橋出血とは?症状、原因、治療法を医師が分かりやすく解説!
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橋出血とは?症状、原因、治療法を医師が分かりやすく解説!
橋出血(「きょうしゅっけつ」、英語では「pontine hemorrhage」)は、脳卒中の中でも、特に生命予後の悪い疾患の一つです。
脳梗塞・脳出血・くも膜下出血といった、脳の血管が詰まったり破れたりする病気を総称して「脳卒中」と呼びます。脳卒中のひとつ「橋出血」の重症例では、意識・呼吸障害、四肢麻痺などをきたし、急激な経過で死に至ることもあるのです。
本記事では、橋出血の症状・原因や治療について詳しく解説をしていきます。
橋出血の「橋」とはなにか
橋とは、上にある中脳、下にある延髄と共に、「脳幹」の構成をしている部分です。脳幹には、神経伝達路、神経の中継・分岐地点、自律神経反射中枢、脳幹網様体という4つの構造物があります。
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それぞれの構造の役割とともに、橋出血による症状について見ていきましょう。
①神経伝達路としての役割と橋出血
脳幹には神経線維の束が通っており、大脳からの運動神経の伝達、大脳への感覚神経の伝達、脳幹の真後ろにある小脳との連絡経路の役割を果たしています。
橋出血では、神経の伝導路が障害されるため、運動麻痺や感覚障害が起こるのです。
運動麻痺は出血の部位にもよりますが、特に重症例では両方の手・足ともに動かなくなる四肢麻痺をきたすことがあります。
この四肢麻痺と顔の麻痺まで加わる特殊な形に、「閉じ込め症候群」があります。意識や感覚は保たれますが、まばたきと一部の目の動き以外の運動が、全てできません。看護・介護を行う人とのコミュニケーションは、眼の動きのみで行うことになります。
また、小脳との連絡がうまくいかなくなると運動失調が起こります。運動失調とは、麻痺がないのに筋肉同士の連携がうまくいかず、動作がスムーズに行えなくなることです。
②神経の分岐・中継地点の役割と橋出血の症状
脳幹には、脳から直接伸びる末梢神経である脳神経核をはじめ、複数の神経核があります。神経核は神経の細胞体の塊です。神経回路の分岐点や中継点となります。
例えば、橋には次の4つの脳神経核があります。
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橋出血でこれらが障害を受けると、顔の感覚や運動の障害、眼球運動の障害、聴力障害が起こります。三叉神経や顔面神経は舌の動きや感覚などにも関わる神経です。そのため、橋出血では嚥下障害も多く認められます。
③自律神経中枢と橋出血の症状
自律神経は生命維持の上で必要なことを調整する神経です。私たちは意識せずとも呼吸をし、心拍数をコントロールできます。明るさに応じて、瞳孔の大きさを調節することもできます。これらを行う自律神経も、脳幹に中枢があるのです。
橋には呼吸の中枢があるため、橋出血患者さんには呼吸の障害が多く認められます。
また、橋出血では瞳孔の異常を多く認めます。代表的なものは瞳孔の縮小です。自律神経のうち、瞳孔を開く交感神経が障害されるためです。
④脳幹網様体の役割と橋出血の症状
脳幹の中心から背中側には、網様体と呼ばれる、神経線維の束と神経の細胞体が合わさったものがあります。
網様体には主に3つの役割があります。
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重症の橋出血では、自律神経に障害が出ることはすでに述べましたが、網様体の障害でも呼吸・循環障害をきたします。さらに、網様体の損傷により認められるのが意識障害です。重症例では、急激な経過で昏睡状態に陥ってしまいます。
また、徐脳硬直という特徴的な姿勢を認めます。筋緊張の調整ができなくなる結果、手も足も強く伸び切ってしまうという状態です。
また、橋の網様体には眼球の運動の中枢があります。橋出血の際は、出血部位や程度により、さまざまな眼の動きの異常が認められます。代表的なものは、眼球の正中固定位です。眼の動きが全くできず、真ん中で固定されます。また、眼球が真下に急に動き、ゆっくり真ん中に戻ってくる「眼球浮き運動」が認められることもあります。
橋出血の二つの原因とそれぞれの治療法
橋出血の原因として、高血圧と血管奇形の二つが挙げられます。また、原因により治療法が異なります。
それぞれについて解説していきます。
高血圧で起こる橋出血と治療
橋出血の最大の原因は高血圧です。
橋への栄養動脈が、高い圧により破綻してしまいます。橋は小さい中に重要な構造物が詰まっているところです。出血が一気に広がり損傷が起こると、短時間で致命的になります。
損傷を受けた脳幹の回復は難しく、手術は基本的には行いません。可能な限り血圧を下げ、呼吸や循環などの生命維持のサポートをするのが治療の中心です。
血管奇形で起こる橋出血と治療
高血圧性の橋出血よりも若い方に多いのが、脳の血管の奇形によるものです。
代表的なものに、海綿状血管腫という血管の塊があります。この奇形を持っている一部の患者さんでは局所的な出血を起こします。出血は少量で、重篤にならないことが多いです。しかし、何度も繰り返すリスクがあります。
この場合は、出血が落ち着いているときに手術が考慮されることもあります。
橋出血についてよくあるQ & A
Q , 橋出血の検査はどのようなものがありますか?
A , 疑わしい症状があれば、CTを撮影します。脳は灰色に映りますが、出血がある部分は白くなります。なお、血管の奇形の診断はMRI も有用です。近年では脳ドックなどにより、症状がないまま発見されるものも多くあります。
Q , 海綿状血管腫は必ず手術が必要ですか?
A , 症状のない海綿状血管腫が出血を起こすのは、年間で1000人中4〜6人程度です。手術の合併症リスクの方が高く、万人に勧められるものではありません。ただし、一度出血を起こすと、特に2年以内の再出血のリスクが非常に高くなります。その場合も、全員が手術をするわけではありません。
手術のメリットとリスクを天秤にかけて考えます。近年では手術ができない場合に、放射線治療が考慮されることもあります。
まとめ・橋出血とは?症状、原因、治療法を医師が分かりやすく解説!
橋出血は、重症例では命にかかわりかねない恐ろしい病気です。
高血圧は重症の橋出血のリスクになるため、しっかりと治療を受けましょう。
この記事がご参考になれば幸いです。
No.144
監修:医師 坂本貞範
▼以下もご参考下さい
橋出血の初期症状やその特徴とは?医師が詳しく解説!
- <参考文献>
- 東登志夫. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 364-368, 2014.
- 古谷一英. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 369-372, 2014.
- 茂木陽介, 川俣貴一. 日本臨牀. 80(増刊号2): 320-324, 2022.
- 医学書院 標準解剖学 第1版
- メディックメディア 病気がみえるvol7. 脳・神経 第1版
- 中外医学社 イラスト解剖学 第7版
- 脳卒中診療ガイドライン2021