橋出血とは?症状・原因・治療法を現役医師がわかりやすく解説!
公開日: 2023.08.14更新日: 2024.11.06
橋出血(きょうしゅっけつ:英語名「pontine hemorrhage」)は、脳卒中の中でも、とくに生命予後の悪い疾患の1つです。
脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など、脳の血管が詰まったり破れたりする病気を総称して「脳卒中」と呼びます。
「脳卒中の症状ではないから大丈夫」と安心し、症状の発見が遅れると、重症を患う恐れがあります。
脳卒中の1つ「橋出血」の重症例では、意識・呼吸障害、四肢麻痺などをきたし、急激な経過で死に至るケースもあるのです。
本記事では、橋出血の症状・原因や治療について詳しく解説をしていきます。
目次
橋出血とは
橋出血とは脳出血の1つで、5〜10%が橋出血に該当するといわれています。
突然脳の血管が破裂する症状なので、橋出血が発症すると以下の症状が起こります。
・意識障害が起きる
・頭痛が続く
・手足の動きや感覚が鈍い など
血栓や動脈硬化で起こる脳梗塞を含め、脳の病態は複数あるので、早急に医療機関で受診しましょう。
なお、橋出血の疑いがすでにある方はとくに、以下の記事で初期症状や診断方法などを詳しくまとめました。
予後についても解説しているので、ぜひあわせてご覧ください。
橋出血の「橋」は脳幹における構造物
橋出血が起こる「橋」とは、脳の一部分である「脳幹」の1つです。
上にある中脳、下にある延髄と共に「脳幹」の構成をしています。
脳幹には、以下4つの構造物があります。
・神経伝達路
・神経の中継(分岐地点)
・自律神経反射中枢
・脳幹網様体
それぞれ構造の役割とともに、橋出血による症状について見ていきましょう。
①神経伝達路としての役割と橋出血の症状
脳幹には神経線維の束が通っており、以下の役割を果たしています。
・大脳から運動神経の伝達
・大脳へ感覚神経の伝達
・脳幹の真後ろにある小脳との連絡経路
橋出血は神経の伝導路が障害されるため、運動麻痺や感覚障害が起こるのです。
運動麻痺は出血の部位にもよりますが、重症例では両方の手・足ともに動かなくなる四肢麻痺をきたすケースもあります。
四肢麻痺と顔の麻痺まで加わる特殊な形に「閉じ込め症候群」があります。
意識や感覚は保たれますが、まばたきと一部の目の動き以外の運動がすべてできません。
看護・介護を行う人とのコミュニケーションは、眼の動きのみで行うのです。
他にも橋出血が発症すると幾つかの運動失調が起こります。
以下の記事では橋出血による運動失調の種類を詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
②神経の分岐・中継地点の役割と橋出血の症状
脳幹には、脳から直接伸びる末梢神経である脳神経核をはじめ、神経回路の分岐点や中継地点になる複数の神経核(神経細胞体の塊)があります。
橋出血が発症する「橋」にも、以下4つの脳神経核があります。
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橋出血で障害を受けた際の症状は以下の通りです。
・顔の感覚や運動の障害
・眼球運動の障害
・聴力障害
とくに三叉神経や顔面神経は舌の動きや感覚などにも関わる神経です。
橋出血が起こると飲み込み障害とも呼ばれる「嚥下(えんげ)障害」も起こる可能性があるので注意しましょう。
③自律神経中枢の役割と橋出血の症状
自律神経は生命維持の上で必要な動作を調整する神経です。
意識せずとも呼吸をし、心拍数をコントロールしています。
明るさに応じて瞳孔の大きさを調節しているように、自律神経は、脳幹に中枢があるのです。
橋には呼吸の中枢があるため、橋出血の患者様は呼吸障害が多くみられます。
橋出血では瞳孔の異常も多く、瞳孔の縮小や瞳孔を開く交感神経の障害もあるためです。
④脳幹網様体の役割と橋出血の症状
脳幹の中心から背中側には「網様体」と呼ばれる神経線維の束と神経細胞体が合わさった構造物があります。
網様体の役割は主に以下3つです。
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重症の橋出血だけでなく、網様体の障害でも呼吸・循環障害をきたします。
網様体の損傷により、「意識障害」の症例もあり、重症例では急激な経過で昏睡状態に陥っているケースもあるため、注意が必要です。
橋の網様体には眼球の運動の中枢もあるので、出血部位や程度により、さまざまな眼の動きの異常が認められます。
代表的な症例は、眼の動きがまったくできず、真ん中で固定される眼球の正中固定位が挙げられます。
眼球が真下に急に動き、ゆっくり真ん中に戻ってくる「眼球浮き運動」が認められるケースもあるので注意しましょう。
なお、橋出血を含め脳卒中は、手術しなくても治療できる時代です。
詳しくは以下のページをご覧ください。
橋出血が起こる2つの原因とそれぞれの治療法
橋出血の原因として、高血圧と血管奇形の2つが挙げられます。
原因により治療法が異なるので、それぞれ解説していきます。
高血圧で起こる橋出血と治療
橋出血の最大の原因は高血圧です。
橋への栄養動脈が、高い圧により破綻してしまいます。
橋は小さい中に重要な構造物が詰まっているところなので、出血が一気に広がり損傷が起こると、短時間で致命的になるので要注意です。
損傷を受けた脳幹の回復は難しく、手術は基本的には行いません。
可能な限り血圧を下げ、呼吸や循環などの生命維持のサポートをするのが治療の中心です。
血管奇形で起こる橋出血と治療
高血圧性の橋出血よりも若い方に多いのが、脳の血管奇形(赤あざ)によるものです。
代表的なものに「海綿状血管腫」と呼ばれる血管の塊があります。
生まれつき静脈の成分が拡張した場合によくみられ、発症場所や大きさなどは人によって異なります。
海綿状血管腫を持っている一部の患者様は、局所的な出血を起こすケースが大半です。
出血は少量で、重篤になりにくい反面、何度も繰り返すリスクがあります。
出血が落ち着いているときに手術が考慮されるケースもあるので注意してください。
橋出血についてよくあるQ&A
Q , 橋出血の検査はどのようなものがありますか?
A , 橋出血に限らず疑わしい症状があれば、CT撮影をします。
脳は灰色に映りますが、出血がある部分は白くなります。
なお、血管奇形の診断にはMRI も有用です。
近年では脳ドックなどにより症状がないまま発見されるものも多くあります。
Q , 海綿状血管腫は必ず手術が必要ですか?
A , 症状のない海綿状血管腫が出血を起こすのは、年間で1,000人中4〜6人程度です。
手術の合併症リスクの方が高く、全員におすすめできません。
ただし、一度出血を起こすと、2年以内の再出血リスクが高くなります。手術のメリットとリスクを比較しつつ、手術ができない場合は、放射線治療が考慮されるケースもあります。
橋出血の後遺症や予後について、以下の記事で詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
まとめ・橋出血の症状を理解して適切に治療しよう!
橋出血は、重症例では命にかかわりかねない恐ろしい病気の1つです。
「橋」と呼ばれる部位でもあるため、神経伝達や自律神経においての重要な役割を果たしています。
高血圧は重症の橋出血のリスクになるため、しっかりと治療を受けるのがおすすめです。
症状を見つけるタイミングも当然早い方が良いので、少しでも不安に感じた方は医療機関でのカウンセリングを検討しましょう。
▼以下もご参考下さい
<参考文献>
東登志夫. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 364-368, 2014.
古谷一英. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 369-372, 2014.
茂木陽介, 川俣貴一. 日本臨牀. 80(増刊号2): 320-324, 2022.
医学書院 標準解剖学 第1版
メディックメディア 病気がみえるvol7. 脳・神経 第1版
中外医学社 イラスト解剖学 第7版
脳卒中診療ガイドライン2021