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腱板損傷と断裂の違いは?症状の進行や治療法について現役医師が解説

「腱板損傷はどのようなケガか」「腱板損傷と断裂は何が違うのか」など、疑問を持っている方もいるでしょう。
腱板損傷と断裂は損傷の程度によって、呼び方を分ける場合があります。いずれも放っておくと重症化するため注意が必要です。
今回は、肩のケガの一種である「腱板損傷(断裂)」について、症状や治療法などを解説します。再生医療による治療の症例も紹介するので、腱板損傷(断裂)でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
目次
腱板損傷と断裂の違いは「損傷の程度」
結論から述べると、腱板損傷と断裂の違いは「損傷の程度」です。
腱板損傷とは、組織が傷ついている状態を広く指す総称であり、断裂はその中でも特に組織が切れている状態を表します。
「腱板損傷」と呼ばれる場合、多くは腱板の部分断裂を含んでいると捉えて良いでしょう。
医師によっては、患者にわかりやすく伝えるために、軽度の場合を「腱板損傷」、より重度の切れた状態を「腱板断裂」と使い分けているケースもあります。
腱板損傷(断裂)とは
腱板損傷(断裂)とは、肩関節を安定させる4つのインナーマッスルからなる腱板の組織が傷ついたり切れたりした状態です。
正式名称は肩回旋筋腱板(ローテーターカフ)です。
インナーマッスルは、その名の通り内側にある筋肉を意味し、より骨や関節に近い場所にあります。
腱板の大きな役割は、肩関節を安定化させることです。関節が安定すると、アウターマッスル(三角筋など)が働いたときに、より効率よくスムーズに腕を動かせます。
筋肉や腱、靭帯はいずれも繊維状の組織が集まってできており、その一部分が傷んでいる状態のことを損傷や炎症と呼びます。肩の腱板は構造や周囲の血流の状態から、一度損傷を起こしてしまうと自然修復が難しく、手術が必要になるケースも少なくありません。
腱板損傷(断裂)の症状
腱板損傷(断裂)では、以下のような症状が現れます。
- 就寝時に痛みが出る(夜間痛)
- 腕を挙げる際、挙げ始めや途中で痛みが出る
- 髪を洗う時に痛みが出る
- 腕を前に伸ばすと痛む(前の物を取ろうとしたときなど)
- エプロンの紐を後ろで結ぶ時に痛む
また、腕を上げる途中で痛み、上まで伸ばしきってしまうと痛みが引くような症状もみられます。これは、インナーマッスルである腱板が働かなくなり、関節を安定化させられず、効率よく力を伝えられないために起こるものです。
腱板損傷(断裂)の原因
腱板損傷は50代の男性に多くみられる疾患です。中年以降の腱板は、組織に変性(老化のようなもの)がみられるケースが多く、損傷や断裂が起こりやすい状態です。
肩の変性に加えて、仕事や日常生活などで重いものを無理に持ったり、肩を捻るような動きをしたりして負荷がかかると、腱板が損傷を起こします。
なかには、若い世代であっても、スポーツや事故などにより強い負荷・衝撃がかかると腱板損傷を起こす場合があります。
腱板断裂の原因について詳しく知りたい方は、以下の記事もチェックしてみてください。
腱板の部分断裂と完全断裂の違い
腱板断裂は、大きく「部分断裂(不全断裂)」と「完全断裂」の2つに分けられます。
部分断裂
腱板部分断裂(不全断裂)とは、以下のような状態を意味します。
- 関節面に近いところで起こる関節面断裂
- 腱板の表層を覆う滑液包に近いところで起こる滑液包面断裂
- 腱板の腱内部で起こる腱内断裂
完全断裂
腱板完全断裂とは、腱が深く切れており、腱板を上から見た際に中の関節が見えてしまっている状態のことです。
出典『肩関節インピンジメント症候群』臨床スポーツ医学.30(5).2013より引用
腱板の部分断裂(不全断裂)と完全断裂には、上記のような違いがあります。さらには、断裂の幅が狭い・広いなど、範囲の違いによって分類されるケースもあります。
腱板損傷(断裂)は進行すると重症化する
腱板部分断裂は進行すると、重症化して完全断裂へと移行します。
下の写真のようなペーパー状のゴムを例に見ていきましょう。
ペーパー状のゴムを腱板に見立てると、最初は小さかった穴が、繰り返し引っ張る力がかかることでどんどん広がっていきます。ゴムのように簡単には広がりませんが、腱板損傷も同様のイメージで進行するケースがほとんどです。
つまり、無理に患部を動かし続けることで、小さな穴(=腱板損傷、腱板部分断裂)が大きな穴(=腱板完全断裂、広範囲断裂)へと広がってしまいます。
腱板完全断裂が広範囲にわたると、リハビリテーションだけではなかなか症状を改善するのが難しくなる傾向です。そのため、腱板断裂の重症化を防ぐためには、いかに進行を抑えるかが重要です。
腱板損傷(断裂)を放置する危険性について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
なお、リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。腱板損傷(断裂)が重症化する前に、ぜひ気軽にご相談ください。
\まずは当院にお問い合わせください/
腱板損傷(断裂)の治療法
腱板損傷(断裂)の治療法は、大きく以下の3つに分けられます。
- 保存療法
- 手術療法
- 再生医療
どの治療法を選択するかは、損傷の程度や患者様の状況に応じて異なります。具体的な治療法については、医師と相談して、より良い方法を決定することが重要です。
保存療法
保存療法は、手術をしない治療法で、軽度から中度の腱板損傷に対して有効な場合があります。
リハビリテーション
保存療法のなかでも代表的なのがリハビリテーションです。リハビリテーションによって肩の筋力や柔軟性を回復させ、日常生活に支障が出ないようにします。腱板損傷(断裂)のリハビリテーションは、主に以下のような訓練内容です。
- 関節の動く範囲を広げる可動域訓練
- 損傷している筋・腱をカバーするための筋力訓練
- 肩の正常な動きを促す機能訓練
- 痛みを和らげるための物理療法(電気治療や温熱治療)
- テーピング処置(スポーツをおこなう人など)
- 日常生活の動作指導
なお、リハビリテーションは患者の状況に応じて、理学療法士や作業療法士などの専門家の指導のもとおこなわれます。
寝方指導
保存療法において、寝方指導をするケースもあります。腱板損傷(断裂)は夜間の就寝時に痛みが増強するのが一般的です。そのため、過度な負担が肩にかからないよう、寝る姿勢を適切に保って痛みの軽減を図ります。
薬物療法
強い痛みがある場合には、リハビリテーションや寝方指導と併せて、薬物療法を選択するケースもあります。
- 炎症を抑えるための消炎鎮痛薬を処方
- 関節内や関節外の軟部組織に対しての注射
なお、切れた腱板をつなげるための薬はありません。薬物療法はあくまで痛みをコントロールするための治療法です。
腱板損傷(断裂)における注意すべき動作については、以下の記事で詳しく解説しています。
手術療法
保存療法で効果がみられない場合や、重度の腱板損傷(断裂)の場合には、手術療法を選択します。
関節鏡視下手術
関節鏡視下手術は、肩腱板損傷の手術の多くを占めている術式です。傷口が小さくすみ、手術後の経過が早いのが特徴です。
具体的には、肩に複数の穴を空けて一方にカメラを、他方に操作する器具を入れて手術をおこないます。そして、切れた腱をもともとついている上腕骨に打ち込んで止めます。
手術後は、安静期間を経て徐々に関節を動かしていく流れです。一般的には、術後3カ月程度でほぼ問題なく日常生活を送れるようになります。
ただし、仕事で重労働を再開するためには、おおよそ術後6カ月必要となる点に注意してください。
人工肩関節置換術
広範囲の腱板断裂や関節変形がある場合、人工関節置換術が選択されることがあります。人工関節といえば、股関節や膝関節をイメージする方も多いと思いますが、腱板が機能していない場合は肩に使用するケースもあります。
関節の状態や、どのくらい動かせるかなどによって種類もさまざまですが、ある程度は痛みなく肩を使う動作が可能です。ただし、重いものを持ったりスポーツで激しい運動をしたりする場合は、手術方法について医師とよく話し合うことをおすすめします。
再生医療
血小板や幹細胞を用いる再生医療は、腱板損傷に対して実施される治療法のひとつです。
幹細胞には様々な組織に分化する性質があり、損傷部位で成長因子を分泌します。この治療は単独で行われることもあれば、従来の手術治療と組み合わせて用いられることもあります。
肩の痛みに対する再生医療については、以下のページで詳しく解説しています。
なお、リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。再生医療をご検討の際は、ぜひ気軽にご相談ください。
\まずは当院にお問い合わせください/
【症例】再生医療による腱板損傷(断裂)の治療
腱板損傷(断裂)に対する治療法のひとつである再生医療による症例を紹介します。
ここでは、異なる年代・状況の患者様に対する再生医療の実際の治療例を紹介するので、再生医療がどのような治療なのか、参考までにご覧ください。
症例1.60代男性|再生医療とリハビリで左肩の痛みが軽減
60代の男性は、還暦を迎えてから突然左肩に痛みを感じるようになりました。とくにケガをしたり、スポーツや仕事で肩を酷使したりしたわけでもなかったため、健康状態に不安を持たれたそうです。
近くの整形外科でMRI検査をおこなうと、加齢現象として、腱板の変性断裂と診断されました。
手術療法を選択する場合、入院期間が1〜2カ月、装具による外固定が数週間、その後は数カ月にわたるリハビリテーションが必要になると説明を受けました。
それほど長期間仕事を休むわけにはいかないと思い、入院や外固定が必要ない再生医療に興味を持ったことが、当院を受診されたきっかけです。
肩関節に幹細胞5000万個を2回投与しました。また、並行して可動域訓練のリハビリテーションも実施しました。
当院における脂肪由来の幹細胞を用いた再生医療は、身体に大きな負担をかけずに腱板損傷(断裂)に対する治療が可能です。投与後わずか約1カ月で、投与前に7あった痛みが1まで軽減しました。
こちらの症例について詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
症例2.20代男性|再生医療によって右肩腱板損傷が完治
プロテニスプレーヤーを目指す20代の男性は、高校時代からすでにテニスのサーブの時に右肩痛が出現していたそうです。
痛みに耐えながらプレーを続けていたものの、安静時にも痛みが出現するようになり、スポーツ障害専門の医師には最終手段として、手術を提案されました。しかし、早期のスポーツ復帰は再断裂のリスクを高めること、術後の復帰には半年かかるといわれたそうです。
20代の男性は、スポーツ復帰にかかる時間だけではなく、肩関節の可動域制限によるパフォーマンスの低下も懸念されていました。そのなかで、幹細胞治療に希望を見出して当院を受診されました。
当院では独自の冷凍保存しない生き生きした生存率の高い幹細胞を用いており、腱板損傷に対する治療効果が見込めます。腱板の部分断裂に対し、2500万個の幹細胞を2回投与しました。投与後6週間で少しずつスポーツ復帰できるようになり、半年が経つ頃には、10段階の1まで痛みが軽減した事例です。
こちらの症例について詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
まとめ・腱板損傷と断裂の違いを理解して適切な治療法を選択しよう
今回は、腱板損傷と腱板断裂の違いと共通点について解説しました。
腱板損傷と腱板断裂の違いは損傷の程度であり、医師によっては断裂も含めて「損傷」と呼ぶ場合もあります。
どの程度損傷しているのか、どのような治療が望ましいのか、具体的に確認するようにしてください。
軽度の痛みだからと放っておくと、広範囲にわたる腱板断裂を引き起こしかねません。肩の痛みや動かしづらさを感じた場合は、早めに専門の医師に相談しましょう。
監修者

坂本 貞範 (医療法人美喜有会 理事長)
Sadanori Sakamoto
再生医療抗加齢学会 理事
再生医療の可能性に確信をもって治療をおこなう。
「できなくなったことを、再びできるように」を信条に
患者の笑顔を守り続ける。