしまうこともあります。 このような症状の場合は、早めの医療機関で適切な治療を受けることが大切ですので注意しましょう。 だんだん浮腫がひどくなる このような場合も病気が潜んでいる可能性があるので気をつけましょう。 膝裏にリンパ以外のものが詰まっている可能性として、「ベイカー嚢腫(のうしゅ)」という病気の場合があります。 ベイカー嚢腫は膝裏にある袋状の部分が肥大してしまう病気で、50歳以降の女性に多く見られます。 また、膝の変形が進んでいくことで、膝の関節に炎症が生じて関節に水が溜まってしまうことがあります。 いずれにせよ、専門家による適切な治療が必要です。 膝裏のリンパの詰まりは規則正しい生活で改善しよう 膝裏のリンパの詰まりは運動やマッサージの継続、正しい食事による肥満の予防などの対策があります。 何よりも継続が大切です。できることから始めて無理ないペースで続けましょう。 また、膝裏のむくみがリンパ以外の可能性もありますので、気になる場合は早めの受診がおすすめです。特に痛みや熱など他の症状がみられる場合は、放置しないように注意しましょう。 以上、膝の裏側でリンパが詰まっていないか?その原因と対策を解説させていただきました。参考になれば幸いです。 No.S095 監修:医師 加藤 秀一
2022.11.25 -
- 腰部脊柱管狭窄症
- ひざ
『膝から下が痛い・重い・だるい』こんな症状から考えられる病気とその治療法 身体で言葉には言い表せないような痛みや、違和感を覚えると、とても不安な気持ちになりますよね。 今回は、そんな痛みの中でも「膝から下が痛い」や「膝から下がだるい」という症状から、考えられる原因を述べていきます。 「膝から下が痛い」という症状に不安 「タンスに足の小指をぶつけた」 「頑張って運動やりすぎた」 「少し足を挫いてしまった」 このように痛みが出る原因がハッキリしている場合は、なんとなくこれかな?というのが浮かぶので、割と落ち着いて対処できるのではないでしょうか? しかし、ある日突然、 「何もしていないのに足が痛い!」 「膝から下が重だるい」 「ふくらはぎがジンジンする」 などと、前触れもなく、これまで感じたことのないような痛みや違和感が襲ってくると、怖くなりますよね。 自分が経験したことのない感覚が襲ってくると人間誰しも不安に駆られます。 そこで今回は、急にくる「膝から下が痛い・重い・だるい」を医学的に紐解いていくようなお話をします。 これを読めばあなたの不安も少しは軽くなり、落ち着いて行動できるでしょう。 「膝から下が痛い」原因として考えられる疾患 以下に「膝から下が痛い」と感じた時に、考えられる疾患を挙げます。 ①下肢静脈瘤 ②閉塞性動脈硬化症 ③深部静脈血栓症 ④脊柱管狭窄症 なかなか難しい字が並んでいますよね。仰々しく、かえって不安になる方もいらっしゃるかもしれません。 そこで、これらの疾患について、できるだけ簡単に説明していきます。 ①下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう) 下肢静脈瘤とは、足の血管(静脈)に異常が起こる病気です。 血管がコブ(瘤)のように膨れ上がり、体表からはぼこぼこしたように見えます。 静脈の中には、血液の逆流を防ぐための弁がついており、ふくらはぎの筋肉などの力で下から上に血液を戻してくれます。 しかし、その弁が壊れて正常に働かない場合は、血液が滞ってしまい、下の方に溜まってしまうのです。その血液が溜まった状態を下肢静脈瘤と言います。 出典:日本血管外科学会 https://www.jsvs.org/common/kasi/index.html 下肢静脈瘤の症状 ・ふくらはぎのだるさ、重さ ・湿疹や皮膚の変症、皮膚炎 ・足がむくむ ・足がつる(こむら返り) ・血管が目立つ(ボコボコなる) 下肢静脈瘤の原因 ・加齢による筋肉や血管機能の低下 ・立ち仕事 ・妊娠や出産 ・遺伝的な要素 ・激しいスポーツ 以上のように下肢静脈瘤の症状や原因はさまざまあります。 見た目的にも分かりやすいため、自分で気づきやすい病気です。 また、加齢による血管のしなやかさがなくなったり、立ちっぱなしの仕事を続けたりなど、誰にでも起こりうる病気ですので、まずは医療機関に相談しましょう。 ②閉塞性動脈硬化症(へいそくせいどうみゃくこうかしょう) 閉塞性動脈硬化症とは、足の血管の動脈硬化が進んでしまい、血液が流れづらくなったり、つまったりする病気です。 足の血流が悪くなるので、歩くときに足の痛みや痺れ、冷たさを感じることがあります。 進行すると、安静にしていても同様の症状が出てきますので、注意が必要です。 動脈硬化が進んだ血管(上)と正常な血管(下) 閉塞性動脈硬化症の症状 ・足の痺れや冷感(しびれ・冷える) ・歩行の時の足の痛み ・間欠性跛行(しばらく歩行していると、足の痛みが強くなり歩行困難となる症状) ・安静時の足の痛み ・足の潰瘍・壊死 閉塞性動脈硬化症の原因 ・肥満 ・高血圧 ・喫煙 ・糖尿病 以上のように、主な原因は生活習慣の乱れによるものが大きいようです。 動脈硬化は全身に起こりやすいものなので、足だけでなく手にも同様の症状が出てくる可能性もあります。 安静時の足の痛みや足の潰瘍、壊死はだいぶ進行している状態です。治療には早めの対処が必要となりますので、足の痺れや痛み、冷たい感覚などが出てきたら早めに相談しましょう。 ③深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう) 深部静脈血栓症とは、足の奥深くに通る静脈血管のなかに、血の塊(血栓)ができてしまう病気です。 この血栓が心臓や肺に流され詰まってしまうと、心筋梗塞や肺塞栓症などの命に関わる重大な疾患を引き起こす危険性があります。 特に足の整形外科の手術後や長時間のフライトなどで多くみられ、別名「エコノミークラス症候群」と呼ばれることもあります。 出典:日本血管外科学会 https://www.jsvs.org/common/sinbu/index.html 深部静脈血栓症の症状 ・片足が大きく腫れ上がる ・赤黒く変色する ・ジンジンとした痛みが伴う ・肺塞栓症へ移行した場合、呼吸が荒くなり、胸が痛くなる 深部静脈血栓症の原因 ・手術や怪我による静脈血管の損傷 ・長期の臥床(寝たきり)など、足を動かしていない期間が長い ・喫煙 ・脱水 ・その他血流の低下が起こりうる場合 以上のように、手術やケガによる不動の期間が長くなってしまった場合によく起こります。 放置しておくと、重篤な肺塞栓症へと進行してしまう可能性もあるため、おかしいと思ったらただちに専門の医療機関へ行きましょう。 ④脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう) 脊柱管狭窄症とは、脊髄や抹消神経が通るトンネル(脊柱管)が何らかの影響を受けて狭くなってしまい、発症する疾患です。 中高年で腰痛を伴う代表的なもので、長時間歩くことができなくなる間欠性跛行がみられます。 出典:日本整形外科学会 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/spondiyolysis.html 脊柱管狭窄症の症状 ・お尻から足にかけて痛みや痺れがある ・長く歩いたり、立ったままになるのが辛い ・足に力が入りにくい ・体を反らす動きがしづらい ・体を前屈みにすることで症状が楽になる ・尿漏れなどの排尿・排便障害がある 脊柱管狭窄症の原因 ・加齢による背骨の変形や、周辺の軟部組織の変性 ・先天的なもの ・猫背などの偏った姿勢 ・反り腰 ・仕事などで腰に負担のかかる動作の繰り返し 脊柱管狭窄症で悩む中高年の患者さんは数多くいます。それゆえ、見過ごされやすいのも事実です。 しかし、ひどいものでは足に力が入らない、排尿障害がでるなど、日常生活に大きく影響してくる場合もあります。 気になる症状が出たら、できるだけ早く専門医に受診しましょう。 「膝から下が痛い」と感じた人は何科を受診すべきか 「膝から下が痛い」と感じた時に、考えうる疾患について説明しました。 一見、全く違う病気のようにみえますが、似ている症状も数多くあります。そのため、疾患の見分け方は専門医でなければ難しいことが多々あります。 「じゃあ、何科を受診すればいいの?」と不安になる方もいらっしゃると思います。 そこで、下記に疾患ごとのおすすめ受診科目を挙げています。 早めの対処が必要な疾患もありますので、気になる症状がみられましたら、下記を参考に専門医へご相談ください。 ①下肢静脈瘤・・・ 血管外科、心臓血管外科、皮膚科、形成外科、循環器内科 ②閉塞性動脈硬化症・・・ 血管外科、循環器内科 ③深部静脈血栓症・・・ 血管外科、循環器内科、整形外科 ④脊柱管狭窄症・・・ 整形外科 上記で多く紹介した「血管外科」は、実のところ現時点において日本にあまり多く展開しておりません。 そのため、近くに無い場合は、「循環器内科」や「皮膚科」、「整形外科」などの他の診療科も視野に入れて、何より早めに相談されることをおすすめします。 まとめ・『膝から下が痛い・重い・だるい』こんな症状から考えられる病気と治療法 今回は「膝から下が痛い・重い・だるい」という症状で、考えられる疾患についてお話しました。 本記事で挙げた疾患の中には命に関わる重大な疾患も含まれている為、気になる症状がありましたらできるだけ早めに専門医へ相談してください。 難しい言葉が並び、読むのも嫌になるかもしれませんが、これらの疾患は誰にでも起こりうるものです。深部静脈血栓症から肺塞栓症へ移行してしまうと、一刻も争う状態になります。 「あの時、もっと早く相談しておけば良かった・・・」 そんな声が1人でも少なくなるよう、本記事を読んでいただけると幸いです。 No.S094 監修:医師 加藤 秀一
2022.11.14 -
- 変形性膝関節症
- ひざ
膝の上、ふとももの筋肉が痛む場合の対策と考えられる病気 「膝の筋肉が痛む・・・いったい何が原因なの?」 「膝上が痛くてつらい・・・なぜ?」 このように「膝の上の部分が筋肉痛のように痛む」こんな症状で悩まれている方はいませんか。今回は、膝の上に痛みが出る場合の原因や対処法について解説します。 膝の上、ふとももの筋肉、その周辺が痛む場合、考えられる原因は? 膝の上の筋肉に痛みがある場合は、「筋肉そのものに問題」がある場合と、膝の上の「別の組織に原因がある」場合が考えられます。それぞれの原因を詳しく紹介してまいりましょう。 膝の上の筋肉に問題がある場合 膝の上にあたる太ももには、さまざまな筋肉が存在します。 主なものとしては、太ももの前にある大腿四頭筋(だいだいしとうきん)や、太ももの裏にあるハムストリングス(大腿二頭筋、半腱様、半膜様筋といった3つの筋肉の総称)といった筋肉が膝の曲げ伸ばしで働きます。 これらの筋肉が使いすぎで筋肉痛が発生したり、さらに筋肉が損傷して肉離れになったりすると筋肉が痛みを生じます。また、筋力低下により筋肉が疲労しやすかったり、力が入りすぎてしまったりして筋肉に痛み出てしまうこともあります。 筋肉の痛む原因 ・筋肉の使いすぎ ・筋肉の損傷 ・筋力の低下 ・筋肉の疲労 膝の上にある「ふとももの筋肉」痛む場合に考えられる病気 膝上周辺には膝のお皿である膝蓋骨(しつがいこつ)があり、太ももの骨である大腿骨(だいたいこつ)と、すねの骨である脛骨(けいこつ)で関節を作っています。 さらにその周りには、骨や周りの組織の衝突を避けて膝の曲げ伸ばしをスムーズにする、膝蓋前滑液包や膝蓋上のうなどの組織があります。 そのため、膝の上の方に痛みが見られる場合は、これらの関節や組織に何らかの問題が発生している可能性が考えられます。 具体的には次のような病気が潜んでいる可能性があります。 ・膝蓋上のう炎 ・膝蓋前滑液包炎 ・膝蓋大腿関節症 ・変形性膝関節症 以上のように膝の上が痛む場合、筋肉以外にもさまざまな組織の炎症や変形が痛みの原因となっている可能性があるのです。そのため、痛みがある場合は無理せず早めに病院を受診して各種検査をすることが重要になります。 膝の上、ふとももの筋肉、その周辺が痛む場合の対策は? 痛みの原因に応じて対策をすることが大切です。 筋肉の痛みだと自己判断して、むやみにほぐすようなことをしては逆効果になって痛みを悪化させる可能性もあります。以下に原因別に考えられる対策を紹介します。 ・筋肉が原因の場合の対策 筋肉痛や筋肉の損傷が起こっている場合は、無理にほぐしたりストレッチをしたりするとかえって痛みを悪化させる可能性があります。そのため痛みがある場合は病院で正しい診断を受けましょう。 痛みが治まったり、病院での治療が終了したら、損傷したり、動かさなかったりした影響で筋肉が硬くなります。そのまま放置すると怪我の再発の原因となるので、筋肉をしっかりほぐすことが必要になります。 また、筋力低下が痛みの原因となる場合もあるので、膝周辺の筋力を日頃から鍛えておくことが大切です。ストレッチやトレーニングの具体的な方法は後ほど解説します。 ・筋肉以外が原因の場合の対策 組織の炎症による痛みが起こっている場合は、無理な運動は避けて炎症がおさまるまで安静にする必要があります。また、内服薬や注射により炎症の軽減をはかることで痛みを改善させます。 滑液包には炎症により組織から漏れでた水がたまりやすく、注射を使用して水を抜くことで痛みや動きの改善を図ります。関節の変形がある場合は、膝の負担を軽減するために日常生活で次のような工夫が必要です。 ・正座をしない ・階段を避ける ・体重を増やさない、減量する 痛みが軽減すればストレッチや筋力トレーニングなどで再発を防いだり、膝にかかる負担を軽くしたりします。 膝周辺の筋肉、ストレッチとトレーニング方法 太ももにある筋肉である大腿四頭筋とハムストリングスのストレッチを紹介します。 また、膝の変形に重要な大腿四頭筋のトレーニング方法も解説します。 大腿四頭筋のストレッチ 1,バランスを崩さないように壁など支えにして立ちます。 2,片方の足の膝を曲げて足首を持って後ろに引きます。 3,太ももの前が伸びるのを感じながら15秒〜30秒キープします。 ハムストリングのストレッチ 1,両膝を伸ばして座ります。 2,つま先を触るように体を倒します。 3,太ももの裏が伸びるのを感じながら15秒〜30秒キープします。 大腿四頭筋のトレーニング 1,仰向けになって両膝を曲げます。 2,片足の膝をまっすぐ伸ばした状態で床から10cmほど離すように足を上げます。 3,そのまま10秒キープした後ゆっくり下ろします。 4,10回繰り返します。(余裕があれば回数を少しずつ増やしましょう) 以上のような運動は、数日ではなかなか効果が現れません。痛みがない状態で毎日習慣にすることで、筋肉の柔軟性や筋力が改善します。焦らず少しづつでいいので、毎日続けるようにしましょう。 膝の上、ふとももに痛みがある場合は筋肉痛と決めつけず医療機関を受診しよう 膝上の痛みがある場合は筋肉とは別の原因が潜んでいることもあります。そのため、自己判断でほぐすことは症状悪化のリスクがあります。 早めに医療機関、病院やクリニックを受診することで、正しい診断を受ければ、症状にあった治療を受けることができますので、我慢しないようにしましょう。 また、日頃から膝周辺の筋肉をほぐしたり、鍛えたりすることは怪我の予防につながります。 痛みがない場合は、紹介した方法を参考にして、運動を習慣にしましょう。以上、ご参考になれば幸いです。 No.S093 監修:医師 加藤 秀一
2022.11.12 -
- ひざ
腸脛靭帯炎で悩むランナー必見!テーピングやストレッチ、靴選びを解説! 腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)って聞きなれない言葉ですよね。そもそも読み方が分からない人もいるのではないでしょうか。 しかし、意外と腸脛靭帯炎で悩む人は多いのが実情です。特に有酸素運動の代表格であるランニングや、ジョギングなどをやり始めた人に多くみられます。 動けないほど酷くはないけど…なってしまうと悩まされる…そんな腸脛靭帯炎についてお話します。 腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)とは? この病気がどのようなものか説明する前に、まずは腸脛靭帯について簡単にお伝えしますしょう。 腸脛靭帯とは、骨盤の外側に出っ張っている腸骨(ちょうこつ)から、膝下にある脛骨(けいこつ)に繋がっていて太ももの外側部分に長く伸びるように位置しています。。 また、腸脛靭帯は大臀筋と大腿筋膜腸筋(だいたいきんまくちょうきん)という、これまた長くて難しい名前の筋肉とつながって身体をぐらつかせず安定して保つという大切な役目を担っています。 膝上の太もも部分の外側を押すと、硬いスジ状のものに触れることができますが、これが腸脛靭帯になります。 特に大きな動きに対して大臀筋と呼ばれる大きな筋肉と大腿筋膜張筋とにつながることで、それらの力を脚に伝える役割があります。腸脛靭帯の働きのおかげで骨盤や膝が安定し、歩くことは勿論、スムーズなランニングを助けてくれるという訳です。 そんな腸脛靭帯が炎症を起こした状態が『腸脛靭帯炎』というものになります。 腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん:ランナー膝)ってどんなケガ? 腸脛靭帯炎は別名ランナー膝と呼ばれるくらい、「ランニング愛好家に多いケガ」の一つです。ここでは腸脛靭帯炎の症状、原因、診断について簡単に説明します。ご自身に当てはまる点はないか、チェックしてみましょう。 腸脛靭帯炎の症状 腸脛靭帯炎の初期症状は、運動後に膝の外側に痛みが出ることです。痛みが出る場所は、外側上顆(がいそくじょうか)と言われる膝外側の出っ張り部分で、安静にしていれば治まってまいります。 しかし、炎症がひどい場合や、痛みを我慢して無理を続けると、歩く時や膝の曲げ伸ばしをしただけでも痛みが出ることがあります。久しぶりにランニングやジョギング、ウォーキングを頑張った人によくみられる症状です。 「さぁ、健康のために頑張って走ろう!!」という矢先につまずいてしまうと、やる気も削がれますよね… 腸脛靭帯炎になってしまう原因 なぜ腸脛靭帯炎はランナーに多いのでしょうか?それは、腸脛靭帯炎になってしまうメカニズムを知れば分かります。 腸脛靭帯炎の発生メカニズム 腸脛靭帯炎は、繰り返される『摩擦』によって生じます。摩擦が起こる場所は、大腿骨の外側上顆という場所です。 そこは骨が隆起しており、膝を曲げ伸ばしすることで腸脛靭帯が外側上顆を乗り越えてしまいます。 特に膝を軽く曲げた状態(屈曲30°くらい)でちょうど乗り越えるため、0〜30°くらいの曲げ伸ばしを繰り返すランニングでは、より摩擦がかかりやすくなってしまうのです。 骨盤や下肢のアライメント(骨の位置関係)によってより負荷がかかる ただ、ランナー全員が腸脛靭帯炎になるわけではありません。なってしまう理由は他にもあります。 ・股関節の筋力低下 ・膝のO脚 ・足の扁平足 上記のような股関節の機能や骨の位置関係を乱すアライメント異常が腸脛靭帯炎を誘発してしまうとも言われています。 腸脛靭帯炎の診断 腸脛靭帯炎は問診や触診である程度は鑑別することができます。ただ、炎症の状態や他の疾患と見分けるためにレントゲンやMRI、エコー検査をしていくことがあります。 また、腸脛靭帯炎特有のテストがあります。それがGrasping Test(グラスピングテスト)というものです。 【Grasping Testの方法】 ①患者さんの膝を90°ほど曲げる。 ②痛みが出ている場所の少し上を親指で強く押さえる。 ③その状態で膝をゆっくり伸ばしていく。 ④その時に痛みが出るのであれば、腸脛靭帯炎が疑われる。 やり方はそこまで難しくありませんので、もしかしたら…と思われた方はぜひ試してみてください。 腸脛靭帯炎(ランナー膝)の治療3つのポイント ①腸脛靭帯炎の初期対応 腸脛靭帯は足首や他の膝の靭帯と違い、断裂など重症化するケースはほとんどありません。そのため、基本的には普段と同じような生活を送っていただいて結構です。 しかし、原因がランニングなどスポーツによるものであれば、その症状が落ち着くまでお休みされるようオススメします。 腸脛靭帯そのものや、その周囲の滑液包(摩擦を減らす袋のようなもの)に炎症が起こるため、炎症をおさえるお薬や、局所に注射をする場合もあります。 場合によっては、患部にアイシングや湿布を貼付することで症状の緩和が得られます。 以上のように、特に急性期では患部の安静と炎症をおさえることを最優先させます。 ②腸脛靭帯炎に有効なストレッチ 腸脛靭帯炎による痛みが落ち着いたら、徐々にストレッチを開始します。 腸脛靭帯炎を発症する人の特徴として、カラダのケア不足により筋肉の伸び縮みの動きが悪くなっていることがあります。ここでは、腸脛靭帯と連結している大腿筋膜張筋と股関節および大腿部前面の筋肉の3つのストレッチ方法をお伝えします。 1.大腿筋膜張筋のストレッチ 2.股関節前面の筋肉のストレッチ 3.大腿部前面の筋肉のストレッチ ※ ストレッチは、無理をせず、痛くなりすぎない範囲で行ってください。 ③腸脛靭帯炎にならないためのトレーニング 下肢のアライメント(ゆがみ)の異常により腸脛靭帯炎になりやすいことは前述しました。 股関節の筋力の低下や足元のぐらつきにより、ランニング時に膝が内外にぐらつくと腸脛靭帯への摩擦が増加してしまいます。安静期間により症状が落ち着いても、同じような状態だとまた腸脛靭帯炎を繰り返してしまうでしょう。 そのため、ランニングなどのスポーツに復帰するにあたり、腸脛靭帯への負荷を減らすためのトレーニングを推奨しています。ここでは以下の3つの方法を紹介します。 1,股関節の外側の筋肉:大臀筋、中臀筋 上になっているほうの足を持ち上げる→下ろす を繰り返す 2,股関節の内側の筋肉:内転筋 下になっている方の足を持ち上げる→下ろす を繰り返す 3,ふくらはぎの筋肉:下腿三頭筋(ヒラメ筋、腓腹筋) つま先立ち→かかとを降ろす を繰り返す やみくもに動かすのではなく、いずれも体を安定させ、姿勢を意識して行うことがポイントです。 腸脛靭帯炎(ランナー膝)とスポーツ 腸脛靭帯炎のテーピング 腸脛靭帯炎のテーピングで大事なことは、腸脛靭帯の負担を減らしてあげることです。 そのため、腸脛靭帯自体をサポートするテーピングと、膝の動きをサポートするテーピングの2種類を用いて行います。 腸脛靭帯炎のテーピング例 あくまでテーピングは補助的な役割に過ぎません。また、その人によってテーピングの効果が十分に発揮できない場合もあります。 可能な限り、専門の医療機関にご相談のうえ、テーピングを施行するようにしましょう。このようなテーピング以外もサポーター等の装具を用いて腸脛靭帯を支え、安定を図る方法もあります。 腸脛靭帯炎と靴(シューズ)選び 腸脛靱帯炎の対策の中では靴選びも大切です。 足が左右にぐらつくと腸脛靱帯につながる大腿筋膜張筋が頑張ってぐらつきを止めようとします。 そうすると、筋肉が過剰に働き、ピンと張った状態になります。その状態で走り続けると、腸脛靭帯への摩擦が助長されて腸脛靭帯炎を引き起こしかねません。 シューズ選びの際は以下の3つのポイントを意識してみましょう。 1.シューズの後ろ、カップの部分がしっかりしているか 2.指の付け根で曲がるのか 3.シューズが過度に捻じれやすくなっていないか 靴は使用に伴い消耗します。定期的、或いは、いま一度ご自身の靴をチェックして自分に合った最適な靴を選びましょう。 まとめ・腸脛靭帯炎で悩むランナー必見!テーピングやストレッチ、靴選びを解説! 今回は、腸脛靭帯炎について、病態とその対策を中心にお話しました。 腸脛靭帯炎は誰にでも起こりうるケガです。これから運動を始める人も、ランニング愛好家の皆さんも運動前の準備運動、そして運動後のカラダのケアをしっかり行いながら、自分に合ったペースで頑張りましょう。 No.094 監修:医師 坂本貞範 ▼ 腸脛靭帯炎はじめ、スポーツ外傷(筋・腱・靭帯損傷)に対する再生医療 当院の再生医療は、スポーツ選手のパフォーマンス(QOL)を維持する治療を推進しています
2022.11.04 -
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前十字靭帯断裂、復帰までの期間は?症状と治療法も併せて解説! 前十字靭帯断裂は膝のケガでよくみられ、運動する人が多く受傷するスポーツ外傷の1つでもあります。前十字靭帯はACL(anterior cruciate ligament)と省略されることもあります。 今回は、前十字靭帯が断裂したとき、気になる復帰までの期間、症状と治療法も併せて解説していきます。 前十字靭帯とは 靭帯とは、コラーゲンや弾性線維でできている多少伸び縮み可能なひも状のようなもので、関節で骨同士をつないで、過剰に骨が離れるのを防いで関節の安定性を保っています。 膝の関節は太ももの大腿骨(だいたいこつ)とすねの内側にある脛骨(けいこつ)、そして膝のお皿とよく呼ばれる膝蓋骨(しつがいこつ)の3つの骨でできています。 そのうち大腿骨と、脛骨をつないでいる靱帯は、以下の4つです。 ・内側側副靱帯 ・外側側副靱帯 ・前十字靭帯 ・後十字靭帯 内側/外側側副靱帯は、膝関節の左右にあり、膝が左右にずれすぎないような役目をしています。 前/後十字靭帯は、大腿骨と脛骨の間で交叉していて、前十字靭帯は脛骨が前に出すぎないように、後十字靭帯は脛骨が後ろにずれないような役目を担っています。 前十字靭帯の断裂とは?/損傷の分類 前十字靭帯の傷害を「前十字靭帯 損傷」と言います。 前十字靭帯損傷は程度によって1度から3度までに分類され、数字が大きいほど損傷が強いことを表しています。 1度損傷 前十字靭帯は切れておらず、軽い痛みと腫れのみ。膝の不安定さはない。 2度損傷 前十字靭帯は部分的に断裂し、膝には不安定さが現れる。 3度損傷 前十字靭帯が完全に断裂している。内出血も起きる。膝には不安定さがある。 このうち、「前十字靭帯 断裂」は2度と3度が該当します。 前十字靭帯断裂の原因 前十字靭帯は、大腿骨と脛骨をつなぐ靱帯です。 役割としては脛骨が前に移動しすぎないように制御すること、そして、膝をひねったときにひねりすぎないように制御する役割があります。 ただし、強い力で脛骨だけが前に押し出されたり、膝を過剰にひねると、前十字靭帯の限界を超えるため靱帯断裂が起こります。 前十字靭帯に負担がかかる動き ・ジャンプした後の着地 ・走っている間に急に向きを変える ・全力で走って急に止まる ・他人とぶつかる(接触プレー) とくに前十字靭帯の断裂は、バスケットボールやサッカー、バレーボールや野球などのスポーツ中に起きることが多く、上記のような激しい動きの時に発症しやすいと考えられています。 前十字靭帯断裂の症状 前十字靭帯が断裂した瞬間は膝の中で紐がちぎれたような感覚を感じることがあります。 その後、膝がガクガクしたり、膝の痛み、膝の腫れなどが見られます。多くの場合では膝の関節の中で出血もしています。 しばらく放置すると痛みと腫れは引いてきますが、靱帯は勝手に治ることは少なく、膝の不安定さが残ります。 そのまま生活していると、膝がガクッと崩れたり、長期的には膝関節の中にある半月板や軟骨も傷んできます。すると変形性膝関節症という状態になります。 そうなるのを防ぐために、検査や治療を行うのが一般的です。 前十字靭帯断裂の検査 膝の不安定さや、どのような力が加わると痛みが出るかを触って確認するなどの検査を行います。 ・ラックマンテスト ・前方引き出しテスト その他にレントゲンやMRI検査を行うこともあります。 前十字靭帯の治療方法と、気になる復帰までの期間は? 前十字靭帯が断裂すると、自然に修復されることはありません。 将来スポーツを行う可能性がある場合には、靱帯を再建する手術療法、将来的にスポーツなどをしない人であれば運動療法を行うことが一般的です。 1.自家腱移植 自分の組織を用いて再建する方法です。 腱移植は膝の内側の腱(ハムストリング腱)や、前面の腱(膝蓋骨を割った骨付きの膝蓋腱)を使う方法があります。 手術は関節鏡という鉛筆くらいの細いカメラを用いて、小さな切開で行なうことが主流です。この関節鏡で大腿骨と脛骨をつなぐトンネルをつくり、そこに加工した腱を通して、上下を金具で固定します。 最低限の切開で、早くリハビリを始められることからスポーツ選手でよく行われています。 この手術の一般的な術後経過は、1週間程度(最短4日)の入院でその間は車いす生活、退院後は松葉杖となり、きちんとリハビリを継続していれば1ヶ月で日常生活が可能となり、約半年から1年でスポーツ復帰となります。 再建術を行った後、スポーツへの復帰ができる割合は手術後1年で約6割程度と報告されています。 2.保護的早期運動療法 将来的にスポーツなどをしない人であれば、前十字靭帯専用の装具を装着して、リハビリをするという治療を選択する場合もあります。 保存的治療ではいずれは日常生活やレクレーションレベルの動作は可能ですが、競技スポーツへの復帰は困難とされています。 また前十字靭帯損傷後に手術を行わなかった場合、約6割の患者さんが変形性膝関節症となることが報告されているため、治療を選択する際にはきちんと損傷の程度を理解し、その後の生活やスポーツへの影響を考えて決めましょう。 まとめ/前十字靭帯断裂、復帰までの期間は?症状と治療法について解説! いかがでしたでしょうか。 前十字靭帯断裂は、膝の中の靭帯が切れた状態です。特にスポーツをしているときに多く発生する外傷です。 受傷直後は傷みや膝の腫れがありますが、時間が経てばその症状は軽くなります。ただし、何も治療をしないと膝が不安定なままになったり、将来「変形性膝関節症」を発症することもあります。 前十字靭帯断裂の可能性がある場合は、早期に整形外科を受診することが重要です。 前十字靭帯断裂、復帰復帰までの期間は?症状と治療法について解説しました。ご参考になれば幸いです。 No.092 監修:医師 坂本貞範 ▼ スポーツ外傷(靭帯損傷、腱)の治療に有効な再生医療とは 当院の再生医療は、スポーツ選手のパフォーマンス(QOL)を維持する治療を推進しています
2022.11.02 -
- 前十字靭帯
- ひざ
前十字靭帯断裂はいつ治る?全治まではどのくらい?入院期間とリハビリについて スポーツ選手の大きな怪我としてよく耳にする「前十字靭帯断裂」。受傷された場合、全治がいつになるのか気になる方も多いのではないでしょうか。特にスポーツなどで復帰までの時間が心配な方もおられることでしょう。 そこで今回は、前十字靱帯断裂の入院期間やリハビリ、手術の費用について解説しながら、全治をしてスポーツ復帰ができるまでの期間を紹介いたします。 前十字靱帯断裂が全治後、スポーツ復帰まで 8 〜 10 カ月 前十字靱帯の断裂または損傷の全治は 8 カ月〜10 カ月とされています。 これは、前十字靱帯断裂後に手術をしてからリハビリを終えてスポーツ復帰をするまでの目安です。ただ、日常生活が問題なく送れるようになるだけなら術後約 1 カ月程度です。 前十字靭帯を損傷してしまうと自然に修復することは、ほとんど期待できないため、手術をしない場合は全治することがありません。そのため、手術をしない場合は損傷した状態のまま生活を送ることになります。 前十字靱帯損傷で損傷部分が少なく、症状があまり見られなければ、手術をしなくても通常の日常生活を送ることが可能な場合もあります。 しかし、本来、前十字靱帯が担っている膝を安定させる機能が低下してしまうため、膝にかかる負担が大きくなってしまいます。その結果、膝にある半月板などの別の組織を傷めたり、老後に関節の変形を生じたりする可能性が高くなります。 前十字靱帯断裂後の入院期間と手術の費用 前十字靭帯断裂後は断裂した靱帯を体の腱(けん)と呼ばれる部分を移植する手術を行います。 このような手術を前十字靱帯再建術と呼び、関節鏡(かんせつきょう)を使用して行います。関節鏡を使用した手術では、数ミリほどの穴からカメラを侵入させて手術を行うため傷口が小さくて、入院期間が短くなります。 詳しい入院期間と手術にかかる費用は以下の通りです。 手術後の入院期間 入院期間は短い場合で手術後 4 〜 7 日間を目安に退院することができます。 これは小さな傷ですむ内視鏡を使った手術だからですが、まだ普通に全体重をかけて歩けないので、松葉杖が使った状態で退院することになります。 しっかり歩けるようになり、日常生活が普通に送れるようになるまで、約1ヶ月を程度入院する場合もあります。しかし、前十字靱帯断裂は学生など若い年代に多いため、学校や仕事を1ヶ月も休むことは生活に大きな支障を及ぼします。 そのため、短い期間で退院をして、通院しながらリハビリや競技復帰を目指す場合が多いです。 手術に必要な費用 手術や入院にかかる費用は、手術の方法や入院期間、入院中の治療内容などによって異なります。目安として手術・入院費などを含めて 25 万円〜 50 万円ほど必要になることが多いです。 病院によって幅があるので、入院前におおよその目安を確認しておきましょう。早めに退院する場合でも、リハビリの継続は必要です。 特に全治してスポーツ競技に復帰できるまでは、8 カ月程度が目安になるため、それまではリハビリなどの費用が必要になります。 前十字靱帯断裂後のリハビリ 前十字靱帯再建術後のリハビリについて解説するとともに、手術をしない場合に必要なリハビリについても紹介します。 手術後のリハビリ・スケジュール 手術直後からスポーツ復帰までの流れを時系列で紹介します。 手術からの時期 リハビリ内容 手術直後 ・膝周辺の組織の柔軟性を確保する ・膝は完全に伸ばさないように装具を着用 ・膝関節の動きを伴わない筋力トレーニング ・膝以外の部分の筋力トレーニング 1 週間 ・体重1/3の荷重練習 ・関節の動きを改善する運動を開始 2 〜 3 週間 ・全体重をかける練習 ・軽く曲げる程度のスクワットなど体重をかけながらのトレーニング 4 〜 6 週間 ・自転車などマシーンでの運動 ・より積極的に体重をかけたトレーニングを進める 3 カ月 ジョギング開始 4 カ月 両足ジャンプ、ターン開始 6 カ月 スポーツ練習開始 8 カ月 競技復帰 術後は移植した腱を保護しながらのリハビリが必要になります。腱が負担に耐えられるようになるまでは 3 カ月ほどかかるため、それまではあまり無理な運動は避けます。 3 カ月以降ジョギングやジャンプなどのスポーツ動作を開始して、8 カ月以降のスポーツ競技復帰を目指します。 また、前十字靭帯断裂はスポーツでのジャンプや切り返しといった動作で発生しやすいため、それらの動作時に膝が内側に入らないようにするなど、再発を予防するための動作を習得することも重要です。 手術をしない場合もリハビリが大切 前十字靱帯損傷が一部分でも、手術をしなければ全治は難しいですが、老後のことを考えると膝にかかる負担をできるだけ減らすことが大切です。 前十字靱帯損傷の影響で、膝の力が抜けたように急に曲がる「膝くずれ」や膝の不安定さが生じるため、対策として太ももの前の筋力を強化します。 椅子に座って膝をゆっくり曲げ伸ばしたり、膝を伸ばした状態で膝の下にタオルを引いて押しつぶす運動をしたりして筋力トレーニングをしましょう。 前十字靱帯断裂は、正しい治療で全治させて復帰を目指そう 前十字靭帯断裂を全治させるには手術をする必要があります。 そして手術後に正しい順序でリハビリをすることで、再発のリスクを減らして、スポーツなどに復帰をすることが可能になります。しっかり医師や理学療法士などの専門スタッフから指導を受けながら、正しい治療で全治を目指しましょう。 以上、前十字靭帯断裂による全治までの期間についてと、その後の入院期間、リハビリについて記させて頂きました。参考になれば幸いです。 No.S090 監修:医師 加藤 秀一 ▼ 靭帯損傷、スポーツ外傷(筋・腱・靭帯損傷)に対する再生医療 当院の再生医療は、靭帯損傷をはじめスポーツ選手のパフォーマンス(QOL)を維持する治療を推進しています
2022.10.24 -
- 前十字靭帯
- ひざ
前十字靭帯損傷とは?軽度から重度までの症状と治療法 スポーツ選手にとって代表的な怪我の1つである前十字靱帯損傷。 よく耳にする怪我ですが、「軽度でも手術が必要なの?」と治療について詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。今回は、前十字靱帯損傷について、軽度から重度までの症状や治療法を解説します。 前十字靱帯の役割や損傷の原因 まずは前十字靱帯について解説し、前十字靱帯損傷の病態や原因を紹介します。 前十字靭帯は膝の関節を安定させる重要な靱帯 膝の関節はスネの骨(脛骨:けいこつ)と太ももの骨(大腿骨:だいたいこつ)からなり、肩関節や足の付け根にある股関節に比べ、骨同士の固定が弱い構造をしています。 そこで骨と骨をつなぎ合わせて関節を安定させる、4本の靱帯(じんたい)が重要な役割を果たしています。その中の1つが前十字靱帯で、脛骨が大腿骨に対して前の方にずれないように制御する役割を持っています。 前十字靭帯損傷の原因の多くはスポーツ 前十字靭帯損傷はバスケットボールやサッカー、スキー、ラグビーなどのスポーツ中に多くみられます。 その原因は接触型(コンタクト)と非接触型(ノンコンタクト)に分けられます。 2つのうち多いのが非接触型で、バスケットやサッカー、スキーなどジャンプや切り返しの多いスポーツで以下のような動作が損傷の引き金になります。 ・ジャンプからの着地 ・方向転換 ・急なストップ また、接触型はラグビーや柔道などのコンタクトスポーツで膝に直接的な衝撃が加わり損傷するケースを言います。 スポーツ以外でも交通事故が原因として損傷する場合もあります。 前十字靱帯の損傷は安静では元に戻りにくい 前十字靱帯損傷の一番の特徴は、「正常に戻りにくい」という点です。 そのため、靱帯の損傷が軽いからといって、筋肉の怪我や骨折のように安静にしていれば治るという可能性が少ないとされています。 前十字靱帯損傷の症状 前十字靱帯損傷の症状は受傷から経過した時間や重症度によって異なります。 受傷直後 受傷の直後にみられる症状は「膝の痛み」と「プツッという靱帯が切れるような音」です。この音は受傷する本人にはっきりと自覚されることが多く「ポップ音」と呼ばれます。 また、膝の力が抜けたように、急激に膝が曲がってしまう膝くずれが起こります。 受傷から数時間後 受傷から時間が経過していくと靱帯損傷による出血・炎症で腫れたり、熱をもったりします。 前十字靱帯は関節の内にある靱帯です。そのため、出血した血液が関節の中にたまる関節血症が起こり、注射で血液を吸引することができます。 また、膝を完全に曲げ伸ばしをしたりすることが難しくなります。膝の腫れは筋肉の働きを妨げるため、徐々に膝の周りにある筋力の低下を引き起こします。 受傷から数日後以降 前十字靭帯だけの損傷の場合、受傷時にみられたような痛みや腫れは徐々に軽減していき、1ヶ月ほどで日常生活に支障が出ないほどになることも多いです。 しかし、症状の改善は時間の経過とともに損傷時に生じた出血や炎症が治まっただけで、損傷自体は回復していません。 そのため、膝がグラグラするような不安定さが残ったり、膝くずれがおこったりします。損傷が重度であるほど、このような症状が強くみられます。 また、前十字靱帯損傷が重症な場合、膝関節の衝撃を吸収する役割を持つ半月板(はんげつばん)の損傷や骨折を合併することがあります。そのような場合は、受傷から時間が経過しても、痛みや膝の動きの制限が残ることがあります。 前十字靱帯損傷の治療法 前十字靱帯損傷における治療は「手術による治療」と手術を行わない「保存療法」に分けられます。 前十字靱帯損傷は手術を選択する場合が多い 前十字靱帯損傷が軽度であっても、靱帯は修復されないため膝の不安定さが残り続けます。放置すると膝への負担が強まり、半月板の損傷や関節の変形などにつながります。 そのため、スポーツに復帰をしたり、膝に負担のかかる仕事をしたりする場合は手術が行われます。また、損傷が重度だったり、他の部分の損傷を合併したりして、日常生活でも膝くずれを繰り返すような場合も手術が適応されます。 手術は前十字靱帯の代わりに使用する人工的に靱帯を使用する再建術(さいけんじゅつ)が行われます。靱帯の再建には筋肉が骨につく部分である腱(けん)を使用します。 手術後は8〜10ヶ月後にスポーツに復帰できることが多いと言われています。 年齢や活動量を踏まえて保存療法をする場合もある 長期的な視点では、靱帯が損傷したままだと将来の怪我につながったり、活動的な動きが制限されたりするため、年齢が若い場合は靱帯の再建手術をするケースが多いです。しかし、活動量が低く、損傷が軽度であれば日常生活に支障がなく過ごせることも少なくありません。 そのため、中高齢者で日常生活に支障がなかったり、スポーツや仕事で膝に負担をかけなかったりする場合は手術をしないこともあります。 保存療法としては、膝の関節を支える装具やサポーターを使用したりして膝を安定させて、膝にかかる負担を少なくします。また、自家製のサポーターとして、膝周辺の筋力を鍛えることがあります。 特に太ももの前にある大腿四頭筋(だいたいしとうきん)の筋力強化が重要です。この筋肉は膝を伸ばす筋肉ですので、前十字靱帯損傷後にみられる膝くずれへの対策になります。 まとめ・前十字靱帯損傷は放置せずに適切な治療を選択しましょう 前十字靱帯損傷は受傷直後に、はっきりとした症状がみられるものの、軽度の損傷の場合は症状が改善していくことも少なくありません。しかし、靱帯の損傷は治りにくく、放置すると膝に負担がかかり続け、別の怪我につながる可能性があります。 そのため、自己判断で放置せずに、整形外科を受診して正しい診断と治療をしてもらいましょう。 No.089 監修:医師 坂本貞範 ▼ 靭帯損傷に対する再生医療 当院の再生医療は、靭帯損傷にも対応する最先端治療です
2022.10.21 -
- ひざ
- スポーツ医療
腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)を早く治す4つのポイントとは 「ランニングすると膝の外側が痛い…」 もしかすると痛みの原因は腸脛靱帯炎(ちょうけいじんたいえん)かもしれません。 今回はランニングで起こりやすい腸脛靱帯炎について、できるだけ早く治すポイントを解説します。 腸脛靱帯炎とは?特徴や症状を紹介 腸脛靱帯は、太ももの外側を通る靱帯です。ランニングなどで膝の屈伸を繰り返すと膝の外側の骨と靱帯がこすれます。 この摩擦が刺激となり靱帯に炎症が生じてしまい、腸脛靱帯炎を発症してしまいます。 症状は膝の外側の痛みで、走り始めでは痛みが出ないものの、ランニングやサイクリングの距離が増えると痛みが現れます。また、膝の外側を押さえたときに痛みがみられ、軽く腫れる場合もあります。 腸脛靱帯炎の原因 腸脛靱帯炎の原因は大きく分けて「体の要因」「環境の要因」「トレーニングの要因」の3つに分けられます。 体の要因 腸脛靱帯が硬くなると、膝の外側の骨と靱帯の摩擦が強くなってしまうため、靱帯の炎症が起こりやすくなります。また、O脚(膝が外側にカーブした状態)やおしりの外側の筋力が低下することで、骨盤が傾きやすくなります。 そうすると、体の左右への安定性が低下してしまい、膝の外側にかかる負担が増えてしまいます。結果的に腸脛靱帯にかかる負担が増加して炎症を生じやすくなります。 環境の要因 ランニングをする環境も靱帯の炎症を引き起こす大きな原因です。 例えば、アスファルトなどの固い地面や舗装されていない路面を走ることで腸脛靱帯に負担がかかってしまいます。傾斜があったり、下り坂だったりといった環境も靱帯に悪影響を及ぼします。 また、ランニングで使用するシューズも腸脛靱帯炎の発生と関係があります。シューズのサイズがあっていなかったり、クッション性の低いシューズを使ったりすることで人体にかかる負担が増えて炎症の原因になります。 トレーニングの要因 ランニングの時間が増加したり、距離が長くなったりすると、膝の屈伸をたくさん繰り返すことになるため、脛靱帯炎を引き起こすリスクが高くなります。 また、トラックなど同じ場所を周回するようなケースでは、同じ方向を繰り返し走ることで、常に一定の負荷が腸脛靱帯にかかり炎症を起こす原因になります。 腸脛靱帯炎を早く改善させる「4つのポイント!」 腸脛靱帯炎を改善させるには、「安静」「ストレッチ」「筋力トレーニング」「適切な環境の調整」です。 1.痛みの出始めは安静に 痛みが出はじめた時期は炎症が起こっているので、ランニングやスポーツを中断して安静にしましょう。痛みが強い場合は、整形外科を受診して、炎症や痛みを抑える薬などの使用も必要です。 また、無理をして痛みが出た場合は、温めるのではなく、太ももの横をアイシングするようにしましょう。 2.おしりや太ももの外側やふくらはぎのストレッチ 腸脛靱帯にかかる負担を減少させるため、おしりや太ももの外側の硬さを改善するストレッチをしましょう。 まずはおしりや太ももの外側を伸ばすストレッチの方法を紹介します。 おしりや太ももの外側のストレッチ 1.立った状態で両足を交差させます(足同士はこぶし1つ分ほど離します)。 2.両手を組んで頭の上にあげて後ろになっている足に向かって体を横に倒します。 3.出来るだけ体を倒した状態で15秒〜30秒キープします。 腸脛靱帯炎が改善した後でも、ストレッチを継続して柔軟性を保つことで再発の予防につながります。 3.おしりの横の筋力トレーニング おしりの横の筋肉を鍛えることで、腸脛靱帯にかかる負担を減らします。 オススメのトレーニングを紹介します。 おしりの横の筋肉を鍛える方法 1.横向きになり両膝を曲げます。 2.上になっている足の膝をまっすぐ伸ばした状態で持ち上げます。 3.足の付け根が曲がらないように意識しながら10秒キープします。 4.適切な環境の調整 痛みが徐々に緩和してランニングができるようになった場合も、長い距離や時間のランニングは再発や悪化を招きかねません。痛みが出ないように加減しながらランニングを再開しましょう。 また、原因のところで解説したように、固い地面や不整地は出来るだけ避け、下り坂が多い場所や傾斜のきつい場所でのランニングも行わないようにしましょう。 新調したばかりの馴染まない靴や靴底が薄くクッション性の少ない靴などは避け、ランニングやウォーキング用のシューズで、しっかり足のサイズを合わせたものを使いましょう。 まとめ・腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)早く治すには 今回は、腸脛靭帯の原因や症状、早く治すためのポイントをお伝えしました。 腸脛靱帯炎は無理な負荷を減らして、炎症を早く治すとともに、運動や環境調整で負担がかからないようにすることが重要です。また、痛みが出た場合に早めに整形外科を受診することで、他の病気との判別をして適切な治療を受けることが大切です。 ランニングは誰でも気軽に体を動かせるオススメの運動です。ぜひ、腸脛靱帯炎に対する正しい知識を持ち、安静・運動・環境調整で腸脛靱帯炎を早く治して、いつまでも楽しくランニングを続けましょう! No.S089 監修:医師 加藤 秀一
2022.10.12 -
- 変形性膝関節症
- ひざ
O脚とは?O脚の原因と治し方を知りたい方へ必見です! 「よくO脚って聞くけど、どういう状態なの?」 O脚という言葉は聞いたことがあっても、詳しい状態や原因、治し方まで知らない方も多いのではないでしょうか。 子供の頃にみられる「X脚」や「O脚」の中でも、成人以降でみられる「変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)」などの病気もあります。 今回はO脚とはどのようなものかを紹介し、原因や治し方を解説します。 O脚とは脚が外側にカーブした状態 O脚とは別名「内反膝(ないはんひざ)」と呼ばれ、脚が外側にカーブしてしまい、膝から下が内側に曲がった姿勢になります。両脚を合わせたときに太ももから膝、そしてすねで作られる形が英語の「O」になることから「O脚」と呼ばれています。 左右のくるぶしをくっつけるように立ったときに、膝の内側に目立った隙間ができてしまうのも特徴です。 O脚の原因 O脚は子どもの頃にみられる場合と、大人でみられる場合があります。それぞれ原因について紹介します。 子どもの頃にみられるO脚の原因 乳幼児から2歳までの子どもはO脚になるのが普通で、この時期のO脚を「生理的O脚」と呼びます。 2歳以降はO脚の反対で膝から下が外側に曲がって、両足を揃えた時に「X」になる「X脚」という状態になります。 そして、成長するにつれてX脚の程度が弱まっていき、成人になるとわずかに膝から下が外側に曲がった状態で止まります。 しかし、生まれながら骨に異常があったり、成長の過程で骨に関する病気になったりすると異常なO脚になる場合があります。 また、怪我や関節を支える靱帯の異常によりO脚がみられることもあります。 成人以降でみられるO脚の原因 成人以降では加齢や肥満などにより関節の変形が進む「変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)」や関節の炎症が続く「関節リウマチ」などの病気がO脚の原因になります。 また、姿勢が影響してO脚になることもあります。具体的には、背中が丸くなるような、いわゆる「猫背」になると、体の各関節が連動して変化して結果的にO脚につながります。 猫背が強まり骨盤は後ろに倒れてしまうと重心が後ろに偏ってしまいます。そのままでは後ろにバランスを崩してしまうので、重心を前に保つために膝が曲がってガニ股のような姿勢になってしまい、O脚の傾向が強まりやすくなります。 実際に姿勢が連動してO脚になっていく感覚はすぐに試せます。大げさに猫背&骨盤を後ろに倒す姿勢になってみて体感してみましょう。 おすすめのO脚の治し方3つ 子どもの頃の病気で起こるO脚は、原因に応じて医師による専門的な治療が必要になります。 ここでは、成人以降でみられるO脚に対する治し方として、「筋力トレーニング」「ストレッチ」「姿勢の改善」について解説します。 詳しくはここでは解説しませんが、体重の増加もO脚の原因ですので、気になる方は食事の工夫や有酸素運動で体重のコントロールをするのもオススメです。 1.筋力トレーニング 膝にかかる負担を減らすために、筋肉を鍛えて膝の関節を守るトレーニングが必要です。特に膝を伸ばす筋肉や内もも、お尻の横の筋肉を鍛えることで、膝が左右にブレにくくなるため、O脚の改善につながります。 オススメの運動はボールやクッションといった厚みのある柔らかいものを両膝で挟みながらのスクワットです。内ももの筋肉を働かせながら、膝を伸ばす筋肉も同時に鍛えられます。 ただし、スクワットは以下の注意点を守らなければ、膝に負担がかかるので注意しましょう。 スクワットをする場合の注意点 ・膝を深く曲げすぎない ・曲げた膝がつま先より前に出ないようにする ・膝を内ひねらないようにする(内股にならないようにする) ・勢いをつけずゆっくり曲げ伸ばしする また、横を向いて寝た状態で、上になっている脚を斜め後ろ方向に持ち上げる運動によりお尻の横の筋肉が鍛えられます。 2.ストレッチ 太ももの裏にある筋肉をハムストリングスと言いますが、この筋肉は膝を曲げるときに働くため硬くなると膝が伸びにくくなってしまい、O脚につながります。 今回は床や椅子に座って簡単にできるハムストリングスのストレッチを紹介します。 【床でできるハムストリングスのストレッチ】 1.ストレッチする方の脚をまっすぐ伸ばして、つま先を上に向けます。 2.ゆっくり体を倒しながら、片手でつま先を触りにいきます。 3.伸びているのを感じた状態で15秒ほどキープします。 4.体を倒す場合に背中が丸くならないように気をつけましょう。 【椅子でできるハムストリングスのストレッチ】 1.椅子に浅く腰掛けてストレッチする方の脚をまっすぐ伸ばします。 2.踵を床につけてつま先を上に向けます。 3.ゆっくり体を前に倒して太ももの裏が伸びているのを感じながら15秒ほどキープします。 4.背中を丸くするのではなく足の付け根から曲げるように体を倒すのがポイントです。 3.姿勢の改善 O脚の原因になるような猫背の姿勢を改善することが重要です。座った状態で猫背にして骨盤が後ろに倒れた状態から、軽く下腹を凹ますように力を入れると、背筋が伸びて骨盤が立ってくる感覚が得られると思います。 日頃から下腹に力を入れる習慣をつけることで、最初は意識しないと改善できなかった姿勢が、徐々に無意識でも維持できるようになります。まずは、テレビを見ている間や食事の間というように決まった時間から行って習慣化させてO脚を防ぎましょう。 まとめ・O脚とは?O脚の原因と治し方を知りたい方へ必見です! 膝が外側にカーブするO脚は、誰にでも起こる可能性がある変形です。膝関節の変形や悪い姿勢などにより起こることを知り、正しい対策をする必要があります。 そして、何よりも大事なのは、O脚の原因を知り、対策である正しい運動や姿勢の改善を継続することです。一度に全ての対策をするのは難しくても、解説した方法のうち、1つからでも始めて、その後は、継続して続けるようにしましょう。 今回は、O脚とはどのようなものかを紹介し、原因や治し方を解説しました。ご参考になれば幸いです。 No.088 監修:医師 坂本貞範
2022.10.10 -
- 関節リウマチ
- ひざ
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- 首
関節症に喫煙や電子タバコが良くないというのは本当か? 喫煙することと関節症の間には、一見何も関係がないようにみえます。 しかし最近いくつかの研究の結果から、タバコが関節症の経過によくない影響を与えていることが明らかになってきました。そこで今回の記事では、喫煙と関節症の関係についてご説明します。さらに電子タバコによる影響についても、解説いたします。 喫煙が関節症に与える影響 喫煙そのものは、肺がんや肺疾患、また動脈硬化や脳血管障害など、わたしたちの体のあらゆるところによくない影響を与えることは、よく知られていることかと思います。 ここでは特に、関節症の方に対して喫煙が与える影響についてご紹介します。 死亡リスクの増加 関節リウマチと診断されている方が喫煙を続けていると、非喫煙者に比べて死亡率が増加することがわかっています。 121,700人の女性が参加する追跡調査で、追跡中に関節リウマチと診断された923名を分析しました。このうち36%は関節リウマチと診断される前に一度も喫煙したことがなく、43%が過去に喫煙しており、21%が現在も喫煙者でした。 この調査によると、関節リウマチと診断された後も年間5パック以上の喫煙を続けていた女性は、診断前から喫煙をしていなかった人や関節リウマチと診断された後に禁煙した人たちと比べても、死亡リスクが2~4倍も高くなっていました。 診断後に禁煙することで、喫煙を継続するよりも死亡リスクは低くなっていましたので、早めに禁煙することは有効だと言えるでしょう。 (参考文献:https://acrabstracts.org/abstract/smoking-behavior-changes-after-rheumatoid-arthritis-diagnosis-and-risk-of-mortality-during-36-years-of-prospective-follow-up/) また5,677人の関節リウマチの方を平均して約5年間追跡調査した研究では、喫煙者の心血管障害や呼吸器疾患による入院率は、非喫煙者の2倍になっていました。 入院するリスクは、禁煙1年後に著しく低下していましたので、こちらも早めに禁煙することが予後を改善することにつながります。 (参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5623338/) 手術の合併症の増加 喫煙者と非喫煙者における、膝関節置換術の経過を比較した研究があります。 合計で8,776人の膝関節再置換術を受けた方を対象に実施した研究です。このうち、11.6%が現在も喫煙者でした。再置換人工膝関節置換術を受けた喫煙者は、非喫煙者と比較して、あらゆる創傷合併症、肺炎、および再手術の割合が高くなっていました。 (参考文献:https://www.arthroplastyjournal.org/article/S0883-5403(18)30282-1/fulltext) タバコを吸うと、一酸化炭素が赤血球内に取り込まれ、その結果、全身の組織に運ばれる酸素が少なくなります。手術部位が適切に治るためには、酸素を十分に含んだ血液が必要です。 タバコを吸うと、この治癒プロセスの重要な部分が滞り、治癒に時間がかかるようになると考えられています。 病状の悪化 159人の変形性膝関節症の男性を最長30ヶ月間追跡調査したところ、喫煙者は非喫煙者に比べて関節症による膝の痛みが強く、軟骨が著しく失われる可能性が2倍以上であることがわかりました。 (参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1798417/) X線写真の撮影が可能であった311人の初期リウマチ性関節炎の方をフォローした調査では、1年後にX線写真の進行がみられる独立した予測因子は、喫煙でした。つまりX線写真上で悪化する危険因子に喫煙があることがわかりました。 (参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4515990/) タバコに含まれる有害物質が軟骨の減少に寄与している可能性や、血中の一酸化炭素濃度が高いことが、軟骨の修復を妨げている可能性があると推測されています。 電子タバコの関節症に与える影響 電子タバコ(e-cigarettes)の使用率が急速に高まっていますが、電子タバコの使用が関節症状に対して与える影響について、まだ詳細はわかっていません。そこで行われたので、米国で924,882人の成人を対象に実施された、最大規模の全国電話調査です。 この調査では、電子タバコの使用歴と炎症性関節炎に関する情報を入手し、解析しています。 その結果、電子タバコ使用者と電子タバコ未使用者を比較したところ、電子タバコ使用者の方が炎症性関節炎により罹りやすいことが確認されました。この傾向は、電子タバコ使用者でも電子タバコと通常のタバコを併用する使用者でも同様であることがわかりました。(参考文献:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphar.2022.883550/full) まとめ・関節症に喫煙や電子タバコが良くないというのは本当か? 喫煙と関節症の関係、また電子タバコと関節症の関係についてご説明しました。 いずれにしても喫煙は関節症に対し、良い作用は何もないと言えるでしょう。ただ禁煙することで、予後や合併症の改善がみられることも事実です。まだ電子タバコを含め喫煙しておられる方がおられるようであれば、できる限り早く禁煙に取り組むことをお勧めいたします。 No.082 監修:医師 坂本貞範 ▼ 再生医療に関する詳細は以下をご覧下さい 自分自身の自ら再生しようとする力、自然治癒力を活かした最先端の医療です
2022.08.09 -
- 半月板損傷
- ひざ
- スポーツ医療
半月板損傷を早く治す!効果的なリハビリテーション3つのステップ 半月板という組織は、繊維軟骨でできていてCの型、まさに半月状の形をした組織です。部位は、膝関節の大腿骨と脛骨の間にあり、膝の内側と外側の場所に存在しています。 この半月板は、膝の滑らかな動きを可能にするほか、膝を安定させて荷重を分散させたり、物理的な外力による衝撃を吸収する機能を果たしています。 このような役割を持つ半月板が事故や、スポーツなどの激しい動きなどによって損傷し、万一慢性化すると将来的に変形性膝関節症を引き起こす懸念があります。 そのため本疾患に対してリハビリテーションを視野に入れながら適切に治療を行うことが重要になります。今回は、半月板損傷とはどのような病気なのか、半月板損傷を慢性化させず、早く治すためのリハビリテーションについて詳しく解説していきます。 半月板損傷とは 膝の障害というと年配者のイメージがありますが若年者であっても過度な運動などによってスポーツ傷害を引き起こすリスクが危惧されており、その中でも特に頻繁に認められる疾患が半月板損傷と言っても過言ではありません。 半月板損傷は、スポーツの際に起きる怪我から発症するのみならず、加齢に伴う場合が多いのも事実です。傷つきやすくなっている半月板組織にわずかな外力が負担となって、加重されることにより、損傷し断裂を起こす症例も存在します。 半月板が損傷すると膝部に疼痛が生じて運動時や、膝を屈曲・伸展する場合に膝に引っかかり感を覚えることがあり、ひどいケースでは激痛のために歩行できなくなる、もしくは関節内部で強い炎症を引き起こして水が溜まり、膝部分が明らかに腫脹することもあります。 半月板損傷を発症した際の主な治療手段としては、「保存治療」と「手術療法」が挙げられ、特に前者では安静を保持して抗炎症薬などの薬物を内服する、あるいはリハビリテーションを実践することになります。 半月板損傷の手術後のリハビリテーションについて 半月板損傷も、治療や症状によってリハビリテーションの方法が異なります。手術による治療を行った後のリハビリテーションについても事前に確認しておきましょう。 半月板縫合術における術後のリハビリテーション 半月板縫合術による施術の場合、損傷の程度や部位によってリハビリテーションにおけるスケジュールが異なりますので注意してください。 縫合箇所が再び断裂してしまうことを防ぐため、2週間程度は松葉杖での生活になるでしょう。また、膝の曲げ伸ばしにも制限があるため、激しい運動はできません。 術後6週程度から、軽めのジョギング等の運動が可能になります。スポーツなどへの復帰は10週程度で段階を経て行っていくのが一般的です。 ただし、重症のケースや経過によってはスポーツへの復帰が半年前後かかる場合もあります。術後の経過や回復に応じて臨機応変に対応していくことがポイントになります。 半月板切除における術後のリハビリテーション 半月板切除による施術の場合、ほとんどは術後すぐに体重をかけることが可能です。2週間程度で軽めのジョギング、1ヶ月前後でスポーツへの復帰が可能になります。 手術前のリハビリテーション 術後、スムーズに回復・リハビリテーションを行っていくためにも手術を行う前からリハビリに取り組んでおくことが望ましいでしょう。 あらかじめ松葉杖の使い方や、術後に行う予定のリハビリテーションを理解しておくことで、スムーズな術後のリハビリテーションへと移行することができるでしょう。 また、術後すぐに動けない場合は、足首周りや股関節周りなど、他の箇所の関節機能を低下させないためにも手術前のリハビリは重要です。 半月板損傷を早く治すためのリハビリテーションのステップ ここからはより具体的に半月板損傷を早く治すためのリハビリテーションについてお話を進めて参ります。 運動器リハビリテーションの分野では、通常であれば患者さんの運動能力や生活機能を回復させて、そのレベルを維持するために、原因疾患の治療と並行して個々における生活の実態を把握しつつ、綿密な治療計画を立案して実践します。。 個々のケースによって半月板の損傷度や状態が異なるために、実際にリハビリテーションを実践するタイミングは様々です。ただ基本的なメニューは、ほとんど変わりませんので担当の理学療法士ともよく相談しながら進めていきましょう。 1)リハビリ最初の1ステップ 最初の段階では、関節可動域の訓練を行うことが多く、膝関節の曲げ伸ばしができる角度を改善するためにリハビリテーションを行います。 半月板損傷を発症すると、通常であれば膝の曲げ伸ばし動作が困難になって日常生活に多大な支障が生じますので、徐々に曲げ伸ばしできる範囲を回復させるために可動域を増やすことを目標にした理学的な訓練を実施します。 特に股関節や足関節が固まるなど拘縮すると、膝関節に代償されて膝に負荷が集中してしまい、半月板損傷を抱えた膝の部位に更に重い負担がかかってしまいます。 そのため、半月板損傷を早く治すためには「膝関節のみならず、股関節や足関節もリハビリテーション」を行うことをお勧めします。 2)リハビリ次の2ステップ 次の段階として、関節の可動域を増やしたり、維持する訓練や、股関節あるいは足関節のリハビリに慣れてきたら、並行して膝周辺の筋力そのものを増強して膝関節を支えやすいよう補助できるようなトレーニングを取り入れていきます。 半月板が損傷している状況では、膝周りにあるほかの構造物で半月板を代理して体を支えなければなりません。半月板損傷が再発しないように防止するための観点からも膝周辺の筋力を強化することで膝を安定化させて身体を支えられるようにすることは非常に大切です。 3)リハビリ最終の3ステップ そして、後半戦に入ると本来の膝領域におけるバランス感覚を取り戻すためのリハビリテーションとして「バランストレーニング」を行っていくことになります。 半月板は、膝関節を安定させる機能を有しており、半月板が損傷することで膝が不安定となり、身体を支えることができず怪我を引き起こす危険性もありますのでバランスを取り戻すための理学療法は重要なトレーニングのひとつでと考えられます。 リハビリテーション治療の最終段階になってくると、いよいよ実践的なスポーツ競技や運動動作に復帰することを見据えて行う「アスレチック・リハビリテーション」を実践する運びになります。 このリハビリテーション・プログラムでは、筋力がある程度、元のレベルに回復して、膝関節の可動域を一定以上に獲得でき、膝関節の痛みもほとんど自覚しない状態になった場合に本格的なスポーツ能力を得るために準備する理学療法となります。 ジョギングに取り組み、ひざ痛が悪化しないかを確認して特に問題を認めないようであれば、梯子を用いたラダートレーニング、両脚ジャンプなどの動作を取り入れて、最終段階では復帰したい競技に応じて特有の動きがスムーズに出来るようにリハビリを実践することになります。 まとめ・半月板損傷を早く治す!効果的なリハビリテーションのステップ 今回は、半月板損傷とはどのような病気なのか、半月板損傷を早く治すためのリハビリテーションなどについて詳しく解説してきました。 半月板という組織は、膝関節の内部にある軟骨様の構造物であって、その軟骨部に負荷がかかる外からの物理的な力を和らげるための重要な役割を有しており、もし半月板を損傷した場合には、その受傷度合いに応じて個々に治療期間やリハビリテーションの内容が異なるため、具体的な内容は個別に決めなければなりません。 半月板のような軟骨組織は、完全に治癒するまでかなり時間を要します。身体機能をカバー出来るよう、患部はもちろん身体の状況を判断しながら計画的に取り組む治療がリハビリテーションです。 重要なことは、決して無理をせずにトレーナーや理学療法士と相談して適切なプログラムを行うことです。 No.080 監修:医師 坂本貞範 ▼ 半月板損傷を再生医療で治療する 再生医療なら半月板損傷は、手術せずに改善できます
2022.07.26