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「iPS細胞」という言葉を、ニュースや新聞で目にしたことがある方は多いのではないでしょうか。2012年に山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したことで、日本でも大きな注目を集めました。 しかし、「そもそもiPS細胞とは何なのか?」「どのような病気の治療に使われているのか?」「実際にどこまで実用化されているのか?」といった疑問を持つ方も少なくありません。 本記事では、iPS細胞の基本的な仕組みから、再生医療への応用や実際の治療事例、そして今後の課題までわかりやすく解説します。ぜひ参考にしてください。 また、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療に関する情報提供を実施しております。再生医療について気になる方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 iPS細胞とは何かをわかりやすく解説 iPS細胞(induced pluripotent stem cells:人工多能性幹細胞)とは、皮膚や血液などの体細胞に特定の遺伝子を導入し、さまざまな細胞に変化できる能力を持たせた人工的な幹細胞です。 体の中には、神経細胞や心筋細胞、肝細胞など、それぞれ特定の役割を持った細胞が存在します。通常、これらの細胞は一度分化(特定の役割をもつ細胞へ変化すること)すると他の種類の細胞には変化しません。 しかし、iPS細胞は特別な処理を施すことで、「どんな細胞にも変化できる状態」に戻すことに成功した画期的な技術なのです。 京都大学の山中伸弥教授らは、2006年にマウスの皮膚細胞から、2007年にはヒトの皮膚細胞から、わずか4つの遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)を導入するだけでiPS細胞を作製する方法を発見しました。(文献1)(文献2) この革新的な研究成果により、山中教授は2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。(文献3) iPS細胞は、受精卵から作られるES細胞(胚性幹細胞)※と似た性質を持っていますが、重要な違いがあります。 ES細胞は受精卵を壊して作るため、倫理的な問題が指摘されてきました。しかしiPS細胞は、患者本人の皮膚などから作れるため、そうした受精卵の破壊に伴う倫理的課題を原則として回避できます。 ※ES細胞(胚性幹細胞)とは 受精卵から作られる、どんな細胞にもなれる万能な細胞 iPS細胞が再生医療に何をもたらした? iPS細胞の登場は、再生医療の分野に大きな革新をもたらしました。具体的には以下3つの点で、医療の可能性を大きく広げています。 倫理的課題を克服し拒絶反応リスクを低減した 難治性疾患の臨床応用を大きく前進させた 病気の原因究明と新薬開発を加速させた それぞれ詳しく解説します。 倫理的課題を克服し拒絶反応リスクを低減した iPS細胞の大きな意義の1つは、ES細胞が抱えていた受精卵の破壊に伴う倫理的問題を回避できる点にあります。 ES細胞は受精卵を使用するため、「生命の萌芽を壊して良いのか」という倫理的な議論が続いてきました。しかし、iPS細胞は患者本人の皮膚や血液などの体細胞から作製できることが示されたため、受精卵利用に関する倫理的負担が解消されました。(文献1)(文献2) また、患者自身の細胞から作る場合、移植後の拒絶反応のリスクが低いという利点もあります。臓器移植では免疫反応により移植した組織が攻撃されることがありますが、自分の細胞由来(自家移植)であれば、その危険性を大きく減らせることが動物実験等で示唆されています。(文献4) さらに、iPS細胞は理論上、無限に増殖し、以下のような細胞に分化する能力を持っています。 神経細胞 心筋細胞 肝細胞 血液細胞 など この多能性により、これまで治療法がなかった疾患に対する新たな治療の道が開かれました。 難治性疾患の臨床応用を大きく前進させた iPS細胞は、従来の治療法では対応が困難だった疾患に対する細胞移植治療を現実のものにしました。 主に、以下のような疾患で臨床研究や臨床試験(治験)が進められています。 分野 疾患名 眼科分野 加齢黄斑変性症(かれいおうはんへんせいしょう) 網膜色素変性症(もうまくしきそへんせいしょう) 神経系 パーキンソン病 脊髄損傷 心臓 心不全 血液分野 血小板減少症 これらの臨床研究では、iPS細胞から作った細胞を患者に移植し、安全性と有効性を実証しつつあります。 実際に視機能の維持・改善や運動機能の回復など、一定の成果が報告されており(文献5)、難治性疾患の治療に新たな希望をもたらしているのです。 病気の原因究明と新薬開発を加速させた iPS細胞の応用は、治療だけにとどまりません。難病研究や創薬の分野でも革新をもたらしています。 患者由来のiPS細胞を使えば、患者本人の遺伝情報を持った細胞を培養皿の中で増やし、病気の発症メカニズムを詳しく観察可能です。これにより、これまで解明が難しかった難病の原因を突き止める研究が進んでいます。 また、新薬開発においても、iPS細胞由来の細胞を使って薬の候補物質の有効性や毒性を評価できるようになりました。従来は動物実験に頼っていましたが、人間の細胞で直接テストできるため、創薬の効率が大幅に向上しています。 さらに、iPS細胞から小さな肝臓(ミニ肝臓・肝芽)などの立体的な臓器を作る技術も開発されており、将来的には「臓器丸ごとの再生」などの、より高度な再生医療への道も開かれつつあります。(文献6) iPS細胞を利用した再生医療の実例 iPS細胞を使った再生医療は、すでに複数の疾患で臨床研究や臨床試験が実施されています。ここでは、実際に行われている治療の具体例をいくつか紹介します。 眼科分野での世界初の移植 神経疾患の治療 心疾患の修復 血液成分の安定供給 それぞれ詳しく解説します。 眼科分野での世界初の移植 iPS細胞を使った再生医療で、実用化が進んでいる分野の1つが眼科領域です。 とくに加齢黄斑変性症の治療では、2014年に世界で初めてiPS細胞から作った網膜色素上皮細胞のシートを患者に移植する手術が、理化学研究所と神戸市立医療センター中央市民病院のチームによって実施されました。 この手術は経過が順調で、移植された細胞が定着し、視力の悪化を食い止める効果(安全性の確認と病態の安定化)が確認されています。(文献5) また、網膜色素変性症という別の目の病気に対しても、2020年から2021年にかけて、iPS細胞から作った網膜組織(網膜シート)を移植する手術が行われました。この臨床研究では、移植後の安全性が確認され、一部の患者で光に対する反応が改善するなど、目の機能改善が認められています。(文献7) 眼科分野は比較的小さな組織で治療効果を検証しやすいことから、iPS細胞を使った再生医療の最前線として注目されています。 神経疾患の治療 パーキンソン病は、脳内のドパミンを作る神経細胞が減少することで、手足の震えや動作の遅さなどの症状が現れる病気です。 京都大学の研究チームは、動物実験での安全性と有効性の確認を経て、2018年にiPS細胞から作った「ドパミン神経前駆細胞」を患者の脳(大脳基底核の被殻)に移植する医師主導治験を開始しました。(文献8) この治験では、特殊な針を用いて脳の深部に細胞を移植し、安全性と有効性の検証が進められています。 パーキンソン病の治療についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。 心疾患の修復 心臓の病気に対するiPS細胞治療も着実に進んでいます。 心筋梗塞や拡張型心筋症によって心臓の機能が低下する心不全に対し、iPS細胞から作った心筋細胞などをシート状や球状にして心臓の表面に移植する臨床試験が進行中です。 大阪大学や慶應義塾大学などの研究チームが中心となり、安全性や有効性を確認する研究が行われています。 心筋細胞は一度損傷すると自然には再生しにくいため、iPS細胞から作った細胞を移植することで、心臓の機能を回復させることが期待されています。 実際の臨床試験では、移植後の安全性が確認され、心機能の改善や心不全症状の緩和を示唆するデータも報告されています。(文献9) 血液成分の安定供給 iPS細胞は、血液成分の供給問題を解決する可能性も秘めています。 京都大学などの研究グループは、iPS細胞から血小板を大量かつ安定的に産生する方法を開発しました。(文献10) 血小板は止血に欠かせない血液成分ですが、現在は献血に頼っており、有効期限も短いため、常に不足のリスクがあります。iPS細胞から血小板を作る技術が実用化されれば、献血不足の問題を解消し、将来的に血液製剤の安定供給に大きく貢献できる可能性があるのです。 実際に、血小板輸血不応状態を合併した再生不良性貧血患者を対象とする臨床研究も開始されており、実用化に向けた検証が進められています。 iPS細胞のデメリットや注意点は? iPS細胞は革新的な技術ですが、実用化に向けてはいくつかの課題も指摘されています。ここでは、主な懸念点と現在の対応状況について解説します。 腫瘍形成(がん化)のリスクが指摘されている コストと時間がかかる 新たな倫理的課題が指摘されている それぞれ詳しく解説します。 腫瘍形成(がん化)のリスクが指摘されている iPS細胞の安全性において、最も懸念されているのが腫瘍形成のリスクです。 体細胞に遺伝子を導入する際、ゲノム(生物の全遺伝情報)に傷がつき、それが原因で細胞ががん化する可能性があります。また、iPS細胞から目的の細胞に分化させる過程で、未分化な細胞が残存した場合、移植後に奇形腫(テラトーマ)と呼ばれる腫瘍を形成する可能性も指摘されています。 とくに、初期化※に使われる4つの因子のうち「c-Myc」は、がん原遺伝子としても知られており、腫瘍化のリスクを高める可能性がありました。 しかし、現在ではこのc-Mycを使用しない方法や、より安全な代替因子(L-Mycなど)への変更により、作製されるiPS細胞の安全性は大きく向上しています。(文献11) ※初期化とは すでに役割が決まった大人の細胞を、さまざまな種類の細胞に変わることができる「多能性幹細胞」の状態に戻すこと コストと時間がかかる iPS細胞治療のもう1つの課題は、コストと時間の問題です。 患者本人の細胞からiPS細胞を作り、目的の細胞に分化させて移植する「自家移植」は、いわばオーダーメイド治療です。患者一人ひとりに合わせて細胞を作製するため、多大な時間と費用がかかります。 また、細胞の培養を人の手作業で行う部分が多く、大量生産(スケーラビリティ)の確保が重要な課題となっています。自動化技術やAI技術はまだ発展途上であり、さらなる技術開発が必要です。 加えて、作製方法の標準化も課題です。研究機関や医療機関によって作製方法が異なると、品質のばらつきが生じる可能性があります。安全で質の高いiPS細胞を安定的に供給するためには、製造プロセスの標準化と効率化が求められるのです。 新たな倫理的課題が指摘されている iPS細胞は、ES細胞で懸念されていた「受精卵の破壊」などの倫理的課題は回避しましたが、技術の進歩に伴い、新たな倫理的課題も浮上しています。 iPS細胞の研究が進むと、人間の細胞を動物の胚に入れた「動物性集合胚(キメラ胚)」を作製する研究が可能になります。さらに、iPS細胞から精子や卵子といった生殖細胞を作り出し、それらを受精させて人のクローンを作ることも技術的に実現可能な範囲に入ってきています。 これらの応用は、生命の操作や「人間とは何か」という根本的な問いに直結するため、倫理的にどこまで許容するのか、社会的な合意形成が必要です。 なお、日本では文部科学省が厳格な指針を定めています。 たとえば生殖細胞の作製は基礎研究に限って容認する一方で、それを受精させて個体を生み出すことは禁止するなど、研究の進展に合わせて倫理的な枠組みの整備が進められています。(文献12) 日本におけるiPS細胞と再生医療の展望 日本は、iPS細胞研究において世界をリードする立場にあります。 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)を中核に、文部科学省や日本医療研究開発機構(AMED)による強力な支援体制が敷かれ、国、大学、企業が連携した『オールジャパン』での研究開発が進んでいます。 また、2013年には「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」も施行され、世界に先駆けて法的な環境整備も完了しました。 さらに、製薬企業や素材メーカーとの連携により、iPS細胞の備蓄(ストック)事業や製造技術の開発も加速しています。 すでに眼、神経、心臓など多岐にわたる領域で治験が進行しており、日本発の革新的な医療技術として、世界への本格的な普及が期待されています。 リペアセルクリニックで行っている再生医療 当院では、患者様ご自身の脂肪から採取した幹細胞を培養し、再び体内に戻す「自己脂肪由来の幹細胞治療」を行っています。 自分の細胞を使用するため、他人の細胞を移植する場合と比べて拒絶反応のリスクが少ないのが特徴です。幹細胞が持つ「組織を修復する力」や「炎症を抑える力」を利用し、さまざまな疾患の改善を目指します。 主な対応疾患は、以下のとおりです。 分野 対応疾患 整形外科領域 ・変形性膝関節症 ・変形性股関節症など (関節の痛みや炎症) 脳神経領域 ・脳卒中(脳梗塞・脳出血)の後遺症 ・脊髄損傷 その他 ・慢性疼痛 ・エイジングケア(肌の再生、しわ・たるみ改善) 再生医療について詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。 まとめ|iPS細胞と再生医療の現状と課題を正しく理解しよう iPS細胞は、山中伸弥教授の画期的な研究により実現した、体細胞から作られる人工的な幹細胞です。倫理的な問題を回避し、患者本人の細胞から作れるため拒絶反応のリスクが低いという大きな利点があります。 現在、眼科や神経、心臓などの再生医療に加え、難病の原因究明や新薬開発の両面で実用化が進んでいます。コストや安全性などの課題は残るものの、技術革新により着実に克服されつつあります。 iPS細胞と再生医療について正しく理解し、その可能性と課題を知ることで、未来の医療についてより深く考えるきっかけになれば幸いです。 再生医療やiPS細胞治療についてさらに詳しく知りたい方、または身体の不調でお悩みの方は、当院の公式LINEにぜひご登録ください。 公式LINEでは、簡易オンライン診断もご利用いただけます。お気軽にご登録の上、症状の確認や相談にお役立てください。 iPS細胞と再生医療に関するよくある質問 iPS細胞を小学生にもわかるように説明してほしい iPS細胞とは、私たちの体にある皮膚や血液などの大人になった細胞を、特別なスイッチ(遺伝子)を使って、赤ちゃんのような状態に戻して作る、とても特別な細胞です。 普通、皮膚の細胞は皮膚のままで、心臓の細胞にはなれません。でも、iPS細胞は「どんな細胞にも変身できる魔法のような細胞」なのです。 たとえば、病気やけがで傷ついた目の細胞や、心臓の細胞を新しく作って、体に戻してあげることで、病気を治すことができるかもしれません。 この技術を発見した日本の山中伸弥先生は、ノーベル生理学・医学賞という世界的にとても有名な賞をもらいました。iPS細胞は、未来の医療を大きく変える可能性を持った、とても重要な発見なのです。 iPS細胞のメリットは何? iPS細胞には、大きく分けて3つの優れた利点があります。 1つ目は、拒絶反応のリスクが極めて低い点です。 iPS細胞は患者本人の細胞から作製できるため、移植時に「異物」と判断されにくく、免疫反応による拒絶リスクを大幅に抑えられます。これは臓器移植や細胞治療において非常に重要な要素です。 2つ目は、多様な細胞へ分化できる高い汎用性です。 心筋細胞、神経細胞、網膜細胞など、ほぼすべての細胞を作り出せるため、従来は治療選択肢が限られていた疾患に対して、新たな治療法を開発できる可能性が広がっています。 3つ目は、再生医療だけでなく創薬分野でも大きな価値を発揮する点です。 患者由来のiPS細胞を用いて病態を再現することで、病気のメカニズム解明や薬の効果・安全性を事前に評価できます。新薬開発の効率化や副作用リスクの低減が期待されています。 このように、iPS細胞は再生医療と創薬の両面で革新的な価値を持ち、医療の未来を大きく変える可能性を秘めた技術として、世界的に研究が加速しています。 参考文献 (文献1) Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors|Cell (文献2) Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors|Cell (文献3) Nobel Prize in Physiology or Medicine 2012|THE NOBEL PRIZE (文献4) Negligible immunogenicity of terminally differentiated cells derived from induced pluripotent or embryonic stem cells|Nature (文献5) Autologous Induced Stem-Cell–Derived Retinal Cells for Macular Degeneration. New England Journal of Medicine|N Engl J Med (文献6) 立体臓器(ミニ肝臓)の創出 (2013)|日本医療開発研究機構 (文献7) World's first clinical study begun in Kobe to transplant allogeneic iPS cell-derived retinal sheet for retinitis pigmentosa|Kobe Eye Center (文献8) iPS 細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病に対する細胞移植治療|Drug Delibery System (文献9) Phase I Clinical Trial of Autologous Stem Cell-Sheet Transplantation Therapy for Treating Cardiomyopathy|J Am Heart Assoc (文献10) Turbulence Activates Platelet Biogenesis to Enable Clinical Scale Ex Vivo Production|Cell (文献11) Generation of induced pluripotent stem cells without Myc from mouse and human fibroblasts|Nat Biotechnol (文献12) 【様式一覧:研究計画】ヒトiPS細胞又はヒト組織幹細胞からの生殖細胞の作成を行う研究に関する指針|文部科学省
2025.12.13 -
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「iPS細胞を用いた治療について知りたい」 「iPS細胞で病気が治せるのは本当なのか?」 従来の医療では改善が難しかった難病や慢性疾患に対し、iPS細胞は革新的な治療法として注目されています。現在、パーキンソン病・心筋梗塞・網膜変性疾患などを対象に、臨床研究や治験が世界各地で進行中です。 一方で、実用化には依然として多くの課題が残り、現時点で臨床応用が確立している疾患はごく一部にとどまります。 本記事では、現役医師がiPS細胞で治せる(治療が期待できる)病気や、治療の可能性と課題を詳しく解説します。 記事の最後には、iPS細胞で治せる(治療が期待できる)病気に関するよくある質問をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 再生医療を用いた治療をお考えの方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 iPS細胞で治せる(治療が期待できる)病気一覧 iPS細胞で治せる(治療が期待できる)病気 詳細 脳の病気(脳梗塞など) 損傷した脳組織の再生 目の病気(加齢黄斑変性など) 網膜細胞の機能回復 血液の病気(再生不良性貧血など) 骨髄機能の補完・血液細胞の再生 心臓の病気(虚血性心疾患など) 心筋細胞の再生による心機能の改善 神経の病気(パーキンソン病など) 神経細胞の補充と機能回復 糖尿病 インスリン分泌細胞の再生および機能修復 iPS細胞(人工多能性幹細胞)は、体のさまざまな細胞に変化できる性質を持ち、これまで治療が難しかった病気への応用が進められています。再生医療の研究では、脳や心臓、目、神経など、機能を失った組織を再生させる臨床試験が行われています。 難病や慢性疾患に対して根本的な治療法を提供する可能性があり、現在も臨床研究が世界中で進められています。 脳の病気(脳梗塞など) 項目 詳細 対象となる病気 脳梗塞などの脳の病気 治療の目的 損傷した脳神経細胞の再生と機能回復 現在の進捗状況 主に動物実験段階で、一部で臨床研究が進行中 主な課題 移植の時期・場所・細胞量・分化段階の適切な条件の確立 研究での注目点 移植後の細胞の生着や増殖のコントロールに関する検討 今後の展望 人での大規模臨床試験による有効性と実用化の可能性の検証 (文献1) 脳梗塞や脳卒中では、血管が詰まったり破れたりすることで脳の一部が損傷を受け、運動麻痺・言語障害・感覚障害などの後遺症が出ることがあります。 現在、iPS細胞(誘導多能性幹細胞)を用いた治療研究では、損傷した神経回路を補修・再構築し、脳機能の回復を促す方向で検討が進められています。たとえば、ヒトiPS細胞由来の神経前駆細胞を用いた基礎研究では、ラットの脳梗塞モデルにおいて移植後に神経突起の伸長や神経細胞への分化が確認されています。(文献2) 以下の記事では、脳梗塞について詳しく解説しています。 【関連記事】 脳梗塞とは|症状・原因・治療法を現役医師が解説 脳梗塞の後遺症は治る?治療法や種類・症状別に医師が解説 目の病気(加齢黄斑変性など) 加齢黄斑変性は、網膜の中心にある黄斑部の細胞が加齢によって損傷し、視力が低下する病気です。現在は新生血管の成長を抑える薬剤の硝子体内注射が主な治療ですが、効果は一時的で根本的な治療法ではありません。 iPS細胞を用いた治療では、患者自身の細胞から作製した網膜色素上皮細胞のシートを移植し、傷ついた組織を補う臨床試験が世界で初めて実施され、段階的な評価が進んでいます。ただし、移植された細胞が長期間にわたり機能を維持し、視力改善に寄与できるかはまだ十分に確認されていません。(文献3) また、移植手術や製造工程、免疫応答、腫瘍化リスクなど、品質管理面での課題も引き続き検討されています。(文献4) 血液の病気(再生不良性貧血など) 再生不良性貧血などの造血障害では、骨髄の機能が低下し、赤血球・白血球・血小板が十分に作られないため、貧血や出血、感染症のリスクが高まる病気です。 この領域では、再生不良性貧血の患者由来iPS細胞を、血液をつくる幹細胞に分化させて病態を再現し、将来的な細胞治療の基盤を構築する研究が進められています。(文献5) さらに臨床研究では、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)が、血小板輸注が効きにくい再生不良性貧血の患者に対し、患者自身の細胞から作製したiPS細胞由来血小板を輸注する国内初の試みを開始しています。(文献6) 以下の記事では、血液がんの種類を一覧で紹介しています。 心臓の病気(虚血性心疾患など) 虚血性心疾患などで低下した心機能の回復を目指し、iPS細胞から作製した心筋細胞を心筋シートや心筋球(スフェロイド)として移植する研究が国内で進められています。(文献7) 一方で、移植された細胞が心臓組織としっかり連結し、長期間機能を維持できるかについては、まだ臨床データが限られています。(文献8) この治療は研究・臨床試験段階にあり、一般診療では行われていません。 神経の病気(パーキンソン病など) パーキンソン病は、脳内のドパミンをつくる神経細胞(ドパミン産生ニューロン)が減少・機能低下することで、手のふるえや動作の遅れ、筋肉のこわばりなどが現れる進行性の神経疾患です。 iPS細胞を用いた研究では、ドパミン産生ニューロンをiPS細胞から分化誘導し、脳内に移植することで失われた神経回路の修復とドパミンの再供給を図るアプローチが進められています。 京都大学附属病院による第I/II相臨床試験では、7名のパーキンソン病患者にiPS細胞由来のドパミン前駆細胞を両側脳へ移植し、安定性が確認され、運動症状の改善傾向が報告されています。(文献9) 現時点では、一般診療には至っていません。しかし、根本的な治療法としての可能性が期待されています。 以下の記事では、パーキンソン病について詳しく解説しています。 【関連記事】 【医師監修】iPS細胞を用いたパーキンソン病治療の実用化はいつ?効果や課題を解説 パーキンソン病の初期・進行期の症状|診断・原因・治療法を解説 糖尿病 糖尿病は、膵臓のβ細胞がインスリンを十分に生成できなくなったり、身体がインスリンに反応しにくくなったりすることで血糖値が高くなる慢性疾患です。 iPS細胞を用いた研究では、β細胞やインスリンを分泌する細胞群である膵島を作製し、失われた機能を補う治療法の可能性が検討されています。たとえば、iPS細胞から膵島を誘導して移植する研究が進められており、実験動物で血糖値改善の成果が報告されています。(文献10) 一方で、iPS細胞由来β細胞が長期間にわたり十分なインスリン分泌を維持できるか、体内で安定して機能できるかはまだ確認の途中段階です。(文献11) さらに、腫瘍化や免疫反応、移植方法、細胞の成熟など、多くの課題が残されています。(文献10) 【関連記事】 【医師監修】iPS細胞と糖尿病治療の関係性は?実用化後の可能性や課題について紹介 【医師監修】糖尿病とは|症状や原因・予防法までを詳しく解説 iPS細胞を用いた治療の可能性 治療の可能性 詳細 損傷した組織・臓器の再生と機能回復 失われた細胞や組織をiPS細胞から再生し、機能を取り戻す再生医療の実現 移植医療の課題を克服する新たなアプローチ 患者自身の細胞から作るiPS細胞を利用し、拒絶反応やドナー不足を解消する移植医療の開発 創薬や個別化医療への応用 患者由来iPS細胞を用いて病気の再現や薬の効果・副作用を評価する個別化医療の推進 iPS細胞は、自分の細胞からさまざまな組織や臓器を再生できる可能性を持つ技術です。 損傷した臓器や細胞の機能回復を目指す再生医療のほか、患者自身の細胞を用いることで拒絶反応やドナー不足といった移植医療の課題を克服する研究が進められています。 また、患者由来のiPS細胞を使って病気の原因や薬の効果を解析し、一人ひとりに合った治療を行う個別化医療への応用も期待されています。 損傷した組織・臓器の再生と機能回復 iPS細胞は、損傷した組織や臓器を修復し、失われた機能を取り戻す再生医療の基盤として注目されている技術です。 とくに脳、心臓、網膜、軟骨など一度損傷すると自然修復が難しい組織に対して、損傷細胞を除去し、新しい細胞を補う、あるいは細胞を増やして機能を補完するアプローチが研究されています。 たとえば、傷ついた心筋をiPS細胞由来の心筋細胞で補う、失われた視細胞を再生するなどの試みが進んでいます。(文献12) ただし、現時点で臨床応用は初期段階であり、リスク面や製造品質、移植した細胞の長期的な機能維持などについては、まだ十分に確立されていません。(文献13) 移植医療の課題を克服する新たなアプローチ 従来の移植医療では、ドナーの臓器不足や免疫拒絶反応が大きな課題とされてきました。 iPS細胞を活用することで、患者自身の細胞から必要な臓器や組織を人工的に作り出し、免疫拒絶のリスクを抑えられる可能性があります。 また、大量培養技術や品質管理の自動化により、安定供給やコスト削減にもつながると期待されています。 一方で、iPS細胞の分化効率のばらつきや遺伝的不安定性、腫瘍化リスクなどが研究で指摘されており、実用化には慎重な検証が欠かせません。(文献14) そのため、現在も基礎研究から臨床試験まで段階的に進められています。 創薬や個別化医療への応用 iPS細胞は、患者自身の細胞から作製されるため、その人の病気の特徴を反映した細胞モデルの構築が可能です。 これにより、薬剤の効果や副作用を個別に評価でき、より効果的な薬剤の開発に役立っています。 アルツハイマー病など複雑な神経疾患の研究では、患者由来の細胞で病態を再現し、適切な治療法の探索に活用されています。 iPS細胞は再生医療だけでなく、がん免疫療法などの個別化医療においても期待されている分野です。(文献15) iPS細胞を用いた治療の課題 治療の課題 詳細 技術的な課題(品質・分化効率・腫瘍化リスク) 細胞の品質ばらつきや分化の安定性、移植後の腫瘍化リスクに関する検証の継続 免疫拒絶やリスクへの対応 患者との適合性確保や免疫反応の抑制、長期的な細胞機能維持への対応 倫理・コスト・実用化における社会的課題 研究倫理の整備、治療コストの削減、製造・供給体制の確立と普及体制の構築 iPS細胞を用いた治療は、実用化にいくつかの課題があります。 技術面では、細胞の品質や分化の安定性、移植後の腫瘍化リスク、免疫適合性、長期的な細胞機能維持などが課題です。 また、研究倫理やコスト、製造・供給体制などの社会的課題も残されています。これらの課題を克服することで、より多くの患者が持続的な治療を受けられるようになることが期待されます。 技術的な課題(品質・分化効率・腫瘍化リスク) iPS細胞を医療応用する上では、細胞の品質・分化効率・腫瘍化リスクといった技術的課題が指摘されています。 まず、治療に用いる細胞は「分化可能な能力」「遺伝的・分子的な安定性」「汚染や異常のない状態」が条件として欠かせません。しかし、再プログラミングや培養の過程で染色体異常や遺伝子変異が生じる可能性があります。(文献14) また、iPS細胞を目的の細胞へ変化させる分化効率にはばらつきがあり、成熟度や機能が十分でない場合も報告されています。(文献16) さらに、分化が不完全な細胞が制御不能に増殖し、腫瘍を形成する可能性も報告されており、長期的な腫瘍化リスクの制御と検証が求められています。(文献14) 免疫拒絶やリスクへの対応 iPS細胞移植では、免疫拒絶への対応が重要な課題です。他家細胞(同種細胞)を使用する場合、受け手の免疫システムが異物として認識し、拒絶反応を起こす可能性があります。 また、患者自身由来の細胞であっても、細胞加工や分化の過程で免疫原性が変化する可能性があり、完全な免疫適合性は確立されていません。(文献17) そのため、ドナーと受け手のHLA(ヒト白血球型抗原)型をできる限り一致させ、免疫反応を抑える取り組みが進められています。(文献18) また、iPS細胞を遺伝子改変して免疫反応を起こしにくくする低免疫原化の研究も進んでいます。(文献19) 倫理・コスト・実用化における社会的課題 課題 詳細 倫理的課題 患者の同意や細胞提供者の権利保護、研究と臨床応用の両立に関する社会的配慮 コストの課題 細胞の製造・管理・治療手技にかかる高額な費用による経済的負担 実用化に向けた制度・技術基盤の課題 臨床試験の体制整備、品質評価や製造プロセスの標準化に向けた取り組み (文献20) iPS細胞を用いた治療は再生医療として大きく期待される一方で、社会的な課題も多く残されています。 患者の同意や細胞提供者の権利保護など倫理面での配慮に加え、製造・治療にかかる高額なコストが普及の障壁となっています。また、臨床試験の体制整備や製造工程の標準化など、実用化に向けた基盤づくりも必要です。 iPS細胞治療を受けるための条件 条件 詳細 対象の病気に該当するかを確認する iPS細胞を用いた治療や臨床研究の対象疾患に自分の病気が含まれているかの確認 臨床試験の参加基準を満たしているかを確認する 病状・年齢・既往歴など、臨床試験で定められた条件に適合しているかの確認 認可を受けた医療機関で説明と同意を経て受ける 国や自治体の認可を受けた施設で、十分な説明を受けた上で同意して治療を受ける手続き iPS細胞を用いた治療を受けるには、対象疾患や臨床試験の参加基準、医療機関の認可など、一定の条件を満たす必要があります。 治療を検討する際は、自身の病態が対象となるかを確認し、信頼できる医療機関で十分な説明を受けた上で判断することが重要です。 対象の病気に該当するかを確認する iPS細胞を用いた治療は、現在、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)などで加齢黄斑変性やパーキンソン病など特定の疾患を対象に進められています。(文献21) iPS細胞治療は、疾患ごとに治療方法や移植細胞を慎重に選定して進められており、まず自分の病気が対象に含まれるかを確認することが大切です。(文献22) 臨床試験の参加基準を満たしているかを確認する 内容 詳細 臨床試験は「誰でも参加できる」わけではない 病気・病状・年齢・健康状態・既往歴など、あらかじめ定められた参加基準の存在 基準が厳格に設けられている理由 有効性を確認するため、対象患者・施設・細胞作製体制などを厳密に管理 基準確認の重要性 自分や家族が治療を受けられる可能性を正確に理解し、誤解や過剰な期待を防ぐための確認 (文献23)(文献24) iPS細胞を用いた治療は誰でもすぐに受けられるわけではなく、臨床試験への参加には厳格な基準が設けられています。これは研究の質を確保し、被験者を保護するための重要な仕組みです。 対象疾患や健康状態などの参加条件を確認することで、治療が適応となるかを適切に判断でき、誤解や過剰な期待を防止できます。 認可を受けた医療機関で説明と同意を経て受ける iPS細胞を用いた治療は、国の認可を受けた医療機関で行うことが重要です。 日本では再生医療法により、iPS細胞を含む再生医療を提供する医療機関や細胞加工施設に厳格な基準が定められています。(文献23) リスク分類に応じた提供計画の承認や施設設備の基準などが法的に規定されており、これに準じた医療機関で治療を受ける必要があります。 治療の目的や方法、想定されるリスクについて十分な説明を受け、認可された医療機関で納得した上での同意が不可欠です。 iPS細胞治せる病気とあわせて課題も確認しておこう iPS細胞治療は、従来の医療では対応が難しかった疾患に新たな選択肢を提供する可能性がある技術です。幅広い分野で研究が進められ、一部の疾患では臨床応用が始まっています。 しかし、多くは研究段階にあり、技術的課題、免疫拒絶リスク、コスト、倫理的問題など、実用化に向けて解決すべき点が残されています。現状の限界と課題を理解し、冷静に情報を見極めることが大切です。 再生医療を用いた治療を検討されている方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、再生医療を応用した治療を提供しています。再生医療は、損傷した組織や臓器の機能を回復させる治療法です。 再生医療は、失われた組織や機能を回復させることを目指す治療法で、脳、心臓、目、神経など幅広い病気へのアプローチが期待できます。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 iPS細胞で治せる病気に関するよくある質問 iPS細胞の実用化はいつ頃ですか? iPS細胞の実用化時期は現時点で明確に定まっていません。 2025年現在、加齢黄斑変性やパーキンソン病などで臨床試験が進められており、心筋シートでは製造販売承認申請が行われるなど具体的な進展も見られます。 しかし、一般診療として広く確立するには、有効性の検証や製造体制の整備など、解決すべき課題が残されています。 疾患によって進行度は異なりますが、今後数年で実用化される分野も出てくると見込まれています。 iPS細胞を用いた治療は保険適用外ですか? iPS細胞を用いた治療は原則として保険適用外の自費診療です。 ただし、今後有効性が確認され承認された治療法は、公的医療保険の対象となる可能性があります。そのため、実用化に向けた議論が進められています。 iPS細胞でがんは治せますか? 現段階では、がん治療への直接的な応用は確立されていません。 しかし、iPS細胞を用いてがんの発生メカニズムを再現し、創薬研究に活用されています。治療そのものよりも、新薬開発などの創薬分野での貢献が期待されています。 参考文献 (文献1) 再生医療実現拠点ネットワークプログラム研究開発課題評価(令和2年度実施)中間評価報告書 (文献2) 脳卒中や外傷性脳損傷による脳神経障害に対する、細胞移植治療の効果を向上させる技術|京都大学 iPS細胞研究所 CiRA(サイラ) (文献3) Advances in retinal pigment epithelial cell transplantation for retinal degenerative diseases|BMC Part of Springer Nature (文献4) Pluripotent Stem Cells in Clinical Cell Transplantation: Focusing on Induced Pluripotent Stem Cell-Derived RPE Cell Therapy in Age-Related Macular Degeneration|PMC PubMed Central® (文献5) Defective hematopoietic differentiation of immune aplastic anemia patient-derived iPSCs|Cell Death & Disease (文献6) Clinical research for the transfer of autologous iPS cell-derived platelets to a thrombocytopenia patient|News & Events (文献7) Japan advances iPSC-based transplantations in heart disease treatments|swissnex (文献8) Concerns on a new therapy for severe heart failure using cell sheets with skeletal muscle or myocardial cells from iPS cells in Japan|npj Regenerative Medicine (文献9) Phase I/II trial of iPS-cell-derived dopaminergic cells for Parkinson's disease|PubMed® (文献10) Treatment of Diabetes Mellitus Using iPS Cells and Spice Polyphenols|PMC PubMed Central® (文献11) Human-Induced Pluripotent Stem Cells (iPSCs) for Disease Modeling and Insulin Target Cell Regeneration in the Treatment of Insulin Resistance: A Review|MDPI (文献12) Regenerative medicine technologies applied to transplant medicine. An update|frontiers (文献13) The future of iPS cells in advancing regenerative medicine|PMC PubMed Central® (文献14) The Challenges to Advancing Induced Pluripotent Stem Cell-Dependent Cell Replacement Therapy|PMC PubMed Central® (文献15) Induced pluripotent stem cells: applications in regenerative medicine, disease modeling, and drug discovery|frontiers (文献16) Exploring the promising potential of induced pluripotent stem cells in cancer research and therapy|PMC PubMed Central® (文献17) The Immunogenicity and Immune Tolerance of Pluripotent Stem Cell Derivatives|frontiers (文献18) Immune reaction and regulation in transplantation based on pluripotent stem cell technology|BMC Part of Springer Nature (文献19) Induced pluripotent stem cells (iPSCs): molecular mechanisms of induction and applications|Signal Transduction and Targeted Therapy (文献20) The Future of Regenerative Medicine Made Possible by Open Innovation|HITACHI (文献21) iPS細胞のこれまでの10年とこれから|京都大学 iPS細胞研究所 CiRA(サイラ) (文献22) iPS細胞を用いた臨床手術に成功!|国立研究開発法人 科学技術振興機構 (文献23) 脊髄再生治療Q&A|脊髄再生医療 (文献24) 臨床用iPS細胞 お申込み方法|公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団
2025.12.13 -
- 再生治療
「パーキンソン病に対して、iPS細胞は有効と耳にしたが本当か?」 「iPS細胞の実用化はいつになるのか?」 パーキンソン病には進行を抑える薬剤はあるものの、根本的な治療法はまだありません。そこで注目されているのが、iPS細胞を用いた再生医療です。 京都大学など国内外で研究が進み、すでに臨床試験段階です。ただし、品質や長期効果の検証など課題も残っており、現時点では一般の医療機関では受けられません。そのため、今後の実用化が期待される分野です。 本記事では、現役医師が、iPS細胞を用いたパーキンソン病治療の実用化がいつ頃見込まれているのかを詳しく解説します。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 パーキンソン病でお悩みの方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 iPS細胞とパーキンソン病の関係性 項目 内容 パーキンソン病とは ドパミンをつくる神経細胞の減少による、動作の鈍さ・ふるえ・こわばりなどの症状 原因 黒質と呼ばれる脳の部位でドパミン神経が減少 iPS細胞とは 身体の細胞を再プログラムし、どんな細胞にも変化できる能力を持たせた細胞 治療への応用 iPS細胞からドパミン神経を作り、失われた細胞を補う研究 研究の進み具合 臨床試験が始まり、一部で効果の確認が進行している 期待される効果 根本的な機能回復への可能性 注意点 腫瘍化や免疫拒絶などのリスクあり、一般治療にはまだ時間が必要 (文献1)(文献2) パーキンソン病は、脳でドパミンを作る神経細胞が徐々に減少し、動作の鈍さや震え、歩行障害などが現れる疾患です。iPS細胞を用いれば、失われた神経細胞を作り直して補えると考えられています。 現在、iPS細胞から作ったドパミン神経の移植研究が進行中で、根本的な治療法になることが期待されています。 ただし、リスク面や長期効果の確認が必要であり、実用化にはもう少し時間がかかる見込みです。 以下の記事では、パーキンソン病の完治の可能性について詳しく解説しています。 パーキンソン病の病態と治療の現状 パーキンソン病は、現時点で「根本から治す方法」が確立されておらず、症状を和らげながら生活の質を保つ対症療法が中心となっています。 代表的な治療薬であるレボドパは、脳内のドパミンを補い、震えや動作の緩慢といった運動症状を改善します。(文献3) しかし、薬の効果が次第に弱まったり、服薬の時間帯で症状が再び現れる「off時間」や不随意運動などの副作用が生じたりするのが課題です。(文献4) また、理学・作業・言語・運動療法などのリハビリや、電極を脳に埋め込み刺激を与える深部脳刺激(DBS)も有効な選択肢として活用されています。(文献5) 以下の記事では、パーキンソン病について詳しく解説しています。 【関連記事】 パーキンソン病の初期症状とは?セルフチェック法や進行度別の症状も解説 パーキンソン病になりやすい性格はある?なりやすい人や予防法の有無を解説 iPS細胞がパーキンソン病に応用される仕組み パーキンソン病は、脳内でドパミンを作る神経細胞が徐々に減少し、動作の鈍さや震え、歩行障害などが現れる疾患です。 iPS細胞を用いた治療では、患者自身や提供者の細胞からiPS細胞を作製し、ドパミン神経細胞へ分化させて脳内に移植することで、減少した細胞を補います。 移植した細胞がドパミンを産生して神経回路に組み込まれることで機能回復が期待され、患者自身の細胞を用いる場合は免疫拒絶のリスクを軽減できる可能性があります。(文献6) 一方で、長期的な機能維持や神経回路との接続、腫瘍化などのリスク面について課題が残されており、現在は臨床試験段階です。(文献7) iPS細胞を用いたパーキンソン病治療の実用化はいつ? 日本では、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)を中心に、2018年からiPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞をパーキンソン病患者へ移植する第I/II相臨床試験が進められています。(文献8) とある試験では7名の患者に移植が行われ、重大な副作用は確認されず、一部で運動症状の改善が報告されています。(文献2) また、京都大学が主導した臨床試験では、健康なドナー由来のiPS細胞から作製したドパミン産生細胞を7名のパーキンソン病患者に移植し、2年間の観察で重大な副作用は認められず、一部の患者で症状の改善が報告されました。(文献9) 近年の報告では安定性と一定の有効性が示され承認申請に向けた動きも具体化しつつあります。しかし、現段階では少人数かつ非対照の試験であるため、大規模かつ長期的な検証や、細胞製造・保管体制、手術施設の整備、コスト面などが課題です。(文献10) 2025年時点では実用化の時期は未定ですが、iPS細胞研究は再生医療の新たな可能性を切り開いています。(文献11) 以下の記事では、iPS細胞の作り方や課題について詳しく解説しています。 iPS細胞を用いたパーキンソン病治療で期待される効果 期待される効果 詳細 ドパミン神経の再生と運動機能の改善 失われた神経の再生と運動症状の改善 症状の持続的な安定化への期待 長期間続く症状の安定と機能維持 拒絶反応を抑えた細胞移植の可能性 拒絶反応を抑える移植治療 移植した細胞が長期的に機能することで、症状の安定化や薬の使用量軽減が期待されます。また、免疫反応を抑えるiPS細胞を活用することで、拒絶反応のリスクを低減した治療の実現を目指しています。 以下の記事では、iPS細胞と再生医療の関係性について詳しく解説しています。 ドパミン神経の再生と運動機能の改善 iPS細胞を用いたパーキンソン病治療は、失われたドパミン神経を再生し、運動機能の改善を目的とした再生医療です。 京都大学などの臨床試験では、50~69歳の患者にiPS細胞由来のドパミン神経細胞を移植し、2年間にわたり観察が行われました。その結果、多くの患者で運動機能の改善が確認され、画像検査によりドパミン産生が持続していることが示されました。(文献12) こうした成果は、神経再生が症状改善に直結する可能性を示唆しています。一方で、この治療はまだ臨床試験段階にあり、リスク面や長期的な効果の検証が必要です。 症状の持続的な安定化への期待 iPS細胞でドパミン神経を補充し、パーキンソン病の症状を持続的に改善する治療法です。 ドパミン神経前駆細胞の移植により、運動機能の長期的な維持が期待されています。 臨床試験では長期観察データが出始めており、CiRA(京都大学iPS細胞研究所)の試験では、移植後24カ月にわたりドパミン産生と運動機能の改善・安定傾向が報告されています。(文献2) さらに、動物実験でも移植後1〜12カ月間にわたり細胞の生存と機能が確認されており、長期効果の可能性が示唆されています。(文献13) 拒絶反応を抑えた細胞移植の可能性 iPS細胞を用いた移植療法では、移植された細胞を身体が異物と認識して攻撃する拒絶反応が大きな課題です。 北海道大学の研究チームは、iPS細胞から造血幹・前駆細胞を作製し、移植前に患者へ投与することで免疫の寛容状態を誘導し、拒絶反応を抑える新しい方法を開発しました。(文献14) この手法により、免疫抑制剤を長期使用せずに細胞を生着させることを目指しています。さらに、清野教授らはT細胞の活性化を抑える新たな免疫抑制法も報告し、従来よりも効果的な拒絶反応の制御が期待できることを示しました。(文献15) 加えて、ゲノム編集技術を応用し、免疫攻撃を回避できるiPS細胞の開発も進行中であり、将来的にはより安定した細胞移植治療の実現が期待されています。(文献16) iPS細胞を用いたパーキンソン病治療の課題とリスク 課題とリスク 詳細 腫瘍化・免疫拒絶反応などの医学的リスク 移植した細胞の腫瘍形成や免疫拒絶の可能性。長期的なリスク管理の必要 治療効果の個人差と長期的な持続性の課題 患者ごとの反応差や移植細胞の機能維持期間のばらつき。効果持続性の標準化の課題 製造コスト・供給体制・承認プロセスの課題 高度な製造技術による高コストと供給体制の未整備。承認手続きの複雑さによる実用化の遅れ iPS細胞を用いたパーキンソン病治療は、根本的な改善を目指す先進的な再生医療ですが、いくつかの課題も残されています。 移植細胞の腫瘍化や免疫拒絶反応といった医学的リスクに加え、患者ごとの効果の差や長期的な持続性の検証が求められています。また、細胞製造にかかる高コストや供給体制の整備、承認手続きの複雑さなども実用化に向けた課題です。 腫瘍化・免疫拒絶反応などの医学的リスク リスク 詳細 腫瘍化(がん化)のリスク 分化が不完全な細胞や遺伝子変異をもつ細胞が残存し、異常増殖を起こす可能性 免疫拒絶反応 他人由来の細胞や、性質が変化した自家細胞に対して免疫が反応し、炎症や細胞死を起こす可能性 (文献17)(文献18) iPS細胞治療の主なリスクに関する課題は腫瘍化と免疫拒絶反応です。 未成熟細胞や変異細胞による腫瘍化と異物認識による拒絶反応を防ぐため、細胞の品質管理と免疫制御の研究が進められています。 治療効果の個人差と長期的な持続性の課題 iPS細胞を用いたパーキンソン病治療では、患者の状態により効果に個人差があり、持続性も課題のひとつです。 また、移植細胞の量・質・分化成熟度にばらつきがあり、臨床試験では高用量群でより高い効果が報告されています。(文献2) さらに、移植細胞が神経回路にどの程度統合できるかも個人差があり、前臨床研究では移植後に細胞数が減少する報告もあります。(文献19) また、移植細胞の長期生存とドパミン分泌の持続性は未確認です。現在のデータは12〜24カ月の観察に限られています。(文献2) 時間経過に伴う治療効果の低下や、移植細胞の機能低下の可能性があり、長期的な安定性の確保が課題です。(文献19) 製造コスト・供給体制・承認プロセスの課題 課題 詳細 製造コストの課題 細胞作製に高額な費用を要する現状。ロボットやAI導入によるコスト削減への取り組み 供給体制の課題 標準化された細胞を大量に保管する「細胞バンク」の整備の必要。安定供給体制の構築 承認プロセスの課題 長期的な臨床試験と有効性の検証を経た規制当局の承認の必要 iPS細胞治療の実用化には、医療面以外にも社会的・制度的な課題があります。細胞製造には高いコストがかかるため、機械による自動化技術でコスト削減が進められています。 多くの患者への迅速な提供には標準化された細胞を備蓄する細胞バンクの整備が不可欠です。また、有効性を科学的に証明し規制当局の承認を得るため、長期的な臨床試験と慎重な検証が求められています。 【どこで受ける?】iPS細胞を用いたパーキンソン病治療先の医療機関・治験会場 日本では、京都大学病院(京都府)において、iPS細胞から作製されたドパミン神経前駆細胞を用いた臨床試験が実施されています。(文献20) また、株式会社住友ファーマも将来的な実用化を見据え、日本および海外で同様の治験を準備していると報告されています。(文献21) この治療は限られた施設での治験段階にあり、参加には条件があるため、希望される方は実施機関や公的な臨床試験情報の確認が必要です。 iPS細胞はパーキンソン病に対する新たなアプローチ iPS細胞を用いた治療は、従来の対症療法から失われた神経を再生する根治的治療への転換を目指すものです。パーキンソン病のみならず脊髄損傷や心筋症など多様な疾患への応用が期待されています。 実用化には時間を要しますが、研究は着実に進展しており、再生医療の動向を把握することが患者の将来的な治療選択肢の拡大につながると考えられます。 再生医療を用いたパーキンソン病治療を検討されている方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、再生医療を応用した治療を提供しています。 パーキンソン病に対する再生医療は、失われた神経回路の回復を目指す点が特徴であり、脳梗塞や認知症などの神経疾患への応用も期待されています。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 iPS細胞とパーキンソン病に関するよくある質問 パーキンソン病は将来完治する病気ですか? 現時点でパーキンソン病を完全に治す治療法は確立されていません。しかし、iPS細胞を用いた再生医療の進歩により、失われたドパミン神経を再生して神経機能を回復させる研究が進んでいます。 これにより症状を大きく改善できる可能性が示されており、パーキンソン病は「根本的な治療に近づきつつある病気」といえます。 以下の記事では、iPS細胞で治せる可能性のある病気について詳しく解説します。 iPS細胞を用いた治療は保険適用になりますか? 現時点(2025年)では、iPS細胞を用いたパーキンソン病治療は保険適用外で、臨床試験段階です。 安定性と有効性の検証が進められており、今後、国の承認と制度整備が進めば、将来的に保険適用が検討される可能性があります。 参考文献 (文献1) The Progress of Induced Pluripotent Stem Cells as Models of Parkinson's Disease|PMC PubMed Central® (文献2) Phase I/II trial of iPS-cell-derived dopaminergic cells for Parkinson’s disease|Nature (文献3) NIH National Library of Medicine National Center for Biotechnology Information|PMC PubMed Central® (文献4) Current approaches to the treatment of Parkinson’s disease|PMC PubMed Central® (文献5) Treatment Parkinson's disease|NHS (文献6) iPS細胞を使ったパーキンソン病治療の実態|国際幹細胞普及機構 (文献7) パーキンソン病に対するiPS細胞を用いた治療の臨床応用|特別プログラム抄録 (文献8) iPS cell-based therapy for Parkinson's disease: A Kyoto trial|PMC PubMed Central® (文献9) Drugmaker in Japan seeks approval for stem cell treatment for Parkinson's|The Japan Times (文献10) Clinical Trials of Stem Cell Therapy in Japan: The Decade of Progress under the National Program|PMC PubMed Central® (文献11) iPS Cell Research Can Give Japan Lead in Regenerative Medicine|JAPAN FORWARD (文献12) パーキンソン病の治療を目指して|京都大学 iPS細胞研究所 CiRA(サイラ) (文献13) Long-Term Evaluation of Intranigral Transplantation of Human iPSC-Derived Dopamine Neurons in a Parkinson's Disease Mouse Model|PubMed (文献14) iPS細胞ストックを用いた移植のための新規免疫抑制法を提案~他家iPS細胞由来組織を用いた移植医療への貢献に期待~(遺伝子病制御研究所 教授 清野研一郎)|北海道大学 (文献15) iPS細胞ストックを用いた移植のための新規免疫抑制法を提案―他家iPS細胞由来組織を用いた移植医療への貢献に期待―|国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 Japan Agency for Medical Research and Development (文献16) ゲノム編集技術を用いて拒絶反応のリスクが少ないiPS細胞を作製|京都大学 iPS細胞研究所 CiRA(サイラ) (文献17) Overcoming Graft Rejection in Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Inhibitory Interneurons for Drug-Resistant Epilepsy|PMC PubMed Central® (文献18) Human Pluripotent Stem Cell-Based Therapies for Parkinson’s Disease: Challenges and Potential Solutions|YMJ (文献19) Long-Term Evaluation of Intranigral Transplantation of Human iPSC-Derived Dopamine Neurons in a Parkinson’s Disease Mouse Model|MDPI (文献20) iPS cell-based therapy for Parkinson's disease: A Kyoto trial|PMC PubMed Central® (文献21) Initiation of Company-sponsored Clinical Study on iPS Cell-derived Dopaminergic Progenitor Cells for Parkinson’s Disease in the United States|PMC PubMed Central®
2025.12.13 -
- 再生治療
「ES細胞とiPS細胞とはどんな細胞?」 「ES細胞とiPS細胞とはどのような場面で活躍するのか?」 近年、iPS細胞によるノーベル賞受賞や、ES細胞を用いた再生医療の進展が大きな注目を集めています。 ES細胞(胚性幹細胞)とiPS細胞(人工多能性幹細胞)は、いずれも多能性を持ち、さまざまな組織や臓器の細胞に分化できる幹細胞です。しかし、その作製方法や倫理的課題、臨床応用の現状には明確な違いがあります。 ES細胞は受精卵の内部細胞塊から樹立されるため、胚の破壊を伴い、生命倫理上の議論が避けられません。これに対し、iPS細胞は患者自身の皮膚や血液などの体細胞に特定の遺伝子を導入することで作製できるため、倫理的障壁が低く、さらに移植時の免疫拒絶反応のリスクも軽減できるのが利点です。 このような特性から、現在の再生医療研究ではiPS細胞が中心的役割を担い、パーキンソン病や脊髄損傷、心筋梗塞など、多岐にわたる疾患への応用が期待されています。 本記事では、現役医師がES細胞とiPS細胞の違いを詳しく説明し、共通点や課題についてわかりやすく紹介します。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 再生医療を用いた治療をお考えの方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 ES細胞とiPS細胞の違い 比較項目 ES細胞(胚性幹細胞) iPS細胞(人工多能性幹細胞) 作られ方・由来 受精卵(胚盤胞)由来の細胞 成体の体細胞を再プログラミングした細胞 倫理的・免疫的特徴 受精卵を使用するため倫理的議論が伴う。免疫拒絶反応の可能性あり 受精卵を使わず倫理的負担が少ない。自己細胞由来なら拒絶反応が起きにくい 研究・実用化の特徴 早期から研究進行、分化機構の解明に活用 新技術として創薬・疾患への研究が進行 (文献1) ES細胞(胚性幹細胞)とiPS細胞(人工多能性幹細胞)は、いずれも体内のあらゆる細胞へ分化できる多能性幹細胞です。 ES細胞は、受精後数日が経過した胚盤胞の内部細胞塊から樹立されます。基礎研究において長年活用されており、細胞分化の仕組みの解明に多大な貢献を果たしてきました。しかし、ヒト胚を使用することから倫理的な課題があります。 一方、iPS細胞は、皮膚や血液などの体細胞に特定の転写因子を導入して、多能性を持つ未分化状態に初期化した細胞です。ヒト胚を必要としないため倫理的なハードルが低く、患者自身の細胞から作製することで、移植時の免疫拒絶反応を回避できる可能性があります。 両細胞は、再生医療や創薬研究における重要な基盤技術として、今後さらなる臨床応用が期待されています。 ES細胞の特徴 特徴 詳細 受精卵由来であらゆる細胞に変化できる 受精後数日が経過した胚盤胞の内部細胞塊から樹立される細胞で、神経・心筋・肝臓など多様な細胞へ分化可能な多能性幹細胞 倫理的課題と免疫拒絶反応の問題がある 受精卵を使用するため生命倫理上の議論が生じること、他人由来の細胞を移植する際に免疫拒絶反応が起こる可能性 再生医療や創薬研究での活用が期待される 組織や臓器の再生研究、疾患の仕組み解明、薬の効果や安全性評価への応用が期待される研究基盤技術 ES細胞(胚性幹細胞)は、受精後数日経過した胚盤胞の内部細胞塊から樹立される細胞です。ただし、ヒト胚を使用する点で生命倫理上の課題があり、他人由来の細胞移植では免疫拒絶のリスクも伴います。 現在、ES細胞は再生医療や創薬研究の分野で、組織再生や疾患メカニズムの解明に向けた応用が期待される、重要な研究基盤です。 受精卵由来であらゆる細胞に変化できる ES細胞(胚性幹細胞)は、生命が形成される初期段階で得られるため、身体を構成するあらゆる細胞へ分化できる多能性を備えています。 神経や筋肉、血液、肝臓など多様な細胞に分化できることから、失われた組織や臓器を再生する再生医療への応用が期待されています。 また、適切な培養環境下で長期間増殖させることができ、目的とする細胞へ効率的に誘導できるのも大きな利点です。 一方で、ヒト胚を使用することによる生命倫理上の課題や、他人由来の細胞を移植する際の免疫拒絶反応といった問題点も指摘されています。 倫理的課題と免疫拒絶反応の問題がある 課題の種類 詳細 倫理的課題 受精卵を利用するため、生命の始まりや胚の扱いをめぐる倫理的議論の対象。厳格な法的・倫理的管理の必要性 免疫拒絶反応の問題 他人由来の細胞を移植する際に、免疫系が異物と認識して拒絶反応を起こす可能性。HLA型の不一致が課題 (文献2) ES細胞は、受精卵から作製される多能性幹細胞で、再生医療の可能性を大きく広げる画期的な技術です。 しかし、「将来人間となる可能性のあるヒト胚を研究目的で使用すること」について、倫理的に慎重な議論が必要です。そのため、日本では法律と倫理指針に基づき、厳格な審査体制のもとで研究が実施されています。 また、ES細胞は他人由来であるため移植時に免疫拒絶反応のリスクがあり、免疫適合性を高める研究が進められています。 再生医療や創薬研究での活用が期待される 項目 詳細 多能性による応用範囲 ES細胞・iPS細胞は体のあらゆる細胞に変化できる多能性細胞。損傷した臓器や組織の再生を目指す研究段階 心筋再生への応用 心筋梗塞などで失われた心臓の筋肉を再生する研究。幹細胞を心筋細胞へ分化させ、心機能の改善を目指す治療応用 神経再生への応用 脊髄損傷などで失われた神経を再生する研究。幹細胞を神経細胞へ誘導し、麻痺や機能低下の回復を目指す試み その他の臓器再生 肝臓・膵臓・網膜など、難治性疾患や臓器移植の代替を期待する治療開発 (文献3) ES細胞とiPS細胞は、体内のさまざまな細胞へ分化できる多能性幹細胞です。この性質を活かし、心筋梗塞や脊髄損傷などで失われた組織を再生させる研究が進められています。 また、これらの幹細胞は再生医療に加え、疾患メカニズムの解析や薬剤評価を行う創薬研究にも応用され、精度の高い新薬開発に貢献しています。 ES細胞とiPS細胞の有用性は、現在も研究段階です。しかし、治療と創薬の両面において将来性の高い技術として注目されています。 iPS細胞の特徴 特徴 詳細 受精卵を使わないため「倫理的な問題」が少ない 皮膚や血液など、成体の体細胞から作製されるため、受精卵を使用せずに済む倫理的に配慮された技術 拒絶反応が少なく個別化医療に期待される 患者本人の細胞をもとに作製できるため、移植時の免疫拒絶反応が起こりにくい特性 多能性を活かし再生医療や研究に応用されている あらゆる種類の細胞に変化できる多能性を活かし、再生医療・創薬・疾患のメカニズム解明に利用される技術 iPS細胞(人工多能性幹細胞)は、皮膚や血液などの体細胞に特定の遺伝子を導入して作製される細胞です。受精卵を使用しないため、ES細胞と比べて倫理的な課題が少ない点が特徴です。 また、患者自身の細胞から作製できるため、移植時の免疫拒絶反応が低リスクであり、個別化医療への応用が期待されています。 さらに、あらゆる細胞へ分化できる多能性を活かし、再生医療や創薬研究、疾患メカニズムの解明など、幅広い分野で活用が進められています。 以下の記事ではiPS細胞の作り方を詳しく解説しています。 受精卵を使わないため「倫理的な問題」が少ない 観点 詳細 背景 ES細胞は受精卵(胚)から作製される細胞で、生命の始まりを扱うことへの倫理的議論が伴う研究対象 iPS細胞の特徴 皮膚や血液など、既に分化した体細胞を利用するため、受精卵や胚を破壊する必要がない技術 倫理的利点 胚を利用しないことで、「生命尊重」や「胚の扱い」に関する倫理的ハードルを回避できる 残る課題 生殖細胞の作製や体細胞の提供・同意・個人情報・知的財産など、研究利用に伴う新たな倫理・法的課題 (文献4)(文献5) iPS細胞は皮膚や血液などの体細胞から作製されるため、受精卵を使用するES細胞とは異なり、ヒト胚を破壊する必要がありません。生命の始まりに関わる倫理的な懸念を回避できるのが大きな利点です。 これにより「胚の扱い」や「生命の尊厳」に関する社会的議論が緩和され、研究の推進が可能になりました。 一方で、iPS細胞にも新たな倫理的課題が存在します。生殖細胞への分化誘導研究、体細胞提供時の同意取得、個人情報の保護、知的財産権、研究利用の妥当性など、多方面での法的・倫理的配慮が必要とされています。(文献4) 拒絶反応が少なく個別化医療に期待される 観点 詳細 拒絶反応が少ない理由 患者本人の体細胞から作製される自己由来の細胞。免疫系が異物と認識しにくく、拒絶反応のリスクが低い特性 個別化医療との関連 患者ごとの遺伝情報や病態に合わせた治療設計を可能にする技術。薬の効果や副作用を事前に評価できる応用 注意点・課題 拒絶反応を完全に防ぐわけではなく、作製コストや品質の確保など、実用化に向けた課題が残る研究段階 (文献6)(文献7) iPS細胞は患者本人の体細胞から作製されるため、移植時に免疫系が異物と認識しにくく、拒絶反応のリスクが低いとされています。 この性質により、自分の細胞を使用したオーダーメイド型治療や、薬の効果や副作用を事前に評価する個別化医療への応用が期待されています。ただし、品質の確保や作製コストなどの課題があり、まだ研究段階にある技術です。 多能性を活かし再生医療や研究に応用されている 観点 詳細 多能性とは iPS細胞が神経・心筋など、多様な細胞に分化できる能力 再生医療での応用 損傷した臓器や組織の細胞を作り、移植して機能回復を目指す治療法。パーキンソン病・脊髄損傷・心筋梗塞などの臨床研究 疾患の原因解明・創薬研究 患者由来のiPS細胞を使い、疾患の過程を再現して原因を解明。薬の効果や副作用の評価に利用 実用化への進展 日本国内で複数の疾患に対する臨床試験が進行。再生医療の実用化に向けた研究が着実に前進 (文献8)(文献9) iPS細胞は、体内のあらゆる細胞へ分化できる多能性を持つ細胞です。この能力を活かして、損傷した臓器や組織を修復する再生医療の研究が進められています。 パーキンソン病や心筋梗塞などへの臨床応用が始まり、実用化に向けた取り組みが進む一方で、疾患の仕組み解明や創薬研究にも活用され、日本では複数の臨床試験が進展しています。 ES細胞とiPS細胞の共通点 共通点 詳細 どちらも多能性を持つ万能細胞 ES細胞もiPS細胞も、多能性を持ち体のさまざまな細胞に分化できる幹細胞。心臓・神経・肝臓など多様な細胞を作り出せる再生医療の基盤 再生医療や創薬研究で活用されている 臓器や組織の修復を目指す再生医療、薬の効果や副作用を調べる創薬研究、疾患の仕組みを探る研究などへの応用 細胞を分化・培養して新しい治療法の開発に役立つ 人工的に培養・分化させ、特定の疾患や臓器に対応する細胞を作り出す研究。新しい治療法や薬の開発につながる基盤技術 ES細胞とiPS細胞はいずれも、体内のあらゆる細胞へ分化できる多能性を持つ万能細胞です。 この性質を活かし、損傷した臓器や組織の修復を目指す再生医療の研究や、創薬研究における薬剤評価に利用されています。 細胞を人工的に分化・培養して治療や研究に応用することで、将来の医療の可能性を大きく広げる重要な基盤技術です。 どちらも多能性を持つ万能細胞 項目 詳細 多能性とは 身体のほとんどすべての細胞に分化できる能力。神経・筋肉・血液など多様な細胞を生成できる性質 万能細胞としての特徴 あらゆる臓器や組織の細胞を生成できる万能細胞。再生医療や基礎研究で重要な役割を果たす細胞 自己複製能力 自らを増やし続ける能力を持ち、大量の細胞を安定的に生成できる特性 (文献10) ES細胞とiPS細胞はいずれも多能性と自己複製能力を持つ万能細胞であり、身体のさまざまな細胞に変化できる点が共通しています。 神経や筋肉、血液など幅広い種類の細胞を生成できるため、再生医療や新薬開発、疾患の研究に欠かせない存在です。 由来する細胞は異なりますが性質は類似しており、将来の医療や治療法開発を支える重要な基盤技術といえます。 再生医療や創薬研究で活用されている iPS細胞は、体内のあらゆる細胞へ分化できる能力を持ち、疾患や事故で損傷・喪失した細胞や組織を補う再生医療の素材として研究が進められており、心疾患や神経疾患、肝疾患などへの応用も進展しています。(文献11) 動物実験ではiPS細胞由来の前駆細胞を移植して損傷部位の再生を促せたという報告もあります。(文献12) さらに、患者本人の体細胞から作製したiPS細胞を用い、疾患の状態を再現した細胞モデルを作ることで、薬の効果や副作用を個人単位で評価できる研究も進行中です。このような研究は、疾患のメカニズム解明や新しい治療法の開発において重要な役割を担っています。(文献13) 以下の記事では、iPS細胞と再生医療の関係性について詳しく解説しています。 細胞を分化・培養して新しい治療法の開発に役立つ 項目 詳細 分化誘導とは iPS細胞を目的に応じて神経細胞・心筋細胞・肝細胞などに変化させるプロセス。必要な細胞を作り出すための工程 培養技術の重要性 細胞が均一に分化・成長する環境を整える技術。三次元培養などの進歩により、高品質な細胞を大量に培養可能 新しい治療法への応用 作製した細胞を移植し、臓器機能を回復させる再生医療への応用。疾患の仕組みの解明や薬の効果評価への利用 iPS細胞は、そのままでは特定の機能を持たないため、神経や心筋、肝臓など目的とする細胞へ分化させる分化誘導という工程が必要です。 また、均一で高品質な細胞を得るための培養技術も重要であり、近年は三次元培養技術などの進歩により、大量培養が可能になりました。 こうして作製された細胞は、失われた臓器機能を補う再生医療や、疾患メカニズムの解明、薬剤の安全性評価などに活用されています。 ES細胞とiPS細胞が抱える課題 課題 詳細 腫瘍化や遺伝子異常などリスクの課題がある 分化が不十分な細胞が体内で増殖し、腫瘍を形成する可能性。遺伝子導入過程での変異や異常が生じるリスク 品質や安定性を保つための技術的な課題がある 細胞の品質を一定に保ち、安定した状態で培養・分化させることの難しさ。長期培養での変異やばらつきの発生 実用化の壁(倫理・コスト・法規制など) 倫理的配慮や安全性確保のための法的手続き、培養コストや時間などの負担。社会的合意形成の必要性 ES細胞とiPS細胞には、実用化に向けていくつかの課題があります。もっとも重要な課題は、分化が不完全な細胞による腫瘍化リスクや、遺伝子導入過程で生じる変異の管理です。 また、細胞の品質を均一に保ち、長期培養での安定性を確保する技術的な難しさも指摘されています。 さらに、倫理的配慮や法的手続き、高額な培養コストなどの実用化に向けた課題もあり、これらを克服するための研究が国内外で進められています。 腫瘍化や遺伝子異常などリスクの課題がある ES細胞やiPS細胞は無限に増殖できる特性を持つ一方で、腫瘍化や遺伝子異常といったリスクが課題です。 腫瘍化とは、分化が不完全な細胞が制御を失って増殖し、腫瘍を形成する可能性のある現象です。 とくにiPS細胞では、細胞の初期化過程でDNAや染色体に変化が生じることがあり、「染色体の変異やがん関連遺伝子の変化が観察された」とする報告もあります。(文献14) このようなリスクに対応するため、現在はがん化遺伝子を使わない作製法や、未分化細胞を除去する技術、厳密な品質管理体制の構築など、リスク管理を徹底する取り組みが進められています。 品質や安定性を保つための技術的な課題がある ES細胞やiPS細胞を医療や研究へ活用するには、細胞の性質や状態を安定して保つ品質管理が不可欠です。品質にばらつきがあると、治療効果が不安定になったり、予期しない有害事象が生じたりするリスクがあります。 とくにiPS細胞では、由来する体細胞や培養履歴の違いによって作成された細胞株間で品質にばらつきが生じることが課題です。(文献15) 近年では、培養中の細胞を非破壊的にリアルタイムで評価する技術や、遺伝子異常を迅速に検出するキット、全自動培養・管理装置などが開発され、品質の均一化と安定性の向上に貢献しています。(文献16) 実用化の壁(倫理・コスト・法規制など) 課題 詳細 倫理的課題 遺伝子改変やクローン技術、キメラ動物作製などに伴う倫理的懸念。生殖細胞や人のクローン作製、体内での臓器合成をめぐる議論 コストの高さ 作製・培養・品質管理に高額な費用を要する現状。臨床応用や普及を妨げる経済的負担 法規制と制度面の課題 リスク面・有効性を担保するための基準整備が追いつかず、臨床試験や実用化に制約が生じる状況 製造工程・品質の安定性 大量生産や長期保存の技術が未確立。品質のばらつきや不良細胞の発生リスク (文献17)(文献18) ES細胞やiPS細胞は再生医療の発展に期待される一方で、倫理的・技術的・制度的な課題を抱えています。 クローン技術や生殖細胞作製に関する倫理的な議論に加え、細胞の培養や品質管理に多額の費用がかかることが、普及への大きな障壁となっています。 また、リスク管理を徹底するための法整備や、品質管理技術の標準化も十分に進んでいるとはいえません。今後は、倫理規制の明確化やコスト削減、製造技術の向上が重要な課題といえます。 ES細胞とiPS細胞の違いを深く理解するために共通点と課題の両面も知っておこう ES細胞とiPS細胞はいずれも再生医療に不可欠な技術で、ES細胞は基礎研究に優れ、iPS細胞は倫理的課題が少なく個別化医療に適しています。 両者の特性と違いを理解することで、医療ニュースや臨床研究の進展をより深く理解できるようになるでしょう。 再生医療は今後も急速に進歩していく分野です。ES細胞とiPS細胞の共通点と課題の両面を知ることが、これからの医療を理解するための大切な基礎知識といえます。 再生医療を用いた治療を検討されている方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、再生医療を応用した治療を提供しています。再生医療は、損傷した組織や臓器の機能を回復させる治療法です。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 ES細胞とiPS細胞の違いについてよくある質問 ES細胞とiPS細胞はどんな疾患に有効ですか? ES細胞は心不全、糖尿病、脊髄損傷、加齢黄斑変性などで、iPS細胞はパーキンソン病、網膜疾患、心筋梗塞、肝疾患などで研究が進められています。 いずれも損傷した細胞を新しい細胞で補うことを目的としており、多くは臨床試験段階ですが、将来的な治療応用が期待されています。 以下の記事では、iPS細胞で治せる疾患を一覧で紹介しています。 ES細胞とiPS細胞はどちらが優れていますか? ES細胞とiPS細胞にはそれぞれ長所と課題があり、優劣をつけることはできません。ES細胞は受精卵由来で分化の安定性が高く、豊富な研究実績があります。 一方、iPS細胞は患者自身の体細胞から作れるため、倫理的課題が少なく免疫拒絶のリスクが低いことが特徴です。 両者は目的に応じて使い分けられており、再生医療や創薬研究において互いを補完しながら発展を続けています。 ES細胞とiPS細胞の治療を受けるにはどうすればいいですか 項目 詳細 参加条件・募集案内 対象疾患・年齢・健康状態・治療歴などの条件に基づく募集。大学病院や専門病院のウェブサイト、公募情報、医師からの案内で確認 同意取得・倫理審査 患者本人または家族への十分な説明と同意(インフォームド・コンセント)の取得。倫理審査を通過した安全性・信頼性の確保 現在の治療段階 ES細胞・iPS細胞を用いた治療は臨床研究・治験段階。参加には医学的適応と条件を満たす必要あり 情報収集と相談 信頼できる医療機関・研究機関で情報を確認。医師への相談・紹介の重要性 (文献19)(文献20) 現在、ES細胞やiPS細胞を使った治療は、主に臨床研究や治験の段階です。対象疾患や年齢などの条件を満たす患者が、大学病院や専門機関で募集されています。 参加には、治療内容やリスクについて十分な説明を受けて同意するインフォームド・コンセントと、信頼できる医療機関での医師の診察と紹介が必要です。 参考文献 (文献1) ES細胞とiPS細胞:幹細胞のあれこれ|東邦大学 (文献2) ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方 平成12年3月6日 科学技術会議生命倫理委員会 ヒト胚研究小委員会 (文献3) Feature 2 New Developments in Regenerative Medicine and Innovative Drugs Using Human iPS Cells (文献4) iPS細胞研究の社会的・倫理的課題への取り組み-国際的動向について(スペインでのクローズド・ワークショップでの議論を中心に)|生命倫理専門調査会 2010年1月19日 (文献5) iPS細胞由来の生殖細胞作成とARTへの利用における倫理的問題|J-SRAGE (文献6) History of iPS cells - from birth to medical application|Glycoforum (文献7) Induced pluripotent stem cells and personalized medicine: current progress and future perspectives|PMC PubMed Central® (文献8) Introduction to Induced Pluripotent Stem Cells: Advancing the Potential for Personalized Medicine|PMC PubMed Central® (文献9) Induced Pluripotent Stem Cells for Regenerative Medicine|PMC PubMed Central® (文献10) Pluripotent Stem Cells: Current Understanding and Future Directions|PMC PubMed Central® (文献11) Induced Pluripotent Stem Cells (iPSCs)—Roles in Regenerative Therapies, Disease Modelling and Drug Screening|PMC PubMed Central® (文献12) Generation of iPSC-derived limb progenitor-like cells for stimulating phalange regeneration in the adult mouse|PMC PubMed Central® (文献13) Induced pluripotent stem cells: applications in regenerative medicine, disease modeling, and drug discovery|PMC PubMed Central® (文献14) Tumorigenicity-associated characteristics of human iPS cell lines|PLOS One (文献15) Induced pluripotent stem cells (iPSCs): molecular mechanisms of induction and applications|Signal Transduction and Targeted Therapy (文献16) ヒトiPS細胞の品質及び安全性確保について(案) (文献17) No.87再生医療トッピクス iPS治療研究センター開設加齢黄斑変性の移植手術から5年、自家培養角膜上皮の保険収載|NPO法人再生医療推進センター (文献18) 【iPS細胞実用化への問題点】医療経済学的視点から*|特集◼︎幹細胞研究と再生医療 (文献19) 再生医療・遺伝子治療等について|厚生労働省 (文献20) iPS細胞提供の実績|公益財団法人 京都大学iPS細胞研究財団
2025.12.13 -
- 再生治療
「iPS細胞はどうやって作られるの?」 「iPS細胞ってどんな遺伝子?」 再生医療や創薬の分野で注目されるiPS細胞ですが、その仕組みを正確に理解している人は多くありません。文献や資料には多くの専門用語や細胞関連因子が並び、内容が難解に感じられることも少なくないでしょう。 しかし、iPS細胞がどのように作られ、どんな課題を抱えているのかを理解することは、これからの医療の可能性を考えるうえで非常に重要です。iPS細胞の基礎を正しく知ることが、再生医療の未来をより身近に感じる第一歩となるでしょう。 本記事では、現役医師がiPS細胞の作り方をわかりやすく解説します。また、問題点もあわせて紹介し、記事の最後には、iPS細胞の作り方に関するよくある質問をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 再生医療を用いた治療について気になる方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 iPS細胞とは iPS細胞(人工多能性幹細胞)は、皮膚や血液などの体細胞に特定の遺伝子(山中4因子:Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)を導入し、さまざまな細胞へ変化できる能力を取り戻した細胞です。 2006年に山中伸弥教授が開発し、翌年ヒトでの作製にも成功しました。iPS細胞は、患者自身の細胞から作製できるため、倫理的課題や拒絶反応のリスクを低減しつつ、再生医療や創薬、病態研究への応用が期待されています。 一方で、がん化の可能性や安全性の長期的検証、コストなどの課題も残されており、臨床応用に向けた研究が続けられています。 以下の記事では、iPS細胞について詳しく解説しています。 【関連記事】 【医師監修】ES細胞とiPS細胞の違いとは?共通点や課題をわかりやすく解説 iPS細胞を作る際に導入される4つの遺伝子(山中4因子)とは 因子名 読み方 主な役割 Oct3/4 オクトスリー・フォー 多能性を保つ中心的スイッチ Sox2 ソックスツー 細胞を初期状態に戻す働き Klf4 ケーエルエフフォー 細胞の増殖と分化を整える調整役 c-Myc シーマイック 細胞分裂を促す効率化因子(腫瘍化リスクあり) (文献1) iPS細胞の作製には、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycの4つの転写因子(山中4因子)が用いられます。これらは成熟した体細胞を多能性状態へと初期化する役割を果たします。 2006年に京都大学の山中伸弥教授がこの手法を開発し、再生医療に新たな道を開きました。 当初はウイルスによる遺伝子導入が行われていましたが、がん化リスクのあるc-Mycを除外する方法や、プラスミドDNA、mRNA、化合物を用いた非ウイルス性導入法など、安全性を高める改良が進められています。 リプログラミング(細胞の初期化)の仕組み 項目 内容 遺伝子のスイッチ操作 特定の遺伝子を働かせて細胞の運命を切り替える仕組み クロマチン構造の変化 遺伝子を包む構造を開き、活動しやすくする過程 エピジェネティック標識のリセット DNAの記憶情報を消して細胞を初期状態に戻す働き 細胞の若返り・変換 成熟した細胞を多能性細胞や別の細胞へ変える現象 (文献2) リプログラミングとは、体細胞に特定の遺伝子を導入し、分化状態を解除して多能性を回復させる過程です。 導入遺伝子の作用により、分化を維持する遺伝子群の発現が抑制される一方、多能性に関与する遺伝子群の発現が再び誘導されます。その結果、細胞は分化した表現型を失い、多系統への分化能を獲得します。 この現象が実現するためには、転写因子による遺伝子発現の制御やクロマチン構造の再編成、さらにDNAメチル化やヒストン修飾などのエピジェネティック情報(遺伝子のON・OFFスイッチ)のリセットといった、多層的な分子機構が統合的に機能することが欠かせません。 現在も、リプログラミングの効率性や再現性の向上を目指した研究開発が継続されています。 リプログラミングの種類 種類 詳細 ウイルスベクターによるリプログラミング ウイルスを利用して遺伝子を細胞内に導入し、多能性を誘導する方法。効率は高いが、ゲノムに組み込まれるリスクを伴う手法 プラスミドやエピソーマルベクターを使ったリプログラミング ウイルスを使わず、環状DNA(プラスミド)や自己複製型ベクター(エピソーマルベクター)を利用する方法。比較的リスクの低い非ウイルス性導入法 mRNAリプログラミング 必要な遺伝子情報をmRNAとして一時的に細胞へ導入する方法。ゲノムに影響を与えず、高い安定性をもつ技術 化合物(低分子化合物)によるリプログラミング 遺伝子導入の代わりに特定の化合物を用いて細胞の状態を変化させる方法。操作が簡便でコストを抑えられる手法 ダイレクトリプログラミング 一度多能性を経ずに、ある細胞を別の種類の細胞へ直接変換する方法。再生医療への迅速な応用が期待される技術 リプログラミングの主な手法として、ウイルスベクターによる遺伝子導入法、プラスミドやエピソーマルベクターを用いた非ウイルス法、mRNAによる一過性導入法、低分子化合物による誘導法、および多能性を経由せず直接目的細胞へ転換するダイレクトリプログラミングが挙げられます。 その中でも、mRNAや低分子化合物による方法はゲノム改変を伴わないため、遺伝子挿入に関連するリスクが低く、再生医療への応用が期待されています。 ウイルスベクターによるリプログラミング 項目 内容 高効率 ウイルスが細胞に感染しやすく、遺伝子を効率的に導入できる特徴 ゲノムへの組み込み 遺伝子が長期間働く一方で、ゲノム損傷や腫瘍化のリスクを伴う特性 リスク面に対する工夫 病原性を抑えた改変ウイルスや、ゲノムに組み込まれない新しい方法の開発 取り扱い上の注意 効率は高いが、リスクを考慮し慎重な管理が求められる手法 臨床応用での位置づけ 研究用としては有用だが、ゲノム挿入リスクのため臨床応用には不向きとされ、現在は非ウイルス的手法が主流 (文献3) ウイルスベクター法は、ウイルスの感染力を利用して遺伝子を効率的に導入できる手法であり、iPS細胞研究の発展に大きく貢献してきました。しかし、導入遺伝子がゲノムに組み込まれるため、遺伝子損傷や腫瘍化のリスクが懸念されます。 そのため研究用途では有用ですが、臨床応用には適していません。現在は、プラスミドやエピソーマルベクター、mRNA、タンパク質導入など、ゲノムへの影響が少ない非ウイルス的手法が主流となっています。 プラスミドやエピソーマルベクターを使ったリプログラミング 項目 内容 プラスミドベクター 大腸菌などで増やせる環状DNAを利用し、染色体に組み込まず一時的に遺伝子を働かせる方法。ゲノムへの影響が少ない反面、発現が長続きしにくい特徴 エピソーマルベクター 細胞内で自律的に複製できるDNAを利用し、比較的安定して遺伝子を発現させる方法。染色体に組み込まれないため、ゲノムへの影響が少ない手法 特徴と課題 ゲノム改変のリスクが少ないが、遺伝子発現の持続性や作製効率が課題。再生医療の安全性向上に貢献する技術 (文献4) プラスミドやエピソーマルベクターを使う方法は、ウイルスを利用せずに遺伝子を導入する非ウイルス的手法です。 ゲノムを改変しないため影響が少なく、再生医療の分野で注目されています。一方で、効率や安定性の点で改良の余地があり、研究が進められています。 mRNAリプログラミング 項目 内容 方法の特徴 mRNAを利用して、細胞に必要なタンパク質を一時的に作らせる手法 仕組み mRNAが核に入らず、リプログラミング因子を合成して細胞を多能性細胞に戻す働き メリット 遺伝子が組み込まれないため、ゲノムへの影響が少ない方法 課題 mRNAが短時間で分解されるため、複数回の導入が必要となる点 応用の展望 mRNA修飾技術の進歩による導入効率の向上と、再生医療への応用拡大の期待 (文献5) mRNAリプログラミングは、合成mRNAを細胞に導入し、山中4因子などのリプログラミング因子を一時的に発現させて多能性を誘導する手法です。 DNAを介さずタンパク質を産生させるため、ゲノムへの影響が少なく、遺伝子変異リスクを抑えられる点が特徴です。 一方で、mRNAは分解されやすく複数回の導入が必要となりますが、臨床応用に適した特性を持つため、再生医療分野で注目されています。 化合物(低分子化合物)によるリプログラミング 項目 内容 方法の特徴 低分子化合物を用いて、細胞の遺伝子発現や代謝を変化させ、初期化を誘導する手法 安定性 遺伝子をゲノムに組み込まないため、がん化リスクが少ない方法 仕組み 細胞内のシグナル伝達経路やエピジェネティック修飾に作用して状態を変える仕組み 応用 細胞の若返りや他の細胞への直接変換を可能にする再生医療への応用 課題 効率の低さと再現性の難しさが残る、現在も研究が進められている段階 (文献6) 低分子化合物によるリプログラミングは、遺伝子導入を用いず化学物質により細胞の状態を変化させる技術です。細胞内のシグナル経路や転写因子、エピジェネティック制御機構を化合物で調整し、多能性を誘導します。 遺伝子操作を伴わないため、腫瘍化や免疫反応のリスクが低く、コスト面でも優位性があります。一方で、完全な多能性の再現やヒト細胞での安定的な作製には課題が残り、実用化に向けた研究が進められています。 ダイレクトリプログラミング 項目 内容 方法の特徴 特定の転写因子を導入し、細胞の性質を直接変える手法 仕組み 細胞の運命を決める遺伝子スイッチを操作し、他の細胞へ直接変換する仕組み エピジェネティック変化 遺伝子に付く化学的標識を調整し、細胞の状態を切り替える過程 応用 線維芽細胞を心筋細胞や肝細胞へ変換し、臓器修復や再生医療に活用する技術 特徴 幹細胞を経ずに目的の細胞を作り出す迅速な変換法 (文献7) ダイレクトリプログラミングは、体細胞を多能性幹細胞に戻すことなく、直接別の細胞種へ転換する技術です。 たとえば、線維芽細胞を神経細胞へ変換するなど、従来の方法に比べて時間と工程を短縮できる点が特徴です。 一方で、転換効率や細胞の機能的安定性には課題が残っており、再現性の向上に向けた改良が進められています。将来的には、組織修復や個別化医療への応用が期待されています。 iPS細胞の作り方と手順 作り方と手順 詳細 手順1|体細胞の採取と培養準備 皮膚や血液などから体細胞を採取し、増殖しやすい環境で培養を整える工程 手順2|リプログラミング因子(山中4因子)の準備 多能性を誘導するための4つの遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)を準備する過程 手順3|リプログラミング因子(山中4因子)の細胞への導入 ウイルスやプラスミド、mRNAなどの方法で因子を細胞内に導入し、初期化を促す作業 手順4|iPS細胞の選別と確立 初期化が成功した細胞を選び出し、安定して増殖できるiPS細胞株を確立する段階 手順5|分化誘導・培養 iPS細胞を心筋や神経など目的の細胞へ誘導し、機能を持つ細胞として培養する工程 手順6|品質評価と保存 遺伝子や形態、機能を確認し、基準を満たしたiPS細胞を長期保存する過程 iPS細胞の作製は、体細胞の採取から品質評価まで複数の段階を経て慎重に進行するプロセスです。まず皮膚や血液などから細胞を採取し、培養後に山中4因子を導入して初期化を誘導します。 得られた細胞の中から多能性を示すものを選別し、安定的に増殖できる株を確立します。 その後、心筋や神経など目的の細胞へ分化を誘導し、機能や遺伝子の状態を確認した上で保存されますが、各工程は精密な管理を要し、条件次第で効率が大きく変わる複雑な過程です。 手順1|体細胞の採取と培養準備 項目 詳細 採取する細胞の種類 皮膚線維芽細胞、末梢血単核球、尿由来細胞、口腔粘膜細胞など、iPS細胞作製に利用される体細胞 採取方法 皮膚生検や採血など、身体への負担が少ない採取法 培養環境の管理 クリーンベンチ下での無菌操作と感染防止の徹底 培養条件の安定化 専用培地を使用し、細胞の健康維持と増殖促進を図る環境整備 細胞状態の確認 顕微鏡による形態観察と、ストレスや老化の有無の評価 リプログラミング準備 分裂周期や培養密度を整え、遺伝子導入効率を高める工程 品質とリスク面の確認 染色体異常、遺伝子損傷、細菌・マイコプラズマ汚染の有無を検査する品質管理 iPS細胞の作製は、患者やドナーから皮膚線維芽細胞や血液中の単核球などを低侵襲な方法で採取し、培養することから始まります。 採取された細胞は無菌環境下で培養され、栄養素や成長因子を含む専用培地で維持されます。この際、温度やpHなどの培養条件を厳密に管理し、増殖能の高い良質な細胞の確保が重要です。 採取および培養段階の品質管理は、その後のリプログラミング効率や細胞の品質に直結するため、重要な工程です。 手順2|リプログラミング因子(山中4因子)の準備 項目 内容 遺伝子導入の準備 山中4因子を導入するために、研究目的やリスク面に対する配慮に応じて導入ベクターを選択する工程 ウイルスベクター法 初期化効率が高く研究で広く使用される方法。ゲノムに組み込まれるため臨床応用には不向きな手法 エピソーマルベクター法(非ウイルス法) ゲノムに組み込まれないDNAを利用する方法。リスクが低く臨床用iPS細胞の作製に用いられる手法 mRNA法・タンパク質導入法 DNAを使わず、一時的に初期化因子を発現させる方法。腫瘍化リスクが低い技術 補助因子・化合物の利用 Glis1やValproic Acid、L-Mycなどを併用して、リプログラミング効率や安定性を高める工夫 観察・評価 形態変化、分裂速度、コロニー形成、染色体の安定性などを観察する工程 (文献1) リプログラミング(細胞初期化)は、分化した体細胞に特定の転写因子を導入し、分化状態を解除して多能性を獲得させる工程です。 中心となるのが、山中4因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)であり、これらが協調的に遺伝子発現パターンを再構築することでiPS細胞が樹立されます。 Oct3/4は多能性維持、Sox2は初期化促進、Klf4は細胞安定化、c-Mycは効率向上をそれぞれ担います。 導入法にはウイルスベクター法、非ウイルス法、mRNA法などがあり、近年は代替因子や低分子化合物の併用による改良が日々進んでいる状況です。 手順3|リプログラミング因子(山中4因子)の細胞への導入 項目 詳細 導入方法の概要 細胞に山中4因子を導入し、初期化を促して多能性を引き出す工程 導入操作の流れ 細胞の状態を整え、ベクター導入から回復培養までを行う一連の工程 プレコンディショニング 細胞の分裂活性を高め、遺伝子導入効率を上げるための前処理 ベクター導入手法 ウイルス感染、エレクトロポレーション、リポフェクションなどで遺伝子を導入する操作 回復培養 導入後の細胞ストレスを軽減し、生存率を高めるための培養調整 初期化の観察 細胞の形態変化やコロニー形成を顕微鏡下で観察する工程 形態変化の特徴 扁平な形から丸みを帯びた細胞へ変化し、幹細胞様のドーム状コロニーを形成する特徴 (文献8) リプログラミング因子の導入は、体細胞をiPS細胞へ初期化する中核工程です。レトロウイルスやレンチウイルスを用いる方法は効率が高い一方、ゲノムへの遺伝子組込みによる変異リスクが懸念されます。 そのため、プラスミドDNAやmRNA、低分子化合物を利用した非ウイルス法が主流です。導入後、細胞は数日から数週間かけて形態変化し、未分化状態へ移行します。 この過程では、細胞密度・培地組成・温度・pH・酸素濃度の厳密な管理が必要です。操作はバイオセーフティレベル2以上の環境下で実施されます。(文献9) 手順4|iPS細胞の選別と確立 項目 内容 工程の概要 リプログラミング後に得られた細胞群から、多能性を持つ細胞を選び出し、安定した株を確立する工程 選別方法 顕微鏡による形態観察や、多能性マーカー(Nanog、SSEA-4など)の発現確認による選別 確立されたiPS細胞の特徴 長期間の自己増殖が可能で、分化誘導にも適した安定した性質を持つ細胞 品質管理の重要性 品質が不十分な株は研究や臨床応用に支障をきたすため、厳密な評価が必要な段階 (文献10) リプログラミング後に形成された細胞コロニーの中から、多能性を獲得したものを顕微鏡観察とOct4やNanogなどのマーカー検査で同定します。 選別されたコロニーは再培養され、FGF2を含む培地と低酸素条件(約5% O₂)で未分化状態を維持します。(文献11) その後、分化試験や染色体解析により品質を確認し、樹立されたiPS細胞株を液体窒素下(–196℃)で凍結保存した後、複数のクローンを比較検証し、もっとも品質の高い株をマスターセルバンクとして登録するのが一連の流れです。(文献12) 手順5|分化誘導・培養 項目 内容 工程の概要 確立したiPS細胞を神経、心筋、膵β細胞など目的の細胞へ誘導する工程 誘導の方法 成長因子や化合物を加え、発生過程を再現するように環境を整える操作 条件の調整 細胞の種類に応じて培地成分や誘導のタイミングを適切に調整する過程 分化後の利用 疾患モデル、薬剤評価、再生医療研究などへの応用 重要性 誘導の精度と再現性が研究および臨床応用の信頼性を支える要素 (文献13)(文献14) 樹立されたiPS細胞は、神経・心筋・肝臓・網膜など目的の細胞へ分化誘導されることで、臨床応用が可能となります。 分化誘導とは、発生過程を模倣してiPS細胞に特定の分化経路をたどらせる操作です。WntやFGFなどのシグナル伝達経路を人工的に制御して行われます。 誘導は段階的に実施され、初期は低酸素条件(5% O₂)で未分化性が維持され、成熟期には通常酸素濃度(20% O₂)下で機能的成熟が促されます。この過程では、2〜3日ごとに培地交換を行い、細胞状態を維持します。(文献15) 得られた細胞は、遺伝子発現解析、免疫染色、機能試験により評価され、目的細胞としての性質と機能を確認することで、再生医療や創薬研究への応用が可能です。 手順6|品質評価と保存 項目 内容 品質評価の目的 信頼できるiPS細胞の確認 多能性の確認 三胚葉(外胚葉・中胚葉・内胚葉)への分化能の確認 マーカー検査 iPS細胞の特徴を示すたんぱく質(Oct4、Sox2、Nanog、TRA-1-60など)の発現確認 ゲノム・染色体検査 遺伝子や染色体に異常がないかの確認 エピジェネティック評価 DNAやヒストンの状態、細胞形態の観察 培養履歴の管理 使用した培地、継代回数、作業記録の保存による履歴管理 凍結保存の手順 細胞の状態を整え、専用液でゆっくり冷やして液体窒素で保存 細胞バンク管理 マスター株とワーキング株を分けて保管する二段階体制の維持 長期安定性の確認 定期的な遺伝子検査と凍結・解凍による変化の確認 倫理・法規制の遵守 幹細胞利用基準に沿った管理運用 (文献16)(文献17) 樹立されたiPS細胞は、品質評価と長期保存の工程を経ます。評価では、染色体異常の有無、分化能、増殖性、腫瘍化リスクなどを確認し、臨床応用に適した品質を保証します。 基準を満たした細胞は液体窒素下で凍結保存され、細胞バンクとして管理されます。この工程は、厳格な判定により異常細胞を除外し、iPS細胞を実用可能な形で確立する最終段階です。 iPS細胞を作る際の問題点 問題点 詳細 技術的な問題点(効率・品質・腫瘍化リスク) iPS細胞ができる割合の低さ、細胞ごとの品質の違い、遺伝子操作による腫瘍発生の可能性 臨床応用における問題点(免疫・実用化) 移植後の免疫拒絶反応のリスク、大量生産や品質維持の難しさ 倫理・法規制上の課題 遺伝子操作への社会的理解の不足、法規制に沿った管理体制の必要性 iPS細胞の研究は大きく進展していますが、実用化には多くの課題が残されています。作製効率や品質のばらつき、腫瘍化リスク、免疫反応、倫理的問題などが代表的な課題です。 とくに臨床応用では、高品質な細胞の安定的な供給が不可欠です。さらに、研究や治療に要する高コスト、厳格な法的規制の遵守も実用化への障壁となっています。 技術的な問題点(効率・品質・腫瘍化リスク) 問題点 詳細 効率の問題 細胞の初期化成功率の低さ、細胞の種類や方法による差の存在 品質のばらつき 作製条件が同じでも性質や分化能力に違いが生じる不安定性 腫瘍化リスク 遺伝子導入によるDNA損傷や未分化細胞残存による腫瘍形成の可能性 iPS細胞作製における技術的課題には、作製効率の低さ、品質のばらつき、腫瘍化リスクがあります。作製効率が低いため、多くの細胞が初期化過程で失われます。 また、同一条件下でも細胞の性質に差が生じることがあり、品質の安定化も課題です。さらに、遺伝子操作に伴う腫瘍化リスクが懸念されており、リスクを低減する手法の改良や未分化細胞の除去技術の開発が進められています。 臨床応用における問題点(免疫・実用化) iPS細胞の臨床応用には、免疫反応と実用化に関する課題が残されています。患者自身の細胞から作製した場合は免疫拒絶の可能性が低いものの、他人の細胞(他家iPS細胞)を用いる場合には拒絶反応が起こる恐れがあります。 HLA型を一致させた細胞バンクの整備や免疫抑制剤の使用に加え、製造コスト、安全性の検証、未分化細胞の除去、倫理・法規制への対応などが、実用化に向けた重要な課題です。 倫理・法規制上の課題 問題点 詳細 同意と個人情報の保護 細胞提供者の同意取得とプライバシー保護の徹底 生殖細胞・胚研究の制限 iPS細胞から生殖細胞を作る研究に対する法律上の制約 キメラ研究の倫理問題 ヒトと動物の細胞を混ぜる研究に伴う倫理的配慮の必要性 法的規制と審査体制 再生医療安全法や薬機法による厳格な審査と管理体制 実施基準と許可制度 再生医療の実施に必要な計画届出、施設基準、許可制度の遵守 社会的信頼と法改正への対応 新たな規制や指針の改定に合わせた継続的な対応の必要性 (文献18)(文献19) iPS細胞の臨床応用には、倫理的配慮と法的規制の遵守が不可欠です。細胞提供者の権利保護のためのインフォームドコンセントや個人情報保護、生殖細胞研究やキメラ作成に関する倫理基準の遵守が求められます。 さらに、再生医療安全法や薬機法に基づく厳格な審査・許可制度により、品質管理と社会的信頼の維持が図られています。 iPS細胞の作り方に関する研究と課題の両面を知っておこう iPS細胞は再生医療の可能性を大きく広げる技術ですが、依然として発展途上にあります。作製効率の改善、腫瘍化リスクの低減、分化誘導の安定化など、解決すべき課題は少なくありません。 しかし、これらの研究の進展により、新たな治療法や創薬の実現が近づきつつあります。今後は、研究者・医療従事者・社会が連携し、倫理的かつ実践的に取り組むことが、技術の進歩と適切な医療応用に不可欠です。 再生医療を用いた治療を検討されている方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、再生医療を応用した治療を提供しています。 再生医療は、損傷した組織や臓器の機能を、生体の再生能力により回復させる治療法です。自然治癒力を活用して血管・神経・軟骨などの修復を促し、根本的な機能回復を目指します。薬物療法や外科的治療では対応が困難な疾患に対する新たな選択肢として期待されています。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 iPS細胞の作り方に関するよくある質問 iPS細胞を作る研究はどこで行われていますか? iPS細胞の研究は、主に大学や公的研究機関で進められています。代表的な機関として以下が挙げられます。 研究機関 詳細 京都大学 iPS細胞研究所(CiRA) 山中伸弥教授が設立し、iPS細胞研究の世界的拠点として基礎から臨床応用までを推進 理化学研究所(RIKEN) iPS細胞を使った疾患の再現研究や再生医療の実用化研究の推進 東京大学・大阪大学・慶應義塾大学など 心筋・神経・網膜など専門分野に応じた応用研究の実施 海外研究機関(ハーバード大学・スタンフォード大学・ケンブリッジ大学など) 国際的な共同研究によるiPS細胞技術の発展 iPS細胞研究は、京都大学CiRAを中心に、国内外の大学や研究機関で幅広く進められています。 iPS細胞は一般的な医療機関でも作れますか? iPS細胞の作製は一般の医療機関では実施できません。製造には高度な技術と設備が必要であり、GMP(医薬品製造管理・品質管理基準)に準拠した専用の細胞加工施設でのみ行われます。 京都大学iPS細胞研究財団などの専門機関で臨床グレードのiPS細胞が製造され、医療機関は必要に応じてそれらの提供を受けて利用します。(文献20) iPS細胞で治せる病気は何ですか? iPS細胞を用いた治療や研究は、現在さまざまな病気を対象に進められています。代表的な疾患は以下です。 筋萎縮性側索硬化症(ALS) 脊髄性筋萎縮症 進行性骨化性線維異形成症(FOP) ペンドレッド症候群 パーキンソン病 加齢黄斑変性症 重症心不全 血小板減少症 患者由来のiPS細胞を用いて、病気の仕組みの解明や薬剤の効果・副作用の評価(創薬研究)が行われています。希少疾患や難病の治療・研究にも注目が集まっており、複数の疾患で臨床試験が進められています。 以下の記事では、iPS細胞で治癒が期待できる病気について詳しく解説しています。 参考文献 (文献1) 安全なiPS細胞を高効率に作製 転写因子Glis1の導入でiPS細胞の樹立効率が大幅に改善|産総研 TODAY 2011-11 (文献2) 「リプログラミング」がいのちの再生を可能にする。|立命館大学研究活動報 RADIANT (文献3) センダイウイルス:ベクター化と先端医療開発への応用|生物材料インデックス (文献4) 転写因子Glis1により安全なiPS細胞の高効率作製に成功 Nature 6月9日号に掲載|京都大学 iPS細胞研究所 CiRA(サイラ) (文献5) 細胞間のmRNA移動が多能性幹細胞の運命をリプログラムすることを発見|Institute of SCIENCE TOKYO (文献6) Chemical journey of somatic cells to pluripotency|SpringerOpen (文献7) ダイレクトリプログラミングによる心血管発生と再生医学への新しい展開|日本小児循環器学会雑誌 (文献8) Efficient Generation of Human iPS Cells by a Synthetic Self-Replicative RNA|PMC PubMed Central® (文献9) 【人を対象とする研究】H-6.再生医療の発展と法的規制―再生医療等安全性確保法について|日本医師会 Japan Medical Association (文献10) ヒト多能性幹細胞(hPSC)の形態評|VERITAS (文献11) 間葉系幹細胞の低酸素培養法 (文献12) 幹細胞移植の細胞取扱いに関するテキスト(第 2 版)|日本輸血・細胞治療学会 造血幹細胞移植関連委員会「院内における血液細胞処理のための指針」および「造血幹細胞移植の細胞取扱に関するテキスト」改訂タスクフォース (文献13) ヒトiPS細胞を利用した肝疾患モデル|肝細胞研究会 (文献14) 疾患特異的iPS細胞を用いた先天性心疾患の病態解明|日本小児循環器学会雑誌 (文献15) Hypoxia as a Driving Force of Pluripotent Stem Cell Reprogramming and Differentiation to Endothelial Cells|PMC PubMed Central® (文献16) Human Pluripotent Stem Cell Quality|STEMCELL Technologies (文献17) Standards of induced pluripotent stem cells derived clinical-grade neural stem cells preparation and quality control (2021 China version)|ScienceDirect (文献18) iPS細胞の臨床応用における制度・法制面の状況|HEART’s Selection 4 (文献19) 再生医療・遺伝子治療等について|厚生労働省 (文献20) iPS細胞ストックのご案内|公益財団法人 京都大学iPS細胞研究財団
2025.12.13 -
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- 内科疾患
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「糖尿病はもう治らないのだろうか」 「iPS細胞は糖尿病を治せると聞いたことがある」 糖尿病は、食事療法やインスリン注射などで血糖値をコントロールすることは可能ですが、現在の治療法では根本的な完治には至らず、将来への不安を抱える患者も少なくありません。 しかし近年、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた再生医療の研究が進み、インスリンを分泌する膵β細胞を再生して体内で血糖を自律的に調整できる治療法の開発が進められています。 本記事では、現役医師がiPS細胞と糖尿病治療の関係性を詳しく解説します。実用化後の可能性や課題について紹介し、記事の最後には、iPS細胞と糖尿病に関するよくある質問をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 糖尿病について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 iPS細胞と糖尿病治療の関係性 項目 内容 iPS細胞とは 自分の身体の細胞から作ることができる万能細胞 特徴 さまざまな臓器や組織の細胞に変化できる能力 糖尿病治療での注目点 インスリンを出す膵β細胞を作り直す可能性 1型糖尿病との関係 壊れた膵β細胞を補う再生治療の期待 2型糖尿病との関係 弱った膵β細胞の回復や働きの改善を目指す研究 現状 臨床研究・治験の段階。一般の治療としては未実用 注意点 効果と安定性の確認が必要な発展途中の技術 将来の期待 注射や薬剤に頼らない根本的な治療の可能性 iPS細胞(人工多能性幹細胞)は、皮膚や血液などから採取した細胞を初期化し、さまざまな細胞に分化させる技術です。 糖尿病では、膵臓の膵β細胞が破壊または機能低下することでインスリン分泌が不足し、高血糖を招きます。iPS細胞を用いれば、失われた膵β細胞を再生し、体内で再びインスリンを生み出す仕組みの回復が期待されています。 日本では1型糖尿病を対象に、京都大学医学部附属病院でiPS細胞由来の膵島細胞シート「OZTx-410」を腹部の皮下に移植する治験が進行中です。また、iPS細胞由来膵島細胞の動物移植でも生着(体内への定着)と機能が確認されています。(文献1) iPS細胞治療は、糖尿病の根本的治療に向けた新たな可能性として注目されています。 iPS細胞を用いた糖尿病治療の可能性 糖尿病治療の可能性 詳細 iPS細胞を用いた糖尿病治療の研究|1型 自分の細胞から作った膵β細胞を移植してインスリンを再び作る治療法 iPS細胞を用いた糖尿病治療の研究|2型 iPS細胞で膵β細胞の働きを回復させ、体の反応を改善する治療法 iPS細胞を用いた糖尿病治療は、失われた膵β細胞を再生し、インスリンを再び体内で作り出すことを目指す研究です。とくに1型糖尿病では、自己免疫によって膵β細胞が破壊されるため、iPS細胞から新たな膵β細胞を移植して補う治療が有望視されています。 一方、2型糖尿病ではインスリン抵抗性と膵β細胞機能低下の両方が関与するため、細胞再生に加え代謝改善も必要となり、研究は慎重に進められている段階です。 以下の記事では、糖尿病の治療について詳しく解説しています。 【関連記事】 【なぜ治らない?】糖尿病が完治しない理由やなってしまったらどうするべきか医師が解説 糖尿病は1型と2型どちらが多い?治療法・それぞれの違いを解説 iPS細胞を用いた糖尿病治療の研究|1型 項目 詳細 治療法について 失われた膵β細胞をiPS細胞から再生し、体内に移植する治療法 研究が進む理由 膵β細胞がほとんど失われるため、細胞再生が有効な治療対象となる点 研究の特徴 自己免疫で壊れた膵β細胞を補い、インスリンを再び作り出すアプローチ 研究が先行する背景 インスリン抵抗性を伴う2型糖尿病よりも理論的に治療設計が明確な点 日本では、iPS細胞を用いた1型糖尿病治療が臨床段階へと進んでいます。京都大学医学部附属病院では、iPS細胞由来の膵島細胞シート(製品名:OZTx-410)を1型糖尿病患者に移植する「医師主導治験」が開始されました。(文献2) また、2025年2月には第1例目の移植手術が行われ、術後1カ月時点の評価では大きな問題は報告されず、患者は退院しています。(文献2) 今後は、インスリン分泌機能や長期的な有効性、免疫反応、合併症の有無を段階的に評価する予定です。初期報告では「大きな問題はない」との結果が示されています。(文献2) 移植後は、移植片の生着と機能維持のために免疫抑制剤を投与します。最大5年間の長期観察が計画されています。(文献3) また、海外では患者自身のiPS細胞由来膵島を移植し、1年以上インスリン注射が不要になった事例も報告されていますが、まだ標準治療には至っていません。(文献4) iPS細胞を用いた糖尿病治療の研究|2型 項目 内容 血糖コントロールが難しい要因 インスリン抵抗性と膵β細胞の機能低下・減少 インスリン抵抗性 筋肉・脂肪・肝臓でインスリンが効きにくくなる状態 膵β細胞の変化 長期高血糖や代謝ストレスによる膵β細胞の疲弊・減少 2つの壁 インスリン分泌不足と作用不足の両立した課題 研究の着眼点 膵β細胞の再生・補填とインスリン抵抗性の改善 研究進行の現状 多面的な改善が必要なため、1型より進行に時間を要する段階 2型糖尿病に対するiPS細胞研究は、1型に比べて臨床試験の開始が遅く、実施件数も限られています。世界の糖尿病に対する幹細胞治療試験の中で、2型糖尿病を対象とするものは少数です。(文献5) 一方で、iPS細胞を用いてインスリン抵抗性の状態を再現する研究も進んでいます。米国ハーバード大学関連機関では、ヒトiPS細胞から作製した細胞を使ってインスリン抵抗性モデルを構築したと報告されています。(文献6) また、iPS細胞由来のβ様細胞を作製する研究は進展していますが、2型糖尿病患者への移植や臨床応用の報告は現時点で限定的です。(文献7) 現在の糖尿病治療との違いとiPS細胞併用の可能性 項目 現在の糖尿病治療 iPS細胞を用いた治療 併用の可能性 治療内容 インスリン注射や経口薬による血糖コントロール 患者自身の細胞から作製したiPS細胞を用いた膵β細胞の再生・移植 免疫抑制剤や薬物療法、生活療法との組み合わせ 対象 1型はインスリン依存状態、2型はインスリン抵抗性と膵β細胞機能低下 膵β細胞を補いインスリン分泌能の回復を目指す治療 血糖管理の相乗効果とインスリン依存度の軽減 血糖コントロール 薬剤による一時的かつ補助的な血糖調整 移植細胞による自然で持続的な血糖コントロール インスリン注射や薬剤使用の減量可能性 リスク・課題 副作用や効果持続の限界 長期安定性、免疫拒絶、コストの課題 適切な患者選択と治療タイミングの確立 (文献8)(文献9) これまでの糖尿病治療は、薬やインスリン注射によって血糖を抑える「管理中心の治療」が主流でした。近年注目されるiPS細胞治療は、失われた膵β細胞を再生し、体が自らインスリンを分泌できる状態を取り戻すことを目指しています。 現在は研究段階にありますが、既存の薬物療法や生活療法と併用することで、将来的にはインスリン注射や薬への依存を減らせる可能性が期待されています。安定性やコストなどの課題は残るものの、糖尿病治療が「症状の管理」から「機能の回復」へと進化する大きな転換期を迎えつつあります。 以下の記事では、iPS細胞で治せる病気について詳しく解説しています。 iPS細胞による糖尿病治療で期待される効果 期待される効果 詳細 膵β細胞の再生によるインスリン分泌機能の回復 失われた膵β細胞をiPS細胞から再生し、インスリンを自ら作り出す仕組みの再構築 インスリン注射や薬剤への依存を減らせる可能性 再生した膵β細胞による自然なインスリン分泌による治療負担の軽減 血糖コントロールが安定し合併症のリスクを軽減できる可能性 持続的なインスリン分泌による血糖値の安定と合併症予防 自己細胞を用いることで拒絶反応のリスクを低減できる可能性 自分の細胞を利用した移植による免疫拒絶の軽減 iPS細胞による糖尿病治療は、失われた膵β細胞を再生して身体が自らインスリンを分泌できるようにし、インスリン注射や薬への依存を減らして血糖コントロールを安定させることを目指しています。 また、自分の細胞を用いるため免疫拒絶のリスクも低く、将来的にはより自然な血糖管理が可能になると考えられています。 リペアセルクリニックは糖尿病に対応している再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しています。 詳しくは、以下の糖尿病に対する再生医療の症例をご覧ください。 膵β細胞の再生によるインスリン分泌機能の回復 人間の体内では、膵β細胞がインスリンを分泌して血糖値を調整しています。しかし、とくに1型糖尿病ではこの細胞が失われ、体内で十分なインスリンを作ることができなくなります。 iPS細胞(誘導多能性幹細胞)は、成人の体細胞を再プログラミングして多能性を持たせたものです。この多能性とは、さまざまな細胞に分化できる能力を指します。現在、iPS細胞を用いた膵β細胞の再生を目指す研究が、世界中で進んでいます。(文献10) 近年では、ヒトiPS細胞から膵β細胞を生成し、動物モデルへ移植して血糖値が改善したという報告もあり、将来的に自らの身体でインスリンを生み出せる可能性が期待されています。(文献10) インスリン注射や薬への依存を減らせる可能性 iPS細胞を用いた糖尿病治療では、体内に膵β細胞や膵島を補うことで、自らインスリンを分泌する力を取り戻し、注射や薬への依存を減らせる可能性が注目されています。 現在の治療は、インスリンの不足を注射や薬で補う方法が中心です。しかし、iPS細胞由来の膵島細胞を移植することで、外部からの補充量を減らすことが期待されます。 実際に、1型糖尿病患者に化学的に誘導したiPS細胞由来膵島細胞を腹部に移植した臨床試験では、移植後75日でインスリンを使わずに済んだ例が報告されています。(文献11) 血糖コントロールが安定し合併症のリスクを軽減できる可能性 iPS細胞から作られた膵β細胞が正常に機能すると、インスリン分泌が改善され、血糖値を安定して保ちやすくなります。 血糖が生理的範囲に近づくほど合併症の発症リスクは低下し、実際に「HbA1c値が1%改善されると、糖尿病関連の合併症および死亡リスクが約21%低下した」という報告があります。(文献12) こうした成果から、iPS細胞による膵β細胞再生は合併症の進行を抑える可能性が示されているのです。 ただし、研究レビューでは「血糖改善や合併症抑制が期待されるものの、現時点では確立された治療法ではない」とされています。(文献13) 自己細胞を用いることで拒絶反応のリスクを低減できる可能性 iPS細胞(誘導多能性幹細胞)の大きな利点のひとつは、患者自身の体細胞(皮膚や血液など)から作製できる点です。 そのため、「本人の細胞=自分のもの」として移植でき、他人の細胞を使う場合に比べて免疫が異物と認識するリスク、拒絶反応の可能性を理論上、低く抑えられます。(文献14) ただし、自己由来のiPS細胞であっても、分化の過程で免疫が反応しうる異常なタンパク質や遺伝子変化が生じる可能性があり、拒絶反応を完全に防止できるわけではありません。(文献15) iPS細胞における糖尿病治療の課題 課題 詳細 移植した細胞の長期的な安定性が確認されていない 移植後の細胞が長期間にわたり正常に働き続けるかの検証段階 免疫拒絶反応の完全な抑制は難しい 自己由来でも免疫反応や拒絶が起こる可能性の残存 実用化後もインスリンや薬物治療を不要にできるとは限らない 治療効果や持続性に個人差があり、補助的治療の継続が必要な可能性 iPS細胞を用いた糖尿病治療は大きな期待を集めていますが、まだいくつかの課題が残っています。 移植した細胞が長期的に安定して働くか、免疫拒絶を完全に防げるかは検証段階です。また、治療後もインスリンや薬物が必要となる場合があり、現時点では補助的治療としての位置づけです。 以下の記事では、iPS細胞の作り方について詳しく解説しています。 内部リンク:片桐KW(ips細胞作り方) 移植した細胞の長期的な安定性が確認されていない iPS細胞を用いた糖尿病治療では、移植された膵β細胞や膵島が免疫反応や代謝ストレスなどの体内環境に適応し、長期にわたり機能を維持することが求められます。 しかし、幹細胞由来の治療では移植後に機能低下が起きる例が、動物実験や初期臨床研究で報告されています。(文献16) また、高血糖や酸化ストレス、血管新生不良などにより細胞が疲弊し、時間とともに働きが弱まる可能性も課題のひとつです。(文献17) さらに、移植部位で十分な血流や栄養が確保されない環境や、わずかに残る免疫反応も、移植細胞の長期生存と機能維持を困難にしています。(文献16) 免疫拒絶反応の完全な抑制は難しい 課題 詳細 拒絶反応の仕組み 他人の細胞や臓器を移植すると、免疫が異物と認識して攻撃する現象 自己由来iPS細胞の特徴 自分の細胞をもとに作ることで、拒絶反応のリスクを下げる可能性 免疫反応が起こる理由 細胞作製の過程で生じるタンパク質の変化や、移植部位ごとの免疫環境の違い 研究段階の技術 HLA操作や免疫遮断コーティングなど、免疫耐容化を目指す技術の開発 現状の課題 完全な免疫反応の抑制はまだ実現しておらず、安定性評価の途上 (文献18)(文献19) iPS細胞を使うことで、拒絶反応のリスクを減らせる可能性があります。自分の細胞を利用する点は大きな利点です。 しかし、作製過程での変化や移植環境の違いにより、免疫反応を完全に防止できるわけではありません。今後は免疫耐容技術の進歩とともに、長期的に安定した治療法の確立が期待されています。 実用化後もインスリンや薬物治療を不要にできるとは限らない 課題・要因 内容 個人差による効果の違い 移植細胞の生着や働きに個人差があり、インスリン分泌の回復にばらつきが生じる可能性 移植細胞の長期安定性 細胞が長期間インスリンを分泌し続けられるかの検証段階 免疫拒絶のリスク 自己由来の細胞でも免疫反応が起きる場合があり、免疫抑制の必要性 病状や合併症の影響 糖尿病の進行や他の合併症により追加治療が求められる可能性 技術発展の途上段階 治療法の発展が続く段階で、既存治療との併用が現実的選択 (文献18) iPS細胞を用いた糖尿病治療は、膵β細胞を再生しインスリン分泌を回復させることを目指す治療法です。すでに臨床試験が進み、有望な結果も得られています。 しかし、移植細胞の働きには個人差があり、すべての患者で十分なインスリン分泌が得られるとは限りません。また、細胞が長期にわたり安定して機能するかや、免疫反応を完全に抑えられるかも課題として残されています。 さらに、糖尿病の進行や合併症の影響も受けるため、実用化後もインスリン注射や薬物治療を完全に不要にできるとは限りません。 iPS細胞を用いた糖尿病治療を受ける方法 手順 内容 1.医師との相談 糖尿病の状態や治療内容を確認し、iPS細胞治療の対象となる可能性の確認 2.臨床研究・治験の募集を探す 大学病院などで実施中の臨床研究・治験の情報を確認 3.適格性の確認 治験参加条件(糖尿病のタイプ、既往歴、年齢、健康状態など)の確認 4.同意と登録 説明を受けた上で同意を行い、治験への正式登録 5.移植・治験開始 細胞移植や治療を実施し、術後の定期的な通院・経過観察の実施 iPS細胞を用いた糖尿病治療はまだ標準治療ではなく、臨床研究・治験の段階にあります。国内では1型糖尿病を対象としたiPS細胞由来膵島細胞シート移植の治験が進められていますが、実用化や保険適用は確立していません。 治験参加には、病状や健康状態など厳密な基準を満たす必要があり、全員が参加できるわけではありません。また、治験は有効性を確認する研究であり、治癒やインスリンの完全不要化を保証するものではありません。 また、長期の通院や検査が必要となる場合もあります。iPS細胞を用いた治療は主治医と十分に相談し、将来の選択肢のひとつとして考えることが大切です。 iPS細胞は糖尿病の根本的治療への新たなアプローチ iPS細胞を用いた糖尿病治療は、失われた膵β細胞を再生し、体内でのインスリン分泌機能の回復を目指す新しい治療法として注目されています。従来の治療が血糖コントロールを中心としていたのに対し、身体の働きを根本から立て直す点が特徴です。 現在はまだ研究段階ですが、国内外で臨床試験が進められており、実用化への期待が高まっています。今後、安定性と有効性が確立されれば、糖尿病治療のあり方を大きく変える可能性があります。 糖尿病についてお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、糖尿病に対し再生医療を応用した治療を提供しています。 再生医療を用いた糖尿病治療は、幹細胞によって膵臓のインスリン分泌機能を修復・再生し、根本的な治療を目指す方法です。自己の脂肪組織などから採取した幹細胞を培養して点滴投与することで、従来の症状を抑える治療とは異なり、膵臓の働きの回復を目指します。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 iPS細胞と糖尿病に関するよくある質問 糖尿病の治療でiPS細胞のみに期待するのは適切でしょうか? 現時点で、iPS細胞治療にのみ効果を期待するのは適切ではありません。iPS細胞を用いた糖尿病治療は、将来的に根本的な回復につながる可能性を持つ一方で、まだ研究や臨床試験の段階にあり、一般的な医療としては確立していません。 現在の糖尿病治療(食事・運動・薬物・インスリン療法など)は、血糖コントロールと合併症の予防に欠かせません。引き続き継続することが大切です。 以下の記事では、糖尿病予防に効果的な運動について詳しく解説しています。 iPS細胞の治療が適用できないケースはありますか? iPS細胞治療は、現在主に1型糖尿病でインスリン分泌がほとんどない患者を対象に研究が進められています。 2型糖尿病や重い合併症がある場合、免疫抑制が難しい場合などは現時点で適用外です。これらは限られた条件下で行われる研究段階の治療であり、すべての患者が受けられるわけではありません。 参考文献 (文献1) 【1型糖尿病の最新情報】iPS細胞から作った膵島細胞を移植 日本でも治験を開始 海外には成功例も|糖尿病ネットワーク (文献2) 「iPS由来膵島細胞シート移植に関する医師主導治験」の開始について|京都大学医学部附属病院 FOUNDED IN 1899 (文献3) ヒトiPS細胞由来膵島細胞を1型糖尿病患者に移植 医師主導治験の第1症例目を実施 京都大学病院|糖尿病診療・療養指導のための医療情報ポータル 糖尿病リソースガイド (文献4) 《Cell》 全球首例自體iPS細胞療法逆轉第一型糖尿病、可生成胰島素1年多|Global Bio (文献5) From bench to bedside: future prospects in stem cell therapy for diabetes|BMC Part of Springer Nature (文献6) Scientists create human model of insulin resistance using iPS cells|HSCI HARVARD STEM CELL INSTITUTE (文献7) From bench to bedside: future prospects in stem cell therapy for diabetes|PMC PubMed Central® (文献8) The Prospect of Induced Pluripotent Stem Cells for Diabetes Mellitus Treatment|PMC PubMed Central® (文献9) 2型糖尿病はどのように治療するのか?|一般社団法人 日本糖尿病学会 (文献10) Stepwise differentiation of functional pancreatic β cells from human pluripotent stem cells|PMC PubMed Central® (文献11) Transplantation of chemically induced pluripotent stem-cell-derived islets under abdominal anterior rectus sheath in a type 1 diabetes patient||PMC PubMed Central® (文献12) Transplantation of chemically induced pluripotent stem-cell-derived islets under abdominal anterior rectus sheath in a type 1 diabetes patient|Cell A Cell Press journal (文献13) Treatment of Diabetes Mellitus Using iPS Cells and Spice Polyphenols|PMC PubMed Central® (文献14) Autologous Induced Pluripotent Stem Cell–Based Cell Therapies: Promise, Progress, and Challenges|PMC PubMed Central® (文献15) The Immunogenicity and Immune Tolerance of Pluripotent Stem Cell Derivatives|frontiers (文献16) Islet Cell Replacement and Regeneration for Type 1 Diabetes: Current Developments and Future Prospects|Springer Nature Link (文献17) Stem cell therapy for diabetes: Advances, prospects, and challenges|PMC PubMed Central® (文献18) ヒトiPS細胞から膵島をつくり移植 血糖値の正常化に成功 レンコン状ゲルで細胞移植 1型糖尿病の根治をめざす|糖尿病ネットワーク (文献19) Fit-For-All iPSC-Derived Cell Therapies and Their Evaluation in Humanized Mice With NK Cell Immunity|frontiers
2025.12.13 -
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
冬になると避けて通れない雪かき作業。しかし、何気なく続けているうちに「腰がズキッと痛んだ」「翌日から腰が重だるい」と感じたことはありませんか? 雪かきは見た目以上に腰に負担のかかる重労働であり、ぎっくり腰や慢性腰痛の原因になるため注意しなければなりません。 本記事では、雪かきによる腰痛の原因から具体的な対処法、予防のためのストレッチや姿勢の工夫まで、実践的な内容をわかりやすく解説します。 つらい腰痛を防ぎ、安全に冬を乗り切るための参考にしてください。 なお、当院「リペアセルクリニック」では、雪かきで発症する可能性がある椎間板ヘルニアに対する治療法として、再生医療を提供しています。 再生医療について詳しくは、公式LINEにて情報提供および簡易オンライン診断を行っておりますので、ぜひご登録ください。 雪かき後の腰痛|症状別の種類と見分け方 雪かきは、見た目以上に腰に負担がかかる作業です。全身運動と同時に力仕事の側面もあります。 ここでは、雪かき後に発症しやすい代表的な腰痛の種類と、それぞれの見分け方について解説します。 ぎっくり腰(急性腰痛) ぎっくり腰は、医学的には「急性腰痛症」と呼ばれ、突然発症する激しい腰の痛みを指します。 以下のような症状が見られる場合は、ぎっくり腰の可能性を疑うべきです。 雪かき中や直後に突然、「ズキッ」と鋭い痛みが走った 重い雪を持ち上げたり、体をひねったりした際に強い痛みが出た 前屈や中腰から戻る動作で痛みが強まった 痛みで日常動作(起き上がりや歩行)が困難になった 多くの場合、前かがみで雪を持ち上げた瞬間や、腰をひねったときに発症します。 動くと痛みが増し、起き上がる・立ち上がる・中腰から戻るといった日常的な動作が著しく困難になるケースも少なくありません。 腰に強い違和感や緊張感があり、体をまっすぐに伸ばせない、寝返りが打てないなど、急性の運動制限を伴うのが特徴です。 以下の記事では、ぎっくり腰の治療法やストレッチについて解説しています。 筋肉疲労による腰痛(疲労性腰痛) 筋肉疲労による腰痛は、雪かきのような長時間の作業や繰り返し動作によって、腰や背中の筋肉に疲労や緊張がたまって起こります。 ぎっくり腰のように「瞬間的な激痛」が走るわけではなく、時間の経過とともにじわじわと痛みや重だるさが強くなっていくのが特徴です。 以下のような症状が見られる場合は、筋肉疲労による腰痛の可能性があります。 雪かきの翌日または数時間後、腰に重だるさや張りを感じる 作業を続けるうちに、腰の痛みや違和感が強くなる 体を動かすと痛みが出るが、安静にするとやや軽くなる 下肢のしびれや麻痺などの神経症状はない 多くの場合、雪かきを休まず長時間続けたり、姿勢を崩したまま作業したりが原因です。 腰に負担がかかり血流が悪くなると、筋肉を包む膜(筋膜)や筋肉の線維が緊張して硬くなり、痛みが生じます。 なお、筋肉疲労による腰痛は急性の損傷ではないため、以下のセルフケアで改善が可能です。 温めて血行を促す ストレッチで筋肉をゆるめる しっかり休息を取る ただし、痛みが数日以上続く場合や広範囲にこわばりが残る場合は、他の疾患が隠れている可能性があります。 腰椎椎間板ヘルニア 腰椎椎間板ヘルニアは、背骨の間にある「椎間板」というクッションの一部が外へ飛び出し、神経を圧迫することで発症します。 雪かきのように、重い雪を持ち上げたり、腰をひねる動作を繰り返すと椎間板に過剰な負荷がかかり、発症または悪化するケースも少なくありません。 以下のような症状が見られる場合は、椎間板ヘルニアの可能性があります。 腰の痛みに加えて、お尻から脚にかけて「しびれ」や「電気が走るような痛み」がある 足の力が入りにくい、または感覚が鈍い 安静にしていても痛みやしびれが続く 排尿や排便に異常がみられる 多くのケースでは、飛び出した椎間板が脊髄や神経根を圧迫し、神経の伝達を妨げられるのが原因で、腰痛だけでなく脚にまで症状が及びます。 椎間板ヘルニアは自然に軽快する場合もありますが、強い症状やしびれ・脱力が進行するなら、早急に整形外科を受診しましょう。 雪かきで腰痛になった場合の対処法・治し方 雪かきの後に腰に痛みを感じたときは、早めの適切な対処が回復の鍵となります。 ここでは、雪かきで腰痛になった場合の対処法と治し方を見ていきましょう。 湿布で痛みを軽減する 雪かきの後に腰痛が出た場合、湿布を貼って痛みを一時的に和らげることが可能です。 腰痛に使われる湿布には、冷却タイプと温感タイプがあります。 痛みが出た直後で熱っぽさや腫れがある場合は冷湿布、急性期を過ぎて慢性的な痛みや筋肉のこわばりがある場合は温湿布を使いましょう。 また、湿布を貼るときは肌を清潔にし、かぶれなどに注意しながら使用してください。 腰に負担の少ない寝具を使う 腰痛を発症したら、寝ている間も腰にかかる負担を軽減する工夫が大切です。 マットレスが硬すぎたり柔らかすぎたりすると、腰への負担が大きくなる場合があります。 腰にフィットし、適度な反発力のある寝具を選ぶのがポイントです。 また、寝る姿勢にも配慮しましょう。 仰向けで寝る場合は、膝の下にクッションを入れると腰への負担を軽減できます。 適度に運動する 痛みが軽い場合や回復期には、軽めの運動を取り入れると症状の改善が見込めます。 痛みがあるからといって、長時間動かない状態が続くと筋力が低下し、かえって腰痛が悪化するケースもあるため注意が必要です。 無理のない範囲で、散歩やストレッチなどの軽い運動を行うと血流が良くなり、筋肉のこわばりも和らぎます。 マッサージをする お風呂でゆっくりお湯に浸かる、身体を揉む、家族にマッサージしてもらうといった方法は、筋肉の緊張をほぐし、血行を促進する効果が期待できます。 揉む場合は無理に強く押すのではなく、やさしくさする程度にマッサージするのがポイントです。 ただし、痛みが強いときや炎症がある場合には、安静を優先しましょう。 病院で治療する|再生医療も選択肢 2週間以上経っても症状が回復しない、もしくは腰痛を繰り返すなら整形外科を受診しましょう。 足のしびれなどがある場合は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の疑いも考えられます。 保存療法で改善がみられないケースでは、再生医療も選択肢のひとつです。 再生医療とは、本来の機能を失った組織や細胞に対し、自分自身の幹細胞や血液成分を利用する治療法です。 身体への負担が少ないため、手術を避けたい方や、日常生活への影響をできるだけ抑えたい方に適しています。 代表的な治療法が、「幹細胞治療」と「PRP療法」です。 幹細胞治療は、患者様自身の脂肪などから採取した幹細胞を用いて、損傷部位に投与する治療法です。幹細胞が持つ、他の細胞に変化する能力を活用します。 PRP療法は、血液中の血小板を濃縮して患部に投与する治療法です。血小板には組織の修復過程に関与する成長因子が含まれており、この働きを利用します。 再生医療について詳しくは、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症に対する以下の症例をご覧ください。 雪かきでの腰痛予防法 雪かきが原因の腰痛は、事前の対策によって十分に予防が可能です。 ここでは、雪かきによる腰痛を防ぐための具体的な方法をご紹介します。 ストレッチで準備運動を行う 雪かきをはじめる際は、ストレッチして体をほぐしておくのが有効です。 まずは、以下2つのストレッチ方法を行ってみましょう。 ハムストリングス(大腿二頭筋)のストレッチ方法 1.椅子に座って片脚を前に伸ばして、かかとを床につける 2.上体を前に倒しかかとに向けて手を伸ばす(可能ならかかとに手を添える) 3.20秒キープし、左右それぞれ行う ハムストリングスのストレッチにより、大腿裏の柔軟性を高められます。 雪をすくったり、持ち上げたりする動作では腰だけに頼らず、脚の力も活用しましょう。 大腰筋(だいようきん)のストレッチ方法 1.立った状態で、バランスを崩さないようにテーブルや椅子に手をかける 2.片足を前に出し、もう片方を後ろに引く姿勢をとる 3.前の膝を軽く曲げ、胸を張ったまま腰を前方へ押し出すように意識する 4.この状態を20秒間キープし、左右交互に行う 大腰筋のストレッチを行うと、腰から骨盤前面にかけての筋肉をほぐせます。 雪かき作業中の腰の前反りやひねりに有効なので、しっかり行っていきましょう。 カイロで腰を温める 寒冷地での雪かきでは、気温の低さで筋肉の硬直を招きやすく、そのまま作業を始めると腰を痛めるリスクが高まるため注意しなければなりません。 腰部をカイロ等で温めておくと筋肉が柔らかくなり、負担を軽減できます。 とくに、雪かき開始直前や途中で冷えてきたと感じたときには、腰回りを温めて、筋肉・腱への負荷を減らしましょう。 腰を痛めないようにスコップを正しい姿勢で使う 雪かきは、動作・姿勢の少しの工夫で腰への負担を減らせます。 とくに、スコップを使用する際は、以下のように腰を痛めない正しい姿勢で使用してください。 膝を曲げ、腰を落とした状態で雪を集める 背中を丸めず、可能な限り脚・股関節の力を使う 腰だけで行わず、体全体を使う 自分の身長に合った長さのスコップを使い、胸より上まで雪を持ち上げない 重い雪を一度に抱え込まず、少量ずつ作業する 休憩をこまめにとり、筋疲労を溜めない 雪かきの正しい姿勢や動作を意識し、腰椎や腰回りの筋肉への負荷を抑えましょう。 雪かきで腰痛になる原因 雪かきは腰にかかる負担が大きく、腰痛を引き起こすきっかけになりかねません。 ここでは、雪かきが腰痛を招く主な原因を解説します。 重い雪が腰に負担をかける 雪には多くの水分が含まれており、重い雪を繰り返し持ち上げる動作が腰に大きな負荷をかけます。 無理をすると、腰椎や背部の筋肉・靭帯へ直接的なストレスがかかり、疲労や損傷を招くケースも少なくありません。 さらに、雪を運ぶ・投げるときに、腰だけで持ち上げようとすると負荷が増加し、腰痛を誘発します。 たとえば、一度に持ち上げる雪の量を減らす、こまめに作業を区切るなど、負荷を分散する工夫が大切です。 また、自分の体格に合ったスコップを選ぶと、腰への負担を軽減できます。 前かがみの姿勢で腰や背中の緊張が続く 雪かき作業では、しゃがむ・前かがみ・中腰といった姿勢が長時間続きます。 背中や腰の筋肉に休む間がなく負荷が蓄積すると、血流も滞りやすくなり、結果として筋肉が硬くなって腰痛を引き起こします。 腰を曲げるのではなく、膝を使って作業する、定期的に姿勢をリセットするなどを意識しましょう。 また、作業の合間にストレッチを取り入れるのも有効です。 寒さで血流が悪くなる 雪かきでは、低気温による腰への影響も見逃せません。 寒さで筋肉が収縮し血流が低下すると、筋肉や筋膜がこわばりやすくなるため注意が必要です。 血流が悪くなると、筋肉内に疲労物質がたまって回復が遅れ、少しの負荷でも腰を痛めてしまうリスクが上昇します。 したがって、雪かき前後のウォーミングアップや冷え対策が重要です。 カイロや重ね着で腰まわりを冷やさないように工夫するほか、作業前には軽い体操やストレッチを行って腰痛を防ぎましょう。 まとめ|雪かきでは腰痛に注意しよう 雪かきは、腰に大きな負担がかかる重労働です。 重い雪を繰り返し運んだり、前かがみの姿勢を長時間続けたりなどで筋肉や関節に無理が生じると、腰痛を引き起こします。 腰痛を防ぐには、作業前のストレッチや防寒対策、正しい姿勢の維持が重要です。 痛みが出た場合も、状態に応じて冷却・温熱ケアを行い、症状が長引く場合は早めに医療機関を受診しましょう。 腰痛の治療でお悩みであれば、再生医療も選択肢のひとつです。 当院「リペアセルクリニック」では、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などに対して、再生医療の「自己脂肪由来の幹細胞治療」を提供しています。 公式LINEにて、再生医療に関する情報発信や簡易オンライン診断を行っておりますので、ぜひご利用ください。 雪かきでの腰痛に関するよくある質問 雪かきが原因の腰痛が治らない原因は? 雪かきをきっかけに発症した腰痛がなかなか改善しないなら、単なる筋疲労ではなく、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、変形性腰椎症、骨粗しょう症といった疾患が隠れている可能性があります。 こうした疾患は、長期間にわたって痛みやしびれを伴うケースが多いほか、自己判断では腰痛と見分けがつきません。 早めに整形外科を受診し、画像検査などで正確な診断を受けることが適切な治療への第一歩です。 雪かきで腰痛になったら温める?冷やす? 雪かき後に腰痛が出たときに温めるか、冷やすかは、痛みの種類によって判断しましょう。 ぎっくり腰のような急性の強い痛みが出た直後は、炎症を抑えるために冷やすことが推奨されています。 ただし、冷やしすぎは血流を妨げるため、1回15〜20分を目安にしてください。 一方で、数日以上が経過して痛みが慢性化してきた場合は、筋肉のこわばりや血行不良が原因なので、温めて血流を促すのが効果的です。 痛みの性質や経過に応じて、適切な冷・温の使い分けを意識しましょう。
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こたつで過ごす時間が増える冬場は、腰への負担が無意識のうちに蓄積しやすい季節でもあります。実は、何気ない姿勢や座り方が腰痛の悪化を招くケースも少なくありません。 本記事では、こたつによる腰痛の原因や対策、痛みが続く場合に考えられる疾患や治療法について、医学的な視点から詳しく解説します。 腰痛を予防し、寒い季節を快適に過ごすための参考にしてみてください。 なお、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、腰の疾患に対する治療法の一つ「再生医療」に関する情報の提供と簡易オンライン診断を行っています。ぜひ登録・ご活用ください こたつで腰痛になる原因 腰まわりが重だるいと感じているなら、こたつでの姿勢や過ごし方が悪化要因になっている可能性が考えられます。 ここでは、なぜこたつで腰痛が悪化してしまうのか、骨盤の傾き・血流低下・硬い床での座り方の3つの視点から解説します。 骨盤が後ろに倒れてしまう こたつに座る際、床にそのまま座ったり、背もたれのない状態でリラックスしたりすると、骨盤が後ろに傾きやすくなります。 骨盤の後傾により背骨が丸まると、腰椎(腰の骨)や椎間板に大きな負担がかかる恐れがあるため注意が必要です。 骨盤の後傾が起こると、次のような流れで腰痛が生まれやすくなります。 1.骨盤が後傾し、背骨の自然なカーブが失われる 2.腰椎部・椎間板・筋・靭帯に、不自然なストレスが加わる 3.長時間その姿勢が続くと、筋疲労・血流低下・神経への負荷が増大する こたつで、「背もたれなしで床に座ったまま」「ソファや椅子に移動せずそのまま」「猫背で前かがみになってしまう」という状況では、骨盤の後傾が起きやすくなります。 こたつに座って腰痛を感じているなら、骨盤の傾きに着目してみましょう。 よくない姿勢で血流が悪くなる こたつで長時間過ごすと姿勢が固まりやすくなり、筋肉が緊張・硬直してしまう場合があります。 血流が悪くなると、腰まわりの筋肉・靭帯・筋膜が疲れをため込む状態になり、次のような悪循環が起きかねません。 1.筋肉が硬直して動きにくくなり、周辺の血流が悪化する 2.血流が低下して酸素・栄養が届きにくくなり、疲労物質がたまる 3.神経・筋・筋膜に刺激が加わり、痛みを感じる さらに、こたつの暖かさでリラックスモードに入ると自然と姿勢が崩れやすく、背中を丸めた状態や前のめりになりがちです。 「こたつに入ると動くのが億劫になって、いつの間にか長居していた」「腰がじんわり重だるい」という場合には、血流が悪くなっていないか意識してみましょう。 硬い床に直接座っている 床が硬すぎると背骨に余計な負担がかかり、腰痛の原因になるケースがあります。 とくに、「畳・フローリング+薄い座布団」という状態では、寝具やチェアに比べて支えが乏しいため注意が必要です。 硬い床に直接座り続けると、以下のような状態になる場合があります。 坐骨(お尻の下部の骨)に圧が集中し、筋肉・骨・神経に負荷がかかる 座る位置が低いため、膝・股関節・腰に不自然な角度が生まれやすい 支えがない分、背中や腰の筋が姿勢を保とうとして常に緊張状態になる 上記のような状況では、骨盤・腰椎・筋肉・神経に対し、疲れの蓄積やストレスの継続が起こりやすくなります。 腰痛を軽減するためには、硬い床に直接座らないようにしましょう。 こたつの腰痛対策 こたつで長時間同じ姿勢を続けたり、床に直接座ったりすると、腰に大きな負担がかかるため注意が必要です。 ここでは、こたつを使いながら腰への負担を軽減するための具体的な工夫を紹介します。 クッションや座椅子を活用する 床に直接座ると骨盤が後ろに傾きやすく、腰に負担が集中します。 骨盤の後傾を防ぐためには、クッションや座椅子を使って座面を高くし、骨盤を立てた状態を維持するのが有効です。 とくに、背もたれのある座椅子を使用すると、腰を支える力が分散し、長時間座っていても姿勢が安定します。 座布団を重ねて高さを調整する方法もありますが、すぐにずれてしまう場合は、形状がしっかりしたウレタン素材のクッションや座椅子を利用しましょう。 同じ姿勢を長時間続けない こたつに入っていると、つい長時間動かずに過ごしてしまうことがあります。 しかし、同じ姿勢を取り続けると筋肉が硬直し、血流が低下しやすくなるため注意しなければなりません。 30分から1時間に一度は立ち上がったり、姿勢を変えたりして、筋肉や関節にかかる負荷をリセットすることが重要です。 とくに、腰まわりや太もも、背中の緊張をこまめにほぐすことで、筋疲労の蓄積を防げます。 こまめに動きを取り入れて筋肉の柔軟性を維持し、腰への負担を減らしましょう。 足元を温める こたつのヒーターを切ると、上半身は布団で保温されますが、足元に冷えが残る場合があります。 冷えは血管を収縮させて血行不良を引き起こし、筋肉のこわばりや関節の動きにくさの原因になるため注意しましょう。 とくに、足先の冷えは下半身全体の血流を滞らせやすく、腰部の循環にも影響を及ぼします。 厚手の靴下を重ねて履いたり、湯たんぽを使ったりして、足元を集中的に温める方法が効果的です。 また、こたつ布団のすき間から冷気が入り込まないように注意すれば、下半身全体の冷えを防げます。 ストレッチで筋肉をほぐす 座ったままの姿勢が続くと、腰・股関節・背中の筋肉が緊張しやすくなります。 筋肉がこわばると、血流が阻害され、痛みや違和感が現れるケースも少なくありません。 こたつから出るタイミングで軽いストレッチを取り入れることで、筋肉の柔軟性が保たれ、疲労の蓄積を防げます。 おすすめなのは、太ももの裏(ハムストリングス)やお尻の筋肉を伸ばすストレッチです。 無理のない範囲でゆっくり伸ばし、腰部への間接的な負担を軽減していきましょう。 硬い床に直接座らない 硬い床に直接座るとお尻の骨に圧力が集中し、周囲の筋肉や神経にストレスがかかります。 また、床からの冷えで下半身の血流が悪くなると、腰の違和感や痛みが生じやすくなるため注意が必要です。 畳やフローリングの上に、クッション性のあるマットを敷いたり、厚めの座布団を活用したりすることで、硬さによる圧迫を和らげられます。 長時間のこたつ時間を快適に過ごすためにも、冷えと圧迫の両方を防ぐ工夫を取り入れていきましょう。 座椅子に座るならフラットヒーターのこたつを選ぶ 腰痛防止を優先するなら、ヒーターの構造も確認してこたつを選ぶことが大切です。 一般的なこたつは中央にヒーターが突出しているため、座椅子の背もたれがヒーターにぶつかってしまい、無理な姿勢になってしまう場合も少なくありません。 フラットヒータータイプのこたつは、天板の裏に出っ張りが少なく、座椅子を使っても自然な姿勢を保ちやすくなるのがメリットです。 ヒーターの出っ張りがない分、脚を広げたり背中をまっすぐにしたりといった動きもスムーズに行えます。 継ぎ脚でテーブルの高さを調整する こたつの高さが低すぎると、上半身を前かがみにして食事や作業をする体勢になり、腰や背中に負担がかかります。 このような姿勢が続くと、骨盤の後傾や背中の丸まりにつながり、腰痛が生じる原因になるため注意が必要です。 こたつが低すぎる場合は、継ぎ脚を取り付ける方法があります。 こたつの高さを数センチ上げると姿勢が起きやすくなり、背中を伸ばした状態で座ることが可能です。 とくに、食事やパソコン作業などで長時間こたつを使う場合には、こたつの高さを調整してみましょう。 こたつで寝るときの腰痛対策 こたつで寝る習慣は、腰にとって大きな負担になります。 ここでは、こたつで寝るときに腰の負担をできるだけ抑えるための対策を見ていきましょう。 枕の高さ・角度を調整する こたつで横になる際、頭の高さが合っていない枕やクッションを使うと、首や腰の自然なカーブが崩れ、腰に余計な負担がかかります。 とくに、枕が高すぎると背骨のS字カーブが乱れ、骨盤や腰椎にストレスが集中しやすくなるため注意しましょう。 逆に、低すぎても首が後ろに反り、肩や腰まわりの筋肉が緊張します。 こたつで横になる場合は、厚すぎないタオルや低めのクッションを使い、首から背中、腰までが緩やかなS字カーブを描く自然なラインを保つ工夫が大切です。 頭から腰までの角度が安定すれば、腰への負担を抑えた状態で仮眠をとれるようになります。 うつ伏せでは寝ない うつ伏せで寝ると、腰が反った状態で長時間固定される状態になり、腰椎や筋肉への負荷が大きくなります。 結果、背骨全体の配列が乱れ、腰まわりに強い緊張を生じさせる原因になるのです。 また、顔を左右どちらかに向けて寝る姿勢は、首や肩にも無理なねじれが加わります。 こたつで寝るときは、できるだけ仰向けや横向きの姿勢がおすすめです。 仮眠の際には寝姿勢にも十分注意を払い、翌朝の腰痛リスクを軽減していきましょう。 寝る前にストレッチする こたつで寝る前に軽いストレッチを取り入れると、腰まわりの筋肉がほぐれ、血流を促進する効果が期待できます。 とくに、長時間座っていた後や寒さで身体がこわばっているときには、筋肉が緊張した状態のままで寝ると、起床時に痛みが出やすくなります。 ストレッチは、太ももの裏やお尻、腰の筋肉を中心に、無理のない範囲でゆっくりと行うことが重要です。 筋肉をあらかじめ緩めておくと、睡眠中の姿勢が安定しやすくなり、腰への負担も軽減されます。 こたつの腰痛予防|痛くならない座り方 こたつで過ごすとき、注意すべきは骨盤の傾きです。 床に直接座ったり、背もたれがない状態で前かがみになったりすると、骨盤が後ろに倒れて背中が丸まり、腰椎に大きな負担がかかります。 骨盤が後ろに倒れた姿勢が長時間続くと、筋肉が緊張し血流が悪化するため、立ち上がったときに腰の痛みを感じる原因になるのです。 こたつを使う際は、座面に厚めのクッションを敷いて骨盤が立ちやすい高さを確保するほか、できれば背もたれ付きの座椅子を使うと姿勢が安定します。 骨盤を垂直に保って腰の自然なカーブを意識すると、こたつに座った状態でも腰への負担を最小限に抑えられるので実践してみてください。 こたつで腰痛が続くなら要注意|隠れた疾患の可能性 こたつで過ごした後に腰痛が長引く場合、単なる姿勢の問題だけでなく、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの疾患が隠れている可能性があります。 とくに腰から脚にかけてのしびれ、片側の足の筋力低下、長時間歩くと脚が痛むといった症状がある場合は注意が必要です。 保存療法で改善が見られない場合は、再生医療も選択肢になります。 再生医療には、幹細胞を患部に投与する「幹細胞治療」や、血液に含まれる成長因子の働きを活かす「PRP療法」があり、いずれも入院や手術を伴わず、日帰りで施術可能です。 体への負担が少ないため、術後の後遺症や慢性的な症状に悩む方の選択肢の一つとなります。 椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症に対する再生医療の内容については、以下の症例記事をご覧ください。 まとめ|こたつに正しく座って腰痛を予防しよう こたつでの腰痛は、姿勢や座り方を見直すことで大きく軽減できます。 座椅子やクッションの工夫、定期的なストレッチ、体を冷やさない配慮など、日常の工夫で腰への負担を減らしていきましょう。 ただし、痛みやしびれが続く場合は、椎間板ヘルニアや坐骨神経痛といった疾患が隠れている可能性もあるため注意が必要です。 保存療法で改善しないケースでは、手術を避けたい方に適した新しい治療法として、再生医療という選択肢もあります。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症の治療法の一つ、再生医療に関する情報の提供と簡易オンライン診断を実施していますので、ぜひご登録ください。 こたつの腰痛に関するよくある質問 テレワークでパソコン作業するのに適したこたつは? こたつでテレワークやパソコン作業を行う場合、座面の高さと硬さが腰に影響します。 座面が高すぎると足を伸ばしにくくなり、低すぎると前かがみの姿勢になりやすいため、どちらも長時間の作業には不向きです。 また、座面が柔らかすぎると骨盤が後ろに倒れやすくなり、腰椎に無理な力が加わります。 作業しやすい高さのこたつを選ぶほか、適度な硬さと高さを備えた座椅子やクッションを組み合わせると良いでしょう。 堀ごたつは腰痛防止に向いている? 堀ごたつは、腰痛防止に向いています。 床面を掘り下げて椅子のように座れる構造で、腰にかかる負担を軽減しやすいのが特徴です。 足を下ろせるスペースがあるため骨盤が立ちやすく、背筋を伸ばした姿勢を保ちやすくなります。 通常のこたつよりも自然な座位姿勢がとれるため、腰痛が気になる人にとって有効です。
2025.12.13 -
- 脳卒中
- 頭部
「ウェルニッケ野とブローカ野の役割の違いは?」 「失語症の症状の違いは?」 「失語症の方との関わり方やリハビリについて知りたい」 ウェルニッケ野は、耳から入った言葉を理解する役割を担っています。一方、ブローカ野は、言葉を発することが役割です。この脳の部位が脳梗塞や脳出血により障害されると失語症を引き起こします。 本記事では、ウェルニッケ野とブローカ野の役割の違いをはじめとして、以下を解説します。 失語症の症状の違い 失語症の原因となる病気 失語症が患者様にもたらすもの 失語症に対するリハビリ 失語症の方との関わり方 失語症の方は、コミュニケーションが困難になり、苛立ちや不安などさまざまな精神的苦痛を感じます。そのため、サポートをする周囲の方の失語症に対する理解は重要です。本記事を失語症の理解を深めるためにお役立てください。 なお、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 脳梗塞や脳出血の後遺症でお悩みの方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 ウェルニッケ野とブローカ野の役割の違いとは ウェルニッケ野とブローカ野の役割の違いは以下の通りです。 役割 ウェルニッケ野 耳から入った言葉を理解するための役割 ブローカ野 組み立てられた言葉を発するための役割 それぞれの役割の違いについて解説します。 ウェルニッケ野|言葉を理解するための役割 ウェルニッケ野は、耳から入った言葉を理解する役割を担っています。場所は脳の左側後方辺りです。 耳に入った言葉は聴神経(耳と脳をつなぐ神経)から聴覚中枢(音を認識、識別する脳の領域)を経て、ウェルニッケ野に伝達されます。耳から入った言葉の理解だけでなく、自分の考えを言葉として組み立てる役割もあります。 ブローカ野|言葉を発するための役割 ブローカ野は、組み立てられた言葉を話せるようにする役割を担っています。場所は脳の左前方辺りです。 会話をしようとすると、ウェルニッケ野が元となる言葉を組み立て、その後に組み立てられた言葉がブローカ野に伝達されます。そして、ブローカ野が言葉を発するために必要な運動を発語器官の筋肉に伝達させて、会話をできるようにします。 ウェルニッケ失語症とブローカ失語症の症状の違いとは ウェルニッケ失語症とブローカ失語症の主な症状の違いは以下の通りです。 症状 ウェルニッケ失語症 相手の話す言葉を理解できない ブローカ失語症 すらすらと話せない それぞれの失語症について解説します。 ウェルニッケ失語症|相手の話す言葉を理解できない ウェルニッケ失語症は、会話を理解する過程に障害が起きています。 以下のような症状が現れます。 相手の言っていることが理解できない 流暢に話すことはでき多弁であるが言い間違いが多い 自分の言葉を理解しないで話してしまう 会話を理解できず言い間違いが多いため、会話がかみ合いにくくなる特徴があります。例えば、「ラーメンを食べたい」と言いたいところを「お箸を食べたい」と言ってしまうなどです。聞いたことのない日本語を話してしまうこともあります。 軽度の方でも、複雑な会話を理解することは困難です。重度の方は、日常会話の意思疎通が難しくなります。ウェルニッケ失語症は、感覚性失語とも呼ばれています。 ブローカ失語症|すらすらと話せない ブローカ失語症は、言葉を発する過程に障害が起きています。 以下のような症状が現れます。 流暢に話すことができずぎこちなくなる 話そうとしてもなかなか言葉が出てこない 言葉のはじめの音がとくに出しにくい 相手の言葉はある程度理解できます。軽度の方は、文章で話すことができますが、会話のスピードはゆっくりで発音は不明瞭です。重度の方は、単語レベルでの発話は可能な場合もありますが、文章を組み立てて話すことが困難です。 ウェルニッケ失語症とブローカ失語症の原因となる病気 失語症の原因となる病気には以下のようなものがあります。 病名 特徴 脳梗塞 脳の血管が詰まってしまう病気 脳出血 脳の血管が破れてしまう病気 脳腫瘍 脳の細胞に腫瘍ができてしまう病気 脳外傷 交通事故や転倒などの強い衝撃により、脳に損傷が起きてしまった状態 脳炎 細菌やウイルスが脳の中に入り込み炎症が起きてしまう病気 これらの病気によって、ウェルニッケ野やブローカ野が障害されてしまうと、失語症を引き起こしてしまいます。 脳卒中の後遺症に対する再生医療 失語症の原因となる脳卒中(脳梗塞や脳出血)の後遺症に対する治療法の1つに、再生医療があります。再生医療とは、人が本来持っている「再生する力」を活用した治療方法です。 失語症などのコミュニケーション障害も治療対象になっています。その他にも、以下のような後遺症が治療対象です。 歩行や立ち上がりの能力の低下 手足のしびれや麻痺 関節や筋肉の痛み 脳卒中の後遺症や再発予防についてお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。 失語症が患者様にもたらすもの ウェルニッケ失語症やブローカ失語症を発症してしまうと、患者様に以下のようなことがもたらされます。 他者とのコミュニケーションが困難になり、苛立ちや不安感など精神的な苦痛が発生する 読書やカラオケ、映画鑑賞などの趣味の活動による生きがいを喪失する 失語症を発症した方には、残っている能力でできるコミュニケーション方法の獲得や生きがい作りなどのサポートが必要です。 ウェルニッケ失語症やブローカ失語症に対するリハビリプログラム ウェルニッケ失語症やブローカ失語症に対するリハビリは、一般的に以下のような流れで進みます。 失語症の程度や症状を把握する 標準失語症検査を行う 症状に合わせたリハビリを行う それぞれの詳細を解説します。 1.失語症の程度や症状を把握する 脳梗塞・脳出血後にリハビリを開始する際は、言語聴覚士がベッドサイドでコミュニケーションを行い、失語症の程度や症状を把握します。 また、可能であれば以下のような簡易的な検査を実施します。 年齢や氏名、住所などを呼称できるか 単語や短文の復唱はできるか 指示した通りの動作はできるか 言語聴覚士は、これらの検査や患者様との関わりを通して今後のリハビリの方針を検討します。 2.標準失語症検査を行う 患者様の病状が安定して、車椅子に一定時間座れるようになった場合は、言語室に場所を移してリハビリを行います。患者様の状態によりますが、可能であれば標準失語症検査を行い失語症の状況を確認します。 標準失語症検査とは「聞く、話す、読む、書く」のそれぞれの分野に分けて、系統的・段階的に評価する検査です。 例えば、「話す」の分野では、「物の名前を述べる」「描いた絵を説明する」「漫画の説明を行う」などの検査を行い「話す」能力を評価します。 3.症状に合わせたリハビリを行う 検査を実施して、失語症の程度を把握できたら、症状に合わせたリハビリを行います。 リハビリの一例を紹介すると以下のようなものがあります。 訓練の種類 詳細 話す訓練 ・絵が描いてあるカードを見て、対応する単語を述べる ・単語から文章を話す ・文字を見て文章を読む 聞く訓練 ・聞いた単語や短文に対応するカードを選ぶ ・難しい単語への変更、カードの枚数の増減などで難易度を調整する 文字を理解する訓練 ・漢字や仮名、文章を読み対応するカードを選ぶ ・問題を解く 文字を書く訓練 ・名前や漢字の単語、仮名の単語など身近な文字を書く ・徐々に文章を書く訓練に移行する 失語症のリハビリは、あせらずにゆっくりと取り組むことが大切です。 ウェルニッケ失語症やブローカ失語症の方との関わり方 失語症の方と関わる際は、以下のことに注意してください。 症状 関わり方 話す障害 ・「はい」「いいえ」で答えられるような会話をする ・話し出しが遅れるためせかさない ・「○○のことですか?」と適当なタイミングで言葉を引き出す ・質問カードなどを作成しておく 聞く障害 ・言葉だけでなく、身振りや手振りを加えて話す ・イメージできるイラストや物を活用して話す ・急に話題を変えない 読む障害 ・漢字ではなくひらがなを使う ・図を用いてイメージしやすくする 全体を通してあせらずゆっくりとコミュニケーションをとることが大切です。 ウェルニッケ野とブローカ野以外の失語症 ウェルニッケ野とブローカ野以外にも以下のような失語症があります。 失語症の種類 特徴 健忘性失語 相手の話の理解はでき、口頭でのコミュニケーションもよくできるが、物の名前が出てこないため回りくどくなる 伝導失語 相手の話している言葉は理解できるが、復唱(真似して言うこと)に障害があり「話す」「書く」際にも誤りが出る 全失語 相手の言葉をほとんど理解できず、声を発することも困難で、できたとしても一語程度である まとめ|それぞれの失語症の特徴に応じたリハビリに取り組もう ウェルニッケ失語症は「相手の話す言葉を理解できない」、ブローカ失語症は「すらすらと話せない」のが特徴です。リハビリは「聞く、話す、読む、書く」それぞれ症状に応じて進めて行きます。 失語症を発症すると、コミュニケーションが困難になり、苛立ちや不安感など精神的な苦痛が発生します。失語症の方と関わる際は、これらの特徴を踏まえて「簡潔に答えられる会話をする」「ジェスチャーを交えて会話をする」などの工夫をして、コミュニケーションを取ることが重要です。 医師や言語聴覚士と相談しながら、その方に応じたリハビリを行い、残った能力でコミュニケーション方法を獲得しましょう。 脳卒中の後遺症改善や再発予防には、再生医療という選択肢もあります。詳しくは当院「リペアセルクリニック」にお気軽にご相談ください。
2025.12.13 -
- 脳卒中
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「ウェルニッケマン肢位の上肢や下肢の特徴は?」 「日常生活にどのような影響がある?」 「効果的な治療方法やリハビリの内容を知りたい」 ウェルニッケマン肢位とは、上肢と下肢が異常な姿勢になる症状のことです。脳梗塞や脳出血を発症したあとに後遺症として起きる場合があります。 本記事では、ウェルニッケマン肢位の特徴をはじめとして以下を解説します。 日常生活への影響 原因となる病気 治療方法 リハビリテーション ウェルニッケマン肢位は、早期に適切な治療やリハビリを進めることが大切です。関節が固まってしまい元に戻らなくなるおそれがあるためです。本記事を参考にして、適切な治療やリハビリの選択に役立ててください。 なお、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 脳梗塞や脳出血の後遺症でお悩みの方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 ウェルニッケマン肢位とは?上肢と下肢の特徴 ウェルニッケマン肢位(Wernicke-Mann肢位)とは、脳卒中などを発症したあとに起きる場合がある後遺症のことです。 ウェルニッケマン肢位を引き起こすと、体の片側の上肢と下肢が以下のような特徴的な状態になります。 ウェルニッケマン肢位の特徴 上肢 ・肩関節や前腕が内側に入り込んだ状態になる ・肘関節と手首が曲がり胸の辺りにくる ・こぶしを握った状態になる 下肢 ・股関節が内側を向いた状態になる ・膝関節が過剰に伸びた状態、または曲がった状態になる ・足首が下向きに突っ張り、つま先立ちのような状態になる ・足の指の第一関節が曲がった状態になる このような筋肉が緊張して硬くなる状態を痙縮(けいしゅく)といいます。ウェルニッケマン肢位は痙縮の中の1つです。 痙縮が進行すると関節の動きが固まってしまい、元に戻らなくなる拘縮(こうしゅく)という状態になるおそれがあります。脳卒中の患者様118万人のうち、41万人が痙縮の後遺症を引き起こしているとの報告があります。(文献1) ウェルニッケマン肢位が引き起こす日常生活への影響 ウェルニッケマン肢位を引き起こすと、以下のように日常生活へ影響をきたします。 体の片側が緊張しているため衣服の脱ぎ着や体を洗うことが困難になる 手を握りこんでいるため物がつかみにくい 手を握りこんでいるため爪が切れず手も洗いにくい 足が突っ張っているため歩行が難しく転倒のリスクがある 筋肉の緊張により痛みが現れ動作の妨げや夜間不眠の原因になる 以上のような影響により、患者様の生活の質が低下してしまいます。また、本人だけでなく、介護者の心身の負担も増えてしまいます。 ウェルニッケマン肢位を引き起こす病気 ウェルニッケマン肢位を引き起こす病気には、以下のようなものがあります。 病名 特徴 脳卒中 脳の血管が詰まったり破れたりすることで、脳に障害が起きる病気 脊髄損傷 交通事故などの強い衝撃により脊髄が損傷した状態 重度頭部外傷 頭部に強い衝撃を受けて、脳に損傷が起きる外傷 脳性麻痺 胎児のときから生後4週間までに発生した脳の損傷による運動障害 多発性硬化症 神経を覆っている膜のようなものが、炎症などによってむき出しになってしまう病気 脳卒中の後遺症に対する再生医療 脳卒中の再発予防や後遺症、または脊髄損傷に対する治療法として再生医療という選択肢があります。再生医療とは、人が本来持っている「再生する力」を活用した治療方法です。 例えば、以下のような後遺症が治療の対象になります。 手足のしびれや麻痺 感覚障害 筋力低下 関節や筋肉の痛み 言語機能の低下 嚥下機能の低下 注射や点滴で治療が行われるため、手術が不要というメリットもあります。当院「リペアセルクリニック」では、ウェルニッケマン肢位の原因となる脳卒中や脊髄損傷に対して再生医療を行っています。 当院で行っている再生医療については、以下の症例を参考にしてください。 【症例記事】 運動機能、言語機能ともに改善! 脳梗塞・脳出血・硬膜下血腫 80代男性 投与直後から歩容改善 頚椎症性脊髄症 70代男性 ウェルニッケマン肢位の治療方法 ウェルニッケマン肢位などの痙縮に対する治療は、主に筋肉の緊張を和らげるために行います。 治療方法には以下のようなものがあります。 治療方法 詳細 薬物療法 筋肉の緊張を和らげる筋弛緩剤(きんしかんざい)の服用 ボツリヌス療法 筋肉の緊張を和らげるボツリヌス製剤の投与 装具療法 装具による患側(かんそく:症状が出ている側)への負荷の軽減 手術療法 足の突っ張りや足の指の変形に対する直接矯正 それぞれの治療方法を詳しく解説します。 薬物療法 薬物療法では、筋肉の緊張を和らげる筋弛緩剤を服用して治療を行います。初期治療として選択されることが多いです。症状に応じて、複数の薬を組み合わせることもあります。 筋弛緩剤の主な副作用は眠気や脱力感、飲み込みにくさなどです。副作用が出ないように少量から服用を始める必要があります。 ボツリヌス療法 ボツリヌス療法とは、ボツリヌス菌が作るたんぱく質を活用した治療方法です。痙縮が強い部位にボツリヌス菌が含まれた注射をすることで、筋肉の緊張を和らげることが可能です。 注射の効果は、投与してから約10日後に始まり、約1〜2カ月で効果が最も高まります。約3カ月経過すると効果が弱まります。主な副作用は脱力感です。 治療費が高額であるため、多くの部位に投与する場合は、医療費助成制度等を活用できるかの確認を推奨します。 装具療法 ウェルニッケマン肢位などの痙縮は、足底などの特定の部位に体重がかかると悪化するおそれがあります。装具を用いることで、特定の部位に体重がかからないようにして、痙縮の悪化を抑えます。 装具単体の治療では限界があるため、その他の療法と組み合わせて治療を進めることが一般的です。また、患側の筋肉を伸ばしたり、安定させたりすることで、余計な緊張が起きないようにする役割もあります。 手術療法 手術療法は、筋肉が固まってしまい既存の治療方法では効果が不十分な場合に検討します。足の突っ張りや足の指の変形を直接矯正する治療方法などがあります。 手術を検討するには、以下のような条件を満たさなければなりません。 拘縮等が起きていない 手術前に歩行訓練ができている 術後であっても症状は悪化する場合があります。装具療法の継続や定期的なボツリヌス療法なども必要です。 ウェルニッケマン肢位のリハビリテーション リハビリテーションは、主に筋力増強や拘縮予防のために行います。痙縮に対するリハビリは、発生したその日からベッドサイドで関節を動かす訓練を始めることが大切です。 起立に耐えられる状態である場合は、以下のような器具を用いたリハビリの実施を検討します。 リハビリ器具名 詳細 ティルトテーブル 寝たままの状態で徐々に立位姿勢にできる器具 スタンディングテーブル 立位姿勢をサポートする器具 これらの器具を用いたリハビリは、膝や股など各関節をゆっくりとストレッチできます。その結果、関節を動かせる範囲の維持・向上の効果を期待できます。 まとめ|ウェルニッケマン肢位の治療は医師と十分に相談しながら進めよう ウェルニッケマン肢位の治療方法は多岐にわたります。筋肉の緊張から拘縮に移行させないためにも、早期に適切な治療やリハビリを始めることが重要です。 症状の程度によって治療方針が決定します。初期治療の多くは筋弛緩剤を服用する薬物療法です。既存の治療では効果が見られない場合は、足の突っ張りや足の指の変形に対する手術療法も検討します。 ボツリヌス療法も効果的ですが、高額な治療となるため、医療費助成制度等を利用できるかの確認をしましょう。ウェルニッケマン肢位の治療は、医師と本人、家族と十分に相談しながら進めてください。 脳卒中の後遺症や脊髄損傷の治療法として、再生医療という選択肢もあります。再生医療について詳しくは、当院「リペアセルクリニック」にお気軽にご相談ください。 ウェルニッケマン肢位に関するよくある質問 歩行はできるようになる? 症状の程度によっては歩行可能です。ウェルニッケマン肢位のような痙縮が起きると、歩行は不安定になり転倒リスクがあります。歩行能力を維持・向上するには、早期から杖や装具を活用した歩行の訓練を取り入れることが重要です。 症状はリハビリなどで改善する? リハビリを適切に取り入れれば、痙縮で行えなかった動作を獲得できる場合があります。また、リハビリは関節の動く範囲や、筋力の維持・向上のために重要な療法です。 参考文献 (文献1) 脳卒中後痙縮のリハビリテーションとボツリヌス治療|浜松市リハビリテーション病院
2025.12.13 -
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「慢性的な腰痛が辛い」 「市販の鎮痛剤を飲んでいるけれど、このまま飲み続けて良いのだろうか?」 「病院で薬を処方してもらう方が良いような気がする」 慢性腰痛に悩まれている方の中には、さまざまな薬を内服されている方もいらっしゃるでしょう。 慢性腰痛は発症から3か月以上続く腰痛であり、薬が効きにくいとされます。 本記事では、慢性腰痛に使われる主な薬や薬が効きにくい理由を中心に解説します。薬以外のセルフケアや医療機関での治療内容についても解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 薬を飲んでも続く慢性腰痛にお悩みの方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 慢性腰痛に使われる薬の種類と効果 本章では、慢性腰痛治療に使われる3種類の薬とそれぞれの効果について解説します。 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) 抗炎症作用や鎮痛・解熱作用がある薬剤の総称で、広い意味ではステロイド剤以外の抗炎症薬すべてを含みます。一般的には、腰痛をはじめとする体の痛みや発熱の治療に使用される解熱鎮痛薬とほぼ同義語です。(文献1) 薬品名としては、以下のようなものがあげられます。 アスピリン インドメタシン イブプロフェン 副作用として多く見られるのが、胃痛や吐き気、嘔吐といった消化器症状および腎機能障害、喘息発作などです。 神経障害性疼痛治療薬 神経や脊髄、または脳の損傷および機能障害による痛み(神経障害性疼痛)を治療するための薬です。これらの薬の中には、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬や三環系抗うつ薬など、うつ病治療に用いられるものもあります。 主な薬としてあげられるものは、以下のとおりです。 プレガバリン(リリカ) デュロキセチン ミロガバリン(タリージェ) イミプラミン これらの薬には、眠気やめまい、ふらつきといった副作用があります。 以下の記事ではタリージェについて詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 麻薬鎮痛薬(オピオイド) オピオイドは、脳や脊髄、末梢神経にあるオピオイド受容体に結合し、痛みの伝達を抑制する薬剤です。がんによる痛みや、神経損傷後の慢性的な痛みなどに作用します。(文献2) オピオイドには弱オピオイドと強オピオイドがあり、慢性腰痛治療で用いられるのは主に弱オピオイドです。弱オピオイドは、強オピオイドよりも身体への依存性が低いとされています。 弱オピオイドの主な薬としては、コデインリン酸塩、トラマドールなどがあります。 オピオイドの副作用は便秘や吐き気、体のかゆみ、眠気などです。 慢性腰痛に薬が効きにくい理由 慢性腰痛とは、発症から3か月以上経過した腰痛です。腰痛の慢性化には、筋肉や脳、神経などが関わります。(文献3) 痛みへの不安から必要以上に安静にしたため筋肉が硬直し、かえって腰痛が長引くケースもあります。中枢神経が興奮状態にあり、常に痛みの信号を伝え続けるために腰痛が慢性化する場合も少なくありません。婦人科疾患を含む内臓疾患由来の腰痛や、心因性の腰痛もあります。(文献4) 原因が不明な状況で薬を飲んでいても、その薬が原因と合致するとは限りません。そのため、慢性腰痛は薬が効きにくいとされています。 慢性腰痛の概要や治療法などは、下記の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 慢性腰痛薬の効果を高めるセルフケア 慢性腰痛において薬の内服は、大切な治療の一環です。薬の効果を高めるためには、日常生活面でのケアも必要です。 主なセルフケアを以下に示しました。 姿勢の改善 ストレッチを含む運動 充分な睡眠 ストレスへの対処 セルフケアの中でも、比較的手軽にできるものがストレッチです。仕事や家事の合間に、無理のない範囲で試してみましょう。 下記の記事では、慢性腰痛向けのストレッチを紹介しております。あわせてご覧ください。 慢性腰痛で医療機関を受診すべきサイン 慢性腰痛で薬を飲んでいても、以下のようなサインが生じた場合は、早急に医療機関を受診してください。(文献5) 腰から下がしびれる 足の力が入りにくい 排尿や排便異常を伴う 夜間や安静時にも強く痛む 発熱や体重減少を伴う 薬を飲んでも改善しない、もしくは痛みが増している 慢性腰痛発症前に、背中を痛めたことがある これらの症状がある場合、脊柱管狭窄症や感染性脊椎炎、腰椎圧迫骨折、内臓疾患などが疑われます。 痛みが長引いたり症状が悪化したりする場合は放置せず、整形外科や内科、婦人科などの医療機関を受診しましょう。 慢性腰痛における薬以外の治療 薬の内服で慢性腰痛が回復しない場合の選択肢としては、運動療法や心理療法、手術療法、再生医療などがあげられます。 再生医療とは、けが、もしくは病気で機能が低下した組織や臓器、細胞を元通りにするための治療法です。再生医療のうち、ヒトの体内でいろいろな役割を果たせる幹細胞を活用したものが、幹細胞治療と呼ばれるものです。 脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアなどによる慢性腰痛も、再生医療の対象になります。 当院、リペアセルクリニックでは、脂肪由来の幹細胞を使用した「自己脂肪由来幹細胞治療」を実施しております。 腰部脊柱管狭窄症と腰椎椎間板ヘルニアの手術後も腰痛に悩む80代の男性が、再生医療により症状が改善した治療実績もございます。詳しくは以下の記事をご覧ください。 薬で改善しない慢性腰痛は医療機関を受診しよう 慢性腰痛は、原因やタイプによって効果的な薬が異なります。主な薬としては非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や神経障害性疼痛治療薬などがあり、症状に応じて使い分けることが大切です。 ただし、薬は痛みを和らげる手段の1つに過ぎません。慢性腰痛の背景には、筋肉のこわばりや神経過敏、ストレスなど、複数の原因が関係しています。薬の内服と並行して、生活習慣の改善に努めましょう。 薬を飲み続けても良くならない場合や痛みが増している場合は、放置せず早急に医療機関を受診しましょう。適切な診断と治療を選ぶことが慢性腰痛改善の第一歩です。 薬で改善しない慢性腰痛でお悩みの方は、リペアセルクリニックまでお気軽にお問い合わせください。メール相談やオンラインカウンセリングも行っております。 慢性腰痛と薬に関するよくある質問 慢性腰痛は病院に行くべきですか? 慢性腰痛は医療機関を受診すべきです。慢性腰痛にはさまざまな原因があり、長く放置していると命に関わる重大な疾患を見逃すこともあります。 受診先の第一候補は整形外科であり、その他には内科や婦人科、心療内科などがあげられます。整形外科で異常が見つからない場合は、腰痛以外の症状を見ながら他の診療科を受診しましょう。 腰痛は痛み止めの薬を飲まない方がいいのですか? 腰痛の場合は、我慢せずに痛み止めを服用してください。痛みを我慢し過ぎると神経が過敏になり、後から薬を飲んでも効果が得られにくくなることがあります。 ただし、痛み止めを服用しても症状が改善しない場合に、自己判断で服用量や回数を増やすことは避けてください。過剰な服用は消化器障害や腎機能障害などのリスクを高めます。 薬を適切に服用しても腰痛が続く場合は、早急に医療機関を受診しましょう。 参考文献 (文献1) NSAIDsとは|独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究センター (文献2) オピオイド|一般社団法人日本ペインクリニック学会 (文献3) 腰痛診療ガイドライン2019改訂第2版|日本整形外科学会日本腰痛学会 (文献4) 急性腰痛と慢性腰痛痛みが長引く理由慢性腰痛の治療|滋賀医科大学 (文献5) 腰痛における3つの診断的トリアージ|公益社団法人日本理学療法士協会
2025.12.13 -
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「慢性的な腰痛が続いていて辛い」 「腰痛にはストレッチが良いと聞いたのだが、どのようなものがあるのだろうか?」 このようにお考えの方も多いことでしょう。 ストレッチは慢性腰痛に効果的ですが、方法を間違えてしまうと逆に腰痛が悪化する場合もあります。 ストレッチの際は注意事項を守り、正しい方法で行うことが必要です。 本記事では、腰痛のタイプ別ストレッチに加えて、各タイプに共通して実践可能なストレッチなどを紹介します。ストレッチ以外の生活習慣も解説しますので、慢性腰痛にお悩みの方はぜひ最後までご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 慢性腰痛およびストレッチについて知りたい方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 慢性腰痛にストレッチが良い理由と実施時の注意点 慢性腰痛とは、発症後3カ月以上続く腰痛のことです。脊椎およびその周辺運動器や神経に由来するもの、内臓が原因のもの、心因性のものなど原因はさまざまです。(文献1) ストレッチは運動療法の一環であり、慢性腰痛に対して強く推奨されています。(文献1) ストレッチの効果としては、筋肉の柔軟性を保つ効果や疲労回復、リラクゼーションなどがあります。ストレッチ実施時の主な注意点を、以下に示しました。(文献2) 息を止めずにゆっくりと体を動かす 体を動かすときは反動やはずみをつけない ストレッチで伸ばしている筋肉に意識を向ける 20秒から30秒程度伸ばす 腰痛が強いときは行わない 慢性腰痛については下記の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 慢性腰痛向けのストレッチ 慢性腰痛向けのストレッチは、主に以下の5タイプです。 長時間同じ姿勢タイプ 重労働タイプ 反り腰タイプ 猫背タイプ 心因性タイプ 全タイプに共通して実践可能なストレッチもありますので、あわせて紹介します。 下記の記事では、坐骨神経痛のストレッチについて詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 長時間同じ姿勢タイプ 文字どおり、デスクワークや立ち仕事などで長時間同じ姿勢を続けている方に多いタイプです。同じ姿勢をとり続けることで筋肉が凝り固まり、血流が悪くなるために腰痛が引き起こされます。 長時間同じ姿勢タイプの方に適したストレッチは、太もも裏やお尻を伸ばすものです。 椅子に浅く座り、片脚を前に伸ばしてかかとを床につけてから、背筋を伸ばして前屈する 椅子に座り、片足を反対側の足の上に載せてから背筋を伸ばし、ゆっくりと体を前に倒す ストレッチの際は、太もも裏やお尻の伸びを意識してみましょう。 重労働タイプ 介護や看護、運送など、人の体を抱えたり重い荷物を持ったりする職業の方に多いタイプです。 中腰や急に体をひねる動作などが多く、常に腰に負担がかかりやすい状況です。腰への負担が筋繊維の損傷につながり、腰痛が慢性化していきます。 重労働タイプの方向けのストレッチは、太ももやふくらはぎ、上半身などを伸ばすものです。 片方の足をお尻につけて太ももの前側を伸ばす 上半身をゆっくりと90度まで曲げる 片方ずつふくらはぎを伸ばす いずれのストレッチも、椅子や手すりにつかまりながら行いましょう。 反り腰タイプ 立った姿勢で腰を反らせる傾向がある方や、ヒールの高い靴を頻繁に履く方に多いタイプです。 骨盤が前に傾き、腰椎が反りすぎてしまうため、腰の筋肉が常に緊張しています。背筋や太もも前の筋肉である大腿四頭筋が硬く、腹筋も弱くなっているのが特徴です。 反り腰タイプの方向けのストレッチは、前ももや背中の柔軟性を改善するものです。 両膝を立てた仰向けの姿勢で、ゆっくりとお尻を上げながら背骨を動かしていく 四つん這いになり、深呼吸しながらゆっくりと、背中を丸める動作と反らす動作を繰り返す 猫背タイプ 間違った姿勢(座り方や歩き方)で過ごしている方や、運動不足により姿勢を保つ筋力が低下している方に多いタイプです。 猫背の方は骨盤が後ろに傾いている状況も多くみられます。腰痛以外に、肩こりや首こり、呼吸の浅さを感じる方も少なくありません。 猫背の方向けのストレッチは、胸を開くタイプのものです。 両手を背中の後ろで組み、肩甲骨を寄せて胸を開く 両手を肩に載せて、肘で大きく円を描くように前から後ろへ回す 心因性タイプ 仕事や家庭でのストレスや緊張が強い方、睡眠不足の方に多いタイプです。精神的な緊張は交感神経を優位にし、筋肉のこわばりや血流低下を生じさせます。 ストレスから筋肉が緊張し、痛みが慢性化している状況です。 心因性タイプの方向けのストレッチは、リラックスできるタイプのものです。 仰向けの姿勢で、両膝を胸に抱えて20秒キープする そのまま膝を左右にゆっくり倒し、体幹をねじりながらゆっくり深呼吸する 全タイプに共通して実践可能なストレッチ 全タイプに共通して実践可能なストレッチとしてあげられるのが、「これだけ体操®」です。(文献3) 「これだけ体操®」は、東京大学医学部附属病院の特任教授であり、医学博士の松平浩氏により考案されました。いずれもシンプルな動きのストレッチです。 2つの体操を表に示しました。 体操の種類 身体の動かし方 腰を反らす ・足を肩幅より開いて立ち、両手をお尻に当てる ・指は下向きにそろえる ・息を吐きながら上体をゆっくり反らして約3秒間キープ ・その後、元の姿勢に戻す 腰をかがめる ・足を肩幅より広げて、椅子に浅く腰かける ・膝に手を当てて深呼吸する ・腕を足もとに垂らして、フーッと息を吐きながらゆっくり背中を丸める ・3秒間この姿勢をキープして元の姿勢に戻す 慢性腰痛を防ぐストレッチ以外の習慣 慢性腰痛を予防するストレッチ以外の習慣において大事なポイントは、長時間同じ姿勢をとらないことです。とくに、長時間座りっぱなしの状態は、腰に強い圧力がかかり、腰回りの筋肉が常に緊張してしまいます。ときどき椅子から立ち上がり、本記事で紹介したストレッチを実践しましょう。 ストレッチと並行して、適度な運動も慢性腰痛に効果的です。ウォーキングや体幹トレーニングなどで筋力を維持し、正しい姿勢を保てるようにしましょう。 睡眠も重要なポイントです。睡眠不足は体の痛みを回復するプロセスを阻害します。また体にとってもストレスであり、わずかな痛みでも強く感じる原因になります。可能な限り、6時間以上の睡眠を心がけましょう。 慢性腰痛と生活習慣の関係については、下記の記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 ストレッチで改善しない慢性腰痛は医療機関を受診しよう ストレッチは、筋肉の柔軟性回復やリラクゼーションなど慢性腰痛に対して、さまざまな効果を発揮するものです。慢性腰痛にはそれぞれタイプがあるため、自分のタイプに合ったストレッチにより、慢性腰痛の回復が期待できます。 しかし、ストレッチで治らない、もしくはストレッチにより痛みが強くなるときは、無理に続けると悪化する可能性があります。この場合はストレッチを中止した上で医療機関を受診し、慢性腰痛の原因を明らかにして適切な治療を受けましょう。 慢性腰痛の治療法としては、ストレッチを含めた運動療法や薬物療法、心理療法、手術療法、再生医療などがあります。 リペアセルクリニックでは、脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアなどによる慢性腰痛に対して再生医療を実施しております。 メール相談やオンラインカウンセリングにも対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。 慢性腰痛とストレッチに関するよくある質問 即効性のある慢性腰痛向けストレッチはありますか? 比較的即効性のあるストレッチとして、ここでは2種類紹介します。 1つ目は椅子に座ってのストレッチです。椅子に浅く腰かけて、背中を丸める動作と胸を反らす動作を繰り返しましょう。ストレッチの際は息を止めず、ゆっくりと深呼吸してください。 もう1つは立った姿勢でのストレッチです。立ったまま両足を肩幅に開き、両手を腰に当てます。骨盤を中心にして、大きく円を描くように腰を回しましょう。目安としては、左右ともに10回ずつです。 絶対にやってはいけない腰痛ストレッチとは何ですか? 強い痛みを我慢したり、反動をつけたりするストレッチは行わないでください。筋肉や靱帯を損傷する可能性があるほか、腰椎に強い負担をかけてしまうためです。 前屈すると痛い方の場合は前屈のストレッチが禁忌であり、反らすと痛い方の場合は反らす姿勢のストレッチが禁忌です。 腰やおしり、太ももにしびれがある方は、ストレッチで過度に伸ばさないようにしましょう。過度に伸ばすと神経に負担がかかり、しびれを増強させるためです。 腰痛のストレッチで寝ながらできるものはありますか? 寝ながらできる腰痛のストレッチは、主に以下の3つです。 膝を抱えながらゆっくりと深呼吸するストレッチ 片膝を曲げ、反対側に曲げるストレッチ 両膝を立て、片足にタオルをかけた状態で頭の方へ伸ばすストレッチ ストレッチの際は、呼吸を止めない、痛みやしびれが出たときはすぐに中止するなどを念頭に置いておきましょう。 参考文献 (文献1) 腰痛診療ガイドライン2019改訂第2版|日本整形外科学会日本腰痛学会 (文献2) 別添職場における腰痛予防対策指針|厚生労働省 (文献3) 腰痛に関する新たな常識!重症化を防ぐために|公益社団法人日本理学療法士協会
2025.12.13 -
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「3カ月以上腰痛が続いている」 「整形外科を受診したけれど異常なしと診断された」 「このまま治らないのではと不安である」 このようなお悩みを抱えている方も多いことでしょう。 慢性腰痛とは、発症から3カ月以上続く腰痛を指します。原因は整形外科疾患だけではなく、内科疾患や心因性のものも含まれます。そのため受診先医療機関も患者様ごとに異なるのです。 本記事では、慢性腰痛の概要を中心に、原因や放置のリスク、セルフケア、治療法などを解説します。慢性腰痛でお悩みの方のヒントになりますので、ぜひ最後までご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 慢性腰痛について知りたい方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 慢性腰痛とは 慢性腰痛とは、発症から3カ月以上経過した腰痛を指します。慢性腰痛の経過は、急性腰痛(発症からの期間が4週間未満)よりも良くない状況です。(文献1) 腰痛患者は非常に多く、2022年(令和4年)の国民生活基礎調査によると、腰痛の有病率は人口千人あたり、男性91.6で女性が111.9でした。男女とも腰痛の有訴者率が第1位です。(文献2) 腰痛の原因は、主に以下のとおりです。 脊椎由来 脊椎周辺の運動器由来 神経由来 内臓由来 血管由来 心因性 腰痛は、原因がはっきりしている「特異的腰痛」と原因不明の「非特異的腰痛」に分けられます。腰痛のうち85%は非特異的腰痛と言われています。(文献3) 慢性腰痛の主な原因 慢性腰痛の原因疾患としてあげられるものは、主に以下のとおりです。 脊柱管狭窄症 腰椎椎間板ヘルニア 変形性脊椎症 腰椎圧迫骨折 がんを含む各種内臓疾患 これらの疾患に加えて、良くない姿勢や運動不足、肥満、ストレスなども慢性腰痛の原因に含まれます。 慢性腰痛が続く理由 腰痛が慢性化する理由は、筋肉や神経、脳などさまざまです。 痛みへの不安から長期間安静にしていると、筋肉が硬くなり、かえって痛みが増すことも少なくありません。また、末梢神経から痛みの信号を受ける中枢神経が常に興奮状態にあると、痛みの信号を脳に伝え続けてしまいます。 慢性腰痛が続く理由については、下記の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 慢性腰痛を放置するリスク 慢性腰痛を放置すると、複数のリスクが生じます。 主なリスクは以下のとおりです。 回復に時間がかかる 痛みを避けるため腰以外の部分に負担がかかり、新たな痛みが生じる 重大な病気(とくに内臓疾患)の発見が遅れる可能性がある 適切な治療の機会を失い、痛みが継続・悪化する可能性がある 慢性腰痛を放置するリスクは身体面だけではありません。慢性腰痛自体が、仕事に深刻な影響を与えるものであり、放置すれば労働能力の低下や失業につながるリスクがあります。(文献4) 腰痛を放置するリスクについては、下記の記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 関連記事:腰痛の放置は危険?病院へ行くタイミングや症状チェックリストを紹介 【自宅でできる】慢性腰痛の対策 自宅で出来る慢性腰痛の対策としてあげられるものは、主に以下のとおりです。 正しい姿勢を意識する 適度な運動を行う ストレスをためない生活習慣を心がける 正しい姿勢を意識する 椅子に座るときや物を持ち上げるとき、寝た姿勢から起き上がるときなど、身体を動かすときはそれぞれの正しい姿勢があります。正しい姿勢を常に意識して身体を動かすことが必要です。 椅子に座るときの正しい姿勢は、主に以下のとおりです。 いすに深く腰掛けて背筋を伸ばす 足裏全体が床に届くように椅子の高さを調整する 前傾姿勢を避ける 物を持ち上げる場合は、腰を下ろして前かがみの姿勢になり、重心を低くしましょう。前かがみになるときは、腹筋に力を入れてください。その上で、荷物をできるだけ体の近くに引き寄せてから持ち上げましょう。 寝た姿勢から起き上がるときは、一度体を横に向けた後、肘をついてからゆっくり起き上がります。 適度な運動を行う 適度な運動の例としては、ストレッチや体幹トレーニング、全身運動などがあげられます。 ストレッチおよび体幹トレーニングの例を、以下に示しました。 お尻の上げ下げ 軽い腹筋運動 両足の曲げ伸ばし 四つ這いになり片足をお尻の高さまで上げる(両足とも実施) 立った姿勢での前後屈 立った姿勢で上半身を左右に倒す 全身運動としての代表的なものは、1日15〜20分程度のウォーキングです。 いずれの運動も、週3〜4日程度のペースで続けることが理想的です。ただし、痛みがあるときには休みましょう。 以下の記事でも慢性腰痛向けのストレッチを紹介していますので、あわせてご覧ください。 ストレスをためない生活習慣を心がける ストレスは脳機能の不具合を引き起こすほか、身体症状を引き起こす場合があります。その中の1つが腰痛です。 また、ストレスにさらされ続けると、脳内で痛みを抑制する機能が働きにくくなります。そのため、わずかな痛みでも強く感じたり、痛みが長引いたりします。 ストレスと腰痛に関連する重要な概念が、恐怖回避思考です。(文献5)これは、「また腰痛になるのでは」といった不安や恐怖から過度に腰をかばってしまう思考および行動を指します。 不安や恐怖を含めたストレス解消のためには、十分な睡眠や適度な運動を心がけましょう。家族や親しい友人に悩みごとを打ち明けることも、ストレス解消の一環です。ただし、飲酒や喫煙でのストレス解消は好ましくないため控えましょう。 慢性腰痛で受診すべき診療科 慢性腰痛の原因は多岐に渡るため、受診すべき診療科もさまざまです。この章では、腰痛の状況に合わせた診療科を表形式で紹介します。 診療科 主な診察内容 整形外科 骨や神経、筋肉のトラブルの有無を診察できる。 動かすと腰が痛む、腰や足がしびれる、関節や筋肉に不安がある場合の受診先。 内科 内臓疾患に関する検査や診察ができる。 腰痛のほか、腹痛や発熱、倦怠感などの症状がある場合の受診先。 婦人科(女性限定) 子宮や卵巣、ホルモンバランスの検査および婦人科系疾患の有無を診察できる。 月経が不順である、月経が止まった、腰痛に加えて下腹部痛もあるといった場合の受診先。 心療内科・精神科 精神心理面の検査や診察、カウンセリングなどを行う。 原因が不明の慢性腰痛がある、強いストレスがあるといった場合の受診先。 ペインクリニック 痛みの診断と治療を行う診療科。 薬物療法やブロック注射、低侵襲手術療法などを行う。 既に受診中の医療機関がある場合は、そこからの紹介状を受け取って受診しよう。 下記の記事では、更年期と腰痛の関係について解説しています。あわせてご覧ください。 慢性腰痛の治療法 慢性腰痛の治療法としては、以下のようなものがあげられます。 薬物療法 運動療法 心理療法 手術療法 再生医療 薬物療法 慢性腰痛治療に推奨される薬物のうち、主な3つを表に示しました。 薬剤名 効果 セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 脳内の神経伝達物質であるセロトニンとノルアドレナリンの濃度を高める働きがある。 痛みを抑制する経路「下行性疼痛抑制系」を活発にして痛みを抑える。 弱オピオイド オピオイドとは麻薬性の鎮痛薬。 弱オピオイドは、軽度から中等度の痛みに用いられるもので、鎮痛作用に有効限界がある (有効限界:一定量を超えると、それ以上量を増やしても痛みが軽減されないこと) 非ステロイド性抗炎症薬 体内で炎症を引き起こす物質(プロスタグランジン)の生成を抑え、炎症や痛みを抑える薬。 熱を下げる作用もある。 慢性腰痛に使われる薬については、下記の記事でも解説しています。あわせてご覧ください。 運動療法 慢性腰痛の場合、運動療法が強く推奨されています。(文献1) 運動療法の効果としては、以下のようなものがあげられます。 腰痛軽減 筋力向上 持久力向上 運動機能改善 健康状態改善 生活の質向上 ただし、運動内容や基礎疾患の有無によっては腰痛が悪化する可能性もあるため、運動を始める際には主治医に相談しましょう。 心理療法 慢性腰痛の心理療法として代表的なものが、認知行動療法です。認知行動療法は、他の慢性腰痛治療と同様に、運動機能改善や生活の質向上、恐怖回避思考の変容などに効果があります。(文献1) 認知行動療法の具体的な方法としては、行動活性化や認知再構成などがあります。 行動活性化とは、生活リズムの改善や、喜びおよび楽しみを感じられる行動の選択などです。認知再構成とは、つらい感情が沸いたときの思考パターン(自動思考)を見つけて、考え方を見直すことを指します。 認知行動療法は、精神科や心療内科といった医療機関や民間のカウンセリングルームなどで受けられます。 手術療法 神経の圧迫による慢性腰痛に関しては、手術療法は有効な治療法になります。 手術の対象疾患は、主に以下のとおりです。 腰部脊柱管狭窄症 椎間板ヘルニア 変形性腰椎症 主な手術方法は、以下のとおりです。 リゾトミー(高周波熱凝固法) 脊椎固定術 全内視鏡下脊椎手術 慢性腰痛の手術療法については、下記の2記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 関連記事 慢性腰痛には手術が有効?治療法ごとの費用・期間・リスクも紹介 リゾトミー(Rhizotomy)とは?慢性腰痛に効果的な手術方法を詳しく解説 再生医療 腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアなどによる慢性腰痛の場合、再生医療も選択肢となります。 再生医療の1つが、さまざまな細胞に変化する能力を持つ幹細胞を用いた治療です。 幹細胞治療は、患者様の腹部の脂肪から幹細胞を採取し体外で培養してから体内に戻すもので、拒絶反応やアレルギー反応が起こりにくい治療法です。 1年前から腰部脊柱管狭窄症に悩む60代の女性が、再生医療を実施して症状が改善した治療実績もございます。詳しくは以下の記事をご覧ください。 慢性腰痛は放置せず医療機関を受診しよう 慢性腰痛は、脊椎や周辺の運動器疾患、神経疾患、婦人科疾患、内臓疾患由来によるものや、心因性のものなどさまざまです。 放置すると、痛みの継続・悪化に加えて、腰痛に隠された疾患を見逃すリスクがあります。 自宅でできるセルフケアを実施しつつ、自分の痛みに合った診療科を受診し、適切な治療を受けましょう。薬物療法や運動療法、心理療法、手術療法のほか、再生医療も慢性腰痛治療の選択肢です。 慢性腰痛でお悩みの方は、リペアセルクリニックまでお気軽にお問い合わせください。メール相談やオンラインカウンセリングも行っております。 慢性腰痛に関するよくある質問 慢性腰痛とヘルニアの違いは何ですか? 慢性腰痛は3カ月以上継続する腰痛の総称です。ヘルニアとは、臓器や組織がなんらかの原因で弱くなり本来の位置から脱出した状態を指します。 慢性腰痛と関係するのは、腰椎椎間板ヘルニアです。腰椎椎間板ヘルニアとは、腰椎(背骨)にある椎間板と呼ばれる組織が本来の位置から飛び出して神経を圧迫し、痛みを引き起こします。また腰椎椎間板ヘルニアは、臀部から下肢(膝から下)の痛みも引き起こします。 慢性腰痛は病院に行くべきですか? 慢性腰痛は放置せずに病院を受診すべきです。放置すると心身両面で大きなリスクが生じてしまいます。 原因に合った治療により慢性腰痛も改善可能であるため、必ず医療機関を受診しましょう。診療科としては、整形外科や内科、婦人科、心療内科、ペインクリニックなどがあります。 参考文献 (文献1) 腰痛診療ガイドライン2019改訂第2版|日本整形外科学会日本腰痛学会 (文献2) 2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況|厚生労働省 (文献3) 腰痛を予防していつまでも笑顔に|公益社団法人日本理学療法士協会 (文献4) Chronic Low Back Pain: A Narrative Review of Recent International Guidelines for Diagnosis and Conservative Treatment|PubMed Central® (文献5) 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイトこころの耳|厚生労働省
2025.12.13 -
- 健康・美容
「季節の変わり目になると、いつも体調を崩してしまう……」と悩んでいませんか?頭痛やだるさ、微熱、眠気など、原因がはっきりしない不調に悩まされる方は少なくありません。 実は、季節の変わり目の体調不良は、気温や気圧の変化に体が対応しようとする自然な反応です。 本記事では、季節の変わり目に体調を崩す原因を医学的な視点から解説し、症状別の対処法と予防策を紹介いたします。記事の後半では肌トラブルなどの対処法も解説していますので、ぜひ参考にしてください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。季節の変わり目の体調不良について気になる方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 季節の変わり目とはいつ? 季節の変わり目とは、春・夏・秋・冬の4つの季節が移り変わる時期を指します。とくに寒暖差が大きくなる「春の終わり(5月~6月)」と「秋の終わり(10月~11月)」は、朝晩の気温差が10℃以上になることもあり、体調を崩しやすい時期です。 また、現代社会では、エアコンが効いた室内と外気温の差、暖かい部屋と寒い廊下の温度差など、急激な変化が頻繁に起こります。温度差が激しい環境では、自律神経が乱れ、体調を崩しやすくなってしまいます。 季節の変わり目に体調を崩す主な原因 季節の変わり目に体調を崩す原因は、主に以下の4つです。 自律神経のバランスが乱れやすくなる 体温調節機能がうまく働かなくなる 気圧の変化により血流・ホルモンバランスが乱れる ストレスや睡眠不足で回復力が低下する それぞれ詳しく解説します。 自律神経のバランスが乱れやすくなる 自律神経は、私たちの意識とは無関係に体の機能を調整している神経系です。交感神経は日中の活動時に優位になり、副交感神経は休息時に優位になって体を回復モードへと導きます。 季節の変わり目には気温や気圧が急激に変化し、この交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいかなくなります。 その結果、血流のコントロールが乱れ、体温リズムも不安定になり、頭痛や倦怠感、冷えやほてりといった不調として現れるのです。 体温調節機能がうまく働かなくなる 人間の体は常に一定の体温(約36~37℃)を保とうとしており、汗や血管の収縮・拡張で調整しています。しかし、朝晩の寒暖差が10℃以上になる季節の変わり目では、体がこの温度変化に追いつくために大量のエネルギーを消費してしまうのです。 汗や血流のコントロールが追いつかなくなると、冷え性の悪化、ほてり、全身のだるさといった症状が出やすくなります。 気圧の変化により血流・ホルモンバランスが乱れる 天気が崩れる前に頭痛がしたり、体調が優れなくなったりする「気象病」は、気圧の変化が大きく関係しています。低気圧が近づくと血管が拡張し、とくに頭部の血管が拡張すると周囲の神経を刺激して頭痛を引き起こすのです。 また、気圧の変化は、脳内で働く神経伝達物質の1つであるセロトニン(気分や自律神経の安定に関わる物質)の分泌バランスにも影響を与えます。 セロトニンが減少すると、自律神経が乱れやすくなるため、気圧が不安定な時期は気分の浮き沈みが起きやすくなったり、不安感が強まりやすくなったりします。 ストレスや睡眠不足で回復力が低下する 季節の変わり目は生活環境が変化しやすい時期でもあります。春には新年度が始まり、秋には年度後半に向けた業務が増えるなど、環境の変化が知らず知らずのうちにストレスとなって蓄積されるケースもあります。 ストレスが多い状態では交感神経が優位になりやすく、自律神経のバランスが崩れやすいのです。結果的に、体調不良につながります。 また、寒暖差や気圧変化によって睡眠の質が低下すると、自律神経の回復が追いつかなくなり、疲労が蓄積する悪循環に陥ってしまいます。 【症状別】季節の変わり目によくある体調不良と対処法 ここでは、季節の変わり目に起こりやすい代表的な体調不良とその対処法を紹介いたします。 頭痛・めまい・吐き気 だるさ・倦怠感・微熱 不眠・眠気など睡眠リズムの乱れ 肌荒れ・かゆみ・吹き出物 それぞれの症状について、具体的な対処法を解説します。 頭痛・めまい・吐き気が起きる場合 季節の変わり目に起こる頭痛の多くは、気圧変化が主な原因です。気圧が下がると血管が拡張し、周囲の神経を刺激して頭痛が起こりやすいです。とくに片頭痛を持っている方は、気圧変化によって症状が誘発されたり、悪化したりする可能性があります。 対処法としては、以下の点を意識してみてください。 対処法 得られる効果 十分な水分補給 血流を改善し、頭痛を和らげる効果が期待できる 暗く静かな場所で休息 刺激を減らし、症状が軽減されやすくなる 首や肩を温める 血流を促進し、緊張型頭痛の緩和に役立つ トリガーとなる要素を避ける 強い光、大きな音、特定の食品(チョコレート、チーズ、アルコールなど)による頭痛の誘発を防ぐ (文献1) 症状が1週間以上続く場合や、日常生活に支障が出る場合は医療機関の受診をおすすめします。 なお、頭痛が激しい場合や、吐き気を伴う頭痛でお困りの方は、ぜひ以下の記事も参考にしてください。 だるさ・倦怠感・微熱が続く場合 季節の変わり目に感じる全身のだるさや倦怠感は、自律神経の乱れによるエネルギー代謝の低下が主な原因です。体温調節にエネルギーを使いすぎて、日常活動に必要なエネルギーが不足している状態といえます。 対処法としては、以下を試してみてください。 対処法 得られる効果 軽い運動で血流を促す 10~15分程度の散歩やストレッチで血流が改善され、だるさが軽減される 深呼吸でリラックス 腹式呼吸を意識的に行うと、副交感神経が優位になり、体の回復モードに入りやすくなる こまめな水分補給 脱水状態による倦怠感の悪化を防ぐ 無理をせず休息を取る 体が回復を求めているサインに応え、睡眠時間を確保する 微熱やだるさが1週間以上続く場合は、感染症やその他の内科的要因も考えられます。早めに医療機関を受診することが大切です。 不眠・眠気など睡眠リズムの乱れ 季節の変わり目には日照時間が大きく変化し、体内時計(サーカディアンリズム)を乱す原因となります。また、気温や気圧の変化によって夜間の睡眠の質が低下し、寝つきが悪くなったり、夜中に何度も目が覚めたりすることがあります。 対処法としては、以下を実践してみてください。 対処法 得られる効果 朝の光を浴びる 起床後すぐに太陽の光を浴びることで体内時計がリセットされ、夜の自然な眠気につながる 就寝・起床時間を固定する 平日も週末も同じ時間に就寝・起床すると、体内リズムが安定する 寝る前のスマホ・パソコンを避ける ブルーライトによるメラトニン(睡眠ホルモン)の分泌抑制を防ぐ カフェインは午後3時以降控える カフェインの効果は4~6時間続くため、夕方以降の摂取は睡眠の質を下げる原因となる(時間には個人差あり) 寝室の温度・湿度を調整する 室温18~22℃、湿度50~60%程度の快適な睡眠環境を整える 睡眠リズムが整うまでには2~3週間かかることもあります。焦らず、少しずつ習慣を整えていきましょう。 肌荒れ・かゆみ・吹き出物などの肌トラブル 季節の変わり目には、湿度と温度の変化が皮膚のバリア機能を低下させます。乾燥や急激な温度変化にさらされると角質層が損傷し、水分が逃げやすくなります。バリア機能が低下すると外部刺激物質が侵入しやすくなり、炎症やかゆみ、吹き出物が起こりやすくなります。 対処法としては、以下のスキンケアを心がけてください。 対処法 得られる効果 低刺激タイプの洗顔料を使う アルコールや香料などの刺激成分が少ない製品で、ぬるま湯で優しく洗うことで肌への負担を軽減できる 保湿を徹底する 洗顔後すぐに保湿剤を塗ると水分の蒸発を防ぎ、バリア機能を維持しやすくする 紫外線対策を忘れない 紫外線によるバリア機能のさらなる低下を防ぐ 部屋の湿度を保つ 加湿器を使用して室内の湿度を50~60%に保ち、肌の乾燥を防ぐ (文献2) 肌トラブルが2週間以上続く場合や、かゆみが強い場合は皮膚科を受診しましょう。 季節の変わり目に体調を安定させる方法(予防策) 季節の変わり目の体調不良は、日頃から予防策を取り入れると、季節の変わり目でも安定したコンディションを維持しやすくなります。 具体的には、以下3つの予防策が有効です。 生活リズムを一定に保つ 入浴習慣で体を温める 軽い運動やストレッチで血流を促す それぞれ詳しく解説します。 生活リズムを一定に保つ 自律神経のバランスを整えるために重要なのは、生活リズムを一定に保つことです。毎日同じ時間に起床・就寝すると体内時計が安定し、自律神経の切り替えがスムーズになります。 とくに重要なのが朝日を浴びる習慣です。朝の太陽光を浴びると、脳内でセロトニンが分泌されます。セロトニンは日中の活動を支え、夜になるとメラトニン(睡眠ホルモン)に変換されて自然な眠気を促します。 入浴習慣で体を温める ぬるめのお風呂にゆっくり浸かる習慣は、自律神経を整えるのに効果的です。38~40℃のぬるめの湯に10~15分浸かると、副交感神経が優位になりリラックスモードに入りやすくなります。ただし、熱すぎるお湯(42℃以上)は逆に交感神経を刺激してしまうため注意が必要です。 また、入浴のタイミングも重要です。人間の体は、体温が下がるときに眠りに入りやすくなる仕組みがあるため、就寝1時間前には入浴を済ませましょう。 入浴で一度体温を上げておくと、スムーズな入眠につながります。 忙しくてシャワーだけで済ませがちな方も、週に数回は湯船に浸かる習慣を取り入れてみてください。 軽い運動やストレッチで血流を促す 軽い運動やストレッチは、自律神経のバランスを整え、血流を改善するのに役立ちます。とくに朝や日中に体を動かすと、交感神経がしっかりと働き、夜には副交感神経への切り替えがスムーズになります。 なお、激しい運動は必要ありません。ウォーキングや軽いストレッチなど、呼吸を意識しながらゆったりと行う運動が効果的です。 具体的には、以下の運動やストレッチを参考にしてください。 朝のウォーキング(10~20分):朝日を浴びながら歩くと、体内時計がリセットしやすくなる 日中のストレッチ(5~10分):デスクワークの合間に行うと、午後のだるさを軽減可能 夕方の軽い運動:就寝3時間前までに軽い運動をすると、その後の体温低下で自然な眠気が訪れやすい 毎日少しずつ体を動かす習慣を作ると、季節の変わり目でも体調を崩しにくくなります。 まとめ|季節の変わり目の体調不良は未然に防ごう 本記事では、季節の変わり目の体調不良について解説しました。季節の変わり目に体調を崩すのは、気温・気圧・湿度の変化に体が対応しようとする自然な反応です。 自律神経の乱れや体温調節機能の低下、気圧変化による血流の乱れ、ストレスや睡眠不足が重なることで、さまざまな不調が現れます。 ただ、頭痛やだるさ、睡眠リズムの乱れ、肌トラブルなど、症状に応じた対処法を実践すると、つらい症状を和らげられます。また、日頃から生活リズムを整えながら入浴習慣を取り入れ、軽い運動を続けると、季節の変わり目でも体調の安定化が図れます。 なお、もしも季節の変わり目の体調不良が長続きするようなら、医療機関の受診を検討しましょう。 当院の公式LINEでは、さまざまな疾患に対する再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しています。季節の変わり目の体調不良にお悩みの方や、慢性的な不調を改善したい方は、ぜひご登録ください。 季節の変わり目についてよくある質問 季節の変わり目になるとなんで風邪をひきやすくなるの? 季節の変わり目に風邪をひきやすくなる理由は、主に免疫力の低下、自律神経の乱れ、鼻や喉の乾燥の3つです。 寒暖差や気圧の変化で自律神経が乱れると、体が体温調節にエネルギーを使いすぎて免疫機能が低下し、ウイルスや細菌と戦う力が弱まります。また、自律神経は免疫システムとも深く関わっているため、バランスが崩れると免疫細胞の働きが鈍くなるのです。 さらに、朝晩の気温差が大きいと空気が乾燥し、鼻や喉の粘膜のバリア機能が低下してウイルスが侵入しやすくなります。予防策としては、こまめな手洗い・うがい、室内の加湿、十分な睡眠と栄養摂取が大切です。 季節の変わり目に咳や鼻水が止まらないときはどうすればいい? 季節の変わり目に咳や鼻水が続く場合、アレルギー性鼻炎、気管支炎、気象病による自律神経の乱れなどが考えられます。 春先は花粉、秋は雑草の花粉やダニなどのアレルゲンが増えるため、抗アレルギー薬や点鼻薬が効果的です。また、寒暖差による刺激で気管支が炎症を起こすと、朝晩に咳がひどくなることもあります。 咳や鼻水が2週間以上続く場合や高熱(38℃以上)を伴う場合は、早めに医療機関を受診しましょう。一般的な風邪であれば1週間程度で改善しますが、症状が長引く場合は別の疾患の可能性もあります。 メンタルが崩れやすい季節は何月? メンタルが崩れやすい季節は、主に春(3~5月)と秋(9~11月)です。春は新年度が始まり、進学や就職、異動などで生活環境が大きく変わるため、適応ストレスが心の負担となりやすい時期です。 また、気温の変動が激しく自律神経のバランスが崩れやすいことも影響します。 秋は日照時間が減少し、気分を安定させるセロトニンの分泌が減るため、気分が落ち込みやすくなります。とくに10月以降は、季節性情動障害(SAD)として憂うつ感や倦怠感が現れる場合もあります。 対策としては、規則正しい生活リズム、朝日を浴びる習慣、適度な運動が効果的です。メンタルの不調が2週間以上続く場合は、心療内科や精神科への相談を検討しましょう。 参考文献 (文献1) Barometric Pressure Headache: Can Weather Trigger Headaches or Migraines?|Cleveland Clinic (文献2) Stratum corneum cytokines and skin irritation response to sodium lauryl sulfate|Contact Dermatitis
2025.12.13 -
- 頭部
- 頭部、その他疾患
「エアコンをつけるとなぜか頭が重くなる」 「こめかみがズキズキする」 このような経験はありませんか。 エアコン使用時の頭痛は、多くの方が抱える悩みです。ただ、適切な対処をすれば症状の軽減が期待できます。 本記事では、エアコンで頭痛が起こる根本的な原因から、冷房と暖房それぞれの症状の違い、即効性のある対処法や生活習慣での改善方法まで詳しく解説します。 エアコン頭痛のメカニズムを正しく理解し、自分に合った対策を実践して、快適な室内環境を取り戻しましょう。 なお、頭痛の背景には自律神経の乱れから進行する重篤な疾患が潜んでいるケースも存在します。当院「リペアセルクリニック」では、脳卒中の再発予防などを目的として、再生医療を提供しています。 「セルフケアで治らない頭痛」や「重篤な疾患の可能性について気になる」という方は、再生医療について情報を発信している当院の公式LINEにご登録ください。 エアコンで頭痛が起こる最大の原因は「自律神経の乱れ」 エアコンによる頭痛の根本原因は、自律神経の乱れにあります。自律神経とは、体温調節や血圧、心拍数などを意思とは無関係にコントロールしている神経系です。 室内と屋外の温度差が大きくなると、自律神経は頻繁に体温調節を行わなければなりません。たとえば、猛暑の屋外から冷房の効いた室内に入ると、急激に体温が下がります。その後、再び外に出れば今度は体温が急激に上昇します。 この温度変化への対応が1日に何度も繰り返されることで、自律神経は疲労し、調節機能が乱れてしまいます。結果的に、血管の収縮・拡張のバランスが崩れ、頭痛が引き起こされるのです。 また、自律神経の乱れは頭痛だけでなく、全身の倦怠感、肩こり、めまいなどの症状も併発します。これらは「自律神経失調症」の初期症状とも共通しており、放置すると日常生活に支障をきたす場合もあります。 エアコンによる頭痛や、その他の体調不良を根本から解決するためには、自律神経を整えることが何より重要です。 エアコン頭痛は冷房と暖房で症状が異なる エアコン頭痛には、冷房と暖房それぞれで異なるメカニズムがあります。具体的には、以下2つのタイプに分けられます。 冷房による「冷え」からくる頭痛 暖房による「乾燥・酸欠」からくる頭痛 それぞれの特徴を詳しく解説します。 冷房による「冷え」からくる頭痛の原因 冷房による頭痛は、主に体の冷えが原因で起こります。 冷たい空気に長時間さらされると、血管が収縮して血流が悪くなりやすいです。とくに首や肩の筋肉が冷えると、筋肉が緊張して硬くなり、周辺の血管や神経を圧迫します。結果的に、後頭部から首筋にかけて締めつけられるような痛みを生む「緊張型頭痛」が起こります。 また、体温が低下すると、脳への血液供給も減少しやすいです。脳が十分な酸素や栄養を受け取れなくなると、「頭が重い」「ぼんやりする」といった症状が現れます。 さらに、過度な冷房によって体温調節を頻繁に行わなければならないため、自律神経が過労状態になります。自律神経が過労状態になると、慢性的な頭痛や倦怠感につながるのです。 デスクワークなどで同じ姿勢を長時間続けながら冷房にあたっていると、筋肉の緊張と冷えが重なり、頭痛がより悪化しやすくなります。 暖房による「乾燥・酸欠」からくる頭痛の原因 暖房による頭痛は、冷房とは異なるメカニズムで起こります。主な原因は、以下の3つです。 血流過多によるのぼせ 乾燥による脱水 換気不足による酸欠 血流過多によるのぼせ 暖房の設定温度が高すぎたり、暖気に長時間当たりすぎたりすると、体が過度に温まり、血管が拡張しすぎて血流が過剰になります。これが「のぼせ頭痛(血行性の頭痛)」です。 「頭がボーッとする」「顔がほてる」「こめかみがズキズキ脈打つ」などの症状が特徴です。 乾燥による脱水 暖房を使うと室内の湿度が急激に下がり、空気が乾燥します。乾燥した環境では、皮膚や呼吸から知らず知らずのうちに水分が失われ、軽度の脱水症状に陥りやすくなります。 体内の水分が不足すると、血液の濃度が高くなり、血流が悪化して頭痛や倦怠感を感じやすいのです。 換気不足による酸欠 密閉された室内で暖房を長時間使い続けると、酸素濃度が徐々に低下します。換気が不十分な状態では、脳への酸素供給が不足し、頭痛や集中力の低下、眠気などの症状が現れます。 この症状は「酸欠型頭痛」とも呼ばれ、とくに密室でのデスクワークや就寝中に起こりやすい症状です。 エアコン頭痛がつらいときの応急処置や治し方 エアコン頭痛が起きてしまったときは、すぐに実践できる対処法で症状を和らげましょう。ここでは、即効性が期待できる方法を紹介します。 効果的な応急処置として、以下の2つを試してみてください。 頭痛に効くツボを押して血流を促す 肩まわりのマッサージで血流を促す それぞれ詳しく解説します。 頭痛に効くツボを押して血流を促す ツボ押しは、血流を改善し、自律神経のバランスを整える効果が期待できます。以下のツボを、心地良いと感じる程度の強さで5秒ずつ押しましょう。 ツボ名 位置 押し方 効果 頷厭(がんえん) こめかみの髪の生え際付近 両手の人差し指で左右同時に円を描くように押す 緊張型頭痛、こめかみの痛みに効果的 風池(ふうち) 後頭部の髪の生え際、首の中心から左右に指2本分外側のくぼみ 親指を当てて頭を支えるように押す 首や肩のこりからくる頭痛に有効 三陰交(さんいんこう) 足の内くるぶしから指4本分上、すねの骨の内側 親指でやや強めに押す 冷え性や自律神経の乱れに働きかける ツボ押しは無理のない範囲で行い、痛みが強い場合や症状が悪化する場合は中止してください。 肩まわりのマッサージで血流を促す エアコンによる頭痛を感じた場合は、肩や首の筋肉の緊張を和らげると、症状の軽減が期待できます。エアコンの冷えで筋肉が強ばり、肩こりや頭痛が起こっている方にはとくに効果的です。 ここでは、肩こり解消のツボとして有名な肩井(けんせい)のマッサージを紹介します。肩井は、首の付け根と肩先の中間にあります。 具体的な手順は、以下のとおりです。 反対側の手で肩井に手を置く 親指とその他4指で肩を挟むように揉む 心地良いと感じる強さで5〜10秒ほど続ける 反対側の肩も同様に行う マッサージは、入浴後などの体が温まっているときに行うとより効果的です。強く押しすぎると逆効果になるため、心地良いと感じる強さで行いましょう。 なお、吐き気を伴う強い頭痛などの場合は、別の原因が考えられます。以下の記事では、吐き気を伴う頭痛の対処法などを解説していますので、ぜひ参考にしてください。 エアコン頭痛は生活習慣で改善を目指せる エアコン頭痛を根本から改善するには、自律神経を整える生活習慣が欠かせません。日常生活に取り入れやすい方法を紹介します。 具体的には、自律神経のバランスを整えるために、以下3つの習慣を実践しましょう。 生活リズムを一定に保つ 入浴習慣で体を温める 軽い運動やストレッチをする それぞれの方法を詳しく解説します。 生活リズムを一定に保つ 自律神経は、体内時計と密接に関係しています。起床時間と就寝時間を毎日同じにすると、体内時計が安定し、自律神経のバランスが整いやすくなります。結果的に、自律神経のバランスが乱れにくくなり、エアコンによる頭痛を予防しやすいのです。 また、とくに重要なのが、朝日を浴びる習慣です。朝日を浴びると、幸せホルモンとも呼ばれる「セロトニン」の分泌が促されます。セロトニンは自律神経を安定させる働きがあり、日中の活動力を高め、夜の良質な睡眠にもつながりやすいです。 毎日決まった時間に就寝・起床し、体内時計を安定させ、自律神経を整えましょう。 入浴習慣で体を温める ぬるめのお湯(38〜40℃)に10〜15分ほど浸かる習慣は、自律神経のうち、心身の回復や休息をつかさどる「副交感神経」を優位にします。 副交感神経が優位になると、血管が拡張して全身の血流が良くなり、冷えた体が芯から温まります。また、筋肉の緊張もほぐれるため、肩こりや首のこりからくる頭痛の予防にも効果的です。 なお、入浴のタイミングは就寝の1時間前がおすすめです。入浴で上がった体温が徐々に下がっていく過程で、自然な眠気が訪れ、質の高い睡眠につながります。 軽い運動やストレッチをする 朝や日中に行うウォーキングやストレッチは、交感神経を適度に刺激し、身体を活動モードへ移行させます。全身の血流が改善し、脳への酸素供給が増えるため、頭痛や倦怠感の軽減につながります。 おすすめは1日20〜30分程度のウォーキングです。ただし、無理のない運動で構わないので、継続しやすい点を重視しましょう。 また、デスクワーク中に首や肩を軽く回すストレッチを取り入れるだけでも、筋肉の緊張を緩和し、頭痛予防に役立ちます。 継続して運動やストレッチを取り入れると自律神経が安定し、エアコン使用時の温度差にも適応しやすい身体づくりにつながります。 エアコン頭痛を防ぐための基本的な対策 エアコンによる頭痛は、「エアコンの使い方」を工夫するだけでも十分予防できます。ここでは、日常生活で取り入れやすい対策を紹介します。 具体的な対策は、以下の3つです。 室内温度と湿度を適正に保つ 風向きを調整して体に直接風を当てない こまめに換気する 具体的な方法を解説します。 室内温度と湿度を適正に保つ 自律神経への負担を減らすには、室内と屋外の温度差を4〜6℃以内に抑えることが理想です。 冷房の場合、外気温が32℃であれば、室内温度は25〜27℃程度に設定します。暖房の場合は、外気温が15℃であれば、室内温度は20〜22℃程度が適切です。 ただし、冬場に外気温が極端に低い場合(たとえば外気温が8℃のとき)は、室内が寒くなりすぎてしまいます。このような場合は、無理に温度差を守るのではなく、室内温度を20℃前後に保ち、外出時には上着を羽織るなどして、外気温との急激な変化に体を慣らす工夫をしましょう。 また、湿度は40〜60%に保つと快適に過ごせます。湿度が低すぎると乾燥による頭痛が起こりやすく、高すぎるとカビの発生や不快感につながります。 風向きを調整して体に直接風を当てない エアコンの風が直接体に当たると、局所的に冷えすぎて血行が悪化します。とくに首、肩、頭部に風が当たり続けると、筋肉が緊張し、頭痛の原因になります。 風向きは、上向きまたは壁向きに設定しましょう。冷気は下に、暖気は上に溜まる性質があるため、意識しながら風向きを調整すると室内の空気が自然に循環し、体への直接的な影響を減らせます。 こまめに換気する 密閉された室内でエアコンを長時間使い続けると、酸素濃度が低下して頭痛を引き起こします。1時間に1回、5分程度の換気を習慣にしましょう。 また、換気が必要かどうかは、二酸化炭素濃度測定器を使うと簡単に判断できます。家庭用の測定器は比較的安価で購入でき、二酸化炭素濃度が高くなると音やアラームで知らせてくれます。 換気の目安は以下のとおりです。 1,001〜1,500ppm:定期的に窓を開けて換気する 1,501〜2,000ppm:倦怠感や眠気が出やすい数値。すぐに換気を 2,001ppm以上:頭痛や吐き気のリスクあり。換気を徹底する なお、換気のタイミングでは、窓を対角線上に2カ所開けると、効率よく空気が入れ替わります。 まとめ|エアコン頭痛は適切な対処で予防しよう エアコンによる頭痛の根本原因は、寒暖差による自律神経の乱れです。冷房では「冷え」、暖房では「乾燥・酸欠」と、それぞれ異なるメカニズムで頭痛が起こります。頭痛が起きたときは、ツボ押しやマッサージで血流を改善し、症状を和らげましょう。 また、生活リズムを整え、入浴や軽い運動を習慣化すると、自律神経が安定し、頭痛が起こりにくい体質に変わっていきます。 加えて、エアコンの設定温度や風向き、換気にも気を配り、快適な室内環境維持も意識しましょう。本記事で紹介した対策を実践して、エアコンを上手に活用しながら、頭痛のない生活を手に入れてください。 「エアコンによる体調不良が治らない方」や「ひどい頭痛でお悩みの方」は、別の原因も考えられます。当院の公式LINEでは、簡易オンライン診断を実施しています。お気軽にご登録いただき、利用してみてください。 エアコン頭痛に関するよくある質問 エアコンのカビや汚れが頭痛の原因になるのはある? 結論からいうと、エアコン内部のカビやホコリが頭痛の原因になる可能性はあります。 エアコンのフィルターや内部に蓄積したカビやホコリは、運転中に空気と一緒に室内に放出されます。これらの微粒子が呼吸によって体内に入ると、鼻やのどの粘膜を刺激し、アレルギー反応や炎症を引き起こすことがあります。 その結果、鼻づまりや鼻炎が悪化し、呼吸が浅くなって酸素不足から頭痛が起こる場合があります。また、カビの胞子によるアレルギー反応自体が、頭痛や倦怠感の原因になるケースも少なくありません。 予防策として、定期的にエアコンフィルターを掃除し、1~2年を目安に専門業者による内部クリーニングを行うことをおすすめします。 エアコン頭痛にはどんな薬が効く?ロキソニンやイブは使っていい? エアコン頭痛による一時的な痛みには、市販の鎮痛薬も選択肢の一つです。 ロキソニン(ロキソプロフェン)やイブ(イブプロフェン)などの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、頭痛の痛みを和らげる効果があります。緊張型頭痛やのぼせによる頭痛にも効果が期待できます。 ただし、鎮痛薬はあくまで対症療法であり、根本的な原因を解決するものではありません。薬を飲むだけでなく、本記事で紹介した自律神経を整える生活習慣や、エアコンの適切な使い方を併せて実践しましょう。
2025.12.13 -
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
「冬になると腰が痛む」 「毎年寒さによる腰痛に悩まされている」 冬は血流が悪くなり筋肉がこわばりやすくなるため、起床時やデスクワーク後に腰痛が起こりやすくなります。 放置すると慢性化や、別の疾患が隠れている場合もあります。冷え性、運動不足、同じ姿勢で作業することが多い方はとくに注意が必要です。 本記事では、現役医師が寒さによる腰痛について詳しく解説します。記事の最後には、よくある質問をまとめていますので、ぜひご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 寒さによる腰痛について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 寒さによる腰痛とは 項目 内容 筋肉・靭帯・関節のこわばり 寒さによる筋肉・靭帯の硬化、柔軟性低下、支持筋の働きの鈍化 血流低下・循環の悪化 末梢血管収縮による血流・栄養供給の低下、疲労物質排出の遅延 神経の過敏化 冷えによる神経の感受性上昇、痛覚閾値低下、神経への負担増加 姿勢の乱れ・活動量低下 寒さによる前かがみ姿勢、肩すぼめ姿勢、運動不足による筋力・柔軟性低下 既存疾患・体質の影響 腰椎疾患・筋力低下・冷え体質などの悪化、寒冷環境との相互作用 冬季は寒冷刺激により神経の感受性が高まり、痛覚閾値が低下することで腰痛が生じやすくなります。冷えによる血管収縮や筋緊張は神経根や末梢神経に影響し、神経伝導速度の低下や知覚過敏が報告されています。(文献1) さらに寒さは、前かがみ姿勢や運動量低下を招き、腰部への負荷を増大させる要因です。(文献2) 腰椎変性やヘルニア、冷え体質などの基礎要因を持つ方では症状悪化が顕著で、寒冷環境にさらされることで腰痛が悪化しやすいことも報告されています。(文献3) 以下の記事では、腰痛について詳しく解説しています。 【関連記事】 更年期の腰痛はなぜ起こる?原因・セルフケア・治療法を解説 慢性腰痛には手術が有効?治療法ごとの費用・期間・リスクも紹介 寒さによる腰痛の原因 原因 詳細 筋肉のこわばりと血流低下 寒さによる筋肉の硬化、柔軟性低下、血管収縮による循環不良 神経の過敏化と自律神経の乱れ 冷えによる神経の過敏化、痛覚閾値低下、交感神経優位による筋緊張増加 姿勢不良と筋バランスの乱れ 前かがみ姿勢・肩すぼめ姿勢の増加、活動量低下による筋力・柔軟性低下 寒さによる腰痛は、気温低下に伴う複数の身体変化が重なって生じます。まず、冷えによって筋肉が硬くなり柔軟性が低下することで、腰部の筋肉や靭帯に負担がかかりやすくなります。 また、寒冷刺激による神経の過敏化と痛覚閾値の低下は、通常より痛みを感じやすくする要因です。 さらに自律神経が乱れ、交感神経が優位になることで筋緊張が増し、不快感の悪化を招きます。寒さを感じると前かがみ姿勢や肩をすぼめる姿勢を取りやすく、活動量も減りがちです。 このような姿勢不良や筋バランスの乱れが腰部への負荷を高め、これらの要因が複合的に作用することで冬季の腰痛が増加します。 筋肉のこわばりと血流低下 原因 詳細 筋肉のこわばり 寒さによる筋肉収縮、腰部筋の硬化、血管圧迫による酸素・栄養供給低下 血流の低下 低温による血管収縮、血行不良による酸素・栄養不足、疲労物質蓄積 血行不良による疲労物質の蓄積 老廃物・疲労物質の排出遅延、筋緊張・こわばりの増強、慢性腰痛の助長 身体の防御姿勢の悪化 寒さで生じる縮こまり姿勢、腰部への過負荷、筋・関節へのストレス 寒さによる腰痛は、筋肉のこわばりや血流の低下が重なることで起こりやすくなります。寒冷環境では筋肉が収縮し硬くなり血管が圧迫されることで、酸素や栄養の供給が滞ります。 また、血流低下で老廃物が排出されにくく筋緊張が強まる上、寒さで縮こまる姿勢が続いて腰部への負担が増えることが、痛みを助長する要因です。 神経の過敏化と自律神経の乱れ 低温環境では筋肉が硬くなり神経が圧迫されることが、腰痛の原因です。寒さは神経を敏感にし、自律神経のバランスを崩すため、腰痛が悪化しやすくなります。 また、寒冷刺激により交感神経が優位になると血管が収縮し、血流が低下することで筋肉への酸素や栄養供給が不足し、こわばりや違和感が生じやすくなります。 血流の悪化は疲労物質の排出も妨げ、筋肉の緊張をさらに強める要因です。寒さで生活リズムが乱れると自律神経のバランスが崩れ、痛みの感じやすさにつながります。 これらの変化が重なることで冬季は腰痛が悪化しやすくなるため、適度な保温と生活習慣の調整が重要です。 姿勢不良と筋バランスの乱れ 原因 詳細 寒さによる身体の防御反応 寒さで生じる縮こまり姿勢、背骨・腰部筋への不自然な負荷、筋バランスの乱れ 筋肉のアンバランス 過度に働く筋肉と使われにくい筋肉の偏り、腰部負担の増加、痛みの誘発 血流の悪化と筋肉のこわばり促進 姿勢不良による血行不良、酸素・栄養不足、筋硬化・こわばり・疲労感の増強 動作の制限と慢性化リスク 筋バランスの乱れによる可動域制限、姿勢悪化の連鎖、慢性腰痛への移行 寒いと無意識に背中が丸まりやすく、これが腰への負担を増やします。筋肉の使い方に偏りが生じて、腰・背中・腹部のバランスが崩れることで、慢性的な腰の不調につながります。 暖房の効いた室内でも長時間同じ姿勢で作業を続けると血流が滞るため、こまめな姿勢の切り替えやストレッチが効果的です。 寒さ・冷えからくる腰痛の症状 症状 詳細 腰の重だるさや動作時の違和感 筋肉のこわばりによる重だるさ、動き始めの引きつり感、前後屈時の違和感 下半身の冷えやしびれ 血流低下による冷感、神経過敏化による軽度のしびれ、足腰の感覚低下 寒い環境で悪化し慢性化しやすい 冷えによる筋緊張増加、神経反応性の亢進、繰り返す痛みの慢性化 寒い環境では無意識に肩をすくめて背中を丸めやすく、この姿勢が続くと腰椎に過度な圧力がかかり、腰の筋肉や椎間板に負担が集中します。 さらに、寒さで活動量が減ると腰を支える筋肉のバランスが崩れ、腹筋・背筋・臀筋の弱まりによって腰椎の安定性が低下し、腰痛が起こりやすくなります。 とくに長時間のデスクワークでは骨盤が後傾しやすく寒さで姿勢が崩れやすくなるため、適度な運動やストレッチを取り入れて正しい姿勢を保つことが腰痛予防に有効です。 腰の重だるさや動作時の違和感 寒さによって腰の重だるさや動作時の違和感が生じるのは、筋肉と血流、自律神経の変化が重なるためです。 低温環境では筋肉が収縮して硬くなり血管が圧迫されることで血流が悪化し、酸素や栄養が不足して疲労物質が蓄積します。実際、「寒冷環境では腰・背中の筋肉が緊張しやすい」という報告もあります。(文献4) この筋肉のこわばりと柔軟性の低下が腰の重だるさや動作時の違和感を生じさせる要因です。加えて、寒さは自律神経のバランスにも影響し、血管収縮による血流悪化を助長して不調を強めます。 下半身の冷えやしびれ 寒さで下半身に冷えやしびれが生じるのは、血流低下と神経機能の乱れが関与するためです。 低温環境では血管が収縮して下半身への血流が不足し、筋肉や神経への酸素・栄養が届きにくくなることで冷感やしびれが起こりやすくなります。 また、腰や骨盤まわりの筋肉がこわばると坐骨神経を圧迫し、しびれが出やすくなります。 これらの状態が続くと神経機能が低下して症状が慢性化しやすく、糖尿病や血管疾患のある方は悪化しやすいため注意が必要です。 寒い環境で悪化し慢性化しやすい 寒い環境では血流が悪化し筋肉が緊張し続けるため、疲労物質が溜まり痛みが慢性化しやすくなります。 また、寒さから身を守るために身体を縮める姿勢が続くと腰部の筋肉や関節に負担がかかり、症状の悪化を招きます。 寒冷刺激による交感神経の亢進で血管が収縮して血流不良が助長されることや、冬季の活動量減少に伴う筋肉の柔軟性低下・こわばりの進行が、腰痛の慢性化を招く一因です。 これらの要因が重なることで、寒さによる腰痛は悪化・慢性化しやすくなります。適度な運動や保温、ストレス対策を心がけることが大切です。 寒さ・冷えからくる腰痛の対処法 対処法 詳細 身体を温めて血流を改善する 蒸しタオル・入浴・カイロによる腰部の保温、温熱での血行促進、筋緊張の緩和 ストレッチや軽い運動で筋肉をほぐす 股関節・腰部のストレッチ、軽いウォーキング、可動域向上による筋柔軟性改善 服装と生活習慣で冷えを防ぐ 重ね着・腹巻き・防寒アイテムの活用、室内温度調整、冷えを避ける生活環境づくり 寒さや冷えによる腰痛の対処には、血流を促し筋肉の緊張を和らげる工夫が大切です。蒸しタオルや入浴、カイロなどで腰部を温めると血行が改善し、痛みの緩和につながります。 また、ストレッチや軽いウォーキングは血流を改善し、筋肉のこわばり予防に効果的です。 さらに、重ね着や腹巻きなどの防寒対策、室内温度の調整といった生活習慣の工夫で冷えを避けることも欠かせません。これらを組み合わせることで、寒さによる腰痛の悪化防止が期待できます。 身体を温めて血流を改善する 寒さが腰痛を悪化させる背景には、筋肉のこわばりや血流低下が関与しており、これらを和らげるには温める対処が有効です。 温めることで血流が良くなり、腰の筋肉や関節が柔らかく動きやすくなります。 実際、温めた後にはストレッチや動作時の快適さが向上するという報告もあります。(文献5) 筋肉内に蓄積した疲労物質の排出と重だるさの軽減には、温熱による血流促進が欠かせません。 ストレッチや軽い運動で筋肉をほぐす 寒い環境では筋肉が収縮して硬くなりやすく、血流も低下するため、ストレッチや軽い運動で筋肉をほぐすことが大切です。 ゆっくりと無理のない範囲で身体を動かすことで筋肉の柔軟性が高まり、こわばりや疲労の軽減につながります。急激な動作は負担となるため、ウォーキングや穏やかなストレッチを深呼吸とともに行うことが効果的です。 また、腰部だけでなく大腿部や股関節、下腿部など下半身全体を動かすことで血行が改善し、腰部への負担が軽減されます。 こうした運動の継続により、寒さによる筋肉の硬直を防ぎ、腰痛の慢性化予防にもつながります。 服装と生活習慣で冷えを防ぐ 対処法 詳細 腰部と下半身を重点的に温める 腰・下半身の保温、厚手タイツ・腹巻き・保温インナーの活用、衣類による冷え防止 カイロや温熱ベルトを使う 貼るカイロや温熱ベルトによる腰部保温、外出時の血行促進、適切な使用方法の徹底 足元の冷え対策を行う 靴下・防寒スリッパの使用、足元からの冷え防止、下肢冷却の予防 生活習慣で身体を冷やさない工夫をする 温かい飲食物の摂取、適度な運動、血行促進、睡眠・ストレス管理 重ね着や調節可能な服装で体温管理 温度調節しやすい重ね着、風を通しにくい素材の選択、外気温変化への対応 寒さによる腰痛を防ぐには、腰部と下半身を集中的に温めることが効果的です。 保温性の高いインナーや腹巻き、タイツなどを活用すると冷えを予防できます。また、カイロや温熱ベルトで腰を温めると血流が促され、こわばりの軽減にもつながります。 足元からの冷えも腰痛を悪化させるため、靴下や防寒スリッパの着用も有効です。あわせて温かい飲食物を取り入れ、適度な運動で血行を保つことも大切です。 重ね着を活用し体温調整しやすい服装を選ぶことで、寒冷環境での腰痛予防に役立ちます。 寒さ・冷えの腰痛で医療機関を受診すべきサイン 受診すべきサイン 詳細 温めても改善しない場合 温熱で緩和しない持続痛、動作時の強い痛み、数日続く改善不良 しびれや感覚の異常がある場合 下肢のしびれ・冷感・脱力、感覚低下、坐骨神経の圧迫が疑われる症状 発熱や全身の不調を伴う場合 発熱・倦怠感・悪寒など全身症状、感染症や内臓疾患が疑われる状態 寒さや冷えによる腰痛が温めても改善せず強い痛みが続く場合は、筋肉以外の原因が関与している可能性があります。そのため、早期の受診が必要です。 また、足のしびれや脱力、感覚の低下がみられる場合は、坐骨神経への圧迫など神経障害が疑われます。 さらに、発熱や強い倦怠感を伴う腰痛は感染症や内臓疾患の可能性があるため、早めの受診が必要です。 これらのサインがみられる場合は、早めに医療機関で適切な評価を受けることが大切です。 温めても改善しない場合 受診すべき理由 詳細 筋肉や血流以外の疾患の可能性 内臓疾患・神経圧迫・深部組織の異常など、医療機関での診断を要する疾患の存在 痛みが激しい・持続する場合 温熱や安静で改善しない強い痛み、長期化する腰痛、症状悪化のリスク 背中や脚のしびれ・麻痺がある場合 下肢しびれ・筋力低下・排尿排便障害など重度神経障害の可能性 発熱や悪寒を伴う場合 感染症・内科疾患の関与、全身症状を伴う腰痛、早期受診の必要性 症状が急激に悪化した場合 突然の激痛、歩行困難、脱力など緊急性の高い症状の出現 温めても改善しない腰痛には、筋肉のこわばり以外の深部疾患や神経障害が隠れている可能性があります。 強い痛みが続く場合や脚のしびれ・麻痺、排尿排便障害がみられる場合は、神経の重大な圧迫が疑われ、早急な診断が必要です。 また、発熱や悪寒を伴う腰痛は感染症や内科疾患のサインであり、放置すると重症化する危険があります。突然の激痛や歩行困難が生じた際も緊急受診が推奨されます。 以下の記事では、慢性腰痛が治らない原因について詳しく解説しています。 しびれや感覚の異常がある場合 受診すべき理由 詳細 しびれは神経障害の重要なサイン 冷えによる筋硬直で神経が圧迫される可能性、下肢のしびれ・冷感の出現、神経障害進行の危険性 感覚異常は進行性疾患の可能性 感覚鈍麻・チクチク感・麻痺など、神経損傷や深刻な疾患の疑い、早期診断の必要性 坐骨神経痛など神経症状との関連 寒さで悪化する坐骨神経痛、腰〜脚の痛み・しびれへの発展、医師への相談を推奨 長引くしびれは生活の質を低下させる 歩行障害・転倒リスク増加、日常動作への影響、症状進行の危険性 自己判断では見逃しやすい 神経伝導検査・画像検査の必要性、正確な原因特定と適切な治療の重要性 (文献6) しびれや感覚異常は寒さによる一時的な症状と思われがちですが、神経の圧迫や機能低下が背景にある場合も多く、早期受診が重要です。 筋肉の硬直や坐骨神経痛の悪化により、下肢のしびれ・冷感・感覚鈍麻が現れることがあります。 これらを放置すると症状が進行し、歩行障害や転倒リスクが増加して生活の質を大きく損なう可能性があります。 神経障害は自己判断が困難なため、原因を特定し、早期に適切な治療を受けることが大切です。 以下の記事では、しびれや感覚の異常がある場合に考えられる腰の疾患について詳しく解説しています。 【関連記事】 胸椎椎間板ヘルニアとは?原因や症状を専門医が解説 頚椎椎間板ヘルニアのレベル別症状は?軽度から重度まで医師が解説 発熱や全身の不調を伴う場合 受診すべき理由 詳細 感染症や内科的疾患の可能性 腎盂腎炎・膿瘍・帯状疱疹などの潜在疾患、放置による症状悪化、重篤化の危険性 炎症反応増加による全身症状 熱・倦怠感・ふらつきなど全身炎症反応の出現、緊急性を伴う疾患の可能性 重篤な疾患の可能性 化膿性脊椎炎・骨折・がんの骨転移など重大な疾患、早期診断の重要性 症状の持続・悪化への注意 自己治療による進行リスク、感染拡大・神経障害の危険、基礎疾患保有者の高リスク 発熱や全身倦怠感を伴う腰痛は、単なる冷えや筋肉疲労ではなく、疾患の可能性があります。 腎盂腎炎や膿瘍、帯状疱疹などの感染症では、腰痛に加えて発熱や倦怠感が現れ、放置すると重症化するリスクがあります。 また、化膿性脊椎炎や骨折、悪性腫瘍の骨転移など重大な疾患でも同様の症状を呈することがあり、早期診断が予後を左右するため、症状が持続または悪化する場合は、自己判断せず速やかに医療機関を受診することが重要です。 以下の記事では、発熱や全身の不調を伴う腰痛の症状について詳しく解説しています。 【関連記事】 化膿性脊椎炎の後遺症|手足のしびれ・痛みのリハビリと再発リスクを下げる方法 ぎっくり腰に前兆はある?なりそうなときの対処法も解説【医師監修】 寒さによる改善しない腰痛は医療機関を受診しよう 冷えによる腰の不調は多くが生活習慣の改善で軽快しますが、症状が長引く場合は医療機関を受診しましょう。原因を見極めることで適切な治療ができ、早期受診は根本原因の特定に役立ちます。 寒さによる改善しない腰痛でお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、腰痛に対して再生医療を用いた治療を行っています。 寒さによる腰痛では、筋肉や神経への負担が繰り返され、椎間板や神経組織に慢性的なダメージが残る場合があります。 こうした背景に対して、再生医療(幹細胞治療)は損傷した組織の修復を目指す治療選択肢のひとつです。ただし、すべての腰痛に適応されるわけではなく、効果には個人差があるため、適応の判断や他の治療法との比較を含め、医師と相談しながら慎重に検討することが大切です。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 寒さで起こる腰痛に関するよくある質問 寒さ・冷えで起こる腰痛はツボを刺激すれば治りますか? ツボ刺激(指圧・経穴治療)は、慢性腰痛に対して痛みの軽減や機能改善を示した報告があります。(文献7) また、自己で行う指圧が痛みや疲労感の改善に有効とする研究もあります。(文献8) しかし、寒さ・冷えによる腰痛は筋肉のこわばりや血流低下、姿勢の乱れなど複数の要因が重なるため、ツボ刺激だけで十分とは言えません。 また、現時点のエビデンスは改善を示す一方で、単独治療として確立された効果には至っていません。(文献9) 寒さで起こる腰痛は接骨院や整体で改善しますか? 寒さによる腰痛は接骨院や整体院で筋緊張の緩和や姿勢改善により和らぐことがあります。しかし、慢性化や重度の症状には限界があり、根本治療に至らないため、医療機関を受診しましょう。 椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、感染症など重大な疾患が潜む可能性もあるため、まずは総合診療科または整形外科で評価を受ける必要があります。 しびれなどの神経症状があれば神経内科や脊椎専門医、発熱や全身症状があれば内科の受診を検討してください。 寒さで起こる腰痛は体質や遺伝と関係がありますか? 寒さによる腰痛には体質や遺伝的要素が関与する可能性があり、椎間板や骨格の形状、血管反応性や自律神経機能には遺伝の影響がみられます。 冷えやすい体質では血行不良や筋肉のこわばりが生じやすく、代謝や寒冷刺激への反応にも個人差があります。 ただし、寒さと腰痛の直接的な因果関係における遺伝的要因は明確ではなく、寒冷環境下での筋・神経・血管反応の遺伝的規定性を示すエビデンスは現時点では限られています。(文献10) 参考文献 (文献1) Why Cold Weather Worsens Nerve Pain—And What to Do About It|MS Pain & Migraine Logo (文献2) Common Causes of Back Pain and How to Get Relief in the Winter|Michigan Neurology Associates & Pain Consultants (文献3) The association between cold exposure and musculoskeletal disorders: a prospective population-based study|PMC PubMed Central® (文献4) From the Doctor’s Desk: Back Pain in Winter: Why Does it Happen and How to Avoid it|BONE & JOINT (文献5) Heat vs Cold: What works better?|UNC Health Appalachian Exapnd Search (文献6) 神経痛が起こるメカニズム|社会福祉法人 恩賜財団 済生会(おんしざいだん さいせいかい) (文献7) Clinical Efficacy and Safety of Acupressure on Low Back Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis|PMC PubMed Central® (文献8) Self-Administered Acupressure for Chronic Low Back Pain: A Randomized Controlled Pilot Trial|PubMed® (文献9) Acupuncture for chronic nonspecific low back pain|PubMed® (文献10) Cold exposure and musculoskeletal conditions; A scoping review|PMC PubMed Central®
2025.12.13 -
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
「後縦靭帯骨化症のリハビリはどのようにして行われるのか?」 「後縦靭帯骨化症のリハビリの効果を知りたい」 後縦靭帯骨化症では、首や手足のしびれ、動かしにくさによって生活機能が低下し、不安を抱える方が多くいます。 自己流の運動は症状を悪化させる可能性があり、医療機関での評価に基づかないまま、自宅で行える範囲を判断するのは困難です。適切なリハビリには、病状の進行度に応じた運動療法と、避けるべき禁忌動作の理解が欠かせません。 本記事では、現役医師の監修のもと、後縦靭帯骨化症のリハビリ内容に加えて、禁忌事項や評価方法についても詳しく解説します。最後に、後縦靭帯骨化症のリハビリに関するよくある質問も紹介しますので、ぜひご一読ください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 後縦靭帯骨化症でお悩みの方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 後縦靭帯骨化症におけるリハビリの目的と効果 目的と効果 詳細 筋力強化による脊椎の支持と負荷軽減 首・背中周囲の筋力向上による脊椎の支持力強化、骨化部位への負担軽減 関節の可動域維持と姿勢改善による機能向上 首や肩・体幹の柔軟性維持、姿勢バランスの改善による可動域確保 日常生活の自立支援とQOLの維持・向上 歩行・更衣・家事などの動作効率改善、疲労軽減による生活の質向上 後縦靭帯骨化症のリハビリは、脊椎や神経への負担を軽減し、日常生活機能を維持することを目的とします。骨化による神経圧迫は可動域の低下やしびれを招くため、筋力・柔軟性の維持と姿勢の安定が重要です。 痛みや疲労を悪化させる動作を避けつつ、生活動作を円滑に行う訓練を行います。医師の適切な指導のもとリハビリを継続することで、機能維持とQOL向上が期待できます。 以下の記事では、後縦靭帯骨化症の寝たきりを抑えるための方法を詳しく解説しています。 筋力強化による脊椎の支持と負荷軽減 後縦靭帯骨化症に対して体幹や肩甲帯の筋力強化を行うと、背骨を支える「筋肉のコルセット効果」が高まり、骨化部位への負荷が減少します。これにより神経圧迫の悪化を防止できます。 そのため、姿勢や歩行など日常動作の安定にも効果的です。また、筋力が低下しているとリハビリで得た可動域改善・歩行改善・神経症状の軽減が定着しにくく、再び筋力低下と動作制限の悪循環に陥る可能性があります。 適切な筋力強化は、歩行スピードや握力、立ち上がり動作などの改善を長期的に維持し、症状再悪化を防止する基盤です。 実際、術後や保存療法のリハビリにおいて、筋・骨・神経の機能が相互に改善する可能性が報告されています。(文献1) 関節の可動域維持と姿勢改善による機能向上 後縦靭帯骨化症は、関節や筋肉の硬さにより姿勢が前傾しやすく、首・肩・腰の可動域が低下することで日常動作にも支障が生じます。 リハビリでは、ストレッチや姿勢調整を通して関節可動域を維持し、筋肉や靭帯の拘縮を防ぐことが重要です。可動域が保たれることで首や脊椎の動きが滑らかになり、基本動作の負担が軽減されます。 また、正しい姿勢は骨化部位や脊椎への過度な負荷を防ぎ、神経圧迫の悪化や痛みの増強を抑える効果があります。 さらに、可動域と姿勢が整うことで歩行や立位の安定性が高まり、長期的な神経症状の悪化リスクを低減できます。日常生活では長時間同じ姿勢を続けないようにし、適切な座り方や立ち方を意識することが症状管理に役立ちます。 日常生活の自立支援とQOLの維持・向上 目的・効果 詳細 日常動作の安定と自立支援 筋力・バランス向上による歩行や立位、起き上がりの安定、転倒リスクの軽減 生活動作の工夫と環境整備の支援 正しい姿勢や動き方の指導、福祉用具活用や住宅改修による生活環境の改善 生活の質(QOL)の維持・向上 身体機能維持による不安軽減、精神的安定、社会参加や趣味継続による満足度向上 (文献2) リハビリの最終的な目的は、できる限り自立した生活を続けることです。後縦靭帯骨化症では、手足のしびれや力の入りづらさが進行すると、着替えや歩行などの動作が難しくなる場合があります。 理学療法や作業療法では、生活動作の練習や補助具の活用を通じて、日常生活を無理なく行えるよう支援します。 厚生労働科学研究費補助金・脊柱靭帯骨化症研究班が実施した研究では、ADLの制限がQOLと強く関連し、とくに移動動作(立ち上がり・歩行)や入浴・更衣の制限が生活の質の低下に直結することが報告されています(文献3) そのため、身体面だけでなく心理面のサポートも重要です。継続したリハビリは、QOL(生活の質)の維持・向上に役立ちます。 後縦靭帯骨化症におけるリハビリの評価方法【事前の状態チェック】 評価方法 詳細 神経・運動機能の評価 手足のしびれ・感覚の低下、筋力、反射、歩行バランスの確認による神経障害の把握 日常動作・姿勢のチェック 歩行・立ち上がり・更衣などの動作確認、姿勢の傾きや負担のかかる動きの観察 画像検査による評価 MRI・CT・X線を用いた骨化の範囲や神経圧迫の確認、脊椎アライメント評価 リハビリを始める前には、医師や理学療法士が症状の進行度や神経の状態を把握することが欠かせません。 後縦靭帯骨化症の場合、骨化の部位や神経圧迫の程度によって適切な運動が異なります。医師や理学療法士が神経機能や姿勢、日常動作の可否などを総合的に評価します。 これにより、無理な運動を避けながら、個々の症状に合わせたリハビリ計画を立てられます。 神経・運動機能の評価 神経・運動機能の評価は、後縦靭帯骨化症におけるリハビリ計画の基礎となる重要な工程です。医師や理学療法士が手足のしびれや感覚鈍麻、筋力低下、反射異常、歩行の安定性などを詳細に確認します。 とくに頸椎に骨化がある場合は握力や指先の巧緻動作も重要な指標です。これらの情報から、医師は神経がどの程度圧迫されているかを把握し、実施できる運動量や避けるべき動作を判断します。 また、評価結果は個々の症状に応じたリハビリ目標の設定にも役立ち、症状の変化を継続的に追うことでプログラムを適切に調整します。 日常動作・姿勢のチェック 評価方法 詳細 日常生活の動作障害を早期に発見するため 着替え・歩行・起き上がりなどの困難動作の把握、リハビリ方針の明確化 不良姿勢や過度な負担を見つけるため 頭部前方位や猫背など姿勢のゆがみの確認、負担軽減に向けた生活改善 患者の自立度やQOLの評価に役立つ 日常動作の自立度の把握、支援や環境調整の検討、生活の質向上への貢献 日常動作と姿勢のチェックは、後縦靭帯骨化症の症状による生活上の困りごとを早期に把握し、適切なリハビリ計画を立てる上で欠かせません。 とくに姿勢のゆがみや長時間同じ姿勢を続けることは、脊柱や神経に過度な負荷をかけ、症状悪化につながる可能性があります。 立位姿勢が手術成績に影響する報告もあり、姿勢評価は治療効果の向上にも関わります。(文献4) 画像検査による評価 評価方法 詳細 骨化の範囲と程度を正確に把握するため レントゲン・CTによる骨化部位と進行度の確認、骨化形状の把握 神経圧迫の状況を確認するため MRIによる脊髄・神経根の圧迫度や変化の評価 治療方針やリハビリ計画の立案に不可欠 骨化進行度と神経圧迫所見に基づく保存療法と手術療法の判断材料 リハビリプログラムを設計・調整するための資料となる 骨化の長さ・厚さ、脊柱管占拠率、脊椎配列、神経圧迫所見などに基づく個別リハビリ計画の作成 後縦靭帯骨化症の治療では、骨化の範囲や神経圧迫の有無を画像検査で正確に把握することが、治療方針やリハビリ計画の決定に不可欠です。 CTは骨化の形状や広がりを詳細に確認でき、MRIは神経への圧迫状況を評価するのに優れています。さらに、骨化の厚さや脊柱管占拠率、頸椎・腰椎の配列などの情報は、リハビリの強度や動作範囲を設定する基盤となります。 実際、占拠率は神経症状や術後成績との関連が報告されており、個別のリハビリプログラム作成に大切な指標です。(文献5) 後縦靭帯骨化症におけるリハビリ方法【評価をもとに行う運動】 リハビリ方法 詳細 柔軟性とバランスを高めるストレッチ・体幹運動 首・肩・腰の可動域維持、体幹の安定性向上、姿勢保持能力の改善 四肢と体幹の筋力トレーニング 手足と体幹の筋力強化、脊椎支持力の向上、負担分散による症状悪化予防 歩行・日常動作の訓練 歩行安定性の向上、立ち上がり・階段動作の改善、生活自立度の向上 後縦靭帯骨化症のリハビリでは、症状や神経の状態を踏まえて柔軟性・筋力・動作能力を総合的に高めることが重要です。 まず、ストレッチや体幹運動で首や腰の可動域を保ち、姿勢を安定させます。次に、四肢と体幹の筋力強化により脊椎の支持力を高め、負担を分散して症状悪化を防ぎます。 さらに、歩行や立ち上がりといった日常動作の訓練を行うことは生活動作の安定と自立度向上を図る上で欠かせません。これらを組み合わせることで、症状の安定と効果的な機能改善が期待できます。 柔軟性とバランスを高めるストレッチ・体幹運動 リハビリ方法 詳細 柔軟性とバランスを高めるストレッチ 筋肉の柔軟性維持、拘縮予防、血流促進、疲労軽減、動作効率の向上 体幹運動(バランス運動) 姿勢安定、脊柱負担の軽減、神経圧迫軽減、歩行・立位の安定、転倒予防 後縦靭帯骨化症では、神経圧迫により筋肉がこわばりやすく、関節の動きが制限されるため、ストレッチと体幹運動はリハビリを行う上で欠かせません。 首・肩・背中・腰のストレッチは筋肉の柔軟性を保ち、拘縮を防ぐことで動作のしやすさを維持します。また、血流促進や疲労軽減にも役立ち、継続により身体全体の連動性が高まります。 体幹を中心としたバランス運動は姿勢を安定させ、脊柱への負担を減らすことで神経圧迫の軽減に寄与します。 バランス能力の向上は歩行や立位の安定を高めて転倒を予防し、自立度の維持にも役立ちますが、痛みや違和感がある場合は無理をせず中止しましょう。 四肢と体幹の筋力トレーニング 評価・訓練項目 詳細 体幹筋の強化 脊椎支持力の向上、脊柱への負担軽減、神経圧迫悪化の予防 四肢の筋力維持・強化 つかむ・歩く・立つなどの基本動作の安定、自立度向上、転倒予防 筋萎縮・筋力低下への対処 神経障害による筋力低下の抑制、機能回復の促進、QOL向上 後縦靭帯骨化症では、体幹と四肢の筋力を適切に維持・強化することが、脊椎の保護と日常生活動作の安定に不可欠です。 軽い負荷を用いた筋力トレーニングは、腹部や背部の体幹筋を鍛え、脊椎を支える力を高めることで過度な負担を軽減し、神経圧迫の悪化を防止する効果があります。 また、肩甲骨を動かす運動や手足の筋力強化は、つかむ・歩く・立つといった基本動作を支え、自立度向上や転倒予防に寄与します。 神経障害により筋力が低下しやすい患者では、継続的なトレーニングが筋萎縮の進行を抑え、機能回復を促す上でも大切です。 歩行・日常動作の訓練 評価・訓練項目 詳細 基本動作の習得と動作の安定化 歩行・起立・移乗の安定、転倒リスクの軽減、自立生活の確保 日常動作のスムーズな連結と適応力の向上 動作間の連続性向上、実生活への適応力強化、動作効率の改善 QOL改善のための自立支援 社会参加の促進、精神的自信の向上、生活の質全体の維持・向上 (文献6) 歩行訓練では、バランス感覚の回復と下肢筋力の維持を目指します。歩幅やリズムを整え、安定した歩行動作を習得していきます。 必要に応じて杖・歩行補助具の使用や、着替え・家事などの日常動作を取り入れたリハビリも症状の改善に欠かせません。 実生活に近い環境で練習することで、自立した生活を続けやすくなります。 後縦靭帯骨化症のリハビリにおける禁忌事項 禁忌事項 詳細 頸椎への過度な負荷や急な動作を避ける 首を強く反らす・ひねる動作の回避、急激な方向転換や勢いのある運動の制限 しびれや脱力など神経症状が強いときは運動を中止する 痛み増悪・感覚異常・脱力の出現時の運動中断、症状悪化の予防 医師の許可なく頸椎牽引や強いマッサージを行わない 頸椎牽引を自己判断で行うことの禁止、強圧マッサージや過度な指圧の回避、頸椎への負担軽減 後縦靭帯骨化症では、頸椎周囲の神経が圧迫されやすいため、リハビリ中の負担管理が欠かせません。 とくに首への強い負荷や急な動作は、神経症状の増悪につながる可能性があります。また、しびれや脱力などの症状が強く現れた場合は、運動を続けることで障害が進む恐れがあるため、中止が必要です。 さらに、頸椎牽引や強いマッサージは状態により逆効果となることがあり、自己判断ではなく、医師の判断が求められます。 頸椎への過度な負荷や急な動作を避ける 後縦靭帯骨化症では、骨化した靭帯が脊髄や神経根を圧迫しているため、頸椎への過度な負荷や急な動作は症状悪化の大きな要因となります。 首を急に反らせたり強くねじる動作は、圧迫をさらに強め、新たなしびれや麻痺を引き起こす可能性があります。リハビリでは、動作を小さくゆっくり行い、無理に可動域を広げようとしないことが基本です。 違和感や痛みを感じた場合は直ちに中止し、首へのストレスを最小限に抑えることが重要です。また、日常生活でも重い荷物を持ち上げるなど頸椎に負担がかかる行動は避ける必要があります。 しびれや脱力など神経症状が強いときは運動を中止する 禁忌事項・観点 詳細 神経症状悪化のサインを見逃さないため しびれ・脱力の増強による神経機能悪化の兆候把握、症状進行や回復遅延の防止 リスクの高い運動を中断する 脊髄・神経圧迫増大の可能性の回避、転倒や重度症状の予防 適切な治療方針の再評価につながる 医師の診察によるリハビリ計画の見直し、治療選択の検討、長期的機能維持への対応 後縦靭帯骨化症では、しびれや脱力の増強は神経への負担が高まっている重要なサインです。この状態で運動を続けると、神経障害が進行し、しびれの悪化や動作機能の低下につながる可能性があります。 そのため、運動中に症状が強まった際には中止し、早急に医師へ相談しましょう。症状の変化を適切に把握することで、リハビリ計画の変更や治療方針の見直しが行われ、長期的な機能維持に役立ちます。 医師の許可なく頸椎牽引や強いマッサージを行わない 後縦靭帯骨化症(OPLL)では、骨化によって脊柱管が狭くなり、脊髄や神経根が常に圧迫されやすい状態です。そのため、頸椎牽引や強いマッサージを行うと、骨化部や狭窄部に「ずれ」や動的ストレスが加わり、症状悪化のリスクが高まります。 牽引や強いマッサージは、首の椎体や椎間関節、靭帯、神経構造に「引き伸ばす力」や「回旋・側屈・伸展」といった動きを加えることになり、非常に危険です。 研究によると、OPLLの頸椎に回旋操作(マニピュレーション)を行うと脊髄・硬膜・神経根への応力が著しく増えることが確認されています。(文献7) また、医師や理学療法士がリハビリを開始する際は、画像検査や神経・運動機能、姿勢評価を行い、適切な運動内容や強度を決定することが重要です。 OPLLでは保存療法の範囲や手術適応の判断を慎重に行うべきと報告されており、医師の指導なく牽引や強いマッサージを行うことは避ける必要があります。(文献8) 【リハビリと併用できる】後縦靭帯骨化症の治療法 治療法 詳細 薬物療法 痛み・しびれの軽減、筋緊張の緩和、炎症の抑制 装具療法 頸椎の安定補助、動作時の負担軽減、姿勢保持のサポート 神経ブロック療法 痛みの一時的軽減、神経周囲の炎症緩和、リハビリ実施時の負担軽減 再生医療 組織修復の促進、慢性痛の緩和、機能改善の可能性 後縦靭帯骨化症では、リハビリと併行して複数の治療を組み合わせることで、症状管理や機能維持がより効果的になります。 薬物療法は痛みやしびれ、筋緊張を和らげ、装具療法は頸椎の安定を補助します。また、神経ブロック療法は強い痛みを一時的に軽減し、リハビリを進めやすくします。 近年注目される再生医療は、組織修復や慢性痛の改善が期待されますが、提供施設が限られ、すべての症状に適用できるわけではありません。そのため、実施している医療機関で適応の可否を医師に相談する必要があります。 薬物療法 目的・効果 詳細 痛みや炎症を緩和するため NSAIDsによる頸部・肩の痛み軽減、神経周囲の炎症抑制 筋肉の緊張を緩和し動きを助ける 筋弛緩薬による筋緊張の軽減、可動域改善 神経症状の改善をサポート 神経障害性疼痛薬やビタミンB群製剤によるしびれ・神経痛の緩和、神経機能改善 症状進行の抑制・QOL維持に貢献 症状管理による日常生活の負担軽減、リハビリ効果の向上 薬物療法は、後縦靭帯骨化症で生じる痛み・炎症・筋緊張・神経症状を和らげ、日常生活を送りやすくする上で重要な役割を担います。 NSAIDsは痛みや炎症を抑え、筋弛緩薬は筋肉のこわばりを緩和します。また、神経障害性疼痛薬やビタミンB群製剤はしびれや神経痛の軽減に有効です。 薬物療法自体は骨化を治すものではありませんが、症状を抑えることでリハビリに取り組みやすくなり、QOLの維持にも大きく寄与します。 装具療法 目的・効果 詳細 脊椎の安定化と固定による負担軽減 頸椎カラーによる不要な動きの制限、骨化部位・神経への負荷軽減、痛みの軽減 神経の圧迫進行を防ぐサポート 首の姿勢安定、脊髄・神経根圧迫の増悪予防、反り動作の抑制 安静保持と日常生活のサポート 日常動作時の頸部保護、運動療法併用の補助、症状管理の支援 保存療法としての進行予防・手術回避の支援 神経圧迫リスクを高める動きの抑制、症状安定化、進行抑制による手術回避支援 装具療法は、後縦靭帯骨化症における保存療法の重要な柱であり、頸椎の不要な動きを制限することで骨化部位や神経への負荷を減らし、症状悪化の抑制に寄与します。 首の姿勢が安定することで神経圧迫の進行を防ぎ、日常生活での負担軽減にもつながりますが、OPLLでは手術が必要となる例もあります。保存療法(リハビリ・薬物療法・装具)は、症状の安定や進行抑制が期待できる手段です。 装具療法はこの保存療法の重要な一翼を担い、神経圧迫リスクを高める動きを抑えることで、重症化や手術適応を回避するための管理を支える役割を果たします。(文献9) 神経ブロック療法 後縦靭帯骨化症(OPLL)では、骨化により脊髄や神経根が圧迫され、しびれや脱力などの神経症状が生じやすくなります。 神経ブロック療法(硬膜外ブロック・神経根ブロック)は、神経周囲に局所麻酔薬やステロイド薬を注入し、炎症や痛み、過剰な興奮を抑える治療です。 実際に、頸椎OPLL患者で神経ブロックを行った症例では、6か月後にJOAスコアや愁訴スコアが有意に改善したとの報告があります。神経ブロック療法により症状のピークを和らげることで、理学療法や体幹訓練、可動域訓練をスムーズに開始できるようになります。(文献10) 再生医療 再生医療は、回復が難しい脊髄神経損傷に対して、幹細胞などを用いて神経機能の改善を目指す治療法です。 後縦靭帯骨化症では、しびれや脱力といった神経症状の改善が報告され、QOL(生活の質)の向上につながる可能性があります。 とくに従来の治療では改善が乏しい難治性症状への新たな選択肢として注目されています。また、リハビリテーションとの併用により効果が高まると考えられており、神経再生と機能回復を同時に促す治療戦略として期待されています。 以下の記事では、後縦靭帯骨化症に対して再生医療を適用した事例を紹介しています。 リハビリで改善しない後縦靭帯骨化症は医療機関を受診しよう リハビリを続けても症状が改善しない場合や、しびれ・脱力が強まる場合は、骨化の進行が疑われます。放置すると神経障害が固定化する恐れがあります。そのため、早期の受診が重要です。 医療機関では画像検査や神経評価を行い、手術や再生医療を含めた治療方針を提案します。自己判断での中断や過度な運動は避け、医師の指導のもと適切に進めることが大切です。 リハビリで改善しない後縦靭帯骨化症についてお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、後縦靭帯骨化症に対して再生医療を用いた治療を行っています。 後縦靭帯骨化症に対する再生医療は、患者自身の幹細胞を用いて損傷した組織の修復を促し、身体に備わる治癒力を高めることで改善を図る治療法です。細胞レベルでの再生を後押しすることで、神経症状の緩和や機能回復につながる可能性があり、従来の治療に加わる新たな選択肢です。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 後縦靭帯骨化症のリハビリに関するよくある質問 後縦靭帯骨化症はカイロプラクティックで治せますか? 後縦靭帯骨化症(OPLL)は、カイロプラクティックのみで治療できる疾患ではありません。 靭帯が骨化して脊柱管を狭め、脊髄や神経根を圧迫する構造的な病態であり、進行する可能性もあります。 そのため、治療の中心は整形外科による保存療法や、症状に応じた手術療法の検討が必要です。カイロプラクティックは補助的に利用されることはありますが、単独での治癒は期待できません。 後縦靭帯骨化症は指定難病ですか? 後縦靭帯骨化症(OPLL)は指定難病に該当し、一定の条件を満たせば医療費助成の対象になります。 助成を受けるには、画像検査で骨化が確認され、神経障害による運動機能障害が日常生活に支障をきたす、または重症度分類に該当することが必要です。なお、手術を行う場合は、これらの条件に当てはまらなくても助成が認められるケースがあります。(文献11) 後縦靭帯骨化症は国の支援制度を適用できますか? 後縦靭帯骨化症(OPLL)は国の指定難病に該当し、条件を満たせば医療費助成などの公的支援を利用できます。 医療費助成は自動的には受けられず、画像検査での骨化確認、日常生活に支障をきたす神経症状や運動機能障害の有無、医師の診断書を含む申請書類の提出、自治体での手続きが必要です。 後縦靭帯骨化症(OPLL)で受けられる支援の詳細は、以下のとおりです。 支援項目 詳細 難病医療費助成制度 重症度基準該当時の医療費上限設定、自己負担軽減 障害者手帳・障害年金 税控除・交通機関割引などの各種支援、条件満たす場合の障害年金受給 リハビリの日数制限の除外 医療保険でのリハビリ継続利用、発症後150日制限の対象外 申請に必要な手続き 医師の診断書提出、自治体窓口での申請手続き 支援制度の適用を検討する際は、主治医またはお住まいの市区町村の保健福祉窓口へ相談することが大切です。 参考文献 (文献1) A Randomized Controlled Trial for the Intervention Effect of Early Exercise Therapy on Axial Pain after Cervical Laminoplasty|PMC PubMed Central® (文献2) 後縦靭帯骨化症のケア|健康長寿ネット (文献3) [Updates on ossification of posterior longitudinal ligament. Quality of life (QOL) of patients with OPLL]|PubMed® (文献4) Different standing postures are the influencing factors for the efficacy of laminoplasty in the treatment of K-Line (−) patients with ossification of the posterior longitudinal ligament|Springer Nature Link (文献5) Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament: A Review of Literature|PubMed® (文献6) 運動負荷と記録で科学的なトレーニングを実現する歩行トレーニングロボットとその事例|(46)医機学 Vol.92,No5(2022) (文献7) Effects of cervical rotatory manipulation on the cervical spinal cord complex with ossification of the posterior longitudinal ligament in the vertebral canal: A finite element study|frontiers (文献8) Conservative management of ossification of the posterior longitudinal ligament|Neurosurg Focus 30 (3):E2, 2011 (文献9) Conservative Treatment and Surgical Indication of Cervical Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament|PubMed® (文献10) 神経ブロック療法で治療を行った頸椎後縦靭帯骨化症8症例について (文献11) 後縦靱帯骨化症(OPLL)(指定難病69)|難病情報センター
2025.12.13 -
- ひざ関節
- 膝部、その他疾患
寒い冬になると、膝の痛みを訴える方が多くなります。 気温の低下により血行が悪くなり、筋肉や関節に負担がかかることで、既存の膝疾患が悪化しやすくなるのが原因です。 本記事では、寒さによる膝痛のメカニズムをはじめ、年代別の原因や悪化しやすい疾患、予防と対処法を詳しく解説します。 この記事を読むことで、ご自身の年代や症状に合った対策を知り、冬でも快適に過ごすためのヒントが得られます。 寒い時期の膝の痛みでお悩身の方は、ぜひ参考にしてください。 なお、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、膝の治療の選択肢である再生医療の情報の提供と簡易オンライン診断を行っていますので、ぜひご登録ください。 寒い時期に膝が痛いのはなぜ? 気温の低下は身体にさまざまな影響を与え、寒い時期になると膝に痛みを感じる方も少なくありません。 ここでは、寒さで膝が痛くなる主な3つの要因について解説します。 血行不良で痛くなる 寒さが厳しくなると、体温を保とうとして血管が収縮して血液の流れが滞り、膝関節やその周囲の筋肉・靭帯に十分な酸素や栄養を届けられなくなります。 さらに、老廃物が蓄積されやすくなるため、神経を刺激して痛みの原因となるのです。 とくに慢性的な膝痛を抱える方は、血行不良によって痛みが悪化するリスクが高まります。 寒い時期に膝が痛くなるなら、暖かい服装や入浴によって体を温め、血流を促進するように心がけましょう。 筋肉が硬くなって痛くなる 低温環境では、筋肉の柔軟性が低下します。 寒さによって筋肉が収縮し硬直すると、関節の動きが制限され、膝に負担がかかりやすくなるのです。 とくに、太ももやふくらはぎなど膝を支える筋肉の柔軟性が失われると、日常の動作で膝関節にかかる衝撃を吸収できず、痛みにつながります。 冷え対策としてストレッチや軽い運動を日常的に取り入れるなど、筋肉の柔軟性を維持しましょう。 膝関節への負担が増えて痛くなる 筋肉の硬直と血行不良が重なると、膝関節にかかる負担がさらに大きくなります。 寒さで可動域が狭くなり、歩行や階段の昇降といった動作一つひとつが膝関節への負荷を増やしてしまうのです。 また、寒さによって姿勢が悪くなったり、体を縮こませて動くようになったりすることも、関節の使い方に偏りが生じて痛みを助長する要因となります。 膝を冷やさないようにサポーターなどを活用し、関節への負荷を軽減する工夫が必要です。 【年代別】寒い時に膝が痛くなる原因 寒い季節になると膝の痛みを訴える人が増えますが、原因は年齢によって異なります。 ここでは、10代から50代以上までの年代別に、寒さで膝が痛くなる原因を見ていきましょう。 10~20歳代で膝が痛む原因 10代から20代にかけての若年層が寒い時期に膝が痛くなる原因の多くは、運動によるオーバーユース(使いすぎ)や成長期特有の関節の不安定さにあります。 寒さによって筋肉が硬直しやすくなると、運動時に膝関節への負荷が増加し、関節の不安定さとあいまって炎症を起こしやすくなるのです。 とくに、部活動でスポーツをしている学生は、寒い中での準備運動不足が原因で痛みを訴えるケースが多く見られます。 ウォーミングアップとクールダウンをしっかり行うなど、関節と筋肉を冷やさない工夫が大切です。 30~40歳代で膝が痛む原因 30代から40代では、仕事や育児による身体的負担と運動不足が重なり、膝への慢性的なストレスが蓄積されやすい年代です。 筋力の低下が始まる時期でもあり、寒さによって筋肉の柔軟性が失われると、膝関節にかかる負担が増大します。 さらに、体重の増加や姿勢の乱れも膝の痛みを引き起こす要因です。 日頃からの体調管理とストレッチ、膝周囲の筋肉強化を心がけましょう。 50歳以上で膝が痛む原因 50歳以上の方は、加齢に伴う関節軟骨のすり減りや、変形性膝関節症が寒さによってさらに悪化する傾向にあります。 血行不良により関節周囲の代謝が低下し、痛みが顕著に出やすくなるのです。 また、長年の膝への負荷や運動不足により、関節の動きが制限されると同時に、冷えによって神経が過敏になって痛みを感じやすくなります。 関節を温めるだけで不十分な場合は、整形外科での検査を受けるなど早期の対処が重要です。 なお、50歳以上の方に多く見られる変形性膝関節症に対しては、再生医療が治療法の選択肢となるケースがあります。変形性膝関節症における再生医療の治療例については、以下の症例記事をご覧ください。 寒くて膝が痛いと悪化しやすい疾患 寒さが厳しい時期には、ただの膝の冷えや違和感では済まされない場合があります。 冬の寒さが原因で、膝の痛みを誘発・悪化させる疾患があるため注意が必要です。 ここでは、主な膝の疾患別に、寒さで悪化する理由と対処法を解説します。 変形性膝関節症 変形性膝関節症は、加齢や膝の酷使によって関節の軟骨がすり減ることで、炎症や痛みを伴う疾患です。 寒さにより血管が収縮すると関節周囲の血行が悪化し、軟骨の修復が進まず炎症が慢性化しやすくなります。 また、冷えによって筋肉や靭帯が硬くなると関節への負荷が高まるため、痛みが強まりやすいのです。 予防には、膝周囲の筋力維持と膝を冷やさない防寒対策が有効とされています。 以下の記事では、変形性膝関節症に対する再生医療の体験談をご紹介していますので、膝の痛みで悩んでいる方は参考にしてみてください。 関節リウマチ 関節リウマチは自己免疫疾患の一種で、関節を包む膜の内側にある滑膜(かつまく)に炎症が起こり、進行すると関節が変形する病気です。 寒さによって血流が低下すると、関節の腫れや痛みが悪化するリスクが高まります。 リウマチの症状は朝のこわばりや気温差によっても左右されやすいため、とくに冬場は注意が必要です。 体温を保ち、冷えを避けることが日常の管理において重要なポイントとなります。 関節リウマチの初期症状・原因・診断・治療に関しては、以下の記事でも解説しているのでご覧ください。 半月板損傷・靭帯損傷 半月板や靭帯の損傷は、スポーツや転倒による外傷が主な原因ですが、寒さが痛みを強めるケースがあるため注意しなければなりません。 とくに、冬季は筋肉が硬直しやすく膝関節の可動域が狭まるため、既存の損傷部位への負担が大きくなります。 また、寒さにより神経の過敏性が高まると、軽度の損傷でも痛みを強く感じるケースが少なくありません。 患部の保温と、リハビリの継続が再発予防につながります。 半月板損傷の原因や症状、治療法については以下の記事で詳しく解説しています。 ベーカー嚢腫(のうしゅ) ベーカー嚢腫とは膝裏にできる袋状の腫れで、膝関節内の滑液が関節包の後方にたまって生じます。 寒さによって血流が低下すると滑液の循環も滞りやすくなり、嚢腫が大きくなるリスクが高まるため注意が必要です。 また、寒冷によって関節周囲の筋肉や靭帯が硬くなると、膝裏に圧迫感や違和感を感じやすくなり、嚢腫による痛みや可動域制限が顕著になります。 ベーカー嚢腫は変形性膝関節症や関節リウマチと併発しやすいため、寒い時期はそれらとの関連性も踏まえた管理が必要です。 温熱療法や弾性包帯による圧迫など、医師の診断に基づく対処が推奨されます。 寒い時期に膝が痛い場合の対処方法 冬になると冷えや筋肉の緊張、血行不良などが原因で膝関節や周囲の組織に負担がかかりやすく、膝の痛みが強くなるという方が少なくありません。 ここでは、寒さによる膝の痛みに対して効果的な5つの対処法をご紹介します。 冷やす・温める 膝の痛みに対しては、症状に応じた冷却と温熱の使い分けが重要です。 急性の炎症がある場合には、まず冷やすことで腫れや熱感を抑えましょう。 寒さによる筋肉のこわばりや血行不良が原因の場合には、温めることが有効です。 とくに冬場は、温熱療法を中心に入浴や温湿布、電気毛布などで膝を温め、痛みを緩和しましょう。 湿布で痛みを緩和する 湿布は、膝の痛みや違和感を効果的に緩和するのに役立ちます。 冷感タイプの湿布は炎症が強い急性期に、温感タイプの湿布は慢性的な血行不良や筋肉のこわばりがあるときに有効です。 湿布に含まれる消炎鎮痛成分が皮膚から浸透し、痛みの原因物質を抑える作用を発揮します。 ただし、膝の痛みで通院しているなら、市販品を使用する場合でも自己判断せず、医師や薬剤師に相談しましょう。 ストレッチする 寒さで筋肉が緊張すると、関節の可動域が狭まり膝への負担が増加します。 痛みが慢性化するのを防ぐには、ストレッチを行って筋肉を柔らかく保つことが効果的です。 太ももの前側(大腿四頭筋)や裏側(ハムストリングス)、ふくらはぎの筋肉を中心に、毎日少しずつ無理のない範囲で伸ばしましょう。 太ももとふくらはぎのストレッチの一例をご紹介します。 【太もものストレッチ】 1.横向きに寝て姿勢をまっすぐに保つ 2.下の腕で枕を作る 3.上側の膝を曲げ、手で足首をつかむ 4.かかとをおしりに近づけて太ももの前を伸ばす 5.20秒キープ。左右入れ替えで合計2セットが目安 【ふくらはぎのストレッチ】 1.壁の前に立ち、両手を壁につける 2.伸ばしたい方の脚を後ろに引く 3.後ろ脚の膝を伸ばしたまま、かかとを床にしっかりつける 4.前脚の膝を曲げながら、体重を前にかける 5.後ろ脚のふくらはぎが伸びるのを感じながら20〜30秒キープ これらのストレッチは、筋肉の柔軟性を高めて血行促進にも寄与します。 サポーターで膝を安定させる サポーターは膝関節の動きを安定させ、関節への過度な負担を軽減する効果があります。 寒い日は筋肉が硬くなって関節が不安定になりやすいため、物理的な支えとして有効です。 また、サポーターには保温効果もあるため、冷え対策としても活用できます。 ただし、長時間の装着は血流を妨げる恐れがあるため、使用時間やフィット感の調節に注意が必要です。 テーピングで固定する テーピングは、膝関節を保護する方法として有効です。 膝周囲の筋肉や靭帯の動きを補助し、不安定な動作を抑えて痛みを軽減する効果が期待されます。 また、関節の動きを制限することで無意識のうちに負担が集中するのを防ぎ、再発防止にもつながります。 ただし、正しい巻き方を習得する必要があるため、はじめて使用する際は理学療法士や整骨院など専門家の指導を受けると良いでしょう。 寒い時期に膝の痛みを予防する方法 冬になると膝の痛みが悪化しやすくなりますが、日常生活の中で意識的に対策を講じることで予防可能です。 ここでは、寒い季節に膝の痛みを防ぐために有効な方法を6つの視点から解説します。 関節を冷やさないように気を付ける 膝関節が冷えると血流が滞り、筋肉や靭帯が硬くなって痛みやすくなります。 とくに冬場は、外出時に膝を露出する服装や素足で過ごすのを避けるべきです。 保温性の高いレッグウォーマーや膝用サポーターを着用するほか、就寝中の冷え対策として膝掛けや毛布を活用しましょう。 関節の冷えを防げば、炎症の悪化や慢性的な痛みのリスクを大きく減らせます。 入浴で筋肉の緊張を和らげる 寒さによって筋肉が収縮すると膝関節にかかる負担が増し、痛みが生じやすくなります。 毎日の入浴は筋肉を温めて緊張をほぐすだけでなく、血行を促進して膝痛の予防に有効です。 とくに、湯船にゆっくりと浸かると副交感神経が優位になり、リラックス効果も得られます。 10~15分ほどを目安に、湯船に浸かる習慣を取り入れてみましょう。 適度に運動する 運動不足になると膝を支える筋力が低下し、関節に直接的な負担がかかりやすくなります。 ウォーキングや軽いスクワットなどの運動を習慣化すると、血流も促進されて関節の健康が保たれます。 運動前後にストレッチを取り入れるなど、筋肉を柔軟に保つ工夫も大切です。 無理のない範囲で継続し、膝痛の予防につなげていきましょう。 長時間同じ姿勢を続けない デスクワークやテレビの視聴などで、長時間同じ姿勢を続けると血流が悪くなり、関節や筋肉に疲労が蓄積されやすくなります。 膝の痛みやこわばりにつながる原因となるため、1時間に1回は立ち上がって体を動かしましょう。 冬場は室内でも冷えを感じやすいため、意識的に姿勢を変えたり、軽い屈伸運動を取り入れたりすると効果的です。 締め付けの強い下着を身に着けない 冬の寒さ対策として着用する防寒下着やタイツが、かえって膝周囲の血流を妨げている場合があります。 締め付けの強い衣類は膝関節に圧迫を与え、筋肉や神経の働きを阻害する恐れがあるため注意が必要です。 防寒性と通気性のバランスを考慮し、膝にやさしい素材と適度なフィット感を備えた衣類が適しています。 日常の衣服選びにも注意を払い、痛みの予防につなげましょう。 バランスの取れた食生活を心がける 膝の健康を保つためには、関節や筋肉の組織を構成する栄養素の摂取が欠かせません。 ビタミンCやビタミンD、カルシウム、たんぱく質などは、軟骨や骨の維持、免疫力の強化に関わる栄養素です。 意識的に栄養バランスの良い食事を心がけることで、膝の炎症や劣化を防ぐ効果が期待できます。 膝が痛む疾患に「再生医療」という選択肢 膝の痛みを引き起こす疾患には変形性膝関節症や半月板損傷、関節リウマチなどがあり、いずれも関節や軟骨の損傷・炎症が主な原因です。 これらの疾患に対しては、保存療法や手術以外に「再生医療」という選択肢があります。 再生医療は、自己の幹細胞やPRP(多血小板血漿)を活用し、組織の修復機能や炎症反応に働きかける治療法です。 低侵襲で体への負担が少なく。手術に抵抗がある方や他の治療で効果が得られなかった方の治療法のひとつとなっています。 膝の疾患で悩んでいる方は、再生医療も治療法としてご検討ください。 以下のページでは、再生医療の詳細や症例が確認できます。 まとめ|膝痛を悪化させないように注意しよう 寒い季節は膝関節に負担がかかりやすく、痛みが悪化する原因が多く潜んでいます。 日常生活での冷え対策や適度な運動、食事管理を意識し、膝の健康を保つ心がけが大切です。 すでに痛みがある場合には早めに医療機関を受診し、悪化する前に対処しましょう。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、膝の疾患の治療で行われている再生医療に関する情報の発信や簡易オンライン診断を実施しています。 膝の痛みでお悩みの方は、ぜひご登録ください。
2025.12.13 -
- 肩関節、その他疾患
- 肩関節
「肩こりは温めると良いと聞いたのでカイロを貼っているが、効果がわからない」 「カイロを貼っても、肩こりが和らぐのは一時的」 「カイロを効果的に使って、肩こりを和らげたい」 慢性的な肩こりにお悩みの方の中には、このようにお考えの方もいらっしゃることでしょう。 カイロは肩こりにおける有効なセルフケアの1つですが、正しい使い方や注意点を理解する必要があります。 本記事ではカイロで肩こりが和らぐ仕組みや、カイロを使った肩こり改善法を中心に解説します。 より効果的に肩こりを緩和できる方法も紹介しておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 カイロを始めとする肩こりのセルフケアを詳しく知りたい方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 カイロの活用と肩こりの関係性 この章では、以下の内容を解説します。 カイロで肩こりが和らぐ仕組み カイロによる肩こり改善の利点と注意点 カイロで肩こりが和らぐ仕組み カイロは身体を局所的に温めるもので、温熱療法の1つに含まれます。 肩こりの主な原因は、血流の悪化と筋肉の緊張です。血流が悪化すると老廃物や疲労物質がたまり、筋緊張が高まります。 とくに冬は、寒さによって血流悪化や筋緊張を引き起こしやすく、肩こりの発症や悪化が多い時期です。 温熱療法では以下のような効果が期待できます。(文献1)(文献2) 皮膚温度の上昇 関節内および筋肉の温度上昇 血管拡張による血流改善 筋肉疲労軽減 血流改善により老廃物がスムーズに排出され、その結果筋緊張が和らぎ、こりや痛みが軽減されることが温熱療法の仕組みです。 冬に肩こりが起きやすい理由については以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 カイロによる肩こり改善の利点と注意点 カイロによる肩こり改善の主な利点は、手軽に温熱療法を行えることです。 温熱療法は、筋骨格系の痛みや傷に対する薬を使わないアプローチの1つであり、身体の浅い部分にも深い部分にも適用可能です。カイロは、体の浅い部分に対する温熱療法に含まれます。 カイロ使用時の注意点は、長時間使用による低温やけどのリスクです。電気温熱パッドやホットパック、床暖房などでも、低温やけどが生じやすいとされています。(文献3) もう1つの注意点は、肩こりの原因によってはカイロを使うと悪化する可能性があることです。炎症および外傷による肩の痛みやこりの場合、温めると悪化する可能性があります。カイロ使用前には、必ず肩こりの原因を確認しましょう。(文献4) カイロを含めた温熱療法については、以下の記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 カイロを使った肩こり改善法 カイロを使って肩こりを改善するためのポイントは、主に以下の3点です。 肩こりに効果的なカイロを貼る場所 カイロを使う時間と低温やけど予防のポイント 妊娠中や高齢者のカイロ使用における注意点 肩こりに効果的なカイロを貼る場所 肩こりに効果的なカイロを貼る場所は、肩甲骨まわりや首の付け根です。 肩甲骨回りには、僧帽筋や肩甲挙筋、菱形筋(りょうけいきん)などの筋肉が存在しています。いずれも、頭や両腕を支える役割を果たすため、負担が大きくこりやすい筋肉です。そのため肩甲骨回りは、肩こりを引き起こしやすい部位です。 肩甲骨回りの筋肉をあたためると、血流がよくなったり筋肉の緊張が和らいだりするため、肩こり改善につながります。 首の付け根には、僧帽筋の上部繊維と呼ばれる部分や肩甲挙筋に加えて、太い血管も存在しています。この部分を温めると血液循環が良くなるため、肩こり改善が期待できるのです。 カイロを使う時間と低温やけど予防のポイント カイロを使う時間は、1回につき4〜6時間程度が目安です。長時間使用は低温やけどのリスクがあるため、避けましょう。就寝時の使用も避けてください。 低温やけどは、心地良いと感じる温度(40~50℃程度)に長時間皮膚が接した結果生じるやけどです。42℃のものに6時間接触していると、細胞が変化するとの報告もあります。(文献5) 低温やけどは、高温のものに触れたときよりも自覚症状が現れにくい点が特徴です。そのため、気づかないうちに皮膚の奥まで損傷しているケースも少なくありません。 カイロによる低温やけどを防ぐため、必ず下着やインナーウェアの上からカイロを貼ってください。 低温やけどのリスクは、温度と接触時間の組み合わせによって変わります。化学製品PL相談センターの報告では、44℃では3〜4時間以上、46℃では30分〜1時間程度で低温やけどが発生する可能性があると示されました。(文献6)これらを考慮して、カイロを使用するときは、1〜2時間おきに肌の状態を確認しましょう。 妊娠中や高齢者のカイロ使用における注意点 妊娠中の方がカイロを使用するときは、背中や腰など、お腹以外に貼るようにしましょう。お腹を温め過ぎると汗が出てしまい、結果として身体を冷やすリスクがあるためです。 高齢者は皮膚が薄く、皮膚感覚も鈍くなっているため、低温やけどを起こしやすく重症化しやすい状況です。(文献7) カイロを長時間使用すると、低温やけどを引き起こす可能性があります。妊娠中の方や高齢者の方も、使用方法や注意書きをよく守ってご使用ください。 カイロを日常生活に取り入れて肩こりを緩和させる工夫 この章では、以下の内容について解説します。 デスクワークや家事の合間でカイロを取り入れる方法 外出時に役立つカイロの使い方 肩こりを悪化させない生活習慣との組み合わせ デスクワークや家事の合間で取り入れる方法 デスクワークで肩や首のこりを感じたときには、首の付け根や肩甲骨の内側にカイロを貼ってみましょう。血流改善や筋緊張緩和の効果が期待できます。 冷房の効いた環境で肩が冷えた場合も、肩にカイロを貼ると良いでしょう。冷えからくる肩こりの改善に役立ちます。 家事の合間や立ち仕事の後にもカイロの使用がおすすめです。洗濯や掃除、料理などの家事や立ち仕事では前かがみの姿勢になることが多く、筋肉もこわばりやすくなります。 デスクワークのときと同様に、首の付け根や肩回りにカイロを貼ると良いでしょう。血流を促され、筋肉疲労の回復に役立ちます。 首肩用の温熱グッズとカイロを併用するのもおすすめの方法です。 外出時に役立つカイロの使い方 外出時にカイロを使う場合も、首の後ろから肩にかけての部分にカイロを貼りましょう。肌に直接貼るのではなく、下着やインナーウェアの上から貼るようにしてください。 貼らないタイプのカイロであれば、マフラーやネックウォーマーのポケットに入れるのも効果的です。冷たい風の侵入を防ぎながら、肩から首の血行を促進できます。 腰にカイロを貼ると、上半身全体の冷えを防げます。温熱効果が腰から上に広がるため、肩回りの筋緊張予防や緩和にもつながるでしょう。 貼らないタイプのカイロを上着やコートのポケットに入れて手先を温めるのもおすすめです。手先を温めると全身の緊張がほぐれるため、肩こり予防の間接的な効果が期待できます。 肩こりを悪化させない生活習慣との組み合わせ 肩こりを悪化させないためには、ストレッチや軽い体操もおすすめです。カイロの温熱効果で筋肉が柔らかくなったタイミングで軽く動かすと、血流が促進されやすくなります。 首回しや肩甲骨回し、背伸びなどを、無理のない範囲で取り入れるのがポイントです。 肩こり予防のためには、正しい姿勢を取ることや長時間同じ姿勢を取らないことを心がけてください。姿勢を整えることで、筋肉の緊張を軽減できます。1時間に1回程度、姿勢をリセットする時間をとると望ましいでしょう。 カイロの使用は、あくまでも補助的なセルフケアであると考えておきましょう。 カイロで一時的に肩こりは緩和できますが、根本的な解消のためにはストレッチや姿勢改善などの工夫が欠かせません。 温めて肩こりを緩和しつつ、根本対策も意識するといったバランスが必要です。 「カイロ」と「カイロプラクティック」の違い カイロは温熱グッズの1つであり、カイロプラクティックは背骨や骨盤の矯正を目的とした施術です。 この2つは語感が似ているため混同されやすいものですが、まったく異なるものであると認識しておきましょう。 カイロプラクティックの特徴 カイロプラクティックは、背骨や骨盤の矯正を目的とした手技療法です。神経や筋肉への圧迫を和らげるアプローチが中心の施術であり、いわゆる「医業類似行為」にあたります。 カイロプラクティックの施術者の資格は、国家資格ではなく民間資格です。 厚生労働省の「医業類似行為に対する取扱いについて」では、カイロプラクティックが適切ではない疾患として、以下のものがあげられています。(文献8) 腫瘍性疾患 出血性疾患 感染性疾患 リュウマチ 筋萎縮性疾患 心疾患 加えて、手技によって症状が悪化する頻度が高いとされる疾患も、カイロプラクティック実施が適切ではないと記されています。 例を挙げると、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、骨粗しょう症などです。 肩こりにおけるカイロとカイロプラクティックの使い分け カイロは、自宅でのセルフケアや寒さ対策に有効です。これに対しカイロプラクティックは、骨格の調整や慢性症状の軽減を目的とした施術です。 両者はアプローチも役割も異なるため、目的に応じて使い分けましょう。カイロを使った温熱ケアを試しつつ、必要に応じてカイロプラクティック施術を活用するのも一つの方法です。 カイロおよびカイロプラクティックを活用しても症状が長引いたり強くなったりする場合は、医療機関を受診して原因を明確にしましょう。 カイロを適切に活用して肩こりの緩和を目指そう カイロは血行促進や筋肉の緊張緩和に役立ち、肩こり緩和の一助となります。しかし、長時間貼り続けたり皮膚に直接貼ったりすると、低温やけどのリスクがあります。 カイロは使用方法や注意書きを守って正しく使用しましょう。 カイロを正しく使いつつ日常生活を工夫することで、効果的な肩こりケアが期待できます。 カイロと似た言葉がカイロプラクティックです。しかし、両者の意味はまったく異なります。カイロプラクティックは、背骨や骨盤の矯正を目的とした施術です。 カイロを適切に活用しても肩こりが長引いたり、強い痛みやしびれを伴ったりする場合は、自己判断せず医療機関を受診しましょう。 医師の診察を受けることで、肩こりの背景に潜んでいる病気の有無がわかります。 当院リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。肩こりにお悩みの方は、お気軽にご相談ください。 カイロの活用と肩こりに関するよくある質問 肩こりでカイロを使う場合寝るときに貼っても良いですか? 寝るときにカイロを貼ることは望ましくありません。体の同じ場所に長時間カイロを貼り続けると、低温やけどを発症する可能性があるためです。 また、寝ている間は熱さや皮膚の異変に気づきにくいため、仮に低温やけどを発症した場合も発見が遅れるリスクがあります。 このような理由があるため、寝るときのカイロ使用は控えましょう。 肩こりは冷やすと温めるどちらが良いですか? 慢性的な肩こりの場合は温める、急性期の肩こりで炎症を起こしているものは冷やすと覚えておきましょう。急性期とは、痛みが生じてすぐの時期です。 急激に肩を使ったために肩が炎症を起こしている場合は、冷やす方が望ましいといえます。炎症が起きているときに温めると、かえって炎症が悪化する可能性があります。 急な肩こりはなんらかの疾患が隠れている可能性があるため、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。 急な肩こりの危険性についてはこちらの記事でも解説しています。あわせてご覧ください。 参考文献 (文献1) Thermotherapy Plus Neck Stabilization Exercise for Chronic Nonspecific Neck Pain in Elderly: A Single-Blinded Randomized Controlled Trial|PubMed Central (文献2) Local Heat Applications as a Treatment of Physical and Functional Parameters in Acute and Chronic Musculoskeletal Disorders or Pain|SciencesDirect (文献3) Early Intervention for Low-Temperature Burns: Comparison between Early and Late Hospital Visit Patients|PubMed Central (文献4) Potential Risks and Contraindications of Heat Therapy|Spine-health (文献5) 熱傷(やけど)に関する簡単な知識|一般社団法人日本熱傷学会 (文献6) 低温やけどに注意|化学製品PL相談センター (文献7) 高齢者のやけどに御注意ください!|消費者庁 (文献8) 医業類似行為に対する取扱いについて|厚生労働省
2025.12.13 -
- 肩関節、その他疾患
- 肩関節
「冬になると肩こりがひどくなる」 「肩こりの原因は何だろう」 「実は何かの病気ではないか」 このようにお考えの方も多いことでしょう。 冬は寒さで血行が悪くなったり、筋肉が硬くなったりするために肩こりが起きやすい季節です。また冬の室内環境の影響で肩こりが生じる場合もあります。 本記事では、冬特有の肩こりの原因やセルフケア、受診が必要な症状などについて解説します。 冬に向けた肩こり対策がわかりますので、ぜひ最後までご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 冬の肩こりが気になる方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 冬に肩こりが起こりやすい原因 冬に肩こりが起こりやすくなる、または悪化しやすくなる原因は主に以下の4点です。 冷えによる血行不良と筋肉のこわばり 寒さによる姿勢の変化 自律神経の乱れとストレスの影響 室内環境の影響 冷えによる血行不良と筋肉のこわばり 冬になると、寒さの影響で肩周辺の筋肉である僧帽筋がこわばり、肩こりが起こりやすくなります。 僧帽筋は、首の後ろから肩、背中にかけて広がる筋肉です。 寒さによって筋肉が血行不良を起こすと、新陳代謝が低下します。その結果、疲労物質が筋肉にたまり、こわばりを引き起こします。 筋肉のこわばりにより生じる現象が、血管および末梢神経の圧迫です。血管が圧迫されると血流が低下し、さらに筋肉がこわばるという悪循環が生じます。この悪循環により末梢神経がダメージを受けた結果、こりやしびれなどが生じます。 肩こりとは、疲労やストレスによって肩およびあごの筋肉が緊張し、硬くなった状態です。 2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況によると、男性は人口千人に対して53.3人、女性は人口千人に対して105.4人が肩こりを訴えています。(文献1) 下記の記事で、肩こりの治療や予防などについて詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 寒さによる姿勢の変化 寒くなると、冷えが原因で身体が震えてしまい、肩をすくめる姿勢が増えます。これも肩こりの一因です。 人の体は震えることで筋肉を収縮させ、熱を生み出そうとしています。冷えると身体が震えるのはそのためです。 肩をすくめている姿勢は、言い換えると、肩に力が入った姿勢です。この姿勢が長時間続くと筋肉に無理な負担がかかり、疲れやすくなります。 無理な姿勢は、肩が冷えたときと同様に筋肉の血行不良を引き起こし、結果として肩こりにつながります。 自律神経の乱れとストレスの影響 冬は寒くなったり寒暖差が大きくなったりするため、身体が急激な温度変化に対応できず、自律神経が乱れやすい時期です。自律神経には交感神経と副交感神経があり、冬は交感神経が優位な状況にあります。 冬の寒さや寒暖差は身体にとって大きなストレスです。ストレスが強い状況でも、交感神経が優位になります。 また、冬になると血管を収縮させたり心臓の動きを早めたりして体内で熱を産生します。血管収縮や心拍数増加は、交感神経のはたらきによるものです。 交感神経が優位になると筋肉の緊張や血流の変化が生じ、肩こりに影響を及ぼします。 室内環境の影響 冬特有の室内環境としてあげられるものが暖房です。暖房をつけると空気が乾燥するため、呼吸が浅くなります。 乾燥した空気は、異物を外に出す機能やウイルスから身を守る機能を低下させます。(文献2)浅い呼吸は、乾燥した空気をなるべく肺に入れないようにするための防御反応です。 浅い呼吸は身体を防御する反面、肩こりをはじめとする筋肉のこわばりを引き起こします。 呼吸が浅いと、筋肉の細胞が酸素不足になるため、呼吸数が増加します。呼吸数の増加は、肩や首周りの筋肉に負担をかける因子の1つです。 加えて、浅い呼吸は交感神経を優位にします。交感神経優位の状況は筋緊張や血流の変化につながり、肩こりに影響を及ぼします。 冬の肩こりでよく見られる症状 冬の肩こりでよく見られる症状は、頭痛やめまい、吐き気などです。睡眠の質低下や全身の疲労感が生じる場合もあります。 頭痛やめまい、吐き気 肩こりのある方に起こりやすい頭痛は「緊張性頭痛」と呼ばれるものです。(文献3)肩や首周りの筋緊張が高まり、血流障害や神経痛が生じるために起こるとされています。頭痛以外の症状は、めまいや吐き気、手のしびれなどです。 緊張性頭痛は、精神的ストレスや天候の変化などでも悪化します。 緊張性頭痛のほかにも、さまざまな種類の頭痛があります。主なものを以下に示しました。 片頭痛 群発頭痛 脳血管疾患による頭痛 脳血管疾患による頭痛は、命に関わる場合もあります。肩こりに加えて、頭痛や吐き気が続く場合は、放置せずに医療機関を受診しましょう。 睡眠の質低下および全身の疲労感 肩こりは、肩や首の筋肉が緊張している状態です。筋肉の緊張によりリラックスできず、眠りも浅くなりがちです。肩こりがあると眠っているときも不快感があり、気持ちよく眠れないこともあります。寝返りが打ちづらくなり、睡眠中何度も目が覚める場合もあります。 その結果、もたらされるものが睡眠の質低下です。睡眠の質が低下すると眠りも浅くなり、疲労が蓄積されます。疲労の蓄積は日中の集中力低下や倦怠感を招き、慢性疲労につながります。 韓国の論文では、首や肩の痛みがひどいほど、また肩の動きが不自由なほど、ミドルエイジ(35歳から64歳まで)女性の睡眠の質が低下するとの結果が示されました。(文献4) 【悪化する?】冬の肩こりを放置した際に起こりうるリスク 冬に肩こりを放置すると、慢性化および自律神経への悪影響といったリスクが起こりえます。本章では、それぞれのリスクについて詳しく解説します。 肩こりの慢性化 寒さが続く冬は血流がとどこおり、筋肉の硬直が続きがちです。そのため、肩こりが改善しにくく慢性化しやすい状況です。 マッサージや湿布でケアしても、改善は一時的なケースも少なくありません。 ノルウェーの論文では、肩のこりや痛みがある方は、筋肉・血管の反応性が低下し、痛みが長引きやすい体質になるとのデータが示されました。(文献5) 肩こりの慢性化は、自律神経の乱れを引き起こす可能性があります。日本の研究者による論文では、肩こりを含めた慢性的な筋肉や骨格の痛みは、自律神経の乱れや仕事の生産性低下に影響するとのデータが示されました。(文献6) 自律神経への影響 肩こりや痛みといった症状は身体にとって大きなストレスであり、自律神経を乱す原因の1つです。 肩の痛みや肩関節周囲炎がある方は、自律神経が乱れやすいとの研究データも存在しています。(文献7)肩関節周囲炎、いわゆる五十肩の主な症状は肩関節の痛みや可動域制限(関節の動きが悪くなること)です。 冬の寒さや寒暖差による身体へのストレスも、自律神経の乱れにつながります。そのため、冬は肩こりによって自律神経が乱れる時期といえるでしょう。 自律神経の乱れは、イライラや胃腸の不調、睡眠の質低下など全身にさまざまな悪影響をもたらします。 冬の肩こりを改善・予防するためのセルフケア 肩こりのセルフケアとしてあげられるものは、主に以下のとおりです。 温熱ケア 肩回りの運動 室内環境の整備 生活習慣の改善 温熱ケア 温熱ケアは血行促進や筋緊張の緩和をもたらし、肩こりの改善・予防につながります。 肩の痛みや機能障害を有する患者に高周波治療用深部温熱装置を用いたところ、痛みの軽減や機能回復が認められたとの結果が示されました。(文献8)また、肩関節周囲炎患者に対し、ストレッチと深部加温を実施したところ、ストレッチと表面加温のグループよりも痛みが軽減されたとのデータも存在します。(文献9) 温熱ケアの具体的な方法は、主に以下のとおりです。 入浴で全身を温める 蒸しタオルで肩周囲をピンポイントに温める カイロを肩甲骨まわりに貼る カイロの長時間使用は、低温やけどのリスクがあるため控えましょう。 カイロを使った肩こりのケア方法については、以下の記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 肩回りの運動 肩甲骨を動かすストレッチや肩回しは、肩こりのケアとして有効です。肩回りを動かすことで、血流改善や筋肉の柔軟性向上、こりの予防などの効果が期待できます。 温熱療法とストレッチの併用で、肩の痛みが軽減されたとの研究データもあります。(文献9) 具体的な運動の例を以下に示しました。 両肩を前後に大きく回す 両手を肩に当てて、円を描くように動かす 肩をすくめた後、ストンと落とす 強い痛みが出ない範囲で、続けて行うことをオススメします。 室内環境の整備 室内環境で大切なのは、室温と湿度です。湿度を一定に保ち乾燥を防ぐと呼吸が深くなり、肩や首周りの筋肉の負担軽減につながります。 冬の室内は、温度20〜23℃、湿度40〜70%が望ましい環境です。暖房機器と加湿器を併用して室温と湿度を調整しましょう。 暖房でエアコンを使うときは、吹出口からの風が身体に直接当たらないようにしてください。風が直接当たると、血液循環が悪くなり、肩や首のこりが引き起こされやすくなるためです。 生活習慣の改善 生活習慣改善の1つが運動習慣を取り入れることです。ストレッチやウォーキング、ヨガなどを取り入れてみましょう。 運動習慣がある方は、首や肩の痛みのリスクが低いといった研究データも示されています。(文献10) 食生活も肩こりケアの一部です。筋肉疲労回復のため、タンパク質やビタミンB群を含む食品を積極的にとりましょう。タンパク質を多く含む食品は、肉や魚、大豆製品、卵などです。ビタミンB群は、豚肉やレバー、マグロ、大豆などに多く含まれます。 ビタミンB群を多く含む食品は、下記の記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 疲労やストレス軽減もセルフケアの1つです。そのためにも、十分な睡眠をとりましょう。6時間以上の睡眠が目安です。 パソコンを使う方は、正しい姿勢を心がけましょう。具体的には以下のとおりです。 背筋を伸ばす 椅子に深く腰掛ける 足裏全体を床につける スマホを操作するときも、背筋を伸ばす、スマホを目の高さにするなどの正しい姿勢を心がけてください。 冬の肩こりで医療機関を受診すべきサイン 冬の肩こりの中には、医療機関を受診すべきものも存在します。主なものは以下のとおりです。 強い頭痛や吐き気、しびれを伴う肩こり 片側に集中する肩こり 再発を繰り返し長引く肩こり 強い頭痛や吐き気、しびれを伴う肩こり 肩こりに加えて、強い頭痛や吐き気、しびれがある場合は、なんらかの疾患が隠れている可能性があります。その1つが頸原性頭痛です。 頸原性頭痛とは、首の関節や筋肉、椎間板といった首の構造的な異常が原因で起こる頭痛を指します。右側だけ、もしくは左側だけなど、首の病変がある方だけに起こる頭痛が一般的です。(文献11) 頭痛や吐き気・しびれを伴う場合は、脳血管疾患の可能性もあります。思い当たる症状があるときは、早急に医療機関を受診しましょう。 片側に集中する肩こり 片側に集中する肩こりも、疾患のサインである可能性が大きいとされます。その1つが頸椎症性神経根症です。 頸椎神経根症は、首の骨(頸椎)から出る神経の根元が炎症を起こしたり損傷したりしたことで、神経の働きに異常が出る疾患です。身体の片側の神経が圧迫されると、片方の肩から腕にかけて痛みやしびれ、筋力低下が生じます。(文献12) 片側に集中する肩こりには、脳血管疾患が隠れているケースもあります。 片側に鋭い痛みを感じ、突然出現する肩こりや、短時間で急速に悪化する突然の肩こりは、脳梗塞の前兆である可能性が高いものです。早急に医療機関を受診しましょう。 以下の記事で、突然の肩こりと脳梗塞の関係を解説しています。あわせてご覧ください。 また、脳梗塞の後遺症改善や再発予防を目的とした治療法として、再生医療という選択肢があります。脳梗塞に対する再生医療の治療例については、以下の症例記事をご覧ください。 再発を繰り返し長引く肩こり 温熱療法やストレッチで一時的に改善されてもすぐに再発する慢性化した肩こりは、医療機関受診が望ましいといえます。 肩こりの原因が筋肉の緊張ではなく、なんらかの疾患である可能性が否定できないためです。 肩こりの原因疾患としては、以下のようなものがあげられます。 肩関節周囲炎 脊髄症(頸椎の構造異常) 自律神経失調症 顎関節症 症候性肩こりと呼ばれる、疾患による肩こりの場合は、原因疾患の治療が必要です。 冬は肩こりが起きやすい季節!改善しない場合は医療機関を受診しよう 冬は寒さによる血流悪化や筋緊張、室内の乾燥による浅い呼吸などの影響で肩こりが起こりやすい季節です。肩こりだけではなく、頭痛やめまい、吐き気といった症状や睡眠の質低下をもたらすことも少なくありません。 肩こりを放置すると慢性化し、自律神経に影響を及ぼす場合もあります。 肩こり改善や予防のためのセルフケアが、温熱療法やストレッチなどです。 しかし、強い頭痛や吐き気を伴う肩こりや、片側だけに集中する肩こり、再発を繰り返す肩こりの場合は、早急に医療機関を受診しましょう。なんらかの疾患が隠れている可能性があるためです。 当院リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。冬の肩こりにお悩みの方は、お気軽にご相談ください。 冬の肩こりに関するよくある質問 冬の肩こりはパジャマも起因となりますか? パジャマの種類によっては、肩こりの原因となりうるものもあります。代表的なものが、フード付きのパジャマです。 パジャマに付いているフードは就寝時に首の下に溜まり、首の動きを妨げる可能性があります。その結果、寝返りがしにくくなり、肩こりや頭痛などを引き起こす可能性を高めます。 パジャマを選ぶときは、フードがないものにしましょう。 冬の肩こりにおすすめのグッズはありますか? 気軽に使えておすすめのグッズは使い捨てカイロや、肩をあたためる専用のサポーター、温熱シートなど、主に温熱ケアに用いるものです。各種通販サイトやドラッグストアなどで購入可能です。 各種温熱ケアグッズは、長時間使用すると、低温やけどを起こす可能性があります。取扱説明書を読んで、正しく使用しましょう。 冬の肩こり以外に寒いと体が痛くなる病気はありますか? 坐骨神経痛や肋間神経痛などのほか、膝関節痛や腰痛などがあげられます。また、冬になると関節リウマチによる関節痛が強まる場合もあります。 主な原因は、寒さによる血行不良や筋肉の収縮による神経の圧迫、自律神経の乱れなどです。 参考文献 (文献1) 2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況|厚生労働省 (文献2) Low ambient humidity impairs barrier function and innate resistance against influenza infection|PubMed Central (文献3) 頭痛の原因は?|国立研究開発法人国立長寿医療研究センター (文献4) The relationship between sleep quality, neck pain, shoulder pain and disability, physical activity, and health perception among middle-aged women: a cross-sectional study|BMC Women's Health (文献5) Work-induced pain, trapezius blood flux, and muscle activity in workers with chronic shoulder and neck pain|PubMed Central (文献6) Impact of Chronic Musculoskeletal Pain on Autonomic Function, Work Productivity, and Mood During Working Hours: A Pilot Cross-Sectional Study on IT Desk Workers|ResearchGate (文献7) Autonomic Nervous System Function and Central Pain Processing in People With Frozen Shoulder: A Case-control Study|PubMed Central (文献8) Effects of a Newly Developed Therapeutic Deep Heating Device Using High Frequency in Patients with Shoulder Pain and Disability: A Pilot Study|PubMed Central (文献9) Effects of deep and superficial heating in the management of frozen shoulder|PubMed Central (文献10) Association between lifestyle and musculoskeletal pain: cross-sectional study among 10,000 adults from the general working population|PubMed Central (文献11) 緊張型頭痛と頸原性頭痛の比較|日本頭痛学会誌 (文献12) What Is Cervical Radiculopathy?|Spine-health
2025.12.13 -
- 脊椎
- 脊柱管狭窄症
脊柱管狭窄症と診断されて、「処方された薬の効果を知りたい」「どのような種類があるのか気になる」といった方もいるでしょう。脊柱管狭窄症は、骨の中にある神経の通り道「脊柱管」が狭くなり、圧迫されることで痛みやしびれを引き起こす病気です。 本記事では、脊柱管狭窄症の薬の種類と効果について解説します。あわせて、薬の効果が十分に現れない場合の治療法や、自宅でできるストレッチ方法も紹介するので、参考にしてください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供や簡易オンライン診断を実施しています。脊柱管狭窄症について気になる症状があれば、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 脊柱管狭窄症における痛みの原因 脊柱管狭窄症の痛みは、神経が圧迫されると起こります。骨の中にある神経の通り道「脊柱管」が、加齢に伴う骨や靱帯の変化、椎間板の変性などによって狭くなり脊髄神経や血管が圧迫されやすくなるためです。 長く歩くと足のしびれや痛みが強くなり、少し休むと和らぐといった「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」が代表的な症状です。腰を丸めて歩くと症状が軽くなるケースもあります。 脊柱管狭窄症は神経の圧迫によって起こるものです。そのため、治療では痛みの原因である神経の圧迫や炎症を和らげることが重要になります。 脊柱管狭窄症で処方される薬の種類と効果 脊柱管狭窄症では、神経の圧迫によって生じる痛みやしびれを和らげるために、症状に合わせてさまざまな薬が処方されます。 ここでは、神経の興奮を抑えたり痛みを和らげたりする薬の種類と効果を紹介するので、参考にしてください。 神経痛を抑える薬 脊柱管狭窄症において、神経の圧迫で生じるしびれや強い痛みが続く場合に処方されるのが、神経痛を抑えるタイプの薬です。神経の興奮を鎮め、落ち着かせる働きがあります。 主に処方される薬の種類と効果を下表にまとめました。 薬の名称 主な効果 注意点 リリカ(プレガバリン) 痛みの伝達を抑えて症状を和らげる 眠気やふらつきが出る場合がある タリージェ(ミロガバリン) 神経の興奮を抑え、痛みの過剰な反応を鎮める めまいや眠気が起こる場合がある メチコバール(メコバラミン) 損傷した神経の修復を助ける 皮膚のかゆみや食欲不振などが起こる場合がある 副作用や効果の現れ方には個人差があるため、服用中に強い眠気や体調の変化が見られる場合は医師へ相談することが大切です。 痛みを和らげる薬 脊柱管狭窄症と診断されると、炎症や痛みを抑えるために非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)が処方されます。神経の圧迫による痛みが強い場合や、腰の炎症を伴うときに使用されるケースが多い治療薬です。 主な薬の種類と効果を下表にまとめました。 薬の名称 主な効果 注意点 ロキソニン(ロキソプロフェン) 炎症や痛みを抑えて症状を和らげる 胃の不快感や胃痛が起こる場合がある イブプロフェン 炎症を抑え、発熱や痛みを軽減する 胃への刺激が強いため、空腹時の使用は避ける カロナール(アセトアミノフェン) 痛みを和らげ、発熱を抑える まれに肝機能に影響が出る場合がある カロナール(アセトアミノフェン)は、比較的胃腸への負担が少ないとされている薬です。服用の際は、医師や薬剤師の指示に従い、気になる症状があれば早めに相談しましょう。 血流を改善する薬 脊柱管狭窄症の治療では、神経への血流を改善し、酸素や栄養を届けるための薬が使われるケースもあります。血管を広げて循環を促すことで、痛みやしびれの軽減を目指します。 主な薬の種類と効果を下表にまとめました。 薬の名称 主な効果 注意点 オパルモン(リマプロストアルファデクス) 血管を拡張して神経への血流を改善し、しびれや痛みを和らげる 腹痛や食欲不振などの消化器症状や、まれに肝機能障害が起こる場合がある プロスタグランジンE1製剤 血流を促し、神経の働きを改善する 下痢や吐き気、まれに低血圧を引き起こす場合がある プロスタグランジンE1製剤については、腰部脊柱管狭窄症患者における投与で血流や神経の働きの改善が見られたと報告されています。(文献1) 血流を改善するタイプの薬は、痛みの原因そのものを取り除くわけではありません。そのため、効果を感じるには時間がかかるケースもあります。自己判断で中止せず、症状の変化を感じたときは医師に相談しましょう。 脊柱管狭窄症で薬が効かない場合の治療方法 脊柱管狭窄症において、薬の効果が十分に得られない場合は、神経ブロック注射や手術などの治療が検討されます。それぞれ詳しく見ていきましょう。 理学療法 理学療法は、症状の軽減だけでなく、痛みが出にくい身体づくりを目指す治療法です。脊柱管狭窄症は神経の圧迫によって症状が現れるため、薬で痛みを抑えるだけでは再発する可能性があります。 体を支える筋肉を鍛え、姿勢や動作のバランスを整えて神経への負担を減らすことが大切です。ストレッチや筋力トレーニングなどを日常的に取り入れると、筋肉の柔軟性や支える力が高まって腰への負担を軽減できるでしょう。 薬による治療と併用すると、より高い効果が期待できます。 神経ブロック注射 神経ブロック注射は、薬だけでは十分な効果が得られない場合に行われる治療法です。脊柱管狭窄症では、神経が圧迫されて過敏な状態になり、しびれや強い痛みが続くケースがあります。 痛みの原因となっている神経まわりに麻酔薬や非ステロイド薬を注入し、神経の炎症や興奮を抑えるのが神経ブロック注射です。即効性がある一方で、効果の持続には個人差があり、繰り返し行う場合もあります。 神経ブロック注射は、薬で改善しにくい症状を和らげたい方にとって、体への負担を抑えながら痛みの軽減を目指せる治療法です。 手術 脊柱管狭窄症が進行し、薬やブロック注射などの方法でも症状が改善しない場合は、手術による治療が検討されます。神経が強く圧迫された状態が続くと、しびれや歩行障害が悪化して日常生活に支障が出る恐れがあるためです。 狭くなった脊柱管を広げて神経の圧迫を解除する「除圧術」と背骨を安定させるための「固定術」が代表的な手術方法です。 手術は高い効果が期待できる一方で、体の負担やリスクも伴います。治療方針については、医師と十分に相談しながら検討しましょう。 再生医療 脊柱管狭窄症の症状が保存療法では十分な効果が見られない場合、再生医療も選択肢の一つです。再生医療では、患者自身の血液や幹細胞を活用して、体の修復機能を高めることを目指します。 代表的なものに、自己の幹細胞を用いる「幹細胞治療」や血液中の成分を活用する「PRP療法」があります。 当院の幹細胞治療では、少量の脂肪を摂取するだけで十分な幹細胞の培養が可能です。そのため、体への負担が少なく術後の回復が比較的早いとされています。 再生医療は、手術に抵抗がある方や薬で十分な改善が見られない場合の新たな選択肢です。 幹細胞治療によって脊柱管狭窄症が改善した症例について詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。 【手術せずに改善!】 腰椎脊柱管狭窄症 70代男性 【手術せずに改善!】 腰椎脊柱管狭窄症 70代女性 脊柱管狭窄症で薬とあわせて取り入れたいセルフケア方法 脊柱管狭窄症は薬による治療とあわせて、日常生活でできるセルフケアを取り入れることが大切です。体を動かすと筋肉の柔軟性が高まり、血流が促進されて神経への負担を和らげやすくなります。 適度な運動やストレッチを行うと、筋肉を柔らかく保ち、可動域を広げる効果が期待できます。下記は簡単にできるストレッチ方法の一例です。 仰向けに寝て、片方の足首を反対のひざにかける 両手で脚を抱え、ひざを胸のほうへゆっくり引き寄せる お尻の筋肉が伸びているのを感じながら、20~30秒キープする 反対側も同じように行う また、コルセットなどの装具を使用して腰の安定を保つのも効果的です。長時間の座りっぱなしを避け、30分に1度は立ち上がって歩くように意識しましょう。 セルフケアを続けることで、症状の悪化や再発予防にもつながります。 脊柱管狭窄症は薬だけに頼らずセルフケアを組み合わせよう 脊柱管狭窄症は、神経の圧迫によってしびれや痛みが起こる病気です。薬による治療では、痛みや炎症を抑えたり血流を改善して神経の働きを助けたりする効果が期待できます。 ただし、薬だけで根本的な改善が難しい場合もあるため、理学療法やブロック注射、手術などの治療を検討するケースもあります。 あわせて、ストレッチや生活習慣の見直しなどのセルフケアを継続することも大切です。治療とセルフケアを組み合わせると、症状の安定や再発予防につながるでしょう。 脊柱管狭窄症の薬に関するよくある質問 脊柱管狭窄症に効く漢方薬はありますか? 脊柱管狭窄症の治療で使われる漢方薬としては、「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」や「八味地黄丸(はちみじおうがん)」「八味丸(はちみがん)」などが挙げられます。腰痛や下肢の冷えなどの症状に対して処方される場合があり、神経痛や血流の改善を目的に併用されるケースもあります。 ただし、明確な科学的根拠が十分に示されているわけではないため、使用を検討する際は医師や薬剤師に相談することが大切です。 脊柱管狭窄症に効く市販の薬はありますか? 痛みや炎症に対しては、ロキソニンSやイブなど、市販の鎮痛薬を使用できる場合があります。これらの市販薬は、一時的に症状を和らげる効果が期待できますが、神経の圧迫そのものを改善する薬ではありません。 また、長期間の服用は胃腸障害などの副作用を起こす恐れがあるため、使用は一時的な対応に留め、症状が続く場合は医師に相談しましょう。 脊柱管狭窄症の薬リリカにはどのような副作用がありますか? リリカ(プレガバリン)には、眠気やめまい、ふらつきなどの副作用が現れる場合があります。服用を始めて数日以内に症状が出るケースがあり、多くは時間の経過とともに落ち着いてきます。 ただし、副作用が強く出て日常生活に支障を感じる場合は、自己判断で中止せず医師に相談してください。薬の量を調整したり、別の薬に変更したりすると、副作用の症状が落ち着く場合もあります。 参考文献 (文献1) 腰部脊柱管狭窄症に対するプロスタグランディンE1の効果|水俣市立湯之児病院 整形外科
2025.12.13






