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- 頭部、その他疾患
パーキンソン病の人にバナナは良くない、という話を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。 実は、バナナは摂取するタイミングや量によっては、パーキンソン病の症状の改善を妨げてしまう可能性があるのです。 この記事ではパーキンソン病の人にとってバナナが良くないと言われている理由を解説します。 バナナ以外に気を付けるべき食事のほか、治療中とるべき食事についても紹介しているので、治療中の人やその家族の人はぜひ参考にしてみてください。 パーキンソン病の薬とバナナの同時服用は注意! パーキンソン病の人がバナナを食べてはいけないと言われている理由は、バナナに含まれるビタミンB6が大きく関係しています。 このビタミンB6は、パーキンソン病の人が治療で用いる薬の効果を弱めてしまう危険性があります。 パーキンソン病は脳内のドパミン神経細胞が減少することが原因で、手足の震え、身体が動かしづらい、転倒しやすくなってしまうという症状が出る病気です。 そのため、パーキンソン病の治療では「L-ドパ」というドパミンの前駆物質(体内で酵素の作用によりドパミンに変わる物質)として働く薬を用います。 バナナに含まれるビタミンB6は、L-ドパが脳に届く前に体内でドパミンに変えてしまうため、脳に届くL-ドパの量が減ってしまうのです。(文献1) しかし、現在では薬内にL-ドパの分解を防ぐ成分を配合していることも多いため、過剰摂取をしなければそこまで神経質になる必要はありません。 パーキンソン病でバナナ以外にも気を付けたい食事 パーキンソン病の方は、バナナ以外にも注意が必要な食事があります。 しかしいずれも過剰な摂取を控え食事のタイミングに気を付けていれば、食事が原因でパーキンソン病が悪化することはありません。 大量摂取に気を付けるべき食事やそれぞれの注意点について紹介します。 ビタミンB6 ビタミンB6は、大量摂取をするとL-ドパの吸収を妨げる可能性があります。 ビタミンB6はバナナのほか、アボカド、にんにく、かつお、鶏レバーに多く含まれています。 しかし、近年の研究でビタミンB6は50mg以上摂取しなければ影響はないという報告もあります。(文献1) L-ドパには分解を防ぐ成分も入っているため、摂取する量やタイミングに気を付ければ、あまり大きな影響もないといえます。 ビタミン剤などのサプリメントは使用時に医師に相談しましょう。 投薬直後の高たんぱく食 投薬直後の高たんぱく食は、ビタミンB6同様L-ドパの吸収を妨げる可能性があるため注意が必要です。 たんぱく質自体は筋肉をつくる栄養として重要なものであり、パーキンソン病の人も積極的に摂るべきです。 タイミングや量を調整すれば問題ないため、医師に相談しながら食事を組み立ててみてください。 パーキンソン病診療ガイドラインによれば、朝・昼に摂取するたんぱく量を減らし、夕飯時に高たんぱくの食事を行う「蛋白再配分療法」は効果が高いという報告もありました。(文献2) 食べにくい固形食品 パーキンソン病は末期になると咽頭周りの筋肉が動きづらくなり、嚥下障害を併発することがあります。 そのため、飲みこみづらい食べ物や、かみ砕くのに時間がかかる固い食品は避けるべきです。 食事の際はゆっくりよく噛むことを心がけましょう。 パーキンソン病の人がとったほうがいい食べ物 パーキンソン病は身体への影響が大きい病気です。 必要な栄養をしっかり摂り丈夫な身体をつくることが、症状の緩和にもつながります。 この項目では必要な栄養と、その栄養が多く含まれる食べ物を紹介します。 食物繊維が豊富な食事 パーキンソン病の人は便秘になりやすいため、お通じをよくするために食物繊維が豊富な食事をとることが望ましいです。 食物繊維には水溶性食物繊維と不溶性食物繊維があります。どちらか一方に偏らず、バランス良く摂取しましょう。 食物繊維が多く含まれている食品 干ししいたけ(不溶性) きのこ類(不溶性) キャベツ(不溶性) りんご、キウイなどのフルーツ(水溶性) わかめ、ひじきなどの海藻類(水溶性) など 水分 パーキンソン病の人は水分不足に陥りやすいと言われています。 パーキンソン病の症状である発汗異常や便秘、嚥下障害により水分をうまく飲み込めなくなってしまうことが原因です。 そのため、普通の人よりも多く水分をとることが推奨されています。 1日1500ml~2000mlの摂取が望ましいです。 たんぱく質 パーキンソン病を患うと、筋肉や関節が動きづらくなり、身体を思うように動かせなくなってしまいます。 末期になると寝たきりになってしまう人や、車いす生活を余儀なくされる人もいます。 要介護の生活を防ぐためには、筋肉量を落とさないことが重要です。 たんぱく質は筋肉をつくる非常に重要な栄養素です。 ただし、薬物治療をしている人は、たんぱく質を摂取するタイミングに注意してください。投薬直後に高たんぱくな食事をすると薬の効果を弱めてしまう可能性があります。 たんぱく質が多く含まれる食品 鶏肉、豚肉をはじめとする肉類 魚介類 大豆製品 チーズなどの乳製品 など ビタミンD・カルシウム パーキンソン病患者は身体動作の困難さが原因で体重減少、骨粗しょう症のリスクも高まることがわかっています。 重症度が上がるほど骨密度は低下してしまうため、骨を作る上で欠かせないカルシウム、ビタミンDは積極的に摂りましょう。 カルシウムが多い食べ物 牛乳 チーズ 小松菜 しらす干し 豆腐 干しえび など ビタミンDが多い食べ物 鮭(焼き) サンマ(焼き) しらす干し 卵 干ししいたけ など しらす干しはカルシウム、ビタミンDどちらも一度に摂れます。 抗酸化物質 パーキンソン病の原因であるドパミン神経細胞の減少には、酸化ストレスが関連しているといわれています。(文献2) 抗酸化物質は酸化ストレスを抑制する効果があるため、ドパミン神経細胞の減少を防ぐ効果が期待できます。 抗酸化作用のある主な栄養はビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノール、ミネラルなどです。 抗酸化物質を多く含む食べ物 パプリカ、ブロッコリー、トマト、ほうれん草などの緑黄色野菜 いちご、ブルーベリーなどのベリー類 アーモンドなどのナッツ類 緑茶 赤ワイン など パーキンソン病に対する再生医療について パーキンソン病の症状を緩和する治療法には、再生医療という選択肢があります。 再生医療とは、「幹細胞」という治癒力が高く、培養が可能な細胞を用いて損傷した患部を治療する方法です。 2025年、京都大学の研究チームがiPS細胞から作製したドパミン神経細胞を脳に移植する治験を実施しました。その結果、7名のうち6名の人がドパミンが脳内で生み出されており、筋肉のこわばりなどの症状も改善されたといいます。 再生医療を用いることで失われた神経細胞を補うことが期待されており、進行性で治療が難しいとされてきたパーキンソン病に対して、新たな希望をもたらしています。 パーキンソン病の症状にお悩みの方は、お気軽にご相談ください。 まとめ|パーキンソン病では食事内容と薬の相互作用に注意!医師に相談のもと食事管理をしよう パーキンソン病の人にとってバナナが良くないと言われている理由は、バナナに含まれるビタミンB6が、薬を体内で分解してしまい効果を弱めてしまうためです。 しかし、近年では薬の研究も進み、分解を防ぐ成分も配合しています。ビタミンB6を投薬の直後に摂らない、大量摂取しないという注意をしていれば、特に大きな問題はありません。 ビタミンB6のほか、投薬直後の高たんぱくな食事も薬を分解する危険性があるため控えましょう。 一方、過剰な栄養制限はパーキンソン病を重症化させる原因にもなります。丈夫な身体づくりはパーキンソン病の症状緩和に有効です。 便秘に効果のある食物繊維、筋肉をつくるたんぱく質、骨を丈夫にするカルシウムやビタミンDのほか、たくさんの水分を摂ることを心がけましょう。 パーキンソン病の症状にお悩みの方は、再生医療による治療もご検討ください。 当院「リペアセルクリニック」では、お客様の症状・状況にあわせたご提案をしております。お気軽にご相談ください。 参考文献 (文献1) 佐藤陽子ほか.「レボドパの薬効に影響を与えるビタミンB6摂取量に関する系統的レビュー」『食品衛生学雑誌』58(6), pp.257-266, 2017年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/shokueishi/58/6/58_268/_pdf(最終アクセス:2025年6月24日) (文献2) 日本神経学会「パーキンソン病診療ガイドライン2018」p215 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_27.pdf(最終アクセス:2025年6月24日)
2025.06.30 -
- 頭部
- 頭部、その他疾患
「最近、手足がよく震える」 「何もない場所で転ぶことが増えた」 その症状はパーキンソン病のサインかもしれません。 パーキンソン病は、高齢になるほど発症のリスクが上がる病気のひとつです。 手足が震える、身体がうまく動かず動作がゆっくりになったり転ぶことが増えるといった身体に現れる症状が有名です。パーキンソン病は病状が悪化すると、認知症や寝たきりになってしまうリスクが高まってしまいます。 この記事では、パーキンソン病の症状や治療法について解説します。 疑わしい症状が出ていて病院にいくべきか悩んでいる人、もしくは家族がパーキンソン病ではないかと疑っている人はぜひ参考にしてください。 パーキンソン病とは?震える症状が特徴的な疾患 パーキンソン病とは、脳の中でドパミンという物質を作る神経細胞が減少することで起こる疾患です。安静時に手足が震えてしまう「振戦(しんせん)」という症状が特徴的です。 50代以降の人の発症率が高く、高齢になるほど発症率は上がります。ごくまれに40代以下の人が発症する「若年性パーキンソン病」もあります。 進行性の疾患であるため、現状完治は厳しいといわれています。しかし、薬物療法や生活習慣の見直しを行うことで症状を改善することは可能です。 パーキンソン病の症状 パーキンソン病の症状は、身体の動作として現れる「運動症状」と、便秘、うつ状態など動作ではない「非運動症状」のふたつに分類されます。 パーキンソン病では、代表的な4つの運動症状が現れることが多く、これらは「4大症状」と呼ばれています。 一方で、運動症状よりも早い段階で非運動症状が現れることもあり、初期症状として見逃されやすいため注意が必要です。病気が進行すると、これらの症状が悪化し、日常生活に大きな支障をきたすようになります。 それぞれの症状について詳しく解説します。 パーキンソン病の4大症状 パーキンソン病の最も顕著な症状は以下の4つです。 これらの症状は病気の進行とともに徐々に現れ、日常生活に影響を与えるようになります。 振戦(ふるえ) 安静にしているときに手や足が震えてしまう症状です。椅子に座り膝に置いている手が震えるなど、力を入れていない状態のときに起こります。 動作を始めると震えが止まることが多いのが特徴です。 姿勢保持障害 バランスを崩しやすく、転倒しやすくなってしまいます。 立っているときや歩いているときに体が不安定になり、ちょっとした段差でもつまずきやすくなるため、日常生活では転倒しないよう注意が必要です。 筋強剛・筋固縮 筋肉、関節の動きが悪くなり、体がこわばってしまう症状です。 自覚症状はあまりありませんが、他の人に手足を動かされた際に抵抗を感じます。 動作緩慢 動き出しなどが遅くなり、細かい動きが困難だと感じるようになります。 歩き始めに時間がかかる、字を書くのに時間がかかる、ボタンをかけるのが難しくなるなど、日常的な動作全般に影響が現れます。 これらはパーキンソン病の4大症状とも呼ばれています。 見逃されやすい初期症状 パーキンソン病の初期症状として、精神症状などの「非運動症状」もあります。 非運動症状の中には運動症状が顕在化するより前に現れるものもあります。 非運動症状としては以下の症状が挙げられます。 便秘 嗅覚の低下 睡眠障害 うつ症状、不安感などのメンタル面の不調 幻覚・妄想 疲れやすい 汗をかきやすくなる 自身、家族がパーキンソン病かもしれないと疑っている人は、上記の非運動症状にも着目してみてください。 日常生活に支障をきたす末期症状 末期になると、運動症状が悪化してしまい、日常生活が困難になる可能性が高まります。 例えば、咽頭周りの筋肉が固まり動きが悪くなることで、嚥下障害を起こすことがあります。 そのほか、姿勢保持障害の悪化により転倒が増える、車いすもしくは寝たきりの生活になってしまい介助が必要な生活になってしまうなど、身体への影響は大きいです。 また、認知機能が低下することによって認知症になってしまうリスクも高まってしまいます。 パーキンソン病が直接的な原因となって亡くなったという例は現状あまり見られませんが、パーキンソン病をきっかけに発症した合併症によって亡くなった事例はあるため注意が必要です。 パーキンソン病にかかりやすい人の特徴 パーキンソン病の発症に関わる要因として、以下のようなことが知られています。 65歳以上の高齢者 ・家族にパーキンソン病の人がいる 若年性パーキンソン病の家族歴がある 几帳面で融通が利かない性格 飲酒・喫煙をしている ※性格や生活習慣との関連については研究段階であり、あくまで参考情報です。 基本的には高年齢になるにつれて発症リスクが上がります。 パーキンソン病の罹患者は65歳以上はおよそ100人に1人、40歳以下は10万人に1人以下といわれています。(文献1) わずかながら遺伝子要因による発症の報告もあります。若年性パーキンソン病の場合、家族の遺伝の可能性も考えられています。 几帳面や融通が利かない性格の人はパーキンソン病になりやすいという話もありますが、科学的な証明はされていません。 初期症状としてうつ症状や不安障害などが出ることもあることから、そのように考えられている可能性はあります。しかし、病気との関連性が証明されているわけではないため、あまり深刻に考えすぎないほうが良いでしょう。 飲酒、喫煙が発症の原因になっている可能性も指摘されていますが、まだ十分な研究結果は出ていません。外部要因はパーキンソン病との関連性が不明確であるため、まだ解明されていない部分が多いです。 パーキンソン病の治療法 パーキンソン病の治療は、症状の進行を遅らせ、患者様の生活の質を向上させることを目的として行われます。 現在の主な治療は薬物療法ですが、十分な効果が得られない場合や長期間の治療で薬の効果が弱くなった場合には、手術療法も検討されます。 また、症状を緩和するには、運動や食事などの生活習慣の改善も重要です。さらに近年では、再生医療の研究も進んでいます。 それぞれの治療法について詳しく解説します。 薬物療法 薬物療法は、足りなくなったドパミン細胞を補うことが目的です。 ドパミンを補うレボドパや、ドパミンと似た働きをする作用があるドパミンアゴニストを使用します。 パーキンソン病は進行性の病気であるため、罹患期間が長ければ長いほど薬の効果が短くなってしまいます。 薬物療法を5年以上続けると、薬が効いて身体が動きやすい時間と薬の効果が切れて身体が動かなくなってしまう時間を繰り返す「ウェアリング・オフ現象」という症状や、手足が勝手に動いてしまう「ジスキネジア」という症状も見られるようになります。 薬による効果が十分でないと医師が判断した場合、ほかの治療として挙げられるのが手術療法です。 手術療法 薬物療法で十分な効果が得られなかった場合や、薬物療法を長期間行った結果、薬の効果が弱まってしまった場合は、手術療法も検討されます。 手術では「脳深部刺激療法」という手法を用います。脳に植え込んだ電極で電気刺激を与えることで、パーキンソン病の症状を抑えることが目的です。 脳の深部にある視床下核や、淡蒼球内節という部位に刺激を与えます。 薬物療法同様、あくまで症状の緩和が目的となるため、手術による完治は現状想定されていません。 また、脳深部刺激療法は誰でも受けられる手術ではありません。 脳深部刺激療法はリスクの一つとして認知機能の低下が指摘されています。患者様によっては急に認知症を引き起こしてしまったり、精神症状を悪化させてしまう可能性があるため注意が必要です。 以下の条件に当てはまる人は手術を受けられない可能性があります。 認知症をすでに患っている人 薬物療法の副作用などではない精神症状を患っている人 脳萎縮を起こしている人 手術療法を検討する場合はリスクも十分に理解し、医師と相談して決めましょう。 生活習慣の改善 パーキンソン病の症状の改善に運動は効果があるとされています。 運動は姿勢の改善、ドパミン不足の解消、うつや不安などのメンタル面の不調を軽減するといったメリットがあります。 激しい運動は控え、1日8000歩程度の散歩を体調に合わせて行うことが推奨されています。また、良い姿勢を保つために鏡を見て姿勢のチェックも行うとよいでしょう。 また、パーキンソン病の患者は便秘を伴うことが多いため、食事はよく噛み、ゆっくり食べるようにしましょう。 再生医療 https://www.youtube.com/watch?v=2oF89MxTXnY パーキンソン病に対する再生医療は、iPS細胞や幹細胞と呼ばれる細胞を用いて治療を行う新しい医療技術です。 近年、パーキンソン病の治療として再生医療は多くの研究がされています。 パーキンソン病はドパミン神経細胞が減少することが原因で起こる病気です。再生医療では、これらの失われた神経細胞を補うことを目指しています。 実際、京都大学の研究グループが行ったiPS細胞を用いた治験では、動きづらくなった関節や筋肉のこわばりが解消されたという症例も出ています。(文献2) 再生医療では自身の細胞を使用するため、免疫拒絶反応のリスクが少なく、副作用の少ない治療が可能です。 パーキンソン病の症状でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。 パーキンソン病の予防・リハビリ方法 パーキンソン病の予防・リハビリには、筋力の強化が重要です。とくに下半身の筋力は非常に重要です。 下半身には身体を支える主要筋肉が多く、強化することで転倒を防ぐことができます。 予防・リハビリに最適な運動を紹介します。 かかと上げ運動 かかとを上げ、指先で地面をつかむ動作です。 足を肩幅程度に開いて立つ ゆっくりとかかとを持ち上げてつま先立ちになる 足指で床をしっかりと掴むように意識する 2-3秒間その姿勢を保持してからゆっくりとかかとを下ろす ふくらはぎの筋力強化やバランス感覚の向上、足裏の感覚改善に効果的です。 重心移動運動 立った状態で重心を前後左右に移動させます。 足を肩幅に開いて立つ 転倒しないよう壁や手すりのそばで行う 前方は体重を足の指先側にかけ、後方はかかと側にかける 左右は片足ずつに体重をかけて各方向3-5秒間保持 体幹バランスの改善や転倒予防、姿勢制御機能の向上に効果があります。 ステップ動作 その場でかかとを交互に持ち上げます。 足を軽く開いて立つ 右足のかかとを上げて膝を軽く曲げる 右足を下ろしながら左足のかかとを上げる リズミカルに交互に繰り返す 膝から足を持ち上げる足踏み運動や手を交互に振る動作を入れるとさらに良い 下肢筋力強化や歩行能力の維持改善、協調性の向上、心肺機能の改善に効果があります。 膝から足を持ち上げる足踏み運動や、手を交互に振る動作を入れるとさらに良いです。 まとめ|パーキンソン病は早期発見が重要!違和感を感じたらまず医師に相談を パーキンソン病は、脳のドパミン神経細胞が減少することで起こる進行性の神経変性疾患です。 代表される症状は振戦(震え)、姿勢保持障害、筋固縮、動作緩慢などがあります。そのほか便秘やうつといった非運動症状と呼ばれる症状もあり、発症初期に見られることが多いです。 高齢になるほどパーキンソン病の発症リスクは上がります。 進行すると日常生活に支障をきたし、身体が動かせずに要介護の生活となる危険性があります。また、認知機能が低下し、認知症を患ってしまう可能性もあります。 治療は主に薬物療法ですが、長い治療期間の中で薬の効果が薄れてしまった場合手術療法も検討されます。運動や生活習慣の改善も症状の緩和に役立ちます。 また、手術を必要としない治療法として再生医療もあります。 自身の細胞を使用するため、免疫拒絶反応のリスクや副作用の少ない治療が可能です。 治験段階ではありながらもiPS細胞を用いた治療の症例も出ており、今後が期待されている治療法です。 参考文献 (文献1) 日本神経学会「パーキンソン病診療ガイドライン2018」2018年 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_07.pdf(最終アクセス:2025年6月26日) (文献2) Sawamoto, N., et al. (2025).Phase I/II trial of iPS-cell-derived dopaminergic cells for Parkinson’s disease. Nature,641,pp.971–977 https://doi.org/10.1038/s41586-025-08700-0(最終アクセス:2025年6月26日)
2025.06.30 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
「血液のがん」と聞いて、不安や疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。 目に見える腫瘍を形成せず症状が分かりづらいため、正しい理解と早期発見が極めて重要です。 本記事では、血液がんの基礎知識から種類別の特徴・原因・症状・治療法、さらには生存率や罹患割合といったデータまで、信頼性の高い情報に基づいて詳しく解説します。 血液がんと診断された方やご家族の不安を少しでも軽減したい方は、参考にしてください。 血液がんの種類一覧表 血液がんの主な種類と症状を表にまとめました。 それぞれの発症する原因や症状、治療については種類をクリックして詳細をご覧ください。 血液がんの種類 主な症状 白血病 発熱・倦怠感・出血・感染症・リンパ節の腫れ 悪性リンパ腫 発熱・倦怠感・寝汗・体重減少・リンパ節の腫れ 多発性骨髄腫 骨の痛み・腰痛・免疫機能の低下・貧血・高カルシウム血症 白血病とは 白血病とは、血液をつくる細胞に異常が起こり、正常な血液が作れなくなる病気です。 本来なら、血液のもとになる細胞(造血幹細胞)は成長して赤血球や白血球などになりますが、白血病ではその細胞が異常なまま増え続けてしまいます。 その結果、体に必要な正常な血液が足りなくなり、貧血や感染にかかりやすくなるなど、さまざまな症状があらわれます。 白血病は、以下のように急性・慢性に分類されています。 急性骨髄性白血病(AML) 急性リンパ性白血病(ALL) 慢性骨髄性白血病(CML) 慢性リンパ性白血病(CLL) 白血病の原因 白血病の原因は未だ完全には解明されておらず、明確な原因を特定できないケースが一般的です。 たとえば、以下のような多因子が関与しているとされています。 放射線やベンゼンなどの化学物質への長期曝露 遺伝的要因や先天性疾患(ダウン症など) がん化の引き金となる染色体異常 既存の血液疾患 これらの要因が複合的に作用し、造血細胞ががん化すると考えられています。 白血病の症状 白血病では、がん化した未熟な血液細胞が正常な働きを阻害し、さまざまな症状が現れます。 血液をつくる働きが弱まる「造血障害」、がん細胞が他の臓器に広がる「臓器浸潤」、そして体全体に影響する「全身症状」の3つに分けてご紹介します。 <造血障害による症状> 貧血症状:赤血球減少による疲労感・息切・顔色不良・倦怠感・めまい・動悸 出血傾向:血小板減少による、あざや鼻血、歯茎出血 免疫低下:正常な白血球が不足による、発熱・咳・口内炎・感染症 <臓器浸潤による症状> 肝臓・脾臓・リンパ節が腫大 中枢神経(脳・脊髄)や皮膚への浸潤で関連症状(頭痛、神経症状、皮疹など) 播種性血管内凝固症候群を合併して出血 <全身症状> 発熱、倦怠感、体重減少、食欲不振、不明熱 上記のような症状があるケースでは、血液検査や骨髄検査によって白血病かどうかを医師が診断します。 白血病の治療 白血病の治療法は種類や病期などさまざまな要因で異なり、複数の治療アプローチの検討が必要です。 以下に代表的な治療法の特徴をまとめました。 化学療法 急性白血病の標準治療。抗がん剤を計画的に投与します。 分子標的療法 慢性骨髄性白血病には、がん細胞の増殖を抑える薬(イマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬)が使われます。 造血幹細胞移植 再発リスクが高い型や完全寛解に至らない場合、ドナーからの同種移植が検討されます。(年齢・体力・適合性を総合判断) 治療方針は、以下の内容に応じて専門医が判断します。 病型 リスク分類 患者の全身状態 年齢 合併症の有無 遺伝子異常の有無 急性の白血病の場合は、速やかな集中治療が必要です。 慢性白血病は、長期管理と治療開始のタイミングの調整がポイントになります。 悪性リンパ腫とは 悪性リンパ腫は、白血球の一種であるリンパ球ががん化し、リンパ節や全身の臓器に腫瘤を形成する血液がんの一種です。 なかでも、リンパ球が異常に増える「非ホジキンリンパ腫」は悪性リンパ腫の約90%を占め、とくに高齢者に多く見られます。 リンパ節にしこりができる「ホジキンリンパ腫」は、若年層にも発症しやすい傾向があります。 悪性リンパ腫の原因 悪性リンパ腫は、リンパ球という血液の細胞に遺伝子の異常が起こり、リンパ球が死なずに増えすぎてしまうのが発症の原因です。 歳をとったり、体に炎症が長く続いたり、放射線をたくさん浴びたりすると、異常が起きやすくなるケースがあります。 また、以下のような特定のウイルスや菌に感染することで発症する場合もあります。 HTLV-1 ピロリ菌 また、免疫力が弱い人や自己免疫の病気がある人もなりやすく、悪性リンパ腫にかかる可能性が高まるとされています。 悪性リンパ腫の症状 悪性リンパ腫では、はじめに「痛みのないしこり」が体にできるのが特徴です。 とくに、以下の部分にしこりができます。 首 わきの下 足のつけ根 また、病気が進んでくると、以下のような症状も現れます。 38度以上の熱が続く 体がだるくなる 食べているのに体重が減る 夜にたくさん汗をかく さらに進行すると、がんが肺や気道を圧迫して息苦しさを感じたり、脳や神経に広がって手足が動かしにくくなったり、意識がぼんやりすることもあります。 また、肝臓や肺に広がった場合には、肌や目が黄色くなる黄疸(おうだん)や呼吸がしづらいといった症状が出るケースもあります。 悪性リンパ腫の治療 悪性リンパ腫は病型や病期、患者の状態、悪性度、臓器浸潤の状況などによって適した治療法が異なります。 以下に、代表的な治療法をまとめました。 化学療法(標準治療) 抗がん剤を使用する、悪性リンパ腫の中心となる治療法 放射線療法 病気の広がりが少ない場合、化学療法に加えて行う放射線を利用した治療法 造血幹細胞移植 自分自身や他人から健康な血液のもとになる細胞(幹細胞)を移植する治療法 CAR-T療法(細胞療法) 患者自身の免疫細胞(T細胞)に特別な働きを持たせて、がん細胞だけを攻撃させる治療法 分子標的療法・免疫療法 薬剤の点滴などにより、がん細胞の特定の部分だけを狙って攻撃する治療法 支持療法 吐き気をおさえたり、感染症を防いだりするための予防的治療法 上記の治療法を状態に合わせて選択し、さまざまな治療法も組み合わせながらトータルで治療戦略を採ることが重要です。 多発性骨髄腫とは 多発性骨髄腫は、体の中で抗体(ばい菌から体を守る物質)を作る「形質細胞」が、がん化して増えてしまう血液のがんの一つです。 がん化した細胞が「Mタンパク」と呼ばれる異常なタンパク質をたくさん作り、正常な血液の働きを邪魔するようになります。 多発性骨髄腫の原因 多発性骨髄腫のはっきりした原因は、まだよくわかっておりません。 形質細胞の中で遺伝子に異常が起こったり、染色体(細胞の中にある遺伝情報)が入れ替わったりすることで発症すると考えられています。 また、放射線や化学物質などに長くさらされると、発症するリスクが高くなります。 多発性骨髄腫の症状 病気が進むと、以下のような症状が現れます。 貧血:赤血球が減って体がだるくなったり、息切れや動悸がしたりする 骨のトラブル:背中や腰の骨が弱くなり、痛みが出たり、骨折したりする 腎臓の障害:異常なタンパク質が腎臓にダメージを与えて、腎臓の働きが悪くなる カルシウムの異常:血液中のカルシウムが増えすぎて、のどが渇きや便秘、吐き気、ひどいときは意識がもうろうとする 病気かどうかは、血液検査や骨の検査などで医師が診断します。 骨の痛みや腎臓の障害は日常生活に大きな影響を与えるため、早めに見つけて治療を始めることが重要です。 多発性骨髄腫の治療 多発性骨髄腫は、さまざまなタイプのがん細胞が体の中に広がる性質があります。 ひとつの治療だけではなく、いくつかの方法を組み合わせてコントロールしていくことが大切です。 ここでは、代表的な治療法を紹介します。 経過観察 症状がなく内臓などに影響が出ていない初期の段階では、しばらく様子を見る場合があります。 化学療法 初期治療や再発時に用いられる抗がん剤治療です。 症状緩和療法 骨がもろくなって痛みが出る骨病変や貧血になった場合は、症状を緩和する薬物療法や輸血治療を行います。 薬物療法 患者の状態に合わせて、免疫を調整する薬やがん細胞を分解する働きのある薬を組み合わせます。 自家末梢血幹細胞移植 65歳以下または臓器機能が良好な患者に対し、生存期間の延長を目指す治療法です。いったん自分の血液のもとになる細胞を取り出して保存しておき、治療のあとに細胞を戻します。 QOL支援を含む維持療法 薬の量をコントロールしながら、生活の質を保つケアを行う治療法です。 新規治療・臨床試験 再発すると治りにくいタイプの骨髄腫に対する新薬開発など、新しい治療法の研究も進んでいます。 多発性骨髄腫は無症候の早期段階では経過観察が基本ですが、症状や臓器障害が現れた場合は薬物療法、もしくは必要に応じて移植を併用します。 【種類別】血液がんの余命・生存率 血液がんの種類別の5年相対生存率から余命を見てみましょう。 国立研究開発法人国立がん研究センターの「最新がん統計」(文献1)によると、以下の通りとなっています。 血液がんの種類 男性の5年相対生存率 女性の5年相対生存率 白血病 43.4% 44.9% 悪性リンパ腫 66.4% 68.6% 多発性骨髄腫 41.9% 43.6% ただし、上記はあくまでデータ上の統計です。 白血病は進行が早い病型もあり、治療を受けない場合には急速に悪化するケースもあります。(文献2) また、100種類以上の病型がある悪性リンパ腫や多発性骨髄腫、数年単位で進行する病型から数日で進行する悪性度の高い病型まで、患者によって再発率や予後はさまざまです。(文献3)(文献4) まとめ|血液がんの種類別の違いを知っておこう 血液がんは、白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫といった複数の疾患を含む総称であり、それぞれに異なる特徴・原因・症状・治療法があります。 現代の標準治療と新規療法の組み合わせにより、長期生存や生活の質の維持が可能となってきていますが、なにより速やかな診断と早期の治療開始が大切です。 当院「リペアセルクリニック」では、PRP療法や幹細胞治療などの再生医療による治療を行っています。 再生医療について疑問があれば、お気軽にご相談ください。 血液がんの種類に関するよくある質問 血液がんの種類別の罹患割合は? 国立がん研究センターの統計によれば、全がんに占める血液がんの罹患割合は約7~8%程度です。 白血病は約1.8%、悪性リンパ腫は約4.2%、多発性骨髄腫は約1.0%と報告されています。(文献1) 血液がんで珍しい種類は? 慢性骨髄性白血病(CML)は、日本では年間10万人あたり約1.5人と罹患率が低く、白血病全体の約20%に留まる希少ながんです。 初期は無症状の例が多く、健康診断などで偶然発見されるケースが約85%を占め、自覚症状が乏しいことで知られています。(文献5) 血液がんの初期症状は種類によって違う? 血液がんの初期症状は、種類によって以下のような特徴があります。 急性白血病:発熱・倦怠感・出血傾向といった全身症状が急速に出現するケースが多い リンパ腫:痛みを伴わないリンパ節腫脹が初期に現れ、B症状(発熱・体重減少・夜間発汗)が見られる 多発性骨髄腫:初期は無症状が多く、進行すると骨痛や貧血、高カルシウム血症が出ることがある 種類ごとの症状の違いに着目し、気になる症状があれば早めに医療機関で専門医に相談しましょう。 高齢者が発症しやすい血液がんは? 多発性骨髄腫は、高齢者に多く見られる血液がんです。 骨髄中の形質細胞ががん化して骨折・貧血・腎障害などを引き起こしやすく、高齢者では発症率と重症化のリスクが高まる傾向があるとされています。(文献6) 血液のがんと言われたら、どうしたらいい? 血液がんの診断を受けたら、まず血液内科専門医による正確な診断と病期評価(血液検査、画像検査、生検など)を受けてください。 その上で、治療方針(化学療法・免疫療法・移植・支持療法など)を専門医と相談し決定しましょう。 また、治療中や治療後も定期的なフォローアップと生活支援体制の整った医療機関で継続的にケアを受けることが大切です。 正確な情報を得ながら、自分に合った治療や支援体制を整えていきましょう。 参考文献 (文献1) 国立研究開発法人国立がん研究センター「最新がん統計」 https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年6月17日) (文献2) ユビー病気のQ&A「急性骨髄性白血病の場合、治療した時と治療しなかった時の予後はどうなりますか?」 https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/p_nryf-eta(最終アクセス:2025年6月17日) (文献3) ユビー病気のQ&A「寛解後の再発率や余命は(生存率)はどのくらいですか?」 https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/29ntt-g_47(最終アクセス:2025年6月17日) (文献4) ユビー病気のQ&A「多発性骨髄腫の余命はどれくらいですか?」 https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/8ob0jwqk3bv(最終アクセス:2025年6月17日) (文献5) 順天堂大学医学部附属順天堂医院血液內科「慢性骨髄性白血病」 https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/ketsuekinaika/disease/disease07.html(最終アクセス:2025年6月17日) (文献6) 国立がん研究センター「多発性骨髄腫の原因・症状について」 https://www.ncc.go.jp/jp/information/knowledge/multiplemyeloma/001/index.html(最終アクセス:2025年6月17日)
2025.06.30 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
尿毒症は腎機能が著しく低下することで起こる深刻な病態です。 「症状に気づいたときには既に進行していた」というケースも多く、早期の発見と適切な対応が重要になります。 本記事では、尿毒症の基本知識から症状の見分け方、治療法、日常生活でできる予防策までわかりやすく解説します。 腎機能に不安をお持ちの方やご家族の方は、ぜひ参考にしてください。 尿毒症とは?腎機能低下で起こる危険な状態 尿毒症とは、腎機能が著しく低下した危険な状態です。通常であれば尿として排出されるはずの老廃物や毒素が体内に蓄積され、全身にさまざまな悪影響を及ぼします。 尿毒症の症状は多岐にわたり、意識障害や呼吸困難、心不全など重篤なものも含まれます。 腎機能の低下が進行する中で異常に気づかず放置した場合、命に関わるリスクも高まるため、早期に対応することが極めて重要です。 尿毒症の原因 尿毒症の主な原因には、以下のような疾患があります。 慢性腎臓病 糖尿病性腎症 高血圧性腎障害 急性腎障害 長期の薬剤使用 疾患が進行すると腎臓への血流が低下し、糸球体(腎臓で血液をろ過する小さな毛細血管の束)と呼ばれるろ過装置が損傷され、老廃物の排出能力が低下していきます。 腎臓の損傷は通常、時間をかけて徐々に進行しますが、気づいたときには重度の腎不全に至っているケースも少なくありません。 上記の疾患や状況によって腎機能が損なわれると、尿毒症の発症リスクが高まります。 日頃から生活習慣病を適切に管理し、尿毒症の予防につなげていきましょう。 尿毒症の症状 ここでは、尿毒症の症状と初期と末期にわけてそれぞれ解説します。 初期症状 尿毒症は症状が現れずに進行することが多いため、初期段階での体調の変化を見逃さないことが大切です。 とくに、以下のようなサインに注意しましょう。 全身の倦怠感 食欲の低下 吐き気や嘔吐 頭痛や集中力の低下 皮膚のかゆみ これらの症状は、一般的な体調不良と区別がつきにくいのが難点です。 慢性的に続く場合や複数が重なる場合には、腎機能の検査を受けましょう。 末期症状 尿毒症が進行して末期になると、体内に蓄積した毒素が神経系へ影響を及ぼし、錯乱やけいれん、昏睡などの神経症状が現れやすくなります。 また、腎機能の低下により体内の水分バランスが崩れ、体液が過剰に貯留する恐れもあります。 結果として、肺に水がたまる「肺水腫」が発生して呼吸困難や重度のむくみを伴うと、緊急の治療が必要なケースもあるため注意が必要です。 尿毒症の診断基準 尿毒症の診断には、腎機能の指標となる血液検査の数値が重要です。とくに、以下の項目が基準として用いられます。 血清クレアチニン値 筋肉から出る老廃物の血液中の濃度 正常値:男性0.65~1.07mg/dL、女性0.46~0.79mg/dL 血中尿素窒素 タンパク質が分解された時に出る老廃物の血液中の濃度 正常値:8~20mg/dL eGFR 腎臓のろ過能力を数値化したもの 60未満で慢性腎臓病、15未満で透析が必要な段階 上記の値が異常で、かつ自覚症状が認められる場合に尿毒症と診断されます。 血清クレアチニン値と血中尿素窒素の値が上昇し、eGFRが大きく低下しているときには、腎機能が著しく低下している状態です。 さらに、症状の評価には神経症状や消化器症状、呼吸器症状などの有無も考慮され、総合的な診断が行われます。 とくに、eGFR(推定糸球体ろ過量)は腎機能の評価において重要な指標の一つです。 病期の診断と食事・運動療法の決定に用いられており、eGFRが30mL/分/1.73m²未満(正常値の約30%未満)の場合は活動制限が厳しくなります。(文献1) 尿毒症の治療方法 尿毒症の治療は、腎機能のさらなる悪化を防ぎつつ、体内に蓄積した毒素を除去するのが目的です。 では、詳しく見ていきましょう。 生活習慣の改善 尿毒症の進行を抑えるには、日常生活の中で腎臓にかかる負担を減らす工夫が欠かせません。 具体的には、以下のような生活習慣の見直しが推奨されます。 適切な水分摂取 脱水を防ぎ、腎臓のろ過機能を維持するために重要です。ただし、心不全やむくみがある場合は医師の指示に従いましょう。 有酸素運動の継続 軽度の運動は血圧と血糖のコントロールに寄与し、腎機能の維持を促進します。 禁煙・節酒 腎血流への悪影響を避けるため、喫煙と過度な飲酒は避けるべきです。 体重管理 肥満は腎臓に余分な負担をかけるため、適正体重の維持が求められます。 これらの生活習慣は、腎機能の維持や尿毒症の進行予防に大きな関連性があります。 継続的に実践し、長期的な健康維持につなげていきましょう。 食事療法 尿毒症の進行を抑えるうえで、食事療法は極めて重要な役割を果たします。 腎臓の負担を軽減するため、以下のような食事管理が基本です。 たんぱく質の制限 過剰なたんぱく質摂取は老廃物を増やすため、適量を守る必要があります。 塩分の制限 高血圧を悪化させると腎機能を低下させる要因となるため、1日6g未満が推奨されます。(文献2) カリウムとリンの管理 血中濃度のバランスが崩れると不整脈や骨疾患を引き起こすため、野菜や乳製品などの摂取量に注意が必要です。 たとえば、納豆はカリウムやリンを多く含むため、腎機能が低下している方は医師の指導に従って摂取量を調整する必要があります。 薬物療法 尿毒症の治療において、薬物療法は症状の緩和や合併症の予防に役立ちます。 腎機能の低下にともって多様な身体機能に障害が現れるため、それぞれの症状に対応した薬剤の使用が必要です。主に、以下のような薬が用いられます。 高カリウム血症に対する薬 ポリスチレンスルホン酸カルシウムなどのカリウム排泄促進剤 高リン血症対策 リン吸着薬(セベラマーなど)により血中リン濃度を調整 貧血治療 エリスロポエチン製剤や鉄剤 代謝性アシドーシス補正 炭酸水素ナトリウムの投与で血液のpHを正常化 浮腫や高血圧への対応 利尿薬や降圧薬の併用 薬剤は症状の進行を抑えるほか、透析導入までの期間を延ばす目的でも使用されます。 ただし、腎機能に応じた適正な用量調整が必要であり、医師の管理のもとでの投与が不可欠です。 透析 腎機能が著しく低下し、日常生活に支障をきたす状態になると、透析療法の導入が検討されます。 透析には主に以下2つの方法があります。(文献3) 血液透析(HD) 週2~3回、1回4時間程度の頻度。血液を体外に取り出し、人工膜を使って老廃物や余分な水分を除去 腹膜透析(PD) 自宅で行える方法。腹腔内に透析液を注入し、腹膜を介して老廃物を交換 なお、透析の導入時期はeGFRが10未満、もしくは以下のような症状が見られたときが目安となります。 食欲不振や体重減少 高度なむくみや息切れ 神経症状(混乱、けいれんなど) 透析は腎臓の代替手段であり、尿毒症の進行による命に関わる症状を回避するために不可欠な治療法です。 患者の生活スタイルや身体状態に応じて、医師と相談しながら選択しましょう。 尿毒症を予防するための早期発見ポイント 尿毒症は腎機能が著しく低下して顕在化する病態ですが、実際には初期段階で体のさまざまな部位に兆候が現れるケースがあります。 以下のような日常生活の中で感じるわずかな変化にも注意を払い、腎機能の健康を保つための第一歩としましょう。 むくみ(浮腫)が起こっていないか 腎機能が低下すると、体内の余分な水分を十分に排出できなくなり、手足や顔、足首まわりにむくみが現れる場合があります。 靴下の跡がいつまでも残る、指で押すとへこみが戻りにくいなどの症状は、浮腫の典型的なサインです。 むくみが日常的に見られるなら、腎機能の検査を受けましょう。 尿量が低下していないか 腎臓の機能が低下すると尿を十分に作れなくなり、1日の尿量が減少する場合があります。 排尿の回数が減る、トイレに行っても少量しか出ないといった変化は、体内に老廃物や水分が蓄積されている状態かもしれません。 そのまま放置すると尿毒素の濃度が上昇して尿毒症のリスクが高まるため、日常的に排尿量を意識することが大切です。 夜間尿が頻繁になっていないか 夜間に何度も目が覚めてトイレに行くようになった場合、腎機能の低下による尿濃縮能力の低下が考えられます。 通常、夜間は尿量が少なくなりますが、腎臓の働きが悪くなるとこの調節ができず、頻繁に排尿したくなるのです。 高齢者に見られやすい症状ではありますが、腎疾患の初期症状としても重要であり、回数が増えていると感じたら検査を受けましょう。 頻尿が増えていないか 日中にトイレに行く回数が明らかに増えたなら、腎機能の異常が疑われます。 腎臓が適切に尿を濃縮・調整できなくなると尿量が増えたり、排尿の感覚が不安定になったりするので注視しましょう。 一般的に、日中8回以上を頻尿とすることが多いですが(文献4)、個人差があるため一概に1日に何回以上の排尿回数が異常とはいえません。(文献5) 急な尿意が増加している場合は、腎機能検査を受けるきっかけとして捉えるべきです。 体にだるさがないか 倦怠感や体の重さは、尿毒症の初期段階で現れる代表的な全身症状です。 腎機能が低下すると老廃物の排出が不十分となり、血液中に毒素が蓄積されて体の代謝が乱れ、疲労感が強くなります。 十分に休息をとっても改善しないだるさが続くなら、単なる疲労ではなく腎機能低下のサインかもしれません。 貧血になっていないか 腎臓は赤血球をつくるホルモンを分泌する役割を持っています。 腎機能が低下するとホルモンが不足し、腎性貧血(腎臓から分泌されるホルモン不足による貧血)を引き起こすことがあるのです。 息切れや動悸、顔色の悪さ、疲れやすさといった症状が見られる場合は、貧血の有無を確認するためにも受診しましょう。 体がかゆくないか 腎機能の低下によって体内に尿毒素が蓄積すると、皮膚に刺激を与えて原因不明のかゆみを引き起こすケースがあります。 とくに背中や腕、下肢にかゆみを感じる場合、乾燥とは異なる内部要因が関与しているかもしれません。 皮膚の症状は見落とされがちですが、腎機能の異常を示すシグナルになるため、持続的なかゆみには注意が必要です。 まとめ|腎機能の保護を意識した生活を心がけましょう 尿毒症は、腎機能が著しく低下して全身に深刻な影響を及ぼす疾患です。 原因となる慢性腎臓病や糖尿病、高血圧の適切な管理、そして日常生活における食事や運動、水分摂取の見直しが尿毒症の予防に役立つ可能性があります。 倦怠感・むくみ・排尿の変化など、初期のサインを見逃さず、早期に医療機関を受診することが重要です。 腎臓を守る意識を持ち、日々の生活を丁寧に過ごしていきましょう。 当院「リペアセルクリニック」では、PRP療法や幹細胞治療などの再生医療による治療を行っています。 再生医療について疑問があれば、お気軽にご相談ください。 尿毒症に関するよくある質問 ここでは、尿毒症に関して多くの方が抱く疑問に対して回答しています。 正しい知識を得て、早期対応や適切な治療選択に役立ててください。 尿毒症は余命に関わりますか? 尿毒症は、進行すると生命に関わる重大な状態に陥る可能性があります。 腎臓が老廃物を排出できなくなると体内に毒素が蓄積し、脳や心臓を含む重要な臓器に影響を及ぼすのです。 そのまま放置すれば、命に直結する危険性がある点に留意しておきましょう。 高齢者が尿毒症になった場合の注意点は? 高齢者が尿毒症を発症するケースでは、脱水や感染症に対する抵抗力の低下、認知機能の変化など特有のリスクが存在します。 体の水分量や電解質バランスの調整が難しくなりやすいため、透析治療や薬物療法の管理に注意が必要です。 また、高齢者は自覚症状が出にくく、発見が遅れることも少なくありません。 定期的な血液検査と家族の観察が重要であり、医療スタッフと密に連携しながらきめ細やかな対応が求められます。 尿毒症は治りますか? 尿毒症自体は進行性の腎不全の結果として生じるため、完治が難しい面があります。 ただし、早期の治療開始により、症状の進行を抑える効果は期待できます。 とくに、糖尿病や高血圧などの原因となる疾患の適切な管理が重要です。 また、透析や薬物療法で体内の毒素を除去すれば、日常生活への影響を軽減できる場合があります 尿毒症は苦しさを感じますか? 尿毒症の症状には、頭痛・吐き気・倦怠感・呼吸困難・意識障害などがありますが、苦しさの感じ方は患者によって異なるため一概にはいえません。 一般的に、進行するにつれて体調の悪化を強く感じるようになります。 とくに末期になると、神経症状や肺水腫による呼吸困難などが出現し、生活の質が著しく低下します。 尿毒症は苦しさを伴う疾患と認識したうえで、早期に対応していきましょう。 尿毒症と糖尿病に関連性はありますか? 糖尿病は、尿毒症を引き起こす一般的な原因の一つです。 長期間にわたって血糖コントロールが不十分な状態が続くと、腎臓の血管が損傷を受けて「糖尿病性腎症」を発症します。 疾患が進行すると腎機能が著しく低下し、最終的に尿毒症に至るケースがあるため注意が必要です。 犬や猫が尿毒症になる原因・症状は? 一般的な獣医学的知見に基づくと、犬や猫も人間と同様に腎機能が低下すると尿毒症を発症する場合があります。(文献6) 犬は慢性腎不全や中毒性物質の摂取が原因となるケースがあり、症状としては食欲不振、元気消失、嘔吐、口臭などが見られます。 猫の場合は慢性腎臓病が主な原因で、進行すると脱水、体重減少、貧血、痙攣などが現れます。 治療には食事療法や輸液、投薬などが行われますが、やはり早期発見が重篤化を防ぐ鍵です。 参考文献 (文献1) 日本腎臓学会「腎疾患患者の生活指導・食事療法に関するガイドライン」 https://jsn.or.jp/jsn_new/iryou/free/kousei/pdf/39_1.pdf (最終アクセス:2025年6月13日) (文献2) 日本高血圧学会「減塩・栄養委員会」 https://www.jpnsh.jp/com_salt.html(最終アクセス:2025年6月13日) (文献3) 国立循環器病研究センター「腎不全」 https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/renal-failure/(最終アクセス:2025年6月13日) (文献4) 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「頻尿の原因は?」 https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/23.html(最終アクセス:2025年6月13日) (文献5) 日本排尿機能学会「尿が近い、尿の回数が多い ~頻尿~」 https://www.urol.or.jp/public/symptom/02.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年6月13日) (文献6) 動物医療センター赤坂「犬と猫の慢性腎臓病」 https://amc-akasaka.com/clinicalcases.php?eid=00007(最終アクセス:2025年6月13日)
2025.06.30 -
- 下肢(足の障害)
- スポーツ外傷
「歩くと足首が痛い」「原因不明の痛みがある」 こういった悩みの原因は、疲労骨折の可能性があります。 疲労骨折は自分では判断がつかないことも多く、放置して悪化してしまう例も少なくありません。 この記事では、足首の疲労骨折について詳しく紹介します。似た症状である捻挫との違いや、完治にかかる期間についても解説しています。 自分の症状が疲労骨折なのか判断に悩んでいる人はぜひ参考にしてみてください。 足首にも起こる疲労骨折とは 疲労骨折とは、一度では骨折には至らない小さな負荷が、継続的に加わることで発生する骨折です。 疲労骨折は体重を支える骨に多く見られ、足の骨だと「脛骨(すねの骨)」「腓骨(脛骨の外側にある骨)」「中足骨(足の甲~付け根にかけてある骨)」によく見られます。 足首の骨では「腓骨」「舟状骨(足の内側、土踏まずの頂点あたり)」に負荷が掛かりやすく、疲労骨折を起こしやすいです。 ジャンプすることが多いスポーツ、長い時間の立ち仕事や、ランニング、ウォーキングなどが疲労骨折の原因として挙げられます。 疲労骨折と捻挫のちがい 疲労骨折 捻挫 原因 繰り返しの負荷の蓄積 転倒、ジャンプした際の着地失敗によるひねり 損傷部位 骨のひび 靭帯や関節周囲の軟部組織 痛み 鈍い痛みが長く続く 瞬間的に強い痛み 腫れ 出ない、もしくは目立たない場合もある はっきりと出る 大きな違いは捻挫の場合は怪我をした明確な原因がある点です。 原因がわからないが気づいたら痛みが出ていた、という人は疲労骨折の可能性があります。 足首の疲労骨折を起こしやすい人の特徴 疲労骨折を起こしやすいのは以下の特徴がある人です。 スポーツをしている。 仕事や日常生活でずっと立っていること、歩くことが多い。 成長期や更年期などで骨がもろくなっている。 栄養バランスが乱れている。 靴底が薄い靴を履いている。 スポーツでは、特にジャンプをすることが多い種目(バスケットボールなど)をしている人は注意が必要です。ジャンプの着地時の負荷の蓄積によって疲労骨折のリスクが上がります。 足首の疲労骨折の症状・痛みの特徴 足首の疲労骨折の症状の特徴は以下の通りです。 立つ、歩くという動作をすると鈍い痛みが起こる 安静期間を設けても症状が良くならず、長い期間で痛みが続いている 押すと痛い、腫れがある 足首が動かしづらい、もしくはまったく動かない 上記の症状が見られる場合は疲労骨折の可能性が高いです。 疲労骨折は強い痛みが起こらないこともあるため、つい放置してしまう人もいます。 しかし、疲労骨折もほかの怪我同様、早期発見が完治の近道です。 当てはまる症状がある場合、まずは医師に相談しましょう。 足首の疲労骨折の検査・治療法 疲労骨折の場合も、事故や強打した際に起こる骨折同様に患部の検査が必要です。治療法は怪我の程度によって変わりますが、安静が必須になります。 疲労骨折の検査 疲労骨折は早期の検査だとX線では骨折線が見えないことが多いです。そのため、CT検査やMRI検査を用いて確認を行います。 MRI検査は骨の内部の変化や炎症を詳しく観察でき、疲労骨折の早期発見に最も有効です。CT検査は骨の構造をより詳しく確認できます。 初回検査で異常が見つからなくても、症状が続く場合は再検査を行うことが重要です。発症後2~3週間すると骨折線が見えてくることがあります。 足首の疲労骨折の治療 足首の疲労骨折の治療は、安静による自然治癒が基本です。 まずは患部を安静にしましょう。軽傷ならおよそ1か月~1か月半、重症なら2~3か月の安静期間を設け、重い荷物を持つことは控えてください。 症状に応じて松葉杖やテーピング、ギプス固定を用いることもあります。松葉杖は患部への荷重を避けるため、テーピングやギプスは患部の固定と保護のために使用されます。 治療中は定期的に通院し、都度治癒状況を確認してください。自己判断でのスポーツの再開は治りを遅らせる可能性があり危険です。 また、段階的なリハビリも早期完治に有効です。医師の指導のもと、痛みのない範囲で足首の可動域訓練や筋力強化を行います。完治後もリハビリを続け、再発防止に努めましょう。 いずれにせよ医師の判断が最優先となるため、些細なことでも相談しましょう。 足首の疲労骨折を防ぐためにすべきこと 疲労骨折は継続的に患部に負荷がかかることで起こるため、防ぐにはまず、負荷を軽減することが重要です。 スポーツが原因で足首の疲労骨折を起こしてしまった人は、まずしっかりした休息をとるよう心がけましょう。 アスリートの疲労骨折の原因は「練習のしすぎ」であることが多いです。 大事な試合の前や、つい熱中して休みを取ることを忘れてしまうこともありますが、長くスポーツを続けるために休息をとりましょう。 また、定期的なストレッチも効果的です。ストレッチは筋肉の柔軟性が高まるため、怪我のリスクを減らせます。 足に合っていない靴を履くのも疲労骨折の原因になる場合があるため、注意が必要です。サイズが合わない靴やクッション性の低い靴、かかとがすり減った靴は足に不自然な負荷をかけてしまいます。 仕事で立つことが多い人や歩く時間が長い人は定期的に靴を確認し、必要に応じて交換や修理を行いましょう。 また、骨の強度を保つための健康管理も重要です。骨を強くするカルシウム、ビタミンDなどの栄養を積極的に摂りましょう。 カルシウムは乳製品や大豆製品、煮干しなどの小魚、ビタミンDは魚介類やきのこ類に多く含まれています。 まとめ|足首の長引く痛みは疲労骨折の可能性がある!すぐに専門の医師へ相談しよう 足首の疲労骨折は、継続的な負荷のかかる運動、動作を繰り返すことで発生する骨折です。 外傷がないのに足首の痛みが長引いている、歩くときに違和感を感じているという人は疲労骨折の可能性があります。 疲労骨折の治療は安静が基本です。重い荷物を持たない、歩行時には体重をかけないなど、患部への負担をできる限り減らしましょう。 スポーツをしている人は、治療期間の練習は医師との相談のもと行ってください。自己判断で運動を再開すると、完治に時間がかかる可能性があります。 再発を防ぐためには、負荷がかかりすぎない運動量の見極めが重要です。適度な休息を設けて、靴の見直しや栄養管理、ストレッチを行って予防に努めましょう。 足首の痛みが長引いている場合、放置は危険です。明確な原因がない場合でも骨に負担がかかっていることはあります。 疲労骨折の可能性も考慮し、まずは専門の医師に相談してください。 足首の疲労骨折に関してよくある質問 足首の疲労骨折ではどんな痛みが起きる? 立つ、歩くなどの動作をすると鈍い痛みが起こります。また、長い期間痛みが続くのも特徴的です。 押すと痛みがある、足首が動かない、もしくは動かしづらいという症状も見られます。 疲労骨折の痛みは、捻挫のような突然の激痛とは異なり、じわじわとした持続的な痛みが特徴です。朝起きた時や運動開始時に痛みが強く、安静にしていると和らぐのが特徴です。 足首の疲労骨折の治療にはどれくらいの期間がかかる? 軽傷なら1か月〜1か月半、重症なら2〜3か月ほどで完治することがほとんどです。 治療の期間は絶対安静にし、スポーツや重い荷物の持ち運びは控えましょう。 治療期間は骨折の部位や程度、患者様の年齢、栄養状態によって個人差があります。適切な治療を行えば予後は良好ですが、無理をすると治療期間が延長する可能性があります。 足首が疲労骨折した状態でも歩ける? 疲労骨折をした状態でも歩くことはできますが、負荷がかからないよう気を付ける必要があります。 長距離の歩行は避け、症状が軽度な場合を除き、歩行時は松葉杖を使用することで足首への負担を軽減しましょう。 医師の指導に従い、段階的に歩行距離を延ばしていくことが重要です。
2025.06.30 -
- 下肢(足の障害)
- スポーツ外傷
「歩くとかかとが痛い」「原因はわからないがかかとが痛む」 その症状は、かかとの疲労骨折かもしれません。 疲労骨折は中足骨や足首などで起きやすいというイメージを持っている人もいるでしょう。 中足骨、足首周辺と比べると少ないケースではありますが、かかとも疲労骨折を起こすことはあるため注意が必要です。 この記事ではかかとの疲労骨折について解説します。 通常の骨折との違いや治療にかかる期間、予防対策についても紹介しています。原因不明のかかとの痛みに悩まされている人は、参考にしてください。 かかとの疲労骨折とは?通常の骨折との違い 疲労骨折とは、長時間の運動など負荷が継続的に骨に加わることで起こる骨折です。 ジャンプすることが多いスポーツや、長時間の立ち仕事など、足を酷使する状況が長時間ある人がなりやすいとされています。 通常の骨折との大きな違いは、痛みの原因が明確にあるかどうかです。 通常の骨折は、「着地に失敗してかかとを強打した」「事故などでかかとを強打した」など、強い衝撃が加わったことで起こる「外傷性骨折」の場合がほとんどです。 対して疲労骨折はダメージの蓄積によって発生します。 そのため、徐々に患部の痛みが強まっていく場合もあり、すぐに気付けなかったという例も少なくありません。 かかとの疲労骨折の特徴的な症状 かかとの疲労骨折の主な症状は以下の通りです。 かかとに圧をかけると強い痛みが起こる かかと付近の腫れや熱感、あざができることもある 歩行が困難になる また、かかとの骨折が原因で合併症や後遺症を引き起こす可能性もあります。 合併症では、骨折による強い腫れが周辺の血管を圧迫し、血流障害を起こすコンパートメント症候群が発生することがあります。ただし、かかとの疲労骨折でこの合併症が起こることは極めてまれです。 骨折による変形や可動域の低下といった後遺症が見られることも少なくありません。 合併症や後遺症を防ぐためには早期の治療が最善です。自己診断で決めつけず、まず医師に相談しましょう。 疲労骨折を起こしやすい人の特徴 疲労骨折を起こしやすい人の特徴は以下の通りです。 スポーツをしている。 仕事や日常生活でずっと立っていること、歩くことが多い。 成長期や更年期などで骨がもろくなっている。 栄養バランスが乱れている。 靴底が薄い靴を履いている。 特にかかとは固い床、地面への着地時に負荷がかかることが多いと言われています。 ジャンプすることが多いバスケットボールやバレーボールなどの種目は注意が必要です。 また、蹴り上げる動作の多い陸上競技やヒールを履いて行うダンス競技もかかとへの負担が大きいとされています。 かかとの疲労骨折の診断および治療 かかとの疲労骨折は適切な診断と治療が重要です。 疲労骨折は通常の骨折とは異なり、蓄積されたダメージによって起こるため、診断には専門的な検査が必要になることがあります。 治療では安静を基本として、症状に応じて松葉杖やテーピングなどを用いて患部への負担を軽減します。完治には医師の指導に従った段階的な治療とリハビリが欠かせません。 この項目ではかかとの疲労骨折の診断方法や完治するまでの治療法について解説します。 疲労骨折の検査・診断方法 疲労骨折の場合、早期の検査ではレントゲンで骨折線が見えないケースが多いです。 そのため、CT検査やMRI検査を行い患部の状況を確認します。MRI検査では、レントゲン上では見えなかった骨周辺の炎症などによって判断が可能です。 発症後2~3週間経つと、骨折線が見えてくることがあります。 かかとの疲労骨折の治療法 かかとの疲労骨折の治療は安静が基本です。軽傷なら1〜1.5か月、重症なら2〜3か月の安静期間が必要で、スポーツは原則禁止となります。 重い荷物を持つことは控え、ケガをしている足での歩行もなるべく避けてください。症状に応じて松葉杖やテーピングを用います。 テーピングは症状緩和と再発防止に効果的ですが、間違った方法では骨の癒合不良や症状悪化を招くため、必ず医師の指導のもとで行ってください。 定期的な通院で治癒状況を確認し、段階的なリハビリも早期完治に有効です。完治後もリハビリを続け、再発防止に努めましょう。 自己判断でのスポーツ再開は危険なため、医師の判断を最優先とし、些細なことでも相談してください。 かかとの疲労骨折を防ぐためにすべきこと 疲労骨折を防ぐためには、まず継続的な負荷を軽減するのが有効です。 休息をしっかりとる 普段使用する靴を見直す 栄養バランスを整える これらの予防法について詳しく見ていきましょう。 休息をしっかりとる 例えば、スポーツをしている人は練習量の調節からはじめてください。 アスリートは練習のしすぎによって疲労骨折を起こしてしまうことが多いです。 適度に休憩時間をとる、運動後のストレッチやマッサージを行うなど、運動以外のケアにも目を向けましょう。 普段使用する靴を見直す 運動時の靴を変えることで疲労骨折のリスクが軽減される可能性もあります。 靴底がすり減って薄くなっているとクッション性が失われ、踏み込んだ際のダメージが直接骨に届いてしまいます。 また、外側だけすり減っているなど、靴の形自体が変形してしまうと姿勢の崩れの原因にもなり余分な負荷がかかってしまうこともあります。靴の定期的なメンテナンスは非常に重要です。 栄養バランスを整える 骨の強度を保つために食事の栄養バランスを整えることも大切です。カルシウム、ビタミンDなどが骨を強くします。 カルシウムは以下の食品に多く含まれています。 乳製品や大豆製品 にぼしなどの小魚 ビタミンDが多く含まれている食品は以下の通りです。 魚介類 きのこ類 普段の食事に意識的に取り入れ、骨折しない体づくりを心がけましょう。 まとめ|かかとでも疲労骨折は発生する!長引く痛みはすぐに専門の医師へ相談を かかとの疲労骨折は継続的に負荷がかかることで発生します。 例えば、ジャンプをするスポーツや地面を踏み込むスポーツを長くやっている人や長時間歩く、立ったままの仕事をしている人は注意が必要です。 かかとの疲労骨折の完治には1か月〜3か月ほどかかります。治療期間は重い荷物を持たない、歩行時になるべく患部に負担をかけないことが必要です。 症状の度合いによってはテーピングなども行いましょう。テーピングは症状の緩和だけでなく再発の予防にも効果的です。 かかとの疲労骨折を予防するためには継続的な負荷を軽減することが重要です。 スポーツをしている人は練習量を調整し、十分な休息をとることを心がけて下さい。 また、休息以外にも骨を強くするための栄養管理や、靴のメンテナンスも疲労骨折の予防に効果があります。 疲労骨折は蓄積されたダメージによって起こるため、自分では気づきづらいケガのひとつです。 かかとの痛みが長引く場合は疲労骨折の可能性も踏まえ、まずは医療機関を受診しましょう。 かかとの疲労骨折に関してよくある質問 かかとの疲労骨折ではどんな痛みが起きる? かかとの疲労骨折の特徴的な痛みとして、 かかとに圧をかけると強い痛みが起こる。 足と足首が大きく腫れ上がり、あざができることもある。 歩行が困難。 などが挙げられます。 かかとの疲労骨折は全治何カ月? 症状の重さにもよりますが、おおよそ1か月~3か月ほどで完治します。 治療にかかる期間や治療期間の制限などは重症度で変わるため、医師に相談しましょう。 かかとの疲労骨折は、合併症や、変形、神経障害などの後遺症が残ることがあります。骨が完全に癒合するまで必ず通院を続けてください。 かかとが疲労骨折した状態でも歩ける? かかとが疲労骨折を起こした場合、歩くことはできますが健常時のように歩くことは非常に困難です。 歩いた際にかかとに負荷がかかり、強い痛みを感じる可能性があります。 重症の場合は松葉杖を使用し、患部への負担を軽減するようにしましょう。
2025.06.30 -
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
むち打ちは、交通事故などによって首に強い衝撃が加わることで生じる外傷です。 しびれや可動域の制限といった後遺症が残ると、日常生活に支障をきたす恐れも。 また、後遺障害の認定を得るのが困難な点も気になります。 本記事では、むち打ちによる後遺障害の特徴と認定のポイント、補償に関する基礎知識を詳しく解説します。 むち打ちの後遺症が気になっている方、万が一に備えて理解を深めたい方は参考にしてみてください。 むち打ちの後遺症とは むち打ちとは、交通事故などによる衝撃で首に大きな負荷がかかった際に発生する症状の総称です。 ケガの治療を続けて効果が認められなくなった段階を「症状固定」といいますが、症状固定後に残ってしまった症状を「後遺症」と呼びます。 以下のような症状が現れるのが一般的です。 首の痛み 可動域の制限 慢性的な肩こり 首周辺の神経や筋肉、靱帯に損傷が及ぶため首の症状が中心となりますが、以下のような症状を伴う場合もあります。 頭痛や吐き気 めまい 手足のしびれ 集中力の低下 睡眠障害 このように後遺症の出現には個人差があるため、適切な診断と継続的なフォローが大切です。 むち打ちについては、以下の記事でも詳しく解説しています。 むち打ちの分類 むち打ちの分類は、損傷部位や症状の違いに基づき5つの型に分かれます。 症状への対処法や治療方針を明確にするためにも、それぞれの特徴を押さえておきましょう。 頚椎捻挫型 筋肉や靱帯が損傷する、むち打ちでもっとも頻度が高いタイプです。 首や肩の違和感、可動域の制限が主な症状で、多くは数週間で症状の軽減がみられます。 神経根症状型 神経の根元が圧迫されて腕のしびれや筋力低下などが見られるタイプです。 一般的に頚椎を後ろへそらせると症状が強くなり、上肢の筋力低下や感覚の障害が生じるケースがあります。 バレー・リュー症状型 めまいや耳鳴り、吐き気などの多彩な症状が現れるとされるタイプです。 従来は自律神経の障害が原因とされてきましたが、発生原因については定説が確立されておらず、心因性の影響も考えられることから現在では医学的な位置づけについて議論が続いています。(文献1) 根症状+バレー・リュー型 前述の神経根と自律神経の障害が同時に見られる複合型です。症状が複雑で、重症化しやすい傾向があります。 脊髄症状型 もっとも重篤になりやすいタイプです。脊髄が損傷を受けることで、手足の麻痺や歩行障害などを引き起こします。 むち打ちで後遺症認定を受けるためのポイント むち打ちで後遺障害等級を得るには、単に症状が残るだけでは不十分です。 本章では、むち打ちで後遺症認定を受けるためのポイントを解説します。 後遺障害12級・14級の認定基準のクリア 後遺障害は、以下の第12級13号と第14級9号のいずれかに該当することで認定対象となります。(文献2) 等級 後遺障害 第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの 第14級9号 局部に神経症状を残すもの 14級の認定には、自覚症状と医学的説明が必要です。 12級は、自覚症状と医学的説明に加えて画像所見や神経学的検査に基づく他覚的所見が求められます。 6カ月以上の継続治療と適切な通院 後遺障害認定においては少なくとも6カ月以上、首の違和感・しびれなどの症状が継続し治療を受けた履歴が重視されます。 通常、症状固定には3カ月ほどの通院が必要ですが、神経症状の場合は6カ月以上の通院の蓄積が後遺障害認定においては必要です。 また、整形外科などへ事故直後から定期的に通院し、治療計画や経過観察が医師のカルテに記録されていなければなりません。 自己判断で通院を中止した、整骨院のみに通院したといった記録は評価されにくく、認定に不利に働く場合があります。 むち打ちの後遺障害等級に関しては、以下の記事も参考にしてみてください。 後遺症を証明できる検査の受診 むち打ちの後遺症は外見ではわかりにくいため、以下のような客観的な検査のデータが重要です。 MRI検査:軟部組織や神経の損傷を画像化 神経伝導速度検査(NCS):神経機能の異常を数値で評価 筋電図検査(EMG):神経や筋肉の活動を記録し、損傷カ所を特定 MRIやCTは筋肉や骨の状態を確認でき、神経伝導速度検査ではしびれや神経症状の医学的裏付けが可能です。 後遺障害として認定されるには、画像所見と検査結果が一致している必要があります。 また、他覚的所見として腱反射の異常や可動域制限、触診結果などの記録も必要です。 症状の常時性・一貫性・継続性の明確な伝達 後遺症の認定では、症状の「常時性」「一貫性」「継続性」が重要視されます。 これらが確認できないと、自覚症状が一時的なものであると判断され、等級認定が否定される可能性があるため注意が必要です。 常時性:症状が時間帯や天候にかかわらず、持続的に存在している 一貫性:医師への訴えや診療記録で、同様の症状が継続して述べられている 継続性:初診から認定申請まで、長期間にわたって症状が変化せず続いている これらの証明には毎回の通院時に同じ症状を訴え、診療録に反映してもらわなければなりません。 また、日常生活での困難さを定期的にメモし、医師に伝える習慣を心がけることも大切です。 たとえば「朝起きた瞬間から首がしびれ、日中も不快感が途切れない」、あるいは「症状は常に存在するが、雨の日や長時間のパソコン作業中には症状がより悪くなる」のように伝えましょう。 自覚症状による仕事や生活への影響の主張 むち打ちの後遺障害認定では自覚症状だけでなく、症状が日常生活や業務にどのような影響を与えているかを明確に主張することが求められます。 単なる「首の状態が悪い」「手がしびれる」といった訴えでは、認定の根拠としては不十分です。 具体的には、以下のような実例が有効とされています。 仕事を休んだ日数や早退・遅刻の記録 家事や育児が困難になった内容と頻度 通院のために必要となった介助や移動支援 生活の質(QOL)が低下したと説明できる項目 これらの内容を具体的なエピソードと共に記録し、医師の診断書や陳述書に反映してもらえれば、後遺障害の等級認定に向けた説得力を高められます。 「被害者請求」による申請と追加書類の添付 後遺障害等級の認定申請には「事前認定」と「被害者請求」の2種類があり、むち打ちのような自覚症状が中心となる場合には被害者請求を選ぶ方が多くなっています。 なぜなら、自ら必要な資料を整えた上で提出できるため、医学的証拠の補強や意図した主張が可能になるからです。 後遺障害の申請方法 事前認定 加害者側の保険会社に手続きを一任する 被害者請求 被害者が自ら手続きを行う 被害者請求を行うには、以下のような書類が必要です。 後遺障害診断書(医師作成) 医療記録・診療報酬明細書 検査画像(MRI・レントゲン等) 通院状況を示す書類 事故証明・診断書・陳述書 上記の資料の内容に不備がないよう医師と連携して準備すれば、後遺障害認定の可能性を高められます。 むち打ちで後遺症認定を受けるのが難しい理由 むち打ちで後遺症の認定を受けるのは、多くの被害者にとって困難な課題です。 ここでは、むち打ちで後遺症認定を受けるのが難しいとされる、代表的な4つの理由を解説します。 後遺症による影響を客観的に証明しにくいから むち打ちはレントゲンやMRIなどに異常が映らないケースが多く、自覚症状だけでは後遺障害として証明しにくい点が認定を困難にしている理由の一つです。 たとえば、しびれのような主観的症状は他覚的所見に乏しく、「医学的根拠がない」と見なされる可能性があります。 したがって、画像所見や神経学的検査など可視化できる客観的な資料を揃えて証明することが重要です。 画像所見に基づかない訴えだけでは、後遺症の存在を立証するには不十分となるケースがある点に留意しておきましょう。 交通事故と後遺症の因果関係を証明しにくいから むち打ちは衝撃の強さに比例せずに症状が出る場合があるため、事故との因果関係を疑われやすい点も認定されにくい理由です。 また、発症が事故直後ではなく数日後のケースもあり、「事故によるものとは言えない」と判断される場合もあります。 事故後は症状の有無にかかわらず早期に受診し、医師に事故との関係性を丁寧に説明することが大切です。 また、車にドライブレコーダーを設置するなど、他の証拠も提示できるようにしておくと良いでしょう。 短期間で治療が終わりやすいから むち打ちでは痛みが一時的に軽減することも多く、通院をやめてしまうケースがあります。 しかし、治療期間が短いと後遺症が固定化していると認められにくくなるため、注意しましょう。 後遺障害等級の認定には継続的な治療実績が条件となっており、短期での通院や間欠的な治療では「症状が軽い」と判断される恐れがあるのです。 月数回の安定した通院を最低6カ月以上は続ける必要があり、通院を中断すると症状が改善したとみなされる可能性があります。 症状固定と診断されるまで、医師の指示に従って治療を継続することが推奨されます。 整骨院や接骨院に通院してしまうから 整骨院・接骨院のみの通院では、医師による診断・画像検査・客観的所見が不十分となり、後遺障害等級の申請時に不利になる可能性があります。 柔道整復師による施術は医療行為ではないとみなされ、通院記録に医学的裏付けが乏しいと評価されてしまうのです。 整骨院での施術は、一般的に補助的治療としての扱いにとどまります。 後遺症の医学的証明を得るには、整形外科などの医療機関での治療が前提です。 整骨院と併用する際も、必ず医師の管理下で行うことが望まれます。 むち打ちで後遺症が残った場合の慰謝料・逸失利益 むち打ち後に後遺障害が認定された場合、以下3つの基準によって慰謝料が支払われます。 自賠責保険基準:自動車を運転する人に加入が義務づけられている強制保険で、賠償金がもっとも低い 任意保険基準:任意保険会社が独自に設けている損害賠償の基準で、金額は非公開となっている 弁護士基準:弁護士会の分析による「損害賠償額算定基準」で計算され、もっとも賠償金が高い 損害賠償金、保険金の具体的な金額は以下の通りです。 基準 第12等級 第14等級 自賠責保険基準 94万円 37万円 任意保険基準 非公開で不明だが、自賠責保険に少し上乗せした程度の金額とされている 弁護士基準 290万円 110万円 (文献3) さらに、後遺障害で被害者の方が失ってしまった、将来に渡って得られるはずの利益「後遺障害の逸失利益」も加害者側に請求でき、以下の計算式で算出します。 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数 (文献4)(文献5) たとえば、年収450万円の方が第14級の後遺障害を認定されたケースでは、5年分の逸失利益は以下となります。 逸失利益:基礎収入450万円×労働能力喪失率5%×5年分(ライプニッツ係数4.58)=約103万円 なお、上記の金額はあくまで一例であり、実際の算定額は事案ごとに異なります。 まとめ|むち打ちの後遺症に適切に対応しよう むち打ちは一過性の症状にとどまらず、後遺症として長期的に影響が残ることがあります。 特に神経や自律神経が関与するタイプでは、頭痛やめまい、しびれなどが慢性化し、生活や仕事に深刻な支障を及ぼすことも少なくありません。 むち打ちを軽視せず、医師や専門家と連携しながら早期かつ計画的な対応を心がけることが、後悔しないための第一歩となります。 また、後遺障害の認定を受けるためには、医学的証拠の提出や症状の継続性の証明が不可欠です。 本記事の内容を参考に、早期の診断と計画的な対応で不安を取り除いていきましょう。 当院「リペアセルクリニック」ではPRP療法や幹細胞治療などの再生医療による治療を行っています。再生医療について詳細は、当院へお気軽にご相談ください。 むち打ちの後遺症に関するよくある質問 ここでは、むち打ちの後遺症に関する2つのよくある質問に回答しています。 同様の疑問があるなら、解決しておきましょう。 むち打ちの後遺症が20年後も続く可能性はあるの? むち打ちによる後遺症は、必ずしも短期間で治癒するとは限りません。 個人差が大きく、中には数年から10年以上、さらには20年を経ても症状が続くケースも存在します。 症状が長期化する要因としては、以下のようなケースが考えられます。 事故の衝撃の強さ 初期治療の遅れ 治療の中断 神経への損傷の度合い とくに頑固な神経症状が残ると、慢性的なしびれや可動域制限が継続する可能性があります。 早期の適切な治療と専門医による診断、継続的なフォローアップが重要です。 むち打ちの後遺症の治し方は? むち打ちの診断では、まず問診と視診、触診を行い事故状況や症状の詳細を確認します。 必要に応じてX線やMRI、CTなどの画像診断が追加され、骨や神経の損傷有無を評価します。 治療の初期段階では、安静と鎮痛薬の使用が中心です。症状が強い場合には、頚椎カラーによる固定が用いられることもあります。 ただし、早めに首を積極的に動かす運動療法を取り入れたほうが、頚椎カラーによる固定よりも首の可動域などに改善が見られたとの報告もあります。(文献6) むち打ちの治療に関しては、症状や時期に応じて医師と相談しながら慎重に検討したほうが良いでしょう。 通常は急性期を過ぎると、首や肩の可動域を回復するための温熱療法・電気療法・牽引療法・運動療法といったリハビリが始まります。 検査方法 問診、視診、X線、MRI、CTなど 初期対応 初期対応:安静、鎮痛薬、必要に応じて頚椎カラー リハビリ 温熱療法、電気療法、牽引療法、運動療法 むち打ちの治療期間は、症状の程度や損傷の部位によって大きく異なります。 一般的には、軽症の場合で2〜3週間、中等症で1〜3か月です。ただし、重症になると6か月以上かかることもあります。 初期対応が不適切であったり、自己判断で通院をやめてしまったりすると、症状が慢性化するリスクが高まるため注意が必要です。 とくに治療中は、以下の点に注意する必要があります。 医師の指示に従い、通院と安静を継続すること 不快感が軽減しても無理に動かさないこと 精神的ストレスを避けるよう努めること 上記の点を守ることで、神経の炎症や筋肉の損傷が悪化せず、より早期の回復が見込めます。 症状が軽くても、油断せず継続的な治療と観察が重要です。 参考文献 (文献1) 日野一成.「(超低速度衝突)むち打ち損傷受傷疑義事案に対する一考察 ―工学的知見に対する再評価として―」『自動車技術会論文集』79(1), pp.159-186, 2017年 https://doi.org/10.24746/giiij.79.1_159(最終アクセス:2025年6月11日) (文献2) 国土交通省 「後遺障害等級表」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jibaiseki/common/data/toukyu.pdf(最終アクセス:2025年6月11日) (文献3) アディーレ法律事務所「後遺障害に対する賠償金(慰謝料)の相場と3つの支払基準」 https://www.ko2jiko.com/baishou/(最終アクセス:2025年6月11日) (文献4) 労働省労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発第551号)別表労働能力喪失率表 https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/sousitsu.pdf (最終アクセス:2025年6月11日) (文献5) 国土交通省「就労可能年数とライプニッツ係数表」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/syuro.pdf (最終アクセス:2025年6月11日) (文献6) Mealy K, et al. (1986). Early mobilization of acute whiplash injuries. Br Med J (Clin Res Ed), 292(6521), pp.656-657. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3081211/(最終アクセス:2025年6月23日)
2025.06.30 -
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「生あくびは脳梗塞の前兆?」 「生あくび以外に注意すべき症状はある?」 「病的なあくびであるかどうかの判断方法は?」 睡眠不足や疲労から生じるあくびは生理現象なので問題はありません。しかし、眠気や疲労がないにもかかわらず頻繁に現れる生あくびは、なんらかの病気が隠れている恐れがあるため注意が必要です。 本記事は、生あくびが脳梗塞の前兆であるかどうかをはじめとして以下を解説します。 生あくびとあくびの違い 病的なあくびの見分け方 脳梗塞の前兆の判断方法 脳梗塞以外であくびが現れる病気 「最近とくに眠くない疲れていないのにあくびがよく出る」という方は参考にしてください。 生あくびは脳梗塞の前兆? 脳梗塞の前兆として生あくびが現れることがあるため、注意が必要です。(文献1)生あくびは、脳梗塞によって脳への血流が減少して現れると考えられています。この血流減少が軽度で一時的な場合、一過性脳虚血発作という短時間のみ神経症状が現れる病態となります。 その後、本格的な脳梗塞を発症する恐れがあるため、生あくびなどの特定の症状が消えたからといって安心はできません。あくびと一緒に頭痛やめまい、立ちくらみ、手足のしびれなどの症状が現れている場合は注意が必要です。 生あくびとあくびの違い 生あくびとあくびの違いは以下の通りです。 生あくびとあくびの違い 生あくび 脳の病気によって起こる病的なあくび。脳梗塞や脳出血などなんらかの病気が隠れている場合がある。 あくび 生理現象のあくび。睡眠不足や疲労により脳に酸素が足りていないときに起こる場合が多い。退屈を感じているときに現れることもある。 (文献1) 病的な生あくびと病的ではないあくびの見分け方 病的な生あくびと病的ではないあくびの見分け方は以下の通りです。 生あくびの回数を確認する その他に脳梗塞の前兆が現れていないかを確認する それぞれの詳細を解説します。 生あくびの回数を確認する あくびの回数を確認すれば、病的であるかどうかの判断に役立ちます。実際に15分以内に3回以上のあくびは病的なあくびと定義した研究では、急性脳卒中で入院した161人のうち、69人(42.9%)の患者さまに病的なあくびが見られたと報告があります。(文献1) とはいえ、あくびだけでは生理現象の範囲内であるか、病的であるかの判断は難しいです。生あくびとその他の症状から、病的であるかを判断する必要があります。 その他に脳梗塞の前兆が現れていないかを確認する 脳梗塞の前兆と考えられる症状は多岐にわたります。生あくびと一緒に以下のような症状が現れている、または現れたことがある場合は要注意です。 体調を崩しているわけでもないのに頭痛や頭の重さがある 手足や口のまわりにしびれやふるえがある 目の前が真っ暗になったことがある 意識を失ったことがある めまいや立ちくらみがある フラフラと歩いてしまう ものがゆがんで見える、または二重に見える 文字を書くとゆがんでしまう 舌がもつれて話しにくい 以前よりも物忘れが多くなった (文献2) 以上のような脳梗塞の前兆は、たとえ短時間で消失したとしても、その後に本格的な脳梗塞に移行する恐れがあります。該当する症状が現れた場合は、医療機関を受診しましょう。 【関連記事】 目の奥が痛いのは脳梗塞の前兆?目の病気との見分け方や対処法を解説【医師監修】 突然の肩こりは脳梗塞の前兆?受診すべき症状や予防法を医師が解説 こめかみの痛みは脳梗塞のサイン?頭痛の原因や受診すべき目安を医師が解説 脳梗塞の前兆の判断に迷ったときのFAST(ファスト) 脳梗塞の前兆の判断に迷った際は、FAST(Face Arm Speech Time)によるチェック方法があります。以下のような3つの症状で簡潔に脳梗塞であるかを判断する方法です。 FAST 症状 Face(顔の麻痺) 顔の片側が下がる、歪みがある、笑顔を作れない Arm(腕の麻痺) 片腕に力が入らない、両腕を上げたまま維持できない Speech(言語の麻痺) 言葉が出てこない、呂律が回らない (文献3) 脳梗塞は治療が遅れてしまうと命に関わります。該当する場合は速やかに救急車を呼びましょう。 脳梗塞以外であくびが現れる病気 脳梗塞以外であくびが現れる病気には以下のようなものがあります。 脳出血 脳腫瘍 心筋梗塞 睡眠時無呼吸症候群 片頭痛 それぞれの詳細を解説します。 脳出血 脳出血とは、脳の血管が破れて脳内で出血が起きる病気です。脳出血を発症すると生あくびが現れることがあります。(文献4)軽度の脳出血の場合は以下のような症状が現れます。 頭痛 嘔吐 めまい しびれ 軽度の脱力 放置すると重症化する恐れがあるため、医療機関を受診してください。重度になると、脳梗塞と同様に「顔の片側が下がる」「手足が麻痺する」「呂律が回らない」などの症状が現れます。自分や周囲の人にこのような症状が現れている場合は、速やかに救急車を呼びましょう。 脳腫瘍 脳腫瘍とは、脳の細胞や神経、脳を包む膜などから発生する腫瘍です。脳腫瘍でも生あくびが現れることがあります。(文献4)脳腫瘍が発生すると、脳内の圧力が上がっていき以下のような症状が現れます。 頭痛 吐き気 麻痺 しびれ ふらつき 歩行障害 脳腫瘍も早期発見が重要です。該当する症状が現れている場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。 心筋梗塞 心筋梗塞とは、心臓の血管が詰まってしまう病気です。心筋梗塞でも生あくびが現れた症例があります。(文献5)心筋梗塞を発症した際は以下のような症状が現れます。 突然、胸を締め付けられるような強い痛み 胸の圧迫感 肩や腕、首などの痛み 男性は冷汗を伴うことが多く、女性は息苦しさや吐き気が現れることがあります。心筋梗塞は治療が遅れると危険な状態になります。該当する症状が現れた際は、速やかに救急車を呼びましょう。 睡眠時無呼吸症候群 睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に一定間隔で呼吸が止まる病気です。睡眠が浅くなってしまうため、日中にあくびが出るようになります。以下に該当する方は、睡眠時無呼吸症候群の恐れがあります。 夜間のいびきがうるさいと指摘された 夜間に大きないびきが止まったと思ったら、大きな呼吸とともに再びいびきが始まると指摘された 夜間何度も目が覚める 朝起きると頭痛や頭の重さがある 寝起きが悪い 日中の眠気が強い、または居眠りをしてしまう 睡眠時無呼吸症候群の原因で多いのは肥満です。 中には脳梗塞が原因で睡眠時無呼吸症候群を発症する場合もあります。(文献6)気になる症状がある方は医療機関を受診しましょう。 片頭痛 片頭痛とは日常生活に支障のある頭痛を繰り返す病気です。片頭痛の発作が起きる2日ほど前に、予兆としてあくびが現れることがあります。(文献7)この期間を予兆期と言います。 そのほかに予兆期に現れることがある症状は以下の通りです。 気分の変化 無気力感 注意力の欠落 落ち着きのなさ 寒気 光に対する過敏 このような頭痛とは一見関係ないような症状が、片頭痛の予兆として現れます。片頭痛は悪化すると日常生活に支障をきたします。医療機関を受診して適切な治療を受けましょう。 まとめ|脳梗塞の早期発見のために生あくびが現れたら受診しよう 生あくびが現れている場合、脳になんらかの病気が隠れている恐れがあります。15分以内に3回以上のあくびがあり、その他にも、めまいや手足のしびれ、ふらつきなどの症状が現れている場合は、医療機関を受診してください。 「顔の片側にゆがみがある」「片腕や足に力が入らない」「呂律が回らない」などの症状が現れている場合は、本格的な脳梗塞が起きている恐れがあります。自分または周囲の人に該当する症状が見られる場合は、速やかに救急車を呼びましょう。 参考文献 (文献1) Aslı Aksoy Gündoğdu, et al. (2020)「Pathological Yawning in Patients with Acute Middle Cerebral Artery Infarction: Prognostic Significance and Association with the Infarct Location」『Balkan Med J』37(1), pp.24-28. https://balkanmedicaljournal.org/text.php?lang=en&id=2145(最終アクセス:2025年6月22日) (文献2) 自治医科大学附属さいたま医療センター「どんな人が検査を受けるのでしょうか?」 https://www.jichi.ac.jp/braindock/sub2.htm(最終アクセス:2025年6月22日) (文献3) 国立循環器病研究センター「脳卒中」 https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2/(最終アクセス:2025年6月22日) (文献4) 北一郎,有田秀穂.「脳内低酸素とあくび反応」『比較生理生化学』18(2), pp.96-101, 2001年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/hikakuseiriseika1990/18/2/18_2_96/_pdf(最終アクセス:2025年6月22日) (文献5) 住吉正孝.「ゴルフ中に心筋梗塞を起こさないために」『順天堂医学』49(3), pp.321-326, 2003年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjmj/49/3/49_321/_pdf(最終アクセス:2025年6月22日) (文献6) 兵庫県医科大学病院「睡眠時無呼吸症候群」 https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/disease_guide/detail/93(最終アクセス:2025年6月22日) (文献7) 永田栄一郎.「片頭痛の予兆期・前兆期,発作末期にみられる随伴症状とその病態」『日本頭痛学会誌』51(1), pp.131-134, 2024年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjho/51/1/51_131/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年6月22日)
2025.06.30 -
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「熱中症により脳梗塞のリスクは高まる?」 「脳梗塞と熱中症を見分ける方法は?」 暑い夏は、脱水症によって熱中症だけでなく脳梗塞のリスクまで高まります。 水分が不足すると血液の流れが悪くなり、血管が詰まりやすくなるためです。 本記事では、熱中症と脳梗塞の関係や見分け方、さらに脱水症による脳梗塞を防ぐための5つの習慣を解説します。 脳梗塞と熱中症の症状の違いや判断に迷ったときのチェック方法も紹介するので、緊急時の対応に役立ててください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 熱中症や脳梗塞について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 熱中症でろれつが回らなくなるのはなぜ? 熱中症でろれつが回らなくなるのは、脳の働きが一時的に低下している可能性があるためです。 とくに脱水症が進行すると、脳に必要な酸素や栄養が届きにくくなり、言葉をうまく発する機能に影響を与えます。 脱水からろれつが回らなくなる流れは以下の通りです。 暑い環境で長期間過ごす→大量に発汗する 水分・塩分が失われ、脱水症になる 血液がドロドロになり、流れが悪くなる 血管が詰まりやすくなる 脳梗塞や脳血流不足を起こし、ろれつが回らなくなる 注意すべき点は、熱中症と脳梗塞の初期症状が似ていることです。 熱中症と脳梗塞は対応方法が異なるため、早期に見分けることが非常に重要です。 そのためにも、熱中症と脳梗塞の症状の違いを正しく理解しておきましょう。 熱中症の進行で脳機能が低下する理由 熱中症が進行すると、体温が異常に上昇し、脳の働きに深刻な影響を与えることがあります。 人間の脳は約40℃を超える高体温に弱く、細胞や神経組織がダメージを受けやすくなります。 とくに、言語や運動を司る脳の部位が障害されると、ろれつが回らない、会話がスムーズにできないといった症状が現れます。 さらに、高体温は脳への血流を減少させ、酸素や栄養の供給が不足する原因にもなります。 これにより脳の機能が一時的、あるいは長期的に低下し、意識障害や認知機能の低下が起こる可能性があります。 重症化を防ぐためには、初期段階での適切な冷却と水分補給が重要です。 ろれつが回らない症状は重症化のサイン 熱中症でろれつが回らない状態は、すでに脳の機能に障害が生じている可能性が高く、重症化のサインといえます。 軽度の熱中症では、めまいやだるさなどの症状が中心ですが、ろれつ障害が出る段階では脳や神経にまで影響が及んでいる恐れがあります。 この症状は、脳梗塞や脳出血などの重大な疾患でも見られるため、自己判断は危険です。 とくに、ろれつが回らない症状が急に現れた場合や、手足のしびれ、顔のゆがみ、意識もうろうなどを伴う場合は、すぐに救急要請を行う必要があります。 早期対応が、命や後遺症のリスクを大きく減らすポイントです。 ろれつが回らない症状は脳梗塞かも?見分け方と注意点 熱中症によるろれつ障害は、脳梗塞でも起こる可能性があるため、症状だけで判断するのは危険です。 とくに、高齢者や生活習慣病を持つ方は、暑さ以外の要因で脳梗塞を発症するリスクが高まります。 脳梗塞と熱中症を見分けるポイントは主に2つあります。 脳梗塞と熱中症の症状の違いを理解する 迷ったときはFAST(顔・腕・言葉)で確認する この2つを押さえておくことで、緊急時に適切な判断と行動がとりやすくなります。 次の項目では、それぞれの具体的な方法を解説します。 熱中症と脳梗塞の症状の違い 脳梗塞と熱中症の症状の違いは以下の通りです。 病名 初期症状 脳梗塞 激しい頭痛がする 片方の手足や顔半分にしびれや麻痺がある ろれつが回らない 言葉が出ない 体のバランスが取れない 物が2つに見える 片方の目が見えない 熱中症 頭痛 めまい 手足の運動障害 意識障害 吐き気 嘔吐 失神 けいれん 全身の脱力 大量の発汗 見分けるポイントは症状が片側に出ているかどうかです。 熱中症では、症状が片側だけに出ることはほとんどありません。 一方、脳梗塞は麻痺やしびれ、動きにくさが体の片側のみにでることが多いです。(文献1) FASTチェック(顔のゆがみ・言葉・腕の動き)で確認 脳梗塞か熱中症かで迷ったときは、FAST(Face Arm Speech Time)で確認してください。 FASTとは、以下の3つの症状で脳梗塞であるかを判断する方法です。 FAST 症状 Face(顔の麻痺) 顔の片側が下がる 顔の片側に歪みがある 笑顔を作れない Arm(腕の麻痺) 片腕に力が入らない 両腕を上げたまま維持できない Speech(言語の麻痺) 言葉が出てこない ろれつが回らない いつも通り話せない (文献2) これら3つの症状にTime(発症時刻の確認)を加えたものがFASTです。 3つの症状のうち、1つでも該当する場合は脳梗塞の疑いがあります。 発症時刻を確認して、すぐに救急車を呼んでください。 高齢者はとくに注意が必要な理由 高齢者は、体内の水分量が若年層より少なく、喉の渇きを感じにくい傾向があります。 そのため、脱水症や熱中症に気づくのが遅れやすく、症状が急速に進行する危険があります。 さらに、血管の老化や動脈硬化などにより、脳梗塞の発症リスクも高まっています。 ろれつが回らない、顔のゆがみ、手足の動きに異常がある場合は、軽い症状でも見過ごさず、すぐに医療機関を受診することが重要です。 熱中症でろれつが回らないときの対処法 ろれつが回らない症状は、熱中症の重症化や脳梗塞の可能性を示す危険なサインです。 少しでも異常を感じたら、自己判断せずに速やかに対応する必要があります。 救急要請の目安(ろれつ・意識障害・歩行困難) 以下の症状が一つでも見られた場合は、迷わず救急車を呼んでください。 ろれつが回らず、会話が不明瞭になる 意識がもうろうとしている まっすぐ歩けない、ふらつく 迷った場合でも「少し様子を見る」のは危険です。 発症からの時間が短いほど回復の可能性が高まるため、早期対応が命を守ります。 応急処置の手順(涼しい場所・水分・体温冷却) 救急車を呼ぶまでの間に、できるだけ早く体温を下げることが大切です。 以下のような応急処置を行いましょう。 直射日光を避け、風通しの良い涼しい場所に移動させる 衣服をゆるめて熱を逃がす 首・脇の下・太ももの付け根など太い血管が通る部分を保冷剤や冷たいタオルで冷やす 意識がはっきりしていれば、経口補水液や水で水分・塩分を補給する 意識がない場合や飲み込みが難しい場合は、誤嚥の危険があるため無理に飲ませず、救急隊到着を待ちましょう。 熱中症後にろれつが回らないのは後遺症?脳への影響と回復の見通し 熱中症の回復後もろれつが回らない症状が続く場合、脳や神経に何らかのダメージが残っている可能性があります。 早期に医療機関を受診し、原因を明らかにすることが大切です。 脳障害や神経へのダメージの可能性 熱中症の重症化により脳細胞や神経が損傷すると、症状が回復した後も影響が残る場合があります。 とくに「ろれつが回らない」「言葉が出にくい」といった言語障害や、手足のしびれ・麻痺などは、脳や神経の回復が不十分なサインです。 脳は一度損傷を受けると完全に元の状態に戻るまで時間がかかるため、早期からのリハビリや定期的な神経学的検査が重要です。 また、年齢や基礎疾患によっては、後遺症が長期化することもあります。 後遺症が治らないケースと回復の目安 熱中症後のろれつ障害や言語の不自由さは、多くの場合は数日から数週間で改善しますが、脳や神経への損傷が大きい場合は長期間続くことがあります。 とくに脳梗塞や重度の脳障害を併発したケースでは、半年以上症状が残ることも珍しくありません。 回復のスピードは、損傷の範囲や年齢、リハビリの開始時期によって大きく変わります。 発症から早期に治療やリハビリを始めた場合は改善が見込めますが、改善が見られない場合でも、医師と相談しながら長期的なサポートを受けることが大切です。 熱中症や脱水による脳梗塞・ろれつ障害を防ぐための5つの習慣 熱中症によってろれつが回らない症状や、脱水症が引き金となる脳梗塞を防ぐためには、日常生活の中での予防が重要です。 熱中症予防のために以下の5つの習慣を意識しましょう。 生活習慣病の管理で血管リスクを減らす 脱水を防ぐためにこまめな水分補給をする 夜間の熱中症対策にエアコンを賢く使う 熱中症が多発する時期を把握する アルコールの摂りすぎに注意する それぞれの詳細を解説します。 1.生活習慣病の管理で血管リスクを減らす 熱中症でろれつが回らない症状や、脱水による脳梗塞を予防するには、生活習慣病の管理が欠かせません。 生活習慣病が進行すると血管がもろくなり、詰まりやすくなるため、脳への血流が妨げられるリスクが高まります。 生活習慣病 脳梗塞のリスクが高くなる理由 高血圧 血圧が高いほど脳の血管に負担がかかり、動脈硬化が進行して血管が詰まりやすくなります。 糖尿病 血管の老化(動脈硬化)を早め、さらに血液の流れを悪化させます。 脂質異常症 血管壁に脂質が蓄積して動脈硬化が進み、血管が細くなることで詰まりやすくなります。 これらの病気は、熱中症や脱水時に脳梗塞を起こす確率をさらに高めます。 治療を受けてない方は、医療機関を受診して適切な治療と数値管理を行いましょう。 2.脱水を防ぐためにこまめな水分補給をする 熱中症によるろれつが回らない症状を防ぐには、脱水症を起こさないことが重要です。 脱水になると血液が濃くなり、脳への血流が悪化して脳梗塞のリスクが高まります。 水分を摂り過ぎると「体がバテる」「汗をかき過ぎる」といった考え方は間違いです。 体温を調整するためには、発汗で失った水分と塩分をしっかりと補給しなければなりません。(文献3) 水分補給のポイントは以下の通りです。 喉が渇く前に水分を補給する アルコール飲料で水分を補給しない 1日1.2L以上を目安に水分を摂る 起床時、入浴前後などのタイミングで水分を補給する 大量に汗をかいた際は塩分もあわせて補給する 水分補給は水やお茶が最適です。 大量に汗をかいた際は、塩分が含まれたスポーツドリンクや経口補水液などが良いでしょう。 3.夜間の熱中症対策にエアコンを賢く使う 暑い夏の夜は就寝中に大量の汗をかきます。 その結果、就寝中に脱水症を引き起こし脳梗塞のリスクを高めることがあります。 就寝中の脱水症のリスクを下げるために、寝る前にコップ1杯の水を飲むことと、室温などの就寝環境の調整が大切です。 就寝環境を整えるポイントは以下の通りです。 室温が28℃を超えないようにする エアコンの風が直接体に当たらないようにする 窓からの直射日光が寝室に入らないようにする 気温が体温より高い場合、扇風機は逆効果になることがある とくに高齢者は体の水分保有量が少なくなっています。 加えて、高血圧などにかかっていればさらに脳梗塞のリスクが高まるため注意が必要です。 節電のために夏の暑さをがまんしすぎず、エアコンを上手に活用しましょう 4.熱中症が多発する時期を把握する 脱水症を予防するためにも、熱中症が多発する時期を把握しておきましょう。 熱中症は、梅雨入り前の5月から発生し始め、梅雨明けの7月下旬から8月上旬に多発する傾向です。(文献3) また、人の体は暑さに適応して適切に発汗できるようになるまで時間がかかります。 暑い環境で運動や作業を始めてから3〜4日で、自律神経の反応が改善し体温上昇を防ぎやすくなる さらに3〜4週間経過すると、汗から余分な塩分が失われにくくなり、けいれんや塩分欠乏の予防につながる 急に暑くなると、この適応期間がないまま暑さにさらされるため、熱中症が起きやすくなってしまいます。 とくに高温多湿の時期は、いきなり長時間外で活動するのを避け、徐々に体を慣らすことを心がけましょう。 5.アルコールの摂りすぎに注意する アルコールはどのようなお酒であっても利尿作用があり、体内の水分を尿として排出してしまいます。 そのため、お酒は水分補給の代わりにはなりません。 とくに夜間の飲み過ぎは注意が必要です。 アルコールによって体内の水分が失われた状態で、暑い夜に就寝すると、就寝中に脱水症や熱中症を起こす危険が高まります。 さらに、脱水が進むことで脳梗塞のリスクも上昇します。 夜にお酒を楽しむ場合は、量を控えめにし、同時に水やお茶などでしっかりと水分補給を行いましょう。 まとめ|ろれつが回らないのは命のサインかも?早めの対処と予防が大切 脱水症は血液の流れを悪化させ、脳梗塞のリスクを高めます。 とくに高血圧や脂質異常症などの生活習慣病を抱えている場合、脱水症が引き金となって脳梗塞を発症する危険がより高くなるため要注意です。 生活習慣病の治療を受けてない方は、早めに医療機関を受診して治療を始めてください。 また、脳梗塞と熱中症では適切な対応方法が異なるため、症状が似ていて迷う場合はFASTで確認しましょう。 さらに、過去に脳梗塞を経験した方は再発に注意が必要です。脳梗塞の再発予防の治療の選択肢として再生医療があります。 脳梗塞の再生医療は当院「リペアセルクリニック」でも行っているので、再発予防にお悩みの方は、お気軽にご相談ください。 参考文献 (文献1) 福祉医療機構「脳梗塞、夏も要注意 脱水原因 熱中症と区別つきにくく 福井赤十字病院 西村医師解説 見分け方は『半身のみ症状』」 (文献2) 国立循環器病研究センター「脳卒中」 (文献3) 環境省「熱中症を防ぐためには」
2025.06.30 -
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「耳鳴りは脳梗塞の前兆として現れる?」 「耳鳴り以外に注意すべき症状は?」 耳鳴りは脳梗塞の前兆として現れることがあります。耳鳴りがよく起きる方は、その他の注意すべき前兆や症状を知っておくことが大切です。 本記事では、耳鳴りが脳梗塞の前兆であるかどうかをはじめとして、以下を解説します。 症状を感じにくい隠れ脳梗塞とは? 耳鳴り以外で注意すべき前兆 後遺症として現れる耳鳴り 脳梗塞の検査方法 脳梗塞以外で耳鳴りが現れる脳や耳の病気 注意すべき脳梗塞の前兆や症状をチェックリストにして紹介しています。耳鳴り以外にも気になる症状が現れている方は参考にしてください。 耳鳴りは脳梗塞の前兆? 耳鳴りは脳梗塞の前兆として現れることがあります。(文献1)耳鳴りが現れるのは小脳梗塞を起こしているときです。小脳梗塞を起こすと耳鳴りの他に以下のような症状が現れることがあります。 めまいがする 難聴が起きる バランス感覚が低下する 規則的な運動ができない 呂律が回らない 小脳梗塞の特徴的な症状はめまいや四肢の運動が正常にできなくなるなどです。 症状を感じにくい隠れ脳梗塞とは? 脳梗塞には、症状を感じづらい隠れ脳梗塞があります。正式な病名は、無症候性脳梗塞(むしょうこうせいのうこうそく)です。 無症候性脳梗塞とは、脳の細かい血管が詰まることで起こる脳梗塞です。ほとんど症状を感じられず外から見ても病気と判断できない特徴があります。耳鳴りを訴えていた患者さまを検査したところ無症候性脳梗塞だった症例もあります。(文献3) 症状が感じられないからといって安心はできません。無症候性脳梗塞は、命の危険を伴う本格的な脳梗塞や脳出血に移行するリスクがあるためです。(文献2)無症候性脳梗塞を起こさないためには、高血圧や脂質異常症などにより起こる動脈硬化を予防しなければなりません。 また、加齢も無症候性脳梗塞を引き起こす原因です。定期的に脳ドックなどを受けて早期発見するのが大切です。 耳鳴り以外で注意すべき脳梗塞の前兆【チェックリスト】 以下のような前兆や症状が現れている場合は脳梗塞が起きている可能性があります。 前兆や症状 脳梗塞の疑いがある前兆 風邪を引いているわけでもないのに、頭痛や頭の重さがある 手足や口元がふるえたりしびれたりする 目の前が真っ暗になり意識を失ったことがある まっすぐに歩けないまた転ぶようになった ものがゆがんで見えることがある 文字を書くとゆがむ 舌がもつれて話がしづらいときがある 以前より物忘れが多い 緊急性の高い症状 片方の手足や顔半分にしびれや麻痺が起こる ろれつが回らない、言葉がでない、他人の話が理解できない 立てない、歩けない、体のバランスがとれずフラフラする 今まで経験したことの激しい頭痛が現れる 片目が見えない、ものが2つに見える、視野が半分になる (文献1)(文献4) 脳梗塞の疑いがある前兆は、短時間で消えてしまうためそのまま放置されることが多いです。しかし、前兆が起きたあとは大きな梗塞に移行する場合が多いため放置してはいけません。緊急性の高い症状が1つでも現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。 【関連記事】 目の奥が痛いのは脳梗塞の前兆?目の病気との見分け方や対処法を解説【医師監修】 突然の肩こりは脳梗塞の前兆?受診すべき症状や予防法を医師が解説 こめかみの痛みは脳梗塞のサイン?頭痛の原因や受診すべき目安を医師が解説 脳梗塞の後遺症として現れる耳鳴り 耳鳴りは脳梗塞の後遺症として発生する場合があります。(文献5)脳梗塞の後遺症としての耳鳴りの程度は人それぞれで、ほとんど気にならない人もいれば、生活や睡眠の妨げになると訴える人もいます。 耳鳴りのほかにも、めまいや頭痛、しびれなども後遺症として現れることが多いです。耳鳴りの治療には、脳の血管を拡張する脳循環改善薬のほか、ビタミン剤、抗不安薬などが用いられます。 脳梗塞の後遺症の改善や再発予防の選択肢として期待されているのが再生医療です。脳梗塞の再生医療に関して詳細を知りたい方は、こちらを参考にしてください。 脳梗塞の検査方法 脳梗塞の主な検査方法は以下の通りです。 検査方法 詳細 頭部CT検査 X線を用いて脳梗塞が起きていないかを調べる検査。 頭部MRI検査 磁場を用いてCT検査よりも詳細に調べられる検査。発症直後の病巣を発見できることがある。 頭部MRA検査 MRIは脳の組織や形を描写するのに対して、MRAは脳血管を画像化する検査。 血管超音波検査 超音波を用いて脳の血管が詰まっていないか、狭くなっていないかを迅速に調べられる検査。 脳梗塞以外で耳鳴りが現れる脳や耳の病気 耳鳴りが現れることがある主な脳や耳の病気は以下の通りです。 脳出血 片頭痛 突発性難聴 メニエール病 聴神経腫瘍(ちょうしんけいしゅよう) それぞれの詳細を解説します。 脳出血 脳出血でも耳鳴りが起きることがあります。脳出血とは、脳の血管が破れて脳内で出血が起きることです。脳出血も脳梗塞と同様に発症した際は以下のような症状が現れます。 突然の意識障害 顔や手足の麻痺 言語障害 脳出血は高血圧の患者さまが発症しやすいです。脳出血が疑われる際も、速やかに医療機関を受診して適切な治療を行う必要があります。 片頭痛 片頭痛と耳鳴りは併存する場合があります。片頭痛とは、頭痛により日常生活に支障をきたす病気です。耳鳴りのほかにも吐き気や嘔吐などの症状が現れます。 片頭痛は前兆がないものとあるものに大別されます。前兆がない片頭痛の診断基準は以下の通りです。 前兆がない片頭痛の診断基準 A B~Dを満たす発作が5回以上ある B 頭痛発作の持続時間が4~72時間である ※治療をしていないまた治療の効果が出ていない場合 C 以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす 1.頭痛は片側である 2.「ズキズキ」と脈を打つような頭痛である 3.中等度から重度の頭痛である 4.歩行や階段昇降などの日常動作により頭痛が悪化する。もしくは頭痛が原因で日常動作を避けている D 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす 1.吐き気や嘔吐がある 2.光や音に対して過敏である E ほかに頭痛の診断を受けていない (文献6) 突発性難聴 突発性難聴とは、突然片耳が聞こえなくなる原因不明の難聴です。難聴を発症した際に耳鳴りやめまい、吐き気などを伴うことがあります。 前触れもなく突然に発症したり、朝に目が覚めた際に聞こえなくなっていたりします。突発性難聴は改善と悪化を繰り返す病気です。幅広い年代で発症しますが、50〜60歳代の方がとくに多い傾向です。 発症から1カ月ほどで難聴が固定されてしまう恐れがあります。発症して1〜2週間以内には治療を始めることが重要です。(文献7) メニエール病 メニエール病は、内耳がむくんでしまうことで起きる病気です。片側の耳に、耳鳴りやめまい、難聴、耳閉感といった症状が現れます。病気が進行すると、両側の耳に症状が現れることがあります。 メニエール病は、30〜50歳代の女性に多い傾向です。睡眠不足やストレス、過労、悪天候などが引き金になり症状が現れることが多いです。耳鳴りを伴うことがある小脳梗塞と症状が似ているため、意識障害や麻痺などが現れている場合は、メニエール病ではなく脳梗塞を疑う必要があります。 聴神経腫瘍 聴神経腫瘍とは、耳の奥にできる良性の腫瘍です。初期症状として多いのが耳鳴りや聴力低下です。突然音が聞こえなくなることがあるため、突発性難聴から発見されることもあります。 進行すると以下のような症状が現れます。 顔面の麻痺 顔面のしびれ めまい 歩行障害 飲み込みづらさ 腫瘍は基本的にゆっくりと大きくなりますが、中には増大が早いものもあります。腫瘍が大きくなると命に危険を及ぼすこともあるため早期治療が重要です。 まとめ|耳鳴りとその他の症状も現れている場合は受診しよう 耳鳴りは脳梗塞だけでなくなんらかの病気が隠れている恐れがあります。とくに手足や顔面の麻痺、言語障害、歩行障害、激しい頭痛などが現れている場合速やかに救急車を呼んでください。 耳鳴り以外にも、頭痛や手足のしびれ、ふらつきなどが現れている、または現れた経験がある場合は脳梗塞の前兆の恐れがあります。本格的な脳梗塞に移行する前に一度受診をしましょう。 また、脳梗塞の後遺症の改善や再発予防の選択肢として再生医療があります。脳梗塞の再生医療は当院「リペアセルクリニック」でも行っています。脳梗塞の再発や後遺症にお悩みの方は、お気軽にご相談ください。 参考文献 (文献1) 自治医科大学附属さいたま医療センター「どんな人が検査を受けるのでしょうか?」 https://www.jichi.ac.jp/braindock/sub2.htm(最終アクセス:2025年6月21日) (文献2) 山口 修平.「無症候性脳梗塞の予後と対策」『脳卒中』26(4)pp.661- 664, 2004年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke1979/26/4/26_4_661/_pdf(最終アクセス:2025年6月21日) (文献3) 西野裕仁ほか.「難聴・耳鳴・眩量患者の内耳道MRI所見の分析」『耳鼻臨床』92(11),pp.1191-1194, 1999年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibirin1925/92/11/92_11_1191/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年6月21日) (文献4) 国立循環器病研究センター「脳卒中」 https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2/(最終アクセス:2025年6月21日) (文献5) 加我君孝ほか.「脳梗塞後遺症に伴うめまいに対する塩酸インデロキサ ジン(エレンR)の有効性」『耳鼻咽喉科展望』40(1),pp.132-136, 1997年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo1958/40/1/40_1_132/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年6月21日) (文献6) 日本頭痛学会「一次性頭痛」 https://www.jhsnet.net/kokusai_2019/1-1.pdf(最終アクセス:2025年6月21日) (文献7) 兵庫医科大学病院「突発性難聴」 https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/disease_guide/detail/105(最終アクセス:2025年6月21日)
2025.06.30 -
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鉄剤を飲んでも胃がムカムカする、なかなか効いている実感がないと感じていませんか。そんな悩みを抱える貧血の方には、体への負担を抑えながら効率的に鉄分を補える「点滴治療」が選ばれるケースもあります。 本記事では、貧血に対する点滴治療の内容やメリット、受けられる条件、服薬との違いまでをわかりやすく解説します。 貧血の点滴とは 貧血の点滴は、主に鉄欠乏性貧血に対して行われる治療法です。食事療法や内服薬だけでは思うように数値が上がらない時や、胃腸が弱くて鉄剤が飲みにくい時などに選択されます。 点滴治療の良いところは、何といっても効率の良さです。口から摂る鉄分は胃腸での吸収に時間がかかりますが、点滴なら血管に直接投与するので、短期間でしっかりと鉄分を体に届けられます。 内服薬で胃もたれや消化器症状を起こしやすい人にとっても、体への負担が少ない治療方法と言えるでしょう。 貧血の点滴の種類 鉄分が不足している場合、食事や飲み薬だけでは改善が難しい場合があります。 そのようなときに用いられるのが「鉄剤の点滴」です。胃腸障害がある方や、内服で効果が出にくい方に有効とされています。 ここでは、現在よく使われている2種類の鉄剤点滴「フェインジェクト」と「モノヴァー」について、それぞれの特徴やメリット・注意点をご紹介します。 フェインジェクト フェインジェクトは、高濃度の鉄を含む比較的新しいタイプの静脈注射薬で、1回の点滴で500mg(週1回)、最大3回(3週間)で合計1,500mgまで鉄分を補給できるのが特長です。(文献1)従来の鉄剤に比べて副作用が少なく、鉄欠乏性貧血の改善を短期間で目指せます。 項目 詳細 投与量・スケジュール 1回500mg、週1回投与、最大3回(3週間)で合計1,500mgまで 投与時間 希釈なし:5分以上で血管内注射 希釈あり:6分以上で点滴 通院回数 最大3回(週1回ペース) 適応対象 経口鉄剤が困難または不適当な場合 主な特徴 ・週1回の投与で効果が期待できる ・通院回数が少ない ・投与時間が短い (文献1) 内服薬による胃の不快感や吐き気などの副作用に悩まされていた方にも選ばれやすい治療法です。 ただし、まれに発疹や関節痛、重篤なアナフィラキシーなどの副作用が報告されているため、アレルギー歴のある方は必ず医師に伝えましょう。安全に治療を受けるためには、医師の指示に従う必要があります。 モノヴァー モノヴァーは、長年にわたり多くの医療現場で使用されている実績ある鉄剤の点滴薬です。鉄欠乏性貧血の治療において信頼性が高く、比較的安定した効果が期待できます。 項目 詳細 投与量・スケジュール 週1回1000mg(体重50kg未満は20mg/kg)を上限 または週2回500mgを上限 投与時間 週1回(1000mg):15分以上で点滴 週2回(500mg):2分以上で血管内注射 総投与量上限 2000mg(体重50kg未満は1000mg) 投与期間 最大2週間(週1回なら計2回、週2回なら計4回) 主な特徴 ・海外で長期使用実績あり(40ヵ国以上) ・慎重な経過観察が可能 ・投与方法の選択肢が多い (文献2) 鉄分の補給を内服薬ではまかないきれない場合や、経過を見ながら慎重に治療を進めたい方に向いています。 ただし、アレルギー反応(アナフィラキシー)のリスクがあるため、医師の管理のもとで慎重に使用されなければなりません。妊娠中の方には原則として使用を避ける場合もあるため、治療前に医師との十分な相談が必要です。 貧血の点滴治療が向いている人 貧血の治療ではまず鉄剤の内服が基本となりますが、体質や症状によっては点滴による治療がより適している場合もあります。 貧血の点滴治療が向いている人は以下のとおりです。 胃の不快感や吐き気、便秘などの副作用が強い人 鉄欠乏が進行していて、今すぐに鉄分を補う必要がある人 出血による急激な鉄不足がある人 胃切除や吸収不良症候群など鉄が上手く吸収できない人 医師の診断のもと、体調やライフスタイルに合わせて、最適な治療法を選びましょう。 貧血の点滴のメリット・デメリット 貧血治療において、鉄剤の点滴は内服薬に比べて早く効果を得られる方法として注目されています。 しかし、すべての人にとって最適な治療法とは限らず、メリットがある一方で注意すべきデメリットも存在します。 項目 メリット デメリット 効果・即効性 ・血管内に直接投与 ・短期間で効果実感・消化管吸収を待たない ・即効性とリスクは表裏一体 ・効果が出すぎる場合あり 副作用・安全性 ・胃腸への刺激なし ・消化器症状の心配なし ・発疹、関節痛などの軽度反応 ・まれに重篤なアレルギー反応 ・医療機関での管理必須 利便性・負担 ・通院回数が少ない ・時間的負担軽減 ・投与中の観察が必要 ・医療機関への通院必須 適用範囲 ・胃腸が弱い方も使用可能 ・重度貧血に有効 ・妊婦や基礎疾患者は要注意 ・費用負担が高い ここでは、貧血点滴の主な利点とリスクについて詳しくご紹介します。 貧血の点滴のメリット 鉄剤の点滴治療には、内服薬では得られにくい即効性といった大きなメリットがあります。経口摂取では消化管での吸収が必要ですが、点滴は鉄を直接血管内に投与するため、速やかに全身に行き渡ります。 胃腸への刺激が少ないため、鉄剤内服による胃痛・吐き気・便秘などの副作用に悩んでいる方にも使用可能です。 フェインジェクトのような高濃度鉄剤では、1回の投与で必要量をまかなえることもあり、通院回数を抑えられる点も利便性が高いポイントです。時間的な負担が少なく、短期間で効果を実感したい方にとって、点滴治療は有効な治療方法といえるでしょう。 貧血の点滴のデメリット 一方で、鉄剤の点滴には副作用のリスクが伴います。 代表的なものとしては、発疹、関節痛、吐き気などの軽度な反応から、まれにアナフィラキシーのような重篤なアレルギー反応が生じるケースも報告されています。そのため、点滴治療は医療機関での適切な管理のもとで行わなければなりません。 点滴中や直後に体調の変化がないか観察する必要があり、一定の時間が必要です。 妊婦や基礎疾患のある方など、使用に慎重を要する場合もあるため、事前に医師と十分な相談をしましょう。 即効性と引き換えにリスクも伴うため、メリットとデメリットを理解した上で治療方針を選ぶ必要があります。 貧血の点滴を受けるまでの流れ 貧血の点滴は、即効性のある治療法ですが、誰でもすぐに受けられるわけではありません。 まずは医師の診察と血液検査を受け、必要性をしっかり判断した上で、以下の流れで治療が行われます。 医療機関で血液検査をする 医師が点滴が必要か判断する 点滴をする 効果の観察 ここでは、点滴治療を希望する場合にどのようなステップを踏むのか、順を追ってわかりやすくご説明します。 1.医療機関で血液検査をする 点滴治療の前には、まず血液検査で貧血の有無とその重症度、種類を確認します。 主に調べるのはヘモグロビン(Hb)、フェリチン(体内に蓄えられた鉄の量)、血清鉄、TIBC(総鉄結合能)、MCV(赤血球の平均容積)などの項目です。 ヘモグロビンが正常値でも、フェリチンが低い「隠れ貧血」の場合もあり、健康診断では見落とされやすいため、詳しい血液検査が重要です。 検査データをもとに、鉄分が不足しているかどうか、点滴が必要かを判断します。自覚症状があまりなくても、疲れやすさや立ちくらみが続く場合は、早めの検査がおすすめです。 6月執筆予定「貧血 数値」 2.医師が点滴が必要か判断する 血液検査の結果が出たら、医師が数値と患者様の症状、体質、既往歴などをふまえて治療方針を決定します。 点滴が選ばれるのは、内服薬によって強い吐き気や胃痛などの副作用が出た場合や、重度の鉄欠乏で迅速な補正が必要な場合です。胃の切除や吸収障害などで経口鉄剤が効きにくい人も対象になります。 点滴治療には「フェインジェクト」と「モノヴァー」の2種類がありますが、どちらが適しているかは、患者様の体質や症状、治療の緊急度などを総合的に判断して医師が選びます。希望がある場合は、診察時に遠慮なく相談してみましょう。 3.点滴をする 点滴は、処置室または点滴室で医療スタッフが行います。使用する薬剤により所要時間は異なり、フェインジェクトであれば約6分、モノヴァーは15分以上かけてゆっくりと投与します。(文献3)(文献4) 点滴中はリクライニングチェアやベッドでリラックスして過ごすことが多く、初回や体調に不安がある場合は、医師がそばで様子を観察する場合もあります。副作用の予防のため、点滴後も数分〜数十分安静にして経過観察するケースが一般的です。 まれにアレルギー反応が出ることもあるため、初回はとくに注意深く見守られます。点滴当日は、できるだけ時間に余裕をもって受診すると安心です。 4.効果の観察 点滴後は、治療の効果を確認するため、一定期間ごとに再度血液検査をします。 数日から数週間後にヘモグロビン値やフェリチン値がどのように変化したかを確認し、改善が見られれば治療の効果があったと判断されます。疲労感、立ちくらみ、動悸など自覚症状の変化も大切な評価ポイントです。 必要に応じて追加の点滴をする場合や、他の治療法への切り替えを検討する場合もあります。鉄の貯蔵量が回復していない場合は、定期的な点滴が必要になるケースもあるでしょう。 無理なく通える頻度での治療の継続が、根本的な改善につながります。 貧血の点滴は医師と相談をしよう 貧血の点滴治療は、鉄分を効率よく補給できる即効性の高い方法ですが、すべての方に必要なわけではありません。内服薬が合わない方や、重度の貧血で早く改善したい方にとっては、有効な治療法となります。 ただし、点滴には副作用のリスクや費用負担も伴うため、安易に自己判断せず、必ず医師と相談した上で治療方針を決めましょう。 「疲れが取れない」「立ちくらみが続く」「動悸がする」などの症状がある場合、貧血が原因の可能性もあります。また、健康診断で異常がないと言われた場合でも、詳しい血液検査を受けると「隠れ貧血」が見つかるケースもあります。 症状の原因を明らかにするためにも、早めに医療機関を受診しましょう。貧血でお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へお気軽にお問い合わせください。 貧血の点滴に関するよくある質問 フェインジェクトとモノヴァーはどちらが安全? 副作用のリスクがより少ないとされているのは、比較的新しい薬剤であるフェインジェクトです。 従来のモノヴァーと比べてアレルギー反応の頻度が低いといった報告もあり、体への負担が軽減されている点が評価されています。 ただし、どちらもまれにアナフィラキシーなどの重篤な副作用を起こす可能性があるため、安全性は医師の判断と適切な管理のもとで点滴します。 どの点滴を使用するかは自分で選べますか? 基本的には、血液検査の結果や体調、アレルギー歴、既往症などをもとに、医師が患者様に適した薬剤を判断します。希望があれば診察時に伝えることは可能ですが、安全性や効果の面から、自己判断ではなく医師のアドバイスに従うことが大切です。 ご不安な点は、遠慮せずご当院「リペアセルクリニック」へお気軽にお問い合わせください。 貧血の点滴にかかる時間は?日帰りできる? 基本的に貧血の点滴は日帰りで受けられます。 フェインジェクトであれば6分〜、モノヴァーは15分以上かけた投与が一般的です。(文献3)(文献4)初回は副作用の確認のため、少し長めに時間を確保しておくと安心です。 貧血の点滴は保険適用ですか?料金の目安を知りたい 鉄剤の点滴は、医師が治療の必要性を認めた場合、健康保険が適用されます。 自己負担割合が3割の方であれば、血液検査も含めて点滴1回あたりの自己負担額はおおよそ3,000円〜5,000円程度になることが多いです。(文献5) ただし、使用する薬剤や医療機関によっても差があるため、事前に受付や医師へ確認するのがおすすめです。自由診療で受ける場合は全額自己負担となり、費用は大きく異なります。 参考文献 (文献1) 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「フェインジェクト静注500㎎」2023年8月 https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/3222404A1021_1_04/(最終アクセス:2025年6月24日) (文献2) 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「モノヴァー静注500mg/モノヴァー静注1000mg」2022年3月 https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/3222404A1021_1_04/(最終アクセス:2025年6月24日) (文献3) ふくろう訪問クリニック「貧血を1回の点滴で治療できます。」2023年5月31日 https://fukurou.fukuoka.jp/column/790/(最終アクセス:2025年6月13日) (文献4) ELSEVIER「フェインジェクト静注500mg」 https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=68048(最終アクセス:2025年6月13日) (文献5) 新宿駅前クリニック「貧血」 https://www.shinjuku-cli.com/naika/service_13.html(最終アクセス:2025年6月13日)
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「最近なんだか疲れやすい」「立ちくらみが増えた」 そんな症状から、「貧血かも」と思ったことはありませんか?貧血はよくある体調不良のひとつですが、実は背後に病気が隠れている可能性もあります。 とくに、原因がわからないまま症状が続いている場合は注意が必要です。 本記事では、貧血がどんな状態なのか、どのような病気と関係があるのか、受診の目安や検査内容まで詳しく解説します。 このままで大丈夫なのかと不安を感じたら、まずは正しい知識を得ることから始めましょう。 貧血を引き起こす主な病気 貧血は「血が足りない状態」と思われがちですが、実際には酸素を運ぶ赤血球やヘモグロビンが減少するため、全身に酸素が十分行き渡らなくなる状態です。 貧血の背景には、単なる栄養不足だけでなく、体内の出血や骨髄の異常、自己免疫疾患、がんなどさまざまな病気が隠れている場合があります。 ここでは、貧血の原因となる代表的な病気をご紹介します。 鉄欠乏性貧血 鉄欠乏性貧血は、体内の鉄分が不足するため赤血球の生成がうまくいかず、酸素を全身に届ける能力が低下する病気です。 女性に多く、月経過多、妊娠・出産、授乳などにより慢性的に鉄を失いやすいことが背景にあります。消化管出血も原因としてよく見られます。 鉄欠乏性貧血の症状は、以下のとおりです。 疲労感や息切れ 動悸 集中力の低下 顔色の青白さ 爪が反り返る(スプーンネイル) など 血液検査では、ヘモグロビン値の低下だけでなく、血清鉄やフェリチンの低下が認められる場合もあります。 治療には鉄剤の内服や点滴投与が行われ、重度のケースでは輸血が必要になるケースもあります。貧血が改善されるまでには一定の時間がかかるため、継続的な治療と食生活の見直しが重要です。 巨赤芽球性貧血 巨赤芽球性貧血は、ビタミンB12や葉酸といった栄養素の欠乏により、正常な赤血球を作れなくなる病気です。 ビタミンB12や葉酸はDNA合成に不可欠な栄養素で、不足すると骨髄内で未熟な赤血球(巨赤芽球)が形成され、貧血になります。 原因には、胃の萎縮性胃炎や胃の手術によってビタミンB12の吸収が妨げられるケースや葉酸不足による栄養不良、アルコールの過剰摂取などが含まれます。 巨赤芽球性貧血の症状は以下のとおりです。 貧血症状 手足のしびれ 歩行のふらつき 記憶力低下 など 放置すると回復が難しくなるため注意が必要です。 血液検査では赤血球の大型化や数の減少、白血球数の減少などがみられます。治療はビタミンB12や葉酸の補充によって行われ、原因となる基礎疾患の治療も並行して行います。 再生不良性貧血 再生不良性貧血は、骨髄が赤血球、白血球、血小板といった血液成分を十分に作り出せなくなる病気です。 原因の多くは、免疫系が誤って自分の骨髄幹細胞を攻撃する「自己免疫性反応」とされていますが、薬剤やウイルス感染、放射線被ばくなどが引き金となる場合もあります。 再生不良性貧血の症状は以下のとおりです。 貧血症状 感染症にかかりやすくなる 出血しやすくなる など 症状は数週間から数カ月かけて徐々に現れ、気づきにくいことがあります。診断には血液検査と骨髄検査が必要です。 治療には免疫抑制剤や造血刺激因子を用いた薬物療法のほか、重症例では骨髄移植が検討されることもあります。 自己免疫性溶血性貧血 自己免疫性溶血性貧血は、体の免疫系が誤って自分自身の赤血球を異物とみなし破壊してしまうことで起こる病気です。赤血球が通常よりも早く壊されてしまうため、身体が必要とする酸素を十分に運べなくなります。 自己免疫性溶血性貧血症状は、以下のとおりです。 倦怠感 息切れ 脾臓の腫れ など 診断には赤血球の破壊を示す血液検査や、自己抗体の存在を確認するクームス試験が行われます。 治療は免疫抑制を目的としたステロイドの投与が中心で、免疫抑制剤や脾臓摘出術が検討される場合もあります。再発の可能性もあるため、継続的な医療管理が必要です。 胃潰瘍・十二指腸潰瘍 胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、胃酸や消化液によって消化管の粘膜が傷つき、えぐれたような潰瘍ができる病気です。 原因としては、ピロリ菌の感染や、痛み止め(NSAIDs)などの薬剤による粘膜への刺激、過度なストレスや喫煙、アルコールなどが挙げられます。 胃潰瘍や十二指腸潰瘍の症状は以下のとおりです。 みぞおちの痛み 吐血 黒色便 など 潰瘍は自覚症状が乏しいまま進行する場合もあり、痛みを感じないまま出血している場合も少なくありません。慢性的な出血が続くと、体内の鉄分が少しずつ失われ、気づかないうちに鉄欠乏性貧血を引き起こします。 診断には内視鏡検査で、潰瘍の大きさや出血の有無を確認できます。治療は、ピロリ菌の除菌療法や、胃酸の分泌を抑える薬を使った内服治療が中心です。再発を防ぐためには、原因となる生活習慣や薬の見直しも必要です。 胃がん 胃がんは、胃の粘膜にできる悪性腫瘍です。ピロリ菌の感染が最も大きな危険因子とされ、慢性的な胃炎や胃潰瘍を経て発症するケースもあります。 初期の胃がんは自覚症状がほとんどなく、気づかないうちに進行していることも少なくありません。進行すると、以下のような症状が現れます。 漠然とした胃の不快感 体重減少 筋力の低下 食欲不振 吐き気 胃の痛み など 胃がんによる出血が慢性的に起こると、体内の鉄が失われて鉄欠乏性貧血になる場合があります。胃の機能低下によってビタミンB12の吸収が妨げられ、巨赤芽球性貧血の併発の可能性もあります。 胃がんは早期発見・早期治療が最も重要です。 子宮筋腫 子宮筋腫は、子宮の筋肉層にできる良性の腫瘍です。30歳以上の女性の20~30%、顕微鏡で見た場合の発見も含めると約75%とされています。(文献1) 子宮筋腫の症状は以下のとおりです。 月経困難症 不妊 多量の出血 排尿障害 排便障害 腰痛 など 貧血が進むと、動悸や息切れ、めまい、疲労感などの症状が現れ、日常生活に支障をきたす場合もあるでしょう。 診断には婦人科での内診や超音波検査、MRI検査などが用いられます。 治療法は、症状の重さや年齢、妊娠の希望などを考慮して選択され、ホルモン療法、子宮動脈塞栓術、手術による摘出などがあります。 子宮内膜症 子宮内膜症は、本来なら子宮の内側だけにあるはずの子宮内膜組織が、卵巣や腹膜など子宮以外の場所に発生する病気です。生理のたびにこの異所性組織も出血を繰り返します。 子宮内膜症の症状は以下のとおりです。 強い生理痛(下腹部痛) 性交痛 排便痛 不妊 など 子宮内膜症によって月経量が増加し、慢性的に出血する状態が続くと、体内の鉄が不足し鉄欠乏性貧血を引き起こす場合があります。 生理のたびに大量出血がある方は、日常的に疲れやすかったり、立ちくらみがあったりするなど、貧血の症状に悩まされるケースが少なくありません。 治療は、ホルモン療法や鎮痛薬、重度の場合は手術が検討される場合もあります。 慢性腎不全 慢性腎不全(慢性腎臓病)は、腎臓の機能が長い時間をかけて徐々に低下していく病気です。腎機能が低下すると、エリスロポエチンの分泌が不足し、骨髄での赤血球の産生が減少します。 慢性腎不全の症状は以下のとおりです。 疲労感 息切れ めまい 集中力の低下 など 治療には、鉄剤の補給に加えて、エリスロポエチン製剤の投与が行われます。慢性的な疲労感がある方や、腎疾患を抱える方は、定期的な血液検査での貧血チェックをしましょう。 白血病・多発性骨髄腫 白血病や多発性骨髄腫は、いずれも血液を作る組織である骨髄に異常が生じる血液のがんです。 白血病は、未成熟な白血球が異常に増殖し、正常な造血を妨げてしまう病気です。急性型では短期間で症状が急激に悪化し、慢性型ではゆっくり進行するものの、気づいたときには貧血が進んでいることもあります。 多発性骨髄腫では、形質細胞といった免疫に関わる細胞ががん化し、骨髄の正常な働きを圧迫してしまうため、赤血球が十分に作られず貧血を引き起こします。 白血病や多発性骨髄腫の症状としては、以下のとおりです。 倦怠感 息切れ 顔色不良 感染症への抵抗力低下 出血傾向(あざができやすい) など がんが進行すると、骨の痛みや高カルシウム血症、腎機能障害を伴うこともあります。 治療は化学療法、放射線療法、造血幹細胞移植など多岐にわたり、医療機関での対応が必要です。 貧血の症状 貧血は初期段階では気づきにくいこともありますが、体はさまざまなサインを出しています。たとえば、「なんとなく顔色が悪い」「最近疲れやすい」「立ちくらみが増えた」といった症状が思い当たる場合、それは貧血の兆候かもしれません。 以下に、よく見られる症状とその特徴をまとめました。心当たりがある方は、早めに医師へご相談ください。 症状 解説 顔色が悪い ・貧血になると赤血球が不足するため、顔色が青白くなったり、唇やつめの色が悪くなったりする ・目の下の粘膜や手のひらが白っぽくなっていないかチェックす 疲れやすい ・貧血になると、全身が酸素不足の状態になる ・エネルギーが作られないため、常に倦怠感や疲労感が続く 動悸や息切れがする ・体内の酸素不足を補うために心臓が血液を多く送り出そうとし、動悸や息切れが現れやすくなる 目まいがする ・貧血により脳への酸素供給が不足すると、立ちくらみやめまいが起きることがある ・急な動作で目の前が暗くなるなら貧血の可能性がある 黄疸が出る ・溶血性貧血の場合、赤血球の破壊により黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)が出ることがある 【関連記事】 貧血の症状一覧|原因や治療法についても医師が詳しく解説 貧血で倒れるのはなぜ?原因・対処法や病院に行くべきタイミングを医師が解説 貧血と病気の関係を正しく理解して早めの対処をしよう 貧血は、ただの体調不良ではなく、さまざまな病気のサインの場合があります。 放置していると、日常生活に支障をきたすだけでなく、重い病気の発見が遅れることにもつながりかねません。 「なんとなく体がだるい」「顔色が悪いと言われる」「動悸や息切れが気になる」そういった症状が続くときは、早めに医療機関を受診しましょう。 貧血でお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へお気軽にお問い合わせください。 貧血の病気に関してよくある質問 男性が貧血になる原因は? 男性が貧血になる主な原因は、以下のとおりです。 胃潰瘍や胃がんなどによる消化管からの出血 栄養不足 慢性疾患(腎臓病やがん)による赤血球の減少 など 中高年の男性では、自覚のない慢性的な出血が背景にあるケースが多く、貧血が重大な病気のサインの場合もあります。倦怠感や息切れが続く場合は、早めに医療機関を受診しましょう。 貧血が続くとどうなる? 貧血が続くと、全身の酸素供給が不足した状態が長引き、慢性的な疲労感や集中力の低下、息切れ、動悸などが悪化していきます。 重度になると日常生活に支障をきたすだけでなく、心臓や脳に負担がかかり、心不全やめまい・失神を引き起こすリスクもあります。原因となる病気の発見が遅れることにもつながるため、早期の検査と治療が大切です。 貧血に良い食べ物は? 貧血に良い食べ物には、鉄分・ビタミンB12・葉酸など、赤血球の生成を助ける栄養素を含むものがあります。たとえば、以下のような食品が効果的です。 赤身の肉やレバー(鉄分が豊富で吸収率も高い) あさりやかきなどの貝類(ヘム鉄を多く含む) ほうれん草、小松菜、ひじき、大豆製品(植物性鉄分・葉酸が豊富) 卵や乳製品(ビタミンB12を含む) 柑橘類やブロッコリー(鉄の吸収を助けるビタミンCが豊富) バランスの良い食事とあわせて、必要に応じて鉄剤の補給も検討しましょう。 参考文献 (文献1) 公益社団法人 日本産科婦人科学会「子宮筋腫」 https://www.jsog.or.jp/citizen/5711/(最終アクセス:2025年6月18日)
2025.06.30 -
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糖尿病治療中の方の中には、ケトアシドーシスを経験された方もいらっしゃることでしょう。糖尿病ケトアシドーシスとは、合併症のひとつであり、時には脳や心臓、筋肉などに後遺症を残す可能性があるものです。 一度経験された方は、後遺症や再発に関する不安を抱えている場合も少なくありません。本記事では、糖尿病ケトアシドーシスの後遺症やケトアシドーシスの症状、後遺症の予防に関して詳しく解説します。ケトアシドーシスに関する不安を解消するため、ぜひ最後までご覧ください。 糖尿病ケトアシドーシスの後遺症一覧 後遺症 詳細 脳浮腫 意識障害、けいれん、記憶障害などの神経障害 低カリウム血症 筋力低下、しびれ、不整脈などの心筋機能障害 低血糖 意識消失、けいれん、脳機能障害のリスク増加 糖尿病ケトアシドーシス(DKA)は治療の過程や重症化した場合、後遺症が出る可能性があります。その中でもとくに脳浮腫、低カリウム血症、低血糖は注意すべき障害です。脳浮腫は意識障害やけいれん、最悪の場合は永続的な神経障害を残すリスクがあります。 低カリウム血症は筋力低下や不整脈を引き起こし、心停止のリスクもあるため注意が必要です。また、治療中に急激に血糖値が下がりすぎると低血糖を起こし、意識障害やけいれんなどが現れることもあります。 これらの合併症は早期発見と適切な治療で予防や軽減が可能なものも多く、早期対応とその後の管理により、症状の軽減が期待できます。 脳浮腫 項目 内容 主な原因 血糖や電解質の急激な補正 発生の仕組み 血液中から脳内への水分移動による腫れ 主な症状 頭痛、意識障害、けいれん、視覚異常 重症時の影響 昏睡、命の危険、後遺症 とくに注意すべき人 小児、若年者、高齢者、慢性高血糖の方 主な後遺症 記憶障害、集中力の低下 予防のポイント 血糖値の緩やかな補正と慎重な治療管理 (文献1)(文献2) 脳浮腫は、糖尿病ケトアシドーシスの中でも、とくに重篤な合併症のひとつです。血糖値や血中電解質を急激に補正すると、脳内に水分が移動し脳浮腫を引き起こすことがあります。 症状としては、頭痛、意識障害、けいれん、視覚異常などが現れ、重症化すると昏睡や生命に関わる重大なリスクもあります。とくに小児や若年者に多いとされますが、高齢者や長期にわたる高血糖状態の方でも注意が必要です。 脳浮腫は一時的に回復するケースもありますが、重度の場合は記憶障害や集中力の低下など、後遺症が出る可能性もあります。治療では血糖を急に下げすぎないことが大切です。 低カリウム血症 項目 内容 主な原因 インスリン投与によるカリウムの細胞内移動 主な役割 心臓や筋肉の正常な働きの維持 主な症状 筋力低下、脱力感、しびれ、不整脈 重症時のリスク 心停止、生命に関わる重篤な状態 観察のポイント 血中カリウムの定期的なモニタリング 予防の方法 点滴や食事によるカリウム補給 退院後の注意 食事管理と定期的な血液検査の継続 (文献2)(文献3) 糖尿病ケトアシドーシスの治療中には、インスリン投与によって血液中のカリウムが急速に細胞内へ移動し、低カリウム血症を引き起こすことがあります。 カリウムは心臓や筋肉の正常な動きを保つために重要な電解質であり、不足すると筋力低下、脱力感、しびれ、不整脈、最悪の場合は心停止に至るリスクもあります。軽度の場合は無症状のこともありますが、重度になると命に関わるため、血中カリウムの綿密なモニタリングと補正が欠かせません。 また、入院期間中に加え、退院後も継続的にカリウムを含む食事の管理や定期的な血液検査を通じて、低カリウム状態を早期に発見し、対処することが大切です。後遺症を残さないためには、治療中の適切な電解質バランスの管理が必須です。 低血糖 項目 内容 主な原因 インスリン投与による血糖値の急低下 配慮の必要性 DKA治療中の慎重な血糖管理 主な症状 冷や汗、ふるえ、動悸、意識障害、けいれん 重症時 昏睡、脳機能障害、命に関わるリスク 軽度の対応 回復可能、ただし頻回の発生に注意 入院中の措置 医療チームによる厳密な血糖モニタリング 退院後の注意 インスリン、薬量、食事、運動バランスの維持 (文献1)(文献4) 低血糖は、糖尿病ケトアシドーシスの治療中にインスリン投与で血糖値が急激に下がることで起こります。とくに重症の糖尿病ケトアシドーシスでは、普段よりも慎重な血糖コントロールが必要です。 低血糖になると冷や汗やふるえ、動悸、意識障害、けいれんなどの症状が現れ、放置すると昏睡や脳機能障害を引き起こす危険もあります。 軽度であれば回復しますが、重度かつ長時間続くと後遺症になる場合があります。入院中は医療スタッフによる厳密な管理が行われますが、退院後もインスリンや内服薬の量、食事、運動のバランスに注意し、血糖の急変を防ぐことが重要です。 糖尿病ケトアシドーシス後遺症の治療 治療 詳細 脳浮腫に対する治療 補液速度の調整、マンニトールやグリセオール投与、脳圧管理、集中治療室での厳重管理 低カリウム血症に対する治療 血中カリウム値の定期測定とカリウム補充、不整脈予防のための心電図モニタリング 低血糖に対する治療 ブドウ糖の静脈投与や経口摂取、インスリン量の調整、血糖値の頻回測定 糖尿病ケトアシドーシスの後遺症は、早期発見と適切な治療により回復が期待できます。脳浮腫、低カリウム血症、低血糖などの合併症には、それぞれの管理と迅速な対応が必要です。 入院中の治療に加え、退院後も定期的な通院やモニタリングを続けることが再発や悪化の予防につながります。後遺症が生じた場合は、リハビリや医師による継続的なフォローに加えて、再生医療も近年注目されています。 以下の記事では、糖尿病に対する再生医療の有効性を詳しく解説しています。 脳浮腫に対する治療 治療内容 詳細 マンニトールの点滴投与 脳内の水分を排出して脳圧を下げる治療 高張食塩水の点滴(3%) マンニトールが効かない場合に検討される 頭部挙上(30度) 脳の血流と圧力のバランスを整えるための体位調整 人工呼吸器による呼吸管理 自発呼吸が困難な場合の呼吸補助 集中治療室での管理(ICU) 脳圧や全身状態の厳密なモニタリング CT・MRIによる画像検査 脳の状態や治療効果の確認 電解質・血糖の調整 浸透圧バランスの安定による後遺症予防 神経科・リハビリ科の支援 認知機能障害への継続的フォローアップ (文献5)(文献6) 糖尿病ケトアシドーシスによる脳浮腫の治療では、まず脳の圧力(脳圧)を下げることが最も重要です。 一般的には、マンニトールと呼ばれる浸透圧利尿薬を点滴で投与し、脳にたまった余分な水分を排出する治療が行われます。マンニトールが効かない場合には、3%高張食塩水の点滴が使われることもあります。(文献5)(文献6) また、頭部を約30度挙上して安静を保つことが推奨されます。これは、脳の血流と圧力のバランスを整えるための重要な処置です。(文献6) 低カリウム血症に対する治療 治療内容 詳細 カリウムの補充 点滴や内服で不足したカリウムを補う治療 インスリン投与の一時停止 カリウム値が十分に補正されるまでインスリンを一時的に中止 インスリンの慎重な再開 インスリン再開時は通常より少ない量から慎重に開始 合併症の注意 横紋筋融解症や心臓の合併症などのリスクに注意 (文献1)(文献6) 低カリウム血症の治療では、まず血液検査でカリウムの量を確認します。軽い場合は経口カリウム製剤で補えますが、重い場合は点滴でのカリウム補充が必要です。 治療中は心電図で心臓の状態をチェックし、カリウムが多すぎたり少なすぎたりしないように慎重に進めます。 また、カリウムが体から出て行きやすくなる薬を使っている場合は、薬剤の見直しや調整も必要です。退院後も、カリウムを多く含む食品を意識してとることや、腎臓の働きを定期的に調べることが再発防止に役立ちます。 低血糖に対する治療 治療内容 詳細 ブドウ糖液の点滴開始 血糖値が約250mg/dL未満になった時点で、10%ブドウ糖液の点滴を開始 インスリン量の調整 インスリンの点滴速度を半分(例:0.1→0.05単位/kg/時)に減らすことを検討 低血糖の予防 インスリンによる過剰な血糖低下を防ぐ 血糖値の厳密な管理 入院中は医療チームが頻回に血糖値を測定し、低血糖や急変を防ぐ 退院後の生活指導 インスリンや薬の量、食事、運動のバランスに注意し、血糖の急変を避ける (文献7) 糖尿病ケトアシドーシスの治療中には、低カリウム血症が起こることがあります。カリウムが不足すると、筋肉の低下や心臓に負担がかかり不整脈を起こすおそれがあるため、早急な対応が必要です。 治療では、まず血液検査でカリウムの量を調べ、不足の程度に応じて補います。軽い場合は飲み薬、重い場合は点滴でカリウムを補充します。補充中は、心臓の動きを確認する心電図モニターを使いながら、治療を進めます。 カリウムは不足しても過剰になっても体に悪影響を及ぼすため、補充の量やスピードに関しては、医師の調整が不可欠です。さらに、服用中の薬や腎臓の機能もカリウムのバランスに影響するため、これらの要因もふまえて治療方針が決められます。 退院後も、食事からのカリウム摂取や腎臓の状態を定期的に確認し、必要に応じて栄養指導や薬の調整を受けることが、再発予防につながります。 糖尿病ケトアシドーシスの後遺症に対する予防法 後遺症に対する予防策 詳細 血糖コントロールを徹底する 血糖測定、薬の調整、食事と運動による血糖値の安定化 体調管理を継続する 発熱、倦怠感、体重減少などの体調変化への早期対応 定期的に必要な検査を受ける 血糖、HbA1c、電解質、腎機能などの定期的な数値チェック 心理的サポートを受ける 不安やストレスの軽減による自己管理意欲の維持 糖尿病ケトアシドーシスの後遺症を防ぐためには、日頃から血糖コントロールと体調管理をしっかり行うことが大切です。血糖値の安定には、食事や運動、薬の調整、定期的な検査による数値チェックが欠かせません。 体調に変化があれば早めの対応を心がけ、心理的なサポートも受けつつ、継続的に管理を行うことが重要です。 血糖コントロールを徹底する 項目 内容 食事 身長、体重、活動量に応じた適切なエネルギー摂取と栄養バランスの維持 運動 有酸素運動や筋力トレーニングを週3日以上実施(事前に主治医へ相談) 内服薬 医師の指示に従った服薬の継続 インスリン 注射の打ち忘れ防止と適切な自己注射の継続 血糖値の乱高下を防ぐことが、糖尿病ケトアシドーシスの基本的な予防策です。毎日の血糖測定やHbA1cの定期チェックを通じて、自分の血糖傾向を把握し、インスリンや内服薬を適切に調整することが重要です。 とくに風邪や感染症、過度なストレスなどによって血糖が急上昇するケースがあります。そのため、体調の変化には注意が必要です。 また、食事や運動の内容が血糖にどのように影響するかを知ることも、自己管理の第一歩です。 以下の記事では、糖尿病の血糖コントロールについて詳しく解説しています。 【関連記事】 糖尿病!運動療法なら改善はもとより予防にも効果を発揮 糖尿病|食事で予防する、食生活を整えて病気の悪化や合併症を防ぐ 体調管理を継続する 予防内容 詳細 感染症、脱水、ストレスへの注意 発熱、下痢、疲労、精神的ストレスによる血糖上昇の予防 シックデイへの対応 水分と糖分の十分な補給(おかゆ、果汁、麺類などの摂取) 医療機関の早期受診 食事がとれない、発熱、嘔吐、下痢などの強い症状時の速やかな受診 ワクチンの接種 インフルエンザ、肺炎球菌、新型コロナウイルスの予防接種の推奨 (文献8)(文献9) 糖尿病ケトアシドーシスの再発を防ぐには、日ごろの体調管理が重要です。発熱や下痢、体重の急な変化など、いつもと違う症状があれば早めに医師へ相談しましょう。 感染症や脱水、強いストレスが糖尿病ケトアシドーシスの再発の原因になるケースもあります。 とくに体調が悪く血糖管理が難しい、シックデイには、水分とエネルギー補給を心がけ、食事がとれない場合は医療機関を受診してください。予防には、インフルエンザや肺炎球菌、新型コロナのワクチン接種も推奨されます。 定期的に必要な検査を受ける 検査の目的・内容 検査項目・留意点 治療の継続 すでに治療中の方は治療を中断しないこと 定期的な受診・検査 定期的に医療機関を受診し、血液検査や尿検査を受ける 血糖値の検査 空腹時血糖、ヘモグロビンA1c、グリコアルブミンなど インスリン分泌の検査 血液中のインスリン濃度やCペプチドの測定 ケトアシドーシス予防の検査 尿中ケトン体検査 合併症発見のための検査 腎機能検査、眼底検査、神経・知覚検査、動脈硬化に関する検査など (文献10) 糖尿病の状態や体への影響を早期に把握するには、定期的な検査が不可欠です。血糖値やHbA1cに加え、腎機能(クレアチニン、eGFR)や電解質、尿中ケトン体などを総合的に確認することで、再発や後遺症の早期発見につながります。 退院後に症状が緩和しているように見えても、身体の中では変化が進んでいるケースがあります。医師の指示に従い、定期的に通院して必要な検査を受けましょう。 以下の記事では、糖尿病で起こりうる失明について詳しく解説しています。 心理的サポートを受ける 糖尿病ケトアシドーシスを経験した後に、不安や恐怖を抱くのは自然な反応です。こうしたストレスは血糖コントロールを乱す原因にもなるため、心のケアも大切です。 退院後に気分が落ち込んだり、自己管理がつらく感じたりするときは、一人で悩まずに医療スタッフやカウンセラーに相談しましょう。不安が強い方には、同じ病気を持つ人との交流(ピアサポート)や、糖尿病に特化した心理支援の利用も有効です。 心の負担を軽くすることで、前向きに病気と向き合いやすくなり、再発の予防にもつながります。 糖尿病ケトアシドーシスの後遺症は自己管理と継続治療が大切 糖尿病ケトアシドーシスの後遺症を防ぐ上で重要なのは、退院後の自己管理と継続的な治療です。 急性期を乗り越えた後も、血糖コントロールや体調の変化に対する注意、定期的な検査を怠らないことが、後遺症の進行や再発を未然に防ぐカギとなります。 食事や運動、薬の服用を含む自己管理と継続治療を徹底することが重要です。また、後遺症に関する不安はひとりで抱え込まず、医療スタッフやカウンセラーを活用しましょう。 糖尿病ケトアシドーシスの後遺症についてお悩みは、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、後遺症に関するどんな些細なお悩みや不安にも真摯に耳を傾け、丁寧にアドバイスいたします。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 糖尿病ケトアシドーシス後遺症に関するよくある質問 糖尿病でケトン体が増える理由は何ですか? 糖尿病ではインスリンの働きが弱くなり、糖が細胞に取り込まれなくなります。すると、身体は代わりに脂肪をエネルギー源として使い始め、そのときにできる物質が、ケトン体です。 ケトン体が増えすぎると、血液が酸性になり、ケトアシドーシスという危険な状態を引き起こします。ケトン体を増やさないためには、血糖値を安定させることが大切です。(文献11) インスリンや内服薬が必要であれば、正しく服用し、食事や運動のバランスを保ちます。体調が悪いとき(シックデイ)は、こまめに水分と糖分をとり、無理せずエネルギーを補給しましょう。気になる症状があれば、早めの医療機関への受診が重要です。 糖尿病ケトアシドーシスの死亡率はどのくらいですか? 糖尿病ケトアシドーシスの死亡率は1%未満とされています。(文献1) しかし、一部のデータでは1〜9%の患者が亡くなっているとも報告されています。(文献11) 少なからず命に関わる危険があるため、疑わしい症状が生じた場合は、ためらわずにすぐ医療機関を受診しましょう。 参考資料 (文献1) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)」MSD マニュアルプロフェッショナル版, 2022年9月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/10-%E5%86%85%E5%88%86%E6%B3%8C%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85%E3%81%A8%E7%B3%96%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E7%95%B0%E5%B8%B8%E7%97%87/%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85%E6%80%A7%E3%82%B1%E3%83%88%E3%82%A2%E3%82%B7%E3%83%89%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9-dka?query=%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85%E6%80%A7%E3%82%B1%E3%83%88%E3%82%A2%E3%82%B7%E3%83%89%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9(最終アクセス:2025年06月18日) (文献2) Glucagon Physiology. NCBI https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK279127/(最終アクセス:2025年06月18日) (文献3) Diabetic ketoacidosis. Mayo Clinic https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/diabetic-ketoacidosis/symptoms-causes/syc-20371551?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月18日) (文献4) 金澤 康.「搬送時に糖尿病性ケトアシドーシスを呈し,治療開始前に著明な脳浮腫を認めた成人糖尿病の1例」『症例報告』, pp.1-7 https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/60/4/60_288/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年06月18日) (文献5) CEREBRAL EDEMA IN DIABETIC KETOACIDOSIS. PEDIATRIC, pp.1-6 https://achpccg.com/wp-content/uploads/2021/06/tms-picuc-physician-diabetic-ketoacidosis-cerebral-edema-dka-guideline.pdf(最終アクセス:2025年06月18日) (文献6) Nicole Glaser. (2019). 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2025.06.29 -
- 脳梗塞
- 脳卒中
- 頭部
「脳梗塞の後遺症で手足が動かしづらくなった」 「筋肉がつっぱってうまく歩けない」 痙縮や麻痺があると、服の着脱や階段の上り下り、立ち上がりといった動作も困難になり、こうした症状により、日常生活の質(QOL)は大きく低下します。このような状態に対して注目されているのがボトックス注射です。 ボトックスは美容だけでなく、医療でも活用されており、痙縮の軽減を目指す選択肢のひとつです。本記事では、脳梗塞の痙縮・麻痺に対するボトックスの効果や影響について現役医師が詳しく解説します。 脳梗塞後の痙縮・麻痺に対するボトックスの効果・影響 ボトックスの効果・影響 詳細 筋緊張と痙縮による違和感の軽減 筋肉の過剰な収縮を抑え、不快なつっぱり感やこわばりの軽減 日常生活動作(ADL)の向上とリハビリテーションの促進 動作しやすい状態の維持による着替え・歩行・排泄などの日常動作の改善 拘縮の予防 関節可動域の維持と筋肉の柔軟性保持による拘縮の進行抑制 脳梗塞後にみられる痙縮は、筋肉が異常に緊張し、手足のつっぱりや動かしにくさを引き起こします。 ボトックス治療は、ボツリヌストキシンを緊張した筋肉に注射し、神経から筋肉への信号を一時的に遮断することで、過剰な収縮を抑えます。これにより筋緊張が緩和され、痙縮によるこわばりや不快感が軽減されます。 ただし、ボトックス治療は脳梗塞そのものを治すものではなく、痙縮の改善やリハビリ効果の向上を目的とした補助的な治療です。 以下の記事では、医療ボトックスについて詳しく解説しています。 筋緊張と痙縮による違和感の軽減 項目 内容 痙縮のメカニズム 脳梗塞に伴う神経障害により筋肉の過度な緊張、関節を動かしにくくなる状態 ボトックスの作用機序 神経から筋肉への伝達物質(アセチルコリン)をブロック、筋肉の過剰な収縮の抑制 筋緊張の緩和 筋肉のつっぱりやこわばりの軽減、関節の可動域拡大 違和感の軽減 動作のしやすさ向上、日常生活の動作(ADL)の改善、リハビリ効果の向上 治療のポイント 効果の持続期間(約3~4カ月)、副作用や禁忌事項の確認、リハビリとの併用の重要性 (文献1) 脳梗塞の後遺症として現れる痙縮は、筋肉が自分の意思とは関係なく突っ張り、動かしにくくなる状態です。 ボトックスは、過剰に緊張した筋肉に直接注射することで、神経から筋肉への信号を一時的に遮断し、筋肉の過度な収縮を抑える作用があります。 その結果、手足のつっぱりやこわばりが和らぎ、安静時に感じる不快感や違和感の軽減が期待されます。ボトックスの効果は一時的なため、定期的な治療が必要です。継続して行うことで、痙縮の負担を軽減し、より自然な動作や姿勢の維持につながります。 日常生活動作(ADL)の向上とリハビリテーションの促進 項目 内容 痙縮による日常生活動作(ADL)の制限 手足の動きの制限、食事・着替え・歩行・排泄などの日常生活動作の困難 ボトックスの効果 筋肉の過度な緊張の緩和、手足の動かしやすさの向上 日常生活動作(ADL)の改善 食事、更衣、排泄、入浴、移動など基本動作のしやすさ リハビリテーション効果 筋肉の柔軟性向上、関節の可動域拡大、機能回復の促進 介護負担の軽減 補助動作のしやすさ、介護者の負担軽減、生活の質の向上 治療のポイント 効果の持続期間、副作用や禁忌事項の確認、リハビリとの併用の重要性 (文献2) ボトックス治療によって筋肉の緊張が緩和されると、関節の可動域が広がり、手足が動かしやすくなります。筋緊張を抑えることでこうした動作が改善され、リハビリの効果を引き出しやすくする点でも重要です。 また、着替えや入浴、歩行といった日常生活動作(ADL)が改善され、患者自身の自立度が向上します。筋肉のつっぱりが減ることでリハビリテーションが行いやすくなり、リハビリ効果の向上も期待できます。治療とリハビリを組み合わせることが、生活機能の維持・向上に欠かせません。 拘縮の予防 項目 内容 痙縮と拘縮の関係 脳梗塞後の筋肉の過度な緊張による痙縮、長期間続くことで筋肉や関節の硬化、可動域の制限、拘縮の発生 拘縮による影響 日常生活動作(ADL)の制限、違和感の発生、生活の質の低下 ボトックスの作用機序 筋肉を動かす神経からの伝達物質(アセチルコリン)のブロック、過剰な筋収縮の抑制 筋緊張の緩和 関節の可動域拡大、動作のしやすさ向上、痙縮による違和感や不快感の軽減 拘縮の予防 筋肉の柔軟性維持、関節の可動域保持、リハビリ効果の向上 リハビリとの併用 筋肉の柔軟性維持、機能回復の促進、拘縮予防の強化 痙縮が長期間続くと、筋肉が縮こまった状態で固まり、関節が動かなくなる拘縮へ進行するケースがあります。医療ボトックスは、拘縮の進行を抑えるための手段として有効です。 筋肉の過度な収縮を抑えることで、関節や筋肉が適度に動く状態を保ちやすくなります。その結果、拘縮の発生リスクを軽減できる可能性があります。拘縮を完全に防ぐことはできませんが、進行を遅らせる手段として医療現場で広く活用されている治療法です。 【脳梗塞】ボトックス治療を受ける際の注意点 注意点 詳細 禁忌事項に該当する方は治療不可 特定の持病やアレルギー歴、妊娠・授乳中などに該当する場合の治療制限 効果の持続と再投与の必要性 効果が一時的であり、数カ月ごとの定期的な再注射の必要性 筋力低下や表情の変化 意図しない筋肉への影響による一時的な動かしづらさや見た目の変化 副作用と体調不良のリスク 注射部位の腫れ・違和感、全身倦怠感・軽度の発熱などの一時的な体調変化 医療ボトックス治療を受けるにあたっては、いくつかの注意点があります。禁忌事項に該当する方は治療を受けられず、持病や妊娠中などの条件で制限がかかる場合もあります。 また、効果は一時的で定期的な再投与が必要です。副作用として筋力低下や全身の倦怠感などが現れる可能性があります。そのため、治療を受ける際は、事前に医師の診断が不可欠です。 禁忌事項に該当する方は治療不可 該当する方 起こり得るリスク 主な副作用の内容 妊婦・授乳中の方、妊娠の可能性がある方 胎児・乳児への影響の懸念 使用に関する有効性・影響が明確になっていないためのリスク ボトックスに対してアレルギーがある方 アナフィラキシーの危険性 全身のアレルギー反応 神経筋接合部の疾患をもつ方(例:重症筋無力症など) 筋力低下の悪化 全身性筋肉麻痺、嚥下障害、呼吸困難 筋弛緩剤を内服中の方 筋肉への作用の過剰な増強 筋力低下、嚥下障害、呼吸困難 ボトックス治療は、すべての方が受けられるわけではありません。全身性の筋力低下を引き起こす疾患(重症筋無力症など)がある方や、過去にボトックスに対して強いアレルギー反応を起こした経験がある方は、原則として治療が行えません。 また、妊娠中や授乳中の方も胎児や乳児への影響を考慮し、治療の適応外とされます。治療前には、既往歴や現在の内服薬、体調を医師に漏れなく伝える必要があります。副作用のリスクを避け、適切な治療方針を立てるためにも、事前の問診と診察が非常に重要です。 効果の持続と再投与の必要性 項目 内容 効果の持続期間 注射後2~3日から効果発現、3~4カ月持続 効果減弱後の状態 時間経過とともに効果減弱、再び注射前の筋緊張や痙縮の状態に戻る 再投与の必要性 効果維持のため3~4カ月ごとの定期的な再注射 再投与間隔の注意点 投与間隔が短すぎると抗体産生による効果減弱のリスク ボトックスは一度の注射で効果が長く続く治療ではなく、一般的に効果の持続はおおよそ3〜4カ月程度とされています。効果が薄れてくると、再び痙縮の症状が強くなることがあるため、定期的な再投与が必要です。 治療のタイミングや回数は、症状の強さや部位、日常生活への影響などを考慮し、医師と相談しながら決定されます。また、繰り返しの投与により耐性が形成され、効果が減弱する可能性があります。そのため、毎回の診察で効果や副作用の有無を確認しながら、必要最小限の量で適切な頻度を保つことが大切です。効果の維持には、ボトックス単独ではなくリハビリとの併用が推奨されます。 筋力低下や表情の変化 症状 主な原因 起こり得る影響 過度な筋力低下 注射部位や注入量が適切でない場合 嚥下困難、首や肩・顎まわりの筋力低下 表情の変化 表情筋への過剰な注射、注入位置の不均衡 額や眉間のこわばり、笑顔の不自然さ、左右差の発生 ボトックスは筋肉の動きを一時的に抑えるため、目的以外の筋肉にも影響が及ぶと、思わぬ筋力低下や表情の変化が起こることがあります。腕や手の筋肉に注射した際、力が入りづらくなることがあり、日常の細かな動作に影響を及ぼすこともあります。 顔周りに使用した場合には、表情が作りづらく感じることもあるため、適切な部位選定と投与量の調整が重要です。とくに高齢の方や筋力の低下が進んでいる方では、必要以上の筋弛緩が起きないよう、慎重な治療設計が求められます。 副作用と体調不良のリスク 副作用・リスク 内容 過度な筋力低下や脱力 投与量や注射部位による筋力低下、手足の動かしにくさや全身の脱力感 嚥下障害や呼吸困難 のみ込みづらさや呼吸しにくさ、とくに神経筋疾患や大量投与時の重篤なリスク 注射部位の腫れ・赤み・皮下出血 注射部位の一時的な腫れ、赤み、皮下出血、不快感 全身症状や体調不良 倦怠感、頭痛、めまい、発熱、吐き気、食欲不振などの全身的な体調変化 アレルギー反応 発疹、かゆみ、顔やまぶたの腫れ、呼吸困難、アナフィラキシーショックなど生命に関わる重篤な症状 (文献3)(文献4) ボトックス治療には、注射部位に軽い腫れや内出血、違和感が生じることがあります。また、ごく稀に全身のだるさ、頭重感、軽い発熱などの体調不良を伴う場合があります。 これらの副作用は一時的で自然におさまることが多いものの、症状が強い場合や長引く場合には、速やかに医師へ相談してください。 とくに初回は体の反応が不明なため、当日は激しい運動や長時間の外出を避け、安静に過ごすことが望まれます。持病の有無や他の治療との兼ね合いも考慮が必要なため、体調管理と医師との連携が重要です。 【ボトックス以外】脳梗塞後の痙縮・麻痺を軽減するための治療法 治療法 詳細 注意点 保存療法 ストレッチ・温熱・運動療法による筋緊張の軽減と関節可動域の維持 即効性は乏しく、継続的な取り組みが必要 薬剤療法 筋弛緩薬や抗不安薬による神経伝達の調整と痙縮の緩和 眠気や倦怠感などの副作用に注意が必要 再生医療 幹細胞を用いた神経や筋肉の修復・再生による根本的な機能回復の可能性 対象施設に制限があり、効果や適応に個人差があるため事前確認が必要 痙縮や麻痺の治療には、症状や目的に応じてさまざまな方法があります。ストレッチなどの保存療法から薬による症状の緩和、さらには再生医療による機能回復を目指す方法まで、治療の選択肢は多岐にわたります。それぞれの特徴と注意点に対する理解が大切です。 以下の記事では、脳梗塞の後遺症について詳しく解説しています。 保存療法 保存療法の種類 目的・効果 主な方法や特徴 持続伸長(ストレッチ) 筋肉や腱の短縮・関節拘縮の予防・改善 徒手ストレッチ、装具使用、段階的ギプス固定(シリアルキャスティング) 装具療法 不良肢位の矯正、関節可動域の保持、動作能力の維持 手足の変形予防や矯正のための装具使用 FES(電気刺激療法) 麻痺筋の活性化、痙縮緩和、随意運動の再建 筋肉への電気刺激による収縮促進、日常生活動作(ADL)向上への活用 振動刺激 筋肉の緊張緩和、ストレッチ・運動訓練の補助 痙縮筋への局所的な振動刺激 姿勢修正・バランス訓練 過度な筋緊張や二次障害の予防、全身の安定性向上 正しい座位・立位姿勢の保持、体幹や四肢のバランス改善 (文献5) 保存療法とは、手術や注射を用いず、日常のケアやリハビリによって症状の軽減を目指す治療法です。脳梗塞後の痙縮や麻痺に対しては、ストレッチや運動療法、温熱療法などが組み合わされます。 ストレッチでは、固くなった筋肉を定期的に伸ばすことで、拘縮の進行を防ぎ、関節の可動域を保ちます。また、温熱療法は血流を促進し、筋肉のこわばりを和らげるのに有効です。 運動療法では、麻痺した部位に刺激を与えながら、筋肉の再学習を促すことで、生活動作の改善を目指します。保存療法は即効性こそありませんが、根気強く続けることで効果が出やすく、ボトックスなど他の治療との併用で相乗効果も期待できます。 薬剤療法 治療法 主な目的・効果 特徴・注意点 中枢性筋弛緩薬(経口薬) 脳や脊髄の神経活動の抑制による全身の筋緊張の緩和 チザニジン・バクロフェンなどを内服、副作用(脱力・眠気)に注意 バクロフェン髄注療法(ITB療法) 脊髄への直接投与による強い痙縮の緩和 少量で高い効果、副作用が少なく重度の痙縮に適応 神経ブロック療法 神経伝達の遮断による筋肉の異常収縮の抑制 フェノールやアルコールを使用、特定の部位に注射 ボツリヌス療法(ボトックス注射) 局所的な筋緊張の緩和と動作の改善 注射による効果は3~4カ月持続、繰り返しの投与が必要 (文献1) 痙縮の症状が強い場合には、内服薬による治療も選択肢です。バクロフェンやチザニジンなどの筋弛緩薬は、脳や脊髄から筋肉への過剰な信号を抑制し、筋肉のつっぱりの緩和に効果を示します。 ジアゼパムなどの抗不安薬は、筋緊張だけでなく精神的な緊張の緩和にも役立ちます。これらの薬剤は、眠気や倦怠感などの副作用が現れることがあるため、医師の管理下での使用が不可欠です。 ボトックス注射や保存療法と組み合わせることで、日常生活の負担軽減やリハビリ効果の向上が期待できます。薬物療法だけに頼らず、複数の治療法を組み合わせて総合的に症状のコントロールを目指すことが重要です。 再生医療 脳梗塞後の痙縮や麻痺に対する再生医療は、従来の治療では改善が難しかった後遺症に対して、新たな選択肢となる治療法です。 患者自身の骨髄や脂肪から採取した幹細胞を体内に戻すことで、損傷した神経や血管の修復・再生が促され、麻痺や痙縮の改善が期待されます。さらに、幹細胞治療とリハビリとの併用で、より高い回復効果が期待できます。ただし、治療の効果や適応には個人差があるため、医師との相談が重要です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 ボトックスでは改善しにくい脳梗塞後の痙縮・麻痺に再生医療というアプローチ ボトックスは痙縮の一時的な緩和に有効ではあるものの、すべての症状に効果はありません。筋肉のこわばりだけでなく、脳や神経の損傷が原因となっている場合には、根本的な改善が難しいこともあります。ただし、ボトックス治療に加えて適切なリハビリや他の治療を継続することで、脳梗塞による後遺症を軽減できる可能性があります。 ボトックス治療を含む脳梗塞後の後遺症についてのお悩みは、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、脳梗塞後の後遺症に対するアプローチとして、再生医療をご提案することも可能です。 再生医療は、患者自身の幹細胞を使って損傷した神経や組織の再生を促す治療法です。神経機能の回復や関節の可動域改善が期待でき、原因に直接働きかける新たな治療の選択肢として注目されています。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 脳梗塞によるボトックス治療に関するよくある質問 脳梗塞によるボトックス治療はどの診療科で受けられますか? 脳梗塞によるボトックス治療は、以下の診療科で実施しています。 診療科名 主な特徴と役割 脳神経内科 脳卒中後の痙縮や麻痺に対する薬物療法の専門、ボトックス治療の実施 脳神経外科 脳卒中などの神経障害後の症状に対する治療、ボトックス治療の実施 リハビリテーション科 ボトックス治療と併用したリハビリによる機能回復の支援 受診前には、医療機関のホームページや電話で診療情報を事前に確認しておきましょう。 ボトックス治療後に日常生活にすぐ戻れますか? 脳梗塞後の痙縮や麻痺に対するボトックス治療後は、基本的に当日から日常生活に戻れます。ただし、治療効果を安定させ、副作用を防ぐためにいくつかの注意が必要です。 治療当日は激しい運動を避け、飲酒も控えましょう。アルコールは薬剤の拡散を促す可能性があるため、24〜72時間の間は控えることが推奨されます。また、サウナや長時間の入浴など高温環境は避け、注射部位を揉んだり擦ったりしないようにしましょう。 日常生活の中で少しでも異変を感じた場合は、速やかに医師に相談してください。 ボトックス治療を受けるとリハビリは不要ですか? ボトックスは痙縮を緩和する治療であり、リハビリの代わりになるものではありません。むしろ、ボトックスによって筋肉の過緊張が和らぐことで、リハビリが行いやすくなり、より効果的な訓練が可能になります。 治療後にリハビリを適切に行うことで、関節の動きや筋力の維持・改善を図るなど、生活機能の向上につながります。 ボトックス治療に健康保険は適用されますか? 脳梗塞後の痙縮に対するボトックス治療は、一定の条件を満たすことで健康保険が適用されます。たとえば、診断名が明確で、痙縮によって日常生活に支障があると医師が判断した場合などが該当します。 保険が適用されると、自己負担は通常1〜3割となりますが、治療の内容や施設によって異なるため、事前に確認しておきましょう。また、障害者手帳や特定疾患の医療費助成制度を活用できるケースもあり、経済的な負担を軽減できる可能性があります。 参考資料 (文献1) 最先端の医療をお伝えする活動推進委員会「脳卒中の今」先進医療.net, 2012年3月26日 https://www.senshiniryo.net/stroke_c/01/index.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月17日) (文献2) 医療法人社団永生会「ボツリヌス(ボトックス)療法」医療法人社団永生会 https://www.eisei.or.jp/clinic/eiseiclinic-gairai/botulinum/?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月17日) (文献3) 一般社団法人日本小児神経学会「Q35:ボツリヌス(ボトックス)治療の副作用について教えてください。」一般社団法人日本小児神経学会, https://www.childneuro.jp/general/6502/(最終アクセス:2025年06月17日) (文献4) 金久研究所「医療用医薬品 : ボトックス」KEGG, https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00058180(最終アクセス:2025年06月17日) (文献5) 松元 秀次.「論最新のリハビリテーション-痙縮のマネジメント-」『2007 年/第 2 回 リハビリテーション科専門医会 学術集会/札幌』巻(号), pp.1-7,2008年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/45/9/45_9_591/_pdf(最終アクセス:2025年06月17日)
2025.06.29 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
- その他、整形外科疾患
「医療ボトックスの効果を知りたい」 「医療ボトックスを打ち続けると、どうなるのか心配」 医療ボトックスを検討しているものの、「副作用が心配」「一度始めたらやめられなくなるのでは」と不安を感じていませんか。ボトックス治療は主に医療目的で使用され、症状の緩和や生活の質の向上に効果が期待できます。 一方で、「続けるうちに効きにくくなる」「中止すると症状が戻り悪化する」といった情報に不安を感じる方も少なくありません。正しい知識を持ち、自分に合った治療かどうか、慎重に判断しましょう。 本記事では、現役医師が医療ボトックスについて詳しく解説します。 医療ボトックスの効果 医療ボトックスを打ち続けるとどうなるのか 医療ボトックスをやめるとどうなるのか 医療ボトックスの副作用 医療ボトックスの治療期間 本記事の最後には、医療ボトックスに関するよくある相談について回答していきますので、ぜひ最後までご覧ください。 医療ボトックスとは 医療ボトックスは、ボツリヌス菌由来のタンパク質(ボツリヌス・トキシン)を少量注射し、筋肉の過剰な緊張や動きを一時的に抑える治療法です。 主に痙攣、筋肉のこわばり、多汗症、顎関節症、歯ぎしりなどの症状改善や機能回復を目的として用いられ、美容目的とは異なり、症状によっては健康保険の適用もあります。 効果は通常、注射後1〜2週間で現れ、1〜2カ月でピークに達します。その後、3〜6カ月ほど持続し、徐々に効果が薄れていきます。効果を維持するには、3〜6カ月ごとに注射を継続するのが一般的です。効果の持続期間や治療間隔には個人差があるため、実施前に医師への相談が不可欠です。 以下の記事では、脳梗塞に対してのボトックス効果について詳しく解説しています。 医療ボトックスの効果 期待できる効果 詳細 筋肉の過剰な緊張や痙縮の緩和 神経伝達の遮断による筋肉の収縮抑制 眼瞼けいれん・片側顔面けいれんの改善 けいれんを起こす筋肉の動きの抑制 多汗症の治療 発汗を促す神経信号の遮断による汗の抑制 顎関節症や歯ぎしりの緩和 咬筋の過活動抑制による顎や歯への負担軽減 医療ボトックスは、過剰に働く筋肉や神経の異常な伝達を一時的に抑えることで、症状を緩和する治療法です。もともとは眼瞼けいれんや斜視などの神経疾患に対して開発されましたが、現在では痙縮、顔面けいれん、多汗症、顎関節症、歯ぎしりなど、幅広い症状に対して効果が認められています。 注射により筋肉や汗腺の働きを抑え、日常生活への支障を軽減することが期待されます。効果は3〜6カ月程度持続します。効果や持続期間には個人差があるため、医師と相談の上で継続的に治療することが重要です。 筋肉の過剰な緊張や痙縮の緩和 適応疾患 症状の特徴 ボトックスの作用 期待される効果 痙性斜頸 首の筋肉が勝手に収縮し、頭が傾く・ねじれる状態 異常な筋肉の動きを抑制 姿勢の改善、違和感や不快感の軽減 脳性麻痺による運動障害 手足の筋肉がこわばり、動かしにくくなる状態 筋肉の緊張を和らげ、動きをスムーズにする 関節の可動域改善、歩行や手の動作の向上 脳卒中、脳性まひ、脊髄損傷などの後遺症では、筋肉がこわばり、思うように動かせなくなる痙縮(けいしゅく)と呼ばれる症状が現れることがあります。医療ボトックスは、過剰に収縮している筋肉への信号を一時的にブロックすることで筋肉の緊張を緩和する治療法です。 この作用により、関節の動かしやすさが改善し、日常動作がスムーズになるケースもあります。リハビリの効率が高まり、より効果的な訓練が可能となるのも利点のひとつです。また、強い筋緊張によって起こる違和感や変形、皮膚トラブルを防ぐ効果も期待されています。 このような症状に対するボトックスの効果は3〜4カ月ほど続き、時間の経過とともに効果が薄れ、徐々に元の状態に戻ることがあります。 再発を防ぐには、症状に応じて定期的な注射を検討することが大切です。適切なタイミングと用量で継続することで、生活の質の向上が見込めます。 眼瞼けいれん・片側顔面けいれんの改善 疾患名 症状の特徴 ボトックスの作用 期待される効果 眼瞼けいれん まぶたのけいれん、勝手に閉じてしまう状態 眼輪筋の異常収縮の抑制 まぶたの開けやすさの改善、けいれんの軽減 片側顔面けいれん 顔の片側の筋肉のピクピクとした不随意な動き 顔面筋の過剰な緊張やけいれんの抑制 表情のゆがみの軽減、不快感の改善 眼瞼けいれんは、まぶたが無意識にピクピク動いたり、強く閉じてしまう症状で、まぶしさや目の疲れ、視界の遮りを引き起こすことがあります。片側顔面けいれんは、顔の片側にけいれんが生じ、笑ったり話したりすると症状が強まるのが特徴です。いずれも筋肉の異常な収縮が原因とされ、医療ボトックスは有効な治療法です。 けいれんを起こしている筋肉にボトックスを注射することで、神経から筋肉への信号を一時的に抑え、不随意な動きを一定期間抑える効果があります。 効果は注射後2〜5日で現れ始め、2〜4週間で最大となり、2〜4カ月持続します。症状や筋肉の反応を見ながら、定期的に治療を行うことで、日常生活の不便を大きく軽減できる可能性があります。 多汗症の治療 医療ボトックスは、多汗症の原因となる神経の働きを一時的に抑え、汗の分泌を軽減する治療法です。脇や手のひらなど汗が気になる部位に注射することで、2〜3日後から効果が現れます。 効果は通常4〜9カ月続くため、再発時には定期的な治療が必要です。手術とは異なり、傷跡が残らず日常生活への影響もほとんどありません。発汗を抑えることで、日常の不快感や精神的なストレスの軽減に大きく役立ちます。 顎関節症や歯ぎしりの緩和 症状・効果 ボトックス治療の作用 顎関節症の緩和 咬筋の緊張を抑制し、顎関節への負担軽減。違和感や開口障害、クリック音の改善 歯ぎしり・食いしばりの軽減 無意識の歯ぎしり・食いしばりの減少。歯や顎関節へのダメージ予防 歯の摩耗や補綴物の破損予防 噛む力の抑制による歯のすり減りや詰め物・被せ物の破損リスク低減 顔の輪郭の変化 咬筋のボリューム減少によるエラ張りの改善。フェイスラインのすっきり感 効果の持続 効果は通常3~6カ月持続。時間経過とともに徐々に元の状態へ戻る。定期的な再注射で効果維持 治療の特徴 治療時間は短く、ダウンタイムほとんどなし。個人差あり 顎関節症や歯ぎしり(ブラキシズム)は、睡眠中の強い食いしばりや日中の無意識な筋緊張によって、顎やこめかみの違和感、咬筋の発達、歯のすり減りなどを引き起こす症状です。 これらに対して医療ボトックスを用いることで、噛む筋肉である咬筋の過剰な収縮を一時的に抑え、食いしばりや歯ぎしりの頻度や強さを軽減できます。 咬筋の緊張が緩和されることで、顎の違和感や開口障害が改善し、歯や関節への負担も軽減します。効果は3~6カ月程度持続し、筋緊張の軽減によりフェイスラインがすっきりする場合もあります。 治療を受ける際は、目的や副作用を十分に理解し、医師と相談しながら進めることが重要です。 医療ボトックスを打ち続けるとどうなる? 打ち続けると起こりうるリスク 詳細 効果の変化と抗体形成のリスク 抗体の産生により薬剤が効きにくくなる可能性 表情の変化や筋力低下の可能性 周囲の筋肉への影響による違和感や動きの制限 効果の減弱と元の状態への回帰 薬の効果が切れることで症状が再発する可能性 副作用のリスク 内出血・違和感・頭痛・倦怠感などが現れる可能性 医療ボトックスは効果の持続期間が限られているため、症状のコントロールには定期的な注射が必要です。ただし、長期間の治療に対して効果が薄れたり副作用が蓄積されたりすることに不安を感じる方も少なくありません。 実際には、ボトックスは時間とともに体外に排出されるため、成分が身体に蓄積することはありません。ただし、稀に抗体による効果の減弱、または表情の変化・筋力低下などの副作用が起こる可能性があります。そのため、治療は医師と相談の上、適切な間隔と投与量で行うことが求められます。 効果の変化と抗体形成のリスク 医療ボトックスは、筋肉の動きを一時的に抑えることで、しわやエラ張り、食いしばりなどの改善に用いられます。効果は通常3〜6カ月持続し、薬剤が分解されると徐々に筋肉の動きが戻るのが特徴です。継続的に適切な間隔(目安は3カ月以上)で治療を受けることで、効果が期待できます。筋肉が萎縮することで1回ごとの効果が長く続く場合もあります。 短期間に頻繁な注射を繰り返すと、ボトックスに対する抗体ができて効果が弱まるため、自己判断で注射の間隔を詰めるのは避け、必ず医師の指示に従うことが大切です。また、効果の変化には筋肉の状態や生活習慣も関係するため、定期的に診察を受け、治療間隔や投与量を調整しながら無理のない継続治療を行いましょう。 表情の変化や筋力低下の可能性 ボトックスは、筋肉の動きを一時的に抑えることでしわやたるみを改善しますが、同じ部位に繰り返し注射を行うと、表情筋の動きが制限されやすくなります。笑顔が不自然に見えたり、表情が乏しく感じられたりするのは、筋肉が長期間動かないことで徐々に萎縮し、筋力が落ちるためです。 また、咬筋などの大きな筋肉に繰り返し注射をすると、フェイスラインがすっきりする一方で、噛む力が弱くなるといった筋力低下も起こる可能性があります。額や目元などの部位では、表情のバリエーションが減ることもあります。 ボトックスの効果は3~6カ月程度持続し、回数を重ねることで効果が長く続く傾向がありますが、治療の頻度が高すぎると、副作用や表情の不自然さが目立ちやすくなります。そのため、3〜4カ月以上の間隔を空けることが、自然な表情と筋力を保つためには、重要です。 無理に回数を増やすのではなく、医師と相談の上、適切な量とタイミングで治療を継続することが、健康的で自然な仕上がりを保つポイントです。 効果の減弱と元の状態への回帰 医療ボトックスの効果は通常3〜4カ月程度持続し、時間とともに徐々に消失します。治療を中止すると、抑えられていた筋肉の活動が回復し、もともとの症状が元に戻る可能性があります。 たとえば、痙縮やけいれん、多汗症、食いしばり・歯ぎしりなどが再び現れることがあります。これは、薬の効果が切れて神経と筋肉の伝達が元に戻るためです。中には、再開後すぐに十分な効果が得られにくいケースもありますが、多くは再投与によって症状が再び緩和されます。 一方で、治療を中断しても症状が軽度のまま維持される場合もあるため、無理に継続せず一度経過を観察する選択も可能です。症状の戻り方には個人差があるため、医師と相談しながら、症状の経過に応じて柔軟に治療方針を決めていくことが大切です。 副作用のリスク 副作用の種類 内容と注意点 注射部位の腫れ・内出血・むくみ 針を刺すことで一時的に現れる反応。通常は数日〜1週間で自然に消失 アレルギー反応 発疹、赤み、かゆみ、息苦しさなど。ごく稀に発症し、早めの医師相談が必要 表情の違和感・筋力低下 筋肉の動きが抑制されることで起こる違和感や噛む力の低下。過剰投与でリスク増加 左右差や皮膚のたるみ 筋肉の使い方の偏りや注射の入り方による影響。個人差あり 頭痛・めまい・吐き気 一部の方に起こる全身症状。多くは軽度かつ一時的 嚥下障害・呼吸困難 首や咽頭周囲への注射、大量投与でごく稀に報告される重篤な副作用 医療ボトックスには、副作用のリスクがあります。注射部位に腫れや内出血、赤み、軽い違和感が出ることがありますが、これらは一時的で自然におさまることがほとんどです。まれに、隣接する筋肉に薬剤が拡がることで、意図しない筋力低下や表情の変化が起こることもあります。 また、ボトックスに対してアレルギー反応を示す人もごく少数ながら存在し、息苦しさや発疹などが現れる場合もあります。副作用の有無や治療前後の体調変化に気づいた際は、速やかに医療機関へ相談することが大切です。 医療ボトックスをやめるとどうなる? やめると起こりうる症状 詳細 もとに戻る可能性がある 抑えられていた症状の再発 見た目の変化に対する違和感 シワや輪郭の戻りによる印象の変化 筋肉の活動が再開する けいれんや緊張など筋肉の動きの再出現 医療ボトックスを中止すると、薬の効果が切れるのに伴い、神経と筋肉の伝達が徐々に元の状態へ戻ります。その結果、けいれんや痙縮、過度な発汗、歯ぎしりなど、これまで抑えられていた症状が再発する可能性があります。 ただし、症状が悪化するというよりは、治療前の状態に戻ると考えるのが一般的です。症状の戻り方や強さには個人差があり、すぐに再発する場合もあれば、一定期間は落ち着いた状態が続くこともあります。また、長期間治療を継続していた方ほど、効果が切れた際に見た目や感覚の変化に強い違和感を感じることがあります。 治療を継続するか中止するかは、症状の経過や日常生活への影響を踏まえ、医師と相談しながら柔軟に判断することが大切です。 もとに戻る可能性がある ボトックスは、筋肉にA型ボツリヌストキシンを注射し、神経と筋肉の伝達を一時的に遮断することで、筋肉の動きを抑え、しわ・エラ張り・食いしばりなどの症状を軽減する治療です。 ただし、効果は一時的で、通常3〜6カ月程度で薬剤が分解され、神経伝達が回復します。すると筋肉が再び動き始め、治療前の状態に戻る可能性が高くなります。 元に戻る現象は、ボトックスが筋肉を破壊するのではなく、動きを一時的に抑える仕組みであるためです。たとえばエラボトックスを中止すると、咬筋が再び発達し、エラ張りや食いしばりが戻ることがあります。治療を中止しても症状が悪化したり、老化が進むことはありません。 また、長期間(数年〜十数年)ボトックスを継続したごく一部のケースでは、筋肉の動きが弱まる廃用性萎縮に似た状態が起こることがありますが、非常に稀です。多くの場合は中止により自然回復します。継続治療を希望する場合は、症状や目的に応じて医師と相談し、適切なタイミングと頻度での治療が推奨されます。 見た目の変化に対する違和感 医療ボトックスの効果は3〜6カ月ほどで徐々に消失し、筋肉の動きが元に戻ります。それに伴い、しわやエラの張り、フェイスラインなどが治療前の状態に近づいていきます。 これはボトックスの効果が自然に切れた結果であり、異常ではありません。治療中の若々しく整った見た目に慣れていると、効果が切れて元の状態に戻ったときに老けた印象や疲れた印象を受けやすくなります。見た目が悪化したわけではなく、治療前の状態に戻っただけです。 また、長期間ボトックスを続けていた場合は、筋肉の動きが抑えられていた分、効果が切れたときに違和感を強く感じやすくなります。こうした見た目の変化は副作用ではなく、心理的なギャップによるものです。治療を中止する際は、あらかじめ医師と相談し、必要に応じて他の治療を検討することで、違和感を抑えながら自然な変化に対応できます。 筋肉の活動が再開する 医療ボトックスの効果は一時的で、3〜6カ月ほどで神経と筋肉のつながりが回復し、抑えられていた筋肉の活動が再開します。これは、神経から筋肉への信号をブロックするボトックスの作用が切れ、神経枝が再生するためです。 筋肉の動きが戻ると、けいれんや痙縮、歯ぎしりなどの症状が再び現れることがありますが、これは自然な反応であり異常ではありません。もともと症状が強かった人では、変化に違和感や不安を覚えることもあります。 ボトックスは筋肉を壊す薬ではないため、基本的に機能は元に戻ります。ただし、長期間にわたる連続使用では、まれに筋肉が使われにくくなり、萎縮が見られることもあります。再治療が必要かどうかは、症状や生活への影響を見ながら判断し、医師と相談の上で治療方針を決めることが大切です。 医療ボトックスの副作用 副作用 詳細 局所的な副作用 注射部位の腫れ・赤み・内出血・違和感など 筋力低下や動作の制限 力が入りにくい・動かしづらい感覚の一時的出現 全身的な副作用 頭痛・倦怠感・吐き気・まれにアレルギー反応など 医療ボトックスは高い治療効果が期待できる一方で、副作用の可能性もあります。多くは軽度かつ一時的なもので、注射部位の腫れ、赤み、内出血、違和感などが見られますが、通常は数日以内に自然に改善します。 注射する部位や筋肉の範囲によっては、表情が不自然に感じられたり、噛みにくさ、飲み込みにくさが出ることもあります。さらに、非常にまれではありますが、アレルギー反応、全身のだるさ、頭痛、吐き気などが起こるケースもあるため注意が必要です。これらの症状が現れた場合は、早めに医師へ相談することで適切に対応できます。 また、以下のような方にはボトックス治療は推奨されません。(文献1) 神経筋接合部の障害(例:重症筋無力症)を持つ方 妊娠中または授乳中の女性(影響が十分に明らかになっていないため) 副作用への理解を深め、体調や持病に応じて医師と十分に相談しながら治療を進めることが、医療ボトックスの活用につながります。 局所的な副作用 副作用の種類 主な原因 詳細 腫れ・内出血 注射針の刺激・血管損傷・身体の反応 注射時の物理的刺激による反応。多くは軽度で数日以内に自然に消退する 刺激・違和感 皮膚や筋肉への刺激・注入圧 注射直後に生じやすい一時的な感覚。数時間から数日で改善 赤み・かゆみ・発疹 アレルギー反応や炎症反応 ごく稀に発生する。軽度で短期間の経過が多い 副作用の対策 技術・衛生管理・事前の体調確認 適切な治療とリスク管理で副作用の頻度や重症化を最小限に抑えることが可能 医療ボトックスの局所的な副作用は、注射による物理的な刺激や体の自然な防御反応が原因で起こることがほとんどです。腫れ、内出血、違和感などは一時的な症状であり、通常は数日以内に自然に治まります。まれにかゆみや発疹、赤みが見られることもありますが、これらも軽度で、アレルギー反応としてはごく稀なケースです。 副作用を最小限に抑えるには、施術者の技術や衛生管理、アレルギー歴の確認が不可欠です。副作用が長引く場合や不安を感じた際は、早めに医師へ相談することが重要です。 筋力低下や動作の制限 ボトックスによる筋力低下や動作の制限は、神経から筋肉への信号が一時的に遮断されることで起こります。これは、しわを目立たなくするために筋肉の動きを抑える作用によるものです。 その結果、注射部位の筋肉に力が入りにくくなることがあります。ただし、これらの反応は一時的であり、時間の経過とともに自然に回復します。 これらは薬の効果が持続する2~4カ月間の一時的な変化です。ただし、左右差や違和感が強い場合は、早急に医療機関を受診しましょう。 全身的な副作用 副作用の種類 原因・仕組み 特徴・注意点 頭痛 神経伝達の変化・炎症反応・筋緊張バランスの乱れ 多くは軽度で一時的。数日以内に自然に軽快 アレルギー反応 ボツリヌストキシンや添加物への免疫反応 発疹、かゆみ、腫れ。稀にアナフィラキシーなどの重篤反応 呼吸困難・嚥下困難 薬剤の過量・全身への広がり・基礎疾患の影響 重症筋無力症や呼吸器疾患のある方はとくに注意。異常を感じたら早期受診が必要 倦怠感・だるさ 神経や筋肉への作用による一時的な全身的影響 軽度で自然に回復することが多い 心臓への影響 ごく稀に報告される自律神経系や循環器系への影響 不整脈や心不全の既往がある方は慎重な判断が必要 医療ボトックスは主に局所に作用する治療ですが、ごく稀に全身的な副作用が現れることがあります。頭痛や倦怠感は比較的よく見られますが、多くは軽度で数日以内に自然に改善します。 稀にアレルギー反応として発疹やかゆみが出ることがあり、重症の場合はアナフィラキシーを起こす可能性もあるため注意が必要です。また、薬剤が広がることで呼吸や嚥下に関わる筋肉に作用し、呼吸困難や全身の筋力低下を引き起こすことがあります。 とくに、神経筋疾患や呼吸器疾患のある方には慎重な対応が求められます。症状が強く現れたり長引いたりする場合は、速やかに医師へ相談してください。 医療ボトックスの治療期間 項目 内容 効果発現時期 注射後2週間ほどで効果出現。1〜2カ月目にピーク 効果持続期間 通常3〜4カ月持続。その後徐々に消失 治療間隔・頻度 3〜4カ月ごとに年数回の注射が一般的 抗体形成リスク 過度な頻度での投与は抗体形成による効果減弱リスク増加 治療の目的 一時的な症状改善。根本治癒目的ではない 治療計画の調整 症状や目的、個人差に応じて調整。医師との継続的な相談が不可欠 (文献2) 医療ボトックスの効果は、注射後2週間ほどで現れ始め、1〜2カ月目に効果のピークを迎えます。効果は通常3〜4カ月持続し、その後徐々に消失します。症状の改善を継続したい場合は、3〜4カ月ごとに年数回の注射を繰り返すことが一般的です。ボトックスはあくまで一時的な治療であり、根本治癒を目的とするものではありません。効果を持続させるには、長期的な治療と定期的な経過観察が必要です。 治療間隔や期間は、症状や目的、個人差に応じて調整されます。無理のない治療計画を立てるためにも、医師との継続的な相談が重要です。 医療ボトックスで改善しない症状に再生医療という新たな選択肢 医療ボトックスは多くの神経筋疾患や過活動による症状に対して効果が期待できますが、すべての症状に適応するわけではありません。 たとえば、筋肉の損傷が進んでいる場合や、神経に重度の障害がある場合には、ボトックス単独では十分な改善が得られないことがあります。こうしたケースで注目されているのが再生医療です。 再生医療は、自己の幹細胞などを用いて損傷した組織や神経の修復を目指す治療法です。ボトックスでは改善が難しい症状に対して、新たな選択肢として注目されています。ただし、すべての症状が再生医療で改善するわけではなく、治療の適応や効果は症状によって異なります。 医療ボトックスに関するお悩みは、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、医療ボトックスに関するご相談に対応しており、症状やご希望に応じて再生医療のご提案も可能です。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 医療ボトックスに関するよくある相談 医療ボトックスに関しての相談はどの診療科へするべきでしょうか? 医療ボトックスは、適応となる症状や疾患によって相談先の診療科が異なります。対応する診療科は以下を参考に受診ください。 主な症状・疾患 対応する診療科 顔面けいれん・眼瞼けいれん 神経内科、脳神経外科 手足の痙縮(脳卒中後など) リハビリテーション科、整形外科 多汗症(腋窩・手のひら・足の裏など) 皮膚科、形成外科、耳鼻咽喉科 咬筋の緊張・食いしばり・歯ぎしり 歯科口腔外科、矯正歯科 美容目的(表情じわ、エラ張りなど) 美容皮膚科、美容外科 ボトックス治療を実施しているかどうかは医療機関によって異なるため、事前にホームページや電話で確認するとスムーズです。 医療ボトックスの治療を受ける前に確認すべきポイントはありますか? 医療ボトックスの治療を受ける前に以下の7点をしっかり確認しましょう。 確認項目 内容 1.信頼できる医療機関か 症例数、製剤の種類、衛生管理、アフターケア体制を確認する 2.カウンセリングの内容 希望や不安を伝え、リスクや副作用の説明をしっかり受ける 3.持病や服薬の申告 神経筋疾患、重い心疾患、肝障害がある場合は治療できないことがある 4.妊娠・授乳の有無 妊娠中・授乳中・妊娠希望の方は治療を避ける 5.当日の体調管理 発熱や不調がある日は治療を延期する 6.薬や飲酒の管理 飲酒は控える。抗凝固薬や一部の薬は事前に医師へ申告する 7.治療前の準備 顔のバランスや筋肉の状態を医師が確認してから注射を行う 上記以外にも不安な点がある場合は、医師に事前に相談することが大切です。 医療費控除は適用されますか? 医療ボトックスが医療費控除の対象となるかどうかは、治療目的か美容目的かによって判断されます。医療費控除の対象となるケースとしては、歯ぎしり、食いしばり、顎関節症、多汗症など、医師の診断に基づく治療目的のボトックスは、医療費控除の対象です。確定申告時に、診断書や治療内容が記載された領収書を提出することで、控除を受けられます。 一方、医療費控除の対象外となるケースは、小顔やしわ取り、ガミースマイル改善など、美容を目的とした治療は医療費控除の対象にはなりません。また、医療費控除は、1月1日から12月31日までの1年間に支払った医療費が一定額(通常10万円)を超えた場合、その超過分が控除されます。 治療目的であることを証明できるよう、診断書や領収書は必ず保管しておきましょう。 参考資料 (文献1) アッヴィ合同会社 アラガン・エステティックス「医療用医薬品 : ボトックスビスタ」 KEGG データベース, 2025年3月 https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00056431(最終アクセス:2025年06月16日) (文献2) 医療法人社団永生会「ボツリヌス(ボトックス)療法」医療法人社団永生会 https://www.eisei.or.jp/clinic/eiseiclinic-gairai/botulinum/(最終アクセス:2025年06月16日)
2025.06.29 -
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「ALS(筋萎縮性側索硬化症)は食べ物が原因なのでは?」 「化学調味料は身体に有害と聞いたけど、実際どうなのか?」 外食や加工食品を頻繁に摂取する人の中には、「食べ物がALS(筋萎縮性側索硬化症)の原因ではないか」と不安を抱く方もいるでしょう。なかでも、化学調味料がALSを引き起こす噂が広まっており、不安に感じる方も少なくありません。 本記事では、ALSの原因と食べ物との関係について、現役医師が科学的根拠に基づいて解説します。記事の最後には、ALSの原因となり得る食べ物に関するよくある質問もまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 ALSと食生活の関係性は?科学的に見た因果関係 項目 内容 明確な原因食の有無 現時点でALSの原因となる特定の食品は確認されていない グルタミン酸の影響 神経細胞に影響を及ぼす、興奮毒性の可能性が一部で指摘されている グルタミン酸ナトリウムの評価 通常の摂取量であれば、健康リスクはないと評価されている 食品添加物のリスク 適量であればALSを含む神経疾患との因果関係は認められていない 推奨される食生活 極端な摂取を避け、栄養バランスの取れた食事を継続する (文献1)(文献2) ALSと食生活の関連についてはさまざまな説がありますが、現在の科学的知見では、特定の食べ物がALSの原因になる証拠は確認されていません。うま味成分として使われるグルタミン酸や味の素に含まれるグルタミン酸ナトリウムも、通常の摂取量であれば健康への悪影響はないとされています。 ただし、ALSの発症には遺伝や環境要因などが複雑に関与しており、日常的な食生活で過度に心配しすぎる必要はありません。神経の健康維持には、バランスの良い食事を心がけることが大切です。 ALSの原因になりうる食べ物 食品・調味料 詳細 グルタミン酸を含むうま味調味料 味の素などに含まれるグルタミン酸ナトリウム。通常の摂取量では健康リスクはないとされているが、ALS患者の一部ではグルタミン酸の代謝異常が指摘されていることもある BMAAを含む可能性がある食品 藍藻類(シアノバクテリア)に含まれる神経毒性物質。特定地域での摂取との関連が報告されているが、日本の食環境での曝露リスクは極めて低いとされる 鉛や水銀などの重金属を含む食品 一部の大型魚介類などに含まれることがある。過剰摂取で神経に影響を与える可能性があるが、通常の食生活で可能性は低い 現在のところ、特定の食品がALSを引き起こす明確な科学的根拠はありません。一方では、神経毒性物質との関連が一部研究で示唆されています。たとえば、うま味調味料に含まれるグルタミン酸、藍藻由来のBMAA、一部の魚介類に含まれる重金属などがあげられます。 ですが、通常の摂取量でリスクが高まるとは考えにくく、食事に過度な不安を抱える必要はありません。普段からバランスの良い食生活を意識することが大切です。 グルタミン酸を含んでいる調味料 項目 内容 グルタミン酸毒性仮説 脳や脊髄でグルタミン酸が過剰になると運動神経細胞が過剰に刺激され、細胞死を招く仮説があるが、現時点では因果関係を裏付けるエビデンスは不足している ALS患者のグルタミン酸異常 脳脊髄液や細胞外液でグルタミン酸濃度が高い傾向。アストロサイトや受容体の異常も関与しているのではないかといわれている グルタミン酸ナトリウムとの関連 食品添加物として広く利用。摂取がALSリスクになるとの誤解が生まれやすい 明確な科学的根拠 通常の食事や調味料の使用量でALSリスクが上がる明確な証拠はない (文献1)(文献3) ALSの発症メカニズムのひとつに、グルタミン酸毒性仮説があります。これは、神経伝達物質であるグルタミン酸が過剰に存在することで神経細胞が過度に刺激され、細胞死が引き起こされる考え方です。 ALS患者の一部では脳脊髄液中のグルタミン酸濃度の上昇や、グルタミン酸を回収するアストロサイトの機能低下が確認されています。 こうした背景から、うま味調味料に含まれるグルタミン酸ナトリウムとの関連が取り沙汰されることがありますが、経口摂取されたグルタミン酸が直接脳に影響するわけではありません。現時点では、グルタミン酸の摂取がALSリスクを高める科学的証拠はありません。 BMAA(β-N-メチルアミノ-L-アラニン)を含む食品 項目 内容 神経毒性作用 BMAAは運動ニューロンの興奮性受容体を介して毒性を示し、長期間の摂取で神経細胞死を引き起こす可能性がある 疫学的観察 グアム島や紀伊半島南部などでALS・PDCが多発し、BMAAを含む食物(ソテツやそれを食べた動物)が伝統的に摂取されてきた 生体内蓄積の報告 グアムのALS・PDC患者の脳内にBMAAが高濃度で蓄積している例が報告されている 動物実験での再現 BMAAを投与されたラットでは神経変性や運動障害が認められ、ALSモデル動物として利用される 科学的限界 すべてのALS患者にBMAA蓄積があるわけではなく、地域や食習慣に依存した限定的なリスク因子と考えられている (文献4)(文献5)(文献6)(文献7) BMAA(β-N-メチルアミノ-L-アラニン)は、藍藻や一部の珪藻が産生する天然の神経毒性アミノ酸で、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経疾患との関連が指摘されています。グアム島や紀伊半島南部などでは、BMAAを含む植物やそれを食べた動物を摂取する文化があり、患者の脳内からBMAAが検出された例も報告されています。 動物実験でも神経障害を引き起こすことが確認されていますが、すべてのALS患者に該当するわけではありません。日本の一般的な食生活ではBMAAへの曝露はごくわずかであり、現時点では普遍的なリスク因子である確定的な結論は得られていません。 鉛や水銀などの重金属を含む食品 項目 内容 重金属の神経毒性 鉛や水銀は神経細胞の機能障害や炎症、酸化ストレス、ミトコンドリア障害、タンパク質の異常蓄積などを引き起こすことが報告されている 疫学調査・症例報告 鉛や水銀への曝露とALS発症リスクの上昇を示す研究や、ALS患者の生体試料で重金属濃度が高いケースが報告されている 地域性や生活習慣との関連 特定地域で飲料水や食事を通じた重金属曝露が多く、ALS患者の血液や髪の毛から高濃度の鉛や水銀が検出されている 他疾患との関連 鉛や水銀はALSだけでなく、アルツハイマー病など他の神経変性疾患との関連も指摘されている 因果関係の整理 重金属曝露とALS発症リスクの相関関係は示されているが、直接的な因果関係を証明するデータは現時点でない 食品を通じた曝露例 大型魚介類(マグロ、カジキ等)に水銀、土壌汚染を受けた野菜や穀物に鉛が蓄積することがある (文献8)(文献9)(文献10) 鉛や水銀などの重金属は神経への毒性が強く、長期間体内に蓄積すると神経細胞の障害や酸化ストレス、ミトコンドリア異常などを引き起こすことが知られています。これらの重金属が神経変性に関与する可能性が示唆されており、魚介類や飲料水などを通じた環境因子との関連も指摘されました。 特定地域では、飲料水や食事を通じて重金属に曝露される機会が多く、疫学調査でも重金属曝露とALS発症率の相関が報告されています。また、米国神経学会第69回年次総会で発表された予備研究によると、魚に含まれる水銀の摂取量が多いグループでは、ALSの発症率が少ないグループの2倍に上昇する調査結果もあります。(文献10) ただし、これらの研究は相関関係を示しているにとどまり、重金属がALSの普遍的な原因であるとは断定できません。通常の食生活でリスクは高くありませんが、汚染源を避けた食品選びが大切といえます。 ALSを予防・抑制するための食習慣 食習慣 詳細 注意点 高カロリー・高脂肪食の摂取 進行に伴う体重減少を補う目的でカロリー摂取を意識する。オリーブオイルや魚の脂に含まれる良質な脂肪が推奨されている 栄養バランスを考慮し、自己判断での極端な摂取は避け、医師や管理栄養士の指導のもとで行うこと 高GI・高GL食品の摂取 糖質によるエネルギー確保の手段として、一部で取り入れられている 糖尿病や血糖異常がある場合はリスク増大。医師と相談しながら適切な範囲で活用する 食物繊維と水分の摂取 運動量低下による便秘予防として、野菜や果物、海藻類の摂取が推奨されている 摂り過ぎは下痢や腹部膨満の原因になるため、適量を守り医療者の助言を得ること 嚥下機能に応じた食事形態の調整 嚥下障害に対応し、誤嚥を防ぐためにとろみ付けやきざみ食などの工夫を行う 誤嚥性肺炎のリスクを避けるため、医師や言語聴覚士の評価を受けて実施する ALSの進行に伴い、体重減少や便秘、嚥下障害などの栄養面での問題が生じやすくなります。これに対しては、高カロリー・高脂肪の食事、食物繊維と水分の十分な摂取、嚥下機能に応じた食事形態の調整が有効とされています。 これらの食事法がALSの進行を確実に抑える明確な根拠はなく、過剰な摂取や自己判断での食事変更は避けるべきです。ALSの栄養管理は、医師の指導のもと、個々の状態に合わせて適切に行うことが重要です。 高カロリー・高脂肪食の摂取 項目 内容 代謝亢進によるエネルギー不足 ALS患者の多くが代謝亢進状態となり、通常より多くのエネルギーが必要。高カロリー・高脂肪食で不足分を補う 体重減少と生命予後の関連 体重減少が進行や生命予後の悪化に関与する。高カロリー・高脂肪食で体重維持や増加を目指すことが重要 進行の速い患者への効果 高脂肪食の追加で生存期間延長や体重維持が認められた臨床試験の報告あり。とくに進行が速い患者で有効性が示唆 脂質代謝異常との関連 ALSでは脂質代謝異常が進行の予測因子。高カロリー・高脂肪食による栄養療法が生命予後改善に寄与する可能性 (文献11)(文献12) ALSでは発症初期から代謝が活発になり、通常より多くのエネルギーを消費するのが特徴です。間接カロリーメーターによる測定でも、約40%の患者が病初期に代謝亢進状態にあり、1日の総消費エネルギー量は25〜40kcal/kgと高いことが報告されています。(文献12) この代謝亢進は生命予後不良の予測因子とされ、エネルギー不足による体重減少や筋力低下を防ぐため、高カロリー・高脂肪食の摂取が推奨されることがあります。とくに進行が速い患者では体重維持や生存期間延長が期待されていますが、根本的なエビデンスは十分ではありません。 また、過剰摂取は糖尿病や脂質異常症など他の病気を引き起こす可能性もあるため、医師の指導のもとで行うことが大切です。 高GI・高GL食品の摂取 項目 内容 ALS患者の代謝特性 安静時でもエネルギー消費が多く、体重減少が進行因子となる傾向 高GI・高GL食品の特徴 白米やパン、じゃがいもなど。短時間で血糖とエネルギーを上げやすい食品群 摂取の意義 少量で効率よくエネルギーを補える利点がある。進行抑制との関係が示唆されている 注意点 根本的なエビデンスは乏しく、過剰摂取で生活習慣病リスクもあるため、医師の指導が必要 (文献11) ALSでは病気の影響により代謝が亢進し、体重減少が進行や予後の悪化に関与するとされています。高GI・高GL食品(白米、パン、じゃがいもなど)は、消化吸収が速く、短時間で効率的にエネルギーを補えるため、食事量が限られがちなALS患者にとって有用と考えられています。近年の研究では、これらの食品を多く摂取していた患者で進行が緩やかだった報告もあります。(文献11) ただし、こうした栄養戦略の有効性については根本的なエビデンスがまだ十分とはいえず、過剰摂取は糖尿病や肥満など他の疾患リスクを高める可能性もあります。自己判断での摂取は避け、医師や管理栄養士と相談しながら、個々の状態に応じた適切な量を取り入れることが重要です。 便秘予防のための食物繊維と水分の摂取 項目 内容 ALSと便秘の関係 筋力低下・活動量減少・嚥下障害による便秘発生 便秘の影響 QOL低下、不快感、食欲不振の原因 食物繊維の効果 水溶性:便をやわらかくし善玉菌増加 不溶性:便のかさ増・腸運動促進 水分摂取の効果 便をやわらかくし排便をスムーズに。脱水は便秘や食欲低下の悪循環原因 摂取の注意点 食物繊維は水分と一緒に摂取、過剰摂取は便秘悪化の恐れ 便秘対策の基本 バランスの良い食事、十分な水分、適度な運動、排便習慣の確立 (文献2)(文献13) ALSでは筋力の低下や活動量の減少により、便秘が起こりやすくなります。便秘は日常生活の質(QOL)を下げるだけでなく、食欲不振や不快感の原因にもなるため、予防と対策が重要です。水溶性食物繊維は便をやわらかくし、不溶性食物繊維は腸の動きを促すことで、排便を助けます。これらの効果を高めるには、1日2リットル程度の水分摂取が目安です。 ただし、食物繊維を摂りすぎると便秘が悪化するおそれがあるため、過不足のないバランスが大切です。排便習慣の確立や適度な運動もあわせて取り入れることで、ALS患者の便秘予防とQOL向上に役立ちます。 嚥下機能に応じた食事形態の調整 項目 内容 誤嚥・窒息リスクの軽減 嚥下機能に応じたとろみ付けや刻み食による誤嚥防止 栄養・水分摂取量の確保 疲労や食事量減少への対応として食形態を工夫 QOL(生活の質)の維持 食べやすさを保ちつつ、食事の満足感を維持 進行抑制・予後の改善 低栄養・体重減少の予防による進行リスクの抑制 工夫の具体例 ペースト状・とろみ付き・ゼリー状の活用による飲み込みやすさの向上 (文献14)(文献15) ALSの進行に伴い、多くの患者で嚥下障害が現れ、誤嚥や窒息、低栄養、脱水のリスクが高まります。固形食や水分の摂取が困難になるため、ペースト状やゼリー状、とろみをつけた食事へ調整することで、無理なく摂取できるようになります。 嚥下の負担を軽減することで、食事量や水分量の維持が可能となり、体重減少や予後の悪化を防ぐ一助になります。とくに、細かく刻んだ食事よりも、まとまりのある形態の方が飲み込みやすい場合も多く、個々の状態に応じた工夫が重要です。食事形態の調整は、栄養状態の管理だけでなく、生活の質を保つためにも早期からの対応が求められます。 ALSの原因となりうる食べ物を把握して食生活に気をつけよう 現在、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の発症に直接関与する特定の食品や添加物は、科学的に明確には特定されていません。 そのため、特定の食品を過剰に避けるのではなく、栄養バランスの取れた食生活を継続することが、健康的な体調管理において重要です。疑わしい症状や不安がある場合は、医師に相談し、適切な検査や指導を受けましょう。 また、症状の進行や体調の変化に応じた適切な栄養管理を行うことで、日常生活の質(QOL)を維持しやすくなります。 食生活の不安や疑問がある方は、ぜひ当院「リペアセルクリニック」までご相談ください。当院では、ALSに関する具体的な栄養指導や、患者様一人ひとりに合わせた食事支援を行っております。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 ALSの原因になる食べ物についてよくある質問 紀伊半島でALSの発症が多いのは飲食物と関係があるのでしょうか? 紀伊半島南部、とくに古座川地区や穂原地区は、世界的にALSの多発地域として知られています。この地域では、遺伝子変異による家族性ALSに加え、グアム島型に類似した病理を示す孤発性ALSの症例も報告されています。(文献16) グアム島では、ソテツの実に含まれる神経毒BMAAや、それを摂取した動物の食用が発症リスクと考えられてきました。一方、紀伊半島においては、水や特定の食品などの飲食物とALSの関連を示す明確な証拠は、これまでの疫学調査では確認されていません。(文献4) 現時点では、紀伊半島でのALS多発には遺伝的要因や地域特有の病理が関与していると考えられており、環境要因や生活習慣を含めたさらなる研究が必要とされています。 ALSの原因は食べ物以外に何がありますか? ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、食べ物だけでなく、さまざまな要因が複雑に関与して発症すると考えられています。まず、ALSの約90%は孤発性(遺伝とは関係のない発症)であり、約10%は家族性で、SOD1、C9orf72、FUS、TARDBPなどの遺伝子変異が関与しています。 また、紀伊半島やグアム島など特定地域で発症率が高いことも、環境要因の存在を示唆していますが、明確な原因物質は特定されていません。(文献4) さらに、神経細胞の老化、グルタミン酸の代謝異常、酸化ストレス、ミトコンドリア機能障害、タンパク質分解の異常など、生物学的・分子的な異常もALSの発症に関与していると考えられています。現在では、遺伝的要因・環境因子・加齢など、複数の要素が長期にわたり相互作用する多因子モデルが有力視されており、ALSは、単一の原因で発症する疾患ではないと考えられています。 以下の記事では、ALSの原因について詳しく解説しております。 特定の栄養素の不足がALSの発症に影響を与えることはありますか? 特定の栄養素の不足がALS(筋萎縮性側索硬化症)の発症リスクを直接的に高めるという明確な証拠は、現時点では確認されていません。ただし、栄養不良や特定の栄養素の欠乏が、ALSの進行や生命予後に悪影響を及ぼすことは多くの研究で示されています。(文献17) ALS患者の一部では、嚥下障害や筋力低下、代謝亢進の影響により、エネルギーやたんぱく質、ビタミン・ミネラルが不足しやすくなります。 筋力や免疫機能の低下、全身状態の悪化を招き、症状の進行や予後の悪化につながる可能性があります。たとえば、たんぱく質やエネルギー不足は筋肉量の低下を招き、ビタミンB群、鉄、亜鉛、カルシウムなどの欠乏は神経・筋機能に悪影響を及ぼすとされています。また、L-アルギニンなどのアミノ酸補給により、体重維持や予後改善が期待される報告もあります。(文献17) 参考資料 (文献1) 公益財団法人長寿科学振興財団「筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因」健康長寿ネット, 2016年7月25日 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/als/shindan.html(最終アクセス:2016年06月16日) (文献2) 中島健二ほか.「筋萎縮性側割索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023」『南江党』, pp.1-311, 2023年 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdf/als_2023.pdf?20231212(最終アクセス:2016年06月16日) (文献3) 柴田 亮行ほか.「筋萎縮性側索硬化症における興奮性神経毒性に関する研究」『新潟大学脳研究所「脳神経病理標本資源活用の先端的共同研究拠点」共同利用・共同研究報告書』, pp.1-2 https://www.bri.niigata-u.ac.jp/uploads/2013/07/2220%E6%9F%B4%E7%94%B0H24.pdf(最終アクセス:2016年06月16日) (文献4) 小久保康昌.「紀伊半島の家族性認知症-パーキンソン症候群における」『厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)三重県南部に多発する家族性認知症-パーキンソン症候群 発症因子の探索と治療介入研究班(分担)研究報告書』, pp.1-47 https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2012/123151/201231159A_upload/201231159A0012.pdf(最終アクセス:2016年06月16日) (文献5) JTS 国立研究開発法人科学技術復興機構「J-GLOBAL」BMAAの新たな科学:シアノバクテリアは神経変性疾患に関与しているか?, 2021年3月 https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201202250044503100(最終アクセス:2016年06月16日) (文献6) 草間(江口)國子.「天然物に由来する運動神経疾患に関する研究―ニューロラチリズムを中心に―」, pp.1-7, 2018年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/139/4/139_18-00202/_pdf(最終アクセス:2016年06月16日) (文献7) 株式会社エクスメディオ「L-BMAA処理ラットで見られる形態計測および神経化学的変化」Bibgraph(ビブグラフ), 2015年4月22日 https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/26002186?click_by=rel_abst(最終アクセス:2016年06月16日) (文献8) Free Peter E A Ash, et al. (2023) Heavy Metal Neurotoxicants Induce ALS-Linked TDP-43 Pathology. Oxford Academic https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30371865/(最終アクセス:2016年06月16日) (文献9) 紀平 為子.「科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書」『科研費』, pp.1-6, 2013年 https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-22590967/22590967seika.pdf(最終アクセス:2016年06月16日) (文献10) Mercury in Fish, Seafood May Be Linked to Higher Risk of ALS. American Academy of Neurology: Neurology Resources | AAN https://www.aan.com/PressRoom/Home/PressRelease/1522(最終アクセス:2016年06月16日) (文献11) 日本神経摂食嚥下・栄養学会「ALSにおける栄養療法 UP TO DATE(2013/07)」日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会, 2013年 https://www.jsdnnm.com/column/als%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E6%A0%84%E9%A4%8A%E7%99%82%E6%B3%95%E3%80%80up-to-date%EF%BC%88201307%EF%BC%89/?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2016年06月16日) (文献12) 株式会社日本医事新報社「筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する栄養療法について」日本医事新報社, 2024年6月17日 https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=24463&utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2016年06月16日) (文献13) 著者名,著者名.「ALS(筋 萎縮性側索硬化症)」『特集:神経筋疾患における入工呼器 治療のリスクマネジメント』, pp.1-3, 2002年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/iryo1946/56/5/56_5_271/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2016年06月16日) (文献14) 兵庫県難病相談センター「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」兵庫県難病相談センター https://agmc.hyogo.jp/nanbyo/ncurable_disease/disease05_shiryo.html(最終アクセス:2016年06月16日) (文献15) 清水 俊夫.「筋萎縮症側索硬化症(ALS)の嚥下障害,栄養障害とその対策*」『特集/シンポジウム18:筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療の最前線–4』, pp.1-5,2023年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/40/4/40_580/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2016年06月16日) (文献16) 小久保康晶ほか.「紀伊半島南部に多発するALSとALS-parkinsonism-dementina complexに関する診療マニュアル」, pp.1-31, 2019年 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdf/als_pdc.pdf(最終アクセス:2016年06月16日) (文献17) 公益財団法人難病医学研究財団「筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)」難病情報センター, 2023年 https://www.nanbyou.or.jp/entry/52(最終アクセス:2016年06月16日)
2025.06.29 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
「最近、肩こりがひどくてつらい」 「ふくらはぎが重だるくて動きにくい」 これらの一見ありふれた症状は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の初期症状として挙げられます。 ALSはごく軽い身体の違和感から始まることもあり、日常生活でよくある症状のため、見過ごされやすい点が特徴です。 本記事では、ALSについて現役医師が詳しく解説します。 ALSの初期症状 ALSが発症する原因 ALSの治療法(進行の抑え方) 本記事の最後には、ALSに関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは ALS(筋萎縮性側索硬化症)の概要 詳細 ALSの病気の詳細 運動神経が障害されることにより、筋肉が徐々にやせ細り、力が入らなくなる進行性の神経疾患 ALSの初期症状 手足が不自由になる、筋肉の収縮、話しにくい、飲み込みにくさがある、左右どちらかから始まることが多い ALS発症からの余命 発症から3〜4年が一般的、個人差が大きく10年以上生存する例もあり ALSになりやすい人 50~70歳代に多く、男性にやや多い、家族歴がある場合は遺伝性の可能性 ALSの完治の有無 完治は困難、進行を遅らせる薬や症状緩和の治療、生活の質向上をめざす治療が中心 進行しても残る機能 視力・聴力・感覚は保たれる、目や排尿排便の筋肉は初期には障害されにくい 治療薬 リルゾール、エダラボン、トフェルセンなど 支持療法 リハビリテーション、栄養管理、呼吸補助 今後の治療開発 遺伝子治療、再生医療、医療機器開発など研究進行中 (文献1)(文献2) ALSは、運動神経が障害されることで筋肉が萎縮し、動かしにくくなる進行性の神経疾患です。初期症状には手足の使いにくさや筋肉の収縮、話しにくい、飲み込みにくさがあり、左右いずれかから始まることが多いです。 余命は発症から3〜4年が一般的ですが、進行には個人差があり、10年以上生存される方もいます。発症しやすいのは50~70歳代の男性で、家族歴がある場合は遺伝性の可能性も考えられます。 現在、ALSを完治させる治療法はありません。しかし、進行を遅らせる薬やリハビリ、栄養管理、呼吸補助などで生活の質を保つ治療が行われています。今後の治療法の進展が期待されます。 ALSの初期症状 初期症状 詳細 筋萎縮 指先や足先の力が入りにくくなり、日常動作に支障をきたす。徐々に筋肉が痩せてくる 筋肉のびくつき(線維束性収縮) 静止時に筋肉がピクピクと動く。とくに手足に多く、意識しなくても動くのが特徴 筋肉のこわばりや痙攣 関節まわりが固まり、身体が動かしにくくなる。痙攣を伴う場合もある 筋肉の疲れやすさと脱力感 軽い運動でも疲れやすく、動作の途中で力が抜ける感覚がある 肩こりや関節に違和感がある 筋力低下による姿勢の崩れや負担で、肩や関節に違和感や重だるさを覚えることがある ALSの初期症状は、筋力低下や筋萎縮、筋肉のびくつき、こわばりや痙攣、疲労感や脱力感、肩こりや関節の違和感など多岐にわたります。これらは運動神経の障害によって現れ、最初は身体の一部に限局していても、徐々に全身へ広がっていきます。 ALSは進行が止まらない、比較的早く進む神経疾患です。個人差はありますが、複数の症状が同時に現れる場合や進行が早い型も存在します。初期症状が気になる場合は、早めの受診が重要です。 筋力低下と筋萎縮 症状 原因 筋力低下 運動神経細胞の障害による筋肉への命令の伝達不全 筋萎縮 筋肉への刺激減少による使用機会の減少と筋肉量の低下 症状の始まり方 手足などの一部の筋肉から進行する局所発症 進行の特徴 筋力の低下と筋萎縮が広がり、全身の運動機能が次第に障害される特徴 日常生活への影響 細かい作業や歩行困難、生活動作の制限の拡大 (文献3)(文献4) ALSでは、運動をつかさどる神経細胞(運動ニューロン)が障害されることで、筋肉を動かす命令が届かなくなります。そのため、筋肉が使われにくくなり、力が入りにくくなる筋力低下が起こります。 筋肉が十分に刺激を受けない状態が続くことで筋萎縮が生じ、このような症状は手足などの限られた部位から始まり、やがて全身へと広がるのが特徴です。進行に伴い、歩行や食事などの日常動作が難しくなり、生活の質にも大きく影響を与えます。筋力低下と筋萎縮は、ALSの初期から見られる大切なサインです。 筋肉のびくつき(線維束性収縮) 項目 詳細 運動ニューロンの障害 ALSで運動ニューロンが徐々に壊れていき、筋肉に動くための命令が届かなくなる現象 筋力低下の仕組み 運動ニューロンからの信号が途絶え、筋肉が動かせなくなり、物を持つ・歩くなどが困難になる状態 筋萎縮の仕組み 筋肉が使われない状態が続き、筋肉のボリュームが減り、見た目にも細くなる現象 具体的な症状 初期は手や足で力が入りにくい、細かい作業がしづらい、歩きにくいなどが現れる 進行と影響 筋力低下や筋萎縮が全身に広がり、日常生活に大きな影響が及ぶ ALSでは、初期症状として筋肉のびくつき(線維束性収縮)がみられることがあります。これは皮膚の上から確認できるような、小さな筋肉のピクつきや細かな動きです。 原因は筋肉自体の異常ではなく、筋肉を動かす運動神経が障害されることによって起こります。運動ニューロンが壊れ始めると、一部の筋線維が異常に興奮し、自発的に動くようになるのが特徴です。 線維束性収縮は、筋力低下や筋萎縮に先行して現れることがありますが、ストレスや疲労などでも一時的に起こることがあるため、これだけでALSとは限りません。 ALSではこのびくつきが長く続き、次第に筋力低下や萎縮へと進行します。気になる症状がある場合は、早急に医療機関を受診しましょう。 筋肉のこわばりや痙攣 項目 詳細 運動ニューロン障害 上位・下位運動ニューロンの変性による筋肉への信号制御の崩壊 筋肉のこわばり(硬直・痙性) 上位運動ニューロンの抑制信号消失による筋肉の緊張状態の持続 筋肉の痙攣(びくつき・痙性) 下位運動ニューロンの過剰興奮による自発的収縮・ピクつき現象 症状の現れ方 四肢や体幹にこわばりや痙攣が生じ、違和感や動作の困難を伴う場合もある 日常生活への影響 歩行や身体の動きの制限、就寝時の不快感や睡眠障害などの誘発 (文献4) ALSでは、脳や脊髄の上位・下位運動ニューロンが進行性に障害され、筋肉への正常な制御信号が途絶します。筋肉のこわばり(痙性硬直)は、上位運動ニューロンから筋肉への抑制信号が失われることで起こり、筋肉が緊張状態に陥るためです。 一方、痙攣やびくつき(線維束性収縮)は、下位運動ニューロンの異常興奮により、筋線維が意図せず自発的に短時間収縮する現象です。これらは小規模なピクつきから筋痙攣として自覚されることもあります。 こうした症状はALSの初期から四肢や体幹に広がりやすく歩行や動作を困難にし、夜間には痙攣による不快感や睡眠障害を引き起こすこともあります。 こわばり・痙攣は、筋力低下や筋萎縮と並行して進行するALS特有の経過であり、気になる症状がある場合は、早期に医療機関を受診して適切な検査と対策を受けることが重要です。 筋肉の疲労感と脱力感 症状 詳細 筋肉の疲労感 運動神経からの信号が弱まり、筋肉の活動効率が低下し、少しの動作でも疲れやすくなる現象 筋肉の脱力感 筋肉が十分に使われなくなり、力が入りにくくなり、物を持つ・歩くなどの動作が難しくなる状態 筋肉の萎縮や硬直 筋肉が使われないことでやせ細り、硬直も進行し、疲労感や脱力感をさらに強める要因 症状の広がり 初期は身体の一部で始まり、進行とともに全身へ広がる特徴 (文献2) ALSでは、脳や脊髄の運動神経が障害されることで、筋肉に司令がうまく伝わらなくなります。そのため筋肉の活動効率が低下し、日常の動作でもすぐに疲れやすくなるのが筋肉の疲労感の正体です。 筋肉が使われなくなると、力が入りにくくなり、脱力感として自覚されます。さらに、筋肉の萎縮や硬直も進行し、これらの症状を強める要因となります。 ALSの初期症状は体の一部から始まり、進行とともに全身へ広がるのが特徴です。進行スピードには個人差がありますが、症状が止まることなく進行するため、早めの受診と対応が重要です。 肩こりや関節に痛みを感じる ALSの初期には、肩こりや関節の違和感、筋肉痛を感じることがあります。これらの症状は、運動神経の障害によって筋肉や関節に余分な負担がかかることで起こるのが特徴です。 筋力が低下すると、使われなくなった筋肉の代わりに他の筋肉や関節に負担がかかり、その結果、肩こりや違和感が生じます。さらに、筋肉が意図せず動いたり、つったりする痙攣も、不快感の原因です。 筋肉の萎縮が進むと動きがぎこちなくなり、無意識に体の一部に力が入り続けることで、肩や関節への負担が増します。また、筋肉を必要以上に使いすぎたり、逆に動かさなくなることでも痛みが起こることがあります。 これらの症状は、年齢による変化や他の病気と区別がつきにくいため、長く続く場合は早めに医療機関を受診してください。 ALSが発症する原因 原因 詳細 遺伝子異常 一部のALSは遺伝によるもので、特定の遺伝子の変化が神経細胞に影響を与える 酸化ストレス 体内で過剰に発生した活性酸素が神経細胞を傷つけ、機能を低下させると考えられている グルタミン酸毒性 神経伝達物質のグルタミン酸が過剰に働き、神経細胞に負担をかけて壊してしまう ミトコンドリア機能不全 細胞内のエネルギーをつくる働きが弱くなり、神経細胞が生きていく力を失っていく タンパク質の異常な蓄積(凝集) 本来分解されるべきたんぱく質が細胞内に溜まり、神経の働きを妨げる ALSの発症要因は複数あり、現在も研究が進められています。中でも、神経細胞を守る働きが弱まることが重要な要因です。 たとえば、遺伝子の異常、活性酸素による酸化ストレス、神経伝達物質の過剰な作用などが重なり、運動神経が徐々に壊れていきます。さらに、エネルギーをつくるミトコンドリアの機能低下や、異常なたんぱく質の蓄積も神経細胞を障害します。 これらの要因は単独ではなく、複数が同時に進行することが多いため、早期の対応が必要です。症状に気づいた段階で医師に相談することが、進行を遅らせるための第一歩となります。 以下の記事では、ALSの原因になる可能性のある食べ物について詳しく解説しています。 遺伝子異常 ALSの発症には多くの要因が関与しますが、中でも遺伝子異常は明確な原因のひとつです。全体の約5%を占める家族性ALSでは、家族内で複数人が発症し、これまでに30種類以上の原因遺伝子が報告されています。(文献2)(文献5) 代表的な遺伝子には、SOD1、C9orf72、TARDBP、FUSなどがあります。異常なたんぱく質の蓄積や、細胞保護機能の喪失により、運動神経が障害され、筋力低下や筋萎縮といった初期症状が現れるのが特徴です。 家族歴のない孤発性ALSにも、感受性遺伝子や環境要因が複雑に関与していると考えられています。 酸化ストレス 原因 詳細 酸化ストレス 活性酸素やフリーラジカルが過剰になり、運動神経細胞のDNAやタンパク質、脂質などを傷つける SOD1遺伝子異常 SOD1酵素の異常で活性酸素の分解がうまくいかず、酸化ストレスが高まる ミトコンドリア障害 酸化ストレスがミトコンドリアの機能を損ない、神経細胞のエネルギー産生が低下する 環境因子 化学物質や重金属、喫煙・飲酒などの生活習慣も酸化ストレスを増やしALSリスクに関与 (文献2)(文献6) ALSの発症原因として酸化ストレスが挙げられるのは、活性酸素などの有害な物質が運動神経細胞を傷つけ、DNAやたんぱく質、脂質に障害を与えるためです。 とくにSOD1遺伝子に異常があると、活性酸素を分解する酵素の働きが低下し、酸化ストレスが強まります。また、酸化ストレスはミトコンドリアの機能を妨げ、神経細胞がエネルギーを十分に作れなくなります。 さらに、化学物質や喫煙などの環境因子も酸化ストレスを高め、ALSの発症や進行に影響を与える原因です。こうした要因が重なり合うことで、筋力低下や筋萎縮などの初期症状が現れます。 グルタミン酸毒性 原因 詳細 グルタミン酸毒性 神経伝達物質グルタミン酸が過剰に働き、運動ニューロンを過剰に刺激し続けることで細胞死を引き起こす現象 興奮性毒性 グルタミン酸の過剰によって運動ニューロン内にカルシウムイオンが大量に流入し、細胞障害や死滅を招く 再取り込み障害 グルタミン酸を回収する機能が低下し、シナプスにグルタミン酸が残りやすくなり神経細胞へのダメージが続く ALSの症状発現 運動ニューロンの死滅が積み重なり、筋力低下や筋萎縮などALSの初期症状が現れる (文献2) ALSの発症要因のひとつに、グルタミン酸毒性があります。神経伝達に重要なグルタミン酸が、ALSでは再取り込み機能の低下によってシナプスに過剰に蓄積し、運動神経細胞を過剰に刺激することで障害を引き起こします。こうした仕組みが、ALSの発症に関わる要因です。 その結果、運動ニューロンが過剰に興奮し、細胞内にカルシウムイオンが大量に流入して神経細胞が死滅します。この神経障害が進行することで、筋力低下や筋萎縮などの初期症状が現れます。 ミトコンドリア機能不全 原因 詳細 エネルギー産生の低下 ミトコンドリア機能が低下すると神経細胞のエネルギー(ATP)不足が起き、運動神経細胞が弱まる 活性酸素種(酸化ストレス)の増加 ミトコンドリア障害で活性酸素が増え、細胞内のDNAやタンパク質、脂質が損傷しやすくなる 異常タンパク質の蓄積・除去障害 ALS関連遺伝子異常でミトコンドリア内に異常タンパク質が蓄積し、機能がさらに悪化する カルシウムイオン調節異常 ミトコンドリア機能不全でカルシウム調節が乱れ、神経細胞に有害な影響が及ぶ (文献2)(文献7) ミトコンドリア機能不全では、神経細胞に必要なエネルギーの産生が低下し、細胞の機能が著しく低下します。さらに、障害を受けたミトコンドリアでは活性酸素が増加し、たんぱく質やDNAが傷つきやすくなります。 ALSでは、異常なたんぱく質がミトコンドリアに蓄積しやすく、傷んだミトコンドリアが適切に除去されずにいると細胞への負担がさらに大きくなります。 また、ミトコンドリアはカルシウム濃度の調節にも関わっており、機能が乱れると神経細胞の働きが崩れ、その結果、筋力低下や筋萎縮といった初期症状が現れます。 タンパク質の異常な蓄積(凝集) 原因・現象 詳細 神経細胞の機能障害 異常なたんぱく質が細胞内に溜まり、本来の働きを妨げる状態 細胞死の誘発 凝集体が細胞内のバランスを崩し、神経細胞がストレスを受けて死滅しやすくなる状態 TDP-43の異常移動 通常は細胞核にあるTDP-43が細胞質に漏れ出て凝集し、神経細胞を障害する状態 (文献8) 本来、細胞内のたんぱく質は決まった形と役割を保っていますが、異常なたんぱく質が蓄積すると、神経細胞の働きが妨げられます。ALSでは、TDP-43というたんぱく質が本来あるべき細胞核から細胞質に移動し、異常な凝集体を作ることが多くの患者で確認されています。(文献8) 細胞内のバランス(プロテオスタシス)が崩れることで、神経細胞全体の機能も維持できなくなり、こうした変化が進行すると、筋力低下や筋萎縮といったALSの初期症状が現れるため、定期的な診察が不可欠です。 ALSの治療法(進行の抑え方) 治療法 詳細 注意点 薬物療法 リルゾールやエダラボンなどが進行を遅らせる目的で使用される 根本的な治療ではなく、効果に個人差がある 対症療法 呼吸補助、栄養管理、筋肉のこわばりや不安への対処 症状に応じた調整が必要で、定期的な評価が求められる 手術療法 PEG(胃ろう)や気管切開など、摂食や呼吸機能を補助する目的の処置 タイミングや本人の意思を尊重し、生活の質とのバランスを考慮する必要がある 再生医療 幹細胞治療は、手術や薬物療法に比べて副作用などのリスクが少ないとされている 一部の医療機関で実施されており、検証段階 現在の医学では、ALSを根本的に治す治療法は確立されていません。 治療法はあくまでも完治ではなく、進行を遅らせたり症状を緩和したりすることで、生活の質を保つことを目的としています。治療法は症状に応じて選択され、医師と相談の上で実施されます。 薬物療法 項目 内容 有効な理由 病態(グルタミン酸毒性・酸化ストレス)に直接作用し、進行を抑制する効果 主な薬剤 リルゾール、エダラボン、高用量メコバラミン 対応のポイント 診断後はできるだけ早期に開始し、対症療法と組み合わせて実施 (文献2)(文献9)(文献10) ALSは進行性の病気ですが、薬物療法によって進行を遅らせることが可能です。主にグルタミン酸毒性や酸化ストレスといった神経細胞を傷つける仕組みに働きかける薬剤が使われます。 リルゾールやエダラボンは、ALSの進行抑制や生存期間の延長に有効とされています。高用量メコバラミンも、早期かつ軽症の患者に効果がある薬剤です。 これらの薬は、呼吸補助や栄養管理、リハビリなどの対症療法と併用することが重要です。治療の効果を高めるためには、診断後できるだけ早い段階での開始が推奨されます。 対症療法 症状 対応方法 呼吸障害 非侵襲的換気療法(NIV)、人工呼吸器の使用による呼吸の補助 嚥下障害・栄養障害 胃瘻(いろう)による経管栄養、体重減少の予防と予後の改善 身体の違和感・筋肉のつっぱり(痙縮) 筋弛緩薬、漢方薬(芍薬甘草湯)、理学療法やマッサージによる緩和 よだれ・むせ込み 抗コリン薬、三環系抗うつ薬、吸引装置、必要に応じた喉頭摘出術の検討 不眠・精神的な不調 睡眠導入薬、抗うつ薬、カウンセリング、呼吸補助療法による根本対応 情動の不安定さ・認知症状 三環系抗うつ薬、SSRI、非薬物療法の活用、社会参加支援や生活の質の維持 ALSの対症療法は、ただ延命を目指すだけでなく、日々の苦痛を軽減し、生活の質(QOL)を保つための重要な治療です。 ALSでは、呼吸困難や嚥下障害、筋肉のこわばり、精神的な不調など、症状が人によって異なります。それぞれの症状に応じた対処が重要で、呼吸補助にはNIVや人工呼吸器、嚥下障害には胃瘻による栄養管理が行われます。 筋肉のこわばりには薬や理学療法、精神的な症状には薬物療法やカウンセリングが効果的です。多方面からの支援を組み合わせることで、患者自身が少しでも不自由のない生活を続けられるようサポートします。 手術療法 手術療法 詳細 気管切開・人工呼吸器装着 呼吸筋の低下に対応し、呼吸不全や窒息のリスクを回避する処置 胃瘻(いろう)造設術 嚥下障害により経口摂取が難しくなった際の栄養補給の手段 合併症への外科的対応 がんなどの他疾患を合併した際に実施される手術(例:がん切除、腹腔鏡手術など) (文献11)(文献12) ALSは根本的に完治する手術はありませんが、病状に応じた手術療法は生活の質(QOL)を保つ上で重要です。呼吸が苦しくなった場合は気管切開や人工呼吸器で呼吸を補助し、嚥下が難しくなった場合は胃瘻を造設し、栄養補給を補助します。 また、がんなど他の病気を併発した際には全身状態や希望に応じて外科的治療も検討され、必要に応じて適切な時期に実施されます。手術後は多職種によるケアやリハビリが不可欠です。 再生医療 取り組み内容 詳細 神経細胞の再生 iPS細胞や幹細胞を用いた新たな神経細胞の作製と機能回復の試み 病態モデルの構築 患者由来のiPS細胞を使ったALSの病態再現とメカニズム解明 創薬の促進 iPS細胞モデルによる新薬開発や既存薬の効果検証(ドラッグリポジショニング) 個別化医療の実現 患者自身の細胞を使った治療により、免疫拒絶の回避と比較的低リスクな治療の提供 幹細胞を使った治療法 乳歯や骨髄由来の幹細胞による神経保護や炎症抑制の試み (文献13) ALSの新たな治療法として、神経の働きを回復させる再生医療が注目されています。自身の細胞から作ったiPS細胞や幹細胞を使い、傷ついた神経を修復したり、病気の進行を遅らせたりすることを目指しています。 最近では、患者の細胞をもとに病気の特徴を再現し、個別化された治療薬を探す研究も進行中です。幹細胞には、神経を守ったり体内の炎症をおさえる効果も期待されています。再生医療による治療はまだ研究段階にありますが、ALSの進行を抑える有力な手段になると期待されています。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 ALSの初期症状が疑われたら早めの受診を ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、肩こりや筋肉のびくつき、手足の脱力感など、日常でもよくある症状から始まることがあります。とくに、腕や足が動かしにくい、階段の上り下りがしづらい、言葉が話しにくい、食べ物が飲み込みにくいといった症状が続く場合は早急に医療機関を受診しましょう。 ALSの初期症状でお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、ALSに関する些細なお悩みにも真剣に耳を傾け、丁寧にアドバイスさせていただきます。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 ALSの初期症状に関するよくある質問 ALSの初期症状がある場合はどの診療科を受診すれば良いですか? ALSが疑われる場合は、脳神経内科の受診が基本です。手足の筋力低下や筋肉の収縮、話しにくさ、飲み込みにくさなどの症状が1か月以上続く場合は、早急に検査と診断を受ける必要があります。 初期症状によっては整形外科や耳鼻咽喉科を先に受診することもありますが、ALSの確定診断には脳神経内科での評価が必要です。症状が改善しない、または他の診療科で原因がはっきりしない場合は、迷わず脳神経内科を受診してください。 ALS診断後の気分の変化は病気の影響ですか? ALSと診断された後に気分が落ち込んだり不安を感じたりするのは、病気そのものと心理的ショックの両面が関係しています。 一部の患者では、感情のコントロールや性格に変化をきたす前頭側頭型認知症(FTD)を伴うことがあり、無気力や感情の起伏、こだわりが強くなるといった症状が見られます。また、ALSは進行性の難病のため、診断を受けたショックや将来への不安から、抑うつ状態になる方も少なくありません。 こうした精神的な変化に対しては、早めに医師や専門スタッフへ相談し、必要に応じて精神科医やカウンセラーの支援を受けることが大切です。適切なサポートを受けることで、気持ちが少しずつ整い、生活の質を保つことが期待できます。 ALSと診断後の将来不安への対処法を教えてください ALSと診断された後の将来への不安には、いくつかの対処法があります。まずは、症状の変化について相談できる環境を整えることが重要です。また、ALSへの理解を深めることで、不安を軽減する助けになります。 専門のカウンセラーによる心理的サポートも有効で、感情の整理やストレスの緩和につながるでしょう。家族や友人、患者会とのつながりを持つことで、孤独を感じにくくなります。こうした支えを活用しながら、ひとりで抱え込まずに過ごすことが大切です。 当院「リペアセルクリニック」は、症状への不安で押しつぶされそうなときも、患者様に寄り添い、少しでも前向きな日々を送れるよう、サポートいたします。不安をひとりで抱え込まず、ご相談ください。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にご連絡ください。 ALSと診断されましたが支援制度や保険制度は利用できますか? ALSと診断された場合、さまざまな公的支援や保険制度を利用できます。以下の内容がALSで利用できる主な支援制度です。 制度名 内容 指定難病医療費助成制度 治療費の自己負担を軽減(所得に応じて上限あり) 身体障害者手帳 医療費助成、福祉サービス、税の減免、交通機関の割引など 障害者福祉サービス 介護・生活支援、補装具の給付、訪問介護などのサービスが利用可能 介護保険 40歳以上のALS患者は介護保険サービスの利用が可能(特定疾病として対象) 各支援は自己申請が必要なため、医療機関や保健所、市区町村の福祉窓口に早めに相談し、手続きを進めましょう。 参考資料 (文献1) 日本神経学会事務局「神経内科の主な病気」一般社団法人 日本神経学会 https://www.neurology-jp.org/index.html(最終アクセス:2025年06月15日) (文献2) 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター「筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)」難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/52?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月15日) (文献3) 兵庫県難病相談センター「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」兵庫県難病相談センター https://agmc.hyogo.jp/nanbyo/ncurable_disease/disease05.html(最終アクセス:2025年06月15日) (文献4) 公益財団法人長寿科学振興財団「筋萎縮性側索硬化症(ALS)の症状」健康長寿ネット,2019年2月7日 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/als/genin.html(最終アクセス:2025年06月15日) (文献5) QLife「筋萎縮性側索硬化症」遺伝性疾患プラス, 2020年5月1日 https://genetics.qlife.jp/(最終アクセス:2025年06月15日) (文献6) 株式会社メディカルノート「筋萎縮性側索硬化症」MedicalNote https://medicalnote.jp/diseases/%E7%AD%8B%E8%90%8E%E7%B8%AE%E6%80%A7%E5%81%B4%E7%B4%A2%E7%A1%AC%E5%8C%96%E7%97%87(最終アクセス:2025年06月15日) (文献7) 鈴木陽一.「ADSに対する生活支援機器筋萎縮性索硬化症の疾患の特徴」『日本義肢装具学会誌』, pp.1-7, 2023年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo/39/4/39_272/_pdf/-char/en(最終アクセス:2025年06月15日) (文献8) 「ALS/FTD の原因となる凝集体形成機構を解明 ~神経細胞の毒となるタンパク質凝集を抑制する薬剤などの研究発展に期待~」『北海道大学』, pp.1-5,2024年 https://www.amed.go.jp/news/seika/files/000129135.pdf(最終アクセス:2025年06月15日) (文献9) 阿部 康二.「ALS の臨床,病態と治療」『認定医-指導医のためのレビュー・オピニオン』, pp.1-8, 2012年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/26/3/26_270/_pdf(最終アクセス:2025年06月15日) (文献10) 祖父江 元.「ラジカットによる筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療を受けられる患者さんとご家族の方へ」『田辺三菱製薬』, pp.1-16 https://www.pmda.go.jp/RMP/www/400315/6eba6676-657f-43cb-a9ad-b00dd4a8b6e6/400315_1190401A1023_03_002RMPm.pdf(最終アクセス:2025年06月15日) (文献11) 牛久保美津子ほか.「国内における過去12年間の筋萎縮性側索硬化症とがんの併存症例報告の検討」『がんと ALS の併存症例報告の文献検討』, pp.1-7,2022年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kmj/72/4/72_407/_pdf(最終アクセス:2025年06月15日) (文献12) 国立研究開発法人科学技術振興機構 [JST「日本臨床麻酔学会誌」J-STAGE, 2015年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/35/7/35_711/_article/-char/ja/(最終アクセス:2025年06月15日) (文献13) 国立研究開発法人日本医療研究開発機構「iPS細胞を用いて筋萎縮性側索硬化症の新規病態を発見―早期治療標的への応用に期待―」AMED: 国立研究開発法人日本医療研究開発機構, 2019年7月2日 https://www.amed.go.jp/news/release_20190702-01.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月15日)
2025.06.29 -
- 内科疾患、その他
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「最近、疲れやすくなった気がする」 「筋肉のこわばりを感じる」 筋ジストロフィーは難病指定されており、一般的には子どもに多い疾患ですが、大人になってから発症するケースもあります。放置すれば徐々に日常生活に支障をきたす恐れもある重大な疾患です。 本記事では、大人になってから発症する筋ジストロフィーについて医師が詳しく解説します。 大人になってから発症する筋ジストロフィーの前兆 大人になってから発症する筋ジストロフィーの原因 大人になってから発症する筋ジストロフィーの治療法(進行の抑え方) 筋ジストロフィーは難病指定されており、完治が難しい疾患ですが、早期発見と適切な治療の継続で、進行を抑制できる疾患です。本記事の最後には、大人になってから発症する筋ジストロフィーに関する質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 筋ジストロフィーにおける「大人になってからの発症」について 筋ジストロフィーは子どもに多い病気と思われがちですが、大人になってから症状が現れる遅発性タイプも存在します。中でも筋強直性ジストロフィー(筋緊張性ジストロフィー)は、成人期に最も多く見られるタイプで、軽い筋力低下や筋肉のこわばり(ミオトニア)が年齢とともに進行して発症に気づくケースが多くあります。 発症後の平均寿命は約55歳とされ、ここ20年で大きな改善はみられていません。(文献1) 呼吸不全や心臓の伝導障害などが主な合併症となるため、早期からの適切な管理が重要となります。高齢で発症する場合は、筋力低下などの症状が目立たず、白内障や糖尿病といった合併症が先に現れることもあり、診断が遅れることがあります。 進行のスピードには個人差があり、緩やかに進行する例が多い一方で、合併症によって急激に悪化するケースもあります。定期的な経過観察と医師による適切な対応が不可欠です。 大人になってから発症する筋ジストロフィーの前兆 前兆 詳細 見分けるポイント 筋力低下や筋肉のこわばり(ミオトニア) 手足や首の筋肉が弱くなり、動かしづらくなる。強く握った手がすぐに開かないこともある 階段の上り下りや立ち上がりがつらい、手足に力が入りにくい 多臓器への影響 心臓・呼吸・内分泌など筋肉以外の臓器にも症状が現れる 息切れ、不整脈、白内障、糖尿病、認知機能の低下などがみられる 外見上の変化 前頭部の脱毛→まぶたが下がる→筋肉の萎縮 顔や体つきの変化を家族や周囲から指摘される、鏡で気づくことが多い 疲労感が抜けにくくなる 少し動いただけでも強い疲れやだるさが残り、休んでも回復しない 日常生活で疲れやすくなり、休んでも疲労感が抜けない 大人になってから発症する筋ジストロフィーでは、いくつか特徴的な前兆が見られます。主な症状は、手足や首の筋力低下や筋肉のこわばり(ミオトニア)で、階段の上り下りや立ち上がりが難しくなるなどの異変が起こります。 また、心臓や呼吸器、内分泌など多臓器に影響が及び、息切れ、不整脈、白内障、糖尿病、認知機能の低下などの合併症が現れることもあります。 さらに、顔や手足の筋肉が萎縮する、まぶたが下がる、前頭部の脱毛といった外見の変化や、少しの動作でも強い疲労感が残り、休んでも回復しないといった症状も特徴です。これらの症状が続く場合は、早急に医療機関を受診してください。 以下の記事では、筋ジストロフィーの初期症状について詳しく解説しています。 筋力低下や筋肉のこわばり(ミオトニア) 前兆 詳細 日常生活での気づき方 筋力低下 手足や首などの筋力が低下し、動作が困難になる傾向 ペットボトルのふたが開けにくい、細かい作業がしづらい、階段の昇り降りが大変、つまずきやすい、転びやすい、じっと立っているのがつらい、首が疲れやすい 筋肉のこわばり(ミオトニア) 筋肉を動かした後に力が抜けにくく、こわばりや硬さが残る現象 強く手を握った後すぐに手を開けない、寒い朝に手足がこわばる、固いものが噛みにくい、運動後に筋肉が硬く感じる、手足を動かした後に力が抜けない (文献2)(文献3) 手足や首の筋肉が徐々に弱くなり、力が入りにくくなるのが特徴です。とくにミオトニアと呼ばれる現象では、手を強く握った後にすぐに開けなくなるなど、筋肉がこわばり動作の遅れが生じます。 こうした症状は日常の細かな動作で気づくことが多く、進行すると転倒や物が持ちにくくなるなどの問題が現れます。軽い症状でも進行性の可能性があるため、気になる違和感がある場合は早期受診が必要です。 多臓器への影響 臓器・系統 前兆・症状例 注意点・見分けるポイント 心臓 不整脈、心不全、動悸、息切れ、めまい 定期的な心電図・心エコー検査、突然死リスク 呼吸器 呼吸筋の弱化、睡眠時無呼吸、日中の過眠 呼吸機能低下、呼吸不全、肺炎リスク、早期の呼吸機能評価 消化器 便秘、下痢、胃食道逆流、嚥下障害 誤嚥性肺炎リスク、食後すぐ横にならない、食事姿勢の工夫 内分泌・代謝 耐糖能異常、糖尿病、高脂血症、脂肪肝、肥満 血糖・脂質検査、食事管理 中枢神経 認知機能低下、性格変化、日中の過眠 周囲の観察と支援、本人の自覚が乏しいことに注意 眼・耳 白内障、眼瞼下垂、難聴 視力・聴力低下時は早めに眼科・耳鼻科受診 生殖機能 不妊症、月経異常 生殖に関する相談は医療機関へ (文献1)(文献4) 筋ジストロフィーは筋肉だけでなく、心臓や呼吸器、消化器、内分泌、中枢神経、眼や耳、生殖機能など全身のさまざまな臓器に影響を及ぼす病気です。初期の症状は動悸や息切れ、便秘や下痢、認知機能の低下、視力や聴力の変化など、加齢や他の病気と間違われやすいものが多く見られます。 これらの症状が複数重なる場合や、徐々に進行する場合は、早急に医師へ相談しましょう。定期的な検査や医師のサポートを受けることで、症状の進行を抑え、生活の質を維持できる可能性があります。気になる症状がある方は、遠慮せず医療機関を受診しましょう。 外見上の変化 外見上の変化 具体的な症状例 日常生活での気づき方 顔つきの変化 額の生え際の後退(前頭部禿頭)、まぶたの下がり(眼瞼下垂)、顔下半分の筋肉のやせ、表情の乏しさ 顔がやせてきた、まぶたが重い、表情が乏しいと指摘される 目や口の動きの変化 目を強く閉じてもまつげが隠れない、白目が見える(閉眼困難)、口笛が吹けない、口から物がこぼれる 鏡での違和感、口周りの動作がしづらい 体型や姿勢の変化 肩や腕、太ももの筋肉のやせ、背骨の曲がり(脊柱変形)、姿勢が悪くなる 身体のバランスが崩れやすい、姿勢の変化を家族に指摘される その他のサイン 顔や体の筋肉のやせ、まぶたの下がり、表情の乏しさが加齢以外で進行 鏡での変化や周囲からの指摘はサインとなる (文献1)(文献5) 筋ジストロフィーでは筋肉の萎縮や仮性肥大が起こり、外見にも変化が現れることがあります。ふくらはぎが太く見える、肩や背中の筋肉が痩せて姿勢が変わるといった特徴は、進行のサインの可能性もあります。 こうした体型の変化は加齢によるものと混同されがちですが、筋疾患の可能性も視野に入れることが大切です。日常生活で違和感を感じたり、人から指摘されたりした場合は、手遅れになる前に医療機関を受診しましょう。 疲労感が抜けにくくなる 主な原因 内容 睡眠障害と日中の過眠 睡眠時無呼吸症候群、呼吸調節障害による熟眠感の低下と日中の強い眠気 呼吸機能の低下と低酸素血症 呼吸筋の弱化による酸素不足と日常動作での著しい疲労感 中枢神経の障害 認知機能の低下、抑うつ傾向、意欲低下による精神的な倦怠感 内分泌・代謝異常 耐糖能異常や甲状腺機能低下によるエネルギー代謝の低下と慢性疲労 疲労感が前兆となる理由 明確な筋症状よりも先行して現れる、なんとなく疲れやすい、休んでも回復しない自覚症状 (文献2) 筋ジストロフィーでは、運動後の疲れが取れにくい、日中に強い倦怠感が続くといった慢性的な疲労感が初期症状として現れることがあります。これは、筋肉の再生能力が低下し、日常の動作でも体に負担が蓄積しやすくなるためです。 さらに、睡眠障害や過度な日中の眠気(過眠)、呼吸機能の低下による低酸素血症、中枢神経系の障害、内分泌・代謝異常など、複数の要因が重なることで疲労感はより強くなります。 これらの疲労感は、筋力低下や筋肉のこわばりといった明らかな症状よりも先に現れることもあります。疲労感が長く続く場合は、早期受診で評価を受けましょう。症状の進行を抑制し、生活の質の担保に繋がります。 大人になってから発症する筋ジストロフィーの原因 原因 詳細 遺伝子の異常(遺伝子変異) 親から受け継いだ遺伝子や体内で生じた異常により、筋肉の正常な働きが損なわれる DNA配列の異常な繰り返し(リピート伸長) 遺伝子の特定部分(例:CTG配列)が異常に繰り返されることで発症。筋強直性ジストロフィーに多い 突然変異による発症 家族歴がなくても、遺伝子に新たな変異が起きて発症する場合がある 筋ジストロフィーの発症には、遺伝子の異常が深く関与しています。大人になってから発症する場合でも、多くは遺伝的な要因や突然変異が原因です。家族歴がなくても発症することがあり、診断には遺伝子検査が重要な役割を果たします。 遺伝子の異常(遺伝子変異) 筋ジストロフィーは遺伝性の疾患であり、遺伝の形式には常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖性遺伝などがあり、病型によって異なるのが特徴です。筋強直性ジストロフィーは常染色体優性遺伝形式で、親のどちらかが変異遺伝子を持っている場合、子どもに50%の確率で遺伝します。 また、親に遺伝子異常がなくても、精子や卵子の形成時、あるいは受精後の細胞分裂中に突然変異が起こり、新たに発症するケースも少なくありません。 筋ジストロフィーでは、筋肉の構造や機能を支えるタンパク質を作る遺伝子に変異が生じることで、筋細胞が壊れやすくなり、筋力低下や多臓器障害が進行します。筋強直性ジストロフィーでは特定の遺伝子配列が異常に繰り返されるリピート拡大が原因となり、筋肉だけでなく心臓や内分泌系など全身に影響が及びます。 遺伝子異常による症状は、早期の診断と適切な管理が極めて重要であり、医師の診察を受けることが推奨されます。 DNA配列の異常な繰り返し(リピート伸長) 項目 内容 原因 DNA配列の異常な繰り返し(リピート伸長) 具体例 筋強直性ジストロフィーではDMPK遺伝子内のCTGリピートが数百~数千回に伸長 病気発症の仕組み CTGリピートの伸長でDMPK遺伝子の働きが乱れ、異常なRNAが細胞内に蓄積。他のタンパク質と結合し核内に閉じ込める 症状の多様性 筋肉だけでなく心臓、脳、内分泌など多臓器に症状が現れる 世代間の特徴 世代を重ねるごとにリピートがさらに伸長し、子や孫でより重症化する傾向(表現促進現象) 年齢とともに進行する可能性 リピート伸長は年齢とともに進行し、中年以降で症状が現れることもある (文献6)(文献7) 大人で発症する筋ジストロフィーの中でも、筋強直性ジストロフィーは、DNAの一部にあるCTG配列が異常に繰り返されること(リピート伸長)が原因です。 本来は数回程度の繰り返しであるはずの配列が、数百〜数千回にも増えることで遺伝子の働きが乱れます。その結果、異常なRNAが細胞にたまり、他の重要なタンパク質の働きも妨げられ、筋肉や心臓、脳など複数の臓器に障害が起こります。 この異常は世代を重ねるごとに増加し、子や孫の世代でより重症化することがあり、年齢とともに進行する可能性もあるため、早期に遺伝子検査を受けて適切な管理を行うことが重要です。 突然変異による発症 筋ジストロフィーは遺伝性の病気ですが、家族に同じ病気の人がいなくても発症するケースがあります。これは、突然変異によるもので、体内で偶然、遺伝子に異常が生じることが原因です。 突然変異は、精子や卵子がつくられる過程や、受精後の細胞分裂の際に、遺伝子のコピーにミスが起こることで発生します。また、化学物質や紫外線、ウイルスなど、外部からの影響で遺伝子が傷つくこともあります。 筋ジストロフィーの原因となるジストロフィン遺伝子は非常に大きく、とくに変異が起こりやすい遺伝子のひとつです。実際、デュシェンヌ型筋ジストロフィーでは約4割が突然変異による発症とされており、他のタイプでも家族歴のない発症が多く見られます。(文献8) このように、遺伝的な背景がなくても発症する可能性は十分にあるため、気になる症状があれば専門医への相談が重要です。 大人になってから発症する筋ジストロフィーの治療法(進行の抑え方) 治療法 詳細 注意点 保存療法(対症療法) リハビリや理学療法、呼吸管理、栄養管理、生活指導などで症状の進行を遅らせ、生活の質を保つ 根本的な治療ではなく、症状の緩和や進行抑制が目的。定期的な評価と多職種連携が重要 薬物療法 ステロイドや心不全・不整脈治療薬、抗菌薬(例:エリスロマイシン)、エクソンスキップ薬などの投与 副作用や適応の確認が必要。新薬や治験薬は医師の指導のもと使用する。個々の症状に応じた選択が必要 手術療法 呼吸補助のための気管切開、関節拘縮や側弯症に対する整形外科的手術など 手術の適応や時期は慎重な判断が必要。全身状態やリスクを十分に評価 再生医療 幹細胞治療や遺伝子治療 適応条件を医師と相談する 現在の医学では、筋ジストロフィーを根本から完治する治療法はありません。筋ジストロフィーの治療は、完治ではなく、進行を遅らせて生活の質を保つことが目的です。 リハビリや呼吸・栄養管理などの保存療法を中心に、必要に応じて薬物療法(ステロイドや心不全治療薬など)や手術が行われます。治療は、症状に応じた多角的なケアが大切です。副作用や適応には注意し、治療は医師や専門スタッフと連携しながら進めていきます。 保存療法(対症療法) 治療法 詳細 注意点 身体機能の維持と拘縮予防 リハビリテーション、ストレッチ、関節可動域訓練、装具の使用、姿勢保持訓練 無理のない範囲で継続、専門家の指導が必要 合併症の管理と予防 呼吸リハビリ、人工呼吸器の使用、心臓検査・薬物、嚥下訓練、栄養管理、骨折予防 定期的な検査と早期対応、合併症のサインに注意 生活の質の維持と精神的支援 福祉サービスの利用、住宅改修、自助具の活用、就労・教育支援、カウンセリング、患者会参加 社会的サポートの活用、心のケアも大切 (文献8)(文献9) 筋ジストロフィーは、根本的な治療法はまだありませんが、保存療法(対症療法)によって進行を緩やかにし、生活の質を維持することが大切です。 リハビリや装具の活用で身体機能を保ち、呼吸や心臓、栄養などの合併症を予防・管理します。また、福祉サービスやカウンセリングなど社会的・精神的なサポートも重要です。患者の状態に合わせて、医療スタッフやご家族と協力しながらケアを続けることが、日常生活をしっかり送るためのポイントです。 薬物療法 薬剤・治療法 効果 ポイント ステロイド薬 筋肉の炎症や壊れやすさの軽減、筋力低下の進行抑制、歩行期間や呼吸機能の維持 筋肉のダメージを抑え、自立した生活期間を延長 新規治療薬(エクソンスキッピング薬、ビルトラルセン) ジストロフィン産生促進、運動機能低下の抑制、一部の遺伝子型に有効 遺伝子異常に応じた治療 エリスロマイシン(筋強直性ジストロフィー) 遺伝子のスプライシング異常の改善、筋障害指標(CK値)の低下、病気進行の抑制 病気の本態に直接作用し、進行抑制や症状改善が期待 (文献8)(文献10) デュシェンヌ型などでは、ステロイド薬が病気の進行を抑える目的で使用されます。心機能や呼吸機能の低下に対しては、心不全治療薬や気管支拡張薬などを症状に応じて併用します。 薬の効果と副作用を確認するために、定期的な診察と検査が欠かせません。体調の変化や副作用が疑われる場合は、早めに医師へ相談することが大切です。 手術療法 手術療法の種類 詳細・目的 注意点・ポイント 脊柱側弯症の矯正手術 背骨の曲がりをまっすぐに矯正し、座位の安定や呼吸機能の悪化を防ぐ 麻酔や手術リスクが高いため、全身状態や適切な時期の判断が重要 関節拘縮・変形に対する手術 固まった関節の可動域を回復し、装具や車椅子の利用をしやすくする 身体への負担が大きいため、慎重な適応判断が必要 嚥下障害に対する手術 胃ろう造設術などで十分な栄養摂取を可能にする 栄養状態や感染予防への配慮が必要 眼瞼下垂に対する手術 まぶたを上げて視界を確保し、日常生活の不便を軽減 術後の経過観察が必要 (文献11) 手術療法は、筋ジストロフィーによる重度の変形や機能障害を改善し、呼吸機能や日常生活の質を守るために有効です。たとえば、背骨の曲がり(脊柱側弯症)を矯正する手術は座りやすさや呼吸機能の維持に役立ち、関節の拘縮解除術は装具や車椅子の利用をしやすくします。 また、飲み込みが難しい場合の胃ろう造設術や、まぶたが下がる場合の眼瞼下垂手術も生活の質向上に貢献します。ただし、筋ジストロフィー患者は麻酔や手術後の合併症リスクが高いため、十分な全身管理と医師による慎重な判断が必要です。 再生医療 特徴 詳細・具体例 注意点・課題 筋肉の再生促進 幹細胞や筋前駆細胞の移植による筋肉の修復・再生 移植細胞の生着率向上が課題 遺伝子の修復 iPS細胞を使い、遺伝子異常を修復後に筋肉細胞へ分化・移植 腫瘍化リスクへの対策が必要 免疫系の調整 幹細胞による炎症抑制や免疫反応の調整 長期的な効果や副作用の検証が必要 具体的な治療アプローチ 筋前駆細胞移植、iPS細胞治療、メソアンジオブラスト(MABs)療法など 現在は臨床試験・研究段階 (文献12) 再生医療は、大人の筋ジストロフィーに対する新たな治療法として注目されています。幹細胞やiPS細胞を使って、筋肉の修復や遺伝子異常の改善を目指し、筋力低下や炎症による損傷の進行を抑える効果が期待されています。 ただし、現時点では実施している医療機関が限られているため、対応可能な医療機関で適応を含め医師への相談が必要です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 大人になってからの筋ジストロフィーは進行の抑制がカギ 現在の医学では、筋ジストロフィーに対する根本的な治療法はありません。しかし、早期の対応によって進行を遅らせることが可能です。 運動や栄養、生活動作を見直し、医師の指導のもとでケアを継続することで、生活の質を維持しやすくなります。症状が軽いうちから診断とサポートを受けることが、今後の選択肢を広げる第一歩となります。 筋ジストロフィーの症状に関するお悩みは、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、筋ジストロフィーに関するご相談に丁寧に対応し、必要に応じて再生医療も選択肢のひとつとしてご案内しています。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 大人になってからの筋ジストロフィーに関するよくある質問 筋ジストロフィーは仕事や生活に影響しますか? 筋ジストロフィーは進行性の病気であり、症状に応じた生活の工夫や支援が必要になります。 定期的な診察やリハビリ、福祉用具の活用などにより、変化に応じた改善を目指していく必要があります。不安や疑問があるときは、一人で悩まず、専門の医療機関や支援団体に相談しましょう。 筋ジストロフィーの影響によるうつ病や不安障害のリスクはありますか? 筋ジストロフィーは進行性の病気であるため、将来への不安や喪失感から、うつ病や不安障害を発症するリスクがあります。 精神的な負担が長期化しやすいため、身体面だけでなく心のケアも重要です。必要に応じて心理的評価やカウンセリングを行い、早期の対応が望まれます。 また、日本筋ジストロフィー協会などの支援団体を活用することで、同じ立場の方との交流や相談が精神的な支えになります。気になる症状がある方は早めの相談が大切です。(文献13) 症状の進行が怖くて毎日不安で仕方ありません 不安を感じるのは自然なことです。大切なのは、一人で抱え込まず、信頼できる医療機関や支援機関に相談することです。筋ジストロフィーの進行には個人差があり、正しい情報と適切な支援を受けることで、不安は少しずつ和らいでいきます。不安を感じたときこそ、相談を始める大切なタイミングです。 日本筋ジストロフィー協会では、同じ病気を経験した方との交流や、専門家による心理サポートを受けられます。ピアカウンセリングや相談窓口を活用することで、気持ちを整理し、前向きに過ごすための支えとなります。(文献13) リペアセルクリニックでも、症状に対する不安や心配事について丁寧にご相談をお受けしています。ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。 筋ジストロフィーの患者が受けられる支援制度にはどんなものがありますか? 筋ジストロフィーは指定難病に該当し、医療費助成を受けられる場合があります。また、障害者手帳の取得によって、通院支援、就労支援、介護サービス、住宅改修助成など幅広い制度が利用可能です。地域の保健所や福祉窓口に相談することで、必要な支援につながる情報が得られます。 参考資料 (文献1) 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター「筋疾患分野|筋強直性ジストロフィー(筋緊張性ジストロフィー)(平成22年度)」難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/718(最終アクセス:2025年06月14日) (文献2) 筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究班「筋強直性ジストロフィー」MD Clinical Station https://mdcst.jp/md/dm/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献3) 筋強直性ジストロフィー患者会「この病気とは」筋強直性ジストロフィー患者会 https://dm-family.net/whatsdm/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献4) 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費筋ジストロフィー臨床研究班「DM 筋強直性ジストロフィー」神経筋疾患ポータルサイト https://nmdportal.ncnp.go.jp/information/dm.html(最終アクセス:2025年06月14日) (文献5) 筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究班「顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー」MD Clinical Station https://mdcst.jp/md/fshd/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献6) 石垣景子.「筋強直性ジストロフィーの先天型と遺伝」『筋強直性ジストロフィー』, pp.1-7 2022年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/59/2/59_59.144/_pdf(最終アクセス:2025年06月14日) (文献7) 笹川 昇.「筋強直性ジストロフィーの分子機構解明」『東京大学 大学院総合文化研究科 生命環境科学系』, pp.1-4, 2000年 https://lifesciencedb.jp/houkoku/pdf/001/b096.pdf(最終アクセス:2025年06月14日) (文献8) 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター「筋ジストロフィー(指定難病113)」難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/4522(最終アクセス:2025年06月14日) (文献9) 著者名,著者名.「筋ジストロフィー患者さまのためのストレッチ運動と体幹変形の予防について~関節拘縮と変形予防のための手引き~」『国立病院機構刀根山病院 理学療法 2008_9』, pp.1-17, 2008年 https://toneyama.hosp.go.jp/patient/forpatient/pdf/reha-05.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月14日) (文献10) QLife「筋ジストロフィーとその最新治療、専門医がわかりやすく解説!」遺伝疾患プラス, 2023年10月2日 https://genetics.qlife.jp/interviews/dr-takeda-20231002(最終アクセス:2025年06月14日) (文献11) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「デュシェンヌ型筋ジストロフィーとベッカー型筋ジストロフィー」MSD マニュアルプロフェッショナル版, 2022年1月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-%E5%B0%8F%E5%85%90%E7%A7%91/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E6%80%A7%E7%AD%8B%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%83%87%E3%83%A5%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%8C%E5%9E%8B%E7%AD%8B%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E3%83%99%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E5%9E%8B%E7%AD%8B%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC(最終アクセス:2025年06月14日) (文献12) 文部科学省「筋ジストロフィーに対する幹細胞移植治療の開発」 https://www.jst.go.jp/saisei-nw/stemcellproject/kobetsu/kadai03-02-01.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月14日) (文献13) 一般社団法人日本筋トロフィー協会, 一般社団法人日本筋トロフィー協会 https://www.jmda.or.jp/what-jmda/(最終アクセス:2025年06月23日)
2025.06.29 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
「最近、子どもがよく転ぶようになった」 「以前より疲れやすく感じるようになった」 その症状は、筋ジストロフィーの初期症状かもしれません。医師にそう言われても、病名を聞いても状況が把握できず、不安に感じる方も多いでしょう。自分の子どもが筋ジストロフィーと診断された際に不安を感じるのは自然です。 早期発見と適切な受診判断が、その後の生活や支援体制を整える第一歩となります。お子さまやご自身の症状に不安がある方は、ぜひ最後までご覧ください。 筋ジストロフィーとは 項目 内容 病気の特徴 筋肉が徐々に壊れ、力が入らなくなる進行性の筋肉の病気 原因 筋肉機能に関わる遺伝子に異常が起こる遺伝性疾患 発症の仕方 遺伝によるものと突然変異によるもの 主な症状 筋力低下、歩行困難、呼吸や心臓の障害 治療法 進行を遅らせる薬やリハビリなどの対症療法 完治の可否 現時点では完治が難しい病気 寿命への影響 心臓や呼吸への影響による生命予後の変化 受診すべき科 神経内科、小児神経科、整形外科などの専門科 成人の発症 子どもだけでなく大人でも発症するタイプの存在 (文献1)(文献2) 筋ジストロフィーは、筋肉が徐々に弱くなる進行性の疾患です。遺伝子の異常により、筋肉を支えるたんぱく質が作られず、壊れやすくなるのが特徴です。筋ジストロフィーは進行に伴い、筋力低下や運動機能障害がみられるようになります。 筋ジストロフィーは主に小児期に発症し、歩行や立ち上がりが困難になることがあります。症状の現れ方や進行の速さはタイプによって異なり、早期発見と適切な対応が重要です。現在の医学では完治が難しく、進行を遅らせる薬やリハビリといった対症療法が中心です。 筋ジストロフィーは厚生労働省の指定難病に認定されており、成人後に発症するタイプもあるため、年齢にかかわらず早急に医療機関を受診することが大切です。(文献1) 以下の記事では、大人になってから発症する筋ジストロフィーについて詳しく解説しています。 筋ジストロフィーの初期症状 初期症状 詳細 歩行異常・転倒しやすい 階段の昇降が難しくなる。頻繁につまずく、転倒が増える 筋力低下・疲れやすい 少しの運動で疲れやすくなる。階段の上り下りや走る動作が困難になる 筋肉の変化 ふくらはぎが不自然に盛り上がるなど、筋肉の見た目が変わる。実際には筋力が低下している 発達の遅れ(乳幼児期の場合) 首すわりや寝返り、歩行の開始が遅い。発達の節目でつまずきやすい その他の症状 側弯症、呼吸の浅さ、心機能の異常、嚥下機能の低下など、筋力以外の全身症状が現れることがある 筋ジストロフィーの初期症状は、病型や年齢によって異なりますが、共通して筋力低下や運動発達の遅れが目立ちます。子どもの場合、よく転ぶ、階段の昇り降りが苦手、ふくらはぎの肥大傾向が見られるなど、成長の個人差と区別がつきにくいのが特徴です。 進行すると、筋肉の硬直や関節の可動域制限に加え、疲れやすさも見られるようになります。これらのサインが現れた場合、早急に医療機関を受診することが大切です。 歩行異常・転倒しやすい 症状 詳細 アヒル歩行 腰を左右に揺らすような歩き方。股関節まわりの筋力低下による歩行障害 つま先歩き かかとを地面につけずにつま先で歩く傾向。ふくらはぎの筋肉のアンバランス 頻繁な転倒 平地や階段などで転びやすくなる。脚や体幹の筋力低下によるバランス障害 走りにくさ 走るのが遅くなったり、すぐ疲れたりする。下肢の筋肉の持久力・瞬発力の低下 ガワーズ徴候 床から立ち上がるときに手を使って太ももを押さえる特徴的な動作。筋力不足の代償動作 筋ジストロフィーでは、太ももや骨盤周辺の筋肉が弱くなり、足を持ち上げにくくなることで歩き方が不安定になります。とくに骨盤周辺の筋肉が初期に影響を受けやすく、アヒル歩行やつま先歩きといった特徴的な歩き方が現れます。 筋肉や関節の硬さが加わることで、動作がぎこちなくなるのが特徴です。また、ガワーズ徴候と呼ばれる、手を使って立ち上がる独特な動作も初期のサインです。 歩行の違和感や頻繁な転倒に気づいたら、早急に医療機関を受診しましょう。放置せず、日常の小さな変化に注意を向けることが、筋ジストロフィーなどの早期発見につながります。 筋力低下・疲れやすい 症状 解説 全身の筋力低下 体幹・股関節・肩甲骨まわりの筋肉から目立ち始める筋力の衰え 腕が上がりにくい 肩より上に腕を上げる動作や、物を持ち上げることが困難になる状態 疲れやすさ 日常動作で息切れしやすく、階段の昇降や活動を避けるようになる傾向 筋力低下の左右差 両側均等ではなく、片側から先に筋力が落ちる場合もある非対称性の症状 (文献3) 筋ジストロフィーの初期には、筋力低下や疲れやすさといった症状が現れます。とくに体幹や股関節、肩まわりの筋肉が弱くなりやすく、立ち上がるときに太ももを手で押して身体を支える、ガワーズ徴候が見られることもあります。 肩の筋力が低下すると、腕が上がりにくくなり、物を持つ動作も困難になります。また、とくに子どもが疲れを訴えて、活動を避けるようになった場合も初期症状のサインです。このような変化は病気の進行と関係している可能性があるため、医療機関への受診が必要です。 筋肉の変化 症状 詳細 偽肥大 ふくらはぎが太く硬く見えるが、筋線維の減少と脂肪・結合組織の置換による変化 筋萎縮 筋肉が細くなり、筋力が低下し見た目にもやせてくる変化 筋肉の硬直 筋肉や関節の動きが硬くなり、動作のぎこちなさや朝のこわばりが出現 翼状肩甲 肩甲骨が浮き上がるように見える変化。肩甲骨周囲の筋力低下による (文献4) 筋ジストロフィーでは、筋肉の一部に見た目の変化が現れることがあります。代表的なのが偽肥大と呼ばれる症状で、ふくらはぎの筋肉が太く盛り上がって見える一方、実際には筋力が低下している状態です。 これは筋線維が壊れ、再生が追いつかないことで、脂肪や結合組織に置き換わるために起こります。見た目は発達しているようでも、触れると硬く弾力がないのが特徴です。また、肩や背中の筋肉が痩せてきたり、左右の筋力バランスが崩れたりすることもあります。 とくにデュシェンヌ型筋ジストロフィーは、ふくらはぎの筋肉が太く見える、偽肥大が目立ち、歩きにくさや転倒と一緒に現れることが多く、病気の進行を示す重要なサインです。 筋肉が硬く弾力に乏しくなるなどの見た目の変化は筋力低下の兆候であり、早期発見につながる大切な手がかりです。違和感を覚えたら、早めに医療機関を受診しましょう。 発達の遅れ(乳幼児期の場合) 症状 詳細 首のすわり・お座りの遅れ 筋力低下による首のすわりや、お座りの安定の遅れ ハイハイ・寝返りの遅れ 筋肉の弱さによるハイハイや寝返りの開始の遅れ 歩行開始の遅れ 1歳半以降まで歩き始めない、歩行が不安定 転びやすさ・立ち上がり困難 歩行時のふらつき、立ち上がりの不安定さ 言葉や知的発達の遅れ 一部病型でみられる言語発達や知的発達の遅れ、てんかんなどの神経症状 フロッピーインファント 先天性筋ジストロフィーでみられる全身の筋緊張低下による、だらりとした状態 (文献4) 乳幼児期に発症するタイプでは、首がすわるのが遅い、寝返りができない、立ち上がりに時間がかかるなど、運動発達の遅れが最初のサインになることがあります。また、他の子どもと比べて歩き始めるのが遅い、転びやすいといった違和感も初期症状のひとつです。 成長の個人差と思われがちですが、このような遅れや症状が継続する場合、筋疾患の可能性も視野に入れて検査を受ける必要があります。 その他の症状 病型名 特徴的な初期症状 具体的な症状例 筋強直性ジストロフィー(DM) ミオトニア(筋強直) 把握ミオトニア、叩打ミオトニア、舌のクローバー状変形 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD) 顔面筋の筋力低下 表情の乏しさ、口笛が吹けない、まぶたが閉じにくい (文献5) 筋ジストロフィーは病型によって初期症状が異なります。筋強直性ジストロフィーでは、筋肉が収縮後にうまく緩まないミオトニア(筋強直)が特徴です。手を握った後すぐに開けられない、筋肉を叩くと収縮が続く、舌が変形するなどの症状が見られます。 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーでは、早期から顔の筋肉が弱くなり、笑顔が作りにくい、口笛が吹けない、まぶたが閉じにくいといった症状が現れます。これらの変化は食事の際にむせやすくなるなど、日常生活に影響するため、早急に医療機関を受診しましょう。 筋ジストロフィーの原因 主な原因 詳細 遺伝子の異常(遺伝子変異) 筋肉の働きに関わる遺伝子に変異が生じることで発症 遺伝形式 親から子へ遺伝する場合があり、X連鎖性遺伝、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝などの形式がある 遺伝子の突然変異 家族歴がなくても、突然新たに遺伝子変異が生じて発症する場合がある 筋ジストロフィーの主な原因は、筋肉の働きに必要な遺伝子に異常があることです。遺伝子に異常が生じることで、筋肉の細胞構造を保つたんぱく質が十分に作られず、筋肉が壊れやすくなります。 異常が起こる遺伝子やその影響の範囲によって、発症年齢や進行の速さ、症状の程度に違いがあります。多くは先天的なものですが、家族歴がない場合でも突然変異として発症するケースもあるのが特徴です。 遺伝子の異常(遺伝子変異) 病型名 関連遺伝子 主な特徴 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD) ジストロフィン遺伝子 ジストロフィンがほとんど作られず、重症で進行が早い筋力低下 ベッカー型筋ジストロフィー(BMD) ジストロフィン遺伝子 ジストロフィンが部分的に作られ、DMDより軽症で進行が緩やか 筋強直性ジストロフィー(DM) DMPK遺伝子 CTGリピートの伸長による多臓器障害を伴う進行性筋疾患 福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD) フクチン遺伝子 筋力低下に加え、脳や眼の形成異常を伴う先天性の重度障害 (文献1)(文献4)(文献6) 筋ジストロフィーは、筋肉の働きに関わる遺伝子に変異が起こることで発症します。異常がある遺伝子の種類によって、病型や症状、進行の速さが異なります。代表的なのがジストロフィン遺伝子の変異で、ジストロフィンがほとんど作られない場合は重症のデュシェンヌ型、一部作られる場合は進行の緩やかなベッカー型です。 筋強直性ジストロフィーは、DMPK遺伝子の異常により筋肉だけでなく心臓や内分泌、脳にも影響が及ぶのが特徴です。また、日本で多く見られる福山型先天性筋ジストロフィーでは、フクチン遺伝子の変異によって筋力低下に加え、脳や眼の異常も見られます(文献7)。遺伝子変異の特定は、診断と治療方針を決める上で重要な手がかりとなります。 遺伝形式 遺伝形式 代表的な病型例 詳細 X連鎖劣性遺伝 デュシェンヌ型、ベッカー型筋ジストロフィー 原因遺伝子がX染色体上に存在。男性は1本のX染色体に異常があると発症。女性は2本のうち1本が正常なら保因者となる 常染色体優性遺伝 筋強直性ジストロフィーの一部、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー 常染色体上の遺伝子に変異があり、両親のどちらか一方から異常な遺伝子を受け継ぐだけで発症 常染色体劣性遺伝 肢帯型筋ジストロフィーの一部、先天性筋ジストロフィーの一部 常染色体上の両方の遺伝子(父母由来)に異常がある場合に発症。両親が保因者でも1本ずつなら無症状 (文献1)(文献6) 筋ジストロフィーにはいくつかの遺伝形式があり、病型によって遺伝の仕方が異なります。デュシェンヌ型やベッカー型はX連鎖劣性遺伝で、主に男性が発症します。 母親が保因者の場合、子どもに遺伝する可能性がありますが、女性は2本のX染色体のうち1本が正常なら多くは発症しません。筋強直性ジストロフィーや顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの一部は常染色体優性遺伝で、両親のどちらか一方から異常な遺伝子を受け継ぐだけで発症します。 肢帯型や先天性筋ジストロフィーの一部は常染色体劣性遺伝で、両親からそれぞれ異常な遺伝子を受け継いだ場合に発症します。家族歴がなくても突然変異によって発症することがあり、遺伝形式に応じてリスクや進行の程度が異なるため、専門医への相談が重要です。 遺伝子の突然変異 原因・メカニズム 詳細 DNA複製時のエラー 細胞分裂中にDNAをコピーする際のミスにより発生する変異 外部要因による損傷 放射線や化学物質などがDNAを傷つけ、その修復時のエラーで生じる変異 自然発生的な化学変化 細胞内で起こる化学反応により、DNAが自然に変化する現象 先天的な変異(遺伝性) 親の卵子や精子にある変異が受精卵に伝わり、全身に影響する変異 新生変異(de novo変異) 受精卵や細胞分裂の過程で新たに発生し、家族歴がなくても発症する場合がある 体細胞モザイク 変異のある細胞とない細胞が混在し、身体の一部にだけ影響する状態 筋ジストロフィーの中には、家族に同じ病歴がないにもかかわらず、本人にだけ発症するケースがあります。このような発症ケースは両親から受け継いだ遺伝子ではなく、胎児の発育過程で突然変異が生じたことが原因です。 遺伝子の突然変異による場合でも、症状や進行の程度は遺伝性のものと変わらないため、医療機関への受診が必要です。 筋ジストロフィーの治療法(進行の抑え方) 治療法(進行の抑え方) 詳細 保存療法 リハビリテーションやストレッチ、装具の使用などで筋力や関節の動きを維持し、合併症を予防 薬物療法 ステロイド薬などで筋力低下や進行を遅らせる。心臓や呼吸機能低下にはそれぞれの症状に応じた薬を使用 手術療法 側弯症や関節拘縮など保存療法で対応できない場合に手術を検討。呼吸や嚥下の補助目的での手術も選択肢 再生医療 手術や薬物療法に比べて副作用が少ない可能性がある近年注目されている治療法 筋ジストロフィーには、現在のところ根本的な治療法は確立されていませんが、症状の進行を遅らせたり、生活の質を維持したりすることを目的とした治療が行われています。発症の早い段階から適切な治療を始めることで、病気の進行を緩やかにし、日常生活の自立を支えることが期待されます。 保存療法 項目 内容 関節可動域訓練・ストレッチ 関節のこわばりを防ぐための毎日の柔軟体操と家族への指導 低負荷の筋力トレーニング 過度な負荷を避けながら筋肉の萎縮を防ぐ軽めの運動 呼吸リハビリテーション 呼吸筋の維持・強化を目的としたトレーニングや人工呼吸器の活用 補助具・福祉用具の活用 車椅子や自助具を使って日常動作や移動を支援 姿勢管理・側弯症予防 姿勢の調整や体位変換による背骨の変形予防 摂食・嚥下機能のサポート 誤嚥防止のための食事形態の工夫と嚥下訓練 定期検査と合併症への対応 心肺機能の定期検査と薬物・医療対応による合併症の早期発見・治療 (文献8)(文献9) 筋ジストロフィーに対する保存療法は、病気の進行をできるだけ緩やかにし、生活の質(QOL)を保つために欠かせません。関節の動きを保つストレッチや、筋肉に無理のない範囲で行う筋力トレーニングが基本です。 呼吸機能の低下を防ぐためのリハビリや、必要に応じた人工呼吸器の導入も検討されます。また、歩行や日常生活を支えるための補助具、自助具の活用も不可欠です。 姿勢の調整や体位変換で側弯症の予防を行い、食事が困難な場合には嚥下機能のサポートも行います。症状の進行や個々の状態に応じて、医師の指導を受けながら継続的に取り組むことが大切です。 薬物療法 治療法 主な目的・特徴 ステロイド療法(プレドニゾロンなど) 筋細胞の壊れやすさを軽減し、運動・呼吸機能の維持、側弯症の進行予防 HDAC阻害薬(デュヴィザット) 炎症と筋肉減少を軽減。非ステロイドですべてのDMD患者に使用可能。2024年にFDAが承認 エクソンスキッピング療法 特定の遺伝子変異に対し、mRNAを修正し機能的なジストロフィン産生を促す治療法 その他の新規治療薬 筋強直性ジストロフィーなどに対し、スプライシング異常や筋壊死を抑える薬剤の開発進行中 定期評価と副作用管理 運動・呼吸機能、血液検査などによる薬効・副作用のモニタリング 個別化治療の調整 遺伝子変異や体調に応じた薬剤選択と投与量の調整 副作用対策 骨粗鬆症、肥満、感染症などに対する予防策と生活指導 (文献1)(文献10) 筋ジストロフィーにおける薬物療法は、進行を抑え、運動機能や呼吸機能を維持する上で欠かせない治療法です。とくにデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)には、ステロイド(プレドニゾロン)による長期療法が標準治療とされ、筋力低下や側弯症の進行を抑えます。 2024年にアメリカFDAが承認した非ステロイド薬デュヴィザット(HDAC阻害薬)は、遺伝子変異の種類に関係なく使用でき、ステロイドとの併用で運動機能の低下を有意に抑える効果が確認されています。(文献10) また、2020年に日本で承認されたエクソンスキッピング療法(ビルトラルセン)は、特定の遺伝子変異に対して機能的なジストロフィンの産生を促し、進行の抑制が期待されています(文献1)。いずれも、筋ジストロフィーの治療に有効な選択肢として位置づけられています。 手術療法 有効な理由 主な手術内容・効果 側弯症の進行抑制と矯正 背骨の曲がりを金属製ロッドなどで矯正し、座位保持や呼吸機能の改善を図る 骨盤の傾き・座位の安定化 側弯症手術により骨盤の傾きを改善し、車椅子やベッドでの安定した姿勢を実現 関節拘縮や変形の改善 固まった関節の動きを回復するための腱延長術などで、日常生活動作や介助のしやすさを向上 嚥下障害への対応 経口摂取が難しい場合に胃ろうを造設し、栄養補給を確保 呼吸補助の整備 重度の呼吸障害に対する気管切開術で、人工呼吸器の使用を容易にし、呼吸を安定させる 麻酔・術後管理の注意 呼吸合併症リスクが高く、医療機関での手術と慎重な管理が必要 (文献11) 筋ジストロフィーの手術療法は、病気そのものを治すものではありませんが、側弯症や関節拘縮などの合併症に対して有効です。とくに側弯症矯正手術は背骨の曲がりを大きく改善し、呼吸や消化機能の低下を防ぎます。 骨盤の傾きや座位の安定性も向上し、日常生活の自立度が高まります。関節拘縮解除、胃ろう造設、気管切開術なども症状に応じて行われ、生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)の維持・向上が期待できるでしょう。手術は麻酔や呼吸管理のリスクがあるため、医師と相談の上での実施が不可欠です。 再生医療 再生医療の施策 内容 期待される効果 iPS細胞を使った筋前駆細胞の移植 患者自身の細胞から作ったiPS細胞を筋肉の細胞に変えて移植 筋肉機能の回復、免疫拒絶の低減 ゲノム編集技術の応用 iPS細胞の遺伝子を修復し、正常な筋細胞に育てて移植 ジストロフィンの発現、病気の根本的治療の可能性 メソアンジオブラストの移植 血管のまわりの幹細胞を使い、筋肉へと分化させて移植 筋力の維持・向上、筋肉の再生促進 再生医療は、失われた筋肉機能の回復を目指す新しい治療法として注目されています。幹細胞を用いた治療や遺伝子を補うアプローチが期待されており、手術と比べて、感染症や麻酔に伴うリスクが少ない点も利点です。 ただし、すべての症状に適用できるわけではなく、対象となる条件が限られるため、治療の可否については医師と十分に相談する必要があります。また、再生医療は限られた医療機関でのみ実施されているため、事前の確認が必要です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しております。 筋ジストロフィーの初期症状を理解して早めの受診を心がけよう 筋ジストロフィーは進行性の疾患であり、早期発見が将来の生活に大きく影響します。歩き方の違和感、転びやすさ、筋肉の張りや発達の遅れなど、些細な変化が初期症状のサインであることも少なくありません。とくに小児では成長の遅れと誤解されやすいため、筋ジストロフィーの初期症状が少しでも疑われる場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。 筋ジストロフィーの症状にお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、筋ジストロフィーに関する些細なことでもお話を伺います。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 筋ジストロフィーに関するよくある質問 女性が筋ジストロフィーを発症する確率はどのくらいですか? 筋ジストロフィーは多くのタイプがあり、女性にも発症する可能性があります。中でもデュシェンヌ型(DMD)やベッカー型はX染色体劣性遺伝で、主に男性に発症しますが、女性も保因者としてまれに症状が現れます。DMDの女性保因者のうち約2.5〜7.8%が、筋力低下などの症状を示すと報告されています。(文献12) 筋ジストロフィーの患者数については、日本全体の正確な統計はありませんが、有病率は人口10万人あたり約17~20人と推定されています。(文献1) 大人になってから発症した筋ジストロフィーは遺伝するのでしょうか? 成人期に発症する筋ジストロフィーの一部は遺伝性で、常染色体優性や劣性遺伝として家族内に症状が現れることがあります。とくに親に変異遺伝子があると子に約50%の確率で遺伝し、筋強直性ジストロフィーでは、世代を重ねるごとに症状が重くなる表現促進現象も知られています。 一方、家族歴がなくても突然変異によって発症する場合もあり、デュシェンヌ型では約4割が該当します(文献1)。将来の遺伝リスクを正しく理解するためにも、医療機関での遺伝子検査やカウンセリングの受診が推奨されます。 筋ジストロフィーの子どもは学校や進路にどんな影響がありますか? 筋ジストロフィーのあるお子さんは、病状の進行に応じて、通常学級、特別支援学級、または特別支援学校で学べます。通学や授業参加には、疲労への配慮や補助具・車いすの使用など、身体的な支援が必要になる場合があります。 進学や進路選択では、医療的ケアやサポートの必要性を踏まえ、学校や教育委員会と連携して無理のない環境を整えることが大切です。近年では大学や専門学校への進学、在宅就労や遠隔学習といった多様な進路が広がっており、早期からのキャリア教育や進路指導を通じて、お子さんの可能性を広げる支援が求められます。(文献13) 保護者としては、日々の体調管理や心の支えとなることに加え、教育や福祉制度を活用しながら、子どもの意思を尊重した支援を行うことが重要です。 子どもが筋ジストロフィーと診断されたときの心の向き合い方を教えてください 筋ジストロフィーと診断されたお子さんを支える上で、まずはご家族がご自身の感情を受け止めることが大切です。ショックや不安は自然な反応であり、無理に抑え込む必要はありません。 その上で、病気のタイプや進行について正しい情報を医師やカウンセラーから得ることで、今後の見通しが立てやすくなります。医療や福祉の支援、患者会なども積極的に活用し、孤立せず相談できる環境を持つことが大切です。 また、家族全体で協力し合い、お子さんの気持ちに寄り添いながら、前向きに日々を重ねていくことが、最も大きな支えになります。 筋ジストロフィーと診断された場合に利用できる障害者登録や支援制度はありますか? 筋ジストロフィーと診断された場合、身体障害者手帳の取得や障害年金の申請が可能です。 手帳は障害の程度に応じて等級が認定され、医療費助成や補装具支給などの福祉サービスが受けられます。障害年金は、症状の進行に応じて障害基礎年金または障害厚生年金の1級または2級に該当することが多く、生活支援の一助となります。 また、障害者総合支援法や小児慢性特定疾病医療費助成、特別児童扶養手当なども対象になる場合があります。申請には医師の診断書や病歴申立書が必要なため、早めに医療機関や自治体窓口に相談しましょう。 参考資料 (文献1) 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター「筋ジストロフィー(指定難病113」難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/4522(最終アクセス:2025年06月14日) (文献2) レジストリと連携した筋強直性ジストロフィーの自然歴およびバイオマーカー研究班「筋強直性ジストロフィーと診断された方へ」専門家が提供する筋強直性ジストロフィーの臨床情報 http://dmctg.jp/shindan.html(最終アクセス:2025年06月14日) (文献3) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究」班「筋強直性ジストロフィー」MD Clincal Station https://mdcst.jp/md/dm/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献4) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「デュシェンヌ型筋ジストロフィーとベッカー型筋ジストロフィー」MSD マニュアル家庭版, 2024年 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/23-%E5%B0%8F%E5%85%90%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E4%B8%8A%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E7%AD%8B%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%81%A8%E9%96%A2%E9%80%A3%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%83%87%E3%83%A5%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%8C%E5%9E%8B%E7%AD%8B%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%81%A8%E3%83%99%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E5%9E%8B%E7%AD%8B%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC(最終アクセス:2025年06月14日) (文献5) 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費筋ジストロフィー臨床研究班「デュシェンヌ型筋ジストロフィーとベッカーFSHD 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー」NMDPS 神経筋疾患ポータルサイト, https://nmdportal.ncnp.go.jp/information/fshd.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月14日) (文献6) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究」班「病型と治療」MD Clincal Station https://mdcst.jp/md/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献7) 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター内 小児慢性特定疾病情報センタ「対象疾病」小児慢性特定疾病情報センター, 2014年10月1日 https://www.shouman.jp/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献8) 「筋ジストロフィー患者さまのためのストレッチ運動と体幹変形の予防について~関節拘縮と変形予防のための手引き~」『国立病院機構刀根山病院 理学療法 2008_9』, pp.1-17, 2008年 https://toneyama.hosp.go.jp/patient/forpatient/pdf/reha-05.pdf(最終アクセス:2025年06月14日) (文献9) 「4.リハビリテーション」, pp.1-11 https://neurology-jp.org/guidelinem/pdf/dmd_04.pdf(最終アクセス:2025年06月14日) (文献10) QLIFE「遺伝性疾患プラスデュシェンヌ型筋ジストロフィー、どの遺伝子変異でも使える新たな治療薬をFDAが承認」遺伝性疾患プラス, 2024年5月10日 https://genetics.qlife.jp/news/20240510-w043(最終アクセス:2025年06月14日) (文献11) 「筋強直性ジストロフィーの手⾡・麻酔に関する注意(一般・医療者向け)」, pp.1-4 https://plaza.umin.ac.jp/~DM-CTG/pdf/dmmasuic.pdf(最終アクセス:2025年06月14日) (文献12) Yu Na Cho.& Young-Chul Choi. (2013). Female Carriers of Duchenne Muscular Dystrophy https://www.e-kjgm.org/journal/view.html?uid=180&vmd=Full&utm_source=chatgpt.com&(最終アクセス:2025年06月14日) (文献13) 鈴木 理恵ほか.「Duchenne 型筋ジストロフィー患者の学校生活に関する保護者へのアンケート調査」『脳と発達 2018』, pp.1-8, 2018年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/50/5/50_342/_pdf(最終アクセス:2025年06月14日)
2025.06.29 -
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「外傷性脳出血と診断された」 「外傷性脳出血の治療や後遺症はどうなるのか?」 外傷性脳出血は、転倒や交通事故などで脳内の血管が損傷し、出血を起こす疾患です。脳出血が起きると、頭痛や吐き気、意識障害、手足の麻痺など、多岐に渡る症状が現れます。 本記事では、外傷性脳出血について、現役の医師が詳しく解説します。 外傷性脳出血の症状 外傷性脳出血で起こりうる後遺症 外傷性脳出血の治療法 記事の最後には、外傷性脳出血に関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 外傷性脳出血とは 種類 出血部位 主な原因 主な症状 主な治療法 硬膜外血腫 頭蓋骨と硬膜の間 硬膜動脈損傷 意識消失と一時的回復 外科的血腫除去 硬膜下血腫 硬膜とくも膜の間 脳表静脈損傷 頭痛、意識障害、麻痺、認知機能低下 保存的治療、外科的治療 くも膜下出血 くも膜と軟膜の間 脳表血管損傷 激しい頭痛、嘔吐、意識障害、けいれん 脳圧管理、必要時手術 脳内出血 脳実質内 脳挫傷・血管損傷 意識障害、けいれん、麻痺、言語障害 保存的治療、外科的治療 (文献1)(文献2) 外傷性脳出血とは、転倒や交通事故などの強い衝撃によって、脳の中やその周囲で出血が起こる病気です。脳の血管が傷つくことで出血が広がり、脳を圧迫してさまざまな障害を引き起こします。 外傷性脳出血は高齢者から若い方まで、年齢を問わず発症します。出血の場所や量によって、症状の出方や重さは異なるのが特徴です。診断にはCTやMRIといった画像検査が使われ、早めの発見と対応が重要です。治療は、安静を保つ保存療法から、血腫を外科的に除去する手術療法まで多岐にわたります。 また、治療後には記憶力の低下や感情の変化といった、外見では分かりにくい後遺症が出ることもあります。多くの場合、時間とともに改善しますが、完全に元どおりになるとは限りません。そのため、リハビリを行ったり、生活環境を整えたりといった支援が必要になる可能性もあります。日常生活や社会復帰への影響を理解し、早い段階から適切な対応を進めることが大切です。 外傷性脳出血の症状 症状 詳細 全身症状 頭痛、吐き気、嘔吐、発熱、倦怠感、意識障害、昏睡 局所神経症状 手足の麻痺、しびれ、歩行障害、言語障害、視覚障害 けいれん発作 脳損傷部位を中心に突然起こる筋肉のけいれんや発作 認知機能の低下 記憶力や集中力の低下、判断力の鈍化、見当識障害 外傷性脳出血では、出血の場所や程度によってさまざまな症状が現れます。初期には頭痛、吐き気、意識の混濁など全身的な症状がみられるのが特徴です。一方、出血が特定の部位に限られる場合には、片側の手足の麻痺や言語障害など、局所的な神経症状が現れることがあります。 また、けいれん発作や突然の意識消失がきっかけで受診に至ることもあり、受傷直後に症状が軽くても、時間の経過とともに悪化する場合もあるため、頭部外傷後はわずかな変化にも注意が必要です。 全身症状 原因・機序 具体的な全身症状 詳細 脳幹・視床下部の損傷による自律神経系の乱れ 発熱、頻脈、高血圧、呼吸困難 生命維持機能の中枢損傷による自律神経障害 頭蓋内圧の上昇による脳灌流圧低下と全身への影響 意識障害、けいれん発作、倦怠感 脳血流不足による脳機能低下 炎症反応とサイトカイン放出による全身症状 発熱、倦怠感、食欲不振 脳損傷による炎症反応の全身波及 (文献2) 外傷性脳出血による全身症状には、頭痛、嘔吐、意識の低下、倦怠感などが含まれます。とくに出血量が多い場合や脳圧が上昇している場合には、急激な意識障害を起こすことがあり、命にかかわる可能性もあります。このような症状は、脳全体への影響を反映しているため、局所的な症状と比べて初期に気づきやすいのが特徴です。 ただし、症状が徐々に進行することもあり、外傷直後は元気に見えても、数時間後に急変するケースもあります。そのため、頭部に強い衝撃を受けた場合は、症状の有無にかかわらず、医療機関を受診する必要があります。 局所神経症状 障害の種類 主な原因・部位 具体的な症状 詳細 運動・感覚障害 一次運動野・一次体性感覚野・被殻 片麻痺、感覚鈍麻、しびれ 運動や感覚を司る領域の損傷・圧迫による障害 言語障害 ブローカ野・ウェルニッケ野・左被殻 失語症、構音障害 言語中枢の損傷による言葉の理解・発話・発音の障害 視覚障害 一次視覚野・視神経路 視力低下、複視 視覚情報処理領域や経路の損傷による見え方の異常 外傷性脳出血では、出血の部位によって障害される神経機能が異なります。たとえば、脳の左側が損傷すると右半身、右側が損傷すると左半身に麻痺や運動障害が現れます。また、視覚や聴覚、言語機能も影響を受けることがあり、失語症や視野障害などが生じる場合もあります。 これらの症状は出血の場所や深さによって大きく異なり、脳の特定の機能が損なわれているサインです。診断には、神経学的な所見に加え、CTやMRIといった画像検査が重要です。 けいれん発作 理由・機序 詳細 脳組織の損傷による神経興奮の異常 出血周囲の神経細胞が損傷し、電気的興奮性が増加することによる異常な電気信号の発生 血腫周囲の浮腫・炎症による神経伝達異常 血腫の圧迫や炎症反応により神経伝達物質のバランスが崩れ、神経細胞の興奮性が高まる状態 外傷性てんかんの発症 損傷部位が異常な電気活動の焦点となり、持続的な発作を引き起こす状態 発作の分類と発症時期 直後てんかん(24時間以内)、早期てんかん(7日以内)、晩期てんかん(7日以降)に分類される けいれん発作は、外傷性脳出血の急性期または慢性期に現れる可能性がある神経症状のひとつです。出血により脳内の神経回路が異常をきたし、突然の筋肉の収縮や意識消失を伴う発作が起こることがあります。 発作の頻度や重症度によっては、抗てんかん薬による治療が必要になるケースもあります。とくに頭部外傷後の数週間から数か月の間は、けいれん発作のリスクが高まるため、医師の指導と注意深く経過観察を行うことが重要です。 認知機能の低下 原因・メカニズム 具体的な症状 詳細 脳組織の直接損傷 記憶障害、注意力低下、判断力低下 前頭葉・側頭葉・海馬の損傷による認知機能の低下 高次脳機能障害の発症 集中力低下、計画力障害、実行力障害 脳挫傷や出血による高次脳機能障害の出現 慢性的な血腫による圧迫 徐々に進行する記憶障害、性格変化 慢性硬膜下血腫などによる脳の圧迫で認知機能障害が進行 外傷性脳出血により、前頭葉や側頭葉、海馬が損傷されると、記憶力や判断力、集中力などの認知機能が低下することがあります。感情のコントロールが困難になるほか、実行力や計画力の低下、性格の変化など、高次脳機能障害の症状が現れることがあります。 慢性硬膜下血腫のように進行がゆるやかな場合は、異変に気づきにくく発見が遅れることがあり、認知機能の低下は日常生活に大きな影響を及ぼすため、早期受診と適切なリハビリが重要です。 外傷性脳出血で起こりうる後遺症 起こりうる後遺症 詳細 運動・感覚機能障害 片麻痺や手足のしびれ、筋力低下、歩行障害。触覚や痛覚が鈍くなる、または過敏になることもある 言語・認知機能障害 言葉が出にくい、理解しにくい、会話が難しい失語症。記憶力や判断力、集中力の低下など高次脳機能障害 感覚・知覚障害 視野が欠ける、物が二重に見える(複視)、片側の感覚が鈍くなる、めまいなどの症状 てんかん・発作 繰り返すけいれん発作や意識消失。外傷後に発症しやすく、抗てんかん薬による治療が必要なことが多い 慢性症状(頭痛など) 慢性的な頭痛、倦怠感、吐き気、めまい。症状が長期間続くこともあり、生活の質に影響する場合がある 外傷性脳出血では、治療により出血が止まった後も、脳への損傷が残ることでさまざまな後遺症が現れることがあります。 症状は出血部位や広がりによって異なり、身体の麻痺やしびれ、言語機能の障害、てんかん発作、慢性的な頭痛など多岐にわたります。また、認知機能や感情の変化といった外見からは判断しにくい後遺症が出るのも、外傷性脳出血の特徴です。 以下の記事では、脳出血の後遺症になる確率について詳しく解説しています。 運動・感覚機能障害 障害の種類 主な原因・部位 具体的な症状 説明 運動麻痺・感覚障害 皮質運動野、感覚野、内包、被殻 片側手足の麻痺、しびれ、感覚鈍麻・過敏 血腫や損傷が運動・感覚を司る領域を圧迫・損傷 平衡機能障害・歩行障害 小脳、前庭系、橋、延髄部 バランス低下、歩行時のふらつき、運動失調 身体のバランスや協調運動を担う部位の障害 嚥下障害 橋、延髄部 飲み込みにくさ、むせ込み、誤嚥 嚥下動作を制御する中枢神経の圧迫・損傷 外傷性脳出血で運動野や感覚野が損傷されると、片麻痺や筋力低下、手足の動かしづらさ、バランス感覚の乱れなどの症状が現れます。 これらの後遺症の程度には個人差がありますが、中等度以上の場合は医師の指導のもとで継続的なリハビリが必要です。リハビリを続けることで脳の可塑性を活かし、機能回復を目指すことが重要です。 言語・認知機能障害 主な障害 原因部位・要因 代表的な症状 詳細 失語 ブローカ野・ウェルニッケ野の損傷 言葉が出にくい、意味が分からない、話がまとまらない 言語の理解や表現を担う中枢神経の損傷による言語機能の障害 構音障害 運動野や神経回路の損傷 滑舌が悪い、発音が不明瞭、言葉が聞き取りにくい 発音や話し方を制御する運動機能の障害による話しにくさ 記憶力・判断力の低下 前頭葉・側頭葉の高次脳野の損傷 物事を覚えられない、判断が鈍くなる、感情のコントロールが困難になる 記憶や判断などの認知機能の低下による日常生活への支障 注意力・実行力の障害 前頭葉の認知機能中枢神経の障害 集中できない、段取りがつかない、行動に一貫性がない 注意や実行機能の障害による社会生活への影響 外傷性脳出血によって、言語の理解や発話に障害が生じることがあります。失語症や構音障害、会話の流暢さの低下などが代表的です。また、認知機能の低下により、記憶力や注意力、判断力に支障をきたすこともあります。 言語・認知機能障害は、日常生活や仕事に大きな支障をきたす可能性があります。後遺症の進行を防ぐため、早期発見と発音や話し方の継続的なリハビリが重要です。回復の程度には個人差がありますが、適切な支援と継続的な取り組みによって、生活の質の向上が期待されます。 感覚・知覚障害 障害の種類 主な原因・部位 具体的な症状(体言止め) 詳細 視覚障害 後頭葉の視覚野、視神経経路、視床 視野欠損、視力低下、物がぼやけて見える 視覚情報を処理・伝達する部位の損傷・圧迫による障害 聴覚障害 側頭葉の聴覚野、聴覚伝達経路 音が聞き取りにくい、耳鳴り 聴覚情報を処理・伝達する部位の損傷・圧迫による障害 嗅覚障害 前頭葉下部、嗅球・嗅索 匂いがわかりにくい、全く感じない 嗅覚を司る領域や神経経路の損傷・圧迫による障 外傷性脳出血では、視覚・聴覚・嗅覚を司る脳の部位が血腫や損傷によって障害され、感覚や知覚の異常が後遺症として現れることがあります。 後頭葉の視覚野が損傷されると視野欠損や視力低下、側頭葉の聴覚野が損傷されると聴力低下や耳鳴りが、嗅球や前頭葉下部の損傷では嗅覚障害が起こります。いずれも感覚情報を処理する中枢神経系の部位や経路の圧迫・損傷が原因であり、早期の診断と適切な対応が重要です。 てんかん・発作 ポイント 詳細 発作の主な原因 脳損傷や出血による神経細胞の異常な電気的興奮 発作の発生時期分類 早期発作(7日以内)、晩期発作(7日以降) 晩期発作の特徴 外傷性てんかんとして長期的な管理が必要 リスク要因 脳皮質への出血、出血量の多さ、高齢 重要な対応 発作リスクを考慮した経過観察と必要に応じた治療 (文献3) 外傷性脳出血後のてんかん発作は、脳の電気的興奮の乱れによって再発性のけいれんとして現れ、発症時期は直後から数か月後までさまざまです。 発作の頻度やタイプに応じて抗てんかん薬が処方され、薬の種類や用量は個別に調整されます。定期的な通院と経過観察により、発作が抑えられれば日常生活への影響は少なくなります。 慢性症状(頭痛など) 原因 詳細 脳組織の損傷と炎症反応 脳損傷による炎症が神経を刺激し、中枢性感作による慢性頭痛の発生 慢性硬膜下血腫の形成 血腫による脳圧迫で頭痛や認知障害などの症状が進行 脳脊髄液の漏れ 低髄液圧症候群による起立時の頭痛、吐き気やめまいの出現 神経障害性疼痛の発生 神経回路の異常で通常は違和感がない刺激でも疼痛が生じる 心理的要因と脳震盪後症候群 不安や抑うつ、ストレスによる頭痛の悪化や長引く脳震盪後症状 (文献4) 外傷性脳出血後に頭痛が長く続く場合、脳の炎症や血腫の圧迫、脳脊髄液の漏れ、神経の過敏化、心理的ストレスなど、複数の要因が関与していることがあります。たとえば、慢性硬膜下血腫では脳が徐々に圧迫され、頭痛や認知障害が生じることがあります。 神経回路の損傷により、軽い刺激でも強い違和感が出る神経障害性疼痛に移行することもあり、症状の進行には注意が必要です。脳震盪後症候群では、頭痛に加えて集中力の低下や倦怠感が持続することがあります。このような症状が続く場合は、早期に医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。 外傷性脳出血の治療法 治療法 詳細 保存療法 軽度の出血や症状が安定している場合に選択。点滴や安静、血圧や脳圧の管理、経過観察、リハビリの早期開始が中心 薬物療法 脳圧降下薬や止血薬、抗けいれん薬、抗浮腫薬などを使用し、症状や合併症のコントロールを図る 手術療法 血腫が大きい場合や症状が重い場合に実施。開頭血腫除去術、減圧術、穿頭手術、髄液ドレナージなどで脳圧を下げ血腫を除去 再生医療 損傷した神経や組織の修復を目指す治療。神経再生や機能回復を促す新しい治療法で、リハビリと組み合わせて効果が期待される 外傷性脳出血の治療は、出血の量や部位、症状の程度に応じて異なります。一般的には保存療法から開始されますが、症状の悪化や脳の圧迫が強い場合には手術が検討されます。治療法の選択は、画像検査や症状の進行状況をもとに医師が総合的に判断します。 以下の記事では、脳出血の入院期間や治療法について詳しく解説しています。 保存療法 保存療法が適用されるケース 詳細 出血量が少なく圧迫が軽度 脳内出血が少量で自然吸収が期待でき、手術リスク回避のため保存療法が適用される 全身状態が手術に耐えられない 高齢者や全身状態不安定な患者に対し、安全性を考慮して保存療法が選択される 出血部位が手術困難な場所 脳の深部など手術が難しい部位の出血に対して保存療法が適用される 症状が安定し進行の兆候がない 意識や神経症状が安定し、出血拡大や新症状がない場合に保存療法が適する 定期的な画像検査とモニタリング CTやMRIで出血の吸収状況や新出血の有無を確認し、症状変化に迅速対応が必要 血圧管理の重要性 高血圧は再出血リスクを高めるため、降圧薬使用や生活習慣改善による適切な血圧管理が必須 外傷性脳出血で保存療法が選択されるのは、出血量が少なく脳の圧迫が軽度で自然吸収が見込まれる場合や、手術リスクが高い高齢者・全身状態が不安定な方、手術が難しい部位での出血がある場合です。保存療法は、症状が安定しており進行の兆候がない場合も適応されます。 また、再出血予防のための血圧管理が重要です。状態が安定した段階で理学療法・作業療法・言語療法を開始し、機能回復と合併症の予防を図ります。 薬物療法 治療内容 詳細 血圧コントロール 降圧薬による出血拡大や再出血の予防 脳浮腫の軽減 抗浮腫薬による脳の腫れと頭蓋内圧上昇の抑制 合併症の予防・管理 抗てんかん薬や抗生物質による発作や感染症の予防・管理 モニタリング 血圧や頭蓋内圧などの定期的なチェック 医師の指導遵守 薬の服用は自己判断せず、医師の指示に従うことが重要 (文献2)(文献5) 外傷性脳出血に対する薬物療法は、手術を行わずに症状の安定や再発予防を目指す治療法です。血圧を適切にコントロールして出血の拡大を防ぎ、抗浮腫薬で脳の腫れを抑えます。 さらに、抗てんかん薬や抗生物質によって発作や感染症などの合併症を予防・管理します。薬の種類や量は患者ごとに調整し、血圧や頭蓋内圧などの定期的なモニタリングが大切です。治療薬は、医師の指示に従い、自己判断で中止や増減をしないようにしましょう。 手術療法 ポイント 詳細 血腫の除去 血腫を取り除くことで脳圧を下げる 出血源の止血 出血部位を直接止血し、再出血や症状悪化を防ぐ 脳浮腫の軽減 脳の腫れを手術で軽減し、頭蓋内圧を下げる 手術のリスク 感染症や出血、麻酔合併症、新たな神経障害の可能性 術後管理とリハビリ 集中管理と早期リハビリによる後遺症軽減・機能回復 手術適応の慎重な判断 出血部位・量、全身状態を総合評価し手術の必要性を判断 外傷性脳出血に対する手術療法は、血腫による脳圧の上昇を軽減する治療法です。血腫を除去することで脳への圧迫が軽くなり、意識障害や呼吸・循環の異常を防ぎます。 手術により出血源を直接止血できるため、再出血のリスクを抑えることが可能です。また、脳の腫れを軽減することで神経機能の低下を防ぐ効果もあります。 ただし、手術には感染や出血、麻酔合併症などのリスクが伴うため、出血の部位や量、患者の全身状態をふまえた上で慎重な判断が不可欠です。術後は集中管理により脳の状態を安定させ、リハビリテーションを通じて後遺症の軽減と機能回復を目指します。 再生医療 ポイント 詳細 脳神経細胞の修復・再生 幹細胞の再生能力を利用し、損傷した脳細胞や神経の修復と機能回復を目指す 自己細胞の使用による低リスク 患者自身の細胞を使い、免疫反応や拒絶反応のリスクを低減 リハビリ効果の増強 再生医療とリハビリを併用し、脳機能回復とリハビリ効果の強化を促進 再発予防の可能性 幹細胞が血管の修復や保護に関与し、将来的な脳出血や脳梗塞のリスクを軽減できる可能性があると考えられている 外傷性脳出血に対する再生医療は、損傷した脳神経細胞の修復や再生を目指す治療法です。自己の幹細胞を用いることで免疫反応や拒絶反応のリスクが低く、感染症の心配も少ないのが特徴です。 また、リハビリテーションと併用することで機能回復の促進が期待されるほか、脳血管の保護作用による再発予防の可能性も指摘されています。ただし、効果には年齢や損傷の程度によって差があり、すべての患者に均一な結果が得られるとは限りません。 再生医療を検討する際は、対応可能な医療機関や治療内容を十分に確認した上で判断することが大切です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しております。 外傷性脳出血における後遺症のお悩みは当院へご相談ください 外傷性脳出血の後遺症は、身体機能だけでなく、日常生活や社会生活にまで影響を及ぼします。回復の程度には個人差があり、日常生活や仕事への復帰に対して不安を抱えている方も少なくありません。 当院「リペアセルクリニック」では、外傷性脳出血による後遺症のお悩みを丁寧にお伺いし、患者様一人ひとりに適した治療法をご提案いたします。なかでも再生医療(幹細胞治療)は、手術を伴わず、感染症や出血のリスクが少ない治療法として近年注目されています。 後遺症に関する些細なお悩みでも当院「リペアセルクリニック」にご相談ください。ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で承っておりますので、お気軽にお申し付けください。 外傷性脳出血に関するよくある質問 外傷性脳出血の主な原因は? 外傷性脳出血の主な原因は、交通事故や転倒、転落、スポーツ中の衝突などによる頭部への強い衝撃で、脳内の血管が損傷し出血が生じることです。受傷後は重症化を防ぐため、早めに医療機関を受診しましょう。 外傷性脳出血の死亡率は? 外傷性脳出血の死亡率は、出血の種類や重症度によって大きく異なりますが、とくに急性硬膜下血腫のような重度の出血では予後が非常に厳しいとされています。社会福祉法人 恩賜財団 済生会によると、急性硬膜下血腫に対して手術を行った場合の死亡率は65%に上り、一方で社会復帰できる人はわずか18%と報告されています。(文献6) この数値は、脳の重度な損傷や頭蓋内圧の上昇による神経機能の障害が関係しているためです。 米国のデータでは、重度の外傷性脳損傷のうち25〜33%が死亡し、けがによる死亡の約30%を占めると報告されています。外見上は軽傷でも重篤な内出血を伴うことがあるため、頭部に強い衝撃を受けた場合は早期に医療機関を受診することが重要です。(文献7) 後遺症はどのくらいで回復しますか 後遺症の回復には個人差があり、出血した部位や神経の損傷程度によって回復の経過は大きく異なります。改善には、定期的なリハビリと医師の継続的な評価が重要です。 外傷性脳出血からの職場復帰はできますか? 外傷性脳出血からの職場復帰は可能ですが、出血の部位や後遺症の程度、職種や職場環境によって状況は大きく異なります。 独立行政法人労働者健康安全機構の報告によると、復職率は平均44%(範囲0〜100%)、原職復帰は約42%、配置転換や新規就労を含めると約51%とされています。(文献8) 復職には継続的なリハビリ、職場環境の調整、周囲の理解とサポートが不可欠です。医師と相談しながら、無理のないペースで段階的に進めることが大切です。 参考資料 (文献1) 社会福祉法人 恩賜財団 済生会「外傷性脳内血腫」社会福祉法人 恩賜財団 済生会, 2023年7月19日 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/traumatic_intracerebral_hematoma/?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日) (文献2) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「外傷性脳損傷(TBI)」MSD マニュアルプロフェッショナル版, 2023年2月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/22-%E5%A4%96%E5%82%B7%E3%81%A8%E4%B8%AD%E6%AF%92/%E5%A4%96%E5%82%B7%E6%80%A7%E8%84%B3%E6%90%8D%E5%82%B7-tbi/%E5%A4%96%E5%82%B7%E6%80%A7%E8%84%B3%E6%90%8D%E5%82%B7-tbi?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日) (文献3) 黒田徹.「脳外科手術,脳卒中,頭部外傷により生じる続発性てんかん~続発性てんかんの進展をいかに予防するか?〜」『ユービーシージャパン株式会社・大塚製薬株式会社』, pp.1-4 https://nara.hosp.go.jp/img/health/igaku04.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日) (文献4) 柴田 靖.「頭部外傷による急性頭痛と遷延性頭痛」『(日本頭痛学会誌,51:155―158,2024)』巻(号), pp.1-4 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjho/51/1/51_155/_pdf/-char/ja?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日) (文献5) 「Ⅲ.脳出血」 pp.1-51 https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/nou2009_03.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日) (文献6) 社会福祉法人 恩賜財団 済生会「急性硬膜下血腫」社会福祉法人 恩賜財団 済生会, 2020年2月5日 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/acute_subdural_hematoma/(最終アクセス:2025年06月13日) (文献7) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「頭部外傷の概要」MSD 家庭版, 2023年3月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/25-%E5%A4%96%E5%82%B7%E3%81%A8%E4%B8%AD%E6%AF%92/%E9%A0%AD%E9%83%A8%E5%A4%96%E5%82%B7/%E9%A0%AD%E9%83%A8%E5%A4%96%E5%82%B7%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81(最終アクセス:2025年06月13日) (文献8) 豊田 章宏.「脳卒中に罹患した労働者に対する治療と就労の両立支援マニュアル」『平成29年3月独立行政法人 労働者健康安全機構』, pp.1-52, https://www.johas.go.jp/Portals/0/data0/kinrosyashien/pdf/bwt-manual_stroke.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日)
2025.06.29 -
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「頭皮マッサージは再出血のリスクにつながらないか」 「頭皮マッサージを受けるのはやめるべきなのか」 脳出血を経験したことのある方にとって、血流を刺激する施術には少なからず警戒心があるはずです。とくに美容院や整体で頭皮マッサージを普段から受けている人であれば、なおさら再発に対する不安や疑問があることでしょう。 本記事では、頭皮マッサージと脳出血の関係や以下の内容について医師が詳しく解説します。 脳出血後に頭皮マッサージを行う際の禁忌事項 脳出血の既往がある方が頭皮マッサージを行う際の注意点 再出血を防ぐために気を付けるべきこと 頭皮マッサージがすべての人にリスクがあるとは限りませんが、状態によっては避けるべきケースもあります。記事の最後には、頭皮マッサージと脳出血の関係に関するよくある質問をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 頭皮マッサージと脳出血の関係 リスク要因 対策 高血圧の管理が不十分 血圧コントロールを優先し、安定後に医師の許可を得る 抗凝固薬(血液サラサラ薬)服用中 マッサージ前の出血傾向チェック 脳動脈瘤・血管異常の既往歴 マッサージが禁止となる場合もあるため、自己判断では行わないこと 脳出血発症後3カ月未満 原則マッサージ禁止 頭皮マッサージが脳出血を直接引き起こすことは、医学的にほとんどありません。頭皮マッサージは頭皮表面の血行促進を目的としており、脳内の血管に直接影響を与えるものではないため、通常の強さで行う分には心配いりません。ただし、脳出血を経験されている方は注意が必要です。 出血後間もない時期や血圧が不安定な場合、強い刺激は再出血につながるおそれがあるため、自己判断でマッサージを行うのは避けましょう。 マッサージを希望される場合は、医師の指導のもと、優しい力加減で行うことが大切です。気になることがあれば、遠慮なく医師に相談しましょう。 脳出血後に頭皮マッサージを行う際の禁忌事項 禁忌事項 詳細 強い刺激・圧迫 強い力でのマッサージや頭部への過度な圧力は、デリケートな血管に負担をかけ出血リスクを高める 頭部の腫れや血管異常が残っている場合 動脈瘤や血管などの異常や脳の腫れ(浮腫)が残っている場合、マッサージで状態悪化や再出血のリスクがある 発症後間もない時期(急性期) 脳出血発症直後は脳の状態が非常に不安定で、マッサージが血圧変動や脳への負担となるため、医師の許可が出るまで実施しない 脳出血後の頭皮マッサージは、誤った方法で行うとリスクを伴う場合があります。再出血などの合併症を防ぐため、強い刺激や頭部の腫れや、血管異常が残っている場合は頭皮マッサージを行ってはいけません。 強い刺激・圧迫 禁忌事項 詳細 脳内血管への影響 脳出血後の脆弱な血管への再出血リスク増加 頭皮毛細血管への影響 頭皮の毛細血管損傷による内出血や炎症発生 感覚障害によるリスク 感覚低下による過度な刺激の継続と皮膚・血管損傷リスク 一般的な頭皮マッサージが直接脳出血を引き起こす可能性は低いと考えられています。脳出血の主な原因は高血圧や脳動脈瘤の破裂などです。 脳出血は血管そのものの状態によるため、頭皮の血行を促す頭皮マッサージで、脳出血が再発する可能性は低いと考えられます。ただし、強い刺激や圧迫を加えると、脳内血管に負担がかかり、再出血のリスクが高まるおそれがあります。 脳出血に限らず、頭皮への強い刺激は血管損傷や炎症を発生させる可能性があるため、控えるようにしましょう。 頭部の腫れや血管異常が残っている場合 項目 説明 脳浮腫 出血周囲の炎症による水分貯留と脳組織の腫れ 頭蓋内圧亢進 脳浮腫による頭蓋骨内圧の上昇と脳血流障害の危険性 頭部のむくみ 外見上のむくみが脳内浮腫の残存を示唆し、マッサージによる圧力変化で悪化リスク 血管異常(動脈瘤・奇形) 脆弱で破裂しやすい血管異常の存在とマッサージによる血流変動での負担増加リスク 回復期の脳組織のデリケートさ 修復途中の脳組織への不必要な刺激による回復阻害や合併症リスクの増加 脳出血後は脳にむくみ(脳浮腫)が生じやすく、脳を圧迫して頭蓋内圧が上昇し、血流障害や脳損傷のリスクが高まります。外見上、頭や顔にむくみがある場合は脳内にも浮腫が残っている可能性があり、頭皮マッサージによる血流やリンパの変化で状態が悪化するケースもあります。 また、脳動脈瘤などの血管異常が残っている場合、わずかな刺激でも再出血の危険性があるため、注意が必要です。脳は回復期に非常にデリケートなため、頭部の腫れや血管異常がある間はマッサージを控え、医師の指示に従うようにしましょう。 発症後間もない時期(急性期) 禁忌事項 理由 再出血リスク 出血部位の血管が脆弱なため、刺激や血流変化で再出血の危険性増加 頭蓋内圧上昇 血流増加による頭蓋内圧の上昇で脳損傷悪化の可能性 血圧変動 マッサージによる血圧変動で再出血リスク増加 脳出血後の急性期(発症から1〜2週間)は、脳や血管が非常に不安定な状態のため、頭皮マッサージを行うと、血管が修復されておらず、再出血のリスクが高まります。 マッサージによって血流や血圧が変動し、結果的に頭蓋内圧が上昇する可能性もあります。急性期のマッサージは禁忌であり、安静と医師の管理のもとで治療を受けるようにしましょう。 脳出血の既往がある方が頭皮マッサージを行う際の注意点 注意点 詳細 体調不良時は頭皮マッサージを行わない 発熱やだるさ、血圧が高いときなど体調が悪い場合は、マッサージを控える 脳に強い圧迫や刺激を与えない 強い力や圧迫は脳や血管への負担になるため、優しい力加減で実施する 体調に異変を感じたらすぐに中止する 頭痛、めまい、吐き気などの異変を感じた場合は、すぐにマッサージを中止し医師に相談する 脳出血の既往がある方は、体調不良時の頭皮マッサージや脳への強い圧迫は危険です。頭皮マッサージを行う際は自己判断ではなく、医師に相談したうえで実施するようにしましょう。 体調不良時は頭皮マッサージを行わない 理由 解説 全身状態の不安定化 発熱や倦怠感などで体力・免疫力が低下し、血圧や血流の変動が起こりやすい状態 血圧・脳圧の変動リスク 自律神経の乱れやマッサージ刺激による血圧・脳圧の急激な変動 回復力低下による合併症リスク 体調不良時は回復力・抵抗力が落ち、軽微な刺激でも頭痛や吐き気などの合併症が生じやすい状態 症状悪化や見逃しのリスク 体調不良時は体調変化に気づきにくく、症状悪化や異常の見逃しにつながる危険性 熱、頭痛、めまい、吐き気など、体調が優れない時は頭皮マッサージを控えましょう。体調不良時は血圧が不安定になりやすく、再出血や脳圧上昇などのリスクを招く可能性があります。倦怠感や疲労を感じる際も無理はせず、まずは体調の回復を優先しましょう。 脳に強い圧迫や刺激を与えない 理由 説明 再出血リスク 急性期の脆弱な血管への負担増加による再出血の危険性 頭蓋内圧上昇 マッサージ刺激による頭蓋内圧の上昇と脳損傷悪化の可能性 血圧変動による影響 血圧の急激な変動による再出血や脳血管障害のリスク 脳出血の既往がある方が頭皮マッサージを行う際は、脳に強い圧迫や刺激を与えないことが重要です。とくに発症後24〜48時間の急性期は再出血のリスクが非常に高く、この時期に頭部へ刺激が加わると、脆弱な血管に負担がかかり再出血を引き起こす恐れがあります。 再出血は初回より広範囲な脳損傷や重篤な後遺症、生命の危険を伴うこともあります。頭皮マッサージの刺激は頭蓋内圧の上昇や血圧変動を招き、脳損傷や再出血リスクを高める要因です。 頭皮マッサージを行う場合は医師の許可を得て、軽い刺激で短時間にとどめ、体調変化に注意しましょう。また、頭皮マッサージ中に少しでも違和感があれば、すぐに中止し医師に相談してください。 体調に異変を感じたらすぐに中止する 理由 説明 再出血や脳圧上昇の早期察知 頭痛・めまい・吐き気など異変は再出血や脳圧上昇の兆候である可能性 血圧変動による再出血リスク防止 マッサージによる血圧変動が再出血や脳血管障害の引き金となる危険性 神経系への過度な刺激回避 マッサージ刺激による神経系の過剰反応や血流変化による症状悪化の危険性 脳出血の既往がある方は、頭皮マッサージ中や後に頭痛、めまい、吐き気など体調に異変を感じた場合、すぐに中止し、医師に相談する必要があります。これらの症状は再出血や脳圧上昇の兆候の可能性があります。 また、マッサージは血圧変動を引き起こしやすく、その中でも、高血圧や血圧管理が必要な方は再出血リスクが高く危険な状態です。さらに、神経系への過度な刺激も症状悪化の原因となります。異変を感じたら無理せず中止し、必要に応じて速やかに医療機関へ相談しましょう。 再出血を防ぐために気を付けるべきこと 気を付けるべきこと 詳細 血圧と服薬の管理を徹底する 血圧測定とコントロールの継続、降圧薬の指示通りの服用、自己判断での服薬中止や変更の厳禁 健康的な生活習慣を実践する バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、塩分・脂肪控えめ、禁煙・節酒、ストレス管理の徹底 定期的な医師の診察を受ける 定期受診と検査の継続、医師によるリスク評価と指導、症状がなくてもスケジュール通りの受診 再出血を防ぐためには、毎日血圧を測定し、降圧薬を医師の指示通りに服用することが大切です。バランスの良い食事や適度な運動、十分な睡眠、禁煙・節酒、ストレス管理も心がけましょう。また、症状がなくても定期的に医師の診察や検査を受け、リスク管理や指導を受けることが重要です。 以下の記事では、脳出血の再発率や血圧管理を含む予防法を詳しく解説しています。 血圧と服薬の管理を徹底する 理由・有効性 解説 高血圧は再出血の最大リスク要因 血圧上昇による脳血管への負担増加と再出血リスクの直結 血圧管理で再出血のリスク大幅低減 毎日の血圧測定と目標値維持による再出血予防効果 服薬管理は血圧安定のカギ 降圧薬の継続服用による血圧コントロールと再出血リスク低減 服薬継続と血圧測定が予防に直結 定期的な血圧測定と指示通りの服薬の継続による再発予防の実証 具体的な管理方法 家庭での血圧測定・記録、降圧薬の毎日服用、自己判断せず医師相談、定期的な診察・検査の実施 (文献1) 脳出血の再出血を防ぐ上で、血圧管理と服薬継続は最も重要なことです。高血圧は再出血の最大リスク要因であり、血圧が高いと脳の血管に大きな負担がかかります。毎日血圧を測定し、医師が目標とする血圧値、130/80mmHg未満(75歳以上では140/90mmHg未満)を維持できるよう努めましょう。 降圧薬は血圧を安定させるために不可欠であり、中断や変更を自己判断で行わず、医師の指示通りに服用することで、再出血予防が期待できます。 健康的な生活習慣を実践する 生活習慣 内容 効果 食事 減塩・栄養バランスの取れた食事 高血圧予防・血管の健康維持 運動 ウォーキングやストレッチの習慣化 血圧低下・ストレス軽減 睡眠 規則正しい生活と十分な睡眠時間 血圧安定・自律神経の調整 禁煙 たばこを控え、禁煙外来の活用 血管収縮の防止・再発リスク低減 節酒 飲酒量を適正に保つよう意識する 血圧の上昇抑制・肝機能保護 ストレス管理 趣味やリラックス法の導入 血圧変動の抑制・心身の安定 (文献2) 脳出血の再発を防ぐためには、健康的な生活習慣の実践が欠かせません。とくに塩分を控えた食事や、軽めの運動習慣は、血圧の安定に大きく寄与します。また、睡眠の質を保つことで自律神経が整い、血圧の変動も抑えられます。喫煙や過度の飲酒は血管に強い負担をかけるため、禁煙や節酒を心がけましょう。 さらに、趣味やリラックス法を取り入れてストレスをコントロールすることで、再出血のリスクを軽減し、健康的な日常を維持しやすくなります。 以下の記事では脳出血の退院後の生活習慣について詳しく解説しています。 定期的な医師の診察を受ける 有効性 解説 血圧管理の徹底 定期的な血圧測定と降圧薬調整による血圧コントロールと再出血リスク低減 再発リスク因子の早期発見と対応 高血圧・糖尿病・高脂血症などリスク因子の早期発見と治療による再発予防 薬物療法の適正な管理 薬剤の効果・副作用の評価と必要に応じた薬剤調整による効果的な治療の実現 脳出血の再発予防には、定期的な医師の診察が不可欠です。診察では血圧や再発リスク因子を細かくチェックし、必要に応じて薬の調整や生活習慣の指導を受けられます。 薬の効果や副作用も定期的に確認することで、状態に合わせた処方が可能です。症状がなくても受診を続けることで、再出血リスクを大きく減らせます。 脳出血後の頭皮マッサージは医師と相談したうえで実施しよう 脳出血の既往がある方が頭皮マッサージを実施する場合は自己判断は避け、医師に相談した上で正しく行うようにしましょう。脳出血は再発すると最悪の場合、命に危険が及ぶ可能性がある病気です。頭皮マッサージだけでなく、生活習慣を見直すなどの再発防止にも努めましょう。 脳出血の後遺症に関するお悩みは、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では脳出血に対する頭皮マッサージに加えて、後遺症や生活習慣の改善についても丁寧にアドバイスいたします。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 頭皮マッサージと脳出血の関係に関するよくある質問 頭皮マッサージで死亡した事例はありますか? 2025年6月現在、ヘッドマッサージやヘッドスパによる死亡事例は報告されていません。しかし、いくつかの状況下では重篤な健康被害が発生する可能性があるため注意が必要です。 たとえば、美容院で首を後ろに反らせたまま長時間過ごすと、椎骨動脈が圧迫され美容院脳卒中症候群を起こすことがあります。飲酒後は血管が拡張しやすく、マッサージによる刺激で血圧が急変し、脳出血や心筋梗塞のリスクが高まります。 ヘッドスパは脳出血の直接的な原因になりますか? ヘッドスパが脳出血の直接的な原因になることは、まずありません。通常のヘッドスパや頭皮マッサージで脳出血が起こることは極めて稀であり、多少力を入れても脳出血につながるケースは考えにくいとされています。 ただし、美容院で首を後ろに反らせた姿勢が長時間続くなどで、椎骨動脈が圧迫されて脳への血流が低下し、美容院脳卒中症候群と呼ばれる脳卒中を引き起こす可能性があります。 既往症がある方や首への負担が大きい姿勢を長時間続ける場合は体調の変化に気を付けましょう。 頭皮マッサージで血管が切れることはありますか? 通常の頭皮マッサージによって血管が切れることはほとんどありません。ただし、強い力でマッサージを行うと、頭皮の毛細血管が損傷し、炎症や出血を引き起こす可能性があります。また、飲酒後は血管が拡張しているため、マッサージの刺激で血管が破れやすくなるリスクがあるため、注意が必要です。 過去に頭部の外傷や脳出血などの既往がある方は、頭皮マッサージによる再出血が懸念されるため、事前に医師に相談するようにしましょう。 参考資料 (文献1) 佐藤祥一郎.「脳出血の血圧管理」『脳卒中 J-STAGE 早期公開 2018年 2月 27日』, pp.1-5, 2017年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke/advpub/0/advpub_10605/_pdf(最終アクセス:2025年06月10 日) (文献2) 「Ⅲ.脳出血」 pp.1-51 https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/nou2009_03.pdf(最終アクセス:2025年06月10日)
2025.06.29