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腱鞘炎について 原因と予防を医師が解説
現代社会において、手や指の痛みやしびれに悩まされている方は少なくないのではないでしょうか。スマートフォンやパソコンの普及により、負担が増大している現代、腱鞘炎はもはや他人事ではありません。
ここでは症状や原因、具体的な治療法、予防策まで、わかりやすく説明します。
目次
腱鞘炎を理解する3つのポイント
腱鞘炎は、普段の生活でもよくありふれた疾患です。朝起きた時に指が動かしづらい、何かを掴む時に痛い、それは腱鞘炎のサインかもしれません。治療のタイミングが遅れると、慢性化し、日常生活に支障をきたす可能性もあります。
①腱鞘炎とは?
腱は、腱鞘といわれるトンネル状袋に包まれています。その二つが、摩擦によって炎症が生じることで起こる疾患です。腱があることで、筋肉と指の骨を連結させて指を動かせるのです。この腱の外側には腱鞘という筒状のものがあり、その中で腱がスライドして動くという仕組みになっています。
腱鞘があるおかげで、腱は滑らかに動くことができます。しかし、腱の許容範囲を超える負荷がかかったり、腱そのものの損傷で炎症が起きます。
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②鑑別と症状
炎症が発生する場所によって、いくつかの種類に分類されます。よくみられるのは、「ばね指」と「ドケルバン病」となります。ばね指は、指を伸ばすときにばね現象が起こり、重症になると指が真っ直ぐ伸びなくなります。一方、ドケルバン病は親指側の腱に炎症が起こり、親指を動かしたり手首を小指側に曲げたりする際に痛みを生じます。
症状には、以下のようなものが挙げられます。
- 痛み:安静の時や動かすときに痛みが出ます。
- 腫れ:赤みを帯びて腫れることもあります。
- 熱感:患部に熱感を感じることもあります。
- こわばり:起床時、指の関節が錆びた感じになり、思うように曲がらない。
- しびれ:炎症が神経を圧迫することで、指にしびれが出ることもあります。
- ばね現象:指の曲げ伸ばしの時に引っかかりを感じ、急に指が伸びたり曲がったりする「ばね現象」が起こります。
これらの症状は、炎症の程度や部位によって異なります。初めのうちは、あまり痛みが無いので、様子を見てしまいがちですが、放っておくと慢性化してなかなか治りにくくなります。
③なりやすい人の特徴
パソコンや携帯をよく使う人、楽器を演奏する人、家事や育児で手を使うことが多い人、そしてスポーツ選手などです。
また、女性ホルモンの影響で、妊娠中や出産後の女性、更年期を迎えた女性も腱鞘炎になりやすい傾向があります。さらに、糖尿病や関節リウマチなどの合併症の方も痛みが出やすくなります。
▼ばね指になる原因や対処法について、併せてお読みください。
主な原因4つ
手首や指の痛みが強くなり、日常生活にも支障をきたす厄介な疾患です。次の4つは、よく患者さんから言われる原因となります。
①使い過ぎによる炎症
特定の動作を過度に繰り返すことで発症します。例えば、デスクワークで長時間パソコンのキーボードやマウスを操作する、スマートフォンの画面を頻繁にスクロールする、楽器の演奏を長時間行う、家事や育児で繰り返し同じ動作を行う、などがあげられます。
近年では、スマートフォンの普及により、画面のタッチ操作やフリック入力といった、指の細かい動作を長時間行う人が増えています。こうした動作の繰り返しは、腱鞘炎のリスクを高める要因の一つと言えるでしょう。腱の許容範囲を超える負荷がかかり続けることで発生し、微細な損傷が蓄積することで慢性化しやすいという特徴があります。
②外傷による損傷
手首や指に強い衝撃が加わったりして、痛みが出ます。例えば、転倒して手をついたり、スポーツ中にボールが強く当たったりして、腱が損傷してしまいます。反復性の使い痛みと違い、外傷では、たった1回の衝撃でも発症することもあります。
③妊娠・出産によるホルモンバランスの変化
妊娠中や出産後には、女性ホルモンのバランスが大きく変動します。これによって、炎症を起こしやすくする作用があり、リラキシンというホルモンが影響します。加えて、出産後は育児に伴う抱っこや授乳などの動作が加わり発症します。
更年期にも、腱鞘炎のリスクが高まることが知られています。更年期の女性は、エストロゲンの減少により腱や腱鞘の強度や弾力性が低下しやすくなり、炎症を起こしやすくなると考えられています。
④基礎疾患(糖尿病、関節リウマチなど)の影響
糖尿病や関節リウマチなどの基礎疾患がある場合、腱や腱鞘への血流が悪化することで、腱や腱鞘への栄養供給が不足し、組織の修復が遅延しやすくなります。
関節リウマチは、自己免疫疾患の一つであり、免疫システムの異常によって関節や腱に炎症が起こる病気です。これらの合併症を適切に管理することで、腱鞘炎の発症リスクを軽減することが期待できます。
治療法3つの選択肢
腱鞘炎の痛みやしびれ、そして動きが悪くなると、普段の生活における動作がとても不便になります。朝、服のボタンを留めるのも一苦労、包丁で野菜を切るのも痛い、子どもを抱っこするのも辛い……。腱鞘炎は、こうした日常の動きに支障をきたします。しかし、ほとんどの場合は治療をすることで、症状は軽快します。ご自身の症状や生活スタイル、そしてご希望に合った治療法を選択することが、一日も早く日常生活を取り戻すための近道となります。
①保存療法
代表的なものは、安静、固定、薬物療法、注射といった方法があります。日常生活でどうしても患部を使ってしまう場合は、「固定」が有効です。サポーターやテーピングで患部を固定することで安静を保ち、負担を軽減することができます。
「薬物療法」では、消炎鎮痛剤などの薬を内服したり、湿布などの外用薬を使用したりします。痛みが強い場合は、これらの薬剤によって症状を和らげ、日常生活を送りやすくすることができます。重症例ではステロイドの注射をよく使用します。
親指の付け根に痛みがあるドケルバン腱鞘炎では、ステロイド注射とテーピングなどの組み合わせが効果的という研究結果も報告されています(Challoumas et al., 2023)。 |
治療期間は数週間から数ヶ月で症状が改善するケースもあれば、残念ながら改善が見られないケースもあります。医師は患者さんの状態を丁寧に診察し、最適な保存療法を選択します。
②手術療法(腱鞘切開術など)
保存治療をしても良くならない場合は、手術療法が検討されます。手術療法で最も一般的なのは、「腱鞘切開術」です。これは、腱鞘を切開して腱の通り道を広げることで、炎症を抑える手術です。局所麻酔で行われることが多く、日帰り手術も可能です。手術時間は比較的短く、30分程度で終了します。ただし、術後は指が固まらないように、積極的に動かすリハビリが必要です。
ばね指に対しては、近年、超音波ガイド下手術などの新しい治療法も登場しています。これは、超音波を用いて患部をリアルタイムで確認しながら手術を行います。(Donati et al., 2024)。 |
③リハビリテーション(ストレッチ、筋力トレーニングなど)
指の関節の固まりを防いだり、血行を良くします。代表的なリハビリテーションとしては、ストレッチ、筋力トレーニング、温熱療法などがあります。指のストレッチによって、腱や周りの組織を柔らかくし、関節の動きを良くします。「筋力トレーニング」は、弱くなった筋肉を強化し、関節を安定させる効果があります。関節を支える筋肉が強くなることで、指の負荷を減らして再発を防ぐことができます。
▼ドケルバン病の治療法についても、併せてお読みください。
症状の予防3選
腱鞘炎は治った後でも。再発することがよくあります。根本的な原因を改善することで、再発を防ぎましょう。効率的な予防方法を紹介します。
①適切な姿勢と動作
腱鞘炎予防の第一歩は、適切な姿勢と動作を意識することです。例えば、パソコン作業をする際は、手首をまっすぐにして、キーボードやマウスを操作するようにしましょう。長時間のデスクワークでは、知らず知らずのうちに手首に負担をかけてしまいます。
パソコンをするときは、肘の高さか、それよりも少し低い位置に設置しましょう。椅子に座るときは、足の裏全体が床につくように調整してください。
ドアノブを回すときなど、手首に負担がかかりやすい動作には注意が必要です。ドアノブを回す際は、手首をひねらないように腕全体で回す感じにすることが大切です。
近年、スマートフォンやタブレットの普及により、指の細かい動作を長時間行う人が増えています。画面のタッチ操作やフリック入力、ゲームの操作などは、腱鞘炎のリスクを高める要因の一つです。腱鞘炎は、腱の許容範囲を超える負荷がかかり続けることで発生し、微細な動きでも損傷が蓄積することで慢性化しややすくなります。
②ストレッチや休憩
症状を和らげるのに、ストレッチと休憩も効果的です。
具体的なストレッチ方法としては、指を一本ずつ優しく伸ばすことが効果的です。指のストレッチは、腱と腱鞘を柔らかく保ち、スムーズな動きを促す効果があります。これらのストレッチは、仕事の合間や家事の休憩時間など、ちょっとした時間に行うことができます。
予防には、手や指だけでなく、前腕から首にかけてのストレッチも大事です。肩や腕の動きが悪くなると、どうしても手に負担がかかります。トリガーフィンガー(ばね指)の診断と治療において、病歴聴取、身体診察、機能評価尺度に加えて、近年では高周波プローブを用いた超音波検査も包括的な評価に用いられています。
③サポーターの使用
腱鞘炎の予防や症状の軽減には、サポーターの使用も有効です。サポーターは、手首や指を固定することで、負担を減らし悪化を防ぎます。
手首を覆うものと、親指の動きを抑えるものとさまざまな種類がありますので、医師や薬剤師に相談しながら、適切なサポーターを選びましょう。
サポーターは、症状が軽い場合や予防のために使用する場合は、長時間装着し続ける必要はありません。日常生活で負担がかかりやすい作業を行う際や、スポーツをする際に使用するのが効果的です。装着時間は、症状やサポーターの種類によって異なります。装着時間を守らないと、皮膚トラブルや血行不良などを引き起こす可能性があります。
また、サポーターに頼りすぎることなく、日常生活での姿勢や動作、ストレッチなどにも気を配り、総合的なケアを行うことが重要です。
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参考文献
- Challoumas D, Ramasubbu R, Rooney E, Seymour-Jackson E, Putti A, Millar NL. “Management of de Quervain Tenosynovitis: A Systematic Review and Network Meta-Analysis.” JAMA network open 6, no. 10 (2023): e2337001.
- Donati D, Ricci V, Boccolari P, Origlio F, Vita F, Naňka O, Catani F, Tarallo L. “From diagnosis to rehabilitation of trigger finger: a narrative review.” BMC musculoskeletal disorders 25, no. 1 (2024): 1061.
- Cardoso TB, Pizzari T, Kinsella R, Hope D, Cook JL. “Current trends in tendinopathy management.” Best practice & research. Clinical rheumatology 33, no. 1 (2019): 122-140.
監修者
坂本 貞範 (医療法人美喜有会 理事長)
Sadanori Sakamoto
再生医療抗加齢学会 理事
再生医療の可能性に確信をもって治療をおこなう。
「できなくなったことを、再びできるように」を信条に
患者の笑顔を守り続ける。