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「仙腸関節のつらい痛みはどこで治療を受ければ良い?」 「仙腸関節炎の腰痛を治すためにできるセルフケアはある?」 仙腸関節は体重や外からの衝撃を常に受けるため、日常生活の中で不具合が起きやすい関節です。 仙腸関節炎の症状がでた場合は、適切な治療や自宅で行える予防策に取りくむ必要があります。 この記事では仙腸関節炎と診断されたときの治療法や、セルフケアの重要性をお話します。 ぜひこの記事を読んで仙腸関節炎の知識と症状を治す方法を知り、日ごろの腰痛改善につなげてください。 仙腸関節炎(仙腸関節炎障害)とは? 仙腸関節炎とは上半身と脚をつなぐ仙腸関節に余計な負担がかかり、不具合が生じて腰まわりに痛みが生じることをいいます。 仙腸関節は骨盤の中心にある仙骨と、その左右にある腸骨とのつなぎ目に存在する動く幅の小さい関節です。 上半身の重さや地面からの衝撃を常に受けているため、いつもとちがう動きや長時間の同じ姿勢などで負荷がかかり、緩みや硬さが生じやすくなります。 仙腸関節の緩みや硬さが生じると、関節を支えている靭帯や筋肉の緊張も高まるため、周辺の痛みにつながります。 仙腸関節炎は女性の出産後に多くみられますが、年齢や性別関係なく腰痛の原因になるともいわれています。 日常的に起こりやすい疾患であるため、正しい治療法や対策を知って症状の緩和や予防をすることが大切です。 仙腸関節炎(仙腸関節炎障害)の治し方とセルフケア 仙腸関節炎は、痛みや不快感が生活の質に影響を与えるため、適切な治療とセルフケアが大切です。 この章では、仙腸関節炎を和らげるための治療法と、自宅でできるケアについて詳しく紹介します。 専門的な治療から、日々の生活で取り入れられるセルフケアの方法まで、幅広くカバーしていますので、自分に合った対策を見つけて、仙腸関節炎の症状を軽減させ、日常生活をより快適に過ごしましょう。 リハビリテーションと物理療法 リハビリテーションや物理療法は仙腸関節炎の症状を緩和させる最もポピュラーな方法です。 痛みのある部位に対して運動療法や電気治療などを行うことにより、症状を和らげる効果が期待できます。 また、痛みが生じる根本にもアプローチすることで、腰痛を治すだけでなく再発の予防や日常生活の復帰も期待できます。 とくに仙腸関節炎による症状を繰り返している方は、長年のお悩みを解決できるでしょう。 AKA-博田法による治療 AKA-博田法(Arthrokinematic Approach:関節運動学的アプローチ)は、不適合をきたしている仙腸関節の動きを正常化させて痛みを改善させる手技です。 治療者の手で関節のわずかな動きや回旋などを治すことで、正常なはたらきに戻します。 しかしAKA-博田法は修得の難しい技術であるため、正しい方法で行わないと症状を悪化させる可能性があります。 治療を受けたい場合は、日本AKA医学会に認定されている医師に相談してみると良いでしょう。 参考:日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会 薬物治療 仙腸関節炎の痛みに対して、鎮痛薬の内服やブロック注射などの薬物治療も効果的です。 とくにブロック注射は仙腸関節の周囲に局所麻酔を行うことで痛みを減らし、関節の適合を良くすることが可能です。 始めは仙腸関節を覆っている靭帯に注射し、それでも、安静時や寝るときに痛みが残るようであれば、炎症がうたがわれる関節内にも注射します。 再生医療 仙腸関節炎の治療において、再生医療は新しい選択肢として注目されています。 リペアセルクリニックでは、幹細胞を用いた再生医療を通じて、関節の炎症を抑え、損傷した組織の修復を促す治療を提案しています。 幹細胞の持つ修復能力により、炎症の原因そのものに働きかけるため、従来の薬物治療やリハビリテーションでは得られない効果が期待でき、自然な治癒力を活かした治療で、患者さんが持つ本来の機能を取り戻すサポートをしています。 さらに詳しく再生医療について知りたい方は、以下で詳しく解説しています。また、問い合わせも可能ですので、ご相談ください。 関連:次世代の再生医療:リペアセルクリニック メール相談はこちら オンライン相談はこちら 自宅でできるセルフケアと予防策 自宅では安静にするほか、骨盤ベルトの装着や梨状筋のマッサージなどを行いながら様子を見ます。 骨盤ベルトは仙腸関節の不適合をおさえる効果のあるゴム製のベルトです。 骨盤に装着して仙腸関節の適合を良くすることで、痛みを和らげたり再発を予防したりする効果が期待できます。 梨状筋は仙腸関節の外側に付着して股関節を外旋させる(つま先を外に回す)小さな筋肉です。 仙腸関節炎になると緊張が増して硬さや痛みがでやすいのが特徴です。 マッサージを行うと筋肉の血流や柔軟性が良くなり、痛みの緩和につながります。 画像付きでわかりやすく解説します。 梨状筋のマッサージ方法 ①膝を立てて座った状態で、マッサージをする側のお尻と座面の間にストレッチポールなどを置く ②ストレッチポールに体重をかけながらお尻を左右や前後に動かして梨状筋をほぐす 引用:園部俊晴.関節可動域.1版.㈱運動と医学の出版社.2023.329p.P38 仙腸関節炎(仙腸関節炎障害)の診断と治療 仙腸関節炎がうたがわれる場合は、整形外科やクリニックに行って医師の診断と理学療法士の治療を受けましょう。 実際の仙腸関節炎の診断と治療は以下のように行います。 専門医による診断プロセス 項目 点数 One finger test(※)で上後腸骨棘(仙腸関節の上部分にある突起)を指す 3 鼠径部(脚のつけね)に日ごろから痛みがある 2 椅子に座る時に痛みが増す 1 SIJ shear test(※)で痛みがでる 1 上後腸骨棘を押すと痛みがでる 1 仙結節靭帯(仙腸関節を覆う靭帯のひとつ)を押すと痛みがでる 1 ※One finger test…ひとさし指で痛みのある部位を指してもらう方法 ※SIJ shear test…うつ伏せで仙腸関節を押して痛みを確かめる方法 また靭帯にブロック注射をしたときに、痛みが7割以上減る場合も確定診断としています。 有効なエクササイズとストレッチ 治療には仙腸関節を安定させる腹横筋のトレーニングや、股関節や骨盤の周囲にあるハムストリングスと腸腰筋のストレッチが有効です。 これらの筋肉には以下のような特徴があります。 筋肉 ついている場所 はたらき 腹横筋 骨盤から腹部の全体 • お腹を凹ませる • 仙腸関節の適合を良くする ハムストリングス (大腿二頭筋と半腱様筋、半膜様筋) 骨盤から太ももの裏側 • 股関節を伸展させる(後ろに伸ばす) • 骨盤を後ろに傾ける 腸腰筋 (大腰筋と小腰筋、腸骨筋) 腰椎や骨盤から太ももの表側 • 股関節を屈曲させる(前に曲げる) • 骨盤を前に傾ける これらのエクササイズやストレッチを行うことで、仙腸関節の適合が良くなったり骨盤や股関節の動きがスムーズになります。 結果、日常生活で仙腸関節にかかるストレスを減らす効果が期待できます。 手術療法の検討 さまざまな治療を行っても日常生活に支障をきたすほど痛みが強い場合は、仙腸関節の動きを固定する手術を検討します。 手術が適応となる状態は以下が例として挙げられます。 • 6カ月以上の治療を行っても椅子に15分以上座れない • 痛みによってうつ伏せでなければ就寝ができない • 脚の強いしびれがでている • 痛みにより歩行に杖が必要となった しかし別の疾患もうたがわれる場合は術後の改善が期待できないことも考えられるため、医師による慎重な判断が必要になります。 日常生活での予防策 仙腸関節炎は普段の生活から適切な姿勢やセルフトレーニングを習慣づけることによって、予防や再発防止が可能です。 以下に具体策を紹介していきます。 適切な姿勢の維持 日ごろから、仙腸関節や腰椎に負担のかからない立ち方や座り方を意識してとりましょう。 正しい姿勢を維持すると周囲の筋肉や靭帯が余計に緊張することがなくなり、仙腸関節の負担を減らす効果が期待できます。 気をつけるポイントを以下にまとめました。 <立ち方> ①軽くお尻の穴をしめることを意識して、お尻が後ろに出ないようにする ②背骨が曲がったり反ったりして、上半身の位置が骨盤より前や後ろにいかないようにする(鏡の前に立って身体の真横から姿勢を確認すると良い) <座り方> ①背もたれによりかからず、骨盤を前に起こした状態で背骨を伸ばすことを意識する ②脚を組んだり、左右どちらかに体重を偏ったりする姿勢はひかえる また、長時間の同じ姿勢は仙腸関節にストレスがかかる原因になりやすいので、デスクワークや立ち仕事では適度に姿勢を変えるようにしましょう。 運動とストレッチの重要性 日ごろから腹横筋やハムストリングス、腸腰筋のケアを行いましょう。 仙腸関節に関わる筋肉の強さや柔軟性を常にキープすることで、仙腸関節炎の予防が可能です。 以下に具体例を紹介します。 <ドローイン(腹横筋の筋力トレーニング)> ①膝を立てながら仰向けになり、手を左右のお腹(へそより下)に置く ②息をゆっくり吐きながらお腹を凹ませる。このときにお腹の奥の筋肉が硬くなっていることを確認する ③時間をかけて10回、1日2セット行う 引用:成田崇矢.成田崇矢の臨床 腰痛.1版.㈱運動と医学の出版社.2023.315p.P203 <ハムストリングスのストレッチ> ①膝を立てながら仰向けになる ②マッサージする側の膝を伸ばし、同時につま先を顔側に向ける ③筋肉が伸びた位置で20秒キープする。繰り返しながら3セット行う 引用:成田崇矢.成田崇矢の臨床 腰痛.1版.㈱運動と医学の出版社.2023.315p.P206 <腸腰筋のストレッチ> ①マッサージする側の膝を床につけて、片膝立ちの姿勢をとる ②骨盤を前にゆっくり倒しながら股関節から太ももの前側につく筋肉を伸ばす ③筋肉が伸びた位置で20秒キープする。繰り返しながら3回セット行う 引用:成田崇矢.成田崇矢の臨床 腰痛.1版.㈱運動と医学の出版社.2023.315p.P207 しかし運動とストレッチは痛みが強い時期に行うと、仙腸関節まわりの筋肉や靭帯の緊張を高めて症状を悪化させる可能性があります。 ある程度痛みが落ち着いてから無理のない範囲で行いましょう。 仙腸関節炎(仙腸関節炎障害)の治し方に関するよくある質問 この章では、治療方法の選び方やセルフケアの実践方法、再発防止のためにできることなど、日ごろ、患者さんから多く寄せられる質問に対してわかりやすく回答していきます。 仙腸関節炎の治療に関する不安や悩みを解消し、最適なケア方法を選択するためのヒントを得ることができますので、ぜひ参考にしてください。 Q:.仙腸関節炎のときにやってはいけないことは何ですか? A.仙腸関節に負担をかけるスポーツや動作は控えましょう。 野球やゴルフなどの回転動作が伴うスポーツは、症状を悪化させる可能性があります。中腰での作業や、重い荷物を持つ動作も仙腸関節にストレスがかかるためひかえましょう。 Q:.仙腸関節炎は温めたほうがいいですか? A.仙腸関節炎は周囲の筋肉や靭帯の緊張が高まることにより痛みがでやすいため、温めたほうが症状が和らぐでしょう。 温めて血流を良くすることによりこれらの緊張がほぐれ、腰痛の改善が期待できます。 Q:治るまでの期間は? 仙腸関節炎の治療期間は、それぞれの状況や症状、治療方法によって異なります。 軽度の症状であれば、数週間から1カ月程度のリハビリやセルフケアで改善することがありますが、慢性化した場合や重度の炎症がある場合には、治療が数カ月に及ぶこともあります。 再生医療や物理療法を組み合わせることで回復を早めることができますが、治療の効果を最大化するには、継続的なケアと生活習慣の見直しが必要です。 Q:仙腸関節炎とヘルニアの違いは? 仙腸関節炎とヘルニアは、どちらも腰や背中に痛みを引き起こしますが、原因や症状の発生部位が異なります。 仙腸関節炎は、骨盤にある仙腸関節に炎症が起こることで痛みが生じますが、ヘルニア(とくに椎間板ヘルニア)は、背骨の椎間板が突出し、神経を圧迫することで痛みが発生します。 そのため、症状の特徴や治療法も異なり、正確な診断が必要です。 関連記事:ヘルニアの種類と後遺症に再生医療という新たな治療法 関連:次世代の再生医療:リペアセルクリニック メール相談はこちら オンライン相談はこちら まとめ:仙腸関節炎はセルフケアも重要になる この記事では仙腸関節炎の治療方法やセルフケアの重要性について解説しました。 整形外科やクリニックでの適切な治療や、日常生活で行える予防策を行って、仙腸関節にストレスがかかりにくい身体を作りましょう。 ぜひこの記事を参考にして腰痛に悩まされない毎日を送ってください。 関連:次世代の再生医療:リペアセルクリニック メール相談はこちら オンライン相談はこちら 参考文献 仙腸関節障害の確定診断法と手術療法の変法からみた低侵襲仙腸関節固定術の適応仙腸関節障害の今,そしてこれから 仙腸関節研究会 仙腸関節痛の発生・慢性化のメカニズム 日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会 後靭帯由来の仙腸関節痛の診断スコアリングシステム(海外論文) 成田崇矢の臨床 腰痛
2024.07.08 -
- ひざ関節
- 膝部、その他疾患
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)は、スポーツに取り組む方を中心に見られる疾患です。 とくにジャンプ動作が伴う競技では頻繁に見受けられます。 しかしジャンパー膝の症状や重症度、診断方法は、あまり知られていません。また初期症状などがほかの疾患と類似しており、判断するのが難しい部分もあります。 本記事ではジャンパー膝の症状や診断方法、セルフチェックリストや有効なストレッチなどを解説します。 ジャンパー膝(膝蓋腱炎)とは? 膝蓋腱炎(ジャンパー膝)は、バレーボールやバスケットボールなどのスポーツで生じやすい膝蓋腱に起こる炎症で、慢性的な膝の痛みが特徴的です。 以下に症状や診断方法、リスク要因を詳しく解説します。 膝蓋腱炎の症状・重症度・診断方法 ジャンパー膝は、膝蓋骨(膝のお皿の部分)のすぐ下にある膝蓋腱にストレスがかかり、炎症が起こる疾患です。 典型的な症状はジャンプや走る動作、階段の昇り降りのときに生じる膝蓋腱の痛みで、痛みの程度により軽症と中等症、重症に分類されます。 ジャンパー膝の重症度の分類 軽症 スポーツの後や歩いた後に痛む 中等症 活動開始時と終わった後に痛む 重症 活動中や後の痛みで続行困難 ジャンパー膝の診断は問診や触診、MRI、超音波検査などを行います。 膝蓋腱を指で圧迫したときに痛みが強まることや、MRIや超音波による画像診断で筋肉や腱の変性が確認できることで確定診断とされます。 メール相談 オンラインカウンセリング ジャンプスポーツにおけるリスク要因 ジャンパー膝はバレーボールやバスケットボール、サッカーなど、ジャンプやダッシュの動作が多いスポーツで起こりやすいです。 膝蓋腱は大腿四頭筋(太もも前面の筋肉)につながる腱で、膝蓋骨と脛骨(すねの骨)に付き、膝関節を動かしたり地面からの衝撃を吸収したりしています。 大腿四頭筋の伸び縮みにともなって膝蓋腱が脛骨や膝蓋骨の動きをコントロールし、膝の曲げ伸ばしが可能となっているわけです。 スポーツをしているときのジャンプやダッシュ、ストップ、ターンなどの動作は、急激な膝の曲げ伸ばしを繰り返し起こします。 この状態が慢性的に続くと膝蓋腱にストレスがかかり、組織に小さな損傷や炎症が起こってジャンパー膝につながります。 ジャンパー膝が軽症や中等症のうちは医師に相談しながらスポーツの継続が可能です。 しかし、ストレッチやウォーミングアップ、活動後のアイシングなどをおこない、常に膝のケアに努める必要があります。 また、重症例で腱に断裂がある場合は手術が必要になる可能性もあるため、疑わしい症状がでているときに放っておくのは危険です。 関連記事:ジャンパー膝といわれる大腿四頭筋腱付着部炎の原因と治療 ジャンパー膝(膝蓋腱炎)の症状のチェックリストと適切な対応 ジャンパー膝の症状が疑われるときは、自分で膝蓋腱に刺激を加えながらチェックできます。 家でもできる膝蓋腱の状態を確認する方法とその評価の意味を解説します。 家でできる症状チェックテスト スポーツや活動時に繰り返し膝が痛むときは、一度セルフチェックをおこない、ジャンパー膝の症状がでているか確かめてみましょう。 以下の状態が当てはまる場合は整形外科に受診してください。 膝蓋腱をゆびで押してみる 膝を曲げた状態と伸ばした状態で膝蓋腱をゆびで軽く押してみましょう。 どちらの状態でも痛む場合はジャンパー膝を疑います。(※曲げた状態のほうが痛みは走りやすいです) うつぶせで膝を曲げる うつぶせの状態で膝を曲げ、踵をお尻に近づけてみましょう。 股関節まわりが地面から浮いた場合は、ジャンパー膝が生じている可能性があります。 ジャンプする 何度かジャンプしてみましょう。 跳躍と着地の瞬間いずれか、または両方で違和感や痛みが感じられた場合、ジャンパー膝の発症が疑われます。 また痛みの懸念からジャンプを避けた、思い切り飛ばずに加減した際も、同様にジャンパー膝の発症が疑われます。 足に力が入りにくい いつものように足に力が入るか確かめてみましょう。 力が入りにくいと感じた場合には、ジャンパー膝の発症が疑われます。 ジャンパー膝(膝蓋腱炎)が疑われる際の対応 ジャンパー膝が疑われる際は、ただちに診断を受けることをおすすめします。 ジャンパー膝は早期に対応すれば重篤な症状を呈する炎症ではありません。 しかし初期症状があるまま放置していると、痛みや腫れが悪化し、治療に時間がかかるようになります。 最悪の場合、腱の断裂が起こり、手術が必要になるかもしれません。 ジャンパー膝が疑われる場合は、可能な限りすみやかに医療機関で受診しましょう。 メール相談 オンラインカウンセリング ジャンパー膝(膝蓋腱炎)の治し方 ジャンパー膝の治療は以下の方法でおこなわれます。 ・物理療法|冷気や電気、低周波などを当てて、直接的に炎症の修復などを図る ・体外衝撃波|特殊な衝撃波を当てて、痛みや痒みの緩和、患部の修復を図る ・リハビリ|大腿四頭筋を中心としたリハビリで、再発を予防する ・PRP(再生医療)|自己脂肪由来幹細胞などを用いて、患部の修復を図る PRP(再生医療)では、従来よりも容易にジャンパー膝を完治に導く期待があります。 興味がある方は以下を参考にしてください。 メール相談 オンラインカウンセリング ジャンパー膝(膝蓋腱炎)の痛みを緩和するストレッチ トレーニング前後のストレッチは、膝まわりの負担や痛みを減らすために重要です。 膝蓋腱の痛みを和らげる効果のあるストレッチや習慣づける方法を紹介します。 膝蓋腱を和らげる効果的なストレッチ 膝まわりやお尻の筋肉をストレッチで柔らかくすれば、膝蓋腱の負担軽減につながります。 以下の方法で大腿四頭筋やハムストリングス(太もも後面の筋肉)、殿筋(お尻の筋肉)のストレッチをおこないましょう。 必ず膝まわりに痛みがでない程度におこなってください。 大腿四頭筋のストレッチ ①床に両膝を伸ばして座った後、ストレッチをする側の膝を曲げて踵をお尻に近づける ②両手を床について身体を支えながら、上半身を後ろに倒して太もも前面の筋肉を伸ばす 大腿四頭筋のストレッチ(膝を曲げると痛む場合の方法) ①ストレッチをする側の膝を床につき、ストレッチをしない側の膝を立てて片膝立ちの姿勢になる ②上半身を起こしながら身体を前方に移動させ、太もも前面の筋肉を伸ばす ハムストリングスのストレッチ ①仰向けの状態でストレッチをする側の脚を上げる ②膝を伸ばしながら脚を胸に近づけ、太もも後面の筋肉を伸ばす 殿筋のストレッチ ①床に座り、ストレッチをする側の脚は膝を曲げて外側に開き、ストレッチをしない側の脚は後方に伸ばす ②上半身を前に倒しながらお尻の筋肉を伸ばす トレーニング前後のストレッチルーティン トレーニング前後では一つのストレッチを20〜30秒間かけておこない、10秒くらい休んだ後にもう一度施行しましょう。 とくに大腿四頭筋のストレッチは膝蓋腱にかかる負担が減るため、欠かさずおこなうことが大切です。 トレーニング前後のストレッチを習慣づけることで、ジャンパー膝の発症や再発の予防につながります。 メール相談 オンラインカウンセリング ジャンパー膝(膝蓋腱炎)を発症している際のテーピングテクニック 正しい方法でテーピングを施行すればスポーツや活動時における膝のサポートが可能です。 競技中の痛みを抑えるためにおこなう場合は必ず整形外科で専門家に相談しましょう。 以下に方法と注意点を詳しくお話しします。 膝のサポートに役立つテーピング方法 太さ50mmほどの伸縮性のあるテーピング(すねの上側から太ももの中間までの長さ)を3枚準備して以下のようにおこないます。 ①1枚目:膝を軽く曲げた姿勢ですねの外側から膝の内側、太ももの外側にかけて引っ張りながら貼る ②2枚目:膝の下から膝の外側、太ももの外側にかけて引っ張りながら貼る ③3枚目:1枚目のテープより少し上に重ねて、すねの外側から膝の内側、太ももの内側にかけて引っ張りながら貼る テーピングの正しいやり方と注意点 膝のサポートを目的としたテーピングは、運動に支障のない範囲で関節や筋肉の動きを制限させることが大切です。 テーピングをおこなうときは以下の内容に注意します。 ・外傷がある部位の接触を避ける ・適切な巻き方でおこなう ・正しい姿勢で巻く ・巻くときにシワをつくらない ・血管や神経、筋肉、腱の過度な圧迫は避ける ・パフォーマンスが低下するほど強く巻かない ・水ぶくれや肌荒れ、かぶれ、湿疹などがないか確認する 適切な方法や姿勢でおこなわないと十分な効果が得られなかったり、逆効果になったりする可能性があります。 痛みが軽快しない、パフォーマンスが低下するなどの場合は正しいやり方でないこともあるので、一度見直してみましょう。 また、テーピングは肌に直接触れるため、汗で蒸れたりすると皮膚トラブルを起こしやすいです。 皮膚に外傷があったり、肌荒れやかぶれなどができた場合はできる限り接触を避けましょう。 予防策としてのトレーニング調整 スポーツを続けていく選手にとって、症状の再発や悪化の進行に対する予防策はかかせません。 ジャンパー膝の予防に向けたトレーニングや日常生活におこなう取り組みを紹介していきます。 適切なトレーニング方法とその頻度 ジャンパー膝の予防には、大腿四頭筋の筋力をきたえることが大切です。 また、過去の論文にはジャンパー膝に対するトレーニングに傾斜台上での片脚立ちスクワットが効果的であると報告されています。 トレーニングは症状が発症したばかりの時期はひかえ、専門家の指示のもとで痛みがない程度におこないましょう。 以下に方法を説明します。 大腿四頭筋の筋力トレーニング ①椅子に座り、膝を伸ばしたときに抵抗がかかるように足首と椅子の足をゴムバンドでつなぐ ②ゴムバンドによる抵抗を感じながら膝を伸ばす ③5秒ほど時間をかけて1回おこない、連続10回、1日2セットおこなう スクワット ①25度程度の傾斜台を準備し、降りの方向に顔を向けて立つ(※傾斜台がなければスロープの上や、踵に折りたたんだタオルを置いた状態でおこなう) ②片脚立ちになり、股関節と膝関節を曲げながらお尻を床に近づける。膝の位置が足の位置より前方に出ないように注意する ③股関節と膝関節を伸ばして片脚立ちの姿勢に戻る。10回連続でおこない、1日3セットほどおこなう。きつく感じるようであれば必要に応じて手すりなどを持ちながらおこなう。 再発防止のためのエクササイズと日常生活の調整 日常生活で膝のケアをおこないながら症状の再発や悪化の進行を防ぎましょう。 バンドを装着する ジャンパー膝の治療として、膝蓋腱の走行に横断して取り付けるバンド(サポーター)の装着が効果的です。 バンドによる膝蓋腱の圧迫は、腱の走行を変化させて負担を減らせることが明らかになっています。 スポーツや活動時の膝蓋腱の過剰なストレスが減り、痛みの緩和が期待できます。 患部の安静や練習を減らす 痛みが強いときはできるだけ患部の安静を保ち、ジャンプやランニングの練習を減らしましょう。 ジャンパー膝はジャンプ競技による膝のオーバーユース(使いすぎ)で生じることが多いので、活動量を減らすことで症状が軽快しやすいです。 重症化すると腱の断裂につながる可能性もあるため、痛みが強いときは無理をしないようにします。 練習後ににアイシングをおこなう 練習直後にアイシングを15〜30分ほどおこないましょう。 激しい運動の後は膝蓋腱により炎症が起きやすく、熱感や腫れが強まります。 できるだけ早く患部を冷やし、炎症を抑えることで症状の悪化を防げるわけです。 ジャンパー膝は皮膚から深い位置で起きている炎症なので、氷を入れた袋を弾性包帯で患部に巻きつけて固定すると効果的です。 ジャンプと着地の仕方を修正する 内股の状態で踏み切ったジャンプやバランスの悪い着地は、膝蓋腱のストレスを高める原因です。 ジャンプのフォームを客観的に確認したり、なわとびで正しいジャンプの方法を修得すれば、改善につながります。 硬い床を避ける底の厚いシューズも膝蓋腱の負担を減らせます。 炎症を抑える飲み薬やぬり薬などを使用する 痛みが強い場合は医師から処方された飲み薬やぬり薬、湿布などを使用しましょう。 医師の判断によってはステロイドの局所注射をおこなうこともあります。 炎症を抑える効果のある医薬品の使用で、スポーツや活動時の膝の痛みが抑えられます。 まとめ この記事ではジャンパー膝の概要やセルフチェックの方法、スポーツを継続するためのケアをお話ししました。 ジャンパー膝の痛みに悩まされてる方は以下の内容を守り、より長くスポーツを楽しめるようにしてください。 メール相談 オンラインカウンセリング 膝蓋腱炎の総合的な管理法 ジャンパー膝の症状に付き合いながらスポーツを続けていくためには、ストレッチやアイシングなどで、トレーニング前後に膝をケアするのが大切です。 また、発症や再発、重症化をを防止するためにも、専門家の指示のもと傾斜台でのスクワットもおこないましょう。 痛みが強い場合は安静にしたり、ジャンプのフォームを修正したりするのも重要です。 専門家との連携と更なる情報ソース ジャンプ競技への復帰や継続は必ず専門家と相談しながら決めていきましょう。 テーピングやトレーニングなどは症状の軽減や予防に効果がありますが、間違った方法でおこなわないためにも、専門家の指示を受けることが大切です。 参考文献一覧 10.膝の慢性障害 膝蓋腱炎(ジャンパー膝) ジャンパー膝 How to taping 膝(ひざ) BASIC KNOWLEDGE テーピングの基礎知識 Superior results with eccentric compared to concentric quadriceps training in patients with jumper's knee: a prospective randomised study 明解 スポーツ理学療法学
2024.07.04 -
- 股関節、その他疾患
- 股関節
〜自宅でもケアして回復をサポートしましょう〜 「股関節唇損傷ってなに?」 「サッカーをしているときに股関節を痛めたけどどうすればいいの?」 このように悩でいる方も多いのではないでしょうか。 股関節を痛めるとスポーツができなくなるだけではなく、歩いたり走ったりできなくなります。さらには、股関節唇損傷により大腿骨頭が安定しないため、腰や膝を痛めやすくなり日常生活に支障をきたす恐れがあります。 今回は股関節唇損傷の診断や治療、自宅でできるケアなどを詳しく紹介します。この記事が、股関節唇損傷と診断され症状に悩んだり、早く回復できないかと感じたりするあなたの悩みを解決できると幸いです。 股関節唇損傷って何? 股関節唇損傷は 「股関節を構成する寛骨臼(股関節のくぼみの部位)の軟骨の一部が剥がれたり傷ついたりすることで起こる病気のこと」です。 スポーツで脚を広げ過ぎたり、繰り返し関節を曲げたりすることがきっかけで発症します。ほかにも、もともと股関節が傷つきやすい形であることが原因で起こります。 股関節唇損傷になった始めの頃は、歩くときに違和感を覚えるくらいの症状です。ただし、病気が進むと階段を登るときや椅子に座るとき、しゃがむときなどの衝撃に痛みを生じることもあるでしょう。そのため、股関節唇損傷による症状が悪くなる前に対処することが大切です。 股関節唇損傷の診断と治療 ここでは、股関節唇損傷と診断される基準や治療方法、治療後のリハビリテーションについて詳しく解説します。それぞれをみていきましょう。 専門家による診断プロセス 股関節唇損傷と診断されるまでには以下4つの流れがあります。以下の表を参考にしてください。 診断の流れ 特徴や注意点 1.問診 ・医師が以下のポイントで患者さんに詳しく確認 痛みの部位(股関節前/後ろ/内側/外側のどのあたりか) 痛みの程度(鈍痛/刺痛/ずきずき痛むか) 痛みの発症時期(いつ頃から痛み始めたか) 安静にしているときと動いたときで違いがあるか 日常生活で困っていることはないか スポーツ外傷のときは受傷したときの状況を詳しく確認 視診:腫れ、変形、歩行の異常がないか観察 2.身体診察 ・視診:腫れ、変形、歩行の異常がないか観察 ・股関節の屈曲、伸展、内転、外転を確認 ・内旋外旋運動をして可動域と痛みの有無を確認 ・徒手筋力検査で股関節周囲の筋力を確認 ・なかには理学療法の検査を実施する場合もある 3.画像検査 ・X線検査(レントゲン):骨折や関節症に変化がないか確認 ・MRI検査: 関節軟骨の状態(損傷の有無)、靱帯断裂の有無、関節唇の損傷(部位、程度)を詳細に評価 4.診断 1~3を実施して、最終的に医師が診断 問診や身体診察のみで股関節唇損傷と診断する場合もあります。 ただし、ほかの病気や外傷がないかを確認するためにX線検査やMRI検査が行なわれるのが一般的です。 医師の指示によっては、追加の検査が行なわれることもあります。 治療オプション 股関節唇損傷の治療は主に以下の4つです。 ・物理療法 ・薬物療法 ・手術 ・リハビリテーション 股関節唇損傷は、自然と治癒することはほとんどありません。そのため、適切な治療を受けることが重要です。ここでは、それぞれの治療方法を詳しく解説します。 股関節唇損傷と診断されると、手術する前に保存療法(手術以外の方法)を行います。具体的には、電気や光線、超音波などのエネルギーを利用した治療です。整形外科や整骨院で行われている電気マッサージをイメージするとわかりやすいでしょう。 これらの治療は、痛みを減らす効果が期待できます。ほかにも、日常生活のなかで困っていることに対して動き方や関節の使い方などを指導して、可能な限り自力で行えるように支援します。 また、痛みが強いときには痛み止めの薬を飲んだり、ヒアルロン酸注射やステロイド注射などの薬物療法を実施する場合があります。痛みが軽くなると、リハビリテーションを進めやすく日常生活も送りやすくなるでしょう。 ただし、物理療法と薬物療法、いずれの治療法も股関節唇損傷を治すものではありません。あくまでも股関節唇損傷によってあらわれる症状に対して治療を行うものであり、根本的な治療ではないことを知っておいてください。 物理療法や薬物療法を行っても痛みが続いたり、日常生活を送るのが難しくなったりするときは手術になる恐れがあります。股関節唇損傷の手術には、股関節鏡視下術で股関節の裂けた部分を修復したり除去したりします。ほかにも、再建術があります。かかりつけ医と相談のうえで、納得できる治療方法を選びましょう。 治療後のリハビリテーション 股関節唇損傷の治療を行った後のリハビリテーションは主に次の2つです。 ・筋力トレーニング ・股関節の可動域のトレーニング 治療後は痛みが生じる恐れがあるため、主治医の指示のもとで痛みが出ない範囲でリハビリテーションに取り組みます。治療したばかりの頃は、回復を図りながら負担がかからないように股関節を動かしてください。身体の状態が安定してくると、少しずつ負荷をかけて歩行の距離を伸ばします。治療後の段階や痛みの程度など患者さんそれぞれによってリハビリテーションの内容は異なるため、主治医やリハビリのスタッフと相談しながら進めましょう。 自宅でのケアと回復サポート 股関節唇損傷は、自宅でもケアすることが大切です。自宅での適切なケアが回復を進めるといえるでしょう。 日常生活での注意点 日常生活では、次のポイントに注意することが重要です。 ・激しい動作や無理な体勢は避ける ・長時間の座位や立位は避ける ・適度な休息を取り、過度の負荷は避ける ・つま先立ちや深い屈曲は避ける 上記のような行動を避けることで、股関節への負担を軽減できます。痛みの程度や治療後の主治医からの指示によっては、移動する際に補助器具を使用したり、手すりを使ったりなどの工夫が必要です。 自宅で行うことができるストレッチと運動 ここでは、自宅で行うストレッチや運動を紹介します。 ストレッチ 運動 ・腸腰筋ストレッチ ・膝立て運動 床に仰向けになり、片膝を立てて太ももを引き寄せる。反対側の足裏をベッドにつけたままゆっくり膝を伸ばす 仰向けになり片足を床につけ、もう片方の膝を立てる ・大腿四頭筋ストレッチ ・伏せ運動 壁に立ち足を後ろに引いて膝裏をストレッチ うつ伏せになり、片足ずつ後方に引き上げる ・内転筋ストレッチ - 片足を閉じて、もう片足を広げるイメージでストレッチ - 回復をサポートする栄養と生活習慣 股関節唇損傷の回復をサポートする栄養には、次のものがあげられます。 栄養素 目的 食品 タンパク質 筋肉や靭帯の修復 ・赤身肉 ・卵 ・大豆食品など オメガ3脂肪酸 炎症を抑える ・大豆 ・青魚や青魚から取れる魚油 ・くるみなど ビタミンC 組織の修復を助ける ・オレンジ ・いちご ・ブロッコリーなど 上記の食品を摂取できると、股関節唇損傷の回復に役立つ可能性があります。 一方で、喫煙すると血液の流れが悪くなるため禁煙してください。ほかにも、ストレスがかかると身体が回復しにくくなったりするため、リラックスして身体を休めましょう。 予防と長期的な管理方法 股関節唇損傷を発症すると、自然に治ることはほとんどないといわれています。そのため、股関節唇損傷の予防と長期的な管理が大切であり、時間がかかります。それぞれについて詳しくみていきましょう。 股関節唇損傷の予防方法 先述したように、股関節唇損傷の予防方法はできるだけ股関節に負担がかからないように身体の動かす方法を実践することです。股関節が深く曲がったり、股関節が開いたりする動作はしないでください。 例えば、以下の動作は避けましょう。 ・深いソファや床に座る ・しゃがみ込む ・椅子から立つときは積極的に手すりを使う また、体重が重すぎると股関節への負担となるため、適正な体重の維持が大切です。 適正な体重はBMI(体重kg÷身長mの2乗)で18.5〜25未満とされているため、このBMIを目安としましょう。 長期的な健康維持のための運動療法 股関節唇損傷は、股関節に負担がかかることで発症する病気です。そのため、体幹の機能訓練や骨盤の可動域を改善する訓練、臀部の筋力強化などを行わなければなりません。とはいえ、運動療法を行うことにより、かえって股関節に負担がかかる恐れがあります。そのため、理学療法士やトレーナーに相談したうえで実施してみてください。 おわりに 股関節唇損傷は、股関節に負担がかかることで軟骨の一部が剥がれたり傷ついたりすることで起こります。一般的には、まずは物理療法や薬物療法などの保存療法を行い、効果がなければ手術を検討します。 ただし、治療だけではなく自宅でできるストレッチや軽い運動をすることで、回復をサポートできる可能性があります。整形外科医や理学療法士などに相談しながら、社会生活への早期復帰を目指しましょう。 参考文献 股関節唇損傷とは|北長会記念病院 股関節唇損傷の手術後のリハビリテーション|AR-Ex尾山台整形外科 東京整形外科クリニック|股関節唇損傷 股関節内病変の診断と治療 e-ヘルスケアネット|厚生労働省 オメガ3脂肪酸について知っておくべき7つのこと|厚生労働省 e-ヘルスケアネット|厚生労働省
2024.07.03 -
- 幹細胞治療
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最近ニュースでも大きく取り上げられている“脊髄梗塞”ですが、稀な疾患で原因が不明なものも多く、現状では明確な治療方針が定められていません。 後遺症に対してはリハビリテーションを行いますが、最近では再生医療が新たな治療法として注目されています。 脊髄梗塞の症状や原因については以下の記事で詳しく解説しています。 【予備知識】脊髄梗塞の発生率・好発年齢・性差情報 ある研究においては、年齢や性差を調整した脊髄梗塞の発生率は年間10万人中3.1人と報告されています。 脳卒中などの脳血管疾患と比較し、脊髄梗塞の患者数はとても少ないです。 また、脊髄梗塞の患者さんのデータを集めた研究では、平均年齢は64歳で6割以上は男性だったと報告されています。 参考:A case of spinal cord infarction which was difficult to diagnose しかし、若年者の発症例もあり、若年者の非外傷性脊髄梗塞の発生には遺伝子変異が関係していると示唆されています。 脊髄梗塞は治るのか? 結論から言うと、脊髄梗塞を完全に治すことは困難です。現在のガイドラインでは、完治までの治療方法は確立されていません。 したがって、脊髄梗塞の後遺症に対するリハビリテーションを正しくおこなうことが症状改善に有効とされています。 脊髄梗塞の後遺症について 脊髄梗塞の発症直後には急激な背部痛を生じることが多く、その後の後遺症として四肢の運動障害(麻痺や筋力低下など)や感覚障害(主に温痛覚低下)、膀胱直腸障害(尿失禁・残尿・便秘・便失禁など)がみられます。 ・四肢の運動障害(麻痺や筋力低下など) ・感覚障害(主に温痛覚低下) ・膀胱直腸障害(尿失禁や残尿、便秘、便失禁など) これらの症状に関しては入院治療やリハビリテーションの施行で改善することもありますが、麻痺などは後遺症として残ることもあります。 歩行障害の予後に関して、115人の脊髄梗塞患者の長期予後を調査した研究報告では、全患者のうち80.9%は退院時に車椅子を必要としていましたが、半年以内の中間調査で51%、半年以降の長期調査では35.2%と車椅子利用者の減少がみられました。 出典:Recovery after spinal cord infarcts Long-term outcome in 115 patients|Neurology Journals 同じ研究における排尿カテーテル留置(膀胱にチューブを挿入して排尿をさせる方法)の予後報告ですが、退院時には79.8%だったのが中間調査では58.6%、長期調査では45.1%へと減少がみられました。 症状が重度である場合の予後はあまり良くありません。 しかし、発症してから早い時期(1〜2日以内)に関しては症状が改善する傾向にあり、予後が比較的良好とされています。 【原因別】脊髄梗塞の治療方法 原因 治療方法 大動脈解離 手術 / 脳脊髄液ドレナージ(1) / ステロイド投与 / ナロキソン投与(2) 結節性多発大動脈炎 ステロイド投与 外傷 手術 動脈硬化・血栓 抗凝固薬 / 抗血小板薬(3) 医原性(手術の合併症) 脳脊髄液ドレナージ / ステロイド投与 / ナロキソン投与 (1)背中から脊髄腔へチューブを挿入し脊髄液を排出する方法 (2)脊髄の血流改善を認める麻酔拮抗薬 (3)血を固まりにくくする薬剤 比較的稀な病気である脊髄梗塞は、いまだに明確な治療法は確立されていません。 脊髄梗塞の発生した原因が明らかな場合にはその治療を行うことから始めます。 たとえ例えば、大動脈解離や結節性多発動脈炎など、脊髄へと血液を運ぶ大血管から中血管の病態に起因して脊髄の梗塞が生じた場合にはその、原因に対する治療がメインとなります。 一方で、原因となる病態がない場合には、リハビリテーションで症状の改善を目指します。 脊髄梗塞に対するリハビリテーション 脊髄梗塞で神経が大きなダメージを受けてしまうと、その神経を完全に元に戻す根本的治療を行うのは難しいため一般的には支持療法が中心となります。 支持療法は根本的な治療ではなく、症状や病状の緩和と日常生活の改善を目的としたものでリハビリテーションも含まれます。 リハビリテーションとは、一人ひとりの状態に合わせて運動療法や物理療法、補助装具などを用いながら身体機能を回復させ、日常生活における自立や介助の軽減、さらには自分らしい生活を目指すことです。 リハビリテーションは病院やリハビリテーション専門の施設で行うほか、専門家に訪問してもらい自宅で行えるものもあります。 リハビリテーションの流れ ①何ができて何ができないのかを評価 ②作業療法士による日常生活動作練習や、理学療法士による筋力トレーニング・歩行練習などを状態に合わせて行う 日常生活において必要な動作が行えるよう訓練メニューを考案・提供します。 脊髄梗塞発症後にベッド上あるいは車椅子移動だった患者さん7人に対して検討を行った結果、5人がリハビリテーションで自立歩行が可能(歩行器や杖使用も含まれます)となった報告もあります。 時間はかかりますし、病気以前の状態まで完全に戻すのは難しいかもしれません。しかし、リハビリテーションは機能改善に有効であり、脊髄梗塞の予後を決定する因子としても重要です。 再生医療が脊髄梗塞に有用! https://www.youtube.com/watch?v=D-THAJzcRPE このように、脊髄梗塞では確立された治療法がなく、場合によっては対症療法を中心に治療法自体を模索することも少なくありません。そのような中、近年では再生医療が脊髄梗塞を含めた神経障害に対して特異的な効果を発揮しています。 再生医療では、これまで回復が困難と言われてきた神経の障害に対しても常識を覆す効果を発揮し、これまでも脊髄梗塞におけるリハビリテーションの効果を向上させるとの報告や、脊髄損傷の重症度を改善したと報告がされており、これからの医療にとって新しい希望の光となっています。 再生医療とは、失われた身体の組織を修復する能力、つまり自然治癒力を利用した医療です。 当院で行なっている再生医療は“自己脂肪由来幹細胞治療”です。患者様から採取した幹細胞を培養して増殖し、その後身体に戻す治療法となっています。 幹細胞とは、いろいろな姿に変化できる細胞で、失われた細胞を再生・修復する機能をもちます。自分自身の細胞から作り出すので、アレルギーや免疫拒絶反応がなく、安全な治療法といえます。 日本における幹細胞治療では、一般的に点滴による幹細胞注入を行なっておりますが、それでは目的の神経に辿り着く幹細胞数が減ってしまうことが懸念されます。 そこで、当院では損傷した神経部位に直接幹細胞を注入する“脊髄腔内ダイレクト注入療法”と呼ばれる方法を採用しています。注射によって脊髄のすぐ外側にある脊髄くも膜下腔に幹細胞を投与する方法で点滴治療と組み合わせることにより、より大きな効果を期待できます。この治療は数分のみの簡単な処置で済み、入院も不要です。 実際に当院では術後や外傷、脊髄梗塞、頚椎症などの神経損傷に由来する麻痺や痺れ、疼痛などの後遺症に対して再生療法を施し、症状が大きく改善した例を経験しています。 脊髄梗塞に関するQ &A この項目では、脊髄梗塞に関するQ &Aを紹介します。 多くの方が抱えているお悩み(質問)に対して、医者の目線から簡潔に回答しているのでご確認ください。 脊髄梗塞の主な原因は? 脊髄梗塞の主な原因は以下のとおりです。 ・脊髄動脈の疾患 ・栄養を送る血管の損傷 詳細な原因については以下の関連記事で紹介しているのでぜひご確認いただき、症状改善の一助として活用ください。 脊髄梗塞の診断は時間を要する? そもそも脊髄梗塞は明確な診断基準がありません。 発症率が低い脊髄梗塞は最初から強く疑われず、急速な神経脱落症状(四肢のしびれや運動障害、感覚障害など)に加えてMRIでの病巣確認、さらに他の疾患を除外してからの診断が多いです。 また、MRIを施行しても初回の検査ではまだ変化がみられず、複数回の検査でようやく診断に至った症例が少なくありません。 ある病院の報告では、発症から診断に要した日数の中央値は10日となっており、最短で1日、最長で85日となっていました。 まとめ・脊髄梗塞は治るのか?治療法や後遺症のリハビリについて解説 脊髄梗塞は稀な疾患ゆえ、治療ガイドラインが確立されていません。 原因が明らかな場合にはその治療を行ない、原因が不明な場合には脱水予防の補液のみです。その後以降は後遺症を改善するべくリハビリテーションに努めるのがこれまでの一般的な治療でした。 しかし、2024年現在は再生医療に手が届く時代となり、今まで回復に難渋していた脊髄損傷も改善が見込めるようになりました。 脊髄損傷による後遺症に再生医療が適応となる可能性があります。気になる方はぜひ当院に一度ご相談ください。 参考文献一覧 Qureshi A, Afzal M, et.al. A Population-Based Study of the Incidence of Acute Spinal Cord Infarction. J Vasc Interv 2017; 9: 44–48. Robertson C, Brown Jr R, et al. Recovery after spinal cord infarcts: long-term outcome in 115 patients. Neurology. 2012;78:114-121. 河原木剛, 木下隼人ほか.当院で経験した脊髄梗塞 10 例の検討. 東日本整災会誌. 2022;34:94-102. Maria Khoueiry, Hussein Moussa, et al. Spinal cord infarction in a young adult: What is the culprit? J Spinal Cord Med. 2021;44:1015-1018. 熊谷文宏, 加藤諒大ほか. 脳梗塞・脊髄梗塞を発症後、再生医療を実施し集中的リハビリテーションを実施した1例. 第53回日本理学療法学術大会 抄録集.O-S-1-4. Yamazaki K, Yamabori M, et al. Clinical Trials of Stem Cell Treatment for Spinal Cord Injury. Int J Mol Sci. 2020; 21: 3994. ▼こちらも併せてお読みください。
2024.07.02 -
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恥骨結合炎とはどんな病気? 恥骨結合炎になったら、何科を受診すればいいの? おへそのあたりが痛む病気として「恥骨結合炎(ちこつけつごうえん)」という病名を目にすることもあるかもしれません。 聞きなれない病名で不安になる方や、何科を受診すべきか悩む方もいるでしょう。 恥骨結合炎は歩いた後や運動後におへそあたりに感じる痛みが特徴の病気です。 恥骨に起きる炎症であるため、整形外科で治療を行うのが一般的です。 本記事では、恥骨結合炎の原因や症状、予防方法まで詳しく解説します。運動後におへそあたりに痛みを感じやすい人はぜひ最後までチェックしてみてください。 恥骨結合炎はおへその下あたりに起きる炎症!更年期やがんとの関係はない 恥骨結合炎(ちこつけつごうえん)は骨盤の一部である恥骨に起きる炎症です。 おへそから下に向かって触っていったときに陰毛付近で触れられる骨で、その周囲に痛みを感じます。 女性に多く妊娠や出産を期に発症することがありますが、婦人科系のがんや更年期障害と関係ありません。 そのほか、サッカーなど内ももの筋肉に負担がかかるスポーツや、尿道カテーテルや帝王切開などの術後感染によって発症する可能性もあります。 恥骨結合炎の3つの症状 恥骨結合炎には以下の症状があります。 恥骨部・鼠径部(そけいぶ)・下腹部の痛みや違和感がある いつものように歩けない・走れない 発熱がある ひとつずつ見ていきましょう。 恥骨部・鼠径部(そけいぶ)・下腹部の痛みや違和感がある 代表的な症状は恥骨部や鼠径部(足の付け根)・下腹部の痛みです。 ランニングなどの運動後や股関節周りの筋肉が強く働いたあとに痛みます。 最初は違和感や鈍い痛みですが、悪化していくと刺すような鋭い痛みで激痛となることも珍しくありません。 症状が重くなると、かがんだり立ち上がるといった日常的な動作でも痛むようになり、安静にしていても痛みが続きます。 いつものように歩けない・走れない うまく力が入らずいつものように歩けない・走れないといった症状も特徴です。 恥骨結合からお腹や内ももとつながる筋肉もいっしょに炎症を起こすため、痛みにより歩く・走ることが難しくなるケースもあります。 発熱がある 感染を起こしている場合は、身体が病原菌と戦うため発熱します。 感染を起こしていない場合は発熱はありませんが、恥骨部が痛くて熱も出てきた場合はかならず病院を受診しましょう。 恥骨結合炎(恥骨炎)の3つの原因 恥骨結合炎の原因は大きくわけて以下の3つです。 スポーツ 妊娠・出産 感染症 恥骨は陰毛のあたりで左右から向かい合い、中央で軟骨をはさんで合流する骨です。 この合流した部分を恥骨結合といい、スポーツや妊娠出産・感染症で炎症をおこすと恥骨結合炎になります。 原因を1つずつみていきましょう。 サッカーやランニングなどのスポーツ 恥骨結合炎を起こしやすいスポーツは以下のとおりです。 ランニング サッカー(ボールを蹴る動作) ジャンプ ランニングやサッカー、ジャンプは恥骨のあたりに体重がかかりやすく、反復する運動なので恥骨結合に負荷がかかります。 たとえば、1回や2回同じ場所を軽くぶつけても平気ですが、一定のリズムで何度もぶつけると赤くなり、痛みを感じるでしょう。 この状態が恥骨のあたりで起こり続けると、恥骨結合や恥骨結合にくっついている周りの筋肉に炎症を起こします。 妊娠・出産 女性は妊娠・出産時に恥骨結合炎を起こしやすいです。 骨盤がゆるむ妊娠後期 骨盤を赤ちゃんの頭が通る出産時 骨盤が不安定な出産後 妊娠後期では、産む準備のために出るホルモンで骨盤がゆるみ、赤ちゃんの頭が骨盤内におさまるため恥骨が圧迫されます。 赤ちゃんの頭が産道を通る出産時も、恥骨が強く圧迫されるので痛みがでやすいでしょう。 出産後、ゆるんだ骨盤は自然にもどりますが、すでに妊娠や出産で疲労がたまっている恥骨部は、赤ちゃんの抱っこなどの育児で炎症が起きやすい状態です。 妊娠後期から出産後まで恥骨のあたりが痛む場合は、はやめに助産師や医師に相談してください。 感染症 まれですが、感染症により化膿性の恥骨結合炎を起こします。 術後に感染する(術後感染) 尿道カテーテルを通して感染する(尿路感染) 日常生活での感染 泌尿器科や婦人科(帝王切開など)の術後感染や、尿道カテーテルなどで尿路感染を起こすと、骨盤内で炎症が起き恥骨結合炎になるケースがあります。 また、手術をしていなくても、健康な人が保菌している黄色ブドウ球菌や水まわりに常在する緑膿菌に感染することで化膿性恥骨結合炎を起こす可能性があることを頭に入れておきましょう。 恥骨結合炎の診断方法 恥骨結合炎の診断は以下の3つでおこないます。 触診 MRI検査 レントゲン検査・CT検査 それぞれ解説します。 触診 医師が実際に痛いところとその周辺を触り、痛みの正確な位置や痛みの程度を確認します。 痛いところを触られるのはつらいと思いますが、正しい診察のために触診は必要な検査なので、少しの間がんばりましょう。 MRI検査 MRI検査は、磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging)のことで、磁石と電磁波をつかって体内の組織を画像化します。 健康な組織と炎症(病変化)している部分とではコントラストが大きく違って写されるので、痛みの原因や場所をつきとめるために必要な検査です。 大きな筒状の機械に20分~1時間ほど入るため、閉所恐怖症の方は医師につたえましょう。 また、MRIは強い磁力があり、体内に金属が入っている場合は検査ができないため、事前に医師に相談してください。 レントゲンやCT検査 MRIは時間のかかる検査のため、素早く撮影できるレントゲンやCT検査をおこないます。 レントゲンやCTはX線をつかった検査で、骨の異常や炎症している部分の撮影が可能です。 また、レントゲンやCTは、MRIと違って金属が入っていても検査できます。 恥骨結合炎における2つの治療法 恥骨結合炎の主な治療法は以下の2つです。 安静・服薬などの内科的治療 内視鏡・カテーテルによる外科的治療 それぞれ解説します。 安静・服薬などの内科的治療 恥骨結合炎の治療では、手術をしない保存的な治療がメインです。 安静にする 痛み止めや炎症止めの薬を飲む マッサージやストレッチをする リハビリをする 炎症がおさまるまでは薬を飲んだり、冷やして安静にしましょう。 傷ついた筋肉や痛みをかばうためにほかの筋肉も疲労しているので、痛みがひいてきたら医師の指示のもとマッサージやストレッチをおこないます。 3週間ほどは運動を制限しながらのリハビリで筋肉を強化し、すこしずつ運動量を増やして数か月でスポーツができるまでに回復可能です。 ただし、恥骨結合炎は再発しやすい病気なので、無理をせず医師の判断のもと治療しましょう。 内視鏡・カテーテルによる外科的治療 恥骨結合炎は保存的治療がメインですが、外科的治療という選択肢もあります。 具体的に、2つの治療方法をご紹介しましょう。 内視鏡的恥骨結合掻把(ないしきょうてきちこくけつごうそうは) 運動器カテーテル治療 恥骨結合炎の重症例ではお腹をひらく開腹手術が一般的ですが、最近では内視鏡をつかってお腹をきらずに手術をおこなう内視鏡的恥骨結合掻爬がおこなわれます。 そのほか、手術適応ではないけれど再発を繰り返すケースに対して、運動器カテーテル治療も要注目です。 運動器カテーテル治療とは、足の付け根や手首などの結果から0.6mmほどのカテーテルを入れ、病変部位の細かい血管を減らす治療のことです。 炎症が起こると、その周囲に細かい異常な血管がたくさんできますが、カテーテルで異常な血管をなくすことで痛みや炎症をおさえます。 まだ新しい治療方法のため保険適用ではありませんが、いま注目されている治療法です。 また、恥骨結合炎をはじめ、歩行時や運動後の下腹部の痛みが気になる方は、当院「リペアセルクリニック」の「メール相談」や「オンラインカウンセリング」もご活用いただければ幸いです。 恥骨結合炎で受診すべき3つの目安!受診すべき診療科もご紹介 恥骨結合炎を疑ったときに受診すべき基準は以下に挙げる3つです。 歩行やスポーツで下腹部の痛みがある 下腹部の痛みと発熱がある 排尿時・月経時の痛みが強い なお、スポーツや下腹部の痛みでは整形外科へ、排尿時には泌尿器科・月経時には婦人科へ受診してください。 それぞれの理由をみてみましょう。 歩行やスポーツで下腹部の痛みがある 歩行やスポーツをした後に感じる痛みは、恥骨結合炎の特徴的な症状です。 これは運動により、恥骨や周囲の筋肉に繰り返し負担がかかるためです。この場合は骨・筋肉の痛みであるため、整形外科を受診しましょう。 歩行やスポーツ時の下腹部の痛みが気になる場合は、当院「リペアセルクリニック」でもご相談が可能です。 恥骨結合炎なのか判断がつかず悩んでいる方は、ぜひ「メール相談」や「オンラインカウンセリング」にてお気軽にお問い合わせください。 下腹部の痛みと発熱がある 帝王切開や尿道カテーテルの術後、あるいは風邪を引いた後に下腹部の痛みと発熱を伴う場合などは、感染による恥骨結合炎の可能性があります。 薬による治療が必要なため、可能な限り早い受診がおすすめです。 発熱が伴う場合でも、恥骨結合炎が疑われる場合は整形外科を受診してください。 排尿時・月経時の痛みが強い 恥骨結合炎は恥骨に負担がかかったときに生じる痛みが特徴の病気であるため、排尿時や月経時に痛みが出ることはあまりありません。 そのため、排尿時や月経時に痛みが強くなる場合は恥骨結合炎以外の病気の可能性があります。 排尿時の痛みがあれば泌尿器科へ、月経時の痛みが強いときには婦人科を受診してみてください。 恥骨結合炎と似ている病気 恥骨結合炎に似ている病気もあるため、症状や痛みの具合だけで自己判断しないようにしましょう。 恥骨結合炎とよく間違えられる病気は以下のとおりです。 グロインペイン症候群 恥骨結合離開(ちこつけつごうりかい) 子宮筋腫・子宮内膜症 膀胱炎・尿道炎 本章を参考にしつつ、該当する症状がある場合は早めに受診することをおすすめします。 グロインペイン症候群 グロインペイン症候群は鼠径部痛症候群ともいわれ、恥骨結合炎と症状が似ており間違えられやすい病気です。 鼠径部(そけいぶ)は足の付け根あたりを指しますが、グロインペイン症候群では足の付け根、下腹部、睾丸のうしろ、内ももが痛みます。 痛みの場所もですが、サッカー選手に多く見られることも恥骨結合炎と似ている特徴です。 恥骨結合炎と違うのは恥骨部分の炎症がないことで、グロインペイン症候群の治療では股関節だけを動かさないような運動の仕方や筋力強化のためのリハビリが主な治療となります。 炎症が起きている場合は運動制限が必要なので、似た症状でも治療内容が異なることを頭にいれておきましょう。 恥骨結合離開(ちこつけつごうりかい) 恥骨結合炎と間違えられやすい病気に恥骨結合離開があります。 症状は恥骨結合炎と同じく恥骨部の痛みですが、時折、痛みが非常に強くなるために、正常に歩行することが困難になるケースもある病気です。 通常は運動しただけで離開することはありませんが、事故などの外圧や出産などで左右からのびた恥骨を結合させている軟骨が離れてしまいます。 腰を強く強打したあとに痛み出した・出産後に強い痛みがある場合は医師に相談しましょう。 子宮筋腫・子宮内膜症 子宮筋腫・子宮内膜症は下腹部の痛みを伴うため、恥骨結合炎と間違えやすい病気です。 これらの病気は本来子宮内に存在する組織が子宮外で異常発育するために生じる病気で、恥骨へ痛みが波及します。 とくに月経時、子宮内膜が剥がれるときの強い痛みが特徴であり、恥骨結合炎のように運動後の痛みはあまりありません。 痛みを感じる部位は似ていますが、痛みを抑えるお薬の内容が大きく異なるため注意してください。 月経時に下腹部や恥骨の痛みを強く感じる場合は、婦人科に相談しましょう。 膀胱炎・尿道炎 膀胱と尿道は恥骨の後ろにある臓器であるため、膀胱炎・尿道炎も恥骨付近へ痛みを生じさせます。 しかし膀胱炎や尿道炎は排尿時の痛みが主であるため、運動時に痛みを感じる恥骨結合炎とは見分けやすいでしょう。 これらの病気はなんらかの原因で細菌が膀胱・尿道に入り込むために生じます。 排尿時の痛みや血尿・尿の色が本来と大きく異なるといった症状が特徴であり、内服治療が必要です。このような症状がみられたときには泌尿器科への受診をおすすめします。 恥骨結合炎の予防に効果的なストレッチ5選 恥骨結合炎は再発しやすく、一度症状が出ると治るのに時間がかかるため、日頃から予防したいですよね。 恥骨にくっついている筋肉は、大内転筋・小内転筋・長内転筋・薄筋・恥骨筋・腹直筋などで、内ももや股関節まわり・下腹部にあります。 これらの筋肉をほぐすストレッチで予防しましょう。 また、以下の記事でも恥骨結合炎のストレッチについて解説したいるため、気になる方はぜひご覧ください。 ただし、炎症が強い場合や痛みがあるときは自己判断でストレッチせず、かならず医師の診察を受けてください。 内もも・股関節のストレッチ(1) 1. 床にすわり、足の裏どうしを合わせて股関節をひろげます。 2. 手は両足のつま先をそっとつつみ、上半身を前へたおします。 3. ゆっくり3回ほど呼吸します。(約20~30秒) 背中が曲がらないように気をつけましょう。 内もも・股関節のストレッチ(2) 1. 大内転筋ストレッチの姿勢から、両足をすこし前に出します。(ダイヤの形) 2. 手は両足のつま先をつつみ、上半身を前へたおします。 3. ゆっくり3回ほど呼吸します。(約20~30秒) 両足の位置は少し調整し、気持ちの良いところでおこなってくださいね。 内もも・股関節のストレッチ(3) 1. 長内転筋ストレッチの姿勢から両足を伸ばしひらきます。(開脚している状態) 2. 手は前につきゆっくり上半身を前にたおします。 3. ゆっくり3回ほど呼吸します。(約20~30秒) 上半身を前にたおすときに、つま先が上になるように気をつけましょう。 お腹のストレッチ(1) 1. うつ伏せになり、足を肩幅ほどにひらきます。 2. 両手を肩の横につき、気持ちの良いところまで肘を伸ばします。 3. ゆっくり5回ほど呼吸します。(60秒前後) 目線はななめ上または正面に向け、無理せずおこないましょう。 お腹のストレッチ(2) 1. 手のひらと両膝を肩幅程度にひらき床につけ、よつんばいの姿勢になります。 2. 息を吐きながら背中を丸めおへそを見ます。 3. 息を吸いながら背中を反らし天井を見ます。 4. ゆっくり5回ほど呼吸しながら繰り返します。(60秒前後) 天井を見るときに顎が上がると首を痛めやすいので顎をひいておこないましょう。 恥骨結合炎には負荷の少ないトレーニングもおすすめ 負荷の小さいトレーニングであっても、恥骨結合炎の予防に効果的です。 恥骨結合炎は恥骨付近の筋肉が炎症を起こして発症する可能性があるため、内股や下腹部の筋力強化がおすすめです。 また、肥満でも体重の重みが恥骨に負担を与えるため、肥満改善も有効といえるでしょう。 もし恥骨結合炎を繰り返している方や予防したい方は、負担の小さいトレーニングをおすすめします。詳しい内容は以下の記事で解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。 恥骨結合炎で注意すべき生活習慣2選 恥骨結合炎は数週間~数か月と完治まで時間がかかり、再発もしやすい病気のため、日常生活に気をつけなくてはいけません。 骨盤に負担がかかる姿勢や動作 体重のコントロール 恥骨結合炎の治療・予防に重要な2つの注意点をまとめました。 骨盤に負担がかかる姿勢や動作 恥骨に負担がかかりやすいのは、体重が前にかかる・体重が左右に偏るときです。 前傾姿勢にならないように注意するのと、片方の足に体重をかけて立たないようにしましょう。 落ちたものを拾いたいときなどは、なるべく膝を曲げ体重が前にかからないようにします。 ベッドから起き上がる動作は下腹部・恥骨に力がかかるため、まず横向きになり、手で床を押しながら起き上がりましょう。 敷布団は起床時にに立ち上がる動作がどうしても負担になります。可能であればベッドを使用をおすすめします。 また、ビーズクッションなどの柔らかいソファは立ち上がる動作が負担になるので使用は控えましょう。 体重のコントロール 体重がかかると恥骨への負担が大きくなるため、肥満の場合は体重を落とすことも考えます。 とはいえ恥骨結合炎の治療中は運動は制限されるため、食事内容や量を見直しましょう。 肥満ではなくてもスポーツをしていて恥骨結合炎になった方は、運動を制限する治療期間中の消費カロリーが大幅に減ります。同じように食べていると体重が増えてしまうため、注意しましょう。 まとめ|恥骨結合炎はおへそ下に痛みを出す病気!悩んだら整形外科を受診しよう 恥骨結合炎は恥骨や周囲の筋肉の炎症によって痛みを生じる病気で、運動や出産が原因と考えられています。股関節周囲のストレッチやトレーニングが効果的で、適切な治療をすれば治る病気です。 しかし完治まで長い時間がかかり再発しやすい病気のため、日頃からストレッチをしたり、恥骨に負担をかけないよう動作に気をつけて過ごしましょう。 また、恥骨の痛みがなかなか治らない場合は似ているほかの病気も考えられるため、自己判断せず病院への受診をおすすめします。 ちなみに、当院リペアセルクリニックでは恥骨結合炎にも適応可能な再生医療へ取り組んでいます。従来の治療とは異なり、体への負担も少なく再発予防にも効果的です。 もし気になる方がいれば、お気軽に当院の「メール相談」や「オンラインカウンセリング」をご利用ください。 この記事が少しでも皆様の参考になれば幸いです。 恥骨結合炎についてよくある質問 恥骨結合炎はどんな症状がある病気ですか? 恥骨結合炎は歩行や運動によって恥骨や周囲の筋肉に炎症が生じ、下腹部に感じる痛みが特徴の病気です。 サッカーなど股関節を大きく動かすスポーツや妊娠・出産が原因で生じやすいと考えられています。 恥骨結合炎は何科を受診すれば良いですか? 恥骨結合炎は恥骨や周囲の筋肉に生じる炎症であるため、整形外科を受診してください。 しかし恥骨結合炎と似た病気で整形外科の病気ではない可能性もあります。 もし排尿時の痛みが強い時は泌尿器科へ、月経時の痛みが強いときには婦人科への受診がおすすめです。
2024.07.01 -
- 股関節、その他疾患
- 股関節
「恥骨結合炎に効果的なストレッチはある?」「ストレッチで恥骨結合炎の痛みを和らげたいけれど、どこを伸ばせばいいかわ分からない……。」と悩んでいませんか。 恥骨結合炎は、腹筋と内ももの筋肉を伸ばすようにストレッチを行うと症状が楽になる場合があります。また、お尻のトレーニングや水中歩行などの簡単な運動も効果的です。 本記事では、恥骨結合炎の症状を緩和してくれるストレッチを部位別にご紹介します。家でできるものも多いので、恥骨結合炎で悩んでいる方はぜひ最後までチェックして、ご自宅で実践してみてください。 恥骨結合炎では腹筋と内ももの筋肉をストレッチしよう! 恥骨はちょうど下着で隠れるところにあり、陰毛の生え際あたりに触れる骨です。左右に1つずつある恥骨は、真ん中で軟骨をはさむように結合しており、これを恥骨結合といいます。そしてその恥骨結合に起きる炎症が恥骨結合炎です。 腹筋や内転筋はこの恥骨結合についている筋肉なため、筋肉の固さが恥骨結合に悪影響となります。そのため、恥骨結合炎には腹筋や内転筋のストレッチが有効です。 恥骨結合炎の多くは、ランニングなどのスポーツによる腹筋や太ももの内側にある筋肉(内転筋)のオーバーユース(使いすぎ)が原因です。 腹筋や内転筋が恥骨結合に大きな負荷がかかることで発症するため、これらの筋肉を伸ばすように意識してストレッチを行いましょう。 ちなみに、恥骨結合炎の詳細は以下の記事で詳しく解説しています。ストレッチだけでなく恥骨結合炎についてもっと知りたいという方は要チェックです。 恥骨結合炎に効く腹筋のストレッチ2選 腹筋(腹直筋)は恥骨結合についている筋肉であり、骨盤や背骨の動きをコントロールする筋肉です。スポーツをはじめ、あらゆる日常生活動作で力が入る部位であり、腹筋に固さがあると少しの動作でも恥骨に負担がかかります。 この章ではうつ伏せと四つ這いでできる腹筋のストレッチをご紹介します。2つとも自宅で簡単にできるので、ぜひ実践してみてください。 うつ伏せでする腹筋(腹直筋)のストレッチ 1.手のひらをついた状態でうつ伏せになる 2.手で床を押しゆっくり体を起こす 3.体を起こしきったところで30秒ほど深呼吸する このストレッチのポイントはみぞおちをできるだけ床につけながら体を起こしていくことです。みぞおちを意識せずに思い切り体を起こすと腰を反りすぎてしまい、腰の痛みにつながります。 みぞおちをつけながらゆっくり体を起こしていき、腹部の伸びを感じてください。 四つ這いでする腹筋(腹直筋)のストレッチ 1.四つ這いの姿勢になる 2.両手を肩のまっすぐ下につき、膝を腰幅に開く 3.息を吸いながらお腹をのぞきこむように背中をまるめる 4.息を吐きながらななめ上を見るように背中を反らす 5.呼吸しながら5回ほど繰り返す このストレッチのポイントは腹筋と背筋に力を入れて動かすことです。肩や脚に力が入ると肩・骨盤の位置が前後に動きやすく、十分に腹直筋が伸びません。 腹筋と背筋にしっかりと力を入れて背骨を大きく動かすことで腹直筋にストレッチがかかりやすくなります。 恥骨結合炎に効く内転筋のストレッチ3選 内転筋は太ももの内側につき、脚を閉じたり立っているときに脚と骨盤を支える働きをする筋肉です。 脚を動かした時に骨盤と脚の支えをコントロールする筋肉であり、とくにランニングやサッカーで強く働きます。 オーバーユースにより内転筋が固くなると恥骨に負担がかかるため、恥骨結合炎の痛みに悩んでいる方は意識的にストレッチを行いましょう。 この章では3つの姿勢で内転筋をストレッチする方法をご紹介します。 内転筋が柔らかくなるとスポーツのパフォーマンスも向上しやすいので、スポーツをする方は必見です。 あぐらでする内転筋のストレッチ 1.あぐらの姿勢から両方の足裏をぴったりとあわせて座る 2.あぐらのままおへそをぐっと引き上げるようにして骨盤を立てる 3.背筋をのばし、ゆっくり前へ倒れる 4.呼吸しながら内転筋を伸ばし、30秒持続する ポイントは骨盤を立ててしっかりと背筋を伸ばすことです。 内転筋は骨盤が後ろに倒れると縮みやすいため、姿勢を正してストレッチを行いましょう。 また、前に倒れる時に背中が丸くなりやすいため、前に倒す時も骨盤を立てて背筋を伸ばすよう意識して行ってみてください。 開脚でする内転筋のストレッチ 1.床に座って膝を伸ばしたまま開脚する 2.骨盤を立てて背筋を伸ばす 3.背筋を伸ばしたまま骨盤から前に倒れる 4.呼吸をしながら内転筋を伸ばし、30秒持続する ポイントはストレッチしているときに膝・背筋を伸ばしたままにすることです。膝や背筋が曲がると内転筋のストレッチの効果が弱くなってしまうため、注意しましょう。 また、体を前に倒した時に膝のお皿やつま先が内側を向いていても内転筋の伸びが悪くなります。そのため、膝とつま先を上に向けるよう意識してください。 立ってする内転筋のストレッチ 1.立って脚を大きく開く 2.膝を曲げて四股の姿勢になり、膝の上に両手を乗せる 3.肘を伸ばしたまま伸ばしたい側の肩を内側に入れていく 4.片側を30秒ほど伸ばしたら、反対側も同様に伸ばしていく 肩を内側に入れるときに、膝が内側に向かないようしっかりと手で抑えることが大切です。 肩が内側に入るときに膝も内側に捻られると、内転筋のストレッチが弱くなってしまうため、膝をしっかり手で押さえましょう。 恥骨結合炎には簡単な運動もおすすめ!効果的なトレーニング4選 恥骨結合炎には腹直筋と内転筋のストレッチだけでなく簡単な運動も有効です。とくにおすすめなのは、腹直筋と内転筋をほぐす効果がある以下4つの運動です。 横のお尻のトレーニング 後ろのお尻のトレーニング 水中歩行 ジョギング 負担がかからない程度の運動によって恥骨結合炎の症状が軽減できるでしょう。 どれも簡単で実践しやすいため、ぜひ毎日の運動として取り入れてみてください。 横のお尻のトレーニング 横のお尻には中臀筋(ちゅうでんきん)という筋肉があります。中臀筋は内転筋とともに、外側と内側から骨盤と脚を支える筋肉です。中臀筋を鍛えることで内転筋の働きを助け、結果的に恥骨結合にかかる負担が軽減されるでしょう。 中臀筋を鍛えるトレーニングは以下のとおりです。 1.肩から脚がまっすぐなるよう横向きに寝る 2.4秒かけて上の脚を斜め後ろに引きながら持ち上げる 3.8秒かけてゆっくり戻す 4.10回繰り返し、反対側の脚も同様におこなう ポイントは、脚を持ち上げるときにつま先が上を向かないように脚を持ち上げることです。 つま先が上を向くと脚全体が捻られてしまい、中臀筋よりも太ももの前側に力が入ってしまいます。中臀筋にしっかりと力を入れるためにも、つま先が上を向かない意識を持ってください。 後ろのお尻のトレーニング 後ろのお尻には大臀筋(だいでんきん)という筋肉があります。大臀筋は恥骨結合に直接付着してはいませんが、骨盤と脚の支えに関わる重要な筋肉です。 大臀筋を鍛えることで骨盤と脚が安定し、恥骨結合炎の症状軽減につながります。 大臀筋を鍛えるトレーニングは以下のとおりです。 1.仰向けに寝て膝を90度に曲げる 2.肩・お尻・膝が一直線になるまでお尻を持ち上げる 3.10回ほど繰り返す。 ポイントはお尻を持ち上げたときに肩から膝までが一直線になるように持ち上げることです。 お尻が持ち上がらなかったり、腰を反ったりしてしまうと、大臀筋に力が入らず他の筋肉に頼った動作になるので注意しましょう。 水中歩行 水の中は浮力があり、自分の重さが軽減されるため負荷をかけずに運動できます。 ただし、バタ足は細かいキックを繰り返し恥骨に負担がかかるため、泳ぐのではなく水中歩行をしましょう。 歩くと水圧で全身にほどよく負荷がかかり、さまざまな筋肉をバランスよく鍛えられますし、10分ほどの運動で効果が得られます。慣れたら20分を週2回ほどおこないましょう。距離は10分あたり300m~500mほどが目安ですが、身長や水深によって負荷が変わるため、距離よりも時間を重視して歩いてください。 前歩きや横歩き、後ろ歩きなどさまざまな歩き方ができますが、とくに横歩きは内ももにある内転筋など股関節まわりの筋肉を鍛えられます。 3つの歩き方を組み合わせて、無理なく実践してください。 ジョギング ジョギングは運動強度が競歩と同レベルで、歩行よりも負荷のある運動かつ、ランニングほどの負担がなく運動療法として最適です。 ランニングよりも小幅で、息切れせず隣の人と話せるくらいのスピードで走ります。はじめは歩行とジョギングをくみあわせて10分程度から、すこしずつ歩行を減らしジョギングのみにしていき、時間も増やしていきましょう。 恥骨結合炎でストレッチ・トレーニングが効かなければ整形外科を受診しよう ここまでご紹介した恥骨結合炎に効果的なストレッチやトレーニングを実施しても痛みが続く場合、早めに整形外科を受診しましょう。 恥骨結合炎の炎症が強い場合は医師の指示にしたがって抗炎症薬などを使い、炎症が落ち着いてからストレッチ・トレーニングを再開してください。 また、婦人科や泌尿器科系の疾患など、恥骨結合炎以外の病気が隠れているケースもあります。適切な治療を受けるためにも、早めに医療機関を受診するようにしましょう。恥骨結合炎を含めた恥骨の痛みについて以下の記事で詳しく解説しています。興味がある方はぜひ一度ご覧ください。 なお当院リペアセルクリニックでは、恥骨結合炎にも適応可能なPRP療法などの再生療法に取り組んでいます。 恥骨結合炎で傷ついた軟骨組織の再生が可能であり、炎症や痛みの軽減につながる可能性があります。興味がある方は当院のメール相談もしくはオンラインカウンセリングでお気軽にご相談ください。 まとめ|恥骨結合炎には腹筋と内もものストレッチが有効!強い痛みがあれば受診も検討しよう 恥骨結合炎には腹直筋と内転筋のストレッチが有効です。これらの筋肉がオーバーユース(使い過ぎ)で固くなると恥骨結合炎の症状を強めるため、ぜひ習慣的にストレッチでほぐすようにしましょう。 ただしストレッチでも恥骨結合炎の痛みが緩和されないときは、無理せず整形外科で医師の判断を仰いでください。 ちなみに、当院リペアセルクリニックでは、恥骨結合炎の治療にも適用できる再生医療に取り組んでいます。傷ついた軟骨組織の修復も期待できるため、気になる人はぜひメール相談、もしくはオンラインカウンセリングでお問い合わせください。 この記事が少しでもお役に立てれば光栄です。 \クリックで電話できます/ メール相談 オンラインカウンセリング 恥骨結合炎のストレッチに関するよくある質問 恥骨結合炎でもランニングは可能ですか? 炎症が強かったり、痛みがある場合はランニングはできません。 再発しやすい病気のため、治ったと思っても息が弾むようなランニングをすぐはじめるのはやめましょう。ただし、隣にいる人と会話できる程度のジョギングは、リハビリとしても推奨されており、痛みのない範囲で可能です。 しばらくはジョギングを続け、すこしずつペースをあげていくとランニングができるまでに回復します。 痛みが強かったり、大会など控えている場合はスポーツ専門医に相談しながらリハビリ計画を立てましょう。 恥骨結合炎は何科を受診しますか? 恥骨結合炎かなと思ったら、整形外科を受診しましょう。 整形外科医は骨や軟骨・靭帯・神経など、からだを動かすのに必要な器官を診る専門家です。診察の結果、恥骨結合炎と診断されるとはかぎりませんが、運動器官のスペシャリストなので痛みの原因をしっかり調べてくれます。 なお、妊娠中や出産後の恥骨痛はまず産婦人科や助産師に相談しましょう。 恥骨結合炎になったらどのくらい安静にすべきですか? 痛みが強い場合は2週間の安静が必要です。 安静中はスポーツや、走ったり重いものを持つといった負担のかかる日常生活の動作もやめ、患部を冷やしてください。そのあとは痛みの具合をみながらストレッチを開始しましょう。 恥骨結合炎はどのくらいで完治しますか? 2か月前後が目安ですが、再発を繰り返す場合はもっとかかる可能性があります。 恥骨結合炎は再発しやすいため、はやく完治させるには再発予防が重要です。痛みがひいても安静期間は十分にとってください。また、すぐにスポーツを開始せずストレッチをしながら少しずつ負荷をかけていきましょう。
2024.06.28 -
- 幹細胞治療
- PRP治療
- 免疫細胞療法
- 再生治療
化粧品や美容医療などで「エクソソーム」という言葉を耳にしたことがありませんか? エクソソームとは、細胞から分泌される小さな袋(小胞)のことです。外側は細胞膜と同様に脂質からなる二重膜で覆われています。内部には多様な情報伝達物質が含まれています。細胞はエクソソームを介してコミュニケーションを取っているのです。 このエクソソームが注目を集めています。エクソソームを応用することで免疫制御・細胞死の抑制・組織の再生などの効果が期待されているのです。様々な疾患の治療、さらには化粧品やサプリメント・健康食品までさまざまな分野において開発が進んでいます。 この記事では主に、 ・エクソソームと幹細胞培養上清液との違いについて ・再生医療におけるエクソソームの安全性について などを分かりやすく解説していきます。 エクソソームと幹細胞培養上清液の違いとは 近年、幹細胞を使わない「エクソソーム治療」や「幹細胞培養上清液による治療」を行う施設が散見されるようになってきました。ではこの両者に違いがあるのでしょうか。 エクソソームとは? エクソソーム治療で用いられるエクソソームは、「幹細胞培養上清液」から抽出されたものです。つまりどちらも、元々は幹細胞を培養した溶液の上澄みです。「エクソソーム」のほうがより精製度が高いということになります。 幹細胞培養液とは? 一方の「幹細胞培養液」はエクソソーム以外にもタンパク質など様々な成分も含有しているのです。 なぜ再生医療でエクソソームが注目されているのか エクソソームが注目されている理由は、幹細胞治療がどうして効果を発揮するかのメカニズムと大きく関わっています。 再生医療のひとつである幹細胞治療では、間葉系幹細胞という万能細胞を採取して培養を行い、障害部位に投与することで組織の再生を促すものです。組織修復には、幹細胞が障害組織の細胞に分化するのみならず、間葉系幹細胞が放出するエクソソームが再生に関わる生理活性物質を内包していることが重要だと考えられています。 つまり、エクソソームは幹細胞治療におけるキープレーヤーのひとつなのです。そして、幹細胞を培養した「幹細胞培養上清液」には組織の再生に有用なエクソソームが多く含まれていることも分かっています。 エクソソーム治療の安全性について 残念ながらエクソソーム治療には、安全性におけるデメリットも多くあります。 現時点で有効性や安全性が確実に証明されていない 何より最大のデメリットは、現時点で有効性や安全性が確実に証明されたものではないということです。 体内にどう分布するのか、高濃度のエクソソームを投与して本当に安全なのか、など結論が出ていない課題が数多くあります。 まだ技術的にしっかりと確立されたものではない さらに、エクソソームの精製はまだ技術的にしっかりと確立されたものではありません。エクソソームの回収技術は完全には確立されておらず、望ましくない不純物が含まれている可能性も否定できないのです。 内容物や生体内での作用の確認技術が未確立 また、調整されたエクソソームの内容物や生体内での作用の確認技術も未確立です。そのため、品質にばらつきがある可能性があります。どれが低品質でどれが高品質かを判断することもできません。 そして一番怖いのは他人の幹細胞から抽出されたものを使うため、他人の遺伝子が入っているということです。将来的にも未知の疾患が発症してしまうリスクがあるのです。 法規制が曖昧 エクソソーム治療のもう一つの問題点は法規制が曖昧だということです。間葉系幹細胞を利用した治療と異なり、生きた細胞を含まないので再生医療等安全性確保法の対象になりません。つまり、現状では安全性や有効性においてはっきりしない面がある中、医師法や医療法以外には法規制がない状況で治療が行なわれているのです。 再生医療についてよくある質問 Q : エクソソームや幹細胞培養上清液はどのような疾患の治療に用いられていますか? A : 厚生労働省の資料によると、点滴・皮下や関節への局所注射・塗布などが行われ、美肌・毛髪再生・勃起不全など様々な疾患が対象となっています。 Q : 再生医療を選ぶ時に注意すべきことは? A : エクソソーム治療でも、幹細胞や培養上清液を使った治療であっても、「他人・他の動物由来」のものはリスクが高くなることに注意してください。 具体的には、未知の感染症やアレルギーの可能性が否定できません。とくに培養上清液にはウシ血清などが用いられることが多いです。ヒト由来でないものから作られた製剤はアレルギー反応や不純物混合などのリスクが排除できません。アレルギーや感染症リスクを考える、「自分自身の細胞」「自分自身の血液」を使った治療がより安全だと考えられます。 なお、幹細胞培養上清液による治療に関連した患者死亡情報があるという発表が2023年10月に再生医療抗加齢学会(引用)よりなされています。 同学会はこの中で、流通している「他人の細胞」由来の幹細胞培養上清液・エクソソームはすべて未承認で、あくまでも試薬等という扱いであることを述べています。 まとめ・治療の際は有効性や安全性が確証されているかを確認! エクソソーム治療は多くの可能性を持ち、期待されている治療法です。しかしながら、現時点では解決すべき課題点も多く残っています。治療を受けるために、非常に高額な費用がかかるケースも多くあります。 また、「治療」のつもりが健康を損なう結果になってしまうことはとても残念なことです。治療を受けるかどうかは、有効性も安全性もしっかり考慮し、他の再生医療についても選択肢に入れながら考えていく必要があるでしょう。 リペアセルクリニックでは膝や肩などの関節の痛み・脳卒中や脊髄損傷の後遺症・肌のお悩みなどに対し、幹細胞治療による再生医療を提供しています。当院独自の細胞培養技術により、冷凍保存をしていないフレッシュな幹細胞を多く投与することが可能です。また、培養には本人の血清を使用しており、化学薬品を使用していないことでアレルギーや感染症のリスクを抑えています。 有効性と安全性に優れた治療を検討されているなら、ぜひ当院にお問い合わせください。 参考文献 落合孝広. 生物資料分析 42(5): 217-221,2019. 岩崎剣吾, 森田育男. 最新医学 73(9): 1243-1253, 2018. 花井洋人, 下村和範, 中村憲正. 臨床スポーツ医学. 37(5):599-603, 2020. 一般社団法人 日本再生医療学会|エクソソーム調整・治療に対する考え方 厚生労働省|再生医療などのリスク分類・法の適用除外範囲の見直し 第二回ワーキンググループ(R3.1.18)における議論 厚生労働省|再生医療等安全性確保法における再生医療等のリスク分類・法の適用除外範囲の見直しに資する研究報告書
2024.06.27 -
- 頭部
- 頭部、その他疾患
日常生活の中で、首こりを感じていませんか。 「首まわりが張っている」 「首の辺りが重く疲労感がある」 上記のような感覚は、首こりの症状である可能性が高い傾向にあります。 首こりは、頭痛やめまいを引き起こす原因となり、ひどくなると日常生活に影響をおよぼします。 今回の記事では、首こりの解消や予防、首こりに関連する症状を解決するための治し方をまとめました。 首こりに悩んでいる方や、すでに日常生活に影響が出ている方は、ぜひ最後までお読みください。 首こりでめまいや頭痛になる主な原因 首こりは首まわりの頭を支える筋肉に、過度な緊張や負担がかかった場合に生じます。 首こりによるめまいや頭痛が起こる原因は、日常生活のなかにあり、考えられる要因としておもに以下の3つです。 不適切な姿勢 自律神経の乱れ 長時間のパソコン作業 まずは上記3つがなぜ首こりの原因になるのか、それぞれ解説します。 不適切な姿勢 長時間の不適切な姿勢は、首周囲の筋肉に負荷がかかり、首こりが起こります。 日常生活の中でスマートフォンやタブレットを操作する際、少しうつむくような姿勢で操作している方は要注意です。 成人の頭の重さは約4〜6kgあり、首周囲の筋肉や骨で頭の重さを支えていますが、頭が前に傾けば傾くほど、首にかかる負担は大きくなります。 たとえば、スマートフォンを操作するために首を約30度前に傾けると、約18㎏の負荷が首にかかるとされています。 18㎏は5歳くらいの子どもの体重とほぼ同じなので、かなりの負担が首にかかっている状態です。 もともと人間の首は、重い頭を支えるためにゆるやかなカーブをしており、その姿勢が首に負担が少ない姿勢です。 日常生活でスマートフォンの操作時間が長い方や、うつむいた姿勢で長時間作業する職業の方は、首こりになりめまいや頭痛が起きやすいでしょう。 不適切な姿勢になりやすいのは身体に合わない寝具も影響します。 合わない枕は寝ている間に首へ負荷がかかっている可能性があります。 枕は高さや柔らかさなど、自分の身体に合ったものを選びましょう。 自律神経の乱れ ストレス状態が続くと、自律神経が乱れ、筋肉の緊張を引き起こした結果、めまいや頭痛が起きてしまいます。 そもそも自律神経とは、血圧や呼吸数などを調整し、自律的に身体の中のバランスを整える役割です。 自律神経が乱れると身体機能のバランスが崩れ、全体的に血行が悪くなります。首周囲の血行も悪くなるため、首こりの症状を引き起こす原因になるのです。 自律神経が乱れないためにもストレスはため込むまえに上手く解消できるよう、適度な運動や趣味の時間を増やすなどを実施してみましょう。 長時間のパソコン作業 長時間のパソコン作業は、首こり以外にも眼精疲労が起こる可能性があります。 新型コロナウイルスの拡大で、リモートワークの活用が進み、今までオフィスで仕事をしていた方も、自宅で仕事をする機会が増えたでしょう。 しかしリモートワークは、パソコン作業に向かない机やイスを使っている方も多く、整った環境ではない可能性があります。 パソコン作業に向かない机やイスは、姿勢が悪くなり、気づかないうちに身体に負担がかかっています。 同じ姿勢で座っている時間が長くなるため、首周囲だけでなく、肩や腰の筋肉も凝り固まるでしょう。 長時間ディスプレイを見続けると、目の筋肉が疲れるために、眼精疲労を引き起こします。 見えづらさを感じると姿勢が悪くなりがちなため、首こりの原因になるので、まずは環境を整えていきましょう。 首こりに関連する症状 首こりは、めまいや吐き気、腕の重だるさ、やる気が出ないなど、心身にさまざまな症状があらわれます。 以下の症状は、首こりがひどくなるとあらわれる主な症状です。 頭痛 目の疲れ ストレスからくる自律神経の不調 首こりに関連する3つの症状をそれぞれ解説していきます。 頭痛 「頭全体が締め付けられる痛みがある」 「頭痛が続いていてつらい」 上記のような頭痛を感じる方は、首こりが原因の可能性があります。 首周囲の筋肉や肩、肩甲骨周りの筋肉が緊張するため、血流が悪くなります。 頭に向かう血流にも悪影響をおよぼし、頭痛を引き起こすのです。 首こりからくる頭痛が気になる方は、以下の方法が治し方としておすすめなのでぜひ試してみてください。 40℃のお湯に10分程度入浴する 首のまわりに温めたタオルやホットパックをあてる 上記の方法は、首周囲の血流が改善する効果が期待できる治し方です。 首周囲の筋肉の緊張をほぐし、血流を改善すれば、頭痛がよくなる可能性があります。 ただし「片頭痛」の場合、血流が良くなると痛みが悪化するので注意が必要です。 目の疲れ 目の疲れは「眼精疲労」とも呼ばれ、首こりの原因や自律神経のバランスを崩します。 1日6時間以上、ディスプレイを見ている方は、目の疲れを引き起こし、首こりにつながる可能性があるので注意が必要です。 パソコンやスマートフォンの操作は同一の姿勢でおこなう場合が多く、液晶画面を見ている時間が長いと、目の疲れやめまいも感じやすいのです。 目の疲れを感じたら、以下のようなケアをおこないましょう。 目薬をさす 適度な休憩をとる ホットパックで目元を温める 上記の方法は、目の疲れやめまいの治し方としておすすめの方法です。 目元をホットパックで温める治し方は、ホットアイマスクやお湯で濡らしたタオルを目に2分ほどあてましょう。 目の疲れやめまいが治れば、首こりの軽減につながる可能性が高まります。 自律神経の不調 首こりがひどくなると、自律神経に影響を与え、副交感神経の働きが低下します。 自律神経には以下の2種類があり、それぞれ違う役割があります。 神経名 概要 交感神経 起きているときや活動するときに優位 副交感神経 夜間やリラックスしているときに優位 首こりによって自律神経が乱れると、以下のような症状が起こるので注意しましょう。 頭痛や頭重感 めまい 不眠症 など ひどくなると「自律神経失調症」を引き起こす可能性があります。 首こりを放置すると、さまざまな関連症状をもたらすので、放置せずできる範囲から取り組み、対処しましょう。 以下の記事では自律神経の乱れに関係するストレスと「高血圧の関係性」についてまとめています。 首こりからくるめまい以外の症状でもあるので、自己判断しないためにもぜひあわせてご覧ください。 首こりを解消させる効果的なストレッチ 日常生活のなかで、首こりからくるめまいや頭痛を解消したい方に向け、現役医師の立場から効果的なストレッチを紹介します。 ストレッチは、身体をリラックス状態にし、血行改善効果があります。 血行が良くなれば、首周りの筋肉もほぐれ、首こりによる症状が緩和するでしょう。 「時間がなくてなかなか運動の時間が確保できない」と感じる方でも取り組める方法をまとめました。 「自宅でもできる治し方が知りたい」方は、ぜひ参考にしてください。 首のストレッチ 首こりでめまいや頭痛を感じる方は、以下のストレッチを試してみてください。 背筋をのばし肩の力を抜く 首を前に倒しゆっくり右にまわす ぐるっと一周まわしたら今度は左にまわす 左右10回程度おこなう パソコンやスマートフォンを見る時間が長い方は以下のストレッチもおすすめの治し方です。 両手の親指を鎖骨にかかるように胸の前に置く 口を閉じ、上を向いて背筋を伸ばす(顎を突き出すイメージ) 首の前部分が伸ばす 余裕があれば顎の向きを斜めになるよう左右に傾ける 一連の流れを2〜3回繰り返す 肩のストレッチ 首こりからくるめまいや頭痛は、肩のストレッチでも改善できる可能性があります。 肩のストレッチは、以下の手順で実施してみましょう。 背筋をのばしてイスに座る 腕の力は抜く 息を吸いながら両肩を持ち上げる 息を吐きながらストンと肩をおろす 一連の流れを2~3回繰り返す 肩甲骨のストレッチ 肩甲骨のストレッチも、首こりからくるめまいや頭痛を改善したい方におすすめです。 一連の流れは以下の通りです。 両肘を曲げて肩より上に肘をあげる 両手は軽くにぎり鎖骨のあたりにもってくる 両肘を下げないようにしながらゆっくり後ろへ引く 肩甲骨をギュッと寄せように意識する そのまま両肘を下げ力を抜く 5回程度繰り返す 今回紹介したストレッチは、座ったままでもできる簡単な方法です。 作業の合間や首こりや肩こりを感じたときなどにやってみましょう。 隙間時間を利用し、1日のなかで定期的にストレッチすれば、凝り固まる前に解消できるでしょう。 ただし、体調や自分の首や肩の動かせる範囲内で無理せずストレッチするのが大切です。 無理をすると、筋肉や関節を傷めてしまう可能性があるので、ゆっくり気持ち良いと感じられる力加減でストレッチするのがポイントです。 マッサージ技術の活用 マッサージをすると、凝り固まった筋肉をほぐし血行が良くなるため、首こりの解消におすすめです。 首こりで悩む方のなかには「マッサージや整体院、鍼灸院に行きたいけれど時間がない」方もいるでしょう。 ここからは自宅でできる簡単なマッサージも紹介します。 <胸鎖乳突筋マッサージ> 胸鎖乳突筋とは、首の横に耳の後ろ辺りから鎖骨辺りまでつながっている筋肉です。 場所がわからない場合、顔を横に向けると浮き出てくるためわかりやすいでしょう。 耳の後ろ側に人差し指・中指・薬指を縦方向に押し当てる 首を横に傾けながら20秒程上下にさする 揉みほぐすイメージで指で胸鎖乳突筋をつまむ つまむ位置を徐々に下へ移動する 反対側も同様におこなう 胸鎖乳突筋の近くには、頸動脈もあるためマッサージをおこなう際には注意しましょう。 痛みや苦しさを感じた方は、すぐにマッサージを中止してください。 自宅でできるマッサージではなく、プロによる適切な施術を希望の方はお気軽に当院へご連絡ください。 日常の運動 首こりを感じたらストレッチやマッサージをするだけでなく、適宜運動も取り入れてみましょう。 日常的に運動をしていると首こりが生じる前に解消でき、予防にもつながります。 以下のような全身運動は、身体の筋肉を動かすため血流がよくなり、首こりの解消や予防におすすめです。 縄跳び 水泳 ヨガ など 適度な運動習慣は、首こりの解消だけでなく、健康の維持増進にもつながります。 適度に身体を動かす習慣があると、脳の活性化や疲労回復の効果もあり、仕事の効率アップも期待できます。 また、運動にはストレスホルモンを下げる働きがあるとされているのもおすすめポイントです。 イライラしやすかったり寝つきが悪かったり、ストレスがうまく発散出来ていない方は、運動で発散してみるのも良いでしょう。 ストレスが溜まった状態は自律神経の乱れが起こり、首こりの原因になるため、適度に運動し首こりの解消や予防をしていきましょう。 日常でできる首こり解消法 首こりは、日常生活の中で少し意識して行動するだけで、予防できます。 めまいや頭痛など、さまざまな症状があらわれ、不調をきたす前に、首こりを予防しましょう。首こりの予防は、一度だけではなく長期的な管理が大切です。 毎日過ごす日常生活の中で、自分ができる治し方から取り入れてみましょう。 正しい姿勢の維持 正しい姿勢の維持は、身体全体のバランスが良くなるため、首こりだけでなく肩こりや腰痛の予防にもつながります。 正しい姿勢ができているかは、以下のような確認方法があります。 壁に背中を向け立つ かかと・おしり・肩・頭を順番に壁につける 腰の辺りと壁の間に手のひらを差し込む 手のひら1枚分が入る隙間があるのが理想ですが、それ以上に隙間が開いている方は「反り腰」です。 肩が壁につかない方は巻き肩で1カ所でも壁につけられない部位があれば、姿勢が悪い状態といえます。 立ったときに、耳や肩、腰、膝、くるぶしが一直線になる状態が、正しい立ち姿勢です。 座ったときには、イスに深く腰かけて骨盤がまっすぐ立つように座りましょう。 足の裏をしっかり床につけ、膝と股関節が90°になるよう座ると、骨盤が立ちやすい座り方になります。 日常生活の中で、正しい姿勢を意識するよう心がけてみましょう。 姿勢改善以外の治し方が気になる方は、以下の記事もあわせて参考にしてください。 職場の環境改善 オフィスでは、適切な明るさ、適切な机やイス、ディスプレイの適切な位置や明るさなど、職場環境が整えられている場合が大半です。 厚生労働省からガイドラインも出されているため、VDT作業(Visual Display Terminals)のための環境設定は重要といえます。 しかし、テレワークや在宅ワークなど、環境が整っていない場所で作業をしている方もいるでしょう。 スペースの問題でディスプレイと近くなってしまったり、机やイスが合わず姿勢が悪くなってしまったりするので、以下を試してみてください。 <VDT作業のための正しい環境設定> 明暗の変化が著しくない室内で机上は300ルクス以上が目安 ディスプレイやキーボード、マウスは適宜動かせるようにする 机の高さは作業者に合ったものにし、イスは高さが調整できるものにする ディスプレイは、目から40cm以上離し目と同じ高さかやや下に位置する 300ルクスとは、新聞が読める程度とされており、蛍光灯を使用した少し古い事務所のようなイメージです。 できる範囲で適切な環境設定をすれば、首こりや腰痛などの身体の不調の予防につながります。 定期的な運動とストレッチのルーチン 定期的な運動やストレッチは、首こりの予防に効果的です。 しかし「忙しいから時間がとれない」や「毎日疲れて運動なんてできない」と考えている方もいるでしょう。 「毎日ストレッチを頑張ろう」と決意しても、なかなか続けるのは難しいのが実情です。 定期的な運動スケジュールを立て、ルーティン化すると、長く続けていきやすいでしょう。 運動に対するモチベーションを維持し継続する方法 定期的な運動を続けるためにも、モチベーション維持が大切です。 無理のない程度に運動をする日を設定する 設定した日に運動やストレッチができたらカレンダーに印をつける 慣れてきたら運動する日を増やしてみる カレンダーに印をつければ「できた」事実が視覚的にわかります。 体調や忙しさによってできない日があっても、徐々にカレンダーにつく印が増えていくと、頑張っていると実感でき、達成感を味わえるでしょう。 モチベーションが上がらない方は「印が何個ついたらご褒美」と設定するのもおすすめです。 まずは、散歩や軽いウォーキング、軽いストレッチを週に数回程度に設定してみましょう。 忙しくても運動の習慣をつける方法 忙しくて時間がなく、まとまった運動の時間を確保するのが難しい方は、日常に変化を加えるのがおすすめです。 普段自転車で行くところを歩いていく 通勤中、職場の一駅前で降りて歩いてみる なるべく階段を使う 上記のような時間もとれない方は、日常生活行動の中で「ながら運動」をしてみましょう。 歯磨きをしながらかかと上げや足上げをする テレビを見ながらストレッチをする 家事をしながら首回しをする 運動に対して気が進まず、始めるのにハードルが高い方もいるでしょう。 しかし、適度な運動習慣がある方は、首こりの解消や予防だけでなく、ストレスの解消や健康的な生活にもつながります。 適度な運動習慣をつけるのをおすすめします。 まとめ・首こりが気になる方は一度受診しておくのがおすすめ! 首こりからくるめまいや頭痛は、姿勢の悪さやストレス、長時間のデスクワークから生じます。 首こりを放置すると頭痛やめまいだけでなく、自律神経の乱れを引き起こし、身体全体の不調を感じる原因となります。 首こりは、ストレッチや運動で解消できるので、本記事で紹介したストレッチやマッサージを試してみてください。しかし、今回紹介した治し方を実施しても首こりが解消しない場合、別の疾患も考えられるため、一度受診をしておきましょう。 首こりの原因によって受診する診療科は異なりますが、まずは整形外科を受診するのがおすすめです。 当院では、首こりからくるめまいや頭痛だけでなく、自律神経の乱れから発症するお悩みなどを、メールやオンラインでカウンセリングを行っています。 症状にあわせた解消法やストレッチなどを、診断結果に応じてお伝えします。 「めまいしか感じないけれど治し方を聞いても良い?」と感じる方も、気軽にお問い合わせください。
2024.06.26 -
- 肝疾患
- 内科疾患
アルコール性肝炎の初期症状を見逃すな!原因や症状を徹底解説 長期のアルコール多飲が引き起こすアルコール性肝炎ですが、重症化すると救命率が下がるため、早期発見が大切です。 多量飲酒後の食欲不振や発熱、倦怠感、右上腹部痛、黄疸が出たら要注意です。 この記事では主にアルコール性肝炎の原因や症状に的を当て、説明していきます。 アルコール性肝炎の原因とは 長期にわたり常習的にアルコールを大量に摂取することで生じる肝疾患の総称を、アルコール性肝疾患といいます。 これらのアルコール性肝疾患が起きる原因は、長期の多量飲酒によって肝臓がダメージを受けることです。 アルコール代謝の中で生じる毒素や炎症物質が肝細胞を損傷するほか、肝臓の脂肪化や栄養の偏りも肝機能低下 を助長させるのです。 アルコール性肝疾患には、具体的に以下のようなものが挙げられます。 ・アルコール性肝炎 ・脂肪肝 ・肝線維症 ・肝硬変 ・肝細胞がん この中でアルコール性肝炎は、炎症が特に強い状態となります。 アルコール摂取が肝臓の許容量を超え、アルコール性脂肪肝になり、その状態でさらに飲酒を継続するとアルコール性肝炎が引き起こされます。 脂肪肝と肝炎が混在する状態を、アルコール性脂肪性肝炎と呼びます。重症型になると死に至ることもあるため、早期発見・早期治療・継続的な断酒が大切になります。 また、アルコール性肝炎の診断を受けた時点で多量飲酒が習慣化されている人は、すでにアルコール依存症になっている可能性があります。その場合は、休肝日を設けたり飲酒量を少なくするのではなく、完全に断酒する方法を考えていかなくてはなりません。 担当医師から専門の医師に紹介してもらい、必要に応じて入院診療を受け、さらに自助グループやデイケアなどで継続的な断酒のサポートを受けましょう。禁酒により一旦肝炎が改善しても、飲酒を再開すれば肝硬変に至るかもしれません。一時的な肝炎の改善だけでなく、病気の再燃や肝硬変の予防のため、長期的な努力が必要です。 アルコールの分解過程 肝臓は様々な働きを持つとても重要な臓器です。その働きの一つが解毒であり、アルコールも分解してくれます。 お酒を飲むと、胃や腸管などの消化器官がアルコール成分を吸収し、血管を通って肝臓に届けられます。アルコールはエタノールという成分になりますが、このエタノールはまず肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)によって酸化され、アセトアルデヒドという物質に分解されます。 アセトアルデヒドとは、二日酔いの原因となる物質です。これが体内に蓄積することで、吐き気やめまいなどの症状が出現します。 続いて肝臓内では、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によってアセトアルデヒドは酢酸に分解され、酢酸は血流に乗って全身に送られます。 酢酸は筋肉や脂肪組織でエネルギー代謝を受け、最終的に水や二酸化炭素となります。こうして水は尿へ、二酸化炭素は呼気として体外に排出されるのです。 しかし、必ずしも1回で全てのアルコールが分解できるわけではありません。分解できずに残ったアルコールは、体内を巡って肝臓に戻り、分解できるまで同じ過程を繰り返します。 どれくらいの飲酒量なら許容されるのか? どれくらいのお酒なら健康被害を出さずに飲めるのかについては、人種や性別、遺伝子などが関係しているため、個人差があります。 上記のアルコール分解過程で必要なALDHには1型と2型があり、2型はアセトアルデヒド濃度が低いうちから働くため、この酵素が多い人間が“お酒に強い人”となります。 しかし、日本人の4割以上はこの2型が低活性型で、さらに日本人の4 %はこれが全く機能しない不活性型であるとされています1)。 お酒を飲むとすぐ気持ち悪くなってしまう“お酒が合わない人”というのは、これが原因かもしれません。 性差に関しては、女性のアルコールを分解する能力は男性の2/3 程度しかなく1)、一般的に女性は男性よりも酔いやすいとされます。 厚生労働省が提唱する適切な飲酒量は、純アルコールで1日あたり約20 gまでとなっています2)。 また、日本人を対象にしたある研究では、アルコール量の摂取が1日あたり23 g/d以下の男女では死亡率(全死因を含む)が12~20 % 減少したと報告されています3)。 【アルコール約20 gの換算表】 お酒の種類 量 アルコール度数 アルコール量 ビール 中瓶1本 (500ml) 5 % 20 g ワイン グラス2杯 (240 ml) 12 % 24 g 日本酒 1合 (180 ml) 15 % 22 g 焼酎 半合 (90 ml) 35 % 25 g ウィスキー ダブル (60 ml) 43 % 20 g 上記の換算表を用いて、飲みすぎないように注意しつつ、休肝日を設けて肝臓を労ってあげましょう。 お酒に強くなったら肝臓も強くなる? 最初はお酒に弱くても、飲み続ければ強くなると言われたことはありませんか?実はそれ、事実なのです! 上記のアルコール分解過程で示したADHやALDHの他に、ミクロソームエタノール酸化酵素(MEOS)というものがエタノール分解に関わっています。 MEOSはアルコール摂取によって活性化する特性があるため、“お酒を飲めばお酒に強くなる”という現象が起きます。 しかし、だからと言って肝臓の負担が減るわけではありません。飲酒量や飲酒の頻度が増えれば増えるほど、肝臓はダメージを受け、肝障害へと繋がります。他者にお酒を勧められようとも、自分の身を守れるのは自分だけです。必要な時には断るなり、誰かに相談するなりして、適切な飲酒量を守りましょう。 アルコール性肝炎の症状とは 肝臓は別名“沈黙の臓器”と呼ばれ、重症化するまで気が付かないのが怖いところです。 脂肪肝のうちは多くの場合症状はありませんが、肝腫大はみられることがあります。それがアルコール性肝炎に進行すると、以下のような症状が現れます。 ・食欲不振 ・体重減少 ・嘔気、嘔吐 ・腹部膨満 ・腹痛 ・発熱 ・倦怠感、疲労感 ・黄疸 アルコール依存症に陥っている場合、飲酒によって空腹を感じず、栄養失調になっていることが多いです。 さらに、肝炎が重症化すると、禁酒しても症状が改善せず、以下のような重篤な症状が現れるようになります。 ・腹水 ・肝性脳症 (行動異常、性格の変化) ・食道、胃静脈瘤 ・消化管出血(吐血、血便) ・腎不全 ・肺炎 重症型アルコール性肝炎になってしまうと死に至ることもあり、注意が必要です! 上記の症状を自覚したら、すぐに消化器内科を受診しましょう。大事に至る前にお酒をやめ、早期に治療を受けることが大切です。 アルコール性肝炎の検査方法 1. 血液検査 血液検査では、肝臓の機能を測る値(AST/ALT, γ-GTP)が高いだけでなく、高脂血症や白血球の増加、ビリルビンの上昇、アルブミンの低下、プロトロンビン(PT)時間の延長、高乳酸決症を認めます。 また、アルコール性肝炎ではALTと比してASTが高くなるのも特徴です。採血項目に関する説明は下記をご覧ください。 AST : 肝臓や心筋、骨格筋に含まれる酵素。炎症の指標となる。 ALT : 主に肝臓にある酵素。炎症の指標となる。 γ-GTP : 主に胆道に含まれる酵素。 ビリルビン:古い赤血球の破壊時に生成され、肝臓から胆汁を通じて排出される。 アルブミン:肝臓で生成されるタンパク質。 PT : 肝臓で生成される凝固因子(血液を固めるタンパク質)の一つ。 乳酸:肝臓での代謝によりエネルギー源に変換される物質。 2. 画像検査 エコー(超音波)検査やCT検査、MRI検査を行い、肝臓の状態を画像的に評価します。 検診などでも行われるエコー検査ですが、アルコール性肝炎では肝臓の腫大や肝辺縁の鈍化、肝臓が明るく見えるbright liver等の脂肪肝に特徴的な所見を認めます。 エコー検査はアルコール性脂肪肝を確認する際には有用ですが、肝炎の重症度を確認するには至りません。 その点、CT検査やMRI検査では脂肪化の程度や重症度までしっかり確認できます。 3. 肝生検 肝生検とは、エコーで肝臓の位置を確認後、消毒や局所麻酔を行い、生検針で肝臓を穿刺し、採取した組織を病理学的に診断する方法です。 特徴的な所見として、肝細胞の風船化や壊死、炎症細胞の浸潤、マロリー体と呼ばれる肝細胞の脂肪化に伴って現れるタンパク質などがみられます。 4. 飲酒習慣のスクリーニングテスト AUDITと呼ばれる飲酒関連の問題をスクリーニングするテストがあります。 飲酒量や頻度などを質問形式で問われ、問題飲酒の重症度を判定していきます。 病院に行かずとも、インターネット上で気軽にアクセスできるので、気になった方は試してみてください。 まとめ・アルコール性肝炎は早期発見が大切! アルコール性肝炎の原因や症状について理解することができましたでしょうか? 基本的には長期に渡る過剰な飲酒が原因となりますが、アルコール分解能が低い人では多量飲酒とはいかない量でもアルコール性肝炎を発症し得ます。肝臓の腫大や右上腹部痛、黄疸、発熱がみられたらすぐに消化器内科の診察を受けましょう。 一時的な断酒や肝炎の治療で病状が回復しても、飲酒を再開すれば肝炎の再燃や肝硬変への移行につながります。アルコール依存症になっている場合は、必ず専門の医療機関にかかり、時間をかけながらでも断酒に努めましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 参考文献一覧 林田真梨子,木下健司.飲酒と健康―アルコール体質検査と飲酒の功罪―.醸協.2014;109:2-10. 厚生労働省ホームページ Lin Y, Kikuchi S, et al. Alcohol Consumption and Mortality among Middle-aged and Elderly Japanese Men and Women. Ann Epidemiol. 2005;15:590-597. ▼こちらもあわせてお読みください。
2024.06.25 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
帯状疱疹後神経痛(PHN)は、帯状疱疹の合併症の中で最も頻度が高いと言われています。「触れただけで痛みを感じる」「ピリピリと電気が走るような痛みが続く」などの症状が現れるため、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。 この記事では、帯状疱疹後神経痛や治療法などについて説明しています。 病院で行う治療はもちろん、自分でできるケア方法についても説明していますので、自分に合った痛みの緩和方法を見つけ、生活の質を下げないようにしていきましょう。 帯状疱疹後神経痛とはどんな病気か 帯状疱疹について 帯状疱疹とは、水痘帯状疱疹ウイルスによって引き起こされる病気です。はじめて水痘帯状疱疹ウイルスに感染した場合、水ぼうそうという病気で発症します。 このウイルス、実はとても厄介であり、水ぼうそうが治ったあともウイルスが体の中から消えることはありません。神経節と呼ばれる神経細胞が集まっている部分に身を潜め、再び活発になる機会をうかがっています。このとき、症状が現れることはありません。 そして、加齢や疲労、ストレスなどで免疫力が下がると、潜んでいたウイルスが表に出てきてしまい、帯状疱疹を発症します。そのため、水ぼうそうに一度でもかかった人は、帯状疱疹を発症する可能性があります。 年齢を重ねると発症しやすいと言われている病気ですが、若い人でも免疫力が下がれば発症することがあります。 帯状疱疹の症状は、ピリピリとした痛みや小さな水ぶくれ(水疱)、皮膚の赤みなどです。皮膚の症状が出てからすぐに治療を開始することが望ましく、早めに病院を受診する必要があります。治療は抗ウイルス薬の投与です。また、痛みがあれば鎮痛剤を服用することもあります。 帯状疱疹後神経痛について 帯状疱疹後神経痛とは、帯状疱疹を発症した後、皮膚の症状が治まったにもかかわらず痛みが残ってしまう病気です。 帯状疱疹の合併症の中で1番多いと言われています。合併しやすい人は、高齢者や女性、帯状疱疹を発症している時に痛みが強かった人などです。 帯状疱疹後神経痛の原因は、水痘帯状疱疹ウイルスが活性化した時に神経が傷つけられることで発症すると考えられています。そのため、痛みを感じやすくなったり、神経の過剰な興奮によって痛みが現れたりすることがあります。 帯状疱疹後神経痛の症状は、下記の通りです。 ・持続的な痛みがある ・ヒリヒリと焼けるような痛みがある ・ピリピリと電気が走るような痛みがある ・触れるだけで痛みを感じることがある(アロディニア) ・痛みがある部分の皮膚の感覚が鈍くなる 痛みの程度は人によって違います。そのため、痛みによって眠りが浅くなったり、動くと衣服が擦れて痛かったりと、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。 痛みは1ヶ月~2ヶ月程度で治まってくることが多いですが、長い場合は1年以上続くこともあります。また、高齢であればあるほど痛みが続きやすいと言われています。 治療の概要について 帯状疱疹後神経痛の治療はさまざまです。以下、治療の概要について説明します。 薬物療法について 主な治療は薬物療法です。 帯状疱疹後神経痛を合併した方は、帯状疱疹を発症した段階から痛みが強い方が多いです。よって、引き続き痛みを抑える薬を服用します。また、抗うつ薬や抗てんかん薬の服用も開始します。 薬の効果は人によって異なります。比較的早い段階で痛みが取れたという人もいれば、なかなか痛みが緩和されないという人もいます。そのため、痛みの程度を聞きつつ、どの程度まで痛みを緩和させるかを医師と相談しながら決める必要があります。 その他の治療法について 薬物療法を行っても痛みが持続している場合は、ほかの治療法を検討する必要があります。 例えば、神経ブロック注射や脊髄刺激療法などがあります。 その他にも、さまざまな治療がありますが、人によって治療の効果の現れ方や持続期間が異なります。そのため、自分に合った最適な治療法を選択することが大切です。 自宅でできる痛みのケアを行う必要性 帯状疱疹後神経痛は神経へのダメージが大きいと、改善に時間がかかることがあります。また、痛みは個々によって程度や感じ方が違うので、治療によって完全に痛みを取り除くことは難しい方も多いです。 そのため、自宅でできる痛みのケアを行いつつ、できるだけ生活の質を下げないようにすることが大切です。 帯状疱疹後神経痛のよりよい治療を選択するために 帯状疱疹後神経痛の治療法について 治療の基本は薬物療法です。しかし、薬だけでは痛みが緩和されないことも多く、さまざまな治療法を組み合わせる必要があります。 主な治療法をご紹介します。 ・薬物療法 ・神経ブロック注射 ・脊髄刺激療法(SCS) ・イオントフォレーシス ・低出力レーザー照射療法 ・運動療法 〈薬物療法〉 痛みや神経の興奮を薬でコントロールする治療です。 帯状疱疹後神経痛は神経の痛みであり、適切な薬を医師に処方してもらう必要があります。 主に使われる薬は、以下の通りです。 ・抗うつ薬 ・抗てんかん薬 ・神経障害疼痛に用いる鎮痛薬 ・オピオイド鎮痛薬 帯状疱疹後神経痛の痛みに対し、使われる薬は効果や副作用などのバランスによって第一選択薬、第二選択薬、第三選択薬と分かれています。 まずは、抗うつ薬や抗てんかん薬、神経障害に用いる鎮痛薬の服用で様子をみます。痛みの緩和がはかれない場合は徐々に選択範囲を広げ、より強い鎮痛効果を示す薬を使用します。とくに、オピオイド鎮痛薬は効果が強い薬です。オピオイド鎮痛薬以外の薬では痛みの緩和ができない場合に使用され、適応条件もあります。注意点として、腎機能が悪い人には使用できません。 〈神経ブロック注射〉 痛みを感じる神経やその周囲に局所麻酔薬を注射する治療です。 痛い部位がはっきりと分かっている場合は、注射後すぐに効果を実感できます。また、飲む薬とは違って直接的に痛みに効くため、より痛みの緩和につながります。 神経ブロック注射の持続効果は、人によって異なります。1日しか効かないという人もいれば、数日効果が持続する人もいます。しかし、早めに神経ブロックを行うと、治療の効果が高まると言われています。 入院の必要はなく、外来で行えます。 注意点として、血をサラサラにする薬(ワーファリン、バイアスピリンなど)を使用している場合は、針を刺したときに出血が止まらないことがあるため、行えないことがあります。 〈脊髄刺激療法(SCS)〉 脊髄に微弱な電流を与え、脳に伝わる痛みを妨げる治療法です。 通常、体に痛みを感じると神経を通じて痛みの信号が脊髄から脳に伝わります。この神経路に微弱な電流を流すと脳に痛みが伝わりにくく、痛みの緩和につながります。 体の中に脊髄刺激リードと刺激発生装置を埋め込む手術が必要になるため、入院が必要です。手術は局所麻酔で行われ、1回の入院期間もそこまで長くありません。 〈イオントフォレーシス〉 薬をより深い部分に浸透させて痛みを和らげる治療です。 局所麻酔薬を浸透させたパットを痛みのある部分に貼り付け、微弱の電流を流します。電流によって薬がイオン化すると皮膚の深い部分へと浸透し、痛みを和らげます。 皮膚表面だけではなく、神経を伝達する深い部分にまで薬が浸透するため、脳に痛みを伝えにくくする効果もあります。 治療時間は15分程度であり、外来で行えます。また、痛みを伴わない治療であり、注射に抵抗のある人にも行えます。 一度の治療で痛みを和らげることは難しく、根気よく治療を続けることが必要です。 〈低出力レーザー照射療法〉 痛みがある部分にレーザーを当て、痛みを和らげる治療法です。 レーザーによって血行がよくなると痛みを感じにくくなります。また、痛みによって興奮している気持ちを落ちつける効果もあります。 痛みを伴わない治療であり、注射に抵抗のある人にも行えます。 痛みがより強い人に対し、通常の治療に追加して行うことが多いです。 〈運動療法〉 痛みによって過度に活動が制限された場合に行われます。 痛みに対するストレッチやエクササイズを理学療法士などと一緒に行います。痛みの軽減に加えて痛みへの恐怖も取り除き、活動の幅を広げます。 副作用と対処法について 治療方法 副作用 対処法 鎮痛剤 薬によって副作用が異なります。 オピオイド鎮痛薬の場合、吐き気や便秘、眠気などが現れます。 薬を処方された時に副作用を確認し、症状が出た場合はすぐに医師に相談しましょう。 薬が効きすぎている場合もあるため、医師と相談しながら薬のコントロールを行います。 神経ブロック注射 副作用は、飲み薬と比べて少ないですが、下記のようなものが現れることがあります。 ・注射部位の痛みや出血、感染 ・投与する薬に対するアレルギー 注射部位に異常があったり治療後の体調不良が現れたりした場合は、すぐに医師に相談しましょう。 イオントフォレーシス 副作用はほとんどありません。 ー 脊髄刺激療法 (SCS) 脊髄刺激リードと刺激発生装置は、HI調理器などの強い電磁波や金属探知機や盗難防止装置に反応することがあります。電源が切り替わったり、刺激を強く感じてしまうため、注意が必要です。 体に刺激装置を埋め込むため、使用方法によっては破損ややけどのリスクがあります。 HI調理器や金属探知機などを使用する場合は、できるだけ距離を取ったり一時的に電源を切るなどの対応が必要です。 また、刺激装置に強い衝撃を与えないようにしましょう。特に埋め込み手術直後は装置が動きやすく、注意が必要です。 低出力レーザー照射療法 副作用はほぼありませんが、照射部位の乾燥や軽度のかゆみが現れることがあります。 皮膚の症状が現れたら、医師に相談しましょう。 治療における経済的負担について さまざまな治療がありますが、保険で行えるものと保険適応外のものがあります。 薬物療法や神経ブロック、脊髄刺激療法は、保険適応されます。一方、レーザー治療、イオントフォレーシスは比較的新しい治療法であり、保険適応外になります。 保険適応外の治療法は、金銭的な負担が大きくなりやすいのが現状です。医師とも相談しながら金銭的な面も含めて、最適な治療法を選択する必要があります。 生活の質の向上と痛みの管理について 帯状疱疹後神経痛の痛みをより和らげるために、日常生活でも工夫が必要になります。 日常生活での工夫 自分でできる日常生活での工夫は以下の通りです。 ・体を温める、冷やさない ・痛みのある部位を刺激しない ・痛み以外のことを考える ・生活リズムを整える 〈体を温める、冷やさない〉 体を温めると血行がよくなり、痛みが軽くなることがあります。温かい湯船にゆっくりつかり、全身を温めましょう。入浴はリラックス効果も期待できるため、おすすめです。 また、患部にホットタオルを当てることも有効です。ただし、感覚が鈍くなっていることもあるので、熱くなりすぎないよう注意しましょう。 〈患部を刺激しない〉 患部への刺激は、痛みの悪化につながります。チクチクとした素材や金属などが付いている服は着用しないようにしましょう。服は肌に優しい素材を選び、装飾が付いていないシンプルなものを選ぶと刺激が少なくなります。 それでも服がこすれて痛い場合は、さらしや包帯を巻く方法もあります。注意点として、さらしなどがずれてしまうと刺激の原因となります。きつめに巻き、緩んだら締めなおすようにしましょう。 〈痛み以外のことを考える〉 痛みは精神面との関連が深く、帯状疱疹後神経痛の患者さんは不安や抑うつ傾向の方が多いと言われています。 そのため、痛みのことを考え続けるのではなく、自分の好きな仕事や趣味などを積極的に取り入れ、痛み以外のことを考える時間を作りましょう。 また、痛みを回避しようと行動を制限してしまい、活動の幅が狭くなることが多いです。痛みに対する恐怖や不安を抱えている方がいるかもしれませんが、じっとしていることで筋肉が固まり、痛みを感じる原因となります。少しでも痛み以外のことを考えられるよう、外の空気を感じながら散歩することもおすすめです。 〈生活リズムを整える〉 帯状疱疹後神経痛の痛みは、疲労やストレス、睡眠不足などで悪化しやすいと言われています。日頃から規則正しい生活を送り、免疫力が低下しないよう体の調子を整えましょう。しんどいと感じたら、すぐに休息を取れるようにしておくことも大切です。 心理的サポートの重要性 帯状疱疹後神経痛の患者の中には不安などを抱えている方が多くいます。 痛みを感じ続けると何をするにも億劫になり、気持ちが塞ぎ込みやすくなります。また、痛みばかり考えていると精神的に辛くなり、精神疾患を発症する恐れもあります。 ペインクリニックでは、メンタルケアを含めた治療を行っています。もし精神的な辛さを感じているのであれば、一般的なクリニックではなくペインクリニックの受診もおすすめです。 痛みと向き合いながら最適な治療を選択しよう 帯状疱疹後神経痛は痛みは、感じ方や程度が個々によって違います。そのため、治療の効果や副作用などを踏まえ、自分にとって最適な治療法を選ぶことが大切です。 また、治療とともに自宅でできる痛みのケアも実施し、日常生活への支障を最小限にしましょう。 参考文献一覧 日本ペインクリニック学会.”ⅢーA帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛”|第3章 各疾患・痛みに対するペインクリニック治療指針p095ー100 日本ペインクリニック学会.”神経ブロック”|日本ペインクリニック学会 日本定位・機能神経外科学会.”脊髄刺激療法(SCS)”|日本定位・機能神経外科学会 日本臨床麻酔科学会vol.28.”帯状疱疹後神経痛に対する薬物療法”|J-STAGE.2008/6 日本臨床麻酔科学会vol.28.”帯状疱疹後神経痛の多面的治療はここまで進んでいる”|J-STAGE.2008/6 日本ペインクリニック学会.”オピオイド”|日本ペインクリニック学会 日本ペインクリニック学会誌.”帯状疱疹後神経痛患者の精神・心理的評価”|J-STAGE.2007 日本ペインクリニック学会誌.”帯状疱疹後神経痛で自殺を企図した1症例”|J-STAGE.2012
2024.06.24 -
- ひざ関節
- 膝部、その他疾患
「膝に血が溜まる理由は?」 「転んで膝に血が溜まるときの治療方法は?」 膝関節血腫とは、さまざまな原因によって関節内に血が溜まる症状のことです。 なかには出血を繰り返すケースもあり、関節の破壊につながる可能性もあります。 どの年代にも生じる可能性がある症状ですが、適切な治療法や対策を行うと改善や予防が可能です。 この記事では、膝に血が溜まる理由や治療方法を始め、自宅でできる運動の対策をお話しします。 症状があるときは必ず医療機関を受診しましょう。医師に相談しながら、予防法として日常生活での運動も取り入れてみてください。 膝に血が溜まる理由とは【膝関節血腫について】 膝関節血腫は膝関節まわりの組織が出血し、関節内に血が溜まる症状です。 膝関節血腫が起こる理由は、以下の2つに分けられます。 ・外傷性のもの:主にスポーツによるけがで起こる ・反復性のもの:特定の要因で繰り返し起こる 外傷性膝関節血腫は、靭帯や半月板、滑膜の損傷や骨折により組織が出血すると発症します。前十字靭帯損傷や半月板損傷、内側側副靱帯損傷などで起こる場合が多いです。 一方、反復性膝関節血腫は、変形性膝関節症(※)による人工関節の手術や血友病(※)、血液凝固薬(血液をサラサラにする薬)などの使用により、関節内が出血しやすい状態となり再発を繰り返す症状です。 原因は人工関節の手術が一番多く、手術で0.17〜1.6%の確率で起こるのがわかっています。 外傷性の症状は、けがの回復とともに改善していきます。 しかし反復性の症状は、放置すると炎症により関節内の滑膜(※)がダメージを受け、関節の機能を破壊させる恐れがあるため、場合によっては手術の適応となります。(文献1)(文献4)(文献5) 【各用語の解説】 ※変形性膝関節症:膝関節内にある軟骨が加齢ですり減り、膝関節が変形する病気。 膝に痛みがみられるため、膝を動かしたり、歩いたりするのが困難になる ※血友病:血を止める仕組みが生まれつき上手く働かず、出血しやすくなる病気(文献3) ※滑膜:関節包をおおう膜状の組織。 滑膜から分泌される関節液が、関節の動きをなめらかにする油のような役割をもつ 関節内の出血を繰り返した際に起こる「友病性関節症」の詳細については、以下の記事が参考になります。 膝に血が溜まるときの症状と診断方法 膝関節血腫の症状は、膝の痛みや腫れ、熱感、関節可動域制限などです。 診断は整形外科でMRIや超音波検査を行い、画像で血腫の存在を確認します。 外傷性の症状は、受傷後すぐに出る場合がほとんどです。ただ、人工関節の手術による症状は、術後数カ月〜数年後に初めて出る場合が多い傾向にあります。 膝に血が溜まるときの治療方法【転んだときにも】 膝に血が溜まるときの治療方法として、自宅での初期対応のケアを始め、医療機関で適切な治療を行うと改善を図れます。 転んだときは必ず医療機関を訪れるようにしながら、今後の治療方法を知るためにも参考にしてみてください。 ・自宅でできる初期対応 ・医療機関での治療オプション 自宅でできる初期対応 症状が出現した直後に自宅でできる対応は、患部の安静や冷却、圧迫などです。 初期対応ができると、膝関節まわりで起きている炎症を抑え、症状の回復を早める効果が期待できます。 ただし、安静の時間が続くと患部の筋力低下が進みます。足首や足の指を積極的に動かして予防に努めるのも大切です。 医療機関での治療オプション 医療機関では、関節内に注射針を刺して血を吸引したり、血液凝固薬の内服を中止させたりします。 しかし、治療を行っても大きな改善がなく出血を繰り返す場合は、炎症が起きている滑膜を切除する手術や、選択的動脈塞栓術を選択するケースがあります。 選択的動脈塞栓術とは、血管を塞いで膝関節内の出血を抑える手術です。 足に局所麻酔を行ったあと、血管内にカテーテルを挿入して出血している血管を見つけ、血を止める物質を挿入します。(文献2) 選択的動脈塞栓術は、出血の原因となっている血管だけを塞ぐため、再発を繰り返していた血腫の改善にも期待できます。(文献6)(文献7) 膝に血が溜まるのを予防する運動方法 膝関節血腫を予防するには、日常生活で膝を守る運動を行いましょう。以下では、自宅でできるストレッチやトレーニングの運動方法を解説します。 無理をしないように注意しながら、必ずかかりつけの医師に相談して運動を行ってみてください。 ※現在、膝関節血腫の症状がある方は、けがの経過をみながら歩行を再開する必要があるため、自己判断で運動をせず医師の指示にしたがいましょう ・膝蓋骨のモビライゼーション ・ハムストリングスのストレッチ ・大腿四頭筋のストレッチ ・ハーフスクワット ・膝関節伸筋の筋力トレーニング ・膝関節屈筋の筋力トレーニング 膝蓋骨のモビライゼーション 膝関節血腫を予防するには、膝蓋骨の動きや膝まわりの筋肉を柔らかく保つのが大切です。 【膝蓋骨のモビライゼーションのやり方】 1.膝を伸ばしながら座り、両手の親指とひとさし指で膝蓋骨をつかむ 2.膝蓋骨を上下や左右に動かす ※動かし方によっては痛みが生じる場合がありますので、専門家の指示のもと行いましょう ハムストリングスのストレッチ ハムストリングスとは、太ももの後面についている筋肉です。大腿四頭筋(太ももの前面についている筋肉)を含めてストレッチを行いましょう。 【ハムストリングスのストレッチのやり方】 1.両膝を伸ばしながら床に座り、ストレッチする側の足の裏にタオルをかける 2.両手でタオルをひっぱりながら足首をお腹側にそらし、太もも後面の筋肉を伸ばす 3.太もも後面の筋肉が伸び、痛みのない状態で20秒キープする。 繰り返しながら3セット行う ※目的とする筋肉以外の部分に、痛みが出る場合は控えましょう 大腿四頭筋のストレッチ 【大腿四頭筋のストレッチのやり方】 1.うつ伏せの状態になり、ストレッチする側の膝をお尻側に曲げる 2.太もも前面の筋肉が伸びた位置で、20秒キープする。 繰り返しながら3セット行う ※目的とする筋肉以外の部分に、痛みが出る場合は控えましょう また、日常生活では以下の点に注意しましょう。 ・立ち姿勢やジャンプの着地で膝を内側に向けるのを避ける ・膝まわりが熱くなったり、痛みが出たりするときは、 激しい動きを避けて冷却する 日常生活で膝への負担を減らせると、けがや再発の予防にもつながります。 ハーフスクワット ハーフスクワットは、太もも前後面やお尻の筋肉を鍛えたいときにおすすめです。膝を守るためにも、膝を支えている筋肉のトレーニングを行いましょう。 【ハーフスクワットのやり方】 1.足を肩幅に広げて立つ(※膝関節はつま先と同じ方向に向ける) 2.股関節と膝関節を曲げながら、お尻を膝より少し上の高さまで下ろす。 お尻を下ろしたときに、膝の位置がつま先より前方に出ないように注意する 3.太もも前後面やお尻の筋肉のはたらきを感じながら10回、1日2セット行う ※実施の可否、回数については専門家と相談してみてください 膝関節伸筋の筋力トレーニング 膝を伸ばすトレーニングも効果的です。 【膝関節伸筋の筋力トレーニングのやり方】 1.椅子に座り、膝を伸ばしたときに抵抗がかかるように、 足首と椅子の足をゴムバンドでつなぐ 2.ゴムバンドによる抵抗を太もも前面で感じながら、ゆっくり膝を伸ばす 3.10回を1セットとし、1日2セット行う ※実施の可否、回数については専門家と相談してみてください 膝関節屈筋の筋力トレーニング 【膝関節屈筋の筋力トレーニングのやり方】 1.うつ伏せの状態になり、トレーニングする側の足首におもりを巻きつける 2.おもりによる抵抗を太もも後面で感じながら、ゆっくりと膝を曲げる 3.10回を1セットとし、1日2セット行う ただし、上記で紹介してきた運動は、膝に痛みや熱感があるときに行うと、炎症を悪化させる可能性があります。 症状が落ち着いている時期に、かかりつけの医師や専門家に相談しながら、無理のない範囲で行いましょう。 膝に血が溜まる症状に悩まれておられる方は、再生医療による治療方法もございます。 膝まわりに関して気になる症状があるときは、当院のメールや電話にてお気軽にご相談ください。 参考:堀部秀二.明解 スポーツ理学療法.1版.三輪書店.2021.248p.P122−125,152(文献8) まとめ|膝に血が溜まるのを予防するには運動が大切 膝関節血腫には、スポーツによるけがで起こる外傷性のものを始め、特定の要因で繰り返し起こる反復性のものがあげられます。 どちらも、膝の痛みや腫れ、熱感、関節可動域制限などの症状が起こります。 膝に血が溜まる症状が出たときは状況に応じて、関節から血腫を吸引する治療などを行う流れです。再発を繰り返す場合は、選択的動脈塞栓術を行う可能性もあります。 膝関節血腫を予防するには、かかりつけの医師に相談しながら、日常生活で膝関節を支える筋肉のストレッチやトレーニングを行いましょう。 膝まわりのお悩みを抱えている方は、当院にぜひ一度ご相談ください。 【リペアセルクリニックへのご相談方法】 ・メール相談 ・来院予約 ・電話相談:0120-706-313(オンラインカウンセリングの予約) 膝に血が溜まる理由に関わるQ&A 膝に血が溜まる理由に関わる内容について、よくある質問と答えをまとめています。 Q.膝関節血腫はいつ治りますか? A.外傷性の症状は、けがの発症から2〜3週間程度です。 反復性の症状は、再発を繰り返す点から長期にわたりやすく、数カ月〜数年かかる可能性もあります。 症状が長引くほど、関節の破壊につながりやすいため、専門外来を受診していただくのをおすすめしています。 Q.膝に血がたまったら歩くのは避けたほうが良いですか? A.外傷性の場合は、けがの経過をみながら歩行を再開する必要があるため、医師の指示にしたがいましょう。 けがをした直後は、松葉杖で歩いていただく場合もあります。 反復性の場合で症状があるときは、できるだけ安静に過ごして、歩くのは日常生活で必要な移動程度にとどめましょう。 参考文献 文献1 整形外科シリーズ14 膝靭帯損傷 文献2 人工膝関節全置換術後の反復性関節内血腫に対して経カテーテル的動脈塞栓術を行った3例 文献3 ヘモフィリア・ヴィレッジ 血友病についてのQ&A 文献4 日本整形外科学会 膝関節捻挫 文献5 スポーツ損傷シリーズ 6.膝前十字靭帯損傷 文献6 人工膝関節置換術後に反復する関節内血腫に対し,関節切開下滑膜切除を行った一例 文献7 Selective arterial embolization with gelatin particles for refractory knee hemarthrosis 文献8 明解 スポーツ理学療法 Takuji Yamagami, Rika Yoshimatsu, Hiroshi Miura, et al.Selective arterial embolization with gelatin particles for refractory knee hemarthrosis.Diagn Interv Radiol. 2013. 9(5). p423-426
2024.06.20 -
- 脊髄損傷
- 脊椎
- 上肢(腕の障害)
- 下肢(足の障害)
- スポーツ外傷
失ったはずの腕や脚が痛むのはどうして? 幻肢痛に効果的な治療法はあるの? この記事に辿り着いたあなたは、幻肢痛に悩んでおり、なんとかして痛みを和らげたいと感じているのではないでしょうか。 幻肢痛の治療法には「薬物療法」や「鏡療法」などの選択肢があり、複数の方法を組み合わせて治療を進めることもあります。ご自身の状態に合った治療法を試すことが大切です。 本記事では、幻肢痛でよく用いられる治療法やセルフケア、そして新しい治療法について解説します。幻肢痛に悩んでいる、また幻肢痛に苦しむ方の力になりたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。 幻肢痛に対する4つの治療法 幻肢痛(げんしつう)とは、事故や病気で四肢を切断したあと、失ったはずの腕や足に痛み・しびれを感じる現象です。四肢の切断によって脳内にある身体の地図が書き換わり、認識と感覚の不一致が生じて起こるといわれています。 幻肢痛の一般的な治療方法は、以下の4つです。 薬物療法 鏡療法 電気刺激療法 リハビリテーション ひとつの治療法で痛みが緩和され、一定の効果が得られる場合もありますが、さまざまな方法を組み合わせて治療を進めていくケースが多いです。 本章を参考に、幻肢痛における治療法の選択肢を知っておきましょう。 薬物療法 薬物療法では、以下のような種類の薬を使用します。 鎮痛薬 抗けいれん薬 抗うつ薬 抗てんかん薬 抗不整脈薬 オピオイド系鎮痛薬(モルヒネやドラマドール)が使われるケースもありますが、依存や乱用のリスクが高く副作用も懸念されるため、使用は慎重におこなうべきだと考えられています。 また、局所療法として、カプサイシンクリームの塗布やリドカインスプレーの噴霧などがおこなわれる場合があります。 いずれにしても、薬物療法は作用と副作用のバランスを考え投与するのが望ましいため、主治医と十分コミュニケーションを取りましょう。 鏡療法 鏡療法は、ミラーセラピーとも呼ばれている方法です。 健常な四肢を幻肢があるかのように鏡に映します。健常な四肢を動かすと、鏡にも同様に映るため、あたかも幻肢を動かしていると錯覚するのです。 これを繰り返すうちに、「幻肢が思った通りに動いている」と脳が認識するようになります。知覚と運動の情報伝達が脳内で再構築され、幻肢痛が軽減していきます。 具体的な方法は以下のとおりです。 1. 身体の正面中央付近に適切な大きさの鏡を設置します。 2. 切断部位が見えないようにし、健常肢が鏡に映るように調整します。 3. 鏡に映った健常肢の像がちょうど幻肢の位置と重なるようにします。 4. 健常肢側から鏡を見ると、幻肢があるかのように鏡に映ります。 5. その状態で健常肢でさまざまな動きをし、鏡の像を集中して見ます。 鏡療法をおこなう時間は決められていませんが、15分~30分程度おこなうのが一般的です。ただし、疲労状況や集中できる時間を考慮して、調整しましょう。 電気刺激療法 電気刺激療法には、3つの種類があります。 脊髄刺激 視床刺激 大脳皮質刺激 脊髄刺激を与えると、痛みが脳に伝わりにくくなります。刺激を与えると、痛みの伝達を抑制する物質が増加するため、神経の興奮を抑制して痛みの緩和につながるのです。 また、大脳皮質にある一時運動野や視床へ電気刺激を与えても、幻肢痛を和らげるケースが報告されています。刺激を与える部位は、切断部位や神経の残っている部分によって治療方法が異なります。 リハビリテーション 義肢や装具には、失った機能や役割を補うだけでなく、幻肢痛を和らげる効果があります。 義肢や装具の装着は、鏡療法と同様に脳に失った四肢を認識させるため、義肢の装着が日常的になると幻肢痛も消失していく場合が多いです。 ただし、幻肢痛がひどく、義肢や装具の装着ができない場合もあります。リハビリは、医師をはじめ、理学療法士や義肢装具士など、医療者と相談しながら進めていきましょう。幻肢痛は、常に一定に感じているわけではなく、突然襲われる場合もあります。 寝ていても飛び起きてしまうような突然の痛みに襲われたり、失った手足が締め付けられるように感じたり、痙攣している、幻肢がねじれる、しみるなど、感じ方や程度はさまざまです。 数年で幻肢痛がなくなる方もいれば、長年痛みに苦しめられる方もいます。そのため治療法の選択は、医師をはじめとするさまざまな医療者と相談し、それぞれの痛みの程度やライフスタイルに合わせた継続できる治療法の選択が必要でしょう。 幻肢痛治療経験者の中には、治療に成功し、徐々に痛みが緩和され消失した方もたくさんいます。 「なるべく痛みではなく、他に意識が向くようにしていると徐々に痛みが引いた」「義足をつけてリハビリを続けていると幻肢痛が緩和した」など、幻肢痛はすぐになくすことはできませんが、治療を続け徐々に痛みから解放された方は多くいます。 しかし、長年幻肢痛に悩まされているケースもあります。幻肢痛の治療は、根気強く治療を続けていくモチベーションが必要です。 幻肢痛のセルフケア方法2つ 幻肢痛のセルフケアをする方法として、以下2つが挙げられます。 ストレスをコントロールする 家族・支援者によるサポートを受ける 本章で幻肢痛のセルフケア方法を知り、医療機関での治療以外にできることがないか検討してみましょう。 ストレスをコントロールする 適切なストレス管理で痛みを和らげることもできます。 幻肢痛患者は、痛みによって、不安や怒り、恐れなど、さまざま感情が入り混じっている心理状態です。慢性的なストレスは、痛みを過敏に感じさせるため、幻肢痛が悪化する原因にもつながります。 自分でできるストレスのコントロール方法は、以下の通りです。 趣味に没頭する 散歩をする 映画やドラマを見る 好きな物を食べる お風呂にゆっくりつかる 規則的な睡眠をとる 香りを楽しむ 声を出して笑う 日光を浴びる 過度な運動などの幻肢痛が悪化するようなものは避け、まずは自分ができそうなものから始めてみましょう。暴飲暴食、過度な飲酒・喫煙などはかえって体調不良や睡眠不足の原因となり、痛みの悪化を招くため注意が必要です。 家族・支援者によるサポートを受ける ストレス管理は本人だけでなく、周囲からのサポートが必要になるケースもあります。 なるべくストレスを抱え込まず、周りの人の力を借りながらうまくコントロールすることが大切です。 家族・支援者ができるサポートは、以下の通りです。 痛みが一番のストレスなら、残存した方の腕や足を軽くマッサージしてもらう リハビリがストレスなら、リハビリのやり方やメニューを主治医と相談する 生活の不自由さがストレスなら、補助グッズの使用や利用できる支援の導入を検討する まずは自分がストレスに感じていることは何かを、家族やサポートしてくれる人に話して理解してもらう必要があります。 また、精神的に不安定になっている場合は、心療内科・精神科の受診やカウンセリングを受けることなども検討しましょう。 新たな技術を用いた幻肢痛の治し方2選 四肢の一部を失った方が、幻肢痛を乗り越え、生活の再構築をしていくのは、とても困難な道のりでしょう。 幻肢痛には、従来先述したような4つの治療法が用いられていますが、IT技術の進化に伴い、以下2つのような新しい治療法も登場しています。 VR技術による「遠隔セラピー」 BCI(ブレインコンピューターインターフェイス)による「脳のトレーニング」 体験を行う交流会もあるため、積極的に参加することで新たな発見があるかもしれません。お住まいの地域での開催がないか調べてみましょう。 VR技術による「遠隔セラピー」 VR空間のなかで、失った四肢を補間し、脳を錯覚させるセラピーも開発されています。幻肢痛を感じる患者とセラピストが一緒にVR空間の中に入り、手足を動かすイメージを共有する手法です。 3Dを利用したリアルな空間なので、実際にリハビリをしているような雰囲気が味わえます。 さらに、VR空間でセラピーを行うため、セラピストが近くにいなくても、いつでもどこでも実施が可能です。 鏡療法は切断部位によって有効でない場合もありますが、VR技術による遠隔セラピーならばより多くのケースに対応できます。 BCI(ブレインコンピューターインターフェイス)による「脳のトレーニング」 BCIによる「脳のトレーニング」では、脳活動を計測し、得られた計測信号から脳情報を読み解き、それに基づいて架空の手足の映像をオンラインで動かします。 架空の手足を動かすことで、脳の変化を促し、新しい感覚を得られたり、治療につながっていくことを目的としたものです。 この訓練を3日間行うことで、訓練後5日間の痛みが30%以上減弱した調査結果もあります。 まとめ|自分に適した幻肢痛の治療法を検討しよう 本記事では、幻肢痛の治療法とセルフケアの方法について詳しく解説しました。 治療の際には、失った部位や痛みの状態に合わせた方法を選択する必要があります。 また、IT技術を活かし、リアルに失った四肢を感じられるような遠隔セラピーやBCIによるトレーニングといった新しい治療法も開発されています。日々情報収集をおこないながら、自分に合った治療法を見つけましょう。 当院「リペアセルクリニック」は、幹細胞の働きを活かし、本来の機能ができなくなった臓器や骨などを修復する「再生医療」を扱うクリニックです。再生医療には、膝や腰の痛みを改善させる治療もあります。再生医療に興味を持たれた方は、ぜひ当院のホームページをご覧ください。 参考文献一覧 (文献1) 住谷昌彦 幻肢の感覚表象と幻肢痛 バイオメカニズム学会誌Vol. 39,No.2(2015) (文献2) インタビュー「最先端の幻肢痛治療に見る、「脳のリプログラミング」の可能性」 (文献3) UTokyo バーチャルリアリティー治療で緩和される幻肢痛の特徴 (文献4) 住谷昌彦、宮内哲ほか 幻肢痛の脳内メカニズム 日本ペインクリニック学会誌Vol.17No.1 2017 (文献5) UTokyo 失った手足の痛みを感じる仕組み (文献6) 日本ペインクリニック学会 「神経障害制疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版」 (文献7) 緒方徹、住谷昌彦「幻肢痛の機序と対応」Jpn J Rehabil Med 2018;55:384-387 (文献8) ミラーセラピーについて | 脳梗塞集中リハビリセンター │ 社会医療法人 生長会 (文献9) 大内田裕 「幻肢・幻肢痛を通してみる身体知覚」2017年 (文献10) 片山容一、笠井正彦 「幻肢・幻肢痛を通してみる身体知覚」2017年 (文献11) 落合芙美子 日本義肢装具学会誌「義肢装具に対するチームアプローチ」日本義肢装具学会誌Vol.13 No.2 1997 (文献12) 幻肢痛VR遠隔多人数セラピーシステム|JDP (文献13) 事故で失った幻の手の痛みが脳活動を変える訓練により軽減 - ResOU
2024.06.19 -
- 脳梗塞
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肝硬変の食事療法|非代償期における食事の注意点 非代償期肝硬変の治療において、食事療法はとても重要です。 腹水や肝性脳症などの合併症の改善のためには、水分・塩分・糖分・タンパク質を控えた、バランスの良い食事が必要となります。以下で詳しく解説していきます。 https://youtu.be/zA8QdURHEQU?si=sxhDupVHSR8Ekpl7 肝硬変における食事療法の重要さ 肝硬変は、B型・C型肝炎ウィルス感染やアルコール、自己免疫性疾患などが原因となり、慢性的に肝細胞の破壊と再生が繰り返された末、線維化によって硬くなり、肝臓の機能が低下し、進行すると肝癌や肝不全となり、死に至る怖い疾患です。 肝硬変になると低栄養に陥ってしまうことが多く、この低栄養が生命予後に関わってくると報告されています。また、低栄養が問題視される一方で、肥満や過栄養を呈する患者さんもいます。肥満による糖代謝異常は肝臓での発癌率を上げるため、注意が必要です。 身体の状態に合わせた栄養制限や栄養付与を行い、バランスのとれた食事を摂取するのが「食事療法」です。 医療を受けるだけでなく、食事という日常生活の大事な要素を自ら見直すことで、肝硬変症状を改善させたり、進行を食い止められる可能性があります。 この記事では、非代償期肝硬変の食事療法を中心に説明していきます。必要な知識を学び、効果的な食事療法による治療を目指していきましょう。 非代償期肝硬変での栄養スクリーニング 非代償期肝硬変において、食事療法を始める前にまず栄養状態を評価し、どのような栄養介入が必要か検討されます。 肝硬変における重症度は、Child-Pugh分類を用いて判断します。 下記の表に記すように、肝硬変の合併症の程度や採血検査の結果を点数化し、重症度を評価します。 アルブミンはタンパク質量、ビリルビンは肝臓の機能を表す値、そしてプロトロンビン時間は血液を固める能力を示します。 5~6点なら軽度、7~9点は中等度、10~15点をなら重度とみなし、中等度以上は非代償性肝硬変となります。 Child Pugh 分類 判定基準 1点 2点 3点 アルブミン(g/dL) 3.5< 2.8〜3.5 <2.8 ビリルビン(mg/dL) <2.0 2.0〜3.0 3.0< 腹水 なし 軽度 コントロール可能 中等度 コントロール困難 肝性脳症(度) なし 1〜2 3〜4 プロトロンビン時間(秒、延長) (%) <4 (70<) 4〜6 (40〜70) 6< (<40) Child-Pughスコアによる重症度評価を欧州肝臓学会のガイドライン4)を参考に、以下の図にまとめ詳しく解説していきます。 図に登場するサルコペニアですが、これは筋肉量と筋力の低下を意味し、通常は加齢に伴って起こる現象ですが、肝疾患においては栄養状態や代謝異常によって年齢に関係なく起こりうるため、評価する際には年齢制限がありません。 ・中等度肝硬変の場合、次にBMIを評価し、その結果に応じて対応が変わってきます。 ・肥満(30≦)の場合、栄養評価とともに運動や生活習慣などライフスタイルへの介入、さらにサルコペニアの評価を行います。 ・BMIが低体重や肥満の基準に入らない18.5~29.9の場合、タンパク質量や全体の栄養状態を評価したのちに、低栄養リスクがどの程度か判断されます。 ・そしてBMIが低体重(<18.5)を示す場合、重度肝硬変と同様に低栄養リスクは高度となります。 ・低栄養リスクが軽度の患者さんに対しては、年に1回程度のフォローアップで良いとされます。 ・低栄養リスクが中等度の患者さんにおいては、より詳細な栄養評価によって低栄養の有無が判断されます。 ・低栄養リスクが高度の患者さんには、より詳細な栄養評価の他、サルコペニアの評価も同時に行われます。 ・低栄養がなければ年に1回程度のフォローアップとなりますが、低栄養やサルコペニアを認めた際には適切な栄養補給と適切なフォローアップが求められます。 さらに、図には記載されておりませんが、腹水やタンパク質減少による体液貯留を認める場合、身体の水分が適切である体重を密に検討していくこととなります。 非代償期肝硬変が引き起こす身体の変化 代償期には肝臓の機能がまだ保たれているため、合併症は基本的にみられません。 しかし、非代償期になると肝臓の働きが障害され、関連する他の臓器にも影響を及ぼし、全身に以下のような様々な合併症を引き起こします。 ※非代償期肝硬変とは:肝硬変が進行し、本来の肝機能を代償する(果たすことがことできない)ことができず、肝硬変としての症状が現れる状態 代表的な合併症の一例 ・黄疸 ・腹水、浮腫 ・門脈圧亢進症 ・食道静脈瘤 ・消化管出血 ・肝性脳症 ・肝性糖尿病 等 合併症とそれぞれに合った食事療法 代償期の食事療法の基本は主に以下の内容となります。 代償期の食事療法 ・健康的で規則正しい生活 ・バランスの取れた食事 ・便秘の予防 ・年齢や身体活動レベルに見合ったカロリー摂取 ・アルコールを断つ ・生ものは避ける しかし、非代償期では症状に合わせて食事の工夫や調整を加えていかなければなりません。 食事療法で改善を見込める、あるいは悪化を予防できる合併症は、腹水・浮腫や食道静脈瘤、肝性脳症、肝性糖尿病となります。 これらの合併症が起きる機序とその合併症に見合った食事療法をそれぞれみていきましょう。 腹水や浮腫が生じる機序と食事療法 腹水はお腹の中にタンパク質を含んだ液が大量に貯留した状態をいい、浮腫は主に手足のむくみとして現れます。 肝臓はアルブミンと呼ばれるタンパク質を生成する働きを持ちますが、肝機能の低下とともにアルブミンも減少していきます。このアルブミンは血管内に水分を留める役割も担っているため、不足すれば水分は血管外へと漏れ、腹水や浮腫となって現れるのです。 また、体内を循環する血液量が減少すると、それを補おうと腎臓が水分やナトリウムを再吸収するのですが、それが腹水や浮腫を増悪させる原因となります。 腹水や浮腫に対する食事療法のポイント 上記の通り、腎臓での水分・ナトリウム再吸収が腹水や浮腫を悪化させています。 よって、食事療法で重要なのは塩分と水分を控えることです。 塩分は1日5~7g程度に抑えましょう。 具体的には、味噌や醤油などの調味料は減塩にし、かつ使用する量も控えなくてはなりません。塩味の代わりに、酸味や出汁、新鮮な食材そのものの風味を活かすような調理をしましょう。 外食や加工食品はどうしても塩分が多くなりがちなので、自炊が推奨されます。 汁物はスープに塩分が多く含まれるので、スープは飲まない方が良いでしょう。 腹水や浮腫:食事療法のポイント ・塩分は1日5~7g程度に抑える ・味噌や醤油などの調味料は減塩に ・使用量のコントロールをする ・酸味や出汁で塩味を代用する ・外食や加工食品は控え自炊する ・汁物は飲まないようにする 水分コントロールに関しては、すでに利尿薬を内服している方も多いかと思います。 塩分制限や利尿薬だけでは不十分と判断された場合は、身体に見合った水分量を示す体重(ドライウェイト) も参考にしながら、水分制限にも努めましょう。 ドライウェイトの設定には、In Bodyという身体に微弱な電流を流して体内の水分量や筋肉量などを測定する機器を用いたり、医療者が胸部レントゲン画像や浮腫の程度などをみて決定していきます。 食道静脈瘤が生じる機序と食事療法 食道静脈瘤は門脈圧亢進症の影響で生じる合併症です。 門脈は、腸管などの腹部臓器からの血流を集めて肝臓に戻す大きな静脈のことを指します。 肝硬変になると、組織の線維化で肝臓が硬くなり、血流が阻害され、結果として門脈の圧が上昇します。門脈圧亢進で肝臓を通れなくなった血流は、別の血管を通って食道や胃に逆流していきます。そうすると食道表面の静脈がうねって凸凹してコブ状になり、食道静脈瘤となります。 食道静脈瘤に対する食事療法のポイント 食道静脈瘤の治療法として、内視鏡的に血管を縛る方法が一般的です。しかし、食事療法で静脈瘤の破裂を防ぐことはできます。 食道静脈瘤破裂は吐血を引き起こし、時に大量出血で命を脅かす怖い疾患です。 食道は食べ物の通り道になっているので、その表面上にある膨らんだ血管に尖ったものや硬いものが当たると、破裂する可能性が出てきます。 そのため、硬い食べ物や刺激になるような食べ物はなるべく避け、調理する際にはやわらかく仕上げましょう。 例えば、せんべいや小魚のおやつ、ナッツ、骨のある魚、フランスパンなどは硬いので適しません。また、香辛料の多いカレーやコーヒーは刺激が強いので、避けるべきです。 食道静脈瘤:食事療法のポイント ・硬い食べ物や刺激的な食べ物はなるべく避ける ・調理する際にはやわらかく仕上げる ・刺激の多いカレーやコーヒーは避ける 逆に好ましい食品は、茶碗蒸しや麺類(うどんやそうめんなど)、お米、プリン、ヨーグルトなどの消化しやすい柔らかい食べ物です。 肝性脳症が生じる機序と食事療法 タンパク質を消化する際に生成されるアンモニアという毒素は、通常は肝臓で代謝して無毒化し、体外に排出されます。 しかし肝機能が低下するとアンモニアは代謝されなくなり、毒素のまま身体に溜まっていきます。 血液中のアンモニア値が高くなり脳にまで達すると、脳の機能が損なわれ、肝性脳症となって様々な神経症状を引き起こします。 具体的には、性格・行動変化や睡眠障害、意識障害、ひどくなると昏睡状態になります。 肝性脳症に対する食事療法のポイント タンパク質を多く摂取するとアンモニアが生成されてしまうため、タンパク質の制限は肝性脳症の予防や改善につながります。 肉は肝性脳症を引き起こしやすくするので、大豆などの植物性タンパク質をメインに摂りましょう。 また、アンモニアは腸管で生成されるのですが、便秘になると腸管環境が乱れ、悪玉菌が増加します。そうするとアンモニアの増殖が起こり、結果的に肝性脳症も悪化します。よって、便秘を防ぐためキノコなどの食物繊維を積極的に摂ることが推奨されます。 肝性脳症:食事療法のポイント ・大豆などの植物性タンパク質を摂る ・便秘を防ぐためキノコなどの食物繊維を摂る また、肝硬変による低タンパク血症は、アミノ酸製剤で補います。 実は肝臓の他にも筋肉でタンパク質を生成することができるのですが、その際に必要なのが分岐鎖アミノ酸と呼ばれるもので、これは体内で産生できないので外から摂取する必要があるのです。 この分岐鎖アミノ酸製剤は、経口剤の他にも点滴があるので、経口摂取できない方でも大丈夫です。症状が落ち着いていれば、食事でのタンパク質摂取は0.5~1.0g/kg程度可能になるかと思います。上記の食事に気を付けながら摂取しましょう。 肝性糖尿病が生じる機序と食事療法 肝臓は糖代謝においてとても重要な役割を担っています。 腸管で吸収された糖は血流に乗って肝臓に届けられ、そのほとんどはグリコーゲンという物質に変換されたのち、エネルギー源として貯蔵されます。残りの糖は身体を巡り、血糖の維持のため筋肉や脂肪で利用されます。 肝硬変によって肝機能が低下すると、肝臓での糖代謝も障害され、糖がそのまま血液へ流れ込んでしまい、食後高血糖を引き起こします。 慢性的な高血糖はやがて血糖を正常に戻す能力に害を及ぼし、二次性の糖尿病が生じるのです。 肝性糖尿病に対する食事療法のポイント 食後の血糖が急激に上がらないよう、一度に大量に食べることは避け、少量の食事をこまめに摂るほか、時間をかけてゆっくり食べましょう。 また、砂糖の入った菓子類や果物、炭水化物は効率良く糖分が吸収されるため、控えなければなりません。 肝性糖尿病:食事療法のポイント ・少量の食事をこまめに摂る ・時間をかけてゆっくり食べる ・菓子類や果物、炭水化物などの糖分を控える 夜食を食べた方がいい? 前項の肝性糖尿病の機序で述べたように、肝臓は糖分をエネルギー源に変換して貯蔵する役割を持ちます。しかし、肝機能の低下によってエネルギー源への変換ができなくなると、貯蔵もできなくなります。 よって、食事を摂らない就寝中にエネルギーが枯渇し、倦怠感やこむら返りなどの症状を生じることがあるのです。 これを予防するため、肝硬変患者さんには夜食療法が推奨されているのです。 カロリーの摂りすぎは良くないので、朝昼晩の食事を少し減らし、その分を夜食に回すのがポイントです。 大体200kcal程度で、メニューとしては例えば、 ・おにぎり一個+お茶 ・バナナ1本+牛乳 ・フレンチトースト+牛乳 等のすぐに栄養として吸収されるものが理想です。 まとめ・肝硬変の非代償期における食事療法は重要! 当サイトにて非代償期肝硬変での食事療法について知りたい情報は得られましたでしょうか。 低栄養や肥満の進行を食い止め、合併症を改善・予防する上で食事療法はとても重要です。しかし、食事療法を開始する前に、自分の疾患について理解し、知識として身につける必要があります。 さらに、医療者による評価や診断を経て、どのような治療介入が必要か見極める栄養スクリーニングも大切です。その時の症状や栄養状態に合わせて工夫や調整を行う必要があるので、適宜消化器内科の医師や栄養士とも相談しながら効果的な食事療法を目指しましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 参考文献一覧 Enomoto H, Ueno Y,et al. Transition in the etiology of liver cirrhosis in Japan : a nation- wide survey. J Gastroenterol. 2020;55;353-362. Plauth M, Bernal W, et al. ESPEN guideline on clinical nutrition in liver disease. Clin Nutr. 2019;38:485-521. Wu D, Hu D, et al. Glucose-regulated phosphorylation of TET2 by AMPK reveals a pathway linking diabetes to cancer. Nature. 2018;559:637-641. European Association for the Study of the Liver. EASL Clinical Practice Guidelines on nutrition in chronic liver disease.J Hepatol. 2019;70:172-193. ▼こちらもあわせてお読みください。
2024.06.18 -
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野球選手の肩の怪我で多い野球肩には種類があります!原因と最新治療法について メジャーリーグのドジャース山本由伸選手の肩の怪我は、最新の治療方法である「再生医療」で治療できる可能性が高いといえます。 投球やバッティングなど、腕の動作を繰り返す野球選手にとって「肩の怪我」は珍しいことではありません。 肩に問題を生じたら速やかに治療を開始する必要がありますが、どのような原因で、どのような症状を呈するのかについて知っておくことも重要です。 そこで、野球選手の肩の怪我の原因や症状、治療法について解説します。また、最近注目を集めている再生医療についてもご紹介します。 野球選手の肩の怪我は野球肩が原因の可能性が高い! 野球選手の肩の怪我の主な原因は「野球肩」によるものであると考えられます。 野球肩とは、野球の投球動作のように腕を大きく振る動作を繰り返すことにより、肩関節に関わる腱や筋、骨が損傷や炎症を起こしている状態の総称です。 そして、野球肩には種類があります。 野球肩の種類 ・腱板損傷 ・上腕骨骨端線離開(リトルリーグショルダー) ・動揺性肩関節症(ルーズショルダー) ・肩甲上神経損傷 ・インピンジメント症候群 「腱板損傷」とは 肩の中にある筋肉の腱の複合体である腱板が損傷を起こしている症状で、日常生活における肩の痛みにより生活の質を大きく落とす可能性が高いです。 「上腕骨骨端線離開」とは 「リトルリーグショルダー」とも呼ばれ、成長期に起こる投球障害です。成長期における過度の投球により成長軟骨が損傷することで、投球時や投球後に痛みを生じます。 「動揺性肩関節症」とは「ルーズショルダー」とも呼ばれています。上腕骨と肩甲骨の間にある靭帯などが先天的に緩い状態にあり、その状態で肩を酷使することで周囲の組織を損傷してしまい、肩の痛みや不安定感を覚えます。 「肩甲上神経損傷」とは、 棘下筋を支配する肩甲上神経が投球動作により引っ張られる、或いは圧迫されるなどによって損傷を起こし、肩の痛みや肩の疲労感を覚えます。 「インピンジメント症候群」とは、 野球肩の中で最も多くみられる症状で、靭帯や肩峰に上腕骨頭が衝突することで腱板が挟まれ、炎症を起こすことで肩の痛みを生じます。 メジャーの山本由伸選手の肩の怪我は再生医療で早期回復を目指せる 野球選手の肩の怪我はさまざまで、その症状次第で適切な治療法は異なります。そして、概ね数週間から、長ければ年単位での肩の安静が必要です。 そこで注目されているのが「再生医療」です。 再生医療は有名野球選手も利用実績のある治療法であり、手術や入院を避けることができるため、体への負担が少なく、治療にかかる期間が短めであるというメリットがある治療法です。 肩の症状を早く改善し、スポーツへの早期復帰を目指せる可能性がある治療法として、画期的な方法です。最近非常に注目されています。 もしも、早くスポーツに復帰したいと考えるのであれば「再生医療」を検討してみる価値が大いにあります。 まとめ・野球選手の肩の怪我で多い野球肩の種類!原因と最新治療法について 野球選手にとって肩の怪我は避けられないリスクの一つですが、その中でも「野球肩」一般的に起こりえる問題です。 野球肩とは、投球動作やバッティングなど、腕を激しく使うことで肩関節周囲の筋や腱、骨が損傷や炎症を起こす状態を指します。この野球肩には、腱板損傷、リトルリーグショルダー(上腕骨骨端線離開)、ルーズショルダー(動揺性肩関節症)、肩甲上神経損傷、インピンジメント症候群など、さまざまな種類があります。 各症状は投球時や日常生活での痛み、肩の不安定感、疲労感などを引き起こし、生活の質を大きく損なう可能性があります。従来の治療法としては、痛みの軽減や肩の安静を目的としたリハビリテーションや、重症の場合は手術というものでしたが、これらの方法は長期の休養が必要な場合も多く、選手にとって大きな負担となることがあります。 そこで注目されているのが「再生医療」です。 再生医療は、体への負担が少なく、手術や入院を避けることができるため、治療期間が短縮されるというメリットがあります。この治療法は、多くの有名野球選手も実績があり、スポーツへの早期復帰を目指すための画期的な方法として今注目の最新の治療方法です。 メジャーリーグのドジャースに所属する山本由伸選手も、ぜひ再生医療を用いた治療を考えて欲しものです。なぜなら、選手生命を護ることが出来るからです。 肩の痛みや違和感を感じたら、早めの受診と適切な診断を受けることが重要です。肩の怪我を適切に治療し、スポーツを続けるためには最新の医療情報を活用し、専門医の指導を受けることが肝要です。 スポーツ選手は自分を護るためにも再生医療といった最新の治療法を知ることも大切です。 早期の回復を目指せる再生医療は、肩の怪我に悩む野球選手の救世主となり得ます。再生医療に興味があれば豊富な実績で症例数をリードする当院までお問い合わせください。 ▼肩の腱板損傷の回復を目指す再生医療とは https://fuelcells.org/treatment/shoulder/ ▼スポーツ選手の選手生命を護る再生医療をご存知でしょうか https://fuelcells.org/treatment/sports/
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メジャーリーグ(ドジャース)山本由伸選手が発症!肩腱板損傷とは? 負傷者リストに入ってしまったようで心配です。野球選手にも多い肩腱板の損傷についてその原因と治療法を詳しく説明いたします。 日常生活の中で何気なく動かしているように思う肩ですが、思わぬケガが原因で強い痛みが出たり、動かせなくなったりすることがあります。 スポーツ障害でも多い腱板損傷は、そのような状態を引き起こすもののひとつです。 今回は、その腱板損傷について詳しくご紹介します。 肩腱板損傷とは?その症状について 腱板は肩に存在する筋で、板のように広がっているので腱板といいます。 腱板を構成するのは「肩甲下筋腱」「棘上筋腱」「棘下筋腱」「小円筋腱」という4つの筋肉です。これらが肩の骨を囲み、肩関節の安定性に働きかける重要な存在です。 その腱板が部分的、または完全に断裂するのが腱板損傷です。主な症状は痛みですが、軽い場合もあれば、動かせないほどの激痛、夜間に起こる痛みなど程度に差があります。 部分的な断裂では、肩を動かせないということはあまりありません。損傷が激しい場合、腕が上がらなくなったり、肩が動かしにくいという症状が出ることもあります。 肩腱板損傷の原因とは? 腱板損傷の原因について見ていきましょう。腱板損傷の原因は大きく3つにわけられます。 外傷 腱板損傷の原因で多いのが外傷、つまりケガです。転んで肩を強く打つ、手をついたときに肩に衝撃が加わるというのが腱板を傷つけてしまうことがあるのです。 オーバーユース スポーツ医療でも注目される腱板損傷ですが、ケガというよりも肩の使い過ぎが原因のことが多いです。 その代表的なスポーツが野球です。何度も繰り返しボールを投げることで、肩関節や腱板に負荷がかかってしまうのです。 加齢によるもの 加齢によって腱板損傷が起こることもあります。年齢を重ねると腱や軟骨など、身体の組織も衰えてしまいます。そのため、自分でも気が付かないうちに腱板が傷ついていることもあるのです。 肩腱板損傷の治療法とは? 肩の腱板損傷の治療法をご紹介します。近年期待されている治療方法についても見ていきましょう。 保存療法 肩の腱板損傷の治療は基本的には保存療法です。急性期には三角巾で固定し、患部の安静を保ちます。痛みや腫れがある場合は痛み止めの注射やヒアルロン注射を行うこともあります。 また、腱板が損傷した状態で無理に動かすと再発したり、ひどくなったりすることがあるので、リハビリも大切です。 手術 保存療法で痛みが改善しない、損傷がひどく肩の動きが悪いという場合には手術を検討します。損傷した腱板を手術によって直接修復するというものです。 近年は関節鏡といって皮膚を大きく切らない手術が行われています。術後1~2週間ほどで痛みが落ち着くことが多いですが、正常な肩関節の状態に戻すにはリハビリ期間を含めて6か月程度かかることが多いです。 再生医療 これまで腱板損傷の治療は保存療法と手術がメインでした。しかし、手術となれば治療やリハビリを含めてスポーツ復帰までの期間が長くなります。 そんな中、近年、腱板損傷の治療法として再生医療が注目されています。 再生医療は、自身の脂肪から採取した幹細胞を肩腱板に注射します。そして幹細胞が傷ついた腱板や組織を修復するというものです。 外科的な手術をしないで治療できるため、治療期間の短縮も期待できます。 まとめ・メジャーリーグ(ドジャース)山本由伸が発症!肩腱板損傷について 今回は肩の腱板損傷についてご紹介しました。 今回の山本由伸選手をはじめとして、肩を酷使する野球などのスポーツで使い過ぎによって肩の腱板が傷つくことがありますし、加齢によって腱板損傷を起こすこともあります。 プロの選手のように日常からケアをしていても、発症することがあるため、注意が必要です。プロ野球選手のように選手生命という問題がある場合は無理もできません。 そこで近年、治療法として注目を集めているのが再生医療です。特に幹細胞治療は、自分の幹細胞を用いるので、副作用のリスクが少なく、治療期間も短くて済むというメリットがありスポーツをされている方に最適です。 もちろん、再生医療はスポーツ選手ではなくとも有効です。 肩の痛み、肩の腱板損傷でお悩みの方は、再生医療による治療を検討してみてはいかがでしょうか。お気軽にご相談ください。 ▼肩の腱板損傷の回復を目指す再生医療とは https://fuelcells.org/treatment/shoulder/ ▼スポーツ選手の選手生命を護る再生医療をご存知でしょうか https://fuelcells.org/treatment/sports/
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NHKの教育番組「おかあさんといっしょ」にて「体操のお兄さん」として活躍した佐藤弘道さんが、2024年、脊髄梗塞による下半身麻痺のため、芸能活動を一時休止すると発表しました。 脊髄梗塞は誰にでも発症する可能性がある疾患です。 とくに背中の痛みや両手足の痺れを感じているなら、すでに初期症状が現れているかもしれません。 本記事では脊髄梗塞の概要や症状、診断方法などを解説します。 脊髄梗塞とはどのような状態? 脊髄とは、脳から腰までの背骨の内部を走る、神経群を指します。 脊髄は、主に脳からの指令を体の各部に伝え、また体が受けた刺激を脳に伝える役割を果たします。 私たちが自由に手足を動かしたり、何かに接触したときに反応したりできるのは、脊髄のはたらきがあるからに他なりません。 脊髄は、いわば「情報伝達の高速道路」のような役割を担っています。そして、高速道路を機能させるためには、酸素と栄養を供給する血液が欠かせません。 しかしなんらかの原因で血管が詰まると、脊髄に対して血液が行き届かなくなり、酸素と栄養も十分に行き渡りません。この状態を脊髄梗塞と呼びます。 脊髄梗塞になると、脊髄は正常に機能しません。 また酸素と栄養の供給が絶たれたことにより、脊髄がダメージを被り、身体に以下のような症状が現れます。 ・突然の背中の痛み ・両手足の痺れ、感覚の喪失 ・筋力の低下 ・排泄の障害 症状が重篤な場合は、「歩くのも難しい」状態に陥ります。 脳梗塞のようにただちに生命が危ぶまれるものでないものの、適切な治療と十分なリハビリが必要になるでしょう。 メール相談 オンラインカウンセリング 脊髄梗塞の発生頻度 脊髄梗塞はまれな疾患であり、発生率は年間10万人中3.1人と報告されています。 広い年齢層で症状が見られますが、50〜60代での発症例がとくに多く報告されています。 また性差はありません。男女ともに同程度の可能性での発症がありえます。 参考:日本関東救急医学会|J-STAGE 脊髄梗塞は治るのか?後遺症は? 脊髄梗塞を根本的に治療する方法は、現時点で確立されていません。 一方で早期発見や専門的治療、適切なリハビリにより、症状を緩和したり、機能を回復させることは可能です。 とくにリハビリの効果は高く評価されており、約7割のケースで歩行可能な状態に回復します。 参考:JCHO大阪病院 関連記事:脊髄梗塞は治るのか?治療法や後遺症のリハビリについて解説 脊髄梗塞の症状・前兆 脊髄梗塞の前兆として、以下があげられます。 ・突然の背中の痛み ・両側の手足の筋肉の弛緩 ・両側の感覚の喪失 それぞれ以下で詳しく解説します。 突然の背中の痛み 脊髄梗塞の一般的な症状としては、突然現れる背中の痛みから始まることが多いです。 とくに予兆もなく突然症状が現れるのは、血管の詰まりや破裂を引き起こす病気の特徴です。 脊髄梗塞もこのケースに当てはまり、脊髄を栄養する動脈が詰まったり破裂したりして、突然の痛みの発生へとつながります。 また、症状は背中だけにとどまらないこともあり、肩などにも広がりやすいです。 両側の手足の筋肉の弛緩 両手足の筋肉が弛緩し、力が入らなくなるのも前兆のひとつです。 具体的には以下の症状が現れます。 ・両足がふらつく ・物を強く握れなくなる 症状の進行は急速であり、数時間で歩行が困難になるケースも存在します。 また左右一方ではなく、両手足同時に症状が現れるのも、脊髄梗塞の前兆の特徴です。 両側の感覚の喪失 身体の感覚は脊髄を通して脳へと伝わりますが、この経路にある脊髄が障害されてしまうため、両側の感覚までもが障害を受けてしまいます。 また、脊髄梗塞の感覚障害にはある特徴が見受けられます。 それは、痛覚や温覚を伝える神経経路が主に障害されるため、痛みや温度が感じにくくなります。 その一方で、触覚(触れている感覚)や振動覚(振動を感じる感覚)、また自分の手足がどの位置にあるのかなどの感覚を伝える神経経路は比較的障害を受けない場合もあります。 このように脊髄梗塞では突然の症状に襲われて、これまで経験をしたことがないような背中の痛みや手足の脱力感、感覚の異常を経験します。 後ほど治療法についても詳しく説明しますが、脊髄梗塞に対してはまだまだ確立された治療法がなく、苦しい日々を送っている方がたくさんおられます。 再生医療を専門とするリペアセルクリニックでは、この稀な疾患である脊髄梗塞に対しても治療実績があり、高い効果が得られており、300名以上の脊髄疾患の方が治療に来られています。 通常では点滴により投与される幹細胞治療ですが、当院では国内でも珍しく脊髄腔内へ直接幹細胞を投与しております。 詳しくはこちらの動画をご覧ください。 https://www.youtube.com/watch?v=9S4zTtodY-k メール相談 オンラインカウンセリング 脊髄梗塞の原因とは? 脊髄梗塞の原因にはさまざまな要因が考えられますが、ここでは身体の構造にしたがって原因を分類します。 脊髄動脈の疾患 脊髄は前方と後方の2方向から血液が供給されています。 前方の血管を前脊髄動脈と言い、脊髄の前方3分の2を栄養しています。 そして、後方の血管を後脊髄動脈と言い、脊髄の後方3分の1を栄養しています。 栄養を送る血管の損傷 心臓からつながる動脈には栄養が豊富に含まれています。 そのなかでもとくに太い血管である大動脈の動脈硬化や大動脈解離などが発症すると、脊髄へ送られる栄養が行き届かなくなり、脊髄梗塞が起きてしまいます。 また病気が原因ではなく、手術中の手技により脊髄へ栄養を送る動脈が損傷されてしまい、脊髄梗塞となることも事例もあります。 脊髄梗塞の診断方法 脊髄梗塞の診断は、主に以下二つの検査でおこなわれます。 ・MRI検査 ・CT脊髄造影検査 最初にMRI検査を実施します。 脊髄梗塞が疑われる段階では、急性横断性脊髄炎、脱髄疾患、脊髄炎、転移性硬膜外腫瘍などを発症している可能性もあり、正確に疾患名を特定できません。 しかしMRI検査によって、何を発症しているか判断ができます。 MRI検査でも判断が難しい場合は、CT脊髄造影検査をおこない、疾患名を特定します。 脊髄梗塞の治療法やリハビリ、後遺症や予後については以下の記事で詳しく解説しています。 関連記事:脊髄梗塞は治るのか?治療法や後遺症のリハビリについて解説 脊髄梗塞の治療法 脊髄梗塞を発症した場合、脊髄や周辺がダメージを被っています。 そのダメージを取り除く根本的な治療法は確立されていません。 したがって根治ではなく、症状の緩和や機能の部分的な回復を目的とした、以下の治療法が用いられます。 ・リハビリ|地道に筋力や感覚の回復を目指す ・血行再建術|手術による血行を回復させる ・血栓溶解療法|薬剤注入により血栓を解消する それぞれ以下で解説します。 メール相談 オンラインカウンセリング リハビリ|地道に身体機能を目指す 脊髄梗塞の治療では、身体機能を回復させるためのリハビリが用いられます。 リハビリはほとんどの症例で必要となるでしょう。 とくに運動療法による股関節や膝関節の訓練を重視し、歩行をはじめとした基本的な動作を取り戻すことを目指します。 また食事や入浴、更衣などの日常生活動作を取り戻すリハビリもおこなわれます。 また心理的なサポートを目的としたカウンセリングが用いられるケースもあるでしょう。 脊髄梗塞による症状改善を目指すリハビリは長期にわたるため、精神的な支援が必要だからです。 なお長期的なリハビリは、脊髄梗塞からの回復に対して効果的だとされており、たと例えばJCHO大阪病院は、約7割の人が歩行回復なまでに回復すると述べています。 参考:JCHO大阪病院 血行再建術|手術により血行を回復させる 血行再建術とは、血管が詰まった、閉じた状態を改善し、血流を活発化させるための手術です。 先ほど脊髄梗塞は血管がなんらかの原因で詰まることで発症すると解説しました。 したがって詰まりを放置していると症状が悪化すると考えられ、看過できません。 しかし血行再建術の実施により、詰まりが解消されれば、脊髄に酸素や栄養が十分に行き渡ります。 症状の程度によりますが、手術後の症状の悪化は避けられるでしょう。 また早期に実施できれば脊髄梗塞による症状を軽微な状態でとどめられます。 なお血行再建術だけでは、現在の症状の改善は期待できません。 すでに生じた神経の壊死などを回復する手術ではないからです。 症状の回復は、後述のリハビリにて目指します。 血栓溶解療法|薬剤の注入により血栓を解消する 血栓溶解療法とは、アルテプラーゼなどの特殊な薬剤を血管に注入し、つまりの原因である血栓を溶かす治療法です。 血栓が解消されれば、脊髄梗塞の症状の悪化は避けられるでしょう。 早期に血栓溶解療法を実施できた場合、脊髄梗塞の症状を軽微な状態でとどめられます。 ただし血栓溶解療法が有効なのは、発症から6〜8時間以内とされています。 それ以上経過した場合、症状の改善や治療はリハビリや血行再建術などで図られるでしょう。 まとめ・脊髄梗塞は早期診断・治療が大切 この記事では脊髄梗塞の症状の経過や診断方法、原因などについてまとめました。 記事の中でも触れたように、脊髄梗塞は稀な疾患で、明確な治療方法が確立している病気ではありません。 また、急激な背中の痛みは脊髄梗塞かどうかに関わらず、とても危険な状態であると示す身体からの信号です。 そのような痛みを感じたときには、すぐにお近くの医療機関に連絡するようにしましょう。 メール相談 オンラインカウンセリング 参考文献 脊髄への血流遮断 - 09. 脳、脊髄、末梢神経の病気 - MSDマニュアル家庭版 脊髄梗塞 - 07. 神経疾患 - MSDマニュアル プロフェッショナル版 診断に難渋した脊髄梗塞の 1 例 脊髄梗塞 14 例の臨床像および予後の検討 ▼こちらもあわせてご参考ください。
2024.06.14 -
- 肝疾患
- 内科疾患
肝硬変と言われたらどうする?知っておきたい治療法や合併症 肝臓の慢性的な炎症により、肝臓が線維化して硬くなる疾患が「肝硬変」です。肝硬変により肝臓の機能が障害されると、代謝や血液の循環動態に大きな影響を及ぼします。そのため、様々な合併症を引き起こします。 肝硬変の根本的な治療は肝臓の移植を行う他ありません。しかし、肝硬変の方で移植が受けられるのはごく一部です。そのため、多くの方はつらい症状に対する対症療法を行なっていくのが現実的です。 では肝硬変と診断された際、以下のような疑問はありませんか? ・肝硬変の合併症ってなにがあるの? ・肝硬変を治すことはできるのか? この記事では、肝硬変と診断された時に知っておきたい合併症や様々な治療法、また肝硬変に起こる がん についても解説しています。さらに最先端の治療である再生医療の可能性についても触れています。 肝硬変による5つの合併症とその治療法 肝臓は解毒・代謝など体にとって重要な役割を果たしていますが、肝硬変になるとその働きが落ちます。肝硬変が進行すると肝臓に流れ込む「門脈」という血管の圧が上がるため、全身の血液の流れに大きな変化を及ぼします。その結果、肝臓自体による症状以外にも、全身に様々な合併症を引き起こします。 ここからは肝硬変に起こりやすい5つの合併症とその治療法について、一つ一つ解説していきます。 ①肝性脳症 肝性脳症とは、肝硬変により代謝できなくなったアンモニアなどの毒素による脳の機能障害です。 肝性脳症による症状は異常行動や意識障害など様々です。なかでも特徴的なものに「羽ばたき振戦」があります。その検査の仕方は次の通りです。 羽ばたき振戦の検査方法 ①手のひらを下にしたまま腕を前に伸ばす ②そこから手首を90度立てて手のひらを正面に見せる様にする 羽ばたき振戦があると、手のひらを正面に見せておくことができず、羽ばたいているように手が細かく震えるのです。 肝性脳症には便秘・脱水・体内のアミノ酸バランスの異常・栄養素の不足などが影響していると考えられます。誘因を除去し、不足している栄養素を補うことが治療の上で重要です。患者さんの栄養状態を把握し、適切な栄養管理を行います。さらに以下のような薬物療法を行うこともあります。 〈肝性脳症の薬物療法の例〉 非吸収性合成二糖類 代表的なのは「ラクツロース」です。 便秘を改善したり、腸内のpHを調整したりする効果があります。 分子鎖アミノ酸製剤(BCAA) アミノ酸バランスを整えることで肝性脳症を改善します。 腸管非吸収性抗菌薬 腸内でアンモニアを産生する菌の増殖を抑制します。 亜鉛製剤 不足している亜鉛を補うことで症状を改善させます。 カルニチン製剤 肝硬変の人が不足しがちなカルニチンを補充することで効果を発揮します。 患者さんの病気の状態に合わせて治療の選択をしていきます。 ②食道胃静脈瘤 食道胃静脈瘤は血液を肝臓に流す「門脈」の血圧が肝硬変により高くなることにより起こる合併症です。門脈圧亢進により門脈を介した血流が滞ると、相対的に他のところの血流を増やさなければなりません。 その結果、食道や胃などの静脈に血流が増えます。血流が増えた血管は拡張し、瘤のようになるのです。基本的には無症状で胃カメラをしなければ発見できません。しかし、とても破れやすく、消化管出血をきたします。 治療は出血を防ぐ待機的治療と出血をした場合の緊急治療があります。代表的なものは下記です。 〈食道胃静脈瘤の治療の例〉 EIS(内視鏡的硬化療法) 内視鏡下に静脈瘤に硬化剤を注入します。 食道静脈瘤の待機的治療として行われることが多いです。 EVL(内視鏡的食道静脈瘤結紮術) 内視鏡に専用の輪ゴムを装着して静脈瘤を結紮します。 食道静脈瘤の緊急治療や待機的治療として行われることが多いです。 CA法(内視鏡的シアノアクリレート系組織接着剤注入法) X線透視装置と内視鏡を用いて、造影剤と組織接着剤を混ぜたものを静脈瘤に注入して硬化させます。 胃静脈瘤の緊急治療・待機的治療として行われることが多いです。 SB-tube 食道静脈瘤の出血量が多く、内視鏡での視野が確保できない場合に行われます。 鼻からチューブを挿入し、2つのバルーンを膨らませることで圧迫止血を行います。 止血できた後にEISやEVLなどによる追加治療が必要です。 BRTO(バルーン下逆行性経静脈的塞栓術) 足の付け根の静脈からカテーテルを進め、硬化剤とバルーンで静脈瘤の血流を遮断して硬化させます。 胃静脈瘤の待機的治療として行われることが多いです。 静脈瘤の形や場所・患者さんの状態・肝機能の程度・医療機関の状況などにより選択されます。 ③肝腎症候群 肝硬変により体をめぐる血液のボリュームが低下し、腎臓への血流が悪くなり腎機能障害が起こった状態が「肝腎症候群」です。腹水を伴う、進行した肝硬変に起こります。 腎機能は血液検査の「クレアチニン」という項目で判断します。クレアチニンが1.5mg/dL以上を超えていることが診断の条件の一つです。そのほか、脱水やショック、薬剤による腎障害や腎臓そのものの異常がないことなどいくつかの項目をみたすと診断が確定します。急速に進む1型と緩徐に進行する2型に分類されます。1型はとくに予後不良です。 治療では、血液内に水分を引き寄せるアルブミンという血液製剤を投与したり、血圧を上げる薬を一時的に使用したりします。 〈肝腎症候群の治療の例〉 ・アルブミン血液製剤を投与 ・血圧を上げる薬を一時的に使用 など ④肝肺症候群 肝肺症候群とは、肝硬変が原因で肺のガス交換に異常をきたし、血中の酸素濃度が低くなった状態です。肝硬変により血管拡張物質が代謝されないことで、肺の血管が拡張します。肺の血液量が増え、酸素の供給が間に合わなくなります。さらに、動脈と静脈にシャントと呼ばれる異常な交通ができます。シャントでは動脈血と静脈血が混じりあい、血中の酸素濃度が低くなります。 肝肺症候群の特徴的な症状は座ったり立ったりした時に息苦しさを感じることです。 診断は特殊な心エコーなどの画像検査で肺のシャントを証明することで行われます。肝肺症候群に有効な内科的治療はなく、後述する肝移植が唯一の治療方法です。 ⑤肺高血圧症 肝硬変による門脈圧亢進症に伴う血流の変化は肺の動脈にも影響を及ぼします。心臓から肺へ伸びる肺動脈圧が上昇した状態が「肺高血圧」です。肺へ血液を送る心臓の右側の部屋(右心系)に負担がかかり、やがて心不全へと至ります。 息苦しさ・足のむくみ・動悸・失神などが主な症状です。 レントゲンや心電図、心エコーなどで右心系の負荷がかかっていないかを確認します。診断の確定には右心カテーテル検査で実際の肺動脈圧を調べることが必要です。 治療は肺動脈を拡張させる薬剤を使用します。 肝硬変が進行し、肝臓の機能が保てなくなる「肝不全」では、これらの合併症により他の臓器にも影響を及ぼします。連鎖的に他の臓器の機能不全が起こると、命にも関わりかねません。 肝硬変に合併する がん について 肝硬変がある肝臓には、がんもできやすいことがわかっています。 肝硬変では慢性的な肝臓の障害により肝臓の細胞が傷付いては再生を繰り返しています。このような肝細胞は遺伝子の変化などの異常が起こりやすいため、肝がん(肝細胞がん)のリスクが高まります。 肝がんの検査と治療 肝硬変と診断された方は、定期的な腹部エコーなどの画像検査を行い、がんがないか経過観察を行うことが重要です。また、がんがあるときに高値になりやすい血液検査の「腫瘍マーカー」も参考になります。最終的な診断は生検といって組織を針などで取って顕微鏡で観察する必要があります。 治療法としては、手術や一般的な抗がん剤治療のほか、体表から特殊な針をがんに刺して焼いたり、がんの近くまで直接的に抗がん剤を注入したり、がんの栄養血管を詰めたりするなどの方法があります。 〈肝がんの治療の例〉 ・手術や一般的な抗がん剤治療 ・体表から特殊な針をがんに刺して焼く ・がんの近くまで直接的に抗がん剤を注入 ・がんの栄養血管を詰める など がんの治療は、その大きさ・数・肝硬変の程度や患者さんの状態によりさまざまです。 肝硬変の治療法 肝硬変の合併症が命に関わるなら、肝硬変を治療すれば良いと考えるかたもいるかもしれません。しかし、一度肝硬変が起こってしまうと線維化は不可逆で、肝臓そのものの治療は臓器移植しかありません。現実的には肝移植ができる患者さんは限られています。 ここからは肝硬変と診断された後にどのような内科的な治療を行うのか、また移植はどんな時に考えるかもみてみましょう。さらに、肝臓の再生医療の可能性についても解説します。 肝硬変診断後の内科的治療 肝硬変と診断されたら、まずは食事摂取の調整などの栄養療法、B型・C型肝炎ウイルスやアルコール多飲などの原因別治療を行います。 診断直後はあまり症状がない患者さんも多くいます。しかし、肝硬変が進むと、前述の合併症の他にも様々な症状に悩まされるようになります。肝硬変の症状は生活の質を下げ、適切な医療を行う妨げになることもあるのです。それぞれに応じて必要性に応じて治療を行います。 〈肝硬変の症状に対する対策の例〉 皮膚のかゆみ 黄疸のため皮膚のかゆみが強い場合は、かゆみを感じる受容体に作用する「ナルフラフィン塩酸塩」という薬剤を用います。 こむら返り 芍薬甘草湯という漢方が有名ですが、肝硬変の場合は他に「カルニチン」というアミノ酸を補うことで改善することもあります。 血小板減少 肝硬変の人が処置・手術が必要な時に血小板を増やす目的で血小板産生を促す「ルストロンボパグ」という薬剤を処方します。 腹水 利尿薬を用いたり、針を刺して腹水を抜いたりすることがあります。 ▼なお、腹水の治療については以下の記事でさらに詳しく解説をしています。 このような対症療法とともに、前述の合併症の治療を行っていくことが多いです。 肝移植について 肝硬変が進行し、多くの合併症が起こり他の治療法が効果を示さない場合、肝移植が考慮されます。 ダメージを受けた肝臓を取り除き、健康な肝臓に置き換えることで機能を回復させるための治療法です。ただし、肝移植を受けられるかどうかは、患者さんの健康状態や肝硬変の原因など、さまざまな要因に依存します。また、移植手術は非常に専門性が高く、どこの病院でもできるわけではありません。 肝移植には「生体肝移植」と「脳死肝移植」の2つの方法があります。 生体肝移植 健康なドナー(主に配偶者や家族など)の肝臓の一部を患者さんに移植する方法が「生体肝移植」です。 ドナーに年齢や健康状態などの条件はありますが、移植までの待機時間が少ないのはメリットです。ただし、ドナーの体にもメスをいれることになります。 脳死肝移植 脳死状態となり臓器提供の意思を示した方から肝臓を提供してもらう方法が「脳死肝移植」です。 最大の利点は、肝臓全体を移植できることです。しかし、いつ肝臓を提供してもらえるかは予測が難しく、待機時間が長くなる可能性があります。待っている間にさらに病状が進行して命を失うこともあり得ます。 いずれの肝移植にも手術が必要であり、危険性が伴います。 肝移植のリスクと適応 例えば、全身麻酔による合併症の可能性や、肝臓を取り除く際に周囲の臓器を損傷するリスク、さらに手術後の感染リスクなどです。 ・全身麻酔による合併症 ・手術時の臓器損傷 ・手術後の感染 また、移植後は拒絶反応を防ぐために、免疫抑制剤を服用し続けなければなりません。 肝移植は、すべての肝硬変患者が受けられるわけではありません。肝硬変の原因や患者さんの全体的な健康状態などに基づいて、適応が判断されます。適応基準を満たさない場合は、症状を緩和する治療を続けます。 肝移植は最終的な治療手段として、肝硬変の患者さんの命を救う可能性がありますが、その適応には慎重な判断が必要です。 肝硬変に対する再生医療について 最後に、少しだけ最先端の治療「再生医療」についてお話しします。 これまでの治療では、一度線維化してしまった肝臓は元に戻らないとされていました。しかし、再生医療により、この常識が覆されるかもしれません。 肝硬変に対する再生医療では「幹細胞」を利用します。幹細胞は体内の多様な細胞に分化する能力がある万能細胞です。この幹細胞を培養し、点滴で投与することで肝細胞の修復や再生を促します。幹細胞は損傷した肝組織に働きかけ、肝細胞の再生と修復を促進します。 これにより、従来肝移植をする以外に改善する手立てがなかった肝臓の線維化が改善する可能性があるのです。 残念ながら肝臓の再生医療は医療保険の適用外の治療です。現状では厚生労働省に届出して受理されている医療機関は多くありません。 当院はその数少ない施設の一つです。患者さん本人の脂肪細胞から幹細胞を採取して培養し、点滴での幹細胞治療を行っています。 独自の細胞培養技術により、冷凍保存をせずに幹細胞を輸送・保存することができます。そのため、生き生きとしたフレッシュな幹細胞を治療に用いることが可能です。 ▼こちらの動画で当院の幹細胞治療について詳しく解説しています。ぜひご参考にされてください。 https://www.youtube.com/watch?v=NeS1bk2i5Gs&t=96s まとめ・肝硬変に対する再生医療も選択肢のひとつに この記事では、肝硬変の合併症や治療法について解説を行いました。 ・肝硬変の合併症 ・肝硬変の治療法 ・最新の治療法「再生医療」 全身に起こる多様な合併症や肝がんは、命に関わる合併症です。 肝硬変そのものの治療としては栄養療法・原因治療に加え、症状の緩和が必要になります。しかし、内科的治療では線維化の進行を止めることはできません。肝移植も検討されますが、可能な方は限られます。 肝硬変に対する再生医療は線維化が進んでしまった肝臓を回復させる可能性のある治療ですが、まだ行える病院やクリニックは多くないのが現状です。当院では幹細胞治療による再生医療を提供しています。治療について詳しく知りたい方は、ぜひ一度ご相談ください。 参考文献 赤羽たけみ, 吉治仁志. 診断と治療 111(1): 93-98, 2023. 赤澤直樹. 消化器ナーシング 28(1): 41-51, 2023. 橋本法修. 月刊薬事 64(2): 251-253, 2022 川口巧, 鳥村拓司. 日本医事新報 (5120): 42-43, 2022. 森野杏子, 小林誠一, 赤羽武弘, 玉渕智昭, 矢内勝. 日内会誌 105:1282-1286, 2016. 肝硬変診療ガイドライン2020 ▼肝硬変の症状や原因については以下で詳しく解説している記事をご覧ください。
2024.06.11 -
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肝硬変の症状や原因を徹底解説!沈黙の臓器の初期サインとは 肝硬変とは、肝臓に線維組織が増え、硬くなってしまった状態を指します。慢性的な炎症により肝細胞が傷つき修復を繰り返す過程で線維組織が増加することで起こります。 長期に持続的に肝臓にダメージを与える病態があると肝硬変に進行します。その原因はウイルスやアルコール、肥満やメタボリックシドロームなど多岐にわたります。 肝臓は「沈黙の臓器」であり、肝硬変初期までは自覚症状はほとんどありません。 しかし、肝硬変が進行すると、倦怠感・黄疸やむくみ様々な症状が認められます。正常な肝臓が行ってきたタンパク質の合成や不用物・有害物質の代謝・排出ができなくなるために起こるのです。 この記事では以下の内容をご紹介します。 ・肝硬変の原因 ・肝硬変の診断につながる検査 ・肝硬変の初期症状や進行症状 ・肝硬変の予防方法 肝硬変について詳しく知りたい方は、ぜひご参考にされてください。 ▼肝硬変の治療法については以下で詳しく解説しています。 肝硬変の主な原因 従来、肝硬変の最大の原因はウイルス性、特にC型肝炎ウイルスの感染によるものでした。現在でも肝硬変の最大の原因はC型肝炎です。しかし、その割合は徐々に低下してきています。 一方で脂肪性肝炎からの肝硬変は増加傾向です。肝臓に脂肪が貯まる「脂肪肝」が進行すると炎症細胞が集まり、炎症を起こします。これが脂肪性肝炎です。脂肪性肝炎には2つの原因があります。一つは長期・過量のアルコール摂取がかかわる「アルコール性肝炎」です。もう一つはアルコール以外が主な原因の「非アルコール性脂肪性肝」炎です。その他にも自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎などがあります。 このように、肝硬変の原因はさまざまです。以下で詳しく解説していきます。 ウイルス性肝炎 B型慢性肝炎 B型肝炎ウイルスは出生時に母子感染を起こすことで、9割以上が持続感染となります。持続感染をした場合は一部の患者さんは慢性肝炎に移行し、そこから肝硬変や肝細胞がんが起こる可能性があります。 近年は治療によりウイルス量を減らし、肝炎を沈静化することができるようになっています。 また、B型肝炎ウイルスを持つ母親から出生した乳児にB型肝炎に対する抗体やワクチンを投与することで母子感染を防ぐ取り組みが行われています。これにより、B型肝炎の母子感染は減少しています。 なお、B型肝炎ウイルスは成人期に性交渉などで感染することもあります。この場合は急性肝炎を起こしますが、多くの方は持続感染に移行することなく治癒します。 C型慢性肝炎 C型肝炎ウイルスは血液を介して感染します。注射器を使い回したり、汚染された器具を使用して入れ墨を掘ったりピアスを開けたりすることなどが感染経路です。母子感染や性行為による感染もありますがB型肝炎ほど多くはありません。 C型肝炎ウイルスに感染すると、7割の方は慢性肝炎となります。慢性肝炎の自覚症状はほとんどありませんが、放置すると肝硬変へと進展していきます。 かつてC型肝炎治療はインターフェロンという注射によるものでした。しかし、インターフェロン治療は副作用が強く、また治療しても効果がない患者さんもいました。 しかし、その後様々な治療法が開発され、現在95%を超える患者さんがウイルスを体内から排除することができるようになったのです。 そのため、C型肝炎による肝硬変の患者さんは今後も減少していくでしょう。 脂肪性肝炎 アルコール性肝炎 一般的に、純アルコール量で60g以上を毎日飲み続けるとアルコール性肝障害をもたらすと言われています。 しかし、代謝には個人差があるので、人によってはこれより少ない量でもアルコール性の脂肪肝をきたすかもしれません。 特に女性やアルコールに弱い体質の方はこの3分の2程度の飲酒量でもアルコール性肝障害となりうると言われています。 純アルコール量(g)は、 摂取量(mL)×アルコール濃度(度数%÷100)×0.8(アルコールの比重) 上記の式で求めることができます。 たとえば、日本酒(アルコール度数15%)1合180mLの純アルコール量は180×15 ÷100×0.8=21.6gとなります。 つまり2〜3合の日本酒を毎日飲むと、アルコール性肝障害になる可能性が高くなるのです。 非アルコール性脂肪性肝炎 過剰な飲酒以外では、肥満・メタボリックシンドロームなども脂肪肝の原因です。最近ではこのようなアルコールと関連のない肝炎が注目されています。 アルコール多飲と関連しない脂肪肝を非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:ナッフルディーあるいはナッフルド)と呼びます。 一部のNAFLDの患者さんは非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:ナッシュ)に分類されます。NASHでは脂肪が沈着するとともに肝臓に炎症が起こるのです。NASHは放置すると肝硬変に至り、肝がんを発症することがあります。 自己免疫疾患 他にも自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎などがあります。 ▼自己免疫性肝炎については以下で詳しく解説しているのでご参照ください。 肝硬変の診断に必要な3つの検査 肝硬変の診断には以下のような検査を行います。 ①肝生検 肝硬変の診断の王道は「肝生検」です。肝臓に細い針を刺して組織を採取し、線維化が進んでいるかを判断します。しかし、肝生検は出血などのリスクがあり、肝硬変が疑われる患者さん全員に行える検査ではありません。 多くの場合、肝硬変の診断は様々な血液検査や画像検査を組み合わせて行います。 ②血液検査 血液検査では、肝臓が合成するアルブミンや、肝臓から排出されるビリルビンなどが肝臓の機能を反映していると考えられています。 また、肝臓の硬さの指標として用いられるのがFib4-indexです。Fib4-indexはAST,ALT,血小板, 年齢から算出される数字です。 ③画像検査 腹部エコー検査やMRIなども参考になります。超音波装置を利用した肝硬度測定であるフィブロスキャンは痛みなく短時間で肝臓の硬さを測定することができる検査です。 これらの検査を総合的に判定し、肝硬変に進行しているかを判断します。それでも診断がはっきりしない場合は肝生検が考慮されるのです。 肝硬変が起こる前に出る初期サイン 肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれます。それは、肝硬変が起こる前や肝硬変になったばかりの頃はほとんど症状がないからです。そのため分かりやすく初期症状を感じることはほぼありません。 しかし、肝硬変が起こる前の初期サインとして、血液検査での肝障害の指摘をされることがあります。症状がない頃から、AST,ALTなどの肝障害を示す数値が上昇していることが多くあります。 体調に変化がなくても、検査の異常が高度であったり長期に持続したりする場合は、肝硬変の原因になるものがないか専門の肝臓内科で精査を受けましょう。 肝硬変が進むと出る症状 肝硬変がある程度進行して様々な自覚症状が出てしまった状態を「非代償性肝硬変」と言います。倦怠感や易疲労感、食欲不振などと共に、肝臓が正しく機能できていないことによる種々の症状が現れます。 エストロゲン(女性ホルモン)の分解ができなくなるため、次のような症状が起こります。 ・手掌紅斑 手のひら(とくに指の付け根や親指・小指側)が赤くなる ・クモ状血管腫 蜘蛛が足を広げたような血管の集まりで上半身に多くできる ・女性化乳房 男性でも女性の様に乳房が大きくなります また、タンパク質の一種、アルブミンの合成障害が起こります。アルブミンは血管内に水を保持する働きがあるため、低アルブミン血症になると血管外に水が漏れ出します。その結果、起こるのが次の様な症状です。 ・浮腫 足が浮腫む ・腹水 お腹に水がたまり腹部が張ったような感じがする 肝硬変ではビリルビンという物質の処理も難しくなります。寿命を終えた赤血球から生じるビリルビンは肝臓に運ばれ、胆汁という消化液を介して排出されます。肝硬変になると、処理しきれないビリルビンが血中に大量に残ります。その結果、次の様な症状が起こります。 ・黄疸 全身の皮膚や白目が黄色くなる、尿の色が濃くなる ・皮膚の痒み 皮膚に沈着したビリルビンは強い痒みを引き起こします また、出血傾向が起こるのも肝硬変の特徴です。代償的に血流が増えた脾臓により血小板が多く破壊されることや、出血を止める凝固親子の合成が低下するのがその理由です。鼻血が出やすくなったり、歯磨きをしている時に歯茎から血が出てきたりということが起こります。 肝硬変の方は、「こむら返り」(足がつること)も起こりやすいです。こむら返りは就寝中などに起こりやすく、睡眠障害にも関わります。原因として、脱水・電解質異常・糖やアミノ酸の代謝異常などが考えられています。 肝硬変の予防方法 肝硬変の予防は、原因を除去・改善することです。 原因を突き止め、対処することで、肝硬変への進展を予防することができます。 B型肝炎・C型肝炎は治療の進歩により、ウイルスを沈静化させる・体外へ排出するなどの治療が可能になりました。そのため、検査したことがない方はまずはウイルス感染の有無を検査で確認をすることをおすすめします。 節度を守って飲酒をすることも重要です。厚生労働省は、生活習慣病のリスクを高める純アルコール量を男性40g以上、女性20g以上と定義しています。(健康日本21(第三次)より) 肝臓病のみならず、様々な病気を防ぐ意味でも、飲酒量を適切にすることが大切です。 肥満や高血圧・脂質異常・高血糖などの改善も、肝硬変の予防に重要です。食事を見直し、カロリーや塩分などを摂りすぎていないかチェックしましょう。 ・ウイルス感染の有無を検査 ・適度な飲酒量 ・肥満や高血圧・脂質異常・高血糖などの改善 ・食生活の見直し 「肝障害がある」と言われたら、まずは原因を探しましょう。そして解決のためにできることに取り組むことが大切です。 まとめ・肝硬変で症状が出るころには進行の危険! 今回は肝硬変の原因や症状、診断につながる検査や予防法について詳しく解説しました。 ・肝硬変の原因 ・肝硬変の診断につながる検査 ・肝硬変の初期症状や進行症状 ・肝硬変の予防方法 肝硬変の原因は肝炎ウイルス・アルコール・肥満など多岐にわたります。特に、ウイルスによるものが減少している反面、生活習慣が大きな影響を及ぼしていることが注目されています。 沈黙の臓器である肝臓は、症状が出るころには既に肝硬変が進行してしまっていることが多いです。 進行した肝硬変では、特徴的な皮膚症状・黄疸・浮腫や腹水などを起こします。また出血をしやすくなったり、こむら返りが起こりやすくなったりもします。 肝臓を守るために大切なことは、初期サインである肝臓の検査異常に早期に対応し、肝硬変の症状が起こる前に原因への対処をすることです。健康診断などでご自身の「肝障害」がないかをしっかりと確かめ、必要であれば早期の専門科受診を心がけましょう。 参考文献 赤羽たけみ, 吉治仁志. 診断と治療 111(1): 93-98, 2023. 田中康雄. 消化器ナーシング 28(1): 12-17, 2023. 内野康志, 近藤真由子, 大木隆正. 消化器ナーシング 29(3): 214-231, 2024. 日本消化器病学会・日本肝臓病学会. 肝硬変診療ガイドライン2020 (改訂第3版) 厚生労働省. 健康に配慮した飲酒に関するガイドライン
2024.06.04 -
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肝硬変で腹水が溜まると余命は長くないって本当? 肝硬変の腹水を根本的に治療する方法はないの? この記事を読んでいるあなたは、肝硬変で腹水の症状が出たときの余命がどのくらいなのか調べているのではないでしょうか。 腹水は肝硬変の中期から末期によくみられる症状であり、「もう先は長くないのではないか」と不安になるかもしれません。 結論からいえば、肝硬変における腹水は「非代償性肝硬変」に突入したサインの可能性があり、余命(中央値)は約2年というデータもあります。医療機関で適切な治療を受けることで、予後を改善できる場合があるため、前向きに治療を受けることが大切です。 本記事では、肝硬変における腹水の症状がある場合の余命年数や、治療法について解説します。 記事を最後まで読めば、肝硬変中期から末期の状況を正しく理解し、今後受けるべき治療法を判断できるでしょう。 肝硬変で腹水が溜まったときの余命は約2年といわれている 腹水とは、腹腔内にあるタンパク質の含まれた液体のことです。 通常、腹水は人間の腹腔内に一定量存在しますが、病気によって過剰生成・排出不良が起こり、溜まってしまうことがあります。 腹水は「非代償性」と呼ばれる中期から末期の肝硬変でみられる症状です。非代償性肝硬変の場合、余命年数は約2年(中央値)ともいわれており、予後が良いとはいえません。(文献1) まずは本章を参考に、肝硬変の重症度や予後についての基礎知識を身につけましょう。 肝硬変には「代償性」と「非代償性」がある 肝硬変は、程度によって「代償性」と「非代償性」に区分されます。 肝硬変の区分 段階 代償性 ・肝硬変の初期 ・肝機能に大きな問題はみられない状態 非代償性 ・肝硬変の中期~末期 ・肝機能に障害が出ている状態 代償性肝硬変は初期段階で、身体症状が現れないことが多く、症状があっても風邪などと見分けがつきにくいのが特徴です。 一方、非代償性肝硬変は中期から末期にあたる段階で、腹水や黄疸、浮腫などの身体症状があらわれるようになります。 肝硬変の症状や原因については、以下の記事もご覧ください。 肝硬変の程度によって生存率に差がある 肝硬変の予後について、以下のようなデータがあります。(文献2) 5年生存率 代償性 72.3% 非代償性 37.9% 10年生存率 代償性 53.3% 非代償性 24.0% 肝硬変の生存率(5年・10年)は、肝硬変の程度によって30%前後の差があります。 腹水などの症状がある非代償性肝硬変の場合、予後は良いとはいえません。 ただ、非代償性肝硬変であっても、適切な治療や肝移植をおこなうことで、改善する見込みもあります。 肝硬変による腹水は治療で改善する可能性がある 肝硬変による腹水は、内科的治療もしくは外科的治療で改善する見込みがあります。 肝硬変で腹水などの症状が発現している場合「非代償」期に突入している可能性が高いと考えられます。つまり、肝硬変の病状が進行し、肝機能を補えないほどの状態まで悪化しているという意味です。 とはいえ、非代償性肝硬変であっても、内科的な治療をおこなえば、腹水の改善がみられることが多くあります。 ただし、難治性腹水で内科的治療に反応しない場合は、外科的な治療をおこなうこともあります。 本章では、肝硬変における腹水の内科的治療・外科的治療について解説します。今自覚している腹水が肝硬変による可能性があると思われた方は、すぐに医療機関に相談しましょう。 また、肝硬変の治療法については以下の記事も参考にしてください。 肝硬変による腹水の内科的治療 非代償性肝硬変による腹水の症状がみられる場合は、内科的治療からおこないます。 具体的な治療法は以下のとおりです。 塩分の制限 利尿薬の処方 アルブミン療法 腎機能に影響する薬剤の制限 以下で詳しく解説します。 塩分の制限 はじめにおこなう内科的治療として、食事療法が挙げられます。とくに腹水の改善には塩分制限が有用で、1日の塩分摂取は5-7gとします。 肝硬変では、ナトリウムが溜まりやすくなるため、塩分の制限が必要です。 実際に塩分制限により、腹水の早期減少や入院期間の短縮、利尿薬の減量が得られたと報告されています。 肝硬変の食事療法については、以下の記事でも詳しく解説していますのでぜひご覧ください。 利尿薬の処方 食事療法のみでは効果が不十分と判断された場合、利尿薬を処方し、尿からのナトリウム排泄を促進する治療をおこないます。 少量からはじめ、効果と合わせて徐々に増量するケースが一般的です。 アルブミン療法 アルブミンとは、主に肝臓で作られている血液中のタンパク質です。 肝機能の低下によりアルブミンの値が低下すると、血管内の血液の浸透圧バランスが乱れ、浮腫や腹水が起こりやすくなります。 非代償性肝硬変によりアルブミンの低下がみられる場合、アルブミン製剤を使用することもあります。 腎機能に影響する薬剤の制限 腹水がある場合、専門医と相談の上で、腎機能に影響する成分が含まれた薬剤の服用を中止することもあります。 たとえば、腎機能を悪くするような痛み止めや血圧を下げる薬は、腹水治療の妨げとなる可能性があります。これらの薬剤を利用している人は、継続の可否について医師に確認しましょう。 肝硬変による腹水の外科的治療 肝硬変における腹水の症状は、内科的治療によって改善できるケースが大半です。しかし、内科的治療への反応が乏しい場合は「難治性腹水」として外科的治療に切り替えることもあります。 ある研究では、難治性腹水の特徴として、腎機能の悪化や交感神経系の亢進、そして腎臓に作用して血圧を上昇させようとする内分泌系の調節機構(レニン−アンギオテンシン−アルドステロン系)の亢進がみられ、さらに門脈圧亢進もその発生に関与しているだろうと報告されています。(文献3) 難治性腹水の治療法は以下のとおりです。 穿刺排液 腹水濾過濃縮再静注法(CART)によるタンパク質の補充 経頸静脈肝内門脈大循環シャント(以下TIPS) 腹腔−静脈シャント術 肝移植 以下で詳しく解説します。 穿刺排液 まず、腹水貯留による腹部膨満感や呼吸困難の改善のため、穿刺排液をおこないます。 基本的には超音波の機械を用いて穿刺できる場所を選択しますが、解剖学的に安全と思われる箇所を狙って刺すこともあります。 居所麻酔をおこなったのち、針を使って穿刺し、管を留置して自然に排液させます。 穿刺の頻度は主に1-2週間ごと、量は1回につき最大でも8Lまでとされています。 また、5L以上の腹水を引く場合には、血液中のタンパク質である「アルブミン」の補充も併せておこなわれます。 腹水濾過濃縮再静注法(CART)によるタンパク質の補充 腹水濾過濃縮再静注法(以下、CART)をおこない、血液中のタンパク質を補充することもあります。 腹水濾過濃縮再静注法(CART)とは、排液した腹水を濾過器や濃縮器にかけて取り出した自己のタンパク質を点滴で体内に戻す方法です。 自分のタンパク質を体内に戻す治療であるため、アルブミン製剤の投与時に生じうるアナフィラキシーショックなどの副作用を回避しやすいのがメリットです。 経頸静脈肝内門脈大循環シャント(以下TIPS) 難治性腹水に有用といわれている外科的治療として、「経頸静脈肝内門脈大循環シャント(以下TIPS)」と呼ばれる血管内治療があげられます。 全身麻酔下で血管内に細い管を挿入し、門脈と肝静脈の間にシャントと呼ばれる短絡路を作成し、門脈圧を下げます。 腹腔−静脈シャント術 また、「腹腔−静脈シャント術」と呼ばれる外科的治療をおこなうこともあります。 腹腔−静脈シャント術とは、皮下を経由して腹腔内と中心静脈をつなぎ、腹水を血管内に還流させる治療法です。 基本的には局所麻酔のみでおこなうことが可能ですが、長時間仰向けの体勢を保てないなどの際には全身麻酔を施すこともあります。 肝移植 難治性腹水が見られる場合、肝移植を実施することもあります。 脳死肝移植だけでなく、生きている人から肝臓の一部をもらう生体肝移植もあります。生体・死体合わせて、2021年と2022年はどちらも約420件の肝移植が施行されました。 肝移植は、非代償性肝硬変の根本的治療をおこなえるのがメリットです。ただし限られた医療機関でしか受けられない上に、待機時間も長いのは問題点といえます。 まとめ|肝硬変の腹水は余命にかかわるため適切な治療を受けよう 本記事では、肝硬変で腹水の症状がある場合の余命や治療法を解説しました。 肝硬変による腹水は、基本的に食事療法などの内科的治療で改善しますが、腹水穿刺や手術療法など外科的治療をおこなうこともあります。 当院「リペアセルクリニック」では、肝臓の再生医療として幹細胞治療をおこなっています。約1億個の幹細胞を投与することで、硬くなった肝臓の組織を溶解・修復させ、肝機能を改善させる効果が期待できるでしょう。 肝硬変における腹水の症状に悩んでいる方や、肝移植以外で肝硬変の根本治療を検討している方は、一度当院にご相談ください。 非代償性の肝硬変は予後が良好とはいえませんが、症状の改善に向けて前向きに治療を進めていきましょう。 肝硬変の余命についてよくある質問 肝硬変の終末期の症状は? 肝硬変の終末期では、以下の身体症状がみられます。 黄疸 腹水 胸水 食道胃静脈瘤 浮腫(むくみ) 感染症 など 終末期など重度の肝硬変を根本的に治療するには、ドナー登録の上で肝移植を受ける選択肢があります。 肝硬変で腹水が溜まるとどうなるのでしょうか? 肝硬変で腹水が溜まるのは、中期から末期である「非代償性肝硬変」に入ったサインの可能性があります。 大量の腹水が内臓を圧迫し、食欲不振や嘔吐、便秘などの消化器症状が出ることもあるでしょう。細菌性腹膜炎などの感染症を引き起こす場合もあるため、早めに医療機関での治療を受ける必要があります。 肝硬変による腹水は、利尿剤の投与など内科的治療、または腹水穿刺吸引など外科的治療をおこなうのが一般的です。 参考文献一覧 (文献1) D’Amico G, Garcia-Tsao G, et al. Natural history and prognostic indicators of survival in cirrhosis: A systematic review of 118 studies. J Hepatol. 2006;44:217-231. (文献2) 糸島達也、島田 宜浩ほか.肝硬変の予後-肝表面像による検討-.日本消化器病学会 雑誌.1973;70:42-49. (文献3) 楢原義之,金沢秀典ほか. 肝硬変における難治性腹水臨床像に関する検討. 日門充会誌.2002;8:251-257.
2024.05.28 -
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「肝臓の病気である自己免疫性肝炎の症状は?」 「自己免疫性肝炎は女性に多いの?」 自己免疫性肝炎は、体のなかで最大の臓器である肝臓に起こる病気で、とくに女性に多く認められます。 初期症状では、異常に気づきにくい場合も多いです。しかし、放置すると肝硬変や肝不全、肝がんなどの重大な病態にいたる可能性もあります。 自己免疫性肝炎の原因や症状、診断に必要な検査、治療方法を解説します。 肝臓の症状悪化を防ぐには早期治療が重要です。肝臓の病気などに不安を感じておられる方は、ぜひ医療機関に訪れて医師からの診断をあおいでみてください。 女性に多い自己免疫性肝炎とは【肝臓の病気】 自己免疫性肝炎(じこめんえきせいかんえん)は、一般的に慢性に進行する肝障害をきたす病気です。 発症は60歳ごろがピークとされ、中年に多いとされています。 男女比は1:4.3と、男性よりも女性に多い傾向があり、日本では約3万人強の患者さまがいると推定されています。 自己免疫性肝炎は、国が定める指定難病です。一定の重症度を満たす場合は、医療費が公費補助の対象となります。 肝臓の病気である自己免疫性肝炎の原因 自己免疫性肝炎の原因は、まだ完全に明らかになっていません。しかし、さまざまな要素から、免疫が自身の体を攻撃する場合に起こる「自己免疫疾患」と考えられています。 実際に自己免疫性肝炎では、肝臓に免疫細胞が多く集まり、炎症をきたしている所見が確認できます。 ただ、アルコールをまったく摂取しない人や、ウイルス性肝炎を起こすB型肝炎、C型肝炎の感染がなくても病気が発症する場合もあるのです。 たとえば、特定の遺伝因子を持つ人が発症しやすいといわれています。しかし、一般的に行われている検診などでは、発症のしやすさを判定できません。 肝臓の病気である自己免疫性肝炎の合併症 自己免疫性肝炎は、ほかの自己免疫疾患との合併が多く認められます。 たとえば、以下のような疾患を患っている方は、自己免疫性肝炎を発症するリスクが高まります。 【自己免疫性肝炎に多い合併症の例】 ・慢性甲状腺炎(橋本病) ・首が腫れる ・無気力になる ・体重が増える ・甲状腺に炎症が起こり機能低下する ・シェーグレン症候群 ・目が乾く ・唾液が出にくく、口が乾燥する疾患 ・関節リウマチ ・手、指などの小関節を中心とした腫れ ・痛み、こわばりなどを起こす疾患 肝臓の病気である自己免疫性肝炎の症状 残念ながら「〇〇の症状があれば、自己免疫性肝炎が疑われる」など、特徴的なものはありません。 早期に発見されるきっかけは、無症状のまま健康診断などで肝障害を指摘される場合が多いです。 肝臓は別名「沈黙の臓器」と呼ばれています。そのため、肝障害は早期の段階で病気に気づきにくいのです。 一方で、急激な経過をたどる場合は、以下のような自覚症状を認める場合があります。 以下の症状は、自己免疫性肝炎に特異的ではありませんが、複数のものが該当するときは、急激に進む重度の肝障害が起こっている可能性があるため、早期に受診しましょう。 【急性肝炎として発症する場合の症状の例】 ・全身倦怠感 ・だるい感じがする ・ちょっとしたことで疲れやすい ・食欲不振 ・食欲低下のため食事が摂れない ・黄疸 ・全身の皮膚や白眼が黄色くなる ・尿の色が濃くなる 一部の方は、気づかないうちに病状がかなり進行して、肝硬変をきたしている場合があります。 肝臓の病気や自己免疫性肝炎の診断に必要な検査 肝臓の病気や自己免疫性肝炎を調べるときは、さまざまな検査を行って総合的に診断します。 まずは血液検査で肝臓の障害があるか、障害の程度を含めて判断する流れが一般的です。 ・AST(GOT)・ALT(GPT)の数値検査 ・IgG・自己抗体検査 ・B型・C型肝炎ウイルス検査 ・画像検査 ・肝生検 AST(GOT)・ALT(GPT)の数値検査 健康診断でよく見る AST(GOT)、ALT(GPT)の上昇が参考になる所見です。 数値が高いときは、肝臓の機能になんらかの異常がある可能性を示しています。 ちなみに、AST(GOT)とは「アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ」と呼ばれる酵素です。ASTは細胞がダメージを受けると、血液中に酵素が放出されます。 また、ALT(GPT)は「アラニンアミノトランスフェラーゼ」と呼ばれる酵素です。主に肝臓に存在しており、肝細胞が破壊されると血液中に放出されます。 IgG・自己抗体検査 免疫関連の検査として、IgG(免疫の成分である抗体の量を見る検査)を行います。 いくつかの自己抗体(自分の体を攻撃する抗体についての検査)も重要です。 B型・C型肝炎ウイルス検査 肝臓にダメージを与えるB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスなど、感染の有無を調べます。 画像検査 エコー、CTなど、肝臓の画像検査も必須です。 肝障害をきたす脂肪肝など、他疾患の有無、肝臓の硬さ、悪性腫瘍(とくに肝がん)における合併の有無を評価します。 肝生検 診断においてとくに重要なのは、肝臓の組織の検査、肝生検です。 肝生検には「経皮的肝生検」と「腹腔鏡下肝生検」の2つがあります。 基本的には、体に負担の少ない「経皮的肝生検」が行われる場合が多いです。経皮的肝生検では、実際にエコー下で肝臓を確認しながら、細い針を刺して組織を採取します。 出血などのリスクがある検査で、終了後の安静が求められるので短期間の入院が必要です。 肝生検で採取した組織は特殊な染色を行い、顕微鏡で観察します。検査により、以下の内容を確かめられます。 ・どこにどのような炎症があるか ・肝細胞のダメージはどうか ・肝臓の硬さ(線維化) ・進行具合 自己免疫性肝炎で特徴的なのは、インターフェイス肝炎(Interface hepatitis)と呼ばれるものです。 肝臓へ血液を運ぶ肝動脈、門脈や胆汁を運ぶ胆管が集まった「門脈域」に、リンパ球や形質細胞(一部のリンパ球が成熟した細胞)などの炎症細胞が集まります。 周囲の肝細胞を破壊しながら、炎症がさらに広がっていく様子が認められるのです。このような所見は全例で見られるわけではありませんが、認められれば診断への重要な手がかりとなります。 肝生検はほかの原因を除外し、自己免疫性肝炎の診断を確実にするために重要な検査です。ただ、患者さまの体の状態が悪く、肝生検をしないほうが良いケースには行いません。 自己免疫性肝炎の病気における治療法【副作用も解説】 自己免疫性肝炎の治療は、基本的にステロイドを使います。ステロイドは副腎皮質から分泌されるホルモンをもとにつくられた薬剤です。 強力な抗炎症作用や免疫抑制作用をもっており、自己免疫性肝炎を始め、さまざまな自己免疫疾患の治療に使われています。 治療における流れは以下のとおりです。 【自己免疫性肝炎の治療における流れ】 ・プレドニゾロンのステロイドホルモン薬を、体重1Kgあたり0.6mg以上で開始 ・(例)50Kgの人は1日あたり30mg以上が開始量 ※重症度に応じてもっと多い量を使用する場合もあります 開始後は、最低でも2週間程度は初期量の継続が必要です。 以降は肝機能の数値(主にALT)を見ながら少しずつ減量します。急いで減量や中止をすると、再燃のリスクがあるからです。 ほかには、肝機能の改善を助けるウルソデオキシコール酸が処方される場合があります。 また、治療困難例やステロイドを多く使えない場合には、免疫抑制薬をステロイドと併用で使うときもあります。 ただ、長期で大量に使用すると、以下のようにさまざまな副作用をきたすので注意が必要です。 【ステロイドの副作用の例】 ・感染状態 ・骨粗鬆症 ・食欲亢進 ・高血圧、脂質異常、糖尿病などの生活習慣病の出現や悪化 ・体重増加、肥満 ・躁状態、うつ状態、不眠などの精神神経症状 ・消化管潰瘍 ・緑内障、白内障 など 副作用がないか適宜検査を行い、予防可能なものには対策をしていきます。気になる症状があれば主治医と相談しましょう。 また、肝臓に関わる病気では、治療方法のひとつに再生医療がございます。 症状に悩まれておられる方は、ぜひ当院のメールや電話からご相談ください。 自己免疫性肝炎の病気で日常生活を送るときの注意点 日常生活では栄養バランスの取れた食事をとり、間食を控えるのが大切です。また、外出時は人混みを避けて手洗いやマスク着用、うがいなどの感染予防行動を徹底しましょう。 注意しておきたいのが、続発性副腎機能不全です。ステロイド薬の内服により、引き起こされた副腎皮質ホルモンの不足を指します。 生理的な量を超えるホルモンを長期で内服すると、副腎は本来のホルモン分泌を怠るようになります。 そのため、長期内服者が薬を自己判断で中断してしまうと、ホルモン不足が起こるかもしれません。副腎皮質機能不全となると、以下のような症状が出てきます。 【副腎皮質機能不全の症状例】 ・だるさ ・脱力感 ・血圧低下 ・吐き気 ・嘔吐 ・発熱 など また、重症になると意識を失ったり、ショック状態になったりする場合もあります。 ステロイドを自己判断で減量や中止してしまうと、病状悪化だけでなく、命に関わる副腎機能不全をきたすリスクもあるので、必ず医師の指示通りに内服しましょう。 自己免疫性肝炎の病気は進行するの?【肝臓の症状悪化を防ぐには早期治療】 自己免疫性肝炎の多くは治療が有効である一方、最初は軽症でも放置をすれば命に関わる事態になります。 自己免疫性肝炎を放置すると炎症が沈静化せず、肝臓の線維化が進みます。肝臓の線維化が進行して固くなった状態が「肝硬変」です。 肝臓では栄養素の代謝やエネルギー貯蔵、有害物質の分解や解毒などが行われていますが、肝硬変が進むと機能障害が起こります。 肝臓の働きが大きく損なわれてしまった状態を「肝不全」と呼びます。さらに、肝硬変は肝がんの発生が起こりやすく、肝がんは治療しても再発しやすい厄介ながんです。 肝硬変・肝不全・肝がんへの進行を防ぐには、早期から適切な治療を受けるのが重要です。自己免疫性肝炎では、治療によりASTやALTの数値を基準値内に保てれば、生命予後は良好とされています。 肝硬変の症状や原因については、以下の記事もあわせてご確認ください。 肝臓の症状や自己免疫性肝炎の病気が心配な女性は内科を受診しよう 自己免疫性肝炎に特徴的な症状はありませんが、ときにだるさや黄疸などをきたす場合があります。また、無症状で発見される場合も多いです。 診断は血液検査や画像検査などを行い、総合的に判断して行います。とくに組織の検査は非常に重要とされています。 治療の第一選択薬はステロイドです。副作用も多いですが、対策をしながら長期的に使用します。 自己免疫性肝炎を放置すると命に関わる「肝硬変」に進展するため、診断を受けたら定期的に通院をして服薬を続けましょう。 健康診断で肝臓の数値が高いと言われた方や、肝臓が悪いときの症状に思い当たる節がある方は、まずは医療機関で検査を受けてみてください。 また、肝臓に関わる病気については、治療方法のひとつとして再生医療があります。肝臓の病気に関わる症状に悩まれておられる方は、ぜひ当院のメールや電話からご相談ください。 女性に多い肝臓の病気や自己免疫性肝炎の症状についてよくある質問 実際に患者さまからよくお聞きする質問や、肝臓の病気に関わるQ&Aをまとめています。 Q.自己免疫性肝炎の病気では、最終的にステロイドを止められますか? A.経過によっては中止が可能ですが、全員ではありません。中止できるときも、多くの場合は年単位の時間がかかります。 また、中止した場合には再燃するリスクもあります。減量や中止については個々のケースで大きく異なるので、主治医とよく相談するのが良いでしょう。 Q.原発性胆汁性胆管炎の病気も肝臓の自己免疫疾患と聞きましたが、違いはなんですか? A.どちらも中年以降の女性に多い自己免疫性疾患ですが、障害が起こる部位が異なります。 自己免疫性肝炎では、肝細胞の障害が中心です。原発性胆汁性胆管炎で起こるのは、肝臓内の胆汁が通る管(胆管)の破壊です。 そのため、胆汁の流れが滞り、ALPやγ-GTPなど、胆道系酵素や黄疸をきたすビリルビン値の上昇が目立ちます。進行すると黄疸や皮膚のかゆみを生じます。 また、病気を放置すると肝硬変へ進展するので、必ず医療機関での治療が必要です。 各種検査で自己免疫性肝炎との鑑別を行いますが、2つの病態が合併している場合もあります。 Q.アルコールを飲む機会が多いと肝臓の病気になりますか? A.アルコールを飲む量や本人の体調によっては、肝臓の病気になる可能性があります。 とくに長期間にわたり、アルコールの大量摂取を行うと、肝臓に大きなダメージを与えてしまうからです。 実際に、厚生労働省の情報でも、アルコールの飲みすぎは脂肪肝やアルコール性肝炎など、肝臓病につながりやすいと指摘しています。 日頃からお酒を飲まれる方で、肝臓への負担が気になる方は、アルコール性肝炎の初期症状などを解説している以下の記事もあわせて参考にしてみてください。 Q.肝臓の病気があるときに食べてはいけないものはありますか? A.糖質や脂質が多く含まれているような食べ物は避けましょう。 たとえば、以下の食べ物が例にあげられます。 ・糖質が多いもの:ジュース類、駄菓子、果物 など ・脂質が多いもの:揚げ物、肉の脂身、ドレッシング など 肝臓をいたわる食事の例を知りたい方は、以下の記事も参考になります。 Q.肝臓に血管腫があるときはどうすれば良いですか? A.肝血管腫とは、肝臓で異常増殖した細い血管が絡み合い、塊になった際にできる良性腫瘍です。 小さな病変かつ無症状であれば、基本的に経過観察のみと考えて良いでしょう。 大きくても増大傾向がなく、かつ無症状であれば経過観察可能と判断される可能性が高いと思われます。 また、肝臓に血管腫があるときは、医療機関での定期検査を行いましょう。気になるような症状や異変を感じた場合には、すぐ診療してもらうのが大切です。 以下の関連記事で詳細を解説しているので、あわせて参考にしてみてください。 Q.脂肪肝を改善するにはどうすれば良いですか? A.生活習慣や食事などの改善が必要です。 脂肪肝になった原因によって、以下のように改善方法は変わります。 ・アルコールが原因の場合:アルコール摂取量を減らす ・肥満などが原因の場合:運動して減量、食事量を調整する また、脂肪肝を指摘されたときは、放置せずに早めに医療機関を受診して治療を行うのが重要です。 脂肪肝の改善に関わる詳細は、以下の記事で詳しく解説しています。 Q.肝疾患の相談などができる支援機関はありますか? A.以下の支援機関で、肝疾患に関わる情報提供や相談を行っています。 ・肝炎情報センター:情報の提供 ・肝疾患相談支援センター:相談など 参考文献 厚生労働省難治性疾患政策研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班 自己免疫性肝炎(AIH)診療ガイドライン2021年 厚生労働省難治性疾患政策研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班 患者さん・家族のための自己免疫性肝炎(AIH)ガイドブック第2版 難病情報センター 自己免疫性肝炎 難病情報センター|原発性胆汁性胆管炎 厚生労働省|e-ヘルスネット「アルコールと肝臓病」 厚生労働省|事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン 参考資料 肝疾患に関する留意事項
2024.05.21 -
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人間ドックなどの検査で「肝血管腫疑い」と言われたら、不安になりますよね。 肝血管腫とは、肝臓で異常増殖した細い血管が絡み合い、塊になったことでできる良性腫瘍で、無症状かつ小さな病変であれば治療は基本的に不要です。 ただし、定期的な検査が推奨されており、万が一腹痛や吐き気、呼吸困難などの症状になった場合には積極的な治療を検討する必要があります。 この記事では、肝血管腫の症状や原因、診断後の気をつけることについて、正しい知識を得られるよう解説していきます。 肝血管腫とは? 肝血管腫とは、肝臓で異常増殖した細い血管が絡み合い、塊になったことでできる良性の腫瘍です。肝臓は元々血管が多い臓器であるため、血管腫ができやすいとされています。 肝血管腫は「海綿状血管腫」と「血管内皮種」の2種類に大きく分けられますが、海綿状血管腫と診断されることがほとんどです。そして、臨床上問題を生じるのも海綿状血管腫が多い傾向です。 基本的には無症状のため、昔は剖検(ぼうけん:病死した患者の遺体を解剖して調べること)で見つかることが多かったのですが、近年の画像診断技術の発展に伴い、他の病気を探すための検査や人間ドックなどで偶然発見されることが多くなりました。基本的には消化器内科で診てもらう病態です。 成人の発生頻度は5%程度で、一般的には女性のほうが男性に比べてやや多いといわれています。 その他女性に多い肝臓の病気については、下記の記事も合わせてご覧ください。 肝血管腫の原因 肝血管腫が形成される原因は明らかになっていませんが、先天的な要素が大きいと考えられています。乳児期に肝血管腫が生じる場合もありますが、通常は自然に消失していきます。 成人になって肝血管腫が発見された女性患者の調査報告では、女性ホルモン補充療法を施行したことにより肝血管腫の増大が見られ、結果として女性ホルモンとの関連が示唆されました。 女性ホルモンが実際にどのように肝血管腫に影響を及ぼしているかまでは未だはっきりと解明されていませんが、妊娠や女性ホルモン療法は肝血管腫増大のリスクになり得ると考えられています。 なお、ピルの服用が肝血管腫を増大させるかに関する研究もなされましたが、そちらでは有意に増大させないとの結果でした。ただし、ピルの長期服用は肝機能障害や肝腫瘍のリスクを上昇させる上、ピルと肝血管腫増大の関連を考える報告があるのも事実です。 肝血管腫の症状 肝血管腫は、多くの場合は無症状で、特徴的な症状はありません。ただし、腫瘍が大きくなってくると徐々に周囲の臓器を圧迫し、結果として不快感や腹痛、右上腹部の膨満感、嘔気・嘔吐などが引き起こされます。 他の関連症状としては、頻度は少ないものの、発熱や黄疸(皮膚や白眼の黄染)、呼吸困難、心不全なども確認されています。 ・不快感や腹痛 ・右上腹部の膨満感 ・嘔き気、嘔吐 ・発熱 ・黄疸(皮膚や白眼の黄染) ・呼吸困難 ・心不全 また、稀に巨大血管腫を生じる「カサバッハ・メリット症候群」という病態があり、出血や多臓器不全で命に関わることがあります。カサバッハ・メリット症候群は基本的に出生児あるいは幼少時期に生じるものですが、成人になって発症する例もあります。 上記のような症状を認めた際にはすぐに医師の診察を受けましょう。 \クリックで電話できます/ メール相談 オンラインカウンセリング 肝血管腫の検査・診断の方法 肝血管腫は、無症状のうちは血液検査での異常も見られません。そのため、肝血管腫が疑われる場合は画像的診断が行われます。主な検査方法として、以下が挙げられます。 ・超音波(エコー)検査 ・CT(造影コンピュータ断層撮影)検査 ・MRI(磁気共鳴画像)検査 ・超音波(エコー)検査 超音波検査とは、体に超音波の出る機械を当て、それぞれの臓器から跳ね返ってきた超音波を画像化する検査です。 腹部超音波検査ではお腹をグッと押される感覚はありますが、被曝の恐れや痛みはありません。 低侵襲な検査で肝血管腫を発見するという点では優れますが、肝細胞癌や肝臓への転移癌と鑑別しにくいといった欠点があります。 造影超音波検査を用いることも可能ですが、患者さんの体格や術者の技量によって左右されてしまうため、通常はCT検査やMRI検査の画像と合わせて総合的に判断されています。 CT(造影コンピュータ断層撮影)検査 CT検査とは、ベッドの上に仰向けに寝た状態でトンネル状の装置に入り、X線の吸収率の違いを利用して体の断面を画像化する検査法です。 造影剤を使用しない単純CTでは肝血管腫の検出率は低いですが、造影剤を使用した造影CTであれば格段に検出率が上がります。肝血管腫は他の肝臓癌と比べて血流の流れが遅いため、造影剤を使用すると全体がゆっくり染まるのです。 ただし、過去に造影剤によるアレルギーが出た人や糖尿病薬を服用している人、腎機能障害のある人、授乳中の人などは造影剤を使用する際に注意が必要となります。 該当される方は医師にご確認ください。 CT検査は断面像が見られるため腫瘍の詳細がわかる点では優れていますが、被曝の問題や造影剤を使用しなければならない点は欠点となります。 MRI(磁気共鳴画像)検査 MRI検査とは、強力な磁場が発生したトンネル状の機械に入り、ラジオ波を体に当てることでさまざまな角度から断面像を作り出す検査です。超音波検査やCT検査同様、必要時には造影剤も使用できます。 造影を含めたMRI検査が肝血管腫の確定診断において最も有用であると言われています。 MRI検査は被曝の心配なく腫瘍の詳細を知るには適していますが、狭いトンネルの中に入る必要があるので狭所恐怖症の人には不向きなである点や、超音波検査やCT検査と比べてコストが高くなる点が難点です。 また、病院によっては他の検査と比較して予約が取りにくい場合もあるでしょう。 肝血管腫の治療法 肝血管腫は、自覚症状や血管腫の増大傾向、血管腫が原因の合併症などに応じて、以下の治療法が選択されます。 ・経過観察のケース ・カテーテル治療が必要なケース ・手術療法が必要なケース 経過観察のケース 小さな病変かつ無症状であれば、基本的に経過観察のみと考えて良いでしょう。大きくても増大傾向がなく、かつ無症状であれば経過観察可能と判断される可能性が高いと思われます。 ただし、自覚症状があり、かつ大きい肝血管腫を指摘されている場合は、それ以上大きくならないよう、女性ホルモン補充療法やピルの中断が推奨されています。 妊娠に関しては判断が難しいところで、大きな血管腫が発見された場合には妊娠を勧めるべきでないと主張する報告もある一方で、巨大血管腫がありながらも合併症を生じることなく妊娠継続ができたとの報告もあります。 巨大血管腫があるために産婦人科領域の治療について相談したい方や妊娠をご希望の場合には、産婦人科の医師に加え、消化器内科や消化器外科の医師ともよく話し合いましょう。治療の際には、消化器内科の医師より消化器外科や放射線科の医師へ紹介され、適切な治療を検討していきます。 カテーテル治療が必要なケース 次のような条件下では、カテーテル治療や手術療法といった積極的治療が必要とされます。 ・カサバッハ・メリット症候群 ・血管腫の急速な増大 ・血管腫の増大とともに症状の増悪 ・血管腫が原因となった合併症が中等度以上 ・血管腫の破裂 カテーテル治療とは、血管内より血管腫に栄養を送る動脈へアクセスし、挿入した細い管を使って動脈を塞ぐ“肝動脈塞栓術”のことです。 肝動脈塞栓術は手術療法と異なり、根本的治療には至らず、多くの場合腫瘍の縮小はみられませんが、症状改善には有効とされています。 また、前段階として一旦肝動脈塞栓術を施行し、全身状態が改善されてから手術に臨む症例もあります。 手術療法が必要なケース 肝臓から腫瘍を引き剥がせると判断された場合は“腫瘍摘出術”が選択され、腫瘍摘出術が難しい場合には腫瘍を肝臓の一部とともに取り除く“肝切除術”が選択されます。 報告されている肝血管腫の手術成績は、破裂による緊急手術を除いて良好です。 なんらかの理由で手術療法が行えないと判断された場合には、放射線治療やステロイド治療も考慮されます。どちらも副作用があるため、患者に合わせて放射線量やステロイド量の適切な調整が必要です。 2024年現在は血管腫を薬で治す研究も進められており、今後の新しい治療法が期待されています。 肝血管腫の診断が出たら気をつけるべきこと 肝血管腫と診断された場合は、お近くのクリニックや内科での定期検査を必ず受けてください。そしてもし気になるような症状や異変を感じた場合には、すぐ診療してもらいましょう。 定期検診では、血管腫のサイズの変化に注目することが大切です。 ある研究において平均12カ月の経過観察を行った結果、ほとんどの症例でサイズの変化がなかったものの、少数ながら増大する症例もありました。肝血管腫は10cmを超えると破裂のリスクが高まり、そして破裂した場合には命に関わります。 日常生活においては、無症状であれば、基本的に普段通りで構いません。しかし、スポーツの最中にボールが腹部に当たって肝血管腫が破裂した例や、歩行中に足を滑らせて転落した際に肝血管腫が破裂した例などの症例報告が稀にあります。 外傷性破裂を防ぐため、高いところからの転落や腹部に強い衝撃が当たるようなリスクは避けましょう。 \クリックで電話できます/ メール相談 オンラインカウンセリング まとめ|肝血管腫は定期的に検査をしましょう 肝血管腫は良性腫瘍であり、基本的には怖い病気ではありません。小さく、無症状なうちは治療も不要です。 しかし、大きくなってくるといろいろな症状を招くほか、破裂の危険が出てきます。自分の身を守るためにも、定期的な検査を心掛けましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 \クリックで電話できます/ メール相談 オンラインカウンセリング 肝血管腫に関するよくある質問 肝血管腫は癌の可能性はありますか? 肝血管腫は良性の腫瘍であるため、癌になる可能性はほとんどありません。ただし、見つかった肝血管腫が20mmを超える腫瘍である場合や、腫瘍が短期間で大きくなった場合は、肝血管腫ではなく肝臓癌であった可能性があります。 肝血管腫が見つかった場合は、半年に一度は定期検査を受けることがおすすめです。 参考文献 松井昭義, 小野寺博義ほか. がん・生活習慣病検診における肝血管腫の検出状況について. 人間ドック.2007;22:35-39. Glinkova V, Shevah O, et al. Hepatic haemangiomas: possible association with female sex hormones. Gut. 2004;53:1352-1355. Ozakyol A, Kebapci M. Enhanced growth of hepatic hemangiomatosis in two adults after postmenopausal estrogen replacement therapy. Tohoku J Exp Med. 2006;210:257-261. Gemer O, Moscovici O, et al. Oral contraceptives and liver hemangioma: a case-control study. Acta Obstet Gynecol Scand. 2004;83:1199-1201. Mathieu D, Zafrani ES, et al. Association of focal nodular hyperplasia and hepatic hemangioma. Gastroenterology. 1989; 97: 154–7. Mikami T, Hirata K, et al. Hemobilia caused by a giant benign hemangioma of the liver: report of a case. Surg Today. 1998;28:948–952. Huang SA, Tu HM, et al. Severe hypothyroidism caused by type 3 iodothyronine deiodinase in infantile hemangiomas. N Engl J Med. 2000;343:185-189. Liu X, Yang Z, et al. Fever of Unknown Origin Caused by Giant Hepatic Hemangioma. J Gastrointest Surg. 2018;22:366-367. Smith AA, Nelson M. 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2024.05.16