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MCL【内側側副靭帯損傷】の症状と治療法について解説 内側側副(ないそく そくふく)靭帯損傷は、内側側副靭帯という膝の内側の安定性を保っている靭帯が何らかの原因で損傷を受けることです。 今回の記事では、内側側副靭帯損傷の症状や治療法について解説します。 内側側副靭帯の役割や損傷の原因 では、まず内側側副靭帯の役割や損傷の原因について解説します。 内側側副靭帯の役割 内側側副靭帯(Medial Collateral Ligament: MCL)は、膝の靭帯の一つであり、内側に位置しています。 膝の関節は太ももの骨(大腿骨:だいたいこつ)と、脛(すね)の骨(脛骨:けいこつ)からなります。 関節の中には、前十字靭帯と後十字靭帯という靭帯があり、関節の外側には内側側副靭帯と、外側側副靭帯という靭帯があります。それぞれ、関節を安定させる働きを担っています。 その中でも、内側側副靭帯は、特に膝の内側の安定性を保つという役割をしています。 内側側副靭帯損傷の原因 スポーツ外傷や、交通事故などで、膝に外反強制(がいはんきょうせい:すねを無理に外側に向けられること)するような大きな力が加わった際に、内側側副靭帯損傷(MCL損傷)が起こりやすいとされています。 内側側副靭帯損傷は、膝の靭帯損傷の中で最も多いとされています。 内側側副靭帯損傷の症状や検査方法 では次に、内側側副靭帯損傷の症状や重症度、検査方法について説明します。 内側側副靭帯損傷の症状①痛みや腫れ 急性期(怪我をしてから3週間頃)に、膝の痛みと可動域制限がみられます。しばらくして腫れ(関節内血腫)が目立ってくることもあります。 急性期が過ぎると、痛みや腫れ、可動域制限は軽快してきます。 内側側副靭帯の損傷の症状②膝の不安定性 この頃になると損傷部位によっては膝の不安定感が徐々に目立ってくることがあります。ひねり動作の際にはっきりすることが多いです。 内側側副靭帯損傷の場合は、すねから下が外へずれてしまうような不安定感が出ます。この状態のまま放置しておくと、新たに半月(板)損傷や軟骨損傷などを生じ、慢性的な痛みや腫れ(水腫)になってしまうこともあります。 内側側副靭帯損傷の重症度 内側側副靭帯損傷は、1〜3度に分類できます。 ・1度 軽症で特に治療を必要としません。 ・2度 中等症で、膝の外反動揺性つまりぐらぐら感を中程度に認めます。 初期治療(ギ プス固定、装具療法など)が重要となります。 ・3度 重症で、膝の外反動揺性が顕著であり、手術を要する場合が多いです。 内側側副靭帯損傷の検査方法 それでは、次に内側側副靱帯の検査方法について解説します。 ストレステスト 診察では膝関節にストレスを加えて緩みの程度を健側と比較します。 ① 外反ストレステスト(valgus stress test) 患者が仰向けになり、膝を伸ばした姿勢と30°膝に曲げた姿勢の2パターンでチェックをします。 医師などの検査者が膝関節の外側に一方の手を置き、他方の手で足関節を持ち膝関節に外反強制力つまりすねを外側に向ける力を加え、膝関節の外反不安定性をみます。 この際、30°屈曲位で外反不安定性があれば、MCL損傷を疑います。 MCL単独損傷では伸展位での不安定性は認めません。 ② 内反ストレステスト(varus stress test) 外反ストレステストとは逆に、医師などの検査者が膝関節の内側に一方の手を置き、他方の手で足関節を持ち膝関節に内反強制力つまりすねを内側に向ける力を加え、膝関節の内反不安定性をみます。 この際、30°屈曲位で内反不安定性があれば、外側側副靱帯損傷を疑います。 画像検査 画像診断ではMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像診断装置)が有用です。 X線(レントゲン)写真では靭帯は写りませんがMRIでは損傷した靭帯を描出できます。 また、半月(板)損傷合併の有無も同時に評価できます。 内側側副靭帯損傷の治療法 内側側副靭帯損傷の治療法は、損傷の程度や症状に基づいて決められます。 保存的治療 内側側副靭帯の単独靱帯損傷の場合には、手術ではなくリハビリテーション治療による保存的治療が選択されます。 受傷後急性期には、 RICE(安静または短期の固定、冷却、弾力包帯などによる圧迫、患肢の挙上)処置に引き続いて、できるだけ早期から筋力訓練を開始します。 サポーター装着 膝に不安定性がある場合は、損傷靱帯保護の目的で支柱付きのサポーター装用を考慮します。 手術療法 前十字靭帯や半月板との混合損傷や、重症度3度であり保存的治療では治らないことが予想される場合には手術療法が行われます。 内側側副靱帯損傷についてよくある質問 Q1 内側側副靱帯損傷は自然に治りますか? A1 内側側副靱帯損傷は、損傷の程度が軽い場合や部分的な断裂では、尺骨動脈という栄養動脈があるので治癒しやすく保存療法が行いやすいといえます。 しかし完全な断裂など、重症の場合は自然治癒は期待しがたいので、靭帯の再腱術を行うことが必要になります。 Q2 内側側副靱帯損傷の固定期間はどれくらいですか? A2 個人差はありますが、約1〜2週間程度ギプスシーネやニーブレースなどで固定後、靭帯矯正サポーターを装着し、リハビリテーションとして可動域、歩行訓練を行っていきます。 膝装具は一般的には約6週間以上装着します。 膝の可動域と不安定性が、怪我をしていない方の膝と同じレベルまで改善したらスポーツ復帰が可能となります。 まとめ・MCL【内側側副靭帯損傷】の症状と治療法について解説 今回の記事では、内側側副靭帯損傷の症状や治療法について解説しました。 内側側副靱帯損傷が起こると、その治療には数週間を要する場合が多いです。しかしながら、再生医療によって、治療期間や回復までの時間を短くできる可能性があります。 https://youtu.be/ZYOV-Er0mnU?si=ka6C0oujvcAaaLKY ▶こちらの動画も是非ご覧ください。膝の靭帯のメカニズムと再生医療について解説。 また当院では、自己脂肪由来幹細胞治療を行うことで、膝の靭帯損傷をより早く治し、筋力低下などを防ぐための再生医療を提供しています。ご興味のある方は、ぜひ一度当院の無料相談を受けてみてください。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S146 監修:医師 加藤 秀一 参考文献 膝の最前線|理学療法科学23(2):335−340,2008.p336 https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/23/2/23_2_335/_pdf 「膝靭帯損傷」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/ligament_injury_of_th_knee.htm 膝のスポーツ外傷・障害と装具 東京女子体育大学小出清一|日本技師装具学会誌4(4):291〜295,1988.p292 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo1985/4/4/4_4_291/_pdf/-char/en スポーツ理学療法で必要となる 整形外科徒手検査と徴候|理学療法科学23(2):337−362,2008.p361 https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/23/3/23_3_357/_pdf スポーツにおける膝外傷・障害に対する リハビリテーション治療 p1029 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/56/12/56_56.1027/_pdf
最終更新日:2024.03.14 -
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大腿骨頭壊死(難病)の種類と特発性大腿骨頭壊死3つの原因 大腿骨頭壊死という病名を聞いたことがあるでしょうか。「だいたいこっとうえし」と読み、股関節に起こる血流の障害が原因となる病気です。その中でも特発性と呼ばれるものは、難病に指定されています。 今回は、大腿骨頭壊死について、その種類や治療についても詳しく解説します。 特発性大腿骨頭壊死(ION)とは 特発性大腿骨頭壊死は英語でIdiopathic femoral head necrosisといい、IONと略されることが多いです。 大腿骨頭とは、大腿骨の一番頭側にある股関節を形成する大腿骨の一部分です。この一部の血流が低下して大腿骨頭に血が通わなくなり、骨組織が死んでしまったものを「大腿骨頭壊死」といいます。 外傷や放射線照射など、明らかな壊死の原因があるものを「症候性大腿骨頭壊死」といい、明らかな原因のないものを「特発性大腿骨頭壊死」といいます。 明らかに壊死の原因がある「症候性大腿骨頭壊死」 明らかな原因が不明なものを「特発性大腿骨頭壊死」 明らかな原因がある、症候性の大腿骨頭壊死は、大腿骨頸部骨折後に起こるものが最も多いです。骨折により血管が損傷され、大腿骨頭に血が通わなくなることが原因と考えられています。 そのほかは、股関節周囲に放射線照射した後や潜水夫などにおこる減圧症候群のひとつとして見られます。 症候性も特発性も、大腿骨頭に血流がなくなったことによって、骨が壊死します。その結果、体重を受ける骨である大腿骨頭が、徐々につぶれて変形することによって痛みを生じます。 特発性大腿骨頭壊死の3つの原因 特発性大腿骨頭壊死は、さらに3つに分類され、ステロイド治療歴があるものをステロイド性、アルコール多飲歴があるものをアルコール性、まったく原因のないものを狭義の特発性と呼びます。 1)ステロイド性 特発性大腿骨頭壊死(ステロイド治療歴) 2)アルコール性 特発性大腿骨頭壊死(アルコール多飲歴) 3)狭義の特発性大腿骨頭壊死(原因不明) ステロイド投与歴やアルコール多飲歴が壊死発生に深く関与していることは間違いないですが、その機序は現在でも判明していません。 青年・壮年期に発症し、男性では40歳代、女性では30歳代にピークがあります。男性にやや多いと言われています。我が国では、年間2000人から3000人発症していると言われています。 大腿骨頭壊死の症状 では大腿骨頭壊死になると、どのような症状が起こるのでしょうか。 股関節の痛みには注意! 実は、壊死が起こっていても必ずしも症状が起こるわけではありません。発症当初は、自覚症状がないことが多いです。その後、体重がかかることによって壊死に至った部分がつぶれ、痛みをきたします。 発症する際は、股関節痛を自覚することが多く、階段を踏み外した時やバスのステップを下りた際など小さなストレスが股関節にかかった時に、突然痛みが生じる場合が多くみられます。このような痛みは、数週間で軽快し、いったんは痛みが落ち着くことが多いです。 ただし、痛みがなくなったからといって壊死が改善したわけではないため、再び股関節にストレスがかかった場合に疼痛が再燃する可能性があります。 大腿骨頭壊死の治療と予後 大腿骨頭壊死を発症してしまったら、気になるのは治療と予後についてです。 発症してしまったら 壊死部は荷重がかからなければ、数年で修復します。ただし、日常生活で股関節に体重をかけない生活をするのは難しく、徐々に壊死した部分が圧壊してしまいます。 壊死範囲が狭い場合や、体重がかからない部分の壊死ではすぐに手術はせず、日常生活での活動を制限しながら、経過観察を行います。痛みが強い場合や変形が進行している方では、壊死部に体重がかからないようにするための骨切り術や人工股関節置換術を行います。 放置するとどうなる? 痛みを我慢していると、どんどん股関節の変形が生じ、ひどい時には、下肢の長さの左右差がでてくる場合もあります。そうなっても人工関節の手術は可能ですが、手術の難易度が高くなったり、術後のリハビリが大変になったりと、放置してもいいことはありません。できるだけ早期に医師の診察を受け、治療介入を行いましょう。 大腿骨頭壊死についてよくあるQ&A Q:大腿骨頭壊死の診断には、どのような検査が必要ですか? すでに症状が出現している場合は、単純レントゲンでも、骨頭壊死の診断は可能ですが、壊死発症の超早期の場合は、変化がないこともあります。その際はMRIや骨シンチグラムなど詳しい検査を行うことで、特異的な所見を認めることがあります。 Q:難病申請と障害年金の申請は可能ですか? 特発性大腿骨頭壊死は、指定難病になっており、難病申請行うことができます。特発性大腿骨頭壊死と診断され、症状が一定の基準を満たす場合は、医療費の助成を受けることができます。患者様が、各都道府県や指定都市に申請します。 また、症状の程度や治療内容によっては、障害年金を受け取ることができます。どのくらい歩行などの日常生活に支障があるかによって、障害等級がきまります。 障害等級は1~3級があり、そのいずれかに当てはまる場合は障害年金の支給適応になります。人工関節などの手術を行った場合は、日常生活に戻れたとしても3級に認定される場合がありますので、特発性大腿骨頭壊死と診断された方は、申請を検討するのがよいでしょう。ただし、厚生年金保険料を納めていない場合は、3級相当の障害年金は支給されませんので、ご注意ください。 まとめ・大腿骨頭壊死(難病)の種類と特発性大腿骨頭壊死3つの原因 今回は大腿骨頭壊死について解説しました。一度発症してしまうと、治癒まで非常に時間がかかり、手術も必要となる可能性が高い疾患です。 ほかの病気でステロイドを使っている場合や、アルコールの多飲歴がある場合は、リスクが高くなりますので、少しでも気になる症状がある場合は、早めに整形外科を受診するようにしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S145 監修:医師 加藤 秀一 ▼以下もご覧になりませんか 大腿骨頭壊死に必要な検査や入院期間とは?医師が解説
最終更新日:2024.02.14 -
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橋出血とは?症状、原因、治療法を医師が分かりやすく解説! 橋出血(「きょうしゅっけつ」、英語では「pontine hemorrhage」)は、脳卒中の中でも、特に生命予後の悪い疾患の一つです。 脳梗塞・脳出血・くも膜下出血といった、脳の血管が詰まったり破れたりする病気を総称して「脳卒中」と呼びます。脳卒中のひとつ「橋出血」の重症例では、意識・呼吸障害、四肢麻痺などをきたし、急激な経過で死に至ることもあるのです。 本記事では、橋出血の症状・原因や治療について詳しく解説をしていきます。 橋出血の「橋」とはなにか 橋とは、上にある中脳、下にある延髄と共に、「脳幹」の構成をしている部分です。脳幹には、神経伝達路、神経の中継・分岐地点、自律神経反射中枢、脳幹網様体という4つの構造物があります。 ①神経伝達路 ②神経の中継、分岐地点 ③自律神経反射中枢 ④脳幹網様体 それぞれの構造の役割とともに、橋出血による症状について見ていきましょう。 ①神経伝達路としての役割と橋出血 脳幹には神経線維の束が通っており、大脳からの運動神経の伝達、大脳への感覚神経の伝達、脳幹の真後ろにある小脳との連絡経路の役割を果たしています。 橋出血では、神経の伝導路が障害されるため、運動麻痺や感覚障害が起こるのです。 運動麻痺は出血の部位にもよりますが、特に重症例では両方の手・足ともに動かなくなる四肢麻痺をきたすことがあります。 この四肢麻痺と顔の麻痺まで加わる特殊な形に、「閉じ込め症候群」があります。意識や感覚は保たれますが、まばたきと一部の目の動き以外の運動が、全てできません。看護・介護を行う人とのコミュニケーションは、眼の動きのみで行うことになります。 また、小脳との連絡がうまくいかなくなると運動失調が起こります。運動失調とは、麻痺がないのに筋肉同士の連携がうまくいかず、動作がスムーズに行えなくなることです。 ②神経の分岐・中継地点の役割と橋出血の症状 脳幹には、脳から直接伸びる末梢神経である脳神経核をはじめ、複数の神経核があります。神経核は神経の細胞体の塊です。神経回路の分岐点や中継点となります。 例えば、橋には次の4つの脳神経核があります。 ・三叉神経;主に顔面の感覚を伝える ・外転神経;眼球の運動の一部を支配する ・顔面神経;表情筋など顔面の運動に関わる ・内耳神経;聴覚や平衡感覚を司る 橋出血でこれらが障害を受けると、顔の感覚や運動の障害、眼球運動の障害、聴力障害が起こります。三叉神経や顔面神経は舌の動きや感覚などにも関わる神経です。そのため、橋出血では嚥下障害も多く認められます。 ③自律神経中枢と橋出血の症状 自律神経は生命維持の上で必要なことを調整する神経です。私たちは意識せずとも呼吸をし、心拍数をコントロールできます。明るさに応じて、瞳孔の大きさを調節することもできます。これらを行う自律神経も、脳幹に中枢があるのです。 橋には呼吸の中枢があるため、橋出血患者さんには呼吸の障害が多く認められます。 また、橋出血では瞳孔の異常を多く認めます。代表的なものは瞳孔の縮小です。自律神経のうち、瞳孔を開く交感神経が障害されるためです。 ④脳幹網様体の役割と橋出血の症状 脳幹の中心から背中側には、網様体と呼ばれる、神経線維の束と神経の細胞体が合わさったものがあります。 網様体には主に3つの役割があります。 ・脳幹内の自律神経中枢と連絡し、生命維持機能を果たす ・筋肉の緊張をコントロールする ・大脳へ刺激を与えて意識を保つ 重症の橋出血では、自律神経に障害が出ることはすでに述べましたが、網様体の障害でも呼吸・循環障害をきたします。さらに、網様体の損傷により認められるのが意識障害です。重症例では、急激な経過で昏睡状態に陥ってしまいます。 また、徐脳硬直という特徴的な姿勢を認めます。筋緊張の調整ができなくなる結果、手も足も強く伸び切ってしまうという状態です。 また、橋の網様体には眼球の運動の中枢があります。橋出血の際は、出血部位や程度により、さまざまな眼の動きの異常が認められます。代表的なものは、眼球の正中固定位です。眼の動きが全くできず、真ん中で固定されます。また、眼球が真下に急に動き、ゆっくり真ん中に戻ってくる「眼球浮き運動」が認められることもあります。 橋出血の二つの原因とそれぞれの治療法 橋出血の原因として、高血圧と血管奇形の二つが挙げられます。また、原因により治療法が異なります。 それぞれについて解説していきます。 高血圧で起こる橋出血と治療 橋出血の最大の原因は高血圧です。 橋への栄養動脈が、高い圧により破綻してしまいます。橋は小さい中に重要な構造物が詰まっているところです。出血が一気に広がり損傷が起こると、短時間で致命的になります。 損傷を受けた脳幹の回復は難しく、手術は基本的には行いません。可能な限り血圧を下げ、呼吸や循環などの生命維持のサポートをするのが治療の中心です。 血管奇形で起こる橋出血と治療 高血圧性の橋出血よりも若い方に多いのが、脳の血管の奇形によるものです。 代表的なものに、海綿状血管腫という血管の塊があります。この奇形を持っている一部の患者さんでは局所的な出血を起こします。出血は少量で、重篤にならないことが多いです。しかし、何度も繰り返すリスクがあります。 この場合は、出血が落ち着いているときに手術が考慮されることもあります。 橋出血についてよくあるQ & A Q , 橋出血の検査はどのようなものがありますか? A , 疑わしい症状があれば、CTを撮影します。脳は灰色に映りますが、出血がある部分は白くなります。なお、血管の奇形の診断はMRI も有用です。近年では脳ドックなどにより、症状がないまま発見されるものも多くあります。 Q , 海綿状血管腫は必ず手術が必要ですか? A , 症状のない海綿状血管腫が出血を起こすのは、年間で1000人中4〜6人程度です。手術の合併症リスクの方が高く、万人に勧められるものではありません。ただし、一度出血を起こすと、特に2年以内の再出血のリスクが非常に高くなります。その場合も、全員が手術をするわけではありません。 手術のメリットとリスクを天秤にかけて考えます。近年では手術ができない場合に、放射線治療が考慮されることもあります。 まとめ・橋出血とは?症状、原因、治療法を医師が分かりやすく解説! 橋出血は、重症例では命にかかわりかねない恐ろしい病気です。 高血圧は重症の橋出血のリスクになるため、しっかりと治療を受けましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.144 監修:医師 坂本貞範 ▼以下もご参考下さい 橋出血の初期症状やその特徴とは?医師が詳しく解説! <参考文献> 東登志夫. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 364-368, 2014. 古谷一英. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 369-372, 2014. 茂木陽介, 川俣貴一. 日本臨牀. 80(増刊号2): 320-324, 2022. 医学書院 標準解剖学 第1版 メディックメディア 病気がみえるvol7. 脳・神経 第1版 中外医学社 イラスト解剖学 第7版 脳卒中診療ガイドライン2021
最終更新日:2024.02.09 -
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もやもや病の後遺症による性格変化とは?高次機能障害について解説 もやもや病は、脳の重要な動脈が狭くなり、そのかわりにバイパスとなる細い血管が発達することにより起こる病気です。 細い血管は検査で見ると「もやもやと煙が立ち上るよう」に見え、この所見が診断基準にも必須の項目となっています。この「もやもや血管」が収縮してしまうと、脳に十分な血液が行き届かなくなります。その結果、意識障害や脱力、てんかん、頭痛などの症状を発作的に繰り返すのです。 また、細い血管は詰まったり破れたりしやすいため、脳卒中(脳梗塞や脳出血、くも膜下出血)を起こしてしまうこともあります。脳卒中の後遺症というと、麻痺や感覚障害が思い浮かぶかもしれません。しかし、一部の患者さんでは、麻痺などがなくても、生活や仕事に差し障る後遺症を残すことがあります。それが「高次脳機能障害」です。 本記事では、「もやもや病の後遺症」としての高次脳機能障害について、どのようなことが起こるのか具体例を交えて解説していきます。 高次脳機能障害とは? 「高次脳機能」とは、さまざまな情報をもとに、高度で複雑な処理をする脳の機能のことです。 大脳をその機能別に見てみると、運動や感覚などを司るはっきりとした機能がある「一次野」と、それ以外の「連合野」に区分されます。連合野は特に人間で大きく発達した部分で、高次脳機能に関わるところです。情報をもとに考えたり、感じたり、何かの行動に移したりということを可能にしています。 この連合野がなんらかの原因で傷つくとどうなるでしょう。複雑な処理の過程で支障が起こります。例えば、記憶や行動、物事を実行する能力の障害など、損傷部位に応じて多彩な症状をきたします。その結果、日常生活や社会生活を送る上で制約を受けている状態が「高次脳機能障害」です。 もやもや病と高次脳機能障害 もやもや病は、もやもや血管が詰まったり破れたりすることで、脳卒中をきたします。それだけでなく、明らかな脳卒中のエピソードがなくても、血液の巡りが悪いため、脳にダメージが蓄積されていくリスクもあるのです。このようにして、脳の連合野にダメージを受けると、高次脳機能障害を認めます。 どのような症状が出るかは、障害部位によって変わってきますが、もやもや病では「前頭葉の障害」が起こることが多いです。 前頭葉の働きと高次脳機能障害 もやもや病で障害を受けやすい前頭葉は、大脳の前の部分に位置します。前頭葉にある、「前頭連合野」は、ヒトで特に発達している部分です。本能や激しい感情の動きをコントロールして、思考力・創造性・社会性を発揮するための機能を果たす役割があります。単に欲求に従うのではなく、状況を見極めて判断し、意味のある行動を起こすという「人間らしさ」に関わる場所なのです。 具体的に前頭連合野の障害による高次脳機能障害の症状を見ていきましょう。 〈前頭連合野の障害による高次脳機能障害の例〉 記憶障害 ・作業記憶(ワーキングメモリー)が障害されます。 ・作業記憶の障害は、何かを行うときに一時的においておく「記憶の引き出し」が使えません。 ・聞いたことをすぐ忘れて何度も聞き返す。 ・買い物を頼まれても何を買えばいいか忘れてしまう。 注意障害 ・注意障害があると、気が散りやすくなり、一つの物事に集中できません。 ・ちょっとした周りの変化が起こるとそちらに気をとられ、動作が止まってしまいます。 社会的行動障害 ・自分の感情をうまくコントロールできなくなります ・突然かっとなり怒りだすなど感情の振れ幅が大きくなります。 ・ギャンブルにのめり込みやすくなるなど、欲求がうまく抑えられません。 ・逆に、人や物事に興味がなく、自発性がなくなることもあり社会生活上で問題になります。 遂行機能障害 ・物事を順序立てて行うことができなくなります。 ・段取りが悪くなり、優先順位をつけることができなくなります。 ・臨機応変に行動することができず、ちょっとしたトラブルにも対応することができません。 このように、前頭葉の障害による高次脳機能障害が起こると、無責任で怒りっぽくなったり、意欲や興味がなくなったりと、まるで性格変化をしたようになってしまいます。 もやもや病による高次機能障害についてよくあるQ & A Q1.高次脳機能障害は完治しますか? 脳に傷がある状態なので、完全に治すことは難しいです。しかし、得意なこと、苦手なことを考えた上で工夫をしていくことにより、より生活をしやすいようにしていくことはできます。根気強いリハビリが大切です。 Q2.脳卒中による高次脳機能障害があるとき、入院期間はどのくらいになりますか? 脳卒中では一般的に、発症直後の急性期を過ぎたあと、回復期リハビリテーション病棟というところに移ってリハビリを続ける方が多いです。回復期リハ病棟では、脳血管障害の入院期間は一般的に150日となっています。ただし、高次脳機能障害の合併があると、180日まで入院が可能です。 この期間全部を使っての入院が必要というわけではありません。しかし、高次脳機能障害は麻痺などと違って一見して分かりづらく、周りの理解が得られにくいことが多いです。社会復帰のためのリハビリや環境整備のためにしっかり時間をかけていくことが必要です。 まとめ・もやもや病の後遺症、性格変化とは?高次機能障害について もやもや病による後遺症のうち、高次脳機能障害は外見では分かりにくいものです。 しかし、社会生活を送る上で大きな支障をきたしてしまいます。苦手なことをカバーするための訓練を行うとともに、周囲が理解し、支援を続けていくことが必要です。当事者や家族のみで悩まず、。 もやもや病の方で上記のような症状があり、日常生活に困っているときは、まずは地域の高次脳機能障害支援のための拠点機関に相談してみる必要があります。 リハビリ科や精神科の病院、地域の保健福祉センターなどが該当します。地域の自治体のホームページなどでも情報提供されていることが多いため、一度専門機関で相談をされることをおすすめします。この記事がご参考になれば幸いです。 No.143 監修:医師 坂本貞範 ▼もやもや病の後遺症については以下でも解説しています もやもや病による後遺症|社会復帰や運転への影響について 〈参考文献〉 中川原. BRAIN NURSING. 31(11), 32-34, 2015. 冨永ら.脳卒中の外科. 46 (1), 1-24, 2018. 中村. 日本臨牀 80(増刊号1), 386-390, 2022. 平岡. 日本臨牀 80(増刊号1), 592-596, 2022 難病情報センター.病気の解説(一般利用者向け) もやもや病(指定難病22).https://www.nanbyou.or.jp/entry/47.最終閲覧2023年7月3日. 難病情報センター.診断・治療指針(医療従事者向け) もやもや病(指定難病22).https://www.nanbyou.or.jp/entry/209.最終閲覧2023年7月3日 坂井. 標準解剖学第1版, 医学書院. 2017.
最終更新日:2024.04.02 -
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もやもや病は遺伝するのか?家族性もやもや病、遺伝との関係 もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)は脳卒中を引き起こす脳血管の病気です。この病気は長きにわたって、原因不明の難病とされていました。しかし、一部では家族内で複数人のもやもや病患者さんがいることがわかっており、遺伝が関与する可能性が考えられています。 本記事では、家族性に発症するもやもや病について解説していきます。 もやもや病とは もやもや病患者さんでは、内頸動脈終末部という脳の主要な血管が徐々に狭窄を起こします。足りない血液を補うため、代わりに細い血管が多く発達します。MRA(磁気共鳴血管撮影法)や脳血管造影などの画像の検査では、このような細い血管がもやもやとした煙のように描出され、これがもやもや病という名前の由来です。 細い「もやもや血管」のせいで脳は血流不足を起こしやすくなります。脳に血が回らなくなる「脳虚血」の状態になると、再発性の脱力や手足の痺れ、てんかんなどを認めます。また、もやもや血管は高い血圧によるストレスで破れやすいです。そのため、一部の患者さんでは脳出血を起こします。 もやもや病はどんな人に発症する? もやもや病の患者さんは、人口10万人につき3〜10.5人ほどいるとされています。女性患者さんが男性の約2倍ほどです。 小児での発症 発症する年齢は最多が小児期で、5〜10歳頃が多いとされています。 子供の場合は、脳虚血発作を認めることが多いです。発作は、息を大きく早く吸ったり吐いたりする「過呼吸」により誘発されやすくなります。これは、二酸化炭素が減り、脳の血管が収縮しやすくなるためです。例えばハーモニカなどの楽器の演奏や、熱いラーメンをふーふーと冷ますことがリスクになります。また、痛み止めの効かない頭痛や、てんかんを起こすこともあります。 成人での発症 小児期以外で発症が多いのは、30〜40歳の成人です。 大人の場合は、半数は脳虚血の症状をきたしますが、残りの半分程度は脳出血で発症すると言われています。また、MRIの普及により、症状がなくても、脳ドックなどの機会に血管の異常が判明する患者さんも増えてきています。 家族性もやもや病 実は、もやもや病の10〜20%の方で、家族内の発症が認められているのです。そして、家族性もやもや病の一部では、「表現促進現象」を認めることがあります。表現促進現象とは、次の世代にうつるにつれて、発症年齢が早くなり、また、より重症化しやすくなることです。 もやもや病と関連した遺伝子とは? もやもや病は、発症に人種差があることもわかっています。この病気が発見されたのは日本でした。その後の報告でも、東アジアでは他の地域よりも多いことが判明しています。 家族内での発症や人種での違いがあることから、もやもや病の発症には、遺伝的な因子があるのではないかと考えられていました。 そして、近年、「RF213」という遺伝子に「遺伝子多型」があると、もやもや病が発症しやすくなるということが判明しています。 遺伝子多型 私たちの体を構成する細胞は23組46本の遺伝子を持っています。遺伝情報を構成するDNAは、塩基・リン酸・糖という3つの部品からなる「ヌクレオチド」が繋がってできたものです。このうち、塩基にはアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4種類があります。4種類の塩基の並びで遺伝情報が決まっています。 遺伝情報は、ヒト同士であればほとんどの部分は同一です。しかし、わずかに塩基配列のバリエーションが違う部分があります。この塩基配列の違いを遺伝子多型と呼びます。遺伝子多型があっても、個人間の差がないことも多いです。しかし、一部の遺伝子多型は、個人の特徴を決定づける肌や髪の色の違い、さまざまな体質の違いなどとなって現れます。 RF213遺伝子多型p.R4810K RF213遺伝子は、23ペアのうち17番目の染色体にある遺伝子です。もやもや病の日本人患者さんのRF213遺伝子を調べると、8〜9割もの患者さんにおいて「p .R4810K」という遺伝子多型があることがわかりました。このことから、RNF213遺伝子多型が、もやもや病の発症と大きく関わっていることが推察されます。 しかし、このp .R4810Kという遺伝子多型は、健常な日本人の1〜2%も持っていることがわかっています。つまり、RF213遺伝子多型を持っている人のごく一部がもやもや病を発症しているに過ぎないのです。 現在では、もやもや病の発症には、このような遺伝的な背景に加えて、何かしらのきっかけがあって起こるのではないかと考えられています。 もやもや病の遺伝についてよくあるQ&A Q , もやもや病の患者がいる家系なので子供の発症が心配です。画像検査は何歳からできますか? A ,結論から言うと、何歳から可能かは、お子さんの状況や、病院によって異なってきます。 外来で検査が可能なのはMRAという検査です。磁気を使って脳や血管の状態を調べるため、体への負担は大きくありません。ただし、じっとしていないと撮影は難しいです。狭い機械に入らなければいけないため怖がってしまう子もいます。場合によっては鎮静剤を使って眠った状態で検査をしないといけません。 その一方で、お子さんの場合は、早めに適切な対処をすると予後も良いことがわかっています。検査するかどうか、いつするのかについては病院に相談されることをお勧めします。 Q , もやもや病が心配なので、遺伝子検査はできますか? A , 残念ながら現時点で、RNF213遺伝子の多型を通常の診療で検査することはできません。そもそも、この遺伝子多型を持っているから発症するのではなく、あくまで「もやもや病を起こしやすい」遺伝子多型です。診断は遺伝子の検査ではなく、血管の画像の検査を中心に行います。 まとめ・もやもや病は遺伝するのか?家族性もやもや病、遺伝との関係 もやもや病は一部で家族性に発症を認めます。発症と関連した遺伝子も見つかっています。しかし、絶対に遺伝するわけではなく、発症についてはまだわかっていないことも多い病気です。過剰に遺伝を心配し過ぎる必要はありませんが、気になることは専門医としっかり相談をしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S142 監修:医師 加藤 秀一 〈参考文献〉 中川原. Brain Nursing. 31(11): 1064-1066, 2015. Koganebuchi K, et al. Ann Hum Genet. 85(5):166-177, 2021. 公益財団法人循環器病研究振興財団 知っておきたい循環器病あれこれ117 もやもや病…ここまできた診断・治療 難病情報センター.病気の解説(一般利用者向け) もやもや病(指定難病22).https://www.nanbyou.or.jp/entry/47.最終閲覧2023年7月3日. 難病情報センター.診断・治療指針(医療従事者向け) もやもや病(指定難病22).https://www.nanbyou.or.jp/entry/209.最終閲覧2023年7月3日 小児慢性特定疾病情報センター 対象疾病 39.もやもや病. https://www.shouman.jp/disease/details/11_15_039/. 最終閲覧2023年7月5日 ▼モヤモヤ病の原因など、以下のページも参考にされませんか もやもや病と言われたら|原因・治療法について医師が解説
最終更新日:2024.04.04 -
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橋出血の後遺症と予後予測|回復の見通しについて医師が解説 橋出血は非常に致死率の高い病気です。 かつて脳卒中は、日本人の死因の1位でした。しかし、医療技術が進歩するにつれて、脳卒中による死者数は徐々に減少しています。2022年においては死因の第4位でした。 橋出血は、その中でもいまだに生存率が低いとされており、発症すると半分近くの方が亡くなるという報告もあります。 本記事では、致命的になることの多い橋出血の予後の予測、また後遺症の回復について、解説をしていきます。 橋出血が重症化しやすいのはなぜか? 橋出血の最大の原因は高血圧です。高い血圧がかかり続けると、血管が急に破れてしまうことがあります。 血管をホース、血圧を水の勢いと考えてみてください。高血圧による脳出血は、勢いよく水を出しているホースが途中で破れてしまった状態と同じです。破れたところから、水はさらに激しく飛び散るでしょう。 脳は柔らかい組織で、一度出血すると簡単に止血できず、機能が急激に失われていきます。橋は意識や生命維持のための機能のコントロールを行う場所です。そのため、橋出血は死に直結することも少なくありません。 橋出血の生命予後に関わる症状とは? 重症の橋出血で起こる症状には次のようなものがあります。これらの症状は、橋出血において生命予後不良であることを示すものです。 ・発症早期の高度の意識障害 橋を含む脳幹は大脳へ刺激を与え、意識を保ちます。橋出血によりその刺激ができなくなると、昏睡状態など、高度の意識障害を認めます。 ・四肢麻痺 橋は大脳からの運動の伝達経路です。大脳の損傷でも麻痺は起こりますが、基本的には片麻痺(左右どちらかのみの麻痺)です。橋の広い範囲の出血では、運動神経が一気に障害されるので、四肢麻痺を呈します。 ・除脳硬直 意識障害下に、痛み刺激を加えると、手足が強く緊張して伸びたような姿勢になります。橋を含む脳幹のダメージにより、筋肉の緊張をコントロールすることができなくなるからです。 ・眼球正中位固定 橋には眼球の動きを司る部分があります。この障害により、目が真ん中から動かなくなります。 ・対光反射の消失 対光反射とは、瞳孔に光を当てた時、瞳孔の大きさが小さくなることです。この反射の中枢の「動眼神経」は橋の上の中脳にあります。橋出血の範囲が広いと中脳まで影響がおよび、対光反射は消失します。 ・失調性呼吸 脳幹の呼吸中枢が障害されるために起こる不規則な呼吸です。リズムも、一回ごとの呼吸の量も、バラバラで、呼吸が止まる直前の状態と考えられます。 ・中枢性過高熱 体温の調節中枢は脳幹のすぐ上にある間脳の視床下部というところです。広範な橋出血により、間脳までダメージが広がると、高い熱が出ます。 後遺症の治療について 重症にならず命が助かっても、出血で脳が傷つくと、後遺症が残ってしまうケースもあります。 例えば、神経の伝達経路の損傷による片麻痺、感覚障害などです。 橋は小脳という動作のコントロールに重要な部分と密接に関連しているため、運動失調によりふらついたり、動作がスムーズにいかなくなったりする方もいます。 また、物を飲み込む力が弱くなる嚥下障害も、頻度の高い後遺症です。飲み込みに関わる神経の多くは、橋をはじめとする脳幹から、顔・頸などに直接のびているからです。 後遺症のために、すぐに自宅に帰ることができなくなる方も多くいらっしゃいます。そのような場合に行うのが、リハビリテーションです。 急性期(発症直後の体の状態が安定しない時期)からリハビリが始まりますが、それだけでは不充分なことも多いです。そのため、患者さんの多くは、急性期がすぎると回復期病院(病棟)に移動し、集中的にリハビリを受けることになります。 リハビリの種類 理学療法・作業療法・言語聴覚療法の3種類があります。 ・理学療法 ・作業療法 ・言語聴覚療法 理学療法は、基本的な動作能力の回復を目指すリハビリです。 作業療法は日常生活に必要な作業の訓練を行います。同じリハビリでも、理学療法は立つ・歩くなどの基本的な動作、作業療法は着替え・入浴など応用的な動作が主体です。それぞれ、理学療法士・作業療法士という専門のスタッフがいます。 言語聴覚療法の担当は、言語聴覚士というスタッフです。構音障害などコミュニケーションの障害に対してリハビリを行います。また、橋出血に多い嚥下障害へのアプローチも行います。 リハビリの目標と後遺症の回復の見通しについて リハビリの最終的な目標は、個人個人の後遺症の具合、また退院後の生活環境を踏まえて決定していきます。そして、機能予後、つまり後遺症の回復見通しを勘案しながら、リハビリテーション計画を考えます。 では、回復の見通しはどのように立てるのでしょうか。 脳卒中全般で、発症時の重症度、画像の所見、入院時の日常生活動作(ADL)など、初期の評価からの機能予測についての研究が複数行われています。 また、急性期の回復の具合から、最終的な回復の見通しを立てる方法も模索されています。その中で、最初の1ヶ月での回復具合が大きいほど、最終的に自立した生活につながりやすいことが示されているのです。状態が許せば、早いうちから積極的なリハビリを行なうことは、回復につなげるために非常に重要です。 麻痺が回復するのは発症後どのくらいまでか 一般的に麻痺の回復は、3〜6ヶ月程度までと言われています。そのため、発症して早いうちから、集中的にリハビリに取り組むことが重要です。 この期間を過ぎてしまっても、リハビリを続ける意味がないわけではありません。麻痺の無い側でうまく補ったり、補助具を使ったりする訓練ができます。 まとめ・橋出血の後遺症と予後予測|回復の見通しについて医師が解説 橋出血は現在の医療の進歩をもってしても、いまだに生命予後の悪い病気です。 また、後遺症も残りやすく、回復には時間がかかります。早いうちにリハビリに集中的に取り組むことで、麻痺などの後遺症が軽くなる可能性がありますので、諦めないことが大切です。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.142 監修:医師 坂本貞範 ▼以下もご参考ください 橋出血による運動失調の種類とリハビリプログラム 〈参考文献〉 奥田佳延 他. Neurosurg Emerg 13:63-71,2008. 木村紳一郎 他. 脳卒中の外科. 39: 262-266, 2011. 東登志夫. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 364-368, 2014. 古谷一英. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 369-372, 2014. 佐藤栄志. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 373-375, 2014. 厚生労働省.令和4年(2022)人口動態統計月報年計の概況. 結果の概要. (閲覧2023年6月28日). 脳卒中診療ガイドライン2021
最終更新日:2024.02.09 -
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骨頭壊死|どんな痛み?症状や予防、治療法 骨頭壊死は、大腿骨などの太い骨の先端である骨頭が何らかの原因で壊死してしまう疾患です。 骨頭が壊死しただけでは症状は出ませんが、骨が潰れ、変形が進むと突然の股関節痛などの症状が現れます。 今回の記事では、骨頭壊死の症状や予防法について解説していきます。また、治療法として「再生医療」の可能性についても触れていきますので、ぜひ参考にしてください。 骨頭壊死とは? 骨頭壊死(こっとうえし)とは、関節を構成する骨の先端である骨頭に、病気や怪我などが原因となり血液が十分に流れなくなった結果、骨の一部が死んでしまう、つまり壊死してしまうことです。 多くは、太ももの骨である大腿骨(だいたいこつ)の上端部、つまり股関節で多くみられるとされています。また、大腿骨の下端部の膝関節でも骨頭壊死が起こることがあります。 股関節の大腿骨頭壊死の中でも、脱臼や骨折など、血液の供給が不足するような原因が明らかでない場合に起こるものを、特発性(とくはつせい)大腿骨頭壊死症といいます。 特発性大腿骨頭壊死については、以下のような病期分類があり、骨頭の圧壊(あっかい)、つまり、骨の潰れや変形によって進行度合いが区分されています。 引用) 071 特発性大腿骨頭壊死症 大腿骨頭壊死の原因 大腿骨の骨頭は、股関節内に深くおさまって血管が少ないという特徴があります。そのため、何らかの原因で血流障害が起こると、骨に栄養や酸素などが運ばれなくなり、壊死が起こってしまうのです。 大腿骨頭壊死は、股関節の骨折や股関節の脱臼に引き続いて起こることがあります。 特発性大腿骨頭壊死の場合は、危険因子として、免疫異常の疾患(膠原病)や臓器移植などによるステロイド投与による副作用、アルコール、喫煙が関連していることがわかってきています。 特に、ステロイドやアルコールについては国際的に基準が設けられており、ステロイドやアルコールをある程度の量を摂取した方に起こった大腿骨頭壊死では、ステロイドやアルコールとの関連が考えられます。 大腿骨頭壊死の症状(骨がつぶれて起こる痛み) 大腿骨頭壊死になるとどうなるのでしょうか。 実は、「壊死があるだけでは痛みなどの症状は出ません。」大腿骨頭の壊死が進み、骨が潰れてしまうと、症状が出現します。 自覚症状としては、急に起こる股関節痛や、腰痛、お尻の痛みなどがあります。また、初めの痛みは安静によって数週間で自然治癒することもあるのですが、再び痛みが強くなった場合には、骨の潰れの程度が悪化してしまっていることがあります。 大腿骨頭壊死が起こっていても、初期の段階ではレントゲンでは異常が発見できないため、ステロイド使用歴やアルコールを大量に飲む人に、股関節の痛みがある場合には、MRI検査が望ましいとされています。 進行し、骨がつぶれると起こる ・急に起こる股関節痛 ・急に起こる腰痛 ・急に起こるお尻の痛み ・安静後、痛みが強くなった場合には、骨の潰れが悪化した可能性 骨頭壊死の予防方法と治療法 では、大腿骨頭壊死の予防方法や治療法についてご説明します。 予防方法 上述のように、股関節の大腿骨の骨折や、股関節脱臼などの怪我が骨頭壊死の原因となることがあります。 そのため、スポーツなどの際には、歩きやすい靴を履いたり、適切な防御具などを身につけたりなどして、転倒を防ぐように注意すると良いでしょう。 特発性大腿骨頭壊死の予防としては、お酒の飲みすぎやステロイド剤の使用に注意するということが考えられます。ステロイドによる大腿骨頭壊死の予防法は、現時点では確立されたものはありませんが、今後の研究に期待が持たれるところです。 MRIなどで、骨頭壊死を早期発見し、早期治療を行うことも大切とされています。 アルコールについては、適量を飲むようにすることが重要です。 治療方法 大腿骨頭壊死の治療法は、大腿骨頭壊死の病期や、患者の年齢や活動の活発さ、また片側か両側かによって決まります。 壊死がごく小範囲であれば、自然治癒することも報告されているようです。 また、壊死の範囲が小さく、まだ症状が出ていない場合には、保存療法の適応となります。 つまり、杖などで股関節に負荷がかかるのを防ぎます。 一方、自覚症状があり、大腿骨頭の変形の進行が予想されるときは速やかに手術適応となります。 若い人には自分の関節を残す骨切り術が第一選択となりますが、壊死範囲が大きい場合や骨頭の変形が進んでいる場合には、人工関節置換術などが必要となることもあります。 最近では壊死部の骨再生を促す再生医療の臨床研究もおこなわれています。 骨頭壊死についてよくある質問 Q1. 大腿骨頭壊死では必ず股関節が痛くなるの? A1. 骨壊死が発生した時点では自覚症状はありません。 症状は骨壊死に陥った部分が潰れて大腿骨頭に圧壊が生じたときに出現します。 大腿骨頭壊死症の発生から症状が出現するまでの間には数ヵ月から数年の時間差があります。 必ずしも、股関節が痛くなることばかりではないため注意が必要です。自覚症状としては、比較的急に生じる股関節部痛が特徴的ですが、腰痛、膝痛、殿部痛などで初発する場合もあります。 Q2.大腿骨頭壊死では、必ず手術が必要なの? A2.骨頭壊死の病期によっては、手術が必要となる場合もあります。 一方、再生医療で骨頭壊死を治療するという試みも始まっています。 当院では、エコーや特殊なレントゲン装置、そして特殊な注射針を使用して股関節内の軟骨損傷している部位を精査して、ダイレクトに幹細胞を注入する再生医療を用いた治療を行っています。 また、PRP(多血小板血漿)の併用で、さらなる効果の増強を目指しています。 まとめ・骨頭壊死|どんな痛み?症状や予防、治療法 今回は、骨頭壊死の痛みや予防法について述べました。 大腿骨頭壊死が進行し、変形が進むと、人工股関節置換術を選択することが多いとされていますが、再生医療の発達により、治療法の選択肢が広がったとも言えます。 大腿骨頭壊死に対しての再生医療にご興味がある方は、ぜひ一度当院へご相談してみてください。 No.S144 監修:医師 加藤 秀一 ▼こちらの参考にしてください 大腿骨頭壊死(難病)とはどんな病気? 参考大腿骨頭壊死(難病)とはどんな病気?文献 MSDマニュアル家庭版_骨壊死 (阻血性骨壊死、無菌性壊死、虚血性骨壊死) 特発性大腿骨頭壊死症(指定難病71) 071 特発性大腿骨頭壊死症 「特発性大腿骨頭壊死症」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 重篤副作用疾患別マニュアル|厚生労働省
最終更新日:2024.02.14 -
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視床出血による運動失調はなぜ起こるのか?その種類と特徴 視床出血は、脳の中でも脳内のネットワークの中心となる視床という部位で起こる出血のことです。片麻痺や感覚障害、また運動失調の原因ともなります。 この記事では、視床出血でなぜ運動失調が起こるのか、その特徴と治療やリハビリ、また再生医療の可能性についても解説します。 視床出血とは? 視床出血は、脳卒中と総称される脳出血・脳梗塞・クモ膜下出血の中でも、脳の中の視床という部分に起こる出血のことです。 主な原因は高血圧で、脳出血の中では、被殻(ひかく)出血の次に視床出血の頻度が高いとされています。視床と被殻は隣にありますが、視床出血では脳室という部位とも隣接しています。そのため、視床出血と被殻出血との違いの一つに、脳室にまで出血が広がるかどうかという点があります。 視床出血は、その重症度からI〜IIIに分類されています。 その中でも、脳室穿破(せんぱ;脳室という脳脊髄液がある部分まで出血が及んでいるかどうか)の有無で「無=a」「有=b」とさらに細かく分類されています。 視床に限局しているものをⅠ、内包に進展したものをⅡ、視床下部または中脳に進展したものをⅢとしています。 簡単に述べると、出血が大きくなるほど、数字も大きくなる、というイメージで良いかと思います。 視床出血による症状 視床は、脳内のネットワークの中心となる場所で、感覚神経をはじめとするさまざまな神経線維がここを経由しています。 そのため、視床出血によって、以下のような症状がでます。 ・片麻痺 ・瞳孔径の縮小 ・顔面神経麻痺(病変と反対側に起こる) ・知覚障害 ・病変側への共同偏視 ・外転神経麻痺 ・半盲 ・嘔吐 ・運動失調 その他にも視床出血では、失語症や半側空間無視、注意障害などといった高次脳機能障害が起こることもあります。 また、他の脳卒中と同じように、症状が出たばかりの急性期には、嚥下障害も起こり得ます。嚥下運動(飲み込み運動)は大脳から脳幹に至るまでの複雑なネットワークによって成り立っているからです。そのため、視床出血が原因となり嚥下障害が起こる、というメカニズムが考えられています。 視床出血による運動失調、なぜ起こる? 運動失調とは、運動麻痺はないか、あっても軽症で、動作や姿勢保持などの協調運動に起こる障害のことです。 視床出血で失調症状がでるのは、小脳の運動機能調節に重要な経路に、小脳や視床、大脳皮質、橋があるためです。 これらのいずれかかが障害されても、小脳性運動失調を生じるのです。 また、視床出血によって、深部感覚が障害されることが原因とも考えられています。 失調と麻痺の違いとは? 失調と麻痺の違いは、筋力の低下があるかどうかということになります。 視床出血による運動失調の場合は、一般に意識障害や片麻痺も伴うことが多く、協調運動障害や不随意運動や、感覚障害が認められることは少ないとされています。つまり、運動失調症状があっても、それが四肢の麻痺によるものなのか判別がつきにくい、という特徴があると考えられます。 視床出血の種類とその特徴 運動失調の種類には以下のようなものがあります。 参考) 神経メカニズムから捉える失調症状 視床出血での失調症状では、四肢の失調症状や歩行の異常が認められるということになります。 視床出血の治療 視床出血が起こった際の治療は、血圧を下げることが中心となります。視床は脳の深部にあるため、手術適応とはなりにくいのです。 視床出血によって、水頭症と呼ばれる脳室に脳脊髄液がたまる症状になってしまうことがあります。水頭症を放置しておくと、脳ヘルニアという脳の一部が頭蓋骨の外側に飛び出してしまう状態になる危険性があります。こうなると、呼吸障害などが起こり生命に関わるため、シャント術という手術を行い、余分な髄液を脳室から腹腔にまで流すようにします。 視床出血の後遺症とリハビリ 視床出血では、発症後から感覚障害があった場合には、感覚障害の症状が残ったり、逆に半身の痛み(視床痛)が出現したりします。運動失調が残る場合もあります。また、出血が大きい場合には、片麻痺も後遺症として残ることがあります。 視床出血後のリハビリは、作業療法や理学療法が行われます。 作業療法 作業療法では、麻痺している上肢を積極的に使うことで、日常生活に復帰することを目標とします。 理学療法 理学療法では、重り負荷、弾性包帯による圧迫、フレンケル体操、立ち上がりや立位時の荷重負荷練習、視覚誘導によるバランス練習を行い、日常生活を送る上で必要な動作の練習をしていきます。 ・重り負荷 ・弾性包帯による圧迫 ・フレンケル体操 ・立ち上がりや立位時の荷重負荷練習 ・視覚誘導 また、視床出血後には、片麻痺、つまり運動障害と、運動失調症状が同時にある場合があります。 そのため、視床出血後のリハビリの一つに、免荷式(めんかしき)トレッドミルという機械を用い、歩行のリハビリを行っていくものがあります。 これは、体を上から吊るし、ハーネスで体を支えることで、足にかかる体重を調整でき、バランス感覚を鍛えられることを期待しています。 まとめ・視床出血による運動失調はなぜ起こる?その種類と特徴 本記事では、視床出血による運動失調の特徴について解説しました。 視床出血は後遺症が残ってしまう可能性が高い疾患ですが、当院ではリハビリに再生医療を組み合わせることで、脳神経細胞の修復や身体機能の改善を図っています。 脳卒中後の後遺症に対しての再生医療にご興味がある方は、ぜひ一度当院へご相談ください。 No.141 監修:医師 坂本貞範 参考文献 加齢の面からみた脳出血の部位 脳血管障害による脳室内出血症例の臨床的検討一脳室内出血の重症度評価と転帰についてー 脳出血部位と症状 (CM Fisher) 原著視床出血の高次脳機能障害 急性期脳出血における摂食・嚥下障害の検討 運動失調を主徴とした左視床出血の1例 神経メカニズムから捉える失調症状 運動失調に対するアプローチ
最終更新日:2023.12.26 -
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橋出血による運動失調の種類とリハビリプログラム 橋という脳の一部に出血が起こった後には、運動失調という後遺症が残ることがあります。 今回は、橋出血後の運動失調とはどのようなものか、そしてどのようなリハビリプログラムがあるのか解説し、最新治療法の一つである、再生医療の可能性にも触れていきます。 ぜひ参考にしてみてくださいね。 橋出血とは?どのような症状が出るの? 橋出血(きょうしゅっけつ)とは、脳幹という脳の一部分の中の橋で起こる出血のことです。 脳幹は、中脳・橋・延髄に分けられますが、構造や機能は脳幹全体が同じようなものとなっています。橋出血は脳出血の中の約10%で、脳幹出血の中では橋出血が多くみられます。そのため、脳幹出血と橋出血が同じような意味で用いられるようです。 橋は大部分の脳神経の出入口であり、運動や感覚をつかさどる神経が通り、睡眠や覚醒、呼吸運動や循環機能などの自律運動をつかさどっている重要な部分です。 そのため、橋出血が起こると、以下のような重篤な症状が生じることがあります。 1)高度の意識障害 2)高熱 3)両側の瞳孔縮小 4)片側・両側の四肢麻痺、異常反射、知覚障害 5)高血圧 6)呼吸異常 7)眼球運動障害 8)運動失調 運動失調は、小脳の障害で現れることが典型的ですが、橋と小脳が連絡繊維を持っているため、橋出血を起こすと運動失調も生じます。 橋出血による運動失調の症状はどんなものがある? それでは、まずは運動失調の分類について解説し、その後橋出血による運動失調についても説明していきます。 運動失調の症状とは 運動失調とは、運動麻痺はない、または軽度であるにもかかわらず、動作や姿勢保持などの協調運動ができなくなるという状態のことです。 運動失調は、起立・歩行時のふらつきといった症状が代表的なものです。 その他にも、手の細かな動作も障害され、字を書くのが下手になったり、水を満たしたコップを持つと手が震えてこぼしてしまったり、またボタンをかけたり箸を使ったり、食事をすることがスムーズに行えなくなります。 また、むせるようになる、呂律が回らなくなるといった症状も出ます。 運動失調障害の分類 運動失調障害は、障害される部位によって、以下の3つに大きく分けられます。 1)小脳性運動失調 2)感覚性運動失調 3)前庭性運動失調 これらの3つは、以下のような特徴を持ちます。 引用)2 神経メカニズムから捉える失調症状 この中でも、先ほども述べたように、橋の出血でも小脳と橋が神経繊維で連絡をしているため、小脳性運動失調をきたすことがあります。 橋出血後のリハビリプログラムについて 橋出血後に、運動失調障害に対するリハビリプログラムをご紹介します。 フレンケル体操 フレンケル体操は、運動失調に対して古くから行われている治療法です。 反復訓練と、その訓練に集中することを基本としています。 身体の動きを目で見ながら、つまり視覚を使いながらの身体の動きのコントロールをします。 そのコントロールを反復して練習することで、協調運動を再びできるようになることを期待しています。 重り負荷での運動 足関節や手関節、または腰部に重りをつけ、固有感覚入力の強化、つまり感覚を強めると、過剰な運動を抑える力が働き、運動失調が軽減するというものです。 弾性緊縛帯 重り負荷での運動と同様の発想です。 上肢・下肢の近位部を弾性包帯で圧迫し、感覚入力の強化をすることで、上下肢の過剰な運動を抑えられ、運動失調が軽減することを目的としています。 固有受容性神経筋促通手技(proprioceptive neuromuscular facilitation:PNF) これは、筋肉や皮膚、関節などにある感覚の受容体を刺激しながら、体を動かしていくという手技です。 治療者(セラピストなど)が患者の関節を交互に動かし、 患者はその抵抗に打ち勝つように、 その関節を常に特定の位置に保つように指示します。 治療の効果の持続性は短時間ですが、毎日反復して行うことで、機能の回復が期待できるという報告もあります。 橋出血による運動失調についてよくある質問 Q1. 運動失調と麻痺の違いは? A1. 何かの運動をしようとする際に障害があるという状態を運動障害といいます。 運動障害には、「運動麻痺」と「運動失調」があります。 運動麻痺は、筋肉そのものや、筋肉に命令を送る大脳皮質や脊髄・末梢神経の障害によって、筋肉を自分の意思で動かせなくなった状態をさします。 一方、運動失調は、運動に関わる筋肉の動きを調整する機能が失われたため、スムーズな運動が難しくなった状態のことをさすという違いがあります。 Q2. リハビリの効果を高めるための方法はあるの? A2. リハビリは確かに失われた機能を改善する効果が期待できますが、一方で橋出血により死んでしまった脳細胞を再生させることは難しいです。 また、発症から時間が経つにつれて、リハビリの効果は現れにくくなることもあります。 一方、自己脂肪由来幹細胞の投与をすることで、脳神経細胞が修復再生し、運動失調からの回復や、リハビリの効果を高める効果も期待できます。 まとめ・橋出血による運動失調の種類とリハビリプログラム 今回は、橋出血による運動失調の特徴やリハビリプログラムなどを解説しました。 急性期のみならず、発症から時間がたっている場合でも、再生医療を組み合わせてリハビリを行うことで、運動失調の改善が期待できます。 運動失調に今お悩みの方や、身近で困っている方がいる場合には、ぜひ一度当院の再生医療のご相談を受けてみてくださいね。 No.S140 監修:医師 加藤 秀一 ▼以下もご参考下さい 橋出血とは?症状、原因、治療法を医師が分かりやすく解説 参考文献 脳の機能と構造 「危ないめまい」, 後頭蓋窩の急性脳血管障害 (その1) 2 神経メカニズムから捉える失調症状 症状|(疾患・用語編) 運動失調症|神経内科の主な病気 失調症の リハビリテーション 4 小脳性運動失調のリハビリテーション 医療―体幹・下肢について―
最終更新日:2024.02.09 -
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脳幹出血の後遺症|運動失調の特徴とメカニズム 脳幹は意識を保ち、呼吸や循環を調整する役割を果たしています。脳幹出血が起こると、重度の場合は四肢麻痺や呼吸障害・意識障害をきたし、亡くなることもあります。その一方で、一部の方では出血が軽度で済むことがあります。しかし、軽症であっても、日常生活に支障をきたす後遺症を残してしまうことがあります。 脳卒中の後遺症として思い浮かぶものは何でしょうか。一般的には麻痺や感覚の障害、あるいは注意や記憶・遂行能力などにかかわる高次脳機能障害のイメージが強いと思います。 脳幹出血の後遺症でも、顔面神経麻痺や片麻痺(体の左ないし右半身どちらかの麻痺)、感覚障害などをきたします。さらに、「運動失調」に悩まされる方もいます。 今回の記事では、この「運動失調」について、どのような症状が起こるのか、なぜ脳幹出血で起こるのかについても解説していきます。 運動失調とはなにか? 運動失調とは、筋肉同士の連携がうまくいかず、姿勢やバランスを保ったり、動作をスムーズに行ったりすることができない状態を指します。 運動失調は原因により、次のように分けられます。 ・小脳性 小脳は運動のコントロールを行う場所です。協調運動に関与する領域が侵されることで運動失調が起こります。 協調運動とは、動作を行う際に必要な関節・筋肉などを調整しながら活動することです。これができなくなることで、手足の細かい動きの調整ができなくなったり、歩くときにふらついたりなど多彩な症状が出現します。 ・前庭迷路性 バランスをとるための平衡感覚に重要な前庭器官や、そこから情報を伝える神経の障害により起こります。そのため、立ったり歩いたりする際にバランスがとりづらいという症状が目立つようになります。 ・脊髄性 脊髄に障害が起こると、筋肉の伸び縮みの具合や関節の状態についての感覚(深部感覚)が障害されます。その結果、自分の筋肉や関節の状態がうまく把握できず、ふらつきが起こります。一部は視覚情報で補完できるため、目をつぶるとふらつきが強くなり、立っていられなくなるという特徴があります。 ・大脳性 大脳は小脳とともに協調運動に関わります。そのため、小脳性失調と症状が類似しています。 ・その他 末梢神経の障害などによっても運動失調をきたすことがあります。 脳幹出血で運動失調が起こるメカニズムとは 脳幹出血で運動失調が起こるのはなぜでしょうか。 脳幹は小脳の前面にあり、神経線維でつながっています。脳幹出血が起こると小脳との連絡経路に障害が起こります。そのため、脳幹出血では、小脳性失調の症状を認めることがあるのです。 また、脳幹には前庭から情報を受け取る前庭神経核という部分があります。脳幹出血により前庭神経核が障害を受けると、前庭迷路性失調をきたします。 どのような症状が起こるのか 脳幹出血で起こる運動失調では、例えば次のような症状が認められます。 ・体幹失調 体幹のバランスをとることができず、歩くときに足を広く開いて歩くようになります。また手足の動きがバラバラになり、まるで酔っ払っている時のような歩き方になります。体幹失調が強いと、座っている時も状態がぐらぐらと揺れてしまいます。 ・構音失調 話し言葉のリズムが乱れ、音の高さや大きさがバラバラになります。そのため、酔っ払っているときのような呂律の回らない喋り方になります。 ・四肢失調 手足の動きを目的のところで止めることができなくなる測定障害が起こります。結果、目の前に置いてあるものを上手く掴めなくなります。 また、反復拮抗運動障害と言って、素早く反復する動きを繰り返すことが苦手になります。例えば、手首を素早く裏表に返すような動作、「お星様キラキラ」のジェスチャーが上手くできなくなります。 ・眼球失調 目の動きを上手くコントロールできず、ものが二重に見えたり、めまいが起こったりします。 ・企図振戦 振戦とは震えのことです。何かをしようとしたときに手が震えます。特に、目的のものに手が届きそうになったときに震えが強くなります。 ・嚥下障害 ものを飲み込むことは複雑な動作の組み合わせです。運動失調が起こると、噛んだり舌で食べ物を送ったり、喉の筋肉を動かしたりという動きが上手に調整できなくなるとされています。 脳幹出血の運動失調についてよくあるQ&A Q, 運動失調と麻痺の違いは? A, 麻痺とは、医学的には運動麻痺のことを指すことが多いです。脳やそこから伸びる神経の障害により、手や足などの体の部分が自分の意思通りに動かせない状態です。「思ったように力が入らないので動かない」という状況になります。 一方、運動失調とは、運動麻痺がないのにも関わらず、筋肉が協力してうまく働かないことを指します。その結果、姿勢を保ったり、円滑に動作をしたりすることができなくなります。「ふらふらする」「スムーズに動くことができない」という状態です。 脳幹出血では、出血の部位や程度により、この両方がさまざまな程度で起こり得ます。 Q, 運動失調と協調運動障害の違いは? A, 協調運動障害は、運動失調の一つの形と捉えることが多いようです。特に、手足の運動が上手くできないことを協調運動障害と呼ぶことが多いです。 Q, 脳幹出血後の運動失調の治療は? A, 脳幹出血により傷ついてしまった神経を取り替えることはできません。そのため、失われた機能の回復と、残っている機能の維持のためのリハビリテーションが行われます。 リハビリを行う際は、上肢・体幹・下肢など部位ごとに、どのような症状がどの程度あるのかの検査・評価を行い、目標を設定していきます。個々人の目標毎にプログラムを組むため、焦りすぎず、セラピストと相談しながら継続しましょう。 まとめ・脳幹出血の後遺症|運動失調の特徴とメカニズム 脳幹出血後により運動失調が起こると、回復のためには長期的な訓練が必要になります。これまで無意識下にできていた動作が難しくなり、そのままでは日常生活に大きな影響を及ぼすからです。 目の前のコップをとる、まっすぐ歩くなど、これまで何気なく行っていたことができず辛い思いをされる方も多いです。 リハビリでは、失った機能を取り戻したり、残っている機能を伸ばして補完したりする訓練をしていきます。問題なく生活できるようになるまでには時間がかかりますが、少しずつ確実に継続していくことが大切です。 以上、脳幹出血の後遺症で運動失調の特徴とメカニズムについて記載させていただきました。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S139 監修:医師 加藤 秀一 ▼以下もご参考下さい 脳幹出血の原因とは?今すぐ見直せる3つの生活習慣で予防を! 参考文献 渡邊裕文. 関西理学. 6:15-19. 2006. 水澤英洋. 日内会誌. 101:669-674.2012. 後藤淳. 関西理学.14:1-9.2014. 望月仁志、宇川義一. Jpn J Rehabil Med 2019;56:88-93 福岡達之、道免和久. Jpn J Rehabil Med 2019;56:105-109
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脳幹出血のリハビリプログラムを詳しく解説|早期アプローチの大切さ! 脳幹出血を起こすと、重度の場合は意識障害、呼吸障害、四肢麻痺などをきたします。軽度の出血でも、片麻痺や感覚障害、運動失調、嚥下障害や高次脳機能障害などの後遺症を残します。看護が必要なくなっても、元の生活に戻るまでには長い時間が必要です。少しでも後遺症を軽減し、寝たきり状態を防ぐために、リハビリテーションが重要となります。 リハビリテーションの内容は、発症からの時期により変わってきます。リハビリでは、「急性期」「回復期」「生活期(維持期)」という3つの時期に分けてプログラムを組みます。脳幹出血の具体的なリハビリテーションを、3つのステージ別に見ていきましょう。 急性期;早期からの介入が大切! 急性期とは、脳幹出血が起こって、まだ完全に状況が落ち着いていない時期を指します。発症から概ね2週間〜1ヶ月程度です。治療と併行しながらリハビリを進めていきます。 まず目指すのは、早い段階でベッドから離れる「早期離床」です。脳幹出血をはじめとした脳卒中では、体の状態に問題がなければ、24〜48時間以内にリハビリ介入をする方が、回復が早いとされています。 最初に行うことは、寝返りや、体を起こして座ることです。可能であれば、立ち上がり、補助具で歩くリハビリに進みます。着替えなどの日常生活に直結する動作を行うセルフケア訓練も開始します。 また、脳幹出血の患者さんでは、ものを飲み込む力が落ちる嚥下障害を伴っている方が多いです。肺炎予防のためにも、早くから嚥下の評価と口腔ケアを開始します。 一方で、重度の脳幹出血例では、呼吸や血液循環の障害を認めます。脳の周りにまで出血して、髄液の流れに影響する水頭症になることもあります。状況が落ち着かないと早期離床はできません。この場合はベッド上でできるリハビリを行います。 例えば、関節が固まらないように動かしていく関節可動域訓練などが該当します。 回復期;リハビリが中心の生活! 急性期から脱して体の状態は安定していますが、後遺症が固まりきっていない時期です。失われた機能を回復し、残っている機能を高める訓練をします。 多くの脳卒中患者さんは「回復期リハビリテーション病棟」というところに移ります。リハビリを専門にしている病院や病棟です。 理学療法士や作業療法士・言語聴覚士といったリハビリスタッフが多くいます。1日最大で3時間のリハビリが可能です。施設によっては、休日も含めてほぼ毎日リハビリを行っているところもあります。 一口に脳幹出血といっても、人により後遺症の内容や程度はさまざまです。症状別のリハビリは急性期から少しずつ始まります。回復期病棟ではそれをさらに掘り下げ、一人一人に合った詳細なリハビリプログラムを組んでいきます。ここでは一例を紹介します。 〈症状別のリハビリの例〉 運動麻痺 筋肉や関節の動きを自分の意思通りに動かせるよう、繰り返し訓練します。麻痺は3〜6ヶ月程で回復が止まってしまいます。症状が固定した後でも、麻痺のない部分でカバーしたり、装具や杖などを利用したりして動く訓練も行なっていきます。 運動失調 筋肉同士の協調性が失われ、運動をスムーズに行えない状態を運動失調といいます。 運動失調のリハビリでは、例えば、目で確認しながら何度も動作の練習をします。重りを使い、固有感覚(身体の位置や力の入れ具合を感じる感覚)を刺激して、運動のコントロールを行う訓練も行います。一つの動作をいくつかに区切って行うことも効果的です。 嚥下障害 急性期に引き続き、嚥下障害へのリハビリも続けます。どのくらいの固さのものが食べられるのか、一口量はどのくらいが適切かなど、詳細な評価を行います。飲み込む力を強化する訓練をしながら、少しずつ食事の形態を調整していきます。 構音障害 呂律が回らない、声の大きさのコントロールがつかないなど、喋りづらさ(構音障害)を抱える方が多いです。正しい発音の練習や、話すスピードを調整する訓練によって、コミュニケーションが取りやすいようにしていきます。 綿密なリハビリテーションを続けながら、自宅への退院、社会復帰に向けた支援も行なっていきます。 生活期(維持期);家に帰った後も重要! 実際の生活に戻った上で、訓練を続けていく時期です。活動度を維持・向上させ、可能な範囲で自立した生活ができるように考えていきます。 リハビリができる施設に通ったり、訪問リハを受けたりすることで、体力や機能の維持・向上を図ります。 また、脳幹出血の最大の要因は高血圧です。運動習慣をつけることは、血圧を下げ、再発防止にも役に立ちます。 脳幹出血のリハビリについてよくあるQ&A Q, どうして急性期と回復期で病院(病棟)が変わるのですか? A, できれば同じところでリハビリを続けたいですよね。でも、場所が変わることにはきちんと理由があります。 発症直後に入院する「急性期病院(病棟)」の目的は、体の状態を落ち着かせることです。リハビリのための時間や人手には制約があります。治療がひと段落すれば、よりリハビリに特化した場所に移る方が良いのです。 次に急性期病棟に入院が必要な方にベッドをあけるためにも、状況が落ち着いてくれば行き先の調整を考え始めます。 Q, どのくらいの期間、入院が必要ですか? 麻痺などの回復が一定の段階に達し、日常生活に必要な動作ができるようになれば退院を考えます。どこまでできるようになるかという目標は患者さん毎に異なります。 ただし、回復期リハ病棟の入院は脳卒中の場合は最大で150日(高次脳機能障害がある場合は180日)までと決まっているため、これを超えることはありません。 まとめ・脳幹出血のリハビリプログラムを詳しく解説|早期アプローチの大切さ 脳幹出血後は、早期からアプローチをすることにより、後遺症を軽減し、もとの生活に近い状態に戻ることを目指していきます。とても時間がかかりますが、しっかりとリハビリテーションを続けていきましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.140 監修:医師 坂本貞範 ▼以下も参考にされませんか 脳幹出血後の後遺症(麻痺や障害)に「最新の治療法」という選択肢! 参考文献 標準リハビリテーション医学第4版【電子版】 医学書院. 2023年.東京 日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン 2021. 後藤淳. 関西理学.14:1-9.2014. 福岡達之、道免和久. Jpn J Rehabil Med. 56:105-109. 2019. 藤島一紘. ブレインナーシング 39(2): 320-323. 2023.
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脳幹出血の前兆|見逃してはいけないサインと症状 脳出血は、突然に私たちの日常生活を脅かす深刻な疾患です。 その中でも特に重篤とされる脳幹出血は、生命の維持に重要な脳幹部分が関与するため、突然死のリスクも高いといわれています。 ただし、早期に発見し、治療できれば、元の生活に戻ることが可能な場合も存在します。助かるためには、前兆となるサイン!症状を知っておく必要があります。そこで、今回は脳幹出血について、前兆である身体のサインを見逃さないポイントと、その治療について詳しく解説します。脳幹出血についてその前兆、サインについて理解を深めましょう。 脳出血の原因と脳幹の役割 脳出血は、脳内の血管がなんらかの原因で破れることによって起こります。 最も多い原因は高血圧です。高血圧を患っている人は、とても多く、一般的な病気であると思われがちですがきちんとコントロールできていないと脳出血を起こして、命にかかわる可能性があるのです。 脳出血は脳のすべての部位で起こる可能性がありますが、それが脳幹で起こった場合を脳幹出血といいます。 脳幹は私たちの生命活動をつかさどる中枢で、呼吸や心拍の制御、視覚や聴覚といった感覚系、ホルモンの分泌などを担当しています。この部位で出血が起こると、これらの生命活動に大きな影響が及びます。脳幹出血は、全ての脳出血の10%程度を占めており、非常に予後が悪いといわれています。 脳幹出血は、出血量が多ければ四肢麻痺や意識障害などで発症し、突然死を起こすこともありますが、出血量が軽度であれば、歩いて帰ることができるほど予後が良好な場合もあります。ただし、出血量を軽度に抑えるためには、早期発見・早期治療が必要です。 ここからは、脳幹出血の前兆やサインについて詳しく見ていきましょう。 脳幹出血の前兆であるサインを見逃さないで! 脳幹出血の前兆の可能性がある症状として注意が必要なのが、「いびき」と「めまい」、そして「視覚障害」です。 突然の「いびき」と「めまい」に注意! 脳幹は呼吸や血圧を調整する中枢であり、その機能に影響があるといびきが大きくなることがあります。また、脳幹は体のバランスを取る役割もあるため、めまいが生じることもあります。 いびきやめまいはほかの原因でも起こるため、必ずしも脳幹出血のサインというわけではありません。 ただし、普段いびきをかかない人が突然大きないびきをかくようになった場合や、いびきの音が異常に大きくなった場合、めまいが頻繁に起こる場合は注意が必要です。これらは体からの警告サインかもしれません。このような症状がある場合は、早期に医療機関に相談し検査をすることをお勧めします。 「視覚障害」目の異常を見逃さない! 脳幹は視覚情報を処理する経路にも関与しています。そのため、脳幹出血が生じると、以下のような視覚に関連する症状を起こすこともあります。 ・視野が狭くなる ・ものが二重に見える ・光がいつもよりまぶしく見える ・視力の低下 視野が狭くなる、ものが二重に見える、光がいつもよりまぶしく見える、視力が低下するなどの症状が突然起こった際は、注意が必要です。 これらの視覚に関する症状は、特に読書や運転、日常生活の中の細かい作業などで顕著に感じられることがあります。 視覚の症状は、「目」自体に異常があると考える人が多いため、症状を自覚していても脳の病態の発見が遅れがちです。脳出血でも目の症状が起こりうることを覚えておきましょう。 脳幹出血の治療法:なぜ手術をしない? 脳幹出血の治療は、まず血圧を下げて安定させることが重要です。これは、更なる出血を防ぎ、脳組織へのダメージを最小限に抑えるためです。入院で絶対安静とし、点滴で高圧薬を持続的に投与します。 他の部位の脳出血では、血腫除去といって、出血で生じた血腫を外科的に取り除く手術を行うことがありますが、脳幹出血では基本的には行いません。これは脳幹が脳の深部、狭い範囲に呼吸中枢など生命維持を担う部分が存在していることが原因です。手術の刺激によって正常な部位を傷つける可能性があり、手術のリスクが非常に高くなります。 そのため、基本的には血圧コントロールや脳の浮腫み予防の点滴など保存療法が選択されます。 脳幹出血についてよくあるQ&A Q1 脳幹出血を起こしやすい人はいますか? A. 脳幹出血は高血圧が一番のリスクとなりますが、血管の疾患や脳血管奇形などを持つ人にも起こる可能性があります。 また、以下のような生活習慣も脳出血のリスクを高める要因となります。 ・喫煙 ・過度なアルコール ・運動不足 ・ストレス ・肥満 ・高脂血症 これらの不適切な生活習慣を改めることが、脳出血の予防となります。 Q2 脳幹出血のリハビリテーションにはどんなものがありますか? A. 脳幹出血のリハビリは、どのような症状が出ているかによって患者さんごとにプランが立てられます。大きくは、理学療法、作業療法、言語療法の3つに分けられます。 理学療法 理学療法では、筋力の強化やバランス能力の改善を目指し、歩行練習を行います。 作業療法 作業療法では、食事、着替え、入浴などの日常生活動作の獲得を目指して、細かな動きの訓練を行います。 言語療法 言語療法では、言語障害や嚥下障害の改善を目指します。 また精神的なサポートや心理療法も重要な要素となります。個々の患者さんの病態にあわせて、いろいろな角度からリハビリを行っていきます。 まとめ・脳幹出血の前兆|見逃してはいけないサインと症状 脳幹出血は怖い病気ですが、どんな予兆があるのかという知識を持つことで助かる可能性は高くなります。 いびきやめまい、視覚障害など初期の兆候がある場合は、それを見逃さないことが重要です。自分や身近な人の体をよく観察し、異常を感じたら早期に適切な医療機関を受診するよう心掛けましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.139 監修:医師 坂本貞範 ▼こちらも参考に 脳幹出血の回復の見込みとは?回復プロセスについて解説
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脳幹出血の回復の見込みと、回復プロセスについて解説 脳幹出血は、脳の中心部にある脳幹に出血を起こす脳卒中の1つです。脳幹は心臓や呼吸、意識などの重要な生命維持機能を担っているため、出血によって四肢麻痺だけではなく、意識不明の重体、寝たきりとなってしまう場合や、死亡にまで至ってしまう可能性もあります。 この記事では、脳幹出血によって症状が悪化するメカニズムと、回復の見込みや回復のプロセスについて詳しく解説していきます。 脳幹の役割と脳幹出血による障害について 脳幹は脳の中心部に位置し、脳の部位のうち中脳、橋、延髄で構成されています。 脳全体でみると小さな部位ですが、生命活動にとって大切な循環、呼吸、消化液分泌のほか、眼球運動や体温調節、自律神経の中枢を担っています。 そのため、この部位に出血を起こしてしまうと手足の麻痺だけでなく、意識障害や呼吸停止などの重篤な症状を起こす可能性があります。 昏睡状態となり、呼吸停止となった場合には自力で呼吸ができないため、人工呼吸器が必要になったり、処置が遅れた場合には死亡してしまう可能性もあります。そのため、脳幹出血は脳出血の中でも最も重症な部類とされています。 脳幹出血の原因 脳幹出血は、主に動脈硬化が原因で脳幹内の血管が裂けてしまうことで起こります。 動脈硬化の危険因子として、高血圧、喫煙、肥満、糖尿病、脂質異常症などがありますので、これらの病気を持っている方は適切に治療を受けることが必要です。 動脈硬化の危険因子 ・高血圧 ・喫煙 ・肥満 ・糖尿病 ・脂質異常症 またそのほかにも、動脈瘤や動静脈奇形、外傷など様々な原因が挙げられます。 脳幹出血の治療 脳幹出血の治療は急性期、慢性期に分けられます。 出血をして直後の急性期には、出血部位を拡大させないための「降圧療法」と「全身管理」がメインとなります。 出血の部位が広く、脳室という部位が拡大して水頭症という状態になっている場合には、圧力を下げるためにドレナージ手術をすることがありますが、他の脳出血のような血腫を除去する手術の適応は一般的にはありません。脳幹は脳の深い位置にあるため、手術の負担が大きく、手術によるメリットが少ないためです。 全身管理としては意識状態が悪く、呼吸がうまくできていない場合には助かるために人工呼吸器が必要になることがあります。人工呼吸を行い、出血による症状が落ち着き、自力で呼吸ができるようになった場合には、人工呼吸器を外すことができる場合もあります。 しかし、自力で呼吸ができない場合には人工呼吸器を外すことができない場合もあり、場合によっては気管切開をしてチューブを留置したままになることもあります。 脳幹出血の回復の見込み 生存、回復率、余命については、脳幹出血の重症度によって、見込みが大きく変わります。 重度の脳幹出血では、回復が難しい場合もありますが、一部の軽度や中等度の症例では、回復が期待できることもあります。 脳幹出血から奇跡の回復を遂げた方もいるので、諦めず治療を行うことが大切です。急性期の治療で全身の状態が安定した後には、リハビリテーションと再出血予防のための内服管理がメインとなります。 生存率と回復率について 脳幹出血から回復するためには、発症してから3ヶ月以内の急性期を乗り切るだけでなく、その間に積極的なリハビリテーションを行う必要があります。 まず、脳幹出血の急性期を乗り切るためには、発症時の意識状態がよいことが重要です。回復の見込みは患者さんの状態、重症度など複数の要因が関係しています。一般的に出血の範囲が広く、発症した時の意識状態が悪く、麻痺が重いほど、回復の見込みは低くなります。 また発症してから、病院にくるまでに時間がかかった場合や、リハビリテーションが進まない場合も後遺症が重くなってしまいます。 予後についてはさまざまなデータがありますが、2021年に発表された論文では、 意識障害と脳幹出血の出血量が少ない場合には30日以内の死亡率は2.7%と良好ですが、意識が悪く出血量が多い場合の30日以内の生存率は約70%と低く、死亡率も最大で40〜50%に及ぶ と報告している研究があります。 そのため、発症時に呼びかけや痛み刺激でも反応しない程度の意識状態(グラスゴー・コーマ・スケール [GCS]にて7点以下が予後不良の目安です)の場合には、残念ながら回復の見込みは低いかもしれません。 本邦から2013年に報告された論文では、脳幹出血を発症した212名の患者のうち、 ・良好な回復だった方は13人(6.1%) ・中程度の障害は27人(12.7%) ・重度の障害は27人(12.7%) ・食物状態が23人(10.8%) ・死亡が122人(57.5%) 参照:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0303846712004477 と報告されています。亡くなってしまう方が半分以上で植物状態の方も1割いることから、脳幹出血はとても重症な疾患といえます。 しかし、脳細胞や神経は障害された部位の再生は困難ですが、神経細胞群が新たなネットワークを築き、生まれ変わることで機能が改善する性質(可塑性)を持っていす。そのため、急性期を乗り切れる見込みがある場合には、諦めずにリハビリテーションを行うことが効果的です。 回復プロセスについて 急性期を過ぎた後の回復プロセスは、「3〜6ヶ月の回復期」と「6ヶ月以降の生活期」に分けられます。 脳幹出血の後遺症として麻痺がありますが、急性期は関節が固まらないようにリハビリで可動域訓練を行います。その後、徐々に麻痺が改善してきたら、自力での訓練を行なっています。 発症して2〜3ヶ月が最も身体機能が回復する時期といわれているため、急性期から回復期にかけて積極的なリハビリを行うことが効果的です。 同時に、回復期では「痙縮 -けいしゅく- 」という手足の筋肉が緊張して突っ張る症状が出現します。痙縮を和らげるためにストレッチや筋弛緩薬で対応していきます。 その後の生活期は、症状が安定した後の維持が目的ですので、装具や筋肉の痙縮を和らげる治療をしながら、日常生活を過ごす環境を調整します。 まとめ・脳幹出血の回復の見込みと、回復プロセスについて解説 脳卒中の中でも脳幹出血は重症であり、後遺症を残すだけではなく、生命に危険が及ぶ可能性があります。 回復の見込みについては一般的な予測は困難で、重症度や治療の効果、リハビリテーションの取り組み、個人の状況などを総合的に考慮する必要があります。重度の脳幹出血の場合、完全な回復は難しい場合がありますが、諦めずに治療を続けることで回復する可能性もあるので、継続した医療、リハビリなどのサポートを受けながら、最大限の回復を目指すことが重要です。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S138 監修:医師 加藤 秀一 ▼以下もご参考にされませんか 脳幹出血のリハビリプログラムを詳しく解説|早期アプローチの大切さ! 参考文献: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8460873/ https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0303846712004477 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9995821/ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6940125/
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脳幹出血後の後遺症|麻痺や障害に「最新の治療法」という選択肢! 脳幹出血は、脳の中でも生命活動を司る部分に起こる出血です。脳幹出血が起こった後、生命が助かったとしても、麻痺などの後遺症が残ることもあります。 今回は、脳幹出血後の後遺症に対する最新治療法の一つである、手術なしの治療法「自己脂肪由来幹細胞治療」について解説します。ぜひ参考にしてみてくださいね。 脳幹出血後の麻痺や障害の後遺症にはどのようなものがあるのか? 脳幹出血は、脳幹という脳の中でも呼吸活動を司ったり、血圧を保ったりといった、生命活動にとって根幹となる機能を持つ部位に生じる出血のことです。 脳幹出血に限らず、脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)の発症には高血圧が関係しています。 脳幹の一部である橋(きょう)という場所で出血が起こると、意識障害や全身の麻痺が起こり、出血が広がると呼吸困難となり、重篤な状態になることがあります。時に、出血量が多い場合には命が助からないという場合もあり得るのです。 また、脳幹出血が起こると、命が助かった時でも後遺症が残ることがあります。 例えば、両手足が動かなくなる四肢麻痺や、呂律が回らなくなる構音障害、食事や水の呑み込みが難しくなる嚥下障害などが挙げられます。 このような脳卒中(脳梗塞、脳出血)の後遺症の場合、リハビリテーションを行い、手や足、飲み込みの機能などの回復をはかっていくことになります。 従来のリハビリに加えて、最近では「自己脂肪由来幹細胞治療」という最新の治療法も登場しました。 脳幹出血後の後遺症に対する「自己脂肪由来・幹細胞治療」とは? 自己脂肪由来幹細胞治療とは、患者さんから採取した脂肪から分離した脂肪由来幹細胞を培養して必要な細胞数まで増殖させ、幹細胞が十分な数になるまで増えたら、患者さんに点滴をして投与する、という再生医療です。 この治療方法は、自己脂肪由来幹細胞が血管成長因子や炎症抑制物質を分泌する性質を利用しています。 再生医療の効果としては、以下の3つがあります。 1. 脳神経細胞の再生により身体機能が回復する 脳幹出血で壊れてしまった脳細胞を、自己脂肪由来幹細胞が修復・再生します。 それによって、麻痺などの後遺症の修復や、痛みや痺れといった症状を和らげる効果が期待できます。 2.脳神経細胞の再生によるリハビリ効果の向上 損傷した脳神経を再生および修復することで、身体機能の回復が期待できます。 そのため、再生医療と並行してリハビリを行うことで、リハビリ効果をより高められることも期待できます。発症後数年経っている場合でも、効果を見込める場合もあります。 3.脳血管の修復による再発予防 今後、脳幹出血を含む脳卒中の原因になる可能性のある傷ついた血管を、予防的に修復します。 それによって、脳血管障害を起こしやすい体質自体の改善につながり、再発を予防する効果もあるのです。 自己脂肪由来幹細胞治療のメリットとデメリット では、ここからは自己脂肪由来幹細胞治療のメリットとデメリットについて説明していきます。 自己脂肪由来幹細胞治療のメリット 1. 拒絶反応を引き起こしにくい 自己脂肪由来幹細胞による再生医療の場合は、自分から採取した組織を培養し、投与するというものなので、拒絶反応が起こりにくいという利点があります。 2. 脳幹出血の後遺症の症状に対して根本的な効果が期待できる 自己脂肪由来幹細胞による再生医療では、自己脂肪由来幹細胞による血管の修復、新生効果により、根本的な症状の回復が期待できます。 通常の脳卒中の治療法としては、固まった血を溶かす作用を持つ薬を投与する方法や、手術により固まった血を取り除く方法があります。 しかし、これらの治療法は周囲の脳へのダメージを減らし、症状を安定させてより早くリハビリテーションを開始できるようにすることなどを目的として行われるものなので、根本的な症状の回復はあまり期待できません。 自己脂肪由来幹細胞治療のデメリット 2023年6月時点で、自己脂肪由来幹細胞治療は自費診療となっています。 そのため、高額な治療費が必要になる可能性があるというデメリットもあります。 また、効果には個人差があることにも留意が必要です。 自己脂肪由来幹細胞治療に対するよくある質問 Q1.自己脂肪由来幹細胞治療はどのような病気に対して効果が期待できるの? A1. 自己脂肪由来幹細胞治療は、現在脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)や糖尿病や肝臓疾患、そして肩・膝・股関節の変形性関節症、スポーツ障害、脊髄損傷などに対して行われています。 その他にも、歯周病や、四肢の重症虚血(きょけつ)などに対して臨床研究が行われています。 Q2.自己脂肪由来幹細胞治療はどこで受けられるの? A2. 2023年6月時点で、自己脂肪由来幹細胞治療は自由診療なので、行なっている病院は限られています。 リペアセルクリニックの再生医療は、自己脂肪由来の幹細胞治療を行なっております。独自の技術で細胞を培養しており、輸送時や保存時に幹細胞を冷凍保存しないことによる幹細胞の高い生存率が見込めます。 そして大量の幹細胞を投与できるため治療成績が良好であるという特徴もあります。 治療についてのご相談は、経験豊富な再生医療専門医による医師や、アドバイザーが無料で行なっています。その上で、内容についてご納得して頂いた上で治療を選択することができます。 ご予約は電話や、メール、WEBで可能ですので、治療について悩んでいる方はどうぞお気軽にご相談ください。 ▶リペアセルクリニック「再生医療のご相談、来院予約/治療の流れ」 https://fuelcells.org/flow/ まとめ・脳幹出血後の後遺症|麻痺や障害に「最新の治療法」という選択肢! 今回は脳幹出血の後遺症に対する「最新の治療法」として、自己脂肪由来幹細胞治療による再生医療をご紹介しました。 再生医療による治療を始めるのが早ければ早いほど、良い結果が期待できます。 脳幹出血の後遺症で、ご自身あるいはご家族などがリハビリを受けているような方で、再生医療の治療を受けるかどうか迷っている、あるいは効果について知りたいと考えているのであれば、ぜひ一度当院にご相談くださいね。 以上、脳幹出血後の後遺症である麻痺や障害に「最新の治療法」という選択肢について記しました。参考になれば幸いです。 No.138 監修:医師 坂本貞範 ▼こちらも参考にされませんか 脳幹出血の後遺症|運動失調の特徴とメカニズム 【参考文献】 右下丘に限局した脳幹出血に伴う聴覚障害の1例 p 177 https://www.jstage.jst.go.jp/article/audiology1968/49/5/49_5_755/_pdf 第1回再生医療の安全性確保と推進に関する専門委員会でご指摘いただいた事項について p3,4 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002l0m5-att/2r9852000002l0qx.pdf
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脳幹出血|重症化はもとより生存率が問題!発症時治療の大切さと、その後の見通し(予後)を医師が解説 脳出血の中でも、脳幹出血(brainstem hemorrhage)は生存率が低いと言われています。それは、脳幹という生命維持にとって大切な部分の障害が起こってしまうからです。 重症である場合は、重度の意識や呼吸・循環障害をきたします。治療を行っても、意識回復せずに、脳死状態に陥ってしまったり、亡くなってしまったりすることもあります。 出血量が多くなくても、麻痺などの後遺症が残ると入院期間が長引いてしまいます。 この記事では、脳幹出血を起こした場合にどんな症状をきたすのか、そして治療や予後(治療医の経過、見通し)について解説していきます。 脳幹とはなにか 「脳幹」は中脳・橋・延髄という3つの部位から成り立っています。この部位には様々な神経の細胞や、そこから伸びる神経線維があります。感覚を脳に伝えたり、脳から手足などに指令を送ったりするための信号を伝達しています。 また、意識を保ったり、呼吸や血液の流れを調整したりと、生きていく上で重要な役割を担っています。 脳幹出血とは 脳出血とは脳にはりめぐらされた血管が破れてしまい、脳の中に出血を起こす病気です。脳出血が脳幹に起こると、「脳幹出血」と呼ばれます。脳出血全体のおよそ1割程度が脳幹出血とされています。 脳幹出血のほとんどは橋の出血です。そのため、「橋出血」という言葉は脳幹出血とほぼ同じ意味で使われることがあります。 多くの場合、原因は高血圧です。血管に非常に高い圧がかかり、破れてしまうことで起こります。脳は柔らかい組織で、血が広がっていくため、広い範囲に出血をきたしてしまいます。 一部の患者さんでは、血管の奇形が出血の原因になることがあります。高血圧による出血よりも、若い方に多いのが特徴です。代表的なものは、海綿状血管腫という血管が塊になったものです。血管奇形が原因だと、出血量は比較的少なく、症状が軽く済むことが多いとされています。ただし、繰り返し出血を起こすことも少なくありません。 脳幹出血の症状について 出血が少なく、軽症であれば、出血部位により多彩な症状をきたします。 脳幹出血の前兆の可能性として、初期に感じる軽症の症状の一例を挙げると下記のようなものがあります。 軽症の症状例 ・複視:ものが二重に見える ・顔の感覚や運動の障害 ・手足の運動や感覚の障害 ・運動失調:バランスが取れずにふらつきが起こる ・嚥下の障害 脳幹出血以外の脳血管疾患でも、初期症状として起こる可能性があります。このような異変を感じたら、早い段階での受診が必要です。 出血が多い場合は、重篤な意識障害・呼吸障害をきたします。当初は意識あり、自発呼吸ありという状況でも、急激に悪化し、短時間で死に至ることもあります。 特に予後の悪い症例では、下記のような症状が認められます。 重症の症状例 ・昏睡など重篤な意識障害 ・異常な呼吸パターン ・瞳孔異常:瞳孔不同(左右の黒眼大きさが異なる)、縮瞳(黒眼が小さい)など ・除脳硬直:筋肉が過剰に緊張し、手足が伸びきった状態 ・両手両足の麻痺 ・中枢性高熱:体温調節の中枢の障害による高い熱 脳幹出血の予後について 高血圧による脳幹出血では、重篤な場合は、急速に体の状態が悪化し、発症して数時間〜数日で亡くなってしまいます。脳のすべての働きがなくなり、人工呼吸器などのサポートがなければ生命を維持できない、「脳死」状態となってしまうこともあります。 もし一命を取り留めても、脳の障害を受けた範囲が広いと、後遺症が長く残ります。 血管の奇形によるものでは、症状は軽く、すぐに回復することもあります。一回の出血で命に関わることはほとんどありません。ただし、海綿状血管腫は、出血を繰り返すことで徐々に大きくなっていきます。そうなると、やはり重い後遺症に悩まされるかもしれません。 脳幹出血の治療について 高血圧による出血の場合は、基本的には血圧を下げ、体の状態を保つ保存的治療が最優先されます。 脳幹はすでに出血でダメージを受けており、手術で状況をより悪化させてしまう危険性が高いのです。そのため、手術適応は非常に限られます。 血管奇形が原因の場合は、状況によっては手術が検討されます。ただし、出血直後ではなく、時期を見て行う場合が多いです。 脳幹という重要な部分の手術は合併症リスクも高いです。手術するべきか、またそのタイミングについては慎重に判断しなければなりません。 脳幹出血についてよくあるQ & A Q 脳幹出血を起こすと、どのくらい入院が必要になりますか? A 脳幹出血単独でのデータはありません。厚生労働省の統計では、脳の血管が詰まったり破れたりする「脳卒中」全般では平均入院期間は77.4日となっています。脳卒中を起こすと、神経にダメージが起こってしまうからです。 神経の回復は他の組織よりも遅く、麻痺や感覚障害などは完治しにくいものです。一番危ない時期を過ぎても、その後の体力の回復・リハビリテーションに時間がかかってしまうことが大きいでしょう。 Q 脳幹出血を起こさないために、どのようなことに気をつけたらいいでしょうか? A 一番重要なのは血圧の管理です。そして適切な運動を心がけ、減塩に努めましょう。すでに治療を受けている方は、しっかりと通院を続けてください。血圧が下がったからといって自己判断でお薬をやめないようにしましょう。 脳ドックなどで血管奇形が見つかった場合でも、出血症状がなければすぐに手術適応になることはありません。ただし、慎重な経過観察が必要になります。この場合も、血圧の管理は必要です。 まとめ・脳幹出血|重症化はもとより生存率が問題!発症時治療の大切さと、その後の見通し(予後)を医師が解説 脳幹出血は時に死に至ることもある恐ろしい病気です。命に関わらない場合も、一度発症すると重い後遺症を残してしまう可能性があります。 予防の第一歩は適切な血圧管理を行い、健康的な生活を送ることにあります。定期的な健康診断を受け、必要な方は治療をしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。脳幹出血を起こさない為には、日常の予防が大切です。 ご参考にしていただければ幸いです。 No.S137 監修:医師 加藤 秀一 ▼こちらもご参考に 脳幹出血の前兆|見逃してはいけないサインと症状! <参考文献> 横沢路子. ブレインナーシング. 37(1): 94-97, 2021. 東登志夫. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 364-368, 2014. 古谷一英. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 369-372, 2014. 茂木陽介, 川俣貴一. 日本臨牀. 80(増刊号2): 320-324, 2022. 伊藤康裕. ブレインナーシング. 38(3): 432-433, 2022. 竹内和人. 脳神経外科速報. 32(3): 371-377, 2022. 厚生労働省. 令和2年(2020)患者調査の概況. 3退院患者の平均在院日数等. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/20/dl/heikin.pdf ,(2023-6-8参照).
最終更新日:2024.02.09 -
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脳幹出血の原因とは?今すぐ見直せる3つの生活習慣で予防を! 脳幹出血とは、脳幹という呼吸や血圧を保つなどの生命活動の基本となる部分に起こる出血のことです。 その場所の性質上、脳幹出血が起こると生命に関わることもあります。 今回は、脳幹出血の原因やその症状、そして予防策について解説していきます。 脳幹出血はなぜ起こる? 脳幹出血(のうかんしゅっけつ)とは、脳幹という脳の部分に起こる出血のことです。 脳のイラストを以下に示します。 引用)*1 脳(中枢神経)・皮膚各部位 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000057154.pdf この中で、「脳幹」は、小脳・橋・延髄という部分の総称のことです。呼吸、体温、ホルモン調節といった、生きるために重要な働きをしています。 脳幹出血の原因は? 脳の深刻な血管トラブルである脳卒中(脳梗塞や脳出血、クモ膜下出血)の最大の要因は、高血圧であると考えられています。 高血圧によって動脈硬化が進み、血管が脆くなってしまうため、脳幹の血管が破れてしまうことがあり、これが脳幹出血です。 脳幹出血の原因としては、高血圧の他にも、食生活の乱れ、運動不足、ストレス、喫煙習慣、糖尿病、高脂血症などがあります。こうした因子が動脈硬化の原因となる可能性があるからです。 日本を含めた東アジア諸国では、脳出血の発症が欧米諸国より頻度が高いことがわかっており、遺伝子の影響も疑われています。 脳幹出血の症状と治療法 では、ここからは脳出血の症状や治療法について説明します。 脳幹出血の症状は? 脳幹出血を発症すると、吐き気やめまい、頭痛などの症状が突然現れたり、手足が動かず眼球のみが動くといった状況に陥る場合もあります。 脳幹部は先程説明したように、呼吸、体温、ホルモン調節といった、生きるために重要な働きをしています。出血量が多い場合などには、そのまま意識消失、呼吸停止が起こり、突然死してしまうこともあります。 脳幹出血の治療法は? 脳幹出血は、時間の経過とともに急速に症状が悪化します。そのため、初期症状を見逃さずに出来るだけ早く治療を受けることが、助かるためには重要です。 脳幹出血では、保存的な治療方法が基本で、血圧の管理や脳のむくみに対する対症療法などが行われます。 脳幹出血の中には、脳室内に出血が生じることもあるため、この際にはこの出血を外に出すためのドレナージ手術が行われます。 脳幹出血を予防するためには? 脳幹出血の予防にとって大切な点を、ここから解説していきます。生活習慣の見直しのために、ぜひお役立てください。 高血圧を防ぐために今すぐできる3つのこと 減塩する 高血圧の予防に欠かせないのは、食塩の摂取量の制限です。 食塩摂取の目標は、「健康日本21(第二次)」の目標値では8g未満、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の目標量では、成人男性で7.5g未満、成人女性で6.5g未満とされています。 日本人は、食生活として食塩の量が多くなる傾向があります。以下に、減塩のコツをお示ししますので、参考にしてみると良いでしょう。 e-ヘルスネット(厚生労働省)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-003.html お酒を飲みすぎない 大量飲酒も脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血の全てのリスクを高くすることがわかっています。お酒はほどほどにしましょう。 目安としては以下のようになります。 ・ビール 中瓶1本500ml ・清酒 1合180ml ・ウイスキー・ブランデー ダブル60ml たばこは吸わない たばこは、がん、心臓病、脳卒中、COPD(慢性閉塞性肺疾患)のすべてのリスクを高めます。 たばこを吸っている人は、今からでも遅すぎることはありません。これを期に、禁煙しましょう。 その他にも運動習慣を身につけるのももちろん大切ですが、今日からすぐに始められるものを3つ挙げてみました。日頃から体調管理に気を配り、特に高血圧については予防やコントロールをしていきましょう。 脳幹出血についてよくある質問 それでは、脳幹出血に関するよくある質問について解説していきます。 Q 脳幹出血を起こしても助かりますか? A 少しでも早く治療を受けることが大切です。 脳幹出血は、その部位の役割や特徴から、生命に直結する危険性もある病気です。 しかし、早く治療を開始することができれば、命が助かる可能性ももちろんあります。 日頃から、高血圧予防などの生活習慣改善に努め、健康診断などを受けて体調管理をしておくことがおすすめです。 Q 脳幹出血は再発しますか? A 再発することがありますが、血圧のコントロールをすることでリスクが減らせると考えられます。 脳幹出血に限らず、脳卒中には再発するリスクがあります。 しかし、血圧のコントロールをすることで、再出血のリスクを下げられることが期待できます。 減塩や、場合によっては高血圧の治療を行うことが大切となります。 まとめ・脳幹出血は生活習慣の見直しで今すぐ予防を! 今回は、脳幹出血とは何か、そして原因や予防策などについて解説しました。 脳幹出血は、脳卒中の中でも症状が重篤になりやすい疾患です。 日頃から体調管理に気を配り、特に高血圧については予防やコントロールをしていきたいですね。この記事がご参考になれば幸いです。 No.137 監修:医師 坂本貞範 【参考文献】 脳(中枢神経)・皮膚各部位 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000057154.pdf 脳幹出血について | メディカルノート https://medicalnote.jp/diseases/%E8%84%B3%E5%B9%B9%E5%87%BA%E8%A1%80 脳卒中|病気について|循環器病について知る|患者の皆様へ https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2/ e-ヘルスネット(厚生労働省) https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-003.html アルコール|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b5.html
最終更新日:2023.12.26 -
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もやもや病がまねく脳梗塞のリスク要因と予防策について解説します もやもや病は脳血管の異常により起こる、原因不明の難病です。 もやもや病は脳梗塞をまねく可能性があり、その先の社会生活に大きな影響を及ぼすことがあります。しかし、上手にリスクに対応できれば、脳梗塞を起こす可能性を少なくすることができます。 この記事では、もやもや病がまねく脳梗塞のリスク因子と、予防策を中心に解説をしていきます。 もやもや病ってどんな病気? もやもや病は、一時的に脳内に充分な血液がめぐらなくなる「脳虚血発作」をきたします。 発作時には、麻痺や手足のしびれを起こしたり、うまく言葉がしゃべられなくなったりします。病気が進行すると、てんかんを起こしたり、脳梗塞や脳出血・くも膜下出血を発症したりすることもあるのです。 脳虚血発作は、脳梗塞の前触れともいえる状態です。 この発作は、生活上の注意で避けられることも多くあります。ひとたび脳梗塞が起こると、梗塞部の脳細胞は死んでしまいます。結果、麻痺・言葉の障害や、記憶・注意・感情などに関連する高次脳機能障害といった後遺症をもたらします。 子供と大人での発症の違い もやもや病の発症年齢には、10歳くらいまでと、30〜40歳代の2つの山があります。 子供の場合は、脳虚血の症状で発症することが多いです。 一方、大人では脳虚血の他に、細い血管が破れる出血で発症することもあります。 最近では、自覚症状がないまま、人間ドックなどで、もやもや病が見つかる人も増えています。長年の頭痛の原因が、もやもや病であった、ということもあるようです。 なお、この病気は法律の定める指定難病の一つです。画像検査で診断が確定したうえで、一定以上の重症度と考えられる方には、申請により医療費の補助がおります。 もやもや病による脳梗塞を防ぐには? もやもや病による脳梗塞を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。大切なのは、前ぶれである脳虚血発作を繰り返さないようにすることです。 〜子供の場合〜 子供の場合、脳虚血発作の多くは過呼吸、つまり激しく息を吸ったり吐いたりすることで起こります。過呼吸により二酸化炭素が体から出ていくと、脳内の血管が縮みます。そうなると、脳の血のめぐりが悪くなり、発作を起こすのです。 脳虚血発作を繰り返している方は、日常生活では、この過呼吸状態を避ける必要があります。 具体的には、次のようなことが挙げられます。 過呼吸につながる行動 ・激しく泣く ・大声で笑う ・息が切れるような運動をする ・笛やハーモニカ、鍵盤ハーモニカなどを演奏する ・大きな声で応援をする ・熱いものを「ふーふー」と冷ます こういったことを制限すると、保育園・幼稚園や学校での生活に大きく影響してしまうことになります。保護者や学校の先生など、周囲の大人の理解と協力が必要になります。 また、脱水も脳の血のめぐりが悪くなってしまう原因になります。嘔吐や下痢・高い熱の時は、こまめに水分をとることを心がけてください。暑くなる季節には、熱中症を予防することも重要です。 〜大人の場合〜 大人の患者さんでも、発作を引き起こす行動があれば回避する必要があります。 加えて、脳梗塞の一般的なリスク管理が必要です。高血圧・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病をお持ちの方は、しっかり治療を受けてください。肥満であれば体重を減らす必要があります。タバコを吸っている方は禁煙をしてください。アルコールの飲み過ぎは、脱水につながるので気をつけましょう。 脳梗塞のリスク管理 ・生活習慣の見直し ・体重の管理 ・禁煙する ・アルコールを飲みすぎない 患者さんの状況によっては、血液をさらさらにするお薬を処方されることがあります。発作を繰り返す場合には、脳の血液の流れを改善するための手術を考えます。ひとりひとり、必要な治療は異なります。どのような治療をどのようなタイミングで行うのか、担当の医師ともよく話し合いましょう。 もやもや病と脳梗塞の関係についてよくあるQ & A Q, 発作が起こったときはどすればよいですか? A, まずは、状況を把握することが重要です。麻痺やしびれなどの症状を確かめましょう。そして、ゆっくり息ができるように休みましょう。 落ち着いたら、どのような状況でどのような発作が起こったのか確認しておくことも大切です。いつもより麻痺・しびれなどが長く続く、意識の状態が悪いなど、「なにかおかしい」と感じた場合は、医療機関を受診しましょう。 Q, この病気の治療や経過の見通しは? A, 脳梗塞・脳出血などを起こしてしまうと、たとえ命にかかわらなかったとしても、運動や言葉の障害や、記憶障害などの高次脳機能障害を残してしまうことがあります。そうなると、社会生活に大きな影響を及ぼしてしまう可能性があります。 一方で、適切な管理・治療を受けた方の多くは、最終的には日常生活の制限なく安定して過ごすことができます。そのためにも、定期的に通院し、必要な治療のタイミングを逃さないことが大切です。 まとめ・もやもや病がまねく脳梗塞は、リスクの要因(因子)と予防方法を知って治療のタイミングを逃さないことが大切! 「脳の病気」「難病」といわれると、とても心配になると思います。しかし、適切なタイミングで適切な治療を受けることで、最終的には病気のない人とほぼ変わらない生活を送ることができるようになった患者さんが多くいらっしゃいます。生活上の注意点を守りながらきちんと通院し、担当医と治療方針を相談しましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S136 監修:医師 加藤 秀一 〈参考文献〉 冨永ら.もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)診断・治療ガイドライン(改訂版).脳卒中の外科 46 (1), 1-24, 2018 難病情報センター.病気の解説(一般利用者向け) もやもや病(指定難病22) https://www.nanbyou.or.jp/entry/47 難病情報センター.診断・治療指針(医療従事者向け) もやもや病(指定難病22) https://www.nanbyou.or.jp/entry/209 ▼モヤモヤ病の情報:以下もご覧になりませんか もやもや病の初期症状かもしれません|特徴やサインを知って早期発見を!
最終更新日:2024.04.04 -
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もやもや病の初期症状をチェック!特徴やサインを知って早期発見を! もやもや病は内頚動脈という脳の太い血管が徐々に狭窄していき、異常な血管網が形成される疾患です。日本で発見された病気であり、英語ではMoyamoya diseaseといいます。日本人など東アジアに多いのですが、原因は完全には解明されていないため、厚生労働省から難病に指定されています。 もやもや病は、小児や大人でも発症する病気です。症状は主に脳の血流不足や脳出血が原因となり、多彩な症状を起こしますが、症状はそれぞれで異なります。特徴やサインを知って早期発見をすることが大切です。 この記事ではもやもや病の病態や初期症状のサイン、予後などについて解説し、さらによくある質問についても回答しています。 もやもや病とは もやもや病は脳の血管である内頚動脈や中大脳動脈が徐々に細くなっていき、脳の血液不足が起こりやすくなってしまう原因不明の病気です。 脳の血管は太い血管から分岐した毛細血管が張り巡らされているため、太い血管が細くなり血液が不足すると、毛細血管が発達して太くなり不足した血液を補います。その結果、血管を造影すると太くなった血管がタバコの煙のようにもやもやしてみえることから、もやもや病という病名となりました。 1950年代に日本で発見、命名されており、日本人をはじめとする東アジア人に特に多いことが知られています。人口10万人あたり6〜10人程度と比較的稀な疾患ですが、家族歴がある方が10〜20%程度いますので、ご家族にもやもや病がいる方は注意するべきと言えます。 もやもや病の初期症状サイン もやもや病は、小児や大人でも発症する病気です。初期症状のサインには、以下のようなものが挙げられます。 頭痛や失神、脱力発作やけいれん、めまい、手足のしびれや麻痺などがあり、脳機能の障害により性格の変化、記憶力の低下などの多様な症状を出すことが特徴です。少しでも異常を感じたら、一度病院で精査を受けることをおすすめします。 ☑もやもや病:初期症状チェックリスト ▢頭痛 ▢失神 ▢脱力発作 ▢けいれん ▢めまい ▢手足のしびれ ▢手足の麻痺 ▢性格の変化 ▢記憶力の低下 もやもや病の原因と症状 原因は大きく、「太い血管が狭窄することによる血流不足」と「脳出血」に分けられ、症状はそれぞれで異なります。 血流不足が原因の場合、手足のしびれや麻痺、言語障害などが典型的な症状です。 一時的に起こり、時間が経つと改善する場合や、小児では熱いものを冷ますために息を吐いたり、リコーダーなどの楽器や運動によって症状が現れることもあります。これは、息を吐くことによって脳の血管が収縮して血流が不足することが原因です。 毛細血管が発達することによって出血を起こしやすくなり、脳出血を起こすことがあります。 他にも頭痛などの軽い症状や、検査で見つかる無症候性のもの、めまいや性格変化などの症状もあります。 病気の経過、予後について 適切な治療や管理を受けている場合には、約7割程度の方は症状的に安定して生活を送っていると推計されています。 脳の血管の狭窄は、最初の診断時と同じ状態が何年も変わらない方もいれば、徐々に進行していく方もいるといわれています。従って、定期的にMRIなどによる画像検査が必要です。 狭窄が進行した結果、脳梗塞を起こした方や、増生した毛細血管から出血を起こした場合は、手足の麻痺や、言語の障害、脳機能障害などの重症な後遺症が残ることがしばしばあります。 そのため、早期に診断して専門の病院で治療を受けることが大切です。 もやもや病についてよくあるQ&A Q1.もやもや病で、手術を受けた方がいい場合とは? 回答:手術をするかどうかはご本人の希望と、診断した医師によって若干の違いがありますが、画像検査で偶然見つかり、症状がない方の場合には基本的には早期の手術は不要と考えられています。 しかし、成人で症状がある場合や、過去に脳出血の既往がある場合も手術が勧められています。特に子供では将来の脳虚血や脳出血の予防のために手術適応は広く考えられています。 小児で発症した場合、年齢が低いほど、脳梗塞などの重篤な症状を出しやすいとされています。上記のような症状がしばしば現れる場合には、激しい運動や楽器などの演奏は控えるなどし、診断がついた時点で手術治療を検討するべきとされています。 ただし、手術には合併症もあるため、病気と治療内容についてよく知識をつけてから臨むことが必要です。また決断に迷う場合には、複数の医師から話を聞いてから決断することも一つの方法です。 Q2.遺伝する可能性はありますか? 回答:現在でも詳細な原因は不明であり、必ずしも遺伝する病気というわけではありません。 最近の研究では、もやもや病に関係した遺伝子(RNF213遺伝子)が発見されていますが、病気になる感受性が高くなる「感受性遺伝子」であって、病気の「原因遺伝子」ではないとされています。この遺伝子はもやもや病がない一般の方にもみられる遺伝子ですので明らかな原因とは言えません。 家族内でもやもや病がみられる家族性のもやもや病は10〜20%であり、遺伝子以外に他の何らかの要因が加わることで発症するのではないかと推測されています。 Q3.治療にはどのような方法がありますか? 回答:診断にはCT画像やMRIがあり、症状進行の予防のためには手術治療が有効です。 脳梗塞や脳出血の急性期は、血圧のコントロールなどの内科的治療が主に行われます。 脳虚血発作の症状に対しては外科的血行再建術(バイパス術)が有効です。バイパス術は頭蓋外の血管と頭蓋内の血管をバイパスさせる浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術を中心とする「直接血行再建術」と、側頭筋接着術を主に行う「間接血行再建術」、及び両者を併用した「複合血行再建術」があります。 直接血行再建術は、速やかに吻合した領域の脳血流を改善できる利点があります。 間接血行再建術は、側頭筋や骨膜を脳表に置いて、そこから脳表に向かって血管が新しくできることを期待する方法で手術が比較的容易というメリットがあります。 まとめ・もやもや病の初期症状を感じたら早急に専門家の受診を! もやもや病は脳血管が狭くなることによって、脳血流が不足しやすくなってしまう原因不明の病気です。 症状は主に脳の血流不足や脳出血が原因となり、多彩な症状を起こします。頭痛や失神などの軽い症状からみつかることもあり、家族内で発症することもあるので、特に家族歴があるお子さんでは一度精査を受けることが望ましいです。 この記事を参考にしていただき、ご自身の治療に役立ててください。 No.136 監修:医師 坂本貞範 ▼もやもや病は遺伝するのか、気になる情報は以下からご覧ください もやもや病は遺伝するのか?家族性もやもや病、遺伝との関係
最終更新日:2024.04.04 -
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「もやもや病」の後遺症と社会復帰や運転への影響について もやもや病という病気をご存知でしょうか?正式名称は「Willis動脈輪閉塞症」といい、脳の血管が狭窄・閉塞して起こる病気です。指定難病であり、MRIやCTなどの画像検査で診断をすることが可能です。この病気は、脳卒中の原因にもなり、高次機能障害や記憶障害など様々な症状を引き起こす可能性があります。 この記事では、もやもや病について、社会復帰や運転は可能なのか、さらに後遺症の種類について詳しく解説しています。 もやもや病とは もやもや病とは、脳の血管に生じる病気です。Willis動脈輪という脳の血管の経路のなかで、両側の内頚動脈が狭窄もしくは閉塞してしまった際に起こります。内頚動脈は脳への血流の経路として非常に大切な血管であり、閉塞してしまうと、脳への血流が低下してしまいます。 人間の体は、血流が不足するとそれをなんとか補おうとします。そのため、側副血行路とよばれる新しい血管がたくさん作られます。そうして新しくできた血管が、もやもやとたばこの煙のように見えることから「もやもや病」と呼ばれるようになりました。 この側副血行路は細く、弱い血管です。そのため破れて出血することもあれば、血流が流れていても不十分な場合もあります。そして、この血管が破れると脳出血になり、血流が行き届かないと脳梗塞や脳虚血になります。 もやもや病、大人と子供で症状が違う? もやもや病は主に、10歳以下の小児で発症する場合と、30代から50代の成人で発症する場合の2つがあります。小児で発症する場合は、大部分が虚血症状、つまり脳への血流が不十分になった時に症状を起こします。 例えば、熱いものを吹き冷ますときや、大泣きした時、リコーダーを吹いた時などです。過呼吸状態になると、脳への血流が低下し、脱力発作やけいれんなどの症状を起こします。また、起床時に頭痛が見られることがあり、学校を休むほどの子もいます。 成人で発症する場合、虚血症状の場合も半分程度ありますが、残りの半分はもやもや血管が破れて脳出血となることで発症します。突然の頭痛や意識障害、片麻痺などを初発症状として認めます。 もやもや病の原因と診断基準について もやもや病の原因ははっきりとはわかっていません。最近の研究では、特定の遺伝子を持つ方に発症しやすい傾向があることまでは分かっています。もやもや病を疑う症状があった場合は、MRIや脳血管造影検査などを行い、内頚動脈の閉塞ともやもや血管の存在を確認します。この2つが確認できた場合、もやもや病と診断できます。 CTで脳出血や脳梗塞を確認することができる場合もあります。また、脳の血流を判定するSPECTやPETといった検査が試行されることもあります。 もやもや病の治療に薬は有効か? 閉塞部を改善する根本的な治療はなく、症状を改善させる対症療法が基本になります。外科的な手術としては、脳の血管どうしをつなぎ合わせて、血流が足りない部位へ血液を供給するバイパス術が行われることもあります。 脳卒中で発症した場合は、まずは脳卒中に対する一般的な治療が行われます。その後症状が安定した段階で、バイパス術など外科的な治療を考慮します。脳の血流が不足している場合には、血液をサラサラにする機能がある抗血小板薬を内服し、血流が滞らないようにします。また、けいれんで発症した場合には、抗けいれん薬を用います。 後遺症や社会復帰について もやもや病は、重篤な症状を発症する前に、バイパス手術などの治療を行うことができれば、後遺症なく社会復帰できる可能性が高い疾患です。 しかし、早期発見ができず、脳出血や脳梗塞で発症した場合、障害されている部位やその大きさによって以下のような症状が後遺症としてみられることがあります。これらの後遺症は、人によって程度が違うため、一概には言えませんが、適切なリハビリテーションとサポートがあれば、多くの方が日常生活に戻ることができます。 もやもや病でみられる後遺症 ◇運動麻痺 ・片側の手足が動かなくなることが多いです。 ・動かなくなる程度は出血の大きさによって異なる。 ・リハビリによって改善は認めますが、何らかの障害が残る可能性があります。 ◇感覚障害 ・触られている感覚や、痛みの感覚に異常が生じます。 ・この感覚は鈍くなる場合と、反対に過敏になりすぎる場合があります。 ◇高次機能障害 ・記憶力や注意力に問題がおこる可能性があります。 ・感情をコントロールできなくなったり、言葉が出にくくなったりすることもあります。 ◇嚥下障害 ・食べ物を飲み込みにくくなる症状も起こる可能性があります。 ・出血の部位によっては、回復が難しい場合もあり、口から食事を摂れなくなることもあります。 ◇構音障害 ・呂律が回りにくくなることがあります。 ・言葉が不明瞭になり鼻にかかったようなしゃべり方になる場合が多いです。 社会復帰や運転はできる? 仕事復帰や運転となると、元通りとはいかない場合もあります。 特に運転には集中力、瞬発力、視覚能力などが求められます。これらに後遺症が残った場合は、危険性を考慮して運転が許可されない方もいます。 脳出血や脳梗塞に至らなかったとしても、一次的な脳虚血によってけいれん発作や視野障害などが起こる場合も、車の運転が制限されることもあります。運転をしたい場合は、主治医の先生とよく相談しましょう。また、定期的な通院も欠かさず行う必要があります。 もやもや病についてよくあるQ&A Q:もやもや病は遺伝する可能性がありますか? A:10〜20%の患者では血のつながった家族に同様の病気があるといわれています。若くして脳卒中を発症した家族がいる場合には、もやもや病が原因の場合もあります。そのような方は、家族性発症のリスクがあるため一度MRIなど詳しく調べることをお勧めします。 Q:子供がもやもや病になった場合、成長や学習能力に影響はありますか? A:小児の場合、発見が遅くなると、脳の神経細胞への血流が阻害され、知的機能や運動機能に偏りが起こる場合があります。治療が早ければ後遺症も少なく、成人しても自立した社会生活を送ることもできます。少しでも異変を感じた際は、早急に専門医を受診するようにしてください。 まとめ・「もやもや病」の後遺症と社会復帰や運転への影響について もやもや病は、症状や後遺症が個々に異なる希少な疾患です。手術などの治療により、後遺症なく社会復帰できる場合もあれば、なんらかの介護が必要となる場合もあります。 検査技術などの進歩によって、早期に正確な診断ができるようになっています。危険性に気が付くためには、病気について知ることが第一歩です。少しでも不安なことがある場合は、放置せず、脳ドックを受けたり、専門医を受診したりしてみましょう。 い湯、もやもや病で考えられる後遺症と、社会復帰への影響について記しました。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S135 監修:医師 加藤 秀一 ▼以下の「もやもや病」の記事もご覧ください もやもや病の手術について|成功率や予後予測とは
最終更新日:2024.04.02 -
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もやもや病|手術の種類と入院期間、成功率と予後予測について もやもや病は、内頚動脈という脳の太い血管が徐々に狭窄していき、血流を補うために毛細血管が増殖する難病であり、様々な症状を引き起こします。 もやもや病の症状は、脳梗塞などの脳の虚血によるものと脳出血に関連するものがあります。無症状では経過観察となることもありますが、一般的に症状がある方や小児、出血の既往がある方では手術治療が行われることが多い病気です。 しかし、手術後の痛みや失敗の可能性、手術自体のリスクなど、不安な点が多いと思います。この記事では「もやもや病」の手術に関する詳しい情報について解説していますので、参考にしてみてください。 もやもや病の手術も種類と入院期間 治療にあたっては、手術方法や入院期間などの具体的な情報を知っておく必要があります。 もやもや病には、血管が狭くなることによって脳血流が低下して起こる「虚血型」と、増殖した血管が破裂して出血してしまう「出血型」の2種類があります。 虚血型は、脳血流が不足した部位に応じて手足のしびれや麻痺、言語障害などの症状が一時的に出現します。また、血管の狭窄が進行し、脳の組織への血流が完全に途絶えてしまうと脳梗塞を発症します。 一方、出血型は血管が破れることにより頭痛と出血部位に応じた症状が出現します。 脳梗塞や脳出血では、それぞれに応じた治療法が選択されますので、脳血流が低下する虚血型に対するバイパス手術について解説します。 バイパス手術 バイパス手術とは外科的血行再建術とも言われ、浅側頭動脈と中大脳動脈という血管を直接吻合させて血行を再建する「直接再建術」と、側頭筋や骨膜を脳の表面に置いて、そこから脳表に向かって血管が新しくできることを期待する「間接血行再建術」に分けられます。 直接血行再建術は、速やかに吻合した領域の脳血流を改善できる利点があります。一方で間接血行再建術は、手術が比較的容易というメリットがあります。また、手術以外の治療として内服による治療があります。治療薬として抗血小板剤(血液をサラサラにする薬)を内服し、血液の流れをスムーズにすることで脳血流の改善を促します。もやもや病ではこのようにお薬での治療と、いくつかの手術方法を組み合わせる治療が行われています。 入院期間 入院期間についてですが、手術は全身麻酔で行い手術後にMRI検査や脳血流検査などで血流の改善を確認します。大きな合併症がなければ、おおむね10-14日程度で退院が可能です。その後は3ヶ月おき程度に定期的に外来通院をしていただき、年に1回程度はMRIなどの画像検査を受けることがお勧めされます。 もやもや病の手術後の予後について 小児の適切な時期にバイパス術を受けていただくと、その後に脳梗塞を起こすことはほとんどなく、多くの方は就学と仕事に関しては問題ないと報告されています。 ただし、手術を受けた小児58人の経過を観察したところ、平均18年間の観察で、脳梗塞が1例、脳出血が3例みられており、少ないながらも脳出血を起こしてしまう場合もあります。 また、診断・治療が遅れて脳梗塞を起こした後に手術を受けた場合では脳機能に障害が残っており、普通学級への進学が困難となるリスクがあると報告されています。 一時的な脳の虚血発作であれば、手術によってその後の予後を改善することが可能ですが、脳梗塞を発症してしまった後では、手術でも障害された脳機能は回復することができません。そのため、早期に診断、治療を受けられるようにすることが大切です。 もやもや病の手術ついてよくあるQ&A Q, 手術の方法はどのように決めるのですか。 A, 患者さんの年齢、症状、検査結果により手術の方法が決定されます。また一般的に、全員に手術が必要なわけではありません。症状がない方や、脳血流が安定している方では内科的な血圧管理や生活習慣病の管理、内服薬などで症状の進行を予防し、定期的な画像検査で経過を観察する場合もあります。 しかし、脳血流が低下している場合や脳虚血の症状がある時には手術が推奨されています。手術は直接血行再建術や間接血行再建術、もしくはその組み合わせなどが選択されますが、患者さんの状態や、医師の考えなどをもとに総合的に決定されます。そのため、しっかりと検査を受けることと、複数の医師から意見を聞いてみることが大切です。 Q, 手術の成功率はどの程度ですか。 A, 手術を受ける場合は、タイミングが重要とされます。脳の血流が保たれている段階でバイパス手術を受けると、予防には有効ですが、手術の効果があまり出ずに病気が進行して症状が再発する場合があります。 また、手術を受けても急に脳の血流が増えて一時的に不安定な状態となり術後に脳梗塞、脳出血を起こしてしまう方もいらっしゃいます。適切なタイミングで手術を受けた場合には、おおよそ8割程度の方は普通の日常生活を送れるようになる場合が多いとされています。 症状が消失した場合は完治と考えられるかもしれませんが、細くなった血管を元に戻すことはできず、進行、再発することがあるので手術を受けても経過観察が必要です。ご自身の病気の状態をしっかりと認識して生活していくことが必要になります。 まとめ・もやもや病|手術の種類と入院期間、成功率と予後予測について もやもや病は難病です。手術にも様々な方法があり、手術時期の見極めが大切です。症状でお困りの際には一度専門の病院に相談するようにしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.135 監修:医師 坂本貞範 ▼以下の「もやもや病」の記事も参考にされませんか もやもや病の症状、大人と子どもでの違いや注意すべきポイント
最終更新日:2024.04.04 -
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アキレス腱断裂後のリハビリメニューを解説|装具の種類と特徴とは? アキレス腱断裂後に「どのようなリハビリをするんだろう?」と気になる方はいませんか? アキレス腱断裂後の治療は手術をしない保存療法とアキレス腱を縫合する手術療法があり、どちらの場合も、装具を使いながらリハビリを行います。 本記事では、アキレス腱断裂後のリハビリメニューや使用する装具の種類、特徴を解説します。怪我をした後にどのような経過でリハビリを進めるのか詳しく説明するので、アキレス腱断裂後のリハビリを知りたい方は、ぜひ参考にしましょう。 アキレス腱断裂後のリハビリメニュー アキレス腱断裂後は、保存療法にしても手術療法にしても、アキレス腱の回復状況や痛みなどに合わせてリハビリ内容を変更します。 まずは、具体的なリハビリメニューについて解説します。 患部外トレーニング 怪我や手術をした直後は、アキレス腱を保護するため、足首を動かしたり、体重をかけたりできません。 その場合、足首以外の部分が弱らないようにするため、患部外のトレーニングを実施します。 具体的には以下のようなトレーニングがあります。 タオルギャザー 用意するもの:フェイスタオル等やや厚手のタオル ①裸足で立位または椅子に座り、指先でタオルをたぐり寄せる。 ②たぐり寄せたタオルを指先で元の位置に広げる。 ③左右を入れ替えて繰り返し行う。 パテラセッティング 用意するもの:バスタオル(またはクッション) ①仰向けになり、まっすぐに伸ばした膝裏に丸めたタオルを挟む。 ②膝裏でタオルを力強く押すと同時に、つま先は上に持ち上げる。(5 秒ほど) ③左右を入れ替えて繰り返し行う。 膝伸展運動 用意するもの:背もたれのある椅子 ①立位で椅子の背もたれなどに摑まり、膝を伸ばした状態で片足を後ろに引き、ふくらはぎを伸ばす。 ②左右を入れ替えて繰り返し行う。 股関節外転運動 ①横向きになり、上側の足をゆっくりと持ち上げ、ゆっくりと下ろす。 ②左右を入れ替えて繰り返し行う。 アキレス腱の修復が進んだ後、スムーズに次のリハビリに移るためにも、しっかり患部外トレーニングを行う必要があります。 関節可動域運動 足首の関節が固まらないように、関節可動域運動(かんせつかどういきうんどう:ROM運動)を行います。 つま先を上に持ち上げるような動き(背屈運動:はいくつうんどう)はアキレス腱が伸ばされるため、慎重に始めて再断裂を予防するのが大切です。 step1 まずは、自分でゆっくり動かしていき、アキレス腱の組織が癒着しているのをはがします。 step2 最初はつっぱり感があり、痛みも出やすいので、優しく行うのが重要です。 step3 徐々に理学療法士によりマッサージやストレッチをくわえながら関節を動かし、アキレス腱の柔軟性を改善します。 アキレス腱の強度が高まれば、立ってアキレス腱を伸ばすようにストレッチをして関節の動きを改善します。 筋力トレーニング アキレス腱が十分修復されてくれば、日常の動作やスポーツに必要な筋力を戻すためのトレーニングを実施します。 まずはゴムバンドなどを使用して体重をかけない状態で負荷をかけていきます。筋力や痛みの有無に合わせて、体重をかけた状態でのトレーニングに移行します。 ①座って踵上げ(座位カーフレイズ)から始める ⇩ ②両脚で立っての踵上げ(両脚カーフレイズ) ⇩ ③片足で立っての踵上げ(片脚カーフレイズ) と徐々に負荷を高めていきます。 荷重練習 アキレス腱の修復状況に合わせて、体重をかける時期や量を調整します。 保存療法に比べ、手術療法の方が早くから体重をかけることができます。 荷重は装具を使用しながら調整します。装具については、後ほど詳しく解説します。 動作練習 アキレス腱の強度や筋力が十分になれば、装具を外してのウォーキングやジョギング、ランニング、ジャンプといった動作を実施していきます。 スポーツ動作は複雑な動きや強い瞬発力を必要とするため、短くても6ヶ月程度の期間が必要です。 アキレス腱断裂後のリハビリ経過 アキレス腱断裂後に選択する治療法によってリハビリメニューや装具の装着期間、調整のタイミングが異なります。 ここでは、保存療法と手術療法に分けて、リハビリの経過について紹介します。 保存療法でのリハビリの経過 まずは、保存療法におけるリハビリの経過の例は以下の通りです。 受傷日からの日数 リハビリメニューの例 受傷〜2週間 体重は全くかけてはいけない。患部以外のトレーニングの実施。 2週間〜6週間 足首を下に向けた状態で固定。床に触れる程度から体重をかけ始める。 4周目以降に全体重をかけ始める。また、足首をゆっくり自分で動かす。 6週間〜8週間 足首をストレッチする。 8週間〜12週間 徐々に筋力トレーニングを開始。 まずはゴムバンドなどを使ったトレーニングを開始。 筋力が向上すれば座位カーフレイズ開始。 その後、両脚カーフレイズ、片脚カーフレイズを段階的に実施。 3ヶ月〜4ヶ月 装具を外してウォーキングやジョギングを開始。 4ヶ月〜6ヶ月 ランニングやジャンプ開始 6ヶ月〜 スポーツ復帰 以上のように受傷からアキレス腱の修復状況に合わせて、段階的にリハビリメニューを変更していきます。 アキレス腱の修復状況や痛みの程度、合併症の有無などによって、上記のメニューのようにいかない場合もあります。 受傷直後はギプス固定をして、足首が完全に動かないようにしばらく固定をする場合もあります。あくまでもアキレス腱の修復や再断裂の予防が最優先ですので、医師や理学療法士としっかり連携をとり、リハビリを進めていくのが大切です。 手術療法でのリハビリの経過 次に、手術療法後のリハビリの経過について紹介します。 受傷日からの日数 リハビリメニューの例 受傷〜4週間 体重は全くかけてはいけない。患部以外のトレーニングの実施。 痛みに合わせて徐々に足首の運動を実施。 徐々に体重をかける量を増やしながら、荷重していく。 4週間〜6週間 つま先を下に向けた状態から徐々に戻していき、全体重をかけていく。 6週間〜8週間 立った状態でのストレッチや足首の筋力トレーニングを始める。 筋力がついてくれば両足カーフレイズを実施(両手支持から始める)。 8週間〜3ヶ月 装具を外してのウォーキング開始。 片脚カーフレイズで筋力を向上させる。 3ヶ月〜5ヶ月 ジョギングやランニング、ジャンプなどを段階的に実施。 5ヶ月〜 スポーツ復帰を目指す。 保存療法でのリハビリに比べて、アキレス腱を動かしたり、荷重をかけたりする時期が早まります。そのため、早期の動作獲得やスポーツ復帰を目指せます。 アキレス腱断裂で使う装具の種類や特徴 アキレス腱断裂では、つま先が下を向いた状態で固定できる装具を使用します。 踵に厚みをつけるためのパッド(ヒールパッド)を貼り付けて、つま先が下を向いた状態で体重がかけられるように工夫されます。パッドは厚みを調整できるよう、複数枚を重ねてできているため、アキレス腱の修復状態に合わせて、足首の角度の調整が可能です。 ギプス固定から装具に移行した段階で、就寝や入浴時に外すことは可能ですが、それ以外の時間は装着が必要です。 まとめ・アキレス腱断裂後のリハビリ経過や装具装着は治療方法によって異なる アキレス腱断裂後のリハビリ経過や装具装着の方法は、保存療法か手術療法によって異なります。治療方法の選択は医師としっかり相談して、個人個人のライフスタイルに合わせた選択をします。 いずれにしても、アキレス腱の修復を待ちながら、段階的にリハビリを進めて、日常生活やスポーツに復帰することが大切です。 本記事を参考にアキレス腱断裂後のリハビリや装具についての理解を深めて、医師や理学療法士と連携しながら回復を目指しましょう。 No.S134 監修:医師 加藤 秀一 引用"第2版整形外科術後理学療法プログラム.MEDICAL VIEW,東京,2014,pp216-221." 引用"日本整形外科学会「アキレス腱断裂」" https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/achilles_tendon_rupture.html
最終更新日:2023.08.22