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「圧迫骨折をしたけど、どんな動きがNGなのかわからない…」 「やってはいけない姿勢や動作を知らずにやって、症状が悪化したらどうしよう…」 このような不安を抱えていませんか? 圧迫骨折とは、腰や背中の骨にある椎体(腰椎・胸椎)が押しつぶされるように変形・破損する骨折です。 そのため、完治するまでは、患部に負担がかかる姿勢や動作をしてはいけません。無理に動かすと骨の変形が進んだり、回復が遅れたりする可能性があります。 本記事では、圧迫骨折でやってはいけないことを一覧で紹介します。早く治す方法も紹介するので、参考にしてみてください。 なお、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 圧迫骨折の痛みにお悩みの方や再生医療について詳しく知りたい方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 【前提知識】圧迫骨折とは 圧迫骨折とは、腰や背中の骨の椎体(腰椎・胸椎)に外部から圧力がかかり、押しつぶされて起こる骨折です。主な原因は、転倒や交通事故といった衝撃です。 とくに高齢者の場合、骨粗しょう症が原因で圧迫骨折になりやすい傾向があります。骨粗しょう症は骨がもろくなった状態で、小さな衝撃や日常動作の蓄積により圧迫骨折を引き起こします。 圧迫骨折になると、骨折した部分(腰または背中)に痛みを感じます。適切な治療を受けずに放置すると症状が悪化してしまうので、気になる症状を感じたら速やかに医療機関を受診しましょう。 圧迫骨折でやってはいけないこと一覧 圧迫骨折をした方がやってはいけないのは、骨折した部分に負担がかかる姿勢や動作です。圧迫骨折は腰や背中の椎体に起こるため、これらの部位に負荷をかける動きは症状を悪化させる恐れがあります。 以下は、圧迫骨折でやってはいけないこと一覧です。 前かがみになる 重い物を持ち上げる 体をひねる 長時間座る 仰向けに寝る 1つずつ具体的に見ていきましょう。 前かがみになる 前かがみになる動作は、腰や背中の椎体に強い圧力をかけるため、圧迫骨折している方は避けなければなりません。 以下は前かがみの動作を伴う日常生活の例です。 床掃除をする 落ちていたものを拾う 靴を履く/靴紐を結ぶ 洗濯物をカゴから取り出す これらの動作をする際は、背筋を伸ばした状態で膝を曲げてしゃがむと椎体への負担を軽減できます。 重い物を持ち上げる 重い物を持ち上げる動作も腰や背中の椎体に負荷がかかるため、控えたほうが良いです。 重い物をどうしても運ばなくてはならないときは、以下の方法を試してみてください。 他の人に頼んで持ってもらう 荷物を分けて1つ分の重量を軽くする 台車やキャスター付きの道具を使用する これらの工夫により、椎体への負担を最小限に抑えられます。 体をひねる 体をひねる動作は、腰や背中の椎体にねじれの力が加わり、骨折部位に悪影響を与えます。 以下は日常生活で体をひねる動作の例です。 後ろを振り向く ベッドで寝返りを打つ 車を運転中に後方を確認する 振り返るときは、首や腰だけをひねらず、足や体全体を回して向くようにしてください。 長時間座る 圧迫骨折している方は長時間座っている状態も控えましょう。 同じ姿勢で座っていると、腰や背中の椎体に持続的な圧力がかかり続けます。 以下は長時間座る動作の例です。 映画を見る デスクワークを続ける ゲームを長時間プレイする 車やバスで長距離を移動する 30分程度座っているだけでも、腰や背中の椎体には負担がかかります。座り続けて作業する際は、時間を決めて作業をしたり、こまめに立ち上がって休憩を挟んだりする工夫をしてみてください。 仰向けに寝る 仰向けに寝る姿勢は、寝具に骨折部位を押し付けている状態なので、骨折した部分に負荷がかかっています。 また、背骨が伸展することで椎体に開く方向の力が働くため、骨の癒合(骨がくっつくこと)を妨げる可能性があります。 寝るときは横向きになると骨折部への負担を軽減できます。 圧迫骨折を早く治す4つの方法 ここでは、圧迫骨折を早く治す方法を解説します。 主な方法は以下の4つです。 安静にする コルセットを着用する リハビリに取り組む 骨粗しょう症を治療する 取り入れられる方法を実践して、早期回復を目指しましょう。 安静にする まずは安静が第一です。 骨折中は、無理に体を動かしたり、激しい運動をしたりすると症状の悪化や再び骨折する恐れがあります。 痛みが治まり、ベッドから起き上がれるようになるまでは絶対安静を保ちましょう。 コルセットを着用する 圧迫骨折した際は、コルセットを着用すると自然治癒がスムーズに進みます。 やってはいけない姿勢や動作を物理的に抑制して、骨の癒合を促進するからです。 脊椎圧迫骨折患者に対し、早期より体幹ギプス固定を着用し、同時に体幹筋の筋力強化を実施して、脊柱が体を支える筋力を補うことで、安静状態の期間が短縮された報告もあります。(文献1) コルセットの着用期間は、おおよそ2カ月間とされています。 長く装着しすぎると関節可動域や周辺の筋力が低下する可能性があるため、コルセットは医師の指導のもとで使用しましょう。 リハビリに取り組む 安静期を過ぎたらリハビリを開始します。 最初は、関節の可動域を広げるための訓練から始めるのが一般的です。ベッドで長期間安静にしていると、筋力が低下して関節を動かせる範囲が狭まります。 無理のない範囲で関節を動かし、徐々に可動域を回復させていきます。 ベッドから起き上がれるようになったら、次の段階は足の筋力トレーニングです。 安静期に落ちた筋力を段階的に回復させていきます。 骨粗しょう症を治療する 骨粗しょう症が原因で圧迫骨折した方は、骨粗しょう症の治療が根本治療につながります。 骨粗しょう症は、骨がもろくなっている状態で、代表的な治療法に「薬物療法」と「食事療法」があります。それぞれの治療内容は以下のとおりです。 治療法 治療内容 薬物療法(文献2) ・骨が溶け出すのを防ぐ薬を服用する ・骨を新しく作る力を高める薬を服用する 食事療法(文献2) 骨の形成に関与する栄養素(カルシウム・ビタミンD・ビタミンK)を意識的に摂取する 骨粗しょう症と圧迫骨折の治療を同時に進めることで、より効果的な回復が期待できます。 圧迫骨折におけるやってはいけないことを覚えて早期回復を目指そう 損傷した骨が治癒するには時間がかかります。回復期間中に、やってはいけない姿勢や動作をすると症状が長引くリスクを招きかねません。 本記事を参考に、無理のない過ごし方を心がけて、早期回復を目指してください。 圧迫骨折は骨粗しょう症が原因で起こることが多ため、日頃から骨を作るカルシウム・ビタミンK・ビタミンDの栄養素を食事から摂取して、圧迫骨折の予防にも努めましょう。 圧迫骨折に関するよくある質問 圧迫骨折は入院しなくていいんですか? 症状が軽度の場合は、入院する必要はありません。自宅で安静にしながら外来診療に通院して治療を進められます。 ただし、痛みが強くて日常生活もままならない場合や、損傷が激しく手術が必要な場合は、入院治療が必要です。 圧迫骨折を放置するとどうなりますか? 骨が変形し、その影響で姿勢が悪くなったり、猫背になったりする可能性があります。 また、偽関節(ぎかんせつ:骨がしっかり癒合しない状態)になり、下肢の痛みやしびれ、排尿障害といった深刻な症状を引き起こすリスクがあります。 参考文献 (文献1) 骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折の理学療法|埼玉理学療法 (文献2) 骨粗鬆症の診断と治療|日医大医会誌
2025.07.31 -
- 上肢(腕の障害)
- 肩関節、その他疾患
- 肩関節
- スポーツ外傷
「水泳のあとに肩が痛む……これって水泳肩?」 「水泳肩ってリハビリやストレッチで治るの?」 このような不安を抱えている方は多いでしょう。 水泳肩は、水泳による肩の使いすぎやフォームの崩れなどが原因で起こります。放置すれば痛みが慢性化し、日常生活や競技に支障をきたすこともあります。 しかし、正しく対処すれば症状の改善は可能です。 本記事では、水泳肩の特徴的な症状や原因、治療法を詳しく解説しています。自宅でできる対処法や再発防止も紹介しているので参考にしてみてください。 なお、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 水泳肩の痛みが治らず悩んでいる方や、再生医療について詳しく知りたい方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 水泳肩とは 水泳肩は、泳いでいる時や泳いだ後に肩が痛む症状を指します。 1978年に医学界で初めて命名された用語で、当初は水泳による肩の痛みだけを表していました。(文献1) しかし、現在は水泳以外でも肩に違和感や痛みを感じる症状全般を含む呼び方に変化しています。 以下の記事では、肩の痛みが関係する病気について解説しています。視野を広げて肩の痛みの原因を探したい方は参考にしてみてください。 水泳肩の主な症状 水泳肩で現れる代表的な症状は以下の表のとおりです。 症状の種類 特徴 違和感・引っかかり感 肩を回すとゴリゴリといった不快な感覚や引っかかりがある 肩の痛み 水泳中や安静時にもズキズキした痛みが現れ、程度は軽い違和感から激痛まで幅がある 動かしにくさ 腕を上げたり、後ろに回す動作が難しくなり、日常生活にも支障をきたすことがある 腫れ・熱感 強い炎症により肩が腫れ、熱を持ち、赤くなるなどの症状を伴う これらの症状に心当たりがある方は水泳肩の可能性が高いです。 無理にトレーニングを続けず、症状が現れたら医療機関を受診しましょう。 症状が悪化すると、インピンジメント(衝突症候群)で骨や筋肉が肩の中でぶつかって痛む状態や、関節唇損傷で肩の軟骨が傷ついた状態になるなど、重篤な疾患に発展する恐れがあります。 水泳肩になる主な原因 水泳肩を引き起こす主な原因には以下の2つがあります。 肩の使いすぎ フォームが悪い それぞれの原因について詳しく見ていきましょう。 肩の使いすぎ 肩の使いすぎは水泳肩を引き起こす代表的な原因です。(文献1) 水泳動作により肩関節が反復して使われることで、筋や腱に過剰なストレスがかかり、炎症反応を引き起こすためです。 とくに、長時間の練習や高強度のトレーニングを続けると、肩周辺の組織が十分に回復する時間がとれなくなります。 また、急激に練習量を増やした場合も、肩への負担が急激に高まり障害のリスクが上昇します。 適切なタイミングで休息をとり、練習量は段階的に増やしていきましょう。 フォームが悪い 泳ぎのフォームが悪いと肩関節に異常な負担をかけ、水泳肩の発症リスクを高めます。 肩の動きが不自然になると、特定の筋肉や腱に過度な負荷が集中し、炎症や損傷を引き起こします。 たとえば、以下の要因です。 腕の入水角度が悪い 肩の回転が不十分 体幹が不安定 肩だけで推進力を生み出そうとすると過度な負担がかかります。 正しいフォームを習得し、肩にかかる負担をおさえましょう。 水泳肩の痛みに効果的なストレッチ 水泳肩の痛みを軽減するためには、適切なストレッチが効果的です。 ストレッチを行うことで肩周辺の筋肉の柔軟性が向上し、血流が改善されて痛みの軽減につながります。 水泳肩の痛みに効果的なストレッチは以下のとおりです。 小胸筋(胸の上の方で肩の前にある筋肉)のストレッチ 肩の内旋(内側にねじる)ストレッチ 肩甲骨まわりのストレッチ 日常的にストレッチを行うことで、水泳肩の予防効果も期待できます。 ただし、強い痛みがある場合は無理をせず、医師や理学療法士の指導を受けながらストレッチを行いましょう。 水泳肩の代表的な治し方と治療期間 水泳肩の治療法と治療期間を理解できれば、症状に応じた選択が可能になります。 水泳肩の主な治療法には以下の4つの方法があります。 保存療法 リハビリ 手術 再生医療 各治療法の特徴と適応について詳しく解説します。 保存療法 保存療法は水泳肩の症状が軽度〜中程度期の治療として選択される方法です。 痛みの段階に応じて以下の治療を行います。 安静にする 湿布などで冷却する 消炎鎮痛剤を内服する ステロイド注射をする 保存療法の治療期間は、症状や治療内容によって個人差があります。 リハビリ リハビリテーションは水泳肩の機能回復と再発予防が期待できます。 理学療法士による専門的な指導のもと、主に肩関節の可動域改善や筋力強化などの運動療法を行います。 初期段階では痛みの軽減と炎症の抑制をして、徐々に筋力トレーニングや動作練習を加えていくのが一般的です。 また、正しい泳ぎのフォームの習得や、水泳復帰のための段階的なトレーニングも含まれます。 リハビリ期間は個人差があるため、競技復帰までの期間も個々に異なります。 手術 水泳肩が重症化すると、肩の腱板が切れてしまう腱板断裂に至り、手術を検討する必要があります。 腱板が断裂すると、肩を動かすたびに強い痛みが出るだけでなく、筋力が入らず腕が思うように上がらなくなるケースも見られます。 こうした状態では、切れた腱板をつなぎ直す関節鏡視下手術と呼ばれる内視鏡手術が一般的です。 手術の入院期間は2日から5日程度で、手術後は数カ月間リハビリを通じて機能の回復を目指します。 再生医療 再生医療は人間の組織を活用した治療法です。 再生医療には、「幹細胞治療」と「PRP(多血小板血漿)療法」があります。 「幹細胞治療」はご自身の脂肪などから幹細胞を採取・培養し体内へ注射する治療です。 「PRP(多血小板血漿)療法」では、ご自身の血液から血小板を多く含む成分を抽出し体内へ注射します。 当院では両方の治療法を提供していますので、具体的な治療内容を知りたい方は当院までお気軽にお問い合わせください。 水泳肩の原因と治し方を知って適切に対処しよう 水泳肩は適切な知識と対処法を理解できれば、効果的に治療をはじめられます。 しかし、痛みがある状態で無理に水泳を続けてしまうと、将来的に手術が必要となる場合があります。 水泳肩の主な治療法は以下の4つです。 保存療法 リハビリ 手術 再生医療 痛みを感じたら無理をせず、医療機関で適切な診断と治療を受けましょう。 症状が改善しない水泳肩の損傷に対しては手術や再生医療の選択肢もあります。 再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、ぜひご活用ください。 水泳肩に関するよくある質問 水泳肩は肩のどこの部分が痛い? 水泳選手に多い肩の痛みは、主に棘上筋と呼ばれる筋肉の腱に炎症が起こることが原因とされています。(文献1) 棘上筋の場所は、肩甲骨上部から上腕骨の上端にかけて付着する筋肉です。 棘上筋周辺の筋肉や腱に炎症が生じると、腕を上げる動作や回旋動作で痛みが増強します。 また、重症化すると肩甲骨周辺や首筋にまで痛みが広がる場合があります。 関連記事:肩が痛い!医師が詳しく解説 | 大阪 リペアセルクリニック 水泳肩は治らない怪我ですか? 水泳肩は適切な治療により改善できるスポーツ障害です。 早期発見と正しい治療により回復が期待できます。 関連記事:水泳肩が治らない?気付かずに悪化する理由や治療法について解説 | 大阪 リペアセルクリニック 水泳肩に効くトレーニングはありますか? 水泳肩の改善には肩甲骨周辺の筋力強化とバランス調整が効果的です。 とくに、ローテーターカフと呼ばれる深層筋群の肩甲骨まわりのトレーニングに取り組むことが水泳肩に効くと報告されています。(文献2) 具体的には、軽い負荷でのチューブトレーニングやダンベルなどを使用し、体幹の安定性を高めるエクササイズなどがあります。 ただし、痛みがあるときは無理をせず、医療機関を受診し適切な指導のもとでトレーニングを段階的に進めることが大切です。 参考文献 (文献1) Biomechanical Considerations in the Competitive Swimmer’s Shoulder|Sports Health (文献2) Effectiveness of Therapeutic Exercise in Musculoskeletal Risk Factors Related to Swimmer's Shoulder|Eur J Investig Health Psychol Educ
2025.07.31 -
- 足部、その他疾患
- 足部
「捻挫が治ったと思ったのに、足首に違和感が残っている……」 「痛みの原因が後遺症からくるものなのか判断したい」 このような悩みを抱える方は多いでしょう。 捻挫は一見、軽いケガに思われがちです。しかし、適切な処置やリハビリを行わずに放置してしまうと、後遺症として長く症状が残るケースもあります。 本記事では、捻挫後遺症か判断するためのチェック項目や原因、治し方を詳しく解説しています。 症状が悪化した場合の選択肢も紹介しているので、最後までご覧ください。 捻挫の後遺症によるお悩みを今すぐ解消したいとお考えで、再生医療に興味がある方は当院「リペアセルクリニック」の電話相談までお問い合わせください。 足首捻挫における後遺症の症状【3つのチェック項目】 捻挫後の後遺症を見極めるためには、以下3つの症状がないかをチェックします。 足首がぐらぐらして安定しない 痛みや腫れが引かない くるぶしを押すと痛い これらの症状が一つでも当てはまる場合は、後遺症の可能性があります。 それぞれの症状の中身を詳しく見ていきましょう。 足首がぐらぐらして安定しない 足首がぐらぐらして安定感がない場合は、捻挫後遺症の可能性があります。 靭帯が伸びきったり部分的に断裂したりすると、関節を支える力が弱くなり不安定になるためです。 たとえば、階段を降りる際にふらつきを感じたり、でこぼこした道を歩くときに足首をひねりやすくなったりします。 足首がゆるむと関節を動かすたびに軟骨などの柔らかい組織と骨がこすれやすくなり、ポキポキといった音が鳴る場合もあります。 痛みや腫れが引かない 捻挫で損傷した靭帯が回復するまでにかかる期間は、少なくとも6週間〜3ヶ月と言われています。(文献1) そのため、捻挫から約3カ月経過しても痛みや腫れが続く場合は、後遺症の可能性があります。 主な症状は、朝起きたときの足首のこわばりや、長時間歩いた後の痛みの増強などです。 また、天気が悪いときや天候が崩れるときは気圧が大きく変動し、体内の神経や血管に影響を及ぼし痛みが出ることもあります。 くるぶしを押すと痛い くるぶし(足首の内側・外側にある骨が突出した部分)を触ったときの痛みは、骨や靭帯の損傷が治癒していないサインです。 以下のようなくるぶしの痛みが続く場合は、後遺症の可能性があります。 物にぶつかったときに痛みがある 靴着用時に圧迫されて痛みを感じる 靴下を脱ぎ着する際に痛みが生じる 該当する症状があれば後遺症を疑い、専門医に相談してみましょう。 以下の記事では、足首捻挫の後遺症セルフチェックリストを紹介しています。後遺症の見逃しを防ぐために役立つので、参考にしてみてください。 関連記事:足首捻挫の後遺症セルフチェックリスト!リハビリ期間を短縮できる再生医療についても解説 | 大阪 リペアセルクリニック 捻挫の後遺症が出る原因 足首捻挫の後遺症が出る主な原因は、初期治療の不備や安静期間の不足です。 捻挫直後の応急処置を怠ったり、適切な治療を受けないまま足首に負荷をかけたりすると、損傷した靭帯が緩んだままになり、関節が不安定な状態で固まってしまいます。 捻挫で痛めた靭帯や筋肉、関節包などの軟部組織は、完全に治癒するまでに約6週間から3カ月の期間を要します。(文献1) そのため、治癒期間中に無理な負荷をかけると、組織の修復が不完全になり慢性的な症状が残りかねません。 また、痛みが引いたからといって早期に運動を再開すると、損傷した組織が十分に修復されず、症状がぶり返す可能性もあります。 以下の記事では足首捻挫を放置するリスクについて解説しています。適切な治療を進める大切さがわかるので、あわせてご覧ください。 関連記事:足首の捻挫を放置したらどうなる?主な後遺症や治るまでの期間について解説 | 大阪 リペアセルクリニック 捻挫における後遺症の治し方 後遺症の治療方法として、以下3つの治し方があります。 テーピングの使用 ストレッチ リハビリテーション これらの治療法を組み合わせることで、症状の改善が期待できます。 テーピングの使用 テーピングの使用は足首の安定性を向上させ、再発防止に効果的な治療法です。(文献1) テーピングを適切に巻くことにより関節の可動域を制限し、損傷した靭帯への負担を軽減できます。 一般的なテーピングの巻き方は以下のとおりです。 足首が直角(90度)になるように足首の角度を整える テープはくるぶしの少し下から始め、かかとをぐるっと包み込むように巻く 足の裏から土踏まずを支えるように、テープを斜め上に貼り上げる テープで8の字を描くように、くるぶしのまわりを巻く 足首全体を包み込むようにテープを巻き上げる 強く巻きすぎると血流を妨げる可能性があるため、巻いた部位が冷たくなったり、色が変わったりしない適度な強さで巻きましょう。 ストレッチ ストレッチは関節の柔軟性を回復し、筋肉の緊張をほぐす治療法です。 足首の可動域が制限されると、周辺の筋肉が硬くなり血流が悪化します。 以下に捻挫後遺症の際におすすめのストレッチの種類とやり方を紹介します。 種類 やり方 アキレス腱伸ばし ・足を前後に開いて立つ ・後ろ足のかかとは床につけたまま、体重を前に移動する つま先立ち ・立った状態で母指球(親指の付け根)に体重を乗せる ・そのままかかとを高く上げて、ゆっくり下ろす 足趾ひらき ・椅子に座って足裏を床につける ・親指から小指までしっかり横に広げながら、足の裏全体で床を押す ストレッチの効果はすぐに現れない場合もあるため、継続しておこないましょう。 リハビリテーション リハビリテーションは筋力と関節機能の回復を目的とした専門的な治療法です。 理学療法士の指導のもと、段階的に負荷を増やしながら足首の機能を回復させます。 治療法としては、テーピングやサポーター(ブレース)を使用して関節の安定性を高める方法が一般的です。(文献2) これらの補助具は、関節への負担を軽減し、回復を促すための手段として、専門的な知識と技術を持つ理学療法士が指導します。 さらに、バランスボードを使った平衡感覚の訓練やゴムチューブを用いた筋力強化する方法もあります。 指導者と相談しながら、自身の状態に合わせたプログラムを実践しましょう。 捻挫の後遺症が悪化した場合の選択肢 後遺症が悪化した際の選択肢として、以下の方法があります。 手術 再生医療 保存的治療で改善が見られない場合は、より高度な治療法を検討する必要があります。 症状の程度や生活スタイルに応じて、適した治療法を選択しましょう。 手術 手術は重度の靭帯損傷や関節不安定性に対する根本的な治療法です。 断裂した靭帯の修復や再建により、関節の安定性が改善されます。 主な手術の種類と内容は以下のとおりです。 手術名 内容 関節鏡 関節の中をカメラで確認し、炎症を起こした滑膜を焼灼、損傷した軟骨を処置する 靭帯縫合術(Bronstrom-Gould変法) ゆるんだ靭帯を縫い縮めて補強し、人工靭帯でさらに強度を持たせる 靭帯再建術 自分の太ももの腱(大腿四頭筋腱)を使って、靭帯を新たに作り直す 担当医の相談のもと、症状の程度や生活スタイルに応じて患者様にあった手術方法が選択されます。 再生医療 再生医療はご自身の細胞を活用する治療法です。 再生医療には「幹細胞治療」と「PRP(多血小板血漿)療法」があります。 「幹細胞治療」はご自身の脂肪などから幹細胞を採取・培養し体内へ注射する治療です。 「PRP(多血小板血漿)療法」はご自身の血液から血小板を多く含む成分を抽出し体内へ注射します。 再生医療は、拒否反応やアレルギーのリスクが低く、治療期間を短縮できる可能性があります。 再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。 捻挫による後遺症は放置せず早めに対処しよう 捻挫の後遺症は放置すると症状が悪化し、日常生活に支障をきたします。 早期の適切な治療により、多くの場合で症状の改善が可能です。 捻挫における後遺症の治し方は以下の3つです。 テーピングの使用 ストレッチ リハビリテーション 本記事ではそれぞれの症状について解説していますので、ご自身の症状に合わせて、治療法を進めてみてください。 捻挫の後遺症が悪化した場合は、手術または再生医療の治療法が選択肢に挙げられます。 再生医療は患者様の細胞を活用した治療法で、副作用が少なく入院なしで治療できる点が特徴です。 再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、ぜひご活用ください。 捻挫の後遺症に関するよくある質問 捻挫の後遺症で正座ができない場合もありますか? 捻挫の後遺症により正座ができない場合があります。 後遺症による痛みや可動域の制限により、膝を深く曲げる姿勢が取れなくなるためです。 また、足首の不安定性により、正座の維持が困難になる場合もあります。 以下の記事では正座をすると足首が痛いときのストレッチ法を紹介しています。セルフケアをする際の参考にしてみてください。 関連記事:正座をすると足首が痛い原因まとめ!有効なストレッチも紹介 | 大阪 リペアセルクリニック 足首の古傷が痛む原因は捻挫後遺症の可能性はありますか? 古傷が痛む現象について、はっきりとした原因はまだ解明されていません。 しかし、けがをした部分の組織は、回復後も血行が悪くなりやすいと言われています。 気温の変化や気圧の低下によって血管が収縮すると、さらに血流が悪くなります。 古傷の痛みや違和感を感じたら、医療機関に相談してください。 参考文献 (文献1) スポーツ活動における足関節捻挫―後遺症と捻挫再発予防について―|日本アスレティックトレーニング学会誌 (文献2) 足関節捻挫の病態と治療|日本アスレティックトレーニング学会誌
2025.07.31 -
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「インフルエンザが治ったはずなのに、咳や倦怠感が続いている」 このような不安をお持ちの方もいるでしょう。 もしかしたらインフルエンザ後遺症かもしれません。インフルエンザ後遺症は、ウイルスが体内からいなくなった後も、さまざまな症状が体に残る状態を指します。 この記事では、インフルエンザ後遺症の原因や症状、合併症やコロナ後遺症との違いについて詳しく解説します。 また、セルフケアの方法や治療法についても紹介します。ぜひ最後までご覧いただき、インフルエンザ後遺症への理解を深めてください。 インフルエンザ後遺症とは? インフルエンザ後遺症とは、インフルエンザの急性期症状が治まった後も、4週間以上にわたって倦怠感、咳、関節痛といった症状が続く状態の総称です。 ウイルスが体から排除された後に症状が現れたり、長引いたりする点が特徴です。中には慢性疲労症候群の診断基準に該当する方も報告されています。(文献1) インフルエンザの合併症との違い インフルエンザ後遺症と合併症は、以下の点が異なります。 タイミング 症状 治療法 合併症 発熱がある急性期 肺炎症状 インフルエンザ脳症 抗ウイルス薬 集中治療 後遺症 解熱した回復期 倦怠感 呼吸器症状 対症療法 生活指導 合併症の代表例であるインフルエンザ脳症は、国内で年間100例以上報告されており、後遺症が出る割合も決して低くありません。致死率が約15%、後遺症率が約25%との報告もあります。(文献2) また、合併症が重度だった症例ほど後遺症を長引かせるリスクが高いとする研究報告もあります。(文献3) コロナウイルス後遺症との違い インフルエンザ後遺症とコロナウイルス後遺症は、リスクの程度や症状の傾向に違いがあります。 名古屋工業大学の平田晃正教授らの研究グループによると、インフルエンザ感染後に咳や頭痛で医療機関を受診するリスクは、感染していない人と比べて1.8倍程度との結果です。 一方、新型コロナウイルス感染後に咳で受診するリスクは、感染していない人と比べて8.20倍とインフルエンザよりも高い結果が見られました。(文献4) 症状としては、コロナウイルス後遺症では多臓器にわたる全身性の症状が目立つ傾向にあります。一方で、インフルエンザ後遺症は主に呼吸器や疲労が中心です。 コロナウイルス後遺症については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてみてください。 【関連記事】 コロナ後遺症はいつまで続く?倦怠感や症状について現役医師が解説 コロナの後遺症を劇的に改善させる方法を再生医療医が解説 また、コロナウイルス後遺症に対する治療法として、再生医療があります。 再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、ぜひご活用ください。 インフルエンザ後遺症の主な原因 インフルエンザ後遺症を引き起こす原因は1つではなく、主に以下の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。 免疫機能の過剰な反応の残存 ウイルスによる気道粘膜の損傷 二次的な細菌感染の併発 高熱などによる自律神経の乱れ 感染に伴う精神的なストレス インフルエンザウイルスに対抗するために活性化した免疫が、ウイルス排除後も活動を続け、炎症を引き起こす物質を放出し続けることで、倦怠感や疲労感につながります。 また、ウイルスで傷ついた気道の粘膜は再生に時間を要するため、咳が出やすい状態が長引く可能性があります。隔離生活などによる不安やストレスが、抑うつ症状を誘発する場合もあります。 【一覧】インフルエンザ後遺症の主な症状 インフルエンザ後遺症では、さまざまな症状が現れます。主な症状を以下の表にまとめました。 系統 主な症状 呼吸器系 乾いた咳、息切れ、声枯れ 全身症状 倦怠感、微熱、関節痛、寝汗 神経・感覚 頭痛、めまい、集中力の低下、嗅覚・味覚の低下 耳鼻科系 副鼻腔炎に伴う鼻水・顔面痛、耳の閉塞感 精神面 不眠、気分の落ち込み(発熱による睡眠リズムの乱れが誘因) これらの症状は、いずれか1つだけが現れるよりも、複数の症状が重なって現れることが少なくありません。 たとえば、長引く咳に加えて強い倦怠感が続いたり、頭痛と集中力の低下が同時に見られたりするケースです。症状が改善しない、あるいは悪化するような場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 インフルエンザ後遺症の治療法 インフルエンザ後遺症の症状は、多くの場合、時間の経過とともに自然と落ち着いていきます。しかし、症状が長引いたり、悪化したりするケースは少なくありません。 インフルエンザ後遺症に対する治療は以下のような方法が挙げられます。 対症療法 薬物療法 生活習慣の見直し 1つずつ解説していきます。 対症療法 インフルエンザ後遺症の治療は、現れているつらい症状を和らげる対症療法が基本です。体の疲労感や関節の痛みに対しては、電気療法や理学療法士による手技療法などがおこなわれます。 倦怠感や微熱が続く場合は、無理をせず十分な休息を取り、水分と栄養をしっかりと補給するのが最優先です。必要に応じて、解熱鎮痛薬が処方されることもあります。 鼻水や顔の痛みなど、副鼻腔炎や中耳炎が疑われる際は、耳鼻咽喉科で鼻の洗浄やネブライザー治療といった処置を追加します。 症状によって治療方法が異なるため、病院受診時に医師に困っている症状を正しく伝えましょう。 薬物療法 症状を和らげるための薬物療法も選択肢の1つです。急性期を過ぎてもウイルスの増殖が続いていると医師が判断した場合には、抗インフルエンザ薬の投与期間を延長する場合があります。 長引く鼻水や咳に対しては、症状を抑えるために抗ヒスタミン薬や鎮咳薬などが処方されます。咳が止まらず咳喘息のような状態に移行したケースでは、気管支を広げる吸入β2刺激薬や炎症を抑える吸入ステロイド薬を数週間にわたって使用する場合も少なくありません。 これらの治療で十分な改善が見られない場合には、別系統の薬を追加で検討されるケースもあります。 また、コロナウイルス後遺症の症例に対してですが、漢方薬が慢性疲労・食欲不振を緩和したとの報告もあります。(文献5) 生活習慣の見直し インフルエンザ後遺症から回復するには、薬による治療だけでなく、日々の生活習慣の見直しも必要です。まずは、十分な休養を取り、体に負担をかけないようにしましょう。 タンパク質やビタミンなどを含むバランスの良い食事を心がけ、睡眠は7時間以上確保すると、自律神経の働きを整える効果が期待されます。 体力が少し戻ってきたら、軽いストレッチや腹式呼吸といった呼吸リハビリを取り入れるのも、呼吸筋の疲労感を和らげるのに役立ちます。アルコールや喫煙は炎症を長引かせるリスクがあるため、症状が落ち着くまでは控えましょう。 インフルエンザにおける後遺症の理解を深めて適切な治療を進めよう インフルエンザ後遺症は、決して珍しいものではなく、誰にでも起こりうる症状です。治ったはずのインフルエンザの後に続く咳や倦怠感は気のせいではありません。 後遺症の原因は1つではなく、免疫の過剰な反応や自律神経の乱れなど、さまざまな要因が絡み合って生じます。症状の現れ方は人それぞれであり、呼吸器症状から精神的な不調まで多岐にわたります。 つらい症状が続く場合は、自己判断で放置せず、かかりつけ医や専門の医療機関に相談しましょう。 インフルエンザ後遺症に関するよくある質問 インフルエンザ後遺症の症状はいつまで続きますか? インフルエンザ自体の発熱やのどの痛みといった症状は、通常1週間程度で落ち着きます。しかし、その後に出てくる後遺症がいつまで続くかについては、以下の要素によって異なるため一概にはいえません。 症状の種類 本人の回復力 治療方法 とくに倦怠感や睡眠障害といった症状は、免疫力の低下や日々のストレスなどが影響して長引く傾向があります。 咳に関しては、もし8週間以上続くようであれば「慢性咳嗽」と診断されます。(文献6)症状が長引く場合は、一度医療機関を受診してみましょう。 インフルエンザ後遺症は大人と子どもどちらも発症しますか? インフルエンザ後遺症は、年齢に関わらず大人も子どもも発症する可能性があります。とくに、まだ免疫機能が十分に発達していない子どもは、大人に比べてウイルス感染の影響を受けやすく、後遺症につながりやすいと考えられています。 また、高齢の方は、肺炎や心筋炎といった重い合併症を発症しやすく、その治療が終わった後も息切れなどの呼吸器症状が長く残ってしまうケースが少なくありません。 予防接種は、インフルエンザの重症化を防ぐだけでなく、後遺症の発生リスクを減らす効果が期待されます。 参考文献 (文献1) インフルエンザ感染後に発症した慢性疲労症候群に漢方治療が有効であった1例|日本東洋医学雑誌 (文献2) インフルエンザの臨床経過中に発生する脳炎・脳症の疫学及び病態に関する研究(総括研究報告書)|厚生労働科学研究成果データベース (文献3) The post‐infection outcomes of influenza and acute respiratory infection in patients above 50 years of age in Japan: an observational study|National Library of Medicine (文献4) 新型コロナ インフルより“後遺症”リスク高い 名古屋工業大|NHK (文献5) Course of General Fatigue in Patients with Post-COVID-19 Conditions Who Were Prescribed Hochuekkito: A Single-Center Exploratory Pilot Study|Multidisciplinary Digital Publishing Institute (文献6) 咳嗽に関するガイドライン(第2版)|日本呼吸器学会
2025.07.31 -
- 頭部
- 頭部、その他疾患
「ウェルニッケ脳症の治療をしているのに、歩きにくさの症状が出ている」 「ウェルニッケ脳症を発症した親に記憶障害がある気がする」 このような不安を抱えている方もいるでしょう。 ウェルニッケ脳症は、治療後も運動性失調や眼球運動障害、記憶障害などの後遺症が出ることがあります。とくに、治療の開始が遅れたり、治療が不十分だったりした場合に後遺症が残りやすい傾向です。本人も記憶障害によって混乱している場合があるため、周囲のサポートが欠かせません。 本記事では、ウェルニッケ脳症の後遺症として現れる症状や原因を詳しく解説します。ご家族にできるサポート方法もあわせて紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 気になる症状や再生医療について詳しく知りたい方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 ウェルニッケ脳症の後遺症における主な症状 ウェルニッケ脳症の後遺症には、さまざまな症状が見られます。代表的な症状は以下の3つです。 運動性失調 眼球運動障害 記憶障害・作話 1つずつ詳しく見ていきましょう。 運動性失調|ふらつきやまっすぐ歩けない 運動性失調は、ウェルニッケ脳症の原因であるビタミンB1の欠乏によって、小脳や前庭核といった体のバランスを保つ部位が障害されることで現れます。 主な症状は、お酒に酔ったときのようなふらつきや、まっすぐな線をたどって歩くのが難しいといった体幹の失調です。 体幹の失調は、数日から数カ月にわたって続く場合があります。ある報告によると、運動性失調が改善したのは全体の40%であり、残りの60%の方には症状が残ったとされています。(文献1) そのため、長期的なケアやリハビリが必要になるケースも少なくありません。体幹の失調については以下の記事で詳しく解説しているのでご覧ください。 眼球運動障害|目の動きに異常が出る ウェルニッケ脳症の急性期に見られる目の動きの異常が、後遺症として残ることがあります。具体的には以下の症状です。 眼振:自分の意思とは関係なく目が動く 麻痺:目の筋肉が部分的に動かなくなる 眼振があると、景色が揺れて見えたり、一点を見つめるのが難しくなったりします。また、眼筋麻痺によって物が二重に見える複視が起き、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。 適切な治療により一部の患者で回復へ向かうとされる眼球運動障害ですが、目の麻痺は改善したものの、約60%の症例で水平方向への眼振が後遺症として残ったとの報告も存在します。(文献1) 回復の程度には個人差があるため、症状が続く場合は主治医や眼科医へ相談しましょう。 記憶障害・作話|物忘れや作り話をする ウェルニッケ脳症の後遺症として、新しいことを覚える機能や過去の出来事を思い出す機能に障害が残る場合があります。ある報告によれば、記憶障害が完全に回復したのは20%にとどまるとの結果でした。(文献1) 数分前の会話を忘れる、新しいことを覚えられないといった「記銘力障害」が慢性化し、「コルサコフ症候群」へと移行する場合があります。 コルサコフ症候群の特徴的な症状の1つが、記憶の空白を埋めるために無意識に創作した話をしてしまう「作話」です。本人は嘘をついている自覚がないため、周囲は戸惑うかもしれません。 また、時間や場所がわからなくなる見当識障害も現れます。これらの症状は本人の混乱や不安を招くため、家族の理解と適切な対応が求められます。 ウェルニッケ脳症で後遺症が出る原因 ウェルニッケ脳症で後遺症が出る主な原因は、治療開始の遅れや、適切な治療を受けられなかった点にあります。そのため、後遺症を残さない、あるいは症状を軽くするためには、早期の診断と治療が重要です。 しかし、たとえ早期に治療を始めても、ビタミンB1の補充が不十分といった適切な治療がおこなわれないと、完全な回復は難しくなります。その結果、認知機能の障害を主症状とするコルサコフ症候群に移行するケースも少なくありません。(文献2) ウェルニッケ脳症を未治療のまま放置した場合、約80%がコルサコフ症候群へ移行するとされています。また、治療をおこなった場合でも、アルコール摂取が原因のウェルニッケ脳症では、16.9%の確率でコルサコフ症候群を発症するとのデータもあります。(文献3) アルコールを多量に摂取する方は、ウェルニッケ脳症だけでなく、肝臓疾患のリスクも高くなります。肝臓疾患については以下の記事で解説しているので、ぜひご覧ください。 【関連記事】 アルコール性肝炎の初期症状|進行サインや放置するリスク【医師が解説】 肝硬変で腹水が溜まっているときの余命はどれくらい?予後や治療方法を解説 肝臓疾患の治療方法として再生医療が選択肢の1つです。 再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、ぜひご活用ください。 ウェルニッケ脳症の後遺症に対する治療法 ウェルニッケ脳症の後遺症が残った場合、症状の安定や生活の質の維持を目指した治療が必要です。主な治療法は以下の通りです。 食事療法 薬物療法 リハビリ 1つずつ詳しく見ていきます。 食事療法 ウェルニッケ脳症の根本的な原因は、ビタミンB1(チアミン)の不足です。チアミンは体内で生成できないため、食事から摂取する必要があります。体内に貯蔵できる量も、主に骨格筋や心臓、脳、肝臓、腎臓を合わせても約30mgとごくわずかしかありません。 アメリカの国立衛生研究所によると、成人が1日に必要とするチアミンの量は1.1〜1.2mgとされています。もし、食事からまったく摂取しない場合は2〜3週間で枯渇するとの報告があります。(文献1) そのため、後遺症の治療においても継続的なチアミンの摂取が重要です。チアミンは以下の食材に多く含まれます。 豚肉 うなぎ 玄米 全粒穀物 豆類 ウェルニッケ脳症の後遺症の治療では、これらの食品を意識して食事に取り入れましょう。 薬物療法 ウェルニッケ脳症の後遺症がある場合、食事だけでは十分な量のビタミンB1補給が難しいケースも少なくありません。また、アルコールの多飲などで消化管の吸収能力が低下している可能性も考えられるでしょう。 そのため、食事療法と並行してビタミンB1製剤を内服する薬物療法がおこなわれます。医師の指導のもと、1日に100mg程度のビタミンB1製剤の継続的な服用が推奨されています。(文献1) 薬の服用により期待できる効果は以下の通りです。 体内のビタミンB1濃度を安定させる 症状の悪化を防ぐ 残された神経機能の回復をサポートする 治療効果を高めるには、医師の指示に従い、適切な量を服用し続ける必要があります。 リハビリ 運動性失調によるふらつきや歩行の不安定さが残った場合には、継続的なリハビリテーションが必要です。失調に対するリハビリには、以下のような種類があります。 フレンケル体操:正確な動きを反復練習して運動コントロールの改善を目指す 重錘負荷運動:手足に重りをつけて運動の制御能力向上を目指す また、本人が記憶障害を合併している可能性も考慮する必要があります。リハビリの前後で「前回はここまでできた」「今日はこれができるようになった」といった具体的なフィードバックや記録の比較をおこなうと良いでしょう。 これにより自身の状態を客観的に把握できるため、リハビリを続けるモチベーションの維持につながります。 運動性失調に対するリハビリの具体的な方法については、以下の記事で詳しく紹介しているので参考にしてください。 ウェルニッケ脳症の後遺症患者に対するサポート方法 ウェルニッケ脳症の後遺症とともに生活していく上で、本人の努力はもちろんですが、家族をはじめとする周囲の方々のサポートも必要です。 具体的なサポートのポイントとしては、以下の点が挙げられます。 コミュニケーションを工夫する 安全な生活環境を整える まずはできるところから1つずつ始めていきましょう。 コミュニケーションを工夫する コルサコフ症候群の症状は認知症と似ている点が多いため、認知症の方への接し方が参考になります。大切なのは、作り話などを頭ごなしに否定するのではなく、まずは本人の話に耳を傾けて安心感を与える姿勢です。 たとえば、「はい」か「いいえ」で答えられる短い質問をしたり、選択肢を示したりすると良いでしょう。また、話の内容を一度受け止めた上で「カレンダーを見てみましょうか」と、穏やかに現実の情報を補う対応も役立ちます。 頭ごなしに否定すると本人のストレスが溜まり、不安から再び飲酒に頼るリスクを高めてしまいかねません。 安全な生活環境を整える ウェルニッケ脳症の後遺症である運動性失調や眼振は、体のバランスを崩しやすく、転倒のリスクを高めます。思わぬ事故を防ぐには、本人が安全に過ごせる生活環境を整える必要があります。 たとえば、廊下や階段に手すりを設置したり、屋内の小さな段差をスロープで解消したりする対策が有効です。また、電気の配線コードやティッシュ箱など、つまずきの原因になりそうな物は床に置かないようにしましょう。 本人の自室をトイレや浴室の近くに移動させて、家の中の動線を短くするのも1つの方法です。さらに、転倒時に机の角などで頭を打たないように、クッション性のカバーを取り付けるといった配慮も怪我の防止につながります。 ウェルニッケ脳症の後遺症を理解して献身的なサポートを心がけよう ウェルニッケ脳症の後遺症としては、以下の症状が挙げられます。 運動性失調 眼球運動障害 記憶障害 運動性失調と水平方向の眼振が残存する確率は、それぞれ約60%です。(文献1)また、記憶障害を主症状とするコルサコフ症候群へ移行する可能性は、未治療の場合で約80%、治療後もアルコールが原因であれば約17%にのぼると報告されています。(文献3) 後遺症が残った場合、本人が不安や怪我なく暮らせるように、食事管理やコミュニケーションの工夫、安全な生活環境の整備といった周囲のサポートが必要です。 なお、同じくアルコールが原因となりうる疾患に肝硬変などの肝臓疾患があり、その治療法の1つとして再生医療といった選択肢もあります。 再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、ぜひご活用ください。 ウェルニッケ脳症や後遺症に対するよくある質問 ウェルニッケ脳症及び後遺症の予後・死亡率は? ウェルニッケ脳症は、早期に適切な治療がおこなわれれば、症状が改善する可能性のある疾患です。しかし、治療が遅れたり、コルサコフ症候群に移行したりした場合は、予後が良いとはいえません。 ある研究で、ウェルニッケ・コルサコフ症候群の患者様を対象に調査したところ、5年後・10年後の生存率は以下の通りでした。 5年後の生存率 10年後の生存率 男性 67.7% 48.3% 女性 79.0% 62.9% また、同研究では死因の32.6%がアルコール関連だったと報告されています。(文献4) これらの結果から、断酒の継続とアルコールでダメージを受けた他の臓器(とくに肝臓)の治療は、ウェルニッケ脳症の予後に少なくない影響を与えます。 アルコールの多量摂取による肝臓疾患治療の選択肢の1つが再生医療です。 再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、ぜひご活用ください。 ウェルニッケ脳症は難病指定されていますか? 現在、ウェルニッケ脳症は国の難病には指定されていません。難病指定とは、以下のような疾患を対象とする制度です。 原因が不明 治療法が確立していない 長期の療養が必要 ウェルニッケ脳症は、ビタミンB1の欠乏といった原因が明確であり、ビタミンB1の補充のような治療法も確立しているため、この要件には当てはまりません。 ただし、以下のような症状が出ている場合は、同じく目の動きや筋力に異常をきたす難病指定の「重症筋無力症」との鑑別が必要になるケースがあります。(文献5) 眼筋の麻痺 手足の筋力低下 飲み込みにくさ(嚥下障害) 呼吸のしづらさ 主治医の指示のもと適切な検査を受けましょう。 参考文献 (文献1) Wernicke脳症の診断と治療|愛仁会高槻病院 総合内科 (文献2) Wernicke’s Encephalopathyの治療法|日本ビタミン学会学術誌「ビタミン」 (文献3) Hospital Outcomes in Medical Patients With Alcohol-Related and Non-Alcohol-Related Wernicke Encephalopathy|Mayo Clin Proc. (文献4) Incidence and mortality of alcohol‐related dementia and Wernicke‐Korsakoff syndrome: A nationwide register study|Int J Geriatr Psychiatry. (文献5) 指定難病とすべき疾病の支給認定にかかる基準|厚生労働省
2025.07.31 -
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「下肢静脈瘤にコーヒーは良くないの?」 「静脈瘤に良くないのなら控えようと思うけれど、ストレスになりそう」 コーヒーを好まれる方の中には、このような不安や悩みを抱えている方もいらっしゃるでしょう。 結論として、下肢静脈瘤とコーヒーに関する明確な因果関係は、現時点では認められていません。 ただし、コーヒーに含まれるカフェインには注意すべき作用があります。 本記事では、下肢静脈瘤とコーヒーの関係や、下肢静脈瘤の方もコーヒーを楽しむための方法などを解説します。 下肢静脈瘤への不安を解消し、コーヒーを安心して楽しむためにも、ぜひ最後までご覧ください。 なお、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 気になる症状や再生医療について詳しく知りたい方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 コーヒーが下肢静脈瘤に関係する医学的根拠は確認されていない 現在の医学的見解では、「コーヒーを飲むことで下肢静脈瘤が悪化する」といった明確な根拠は確認されていません。スウェーデン及びアメリカの研究機関による共同研究においても、コーヒーと下肢静脈瘤発症の関係は不明との結果が示されました。(文献1) この章では、カフェインが持つ作用と下肢静脈瘤の関係性について解説します。 コーヒー(カフェイン)が血管に与える影響 カフェインには血管収縮作用があるとされています。アメリカの論文によると、コーヒーを飲んだときは飲まないときと比較して、脳の血流が速くなり脳血管が収縮しているとの結果が得られました。(文献2) 広島大学の研究では、カフェインは血管内壁の機能を上げて、血管を拡張させる作用があるとの結果が得られました。(文献3) カフェインは血管に少なからず影響を与えますが、静脈瘤の発症および悪化との関連は示されていません。 コーヒー(カフェイン)が持つ利尿作用 コーヒーに含まれるカフェインには利尿作用があります。フランスの論文では、「カフェインは、主に腎臓での血液ろ過機能の抑制により利尿作用を生じさせる」とのメカニズムが示されました。(文献4) そのため、コーヒーを飲み過ぎると体内の水分が減りやすくなります。水分不足により血液が濃くなると、足の血流がさらに滞り、静脈瘤のリスクを間接的に高める可能性があります。 カフェインの利尿作用が、下肢静脈瘤の発症や悪化を招く可能性もゼロではありません。 下肢静脈瘤でお悩みの方がコーヒーを楽しむための工夫 下肢静脈瘤でお悩みの方がコーヒーを楽しむための工夫として、以下の3つが挙げられます。 コーヒーとは別に水分も補給する 1日3杯を目安に適量飲む 夜間は控えて日中に飲む コーヒーとは別に水分も補給する コーヒーは水分補給にカウントせず、あくまで楽しみの1つと考えましょう。 人体の約60%は水分であり、それを維持するためにも1日2.5リットルの水分摂取が必要です。食事で摂れる水分が約1リットルであり、体内で作られる水分が約0.3リットルであるため、経口摂取する水分は約1.2リットルが目安です。(文献5) コーヒーを適量飲みつつ、その他に水や白湯、ノンカフェインのお茶などで水分を補給しましょう。適切な水分補給は血液の流れをスムーズにし、足のむくみやだるさを予防します。 1日3杯を目安に適量飲む 適切な量を守れば、下肢静脈瘤の方もコーヒーを楽しめます。 一般成人の場合、健康に悪影響を及ぼさないコーヒー摂取量は1日3杯程度です。 ドリップ式のコーヒーでは、マグカップ1杯(237ml)に約100mgのカフェインが含まれます。インスタントコーヒーでのカフェイン量も、ほぼ同量です。カナダ保健省では、健康な成人のカフェイン1日摂取目安量を400㎎としています。コーヒーに換算すると3~4杯程度です。(文献6) カフェインが多く含まれている飲み物の種類とカフェイン含有量を、表に示しました。(文献6) 飲み物 カフェイン含有量 ドリップ式コーヒー 100mlにつき60mg インスタントコーヒー 100mlにつき57mg 缶コーヒー・コーヒー飲料 100mlにつき10mg未満~90mg 玉露 100mlにつき160mg 紅茶 100mlにつき30mg 煎茶 100mlにつき20mg ほうじ茶 100mlにつき20mg ウーロン茶 100mlにつき20mg エナジードリンク 100mlにつき32~300mg この表を参考に、コーヒーを含むカフェイン飲料の1日量を設定すると良いでしょう。 夜間は控えて日中に飲む カフェインには覚醒作用があり、3時間程度持続します。就寝3~4時間前にコーヒーを飲むと、就寝時にも覚醒作用が続き、入眠を妨げたり睡眠が浅くなったりするなど、いわゆる「睡眠の質低下」を招きます。(文献7) そのため、コーヒーを飲むときは睡眠への影響が少ない日中の時間帯を選びましょう。 また、下肢静脈瘤の症状である足のこむら返りやむずむず感、かゆみなどにより睡眠の質が低下することがあります。睡眠不足は全身の健康に影響するため、良質な睡眠の確保が大切です。 コーヒーが体に及ぼす影響と望ましい飲み方については、下記の記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 【コーヒー以外】下肢静脈瘤でお悩みの方が日常生活で気をつけるべきポイント 下肢静脈瘤でお悩みの方は、長時間の同じ姿勢や締め付けの強い衣服および、靴の着用を避けましょう。 長時間の同じ姿勢や圧迫は、下肢の血流を妨げてしまい、足先から心臓へ血液が戻りにくくなる状況をつくり出します。その結果、下肢静脈に負担がかかり、静脈瘤の発生や悪化を引き起こします。 喫煙も血管の機能障害につながり、下肢静脈瘤に間接的な悪影響を及ぼすため、禁煙につとめましょう。 足をこまめに動かす、圧迫する衣服や靴は控える、禁煙につとめるなどが、日常生活で気をつけるべきポイントです。 下肢静脈瘤でやってはいけないことやセルフケアの方法については、以下の2記事でも解説しています。あわせてご覧ください。 【関連記事】 下肢静脈瘤でやってはいけないことを現役医師が解説|日常生活から意識して悪化を防ごう 【医師監修】下肢静脈瘤を自分で治すことはできるのか|セルフケア方法とあわせて解説 コーヒーと上手に付き合いつつ下肢静脈瘤の予防につとめよう コーヒーが下肢静脈瘤を悪化させる医学的な根拠は存在していません。 カフェインが血管に与える影響は少なからず存在しますが、下肢静脈瘤との関係は現時点では不明です。ただし、コーヒーに含まれる利尿作用によって、体内の水分不足が生じ、下肢静脈瘤に良くない影響を与える可能性があります。 下肢静脈瘤でお悩みの方がコーヒーを楽しむためには、コーヒー以外の水分摂取も心がける、適量を守る、夕方以降のコーヒーを控えるなどの工夫が必要です。 コーヒーとの付き合い方に加えて、生活習慣の改善が必要な部分もあります。 好きなコーヒーを無理に我慢せず、本記事を参考にしつつ適度に楽しむ方法を見つけましょう。 その中で、下肢静脈瘤と思われる症状が出現、もしくは悪化した場合は我慢せず、医療機関を受診してください。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。下肢静脈瘤についてお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。 下肢静脈瘤とコーヒーに関するよくある質問 下肢静脈瘤の場合アルコールはよくありませんか? アルコールもカフェイン同様に利尿作用があります。アルコールには、バソブレッシン(抗利尿ホルモン)の分泌を抑制する作用があるためです。 ビールを例にとると、1リットルのビールで1.1リットルの水分が失われるとされています。(文献8) そのためアルコールも、コーヒーと同じように下肢静脈瘤のリスクを間接的に高める可能性があります。 下肢静脈瘤に良い飲み物には何がありますか? 水や麦茶、白湯、ハーブティーなどカフェインが含まれていない飲み物が良いでしょう。 一度にたくさん飲むよりも、少量ずつ何回かに分けて飲む方が望ましいでしょう。人間の身体が吸収できる水分量は30分でコップ1杯ほどとされているためです。(文献9) 参考文献 (文献1) Cardiometabolic, Lifestyle, and Nutritional Factors in Relation to Varicose Veins: A Mendelian Randomization Study|Journal of the American Heart Association (文献2) Vascular effects of caffeine found in BOLD fMRI|Journal of Neuroscience Research (文献3) Effects of Acute Administration of Caffeine on Vascular Function|The American Journal of Cardiology (文献4) Mécanismes de l’effet diurétique de la caféine|médecine/sciences (文献5) 健康のため水を飲もう講座|厚生労働省 (文献6) カフェインと睡眠|NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター (文献7) 健康づくりのための睡眠指針 2014|厚生労働省 (文献8) 毎日なんとなく飲んでいる人は要注意! 「お酒」との距離感を考えよう|関東百貨店健康保険組合 (文献9) 不調を防ぐ「水の正しい摂り方」|徳洲会健康保険組合
2025.07.31 -
- 足部、その他疾患
- 足部
「ふくらはぎの血管が浮き出ていて気になる」 「最近、血管がふくらんできているような気がする」 「足のむくみやだるさも出てきた」 このような症状があるときに、下肢静脈瘤を疑う方もいらっしゃるのではないでしょうか。下肢静脈瘤は自分で治せるものなのか、それとも病院へ行くべきなのか迷われる方も多いことでしょう。 結論として、下肢静脈瘤を自分で治すことは困難であり、医師による治療が必要です。しかし、正しいセルフケアにより症状の悪化を防げます。 下肢静脈瘤は命に関わるものではありませんが、放置するリスクは存在します。 本記事では、下肢静脈瘤を自分で治せない理由や放置のリスク、悪化防止のセルフケアについて紹介します。 下肢静脈瘤を悪化させないためにも、ぜひ最後までご覧ください。 なお、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 気になる症状や再生医療について詳しく知りたい方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 下肢静脈瘤は自分で治せない|医療機関で治療が必要 下肢静脈瘤は自分で治せないものです。運動やマッサージ、ツボなど自分で行えるセルフケアはありますが、これらはあくまでも予防および進行を抑えるものです。 下肢静脈瘤は、下肢の静脈圧が上昇し、逆流を防ぐ弁が壊れることで発症します。セルフケアで予防しつつも、発症した場合は医療機関での適切な治療が必要です。治療を受けながらセルフケアを続けることで、進行を抑えることが期待できます。 下肢静脈瘤を治療せず放置すると、さまざまなリスクがあるため放置は禁物です。 放置によるリスクの詳細は、次の章で解説します。 下肢静脈瘤を放置するリスク 下肢静脈瘤は命に関わる病気ではありませんが、自然に治るものではなく、徐々に進行していくため放置は禁物です。この章では、下肢静脈瘤を放置した場合に考えられる、2つのリスクについて紹介します。 静脈瘤性症候群(うっ滞性症候群)の発症 静脈瘤性症候群(うっ滞性症候群)は、下肢のむくみや湿疹、だるさや疲れ、色素沈着といった症状が出てくる疾患です。すねやふくらはぎに潰瘍ができてしまい、そこから強い痛みが生じることもあります。 原因の1つが下肢静脈瘤の放置です。症状改善のために、静脈瘤に対する手術治療が行われる場合があります。(文献1) 表在性血栓性静脈炎の発症 表在性血栓性静脈炎とは、下肢の表在静脈(皮膚のすぐ下にある静脈)で炎症および血栓が生じる疾患です。血栓以外では、皮膚の腫れや痛みなどの症状があります。(文献2) 血栓は静脈の壁にしっかりと付着しており、剥がれにくくなっています。また、表在静脈は筋肉に囲まれていないため、血栓が筋肉によって心臓や肺に押し出されることはありません。 表在性血栓性静脈炎は、エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)とは異なり、命に関わることはありません。しかし、表在静脈だけではなく深部静脈に血栓がある可能性も否定できないため、皮膚の腫れや痛みが強い場合は医療機関を受診しましょう。 深部静脈とは、太ももや膝の中心など身体の深い部分を走っている静脈です。深部静脈に血栓ができると重症化しやすく、命に関わる危険もあります。(文献3) 下肢静脈瘤のセルフケア 下肢静脈瘤の予防や悪化防止のためのセルフケアとしては、主に以下の3つが挙げられます。 マッサージを行う ふくらはぎをこまめに動かす 医師の指示通りに弾性ストッキングを着用する マッサージを行う マッサージにより、足のむくみやだるさといった下肢静脈瘤の症状緩和が期待できます。 マッサージの主なポイントを以下に示しました。 足を前に伸ばした姿勢で行う 足先から膝裏(太もも)方向へマッサージする 手のひら全体が皮膚に密着するようにする 強い力を入れないで行う 力を入れ過ぎると逆効果になりますので、さするようにマッサージしましょう。 寝る前や入浴時などを利用して、毎日マッサージをおこなうことをおすすめします。1回につき2~3分で十分です。 ふくらはぎをこまめに動かす ふくらはぎは第二の心臓と呼ばれています。ふくらはぎの筋肉が縮んだり膨らんだりする作用により、足に下がった血液を心臓に押し戻す役割、いわゆるポンプ作用があるためです。 ふくらはぎの筋肉をこまめに動かして、静脈の血流をスムーズにしていきましょう。 日中は、つま先もしくはかかとの上げ下げやスクワット、階段の昇り降り、ウォーキングなどの軽い運動がおすすめです。 寝る前には、あおむけの姿勢で両足を上げてブラブラさせてみましょう。 寝るときは、枕やクッションを膝下に入れて足を高くすると良いでしょう。 医師の指示通りに弾性ストッキングを着用する 弾性ストッキングとは、下肢静脈瘤治療で用いられる医療用ストッキングです。多くの場合、購入時には医師の処方を必要とします。 弾性ストッキングは日中の着用が推奨されています。日中は立ったり座ったりする時間が長くなり、重力の影響で血液が足の静脈にたまりやすいためです。弾性ストッキングの圧迫作用により血液循環の促進が期待できます。 ストッキング選びや着用方法については、医療機関での指導を受けるようにしましょう。 弾性ストッキングについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 下肢静脈瘤は治療とセルフケアで悪化防止に努めよう 下肢静脈瘤は、自分で治すものではなく医師の治療が必要な疾患です。本記事で紹介したセルフケアは「下肢静脈瘤を完全に治すもの」ではなく、「症状の悪化を防ぐもの」であると覚えておきましょう。 日常生活に支障をきたさないためにも、医師による治療とセルフケアの両方が大切です。下肢静脈瘤を放置するとさまざまなリスクで苦しむことになるため、必ず医療機関を受診してください。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを行っています。 下肢静脈瘤の治療やセルフケアについて疑問や不安がある方は、お気軽にお問い合わせください。 下肢静脈瘤を自分で治すことに関するよくある質問 下肢静脈瘤は何科を受診すると良いでしょうか? 下肢静脈瘤の受診先は主に血管外科です。しかし、地域によっては血管外科がない場合もあります。その際は、心臓血管外科、一般外科、皮膚科、形成外科などを受診しましょう。 該当する診療科が分からない場合は、かかりつけ医に相談しましょう。かかりつけ医に紹介状を書いてもらってから専門の科を受診すると、スムーズに診察を受けられます。 下肢静脈瘤にツボは有効ですか? ツボは根本療法ではなく、対症療法的な位置づけです。東洋医学上では下肢静脈瘤を血流の停滞や血流不足と捉えており、この点にアプローチするためのツボがあります。 主なものとして挙げられるのが、内くるぶしから指4本分上にある「三陰交」というツボです。 それ以外のツボとしては、以下のようなものがあります。 委中(いちゅう):膝関節の後ろ側中央部分 委陽(いよう):委中よりも外側にある膝関節うしろのツボ 陰谷(いんこく):委中よりも内側にある膝関節うしろのツボ ツボは、心地良い刺激を感じる程度の力加減で押しましょう。押すときに息を吐き、離すときに息を吸います。 ツボ押しのポイントは、こちらの記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 参考文献 (文献1) 創傷・熱傷ガイドライン委員会報告―5:下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン|日本皮膚科学会雑誌 (文献2) 表在静脈血栓症(表在性血栓性静脈炎)|MSDマニュアル家庭版 (文献3) 深部静脈血栓症って?|日本血管外科学会
2025.07.31 -
- 足部、その他疾患
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「ふくらはぎや太ももの血管が浮き出てきた」 「これは静脈瘤ではないだろうか」 「そのままにしていても大丈夫なのだろうか」 自分の足の変化を目にして、このような不安を抱えている方も多いことでしょう。 静脈瘤と聞いて、日常生活に支障をきたしたり、血管が詰まって命に関わったりするイメージを抱える方も少なくありません。 基本的に下肢静脈瘤は命に関わるものではなく、治療可能な疾患です。エコノミークラス症候群(急性肺動脈塞栓症)とは異なるものです。 ただし、下肢静脈瘤の悪化を防ぐために、やってはいけないことが複数存在します。 本記事では下肢静脈瘤でやってはいけないことや、悪化防止のためにやるべきことなどを解説します。 なお、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 気になる症状や再生医療について詳しく知りたい方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 下肢静脈瘤でやってはいけないこと一覧 下肢静脈瘤でやってはいけないことは、主に以下の3点です。 長時間同じ姿勢でいる 締めつけの強い衣服や靴を着用している 望ましくない生活習慣を続けている 長時間同じ姿勢でいる 長時間同じ姿勢でいることは、下肢静脈瘤の発症につながります。 立ちっぱなしや座りっぱなしなど長時間同じ姿勢でいると、下肢筋肉のゆるみや重力の影響で足の血流が滞ってしまいます。 その結果、下肢静脈の血圧上昇および血液逆流を防止する弁の損傷が生じます。弁が壊れると、本来心臓に戻るはずだった下肢の血液は行き場をなくして静脈内にとどまり、静脈瘤を発生させます。 締めつけの強い衣服や靴を着用している ウエストがきついスカートやズボン、締め付けが強いガードルもしくはコルセットなどの着用は、下肢の血流を阻害します。 下肢の血流阻害は、静脈瘤の発生や悪化の原因です。同じ理由で、高いヒールの靴を長時間履き続けることも好ましくありません。ふくらはぎの筋肉の動きを制限し、ポンプ機能を阻害するためです。 市販の着圧ソックスも、選び方を間違えると下肢静脈瘤を悪化させる可能性があります。サイズが小さいものを選んだり、圧力が強いタイプのものを選ぶと、下肢が強く圧迫されるためです。 静脈瘤の予防や軽減のためには、医療用の弾性ストッキングを着用しましょう。医療機関で、自分に合ったサイズや正しい着用方法について指導を受けることが必要です。 望ましくない生活習慣を続けている 喫煙は、血管の健康状態を維持するために非常に重要な役割を持つ、血管内皮機能の障害につながります。(文献1) コーヒーなどのカフェインには利尿作用があるため、摂り過ぎると尿量が増加します。その結果、筋肉に必要な水分やミネラルが不足して、こむら返りを引き起こす可能性もゼロではありません。 健康な成人においては、1日2~3杯のコーヒーまでが健康に悪くないカフェイン摂取量と考えられます。(文献2) 以下の記事では、下肢静脈瘤とコーヒーの関係について解説しています。あわせてご覧ください。 下肢静脈瘤悪化防止のためにやるべきこと 下肢静脈瘤の悪化防止のためにやるべきことは、主に以下の3点です。 適度な運動でふくらはぎの筋肉を鍛える 弾性ストッキングを正しく活用する 就寝時に脚を少し高くする 適度な運動でふくらはぎの筋肉を鍛える ウォーキングやスクワット、かかとの上げ下げ、階段の上り下りといった運動により、ふくらはぎの筋肉が収縮されます。ふくらはぎの筋肉が動くと、足先から心臓までの血流がスムーズになるため、下肢静脈瘤の予防や悪化防止につながります。 具体例を以下に示しました。 職場内の移動手段を、できる範囲でエレベーターから階段に切り替える 自宅から職場が近い方は歩いて通勤する 立ち仕事や座り仕事の方は、休憩中にかかとを上げ下げする WHOの「身体活動および座位行動に関するガイドライン(2020年)」においても、「座りっぱなしの時間を減らすべきである」と推奨されています。座っている時間を身体活動に置き換えることで、健康に良い効果を得られます。運動の強さは問わないとされていますので、今までより体を動かす時間を増やしてみましょう。(文献3) 弾性ストッキングを正しく活用する 弾性ストッキングとは、下肢静脈瘤治療の1つである、圧迫療法で使われるものです。 圧迫療法には、以下のような効果があります。(文献4) ふくらはぎの筋ポンプ作用が強くなる 静脈内の血流が速くなる 静脈での血液逆流が予防できる むくみが改善されるなどの効果がある 弾性ストッキングには、圧迫力やサイズ、形によってさまざまなタイプがあるため、自分に合ったものを選び、医師の指導のもと、正しく着用しましょう。購入時は医師の処方を受けてください。 就寝時に脚を少し高くする 寝るときに、クッションや枕で足を少し高くしてみましょう。重力の関係で、足の血液が心臓に戻りやすくなり、むくみや下肢静脈瘤の予防や改善が期待できます。 足を心臓より高い位置にし、膝を曲げた姿勢にすることがポイントです。膝を伸ばした姿勢で寝ると、足が疲れやすく、静脈還流の面でも望ましくありません。 静脈還流とは、心臓から出た血液が動脈を通って体中に行き渡った後に、静脈を通って心臓に戻ることを意味します。 下肢静脈瘤悪化予防のためのセルフケアについては、下記の記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 下肢静脈瘤における受診の目安 この章では、下肢静脈瘤において医療機関を受診すべき症状および、具体的な治療内容について解説します。 医療機関を受診すべき症状 医療機関を受診すべき症状としては、主に以下のようなものが挙げられます。 足にこぶが見える むくみやだるさがある こむら返りを繰り返す 足が疲れやすい 自分にとって不快な症状が現れて、すぐに治らない場合が受診の目安といえるでしょう。 下肢静脈瘤自体は緩やかな経過で命に関わるものではないため、治療を急ぐ必要はありません。しかし、他の疾患が隠れている可能性もあるため、気になる症状が出てきた場合は早めに受診しましょう。 受診先は、血管外科や内科、皮膚科、形成外科などです。近くに血管外科がない場合は、かかりつけ医に相談しましょう。 医療機関での治療内容 医療機関で行われる、下肢静脈瘤の主な治療内容を表に示しました。(文献5) 治療内容 詳細 圧迫療法 医療用弾性ストッキング、もしくは弾性包帯を使用して下肢を圧迫する方法。 下肢のむくみやだるさといった諸症状緩和や、静脈瘤の進行防止が目的。 硬化療法 静脈瘤の中に硬化剤を注入し、原因血管を固めて消失させる方法。 外来通院でも可能な方法で、クモの巣状静脈瘤や網目状静脈瘤など細い静脈瘤において適用となることが多い。 ストリッピング手術 特殊なワイヤーを用いて、静脈瘤の原因血管を除去する方法。 伏在型静脈瘤が主な適応だが、それ以外の静脈瘤に対しても治療の選択肢になりえる。再発も少ない。 高位結紮術 小さく切開した皮膚から静脈を糸で縛り、血液の逆流を止める方法。 日帰り手術が可能である。 血管内焼灼術 皮膚に小さく穴を空けて、そこからカテーテルを通して静脈に熱を加える方法。 熱を加えて血管を閉塞させることで血流や血液の逆流を止める。ラジオ波焼灼術とレーザー焼灼術がある。 治療内容は、下肢静脈瘤の種類や患者の症状によって異なります。 やってはいけないことを理解して下肢静脈瘤の悪化を防ごう 下肢静脈瘤は命に関わるものではなく、治療可能な疾患です。しかし、悪化防止のためには、やってはいけないこと、逆にやるべきことが存在します。 やってはいけないことは、長時間の同じ姿勢や、締め付けの強い衣服や靴の着用、望ましくない生活習慣などです。 やるべきことは、適度な運動や、正しい方法での弾性ストッキング着用、寝るときに足をあげることなどです。 下肢静脈瘤の予防および悪化防止のためにも、やってはいけないことと、やるべきことの両方を意識して、日常生活を送りましょう。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。下肢静脈瘤についてお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。 下肢静脈瘤のやってはいけないことに関するよくある質問 下肢静脈瘤とコーヒーの関係性は? 1日2~3杯程度であれば、大きな影響はないとされています。ただし飲み過ぎると、利尿作用により尿量が増えて、血液が濃くなり、血流が悪くなる可能性があります。下肢静脈瘤に悪影響を及ぼしかねません。 そのため、水分補給の際は水や白湯、ノンカフェイン飲料などの摂取を心がけましょう。 下記の記事も参考にしてください。 下肢静脈瘤におけるマッサージは禁忌ですか? 力を入れたマッサージは逆効果ですが、適度な強さで実施すると足のむくみやだるさなどの症状緩和が期待できます。 足先から膝裏へと、下から上の方向でマッサージしてください。手のひらが皮膚に密着するような体勢でマッサージすると良いでしょう。 太ももに触れるときは、手に力を入れないようにしましょう。 下記の記事も参考にしてください。 参考文献 (文献1) 【第15回禁煙推進セミナー】 〈喫煙による健康被害 個人から社会へ〉2.血管内皮機能|日本循環器学会専門医誌 (文献2) カフェインと睡眠 | NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター (文献3) WHO身体活動・座位行動 ガイドライン (日本語版)|日本運動疫学会 (文献4) 圧迫療法:基礎と理論|日本フットケア・足病医学会誌 (文献5) 下肢静脈瘤|慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
2025.07.31 -
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「交通事故が原因でむち打ちと診断され、湿布を処方された」 「湿布はどのように効くのだろうか?」 「早く治したいのだが、湿布で本当に治るのだろうか?」 むち打ちと診断された方の中には、このように感じている方もいると思います。 結論から申し上げますと、湿布は症状を和らげるものであり、根本的な回復のためには整形外科での治療が必要です。 本記事ではむち打ちに効く湿布や選び方、貼り方などについて解説します。 湿布を上手に活用しつつ、早い回復を目指すためにも、ぜひ最後までご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 長期化する痛みなどお悩みの症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 むち打ちに効く湿布とは|成分と効果について むち打ちで処方される多くの湿布には、非ステロイド性抗炎症薬が含まれています。 非ステロイド系抗炎症薬には、体内で痛みを増強させる物質「プロスタグランジン」を生成する酵素を阻害する作用があります。この作用で、痛みを和らげたり炎症を鎮めたりします。(文献1) 非ステロイド系抗炎症薬としてあげられるのは、主に以下のとおりです。 ロキソニン ボルタレン モーラス インテバン MS温湿布 MS冷湿布 MS温湿布と冷湿布の違いは、含まれている成分です。温湿布にはトウガラシエキスが含まれており、冷湿布にはメントールが含まれています。 むち打ちにおける湿布の効果は痛みや炎症を和らげることであり、根本的な治療は難しいといえるでしょう。 むち打ち時の湿布の選び方 湿布は主に冷湿布と温湿布の2種類に分けられており、どちらを選ぶかは、患者の状況次第です。 冷湿布には、サリチル酸メチル、メントール、ハッカ油などの冷感成分が配合されており、事故や外傷の直後で腫れや熱が著しいときに使われます。 温湿布は、血行促進や温感作用を持つトウガラシエキスや、合成トウガラシのノニル酸ワニリルアミドなどが配合されています。そのため慢性的な痛みやこりがあるときに使われることが多いものです。 自分の症状に応じた湿布を処方してもらうためにも、医師の診察時には症状を正確に伝えましょう。 市販されている湿布を購入する場合は、薬剤師や登録販売者へ相談すると良いでしょう。 むち打ちに対する正しい湿布の貼り方 むち打ちで湿布を使用するときは、痛みや腫れ、こりといった症状が強い部位に直接貼りましょう。主な部位としては、首や肩、背中の上部などがあげられます。 正しい湿布の貼り方は、主に以下のとおりです。 貼る前に患部を清潔にして、汗や水分を拭きとる 傷や湿疹などがある部分を避けて貼る 湿布を皮膚に密着させるために、空気を抜きながら貼る 必要に応じて、テープや包帯などで固定する 湿布を貼る際の注意点 湿布を長時間貼る、もしくは同じ場所に貼り続けることは避けてください。皮膚のかぶれや赤みの原因になるためです。 決められた回数以上に湿布を貼らないことも大切です。必要以上に貼り過ぎると、湿布薬の成分が皮膚から吸収されて、内服薬同様の副作用が現れる可能性があります。 ロキソニン湿布の場合、お腹の痛みや不快感、吐き気といった消化器症状や皮膚のかゆみ、むくみなどの副作用が出現した事例があります。(文献2) 湿布を貼った部分を日光(紫外線)に当てることも避けてください。光線過敏症(日光に当たることで起こる皮膚炎)と呼ばれる副作用を起こす可能性があるためです。光線過敏症では、皮膚の赤みやかゆみ、水ぶくれなどの症状が現れます。予防するためには、長袖の服を着たり、サポーターを着用したりしましょう。 副作用と思われる症状が現れた場合は、すみやかに医師や薬剤師へ相談してください。 むち打ちにおける湿布以外の治療方法 むち打ちにおける湿布以外の治療方法は、急性期と慢性期で異なります。この章では、それぞれの時期に応じた治療法を紹介します。 急性期 外傷によりむち打ち症状が出てきたときは、まず整形外科を受診しましょう。正しい診断や治療のためにも、レントゲンやCT、MRIなどの検査が必要です。 また、交通事故で損害賠償を請求する場合は、医師の診断書が必要です。(文献3) 病院受診後は、できる限り首を安静にしてください。必要に応じて、頚椎カラーを使用する場合もあります。 痛みが強い場合は、医師から処方された鎮痛剤を内服しましょう。炎症が起きている可能性もあるため、首もしくは痛みのある部分を冷やして炎症を落ち着かせてください。 患部を冷やすときは、ビニール袋や氷のうに入れた氷、もしくは冷たいタオルを患部に当てると良いでしょう。 慢性期 慢性期にも痛みが続いている場合は、鎮痛剤の内服やブロック注射などで和らげます。 慢性期では、ストレッチや筋力トレーニングなどの理学療法にくわえ、物理療法が実施される場合もあります。 物理療法としてあげられるのは、主に以下のとおりです。 ホットパック 超音波療法 電気刺激療法 むち打ちの治療については、下記の記事でも紹介しています。あわせてご覧ください。 むち打ちは湿布と並行して医療機関での治療が必要 むち打ちで処方される湿布は、症状を和らげる対症療法の1つであり、湿布のみでは根本的な治療は難しいものです。 むち打ちは放置すると痛みが悪化したり、後遺症が残ったりする可能性もあります。そのため、医療機関で適切な治療を受けることが大切です。 痛みが長引く、痛みが強くなる、手足のしびれが出てきた、頭痛や吐き気が続くといった症状が続くときは、放置せずに再度病院を受診しましょう。 むち打ちでは、慢性的な経過をたどるケースも少なくありません。焦らず一歩ずつ回復を目指しましょう。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。湿布を貼り続けてもむち打ち症状が続くといったお悩みがある方は、お気軽にお問い合わせください。 むち打ちと湿布に関するよくある質問 むち打ちでやってはいけないことは何ですか? 主に以下の4点があげられます。 診察を受けずに放置する 外傷直後に首を温める 外傷直後に飲酒する 外傷直後にマッサージを受ける 外傷後、診察を受けずに放置すると、症状の悪化や慢性化を招く、後遺症が残るといったリスクがあります。必ず医療機関を受診しましょう。 外傷直後は炎症を起こしており、温めることで悪化し、痛みが強まる可能性があります。冷やして炎症をおさえる方が望ましい状況です。 アルコールは血液循環を良くする作用があります。その結果、炎症が促進され、痛みが強まる可能性があるため、外傷直後の飲酒は避けてください。 マッサージには炎症を促進する作用があります。また、傷ついた筋肉や靱帯にさらなるダメージを与える可能性もあるため、医療機関受診後は安静にしましょう。 寝るときに湿布を貼っていても問題はありませんか? 基本的には寝るときに貼っていても問題はありません。ただし、就寝中にかゆみやヒリヒリした感覚が生じた場合は、一度はがす方が望ましいでしょう。 湿布が入っている袋には、「1日2回」「〇時間おき」など、貼る回数や間隔が記載されています。湿布を貼るときは、その指示を守りましょう。はがし忘れると、皮膚トラブルが生じる可能性があります。 参考文献 (文献1) 非ステロイド性抗炎症薬 (外用薬)の解説|日経メディカル (文献2) ロキソプロフェンナトリウム水和物(外用剤)のリスク区分について|厚生労働省 (文献3) むち打ち症の治療方法~必ず整形外科を受診し治療の方向を相談すること~|交通事故弁護士相談広場
2025.07.31 -
- 脊椎
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「数日前、車に追突された後、首や肩が痛むようになった」 「むちうちだと思っていたが、レントゲンでは異常なしだった」 「痛みやしびれが続いているのも辛いが、『気のせいでは?』『大げさではないか?』などと言われるのも辛い」 このようにお悩みの方もいらっしゃることでしょう。 むちうちは、交通事故を中心とした外傷のあと、少し時間が経ってから出現するさまざまな症状を指します。 この記事では、むちうちの痛みやそれ以外の症状、医療機関で症状を伝えるときの方法について解説します。 症状の原因がわかり、適切な治療を受けるための助けになりますので、ぜひ最後までご覧ください。 むちうちの痛みが長期化しているなど、お悩みを抱えている・再生医療について知りたい方は、当院「リペアセルクリニック」の電話相談までお問い合わせください。 【どんな痛み?】むちうちの疼痛について むちうちで痛む部分は、主に以下のとおりです。 首のうしろ 肩 後頭部 腕 背中 顔面 手首 体を動かすと痛む場合もあれば、安静にしていても痛む場合もあります。痛みの種類も人によって異なり、ズキズキとした痛みを感じる方もいれば、重苦しさを伴う痛みを訴える方もいます。 【痛み以外】むちうちの症状 痛み以外のむちうち症状は、主に以下のとおりです。 首や肩の動かしにくさ 肩こり めまい しびれ 倦怠感 耳鳴り 視力の低下 歩行障害 むちうちは、首に衝撃が加わったことによる筋肉や靱帯、神経の損傷が原因とされる症状の総称です。 むちうちには4つのタイプがあり、タイプごとに異なる症状が現れます。 むちうちの4タイプについては、以下の記事で詳しく説明しています。あわせてご覧ください。 むちうち症状が出るまでに時間がかかる理由 むちうちは、外傷を受けてから症状が出るまでに時間がかかることが多いとされていますが、はっきりとした理由は解明されていません。 一般的には、体への強い衝撃により交感神経が優位にはたらき、アドレナリンやベータエンドルフィンなどの脳内物質が多量に分泌されることが影響するといわれます。これらの脳内物質により、痛みを感じるセンサーが麻痺されたり鎮痛作用が生じたりします。 その結果、むちうちの原因になる事故や頭部外傷直後に症状が現れず、時間がかかることになるのです。外傷が発生してから1日、もしくは2日ほど経過してから症状が出る場合もあります。(文献1) むちうち以外で痛みが生じる原因と対処法 首や肩の痛み、頭痛などが生じる疾患はむちうちだけに限りません。この章では、むちうち以外で痛みが生じる原因と対処法について解説します。 別の疾患がある場合 ここではむちうちと似た症状を呈する2つの疾患を紹介します。症状は似ていますが、原因はそれぞれ異なるため、むちうちだと自己判断せず、医療機関での検査や診察が必要です。 頚椎椎間板ヘルニア 頸椎椎間板ヘルニアは、加齢やスポーツ、外傷などにより、骨と骨の間でクッションの役割をする椎間板の外側に亀裂が入り、髄核(椎間板の中心)を含む椎間板組織が外に飛び出す疾患です。椎間板とは、骨と骨の間でクッションの役割をする組織を指します。 頚椎椎間板ヘルニアの代表的な症状は、首や肩甲骨、腕の痛みやしびれなどであり、進行すると手足にもしびれが生じます。 このような症状が出現した場合は、整形外科を受診し、CTやMRIなどの検査、診察を受けましょう。治療方法としては、ブロック注射や薬物療法、手術などがあります。 頚椎椎間板ヘルニアについては、以下の記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 脳脊髄液減少症 文字どおり、脳脊髄液の漏れや脱水症状などが原因で、脳脊髄液の量が減少してしまう疾患です。 起立性頭痛と呼ばれる、立ったり座ったりすると悪化する頭痛や首の痛み、めまい、倦怠感などの症状が生じます。 脳脊髄液減少症は交通事故やスポーツ時の外傷で発症するケースも多く、むちうちと間違えられるケースも少なくありません。 起立性頭痛や首の痛みがある場合は、脳神経外科や整形外科など、診断・治療が可能な医療機関を受診しましょう。治療方法としては、点滴やブラッドパッチ療法などがあります。 脳脊髄液減少症については、以下の記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 異常なしと診断された場合 むちうちはレントゲン検査での特定が難しいため、異常なしと診断されるケースもあります。患者の訴えをむちうちの指標とする場合もあるため、具体的な症状を記録し、事故の経緯とあわせて医師に説明しましょう。 症状があるもののレントゲン検査で異常がない場合は、確定診断のためにCTやMRI検査を実施することもあります。 症状によっては、ジャクソンテストやスパークリングテスト、筋萎縮検査、知覚検査といった神経学的検査を実施するケースもあります。 医療機関でこれらの検査を指示された場合は、必ず受けましょう。 受診する際のむちうち症状の伝え方 むちうちは、さまざまな症状が現れますが、目に見える症状はあまり多くありません。正確な診断や治療を受けるためにも、現在の症状を正しく伝えましょう。 この章では、むちうち症状の伝え方に関するポイントを解説します。 伝えるために必要なポイント 医師に症状を伝えるときのポイントは、主に以下のとおりです。 症状出現の時期 症状がある部位および範囲 痛みが生じるタイミング 痛みの種類 これらのポイントをもとに、症状の伝え方の具体例を紹介します。 【具体例1】 「事故の4日後くらいから首の後ろがずっと張っている感じがあります。夜中に寝返りを打つとズキッと痛くて目が覚めることが増えました。朝はとくに首を動かしにくく、洗顔や着替えが大変な状況です」 【具体例2】 「交通事故にあったのは5日前です。最初の2日間はとくに症状はなかったのですが、3日目の朝から首の後ろに鈍い痛みが出てきました。とくに、首を回したときや長時間座っていたあとに痛みを感じます」 医師の前でうまく伝えられるか不安な場合は、症状を具体的に記載したメモの持参をおすすめします。医師にメモを見てもらうことで、症状をスムーズに伝えられるでしょう。 「異常なし」と診断されたときの伝え方 医師の問診やレントゲン検査などで異常なしと診断された場合も、伝え方の基本は同じです。 症状出現の時期 症状がある部位および範囲 痛みが生じるタイミング 痛みの種類 これらの状況を、具体的に医師へ伝えましょう。 異常なしと言われた場合でも、症状があるうちは病院を受診しましょう。通院実績が、むちうち治療の必要性を判断する大きな指標となるためです。 むちうちの痛みを改善させる方法 むちうちの痛みを改善させるためには、医療機関で検査を受けて、検査結果や症状に適した治療を受けることが必要です。加えて、メンタル面でのセルフケアも大切です。 この章では、両者について詳しく解説します。 医療機関での検査および治療 むちうち症状がある場合、医療機関では以下のような検査を実施します。 医師による問診 レントゲン検査 CT検査 MRI検査 神経学的検査 CTはレントゲンではわかりにくい骨折や脱臼を見つける検査であり、MRIは骨折および靭帯や神経などのダメージの有無を見つける検査です。神経学的検査は、痛みやしびれなどの症状を確認するために実施されるものです。 むちうち治療としては、患部の安静や消炎鎮痛剤の内服および湿布による対応、頚椎カラーの装着などがあげられます。症状が緩和されてきた段階では、ストレッチや筋力トレーニングなどのリハビリも行われます。 検査や治療、リハビリについては、医師および理学療法士の指示に従いましょう。 むちうち時における湿布の活用について、下記の記事で解説しています。あわせてご覧ください。 メンタルケア むちうちは自律神経にも関係する場所である首にダメージを受けるために、めまいや不眠、気分の落ち込みなど、身体の痛み以外の症状が現れる場合があります。 加えてむちうちは、目に見える外傷がほとんどなく、レントゲンで異常なしであることも多い状況です。そのため、周りの人になかなか症状を理解されにくい辛さもあります。 症状を理解してくれる人に悩みを打ち明ける、カウンセリングを受けるなどの方法によるメンタルケアも大切です。 むちうちの痛みを知り改善に向けて行動しよう むちうちは首に限らず、肩や腕、後頭部、顔など体のさまざまな部位が痛みます。 痛みが生じるタイミングは体を動かしているときだけとは限りません。ときには安静にしていても痛む場合があります。 むちうちの痛み改善のためには、適切な治療が必要です。そのためにも、痛みを含めた自分の症状を把握し、具体的かつ正確に医師へ伝えましょう。患者の訴えは、むちうち治療の指標の1つです。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。むちうち症状でお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。 参考文献 (文献1) むちうち症発生のメカニズムに関する生体力学的考察|名古屋大学
2025.07.31 -
- 肩関節、その他疾患
- 肩関節
デスクワークやスマートフォンの使用が増え、「肩甲骨が動かない」「硬い」と感じる人が増えています。肩甲骨は上下、内側・外側への回旋、前傾・後傾など多方向に滑らかに動くのが本来の姿です。しかし、肩甲挙筋、大菱形筋、小菱形筋、僧帽筋などが硬くなると「可動域制限」が生じます。 初期は痛みを感じにくく、肩こりや首こり、猫背、呼吸の浅さなどの不調を見過ごしがちです。本記事では、肩甲骨が動かない原因やセルフチェック、改善方法、受診の目安までをわかりやすく解説しますので、参考にしてください。 肩甲骨が動かない・肩の可動域制限のお悩みを今すぐ解消したいとお考えで、再生医療に興味がある方は当院「リペアセルクリニック」の電話相談までお問い合わせください。 肩甲骨が動かない原因 肩甲骨の動きが制限されると、肩こりや首の痛みだけでなく、姿勢全体の乱れにもつながります。ここからは、肩甲骨が動かなくなる主な原因を詳しく解説します。日常生活の中で気をつけるポイントを知り、予防や改善へつなげていきましょう。 姿勢が悪い 猫背や巻き肩といった悪い姿勢は、肩甲骨の動きを妨げる大きな要因です。長時間のデスクワークやスマートフォンの操作によって、頭や肩が前に出た姿勢が習慣化すると、胸の筋肉は短縮し、背中の筋肉は引き伸ばされて弱くなります。 その結果、肩甲骨が外側に開いたまま固定され、動かしづらくなります。姿勢のクセは肩や首の負担を増やし、肩こりや頭痛などの症状を引き起こしがちです。慢性的な痛みを防ぐには、正しい姿勢を心がけ、こまめに肩甲骨を動かすストレッチを取り入れることが大切です。 筋肉が硬い・バランスが悪い 肩甲骨の動きは周囲の多くの筋肉によって支えられています。僧帽筋、肩甲挙筋、大菱形筋、前鋸筋などが硬くなったり、筋力が低下したりすると、肩甲骨の動きが制限されます。過度の緊張状態やアンバランスな使い方が続くと、特定の筋肉だけに負担がかかり、柔軟性や協調性が失われます。 日常生活で肩甲骨を大きく動かす機会が減っていることも、筋肉の問題を悪化させる原因です。改善にはストレッチや適度な運動で筋肉の柔軟性を保ち、バランスよく使う習慣が重要です。 ストレス・呼吸が浅い ストレスを感じると、無意識に肩に力が入り、呼吸が浅くなりがちです。浅い呼吸が続くと肩や胸まわりの筋肉が常に緊張した状態になり、肩甲骨の動きが制限されます。呼吸に関わる胸郭の動きが硬くなると、肩甲骨の滑らかな可動性にも悪影響を及ぼします。 深くゆったりとした呼吸を意識することは、心身のリラックスだけでなく、肩甲骨周囲の筋肉を柔らかく保つためにも大切です。リラックス法を取り入れ、呼吸を整える習慣を心がけましょう。 肩甲骨が動かない状態を放置するリスク 肩甲骨の動きが悪い状態を放置すると、首や肩の筋肉に過度な負担がかかり、「常にこっている」「だるい」「重い」といった慢性的な不快感を引き起こします。マッサージなど一時的な対処では改善しにくくなる場合もあります。猫背や巻き肩、スマホ首、ストレートネックなど姿勢の崩れを招き、見た目の印象が悪化するだけでなく、呼吸や内臓への負担も大きいです。 肋骨や胸郭の動きが制限されることで呼吸が浅くなり、酸素の取り込み不足による疲れやすさや睡眠の質の低下にもつながります。肩甲骨の痛みや動かしづらさを感じたら、当院へお気軽にご相談ください。 肩甲骨が動かない場合の自宅でできるストレッチ 肩甲骨が硬いと感じるときは、肩甲骨周囲の筋肉をほぐし、動きを良くするストレッチを自宅でも行いましょう。無理のない範囲で続けると、可動域の改善や肩こりの予防が期待できます。 肩甲下筋のマッサージ 肩甲下筋(肩甲骨の前面に付着している大きな筋肉)が硬くなると肩甲骨の動きが制限され、肩こりや可動域の低下を招きます。自宅でできるセルフマッサージを試してみましょう。 片手を反対の脇の下に深く入れる 肩の前側(脇のすぐ奥)に指を押し当てる 痛気持ち良いポイントを探し、円を描くようにゆっくり押し回す 30秒ほど続ける 呼吸を止めず、リラックスした状態で行う (文献1) 筋肉をほぐすことで肩甲骨周囲の緊張が和らぎ、徐々にスムーズな動きができるようになります。普段のケアに取り入れて、肩こりや動きの悪さを予防します。 広背筋のストレッチマッサージ 広背筋(胸郭下部後方の大部分を占める広くて平らな筋肉)が硬いと肩甲骨の動きが悪くなり、猫背や肩こりを助長します。以下の方法で自宅でも簡単にケアしましょう。 仰向けになり、テニスボールを肩甲骨の下あたりに置く ゆっくり体を前後に動かしながら広背筋をほぐす 1分ほど繰り返す 痛みが強い場合は無理をせず調整する (文献1) 筋肉の緊張を和らげると、肩甲骨の可動域が改善され、姿勢も整いやすくなります。毎日のセルフケアにおすすめです。 大胸筋のストレッチ 大胸筋(胸部の大きな筋肉)の硬さは巻き肩や猫背の原因となり、肩甲骨の外側固定を招きます。以下のストレッチを取り入れましょう。 壁の横に立ち、肘を90度に曲げて手を壁につける 体を反対側にゆっくりひねる 大胸筋をしっかり伸ばす 20~30秒キープし、左右交互に行う (文献1) 胸の筋肉をゆるめることで肩甲骨が内側へ戻りやすくなり、自然な姿勢を保ちやすくなります。呼吸を止めずリラックスしながら行いましょう。 肩甲骨が動かない場合の受診目安 肩甲骨の動かしづらさが続き、痛みやしびれ、日常生活に支障が出てきた場合は、自己流のケアだけでなく医療機関への相談を検討してください。以下のような症状が出現した場合は、受診が必要です。 痛みが強い場合 しびれがある場合 四十肩や五十肩の疑いがある場合 痛みが強い 肩甲骨周囲の痛みが強く、以下のように日常生活に支障が出ている場合は受診を検討します。 肩の突然の強い痛み、とくに夜間に痛みが増す 腕を動かそうとすると鋭い痛みが走る 着替えや洗髪など日常動作が困難になる こうした症状は、炎症や神経の圧迫など原因がさまざまです。放置すると痛みが慢性化しやすく、可動域の制限や筋力低下を招くこともあります。早期に医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。 しびれがある 肩甲骨付近のしびれは、以下のような神経の圧迫や血流障害などが原因の可能性があります。 頸椎や胸椎の歪みからくる神経圧迫 斜角筋、小胸筋など周囲筋肉の過度な緊張や締め付け 長時間の同じ姿勢や負荷による血流障害 しびれは肩甲骨周囲だけでなく、腕や手先にまで広がることもあります。軽いしびれでも放置せず、専門医の診察を受けて原因を特定し、適切な治療やリハビリで改善を目指しましょう。 四十肩や五十肩の疑いがある 痛みとともに肩の動きが制限されてきた場合、四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)の可能性があります。以下のような症状の場合は要注意です。 腕を上げたり後ろに回す動作がつらい 着替えや髪を結ぶなど日常生活動作が困難 痛みが徐々に増し、動かせる範囲が狭くなる 進行すると拘縮(固まり)や痛みが長期化しやすいため、早めの受診が重要です。医療機関では痛みを和らげる治療やリハビリを行い、可動域を取り戻します。肩の動きや痛みの変化に気づいたら、医療機関の受診をおすすめします。 肩甲骨が動かない場合の治療法 肩甲骨の動きが制限され、痛みや不調が続く場合は医療機関での専門的な治療が有効です。以下のような主な治療法をご紹介します。 内服・注射 リハビリテーション 温熱療法・冷却療法 再生医療 内服・注射 痛みや可動域制限を軽減するため、まずは内服薬での治療を行います。鎮痛剤や漢方薬などを用いて痛みや炎症をコントロールし、肩甲骨周囲の筋肉が動きやすい状態をつくります。薬による治療は、リハビリやストレッチを進めるための基本です。 症状に応じて以下のような注射療法を組み合わせて行い、即効性のある痛みの緩和を図ります。 筋肉を動きやすくするハイドロリリース 拘縮部位へのマニュピュレーション エコーガイド下でのブロック注射 患者様一人ひとりの状態やご希望を踏まえ、医師が治療プランを提案します。 リハビリテーション リハビリは肩甲骨の動きを取り戻すために欠かせない重要な治療法です。理学療法士が一人ひとりの症状や生活スタイルに合わせた以下のようなプログラムを提案し、無理なく続けられるようサポートします。 肩甲骨周辺の筋肉を柔らかく保つストレッチ 筋力を強化するためのトレーニング 肩甲骨の位置や動きを正しく導く運動療法 セルフケアの方法も丁寧に指導し、再発予防までを見据えた包括的なケアを行います。定期的な通院での経過確認や目標設定も大切にし、患者様と二人三脚で改善を目指します。 温熱療法・冷却療法 肩甲骨周囲の痛みや緊張を和らげるため、温熱や冷却を使った物理療法を行います。 温熱療法の効果は以下のとおりです。 患部を温め血行を促進 筋肉の緊張を和らげて動きを改善 慢性的なこりや硬さをほぐし、リハビリ効果を高める 冷却療法の効果は以下のとおりです。 患部を冷やして炎症を抑制 急性期の痛みを軽減 腫れや負担を抑え回復を促す 症状や痛みの程度、時期に応じて医師や理学療法士が適切に選択し、温熱と冷却を組み合わせて治療します。定期的な評価をしながら、再発予防を含めた治療を行います。 再生医療 進行した肩の障害や腱板損傷など、従来の治療で十分な効果が得られない場合に、再生医療といった新しい選択肢もあります。再生医療には以下のような特徴があります。 自身の脂肪組織から採取し培養した幹細胞を投与 幹細胞が腱板などの組織を再生し、痛みや可動域制限を改善 手術を回避できる可能性がある身体への負担が少ない治療法 患者様ごとに適応や効果は異なるため、診察時にしっかりと評価を行い、治療方針を提案します。当院では、治療のリスクや期待できる効果についてもわかりやすくご説明します。再生医療に興味がある方、不安をお持ちの方もぜひ一度ご相談ください。患者様のより良い生活を取り戻すためのお手伝いをいたします。 肩甲骨が動かない原因を解明させ適切に対処しよう 肩甲骨が動かないのは、多くの人が抱える身近な悩みです。可動域の制限は肩こりや首こり、猫背などの姿勢悪化、呼吸の浅さ、頭痛などさまざまな不調を引き起こします。早めのセルフケアやストレッチを習慣づけると、予防や改善につながります。 ただし、痛みが強い、動きが著しく制限される、しびれを感じるといった場合は自己判断で放置せず、医療機関へ相談してください。原因を正しく解明し、自分に合った治療やリハビリを受ければ、根本的な改善と再発予防の大きなポイントになります。 当院にも、肩甲骨の動きの悩みを抱えた患者様が多く通っています。専門家と一緒に取り組むことで、より快適な生活を取り戻しましょう。 参考文献 文献1 腕が後ろに回らない原因とは?効果的なマッサージ方法も|西荻窪きりん堂接骨院南口院
2025.07.31 -
- 糖尿病
- 内科疾患
糖尿病は症状が進行していくと、失明といった重大な合併症を発症する場合があります。しかも痛みなく進行するため、前兆に気づくことが視力を守るためには必要です。 本記事では、糖尿病で失明を招く具体的な前兆サイン、進行の仕組み、予防法や治療法まで専門的にわかりやすく解説します。糖尿病の失明が気になる方は、ぜひ参考にしてください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 糖尿病について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 糖尿病による失明の前兆症状 糖尿病は血糖値が高い状態が続くことで全身の血管を傷つけ、目の奥にある網膜の血管も傷つけられます。これにより「糖尿病網膜症」を発症し、進行すると失明につながることもあります。初期は自覚症状が少なく気づきにくいですが、以下のようなサインが現れたら注意が必要です。 かすみ目・視界のぼやけ 網膜の血流が悪化し、ピントが合いにくくなる 暗い所で見えにくい 網膜の細胞がうまく働かず、薄暗い場所で視界が悪くなる 飛蚊症や黒い点が増えた 硝子体出血や網膜剥離の兆候で、視界に糸くずや黒い点が浮かぶように見える 視野が欠ける・ゆがむ 網膜や黄斑部のむくみ、出血などで、見える範囲が狭くなったり歪んで見えることがある 急激な視力低下 網膜剥離や大きな出血など、失明に直結する深刻な状態 糖尿病網膜症の症状を放置すると、進行して回復が難しくなる場合があります。少しでも「おかしいな」と感じたら早めに眼科を受診し、専門的な検査を受けましょう。 【失明の前兆】糖尿病網膜症の進行と症状 糖尿病網膜症は血糖値が高い状態が続くことで網膜の血管が障害され、段階的に進行します。初期から末期にかけて症状も変化し、最終的には失明のリスクが高まります。 初期|単純糖尿病網膜症 糖尿病網膜症の初期段階は「単純糖尿病網膜症」と呼ばれ、自覚症状がほとんどないのが特徴です。自分では見え方に変化を感じにくいため、気づかないまま進行してしまいます。 初期の症状は以下のとおりです。 点状出血 硬性白斑 網膜浮腫 網膜内の細い血管が高血糖の影響で傷つき、血液や脂質が漏れ出すことで起こります。網膜浮腫によるむくみが進むと視力への影響が出ることもあります。初期段階では血糖値を適切に管理し、食事療法や運動療法、薬物療法を徹底すれば進行を防ぐことが可能です。 眼科での定期的な検査により、わずかな変化を早期に発見し、適切な治療を行うことが大切です。 中期|増殖前糖尿病網膜症 増殖前糖尿病網膜症は糖尿病網膜症の中期段階で、血管障害が進み、より深刻な変化が現れます。多くの場合、この段階でも自覚症状はほとんどなく、異変を感じることはまれです。 中期の症状は以下のとおりです。 軟性白斑 網膜内細小血管異常 軟性白斑は網膜の酸素不足を示すサインで、網膜内細小血管異常は血流が阻害されていることを意味します。進行を抑える治療としては、レーザー光凝固で異常血管を封じ込めたり、抗VEGF薬注射やステロイド注射でむくみを軽減したりします。 進行を防ぐためには、血糖管理を継続し、眼科での定期検診を受けることが不可欠です。 末期|増殖糖尿病網膜症 糖尿病網膜症がさらに進行し末期になると「増殖糖尿病網膜症」と呼ばれ、失明の危険性が非常に高くなります。高血糖により網膜が酸素不足になると、新生血管が異常に増殖し、さまざまな深刻な合併症を引き起こします。 末期の症状は以下のとおりです。 硝子体出血 新生血管の増殖 急激な視力低下 牽引性網膜剥離 新生血管は非常にもろく破綻しやすいため、硝子体出血により視界が急に真っ暗になることもあります。瘢痕組織が網膜を引っ張り牽引性網膜剥離を起こすと、急速な視力喪失が生じます。 治療にはレーザー治療(汎網膜光凝固術)や硝子体手術などが必要です。進行を防ぐには、早期の診断と治療、血糖管理、そして眼科での定期的なフォローが不可欠です。視力を守るため、少しでも異変を感じたらすぐに受診しましょう。 【前兆症状を防ぐ】糖尿病で失明しないための予防法 糖尿病による失明を防ぐためには、毎日の管理と定期的な検査が欠かせません。以下のポイントを意識して予防に取り組みましょう。 血糖コントロール:血糖値を適切に管理し、網膜へのダメージを防ぐ 血圧・脂質管理:高血圧や脂質異常症を改善し、血管障害を予防する 有酸素運動:ウォーキングなどを習慣にし、血糖値や血圧を安定させる 食事の管理:バランスの良い食事でカロリー・糖質をコントロールする 定期的な眼底検査:自覚症状がなくても早期発見のために検査を欠かさない 日々意識して実践すると、糖尿病網膜症の進行を抑え、失明のリスクを大きく減らせます。医師や管理栄養士と相談しながら、自分に合った計画を立て、無理なく続けることが大切です。 失明の前兆段階で適用される糖尿病網膜症の治療法 糖尿病網膜症は進行度に応じてさまざまな治療法があります。失明リスクが高まる前兆段階で適切な治療を受ければ、糖尿病網膜症の進行を抑えることが期待できます。以下は主な治療法です。 血糖コントロール レーザー光凝固術 硝子体手術 抗VEGF療法 再生医療 血糖コントロール 糖尿病網膜症の進行を防ぐためのもっとも基本的な治療は、血糖コントロールです。血糖値が高い状態が続くと、網膜の血管が傷つき、病変が進行しやすくなります。糖尿病治療ではインスリン療法や内服薬を活用し、血糖値を適正範囲に維持することを目指します。食事療法や運動療法を組み合わせ、血糖変動の抑制が非常に大切です。 生活習慣の見直しも欠かせません。バランスの良い食事、適度な運動、規則正しい生活を続ければ全身の血管障害を予防できます。医師や栄養士と相談しながら無理なく継続しましょう。 定期的な血液検査や通院を通じて経過をしっかり管理すれば、合併症の早期発見や治療につながります。ご自身の健康状態を理解し、専門医と二人三脚で取り組むことが大切です。 レーザー光凝固術 レーザー光凝固術は、糖尿病網膜症の進行を抑えるための標準的な治療法です。網膜が酸素不足になると、異常な新生血管が増殖しやすくなり、出血や網膜剥離を引き起こす危険性が高まります。レーザー光凝固術では網膜の虚血部分にレーザーを照射し、組織を凝固させることで酸素需要を抑え、新生血管の発生を予防します。 レーザー光凝固術により、視力低下の進行を抑えられます。ただし、レーザー治療は進行を完全に止めるものではなく、血糖コントロールや定期検診と組み合わせて総合的に管理する必要があります。 早期発見と適切なタイミングでの治療が、視力を守るための大切なポイントです。治療の際は専門医が丁寧に説明を行い、患者様の不安を取り除きながら進めます。 硝子体手術 硝子体手術は、進行した糖尿病網膜症による重篤な合併症に対する治療法です。網膜剥離や硝子体出血が発生した場合、レーザー光凝固術だけでは十分な効果が得られなかった場合に実施されます。 手術では、目の中にある濁った硝子体を除去し、出血や瘢痕を取り除いた上で、網膜を正しい位置に再付着させる処置を行います。急激な視力低下を改善し、さらなる失明を防ぐことを目指します。術後のケアや経過観察も重要になるため、定期的な受診は必要です。 手術の適応やタイミングは患者様一人ひとりの眼の状態に合わせて慎重に判断します。不安な点や疑問があれば担当医に相談してみましょう。 抗VEGF療法 抗VEGF療法は、糖尿病網膜症によって生じる黄斑浮腫を抑制するための治療法です。VEGF(血管内皮増殖因子)は新生血管の増殖を促進し、血管の透過性を高めて黄斑部にむくみを生じさせます。抗VEGF薬を眼内に注射するとVEGFの働きを抑えられるため、むくみが軽減でき視力の維持につながります。 治療は一度で終わるものではなく、症状に応じて繰り返しの注射が必要な場合も多いです。黄斑浮腫は視力低下の大きな原因となるため、早期治療が非常に重要です。眼科専門医が患者様の眼の状態を詳しく評価し、適切な治療計画を立てながら進めます。 再生医療 糖尿病網膜症に対する新たな治療アプローチの一環として、再生医療があります。患者様ご自身の脂肪組織から採取した細胞を培養し、身体に戻す治療法です。当院では再生医療に関する情報や現状をご説明し、患者様に合った治療をご案内しています。 ご関心のある方は、まずはお気軽にご相談ください。ご不明点や不安な点についても丁寧にお話をさせていただきます。 糖尿病による失明を防ぐためにも前兆を見逃さず早期に医療機関を受診しよう 糖尿病網膜症は初期には自覚症状がほとんどなく進行し、気づいたときには重度になっていることも珍しくありません。失明を防ぐには、血糖値のコントロールをしっかり行った上で、内科での定期受診の継続が必要です。目の状態を把握するために眼科の定期受診も欠かせません。視界のかすみやぼやけ、見え方の違和感など、わずかな前兆を見逃さないようにしましょう。 「気になる症状があるけれど受診して良いのかな」と迷わずに、早めに専門医を受診すれば、進行を抑える治療につなげることが可能です。当院でも、糖尿病と目の健康に関する再生医療についてのご相談を受け付けておりますので、どうぞお気軽にご連絡ください。 糖尿病による失明の前兆についてよくある質問 糖尿病網膜症は痛みがなくても進行しますか? 糖尿病網膜症は網膜の血管が傷つき変化していく病気ですが、網膜には痛覚がないため、進行していても痛みを感じることはありません。そのため患者様自身が異変に気づかず、病気がかなり進行してから初めて自覚症状が出るケースも多いのが特徴です。 ただし、飛蚊症(視界に黒い点や糸くずが見える)、視野の一部が欠ける、ゆがんで見えるなど、痛みの代わりに現れる前兆症状が出る場合もあります。症状を見逃さず、少しでも見え方に異変を感じたら早めに眼科を受診しましょう。定期的な検査での早期発見が失明を防ぐポイントです。 糖尿病は血糖値が下がればよくなりますか? 糖尿病網膜症は、血糖値が高い状態が続くことで網膜の血管にダメージを与え、進行していく病気です。血糖値を下げることで傷んだ血管を元に戻すことはできませんが、進行を抑えることは可能です。 血糖コントロールをしっかり行えば、新たな血管障害を防ぎ、既存の病変の悪化を抑えられます。内科での治療を継続し、食事療法や運動療法を取り入れることが重要です。網膜症の進行度に応じた眼科での治療や定期検査を併用し、視力を守るための総合的な管理をしましょう。
2025.07.31 -
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
「後縦靭帯骨化症は進行すると寝たきりになるってほんと?」 「進行させないためにはどうすれば良い?」 後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこつかしょう)は、骨化自体の急激な進行は少ないです。しかし、脊椎に強いショックを受けると急激に症状が進行して、寝たきりになるリスクがあります。 本記事では、後縦靭帯骨化症の寝たきりになるリスクをはじめとして、以下を解説します。 悪化を示す症状 進行を抑える3つの方法 日常生活における2つの注意点 治療方法と予後について 寝たきりになるリスクを下げるための方法や注意点を理解するために役立ててください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 再生医療について詳しく知りたい方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 後縦靭帯骨化症の寝たきりになるリスクについて 後縦靭帯骨化症は、骨化が進行すると立った状態を維持するのが難しくなり、寝たきりになるリスクがあります。 骨化が背骨の管(脊柱管)の60%を超えて狭くなると、ほぼすべての方に脊髄障害が現れます。(文献1)脊髄障害とは、体の脱力や感覚障害など寝たきりにつながる症状が現れる状態のことです。 進行している後縦靭帯骨化症は、放置しても自然に良くなることは期待できません。そのため、適切なタイミングで手術を行うことが重要です。 また、脊椎に強いショックを受けると、四肢麻痺(ししまひ:両手足が自由に動かなくなること)を引き起こして寝たきりになることも。些細な動作でも症状が進行する恐れがあるため、首の動きには十分な注意が必要です。 後縦靭帯骨化症の悪化を示す症状 後縦靭帯骨化症の初期症状は、肩から手先までのしびれや痛み、首の痛みなどです。 進行すると以下のような症状が現れます。 股関節から足先にかけてしびれや痛みが現れる 触られている感覚や痛みを感じにくくなる 筋力が低下する 腱の反射異常が現れる 手足がこわばったり突っ張ったりして思うように動かせなくなる さらに麻痺症状が進行すると、排便や排尿のコントロールが難しくなります。 後縦靭帯骨化症の進行を抑える3つの方法 後縦靭帯骨化症の進行を抑える3つの方法は以下の通りです。 転倒や外傷のリスクを下げる 糖尿病や肥満を改善する リハビリテーションを行う それぞれの詳細を解説します。 1.転倒や外傷のリスクを下げる 転倒や外傷は、症状を急激に悪化させる可能性があるため注意が必要です。とくに高齢者は、転倒による外傷が寝たきりの原因となることが多いです。飲酒は、軽度の運動障害を表出させて転倒リスクを高めます。飲酒による転倒は、首に大きな外力を与える恐れがあるため十分な注意が必要です。(文献2) 以下のような工夫を行い転倒予防に努めることが大切です。 自宅に手すりを設置する スロープなどを取り付けて段差を無くす 杖やシルバーカーを活用する 自転車やバイク、車などの転倒と事故のリスクのある乗り物の利用のほか、相撲、ラグビー、レスリングなど首に強く負担をかけるスポーツは避けたほうが良いでしょう。 2.糖尿病や肥満を改善する 後縦靭帯骨化症の発症のしやすさと生活習慣病には関連性があります。実際に広い範囲で骨化が見られている若年発症の後縦靭帯骨化症の方は、肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症を併存している割合が高いです。 とくに重度肥満(BMI40以上)は、後縦靭帯骨化症の進行に強く関連していると報告があります。(文献3)後縦靭帯骨化症を進行させないためにも、適切な治療を受けながら生活習慣を見直し、肥満や糖尿病等の改善に努めることが大切です。運動により肥満改善を目指す場合は、どのような内容が良いか医師やリハビリスタッフに相談してください。 3.リハビリテーションを行う 適切なリハビリテーションを実施すれば、運動能力が回復する可能性があります。実際に歩行ができなかった患者様がサイドケイン(先端が3〜4つに分かれた歩行器のような杖)で、60m歩行できるようになった症例もあります。(文献4) ただし、医師やリハビリスタッフの指示に基づいた適切なリハビリテーションを行う必要があり、効果も人それぞれです。自己判断によるリハビリテーションは、病状を悪化させる恐れがあるため、運動内容は医師やリハビリスタッフに相談してください。 後縦靭帯骨化症の日常生活における2つの注意点 後縦靭帯骨化症における2つの注意点は以下の通りです。 首を大きく後ろに反らさない 自己判断でマッサージを受けない それぞれの詳細を解説します。 1.首を大きく後ろに反らさない 首を過度に反らす動作は、神経症状を悪化させる恐れがあります。例えば、以下のような場合の首の動きには注意が必要です。 肩こりがあっても首をぐりぐり回さない 理髪店の顔剃りや美容室の洗髪、歯医者での治療で首を反らし過ぎない ストレッチ等も医師やリハビリスタッフの指示に従って行ってください。 2.自己判断でマッサージを受けない 整体やカイロプラクティスなどを自己判断で受けるのは避けてください。首に強い刺激を加えるマッサージは、神経症状を悪化させる恐れがあるためです。 神経圧迫による症状を伴わない首や背中の痛みに対しては、あんまや鍼灸、マッサージなどが有効なことがあります。しかし、施術により首を過度に反らす危険性があるため、専門医の指示のもとで行うべきです。 後縦靭帯骨化症の治療方法 後縦靭帯骨化症の主な治療方法には、保存療法と手術療法があります。ここからは、それぞれの治療方法を詳しく解説します。 保存療法 病状が進行していない軽度の場合は、外固定装具や薬物療法による保存療法を行います。外固定装具の着用の目的は、首の安静を保つことによる神経の保護です。 自覚症状に対しては、痛みや筋肉のこわばりを和らげる薬で対応します。病状が進行して、手の動かしにくさや歩行困難、排尿・排便の障害などの症状が現れ始めたら、手術を検討しなければなりません。 手術療法 病状が重度である場合は手術を行います。手術は、骨化の状態や部位に応じたさまざまな方法があります。 主な手術方法である前方法と後方法の詳細は以下の通りです。 手術療法 詳細 前方法 頚椎の神経圧迫を改善するために、骨化部位を摘出して、その部位を自分の骨で固定する方法。 後方法 骨化の部位はそのままにして、神経が通っている脊柱管を広げて圧迫を軽減させる方法。 一般的には後方法が選択されます。骨化が大きい場合や頚椎の並びが良くない場合は、前方法も選択肢になります。(文献5) 再生医療 後縦靭帯骨化症に対しては、再生医療という治療選択肢もあります。 再生医療の幹細胞治療では、患者様自身から幹細胞を採取・培養して、注射にて患部に投与します。患者様の幹細胞を使用するため、副作用のリスクが低いのが特徴です。 後縦靭帯骨化症に対する再生医療については、以下の記事でも紹介しているので、合わせてご覧ください。 後縦靭帯骨化症の予後 後縦靭帯骨化症は骨化が急速に進行することは少なく、神経症状も必ずしも進行性とは限りません。とはいえ、症状が現れていなくても、定期的な画像検査により経過を見ることは重要です。 また、手術により神経症状が改善しても、術後数年から10年あたりに同じ部位または他の部位の骨化が進行して、神経症状が現れることがあります。(文献5)そのため、後縦靭帯骨化症は手術した場合でも、生涯にわたって定期的な画像検査を受けることを推奨します。 まとめ|急激な進行を予防するためにも転倒や外傷に注意しよう 後縦靭帯骨化症は、転倒や外傷により急激に症状が悪化し、寝たきりになるリスクがあります。そのため、日常生活における転倒や外傷のリスクを可能なかぎり下げる必要があります。首を「過度に反らす」「グリグリ回す」ことも避けてください。 また、糖尿病や肥満など、後縦靭帯骨化症を進行させる要因になる生活習慣病を改善することも大切です。症状が進行している場合は、適切なリハビリテーションが有効な場合があります。医師やリハビリスタッフの指示のもとで進めましょう。 近年では、後縦靭帯骨化症による症状の改善のために、再生医療が活用されています。後縦靭帯骨化症の再生医療は、当院「リペアセルクリニック」でも行っているため、症状でお悩みの方はお気軽にお問合せください。 参考文献 (文献1) 後縦靱帯骨化症(OPLL)(指定難病69)概要診断基準等|難病情報センター (文献2) 後縦靱帯骨化症(OPLL)(指定難病69)よくある質問|難病情報センター (文献3) 脊柱後縦靭帯骨化症における肥満に関連する因子の検討|厚生労働省科学研究成果データベース (文献4) 後縦靭帯骨化症を呈した患者に対する術前運動療法の効果の検討|日本理学療法士協会 (文献5) 後縦靱帯骨化症(OPLL)(指定難病69)病気の解説|難病情報センター
2025.07.30 -
- 糖尿病
- 内科疾患
糖尿病性腎症と診断されると、「何を食べたら良いの?」「献立をどう考えれば良いの?」と戸惑う方も多いでしょう。 腎症は腎機能の低下が進むと、やがて透析が必要になるリスクがあります。しかし、早い段階から食事を管理することで進行を抑え、腎臓を守ることが可能です。 本記事では、糖尿病性腎症のリスクを理解した上で「なぜ食事療法が必要なのか」、そして「具体的に何をどう食べれば良いのか」まで、わかりやすく解説します。 日々の献立作りのコツや外食・コンビニを利用する際の工夫も紹介します。今日から実践できる食事管理のポイントをぜひ参考にしてください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 糖尿病性腎症について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 糖尿病性腎症の食事の具体的な献立例 糖尿病性腎症では、たんぱく質や塩分を控えつつ栄養バランスを整えることが大切です。 ここから、朝食、昼食、夕食それぞれの具体的な献立例とレシピをご紹介します。 朝食の献立例 メニュー 材料 ごはん ・低たんぱくごはん1/25 180g(1パック) みそ汁(麩・ねぎ) ・みそ 10g ・だし汁 130cc ・麩 2g ・ねぎ 25g かんぴょうの炒め煮 ・かんぴょう 5g ・にんじん 20g ・ごま油 3g ・砂糖 3g ・しょうゆ 4g ・だし汁 30cc くだもの(オレンジ) ・オレンジ 50g(1/3個) 味付のり・紅茶 ・紅茶 1パック+粉飴40g ・味付のり 2g(1袋) (文献1) このメニューの栄養は、586kcal、たんぱく質18.8g、塩分2.0gでした。(文献1) 昼食の献立例 メニュー 材料 ごはん ・低たんぱくごはん1/10 180g(1パック) チキンカツ ・鶏もも皮なし 70g ・こしょう 少々 ・小麦粉 3g ・生パン粉 10g ・油 9g ・キャベツ 20g ・レモン 10g ・パセリ 2g ・ソース 5cc 海草サラダ ・サラダ用海草 25g ・きゅうり 20g ・ミニトマト 1個 ・ドレッシング 10g さやえんどうの和風ソテー ・さやえんどう 20g ・エリンギ 30g ・生しいたけ 10g ・油 3g ・塩 0.3g ・こしょう 少々 ・しょうゆ 2g (文献1) チキンカツの作り方は以下のとおりです。 鶏肉を観音開きにし、こしょうを振って下味をつける。 小麦粉を水で溶いた衣をくぐらせ、次にパン粉をまぶす。 油でカラリと揚げたら、皿に千切りキャベツを添えて盛り付ける。 仕上げにレモンとパセリを飾る。 このメニューの栄養は、586kcal、たんぱく質18.8g、塩分2.0gでした。(文献1) 夕食の献立例 メニュー 材料 ごはん ・低たんぱくごはん1/10 180g(1パック) さわらの照焼 ・さわら 40g ・しょうゆ 2g ・みりん 3g ・料理酒 1g ・油 1g ・しその葉 1g(1枚) ・甘酢生姜漬 10g かぼちゃの含め煮 ・かぼちゃ 60g ・生しいたけ 20g(1枚) ・砂糖 3g ・みりん 3g ・しょうゆ 3g ・だし汁 20cc マヨネーズ和え(もやし・にんじん) ・もやし 50g ・にんじん 10g ・マヨネーズ 15g ・しょうゆ 3g ・からし 少々 マクトン入り胡麻豆腐 ・マクトンゼロパウダー 20g ・黒すりごま 1.5g ・水 50cc ・粉寒天 0.4g(1/10袋) ・生姜 2g ・しょうゆ 3cc (文献1) マクトン入り胡麻豆腐の作り方は以下のとおりです。 鍋に水と粉寒天を入れて混ぜながら加熱し、寒天をしっかり溶かす。 寒天が完全に溶けたら、さらに2~3分ほど煮詰めて火を止める。 火を止めたら、マクトンパウダーと黒すりごまを加え、よく混ぜながら粗熱を取る。 粗熱が取れたタイミングで型に流し入れ、冷蔵庫で冷やし固める(熱いままだと層が分かれてしまうので注意する)。 型から取り出して器に盛り付け、おろし生姜を添え、しょうゆをかけていただく。 マクトンゼロパウダーは、消化吸収が良く速やかにエネルギーになる粉末油脂です。たんぱく質0gで高エネルギー(100gあたり789kcal)。どんな料理にも手軽に使え、効率的なエネルギー補給に便利です。 このメニューの栄養は、736kcal、たんぱく質12.8g、塩分2.1gでした。(文献1) 糖尿病性腎症は食事管理が重要!献立が必要な理由 糖尿病性腎症の食事療法の最大の目的は、腎不全への進行防止です。 腎臓は血液中の老廃物を排出する重要な役割を担いますが、糖尿病によって徐々にダメージを受け、機能が低下していきます。とくにたんぱく質を多く摂ると腎臓への負担が増えるため、摂取量を適切に制限し、塩分やエネルギー、カリウム、リンなども管理していかなければなりません。 食事管理を怠ると腎症が進行し、最終的には透析治療が必要になる可能性もあります。食事療法は患者様の腎症の進行度や年齢、体格、合併症の有無などによって内容が変わるため、自己判断で行うのは危険です。 医師や管理栄養士と相談しながら個別に献立を立てると、無理なく続けられ、腎機能をできるだけ長く保てます。 糖尿病性腎症の食事療法・献立のポイント 糖尿病性腎症の食事管理は、腎機能を守り進行を遅らせるための大切な治療のひとつです。 以下に、献立を考える上で知っておきたい栄養管理のポイントを解説します。 1日のエネルギー量の目安 糖尿病性腎症の食事療法では、過剰な栄養不足や肥満を防ぐために適正なエネルギー摂取が大切です。 目安は「標準体重1kgあたり約35kcal」ですが、年齢や活動量によって28〜40kcal程度と幅があります。(文献1) エネルギーが不足すると体内のたんぱく質が分解されて腎臓に負担をかける恐れがあるため、十分に確保することが重要です。 糖尿病の血糖管理を両立させるためにも、炭水化物や脂質の質と量を調整しながら、主食・主菜・副菜をバランスよく組み合わせる工夫が必要です。 たんぱく質を制限する 腎臓の負担を減らすため、たんぱく質は「標準体重1kgあたり0.6~0.8g」に制限されるのが一般的です。(文献1) 制限量は、尿たんぱくの排泄量や血清クレアチニン値など腎症の進行度、栄養状態によって変わります。過剰なたんぱく質摂取は腎臓を酷使し、腎機能悪化を早めるリスクがあるため、食材の種類や量を慎重に選ぶ必要があります。 ただし過度な制限は栄養不良を招く恐れがあるため、低たんぱくごはんなどの特殊食品を利用したり調理法を工夫したり、美味しく無理なく続けられることが大切です。 医師や管理栄養士と連携して、自分に合った目標量を決めましょう。 塩分を制限する 高血圧や浮腫を予防・改善するために塩分制限は欠かせません。目標は1日6~7g未満ですが、高血圧やむくみが強い場合は5g以下に制限されることもあります。(文献1) 塩分の摂りすぎは血圧を上げ、腎臓の血管を痛め、病気の進行を加速させる原因になります。 以下は塩分制限のポイントです。 減塩調味料の活用 だしや香辛料、酢などを使って風味を工夫する 外食や加工食品は塩分が多いため、成分表示を確認して選ぶ 毎日の食事を楽しみながら、無理なく続けることが大切です。 水分・カリウム・リンの摂り方 腎症が進行すると、水分やカリウム、リンの制限が必要になる場合があります。 水分はむくみや尿量を考慮して調整し、心不全の予防や血圧管理にもつながります。 カリウムは高くなりすぎると不整脈などの危険があるため、野菜や果物の種類や調理法(ゆでこぼしなど)で含有量を減らす工夫が必要です。 リンは骨からカルシウムを奪い骨粗しょう症を招くリスクがあるため、乳製品や加工食品などリンが多い食品の量を調整します。 必ず医師や管理栄養士と相談し、体調に合った食事を心がけましょう。 糖尿病性腎症に適した食材選びと調理の工夫 糖尿病性腎症の食事療法では、たんぱく質や塩分を抑えつつ満足感を得られる工夫が欠かせません。 治療用の低たんぱくごはんや調味料などを上手に取り入れると、制限内でエネルギーをしっかり確保できます。少ないたんぱく質を多く見せるために、薄切りやみじん切りにしてかさを増やしたり、味付けや盛り付けを工夫したりすることも大切です。 3食のうち1食はおかずがなくても食べられるメニューを用意し、たんぱく質量を調整する方法も有効です。 家族と同じ献立でも主菜を減らし副菜を増やすなど、うまく調整して無理なく続けることで腎機能を長く守りましょう。 外食・コンビニ・宅配弁当の選び方 糖尿病性腎症の食事療法では、自炊が理想ですが、忙しい日常では外食やコンビニ、宅配弁当を利用する機会も少なくありません。 ここからは、腎臓への負担を抑えつつ上手に選ぶコツを紹介します。 外食時の注意点 外食では塩分やたんぱく質が多くなりがちなので、自分で調節する意識が大切です。醤油やタレ、ドレッシングは別添えでもらい、使う量を減らすなどの工夫をしましょう。 カリウムやリンが多い食材を避けるため、サラダのドレッシング、乳製品、加工食品などにも注意が必要です。 主菜は肉より魚を選ぶと脂質やリンを抑えられ、腎臓への負担軽減につながります。麺類や丼ものは汁を残す、単品ではなく定食を選び副菜を増やすなど、組み合わせ方の意識も大切です。 栄養成分表示があるお店では、たんぱく質や塩分量を確認しながらメニューを決める習慣をつけ、外食を楽しみながら食事療法を続けましょう。 コンビニ利用のコツ コンビニ食でも栄養バランスの意識が大切です。おにぎりだけ、菓子パンだけなど主食に偏らず、主菜・副菜を組み合わせて選びましょう。 サラダや煮物、焼き魚、ゆで卵などをプラスしてたんぱく質量を調整し、塩分やリンを抑えます。サンドイッチやおにぎり、ハンバーガーなどは中身の具材をチェックし、ハムやチーズなどリンや塩分が多いものは控えめにします。 以下の項目は注意するポイントです。 減塩表示の商品を選ぶ 飲み物は無糖のお茶や水を選ぶ 成分表示を確認してエネルギーやたんぱく質量を把握する 管理栄養士と相談しながら自分に合った選び方を身につけましょう。 宅配弁当や冷凍食の利用 自炊が難しい日や忙しいときには、腎臓病食や糖尿病食に対応した宅配弁当や冷凍食品を上手に活用するのもおすすめです。 塩分、たんぱく質、糖質などがあらかじめ管理されており、栄養バランスを整えやすいのが魅力です。自分で計算する負担を減らしつつ、適切な制限を守れるため、食事療法を無理なく続けられます。 最近はメニューの種類も豊富で、飽きずに続けられる工夫がされています。定期配送や単品購入などサービス形態も多様なので、生活スタイルや体調に合わせて選びましょう。 糖尿病性腎症には再生医療の選択肢 糖尿病性腎症に対しては、自分の脂肪から採取・培養した幹細胞を体内に投与する「再生医療」も新たな治療選択肢の一つです。患者様自身の細胞を使用するため、拒絶反応のリスクが低いのが特徴です。 しかし、糖尿病性腎症の進行を抑えるには、何よりも血糖管理が欠かせません。食事療法や薬物療法と組み合わせることで、より総合的な治療が可能になります。 将来の腎不全や透析を避けるために、再生医療についても検討してみましょう。詳しい内容は、以下をご覧ください。 糖尿病性腎症の食事の献立はできることから始めよう 糖尿病性腎症の食事療法は、腎臓を守り進行を遅らせるために自分で取り組める治療法です。 しかし「完璧にやらなければ」と思いすぎるとストレスになり、続けるのが難しくなります。減塩や主菜の量を調整するなど、できることから少しずつ始めましょう。 治療用食品を活用したり、家族と同じメニューを工夫するなど、日常生活に取り入れやすい方法の選択も大切です。頑張りすぎず、続けやすい工夫を取り入れながら、医師や管理栄養士と相談し、自分に合ったペースで無理なく進めることが腎機能を長く守るポイントです。 食事管理とともに再生医療による治療をご検討の際は、ぜひ当クリニックにご相談ください。あなたに合ったサポートをご提案します。 糖尿病性腎症の食事の献立におけるよくある質問 果物は食べて良いですか? 果物はビタミンや食物繊維が豊富ですが、糖分を多く含むたみ血糖値が上がりやすいため、食べすぎには注意が必要です。腎症が進行すると、果物に多く含まれるカリウムを制限する必要が出てくる場合もあります。 缶詰の果物を利用する場合はシロップをしっかり切るなどの工夫も大切です。自分に適した量や種類は、医師や管理栄養士と相談しながら確認してください。 たんぱく質を減らすと栄養不足になりませんか? たんぱく質の制限は腎臓への負担を減らす大切な治療法です。しかし過度な制限で栄養不足にならないよう、代わりに十分なエネルギーを確保して筋肉量を維持することが重要です。 低たんぱくごはんや治療用食品を活用し、主食・副菜の組み合わせを工夫するとバランスを整えられます。管理栄養士の指導を受けながら取り組みましょう。 人工甘味料は大丈夫ですか? 一般に認可されている人工甘味料は安全性が確認されており、血糖値を上げにくいため糖尿病患者様でも上手に活用できます。飲み物やデザートに取り入れれば、甘みを楽しみながら血糖管理をしやすくなります。 ただし、商品によって甘味料の種類や量が異なるため、気になる場合は医師や管理栄養士に相談しましょう。 参考文献 文献1 栄養部|茨城県厚生連 JAとりで総合医療センター
2025.07.30 -
- 糖尿病
- 内科疾患
糖尿病性神経障害は、足のしびれや痛み、感覚低下などを引き起こし、進行すると潰瘍や切断といった重大な合併症を招く恐れがあります。 しかし、早期発見と適切な治療によって進行を抑え、生活の質を守ることが可能です。 本記事では、糖尿病性神経障害の原因や症状、治療法までをわかりやすく解説します。気になる症状がある方はぜひ参考にしてください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 糖尿病性神経障害について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 糖尿病性神経障害とは?早期治療が必要な疾患 糖尿病性神経障害とは、高血糖状態が長期間続くことで神経が障害を受ける、糖尿病の代表的な合併症の一つです。以下のような障害があります。 感覚障害 しびれ、痛み、感覚鈍麻 運動障害 筋力低下、歩行障害 自律神経障害 立ちくらみ、発汗異常、胃腸運動の乱れ 糖尿病性神経障害には3つの障害があり、左右対称性に足先から進行するのが特徴です。 原因としては、高血糖によりソルビトールといった物質が神経内に蓄積し、神経のむくみや血流障害を引き起こすことが挙げられます。 進行性の疾患であり、放置すると重度の感覚障害や潰瘍、壊疽(えそ:組織の死滅)のリスクが高まるため、早期の診断と治療が重要です。 糖尿病性神経障害の早期治療が必要な理由 糖尿病性神経障害は進行性で、放置すると深刻な合併症を引き起こす危険があります。 早期に診断し治療を始めることで、合併症を予防し、生活の質を守ることが大切です。 合併症のリスクがある 糖尿病性神経障害が進行すると、感覚が鈍くなり小さな傷にも気づきにくく、足潰瘍や感染、壊疽を引き起こすことがあります。 進行後は治りにくく、最終的に切断を余儀なくされる深刻なケースも少なくありません。 自律神経障害による起立性低血圧は、ふらつきやめまいを生じ、転倒による骨折や頭部外傷など高齢者ではとくに危険です。心拍数や血圧を調節する自律神経が障害されると、不整脈や血圧変動が起こり、心臓突然死のリスクも増加します。 合併症のリスクを防ぐためには、神経障害を早期に発見し、適切な治療と管理を行うことが重要です。 患者様自身も日常的な足の観察やセルフケアを心がけることが大切です。 症状の進行を抑えられる 糖尿病性神経障害の進行を抑える最大のポイントは、血糖値の適切な管理です。 高血糖状態が長期間続くと神経へのダメージが進行し、症状が悪化してしまいます。しかし、食事療法、運動療法、薬物療法などで血糖をコントロールし続けることで、神経障害の進行を遅らせたり軽減したりできる可能性があります。 痛みやしびれなどの症状に対する治療薬の使用、生活習慣の改善、足のケア指導などを組み合わせると、患者様のQOL(生活の質)を守れます。 早期に医療機関を受診し、医師や看護師、栄養士などの専門チームと連携した治療が必要です。 糖尿病性神経障害の治療法 糖尿病性神経障害の治療は、血糖管理を基本に痛みの軽減や機能維持を目指す多角的なアプローチが必要です。治療法には、以下の5つがあります。 薬物療法 脊髄(脳)刺激療法 フットケア リハビリテーション 再生医療 患者様一人ひとりに合わせた治療計画を立てることが大切です。 薬物療法 糖尿病性神経障害に伴う痛みの軽減や生活の質の改善を目的に、薬物療法が広く行われます。痛みの程度や体の状態に合わせて薬剤を使い分け、症状を緩和します。 以下のような薬剤が用いられる場合が多いです。 薬の種類 薬剤の例 オピオイド トラマドール、オキシコドンなど Ca²⁺チャネルα2δリガンド リリカ(プレガバリン)、タリージェ(ミロガバリン)など 抗けいれん薬 ガバペンチンなど 抗うつ薬 デュロキセチン、アミトリプチリンなど 痛みの軽減が目標ですが、対症療法として神経ブロックやリハビリテーションの組み合わせも有効です。患者様の症状や副作用のリスクを考慮しながら、医師が最適な治療法を提案します。 脊髄(脳)刺激療法 脊髄(脳)刺激療法は、電気刺激によって痛みの神経伝達を調整する先進的な治療法です。手術で脊髄近くに電極を留置し、刺激装置で電流を流すことで痛みを抑えます。慢性的な神経障害性疼痛が薬や神経ブロックで十分改善しない場合に検討される選択肢です。 脊髄(脳)刺激療法は、神経障害性疼痛の重症例に対し有効性が認められており、生活の質を大きく向上させる可能性があります。試験刺激を行い効果を確認した上で、本格的に装置を植え込むか判断します。 費用や適応条件も含め、医師と慎重に相談しながら治療計画を立てましょう。 フットケア 糖尿病性神経障害では、感覚低下により足の小さな傷や感染に気づきにくくなります。毎日欠かさず足を観察し、赤みや水疱、水虫、爪の変形がないか確認します。靴はサイズが合った通気性の良いものを選び、インソールで足の負担を軽減するのが効果的です。 皮膚を清潔に保つ、乾燥を防ぐ保湿をするなど、セルフケアを続けると重症化を防げます。もし異常を見つけた場合は、早めに受診し適切な処置を受けてください。定期的に専門的なフットケアを受けることも有効です。 神経障害が進むと治りにくい潰瘍や感染につながるため、早期対応と予防の徹底が何より重要です。 リハビリテーション リハビリテーションは、糖尿病性神経障害による筋力低下や転倒リスクを軽減し、日常生活を安全に送るために欠かせません。 有酸素運動や筋力トレーニングを行うと、血流や代謝を改善し、神経機能が維持されます。また、バランス訓練やストレッチは柔軟性を保ち、ふらつきを防ぐ効果があります。 普段から「こまめに動く」ことを意識し、座りっぱなしを避ける意識を持ちましょう。理学療法士による個別指導で、自分に合った安全で無理のない運動プログラムを組めます。 運動療法を続ければ、体力や活動量を維持しながら、痛みやしびれの軽減にもつながります。定期的に評価を受け、運動メニューを見直しながら継続しましょう。 再生医療 再生医療は、患者様自身の脂肪から取り出した幹細胞を培養・増殖させて体に戻す治療法です。 幹細胞には、分化能という他の細胞に変化する能力があります。この能力を生かして、糖尿病に対する治療では点滴で幹細胞を投与し、血管やインシュリンを分泌する膵臓(すいぞう)に幹細胞を届けます。 ただし、幹細胞治療を行っても血糖管理が不十分では十分な効果は得られません。治療の中心はあくまで血糖コントロールであり、その上で再生医療を選択肢の一つとして検討します。 糖尿病に対する再生医療について詳細は以下もご覧ください。 糖尿病性神経障害の受診のタイミング 糖尿病性神経障害は進行性で、早期発見と治療が重要です。症状が軽いうちから受診することで、重症化や合併症を防げます。 以下のような症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。 足先や手先のしびれ、チクチクする痛み 感覚が鈍くなる、熱さや痛みを感じにくい 夜間や安静時に痛みが増す 足の皮膚の変化(赤黒い色、乾燥、ひび割れ、潰瘍) 立ちくらみ、めまい(起立性低血圧) 胃もたれ、下痢や便秘、排尿障害など自律神経の症状 傷や潰瘍が治りにくい、感染を繰り返す このような症状は神経障害の進行を示すサインです。痛みがなくても神経はダメージを受けていることがあります。 小さな変化を見逃さず、早めに専門医に相談し、適切な治療を始めてください。 糖尿病性神経障害だと思ったら早期に受診しよう しびれや痛みは神経障害の初期サインであり、早期発見が病状の進行を抑えるポイントです。 糖尿病の方は自覚症状がなくても神経にダメージが進行している場合があるため注意が必要です。 「こんな症状で受診して良いのかな」と迷わずに、気になる変化があれば早めに医療機関へ相談しましょう。 専門医による診断と適切な治療を受けると、進行を抑え、将来的な足潰瘍や感染、壊疽、切断など深刻な合併症を予防できます。 日常生活での足のセルフチェックや血糖管理も大切で、患者様自身の意識と取り組みが予防につながります。 糖尿病性神経障害は放置せず、医師と一緒に取り組むことが重要です。なかなか良くならずにお悩みの方も、お気軽にお問い合わせください。 糖尿病性神経障害の治療に関してよくある質問 しびれだけで痛みがない場合も治療すべきですか? しびれだけでも進行を抑えるために早期に医療機関を受診し、血糖コントロールや生活習慣の見直し、医師の指導を受けることが大切です。 しびれは神経障害の初期サインで、痛みがなくても進行している可能性があります。 感覚が鈍くなることで小さな傷ややけど、靴擦れなどに気づかず、感染や潰瘍、最悪の場合は壊疽や切断につながるリスクも高まり危険です。痛みがないからといって放置してしまうと、症状は徐々に進行し、取り返しがつかない状態になることもあります。 自覚症状が軽いうちからの治療が、将来的な重症化や合併症を防ぐポイントです。 神経は再生しますか? 糖尿病性神経障害によって傷ついた神経を完全に元通りに再生させることは、現在の医療では非常に難しいです。ただし、血糖コントロールを適切に行うことで新たな神経ダメージを防ぎ、進行を抑えられます。 しびれや痛みなどの症状を緩和する薬物療法、生活指導、リハビリなどを組み合わせた包括的な治療によって、日常生活への支障を減らし、生活の質を保てます。 早期発見と治療継続が、神経障害の進行を防ぎ、患者様が安心して暮らすためには必要です。 何科を受診すれば良いですか? 糖尿病性神経障害が疑われる場合、「こんなことで受診して良いのかな」と遠慮せずに、まずはかかりつけ医に相談が大切です。 専門的な診療を受けたい場合は、内科、糖尿病内科、内分泌代謝科などが基本で、血糖コントロールや神経障害の程度、合併症リスクを総合的に評価してくれます。 早期に専門医を受診すれば、適切な治療計画を立て、進行を抑えられます。当院でも糖尿病性神経障害に関するご相談を受け付けていますので、しびれや痛みなど少しでも気になる症状があれば、お気軽にお問い合わせください。 糖尿病の神経障害は治らない? 糖尿病性神経障害は進行性の病気で、完全に治すことは難しいとされていますが、初期の段階であれば血糖値を厳格にコントロールすると症状の改善や進行抑制が可能です。 血糖管理を中心に、しびれや痛みを和らげる薬物療法、生活習慣の見直し、リハビリテーションなどを組み合わせた包括的な治療を続けると、合併症リスクを減らし、日常生活の質を維持できます。 放置せずに早期に治療を開始し、医師と一緒に継続的に管理していきましょう。
2025.07.30 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
「健康診断で脂質異常症を指摘されたけれど、とくに症状もないし……」 「最近、手足がしびれることがある。もしかして何かの病気と関係があるのかな?」 このように、健康診断の結果や気になっている手足のしびれに関して、不安に思われている方もいらっしゃることでしょう。 実は、脂質異常症そのものが直接「しびれ」を引き起こすことは、あまりありません。 しかし、だからといって安心はできません。 脂質異常症を放置していると、動脈硬化や糖尿病といった深刻な病気につながり、それが原因でしびれが現れることがあるのです。 本記事では、脂質異常症がどのようにして手足のしびれに関わるのか、そのメカニズムを専門医が詳しく解説します。 あわせて、ご自身でできる生活習慣の改善方法についてもご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。 脂質異常症が関連する「しびれ」のお悩みを今すぐ解消したい・再生医療に興味がある方は、当院「リペアセルクリニック」の電話相談までお問い合わせください。 脂質異常症でしびれる?基礎知識から症状まで専門医が解説 脂質異常症と診断されても、多くの場合、自覚症状がないため軽く考えてしまうかもしれません。 しかし、この病気は静かに進行し、重大な合併症を引き起こす可能性があります。 まずは脂質異常症とはどのような病気なのか、そしてなぜ「しびれ」と結びつけて考えられがちなのか、基本的な知識から確認していきましょう。 脂質異常症の定義と種類 脂質異常症とは、血液の中に含まれる脂質、具体的には「悪玉」と呼ばれるLDLコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が基準値より多い状態や、「善玉」と呼ばれるHDLコレステロールが基準値より少ない状態を指します。 血液中の脂質は、細胞膜やホルモンの材料になるなど、体にとって不可欠なものですが、そのバランスが崩れることが問題なのです。 主な種類は以下の3つのタイプに分けられます。(文献1) 脂質異常症のタイプ 説明 高LDLコレステロール血症 「悪玉」コレステロールが多い状態。増えすぎると血管の壁にたまり、動脈硬化の原因になります。 低HDLコレステロール血症 「善玉」コレステロールが少ない状態。善玉コレステロールは余分なコレステロールを回収する働きがあるため、少ないと動脈硬化が進みやすくなります。 高トリグリセライド血症 中性脂肪が多い状態。これも動脈硬化の要因となるほか、急性膵炎のリスクを高めることがあります。 これらの診断基準となる具体的な数値は、健康診断の結果などで確認できます。 ご自身の数値を把握し、どのタイプに当てはまるかを知ることが大切です。 なぜ「しびれ」が直接的な症状ではないのか? 「脂質異常症が原因で手足がしびれる」と考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、結論からいうと、脂質異常症そのものが神経に直接作用して「しびれ」を引き起こすことは、ほとんどありません。 では、なぜ「しびれ」と脂質異常症が結びつけて考えられるのでしょうか。 その背景には、脂質異常症が引き起こす動脈硬化が大きく関係しています。 動脈硬化によって血管が硬く、狭くなると、手足の末端まで十分な血液が届きにくくなります。 この血流の悪化が、結果として神経に栄養や酸素を十分に供給できなくなり、しびれが感じられることがあるのです。 つまり、「脂質異常症→動脈硬化→血流障害→しびれ」という流れで症状が現れることはありますが、「脂質異常症 → しびれ」という直接的な関係ではないことを理解することが重要です。 そのため、「しびれ」を感じる場合、その裏には単なる血行不良だけでなく、脂質異常症がもたらす血管の深刻な変化が隠れている可能性を考える必要があります。 脂質異常症の一般的な自覚症状 脂質異常症が「サイレントキラー(静かなる殺し屋)」と呼ばれる最大の理由は、病気がかなり進行するまで、ほとんど自覚できる症状が現れない点にあります。 痛みやかゆみ、倦怠感のようなわかりやすいサインがないため、健康診断で数値を指摘されても、つい放置してしまいがちです。 しかし、症状がないからといって、体の中で問題が起きていないわけではありません。 水面下で動脈硬化が静かに進行し、ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気を引き起こすリスクをはらんでいます。 まれに、脂質異常症が重症化した場合や、遺伝的な要因が強い家族性高コレステロール血症などでは、特徴的な身体的サインが現れることがあります。 黄色腫(おうしょくしゅ): コレステロールが皮膚の下にたまってできる、黄色いできものや膨らみです。目のまぶたや、肘、膝、お尻などに見られることがあります。 アキレス腱黄色腫(けんおうしょくしゅ): アキレス腱が太く、硬くなります。これもコレステロールが沈着することによって起こります。 これらの症状は、脂質異常症がかなり進行しているサインかもしれません。 しかし、このような症状が現れる前に、定期的な健康診断で血液の数値をチェックし、異常があれば早期に対策を始めることがなによりも重要です。 脂質異常症がしびれの症状を引き起こすメカニズム 脂質異常症自体がしびれの原因になることは稀ですが、放置すると引き起こされるさまざまな合併症が、間接的に「しびれ」の症状をもたらすことがあります。 ここでは、その代表的なメカニズムを3つの観点から詳しく解説します。 動脈硬化による血流障害としびれの関係 糖尿病性神経障害としびれの関係 その他の合併症としびれの関係 ご自身の「しびれ」が、どのような体の変化によって起きているのかを理解する手がかりにしてください。 動脈硬化による血流障害としびれの関係 脂質異常症の最も深刻な影響の一つが、動脈硬化を促進してしまうことです。 動脈硬化とは、血管が弾力性を失い、硬く、もろくなってしまう状態を指します。 血液中に増えすぎた悪玉コレステロール(LDL)は、血管の内壁に入り込んで酸化され、プラークと呼ばれるお粥のような塊を形成します。 このプラークが血管の内側を狭くし、血液の流れを妨げるのです。 とくに、手や足の先にあるような細い血管(末梢血管)では、この影響が顕著に現れます。 動脈硬化によって血流が悪くなると、末梢の神経細胞に必要な酸素や栄養が十分に行き渡らなくなります。 その結果、神経が正常に機能できなくなり、「ジンジンする」「ピリピリする」といった「しびれ」や、足先が冷たく感じるといった症状が現れます。 さらに動脈硬化が進行すると、閉塞性動脈硬化症(ASO)という病気に至ることもあります。 この病気では、歩くと足が痛くなり、休むと楽になる特徴的な症状(間歇性跛行)が現れ、重症化すると足の組織が壊死してしまう危険性もあります。 糖尿病性神経障害としびれの関係 脂質異常症と糖尿病は、生活習慣の乱れという共通の土台を持つため、非常に密接な関係にあり、併発しやすいことが知られています。(文献2) 脂質異常症を放置していると、インスリンの働きが悪くなるインスリン抵抗性という状態を引き起こし、糖尿病の発症リスクを高める可能性があります。 そして、糖尿病の三大合併症の一つとして知られるのが糖尿病性神経障害です。 これは、糖尿病による高血糖の状態が長く続くことで、全身の神経、とくに手足の末梢神経がダメージを受ける病気です。 高血糖は、以下の2つのメカニズムで神経障害を引き起こし、しびれの原因となります。 神経細胞への直接的なダメージ:血液中の過剰な糖が、神経細胞内で代謝される過程でソルビトールという物質に変わり、これが神経細胞内に蓄積して神経の働きを妨げます。 神経への血流障害:高血糖は、神経に栄養を送る細い血管の動脈硬化も促進します。これにより血流が悪化し、神経細胞が酸欠・栄養不足に陥り、機能が低下します。 この糖尿病性神経障害によるしびれは、多くの場合、足の裏や指先から始まり、徐々に体の中心に向かって広がっていく特徴があります。 その他の合併症としびれの関係 動脈硬化や糖尿病のほかにも、脂質異常症が関与すると、しびれを引き起こす可能性のある病気が存在します。 例えば、甲状腺機能低下症もその一つです。 甲状腺ホルモンは全身の代謝をコントロールする重要なホルモンですが、このホルモンの分泌が低下すると、脂質代謝にも異常が生じ、脂質異常症を悪化させることがあります。 同時に、甲状腺機能低下症では、体のむくみ(粘液水腫)が神経を圧迫したり、神経そのものの働きが鈍くなることで、しびれや感覚の低下といった症状が現れることがあります。 また、肝臓は脂質代謝の中心的な役割を担う臓器です。 そのため、脂肪肝や肝硬変など、肝機能に障害が生じると脂質異常症を招きやすくなります。 肝機能の低下が進行すると、体内の毒素が十分に処理されなくなり、神経に悪影響を及ぼしてしびれを感じることもあります。 このように、脂質異常症は単独の問題ではなく、体のさまざまな機能と関連しあっています。 そのためしびれの症状がある場合は、こうした他の病気が隠れていないか多角的に原因を探ることが大切です。 脂質異常症改善のための生活習慣の見直しと実践方法 脂質異常症の治療の基本は生活習慣の改善です。 日々の少しの心がけが、血液中の脂質のバランスを整え、将来の大きな病気を防ぐことにつながります。 ここでは、すぐに始められる実践的な方法を3つの柱に分けてご紹介します。 食生活の改善ポイント 効果的な運動習慣の取り入れ方 禁煙・節酒の重要性 忙しい毎日の中でも無理なく続けられるヒントを見つけて、健康な体を取り戻しましょう。 食生活の改善ポイント 脂質異常症を改善するための第一歩は、毎日の食事を見直すことです。 とくに意識したいのは、摂取する「油の種類」と「食物繊維」です。 まず、「控えるべき油」と「積極的に摂りたい油」を知りましょう。(文献3) 油の種類 解説 控えるべき油 飽和脂肪酸:肉の脂身、バター、ラード、生クリームなどに多く含まれます。悪玉コレステロール(LDL)を増やす原因。 トランス脂肪酸:マーガリン、ショートニングなどを使用するお菓子やパン、揚げ物などに含まれます。悪玉コレステロールを増やし、善玉コレステロール(HDL)を減らす原因。 積極的に摂りたい油 不飽和脂肪酸:青魚(サバ、イワシ、アジなど)に含まれるEPAやDHA、オリーブオイルやナッツ類に含まれるオレイン酸などが代表的です。これらは中性脂肪を減らしたり、悪玉コレステロールを減らしたりする働きが期待できます。 次に、コレステロールの吸収を穏やかにする「食物繊維」を十分に摂ることが大切です。 食物繊維 解説 水溶性食物繊維 海藻、きのこ、こんにゃく、大麦などに豊富です。腸内でコレステロールの吸収を妨げる働きがあります。 不溶性食物繊維 野菜、豆類、きのこ類に多く含まれます。便通を促し、腸内環境を整えます。 まずは、食事の最初に野菜や海藻のサラダ、きのこのスープなどを一品加えることから始めてみてはいかがでしょうか。 効果的な運動習慣の取り入れ方 食事改善と並行した定期的な運動は、脂質異常症の改善に効果的です。中性脂肪を減らし、善玉コレステロール(HDL)を増やす直接的な効果が期待できます。 特に推奨されるのは、ウォーキングや水泳、サイクリングなどの有酸素運動です。 体脂肪をエネルギーとして燃焼し、脂質代謝を改善します。少し汗ばむ強度で1回30分以上が目標です。 まずは階段の利用や一駅分のウォーキングなど、日常で体を動かす機会を増やしましょう。 有酸素運動に筋力トレーニングを組み合わせると、さらに効果が高まります。筋肉量増加により基礎代謝が上がり、エネルギー消費しやすい体質になります。 無理のない範囲で週3回以上が理想です。(文献4) 禁煙・節酒の重要性 食事や運動と同じくらい、あるいはそれ以上に脂質異常症の改善と合併症予防に重要なのが、禁煙と節酒です。(文献5) 禁煙について タバコの有害物質は血管内壁を傷つけ、動脈硬化を促進します。また善玉コレステロール(HDL)を減らし、悪玉コレステロール(LDL)を酸化させて血管壁への蓄積を促します。 脂質異常症患者の喫煙は動脈硬化リスクを著しく高めるため、自力での禁煙が困難な場合は禁煙外来の利用を検討しましょう。 節酒について 過度の飲酒は肝臓での中性脂肪合成を促進し、高トリグリセライド血症の直接の原因となります。 高カロリーなおつまみも脂質異常症を悪化させるため、食べすぎには注意が必要です。 厚生労働省が示す適度な飲酒量は1日あたり純アルコール約20gです。これはビール中瓶1本、日本酒1合、ワイングラス1杯弱に相当します。 飲まない日を設けて、肝臓を休ませるのも大切です。 脂質異常症の症状|しびれへの再生医療のアプローチ 脂質異常症が進行し、動脈硬化によって手足の血流が悪化して「しびれ」などの症状が現れた場合、生活習慣の改善や薬物療法と並行して、新たな治療の選択肢が検討されることがあります。 その一つが「再生医療」という治療法です。 再生医療は、患者様自身の幹細胞や血液を使う治療法で、入院や手術を伴わないのが特徴です。 当院「リペアセルクリニック」では、幹細胞を用いた再生医療を提供しております。 公式LINEでは、再生医療に関する情報発信や簡易オンライン診断を実施しているので、ぜひご登録ください。 脂質異常症の症状でしびれを感じたら医療機関へ 今回は、手足のしびれと脂質異常症の関係について解説しました。 脂質異常症そのものが直接「しびれ」を引き起こすことはまれである一方、放置すると動脈硬化や糖尿病といった合併症につながり、結果として「しびれ」が現れる可能性があります。 このように自覚症状がないまま進行することが多いため、健康診断での数値チェックと、症状が出る前からの生活習慣の改善が非常に重要です。 もし、あなたが健康診断で脂質異常症を指摘されており、かつ手足のしびれにお悩みであれば、それは体からの危険信号かもしれません。 自己判断で放置せず、なるべく早く専門の医療機関を受診して原因を調べてもらいましょう。しびれの症状は、時として重篤な病気のサインである可能性もあります。 なお、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療に関する情報発信や簡易オンライン診断を実施しています。お悩みの症状がある方は、ぜひ一度ご登録ください。 参考文献 (文献1) 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版|日本動脈硬化学会 (文献2) 糖尿病診療ガイドライン2024|日本糖尿病学会 (文献3) 日本人の食事摂取基準2020年版|厚生労働省 (文献4) 健康づくりのための身体活動基準2023|厚生労働省 (文献5) 喫煙・飲酒とHDLコレステロールの関連解析|J-MICC研究
2025.07.30 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
「健康診断で脂質の数値を指摘されたけれど、脂質異常症と高脂血症って何が違うの?」「放っておくとどうなるのか不安」 健康診断の結果を見て、不安を感じた方もいらっしゃることでしょう。 脂質異常症と高脂血症は、よく混同されがちな言葉ですが、近年、医療の現場では「脂質異常症」が正式な病名として使われています。 以前の「高脂血症」よりも対象となる病態が広がったため、名称が変更されました。 脂質異常症は自覚症状がないまま動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳卒中など命に関わる病気を引き起こす可能性があります。 だからこそ、症状がなくても早めに正しい知識を得て対策を始めることが大切です。 本記事では、脂質異常症と高脂血症の違い、原因や基準値、ご自身でできる予防・治療法、そして再生医療までを解説します。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 脂質異常症に関連する「しびれ」などの症状についてお悩みの方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 脂質異常症と高脂血症の違いとは? 「脂質異常症」と「高脂血症」、どちらも血液中の脂質に関する言葉ですが、この二つの違いをご存知でしょうか。 結論、現在では「脂質異常症」が正式な診断名で、「高脂血症」は古い呼び方です。 以前は、血液中のコレステロールや中性脂肪といった脂質が、基準値よりも「高い」状態をまとめて「高脂血症」と呼んでいました。 しかし、研究が進むにつれて、脂質の中でも「HDLコレステロール(善玉コレステロール)」のように、基準値より「低い」ことが体に悪影響を及ぼす脂質があることがわかってきました。(文献1) そこで2007年に日本動脈硬化学会が診断名を変更し、脂質の量が基準値から外れた状態をすべて含める形で「脂質異常症」という名称が使われるようになったのです。 以下の表で、脂質異常症と高脂血症の違いを整理してみましょう。 脂質の種類 脂質異常症 (現在の診断名) 高脂血症(以前の考え方) HDLコレステロール (善玉) 低いことが問題 (基準に含まず) LDLコレステロール (悪玉) 高いことが問題 高いことが問題 トリグリセライド (中性脂肪) 高いことが問題 高いことが問題 このように、高脂血症の悪玉コレステロールや中性脂肪が高い状態に善玉コレステロールが低い状態も含むものを脂質異常症と呼びます。 より広い範囲の異常を捉えるための、より的確な診断名なのです。 脂質異常症(高脂血症)の種類とそれぞれの基準値 脂質異常症は、血液検査によって「どの脂質の数値が基準から外れているか」が確認され、主に3つのタイプに分けられます。 ご自身の健康診断の結果と見比べながら、どのタイプに当てはまる可能性があるのかを確認してみましょう。 ここでは、以下の3つのタイプについて、それぞれの特徴と日本動脈硬化学会が定めている診断基準値を解説していきます。(文献2) 高LDLコレステロール血症 低HDLコレステロール血症 高トリグリセライド(中性脂肪)血症 これらの基準値は、あくまで診断のための目安です。 他の病気(糖尿病や高血圧など)の有無やご家族の病歴などによって、治療を開始すべき目標値は一人ひとり異なりますので、正確な診断については必ず専門医にご相談ください。 高LDLコレステロール血症 高LDLコレステロール血症は、血液中の悪玉コレステロールが基準値よりも多い状態です。 増えすぎたLDLコレステロールは血管の壁に入り込み、動脈硬化を進行させる「プラーク」というコブを形成します。これが心筋梗塞や脳梗塞の直接的な引き金となるため、注意が必要です。 診断基準は、空腹時の採血でLDLコレステロール値が140mg/dL以上とされています。 主な原因としては、肉の脂身やバターといった動物性の脂肪(飽和脂肪酸)の多い食事、運動不足、遺伝的な体質などが挙げられます。 低HDLコレステロール血症 低HDLコレステロール血症は、血管の余分なコレステロールを回収して肝臓に運び戻す善玉コレステロールが基準値よりも少ない状態です。 これが少ないと血管の掃除が行き届かなくなり、動脈硬化が進行しやすくなります。 診断基準となる数値は、空腹時の採血でHDLコレステロール値が40mg/dL未満の場合です。 主な原因には喫煙、運動不足、内臓脂肪型の肥満などが挙げられ、生活習慣の見直しが重要となります。 高トリグリセライド血症(中性脂肪) 高トリグリセライド血症とは、血液中の中性脂肪(トリグリセライド)が基準値よりも多い状態を指します。 中性脂肪はエネルギー源ですが、過剰になると内臓脂肪として蓄積され、動脈硬化を強力に促進します。 診断基準は、空腹時の採血でトリグリセライド値が150mg/dL以上です。 主な原因は、ご飯やパンなどの糖質の多い食事、アルコールの飲み過ぎ、食べ過ぎ、運動不足といった生活習慣にあります。 脂質異常症を放置するリスクとは?動脈硬化と関連疾患 「とくに症状もないし、数値が少し高いだけ」と、脂質異常症を軽視するのは非常に危険です。 この病気は「サイレントキラー」とも呼ばれ、自覚症状がないまま、血管の老化である動脈硬化を静かに進行させます。 動脈硬化とは、血管の壁にコレステロールなどが溜まってプラークを作り、血管を硬く、狭くしてしまう状態です。 このプラークが破れると、そこに血の塊(血栓)ができて血管を完全に塞いでしまい、命に関わる深刻な病気を引き起こすのです。 動脈硬化が原因で起こる代表的な病気には、以下のようなものがあります。 影響を受ける場所 主な病名 心臓 狭心症、心筋梗塞 脳 脳梗塞、脳出血 足の血管 閉塞性動脈硬化症(痛み、しびれ) 腎臓の血管 腎機能の低下 これらの病気は、発症すると生活の質を著しく低下させてしまいます。 健康診断で脂質異常症を指摘されたら、それは体からの重要なサインだと受け止め、早期に対策を始めることが何よりも大切です。 脂質異常症(高脂血症)の治療法 脂質異常症の治療の最終目標は、単に数値を下げることではなく、動脈硬化の進行を食い止め、将来の心筋梗塞や脳卒中といった深刻な病気を予防することにあります。 治療の基本となるのは、病気の根本原因である生活習慣の見直しです。具体的には、以下の3つが治療の柱となります。(文献3) 食事療法 運動療法 薬物療法 まずは食事や運動の改善から始め、それでも数値が十分に改善しない場合や、リスクが非常に高い場合には薬物療法を並行して行います。 どの治療法を選択するかは、患者様一人ひとりの状態に合わせて医師が総合的に判断します。 食事療法|コレステロールを下げる食生活のポイント 脂質異常症の改善において、毎日の食事を見直すことは治療の基本であり、健康な血管を取り戻すための第一歩です。以下のポイントを意識して、できることから始めてみましょう。 【控えるべき食品】 肉の脂身やバターに多い飽和脂肪酸 マーガリンや加工食品に含まれるトランス脂肪酸 ご飯やパン、お菓子などの糖質 アルコール 飽和脂肪酸やトランス脂肪酸は悪玉コレステロールを増やし、糖質やアルコールのとりすぎは中性脂肪の増加につながります。 【積極的に摂りたい食品】 野菜、海藻、きのこ類に含まれる食物繊維 青魚、オリーブオイルなどに含まれる不飽和脂肪酸 食物繊維はコレステロールの吸収を抑え、不飽和脂肪酸は血中の脂質バランスを整えてくれます。 これらのポイントを参考に、まずは1日1食からでも、食生活を見直してみましょう。 運動療法|脂質異常症改善に効果的な運動の種類と方法 食事療法とあわせて行いたいのが、脂質異常症の改善に大きな効果をもたらす運動療法です。運動には、善玉(HDL)コレステロールを増やし、中性脂肪を減らす直接的なメリットがあります。 効果的なのは、ウォーキングや軽いジョギング、水泳といった有酸素運動です。これらの運動を、ややきついと感じるくらいの強度で、1回30分以上、週に3日以上続けることが目標です。 一度に30分が難しければ、10分を3回に分けても構いません。大切なのは無理なく続けることです。一駅手前で歩くなど、生活の中に少しずつ運動を取り入れることから始めてみましょう。(文献5) ただし、心臓や膝に持病のある方は、運動を始める前に必ず医師に相談してください。 薬物療法|脂質を下げる薬の種類と作用 食事療法や運動療法を続けても脂質の数値が目標まで改善しない場合や、心筋梗塞などのリスクが元々高いと判断された場合には、生活習慣の改善とあわせて薬物療法を検討します。(文献4) 薬はあくまで治療の補助であり、自己判断での中断はせず、必ず医師の指示に従いましょう。 脂質異常症の治療に主に使われる薬には、以下の種類があります。 薬の種類 作用の概要 スタチン系薬剤 肝臓でのコレステロール合成を抑える、最も基本的な薬です。 フィブラート系薬剤 肝臓での中性脂肪の合成を抑え、分解を促します。 EPA・DHA製剤 青魚の油の成分で、中性脂肪の合成を穏やかに抑えます。 小腸コレステロールトランスポーター阻害薬(エゼチミブ) 小腸でのコレステロールの吸収を妨げます。 どの薬にも副作用の可能性があります。筋肉の痛みや脱力感、肝機能障害などがみられることもありますので、服用中に気になる症状があれば、速やかに主治医に相談してください。 また、脂質異常症の薬については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、気になる方はご確認ください。 脂質異常症(高脂血症)の予防法|今日からできる生活習慣の改善 脂質異常症は、生活習慣の見直しで予防・改善が可能です。将来の深刻な病気を防ぐため、以下の点を心がけましょう。 予防のポイント 具体的な方法 食生活の改善 食物繊維(野菜・海藻)や青魚を積極的に摂り、肉の脂身や糖分、アルコールは控えることが大切です。 運動習慣と禁煙 ウォーキングなどの有酸素運動を週3日以上続けましょう。また、動脈硬化の大きな原因となる喫煙はやめることが重要です。 定期的な健康診断 自覚症状がない病気のため、年に一度は健康診断で血液の状態を確認し、早期発見に努めましょう。 一つひとつの小さな積み重ねが、10年後、20年後のあなたの健康を守る大きな力となります。今日からできることから、ぜひ始めてみてください。 脂質異常症(高脂血症)は早期発見と継続的な対策が重要 本記事では、脂質異常症と高脂血症の違いから、リスク、治療法、予防法について解説しました。 脂質異常症は、悪玉コレステロールが高い状態だけでなく、善玉コレステロールが低い状態も含む広範囲な異常を指します。 この状態を放置すると、自覚症状がないまま動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中の引き金となりかねません。 脂質異常症は「サイレントキラー」と呼ばれ、症状が出た時には病状が進行している場合が多いため、食事や運動などの生活習慣改善が重要です。 症状がないからと油断せず、年1回は健康診断を受けて数値を把握しましょう。 脂質の異常を指摘されたら、それは体からの重要なサインです。異常を放置せず、早めに専門医を受診し、継続的な対策を始めることが大切です。 参考文献 (文献1) 脂質異常症(高脂血症)|日本医師会 健康の森 (文献2) 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版|日本動脈硬化学会 (文献3) 脂質異常症|厚生労働省 e-ヘルスネット (文献4) 脂質異常症治療のエッセンス|日本医師会編 (文献5) 健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023|厚生労働省
2025.07.30 -
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脂質異常症は、自覚症状がないため、知らず知らずのうちに進行してしまう疾患です。 しかし、そのまま放っておくと動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳梗塞などといった重篤な病気につながる可能性があります。 その一方で「どの薬を選べば良いのか」「副作用が心配」といった声も多く聞かれるのが現状です。 本記事では、脂質異常症の薬物治療について詳しく解説いたします。 薬の種類や効果、副作用のリスク、服用期間、そして薬に頼らない選択肢まで、専門医の視点からお伝えします。 ぜひ記事を最後まで読んで、脂質異常症薬への理解を深めましょう。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 脂質異常症に関連する「しびれ」などの症状についてお悩みの方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 脂質異常症とは?その診断基準と薬の必要性 まず脂質異常症がどのような状態を指すのか、その診断基準について解説します。 そして、なぜ早期の診断と適切な治療が重要なのか、放置した場合のリスクについても詳しくお伝えします。 ご自身の健康状態を正しく理解し、適切な治療につなげるための参考にしてください。 脂質異常症の診断基準について 脂質異常症とは、一定の基準値よりもLDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪が高い、または、HDL(善玉)コレステロールが低い状態です。 脂質異常症の診断では、まず採血による血液検査でLDLコレステロール値とHDLコレステロール値、中性脂肪値の測定から行います。 採血前日は、高脂肪食や高カロリー食を控え、禁酒し、12時間以上の絶食を行った状態の採血が必要です。 これらの値が下記いずれかに該当すると「脂質異常症」と診断されます。(文献1) LDL(悪玉)コレステロール値が140 mg/dL以上の場合 なお、LDLコレステロールが120〜139mg/dLは境界域といわれ、糖尿病や高血圧の合併がある場合は治療が必要となることがあります。 HDL(善玉)コレステロール値が 40 mg/dL未満の場合 中性脂肪が150 mg/dL以上の場合 ただし、単に数値が基準を超えればすぐに投薬するわけではありません。 診断の際には、年齢・性別・既往歴(心筋梗塞や脳卒中の経験)、家族歴(家族性高コレステロール血症の疑い)、喫煙歴、高血圧や糖尿病などの合併症も総合的に評価します。 この基準値に応じて、薬物治療のタイミングや方法が決まるので、ご自身の目標値については、医師にご相談ください。 脂質異常症治療薬の必要性と放置するリスク 脂質異常症は、自覚症状がないため、健康診断などで発見されることが多いです。 治療せずに放置すると、HDLコレステロールの減少やLDLコレステロールの増加により、動脈の壁に脂肪の塊(プラーク)を作ってこびりつき、その結果、動脈硬化になります。 動脈硬化が進行すると、心筋梗塞や狭心症、脳卒中や脳梗塞などの重篤な病気になるリスクが高まります。 脂質異常症の薬について|主要な薬剤の種類 脂質異常症の治療には、主に以下の薬が使われます。 薬剤の種類 主な効果・特徴 スタチン系製剤 血液中のLDLコレステロール値を低下させる 1日1回の経口投与 PCSK9阻害薬 (エボロクマブ) 血液中のLDLコレステロール値を低下させる スタチン系製剤でLDLコレステロール値が十分に低下しない場合や、家族性高コレステロール血症、スタチン不耐の患者に使われる 皮下注射で、通常2週間に1回または1カ月に1回投与 自宅での自己注射が可能 siRNA薬 (インクリシラン) 血液中のLDLコレステロール値を低下させる スタチン系製剤でLDLコレステロール値が十分に低下しない場合や、家族性高コレステロール血症、スタチン不耐の患者に使われる 皮下注射で、通常6カ月に1回投与 医療機関でのみ投与 ベムペド酸 血液中のLDLコレステロール値を低下させる スタチン系製剤で副作用が出たり、LDLコレステロール値の低下が不十分な場合に使われる 1日1回の経口薬 その他の脂質改善薬 エゼチミブ(小腸でのコレステロール吸収を阻害する薬) フィブラート系製剤 EPA製剤 陰イオン交換樹脂 スタチン系製剤 スタチン系製剤は、肝臓でコレステロールが作られる際に働く「HMG-CoA還元酵素」という酵素の働きを阻害し、体内のコレステロール合成を抑えます。 その結果、血液中のLDL(悪玉)コレステロールが減少し、動脈硬化の進行を抑える効果が期待できます。 スタチン系製剤の特徴は、その種類や服用量によってコレステロールを下げる効果の強さが異なることです。 大きく分けて「スタンダードスタチン」と、スタンダードスタチンより作用が強い「ストロングスタチン」の2種類があります。 どの種類や量を使うかは、患者様の検査結果や病気のリスク、副作用の出方などによって、医師が総合的に判断します。 これらのスタチン系製剤の多くは、1日1回の服用が可能な経口薬です。 主な副作用には、以下の症状が挙げられます。 筋肉痛や筋力低下 消化器症状(胃の不快感、吐き気、便秘) 発疹 肝機能障害 少しでも体の異変を感じたら、自己判断で薬の服用を中止せず、速やかに医師に相談してください。 PCSK9阻害薬 PCSK9阻害薬は、スタチン系製剤の服用が難しい場合、スタチン系製剤と併用で検討される薬剤です。 肝臓で作られるPCSK9タンパク質の働きを阻害することで、血管からLDLを肝臓に取り込む受け皿であるLDL受容体を増加させます。この作用によって、血中のLDL(悪玉)コレステロールを下げられます。(文献2) PCSK9阻害薬は、スタチン系製剤では⼗分に LDLコレステロール値が低下しない方や家族性⾼コレステロール⾎症の方、冠動脈疾患、心筋梗塞、脳梗塞などの心血管疾患を経験し、再発予防が必要な方に有効な治療薬です。 日本で現在使用されているPCSK9阻害薬には、エボロクマブ(レパーサ)やアリロクマブ(プラルエント)などがあります。 投与は皮下注射で投与され、通常は2週間に1回、または月に1回の頻度で投与されます。 自宅での自己注射が可能なため、通院の負担を軽減できます。 副作用には、疼痛、紅斑、発疹などの反応を引き起こす可能性があります。副作用が出たら速やかに医師に相談してください。 siRNA薬(インクリシラン) siRNA薬は、肝臓で産生される特定のタンパク質、PCSK9の生成を抑えることでコレステロールを低下させる薬剤です。 siRNA薬はこのPCSK9の数を減らすことで、血液中のLDLコレステロール値を下げる効果を発揮します。 以下のような患者様にsiRNA薬は有効な治療薬とされています。 スタチン系製剤だけではLDLコレステロール値が十分に低下しない方 家族性高コレステロール血症の方 すでに心臓や脳の動脈硬化疾患をお持ちでコレステロール管理が不十分な方 siRNA薬は、皮下注射で投与され、成人には初回に300mgを投与し、その後3カ月に2回目の投与を行います。 それ以降は6カ月ごとに定期的に投与されます。この薬はPCSK9阻害薬と違い、医療機関でのみ投与可能なため、自己管理による投与忘れの心配はありません。 siRNA薬の副作用には、注射した部位に疼痛、紅斑、発疹などの反応を引き起こす可能性があります。 副作用が出た場合は、速やかに医師に相談してください。 ベムペド酸 ベムペド酸は、スタチン系製剤で副作用が出たり、LDLコレステロール値の低下が不十分な場合に処方されることがある薬剤です。 作用としては、肝臓に存在するATPクエン酸リアーゼという酵素を阻害し、コレステロールの合成を抑制します。 この酵素は肝臓に多く存在する酵素で、肝臓のコレステロール合成が減ることで、血中のLDLコレステロールが下がる効果が期待できます。 1日1回の経口薬で、日本では2024年11月26日に大塚製薬が製造販売承認申請を行っており、承認されれば処方される可能性があります。(文献3) ベムペド酸の副作用には、痛風・胆石症の発症率の上昇、血清クレアチニン・尿酸・肝酵素レベルが上昇する可能性があります。 その他の脂質改善薬(エゼチミブ、フィブラート製剤、EPA製剤、陰イオン交換樹脂) 脂質異常症の治療には、これまでにご紹介したスタチン系製剤やPCSK9阻害薬、siRNA薬以外にも、患者様の状態や脂質のタイプに合わせて、様々な薬剤が用いられます。 ここでは、その他の脂質改善薬について、その作用と特徴を解説します。 エゼチミブ(小腸コレステロールトランスポーター阻害剤) エゼチミブは、小腸におけるコレステロールの吸収を阻害します。 その結果、血液中のLDLコレステロールや総コレステロールの濃度が低下する薬で、1日1回の経口服用薬です。 スタチン系製剤を服用できない人の治療にも使用されますが、スタチン併用でLDLコレステロール値を下げることが報告されています。 エゼチミブの主な副作用には、発疹や消化器症状(便秘、下痢、腹痛、腹部膨満、吐き気、嘔吐)などがあります。 このような症状が現れた場合は、医師に相談してください。 フィブラート系製剤 フィブラート系製剤は、中性脂肪を下げる働きがあり、LDLコレステロールを減少させるとともに、HDL(善玉)コレステロールを増やす効果も期待できる薬で、1日1回の経口服用薬です。 スタチン系製剤と併用すると副作用として、筋肉の細胞が破壊される横紋筋融解症などの症状が起こるリスクが高まります。そのため、治療上併用する場合は医師の指導のもとでの服用が重要です。 EPA製剤(イコサペント酸エチル) EPA製剤は、血液中の中性脂肪を低下させ、血行を改善する効果があります。 EPA製剤には、サプリメントとして市販されているものと、高脂血症治療薬として処方される医療用医薬品の2種類ありますが、高脂血症治療薬として処方されるものは医師の診断と処方箋が必要です。 EPA製剤の主な副作用には、発疹や消化器症状(下痢、腹部の不快感、吐き気、嘔吐)などが報告されています。 陰イオン交換樹脂 陰イオン交換樹脂は、腸内で胆汁酸と結合して体外に排出させることで、血中コレステロール値を低下させる効果を持つ薬剤です。 スタチン系製剤が使用できない症例や併用薬として処方されてます。 陰イオン交換樹脂の主な副作用には、発疹や消化器症状(便秘、下痢、食欲不振、吐き気)があります。 飲み合わせや服用時の注意点 脂質異常症薬と他の薬や食品との飲み合わせや、日常生活で気を付けるべき点について解説します。 スタチン系製剤(アトルバスタチンとリピトール)+グレープフルーツジュース グレープフルーツに含まれる成分が薬の分解を妨げ、血中濃度が高くなり、薬の効果が強くなりすぎてしまう可能性があります。(文献4) グレープフルーツジュースの影響は、数日間におよぶこともあるといわれているため、薬を服用している間はグレープフルーツジュースを飲まないように注意しましょう。 同じ柑橘系の果物でも、みかんやオレンジは一緒に食べても影響を与えないと言われています。 スタチン系製剤+フィブラート系製剤 中性脂肪を下げる目的で併用されることがありますが、筋肉障害のリスクがやや高まります。(文献6) クレアチンキナーゼ(CK:筋肉の損傷を示す検査値)測定を定期的に行い、異常があれば片方を減量・中止することもあります。 EPA製剤+抗凝固薬 EPA製剤には血液をサラサラにする作用があり、抗凝固薬(ワルファリンなど)を服用中の方は出血傾向があるので注意が必要です。出血を伴う医療行為(抜歯、外科手術など)を行う場合には医師に相談しましょう。 胆汁酸吸着樹脂と他の経口薬 胆汁酸吸着樹脂は、他の薬剤の吸収を遅延・阻害する可能性があるため、服用時間を2時間以上空ける必要があります。 服用する薬剤の種類や量によっては、さらに時間を長く空ける場合もあるため、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。 脂質異常症の薬は一生飲み続ける?服用期間と中断の可能性 脂質異常症の薬は、多くの場合、長期的に服用を続けることが推奨されます。 しかし、必ずしも一生飲み続けなければならないわけではありません。 服用期間の目安は、患者様お一人おひとりの病状やリスク、生活習慣の改善状況によって異なります。 また、脂質異常症の原因は、家族性高コレステロール血症など遺伝的な要因を除き、食生活の偏りや運動不足、喫煙、アルコールの過剰摂取、他の疾患(糖尿病や肥満など)だといわれています。 治療の基本は生活習慣の見直しであり、薬を服用している間も食事・運動・減量・禁煙といった取り組みが欠かせません。こうした改善が進めば、薬の減量や将来的な服薬中止につながる可能性もあります。 重要なポイントとして、血液検査の結果、コレステロール値が改善しても自己判断で服用を中止しないでください。 事例をあげると、フランスの研究では、75歳以上の高齢者が予防のために服用していたスタチンを中止した場合と、継続した場合で比べると、中止した時の方が心血管イベントによる入院リスクが増加したことがわかっています。(文献5) 脂質異常症の薬に関するお悩み事はためらわずに医師へご相談ください ここまで脂質異常症と薬の治療について紹介しました。 コレステロールの数値や薬について、疑問や不安が生まれるのは当然のことです。 脂質異常症は、放置すると心筋梗塞や脳卒中といった重大な病気につながる可能性があるため、生活習慣の改善が非常に重要です。 一方で、薬による治療も大切です。LDL(悪玉)コレステロールを下げる薬、中性脂肪を下げる薬など、薬によって効果や特徴は異なりますが、医師は患者様を診断し処方する薬を選定します。 飲み合わせによってはさらに悪化する可能性もあるため、事前に医師にどのような薬を服用しているか伝え、副作用が起きるような場合も医師に早く相談しましょう。 脂質異常症の治療は、一人で抱え込むものではありません。 不安を抱えたまま治療を続けるのは精神的な負担にもなりますので、小さなことでもためらわず、医師に相談しましょう。 参考文献 (文献1) 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版|一般社団法人日本動脈硬化学会 (文献2) レパーサ皮下注140 mgペン 添付文書|PMDA (文献3) 高コレステロール血症治療薬「ベムペド酸」製造販売承認申請について|大塚製薬 (文献4) 薬物間相互作用―グレープフルーツジュースとスタチン|日本臨床薬理学会誌 (文献5) Statin discontinuation and cardiovascular events in 75-year-olds|European Heart Journal (文献6) Incidence of hospitalized rhabdomyolysis with statin-fibrate therapy|PubMed
2025.07.30 -
- 肝疾患
- 内科疾患
最近お腹が出てきた、ズボンがきつくなったという悩みの裏に脂肪肝が隠れているかもしれません。 肝臓に脂肪がたまる脂肪肝は、健康診断で初めて異常に気づく人も多く、日本では成人の3人に1人が該当する「国民病」となっています。 近年では食生活の欧米化や、在宅ワークの増加による運動不足によって、さらに発症リスクが高まっています。 この記事では、脂肪肝によってお腹が出るメカニズムをわかりやすく解説し、今日からできる対策や治療法まで、実践的な情報をお届けします。 放置すると肝硬変や肝がんへの進行リスクもある脂肪肝を、正しい知識で予防・改善していきましょう。 脂肪肝でお腹が出る?肥満との関係について 脂肪肝とお腹の出方には密接な関係がありますが、すべての脂肪肝患者にお腹の膨満が見られるわけではありません。 非アルコール性脂肪肝の場合、食べ過ぎや運動不足による肥満が主な原因です。(文献1) 体内の余ったエネルギーが脂肪として肝臓と内臓に蓄積され、結果的にお腹周りが膨らんでいきます。 実際に、全体の肥満者のうち約80%に脂肪肝が合併しているといわれており、非アルコール性脂肪肝と肥満には相関がみられます。 一方、アルコール性脂肪肝では痩せ型の方にも多く見られるため、お腹が出ていないから脂肪肝ではないと思われることも多いですが、脂肪肝が隠れていることがあるため注意が必要です。 見た目が標準体型でも「隠れ脂肪肝」として、肝臓に脂肪が蓄積している可能性があります。 内臓脂肪と肝脂肪の悪循環 余ったカロリーはまず内臓脂肪や肝臓の脂肪として蓄えられやすく、皮下脂肪にも広がります。 肝臓に脂肪が増えると血糖や中性脂肪が上がりやすくなります。これにより、肝臓に脂肪がたまりやすくなる悪循環が始まります。(文献2) 順天堂大学の研究では、非肥満でも脂肪肝があると筋肉の代謝が低下しやすいことを示しました。(文献3) つまり脂肪肝は内臓脂肪とは別に全身の代謝バランスを崩す要因にもなり得ます。 この流れが続くと、基礎代謝(安静時でも消費するエネルギー)が下がり、同じ食事量でも体重が増えやすい体になります。早めの生活習慣改善で悪循環を断ち切ることが重要です。 アルコール性脂肪肝と非アルコール性脂肪肝について 脂肪肝はアルコール性脂肪肝(AFLD)と非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD/MASLD)の2つのタイプに分けられます。 アルコール性脂肪肝(AFLD)は、過度な飲酒が原因で発症します。 長期にわたり男性で1日平均60g、女性で40g以上の純アルコールを摂取すると発症リスクが高まります。 60gはアルコール度数5%のビール500ml缶なら3本分の量です。 お酒を飲むと、肝臓でアルコールを分解する過程で中性脂肪を合成してしまいます。 中性脂肪は体質によっては、血液中に溜まるため体型に出ない方もいます。そのため、比較的痩せ型の方でも発症する特徴があります。 日本人の主要な脂肪肝タイプである非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD/MASLD)になる原因は、「飲み過ぎ」ではなく「食べ過ぎ」です。 国内報告では有病率が男性41%、女性17.7%とされており、近年の食生活の変化やデスクワークの増加により患者数が急増しています。 BMI25以上の肥満の方では、腹囲が増えている場合は非アルコール性脂肪肝の可能性があります。 この病型では内臓脂肪の蓄積と密接に関連しており、腹囲の増大が顕著に現れます。 非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の約80~90%は単純性脂肪肝で、肝硬変や肝がんのような重篤な病気に進行するリスクは低いとされています。 しかし、約10~20%は炎症を伴う非アルコール性脂肪肝炎(NASH)へと進行し、将来的に肝硬変や肝がんのリスクが高まる可能性があります。早めに対策を行いましょう。 脂肪肝でお腹が出たら?食事と運動療法で改善 脂肪肝によるお腹の膨満は、適切な食事療法と運動療法により改善が期待できます。 治療の基本原則は、体重の7〜10%減量を推奨しています。(文献4) 半年で体重の5%程度のペースで進めると肝機能の数値であるAST・ALTが改善しやすいとの報告もありますので、急激な減量は避け、無理のない範囲で行いましょう。(文献5) 脂肪肝でお腹が出る主要因は総カロリー過多ですが、とくに果糖のとり過ぎは肝脂肪を増やしやすいと指摘されています。(文献2) 運動療法では、毎日30分程度の歩行など有酸素運動を中心に行いましょう。 運動時間の目安ですが、週に150 分以上でも効果があるものの、週に250 分運動することで肝脂肪や炎症の一層の改善が報告されています。(文献4) 通勤時の一駅歩く習慣や階段利用などの工夫により、忙しい会社員でも継続可能な運動習慣を身につけられます。 食事での改善ポイント 近年、低糖質食による肝脂肪の改善例も報告されていますが、あくまで基本となるのは食事全体のカロリーと栄養のバランスを整えることです。(文献2) まず主食(白ごはん、パン、麺類)を1割減らすことから始めましょう。代わりに玄米や雑穀米に変更し、野菜や海藻類を増やして食物繊維を確保します。 とくに果糖は肝臓で中性脂肪に変わりやすいため、果物は1日1/2個程度に制限し、清涼飲料水は避けることが大切です。 推奨する食事パターンは以下の通りです。 朝食:必ず摂取し、血糖値の急上昇を防ぐ 昼食:定食スタイルで栄養バランスを重視 夕食:就寝3時間前までに済ませ、軽めに抑える アルコールについては、男性で純アルコール60g/日未満、女性で40g/日未満に制限し、週2日以上の休肝日を設けることが推奨されます。 アルコール性脂肪肝の場合、2-4週間の禁酒で改善効果が現れると報告されています。まずは2週間の禁酒をやってみることをおすすめします。(文献6) 筋トレと有酸素運動の黄金比 有酸素運動と筋トレの併用が肝脂肪減少には効果的と報告されています(文献5)。 有酸素運動では、ウォーキングやジョギング、水泳、サイクリングなどを週5日、まずは1日30分以上実施しましょう。1日30分であれば、通勤時の一駅歩く習慣や、昼休みの散歩を取り入れることで、忙しい会社員でも実践可能です。 筋力トレーニングは週2〜3日実施を推奨しています。(文献4) 筋肉量の増加は基礎代謝の改善につながり、脂肪肝改善に役立つためです。自宅でできるスクワットや腕立て伏せ、片足立ちなどから始め、徐々に負荷を増やしていきましょう。 重要な点は、仮に体重減少がなくても運動を継続すれば脂肪肝改善効果があることです。(文献4) 体重が変わらなくても落ち込まず、まずは3カ月の運動継続で肝機能数値の改善を目指しましょう。 脂肪肝の検査と再生医療について 脂肪肝は「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓の病気のため、自覚症状がほとんどありません。 しかし、血液検査や画像検査を組み合わせると、症状が出る前に脂肪肝を見つけられる場合があります。 健康診断で肝機能の異常を指摘された場合は、必ず精密検査を受け、専門医による適切な診断と治療方針の決定を受けましょう。 脂肪肝の治療には、再生医療という選択肢もあります。進行した脂肪肝に対する治療の可能性が広がっています。 血液検査と再生医療について、それぞれ詳しく解説します。 血液検査 脂肪肝かどうかを調べる最初の手がかりは、採血で測るALTとASTという酵素です。 ALTは肝臓の細胞に多く、多くの施設で30〜40IU/L未満が目安とされますが、日本人を対象とした大規模研究では、正常上限値は男性29IU/L以下、女性23IU/L以下とされています」(文献7) ALTの軽い上昇でも脂肪がたまり始めている場合があるため、健康診断で要再検査と出たら放置しないことが大切です。 ASTは心臓や筋肉にも含まれる酵素ですが、ALTよりも高い場合はアルコールの影響が疑われます。ただし、確定には他の検査結果も総合的に判断する必要があります。(文献8) 再生医療 生活習慣の見直しでは追いつかないほど肝臓が硬くなる線維化が進むと、肝硬変に至ることがあります。 このような進行例に対しても再生医療が治療の選択肢となります。 再生医療の幹細胞治療は、患者様自身の脂肪組織から採取した幹細胞を培養し、点滴により全身に投与する治療法です。 再生医療について詳しくは、以下をご覧ください。 自宅で続ける脂肪肝チェックと再発予防 脂肪肝の改善後も、継続的なセルフモニタリングと予防策の実践により、再発を防げます。 日々の体重管理では、毎朝同じ時間・同じ条件で測定し、スマートフォンアプリで記録することで変化を視覚的に把握できます。 腹囲測定も重要です。男性85cm以上、女性90cm以上でメタボリックシンドロームの疑いがあるため、おへその高さで月1回測定しましょう。 生活習慣では、主食の1割減量、週2日以上の休肝日、1日30分以上の歩行を基本とし、無理のない範囲での継続が重要です。 また、年1回の健康診断での血液検査を行い、専門医に肝機能の数値を客観的に診断してもらいましょう。 まとめ|お腹が出たら注意!脂肪肝は日々の習慣の見直しが重要 脂肪肝によるお腹の膨満は、単純な肥満ではなく、複雑な代謝異常が引き起こす医学的な病態です。 近年では、在宅勤務の増加や食事の欧米化により発症リスクが高まっていますが、適切な食事療法と運動療法により確実に改善できる疾患でもあります。 食事習慣の改善と、運動習慣の定着を目標に、継続的な取り組みを行っていきましょう。早期発見のためには、健康診断を受け、血液検査の数字を確認することが重要です。 進行例に対しては、再生医療という新しい治療法もあります。 放置すれば肝硬変や肝がんへの進行リスクもある脂肪肝ですが、今の自分の状態を正しく知り、適切な対策を講じることで健康な肝臓を取り戻せます。 当院「リペアセルクリニック」では、専門医による診察から再生医療まで、一人ひとりの状態に応じた治療を提供しています。 まずは公式LINEのオンライン診断からお試しください。一度自分の体と向き合ってみましょう。 脂肪肝に関してよくある質問 脂肪肝が進むとどうなる?放置のリスク 脂肪肝を放置すると、段階的に深刻な病態へ進行する可能性があります。 初期の脂肪肝から脂肪肝炎(NASH)へ進行すると、肝臓に慢性的な炎症が起こり、徐々に肝臓がかたくなる「線維化」が始まります。 さらに進行すると「肝硬変」となり、肝がんを発症するリスクが生じてしまいます。 脂肪肝は自覚症状がほとんどないため、気づいたときには既に進行しているケースも多く見られます。 健康診断でALT・ASTの上昇を指摘された段階での早期対応が、将来の重篤な合併症を予防する鍵となります。 初期段階で発見し、生活習慣の改善に取り組みましょう。 脂肪肝は女性に多い? 脂肪肝は一般に男性で多く見つかりますが、女性でも決してまれではありません。 女性ホルモンは脂肪を皮下に優先してため込むため、閉経前は脂肪肝が起こりにくい傾向ですが、閉経後にはホルモンが急減し脂肪のつき方が男性型へ変わり、発症リスクが一気に上昇します。 また、細身でも内臓脂肪が多い「隠れ肥満」の女性は年齢を問わず注意が必要です。 顔のむくみやおならは脂肪肝のサイン? 脂肪肝は「沈黙の臓器」といわれる肝臓の病気のため、初期にははっきりした症状がほとんど出ません。 ただ肝機能が落ち始めると、だるさや軽い不調など体の各所に細かな変化が現れることがあります。 顔や手足がむくみやすくなるのは、肝臓で作られるアルブミンというたんぱく質が不足し、水分が血管の外に漏れやすくなるためと考えられています。 一方、腸内環境が乱れるとガスがたまりやすくなり、おならのにおいが強くなるため、食事習慣の乱れが腸内環境の乱れと脂肪肝につながっている可能性はあります。 他のサインとしては、慢性的な疲労感、集中力低下、肩こり、ぼんやり感、軽い腹部の張りなどが挙げられますが、これらの症状は他の疾患でも見られるため、身体に異常があった場合は早めに専門医への相談を検討してください。 参考文献 (文献1) 日本肝臓学会「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/NASH)の診療ガイドライン2020年版」2020年 https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/nafldnash2020_add.pdf(最終アクセス:2025年6月24日) (文献2) 太田嗣人.「肥満・インスリン抵抗性がもたらす肝の炎症」『日本内科学会雑誌』109(1), pp.19-26, 2020年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/1/109_19/_pdf(最終アクセス:2025年6月27日) (文献3) 門脇聡ほか「非肥満者では内臓脂肪の蓄積よりも脂肪肝が筋肉の代謝障害と強く関連する」順天堂大学研究報告, 2019年 https://www.juntendo.ac.jp/assets/NewsRelease20190614.pdf(最終アクセス:2025年6月24日) (文献4) 日本肝臓学会「脂肪性肝疾患患者に対する肝臓リハビリテーション指針」日本肝臓学会ホームページ https://www.jsh.or.jp/medical/committeeactivity/shakaihoken/fatty.html(最終アクセス:2025年6月24日) (文献5) Koutoukidis D A, et al. (2021). The effect of the magnitude of weight loss on non-alcoholic fatty liver disease: a systematic review and meta-analysis. Metabolism, 115, 154455.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33259835/ (最終アクセス:2025年6月28日) (文献6) Clevelandclinic「How Long Does It Take Your Liver to Detox From Alcohol?」Health Essentials, 2023年2月28日 https://health.clevelandclinic.org/detox-liver-from-alcohol(最終アクセス:2025年6月28日) (文献7) Tanaka K, Hyogo H, Ono M ほか.「Upper limit of normal serum alanine aminotransferase levels in Japanese subjects」Hepatology Research 44(12), pp.1196-1207, 2014年 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24372862/(最終アクセス:2025年6月28日) (文献8) Giannini E, & Testa R. (2013). The De Ritis ratio: the test of time. Digestive and Liver Disease, 45(3), e1–e2. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3866949/ (最終アクセス:2025年6月28日)
2025.06.30 -
- 肝疾患
- 内科疾患
「健康診断で肝臓の数値が少し高いですね」と医師に言われて、不安になっていませんか。 「でも薬はまだ出されなかったし大丈夫かな」と思っていても、実は脂肪肝が進んでいるかもしれません。 忙しい毎日の中で病院に通う時間がなかなか取れないときでも、適切なサプリメントを活用することで肝臓の健康をサポートできる可能性があります。 本記事では、脂肪肝の栄養管理に役立つサプリメントについて、専門医の視点から詳しく解説します。 サプリメントの選び方から使い方、さらには生活習慣の改善方法まで、あなたが知りたい情報を網羅的にお伝えします。 ただし、サプリメントはあくまで補助的な役割であり、根本的な改善には生活習慣の見直しが欠かせません。 万が一、数値の改善が見られない場合には、専門的な治療法についてもご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。 脂肪肝とサプリの基礎知識 脂肪肝は、食べすぎや運動不足などが原因で肝臓に脂肪がたまった状態のことです。 サプリメントは、あくまで補助的な役割として肝臓の働きを助けたり、脂肪がたまりにくくなるようにサポートしたりする効果が期待されています。 まずは脂肪肝がどうして起こるのか。基本的な仕組みを理解しましょう。 肝細胞に脂がたまる仕組み 肝臓に脂肪がたまる主な原因は、エネルギーのバランスが崩れることにあります。 食べすぎや運動不足により、体内で使われなかったエネルギーが中性脂肪に変わって肝臓に蓄積されていきます。(文献1) 正常な肝臓では、全肝細胞の30%未満が脂肪ですが、全肝細胞の30%以上に脂肪が蓄積すると脂肪肝と診断されます。 この状態になると、肝臓本来の機能である解毒作用や代謝機能が低下し始め、放置すると肝炎や肝硬変といった深刻な状態に進行する可能性があります。 また、アルコールの摂取も肝臓での脂肪合成を促進する要因の一つです。 アルコールが分解される過程で生成される物質が、脂肪の分解を抑制させてしまうのです。 脂肪肝の初期段階では自覚症状がほとんどないため、多くの方が気づかないうちに進行してしまいます。 健康診断で肝機能の数値が基準値を上回った場合は、脂肪肝の可能性を疑いましょう。 サプリで期待できる三つの作用 脂肪肝に対してサプリメントに期待できる作用は、大きく分けて三つあります。 余分な脂を分解して外に出す 肝細胞をサビから守る 炎症をしずめる 余分な脂を分解して外に出す 余分な脂を分解して外に出す作用がある成分として、オメガ3脂肪酸とスルフォラファンがあります。 オメガ3脂肪酸(EPA/DHA)には肝臓で脂肪をエネルギーに変える「β酸化」を高め、肝内脂肪を減らすことが臨床試験で確認されています。(文献8) また、スルフォラファンは脂肪を作る酵素を抑え、溜まりにくくする性質があります。これら2つの成分を効果的に組み合わせると、肝臓に溜まった余分な脂肪を効率的に減らせる可能性があります。(文献10) 肝細胞をサビから守る 肝細胞をサビから守るアスタキサンチンは、ビタミンEより強い抗酸化力で「身体のサビ」となる活性酸素を減らし、肝臓の炎症や繊維化を抑えます。(文献2)(文献9) また、シリマリンは肝臓の機能を測る数値であるALT・ASTを下げた臨床報告があります。 (文献3) アスタキサンチンとシリマリンをうまく取り入れ、サビにくい肝細胞を手に入れましょう。 炎症をしずめる サプリメントには、肝臓の炎症をしずめる効果もあります。 炎症をしずめる代表例として、オメガ3は炎症性の物質であるサイトカインを減らす作用が報告されています。(文献8) また、アスタキサンチンにも肝臓での炎症反応を弱める働きが確認されています。 (文献2)(文献9) ただし、これらの作用はあくまで食事や運動などの基本的な生活習慣の改善と組み合わせることで、より効果的に発揮されます。 サプリメントだけに頼るのではなく、総合的なアプローチが重要であることを理解しておきましょう。 脂肪肝の栄養管理に使用されるサプリ・成分5選 脂肪肝の栄養管理において注目されている5つの成分をご紹介します。 それぞれの成分には独自の特徴と効果があり、あなたの生活スタイルや体質に合わせて選択することが大切です。 以下の成分について、その特徴と期待できる効果、どのような方に適しているかを詳しく解説します。 スルフォラファン オメガ3脂肪酸 シリマリン アスタキサンチン オルニチン スルフォラファン スルフォラファンは、ブロッコリーの新芽(ブロッコリースプラウト)に豊富に含まれる天然の化合物です。 この成分の最大の特徴は、強力な抗酸化作用と解毒酵素の活性化にあります。 肝臓は体内の解毒を担っているため、この機能をサポートするスルフォラファンは脂肪肝の改善に役立つとされています。 また、肝細胞を酸化ストレスから守る働きも確認されており、脂肪肝の悪化を遅らせると報告されています。(文献10) とくに、偏った食事で野菜不足が気になる人にとっては、不足分を補う選択肢になります。 外食が多く野菜不足が気になる方にとって、手軽に摂取できるサプリメントです。 オメガ3脂肪酸 オメガ3脂肪酸は、青魚に多く含まれる必須脂肪酸で、EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)が代表的です。 オメガ3脂肪酸は、EPA・DHAは体内にあるPPAR-αというスイッチを入れ、脂肪を作る酵素を抑えつつ、脂肪を分解する作用があると研究で示されています。(文献8) これにより、肝臓に溜まった余分な脂肪を効率的に減らせると考えられています。 さらに、EPA・DHAは中性脂肪を約10〜30%下げるという研究結果があります。(文献8) そのため、有効に摂取すれば脂肪肝の根本的な改善につながる可能性があります。 これらの効果から、脂っこい食事を好む方や、魚を食べる機会が少ない方に適した成分といえるでしょう。 現代の食生活では肉類の摂取が多くなりがちで、相対的にオメガ3脂肪酸が不足しやすい傾向にあります。 不足する栄養素はサプリメントで補って、脂肪酸のバランスを整えましょう。 シリマリン シリマリンは、マリアアザミ(ミルクシスル)という植物の種子から抽出される天然成分です。 この成分は、肝機能サポートのサプリメントとして広く利用されています。(文献3) シリマリンの主な作用は、肝細胞の再生を助け、肝臓を有害物質から保護することです。(文献12) また、抗炎症作用により肝臓内の炎症を抑制し、脂肪肝の進行を遅らせる効果も期待されています。(文献12) 長期的な肝臓の健康維持を考えている方や、お酒を飲む機会が多い方におすすめの成分です。 シリマリンは副作用として、まれに胃腸の不調を引き起こすことがあります。 一般的な摂取目安は製品表示に従い、医師の指示を優先して服用しましょう。 アスタキサンチン アスタキサンチンは、鮭やエビ、カニなどに含まれる赤い色素成分で、強力な抗酸化作用を持っています。 脂肪肝の状態では、肝細胞内で活性酸素が増加し、細胞にダメージを与えてしまいます。 アスタキサンチンは、これらの有害な活性酸素を効率的に除去し、肝細胞を酸化ストレスから保護します。 また、炎症を抑制する作用もあり、脂肪肝に伴う肝臓の炎症を軽減する効果が期待されています。(文献9) 金沢大学の研究では、マウス実験で高コレステロールの餌を与えた群と、高コレステロールの餌にアスタキサンチンを混ぜて与えた群を比較したところ、アスタキサンチンを混ぜた群がAST・ALTの上昇を抑えた報告もありました。(文献2) オルニチン オルニチンは、しじみに豊富に含まれるアミノ酸の一種で、アンモニアを尿素に変えるサイクルのカギとなるアミノ酸で、解毒を支えます。(文献4) アンモニアは体内で発生する有毒な物質で、適切に処理されないと疲労感や集中力の低下を引き起こします。 脂肪肝の状態では、アンモニアの処理能力にも影響が出ることがありますが、オルニチンを補給することで解毒機能をサポートできます。 また、成長ホルモンの分泌を促進する作用もあり、肝機能の修復を助ける可能性があります。 肝臓の負担を軽減することで、脂肪肝の改善にも間接的に寄与すると考えられています。 脂肪肝でサプリを使用するリスクと使い方 サプリメントは健康食品として手軽に利用できる一方で、正しい方法で使わないと体に悪影響を与える可能性があります。 とくに肝臓に関するサプリメントは、使い方を間違えると肝臓に負担をかけてしまうことがあるため、注意深く使用する必要があります。 本章では、サプリメントを活用するために知っておきたい重要なポイントについて解説します。 肝障害報告の多い成分 サプリメントの中には、成分によっては過剰摂取や体質に合わない場合に肝障害を引き起こす可能性があります。 とくに注意が必要なのは、ウコン(クルクミン)を含む製品です。 ウコンは肝臓に良いとされる一方で、大量摂取により肝障害を起こした事例が報告されています。(文献5) これには複数の要因があり、ウコンの効能が肝臓の負担となり引き起こされる事例もあれば、ウコンに含まれる鉄分が肝臓に蓄積しやすく、酸化ストレスを増加させる事例もあります。 また、茶葉から抽出される成分も、まれに肝障害を引き起こすことがあります。 通常の飲み物として摂取する分には問題ありませんが、濃縮された形でのサプリメント摂取には注意が必要です。 これらの成分を含むサプリメントを使用する際は、まず少量から始めて体調の変化を注意深く観察することが大切です。 肝機能に不安がある方は、使用前に医師に相談することをおすすめします。 薬とサプリの併用は医師に相談する 現在、薬を服用している方は、サプリメントとの併用について必ず医師に相談してください。 薬やサプリメントの成分が肝臓に損傷を起こし、肝機能に影響を及ぼす可能性があるからです。(文献6) サプリメントと薬を同時に飲むと、出血・低血糖・低血圧・薬効増減などの思わぬ副作用が起こることがあります。 とくにワルファリンなどの抗凝固薬、糖尿病薬、高血圧薬、そして肝臓で代謝される薬を使っている人は要注意です。 必ず医師や薬剤師に飲んでいる薬やサプリメントを全部伝え、併用の可否とモニタリング方法を相談しましょう。 副作用が出たらすぐに使用を中止する サプリメントを使用していて体調不良を感じた場合は、すぐに使用を中止してください。 副作用の症状としては、腹痛、下痢、吐き気、頭痛、発疹、かゆみなどがあります。 肝臓に関連する症状である、疲労感の増強、食欲不振、黄疸(皮膚が黄色くなる)、尿の色が濃くなるなどが現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。 これらの症状は肝機能の低下を示している可能性があります。 また、アレルギー反応として呼吸困難や全身の発疹が現れた場合は、緊急性が高いため直ちに医療機関を受診する必要があります。 副作用が疑われる場合は、使用していたサプリメントの製品名や成分、使用期間、摂取量などの情報を医師に正確に伝えることが大切です。 これらの情報は、原因の特定と適切な治療につながります。 サプリメントは「天然」や「自然由来」と表示されていても、すべての人に安全とは限りません。 体質や体調により、予期しない反応が起こる可能性があることを理解しておきましょう。 サプリだけでは不十分|生活習慣の改善が脂肪肝治療の基本 サプリメントは脂肪肝の改善をサポートする有用なツールですが、それだけに頼っていては根本的な解決には至りません。 脂肪肝治療の基本は、食事療法と運動療法による生活習慣の改善です。 食事面では、カロリーの過剰摂取を避け、バランスの取れた栄養摂取を心がけることが重要です。 とくに糖質や脂質の摂取量をコントロールし、野菜や魚を中心とした食事に切り替えることで、肝臓への脂肪蓄積を減らせます。 また、コーヒーに含まれるクロロゲン酸は脂肪酸の酸化を促し、カフェインはエネルギー消費を高める作用が示唆されています。 ある観察研究では1日2〜3杯のコーヒー習慣が脂肪肝や線維化リスクを下げると報告されています。(文献7) 運動については、30分〜60分程度の有酸素運動を週3〜4回行うことが推奨されています。 ウォーキングや水泳などの軽い運動でも十分効果があり、無理なく続けられる運動を選択することが大切です。 これらの生活習慣の改善と併せてサプリメントを活用することで、より効果的な脂肪肝の改善が期待できます。 サプリメントは補助的な役割として位置づけ、基本的な生活習慣の見直しを最優先に取り組むことをおすすめします。 また、定期的な健康診断でASTやALTのような血液検査の数値をモニタリングし、改善の程度を客観的に評価することも重要です。 脂肪肝の再生医療 生活習慣の見直しやサプリメントによる栄養管理の他に、再生医療(幹細胞治療)の選択肢があります。 再生医療は、からだが本来もつ修復力を利用して、傷んだ臓器の働きを取り戻すことを目指す先進的な方法です。 当院「リペアセルクリニック」では、脂肪肝に対する再生医療として幹細胞治療を行っています。 自己細胞を使うため拒絶反応が起こりにくく、通院で受けられるのが特徴です。 脂肪肝に対する再生医療について、詳しくは以下をご覧ください。 まとめ|自分で気づきにくい脂肪肝はすぐに相談を! 脂肪肝は初期段階では自覚症状がほとんどなく、多くの方が気づかないうちに進行してしまう疾患です。 しかし、放置すると肝炎や肝硬変といった深刻な状態に進行する可能性があるため、早期の対策が重要です。 本記事でご紹介したサプリメントは、脂肪肝の栄養管理において有用な選択肢の一つですが、あくまで補助的な役割であることを理解しておきましょう。 根本的な改善には、食事療法と運動療法による生活習慣の見直しが不可欠です。 サプリメントを選ぶ際は、ご自身の生活スタイルや体質に合った成分を選択し、安全性を最優先に考慮してください。 また、現在服用している薬がある方は、必ず医師に相談してから使用を開始しましょう。 もし生活習慣の改善やサプリメントによる対策を継続しても数値の改善が見られない場合は、専門医による詳しい検査や治療を受けることをおすすめします。 当院「リペアセルクリニック」では、脂肪肝に関する無料相談を承っているので、お気軽にご相談ください。患者様一人ひとりの状態に応じた治療法をご提案します。 あなたの肝臓の健康を守るために、今すぐできることから始めてみませんか。 参考文献 (文献1) 沢井製薬株式会社「本当はコワイ脂肪肝」サワイ健康推進課, 2014年12月 https://kenko.sawai.co.jp/healthcare/201412.html(最終アクセス:2025年06月24日 (文献2) 金沢大学「サケやカニ由来の赤い色素『アスタキサンチン』にNASHの予防・抑制作用があることを発見!」2015年頃 https://www.kanazawa-u.ac.jp/rd/32091/(最終アクセス:2025年06月24日) (文献3) 科学技術振興機構「J-GLOBAL学術論文データベース」2010年頃 https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201002214886689414(最終アクセス:2025年06月24日) (文献4) 協和発酵バイオ株式会社「オルニチンのはたらきと効果-02」 https://www.kyowahakko-bio-healthcare.jp/healthcare/ornithine/effect02.html(最終アクセス:2025年06月24日) (文献5) 東邦大学医療センター大森病院検査部「ウコンと肝障害について」 https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/kensa/column/column_079.html(最終アクセス:2025年06月24日) (文献6) Merck & Co., Inc.「薬による肝臓の損傷」MSDマニュアル(家庭版), 2020年1月 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(2021). Sulforaphane Attenuates Nonalcoholic Fatty Liver Disease by Inhibiting Hepatic Steatosis and Apoptosis. Nutrients, 14(1), pp.76. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35010950/(最終アクセス:2025年6月24日)
2025.06.30 -
- 肝疾患
- 内科疾患
「健診で脂肪肝と言われたけれど、薬で治療できるのだろうか?」 このような疑問を抱いている方は多いのではないでしょうか。 脂肪肝は痛みや自覚症状がほとんどないため、つい放置してしまいがちな病気です。 しかし、そのまま放っておくと肝臓がかたくなり、肝炎や肝硬変といった重篤な病気につながる可能性があります。(文献1) 最近では、飲み薬や注射などさまざまな治療選択肢が広がっており、早期に適切な治療を始めることで肝臓の状態をしっかりと改善が期待できます。 本記事では、脂肪肝の薬物治療について詳しく解説いたします。 薬の種類や効果、副作用のリスク、市販薬との違い、そして治療を受ける際の注意点まで、専門医の視点からお伝えします。 ぜひ記事を最後までご覧いただき、脂肪肝治療への理解を深めてください。 脂肪肝の薬の種類 脂肪肝の治療では、主に以下の薬が使用されます。 抗酸化剤(ビタミンE) 糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬など) 肝庇護薬(ウルソデオキシコール酸) 脂質異常症治療薬(スタチン系) その他の補助的治療薬 これらの薬は主に、肝臓を保護したり炎症を抑えたりするためのものです。 それぞれ異なる機能で肝臓の改善に働きかけますが、どの薬が適しているかは患者様の症状や併存疾患によって決まります。 次に、それぞれの薬について詳しく見ていきましょう。 抗酸化剤(ビタミンE) ビタミンEは、肝臓の炎症や酸化ストレスを軽減する強力な抗酸化剤として脂肪肝治療の補助として使用されることがあります。 主な働きは、肝細胞を傷つける活性酸素を除去し、炎症を引き起こすサイトカインという物質を抑制することです。(文献2) 肝酵素(ALT、AST)の低下、肝臓の炎症軽減、インスリン感受性の改善といった効果が見られた例があります。 ただし、副作用のリスクも理解しておく必要があります。 高用量での長期使用では、死亡率の増加や出血性脳卒中のリスクが報告されています。(文献3) そのため、糖尿病を合併していない患者様で、肝生検でNASH(非アルコール性脂肪肝炎)が確認された場合に限定して、抗酸化剤(ビタミンE)の使用が推奨されています。 使用する際は必ず医師の指導のもとで適切な用量を守ることが重要です。 GLP-1受容体作動薬 GLP-1受容体作動薬は、もともと糖尿病治療薬として開発された薬ですが、脂肪肝の改善効果も報告されています。 この薬の作用メカニズムは、血糖値に応じてインスリンの分泌を促進し、食欲を抑制して体重減少を促すことです。(文献4) 代表的な薬剤には、リラグルチド(ビクトーザ)やセマグルチド(オゼンピック)があります。 この薬の特徴は、主に体重減少を介した改善が示唆されており、肝脂肪への直接作用は検証中です。 副作用としては、下痢や便秘、吐き気や嘔吐もあるため、定期的な診察が必要です。 SGLT2阻害薬 SGLT2阻害薬は、腎臓でのブドウ糖再吸収を阻害することで血糖値を下げる糖尿病治療薬です。脂肪肝の改善効果も注目されています。 代表的な薬剤には、エンパグリフロジン(ジャディアンス)、ダパグリフロジン(フォシーガ)、カナグリフロジン(カナグル)などがあります。 台湾で行われた大規模な研究では、糖尿病患者における脂肪肝の発症率が有意に低下することが報告されています。(文献5) 副作用としては、多尿・口渇などが挙げられます。 とくに高齢者では脱水のリスクが高まるため、十分な水分摂取と定期的な検査が必要です。 肝庇護薬(ウルソデオキシコール酸) ウルソデオキシコール酸は、もともと胆石症の治療に使用されてきた薬です。肝細胞を保護する効果があることから脂肪肝治療にも応用されています。 この薬は親水性胆汁酸と呼ばれる物質で、肝細胞の膜を安定化し、炎症やアポトーシス(細胞死)を抑制する働きがあります。(文献6) ただし、単独での治療効果は限定的であることがわかっており、生活習慣の改善や他の薬剤との併用でより効果的とされています。 副作用は軽度の下痢や胃部の不快感がありますが、間質性肺炎の重大な副作用がまれにあるため、異常が認められた場合は専門医に相談しましょう。 推奨用量は通常、成人1回あたり50mgを1日3回経口投与します。 スタチン系薬剤 スタチン系薬剤は、コレステロールを下げる薬として広く使用されていますが、脂肪肝の改善にも多面的な効果を発揮することがわかってきました。 代表的な薬剤には、アトルバスタチン(リピトール)、ロスバスタチン(クレストール)、シンバスタチン(リポバス)などがあります。 この薬の作用は、HMG-CoA還元酵素を阻害してコレステロール合成を抑制するだけでなく、抗炎症作用、抗線維化作用、抗酸化作用も併せ持つことです。(文献7) 大規模な研究では、脂肪肝患者における心臓や血管で起こる重大なトラブルを68%減少させた報告もあります。 副作用としては、筋肉痛、肝酵素上昇、まれに横紋筋融解症などが挙げられます。 脂肪肝は市販薬やサプリで改善できる?処方薬との違い 「病院に行く前に、まずは市販薬やサプリメントで様子を見たい」と考える方も多いでしょう。 確かに、ドラッグストアやインターネットで手軽に購入できる肝機能改善をうたった商品は数多く存在します。 しかし、処方薬と市販品には大きな違いがあることを理解しておく必要があります。 最も重要な違いは、医学的根拠(臨床試験データ)の量と質です。 処方薬は大規模試験を経て承認されることが多く、標準化された用量設定と品質管理が保証されています。 一方、市販のサプリメントは高品質な臨床試験による裏付けが限定的で、製品間の品質や体への吸収されやすさ等にばらつきがあります。 自己判断での使用には重大なリスクも伴います。 適切な診断なしでの自己治療は、以下の危険性があります。 本当の病気を見逃す(診断遅れ) 他の薬剤との相互作用 不適切な用量により効果がなかったり、副作用が出る これらの危険性があるため、まずは専門医の診断を受けることが大切です。 脂肪肝で薬を服用する際の注意点 脂肪肝の薬物治療を成功させるためには、いくつかの重要な注意点があります。 まず理解していただきたいのは、薬だけでは根本的な改善は難しいという点です。 脂肪肝治療の基本は生活習慣の改善であり、薬物療法はあくまでサポート役として位置づけられています。 薬を服用する際は、必ず医師の指示に従い、定期的な検査を受けながら治療を続けましょう。 脂肪肝は生活習慣の改善が治療の基本 以下の食事、運動、そして薬との相乗効果を確認し、脂肪肝の改善をしましょう。 食事 肝脂肪を有意に減らす選択肢として、日本肝臓学会ガイドラインでは、オリーブオイル・魚・ナッツ・全粒穀物を中心とした、地中海食パターンと適度なカロリー制限が挙げられています。 赤身肉や加工肉を控え、タンパク質は魚類や豆類から摂取しましょう。 運動 運動療法は複数の研究で脂肪肝への効果が認められています。 具体的には「中~高強度有酸素運動(30–60分×週3–4)」を推奨し、体重が減らなくても肝脂肪と炎症が改善すると報告されています。 そのため、体重も一つの大切な指標ではありますが、体重が減らないからと運動を辞めずに、継続することが大切です。 副作用に注意!症状が出たら必ず医師に相談 治療薬を継続して使用するためには、副作用への適切な対応が欠かせません。 どの薬にも副作用のリスクがあるため、症状が現れた場合は自己判断せず、必ず医師に相談しましょう。 薬剤 代表的副作用と頻度 早期対応のポイント ビタミンE 出血性脳卒中 高用量を避け、出血傾向のある人は使用しない GLP-1受容体作動薬 吐き気・下痢 初期は少量から開始し、症状が続けば用量調整 SGLT2阻害薬 尿路/性器感染症、脱水 水分摂取を促し、高齢者・腎機能低下例は慎重投与 スタチン 筋痛、クレアチンキナーゼ上昇、横紋筋融解症 筋肉痛+褐色尿が出たら直ちに受診 副作用が現れた場合の対応方法も覚えておきましょう。 軽微な症状であっても、まずは医師への報告が大切です。 症状の程度に応じて、用量調整、投与方法の変更、代替薬への切り替えなどの対応が検討されます。 定期的な検査も継続管理の重要な要素です。健康診断や病院で定期検査を受け、診断結果を元に医師に相談しましょう。 薬物相互作用にも注意が必要で、他の薬やサプリメントを併用する場合は必ず医師に伝えてください。 脂肪肝の薬と再生医療という治療選択肢 脂肪肝治療の柱はあくまで食事・運動と既存薬ですが、治療には再生医療という選択肢もあります。 再生医療には、幹細胞治療とPRP療法の二つがあります。 幹細胞治療では、患者様から採取した幹細胞を培養し、患部に投与します。 PRP療法は、血液に含まれる血小板を濃縮した液体を作製し、注射する治療法です。 肝臓疾患に対する再生医療について詳しくは、以下をご覧ください。 まとめ|脂肪肝治療は薬と生活習慣の改善で回復を目指そう 脂肪肝は、早期に気づいて適切な治療をすれば改善が期待できる病気です。 現在はビタミンE、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬、ウルソデオキシコール酸、スタチン系薬など複数の薬が検討されており、炎症や脂肪蓄積を抑える報告結果もあります。 ただし、薬だけに依存せず、食事と運動を基盤に改善を目指すことが治療成功のカギです。 地中海食を参考にカロリーと糖質を抑え、中~高強度の有酸素運動を30から60分、週3〜4日のペースで行い、肝脂肪と炎症を改善していきましょう。 治療には、再生医療の選択肢もあります。 再生医療の詳細については、当院「リペアセルクリニック」へお問い合わせください。 脂肪肝の薬に関してよくある質問 薬の副作用が心配だけど大丈夫? 脂肪肝の治療のみを対象とした薬はまだないため、脂肪肝と関連する薬を使用した際の回答となりますが、副作用が起きることもあります。 薬ごとの副作用の重さの違いは、ビタミンEだと高用量を長期に服用した場合に全死亡率や出血性脳卒中のリスクがわずかに上昇するとの報告があります。 一方、GLP-1受容体作動薬の嘔気・下痢、SGLT2阻害薬の尿路/性器感染症は多くが軽度で、用量調整や水分補給で対処可能です。 また、副作用の重さは薬の違いだけでなく、体質によっても個人差がある点にも注意してください。 軽い症状でも自己判断は避け、すぐに医師へ報告し、検査値を定期的にチェックして副作用を早期発見・対応しましょう。 薬代はいくらぐらいかかる? 脂肪肝の治療だけを対象とした保険適用薬は現在ありません。そのため、薬が高額になる可能性がある点は注意が必要です。 ただし、本記事で紹介した薬で、糖尿病などの合併症が見られた場合は保険適用となる可能性もありますので、必ず確認しましょう。 費用は薬剤・投与量で変わるため、診断時に医師と具体的に相談してください。 どのタイミングで病院に行けばいい? 健診で脂肪肝を指摘されたら症状がなくても一度専門医を受診するのが重要です。 とくに40歳以上で体重増加が続く方や、家族歴に肝疾患がある方は早期受診が推奨されます。 脂肪肝は自覚症状が出にくく、放置すると肝硬変や肝がんへ進行するリスクがあります。 早期診断・治療で重篤化を防げる可能性が高まるため、不安を感じたら遠慮なく医療機関に相談してください。 参考文献 (文献1) 日本肝臓学会「NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版)」2020年 https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/nafld.html (最終アクセス:2025年6月24日) (文献2) Nagashimada, M., & Ota, T. (2019). Role of vitamin E in nonalcoholic fatty liver disease. IUBMB Life, 71(4), pp.516-522. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30592129/最終アクセス:2025年6月24日) (文献3) Miller, E. R., et al. (2016). Vitamin E and Non-alcoholic Fatty Liver Disease. PMC, 4984672. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4984672/ (最終アクセス:2025年6月24日) (文献4) Newsome, P. N., et al. (2021). A Placebo-Controlled Trial of Subcutaneous Semaglutide in Nonalcoholic Steatohepatitis. New England Journal of Medicine, 384(12), pp.1113-1124. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33185364/(最終アクセス:2025年6月24日) (文献5) Wei, Q., et al. (2024). Non-alcoholic fatty liver disease risk with GLP-1 receptor agonists and SGLT-2 inhibitors in type 2 diabetes: a nationwide nested case–control study. Cardiovascular Diabetology, 23(1), pp.1-12. https://cardiab.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12933-024-02461-2 (最終アクセス:2025年6月24日) (文献6) Zhang, J., Wang, X., Shen, Y., et al. (2020). Ursodeoxycholic Acid in Non-Alcoholic Fatty Liver Disease: A Systematic Review and Meta-analysis. Clinical and Experimental Gastroenterology, 13, 251-264. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32595039/(最終アクセス:2025年6月24日) (文献7) Boutari, C., et al. (2024). A Systematic Review of Statins for the Treatment of Nonalcoholic Steatohepatitis: Safety, Efficacy, and Mechanism of Action. Molecules, 29(8), pp.1859. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38675679/ (最終アクセス:2025年6月24日)
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