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- 脳卒中
視床出血における後遺症|リハビリと看護について医師が解説 視床出血とは、脳出血の中で「視床」という部位に出血が起こったもののことを指します。 この視床出血は、脳出血全体の2〜3割程度を占めるとされており、その多くが高血圧を原因としています。 この記事では、そんな脳出血の中でも頻度が高い視床出血における後遺症や、それに対するリハビリ・看護に関して解説します。 視床出血の症状と後遺症 視床は、主に感覚をつかさどっています。そのため視床出血が起こると、痺れなどの感覚障害を認めます。また、視床の周囲には運動神経が走っているため、出血が拡大すると運動麻痺が生じます。 さらに出血が拡大するとその分脳の神経細胞が圧迫されるため、圧迫された部位に応じた症状が現れます。 視床は脳の深い場所に位置するため、原則手術は行わず、出血の拡大防止のために血圧を下げるなどの内科的な治療を主に行うことになります。そのため視床出血は、症状が消失せず後遺症となってしまうことが多くあります。 視床出血で多く見られる後遺症は、視床痛と呼ばれる手足の強い痛みやしびれ、感覚障害を伴った半身麻痺です。 視床痛はジンジン・ピリピリというような痛み(しびれ)を認め、鎮痛薬は効果がないことがほとんどです。また、麻痺も感覚障害を伴わない麻痺と比べて、手先の感覚や、立ったり歩いたりするときの位置感覚が分かりづらくなります。そのため日常生活に支障をきたしてしまうことが多いです。 視床出血後遺症のリハビリ 半身麻痺が残り体の運動機能が低下した場合、運動機能障害に対するリハビリとして理学療法と作業療法を行います。 理学療法 理学療法は平行棒や歩行器を使用した歩行の練習や姿勢を保持する練習、体力・筋力の維持や向上など日常生活を送る上で必要な動作の練習を行います。 前述したように視床出血の半身麻痺は感覚障害を伴っていることが多いです。そのため歩行の練習では免荷式(めんかしき)トレッドミルという機械を用います。 免荷式トレッドミル・・・体を上から吊るし、ハーネスで体を支えることで、足にかかる体重を調整できるためバランス感覚を鍛えます。これによって体重のかかり方を意識した歩行の練習を行うことができます。 作業療法 作業療法は、お箸の使い方など、日常生活を送るために必要な作業の訓練を行います。 麻痺側の手を積極的に使うことで、作業の質の向上を図るCI療法がガイドラインなどでも推奨されています。 1日6時間以上麻痺した手を使用することで、手の機能が改善したという報告もあります。また、このCI療法を行うことで指先などの動きだけでなく、高次機能も回復したという方も報告もされています。 視床出血で嚥下機能が低下した場合、言語聴覚士による嚥下の訓練を行います。口周りや顔の筋肉の運動やゼリーなどを用いた飲み込む練習を行うことで、発症前のように口から食事が取れるようにリハビリを行います。 脳出血後のリハビリは毎日、長期間継続することが重要です。途中で中断してしまうと一度は回復した身体機能が再度低下してしまう可能性もあります。 長い道のりにはなりますが、モチベーションを保ちつつリハビリを継続しましょう。 視床出血の看護 視床出血を含む脳出血の看護は、急性期と慢性期で大きく異なります。 急性期は再出血や血腫の増大、脳浮腫などが起こる可能性があり、そうなった際は早期発見と早期治療が回復の大きな鍵となります。そのため、急性期の看護では全身状態をしっかり観察することが重要です。 以下のことに注意を向けて観察しながら看護しましょう。 意識や瞳孔の確認 視床出血の患者さんの中には自発運動ができない方や発語がない方も多くいらっしゃいます。そのためこまめにバイタルサインをはかり、意識や瞳孔の変化などに注意しましょう。 血圧コントロール 脳出血にとって血圧コントロールは再出血予防のために最重要です。決められた範囲内で血圧が維持できているかどうかを、きちんと確認しましょう。 褥瘡(じょくそう)予防の適切なポジショニング 再出血などを予防するために急性期は安静を保たなければなりません。ベッド上での安静保持は、関節の拘縮や褥瘡のリスクです。 褥瘡の好発部位の皮膚観察や、こまめな体位変換、拘縮予防するための適切なポジショニングを意識しましょう。 一人一人の後遺症に沿った看護 急性期を終えた回復期などの慢性期は、再発防止のため内科的治療と、後遺症に対するリハビリを主に行います。患者さん一人一人の後遺症に沿った看護を行いましょう。 引き続き、褥瘡予防の皮膚観察や関節拘縮予防のポジショニング調整を行いながら、栄養状態・運動機能・精神状態などに気を配りましょう。 嚥下機能が低下してしまった場合、誤嚥性肺炎を発症すると致命的になることがあります。食事の際の姿勢や口腔ケアをしっかり行いましょう。 そして、視床出血の患者さんは感覚麻痺や視床痛が残ってしまう方が多くいらっしゃいます。そういった症状からくる心の苦痛に対するケアも、回復に至るためには重要です。そして感覚が低下しているからこそ、体に触れる際に声かけをするといった気遣いを忘れないようにしましょう。 まとめ・視床出血における後遺症は、一人一人の後遺症に沿った看護とリハビリが大切 視床出血のリハビリと看護に関して紹介しました。 患者さんが1日でも早く、発症前のような生活に戻れるように看護ケアやリハビリを行いましょう。 また、脳梗塞による障害で精神的な苦痛を感じてしまう方もたくさんいます。そういった精神的苦痛にも寄り添ったケアを行ってください。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.110 監修:医師 坂本貞範
2023.01.30 -
- スポーツ医療
その症状ジョーンズ骨折かもしれません!症状や原因を解説します ジョーンズ骨折をご存じでしょうか? 「サッカーをすると足の外側が痛くなるけどなぜ?」 「バスケットでつま先の外側が痛むけど放置して大丈夫?」 このような症状がある場合、もしかするとジョーンズ骨折かもしれません。 今回はスポーツ選手に多いジョーンズ骨折について、特徴や骨折のなりかけで見られる症状について解説します。チェックリストも紹介しますので、記事を読んで気になる場合は早めに整形外科に受診しましょう。 ジョーンズ骨折とは ジョーンズ骨折は別名を第 5 中足骨(ちゅうそくこつ)骨折と言います。まずはジョーンズ骨折の特徴や発生する場所、原因について紹介します。 ジョーンズ骨折の特徴 ジョーンズ骨折は小指の骨である第 5 中足骨の疲労骨折です。 一般的な骨折は、事故や転倒などの強い衝撃での発生を想像されるでしょう。しかし、ジョーンズ骨折はサッカーやバスケット、ランニングなどのスポーツで足の外側に繰り返しストレスがかかって生じる疲労骨折です。 第 5 中足骨は血液の供給が乏しく、骨折する部分の近くは複数の筋肉が付着していて常に牽引力が働くため、一度骨折するとくっつきにくく、骨が離れたままになってしまう偽関節(ぎかんせつ)になりやすいのも特徴です。 骨折の発生場所 小指の骨は指先から末節骨(まつせつこつ)、中節骨(ちゅうせつこつ)、基節骨(きせつこつ)、中足骨(ちゅうそくこつ)に分かれています。 ジョーンズ骨折の生じる中足骨は、足首に近い部分にある骨です。 ジョーンズ骨折では中足骨の中でもより足首側の端から 1.5 〜 2cmの部分に骨折が起こります。 原因 原因は、スポーツ動作で足の外側に繰り返しかかるストレスです。 人の足裏は体重をうまく分散させるために、たいらではなくアーチ状の形をしています。第 5 中足骨はまっすぐな骨ではなく、丸くアーチ状になっており、足の裏のアーチの一部となっています。 そのため、体重を分散させるためにストレスを受けやすいのです。 特にサッカーやバスケットボールなどの横への動きが多いスポーツで反復したストレスがかかりやすく、疲労骨折の原因になります。 また次のような環境や個人の要因も原因として挙げられます。 ・急な激しい練習 ・固すぎるグランド(人工芝) ・不適切なシューズ ・不良な姿勢(がに股) このような環境や姿勢でストップやサイドステップなどを繰り返すとストレスがかかりやすくなってしまうのです。 以上のようにストレスが蓄積して生じる骨折ですが、立ち仕事による慢性的な疲労や、しゃがみ込み動作の繰り返しによる疲労骨折など、スポーツをしていない方で発症する場合もあります。 ジョーンズ骨折の症状とは ジョーンズ骨折は、骨折のなりかけの状態と、完全に骨折した状態で症状が違います。それぞれの症状について解説します。 ジョーンズ骨折のなりかけの症状の場合 ジョーンズ骨折のなりかけの症状は、痛みや腫れなど一般の骨折に見られるような自覚症状が出にくいのが特徴です。 骨折のなりかけでは、一般的な骨折のように骨が分離するのではなく、ストレスの蓄積により徐々に骨が脆くなっている状態です。この状態では日常生活だけでなくスポーツ中も痛みを感じない場合があります。 また、痛くてもそれほど強くはないため、そのまま競技を続けてしまう場合も少なくありません。その結果、プレー中やプレー後に痛みが増えるということを繰り返します。 完全に骨折したときの症状の場合 前述のように、完全に骨折してから、初めて強い痛みを訴える場合があります。 骨折部の痛みが増加して、プレーはもちろん歩くのが難しくなることがあります。 ジョーンズ骨折になりやすい環境かどうかをチェックリストで確認 ジョーンズ骨折になりやすい環境かどうかを、チェックするポイントを紹介します。 以下にチェックリストをあげます。 ・競技しているスポーツが、足の外側にストレスのかかるものか ・練習場がどこか(床・芝・土・人工芝) ・練習量 ・シューズ ・キックの利き足 ・ジャンプの踏切 ・シューズの底のすり減り方 ・足の外側が痛むか このようなチェックをして、足の外側にストレスがかかりやすいかどうかをチェックします。 例えば、競技しているスポーツが、サッカーやバスケットボールであれば、ストップやステップを繰り返すため、足の外側にかかるストレスが強まります。 また、原因で紹介したように、練習場所が人工芝のように固いグランドである、練習量が多すぎる、足に合わないシューズを使用しているといった環境が原因で、ストレスが強まる可能性があるためチェックが必要です。 また、シューズの底を見たときに、外側ばかりすり減っている場合は、足の外側にストレスがかかりやすい動きをしている結果なので、チェックしてみましょう。 もし、すでに痛みが外側にあり継続する場合は、ジョーンズ骨折の可能性があります。 前述のように骨折のなりかけの場合は、痛みが自覚しにくかったり、あったとしても競技中のときだけだったりするため、放置せず早めに整形外科へ受診をしましょう。 まとめ・その症状ジョーンズ骨折かもしれません!症状や原因を解説します ジョーンズ骨折はストレスが蓄積して徐々に進行する疲労骨折のため、完全に骨折するまでは痛みがない場合もあります。例え痛みがあっても、できるからといってつい競技を続けてしまいがちです。 しかし、放置して競技を続けると、症状が悪化したり、完全に骨折してしまったりするリスクがあります。そのため、少しでも気になる症状があれば早めの受診や予防をするのが重要です。 本記事を参考にしてジョーンズ骨折の早期発見、予防をして、好きなスポーツを楽しみましょう。 No.S109 監修:医師 加藤 秀一
2023.01.27 -
- 脳卒中
脳溢血とは?前兆サインとその原因、症状別に医師が解説! 脳卒中はある日突然発症し、最悪の場合そのまま命を落としたり、寝たきりの状態になってしまう病気です。さまざまな薬の開発によって発症率は低下傾向にありますが、それでもまだ日本での死亡原因の上位に位置しています。 この記事ではそんな脳卒中の一つである脳溢血に関して紹介します。 脳溢血とは何か 脳溢血とは「のういっけつ」と読み、文字通り脳に血が溢れる状態を指した病名です。脳の中の細い血管が破れて血液が溜まることにより周囲の神経細胞が圧迫されます。神経細胞が圧迫されると働きが障害されてしまうため、さまざまな症状が出現します。 この脳溢血は脳出血とも呼ばれ、同じ意味で用います。 脳溢血の原因 脳溢血の原因の多くは高血圧です。血管内の圧が上がり、その圧に血管壁が耐えられなくなるため出血が起こります。また、高血圧は動脈硬化のリスクでもあります。動脈硬化が起こると血管壁が弱くなるため、さらに血管が破れやすくなります。 脳溢血の症状 脳溢血の症状は、出血が起こった場所によって異なります。しかし、どの部位の脳溢血も発症時に頭痛や吐き気を訴えることが多くあります。 また、出血が止まらず血腫が大きくなると、その分圧迫される神経細胞も増えるため、症状も増え重篤化します。 被殻出血 被殻出血は脳溢血全体の 3 割程度を占めています。被殻出血の特徴的な症状は片側の手足の麻痺や片側の顔の動かしにくさです。さらに進行すると感覚障害や意識障害に至ることもあります。 視床出血 視床は人の感覚を司っています。そのため視床出血では片側の感覚障害を認めます。また、視床出血を発症した際に目が中央によって寄り目をしているように見えることが特徴です。視床の周りには運動神経が走行しているため進行すると運動麻痺も生じます。 橋出血 橋出血は、被殻出血の次によく見られる脳溢血です。橋は全身の運動や意識状態、呼吸をつかさどっています。そのため橋に出血が起こると、たとえ出血した血液量が少量であったとしても意識障害や両側の四肢麻痺などが生じます。また、自分で呼吸ができなくなってすぐ死に至ってしまうこともあります。 小脳出血 小脳には体の平衡感覚を保つ働きがあります。そのため小脳出血では強いめまいや吐き気を訴える方が非常に多いです。めまいが強くまっすぐ歩くことができなくなったり、立てなくなってしまいます。 小脳は大脳の後ろに位置しているため、出血が起こった際に頭の後ろの部分に頭痛を認めます。 大脳皮質下出血 大脳皮質とは大脳の表層に位置する部分のことを指します。つまり、大脳皮質下出血とはその大脳皮質から出血が起こったもののことを呼びます。大脳皮質は部位によって働きが異なるため、出血した部位に応じた症状が出現します。運動麻痺や感覚麻痺、言葉の出づらさなどから人格の変化、視力障害が起こることもあります。 脳溢血で発熱が起こる? これ以外に、脳溢血によって発熱が生じる場合があります。 発熱が起こる病気と聞くと、まず思い浮かぶのが細菌やウイルスによる感染症だと思います。もちろん脳溢血の経過中に何らかの細菌・ウイルスに感染して発熱を認める可能性は十分にあります。しかしそれ以外で発熱が起こることがあるのです。 脳溢血で発熱が起こる原因とは 脳溢血で発熱が起こる原因は、 ・・出血によって体温のバランスを保つ部分(体温調節中枢)が障害を受ける ・・頭蓋内圧が亢進して体温調節中枢が刺激される の 2 つです。 視床や被殻などが存在する大脳基底核や、大脳皮質下出血が起こった場合、体温調節中枢である視床下部が圧迫されてしまうことがあるため、発熱をきたしやすくなります。 脳溢血が起こると、出血が起こった部分から徐々に脳に浮腫が起こりはじめます。脳に浮腫が起こると、頭蓋内の圧が上がり、この状態を頭蓋内圧が亢進と呼びます。 これにより視床下部が刺激を受けると、体温が上昇し発熱します。 頭蓋内圧が亢進し、進行すると圧に耐えられなくなり浮腫んだ脳がさまざまな方向にはみ出てしまいます。この状態を「脳ヘルニア」と言います。 脳がはみ出る部位によって出現する症状は異なりますが、大後頭孔と呼ばれる隙間から脳がはみ出した大後頭孔ヘルニアが生じると、大脳により呼吸・循環を維持する働きをもつ脳幹が圧迫されるため急激に状態が悪くなり、突然死となってしまうことがあります。 これらの脳溢血が原因の発熱を「中枢性発熱」と呼び、中枢性発熱を認めた場合は予後が悪くなると言われています。そのため、少しでも予後をよくするためにこの中枢性発熱になるべく早く気づく必要があります。 脳溢血を予防するには?前兆はある? 先述したように、脳溢血の原因の多くは高血圧です。 高血圧の原因は塩分の多い食事や肥満・喫煙・過度なストレス・運動不足など生活習慣に関わるものが多いです。バランスの取れた食事や適度な運動とストレスを適宜発散することが高血圧の予防となります。 基本的に脳溢血の前兆はありません。ある日突然発症し、致命的になることもある怖い病気です。そのため日頃から予防に気を使うことが重要です。 まとめ・脳溢血とは?前兆サインとその原因、症状別に医師が解説! 脳溢血について紹介しました。 前述したように、脳溢血は前兆もなく突然起こる病気です。しかし少しでも早く症状に気付けば、生命を危険に晒すことなく元の生活に戻れることもあります。日頃から予防することを心がけて、少しでも怪しい症状を認めた場合は病院を受診しましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.110 監修:医師 坂本貞範
2023.01.25 -
- 肩
胸郭出口症候群のセルフケア!効果的なマッサージやストレッチ方法をご紹介 胸郭出口症候群でお悩みではありませんか? スポーツ選手から主婦まで、幅広い年代や分野の人が悩まされている疾患です。 今回は、その胸郭出口症候群に対するストレッチ方法やマッサージ方法、効果的なツボの位置も合わせたセルフケアをご紹介します。 胸郭出口症候群ってなに? 胸郭出口症候群をはじめて聞く方もいらっしゃるかもしれません。腕の動きや感覚を支配する神経(腕神経叢)や、血管(鎖骨下動脈・静脈)が胸郭出口で圧迫されて起こる疾患です。 首から腕に走る神経や血管が、骨や筋肉、腱によって圧迫されることで、手の指先の痺れや、首から腕にかけての痛み、力の入りづらさ、血行不良など様々な症状を引き起こします。 胸郭出口症候群の原因は? 野球やバレーボール、バドミントンなど腕を上から振り下ろすような動作を反復するスポーツ選手が罹患するスポーツ外傷としても知られています。 他にも、なで肩の女性や、重いものを持ち運びする仕事の人にも多く、普段の姿勢や負担のかかる動作が原因となることが多いです。 割合は少ないですが、頚肋といって発達段階で生じる骨の形態異常から神経・血管を圧迫するケースもあります。 胸郭出口症候群になりやすい人の特徴は〇〇な人 胸郭出口症候群になる人の多くは以下のような特徴がみられます。 自分に当てはまるものが一つでもあれば、注意が必要です。 オーバーハンドスポーツをする人 オーバーハンドスポーツとは、野球のピッチングやバレーボールのアタック、バドミントンのスマッシュなど、腕を上に挙げる動作を繰り返すスポーツのことを指します。 腕を上から振り下ろす動作は、肩の前方から前胸部の筋肉を使うことが多いため、それらの筋肉が発達し過ぎて、腕神経叢や鎖骨下動静脈を圧迫する可能性がでてきます。 オーバーワークの人も、カラダのコンディションがついていかず、発症する危険性も上がるため注意が必要です。 なで肩の人 胸郭出口症候群で特徴的な姿勢の一つが「なで肩」です。 なで肩では、鎖骨の位置が下がるため、神経・血管が通る鎖骨と肋骨の間が狭くなり、圧迫を起こしやすくなります。 猫背など姿勢が悪い人 猫背にみられるような背中が曲がった姿勢を長時間とってしまうと、胸の前の筋肉の一つである小胸筋が短縮してしまいます。 その小胸筋は硬くなってしまうと、腕神経叢や鎖骨下動静脈を圧迫してしまう恐れがあります。 小胸筋の柔軟性が低下している状態で胸を張ろうとすると、小胸筋がある脇の下で圧迫が強くなり、症状が酷くなることも多いです。 普段から背中が曲がった姿勢をとってしまう人は、胸郭出口症候群になる可能性も高まります。 胸郭出口症候群は治らない? 神経症状が辛い胸郭出口症候群ですが、症状が長引くことも多く、「治らないんじゃないか?」と心配の声も多く聞かれます。 しかし、胸郭出口症候群は基本的には治る疾患です。日常生活での姿勢や動作習慣の見直し、そしてこれからお伝えする「セルフケア」によって原因を取り除くことができれば、症状の改善が見込めるはずです。 胸郭出口症候群に対するセルフケア 胸郭出口症候群に対するケアの方法で重要なことは、“胸を開ける状態にする”ことです。胸を開けるとは、胸を張ること。 しかし、胸周りの筋肉が硬い状態で胸を張ろうとしても返って逆効果になることもあります。 まずは、首から胸、肩甲骨周りなどの筋肉、関節の柔軟性を出して、胸を張りやすい状態にすることが大切です。 それでは柔軟性改善のために必要な具体的な方法をお伝えします。マッサージに効果的な、東洋医学のツボの位置も合わせてご紹介します。 胸鎖関節のマッサージ ①「兪府(ゆふ)」というツボを押さえる(鎖骨の真下、胸骨の際から指一本分横の位置に取ります) ②手で胸骨と鎖骨の繋ぎ目のところをさするようにマッサージする ③慣れてきたら、同部位を押さえた状態で肩を回す 鎖骨周囲筋のマッサージ ①「欠盆(けつぼん)」というツボを挟むようにつかむ(鎖骨中央のすぐ上、大きくへこんでいる場所にあります) ②少し前屈みになり鎖骨を浮き出させたら、反対の手の親指を鎖骨の下に入れ、その上から人差し指で挟むようにつかむ ③つかみながら周りの筋肉をほぐすようにマッサージする 小胸筋のストレッチ ⓵「中府(ちゅうふ)」というツボの位置を押す(鎖骨の外側端から指一本分下の場所です) ②反対側の手で小胸筋(※)に対して垂直に押す ※鎖骨外側 1 / 3部から 3 ~ 4 横指下の部分をゆっくりと触診します ③押した状態で腕を 20 回ほど前後に振る ④少しずつ位置をずらしながら 5 セット程度行う 無理のない範囲で、様子を見ながら行いましょう。 まとめ・胸郭出口症候群のセルフケア!効果的なマッサージやストレッチ方法をご紹介 胸郭出口症候群に対するセルフケアの方法を紹介してきました。 症状の程度は人それぞれであり、セルフケアだけではなかなか改善が難しいケースももちろんあります。 セルフケアを行うと同時に、専門の医療機関でしっかり状態をみてもらい、専門家より適切なアドバイスを受けることが大切です。 気になる症状がある人は、できるだけ早めに受診することを心がけましょう。 No.S108 監修:医師 加藤 秀一
2023.01.23 -
- 腰
側弯症の治し方!?有効なストレッチとエクササイズのやり方 側弯症と健康診断などで診断されたことはありませんか?側弯症の種類によっては、原因を取り除くようなケアをしていくことで治すことができます。 今回は、側弯症に対するセルフストレッチとエクササイズの方法を中心にお伝えします。 自宅で簡単にできるものから、ボールやストレッチポールなどの道具を使った方法まで紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。 側弯症とは? 側弯症とは、背骨(脊柱)が横方向に曲がったり捻れたりする病気で、原因は違えど幅広い年代で発症します。 痛みを伴わないことが多いのですが、重度の側弯症では神経の症状が出たり、見た目上の問題から心理的ストレスを感じたりなど、早急に治療が必要な場合もあります。 側弯症とは?! 側弯症には大きく 2 つの種類があります。 1 つは「構築性側弯症」で、もう 1 つが「機能性側弯症」という症状です。 ①構築性側弯症とは 構築性側弯症は、もともと疾患や発達障害などが原因で進行していく側弯症で、背骨を構成する椎骨の変形を伴います。 大きく側弯していくものが多く、場合によっては手術療法も必要となってきます。 特に幼少期に発症した場合は、成長と共に側弯が強くなりやすいため、装具療法で側弯の進行を抑えて、成長が止まった時点で手術をする、という治療方針をとることがあります。 ②機能性側弯症 機能性側弯症は、構築性側弯症に比べ側弯の程度は大きくありません。 原因としては、 ・日頃の姿勢 ・スポーツでの偏った姿勢 ・仕事などによって同じ動作を反復する ・痛みによって逃避的に側弯の姿勢をとってしまう などが挙げられます。 機能性側弯症は、背骨自体の変形がないため、原因を取り除くようなケアをしていくことで治すことができます。 構築性側弯症は治すのが難しい 構築性側弯症に有効な手段は、装具療法により進行を抑えること、そして手術により側弯を解消することしかありません。 ストレッチやトレーニングではなかなか改善が難しいのが現実です。ただ、今後研究の数が増えてくることで、有効な治療方法が見つかるかもしれません。 それだけ医学の世界は分かっていないことが多いのです。 側弯症に有効なケアとは? ここで紹介するケアの方法は、機能性側弯症に対するものを中心にお伝えします。 側弯症に有効なケア方法は、ストレッチ、エクササイズ、そして姿勢改善の 3 つです。 1,ストレッチ ストレッチは、短縮している筋肉を元に戻すのに適したケア方法です。 機能性側弯症の患者の場合、偏った身体の使い方から左右非対称になることが多いため、どうしても筋肉が短縮(硬くなっている状態)している部分がでてきます。 そこで有効なのがストレッチです。ストレッチの基本は、以下のことに注意して行います。 ・無理に伸ばしすぎず、心地よい突っ張り感を感じるくらいで行う ・息を止めず、深くゆっくりした呼吸を意識して行う ・1 回のストレッチ時間は 20 秒〜30 秒くらいで行う 具体的な方法は後で述べていきます。 2,エクササイズ(体操) エクササイズとは、運動全般のことを指しますが、今回は筋力トレーニングやフィットネス、体操などの筋肉をしっかり使って動かすようなものを紹介します。 エクササイズには、対象となる筋肉(主動作筋)の力を上げるだけでなく、その筋肉と反対の働きをする筋肉(拮抗筋)を抑制する効果があります。つまり、やり方によっては柔軟性を失っている筋肉を効果的に改善させることもできるのです。 エクササイズを行うにあたって、注意すべき点は以下の通りです。 ・姿勢やフォームを意識して行う ・効かせたい筋肉、部位を意識して行う ・適切な負荷量、回数で行う(多すぎても少なすぎてもダメ) 上記の点に注意しながら、無理のない範囲で行っていきましょう。 3,姿勢改善 側弯症のリハビリにおいて一番重要だといっても過言ではないのが、姿勢の改善です。 そもそも、機能性側弯症の原因は、偏った姿勢や動作の繰り返しによる影響が大きいです。その根本を改善しないことには、整体やカイロプラクティックで一時的に姿勢を改善しても、また元に戻ってしまう可能性が高いのです。 大切なことは、偏った姿勢や動作を繰り返さないよう意識すること。そして、意識的に行ったことが無意識にできるようカラダに染み付かせることです。 側弯症で注意すべきことについて、こちらも併せてご覧ください。 https://fuelcells.org/topics/20813/ 側弯症に対するケアの方法 それでは、側弯症に対するケアの方法として、ストレッチ方法とエクササイズ方法をいくつかご紹介していきます。 側弯症に対するストレッチ方法 体側部のストレッチ ①仰向けになり両手を横に広げ、肩が浮かないように床につける ②両ひざを揃えて少し曲げ、ねじるようにゆっくり左側に倒していく ③右前胸部から側腹部、臀部にほどよい張り感を感じたところで止める ④反対も同様に行う 骨盤と脊柱を意識したキャットバック ①四つ這いの姿勢で行う ②頭を下げお腹を見るように背中を丸めていく ③頭を上げ背中を反らしていく。この時、肩甲骨を寄せるよう意識する ④この動きをゆっくり呼吸しながら5〜10回行う 側弯症に対するエクササイズ方法 次に、側弯症に対するエクササイズをいくつかご紹介していきます。 体幹の対角の動きを意識したエクササイズ ①四つ這いの姿勢で行う ②右手と左足を伸ばす ③余裕があれば、上げた右肘と左膝をお腹の前でくっつける ④②と③を交互に5〜10回繰り返し、反対も同じように行う ⑤カラダがぐらつかないよう、体幹を床と並行に保ちながら行う 姿勢を保つ筋力を鍛えるサイドプランク ①横向きになり、片肘を床につけた状態でセットする ②肘と足のみ床につけた状態で、体を真っ直ぐに保つ ③身体がぐらつかないように20秒〜60秒キープし、反対も行う ※きつい場合は、膝を後ろに折り曲げて支え、負荷を軽減する 姿勢の改善を意識した呼吸法 良い姿勢を保つためには、腹圧を高め、背骨を支える必要があります。 その効果的な方法の一つが、腹式呼吸です。姿勢の改善には腹式呼吸が重要です。 姿勢の改善を意識した腹式呼吸 ①仰向けになり、両膝をたて、両手を下腹部に置く ②しっかり息を吐いて、その時にお腹が凹んでいくのを感じる ③全て吐ききったら、鼻から息を吸い、お腹を膨らませていく ④また口をすぼめてゆっくりと息を吐いてお腹を凹ませていく ⑤③と④を繰り返し行う(10回程度) 💡慣れてきたら、座った姿勢や立った姿勢でもチャレンジ コルセットによる姿勢の矯正はできるのか? 側弯症にはコルセットを使用することはありますが、硬くて矯正を行うようなコルセットは構築性側弯症のケースが多いです。 機能性側弯症の場合は、柔らかい素材のコルセットを用いることがあります。その多くは、痛みにより側弯が出ている場合です。 コルセットを装着することで、腹圧を高めることができ、背骨と骨盤の安定感が増し、痛みが抑えられることがあります。 コルセットは、既製品のものや身体に合わせて作るタイプのものがあり、必要に応じて処方されます。 コルセットの費用 側弯症用のコルセットは既製品がないため、オーダーメイドでの作成が一般的となります。 子供用と大人用、素材によってもコルセットの費用は異なります。 子供用(矯正目的) 高齢者(大人)用 10 万円程度 軟性素材・・・3 ~ 4 万円程度 硬性素材・・・6 ~ 7 万円程度 費用については、治療方針や目的により作成するものが異なって参りますので、詳しくはかかりつけ医へお問い合わせください。 まとめ・側弯症の治し方!?有効なケアとしてのストレッチとエクササイズの方法 今回は、機能性側弯症に対するケアの方法を具体的に紹介しました。 側弯症のリハビリにおいて一番重要だといっても過言ではないのは、姿勢の改善です。 機能性側弯症の原因は、偏った姿勢や動作の繰り返しによる影響が大きいです。その根本を改善しないことには、整体やカイロプラクティックで一時的に姿勢を改善しても、また元に戻ってしまう可能性が高いのです。 大切なことは、偏った姿勢や動作を繰り返さないよう意識すること。そして、意識的に行ったことが無意識にできるよう身体に染み付かせることです。 側弯の度合いや、原因はその人によってさまざまです。しっかり専門家と相談し、あなたに合ったケアの方法をみつけて実践しましょう。 ご参考になれば幸いです。 No.108 監修:医師 坂本貞範
2023.01.20 -
- 脳卒中
視床出血の特徴的な症状とは?治療後の予後を予測 「視床出血と診断されたけど、一体どんな病気?」 脳内出血には出血部位により 4 つの種類があり、視床出血はそのうちのひとつです。 突然の頭痛で発症する点は脳内出血全般で共通の症状です。本記事では視床出血について症状の特徴や治療方法などについて詳しく見ていきましょう。 視床出血とは 視床出血とは脳内出血のうち、視床と呼ばれる部位に出血を生じたもので 2 番目に多い出血部位になります。 視床は脳の奥にある 5 - 6 ㎝程の神経細胞が集まっている場所であり、嗅覚以外のあらゆる感覚情報(痛覚、視覚、聴覚、味覚など)を大脳に伝達する中継所としての機能を果たしています。この重要な部位が出血し、障害されることで様々な症状が出現します。 症状について詳しく見ていきましょう。 視床出血の症状 視床出血の症状の特徴としては下記のようなものがあります。 ・意識障害 ・眼球障害(両眼が内下方を向き、鼻先を見つめるようになる) ・感覚障害(痺れやピリピリしたような感覚) ・運動障害(手足が思い通りに動かしにくくなる) ・失語 (言葉が出てこなくなり会話がしにくくなる) これらの症状は一例であり、全てが同時に起こりうるわけではありません。出血の範囲、程度により上記のような多様な症状が出現します。 これら以外にも、発症してから数か月~数年後に視床痛(出血側の反対側の手や足に生じる強い痛み)が発症することがあります。 最初は感覚障害から始まり、その後焼き付くような、剣山を押し付けられたようななどといった表現しづらい疼痛が生じます。 視床出血の原因 視床出血は、高血圧による動脈硬化が主な原因です。 動脈硬化により血管がもろくなり、さらに高い血圧に晒されることにより血管が破綻し出血が起こります。出血の原因となる血管は穿通枝と呼ばれる極めて細い血管になります。 診断 頭部CT検査で視床部位の出血を確認することで確定診断となります。 CTでは出血は白く映り、出血の程度や脳室出血の有無などを判定します。これにより治療方法や予後の予測の参考とします。 MRIでも出血の判定は可能ですが、検査に時間を要するためCT検査が行われることが多いです。 治療法 視床出血に対しては、どれほど出血量が多くても、血腫(出血による血の塊)を除去する手術は基本的に行われません。 これは視床は脳の奥深くにあり到達が容易ではなく、重要な神経が多く集まっているため、手術を行うことで脳にさらにダメージを与えてしまう可能性が高いからです。ただし出血の範囲があまりに大きい場合は、合併症を最小限に食い止めるために手術が行われるケースもわずかながら存在します。 また、水頭症(髄液の循環不全により、髄液が過剰に溜まった状態)により命のリスクがあると判断された場合は、シャント術が行われます。 手術療法:シャント術 シャント術とは、溜まってしまう髄液を体内の他の場所へ流し込むバイパスを作る手術になります。 主な経路としては、 ①脳室から腹部(脳室―腹腔シャント) ②脳室から心臓(脳室―心房シャント) ③腰から腹部(腰椎―腹腔シャント) などがあります。現在では脳室―腹腔シャントが最も多く行われています。 薬物療法:薬剤による血圧コントール 手術の有無に関わらず重要な治療になるのが、薬剤による血圧コントールです。 視床出血は高血圧が原因で発症することが多く、特に症状発症時には収縮期血圧が 200 mmHg以上となってしまうことも珍しくありません。発症から 6 時間以内は再出血が非常に起こりやすいとされており、再出血を予防し出血範囲を拡大させないために、血圧を安定させる降圧剤の点滴や内服などが用いられます。 また、慢性期に生じることのある視床痛においては、残念ながら有効な治療は確立されておらず、一般的な鎮痛剤は無効であることが多いです。ノルアドレナリンや塩酸マプロチンといった薬剤が用いられることもありますが、効果がない場合はガンマ線を用いた定位放射線手術が行われることがあります。 予後 視床出血の症状は、出血量と範囲によって異なります。 予後についても同様で、出血が多ければ多いほど、広範囲であればあるほど後遺症が残る可能性が高くなり、予後不良となることが多いです。 また中脳にまで出血範囲が広がると生命の危機に繋がる可能性が高いともいわれています。これは中脳が生命を維持するために重要な役割を果たしているためです。視床出血の死亡率は一般的に 14 - 52 %と報告されておりますが、これは基礎疾患やもともとの健康状態などに大きく左右されます。 水頭症を発症したり、視床出血発症後も出血範囲が広がるようなことがあると、予後がさらに悪化するケースもあるため、厳格な血圧コントロールが重要となります。また、少しでも後遺症を軽減するために早期からのリハビリも非常に重要となります。 まとめ・視床出血の特徴的な症状とは?治療後の予後について 視床出血の詳細に関して解説いたしました。 視床出血は脳出血の中でも重症化しやすく予後不良な疾患です。後遺症が残る場合も多く、発症してしばらく経過してからも症状に苦しむことが多い厄介な疾患です。刻一刻を争う病態ですので疑わしい症状がみられた際は速やかに医療機関を受診しましょう。 ご参考になれば幸いです。 No.109 監修:医師 坂本貞範
2023.01.18 -
- 腰
側弯症の手術の流れや、術後のリハビリ、後遺症について 「側弯症の手術はどのような流れなの?」「手術後の後遺症やリハビリについて知りたい」 このような疑問や不安がある方はいませんか? 今回の記事では、側弯症の手術の流れや後遺症、リハビリの内容を解説します。 側弯症の手術について疑問や不安のある方は、ぜひ参考にしてください。 側弯症の手術の内容や流れ 側弯症は、前から見ると背骨が左右に曲がっている状態のことです。さまざまな原因によって起こりますが、多くが原因不明とされています。 変形が重度の場合は、進行しやすいとされ、息がしづらいなどの他の症状も出るため背骨をまっすぐにする手術が推奨されます。 まずは、手術の内容や流れを解説します。 手術の内容 手術は金属製のさまざまな器具を使って変形を矯正して、背骨を固定します。脇腹を切開する前方法と、背中の真ん中を切開する後方法があります。 手術は 3 〜 6 時間程度かかり、手術の方法や変形の程度によって差があります。 入院期間は 10 日前後で、退院後から通学が可能となることが多いです。 整形外科の手術の中で、最も大きく体に傷を入れるため、合併症や後遺症の注意が必要な手術です。 後遺症の詳細については後ほど解説します。 手術の流れ 手術をしてからの流れを表に示します。 手術からの日数 手術から退院までの流れ 手術前 術前に画像や血液の検査を行い、手術に向けた準備をします。 また手術により多くの出血をするため、自分の血液をためる自己血貯血(じこけつちょけつ)をします。自己血貯血は手術の 1 カ月くらい前から何回かに分けて行います。 手術当日 手術後は全身麻酔後のため、ICU(集中治療室)で状態の観察をします。全身の状態が落ち着いていれば、一般病棟に戻ります。 手術翌日以降 術後で痛みや動きにくさがあり、起き上がりや立ち上がりなども難しい場合があります。その場合、床ずれを防ぐために体の向きを定期的に変えてもらいます。 手術後 4 〜 5 日 痛みが我慢できる範囲で起きたり、歩いたりします。1 週間前後でシャワーも可能になります。 手術後 1 週間 背骨に負担がかからないよう固定するための装具を装着します。装具は手術後 3〜 6 カ月装着します。 手術後 10 日前後 痛みも和らぎ、合併症もないようなら退院します。 10 日以降で退院したら、すぐに通学も可能となります。 しかし、体をひねったり、かがむといった動作は禁止で、体育など背骨に負担のかかる運動もできません。 接触が激しくないスポーツは 6 カ月以降での再開が望ましいです。 側弯症の手術による後遺症 体の損傷が大きい側弯症の手術では、次のような後遺症のリスクがあります。 ・神経損傷 ・肺炎や無気肺などの肺の病気 ・感染 ・腰痛 手術では背骨の周辺に傷をつけるため、背骨を通る脊髄(せきずい)や、脊髄から枝分かれする神経を損傷させる危険性があります。 その場合、足に力が入りにくくなったり、感覚が麻痺したりといった後遺症が残ります。また、肺を損傷すると肺炎や無気肺といった肺の病気を引き起こす危険があります。 大きな傷をつけるため感染のリスクも高いです。 また、骨のくっつきが不十分なままになってしまったり(偽関節:ぎかんせつ)、固定した以外の関節が不安定になったりすることで腰痛が発生する場合もあります。 側湾症の手術での更に詳しいメリット・デメリットについては、こちらの記事をご参考ください。 https://fuelcells.org/topics/20662/ 側弯症の術後リハビリ 側弯症の手術は体に大きな傷をつけるため痛みがあります。そのため、リハビリでは手術による体の状態に合わせた内容になります。 大きく分けて 3 つの時期に分けられます。 1, 術直後から離床前のリハビリ 手術直後は痛みも強く、体も十分に動かせないため、ベッド上でのリハビリとなります。 特に側弯の手術は胸や背中に傷をつけて、痛みを生じさせるため、呼吸がしにくくなります。そのため、呼吸を改善するリハビリをします。 また、痛みで起きられない場合は、体の機能がどんどん低下する「廃用症候群:はいようしょうこうぐん」を引き起こします。そのため、ベッドでできる運動やストレッチをして、廃用症候群を予防することが重要です。 2, 離床後から退院までのリハビリ 全身の状態が安定していれば、痛みの範囲で起きたり、立ち上がったりして、ベッドから離れる時間を増やします。 可能であれば 1 週間以内で病院内での歩行を始めて、以降は痛みの強まらない範囲で、階段や屋外といった応用的な歩行練習をします。 自宅に帰れば、無理に体をひねったり、前にかがんだりしなければ、普通の生活が可能です。 3, 退院後のリハビリ 退院後は徐々に活動量を増やしていき、体力を戻していきます。また、手術後の背骨を安定させて腰痛などを予防するために、体幹の筋肉を鍛える必要があります。 背骨をひねったり、かがまないような工夫をするなど、背骨に負担のかからないように気を付けてトレーニングをしましょう。 例えば、四つ這いで手足を対角に上げる運動や、仰向けで両足を上げる運動は、体幹だけでなく股関節などの筋力も同時に鍛えられるためおすすめです。 四つ這いトレーニング 両足上げトレーニング 運動は自宅に帰った直後は制限されており、術後 3 ヶ月程度でランニングなどの軽い運動から始めて、スポーツや体育が可能になるのは術後 6 カ月程度です。 さらに、器械体操など激しいスポーツは術後 1 年間程度控える必要があります。 まとめ・側弯症の手術の流れや、術後のリハビリ、後遺症について 側弯症は子どもに多い疾患で、手術をするとなると体に大きな傷をつけるため不安になる方も多いでしょう。 そのため、事前に手術の流れや後遺症、リハビリといった情報を知ることで、少しでも不安を減らしましょう。 最近は治療成績も良くなり、しっかりした術前の説明もされます。手術を検討する場合は、しっかりメリットやデメリットを把握することも大切です。 そのため、遠慮せずに整形外科の医師に相談し、納得した治療が受けられるようにしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S107 監修:医師 加藤 秀一
2023.01.16 -
- 手根管症候群
- 手
手根管症候群を自分で治す!ストレッチとマッサージでセルフケア 本記事では、手根管症候群に対する、自分でできるケアの方法を中心にご紹介します。 家事に追われている主婦や、妊娠中の女性、手をよく使う建築業の方など、手の痛みや痺れに悩まされている人にはぜひ読んでいただきたいです。 手根管症候群とは 手根管症候群とは、手根管を形成する掌の小さい骨の集まり(手根骨)と、手根骨に蓋をするようにつく横手根靭帯の間に、正中神経(指を動かすための神経)が挟まり圧迫された状態をいいます。 手根管症候群の症状 神経が圧迫されることにより、親指から薬指の一部分に痺れや痛みを発します。 また、夜間から明け方にこの症状が強くなることが多く、場合によっては寝ている途中に覚醒してしまうほどです。 手を振ったり、手の形を変えることで症状が和らぐのも特徴の一つです。 圧迫の程度がひどく、長期間症状が続くと、親指の付け根の筋肉が萎縮してしまい、指先で物を掴む動作(ピンチ動作)が難しくなることがあります。 手根管症候群の原因 手根管症候群は、原因がよく分かっていない特発性のものが多く、妊娠・出産時期や更年期の女性に多いとされています。 手の屈伸動作の繰り返しや骨折などのケガから続発して発症するとも考えられており、家事動作が多い主婦、重労働で手に力を入れる建築関係の人にも見られます。 手根管症候群が疑われた場合やるべきこと 手根管症候群の初期症状は、手指の痺れや痛みですが、我慢できないほどではないため見過ごされやすい疾患です。 そのため、医療機関に相談に来た際には、手のひらの筋肉の萎縮が進んでいる状態で手術が必要となるケースも少なくありません。 上記に挙げたような症状がみられたら、迷わず専門の医療機関へ相談してみましょう。 手の指の痺れは、頸や肩周り、肘周囲で起こる他の神経障害との見分けもつきにくいため、原因を探ることは大切なことです。 自分でできる手根管症候群のセルフケア 次に、手根管症候群になった際、自分でできるケアついてご紹介します。 初期の手根管症候群や、筋肉の張りにより症状が出ている場合などは効果がでやすいため、試してみる価値ありです。 温めるのと冷やすのはどっちがいい? 手根管症候群に対しては、温めた方(温熱療法)が有効である場合が多いです。 手根管症候群のような神経を圧迫している場合、同時に血管も圧迫しており循環が悪くなっているケースがあります。 そのため、温めて循環を促すことで症状が緩和されるでしょう。 ただ、熱を帯びている場合はかえって痛みを増強させてしまうこともあるため、患部の状態を確認して行うようにしてください。 湿布の貼り方は?サポーターは有効? 結論から言えば、どちらも少なからず効果はあります。 湿布は痛み止め成分が入っているため、痛みが強い場合は一時的に軽減させる効果があります。 また、サポーターに関しては、手首を固定するサポーターだと安静を保つことができるため、症状が強い場合には効果的です。 手根管症候群は、手首や手指を使い過ぎて発症するとも考えられているため、サポーターにより動きに制限をつけることで使い過ぎを防いでくれます。 痛みが強い場合は、手首から手のひらにかかるところに湿布を貼り、その上からサポーターをすることを推奨します。 手根管症候群のセルフケアの方法を紹介 それでは自分で行うストレッチやマッサージの方法をいくつかご紹介していきます。 手関節屈曲筋のストレッチ 【対象となる筋肉】 ・橈側手根屈筋 ・尺側手根屈筋 ・浅指手根屈筋 ・深指手根屈筋 ①手のひらから手指にかけて把持し、その手で、手首を手の甲側に反らす ②その状態を保ったまま、ゆっくり肘を前方に伸ばす ③前腕につっ張り感を感じたところで、20〜30秒キープ 手関節伸展筋のストレッチ 【対象となる筋肉】 ・長橈側手根伸筋 ・短橈側手根伸筋 ・尺側手根伸筋 ・総指伸筋 ・示指伸筋 ①手の甲から指先までを軽く包み込むよう把持し、手首を手のひら側へ曲げ、ゆっくり肘を伸ばす ②前腕の外側部分に張りを感じたところで20〜30秒キープ 手指の腱のエクササイズ 手根管を通る腱の動きを滑らかにする運動 ①手指をまっすぐ伸ばした状態から始める ②指の第一、第二関節から曲げていく ③①の状態に戻すように指を伸ばしていく ④これを10〜20回繰り返し行う 手内在筋(手のひらの筋肉)のエクササイズ 虫様筋(手のひらにある筋肉)の運動 ①手指をまっすぐ伸ばした状態から始める ②指の第一、第二関節は伸ばしたまま、第三関節(指の付け根)から指全体がお辞儀をするように曲げる ③直角近くまできたら、①の状態に戻るよう起こしていく ④これを10〜20回繰り返し行う 横手根靭帯のマッサージ ①手首と手のひらの境目ぐらいを反対の手の親指、人差し指で押さえ、つまむようにそれぞれの指を近づけていく ③次にそれぞれの指を離すように広げていく ④これを繰り返し行う セルフケアの注意点 簡単なセルフストレッチやエクササイズを紹介しました。 気をつけてほしいところは、無理に強い力で行わない、ということです。強い力の方が、効果が出やすいと思っている人も多いかもしれません。 しかし、ストレッチやマッサージは、強い力や、痛みが出るほどの伸張感で行ってしまうと、かえって硬くなることがあります。これが防御性収縮と呼ばれるものです。 いずれのケアも、力の入れ過ぎには注意し、効いているのか効いていないのか分からないくらいの力加減で行うようにしましょう。 どうしても症状がとれない場合は? これまで紹介したセルフケアは、手根管症候群の初期の状態では効果を示すことはありますが、重症化したものだと十分な効果は得られません。 「痺れや痛みがつよくなってきた」 「力が入らず箸を落としてしまう」 など、症状が顕著になった場合は、手術療法の適応になることもあります。 このような場合では、専門医に相談し、詳しい検査、治療を受けることを推奨します。 まとめ・手根管症候群を自分で治す!マッサージとストレッチでセルフケア 今回は、手根管症候群に対し、自分でできるケアの方法をお伝えしました。 同じような症状でも、一人一人原因が違います。 セルフケアを行うと同時に、負担になっている動作はないか、普段の生活を振り返り、改善していくことが大切です。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.107 監修:医師 坂本貞範
2023.01.13 -
- 肩
- スポーツ医療
鎖骨骨折とは?!その症状と手術になる場合の入院期間とリハビリ 鎖骨骨折は、骨折全体の約 10%を占めると言われており、非常に頻度の高い骨折です。 年齢も若年層から高齢者まで幅広く、ほとんどが転倒によって引き起こされます。 今回は、鎖骨骨折後の治療方法、特に手術療法について、その期間とリハビリの内容などを交えながらご紹介します。 鎖骨骨折とは? 鎖骨骨折は、頻度の高い骨折の一つで、肩の痛みや機能障害(肩を動かせない等)を呈する疾患です。 自転車走行中の転倒や、スポーツで横から倒れた際に受傷するなどのスポーツ外傷などが多くみられます。 鎖骨骨折の症状 鎖骨骨折の症状は以下です。 ・腕が上がらない ・気分不良 ・吐気、嘔気 ・手の指の感覚障害 ・鎖骨部の腫れ ・鎖骨の連続性の欠如(骨が途中で突出している状態) 鎖骨骨折の受傷直後は、とにかく肩の痛みが強く、自力で動かせないことが多いです。 そのため、反対の手でケガした側の腕をカラダの近くで抑えて来院する方をよく見かけます。 どんな鎖骨骨折が手術になるのか 鎖骨骨折後の治療は大きく「保存療法」と「手術療法」の 2つに分けられます。 ズレが少ない、小さい子どもなどの条件の場合は、保存療法が用いられることが多いです。 一方、ズレや骨折の場所、年齢などによっては手術療法を選択した方が治りが早い場合もあります。 ではどのような場合に手術療法が用いられるのでしょうか。 手術療法が選択されるケースは以下です。 ・骨片同士のズレが大きい ・複雑骨折(開放骨折、骨が皮膚から飛び出るケースなど) ・骨片が多い、3 つ以上 ・神経や血管、靭帯を損傷している可能性がある ・より早く確実に治したい さらに詳しく解説しています。 骨のズレが大きい場合 骨のズレが大きい場合は、手術で固定した方が治りが早く、偽関節になるリスクも抑えられます。また、ズレが大きいと整復が難しい場合もあり、鎖骨の短縮が起こってしまい、肩の運動制限につながる恐れもあります。 このような理由から、ズレが大きい場合にオススメする治療は手術療法です。 骨片が複数ある場合、複雑骨折の場合 骨片(折れた骨のかけら)が複数ある骨折の場合は、きれいな整復が難しいため、手術療法の方が適している場合があります。 また、骨が体外に出てしまうような複雑骨折(解放骨折)の場合は、感染や多量出血により危険な状態に陥る可能性もあるため、できるだけ早めに手術で対応したほうがいいです。 いずれの骨折も、相当な痛みと動きの制限が伴うので、早めに医療機関への受診をしましょう。 烏口鎖骨靭帯が損傷または断裂している場合 鎖骨は、肩甲骨の烏口突起と呼ばれるところに付く靭帯により、下から引っ張られています。この靭帯が烏口鎖骨靭帯といい、鎖骨の浮き上がりを抑えてくれる重要な役割を果たしています。 鎖骨骨折の時に、この烏口鎖骨靭帯が断裂してしまうと、胸に近い側の鎖骨骨片が浮き上がってしまい、折れた骨同士がくっつきにくくなるのです。 その場合は、骨の固定とともに、靭帯の修復まで行う必要があります。 鎖骨骨折の手術方法 手術による治療は一般的なもので、ワイヤーで固定する方法と、プレートで固定する方法の 2 種類があります。 1.ワイヤーによる固定 出典:一般社団法人 日本骨折治療学会(https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip03.html ) 2.プレートによる固定 出典:一般社団法人 日本骨折治療学会(https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip03.html) ワイヤーの場合は、ズレが比較的小さい骨折が適応となり、小さい傷口で済みます。 プレート固定では、傷口は大きくなりますが、ズレが大きい骨折も強固に固定することができ、また靭帯損傷など合併している場合にも用いられることがあります。 プレート固定のデメリットとしては、費用がかかる、固定に使われた金属を取り除くためもう一度手術が必要となる、など何かと負担がかかることがあります。 いずれの治療方法も、保存療法と比較して、より確実に骨癒合が得られるでしょう。 ただ、保存療法よりも費用や身体的、精神的な負担も増えることが多いため、家族や専門医としっかり相談をして、より良い治療法を見つけてください。 鎖骨骨折の手術後の流れ~固定方法や入院期間〜 手術をした後の流れや固定方法、入院期間について解説していきます。 鎖骨骨折後の固定方法 鎖骨骨折の手術後は、基本的に三角巾固定をします。 固定期間は骨の繋がり状況によって変わりますが、順調に行けば 3 〜 4 週間で外すことができます。(プレート固定であればもっと早期に外すことが可能です。) 鎖骨骨折の手術後の入院期間は? 鎖骨骨折の手術後の入院期間は、早くて 2 泊 3 日、長くても 1 〜 2 週間で退院できます。 痛み自体は比較的早く落ち着くため、早期に退院される方が多い印象です。但し、1 人暮らしの高齢者や術後の経過が思わしくなかった場合などはその限りではありません。 自宅に帰って身の回りのことをやる自信が無い人は、遠慮なく医師や看護師に相談しましょう。 力仕事は骨癒合がしっかりしてきた後 手術後、力を入れる動作や体重をかける動作ができるのは、おおよそ 2 〜 3 ヶ月後です。 プレート固定であれば、もっと早めに許可が出る場合があります。 車の運転や力仕事は、3 か月を過ぎた辺りの骨がしっかりした時期より再開することを推奨します 鎖骨骨折の手術後のリハビリテーション 以前は、手術後のリハビリテーションは骨のズレを恐れて慎重に進めることが多かったのです。 しかし、動かさないことによる拘縮(関節が固まってしまった状態)などの後遺症が引き起こされてしまうため、早期に動かすことがスタンダードとなりました。 そのため、プレート固定では術翌日から、ワイヤー固定では 1 〜 2 週間後に肩を動かす訓練を行います。 可動域訓練(関節の動きを広げる運動) 可動域訓練の初めは、患者自身は力を抜き、リハビリスタッフ(理学療法士・作業療法士)が腕を挙げていく他動運動から始めます。 2 〜 3 週目あたりから、自分で力を入れて動かす自動運動を開始します。 角度は、腕を下ろした状態から 90°(直角、目の前より低い位置)までの間で動かします。 そして、骨の繋がりがしっかりしてきた時に、より腕を挙げていくリハビリを行います。 これらの訓練は、骨の繋がり具合や、骨の転位、手術の方法により変動しますので、自分で勝手に判断しないよう注意が必要です。 【可動域訓練の順序の一例】 ①術後初期は、肩周囲の筋肉のリラクゼーションを中心に行う ②他動運動から開始し、徐々に 90°を目標に挙げていく ③痛みがなく骨癒合もできてきたら、徐々に動かす範囲を広げていく ④他動運動に加え、自分で動かす自動運動を開始する ⑤目標は、ケガをしていない方の肩と同じ範囲まで動かせるようにすること ※いずれのメニューも、代償動作が入らないように、専門のリハビリスタッフ(理学療法士・作業療法士)の指導のもと行います 筋力訓練(力を戻していく運動) 可動域(動かせる範囲)が戻ってきたら、次に力を戻す運動を始めます。 ケガをしてから手術直後は安静期間で固定しているため、どうしても筋力が落ちていきます。 リハビリで大事なことは、焦らずに段階的に筋力を戻す、ということです。 【筋力訓練の順序の一例】 ①ケガをしていない方と手術側の手を握り、一緒に上に挙げていく ②手術側の腕だけで挙げていく(前、外、後ろの順番で行う) ③力が入ってきたら、ペットボトルなど軽い負荷をかけた状態で腕を挙げていく ④弱いバンドや、1 〜 2 キロのダンベルを持った状態で挙げていく ⑤痛みなくしっかり力が入るようになったら( 2 ヶ月ほど)、膝をついた状態での腕立て伏せを行う(慣れてきたらスタンダードな腕立て伏せを行う) ※④以降は患者の力量に合わせて行います 鎖骨骨折の手術前後に気を付けておくべきポイント! 鎖骨はつながりやすい骨折であり、ほとんどの場合スムーズに良好な経過を辿ります。 しかし、手術後早めに無理をしたことで、癒合が遅れたり、痛みがなかなか引かないと訴えたりするケースも少なくありません。 手術後早期はリハビリ以外しっかり固定をしておく 手術後は、基本的に三角巾やアームホルダーで固定(腕を吊るしておく)します。 これは、肩にかかる負担を減らすとともに、腕を極力使わないようにする予防策でもあります。骨の繋がりをしっかり確認し、担当医師より許可が出てから外すようにしましょう。 仕事の復帰や車の運転は 3 ヶ月から 特に力仕事や車の運転といった患部に負担のかかる動作は、手術後 3ヶ月後より始めるようにしましょう。 ただ、プレート固定など強固な固定をした手術の場合、その時期が早まることがあります。しかし、自分で判断せず、担当医師に確認することが大事です。 手術療法は保存療法と比べ費用がかかる 当然ですが、手術療法は保存療法と比べ費用が高くなります。 鎖骨骨折の場合、医療機関にもよりますがおおよそ 15 〜 20 万円の手術代、入院費用、ご飯代、その他諸々の費用がかかります。 高額な医療費に対して、全国健康保険協会の「限度額適用認定証」により費用を抑えることは可能ですが、個室代や入院費用の中には実費負担のものもあります。 いずれにしても、保存療法よりは高額になることが予想されますので、注意が必要です。 ※「限度額適用認定証」は、自分で申請する必要があります。詳しくは、手術を受けられる医療機関でお尋ねください。 まとめ・鎖骨骨折とは?!その症状と手術になる場合の入院期間とリハビリ 今回は、鎖骨骨折の手術に至るケースや、手術後の経過についてお話ししました。 鎖骨骨折は、骨がくっつきやすく、痛みもすぐ引くことが多いため、早めから患部に負担をかけて動かす方が少なくありません。 「せっかく手術までしたのに・・・」 と、失敗しないように、専門家からの提示された“約束”をしっかり守って過ごしていきましょう。 No.S104 監修:医師 加藤 秀一
2023.01.11 -
- 腰部脊柱管狭窄症
脊柱管狭窄症を自力で治す!ストレッチと筋トレの方法を紹介 「脊柱管狭窄症の痺れや痛み、自力で和らげる方法を知りたい」 「脊柱管狭窄症に効果的な運動療法は、どのようなものがあるの?」 このような疑問がある方はいませんか? この記事では、脊柱管狭窄症とはどのようなものかを理解して、自分で治すためにできる、ストレッチや筋トレについて知ることができます。 運動をしたくても、正しい方法がわからない方はぜひ参考にしましょう。 脊柱管狭窄症とは?原因や症状を紹介 背骨は脊椎(せきつい)とも呼ばれ、椎骨(ついこつ)という骨がつながってできています。椎骨の後ろ部分には穴が空いており脊柱管と呼ばれます。 脊柱管には脳から続く神経である脊髄(せきずい)が通り、脊髄から全身につながる神経が枝分かれします。 脊柱管狭窄症は脊椎の変形などにより脊柱管が狭くなり、神経を圧迫してさまざまな症状を呈する病気です。 脊柱管狭窄症の原因 脊柱管狭窄症の原因で最も多いのは、加齢による脊椎の変形です。骨の一部が飛び出たり、骨がずれたりして神経を圧迫します。 また、事故や生まれつきの変形、手術による脊椎の固定なども原因になります。 脊柱管狭窄症の症状 脊柱管狭窄症の症状はお尻から足にかけての痺れや痛みです。筋肉を動かす神経が圧迫されると力が入りにくくなります。 また、しばらく歩くと痛みや痺れが強まり歩けなくなるものの、数分間休んだり、前屈みの姿勢をとったりすると症状が和らいで歩けるようになる神経性間欠跛行(しんけいせいかんけつはこう)の症状が特徴的です。 重症な場合は排泄や排便が障害されます。 脊柱管狭窄症におすすめのストレッチ 脊柱管狭窄症のストレッチの重要な目的は、次の 2 点です。 ・狭くなっている神経の通り道を広げて、神経の圧迫を取り除く ・腰や足の付け根の、関節の動きを妨げる筋肉の凝りをほぐす これらを踏まえた具体的なストレッチの方法を 、ポイントを交えながら3 つ紹介します。 1 ,膝かかえストレッチ 初めに紹介するのは、神経の通り道を広げたり、背中の筋肉をほぐしたりするストレッチです。 ・仰向けになり両膝をかかえます ・太ももをお腹に近づけるようにします ・ 15 秒キープします ・ 5 回ほど繰り返します POINT: 太ももを近づけるタイミングで息をフーッと吐き出しましょう。 2 ,正座ストレッチ 次も、膝かかえストレッチと同じ効果が期待できるストレッチです。 少し難易度が高くなります。 ・四つ這いの状態で背中を丸めます ・手の位置は変えずに徐々に膝を曲げていきます ・背中を丸めるように意識して、正座のような姿勢になります ・また四つ這いの姿勢にゆっくり戻ります ・ 5 回ほど繰り返します POINT: 先ほどのストレッチと同じように、正座をするときは息を止めないようにして、リラックスをしましょう。 3 ,片膝立ちストレッチ 最後は太ももの前の筋肉である腸腰筋(ちょうようきん)のストレッチです。 腸腰筋が硬くなると腰が反る姿勢になりやすいため、柔軟性を保つことが大切です。 ・壁などを支えにして片膝立ちになります ・膝をつけている方の足を後ろに少し引きます ・前方の足の膝を曲げて、膝をついている方の太ももの前をストレッチします POINT: 腰を反ったり、上半身が前かがみにならないように注意しながら行いましょう。 脊柱管狭窄症におすすめの筋トレ 脊柱管狭窄症の筋トレのポイントは、脊椎にかかる負担を減らすために、腹筋や背筋といった体幹(インナーマッスル)の筋肉を鍛えることが大切です。 ここでは、 2 つの方法をポイントとともに紹介します。 1 ,ドローイング 椎骨を支える筋肉として、コルセットのような役割をする「腹横筋(ふくおうきん)」という筋肉があります。 お腹が割れたように見える筋肉は腹直筋(ふくちょくきん)ですが、脊柱管狭窄症の場合は腹筋の中でも「腹横筋」を鍛え、椎骨にかかる負荷をサポートしましょう。 ・仰向けになり両膝を立てます ・腹式呼吸の要領で、息を大きく吸ったり吐いたりします ・息を吐くときに合わせて、お腹を限界までへこませます ・これを 10 回程度繰り返します POINT: 息を吐くときは口をすぼめるようにして、ゆっくり長く吐くようにしましょう。 2 ,ダイアゴナル 腹筋と背筋の中でも、「インナーマッスル」という姿勢を保つ筋肉を鍛える運動です。 ・四つ這いの姿勢で、背中が曲がったり反ったりしないようにします ・右手と左足をまっすぐ上げて 15 秒キープします ・次に左手と右足をまっすぐ上げて 15 秒キープします ・ 10 回程度繰り返します POINT: 手足を上げたときに、体が傾かないように意識しましょう。また、お腹をへこませるように力を入れると効率よく筋肉を刺激でき、反り腰の防止にもなります。 ストレッチや筋トレをする上での注意点 3 つ ストレッチや筋トレなどの運動療法は、正しい方法で行う必要があります。 そこで 、3 つの意識したいことと注意点を紹介します。 1 ,痛みがあるときは無理をしない 「痛みを我慢した方がよく効く気がする」と思われる方がいるかもしれません。しかし、痛みがあるのに無理して運動療法をすると、脊柱管狭窄症の症状を悪化したり、別の部位を怪我したりする危険性があります。 筋肉がつっぱる程度のストレッチに止め、痛みや痺れが出るまで無理をしないようにしましょう。 2 ,崩れた姿勢で行わない 運動療法は正しい姿勢で行わないと、怪我の原因となったり、狙った効果がえられなかったります。 脊柱管狭窄症のストレッチでは、「腰を反らない」という点が大切になります。お腹に力を入れることを意識すれば腰が反りにくいです。 3 ,継続して取り組む ストレッチや運動を実施して症状が和らいでも、脊柱管狭窄症の原因となっている脊椎の状態や姿勢は、すぐには元に戻りません。 そのため、症状が楽になる運動は、特に継続して取り組むのが大切です。 特に筋トレは継続しなければ筋肉がつきません。最低 1 ヵ月は継続しましょう。 まとめ・脊柱管狭窄症に合わせた正しいストレッチや筋トレで症状を和らげよう 脊柱管狭窄症の症状を和らげるためには、原因を理解して、状態に合わせたストレッチや筋トレをするのが大切です。 今回の運動療法は家でもできる簡単な方法ですので、症状が和らぐのを確認しながら、継続するようにしましょう。 また、脊柱管狭窄症は運動療法の他にも、薬物療法や生活の工夫などを組み合わせて治療をするのが基本です。 そのため、症状が気になる場合は整形外科を受診して、医師や理学療法士などの専門家による助言を受けながら実施するようにしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S105 監修:医師 加藤 秀一
2023.01.09 -
- 脳卒中
脳出血を発症後、寝たきりにならないため早期に取り組むべきリハビリについて 脳出血とは、脳の中の血管が破れて頭の中で出血が起こる病気です。溜まった血液が神経細胞を圧迫することでさまざまな症状を引き起こします。 また、障害を受けた神経細胞は一定時間を過ぎると障害を受けたままになり、元には戻りません。 そのため脳出血になると手足が動かないなどの麻痺症状や、言葉の出にくさなどの後遺症を残すことが多いです。 これらの後遺症が重症であると、そのまま回復せず寝たきりになってしまう場合もあります。そのような寝たきりの状態にならないために重要となるのがリハビリです。 この記事ではリハビリとは何か、具体的にどういうことを行うのか、回復過程までの流れを紹介します。 脳出血後のリハビリとは リハビリとはリハビリテーションの略で、日常生活の自立や介護の軽減のために行われるものです。 それぞれの状態に応じて理学療法や作業療法などを組み合わせて行い、基本的動作の回復を目指し、できるだけ発症前の生活に戻れるようにするのです。 脳出血後の回復する過程は急性期、回復期、維持期の 3 段階に分かれておりそれぞれの段階に応じたリハビリを行います。 急性期 急性期は脳出血の発症直後から 2 週間程度までの間のことを指します。 脳出血の急性期は全身の状態がまだ不安定な時期のため、再び危険な状態に陥らないかどうか慎重に経過をみる必要があります。 しかし、だからといってずっとベッドの上で安静にしていると筋肉が衰えたり関節が動かしにくくなり体の運動機能が低下します。この状態を廃用症候群と呼び、廃用症候群は褥瘡(じょくそう)や感染症のリスクとなります。 急性期のリハビリはこの廃用症候群を予防するために、無理のない範囲で手足を動かしたり、ずっと同じ姿勢にならないように体位の交換を適宜行います。 また、神経細胞が障害を受けた後に回復や神経機能の再構築が望める期間は3ヶ月と言われています。そのため発症直後からリハビリを開始することで、脳の機能の回復や代償機能の獲得が期待できるのです。 回復期 回復期は急性期の期間が終了してから約 6 ヶ月までの期間のことを指します。急性期の不安定な状態を脱した状態であるため、生じた症状に応じてさまざまなリハビリが始まります。 回復期のリハビリの目的は発症前の日常生活に戻るために必要な動作や身体機能の強化をはかります。それぞれの退院後の生活をイメージして、どのような訓練が必要かを考えて個人個人に沿ったリハビリが必要です。 運動機能のリハビリ 身体機能の強化をはかります。 具体的にはベッドから起き上がる・立ち上がる動作や、自分で車椅子に乗り移って使用する・支持棒などを用いて歩行を行うなど移動に関するものから、食事の動作やトイレでの動作など、日常を送るために欠かせないものまで行います。 回復期は急性期の期間が終了してから約6ヶ月までの期間のことを指します。急性期の不安定な状態を脱した状態であるため、生じた症状に応じてさまざまなリハビリが始まります。 筋力強化 安静にしていた期間に低下した筋力を回復する目的のリハビリです。自重のトレーニングや重さの負荷をかけて行います。 持久力強化 持久力の低下に対して行うリハビリです。ウォーキングやエルゴメーターを用います。 協調運動訓練 協調運動とは、何かの動作を行う際に体の部位ごとの力の入れ方を調整する機能です。このリハビリを行うことでバランスの取れた動作を行えるようになります。 基本動作訓練 基本動作訓練とは日常生活に戻るために必要な動作の訓練を行います。具体的にはベッドから起き上がる・立ち上がる動作や自分で車椅子に乗り移って使用するなどです。 歩行訓練 歩行機能の向上を図ります。支持棒や歩行器を用いて安定した歩行を行う練習を行います。 巧緻(こうち)動作訓練 手や指を用いた細かい動きの訓練を行います。お箸を使用する、文字を書くなどの練習を繰り返し行い手指の巧緻性を高めます。 移動などに関するリハビリは理学療法士が、食事や排泄に関する動作などは作業療法士が行います。 言語機能・嚥下機能のリハビリ 言葉がうまく出てこないなど失語の症状がある場合は、言葉を出やすくするようなリハビリを行います。円滑な会話をする訓練や、読み書きの練習などが主な例です。 嚥下とは食べ物を飲み込み、気管に詰まらせないようにきちんと胃に食べたものを送る機能のことを言います。この機能が低下すると口からご飯が食べられなくなり、気道に食べ物が入り込み肺炎を起こしてしまいます。 そうならないように口や喉、舌の筋肉を鍛える運動を行います。このようなリハビリは、言語聴覚士が行います。 高次脳機能障害に対するリハビリ 人間の脳の機能は呼吸など生命を維持するために必要不可欠な機能から視覚や聴覚、嗅覚などの機能などが備わっています。高次脳機能は記憶力や注意力、行動や感情のコントロールを行う機能でこれらが障害されてしまうことを高次脳機能障害といいます。 高次脳機能障害に対するリハビリでは、どのような症状が起こっているのかを正確に把握しそれに沿ったリハビリを行うことが重要です。 記憶力が障害されている場合は、言葉や絵を覚えて記憶力を鍛える訓練や、忘れても思い出せるようにメモを取ったり物を定位置におくなどする練習を行います。 注意力が障害された場合は計算など集中力を鍛える訓練などを行います。 また、高次脳機能障害がある場合は周囲の方の協力も必要になります。患者様本人がわかりやすいように使用する言葉を統一する、生活環境を整えるなどがあります。 神経細胞の障害の度合いやリハビリの開始の時期などの影響で、人によってはリハビリの効果があまり実感できない場合もあります。 しかし回復期のリハビリを怠ると身体機能がさらに低下し、もとの生活に戻れなくなる可能性が上がります。そのためリハビリを継続することがとても重要です。 維持期のリハビリ 維持期とは急性期と回復期を終えて、症状と障害がある程度安定した時期のことを言います。発症後 6 ヶ月以降に行われるリハビリを維持期リハビリテーションと呼び、自宅や施設に戻った後に行います。 維持期のリハビリの目的は、急性期や回復期のリハビリで回復した機能を維持することです。一度回復したからとそこでリハビリを終えてしまうと再度機能が低下する可能性があるため、継続してリハビリを行う必要があります。 また、脳出血を一度発症するとどうしても機能障害が残り、以前はすんなりと行えていた動作が簡単に行うことが難しくなるなど、生活の質が落ちてしまうことが多くあります。 そのようにならないために、またそういった生活の質を改善するということも維持期のリハビリの目的です。 まとめ・脳出血を発症後、寝たきりにならないため早期に取り組むべきリハビリについて 脳出血後に行うリハビリについて紹介しました。脳出血後のリハビリはなるべく早く始めて、根気強く継続することが重要です。 また、周囲の方の理解と環境調整も患者様本人の生活の質の改善のために必要です。 少しでも発症前の生活に戻れるようにリハビリを継続していきましょう。ご参考になれば幸いです。 No.S106 監修:医師 加藤 秀一
2023.01.06 -
- 肩
- スポーツ医療
鎖骨骨折中の過ごし方|この痛みはいつまで続くの? 鎖骨骨折の発生要因と症状、治療、注意すべきポイントを紹介していきます。 出典:一般社団法人 日本骨折治療学会( https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip03.html ) 鎖骨骨折は、どうやって起こるのか? 鎖骨骨折は、交通事故や転倒、スポーツ中などのスポーツ外傷として、鎖骨に対して強い衝撃が加わることで起こるケガです。 骨折全体の 10 〜 15 %程度を占めるということで、骨折の中でもかなり多い骨折と言えます。 よく耳にするのが、自転車に乗っていてバランスを崩し、そのまま肩から落車。そして、鎖骨骨折をしてしまったという話です。 他にも、ラグビーの試合中にタックルを受けて、肩から地面に倒れて骨折するスポーツ外傷など、いずれもコントロール不能な状態で肩を強打し受傷しています。 鎖骨骨折は、転倒した時に肩から落ちてその衝撃が鎖骨に伝わり受傷するパターン(介達外力)と、鎖骨を直接強く打って受傷するパターン(直達外力)があります。 このような鎖骨への力の加わり方の違いは、折れる場所などに影響してくるため、どのような状況で骨折したのか確認することが非常に重要です。 鎖骨骨折の症状 鎖骨骨折の症状で特徴的なものは、骨折部の痛みと腫れ、腕を上に挙げられないなどの運動制限です。 さらに、鎖骨周囲には血管や神経が通っているため、骨折の程度によりそれらの組織を傷つけ、手指がしびれたり動かせなくなる場合もあります。 また、鎖骨は皮膚の上から触れるほど体表にあるため、骨折している場合は簡単に観察できます。 肌を露出することが可能であれば、骨折があるかどうか目で確認してみましょう。 鎖骨骨折した後の対応 次に、鎖骨骨折をしてしまった、もしくは鎖骨骨折が疑われる場合の対処についてお話しします。 鎖骨骨折はすぐに受診を 鎖骨骨折が疑われる場合は、できるだけ早めに医療機関を受診しましょう。 なぜなら、症状の時にも述べましたように、鎖骨の骨片で大事な神経や血管を傷つけている可能性があるからです。その場合は、早急な対処が必要になります。 また、そのまま固定もせずに無理に過ごしていると、折れた箇所がズレてしまい(転移)、骨癒合しにくくなることもあります。そうなると、手術をせざるを得ない状況になるのです。 三角巾を使った固定方法 早急に病院受診をおすすめしましたが、時間帯や日にちによっては専門の医療機関が空いていない場合もあります。 そんな時に使える鎖骨骨折後の応急処置として、三角巾での固定方法をお伝えします。 【三角巾を使った鎖骨骨折の固定方法】 ①怪我した方の手を反対の手で固定してもらいます。(この姿勢が楽だと感じる人が多い) ②三角巾の頂点を骨折側の肘の下に挟み込むようにセットし、一方の端を反対の肩に回します。 ③他方の端を骨折側の脇の下を通すように背中側に回します。そうすると骨折側の腕を包み込むように固定できます。 ④首のところで両端を結び固定します。 ⑤頂点は肘の位置がズレないように結びます。 ⑥もう一つ三角巾を用意し、肘を体幹で固定するように巻くとぶれずに固定できます。 鎖骨骨折後の治療方法 ここまで、鎖骨骨折の発生要因や症状、鎖骨骨折後の対処についてお話ししてきました。それでは実際にどのような治療方法があり、どのような経過をたどるのでしょうか? 治療の方法は大きく2つに分けられます。 一つは、体にメスを入れない保存療法、そしてもう一つは折れた骨同士を癒合させる手術療法です。 今回は、保存療法を中心にご説明します。 骨のずれが少ない場合は 骨のずれが少ない場合は、鎖骨バンド(クラビクルバンド)と呼ばれるサポーターで固定をし、骨が繋がるのを待ちます。 鎖骨バンド(クラビクルバンド) 出典:一般社団法人 日本骨折治療学会(https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip03.html) 鎖骨骨折の特徴として、胸の中心に近い方の骨片が上に移動し、外側の肩に近い方の骨片が相対的に下に位置することがあります。 そのため、バンドで胸の中心の方の骨片を上から抑えこむことで、そのズレを少なくし、骨を繋がりやすくします。 【保存療法が選択されるケース】 ・単純骨折(骨片が2つ) ・骨片同士のズレが小さい ・骨形成率が早い子ども ・神経や血管、靭帯を損傷していない ・手術に対して抵抗がある 通常であれば、2 〜 3 ヶ月もすれば、ある程度骨癒合します。 ただ、鎖骨バンドを早期に外してしまったり、つけ方が甘かったり、早くから腕を動かし過ぎたりすると、骨が癒合するのが遅れ、遷延治癒(※)となることもあるので注意が必要です。 (※遷延治癒・・・一定期間が経過しても治らない状態) 鎖骨骨折の完治までの期間は? 鎖骨骨折はおよそ全治 3ヶ月と言われています。 また、骨折部自体の痛みは 1ヶ月でかなり軽減し、2ヶ月ごろにはほとんど感じなくなる人も多いです。 腕をしっかり上まで挙げると鎖骨も大きく動くため痛みが出ることもありますが、普段の日常生活ではほとんど痛みはなくなるでしょう。 しかし、ズレが大きい場合、治療内容によっては 3ヶ月より長くかかることがあります。 専門医と相談の上、適切な治療方法を選ぶよう心がけましょう。 鎖骨骨折後に気をつけること 最後に鎖骨骨折後に気を付けるポイントをいくつかご紹介します。 やはり不便な場面は出てきますが、以下の注意点をしっかり守ることが早期治癒に繋がります。 鎖骨骨折後の日常生活ではとにかく腕を挙げないこと 鎖骨は腕(上肢)を動かすための、非常に重要な骨です。鎖骨が動かせなければ、腕はほんの少ししか上がりません。 腕を大きく挙げようとすれば鎖骨は動く、ということです。つまり、鎖骨が折れている状態で腕を大きく動かせば、鎖骨は自ずと動き、ズレようとする力が働くため、強い痛みが出てしまい、さらには骨の癒合を邪魔してしまいます。 そうなると、治りが遅くなり肩の動きが悪くなる後遺症が残る可能性もあります。 また、偽関節ができてしまい、力が入りづらくなることも考えられます。そのため、鎖骨骨折後の早期は手術の有無に関わらず、腕を挙げる行動を控えることが重要です。 鎖骨骨折後は寝方にも注意 鎖骨骨折後の早期は、寝る姿勢にも注意しなければなりません。 基本的に仰向けか患部を上にした横向きで寝ることが推奨されています。その際、骨折した側の腕が動かないようにバンドや三角巾などで固定しておくとよいでしょう。 仰向けで寝る場合は、肘が下に落ち過ぎて肩に負担がかかる場合もありますので、バスタオルを折り畳んだものを骨折側の肘の下に敷いておくと安定感が得られます。 車の運転はいつからいいの? よく聞かれる質問の一つに、「車の運転はいつからしていいのか?」というものがあります。 一人一人骨の繋がり具合や手術の有無によって差があるので一概には言えませんが、腕をしっかり挙げてOKと医師から許可が出た頃から練習をし始めるのがいいでしょう。 運転では、やむを得ず急ハンドルを切る場面が出てくるかもしれませんし、大きいカーブでは腕が上がる動作も加わります。 予測できないハンドル操作が出てくることも考えると、少なくとも1ヶ月半〜2ヶ月程度は我慢した方が良さそうです。 とにかく、鎖骨骨折をしてしまったら、自分で判断せずに専門の医療機関に診てもらい、骨折後や手術後すぐに肩を大きく動かす動作は避けましょう。 骨の繋がり状況は、レントゲンなどによって判断されるので、医師の指示のもと、段階的に動かすよう心がけましょう。 まとめ・鎖骨骨折中の過ごし方|この痛みはいつまで続くの? 今回は、鎖骨骨折について発生要因や症状、治療方法、過ごし方などについてご紹介しました。 骨折の中では頻度が高い鎖骨骨折ですが、その予後は良く、医療機関の指示を守って生活すると大部分は前と同じように動かせるようになります。 鎖骨の骨片で大事な神経や血管を傷つけている可能性もあるため、骨の繋がり状況を確認しながら段階的に治療に取り組むことが完治への一番の近道です。 鎖骨骨折が疑われる場合は、手術をせざるを得ない状況になる前に、自分の判断で無理して我慢せず、できるだけ早めに医療機関を受診しましょう。 No.103 監修:医師 坂本貞範
2023.01.04 -
- 手根管症候群
- 手
手根管症候群|手のしびれ放置はNG!手術と仕事復帰までの期間 「手のしびれがあるけど原因が何か知りたい」 「手のしびれは放っておいても大丈夫なの?」 このような疑問を持つ方はいませんか?手のしびれはもしかすると手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)が原因かもしれません。 この記事では、手根管症候群について紹介し、手術や必要な費用と仕事復帰までの流れを解説します。 手がしびれて気になる方は、ぜひ参考にしましょう。 手根管症候群とは?原因や症状、治療について 手根管症候群とは手首を通る神経(正中神経)が圧迫されたり、しめつけられたりして、神経の障害を引き起こす状態を言います。 正中神経は手首の骨や屈筋支帯(くっきんしたい)と呼ばれる靭帯でできたトンネルを通ります。 このトンネルを手根管と呼び、手根管の圧が高まることが症状を引き起こす原因になるため、手根管症候群と呼ばれます。 手根管症候群の原因 特発性と呼ばれ原因不明である場合が多いです。 以下のようなものが原因の1つと考えられています。 ・閉経 ・妊娠や出産 ・アルコールの多飲 ・腎臓病による透析 ・糖尿病 ・骨折や変形 ・腫瘤(こぶ) ・腱鞘炎(手の使い過ぎ) など 中高年の女性、手を酷使する職業やスポーツをする人に症状がでやすいとされています。 手根管症候群の症状 症状の出始めは、人差し指や親指の手のひら側にしびれやピリピリ感、痛みがあり、進行すると中指や薬指まで症状が広がります。 手根管症候群は手首を手のひら側に曲げると手根管にかかる圧が増えて上記の症状が悪化します。症状は夜中や明け方に強いのも特徴で、しびれや痛みが強まると手をふることで症状が和らぎます。 重症になると親指の付け根がやせてしまい、オッケーサインをしようとしても、うまく丸が作れなくなります。 しびれがあっても、すぐに元に戻り再発しないものは、足がしびれたときのように一時的に血行が悪くなっただけで心配ないです。 しかし、上記のようなしびれや痛みは放置すると症状が悪化して、重症化してしまいます。放置をせずに症状が気になる場合は、すぐにお近くの整形外科を受診しましょう。 手根管症候群の治療法 発症してすぐのため症状が軽かったり、妊娠していたりする場合は、手術をしない保存療法をします。 保存療法では手首を少しそらして固定する装具を使ったり、日常生活で手首に負担のかからない工夫をしたりします。 また、ステロイドを注射したり、痛み止めや神経の働きをよくするビタミンB12を服用したりして痛みやしびれの軽減を図る場合もあります。 保存療法で症状が改善しない場合や痛みが強い場合に選択されるのが手術療法です。 手術については次の見出しで詳しく解説します。 手根管症候群の手術内容や費用 手根管症候群の手術は以前に比べ短時間で、負担が軽くなっています。 そこで手術の具体的な内容や手術に必要な費用の目安を紹介します。 手根管症候群の手術とは 手術療法は、手根管開放術と母指対立再建術の二種があります。 手根管症候群の手術は手根管開放術と呼ばれ、屈筋支帯を切開して、神経の圧迫を取り除くのが目的です。 以前は手のひらから手首にかけて大きく皮膚を切っていましたが、今は内視鏡と呼ばれる小型のカメラ付きの管を挿入して手術をするため、短時間かつ小さな傷ですみます。 また、親指の筋肉がやせて力が入りにくくなっている場合は、親指の筋肉を別の部分から移行して再建する母指対立再建術が適応です。 さらに、腫瘤を取り除く必要がある場合は、皮膚を切開して腫瘤を取り除きます。 手術にかかる費用の目安 手術にかかる費用は、開放術の場合、概ね 12,000円から 30,000円です。 内視鏡を使用する場合は、使用しない場合に比べてやや金額があがります。 また、母指対立再建術を同時に実施する場合は、さらに費用が高くなります。 手根管症候群の手術から仕事復帰までの期間 内視鏡下で行う手根管開放術では、手術時間は 30 分もかからず、日帰りで終わる場合も少なくありません。そのため、長期間の入院で体が衰えることもなく、早期の社会復帰ができます。 母指対立再建術の場合は 1 〜 2 週間の入院をして、手術後には 1 週間程度の固定が必要です。 内視鏡手術後は翌日以降から痛みのない範囲であれば安静にする必要はなく、通常の生活が可能です。 ただし、神経が圧迫されて損傷したために起こるしびれがある場合、手術をしてもしびれが回復するのは半年程度かかる場合もあります。 1 週間ほどは傷口を水に濡らさないようにする必要があるため、水仕事が必要な仕事は行わないようにしましょう。 力仕事やタオルを絞ったりするのは手術部に負担がかかるため、術後 1 カ月程度を目安に控えるようにしましょう。 母指対立再建術の場合は、手術後に約 1 カ月の固定をする必要があるため、仕事復帰もそれ以降になります。 これらの期間は手術した病院や手術後の状態によって、ずれがありますので、医師に詳しく確認しましょう。 手根管症候群のしびれは放置せずに早めの受診が重要/まとめ 手根管症候群でしびれや痛みがある場合、適切な治療をしなければ症状が進行します。単なるしびれだからといって放置するのは危険です。 毎朝起床時にしびれる、しびれが続いて治らないなどの場合は、できるだけ早く整形外科を受診しましょう。 最近では短い時間で済む手術も増えています。 進行すると手術費も入院期間も増えてしまいますので、状態の進行を防ぐことが大切です。 この記事を参考にして、手根管症候群の悪化を防ぎましょう。 No.105 監修:医師 坂本貞範
2022.12.28 -
- 脳卒中
- 脳梗塞
脳卒中と脳梗塞?案外知らないその違い、ここでスッキリ解消! 脳卒中は、脳血管障害とも呼ばれる脳の重い病気です。 ケースによっては、からだを動かすのが不自由になる、言葉が出づらくなる、など後遺症が残ることも少なくありません。身近で脳卒中について話題になったこともあるでしょう。 「脳卒中」とよく似た言葉に「脳梗塞」がありますが、それぞれの違いをご存知ですか!? この記事では、知っているようで知らない脳疾患である「脳卒中と脳梗塞の違い」にスポットを当てながら、病気の症状や原因、予防するための方法についてわかりやすく解説します。 脳卒中は、脳の血管障害によって発症する病気全般を指します! 脳卒中とは、脳の血管が詰まる、あるいは血管が裂けることで起きる脳の病気全般を指す言葉です。 例えば、腹痛と一口にいっても、下痢や便秘もあれば盲腸炎や大腸がんなど、原因となる病気はいくつも考えられるでしょう。 脳卒中には、大きく分けて次の 3 種類があります。 ・脳梗塞 ・脳出血 ・くも膜下出血 それぞれわかりやすく説明していきます。 脳梗塞 脳の血管が詰まる脳卒中の一種です。血管が詰まった先は血液の流れが悪くなるので、脳細胞が壊死していきます。 脳出血 脳の血管が、高血圧などにより内側から強い圧力がかかり、破けてしまう脳卒のことです。出血した血液が塊になって、脳が働かなくなります。 また、脳を圧迫するため、他の脳の部分にもダメージを与えます。 くも膜下出血 脳の太い血管にできた、動脈瘤というこぶが破れて起こる脳卒中のひとつです。 脳梗塞や脳出血は脳の中で起こりますが、出血した血液が脳の表面を覆って発症することがポイントです。 ここまでの説明を表にすると、以下のようなイメージです。 病名 病気の種類 病気が起きる原因 脳卒中 ・脳梗塞 脳の血管が詰まって血液が行き渡らなくなる ・脳出血 脳の血管が切れて出血して、脳の細胞が壊死する ・くも膜下出血 脳の血管にできた「動脈瘤」(こぶ)が破けて、脳の表面を覆うように出血が広がる もうお分かりですね! この表からもわかるように脳梗塞とは、あくまで脳卒中といわれる病名の中にあって、その種類のひとつなのです。このあたりは、知っている人に取っては当たり前ですが、知らない人にとってはごっちゃになっている部分だと思います。 最近は、脳卒中より脳梗塞という病名が知られるようになったため、別々の病気と思っている人も少なくありませんが、実は同じ病気だということです。 脳梗塞は脳の血管が詰まる・狭くなることで起きる ここまで説明してきたように、脳卒中と脳梗塞は異なるものではなく、脳卒中という大きな病気のひとつの種類に脳梗塞がある、とわかりました。 そして、 脳梗塞は、脳の血管が詰まって血液の流れが悪くなり、脳の神経細胞が死んでいくことによって発症します。 脳の血管が詰まる原因は、血栓と呼ばれる血の塊です。 年齢とともに血管の動脈硬化によってできる血栓や、心臓にできる血栓が脳に移動して、脳の血管を詰まらせます。血管が詰まると脳に血液が行き渡らなくなって、酸素や栄養が届かなくなり、脳が壊死してしまうのです。 脳梗塞の状態が重いほど、後遺症が強く残りやすくなります。 このように、脳梗塞や脳出血といった脳卒中は、寝たきりや認知症、高次機能障害といった後遺症を引き起こす重大な病気なのです。 脳卒中は年齢に関係なく突然起きる病気 代表的な脳卒中によくある症状は次の 5 つです。 1.半身がしびれたり、麻痺が続く 2.ふらふらしたり、歩く・立つができなくなる 3.ろれつが回らず、言葉が出ない 4.視野の半分が暗くなる、二重に見える 5.激しい頭痛が突然起きる 脳梗塞をはじめ脳卒中は、ある日突然起きる病気です。脳の血管が詰まる、裂けるといった脳卒中の原因が突然起きると、一気に重い症状が現れることがポイントです。 脳卒中かもしれないと思ったら 「半身がしびれたり、麻痺がつづいている」「ろれつが回らなくなった」こうした脳卒中の症状に気づいたら、すぐに医師に診てもらいましょう。 脳梗塞や脳出血は似たような症状が起きることが多いため、日頃から脳卒中の代表的な症状を覚えておくことが大切です。 気になる症状があったときは、できるだけまずはかかりつけ医に電話で相談する、少しでも症状に不安を感じたら迷わず救急車を呼んでください。 脳卒中のリスクと予防 脳卒中は死に至ることもある重い病気で、後遺症が残ることも多いため、日常的に予防に努めることが大切です。 脳卒中の 5 大リスクとして知られているものは、次の 5 つです。 ①高血圧 ②糖尿病 ③脂質異常症 ④不整脈 ⑤喫煙 ここで挙げたリスクは、生活習慣病といわれていて、以下のような食事や運動、睡眠などの生活習慣の改善で予防できるものです。 食生活に気を配ることで予防が可能 ・塩分制限をする ・バランスの良い食事を心がける ・適度に運動する ・十分に睡眠をとる ・お酒や喫煙を控える 脳卒中は、起こってしまってからでは取り返しがつきません。 予防のためにも、まずは生活習慣を見直すことからスタートすることが何より大切です。 また、病院で血圧や血液検査などの異常を指摘された方も、薬による治療を続けると脳梗塞をはじめ脳卒中のリスクをコントロールすることができます。あわせて、定期的な健康診断や通院で、病気を管理することも忘れずに行いましょう。 まとめ・脳卒中と脳梗塞?案外知らないその違い、ここでスッキリ解消! 脳卒中と脳梗塞の違いについて解説してきましたが、次のポイントを改めてチェックしておきましょう。 ・脳卒中は脳の血管障害による病気全般を指す言葉 ・脳卒中と脳梗塞は別々の病気ではなく、実は同じもの ・脳卒中の種類のうち、脳の血管が詰まるのが「脳梗塞」 ・脳卒中は生活習慣病が大きな原因 脳卒中の症状や、脳梗塞の特徴を覚えておいて、ぜひ病気の予防に努めましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.106 監修:医師 坂本貞範
2022.12.26 -
- 脳卒中
脳出血の治療方法と手術になったときの入院期間や費用について 「脳出血と診断された。これからどんな治療をするのだろうか?」 「脳出血になったら、入院期間や費用はどれくらいかかるのだろう?」 脳出血は、早期の診断・治療がとても重要な疾患であり、治療が遅れれば遅れるほど、話しにくさや手足を動かしにくくなるという重篤な後遺症が残る可能性があります。 本記事では、脳出血が疑われる際の検査についてや、治療や手術、入院期間などについて解説してまいります。 脳出血の検査について 脳出血とは脳内の血管が破れて出血した状態で、一般的な症状として多くの人に認められるのが、突然の激しい頭痛や手足が動かしにくくなるという麻痺症状です。 出血がひどくなると意識障害などもみられることがあります。 このような脳出血の症状がみられる場合には、まず CT 検査を早急に行い、出血部位(被殻、視床、脳幹、小脳、皮質下)や出血量を確認することで確定診断に至ります。 脳出血は高血圧が原因であることが多いですが、MRIの検査によって脳動脈瘤や脳血管奇形といった脳内の血管自体の異常や損傷範囲などを調べることができます。 脳出血の手術と治療について 脳出血の治療は、内科的治療と外科的治療に分かれます。 それぞれについて、詳しくみていきましょう。 内科的治療法 内科的治療(薬物療法)として、最も重要になるのは、薬剤による血圧コントールです。 脳出血は高血圧が原因で発症することが多く、特に脳出血発症時には収縮期血圧が 200 mmHg以上となってしまうことも珍しくありません。 脳出血の発症から 6 時間以内は再出血が非常に起こりやすいと言われており、再出血を予防するために、血圧を安定させる降圧剤の点滴や内服などが用いられます。 退院後における慢性期においても、高血圧を放置することで脳出血の再発もあり得ますので、定期的な降圧剤の内服が必要なことが多く、血圧を安定させるための治療が行われます。 もう一点、内科治療として、脳出血により脳が浮腫み、腫れてくることがあります。そのまま放置してしまうと、出血していない部位にまで悪影響が出ることがあるため、マンニトールやグリセロールという抗脳浮腫薬の点滴を行うことがあります。 外科的治療法 脳出血の外科的治療法(手術)は、 ・出血量が 30 ml以上と多量であり、出血による血の塊(血腫)の圧迫により生命の危機がある場合 ・水頭症(髄液の循環不全により、髄液が過剰に溜まった状態) ・意識レベルの低下が疑われる場合 などの時に対して行われます。 ただし、視床出血や脳幹出血の場合は重要な神経が通っているため手術は困難であり、また深昏睡状態(意識がなく自発呼吸もない状態)の場合も手術による改善が望めないため治療適応外となります。 手術方法としては血腫を除去する血腫除去術と、水頭症に対するシャント術が一般的です。 それぞれの手術法について詳しく見ていきましょう。 ◇血腫除去術 開頭血腫除去術 開頭血腫除去術は全身麻酔下で行われる手術で、3 時間程度要します。約 10 ㎝程度の大きさで頭蓋骨を切開し、脳内に溜まった血腫を摘出する手術になります。 内視鏡的血腫除去術 内視鏡的血腫除去術は開頭血腫除去術とは異なり、局所麻酔で行われる手術になります。数㎝程度皮膚を切開し、頭蓋骨に 1.5 ㎝程度の穴をあけて細い筒のようなものを挿入し、血腫の吸引を行っていきます。開頭手術と比べるとおよそ半分程度の手術時間で完了するため、患者さんの負担も少なく、リハビリを早期から行うことが出来るというメリットがあります。 ◇シャント術 シャント手術とは、溜まってしまう髄液を体内の他の場所へ流し込むバイパスを作る手術になります。 主な経路としては、 ①脳室から腹部(脳室―腹腔シャント) ②脳室から心臓(脳室―心房シャント) ③腰から腹部(腰椎―腹腔シャント) などがあります。現在では、脳室―腹腔シャントが最も多く行われています。 リハビリ 治療・手術後は、社会復帰に向けて必ずリハビリが必要となります。 「急性期」「回復期」「維持期」の回復過程に応じて、適切なリハビリを段階的に行うことになります。 脳出血の入院期間や費用について 入院期間 脳出血の平均入院日数は、およそ 107 日間となっており、下表のように年齢が上がると、日数は増える傾向にあります。 例えば、40~44 歳の方の平均入院日数は 56 .4 日となっていますが、80~84 歳の方の入院日数は約 3 倍の日数の 151 .3 日となっています。 これはご高齢になればなるほど、重症化のリスクやリハビリに要する期間が長くなるためだと思われます。 40 ~ 44 歳 56 .4 日 60 ~ 64 歳 81 .1 日 65 歳~ 69 歳 104 .8 日 70 歳~ 74 歳 96 .9 日 75 歳~ 79 歳 99 .1 日 80 ~ 84 歳 151 .3 日 入院費用 入院費用の平均は、約 70 万円前後( 3 割負担の場合)となっています。 なお、そのうち血腫除去術の一般的な手術費用は診療報酬点数が 47 ,020 点となっているので、1 点= 10 円とすると約 14 万円( 3 割負担)となります。 高額療養費制度を利用すると、自己負担限度額を超えた部分が払い戻されるので、最終的には更に軽減される可能性があります。 ただし、高額療養費制度の自己負担の上限額は、年齢や所得によって異なり、差額ベッド代や食事代等は制度対象外となります。 以上の入院日数や入院費用はあくまで平均値となっており、年齢や治療内容、症状などの差で変動します。 まとめ・脳出血の治療方法と手術になったときの入院期間や費用について いかがでしたでしょうか。 本記事では、脳出血の手術と治療、入院期間や入院費用について主に解説しました。 脳出血は早期の治療介入が非常に重要であり、重症度に応じて様々な治療方法が選択されます。発症から時間が経過すればするほど重い後遺症が残ったり、命の危機に晒されることに繋がりますので早期受診が重要です。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.104 監修:医師 坂本貞範
2022.12.23 -
- 腰
側弯症でやってはいけないこと!ストレッチや筋トレなどでの注意点 「側弯症でどのようなストレッチをしたらいいの?」 「側弯症でスポーツをしても大丈夫なのか不安…」 側弯症において、このような疑問がある方はいませんか? 今回は側弯症の場合にストレッチや筋トレ、スポーツで注意するポイントを紹介します。 正しい知識を持てば、側弯症でも運動が可能ですので、しっかり確認しましょう。 側弯症とは?症状や原因、種類について紹介 側弯症は背骨が左右に弯曲する状態です。 側弯症にはさまざまな原因があり、原因や特徴によって分類されます。 やってはいけないことについて理解をしやすくするために、ここでは側弯症の種類や原因、症状について解説します。 側弯症の原因や症状 側弯で最も多い突発性側弯は、発症原因がよくわかっていないのが特徴です。 変性側弯も加齢による変形が原因ですが、なぜ変形するのか根本的な原因は不明な点も多いです。側弯があっても痛みなどの症状がない場合が多く、進行すると左右で非対称な見た目で変形がわかります。 子どもの側弯は学校の運動器健診の 1 つとして義務化されており、そこで指摘されて初めてわかることも少なくありません。 具体的には、次のような部分で非対称が確認できます。 ・肩の高さの左右差 ・片方の肩甲骨が突出している ・ウエストラインが非対称 ・前屈みになると片側が盛り上がって見える 変形の程度は人によってさまざまで、軽度の場合は定期的な経過観察で進行の有無を見逃さないようにするのが大切です。中度〜重度になると専用の装具や手術の検討も必要になります。 また、側弯が悪化すると腰や背中の痛みがでたり、背骨にある神経を圧迫して、しびれなどの神経症状がみられたりします。 側弯症の種類 背骨の変形を伴うものを「構築性側弯」、背骨の変形を伴わないものを「機能性側弯」といいます。 機能性側弯 機能性側弯は痛みをかばったり、足の長さの違いを補ったりするために起こる側弯です。 つまり、見かけ上は背骨が弯曲していても、原因を取り除けば側弯は解消されます。 構築性側弯 一方、背骨の変形を伴う構築性側弯には以下のような種類があります。 疾患名 特徴 特発生側弯 全体の80%前後を占める最も多い側弯。多くが思春期に発症して、女子に多い。原因は不明。 先天性側弯 先天的な背骨の変形などにより生じる側弯。 症候性側弯 神経や筋肉の病気により生じる側弯。 変性側弯 加齢に伴う背骨の変形による側弯。 一般的に側弯と呼ばれる疾患は構築性側弯で、多くは突発性側弯です。 側弯症の日常生活でやってはいけないこと 通学鞄の種類や寝る姿勢、ベッドか布団かといったような生活習慣は、側弯症と関係ないといった研究があります。そのため、日常生活では特別やってはいけないことというのは明確には分かっていません。 ただし、側弯症の場合、片側に姿勢が傾きやすかったり、腰を痛めたりといった点で日常生活に影響を及ぼす場合があります。長時間の崩れた姿勢は、見た目上の問題や腰痛につながることになります。 また、腰痛がある場合に、重いものをもったり、無理な運動をしたりするのは症状の悪化を招きかねません。 そのため、できるだけまっすぐな姿勢を保つ、痛みがあるのに無理な運動をしないといった点には気をつけましょう。 側弯症の筋トレやストレッチでやってはいけないこと 側弯症では弯曲した姿勢を修正するため、弱った筋肉を筋トレで鍛えたり、硬くなった筋肉をストレッチで伸ばしたりといった運動をよく耳にするかもしれません。 しかし、注意しなければ症状を悪化させる危険性があります。 そこで、筋トレやストレッチの注意点を解説します。 筋トレで注意すること 側弯症に対する筋トレの基本は、弯曲の凸側の筋力強化をして、凸になっている姿勢を修正することとされています。そのため、誤って凹側の筋力強化をしてしまうと、背骨をゆがみを強める力を働かせてしまうので注意が必要です。 また、凸側を鍛えると分かっていても、動きのコツをうまく理解していないと鍛えたい筋肉がうまく働きません。 例えば、腰の部分が右凸に変形しており、右側の骨盤が下がっている場合、右側の骨盤を持ち上げるようにしてトレーニングする方法があります。 この場合、 骨盤を持ち上げるのに合わせて上半身を一緒に左に傾けてしまうと、うまく腰回りの筋力を鍛えることができません。 このように、筋トレには側弯の状態に合わせた方法をオーダーメイドで考えることが大切です。 整形外科などで姿勢を評価してもらい、専門家の助言を受けるようにしましょう。 ストレッチで注意すること 側弯のストレッチでは以下の 3 点に注意が必要です。 ・適当な方法で行わない ・痛みが出るまで無理をしない ・反動や勢いをつけない 筋トレと同様にストレッチでも正しい方法でストレッチをしなければ、より姿勢を悪化させる原因になりかねません。 また、痛みが出るまで伸ばしたり、反動や勢いをつけたりすると変形をした背骨に負荷がかかってしまいますので注意しましょう。 側弯症でスポーツをする場合の注意点 側弯症だからといって、運動をすべて制限するのではなく、適度な運動を続けることは心身の機能を保つために必要なことです。 また、特定のスポーツであればクラシックバレエの経験がある女子に側弯が発生しやすいという研究があります。ただし、バレエが側弯に影響していたのか、側弯になりやすい体型の子がバレエをやっていることが多いのかは分かっていません。 そのほかのスポーツに関しても、側弯症の発症が増えるという科学的な根拠は明らかになっていません。しかし、腰痛のような症状が悪化するような無理な運動はしないようにしましょう。 また、痩せ型の女子に側弯が多いというデータがあり、スポーツのために無理な減量やダイエットをするのは控えた方がよいでしょう。 側弯症でも注意点を守れば運動は可能!気をつけて悪化を防ごう 側弯症で筋トレやストレッチをする場合は、正しい方法で行わなければ、症状を悪化させる危険性があります。そのため、側弯の程度や弯曲の仕方をチェックして、一人ひとりに合わせた方法で実施するのが大切です。 トレーニングやストレッチが適応かどうかは、整形外科を受診して医師に確認するようにしましょう。 運動を続けることは、心身の健康を保つためには必要なことですので、症状のない範囲で行いましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S103 監修:医師 加藤 秀一
2022.12.21 -
- 脳卒中
脳出血の初期症状をセルフチェック!後遺症を残さないためにも早期治療が鍵 脳出血とは脳卒中の 1 つで、脳を走る血管が破れて脳の中で出血が起こる病気です。 高齢であったり、高血圧や動脈硬化が強いと血管が弱くなるため、脳出血を引き起こしやすくなります。出血が広がると血液で脳が圧迫されたり、血液が神経細胞に行き渡らず細胞が死んでしまったりすることでさまざまな症状が出現し、広がりに応じて進行します。 一度障害を受けた神経細胞は元に戻ることはないため麻痺や感覚障害などの後遺症を残します。脳出血の約 70 %が後遺症を残すと言われており、生活に支障をきたさない程度の後遺症から、四肢麻痺など、日常生活が以前のように送れなくなるほどの後遺症までさまざまです。 リハビリを行うことである程度までの回復を期待することはできますが、完全に元に戻すこと難しく、何よりかなりの時間を要します。 脳出血で強い後遺症を残さない為にも、発症早期に気づき、周囲の神経細胞に障害が起こる前に治療を受けることが重要になります。 この記事では、脳出血の比較的急性期に認める症状や好発部位ごとに現れる症状の特徴、ご自身で参考にしていただける初期症状のセルフチェックシートなどを紹介します。 脳卒中!脳出血の好発部位とその症状の特徴は? 脳出血は出血が起こりやすい部位によって種類が分けられており、それぞれで症状に特徴があります。 好発部位は大きく分けて 5 つあり、以下に特徴を示します。 ①被殻(ひかく)出血 脳出血の中で、一番頻度が高い部位です。 症状はまず頭痛や嘔吐から始まり、片側の手足の麻痺や感覚の異常、うまく言葉が話せない構音障害などを認めます。 また、被殻出血が起こるとどちらか一方に目がよる共同偏視を認めることもあります。 ②視床出血 被殻出血の次に多く見られる脳出血です。 視床は感覚を伝達する神経が多く走っている部位のため、視床出血では感覚障害や視床痛という半身のみの痛みを認めます。 また、視床出血は脳脊髄液が循環している脳室と近い位置にあるため、出血が脳室まで及ぶと水頭症という状態になり意識障害を起こします。 視床出血になると左右の目が内下方を向くようになることが特徴です。 ③小脳出血 小脳は平衡感覚をつかさどる部位です。 そのため、この小脳で出血が起こると頭痛と嘔吐、めまい、歩行障害が起こります。 小脳出血が広がり脳幹まで圧迫されると呼吸が止まり致命的になる可能性があります。小脳出血のみですと、麻痺は起こりません。 ④橋出血 橋は脳幹の一部で呼吸や全身の運動などをつかさどっている部位です。 橋で出血が起こると意識障害や全身の麻痺が起こり、出血が広がると呼吸ができなくなり重篤な状態になることがあります。 橋出血が起こると左右両方の目の瞳孔が小さくなることが特徴です。 ⑤皮質下出血 脳の比較的表層の部分に出血が起こるものです。 部位によって症状はさまざまで、片側の手足の麻痺や構音障害、視界の左右どちらかが見えなくなる半盲などを認めます。 脳出血の初期症状を知ることで早期治療を! 脳出血は出血範囲が広がるほど多くの神経細胞が圧迫され重症となり、最悪の場合寝たきりや死亡してしまうこともあります。 しかし早期に発見できれば、手術で血の固まり(血腫)を取り除いたり、血圧をコントロールして血腫が大きくなることを防ぐ治療を受けることができるため、後遺症などが軽症ですむ可能性が上がります。 脳出血の初期症状セルフチェックシート 初期症状リストを以下に示します。これらを参考にして、初期の段階から脳出血に気付きましょう。 いずれの部位の脳出血でも認める症状 ▢突然の激しい頭痛 ▢嘔吐 重篤な状態を示唆する症状 ▢意識障害 ▢昏睡 運動障害 ▢手足の麻痺、動かしにくさがある ▢片側の顔の麻痺、動かしにくさがある ▢表情に左右差がある ▢歩きにくくなる、足がもつれる ▢ごはんが食べにくくなる、飲み込みづらくなる 感覚障害 ▢片方の手足が痺れる ▢左右どちらかの顔面が痺れる ▢半身の痛みが突然生じる 言語障害 ▢舌がうまく回らず上手に話せない ▢話したい言葉が出てこない ▢言葉が理解できない 視覚障害 ▢突然視野が狭くなる ▢左右どちらかの視野が障害される ▢物が二重に見える ▢瞳孔の大きさが左右で違う・やけに小さい 平衡感覚障害 ▢めまい ▢ふらつき ▢まっすぐ歩けない チェックシートに記載の症状で 1 つでも当てはまる項目があれば、脳出血である可能性が高いです。迷わず医療機関を受診してください。 特に今まで感じたことのないような突然発症の激しい頭痛を認めた時は、脳出血が頭の中で発症した可能性がかなり高いです。 それに伴い、「激しい吐き気」や「嘔吐」がある場合は、更にその可能性が高まります。これら 2 つの症状は、どの部位に出血が起こっても認める症状で、かつ頭痛は血管が破れた際に起こる症状です。 すみやかに治療を受けることで、その他の症状を発症せずに済むかもしれません。 意識障害や昏睡状態になっている場合はすでに重篤な状態であり、命に危険が及んでるかもしれません。いずれの場合も救急車を使用するなどして、いち早く専門の医療機関を受診しましょう。 脳出血に前兆はない? 脳出血は突然血管が破れて発症するため、前兆は基本的にありません。前兆ではありませんが、血圧は 1 日の中で朝の 10 時ごろが最も高いためその時間帯に脳出血が起こりやすくなっています。 そのため、日頃から生活習慣を気をつけて、初期症状を認めた場合はすぐ受診し早期の治療を受けることが必要です。 まとめ・脳出血の初期症状をセルフチェック!後遺症を残さないためにも早期治療が鍵 脳出血はある日突然発症し、多くの場合で後遺症が残ってしまう病気です。 しかし早期に治療を行うことができれば後遺症を残さないか、残っても軽度で済む可能性が高まります。加えて、脳出血は画像検査ですぐに診断をつけることが可能です。 そのため、少しでも疑う場合はすみやかに医療機関を受診することが重要です。また、脳出血の治療を行うのは主に脳神経外科になるため、脳神経外科の体制が整っている病院を選んでください。 尚、後遺症については、リハビリ以外にも最先端医療の「再生医療」という新たな手法もあり、万一後遺症が残った場合は、その存在を知っておくことで後遺症が改善する可能性も残されています。 以上、本記事が参考になれば幸いです。 No.S102 監修:医師 加藤 秀一
2022.12.19 -
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 腰部脊柱管狭窄症
脊柱管狭窄症とは?その症状と治療!ヘルニアとの違いとセルフチェックの方法 脊柱管狭窄症は、腰椎ヘルニアと並び、最も代表的な腰部の疾患の一つです。 神経への影響という部分では、ヘルニアと似ているところもありますが、原因や症状、治療法などが微妙に違ってきます。 今回は、脊柱管狭窄症の病態や自分でできるチェック方法、治療について解説します。 脊柱管狭窄症とは? 脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)とは、脊柱(背骨)で構成される脊柱管というトンネルが狭くなる疾患です。 その脊柱管の中には、脳と全身の器官を繋ぐ脊髄神経が通り、感覚や運動の指令を伝達するとても重要な役割を果たしています。 脊柱管狭窄症では、脊髄神経が通るトンネルが狭くなるため、脊髄神経は圧迫されてしまい、痛みやしびれ、力の入りづらさなど様々な症状で大きく悩まされる疾患です。 脊柱管狭窄症は部位によって分類される 脊柱は、7 個の頸椎と 12 個の胸椎、5 個の腰椎が連なって構成されます。 そのため、脊柱のどの部分で狭窄が起きているかで、呼び名が変わるのです。 ・頸椎で狭窄‥頸部脊柱管狭窄症 ・胸椎で狭窄‥胸部脊柱管狭窄症 ・腰椎で狭窄‥腰部脊柱管狭窄症 割合としては、腰部脊柱管狭窄症が 1 番多くみられるため、本記事でも腰部脊柱管狭窄症について述べていきます。 脊柱管狭窄症の症状 脊柱管狭窄症は、圧迫される場所によりタイプ分けされており、それぞれ症状が違います。 タイプは以下の2つに分けられます。 ①馬尾型 ②神経根型 また、この 2 つが組み合わさった混合型というのもあります。 ①馬尾型の症状 脊柱管狭窄症の 1 割程度でみられ、脊柱管の中心部に近いところで圧迫が起きます。 馬尾型では、両下肢のしびれやだるさ、膀胱直腸障害(排尿・排便障害)などがあり、症状が出現した場合は、すみやかに整形外科を受診するようにしましょう。 ②神経根型の症状 脊柱管狭窄症の 7 割が、神経根型といわれています。 多くは、片方の臀部や脚にかけてのしびれやピリピリする痛みがあります。 症状がなかなか落ち着かない場合は、整形外科に受診し、圧迫の程度や身体機能のチェックをおすすめします。 長時間(一定時間)の歩行で症状が増強する間欠性跛行 馬尾型、神経根型のいずれにおいても、長時間の歩行で痛みやしびれの増強がみられます。これが間欠性跛行です。 これは脊柱管狭窄症と診断された患者さんの大部分が訴える症状です。 いつもなら何事もなく歩ける距離が、急に辛くなった、休まないといけなくなった、などの症状が出たら、脊柱管狭窄症を疑いましょう。 もちろん、下肢の循環障害などでも同様の症状が出てくる可能性もあるので、専門機関でしっかり診断してもらうことが大切です。 出典「日本整形外科学会」https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/spondiyolysis.html 脊柱管狭窄症の原因 脊柱管狭窄症は、脊髄神経が通る脊柱管が狭くなることで引き起こされる疾患です。 では、どうして狭くなってしまうのでしょうか? 脊柱管が狭窄を起こしてしまう原因は、以下の 3 つが考えられます。 ①加齢による骨や周囲の軟部組織の変化 人の体は20歳をピークに徐々に衰え始め、中高年の時期に急激に変化していきます。 脊柱でも同様のことが起こり、脊柱管狭窄につながる変化としては以下のものが挙げられます。 ・椎骨の変形(骨の形態が変わること) ・椎間板の変性・膨隆(椎間板の性質が変わること・椎間板が後方の脊柱管内に膨らむこと) ・脊柱周囲の靭帯の肥厚(主に黄色靭帯が厚くなること) 椎骨は脊柱の骨組みになるものであり、椎間板は背骨と背骨の間に入り込みクッションのような役割を果たし、靭帯は背骨を安定させるために働いてくれます。 これらの機能が落ちてくると、上記の 3 つのような変化が現れ、脊柱管を狭くし脊髄神経を圧迫、そしてしびれや痛み、脚の脱力感などの症状が出てしまうのです。 ②姿勢や動作習慣など日常的な体の使い方によるもの 加齢による背骨やその周りの組織の変化が起こると同時に、問題になるのが姿勢や動作習慣です。 脊柱管狭窄症の人は反り腰となっていることが多く、その原因は猫背姿勢や運動不足による体幹筋力の低下、股関節や上半身を上手に使えない誤った動作習慣が挙げられます。 腰を反らした姿勢では、脊柱管はより狭くなってしまい、症状が強く現れます。 反対に、腰を少し前かがみにすれば、脊柱管が広がり、痛みやしびれが軽くなります。 脊柱管狭窄症の人が、痛みがある時に腰を一時的に曲げる動作をとるのは、このような理由があるからです。 ③先天的な疾患によるもの 割合としては非常に少ないですが、先天的な骨の形態異常により脊柱管が狭くなってしまい発症する脊柱管狭窄症もあります。 脊柱管狭窄症は、中高年の年齢から発症することが圧倒的に多いですが、この先天的なものが原因となる脊柱管狭窄症では、発育途上の若い年代で起こることが多いです。 脊柱管狭窄症とヘルニアの違い 脊柱管狭窄症と腰椎椎間板ヘルニアは、腰部の疾患に挙げられる代表的なものですが、その違いは以下です。 腰椎椎間板ヘルニア 腰椎椎間板ヘルニアは、脊椎と脊椎の間にあるクッションの役割をする椎間板が後方へ飛び出てしまい、神経を圧迫して症状が出ます。 よく発症する年齢は、50 歳代ですが、10 〜 20 歳代の若い男性に多くみられることがあります。 腰椎椎間板ヘルニアの場合、脊柱管狭窄症と違って、間欠性跛行の症状はありません。 脊柱管狭窄症 脊柱管狭窄症は、脊柱管が狭くなり、そこを通る神経が圧迫され発症します。 脊柱管狭窄症は、ヘルニアを伴うこともあり、完全に違う病気であるとは言い切れない部分もあるため、鑑別が難しいです。 好発年齢は 60 〜 70 歳代以降の人に多く、背骨の変形や姿勢の変化を伴うことが多いです。 脊柱管狭窄症のセルフチェック 脊柱管狭窄症は、特徴的な症状がいくつかあるため、セルフチェックができます。 下記の項目にチェックを付けて下さい ▢一定時間歩いていると脚に痛みやしびれが出てくる ▢立ったままの状態を長時間続けられない ▢足首や足の指を動かしづらい ▢陰部やお尻周りがしびれる ▢腰を反らすと痛い ▢腰を前に曲げると楽になる ▢尿漏れがある ▢身長が縮んだ ▢壁に踵・お尻・頭をつけた状態で立った時、腰と壁の間のスペースが大きい ▢下にある物を持ち上げる時、股関節や膝を曲げずに腰だけ曲げて持ち上げる いかがでしたか? ひとつでも当てはまるものがある方は、注意が必要です。 脊柱管狭窄症になっている可能性がある人や、今後脊柱管狭窄症になりやすい人は複数の項目でチェックが入るかもしれません。 特に下半身のしびれや長時間の歩行での痛み、尿漏れなどの症状が出ている人は、放置せずにできるだけ早めに専門の医療機関に相談しましょう。 脊柱管狭窄症の治療 脊柱管狭窄症の治療法は様々あります。 【脊柱管狭窄症の治療方法】 ・神経からくる痛みに対しての内服 ・コルセットなどで腹圧を高めるためのサポートを行う ・体幹や肩周り、股関節周りの柔軟性を高めるストレッチ ・体幹や下半身の筋力トレーニング ・立っている時、座っている時の姿勢の改善 ・歩き方、動き方の改善 ・重症度の高い脊柱管狭窄症への手術療法 重度の脊柱管狭窄症の場合は、早急に神経の圧迫を取り除く必要があるため、手術療法が用いられます。 また、体にメスを入れない保存療法では、リハビリテーション、薬物療法、装具療法があります。 保存療法では、神経的な痛みに対する薬を処方し、まずは症状を抑えることが多いです。そして、症状の原因となる姿勢の改善や、誤った動作習慣を改善する目的でリハビリテーションを行います。 高齢になると、どうしても活動量が落ちてしまい、同一姿勢をとる時間が長くなります。そうすると、脊柱の柔軟性や体幹を保とうとする筋力が低下し、脊柱にかかる負荷が増えてしまうのです。 そんな悪循環を断ち切るために、気になる症状が出てきた時は、専門の整形外科へ相談しあなたにあった治療方法を探してみましょう。 まとめ・脊柱管狭窄症とは?その症状と治療!ヘルニアとの違いとセルフチェックの方法 今回は、脊柱管狭窄症の病態や、他の腰部疾患であるヘルニアとの違い、セルフチェック、治療方法について紹介しました。 中高齢の方に多い疾患ですが、その多くがそれ以前の姿勢や動作習慣が原因となって起こります。 今、症状が出ている人は、できるだけ早めに医療機関へ相談し、適切な治療を受けるようにしましょう。 まだ症状が出ていない方、そして年齢的にもまだまだ若い方は、脊柱への過剰な負荷がかからないように、今のうちから姿勢や体の使い方を見直し、予防に努めましょう。 No.S103 監修:医師 加藤 秀一 ※脊柱管狭窄症でのお悩みは、再生医療という治療方法があります。手術や入院を避けることができる最新療法です。当院までお問い合わせ下さい。
2022.12.16 -
- 脳梗塞
脳梗塞は、遺伝的要因に加えて、後天的には食事が関係する!?【食事療法でリスクを回避】 脳梗塞は日本でも死因上位の病気であり、脳梗塞のリスクとして食生活や遺伝が関係しています。 健康的な食事を摂ることは、高血圧 、糖尿病、高コレステロール (脂質) 、冠動脈疾患、肥満などの脳梗塞のリスクを減らすことがわかっています。 そこで今回は、脳梗塞の遺伝についてや、摂るべき食事や控えるべき食事など、食事方法について詳しく説明したいと思います。 脳梗塞は遺伝する!?「食事」が関係する理由 脳梗塞の発症には多因子の関与が知られており、この多因子は大きく後天的要因と遺伝的要因に分けられます。 それぞれ解説していきます。 脳梗塞の遺伝的要因 遺伝的要因としては年齢 、性別 、人種 、家族歴 、高血圧 、糖尿病 、高脂血症 、肥満 、過凝固状態(血液が固まりやすくなること)などの要素が挙げられます。 以下の3つに関してより詳しく解説していきましょう。 ・年齢 ・性別 ・家族歴 脳梗塞はどの年齢でも発生する可能性がありますが、リスクは 1 歳未満の乳児と成人で高くなります。成人では、リスクは年齢とともに増加します。また、若い年齢では、男性は女性よりも脳梗塞を起こす可能性が高くなります。 しかし、女性は長生きする傾向があるため、脳梗塞になる生涯リスクは高くなります。また、経口避妊薬やホルモン補充療法を使用している女性や、妊娠中および出産後の数週間もリスクが高くなります。 脳梗塞の家族歴に関しては、親または他の家族が脳梗塞を発症したことがある場合、特に若い年齢で脳梗塞を発症するリスクが高くなります。 後天的要因とは?体質の遺伝は食事と関係する そして後天的要因として、食事などの生活習慣なども関与し、危険因子と呼ばれます。この後天的要因によって、脳梗塞が遺伝すると考えることもできます。 脳梗塞は稀ではありますが、遺伝に関係しているものはあります。ほとんどの場合は生活習慣、特に自宅で食べる際の食事の味付けに由来しています。 例えば塩辛い味が美味しいと感じる場合は、小さい頃から味付けが濃い食事を食べ続けたことが影響していると言えます。 つまり、脳梗塞の家族歴があると、食生活も家族と同じようなものになる傾向があるため、高血圧症になりやすい体質が遺伝する可能性が高く、同様に発症リスクが高くなるという考え方です。 脳梗塞と食生活との関係は? 脳梗塞後は、よく食べることが回復の鍵です。健康的な食品を選ぶことで、血圧や体重をコントロールし、脳梗塞を再発するリスクを減らし、治療やその他の日常活動の負担を軽減することができます。 その際、食べてはいけないものはあるのでしょうか?どのような食事を摂り、どのような食事を控えた方がいいのか解説していきます。 脳梗塞の時に摂るべき食事 基本的には脂肪分の少ない食事を心掛けましょう。 ・穀物や青魚 ・野菜(食物繊維): 栄養豊富な濃い緑色とオレンジ色の野菜など ・果物: 冷凍、またはドライフルーツ ・乳製品: 低脂肪または無脂肪の乳製品 ・タンパク質: 低脂肪または赤身の肉、鶏肉など 上記のような食事をバランスよく摂ると、発症リスクを抑えることが可能です。 脳梗塞の時に控えるべき食事 続いて控えるべき食事は以下です。 ・トランス脂肪酸 ・アルコール ・塩分加工食品 ・糖分の多い食品 トランス脂肪は、水素化と呼ばれるプロセスによって、不飽和植物油がより飽和したものに変わるときに形成され、高コレステロールと心血管疾患のリスク増加にも関連しています。 脂肪に関してはバターやマーガリン、またはラードからのものは極力制限しましょう。 脳梗塞の食事療法とは?工夫点について 脳梗塞の時に摂るべき食事、控えるべき食事、さらに具体的にどのような工夫をすればいいか解説していきます。 ①毎食さまざまな色の野菜を取り入れる 果物や野菜に含まれる栄養素をバランスよく得るためには、毎食、さまざまな色の食品を選ぶことが重要です。 濃い赤、オレンジ、鮮やかな黄色、濃い緑、青、紫など、さまざまな色の果物、野菜、豆類を選択することで、さまざまな栄養素を確実に取り入れることができます。 ②飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、コレステロールの摂取を制限する 脂肪やコレステロールは体の健康のために必要ですが、血中のコレステロールが多すぎると、脳梗塞や心臓病のリスクが高まる可能性があります。 飽和脂肪酸などは、肉、チーズ、卵黄、バター、アイスクリームなどの動物性食品、および一部の植物油 (パーム、ココナッツ) などに含まれています。 これらの食品から摂取する飽和脂肪、トランス脂肪酸、コレステロールの量を制限することが、脳梗塞予防の鍵となります。 ③食物繊維の多い食品を選ぶ 食物繊維はコレステロールと心血管疾患の全体的なリスクに関連しています。 食物繊維の摂取量は、コレステロール値や脳梗塞のリスクに影響するだけでなく、血糖値をコントロールし、胃や腸などの病気を予防し、体重管理に役立つなどの利点があります。 ④食事中のナトリウムを減らす ほとんどの人が、必要以上にナトリウムを摂取しています。ナトリウムを摂りすぎると、体液が貯留し、血圧が上昇する可能性があります。 塩分を減らす方法としては、食卓塩の代わりにハーブやスパイスを使用しましょう。塩味が控えめでも、風味が豊かになることで満足感を得ることができるのでおすすめです。 また、ナトリウムは食品の保存にも使用されるため、食品を加工すればするほど、ナトリウム含有量が高くなります。したがって、加工食品や缶詰食品を使用しないことも大切です。 ⑤健康的な体重を維持する 脳梗塞のリスクを減らすためのもう 1 つの重要な戦略は、健康的な体重を維持することです。 食事量に注意して、食物繊維が多く脂肪の少ない食品を食べる、活動を増やすことで、健康的な体重を達成することができます。減量は無理なく続けることが大切です。 きちんと計画を立てて、最初から現実的に達成可能な短期、又は長期の目標を設定して行うことが成功のポイントです。 ⑥糖分の摂取を減らす 糖分の過剰摂取は、高血圧、肥満、2 型糖尿病、脂質異常症と関連しており、これらはすべて脳梗塞の危険因子となっています。 砂糖の例としては、白砂糖、黒糖、蜂蜜、糖蜜、ゼリー、ジャム、加糖飲料などがあります。使用頻度を減らすか、使用する量を減らすことが推奨されています。 ⑦カリウムを十分にとる カリウムは果物、野菜、乳製品に豊富に含まれていますが、ほとんどの成人はカリウムを十分に摂取していません。 カリウムを摂るためには、バナナ、アプリコット、オレンジ、メロン、リンゴなどの果物がおすすめです。野菜には、じゃがいも、さつまいも、ほうれん草、ズッキーニ、トマトなどがあります。 適切な心機能を維持するためには、十分な食事性カリウムの摂取が必要不可欠です。 脳梗塞のリスクについて食事療法で気をつけるべきことは? では、食事療法の工夫の次に、注意点についても見ていきましょう。ただ単に食事内容に気をつけるだけではなく、以下のような注意点もあります。 ①肥満予防:食べる量に気をつける 満腹になるまで食べないことです。肥満を防ぐためにも常に8割くらいに抑えて、食事量を調整しましょう。 ②脱水症状予防:水分を一緒に摂る 水分不足にならないように、食事と共に必ずこまめに水分摂取してください。 ただし、水分を摂るといっても、以下のような水分は推奨されません。 ・アルコール ・コーヒー、緑茶 ・甘いジュース 水分不足は、血流が滞り血栓ができやすくなる原因と言われています。水または麦茶など、カフェインの入っていない飲み物は利尿作用がなく、水分の排出が少なく済むのでおすすめです。 ③誤嚥予防:嚥下障害に気をつける 脳梗塞の後遺症として、飲み込みづらさなどがあり、飲み込みづらい場合は、ベット上で頭を上げるなど工夫して食事療法を行います。誤嚥性肺炎などを引き起こす可能性もあるため、水分や固形物を飲ませる場合は、嚥下機能の評価を行ってからにしましょう。 まとめ・脳梗塞の遺伝的要因と後天的要因のリスク回避に食事療法を! いかがでしたでしょうか。脳梗塞は食事療法を行うことで、予防できることもあります。 今回の記事でご紹介した、摂るべき食品、控えるべき食品を考えた食生活をすることで、血圧や体重をコントロールし、脳梗塞を再発するリスクを減らし、治療やその他の日常活動の負担を軽減することができます。 より健康的な食事を摂るためにも、困った点があれば、栄養士に相談することも大切です。 今回の記事をご参考にしていただき、ぜひ改善に取り組んでみましょう。ご参考になれば幸いです。 No.S099 監修:医師 加藤 秀一 ※脳梗塞の後遺症でお悩みなら、再生医療という先端治療法があります。再生医療は、多くの症例数を有する当院までお問い合わせください。
2022.12.14 -
- 腰部脊柱管狭窄症
脊柱管狭窄症の手術|入院期間や費用、手術からリハビリまでの流れ 「脊柱管狭窄症の手術はどれくらい入院するの?」 「手術費用がいくらかかるか不安」 脊柱管狭窄症は足の痺れや痛みで歩けなくなる病気で、症状が悪化すると手術による治療が必要になります。 どのような手術やリハビリをするかはもちろんですが、入院期間や費用がどのくらいかかるかが気になる方も多いのではないでしょうか。 そこで、脊柱管狭窄症について、手術からリハビリまでの流れ、入院期間や必要な費用を詳しく解説します。 脊柱管狭窄症とは?原因とその症状 脊柱管狭窄症はさまざまな原因により、背中にある神経の通り道が狭くなり、神経を圧迫することで症状を引き起こす状態です。 まずは脊柱管狭窄症についての理解を深めるために、原因や症状を紹介します。 脊柱管狭窄症の原因 多くの場合は、加齢により「脊柱の変形による神経の圧迫」が原因となります。 脊柱は小さな積み木のような骨が積み重なってできており、後方の脊柱管という空間に脳から伸びた神経(脊髄:せきずい)が通っています。また、脊髄から枝分かれした神経は脊柱の左右の隙間を通って、手足につながり感覚や運動を司っています。 脊柱の変形のため、これらの通り道が狭くなってしまうと、神経にダメージを与えてしまい、脊柱管狭窄症の症状につながるのです。 加齢による変形の他に、骨の代謝障害や生まれつきの変形によるものなどがあります。 脊柱管狭窄症の症状 お尻から脚全体にかけての痺れや痛み、脱力といった神経の症状が特徴です。 また、ある程度の距離を歩くと痛みや痺れなどが悪化して歩けなくなるものの、数分間休憩して前屈みの姿勢をとると再び歩けるようになる間欠性跛行(かんけつせいはこう)という症状がみられます。 症状が悪化すると排泄の障害や性機能が不全になるなどの膀胱直腸障害(ぼうこうちょくちょうしょうがい)がみられます。 脊柱管狭窄症の治療方法について 脊柱管狭窄症の治療は、保存療法と手術療法があります。まず選択されるのは、手術をしない保存療法です。 脊柱管狭窄症の保存療法 保存療法は次のようなものがあります。 ・薬物療法 ・神経ブロック注射 ・運動療法 ・生活指導 薬物療法は、痛み止めや神経の働きを改善する薬を服用します。 神経ブロック注射は、傷害された神経に麻酔薬を注射して一時的に神経働きを麻痺させ痛みの軽減や神経症状の改善を目的とします。 また、運動や生活の工夫で腰部の負担を軽くして、症状の改善や悪化予防を図ります。 それでも回復しなかったり、症状が悪化したりする場合は、手術の適応となります。 脊柱管狭窄症の手術療法 脊柱管狭窄症の手術は大きく分けて「除圧術」と「除圧固定術」の 2 種類あります。 1 つ目は、神経を圧迫している背骨の一部を取り除いて、圧迫されている部分の除圧をする手術(除圧術)です。 もう 1 つは、除圧術をしたあとに、その部分を別の箇所の骨を移植して固定する手術(除圧固定術)です。 背骨が狭窄だけでなく、ずれがあったり変形が強かったりする場合、除圧術をすると背骨の関節が不安定になってしまいます。そのため、除圧に加えて固定をする必要があり、除圧固定術が適応となります。 最近では小型のカメラを使用して、わずかな傷で手術を行う内視鏡での手術が多くなっています。手術は全身麻酔で行われ、手術箇所や状態によりますが 1〜3 時間以内で終了することが多いです。 傷口が小さくて回復も早いため、従来の切開して行う手術に比べて入院期間が短くなっています。 脊柱管狭窄症の入院期間と費用 脊柱管狭窄症は状態に合わせて手術の方法が異なるため、入院期間や費用は手術内容に応じて変わってきます。 そこで、手術ごとの入院期間や費用の目安を紹介します。 入院期間の目安 内視鏡を使用した手術の場合、入院期間は 1 〜 2 週間程度です。 病院や状態によっては 1 週間以内で退院が可能になる場合もあります。 入院期間は除圧術の方が固定術に比べて短く、手術箇所が多いほど入院が長くなる傾向にあります。 また、脊柱管狭窄症にヘルニアなどの合併している場合も入院期間が長くなります。 費用の目安 費用は除圧術の場合、25 万円〜 40 万円程度になります。 除圧固定術は除圧術に比べて費用がかかり、 60 万円〜 85 万円程度になります。 術式や入院期間、リハビリの量などによって差が出ますので、手術を検討する病院でしっかり確認をしましょう。 脊柱管狭窄症の手術からリハビリまでの流れ 脊柱管狭窄症で内視鏡手術をした場合、早期からベッドを離れて、体を動かすことができます。 そこで、手術からリハビリまでの流れについて解説します。 手術の翌日からリハビリ開始 手術当日は安静にしますが、翌日からリハビリが始まります。 ベッドから起きたり、座ったりという動きを確認したあと、経過が良好であれば、コルセットを装着して歩くことも可能です。 コルセットは術後の背骨が安定するまで約 3 カ月間装着する必要があり、手術の翌日から正しい装着方法を習得することが重要です。 2日目以降は状態に応じて積極的なリハビリを実施 2 日目以降は歩行練習を含めて、活動的な生活を送るためのリハビリがしっかり行われます。 歩行が安定してくると、階段の昇降や屋外での歩行も開始して、退院が可能な状態まで回復を目指します。 中腰の作業や重い荷物を持つなどは腰に負担がかかるため、しばらくは行ってはいけません。 退院までに日常生活での注意点もしっかり理解を深めておくことが重要です。 退院後も必要に応じて外来でのリハビリを受けることがあります。 脊柱管狭窄症の手術内容やリハビリまでの流れを知って不安を減らそう 脊柱管狭窄症は症状が悪化して、手術を勧められても、手術の費用や入院期間やリハビリまでの流れを知らないと不安になるのも仕方ありません。 紹介した情報を知ることで、少しでも不安を減らしていただければ幸いです。 脊柱管狭窄症により神経症状が悪化すると、日常生活を送るのに支障をきたします。 手術が必要になる前に、早めに整形外科を受診し、症状の悪化を防ぎましょう。 今回の記事がご参考になれば幸いです。 No.102 監修:医師 坂本貞範
2022.12.12 -
- 脳卒中
脳梗塞の様々な後遺症を改善する具体的なリハビリ方法と期間の目安とは 「脳梗塞の後遺症を改善する方法について知りたい。」 「脳梗塞のリハビリについて具体的な方法を知りたい。」 こんな悩みを抱えている方はいませんか? 脳梗塞を発症すると、適切な治療を受けても後遺症が残ることがほとんどです。後遺症を改善し、元の日常生活に戻るためにも、長期間のリハビリが欠かせないのです。 そこで今回は、脳梗塞の後遺症や改善する方法、リハビリについて説明しますので、ぜひ参考にしてください。 脳梗塞の後遺症は改善できるのか? 脳梗塞にはさまざまな後遺症や合併症があり、その後の回復の仕方もさまざまです。 脳梗塞のリハビリは、自立生活を取り戻し、生活の質を向上させるのに役立ちます。脳梗塞の影響を受けた脳の部分に応じて、さまざまなリハビリを行います。 脳梗塞のリハビリには多くの職種が関わります 以下のように脳梗塞のリハビリには、さまざまな専門家が関与します。 医師や看護師 かかりつけの医師は、神経科医や理学療法とリハビリテーションの専門家と同様に、あなたのケアを指導し、合併症の予防に役立ちます。 理学療法士 ウォーキングやバランスの維持などの動きを再学習するのに役立ちます。 作業療法士 着替え、入浴、家事のスキルなどのより自立した活動的な生活を送るのをリハビリを通して助けます。 さらに、感情的、社会的リハビリに焦点を当てた専門職もあります。 ソーシャルワーカー ソーシャルワーカーは、医療、福祉、介護などにおいて、相談員として支援を行い、日常生活を送る上で、困り事や問題を抱えている方に対して援助や支援の調整を行います。 心理学者 これらの専門家は、あなたの思考スキルを評価し、あなたの精神的および感情的な精神衛生上の懸念に対処するのに役立ちます。 脳梗塞のリハビリの結果に影響を与える要因は? 脳梗塞の回復には個人差があります。どれだけ多くの能力を回復させられるか、またどれくらい早く回復できるかのを予測するのは困難です。 一般的に、脳梗塞リハビリの成功は次の要素に依存します。 身体的要因 脳梗塞の重症度など 感情的要因 モチベーションや気分など 社会的要因 友人や家族のサポートなど 治療上の要因 リハビリの早期開始や有無やリハビリチームのスキルなど 回復率は一般に、脳梗塞後の数週間から数ヶ月で最も大きくなります。 脳梗塞からの回復は、長期間にわたって必要であり、途中で挫折してしまうことはよくあることです。 改善に向けて最大限の効果を得るのに長時間かかることを理解しておきましょう。 脳梗塞のリハビリの具体的な方法と期間の目安とは リハビリ計画は、脳梗塞の影響を受けた体の部位や能力の種類によって異なり、主に以下の3つの時期に分けられます。 ①急性期のリハビリ : 発症〜 48 時間以内 急性期のリハビリとしては、運動機能の改善などが含まれます。 運動機能の回復訓練 全身の筋力と協調運動を改善するのに役立ちます。これらには、バランス、歩行、さらには飲み込むために使用される筋肉が含まれます。 歩行器、杖、車椅子、足首装具などの移動補助具の使い方を学んだり、ベッドから立つ、座るなどの離床訓練も必要です。 関節の可動域訓練 特定の運動や治療は、筋肉の緊張(痙縮)を緩和し、可動域を取り戻すのに役立ちます。 看護師や理学療法士が行う他動的運動と自分で動かす自動運動に分けられます。 ②回復期のリハビリ : 3〜6 ヶ月 回復期では、日常生活に戻ることを目的とし、主に以下のようなリハビリを行います。 機能的電気刺激 弱った筋肉に電気を流して収縮させることで、筋肉に運動の仕方を再学習させることができます。 ロボット訓練 ロボット装置は、障害のある手足が反復運動を行うのを支援し、手足の強さと機能を回復するのを助けます。 言語機能訓練 失語症などの後遺症が残ったら、読み書きや言葉の言語機能の訓練を行います。 作業療法 作業療法と言語療法は、記憶、処理、問題解決、社会的スキル、判断力、安全意識などの認知能力の喪失を手助けすることができます。 心理的評価と治療 脳梗塞後の後遺症として心理的なケアも大切です。カウンセリングを受けたり、支援グループに参加したりすることもできます。 ③維持期のリハビリ : 回復期以降 維持期では退院後に主に日常生活を取り戻すためにストレッチなどの軽めの運動から始めます。 退院前に、患者さんとその家族は、病院のソーシャルワーカーやケアチームと協力して、最適なリハビリ環境を決定する必要があります。 ここで考慮すべき要因には、適用される保険、患者さんとその家族にとって何が最も便利かなどがあります。 病院の外来 病院または診療所の外来に通います。 専門的な介護施設 介護施設で受けられるケアの種類はさまざまです。 自宅でのリハビリ 自宅でリハビリを行うことで、柔軟性が高くなります。ただし、専門のリハビリ機器を利用できない可能性があります。また、在宅プログラムの保険適用範囲は大きく異なります。 最良の選択肢について、医師や家族としっかりと話し合うことが大切です。 脳梗塞のリハビリで気をつけるべきポイントは? 脳梗塞の後遺症を改善するためにリハビリが有効ですが、気をつけるべきポイントについてみておきましょう。 残された能力も同時に鍛えながらリハビリを行うこと 失われた機能を取り戻すことに執着しがちですが、健常な機能を維持することも大切です。 例えば、片麻痺で健常な方を鍛えることで、後遺症を残した部位のサポートを行うことが可能です。バランスよくリハビリを行うことを心がけましょう。 リハビリは無理をせずじっくり行うこと リハビリはすぐに効果が出るわけではないため、焦らないことが大切です。 また、痛みが出たら、リハビリは中止しましょう。無理にリハビリを行うと逆効果になってしまいます。 脳梗塞のリハビリに関するよくあるQ&A 最後に、よくある質問について Q & A でまとめましたので、参考にしてください。 Q ,脳梗塞のリハビリはいつから始めるべき? A ,一般的には、脳梗塞のリハビリを開始するのが早ければ早いほど、失われた能力やスキルを取り戻せる可能性が高くなります。 脳梗塞のリハビリは、脳梗塞発症後 24 時間から 48 時間以内の入院中に開始するのが一般的です。 Q ,脳梗塞のリハビリはどのくらい続けますか? A ,脳梗塞リハビリが必要な期間は、脳梗塞の重症度と関連する合併症によって異なります。 ほとんどの場合、長期間にわたるリハビリが必要であり、数か月または数年続く可能性があります。 脳梗塞の様々な後遺症を改善する具体的なリハビリ方法と期間の目安/まとめ いかがでしたでしょうか。 脳梗塞の後遺症は、適切な治療とリハビリを行って改善を目指すことができます。その為には、退院後の日常生活でも継続的なケアが必要になってまいります。 今回の記事では、実際のリハビリの方法や気をつけるべき点について解説してきました。脳梗塞から早く仕事復帰するためには、入院期間中早い段階からのリハビリを適切に行うことが不可欠です。 今回の記事で、改めてリハビリについて理解し、活用してみてください。 No.S101 監修:医師 加藤 秀一
2022.12.09