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腱板断裂とは!その原因や症状、治療法について

腱板断裂とは!その原因や症状、治療法について

腱板断裂とは、上腕骨と肩甲骨をつないでいる腱組織が断裂して切れてしまう状態を指しています。肩に強い痛みを自覚するところは、いわゆる「四十肩や五十肩」に類似していますが、それらの疾患は自然に軽快することが多い一方で、腱板断裂という病気は肩に力が入りにくく、痛みが長期的に継続することが認められるために適切に治療する必要があります。

今回は、腱板断裂とはどのような病気なのか、その原因、症状、治療方法などに関する情報を中心に詳しく解説してまいります。

腱板断裂

腱板断裂の原因

一般的に肩の痛みを引き起こす疾患には色々なものがありますが、整形外科領域で広く知られている代表的な病気に「腱板断裂」が挙げられます。

腱板断裂では腱板の老化などが影響して中高年の方々が多く罹患することが知られており、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの腱から構成される腱板が断裂することで肩の痛みを自覚します。

本疾患は腱板組織が年齢を重ねるごとに脆くなってくるために発症するパターンが最も多く、それ以外にも外傷によるものが半数、あるいは肩の使いすぎが原因となっている症例も少なからず存在します。

外傷では、転んで肩を強打したケースのみならず手を軽く突いただけでも肩関節部に相対的な負担がかかって腱板部が損傷、あるいは断裂を引き起こすことがあります。

そして、例えば野球のピッチャーが投球動作を繰り返す、力仕事に長年従事されてきた人なども肩関節のオーバーユース(使いすぎ)によって比較的、腱板損傷を発症する例が多くあります。

  • 腱板断裂、原因の一例

  • ・加齢
  • ・使いすぎ
  • ・外傷(外的な衝撃)
  • ・スポーツ
  • いずれもオーバーユース(使いすぎ)が原因

腱板断裂の症状

40歳以上の男性で特に右肩に発生しやすい腱板断裂は、運動時における肩の痛みや夜間痛を訴えやすいのですが、肩の挙上(腕を上げる動作)自体は可能であることが多いとされています。

一般的に、本疾患が四十肩や五十肩と異なる点としては、肩関節が拘縮して関節部の動きが固くなることがあり、肩関節を挙上しようとすると力が入りにくい、あるいは挙上時に肩の部分がジョリジョリという風に軋轢音が聞こえるということもあります。

腱板断裂は通常では肩関節に存在する腱板組織が裂けて起こりますが、ほとんどの場合、断裂を引き起こした初期の段階では断裂部の範囲は小さいと考えられています。

ところが、症状を放置すると次第に断裂部が大きくなることで病状が悪化して日常生活に支障をきたしていく、症状として進行してしまうことがあるので十分に注意を払う必要があります。

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腱板断裂の治療方法

腱板断裂の治療方法について、その症状に応じてリハビリによって治療する「保存療法」と、保存療法での改善が目指せない場合の「手術療法」があります。そして近年、先端治療として注目を集める「再生医療」と言われる第三の選択肢があります。それぞれ解説してまいります。

1.保存療法

腱板断裂では、診断が遅れてしまうと症状が進行したり、改善が難しくなってしまうことがあるため、肩を痛めたと自覚した際には、早期に整形外科をはじめとした医療機関の受診に踏み切ることが重要です。

一般的に、外傷によって腱板断裂を認めた際には、三角巾で数週間安静を保持することで断裂部そのものが完全に修復治癒することはないものの約7割は、症状が軽快すると考えられています。

仮に腱板断裂に加えて肩関節周囲炎を合併し、強い夜間痛を認めた場合には、炎症を抑制する副腎皮質ホルモンと鎮痛作用を有する麻酔剤を肩峰下滑液包に局所的に注射して症状推移を経過観察します。

腱板を構成する腱組織すべてが一気に断裂することはほとんど無いと言われていますので、断裂部以外の健常に残っている腱板機能を活性化させて強靭化することは重要であり、このような腱板機能をリハビリ訓練する手段は有効です。

また、ストレッチ運動で腱板断裂が完全に治癒することは期待できませんが、関節の可動域を良好にする、あるいは腱板周囲の筋肉群の緊張を和らげて肩の痛みを軽減させる効果があります。

2.手術療法

万が一、保存的な療法で肩関節部における痛みといった症状と運動機能の障害が改善しない場合には、関節鏡視下手術や直視下手術などの根治的治療策が考慮されます。

前者の関節鏡視下手術の方がより低侵襲(身体的に少ない負担)で患者さんに優しく、術後の痛みが少ないと考えられていますが、大きな断裂になると、それでは縫合処置が困難であることも指摘されていますので、後者の直視下手術を選択する場合があります。

腱板断裂に関しては治療後再断裂のリスクも懸念されています。これは縫合した糸が筋肉や腱板と擦れることで引き起こされます。もしも再断裂を起こすと損傷範囲が大きくなり、修復がさらに難しくなるだけでなく、もう一度手術を受けなくてはいけないという精神的な苦痛も与えることになりますので、術後の再発防止には慎重に取り組む必要があります。

再断裂防止にはいずれの手術や加療を選択したとしても、術後は約1か月間にわたる患部固定が必要です。術後の固定には患部へのストレスを軽減させる装具を使用します。装具は脱着が可能ですが、基本的には患部を動かさないために装具を装着して生活しますので、日常生活動作に大きく制限がかかります。

さらに固定期間が1ヶ月に及びますと、関節周囲の組織に癒着が起こり、肩が動かしにくくなる「関節拘縮」が生じることも多いです。関節拘縮を防ぐためには、数か月に及ぶ肩関節部の機能訓練、リハビリを継続することが最善です。

3.手術に代わる新たな治療法(手術がしたくない、入院を避けたい)

このように手術による治療は、慎重かつ根気強くリハビリをしなければならないため、術後しばらくの間安静が取れない方やリハビリの時間が作れない方、仕事や家事で手を使わなければいけない方などにとってはハードルの高い治療とも言えます。

ところが近年、手術を受けなくとも腱板断裂を修復する幹細胞治療といわれる再生医療があります。幹細胞とは体の様々な組織に分化することができる細胞であり、腱板も例外ではないです。もともと腱板は血流が乏しく組織的にも脆いにも関わらず、腕を動かすと腱板は引っ張られるため、損傷した箇所を広げようとする力が働きます。このような状態では腱板はなかなか自然に治癒しませんが、幹細胞の力を使えば断裂した腱板を修復することが可能です。

幹細胞を使った再生医療であれば、糸で縫い合わせるような治療ではなく注射による治療のため、再断裂のリスクが極めて少ないです。一方手術をした場合では、わずか数年でも再断裂が多くみられますので、この点において再生医療のメリットは大きいといえます。

しかも幹細胞による治療であれば、再断裂のリスクが少ないため術後のような長期間の固定が必要ありませんので、痛みが出ない範囲であれば日常生活に制限はありません。再生医療においてもリハビリに取り組むことは重要ですが、拘縮を引き起こす治療方法ではないため、術後のように緻密な計画に沿ったリハビリを必要としないのもメリットの1つです。

もちろん手術を受けてしっかりとリハビリに取り組めば、上記のような後遺症があったとしても7割近い満足度があります。ところが再生医療では手術の後遺症を引き起こす恐れが少なく、高い除痛効果や可動域の改善もみられるため、9割近い満足度があるといわれています。

手術後の腱板断裂にも再生医療が効果大!

実は腱板損傷に対する再生医療では、手術を受けた後の場合であっても効果が発揮されます。先述しましたように手術で腱板を縫い合わせると、縫合した部分から再び断裂を引き起こす割合が高く、せっかく手術を受けても腱板の断裂部分が小〜中等度であれば1030%、断裂部分が大きいと4060%の確率で再断裂が発生します。

そのため再断裂を回避するには、手術よりも再生医療の方がリスクの少ない選択と言えますが、術後の再断裂の予防としても再生医療は効果を発揮します。もし腱板断裂の手術を受けたけれど、再断裂を起こさないように更なる修復を望むのであれば、手術後に再生医療を併用すると再断裂の確率を抑えることができます。

さらに再生医療を併用することで、術後に発生する疼痛の抑制も期待でき、計画通りにリハビリを進めやすくなります。

このように手術療法のデメリットを受けることなく腱板断裂を修復できる治療法として、そして手術療法のデメリットをフォローできる治療法としても、「幹細胞治療による再生医療」が注目を集めています。

▶こちらの動画で詳しく解説しています。是非ご覧ください。

まとめ・腱板断裂とは!その原因や症状、治療法について

今回は腱板断裂とはどのような病気なのか、その原因、症状、治療方法などについて詳しく解説してきました。腱板断裂という病気は、肩のインナーマッスルである4種類の腱板筋群の腱組織が断裂して切れてしまう状態を意味しています。

主に上腕骨と肩甲骨を接合している腱組織が切れてしまう本疾患では、肩を挙上する際に力が入りにくくなる、あるいは肩関節面で軋轢音を聴取することがありますので、何らかの自覚症状がある方は自己診断せずに専門の医療機関などで的確な診断を受けることが重要です。

医療機関で腱板断裂と診断された方は、医師の判断を受けて保存療法や手術療法、あるいは近年新たな治療選択として注目されている再生医療など様々な治療アプローチに従い、症状の改善を目指しましょう。

今回の記事の情報が少しでも参考になれば幸いです。

 

No.S071

監修:医師 加藤 秀一

 

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