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脳幹出血のリハビリプログラムを詳しく解説|早期のアプローチが大切! 脳幹出血を起こすと、重度の場合は意識障害、呼吸障害、四肢麻痺などをきたします。軽度の出血でも、片麻痺や感覚障害、運動失調、嚥下障害や高次脳機能障害などの後遺症を残します。看護が必要なくなっても、元の生活に戻るまでには長い時間が必要です。少しでも後遺症を軽減し、寝たきり状態を防ぐために、リハビリテーションが重要となります。 リハビリテーションの内容は、発症からの時期により変わってきます。リハビリでは、「急性期」「回復期」「生活期(維持期)」という3つの時期に分けてプログラムを組みます。脳幹出血の具体的なリハビリテーションを、3つのステージ別に見ていきましょう。 急性期;早期からの介入が大切! 急性期とは、脳幹出血が起こって、まだ完全に状況が落ち着いていない時期を指します。発症から概ね2週間〜1ヶ月程度です。治療と併行しながらリハビリを進めていきます。 まず目指すのは、早い段階でベッドから離れる「早期離床」です。脳幹出血をはじめとした脳卒中では、体の状態に問題がなければ、24〜48時間以内にリハビリ介入をする方が、回復が早いとされています。 最初に行うことは、寝返りや、体を起こして座ることです。可能であれば、立ち上がり、補助具で歩くリハビリに進みます。着替えなどの日常生活に直結する動作を行うセルフケア訓練も開始します。 また、脳幹出血の患者さんでは、ものを飲み込む力が落ちる嚥下障害を伴っている方が多いです。肺炎予防のためにも、早くから嚥下の評価と口腔ケアを開始します。 一方で、重度の脳幹出血例では、呼吸や血液循環の障害を認めます。脳の周りにまで出血して、髄液の流れに影響する水頭症になることもあります。状況が落ち着かないと早期離床はできません。この場合はベッド上でできるリハビリを行います。 例えば、関節が固まらないように動かしていく関節可動域訓練などが該当します。 回復期;リハビリが中心の生活! 急性期から脱して体の状態は安定していますが、後遺症が固まりきっていない時期です。失われた機能を回復し、残っている機能を高める訓練をします。 多くの脳卒中患者さんは「回復期リハビリテーション病棟」というところに移ります。リハビリを専門にしている病院や病棟です。 理学療法士や作業療法士・言語聴覚士といったリハビリスタッフが多くいます。1日最大で3時間のリハビリが可能です。施設によっては、休日も含めてほぼ毎日リハビリを行っているところもあります。 一口に脳幹出血といっても、人により後遺症の内容や程度はさまざまです。症状別のリハビリは急性期から少しずつ始まります。回復期病棟ではそれをさらに掘り下げ、一人一人に合った詳細なリハビリプログラムを組んでいきます。ここでは一例を紹介します。 〈症状別のリハビリの例〉 運動麻痺 筋肉や関節の動きを自分の意思通りに動かせるよう、繰り返し訓練します。麻痺は3〜6ヶ月程で回復が止まってしまいます。症状が固定した後でも、麻痺のない部分でカバーしたり、装具や杖などを利用したりして動く訓練も行なっていきます。 運動失調 筋肉同士の協調性が失われ、運動をスムーズに行えない状態を運動失調といいます。 運動失調のリハビリでは、例えば、目で確認しながら何度も動作の練習をします。重りを使い、固有感覚(身体の位置や力の入れ具合を感じる感覚)を刺激して、運動のコントロールを行う訓練も行います。一つの動作をいくつかに区切って行うことも効果的です。 嚥下障害 急性期に引き続き、嚥下障害へのリハビリも続けます。どのくらいの固さのものが食べられるのか、一口量はどのくらいが適切かなど、詳細な評価を行います。飲み込む力を強化する訓練をしながら、少しずつ食事の形態を調整していきます。 構音障害 呂律が回らない、声の大きさのコントロールがつかないなど、喋りづらさ(構音障害)を抱える方が多いです。正しい発音の練習や、話すスピードを調整する訓練によって、コミュニケーションが取りやすいようにしていきます。 綿密なリハビリテーションを続けながら、自宅への退院、社会復帰に向けた支援も行なっていきます。 生活期(維持期);家に帰った後も重要! 実際の生活に戻った上で、訓練を続けていく時期です。活動度を維持・向上させ、可能な範囲で自立した生活ができるように考えていきます。 リハビリができる施設に通ったり、訪問リハを受けたりすることで、体力や機能の維持・向上を図ります。 また、脳幹出血の最大の要因は高血圧です。運動習慣をつけることは、血圧を下げ、再発防止にも役に立ちます。 脳幹出血のリハビリについてよくあるQ&A Q, どうして急性期と回復期で病院(病棟)が変わるのですか? A, できれば同じところでリハビリを続けたいですよね。でも、場所が変わることにはきちんと理由があります。 発症直後に入院する「急性期病院(病棟)」の目的は、体の状態を落ち着かせることです。リハビリのための時間や人手には制約があります。治療がひと段落すれば、よりリハビリに特化した場所に移る方が良いのです。 次に急性期病棟に入院が必要な方にベッドをあけるためにも、状況が落ち着いてくれば行き先の調整を考え始めます。 Q, どのくらいの期間、入院が必要ですか? 麻痺などの回復が一定の段階に達し、日常生活に必要な動作ができるようになれば退院を考えます。どこまでできるようになるかという目標は患者さん毎に異なります。 ただし、回復期リハ病棟の入院は脳卒中の場合は最大で150日(高次脳機能障害がある場合は180日)までと決まっているため、これを超えることはありません。 まとめ・脳幹出血のリハビリは、早期のアプローチが大切! 脳幹出血後は、早期からアプローチをすることにより、後遺症を軽減し、もとの生活に近い状態に戻ることを目指していきます。とても時間がかかりますが、しっかりとリハビリテーションを続けていきましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.140 監修:医師 坂本貞範 参考文献 標準リハビリテーション医学第4版【電子版】 医学書院. 2023年.東京 日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン 2021. 後藤淳. 関西理学.14:1-9.2014. 福岡達之、道免和久. Jpn J Rehabil Med. 56:105-109. 2019. 藤島一紘. ブレインナーシング 39(2): 320-323. 2023.
2023.07.17 -
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脳幹出血の前兆サイン|見逃してはいけない!注意すべき症状 はじめに 脳出血は、突然に私たちの日常生活を脅かす深刻な疾患です。その中でも特に重篤とされる脳幹出血は、生命の維持に重要な脳幹部分が関与するため、突然死のリスクも高いといわれています。 ただし、早期に発見・治療できれば、元の生活に戻ることが可能な方もいます。助かるためには、前兆となる症状を知っておく必要があります。 今回は脳幹出血について、前兆や見逃さないためのポイント、治療についても詳しく解説します。突然死を防ぐため、脳幹出血についての理解を深めましょう。 脳出血の原因と脳幹の役割 脳出血は、脳内の血管がなんらかの原因で破れることによって起こります。 最も多い原因は高血圧です。高血圧を患っている人は、とても多く、一般的な病気であると思われがちですがきちんとコントロールできていないと脳出血を起こして、命にかかわる可能性があるのです。 脳出血は脳のすべての部位で起こる可能性がありますが、それが脳幹で起こった場合を脳幹出血といいます。 脳幹は私たちの生命活動をつかさどる中枢で、呼吸や心拍の制御、視覚や聴覚といった感覚系、ホルモンの分泌などを担当しています。この部位で出血が起こると、これらの生命活動に大きな影響が及びます。脳幹出血は、全ての脳出血の10%程度を占めており、非常に予後が悪いといわれています。 脳幹出血は、出血量が多ければ四肢麻痺や意識障害などで発症し、突然死を起こすこともありますが、出血量が軽度であれば、歩いて帰ることができるほど予後が良好な場合もあります。ただし、出血量を軽度に抑えるためには、早期発見・早期治療が必要です。 ここからは、脳幹出血の前兆やサインについて詳しく見ていきましょう。 脳幹出血の前兆サイン 脳幹出血の前兆の可能性がある症状として注意が必要なのが、「いびき」と「めまい」、そして「視覚障害」です。 突然の「いびき」と「めまい」に注意! 脳幹は呼吸や血圧を調整する中枢であり、その機能に影響があるといびきが大きくなることがあります。また、脳幹は体のバランスを取る役割もあるため、めまいが生じることもあります。 いびきやめまいはほかの原因でも起こるため、必ずしも脳幹出血のサインというわけではありません。 ただし、普段いびきをかかない人が突然大きないびきをかくようになった場合や、いびきの音が異常に大きくなった場合、めまいが頻繁に起こる場合は注意が必要です。これらは体からの警告サインかもしれません。このような症状がある場合は、早期に医療機関に相談し検査をすることをお勧めします。 「視覚障害」目の異常を見逃さない! 脳幹は視覚情報を処理する経路にも関与しています。そのため、脳幹出血が生じると、以下のような視覚に関連する症状を起こすこともあります。 ・視野が狭くなる ・ものが二重に見える ・光がいつもよりまぶしく見える ・視力の低下 視野が狭くなる、ものが二重に見える、光がいつもよりまぶしく見える、視力が低下するなどの症状が突然起こった際は、注意が必要です。 これらの視覚に関する症状は、特に読書や運転、日常生活の中の細かい作業などで顕著に感じられることがあります。 視覚の症状は、「目」自体に異常があると考える人が多いため、症状を自覚していても脳の病態の発見が遅れがちです。脳出血でも目の症状が起こりうることを覚えておきましょう。 脳幹出血の治療法:なぜ手術をしない? 脳幹出血の治療は、まず血圧を下げて安定させることが重要です。これは、更なる出血を防ぎ、脳組織へのダメージを最小限に抑えるためです。入院で絶対安静とし、点滴で高圧薬を持続的に投与します。 他の部位の脳出血では、血腫除去といって、出血で生じた血腫を外科的に取り除く手術を行うことがありますが、脳幹出血では基本的には行いません。これは脳幹が脳の深部、狭い範囲に呼吸中枢など生命維持を担う部分が存在していることが原因です。手術の刺激によって正常な部位を傷つける可能性があり、手術のリスクが非常に高くなります。 そのため、基本的には血圧コントロールや脳の浮腫み予防の点滴など保存療法が選択されます。 脳幹出血についてよくあるQ&A Q1 脳幹出血を起こしやすい人はいますか? A. 脳幹出血は高血圧が一番のリスクとなりますが、血管の疾患や脳血管奇形などを持つ人にも起こる可能性があります。 また、以下のような生活習慣も脳出血のリスクを高める要因となります。 ・喫煙 ・過度なアルコール ・運動不足 ・ストレス ・肥満 ・高脂血症 これらの不適切な生活習慣を改めることが、脳出血の予防となります。 Q2 脳幹出血のリハビリテーションにはどんなものがありますか? A. 脳幹出血のリハビリは、どのような症状が出ているかによって患者さんごとにプランが立てられます。大きくは、理学療法、作業療法、言語療法の3つに分けられます。 理学療法 理学療法では、筋力の強化やバランス能力の改善を目指し、歩行練習を行います。 作業療法 作業療法では、食事、着替え、入浴などの日常生活動作の獲得を目指して、細かな動きの訓練を行います。 言語療法 言語療法では、言語障害や嚥下障害の改善を目指します。 また精神的なサポートや心理療法も重要な要素となります。個々の患者さんの病態にあわせて、いろいろな角度からリハビリを行っていきます。 まとめ・脳幹出血の見逃してはいけない前兆サインと症状 脳幹出血は怖い病気ですが、どんな予兆があるのかという知識を持つことで助かる可能性は高くなります。 いびきやめまい、視覚障害など初期の兆候がある場合は、それを見逃さないことが重要です。自分や身近な人の体をよく観察し、異常を感じたら早期に適切な医療機関を受診するよう心掛けましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.139 監修:医師 坂本貞範
2023.07.13 -
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脳幹出血の回復の見込みとは?回復プロセスについて解説 脳幹出血は、脳の中心部にある脳幹に出血を起こす脳卒中の1つです。脳幹は心臓や呼吸、意識などの重要な生命維持機能を担っているため、出血によって四肢麻痺だけではなく、意識不明の重体、寝たきりとなってしまう場合や、死亡にまで至ってしまう可能性もあります。 この記事では、脳幹出血によって症状が悪化するメカニズムと、回復の見込みや回復のプロセスについて詳しく解説していきます。 脳幹の役割と脳幹出血による障害について 脳幹は脳の中心部に位置し、脳の部位のうち中脳、橋、延髄で構成されています。 脳全体でみると小さな部位ですが、生命活動にとって大切な循環、呼吸、消化液分泌のほか、眼球運動や体温調節、自律神経の中枢を担っています。 そのため、この部位に出血を起こしてしまうと手足の麻痺だけでなく、意識障害や呼吸停止などの重篤な症状を起こす可能性があります。 昏睡状態となり、呼吸停止となった場合には自力で呼吸ができないため、人工呼吸器が必要になったり、処置が遅れた場合には死亡してしまう可能性もあります。そのため、脳幹出血は脳出血の中でも最も重症な部類とされています。 脳幹出血の原因 脳幹出血は、主に動脈硬化が原因で脳幹内の血管が裂けてしまうことで起こります。 動脈硬化の危険因子として、高血圧、喫煙、肥満、糖尿病、脂質異常症などがありますので、これらの病気を持っている方は適切に治療を受けることが必要です。 動脈硬化の危険因子 ・高血圧 ・喫煙 ・肥満 ・糖尿病 ・脂質異常症 またそのほかにも、動脈瘤や動静脈奇形、外傷など様々な原因が挙げられます。 脳幹出血の治療 脳幹出血の治療は急性期、慢性期に分けられます。 出血をして直後の急性期には、出血部位を拡大させないための「降圧療法」と「全身管理」がメインとなります。 出血の部位が広く、脳室という部位が拡大して水頭症という状態になっている場合には、圧力を下げるためにドレナージ手術をすることがありますが、他の脳出血のような血腫を除去する手術の適応は一般的にはありません。脳幹は脳の深い位置にあるため、手術の負担が大きく、手術によるメリットが少ないためです。 全身管理としては意識状態が悪く、呼吸がうまくできていない場合には助かるために人工呼吸器が必要になることがあります。人工呼吸を行い、出血による症状が落ち着き、自力で呼吸ができるようになった場合には、人工呼吸器を外すことができる場合もあります。 しかし、自力で呼吸ができない場合には人工呼吸器を外すことができない場合もあり、場合によっては気管切開をしてチューブを留置したままになることもあります。 脳幹出血の回復の見込み 生存、回復率、余命については、脳幹出血の重症度によって、見込みが大きく変わります。 重度の脳幹出血では、回復が難しい場合もありますが、一部の軽度や中等度の症例では、回復が期待できることもあります。 脳幹出血から奇跡の回復を遂げた方もいるので、諦めず治療を行うことが大切です。急性期の治療で全身の状態が安定した後には、リハビリテーションと再出血予防のための内服管理がメインとなります。 生存率と回復率について 脳幹出血から回復するためには、発症してから3ヶ月以内の急性期を乗り切るだけでなく、その間に積極的なリハビリテーションを行う必要があります。 まず、脳幹出血の急性期を乗り切るためには、発症時の意識状態がよいことが重要です。回復の見込みは患者さんの状態、重症度など複数の要因が関係しています。一般的に出血の範囲が広く、発症した時の意識状態が悪く、麻痺が重いほど、回復の見込みは低くなります。 また発症してから、病院にくるまでに時間がかかった場合や、リハビリテーションが進まない場合も後遺症が重くなってしまいます。 予後についてはさまざまなデータがありますが、2021年に発表された論文では、 意識障害と脳幹出血の出血量が少ない場合には30日以内の死亡率は2.7%と良好ですが、意識が悪く出血量が多い場合の30日以内の生存率は約70%と低く、死亡率も最大で40〜50%に及ぶ と報告している研究があります。 そのため、発症時に呼びかけや痛み刺激でも反応しない程度の意識状態(グラスゴー・コーマ・スケール [GCS]にて7点以下が予後不良の目安です)の場合には、残念ながら回復の見込みは低いかもしれません。 本邦から2013年に報告された論文では、脳幹出血を発症した212名の患者のうち、 ・良好な回復だった方は13人(6.1%) ・中程度の障害は27人(12.7%) ・重度の障害は27人(12.7%) ・食物状態が23人(10.8%) ・死亡が122人(57.5%) 参照:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0303846712004477 と報告されています。亡くなってしまう方が半分以上で植物状態の方も1割いることから、脳幹出血はとても重症な疾患といえます。 しかし、脳細胞や神経は障害された部位の再生は困難ですが、神経細胞群が新たなネットワークを築き、生まれ変わることで機能が改善する性質(可塑性)を持っていす。そのため、急性期を乗り切れる見込みがある場合には、諦めずにリハビリテーションを行うことが効果的です。 回復プロセスについて 急性期を過ぎた後の回復プロセスは、「3〜6ヶ月の回復期」と「6ヶ月以降の生活期」に分けられます。 脳幹出血の後遺症として麻痺がありますが、急性期は関節が固まらないようにリハビリで可動域訓練を行います。その後、徐々に麻痺が改善してきたら、自力での訓練を行なっています。 発症して2〜3ヶ月が最も身体機能が回復する時期といわれているため、急性期から回復期にかけて積極的なリハビリを行うことが効果的です。 同時に、回復期では「痙縮 -けいしゅく- 」という手足の筋肉が緊張して突っ張る症状が出現します。痙縮を和らげるためにストレッチや筋弛緩薬で対応していきます。 その後の生活期は、症状が安定した後の維持が目的ですので、装具や筋肉の痙縮を和らげる治療をしながら、日常生活を過ごす環境を調整します。 まとめ・脳幹出血の回復の見込みとは?回復プロセスについて解説 脳卒中の中でも脳幹出血は重症であり、後遺症を残すだけではなく、生命に危険が及ぶ可能性があります。 回復の見込みについては一般的な予測は困難で、重症度や治療の効果、リハビリテーションの取り組み、個人の状況などを総合的に考慮する必要があります。重度の脳幹出血の場合、完全な回復は難しい場合がありますが、諦めずに治療を続けることで回復する可能性もあるので、継続した医療、リハビリなどのサポートを受けながら、最大限の回復を目指すことが重要です。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S138 監修:医師 加藤 秀一 参考文献: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8460873/ https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0303846712004477 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9995821/ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6940125/
2023.07.10 -
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脳幹出血後の麻痺や障害の後遺症に「最新の治療法」の選択肢! 脳幹出血は、脳の中でも生命活動を司る部分に起こる出血です。脳幹出血が起こった後、生命が助かったとしても、麻痺などの後遺症が残ることもあります。 今回は、脳幹出血後の後遺症に対する最新治療法の一つである、手術なしの治療法「自己脂肪由来幹細胞治療」について解説します。ぜひ参考にしてみてくださいね。 脳幹出血後の麻痺や障害の後遺症にはどのようなものがあるのか? 脳幹出血は、脳幹という脳の中でも呼吸活動を司ったり、血圧を保ったりといった、生命活動にとって根幹となる機能を持つ部位に生じる出血のことです。 脳幹出血に限らず、脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)の発症には高血圧が関係しています。 脳幹の一部である橋(きょう)という場所で出血が起こると、意識障害や全身の麻痺が起こり、出血が広がると呼吸困難となり、重篤な状態になることがあります。時に、出血量が多い場合には命が助からないという場合もあり得るのです。 また、脳幹出血が起こると、命が助かった時でも後遺症が残ることがあります。 例えば、両手足が動かなくなる四肢麻痺や、呂律が回らなくなる構音障害、食事や水の呑み込みが難しくなる嚥下障害などが挙げられます。 このような脳卒中(脳梗塞、脳出血)の後遺症の場合、リハビリテーションを行い、手や足、飲み込みの機能などの回復をはかっていくことになります。 従来のリハビリに加えて、最近では「自己脂肪由来幹細胞治療」という最新の治療法も登場しました。 脳幹出血後の後遺症に対する「自己脂肪由来幹細胞治療」とは? 自己脂肪由来幹細胞治療とは、患者さんから採取した脂肪から分離した脂肪由来幹細胞を培養して必要な細胞数まで増殖させ、幹細胞が十分な数になるまで増えたら、患者さんに点滴をして投与する、という再生医療です。 この治療方法は、自己脂肪由来幹細胞が血管成長因子や炎症抑制物質を分泌する性質を利用しています。 再生医療の効果としては、以下の3つがあります。 1. 脳神経細胞の再生により身体機能が回復する 脳幹出血で壊れてしまった脳細胞を、自己脂肪由来幹細胞が修復・再生します。 それによって、麻痺などの後遺症の修復や、痛みや痺れといった症状を和らげる効果が期待できます。 2.脳神経細胞の再生によるリハビリ効果の向上 損傷した脳神経を再生および修復することで、身体機能の回復が期待できます。 そのため、再生医療と並行してリハビリを行うことで、リハビリ効果をより高められることも期待できます。発症後数年経っている場合でも、効果を見込める場合もあります。 3.脳血管の修復による再発予防 今後、脳幹出血を含む脳卒中の原因になる可能性のある傷ついた血管を、予防的に修復します。 それによって、脳血管障害を起こしやすい体質自体の改善につながり、再発を予防する効果もあるのです。 自己脂肪由来幹細胞治療のメリットとデメリット では、ここからは自己脂肪由来幹細胞治療のメリットとデメリットについて説明していきます。 自己脂肪由来幹細胞治療のメリット 1. 拒絶反応を引き起こしにくい 自己脂肪由来幹細胞による再生医療の場合は、自分から採取した組織を培養し、投与するというものなので、拒絶反応が起こりにくいという利点があります。 2. 脳幹出血の後遺症の症状に対して根本的な効果が期待できる 自己脂肪由来幹細胞による再生医療では、自己脂肪由来幹細胞による血管の修復、新生効果により、根本的な症状の回復が期待できます。 通常の脳卒中の治療法としては、固まった血を溶かす作用を持つ薬を投与する方法や、手術により固まった血を取り除く方法があります。 しかし、これらの治療法は周囲の脳へのダメージを減らし、症状を安定させてより早くリハビリテーションを開始できるようにすることなどを目的として行われるものなので、根本的な症状の回復はあまり期待できません。 自己脂肪由来幹細胞治療のデメリット 2023年6月時点で、自己脂肪由来幹細胞治療は自費診療となっています。 そのため、高額な治療費が必要になる可能性があるというデメリットもあります。 また、効果には個人差があることにも留意が必要です。 自己脂肪由来幹細胞治療に対するよくある質問 Q1.自己脂肪由来幹細胞治療はどのような病気に対して効果が期待できるの? A1. 自己脂肪由来幹細胞治療は、現在脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)や糖尿病や肝臓疾患、そして肩・膝・股関節の変形性関節症、スポーツ障害、脊髄損傷などに対して行われています。 その他にも、歯周病や、四肢の重症虚血(きょけつ)などに対して臨床研究が行われています。 Q2.自己脂肪由来幹細胞治療はどこで受けられるの? A2. 2023年6月時点で、自己脂肪由来幹細胞治療は自由診療なので、行なっている病院は限られています。 リペアセルクリニックの再生医療は、自己脂肪由来の幹細胞治療を行なっております。独自の技術で細胞を培養しており、輸送時や保存時に幹細胞を冷凍保存しないことによる幹細胞の高い生存率が見込めます。 そして大量の幹細胞を投与できるため治療成績が良好であるという特徴もあります。 治療についてのご相談は、経験豊富な再生医療専門医による医師や、アドバイザーが無料で行なっています。その上で、内容についてご納得して頂いた上で治療を選択することができます。 ご予約は電話や、メール、WEBで可能ですので、治療について悩んでいる方はどうぞお気軽にご相談ください。 ▶リペアセルクリニック「再生医療のご相談、来院予約/治療の流れ」 https://fuelcells.org/flow/ まとめ・脳幹出血後の麻痺や障害の後遺症に自己脂肪由来幹細胞治療の選択! 今回は脳幹出血の後遺症に対する「最新の治療法」として、自己脂肪由来幹細胞治療による再生医療をご紹介しました。 再生医療による治療を始めるのが早ければ早いほど、良い結果が期待できます。 脳幹出血の後遺症で、ご自身あるいはご家族などがリハビリを受けているような方で、再生医療の治療を受けるかどうか迷っている、あるいは効果について知りたいと考えているのであれば、ぜひ一度当院にご相談くださいね。 No.138 監修:医師 坂本貞範 【参考文献】 右下丘に限局した脳幹出血に伴う聴覚障害の1例 p 177 https://www.jstage.jst.go.jp/article/audiology1968/49/5/49_5_755/_pdf 第1回再生医療の安全性確保と推進に関する専門委員会でご指摘いただいた事項について p3,4 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002l0m5-att/2r9852000002l0qx.pdf
2023.07.06 -
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脳幹出血を起こすとどうなる?治療と予後予測について医師が解説 脳出血の中でも、脳幹出血(brainstem hemorrhage)は生存率が低いと言われています。それは、脳幹という生命維持にとって大切な部分の障害が起こってしまうからです。 重症である場合は、重度の意識や呼吸・循環障害をきたします。治療を行っても、意識回復せずに、脳死状態に陥ってしまったり、亡くなってしまったりすることもあります。 出血量が多くなくても、麻痺などの後遺症が残ると入院期間が長引いてしまいます。 この記事では、脳幹出血を起こした場合にどんな症状をきたすのか、そして治療や予後について解説していきます。 脳幹とはなにか 「脳幹」は中脳・橋・延髄という3つの部位から成り立っています。この部位には様々な神経の細胞や、そこから伸びる神経線維があります。感覚を脳に伝えたり、脳から手足などに指令を送ったりするための信号を伝達しています。 また、意識を保ったり、呼吸や血液の流れを調整したりと、生きていく上で重要な役割を担っています。 脳幹出血とは 脳出血とは脳にはりめぐらされた血管が破れてしまい、脳の中に出血を起こす病気です。脳出血が脳幹に起こると、「脳幹出血」と呼ばれます。脳出血全体のおよそ1割程度が脳幹出血とされています。 脳幹出血のほとんどは橋の出血です。そのため、「橋出血」という言葉は脳幹出血とほぼ同じ意味で使われることがあります。 多くの場合、原因は高血圧です。血管に非常に高い圧がかかり、破れてしまうことで起こります。脳は柔らかい組織で、血が広がっていくため、広い範囲に出血をきたしてしまいます。 一部の患者さんでは、血管の奇形が出血の原因になることがあります。高血圧による出血よりも、若い方に多いのが特徴です。代表的なものは、海綿状血管腫という血管が塊になったものです。血管奇形が原因だと、出血量は比較的少なく、症状が軽く済むことが多いとされています。ただし、繰り返し出血を起こすことも少なくありません。 脳幹出血の症状について 出血が少なく、軽症であれば、出血部位により多彩な症状をきたします。 脳幹出血の前兆の可能性として、初期に感じる軽症の症状の一例を挙げると下記のようなものがあります。 軽症の症状例 ・複視:ものが二重に見える ・顔の感覚や運動の障害 ・手足の運動や感覚の障害 ・運動失調:バランスが取れずにふらつきが起こる ・嚥下の障害 脳幹出血以外の脳血管疾患でも、初期症状として起こる可能性があります。このような異変を感じたら、早い段階での受診が必要です。 出血が多い場合は、重篤な意識障害・呼吸障害をきたします。当初は意識あり、自発呼吸ありという状況でも、急激に悪化し、短時間で死に至ることもあります。 特に予後の悪い症例では、下記のような症状が認められます。 重症の症状例 ・昏睡など重篤な意識障害 ・異常な呼吸パターン ・瞳孔異常:瞳孔不同(左右の黒眼大きさが異なる)、縮瞳(黒眼が小さい)など ・除脳硬直:筋肉が過剰に緊張し、手足が伸びきった状態 ・両手両足の麻痺 ・中枢性高熱:体温調節の中枢の障害による高い熱 脳幹出血の予後について 高血圧による脳幹出血では、重篤な場合は、急速に体の状態が悪化し、発症して数時間〜数日で亡くなってしまいます。脳のすべての働きがなくなり、人工呼吸器などのサポートがなければ生命を維持できない、「脳死」状態となってしまうこともあります。 もし一命を取り留めても、脳の障害を受けた範囲が広いと、後遺症が長く残ります。 血管の奇形によるものでは、症状は軽く、すぐに回復することもあります。一回の出血で命に関わることはほとんどありません。ただし、海綿状血管腫は、出血を繰り返すことで徐々に大きくなっていきます。そうなると、やはり重い後遺症に悩まされるかもしれません。 脳幹出血の治療について 高血圧による出血の場合は、基本的には血圧を下げ、体の状態を保つ保存的治療が最優先されます。 脳幹はすでに出血でダメージを受けており、手術で状況をより悪化させてしまう危険性が高いのです。そのため、手術適応は非常に限られます。 血管奇形が原因の場合は、状況によっては手術が検討されます。ただし、出血直後ではなく、時期を見て行う場合が多いです。 脳幹という重要な部分の手術は合併症リスクも高いです。手術するべきか、またそのタイミングについては慎重に判断しなければなりません。 脳幹出血についてよくあるQ & A Q 脳幹出血を起こすと、どのくらい入院が必要になりますか? A 脳幹出血単独でのデータはありません。厚生労働省の統計では、脳の血管が詰まったり破れたりする「脳卒中」全般では平均入院期間は77.4日となっています。脳卒中を起こすと、神経にダメージが起こってしまうからです。 神経の回復は他の組織よりも遅く、麻痺や感覚障害などは完治しにくいものです。一番危ない時期を過ぎても、その後の体力の回復・リハビリテーションに時間がかかってしまうことが大きいでしょう。 Q 脳幹出血を起こさないために、どのようなことに気をつけたらいいでしょうか? A 一番重要なのは血圧の管理です。そして適切な運動を心がけ、減塩に努めましょう。すでに治療を受けている方は、しっかりと通院を続けてください。血圧が下がったからといって自己判断でお薬をやめないようにしましょう。 脳ドックなどで血管奇形が見つかった場合でも、出血症状がなければすぐに手術適応になることはありません。ただし、慎重な経過観察が必要になります。この場合も、血圧の管理は必要です。 まとめ・脳幹出血を起こさない為に予防が大切! 脳幹出血は時に死に至ることもある恐ろしい病気です。命に関わらない場合も、一度発症すると重い後遺症を残してしまう可能性があります。 予防の第一歩は適切な血圧管理を行い、健康的な生活を送ることにあります。定期的な健康診断を受け、必要な方は治療をしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S137 監修:医師 加藤 秀一 <参考文献> 横沢路子. ブレインナーシング. 37(1): 94-97, 2021. 東登志夫. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 364-368, 2014. 古谷一英. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 369-372, 2014. 茂木陽介, 川俣貴一. 日本臨牀. 80(増刊号2): 320-324, 2022. 伊藤康裕. ブレインナーシング. 38(3): 432-433, 2022. 竹内和人. 脳神経外科速報. 32(3): 371-377, 2022. 厚生労働省. 令和2年(2020)患者調査の概況. 3退院患者の平均在院日数等. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/20/dl/heikin.pdf ,(2023-6-8参照).
2023.07.03 -
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脳幹出血の原因とは?今すぐ見直せる3つの生活習慣で予防を! 脳幹出血とは、脳幹という呼吸や血圧を保つなどの生命活動の基本となる部分に起こる出血のことです。 その場所の性質上、脳幹出血が起こると生命に関わることもあります。 今回は、脳幹出血の原因やその症状、そして予防策について解説していきます。 脳幹出血はなぜ起こる? 脳幹出血(のうかんしゅっけつ)とは、脳幹という脳の部分に起こる出血のことです。 脳のイラストを以下に示します。 引用)*1 脳(中枢神経)・皮膚各部位 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000057154.pdf この中で、「脳幹」は、小脳・橋・延髄という部分の総称のことです。呼吸、体温、ホルモン調節といった、生きるために重要な働きをしています。 脳幹出血の原因は? 脳の深刻な血管トラブルである脳卒中(脳梗塞や脳出血、クモ膜下出血)の最大の要因は、高血圧であると考えられています。 高血圧によって動脈硬化が進み、血管が脆くなってしまうため、脳幹の血管が破れてしまうことがあり、これが脳幹出血です。 脳幹出血の原因としては、高血圧の他にも、食生活の乱れ、運動不足、ストレス、喫煙習慣、糖尿病、高脂血症などがあります。こうした因子が動脈硬化の原因となる可能性があるからです。 日本を含めた東アジア諸国では、脳出血の発症が欧米諸国より頻度が高いことがわかっており、遺伝子の影響も疑われています。 脳幹出血の症状と治療法 では、ここからは脳出血の症状や治療法について説明します。 脳幹出血の症状は? 脳幹出血を発症すると、吐き気やめまい、頭痛などの症状が突然現れたり、手足が動かず眼球のみが動くといった状況に陥る場合もあります。 脳幹部は先程説明したように、呼吸、体温、ホルモン調節といった、生きるために重要な働きをしています。出血量が多い場合などには、そのまま意識消失、呼吸停止が起こり、突然死してしまうこともあります。 脳幹出血の治療法は? 脳幹出血は、時間の経過とともに急速に症状が悪化します。そのため、初期症状を見逃さずに出来るだけ早く治療を受けることが、助かるためには重要です。 脳幹出血では、保存的な治療方法が基本で、血圧の管理や脳のむくみに対する対症療法などが行われます。 脳幹出血の中には、脳室内に出血が生じることもあるため、この際にはこの出血を外に出すためのドレナージ手術が行われます。 脳幹出血を予防するためには? 脳幹出血の予防にとって大切な点を、ここから解説していきます。生活習慣の見直しのために、ぜひお役立てください。 高血圧を防ぐために今すぐできる3つのこと 減塩する 高血圧の予防に欠かせないのは、食塩の摂取量の制限です。 食塩摂取の目標は、「健康日本21(第二次)」の目標値では8g未満、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の目標量では、成人男性で7.5g未満、成人女性で6.5g未満とされています。 日本人は、食生活として食塩の量が多くなる傾向があります。以下に、減塩のコツをお示ししますので、参考にしてみると良いでしょう。 e-ヘルスネット(厚生労働省)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-003.html お酒を飲みすぎない 大量飲酒も脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血の全てのリスクを高くすることがわかっています。お酒はほどほどにしましょう。 目安としては以下のようになります。 ・ビール 中瓶1本500ml ・清酒 1合180ml ・ウイスキー・ブランデー ダブル60ml たばこは吸わない たばこは、がん、心臓病、脳卒中、COPD(慢性閉塞性肺疾患)のすべてのリスクを高めます。 たばこを吸っている人は、今からでも遅すぎることはありません。これを期に、禁煙しましょう。 その他にも運動習慣を身につけるのももちろん大切ですが、今日からすぐに始められるものを3つ挙げてみました。日頃から体調管理に気を配り、特に高血圧については予防やコントロールをしていきましょう。 脳幹出血についてよくある質問 それでは、脳幹出血に関するよくある質問について解説していきます。 Q 脳幹出血を起こしても助かりますか? A 少しでも早く治療を受けることが大切です。 脳幹出血は、その部位の役割や特徴から、生命に直結する危険性もある病気です。 しかし、早く治療を開始することができれば、命が助かる可能性ももちろんあります。 日頃から、高血圧予防などの生活習慣改善に努め、健康診断などを受けて体調管理をしておくことがおすすめです。 Q 脳幹出血は再発しますか? A 再発することがありますが、血圧のコントロールをすることでリスクが減らせると考えられます。 脳幹出血に限らず、脳卒中には再発するリスクがあります。 しかし、血圧のコントロールをすることで、再出血のリスクを下げられることが期待できます。 減塩や、場合によっては高血圧の治療を行うことが大切となります。 まとめ・脳幹出血は生活習慣の見直しで今すぐ予防を! 今回は、脳幹出血とは何か、そして原因や予防策などについて解説しました。 脳幹出血は、脳卒中の中でも症状が重篤になりやすい疾患です。 日頃から体調管理に気を配り、特に高血圧については予防やコントロールをしていきたいですね。この記事がご参考になれば幸いです。 No.137 監修:医師 坂本貞範 【参考文献】 脳(中枢神経)・皮膚各部位 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000057154.pdf 脳幹出血について | メディカルノート https://medicalnote.jp/diseases/%E8%84%B3%E5%B9%B9%E5%87%BA%E8%A1%80 脳卒中|病気について|循環器病について知る|患者の皆様へ https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2/ e-ヘルスネット(厚生労働省) https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-003.html アルコール|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b5.html
2023.06.29 -
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もやもや病がまねく脳梗塞のリスク因子と予防策について解説 もやもや病は脳血管の異常により起こる、原因不明の難病です。 もやもや病は脳梗塞をまねく可能性があり、その先の社会生活に大きな影響を及ぼすことがあります。しかし、上手にリスクに対応できれば、脳梗塞を起こす可能性を少なくすることができます。 この記事では、もやもや病がまねく脳梗塞のリスク因子と、予防策を中心に解説をしていきます。 もやもや病ってどんな病気? もやもや病は、一時的に脳内に充分な血液がめぐらなくなる「脳虚血発作」をきたします。 発作時には、麻痺や手足のしびれを起こしたり、うまく言葉がしゃべられなくなったりします。病気が進行すると、てんかんを起こしたり、脳梗塞や脳出血・くも膜下出血を発症したりすることもあるのです。 脳虚血発作は、脳梗塞の前触れともいえる状態です。 この発作は、生活上の注意で避けられることも多くあります。ひとたび脳梗塞が起こると、梗塞部の脳細胞は死んでしまいます。結果、麻痺・言葉の障害や、記憶・注意・感情などに関連する高次脳機能障害といった後遺症をもたらします。 子供と大人での発症の違い もやもや病の発症年齢には、10歳くらいまでと、30〜40歳代の2つの山があります。 子供の場合は、脳虚血の症状で発症することが多いです。 一方、大人では脳虚血の他に、細い血管が破れる出血で発症することもあります。 最近では、自覚症状がないまま、人間ドックなどで、もやもや病が見つかる人も増えています。長年の頭痛の原因がもやもや病であった、ということもあるようです。 なお、この病気は法律の定める指定難病の一つです。画像検査で診断が確定したうえで、一定以上の重症度と考えられる方には、申請により医療費の補助がおります。 もやもや病による脳梗塞を防ぐ予防法とは? もやもや病による脳梗塞を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。大切なのは、前ぶれである脳虚血発作を繰り返さないようにすることです。 〜子供の場合〜 子供の場合、脳虚血発作の多くは過呼吸、つまり激しく息を吸ったり吐いたりすることで起こります。過呼吸により二酸化炭素が体から出ていくと、脳内の血管が縮みます。そうなると、脳の血のめぐりが悪くなり、発作を起こすのです。 脳虚血発作を繰り返している方は、日常生活では、この過呼吸状態を避ける必要があります。 具体的には、次のようなことが挙げられます。 過呼吸につながる行動 ・激しく泣く ・大声で笑う ・息が切れるような運動をする ・笛やハーモニカ、鍵盤ハーモニカなどを演奏する ・大きな声で応援をする ・熱いものを「ふーふー」と冷ます こういったことを制限すると、保育園・幼稚園や学校での生活に大きく影響してしまうことになります。保護者や学校の先生など、周囲の大人の理解と協力が必要になります。 また、脱水も脳の血のめぐりが悪くなってしまう原因になります。嘔吐や下痢・高い熱の時は、こまめに水分をとることを心がけてください。暑くなる季節には、熱中症を予防することも重要です。 〜大人の場合〜 大人の患者さんでも、発作を引き起こす行動があれば回避する必要があります。 加えて、脳梗塞の一般的なリスク管理が必要です。高血圧・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病をお持ちの方は、しっかり治療を受けてください。肥満であれば体重を減らす必要があります。タバコを吸っている方は禁煙をしてください。アルコールの飲み過ぎは、脱水につながるので気をつけましょう。 脳梗塞のリスク管理 ・生活習慣の見直し ・体重の管理 ・禁煙する ・アルコールを飲みすぎない 患者さんの状況によっては、血液をさらさらにするお薬を処方されることがあります。発作を繰り返す場合には、脳の血液の流れを改善するための手術を考えます。ひとりひとり、必要な治療は異なります。どのような治療をどのようなタイミングで行うのか、担当の医師ともよく話し合いましょう。 もやもや病と脳梗塞の関係についてよくあるQ & A Q, 発作が起こったときはどすればよいですか? A, まずは、状況を把握することが重要です。麻痺やしびれなどの症状を確かめましょう。そして、ゆっくり息ができるように休みましょう。 落ち着いたら、どのような状況でどのような発作が起こったのか確認しておくことも大切です。いつもより麻痺・しびれなどが長く続く、意識の状態が悪いなど、「なにかおかしい」と感じた場合は、医療機関を受診しましょう。 Q, この病気の治療や経過の見通しは? A, 脳梗塞・脳出血などを起こしてしまうと、たとえ命にかかわらなかったとしても、運動や言葉の障害や、記憶障害などの高次脳機能障害を残してしまうことがあります。そうなると、社会生活に大きな影響を及ぼしてしまう可能性があります。 一方で、適切な管理・治療を受けた方の多くは、最終的には日常生活の制限なく安定して過ごすことができます。そのためにも、定期的に通院し、必要な治療のタイミングを逃さないことが大切です。 まとめ・リスク因子と予防を知り、治療のタイミングを逃さないことが大切! 「脳の病気」「難病」といわれると、とても心配になると思います。しかし、適切なタイミングで適切な治療を受けることで、最終的には病気のない人とほぼ変わらない生活を送ることができるようになった患者さんが多くいらっしゃいます。生活上の注意点を守りながらきちんと通院し、担当医と治療方針を相談しましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S136 監修:医師 加藤 秀一 〈参考文献〉 冨永ら.もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)診断・治療ガイドライン(改訂版).脳卒中の外科 46 (1), 1-24, 2018 難病情報センター.病気の解説(一般利用者向け) もやもや病(指定難病22) https://www.nanbyou.or.jp/entry/47 難病情報センター.診断・治療指針(医療従事者向け) もやもや病(指定難病22) https://www.nanbyou.or.jp/entry/209
2023.06.26 -
- 頭部
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もやもや病の初期症状かもしれません|特徴やサインを知って早期発見を! もやもや病は内頚動脈という脳の太い血管が徐々に狭窄していき、異常な血管網が形成される疾患です。日本で発見された病気であり、英語ではMoyamoya diseaseといいます。日本人など東アジアに多いのですが、原因は完全には解明されていないため、厚生労働省から難病に指定されています。 もやもや病は、小児や大人でも発症する病気です。症状は主に脳の血流不足や脳出血が原因となり、多彩な症状を起こしますが、症状はそれぞれで異なります。特徴やサインを知って早期発見をすることが大切です。 この記事ではもやもや病の病態や初期症状のサイン、予後などについて解説し、さらによくある質問についても回答しています。 もやもや病とは もやもや病は脳の血管である内頚動脈や中大脳動脈が徐々に細くなっていき、脳の血液不足が起こりやすくなってしまう原因不明の病気です。 脳の血管は太い血管から分岐した毛細血管が張り巡らされているため、太い血管が細くなり血液が不足すると、毛細血管が発達して太くなり不足した血液を補います。その結果、血管を造影すると太くなった血管がタバコの煙のようにもやもやしてみえることから、もやもや病という病名となりました。 1950年代に日本で発見、命名されており、日本人をはじめとする東アジア人に特に多いことが知られています。人口10万人あたり6〜10人程度と比較的稀な疾患ですが、家族歴がある方が10〜20%程度いますので、ご家族にもやもや病がいる方は注意するべきと言えます。 もやもや病の初期症状サイン もやもや病は、小児や大人でも発症する病気です。初期症状のサインには、以下のようなものが挙げられます。 ☑こんな症状はありませんか? ▢頭痛 ▢失神 ▢脱力発作 ▢けいれん ▢めまい ▢手足のしびれ ▢手足の麻痺 ▢性格の変化 ▢記憶力の低下 頭痛や失神、脱力発作やけいれん、めまい、手足のしびれや麻痺などがあり、脳機能の障害により性格の変化、記憶力の低下などの多様な症状を出すことが特徴です。少しでも異常を感じたら、一度病院で精査を受けることをおすすめします。 もやもや病の原因と症状 原因は大きく、「太い血管が狭窄することによる血流不足」と「脳出血」に分けられ、症状はそれぞれで異なります。 血流不足が原因の場合、手足のしびれや麻痺、言語障害などが典型的な症状です。 一時的に起こり、時間が経つと改善する場合や、小児では熱いものを冷ますために息を吐いたり、リコーダーなどの楽器や運動によって症状が現れることもあります。これは、息を吐くことによって脳の血管が収縮して血流が不足することが原因です。 毛細血管が発達することによって出血を起こしやすくなり、脳出血を起こすことがあります。 他にも頭痛などの軽い症状や、検査で見つかる無症候性のもの、めまいや性格変化などの症状もあります。 病気の経過、予後について 適切な治療や管理を受けている場合には、約7割程度の方は症状的に安定して生活を送っていると推計されています。 脳の血管の狭窄は、最初の診断時と同じ状態が何年も変わらない方もいれば、徐々に進行していく方もいるといわれています。従って、定期的にMRIなどによる画像検査が必要です。 狭窄が進行した結果、脳梗塞を起こした方や、増生した毛細血管から出血を起こした場合は、手足の麻痺や、言語の障害、脳機能障害などの重症な後遺症が残ることがしばしばあります。 そのため、早期に診断して専門の病院で治療を受けることが大切です。 もやもや病についてよくあるQ&A 1.もやもや病で、手術を受けた方がいい場合とは? 回答:手術をするかどうかはご本人の希望と、診断した医師によって若干の違いがありますが、画像検査で偶然見つかり、症状がない方の場合には基本的には早期の手術は不要と考えられています。 しかし、成人で症状がある場合や、過去に脳出血の既往がある場合も手術が勧められています。特に子供では将来の脳虚血や脳出血の予防のために手術適応は広く考えられています。 小児で発症した場合、年齢が低いほど、脳梗塞などの重篤な症状を出しやすいとされています。上記のような症状がしばしば現れる場合には、激しい運動や楽器などの演奏は控えるなどし、診断がついた時点で手術治療を検討するべきとされています。 ただし、手術には合併症もあるため、病気と治療内容についてよく知識をつけてから臨むことが必要です。また決断に迷う場合には、複数の医師から話を聞いてから決断することも一つの方法です。 2.遺伝する可能性はありますか? 回答:現在でも詳細な原因は不明であり、必ずしも遺伝する病気というわけではありません。 最近の研究では、もやもや病に関係した遺伝子(RNF213遺伝子)が発見されていますが、病気になる感受性が高くなる「感受性遺伝子」であって、病気の「原因遺伝子」ではないとされています。この遺伝子はもやもや病がない一般の方にもみられる遺伝子ですので明らかな原因とは言えません。 家族内でもやもや病がみられる家族性のもやもや病は10〜20%であり、遺伝子以外に他の何らかの要因が加わることで発症するのではないかと推測されています。 3.治療にはどのような方法がありますか? 回答:診断にはCT画像やMRIがあり、症状進行の予防のためには手術治療が有効です。 脳梗塞や脳出血の急性期は、血圧のコントロールなどの内科的治療が主に行われます。 脳虚血発作の症状に対しては外科的血行再建術(バイパス術)が有効です。バイパス術は頭蓋外の血管と頭蓋内の血管をバイパスさせる浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術を中心とする「直接血行再建術」と、側頭筋接着術を主に行う「間接血行再建術」、及び両者を併用した「複合血行再建術」があります。 直接血行再建術は、速やかに吻合した領域の脳血流を改善できる利点があります。 間接血行再建術は、側頭筋や骨膜を脳表に置いて、そこから脳表に向かって血管が新しくできることを期待する方法で手術が比較的容易というメリットがあります。 まとめ・もやもや病の初期症状を感じたら早急に専門家の受診を! もやもや病は脳血管が狭くなることによって、脳血流が不足しやすくなってしまう原因不明の病気です。 症状は主に脳の血流不足や脳出血が原因となり、多彩な症状を起こします。頭痛や失神などの軽い症状からみつかることもあり、家族内で発症することもあるので、特に家族歴があるお子さんでは一度精査を受けることが望ましいです。 この記事を参考にしていただき、ご自身の治療に役立ててください。 No.136 監修:医師 坂本貞範
2023.06.22 -
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もやもや病による後遺症|社会復帰や運転への影響とは? はじめに もやもや病という病気を知っていますか?正式名称は「Willis動脈輪閉塞症」といい、脳の血管が狭窄・閉塞して起こる病気です。 指定難病であり、MRIやCTなどの画像検査で診断をすることが可能です。この病気は、脳卒中の原因にもなり、高次機能障害や記憶障害など様々な症状を引き起こす可能性があります。 この記事では、もやもや病についてや、社会復帰や運転は可能なのか、さらに後遺症の種類について詳しく解説しています。 もやもや病とは もやもや病とは、脳の血管に生じる病気です。 Willis動脈輪という脳の血管の経路のなかで、両側の内頚動脈が狭窄もしくは閉塞してしまった際に起こります。内頚動脈は脳への血流の経路として非常に大切な血管であり、閉塞してしまうと、脳への血流が低下してしまいます。 人間の体は、血流が不足するとそれをなんとか補おうとします。そのため、側副血行路とよばれる新しい血管がたくさん作られます。そうして新しくできた血管が、もやもやとたばこの煙のように見えることから「もやもや病」と呼ばれるようになりました。 この側副血行路は細く、弱い血管です。そのため破れて出血することもあれば、血流が流れていても不十分な場合もあります。そして、この血管が破れると脳出血になり、血流が行き届かないと脳梗塞や脳虚血になります。 もやもや病、大人と子供で症状が違う? もやもや病は主に、10歳以下の小児で発症する場合と、30代から50代の成人で発症する場合の2つがあります。 小児で発症する場合は、大部分が虚血症状、つまり脳への血流が不十分になった時に症状を起こします。 例えば、熱いものを吹き冷ますときや、大泣きした時、リコーダーを吹いた時などです。過呼吸状態になると、脳への血流が低下し、脱力発作やけいれんなどの症状を起こします。また、起床時に頭痛が見られることがあり、学校を休むほどの子もいます。 成人で発症する場合、虚血症状の場合も半分程度ありますが、残りの半分はもやもや血管が破れて脳出血となることで発症します。突然の頭痛や意識障害、片麻痺などを初発症状として認めます。 もやもや病の原因と診断基準について もやもや病の原因ははっきりとはわかっていません。最近の研究では、特定の遺伝子を持つ方に発症しやすい傾向があることまでは分かっています。 もやもや病を疑う症状があった場合は、MRIや脳血管造影検査などを行い、内頚動脈の閉塞ともやもや血管の存在を確認します。この2つが確認できた場合、もやもや病と診断できます。 CTで脳出血や脳梗塞を確認することができる場合もあります。また、脳の血流を判定するSPECTやPETといった検査が試行されることもあります。 もやもや病の治療に薬は有効か? 閉塞部を改善する根本的な治療はなく、症状を改善させる対症療法が基本になります。 外科的な手術としては、脳の血管どうしをつなぎ合わせて、血流が足りない部位へ血液を供給するバイパス術が行われることもあります。 脳卒中で発症した場合は、まずは脳卒中に対する一般的な治療が行われます。その後症状が安定した段階で、バイパス術など外科的な治療を考慮します。 脳の血流が不足している場合には、血液をサラサラにする機能がある抗血小板薬を内服し、血流が滞らないようにします。また、けいれんで発症した場合には、抗けいれん薬を用います。 後遺症や社会復帰について|運転はできる? もやもや病は、重篤な症状を発症する前に、バイパス手術などの治療を行うことができれば、後遺症なく社会復帰できる可能性が高い疾患です。 しかし、早期発見ができず、脳出血や脳梗塞で発症した場合、障害されている部位やその大きさによって以下のような症状が後遺症としてみられることがあります。 もやもや病でみられる後遺症 ◇運動麻痺 片側の手足が動かなくなることが多いです。動かなくなる程度は出血の大きさによって異なりますが、リハビリによって改善は認めますが、何らかの障害が残る可能性があります。 ◇感覚障害 触られている感覚や、痛みの感覚に異常が生じます。これらの感覚は鈍くなる場合と、反対に過敏になりすぎる場合があります。 ◇高次機能障害 記憶力や注意力に問題がおこる可能性があります。感情をコントロールできなくなったり、言葉が出にくくなったりすることもあります。 ◇嚥下障害 食べ物を飲み込みにくくなる症状も起こる可能性があります。出血の部位によっては、回復が難しい場合もあり、口から食事を摂れなくなることもあります。 ◇構音障害 呂律が回りにくくなることがあります。言葉が不明瞭になり鼻にかかったようなしゃべり方になる場合が多いです。 これらの後遺症は、人によって程度が違うため、一概には言えませんが、適切なリハビリテーションとサポートがあれば、多くの方が日常生活に戻ることができます。 社会復帰や運転はできる? 仕事復帰や運転となると、元通りとはいかない場合もあります。 特に運転には集中力、瞬発力、視覚能力などが求められます。これらに後遺症が残った場合は、危険性を考慮して運転が許可されない方もいます。 脳出血や脳梗塞に至らなかったとしても、一次的な脳虚血によってけいれん発作や視野障害などが起こる場合も、車の運転が制限されることもあります。運転をしたい場合は、主治医の先生とよく相談しましょう。また、定期的な通院も欠かさず行う必要があります。 もやもや病についてよくあるQ&A Q:もやもや病は遺伝する可能性がありますか? A:10〜20%の患者では血のつながった家族に同様の病気があるといわれています。若くして脳卒中を発症した家族がいる場合には、もやもや病が原因の場合もあります。そのような方は、家族性発症のリスクがあるため一度MRIなど詳しく調べることをお勧めします。 Q:子供がもやもや病になった場合、成長や学習能力に影響はありますか? A:小児の場合、発見が遅くなると、脳の神経細胞への血流が阻害され、知的機能や運動機能に偏りが起こる場合があります。治療が早ければ後遺症も少なく、成人しても自立した社会生活を送ることもできます。少しでも異変を感じた際は、早急に専門医を受診するようにしてください。 まとめ・もやもや病による後遺症|社会復帰や仕事への影響とは もやもや病は、症状や後遺症が個々に異なる希少な疾患です。手術などの治療により、後遺症なく社会復帰できる場合もあれば、なんらかの介護が必要となる場合もあります。 検査技術などの進歩によって、早期に正確な診断ができるようになっています。危険性に気が付くためには、病気について知ることが第一歩です。少しでも不安なことがある場合は、放置せず、脳ドックを受けたり、専門医を受診したりしてみましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S135 監修:医師 加藤 秀一
2023.06.19 -
- 頭部
- 頭部、その他疾患
もやもや病の手術について|成功率や予後予測とは もやもや病は、内頚動脈という脳の太い血管が徐々に狭窄していき、血流を補うために毛細血管が増殖する難病であり、様々な症状を引き起こします。 もやもや病の症状は、脳梗塞などの脳の虚血によるものと脳出血に関連するものがあります。無症状では経過観察となることもありますが、一般的に症状がある方や小児、出血の既往がある方では手術治療が行われることが多い病気です。 しかし、手術後の痛みや失敗の可能性、手術自体のリスクなど、不安な点が多いと思います。この記事ではもやもや病の手術に関する詳しい情報について解説していますので、参考にしてみてください。 もやもや病の手術と入院期間 治療にあたっては、手術方法や入院期間などの具体的な情報を知っておく必要があります。 もやもや病には、血管が狭くなることによって脳血流が低下して起こる「虚血型」と、増殖した血管が破裂して出血してしまう「出血型」の2種類があります。 虚血型は、脳血流が不足した部位に応じて手足のしびれや麻痺、言語障害などの症状が一時的に出現します。また、血管の狭窄が進行し、脳の組織への血流が完全に途絶えてしまうと脳梗塞を発症します。 一方、出血型は血管が破れることにより頭痛と出血部位に応じた症状が出現します。 脳梗塞や脳出血では、それぞれに応じた治療法が選択されますので、脳血流が低下する虚血型に対するバイパス手術について解説します。 バイパス手術 バイパス手術とは外科的血行再建術とも言われ、浅側頭動脈と中大脳動脈という血管を直接吻合させて血行を再建する「直接再建術」と、側頭筋や骨膜を脳の表面に置いて、そこから脳表に向かって血管が新しくできることを期待する「間接血行再建術」に分けられます。 直接血行再建術は、速やかに吻合した領域の脳血流を改善できる利点があります。一方で間接血行再建術は、手術が比較的容易というメリットがあります。また、手術以外の治療として内服による治療があります。治療薬として抗血小板剤(血液をサラサラにする薬)を内服し、血液の流れをスムーズにすることで脳血流の改善を促します。もやもや病ではこのようにお薬での治療と、いくつかの手術方法を組み合わせる治療が行われています。 入院期間 入院期間についてですが、手術は全身麻酔で行い手術後にMRI検査や脳血流検査などで血流の改善を確認します。大きな合併症がなければ、おおむね10-14日程度で退院が可能です。その後は3ヶ月おき程度に定期的に外来通院をしていただき、年に1回程度はMRIなどの画像検査を受けることがお勧めされます。 もやもや病の手術後の予後とは 小児の適切な時期にバイパス術を受けていただくと、その後に脳梗塞を起こすことはほとんどなく、多くの方は就学と仕事に関しては問題ないと報告されています。 ただし、手術を受けた小児58人の経過を観察したところ、平均18年間の観察で、脳梗塞が1例、脳出血が3例みられており、少ないながらも脳出血を起こしてしまう場合もあります。 また、診断・治療が遅れて脳梗塞を起こした後に手術を受けた場合では脳機能に障害が残っており、普通学級への進学が困難となるリスクがあると報告されています。 一時的な脳の虚血発作であれば、手術によってその後の予後を改善することが可能ですが、脳梗塞を発症してしまった後では、手術でも障害された脳機能は回復することができません。そのため、早期に診断、治療を受けられるようにすることが大切です。 もやもや病の手術ついてよくあるQ&A Q, 手術の方法はどのように決めるのですか。 A, 患者さんの年齢、症状、検査結果により手術の方法が決定されます。また一般的に、全員に手術が必要なわけではありません。症状がない方や、脳血流が安定している方では内科的な血圧管理や生活習慣病の管理、内服薬などで症状の進行を予防し、定期的な画像検査で経過を観察する場合もあります。 しかし、脳血流が低下している場合や脳虚血の症状がある時には手術が推奨されています。手術は直接血行再建術や間接血行再建術、もしくはその組み合わせなどが選択されますが、患者さんの状態や、医師の考えなどをもとに総合的に決定されます。そのため、しっかりと検査を受けることと、複数の医師から意見を聞いてみることが大切です。 Q, 手術の成功率はどの程度ですか。 A, 手術を受ける場合は、タイミングが重要とされます。脳の血流が保たれている段階でバイパス手術を受けると、予防には有効ですが、手術の効果があまり出ずに病気が進行して症状が再発する場合があります。 また、手術を受けても急に脳の血流が増えて一時的に不安定な状態となり術後に脳梗塞、脳出血を起こしてしまう方もいらっしゃいます。適切なタイミングで手術を受けた場合には、おおよそ8割程度の方は普通の日常生活を送れるようになる場合が多いとされています。 症状が消失した場合は完治と考えられるかもしれませんが、細くなった血管を元に戻すことはできず、進行、再発することがあるので手術を受けても経過観察が必要です。ご自身の病気の状態をしっかりと認識して生活していくことが必要になります。 まとめ・もやもや病の手術について|成功率や予後予測とは もやもや病は難病です。手術にも様々な方法があり、手術時期の見極めが大切です。 症状でお困りの際には一度専門の病院に相談するようにしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.135 監修:医師 坂本貞範
2023.06.15 -
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アキレス腱断裂後のリハビリメニューを解説|装具の種類と特徴とは? アキレス腱断裂後に「どのようなリハビリをするんだろう?」と気になる方はいませんか? アキレス腱断裂後の治療は手術をしない保存療法とアキレス腱を縫合する手術療法があり、どちらの場合も、装具を使いながらリハビリを行います。 本記事では、アキレス腱断裂後のリハビリメニューや使用する装具の種類、特徴を解説します。怪我をした後にどのような経過でリハビリを進めるのか詳しく説明するので、アキレス腱断裂後のリハビリを知りたい方は、ぜひ参考にしましょう。 アキレス腱断裂後のリハビリメニュー アキレス腱断裂後は、保存療法にしても手術療法にしても、アキレス腱の回復状況や痛みなどに合わせてリハビリ内容を変更します。 まずは、具体的なリハビリメニューについて解説します。 患部外トレーニング 怪我や手術をした直後は、アキレス腱を保護するため、足首を動かしたり、体重をかけたりできません。 その場合、足首以外の部分が弱らないようにするため、患部外のトレーニングを実施します。 具体的には以下のようなトレーニングがあります。 タオルギャザー 用意するもの:フェイスタオル等やや厚手のタオル ①裸足で立位または椅子に座り、指先でタオルをたぐり寄せる。 ②たぐり寄せたタオルを指先で元の位置に広げる。 ③左右を入れ替えて繰り返し行う。 パテラセッティング 用意するもの:バスタオル(またはクッション) ①仰向けになり、まっすぐに伸ばした膝裏に丸めたタオルを挟む。 ②膝裏でタオルを力強く押すと同時に、つま先は上に持ち上げる。(5 秒ほど) ③左右を入れ替えて繰り返し行う。 膝伸展運動 用意するもの:背もたれのある椅子 ①立位で椅子の背もたれなどに摑まり、膝を伸ばした状態で片足を後ろに引き、ふくらはぎを伸ばす。 ②左右を入れ替えて繰り返し行う。 股関節外転運動 ①横向きになり、上側の足をゆっくりと持ち上げ、ゆっくりと下ろす。 ②左右を入れ替えて繰り返し行う。 アキレス腱の修復が進んだ後、スムーズに次のリハビリに移るためにも、しっかり患部外トレーニングを行う必要があります。 関節可動域運動 足首の関節が固まらないように、関節可動域運動(かんせつかどういきうんどう:ROM運動)を行います。 つま先を上に持ち上げるような動き(背屈運動:はいくつうんどう)はアキレス腱が伸ばされるため、慎重に始めて再断裂を予防するのが大切です。 step1 まずは、自分でゆっくり動かしていき、アキレス腱の組織が癒着しているのをはがします。 step2 最初はつっぱり感があり、痛みも出やすいので、優しく行うのが重要です。 step3 徐々に理学療法士によりマッサージやストレッチをくわえながら関節を動かし、アキレス腱の柔軟性を改善します。 アキレス腱の強度が高まれば、立ってアキレス腱を伸ばすようにストレッチをして関節の動きを改善します。 筋力トレーニング アキレス腱が十分修復されてくれば、日常の動作やスポーツに必要な筋力を戻すためのトレーニングを実施します。 まずはゴムバンドなどを使用して体重をかけない状態で負荷をかけていきます。筋力や痛みの有無に合わせて、体重をかけた状態でのトレーニングに移行します。 ①座って踵上げ(座位カーフレイズ)から始める ⇩ ②両脚で立っての踵上げ(両脚カーフレイズ) ⇩ ③片足で立っての踵上げ(片脚カーフレイズ) と徐々に負荷を高めていきます。 荷重練習 アキレス腱の修復状況に合わせて、体重をかける時期や量を調整します。 保存療法に比べ、手術療法の方が早くから体重をかけることができます。 荷重は装具を使用しながら調整します。装具については、後ほど詳しく解説します。 動作練習 アキレス腱の強度や筋力が十分になれば、装具を外してのウォーキングやジョギング、ランニング、ジャンプといった動作を実施していきます。 スポーツ動作は複雑な動きや強い瞬発力を必要とするため、短くても6ヶ月程度の期間が必要です。 アキレス腱断裂後のリハビリ経過 アキレス腱断裂後に選択する治療法によってリハビリメニューや装具の装着期間、調整のタイミングが異なります。 ここでは、保存療法と手術療法に分けて、リハビリの経過について紹介します。 保存療法でのリハビリの経過 まずは、保存療法におけるリハビリの経過の例は以下の通りです。 受傷日からの日数 リハビリメニューの例 受傷〜2週間 体重は全くかけてはいけない。患部以外のトレーニングの実施。 2週間〜6週間 足首を下に向けた状態で固定。床に触れる程度から体重をかけ始める。 4周目以降に全体重をかけ始める。また、足首をゆっくり自分で動かす。 6週間〜8週間 足首をストレッチする。 8週間〜12週間 徐々に筋力トレーニングを開始。 まずはゴムバンドなどを使ったトレーニングを開始。 筋力が向上すれば座位カーフレイズ開始。 その後、両脚カーフレイズ、片脚カーフレイズを段階的に実施。 3ヶ月〜4ヶ月 装具を外してウォーキングやジョギングを開始。 4ヶ月〜6ヶ月 ランニングやジャンプ開始 6ヶ月〜 スポーツ復帰 以上のように受傷からアキレス腱の修復状況に合わせて、段階的にリハビリメニューを変更していきます。 アキレス腱の修復状況や痛みの程度、合併症の有無などによって、上記のメニューのようにいかない場合もあります。 受傷直後はギプス固定をして、足首が完全に動かないようにしばらく固定をする場合もあります。あくまでもアキレス腱の修復や再断裂の予防が最優先ですので、医師や理学療法士としっかり連携をとり、リハビリを進めていくのが大切です。 手術療法でのリハビリの経過 次に、手術療法後のリハビリの経過について紹介します。 受傷日からの日数 リハビリメニューの例 受傷〜4週間 体重は全くかけてはいけない。患部以外のトレーニングの実施。 痛みに合わせて徐々に足首の運動を実施。 徐々に体重をかける量を増やしながら、荷重していく。 4週間〜6週間 つま先を下に向けた状態から徐々に戻していき、全体重をかけていく。 6週間〜8週間 立った状態でのストレッチや足首の筋力トレーニングを始める。 筋力がついてくれば両足カーフレイズを実施(両手支持から始める)。 8週間〜3ヶ月 装具を外してのウォーキング開始。 片脚カーフレイズで筋力を向上させる。 3ヶ月〜5ヶ月 ジョギングやランニング、ジャンプなどを段階的に実施。 5ヶ月〜 スポーツ復帰を目指す。 保存療法でのリハビリに比べて、アキレス腱を動かしたり、荷重をかけたりする時期が早まります。そのため、早期の動作獲得やスポーツ復帰を目指せます。 アキレス腱断裂で使う装具の種類や特徴 アキレス腱断裂では、つま先が下を向いた状態で固定できる装具を使用します。 踵に厚みをつけるためのパッド(ヒールパッド)を貼り付けて、つま先が下を向いた状態で体重がかけられるように工夫されます。パッドは厚みを調整できるよう、複数枚を重ねてできているため、アキレス腱の修復状態に合わせて、足首の角度の調整が可能です。 ギプス固定から装具に移行した段階で、就寝や入浴時に外すことは可能ですが、それ以外の時間は装着が必要です。 まとめ・アキレス腱断裂後のリハビリ経過や装具装着は治療方法によって異なる アキレス腱断裂後のリハビリ経過や装具装着の方法は、保存療法か手術療法によって異なります。治療方法の選択は医師としっかり相談して、個人個人のライフスタイルに合わせた選択をします。 いずれにしても、アキレス腱の修復を待ちながら、段階的にリハビリを進めて、日常生活やスポーツに復帰することが大切です。 本記事を参考にアキレス腱断裂後のリハビリや装具についての理解を深めて、医師や理学療法士と連携しながら回復を目指しましょう。 No.S134 監修:医師 加藤 秀一 引用"第2版整形外科術後理学療法プログラム.MEDICAL VIEW,東京,2014,pp216-221." 引用"日本整形外科学会「アキレス腱断裂」" https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/achilles_tendon_rupture.html
2023.06.13 -
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アキレス腱断裂に“手術しない再生医療”!最新治療と効果について解説 アキレス腱断裂は中高年の方によく起こる代表的なスポーツ外傷です。 仕事やスポーツへの早期復帰を希望する場合には従来は手術治療がよく選択されてきました。一方で、手術治療を選択してもケガをする前の状態まで戻るには長期間のリハビリが必要であったり、傷や感染症など手術自体の合併症などの問題がありました。 その中で、最近では最新医療である「再生医療」が注目されてきており、アキレス腱断裂でも治癒を促進する治療として自己多血小板血漿(Platelet-Rich Plasma; PRP)療法が行われてきています。 再生医療を行うことで、手術をしない場合でも早期に仕事復帰、スポーツ復帰が可能になると期待できますし、手術の合併症のリスクも回避することができます。 この記事では、最新医療として期待されている、アキレス腱断裂に対するPRP療法での再生医療について解説していきます。 アキレス腱断裂に対するPRP療法について PRP療法は、患者さんから採血した血液から抽出した「多血小板血漿(PRP)」を患者さんの傷んでいる場所に注射する再生医療です。 PRPは、採血した血液を特殊な血液分離機器を用いて精製することで、通常の血液に比べて血小板や様々なサイトカインや成長促進因子を含んでいることがわかっています。 再生医療と聞くと、「自分の細胞を培養して投与する複雑な治療?」と想像されるかもしれませんが、PRP療法は精製したPRPを局所に注射するだけですので、身体への負担が少なく、短時間で終わるため、外来で受けることが可能です。 ・身体への負担が少ない ・短時間で終わる ・外来で受けることが可能 簡単かつ、自分の組織のため安全なので、普及しつつある治療法なのです。 PRP療法のメリット、デメリット メリット 1.副作用が少ない 自分から採取した組織で治すため、アレルギー症状などの拒絶反応などを引き起こしにくく、副作用もほとんどありません。 2.身体を傷つける心配がない 実際の身体への負担は採血と精製した組織の注射だけで、手術などで身体にメスを入れる必要がありません。 3.外来で治療が可能 PRP療法は、通院による治療が可能で、実施後から日常生活に戻れます。そのため負担が非常に少ない治療法です。入院、手術の場合には麻酔や手術後の療養のため長期の療養が必要になる場合もあるので、外来で治療ができるPRP療法はとても有効です。 デメリット 1.効果の個人差 PRP療法の効果には個人差があります。ヒトの血液の中には様々な因子が含まれており、その量には個人差があります。また、精製の過程で割合も変化するので、効果に個人差があることは知っておく必要があります。 2.処置部位の痛み 注射をするという医療行為の特性として、注射をした後の数日間は、痛みや腫れ、赤みなどの症状が出ることもあります。こちらの症状は自然によくなる方が多いのですが、症状には個人差があるので、心配な場合には一度治療された病院を受診されるすることをおすすめします。 アキレス腱断裂に対するPRP療法の有効性 PRP療法は最新の治療のため、現在様々な研究が行われ効果が検証され始めています。 一般的にアキレス腱などの腱は腱自体への血流が乏しいので治りにくく、復帰に時間を要するのですが、PRPを投与することで腱の修復を早くすることができます。複数の研究をまとめたシステマティックレビューというエビデンスレベルの高い論文では、PRP療法を行った場合、足関節の可動域が他の治療と比べて良好であるという報告がなされています。(参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34731144/) PRP療法を行うことで最短で治りつつ、機能的にも良好な成績が得られると考えられています。 再生医療に対するよくある質問 1.PRP療法は他にどのような疾患に適応がありますか。 回答:PRP療法は様々な疾患で受けることができます。アキレス腱断裂のほかに、半月板や膝の靭帯損傷、ジャンパー膝などの腱の炎症、変形性膝関節症や変形性股関節症などの軟骨が摩耗する疾患、五十肩など痛みを伴う整形外科の疾患の多くに適応があります。 飲み薬や注射でも治らず、手術しかないと言われている方で手術をせずに治したい方、はやく痛みを和らげたい方は、適応があるか是非医療機関にご相談してみてください。 2.PRP療法はどこで受けることができますか。 回答:2023年5月時点ではPRP療法は自由診療ですので、行っている施設は限られています。当院では最新の再生医療としてPRP療法に加えて、独自の細胞培養技術を用いた自己脂肪由来幹細胞治療も行っています。 治療についてのご相談は、経験豊富な医師、アドバイザーが無料で行っており、内容についてご納得していただいた上で治療を受けることができます。 ご予約は電話、メール、WEBで可能ですので、治療について悩んでいる方は是非お気軽にご相談ください。 ▶リペアセルクリニック「メール・WEBで相談する」 まとめ・アキレス腱断裂に“手術しない再生医療”!PRP療法と効果について アキレス腱断裂に対するPRP療法は近年注目されている最新の再生医療です。 採血したご自身の血液から精製した組織をアキレス腱に注射するだけで、外来で治療が可能であり、早期に腱が修復でき機能的にもより改善できる可能性があります。手術をせずに早くケガを治したいなど、PRP療法についてご興味のある方はぜひお気軽に当院にご相談ください。 No.134 監修:医師 坂本貞範
2023.06.08 -
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もやもや病と言われたら|原因・治療法について医師が解説 もやもや病とは、脳の太い血管が細くなり、その代わりにもやもやとした異常な血管が増える病気です。最近は、無症状でも脳ドックなどで診断される人もいます。 今回は、もやもや病の原因や治療法、そしてもやもや病だと言われた時に注意するポイントについて解説していきます。 もやもや病とは何か? もやもや病は、1950年代に日本で発見されました。昔の検査では、網の目のようになった異常な血管が「もやもや」とみえたことから、「もやもや病」と名付けられたといわれています。 現在、「もやもや病」という名前は世界中で通用する正式名称で、英語でも「Moyamoya disease(モヤモヤ・ディジーズ)」と言います。 もやもや病の原因 もやもや病とは、脳に血液を送る血管の一つである内頸動脈(ないけいどうみゃく)が徐々に狭くなり、詰まっていく病気のことです。*1 脳の太い血管が詰まってしまうので、その代わりに脳に血液を届けるために、異常な血管(側副血行路:そくふくけっこうろ)が網の目のように発達します。 引用)*1 もやもや病…ここまできた診断・治療 p2 http://jcvrf.jp/general/pdf_arekore/arekore_117.pdf なぜ血管が詰まってしまうのかについてはまだわかっていませんが、ある特定の遺伝子と関係があるのではないかともいわれています。 また、日本に多くみられるという特徴があります。もやもや病は日本では国の指定難病になっており、申請を行うと医療費助成の対象となる場合があります。*5 *5 指定難病患者への医療費助成制度のご案内 – 難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/5460#taisho もやもや病の症状 もやもや病は、大きく分けると、脳血流不足で発症と、脳出血で発症の2つの場合があります。 (1)脳血流不足で発症 (2)脳出血で発症 最近では、ほぼ無症状で発見されるタイプも増えていますが、たとえ無症状であっても、脳梗塞や脳出血のリスクは年2〜3%あると考えられています。 (1)脳血流不足で発症する場合 大きな脳の血管が詰まることで、血流不足が起こります。 すると、急に「手足が動かしにくい」、「顔面や手足がしびれる」といった症状が生じます。 (2)脳出血で発症する場合 不足した脳の血流を補うために発達したもやもや血管は、長年負担がかかることで破れてしまうことがあります。 激しい頭痛とともに、意識障害、手足の麻痺、言語障害などが起こることがあります。出血が多い場合には生命に関わることもあります。 その他の症状 その他、小児の場合には、朝方に吐き気を伴う強い頭痛が続くという場合もあります。 また、頻度は高くありませんが、けいれん(ひきつけ)の症状が出ることもあります。この場合は、脳波の検査では特徴的な波形が出ることが知られています。 もやもや病といわれたらどうすればいい? では、ここからはもやもや病の治療方法や、もやもや病についてのよくある質問について説明します。 もやもや病の治療方法 もやもや病の治療は、もやもや病による脳梗塞や脳出血を予防する方法となります。 もしも脳梗塞や脳出血を発症してしまった場合には、その治療を行っていきます。 脳血流量を増やすためのバイパス手術 脳の血流量を増やすために、新しい血液の流れを作るためのバイパス経路を作る手術療法があります。 血流が不足するタイプのもやもや病の患者さんが脳梗塞を起こすのを防ぐ効果が認められています。 抗血小板薬の内服 脳血流不足で発症した場合には、血液の中の血小板(けっしょうばん)という成分の機能を抑え、血液を固まりづらくする抗血小板薬が使用されることもあります。 一定の効果があると考えられていますが、こうした治療薬のみでの治療には限界があるようです。 もやもや病についてよくある質問 それでは、もやもや病といわれた場合に、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。 もやもや病に関してよくある質問に答える形で、解説していきます。 Q1 脳の血管の詰まりなどは進行しますか? A 脳の血管の詰まりについては、最初に診断されたときと同じ状態が何年間も変わらない人もいれば、だんだんと進行していく人もいるといわれています。 そのため、定期的なMRIなどによる検査が必要と考えられます。 Q2 もやもや病でも普通の生活はできるの?注意点はありますか? A 手術によって脳血流がよくなった場合には、生活上の大きな制限はないと考えられます。 一方、打撃系の格闘技(ボクシングなど)やラグビーは、脳への強い振動などが懸念されるのでおすすめできません。サッカーのヘディングについても、大丈夫かはまだわかっていません。 また、成人の場合には、タバコは好ましくありません。タバコに含まれるニコチンには、血管を収縮させる働きがあるので、もやもや病を抱えている場合にはタバコは禁物です。 また、お酒については、飲みすぎるとおしっこの回数が増え、脱水症状につながるおそれがあるので、たくさん飲むことは避けましょう。 Q3 もやもや病と診断されたら、必ず手術が必要ですか? A 基本的には、症状が頻繁にはないときには手術の必要はありません。 しかし、成人の場合で、症状がある、脳血流検査で脳の血流が著しく低下している、あるいは過去に脳出血を起こしたことがある場合には、一般的には手術が勧められます。 小児の場合には、将来症状がでることを予防するために、手術となることが多いです。 最終的には、検査結果や患者さんの年齢や状況を総合的にみて、手術適応が決まります。 まとめ・もやもや病と言われたら|原因・治療法について医師が解説 もやもや病は、脳の太い血管が詰まってしまうことで起こる病気です。根本的な治療法は、手術で脳の血流を改善することですが、それぞれの症状や年齢によって対応方法は決まっていきます。 今回の記事が参考になれば幸いです。 No.S133 監修:医師 加藤 秀一
2023.06.05 -
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アキレス腱断裂の予防と再発予防策を医師が解説 アキレス腱断裂の予防には、ふくらはぎの柔軟性を保ち、使いすぎを防ぐようにするのが大切です。また、アキレス腱断裂後は、適切なトレーニングをして再発予防をします。 本記事では、アキレス腱断裂の予防方法や再発予防策を紹介します。日頃からスポーツをする方はもちろん、運動不足でスポーツを始めようとする方も、アキレス腱断裂の予防にぜひ参考にされてください。 アキレス腱断裂とは?原因や症状を解説 「アキレス腱断裂」とは、踵にあるアキレス腱が、スポーツや仕事などで生じる負担で断裂する怪我です。 まずはアキレス腱断裂がどのような怪我なのかを解説して、断裂が生じる原因を紹介します。 アキレス腱断裂の原因 30〜40歳代のスポーツ実施中によく見られます。また、加齢によってアキレス腱が老化したり、使いすぎて負担が蓄積したりすることがアキレス腱断裂の原因です。 アキレス腱は足首の後ろ側にあり、ふくらはぎの筋肉である腓腹筋(ひふくきん)とヒラメ筋が合流して踵につく部分の腱です。腓腹筋とヒラメ筋は合わせて下腿三頭筋(かたいさんとうきん)と呼び、つま先立ちを可能にします。 スポーツなどの動作で、下腿三頭筋が強く働いたり、急にアキレス腱が伸ばされたりしたときの衝撃で断裂してしまいます。 アキレス腱断裂の症状 アキレス腱が断裂すると、誰かに足をけられたような感覚や「ブツッ」というアキレス腱が切れた音を自覚する場合があります。 また、断裂により次のような症状がみられます。 1 ,歩行障害 2 ,断裂部の痛み 3 ,つま先立ちが困難 4 ,断裂部がへこむ それぞれの症状について解説します。 1 ,歩行障害 断裂した直後は、うまく踏ん張れず、歩くことが難しくなります。しかし、しばらくするとべた足で歩ける場合も少なくありません。 2 ,断裂部の痛み 断裂部の痛みがありますが、強い痛みは一時的でその後は痛みが少ないこともあります。 また、断裂部を抑えると痛みがあります。 3 ,つま先立ちが困難 つま先立ちは下腿三頭筋の強力な筋力が必要になります。そのため、アキレス腱断裂により下腿三頭筋の力がうまく発揮できなくなると、つま先立ちが難しくなります。 体重をかけずにつま先を下に向けるよう足首を動かすことは可能です。 4 ,断裂部がへこむ 完全にアキレス腱が断裂すると、断裂した部分がへこんだように見えるのが特徴です。しかし、部分的な断裂だと、腫れによりへこみがあまりわからない場合もあります。 アキレス腱断裂の予防 アキレス腱が切れやすい人の特徴は、アキレス腱の老化による柔軟性や筋力の低下が挙げられます。そのため、柔軟性や筋力を保つことがアキレス腱の予防に大切です。 具体的には次のような方法があります。 ・下腿三頭筋のストレッチ ・下腿三頭筋の筋力トレーニング ・日常生活やスポーツ時の工夫 それぞれの方法やポイントについて解説しますので、実践可能なものから取り入れましょう。 下腿三頭筋のストレッチ 下腿三頭筋の柔軟性を高めアキレス腱にかかる負担を減らすようにしましょう。下腿三頭筋は腓腹筋とヒラメ筋が合流した筋肉です。それぞれの筋肉によってストレッチの方法が違うので注意しましょう。 まずは腓腹筋のストレッチ方法を紹介します。 腓腹筋のストレッチ 1. 立った状態で左足を後ろに引く 2. 右足の膝を曲げながら体重を前にかけていく 3. 左足の膝は伸ばして踵を地面から離さないようにする 4. 左足のふくらはぎが伸びているのを感じながら30秒キープする 5. 脚を左右変えて同じようにする。 次にヒラメ筋のストレッチ方法です。 ヒラメ筋のストレッチ 1. しゃがんだ状態で左脚を立てて片膝立ちになる 2. 左足に体重をかけるように前に重心を移動させる 3. 左足の踵が地面から離れないようにする 4. 左足のふくらはぎが伸びているのを感じながら30秒キープする 5. 脚を左右変えて同じようにする。 ヒラメ筋は膝を曲げながらストレッチをかけるのがポイントです。膝を曲げると腓腹筋が緩んだ状態になるので、ヒラメ筋を単独でストレッチできます。 下腿三頭筋の筋力トレーニング 下腿三頭筋のトレーニングとしては、立った状態でゆっくり踵の上げ下ろしをする「カーフレイズ」が有名です。 カーフレイズ 膝を伸ばした状態と曲げた状態の両方で行うと、腓腹筋、ヒラメ筋を両方鍛えることができます。 バランスがとりづらい方は椅子やテーブルを持って行うと良いでしょう。 10回を最初の目標にして、ふくらはぎが疲れない程度に取り組みましょう。 日常生活やスポーツ時の工夫 日常生活で運動不足を解消して、散歩や前述のストレッチや運動でアキレス腱を若々しい状態に保つことが大切です。 また、スポーツ時に急に激しい運動をするのではなく、事前のストレッチや軽めの体操など取り入れ、アキレス腱にいきなり強い負荷をかけないようにしましょう。 アキレス腱断裂の再発予防 一度アキレス腱が断裂すると、修復まで腱がもろい状態ですので再断裂のリスクをともないます。そこで再発予防の方法を解説します。 適切なトレーニングの実施 アキレス腱の修復の状態に合わせて、適切なトレーニングやケアをする必要があります。アキレス腱断裂には手術をする場合と、手術をしない保存療法の場合があります。どちらの場合でも、いきなり激しいトレーニングは禁物です。 最初は怪我した部分以外からトレーニングを行い、徐々に下腿三頭筋に負荷をかけて筋力を戻していきます。そして、必要に応じてスポーツ動作の練習をしていき、競技復帰を目指します。 再発を予防するためには、整形外科を受診して、医師や理学療法士などの専門家の指導のもとで、適切なトレーニングを実施しましょう。 アキレス腱へ無理な負荷をかけない 激しい運動を控えたり、ストレッチなど事前の準備なく運動をしないようにしたりなどアキレス腱へ無理な負担をかけないようにしましょう。 サポーターやテーピングを活用して、アキレス腱にかかる負担を軽くするのも良いでしょう。 まとめ・アキレス腱断裂を予防するために日頃からストレッチや運動を心がけよう アキレス腱の断裂を予防するために、下腿三頭筋のストレッチや筋力トレーニングを日頃から行い、柔軟性や筋力を保つようにしましょう。 また、運動不足で急に激しい運動をしたり、ストレッチをせずにスポーツをすることは避けましょう。 再断裂のリスクは不適切なトレーニングや無理な運動で高まります。医師や理学療法士などの助言をしっかり受けて、適切な方法でスポーツなどに復帰するようにしましょう。 本記事で紹介したストレッチや運動は誰でも簡単に実践できます。運動不足を感じる方は、アキレス腱断裂予防のために、今日から実施しましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.133 監修:医師 坂本貞範
2023.06.01 -
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アキレス腱断裂の手術の流れと注意点|入院期間や費用も解説 アキレス腱が断裂してしまった場合、手術を行うか、手術を行わない保存療法を行うかを選ぶ必要があります。その際、もちろん「手術療法(保存療法)のメリット・デメリット」「このような場合には手術が推奨される」などの話はされるでしょう。 しかし、「手術ってどのくらいお金かかるの?」「手術ってどういうことするの?」という不安も自然であり、なかなか医師に聞きにくい場合もあると思います。 この記事では、アキレス腱断裂手術の流れや注意点などを解説します。 アキレス腱断裂の手術治療の選択肢 アキレス腱断裂と診断された際には、治療法を提示され、自身で決定する必要があります。手術と保存療法はそれぞれにメリット、デメリットがあるので、納得できないままどちらかを選ぶことはやめましょう。 手術と保存療法については以下の記事で解説していますので、参考にしてください。 ▶アキレス腱断裂の治療、手術と保存療法どちらがよい?失敗しない選択肢! それでは、手術を選択した場合の治療の流れを解説していきます。 手術決定〜入院 手術することが決まれば、具体的な日取りを決めていきます。仕事や学校など、考慮したい事情がある場合は必ず伝えましょう。 入院オリエンテーションで入院中の生活、注意点などの説明がありますので、わからないことがある場合は積極的に聞いてよいです。術前検査や、全身麻酔の場合は麻酔科の診察もありますので、治療中の病気などがあれば必ず申告しましょう。 入院・手術 手術より前の日に入院する場合と、手術当日に入院する場合があります。合併症や治療中の病気がある場合には前もって入院することが多いです。 入院・手術が近づいてきたら飲酒は避けたほうがよいでしょう。食べるものなどに制限はありませんが、「手術前〇時間は絶食」などの指示は必ず守ってください。 注意ポイント ・入院、手術前の飲酒は避ける ・病院側からの食事の指示は必ず守る 手術が終わった後は、合併症に気をつけながら経過観察をされます。早期にリハビリテーションを行うこともあります。「手術後の痛みや腫れはいつまで続くのだろう」と不安になる方もおられると思いますが、手術による痛みや腫れなどの急性変化は 3日ほどで改善することが多いと言われています。 入院期間は病院により様々ですが、4〜10日前後を設定しているところが多いです。経皮的縫合術という侵襲の少ない手術方法では日帰りの手術も可能です。手術の説明を受ける際に、術式や期間もまとめて聞くとよいでしょう。 退院後のリハビリテーション 入院した直後から日常生活、スポーツの復帰まで継続したリハビリテーションが必要になります。それぞれの動作、運動を開始するタイミングは施設により異なりますが、最短でのスポーツ復帰は4~5ヶ月に設定している施設が多いです。せっかく受けた手術を無駄にしないためにも、していいこと・してはいけないことを確認し、しっかりと守りましょう。 大まかな流れ 術後1週まで:足関節が動かないようにギプスで固定します。ヒールをつけて歩くなど、固定したところ以外はしっかり動かしてもらいます。 術後2週頃:固定を外し、装具を装着した状態で少しずつ足首を動かす練習を行います。 術後1ヶ月頃:両足での底屈動作(つま先立ち)の練習を開始します。 術後2ヶ月頃:片足での底屈動作(つま先立ち)の練習を開始します。装具がとれて、軽いジョギングを開始します。 術後3ヶ月頃:ランニングを開始します。 術後4〜5ヶ月頃:スポーツ動作の練習を再開します。 手術・入院にかかる費用 どのような術式、麻酔法にするかで差がありますが、3日間の入院で10万円ほど、7日間の入院で20〜30万円ほどは最低かかると見ておいた方がよいでしょう。食事代や個室を利用する場合は差額ベッド代がかかります。 ・3日間の入院で10万円ほど ・7日間の入院で20〜30万円ほど 収入により高額療養費制度を利用することができます。しかし、一旦は負担分を窓口で支払う必要があるので注意が必要です。 ギプス固定後の治療用装具はオーダーメイドで作成するので、こちらも8万円前後かかります。保険適応になりますが、一旦全額を支払う必要があります(支払先は装具屋さんです)。そこから手続きを行うことで差額が還付され、実質負担は医療費の負担割合と同等になります。 アキレス腱断裂の手術についてよくある質問 Q:アキレス腱断裂手術の麻酔はどのようなものですか? A:全身麻酔もしくは腰椎麻酔で行われることが多いです。経皮的縫合術では侵襲が少ないために局所麻酔で行うこともあります。全身麻酔や腰椎麻酔の場合には、麻酔科医による麻酔が行われることが多いです。 Q:手術の前に喫煙はしても良いですか? A:喫煙をしていると、酸素の取り込みが少なくなります。特に全身麻酔を行う際には、痰の増加、肺炎や無気肺(肺の一部に空気が入らない状態)のリスクになります。傷の治りも遅くなる可能性があるので、手術が決まった際にはその日から禁煙しましょう。 まとめ・アキレス腱断裂に対する手術の流れ、費用について解説 この記事ではアキレス腱断裂に対する手術の流れ、費用などについて解説しました。手術療法にはメリットもありますが、合併症や費用などのデメリットもあります。手術を受ける場合はしっかり納得して、不安のないようにする必要があります。少しでも気になることがあれば、必ず事前に医師に確認しましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S132 監修:医師 加藤 秀一
2023.05.29 -
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離断性骨軟骨炎は再発する?再発リスクをリハビリで抑えるための治療と期間 離断性骨軟骨炎は、スポーツが原因で発症することが多い病変です。 もし発症した場合は、初期のうちに治療することで完治する確率が高くなりますし、症状が進行した場合でも、重症なものでなければ手術によって痛みや引っかかりを解消することができます。 一時的にスポーツをやめて安静にしていれば治る可能性が高いのですが、運動の再開時期を間違えると再発することもあり、軟骨の状態によっては選手生命を絶たれることもあります。 しかし、術後のリハビリを正しく行うことで再発リスクを下げることが可能になります。プロのスポーツ選手やプロを目指している人はもちろん、誰にとっても再発は避けたいものですよね。 今回は、この離断性骨軟骨炎の再発と再発予防、再発リスクを予防するリハビリについて解説していきます。 離断性骨軟骨炎の症状と治療 離断性骨軟骨炎は、初期の症状がほとんどありません。 違和感や痛みは、負荷がかかった肘や膝の関節軟骨表面に亀裂が入ったことで生じます。 離断性骨軟骨炎をそのまま放っておくと、軟骨がはがれ落ち、痛みが強くなります。はがれ落ちた軟骨の欠片は関節内を浮遊し、曲げ伸ばしに影響を及ぼし、動作の際に引っかかりを感じるようになります。 進行すると、引っかかりと痛みでスムーズな動きができなくなるため、スポーツを継続することが難しくなります。しかし、発症した原因となっている運動を休止することで病巣が修復し完治する場合もあります。 無理に運動を継続すると、手術が必要になったり選手生命を絶たれることになったりする可能性が高いため、肘や膝に違和感があったら運動は中止し、早く医療機関を受診し、医師の指示に従いましょう。 離断性骨軟骨炎は再発する 注意すべきは離断性骨軟骨炎は、一旦症状が治まっても再発することがあります。なぜなら、軟骨が普通の骨よりも再生しにくいからです。 実は、離断性骨軟骨炎の症状は安静にしていると落ち着いてくるため、もう治ったと勘違いする人が多くいます。しかし、その状態で運動を始めてしまうと、まだ安定していない軟骨に負荷をかけることになり、結果として再発してしまうのです。 しばらく運動を休んでいて痛みや、引っかかりがなくなったとしても、自己判断で運動を再開するのは非常に危険です。必ず、運動を再開する前には面倒でも医師の診察を受けて運動再開の可否を確認することが大切です。 大丈夫だろう・・・といった自己判断は、結果として治療期間を長引かせる可能性があるため、避けましょう。 離断性骨軟骨炎をリハビリで抑えるために 離断性骨軟骨炎のリハビリは、保存療法として行うものと、手術の後に行うものがあります。 子どもや軽症の患者さんは、ほとんどが保存療法での治療となるため、治療開始とともにリハビリを始めます。 離断性骨軟骨炎は、運動が原因の疾患ですので、痛みがある時は安静にしていることが一番です。しかし、症状が落ち着いて来たら、ある程度動かすことも必要になります。 離断性骨軟骨炎のリハビリ治療と期間 離断性骨軟骨炎は、軽症であればリハビリと安静中心の保存療法で治療が行われます。 また、離断性骨軟骨炎のリハビリ期間は、患者さんの年齢や症状の進行具合によって変わってきます。 約1~2カ月で痛みはやわらぎ、最低でも3か月の安静は必要です。3カ月以上保存療法を行っていても回復しない場合は手術療法が適応されることもあります。また、すでにに症状が進行しており、軟骨の状態が良くない場合は、リハビリより手術を先に行います。 手術は大体が関節鏡を使ったものになりますが、患者さんの状態によっては軟骨の移植など大がかりな方法になることもあります。 関節鏡下の手術の場合は、傷口が小さく回復が早いため、早期にリハビリを開始することができます。ただ、軟骨の修復は普通の骨と比べて時間がかかるため、無理に動かすことはできません。 離断性骨軟骨炎のリハビリは重要 離断性骨軟骨炎のリハビリは、可動域訓練や筋力トレーニングを中心に行います。 リハビリの際は、理学療法士から動かし方の指導やアドバイスがありますから、それに従って、肘や膝に負荷のかからない動作を身につけていきます。 リハビリを行うことは、自分の動きや姿勢の癖に気付くことにも繋がります。体に負担のかからない動作を知ることができるため、スポーツ再開後のトレーニングやストレッチにも役立ちます。 離断性骨軟骨炎の再発予防 離断性骨軟骨炎の再発を予防するには、運動の再開時期を勝手に決めないことがポイントです。 痛みがなくても軟骨はまだ不安定な状態ですから、きちんと医師の指示に従い、完全に治ってから運動を再開してください。 また、いきなり以前と同じレベルで体を動かすのは危険です。最初のうちは無理せず、少しずつ元に戻していくようにしましょう。 まとめ・離断性骨軟骨炎は再開時期を誤ると再発するため注意が必要 離断性骨軟骨炎は、安静にしていれば症状がなくなっていきます。しかし、それを完治したと思い込んでしまうと、再発しやすくなります。リハビリを正しく行うことで症状を和らげ、再発を防ぐことができます。 自分の姿勢や動作の癖を知ることは、その後の怪我を予防することにも繋がります。また、治療後はいきなり治療前と同じトレーニングをするのではなく、少しずつ運動を再開していくようにしましょう。 きちんと軟骨が修復されれば、離断性骨軟骨炎は治すことができます。痛みや引っかかりがなくなっても、運動の再開時期は必ず一度受診し、医師の指示に従うようにし、焦らず確実に治療しましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.132 監修:医師 坂本貞範
2023.05.26 -
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【アキレス腱断裂】アキレス腱が切れる予兆の症状とその原因 はじめに アキレス腱はわたしたちの体の中で、最も強靭といわれている靭帯です。断裂してしまうと、手術やギプス固定による長期間の治療が必須であり、日常生活に大きく影響を与えます。実はアキレス腱断裂には、予兆があることがあります。予兆を知っていれば、断裂を防ぐために予防もできるでしょう。 今回はアキレス腱が切れる予兆と、その原因について詳しく解説します。疑わしい場合のアキレス腱断裂テストについてもお答えしています。ぜひ参考にしてください。 アキレス腱断裂とは アキレス腱断裂は30代から40代に最もよく起こる外傷です。若い人ではスポーツによって受傷することが多いですが、40代以上では、日常生活のちょっとした動作で断裂してしまうこともあります。 アキレス腱断裂は、当初は歩くことができる場合もあり、整形外科を受診しないと、見逃されてしまうこともあります。ですが、放置すると後遺症を残す可能性が非常に高いため、しっかりと治療することが大切です。 健常なアキレス腱は、約1トンもの張力に耐えられるといわれています。しかしアキレス腱も、歳を重ねると徐々に老化してきます。アキレス腱はコラーゲン繊維でできているため、だんだんと硬くなり、柔軟性がなくなるのです。高齢になってから起こるアキレス腱断裂は、このように老化したアキレス腱が原因になっている場合も多くあります。 若年者でも、スポーツによる繰り返しのストレスが、アキレス腱を痛めてしまうことがあり、傷んだアキレス腱は断裂しやすくなります。 アキレス腱断裂の前兆 アキレス腱断裂の前兆として、アキレス腱周囲に痛みや腫れなどの症状や異変がある場合があります。 アキレス腱断裂を引き起こす状況や症状について解説していきます。 立ち仕事がアキレス腱に与える影響 老化や過度なスポーツ以外にも、アキレス腱断裂の危険性を高める要因があります。それは、日常生活でのアキレス腱への負荷です。 特に長時間の立ち仕事は、アキレス腱にストレスをかけ続けます。その結果、アキレス腱自体に小さな傷がついたり、アキレス腱の周囲に炎症を起こしたりします。これをアキレス腱炎、アキレス腱周囲炎と呼びます。 アキレス腱炎やアキレス腱周囲炎は、当初は立っているときやスポーツした時などに痛みが起こりますが、進行すると安静時にもアキレス腱周囲に痛みが出現します。 アキレス腱断裂の危険因子 ・過度なスポーツや老化 ・日常生活でのアキレス腱への負荷 ・長時間の立ち仕事 ・アキレス腱炎、アキレス腱周囲炎の進行 このようなアキレス腱のまわりの炎症は、腱自体の強度を落とすため、アキレス腱断裂の危険因子です。 ふくらはぎの痛みや足のむくみはアキレス腱断裂への危険信号? アキレス腱周囲に炎症が起こると、ふくらはぎや踵に痛みがでます。特に、動き出しや、朝(起床時)の1歩目が痛いとおっしゃる方が多いです。 また、アキレス腱が全体的に腫れていたり、コブ状に盛り上がったりする場合もあります。これもアキレス腱断裂の危険信号です。 さらに過度な足の浮腫み(むくみ)も、アキレス腱断裂の可能性を示す予兆となり得ます。浮腫みは血液やリンパ液の流れが悪くなることで起こります。その結果アキレス腱への血液供給が不足し、ストレスを受けたアキレス腱が十分に修復されなくなってしまいます。 アキレス腱断裂の危険信号 ・ふくらはぎや踵に痛みがある ・動き出しや起床時の1歩目に痛みを感じる ・アキレス腱の全体の腫れ、コブ状の盛り上がりがある ・過度の足の浮腫みがある アキレス腱断裂の前兆に気付いたら アキレス腱周囲の痛みや腫れなど、アキレス腱周囲に症状がある場合は、まず負荷のかかるスポーツや日常生活動作を中止しましょう。痛みがあるけど、無理して運動をするのはとても危険です。アキレス腱周囲炎の治療の基本は安静です。また踵を高くした靴を用いて、アキレス腱への負担を軽減する方法もあります。 また、アキレス腱断裂をしてしまった人は、ストレッチを行っていなかったという研究もあり、アキレス腱への負荷を軽減するために日常的なストレッチを取り入れることをお勧めします。 そして、早期に整形外科を受診することをお勧めします。ときどきステロイドの注射を打ってほしいという患者さんがいますが、ステロイド自体がアキレス腱の断裂の危険性を高めてしまうため、アキレス腱周囲炎に対しては行いません。 まずは整形外科を受診し、専門医の正しい指示を仰ぎましょう。 アキレス腱断裂についてよくあるQ&A Q:「服用しているとアキレス腱断裂を起こしやすい薬」があると聞いたのですが、本当? A:フルオロキノロン系の抗菌薬を長期間服用していると、アキレス腱の変性を誘発し断裂が起こりやすくなるという報告があります。 しかし、抗菌薬は必要時に短期間処方されることが多いので、日常的に心配しすぎる必要はありません。ただし、長期間に及ぶ場合は注意が必要です。 Q:アキレス腱断裂テストは簡単にできますか? A:アキレス腱断裂テストは一般的に、「トンプソンテスト」と呼ばれています。整形外科の診察でも行います。 トンプソンテスト ①まずうつ伏せになり、膝を曲げます。 ②そのまま力を抜いた状態で、ふくらはぎを握って圧迫した際に、足首が動くかどうか確認します。 ③アキレス腱が切れていない場合は、足首が下向きに動きますが、切れていると動きません。 自分でやるとなかなかうまくいかないので、2人でやるのがいいと思います。 まとめ・アキレス腱が切れる予兆の症状とその原因 アキレス腱断裂は、日常生活の中で誰にでも起こりうる怪我です。一度起こしてしまうと、元の生活に戻れるまでには長期間の治療を必要とします。 アキレス腱断裂の予兆を覚えておくと、休息を取るタイミングを見極められるようになります。痛みやむくみなど症状が出ている場合は、無理をせずしっかりと対策をしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S131 監修:医師 加藤 秀一
2023.05.22 -
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アキレス腱断裂の全治期間とは?仕事復帰や歩けるまでどのくらい? アキレス腱断裂は足首を伸ばす力の伝達を担うアキレス腱が完全に切れてしまう怪我で、手術をしない保存療法とアキレス腱を縫合する手術療法の選択肢があります。 それぞれの治療では歩けるまで、もしくはスポーツ復帰までにはどのくらいかかるのでしょうか。治療方針を選ぶためには、治療の具体的な内容について知っておく必要があります。 この記事では保存療法と手術療法における歩行や仕事復帰までの経過、全治期間などについて詳しく解説していきます。 保存療法と手術療法の比較 どちらの治療を選んでも長期的には良好な経過が得られることが多いのですが、手術の方が歩行やスポーツの復帰までの期間が短く、再断裂の可能性も低いことがわかっています。 しかし、手術は傷の痛みや感染症、神経損傷のリスクもあるので、保存療法で治したい方も多いと思います。 以下で具体的な期間を詳しく解説していきます。 ・ギプス固定期間 アキレス腱断裂では足関節を反らすと断裂した腱同士が離れてしまい、くっつかないため足関節を伸ばした状態でギプス固定を行います。 ・手術では腱同士を縫合しているのでギプス固定は腱に負担がかからないようにすることが目的で期間は1〜2週間程度です。 ・保存療法ではそれより長く2〜4週間程度ギプス固定されることが一般的です。 ・松葉杖の期間 足首を伸ばした状態でギプス固定を行うので、ギプス固定のうちは上手く歩くことが難しく、松葉杖を使用することが必要です。 そのため、どちらの治療でもギプス固定の期間は松葉杖を使用することになります。 ・装具の期間 ギプスを除去してからはアキレス腱断裂用の装具(アキレスブーツ)を使用します。ギプスでは足関節を動かすことや、角度の調整が不可能で歩行することができませんが、装具を使用することにより、踵を付けて歩行することが可能になります。 装具の特徴としては、踵の高さが調節できることで、初期は踵が高い状態で腱への負担を減らしますが、徐々に踵の高さを低くして通常の歩行ができるように調整していきます。 ・手術療法では1〜2週間後から開始し、6〜8週間程度で装具を終了します。 ・保存療法では2〜4週目から装具の使用を開始し、約1ヶ月程度使用します。 ・歩行までの期間 一般的にギプスを外して装具を着用できた段階で歩行することが可能になります。 ただし、装具を着用してすぐの段階では、踵が高く歩行が不安定なので松葉杖の併用をおすすめします。 ・車の運転について アキレス腱が断裂している際の車の運転については明確な取り決めはありません。しかし、一般的にギプス固定や装具を着用している状態では運転することはおすすめできません。もし交通事故を起こしてしまった場合には怪我による過失を指摘される可能性もあるので、ギプスや装具を終了して日常生活について問題なく過ごすことができるようになってから運転を開始することがよいでしょう。 最終的には自己責任になってしまうので、運転時期については医師とも十分相談するようにしましょう。 ・スポーツ復帰までの期間 スポーツ復帰については、手術を受けた場合は3ヶ月、保存療法を受けた場合は6ヶ月以上の期間を要するとされています。そのため最短でスポーツ復帰をしたい方は手術療法がお勧めされます。 ・手術を受けた場合は3ヶ月 ・保存療法を受けた場合は6ヶ月以上 また早く確実に治すためには、どちらの治療法でも医師や理学療法士の指導を守り、徐々に負荷を増やしていくトレーニングを行い、無理をしないように注意することが大切です。 ・仕事復帰までの期間 仕事復帰までの期間は業務内容によって異なります。事務作業であれば座った状態で行えるので松葉杖、装具で歩行できている段階で可能ですが、走ったり、重いものを運んだりする重労働では、スポーツ復帰できるまで筋力が回復した時期からの復帰をお勧めします。 アキレス腱断裂についてよくあるQ&A Q, 痛み、腫れはいつまで続きますか? A, 術後の痛みや腫れが完全になくなるまでは個人差があります。 手術を受けてから抜糸をするまでは1〜2週間程度ですが、その後も傷、腱を治す過程で炎症が起こっているので1ヶ月から2ヶ月程度かかることもあります。 Q, 装具の歩き方、調整方法について A, アキレス腱断裂用装具は踵に着脱できるヒールが付いており、段階を追って徐々にアキレス腱を伸ばすことができるようになっています。治療開始直後はアキレス腱への負担を減らすために踵が高い状態で歩く必要があるので、つま先立ちの形で歩行することとなります。この状態で上手に歩けない方は松葉杖を使用するとよいでしょう。 治療が進むと徐々にアキレス腱に負担をかけてもよくなるため、踵を少しずつ低くしていき、最終的に装具を終了します。装具の調整は医師と相談しながら行うようにし、ご自分で調整しないようにすることが必要です。 Q, お酒の解禁はいつからですか? A, アルコールを摂取すると血流が増加するので、出血や腫れが悪化してしまう要因となります。そのため怪我をしてから腫れが落ち着くまでの数週間、手術を受けた方では抜糸をして傷がしっかり治るまでは摂取しないようにしましょう。 まとめ・アキレス腱断裂の全治期間とは?仕事復帰や歩けるまでどのくらい? アキレス腱断裂では、保存療法と手術療法によってスポーツ復帰までの期間が異なります。またギプス固定の期間も異なるため、歩行や仕事への早期復帰を考えると手術療法にメリットがあります。しかし手術療法はリスクもあるので、ご自分の目的をしっかり考えて治療を選ぶようにしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.131 監修:医師 坂本貞範
2023.05.18 -
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アキレス腱断裂の治療、手術と保存療法どちらがよい?失敗しない選択肢! アキレス腱は腓腹筋とひらめ筋というふくらはぎの筋肉から踵の骨につながる強力な腱で、人体で最も太い腱です。アキレス腱断裂は中高年者に多く、激しい運動やスポーツ中の突然の動作、あるいは転倒などが原因で発生することがほとんどです。アキレス腱は足首の動作に関与するので、断裂してしまった場合には歩行が困難になり、生活に支障をきたしてしまうことがあります。 アキレス腱断裂の治療には、手術と保存療法があり、どちらの治療を選んでも適切に行うことで完治することができます。しかし、手術と保存療法のどちらを選択するかには保存療法で失敗するリスクや歩けるまでの期間の比較、手術の合併症などの正確な情報を知っておく必要があります。 この記事では、アキレス腱断裂の治療方法について、それぞれのメリットとデメリットを詳しく説明し、失敗しない選択肢について解説します。 アキレス腱断裂の診断方法 アキレス腱が断裂した時には、「ふくらはぎをバットで叩かれた感じ」や、「ボールが当たった感じ」などの衝撃を感じることが多く、「破裂したような音がした」など断裂時の音が自覚できている場合もあります。断裂した部分は凹みができ、レントゲン写真は明らかな異常がないことがほとんどです。 問診と診察で診断は可能ですが、診断が難しい場合や、治療中の腱の治癒過程を観察するためにエコーやMRIが用いられることもあります。 アキレス腱断裂の治療方法について 保存療法と手術療法があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。どちらの治療でも成績は良好で1年後の状態はほとんど同じなのですが、患者さん毎に状況は異なるので、治療の特徴を理解して主治医とよく相談することが必要です。 保存療法のメリット、デメリット 保存療法では、まずギプス固定を行ってから、アキレス腱断裂専用のヒールの調節が可能な踵を高くした装具を着用して歩行練習を開始します。 保存療法のメリットとして、入院や手術が不要なので費用が安い点と、手術による合併症のリスクがなく安全であるという点があります。デメリットとして、ギプスの固定期間が長く、ギプスを終了してから歩行を開始するので歩行の開始時期が遅くなること、再断裂率が手術と比較して高いことが挙げられます。 メリット ・入院や手術が不要なので費用が安い ・手術による合併症のリスクがなく安全 デメリット ・ギプスの固定期間が長く、ギプス終了後の歩行の開始時期が遅くなる ・再断裂率が手術と比較して高い ギプスの固定期間は医療機関によって幅がありますが、4週間〜6週間程度のことが多く、装具を終了してスポーツを開始できるまでに4〜6ヶ月程度かかります。 手術治療のメリット、デメリット 手術治療では断裂したアキレス腱を縫合しますが、大きく直視化縫合術と経皮的縫合術という傷が小さい手術の2つに分けられます。行っている手術は病院ごとに異なるので、詳しい内容は病院に問い合わせるようにしましょう。 手術治療のメリットは再断裂率が低く、ギプス固定の期間が短く、スポーツ復帰までの期間が早いことです。デメリットとして手術の合併症である傷の感染症、神経損傷などのリスクがあることと、手術代+入院費用がかかることが挙げられます。 メリット ・再断裂率が低い ・ギプス固定の期間が短く、スポーツ復帰までの期間が早い デメリット ・手術の合併症である傷の感染症、神経損傷などのリスクがある ・手術代、入院費用がかかる スポーツ復帰までの期間は手術内容によりますが、3〜5ヶ月程度です。 アキレス腱断裂についてよくあるQ&A 1. アキレス腱断裂の保存治療と手術治療の復帰までの期間の違いはどのくらい? 回答:ギプス固定の期間は医師により異なりますが、通常の保存治療では4〜6週間程度ギプス固定を行います。その後装具をつけて歩行練習、足関節の可動域訓練を行います。装具の踵の高さを少しずつ調節していき、足関節を十分に反らすことができるようになったころに装具を終了します。装具を終了できるまでは約4〜5ヶ月でスポーツ復帰までは6ヶ月程度です。 手術治療では術後1〜2週間程度ギプス固定を行い、その後装具を使用して歩行練習を開始します。装具を終了できるまでは6〜8週程度で、スポーツ復帰は3〜5ヶ月程度です。ただし、治療の詳細は患者さんの状態、病院ごとに異なるので医師に確認するようにしましょう。 2. アキレス腱断裂は保存療法と手術治療のどちらがおすすめですか。 回答:患者さんの目的と、医師の考えによるため完全な正解はありません。目安として、競技レベルのスポーツをしており、早期の復帰を希望する方や再断裂を起こしたくない方は手術治療のよい適応です。一方で、日常的にスポーツをしていない方や手術の合併症が気になる方は保存治療を選択してもよいと考えられます。 3.アキレス腱が再断裂する可能性はそれぞれの治療でどの程度ですか。 回答:様々な研究のデータを集めて解析した質の高い論文では再断裂率は手術で3.6%、保存療法で8.8%と保存療法の再断裂率が高い結果でした。日本整形外科学会のガイドライン2019年版でも再断裂率は保存療法で高いと記載されており、再断裂のリスクを下げたい方は手術治療が適していると言えます。 まとめ・アキレス腱断裂で手術と保存療法による治療、ご自身に合った選択を! アキレス腱断裂の治療は保存療法、手術治療ともに成績は良好ですが、手術治療の方がギプス固定、スポーツ復帰できるまでの期間は短いです。 一方で手術に伴う合併症の可能性もあるので、ご自身の予定や治療の目的などをはっきりとさせて治療に臨むことが必要です。この記事を参考にしてご自身の治療に役立ててください。 No.S129 監修:医師 加藤 秀一
2023.05.15 -
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アキレス腱断裂、放置するとどうなる?その後遺症について解説 アキレス腱断裂は、スポーツ中などに起こることが多い怪我です。ただし、主に40代以上の方では、スポーツをしていなくても、日常生活で断裂してしまうこともあります。 いずれ治るだろうと放置すると、歩行困難や慢性的な痛みなどの後遺症が発生する可能性があり、しっかりと治療するべきです。 今回は、アキレス腱断裂の症状や応急処置、ギプスによる固定方法、後遺症などについて詳しく解説します。 アキレス腱断裂の症状は?断裂音がするってほんと? アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉である下腿三頭筋とかかとの骨をつなぐ、体の中でもとても太い腱です。このアキレス腱が断裂してしまうと、かかと周辺に強い痛みを生じます。 実際に怪我をした人に聞くと、「後ろから誰かに踵を蹴られたような気がしたほどの強い衝撃と痛み」という方が多いです。また、ブチッという断裂音を自覚することもあります。 断裂直後は、歩行困難になる場合も多く、徐々に腫れや内出血が出現してきます。 アキレス腱断裂直後の応急処置 アキレス腱断裂かなと思ったら、運動中の場合は直ちに中断し、歩行はしないようにしましょう。また、固定できるものがある場合は、足首を動かないように固定できると良いです。 腫れや痛みを防ぐため、足を心臓より高くして、足首を氷などで冷やすことも有効です。 アキレス腱断裂を放置することによる後遺症とは アキレス腱断裂は放置すると、歩行困難となる場合があります。アキレス腱を断裂してしまうと、足首を動かす動作で重要な役割を果たすふくらはぎの筋肉である、下腿三頭筋がうまく機能しないため、つま先立ちはもちろん、立ち上がりや階段昇降が難しくなる可能性があります。 また、断裂した部位が治癒しないままになると、慢性的な痛みが残ることもあります。時間が経過すると、ふくらはぎの筋肉である下腿三頭筋が徐々に痩せて、筋肉が萎縮してしまいます。 そのため、早期に適切な治療を行うことが必要であり、放置せずなるべく早く整形外科を受診するようにしましょう。 アキレス腱断裂の検査方法 アキレス腱断裂は、視診や触診だけでも、ある程度判断することができます。アキレス腱が断裂した部位には、delle(デレ)と呼ばれる凹みがあり、皮膚表面からでも触れることができます。 また、うつ伏せになり、ふくらはぎを圧迫した際に、足首が動くかどうか確認するトンプソンテストを行います。アキレス腱がつながっていれば、ふくらはぎを圧迫すると自然に足首が動きますが、アキレス腱断裂の場合、ふくらはぎを圧迫しても足首は動きません。 超音波でも、アキレス腱の断裂を確認することができます。ほかに骨折がないかどうか、レントゲンを撮影したり、触診でわかりづらい場合は、MRI検査を行ったりすることもあります。 アキレス腱断裂の治療 アキレス腱断裂の治療方法は、手術を行わずにギプスや装具を用いて治療する保存療法と、断裂したアキレス腱を直接糸で縫合する手術療法に分けられます。 保存療法 保存療法では、断裂したアキレス腱が離れていかないように、足首を底屈(つま先立ちする際の方向)にした状態でギプス固定を行います。その後、専用の装具を用いて、徐々に歩行練習などを行います。 手術療法 スポーツ選手や若年者など、活動性が高い人は手術を行うことが多いです。ただし、手術をしたとしても、すぐにスポーツが可能になるわけではなく、保存療法と同じく専用の装具を用いた治療期間を必要とします。再断裂するリスクは手術療法の方がやや低いですが、どちらも再断裂の危険性はあります。また、手術を行うと細菌感染などのリスクも生じます。 どちらが良いのかは、十分に担当医と相談して決定するべきでしょう。 アキレス腱断裂についてよくあるQ&A Q:いつからスポーツ復帰できますか? スポーツの復帰時期には個人差がありますが、一般的には保存療法の場合は6か月程度、手術療法でも4カ月程度の治療期間は要することが多いです。復帰してからも、徐々に運動強度を上げていく必要があり、再断裂を防ぐための筋力トレーニングなど、リハビリは必須です。 Q:手術はどのような方法で行いますか? 手術は、基本的には腹臥位(うつぶせ)で行います。アキレス腱の断裂している部分に近い皮膚を切開し、直接アキレス腱に糸をかけて縫い合わせます。縫い方にはいくつかの方法があり、いずれを選択するかは医師の判断によりますが、いずれの方法でもしっかりと縫合できます。 全身麻酔や腰椎麻酔(下半身麻酔)で行うことが多いですが、局所麻酔のみで、日帰りで行っている病院もあります。 まとめ・アキレス腱断裂は放置厳禁!早期の治療で後遺症を防ごう アキレス腱断裂はスポーツを行う方だけでなく、誰にでも起こりうる怪我です。治療期間は長くかかりますが、放置せずに適切な治療を行うことで、後遺症を防ぎ、早期に日常生活やスポーツに復帰することが可能となります。アキレス腱断裂を疑う症状がある場合は、速やかに整形外科を受診しましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S130 監修:医師 加藤 秀一
2023.05.12 -
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アキレス腱炎の予防には靴選びが大切! 正しい靴の選び方と注意点 「アキレス腱炎はどうしたら治るの?」「アキレス腱炎を予防するには?」こんな疑問のある方はいませんか。アキレス腱炎の原因は、靴にあるかも知れません。 アキレス腱炎はランニングやバスケなどでジャンプを繰り返すことで起こります。それらの動作を合わない靴で行うことは、怪我の発生を招きます。そのため、正しい靴選びをすることが怪我の予防には大切です。 今回はアキレス腱炎を予防する対処法として、靴選びのポイントやインソール(中敷き)の活用方法を解説します。 アキレス腱炎を予防する靴選びのポイント4つ アキレス腱炎の原因はアキレス腱に繰り返しかかるストレスです。 ランニングやジャンプでかかるストレスを軽減する靴を選ぶためには、以下の4つポイントを押さえましょう。 1, 踵が薄すぎない 2, 靴底のクッション性が高い 3, カウンターがしっかりしている 4, サイズの合ったものを選ぶ それぞれポイントとなる理由を詳しく解説します。 1, 踵が薄すぎない アキレス腱はふくらはぎの筋肉が踵につく部分です。そのため、ふくらはぎの筋肉が働くと、つま先立ちになるような力が働きます。つまり、アキレス腱をゆるめて負担を減らす場合は、踵の高い靴を履く方が良いです。 ただし、踵が高いと不安定になりやすいので、スポーツなどで使用するには適度に踵に厚みがある靴を選びましょう。 逆に靴底がすり減ったような靴はアキレス腱の負担を強めます。踵が薄すぎるような靴はアキレス腱を常に緊張させてしまう恐れがあるので注意しましょう。 2, 靴底のクッション性が高い アキレス腱にかかる衝撃を和らげるために、靴底のクッションが良いものを選びましょう。 踵の薄さについて前述しましたが、靴底全体を見ても、ある程度厚みのあるもので、クッションの性能が良いものを選ぶのが大切です。 3, カウンターがしっかりしている アキレス腱炎の原因の1つが、回内(かいない)と言って、足の裏を外に向けるような動きが過剰に生じることです。この状態を「過回内(かかいない)」や「オーバープロネーション」と呼びます。過回内が起こると、アキレス腱をひねるようなストレスがかかり、ジャンプやランニングの着地でアキレス腱の負担が強まります。そのため、アキレス腱炎の要因として挙げられます。 靴の後ろ側の部分で踵を左右で挟み込む部分をカウンターや月型(つきがた)と呼びます。カウンターがしっかりしていると、足首の安定性を高めて、過回内を防ぎます。結果として、アキレス腱炎も予防につながるのです。 4 ,サイズの合ったものを選ぶ 当たり前かもしれませんが、アキレス腱炎の予防にも、正しいサイズの靴を選ぶことは重要です。 人に譲ってもらい、なんとなくサイズが同じくらいだから、と履き続けていませんか?靴は履いているうちにそれぞれの足の形に変形するため、お下がりの靴では自分の足が馴染まないことも。 サイズの小さすぎる靴を選べば、アキレス腱をしめつけすぎてしまい、アキレス腱に直接負担がかかります。大きすぎる靴では、靴の中で足がずれてしまい、靴の機能が生かせず、足への負担も強まってしまい、怪我の危険性を高めます。 また、インソールやサポーターを使用する場合は、靴の大きさを大きめにした方が良い場合もあるため注意しましょう。 アキレス腱炎の予防にはインソールも効果的 アキレス腱炎の予防には正しい靴の着用とともに、靴の中敷きとしてインソールを活用するのも効果的です。インソールには、前述のアキレス腱炎を予防する靴選びのポイントと同じ機能が備わったものがあります。 例えば、ヒールカップと呼ばれる、踵を左右で覆うような構造をしたインソールでは、靴のカウンターと同じように、踵が過回内にならないように安定させる機能があります。 また、過回内の要因である扁平足(へんぺいそく)に対して、土踏まずを支えるようなアーチサポートと呼ばれる機能のついたインソールが活用できます。アーチサポートをすることで、過回内を防ぎ、アキレス腱にかかる負担を減らすのも良いでしょう。 このように、アキレス腱炎の予防のために、インソールをうまく活用してみましょう 靴選びだけではなく靴の履き方にも気をつけよう アキレス腱炎を予防するためには、靴の履き方にも気をつける必要があります。靴を不適切に履いてしまうと、せっかく良い靴を選んでも、靴の機能を十分活かせません。 靴の履き方のポイントは以下の2点です。 1, 靴紐を活用する 2, 踵をしっかり合わせて履く それぞれ詳しく解説します。また、最後に靴を履く手順を紹介します。 1, 靴紐を活用する 靴紐のあるスニーカーやシューズを履くときには必ず靴紐を調整しましょう。 履くときは靴紐を一度ゆるめて、履いた後はしっかりと靴紐を締めて結ぶのが大切です。 もし、靴紐をほどかずにきついままの状態で履いてしまった場合、靴の上部であるアッパー部分が伸びたり、踵部分を引っ張って履こうとするためカウンターが崩れたりするなど、靴の機能低下を招きます。 また、履きにくいからといって紐がゆるんだ状態で靴を履くと、靴の固定性が弱まり、足が靴の中で滑って、踵をうまく支えられなくなってしまいます。 上記のような状態は、靴のカウンター機能の働きを低下させるため、アキレス腱炎のリスクを高める要因になるので注意しましょう。 2, 踵をしっかり合わせて履く アキレス腱を保護するとともに、足首が回内しすぎないようにするためには、靴のカウンターでしっかり踵を支えてもらう必要があります。 そこで、靴を履くときに大切なのが、踵をしっかり合わせて履くことです。踵がしっかりはまっていないと、靴のカウンター機能が充分働きません。足を靴の中に入れるときは、踵から合わせることを覚えておきましょう。 靴を履く手順 上記を踏まえた上で、靴の履き方の手順を紹介します。 ~靴を履く手順~ 1, 靴紐をゆるめる 2, 足を靴に入れて、つま先をあげながら踵を地面に押しつける 3, 足に合うように靴紐のきつさを調整して結ぶ 4, 履いた後、ゆるさやきつさを感じないか、アーチサポートやカウンターがしっかり合っているかを確認する 以上のように、普段何気なく行っている靴を履く動作も怪我の予防には大切です。ついつい面倒になってしまい忘れがちですが、アキレス腱炎の予防のために意識して、習慣化しましょう。 まとめ・アキレス腱炎を予防するため正しい靴を選んで運動をしよう アキレス腱炎を予防するためには、ジャンプやランニングでアキレス腱にかかる衝撃を減らし、踵をしっかり守ってくれる靴を選ぶようにしましょう。 また、インソールを活用すれば、靴の機能と合わせて、より負担を軽減することも可能です。自分自身で靴を選ぶのではなく、靴の専門店のスタッフに聞きながら、靴の性能を吟味して、自分にあったサイズの靴を探しましょう。 また、靴の履き方も重要ですので、本記事で紹介したポイントを覚えて、毎日実践してみましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.130 監修:医師 坂本貞範
2023.05.10