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- 糖尿病
糖尿病|患者数の推移と患者を増やさないために 日本では糖尿病は国民病などといわれていますが、日本以外の国はどうなっているのでしょうか。また、国内でも糖尿病を発症しやすい地域や発症しにくい地域はあるのでしょうか。 この記事では、日本と世界での糖尿病患者数の推移や特徴、日本国内での糖尿病発症率の地域差について解説します。 糖尿病の患者数の推移 米疾病対策予防センターは、2015年時点で米国の人口の約9%(3,030万人)が糖尿病、34%(8,410万人)が糖尿病予備群と報じています。しかし、糖尿病の有病者において約23.8%(720万人)は糖尿病と診断されているわけではないことも報じています。 これは糖尿病有病者の約4人に1人が「自分は糖尿病である」ということを知らないということになります。また糖尿病予備群(糖尿病前症や前糖尿病ともいう)の人は88%が糖尿病のことを知らず、自分の健康状態を理解していないことが浮き彫りになりました。 ここからは糖尿病患者数の推移を世界と日本にわけて以下の項目ごとに説明していきます。 1)世界の糖尿病の患者数の推移 2)日本の糖尿病の患者数の推移 3)糖尿病の患者数として数えられていない予備群 1)世界の糖尿病の患者数の推移 2016年4月の世界保健機関(WHO)の発表によると、2014年までに世界の糖尿病の有病者人口は4億2,200万人に達したことがわかっています。このまま対策を取らない場合、2025年までに世界の糖尿病有病者人口は7億人以上に増えると予測されています。 4億2,200万人のうち、約2分の1は中国、インド、米国、ブラジル、インドネシアに集中しています。 2)日本の糖尿病の患者数の推移 厚生労働省によると2017年10月時点の日本の糖尿病患者数は328万人を超えていることが報告されています。また、一貫して高齢の糖尿病患者数が増え続けていることもわかっています。 一方、日本を含む西太平洋地域では男性は40~59歳、女性は50~59歳で糖尿病と関連する原因による死亡率が高くなっています。 3)糖尿病の患者数として数えられていない予備群も多数 厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、糖尿病が強く疑われる成人患者の数は2016年時点で推計1,000万人を超えたことがわかりました。これは2012年の前回調査よりも50万人増えていることになります。 また、日本透析学会によると1983年に5万3,017人だった透析患者数が2016年には32万9,609人にまで増加しており、原因疾患の約4割が糖尿病性腎症であることがわかっています。 地域別で変わる糖尿病の患者数 糖尿病は地域によって患者数に差があります。日本の場合、厚生労働省の「2016年人口動態統計月報年報」によると、人口10万人に対して糖尿病による死亡率が最も高いのは青森県、最も低いのは愛知県ということがわかっています。 日本や世界の地域による糖尿病患者数について以下の項目にわけて見ていきます。 1)患者数が地域 2)地域の特色 3)国別 1)糖尿病の患者が多い県 前述の厚生労働省のデータによると、日本国内で糖尿病患者数が多い都道府県は以下となります。 糖尿病患者数が多い県 ・青森県 ・秋田県 ・福島県 ・香川県 ・徳島県 糖尿病死亡率の高い都道府県には青森や秋田など雪国が多いことがわかります。これは雪国という土地柄ゆえに生じる運動不足や健康診断の受診率の低さなどが原因として考えられます。 糖尿病の患者数が最も少ない県 ・愛知県 反対に、全都道府県のうち糖尿病死亡率が最も低かったのは、愛知県で7.7人でした。 愛知県では糖尿病指導者の養成に乗り出しており、糖尿病の発症リスクの高い人に対して早期発見や適切な保健指導が行えるような仕組みづくりを進めています。 2)地域の特色と糖尿病の関係 日本国内では、都道府県や地域によって野菜や食塩の摂取量など食文化にも差があります。このような食文化の違いも糖尿病の患者数の違いと関係していると考えられています。 例えば、成人の一日の平均野菜摂取量(g)は男女ともに長野県が最も多く、野菜摂取量の少ない徳島県や香川県と比較して100g以上の差があることがわかっています。 一方、食塩の一日の平均摂取量(g)は男女とも山形県が最も多く、食塩摂取量の最も少ない沖縄県と比較して3g以上の差があることがわかります。 3)国別の糖尿病の患者数 IDE(International Diabetes Federation/国際糖尿病連合)によると、2017年時点での成人(20〜79歳)における世界の糖尿病人口は約4億2,500万人にのぼることがわかりました。これは世界の成人人口の約8.8%が糖尿病であるという結果になります。 特に糖尿病患者数の多い国は以下となります。 ・中国 ・インド ・米国 ・ブラジル これらの国では、経済発展が進んだことによる食生活の欧米化や予防医療という概念が定着していないことなどが糖尿病の患者数が多い原因と考えられています。 糖尿病の患者数を増やさないために 平成23年、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部の第11回医療情報化に関するタスクフォースにおいて、厚生労働省健康局総務課生活習慣対策室は「厚生労働省における生活習慣病対策について」という資料を作成し、国民の健康寿命の延伸を実現するための基本方針を示しています。 また、世界規模においても糖尿病患者数を増やさないためのさまざまな取り組みが行われています。 糖尿病などの生活習慣病患者数を増やさないための厚生労働省の動き 「厚生労働省における生活習慣病対策について」のなかで、厚生労働省は「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)の推進について」「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針について」に基づき、健康寿命の延伸を実現するための基本方針として以下の項目を挙げています。 ・一次予防の重視 ・健康づくり支援のための環境整備 ・目標等の設定と評価 ・多様な関係者による連携のとれた効果的な運動の推進 これらの基本方針に対して以下の9分野で70項目の具体的な目標設定を行っています。 ・栄養・食生活 ・身体活動・運動 ・休養・こころの健康づくり ・たばこ ・アルコール ・歯の健康 ・糖尿病 ・循環器病(脳卒中を含む) ・がん 具体的な目標設定としては、例えば、「栄養・食生活」分野では「野菜の1日当たり平均摂取量350g以上」、「身体活動・運動」分野では「日常生活における歩数(男性)9,200歩以上」といったものがあります。 糖尿病の患者数を増やさないためのWHOの動き 1948年に始まった世界保健機関(WHO)による世界保健総会では、1950年から毎年4月7日を「世界保健デー」として定めており、2016年には世界保健デーのテーマに糖尿病が選ばれています。 これに際し、国際糖尿病連合(IDF)理事長のショウカト セイデコット氏は「糖尿病がもたらす問題が世界でより深刻になっている」と述べ、糖尿病のスクリーニング検査の必要性を強く訴えています。 まとめ/患者数の推移と患者を増やさないために 糖尿病患者数の推移や日本国内外の地域による糖尿病発症率の特徴や対策について見てきました。国や地域によって、食生活の欧米化や検診率に差があり、それによって糖尿病の患者数も変わる傾向があります。 糖尿病は早い段階で発見し、治療に取り組むことができれば健康な人と変わらない生活を送ることができる病気です。糖尿病の患者数の多い地域に住んでいたとしても、早い段階で食習慣を改善し、積極的に検診を受けることを心がければ、糖尿病を予防し、進行を遅らせることにつながります。 No.S038 監修:医師 加藤 秀一 ▼糖尿病|最新の幹細胞治療は以下をご覧下さい 再生医療は、糖尿病の新たな治療法として注目されています
2022.02.11 -
- ひざ
- スポーツ医療
膝の痛みを引き起こすスポーツ上の慢性障害について 走ったり、ジャンプをするなどのスポーツ、運動をすると、膝に力が加わり続け、靭帯や腱の組織が損傷したり炎症を起こして、膝に痛みなどの障害を引き起こす場合があります。 これは、いわゆるスポーツ障害の一種で「膝の慢性障害」です。これは、運動による膝の使い過ぎが原因であり、スポーツによる「使い過ぎ症候群」とも言われています。そこで今回は、膝の使い過ぎにより発症するスポーツ障害のうち「膝の慢性障害」とその症状について、詳しく解説します。 膝の使いすぎによるスポーツ障害、「膝の慢性障害を起こす3大要因」とは ① 身体要因 1つ目は、筋力不足や筋肉のアンバランス、体の柔軟性の不足など、体自体の発達具合に起因する身体要因です。 ② 環境要因 2つ目は、合わない靴を履いている、地面が固すぎたり柔らかすぎたりして膝に負担がかかるなどの環境要因です。 ③ トレーニング要因 3つ目は、過度な運動量、技量や体力に合わない運動をするなど、自分に合わないトレーニングやスポーツを行うことに起因するトレーニング要因です。 これらの要因が発生している状況で、膝の靭帯や腱に骨が付着する部分や、靭帯が骨の上を通る部分に繰り返し負荷がかかり続けると、付着部分や重なっている部分に摩擦が起き、損傷や炎症が生じて痛みを感じるようになります。 軽度な症状であれば、運動中や運動後に痛みを感じることもありますが、トレーニングやプレーは通常通りできるため、大きな影響はありません。しかし、進行すると運動中に常に痛むようになり、支障をきたすようになります。 さらに重症化してくると、運動が出来なくなったり、靭帯や腱の断裂を引き起こし、日常生活に支障が出るなど、スポーツによる膝の慢性障害を発症してしまいます。 スポーツ障害|膝への代表的な症状で4つの慢性障害とは 前述した要因により引き起こされる、スポーツによる膝の慢性障害の代表的な症状としては、以下の4つが挙げられます。 ①鵞足炎 ②大腿四頭筋腱付着部炎 ③膝蓋腱炎 ④腸脛靭帯炎 これら4つの症状は、ひざ関節の外側や内部で生じるものですが、特定の動きにより発症しやすくなります。 ①鵞足炎の「鵞足」とは、ひざを曲げる筋肉や腱が付着する骨の部位をさしますが、ラ ンニング動作などの、足を後ろに蹴り出す動作を繰り返したり、急に方向転換をする動きを繰り返すことで、鵞足がすれて炎症し痛みが出るようになります。 ②大腿四頭筋腱付着部炎は、膝の関節の外側が炎症することで症状が出ますが、バレーボールやバスケットボールなどのジャンプ動作やサッカーボールを蹴る動作、ジョギングなどの走る動作を繰り返したことにより発症します。 ③膝蓋腱炎は、膝蓋骨という通称「膝の皿」と言われる部分の下部からすぐ下の靭帯にかけて痛みが出るもので、バレーボールやバスケットボールなどのジャンプ動作を繰り返すと発症しやすくなります。 ④腸脛靭帯炎は、膝の外側を通る腸脛靭帯が、長距離ランニングなど、長時間の膝の屈伸運動により、炎症を起こして発症します。 以上のように、ジャンプをしたり、足を蹴り出したり、長時間動かし続けることで、各動作で使われる膝の周りの靭帯や腱と骨の付着部分に摩擦が生じて炎症を起こし、痛みが生じるようになります。 スポーツによる膝の慢性障害への対処法 スポーツによる膝の痛みなどの慢性障害の対処法としては、まず症状が出るのを予防すること、そして、発症してしまった症状を改善することが重要となってきます。そして、予防をするためには自己対処がとても大切です。 ストレッチを行う 体の柔軟性を高めるために、運動開始前に十分にストレッチを行ってください。ストレッチを行うことにより、運動前に体の筋を十分伸縮させ筋肉の緊張をほぐすことで、運動による膝への衝撃を和らげることができます。 アイシングを行う 運動後に、急性炎症を抑えるために、氷や水などで膝を局所的に冷やすアイシングを15分程度行うのも効果的です。 その他 もしスポーツによる膝の慢性障害を発症してしまったら、無理をしないように休憩を適度にとったり、トレーニングメニューを強度の低いものに変更するなど、まずはご自身で調整しましょう。 症状が重い場合は、リハビリテーションを含む専門知識や技術が必要となる場合があります。 また、痛みに対して鎮痛剤を投与したり、装具療法や、時に手術が必要になるなど、各個人で症状や対処法は異なりますので、お近くの整形外科での診察を受け、個々の症状に応じた診断と適切な治療やアドバイスを受けるようにしてください。 まとめ/膝の痛みを引き起こすスポーツ上の慢性障害について 健康を意識する方が増え、運動を継続的に行ったり、趣味で競技スポーツを行う方が年々増加傾向にあります。 適度な運動を体に無理がかからない範囲で行うのは良いですが、過度な運動をしたり、合わない靴を履いての運動などをすることで、気づかないうちに膝に負担をかけ続けていると、スポーツによる膝の慢性障害を発症する確率が高くなります。 また、我慢できる程度の痛みだからと、準備運動のためのストレッチや運動後のケアを怠ったり、トレーニングメニューの調整をしないと、症状が悪化し日常生活に支障が出る場合があります。 スポーツによる膝の慢性障害は症状が進行すると、自然治癒することが難しく手術が必要になることもありますので、無理な運動をせず、日頃のコンディショニングをしっかりと行いつつ、トレーニングをするようにしてください。 以上、膝の痛みを引き起こすスポーツ上の慢性障害について解説させていただきました。参考になれば幸いです。 No.S037 監修:医師 加藤 秀一
2022.02.10 -
- 手
TFCC損傷は、どこに、どんな痛みが出るのか 「手首が痛い!」というとき、それは捻挫かもしれないし、腱鞘炎かもしれません。 転倒した際、手をついたり、その後に痛みが出れば「捻挫」かもしれない?と思うかもしれませんし、手首を酷使するような仕事やスポーツをした後なら「腱鞘炎」を疑うかもしれません。 しかし、実際に病院に行ってみたところ「TFCC損傷」だと診断されることがあります。ただ、多くの場合、TFCC損傷と言われても聞きなれない言葉で、どんな症状か不明なことが多いと思います。 そこで今回は「TFCC損傷について」どんな痛みが、どんな時に起こるのか解説してみたいと思います。また、併せてTFCC損傷の治療法についてもご紹介しましょう。 TFCC損傷は、「小指側の手首の付け根の部分」に痛みが出ます。ただし、安静にしているときは傷みません。 こんな動作をすると痛む ・手首の小指側を押したら痛い ・手首を外にひねると痛い ・手首をつくと痛い ・手首を小指側に曲げると痛い 日常生活の中で傷む場面 ・ドアノブやドアの鍵を回す ・タオルを絞る ・蛇口をひねる また、痛みを感じる場面としては調理時、フライパンや、水の入ったヤカンや鍋などの重みのあるモノを持つと痛みを感じます。スポーツではテニスのラケットを握ったときなどに痛みが出ます。 TFCC損傷の診断は難しい 実は、TFCCは骨の損傷ではないのでレントゲン写真では異常が見られず、捻挫として診断されてしまうことが多くあります。しかし、上記で紹介したような動作をしたときに痛みが出たり、痛みが長引いたりするようであれば、TFCC損傷の可能性があります。 そんな意味でも上で示したような痛みの部位と、痛みが出る動作を覚えておき、専門の医療機関を受診すると共に、その旨を伝えて正しい診断を得るようにしてください。 尚、TFCC損傷の診断は、触診、MIR検査や関節造影などを用いて行われます。 TFCC損傷の治療法 TFCC損傷の治療法は、安静を保つ保存療法が一般的で、保存療法では改善が見られない場合は手術を選択することもあります。しかし、TFCC損傷は完治が難しいです。 そこで紹介したいのが、体の自然治癒力を生かして完治を目指す「再生医療」という治療法です。 TFCC損傷の治療に効果的な再生医療「PRP療法」とは? 血液の中には多くの成長因子をもつ血小板が存在し、血小板は、損傷を受けた部位を修復する機能を持っています。 患者さん自身の血液から血小板を取り出し濃縮し、濃縮されることによって修復能力が増幅した血小板を損傷個所に注入し、修復するのがPRP療法です。 プロ野球選手の肘の治療にも使われるなど、スポーツ医療の分野で注目を集め、話題になっています。「慢性化した痛みがある」「早くスポーツに復帰したい」「薬剤アレルギーがある」などに当てはまる方にはおすすめの治療法です。 まとめ/TFCC損傷は、どこに、どんな痛みが出るのか TFCC損傷は、安静時に痛みは出ず、手首の小指側にひねると痛みが出ることが特徴です。 痛みは、大きなストレスになりますし、日常生活や仕事に影響が出ることもあります。早く治すためにも自分に合った最善の治療法を選ぶことが必要です。近年、話題になっている再生医療による治療も、選択肢の1つとして検討してみてはいかがでしょうか。 以上、TFCC損傷は、どこに、どんな痛みが出るのかについて記させて頂きました。参考にしていただけるなら幸いです。 No.S036 監修:医師 加藤 秀一 ▼ PRP治療法・再生医療に関する詳細は以下をご覧下さい TFCC損傷へのPRP(再生医療)治療に関してご説明しています
2022.02.08 -
- 変形性膝関節症
- ひざ
変形性膝関節症と運動・スポーツの関係性について 変形性膝関節症は、重症化すると歩行などの動作に支障をきたす厄介な病気です。そして、この病気になる原因の1つとして運動が挙げられます。今回は運動と変形性膝関節症の関係についてまとめました。 膝関節は、私達の日常動作をスムーズにしてくれています。例えば、歩くのはもちろんですし、立ったり座ったり、飛び上がったり踏ん張ったり…これらの動作をするのにも欠かすことができない部分です。 このように膝関節が稼働することで日常生活以外でもスポーツなどではランニングやマラソンといった走る競技はもとより、水泳、野球、バスケットボール、ラクビー、スキー、テニス、ゴルフと数え上げればきりがないほど膝の動きは大切です。 これら膝のスムーズな曲げ伸ばしや、稼働に重要なのが膝の軟骨です。しかし、この膝関節の軟骨は、年齢を重ねるごとに、どんどんすり減ってしまいます。 特に、若い頃、膝に強い負荷がかかるようなスポーツをしていた人、競技スポーツなど日頃から激しい運動をしていたり、肥満体型など常に膝に負荷をかけ続けている人の場合は、膝への負担が大きくなるので「変形性膝関節症」を発症しやすくなります。 このように、運動やスポーツを頑張りすぎた場合、「膝の軟骨がすり減って変形性膝関節症になる」と聞いたりすると「だったら運動はやめておこう」という極端な人も出てくるかもしれません。 ですが健康な体や、正常な関節を維持するためにはある程度の運動は必要で精神的にも体を動かすことは大切です。気を付けたいのは痛みを感じた時の対処法です。例えば変形性膝関節症は急に症状が進行したり、急に痛くて歩けなくなることは無いからです。 この病気の場合は、段階を経て重症化していくため、痛みが出た時に適切な対処法を心がけることが必要です。 普段から運動している人の場合 普段から運動する習慣がある人は、多少の痛みを感じても無視してしまいがちな傾向があります。そのため、炎症に気が付かず運動を続けてしまい、症状が悪化する可能性が高いです。 痛みが一晩休めば治まる程度であれば、さほど問題はありませんが、翌日まで続くようであれば、一旦運動をお休みし、安静にしましょう。 休む期間は3日から1週間。休んでいる間に痛みが治まったら運動を再開しても良いですが、以前と同じレベルの運動をいきなり再開するのではなく、痛む前の半分程度の運動から始めると良いでしょう。 休んでも痛みが治まらない、運動を再開したら再度痛みが出たというような場合は、変形性膝関節症の症状が進行している可能性があります。早めに病院を受診してください。 普段ほとんど運動しない人の場合 普段ほとんど、或いは全く運動しない人は、急に長時間の運動をする時に注意が必要です。 例えば、登山やハイキングなどで長時間歩くというようなことをすると、急に膝関節に大きな負担がかかるため、軟骨がすり減り炎症が起きる、つまり変形性膝関節症を発症する可能性があります。 急な炎症が起きると、炎症による痛みや膝の腫れ、水がたまるなどの症状が出ることもあります。 もし、運動の最中に痛みを感じたら、それ以上の運動は控えてください。そして安静にしましょう。痛みが長く続くようであれば、早めに医師の診察を受けてくださいね。 運動が変形性膝関節症を予防することはできる? 運動することによって、変形性膝関節症を発症しやすくなるという場合もありますが、適度な運動を無理なく行うことは変形性膝関節症を予防する効果もありますし、健康そのもの維持に役立ちます。 具体的に、「変形性膝関節症を防ぐには、脚に筋力をつけることがポイント」です。筋肉が鍛えられると膝の関節が安定するので、自然と軟骨のすり減りも抑えられるのです。 運動は毎日無理なく続けましょう 運動は無理のない範囲で、そして出来れば毎日行うことが望ましいです。 ウォーキングや軽めのジョギング、水泳なども良いでしょう。運動するのは苦手、外を出歩くのはあまり好きではないという方は、ラジオ体操やスクワット、テレビで放送されるテレビ体操などにチャレンジしてみるのも良いでしょう。 ただし、無理は禁物!運動中に膝が痛み出した場合は、運動を中断し、安静にするよう心掛けてください。 まとめ 変形性膝関節症の発症には、運動が関係します。しかし、運動をすることは健康維持のために必要不可欠ですし、「変形性膝関節症の予防」にも繋がります。 運動やスポーツが変形性膝関節症の原因や軟骨のすり減りの原因とはいうものの病気を注意するために運動やスポーツをしないのは本末転倒。運動は無理のない範囲で行うことが必要です。 ただ痛みに注意して、無理のない範囲で行うようにしてください。 ▼ 再生医療が変形性膝関節症の治療を変える 変形性膝関節症の新たな選択肢、再生医療の幹細胞治療で手術せずに症状を改善します No.S035 監修:医師 加藤 秀一
2022.02.08 -
- 糖尿病
糖尿病の治療で運動をしてはダメな人、ダメではないが制限が付く人とは 糖尿病と診断されてしまったらどうしますか?当然、治したい、その治療に取り組みたいと思って当然です。 糖尿病の治療は「食事療法」と「運動療法」という二つの治療方法があり、どちらにも取り組むべきで、どちらかに偏らないことが大切になります。治療には、どちらも必要ということです。 食事療法は、カロリーを制限する治療法であり、運動療法は、その名の通り、運動を行う治療法です。実は、この運動療法について糖尿病の治療であっても運動をしてはいけないケースがある!のです。 糖尿病の人にこんな話をすると「自分は運動しても良いのだろうか」と不安になるものです。そこで「糖尿病で運動療法を行ってはいけない人とは、どんな人か」、その中でも「制限付きなら可能とはどんな人か」について解説しましょう。 糖尿病の運動療法|やってはいけない人 糖尿病治療の基本は先にも記しましたが「食事療法」と「運動療法」です。 しかし、運動の種類や強度によっては「血圧を上げるなどのリスクがある」ものがあります。運動療法を始める前に、自分自身が運動療法を禁忌(やってはいけない)とされているかどうかを主治医に確認する必要があります。 以下に当てはまる場合は、運動療法が難しいことがあります。 ・増殖網膜症・増殖前網膜症を発症している人 ・レーザー光凝固後3〜6カ月以内の網膜症を発症している人 ・第3B期(顕性腎症後期)以降の腎症(血清クレアチニン:男性2.5mg/dl以上、女性2.0mg/dl以上)の人 ・心筋梗塞など重篤な心血管系障害がある人 ・高度の糖尿病自律神経障害がある人 ・1型糖尿病でケトーシスがある人 ・代謝コントロールが極端に悪い人(空腹時血糖値≧250mg/dlまたは尿ケトン体中等度以上陽性) ・急性感染症を発症している人 ※禁忌とは:悪化したり、副作用の危険性があるため、してはいけない、すべきではないこと。 糖尿病の運動療法|ダメではないが制限がつく人 運動することを禁忌とはされていないものの、制限や注意をすれば運動療法として取り組んで良いという一部制限付きの糖尿病患者もおられます。いずれの療法も医師と相談し、その指導のもと運動をうまく取り入れることができれば糖尿病治療に効果的です。 では、どのような人が対象になるのか見ていきましょう。 インスリン治療中の人 何度も申し上げますが糖尿病の治療は「食事療法と運動療法」の両輪が基本です。それでも改善しない場合は「薬物治療」に進むことになります。糖尿病の薬物療法として、体の外からインスリンを補う「インスリン治療」というものがあります。 インスリンによる薬物治療を受けている場合、血糖値が低い、寝起きや食前に運動をすると、空腹時ということで低血糖を引き起こす可能性があります。その意味で運動は、血糖値が高くなる食後に行うのが理想です。 いずれにしても薬物治療中の運動は、主治医等に適切な指示を受けるようしてください。 薬物治療中の運動は慎重に行う必要があります 運動は、空腹時にご注意ください。血糖値が低い寝起きや、食事前の運動は低血糖を起こしやすいため、血糖値が高くなる食後に行うようにしましょう。 単純網膜症の人 糖尿病の合併症の1つで恐れられている症状に「糖尿病網膜症」があります。糖尿病網膜症は病気の進行度によって単純糖尿病網膜症・増殖前網膜症・増殖網膜症に分かれます。 糖尿病網膜症は血圧の変動によって出血する可能性があります。また低血糖になることで眼底出血が引き起こされることもわかっているため注意が必要です。軽度の場合は運動療法を取り入れても差し支えありませんが、状況によっては運動が制限されたり、禁止されることがあります。 単純糖尿病網膜症とは糖尿病網膜症の初期段階です。後述する増殖前網膜症と増殖網膜症と混同しないようにしましょう。 増殖前網膜症・増殖網膜症を患っている人 増殖前網膜症の場合は血圧におよぼす影響の少ない軽度の運動にとどめます。頭を強く振る、頭を下げる、力むといったことは血圧を上げ、頭部への血流を増やすため、眼底出血などを起こす可能性があります。 増殖網膜症になると、運動だけでなく、日常生活でも力んだり、息をこらえたり、重量物を持ち上げるといったことは避ける必要があります。 糖尿病神経障害の人 糖尿病神経障害では、「感覚神経障害」と「自律神経障害」を招くことがあります。感覚神経障害の場合、足に負担をかけにくい「自転車エルゴメーター」や「水泳」などの運動が望ましいとされています。 自律神経障害の場合は、日常生活以外で運動を行うことは禁忌となっています。 重篤な心血管障害や肺の病気を患っている人 心血管疾患がある方やそのリスクのある方が運動療法を行う際は負荷心電図などの評価が必要です。負荷心電図は運動負荷心電図ともいい、運動中の心電図を観察するものです。 どのくらいの運動なら問題がないのか?あらかじめチェックすることができます。 腎症を患っている人 「糖尿病性腎症」は病期によって5段階にわかれます。従来は糖尿病性腎症の患者の方に対して運動を制限する傾向がありました。しかし、適度な運動は持久力などの運動耐容能を向上させ、脂質代謝などを改善させることから、現在は病期に応じた運動を行うことを推奨しています。 第3期B(顕性腎症後期)まで進行した場合は運動療法を制限する必要があります。 ケトーシス状態の人 空腹時血糖値が250mg/dl以上(高血糖)、ケトーシス状態の場合は運動することは制限されます。ケトーシスとは血中のケトン体が増加し、尿中のケトン体が中等度以上のことをいいます。 この状態で運動すると糖代謝が悪化するため、食事療法と薬物療法で血糖値をコントロールしたうえで運動を行います。 運動の開始前には、医師によるメディカルチェックが必要 ここまで説明したように、糖尿病患者の方が運動療法を行う際、やり方を間違えると事故や症状を悪化させることがあります。そのため運動療法を始める前には医師によるメディカルチェックを受けることが大切です。 糖尿病患者の方が運動療法を行う際に実施するメディカルチェックの基本項目 ・問診:自覚症状がないか・糖尿病以外で治療中の病気や服薬中の薬・家族の既往歴・現在の生活状態や運動習慣 ・血液検査:空腹時血糖・HbA1c ・診察:内科診察・血圧・脈拍数・身体計測(身長、体重、腹囲)・肥満度 ・尿検査:蛋白・ケトン体 ・心電図:安静時心電図 運動療法を開始後も、少なくとも年に一回は医師によるメディカルチェックを受けましょう。 まとめ/糖尿病の治療で運動をしてはダメな人、ダメではないが制限が付く人とは 今回は、糖尿病で運動療法を行ってはいけないケースと制限付きであれば運動を行っても良いケースについて説明しました。また、運動療法の実施にあたってはメディアカルチェックが大切であることもご説明しました。 尚、禁忌とは、単なる禁止という意味ではなく、それを行うことで悪化させたり、副作用などのリスクがあるという意味で用いられています。糖尿病の治療は自己判断で行うのではなく医療機関の指導を受けて適切に行うようにしましょう。 今回は、糖尿病の治療で運動療法が禁忌とされる患者さんや、運動制限が必要な患者さんについてご説明しました。 糖尿病は、治らない病気と言われています。しかし、近年「再生医療」という新しい医療分野が発達してきたことにより、かなり症状の改善が図られたり、恐ろしい合併症を避けられるようになってきました。 糖尿病の再生医療に興味がある方は以下を参考にしてください。 ▼糖尿病の最新治療法である幹細胞治療は以下をご参照下さい 再生医療は、糖尿病の新たな治療法として垣生方面から多大な注目を浴びています No.S034 監修:医師 加藤 秀一
2022.02.07 -
- 変形性膝関節症
- ひざ
変形性膝関節症|なぜ痛みが取れない、治らない 1日の内に何度も曲げ伸ばしされるのが膝の関節で、立つ・座る・歩行動作など、あらゆる場面で膝に負担がかかります。そんな負担から膝を守っているのが関節軟骨です。 関節軟骨は膝のクッション機能のほか、関節をスムーズに動かせる役割を果たしています。しかし、加齢ともに関節軟骨が徐々にすり減ると、膝に痛みを感じたり、変形が出現したりする変形性膝関節症を発症します。 変形性膝関節症と診断されると、膝を守るためのベースとなる治療法である「保存療法」に取り組みます。しかし、いくら膝関節にかかる負担を減らし、治療として運動療法に取り組んだとしても、「なかなか膝の痛みが取れない、治らない」ことがあります。 なぜ熱心に膝の治療に取り組んでいるのに、痛みは改善されないのでしょうか。この記事では、「変形性膝関節症の治療に取り組んでいるのに、膝の痛みが取れない、治らない」について、その理由と痛みを改善する方法についてご紹介します。 痛みが取れない、治らない理由とは 変形性膝関節症の治療に取り組んでも痛みが取れない原因は、「関節内で炎症が起きている」「関節が安定していない」「関節へ負荷がかかっている」といった3つ原因の内でどれか、または複合している可能性が考えられます。 炎症を起こしている(膝に水が溜る) 膝の曲げ伸ばしなどで関節に負担がかかると、すり減った関節軟骨のかけらが滑膜を刺激します。刺激された滑膜が炎症を起こし、膝の痛みとして認識されます。 炎症が起きた際には、「膝に熱感を感じる」ほか、白血球を含んだ大量の関節液が軟骨のかけらを除去しようと排出されます。大量に排出された関節液が膝にたまると、いわゆる「膝に水がたまった状態」となります。 炎症を起こしているときは、冷やしたり、薬で炎症や痛みを抑制したりします。また、炎症が起きているにも関わらず運動を続けると悪化するため、無理をせず休むようにします。 治療でも過度な筋トレは逆効果 誰でも早く痛みから逃れたいものです。しかし運動療法とは言え、トレーニングに慣れてないうちから、過度に強度が強く、時間が長い筋力トレーニングを行うと、治療であっても膝に痛みを感じやすくなり、かえって逆効果です。 関節が安定していない 筋力トレーニングを始めたけど、痛みが取れない場合、トレーニングを始めて間もないことが考えられます。トレーニング開始後、個人差はあるものの効果が現れるまで1〜2ヶ月かかると言われています。 そのため、運動を始めてまだ間もない頃は効果を感じにくいため、まずは1〜2ヶ月継続して運動に取り組むようにしましょう。継続した運動に取り組んでも効果がみられなければ、運動の負荷が弱すぎる、軽すぎる可能性があり、十分な効果が発揮されません。 そんな時は、3ヶ月目にトレーニング種目や強度の見直しをお勧めします。くれぐれも過度な筋トレにならないよう、痛みのない範囲で取り組めるメニューを組みます。 運動種目や強度の見直し例 ・室内でできる簡単な運動から屋外での運動に切り替える ・水中での歩行から地上での歩行に切り替える ・歩行距離を伸ばす 関節に負荷がかかっている 関節の負担となる習慣の存在が考えられます。変形性膝関節症の治療では、運動療法と並行して生活習慣を見直し、関節にかかる負荷を下げることが大切です。運動療法のように時間を必要とせず、工夫次第で誰でも簡単に膝への負荷を減らせます。 膝の関節には、立っているだけでも体重を支えるほか、歩いているだけでも体重の最大8倍は負荷がかかると言われています。そのため、日常生活で関節の負荷となる習慣の改善はとても大切です。 これまで、生活スタイルの改善に取り組まれた方でも、もう一度、膝に負担を減らすため、生活習慣を見直してみましょう。 関節への負荷を下げる生活習慣の見直し例 ・膝を深く曲げる動作を止める ・よく使う調味料などを低い位置に収納しない ・玄関、階段、お風呂に手すりをつける ・地べたでの生活から椅子とテーブルを用いた洋式へ変える ・膝の調子が悪ければ迷わずエレベーターを使う ・バランスよく歩くために杖を使う いつまでも痛みが取れない、治らないときは 生活スタイルを変え運動療法を継続的に取り組んでも痛みが取れない、治らないとき、変形性膝関節症はかなり進行していることが予想されます。変形性膝関節症が進行し、膝が痛く普段の生活を送るのが困難だと感じる、もしくは医師から判断されれば観血療法(手術)が勧められます。 ただ、手術の中にはリハビリが必要で、退院まで長くて1ヶ月ほどかかるなど、簡単に決断できるものではないはずです。 そうした手術をしたくない・できない場合には、痛みと付き合いながら、騙しだまし日常を送ることになり、最終的には寝たきりになってしまう方も現実としていらっしゃいます。 しかし近年、大きな手術や入院を必要とせず、保存療法と観血療法の中間の治療法として「再生医療」という最新の医療が注目されています。 再生医療では、変形性膝関節症の発症の原因となるすり減った膝の軟骨の再生が期待できるほか、変形性膝関節症の初期から取り入れることで進行を予防できます。 ▼ 再生医療の幹細胞治療が変形性膝関節症の治療を変える! 変形性膝関節症の新たな選択肢、再生医療の幹細胞治療で手術せずに症状を改善できます まとめ・変形性膝関節症|なぜ痛みが取れない、治らない 変形性膝関節症の治療の基本は、関節への負荷を下げ、安定させることです。いつまでも痛みが取れない、治らない場合には、自分の膝の状態を見極めることがポイントです。 炎症が起きているのか・関節への負荷がかかっているのか・運動してまだ間もないのか判断し、状況に見合った対処をしましょう。保存療法で痛みが取れなければ、手術が選択肢に入ります。手術といっても体への負担が少ないものから大きなものまでさまざまです。 膝の進行度合いによって、手術の選択肢も狭まることから、定期的に病院を受診し、自分の膝の状態をよく知っておきましょう。 また手術はしたくない、できない場合には、再生医療の存在を覚えておくと、治療の選択肢を広げ、多角的な視点で治療に取り組めることでしょう。 以上、変形性膝関節症、なぜ痛みが取れない、治らないについて記させて頂きました。 No.042 監修:医師 坂本貞範
2022.02.07 -
- 糖尿病
糖尿病は治らない?!症状と理由を知って予防を心がける 糖尿病に関して「糖尿病は治らない病気」、「糖尿病は一生付き合っていかなばならない病気」などと言われることを聞かれたことはありませんか?本当にそうなら治療を続ける気力もなくなります。 確かに糖尿病は完治しない病気です。 だとしても治療によっては、健康な人と変わらない状態を保つことは可能なのです。そこで、以下に糖尿病はなぜ治らないといわれるのかについて説明し、糖尿病と診断されたときの治療法や糖尿病を発症しないための予防法をご紹介いたします。 糖尿病が一生治らないといわれる理由 日本では糖尿病患者のほとんどが生活習慣病の一つである「2型糖尿病」患者といわれています。 2型糖尿病は、体質などの「遺伝的要素」と「生活習慣」が組み合わさることで発症します。治療によって血糖値が正常値に戻ったとしても、血糖値の上がりやすい体質(遺伝的要素)や年齢は変わりません。 そのため、生活習慣を変えない限り、治療を中止すればすぐに治療前の状態に戻ってしまいます。つまり、糖尿病には「治る」「治らない」という概念自体がないのです。 もちろん、血糖値のコントロールを行うことで健康な人と変わらない状態に保つことは可能です。そういう意味で、糖尿病治療は「血糖値をコントロールし、健康な状態を保つためのもの」と前向きに考えることが大切です。 また、糖尿病は、発症原因によって「1型糖尿病」と「2型糖尿病」に大別され、治療法も異なります。それぞれどういう特徴があるのか以下で見ていきます。 2型糖尿病 日本の糖尿病患者の約9割は、2型糖尿病といわれています。2型糖尿病は体質などの遺伝的要素と乱れた食習慣などの生活習慣が組み合わさることで発症する病気です。 食事を摂ると、すい臓からインスリンが分泌され、血糖値を下げます。2型糖尿病は、過食や運動不足によってインスリンの分泌量が低下したりインスリンが効きにくくなり、高血糖状態が続くことで発症します。 初期の段階で乱れた生活習慣を改善できれば、血糖値を健康な人と同じ状態に戻すことは十分可能です。しかし、糖尿病が進行してしまうと健康な状態に戻すことは困難になります。そのため、初期段階で治療に取り組むことが大切になります。 1型糖尿病 1型糖尿病は何らかの原因ですい臓にあるβ細胞が破壊されて発症する病気です。インスリンはβ細胞から分泌されるため、1型糖尿病はほとんどインスリンを分泌できなくなります。 β細胞が破壊される原因は正確にはわかっていませんが、原因の1つに免疫異常(自己免疫)があると考えられています。1型糖尿病は現代医学では「治らない」といわれている病気です。発症すると一生付き合っていかなければなりません。 一方、1型糖尿病の治療方法は日夜進んでいます。最近では「再生医療」や「すい島(ランゲルハンス島)移植」などの研究も行われています。将来的には「1型糖尿病は治る病気」となる可能性もゼロではありません。 糖尿病の症状 糖尿病は、大きく分けて2つの種類があって、「完治しない」「治らない」病気といわれる理由についてもご説明しました。では、糖尿病になると、どのような症状が現れるのでしょうか。以下にまとめました。 2型糖尿病の症状 2型糖尿病は、初期の段階では「自覚症状がほとんどありません」。ただし、進行すると以下のような症状がゆっくりと現れます。 ・疲労感 ・皮膚の乾燥、かゆみ ・手足の感覚低下 ・感染症 ・頻尿 ・目のかすみ ・性機能の低下 ・傷が治りにくい ・空腹感やのどの渇き 1型糖尿病の症状 1型糖尿病と2型糖尿病の大きな違いは発症原因や、症状の現れ方です。いずれの糖尿病の場合も高血糖による症状が現れますが、1型糖尿病は「突然」次のような症状が現れるという特徴があります。 ・強いのどの渇き ・頻尿 ・急な体重減少 ・重度の疲労感 糖尿病の予防方法 2型糖尿病は遺伝的要素と生活習慣が組み合わさることで発症します。そのため、食事療法と運動療法で生活習慣の改善に努めることが糖尿病の予防法であり、病気の進行を食い止めることにもつながります。糖尿病の予防や治療の基本は「食事療法」と「運動療法」です。 食事療法 糖尿病の食事療法では以下のポイントを押さえて行うことが大切です。 ・摂取カロリーを抑える ・栄養バランスの良い食事を取る ・一日3食をしっかり食べる 身体活動量の目安は以下になります。 ・軽労作(デスクワークが多い職業など) 25~30 kcal/kg標準体重 ・普通の労作(立ち仕事が多い職業など) 30~35 kcal/kg標準体重 ・重い労作(力仕事が多い職業など) 35~ kcal/kg標準体重 カロリー計算 *1身体活動量(kcal) *2標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22 食品交換表 1日の摂取カロリー(エネルギー摂取量)は以下の計算式が目安となります。 エネルギー摂取量(kcal)=身体活動量 (*1) ×標準体重(*2) 食品交換表というものをご存知でしょうか?上記でカロリー計算の結果、適切な摂取カロリーがわかっても、どのような食品を、どれだけ食べれば良いのか分からないと思います。そんな場合は「糖尿病食事療法のための食品交換表」を利用していただく方法があります。 糖尿病治療の考え方や食事療法の基本的な考え方が分かりやすく解説されています。また昨今、ネット上にはカロリー計算できるアプリを紹介しているサイトもありますので使いやすいものを選ばれても良いでしょう。 運動療法 糖尿病の予防に効果的な「運動療法」なのですが、実は運動を積極的に行うと食欲が増すため、かえって糖尿病を招いたり、症状が悪化することもありえるので注意が必要です。そのため、糖尿病の予防や治療は「食事療法」と合わせて「運動療法」をセットすることが大切です。 運動療法を行う際は以下の点に注意して行いましょう。 ・軽い有酸素運動から始める ・継続して運動を続けることが重要 ・週3日は運動の時間を確保 NEAT(非運動性熱産生) すでに糖尿病の症状がある方や持病がある方など、運動に制限がある人もいます。運動療法を取り入れる際は医師に相談してから行うようにしましょう。また、日頃、まとまった時間が取れずに運動ができないという人もいるでしょう。 このような場合、NEAT(非運動性熱産生)を高めることを心がけると良いでしょう。NEATとは、「運動以外の日常生活活動で消費されるエネルギー」を意味し、掃除や洗濯、通勤や階段の昇り降りなどで消費するエネルギーのことを指します。 NEATを高めるためには以下のようなことを日常生活に意識して取り入れると良いでしょう。 ・エレベーターではなく階段を利用する ・通勤時に一駅前で降りて歩く ・歩幅を大きくする ・その他、身体を動かすことを心がけよう まとめ/糖尿病は治らない?!症状と理由を知って予防を心がける ここでは、糖尿病が治らないといわれる理由について説明しました。 「糖尿病は治らない」と考えてしまうと治療に積極的に取り組めません。糖尿病の治療は「血糖値をコントロールすることで健康な状態を保つためのもの」と考え、前向きに治療に取り組むことが大切です。 上記に記したような症状や異変を感じたら、積極的に医療機関を受診するように致しましょう。糖尿病の予防や治療の基本は「食事療法」と「運動療法」が基本です。食事療法は、カロリーを計算して食べるものに気を付けましょう。 また運動療法は、やりぎるとかえって食欲が増してしまい食事療法がう無くいかない可能性があります。食事と運動のどちらにも偏ることのないよう取り組むことが大切です。 以上、糖尿病は治らない怖い病気だということを知って、ぜひとも普段の生活から予防(食事・運動)を心がけて健康な生活を送りましょう。 ▼糖尿病でお困りに再生医療の幹細胞治療という方法があります 再生医療は、糖尿病の新たな治療法として注目を浴びています No.S033 監修:医師 加藤 秀一
2022.02.07 -
- 変形性膝関節症
- ひざ
変形性膝関節症の手術で高齢者が受けるリスク 中年以降の女性に多く発生するのが変形性膝関節症で、初期の頃には軽い痛みや違和感だったものが徐々に進行していく病気です。その治療は保存療法をベースに、生活スタイルの改善や運動療法に取り組み、必要に応じて装具療法という手段があります。 保存療法でも効果がみられない場合には、観血療法(手術)が選択肢に入ります。しかし、いざ手術を受けようとした時には、患者様自身が高齢になられているケースがあります。 そんなとき、「退院までどれくらいかかるのだろうか?」「リハビリは頑張れるのだろうか?」と、本人もしくは家族が不安に思われる場合があります。この記事では、高齢者が変形性膝関節症の手術を受けるリスクをわかりやすく解説していきます。 高齢者に適応される手術とは 変形性膝関節症の手術には、関節鏡視下手術・高位脛骨骨切り術・人工関節置換術の3種類あり、どの手法が適応されるかは進行の程度に沿って決まります。主に初期には関節鏡視下手術・中期には高位脛骨骨切り術・末期には人工関節置換術が選択されます。 ただし、変形性膝関節症の手術をいざ受けようと決心したとしても、高齢者の場合は進行しているケースがほとんどです。そういったときには、人工関節置換術が適応されます。 人工関節置換術とは 人工関節置換術とは、傷んだ膝の関節を人工の関節に入れ替える手術です。金属やセラミックでできた人工関節にすることで、O脚など脚の変形が改善し、膝が安定します。 人工関節置換術を受けると、激しい痛みによりスッと立ち上がれない、スイスイ歩けないといったお悩みが解消されるなど、高い効果が期待できます。ただし、術後は正座ができなくなるほか、高齢者が不安に思われるリハビリを必要とします。 人工関節置換術のリスク 手術から退院まで日数がかかる 人工関節置換術をした場合、退院までの目安は1ヶ月です。また術後の痛みが消えるのに、数週間から数ヶ月かかるため、これまで通りの日常に戻るには2〜3ヶ月程度必要です。 リハビリに取り組む必要がある 人工関節置換術はリハビリが必要な手術です。術後2日目から、国家資格である理学療法士や作業療法士の支援のもとリハビリを開始します。日常生活に復帰できるように、筋力トレーニングや可動域訓練とともに、立ち座りや歩行も訓練します。 日常動作に制限がかかる 術後は人工関節の摩耗や破損、膝蓋骨の脱臼を避けるために、走る動作や膝に負担のかかる激しいスポーツができなくなります。また深く膝を曲げられないため、正座ができなくなるなど日常生活動作に制限がかかります。 深部静脈血栓 術後は長時間の安静から血流が滞って血栓ができる「深部静脈血栓」に注意が必要です。血栓は自然に消失することが多いのですが、まれに血栓が肺や脳に飛んでしまうと、肺塞栓による突然死や、脳塞栓による手足にしびれや動かしにくさが出現します。 血栓症を予防するには、弾性ストッキングを着用、さらに間欠的空気圧迫法にて、血液の流れを良くします。 肺にまつわる合併症 手術中は長時間もの間、寝た姿勢が続くため、肺に負担がかかります。肺がつぶれてしまう無気肺や、肺に水がたまる肺水腫のリスクがあります。また全身麻酔により、一時的に肺の機能が低下することで、痰の排出がうまくできず、痰が原因で肺炎を起こします。 術後は痛みや全身の倦怠感からうまく呼吸ができないことが多く、肺にまつわる合併症を防ぐためには、術前から深呼吸の練習や痰を出す練習をします。 また喫煙をすると、体内へ取り込む酸素の量が少なく、肺合併症のリスクを高めるほか、傷の治りにも影響を及ぼします。手術を検討されている喫煙者はなるべく早くから禁煙し、少しでも禁煙期間を長くします。最低でも手術が決まった時点で禁煙に取り組みましょう。 細菌感染 抗生物質を服用し、術後は傷口を清潔に保つよう予防はするものの、細菌感染が起こると再手術しなければなりません。また感染経路は傷口からだけとは限りません。 麻酔をかけるためのチューブを気管に挿入する際に、虫歯や歯槽膿漏、口内が汚染されていると、その細菌も一緒に気管に運んでしまう可能性があります。手術を受ける前には虫歯や歯槽膿漏の治療を行うことと、丁寧に歯磨きをしてから手術に臨みます。 人工関節のトラブル 術後は人工関節の破損に注意です。術後はなるべく早くからリハビリに取り組むと、膝の働きが良くなるため早期離床が大切です。しかし、いきなり強度な運動をしてしまうなど、無理がかかると、人工関節の緩み・破損・摩耗や脱臼の危険性があります。 術後、人工関節のトラブルを防ぐには、焦ってリハビリを進めないことと、膝に負担をかけない生活を送るなど工夫が必要です。 まとめ/変形性膝関節症の手術で高齢者が受けるリスク 変形性膝関節症の手術を受ける場合、高齢であるほど人工関節置換術が適応されます。 人工関節置換術を実施すると、痛みのない生活を送れることが期待できます。しかしリスクもありますので、手術を検討されている方は、術後にそんなはずではなかったと後悔しないように、手術のリスクについてもしっかり把握しておきましょう。 また加齢とともに、体力や筋力・術後のリハビリに取り組めるか不安がある方は、一度、担当医に相談してみることをおすすめします。以上、変形性膝関節症の手術で高齢者が受けるリスクについて記しました。参考にしていただければ幸いです。 No.041 監修:医師 坂本貞範 ▼ 再生医療の幹細胞治療が変形性膝関節症の治療を変える! 変形性膝関節症の新たな選択肢、再生医療の幹細胞治療で手術せずに症状を改善できます
2022.02.02 -
- 変形性股関節症
- 股関節
変形性股関節症を悪化させない日常の工夫 変形性股関節症は中高年以降の女性に多く発生する病気で、動き出しなど動作のはじめや、長時間の歩行後に痛みを感じます。悪化すると安静時にまで痛みを感じるようになるため、日常生活を送る上で大きな支障となります。 股関節が痛む原因は2つあり、関節軟骨の摩耗と関節唇の損傷です。股関節へかかる負荷が原因で、クッション材である関節軟骨がすり減り、そのかけらが滑膜を刺激することで痛みを感じます。 また、股関節の安定性を高める関節唇が傷むことでも、関節が不安定になり痛みにつながります。 そんな変形性股関節症への治療は、関節への負荷を減らしながら、同時に関節を安定させることが重要です。この記事では、変形性股関節症を悪化させない具体的な工夫や取り組みを紹介します。 生活スタイルを変え負担を避ける 日常生活を工夫することで股関節へかかる負荷を減らし、痛みを軽減します。日常生活で最も股関節に負荷がかかる姿勢は、関節が深く曲がるようなしゃがむ動作です。また低い位置から立ち上がる動作でも負荷がかかるため注意が必要です。 背筋を伸ばす 変形性股関節症の初期には、痛みをかばうことから骨盤が前傾し、不自然な姿勢を取りがちです。そうした姿勢が腰椎の前弯と胸椎の後弯を増強させ、股関節の可動域や筋力は低下します。そうして不安定になった関節に体重が加わると、関節軟骨への負荷が増し、痛みにつながります。 では骨盤を後傾させれば良いのか?というと、そうでもありません。猫背のように骨盤が後傾する姿勢では、その問題は背骨の湾曲だけでなく、股関節に不安定さをもたらし、それもまた痛みにつながります。(ヒップ−スパイン・シンドローム) 大切なのは、体操を通して常に股関節や骨盤の柔軟性を高め、できる限り背筋を伸ばしておくことです。 低い位置での生活をやめる 畳のような和式ならではの低い位置で過ごす生活では股関節に負荷がかかります。さらに立ち上がり動作でも股関節の負荷になることから、地べたでの生活から椅子を活用するなど、洋式の生活へと変えていく必要があります。 ほかには、トイレを洋式へ変えたり、布団からベッドに変更したりと低い位置での生活はなるべくやめていきましょう。また、キッチンで料理をする際、頻繁に使う物は高い位置に収納することで、頻繁にかがむ機会を減らします。 減量する 肥満であることは、股関節にかかる負荷も上がるため、変形性股関節症を進行させる要因の一つです。肥満傾向の方は体重を落とすことで、病気の悪化を防ぐことができます。 手すりの設置 段差の昇降は、股関節に負荷がかかるだけでなく、転倒するリスクが高まります。階段やお風呂場などには手すりをつけることで関節への負荷と転倒リスクを減らします。 積極的に運動療法に取り組む 運動療法では筋肉を鍛え、関節の安定性を高めます。また適度な運動が股関節の可動域を拡大させ、変形の進行を防ぎます。運動療法は、自分のペースで無理せず行います。痛みを我慢して運動を続けると痛みは悪化し、ついには運動に取り組めないことがあるため気をつけましょう。 ウォーキング 歩くことで股関節の筋力を向上させ、脚を動かすことで関節可動域が広げる効果があります。 健康を目的とした歩行では、早歩きが推奨されることが一般的ですが、変形性股関節症の場合は違います。歩行速度が上がるほど股関節へ衝撃が伝わりやすくなるほか、歩行フォームが乱れ、不安定な股関節にさらに負荷がかかります。ウォーキングを始める際は、自分のペースでゆっくり歩くことがポイントです。 また慣れないうちから長時間や長距離を歩くのはオススメできません。無理をした疲労から動けなくなると、継続的な運動ができないため、短い距離・時間でも毎日継続することが大切です。 プールでの運動 水の浮力を生かした運動で、地上での歩行より負荷の少なくトレーニングができます。体重から股関節へかかる負荷を軽減できるため、地上でのウォーキングでは痛みを感じる方でも、水中では痛みなく歩ける場合があります。 また、水の抵抗に負けないように歩く必要があるため、筋力強化が期待できます。普段から股関節に痛みを感じており、満足に運動療法に取り組めない方には最適です。さらに地上でのウォーキングと比べて転倒リスクがないこともポイントです。 室内での運動 1日の大半を家で過ごす方も多いのではないでしょうか。そうした場合、室内で手軽にできる体操やトレーニングがあります。股関節の可動域が制限される原因の一つが筋肉の緊張です。室内での運動を通して、筋肉の柔軟性を取り戻し、関節可動域を高めます。可動域が高まれば、運動にも効率よく取り組めます。 股関節に関する筋肉の体操 1椅子に座り骨盤に手をかけます。 2おへそを出すように、ゆっくり骨盤を前方へ倒す。 3おなかを引っ込めるように、ゆっくり骨盤を後方へ倒す。 ※2~3を繰り返しを1分間行います。 1仰向けで寝転び、両膝を立てます。 2両膝をそろえた状態で左右へ倒します。 ※左右各10回を、1日2セット行います。 股関節に関する筋肉のトレーニング 1仰向けに寝転び、膝を立てます。 2両膝にゴムを固定します。 3左右同時に外へ向けて、ゴムを引っ張ります。 4元の位置へ戻します。 中臀筋や大腿筋膜張筋のような股関節の外転筋のほか、梨状筋や大臀筋のような外旋筋を鍛えます。 変形性股関節症を悪化させない日常の工夫/まとめ 変形性股関節症と診断された方は、痛みが少ない頃から股関節への負荷を減らし、関節を安定させ進行を遅らせます。 もし変形性股関節症が進行した場合、痛みをかばって歩くことで対側の股関節にも痛みがでることがあります。そうなると、活動量は低下し、さらに状態が悪くなる悪循環になります。 変形性股関節症を進行させないためには、股関節へ負荷がかからないように、低い位置で過ごすことが多い和式から洋式へと生活スタイルを見直し、自分のペースで痛みのない運動療法に継続して取り組みましょう。 ▼ 再生医療で変形性股関節症を治療する方法 変形性股関節症は、再生医療により手術せずに症状を改善することができます No.040 監修:医師 坂本貞範
2022.01.22 -
- 手
ヘバーデン結節を発症した人が気を付けたいこと はじめに/ヘバーデン結節とは へバーデン結節は、手指部における第1関節に相当する箇所が変形して曲がってしまい痛みを感じる原因不詳の病気です。発症要因としては、関節にある軟骨がすり減り、骨が増殖する結果として痛みや変形を引き起こすと考えられています。 この疾患は、手における変形性関節症の部類で最も罹患数が多く、特に日本人に多い病気であると言われています。そのため、痛みといった症状で悩まれている方が多い病気です。 ちなみに「ヘバーデン」とは、もともと英国人医師の名前です。1802年にヘバーデン氏が手指の第一関節のうしろ側にいわゆる慢性的な関節リウマチや痛風とは異なる病変が生じると指摘したことに由来して名づけられました。 へバーデン結節は、関節組織の加齢による変化によって、色々な変形所見が認められ、第1関節のうしろ(手背)側の中央付近に2つのコブのような結節所見を認めるのが特徴的とされています。 今回は、そんな「へバーデン結節」を発症した人が、基本的に日常生活などにおいて「やってはいけないこと」、注意すべきことを中心に詳しく解説していきます。 ヘバーデン結節の発症リスクを上げる要因について 実は、このへバーデン結節という病について、これまでの医学的研究の数々をもってしても、未だ発症させる明確な原因は不明なのです。しかし、これまでに何点か判明している要因も幾つかあり、それをご説明いたしましょう。 一般的に年齢を重ねれば、重ねるほどへバーデン結節など変形性関節症の発生率は高くなると言われていますので、「加齢というキーワード」は。本疾患のリスクに該当するものの唯一の原因ではないと考えられています。 まず、普段から生活面や、仕事内容などにより、「手や手指を頻繁に使用」する人に本疾患が表れやすいという傾向があります。 発症リスクの背景として、普段の生活歴にも関係があり、外傷によるものを除外して「裁縫や刺しゅう、農業関係の手仕事に従事」していた方々に発症しやすいと同時に、患者さんの概ね「8割が主婦」であったとの調査結果があります。 また、へバーデン結節は、「更年期以降の女性に多く発生」し、特に「女性は男性の約2倍以上の確率で発症」することが分かっていることから、本疾患の背景には「女性ホルモンの変調」が関与している可能性が推測されています。 また、「遺伝や環境」などといった様々な要素が複合的に組み合わさって発症するとも考えられています。ただし、明確に遺伝性というエビデンス(証明)には乏しいものの、これまでに母娘間、あるいは姉妹間などの家族内で多発する例が散見されているのも事実です。 それ以外にも、発症原因としては「外傷、甲状腺疾患、糖尿病」など各種疾患に合併して発症する場合や、特に誘因なく特発性に現れるケースも存在しています。 発症原因(発症リスク):明確な原因は未だ不明 ・加齢(年齢と共に発生率が上昇) ・仕事等にて手指を頻繁に使用する ・裁縫や刺しゅう、農業関係の手仕事を業務といて日常的に行う ・発生者の8割が主婦 ・更年期以降の女性に多い(女性ホルモン) ・遺伝的要素(母娘間、姉妹間、家族内)証明できていない ・その他(外傷性、甲状腺疾患、糖尿病等の合併症) ヘバーデン結節を発症した人がやってはいけないこと へバーデン結節では、典型的な症状として「軟骨のすり減り」、「骨の骨棘形成によって出っ張り」、「関節部分が膨らみ」がみられます。特に、手指の中でも母指(親指)、あるいは示指(人差し指)から小指にかけて第1関節が赤く腫れあがり、過度に屈曲運動をすると疼痛症状(痛み)を合併します。 それらの所見が認められるのと同時に、関節を支える役割を有する「靭帯部分も緩む」とされていて、例えば物を指でつまむ時など、関節が不安定となり指の先の力が入りにくくなることもあります。 時間の経過とともに、痛みといった症状そのものは落ち着いてくることが多いのですが、手指が変形して指の動きがさらに悪化し、日常生活に支障をきたすことも十分に考えられます。へバーデン結節を発症した人は、早めに症状悪化を防止する対策を講じるべきです。 また、この疾患を発症した場合には、爪母(爪の根本部分)が第1関節に非常に近傍に位置しているために影響をうけて「爪が変形して凸凹になる」ことがありますので、そのような所見がみられた際には放置せずに皮膚科などでも診察を受けるように心がけましょう。 へバーデン結節の典型的症状 ・軟骨のすり減り ・骨の骨棘形成による関節の出っ張り、膨らみ ・母指(親指)、あるいは示指(人差し指)から小指にかけて第1関節の赤い腫れ ・屈曲運動(曲げると)疼痛(痛み)が起こる ・爪が変形(凸凹になることがある) へバーデン結節でやってはいけないこと へバーデン結節における治療方法としては、普段から指先に過度な負担が生じることを避ける、指の腫れや熱感があるときには患部を積極的に冷却する、軽くマッサージを実践する。 あるいは装具などにより関節部の安静を保つことで痛み症状を軽快させることが期待されます。 したがって逆に言えば、へバーデン結節を発症した人は指先に過度の負荷がかかるような作業、あるいは患部を温める、強くマッサージを行う、関節部の安静を守らないなどの行動は「やってはいけない」ということをご理解下さい。 へバーデン結節でやってはいけないこと ・指先に過度の負荷をかけない ・患部を温めない ・強くマッサージしない ・重い鞄を手で持たない(ショルダータイプにする) ・スマホなどにも注意(指を動かしすぎない) ・指を使う作業を避ける へバーデン結節の治療方法 へバーデン結節の治療には、保存的治療、薬物療法、手術療法といった概ね3種類の方法から検討することになります。 保存療法としては、「テーピング、サポーター」、「外固定(金属のリング等)」によって関節を固定(安定)させたり、「アイシング」といった治療が行われることが一般的です。 薬物療法としては、関節内へのステロイド注射が用いられることが多くあります。これも、痛みや、変形といった症状が進行すると手術療法が必要となり、「関節固定術、関節形成術(コブ結節の切除)」といった手術を検討することになりますす。 高度変形や、強い疼痛が伴う場合には、手指の運動機能障害や、整容上(見た目)の問題が発生する為に日常生活で無理をせずに、早期に医療機関を受診されることをお勧めします 治療法 ・保存療法:テーピング、サポーター、外固定(金属のリング等)で関節を固定(安定)、アイシング ・薬物療法:関節内へステロイド注射 ・手術療法:関節固定術、関節形成術(コブ結節の切除) へバーデン結節、発症後に気を付けたいこと 現代社会では、日常生活においてスマートフォンが手指の障害をきたすと言われ、特に小指でスマートフォンを持つ動作が小指のヘバーデン結節を誘発して症状を増悪させることも考えられますので、スマホの操作時に小指に痛みを自覚した際には画面操作は出来る限り両手で行うよう意識しましょう。 そして、前章で述べたように本疾患の発症リスクを上昇させる要素のひとつとして「女性ホルモン」があり、実は大豆に含まれている「イソフラボン」が女性ホルモンと成分が類似していることから「豆乳や豆腐、納豆、きなこ」などを日常的に摂取すれば症状改善に繋がる可能性はあります。 指の第1関節というのは、日常生活では意識していませんが、意外と知らず知らずのうちによく使っています。手指を動かすたびに強い疼痛症状が出現するようならばこれ以上痛みを悪化させないための対策や工夫を講じることが重要です。 例えば、ガーデニングが好きな方が小さな草取りなど実施する際には、どうしても指先に負担がかかりますので、極力手袋など補助となるものを装着して作業するなどの注意が必要です。 また、ペットボトル等の蓋を開ける際には、指先にどうしても力を加える必要がありますので、へバーデン結節を発症し、症状に苦悩しているなら、オープナーの使用を検討するなど対策が必要です。 さらに、かばんを持つ時には本体を持ち上げるとどうしても手指に荷重が加わって症状が悪化してしまうことが懸念されますので、出来る範囲で手提げバックなど鞄本体を持たずに手提げ部分を持つように心がけましょう。 このように小さなことでも日常生活で指を使うことが多く、たとえば靴を履く際にも手指を使わず靴ベラを使う、ドアの開け閉め、タンス、クローゼット、ボタン掛け、調理、掃除などちょっと思い起こすだけでも多くの動作があります。 このように普段の生活で徹底的に指を使う場面を徹底的に洗い出して、指を使わずにできる方法を工夫してみましょう。もちろん、ご家族の方々にも簡単な事であっても、できないことがあることを話して、理解と協力を得ることが大切です。 へバーデン結節、発症後に気を付けるべきこと ・スマートホンの操作や持つ方の注意 ・ペットボトル等のキャップの開閉(オープナーを使う) ・ガーデニング ・鞄は指で持たない(ショルダー等) ・ドアの開け閉め ・タンス、クローゼット ・ボタン掛け、調理、掃除、裁縫ほか 手指を使わない工夫を考える 家族にできることは依頼する(できないことを説明、理解を得る) まとめ/ヘバーデン結節を発症した人が気を付けたいこと いわゆる50代など中年時期も過ぎてくると農作業やプライベートな趣味における草取りやペットボトルのキャップやふたを開ける際に手指の第1関節が痛くなることがあります。 放置すると、徐々に指の変形が進行して、極端の話では横を向いてしまうこともあります。これらの所見は、関節の変形で軟骨が減って骨変形が起こることにより発症する「へバーデン結節」という病気を指しています。 本疾患ではすり減った軟骨や骨の変形そのものは完全に元通り健常状態に回復しないですが、指の痛みなどの症状は日常生活における色んな工夫によって改善することが期待できます。 したがって、へバーデン結節を発症した人がやってはいけない事項を認識しながら、並行して前向きな対処策を実践することで痛みなどの症状を和らげて普段から手や指を使いやすくすることが可能になりますので出来るだけ諦めずに対策するように心がけましょう。 以上、ヘバーデン結節を発症した人が気を付けたいことについて記しました。 今回の記事の情報が少しでも参考になれば幸いです。 不安な方は一度カウンセリングにいらしてください。 ・来院予約 ・料金一覧 No.S032 監修:医師 加藤 秀一
2022.01.18 -
- 変形性膝関節症
- ひざ
変形性膝関節症の早期発見!初期症状に気がつく 膝に痛みを及ぼす疾患が変形性膝関節症です。 変形性膝関節症になると、人間の基本的な動作である「歩行」に影響をもたらすことで、活動量が減るなど日常生活に支障を及ぼします。その原因は、靭帯や半月板の怪我からくる場合を除いて、ほとんどは加齢に伴った関節軟骨の摩耗がきっかけです。 特に40代以降の女性に多く発生するため、中高年で感じる膝の痛みのほとんどは、変形性膝関節症からくる痛みだともいわれています。そんな変形性膝関節症の治療方針は、膝に負担のかかる生活スタイルを見直し、膝周囲の筋肉を鍛える運動療法に取り組むことです。 そうした保存療法の継続が、関節を安定させ、これまで通りの痛みのない日常につながるのです。そのためには、いかに早期に発見できるかがポイントです。そこで今回は、変形性膝関節症の初期症状から、もし当てはまった場合には、実際にどういった行動に移せば良いのかまで紹介していきます。 変形性膝関節症の初期症状に気づく 変形性膝関節症の自覚症状は、前期・初期・中期・末期の4つの段階を踏んで進行していきます。前期では、膝にほとんど痛みはありませんが、初期では軟骨がすり減り始め、膝に痛みや違和感や感じます。 進行した中期では膝に変形がみられ、さらに進行した末期では、痛みから立つ・歩くなどの日常生活を過ごすのが困難になり、手すりや杖などに頼らないと姿勢を保てない状態です。 変形性膝関節症の初期で起こる症状 ・朝起きた時に膝にこわばりを感じる ・膝を伸ばそうとすると引っ掛かりを感じる ・椅子から立ち上がろうとすると痛みが走る ・歩き出しに痛みがある ・正座をするとズキっと痛みを感じる 変形性膝関節症を早期発見するためには、「痛み」や「違和感」を感じだす初期で発見することが大切です。この段階で異変に気づき、病院を受診し早期発見できれば、治療の選択肢が増えるだけでなく、積極的に運動療法に取り組めるのです。 早期発見が治療の選択肢を増やす 変形性膝関節症に早期に気づき、運動に取り組むことで、悪化を防ぎます。運動療法でも痛みが引かない場合、薬物療法や物理療法、装具療法などで痛みを抑えながら、運動療法に取り組めるよう工夫します。 あらゆる手を尽くしても効果がみられない場合には、観血療法という選択肢がありますが、手術の種類によっては進行しすぎていると実施できないケースがあります。 たとえば、体への侵襲が大きな人工関節置換術や高位脛骨骨切り術を、「今はしたくない」場合には、負担が少なく、術後の回復も早い関節鏡視下手術という選択肢があります。しかし、変形が進行した状態では、関節鏡視下手術をしたところで、改善が見込めない場合があります。 早期発見で積極的に運動療法に取り組める 変形性膝関節症の治療の基本は運動療法ですが、初期から実施するのと、末期から実施するのでは大きな違いがあります。初期の運動療法には悪化を防ぐ目的があり、継続して行うとこれまで通りの生活を送れる可能性があります。 一方、発見が遅れた末期では、痛みが強く日常生活をまともに送るのは難しい状態です。そのため、満足に運動療法に取り組めず、これまで通りの生活を送れる可能性は低くなることから、早期発見が変形性膝関節症の治療において大切です。 病院で変形性膝関節症と診断されるまで 中高年以降で、膝に「痛み」や「違和感」を感じたら整形外科の受診をおすすめします。変形性膝関節症の診断は、問診・視診・触診・画像診断などの検査を複合して判断されます。問診では家族歴・半月板や靭帯損傷などの怪我の既往歴を聞き、視診では歩行状態から進行の程度を確認、触診では膝の変形具合や水がたまっていないかなどを確認します。 変形性膝関節症の進行の程度は、X線検査の後、Kellgren-Lawrence分類によって分けられます。関節の隙間が確保されているグレード0から、関節の隙間がなくなってしまった状態のグレード4まで分けられます。 しかし必ずしも画像診断の進行度合いと自覚症状が一致するとは限りません。画像診断では進行していても、自覚症状があまり強くない場合や、その逆の場合もあります。 そのため、軽度の痛みや、ちょっとした違和感でも変形性膝関節症が進んでいる可能性があることから、注意が必要です。 変形性膝関節症と似たような病気 膝に痛みがあっても、全ての膝の痛みが変形性膝関節症ではありません。膝関節以外の痛みや発熱の有無など、問診や触診の情報を元に、関節リウマチ・痛風・化膿性関節炎などを疑います。 検査では血液検査や関節液の成分を検査し、検査結果を元に変形性膝関節症以外の病気である要素を取り除いた上で、はじめて変形性膝関節症と診断されます。 まとめ/変形性膝関節症の早期発見!気付きたい初期症状 変形性膝関節症は中高年以降の女性に多く発生する病気で、膝の痛みの多くは変形性膝関節症からだといわれています。 変形性膝関節症の症状は、痛みと変形が特徴です。初期には強い痛みや変形を感じることは少ないものの、変形性膝関節症は進行性の病気です。放っておくと取り返しがつかないところまで進行するケースがあります。 そうならないためにも、早期に変形性膝関節症に気付くことが治療の選択肢を増やし、悪化を防ぎます。 変形性膝関節症の早期発見ができれば、保存療法(運動療法、薬物療法など)や観血療法(手術)というように、あらゆる選択肢の中から、膝の状態や自分自身の意向に沿って治療に取り組めるのです。 そのため、「軽度な痛み」や「違和感」程度でも放ったらかしにしないで、整形外科を受診しましょう。 ▼ 再生医療で変形性膝関節症の治療する 変形性膝関節症の新たな選択肢、再生医療の幹細胞治療で手術せず、入院不要で症状を改善する No.039 監修:医師 坂本貞範
2022.01.18 -
- 手
CM関節症とは、原因と治療方法について CM関節症は一般的に50歳以上に発症しやすい疾患です。しかし、なぜCM関節症になるのか、またCM関節症になったらどのような治療が実施されるかを理解している人は多くいません。 そのため今回はCM関節症の原因と治療方法を理解するために詳しく解説します。 CM関節ってなに CM関節とは、母指(親指)の根本の骨である第1中手骨と、手首の小さい骨である大菱形骨の間に存在する関節です。母指が他の指と対立運動(つまみ動作)ができるのは、このCM関節の役割が大きくかかわっています。 CM関節症とは? CM関節は、「握る」「つまむ」などの動作時に大きな負担がかかります。「握る」「つまむ」などの動作は日常生活においてもよくおこなわれる動作です。 そのため、CM関節には常に負担がかかっており、使い過ぎ・加齢などによって関節の軟骨がすり減ります。さらに進行すると関節が腫れる・亜脱臼などが生じることとなり、これをCM関節症といいます。 CM関節症の症状 CM関節症の場合、母指(親指)に力を入れた動作をした際、手首の母指の付け根付近に痛みが生じます。主に痛みが生じる場面は下記の場合です。 ・瓶やペットボトルのふたを開ける ・ホッチキス・ハサミ使用時 ・タオルを絞る ・ドアのノブを回す ・字を書く ・草むしり ・布団を挙げる ・ボタンをかける また、症状が進行すると、手首の母指の付け根付近が腫れて膨らんできて母指を開くことが難しくなります。 また場合によっては、関節が変形して親指の指先の関節が曲がり、付け根の関節が反る「白鳥の首変形(スワンネック変形)」になる場合があります。 CM関節症をさらに細かく分類すると下記になります。 stage1:レントゲン上での問題はみられない stage2:関節の隙間が少し狭くなり、骨硬化が少しみられる stage3:関節に隙間がほとんどなくなり、骨硬化や骨棘がみられる stage4:完全に関節の隙間がなくなり、骨棘の形成もみられる。 一般的にstage1, 2は保存療法、stage3, 4は重症になるため手術を検討しますが、必ずしもレントゲン上の結果と一致しないため、最初は装具・リハビリなどの手術以外の選択肢で治療します。 CM関節症の原因 CM関節症を生じる主な原因は、加齢・ホルモンバランスの変化・関節の変形です。またそれ以外にも、昔、母指に受けた外傷・怪我も原因になりえます。 CM関節が正常の場合は軟骨が骨を覆っており、クッションや滑らかに動く役割があります。しかし、CM関節症の場合、軟骨がすり減り、骨と骨同士がぶつかり合い、関節への負担が生じます。 一般的には下記の因子(原因)が当てはまる人はCM関節症になりやすいと推測されます。 ・女性 ・肥満 ・40歳以上 ・靭帯のゆるみなどの遺伝 ・親指周囲の骨折など過去の外傷・怪我 ・スポーツや労働で親指に強い負担のかかるもの CM関節症の治療方法 CM関節症は、まず保存的治療を実施します。テーピング・装具治療・リハビリをしっかり行うだけで多くの場合は症状の改善があります。 装具治療の場合は、手の状態に合わせて取り外し可能な装具を作成します。症状が軽い場合は、寝るときに装具を付けて過ごすだけで数週間後には痛みが軽減する場合もあります。 装具治療でも痛みが軽減しない場合は、消炎鎮痛剤の内服・注射治療を実施します。 内服はNSAIDsと呼ばれるロキソニンなどの消炎鎮痛剤、トラマールというような痛み止めを使用します。また、注射治療は、比較的長時間効果のあるステロイド製剤が使われる場合があります。 上記の治療を実施しても症状が改善しない場合は、手術療法も選択の1つとなります。 手術は「関節形成術」「骨切り術」「靭帯再建術」の3つ方法が主要となり、どの手術後も一定期間の固定が必要なため、母指を正常に使えるようになるまでに長い期間を要することが手術のデメリットとなります。 CM関節症に関与する筋肉 手には多くの筋肉が存在するため、CM関節症になると、さまざまのな筋肉に影響が出ます。今回はその中でも主要な筋肉のほぐし方について解説します。 第一背側骨間筋 背側骨間筋は、第1中手骨(親指)と第2中手骨(人差し指)の間にある筋で、親指を内側(手のひら側)に曲げたときに背側へ盛り上がってくる筋です。 この筋肉が緊張すると、痛みが出る・指がこわばる・力が入りにくくなります。また、中手骨の間にも走行するため、場合によって、神経が圧迫されて、しびれの原因にもなります。 <背側骨間筋のほぐし方> ・ほぐす側の手の平を台に置けば安定します。手の甲を上に向けます ・逆側の手で第1中手骨と第2中手骨の間に指を入れて(親指と中指の間の筋をつかみます)押さえるようにほぐしましょう。 母指対立筋 母指(親指)を動かす筋は全部で4つあり、そのうち、短母指屈筋・短母指外転筋・母子対立筋の3つの筋で親指の付け根の膨らみである母指球を形成しています。 母指対立筋は短母指屈筋と短母指外転筋に覆われており、親指を手の平に近づける作用である対立運動に関与します。 <母指対立筋のほぐし方> ほぐす側の手の平を上に向けて指を広げます 反対側の手で母指を握り、母指CM(親指の根本)を手のひらとは反対側、伸展方向へ伸ばします まとめ・CM関節症とは(原因と症状、治療法) CM関節症の主な原因は加齢・ホルモンバランスの変化・関節の変形・過去、親指に受けた外傷や怪我の影響です。症状が進行すると手術する可能性がありますが、全体的な割合でも手術になる割合は多くないため、ほとんどの場合は保存療法で治療が可能です。 主な保存療法は、今回解説した、装具治療やリハビリになります。しかし、CM関節症の進行度はレントゲン上などから判断するため、痛みなどが気になれば、我慢せずに一度病院に受診することが大切です。 以上、CM関節症とはと題して、その原因と症状、治療法について記しました。 No.S031 監修:医師 加藤 秀一
2022.01.10 -
- 手
ヘバーデン結節とは、その原因と症状から治療法まで はじめに へバーデン結節とは、手指部における「第1関節に位置するDIP関節*が変形して曲がってしまう」という、いまだ原因不詳の疾患とされています。関節リウマチなどの膠原病とは異なる病気だと考えられています。 このDIP関節*の変形という疾患については、大小があります。すべての症状で大きく曲がる(変形する)わけではありません。指の第一関節の後ろ(背側)、中央付近に親指から小指にかけて、2つのコブのような結節が見られる特徴があります。 現在、この指のふくらみは年齢に伴う変形性関節症であると判明しています。ちなみに、この「ヘバーデン」という名称は、この疾患を報告したイギリスの医師、ウイリアム・ヘバーデン博士の名から付けられた呼称です。 へバーデン結節は、関節組織の加齢による変化を基にして発症する変形性関節症として手指部に認められる病変なのですが、いろいろな変形や所見が見られます。 一般的には、第1関節に変形や、疼痛があって、X線レントゲン写真にて「関節の隙間が狭い」、「関節が壊れている」、「骨棘」と呼ばれる骨のとげ所見が見られると、「へバーデン結節」ではないかと疑います。 そこで今回、へバーデン結節について、一体どのような病気なのか、症状と原因、そして治療法を解説してまいります。 ヘバーデン結節の診断 ・DIP関節に対してX線によるレントゲン検査で以下を確認 ・関節の隙間が狭い ・関節が壊れている ・骨棘と呼ぶ骨のとげ 参考)DIP関節*とは 手指は指関節や骨、それを腱・靭帯が取り巻き、指の複雑な動きに対応できるように機能しています。 その指関節は以下のような呼称で分類されています。DIP関節は、指先に一番近い関節です。 ・第1関節:DIP関節(指先から1番目の関節)ヘバーデン結節が起こる部位 ・第2関節:PIP関節(指先から2番目の関節) ・第3関節:MP関節(指先から3番目の関節で、指の付け根) ・第4関節:CM関節(手の甲の中にある関節) へバーデン結節の原因について へバーデン結節の発症について、これまでの医学的な研究においても今だに明確な原因は不明なのですが、普段から手や手指を頻繁に使用する方が発症しやすい傾向があると言われています。 へバーデン結節は、疫学的に40歳代以降の中高年齢層の女性に多く発症します。つまり、本疾患の背景には女性ホルモンの変調、ストレス要素に加えて外的な環境、およびストレスを過度に受けやすい体質や性格なども関与している可能性も検討されています。 過去の調査では確固たる遺伝性要因の影響があると証明されていないものの、傾向的に母娘間、あるいは姉妹間で高率な頻度で発症すると言われています。 したがって、例えば自分の母親や祖母の家系がヘバーデン結節に発症した経験を有する場合には、予防として普段から指先や手の部分に過剰な負担をかけないよう意識して注意すべきでしょう。 へバーデン結節の原因 ・今だ明確な原因は不明 ・女性ホルモンの変調、ストレス要素(手や手指を頻繁に使用すると発症しやすい傾向) ・疫学的に40歳代以降の中高年齢層の女性に多く発症 ・傾向的に母娘間、あるいは姉妹間で高率な頻度で発症する ・ストレスを過度に受けやすい体質 へバーデン結節の症状について 典型的な症状としては、手指の中でも母指(親指)、あるいは差し指(人差し指)から小指にかけて第1関節が赤く腫れあがり、屈曲して疼痛症状があります。 へバーデン結節に罹患すると、時には安静時にも痛み症状があるため、強く手を握ることが困難になりますし、指のこわばりを感じて十分に手指を動かせなかったりもします。 指の変形が進むにつれて痛みといった症状そのものは落ち着いてくることが多いのですが、その分、手指の動きがさらに悪化して日常生活に支障をきたすようになりがちです。 補足ですがこの症状のうち、第1関節のうしろ側に水ぶくれのような所見を認めることもあり、この水ぶくれをガングリオンや粘液嚢腫などと呼称されています。 へバーデン結節の診断について へバーデン結節を診断する際には、診察上の視診や触診などの理学的所見を基本としてエックス線による画像検査が実施されます。 第1関節の腫れや熱感、変形、運動障害、疼痛症状の有無などを診察によって確認して、レントゲン検査で関節間の隙間が狭い、又は骨棘と呼ばれる骨のとげが突出しているなど変形性関節症所見を認める際には、典型的な「へバーデン結節」と診断されることになります。 症状が類似しており本疾患と鑑別を要する疾患として最も重要なのは関節リウマチです。一般的には、関節リウマチにおける症状は、関節痛、自己免疫に関連した炎症による体の倦怠感、朝のこわばりなどが典型的です。 ところが、関節リウマチでは手指における好発部位(病変が起こりやすい部位)としてはPIP関節(指先から2番目の関節)、MP関節(指先から3番目)のことが多く、へバーデン結節のようにDIP関節(第1関節)に現れることは、ほとんど無いと言われています。 同様に、画像検査上でも両疾患には異なる所見を認めることが知られており、関節リウマチの場合には骨が炎症によって溶解する(溶けてゆく)のに対して、へバーデン結節では骨が逆に増殖していくことになり、その点が大きく違うため、両者を鑑別することが出来ると考えられます。 へバーデン結節と、関節リュウマチの違い へバーデン結節 ・部位:DIP関節(第1関節)に現れる ・骨が増殖していく 関節リュウマチ ・部位:PIP関節(指先から2番目の関節)、MP関節(指先から3番目) ・骨が炎症で溶解する へバーデン結節の治療法について へバーデン結節における治療策としては、普段から「指先への過度な負担が生じることを避ける」、「指の腫れや熱感があるときには患部を積極的に冷却する」、「軽いマッサージを実践する」、あるいは装具などにより、「関節部の安静を保つ」ことで症状からくる痛みを軽快にすることが期待できます。 へバーデン結節における手指関節の保護には、装具として一般的には「テーピング」や、「金属製リング」などを治療策として使用されることが多くあります。 どうしても疼痛症状が強い場合は、漢方や消炎鎮痛剤を服用する、湿布や塗り薬などの外用薬を積極的に使用する、あるいは少量の関節内ステロイド注射なども有効に働きます。 へバーデン結節は、多少の個人差はありますが概ね数か月から年単位で痛みの症状そのものが落ち着いていくため、手術の必要性に迫られる、あるいは何が何でも手術を希望されるという患者さんはそれ程多くないのが実情です。 それでも、保存的な治療で症状が改善しない場合、または手指部の変形がひどくなり日常生活に機能的に支障をきたすケースでは、手術療法を検討することになります。 具体的な手術法としては、「コブになっている結節部を切除する」パターンや、「関節を固定」してしまう方法が取り入れられています。 手術についてもう少し詳しく概説すると、でっぱった骨(結節部、骨棘)や水ぶくれ(嚢胞)を切除する関節形成術や、傷んだDIP関節(1番指先の関節)のグラつき(不安定性)を改善させる関節固定術が一般的に行われています。 関節形成術に関しては外観上の所見が改善する長所がありますし、関節固定術は最も機能的に良好で使いやすい位置で関節を固定することで術後に痛みも無くなる利点があります。 へバーデン結節における治療策 基本 ・指先への過度な負担が生じることを避ける ・指の腫れや熱感があるときには患部を積極的に冷却する ・軽いマッサージを実践する ・関節部の安静を保つ(装具※) 鎮痛(痛みが強い場合) ・漢方や消炎鎮痛剤の服用 ・湿布や塗り薬等、外用薬 ・関節内へのステロイド注射 手術 ・関節形成術:でっぱった骨(結節部、骨棘)や水ぶくれ(嚢胞)を切除 ・関節固定術:傷んだDIP関節(1番指先の関節)のグラつき(不安定性)の改善 装具※テーピング、金属製リング等 まとめ/ヘバーデン結節とは、その症状、原因と治療法 いわゆる「へバーデン結節」と呼ばれる病気では、親指や人差し指から小指にかけて、第1関節が赤く腫れあがり、変形して曲がってしまう症状を呈します。 また、第1関節の手のうしろ側(背側)に関節を挟んでふたつのコブ(結節性病変)ができるという特徴があります。 へバーデン結節は、いまだ原因不明の疾患であり中高年齢の女性に比較的頻度が多く認められる病気とされており、手指部の症状のために日常生活に支障をきたすことがあります。 痛みや症状がひどくなると心配も多くなり、医療機関を訪れる患者さんが多いようです。もし、指の痛みや、変形の兆候など、症状を我慢したり不安がある場合は、整形外科などのクリニックや病院を受診して医師に相談されることをおススメします。 専門医による診察や画像検査、血液検査などを実施することで、関節リウマチなど他の類似疾患との鑑別を行うこともできますし、本疾患の治療はもちろん、症状の解消法などのアドバイスを期待できるでしょう。 以上、ヘバーデン結節とは、症状、原因と治療法について記してまいりました。今回の記事の情報が少しでも参考になれば幸いです。 No.S030 監修:医師 加藤 秀一
2022.01.10 -
- 変形性膝関節症
- ひざ
変形性膝関節症の再生医療(幹細胞治療)が新たな選択肢に 変形性膝関節の痛みに悩まされてきた方は多いのではないでしょうか? 変形性膝関節症は、関節軟骨や半月板の損傷から、膝に痛みや変形がみられる疾患です。その治療法は、運動療法に取り組みながらも、痛みに対しては、薬を服用したり、膝にヒアルロン酸注射をしたりし悪化を防ぎます。 これまで運動療法や、薬物療法でも効果がみられない場合には、手術という選択肢が一般的ですが、「手術はしたくない」「手術を受けられない」方は、痛みと付き合っていくしかないという現状がありました。 しかし近年、保存療法では効果が感じられず、観血療法(手術)ができない場合でも受けられる治療法に、「再生医療による治療」が確立されたので紹介します。 〇手術したくない 〇手術が受けられない --- 新たな選択肢。再生医療(幹細胞治療) 再生医療|幹細胞治療とは? 人は怪我をして傷ついたとしても、多少の傷なら自然に治り回復します。つまり、修復力を持っているということで、これは人間が本来備えている自然治癒力です。これを活かした治療法が「再生医療」といわれる新たな医療分野なのです。 この再生医療の一種、「自己脂肪由来・幹細胞治療」では、患者様の体から採取した幹細胞を培養後、数万から数億にも増やしたもの(幹細胞)を膝に注射することで、傷んだ軟骨や細胞を自然に修復・再生させる効果を見込むものです。 再生医療における幹細胞治療とは 幹細胞とは、人間の骨髄や皮下脂肪にある細胞で、皮膚や骨・軟骨・血管などの、いろんな細胞に性質を変える特徴(分化能)があります。幹細胞治療では、幹細胞の分化能を利用して、傷んだ軟骨や、そのほか組織の修復・再生が期待できる最新の治療法です。 幹細胞は普段は活動的ではありませんが、体が傷つくと、損傷した細胞の代わりになるよう細胞分裂が起こり、修復・再生が行われます。変形性膝関節症の場合、幹細胞の分化能を利用し、自己修復力を高めて、磨耗した軟骨を修復させます。 軟骨が再生すると、本来備わっていた膝のクッション性がアップするほか、関節の動きが滑らかになり、膝の痛みの緩和が期待できます。 つまり、これまで運動療法や薬物療法ではできなかった軟骨の修復・再生が、自己脂肪由来幹細胞治療で可能になったのです。 幹細胞治療はどのように行われる? 変形性膝関節症に対しての自己脂肪由来幹細胞治療では、自分の体から幹細胞を採取し、培養後、幹細胞を体内に戻します。幹細胞を体内に戻す方法には、静脈注射(静脈点滴)と関節注射の2種類があります。 静脈注射は直接注射できない内臓(肝臓疾患や糖尿病など)や脳の病気に用いられ、膝や肩、股関節などには直接関節に注射する方法があります。幹細胞は骨髄や皮下脂肪に存在しますが、体への侵襲(体への負担)が少ないほか、細胞の性質が良いとされることから皮下脂肪から採取されます。 自己脂肪由来幹細胞治療の流れ ・腹部(おへそ周り)に局所麻酔をします。 ・5mmほど皮膚を切開し脂肪を採取します。 ・採取する脂肪の範囲は、米粒2粒ほどの大きさです。 ・採取した脂肪から幹細胞だけを分離し、4〜6週間ほどかけて培養します。 ・増殖した幹細胞を膝に関節内注射します。 幹細胞治療は、体への侵襲が低く、自分の細胞を利用した治療法です。大きな手術と比べて感染症のリスクは低く、拒絶反応やアレルギーも起こりにくいため、安全性が高い治療法です。 膝の痛みを放置するとどうなるか? 変形性膝関節症が進行し痛みが強くなると、治療の基本となる運動療法に満足に取り組めなくなります。さらに進行すると、ちょっとした動作や安静時でも膝が痛み、その痛みをかばうことで、関節の可動域が狭まっていき、余計に痛みを感じやすくなります。 そして、どうしようもなくなったときには、体に負担となる人工関節置換術や骨切り術などの手術が選択肢にあります。手術をすると、痛みの改善は期待できますが、感染症のリスクや、正座ができなくなるなどのリスクがあります。 手術をしたくない、手術ができない場合には、痛みと付き合っていくしかありませんが、痛みが悪化すると、次第に歩行ができなくなり、筋力が低下することで車椅子生活や寝たきりでの生活になってしまう可能性が高まります。 まとめ/変形性膝関節症の再生医療(幹細胞治療)が新たな選択肢に 自己由来幹細胞治療は、人が持つ修復力を引き出す治療法で、これまで不可能だった軟骨の再生が期待できます。幹細胞治療では、自分の細胞を使うことから、大きな手術のような、体にかかる負担はほとんどなく、長期間に及ぶ入院期間を確保できない場合にも、日帰りで行える治療法として注目されています。 変形性膝関節症の治療の基本は、膝周囲の筋力を鍛えることで、必要に応じて変形性膝関節症と診断された初期から幹細胞治療に取り組むことで悪化を防ぐことが期待できます。 幹細胞治療にかかる費用は、保険が効かず自由診療のため、全額自己負担での治療ですが、「現在の治療で効果を感じられない」「関節鏡や人工関節などの大きな手術をすすめられたが抵抗がある」方は、保存療法と観血療法の中間に位置する最新の再生医療による治療法、「自己由来幹細胞治療」を選択肢の一つとして覚えておきましょう。 以上、変形性膝関節症の再生医療(幹細胞治療)が新たな選択肢になっていることについて記させて頂きました。 No.038 監修:医師 坂本貞範 ▼ 再生医療の幹細胞治療が変形性膝関節症の治療を変える! 変形性膝関節症の新たな選択肢、再生医療の幹細胞治療で手術せずに症状を改善できます
2022.01.07 -
- 変形性膝関節症
- ひざ
どうする?変形性膝関節症の寝ていても痛い痛みについて! 膝に痛みや変形をもたらす病気である変形性膝関節症。 その原因は加齢や、度重なる膝への負担から軟骨が摩耗することです。最初は膝の違和感程度でも、進行すると立ち上がりや歩き出しといった、膝を動かすタイミングに痛みを感じるようになります。 痛みで膝を伸ばせず、寝ていても痛みを感じるため、安心して眠れないという方までいらっしゃいます。そんなどうしようもない膝の痛みを治すための様々な対処法があります。 たとえば温めたり、冷やしたりする物理療法のほかに、薬物療法などがあるほか、手軽に取り組めるストレッチが効果的です。筋トレなどといったハードなものは逆効果です。 しかし、どの手段をどう取れば良いのか個人で判断するのは容易ではありません。そこで今回は、伸ばすと痛く、寝てても痛い膝は、一体どんな状態にあるのか、その対処法から寝るときの工夫まで紹介します。 伸ばすと痛く、寝てても痛い時の状態と対処法 膝を伸ばすと痛く、寝てても痛い原因に、すり減った軟骨片が骨膜を刺激ことが考えられますが、ほかにも筋肉が緊張していたり、膝の関節に炎症が起きていたりと、痛みを感じる原因は様々です。 ▼根本的には、無理をせず病院に行きましょう。▼ ・膝の痛みは放置しないで病院へ行こう! 筋肉が固まっているケース 膝の痛みをかばうことで筋肉が緊張し、膝の曲げ伸ばしに支障をきたします。筋肉の緊張は慢性化しやすく、ストレッチやホットパック・お風呂で膝を温め、柔軟性を取り戻します。 特にふくらはぎにある腓腹筋や、太ももの裏にあるハムストリングが硬くなると膝を伸ばしにくくなることから、ストレッチにより柔軟性を高めます。カイロも効果的ですが長時間の使用による低温やけどには注意しましょう。 ストレッチは、手軽に行えるので便利ですが継続が鍵です!時間を決めるなど自分のルールを作って取り組みましょう。 膝の痛みを軽減するための、腓腹筋のストレッチ 1.壁や椅子の背もたれに手をつき、脚を交差させます 2.前脚の膝を曲げていき、後ろ脚のふくらはぎの伸びを感じます 3.気持ちが良いところで20秒キープします 左右の脚を入れかえて1〜3を、1日3セット行います。 膝の痛みを軽減するための、ハムストリングのストレッチ 1.地面に座り脚を開きます 2.背筋を伸ばした状態で、片側のつま先に向かって、体を倒します 3.気持ちが良いところで20秒キープします 左右の脚を入れかえて1〜3を、1日3セット行います ■膝の固まりについて、夏場はエアコンに気をつけたいところです。 膝が冷えると血流が悪くなり、筋肉の動きが悪くなったり、痛みを感じやすくなったりします。エアコンが効いた部屋では、ブランケットなどを膝にかけて、直接膝に冷気が当たらないよう、膝を冷やさない工夫をしましょう。 ■こうした工夫をしても痛みが取れない場合は、膝の変形に注目します。 膝の変形が進行したO脚でも、膝にかかる負荷が偏り、筋肉が緊張します。これだといくら温めても、歩くたびに筋肉が緊張するため、膝へかかる負担を分散させるインソールを検討します。 足の外側が高くなっているインソールを装着することで、膝の内側へかかる負担を分散し、筋肉が過度に緊張しないようにします。 炎症を起こしているケース 寝ていても痛む場合は、膝に炎症を起こしている可能性があります。慢性化した長引く痛みに対しては温めますが、膝に強い痛みや腫れ、熱感があれば冷やすのが基本です。 アイスパックや氷嚢などで患部を冷やすことで、血管が収縮し、炎症や痛みを抑えることができます。氷嚢の作り方は、ビニール袋に適量の氷と水を入れ、口を縛るだけで簡単に作れます。 注意していただきたいのが冷湿布です。鎮痛消炎剤として使用される冷湿布は、メンソールやハッカ油の効果で、ヒンヤリと冷たく感じるのですが多く場合、関節の内部まで冷やす効果はありません。 温めても冷やしてもダメなら、、、 温めたり、冷やしても膝の痛みに沈静化がみられない場合には、痛み止めの薬を服用します。どの薬が良いのか、自己判断せずに、医療機関を受診したり、かかりつけ医に相談しましょう。 変形性膝関節症の人が寝るときのポイント 変形性膝関節症の方は、痛みが出やすい寝方があるのをご存知でしょうか?また寝具の種類によっても、痛みを誘発する可能性があることから解説します。 膝の痛みを回避するには、仰向けで寝る 膝の痛みに優しい寝方は「仰向けで寝る」ことです。中には、仰向けで寝ようと膝を伸ばした際に、痛みが出る場合があります。そうした時には、膝下にクッションを挟んで寝るのが効果的です。 うつ伏せのように顔を下に寝ると、股関節が開きO脚が強まる姿勢になるほか、地面からの圧力で膝周囲の血流が阻害されやすくなるのでおすすめできません。 また、「横向きでしか寝られない」というのも避けたいところです。日常生活で膝に痛みを感じるタイミングは、動き出しのほかに、振り返る動作のような体にひねりが加わる時です。 横向きで寝る癖がつくと、常に体にひねられることで、動作時に膝の痛みが悪化する恐れがあります。 〇 仰向け(オススメ) ✕ うつ伏せ(O脚が強まり膝の血流が阻害される) ✕ 横向き(ひねりがあることで動くと痛みが出る) 布団やベッドの硬さに注意する 柔らかすぎる布団やベッドは、体の歪みにつながることから注意が必要です。人間の体で1番重たい部位が下半身です。柔らかすぎるベッドで寝ると、下半身が沈み込むことで、体にひねりの癖がつきやすいためです。 寝るときに膝の痛みでお困りの方は、寝具の硬さにも注目してみましょう。 まとめ/どうする変形性膝関節症の痛み?! 変形性膝関節症と診断され、膝を伸ばすと痛み、とても落ち着いて寝られない場合には、膝の筋肉が緊張して固くなっていたり、膝関節が炎症を起こしていたりする可能性があります。 それらに対して、慢性化した痛みには温め、強い痛みや腫れ、熱感があれば冷やします。温めたり冷やしたりしても効果がみられない場合は、薬物療法があります。 変形性膝関節症の治療の基本は、ストレッチや、運動療法により周囲の筋肉を鍛えることです。今回のように睡眠時に痛みが出ると、満足に運動に取り組めないなど治療の支障をきたします。 そうならないように、物理療法や薬物療法で痛みを抑え、寝方や寝具を工夫しながら、うまく膝の痛みと付き合っていくことが大切です。 ただし、いつも以上に膝に強い痛みを感じたり、どういった処置をすれば良いのか分からなかったりする場合には、自己判断せずに早めにかかりつけ医に相談してみましょう。 ほかにも病院に併設してあるリハビリテーション科では、専門のスタッフが膝の状態にあった物理療法を施してくれるほか、運動療法の指導を行っておりますので、膝に痛みを抱える方は選択肢の一つとして覚えておきましょう。 ▼ 変形性膝関節症の痛みを再生医療で治療する 再生医療により変形性膝関節症の痛みを改善することができます No.036 監修:医師 坂本貞範
2022.01.07 -
- 肘
野球肘・離断性骨軟骨炎はスポーツする子供に多い!その症状と治療法 子供にスポーツを習わせているとき、親として最も心配なのが、怪我ではないでしょうか。 スポーツには怪我がつきものですが、練習を頑張れば頑張るほど、気づかずに手術が必要になってしっまたり、痛みがずっと残ってしまったりして結果的にスポーツを諦めないければならない事例が実際にあります。 しかし、正しい知識を持っていることで子供の痛みにも適切な対応ができ、体に負担が少ない治療ができる可能性があります。 今回は、野球の投球動作や、体操などの選手に起こりやすい「肘離断性骨軟骨炎」について解説していきます。肘離断性骨軟骨炎は、やや珍しい病気ですが、早期発見により手術が回避できる可能性のある病気です。 ぜひ正しい知識を身につけて、子供の身体を守ってください。 肘離断性骨軟骨炎:スポーツ(野球や体操、サッカーでも)をしている子供に多く見られる症状です 肘離断性骨軟骨炎とは何か 肘離断性骨軟骨炎とは、肘の外側の部分(上腕骨小頭)の軟骨に傷がつき、肘の痛みや関節の動きが悪くなってしまう病気です。「野球のようなピッチング、投球といった動作を伴うスポーツ」をやっている子供に多く、年齢としては9-12歳に多く見られます。 競技人口の多さから日本では野球を習っている子供に多く見られていますが、体操競技やサッカーをしている子供でも報告されており、この病気が発症する原因は正確にはわかっていません。 遺伝などの要素に加えて、投球などによって肘に繰り返し負荷がかかることで発症するのではないかと言われています。 肘離断性骨軟骨炎 発症部位 肘の外側の部分(上腕骨小頭) 状況 軟骨に傷がつき、肘の痛みや関節の動きが悪くなる 原因 ピッチングのような投球動作、体操競技、サッカー競技、その他 発症年齢 9~12歳といった子供に多くみられる 肘離断性骨軟骨炎の症状 肘離断性骨軟骨炎の最も多い症状としては肘の痛みと言われますが、特に投球時に肘の外側が痛くなるのが特徴です。また、痛みが出る前に肘の動かしにくさ(可動域制限)を訴えることもあります。 軽傷であれば手術などをしなくても改善することが多く、早期発見・早期治療が重要な病気ですが、痛みが出てきたときには病気が進行していることも多いため注意が必要です。 無症状の9歳から12歳までの野球選手に対し検査を行ったところ、1-3%程度の割合で肘離断性骨軟骨炎が見つかったという報告もあり、「軽い痛みであっても肘の痛みを感じるようであれば整形外科の受診」をお勧めします。 肘離断性骨軟骨炎の治療方針 肘離断性骨軟骨炎の治療は、病状の進行度によって異なります。正しい治療方針を決定するためには、病気の進行度をしっかりと判断する必要があります。そのため、肘離断性骨軟骨炎を疑った場合には単純レントゲン写真やCT、MRI、超音波検査など様々な検査を駆使して評価を行います。 これらの検査により、軟骨が傷ついただけなのか、傷ついた軟骨が剥がれ落ちてしまっているのかを評価して、以下の3段階に分類します。 1:初期(透亮期) 肘離断性骨軟骨炎の初期と診断されるのは、ほとんどが小学生です。 この時期に診断された場合には、手術はせずに様子を見る「保存的加療」を行っていきます。病巣の改善までは1年以上と時間はかかるものの、肘の酷使を避けるなどの指導により90%以上で改善したという報告もあり、早期発見によるメリットは非常に大きいです。 2:進行期(離断期) 進行期であっても、基本的には手術をしない「保存的加療」が選択されます。 ただし初期のうちに診断されたものと異なり、半分ほどの患者さんでは思うように治らず、手術が必要になる患者さんも多いです。症状や病気の状態にもよりますが、3か月から半年ほどで評価を行い、手術が必要かどうかを判断していきます。 3:終末期(遊離期) 終末期であっても全く症状がない場合には手術はせずに様子を見ていくこともあります。ただしこの時期には、傷ついた軟骨が剥がれ落ち、遊離骨と呼ばれる骨のかけらが痛みを引き起こすことも多く、手術が必要になることも多いです。これは、肘関節遊離体といわれるもので「関節ねずみ」とも呼ばれます。 野球肘と言われる肘離断性骨軟骨炎の手術と術後 肘離断性骨軟骨炎の手術では、剥がれた骨の破片の位置や損傷している軟骨の程度などによって、患者さん一人一人に合わせた手術が行われます。 例えば、関節鏡と呼ばれるカメラを使って傷や体の負担をできるだけ小さくする手術であったり、膝関節から骨軟骨柱という組織を採り肘に移植する骨軟骨移植術と呼ばれる大掛かりな手術が行われたり、様々な手術があります5。 早期に発見して骨や軟骨の損傷をできるだけ抑えることで、同じ「手術」であっても負担の軽い手術が選択できる可能性があります。 手術後は肘の可動域訓練や、体幹部・下半身などのトレーニングなどを行いつつ、少しずつ競技復帰を目指してリハビリを行っていきます。 手術によっても違いますが、早ければ1か月程度から半年程度での投球練習が可能になることが多いです。主治医の先生の指示に従って、リハビリを行っていきましょう。 野球肘・離断性骨軟骨炎の症状と治療法/まとめ 今回は肘離断性骨軟骨炎の症状と治療についてまとめてみました。 ・野球肘は、9歳から12歳までの投球動作を伴うスポーツをやっている児童に多い疾患である ・症状としては、肘の外側の痛みや肘の動かしにくさを訴えることが多い ・早期に見つかった場合は手術をしなくても改善することが多い ・手術が必要になった場合には、競技復帰までには手術後、半年程度かかることがある 早期発見によって手術が防げる可能性がある病気ですので、子供が「肘が痛い」と言ってきたときに、様子を見ることなく、症状が悪化する前、早めに整形外科に受診させるようにしてください。 大切 お子様の「肘が痛い!」→ 聴き逃さない → 野球肘・肘離断性骨軟骨炎の可能性!→「すぐ整形外科へ」 No.S029 監修:医師 加藤 秀一
2021.12.28 -
- 糖尿病
糖尿病の食事で食べてはいけないもの 糖尿病の食事療法は、血糖値を正常にコントロールしながら、合併症の発症や悪化を防止することが目的になります。 糖尿病だからと、「食べてはいけないもの」というものは特にありません。それよりも、エネルギーや栄養素をバランスよく食事に取り入れることが大切なのです。 ■糖尿病の合併症を防ぐことが重要です 糖尿病は、進行すると様々な合併症を引き起こす恐れがある病気です。「失明の原因となる糖尿病性網膜症」、「人工透析の原因となる糖尿病性腎症」など、日常生活に多大な影響を及ぼす症状が出てしまう人も沢山います。 また、血糖値のコントロールだけでなく、「高血圧や脂質異常症などの動脈硬化の原因となる病気」も糖尿病の悪化に繋がる可能性がありますこのため、糖尿病の治療では血糖値の上昇だけでなく、高血圧や脂質異常症を防ぐために食事のバランスを整える必要があるのです。 ■1日のエネルギー量を見直してみましょう 糖尿病になった人の食事について、まずは1日のエネルギー量が多すぎないか?それとも少なすぎていないか?確かめてみましょう。 手順としては、自分にとっての標準体重(太り過ぎず・やせ過ぎていない最も健康とされる体重)から、1日に必要なエネルギー量を求めていきます。標準体重は次の式に自分の身長をあてはめて計算すれば求めることができます。 BMI 標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22 次に、標準体重に自分の日常生活の身体活動レベルをかけることで自分の適性エネルギー量を求めることができます。身体活動レベルの目安と、適性エネルギー量を求める計算方法は次の通りです。 身体活動レベル デスクワーク、主婦など 25~30×標準体重(kg)=1日の適性エネルギー量(kcal) 立ち仕事が多い 30~35×標準体重(kg)=1日の適性エネルギー量(kcal) 力仕事が多い 35×標準体重(kg)=1日の適性エネルギー量(kcal) 1日の適性エネルギー量は年齢や性別によっても変わってきます。本記事の記載はあくまでも目安の量と考えて、詳しく知りたい場合は主治医、管理栄養士、糖尿病療養指導士に相談しましょう。 ■食物繊維が多い食品を取り入れましょう 糖尿病改善のためには、食物繊維が含まれる食品を多く摂るように心がけましょう。食物繊維には、食後の血糖値上昇を抑え、便通を改善させる効果があります。 さらに、水に溶ける食物繊維(水溶性食物繊維)には、血中コレステロールの上昇を抑える効果があり、糖尿病の治療にとって重要となります。食物繊維の目標は、18~64歳においては、男性は1日21g以上、女性は1日18g以上といわれています。(日本人の食事摂取基準2020年版より) 食物繊維を多く含む食品には、野菜(特に根菜類)、海藻、キノコ、大豆、果物(糖質も多いので食べ過ぎに注意が必要)が挙げられるので、日々の食事に取り入れてみましょう。 また、水に溶ける食物繊維(水溶性食物繊維)を多く含む食品は、カボチャ、オートミール、大根、大豆、キノコ、果物などが挙げられます。 食物繊維の目標(18~64歳) ・男性 1日21g以上 ・女性 女性は1日18g以上 糖尿病改善 ・食物繊維 野菜(特に根菜類)、海藻、キノコ、大豆、果物(糖分の過剰摂取に注意) ・水溶性食物繊維が多い カボチャ、オートミール、大根、大豆、キノコ、果物(糖分の過剰摂取に注意) ▼ 糖尿病に関する再生医療は以下をご覧下さい 自分自身の自ら再生しようとする力を活かした糖尿病の最先端の医療です ■極端な糖質制限はかえって悪影響に 食事の栄養素のうち、血糖値に影響を及ぼすのは炭水化物です。炭水化物には、食後の血糖値を上昇させ、エネルギーとなる糖質と、ほとんど消化されず血糖値の上昇を抑え、エネルギーにならない食物繊維があります。 そのため、血糖値をコントロールするためには、食事中にどれだけ糖質が含まれるかを知っておくのは重要です。しかし、だからといって糖質制限ダイエットや糖質制限食を行うのはお勧めしません。 極端な糖質制限は腎症や動脈硬化に繋がる恐れがあり、逆効果となってしまうためです。糖質を全く食べないのではなく、ご飯やパンを食べる前に食物繊維の多い野菜を食べるなど、糖質を多く食べ過ぎないようにバランスを整える、と考えましょう。 ■塩分のとり過ぎに注意しましょう 高血圧を予防するために、塩分のとり過ぎには注意しましょう。高血圧があると、動脈硬化の原因となり、糖尿病の合併症が進行しやすくなります。 塩分の適正な量として、男性は1日8g未満、女性は1日7g未満といわれています。ただし、高血圧症や腎症がある人の場合は1日6g未満が良いとされているので、気になる人は主治医に相談しましょう。 塩分の多い食品には、肉や魚の加工食品、漬物や佃煮などが挙げられます。なるべく食べないようにメニューを変更するか、少しの量だけ食べるようにしましょう。 塩分摂取目安( 取り過ぎは高血圧 ⇒ 合併症の危険性増 ) ・男性 1日あたり8g未満 ・女性 1日あたり7g未満 ・高血圧症や腎症がある場合 1日あたり6g未満 (男女とも) ■脂質のとり過ぎに注意しましょう 脂質が多過ぎる食事は、脂質異常症を引き起こす恐れがあり、動脈硬化の原因となります。 脂質には、血液中の悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を上昇させる飽和脂肪酸と、逆に悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を下げる不飽和脂肪酸があります。 脂質異常症の予防には、脂質の中でも飽和脂肪酸の多い食品を控えめにし、不飽和脂肪酸の多い食品に置き換えをすることが重要になります。飽和脂肪酸の多い食品には肉、卵、チーズなどが挙げられます。 不飽和脂肪酸は魚や大豆に多く含まれています。(EPAやDHAもこれにあたります。)肉料理中心の食生活になっている人は、魚や大豆のメニューを取り入れてみましょう。 ■糖尿病の食事で食べてはいけないもの/まとめ 糖尿病の食事においては、エネルギー量の見直しを行い、食物繊維を多くとるように心がけましょう。また、塩分、脂質をとり過ぎないようにして動脈硬化を防止するのも大切です。 急激な食事制限はかえって糖尿病の進行を悪化させる可能性があるので、あくまでバランスのとれた食事をする、と考えるようにしていきましょう。 また、本記事の内容はあくまでも目安となるものです。既に糖尿病の合併症がある人は症状によって適正な栄養素の量が変わってきますので、必ず主治医に相談するようにしてください。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 ▼こちらもご覧ください 糖尿病にならない生活/運動を習慣化しよう 糖尿病にならない生活/食生活を点検しよう No.S028 監修:医師 加藤 秀一 ▼ 糖尿病に関する再生医療は以下をご覧下さい 自分自身の自ら再生しようとする力を活かした糖尿病の最先端の医療です
2021.12.24 -
- ひざ
人工膝関節|手術後、生活をする上での注意点 一般的に、膝関節という部分は大腿骨と脛骨、そして膝の前方に位置する膝蓋骨(おさらの骨)で構成されており、人体の中で最も大きな関節と考えられています。 膝関節は日常生活において基本動作となる歩行や、立ち座りなどの行動時に非常に重要な役割を担っている部位の一つです。 年齢を重ねるにつれて膝関節の関節軟骨がすり減ることで発症する変形性膝関節症や、一種の自己免疫疾患によってひざ関節を含む全身の関節が病変と化す関節リウマチなどの治療に対して、最終的な治療として人工膝関節手術が考慮されます。 今回は、そのような人工膝関節手術の具体的内容、そして術後における生活上の注意点について解説していきます。 人工膝関節手術について 昨今、日本において、85歳以上の高齢者は増加の一途をたどっており、人生における生活の質の向上、健康寿命の延長を求めて。これら高齢者に対する人工膝関節置換術の件数が増加すると考えられています。 人工膝関節手術では、術中に損傷した軟骨や、骨組織を人工膝関節の形状に即して薄く削っていき、金属セラミックやポリエチレンで合成された人工関節を患部に対して主にセメントで固定するという手術が計画されます。 我が国における人工膝関節の手術件数は年々増加しており、この10年で約2倍にも増えている背景には、手術療法が確立されたこと、そして、膝の疼痛症状を緩和させる効果が高く、同時に膝関節の変形を矯正することができる安定した手術が確立されてきたことが挙げられます。 次に、人工膝関節を耐久性という観点からみると、それぞれ個々の生活によって変化はするものの、およそ10~15年間ほどあるのですが、逆を返すとその期間しか持たないという言い方もできるため、耐久年数を過ぎた場合は、「再手術を覚悟」しなければならない点に注意が必要です。 人工関節の手術を考えるなら、現在の年齢から計算して再手術の可能性のある年齢を念頭に置いておくことが大切です。 人工膝関節手術後の生活上の注意点 人工膝関節置換術に伴う危険性や予測される合併症について、人工関節周囲は血流が乏しいがゆえに術後に人工物感染を起こさせないために、手術に際しては徹底した感染予防策が講じられます。 合併症の危険性 人工関節のゆるみ 合併症の危険症と怖さ 人工膝関節全置換手術を受けた患者さんは、術後に下肢の腫脹が必発して、その後の身体機能に大きく影響を与える可能性が示唆されています。そのため、人工関節術後には足先を積極的に動かすことが重要な注意点となります。 これについて通常では、どんな手術を受けるにしても人間の身体は出血に対する自然な自己防御反応として血液が固まりやすい状態になるのですが、さらに手術中はもちろん、術後においては、下肢自体を動かすことが制限されるため、血流が健常時よりも停滞し、静脈内に「血栓」と呼ばれる血液のかたまりが形成されるようになります。 この「血栓成分」が何かの拍子に剥がれ落ち、血栓が血流に乗って肺の血管に詰まることで重大な合併症である肺塞栓症を発症する恐れがあるのです。 したがって、術前検査で下肢の血流状態を予め調べておき、術中及び術後に血栓予防のストッキングや、空気ポンプを装着することで合併症を予防して、場合によっては血栓予防に有効とされている薬剤を服用することが必要になります。 術後に人工膝関節が緩むケースがある 人工関節が緩む一番の原因は、肥満で体重過多であるために関節部に大きな負担がかかることで引き起こされることがあります。また、肥満が原因ではなく、スポーツをはじめとした過度な動きを重ねることで緩むこともあります。 このように変形性膝関節症の原因そのものに肥満体形が大きく関連していため、術後においては、適正体重を維持するよう努めなければなりません。特に肥満気味の方は、ダイエットなど減量を意識するよう心がけましょう。 減量は、普段から食事におけるカロリー制限や、プールの中をゆっくりと歩くなど定期的な運動生活を送るといった、食事と運動のバランスが重要です。 そして、普段の日常生活においては膝の屈曲運動を必要とする和式トイレでは無く、出来るだけ洋式トイレを使用するなど、人工関節に可能な限り負担をかけないよう心掛けましょう。 また、テニスやジョギング、スキーやサッカー、さらにはバスケットボールやバレーボールなど激しく膝関節を屈曲伸展する必要性が高い運動によって人工関節が摩耗して破損することもありますので極力注意し、無理は禁物、過度なプレーや、取り組みは避けるように注意してください。 また、人工関節術後の経過が概ね良好で無事に退院できた後には、医師の指示を守り、定期的なレントゲン検査や血液検査で人工関節物に異常がないこと、あるいは人工関節の緩みの有無を確認するよう努めましょう。 人工膝関節|手術後の生活上の注意点/まとめ 人工膝関節置換術とは、ひざ痛などを引き起こす変形性膝関節症や関節リウマチなどの疾患により変形した膝関節表面を除去して人工関節物に置き換える手術のことを指しています。 昨今では、比較的高齢者でも健康意識が高く、日常的に運動している方が多くなっていますので、個々の年齢のみならずそれぞれの方の生活環境や行動パターンなども考慮して適切な治療方法を選択すべき時代になっています。 人工膝関節置換術後も膝関節に負担の少ない散歩や短い距離でのハイキング、そしてゴルフやゲートボールなどのスポーツなら苦になりませんが、激しい運動はもちろん、走る動作が基本であるジョギングなどは人工関節物に荷重がかかるため、極力控えるようにしましょう。 さらに、日常生活や、スポーツで特に気を付けるべきポイントは「転倒などによる外傷を避ける」ことです。人工関節そのものには問題が起きなくても激しい衝撃によって患部周囲で骨折がおこってしまう可能性があるからです。 人工関節は、長期に長持ちさせることが重要な視点であり、術後に疼痛に悩まされない快適な暮らしを満喫するためにも、無理をせずに出来る限り膝関節に負担をかけることのないような生活を心がけましょう。 以上のような面から人工関節そのものを避けたい。手術をしたくないという方もおられます。そのような場合は、再生医療という新しい治療法が用いられることも多くなってきました。 再生医療は、手術をしないばかりか、日帰りで治療ができてしまうという、これまでとは全く違う方法です。興味のある方はお問い合わせください。 今回の記事の情報が少しでも参考になれば幸いです。 ▼ 再生医療で変形性膝関節症を治療する 変形性膝関節症は、再生医療により手術せずに症状を改善することができます No.S026 監修:医師 加藤 秀一
2021.12.23 -
- 頚椎椎間板ヘルニア
- 首
頸椎椎間板ヘルニアと術後の「しびれ」について 頸椎椎間板ヘルニアとは 腰の椎間板ヘルニアは腰痛の原因として有名ですが、首の痛みには「頸椎椎間板ヘルニア」といわれるものがあります 背骨(脊椎)のうち、首の部分を頸椎と言い、7つの骨からなります。この骨と骨とをつなぐクッションの役割をしている軟骨、座布団のような役割をしているものが「椎間板」といいます。 脊椎の中は脊髄が中心を走り、そこから手足への重要な神経の枝がたくさん出ています。 この椎間板が動くことで首を曲げたり、回すなどの動作ができる訳です。しかし、椎間板に何らかの衝撃が加わるなどすると中にある髄核と言われる組織が本来あるべき位置から外に飛び出してうことを椎間板ヘルニアと呼びます。 一般的に椎間板ヘルニアは、体の後ろ、背中側に向けて飛びだします。 困ったことに飛び出した先にあるのが脊髄という神経の束になり、本来の位置から飛び出してた髄核が脊髄を抑え込んで(圧迫して)しまうことになり、痛みや、しびれなどの症状となるわけです。 首の痛みの原因は大きく二つ、「筋肉や関節からくる肩こりや、寝違えの痛み」そして、「神経の痛みとして多いのが頸椎椎間板ヘルニア」です。 頚椎椎間板ヘルニアの原因 頚椎椎間板ヘルニアは30~50歳代によく見られますので、加齢だけが原因とはいえません。むち打ちなどの交通事故がきっかけだったり、高所での作業中に落ちたり、鉄棒から落ちるなど、交通外傷、転落外傷により脊髄を損傷してヘルニアになる事例があります。 また若い世代ではスポーツで首に負荷がかかる姿勢をとったり、普段あまり使っていない筋肉を鍛えようと運動を急にした時に、突然手足がしびれて力が入りにくくなった、という方がおられます。 頸椎椎間板ヘルニアの診断方法 患者さんの痛み・痺れがどこ領域に出ているか、それらがいつからあるかなどを診察します。次にMRI検査を行い、ヘルニアがどこで起こっているか、神経の圧迫されている場所を確認します。 MRIは磁場で撮影しますので、CTと違って被曝の心配はありませんが、1時間程度かかる検査ですので、その間は安静を保つ必要があります。また体内の金属が磁場に反応して発熱しますので、刺青があると火傷する可能性があるので、できません。またステントや人工骨頭などの金属が入っている方は事前の確認が必要です。 頸椎椎間板ヘルニアの治療方法とは 頸椎椎間板ヘルニアにより神経の機能が障害されますので、頸椎椎間板ヘルニアの治療は、脊髄、神経を圧迫している椎間板部分を除去することが基本で、時には頸椎がぐらぐらして不安定な場合は、神経を圧迫しないよう椎骨を固定することも検討します。 ただ、障害されていた期間が長いほど、また年齢が上がるほど、神経機能が回復する可能性が下がります。そのため、治療の目的は神経を障害するものを除去し、本来の機能を回復する手助けをすること、と言えます。 神経の痛みは手術後に軽減しますが、しびれは改善しにくいことが多いです。また症状が残る人の方が多いようです。 頸椎椎間板ヘルニアの手術後の「しびれ」について 体の中の組織のうち、神経組織は回復に最も時間がかかります。たとえば、皮膚は縫合すれば1−2週間程度でくっつきますし、骨折はギブスをあてがったり、金属プレートで骨どうしを固定することにより、およそ3〜4か月程度でくっつきます。 しかし、神経組織の回復は、それよりもさらに時間がかかります。月単位でゆっくりと回復を見せ、手術後1年くらいまでは、何らかの改善がみられます。 さらに、手術前に神経がどのくらいのダメージを受けていたか、という問題もあります。「交通事故の後遺症で・・・」という話を聞くこともあります。椎間板ヘルニアにも除去して回復できるダメージと、回復できないダメージがあります。 これはヘルニアを除去する前では経験に基づいた話はできますが、正確な予測がしにくい部分であり、手術をしてみないとわかりません。 頸椎椎間板ヘルニアの手術後の「しびれ」は、手術自体が神経そのものを治療するものではなく、圧迫状態にあった神経を圧迫から解放することが目的となるため、長期期間、圧迫状態にあった神経が変化、変性している可能性があり、手術で圧迫を取り除いたとしても神経の障害が治らず残ってしまうために「しびれ」が残ることがあります。 手術は慎重に 首は体の中でも非常に大切な部位です。治療にあたっては専門医を受診しましょう。 そして、大切なのは、自分の状態がどのような重症度なのか、そして検討されている手術により、どれくらい回復が見込まれ、手術そのものの危険性はどれくらいあるのか、ということを主治医からしっかり聞いて、納得してから手術を受けようにしてください。 わからない点や疑問点については主治医にたずねてしっかり理解するよういたしましょう。 どの診療科に行けばいいのか 首や肩まわりなどの筋肉・関節の痛みというと、整形外科を想像される方が多いかと思います。ここ20~30年くらいで、日本でも繊細な手術を得意とする「脳神経外科医」が頸椎椎間板ヘルニア手術を行うようになってきました。 「脊髄外科学会」という脊椎や脊髄の手術を扱う医師の学会では、脳神経外科専門医でかつ脊髄外科を専門とする医師が多くおられます。 また最近では整形外科医も顕微鏡を使って血管吻合など繊細な手術を行うようになりました。そのため、脊椎や脊髄の手術は、脳神経外科と整形外科のどちらでも高度なレベルで行われるようになってきました。 脊椎や脊髄の手術に力を入れている専門医がいる病院であれば、脳神経外科と整形外科、どちらでも安心して受診してください。 その他、新しい治療方法として再生医療とういう医療分野での治療方法もあります。これはここで書いたような従来の診療科目とはまったく異なる新たな選択肢になります。 そのため、整形外科や脳神経外科(脊髄外来)では対応できません。通常の医師では再生医療に対する知見がまだまだ乏しいのが本当のところだからです。この分野は、確かな経験と実績を持った再生医療専門医がいるクリニックや医院を探してお尋ねください。 No.S025 監修:医師 加藤 秀一
2021.12.23 -
- 脳卒中
- 脳梗塞
脳卒中の症状と症状別治療法 厚生労働省によると、脳卒中は、2018年の1年間における死因別死亡総数のうち、脳血管疾患は10万8,186人で全体の7.9%を占め、死因の上位から4番目という結果となっています。 その翌年、2019年においても、10万6,552人で全体の7.7%となり、こちらも2018年同様に死因の上位から4番目という結果になっています。 脳血管疾患で亡くなった方のうち、60%にあたるおよそ7万人の方が脳梗塞で亡くなっており、一命を取り留めたとしても、後遺症である麻痺が残り、寝たきりになってしまう場合も少なくない怖い病気です。 しかし以前、1950年頃より約30年間、脳卒中は日本人の死因の第1位でした。 少しではあるものの順位が下がったのは、1960年頃より脳卒中発症において最大のリスク原因である高血圧に対する治療が広く行われるようになり、脳卒中の発症を一定以上抑制することが可能になったからです。 また、脳梗塞の発症直後に閉塞した血管を再開通させ、神経細胞死を防止する血栓溶解薬(t-PA)が日本でも認可(2005年)され、さらにカテーテルで脳血管を閉塞している血栓を除去する血管内治療も認可(2010年)されるなど、脳卒中直後の超急性期において神経細胞死を防ぐ治療法も進歩してきました。 脳卒中の症状を見つけたら即病院を受診 脳卒中は、早期に診断、早期から治療を開始することで「後遺症が軽くなる可能性」があります。 治療を行うには検査が必要となり、その検査に1時間程度必要ですので症状を発見したら早急!遅くとも2時間以内を目処に速やかに病院で受診すべきです。この時間が症状を左右する可能性があります。 病院ではまず、問診、診察、採血、胸部レントゲン、心電図、頭部CT、頭部MRI、頸動脈エコー、心エコーなどの検査を行います。検査の結果、脳卒中と診断されると次は治療に移ります。 脳卒中の中でも「脳出血」、「くも膜下出血」、「脳梗塞」など各症状別に治療法は少し異なり、点滴や飲み薬による脳血流改善、血栓をできにくくする抗凝固療法や抗血小板療法、脳梗塞後に脳内で発生する活性酸素などの有害な物質を除去して、脳の障害を予防する脳保護薬の使用などがメインで行われます。 また、血圧、体温、脈拍などの全身状態の管理も行い、併せて日常生活動作の改善を目的としてリハビリも行います。 脳卒中の症状別、治療法 【脳出血】 高血圧が脳出血の原因になることが多いので、降圧薬(血圧を下げる)を投与します。また、出血を止めるために止血剤を使用されることもあります。 さらに、出血によって脳が圧迫されるので、浮腫をとるための薬剤(抗浮腫剤)も投与します。また出血量が多い場合には、命にかかわる事もあるので、開頭手術によって血のかたまりを取り除く手術を行うこともあります。 【くも膜下出血】 脳の血管にできた「こぶ」が破裂して出血するので、破裂した部位をふさぐ手術をします。手術の方法は2通りあります。 ■開頭クリッピング術 頭の骨をはずして、「こぶ」の根元を洗濯ばさみのような道具(クリップ)ではさんでふさぎます。 ■血管内コイル塞栓術(動脈瘤塞栓術) 「こぶ」の中にコイルと呼ばれる細い金属をいれて「こぶ」全体をふさいでしまいます。カテーテルという細いストローのような道具を使って血管を通し、「こぶ」までコイルを運ぶので、開頭手術をすることはありません。 【脳梗塞】 脳梗塞は、脳の血管の動脈硬化が起きた部位に形成された血栓、あるいは心臓で出来た血栓によって脳の血管が詰まり脳が壊死してしまうものです。 脳梗塞がおこってから4.5時間くらいまでを超急性期といい、この時間内に詰まった血管を再開通させることができると、劇的に症状が改善する可能性があります。 脳梗塞がおこってから48時間以内であれば、血が固まるのを抑制する抗凝固薬を投与します。 脳梗塞の急性期のみに施行される治療には「t-PA」という点滴や、血管内治療などがあります。これらの治療を受けるには、発症してからの経過時間をはじめ、さまざまな条件があります。 それらをクリアする必要があり、そのため脳梗塞で病院に来られた方の2~5% (100人中で2~5人)程度しか、この治療は行われていません。 さらに、ルールを守って使っても 6%(100人に6人)程度の確率で症状が悪化するような脳出血を生じます。 うまくいけば劇的に症状が改善する一方で、効果が期待できなかったり、症状が悪化したりする可能性がある治療法であることを知っておいていただければと思います。 ■t-PA:組織型プラスミノゲン・アクティベーター (tissue-type plasminogen activator:t-PA) こちらの薬を点滴して血栓を溶かし、脳の血流を再開させます。t-PAを使用することで、3ヶ月後に自立した生活を送れる患者さんが、使用しなかった時と比べて約50%増加するとされています。 脳梗塞により脳神経細胞が死に至る経過は早く、適切なタイミングを逃すと、出血などの合併症で逆に症状が悪化する危険があります。基本的には発症してから4.5時間以内に治療が開始できる患者さんに限り、治療の対象となります。 (t-PAは2005年10月から日本で認可され、発症後3時間以内の患者さんを対象に使用されていましたが、2012年9月より対象となる治療間が4.5時間に延長されています。) ■血管内治療 脳梗塞の血管内治療は、発症してから8時間以内の患者さんが対象となる治療です。 細いビニールの管(カテーテル)を足の血管から挿入して、脳の血管へ進めて、血管の詰まりの原因となっている血栓を溶解したり、回収したりして、閉塞した脳血管を再度開通させます。 具体的な方法として、カテーテルを閉塞した血管に導入し、血栓溶解剤(ウロキナーゼ)を投与する方法、バルーンを閉塞した血管に留置し血栓を破壊する方法。 また、メルシーリトリーバーという、先端がらせん状になっている柔らかいワイヤーで、脳の血管をつめている血栓をからめとって回収する方法。 ペナンブラという血栓を吸引する器具で、まるで掃除機のように血栓を吸引し回収する方法(柔らかい血栓も回収することが可能)などがあります。 ■t-PA療法の注意点 問題点としては、t-PA療法の適応対象となる時間「4.5時間」が強調されるあまり、「4.5時間を過ぎた場合は治療してもあまり意味がない」と誤解されることが多く、専門病院への受診を躊躇されるケースもみられます。 また発症時刻がはっきりとわからない場合では、発見から早急に病院へ搬送してもt-PA療法の適応とならないことがありました。しかし2019年3月より、頭部MRI検査で「発症からあまり経過していない可能性が高い」という所見がみられる場合には、t-PA療法を検討できるようになりました。 そして、脳卒中専門の病棟であるSCU(脳卒中ケアユニット)で従来使用される薬を用いた治療や急性期のリハビリテーションを積極的に行うことで、発症後4.5時間を過ぎて来院された患者さんでも良い治療効果が現れることも少なくないので時間にかかわらず専門施設でしっかりとした初期治療を始めることが重要です。 脳梗塞の再発予防 一度脳梗塞を起こすと再発しやすい傾向があり注意が必要です。統計的には脳梗塞発症後1年で10%、5年で35%、10年で50%もの人が再発しています。 そこで、脳卒中の再発を予防するには、まず生活習慣の改善を行うことです。脳卒中の危険因子とされている高血圧や喫煙、多量の飲酒、糖尿病、肥満、運動不足などは脳卒中の発症の危険性が高まります。 医師、薬剤師、栄養士など専門職の指導に従い、規則正しい生活や禁煙、減塩や減量に取り組みましょう。 また再発予防として、抗血栓薬を処方されることがあります。脳卒中の原因によって処方される薬剤は違い、心臓が原因で発症した心原性脳塞栓症には抗凝固薬が、心臓以外の原因(血管由来)の非心原性脳梗塞には抗血小板薬が使用されます。 【再発予防①~危険因子のコントロール~】 脳卒中の危険因子は、再発の危険因子でもあります。過去に一度脳卒中を発症しているということは、すでに危険因子があるということなので、十分注意をしましょう。 脳卒中の危険因子は、高血圧、糖尿病、脂質異常症、多量飲酒、肥満、喫煙、運動不足などです。これらを予防し、さらにコントロールしていくことが再発予防につながりますので、以下のようなことを心がけましょう。 禁煙 文字通りタバコを止めましょう 塩分の取り過ぎを控える 成人男性8g未満、女性7g未満で高血圧患者では6g未満 減量 標準体重を知ってダイエットを行う 食事に気を付ける 毎日5種類以上の野菜(350g/日以上)、魚、果物の摂取 減塩、低カロリー、低コレステロール入浴 節酒 アルコール換算20g程度(日本酒1合程度)に抑える 既往症に注意する 高血圧、脂質異常症、糖尿病、心臓病などがある場合には適切に治療する 運動 適度な運動を行う、ストレスや疲労をやめない 定期健診 定期的に健診を受け、血圧、コレステロール、中性脂肪、血糖などをチェックする 水分を取る 脱水症状にも注意 【再発予防②~定期的な検査~】 脳梗塞が治まった後も年に1回程度専門病院へ行き、検査を受けることが重要です。CT、MRIの他に頸部の血管を検査する頚動脈エコーも脳梗塞再発予防には有用です。 【再発予防③~服薬継続~】 再発予防のためには、処方された薬をきちんと服用することも大切です。主治医の指示に従って、正しく継続して服用しましょう。なお、服用中に副作用が現れるなど気になることがある場合は、すぐに相談しましょう。 まとめ・脳卒中の症状と症状別治療法 脳卒中の治療には、手術・点滴・内服薬などがあります。 これらの中で内服薬な自分で管理をする必要があります。ところが、処方された量を決められた日数できちんと飲みきる人は意外と多くありません。実際のところ、薬を飲み残してしまう理由の大半は単なる飲み忘れです。 服薬カレンダーの使用や一包化するといった工夫で、その時間帯に服用すべきお薬を選ぶのは容易ですが、定刻に服薬することを思い出すことは、高齢者にとっては難しい面もあります。 定刻に服薬することを思い出すためには、お知らせ機能付きのピルケースやスマートフォン・携帯を利用してアラームや通知を設定し、飲み忘れを防ぎましょう。 以上、脳卒中の症状と症状別の治療法について記しました。参考にしていただければ幸いです。 No.S024 監修:医師 加藤 秀一 ▼脳卒中の後遺症|脳卒中の最新、幹細胞治療は、以下をご覧下さい 再生医療は、脳卒中の先端治療法として脚光を浴びています
2021.12.21 -
- 脳卒中
脳卒中のリハビリで予後予測は非常に重要です 脳卒中のリハビリテーションの予後に関する予測について「予後」とは、病の経過や、結果に関する見通しを指します。 今回は、脳卒中についてリハビリ後の医学的な見通しについて、病気の進行具合や,治療に対する効果,そして今後の改善の見込みを予測するということの重要性を記させていただきます。 脳卒中の予後予測をすることは、必要だと分かっているけど、いつ、どんな時に、どのようにすればいいか分からない方が多いのではないでしょうか。 まず、予後予測を立てることによって、リハビリの内容や、進め方といった治療内容などを修正をしながら進めることができます。 しかし、予後予測をせずにリハビリを続けていくと、果たしてその治療法が合っているのか、効果的であるのかどうか、今後の軌道修正が必要なのかさえもわからなくなります。 例えば予後予測を立てずにリハビリを行うというのは、目的地を決めずにドライブをしているようなものです。それでは最短の道順を決められず、だらだら寄り道をしながら進むことになるため、どこへ到着するのか、それさえも分かりません。 つまり、リハビリにおいては予後予測をして「目的地」を決めることこそが何よりも大切だということです。 リハビリにおいて予後予測をすることが大切とされている理由として、目標を共有することで治療内容を吟味することができ、病棟での対応の統一化、退院際の検討があげられるからです。 リハビリは、生活そのものを対象に行う リハビリは、一人で行うわけではなく、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医師、看護師、ソーシャルワーカーなど様々な職種がチームとして情報共有しながら関わるべきです。 仮にトイレ動作の確立を目標にした場合、 リハビリでの練習だけでなく、病棟で看護師にもリハビリと同じやり方でできるように動作方法を伝えておくことで、入院中の生活においても自然と練習ができるようになります。 そして、患者さんごとに予後予測をたてて、治療を進めますが、「2か月後には自立歩行」できると予測したとして、達成することができていれば、そのリハビリは正解であったということになります。 その場合、たとえ目標が達成できなかったとしても「脳画像の解読が不十分だった」のか、「治療内容が適切でなかった」のか、「既往歴の影響があった」のか、「認知面の影響で学習が阻害されていた」のか、などの点を振り返ることが必要です。 もし、その患者さんに関わる期間がまだ残っているのであれば、再度、予測をたて直すことで治療内容を改善することが可能です。またリハビリが終了してしまったのであれば、今後の自分の成長につなげることもできるでしょう。 入院中にリハビリで介入している時間は、回復期病棟の場合でも最大で3時間であり、それ以外の時間は病棟で過ごすことになってしまうため、病棟での生活にもおいても「起き上がり」、「靴の脱ぎ、履き」、「車椅子のこぎ方」、「更衣の仕方」、「トイレでの動作」などをリハビリの一貫として取り組むことが改善の早道になることは言うまでもありません。 具体的には、片麻痺の患者さんであれば患側(麻痺側)から足をズボンに通すなどの順番があるため、定着できるように病棟で指導したり、部屋に手順を記した紙を貼って普段から意識できるようにすることが大切です。 予後予測の大切さ また、予後予測をして今後は、独歩での歩行が可能になると予測できれば、あえて車椅子の片手片足駆動のやり方や、ブレーキ、フットレストの管理に関する指導は形程度で済ませ、それよりは病棟に頼んでリハビリの時間以外に看護師さんと歩くための練習時間をつくるなどの対応を求めるべきでしょう。 このときに「今後、歩く見込みがないならやる必要ない」と指摘されないためにも予後予測が必要という訳です。 また、今後の方針を決める場合に「リハビリの経過をみて決めていきましょう」という内容で家族と話すことが多いのではないでしょうか。 この場合、1ヶ月程度リハビリをしてみて、回復度合いなどから考慮して予後予測ができればいいですが、2~3ヶ月たっても見通しがつかないとなるとなかなか退院時期をはっきりすることができません。 もしも自宅への退院が難しい場合、家族は受入施設を探す必要があります。その際、いくつかの施設を見学して決めることになると思うのですが、実施のところ一日で全部の見学が終わるわけではなく、検討する時間も必要になります。 自宅への退院だとしても、自宅での環境の調整が不可欠、サービスの調整も必要となると意外と時間がかかります。反対に予後予測ができていれば、これらの退院の調整や準備をじっくりすることが可能です。 これら色々な事柄について予後予測が大切になってまいります。 脳卒中治療ガイドライン予後予測の必要性が書かれています。 1.リハビリテーションプログラムを実施する際、日常生活動作(ADL)、機能障害、患者属性、併存疾患、社会的背景などをもとに機能予後、在院日数、転帰先を予測し参考にすることが勧められる(グレードB)。 2.既に検証の行われている予測手段を用いることが望ましく、その予測精度、適用の限界を理解しながら使用すべきである(グレードB)。 引用文献:脳卒中ガイドライン2009 一般的に脳卒中には「6ヵ月の壁」といわれるものが存在します。発症から6ヵ月を過ぎると、脳自体が回復しなくなり、症状や機能も一定になるといわれており、これを「プラトー」といいます。 脳卒中には様々な症状があるので、一つの予後予測だけだと精度は不十分です。現在、運動機能、脳画像、FIM(機能的自立度評価法)、年齢からなど様々な方法が開発され、いろんな角度から予後予測することができるようになりました。 二木の早期自立度予測基準 臨床的で簡易に評価ができ、精度も高く、日本で最も使用されている予後予測法に「二木の早期自立度予測基準」があります。 発症時期に合わせて、①入院時の予測、②発症2週時での予測、③発症1ヵ月時での予測、の3つにわけられ、それぞれの時期によって使い分ける必要があります。 ①入院時の予測 入院時のADL能力 歩行能力予測 ベット上生活自立(※1) 歩行自立(大部分が屋外歩行可能で、かつ1か月以内に屋内歩行自立) 基礎的ADL(※2)のうち2項目目以上実行 歩行自立(その大部分が屋外歩行かつ、大部分が2か月以内に歩行自立) 運動障害軽度(※3) 発症前の自立度が屋内歩行以下かつ運動障害重度(※4)かつ60歳以上 自立歩行不能(大部分が全介助) Ⅱ桁以上の意識障害かつ運動障害重度(※4)かつ70歳以上 ※1:介助なしでベッド上の起坐・座位保持が可能 ※2:基礎的ADL・・・食事、尿意の訴え、寝返り ※3:Brunnstorm stage4以上(麻痺側下肢伸展挙上可能) ※4:Brunnstorm stage3以下(麻痺側下肢伸展挙上不能) ②発症2週時での予測 発症2週時でののADL 歩行能力予測 ベット上生活自立(※1) 歩行自立(かつその大部分が屋外歩行、かつ大部分が2か月以内に歩行自立) 基礎的ADL(※2)3項とも介助かつ、60歳以上 自立歩行不能(かつ、大部分が全介助) Ⅱ桁以上の遷延性意識障害、重度の認知症、夜間せん妄を伴った中程度の認知症があり、かつ60歳以上 ※1:介助なしでベッド上での起坐・座位保持が可能 ※2:基礎的ADL:食事、尿意の訴え、寝返り ③発症1ヵ月時の予測 発症1か月でののADL 歩行能力予測 ベット上生活自立(※1) 歩行自立(かつその大部分が屋外歩行、かつ大部分が3か月以内に歩行自立) 基礎的ADL(※2)の実行が1項目以下かつ、60歳以上 自立歩行不能(かつ、大部分が全介助) Ⅱ桁以上の遷延性意識障害、重度の認知症、両側障害、高度心疾患などがり、かつ60歳以上 ※1:介助なしでベッド上での起坐・座位保持が可能 ※2:基礎的ADL:食事、尿意の訴え、寝返り ④入院1ヵ月時に予測不能なケース ・全介助で59歳以下 ・全介助60歳以上だが、遷延性意識障害・認知症・両側障害・高度の心疾患を有さず、しかも基礎的ADLを3項目中2項目以上実行可能 損傷部位と予後 予後に与える影響は、脳の損傷した部位と大きさによって異なります。そしてそれは脳の損傷部位と大きさなどから、3項目に分類されます。 1.小さい病巣でも運動予後の不良な部位 ・放線冠(中大脳動脈穿通枝領域)の梗塞 ・内包後脚 ・脳幹(中脳・橋・延髄前方病巣) ・視床(後外側の病巣で深部関節位置覚脱失のもの) 2.病巣の大きさと比例して運動予後がおおよそ決まるもの ・被殻出血 ・視床出血 ・前頭葉皮質下出血 ・中大脳動脈前方氏を含む梗塞 ・前大脳動脈領域の梗塞 3.大きい病巣でも運動予後が良好なもの ・前頭葉前方の梗塞・皮質下出血 ・中大脳動脈後方の梗塞 ・後大脳動脈領域の梗塞 ・頭頂葉後方~後頭葉、側頭葉の皮質下出血 ・小脳半球に原曲した片側性の梗塞・出血 運動機能の予後は、放線冠、内包後脚など錐体路を含んでいれば、例え小さな梗塞でも予後不良といわれており、小脳出血や小脳梗塞では、良好な改善がみられる場合があるので、初期症状からは、予後予測の判断が難しいとされています。 脳卒中における予後予測の中でも歩行自立度に関しては理解力、学習能力があれば弛緩性完全麻痺の場合などを除き、ある程度の歩行自立は可能だと考えられています。そのため、理解力や学習能力の判断が重要になります. その他にも、発症後の機能をもとにした予後予測の方法があり、 ①脳卒中を発症して初日~3日で症状が安定しているとき ・背もたれがなければ座れない:車椅子レベル ・背もたれがなくても座れる:立位、装具と杖を使用して伝い歩きレベル ・手すりを持って立てる:装具と杖を使用して歩行可能 ・手すりを持たないでも立てる:杖歩行or杖なし歩行 ②脳卒中の発症7日後で下肢のブルンストローム(Brunnstorm Stage)を指標にしたもの ・Stage1:車椅子レベル ・Stage2:立位、装具と杖を使用して伝い歩きレベル ・Stage3:装具と杖を使用して歩行可能 ・Stage4:杖歩行or杖なし歩行 これらはあくまで発症後の機能をもとにしたものであるため、脳出血では脳内の血腫の吸収度合にもよっても予後予測は変わってきますし、運動麻痺では放線冠や内包にかかっているかどうかも重要な要素になってきます。 よって、これは参考程度の簡単な予後予測であることを理解しておきたいものです。 脳卒中|再生医療の可能性 ここまで脳卒中のリハビリに関する予後予測に関するご説明をしてまいりました。最後に、再生医療という先端治療の可能性についてお話いたします。 まだまだ一般的ではない治療法なのですが、症状を改善させる期待を持てる方法です。これまで一度死んだ脳細胞は戻らないとされてきました。しかし、再生医療の手法なら一度機能しなくなった脳細胞が復活し、後遺症を改善できることがわかってたからです。 もともと我々の身体にある「幹細胞」は神経、血管、骨、軟骨などに変化することがわかっています。その幹細胞を培養して数を増やし、いろいろな組織に変化する性質を利用して脳細胞を再生させるのです。 今では脳血管障害の再生医療の研究が進み、安全性が高く効果があると認められ、世界でも注目されている治療法となっています。 ▼ 脳卒中、再生医療の可能性はこちら 再生医療で脳卒中の予後を改善する先端治療法いついて 脳卒中|リハビリについての予後予測/まとめ リハビリでの目標を設定するには、予後予測が必ず必要です。しかし予後予測を行い「歩行自立は困難」という結果になったとしても、諦めるべきではありません。 予後予測の精度は高くてもそれはあくまで予測でしかなく、予後予測通りに目標を設定し、治療プログラムを進めたとしても、それ以上の結果は得られることは難しいこともあります。 なので、目標設定をする際は予後予測よりも、少し上、場合によってはさらに上を目指すことが大切です。これくらいが現実的かな、という冷静な考え方も必要ですが、絶対に諦めないという医療従事者としての強い想いも必要だと思います。 また、新たな可能性として再生医療という先端治療があることも解説させて頂きました。 No.S023 監修:医師 加藤 秀一
2021.12.21