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「抗がん剤による末梢神経障害は治るのか」「しびれや痛みが続いている」など、不安に感じている方も多いでしょう。抗がん剤による末梢神経障害は、多くのがん患者に現れる副作用の一つです。完治を目指すのは難しいケースもありますが、適切な治療やケアによって日常生活への影響を抑えられます。 今回は、抗がん剤による末梢神経障害の原因や対処法、治療薬について現役医師がわかりやすく解説します。症状の改善を目指している方は、ぜひ参考にしてください。 抗がん剤による末梢神経障害を完全に治すのは難しい 抗がん剤による末梢神経障害は、有効な予防法が確立されておらず、症状を完全に抑えるのが難しい疾患です。(文献1)そのため、症状の進行を抑えたり、日常生活を維持したりするためのケアや対処に努めることが重要です。 なかには、抗がん剤の中止後に症状が改善するケースもあります。一方で、しびれや痛みが長年にわたって残ることも少なくありません。抗がん剤による末梢神経障害が疑われる場合は、医師との連携や早期対応が大切です。 抗がん剤による末梢神経障害の症状 抗がん剤の副作用によって運動神経や感覚神経、自律神経がダメージを受けると、末梢神経障害として以下のような症状が現れます。(文献2) 神経の種類 主な症状 運動神経 手足の筋力低下 細かい動作の困難 歩行困難 など 感覚神経 手足のしびれや痛み 灼熱感 冷感過敏 感覚麻痺 など 自律神経 起立性低血圧 発汗異常 便秘 排尿障害 など なお、症状の現れ方には個人差があり、日常生活や社会活動に支障をきたすケースも少なくありません。 抗がん剤による末梢神経障害が起こる原因 抗がん剤による末梢神経障害は、薬剤が末梢神経系にダメージを与えることによって生じるとされています。 抗がん剤による末梢神経障害の原因は、すべてが解明されているわけではありませんが、軸索あるいは神経細胞体への影響が考えられます。(文献1)それぞれのメカニズムについて詳しく見ていきましょう。 軸索障害 軸索障害とは、末梢神経の軸索(じくさく)が抗がん剤の攻撃を受けて生じる障害です。 軸索とは、神経細胞から伸びる長い神経線維のことです。次の細胞に情報を伝達するための役割を担っているほか、軸索には栄養素などを運ぶための微小管(びしょうかん)と呼ばれる細胞骨格があります。 抗がん剤のなかには、がん細胞の微小管を攻撃して増殖を抑える薬があります。このとき、軸索の微小菅が攻撃を受けて正常な働きができなくなると、神経の末端に必要な栄養や酵素が届かず、変性の進行につながりかねません。 長い軸索を持つ神経ほど、抗がん剤によるダメージを受けやすいのが特徴です。そのため、足先や手指などの遠位部を中心に、しびれやチクチク感、痛み、感覚鈍麻といった症状が現れやすくなります。 神経細胞体障害 神経細胞体が直接抗がん剤の攻撃を受けて、障害が生じるケースもあります。 神経細胞体とは、神経の中核部分で、タンパク質の合成や代謝、情報処理といった神経の生命維持に欠かせない機能を担っているのが特徴です。 抗がん剤の攻撃によって神経細胞体に障害が起こると、そのほかの部分も二次的にダメージを受け、神経全体の機能が失われやすくなります。 また、細胞体のダメージは神経再生能力の低下を招くとされています。一度損傷を受けると回復までに長期間を要したり、慢性的な神経障害としてしびれや異常感覚、感覚過敏といった症状が残存したりするケースも少なくありません。 そのため、神経細胞体への影響は、末梢神経障害の予後に大きく関与する重要な要素と考えられています。 末梢神経障害を起こしやすい抗がん剤の種類 末梢神経障害の症状は、抗がん剤の種類や投与量によって個人差があります。 ここでは、末梢神経障害を起こしやすい抗がん剤の種類をまとめました。 殺細胞性の抗がん剤 殺細胞性の抗がん剤は、化学物質を用いて細胞増殖が盛んながん細胞を死滅または抑制させる薬のことです。殺細胞性の抗がん剤は、主に以下のような種類があります。(文献1) 一般名 商品名 主な症状 パクリタキセル タキソール パクリタキセル 手足のしびれや痛み 感覚の鈍さ パクリタキセル (アルブミン懸濁型) アブラキサン 手足のしびれや痛み 感覚の鈍さ ドセタキセル タキソテール ワンタキソテール ドセタキセル 手足のしびれ 感覚の鈍さ カバジタキセル ジェブタナ 運動のまひ 感覚のまひ 手足のしびれや痛み ビノレルビン ナベルビン ロゼウス 知覚異常 腱反射減弱 対象になるがんの種類によって、ほかにもさまざまな種類の殺細胞性の抗がん剤があります。なお、殺細胞性抗がん剤は正常な細胞にも影響を及ぼすため、副作用の発生頻度が高い薬です。 分子標的型の抗がん剤 分子標的型の抗がん剤は、がん細胞に特異的に存在する分子を狙って、増殖や生存を抑制する薬です。代表的な分子標的型の抗がん剤として、以下のような薬が挙げられます。(文献1) 一般名 商品名 主な症状 ボルテゾミブ ベルケイド 手足のしびれや痛み 感覚の鈍さ 起立性低血圧 便秘 トラスツズマブエムタンシン カドサイラ 手足のしびれや痛み ブレンツキシマブベドチン アドセトリス 運動のまひ 感覚のまひ 手足のしびれや痛み サリドマイド サレドカプセル 手足のしびれや痛み 起立性低血圧 レナリドミド レブラミドカプセル 手足のしびれや痛み 感覚の鈍さ 起立性低血圧 分子標的型の抗がん剤は、正常な細胞には影響しないとされており、副作用の軽減が期待できます。(文献3) 抗がん剤による末梢神経障害は治る?ケアと対処法 抗がん剤による末梢神経障害では、手足のしびれや痛みなどの症状が現れます。日常生活において症状とうまく付き合っていくためには、適切なケアや対処が必要です。 抗がん剤による末梢神経障害の対処法について解説するので、ぜひ参考にしてください。 医師に相談して治療薬を投与する 抗がん剤による末梢神経障害が疑われる場合は、できるだけ早く医師に相談しましょう。 末梢神経障害に対しては、神経障害性疼痛に有効な薬剤による対症療法がおこなわれるのが一般的です。また、抗がん剤による治療中に末梢神経障害が悪化した場合は、原因となる薬剤の投与延期や減量、中止が検討されます。 なお、リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。抗がん剤治療後に続くしびれや痛みなどでお困りの方は、ぜひ気軽にご相談ください。 循環を良くする 抗がん剤による末梢神経障害のケアとして、血液の循環を良くするのもポイントです。とくに、末梢部の血流を良くすると、しびれや痛みが軽減する場合があります。 たとえば、入浴時にマッサージをしたり、手を握ったり開いたりする動きを取り入れることで、末梢の血行が促されます。また、無理のない範囲で軽い運動をするのもおすすめです。体調に応じて医師と相談の上、無理のない範囲でマッサージや軽い運動を継続しましょう。 寒冷刺激を避ける 抗がん剤による末梢神経障害は、寒冷刺激によって症状が悪化するケースがあります。とくに、急性の末梢神経障害は、寒冷刺激によって強いしびれや痛みが誘発されるといわれています。 日常生活において以下のような工夫をして、寒冷刺激を避けましょう。 冷たい飲み物を避ける 冬場や冷房の効いた部屋では手袋や靴下で保温する 炊事や洗濯の際はゴム手袋を着用する 皮膚が濡れたときはすぐに水分を拭き取る 冷たい床などに直接座らない 寒冷刺激を避けることは、抗がん剤による末梢神経障害の症状の悪化を防ぐポイントの一つです。 転倒やケガに注意する 抗がん剤による末梢神経障害は、手足のしびれや痛みのほか、筋力やバランス感覚の低下を引き起こす場合があります。そのため、転倒やケガには十分な注意が必要です。 とくに、高齢者の場合、転倒によって骨折すると入院や寝たきりの状態が長期化するリスクもあります。転倒やケガを防ぐためにも、以下のような点を中心に、住環境を見直しましょう。 床に物を置かない コード類をまとめる 滑りにくい靴やスリッパを履く 手すりを設置する 段差を解消する 夜間は足元灯を使用する 神経障害による感覚異常がある場合は、自覚しにくい小さなケガにも注意が必要です。 【症例紹介】末梢神経障害に対する再生医療の可能性 再生医療は、末梢神経障害の治療における選択肢の一つです。再生医療とは、幹細胞や血小板の投与によって自然治癒力を最大限に引き出し、症状改善を目指す治療法です。 ここでは、両足の長期的なしびれに悩まされた、80代男性の症例を紹介します。 80代の男性は、40年来の糖尿病患者で、内科主治医から糖尿病性末梢神経障害と診断されていました。薬物療法や食事・運動療法により、血糖値のコントロールはある程度良好でしたが、両足の症状はなかなか改善が見られず、再生医療による治療を決めました。 当院では、根本的なアプローチとして患者様の状態に合わせた幹細胞治療を提供しています。この患者様には1億個の細胞を3回に分けて点滴投与しました。治療前後の状態は、以下の通りです。 治療前の状態 10年以上続く両足のしびれ 知覚鈍麻(感覚の鈍さ) 既存の治療法による効果は限定的 治療後の変化 両足のしびれが大幅に軽減 日常生活の質の向上 健康増進への積極的な姿勢の芽生え 治療に対する前向きな発言 当院の幹細胞治療は、米粒2〜3粒ほどの脂肪を採取するだけで、十分な量の細胞を培養できるため、身体への負担が少ない点が特徴です。 こちらの症例について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。 なお、リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。末梢神経障害の治療法でお悩みの方は、ぜひ気軽にご相談ください。 抗がん剤による末梢神経障害を治すには早期発見・対処に努めよう 抗がん剤による末梢神経障害の症状は、薬の種類や治療期間によって個人差があり、完治が難しい場合もあります。しかし、早期に症状を発見し、適切な対処をおこなうことで、進行を抑えたり症状を軽減したりできます。 抗がん剤による末梢神経症状の主な対処法は、治療薬の投与や日常的なセルフケアなどです。医師の診断のもと、適切なケアや対処法を組み合わせることで、しびれや痛みといった症状を和らげ、生活の質を保つことにつながります。 抗がん剤治療後に手足にしびれや感覚の鈍さが現れた場合は、早めに信頼できる医師に相談しましょう。 参考文献 (文献1) 静岡県立静岡がんセンター「抗がん剤治療と末梢神経障害」 https://www.scchr.jp/cms/wp-content/uploads/2016/02/sonota_mshinkei.pdf (最終アクセス:2025年5月20日) (文献2) 公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院「末梢神経障害 -症状とセルフケアについて- 」 https://www.kchnet.or.jp/kchnet/wp-content/uploads/departments/pdf_chemopamphlet_6.pdf (最終アクセス:2025年5月20日) (文献3) 横浜市立大学附属病院 化学療法センター「抗がん剤」 https://www.yokohama-cu.ac.jp/fukuhp/section/central_section/chemotherapy/anti-cancer_agent.html (最終アクセス:2025年5月20日)
2025.05.30 -
- 足部、その他疾患
- 足部
「最近、かかとが痛いと子どもが言い出した」「練習後はつま先で歩いている気がする」 このようなお悩みを持たれている保護者の方もいらっしゃることでしょう。 お子さまのかかとの痛みは、多くの場合シーバー病と呼ばれる成長期特有の疾患が原因です。 適切な知識と対処法を身につけることで、お子さまの痛みを和らげ、スポーツを継続できるようになります。 本記事では、シーバー病の原因・症状・治療法から、再発防止やスポーツ復帰のポイント、そして当院で受けられる再生医療まで詳しく解説いたします。 保護者の皆さまが抱える不安を解消し、お子さまの健やかな成長をサポートするための情報をお届けしますので、ぜひ最後までご覧ください。 シーバー病とは?成長期の子どもに多いかかとの痛み シーバー病は、成長期の子どもに特有のかかとの痛みを引き起こす疾患です。 正式には「踵骨骨端症(しょうこつこったんしょう)」と呼ばれ、10歳前後の活発な男の子に多く見られます。(文献1) この病気の特徴は、踵骨(かかとの骨)の成長板と呼ばれる部分に繰り返し負荷がかかることで炎症が生じ、痛みや腫れを引き起こすことです。 成長期の骨は大人の骨と異なり、踵骨軟骨と呼ばれる軟骨のため、運動による繰り返しの負荷によって炎症を起こしやすくなっています。 シーバー病の痛みは、運動中や運動後に現れることが多く、安静にすると症状が軽減されますが、朝起きたときの一歩目や、長時間座った後に立ち上がるときにも痛みを感じることがあります。 多くの保護者はこのまま放置して大丈夫なのかを心配されていると思いますが、早期に医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。 適切な対処を行わずに放置してしまうと、痛みが慢性化し、日常生活に支障をきたす可能性がありますが、正しい知識を手に入れ、対処法を実践すれば多くの場合で症状の改善が期待できます。 シーバー病の原因と発症メカニズム シーバー病の発症には、いくつかの要因が複合的に関与しています。 最も大きな原因は、成長期のかかとの骨に対する過度な負荷です。 アキレス腱・足底腱膜の牽引ストレスとは? アキレス腱や足底腱膜は、かかとの骨に直接付着している重要な組織です。 これらの組織が硬くなったり緊張したりすると、運動時にかかとへの牽引ストレス(引っ張る力)が増加します。 アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉とかかとの骨をつなぐ太くて強い腱で、走ったり跳んだりする動作のたびに、この腱がかかとの骨を強く引っ張ります。 足底腱膜は、足の裏全体に広がる膜状の組織で、歩行時の衝撃を吸収する役割を担っており、成長期の子どもは、骨の成長に対して筋肉や腱の成長が追いつかないことがあります。 この成長のアンバランスにより、アキレス腱や足底腱膜の柔軟性が低下し、かかとへの牽引ストレスが強くなりやすい状態になってしまします。 このストレスが繰り返されることで、成長期の柔らかい踵骨の成長板に炎症が生じ、シーバー病を発症してしまいます。 また、偏平足や足の形状、不適切な靴の使用なども、かかとへの負担を増加させるリスク要因となります。 とくに、靴選びは重要です。クッション性の乏しい靴や、サイズが合わない靴を使用すると、さらに症状が悪化する可能性があります。 どんな症状が出る?家庭でできるセルフチェック シーバー病の症状を早期に発見するためには、保護者の方が日常的にお子さまの様子を観察することが大切です。 以下のような症状やサインが見られる場合は、シーバー病の可能性を疑いましょう。 チェック項目 症状の詳細 かかとを押したときの痛み 親指でかかとの後ろ側を軽く押して痛がる 朝起きたときの痛み ベッドから起き上がる最初の一歩で痛がる 運動後の痛み 練習や試合の後にかかとを痛がる 歩き方の変化 つま先立ちで歩いたり、歩き方がおかしい 長時間座った後の痛み 椅子から立ち上がるときに痛がる 運動後の痛み 運動後にかかとに痛みを感じるのは、シーバー病の最も典型的な初期症状の一つです。 とくに、サッカーやバスケットボール、陸上競技など、ジャンプや走る動作を繰り返すスポーツに取り組んでいるお子さまに多く見られるので、練習や試合が終わった後にかかとの痛みを訴えたり、つま先立ちで歩いている場合は要注意です。 初期段階では軽い違和感程度かもしれませんが、放置すれば痛みは徐々に悪化し、やがて日常生活にも影響を及ぼす可能性があります。 とくに疲労が蓄積しやすい連続した練習日や、練習量が急に増えた時期には注意が必要です。 ので、お子さまが運動後の違和感を口にした場合は、それを見逃さずに適切な対処を始めることが予防の第一歩となります。 朝一番の痛み 朝起きた直後に感じるかかとの痛みも、シーバー病の代表的な症状の一つです。 これは、睡眠中に筋肉や腱が硬くなり、起床して最初に動作を行うときに成長板への張力が急激にかかることで生じています。 ベッドから起き上がって最初の一歩目に痛みがある場合は、炎症がある程度進行しているサインでもあります。 多くの場合、歩いているうちに痛みは軽減しますが、症状が繰り返すようであれば、セルフケアだけでなく医療機関へ相談しましょう。 朝の痛みを放置すると、日中の活動にも支障をきたすようになり、お子さまの生活の質に大きな影響を与える可能性があります。 歩き方の変化 シーバー病の進行に伴い、お子さまの歩き方に変化が現れることがあります。特徴的な変化は、かかとの痛みを避けるためにつま先歩きをするようになる点です。 痛いかかとに体重をかけることを本能的に避けようとする自然な反応ですが、長期間このような歩き方を続けると症状の悪化を引き起こします。保護者や指導者の方は注意深く観察しましょう。 観察するポイントは以下の通りです。 つま先立ちで歩いている 片足をかばうような歩き方をしている 歩く速度が遅くなった 階段の昇り降りを嫌がるようになった これらの異常が見られた場合には、早期に専門医の診察を受けましょう。 シーバー病はどのくらいで治る?回復までの期間と注意点 シーバー病の回復期間は、症状の程度や対処法の適切さによって大きく異なりますが、一般的には数カ月から1年程度とされています。 ただし、これはあくまで目安であり、個人差が非常に大きい疾患です。 軽度の場合では、適切なケアを行うことで1〜2カ月程度で症状が改善する場合もありますが、症状が進行してから治療を開始した場合や、不適切な対処により症状が悪化した場合は、回復に1年から数年程度かかることもあります。 回復期間を左右する重要な要因として、以下の点が挙げられます。 要因 回復への影響 発見の早さ 早期発見ほど回復が早い 運動の調整 適切な休息で回復促進 成長段階 成長期真っ盛りは時間がかかりがち 個人の体質 治りやすさに個人差がある 早期発見と適切な対処が何より大切です。お子さまのSOSと真剣に向き合ってあげることで、回復期間を大幅に短縮できます。 また、痛みがなくなったからといって完全に治ったわけではありません。 運動を再開する際は、段階的に進めることが重要です。ウォーキングやストレッチからはじめて、徐々に負荷をあげ、最終的には元の運動量に戻しましょう。 そして、シーバー病は成長に伴う疾患であるため、お子さまの成長が完全に終了するまでは再発の可能性も考慮してください。 シーバー病を早く治すための保存療法とセルフケア シーバー病の早期改善には、保存療法とセルフケアの適切な組み合わせが効果的です。 手術が必要になることはほとんどありません。多くの場合で手術をしない保存治療により症状の改善が期待できます。 保存療法の基本は、患部の安静を保ち、必要に応じてアイシングを行い、テーピングやインソールを使用してかかとへの負担を軽減しましょう。 セルフケアとしては、ふくらはぎや足底筋膜のストレッチ、足裏のマッサージが効果的です。これらの方法を組み合わせることで、シーバー病の症状を早期に改善し、再発を防げます。 重要なのは、一つの方法に頼るのではなく、複数のアプローチを並行して行うことです。お子さまの症状や生活スタイルに合わせた組み合わせを見つけましょう。 テーピングとアイシングの使い方 テーピングとアイシングは、シーバー病の症状軽減に非常に有効な手段です。テーピングは、かかとへの負担を軽減し、痛みを和らげる効果があります。 適切な巻き方を習得すると、日常生活や軽い運動時の痛みを大幅に軽減できるため、以下の基本的なテーピングの手順を抑えておきましょう。 基本的なテーピング手順は以下の通りです。 足首の力を抜いて、つま先を内側に入れる。 小指の付け根からテーピングの端を貼り付け、かかとに巻き込んでピンと張る様に貼り付ける。 余った部分は足を巻き込むように斜め上に上げて貼り付ける。 テーピングは毎日交換し、皮膚のかぶれに注意しながら使用してください。 アイシングは炎症を抑え、痛みを軽減するために重要な処置です。運動後や痛みが強いときに、かかと中心に15〜20分程度のアイシングを行うことで、症状の悪化を防げます。 これらの方法を適切に組み合わせて、早期回復を促進しましょう。 ストレッチと靴・インソールの工夫 シーバー病の予防や症状改善には、ストレッチとインソールの工夫が大きな役割を果たします。 アキレス腱やふくらはぎのストレッチは、牽引ストレスの軽減につながり、かかとへの負担を大きく減らします。 足首ストレッチ 椅子に座り、片足をもう片方の太ももの上に乗せて、足首を手でつかみます。 もう片方の手で足の指と手の指を組んで、ゆっくりと大きく足首を回してください。痛みのない範囲で20回程度回したら、逆足も同様に行います。 階段ストレッチ かかとはふくらはぎの筋肉と密接につながっているため、ふくらはぎが硬いとシーバー病のリスクが高まります。 うつ伏せになって腕立て伏せの姿勢を取り、片足をもう片方の足首の上に乗せます。下の足のかかとを床につけることで、ふくらはぎとアキレス腱の心地良い伸びを感じられます。 20秒キープして、逆足も同様に行ってください。 靴に関しては、クッション性が高く踵をしっかりとサポートできる構造のものを選ぶことが重要です。 適切な靴選びのポイントは以下の通りです。 かかと部分にしっかりとしたクッションがある 足のサイズに正確に合っている アーチサポート機能がついている 古すぎずクッション性が保たれている インソールの活用も重要です。市販のクッション性インソールや、必要に応じて医療用インソールの使用を検討してください。 これらの対策を組み合わせることで、症状の改善と再発防止の両方を実現できます。 シーバー病の再発防止とスポーツ復帰時の注意点 シーバー病は適切な治療により症状が改善しても、フォームやトレーニング内容を改善しないままだと再発するリスクが高い疾患です。 再発防止のためには、根本的な原因への対処と、段階的なスポーツ復帰を考えておきましょう。 痛みが無くなったらまずは軽いウォーキングとストレッチからはじめ、問題なければジョギング、そして習っているスポーツの動作練習と移行していき、最終的には通常練習へと復帰するのが理想です。 定期的に痛みの確認を行い、各段階で痛みが出現した場合は前の段階に戻って様子を見ましょう。一般的には1〜2カ月でこれまで通りスポーツができるようになります。 保護者の方は、お子さまがもう大丈夫と言っても、組織の回復には時間がかかることを理解し、長期的な視点でサポートしてあげてください。 また、指導者との連携も大切です。お子さまの状態を正確に伝え、無理をさせないよう配慮を求めてください。 シーバー病の受診のタイミングと当院の再生医療の選択肢 シーバー病の症状が現れた場合、適切なタイミングで医療機関を受診しましょう。 以下のような受診すべき症状がないかチェックしてください。 2週間以上痛みが持続している 歩行にも支障が出ている 片足ではなく両足に痛みがある 安静にしていても痛みが続く 痛みが徐々に強くなっている これらの症状がある場合、セルフケアだけでは改善が困難な可能性があります。 一般的な保存療法で改善しない場合、リペアセルクリニックでは、PRP(多血小板血漿)を用いた再生医療もご案内可能です。 PRP療法の特徴として、以下の点があげられます。 患者さま自身の血液から血小板を濃縮した液体を精製する治療 細胞の代謝プロセスに関与する成長因子を豊富に含む 入院を必要とせず治療期間が短い 副作用のリスクが少ない 当院の再生医療は、お子さまの成長段階や症状の程度を十分に考慮した上で治療プランをご提案します。PRP療法について知りたい方は以下のリンクをご確認ください。 まとめ|シーバー病は早期発見と正しいケアが重要です シーバー病は、成長期の子どもによく見られる疾患ですが、放置してしまうと症状が長引き、お子さまのスポーツ活動や日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。 しかし、適切な知識と対処法を実践することによって、多くの場合で症状の改善が期待できる疾患でもあります。 早期発見のためには、運動後の痛み、朝起きたときの痛み、歩き方の変化など、お子さまの日常の変化に注意を払うことが大切です。 家庭でのセルフケアとしては、適切なストレッチ、アイシング、テーピング、そして靴・インソールの工夫をしましょう。 そして、再発を防ぐためには正しいフォームの習得、段階的なスポーツ復帰、そして継続的なリハビリを意識した運動習慣の見直しが必要です。 症状が長引く場合や、通常の治療で改善が見られない場合は、再生医療などの選択肢もあるので、シーバー病でお悩みの方は当院にお気軽にご相談ください。 適切な診断と治療により、お子さまが再び元気にスポーツを楽しめるよう、全力でサポートいたします。 参考文献 (文献1) 済生会「踵骨骨端症(アポフィサイティス)」 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/apophysitis_of_the_calcaneus/ (最終アクセス:2025年5月24日)
2025.05.30 -
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「スマホを使うたびに親指が痛む」「手首をひねるとズキッとした痛みが走る」「朝起きると手がこわばって動かしにくい」 このような症状に心当たりはありませんか?実はこれらの症状は、現代人に急増している「スマホ腱鞘炎」のサインかもしれません。 現代では、スマホは私たちの生活に欠かせないツールとなっています。しかし、その便利さと引き換えに、知らないうちに体に負担をかけているかもしれません。 本記事では、スマホ腱鞘炎について、症状やメカニズムから、悪化させてしまう生活習慣、治療法まで詳しく解説します。 この記事を読むことで、スマホ生活を続けながらも痛みを軽減し、快適に過ごすヒントを見つけていただければ幸いです。 スマホ腱鞘炎とは?症状について解説 スマホ腱鞘炎は、医学的には「ドケルバン病」や「狭窄性腱鞘炎」と呼ばれる疾患の一種で、症状は親指の付け根から手首にかけての部分に痛みやはれが生じるのが特徴です。 スマートフォンの画面操作を繰り返すことで、親指を動かす腱(けん)に炎症が起こり、痛みを引き起こすため、片手でスマホを持ち、親指だけで操作する習慣がある方は注意が必要です。 また、長時間のスマホ使用だけでなく、妊娠出産後や更年期の女性にも多く、家事や育児での繰り返し動作でも腱鞘炎のリスクを高めます。 腱鞘炎は決して重篤な疾患ではありませんが、放置すると日常生活での動作である、ものを持ち上げたり、握る、ねじるといった動作に支障をきたすことがあります。 たとえば、ペットボトルのふたが開けられない、鍵が回せない、ドアノブがつかめないなど、日常のちょっとした動作に痛みを感じてしまいますので、生活の質が低下します。 早期に適切な対処を行うことで、症状の悪化を防ぎ、快適な生活を取り戻しましょう。 腱と腱鞘のしくみ 腱(けん)と腱鞘(けんしょう)は、手の動きをスムーズにするための重要な組織です。 腱とは、筋肉と骨をつなぐ丈夫な線維組織のことで、筋肉が収縮したときにその力を骨に伝える役割を担っています。 一方、腱鞘は腱を包む鞘(さや)のような構造で、腱の動きをスムーズにし、摩擦を減らす役割があります。 腱鞘の内側には滑液(かつえき)と呼ばれる潤滑液が分泌されており、腱がスムーズに動くのを助けています。 スマホを操作するとき、親指を曲げたり伸ばしたりする動作を何度も繰り返すことで、親指の付け根に通っている2本の腱と腱鞘の間で摩擦が生じます。その結果、腱鞘炎が引き起こされます。(文献1) スマホ腱鞘炎を悪化させる生活習慣 スマホ腱鞘炎は、日常の何気ない使い方で悪化する場合があります。 とくに注意すべき習慣は片手で持って片手で操作と、手首で捻って両手で横持ちの二つです。 これらの習慣が続くと、知らないうちに親指や手首に負担がかかり、腱鞘炎のリスクが高まりますので、日々のスマホ利用方法を少し見直して、腱鞘炎の予防や症状の軽減につなげましょう。 片手で持って片手で操作 片手でスマホを持ちながら親指で操作する方法は、腱鞘炎のリスクが高くなります。 この姿勢では親指が画面全体に届くよう大きく外側に広がる必要があり、親指の付け根に過度な負担がかかります。 とくに大画面のスマホを使用している場合、親指を無理に伸ばして操作すると、腱にさらなる負担がかかってしまいますので、注意しましょう。 また、片手操作でスマホの下に小指を添える持ち方は関節をねじってしまい、小指の負担が大きくなってしまいますので改善が必要です。 改善策として、両手でスマホを持ち、両方の親指で操作するとスマホを支える手や指の重さを分散できるため、負担を軽減できます。 両手でスマホを持つのが難しい方は、片手の手のひら全体を使ってスマホを持ち、両手で操作しても手指にかかる負担を軽減できます。 このように、持ち方を工夫すると親指や手首への負担を軽減し、腱鞘炎の予防や改善につながります。 手首を捻って両手で横持ち スマホを横向きに持って操作する横持ちも、腱鞘炎のリスクが高い使い方です。 とくに動画視聴やゲームプレイなどで見られる持ち方ですので、横持ちが多い方は注意しましょう。 横持ちの際、手首を内側にひねる姿勢が続くと、手首の関節に過度な負担がかかります。 そのため、スマホをどうしても横持ちで操作したい方は小指でスマホを支えないことと、画面をできるだけ立てて持つことを意識してください。 長時間の動画視聴やゲームプレイの際は、姿勢に気を配るとともに、適度な休憩を取って手首や指への負担を減らしましょう。 スマホ腱鞘炎かも?自分でできるセルフチェック法 スマホ腱鞘炎が気になる方は、自宅で簡単にできるセルフチェック法を試してみましょう。 ここでは、フィンケルシュタインテストとアイヒホッフテストをご紹介します。これらのテストで痛みを感じた場合は、スマホ腱鞘炎の可能性が高いと考えられます。 ただし、これはあくまでセルフチェックですので、強い痛みがある場合や、症状が続く場合は、専門医へ受診しましょう。 フィンケルシュタインテスト フィンケルシュタインテストは、スマホ腱鞘炎を診断する際によく用いられる方法です。 フィンケルシュタインテストの手順 手首が小指側に曲がらないようにまっすぐ固定する 反対の手で親指をつかんで曲げる このとき、手首の親指側や親指の付け根あたりに鋭い痛みが生じた場合はスマホ腱鞘炎の可能性があります。 親指に力を入れて自分で曲げるのではありません。親指の力を抜いた状態で、反対側の手を使って曲げる方向に引っ張りましょう。 アイヒホッフテスト アイヒホッフテストも、スマホ腱鞘炎(ドケルバン病)を診断するための有効な方法です。 フィルケンシュタインテスト変法とも呼ばれ、フィンケルシュタインテストとは少し異なる方法で簡単に行えます。 アイヒホッフテストの手順 親指を手のひらの中に入れるように握ります 握った手を、小指側に傾けます このとき、親指の付け根から手首にかけて痛みがあればスマホ腱鞘炎の可能性があります。 このテストでは、親指を動かす2本の腱が引っ張られ、炎症があると痛みが生じます。 フィンケルシュタインテストと併せて行うことで、より確実にスマホ腱鞘炎の可能性を確認できます。 痛みの強さは個人差がありますが、健康な状態では痛みはほとんど感じないため、痛みを少しでも感じる場合はスマホ腱鞘炎の可能性があります。 テストの際は無理に力を入れず、自然な動きで行いましょう。 強い痛みがある場合は、すぐに専門医への受診をおすすめします。 スマホ腱鞘炎が悪化したら?治療法と再生医療の選択肢 セルフチェックの結果、スマホ腱鞘炎の可能性が高いと感じた場合、どのような対処が必要でしょうか。 初期段階では、保存的療法と呼ばれる手術を行わない治療法が効果的です。 保存的療法では、まず患部に塗り薬や湿布を塗布し、スマホの使用時間を意識的に減らして親指や手首への負担を軽減します。 また、操作する際は、正しい姿勢でスマホを操作して腱への過度な負荷を避けましょう。 さらに、手首や指の柔軟性を保つためのストレッチを定期的に行うことで、腱の柔軟性を維持し、炎症の改善を図ります。 しかし、これらの保存的療法を行っても症状が続く場合や、日常生活に支障をきたす場合は、手術が必要になるかもしれません。 手首の皮膚を切開し、腱鞘を切り開く手術ですが、30分ほどで完了します。 他に手術を必要としない治療法として、再生医療の選択肢もあります。再生医療とは、自己の幹細胞や血液を利用する治療法で、副作用のリスクが低い治療法です。 再生医療をご検討の際は、当院「リペアセルクリニック」へお気軽にご相談ください。 受診すべきタイミングは?専門医への相談の目安とは スマホ腱鞘炎の症状がある場合、どのようなタイミングで専門医に相談すべきでしょうか。 以下のような状況がある場合は、整形外科やリハビリテーション科の受診を検討しましょう。 痛みが2週間以上続く 日常生活や仕事に支障をきたす痛みがある 夜間に痛みで目が覚める セルフケアをしても症状が改善しない 手の握力が弱くなった 親指の付け根に腫れや熱感がある 医療機関では、問診や触診、場合によってはレントゲン検査や超音波検査などを行い、腱鞘炎の程度を診断します。 診断結果に基づいて、以下のような治療が行われることがあります。 消炎鎮痛剤の処方 サポーターや固定具による安静 ステロイド注射 物理療法(超音波治療、電気治療など) 手術療法(重症例の場合) 治療法は症状の程度や期間、生活環境によって異なりますが、医師と相談しながら、自分に合った治療法を選択することが大切です。 早めに医療機関を受診して症状の悪化を防ぎ、早期回復につなげましょう。 腱鞘炎と再生医療について 腱鞘炎に対する再生医療には、主に以下の二つがあります。 再生医療の種類 説明 PRP(多血小板血漿) 療法自己の血液から血小板を濃縮し、成長因子を豊富に含む血漿を作製して患部に注入する治療法です。 血小板から放出されるさまざまな成長因子が、炎症を抑制し、組織の修復を促進します。 幹細胞治療 自己の脂肪組織や骨髄から採取した幹細胞を患部に注入し、組織の再生を促進する治療法です。 幹細胞は抗炎症作用や組織修復促進作用を持つため、腱鞘炎の改善に効果が期待されています。 再生医療には、多くのメリットがあります。 まず、自己の細胞を使用するため、他人の組織を移植する際に問題となる拒絶反応のリスクが極めて低いことが挙げられます。 また、メスを使った手術と比較して体への負担が少なく、治療後の痛みや腫れも軽微で回復期間が短く、多くの場合、治療翌日から日常生活に復帰が可能です。 とくに仕事や育児で長期間の休養が取りにくい現代人にとって大きなメリットといえるでしょう。 当院は再生医療のプロフェッショナルとして、多くの実績がございます。 再生医療について詳細は、以下の記事もご覧ください。 まとめ|スマホ腱鞘炎を予防・改善する習慣を今日から始めよう スマホ腱鞘炎は、現代社会において誰もが発症する可能性のある症状です。ITやクリエイティブ職、そして子育て中の方など、日常的にスマホを多用する方は注意が必要です。 この記事では、スマホ腱鞘炎の症状から原因、セルフチェック方法、そして治療法まで幅広く解説してきました。スマホは私たちの生活に欠かせないツールとなっています。 スマホを使わない選択肢はなかなか現実的ではないので、スマホとの付き合い方を少し見直し、体に負担をかけない使い方を心がけましょう。 今日からできる小さな習慣の変化が、将来の大きな痛みを予防につながります。もし症状が気になる場合は、早めの対処と専門医への相談を検討してください。 健康な手で、快適なスマホライフを送りましょう。 参考文献 (文献1)日本整形外科学会「ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)について」2023年 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/de_quervain_disease.html (最終アクセス:2025年5月20日)
2025.05.30 -
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「高次脳機能障害と認知症はどう違うのか」 「高次脳機能障害と認知症は併発するのか」 高次脳機能障害と認知症は、どちらも記憶や判断力に影響を及ぼすため混同されやすいものの、実際には原因や進行、症状に明確な違いがあります。本記事では、両者の違いや併発の可能性、それぞれの症状や治療法についてわかりやすく解説します。 また、記事の最後には、高次脳機能障害と認知症に関する質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 高次脳機能障害と認知症の違い 項目 高次脳機能障害 認知症 原因 脳外傷、脳卒中、脳腫瘍など突然の脳損傷 アルツハイマー病など進行性の脳疾患 発症の経過 急性(原因となる出来事の直後) 徐々に発症し進行する 症状 記憶障害、注意障害、感情コントロールの低下、遂行機能障害など 記憶障害、見当識障害、判断力低下、徘徊・妄想など 症状の進行 基本的には進行しない(リハビリで回復可能性あり) 徐々に進行する(根本的な治療は困難) 意識レベル 通常はっきりしている 初期ははっきりしているが、進行で低下する場合も 支援の方向性 機能の回復と代償を目指すリハビリ中心 進行を遅らせ、生活支援を重視 その他の特徴 症状は損傷部位により多様 記憶障害が中核症状となることが多い 高次脳機能障害と認知症は、記憶力や判断力に影響を及ぼす点では共通しているものの、発症の経緯や進行、支援の方法には大きな違いがあります。 高次脳機能障害は、脳卒中や事故など外的な要因によって突然起こるのに対し、認知症は加齢や神経変性によって徐々に進行するのが特徴です。症状の内容や治療法も異なるため、正しく区別して対応することが重要です。 高次脳機能障害の症状 症状カテゴリ 内容 記憶障害 新しいことが覚えられない、過去の出来事を思い出せない、体で覚えた動作の記憶の障害 注意障害 集中力の低下、注意の持続・切り替え・分配の困難 遂行機能障害 計画立案・実行・自己評価の困難、柔軟な対応の低下 社会的行動障害 感情コントロールの難しさ、意欲低下、対人トラブル、依存傾向 失語症 話す・聞く・読む・書く・名前をいうことの困難 失行症 動作の指示や模倣ができない、物の使い方の混乱、衣服の着脱の困難 失認症 見る・聞く・触る情報の認識障害、自分の病気への無自覚、片側への注意欠如 高次脳機能障害の症状は、損傷を受けた脳の部位や程度によって多岐にわたります。記憶障害、注意力の低下、遂行機能障害、失語、失認、行為障害、感情や行動の変化などが症状として現れます。 高次脳機能障害の症状の現れ方には大きな個人差があり、単一の症状だけでなく複数が同時に見られることもあります。 以下の記事では、高次脳機能障害の症状について詳しく解説しております。 認知症の症状 症状カテゴリ 内容 記憶障害 新しい情報の保持の困難、物の置き場所の忘却、同じ質問の繰り返し 見当識障害 日付や場所の混乱、家族や知人の認識困難 実行機能障害 手順や計画の立案の困難、複数作業の同時実行の困難 言語障害(失語) 適切な言葉が出てこない状態、会話や内容理解の困難 行動・心理症状(BPSD) 妄想や幻覚、徘徊・暴言・暴力、抑うつや不安の出現 認知症の主な症状は、記憶障害、見当識障害、理解力や判断力の低下、実行機能障害などが挙げられます。 発症初期には物忘れが目立つことが多く、進行するにつれて日常生活を送る上でのさまざまな能力が低下していきます。また、抑うつや不安、妄想などの精神症状や行動の変化が伴うのも特徴です。 以下の記事では、認知症について詳しく解説しております。 高次脳機能障害と認知症は併発する可能性がある 観点 内容 高次脳機能障害がある場合 脳の損傷により将来的に認知症の発症リスクが高まる可能性あり(再発・加齢・刺激不足が影響) 認知症が高次脳機能障害を起こすか 認知症が直接の原因となって高次脳機能障害を起こすことは基本的にない 症状の似ている点 記憶障害・判断力の低下・感情の不安定さなどが共通し、初期は区別が難しいこともある 両者の本質的な違い 高次脳機能障害は非進行性(改善が見込める)認知症は進行性(徐々に悪化) 正確な診断のために必要なこと 医師による問診、画像検査、神経心理検査などでの専門的な鑑別 (文献1) 高次脳機能障害と認知症は異なる病気です。しかし、症状が似ているため混同されやすく、併発するケースもあります。とくに高次脳機能障害のある方は、脳の脆弱性により将来的に認知症を発症しやすくなる可能性があります。 一方で、認知症が直接的に高次脳機能障害を引き起こすことは稀です。両者には明確な因果関係はありません。症状が重なる場合もあるため、診断後も経過観察が必要です。 併発が疑われる際は、それぞれに適した治療や支援を組み合わせ、医師による診断と対応が必要になります。 高次脳機能障害になったときの対処法 対処法 内容 リハビリテーション 作業療法・理学療法・言語療法・心理療法などを組み合わせ、機能の回復・改善を目指す訓練 薬物療法(症状のコントロール) 抑うつ、不眠、易怒性などの症状に対し、必要に応じて薬を用いてコントロールする治療法 再生医療(損傷神経の修復) 損傷した脳神経の修復や機能回復を目指す新たな治療法 高次脳機能障害と診断された場合は、早期の対応が大切です。治療の中心はリハビリテーションで、必要に応じて薬物療法も併用されます。 さらに近年では、損傷した神経の修復を目指す再生医療も注目されており、新たな治療の選択肢として期待されています。 リハビリテーション 訓練対象 内容 目的・背景 記憶障害 カードや絵の記憶、聴覚的記憶、日付や時間の確認、メモやアラームの活用 残された脳機能を活用し、記憶力の再学習と代償手段の習得を図る 注意障害 間違い探しや時間内課題、ラジオを聞きながら作業、集中できる環境調整 注意力を高める訓練と、日常生活での適応力の回復を促す 遂行機能障害 料理や買い物の段取り、問題解決、時間管理の練習 計画立案や柔軟な思考を再習得し、日常生活の自立を支援 言語障害 発語・理解・読み書きの練習、ジェスチャーや絵カードの活用 言語能力の再構築と、代替的なコミュニケーション手段の習得 視空間認知障害 図形模写、地図や迷路の把握、着替え・食事などの動作訓練 空間認識力の再学習と、日常動作の確保 心理的サポート カウンセリング、家族への支援と相談 抑うつや意欲低下など二次的問題の予防と精神面の安定 総合的な目標 各機能訓練を個別に組み合わせて実施 脳の可塑性を活かし、生活の質の向上と自立を目指す リハビリテーションは、高次脳機能障害からの回復において重要な役割を果たします。 作業療法士や言語聴覚士の指導のもと、記憶力や注意力、行動面の改善を目指した訓練を行い、日常生活に即した動作を段階的に練習しながら、低下した機能の補完や再習得を図ります。 少しずつリハビリを積み重ね、生活の自立や社会復帰を前向きに目指していくことが大切です。 以下の記事では、高次脳機能障害のリハビリについて詳しく解説しています。 【関連記事】 高次脳機能障害への対応の仕方は?介護疲れを軽減するコツを解説 高次脳機能障害のリハビリ効果とは?方法や内容をあわせて紹介 薬物療法(症状のコントロール) 項目 内容 目的 症状のコントロールと生活の質(QOL)の向上 脳機能の調整 神経伝達物質のバランス調整による注意力・記憶力・感情コントロールの改善 精神症状への対応 抑うつ・不安・興奮・攻撃性の緩和による情緒の安定と行動の安定化 主な使用薬剤 認知機能に作用するドネペジル、不安や抑うつに用いる抗うつ薬(SSRIなど) 治療上の注意点 副作用への配慮と、症状に応じた個別の薬剤調整 治療の進め方 リハビリテーションや心理的支援との併用による相乗的な治療効果 (文献2) 高次脳機能障害に対して、根本的な治療薬はありませんが、抑うつや不安、興奮といった精神的な症状には薬物療法が行われます。このような症状を和らげることで、情緒が安定し、生活しやすくなることがあります。 薬剤は症状や体調に応じて医師が判断し、リハビリや心理的支援と併用して生活の質の向上を目指すとともに、副作用への配慮や継続的な調整も大切です。 再生医療(損傷神経の修復) 高次脳機能障害に対する再生医療は、損傷した神経細胞の修復や再生を促す治療法で、記憶力・注意力・言語能力の改善が期待されています。 幹細胞には、炎症を抑制し神経ネットワークの再構築を促進する効果が期待されています。現在は一部の医療機関でのみ実施されており、適用には医師との事前相談が必要です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 認知症になったときの対処法 対処法 内容 薬物療法(進行抑制と症状緩和) 症状の進行を遅らせる、記憶障害や精神症状を一時的に改善する薬を使用 生活環境を整える 物の配置を工夫し、過ごしやすい環境をつくる 再生医療(脳の神経細胞を修復・保護) 神経細胞の修復や保護を目指す治療で、認知機能の維持・改善に期待 認知症と診断された場合も、進行を遅らせたり症状を和らげたりする方法があります。 薬物療法では記憶障害や精神症状の改善を目指し、再生医療も将来の治療法として注目されている治療法です。 薬物療法(進行抑制と症状緩和) 項目 内容 目的 認知機能の低下を遅らせ、行動・心理症状(BPSD)を緩和し、生活の質を保つ 主な薬の種類 アセチルコリンの働きを保つ薬や、神経の過剰な興奮を抑える薬が使われる 代表的な薬剤 ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチン 作用のしくみ 記憶や学習に関わる神経伝達を助けたり、神経細胞の損傷を防いだりする 副作用の例 吐き気、下痢、食欲不振、めまい、頭痛、便秘など 治療の工夫 複数の薬を組み合わせることで、より高い効果が期待できることもある (文献3) 薬物療法で認知症の進行を根本から止めることは困難ですが、一部の薬剤は記憶障害や行動症状を軽減する効果があります。代表的な薬としてアセチルコリンエステラーゼ阻害薬があり、認知症の進行を遅らせ、自立した生活の維持に役立つとされています。 薬物療法では、自己判断で量を変えたり中断したりせず、医師の指示に従って継続的な服用が大切です。 生活環境を整える 項目 内容 目的 不安や混乱の軽減、自立支援、介護負担の軽減 認識のサポート 時計・カレンダーの設置、季節感や思い出の品の活用 残された力の活用 物の定位置化、ラベル表示、自分でできる環境の工夫 行動・心理症状の緩和 混乱や不安の軽減により、徘徊や興奮を予防 地域・社会との関わり 外出支援、地域活動への参加、近隣住民との協力体制 円滑なコミュニケーション ゆっくり話す、笑顔、ジェスチャーや絵の活用、否定しない姿勢 認知症のある方にとって、環境の変化は混乱や不安の原因になりやすいため、過ごしやすい生活環境を整えることが大切です。 たとえば、物にラベルを貼る、大きな時計を設置するなど、ちょっとした工夫が日常生活を支える助けになります。 このような環境づくりは、本人の残された力を引き出すだけでなく、徘徊や興奮などの症状を和らげ、介護する家族の負担も軽減します。家族が協力して環境を整えることは、生活を支え、症状の緩和にもつながる大切な取り組みです。 再生医療(脳の神経細胞を修復・保護) 再生医療は、認知症で失われた神経細胞を補ったり、傷んだ細胞を修復したりすることを目指す治療法です。たとえば、幹細胞を脳に移植し、それが神経細胞に成長することで、脳の機能回復が期待されています。 再生医療は受けられる医療機関が限られており、適用できるかどうかは事前に医師へ相談しましょう。 高次脳機能障害と認知症の違いを理解し適切な治療を受けよう 高次脳機能障害と認知症は、原因や進行の経過は異なるものの、似たような症状が見られることがあります。正しく見分けて適切な診断と治療を受けることは、生活の質を向上させる上で大切です。 当院リペアセルクリニックでは、症状に応じた治療をご提案しており、再生医療も選択肢のひとつとしてご利用になれます。 高次脳機能障害もしくは、認知症の症状でお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 高次脳機能障害と認知症に関するよくある質問 高次脳機能障害と認知症どちらかわかりませんが病院を受診するときは何科に行けばいいですか? 高次脳機能障害や認知症が疑われる場合は、神経内科や脳神経外科の受診が基本です。 精神症状があれば精神科や心療内科、高齢者の場合は老年内科も適しています。診断後はリハビリ科の支援も有効です。迷ったときは、まずかかりつけ医に相談しましょう。 高次脳機能障害や認知症は遺伝しますか? 高次脳機能障害は脳の損傷によるもので、遺伝はしません。一方で、家族性アルツハイマー病など一部の認知症では遺伝的要因が強く関与するものもあります。心配な場合は医師に相談しましょう。 高次脳機能障害と認知症は支援制度や保険は適用できますか? 高次脳機能障害や認知症のある方は、症状や年齢、生活状況に応じてさまざまな支援制度や保険の適用を受けられます。高次脳機能障害では障害者手帳、自立支援医療、障害年金、福祉サービスなどが利用できます。 認知症では介護保険制度や高額療養費制度、精神障害者保健福祉手帳の取得などが対象です。制度の利用には、市区町村の福祉窓口での相談や申請が必要です。 参考資料 (文献1) 宮永和夫.「高次脳機能障害者と認知症-鑑別診断と社会支援-」, pp.1-26 https://www.minamiuonumahp.jp/wp/wp-content/uploads/2018/10/2018.9.22.pdf(最終アクセス:2025年5月19日) (文献2) 溝神文博.「切れ目のないポリファーマシー対策を提供するための薬物療法情報提供書作成ガイド」, pp.1-76, 2025年 https://www.ncgg.go.jp/hospital/kenshu/news/documents/20250331guide.pdf(最終アクセス:2025年5月19日) (文献3) 一宮洋介.「アルツハイマー型認知症の新たな治療戦略」『順天堂東京江東高齢者医療センターメンタルクリニック』, pp.1-52 https://medical-society-production-tkypa.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/uploads/theme/pdf/479/20130309_003.pdf(最終アクセス:2025年5月19日)
2025.05.30 -
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「突然、片側の手足に力が入らなくなった」 「最近呂律が回らず、うまく話せなくなった」 それらの症状は、心原性脳梗塞の可能性があります。心原性脳梗塞は、心臓内で生じた血栓が血流に乗って脳の血管を詰まらせることで発症します。本記事では、心原性脳梗塞について詳しく解説していきます。 心原性脳梗塞の症状 心原性脳梗塞の原因 心原性脳梗塞の治療法 異変を感じた段階で、早期に適切な治療を受けることが大切です。本記事の最後には、心原性脳梗塞に関するよくある質問もまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 心原性脳梗塞の症状 症状 主な症状 特徴・解説 顔面麻痺・手足の痺れ 顔の片側が動かしにくい、手足の力が入らない、感覚が鈍い 片側に出やすく、日常生活への影響が大きい 構音障害 話しにくさ、言葉が出ない、相手の話が理解できない 言語機能の障害によるコミュニケーションの困難 視覚障害 視野が狭くなる、物が二重に見える、片目の視力が低下する 突然の視覚異常による事故や転倒の危険 高次機能障害 記憶力や判断力の低下、注意力の散漫、感情の不安定さ 脳の機能低下による日常動作や思考の変化 心原性脳梗塞は突然発症するケースが多く、本人や周囲が初期症状に気づきにくいこともあります。顔の片側が動かなくなる、手足の痺れ、言葉が出にくい、視界の異常などの症状が現れます。 心原性脳梗塞は、発見が遅れると後遺症のリスクが高まるため、異変を感じた段階で早めに医療機関を受診するのが大切です。 以下の記事では、脳梗塞の症状の対策について詳しく解説しています。 【関連記事】 脳梗塞は症状が軽いうちの治療が大切!原因と対策を解説【医師監修】 脳卒中と脳梗塞の違いは?前兆の症状や後遺症をわかりやすく解説 顔面麻痺・手足の痺れ 項目 内容 原因 心臓の血栓が脳の太い血管を詰まらせ、感覚を司る領域への血流が遮断される 障害部位 大脳半球の感覚野(頭頂葉) 痺れの仕組み 神経細胞が酸素不足になり、感覚の信号が伝わらなくなる 出方の特徴 顔・手・足の片側に痺れが出る(障害された脳の反対側に症状が現れる) 麻痺との関係 感覚野と運動野が近く、痺れと麻痺が同時に出ることが多い 重症化しやすい理由 心原性の血栓は大きく、広い範囲で痺れが強く出やすい よく詰まる血管 中大脳動脈(MCA) (文献1) 脳の一部に血流障害が起こると、身体の左右どちらかに麻痺や痺れが現れるケースがあります。とくに顔の片側がゆがんだり、腕や脚に力が入らないといった症状は、心原性脳梗塞を疑うべきサインです。 顔面麻痺や手足の痺れは前兆なく突然起こることも多く、日常動作に支障をきたすため、早期の診断と対応が必要です。 構音障害 項目 内容 原因 心臓の血栓が脳の太い血管を詰まらせ、言語や発声に関わる部位が障害される 障害される部位 ブローカ野、運動野(顔面領域)、延髄などの脳幹 症状の内容 発音が不明瞭になる、声が出しづらい、言葉が滑らかに出ない 失語症との違い 構音障害は発音の仕方に問題があるのに対し、失語症は言葉の意味を理解したり表現したりする能力に障害が出る状態 構音障害と失語症が併発する可能性 構音障害と失語症が同時に起こるケースもある よくある日常のサイン ろれつが回らない、電話で何を言っているか聞き返される、言葉がつっかえる (文献2) 構音障害とは、言葉を発する際にうまく発音できない状態です。舌や唇、口の動きがうまくいかず、音を正確に発音できなくなります。 心原性脳梗塞では、このような話しづらさは発症直後に現れることが多く、本人や周囲も異変に気づきやすいのが特徴です。発音に違和感を覚えたり、ろれつが回っていないと指摘されたりした場合は、ためらわず早めに医療機関を受診しましょう。 視覚障害 項目 内容 原因 心臓から飛んだ血栓が、視覚をつかさどる脳の血管を詰まらせる 障害される部位 後頭葉や視神経を支配する動脈(例:後大脳動脈) 代表的な症状 両目の片側の視野が見えない(同名半盲) 一時的な視力障害 数秒~数分間、片目が真っ暗になる感覚(過性黒内障) 物が二重に見える症状 脳幹や小脳が障害されることで起こる複視 空間感覚の異常 距離感がつかみにくくなり、物との位置関係がわかりにくくなる 心原性脳梗塞で視覚をつかさどる脳の部位が障害されると、視野が欠ける、物が二重に見えるなどの異常が突然現れることがあります。 本人が気づかないケースもありますが、まばたきや目の動きに違和感が出ることがあります。視野が狭まるなどの異常が続く場合は、脳の異常も考え、早めに医療機関を受診しましょう。 脳の高次機能障害 主な症状 特徴 記憶障害 新しい情報が覚えられない、過去の記憶を思い出しにくい状態 注意障害 集中力の低下、注意の持続が難しい、気が散りやすい状態 遂行機能障害 計画や段取りの困難、手順通りに行動できない状態 言語障害(失語症) 言葉が出ない、話す・聞く・読む・書くことの困難 社会的行動障害 感情のコントロールの難しさ、衝動的・不適切な行動 (文献3) 心原性脳梗塞では、心臓から流れた血栓が脳の太い血管を塞ぎ、広い範囲の脳組織がダメージを受けることがあります。とくに中大脳動脈が詰まると、記憶や判断、注意、言語、感情などをつかさどる領域が障害され、高次脳機能障害が現れることがあります。 物忘れや段取りの悪さといった症状は、加齢と勘違いされやすいため、見逃されやすいのが特徴です。認知機能の低下に気づいた際には、脳梗塞の可能性も考え、早急に医療機関を受診しましょう。 心原性脳梗塞の原因 原因 内容 心房細動 心臓が不規則に動き、血栓ができやすくなる不整脈 心臓弁膜症 弁の異常により血液の流れが乱れ、血栓ができやすくなる状態 心筋梗塞 心筋の壊死によって心臓の機能が低下し、血栓が発生しやすくなる状態 拡張型心筋症 心臓の筋肉が弱まり、血液が滞って血栓ができやすくなる病気 卵円孔開存 心房の間に残った穴を通して、血栓が脳に流れ込む状態 感染性心内膜炎 心内膜や弁にできた感染性の塊(疣贅)が血流に乗って脳の血管を詰まらせる状態 心原性脳梗塞は、心臓で生じた血栓が血流に乗って脳へ到達し、血管を詰まらせることで発症します。発症の背景には、心房細動や心筋梗塞、心臓弁膜症など、心臓の機能に関わる病気が関係しているケースが多く見られます。 とくに心臓に不整脈や異常を指摘されたことがある方は、脳梗塞のリスクが高まるため注意が必要です。 以下の記事では、脳梗塞になりやすい人の特徴をわかりやすく解説しています。 心房細動・弁膜症 項目 心房細動が原因となる理由 弁膜症が原因となる理由 主な特徴 心房が細かく震える不整脈 心臓の弁が狭くなる・閉じにくくなる病気 血液の流れへの影響 心房の収縮が弱くなり、血液が滞りやすくなる 弁の異常で血液の流れが乱れ、特定部位で血液がよどみやすくなる 血栓ができやすい理由 滞留した血液が固まり、心房内に血栓ができやすくなる 血流の乱れと心房の拡大が血栓形成を促進 とくに血栓ができやすい部位 左心耳(左心房の袋状の部分) 拡大した心房内や人工弁の周辺 脳梗塞が起きる仕組み 心房内の血栓が全身へ流れ、脳の血管を詰まらせる 弁膜症により生じた血栓が血流に乗って脳へ運ばれ、血管を詰まらせる 弁膜症との関連 弁膜症が原因で心房細動を引き起こすこともある 心房細動を合併することで、さらに脳梗塞リスクが高まる 治療や注意点 抗凝固薬の服用が必要になることが多い 人工弁使用時は生涯にわたる抗凝固療法が必要 (文献4)(文献5) 心房細動は心臓が不規則に動く不整脈で、心房内に血液がよどみ、血栓ができやすくなります。この血栓が脳に流れると心原性脳梗塞を引き起こします。 高齢者に多い心房細動や弁膜症は自覚しにくく、いずれも脳梗塞のリスクが高いため、心電図や心エコーなどによる定期検査と、循環器内科での継続的な管理が欠かせません。 心筋梗塞・拡張型心筋症 項目 心筋梗塞が原因となる理由 拡張型心筋症が原因となる理由 主な特徴 冠動脈の詰まりによる心筋の壊死 心室の拡大と収縮力の低下 ポンプ機能への影響 心室の動きが悪くなり、血液が滞りやすくなる 心臓の収縮力が弱まり、血液が心室内に滞留しやすくなる 血栓ができやすい部位 壊死した心筋や心室瘤の部分に血液が淀みやすく、血栓が形成されやすい 拡張した心室内で血液がよどみ、血栓ができやすくなる 合併の多い不整脈 心房細動を伴うことがあり、さらに血栓リスクが上昇 心不全や不整脈を伴うことが多く、血栓形成の危険性が高い 脳梗塞が起きる仕組み 心室内の血栓が全身に流れ、脳の血管を詰まらせる 心臓内でできた血栓が脳に流れ込み、血管を詰まらせる (文献4) 心筋梗塞や拡張型心筋症は、心臓の収縮力が低下し、血液が滞ることで血栓ができやすくなります。この血栓が脳に流れると心原性脳梗塞を引き起こす原因になります。 これらの心疾患は見逃されやすいため、心電図や心エコーなどの検査で異常を早期に見つけ、速やかな対処が大切です。心臓病のある方は、心原性脳梗塞など脳の異常にも注意が必要です。 卵円孔開存 卵円孔開存(PFO)は、胎児期に心房をつないでいた通路が出生後も閉じずに残っている状態です。多くは無症状ですが、まれに静脈の血栓がこの穴を通って脳に流れ、脳梗塞を引き起こすことがあります。 「奇異性脳塞栓症」と呼ばれており、とくに若年者で原因不明の脳梗塞が起きた場合、卵円孔開存(PFO)が関係している可能性があるため、心臓の検査が重要です。再発リスクが高い場合は、経過観察やカテーテルによる閉鎖術が検討されます。 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は、心臓の内膜や弁に細菌が感染する病気です。細菌の塊(疣贅)が血流に乗って脳の血管を詰まらせ、心原性脳梗塞を引き起こすケースがあります。慶應義塾大学病院の報告では、患者の20〜40%に脳塞栓症が発生しています。(文献6) 人工弁や先天性心疾患がある方はリスクが高く、歯科治療や手術がきっかけになる場合もあるのが特徴です。発熱、倦怠感、心雑音が続く場合は早めに医療機関を受診する必要があります。(文献7) また、診断には血液検査や心エコー(とくに経食道エコー)が有効で、治療は抗菌薬が中心です。重症例では手術が必要になることもあります。 心原性脳梗塞の治療法 治療法の種類 内容 t-PA静注療法・血管内治療 発症早期に行う血栓溶解薬の投与やカテーテルによる血栓除去 抗凝固薬(ワルファリン、DOACなど) 血液を固まりにくくし、再発を防ぐための内服治療 原因疾患の治療(心房細動の管理など) 心房細動や弁膜症などの心疾患に対する薬物治療や手術 リハビリテーション 麻痺や言語障害の回復を目指す理学療法・作業療法・言語療法 再生医療 神経機能の回復を目指した新しい治療法の研究・臨床応用 心原性脳梗塞の治療は、発症直後の血栓除去と再発予防を目的に行われます。 急性期にはt-PAや血管内治療を行い、以降は抗凝固薬で血栓の再発を防ぎます。脳の障害に応じたリハビリも不可欠です。脳と心臓の両面から総合的に治療を進めていきます。 以下の記事では、脳梗塞は治るのかについて詳しく解説しています。 t-PA静注療法・血管内治療 項目 t-PA静注療法 血管内治療 治療内容 血栓を溶かす薬(t-PA)を静脈から投与して血管の再開通を図る カテーテルを使って血栓を直接回収または吸引し、血流を再開させる 主な作用機序 プラスミノーゲンを活性化し、プラスミンが血栓を分解 機械的に血栓を取り除く(ステントリトリーバー・吸引カテーテルなど) 対象となる血栓 比較的小さめの血栓に有効 太く大きな血栓やt-PAが効きにくい血栓に有効 適応されるタイミング 発症から4.5時間以内が目安 発症から6時間以内(条件次第で24時間程度まで適応されることも) 心原性脳梗塞との相性 心臓由来の血栓が溶解できるケースでは有効 心臓由来の大きな血栓を直接除去できるため、心原性脳梗塞に適応しやすい 使用される場面 比較的早期で症状が中等度までの患者に多く使用 血栓が大きい、症状が重い、t-PA単独で効果が不十分な場合に使用 他の治療との併用の可能性 血管内治療と併用するケースあり 必要に応じて局所的にt-PAを併用も可能 治療の目的 脳への血流を早期に再開し、後遺症を軽減 血栓を確実に取り除き、血流を回復し重症化を防ぐ (文献9)(文献10) t-PA静注療法は、血栓を溶かす薬剤(アルテプラーゼ)を点滴で投与し、閉塞した脳の血管を再開通させる治療です。発症から4.5時間以内の投与が目安であり、早期の対応が必要となります。(文献8) 血栓が大きい場合は、カテーテルで直接取り除く血管内治療が有効です。これらの治療は脳のダメージを抑えるために行われ、時間と症状の判断が回復を左右します。少しでも異変を感じた場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。 抗凝固薬(ワルファリン、DOACなど) 種類 薬剤 特徴 ワルファリン ワルファリン ビタミンKの働きを抑えて血液を固まりにくくする薬剤。効果の安定には定期的な血液検査(PT-INR)が必要。食事や他の薬との相互作用に注意が必要 直接経口抗凝固薬(DOAC) ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン 凝固因子を直接阻害する新しいタイプの薬剤。定期的な血液検査が原則不要。食事や薬の影響を受けにくく、服用の手軽さが特徴 (文献11)(文献12) 心原性脳梗塞は、心臓内でできた血栓が血流に乗って脳の血管を塞ぐことで発症します。とくに心房細動などの不整脈があると、心房内に血液が滞り、血栓ができやすくなるのが特徴です。 抗凝固薬は血液の固まりにくさを保つことで、こうした血栓の形成を防ぎ、脳梗塞の発症リスクを約3分の1に減らす効果があると報告されています。(文献13) 抗凝固薬には、ワルファリンと、近年使用が増えているDOAC(直接経口抗凝固薬)があります。DOACは定期的な血液検査が不要で、食事や他の薬の影響を受けにくく、一定の用量で効果が安定しているのが特徴です。このため、服薬の負担が少なく、継続しやすい薬とされています。(文献12) ただし、抗凝固薬は中断すると効果がなくなり、再発リスクが高まります。症状が落ち着いても自己判断で中止せず、医師の指示に従って服用を続けることが不可欠です。出血のリスクもあるため、異変を感じたら早急に医師へ相談しましょう。 原因疾患の治療(心房細動の管理など) 項目 内容 血栓形成の予防 心房細動を適切に管理すると心房内の血流が改善され、血栓の形成を防ぐ効果がある 抗凝固療法の適用 リスク評価(例:CHADS₂スコア)に基づき、ワルファリンやDOACを使用して血栓を予防する 心房細動の根治 カテーテルアブレーションにより、異常な電気信号の発生源を焼灼し、心房細動そのものを治療する 抗不整脈薬の使用 心房細動の発作を抑える薬剤により、発作の頻度や持続を減らす 脳梗塞の再発予防 血栓の原因となる心房細動を抑えることで、心原性脳梗塞の再発リスクを大きく減らせる (文献14) 心原性脳梗塞の予防や再発防止には、血栓をつくらせないための抗凝固療法だけでなく、根本原因となる心疾患の管理が不可欠です。 心房細動がある場合は、心拍を安定させる薬による治療が基本となり、症状が強い場合は、カテーテルアブレーションといった手術も検討されます。 心筋梗塞や弁膜症が原因であるときは、それぞれに合った専門的な治療が必要です。心臓と脳は深く関わっているため、心臓の病気をしっかり管理することが、脳梗塞の再発を防ぐポイントになります。 リハビリテーション リハビリの種類 対応する症状・目的 内容 理学療法(PT) 手足の麻痺や筋力低下などの運動機能障害 筋力や関節の動きを改善し、寝返り・立ち上がり・歩行など基本動作の回復を目指す訓練 作業療法(OT) 着替えや入浴などの日常生活動作や、記憶・注意力といった高次脳機能の障害 食事や更衣などの日常動作の訓練や、認知リハビリテーションを通じた生活機能の向上 言語療法(ST) 話す・理解する・飲み込むなどの言語障害・嚥下障害 発音・言語理解・読み書きなどの回復訓練により、コミュニケーション能力の改善を図る 心理・社会的支援 病気による不安・うつ・家族の精神的負担 心理士・ソーシャルワーカーによる心理サポートや、社会資源の活用支援 早期リハビリ介入 発症直後からのリハビリ開始による後遺症の軽減と回復促進 急性期からリハビリを始めることで、機能回復と社会復帰の可能性を高める包括的支援 (文献4) 心原性脳梗塞によって生じた後遺症を改善するには、発症後できるだけ早期にリハビリを開始するのが大切です。 手足の麻痺や言語障害、高次機能障害など、それぞれの症状に応じて、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)などを組み合わせて実施します。 リハビリは、脳の回復力が高い早期に始めることで効果が期待できます。再発を防ぎ、日常生活への復帰を目指すことが主な目的です。 再生医療 心原性脳梗塞による神経のダメージに対して、再生医療は有効な治療法のひとつとされています。 自分の身体から採取した幹細胞を使い、損傷を受けた脳の神経細胞の回復を促すことが目的です。治療を希望する場合は、再生医療を扱う医療機関で医師と十分に相談し、適切な判断のもとで進めていくことが大切です。 以下の記事ではリペアセルクリニックで取り扱っている再生医療についてわかりやすく解説しております。 リペアセルクリニックでは、心原性脳梗塞に対して手術を必要としない再生医療を提案しています。 心原性脳梗塞の症状が改善せずお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 心原性脳梗塞の症状を理解し適切な治療で回復を目指そう 心原性脳梗塞は、突然の麻痺や言語障害など、日常生活に大きな支障をもたらす病気です。症状を正しく理解し、早期に治療を受けることで後遺症の軽減や再発予防が期待できます。 手足の突然の麻痺や、ろれつが回らないといった症状が出た場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。 リペアセルクリニックでは、心原性脳梗塞による症状や後遺症に対し、従来のリハビリや治療に加えて、幹細胞を用いた再生医療もひとつの選択肢としてご案内しています。患者様の状態やご希望に応じて、医師と相談の上で治療方法を検討していただけます。 心原性脳梗塞の症状にお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 心原性脳梗塞の症状に関するよくある質問 心原性脳梗塞の予兆としてどのようなものがありますか? 心原性脳梗塞は突然起こることが多いですが、前ぶれとして一過性脳虚血発作(TIA)が現れることがあります。顔や手足の痺れ、言葉のもつれ、一時的な視力障害などが特徴です。 見逃さないためには、FASTチェックが有効です。 F=顔のゆがみ A=両腕が上がるか S=言葉の異常 T=時間が勝負 1つでも当てはまれば、すぐに救急車を呼びましょう。 心原性脳梗塞は再発しますか? 心原性脳梗塞は再発のリスクが高く、心房細動の持続や自己判断による抗凝固薬の中断、生活習慣病の悪化が影響します。 再発を防ぐには、正しい薬の継続服用、定期検査、食事や運動など生活習慣の見直しが大切です。 以下の記事では脳梗塞の予防や再発防止について詳しく解説しています。 心原性脳梗塞の症状に対して家族ができるサポートはありますか? 心原性脳梗塞では、家族のサポートが回復と再発予防において大切です。 異変への早期対応、治療や服薬の支援、リハビリや生活習慣の見直しを共に行うことが求められます。また、不安や抑うつへの心のケアも大切です。 参考資料 (文献1) 公益財団法人 日本心臓財団「脳卒中の基礎知識と予防のコツ」公益財団法人 日本心臓財団 https://www.jhf.or.jp/topics/2017/004361/(最終アクセス:2025年5月18日) (文献2) 山本大介.「みんなの脳神経内科ver.2」『中外医学社』, pp.1-8 https://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse4460.pdf(最終アクセス:2025年5月18日) (文献3) 社会福祉法人 恩賜財団 済生会「高次脳機能障害」社会福祉法人 恩賜財団 済生会, 2022年09月21日 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/higher_brain_dysfunction/m(最終アクセス:2025年5月18日) (文献4) 小笠原邦昭ほか.「脳卒中治療ガイドライン 2021〔改訂2023〕」 pp.開1-180, 2021年 https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2023.pdf(最終アクセス:2025年5月18日) (文献5) 岩﨑 雄樹ほか.「不整脈治療」『日本循環器学会 / 日本不整脈心電学会合同ガイドライン』, pp.1-80, 2024年 https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/03/JCS2024_Iwasaki.pdf(最終アクセス:2025年5月18日) (文献6) 慶應義塾大学「感染性心内膜炎」慶應義塾大学病院|KOMPAS, 2019年3月5日 https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000197/(最終アクセス:2025年5月18日) (文献7) 河野憲司.「心疾患を有する患者の歯科処置後に発熱を生じたとき」『大分歯界月報』, pp.1-4, 2019年 https://www.med.oita-u.ac.jp/oralsurg/allpdf/sikaigeppou/2019/%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%9B%9E%E3%80%80%E5%BF%83%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%82%92%E6%9C%89%E3%81%99%E3%82%8B%E6%82%A3%E8%80%85%E3%81%AE%E6%AD%AF%E7%A7%91%E5%87%A6%E7%BD%AE%E5%BE%8C%E3%81%AB%E7%99%BA%E7%86%B1%E3%82%92%E7%94%9F%E3%81%98%E3%81%9F%E6%99%82.pdf(最終アクセス:2025年5月18日) (文献8) Hacke W, Kaste M, Bluhmki E, et al. Thrombolysis with alteplase 3 to 4.5 hours after acute ischemic stroke. New England Journal of Medicine. 2008;359:1317–1329. https://doi.org/10.1056/NEJMoa0804656(最終アクセス日:2025年6月5日) (文献9) 峰松一夫.「知っておきたい循環器病のあれこれ」『公益財団法人 循環器病研究振興財団』, pp.1-20 https://www.jcvrf.jp/general/pdf_arekore/arekore_166.pdfm(最終アクセス:2025年5月18日) (文献10) 宮下明大.「Journal Club 脳梗塞発症後6-24時間における血栓除去術」, pp.1-55, 2018年 https://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20180116Fukuda.pdf(最終アクセス:2025年5月18日) (文献11) 平野照之.「日本血栓止血学会サイト お役立ちリンク集」『血戦止血誌』, pp.1-11, 2017年 https://www.jsth.org/publications/pdf/oyakudachi/6-3.pdfm(最終アクセス:2025年5月18日) (文献12) 国立循環器病研究センター「抗血栓薬内服中の患者が脳出血を発症した場合の重症化リスクを解明」国立循環器病研究センター, 2024年10月25日https://www.ncvc.go.jp/pr/release/pr_44966/#:~:text=*3)%20%E7%9B%B4%E6%8E%A5%E4%BD%9C%E7%94%A8%E5%9E%8B%E7%B5%8C%E5%8F%A3,%E3%82%84%E3%81%99%E3%81%84%E3%81%A8%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(最終アクセス:2025年5月18日) (文献13) 最先端の医療をお伝えする活動推進委員会 「脳卒中の今」先進医療.net, 2022年3月25日 https://www.senshiniryo.net/stroke_c/13/index.htmlm(最終アクセス:2025年5月18日) (文献14) 一般社団法人 日本循環器気学会「心房細動と心原性脳梗塞栓症」一般社団法人 日本循環器気学会 https://www.j-circ.or.jp/old/about/jcs_ps5th/index03.htmlm(最終アクセス:2025年5月18日)
2025.05.30 -
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「最近、物忘れが増えた気がする」 「身体のしびれ、力が入らないことが増えた」 このような悩みや違和感を覚えていませんか。これらは脳の異変、特にラクナ脳梗塞の可能性があります。自覚症状が出にくいため、異変に気づかないまま放置すると後遺症につながることがあります。 症状に気づかないまま重症化しないためにも、本記事ではラクナ脳梗塞について詳しく解説します。 ラクナ脳梗塞の症状 ラクナ脳梗塞の原因 ラクナ脳梗塞の治療法 ラクナ脳梗塞の再発予防策 記事の最後には、ラクナ脳梗塞に関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 ラクナ脳梗塞とは 項目 ラクナ脳梗塞 他の脳梗塞(アテローム血栓性・心原性脳塞栓症など) 詰まる血管の太さ 細い血管(穿通枝) 太い血管(主幹動脈など) 詰まる場所 脳の深部(視床、内包、脳幹など) 大脳皮質や皮質下、広い範囲 梗塞の大きさ 小さい(直径15mm以下) 比較的大きい 症状の出方 軽度または限定的な症状、無症状もある 急激で広範囲な症状が出やすい 見つかり方 健康診断や画像検査で偶然見つかることもある 明らかな発症症状により医療機関を受診し発見されやすい (文献1) ラクナ脳梗塞は、脳の深い部分にある細い血管が詰まることで生じる、小さなタイプの脳梗塞です。とくに視床や内包、脳幹といった脳の中心部で起こりやすく、詰まる血管は穿通枝と呼ばれる細い血管で、その結果生じる梗塞巣は直径15mm以下の小さなものです。 高血圧や糖尿病などが長く続くと、脳の細い血管がもろくなり、血流が止まってラクナ脳梗塞が起こることがあります。これは脳の深い部分に小さな梗塞ができるタイプで、初期には症状が軽く、気づかれにくいことが多いのが特徴です。 一般的な脳梗塞(アテローム血栓性や心原性脳塞栓症など)は太い血管が詰まり、大脳の広い範囲に強い症状が現れますが、ラクナ脳梗塞では影響が小さく、言葉や動きなど特定の機能にだけ症状が出るケースもあります。 中にはまったく症状がなく、検査で偶然見つかることもあります。ただし、たとえ小さな梗塞でも、何度も繰り返すと認知機能の低下や歩きにくさなど、後遺症につながる可能性があるため、少しでも気になる症状があれば、早めに医師への相談が大切です。 以下の記事では、脳梗塞の前兆やサインについて詳しく解説しております。 【関連記事】 突然の肩こりは脳梗塞の前兆?受診すべき症状や予防法を医師が解説 こめかみの痛みは脳梗塞のサイン?頭痛の原因や受診すべき目安を医師が解説 ラクナ脳梗塞の症状 症状・状態 起こる場面や原因 考えられる影響 片側の運動麻痺 手足や顔の一部に力が入らなくなる 日常動作の不自由・麻痺の固定 片側の感覚障害 しびれ、触覚の鈍さ、ピリピリ感覚が起こる 感覚の鈍麻・身体の違和感 構音障害 舌や口の動きのぎこちなさによる言葉のもつれ 会話のしづらさ・伝達能力の低下 手足の不器用さ 動きの協調性の低下 細かい作業の困難・転倒リスクの増加 嚥下障害 のどや舌の動きの低下 誤嚥・食事中のむせ・栄養摂取の難しさ バランス障害 体の安定感の低下 歩行困難・転倒リスクの増大 無症候性脳梗塞 自覚症状なし。検査で偶然見つかる小さな梗塞 再発の前兆・脳機能への慢性ダメージ 再発の蓄積 高血圧・糖尿病など動脈硬化が進んだ状態 小さな梗塞の多発・症状の進行 認知機能障害 多発性ラクナ梗塞の影響 物忘れ・判断力の低下・血管性認知症の進行 意欲や感情の変化 前頭葉付近の血流障害 意欲の低下・感情の不安定化 脳卒中リスク増加 全身の動脈硬化が背景にある状態 広範囲の脳梗塞・脳出血など重篤な脳卒中の可能性 ラクナ脳梗塞の症状は、梗塞が起きた場所や範囲によって異なります。典型的には、手足の麻痺やしびれ、感覚の鈍さ、歩行のふらつき、ろれつが回らないといった症状が現れます。 症状は軽度で一時的な場合も多く、加齢による変化と誤解してしまうことも少なくありません。また、頭痛や吐き気、物忘れの増加、力が入りにくいといった症状として現れることもあります。これまでになかった身体の変化に気がついた場合は、脳梗塞の可能性を疑い、早めに医療機関を受診しましょう。 ラクナ脳梗塞の原因 原因の種類 身体への影響 ラクナ脳梗塞との関係 高血圧 血管に強い圧力がかかり、壁が傷つき硬くなる 細い血管の動脈硬化を引き起こす主要な原因 加齢 血管が自然に硬くなり、弾力を失う 詰まりやすくなり、血流障害を起こしやすくなる 糖尿病 高血糖により血管内壁が傷つきやすくなる 細い血管にも影響し、詰まりやすくなるリスク増加 喫煙 血管が収縮し、血流が悪くなる 動脈硬化を促進し、脳血管に悪影響を及ぼす 脂質異常症 血液中の脂質が増え、血管壁にプラークが沈着 血管が狭くなり、詰まりやすくなる原因となる (文献2)(文献3) ラクナ脳梗塞は、脳の細い血管が徐々に狭くなり、最終的に詰まってしまうことで発症するのが特徴です。 主に原因として、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病によって血管が傷み、発症します。また、喫煙や加齢による血管の変性もラクナ脳梗塞を引き起こすリスクがあります。 高血圧 仕組み・状態 身体への影響 推奨される対策 血管壁への強い圧力 細い血管の内側が傷つき、硬く狭くなる 血圧の安定管理・血管負担の軽減 血管の変性(リポヒアリノーシス、フィブリノイド壊死) 血管の弾力低下・閉塞の進行 食塩制限・適度な運動・医師の指導に基づく治療 自動調節機能の低下 血流の調整ができず、細い血管の詰まりが起こりやすくなる 血圧変動の抑制・日々の血圧チェック 無症候性ラクナ梗塞の蓄積 認知機能の低下・血管性認知症への進行 定期的な脳の検査・生活習慣病の早期対策 高血圧の放置 繰り返す脳梗塞・将来的な重い後遺症 医療機関の受診・薬の服用継続 (文献2)(文献3) 高血圧は、ラクナ脳梗塞の原因のひとつであり、血圧が常に高い状態が続くと、脳の細い血管に大きな負担がかかり、壁が傷つきやすくなります。この状態が長期化すると、血管が硬くもろくなり、やがて詰まりを起こす可能性があります。 自覚症状のないまま進行するサイレントキラーとも呼ばれる高血圧は、脳の深部の血流障害を引き起こす大きな要因です。日々の血圧管理は、ラクナ脳梗塞の予防に欠かせません。早朝や夜間の変動にも気を配り、医師の指導に従って治療を続けることが大切です。 加齢による血管の変化 原因の種類 説明 対策 血管の硬化・肥厚 加齢により動脈が硬く厚くなる自然な変化。血管の弾力低下や内腔の狭窄を引き起こす 食事の改善、適度な運動、定期的な血管年齢チェック 穿通枝の狭窄・もろさ 脳の深部にある細い血管が加齢で弱くなり、血流低下や閉塞を招く 血圧・血糖・脂質の管理、禁煙、ストレス軽減 高血圧・糖尿病の影響増大 加齢で弱った血管が生活習慣病の影響を受けやすくなる 早期の生活習慣病治療、定期検診 微小血管障害 加齢により修復力が低下し、微細な血管損傷が血栓や梗塞の原因になる 再発予防の薬物治療、日常的な血圧管理 心血管疾患リスクの増加 加齢とともに心筋梗塞や脳卒中のリスクが急増 高カカオチョコ・ナッツ・魚などを摂取(ポリフェノール・オメガ3) 食生活の偏り 高齢者で栄養が偏りやすく、血管の老化が進行 地中海食を導入する (文献1)(文献4) 加齢により血管は徐々に弾力を失い、硬く狭くなっていきます。とくに細い血管は影響を受けやすく、ラクナ脳梗塞は小さな血管が詰まることで発症します。 加齢は避けられませんが、運動・食事・禁煙など、生活習慣の見直しによって血管の劣化を遅らせることができます。年齢に応じた健康管理が、脳の血流を守るために大切です。 糖尿病 項目 内容 対策 高血糖による血管内皮の損傷 血糖値の上昇で血管の内皮細胞が傷つきやすくなり、動脈硬化が進行 血糖管理の徹底 糖化反応による血管の劣化 血中の余分な糖がタンパク質と結合し、血管が硬く厚くなる 糖質制限と食事改善 細小血管への特異的な障害(糖尿病性血管症) とくに脳の穿通枝のような細い血管で顕著な構造異常が起こる 血管内皮の保護 血流の悪化・血栓形成 内皮の損傷により血小板が集まりやすくなり、血管内が狭くなる 抗血栓対策と禁煙 ラクナ梗塞の発症 血管が閉塞し、脳深部の小さな領域に血液が届かなくなる 生活習慣病の包括的管理 (文献5) 糖尿病は血糖値が高い状態が続く病気で、血管を徐々に傷つけます。とくに脳の細い血管はダメージを受けやすく、ラクナ脳梗塞のリスクを高める原因になります。 糖尿病とラクナ脳梗塞の合併症を引き起こさないためにも血糖だけでなく、血圧やコレステロールの管理も大切です。食事や運動、薬による血糖コントロールを続けることが、脳血管を守るためにも欠かせません。 以下の記事では、脳梗塞によって引き起こされる合併症について詳しく解説しています。 喫煙 喫煙による影響 血管への作用 ラクナ脳梗塞への関与 対策・予防策 血管内皮細胞の損傷 血管の炎症・硬化 動脈硬化を進行させ、穿通枝の狭窄を引き起こす 禁煙の実施、受動喫煙も回避 動脈硬化の促進 LDLコレステロールが血管に蓄積 脳の細い血管(穿通枝)の詰まりを助長 食生活改善(野菜・果物・魚を積極的に) 血栓形成の促進 血小板が活性化し血が固まりやすくなる 血管内で血栓が形成されやすくなる 禁煙+水分摂取・適度な運動 血管収縮作用 血圧上昇・血流悪化 一過性の血流低下がラクナ梗塞を誘発 ストレス管理・禁煙補助薬の活用 受動喫煙の影響 同様の血管損傷を引き起こす 非喫煙者にもリスクが波及 家庭・職場での禁煙環境整備 喫煙は、血管の健康に悪影響を与える生活習慣のひとつです。タバコに含まれる有害物質は、血管の内皮細胞を傷つけ、動脈硬化を進行させます。 喫煙は動脈硬化や一時的な血圧上昇を引き起こし、脳の細い血管が詰まりやすくなることでラクナ脳梗塞のリスクを高めます。発症予防や再発防止のためにも、禁煙の徹底が大切です。 脂質異常症(高脂血症) 項目 内容 解説 対策 血管内への脂質蓄積 LDLが内皮細胞に侵入 傷ついた血管ほど脂質がたまりやすい 動脈硬化の原因となるため、LDLを下げる生活習慣が大切 アテローム硬化の進行 血管内で脂質が粥状に蓄積し、血管が狭く硬くなる 内腔が狭まり、血流が悪化 HDLを増やす・抗炎症的な食生活 脳の細い血管(穿通枝)への影響 穿通枝の内腔狭小化、微小プラークの形成 動脈硬化が脳の深部血管でも起きやすくなり、血流がさらに悪化 血圧・血糖・脂質の総合的管理 血流の悪化と閉塞 プラーク破綻→血栓形成→血管閉塞 ラクナ脳梗塞の直接的原因 脂質異常の是正・抗血栓療法(医師指導のもと) 他リスク因子との相乗作用 高血圧・糖尿病・喫煙と重なるとリスクが跳ね上がる 血管へのダメージが加速 すべての生活習慣病リスクに目を向けた多角的対策 予防・対策 脂質管理の徹底が動脈硬化の進行を防ぐ ラクナ脳梗塞の予防・再発予防への取り組みが大切 食事(魚・ナッツ・野菜中心)、運動、医師の指導による薬物療法 脂質異常症とは、悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪が多すぎる、または善玉(HDL)コレステロールが少ない状態です。 この状態が続くと血管内にプラークが蓄積し、動脈が狭くなって血流が悪化します。ラクナ脳梗塞は脳の深部で細い血管が詰まることで起こるため、脂質異常症はその大きな原因のひとつとされています。 脂質値の管理は、食事の改善や適度な運動、必要に応じた薬物療法を継続しつつ、定期的な血液検査で異常を把握し、血管を守る意識が大切です。 ラクナ脳梗塞の治療法 治療法 内容・目的 補足・特徴 急性期治療 血栓溶解薬(t-PA)や脳浮腫抑制薬を使用 発症から数時間以内の対応が大切。早期治療で後遺症を軽減できる可能性あり 栄養療法 食事指導により高血圧・糖尿病・脂質異常症などを管理 管理栄養士の助言を受け、減塩・低脂質・低糖質の食事が基本 リハビリテーション 理学療法・作業療法・言語療法により機能回復と生活自立を支援 後遺症の程度に応じて段階的に実施。長期継続で改善が期待される 心理的サポート カウンセリング・精神的ケアで患者や家族の不安・抑うつを軽減 発症後の喪失感や意欲低下への対処。医療ソーシャルワーカーの支援も活用可 再生医療 幹細胞などを用いた脳組織の修復を目指す 保険適用外であり、対応できる医療機関が限られている ラクナ脳梗塞の治療は、発症直後の急性期と、その後の回復・再発予防に分けて行われます。 いずれの治療法においても大切なのは、自己判断を避け、医師の指導のもとで早期に適切な対応を行うことです。早期の対応が、後遺症の軽減や再発予防につながります。 急性期治療(発症直後) 治療法 目的 内容・特徴 血栓溶解療法(t-PA療法) 詰まった血管の再開通 発症から4.5時間以内にt-PAを点滴投与し、血栓を溶かす。出血リスクあり 抗血栓療法 血栓の拡大や新たな血栓の予防 抗血小板薬(例:アスピリン)を使用する。ラクナ脳梗塞では主にこの治療が中心 抗凝固療法 血液が固まるのを防ぎ、新たな血栓を抑制 ヘパリンやアルガトロバンを点滴で使用する。出血のリスクを考慮して選択 脳保護療法 脳神経細胞の損傷の進行を防ぐ エダラボンの点滴で酸化ストレスを抑制し、脳のダメージを軽減 脳浮腫軽減療法 脳の腫れ(浮腫)を軽減し、圧迫を防ぐ グリセオールやマニトールを点滴で投与し、余分な水分を排出して脳圧を下げる 発症直後の急性期には、脳へのダメージを最小限に抑えるため、できるだけ早く治療を始めることが大切です。 ラクナ脳梗塞は小さな血管の詰まりによって起こり、放置すると症状が進行する恐れがあります。治療で使用される主な薬剤は、血栓を溶かして血流を回復させる薬(t-PA療法)や、血栓の拡大や新たな血栓を防ぐ薬(抗血小板薬・抗凝固薬)などです。 また、脳の腫れや細胞の損傷を防ぐための点滴治療(脳保護療法・脳浮腫軽減療法)も行われるケースもあります。 早期発見と治療は後遺症を軽くする鍵です。異変を感じたら、すぐに医療機関を受診しましょう。 以下の記事では、脳梗塞の治療方法について詳しく解説しています。 栄養療法 項目 内容 目的・効果 高血圧対策 減塩(1日6g未満を目安) 血圧の安定化・血管への負担軽減 糖尿病対策 糖質の摂取量と時間を調整 血糖値の安定化・血管障害の抑制 脂質異常症対策 飽和脂肪酸を控え、魚やナッツでオメガ3を摂取 LDLコレステロールの低下・動脈硬化予防 動脈硬化予防 抗酸化食品(野菜・果物・魚)を積極的に摂取 血管の酸化防止・血流維持 体重管理 カロリー制限とバランス食の実践 肥満・高血圧・糖尿病のリスク低下 総合的な栄養管理 医師・栄養士の指導で継続的に実施 再発予防と生活の質(QOL)の向上 ラクナ脳梗塞の回復や再発予防には、毎日の食事の見直しが大切です。減塩は高血圧予防に効果的であり、糖質や脂質の管理も血糖やコレステロールの安定に役立ちます。 加工食品や外食を控え、栄養バランスの取れた食事を心がけることが、脳を守る基本的な対策となります。 リハビリテーション 項目 内容 効果 注意点 機能回復の促進 麻痺や言語障害などの改善を目指す訓練(運動・発声・作業など) 神経の可塑性を引き出し、機能の再獲得を促進 焦らず継続することが重要。効果が見えるまでに時間がかかる場合あり 日常生活動作(ADL)の向上 食事・着替え・歩行などを自立して行えるように支援 生活の自立度が上がり、介護負担の軽減にもつながる 過剰な無理は禁物。身体機能に合わせて段階的に進める必要がある 合併症の予防 廃用症候群、誤嚥性肺炎、血栓などの予防 体を動かすことで二次的な健康リスクを回避 早期開始が理想だが、体調の安定を見ながら進める必要がある 生活の質(QOL)の向上 社会参加・趣味活動の再開を目指す 心の回復と意欲向上に効果。再発予防にも寄与 患者本人の希望を尊重し、無理のない範囲での目標設定が大切 ラクナ脳梗塞によって運動機能や認知機能に障害が出た場合、医師の指導のもと行うリハビリが症状の回復において大切です。作業療法や理学療法を通じて、日常生活に必要な動作を取り戻すことを目指していきます。 とくに歩行や手の動作に影響がある場合は、早期からの訓練が不可欠です。また、リハビリは、患者の状態や生活習慣に合わせて個別に計画し、医師の指示のもと無理のないペースで進めることが大切です。 関連記事:ラクナ梗塞の後遺症とは?リハビリ方法や再発リスク・再生医療について 心理的サポート 目的 内容 有効な理由 病気への不安や衝撃の緩和 発症のショックや再発への恐怖を軽減 医師との対話で感情を整理し、冷静に治療に向き合えるようになる 後遺症や身体の変化への適応 目に見えにくい症状への戸惑いや落ち込みに対処 残された機能を活かす工夫や前向きな姿勢を引き出す支援ができる 精神症状への対応(うつ・不安) 血管性うつ病など、精神的合併症に対応 精神面の安定によりリハビリ意欲や生活の質が向上する 再発への不安の管理 高い再発率に対する過度な不安を軽減 予防行動への前向きな継続を支える心理的土台をつくる (文献6) ラクナ脳梗塞は身体だけでなく心にも影響を及ぼし、再発への不安や思うように動けないことから、うつや意欲低下が生じやすくなります。 そのため、治療と並行して心理的サポートが不可欠です。心理士のカウンセリングや家族との対話、同じ経験を持つ人との交流は、前向きなリハビリ継続に役立ちます。心のケアは回復を支える大切な要素です。 以下の記事では、脳梗塞の後遺症において患者様の家族が注意したいポイントを詳しく解説しています。 再生医療 項目 内容 期待される効果 神経細胞の修復 患者自身の幹細胞を使い、損傷した神経細胞の再生を促す 運動機能・感覚機能の改善 神経保護・抗炎症作用 幹細胞が神経栄養因子を分泌し、神経の保護や炎症の抑制に働く 脳内環境の安定、再発リスクの低下 血管新生と血流改善 損傷した脳内の微細血管の再生を促進 脳への酸素・栄養供給の改善 再生医療は、ラクナ脳梗塞に対する新たな治療選択肢のひとつです。自己由来の幹細胞を用いて、損傷した神経組織の再生を促し、他の治療法と併用することで後遺症の改善が期待されます。 ただし、再生医療を実施している医療機関は限られており、保険の適用外である点に注意が必要です。治療を検討する際は、事前に医療機関の情報を確認し、医師への相談が大切です。 以下の記事では、リペアセルクリニックで実施している再生医療についてわかりやすく解説しております。 ラクナ脳梗塞の再発予防策 予防策 内容 補足・ポイント 生活習慣病の管理 高血圧・糖尿病・脂質異常症の治療を継続 医師の指示に基づく食事・運動・薬物療法が基本 糖尿病・脂質異常症の管理 血糖・コレステロール・中性脂肪の数値をコントロール 血管保護に直結し、再発リスクを軽減 適度な運動習慣 ウォーキングなど、有酸素運動を継続 無理のない範囲で実施 抗血小板薬などの内服薬の継続 抗血小板薬や抗凝固薬の服用を継続 自己判断で中止せず、処方通りに継続 ストレス管理 リラックス法や趣味の時間を意識的に取り入れる ストレスによる血圧上昇を防ぎ、心身の安定を図る 禁煙の徹底 タバコは血管を傷つけ、動脈硬化を悪化させる 禁煙は最も効果的な再発予防策のひとつ ラクナ脳梗塞は、一度発症すると再発のリスクが高くなる傾向があります。再発を防ぐには、原因となる生活習慣病の管理や、毎日の過ごし方の見直しが不可欠です。 再発は日常生活に支障をきたすだけでなく、発見が遅れると重症化するリスクもあります。 生活習慣病の徹底的な管理 管理項目 具体的な対策内容 期待される効果 血圧管理 家庭で血圧を定期測定し、医師の指示に従って降圧薬を服用する 血管への負担を減らし、動脈硬化や血管破綻のリスクを軽減 血糖管理 血糖値を定期的に測定し、食事・運動療法や必要な薬で安定した血糖コントロールを行う 血管内皮の損傷を防ぎ、細い血管の血流維持に役立つ 脂質管理 定期的な血液検査と食事管理、必要に応じて薬を使用して脂質バランスを整える 動脈硬化の進行を抑え、血管閉塞や血栓形成のリスクを軽減 禁煙 受動喫煙も含めてタバコを完全にやめる 血管の炎症や収縮を防ぎ、血液の流れを保つことで再発を予防 適正体重の維持 バランスの取れた食事と継続的な運動で肥満を防ぎ、標準体重を維持する 高血圧・糖尿病・脂質異常のリスクを下げ、血管の健康を守る 高血圧・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病は、ラクナ脳梗塞の主な原因となるため、再発を防ぐにはこれらの改善が欠かせません。 とくに血圧は家庭で簡単に測定できるため、日々の変化を記録しながら管理するのが大切です。あわせて、定期的な通院と検査を続けることで、早期発見・早期対応につながります。 以下の記事では、脳梗塞の予防・再発防止のために食べてはいけないものについて詳しく解説しております。 糖尿病・脂質異常症の管理 管理法 糖尿病に対する対策 脂質異常症に対する対策 食事療法 炭水化物の摂取量を調整し、野菜や海藻、きのこなど食物繊維を積極的に摂取する 飽和脂肪酸やコレステロールの摂取を控え、不飽和脂肪酸や食物繊維を多く取り入れる 運動療法 有酸素運動を週3~5回・30分程度行い、血糖値のコントロールを図る 同様の運動で中性脂肪の減少やHDLコレステロールの増加を目指す 薬物療法 血糖降下薬(例:メトホルミンなど)を医師の指示に従って使用する スタチン系やフィブラート系薬剤でLDLコレステロールや中性脂肪を管理する 糖尿病・脂質異常症は血管にダメージを与える病気であり、放置すれば再発の恐れがあります。血糖やコレステロールの数値は、食事や運動、薬の服用によってある程度コントロールできます。 とくに糖尿病では、インスリン抵抗性の改善や血糖値の安定化が不可欠です。脂質異常症に対しては、動物性脂肪の摂取を控え、青魚や野菜を中心とした食事が効果的です。 糖尿病・脂質異常症の管理は自己流ではなく、医師の指導のもと行い、生活習慣を整えることで、再発防止につながります。 適度な運動習慣の継続 効果の分類 具体的な内容 生活習慣病の改善 血圧を安定させ高血圧を予防、血糖値を改善し糖尿病リスクを低下、脂質バランスを整え動脈硬化を抑制 肥満の予防・改善 消費エネルギーを増やし、適正体重を維持する 血管機能の維持・改善 血管の柔軟性を保ち、血液循環を良好に保つ 血栓の予防 血液を固まりにくくし、血管の詰まりを予防 (文献7)(文献8) ラクナ脳梗塞の再発予防には、継続的な運動が効果的です。軽いウォーキングや体操など、無理のない範囲で体を動かすことで、血圧や血糖値の改善、脳血流の促進、さらにはストレスの軽減にもつながります。 運動は気分の安定にも寄与し、心身の健康を支える習慣です。公益財団法人長寿科学振興財団の指針では、歩行と同等以上の身体活動を1日60分以上(週あたり23メッツ・時以上)行うことが推奨されています。(文献7) 対象 目安となる活動量 運動の強度・内容 全年齢共通 歩行と同等以上の身体活動を毎日60分以上(週に23メッツ・時以上) 日常的な歩行、家事、軽作業などを含む 65歳以上 内容を問わず身体活動を毎日40分以上(週に10メッツ・時以上) 散歩、体操、趣味の活動なども可 年齢問わず 息が弾み、汗ばむ程度の運動を週60分以上(4メッツ・時以上) 速歩、軽いジョギング、エクササイズなど ※メッツ(METs):身体活動の強さを表す単位(安静時を1とした相対値)(文献7) 65歳以上では、活動の種類にかかわらず1日40分以上(週あたり10メッツ・時以上)が目安です。また、息が弾み汗ばむ程度の運動(速歩、軽いジョギングなど)は週に60分以上(4メッツ・時以上)を目指しましょう。運動は無理のない範囲で始め、医師の指導のもと進めていくことが大切です。 抗血小板薬などの内服継続 項目 内容 補足情報・代表的な薬剤 再発予防効果の実証 抗血小板薬は、ラクナ脳梗塞の再発を有意に抑制することが研究で示されている アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールなど 併用療法の効果 アスピリン+クロピドグレルなどの併用療法(DAPT)は、単剤より高い再発予防効果が期待される 適応は医師が判断(出血リスクとのバランスを考慮) 生活習慣病管理との相乗効果 高血圧・糖尿病・脂質異常症といったリスク因子の管理と併用で、再発予防効果がさらに向上 抗血小板薬+生活習慣改善の組み合わせが推奨される (文献9)(文献10)(文献11)(文献12) ラクナ脳梗塞の再発防止策として、抗血小板薬の継続服用は有力です。アスピリンやクロピドグレル、シロスタゾールなどは血栓の再形成を防ぎ、再発リスクを下げる効果が証明されています。(文献11) 場合によっては、医師の判断で2剤併用(DAPT)が行われるケースもありますが、副作用や出血のリスクもあるため、自己判断で中断せず、医師の指示に従うことが大切です。 高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理をあわせて行うことで、薬の効果はさらに高まります。飲み忘れ防止にはカレンダーやアプリの活用が効果的です。薬の継続は治療の一環であり、副作用が気になる場合は早めに医師や薬剤師に相談しましょう。服薬が、再発予防と健康維持につながります。 ストレス管理 ストレスを和らげる方法 内容 適度な運動 ウォーキングやストレッチなど、軽い運動で心身の緊張をほぐす効果 十分な睡眠 規則正しい生活リズムを維持し、質の高い睡眠を確保 リラクゼーション法 深呼吸・瞑想・マインドフルネスなどを活用し、リラックス状態を促す 趣味や交流 趣味に没頭する時間や、家族・友人との交流を楽しみ、気持ちを安定させる ストレスは血圧や血糖の変動を引き起こし、間接的に脳梗塞の再発リスクを高める要因です。自覚がないままストレスが蓄積していることもあります。そのため、日常生活のなかで心身をリラックスさせる時間を持つことが大切です。 深呼吸や軽いストレッチ、趣味の時間などを意識的に取り入れるとストレスが緩和されます。また、家族や医師と定期的なコミュニケーションで悩みを共有することも精神状態の安定に役立ちます。 禁煙の徹底 禁煙は、ラクナ脳梗塞の再発予防において非常に大切です。喫煙は血管を収縮させ、血圧を上げるだけでなく、血管内皮を傷つけて動脈硬化を促進させる要因です。 JPHC研究によると、喫煙者は非喫煙者よりラクナ梗塞の発症リスクが約1.5倍高く、1日40本以上の喫煙では2倍以上に上がることが判明しております。また、禁煙によって男性では約17%、女性では5%の脳卒中が予防できるとの推計もあります。これは年間で約16万人の患者を救える可能性を意味し、禁煙が予防においてどれほど重要かを示したものです。(文献13) JPHC研究データからもわかるとおり、禁煙は比較的早期に血管の状態に現れるとされ、再発予防にも直結します。 ラクナ脳梗塞でお悩みの方は当院へご相談ください ラクナ脳梗塞は、症状が軽くても将来的に認知機能や運動機能に影響を及ぼすおそれがあります。違和感があれば、早めに検査を受けることをおすすめします。 当院リペアセルクリニックでは、ラクナ脳梗塞による後遺症に対して、患者様の状態に合わせた治療を提案しています。 リハビリや薬物療法に加え、必要に応じて再生医療も選択肢のひとつとしてご利用になれます。ラクナ脳梗塞の後遺症が改善せず、お悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 ラクナ脳梗塞に関するよくある質問 ラクナ脳梗塞を放置するとどうなりますか? ラクナ脳梗塞は症状が軽く見過ごされがちですが、放置すれば、再発や認知症、言語・嚥下障害といった後遺症を招くリスクがあります。早期受診と治療、生活習慣の見直しが再発予防も大切です。 以下の記事では、「症状が軽い脳梗塞」における治療の重要性を詳しく解説しております。 ラクナ脳梗塞が重症化するとどうなりますか? ラクナ脳梗塞が重症化すると、手足の麻痺やしびれ、言葉の出にくさ、物忘れなどの症状が進行し、日常生活に支障をきたすことがあります。生活の質が大きく低下する恐れがあるため、早期の対処が重要です。 ラクナ脳梗塞の後遺症がある場合に利用できる公的支援制度はありますか? ラクナ脳梗塞の後遺症がある方は、公的支援制度を利用することで医療費や介護の負担を軽くできる可能性があります。医療費には高額療養費制度や自立支援医療、介護には介護保険制度や障害者総合支援法があります。 身体障害者手帳や障害年金による支援も受けられます。詳しくは市区町村や医療機関で相談できます。 ラクナ脳梗塞の後遺症改善については、以下の記事で詳しく解説しています。公的支援制度を活用しながら、前向きに回復を目指しましょう。 参考記事 (文献1) 社会福祉法人 恩賜財団済生会「ラクナ梗塞」社会福祉法人 恩賜財団済生会, 2015年12月25日 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/lacunar_infarction/(最終アクセス:2025年5月17日) (文献2) 甲斐 久史.「脳血管障害・心疾患を合併した 高血圧治療のポイント」『日本内科学会雑誌』104巻2(号), pp.1-8, https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/2/104_232/_pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月17日) (文献3) 小笠原邦昭ほか.「脳卒中治療ガイドライン 2021〔改訂2023〕」, pp.1-180, 2023年 https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2023.pdf (最終アクセス:2025年5月17日) (文献4) 冨山 博史.「加齢と血管:血管の老化に向き合う」『東京医科大学病院』, pp.1-2, 2019年 https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/info/data/lecture_134.pdf(最終アクセス:2025年5月17日) (文献5) JIHS「糖尿病の慢性合併症について知っておきましょう」国立健康危機管理研究機構 糖尿病情報センター, 2015年10月27日 https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/060/020/02.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月17日) (文献6) 「地域のかかりつけ医のための心不全診療ガイドブック」『沖縄県・沖縄県医師会』, pp.1-42 https://www.okinawa.med.or.jp/wp-content/uploads/2025/02/03-%E8%B3%87%E6%96%993%EF%BC%9A%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E3%81%AE%E3%81%8B%E3%81%8B%E3%82%8A%E3%81%A4%E3%81%91%E5%8C%BB%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E5%BF%83%E4%B8%8D%E5%85%A8%E8%A8%BA%E7%99%82%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF.pdf(最終アクセス:2025年5月17日) (文献7) 公益財団法人長寿科学振興財団「生活習慣病予防に効果的な運動習慣」健康長寿ネット,2016年7月25日 https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/rouka-yobou/undou-shukan.html(最終アクセス:2025年5月17日) (文献8) 松元 秀次.「脳梗塞のリハビリテーション治療」, pp.1-9, 2019年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/manms/15/4/15_201/_pdf(最終アクセス:2025年5月17日) (文献9) 「Ⅱ.脳梗塞・TIA」, pp.1-83 https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/nou2009_02.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月17日) (文献10) 内山真一郎.「脳血管障害と抗血栓療法」『21シリーズ特集Dr.内山.indd 3』, pp.1-5, 2008年 https://www.jsth.org/publications/pdf/tokusyu/19_1.003.2008.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月17日) (文献11) 国立循環器病研究センター「脳梗塞再発予防抗血小板薬併用療法の適切な切替時期を提案:国内多施設共同 CSPS.com試験サブ解析」国立循環器病研究センター, 2022年01月27日 https://www.ncvc.go.jp/pr/release/pr_31291/(最終アクセス:2025年5月17日) (文献12) 岩戸 英仁.「脳梗塞再発予防のための治療」, pp.1-24 https://www.onomichi-hospital.jp/upload/open-c/1438751314.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月17日) (文献13) 予防研究グループ(予防研究部・疫学研究部・コホート研究部)「多目的コホート研究(JPHC Study) 男女別、喫煙と脳卒中病型別発症との関係について」国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/267.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月17日)
2025.05.30 -
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「小脳梗塞と診断されたが、どんな後遺症が出るのか気になる」 「小脳梗塞の後遺症の治療法を知りたい」 小脳梗塞の後遺症に不安を抱えていませんか。小脳は体のバランスや動きを調整する役割を担っており、発症後はふらつきや手足の震えといった症状が現れるケースがあります。ただし、適切な治療によって後遺症が改善する可能性もあります。 小脳梗塞で起こりうる後遺症 小脳梗塞の後遺症の治る見込みと予後 小脳梗塞における後遺症の治療法 記事の最後には、小脳梗塞の後遺症に関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 小脳梗塞で起こりうる後遺症一覧 後遺症の種類 主な症状 日常生活への影響 平衡障害 ふらつき、めまい、酔ったような歩行 階段昇降や人混みでの歩行困難、転倒リスク増加 構音障害 ろれつが回らない、発話の不明瞭さ 会話の不便さによるストレスや社会的孤立 運動失調・協調運動障害 手足や体幹の動作不良、ぎこちなさ 細かい作業や移動動作の困難、生活動作の支障 嚥下障害 飲み込みの難しさ、むせやすさ 誤嚥や栄養摂取の困難、食事内容の制限 目の動きの異常 眼振、複視(物が二重に見える) 視界の不安定による読書・作業の困難 頭痛や吐き気の持続 慢性的な頭痛、吐き気 集中力低下、日常生活の質の低下 小脳梗塞では、体のバランスを取る、スムーズに動かすといった小脳の機能が障害されることで、さまざまな後遺症が現れることがあります。後遺症の現れ方は個人差が大きく、症状の程度や組み合わせもさまざまです。 以下の記事では、脳梗塞の後遺症について詳しく解説しています。 平衡障害 症状の部類 具体的な症状 生活への影響 ふらつき・不安定感 まっすぐ立つ・歩くのが困難。左右や前後に体が揺れる感覚 移動や姿勢保持の困難 めまい 回転性や浮動性のめまい。耳の病気とは異なる出方 視覚の不快感や動作時の不安定感 歩行困難 歩幅の不安定さや開脚歩行。転倒リスクの増加 外出や移動の制限、転倒の恐れ 体幹失調 座位や立位での体幹の揺れや傾き 座っているだけでも不安定さを感じる 眼振(がんしん) 眼球が意図せず揺れ動く症状 視線の定まりにくさによる集中困難 協調運動障害 手足の動きのぎこちなさや目的部位への動作困難 日常動作のぎこちなさによる生活の不便 小脳は姿勢やバランスを保つ役割があり、障害されると平衡感覚が乱れ、まっすぐ歩けない・立っていられないといった症状が特徴です。 ふらつきや転倒のリスクが高まり、移動や入浴などの日常動作に支障をきたすこともあります。また、階段の上り下りや、人混みの中を歩くことが困難になる場合も少なくありません。症状の改善には、リハビリによる反復練習の継続が大切です。 構音障害 項目 内容 発症の原因 発話に関わる筋肉の動きを調整する小脳の機能障害 機能の役割 発音のタイミング・強さ・協調を整える中枢としての調整機能 症状の分類 運動失調性構音障害 呂律の障害 明瞭な発音の困難、言葉の不鮮明さ 発音の不明瞭さ 音の歪みや曖昧さによる聞き取りづらさ 音節の分断 単語や音が途切れ途切れになり、滑らかな会話が困難になる現象(断綴性言語) 声の震え 声の不安定さや震えによる発声の違和感 話す速度の変化 話し方の異常な遅さや急な加速によるリズムの乱れ 呼吸との協調困難 発声と呼吸のタイミング不一致による会話のしづらさ 生活への影響 意図の伝達困難、対人コミュニケーションの不安やストレスの増加 (文献1) 構音障害とは、言葉の発音が不明瞭になる症状です。小脳が障害されると舌や口の動きがうまく調整できず、ろれつが回らない、息が続かないといった話しづらさが現れます。 聴力には問題がないため、周囲の理解が必要です。また、構音障害は言語聴覚療法で改善が期待できます。 運動失調・協調運動障害 症状の分類 主な症状・特徴 解説 酩酊様歩行 千鳥足のような不安定な歩行 直進困難・ふらつきによる転倒リスクの増加 失調性歩行 足の動きの不規則さや開脚歩行 歩幅の変動によるバランス喪失 体幹失調 座位や立位での不安定さ 体幹バランスの低下による転倒傾向 測定異常(ジスメトリア) 手足が目標に届かない、あるいは通り過ぎる 物を取る動作の正確性の低下 運動分解 一連の動きが滑らかでなく、分割されたぎこちない動きになる 筋肉の協調動作の不良による動作のぎこちなさ 変換運動障害 手のひらと甲を交互に返すなどの動きがスムーズにできない 動きの切り替えの困難さ 企図振戦 手を伸ばすなど目的動作時に出現する震え 静止時には見られず、動作開始時に明瞭になる振戦 構音障害 呂律の回りにくさ、言葉の不明瞭さ、単語が途切れる断綴性言語など 発話に必要な筋肉の協調運動の障害 眼球運動障害 眼振(リズミカルな不随意眼球運動) 視線の安定性の喪失による目の揺れ (文献2)(文献3) 運動失調・協調運動障害は、手足や体幹の動きがぎこちなくなる、思うように手足を動かせなくなるといった症状が現れます。筋力は保たれていても、思いどおりに手足が動かせず、日常生活に大きな支障をきたします。 これらの症状に対しては、理学療法による筋力やバランス感覚の訓練、作業療法による日常動作の練習などが効果的であり、継続的なリハビリによって徐々に改善が期待できます。 嚥下障害 症状の分類 内容 飲み込みにくさ 飲食物を塊にまとめる動作や、のどへの送り込みの困難 むせ・せき込み 飲食中のむせや強いせき込み。とくに水分での頻発 湿った声・ガラガラ声 咽頭残留による声の湿りや濁り 食事の遅延 飲み込みの困難による食事時間の長期化 のどのつかえ感 飲食物がのどに引っかかるような不快感 体重減少 十分な栄養・水分摂取の困難による体重の低下 誤嚥性肺炎 誤嚥によって引き起こされる肺炎の発症リスク増加 嚥下障害は、食べ物や飲み物をスムーズに飲み込めなくなる症状です。むせやすくなったり、食事中に咳き込んだりすることが増えます。食事が楽しめなくなるだけでなく、重症化すると誤嚥性肺炎を引き起こすリスクもあるため、注意が必要です。 嚥下障害を改善するためには、食事の形態を工夫するとともに、医師の指示に従いながらリハビリテーションに取り組むことが重要です。 目の動きの異常 症状の部類 内容 眼振(がんしん) 眼球がリズミカル(不随意)に揺れ動く現象。視線の方向によって強まる(方向性眼振)の場合あり 協調運動障害に伴う眼球異常 動く物を追う動作や、視線を目標から目標へ素早く移す動作の障害 視線固定困難 見たい対象に視線を安定して向け続けることの困難 複視(ふくし) 両目の動きの不一致によって物が二重に見える状態 めまい・ふらつきに伴う眼球異常 平衡感覚の障害に伴って起こる反射的な眼球運動の異常 日常生活への影響 視覚の安定性の低下による読書や歩行、運転などに支障が出る 小脳は眼球の動きの調整にも関与しているため、視線がスムーズに移動しない、焦点が合いにくいといった症状が出やすくなります。視界が揺れる、まっすぐ見続けることが難しくなり、不快感やめまいを伴う可能性があります。 視覚の異常は平衡感覚にも影響するため、ふらつきや吐き気と複合的に現れることもあり、日常生活に影響を及ぼすため、注意が必要です。視界の異常が続く場合は、歩行中の転倒や事故を防ぐためにも、早めに医師へ相談しましょう。 頭痛や吐き気などの持続 分類 内容 原因 脳圧上昇、脳幹刺激、平衡感覚障害、炎症や神経過敏による頭痛・吐き気の誘発 頭痛の症状 締め付け感、拍動痛、重だるさ。後頭部や首の違和感。体位変化や咳で悪化 吐き気の症状 食事と無関係な持続的吐き気。嘔吐や乗り物酔いに似た不快感を伴う 生活への影響 読書・外出・睡眠・食事への支障。他の神経症状との併発による日常生活の負担増加 小脳梗塞の直後には、頭痛や吐き気といった症状が続くことがあります。脳内の圧力変化や血流障害に関連する反応と考えられており、これらの症状は、通常時間の経過とともに軽快しますが、なかには慢性的な違和感として残るケースもあります。 症状が長引く場合は、自己判断での無理は禁物です。重症化する前に医療機関を受診しましょう。 小脳梗塞の後遺症の治る見込みと予後 後遺症の種類 回復の見込み 影響する要因 平衡障害(歩行時のふらつき) リハビリによる改善可能。ただし慢性化の恐れあり 損傷部位の広さ、年齢、早期リハビリ開始 協調運動障害(四肢の動作のぎこちなさ) 手足の機能回復は可能。細かい動作の障害が残ることあり リハビリ継続の有無、身体機能の基礎体力 構音障害(ろれつの不明瞭さ) 発話の明瞭さ向上。流暢さの完全回復は難しい場合あり 言語療法の有無、脳の損傷範囲、発症前の会話能力 嚥下障害(飲み込みにくさ) 食事調整と訓練で改善可能。誤嚥予防が重要 医師の指導有無、嚥下筋の損傷度、誤嚥性肺炎の有無 高次脳機能障害(記憶力・注意力) 回復に個人差あり。支援環境で生活の自立維持が可能 年齢、合併症の有無、家族や社会的支援の体制 小脳梗塞の後遺症は、適切なリハビリと時間の経過によって改善が期待できます。とくに発症から3カ月ほどは、神経や身体機能が大きく回復する重要な時期とされています。 実際にデンマークで行われた急性期の脳卒中患者、合計1,197人を対象とした、大規模な研究では、脳卒中患者の約95%が発症後12.5週間以内に機能回復のピークを迎えており、とくに最初の6週間で最も大きな改善が見られました。(文献4) 項目 回復期間 全体傾向(全患者の95%) 約12.5週間(約3カ月)以内 早期回復(全体の80%) 約6週間(約1カ月半)以内 軽症の患者 約8.5週間(約2カ月)以内 中等度の患者 約13週間(約3カ月)以内 重症の患者 約17週間(約4カ月)以内 非常に重症の患者 約20週間(約5カ月)以内 (文献4) 回復の速度は発症時の重症度に大きく左右され、軽度な場合は2カ月前後、重度では4〜5カ月で回復が頭打ちになる傾向があると報告されています。 この結果からも、早期からの集中的なリハビリが重要であり、予後の見通しを立てる上でも発症から3カ月以内の経過がひとつの指標です。 以下の記事では、脳梗塞の後遺症について詳しく解説しています。 【関連記事】 BAD(脳梗塞)とは?症状や予後・他のタイプとの違いも解説 脳梗塞の合併症には何がある?起こる原因や対処法を現役医師が解説 小脳梗塞における後遺症の治療法 治療法 目的 主な内容 理学療法 歩行能力・筋力・バランス感覚の回復 歩行訓練、バランス訓練、筋力トレーニング 作業療法 日常生活動作の自立支援 食事・着替え・入浴などの練習。装具や自助具の活用方法の指導 言語聴覚療法 構音障害・嚥下障害への対応 発音訓練、嚥下訓練、コミュニケーション・食事改善の支援 薬物療法 めまい・頭痛・吐き気の緩和、再発予防 症状緩和薬、抗血栓薬や降圧薬などの内服管理 精神的ケア・カウンセリング 不安・抑うつなど精神的負担の軽減 心理士や医師による相談支援。前向きな気持ちでのリハビリへの誘導 小脳梗塞に伴う後遺症の治療は、多角的なリハビリと必要に応じた薬物療法を組み合わせて行われます。症状ごとに理学療法、作業療法、言語聴覚療法を用い、それぞれの機能回復を目指します。 治療を進める際は、必ず医師と方針を相談した上で、自己流ではなく医師の指導に基づいて継続的に取り組むことが大切です。 以下の記事では、脳梗塞のリハビリ方法について詳しく解説しています。 理学療法 理学療法の目的 内容 バランス機能の再獲得 平衡感覚や姿勢制御の改善。立位保持や歩行訓練による体幹・下肢の安定性の向上 転倒リスクの軽減 段差歩行やバランスマット、重心移動訓練による転倒予防の強化 協調運動の再学習 運動失調に対する視覚・触覚フィードバックを用いた動作精度の改善 日常生活動作(ADL)の向上 立ち上がり・着替え・歩行などの自立度向上。生活の質(QOL)の改善 (文献5) 理学療法は、立つ・歩く・バランスを保つといった基本的な身体機能を改善させるために行われる訓練です。平衡感覚の改善やふらつきの軽減、姿勢や歩行の練習が中心になります。 発症直後から始めることで回復の可能性が高まり、筋力や柔軟性の維持にもつながります。理学療法を行う場合、自己判断で行うのではなく、医師の指導のもと実施するようにしましょう。 作業療法 アプローチ分類 訓練内容 目的・特徴 ADL訓練(基本動作) 食事・着替え・排泄・入浴などの日常動作の練習 自立支援と生活の質(QOL)の向上 上肢機能訓練 手指の巧緻動作、物の把持・離脱練習、両手での動作練習 動作の正確性と日常動作能力の改善 バランス・体幹訓練 座位・立位でのバランス練習、体幹安定のための体操やストレッチ 姿勢保持力と転倒予防の強化 高次脳機能訓練 注意力、遂行機能、記憶力の訓練 認知機能の改善と日常生活への応用力の向上 趣味・レクリエーション活動 手芸、園芸、音楽、ゲームなどの活動 心のリフレッシュと動作応用の練習 応用生活訓練 家事動作訓練(掃除・洗濯・料理)、外出訓練(買い物・交通機関利用など) 実生活への復帰と社会参加に必要なスキルの習得 作業療法は、小脳梗塞の後遺症によって難しくなった着替えや食事、掃除などの日常動作を取り戻し、円滑に行えるよう支援するリハビリです。 小脳障害による運動失調や手先の不器用さには、協調運動の練習や動作の工夫で対応し、注意力や段取りの難しさなどの認知面は、実践的な作業を通じて改善を目指します。作業療法は、生活背景に合わせた支援で自立を促すリハビリです。 言語聴覚療法 対象領域 主な訓練内容 目的・特徴 構音障害の訓練 発音練習、呼吸訓練、口舌機能訓練、話すスピードの調整 発話の明瞭さと滑らかさの向上 嚥下障害の訓練 嚥下体操、姿勢調整、食物形態の調整、摂食訓練、間接訓練 食事動作と誤嚥予防の徹底 言語機能の訓練 話す練習、聞く練習、読む・書く練習、代替コミュニケーション手段(文字盤・ノートなど)の活用練習 表現力と理解力の向上、伝達手段の確保 高次脳機能の訓練 注意・記憶障害への対応、メモや環境調整などの代償手段の指導 コミュニケーション機能と日常生活適応力の改善 家庭・家族支援 自主訓練の方法、介助方法、日常会話での工夫の指導 家庭内でのリハビリ促進と家族のサポート力の向上 小脳梗塞による構音障害や嚥下障害がある場合は、言語聴覚士によるリハビリが必要です。発音の明瞭化や話すスピードの調整、誤嚥を防ぐための嚥下訓練などを通じて、日常生活の質の向上を目指します。 また、会話がしづらくなることで生じる孤立感や不安に対しても、言語聴覚士や周りの適切な支援が不可欠です。言語聴覚療法では、発話や飲み込みだけでなく、文字盤などを活用した代替手段の訓練や、家族への指導も行われます。 薬物療法 治療の目的 内容 主な薬剤例 再発予防 血栓形成の抑制による脳梗塞の再発防止 抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル)抗凝固薬(DOAC、ワルファリン) 動脈硬化・高血圧の進行抑制 高血圧・脂質異常・糖尿病の管理による血管障害の予防 降圧薬(ARB、Ca拮抗薬など)脂質異常治療薬(スタチンなど) 神経保護・浮腫軽減 脳浮腫や炎症の抑制による脳への圧迫軽減と回復促進 利尿薬・血管拡張薬(グリセオール、マンニトールなど) (文献6)(文献7) 小脳梗塞の後遺症には、再発予防や症状の緩和を目的とした薬物療法が行われます。抗血小板薬や抗凝固薬で血栓を防ぐほか、高血圧や高脂血症の管理も大切です。脳浮腫や炎症を抑える薬が使われることもあり、神経の保護や回復促進につながります。 頭痛や吐き気が強い場合には対症療法も行われます。薬の服用は医師の指示に従い、自己判断で中止や調整をしないことが大切です。 精神的ケアやカウンセリングを活用する 項目 内容 目的・効果 精神的ストレスの軽減 不安や抑うつの言語化、心理的受容のサポート 感情と整理と心の安定 リハビリ意欲の向上 前向きな気持ちの再構築、回復へのエンゲージメント支援 継続的なリハビリ参加の促進 家族の心理的サポート 介護疲れの予防、ストレス対処法の共有 家族の心身負担の軽減と対応力の強化 情緒変化への対応 涙もろさ、怒りっぽさ、感情爆発への理解と対処支援 高次脳機能障害への適応と生活の安定 小脳障害に伴う感情コントロールの不安定さ 本人・家族の戸惑いへの対応、変化への気づきと受容 社会的孤立や自己否定感の軽減、家庭内の理解の促進 (文献6)(文献8) 小脳梗塞の後遺症は、ふらつきや話しにくさ、体の動かしにくさだけでなく、心にも影響を及ぼすケースがあります。とくに若い方や元気に活動している方ほど、思うように動けなくなり、落ち込みや不安を感じやすくなります。 後遺症による不安や気持ちの整理が難しいと感じたときは、心理士や医師によるカウンセリングや認知行動療法などの心のケアが欠かせません。感情の変化があっても、適切な支援を受けることで、前向きに治療を続けることができます。 小脳梗塞の後遺症でお悩みなら再生医療もご検討ください 小脳梗塞の後遺症には長期的な治療が大切ですが、リハビリで十分な改善が見られない場合、再生医療も選択肢に入ります。 再生医療では、幹細胞を用いて神経機能の再生を促す治療が行われており、小脳の障害に対してもその研究が進められています。 小脳梗塞の後遺症でお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。また、電話相談も実施しております。 小脳梗塞の後遺症に関するよくある質問 小脳梗塞の後遺症で性格が変わることはありますか? 小脳は感情や性格を直接コントロールする部位ではありませんが、後遺症による不自由さや孤立から、気分の落ち込みや怒りっぽさが見られるケースがあります。 性格が変わったように見える場合も、環境や心理的影響が要因となることがあります。心のケアや家族の理解が大切です。 小脳梗塞の後遺症に対して慣れることはありますか? 小脳梗塞の後遺症が改善しない場合もありますが、少しずつ体と心が適応していくことがあります。 早く慣れようとすると、かえって精神的に負担になることがあります。焦らずに少しずつ適応していくことが大切です。 小脳梗塞の後遺症で介護が必要になったとき利用できる支援制度と申請方法は? 小脳梗塞の後遺症で介護が必要になった場合、公的支援制度として以下の制度が利用できる可能性があります。 介護保険制度 身体障害者手帳 障害年金 介護保険では訪問介護やデイサービス、施設入所などの支援を受けることができ、身体障害者手帳や障害年金は、麻痺や言語障害などの後遺症が一定基準を満たす場合に申請が可能です。 手続きは市区町村の窓口で行い、医師の診断書が必要となることが一般的です。 参考記事 (文献1) 生井友紀子.「小脳と構音障害」, pp.1-4, 2012年 https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/052110997.pdf(最終アクセス:2025年5月15日) (文献2) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「協調運動障害」MSD マニュアル 家庭版, 2024年2月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/09-%E8%84%B3-%E8%84%8A%E9%AB%84-%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%81%8B%E5%8B%95%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E5%8D%94%E8%AA%BF%E9%81%8B%E5%8B%95%E9%9A%9C%E5%AE%B3(最終アクセス:2025年5月15日) (文献3) 「事業場における治療と職業生活の両立支援のための ガイドライン 参考資料 脳卒中に関する留意事項」, pp.1-7 https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11303000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu-Roudoueiseika/0000153518.pdf(最終アクセス:2025年5月15日) (文献4) NLMNIH(アメリカ国立衛生研究所)保健福祉省USA.gov「Outcome and time course of recovery in stroke. Part II: Time course of recovery. The Copenhagen Stroke Study」PubMed https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7741609/(最終アクセス:2025年5月15日) (文献5) 「Ⅶ.リハビリテーション」, pp.1-70 https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/nou2009_07.pdf(最終アクセス:2025年5月15日) (文献6) 小笠原邦昭ほか.「脳卒中治療ガイドライン 2021〔改訂2023〕」, pp.1-180, 2023年 https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2023.pdf(最終アクセス:2025年5月15日) (文献7) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「脳卒中の概要」MSD マニュアル 家庭版, 2023年6月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/09-%E8%84%B3-%E8%84%8A%E9%AB%84-%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%84%B3%E5%8D%92%E4%B8%AD/%E8%84%B3%E5%8D%92%E4%B8%AD%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81(最終アクセス:2025年5月15日) (文献8) 佐伯覚「脳卒中の 治療と仕事の両立 お役立ちノート」, pp.1-76, 2020年11月19日 https://www.mhlw.go.jp/content/000750637.pdf(最終アクセス:2025年5月15日)
2025.05.30 -
「アテローム血栓性脳梗塞の後遺症が出るかもしれない」 「アテローム血栓性脳梗塞の後遺症の予後について知りたい」 アテローム血栓性脳梗塞と診断され、後遺症の可能性に不安を感じていませんか。後遺症には運動障害や感覚障害などがありますが、適切なリハビリによって改善が期待できることもあります。 アテローム血栓性脳梗塞の後遺症は治るのか アテローム血栓性脳梗塞で起こりうる後遺症 アテローム血栓性脳梗塞における後遺症のリハビリ方法 アテローム血栓性脳梗塞の予後 記事の最後には、アテローム血栓性脳梗塞の後遺症に関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 アテローム血栓性脳梗塞の後遺症は治るのか アテローム血栓性脳梗塞の後遺症は、脳の損傷範囲や部位、治療までの時間、年齢や基礎疾患の有無によって回復の程度が異なります。 元通りになるとは限りませんが、早期治療やリハビリによって機能が回復するケースもあります。そのため、後遺症の改善にはリハビリが欠かせません。一方、治療が遅れた場合や損傷が重い場合は、後遺症が長引くことも予想されます。 後遺症が残っても、継続的なリハビリと支援によって生活の質を高めることを望めるでしょう。また、リハビリは医師の指導のもと、症状に応じて行われます。 以下の記事では、脳梗塞は治るのかについて詳しく解説しています。 アテローム血栓性脳梗塞で起こりうる後遺症一覧 後遺症 具体的な症状・影響 運動麻痺 手足や体の片側が動きにくくなる、または完全に動かせなくなる。歩行・食事・着替えなど日常動作に支障をきたす 感覚障害 しびれ、違和感、温度感覚の鈍さ、触覚の低下。危険察知が難しくなり、細かい作業が困難になる 言語障害 言葉が出にくい、理解できない、意味不明な発話、読み書きの困難。コミュニケーションに支障をきたす 記憶障害や注意力の低下 記憶力や集中力の低下により、予定管理や仕事・学習に支障が出る 精神的な変化やうつ状態 意欲の低下、不安、焦り、抑うつ状態。本人だけでなく家族のサポートも必要となる アテローム血栓性脳梗塞は、動脈硬化が原因で起こる脳梗塞の一種です。脳の太い血管が詰まり、広範囲に血流が届かなくなることで、脳幹や大脳皮質といった運動を司る部位が損傷を受けやすくなります。 片麻痺などの運動障害がよく見られ、重症では言語障害や認知機能の低下を伴うこともあるのが特徴です。 以下の記事では、脳梗塞の後遺症について詳しく解説しております。 運動麻痺 分類 症状 日常生活への影響 片麻痺(へんまひ) 左右どちらかの半身に麻痺。腕と脚で程度が異なることもある 歩行困難、手の動作不自由、寝返り・起き上がり困難、バランス低下 手指の巧緻運動障害 手や指の細かい動作ができなくなる ボタンかけや食事、文字を書くなどの細かい作業が困難 足の麻痺による影響 足の力が入りにくい、足首が曲がらない、つま先が上がらない 歩行障害、階段昇降困難、立位保持困難、運転支障 体幹の麻痺による影響 姿勢保持や体の向き変更が難しくなる 座位保持や寝返りが困難、姿勢の維持ができず転倒リスク増加 痙縮(けいしゅく) 筋肉の過度な緊張により手足が突っ張る、関節が硬くなる 関節の動き制限、違和感、介護動作(着替え・清拭)困難 (文献1)(文献2) アテローム血栓性脳梗塞の後遺症では、脳の運動をつかさどる領域が障害を受けることで、片麻痺や四肢の動かしにくさなどの運動麻痺が現れることがあります。 運動麻痺としてよく現れる症状としては、片側の手足が動きにくくなる片麻痺などがあり、脳の損傷部位と反対側に症状が出るのが特徴です。重症度によっては、歩行や日常生活に大きな支障をきたすケースもあります。 リハビリを行うことで、運動麻痺が改善する可能性もありますが、発症からの時間が経過するほど機能回復が難しくなる傾向があります。そのため、できるだけ早い段階からリハビリを開始するのが大切です。 感覚障害 分類 症状 日常生活への影響 触覚の異常(感覚鈍麻・過敏) 触った感覚が鈍くなる、または過剰に感じる 落とし物が増える、火傷に気づかない、衣類や接触に敏感・不快で着替えが困難、他人との接触を避けることがある 温度覚の異常(低下・過敏) 熱い・冷たいの感覚が鈍る、またはわずかな温度変化に敏感になる 入浴や調理時に火傷や低体温のリスク。冷暖房に対する過剰反応や不快感が強くなる 痛覚の異常(鈍麻・過敏) 痛覚が鈍感になる、または弱い刺激でも強く感じる(異痛症) 怪我や病気の発見が遅れる。軽い接触や動作でも激痛を感じ、日常動作に支障が出る 位置覚・深部感覚の異常 手足の位置感覚が鈍る。筋肉や関節の動きや力加減がわかりにくい 見ずにボタンをかけられない、動作がぎこちなくなる、歩行やバランス保持が困難になる 異常感覚(しびれ・ビリビリ・むずむず感) 手足のしびれ、電気が走るような違和感、焼けるような感覚、むずむずして落ち着かない感覚が出現するケースがある 常に不快感があるため集中力が低下し、日常生活全体に支障をきたす。安静にしていても休まらず、不眠や不安の原因になることもある (文献3)(文献4) 感覚障害では、触れた感覚が鈍くなったり、逆に何もないのにピリピリとした違和感を覚えたりする症状が現れます。脳の感覚を司る領域が障害を受けた場合に起こり、症状は軽度な違和感から、服を着るのもつらいほどの強い異常感覚までさまざまです。 感覚障害は外見からはわかりにくく、本人にしかわからない苦痛が続くため、生活の質を大きく下げることがあります。さらに、感覚の低下があると転倒やケガのリスクが高まるため注意が必要です。 言語障害 分類 症状 日常生活への影響 失語症 話す・聞く・読む・書くことが困難になる。言葉が出てこない、理解できない 会話が成立しにくく、意思疎通が困難。孤立やストレスの原因になる 構音障害 発音が不明瞭になる。ろれつが回らない、声が小さい、鼻にかかった話し方になる 聞き取りづらく、会話や電話が困難。外出や人との交流に消極的になるケースがある 高次脳機能障害に伴う言語障害 注意・記憶・段取りの低下により、話の流れが組み立てにくくなる 話がかみ合わず、会話が続かない。仕事や社会参加に支障をきたす アテローム血栓性脳梗塞では、言語を司る脳の領域が損傷を受けた場合に、言語障害が現れるケースがあります。言葉がうまく出てこない失語症や、発音が不明瞭になる構音障害が挙げられます。 また、会話が成立しにくくなったり、伝えたいことが言葉にできないことから、本人に強いもどかしさやストレスが生じることも少なくありません。言語障害の改善には、言語聴覚士によるリハビリが効果的とされており、早期から継続的に取り組むことが大切です。 記憶障害や注意力の低下 分類 症状 日常生活への影響 記憶障害 新しいことが覚えられない、昔の記憶が曖昧、物の名前が出てこない、物をよく失くす 約束を忘れる、会話がかみ合わない、持ち物を頻繁に探す、時間や場所の感覚が乱れる 注意力の低下 集中が続かない、周囲に気を取られやすい、作業ミスが増える、反応が遅れる 会話や読書の理解が困難、家事や仕事でのミス、運転時の危険察知が遅れる、作業が続かない (文献5) アテローム血栓性脳梗塞では、脳の前頭葉や側頭葉などが損傷を受けた場合に、記憶障害や注意力の低下が後遺症として現れることがあります。たとえば人の名前が思い出せなかったり、昨日食べたものが思い出せなかったりなどが挙げられます。 記憶障害や注意力の低下の中には、日常生活に大きな影響を及ぼすものもあり、家族や周囲のサポートや理解が不可欠です。 精神的な変化やうつ状態 分類 症状 日常生活への影響 感情の変化 気分の落ち込み、不安・イライラ、感情の不安定さ、無関心、喜びや意欲の喪失 リハビリへの意欲低下、人との関わりを避ける、楽しみを感じにくくなり生活の質が低下する 思考の変化 集中力・記憶力・判断力の低下、思考の遅れ、自責感、希死念慮 会話や日常判断が難しくなる、過去を悔やみやすくなる、深刻な場合は命に関わるリスクも 行動の変化 引きこもり、外出や活動量の減少、睡眠障害、食欲の変化、疲れやすさ 社会復帰が困難になり、家族への負担も増える。孤立感が強まり、生活全体が消極的になる (文献6) アテローム血栓性脳梗塞の後遺症として、身体的な障害だけでなく、感情面や性格の変化が生じることがあります。 とくにアテローム血栓性脳梗塞を発症した方の約30%が、うつ状態となることが報告されているため、少しでも辛いと感じたときは医師や周りに相談するのが大切です。アテローム血栓性脳梗塞の後遺症は身体の影響だけでなく、精神的な面でもケアが求められます。 アテローム血栓性脳梗塞における後遺症のリハビリ方法 リハビリの種類 目的・内容 運動療法 関節可動域の維持・改善、筋力・バランスの強化、歩行訓練。麻痺した手足の機能回復や基本動作の改善を目指す 作業療法 食事・着替え・入浴など日常動作の訓練。趣味・仕事への復帰支援や自助具の活用、住環境の調整も行う 言語聴覚療法 言語障害(発話・理解)や嚥下障害の訓練。コミュニケーション能力の向上 認知行動療法 記憶・注意力の改善、意欲低下や抑うつなど精神面のサポート。カウンセリングによって心の安定と行動変容を図る アテローム血栓性脳梗塞の後遺症に対しては、症状に合わせたリハビリを医師の指導のもと継続的に行うことが不可欠です。また、リハビリは本人や医師だけでなく、周りのサポートや理解も大事になります。 これから紹介するリハビリは、自己判断や自己流ではなく、医師の指示に従いながら行いましょう。 以下の記事では、脳梗塞の後遺症を改善するリハビリ方法をわかりやすく解説しております。 運動療法 目的 内容 筋力と動作機能の回復 麻痺した手足を動かす訓練で筋力を再びつけ、起き上がり・立ち上がり・歩行がしやすくなる 関節の柔軟性維持 可動域訓練(ROM)で関節のこわばりを防ぎ、日常動作をスムーズに バランス向上と転倒予防 体幹トレーニングやバランス訓練でふらつきを防ぎ、歩行できる体づくり 持久力・心肺機能の向上 全身を使った運動で疲れにくい体にしつつ、日常生活の動作が楽になる 協調性と感覚の改善 手足の連携や細かい動作の練習で動きのぎこちなさを改善。感覚の刺激にもなり感覚障害にも効果が期待される 脳の回復促進(神経可塑性) 動作を繰り返すことで、脳が新しい動き方を覚え、失われた機能を補う力が高まる 意欲・気分の改善 運動により気分が前向きになり、リハビリへのやる気も引き出されやすくなる (文献7)(文献8) 運動療法は、アテローム血栓性脳梗塞による運動麻痺や筋力低下の回復を目的としたリハビリの中心的な方法です。医師の指導のもと、関節の可動域を保つストレッチや、座る・立つ・歩くといった基本動作の再獲得を目指した訓練を行います。 内容としては、徐々に立ち上がりや歩行などの負荷を増やしていくのが一般的です。運動療法は、自宅でも無理のない範囲で続けることで、後遺症の改善が期待できます。 作業療法 目的・効果 内容・支援例 日常動作(ADL)の自立支援 食事・着替え・入浴などの練習。自助具や代償動作の習得で「できること」を増やす 手の細かい動き(巧緻動作)の改善 握る・つまむなどの訓練を通じて、書字・調理・趣味など生活の質を高める 高次脳機能障害への対応 記憶・注意・段取りの訓練。生活上の課題に合わせた個別アプローチで認知機能をサポート 感覚障害への配慮 感覚刺激や代償方法の指導により、動作や日常生活への適応を図る 精神面のサポート 意欲の低下や不安に寄り添い、自信の回復や社会参加を促す活動を取り入れる 患者中心のリハビリ目標の設定 患者の意向を反映した具体的な目標を設定し、主体的な取り組みを促進 (文献9)(文献10) 作業療法は、アテローム血栓性脳梗塞の後遺症によって難しくなってしまった日常動作を取り戻すためのリハビリ方法です。 手や指の細かな動きや食事、トイレ動作など、生活に必要な動作の練習を行うことで、少しずつ自分だけで生活できる力を取り戻していくのが目的です。作業療法は、日常生活の質を保つ上で、非常に重要な役割を果たします。 言語聴覚療法 目的・効果 内容・支援例 脳の可塑性を活かした機能回復 発声・嚥下・理解などの訓練で、脳の再学習を促し、言語や飲み込み機能を回復 個別に合わせた訓練計画の作成 症状や生活背景に応じてオーダーメイドの訓練を実施。無理なく効果的なリハビリが可能 多角的なコミュニケーション支援 話す・聞く・読む・書くに加え、ジェスチャーや絵カードなども活用し、意思疎通を支援 適切な食事のための嚥下訓練 むせや誤嚥を防ぐ訓練、食事姿勢・食形態の工夫で、誤嚥性肺炎のリスクを軽減 精神的サポート 言語や嚥下の障害による不安や孤立感に寄り添い、サポートする 生活環境への適応支援 家庭や職場での会話支援、家族への接し方のアドバイスなど、退院後の生活も見据えた支援を実施 (文献1) 言語聴覚療法は、アテローム血栓性脳梗塞によって生じた言語障害や嚥下障害(飲み込みの問題)に対して行われる治療法です。主なリハビリ内容は、反復練習や発声訓練です。嚥下障害がある場合は、誤嚥や肺炎を防ぐための飲み込みの訓練も行います。 言語聴覚療法は、話す力だけでなく、コミュニケーションや食事を支える大切なリハビリです。状態に合わせた継続的な支援で、生活の幅を広げられます。 認知行動療法 目的・効果 内容・支援例 思考・感情・行動の悪循環を断ち切る 否定的な考えが、気分の落ち込みや意欲低下につながる流れを見直す 問題解決力の向上 できないことに直面したとき、どう対処するかを具体的に学び、自信をつける 否定的な考え方の修正(認知の再構成) 迷惑ばかりかけているなどの思い込みを見直し、前向きな視点を育てる 行動の活性化 小さな行動目標を設定し、成功体験を積むことで自信と活動意欲を高める ストレスや不安への対処力の習得 怒り・悲しみ・不安などの感情を言葉にして整理させる 社会復帰や家族関係への不安の軽減 職場復帰や家族との関係性に関する悩みに寄り添い、コミュニケーション改善や役割の再構築を支援 将来不安・再発恐怖への対処 今できることに意識を向ける訓練で、不安にとらわれず前向きに生活を整える (文献6)(文献11) 認知行動療法は、アテローム血栓性脳梗塞の後遺症によるうつや不安、意欲の低下などに対して行う心理的なリハビリです。再発への不安や身体が思うように動かないことから自分を責めやすくなりますが、治療によりその思考を前向きに修正していきます。 具体的な行動目標を立てて少しずつ達成すると、自己肯定感が高まり、心の回復が促されます。リハビリは、心理士や医師のサポートを受けながら、無理なく取り組むことが大切です。身体のリハビリと並行して心のケアを行うことで、全体の回復につながります。 アテローム血栓性脳梗塞の予後 予後に関しての項目 説明 後遺症の回復と期間 早期のリハビリ開始が大切。数カ月〜半年で改善が見られることが多く、その後もゆっくり回復する可能性あり 長期的な生活の質 後遺症が出ても、リハビリや福祉サービスの利用で自立を目指す。本人・家族の努力と周囲の支援が大切 再発リスク 高血圧・糖尿病などの生活習慣病が関与。薬の継続と生活習慣の見直しの両方が重要。医師の指導に従うこと アテローム血栓性脳梗塞の予後は、発症時の重症度や治療の早さ、年齢、持病の有無などに大きく左右されます。 進行が比較的ゆるやかなため発見が遅れやすく、後遺症が出ることもありますが、早期の治療と継続的なリハビリにより回復が期待できる場合もあります。再発予防には生活習慣の改善や持病の管理が不可欠です。 以下の記事では脳梗塞の予防・再発防止について詳しく解説しています。 後遺症の回復度と期間 項目 内容 回復の進み方 回復は一気に進まず、段階的に少しずつ進む。最初は命を守る治療が中心ですが、徐々に日常の動作ができるようになる 回復のスピードと個人差 どのくらい良くなるか、どれくらいの期間がかかるかは、人によって異なる。焦らず、継続が大切 心の健康も大切 後遺症への不安や落ち込みは自然。心のケア(カウンセリングや認知行動療法)も回復にはとても重要な要素 意欲を保つ工夫 「できたこと」に目を向け、小さな成功体験を積み重ねると、リハビリのやる気にもつながる 予後を良くするポイント 医師の指導に従い、リハビリを継続する、前向きな気持ちを保つこと、生活習慣を見直すことが大切 アテローム血栓性脳梗塞の後遺症がどの程度回復するか、またどれくらいの期間がかかるかは、脳の損傷範囲や発症からの時間、年齢や基礎疾患の有無によって異なります。とくに発症後しばらくの間は、脳が回復しやすい時期とされており、この時期に集中的なリハビリを行うことで、機能の回復が期待できます。 麻痺や言語障害などは回復に時間がかかるため、リハビリは焦らず取り組むことが大切です。 長期的な生活の質 支援のポイント 内容 継続的なリハビリと再発予防 身体機能の維持・改善と生活習慣の見直しによる健康寿命の延伸 精神的サポートと認知行動療法 心のケアを通じた意欲の回復と生活への前向きな姿勢の支援 家族・地域とのつながりの維持 孤立の予防と精神的な安定を支える関係性の構築 福祉制度や訪問サービスの活用 在宅生活の継続を支える支援体制の確保と介護負担の軽減 アテローム血栓性脳梗塞の後遺症は、生活の質(QOL)に大きく影響することがあります。後遺症として、麻痺や言葉の障害、心の不調などが出ると、仕事や趣味、人との関わりが難しくなることがあります。 後遺症があっても、住まいの工夫や介助具の使用、デイケアや訪問リハビリなどの支援を活用することで、生活の負担を軽くできます。 さらに、再発予防や心のケアにも取り組むことで、前向きな日常を取り戻すことが可能です。生活の質を高めるには、本人の努力だけでなく、家族や周囲の支えも欠かせません。 再発リスク 取り組み項目 内容 薬物療法の継続 抗血栓薬やスタチン系薬剤の服用による血栓予防とコレステロールの管理 生活習慣の見直し 減塩・低脂質の食事、適度な運動、禁煙、節酒による動脈硬化の進行防止 定期的な通院と検査 血圧・血糖・脂質の継続的なモニタリングと早期対応 心の健康管理(心理支援) 不安やうつへの対応、認知行動療法やカウンセリングによる自己管理力の維持と向上 (文献12)(文献13) アテローム血栓性脳梗塞は、再発のリスクが高いとされる脳卒中のひとつです。 とくに発症から間もない時期ほど再発率が高く、久山町コホート研究では、発症1年後で12.8%、5年後で35.3%、10年後には51.3%であることがわかるデータがあります。(文献14) このデータは、脳梗塞を一度発症した方の約半数が10年以内に再び発症していることを示しており、長期的な予防対策が非常に重要であることを物語っています。再発を防ぐには、薬の継続に加え、減塩・低脂質の食事、適度な運動、禁煙などの生活改善が大切です。 さらに、血圧や血糖値を定期的にチェックし、体調をしっかり管理することが再発予防につながります。再発すると、より重い後遺症が出るケースもあるため、日常生活の中で予防への意識が不可欠です。 アテローム血栓性脳梗塞の後遺症は再生医療も選択肢のひとつ アテローム血栓性脳梗塞の後遺症には、運動麻痺や言語障害などがあり、生活に大きな支障をきたすことがあります。リハビリで改善することもありますが、回復が不十分な場合も少なくありません。 そうした際の新たな選択肢のひとつとして、幹細胞を使った再生医療が注目されています。当院リペアセルクリニックでは、後遺症にお悩みの方に再生医療をご提案し、改善に向けた丁寧なサポートを行っています。 アテローム血栓性脳梗塞の後遺症でお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 アテローム血栓性脳梗塞に関するよくある質問 リハビリの開始は早い方が効果的ですか? アテローム血栓性脳梗塞の後遺症に対しては、早期リハビリの開始が効果的とされています。発症直後は脳の回復力が高く、適切な刺激により神経機能の再建が促されます。(文献1) 介護保険や障害者手帳などの制度は利用できますか? アテローム血栓性脳梗塞の後遺症が一定の程度を超える場合、介護保険や障害者手帳などの公的制度の利用が可能です。申請には医師の診断書が必要となるため、早めに医師やソーシャルワーカーに相談しましょう。(文献15)(文献16) アテローム血栓性脳梗塞の後遺症に対して家族はどのようにサポートすれば良いですか? アテローム血栓性脳梗塞の後遺症と向き合うには、本人の「できる力」を尊重し、過干渉を避けることが大切です。ゆっくりした言葉での対話や、感情の変化に寄り添う姿勢も必要です。 訪問リハビリやケアマネジャーなどの支援を活用し、家族自身も無理のない介護を心がけましょう。 参考記事 (文献1) 小笠原邦昭ほか.「脳卒中治療ガイドライン 2021〔改訂2023〕」, pp.1-180 https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2023.pdf(最終アクセス:2025年5月14日) (文献2) 国立研究開発法人「脳卒中」国立研究開発法人国立循環器病研究センター https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2/(最終アクセス:2025年5月14日) (文献3) 公益社団法人 日本リハビリテーション医学会「脳卒中のリハビリテーション治療」公益社団法人 日本リハビリテーション医学会,2014年4月 https://www.jarm.or.jp/civic/rehabilitation/rehabilitation_01.html(最終アクセス:2025年5月14日) (文献4) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「脳卒中の概要」MSD マニュアル プロフェッショナル版, 2023年7月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/07-%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%84%B3%E5%8D%92%E4%B8%AD/%E8%84%B3%E5%8D%92%E4%B8%AD%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81(最終アクセス:2025年5月14日) (文献5) 「日本神経学会治療ガイドライン痴呆疾患治療ガイドライン2002」, pp.1-4 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdf/thihou_08.pdf(最終アクセス:2025年5月14日) (文献6) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「うつ病」MSD マニュアル 家庭版, 2023年11月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/10-%E5%BF%83%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E6%B0%97%E5%88%86%E7%97%87/%E3%81%86%E3%81%A4%E7%97%85?autoredirectid=28119(最終アクセス:2025年5月14日) (文献7) 「Ⅶ.リハビリテーション」, pp.1-70 https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/nou2009_07.pdf(最終アクセス:2025年5月14日) (文献8) 「脳卒中治療ガイドライン2021における リハビリテーション領域の動向」37(1), pp.1-13, 2022年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/37/1/37_129/_pdf(最終アクセス:2025年5月14日) (文献9) 藤原太郎ほか.「作業療法ガイドライン脳卒中」『一般社団法人 日本作業療法士協会』, pp.1-52 https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/37/1/37_129/_pdf(最終アクセス:2025年5月14日) (文献10) 清野 敏秀.「脳卒中急性期の作業療法 実践の流れ」『(社)日本作業療法士協会 学術部』, pp.1-2, 2011年 https://www.jaot.or.jp/files/page/wp-content/uploads/2010/08/celebro.pdf(最終アクセス:2025年5月14日) (文献11) 伊藤 弘人.「厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業 (精神障害分野) 身体疾患を合併する精神疾患患者の 診療の質の向上に資する研究」『平成26年度総括・分担研究報告書』巻(号), pp.開始ページ-終了ページ, 2015年 https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/download_pdf/2014/201419018A.pdf(最終アクセス:2025年5月14日) (文献12) 「脳卒中療養支援シリーズ②脳卒中の再発防止」『京都大学医学部附属病院 脳卒中療養支援センター作成』, pp.1-8 https://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/department/division/pdf/strokesupport/strokesupport_20230405_04.pdf(最終アクセス:2025年5月14日) (文献13) 公益社団法人 日本脳卒中協会「脳卒中予防十か条」公益社団法人 日本脳卒中協会, 2018年3月9日 https://www.jsa-web.org/citizen/85.html(最終アクセス:2025年5月14日) (文献14) 冨本 秀和.「脳梗塞:これからの再発予防治療*」, pp.1-5, 2018年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/35/4/35_439/_pdf(最終アクセス:2025年5月14日) (文献15) 厚生労働省「介護保険制度の概要」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/gaiyo/index.html(最終アクセス:2025年5月14日) (文献16) 厚生労働省「障害者手帳」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/techou.html(最終アクセス:2025年5月14日)
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「脳炎の後遺症はどのようなものなのか」 「後遺症の影響はいつまで続くのか」 脳炎の治療は症状の改善が期待される一方で、記憶障害や言語障害などの後遺症が残る可能性もあります。日常生活や会話に支障をきたし、不安を感じる方も少なくありません。 本記事では、脳炎によって起こりうる後遺症に加え、治療後のリハビリや回復の見込みについても解説します。 脳炎で起こりうる後遺症 後遺症の種類 症状・影響 記憶障害・認知機能の低下 記憶力の低下、新しいことが覚えにくい、集中力や判断力の低下、日常生活への支障 言語障害 言葉の理解や表現の困難、発語の遅れ、不明瞭な発音、スムーズな会話の困難 運動障害や麻痺・ふらつき 手足の麻痺や筋力低下、歩行時のふらつき、細かい作業の困難、動作に時間がかかる状態 てんかん 意識消失やけいれん発作の出現、発作による転倒や怪我のリスク、生活範囲の制限 てんかんの後発の可能性 全身けいれん、意識消失、反応の低下などの発作症状、脳波異常による再発リスク、抗てんかん薬による治療の必要性 脳炎は脳に炎症を起こす病気です。治療後もさまざまな後遺症が見られることがありますが、すべての人に残るわけではありません。後遺症が出た場合、早期治療やその後のケアが大切です。 記憶障害や認知機能の低下 原因 内容 特定部位の炎症と損傷 海馬や前頭前野の炎症による神経細胞の損傷、ネットワークの障害 脳全体の機能低下 広範囲の炎症による脳全体の連携機能の低下、注意・遂行機能への影響 神経伝達物質の異常 アセチルコリンなどの減少による情報伝達の不良、記憶や判断力への悪影響 脳浮腫・脳圧亢進 血流低下による酸素・栄養の供給不足、脳機能への間接的な障害 二次的な合併症(てんかんなど) 繰り返す発作による慢性的な脳機能の低下、認知力の持続的な悪化 (文献1)(文献2)(文献3) 脳の炎症が記憶を司る部位や、思考・判断といった認知機能を担う部位に及ぶと、記憶力の低下や新しいことを覚えるのが難しくなる症状が現れることがあります。これらの症状は日常生活に支障をきたし、ストレス要因になる恐れがあります。 症状の重さは人によって異なり、場合によっては医療機関での診察や生活支援が必要です。適切な対応と経過の観察が大切です。 言語障害 症状の種類 特徴・具体例 話す力の障害 言葉が出ない、話すのが遅い、短く途切れる話し方、文法ミスが多い 聞く力の障害 話の内容が理解できない、意味のない言葉や言い間違いが増える 読む力の障害 文字が読めない、読むのに時間がかかる、意味が理解できない 書く力の障害 文字が書けない、字形や綴りの間違い、文法ミスが多い文章になる 名前が出ない 物の名前が思い出せない、「あれ」「それ」「これ」などの言葉を多用する 言葉の反復が困難 相手の言葉を繰り返せない 音読が困難 文字を声に出して読むことができない 脳炎によって言語を司る領域が損傷されると、言葉の理解や発話が難しくなることがあります。自分の意思の伝達や聞き取りの困難などが現れるケースもあります。 言語障害は、医師の指導のもとで行う言語療法により改善が期待でき、早期に適切な訓練が欠かせません。 運動障害や麻痺・ふらつき 症状 症状の具体例 想定される原因 麻痺 片側の手足、両手、両足、または四肢すべてに力が入らない状態 運動をつかさどる脳の皮質の損傷、神経伝達の障害 筋力低下 動作が遅くなる、持ち上げる力が弱くなる 錐体路や筋肉への指令伝達の低下 運動失調 ふらつき、まっすぐ歩けない、体のバランスが取りづらい状態 小脳の損傷、運動の協調を担う神経回路の障害 手の震え(企図振戦) 手を伸ばすと震えが強くなる 小脳の障害、協調運動機能の異常 協調運動の障害 ボタンをかける、箸を使うといった細かい動きが難しくなる 小脳や運動関連領域の機能低下 構音障害 発音が不明瞭になる、舌や口がうまく動かない 小脳や脳幹の損傷、発語に関わる筋肉の動作不全 筋緊張の異常 筋肉が突っ張る(痙縮)、硬くなる(固縮) 錐体外路の障害、筋緊張の制御不全 反射の異常 膝を叩くと強く跳ねる、足の裏をこすると指が反り返る(バビンスキー反射) 脳幹や脊髄を通る神経の調節異常 筋萎縮・体力低下 長期間の臥床により筋肉が細くなる、疲れやすくなる 活動量の減少、筋力の低下 (文献4)(文献5) 脳炎により運動機能をつかさどる脳の領域が損傷されると、手足の麻痺、筋力低下、ふらつき、細かい動作の困難などが現れることがあります。 歩行や日常動作に支障をきたすケースもあり、症状によってはリハビリでの改善が期待できる一方、後遺症が長引く場合もあります。 てんかんの後発の可能性 分類 内容 部分発作(焦点性発作) 手足の痙攣、しびれ、動悸、発汗、既視感などが一部の脳から始まる発作 全般発作 意識消失や全身のけいれん、体のピクつき、一時的な意識の飛びなど全脳に広がる発作 発作の頻度と重症度 人によって異なる発作の回数と強さ。軽度から頻発までさまざまなケース てんかん重積のリスク 発作が止まらず繰り返す重篤な状態。意識が戻らず、緊急の治療が必要なケース 認知機能への影響 記憶力や集中力の低下、抗てんかん薬の影響による思考力の変化 精神的な影響 発作への不安や社会的な制限からくる抑うつや不安、心理的ストレスの増大 (文献6)(文献7) 脳炎によって脳の神経細胞が損傷を受けると、電気的な活動が不安定になり、てんかん発作を引き起こす可能性があります。突然のけいれんや意識の消失、ぼんやりした状態などの発作が現れることがあります。 てんかんは再発の可能性もあるため、継続的な観察と適切な薬物治療が必要です。治療により発作をコントロールできることも多く、医師の指示に従った継続的な管理が求められます。 以下の記事では、てんかん手術について詳しく解説しています。 情緒不安定になる 主な症状 状態 感情の起伏の激しさ 急な怒りや涙など感情の変化が大きく現れる状態 感情の持続困難 喜びや悲しみなどの気持ちが長続きせず、すぐに別の感情に変わる状態 イライラしやすさ 小さな出来事に過敏に反応し、怒りや不快感が高まりやすくなる状態 不安感の強さ 理由がはっきりしない不安や将来への悲観的な考えが浮かびやすい状態 抑うつ的な気分 気分の沈み、意欲の低下、何も楽しめない状態 衝動的な行動 感情に任せて思わぬ行動をとってしまう状態 感情コントロール困難 感情を抑えたり、表現を調整したりが難しくなる状態 過敏な反応 周囲の言動に対して敏感になり、必要以上に気にしたりネガティブに捉える状態 (文献8) 脳の感情をつかさどる部位が炎症の影響を受けると、感情の起伏が激しくなったり、憂うつな気分や意欲の低下が続くなど、情緒が不安定になりやすくなります。興味や楽しみを感じにくくなることもあり、日常生活に支障をきたす場合もあります。 情緒不安定な状態が続く場合、医師や周囲の支えが大切です。気分の落ち込みが続く場合は、精神科や心療内科の受診も検討しましょう。 脳炎における後遺症の回復・改善方法 概要 回復内容 注意点 リハビリテーション (言語・作業・理学療法) 話す・動く・歩くなどの身体機能を段階的に回復させる方法 専門家の指導のもとで継続的に取り組むことが重要 薬物療法 症状を薬でコントロールし、生活しやすくする方法 医師の指示に従い、副作用に注意しながら服用する 生活習慣の改善 食事・睡眠・運動を整えて回復を支える方法 無理なく続け、ストレスの管理に気をつける 精神的ケア・カウンセリングの活用 不安や落ち込みを和らげて心の安定を図る方法 一人で抱え込まず、早めに専門家や周囲への相談が大切 脳炎の後遺症からの回復や改善には、早期からの適切なアプローチが不可欠です。 脳炎の回復には、自己判断を避け、医師の指導のもとでの対応が必要です。また、焦らず段階的に回復を目指すことが大切です。 リハビリテーション(言語療法・作業療法・理学療法) 種類 目的 内容 期待される効果 言語療法 話す・聞く・読む・書く・飲み込む機能の回復 発声練習、構音訓練、聴覚理解、失語症訓練、嚥下訓練、補助的な伝え方の習得 コミュニケーション力と食事動作の改善 作業療法 日常生活動作・手の使い方・認知機能の回復 着替え・食事・排泄の練習、記憶・注意力トレーニング、手の訓練、生活環境の調整 自立した生活動作と社会復帰への支援 理学療法 立つ・歩く・座るなどの運動機能や筋力・バランスの改善 筋力トレーニング、関節運動、歩行練習、物理療法(温熱・電気など)、装具使用指導 動作の安定化、転倒予防、違和感の軽減、呼吸機能の維持 (文献9)(文献10) 脳炎の後遺症の回復期間は、炎症の程度や広がり、症状の種類、体の回復力によって大きく異なります。早期に改善する場合もあれば、回復に時間がかかることもあります。 重い後遺症では元の状態に戻るのが難しいこともありますが、焦らず根気強くリハビリを継続することが大切です。 薬物療法 項目 内容 治療の目的 症状を和げることで、生活の負担を軽減し、リハビリにも取り組みやすい状態を整えることが目的 有効性の理由 脳の損傷により乱れた神経伝達や過剰な神経活動を整えることで、精神的・身体的な症状の緩和につながる 主な作用 抑うつや不安の軽減、てんかん発作の予防、筋肉の緊張の緩和、神経痛や筋肉痛の軽減、不眠の改善が期待される 治療の特徴 薬物療法は後遺症の原因を直接治すものではなく、あくまで現れている症状に対応する対症療法として実施される 治療の進め方 症状の種類や程度、体質などを考慮し、医師が患者ごとに適した薬を選び、投与量を調整しながら進めていく リハビリとの関係 症状が落ち着くことでリハビリにも前向きに取り組めるようになり、全体的な回復の促進につながる 注意点 副作用の可能性があるため、医師の指示を守ることが大切であり、体調の変化があれば、すぐに医師に相談する (文献11)(文献12) てんかん発作や、精神的な症状に対しては、薬物療法が行われることがあります。薬物療法は、症状のコントロールやリハビリの効果を引き出す上でも有効です。 ただし副作用のリスクもあるため、医師の指示のもと服用する必要があります。また、自己判断で量を増やしたり服用を中断したりしないよう注意が必要です。 また、脳炎の後遺症は薬物療法だけではなく、リハビリなどと組み合わせて、行うことが大切です。 生活習慣の改善 項目 内容 栄養の確保 脳細胞の修復や神経回路の再構築に必要なエネルギーと栄養素の供給 血流と酸素供給の促進 運動による血行改善によって、脳への酸素と栄養が行き渡りやすくなる状態 脳の休息と修復 質の高い睡眠によって、記憶の整理や神経の再生が進みやすくなる状態 ストレスの軽減 精神的な緊張を和らげ、自律神経とホルモンバランスを安定させる環境の整備 生活リズムの安定 食事・睡眠・起床の時間を整え、体内時計や脳の機能がしっかり働く生活パターンの維持 (文献13) 脳炎後の回復には、生活習慣の見直しが大切です。栄養バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動は脳の回復を促します。 ストレスや飲酒・喫煙は回復を妨げるため注意が必要です。無理のない範囲で規則正しい生活を続けることが、体力の維持や再発予防につながります。 以下の記事では、生活習慣の改善について詳しく解説しています。 精神的ケアやカウンセリングを活用する 項目 内容 心の負担の軽減 精神的な安定を取り戻すための支援 前向きな気持ちの育成 医師との対話を通じて、リハビリに前向きに取り組むための心の準備 困難への対処法の習得 記憶障害や感情のコントロールなど、後遺症への対応方法を専門家と共に見つける支援 自己理解と自己肯定感の向上 変化を受け入れ、新たな自分を肯定する力を育てるためのサポート 周囲とのコミュニケーション支援 家族や友人との関係を円滑にし、理解と協力体制を築く 孤立感の解消と社会参加の促進 社会資源や支援団体とのつながりを通じて、孤立からの脱却と社会復帰を支える環境づくり (文献14) 後遺症による生活の変化や将来への不安から、精神的な負担を感じることは少なくありません。 精神的な不安が続く場合、医療機関の精神科やカウンセリングを利用するのも有効な手段です。周囲に相談できる環境を整えることが、前向きな気持ちを取り戻す一歩となります。 脳炎における後遺症の回復期間について 脳炎の後遺症からの回復において大切なこと 詳細 回復には個人差がある 回復の早さは炎症の程度や後遺症の種類、体力などによって異なり、数週間~数年かかることもある 焦らず、諦めない姿勢 回復はゆっくり進むことが多いため、自分のペースで継続する姿勢が大切 専門家との連携 医師やリハビリスタッフと連携し、自分に合った回復プランを立てて進めることが効果的 小さな変化を前向きに捉える わずかな改善も前向きに受け止め、回復の手応えとして喜びに変える意識がモチベーションにつながる 継続的なリハビリが鍵 リハビリは継続で効果が出やすく、途中で中断せず、地道に続けることが重要 周囲への相談と共有 困ったときや不安なときは、医師・カウンセラー・家族に相談し、孤立しない工夫が必要 心と体のペースを尊重する 無理をせず、その日の体調に合わせて調整すると、継続しやすくなる 社会復帰への準備 徐々に日常生活や仕事・趣味に戻ることを視野に入れ、社会参加の機会を少しずつ増やしていくことが大切 脳炎の後遺症の回復には個人差があり、期間を一概に示すことはできません。記憶障害や麻痺などは、根気強いリハビリの継続が不可欠です。 回復のスピードは、脳の損傷部位や広がり、年齢、基礎疾患の有無などによっても左右されます。適切な医療支援とリハビリにより、生活機能が改善する例も多くあります。焦らず、段階的な目標を持って取り組むことが大切です。 脳炎の後遺症でお悩みなら再生医療も選択肢のひとつ 脳炎の後遺症は、運動麻痺や言語障害などを引き起こし、日常生活や人間関係に大きな影響を与えることがあります。 放置すると生活への支障だけでなく、気分の落ち込みなど精神的な負担につながることもあります。 リハビリで改善が難しい場合は、幹細胞を用いた再生医療も選択肢のひとつです。脳炎の後遺症でお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 脳炎の後遺症に関するよくある質問 以前のように元通りになることは可能ですか? 脳炎の後遺症が完全に回復するかは個人差があり、炎症の程度や治療の早さ、年齢などが影響します。後遺症が出るケースもありますが、リハビリや支援によって生活の質を高めることは十分期待できます。(文献4)(文献10) 後遺症があったとしても仕事に復帰できますか? 脳炎の後遺症がある場合でも、症状の程度や職種、職場の理解・支援体制によっては仕事の復帰は望めるでしょう。リハビリの継続と職場環境の調整により、無理のない復職を目指すことが大切です。 脳炎の後遺症が自然に改善されることはありますか? 脳炎の後遺症は自然に回復するケースもありますが、回復の程度や期間には個人差があります。とくに発症から早期に適切な治療が行われた場合、回復の可能性が高まります。脳炎の後遺症の回復経過は自己判断ではなく、医師と連携しながら確認していくことが大切です。(文献9) 参考資料 (文献1) JIHS国立健康危機管理研究機構「ヘルペス脳炎」国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/herpes-encephalitis/010/herpes-encephalitis.html(最終アクセス:2025年5月13日) (文献2) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「脳炎」MSD マニュアル プロフェッショナル版, 2022年3月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/07-%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%84%B3%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87/%E8%84%B3%E7%82%8E(最終アクセス:2025年5月13日) (文献3) 「自己免疫介在性脳炎・脳症」, pp.1-20 https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/000828398.pdf(最終アクセス:2025年5月13日) (文献4) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「脳炎」MSD マニュアル 家庭版, 2024年7月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/09-%E8%84%B3-%E8%84%8A%E9%AB%84-%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%84%B3%E3%81%AE%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87/%E8%84%B3%E7%82%8E(最終アクセス:2025年5月13日) (文献5) 日本学術復興会「急性脳炎の発病・後遺症形成過程とグルタミン酸受容体自己免疫の研究」KAKKEN, 2005年4月1日 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17591133/(最終アクセス:2025年5月13日) (文献6) 池田昭夫.「日本てんかん学会ガイドライン作成委員会報告 高齢者のてんかんに対する診断・治療ガイドライン」『高齢者のてんかん』, pp.1-17 https://jes-jp.org/pdf/aged_epilepsy.pdf(最終アクセス:2025年5月13日) (文献7) 三枝 隆博.「自己免疫機序が関与するてんかん」『自己免疫機序が関与するてんかん』, pp.1-5, 2018年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/36/4/36_447/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月13日) (文献8) 船山道隆.「脳炎後の神経心理症状および精神症状とリハビリテーション治療」『脳炎治療アップデートと脳炎後遺症リハビリテーション治療』, pp.1-7,2023年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/60/6/60_60.498/_pdf(最終アクセス:2025年5月13日) (文献9) 浦上裕子.「脳炎後の記憶障害と リハビリテーション治療」『脳炎治療アップデートと脳炎後遺症リハビリテーション治療』, pp.1-7,2023年, pp.1-7,2023年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/60/6/60_60.491/_pdf(最終アクセス:2025年5月13日) (文献10) 浦上裕子.「脳炎─記憶障害の回復と リハビリテーション─」『高次脳機能障害のリハビリテーション ―回復の可能性―』, pp.1-5, 2016年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/53/4/53_287/_pdf(最終アクセス:2025年5月13日) (文献11) 西田拓司 .「脳炎後てんかんの薬物療法」『脳炎治療アップデートと脳炎後遺症リハビリテーション治療』, pp.1-7,2023年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/60/6/60_60.484/_pdf(最終アクセス:2025年5月13日) (文献12) 「単純ヘルペス脳炎の治療」, pp.1-32 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/hse/herpes_simplex_2017_08.pdf(最終アクセス:2025年5月13日) (文献13) 「「HHV-6脳炎発症後の日常生活のくふう」 どうしたらいいんだろう??」, pp.1-9 https://toranomon.kkr.or.jp/zoketsu-kyoten/files/images/pdf/LTFU_HHV-6.pdf(最終アクセス:2025年5月13日) (文献14) 山徳雅人 .「脳炎患者の両立支援」『脳炎治療アップデートと脳炎後遺症リハビリテーション治療』, pp.1-7,2023年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/60/6/60_60.511/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月13日)
2025.05.30 -
- 頭部
- 頭部、その他疾患
「脳膿瘍の手術で後遺症が出るかもしれない」 「脳膿瘍の術後のリハビリで後遺症を改善したい」 脳膿瘍の手術に対して、不安や戸惑いを抱えている方は少なくありません。脳膿瘍の手術は症状の改善が見込まれる一方で、後遺症が生じるリスクもあります。 本記事では、脳膿瘍の手術で起こりうる後遺症について解説します。記事の最後には、脳膿瘍の手術と後遺症に関するよくある質問をまとめていますのでぜひ最後までご覧ください。 脳膿瘍の手術で期待される効果 症状の軽減 圧迫による視野障害・麻痺・けいれん発作などの症状の改善 神経機能の回復 脳機能の回復や維持を目指す 病状進行の抑制 膿瘍の切除により再発や悪化のリスク軽減 将来的な機能障害の予防 適切な時期の手術が機能障害の発症を防ぐことにつながる (文献1) 脳膿瘍の手術は、脳内に膿がたまり圧迫で生じる頭痛や麻痺、意識障害などの症状を軽減するために実施されます。 膿瘍を外科的に取り除くことで、神経への負担が減り、症状の改善や回復が期待できます。また、膿を取り除くことで抗菌薬が患部に届きやすくなり、感染の再発や重症化を防ぐ効果も高まります。適切なタイミングで治療を行い、将来的な後遺症の予防も視野に入れることが大切です。 脳膿瘍の手術内容 項目 内容 膿瘍の摘出による症状の改善 膿の除去や感染源の除去 頭蓋内圧の正常化 頭痛・吐き気・視覚異常・意識障害の改善 神経症状の改善 しびれ・運動障害・視覚や聴覚の異常の軽減 抗菌薬治療の効果を高める 膿瘍の縮小による薬剤効果向上 生活の質の向上 歩行や会話のしやすさ、社会復帰やコミュニケーションの円滑化 脳膿瘍の手術は、患者の全身状態や膿瘍の大きさ・部位を総合的に判断したうえで実施されます。 膿瘍の摘出による症状の改善 項目 内容 膿の除去 膿瘍によって生じる脳圧の上昇や周囲組織の圧迫が軽減される 頭痛や意識障害の改善 圧迫による神経症状(頭痛、吐き気、意識障害など)が軽減される可能性がある 神経機能の回復 膿瘍の位置によっては、言語障害や麻痺といった症状が手術後に改善する場合もある 感染源の除去 抗菌薬が届きやすくなり、全身状態の改善が促される (文献1) 脳膿瘍の手術では、膿を取り除くことで頭痛や吐き気、意識障害、手足の麻痺などの症状が改善することがあります。 膿の除去で脳の圧迫が和らぎ、抗菌薬が届きやすくなるため、全身の回復にもつながります。このような理由から、膿の除去は治療の重要な基盤です。 頭蓋内圧の正常化 項目 内容 頭蓋内圧が上がる原因 膿瘍の圧迫、脳の腫れ、脳脊髄液の流れの障害、出血によるスペースの圧迫 上昇による症状 頭痛、吐き気、意識障害、視覚異常、脈の乱れ、高血圧 手術による改善効果 膿瘍や出血の除去、脳の腫れの軽減、脳脊髄液の流れの回復 期待される結果 頭蓋内圧の正常化による症状の改善と脳機能の安定化 脳膿瘍が進行すると、膿の塊が脳を圧迫し、頭痛・吐き気・視覚異常・意識障害などの症状が起こるのが特徴です。 とくに、脳の腫れ(浮腫)や炎症により頭蓋内圧が上昇すると、命に関わるリスクも高まります。手術で膿瘍を除去し、脳の圧迫が軽減し、頭蓋内圧が正常に近づくことが期待されており、症状の改善と脳機能の安定化が見込まれます。 神経症状の改善 項目 内容 圧迫の解除 膿瘍による脳組織や神経への圧力の除去 脳脊髄液の流れの改善 膿瘍が脳脊髄液の通過路を圧迫している場合、摘出によりCSFの流れが正常化するケースがある 機能障害の原因除去 炎症や浮腫により障害されていた神経伝達機能の回復が期待される 薬剤効果の向上 抗菌薬治療の効果向上による間接的な症状の改善 改善が期待される主な症状 麻痺、感覚障害、言語障害、視力障害、頭痛、てんかんなど 膿瘍の場所や大きさによっては、運動麻痺や感覚障害、言語障害など、さまざまな神経症状が現れます。手術で膿瘍摘出を行うことで、運動麻痺などの症状が軽快する可能性があります。 ただし、神経細胞は一度損傷を受けると回復が難しい場合もあるため、早期の治療が大切です。 抗菌薬治療の効果を高める 要因 解説 膿瘍の除去 感染源である膿を取り除くことで、残った病巣に薬が届きやすくなる 脳圧の軽減 圧迫が減ると周囲組織の血流が改善し、薬剤が浸透しやすくなる 酸素環境の改善 酸素が届きやすくなることで、薬の効果が発揮されやすくなる (文献1)(文献2) 脳膿瘍では、抗菌薬による治療が実施されますが、膿が厚い膜に包まれているため、薬が届きにくいことがあります。手術で膿を取り除くと、薬が患部に届きやすくなり、治療効果の向上が望めます。そのため、手術は薬の効果を引き出す大切な治療法です。 生活の質の向上 項目 内容 症状の軽減・消失 頭痛・吐き気・麻痺・視力障害などの不快な症状の緩和 自立性の向上 着替え・移動・会話など日常動作の回復 精神的な安定 不安やストレスの軽減、前向きな気持ちの回復 社会生活への復帰 仕事や学校、家族・友人との交流の再開 将来への希望 手術を通じた治療効果の向上による予後改善への期待 注意点 QOLの感じ方には個人差があり、手術の効果にもばらつきがあるため注意が必要 膿瘍による症状が軽減されることで、日常生活における動作や思考の自由度が広がり、生活の質(QOL)が改善する可能性があります。 頭痛や麻痺などの症状がある程度改善されることで、家事や通勤に対する不安が軽減され、日常生活への自信が戻ってきます。その結果、社会復帰への意欲も高まりやすくなるでしょう。生活の質の向上は、身体機能だけでなく精神的な安定にもつながるため、術後の目標の一つといえます。 脳膿瘍の手術で起こりうる後遺症 運動麻痺 手足の動かしにくさや筋力低下、歩行困難 感覚障害 手足のしびれや触覚の鈍さ、感覚の違和感 言語障害 言葉が出にくい、話すスピードの低下、語彙の思い出しづらさ 高次脳機能障害 記憶力・注意力・判断力の低下、段取りの悪さ、集中困難 てんかん 手術部位周囲の瘢痕や炎症によって、けいれん発作が新たに起きたり、術前にあった発作が再発したりする可能性がある 頭痛 圧力変化や術後の影響による一時的または慢性的な頭痛 脳膿瘍の手術は、症状の改善が期待される一方で、運動麻痺や感覚障害などの後遺症が出る可能性があります。以下で、脳膿瘍の手術で起こりうる後遺症を詳しく解説していきます。 運動麻痺 原因 内容 膿瘍の圧迫の影響 手術前に神経が長期間押しつぶされていたことによる機能の低下 手術操作による刺激や損傷 膿瘍除去時の操作による神経線維への負担 血管の損傷や血流の障害 手術中の出血や血流の一時的な停止による神経の栄養不足 術後の脳のむくみ(浮腫) 炎症によって運動に関わる部位が一時的に腫れることによる圧迫 神経線維の切断や妨害 手術時に神経の通り道が遮られたことによる指令の伝達障害 (文献3) 脳膿瘍が運動を司る脳領域に及ぶと、手足の動かしにくさや筋力低下といった運動麻痺が起こることがあります。この状態は、膿瘍の圧迫による神経機能の低下、手術時の操作による刺激、血流障害や脳の腫れ(浮腫)などが原因です。 また、術後に神経伝達経路が一時的に遮られることで、麻痺が現れるケースもあります。症状の程度には個人差があり、軽度であればリハビリにより改善が期待できるものの、重度の場合は回復に時間を要するケースもあります。 感覚障害 項目 内容 膿瘍の位置と手術操作 感覚をつかさどる脳の部位や神経経路への影響 術中・術後の脳の変化 血流の変化、腫れ、炎症による一時的または永続的な障害 術前からの神経圧迫 膿瘍による慢性的な圧迫や損傷の影響が持続し、血流の変化や脳が腫れる、炎症による一時的または永続的な障害 起こりうる感覚障害の例 触れた感覚の鈍さ、違和感や温度の異常な感じ方、しびれ、自身で感じる手足の位置感低下 (文献3) 脳膿瘍が感覚を司る脳の領域に及ぶと、手足のしびれや感覚の鈍さ、温度の感じ方の異常、位置感覚の低下などが現れることがあります。 膿瘍の圧迫や炎症、または手術操作の影響で神経が傷ついたり、血流が一時的に障害されたりするためです。膿瘍による感覚障害は術後にも残ることがありますが、リハビリや時間経過で改善する可能性もあります。 言語障害 項目 内容 手術による直接的な影響 言語をつかさどる脳の領域が手術中に傷つく可能性 手術による間接的な影響 脳の腫れ・血流の変化・脳圧の上昇による言語機能への影響 運動性失語 言葉が出にくくなり、話す速度が遅くなる状態 感覚性失語 話はできても意味が通じず、相手の言葉も理解しづらくなる状態 全失語 話す・聞く・読む・書く能力が全体的に障害される状態 健忘性失語 人や物の名前が思い出せなくなる状態 構音障害 舌や口の動きがうまくいかず、発音が不明瞭になる状態 嚥下障害(関連症状) 飲み込みが難しくなる障害(発声や会話と同じ筋肉の影響) (文献4) 脳膿瘍の手術後に言語障害を訴える方が一定数見られます。これは、脳膿瘍が言語中枢に近い場合や、手術による刺激・腫れ・血流の変化が原因と考えられます。また、日常会話に支障が出ると大きなストレス、周囲とのコミュニケーションが難しくなることがあります。 手術後にこうした言語障害が現れた場合には、言語聴覚士によるリハビリが有効です。症状の程度は人によって異なるため、焦らず少しずつ会話ができるように努めていくことが大切です。 高次脳機能障害 原因 内容 脳組織の損傷 記憶・判断・言語などを担う脳の部位への直接的な影響 血流の障害 手術中の血管損傷や血流不足による脳細胞のダメージ 圧力変化や脳の腫れ 術後の脳圧上昇や脳浮腫による周囲組織への機能障害 術後の合併症 感染症・出血などによる追加の脳ダメージ 神経ネットワークの損傷 複数の脳領域をつなぐ神経回路の分断による連携機能の低下 高次脳機能障害とは、記憶力・注意力・判断力などの認知機能が低下する状態を指します。脳膿瘍が記憶や判断などをつかさどる領域に及ぶ場合、術後に高次脳機能障害がみられることがあります。症状に対して、本人が気づきにくいこともあるのが特徴です。 症状は軽度から中等度まで幅広く、日常生活や仕事に支障をきたす場合もあります。神経心理リハビリなどで認知機能の回復を促す取り組みを実践し、医師だけでなく、家族や周囲の理解や支援が改善の手助けになります。 てんかん 項目 内容 脳組織への手術の影響 神経細胞の不安定化や過剰な電気活動の誘発 術後の瘢痕形成 傷跡による電気信号の異常伝播 化学物質のバランス変化 興奮性や抑制性の神経伝達物質の乱れ 残存するてんかんの焦点 手術前にあったてんかんの原因部位の持続的な活動 術後の合併症 出血や感染による新たな脳ダメージ 脳膿瘍の手術後は、膿瘍周囲の脳組織がダメージを受け、けいれん発作が生じやすくなるのが特徴です。 とくに、術後1週間以降に起こる晩期発作は、てんかんと診断される場合があります。膿瘍が存在していた部位の神経細胞が興奮しやすくなるリスクがあり、傷跡(瘢痕)や血流障害、神経伝達物質のアンバランスが発作の引き金となるケースもあります。抗てんかん薬による予防や生活環境の整備が、再発予防には大切です。 頭痛 項目 内容 手術による刺激 頭皮・筋肉・硬膜の切開や縫合による違和感の発生 脳の腫れ 手術後の炎症による一時的な脳の腫れ(脳浮腫) 髄液の変化 術後の髄液循環障害や低髄液圧状態が頭痛を誘発する場合もある 血流の乱れ 脳内の血管の拡張・収縮による違和感の発生 経過 多くは自然に軽快、まれに慢性頭痛として残ることもありうる (文献1) 脳膿瘍の手術後に、頭痛が生じることがあります。開頭手術での頭皮・硬膜切開や、術中操作による周辺組織への刺激や、脳の腫れ(脳浮腫)、髄液の流れの変化、血流の乱れなどが原因としてあげられます。 多くの場合は時間とともに軽快しますが、まれに慢性頭痛として続くケースもあります。後遺症による頭痛が日常生活に支障をきたす場合は、早めに医師へ相談が大切です。 脳膿瘍手術における後遺症のリハビリ方法 リハビリの種類 対象となる症状 目的 理学療法 麻痺・筋力低下・歩行障害 体力回復と動作の自立支援 作業療法 日常生活動作(食事・着替えなど)の困難 実生活に即した動作の訓練と自信回復 言語聴覚療法 発語障害・言語理解障害・嚥下障害 会話や飲み込みの改善を通じた生活の質の向上 神経心理リハビリ 記憶障害・注意力低下・思考力の低下 認知機能の回復と社会復帰に向けた段階的支援 脳膿瘍の手術後は、症状に合わせたリハビリが必要です。効果を高めるには早期に始め、自己判断せず医師の指導のもとで行うことが大切です。リハビリは中断せず継続することで、回復の可能性を最大限引き出せます。家族や医師による継続的な支援も大切です。 理学療法 項目 内容 目的 麻痺・筋力低下・歩行障害の改善、日常生活動作の自立支援 訓練方法 筋力訓練、関節の柔軟性保持、歩行・バランス訓練、起居動作の練習 有効性 運動機能の回復、転倒や合併症の予防、体力向上、違和感の軽減 サポート体制 医師や専門職による個別指導、家族支援、他職種との連携による総合的サポート (文献4) 理学療法は、手足の麻痺や筋力低下、バランス障害といった身体的な後遺症に対して行われます。医師の指導のもと歩行訓練や関節の動きを保つ運動を継続的に実施します。 脳膿瘍の手術後は、安静による筋力低下も起こりやすいため、体力低下による合併症予防や再感染リスク軽減にもつながる有効な治療法です。リハビリは早期の開始で、効果が高まりやすくなります。 作業療法 項目 内容 目的 食事・着替え・入浴などの日常動作の自立支援 練習内容 動作練習、家事訓練、補助具の使い方指導 環境調整 自宅内の物の配置などの改善 支援面 自信回復、家族への介助指導 作業療法は、食事や着替え、家事などの日常生活動作(ADL)を自立して行えるよう支援するリハビリです。 脳膿瘍の手術後、手先がうまく使えないケースもあるため、作業療法は症状の改善を目指して実施されます。症状の回復には、患者と医師だけでなく、家族や周囲のサポートも大切です。 言語聴覚療法 項目 内容 目的 話す・聞く・読む・書く・飲み込む機能の回復、コミュニケーションの再構築 訓練例 発声練習、言葉の理解訓練、注意力や記憶のトレーニング、補助手段の活用、嚥下訓練 有効性 言語機能や飲み込みの改善、意思疎通の支援、認知機能の補強、生活の質の向上 (文献5) 言語聴覚療法は、言葉が出にくい・聞き取れない・飲み込みにくいといった症状に対して行われる訓練です。脳膿瘍が言語や嚥下を司る部位に影響していた場合、術後に会話や食事が難しくなるケースがあります。 言語聴覚療法では、発声・発語・理解のトレーニングや、食べ物の誤嚥を防ぐための嚥下訓練を医師の指導のもと行います。また、家族の協力で、日常生活における不安の軽減にもつながるでしょう。 神経心理リハビリテーション 項目 内容 目的 記憶力・注意力・判断力など認知機能の改善と、社会復帰への支援 訓練例 課題遂行訓練、集中力訓練、記憶訓練、見当識訓練、心理的サポート 有効性 認知機能障害への直接的対応、日常生活への適応支援、感情コントロールの強化、自己理解の促進 (文献6)(文献7) 神経心理リハビリは、記憶力・注意力・思考力などの認知機能に障害が残った場合に行われます。具体的には、課題を使って集中力を高める訓練や、日常生活での物忘れを補う工夫を習得するなどが挙げられます。 高次脳機能障害は見た目ではわかりにくく、本人だけでなく家族にも負担がかかりやすいのが特徴です。神経心理リハビリでは、段階的に機能回復を目指しながら、社会復帰につなげていくことが大切です。 脳膿瘍手術の後遺症でお悩みなら再生医療も選択肢のひとつ 脳膿瘍の手術後、運動麻痺や認知機能の低下などが長期的に残る場合、再生医療を検討するのも選択肢のひとつです。 リハビリでは改善が難しかった後遺症に対し、有効なアプローチ方法として再生治療が注目されています。当院リペアセルクリニックでは、脳膿瘍手術の後遺症の悩みに丁寧に対応し、必要に応じて幹細胞を使った再生医療で治療をサポートしています。 脳膿瘍手術の後遺症でお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 脳膿瘍の手術と後遺症に関するよくある質問 脳膿瘍の手術は必須ですか? 脳膿瘍の治療は薬物療法と手術が基本で、手術の必要性は膿瘍の大きさや症状の進行度などで判断されます。治療方針は自己判断せず、脳神経外科の医師の診断に従いましょう。 入院期間はどれくらいですか? 脳膿瘍の入院期間は、膿瘍の大きさ・部位・症状の程度や、治療に対する反応により異なります。 重症例や多発例、外科的な排膿処置が必要な場合は、抗菌薬治療の継続や合併症管理のために数週間から数カ月の入院が必要になるケースもあります。退院後も通院による経過観察や内服治療が必要になることが多いです。 脳膿瘍は再発しますか? 脳膿瘍は手術後に再発する可能性があります。原因菌の残存や感染源の治療不十分、免疫力の低下などが主な要因です。再発を防ぐには、適切な手術と抗菌薬治療、原因疾患の治療、定期的な経過観察、免疫力の維持が大切です。 脳膿瘍の手術に不安を感じていますが事前にできることはありますか? 脳膿瘍の手術を受ける前には、医師と話し合い、治療内容をきちんと理解しておくことが大切です。また、少しの悩みでも医師や家族に話しておくことで、不安を軽減できます。 手術に対して少しでも不安や迷いがある方は、どうか一人で抱え込まずにご相談ください。リペアセルクリニックでは、どんなに小さな悩みでも、丁寧に対応いたします。「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 参考資料 (文献1) Robyn S. Klein「脳膿瘍」MSDマニュアル 家庭版, 2024年7月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/09-%E8%84%B3-%E8%84%8A%E9%AB%84-%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%84%B3%E3%81%AE%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87/%E8%84%B3%E8%86%BF%E7%98%8D(最終アクセス:2025年5月12日) (文献2) 川副雄史ほか.「地域医療支援病院における細菌性脳膿瘍の臨床的特徴と 転帰不良因子の検討」, pp.1-14, 2022年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsne/27/1/27_15/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献3) 山根 清美ほか.「臨床クイズ解答 突然右麻痺を呈した 1症例」『日本内科学会雑誌』97(6),, pp.1-3, 2008年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/6/97_1395/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献4) 白井 誠「随意運動改善のための運動療法」, pp.1-5, 2003年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/icpt/2/1/2_1_15/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献5) 鶴川俊洋,生駒一憲.「脳腫瘍・頭頸部がんのリハビリテーション」『ガンのリハビリテーション エビセンス&プラクティス』, pp.1-6, 2016 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/53/2/53_124/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献6) 温井 めぐみほか.「小児脳腫瘍治療後の神経心理学的合併症についての手引き」『JCCG』, pp.1-59 https://jccg.jp/wp-content/uploads/tebiki_ver1.2_2020.9.30.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献7) 日本学術振興会「間脳・脳室内腫瘍患者の神経心理学的合併症および社会生活機能に関する調査研究」KAKEN, 2020年4月28日 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20K19342/(最終アクセス:2025年5月12日)
2025.05.30 -
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「側頭葉てんかんの手術後の後遺症に強い不安を感じている」 「側頭葉てんかんの手術の内容が気になる」 側頭葉てんかんと診断され、手術を勧められているものの、術後の生活や後遺症に不安を抱えている方も多いでしょう。手術への不安を抱えたままでは、冷静な判断が難しくなります。 本記事では、側頭葉てんかん手術について解説します。 側頭葉てんかん手術の内容 側頭葉のてんかん手術で期待される効果 側頭葉のてんかん手術で起こりうる後遺症 側頭葉てんかん手術で起こりうる後遺症の対策 記事の最後には、側頭葉のてんかん手術と後遺症に関するよくある質問をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 側頭葉てんかん手術の内容 区分 項目 内容 手術の基本 手術の対象 側頭葉が原因のてんかん発作 適応の目安 薬で発作が抑えられない場合 手術の目的 発作の軽減・消失、生活の質の向上 主な術式 選択的海馬扁桃体摘出術 海馬と扁桃体の摘出による発作源の除去 海馬多切術 海馬に小さな切れ目を入れて異常信号を遮断 前側頭葉切除術 側頭葉前部と海馬・扁桃体の広範囲な切除 手術後の効果と注意点 得られる効果 発作の回数や強さの軽減、薬の減量、精神的負担の軽減 手術後の注意点 記憶障害・視野障害などの後遺症の可能性 術後の評価 発作の変化と機能障害の有無を定期的に観察 (文献1) 側頭葉てんかんは、脳の側頭葉から発作が始まるタイプのてんかんです。薬だけでは発作を十分に抑えられない場合は手術が検討されます。手術の目的は、発作の原因となる異常な脳組織を切除し、発作の頻度や強さを減らすことです。 代表的な術式には前側頭葉切除術や選択的扁桃体海馬切除術があり、いずれも発作の原因部位に直接アプローチする手術です。 手術によって発作の改善が期待できる一方で、記憶障害や視野障害などの後遺症が生じるリスクもあります。また、まれに術後てんかんと呼ばれる新たな発作が起こることもあり、手術を受けるかどうかは、リスクや効果、今後の生活への影響について医師とよく相談し、納得した上での判断が大切です。 側頭葉のてんかん手術で期待される効果 効果 内容 発作の消失・軽減 発作の制御による生活の自由度の向上、転倒やけがの予防、運転・就労・学業への支障の軽減 高い発作抑制率 発作の軽減や消失が期待される 薬の減量・中止の可能性 長期服薬からの解放、副作用(眠気・集中力低下など)の軽減、薬剤数の減少 生活の快適さの向上 薬への依存度の低下による自立度や活動範囲の拡大 精神的負担の軽減 発作への不安や孤立感の緩和、気分の落ち込みや不安感の改善 社会生活への前向きさの回復 自己肯定感の向上、人間関係や仕事・学業への意欲の回復 生活の質(QOL)の向上 安定した日常の獲得 側頭葉てんかんに対する外科的治療は、発作のコントロールを目的とした有効な選択肢です。 発作の消失・大幅な軽減が期待できる 抗てんかん薬の減量・服用から解放される可能性がある 精神的・心理的負担の軽減が期待できる 手術にはリスクも伴いますが、てんかんの発作を根本から改善する手段として、期待できるため、医師と相談した上で実施されます。 発作の消失・大幅な軽減が期待できる 項目 内容 発作の完全消失 発作の原因となる脳組織の切除による根本的な発作の消失 発作頻度の減少 発作の回数や強さの大幅な軽減による生活の安定 社会生活への前進 就労・運転・学業などへの制限の緩和 QOLの改善 発作の心配が減ることで得られる日常生活への不安解消 手術の主な目的は、発作の繰り返しを抑えることです。意識を失うような発作が続く場合は、運転や就労などに大きな支障が出るため、手術によって障壁を取り除ける可能性があります。 手術効果の程度には個人差があるものの、術前に発作の焦点が明確であるほど効果が期待できます。 抗てんかん薬の減量・服用から解放される可能性がある 項目 内容 薬の必要性の低下 発作の消失・軽減による服薬依存度の軽減 副作用からの解放 眠気・倦怠感・認知機能低下などからの回復 生活の質の向上 薬の影響を受けにくい、自由な日常生活の実現 活動範囲の拡大 集中力や意欲の改善による社会参加の促進 薬剤数の減少 多剤併用からの移行による身体への負担軽減 薬だけで発作を抑えきれない場合や副作用が日常生活に支障をきたす場合、手術は選択肢です。側頭葉てんかんの手術によって発作が十分に抑制されれば、薬の量を減らす、または中止できる可能性があります。 臨床報告でも、手術によって薬を減らせた実績が示されています。東京医科歯科大学のデータでは、発作が消失した患者の84%のうち、35%が抗てんかん薬の中止に成功しています。(参考:東京医科歯科大学脳神経機能外科) さらに、静岡てんかん・神経医療センターの調査では、術後2年で91%、15年以上経過しても85%の患者が発作のない、またはごく軽い状態を維持し、薬に頼らず安定した生活を送っていることが報告されています。(文献2) 精神的・心理的負担の軽減が期待できる 項目 内容 発作間欠期の精神症状の改善 発作がない時に生じる不安や抑うつ、感情の不安定さの軽減 感情コントロールの安定 脳の電気的な不安定さの改善による情緒の安定化 自己効力感の向上 発作への不安の軽減による自信と行動範囲の拡大 社会参加の再開 就労・学業・趣味・交流の再開による生活満足度の向上 生活の質の向上 精神的な充実感と生活全体の質の向上 薬の副作用の軽減 抗てんかん薬の減量・中止による眠気や気分変化の改善 精神的負担の軽減 薬や発作によるストレスの緩和と心理的な安定 (文献3) てんかん発作は、単なる身体症状にとどまらず、精神的なストレスや社会的な孤立感にもつながります。側頭葉てんかん手術によって発作が軽減されることで、精神的負担も軽減されます。 また、抗てんかん薬の副作用として見られる気分の落ち込みや集中力の低下も、服用量の減少によって改善する可能性があります。 手術の効果は、発作の抑制だけでなく、日常の不安解消や人間関係の改善といった心理的側面にも良い影響をもたらすことが期待されます。 側頭葉のてんかん手術で起こりうる後遺症 後遺症の種類 内容 認知機能の低下 記憶力・注意力・思考力の低下による日常動作の困難 視野障害 見える範囲が狭くなることによる歩行や運転時の支障 言語機能の低下 言葉の理解や表現の困難、会話時の不自由さ 感情の不安定さ 怒りや不安、落ち込みなど情緒の変動の起こりやすさ 運動麻痺・感覚障害 手足の動かしにくさや、しびれ・感覚の低下 側頭葉は、記憶や言語、感情などの重要な機能を担っています。そのため、手術によって発作が抑制される一方で、一定の後遺症が生じる可能性もあります。 手術の有効性だけでなく後遺症についても理解しておく必要があります。 認知機能の低下 障害の種類 症状 発症のメカニズム 記憶障害 新しい情報の記憶困難、過去の出来事の想起困難 新しい情報の記憶困難、過去の出来事の想起困難 側頭葉(とくに海馬)への影響による記銘力・想起力の低下。左右で記憶の種類に差異あり 言語機能の低下 単語が出てこない、話や文章の理解が難しくなる 左側頭葉の損傷による言語中枢への影響(ウェルニッケ野など) 注意・集中力の低下 情報処理速度の低下、同時処理の困難 側頭葉と前頭葉の連携低下による認知負荷の上昇 遂行機能の低下 計画性の低下、問題解決の困難、行動の抑制低下 前頭葉とのネットワーク機能の変化による高次認知機能の障害 感情・社会性の変化 感情の起伏の変化、他者理解の困難 扁桃体や前頭側頭ネットワークの影響による情動調整や社会的認知の変化 側頭葉は記憶や理解力に関わる重要な領域です。そのため、側頭葉てんかんの手術後には、記憶力や集中力といった認知機能の低下がまれに起こることがあります。 記憶障害や注意力の低下といった認知面の変化が生活に支障をきたす可能性があるため、手術を検討する際は、このようなリスクもしっかり理解した上で、医師と相談しながら判断するのが大切です。 視野障害 障害の種類 原因 特徴や補足 上方視野欠損(上方同名性四分盲) 手術中の視放線下位線維の損傷 上1/4の視野が見えにくくなる。本の上部が読みづらい、標識に気づきにくいなど 半盲などの広範な視野欠損 広範囲の視覚経路の損傷 左右どちらかの視野が半分見えない可能性 一時的な視野障害 術後の脳浮腫や出血による圧迫 一時的に視覚情報の伝達が障害されることがある (文献4) 後遺症として起こる視覚障害は、手術によって視覚情報を処理する神経の一部が影響を受けた場合に生じるものです。視覚障害の中でも上1/4の視野が見えにくくなる症状が報告されています。 1/4の視野が見えにくくなる症状は日常生活に支障をきたすこともありますが、失明ではないため、見えない範囲を他の視覚で補う動作が習慣化し、時間とともに生活の不便さは軽減されていく傾向があります。 言語機能の低下 障害の種類 特徴 聴覚性言語理解の低下(ウェルニッケ失語) 他人の話す内容の理解困難、返答の不自然さ、自身の発話の意味不明瞭化 語想起困難(健忘失語) 名前や言葉の思い出し困難、指示語の多用、会話中の言葉詰まり 構文理解の低下 複雑な文や受動表現の理解困難 発語の流暢性の低下(ブローカ失語) 単語の区切り話し、不自然な文法、話すスピードの低下 呼称の錯誤 物の名前の言い間違い(例:「りんご」を「みかん」と言う) 失読・失書 読む力・書く力の低下(失読・失書) 高次言語機能の障害 比喩や冗談、文脈の理解の困難、不適切な言葉の選択 (文献5)(文献6) 側頭葉の中でも、とくに左側にはウェルニッケ野や側頭回といった言語理解・記憶に関わる重要な領域が存在します。手術で影響を受けると、言語理解や発語の流暢性、記憶といった機能に障害(失語症)が生じる可能性があり、会話や業務に支障を及ぼしかねません。 対して、術後の言語リハビリで徐々に回復するケースも少なくありません。元の状態に戻るとは限りませんが、継続的なトレーニングで日常生活へ復帰は期待できます。 感情が不安定になる 側頭葉は感情のコントロールに関わる脳の重要な領域であり、内側には扁桃体や海馬など、感情処理を担う構造が含まれます。手術によってこれらの部位や、前頭葉との神経ネットワークに影響が及ぶことで、一時的に怒りっぽくなったり、涙もろくなったりするなど、感情の変化が生じることがあります。 感情の変化には個人差があるため、術後は医師やカウンセラー、家族と連携し、心のケアも含めたサポートを受けることが大切です。 運動麻痺や感覚障害 障害の種類 症状 片側の運動麻痺(不全麻痺を含む) 手足の力の入りにくさ、動作の鈍さ、細かい作業の困難 顔面神経麻痺(軽度なことが多い) 口角の下がり、まぶたの閉じにくさ 片側の感覚障害 手足のしびれ、ピリピリ感、鈍さ、ジンジンとした違和感 顔面の感覚障害 頬や唇などの感覚低下や違和感 側頭葉てんかんの手術は、通常、運動や感覚を司る領域からは離れていますが、まれに脳の深部にある神経経路(内包や視放線など)に近づくことで、影響が及ぶことがあります。その結果、手足の麻痺やしびれ、顔の感覚異常などが術後に現れる可能性があります。 万が一、術後に一時的な麻痺やしびれが現れた場合でも、早期からのリハビリによって改善が見込めるため、手や足の動き、顔や体の感覚に違和感を覚えた場合は、早急に医療機関を受診しましょう。 側頭葉てんかん手術で起こりうる後遺症の対策 対策 内容 手術前の準備を怠らない 精密検査によるリスクの把握と手術計画を立てる 手術後のリハビリテーション 運動・言語・感情面の機能回復を目指す継続的な訓練 メンタルケアを怠らない 感情の変化や不安への対応としてのカウンセリングや薬物療法 家族や職場への情報共有 周囲の理解とサポートを得るための適切な説明と連携 側頭葉てんかんの手術後に生じる後遺症に備えるには、事前の対策と周囲の協力が大切です。 術後は、運動や言語機能、感情面のリハビリを継続的に行うことで、回復が期待できます。 手術前の準備を怠らない カテゴリー 項目 内容 術前評価と情報収集 神経学的検査 運動や感覚の異常の有無を確認 MRI・脳波検査 病巣や発作の場所の特定と切除範囲の計画 神経心理学的検査 記憶・言語・注意などの認知機能の評価 MEG・PET検査 脳の活動領域や血流の確認 医師とのコミュニケーション 手術内容・効果・リスクの十分な理解と納得 健康状態の管理 基礎疾患の管理 高血圧・糖尿病などの安定化 禁煙・禁酒 術後合併症リスクの低減 栄養改善・睡眠 体力と免疫力の維持、心身の安定 感染予防 手洗い・うがいの徹底 術後の生活準備 リハビリ計画 術後の身体・言語機能の回復支援 生活環境の整備 家の段差・手すり設置などへの対策 精神的サポート 家族・専門家との連携による心のケア (文献7) 側頭葉てんかん手術に備えるには、術前の精密検査と体調管理が重要です。MRIや脳波、心理検査で脳の状態を把握し、医師と手術計画を立てます。 高血圧や糖尿病の管理、禁煙・禁酒、栄養や睡眠の改善、感染予防も大切です。術後に向けては、リハビリや生活環境の準備、家族との連携を整えることで、スムーズな回復と社会復帰が目指せます。 手術後のリハビリテーション 項目 内容 リハビリの目的 機能回復、日常生活の自立支援、社会復帰の促進 開始時期 容体安定後、医師の許可を得て開始 リハビリ内容 筋力や動作の訓練、感覚刺激、記憶や注意のトレーニング、言語や嚥下の練習 実施場所と期間 病院内または外来・訪問、数週間〜数カ月以上の継続もあり (文献8) 側頭葉てんかんの手術後は、発作の軽減に加え、機能の回復を目的としたリハビリが大切です。術後に現れる可能性のある運動麻痺、感覚障害、言語障害、記憶や注意力の低下、感情の不安定さなどに対して、医師の指導のもと、リハビリが実施されます。 理学療法では筋力やバランスの回復を、作業療法では日常動作の改善を目指します。言語聴覚療法では、言葉の理解や発話、飲み込みの訓練を行い、心理的な不安にはカウンセリングが効果的です。リハビリは術後の安定を確認し、早期に始めるのが望ましく、脳の回復力を引き出す上でも重要です。 期間には個人差がありますが、数週間から数カ月以上に及ぶこともあります。リハビリの継続や家族や医師のサポートが社会復帰への大きな助けとなります。 メンタルケアを怠らない メンタルケアの工夫 内容 感情の変化を受け止めること 不安・落ち込み・イライラを否定せず、手術後の一時的な影響として受け入れる姿勢 誰かに悩みを話すこと 家族・友人・医療スタッフとの会話による気持ちの整理 リラックスできる時間を持つこと 趣味、音楽、散歩、入浴など、心地よく過ごせる時間の確保 質の高い睡眠と休息の確保 睡眠環境の整備と、日中の適切な休憩による心身の回復 適度な運動の継続 医師の指導のもとでの軽い運動による気分転換とストレス軽減 栄養バランスの取れた食事 規則正しい食生活による心身の安定 焦らず自分のペースで回復を目指すこと 比較を避け、少しずつの変化を前向きに捉える姿勢 サポートグループへの参加(可能な範囲で) 同じ経験を持つ人との交流による孤独感の緩和と情報共有 (文献9)(文献10) 側頭葉てんかんの手術後は、身体的な回復だけでなく、心のケアも欠かせません。一方で後遺症や再発、社会復帰などの不安を抱える方もいます。また、側頭葉は感情を司る脳領域と深く関係しているため、術後に気分の浮き沈みや情緒の不安定さが生じることもあります。 このような変化は一時的な場合もありますが、放置すれば生活や人間関係に悪影響を及ぼすことがあるため、早めの対処が大切です。 家族や職場への情報共有 共有のタイミング 内容 手術前 検査内容の説明や不安の共有を行う 手術直後 手術結果や一時的な症状の可能性を家族に伝えておku 入院中 リハビリの進み具合や接し方の注意点を家族に理解してもらう 退院時 自宅での注意点や服薬・体調管理について家族と連携する 職場・学校への伝達 復帰時期や配慮が必要な症状について職場や学校と相談する 長期的なサポート 院や体調変化への理解と協力を周囲に求めておく (文献9)(文献11) 側頭葉てんかんの手術後の生活を円滑に進めるには、家族や職場との情報共有が欠かせません。術後は一時的に認知機能や感情面に変化が現れることがあり、周囲の理解があるかどうかで支援の質や生活のしやすさが大きく変わります。 家族には、手術内容や後遺症の可能性、リハビリの方針、日常生活での注意点をわかりやすく伝えることが大切です。職場にも復職に向けて、通院リハビリの調整や業務内容の見直しなどを相談しましょう。 不安を一人で抱え込まず、周囲と協力しながら環境を整えることが、回復に役立ちます。 側頭葉てんかん手術後の後遺症でお悩みの方はご相談ください 側頭葉てんかんの手術後に現れる後遺症は、生活の質に影響しやすく、人には相談しづらい悩みも多くあります。リペアセルクリニックでは、そうした小さな不安にも丁寧に耳を傾け、再生医療を用いた治療で回復をサポートしています。 ひとりで抱え込まず、「メール相談」や「オンラインカウンセリング」を通じて、お気軽にご相談ください。 側頭葉のてんかん手術と後遺症に関するよくある質問 側頭葉てんかんの手術は誰でも受けられますか? 側頭葉てんかんの手術は、すべての方が受けられるわけではありません。薬で発作が十分に抑えられないことや、発作の原因となる部位が明確に特定できること、さらに手術による効果とリスクのバランスが取れていることなど、いくつかの条件を満たす必要があります。 手術を受けるタイミングはいつですか? 側頭葉てんかんの手術を受けるタイミングは一概に決まっておらず、病状や年齢、生活状況、治療への希望によって異なります。医療機関での診察結果に基づき、医師の指示に従いましょう。(文献12) 手術の後遺症は元に戻すことはできますか? 側頭葉てんかんの手術後に生じる後遺症の回復には個人差があり、軽度なものは自然回復やリハビリによる改善が期待できます。 一方で、脳の損傷が大きい場合は、回復が難しいこともあります。根本的な治療法は限られますが、環境整備やリハビリによって機能の維持や生活の質の向上を図ることは可能です。(文献13) 退院後すぐに元の生活に戻れますか? 側頭葉てんかんの手術後の生活復帰には個人差があり、回復状況や生活の内容によって大きく異なります。 一般的にはすぐに元の生活に戻るのは難しく、術後は安静を保ちながら段階的に復帰を目指します。復帰までには数週間から数カ月かかることが一般的です。 参考資料 (文献1) 奥村 修三.「頭蓋内手術後の突発性脳波異常の出現とてんかん性痙攣発作の危険性及び抗痙攣剤の使用について」35(6), pp.1-4, https://www.jstage.jst.go.jp/article/iryo1946/35/6/35_6_527/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献2) 国立保険医療科学院「側頭葉てんかん外科手術後の記憶障害機構の解明」厚生労働科学研究成果データベース , 2015年5月21日 https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/21416(最終アクセス:2025年5月12日) (文献3) 原 広一郎ほか.「てんかんとメンタルヘルスについて」『千葉県循環器病センター/てんかんセンター医療法人静和会 浅井病院』, pp.1-20, 2024年 https://www.pref.chiba.lg.jp/junkan/shinryoka/shinkate/documents/mentaruherusu.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献4) 岩崎 真樹.「てんかんの外科治療」『国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経外科』, pp.1-21, 2020年 https://epilepsy-center.ncnp.go.jp/pdf/200808_document_03.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献5) 益子沙緒里.「てんかんと高次脳機能障害」『令和4年度千葉県てんかん支援拠点病院Web研修会』, pp.1-18,2022年 https://www.pref.chiba.lg.jp/junkan/documents/05.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献6) 曽根大地ほか.「世界で初めて側頭葉てんかんの根治治療に最適な脳の切除範囲を同定〜術後の言語記憶障害のリスクを従来の 8 分の1に〜」『東京慈恵会医科大学』, pp.1-4, 2021年 https://www.jikei.ac.jp/news/pdf/press_release_20211126.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献7) 三嶋健司.「てんかん外科に必要な看護」『国立精神・神経研究センター病看護部3階南病棟』, pp.1-15, https://epilepsy-center.ncnp.go.jp/pdf/201219_document_07.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献8) 藤川真由.「てんかんリハビリテーションと社会制度の今」, pp.1-5, 2021年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/38/4/38_569/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月12日) (文献9) 「てんかんとともに働き暮らすために」『社団法人日本てんかん協会』, pp.1-128 https://www.jea-net.jp/wp-content/uploads/2018/11/useful_pdf_08.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献10) 田中優.「てんかん患者さんの社会復帰支援・精神科デイケアについて」『NCNP病医院 国立精神・神経医療研究センター』, pp.1-12 https://epilepsy-center.ncnp.go.jp/pdf/240721_document1_08.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献11) 福智 寿彦.「てんかん患者の自立と社会参加支援」, pp.1-7,2014年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjghp/26/1/26_21/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献12) 石下 洋平,川合 謙介.「てんかん外科治療の適切なタイミング」『脳と発達』, pp.1-7, 2020年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/52/4/52_223/_pdf/-char/en(最終アクセス:2025年5月12日) (文献13) 向野 隆彦.「側頭葉てんかんにおける記憶障害」『臨床神経学』34(7), pp.1-7, 2024年 https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/064070453.pdf(最終アクセス:2025年5月12日)
2025.05.30 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
「ふくらはぎが張っている」 「脚が赤く腫れてきた気がする」 脚やふくらはぎの違和感を加齢や疲労だと考えていませんか。その症状、血栓性静脈炎と呼ばれる静脈の異常が関係しているかもしれません。 血栓性静脈炎は静脈に血のかたまり(血栓)ができ、炎症が起こる状態です。放置すると血栓が肺などに移動し、命に関わる合併症を引き起こす恐れがあります。本記事では以下について解説します。 血栓性静脈炎の症状 血栓性静脈炎の原因 血栓性静脈炎における受診すべき診療科 血栓性静脈炎の治療法 血栓性静脈炎の再発防止策 記事の最後には、血栓性静脈炎に関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 血栓性静脈炎とは 血栓性静脈炎とは、静脈の中に血栓(血のかたまり)ができ、その部分に炎症が生じる病気です。とくにふくらはぎなどの下肢に多くみられ、腫れや熱感、赤みなどの症状を引き起こします。発症の原因としては、長時間同じ姿勢でいることや、血流が滞る生活習慣、基礎疾患などが挙げられます。 血栓が肺に流れ込むと、肺塞栓症と呼ばれる重大な合併症を招く恐れがあるため、早期の対応が必要です。血栓性静脈炎は軽い症状で始まることが多く、見逃されやすい特徴があります。脚の腫れや熱感などを感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。 血栓性静脈炎の症状 病気の概要 静脈の壁に炎症が起こり、血の塊(血栓)ができる 発症しやすい部位 とくに脚の静脈に多く見られますが、腕などにも起こることがある 主な種類 主な種類 血栓性静脈炎には、皮膚の浅い部分に起こる比較的軽症の表在性血栓性静脈炎と、筋肉内の深い静脈にできて重症化しやすい深部静脈血栓症(DVT)の2種類がある 代表的な症状 患部の違和感・腫れ・赤み・熱感・しこりなどが見られる 原因 血液が固まりやすい状態、血流の停滞、血管の損傷などが関係している 放置した場合のリスク 深部静脈血栓症や肺塞栓症に進行すると命に関わる可能性がある (文献1) 血栓性静脈炎の代表的な症状は、ふくらはぎや脚の腫れ、皮膚の赤み、熱感、押したときの硬さなどです。初期には違和感や張りを感じる程度のこともありますが、時間の経過とともに患部が熱をもち、歩行時に重さを感じるようになることもあります。 血栓性静脈炎には軽症が多い表在性と、重症化しやすい深部静脈血栓症(DVT)の2種類があります。DVTは気づかないうちに進行し、肺塞栓など命に関わる合併症を引き起こすこともあるため、早期に医療機関で診断と治療を受けることが大切です。 血栓性静脈炎の原因 原因 概要 血管の病気(ベーチェット病・バージャー病) 血管に炎症を起こす病気により、血管が傷つき血栓ができやすくなります。とくに喫煙者や持病がある方は注意が必要 血流の滞り(うっ滞) 長時間同じ姿勢や運動不足により血流が滞ると、血栓ができやすくなる 血管内皮細胞の損傷 血管の内側が傷つくと血液が固まりやすくなり、血栓ができやすくなる 加齢による影響 年齢とともに血管が硬くなり血流が悪化し、血栓ができやすくなる 血栓性静脈炎の発症には、複数の要因が関与しています。とくに静脈の血流が滞りやすい状況、血管が傷つき、血液が固まりやすくなると、血栓性静脈炎のリスクが高まります。 ベーチェット病やバージャー病などの血管に関する病気 要因 詳細 血管の炎症 ベーチェット病やバージャー病では血管の壁に炎症が起こり、血管が傷つくことで血栓ができやすくなる 免疫異常 自己免疫の異常により免疫が血管を攻撃し、血栓形成が助長される 血流の特徴 静脈は血流が遅いため、血栓ができやすく、炎症によってそのリスクがさらに高まる 喫煙との関連 バージャー病は喫煙者に多く、血管の閉塞や炎症を引き起こしやすくなる (文献2) ベーチェット病やバージャー病は血管に炎症を起こし、血管内が傷つくことで血栓ができやすくなります。とくに静脈は血流が遅いため、血栓が生じやすい状態です。 ベーチェット病は免疫異常により血管が攻撃され、バージャー病は喫煙と深く関係し、手足の血管に炎症や閉塞を起こします。これらの病気がある方は、足の腫れや赤みに早く気づくことが大切です。 静脈血流のうっ滞 原因 概要 血液成分の接触時間が長くなる 血流が遅くなると血液成分が静脈壁に長く接触し、凝固しやすくなる 凝固因子の蓄積 血液が滞ると凝固因子が流されずにたまり、血栓ができやすくなる 血管内皮細胞の機能低下 血流が悪いと血管内皮の働きが低下し、血栓を防ぐ力が弱まる 長時間の不動(旅行・手術後など) 足を動かさない時間が長いと血液が滞り、血栓ができやすくなる 下肢静脈瘤 静脈の弁が壊れやすくなり、血液が逆流・滞留して血栓ができやすくなる ギプス固定 筋肉が動かせないことで静脈の血流が悪化し、血栓のリスクが高まる 肥満・妊娠 腹部が圧迫され、足からの血流が悪くなり血栓の原因になる (文献3)(文献4) 血栓性静脈炎は、血流の滞り(うっ滞)によっても発症しやすくなります。とくに長時間のデスクワーク、飛行機や車での長距離移動、運動不足などで引き起こされます。 血流が滞ると血液が一カ所にとどまりやすくなり、血栓ができるリスクが高まります。エコノミークラス症候群のように、長時間足を動かさない状態も原因の一つです。とくに加齢や下肢静脈瘤がある方は、血液が心臓に戻りにくく、リスクがさらに増します。違和感があれば、早めの受診と生活習慣の見直しが大切です。 血管内皮細胞の障害 項目 概要 損傷による影響 内皮細胞が傷つくと血液が固まりやすくなり、血栓ができやすくなる 損傷の原因 喫煙や高血圧、糖尿病、感染症、外傷、カテーテルの留置などが原因になる 予防のポイント 生活習慣の改善と基礎疾患の管理が内皮細胞を守る鍵となる (文献5)(文献6) 血管内皮細胞は、血管の内側を覆い、血流を保ちつつ血栓の予防に重要な役割を果たしています。しかし、喫煙や高血圧、糖尿病、感染症、外傷、カテーテルの留置などにより内皮細胞が傷つくと、血液が固まりやすくなり、血栓ができやすい状態になります。 血栓が静脈内にできると血栓性静脈炎を引き起こす可能性があり、とくに深部静脈に生じた場合は命に関わる合併症につながることもあります。内皮細胞を守るには、生活習慣の見直しと持病の適切な管理が大切です。 加齢に伴うもの 加齢による変化 血栓性静脈炎との関係 血管内皮細胞の機能低下 内皮細胞の抗血栓作用が低下し、血液が固まりやすくなる 静脈弁の機能低下 血液の逆流や停滞が起こり、静脈うっ滞が血栓の原因になる 血液凝固系の変化 血液が固まりやすくなり、血栓形成のリスクが高まる 活動量の低下 ふくらはぎの筋肉のポンプ作用が弱まり、血液が滞りやすくなる 基礎疾患の増加 疾患による血管への影響や凝固異常が血栓形成を助長する (文献7) 加齢により血管内皮細胞の働きが低下し、血栓を防ぐ機能が弱まると同時に、血液が固まりやすくなる変化も起こります。加齢により静脈弁や筋肉の働きが弱まると血流が滞りやすくなり、血栓ができやすくなります。さらに、高血圧や糖尿病といった病気のリスクも高まることで、血栓のリスクが一層増加します。 とくに高齢者は、加齢による感覚の鈍化や持病との区別がつきにくいため、初期症状に気づきにくく、発見が遅れてしまうケースも少なくありません。ふくらはぎの腫れや赤みなどの違和感が出た場合はすぐに医療機関を受診しましょう。 血栓性静脈炎における受診すべき診療科 受診するべき診療科 受診の目安 特徴 皮膚科 皮膚が赤く腫れ、浅い血管がミミズ腫れのように見える場合 皮膚の見た目の異常が中心であり、軽症ならここで十分対応可能 血管外科・心臓血管外科 下肢が強く腫れている、再発を繰り返している、深部静脈が疑われる場合 エコー検査や抗凝固療法など、治療が必要なときに行われる 内科・総合内科 症状の原因がわからない、高齢者や持病が多く全身の管理が必要な場合 最初の相談窓口として適切 皮膚の赤みや軽い腫れといった症状がある場合は皮膚科で対応可能です。しかし、腫れが強い場合や血栓が深部に及ぶ可能性がある場合は、血管外科や心臓血管外科といった専門診療科の受診が推奨されます。 また、症状の判断が難しいときや持病が多い方は、まず内科や総合内科を受診し、医師に相談するのがおすすめです。受診先に迷った場合は、まずはかかりつけ医に相談し、必要に応じて適切な診療科へつなげてもらうのも方法です。 血栓性静脈炎の治療法 治療法 対象となる状態 治療の内容 特徴 保存療法 軽度の血栓性静脈炎、初期段階 安静・脚の挙上・弾性ストッキング・冷却など 身体への負担が少なく、自宅でも実施可能 薬物療法 炎症や血栓が進行している場合 抗炎症薬で炎症軽減、抗凝固薬で血栓形成予防 再発予防にも有効で、長期的な継続が重要 手術療法 重度または再発を繰り返す場合 血栓除去術やバイパス術で血流回復 侵襲が大きいため慎重な判断が必要 再生医療 既存治療で効果が乏しい、血管損傷が広範囲な場合 幹細胞などを用いた血管修復の研究的治療 保険外治療で実施施設が限られる 血栓性静脈炎の治療は、症状の程度や進行状態によって方針が異なります。治療の目標は、血流を回復させて血栓の拡大や移動を防ぐことです。 保存療法 対処法 目的 効果的な活用方法 注意点 安静 炎症の悪化を防ぎ、違和感を軽減する 無理のない範囲で日常生活を送りつつ、患肢を休ませる 活動の範囲は医師と相談が必要 挙上 静脈の血流を促進し、腫れを軽減する 寝るときや座るときにクッションで足を高く保つ 長時間の同じ姿勢は避け、適度な動きも必要 弾性ストッキング 血流改善・腫れ予防・血栓拡大の防止 医師の指示に従い、適切なサイズと方法で着用する 着用時間や圧迫度合いは個別に調整が必要 湿布(NSAIDs) 患部の炎症と違和感を軽減する 医師・薬剤師の指導に従って使用し、貼付時間を守る かぶれや副作用に注意し、皮膚に異常があれば中止する (文献8) 保存療法は軽度の血栓性静脈炎に用いられる治療で、安静や脚の挙上、弾性ストッキングの着用、湿布などで血流を改善し炎症を抑えます。自己判断で行わず、医師の指示に従い、違和感があればすぐに相談しましょう。 薬物療法 薬の種類 作用・目的 使用されるケース 注意点 抗凝固薬(ヘパリン・ワルファリン・DOAC) 血液が固まるのを防ぎ、血栓の拡大や新規形成を防ぐ 深部静脈血栓症(DVT)の治療、表在性でも進行リスクが高い場合に使用 出血リスクあり。医師の指示を守る。定期的な検査が必要な薬もある 血栓溶解薬(tPAなど) すでにできた血栓を溶かす 肺塞栓症など重症例で、発症初期に限定的に使用される 出血のリスクが高く、入院下で慎重に使用される NSAIDs(内服・湿布) 炎症や違和感を抑える。血栓を直接溶かす作用はない 表在性血栓性静脈炎での腫れや違和感の緩和に使用 胃腸障害や皮膚のかぶれに注意。長期使用は医師の指導が必要 (文献9) 血栓性静脈炎の薬物療法では、抗炎症薬や抗凝固薬が使用されます。抗炎症薬は炎症による腫れや赤みを軽減し、抗凝固薬は血液を固まりにくくする作用があり、新たな血栓の形成を防ぐために使用されます。 中には血栓を溶かす作用のある薬剤(血栓溶解薬)が用いられることもありますが、使用には出血のリスクを伴うため、慎重な判断が必要です。薬物治療は医師の指導に基づいて継続的に行われます。薬の量を自己判断で変えたり中止したりすると、効果が下がるだけでなく副作用のリスクが高まるため注意が必要です。 手術療法 手術法 有効な理由 手術の概要 注意点 血栓除去術(血栓摘出術) 巨大な血栓で血流が遮断されている場合、迅速な血流回復を目指す 静脈を切開し、血栓を直接取り除く手術。麻酔下で行われる 出血や感染のリスク、再発の可能性がある 下大静脈フィルター留置術 肺塞栓のリスクが高いが抗凝固薬が使えない場合に、血栓の肺移動を防止する カテーテルで下大静脈にフィルターを設置し、血栓を物理的に捕捉します フィルター自体が血栓の原因になる可能性があり、長期留置はリスクになる 静脈瘤手術 繰り返す表在性血栓性静脈炎の原因である静脈瘤を取り除くことで再発を予防する 静脈を切除、閉鎖、焼灼、注入など方法は多岐に渡る 急性炎症時は避け、落ち着いてから手術を行う、方法により侵襲度も異なる (文献10)(文献11)(文献12) 重度の血栓性静脈炎や再発を繰り返す場合には、手術療法が選択肢となることがあります。血栓除去術やバイパス手術などが代表的で、主な目的は血流を回復させて患部への負担を軽減できます。 手術療法を受けた後も、血栓の再発を防ぐためには、薬物療法や弾性ストッキングの使用を継続しましょう。ただし、手術は体への負担が大きいため、保存療法や薬による治療で十分な効果が得られない場合に限り検討されます。手術の実施にあたっては、出血や感染などのリスクもあるため、医師と十分に相談した上で判断する必要があります。 再生医療 再生医療は、幹細胞などを用いて損傷した血管細胞を修復・再生させることで、血管の機能を回復させ、症状の改善や再発の予防を目指します。通常の治療で効果が得られなかった場合や、血管のダメージが広範囲に及ぶ場合に、新たな選択肢として検討される治療法です。 再生医療は、新たな血管をつくる力を活用し、体内に血流の通り道(バイパス)を形成することで、血流の改善が期待できます。注意点としては、適用できる医療機関が限られているため、事前に実施しているかの有無を確認する必要があります。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 血栓性静脈炎の再発を防止するには 予防法 内容 生活習慣の改善 禁煙を徹底し、脂肪の多い食事を見直す。青魚・海藻・野菜などを取り入れ、ストレスや過度な飲酒も控える 適度な運動の実施 ウォーキングやストレッチ、かかとの上げ下げなどを日常的に取り入れ、長時間同じ姿勢を避ける 弾性ストッキングの着用 医師の指導のもとで適切な圧のストッキングを選び、朝から夜まで装着する 水分補給を怠らない 水や麦茶などでこまめに水分をとり、脱水を防ぐ 血栓性静脈炎は、一度治療を終えても再発の可能性があるため、日常生活での予防が大切です。 生活習慣を改善する 項目 対策 血液の凝固能の正常化 水分をこまめにとり、栄養バランスの良い食事で血液を固まりにくくする 静脈血流の改善 軽い運動や姿勢の工夫、体重管理によって下肢の血流を促進する 血管内皮細胞の健康維持 禁煙と抗酸化成分の多い食事、適度な運動で血管を健康に保つ 基礎疾患の管理 高血圧や糖尿病などの生活習慣病を適切にコントロールして血栓のリスクを下げる 血栓性静脈炎の再発を防ぐには、禁煙や食生活の改善が欠かせません。タバコは血流を悪化させ、血栓のリスクを高めるため控えましょう。 動物性脂肪を減らし、青魚や野菜など血液をサラサラに保つ食品を取り入れることも効果的です。過度な飲酒やストレスも血管に悪影響を与えるため、日常生活の中で無理なく見直していくことが予防につながります。 以下の記事では生活習慣の改善について詳しく解説しています。 適度な運動を取り入れる 静脈の血流を促すには、無理のない範囲で定期的に体を動かすことが大切です。とくに、ウォーキングや軽いストレッチ、かかとの上げ下げ運動など、下半身の筋肉を使う運動が効果的です。また、血管の健康を保ち、血液がサラサラになることで再発リスクを減らします。 運動は医師の指導を受けた上で、自分の体調に合わせて無理のない範囲で行うことが大切です。 以下の記事では有酸素運動のほかに高血圧の予防や改善方法について詳しく解説しています。 弾性ストッキングを着用する 項目 要点 静脈の拡張抑制と血流 適切な圧迫で静脈の拡張を防ぎ、血流を促進して血栓のリスクを低下させる 静脈弁の機能サポート 弁の働きを補い、血液の逆流を防ぐことで血液の滞りを軽減する 腫れの軽減と血栓予防 余分な水分を戻し腫れを軽減、血管への負担を減らす 着用時の注意点 医師の指示に従い、適切なサイズと方法で毎日清潔に着用する 弾性ストッキングは、足に一定の圧をかけて血液の流れを補助する医療用の靴下です。ふくらはぎから足首にかけて圧力を加えることで、静脈内の血液が滞るのを防ぎます。使用する際は、医師の指導のもと適切な弾性ストッキングを選ぶ必要があります。 市販の弾性ストッキングを自己判断で使うと、かえって症状が悪化する恐れがあります。医師の指示に従い使用しましょう。 水分補給を怠らない 血栓性静脈炎の再発を防ぐには、日ごろからこまめな水分補給が大切です。体の水分が不足すると血液が濃くなり、流れが悪くなることで血栓ができやすくなります。 また、血管の内側を守る血管内皮細胞の働きも低下しやすくなり、血液の流れがさらに悪くなる原因になります。水分をしっかりとることで、血液がサラサラに保たれ、血栓ができにくい状態が維持されます。 なお、コーヒーやアルコールなど利尿作用のある飲み物は逆効果になるため、水や麦茶などを選びましょう。日常の小さな意識が、再発の予防につながります。 血栓性静脈炎の疑いがある方は早急に医療機関の受診を 脚に腫れや赤み、熱っぽさを感じたとき、それが血栓性静脈炎におけるサインの可能性があります。その症状を放置してしまうと血栓が移動して肺塞栓症などの重篤な合併症を引き起こすため、早急の医療機関への受診が必要です。 ふくらはぎにしこりのような感触がある、押すと硬さを感じるといった場合は要注意です。症状が軽いうちに受診すれば、保存的な治療で改善が見込めるケースもあります。 当院リペアセルクリニックでは、再生医療を用いた血栓性静脈炎の治療を行っております。症状にお悩みの方は、「メール相談」や「オンラインカウンセリング」を通じて、お気軽にご相談ください。 血栓性静脈炎に関するよくある質問 血栓性静脈炎は自然に治りますか? 表在性の軽い血栓性静脈炎は自然に治ることもありますが、すべてが自然治癒するわけではありません。深部に広がるリスクや強い症状がある場合は、命に関わる合併症を防ぐためにも、早めに医療機関を受診しましょう。 血栓性静脈炎は再発しやすいですか? 血栓性静脈炎は、原因となる静脈瘤や血液の凝固異常、血管の損傷が残ると再発しやすくなります。再発予防には、原因疾患の治療、薬や弾性ストッキングの継続使用、生活習慣の改善、定期的な経過観察が重要です。 血栓性静脈炎は重症化するとどうなりますか? 血栓性静脈炎が重症化すると、血栓が深部静脈に進展し、肺に移動して肺塞栓症を引き起こす恐れがあります。突然の息切れや胸の違和感、呼吸困難、場合によっては意識消失やショックなど命に関わる状態になることもあります。 慢性的な腫れや色素沈着などの後遺症が出るケースもあるので、早期に医療機関を受診しましょう。 参考資料 (文献1) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「表在静脈血栓症」MSD マニュアル 家庭版,2023年12月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/06-%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%9D%99%E8%84%88%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%A1%A8%E5%9C%A8%E9%9D%99%E8%84%88%E8%A1%80%E6%A0%93%E7%97%87(最終アクセス:2025年5月10日) (文献2) 重松宏ほか.「血管型ベーチェット病の診療ガイドライン案」『厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)分担研究報告書』, pp.1-18 https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2019/192051/201911043B_upload/201911043B202005290902054150008.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月10日) (文献3) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「慢性静脈不全症および静脈炎後症候群」MSD マニュアル プロフェッショナル版,2022年9月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/04-%E5%BF%83%E8%A1%80%E7%AE%A1%E7%96%BE%E6%82%A3/%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E9%9D%99%E8%84%88%E7%96%BE%E6%82%A3/%E6%85%A2%E6%80%A7%E9%9D%99%E8%84%88%E4%B8%8D%E5%85%A8%E7%97%87%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E9%9D%99%E8%84%88%E7%82%8E%E5%BE%8C%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4(最終アクセス:2025年5月10日) (文献4) 伊藤 正明.「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に 関するガイドライン(2017年改訂版)」, pp.1-93, 2018年3月23日 https://js-phlebology.jp/wp/wp-content/uploads/2020/08/JCS2017.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献5) 川﨑富夫.「DVT の病態と臨床 ―DVT の診断,治療について―」『血栓止血の臨床─研修医のために II』, pp.1-4, 2008 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsth/19/1/19_1_18/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月10日) (文献6) 丸山征郎.「血管内皮細胞障害と血栓」『第42回 河口湖心臓討論会』, pp.1-7 https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/41/2/41_204/_pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献7) 金子 寛ほか.「四肢静脈血栓症の原因について」, pp.1-6,2001年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/phlebol/12/3/12_12-3-257/_pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献8) 「弾性ストッキング関連資料」『日本製脈学会 弾性ストッキング・コンダクター養成委員会作成(第1版)』, pp.1-20 https://js-phlebology.jp/disaster/wp-content/uploads/2020/11/stockings_hokenshi.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献9) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「深部静脈血栓症」MSD マニュアル 家庭版,2023年12月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/06-%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%9D%99%E8%84%88%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E6%B7%B1%E9%83%A8%E9%9D%99%E8%84%88%E8%A1%80%E6%A0%93%E7%97%87(最終アクセス:2025年5月10日) (文献10) 大谷 真二ほか.「大伏在静脈の静脈瘤に合併した上行性血栓性静脈炎の 2 手術例」, pp.1-5, 2005年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/phlebol/16/2/16_16-2-129/_pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献11) 山田 典一,中野 赳.「深部静脈血栓症:血栓溶解療法,下大静脈フィルター留置」, pp.1-8, 2009年 https://j-ca.org/wp/wp-content/uploads/2016/04/4903_10.pdf最終アクセス:2025年5月10日) (文献12) 荒名 克彦ほか.「上行性血栓性性脈炎3例の経験」, pp.1-4, 2014年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jca/54/3/54_13-00041/_pdf(最終アクセス:2025年5月10日)
2025.05.30 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
「最近、足が妙に重だるい」 「ふくらはぎに違和感がある」 その症状は閉塞性動脈硬化症のサインかもしれません。このサインを放置すると症状が悪化し、最悪の場合は壊死や足の切断につながるかもしれません。 本記事では、閉塞性動脈硬化症のセルフチェック方法や足に現れる具体的なサインについて、わかりやすく解説します。あわせて、重症度の目安や症状に応じた治療法についてもわかりやすく解説します。 閉塞性動脈硬化症のセルフチェック|1つでも当てはまる場合は要注意 チェック項目 詳細説明 タバコを吸う 喫煙は血管を傷つけ、動脈硬化を進める 血糖値が高いと診断された 糖尿病は血管をもろくし、動脈硬化の大きな要因 コレステロール・中性脂肪が高いと診断された 脂質が血管内にたまり、血流を妨げる 高血圧と診断された 血圧が高いと血管に負担がかかり、動脈硬化が進行する 過去に心筋梗塞を起こした 血管障害の既往があり、他の動脈にも影響する恐れがある 過去に脳卒中を起こした 一度脳卒中を起こすと動脈硬化を発症しやすい傾向がある 家族に心筋梗塞や脳卒中の人がいる 遺伝的に動脈硬化を発症しやすい傾向がある 閉経している 女性ホルモンの低下により、血管の柔軟性が失われやすくなる 透析を受けている 透析によって血管に負担がかかり、動脈硬化が進行しやすくなる 65歳以上である 加齢に伴い血管は硬くなりやすくなる 肥満体型である 生活習慣病のリスクが高く、動脈硬化を招く 閉塞性動脈硬化症は、動脈が徐々に細くなり血流が悪化する病気です。とくに足の血管に障害が出ると、歩行時のだるさやしびれといった症状が現れます。 初期の段階では自覚症状が乏しく、気づかないうちに進行しているケースも少なくありません。そのため、早い段階で閉塞性動脈硬化症に気づくには自分でできるセルフチェックを行うことが不可欠です。 1つでもセルフチェック項目に当てはまる場合は要注意です。 以下の記事では、閉塞性動脈硬化症の初期症状について詳しく解説しています。 タバコを吸う タバコが及ぼす影響 リスクとメカニズム 血管の収縮を引き起こす ニコチンなどにより血管が狭くなり、血流が悪化 血管内皮細胞を傷つける 血管内面が損傷し、動脈硬化の原因となるプラークがたまりやすくなる LDLコレステロールの酸化 酸化されたLDLコレステロールが血管壁に沈着しやすくなる 血小板の凝集促進 血液が固まりやすくなり、血栓形成のリスクが高まる HDLコレステロールの減少 善玉コレステロールが減り、血管の修復力が低下 血管壁の慢性的炎症 炎症により動脈硬化が進行 (文献1)(文献2) タバコは血管に多面的な悪影響を与え、閉塞性動脈硬化症の大きなリスク因子となります。喫煙により血管が収縮し、内皮細胞が損傷を受けることで、動脈硬化が進行しやすくなります。 また、血液が固まりやすくなり血栓のリスクも高まるため、喫煙歴のある方は足の違和感や冷えといった小さなサインも見逃さず、早めの受診が大切です。 血糖値が高いと診断されたことがある 高血糖は血管を傷つけ、動脈硬化を進行させます。血流が悪化すると足先まで血液が届きにくくなり、冷えやしびれを感じることがあります。 糖尿病の方は神経障害を伴いやすく、足の異常に気づきにくいため要注意です。血糖値がやや高めと診断された方も、足の症状があれば早めに医療機関を受診しましょう。 コレステロールや中性脂肪が高いと診断されたことがある 項目 概要 プラークの形成 悪玉コレステロールや中性脂肪が血管にたまり、プラークと呼ばれる塊を作り、血管を狭くする 血管の壁が弱る コレステロールが血管の内側にダメージを与え、血管がもろくなる 酸化LDLの影響 悪玉コレステロールが酸化すると、血管に炎症を起こして、さらに詰まりやすくなる 善玉コレステロールの働き低下 善玉コレステロールが少ないと、血管の掃除がうまくできず、脂質がたまりやすくなる 血栓ができやすくなる 傷ついた血管には血のかたまり(血栓)ができやすくなり、詰まりの原因になる 血管が硬くなる 血管に脂質がたまると、血管の弾力が失われ、血流が悪化する (文献3) コレステロールや中性脂肪が高い状態が続くと、血管の内側に脂質がたまり、血管が狭くなって血流が悪くなります。とくにLDLコレステロール(悪玉)が多いと動脈硬化が進み、血栓ができやすくなります。 逆に、HDLコレステロール(善玉)が少ないと、余分な脂質を回収できずリスクがさらに高まります。足の冷えやしびれ、歩きにくさを感じる方は、閉塞性動脈硬化症の可能性があるため、早めに医療機関を受診しましょう。 高血圧と診断されたことがある 高血圧は血管に強い圧力がかかる状態が続き、血管の内側を傷つけます。そこに脂質などがたまり、プラークができて血管が狭くなり、動脈硬化を引き起こします。とくに足の血管は細くて傷つきやすいため、冷えやしびれを引き起こしやすくなります。 高血圧と診断されたことがあり、冷えやしびれの症状が続く場合、閉塞性動脈硬化症の疑いがあるため、早急に医療機関を受診しましょう。 過去に心筋梗塞を起こしたことがある 観点 解説 全身の動脈硬化の可能性 心筋梗塞は全身の動脈硬化が進んでいる恐れがある 共通する生活習慣や病気 両者には高血圧や糖尿病など共通のリスク因子がある 血管の機能が低下している可能性 血管内の機能が弱まっており、足の血管も詰まりやすくなっている 血栓ができやすい状態 血栓ができやすい体質になっており、足の血管にも詰まりのリスクがある 慢性的な炎症の影響 慢性的な炎症が全身に及び、足の動脈硬化を進める可能性がある (文献4) 心筋梗塞を経験した方は、すでに全身の血管に動脈硬化が広がっている可能性があります。心臓だけでなく、足の血管にも同じような詰まりや変化が起きていることが考えられます。動脈硬化は一部の血管だけでなく、全身に影響する病気です。 そのため、足のしびれや冷えなどの違和感がある場合、単なる疲れではなく血管の詰まりによる症状の可能性も考えられます。再発を防ぐためにも、足の血流チェックを早めに受けることが大切です。 過去に脳卒中を起こしたことがある 観点 解説 全身の動脈硬化の可能性 脳の血管に問題が起きた方は、足など他の血管でも動脈硬化が進んでいる可能性がある 共通の危険因子がある 脳卒中と閉塞性動脈硬化症は、生活習慣病や喫煙など共通のリスク要因で起こる 血管の働きが弱っている 脳卒中を経験した方は、血管の内側の機能が低下している可能性がある 血栓ができやすい状態 脳の血管にできた血栓と同じように、足の血管にも詰まりが起こるリスクがある 慢性的な炎症の影響 脳卒中後は、体の中で炎症が続いており、それが足の血管にも悪影響を及ぼすことがある (文献5) 脳卒中(とくに脳梗塞)は、脳の血管が動脈硬化によって詰まることで起こる病気です。脳卒中を経験された方は、すでに全身の血管に動脈硬化が進行している可能性があり、足の血管も例外ではありません。 そのため、閉塞性動脈硬化症のリスクも高くなる恐れがあります。また、脳卒中と閉塞性動脈硬化症には、高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙などの共通する危険因子があります。足の冷えやしびれは、動脈の詰まりのサインかもしれません。気になる症状があれば、早めに医師に相談しましょう。 家族に心筋梗塞や脳卒中を起こした人がいる 観点 解説 遺伝の影響 コレステロールや血圧が高くなりやすい体質が、家族で受け継がれていることがある 生活習慣の共通性 家族内で似た食事や運動習慣は、動脈硬化を起こす傾向が強くなる 若いうちからの発症リスク 家族に若くして発症した人がいると、自分も早く発症するリスクが高まる可能性がある 血管が弱い体質の可能性 血管の構造や性質に遺伝的な傾向があり、動脈硬化を起こしやすいことがある リスクの見落としに注意 家族に心筋梗塞や脳卒中の方がいる場合は、自分もリスクがあると考え、早めの対策が重要です (文献6) 家族に心筋梗塞や脳卒中を起こした方がいる場合、自分も動脈硬化を起こしやすい体質を持っている可能性があります。 高血圧や脂質異常、糖尿病などのリスク因子は遺伝しやすく、生活習慣も似ていることが多いため、同じような病気を発症するリスクがあります。とくに家族に若くして発症した人がいる場合は、注意が必要です。 閉経している 観点 解説 女性ホルモンの減少 閉経でエストロゲンが減り、血管を守る働きが弱くなる 脂質のバランスが変わる 悪玉コレステロールや中性脂肪が増え、動脈硬化が進みやすくなる 血圧が上がりやすくなる 血管が収縮し、血圧が上がりやすくなる 血管の働きが低下する 血管の内側の機能が落ち、詰まりやすくなる (文献7) エストロゲンには血管をしなやかに保つ働きがありますが、閉経後はその分泌が減り、血管が硬くなりやすくなります。 コレステロールもたまりやすくなり、動脈硬化が進行しやすくなります。閉経後に体調の変化を感じたら、足の冷えやしびれなどにも注意し、異変があれば早めに医療機関を受診しましょう。 透析を受けている 観点 解説 血管に負担がかかっている 高血圧や糖尿病などの合併症により、血管が常にダメージを受けやすい状態 血管が硬くなりやすい カルシウムなどの影響で血管に石のような物質がたまり、硬くなりやすくなる 体にサビがたまりやすい 老廃物がうまく排出されず、酸化ストレスが血管に悪影響を与える 炎症が起こりやすい 体の中で炎症が続きやすく、それが血管を傷つける原因になる 血管の働きが弱くなる 血管の内側の細胞がうまく働かなくなり、詰まりやすくなる 透析の影響そのもの 透析中の体内環境の変化も、血管に負担をかけやすい要因 (文献8)(文献9) 透析を受けている方は、老廃物が体にたまりやすく、カルシウムやリンの代謝異常により血管が硬く狭くなりやすくなります。さらに、糖尿病や高血圧の併発も多く、動脈硬化を進行させる原因です。 透析中に足の冷えやしびれを感じたら、血流障害の可能性があります。放置せず、早めに医療機関を受診しましょう。 65歳以上である 観点 解説 血管の老化 年齢とともに血管が硬くなり、動脈硬化が起こりやすくなる 生活習慣病が増加する 高血圧や糖尿病など、動脈硬化の原因になる病気にかかりやすくなる 血管の調整機能が低下 血管を広げたり縮めたりする働きが弱まり、詰まりやすくなる 酸化ストレスがたまりやすい 長年の代謝活動で体内に有害物質がたまり、血管に悪影響を与える 血管の修復力が低下 傷ついた血管を元に戻す力が弱くなり、動脈硬化が進みやすくなる (文献10) 加齢とともに動脈の壁は硬くなり、血管の内腔も狭くなります。とくに65歳を超えると、血管の老化が進みやすく、血流が滞ることで足に冷えやしびれなどの異常が現れやすくなります。 65歳以上の方は、足の冷えやしびれを感じるようであれば、手遅れになる前に早めに医療機関を受診しましょう。 肥満体型である 肥満体型の方は、動脈硬化を進めるさまざまなリスクを抱えています。肥満は、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病を引き起こしやすく、血管に大きな負担をかけます。 さらに、インスリンの働きが低下して血糖や脂質のバランスが乱れやすくなり、動脈硬化のリスクが高まります。加えて、脂肪細胞から分泌される炎症物質が血管を傷つけ、悪玉コレステロールの増加や善玉コレステロールの減少も進行を助長します。血圧も上がりやすくなるため、注意が必要です。 【セルフチェックとあわせて確認】閉塞性動脈硬化症の重症度と治療法 重症度 症状・状態 詳細 治療法の概要 Ⅰ度|冷感やしびれがある重症度 足先に冷えや軽いしびれがあるが、歩行には支障がない状態 血流の低下による軽度の末梢循環障害 生活習慣の改善(食事・運動・禁煙)と薬物療法(抗血小板薬、血圧・脂質のコントロール) Ⅱ度|長距離が歩けない 歩行中に足がだるくなり、休むと症状が軽くなる(間欠性跛行) 歩行による酸素不足に伴う下肢筋肉の循環障害 運動療法と薬物療法の併用、必要に応じてカテーテル治療や生活習慣の見直し Ⅲ度|安静時に違和感が現れる 夜間や横になっているときにも足先に違和感が生じる・ヒリヒリする 安静時にも続く深刻な血流不足による末梢虚血 血管再建(バルーン・ステント・バイパス)、創傷ケア、感染管理 Ⅳ度|潰瘍や壊疽がある 皮膚が黒ずむ、潰瘍ができる、足先が腐りはじめるなどの末期状態 血流途絶による組織壊死および感染リスクの高い状態 外科的血行再建や壊死部の切除、重症時は切断、全身管理を含む包括的治療 閉塞性動脈硬化症は、足の血管が徐々に狭くなり血流が悪くなる病気です。初期(Ⅰ度)は冷えやしびれなど軽い症状ですが、進行すると歩行が困難になり(Ⅱ度)、さらに進むと安静時にも違和感が現れます(Ⅲ度)。 末期(Ⅳ度)では潰瘍や壊死が起き、非常に重篤な状態です。生活習慣の改善や適切な治療を継続すれば、重症化や足の切断リスクを減らせます。 以下の記事では、閉塞性動脈硬化症におけるマッサージについて詳しく解説しております。 Ⅰ度|冷感やしびれがある 項目 内容 症状の特徴 自覚症状はほとんどなく、健康診断や検査で偶然見つかることが多い状態 よくある症状 足先の冷えや軽いしびれ、皮膚の蒼白、足の脈が弱くなることがある 日常生活への影響 日常生活に支障はなく、多くの場合は無症状で気づかれにくい段階 治療法 禁煙や減塩、運動などの生活習慣改善と、必要に応じた薬物治療が行われる 注意点 初期でも放置せず、早めの対策が進行を防ぐ重要なポイント (文献11) Ⅰ度は閉塞性動脈硬化症の初期段階で、足先に冷たさや軽いしびれを感じる状態です。しびれや冷えは血管の内腔が少し狭くなり、血液の流れが悪化しているサインです。 歩行障害はないものの、足の皮膚が乾燥したり、爪の伸びが遅くなったりするケースもあり、血流の低下が進んでいる状態です。この段階で異変に気づければ、進行を防げます。 少しでも違和感を覚えたら、まずは循環器内科などでチェックを受けることをおすすめします。 Ⅰ度の治療法 項目 内容 治療の目的 動脈硬化の進行抑制と将来的な重症化の予防 治療の基本方針 生活習慣の改善と予防的薬物療法の併用 生活習慣の見直し 禁煙の徹底、適度な有酸素運動、減塩・低脂質の食事 薬物療法(予防目的) 抗血小板薬による血栓予防、スタチンによる脂質管理、ARB/ACE阻害薬による血管保護 生活習慣病の管理 糖尿病、高血圧、脂質異常症の安定化と定期的な内科受診 Ⅰ度の特徴 歩行時の違和感や強い症状がなく、検査で血流低下を指摘されることが多い段階 発見のきっかけ 健康診断や動脈硬化検査中の偶発的な発見 Ⅰ度の段階では、生活習慣の見直しと薬物療法が中心です。禁煙や塩分・脂質の摂取制限、適度な運動を通じて血管への負担を減らします。 血液の流れを良くする抗血小板薬や、血圧・コレステロールを下げる薬も併用されることがあります。自覚症状が軽いからといって油断せず、医師の指導のもとで早めに予防策を始めることが大切です。 Ⅱ度|長距離が歩けない 項目 内容 症状の特徴 歩行中にふくらはぎや太ももに違和感・だるさが出る間欠性跛行 具体的な状態 一定の距離を歩いた後に違和感やしびれが出て、立ち止まって休むと軽減する状態 歩行距離の変化 歩ける距離が徐々に短くなり、途中で休憩が必要になる状態 その他の症状 足の冷感やしびれの頻度や強さが増し、足の脈が弱くなるか触れなくなる状態 診断の手がかり 違和感が出る歩行距離の短縮と間欠性跛行の出現 重症度の目安 歩行可能距離によって進行度を評価する段階 治療法 生活習慣の見直し、有酸素運動を取り入れた運動療法、血流改善を目的とした薬物療法、必要に応じたカテーテル治療 (文献11) Ⅱ度では、一定の距離を歩くとふくらはぎにだるさやしびれが出て、立ち止まると症状が和らぐ間欠跛行が現れます。この状態は、運動に伴う酸素不足が足の筋肉に起きているためで、足の動脈が狭くなっている証拠です。 Ⅱ度の症状では、日常生活に支障が出始め、買い物や散歩など、歩くことが負担に感じる場面が多くなります。血流障害はまだ一定の回復が見込める段階であり、適切な対処により改善が期待できる状態です。 以下の記事では、間欠跛行について詳しく解説しています。 Ⅱ度の治療法 項目 内容 治療の目的 違和感の軽減、歩行距離の延長、重症化の防止、生活の質の維持、心血管疾患のリスク低減 治療の基本方針 生活習慣の改善を土台とした多角的な治療アプローチ 生活習慣の改善 禁煙の徹底、減塩・低脂質・糖質管理の食事、継続可能な有酸素運動の実施 歩行療法の導入 違和感が出たら休み、治ったら再開する反復歩行による血流改善 薬物療法 抗血小板薬による血栓予防、血管拡張薬・血流改善薬による間欠性跛行の軽減 血管内治療(必要時) バルーンによる血管拡張、ステント留置による血流確保と再狭窄防止 重要なポイント 医師との連携による個別治療計画の作成と定期的な経過観察の実施 Ⅱ度では、運動療法と薬物療法を組み合わせて治療を行います。ウォーキングにより血流の新たな経路が作られ、足の血行が改善されます。 さらに、抗血小板薬や血管拡張薬を使用し、血液の流れをスムーズに保ちます。あわせて、食事内容の見直しや禁煙、血圧の管理を継続し、症状の悪化を防ぐことが期待されます。 Ⅲ度|安静時に違和感が現れる 項目 内容 症状の特徴 安静時でも足に違和感が出る(とくに夜間や就寝時に強くなる) 違和感が出る部位 足先・かかと・すねなどに、焼けるような・締めつけるような違和感がある 姿勢による変化 足を下げる(椅子に座る、ベッドから足を下ろす)と違和感が軽くなる 冷感・しびれ 足の冷たさやしびれが強くなり、常に感じるようになる 皮膚の変化 皮膚が白っぽく乾燥し光沢が出る、毛が抜ける、爪が厚くなる・変形する 傷の治りにくさ 小さな傷が治りにくく、悪化すると潰瘍や壊死の原因になる可能性がある 足の脈拍 足の動脈の脈が弱くなる、またはまったく触れなくなる 病気の段階 重症な状態(重症下肢虚血:CLI)であり、早急な治療が必要 治療の目的 違和感の軽減・血流の改善・足の切断を避けるための救肢治療 (文献11) Ⅲ度になると、歩いていなくても足先にしびれや冷感、ヒリヒリした違和感が続くようになります。Ⅲ度では血流が極度に悪化している状態であり、安静にしていても筋肉や皮膚に必要な酸素が届かなくなっているサインです。 Ⅲ度の状態は非常に重篤であり、安静にしていても足に強い違和感が現れる段階です。下肢の血流が著しく低下し、組織が酸素不足に陥っている状態といえます。 放置すれば皮膚潰瘍や壊死に進行し、足の切断に至る可能性もあります。そのため、医療機関の早急な受診が必要です。 Ⅲ度の治療法 項目 内容 治療の目標 足の違和感を和げて血流を改善し、足の切断を防ぎながら、生活の質を保ち、心筋梗塞や脳卒中も予防する 生活習慣の改善 血圧・血糖・コレステロールの管理。禁煙、バランスの取れた食事、体重管理の徹底 薬物療法 血液をさらさらにする薬や血管拡張薬の使用を行いつつ、必要に応じた鎮痛薬の併用 血行再建治療 カテーテル治療による血管の拡張や、バイパス手術による血流の確保 疼痛管理・QOL維持 足の位置調整、皮膚・爪のケア、鎮痛薬の活用による不快感の軽減と生活の質の向上 Ⅲ度では、薬や運動だけでの対応が難しくなることも多く、血管の再建が必要となる場合があります。カテーテルを用いた血管拡張術(バルーン療法やステント留置)や、バイパス手術が検討される状態です。同時に、皮膚の状態によっては創傷ケアや感染管理も併せて行います。 放置すれば症状が急激に悪化するため、速やかに必要な治療方針を決めることが重要な段階です。 Ⅳ度|皮膚に潰瘍ができたり足先が腐ったりする 分類 解説 皮膚潰瘍 足先やかかと、指先などに潰瘍ができる状態であり、血流障害により小さな傷も治りにくく、感染を起こしやすい 壊疽(腐敗) 足先や指先が黒色や紫色に変色し、組織が死滅していく状態であり、酸素と血液の供給が完全に途絶える 激しい安静時痛 安静にしていても激しい違和感が続き、鎮痛薬でも効果が乏しいことがある 感染症の合併 潰瘍や壊疽部位から細菌感染が広がり、蜂窩織炎や敗血症など全身性の重篤な感染症を引き起こす危険がある 冷感と感覚麻痺 足が極端に冷たくなり、感覚が鈍くなるか麻痺する状態。神経への血流も止まっている可能性が高い 脈拍の消失 足の動脈の脈拍が触れず、血流がほぼ完全に停止している状態 重要なポイント 足の切断を回避が困難な段階であり、命に関わる可能性もあるため、速やかな診断と緊急治療が必要 (文献11) 閉塞性動脈硬化症のⅣ度は末期の状態で、足に潰瘍や壊死が起こり、感染や足の切断の危険が非常に高まります。足の変色や治りにくい傷などが見られる場合は、すぐに医療機関を受診してください。 Ⅳ度の治療法 治療項目 内容 治療の目的 感染の制御、違和感の緩和、血流改善による救肢、QOLと生命予後の改善 血流の回復(カテーテル治療) 動脈を内側から広げて血流を回復する治療法 血流の回復(バイパス手術) 血流の新しい通り道を外科的に作る手術 感染の管理と創傷 抗生物質の投与、壊死組織の除去(デブリードマン)、創傷管理(陰圧療法など)、フットケア 切断(最終手段) 血流改善や感染制御が困難な場合に実施され、足趾や膝下など、可能な限り小範囲に留める 再生医療(一部施設) 幹細胞移植などで血管新生を促す治療 重要なポイント 救肢には早期対応と多職種による集学的治療が不可欠 Ⅳ度の治療では、壊死した組織を除去し、足をできる限り温存するために血行再建術(カテーテル治療やバイパス手術)が行われます。 血流の改善が困難な場合や感染が重度な場合には、足指や膝下の一部を切断する処置が必要になるケースもあります。切断は壊死や感染の拡大を防ぎ、命を守るための最終手段です。 近年では、再生医療を活用した新たな治療法も注目されています。自家幹細胞の移植によって血流の回復を図る方法で、重度のCLI(重症下肢虚血)患者に対し、標準治療が困難な場合に選択肢として検討されます。再生医療の実施には専門的な判断が必要なため、対応している医療機関で医師とよく相談した上で進めることが大切です。 以下の記事では、リペアセルクリニックの再生医療について詳しく解説しております。 閉塞性動脈硬化症のセルフチェックで早めの受診を心がけよう 閉塞性動脈硬化症は、足の冷感や違和感など軽い症状から始まり、放置すると歩行障害や壊死に進行する可能性があります。初期の段階で気づき、適切に対処すれば進行を防止できます。 セルフチェックで1つでも当てはまる項目がある方、または足の異変を感じている方は、早めに医療機関で血管の状態を確認しましょう。 当院リペアセルクリニックでは、再生医療を用いた閉塞性動脈硬化症の治療を行っております。症状にお悩みの方は、「メール相談」や「オンラインカウンセリング」を通じて、お気軽にご相談ください。 参考資料 (文献1) 一般社団法人日本動脈硬化学会「禁煙は動脈硬化予防の第一歩」一般社団法人日本動脈硬化学会 https://www.j-athero.org/jp/general/kinen/#:~:text=%E5%96%AB%E7%85%99%E3%81%A8%E5%8B%95%E8%84%88%E7%A1%AC%E5%8C%96%E6%80%A7,%E6%98%8E%E3%82%89%E3%81%8B%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(最終アクセス:2025年5月11日) (文献2) 「喫煙と動脈硬化の関係」『一般財団法人 京浜保健衛生協会』, pp.1-4 https://www.keihin.or.jp/wpkeihin/wp-content/uploads/2023/08/2023%E5%B9%B48%E6%9C%88%E4%BF%9D%E5%81%A5%E5%B8%AB%E4%BE%BF%E3%82%8A.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献3) 岡村 智教.「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」, pp.1-214, 2022年 https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/jas_gl2022_3_230210.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献4) 磯部 光章ほか.「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」『日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン』, pp.1-22, 2018年 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000202651.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献5) 「閉塞性動脈硬化症(ASO:Arterio-Sclerosis Obliterans)」, pp.1-15, https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/doumyakukoukashou.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献6) 尾崎 浩一.「閉塞性動脈硬化症感受性遺伝子の同定と機能解析 」, pp.1-3 https://www.astellas-foundation.or.jp/pdf/research/23/h23_10_ozaki.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献7) 高橋 一広.「エストロゲンと血管」『日本生殖内分泌学会雑誌』, pp.1-5, 2013年 https://jsre.umin.jp/13_18kan/7-review2.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献8) 赤松 眞ほか .「血液透析患者における閉塞性動脈硬化症の診断と治療」, pp.1-8, https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/18-3/18-3_9.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献9) 新城 孝道.「透析患者の下肢閉塞性動脈硬化症に対する薬物療法とフットケア」, pp.1-7, 2004年 https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/20-1/20-1_5.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献10) 植山さゆりほか.「下肢閉塞性動脈硬化症バイパス手術後の 二人暮らし高齢男性患者と配偶者の在宅での日常生活体験」『老年看護学』25(2), pp.1-9, 2021年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jagn/25/2/25_89/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月11日) (文献11) 東 信良.「2022 年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン」『日本循環器学会 / 日本血管外科学会合同ガイドライン』, pp.1-160, 2022年 https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Azuma.pdf(最終アクセス:2025年5月11日)
2025.05.30 -
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「ふくらはぎが重だるく感じることが増えた」 「歩いていると途中で立ち止まることが多い」 足のだるさは、年齢や疲れのせいと考えがちですが、実は閉塞性動脈硬化症と呼ばれる血管の病気が原因かもしれません。症状が進行すると、日常生活に支障をきたすだけでなく、最悪の場合、足が壊死してしまう恐れがあります。 本記事では、閉塞性動脈硬化症の症状とともに以下について解説します。 閉塞性動脈硬化症の初期症状 閉塞性動脈硬化症の原因 閉塞性動脈硬化症の診療科 閉塞性動脈硬化症の治療法 閉塞性動脈硬化症は、早期発見と適切な治療により改善が期待できます。本記事では詳しく解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。 閉塞性動脈硬化症とは 閉塞性動脈硬化症とは足の血管に動脈硬化が起こり、血液の流れが悪くなる病気です。足の動脈が徐々に細くなり、十分な血液が届かなくなることでさまざまな症状を引き起こします。 主な原因としては、高血圧や糖尿病、脂質異常症、喫煙などの生活習慣が引き金となり、血管が硬く、狭くなることで進行します。閉塞性動脈硬化症は進行すると血液の流れは悪化し、皮膚の色が変化したりただれたりするのが特徴です。重症化すると足の組織が壊死し、切断の可能性も危惧されます。 原因や症状 概要 足の血管の詰まり 足の動脈が狭くなったり詰まったりする 血流が悪くなる 足への血液の流れが悪くなる 動脈硬化が原因 血管に脂肪が溜まり、それが原因で血管が硬くなって発症 生活習慣が影響 高血圧、糖尿病、喫煙などが影響する 初期症状として歩くと違和感を感じる 運動時に足に違和感が走る(間欠性跛行) 症状が悪化する 違和感がひどくなり、安静時でも症状が出るようになる 傷が治りにくくなる 小さな傷も治りにくくなる 皮膚の色が変わる 足の皮膚が青紫色になる(チアノーゼ) 皮膚がただれる 潰瘍(かいよう)ができる 壊死が起こる 足の組織が腐ってしまう 切断のリスク 足を切断しなければならないこともある (文献1) 足の血流障害は全身の動脈硬化のサインでもあり、少しでも足に違和感が出た場合は、手遅れになる前に医療機関を受診しましょう。 閉塞性動脈硬化症の初期症状 症状の種類 概要 歩くと足に違和感を覚える(間欠性跛行) 歩行中にふくらはぎが張る・疲れる・力が入らないが、休むと楽になる 足の冷え・しびれが続く 血流が悪くなることで、足が冷たく感じたり、しびれが続いたりする 足の傷が治りにくい・色が悪い(蒼白やチアノーゼ) 皮膚の血流が悪く、小さな傷が治らず、色が青白く変化するケースがある 足の脈拍の低下・消失 足先の血流が極端に悪くなり、脈が触れなくなることがある 閉塞性動脈硬化症の初期症状の多くは、年齢や疲れのせいと見過ごされてしまいがちです。しかし、歩いていると違和感や足の冷えやしびれが続く場合は閉塞性動脈硬化症の疑いがあります。 閉塞性動脈硬化症の初期症状が現れた場合は、早めの受診が必要です。 以下の記事では、自分でできる閉塞性動脈硬化症のセルフチェック方法について詳しく解説しています。 歩くと足に違和感を覚える(間欠性跛行) 状態 症状の内容 原因のしくみ 歩き始め ふくらはぎや太ももに違和感・しびれ・張り感 運動時に筋肉が酸素不足になり、違和感が出る 少し休むと改善 数分の休憩で症状が和らぐ・消える 筋肉の酸素需要が減り、一時的に血流が追いつく 再び歩くと再発 同じ場所・感覚でまた症状が現れる 血流が根本的に不足しているため繰り返される 進行すると悪化 歩ける距離が短くなり、日常生活に支障 血管の狭窄が進み、血流不足がさらに深刻になる (文献2) 閉塞性動脈硬化症の初期には、歩くと足に違和感やしびれ、重だるさなどが現れます。ふくらはぎや太もも、お尻に症状が出やすく、休むと治まるため、放置されがちです。しかし、症状を放置すると徐々に進行し、足の血管が狭くなり、運動に必要な酸素や栄養が筋肉に届きにくくなります。 血流不足が深刻化する前に、医療機関の受診が大切です。 以下の記事では、間欠跛行の症状について詳しく解説しています。 足の冷え・しびれが続く 症状の特徴 概要 慢性的な冷え 温めても改善せず、常に足が冷たいと感じる しびれの頻度が増加 ピリピリ・ジンジンとしたしびれが続くようになる 安静時にも感じる 座っている時や寝ている時にも症状を感じる 夜間に悪化しやすい 夜になると冷えやしびれが強くなることがある 左右差があることも 片足だけ、または左右で症状の程度が異なる場合がある 他の症状を伴う可能性 足の皮膚の色が悪くなったり、むくみが出ることがある (文献3)(文献4) 気温とは関係なく、片方の足だけ冷たく感じたり、しびれが続く場合、血流障害を引き起こしている可能性があります。閉塞性動脈硬化症では、血流が悪くなって足先に酸素や栄養が届きにくくなり、その影響で神経に異常が起き、しびれや冷えが生じます。 足の冷え・しびれは年齢からくるものだと思われがちですが、足の左右で温度に差や頻度が多い場合は、閉塞性動脈硬化症を疑うべきサインです。重症化すると足が壊死する可能性があるため、早めの医療機関への受診が大切です。 足の傷が治りにくい・色が悪い(蒼白やチアノーゼ) 症状の特徴 説明 小さなキズの治癒遅延 切り傷や擦り傷が通常より治りにくい 感染しやすい 傷口から細菌が入りやすく感染しやすい 皮膚の色が悪い(蒼白) 足を高く上げた時などに皮膚が白っぽく見える 皮膚の色が悪い(チアノーゼ) 皮膚が紫色や暗赤色になることがある 皮膚が薄く、つやがある 皮膚が栄養不足で薄く光沢を帯びる 毛が抜けやすい 足の毛が抜けやすくなる 爪の変形・変色 爪が厚くなる、変形・変色する (文献3) 閉塞性動脈硬化症が進行すると、血流が著しく低下し、足の皮膚や組織への酸素供給が不足します。酸素供給が不足するとちょっとした傷でも治りにくくなり、皮膚の色も悪く見えるようになります。足先が白くなったり、紫がかって見える状態はチアノーゼと呼ばれ、重度の血流不足状態です。 また、皮膚の乾燥や光沢、爪の変形も血流低下のサインであり、進行すると皮膚潰瘍や壊死に至る危険性もあります。チアノーゼは皮膚の色の変化として現れるため、足のしびれや歩行時の違和感よりも気づきやすいのが特徴です。皮膚が紫色や暗赤色に変色している場合は、早急に医療機関を受診してください。 足の脈拍の低下・消失 症状の特徴 説明 脈拍の触れにくさ 足の甲や足首で脈が弱くなったり、触れなくなったりする 左右差がある 片足だけ脈が弱い、または触れない場合がある 冷えやしびれを伴う 脈の変化と一緒に冷えやしびれを感じることが多い 皮膚の色や温度の変化 皮膚が青白くなり、足が冷たく感じることがある 運動後の変化 運動後に脈がさらに触れにくくなる場合がある 自己チェックの限界 自分で確認できても正確な判断は難しく、医師の検査が重要 (文献3) 足の甲や足首の脈が触れにくくなる、あるいはまったく触れなくなるのも、閉塞性動脈硬化症のサインです。足の動脈の詰まりが進行すると、足首や足の甲で触れる脈拍が弱くなったり、ほとんど感じられなくなったりするケースがあります。 足の脈拍の変化は自分ではわかりにくいため、医師の診察や超音波検査が必要です。とくに左右の脈に差がある場合や片足だけ脈が感じにくい場合は、動脈の詰まりが疑われます。早めに対応すれば血流を改善でき、重篤な合併症を防止できる可能性があります。 閉塞性動脈硬化症の原因 原因 なぜ関係するのか 防止策 具体的な説明 加齢 年齢とともに血管が硬くなり、動脈硬化が進行しやすくなる 血管をいたわる生活を心がける 食事の塩分や脂質を控え、適度な運動や定期的な健康診断を習慣にする 糖尿病 高血糖が血管の内側を傷つけ、血管が詰まりやすくなる 血糖値のコントロールが重要 食事療法・運動療法・内服治療などで血糖を安定させ、合併症の予防につなげる 脂質異常症 LDLコレステロールが血管にたまり、プラークとなって血流を妨げる 脂質管理と生活習慣の改善 動物性脂肪を控えた食事と、必要に応じたコレステロール低下薬の服用 喫煙 タバコに含まれる成分が血管を傷つけ、血流を悪くする 禁煙が最大の予防 禁煙外来の活用や代替品(ニコチンパッチなど)を利用して、段階的に習慣を断ち切る 閉塞性動脈硬化症は、動脈の内側にコレステロールなどの脂質がたまり、血管が狭くなる動脈硬化が原因で起こります。動脈硬化が引き起こされる原因は以下の4つです。 加齢 糖尿病 脂質異常症(高コレステロール血症など) 喫煙 以下では、閉塞性動脈硬化症の原因を詳しく解説します。 加齢 加齢に伴う変化 対策・予防方法 血管内皮細胞の機能低下 抗酸化作用のある食品をとる(野菜・果物)、定期的な検査を受ける 血管壁の弾力性の低下 ウォーキングなどの有酸素運動で血管の柔軟性を維持 酸化ストレスの増加 禁煙やバランスの良い食事で活性酸素を抑える 炎症反応の亢進 規則正しい生活・ストレス管理やEPAやDHAを含む食品 生活習慣病のリスク増加 高血圧・糖尿病・脂質異常症をきちんと治療・管理する (文献3)(文献5) 年を重ねると血管の弾力性が失われ、動脈硬化が進みやすくなります。その結果、閉塞性動脈硬化症を発症し、軽い動作でも足に違和感が出ることがあります。 年齢とともに血管は弱くなりますが、運動や食生活を見直すことで健康を保てます。足の冷えやしびれが気になる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。 糖尿病 影響の種類 概要 血管を傷つけやすい 高血糖が続くと血管の内壁が傷つきやすくなる 動脈硬化を促進 脂肪が血管壁にたまりやすく、動脈硬化が進行しやすい 末梢血管が障害されやすい 足先など細い血管が多い部分で血流障害が起こりやすい 神経障害を合併しやすい 足の感覚が鈍くなり、違和感に気づきにくくなる 小さな傷に気づきにくく、治りにくい 小さな傷に気づかず、治りにくくなることで悪化しやすい 感染症のリスクが高い 免疫力が低下し、傷口からの感染症リスクが高まる 血管の石灰化が起こりやすい 血管にカルシウムがたまり、血管が硬くなりやすい 他の危険因子を合併しやすい 高血圧や脂質異常症を併発しやすく、動脈硬化が進みやすい (文献6)(文献7) 血糖値が高い状態が続くと、血管の内側が傷つき、脂質や血小板がたまりやすくなります。脂質や血小板がたまると血管が詰まりやすくなります。糖尿病では神経障害も起こりやすく、足のしびれや違和感に気づきにくいため、とくに注意が必要です。 血管と神経の障害が重なると、傷の治りが遅くなり、感染が悪化しやすくなります。その結果、閉塞性動脈硬化症のリスクが高まります。糖尿病の方は、足の違和感や傷に気を配り、異常があれば早急に医療機関を受診しましょう。 脂質異常症(高コレステロール血症など) 影響の種類 概要 血管壁への脂質沈着 悪玉コレステロールが血管の内壁にたまりやすくなる プラーク形成の促進 たまった脂質がプラークを作り、血管を狭める 初期症状の発現を早める可能性 動脈硬化が早く進み、若いうちから症状が出ることがある 症状の悪化を加速 血流がさらに悪化し、違和感や歩行障害が進行する 他の危険因子との相乗効果 高血圧や糖尿病などと合併しやすく、リスクがさらに高まる 血管内皮機能の障害 血管の柔軟性が低下し、血栓ができやすくなる (文献8)(文献9) 血液中のコレステロールや中性脂肪が多いと、動脈の内壁に脂質が沈着し、プラークと呼ばれる塊ができやすくなります。プラークは血管を狭め、血流を妨げる原因です。 とくにLDL(悪玉)コレステロールが高い状態が続くと、動脈硬化が進行しやすくなり、閉塞性動脈硬化症を引き起こしやすくなります。脂質異常症は自覚症状がほとんどないため、健康診断で指摘された場合は放置せず、食生活の見直しや適切な治療を行うことが大切です。 喫煙 喫煙が与える影響 概要 血管の内側が傷つく タバコの有害物質が血管内皮細胞を傷つけ、血管機能が低下 動脈硬化が進みやすくなる コレステロールなどが沈着しやすくなり、血管が狭くなる 血管が収縮して血流が悪くなる ニコチンの作用で血管が細くなり、足の血流が悪化する 血液がドロドロになる 喫煙により血液の粘り気が増し、流れにくくなる 血栓ができやすくなる 血のかたまり(血栓)ができやすくなり、血管を詰まらせる 症状が早く現れる可能性が高くなる 非喫煙者より若い年齢で冷えやしびれなどの症状が出やすい 症状が急速に悪化しやすくなる 歩ける距離が短くなる、安静時にも違和感が出てくるなど悪化が早い 治療の効果が出にくくなる 薬や治療の効果が弱まり、改善しにくくなる (文献10) タバコに含まれる有害物質は血管の内側を傷つけ、炎症や動脈硬化を進行させます。とくにニコチンは血管を収縮させ、足の血流を悪化させる原因です。 そのため、喫煙者は非喫煙者より閉塞性動脈硬化症の発症リスクが約3〜5倍高く、若年で発症する傾向もあります。動脈硬化の予防や治療には禁煙が不可欠です。(文献11) 閉塞性動脈硬化症は何科を受診するべき? 診療科名 役割・特徴 受診の目安 循環器内科 血流や動脈硬化の評価・管理が可能。動脈の状態を総合的に診断 足の冷え・しびれ・歩行時の違和感などがある場合に最優先で受診 血管外科 動脈の狭窄・閉塞に対する検査・手術(カテーテル治療など)に対応 検査や手術が必要な場合、循環器内科から紹介されることも多い 内科(かかりつけ医) 必要に応じて専門科へ紹介してもらえる 専門科がない場合にまず相談。早期の受診・紹介が重要 整形外科(注意) 神経や筋肉の疾患が専門。血流の問題を見落とす可能性あり しびれや違和感で来院しても、血流障害が見逃されることがある 皮膚科(注意) 皮膚の異常は診られるが、血流の異常に気づかれにくいことがある 足の傷で受診しても、原因が血流障害と判断されにくい 閉塞性動脈硬化症が疑われる場合は、まず循環器内科または血管外科の受診が推奨されます。循環器内科または血管外科では、血管の状態を詳しく調べる検査や適切な治療方針の判断ができます。 とくに足が冷たい、足の色が悪いといった症状がある場合は、末梢動脈疾患の可能性があるため、早期受診が大切です。 どこを受診すべきか迷う場合は、内科やかかりつけ医に相談しましょう。初期診察で必要性があれば、専門科への紹介を受けられます。症状を放置すると潰瘍や壊死など重症化する恐れがあるため、異変を感じたら早めに医療機関を受診しましょう。 「どの診療科に行けば良いのかわからない」とお悩みの方は、お気軽にリペアセルクリニックへご相談ください。当院では、どんな小さなお悩みにも丁寧に耳を傾け、患者様一人ひとりに寄り添った治療のご提案をいたします。「メール相談」や「オンラインカウンセリング」もご利用いただけますので、ご不安なことがあればいつでもご相談ください。 閉塞性動脈硬化症の治療法 治療法 内容 適しているケース 注意点・ポイント 保存療法 ウォーキングや生活習慣の見直し 初期の症状がある方 運動を継続が大切。禁煙や減塩も効果的 薬物療法 抗血小板薬や高血圧・糖尿病の治療薬 軽度から中等度の症状がある方 医師の指示に従って服薬を継続が重要 手術療法 カテーテル治療やバイパス手術 血管の詰まりが進行し、日常生活に支障がある方 術式は症状によって異なるため、専門医とよく相談する 再生医療 幹細胞などを用いて血管の再生を促す治療 他の治療が難しく、重症の状態にある方 保険が適用されない場合があり、限られた施設で実施されている 閉塞性動脈硬化症の治療は、症状の進行度や原因となる病気の有無によって異なります。 保存療法 薬物療法 手術療法 再生医療 閉塞性動脈硬化症の治療法は医師の診断と指導のもと行われます。治療法について解説します。 保存療法 取り組み内容 概要 禁煙 最も重要な改善点。喫煙は血管を傷つけ動脈硬化を進行させるため、禁煙が必須 食事の見直し 塩分や脂質を控えた食事で動脈硬化の進行を抑える 適度な運動 ウォーキングなどの軽めの有酸素運動が血流改善に効果的 体重・血圧・血糖・脂質の管理 生活習慣病の管理を通じて、血管への負担を減らし、病気の進行を防ぐ (文献12) 保存療法とは、薬や手術を用いず、生活習慣の改善などで進行を抑える治療法です。代表的なのが運動療法であり、ウォーキングなどの有酸素運動を定期的に行い、血流の改善を促します。また、運動だけでなく、生活習慣の見直しも大切です。 禁煙や高カロリーな食事を控えるなど、動脈硬化の進行を抑える上で基本となります。保存療法は、医師の指導のもとで行うことが大切です。運動や食事制限は無理のない範囲で続け、少しでも違和感があれば、すぐに医師に相談しましょう。 以下の記事では、下肢閉塞性動脈硬化症でやってはいけないマッサージ方法について詳しく解説しています。 薬物療法 治癒カテゴリー 薬剤例 効果の概要 抗血小板薬 アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾール 血小板の凝集を抑え血栓を防ぎ、心筋梗塞や脳梗塞の予防にも有効 血管拡張薬 シロスタゾール、プロスタグランジン製剤 血管を広げて血流を改善し、歩行距離の延長や冷え・しびれに有効 プロスタグランジン製剤 プロスタグランジンE1製剤(注射・点滴) 末梢血流を改善し、潰瘍や壊死などの重症症状を緩和・治癒促進 脂質異常症治療薬 スタチン(ロスバスタチン、アトルバスタチンなど) LDLコレステロールを下げて動脈硬化を予防。心血管リスクの低減にもつながる 高血圧治療薬 ACE阻害薬、ARB、カルシウム拮抗薬、β遮断薬 血圧を下げて血管の負担を軽減し、動脈硬化の進行を抑える 糖尿病治療薬 SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬 血糖管理に加え血管保護作用もあり、心血管リスクの抑制に貢献 (文献13)(文献14) 閉塞性動脈硬化症の薬物療法は、病気の進行を抑え、症状を和らげるために行います。抗血小板薬は血栓を防ぎ、血流を保つのに役立ちます。 高血圧や糖尿病、脂質異常症がある場合は、それぞれの治療薬も併用します。薬は根本的な治療ではなく、進行を止めることが目的です。薬剤は医師の指示のもと、継続しての服用が大切です。 手術療法 治療法 手術方法 効果・特徴 適応病変 バイパス手術(外科的血行再建術) 閉塞部位の上下をつなぎ、静脈や人工血管で血流のバイパスを作る 長い範囲の血管閉塞に効果があり、歩行距離の改善や潰瘍の治癒、さらには足の切断を回避できる可能性がある 長い範囲の閉塞や血管内治療が難しい場合に向いている 血管内治療(カテーテル治療) カテーテルで血管を内側から広げ、必要に応じてステントを入れる 早期に血流改善が期待でき、違和感や冷えの症状が軽減しやすい 比較的短い範囲の狭窄・閉塞に対して有効 閉塞性動脈硬化症が進行し、薬や運動では十分な改善が見込めない場合、手術療法が検討されます。とくに足の血管が高度に狭くなったり詰まったりしている場合、血液の流れを回復させるには物理的な処置が必要です。 代表的なのがカテーテル治療で、狭くなった血管内に細い管を入れ、バルーンで広げ、金属製のステントを留置する方法です。より重度の場合には、詰まった血管を迂回するバイパス手術を行います。 手術療法は誰にでも適応できるわけではなく、血管や全身の状態を見て慎重に判断する必要があります。また、カテーテル治療後の再狭窄やバイパス手術後の感染などのリスクもあるため、医師とよく相談し、メリットとリスクを理解した上で治療を選ぶことが大切です。 再生医療 再生医療は、薬や手術で改善が難しい場合に検討されます。再生医療は患者自身の細胞を使用し、新たな血管の形成を促す治療です。 再生医療は比較的新しい治療アプローチであり、一部では保険適用外となりますが、重症例における有効性が報告されており現在も研究が進められています。名古屋大学大学院の報告によると、血管内治療やバイパス手術が難しい末期の患者でも、再生医療によって血流が改善し、足の切断を回避できたケースが確認されています。(文献13) また、京都府立医科大学附属病院の資料によると、バージャー病に対する再生医療では、足の切断を1年後・3年後ともに95.5%の確率で回避できたことが示されています。(文献15) 再生医療は限られた医療機関での実施となるため、事前に取り扱いのある医療機関への受診が必要です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 閉塞性動脈硬化症の初期症状が現れたらすぐに医療機関を受診しよう 閉塞性動脈硬化症の初期症状は見過ごされやすいですが、放置すると壊死を起こし、最悪の場合は足の切断に至ることもあります。 違和感を覚えた場合は、速やかに医療機関を受診してください。また、動脈硬化は全身に起こるため、足の症状だけでなく心臓病や脳卒中といった重篤な病気につながる可能性もあります。 当院リペアセルクリニックでは、症状や受診科の悩みに丁寧に対応し、必要に応じて幹細胞を使った再生医療で治療をサポートしています。 閉塞性動脈硬化症が改善せずお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 参考資料 (文献1) 玉木 正人ほか.「下肢閉塞性動脈硬化症に対する治療法の評価とQOL」, pp.1-8, 1995年 https://www.jsvs.org/jsvs/pdf/19950401/jsvs_1995_0401_0083.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献2) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「末梢閉塞性動脈疾患」MSD マニュアル 家庭版,2023年7月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/06-%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E5%8B%95%E8%84%88%E7%96%BE%E6%82%A3/%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E9%96%89%E5%A1%9E%E6%80%A7%E5%8B%95%E8%84%88%E7%96%BE%E6%82%A3(最終アクセス:2025年5月10日) (文献3) 宮田 哲郎,「末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン(2015 年改訂版)」『2014年度合同研究班報告』, pp.1-95, 2015年 https://plaza.umin.ac.jp/~jscvs/wordpress/wp-content/uploads/2020/06/JCS2015_miyata_h.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献4) 「臨床研究の概要をできる限り平易な用語を用いて記載した要旨」pp.1-3 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/07/dl/s0723-17c_0022.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献5) 「動脈硬化は怖い病気のはじまり」『一般社団法人 日本動脈硬化学会』, pp.1-4 https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/general/pdf/doumyaku_p2023.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献6) 一般社団法人日本糖尿病学会「糖尿病合併症について」一般社団法人日本糖尿病学会,2021年9月2日 https://www.jds.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=3(最終アクセス:2025年5月10日) (文献7) 厚生労働省「糖尿病」 https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b7.html(最終アクセス:2025年5月10日) (文献8) 寺本 民生.「動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療のエッセンス」, pp.1-12, 2014年 https://www.med.or.jp/dl-med/jma/region/dyslipi/ess_dyslipi2014.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献9) 「脂質異常症」国立循環器病研究センター https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/dyslipidemia/(最終アクセス:2025年5月10日) (文献10) 一般社団法人日本動脈硬化学会「禁煙は動脈硬化予防の第一歩」一般社団法人日本動脈硬化学会 https://www.j-athero.org/jp/general/kinen/#:~:text=%E5%8B%95%E8%84%88%E7%A1%AC%E5%8C%96%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E5%96%AB%E7%85%99%E3%81%A8%E3%81%AE%E9%96%A2%E4%BF%82&text=%E5%96%AB%E7%85%99%E8%80%85%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%80%81%E9%9D%9E%E5%96%AB%E7%85%99,%E6%98%8E%E3%82%89%E3%81%8B%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(最終アクセス:2025年5月10日) (文献11) Xu Y, et al. (2024). Smoking as a risk factor for lower extremity peripheral artery disease in women compared to men: A systematic review and meta-analysis. PLoS One, 19(4), pp.e0300963. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0300963(最終アクセス:2025年6月6日) (文献12) 林 富貴雄,伊東 春樹.「下肢閉塞性動脈硬化症のリハビリテーション」『『血管病と運動』シリーズ ASO編』, pp.1-8, 2018年 https://www.npo-jhc.org/image/pdf/aso.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献13) 「皮下脂肪由来幹細胞で血管病を治療 -皮下脂肪由来幹細胞を利用した再生医療が下肢切断を救う!-」『皮下脂肪由来間葉系幹細胞を用いた重症虚血肢に対する血管新生療法〜他施設共同研究〜』, pp.1-5, https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/Ang_220714.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献14) 横井 宏佳.「閉塞性動脈硬化症(PAD)の薬物療法 〜循環器内科医の立場から〜」日本フットケア学会雑誌, pp.1-4, 2017年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/footcare/15/3/15_16/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月10日) (文献15) 真田ほか.「先進医療B 総括報告書に関する評価表(告示旧24)」『第154回先進医療技術審査部会』, pp.1-15, 2023年 https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001163753.pdf(最終アクセス:2025年5月10日)
2025.05.30 -
- その他、整形外科疾患
「足の違和感で長く歩けない」 「ふくらはぎが張って立ち止まりたくなる」 その症状を年齢のせいにして、放置していませんか?違和感はあるけれど、休むと和らぐその症状は間欠跛行(かんけつはこう)かもしれません。動き出すと辛くなり、休むと楽になる繰り返しに、不安を覚える方も少なくありません。本記事では、間欠跛行の症状とともに、以下の内容について解説します。 間欠跛行の原因 間欠跛行の治療法 間欠跛行のリハビリ方法 記事の最後には、間欠跛行の症状に関してよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 間欠跛行とは 影響の種類 具体的な内容 外出の制限 違和感が出る距離が短くなり、買い物や散歩などの外出が億劫になる 活動量の低下 違和感を恐れて活動量が減り、筋力や体力が低下する可能性がある 精神的な負担 症状の再発への不安が常にあり、ストレスを感じやすくなる 生活の質の低下 趣味や社会活動が難しくなり、生活の満足度が低下する 間欠跛行(かんけつはこう)とは、一定の距離を歩くと足やふくらはぎにだるさやしびれを感じて歩けなくなり、しばらく休むと再び歩けるようになる症状です。発症の主な原因は神経の圧迫や血流障害で、加齢や生活習慣病と深く関係しています。歩行時の違和感は日によって変動し、一時的な不調と見過ごされやすい点も特徴です。 最初は軽い違和感でも、放置すれば歩行困難や日常生活への支障に発展するため、自己判断はせず、早期の段階で医療機関を受診するのが大切です。 間欠跛行の原因 特徴 神経性間欠跛行(脊柱管狭窄症など) 血管性間欠跛行(閉塞性動脈硬化症など) 原因 加齢による背骨の変形、椎間板の変性などによる腰部神経の圧迫 動脈硬化による足の血管の狭窄や閉塞による血流不足 発症のきっかけ 長時間の歩行、腰を反らす姿勢 歩行 症状の特徴 しびれ、脱力感、違和感 違和感、つっぱり感、冷感、皮膚の色が変化する 違和感が出る箇所 腰、お尻、太もも、ふくらはぎ、足 臀部から足(下肢全体) 悪化させる要因 加齢、不良姿勢、重労働など 高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、加齢など 日常生活の注意点 同じ姿勢を続けない、腰に負担のかかる動作を避ける、適切な運動 禁煙、食事療法、適度な運動、足を冷やさない 間欠跛行の原因は主に脊柱管狭窄症による間欠跛行(神経性)と閉塞性動脈硬化症による間欠跛行(血管性)の二つです。症状別に原因を解説します。 脊柱管狭窄症による間欠跛行(神経性) 項目 内容 原因 背骨の中を通る神経の通り道(脊柱管)が狭くなり、神経が圧迫される 起こりやすい病気 脊柱管狭窄症(とくに腰の部分で起こる) 主な症状 歩くと足がしびれる・力が入らない・つっぱるような感覚がある 症状の悪化 歩いたり立ったりすると悪化しやすい 楽になる姿勢 前かがみになる・座るなどで神経の圧迫がゆるみ、症状が軽くなる 特徴的な行動 自転車には乗れるが、歩くのがつらい 症状の現れ方 両足にしびれや脱力感が出ることが多い 注意点 血管の病気との見分けが難しいため、自己判断せず医療機関を受診する (文献1) 神経性の間欠跛行は、主に脊柱管狭窄症が原因で起こります。加齢などにより背骨の中を通る神経の通り道(脊柱管)が狭くなり、神経が圧迫されることで足にしびれや脱力感が生じ、歩くことが難しくなります。身体を前屈みにすると症状が軽くなり、歩いたり直立すると症状が悪化しやすいのが特徴です。 神経性の間欠跛行は、しびれや脱力感が強く出るのが特徴です。血管性とは異なりますが、症状が似ているため、しばしば混同されます。症状が似ているため、自己判断は避け、整形外科や脳神経外科での画像検査(MRIなど)を受けるようにしましょう。 以下の記事では、脊柱管狭窄症について詳しく解説しています。 閉塞性動脈硬化症による間欠跛行(血管性) 項目 内容 原因 動脈硬化で足の血管が細くなり、血液が十分に流れなくなる 起こりやすい病気 閉塞性動脈硬化症(ASO) 主な症状 歩行時のふくらはぎの重だるさ、締めつけられるような違和感 症状の悪化 歩行を続けると悪化する 楽になる姿勢 姿勢に関係なく、立ち止まると速やかに回復 特徴的な行動 自転車でも歩行時と同様に症状が出ることがある 症状の現れ方 片足に出ることが多い 注意点 放置すると潰瘍・壊死の恐れあり。進行する前に受診が必要 (文献2) 血管性間欠跛行は、閉塞性動脈硬化症(ASO)と呼ばれる血管の病気が原因で起こります。足の動脈が動脈硬化により狭くなったり詰まったりすると、歩行中に筋肉へ十分な血液が届かなくなります。血液が流れにくくなることで、ふくらはぎなどに違和感が現れるのが特徴です。 閉塞性動脈硬化症による血管性間欠跛行では、一定の距離を歩くと症状が現れますが、立ち止まって休息を取ることで、血流が回復し、再び歩けるようになります。しかし、症状が進行すると歩ける距離がどんどん短くなり、重症化すると、安静にしていても足が辛くなり、冷感や皮膚の色の変化、潰瘍などの深刻な合併症を引き起こすリスクがあります。 閉塞性動脈硬化症による間欠跛行は、早期治療に加えて、生活習慣の改善や禁煙が重要です。必要に応じて、薬物療法や血管手術での改善も行われます。 以下の記事では、閉塞性動脈硬化症について詳しく解説しています。 間欠跛行が治る可能性について 間欠跛行は、原因に合った治療を受けることで大きく改善し、普段の生活にほとんど支障がない状態まで回復も視野に入ります。運動療法や生活習慣の改善により歩ける距離が伸びれば、生活の質は大きく向上するでしょう。ただし、動脈硬化そのものを完全に元の状態に戻すのは難しく、完治よりも症状管理が治療の中心となります。 治療の目標は症状の完治ではなく、あくまで「改善」であることが大前提です。また、改善に加えて、心筋梗塞や脳梗塞などの合併症を防ぐことも目的です。間欠跛行が改善する可能性を少しでも上げるには、早期の受診と継続的なケアが求められます。 間欠跛行の治療法 治療法 内容 対象となるケース ポイント 保存療法 運動療法(ウォーキングなど)や薬の服用、生活習慣の改善 初期〜中等度の症状 症状を和らげ、症状の進行を防ぐ 手術療法 血管を広げるカテーテル治療や詰まった部分のバイパス手術など 保存療法で効果が不十分な場合や重症例 血流を改善し、歩ける距離を大きく伸ばせる 再生医療 自分の細胞や成分を使って血管の修復や再生をうながす先進的な治療法 他の治療が難しい場合や効果が乏しいケース 一部の施設で実施、効果や適応は限定的 間欠跛行の治療法は以下の3つです。 保存療法 手術療法 再生医療 治療法ごとに適したケースや効果の範囲が異なるため、医師の指示に従う必要があります。間欠跛行の治療法について解説します。 保存療法 治療法 内容 期待される効果・ポイント 運動療法 計画的な歩行訓練、下肢筋力トレーニング、ストレッチなど 側副血行路の発達、酸素利用効率向上、歩行距離の延長 薬物療法 抗血小板薬、血管拡張薬、鎮痛薬など(医師の判断で処方) 血流改善、血栓予防、症状の緩和 生活習慣の改善 禁煙、食事改善、体重・血糖・血圧管理、ストレス・冷え対策 動脈硬化の進行抑制、生活習慣病の改善、薬の効果を引き出す 間欠跛行に対する保存療法は、手術をせずに症状の改善と病気の進行を抑える方法です。運動療法では歩行訓練によって血流を改善し、歩行可能な距離を少しずつ延ばしていきます。薬物療法では、血液をサラサラにしたり血管を広げる薬で症状の軽減を目指します。また、生活習慣を根本から改善するのも動脈硬化を防ぐ上で大切です。 保存療法はすぐに効果が出るものではありませんが、長期的な歩行能力の回復と維持に重要な治療法です。 手術療法 項目 バイパス手術(血管バイパス術) 血栓除去術(血行再建術) 目的 狭くなった血管を迂回して、新たな血液の通り道を作る 詰まった血管から血栓(血のかたまり)を取り除いて血流を再開させる 対象となる状態 慢性的な血流障害(閉塞性動脈硬化症など) 急に血流が止まった場合(急性動脈閉塞など) 使用される血管 自分の静脈(自家血管)または人工血管 既存の血管を利用し、血栓を除去 麻酔・方法 全身または局所麻酔で行い、血管を縫い合わせる 同様に麻酔下で血管を開き、器具で血栓を取り出す 効果 血流の大幅な改善、歩行症状の軽減や重症化の予防 早期の血流回復で壊死や切断リスクを低下、症状の改善が見込める 注意点 感染、出血、再閉塞などの合併症リスクあり 同様に合併症や再閉塞のリスクがあり、術後管理が大切 間欠跛行の症状が進行しており、保存療法で改善が難しい場合は、手術療法が検討されます。代表的なのがバイパス手術で、狭くなった血管を迂回するように新しい通り道を作り、足への血流の改善を目指します。 血栓除去術では、急に詰まった血管を開き、血栓を取り除き、血液の流れを回復させる治療法です。 どちらの治療法も血流を改善し、歩行時の違和感や足の壊死リスクを軽減する効果が期待できます。ただし、保存療法に比べて体への負担が大きく、感染や出血、バイパス血管の詰まりといった合併症のリスクがあり、入院期間も長くなる傾向があります。 手術を検討する際は、医師とよく相談した上で決めることが大切です。 再生医療 原因のタイプ 再生医療のアプローチ 期待される効果 神経性(脊柱管狭窄症) 幹細胞などを用いて、傷ついた神経の修復や炎症の抑制 神経の伝達が改善し、しびれや違和感が軽くなる 血管性(動脈硬化) 新しい毛細血管をつくる(血管新生)よう促す治療を行う 足への血流が改善し、歩くときの違和感が緩和される可能性がある 間欠跛行は、神経の圧迫や血管の詰まりが原因で起こる症状です。再生医療では、身体が本来持つ修復力を利用して神経や血管の機能回復を目指す治療法であり、しびれや違和感の軽減、血流の改善が期待されます。 手術療法と比べ、長期の入院や感染症のリスクが少ないのがメリットです。ただし、再生医療は限られた医療機関でしか行われていないため、対応している施設での受診が必要です。 間欠跛行のリハビリ方法 種類 内容・目的 期待される効果 注意点 ふくらはぎストレッチ かかとを床につけたまま壁に向かって体を倒す 血流改善、筋肉の柔軟性向上 違和感が出る場合は中止 太もも裏のストレッチ 座って片脚を伸ばし、足先に向かって上半身を倒す ハムストリングの柔軟性向上 背中を丸めすぎないよう注意 お尻のストレッチ 仰向けで片膝を胸に引き寄せる 股関節周囲の柔軟性を保ち、神経の圧迫を軽減 無理に力を入れず、深呼吸をしながら行う 股関節前のストレッチ 片膝立ちの姿勢で体を前方に押し出す 血流と可動域の改善 バランスを崩さないよう、壁や椅子で支える 間欠跛行のリハビリでは、ストレッチを中心とした運動療法が症状の改善に非常に効果的です。ふくらはぎや太ももの裏、股関節まわりの柔軟性を高めることで、血流が促進され、症状の改善が期待できます。 実際に、腰部脊柱管狭窄症による間欠跛行の70代男性が、週1回の理学療法とセルフストレッチを続けた結果、歩行距離が500m未満から3km以上にまで改善した例があります。(文献3) 改善例からもわかる通り、ストレッチは毎日少しずつ無理のない範囲で続けることが大切です。リハビリ中に違和感が出る場合は、すぐに中止し、医師に相談しましょう。 間欠跛行における日常生活で気をつけること 項目 内容 無理に歩きすぎない 違和感を我慢すると悪化のリスクがあるため、無理せず休憩を挟む 姿勢に注意する 神経性の場合は前かがみが楽になることが多い 禁煙・食生活の改善 喫煙や高脂肪食は動脈硬化を進めるため、生活習慣の見直しが重要 血圧・血糖・コレステロール管理 生活習慣病のコントロールで症状の進行を抑える 適度な運動を継続する ウォーキングなど違和感が出ない範囲での運動が予防と改善につながる 足の状態を毎日チェックする 傷や潰瘍ができていないか確認し、早めに対処する 症状の変化があれば受診 一時的に良くなっても、病気が進行している可能性がある 間欠跛行の症状を悪化させないためには、無理に歩いたり、過度な運動は禁物です。違和感を抱えたまま歩くと神経や血管に負担がかかり、症状の悪化につながります。神経や血管に負担をかけないためにも適度な休憩を取りましょう。 また、間欠跛行を悪化させないためには、適度な運動に加え、食生活の改善や禁煙が大切です。とくに喫煙や高コレステロールは動脈硬化の原因になるため注意が必要です。また、足に傷や潰瘍がないか毎日確認し、異常があれば早めに受診しましょう。 間欠跛行が疑われる場合は迷わず医療機関へ 間欠跛行は歩くと辛くなり、休むと楽になるのが症状の特徴です。間欠跛行は休むと楽になるため軽視されがちですが、重症化すると足の壊死や切断を余儀なくされることもあります。 日常生活でわずかでも足に違和感があれば、症状が悪化する前に医療機関を受診しましょう。当院リペアセルクリニックでは、間欠跛行の初期症状にも丁寧に対応し、幹細胞を用いた再生医療で治療をサポートしています。 症状が改善せずお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 間欠跛行の症状に関してよくある質問 間欠跛行は何科を受診するべきでしょうか? 初期の段階では原因の特定が難しいため、整形外科の受診をおすすめします。動脈硬化が判明している場合は、循環器内科もしくは、血管外科を受診しましょう。また、間欠跛行を治療できる医療機関の探し方としては、口コミやGoogleマップで評判をチェックするのがおすすめです。 当院リペアセルクリニックでは、間欠跛行の治療も行なっておりますので「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、お気軽にご相談ください。 間欠跛行の症状は自然治癒しますか? 間欠跛行の自然治癒はほとんどありません。原因に応じた治療が必要で、放置すると症状が進行する恐れがあるため、早急に医療機関を受診しましょう。 運動はまったくしてはいけないのでしょうか? 運動は無理のない範囲であれば、問題ありません。ただし、違和感が出た場合はすぐに中止し、医師に相談しましょう。 間欠跛行の症状とがんは関係あるのでしょうか? 間欠跛行の原因は主に脊柱管狭窄症や閉塞性動脈硬化症による血流障害であり、がんとの直接的な関係性はありません。ただし、がんが神経や血管を圧迫することで似たような症状が出ることもあるので、原因が特定できない場合は精密検査を受ける必要があります。 参考資料 (文献1) 「腰部脊柱管狭窄症」『整形外科シリーズ8』, pp.1-2,2023 https://www.joa.or.jp/public/sick/pdf/MO0013CKA.pdf(最終アクセス:2025年5月9日) (文献2) 「閉塞性動脈硬化症(ASO:Arterio-Sclerosis Obliterans)」, pp.1-15 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/doumyakukoukashou.pdf(最終アクセス:2025年5月9日) (文献3) 国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) 「腰部脊柱管狭窄症の間欠性跛行が改善した一例」J-STAGE,2018年7月16日 https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/46S1/0/46S1_H2-166_1/_article/-char/ja/(最終アクセス:2025年5月9日)
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骨粗鬆症は治るのか、将来の健康に対して漠然とした不安を抱いていませんか。加齢とともに骨がもろくなる病気とされ「もう治らないのでは」と心配になる方も多いでしょう。 たしかに、骨粗鬆症は完治が難しい病気です。しかし、適切な治療と生活習慣の見直しによって進行を防げば、骨密度の改善や骨折のリスク軽減に期待できます。 この記事では、医師が骨粗鬆症の治療法や薬の種類、さらに食事や運動による予防法までわかりやすく解説します。 本記事を参考に「完治させる」のではなく「これ以上悪化させない」ことに目を向け、骨粗鬆症の治療や予防に前向きに取り組んでみましょう。 骨粗鬆症の完治は難しいが進行を抑えることは可能 骨粗鬆症の治療目的は、完治ではなく、進行を抑えて骨折を防ぐことです。(文献1) 骨は常に「骨吸収(骨を壊す)」と「骨形成(骨を作る)」を繰り返しています。(文献2)加齢やホルモンバランスの変化で骨を作り変えるリズムが崩れると、骨吸収が優位になり、骨密度が低下していきます。これが骨粗鬆症の本質です。 現在の医学では、一度減少した骨密度を完全に若年時の状態に戻すことは困難です。しかし、薬物療法や食生活・運動習慣の改善を継続すると、骨量の減少を抑えたり、骨密度を高めたりすることも可能です。 骨折リスクを減らして健康寿命を延ばすには、骨粗鬆症の完治を目指すよりも、進行を抑えることが大切です。早期から治療と予防に取り組み、骨の健康を守りましょう。 なお、骨粗鬆症の進行を防ぐには、原因を理解しておくことも重要です。原因については、以下の記事にて詳しく解説しています。気になる方は、あわせて参考にしてください。 骨粗鬆症の進行を防ぐ方法 食事や運動により、骨粗鬆症の進行を防ぐ方法として以下の2つがあります。 カルシウムやビタミンDなど骨を強くする栄養素を摂る かかと落としやウオーキングで骨に刺激を与える 骨粗鬆症は薬だけに頼るのではなく、日々の食事や運動が進行防止に大切です。ぜひ本章を参考に、生活習慣を見直してみてください。 カルシウムやビタミンDなど骨を強くする栄養素を摂る 骨粗鬆症の進行を防ぐには、骨の材料となる栄養素を意識的に摂取しましょう。 中でもカルシウム・ビタミンD・ビタミンK・たんぱく質は、骨の形成や維持に欠かせません。骨に必要な栄養素が豊富に含まれている食材として、以下のようなものがあります。 栄養素 食材例(文献3) カルシウム 牛乳 えび ビタミンD 鮭 きくらげ ビタミンK ほうれん草 納豆 たんぱく質 卵 豚肉 これらの栄養素を含む食材を、毎日の食事にバランスよく取り入れることが理想です。急に食生活を変えるのが難しい場合は、納豆や牛乳など取り入れやすい1品から始めてみると良いでしょう。 かかと落としやウオーキングで骨に刺激を与える 骨粗鬆症の進行を防ぐには、骨に刺激を与える運動を日常に取り入れることが有効です。 運動で骨に適度な刺激が加わると、骨の形成が促され、骨密度の維持や向上につながります。(文献4)実際に、50代男性に片脚ジャンプを1年間続けてもらったところ、大腿骨の骨密度が上昇したとの研究結果もあります。(文献5) ただし、骨折の経験がある方や高齢者の場合、無理をせずに医師や理学療法士の指導のもとで安全に行うことが大切です。日常生活に無理のない範囲で、継続しやすい運動を取り入れていきましょう。 骨粗鬆症の治療薬について 病院では、骨粗鬆症の進行を抑える薬を使った治療が一般的に行われています。本章では、病院で用いられる主な治療薬の種類と副作用について詳しく解説します。 納得して治療に取り組むためにも、薬の種類や副作用を知っておきましょう。 薬の種類 骨粗鬆症の治療薬は、大きく分けると「骨の吸収を抑える薬」と「骨代謝を調節する薬」の2種類です。また、骨の代謝バランスを整え、穏やかに両方の作用を助けるものもあります。 それぞれの薬は、患者の年齢や骨折歴、骨密度などをもとに、治療の目的に合わせて選択されます。 代表的な薬は以下の通りです。 薬の種類 代表例 骨の吸収を抑える アレンドロン酸(フォサマック®) デノスマブ(プラリア®) 骨を作る力を促す テリパラチド(フォルテオ®) 骨の代謝を調節する エルデカルシトール(エディロール®) 薬によっては、注射薬や週1回、月1回などの服用で済むものもあり、ライフスタイルに合わせて治療薬を選択できます。どの薬が適しているかは個人によって異なるため、定期的に検査を受け、医師と相談しながら治療を続けましょう。 薬の副作用 骨粗鬆症の薬は副作用リスクもあるため、医師の指導を受けながら正しく使用しましょう。 たとえば、ビスホスホネート系のような骨吸収抑制薬では、まれに「あごの骨に異常をきたす(顎骨壊死・がっこつえし)」の副作用が報告されています。(文献1)そのため、歯科治療を受ける際は、事前に歯科医と連携することが推奨されます。また、内服薬では胃もたれや吐き気などの消化器症状が出ることもあるため、服用方法や体調の変化には注意が必要です。 副作用は必ず起こるものではありませんが、適切に対策を取ることで症状の軽減や予防が可能です。副作用が疑われる場合でも、自己判断で薬を中止するとかえって悪化するおそれがあるため、必ず医師の指示を仰いでください。 なお、骨粗鬆症は薬だけに頼るのではなく、食事や運動といった生活習慣の見直しも予防に役立ちます。詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。 治療薬にかかる値段の目安 骨粗鬆症の薬には保険が適用されており、多くの場合自己負担は3割です。ただし、薬の種類や投与方法によって費用は異なるため、治療を継続するには経済面の確認も大切です。 たとえば、6カ月に1回の注射薬「デノスマブ(プラリア®)」は、3割負担の場合自己負担額が1回あたり5,000~8,000円程度かかります。 さらに毎日服用が必要な薬でも、月に数千円以上の医療費がかかるケースは珍しくありません。このように、骨粗鬆症の治療には一定の費用がかかるため、経済的な負担を感じる方も多いでしょう。 負担が大きい場合、一定の条件を満たすと「高額療養費制度」という一定金額以上の自己負担額が払い戻される制度を利用できる場合があります。(文献6)費用に不安がある方は、こうした制度を活用すると経済的負担を軽減できるでしょう。 骨粗鬆症は完治を目指すよりも進行を防ぐことが大切 骨粗鬆症の治療目的は完治ではなく、進行を抑えて骨折リスクを減らし、健康寿命をのばすことです。 薬の服用に加え、食事や運動の改善を組み合わせると骨の健康にも良いでしょう。ぜひ本記事を参考に、骨粗鬆症の進行予防に取り組んでみてください。 なお、薬や生活習慣の改善に加え、運動機能の維持も骨粗鬆症対策の一環として重要です。とくに膝や股関節に痛みを抱える方は、日常の運動が制限されてしまうこともあります。 当院「リペアセルクリニック」では、膝の痛みや半月板損傷などの運動器疾患に対して比較的新しい治療法「再生医療」をご提案しています。「痛みの少ない治療を検討したい」「手術以外の方法を探している」という方は、ぜひメール相談やオンラインカウンセリングをご利用ください。 骨粗鬆症についてよくある質問 骨粗鬆症はいつまで治療を続ける必要があるの? 骨粗鬆症の治療は長期間に及ぶことが多く、医師の判断に基づいて継続の可否を決めることが大切です。 治療により一時的に骨密度が改善しても、薬の中断により再び骨密度が低下し、骨折リスクが高まる可能性があります。 実際にデノスマブ(プラリア®)による治療を中断した後、急激な骨密度の減少と骨折の発生件数が増えたとの報告もありました。(文献5) 「薬はいつまで続ければ良いのか」と不安になった場合は、自己判断で中断はせず、必ず主治医と相談して今後の治療計画を立てましょう。 骨粗鬆症になったら避けるべきことは? 骨粗鬆症の進行を防ぐには、日常生活での悪習慣を見直すことが重要です。とくに喫煙・過度の飲酒・運動不足は、骨の形成や維持に悪影響を及ぼすリスクがあります。以下に、それぞれの習慣が骨に与える具体的な影響をまとめました。(文献1) 避けるべき生活習慣 骨に与える悪影響 喫煙 骨の材料であるカルシウムの吸収を阻害したり、尿への排出を促したりする 過度の飲酒 カルシウムの吸収を阻害し、骨密度を低下させる 運動不足 骨への刺激が減り、骨の強度が弱くなる まずは「禁煙に挑戦する」「お酒の量を1日1杯までに抑える」「週2回は軽い運動をする」など、無理のない範囲で行動を変えることから始めましょう。 骨粗鬆症の薬には後遺症がありますか? 骨粗鬆症治療薬によって後遺症のような障害が残るケースはごくまれですが、なかには注意すべき副作用も存在します。代表的な例として、以下のようなものが報告されています。 薬の成分の例 重篤な副作用の例 アレンドロン酸(ビスホスホネート系) 顎骨壊死(文献6) デノスマブ 低カルシウム血症(文献7) テリパラチド 骨肉腫(文献8) 定期的な血液検査や歯科受診などにより、重篤な副作用は予防・早期発見が可能です。気になることがある場合は、医師に相談し、治療内容に納得した上で進めていきましょう。 参考文献 文献1 日本骨粗鬆症学会 日本骨代謝学会 骨粗鬆症財団「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」2015年,http://www.josteo.com/data/publications/guideline/2015_01.pdf 文献2 川口浩.「骨粗鬆症の基礎と最近の話題」『脊髄外科』29巻(3号), p.259-p.266, 2015年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/29/3/29_259/_pdf 文献3 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年から出典」2023年,https://www.mext.go.jp/content/20230428-mxt_kagsei-mext_00001_011.pdf 文献4 佐藤哲也、小池達也.「運動と骨」『生活衛生』36巻(5号), p.239-p.245, 1992年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei1957/36/5/36_5_239/_pdf 文献5 藤田 博曉.「骨粗鬆症に対する運動療法」『日本内科学会雑誌』111巻(4号), p765-p771, 2022年.https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/4/111_765/_pdf 文献6 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「ベネット錠2.5mg 添付文書」2024年3月改訂https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/400256_3999019F1034_1_29 文献7 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「プラリア皮下注60mgシリンジ 添付文書」2023年11月改訂https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/430574_3999435G1023_1_15 文献8 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「フォルテオ皮下注キット600μg 添付文書」2022年10月改訂https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/530471_2439400G1020_1_18
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骨粗鬆症を放置すると骨がもろくなり、骨折のリスクが高まります。とくに高齢者では、骨折をきっかけに寝たきりになることもあり、見過ごせない問題です。 診断された方の中には「どのような運動をすれば良いのかわからない」「運動しても骨折しないか不安」と感じている方もいるでしょう。 しかし、適度な運動によって骨に刺激を与えることで、骨密度の低下を防ぐ効果があるとされています。骨粗鬆症の発症や進行の予防にもつながるため、運動は食事や薬物療法と同じくらい大切です。 本記事では、骨粗鬆症におすすめの運動方法や頻度、注意点についてわかりやすく解説します。ぜひ本記事を参考に、今日から無理のない範囲で運動を取り入れてみてください。 骨粗鬆症の運動は予防・改善につながる 人の体では、古い骨は壊され、新しい骨をつくる「骨代謝」が繰り返されています。(文献1)運動によって骨に軽い刺激(微細なストレス)を与えると、骨をつくる細胞が活性化され、新しい骨の形成が促進されます。(文献2) その結果、定期的な運動は骨の健康にも良い効果をもたらすのです。 あわせて骨粗鬆症の原因を知ることで、運動の必要性をより深く理解し、継続的な予防につなげやすくなります。原因について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。 骨粗鬆症におすすめの運動法|今すぐできる具体例を紹介 骨粗鬆症におすすめの運動は以下の4つです。 かかと落とし ウォーキング 下半身の筋トレ バランス運動 本章で紹介している運動は、骨に適度な刺激を与えて骨密度の低下やバランス感覚の維持につながります。結果として、転倒や骨折のリスクを減らす効果も期待できるでしょう。 本章を参考に、自分に合った運動を今日から少しずつ取り入れてみてください。 かかと落とし かかと落としは、床にかかとを落とす軽い衝撃が骨に適度な刺激を与え、太ももの骨を強化する効果的な運動として注目されています。(文献3)特別な道具を使わず、自宅でテレビを見ながらでもできるため、手軽に取り入れやすいでしょう。 かかと落としのやり方は以下の通りです。 壁や椅子の近くに立ち、足を肩幅に開く ゆっくりつま先立ちになる ストンとかかとを床に落とす 転びそうであれば、手すりや壁に掴まりながら行うのも良いでしょう。1日あたり10〜20回を3セットの実践が理想的であるものの、無理は禁物です。最初は少ない回数から始め、体が慣れたら徐々に増やすようにしましょう。 ウォーキング ウォーキングは骨に適度な負荷をかけながら、全身の健康維持にもつながる運動です。通勤や買い物のついでに実践できるため、日常生活に取り入れやすい運動のひとつです。 歩行時の骨への物理的な刺激が骨密度の維持・向上を促します。歩くことで下半身の筋力が鍛えられるため、転倒による骨折防止にもおすすめです。 1日30分を週3〜5回ほど、通勤や買い物のついでに歩く習慣をつけると続けやすくなります。普段歩く際には、以下を意識してみてください。 背筋を伸ばす 大股で歩く 腕を大きく振る いつもより早歩きする 最初は短時間から始め、徐々に時間を延ばすと無理なく継続できます。ぜひ日常生活の一部に取り入れてみてください。 下半身の筋トレ 下半身を鍛える筋力トレーニングは、骨に適度な刺激を与え、骨粗鬆症の予防に効果があるとされています。筋力アップによって転倒リスクも下がるため、骨折の防止にもつながります。 なかでも太ももやお尻の筋肉は骨盤や大腿骨を支える重要な部位で、筋力強化により骨にかかる負担を分散できます。とくに高齢者では筋肉量の低下が骨折の一因となるため、下半身の筋トレはおすすめです。 効果的なトレーニングとして、スクワット(膝の屈伸運動)やつま先立ちを繰り返すカーフレイズ(ふくらはぎの筋力トレーニング)などが挙げられます。転倒が不安な場合は、必ず椅子や壁を支えにしながら行いましょう。運動に慣れてきたら、無理のない範囲で回数を少しずつ増やしてみてください。 バランス運動 バランス力を鍛える運動は体幹を安定させ、日常生活でのふらつきを減らすのに役立ちます。 骨粗鬆症の方は骨がもろくなっているため、転倒による骨折リスクが高くなります。そのため、バランス感覚を養い、転倒を防ぐことが大切です。 おすすめのバランス運動には、以下のような方法があります。いずれも自宅で手軽にでき、歯磨き中や家事などの隙間時間を使って始められます。 バランス運動の例 具体的な方法 片足立ち 壁や椅子に軽く手を添え、片足を上げて数秒間キープする 体重移動 足を肩幅に開き、ゆっくりと左右に体重を移動させる 上体ひねり運動 椅子に浅く腰掛け、両手を広げてゆっくりと上体を左右にひねる こうした運動を毎日続けると自然に平衡感覚が養われ、転倒への不安も軽減されるでしょう。無理のない範囲で、ぜひこまめに取り組んでみてください。 骨粗鬆症における運動の推奨頻度 骨粗鬆症の予防や改善には、週に2〜3回の運動を習慣にすることが大切です。 定期的な運動は骨に適度な刺激を与え、骨密度や骨質の向上を促します。骨にストレスを与えすぎると疲労やけがの原因になりますが、頻度が少なすぎると効果が出にくくなります。そのため、バランスの取れたペースが重要です。 実際に、週に2〜3回以上の頻度でバランス運動や筋トレを行うと、転倒リスクの低減に効果的であるとされています。(文献4)骨粗鬆症と診断された方は、まずは週に2〜3回のペースで、自分に合った運動から始めてみてください。 骨粗鬆症の運動における注意点 骨粗鬆症の方が運動をする際の注意点は、以下の4つです。 急激な動作や転倒リスクの高い運動は避ける 運動のしすぎと誤ったフォームは避ける 痛みや違和感が出たらすぐに中止する 症状に不安がある場合は事前に医師へ相談する 骨粗鬆症の方にとって、転倒や骨折のリスクを避けながら安全に運動を心がけることが大切です。事前に本章の内容を確認し、けがを防ぎながら安全に運動を取り入れましょう。 急激な動作や転倒リスクの高い運動は避ける 骨粗鬆症では骨がもろくなっており、軽い衝撃でも骨折につながることがあります。さらに、バランス能力が低下していると、転倒による重篤な骨折のリスクも高まります。 骨粗鬆症の方が避けるべき運動や動作の例は以下の通りです。安全性が確保できない運動は、無理に行わないようにしましょう。 急な方向転換を伴う運動(激しいテニスやゴルフなど) 前かがみや体を強くひねる運動 過度に重いダンベルの持ち上げ運動 不安がある場合は、必ず医師や専門家に相談して自分に合った安全な運動を選ぶようにしてください。 運動しすぎと誤ったフォームは避ける 骨粗鬆症の予防に運動は効果的ですが、やりすぎたり誤ったフォームで行ったりすると、かえって体に悪影響を及ぼす恐れもあるため注意が必要です。とくに高齢者は筋力が低下しており、骨や関節にかかる負担が大きくなると、疲労骨折や関節の炎症も起こりやすくなります。 たとえば、長時間の歩行で膝を痛めたり、背中を丸めた姿勢でのウォーキングで腰を痛めたりする場合があります。また、無理な回数のスクワットも膝に負担をかけるため注意が必要です。 運動は理想的な回数や強度よりも、正しいフォームと自分の体調に合わせることが大切です。不安がある場合は、担当の医師や理学療法士などと相談しながら取り組みましょう。 痛みや違和感が出たときは中止する 運動中に痛みや違和感を覚えた場合は、すぐに中止しましょう。 骨粗鬆症の方は骨折のリスクが高く、痛みは骨や関節の損傷、あるいは骨折・捻挫の前兆の可能性もあります。無理に続けるのは避けましょう。 軽い筋肉痛であれば問題ありませんが、鋭い痛みや長引く痛みには注意が必要です。運動中に膝や腰などに強い痛みを感じた場合は、無理せず休憩し、必要に応じて整形外科を受診してください。 症状に不安がある場合は医師に相談する 骨の状態や体力には個人差があり、自分に合わない運動はかえって体を痛めるおそれがあります。医師は骨密度や持病の有無を踏まえて、より安全な運動方法を提案してくれます。不安がある場合は、あらかじめ相談しておくと安心です。 とくに以下に該当する方は、思わぬけがや症状悪化の予防のために事前の相談をおすすめします。 過去に骨折歴がある 歩行時にふらつきがある 他の持病を抱えている 少しでも不安がある方は自己判断せず、医師や理学療法士などの指導を受けながら安全に運動を続けましょう。 骨粗鬆症予防のためにも今日から運動を始めてみよう! 骨粗鬆症の進行を抑えるには、日常的に運動を取り入れることが大切です。骨に適度な刺激を与えることで、骨密度の維持や転倒リスクの軽減が期待できます。自分にとって無理のない運動を今日から始めてみてください。 ただし、骨粗鬆症の方は関節や筋肉が弱くなっていることも多く、運動によって膝や股関節に痛みが出る場合もあります。手術が必要になることもありますが、できるだけ避けたい方には切らずに治療できる「再生医療」もおすすめです。 当院「リペアセルクリニック」では幹細胞を活用した再生医療に対応しており、膝や股関節などの慢性的な痛みに対する治療も行っています。今ならメールまたはオンラインカウンセリングにて無料相談を受付中です。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。 骨粗鬆症の運動に関してよくある質問 骨におすすめの食べ物や飲み物は? 骨を強く保つには、以下のようなカルシウム・ビタミンD・ビタミンKが含まれた食材の摂取がおすすめです。 栄養素 働き 主な食材例(文献8) カルシウム 骨量を維持する(文献5) 魚介類(えびやかに)、牛乳など ビタミンD カルシウムの吸収を補助する(文献6) キノコ類(きくらげ)、魚介類(かつおやいわし)など ビタミンK 骨代謝のバランスを整える(文献7) 緑茶類、藻類(わかめやのり)など 毎日の食事で不足しがちな栄養素を意識して摂取すると、運動とあわせて骨の健康維持が期待できます。ただし、カルシウムやビタミンDは過剰症も報告されているため、摂りすぎには注意しましょう。(文献9) また、こうした栄養管理を通じて、薬に頼らずに骨粗鬆症の予防に取り組めます。詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。 かかと落としの効果が出るまでどのくらいかかりますか? かかと落としの効果が現れるまでには、少なくとも数カ月の継続が必要です。 骨の代謝サイクルは約1〜4年とされており、運動による刺激が骨密度に反映されるまでには時間がかかります。(文献1)骨粗鬆症の予防効果を得るには短期間で結果を求めず、日々の習慣として継続的に行うことが大切です。 骨密度が高い人の特徴はなんですか? 骨密度を高く保っている人には、以下のような特徴があります。 日常的に体を動かす習慣がある カルシウムやビタミンを意識して摂っている 栄養バランスの整った食事を心がけている 日頃から階段を使用している 骨密度は20〜30代にかけてピークを迎え、加齢とともに徐々に減少します。(文献4)だからこそ、これらの生活習慣を取り入れ、将来的な骨密度の低下を防ぐことが大切です。 今からでも遅くはありません。運動や食生活を見直し、骨密度の維持・改善に取り組みましょう。 参考文献 文献1 川口浩.「骨粗鬆症の基礎と最近の話題」『脊髄外科』29巻(3号), p.259-p.266, 2015年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/29/3/29_259/_pdf 文献2 佐藤哲也、小池達也.「運動と骨」『生活衛生』36巻(5号), p.239-p.245, 1992年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei1957/36/5/36_5_239/_pdf 文献3 藤田 博曉.「骨粗鬆症に対する運動療法」『日本内科学会雑誌』111巻(4号), p765-p771, 2022年.URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/4/111_765/_pdf 文献4 日本骨粗鬆症学会 日本骨代謝学会 骨粗鬆症財団「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」2015年,http://www.josteo.com/data/publications/guideline/2015_01.pdf 文献5 久保田 恵.「カルシウム摂取による骨折・骨粗鬆症予防のエビデンス」『日本衛生学雑誌』58巻(3合), p.317-p.327, 2003年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjh1946/58/3/58_3_317/_pdf 文献6 竹内靖博.「骨・カルシウム代謝異常症におけるビタミンDの役割」『臨床リウマチ』25巻, p.198-p.202, 2013年https://www.jstage.jst.go.jp/article/cra/25/3/25_198/_pdf 文献7 鈴木啓章.「ビタミンKの健康栄養機能に関する最近の知見」『オレオサイエンス』14巻(12号), p.555-p.561, 2014年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/14/12/14_555/_pdf/-char/ja 文献8 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年から出典」2023年,https://www.mext.go.jp/content/20201225-mxt_kagsei-mext_01110_011.pdf 文献9 厚生労働省「「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書」2024年,https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316585.pdf
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「骨粗鬆症の予防や改善に効果的な食べ物はある?」と疑問にお持ちの方も多いのではないでしょうか。 骨密度の低下を未然に防ぐため、骨を強くする食材を普段の食事に取り入れたい人もいるかもしれません。 骨粗鬆症は、年齢とともに骨がもろくなり、骨折のリスクが高まる病気です。とくに女性は閉経後に骨密度が急激に低下しやすいため、日々の食事で骨を強く保つことが大切です。 この記事では、骨粗鬆症予防に役立つ食べ物や食事の工夫について、詳しく解説します。 今日から始められる骨ケアの秘訣を見つけてみましょう。 骨粗鬆症予防におすすめの食べ物は「牛乳・魚・野菜・大豆」 骨を丈夫に保つには、特定の栄養だけでなく、いくつもの栄養素をバランスよくとることが大切です。 特におすすめの食べ物は以下の4種類です。 食べ物の種類 骨粗鬆症の予防効果 牛乳(乳製品) カルシウムが豊富で骨を強くする 魚 ビタミンDがカルシウムの吸収をサポート 野菜 ビタミンKで骨にカルシウムを定着 大豆・卵・海藻 骨の形成と維持に役立つ栄養素が豊富 骨粗鬆症の予防に効果的な食べ物を知り、普段の食事に取り入れていきましょう。 牛乳(乳製品)|カルシウムが豊富で骨を強くする 牛乳や乳製品は、骨をつくるカルシウムの代表的な供給源です。 カルシウムは骨や歯をつくる材料として欠かせない栄養素で、筋肉や神経の働きにも関係しています。 不足すると骨がもろくなり、骨粗鬆症のリスクが高まってしまうため積極的に摂りたい食品です。(文献1) たとえば、牛乳1杯(200g)には約220mgのカルシウムが含まれており、1日に必要な量の約1/3を補えます。(文献2) チーズやヨーグルトを組み合わせれば、より摂り入れやすくなります。 毎日コップ1杯の牛乳から、骨の健康を意識してみましょう。 魚|ビタミンDがカルシウムの吸収をサポート 魚に含まれるビタミンDは、カルシウムを体に吸収しやすくする働きがあります。 ビタミンDが不足すると、カルシウムを摂ってもうまく吸収されず、骨密度が低下してしまいます。(文献1) また、ビタミンDは日光に当たることで体の中で作られますが、年を重ねるとその働きが弱くなってしまうのです。(文献3) そのため、日光に当たる機会が少ない人や高齢者は、食品からビタミンDをしっかり摂りましょう。 とくに、鮭、いわし、さんまなどの脂ののった魚には、ビタミンDが多く含まれています。 焼き魚や缶詰などでも手軽にとれるので、日々の食事に取り入れやすいのもポイントです。 魚を積極的に食べて、カルシウムの力をしっかり活かしましょう。 野菜|ビタミンKで骨にカルシウムを定着 ビタミンKは、カルシウムを骨にとどめるのに欠かせない栄養素です。 カルシウムをしっかりとっても、それが骨に定着しないと骨は強くなりません。 ビタミンKは、カルシウムが骨に沈着するのを助ける働きがあり、骨粗鬆症の予防薬としても活用されています。(文献4) たとえば、小松菜、ほうれん草などの緑の葉物や納豆はビタミンKが豊富です。 おひたしやみそ汁、炒め物などに取り入れやすく、栄養バランスも整います。 日々の健康管理に役立つ野菜は、骨の健康にも役立ちます。 毎日の食事に、少しずつでも取り入れていきましょう。 大豆・卵・海藻|骨の形成と維持に役立つ栄養素が豊富 大豆製品や卵、海藻には、骨をつくるために大切な栄養素が豊富に含まれています。 たとえば、大豆や卵に多く含まれるたんぱく質は、筋肉や皮膚だけでなく、骨の土台になる「コラーゲン」をつくる材料になります。(文献4) また、海藻に多いマグネシウムは、カルシウムと一緒に骨の形成をサポートしてくれる栄養素です。 不足すると骨がもろくなるリスクがあるため、積極的に摂りましょう。(文献1) さらに、大豆に含まれるイソフラボンには、女性ホルモンに似た働きがあります。 女性ホルモンは骨密度の維持を助ける働きがあるため、分泌が低下した閉経後の女性は骨粗鬆症になるリスクが上昇します。そこで、女性ホルモンに似たイソフラボンは、閉経後の骨の健康をゆるやかにサポートできる可能性があるのです。(文献5) 納豆や豆腐、味噌などの大豆製品は、日本人の食生活にもなじみ深く、日々の食事に取り入れやすいのが魅力です。 味噌汁や納豆、卵焼き、ひじきの煮物など、身近な和食メニューの中には、骨の健康を支える要素がたくさんつまっています。 できることから毎日の習慣にしていきましょう。 【過剰摂取に注意】骨粗鬆症で食べてはいけないもの 骨の健康を守るためには、摂取を控えた方が良い食品もあります。 以下の食品は、過剰に摂取するとカルシウムの吸収を妨げたり、カルシウムの排泄を促進したりするため、注意が必要です。 インスタント食品や加工食品|塩分が多い食べ物 コーヒーや紅茶|カフェインを含む飲み物 お菓子やジュース|糖分が多い食べ物・飲み物 ひとつずつ詳しくみていきましょう。 インスタント食品や加工食品|塩分が多い食べ物 インスタントラーメンやスナック菓子、加工食品には塩分が多く含まれています。 塩分を摂りすぎると、尿中にカルシウムが排泄されやすくなり、骨からカルシウムが失われる原因となります。(文献6) 日常的に塩分の摂取量を意識し、減塩を心がけましょう。 コーヒーや紅茶|カフェインを含む飲み物 コーヒーや紅茶、緑茶などに多く含まれるカフェインも、骨の健康に影響を与えるといわれています。 カフェインには、カルシウムの吸収を妨げたり、尿と一緒に排出されやすくしたりする働きがあります。(文献6) そのため、カルシウム不足を引き起こし、骨粗鬆症や骨折のリスクが高まることがあるのです。 「コーヒーを1日何杯までに抑えるべきか」については、明確な基準はありませんが、1日5杯以上飲むと骨に影響が出るとの報告もあります。(文献7) 骨の健康を守るためにも、飲みすぎには気をつけて、適量を心がけましょう。 お菓子やジュース|糖分が多い食べ物・飲み物 砂糖を多く含むお菓子やジュースは、カルシウムの吸収を妨げる可能性があるといわれています。 (文献8) さらに、これらをとりすぎることで、食事全体のバランスが崩れ、必要な栄養素が足りなくなるおそれもあります。 骨の健康を守るためにも、甘いものは控えめにして、栄養バランスの良い食事を意識しましょう。 骨粗鬆症に必要な栄養素一覧 骨の健康を守るには、栄養がどれくらい必要なのかも知っておきたいところです。 次の表で、必要な量と実際の摂取量を見比べてみましょう。(文献1)(文献9)(文献10)(文献11) <骨粗鬆症予防で大切な栄養素の目標量と平均摂取量> 栄養素 推奨量 平均摂取量(60代女性) カルシウム 656~669mg/日 518mg/日 ビタミンD 9.0μg/日 7.0μg/日 ビタミンK 150μg/日 252μg/日 たんぱく質 50g/日 67.7g/日 マグネシウム 310~320mg/日 252mg/日 ビタミンK、たんぱく質は足りている一方で、ビタミンDやカルシウム、マグネシウムは不足しがちなことがわかります。 日々の食事でこれらの栄養素を意識的に摂取することが大切です。 骨粗鬆症予防におすすめの食べ合わせ5選 毎日の食事に取り入れやすい、骨粗鬆症予防に効果的な食べ合わせをご紹介します。 これらの組み合わせを参考に、できることから始めていきましょう。 ヨーグルト × きな粉 ヨーグルトにきな粉をかけるだけで、カルシウム、たんぱく質、イソフラボンを一度に摂取できます。 腸内環境も整いやすく、骨の健康と合わせて整えたい人にぴったりです。 朝食やおやつにぜひ試してみてください。 ただし、きな粉はむせやすいため、よく混ぜてから食べると良いでしょう。 納豆 × 小松菜 × 味噌汁 納豆と小松菜を味噌汁の具にすると、ビタミンKとたんぱく質、イソフラボンを同時に補給できます。 納豆はご飯にかけるだけではなく、味噌汁の具にしたり、ゆでた葉物野菜と和えてもおいしく食べられます。 無理なく続けるためにも、いろいろな食べ方を楽しんでみてください。 鮭 × 干ししいたけ × オリーブオイル 鮭と干ししいたけをオリーブオイルで炒めたり焼いたりすると、ビタミンDの吸収率がぐんとアップします。 干ししいたけは日光に当てるとビタミンDがさらに増えるため、調理前に30分ほど日干しするのもおすすめです。(文献12) 豆腐 × ひじき 豆腐とひじきを組み合わせることで、マグネシウムとカルシウム、たんぱく質、イソフラボンを補えます。 煮物や白和えなどにすれば、日々の副菜として自然に取り入れやすく、食卓の栄養バランスが整いやすくなります。 チーズ × ブロッコリー × 卵 チーズ、ブロッコリー、卵を使った料理は、カルシウム、ビタミンK、たんぱく質が一皿でとれるメニューです。 たとえば、チーズオムレツにゆでたブロッコリーを添えるだけでもOKです。 彩りも良く、食欲をそそる一品になります。 【骨粗鬆症】食事で補いきれないときは受診も検討 骨に良い食事を意識していても、加齢や女性ホルモンの変化によって、骨密度が下がってしまうことがあります。 骨粗鬆症は、痛みなどの症状が出る前に進行しているケースも多いため、早めに気づくことが大切です。 とくに、腰や背中の痛み、身長の縮み、背中の丸まりが気になっている人は、骨がもろくなっているサインかもしれません。(文献13) 「まだ症状がないから大丈夫」と思っていても、骨密度の検査を受けておくと良いでしょう。 医師のアドバイスを受けながら、薬の力を借りることも予防につながります。 「自分で気をつけるだけでは心配」という方は、一度医療機関で相談してみましょう。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングも受け付けています。 骨粗鬆症について不安がある方や、どこに相談すれば良いかわからない方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。 乳製品や大豆製品を摂って骨粗鬆症を予防しよう 骨を丈夫に保つためには、毎日の食事でさまざまな栄養素をバランス良くとることが大切です。 年齢を重ねると、カルシウムやたんぱく質などの栄養が不足しやすくなり、骨がもろくなってしまいます。 毎回の食事でしっかり栄養を摂り、骨粗鬆症を予防しましょう。 たとえば、牛乳やヨーグルト、魚、大豆製品、緑黄色野菜などを組み合わせると、カルシウム・ビタミンD・ビタミンK・たんぱく質など、骨の健康に欠かせない栄養素を効率よく摂れます。 無理のない範囲で食事を見直しながら、不安があるときは医師に相談してください。 できることから、骨の健康づくりをはじめてみましょう。 骨粗鬆症の食事に関するよくある質問 骨粗鬆症におすすめの飲み物はありますか? カルシウムやたんぱく質を含む牛乳や豆乳は、骨粗鬆症対策になる飲み物です。 豆乳は毎日飲みやすく、女性にうれしい大豆イソフラボンも摂取できます。 また、小松菜やバナナ、牛乳や豆乳、ヨーグルトなどをミキサーにかけて作るスムージーは、栄養バランスもよく、骨の健康にもぴったりです。 栄養たっぷりのスムージーを、朝食の一杯として取り入れてみてはいかがでしょうか。 骨粗鬆症にお酢は良くないですか? 「魚の骨が酢でやわらかくなるから、自分の骨もやわらかくなるのでは?」と不安に思う方もいますが、心配はいりません。 酢には、むしろカルシウムの吸収を助けるはたらきがあります。 魚の骨がやわらかくなるのは料理中の変化で、体の中で骨が溶けてしまうわけではありません。(文献7) 酢の物や、魚の酢煮など、食事の中に上手にとり入れていきましょう。 参考文献 (文献1) 「日本人の食事摂取基準(2025年版」策定検討会報告書令和6年10月,https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf (文献2) 農林水産省「大切な栄養素カルシウム」みんなの食育,https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/minna_navi/topics/topics1_05.html (文献3) 厚生労働省「ビタミンD」eJIM,https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/10.html (文献4) 上西一弘「特集/「骨」から考えるリハビリテーション診療一骨粗髭症・脆弱性骨折一骨の健康のための栄養」『MB Med Reha』270,pp59-65,2022,https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/%E8%B3%87%E6%96%99%E2%91%A6%E9%AA%A8%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E6%A0%84%E9%A4%8A%E3%80%80MB%20Med%20Reha%20270%2059-65%202022%E3%80%80.pdf (文献5) 石見佳子「大豆イソフラボンの骨代謝調節作用」『日本栄養・食糧学会誌』76(5),PP291-296,2023,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs/76/5/76_291/_pdf (文献6) 厚生労働省「カルシウム」eJIM,https://www.ejim.mhlw.go.jp/pro/overseas/c03/01.html (文献7) 公益財団法人骨粗鬆症財団「予防について」骨粗鬆症財団ホームページ,https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/faq/faqprevention.html#Q4 (文献8) 津志田藤二郎ほか「アクティブシニア社会の食品開発指針」2006年9月7日,https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2006/063011/200619043A/200619043A0013.pdf (文献9) 厚生労働省「令和5年国民健康・栄養調査結果の概要 」,https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf (文献10) 公益財団法人長寿科学振興財団「ビタミンKの働きと1日の摂取量」『健康長寿ネット』2016年7月25日,https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/vitamin-k.html (文献11) 厚生労働省「マグネシウム」eJIM,https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/13.html#d02 (文献12) 厚生労働省「ケア・スポット 健康経営推進プロジェクト 健康だより9月」安全衛生課 衛生委員会2022年9月,https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzenproject/member/care-spot/images/2_b.pdf (文献13) 河路 秀巳,伊藤 博元「骨粗鬆症の診断と治療」『日医大医会誌』5(1),pp41-46,2009,https://www.jstage.jst.go.jp/article/manms/5/1/5_1_41/_pdf
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「背中が痛い」 「最近腰が曲がってきた気がする」 その症状は、もしかしたら骨粗鬆症(こつそしょうしょう)かもしれません。 「骨粗鬆症」とは、骨の中がスカスカになってもろくなり、骨折しやすくなる病気です。自覚症状がないまま進行し、気づいたときには骨折をしていた、というケースもあります。 この記事では、骨粗鬆症であらわれやすい症状や、病院に行くべきタイミングについてご紹介します。骨粗鬆症の症状について知ることで、早めの対策ができれば幸いです。 骨粗鬆症の主な症状 骨粗鬆症の主な症状は以下の3つです。 背中や腰の鈍い痛みが続く 身長が縮む・姿勢が悪くなる 転倒や軽い動作でも骨折するようになる 今の自分に出ている症状に当てはまるものがないか、確認してみましょう。 背中や腰の鈍い痛みが続く 骨粗鬆症が進むと、背骨がもろくなって小さな骨折を起こすことがあります。 これを「脊椎圧迫骨折」といい、気づかないうちに起きているケースも珍しくありません。 また、骨の内部の「骨梁(こつりょう)」と呼ばれる細かい骨の構造が折れることによる痛みもあります。(文献1) 背中や腰の痛みが続くと「年のせいかな」「少し無理をしたからかな」と思いがちですが、実は骨粗鬆症が関係している可能性もあるのです。 身長が縮む・姿勢が悪くなる 「最近、昔より背が低くなった気がする」そんな変化も、骨粗鬆症のサインのひとつです。 背骨がつぶれるように骨折・変形してしまうと、自然と姿勢も丸くなり、身長が数センチ縮むことがあります。 とくに、若いころと比べて男性は6cm、女性は4cm以上の変化がある場合は、背骨の骨折が進んでいる可能性が高いといわれています。(文献2) 転倒や軽い動作でも骨折するようになる ふとした拍子に尻もちをついたり、重い荷物を持ち上げたりしただけで、骨が折れてしまうのも骨粗鬆症の症状のひとつです。 とくに背中、太もものつけ根、手首、腕のつけ根、肋骨などが折れやすくなります。 こうした骨折が重なると、さらに体を動かすのがつらくなり、生活に大きな影響を与えます。(文献1) 骨粗鬆症の初期症状は気づきにくい 骨粗鬆症は、骨がもろくなっても、痛みなどの自覚症状が出るとは限りません。多くの場合、初めて気づくのは「骨折してから」です。(文献1) とくに閉経後の女性は、女性ホルモンの減少によって骨密度が急激に低下しやすくなります。(文献2) 痛みがなくても、定期的に骨密度を測る、食事や運動に気を配るといった予防意識が大切です。 また、過度なダイエットやステロイドなどの薬の影響でも、骨が弱くなることがあります。(文献3) 骨粗鬆症の症状セルフチェックリスト 骨粗鬆症の兆候に気づくには、まずは自分の体の変化をチェックしてみましょう。 このチェックリストは、公益財団法人 骨粗鬆症財団が公開する「骨の健康度チェック表」より引用しています。(文献5) 次の項目のうち、当てはまるものの点数を合計してください。 あなたの骨の健康度がわかります。 1 牛乳、乳製品をあまりとらない 2点 2 小魚、豆腐をあまりとらない 2点 3 たばこをよく吸う 2点 4 お酒はよく飲む方だ 1点 5 天気のいい日でも、あまり外に出ない 2点 6 体を動かすことが少ない 4点 7 最近、背が縮んだような気がする 6点 8 最近、背中が丸くなり、腰が曲がってきた気がする 6点 9 ちょっとしたことで骨折した 10点 10 体格はどちらかと言えば細身だ 2点 11 家族に「骨粗鬆症」と診断された人がいる 2点 12 糖尿病や、消化管の手術を受けたことがある 2点 13 (女性)閉経を迎えた(男性)70歳以上である 4点 引用:公益財団法人 骨粗鬆症財団|骨の健康度チェック表 結果の見方 あなたの合計点数に当てはまる項目をご覧ください。 2点以下 今は心配ないと考えられます。これからも骨の健康を維持しましょう。 改善できる生活習慣があれば、改善しましょう。 3点~5点 骨が弱くなる可能性があります。気を付けましょう。 6点~9点 骨が弱くなっている危険性があります。注意しましょう。 10点以上 骨が弱くなっていると考えられます。 一度医師の診察を受けてみてはいかがですか。 引用:公益財団法人 骨粗鬆症財団|骨の健康度チェック表 ご自身の骨の状態を知る目安として、参考にしてみてください。 骨粗鬆症の症状を放置するリスク3選 骨粗鬆症の症状を放置すると、下記のようなリスクが考えられます。 骨折の連鎖で、さらに骨がもろくなる 痛みや動きにくさで、日常生活が制限される 寝たきりや介護が必要な状態になる 本章で骨粗鬆症を放置するリスクを理解し、早期発見・早期対策を考えましょう。 骨折の連鎖で、さらに骨がもろくなる 背骨が一カ所でも折れると、そこに負担が集中し、周りの骨まで折れやすくなります。 たとえば、太ももの付け根を骨折した場合、反対側の太ももの骨を骨折してしまう人は10人に1人というデータもあります。(文献6) 骨折の連鎖が起きる原因は、元々骨が弱くなっているためや骨折により転びやすくなること、反対側の骨に力が入りやすいことなどが考えられます。(文献6) 痛みや動きにくさで、日常生活が制限される 骨粗鬆症からの骨折による背中や腰の痛みは、日常生活にじわじわと影響を及ぼします。 掃除や洗濯、買い物といった家事が負担になったり、外出をためらうようになったりすることもあるでしょう。 また、重い荷物を持ち上げるのが怖くなったり、孫を抱っこしたくてもできなかったりと、これまで当たり前にできていた動作が困難になっていきます。 痛みや動きづらさのせいで行動範囲が狭くなると、日々の楽しみや穏やかな毎日がおびやかされる可能性があるのです。 寝たきりや介護が必要な状態になる 骨粗鬆症による背中や腰の痛み、そして度重なる骨折は、日常生活の自由を奪うだけでなく、寝たきりになるリスクにもつながります。 とくに注意したいのが、太もものつけ根(大腿骨)の骨折です。 この部位を骨折すると、長期間のリハビリが必要になるケースも少なくありません。 高齢になると手術やリハビリの負担は大きく、体力や筋力が一気に落ちがちです。 その結果、自分で歩けなくなり、介護が必要になるケースもあります。 転倒をきっかけに生活が一変することもあるため、日頃から骨の健康を意識しておくことが大切です。(文献7) 骨粗鬆症の症状が気になったら迷わず医療機関へ 骨粗鬆症は、痛みなどのはっきりした症状が出にくく、自分では気づきにくい病気です。 「少し背中が痛いだけ」「年のせいかな」と思っていても、実は骨がもろくなり、骨折のリスクが高まっていることもあります。 そのため、骨折してしまう前に、医療機関で骨の状態を確認しておくことが大切です。 病院では、骨密度の測定やレントゲン検査が行われ、現在の骨の状態や将来的なリスクがわかります。(文献6) 骨粗鬆症は、早めの対策で進行を防げる病気です。 「検査までは…」と迷っている方も、まずは相談だけでもしてみてはいかがでしょうか。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングも受け付けています。 骨粗鬆症の症状について不安がある方や、どこに相談すれば良いかわからない方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。 骨粗鬆症の症状が出たときの対策と治療法 骨粗鬆症の主な治療法は下記のとおりです。 外科治療 薬物療法 生活習慣の見直し かかりつけの医師とも相談しながら、適切な治療を進めていきましょう。 外科治療 骨折が見つかった場合は、状態に応じて外科的な治療が行われます。 もっとも一般的なのは、コルセットやギプスなどを使って骨を固定し、安静に過ごす方法です。 こうすることで骨の回復を促し、痛みを軽減させられます。 背骨の圧迫骨折などでは、簡易的なコルセットを数週間着けるだけで改善するケースもありますが、痛みが強い、骨のつぶれが大きい、骨が不安定な状態にあるといった場合には、手術が検討されることもあります。 おこなわれる手術は、骨を金属で固定する手術、骨にセメントを注入する手術などです。 再発や別の箇所の骨折を防ぐために、治療後も日常生活の工夫やリハビリの継続が大切です。(文献8) 薬物療法 骨粗鬆症の治療では、薬によるサポートも重要です。 薬は大きく分けて2種類あり、ひとつは「骨が溶け出すのを防ぐ薬」、もうひとつは「骨を新しく作る力を高める薬」です。 どちらの薬も「飲めばすぐ治る」わけではなく、継続して使うことで効果が発揮されます。 自己判断で中止してしまうと、せっかく改善していた骨密度が再び低下し、骨折のリスクが高まるおそれがあるため、続けることが大切です。 また、毎日服用するものや週に1回の服用で良いタイプなど、さまざまな種類の薬があります。(文献1) 気になることは医師や薬剤師に相談してみてください。 生活習慣の見直し 骨粗鬆症の予防や進行を抑えるためには、薬や治療だけでなく、毎日の生活習慣にも気を付ける必要があります。 なかでも重要なのが、栄養バランスのとれた食事と、無理のない運動の継続です。 食事の面では、カルシウム・ビタミンD・ビタミンKを意識してとるようにしましょう。(文献1) カルシウムは骨の材料となる栄養素で、牛乳やチーズ、小魚、大豆製品などに豊富に含まれています。 ビタミンDはカルシウムの吸収を助ける働きがあり、鮭や卵黄、きのこ類などから摂取可能です。 ビタミンKは骨の質を高める役割があり、納豆や小松菜などに多く含まれます。(文献9) 運動については、激しい運動をする必要はありません。 散歩や階段の上り下り、買い物など、日常の中で体を動かすことを意識するだけでも太ももの付け根の骨折予防になるといわれています。(文献1) また、喫煙や過度の飲酒は骨を弱くする原因になるといわれています。 これらを控えることも、骨を守る上で大切な生活習慣のひとつです。 生活の中でできる小さな工夫を積み重ねていくことで、将来の骨折リスクを下げ、健やかな毎日を送ることができます。(文献10) 骨粗鬆症の症状があらわれたら早めの受診を心がけよう 背中の痛みや身長の縮みは、骨粗鬆症のサインかもしれません。 骨粗鬆症は、自覚症状が出にくく、気づかないうちに進行してしまう病気です。 そして、いったん骨折すると、その後の生活に大きく影響してしまう可能性もあります。 背中や腰の痛み、姿勢の変化、骨折しやすさなどが気になるときは、できるだけ早めに医療機関に相談してみてください。 骨密度の検査やレントゲン検査を受けることで、自分の骨の状態がわかります。 予防も治療も、早いうちから始めることが大切です。 「まだ大丈夫」と思わず、体からのサインにしっかり目を向けてあげましょう。 骨粗鬆症の症状に関するよくある質問 骨粗鬆症の症状はどんな痛みがありますか? 骨粗鬆症による背骨の圧迫骨折では、「体動時腰痛(たいどうじようつう)」と呼ばれる特徴的な痛みがあらわれることがあります。 とくに、寝ている姿勢から起き上がろうとしたときに鋭い痛みが走り、一度立ち上がってしまえば痛みが軽減されるのが特徴です。(文献11) 骨粗鬆症は男性でもなりますか? 男性でも骨粗鬆症になるケースはあるため、注意が必要です。 骨粗鬆症というと女性の病気と思われがちですが、実は患者の4人に1人は男性だといわれています。 とくに病気や薬、栄養不足などが重なると、男性でも骨密度が低下しやすくなります。(文献12) 男性だから大丈夫とは思わず、違和感があれば早めに検査を受けることが大切です。 参考文献 (文献1) 河路 秀巳,伊藤 博元「骨粗鬆症の診断と治療」『日医大医会誌』5(1),pp41-46,2009,https://www.jstage.jst.go.jp/article/manms/5/1/5_1_41/_pdf (文献2) 折茂 肇「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年版」2015年6月,http://www.josteo.com/data/publications/guideline/2015_01.pdf#page=37 (文献3) 日本臨床内科医会「骨粗鬆症の原因」女性のミカタ,https://jyoseinomikata.jp/osteoporosis/cause.html (文献4) 公益財団法人骨粗鬆症財団「どんな人がなりやすい」骨粗鬆症財団ホームページ,https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/tabid250.html#:~:text=%E9%AA%A8%E7%B2%97%E9%AC%86%E7%97%87%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%9B%A0,%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82&text=%E3%81%BE%E3%81%9F%E3%80%81%E5%8D%B5%E5%B7%A3%E6%91%98%E5%87%BA%E3%83%BB%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85%E3%83%BB,%E9%96%A2%E4%BF%82%E3%81%AA%E3%81%8F%E7%99%BA%E7%97%87%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82 (文献5) 公益財団法人骨粗鬆症財団「骨の健康度チェック表」骨粗鬆症財団ホームページ,https://www.jpof.or.jp/Portals/0/images/osteoporosis/inspection_treatment/03/02/Op_health_check_Leaflet.pdf (文献6) 竹内 靖博.「骨粗鬆症の診断とガイドラインの変遷」『日本内科学会雑誌』111(4),pp732-738,2022,https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/4/111_732/_pdf (文献7) 日本臨床内科医会「骨粗鬆症ってどんな病気?」女性のミカタ,https://jyoseinomikata.jp/osteoporosis/ (文献8) 独立行政法人国立病院機構 村山医療センター「骨粗鬆症に関するご案内」村山医療センターホームページ,https://murayama.hosp.go.jp/orthopedics/illness/kotsusosho.html (文献9) 公益財団法人骨粗鬆症財団「骨粗鬆症における栄養」骨粗鬆症財団ホームページ,https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/nutrition/tabid257.html (文献10) 公益財団法人骨粗鬆症財団「タバコや酒の影響について」骨粗鬆症財団ホームページ,https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/nutrition/cigarette.html (文献11) 一般社団法人日本整形外相学会「骨折について」日本整形外傷学会ホームページ,2009年7月,https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip02.html (文献12) 日本医師会日医ニュース「男性の骨粗鬆症」健康ぷらざ,2018年6月20日,https://www.med.or.jp/dl-med/people/plaza/503.pdf
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「同年代の人が骨粗鬆症で骨折して大変そう。自分は大丈夫かな?」 「骨粗鬆症の検査を受けたことがないから、何をするのかわからない」 このような不安を抱えている方もいらっしゃるでしょう。 骨粗鬆症は自覚症状がないまま進行し、気づいたときには骨が折れやすい状態になっていることもあります。 知らずにそのまま放置してしまうリスクはさらに高まり、実際に骨折して日常生活に影響を及ぼすかもしれません。 だからこそ骨粗鬆症の検査は、自身の骨の状態を知り、早めに適切な対策を始めるための一歩となります。 本記事では、骨粗鬆症の4つの検査方法や検査を受けるべき人の特徴、検査が可能な場所を解説します。 骨の健康について考えるきっかけとなれたら幸いです。 骨粗鬆症の検査方法 骨粗鬆症のおもな検査は、以下のとおりです。 骨密度検査(骨量測定) 血液検査・尿検査(骨代謝マーカーの検査) レントゲン検査 身長測定 これらの検査の結果から、骨粗鬆症の診断や治療方針の決定に必要な情報が得られます。 それぞれ詳しく見ていきましょう。 骨密度検査(骨量測定) 骨密度検査は、骨の中にどのくらいのミネラル成分が含まれているかを調べる検査です。 一般的に、ミネラル成分が少ないほど骨密度が低いとされ、骨がもろく骨折しやすい状態だと考えられています。 骨密度のおもな測定方法は、以下のとおりです。 骨量の測定方法 説明 使用する機械 DXA(デキサ)法 ・脚の付け根と腰の骨密度を測定する ・精度が高い分、時間がかかる レントゲン(X線) MD法 ・手の骨密度を測る ・簡単だが、精度が下がる QUS法 ・かかとの骨密度を測る ・被ばくせず簡便だが、精度の誤差が大きい 超音波 自身の希望や、医療機関によって検査方法は異なります。 たとえば「少し時間がかかってもしっかりとした検査を受けたい」といった方にはDXA法がおすすめです。一方、「まずは手軽に検査してみたい」と考える方にはQUS法が適しています。 まずは、近くの医療機関にどんな検査があるか問い合わせてみるのが良いでしょう。 血液検査・尿検査(骨代謝マーカーの検査) 血液検査や尿検査では「骨代謝マーカー」とよばれる項目を調べます。 ヒトの骨は、新しい骨が作られ、古い骨が壊されて吸収される「骨代謝」のサイクルを常にくり返しています。(文献1) 骨代謝マーカーは骨の代謝の過程で出てくる物質のことで、これらの数値を調べることで骨の「壊れるスピード」と「作られるスピード」のバランスがどうなっているのかがわかるのです。 おもに以下の項目をチェックします。 骨代謝マーカーの種類 検査項目 説明 骨吸収マーカー ・TRAPC5b(酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ) ・DPD(デオキシピリジノリン) ・NTX(Ⅰ型コラーゲン架橋N-テロペプチド) ・CTX(Ⅰ型コラーゲン架橋C-テロペプチド) ・1CTP(Ⅰ型コラーゲンC末端テロペプチド) <高い場合> 骨吸収(骨の破壊)が進んで骨密度の低下を招くリスクがある <低い場合> 骨の代謝が低下している可能性がある 骨形成マーカー ・BAP(骨型アルカリフォスファターゼ) ・OC(オステオカルシン) ・ucOC(低カルボキシル化オステオカルシン) ・P1NP(Ⅰ型コラーゲンN-プロペプチド) ・P1CP(Ⅰ型コラーゲンC-プロペプチド) 骨吸収が起こってはじめて骨形成がはじまるため、単独で高くなることは少ない 参考:骨代謝とは|日本骨代謝学会(文献1) たとえば、骨吸収マーカーが高く、骨形成マーカーが正常である場合「骨が壊れるスピードは速くなっているのに、新しく骨が作られるスピードは普段どおり」といった状態を示しています。 つまり、骨の破壊に形成が追いつかず、骨の量が減少しやすい状況です。 骨代謝マーカーの検査は、骨の代謝のどの部分に異常があるのかを明らかにします。 それによって、将来的に骨密度がどのくらい減少しやすいのか、骨折のリスクが高いのかを評価できるのです。 レントゲン検査 レントゲン検査は、骨折や骨の変形の有無、骨の密度を確認するためにおこないます。(文献2) 骨粗鬆症が進行している場合、次のような変化が画像に現れることがあります。(文献3) 背骨が変形している 骨の中の網目模様がはっきり見えない 背骨全体がいつもより黒っぽく見える また、気づかないうちに起きている背骨の小さな骨折を発見するのにも、レントゲン検査は有効です。 たとえば高齢者では、骨粗鬆症によって軽い衝撃で背骨が折れてしまうケースが少なくありません。(文献4) こうした骨折を早期に発見し、治療や予防につなげる役割を果たすのが、レントゲン検査です。 なお、レントゲンによる被ばく線量は少なく、健康への影響もほとんどないと言われているため、過度に心配せず検査を受けてみましょう。 身長測定 身長の測定は、骨粗鬆症による背骨の圧迫骨折や変形を早期発見する手がかりになります。 とくに背骨がつぶれるように変形すると、数センチ単位で身長が縮むことも少なくありません。 いくつかの海外研究では、若いころと比較して身長の低下がある場合、背骨の骨折のリスクが高まると報告しています。(文献2) 25歳頃の身長と比較してどの程度縮んでいるかの確認が、骨粗鬆症の診断に役立ちます。 【検査推奨】骨粗鬆症になりやすい人の特徴 骨粗鬆症は、以下にあてはまる方に起こりやすいと言われています。(文献5) 閉経後の女性 高齢 やせ型 運動不足 喫煙、飲酒 骨折既往歴 ステロイド服用歴 遺伝(家族に骨粗鬆症の人がいる) これらの項目にあてはまるようでしたら、一度、骨の健康状態について検査を受けることをおすすめします。 「自分はどうなのだろう」と少しでも不安に感じたら、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。 メール相談やオンラインカウンセリングに対応しているため、来院する手間もかかりません。ぜひご活用ください。 骨粗鬆症の検査は「整形外科」で受けるのが一般的 骨粗鬆症の検査は、整形外科で受けるのが一般的です。 整形外科は「骨の専門家」であり、検査から診断、治療までスムーズに進められるメリットがあります。 整形外科に限らず、内科や婦人科でも検査に対応している場合があります。 とくに女性ホルモンの影響が気になる方は、婦人科で相談するのも選択肢の一つです。 また、自治体によっては健康診断の一環として骨密度検診を実施していることもあり、多くは指定された医療機関や検診センターで検査を受けます。 どこで検査を受けるか迷ったら、まずはかかりつけ医に相談したり、近くの整形外科のホームページで検査の実施状況を確認してみてはいかがでしょうか。 骨粗鬆症の検査にかかる費用 骨粗鬆症の検査を医療機関で受けた場合にかかる費用の目安は、以下のとおりです。 検査の種類 費用相場 骨密度検査(DXA法) 全額自己負担:約4,500円 3割負担:約1,350円 1割負担:約450円 血液検査 全額自己負担:約1万円 3割負担:約3,000円 レントゲン検査 全額自己負担:約2,500円 3割負担:約650円 自治体の検診や健康保険組合の補助で検査を受けるときは、自己負担が無料または数百円程度と安くすむことがあります。 骨粗鬆症の検査を受けるタイミング 骨粗鬆症の検査を受けるタイミングは、以下がおすすめです。 市町村の健診時期になったら 40歳を超えたら 関節痛・背が縮んだ感覚など気になる症状が現れたら 自身の状況と照らし合わせて、受けるタイミングを検討する参考にしてください。 市区町村の健診時期になったら 市区町村で実施される特定健診やがん検診の機会に、対象年齢に該当する場合や、追加で申し込むことで、骨粗鬆症の検査を受けられます。 骨粗鬆症の検診は、健康増進法にもとづき40歳〜70歳の女性を対象に5歳刻みの年齢でおこなわれています。(文献5) 自治体によっては男性も対象にしていたり、対象年齢を拡大したりしている場合もあるため、お住まいの市区町村のホームページで確認し、積極的に活用しましょう。 40歳を超えたら 骨粗鬆症は、閉経後の女性や50歳以上の高齢者に多い病気です。(文献7) 「まだ若いから大丈夫」と思いがちですが、実は骨の量は20代〜30代で最大となり、その後は徐々に減少します。そのため、40歳を過ぎたら一度骨の健康状態をチェックしておくことをおすすめします。 また、男性も決して他人事ではありません。 女性と同じく、年齢を重ねるごとに骨密度が低下するリスクは高まるため、少なくとも50歳を過ぎたら一度は検査を受けておきましょう。 関節痛・背が縮んだ感覚など気になる症状が現れたら 突然の背中や腰の違和感、身長が縮んだ感覚、姿勢の変化などがあれば骨折の兆候かもしれません。 骨粗鬆症が進み、気づかぬうちに骨折していることもあるため、気になる症状が現れたら早めに医療機関で検査を受けましょう。 骨粗鬆症の検査で「要注意」と言われたらすべきこと 骨粗鬆症の検査の結果「骨密度が少し低い」「要注意」などの診断を受けたときにすべきことは、以下のとおりです。 医師の指示をもとに再検査や適切な治療を受ける 骨を強くする栄養を意識した食生活に見直す 運動習慣を取り入れて骨への刺激を増やす 転倒を防ぐ生活環境へ整える 一つずつ見ていきましょう。 医師の指示をもとに再検査や適切な治療を受ける 検査結果について医師から詳しい説明を受け、今後の対応について相談しましょう。 必要に応じて、再検査や生活習慣の改善のアドバイスを受けたり、薬物治療を検討したりします。 「まだ大丈夫だろう」と自己判断で放置してしまうと、骨がもろくなり、骨折のリスクを高めてしまう恐れがあります。 医師の指示を守り、適切な対策を講じることが大切です。 骨を強くする栄養を意識した食生活に見直す 「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」によると、以下の3つの栄養素が骨粗鬆症の治療で重視されています。(文献2) 栄養素 骨への作用 おもな食材 カルシウム ・骨の主成分となる ・骨密度を維持する ・牛乳 ・チーズ ・ヨーグルト ・干しえび ビタミンD ・カルシウムの吸収を助けて骨に定着させる ・日光を浴びると体内でもつくられる ・鮭 ・サンマ ・きくらげ ・干ししいたけ ビタミンK ・骨にカルシウムを取り込むのを助ける ・納豆 ・ブロッコリー ・小松菜 ・ほうれん草 参考:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン|日本骨代謝学会(文献2) とくにカルシウムはビタミンDと一緒に摂ることで吸収率がアップします。 ヨーグルトにきな粉をかける、鮭ときのこを一緒に調理するのも、手軽に取り入れられるためおすすめです。 これらを取り入れた、バランスの良い食生活を心がけましょう。 運動習慣を取り入れて骨への刺激を増やす 活発にからだを動かしている方は、骨粗鬆症による骨折が少ないとした研究結果が多く報告されています。(文献2) 具体的には、以下の運動が骨密度の上昇をもたらしたとされています。(文献2) ウォーキング ジョギング ダンス ジャンプ まずは、自身に合った無理のない運動を見つけて、習慣にすることから始めてみましょう。 転倒を防ぐ生活環境へ整える 骨粗鬆症の方は骨がもろくなっているため、転倒による骨折のリスクが高まります。 日常生活の中に以下のような工夫を取り入れて、転倒を防ぎましょう。 室内の段差をなくす 滑りにくいマットを使用する 足元が明るいように照明を工夫する 階段や廊下には手すりを設置する 転倒防止が、骨折や寝たきりを防ぐ第一歩になります。 自宅内に危険な場所がないか、改めて確認してみてください。 生活習慣を見直す 喫煙や過度の飲酒は、骨折のリスクを高めることがわかっています。(文献2) ガイドラインでも、以下のように推奨されています。(文献2) 喫煙を始めない 喫煙習慣のある方は禁煙する 1日のエタノール量を24g未満とする また、塩分やカフェインの過剰摂取もカルシウムをからだの外に出しやすくしてしまうことがわかっています。(文献9) 骨の健康を守るため、これらの成分の摂りすぎには注意しましょう。 骨粗鬆症の検査で自分の骨の状態を知ろう 骨粗鬆症は静かに進行し、骨折として突然現れることがあります。 だからこそ、骨密度をはじめとする検査で、早期に骨の状態を知ることが大切です。 とくに女性や高齢の方、生活習慣に不安を感じる方には、積極的な検査をおすすめします。 「要注意」と診断された場合も、適切な食事や運動、医師との連携によって、骨の健康を維持できます。 自身の骨の状態と向き合うために、まずは検査を受けるところから始めましょう。 「自分の骨の状態は大丈夫なのかな」と不安を感じたら、当院「リペアセルクリニック」のメール相談またはオンラインカウンセリングまでお気軽にご相談ください。 骨粗鬆症の検査についてよくある質問 骨密度の検査はどうやってやるのですか? 骨密度の検査は、骨の中にあるカルシウムをはじめとしたミネラルの量を測定し、骨の強さ(密度)を数値化するものです。 もっとも一般的なのはDXA法と呼ばれる検査で、腰の骨や太ももの骨にX線を当てて測定します。 検査時間は、準備や着替えを含めて10〜15分程度です。 ほかにも手首やかかとを使うMD法やQUS法といった簡易検査もありますが、精度はDXA法がもっとも高いと言われています。 骨密度測定は自宅でできますか? 原則として、正確な骨密度測定は医療機関でおこなう必要があります。とくに検査の精度が高いDXA法は、医療機関の専用装置が不可欠です。 家庭用の体組成計で「推定骨量」を計測できるものも存在しますが、骨密度を測定するものではありません。 手首やかかとで骨密度を測れるものも家庭用で作られていないため、自宅で骨密度測定をおこなうのは現実的ではないでしょう。 本格的な診断を希望する場合は、医療機関で検査を受けるのをおすすめします。 参考文献 (文献1) 骨代謝とは|日本骨代謝学会 https://jsbmr.umin.jp/basic/kotutaisha_ma.html (文献2) 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン|日本骨代謝学会 https://jsbmr.umin.jp/pdf/GL2015.pdf (文献3) Q&A Vol.337 【どうやって見ればいい?】骨粗鬆症の画像に関するQ&A | 日本離床学会 https://www.rishou.org/for-memberships/qa/qa-vol-337#/ (文献4) 「脊椎椎体骨折」|日本整形外科学会 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/vertebral_compression_fracture.html (文献5) 健康増進事業実施要領|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/14.pdf (文献6) どんな人がなりやすい|公益社団法人骨粗鬆症財団 https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/tabid250.html (文献7) International Osteoporosis Foundation. Epidemiology. https://www.osteoporosis.foundation/health-professionals/about-osteoporosis/epidemiology (文献8) 骨そして筋肉の健康における栄養素・非栄養素の役割 骨と栄養素の視点から|田中清ら https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs/76/5/76_283/_pdf
2025.05.30 -
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「中枢神経障害とは何か知りたい」「中枢神経障害の原因や治療法を知りたい」といった疑問を持っている方もいるでしょう。 中枢神経障害は、脳および脊髄の構造または機能に異常が生じる神経疾患です。原因疾患によって適切な治療法が異なるため、中枢神経障害が疑われる場合は、早めに医療機関を受診する必要があります。 今回は、中枢神経障害の初期症状から治療法までわかりやすく解説します。中枢神経障害について理解を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。 中枢神経障害とは 中枢神経障害とは、中枢神経系を形成する脳または脊髄の構造や機能に異常が生じて発症する神経疾患です。 中枢神経は、身体の動きや感覚、思考、記憶、感情など、あらゆる機能を制御する司令塔の役割を果たしています。そのため、中枢神経系に異常が生じると、障害を受けた部位やその範囲に応じて、さまざまな症状が現れる可能性があります。 なお、中枢神経障害は原因によって症状や治療法が異なるため、早期の診断と適切な治療が重要です。 中枢神経障害の原因と種類 中枢神経障害の原因は、主に以下の5つに分類できます。 原因疾患の特定は、中枢神経障害の適切な診断と治療につながります。以下で、それぞれ詳しく見ていきましょう。 血管性疾患 血管性疾患は、中枢神経障害の原因の一つです。血流が悪くなったり遮断されたりすると、脳や脊髄の神経細胞が損傷を受けます。代表的な血管性疾患は、以下の通りです。 脳梗塞 脳出血 くも膜下出血 身体の麻痺のほか、言語障害・視覚障害・意識障害などが現れる場合があります。 神経変性疾患 神経変性疾患も中枢神経障害の一因になります。神経変性疾患とは、神経細胞が徐々に変性・消失する疾患です。主な神経変性疾患は、以下の通りです。 パーキンソン病 アルツハイマー病 ALS(筋萎縮性側索硬化症) パーキンソン病を発症すると、ドーパミンを生産する神経細胞が減少し、運動障害を引き起こします。また、アルツハイマー病を発症すると、記憶を司る脳の神経細胞が徐々に破壊されることにより、認知機能が低下します。 炎症性疾患 免疫系の異常や感染症によって引き起こされる炎症性疾患も、中枢神経障害の原因の一つです。炎症性疾患の代表例は、以下の通りです。 多発性硬化症 脳炎 多発性硬化症を発症すると、免疫系が神経の保護膜を攻撃し、神経伝達に障害を引き起こします。また、ウイルスや細菌感染による脳の炎症も中枢神経障害の原因になります。 外傷性疾患 外傷性疾患も中枢神経障害の原因の一つです。交通事故やスポーツなど、外部からの物理的な衝撃が中枢神経に影響を与える場合があります。 脊髄損傷 頭部外傷 外傷性疾患による中枢神経障害は回復に時間がかかるほか、重篤な後遺症が残るケースも珍しくありません。 感染性疾患 ウイルスや細菌による感染性疾患によって、中枢神経障害に陥ることもあります。中枢神経障害の原因になる感染疾患は、主に以下の通りです。 髄膜炎 日本脳炎 中枢神経系がウイルスや細菌に感染すると、炎症を引き起こします。感染性疾患による後遺症が深刻化しないよう、適切な治療が必要です。 中枢神経障害の症状 中枢神経障害の症状はダメージを負った部位や程度によってさまざまです。具体的には、主に以下のような症状が現れます。 障害の種類 具体的な症状 主な原因疾患 運動障害 手足の麻痺や震え 手足が動かしにくい 脳卒中 パーキンソン病 感覚障害 視覚や聴覚、触覚に異常を感じる 脳腫瘍 脳卒中 認知機能障害 記憶力の低下 判断力の低下 アルツハイマー病 精神的障害 不安 抑うつ 幻覚 パーキンソン病 アルツハイマー病 なお、原因疾患によって、症状の進行は異なります。症状を改善するためには、それぞれ原因疾患に対する治療が必要です。 中枢神経障害の治療法 中枢神経障害の治療法として、主に以下の選択肢があります。 薬物療法 リハビリテーション 再生医療 中枢神経障害の原因疾患のなかには、根治が難しい疾患も少なくありません。それぞれの治療法について解説するので、医師と相談しながら、適切な治療法を検討してください。 薬物療法 中枢神経障害の治療では、原因疾患に応じて薬物療法が選択されることが多いです。症状に応じて、痛みを軽減するための鎮痛剤や、精神的な不安を抑える精神安定剤のほか、抗てんかん薬や抗うつ薬などが投与されます。 たとえば、神経変性疾患やパーキンソン病、アルツハイマー病などに対しては、症状の進行を遅らせるために薬物療法が選択されるのが一般的です。なお、中枢神経障害の疾患の多くは治療法が確立されておらず、薬物療法は単なる対症療法に留まるとされています。(文献1) リハビリテーション 中枢神経障害において、リハビリテーションは疾患により低下した運動機能や、認知機能の改善を目指す治療法です。 具体的には、理学療法士による運動療法、作業療法士による日常生活動作の訓練、言語聴覚士によるコミュニケーション能力の向上を図る訓練などがおこなわれます。 また、認知機能を維持・向上させるための脳トレーニングや、心理的な支援も中枢神経障害におけるリハビリテーションの一環です。 なお、中枢神経疾患のリハビリテーションは、数週間から数カ月にわたって継続されることが多いです。なかでも、パーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)など、進行性の疾患に対しては、リハビリ期間が長期化する場合があります。 再生医療 再生医療も、中枢神経障害の治療における選択肢の一つです。再生医療とは、自然治癒力を最大限に引き出すための医療技術で、幹細胞や血小板の投与によって症状改善を目指す治療法です。 リペアセルクリニックでは、中枢神経障害の原因となる脳梗塞や脳卒中、脊髄損傷に対する再生医療をおこなっています。 当院の幹細胞治療は、少量の脂肪を採取するだけで、十分な量の細胞を培養できる点が特徴です。そのため、身体への負担が少なくて済みます。 再生医療による治療法や具体的な症例について知りたい方は、以下のページをご覧ください。 なお、リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。中枢神経障害の症状でお悩みの方は、ぜひ気軽にご相談ください。 中枢神経障害は原因に合わせて適切な治療法を検討しよう 中枢神経障害とは、脳や脊髄などの中枢神経に異常が生じ、手足のしびれや感覚異常、認知機能の低下といったさまざまな症状を引き起こす疾患です。原因は脳卒中や脊髄損傷、パーキンソン病、アルツハイマー病など多岐にわたり、疾患ごとに治療法が異なります。 中枢神経障害は、早期発見と適切な治療により、症状を改善したり進行を遅らせたりすることが可能です。薬物療法やリハビリテーション、再生医療など、医師の診断のもと適切な治療法を検討しましょう。 中枢神経障害に関するよくある質問 中枢神経障害の診断方法は? 中枢神経障害の診断には、主に以下の検査が用いられます。 MRI(磁気共鳴画像法) CT(コンピュータ断層撮影) 脳波検査 脳脊髄液検査 脳や脊髄の構造や機能を評価するため、一般的に複数の手法を用いて診断されます。 中枢神経障害と末梢神経障害の違いは? 中枢神経障害は、脳や脊髄などの中枢神経系に発生する障害です。 一方で、末梢神経障害は、手足や体幹に伸びる末梢神経に生じる障害のことです。末梢神経障害は、糖尿病や自己免疫疾患などが原因で、手足のしびれや筋力低下といった症状を引き起こします。 中枢神経障害は治る? 中枢神経には再生を阻害する因子が多く存在し、自然に修復されにくいといわれています。(文献2)そのため、中枢神経障害は、原因疾患によって根治が難しい疾患です。 ただし、近年の医療技術の進歩により、リハビリテーションや再生医療を通じて、一定の改善が見込まれる場合もあります。 参考文献 ((文献1) 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「中枢神経疾患治療薬の承認審査の現状と DDS への期待」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/34/5/34_385/_pdf (最終アクセス:2025年5月20日) (文献2) 大阪大学大学院 医学系研究科 分子神経科学「失われた神経回路を取り戻すために」 https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/molneu/researchp1.html (最終アクセス:2025年5月20日)
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