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骨粗鬆症は治るのか、将来の健康に対して漠然とした不安を抱いていませんか。加齢とともに骨がもろくなる病気とされ「もう治らないのでは」と心配になる方も多いでしょう。 たしかに、骨粗鬆症は完治が難しい病気です。しかし、適切な治療と生活習慣の見直しによって進行を防げば、骨密度の改善や骨折のリスク軽減に期待できます。 この記事では、医師が骨粗鬆症の治療法や薬の種類、さらに食事や運動による予防法までわかりやすく解説します。 本記事を参考に「完治させる」のではなく「これ以上悪化させない」ことに目を向け、骨粗鬆症の治療や予防に前向きに取り組んでみましょう。 骨粗鬆症の完治は難しいが進行を抑えることは可能 骨粗鬆症の治療目的は、完治ではなく、進行を抑えて骨折を防ぐことです。(文献1) 骨は常に「骨吸収(骨を壊す)」と「骨形成(骨を作る)」を繰り返しています。(文献2)加齢やホルモンバランスの変化で骨を作り変えるリズムが崩れると、骨吸収が優位になり、骨密度が低下していきます。これが骨粗鬆症の本質です。 現在の医学では、一度減少した骨密度を完全に若年時の状態に戻すことは困難です。しかし、薬物療法や食生活・運動習慣の改善を継続すると、骨量の減少を抑えたり、骨密度を高めたりすることも可能です。 骨折リスクを減らして健康寿命を延ばすには、骨粗鬆症の完治を目指すよりも、進行を抑えることが大切です。早期から治療と予防に取り組み、骨の健康を守りましょう。 なお、骨粗鬆症の進行を防ぐには、原因を理解しておくことも重要です。原因については、以下の記事にて詳しく解説しています。気になる方は、あわせて参考にしてください。 骨粗鬆症の進行を防ぐ方法 食事や運動により、骨粗鬆症の進行を防ぐ方法として以下の2つがあります。 カルシウムやビタミンDなど骨を強くする栄養素を摂る かかと落としやウオーキングで骨に刺激を与える 骨粗鬆症は薬だけに頼るのではなく、日々の食事や運動が進行防止に大切です。ぜひ本章を参考に、生活習慣を見直してみてください。 カルシウムやビタミンDなど骨を強くする栄養素を摂る 骨粗鬆症の進行を防ぐには、骨の材料となる栄養素を意識的に摂取しましょう。 中でもカルシウム・ビタミンD・ビタミンK・たんぱく質は、骨の形成や維持に欠かせません。骨に必要な栄養素が豊富に含まれている食材として、以下のようなものがあります。 栄養素 食材例(文献3) カルシウム 牛乳 えび ビタミンD 鮭 きくらげ ビタミンK ほうれん草 納豆 たんぱく質 卵 豚肉 これらの栄養素を含む食材を、毎日の食事にバランスよく取り入れることが理想です。急に食生活を変えるのが難しい場合は、納豆や牛乳など取り入れやすい1品から始めてみると良いでしょう。 かかと落としやウオーキングで骨に刺激を与える 骨粗鬆症の進行を防ぐには、骨に刺激を与える運動を日常に取り入れることが有効です。 運動で骨に適度な刺激が加わると、骨の形成が促され、骨密度の維持や向上につながります。(文献4)実際に、50代男性に片脚ジャンプを1年間続けてもらったところ、大腿骨の骨密度が上昇したとの研究結果もあります。(文献5) ただし、骨折の経験がある方や高齢者の場合、無理をせずに医師や理学療法士の指導のもとで安全に行うことが大切です。日常生活に無理のない範囲で、継続しやすい運動を取り入れていきましょう。 骨粗鬆症の治療薬について 病院では、骨粗鬆症の進行を抑える薬を使った治療が一般的に行われています。本章では、病院で用いられる主な治療薬の種類と副作用について詳しく解説します。 納得して治療に取り組むためにも、薬の種類や副作用を知っておきましょう。 薬の種類 骨粗鬆症の治療薬は、大きく分けると「骨の吸収を抑える薬」と「骨代謝を調節する薬」の2種類です。また、骨の代謝バランスを整え、穏やかに両方の作用を助けるものもあります。 それぞれの薬は、患者の年齢や骨折歴、骨密度などをもとに、治療の目的に合わせて選択されます。 代表的な薬は以下の通りです。 薬の種類 代表例 骨の吸収を抑える アレンドロン酸(フォサマック®) デノスマブ(プラリア®) 骨を作る力を促す テリパラチド(フォルテオ®) 骨の代謝を調節する エルデカルシトール(エディロール®) 薬によっては、注射薬や週1回、月1回などの服用で済むものもあり、ライフスタイルに合わせて治療薬を選択できます。どの薬が適しているかは個人によって異なるため、定期的に検査を受け、医師と相談しながら治療を続けましょう。 薬の副作用 骨粗鬆症の薬は副作用リスクもあるため、医師の指導を受けながら正しく使用しましょう。 たとえば、ビスホスホネート系のような骨吸収抑制薬では、まれに「あごの骨に異常をきたす(顎骨壊死・がっこつえし)」の副作用が報告されています。(文献1)そのため、歯科治療を受ける際は、事前に歯科医と連携することが推奨されます。また、内服薬では胃もたれや吐き気などの消化器症状が出ることもあるため、服用方法や体調の変化には注意が必要です。 副作用は必ず起こるものではありませんが、適切に対策を取ることで症状の軽減や予防が可能です。副作用が疑われる場合でも、自己判断で薬を中止するとかえって悪化するおそれがあるため、必ず医師の指示を仰いでください。 なお、骨粗鬆症は薬だけに頼るのではなく、食事や運動といった生活習慣の見直しも予防に役立ちます。詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。 治療薬にかかる値段の目安 骨粗鬆症の薬には保険が適用されており、多くの場合自己負担は3割です。ただし、薬の種類や投与方法によって費用は異なるため、治療を継続するには経済面の確認も大切です。 たとえば、6カ月に1回の注射薬「デノスマブ(プラリア®)」は、3割負担の場合自己負担額が1回あたり5,000~8,000円程度かかります。 さらに毎日服用が必要な薬でも、月に数千円以上の医療費がかかるケースは珍しくありません。このように、骨粗鬆症の治療には一定の費用がかかるため、経済的な負担を感じる方も多いでしょう。 負担が大きい場合、一定の条件を満たすと「高額療養費制度」という一定金額以上の自己負担額が払い戻される制度を利用できる場合があります。(文献6)費用に不安がある方は、こうした制度を活用すると経済的負担を軽減できるでしょう。 骨粗鬆症は完治を目指すよりも進行を防ぐことが大切 骨粗鬆症の治療目的は完治ではなく、進行を抑えて骨折リスクを減らし、健康寿命をのばすことです。 薬の服用に加え、食事や運動の改善を組み合わせると骨の健康にも良いでしょう。ぜひ本記事を参考に、骨粗鬆症の進行予防に取り組んでみてください。 なお、薬や生活習慣の改善に加え、運動機能の維持も骨粗鬆症対策の一環として重要です。とくに膝や股関節に痛みを抱える方は、日常の運動が制限されてしまうこともあります。 当院「リペアセルクリニック」では、膝の痛みや半月板損傷などの運動器疾患に対して比較的新しい治療法「再生医療」をご提案しています。「痛みの少ない治療を検討したい」「手術以外の方法を探している」という方は、ぜひメール相談やオンラインカウンセリングをご利用ください。 骨粗鬆症についてよくある質問 骨粗鬆症はいつまで治療を続ける必要があるの? 骨粗鬆症の治療は長期間に及ぶことが多く、医師の判断に基づいて継続の可否を決めることが大切です。 治療により一時的に骨密度が改善しても、薬の中断により再び骨密度が低下し、骨折リスクが高まる可能性があります。 実際にデノスマブ(プラリア®)による治療を中断した後、急激な骨密度の減少と骨折の発生件数が増えたとの報告もありました。(文献5) 「薬はいつまで続ければ良いのか」と不安になった場合は、自己判断で中断はせず、必ず主治医と相談して今後の治療計画を立てましょう。 骨粗鬆症になったら避けるべきことは? 骨粗鬆症の進行を防ぐには、日常生活での悪習慣を見直すことが重要です。とくに喫煙・過度の飲酒・運動不足は、骨の形成や維持に悪影響を及ぼすリスクがあります。以下に、それぞれの習慣が骨に与える具体的な影響をまとめました。(文献1) 避けるべき生活習慣 骨に与える悪影響 喫煙 骨の材料であるカルシウムの吸収を阻害したり、尿への排出を促したりする 過度の飲酒 カルシウムの吸収を阻害し、骨密度を低下させる 運動不足 骨への刺激が減り、骨の強度が弱くなる まずは「禁煙に挑戦する」「お酒の量を1日1杯までに抑える」「週2回は軽い運動をする」など、無理のない範囲で行動を変えることから始めましょう。 骨粗鬆症の薬には後遺症がありますか? 骨粗鬆症治療薬によって後遺症のような障害が残るケースはごくまれですが、なかには注意すべき副作用も存在します。代表的な例として、以下のようなものが報告されています。 薬の成分の例 重篤な副作用の例 アレンドロン酸(ビスホスホネート系) 顎骨壊死(文献6) デノスマブ 低カルシウム血症(文献7) テリパラチド 骨肉腫(文献8) 定期的な血液検査や歯科受診などにより、重篤な副作用は予防・早期発見が可能です。気になることがある場合は、医師に相談し、治療内容に納得した上で進めていきましょう。 参考文献 文献1 日本骨粗鬆症学会 日本骨代謝学会 骨粗鬆症財団「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」2015年,http://www.josteo.com/data/publications/guideline/2015_01.pdf 文献2 川口浩.「骨粗鬆症の基礎と最近の話題」『脊髄外科』29巻(3号), p.259-p.266, 2015年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/29/3/29_259/_pdf 文献3 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年から出典」2023年,https://www.mext.go.jp/content/20230428-mxt_kagsei-mext_00001_011.pdf 文献4 佐藤哲也、小池達也.「運動と骨」『生活衛生』36巻(5号), p.239-p.245, 1992年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei1957/36/5/36_5_239/_pdf 文献5 藤田 博曉.「骨粗鬆症に対する運動療法」『日本内科学会雑誌』111巻(4号), p765-p771, 2022年.https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/4/111_765/_pdf 文献6 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「ベネット錠2.5mg 添付文書」2024年3月改訂https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/400256_3999019F1034_1_29 文献7 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「プラリア皮下注60mgシリンジ 添付文書」2023年11月改訂https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/430574_3999435G1023_1_15 文献8 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「フォルテオ皮下注キット600μg 添付文書」2022年10月改訂https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/530471_2439400G1020_1_18
2025.05.30 -
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骨粗鬆症を放置すると骨がもろくなり、骨折のリスクが高まります。とくに高齢者では、骨折をきっかけに寝たきりになることもあり、見過ごせない問題です。 診断された方の中には「どのような運動をすれば良いのかわからない」「運動しても骨折しないか不安」と感じている方もいるでしょう。 しかし、適度な運動によって骨に刺激を与えることで、骨密度の低下を防ぐ効果があるとされています。骨粗鬆症の発症や進行の予防にもつながるため、運動は食事や薬物療法と同じくらい大切です。 本記事では、骨粗鬆症におすすめの運動方法や頻度、注意点についてわかりやすく解説します。ぜひ本記事を参考に、今日から無理のない範囲で運動を取り入れてみてください。 骨粗鬆症の運動は予防・改善につながる 人の体では、古い骨は壊され、新しい骨をつくる「骨代謝」が繰り返されています。(文献1)運動によって骨に軽い刺激(微細なストレス)を与えると、骨をつくる細胞が活性化され、新しい骨の形成が促進されます。(文献2) その結果、定期的な運動は骨の健康にも良い効果をもたらすのです。 あわせて骨粗鬆症の原因を知ることで、運動の必要性をより深く理解し、継続的な予防につなげやすくなります。原因について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。 骨粗鬆症におすすめの運動法|今すぐできる具体例を紹介 骨粗鬆症におすすめの運動は以下の4つです。 かかと落とし ウォーキング 下半身の筋トレ バランス運動 本章で紹介している運動は、骨に適度な刺激を与えて骨密度の低下やバランス感覚の維持につながります。結果として、転倒や骨折のリスクを減らす効果も期待できるでしょう。 本章を参考に、自分に合った運動を今日から少しずつ取り入れてみてください。 かかと落とし かかと落としは、床にかかとを落とす軽い衝撃が骨に適度な刺激を与え、太ももの骨を強化する効果的な運動として注目されています。(文献3)特別な道具を使わず、自宅でテレビを見ながらでもできるため、手軽に取り入れやすいでしょう。 かかと落としのやり方は以下の通りです。 壁や椅子の近くに立ち、足を肩幅に開く ゆっくりつま先立ちになる ストンとかかとを床に落とす 転びそうであれば、手すりや壁に掴まりながら行うのも良いでしょう。1日あたり10〜20回を3セットの実践が理想的であるものの、無理は禁物です。最初は少ない回数から始め、体が慣れたら徐々に増やすようにしましょう。 ウォーキング ウォーキングは骨に適度な負荷をかけながら、全身の健康維持にもつながる運動です。通勤や買い物のついでに実践できるため、日常生活に取り入れやすい運動のひとつです。 歩行時の骨への物理的な刺激が骨密度の維持・向上を促します。歩くことで下半身の筋力が鍛えられるため、転倒による骨折防止にもおすすめです。 1日30分を週3〜5回ほど、通勤や買い物のついでに歩く習慣をつけると続けやすくなります。普段歩く際には、以下を意識してみてください。 背筋を伸ばす 大股で歩く 腕を大きく振る いつもより早歩きする 最初は短時間から始め、徐々に時間を延ばすと無理なく継続できます。ぜひ日常生活の一部に取り入れてみてください。 下半身の筋トレ 下半身を鍛える筋力トレーニングは、骨に適度な刺激を与え、骨粗鬆症の予防に効果があるとされています。筋力アップによって転倒リスクも下がるため、骨折の防止にもつながります。 なかでも太ももやお尻の筋肉は骨盤や大腿骨を支える重要な部位で、筋力強化により骨にかかる負担を分散できます。とくに高齢者では筋肉量の低下が骨折の一因となるため、下半身の筋トレはおすすめです。 効果的なトレーニングとして、スクワット(膝の屈伸運動)やつま先立ちを繰り返すカーフレイズ(ふくらはぎの筋力トレーニング)などが挙げられます。転倒が不安な場合は、必ず椅子や壁を支えにしながら行いましょう。運動に慣れてきたら、無理のない範囲で回数を少しずつ増やしてみてください。 バランス運動 バランス力を鍛える運動は体幹を安定させ、日常生活でのふらつきを減らすのに役立ちます。 骨粗鬆症の方は骨がもろくなっているため、転倒による骨折リスクが高くなります。そのため、バランス感覚を養い、転倒を防ぐことが大切です。 おすすめのバランス運動には、以下のような方法があります。いずれも自宅で手軽にでき、歯磨き中や家事などの隙間時間を使って始められます。 バランス運動の例 具体的な方法 片足立ち 壁や椅子に軽く手を添え、片足を上げて数秒間キープする 体重移動 足を肩幅に開き、ゆっくりと左右に体重を移動させる 上体ひねり運動 椅子に浅く腰掛け、両手を広げてゆっくりと上体を左右にひねる こうした運動を毎日続けると自然に平衡感覚が養われ、転倒への不安も軽減されるでしょう。無理のない範囲で、ぜひこまめに取り組んでみてください。 骨粗鬆症における運動の推奨頻度 骨粗鬆症の予防や改善には、週に2〜3回の運動を習慣にすることが大切です。 定期的な運動は骨に適度な刺激を与え、骨密度や骨質の向上を促します。骨にストレスを与えすぎると疲労やけがの原因になりますが、頻度が少なすぎると効果が出にくくなります。そのため、バランスの取れたペースが重要です。 実際に、週に2〜3回以上の頻度でバランス運動や筋トレを行うと、転倒リスクの低減に効果的であるとされています。(文献4)骨粗鬆症と診断された方は、まずは週に2〜3回のペースで、自分に合った運動から始めてみてください。 骨粗鬆症の運動における注意点 骨粗鬆症の方が運動をする際の注意点は、以下の4つです。 急激な動作や転倒リスクの高い運動は避ける 運動のしすぎと誤ったフォームは避ける 痛みや違和感が出たらすぐに中止する 症状に不安がある場合は事前に医師へ相談する 骨粗鬆症の方にとって、転倒や骨折のリスクを避けながら安全に運動を心がけることが大切です。事前に本章の内容を確認し、けがを防ぎながら安全に運動を取り入れましょう。 急激な動作や転倒リスクの高い運動は避ける 骨粗鬆症では骨がもろくなっており、軽い衝撃でも骨折につながることがあります。さらに、バランス能力が低下していると、転倒による重篤な骨折のリスクも高まります。 骨粗鬆症の方が避けるべき運動や動作の例は以下の通りです。安全性が確保できない運動は、無理に行わないようにしましょう。 急な方向転換を伴う運動(激しいテニスやゴルフなど) 前かがみや体を強くひねる運動 過度に重いダンベルの持ち上げ運動 不安がある場合は、必ず医師や専門家に相談して自分に合った安全な運動を選ぶようにしてください。 運動しすぎと誤ったフォームは避ける 骨粗鬆症の予防に運動は効果的ですが、やりすぎたり誤ったフォームで行ったりすると、かえって体に悪影響を及ぼす恐れもあるため注意が必要です。とくに高齢者は筋力が低下しており、骨や関節にかかる負担が大きくなると、疲労骨折や関節の炎症も起こりやすくなります。 たとえば、長時間の歩行で膝を痛めたり、背中を丸めた姿勢でのウォーキングで腰を痛めたりする場合があります。また、無理な回数のスクワットも膝に負担をかけるため注意が必要です。 運動は理想的な回数や強度よりも、正しいフォームと自分の体調に合わせることが大切です。不安がある場合は、担当の医師や理学療法士などと相談しながら取り組みましょう。 痛みや違和感が出たときは中止する 運動中に痛みや違和感を覚えた場合は、すぐに中止しましょう。 骨粗鬆症の方は骨折のリスクが高く、痛みは骨や関節の損傷、あるいは骨折・捻挫の前兆の可能性もあります。無理に続けるのは避けましょう。 軽い筋肉痛であれば問題ありませんが、鋭い痛みや長引く痛みには注意が必要です。運動中に膝や腰などに強い痛みを感じた場合は、無理せず休憩し、必要に応じて整形外科を受診してください。 症状に不安がある場合は医師に相談する 骨の状態や体力には個人差があり、自分に合わない運動はかえって体を痛めるおそれがあります。医師は骨密度や持病の有無を踏まえて、より安全な運動方法を提案してくれます。不安がある場合は、あらかじめ相談しておくと安心です。 とくに以下に該当する方は、思わぬけがや症状悪化の予防のために事前の相談をおすすめします。 過去に骨折歴がある 歩行時にふらつきがある 他の持病を抱えている 少しでも不安がある方は自己判断せず、医師や理学療法士などの指導を受けながら安全に運動を続けましょう。 骨粗鬆症予防のためにも今日から運動を始めてみよう! 骨粗鬆症の進行を抑えるには、日常的に運動を取り入れることが大切です。骨に適度な刺激を与えることで、骨密度の維持や転倒リスクの軽減が期待できます。自分にとって無理のない運動を今日から始めてみてください。 ただし、骨粗鬆症の方は関節や筋肉が弱くなっていることも多く、運動によって膝や股関節に痛みが出る場合もあります。手術が必要になることもありますが、できるだけ避けたい方には切らずに治療できる「再生医療」もおすすめです。 当院「リペアセルクリニック」では幹細胞を活用した再生医療に対応しており、膝や股関節などの慢性的な痛みに対する治療も行っています。今ならメールまたはオンラインカウンセリングにて無料相談を受付中です。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。 骨粗鬆症の運動に関してよくある質問 骨におすすめの食べ物や飲み物は? 骨を強く保つには、以下のようなカルシウム・ビタミンD・ビタミンKが含まれた食材の摂取がおすすめです。 栄養素 働き 主な食材例(文献8) カルシウム 骨量を維持する(文献5) 魚介類(えびやかに)、牛乳など ビタミンD カルシウムの吸収を補助する(文献6) キノコ類(きくらげ)、魚介類(かつおやいわし)など ビタミンK 骨代謝のバランスを整える(文献7) 緑茶類、藻類(わかめやのり)など 毎日の食事で不足しがちな栄養素を意識して摂取すると、運動とあわせて骨の健康維持が期待できます。ただし、カルシウムやビタミンDは過剰症も報告されているため、摂りすぎには注意しましょう。(文献9) また、こうした栄養管理を通じて、薬に頼らずに骨粗鬆症の予防に取り組めます。詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。 かかと落としの効果が出るまでどのくらいかかりますか? かかと落としの効果が現れるまでには、少なくとも数カ月の継続が必要です。 骨の代謝サイクルは約1〜4年とされており、運動による刺激が骨密度に反映されるまでには時間がかかります。(文献1)骨粗鬆症の予防効果を得るには短期間で結果を求めず、日々の習慣として継続的に行うことが大切です。 骨密度が高い人の特徴はなんですか? 骨密度を高く保っている人には、以下のような特徴があります。 日常的に体を動かす習慣がある カルシウムやビタミンを意識して摂っている 栄養バランスの整った食事を心がけている 日頃から階段を使用している 骨密度は20〜30代にかけてピークを迎え、加齢とともに徐々に減少します。(文献4)だからこそ、これらの生活習慣を取り入れ、将来的な骨密度の低下を防ぐことが大切です。 今からでも遅くはありません。運動や食生活を見直し、骨密度の維持・改善に取り組みましょう。 参考文献 文献1 川口浩.「骨粗鬆症の基礎と最近の話題」『脊髄外科』29巻(3号), p.259-p.266, 2015年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/29/3/29_259/_pdf 文献2 佐藤哲也、小池達也.「運動と骨」『生活衛生』36巻(5号), p.239-p.245, 1992年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei1957/36/5/36_5_239/_pdf 文献3 藤田 博曉.「骨粗鬆症に対する運動療法」『日本内科学会雑誌』111巻(4号), p765-p771, 2022年.URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/4/111_765/_pdf 文献4 日本骨粗鬆症学会 日本骨代謝学会 骨粗鬆症財団「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」2015年,http://www.josteo.com/data/publications/guideline/2015_01.pdf 文献5 久保田 恵.「カルシウム摂取による骨折・骨粗鬆症予防のエビデンス」『日本衛生学雑誌』58巻(3合), p.317-p.327, 2003年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjh1946/58/3/58_3_317/_pdf 文献6 竹内靖博.「骨・カルシウム代謝異常症におけるビタミンDの役割」『臨床リウマチ』25巻, p.198-p.202, 2013年https://www.jstage.jst.go.jp/article/cra/25/3/25_198/_pdf 文献7 鈴木啓章.「ビタミンKの健康栄養機能に関する最近の知見」『オレオサイエンス』14巻(12号), p.555-p.561, 2014年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/14/12/14_555/_pdf/-char/ja 文献8 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年から出典」2023年,https://www.mext.go.jp/content/20201225-mxt_kagsei-mext_01110_011.pdf 文献9 厚生労働省「「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書」2024年,https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316585.pdf
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「骨粗鬆症の予防や改善に効果的な食べ物はある?」と疑問にお持ちの方も多いのではないでしょうか。 骨密度の低下を未然に防ぐため、骨を強くする食材を普段の食事に取り入れたい人もいるかもしれません。 骨粗鬆症は、年齢とともに骨がもろくなり、骨折のリスクが高まる病気です。とくに女性は閉経後に骨密度が急激に低下しやすいため、日々の食事で骨を強く保つことが大切です。 この記事では、骨粗鬆症予防に役立つ食べ物や食事の工夫について、詳しく解説します。 今日から始められる骨ケアの秘訣を見つけてみましょう。 骨粗鬆症予防におすすめの食べ物は「牛乳・魚・野菜・大豆」 骨を丈夫に保つには、特定の栄養だけでなく、いくつもの栄養素をバランスよくとることが大切です。 特におすすめの食べ物は以下の4種類です。 食べ物の種類 骨粗鬆症の予防効果 牛乳(乳製品) カルシウムが豊富で骨を強くする 魚 ビタミンDがカルシウムの吸収をサポート 野菜 ビタミンKで骨にカルシウムを定着 大豆・卵・海藻 骨の形成と維持に役立つ栄養素が豊富 骨粗鬆症の予防に効果的な食べ物を知り、普段の食事に取り入れていきましょう。 牛乳(乳製品)|カルシウムが豊富で骨を強くする 牛乳や乳製品は、骨をつくるカルシウムの代表的な供給源です。 カルシウムは骨や歯をつくる材料として欠かせない栄養素で、筋肉や神経の働きにも関係しています。 不足すると骨がもろくなり、骨粗鬆症のリスクが高まってしまうため積極的に摂りたい食品です。(文献1) たとえば、牛乳1杯(200g)には約220mgのカルシウムが含まれており、1日に必要な量の約1/3を補えます。(文献2) チーズやヨーグルトを組み合わせれば、より摂り入れやすくなります。 毎日コップ1杯の牛乳から、骨の健康を意識してみましょう。 魚|ビタミンDがカルシウムの吸収をサポート 魚に含まれるビタミンDは、カルシウムを体に吸収しやすくする働きがあります。 ビタミンDが不足すると、カルシウムを摂ってもうまく吸収されず、骨密度が低下してしまいます。(文献1) また、ビタミンDは日光に当たることで体の中で作られますが、年を重ねるとその働きが弱くなってしまうのです。(文献3) そのため、日光に当たる機会が少ない人や高齢者は、食品からビタミンDをしっかり摂りましょう。 とくに、鮭、いわし、さんまなどの脂ののった魚には、ビタミンDが多く含まれています。 焼き魚や缶詰などでも手軽にとれるので、日々の食事に取り入れやすいのもポイントです。 魚を積極的に食べて、カルシウムの力をしっかり活かしましょう。 野菜|ビタミンKで骨にカルシウムを定着 ビタミンKは、カルシウムを骨にとどめるのに欠かせない栄養素です。 カルシウムをしっかりとっても、それが骨に定着しないと骨は強くなりません。 ビタミンKは、カルシウムが骨に沈着するのを助ける働きがあり、骨粗鬆症の予防薬としても活用されています。(文献4) たとえば、小松菜、ほうれん草などの緑の葉物や納豆はビタミンKが豊富です。 おひたしやみそ汁、炒め物などに取り入れやすく、栄養バランスも整います。 日々の健康管理に役立つ野菜は、骨の健康にも役立ちます。 毎日の食事に、少しずつでも取り入れていきましょう。 大豆・卵・海藻|骨の形成と維持に役立つ栄養素が豊富 大豆製品や卵、海藻には、骨をつくるために大切な栄養素が豊富に含まれています。 たとえば、大豆や卵に多く含まれるたんぱく質は、筋肉や皮膚だけでなく、骨の土台になる「コラーゲン」をつくる材料になります。(文献4) また、海藻に多いマグネシウムは、カルシウムと一緒に骨の形成をサポートしてくれる栄養素です。 不足すると骨がもろくなるリスクがあるため、積極的に摂りましょう。(文献1) さらに、大豆に含まれるイソフラボンには、女性ホルモンに似た働きがあります。 女性ホルモンは骨密度の維持を助ける働きがあるため、分泌が低下した閉経後の女性は骨粗鬆症になるリスクが上昇します。そこで、女性ホルモンに似たイソフラボンは、閉経後の骨の健康をゆるやかにサポートできる可能性があるのです。(文献5) 納豆や豆腐、味噌などの大豆製品は、日本人の食生活にもなじみ深く、日々の食事に取り入れやすいのが魅力です。 味噌汁や納豆、卵焼き、ひじきの煮物など、身近な和食メニューの中には、骨の健康を支える要素がたくさんつまっています。 できることから毎日の習慣にしていきましょう。 【過剰摂取に注意】骨粗鬆症で食べてはいけないもの 骨の健康を守るためには、摂取を控えた方が良い食品もあります。 以下の食品は、過剰に摂取するとカルシウムの吸収を妨げたり、カルシウムの排泄を促進したりするため、注意が必要です。 インスタント食品や加工食品|塩分が多い食べ物 コーヒーや紅茶|カフェインを含む飲み物 お菓子やジュース|糖分が多い食べ物・飲み物 ひとつずつ詳しくみていきましょう。 インスタント食品や加工食品|塩分が多い食べ物 インスタントラーメンやスナック菓子、加工食品には塩分が多く含まれています。 塩分を摂りすぎると、尿中にカルシウムが排泄されやすくなり、骨からカルシウムが失われる原因となります。(文献6) 日常的に塩分の摂取量を意識し、減塩を心がけましょう。 コーヒーや紅茶|カフェインを含む飲み物 コーヒーや紅茶、緑茶などに多く含まれるカフェインも、骨の健康に影響を与えるといわれています。 カフェインには、カルシウムの吸収を妨げたり、尿と一緒に排出されやすくしたりする働きがあります。(文献6) そのため、カルシウム不足を引き起こし、骨粗鬆症や骨折のリスクが高まることがあるのです。 「コーヒーを1日何杯までに抑えるべきか」については、明確な基準はありませんが、1日5杯以上飲むと骨に影響が出るとの報告もあります。(文献7) 骨の健康を守るためにも、飲みすぎには気をつけて、適量を心がけましょう。 お菓子やジュース|糖分が多い食べ物・飲み物 砂糖を多く含むお菓子やジュースは、カルシウムの吸収を妨げる可能性があるといわれています。 (文献8) さらに、これらをとりすぎることで、食事全体のバランスが崩れ、必要な栄養素が足りなくなるおそれもあります。 骨の健康を守るためにも、甘いものは控えめにして、栄養バランスの良い食事を意識しましょう。 骨粗鬆症に必要な栄養素一覧 骨の健康を守るには、栄養がどれくらい必要なのかも知っておきたいところです。 次の表で、必要な量と実際の摂取量を見比べてみましょう。(文献1)(文献9)(文献10)(文献11) <骨粗鬆症予防で大切な栄養素の目標量と平均摂取量> 栄養素 推奨量 平均摂取量(60代女性) カルシウム 656~669mg/日 518mg/日 ビタミンD 9.0μg/日 7.0μg/日 ビタミンK 150μg/日 252μg/日 たんぱく質 50g/日 67.7g/日 マグネシウム 310~320mg/日 252mg/日 ビタミンK、たんぱく質は足りている一方で、ビタミンDやカルシウム、マグネシウムは不足しがちなことがわかります。 日々の食事でこれらの栄養素を意識的に摂取することが大切です。 骨粗鬆症予防におすすめの食べ合わせ5選 毎日の食事に取り入れやすい、骨粗鬆症予防に効果的な食べ合わせをご紹介します。 これらの組み合わせを参考に、できることから始めていきましょう。 ヨーグルト × きな粉 ヨーグルトにきな粉をかけるだけで、カルシウム、たんぱく質、イソフラボンを一度に摂取できます。 腸内環境も整いやすく、骨の健康と合わせて整えたい人にぴったりです。 朝食やおやつにぜひ試してみてください。 ただし、きな粉はむせやすいため、よく混ぜてから食べると良いでしょう。 納豆 × 小松菜 × 味噌汁 納豆と小松菜を味噌汁の具にすると、ビタミンKとたんぱく質、イソフラボンを同時に補給できます。 納豆はご飯にかけるだけではなく、味噌汁の具にしたり、ゆでた葉物野菜と和えてもおいしく食べられます。 無理なく続けるためにも、いろいろな食べ方を楽しんでみてください。 鮭 × 干ししいたけ × オリーブオイル 鮭と干ししいたけをオリーブオイルで炒めたり焼いたりすると、ビタミンDの吸収率がぐんとアップします。 干ししいたけは日光に当てるとビタミンDがさらに増えるため、調理前に30分ほど日干しするのもおすすめです。(文献12) 豆腐 × ひじき 豆腐とひじきを組み合わせることで、マグネシウムとカルシウム、たんぱく質、イソフラボンを補えます。 煮物や白和えなどにすれば、日々の副菜として自然に取り入れやすく、食卓の栄養バランスが整いやすくなります。 チーズ × ブロッコリー × 卵 チーズ、ブロッコリー、卵を使った料理は、カルシウム、ビタミンK、たんぱく質が一皿でとれるメニューです。 たとえば、チーズオムレツにゆでたブロッコリーを添えるだけでもOKです。 彩りも良く、食欲をそそる一品になります。 【骨粗鬆症】食事で補いきれないときは受診も検討 骨に良い食事を意識していても、加齢や女性ホルモンの変化によって、骨密度が下がってしまうことがあります。 骨粗鬆症は、痛みなどの症状が出る前に進行しているケースも多いため、早めに気づくことが大切です。 とくに、腰や背中の痛み、身長の縮み、背中の丸まりが気になっている人は、骨がもろくなっているサインかもしれません。(文献13) 「まだ症状がないから大丈夫」と思っていても、骨密度の検査を受けておくと良いでしょう。 医師のアドバイスを受けながら、薬の力を借りることも予防につながります。 「自分で気をつけるだけでは心配」という方は、一度医療機関で相談してみましょう。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングも受け付けています。 骨粗鬆症について不安がある方や、どこに相談すれば良いかわからない方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。 乳製品や大豆製品を摂って骨粗鬆症を予防しよう 骨を丈夫に保つためには、毎日の食事でさまざまな栄養素をバランス良くとることが大切です。 年齢を重ねると、カルシウムやたんぱく質などの栄養が不足しやすくなり、骨がもろくなってしまいます。 毎回の食事でしっかり栄養を摂り、骨粗鬆症を予防しましょう。 たとえば、牛乳やヨーグルト、魚、大豆製品、緑黄色野菜などを組み合わせると、カルシウム・ビタミンD・ビタミンK・たんぱく質など、骨の健康に欠かせない栄養素を効率よく摂れます。 無理のない範囲で食事を見直しながら、不安があるときは医師に相談してください。 できることから、骨の健康づくりをはじめてみましょう。 骨粗鬆症の食事に関するよくある質問 骨粗鬆症におすすめの飲み物はありますか? カルシウムやたんぱく質を含む牛乳や豆乳は、骨粗鬆症対策になる飲み物です。 豆乳は毎日飲みやすく、女性にうれしい大豆イソフラボンも摂取できます。 また、小松菜やバナナ、牛乳や豆乳、ヨーグルトなどをミキサーにかけて作るスムージーは、栄養バランスもよく、骨の健康にもぴったりです。 栄養たっぷりのスムージーを、朝食の一杯として取り入れてみてはいかがでしょうか。 骨粗鬆症にお酢は良くないですか? 「魚の骨が酢でやわらかくなるから、自分の骨もやわらかくなるのでは?」と不安に思う方もいますが、心配はいりません。 酢には、むしろカルシウムの吸収を助けるはたらきがあります。 魚の骨がやわらかくなるのは料理中の変化で、体の中で骨が溶けてしまうわけではありません。(文献7) 酢の物や、魚の酢煮など、食事の中に上手にとり入れていきましょう。 参考文献 (文献1) 「日本人の食事摂取基準(2025年版」策定検討会報告書令和6年10月,https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf (文献2) 農林水産省「大切な栄養素カルシウム」みんなの食育,https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/minna_navi/topics/topics1_05.html (文献3) 厚生労働省「ビタミンD」eJIM,https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/10.html (文献4) 上西一弘「特集/「骨」から考えるリハビリテーション診療一骨粗髭症・脆弱性骨折一骨の健康のための栄養」『MB Med Reha』270,pp59-65,2022,https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/%E8%B3%87%E6%96%99%E2%91%A6%E9%AA%A8%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E6%A0%84%E9%A4%8A%E3%80%80MB%20Med%20Reha%20270%2059-65%202022%E3%80%80.pdf (文献5) 石見佳子「大豆イソフラボンの骨代謝調節作用」『日本栄養・食糧学会誌』76(5),PP291-296,2023,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs/76/5/76_291/_pdf (文献6) 厚生労働省「カルシウム」eJIM,https://www.ejim.mhlw.go.jp/pro/overseas/c03/01.html (文献7) 公益財団法人骨粗鬆症財団「予防について」骨粗鬆症財団ホームページ,https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/faq/faqprevention.html#Q4 (文献8) 津志田藤二郎ほか「アクティブシニア社会の食品開発指針」2006年9月7日,https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2006/063011/200619043A/200619043A0013.pdf (文献9) 厚生労働省「令和5年国民健康・栄養調査結果の概要 」,https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf (文献10) 公益財団法人長寿科学振興財団「ビタミンKの働きと1日の摂取量」『健康長寿ネット』2016年7月25日,https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/vitamin-k.html (文献11) 厚生労働省「マグネシウム」eJIM,https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/13.html#d02 (文献12) 厚生労働省「ケア・スポット 健康経営推進プロジェクト 健康だより9月」安全衛生課 衛生委員会2022年9月,https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzenproject/member/care-spot/images/2_b.pdf (文献13) 河路 秀巳,伊藤 博元「骨粗鬆症の診断と治療」『日医大医会誌』5(1),pp41-46,2009,https://www.jstage.jst.go.jp/article/manms/5/1/5_1_41/_pdf
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「背中が痛い」 「最近腰が曲がってきた気がする」 その症状は、もしかしたら骨粗鬆症(こつそしょうしょう)かもしれません。 「骨粗鬆症」とは、骨の中がスカスカになってもろくなり、骨折しやすくなる病気です。自覚症状がないまま進行し、気づいたときには骨折をしていた、というケースもあります。 この記事では、骨粗鬆症であらわれやすい症状や、病院に行くべきタイミングについてご紹介します。骨粗鬆症の症状について知ることで、早めの対策ができれば幸いです。 骨粗鬆症の主な症状 骨粗鬆症の主な症状は以下の3つです。 背中や腰の鈍い痛みが続く 身長が縮む・姿勢が悪くなる 転倒や軽い動作でも骨折するようになる 今の自分に出ている症状に当てはまるものがないか、確認してみましょう。 背中や腰の鈍い痛みが続く 骨粗鬆症が進むと、背骨がもろくなって小さな骨折を起こすことがあります。 これを「脊椎圧迫骨折」といい、気づかないうちに起きているケースも珍しくありません。 また、骨の内部の「骨梁(こつりょう)」と呼ばれる細かい骨の構造が折れることによる痛みもあります。(文献1) 背中や腰の痛みが続くと「年のせいかな」「少し無理をしたからかな」と思いがちですが、実は骨粗鬆症が関係している可能性もあるのです。 身長が縮む・姿勢が悪くなる 「最近、昔より背が低くなった気がする」そんな変化も、骨粗鬆症のサインのひとつです。 背骨がつぶれるように骨折・変形してしまうと、自然と姿勢も丸くなり、身長が数センチ縮むことがあります。 とくに、若いころと比べて男性は6cm、女性は4cm以上の変化がある場合は、背骨の骨折が進んでいる可能性が高いといわれています。(文献2) 転倒や軽い動作でも骨折するようになる ふとした拍子に尻もちをついたり、重い荷物を持ち上げたりしただけで、骨が折れてしまうのも骨粗鬆症の症状のひとつです。 とくに背中、太もものつけ根、手首、腕のつけ根、肋骨などが折れやすくなります。 こうした骨折が重なると、さらに体を動かすのがつらくなり、生活に大きな影響を与えます。(文献1) 骨粗鬆症の初期症状は気づきにくい 骨粗鬆症は、骨がもろくなっても、痛みなどの自覚症状が出るとは限りません。多くの場合、初めて気づくのは「骨折してから」です。(文献1) とくに閉経後の女性は、女性ホルモンの減少によって骨密度が急激に低下しやすくなります。(文献2) 痛みがなくても、定期的に骨密度を測る、食事や運動に気を配るといった予防意識が大切です。 また、過度なダイエットやステロイドなどの薬の影響でも、骨が弱くなることがあります。(文献3) 骨粗鬆症の症状セルフチェックリスト 骨粗鬆症の兆候に気づくには、まずは自分の体の変化をチェックしてみましょう。 このチェックリストは、公益財団法人 骨粗鬆症財団が公開する「骨の健康度チェック表」より引用しています。(文献5) 次の項目のうち、当てはまるものの点数を合計してください。 あなたの骨の健康度がわかります。 1 牛乳、乳製品をあまりとらない 2点 2 小魚、豆腐をあまりとらない 2点 3 たばこをよく吸う 2点 4 お酒はよく飲む方だ 1点 5 天気のいい日でも、あまり外に出ない 2点 6 体を動かすことが少ない 4点 7 最近、背が縮んだような気がする 6点 8 最近、背中が丸くなり、腰が曲がってきた気がする 6点 9 ちょっとしたことで骨折した 10点 10 体格はどちらかと言えば細身だ 2点 11 家族に「骨粗鬆症」と診断された人がいる 2点 12 糖尿病や、消化管の手術を受けたことがある 2点 13 (女性)閉経を迎えた(男性)70歳以上である 4点 引用:公益財団法人 骨粗鬆症財団|骨の健康度チェック表 結果の見方 あなたの合計点数に当てはまる項目をご覧ください。 2点以下 今は心配ないと考えられます。これからも骨の健康を維持しましょう。 改善できる生活習慣があれば、改善しましょう。 3点~5点 骨が弱くなる可能性があります。気を付けましょう。 6点~9点 骨が弱くなっている危険性があります。注意しましょう。 10点以上 骨が弱くなっていると考えられます。 一度医師の診察を受けてみてはいかがですか。 引用:公益財団法人 骨粗鬆症財団|骨の健康度チェック表 ご自身の骨の状態を知る目安として、参考にしてみてください。 骨粗鬆症の症状を放置するリスク3選 骨粗鬆症の症状を放置すると、下記のようなリスクが考えられます。 骨折の連鎖で、さらに骨がもろくなる 痛みや動きにくさで、日常生活が制限される 寝たきりや介護が必要な状態になる 本章で骨粗鬆症を放置するリスクを理解し、早期発見・早期対策を考えましょう。 骨折の連鎖で、さらに骨がもろくなる 背骨が一カ所でも折れると、そこに負担が集中し、周りの骨まで折れやすくなります。 たとえば、太ももの付け根を骨折した場合、反対側の太ももの骨を骨折してしまう人は10人に1人というデータもあります。(文献6) 骨折の連鎖が起きる原因は、元々骨が弱くなっているためや骨折により転びやすくなること、反対側の骨に力が入りやすいことなどが考えられます。(文献6) 痛みや動きにくさで、日常生活が制限される 骨粗鬆症からの骨折による背中や腰の痛みは、日常生活にじわじわと影響を及ぼします。 掃除や洗濯、買い物といった家事が負担になったり、外出をためらうようになったりすることもあるでしょう。 また、重い荷物を持ち上げるのが怖くなったり、孫を抱っこしたくてもできなかったりと、これまで当たり前にできていた動作が困難になっていきます。 痛みや動きづらさのせいで行動範囲が狭くなると、日々の楽しみや穏やかな毎日がおびやかされる可能性があるのです。 寝たきりや介護が必要な状態になる 骨粗鬆症による背中や腰の痛み、そして度重なる骨折は、日常生活の自由を奪うだけでなく、寝たきりになるリスクにもつながります。 とくに注意したいのが、太もものつけ根(大腿骨)の骨折です。 この部位を骨折すると、長期間のリハビリが必要になるケースも少なくありません。 高齢になると手術やリハビリの負担は大きく、体力や筋力が一気に落ちがちです。 その結果、自分で歩けなくなり、介護が必要になるケースもあります。 転倒をきっかけに生活が一変することもあるため、日頃から骨の健康を意識しておくことが大切です。(文献7) 骨粗鬆症の症状が気になったら迷わず医療機関へ 骨粗鬆症は、痛みなどのはっきりした症状が出にくく、自分では気づきにくい病気です。 「少し背中が痛いだけ」「年のせいかな」と思っていても、実は骨がもろくなり、骨折のリスクが高まっていることもあります。 そのため、骨折してしまう前に、医療機関で骨の状態を確認しておくことが大切です。 病院では、骨密度の測定やレントゲン検査が行われ、現在の骨の状態や将来的なリスクがわかります。(文献6) 骨粗鬆症は、早めの対策で進行を防げる病気です。 「検査までは…」と迷っている方も、まずは相談だけでもしてみてはいかがでしょうか。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングも受け付けています。 骨粗鬆症の症状について不安がある方や、どこに相談すれば良いかわからない方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。 骨粗鬆症の症状が出たときの対策と治療法 骨粗鬆症の主な治療法は下記のとおりです。 外科治療 薬物療法 生活習慣の見直し かかりつけの医師とも相談しながら、適切な治療を進めていきましょう。 外科治療 骨折が見つかった場合は、状態に応じて外科的な治療が行われます。 もっとも一般的なのは、コルセットやギプスなどを使って骨を固定し、安静に過ごす方法です。 こうすることで骨の回復を促し、痛みを軽減させられます。 背骨の圧迫骨折などでは、簡易的なコルセットを数週間着けるだけで改善するケースもありますが、痛みが強い、骨のつぶれが大きい、骨が不安定な状態にあるといった場合には、手術が検討されることもあります。 おこなわれる手術は、骨を金属で固定する手術、骨にセメントを注入する手術などです。 再発や別の箇所の骨折を防ぐために、治療後も日常生活の工夫やリハビリの継続が大切です。(文献8) 薬物療法 骨粗鬆症の治療では、薬によるサポートも重要です。 薬は大きく分けて2種類あり、ひとつは「骨が溶け出すのを防ぐ薬」、もうひとつは「骨を新しく作る力を高める薬」です。 どちらの薬も「飲めばすぐ治る」わけではなく、継続して使うことで効果が発揮されます。 自己判断で中止してしまうと、せっかく改善していた骨密度が再び低下し、骨折のリスクが高まるおそれがあるため、続けることが大切です。 また、毎日服用するものや週に1回の服用で良いタイプなど、さまざまな種類の薬があります。(文献1) 気になることは医師や薬剤師に相談してみてください。 生活習慣の見直し 骨粗鬆症の予防や進行を抑えるためには、薬や治療だけでなく、毎日の生活習慣にも気を付ける必要があります。 なかでも重要なのが、栄養バランスのとれた食事と、無理のない運動の継続です。 食事の面では、カルシウム・ビタミンD・ビタミンKを意識してとるようにしましょう。(文献1) カルシウムは骨の材料となる栄養素で、牛乳やチーズ、小魚、大豆製品などに豊富に含まれています。 ビタミンDはカルシウムの吸収を助ける働きがあり、鮭や卵黄、きのこ類などから摂取可能です。 ビタミンKは骨の質を高める役割があり、納豆や小松菜などに多く含まれます。(文献9) 運動については、激しい運動をする必要はありません。 散歩や階段の上り下り、買い物など、日常の中で体を動かすことを意識するだけでも太ももの付け根の骨折予防になるといわれています。(文献1) また、喫煙や過度の飲酒は骨を弱くする原因になるといわれています。 これらを控えることも、骨を守る上で大切な生活習慣のひとつです。 生活の中でできる小さな工夫を積み重ねていくことで、将来の骨折リスクを下げ、健やかな毎日を送ることができます。(文献10) 骨粗鬆症の症状があらわれたら早めの受診を心がけよう 背中の痛みや身長の縮みは、骨粗鬆症のサインかもしれません。 骨粗鬆症は、自覚症状が出にくく、気づかないうちに進行してしまう病気です。 そして、いったん骨折すると、その後の生活に大きく影響してしまう可能性もあります。 背中や腰の痛み、姿勢の変化、骨折しやすさなどが気になるときは、できるだけ早めに医療機関に相談してみてください。 骨密度の検査やレントゲン検査を受けることで、自分の骨の状態がわかります。 予防も治療も、早いうちから始めることが大切です。 「まだ大丈夫」と思わず、体からのサインにしっかり目を向けてあげましょう。 骨粗鬆症の症状に関するよくある質問 骨粗鬆症の症状はどんな痛みがありますか? 骨粗鬆症による背骨の圧迫骨折では、「体動時腰痛(たいどうじようつう)」と呼ばれる特徴的な痛みがあらわれることがあります。 とくに、寝ている姿勢から起き上がろうとしたときに鋭い痛みが走り、一度立ち上がってしまえば痛みが軽減されるのが特徴です。(文献11) 骨粗鬆症は男性でもなりますか? 男性でも骨粗鬆症になるケースはあるため、注意が必要です。 骨粗鬆症というと女性の病気と思われがちですが、実は患者の4人に1人は男性だといわれています。 とくに病気や薬、栄養不足などが重なると、男性でも骨密度が低下しやすくなります。(文献12) 男性だから大丈夫とは思わず、違和感があれば早めに検査を受けることが大切です。 参考文献 (文献1) 河路 秀巳,伊藤 博元「骨粗鬆症の診断と治療」『日医大医会誌』5(1),pp41-46,2009,https://www.jstage.jst.go.jp/article/manms/5/1/5_1_41/_pdf (文献2) 折茂 肇「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年版」2015年6月,http://www.josteo.com/data/publications/guideline/2015_01.pdf#page=37 (文献3) 日本臨床内科医会「骨粗鬆症の原因」女性のミカタ,https://jyoseinomikata.jp/osteoporosis/cause.html (文献4) 公益財団法人骨粗鬆症財団「どんな人がなりやすい」骨粗鬆症財団ホームページ,https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/tabid250.html#:~:text=%E9%AA%A8%E7%B2%97%E9%AC%86%E7%97%87%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%9B%A0,%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82&text=%E3%81%BE%E3%81%9F%E3%80%81%E5%8D%B5%E5%B7%A3%E6%91%98%E5%87%BA%E3%83%BB%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85%E3%83%BB,%E9%96%A2%E4%BF%82%E3%81%AA%E3%81%8F%E7%99%BA%E7%97%87%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82 (文献5) 公益財団法人骨粗鬆症財団「骨の健康度チェック表」骨粗鬆症財団ホームページ,https://www.jpof.or.jp/Portals/0/images/osteoporosis/inspection_treatment/03/02/Op_health_check_Leaflet.pdf (文献6) 竹内 靖博.「骨粗鬆症の診断とガイドラインの変遷」『日本内科学会雑誌』111(4),pp732-738,2022,https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/4/111_732/_pdf (文献7) 日本臨床内科医会「骨粗鬆症ってどんな病気?」女性のミカタ,https://jyoseinomikata.jp/osteoporosis/ (文献8) 独立行政法人国立病院機構 村山医療センター「骨粗鬆症に関するご案内」村山医療センターホームページ,https://murayama.hosp.go.jp/orthopedics/illness/kotsusosho.html (文献9) 公益財団法人骨粗鬆症財団「骨粗鬆症における栄養」骨粗鬆症財団ホームページ,https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/nutrition/tabid257.html (文献10) 公益財団法人骨粗鬆症財団「タバコや酒の影響について」骨粗鬆症財団ホームページ,https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/nutrition/cigarette.html (文献11) 一般社団法人日本整形外相学会「骨折について」日本整形外傷学会ホームページ,2009年7月,https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip02.html (文献12) 日本医師会日医ニュース「男性の骨粗鬆症」健康ぷらざ,2018年6月20日,https://www.med.or.jp/dl-med/people/plaza/503.pdf
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「同年代の人が骨粗鬆症で骨折して大変そう。自分は大丈夫かな?」 「骨粗鬆症の検査を受けたことがないから、何をするのかわからない」 このような不安を抱えている方もいらっしゃるでしょう。 骨粗鬆症は自覚症状がないまま進行し、気づいたときには骨が折れやすい状態になっていることもあります。 知らずにそのまま放置してしまうリスクはさらに高まり、実際に骨折して日常生活に影響を及ぼすかもしれません。 だからこそ骨粗鬆症の検査は、自身の骨の状態を知り、早めに適切な対策を始めるための一歩となります。 本記事では、骨粗鬆症の4つの検査方法や検査を受けるべき人の特徴、検査が可能な場所を解説します。 骨の健康について考えるきっかけとなれたら幸いです。 骨粗鬆症の検査方法 骨粗鬆症のおもな検査は、以下のとおりです。 骨密度検査(骨量測定) 血液検査・尿検査(骨代謝マーカーの検査) レントゲン検査 身長測定 これらの検査の結果から、骨粗鬆症の診断や治療方針の決定に必要な情報が得られます。 それぞれ詳しく見ていきましょう。 骨密度検査(骨量測定) 骨密度検査は、骨の中にどのくらいのミネラル成分が含まれているかを調べる検査です。 一般的に、ミネラル成分が少ないほど骨密度が低いとされ、骨がもろく骨折しやすい状態だと考えられています。 骨密度のおもな測定方法は、以下のとおりです。 骨量の測定方法 説明 使用する機械 DXA(デキサ)法 ・脚の付け根と腰の骨密度を測定する ・精度が高い分、時間がかかる レントゲン(X線) MD法 ・手の骨密度を測る ・簡単だが、精度が下がる QUS法 ・かかとの骨密度を測る ・被ばくせず簡便だが、精度の誤差が大きい 超音波 自身の希望や、医療機関によって検査方法は異なります。 たとえば「少し時間がかかってもしっかりとした検査を受けたい」といった方にはDXA法がおすすめです。一方、「まずは手軽に検査してみたい」と考える方にはQUS法が適しています。 まずは、近くの医療機関にどんな検査があるか問い合わせてみるのが良いでしょう。 血液検査・尿検査(骨代謝マーカーの検査) 血液検査や尿検査では「骨代謝マーカー」とよばれる項目を調べます。 ヒトの骨は、新しい骨が作られ、古い骨が壊されて吸収される「骨代謝」のサイクルを常にくり返しています。(文献1) 骨代謝マーカーは骨の代謝の過程で出てくる物質のことで、これらの数値を調べることで骨の「壊れるスピード」と「作られるスピード」のバランスがどうなっているのかがわかるのです。 おもに以下の項目をチェックします。 骨代謝マーカーの種類 検査項目 説明 骨吸収マーカー ・TRAPC5b(酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ) ・DPD(デオキシピリジノリン) ・NTX(Ⅰ型コラーゲン架橋N-テロペプチド) ・CTX(Ⅰ型コラーゲン架橋C-テロペプチド) ・1CTP(Ⅰ型コラーゲンC末端テロペプチド) <高い場合> 骨吸収(骨の破壊)が進んで骨密度の低下を招くリスクがある <低い場合> 骨の代謝が低下している可能性がある 骨形成マーカー ・BAP(骨型アルカリフォスファターゼ) ・OC(オステオカルシン) ・ucOC(低カルボキシル化オステオカルシン) ・P1NP(Ⅰ型コラーゲンN-プロペプチド) ・P1CP(Ⅰ型コラーゲンC-プロペプチド) 骨吸収が起こってはじめて骨形成がはじまるため、単独で高くなることは少ない 参考:骨代謝とは|日本骨代謝学会(文献1) たとえば、骨吸収マーカーが高く、骨形成マーカーが正常である場合「骨が壊れるスピードは速くなっているのに、新しく骨が作られるスピードは普段どおり」といった状態を示しています。 つまり、骨の破壊に形成が追いつかず、骨の量が減少しやすい状況です。 骨代謝マーカーの検査は、骨の代謝のどの部分に異常があるのかを明らかにします。 それによって、将来的に骨密度がどのくらい減少しやすいのか、骨折のリスクが高いのかを評価できるのです。 レントゲン検査 レントゲン検査は、骨折や骨の変形の有無、骨の密度を確認するためにおこないます。(文献2) 骨粗鬆症が進行している場合、次のような変化が画像に現れることがあります。(文献3) 背骨が変形している 骨の中の網目模様がはっきり見えない 背骨全体がいつもより黒っぽく見える また、気づかないうちに起きている背骨の小さな骨折を発見するのにも、レントゲン検査は有効です。 たとえば高齢者では、骨粗鬆症によって軽い衝撃で背骨が折れてしまうケースが少なくありません。(文献4) こうした骨折を早期に発見し、治療や予防につなげる役割を果たすのが、レントゲン検査です。 なお、レントゲンによる被ばく線量は少なく、健康への影響もほとんどないと言われているため、過度に心配せず検査を受けてみましょう。 身長測定 身長の測定は、骨粗鬆症による背骨の圧迫骨折や変形を早期発見する手がかりになります。 とくに背骨がつぶれるように変形すると、数センチ単位で身長が縮むことも少なくありません。 いくつかの海外研究では、若いころと比較して身長の低下がある場合、背骨の骨折のリスクが高まると報告しています。(文献2) 25歳頃の身長と比較してどの程度縮んでいるかの確認が、骨粗鬆症の診断に役立ちます。 【検査推奨】骨粗鬆症になりやすい人の特徴 骨粗鬆症は、以下にあてはまる方に起こりやすいと言われています。(文献5) 閉経後の女性 高齢 やせ型 運動不足 喫煙、飲酒 骨折既往歴 ステロイド服用歴 遺伝(家族に骨粗鬆症の人がいる) これらの項目にあてはまるようでしたら、一度、骨の健康状態について検査を受けることをおすすめします。 「自分はどうなのだろう」と少しでも不安に感じたら、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。 メール相談やオンラインカウンセリングに対応しているため、来院する手間もかかりません。ぜひご活用ください。 骨粗鬆症の検査は「整形外科」で受けるのが一般的 骨粗鬆症の検査は、整形外科で受けるのが一般的です。 整形外科は「骨の専門家」であり、検査から診断、治療までスムーズに進められるメリットがあります。 整形外科に限らず、内科や婦人科でも検査に対応している場合があります。 とくに女性ホルモンの影響が気になる方は、婦人科で相談するのも選択肢の一つです。 また、自治体によっては健康診断の一環として骨密度検診を実施していることもあり、多くは指定された医療機関や検診センターで検査を受けます。 どこで検査を受けるか迷ったら、まずはかかりつけ医に相談したり、近くの整形外科のホームページで検査の実施状況を確認してみてはいかがでしょうか。 骨粗鬆症の検査にかかる費用 骨粗鬆症の検査を医療機関で受けた場合にかかる費用の目安は、以下のとおりです。 検査の種類 費用相場 骨密度検査(DXA法) 全額自己負担:約4,500円 3割負担:約1,350円 1割負担:約450円 血液検査 全額自己負担:約1万円 3割負担:約3,000円 レントゲン検査 全額自己負担:約2,500円 3割負担:約650円 自治体の検診や健康保険組合の補助で検査を受けるときは、自己負担が無料または数百円程度と安くすむことがあります。 骨粗鬆症の検査を受けるタイミング 骨粗鬆症の検査を受けるタイミングは、以下がおすすめです。 市町村の健診時期になったら 40歳を超えたら 関節痛・背が縮んだ感覚など気になる症状が現れたら 自身の状況と照らし合わせて、受けるタイミングを検討する参考にしてください。 市区町村の健診時期になったら 市区町村で実施される特定健診やがん検診の機会に、対象年齢に該当する場合や、追加で申し込むことで、骨粗鬆症の検査を受けられます。 骨粗鬆症の検診は、健康増進法にもとづき40歳〜70歳の女性を対象に5歳刻みの年齢でおこなわれています。(文献5) 自治体によっては男性も対象にしていたり、対象年齢を拡大したりしている場合もあるため、お住まいの市区町村のホームページで確認し、積極的に活用しましょう。 40歳を超えたら 骨粗鬆症は、閉経後の女性や50歳以上の高齢者に多い病気です。(文献7) 「まだ若いから大丈夫」と思いがちですが、実は骨の量は20代〜30代で最大となり、その後は徐々に減少します。そのため、40歳を過ぎたら一度骨の健康状態をチェックしておくことをおすすめします。 また、男性も決して他人事ではありません。 女性と同じく、年齢を重ねるごとに骨密度が低下するリスクは高まるため、少なくとも50歳を過ぎたら一度は検査を受けておきましょう。 関節痛・背が縮んだ感覚など気になる症状が現れたら 突然の背中や腰の違和感、身長が縮んだ感覚、姿勢の変化などがあれば骨折の兆候かもしれません。 骨粗鬆症が進み、気づかぬうちに骨折していることもあるため、気になる症状が現れたら早めに医療機関で検査を受けましょう。 骨粗鬆症の検査で「要注意」と言われたらすべきこと 骨粗鬆症の検査の結果「骨密度が少し低い」「要注意」などの診断を受けたときにすべきことは、以下のとおりです。 医師の指示をもとに再検査や適切な治療を受ける 骨を強くする栄養を意識した食生活に見直す 運動習慣を取り入れて骨への刺激を増やす 転倒を防ぐ生活環境へ整える 一つずつ見ていきましょう。 医師の指示をもとに再検査や適切な治療を受ける 検査結果について医師から詳しい説明を受け、今後の対応について相談しましょう。 必要に応じて、再検査や生活習慣の改善のアドバイスを受けたり、薬物治療を検討したりします。 「まだ大丈夫だろう」と自己判断で放置してしまうと、骨がもろくなり、骨折のリスクを高めてしまう恐れがあります。 医師の指示を守り、適切な対策を講じることが大切です。 骨を強くする栄養を意識した食生活に見直す 「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」によると、以下の3つの栄養素が骨粗鬆症の治療で重視されています。(文献2) 栄養素 骨への作用 おもな食材 カルシウム ・骨の主成分となる ・骨密度を維持する ・牛乳 ・チーズ ・ヨーグルト ・干しえび ビタミンD ・カルシウムの吸収を助けて骨に定着させる ・日光を浴びると体内でもつくられる ・鮭 ・サンマ ・きくらげ ・干ししいたけ ビタミンK ・骨にカルシウムを取り込むのを助ける ・納豆 ・ブロッコリー ・小松菜 ・ほうれん草 参考:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン|日本骨代謝学会(文献2) とくにカルシウムはビタミンDと一緒に摂ることで吸収率がアップします。 ヨーグルトにきな粉をかける、鮭ときのこを一緒に調理するのも、手軽に取り入れられるためおすすめです。 これらを取り入れた、バランスの良い食生活を心がけましょう。 運動習慣を取り入れて骨への刺激を増やす 活発にからだを動かしている方は、骨粗鬆症による骨折が少ないとした研究結果が多く報告されています。(文献2) 具体的には、以下の運動が骨密度の上昇をもたらしたとされています。(文献2) ウォーキング ジョギング ダンス ジャンプ まずは、自身に合った無理のない運動を見つけて、習慣にすることから始めてみましょう。 転倒を防ぐ生活環境へ整える 骨粗鬆症の方は骨がもろくなっているため、転倒による骨折のリスクが高まります。 日常生活の中に以下のような工夫を取り入れて、転倒を防ぎましょう。 室内の段差をなくす 滑りにくいマットを使用する 足元が明るいように照明を工夫する 階段や廊下には手すりを設置する 転倒防止が、骨折や寝たきりを防ぐ第一歩になります。 自宅内に危険な場所がないか、改めて確認してみてください。 生活習慣を見直す 喫煙や過度の飲酒は、骨折のリスクを高めることがわかっています。(文献2) ガイドラインでも、以下のように推奨されています。(文献2) 喫煙を始めない 喫煙習慣のある方は禁煙する 1日のエタノール量を24g未満とする また、塩分やカフェインの過剰摂取もカルシウムをからだの外に出しやすくしてしまうことがわかっています。(文献9) 骨の健康を守るため、これらの成分の摂りすぎには注意しましょう。 骨粗鬆症の検査で自分の骨の状態を知ろう 骨粗鬆症は静かに進行し、骨折として突然現れることがあります。 だからこそ、骨密度をはじめとする検査で、早期に骨の状態を知ることが大切です。 とくに女性や高齢の方、生活習慣に不安を感じる方には、積極的な検査をおすすめします。 「要注意」と診断された場合も、適切な食事や運動、医師との連携によって、骨の健康を維持できます。 自身の骨の状態と向き合うために、まずは検査を受けるところから始めましょう。 「自分の骨の状態は大丈夫なのかな」と不安を感じたら、当院「リペアセルクリニック」のメール相談またはオンラインカウンセリングまでお気軽にご相談ください。 骨粗鬆症の検査についてよくある質問 骨密度の検査はどうやってやるのですか? 骨密度の検査は、骨の中にあるカルシウムをはじめとしたミネラルの量を測定し、骨の強さ(密度)を数値化するものです。 もっとも一般的なのはDXA法と呼ばれる検査で、腰の骨や太ももの骨にX線を当てて測定します。 検査時間は、準備や着替えを含めて10〜15分程度です。 ほかにも手首やかかとを使うMD法やQUS法といった簡易検査もありますが、精度はDXA法がもっとも高いと言われています。 骨密度測定は自宅でできますか? 原則として、正確な骨密度測定は医療機関でおこなう必要があります。とくに検査の精度が高いDXA法は、医療機関の専用装置が不可欠です。 家庭用の体組成計で「推定骨量」を計測できるものも存在しますが、骨密度を測定するものではありません。 手首やかかとで骨密度を測れるものも家庭用で作られていないため、自宅で骨密度測定をおこなうのは現実的ではないでしょう。 本格的な診断を希望する場合は、医療機関で検査を受けるのをおすすめします。 参考文献 (文献1) 骨代謝とは|日本骨代謝学会 https://jsbmr.umin.jp/basic/kotutaisha_ma.html (文献2) 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン|日本骨代謝学会 https://jsbmr.umin.jp/pdf/GL2015.pdf (文献3) Q&A Vol.337 【どうやって見ればいい?】骨粗鬆症の画像に関するQ&A | 日本離床学会 https://www.rishou.org/for-memberships/qa/qa-vol-337#/ (文献4) 「脊椎椎体骨折」|日本整形外科学会 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/vertebral_compression_fracture.html (文献5) 健康増進事業実施要領|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/14.pdf (文献6) どんな人がなりやすい|公益社団法人骨粗鬆症財団 https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/tabid250.html (文献7) International Osteoporosis Foundation. Epidemiology. https://www.osteoporosis.foundation/health-professionals/about-osteoporosis/epidemiology (文献8) 骨そして筋肉の健康における栄養素・非栄養素の役割 骨と栄養素の視点から|田中清ら https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs/76/5/76_283/_pdf
2025.05.30 -
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
「中枢神経障害とは何か知りたい」「中枢神経障害の原因や治療法を知りたい」といった疑問を持っている方もいるでしょう。 中枢神経障害は、脳および脊髄の構造または機能に異常が生じる神経疾患です。原因疾患によって適切な治療法が異なるため、中枢神経障害が疑われる場合は、早めに医療機関を受診する必要があります。 今回は、中枢神経障害の初期症状から治療法までわかりやすく解説します。中枢神経障害について理解を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。 中枢神経障害とは 中枢神経障害とは、中枢神経系を形成する脳または脊髄の構造や機能に異常が生じて発症する神経疾患です。 中枢神経は、身体の動きや感覚、思考、記憶、感情など、あらゆる機能を制御する司令塔の役割を果たしています。そのため、中枢神経系に異常が生じると、障害を受けた部位やその範囲に応じて、さまざまな症状が現れる可能性があります。 なお、中枢神経障害は原因によって症状や治療法が異なるため、早期の診断と適切な治療が重要です。 中枢神経障害の原因と種類 中枢神経障害の原因は、主に以下の5つに分類できます。 原因疾患の特定は、中枢神経障害の適切な診断と治療につながります。以下で、それぞれ詳しく見ていきましょう。 血管性疾患 血管性疾患は、中枢神経障害の原因の一つです。血流が悪くなったり遮断されたりすると、脳や脊髄の神経細胞が損傷を受けます。代表的な血管性疾患は、以下の通りです。 脳梗塞 脳出血 くも膜下出血 身体の麻痺のほか、言語障害・視覚障害・意識障害などが現れる場合があります。 神経変性疾患 神経変性疾患も中枢神経障害の一因になります。神経変性疾患とは、神経細胞が徐々に変性・消失する疾患です。主な神経変性疾患は、以下の通りです。 パーキンソン病 アルツハイマー病 ALS(筋萎縮性側索硬化症) パーキンソン病を発症すると、ドーパミンを生産する神経細胞が減少し、運動障害を引き起こします。また、アルツハイマー病を発症すると、記憶を司る脳の神経細胞が徐々に破壊されることにより、認知機能が低下します。 炎症性疾患 免疫系の異常や感染症によって引き起こされる炎症性疾患も、中枢神経障害の原因の一つです。炎症性疾患の代表例は、以下の通りです。 多発性硬化症 脳炎 多発性硬化症を発症すると、免疫系が神経の保護膜を攻撃し、神経伝達に障害を引き起こします。また、ウイルスや細菌感染による脳の炎症も中枢神経障害の原因になります。 外傷性疾患 外傷性疾患も中枢神経障害の原因の一つです。交通事故やスポーツなど、外部からの物理的な衝撃が中枢神経に影響を与える場合があります。 脊髄損傷 頭部外傷 外傷性疾患による中枢神経障害は回復に時間がかかるほか、重篤な後遺症が残るケースも珍しくありません。 感染性疾患 ウイルスや細菌による感染性疾患によって、中枢神経障害に陥ることもあります。中枢神経障害の原因になる感染疾患は、主に以下の通りです。 髄膜炎 日本脳炎 中枢神経系がウイルスや細菌に感染すると、炎症を引き起こします。感染性疾患による後遺症が深刻化しないよう、適切な治療が必要です。 中枢神経障害の症状 中枢神経障害の症状はダメージを負った部位や程度によってさまざまです。具体的には、主に以下のような症状が現れます。 障害の種類 具体的な症状 主な原因疾患 運動障害 手足の麻痺や震え 手足が動かしにくい 脳卒中 パーキンソン病 感覚障害 視覚や聴覚、触覚に異常を感じる 脳腫瘍 脳卒中 認知機能障害 記憶力の低下 判断力の低下 アルツハイマー病 精神的障害 不安 抑うつ 幻覚 パーキンソン病 アルツハイマー病 なお、原因疾患によって、症状の進行は異なります。症状を改善するためには、それぞれ原因疾患に対する治療が必要です。 中枢神経障害の治療法 中枢神経障害の治療法として、主に以下の選択肢があります。 薬物療法 リハビリテーション 再生医療 中枢神経障害の原因疾患のなかには、根治が難しい疾患も少なくありません。それぞれの治療法について解説するので、医師と相談しながら、適切な治療法を検討してください。 薬物療法 中枢神経障害の治療では、原因疾患に応じて薬物療法が選択されることが多いです。症状に応じて、痛みを軽減するための鎮痛剤や、精神的な不安を抑える精神安定剤のほか、抗てんかん薬や抗うつ薬などが投与されます。 たとえば、神経変性疾患やパーキンソン病、アルツハイマー病などに対しては、症状の進行を遅らせるために薬物療法が選択されるのが一般的です。なお、中枢神経障害の疾患の多くは治療法が確立されておらず、薬物療法は単なる対症療法に留まるとされています。(文献1) リハビリテーション 中枢神経障害において、リハビリテーションは疾患により低下した運動機能や、認知機能の改善を目指す治療法です。 具体的には、理学療法士による運動療法、作業療法士による日常生活動作の訓練、言語聴覚士によるコミュニケーション能力の向上を図る訓練などがおこなわれます。 また、認知機能を維持・向上させるための脳トレーニングや、心理的な支援も中枢神経障害におけるリハビリテーションの一環です。 なお、中枢神経疾患のリハビリテーションは、数週間から数カ月にわたって継続されることが多いです。なかでも、パーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)など、進行性の疾患に対しては、リハビリ期間が長期化する場合があります。 再生医療 再生医療も、中枢神経障害の治療における選択肢の一つです。再生医療とは、自然治癒力を最大限に引き出すための医療技術で、幹細胞や血小板の投与によって症状改善を目指す治療法です。 リペアセルクリニックでは、中枢神経障害の原因となる脳梗塞や脳卒中、脊髄損傷に対する再生医療をおこなっています。 当院の幹細胞治療は、少量の脂肪を採取するだけで、十分な量の細胞を培養できる点が特徴です。そのため、身体への負担が少なくて済みます。 再生医療による治療法や具体的な症例について知りたい方は、以下のページをご覧ください。 なお、リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。中枢神経障害の症状でお悩みの方は、ぜひ気軽にご相談ください。 中枢神経障害は原因に合わせて適切な治療法を検討しよう 中枢神経障害とは、脳や脊髄などの中枢神経に異常が生じ、手足のしびれや感覚異常、認知機能の低下といったさまざまな症状を引き起こす疾患です。原因は脳卒中や脊髄損傷、パーキンソン病、アルツハイマー病など多岐にわたり、疾患ごとに治療法が異なります。 中枢神経障害は、早期発見と適切な治療により、症状を改善したり進行を遅らせたりすることが可能です。薬物療法やリハビリテーション、再生医療など、医師の診断のもと適切な治療法を検討しましょう。 中枢神経障害に関するよくある質問 中枢神経障害の診断方法は? 中枢神経障害の診断には、主に以下の検査が用いられます。 MRI(磁気共鳴画像法) CT(コンピュータ断層撮影) 脳波検査 脳脊髄液検査 脳や脊髄の構造や機能を評価するため、一般的に複数の手法を用いて診断されます。 中枢神経障害と末梢神経障害の違いは? 中枢神経障害は、脳や脊髄などの中枢神経系に発生する障害です。 一方で、末梢神経障害は、手足や体幹に伸びる末梢神経に生じる障害のことです。末梢神経障害は、糖尿病や自己免疫疾患などが原因で、手足のしびれや筋力低下といった症状を引き起こします。 中枢神経障害は治る? 中枢神経には再生を阻害する因子が多く存在し、自然に修復されにくいといわれています。(文献2)そのため、中枢神経障害は、原因疾患によって根治が難しい疾患です。 ただし、近年の医療技術の進歩により、リハビリテーションや再生医療を通じて、一定の改善が見込まれる場合もあります。 参考文献 ((文献1) 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「中枢神経疾患治療薬の承認審査の現状と DDS への期待」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/34/5/34_385/_pdf (最終アクセス:2025年5月20日) (文献2) 大阪大学大学院 医学系研究科 分子神経科学「失われた神経回路を取り戻すために」 https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/molneu/researchp1.html (最終アクセス:2025年5月20日)
2025.05.30 -
- 関節リウマチ
- 内科疾患
「最近、手や膝が痛むようになってきた」 「更年期の影響だと思っていたが、もしかするとリウマチなのではないか?」 更年期に入り、関節痛に悩まされている方の中には、このような不安を抱えている方もいらっしゃるでしょう。 ご家族にリウマチの方がいる場合は、とくに不安が強いのではないでしょうか。更年期関節痛とリウマチには、発症年齢や関節痛以外の症状などの違いがあります。 本記事では、更年期関節痛とリウマチの違いや治療法、セルフケアについて解説します。両者の違いを理解して適切な治療を受けるためにも、ぜひ最後までご覧ください。 更年期関節痛とリウマチの違い この章では、更年期関節痛とリウマチの違いについて説明します。 更年期関節痛とは 更年期関節痛とは、更年期に伴う身体症状の1つです。 近年になって、女性ホルモンの一種であるエストロゲンが減少すると、関節痛や腫れ、しびれが生じることが明らかになりました。エストロゲンには、関節や腱を保護する滑膜の腫れを抑える働きがあります。エストロゲン減少により生じた関節痛や腫れなどが、更年期関節痛と呼ばれます。 主な更年期関節痛は、以下のとおりです。 関節痛の種類 特徴 へバーテン結節 手指の第1関節に症状が現れる ブシャール結節 手指の第2関節に症状が現れる 母指CM関節症 親指の付け根に症状が現れる ばね指 曲げた手指が伸ばしにくくなる ドケルバン病 親指側の手首が痛む 手根管症候群 手のひらが痛んだりしびれたりする 手の関節だけではなく、膝や肩など複数の部分で関節痛が生じる場合もあります。 以下の記事では、ブシャール結節について詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 リウマチとは 関節リウマチは自己免疫疾患の1つです。 関節内の滑膜が自分の免疫によって攻撃されたために、手指の関節痛や腫れ、朝のこわばりといった症状が現れます。進行すると関節の変形や破壊が見られるようになります。 免疫システムの異常や、喫煙をはじめとする環境要因、遺伝的要因が発症に関与していると考えられていますが、現時点で原因は特定されていません。 関節リウマチについては以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 更年期関節痛とリウマチの違いを見分けるポイント 更年期関節痛とリウマチの違いを以下に示します。 更年期関節痛 関節リウマチ 発症年齢と性別による違い 40~50代の女性に多い 閉経前後の10年間に発症しやすい 30~50代の女性に多い 60代以上で発症する場合は、性別による差は少ない。 症状による違い 手指以外にも、膝や肩など複数の部分で関節痛が生じる 関節の腫れは見られない、もしくは軽度 更年期が過ぎると自然に軽減する 関節痛以外の症状としては、体のほてり、発汗、動悸、イライラなどが見られる 手指の関節痛が特徴的(膝や足にも症状が出る場合もある) 関節の腫れやこわばり、熱感などが見られる 徐々に進行し、関節の変形や破壊が生じるケースもある 関節痛以外に、微熱や食欲不振、倦怠感などが見られる 更年期関節痛では時間の経過とともに症状が軽減するケースが多い一方で、関節リウマチは症状が徐々に進行する点が大きな違いといえるでしょう。 更年期関節痛の治療とケア方法 更年期関節痛の治療やケア方法は、主に以下のとおりです。 ホルモン補充療法 薬物療法 日常生活におけるセルフケア ホルモン補充療法 更年期で減少したエストロゲンを補充する治療法です。 子宮を摘出された方の場合はエストロゲンのみを補充しますが、それ以外の方は、エストロゲンと黄体ホルモンを併用します。子宮がある方の場合、エストロゲンのみを補充すると、子宮内膜が異常に増殖する「子宮内膜増殖症」のリスクがあるためです。(文献1) 薬物療法 ホルモン剤以外の薬物療法では、アスピリンやロキソニンといった消炎鎮痛剤や漢方薬などが多く用いられます。 関節痛以外の症状がある場合は、向精神薬や自律神経調整薬も処方されます。 日常生活におけるセルフケア 痛みのない範囲でのストレッチやマッサージは、セルフケアとしておすすめです。血行が促進されて、関節が動きやすくなります。ただし、強く痛むときは安静にしましょう。 バランスの良い食事や適度な運動、睡眠などで生活リズムを整えることもセルフケアの1つです。規則正しい生活は、ホルモンバランスを整えることにつながります。(文献2) 食事においては、女性ホルモンに似た働きをする大豆イソフラボンや、ホルモンバランスを整える働きがあるビタミンEなどを積極的に摂りましょう。ビタミンEが多く含まれる食品は、かぼちゃやほうれん草、アーモンドなどです。(文献3)、(文献4) 更年期関節痛のセルフケアについては、以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 リウマチの治療とケア方法 関節リウマチの治療の中心は薬物療法です。 抗リウマチ薬や生物学的製剤、JAK阻害薬などが主に用いられるほか、ステロイド剤や非ステロイド性の消炎鎮痛剤が処方される場合もあります。 関節の変形や破壊が進んだ場合は、手術も選択肢に含まれます。 セルフケアとして第一に挙げられるのは禁煙です。それ以外のセルフケアとしては、栄養バランスの良い食事や適度な運動、休息などが挙げられます。 関節リウマチの治療や予防策については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 更年期関節痛とリウマチの違いに関わらず早めの受診を心がけよう 更年期関節痛とリウマチは原因や発症時期、症状に違いはあるものの、どちらも関節痛が続く疾患です。 更年期関節痛の場合は更年期が終わると徐々に回復しますが、リウマチは進行性であるため、放置しておくと関節の変形や破壊などの症状も現れます。 どちらの場合でも早期発見および、早期治療が大切です。関節痛が続いている方は、整形外科やリウマチ科、婦人科などの医療機関を受診しましょう。 当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。関節痛でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。 更年期関節痛とリウマチの違いに関するよくある質問 更年期関節痛とリウマチを同時に発症する可能性はありますか? 更年期関節痛とリウマチを同時に発症する可能性はあります。 更年期は、女性ホルモンの1つであるエストロゲン減少によりさまざまな心身の症状が発生する時期です。エストロゲンは、免疫系にも影響を与えるホルモンで、炎症を抑える働きがあります。 エストロゲン減少で免疫のバランスが崩れると、リウマチを発症するリスクが高まります。関節痛がある場合は、原因に関わらず、早急に医療機関を受診しましょう。 更年期障害による関節痛はいつまで続きますか? 更年期障害による関節痛は、更年期が終わると徐々に回復に向かいます。しかし、関節痛の原因が更年期ではなくリウマチの可能性もあります。 更年期関節痛とリウマチを同時に発症している場合もあるため、関節痛が続くときは放置せず、早急に医療機関を受診しましょう。 (参考文献) (文献1) 東京医科大学病院 薬剤部「お薬のしおり 更年期障害について」2022年 https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/yakuzai/data/240.pdf (最終アクセス:2025年5月22日) (文献2) 全国健康保険協会 栃木支部「ホルモンバランスを整えてグッドコンディションを手に入れよう!」 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/file/060911104606.pdf (最終アクセス:2025年5月22日) (文献3) 公益財団法人中国労働衛生協会「更年期の健康課題」2024年 https://churou-wp.sub.jp/wordpress2/wp-content/uploads/2024/02/2201f33f600bac8744116a4596d7c057.pdf (最終アクセス:2025年5月22日) (文献4) 国立研究開発法人 医療基盤・健康・栄養研究所「ビタミンE」「健康食品」の安全性・有効性情報, 2020年11月5日 https://hfnet.nibn.go.jp/vitamin/detail176/#002 (最終アクセス:2025年5月22日)
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「関節リウマチで治療を受けているけれど、最近いつもと違う症状が出てきた」 「関節リウマチの合併症にはどのようなものがあるのだろう?」 関節リウマチの治療を受けている方の中には、合併症に関する不安を抱えている方も多いことでしょう。関節リウマチの合併症には、間質性肺炎や骨粗しょう症、シェーグレン症候群などがあります。 本記事では、関節リウマチの合併症および原因、予防のポイントなどを解説します。合併症に関する疑問や不安解消のきっかけになりますので、ぜひ最後までご覧ください。 関節リウマチの主な合併症 関節リウマチの主な合併症として挙げられる7つの疾患を以下に示します。 間質性肺炎 骨粗しょう症 シェーグレン症候群 貧血 アミロイドーシス 肝機能障害 腎機能障害 間質性肺炎 間質性肺炎とは、肺の間質(肺胞壁および肺胞を支える組織)を中心に炎症をきたす疾患です。炎症が進むと、肺全体が固くなります。 主な症状は、息苦しさや乾いた咳(痰を伴わない咳)などです。 進行すると呼吸不全の状態になるケースもありますが、呼吸不全まで進まない種類の間質性肺炎もあります。 骨粗しょう症 骨粗しょう症とは、骨量の減少や骨質の劣化などが原因で骨がもろくなり、骨折しやすくなる疾患です。骨粗しょう症の患者数は、全国で約1,280万人といわれています。(文献1) 骨粗しょう症には閉経後骨粗しょう症や続発性骨粗しょう症などの種類があり、関節リウマチ合併症由来のものは、続発性骨粗しょう症に分類されます。 骨粗しょう症自体は、自覚症状を感じにくい疾患です。症状がないまま徐々に骨が弱くなり、腰椎や大腿骨の骨折などを引き起こす可能性があります。 大腿骨の骨折は、歩行困難や寝たきりを引き起こす大きな原因の1つとされています。 骨粗しょう症については、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 シェーグレン症候群 シェーグレン症候群は、関節リウマチと同様、自己免疫疾患の1つです。(文献2) 涙腺や唾液腺などの慢性的な炎症が起こり、ドライアイやドライマウス、鼻の乾燥などの症状が現れます。 関節リウマチの合併症は二次性シェーグレン症候群と呼ばれており、他の合併症が見られないものは、一次性シェーグレン症候群と呼ばれます。一次性シェーグレン症候群には、病変が全身に及ぶタイプも存在します。(文献2) 貧血 関節リウマチの方は、慢性的な炎症や抗リウマチ薬の副作用などにより、貧血を合併しやすい状況です。 貧血にはさまざまな種類があり、関節リウマチによるものは、鉄分が足りなくなることで起こる小球性低色素性貧血に分類されます。 関節リウマチと貧血の関係については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 アミロイドーシス アミロイドーシスとは、アミロイドと呼ばれる異常なタンパク質が、脳や心臓、腎臓、消化管、神経などのさまざまな臓器に付着し、機能障害を起こす疾患です。 アミロイドーシスには、複数の臓器にアミロイドが付着する全身性と、特定の臓器にアミロイドが付着する限局性があります。 また、アミロイドーシスは遺伝性と非遺伝性にわかれており、多くの患者は非遺伝性です。関節リウマチ合併症によるものも、非遺伝性アミロイドーシスに分類されます。 肝機能障害 関節リウマチに合併する肝機能障害の多くは、薬剤性のものです。とくに、抗リウマチ薬であるメトトレキサートの副作用で肝機能障害が起こりやすいとされています。 リウマチの薬の影響でB型肝炎やC型肝炎のウイルスが活性化し、無症状の方が発症する場合もあります。 自己免疫疾患の一つである関節リウマチでは、他の自己免疫疾患を合併するケースも少なくありません。肝臓疾患としては、自己免疫性肝炎や原発性胆汁性胆管炎などがあります。 腎機能障害 関節リウマチ合併症としての腎機能障害は、ネフローゼ症候群や腎不全などアミロイドーシスに関係しているものが多い状況です。抗リウマチ薬や消炎鎮痛剤の副作用による腎機能障害もあります。 腎機能障害の症状としては、全身の倦怠感やむくみ、タンパク尿などが挙げられます。 関節リウマチと腎機能障害の関係については、以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。 関節リウマチの合併症が生じる原因 関節リウマチの合併症が生じる原因としては、疾患そのものに加えて薬の副作用が挙げられます。 間質性肺炎や骨粗しょう症、シェーグレン症候群などは関節リウマチ由来の合併症であり、肝機能障害は、薬の副作用であることが多い状況です。 腎機能障害には、アミロイドーシスに由来するものや薬の副作用によるものがあります。 関節リウマチの合併症予防と早期発見のポイント 関節リウマチの合併症予防および早期発見のポイントは、主に以下の2つです。 生活管理 定期的な受診 生活管理 関節リウマチ悪化予防のために一番望ましい行動は、禁煙です。(文献3)寝る前や食後の歯磨きや、歯科検診などの歯周病予防も欠かせません。歯周病は関節リウマチ発症や悪化に関係するためです。 貧血や骨粗しょう症といった合併症予防のためには、カルシウムや鉄分の多い、栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。 関節リウマチは抗リウマチ薬やステロイド剤の影響で、感染症を引き起こしやすいとされています。(文献4)手洗いやうがいといった日頃からの感染予防に加えて、必要に応じて各種予防接種を受けましょう。 定期的な受診 合併症の予防や早期発見のためには、定期的に医療機関を受診し、必要な診察および検査を受けることが大切です。いつもと違う症状があるときは、ためらわずに受診し、主治医へ状況を伝えましょう。 症状がないときに受診や内服を中断すると、関節リウマチそのものが悪化してしまい、合併症のリスクも高まります。自己判断での服薬中断は避けてください。 関節リウマチの薬については、以下の記事で解説しています。あわせてご覧ください。 関節リウマチで合併症を引き起こさないためにも継続的な治療が大切 関節リウマチの合併症は、疾患そのものによるものから薬の副作用まで多くの種類が存在します。 合併症予防および早期発見・治療のためにも、日頃から薬の内服を続け、いつもと違う症状があれば、速やかに医療機関を受診しましょう。いつもと違う症状を放置しないことが大切です。 当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。関節リウマチおよび合併症についても、お気軽にご相談ください。 関節リウマチの合併症に関するよくある質問 関節リウマチの合併症で亡くなることはありますか? 関節リウマチ合併症の中でも、狭心症や心筋梗塞、脳出血、脳梗塞などの心血管イベントを発症すると、重症の場合亡くなることもあります。(文献5) 関節リウマチは、関節だけではなく血管にも炎症を起こすことがあるため、血管の狭窄や血栓が発生しやすい状況です。そのため心血管イベントにつながる可能性が高いとされています。 合併症の1つである間質性肺炎も、重症化したり急激に悪化したりすると命に関わる場合も少なくありません。(文献6) シェーグレン症候群を治療しないとどうなりますか? シェーグレン症候群を治療しないと、別の病気を発症していることに気づけないリスクがあります。 シェーグレン症候群は現段階では完治が難しいものの、予後は良好とされる疾患です。しかし、経過観察中に間質性肺炎や腎不全、リンパ腫を発症する場合もあります。(文献2)そのため発症後は、定期的な治療や経過観察が必要です。 関節リウマチの合併症で多いのは何ですか? 関節リウマチの合併症はさまざまであるため、どれが一番多いとの断定は難しい状況です。 合併症の1つである間質性肺炎は、関節リウマチ患者の約10~30%に見られています。(文献6) それ以外の合併症としては、肝機能障害や腎機能障害、骨粗しょう症、貧血、シェーグレン症候群、各種感染症などがあります。 (参考文献) (文献1) 公益財団法人 骨粗鬆財団「病気について」 https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/faq/faqabout.html(最終アクセス:2025年5月22日) (文献2) 順天堂大学医学部附属順天堂医院「シェーグレン症候群」膠原病・リウマチ内科 https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/collagen/disease/disease03.html(最終アクセス:2025年5月22日) (文献3) 一般社団法人日本リウマチ学会「リウマチ・膠原病を心配したら」一般社団法人日本リウマチ学会ホームページ https://www.ryumachi-jp.com/general/collagen-diseases/(最終アクセス:2025年5月22日) (文献4) ファイザー株式会社「日常生活の注意点 関節リウマチと感染予防」リウマチeネット https://www.riumachi.jp/life/caution/infectionprevention(最終アクセス:2025年5月22日) (文献5) 公益財団法人日本リウマチ財団「心血管イベント」リウマチ情報センター https://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/rheuma/complications/shinkekkan_event/(最終アクセス:2025年5月22日) (文献6) 東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター「肺炎,間質性肺炎」,2015年6月1日 https://twmu-rheum-ior.jp/diagnosis/ra/ra-complications/ip.html(最終アクセス:2025年5月22日)
2025.05.30 -
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「手の指が腫れていて、こわばる感じがする」 「これは関節リウマチの症状なのだろうか」 「血縁者にリウマチ患者がいるので、遺伝したのではないか」 関節リウマチと思われる症状と遺伝に関して、お悩みの方もいらっしゃることでしょう。 関節リウマチ発症には遺伝的要素もありますが、確実に遺伝するものではありません。環境要因も発症に関係するためです。 本記事では、関節リウマチと遺伝の関係性やその他の要因、予防法などについて解説します。 遺伝に関する疑問が解消できますので、ぜひ最後までご覧ください。 関節リウマチと遺伝の関係 関節リウマチは、自分の免疫が関節の滑膜を攻撃することで関節炎を引き起こす疾患です。 関節リウマチを発症する原因は現在も完全には解明されていません。しかし、関節リウマチを含む自己免疫疾患には遺伝的な背景があるとされています。 親が関節リウマチである場合、子の発症リスクは約3倍になるといった報告もあるほか、患者の三親等以内の血縁者は33.9%の確率で発症するとされています。(文献1)(文献2) 三親等以内とは、子や孫、ひ孫、きょうだい、甥、姪といった範囲です。親や祖父母、曾祖父母、おじ・おばも三親等以内の血縁者に入ります。 一卵性双生児での発症一致率は12~15%程度、二卵性双生児やきょうだい間の発症一致率は2~4%程度とされています。(文献3) しかし、関節リウマチは確実に遺伝する疾患ではありません。遺伝的背景に加えて環境要因も関係するためです。血縁者に関節リウマチ患者がいても発症しない場合がありますし、血縁者に関節リウマチ患者がいない方でも発症するケースがあります。 関節リウマチと遺伝の関係については、下記の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 関節リウマチの発症に関わる遺伝子 関節リウマチの発症に関わる遺伝子は、主に以下のとおりです。 HLA PTPN22 PADI4 CCR6 IL2RA TNFAIP3 TYK2 IRF5 IRAK1 CD40 この中でも、関節リウマチ発症に比較的大きな影響を持つのがHLA遺伝子(ヒト白血球抗原遺伝子)です。 HLA遺伝子は、クラスⅠからクラスⅢまでの3領域にわかれます。(文献4)クラスⅡの1つ「HLA-DRB1遺伝子」が関節リウマチと深い関係にあるとの研究結果が示されています。(文献5) 関節リウマチにおける主な検査 関節リウマチにおける主な検査は、血液検査や画像診断などです。 血液検査では免疫反応や炎症反応を調べ、画像診断では関節の炎症や破壊の状況を直接調べます。 関節リウマチの遺伝子検査は一部の民間遺伝子解析サービスで実施されていますが、医療機関で診断に用いられているケースはまれであると考えて良いでしょう。 一部の自己炎症性疾患に対して、遺伝子検査を実施している医療機関もあります。 関節リウマチの検査については、下記の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 【遺伝で諦めない】関節リウマチの予防法 関節リウマチ発症の予防法として考えられるのは、主に以下の3つです。 禁煙 歯周病予防 食生活改善 喫煙および受動喫煙は、関節リウマチ発症に大きな影響を及ぼすとされており、禁煙は大切な予防行動です。 歯周病菌も関節リウマチ発症に関与している可能性が高いとされています。(文献6)そのため、毎日の口腔ケアや定期的な歯科検診といった歯周病予防の実践も、関節リウマチ予防には大切です。 食生活改善のためには、サバやサンマ、鮭などの魚介類や大豆製品を積極的に摂ると良いでしょう。これらの食品には、関節リウマチの発症予防効果があるとされる多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれています。 関節リウマチにとって、望ましくない行動もあります。以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。 遺伝の有無にかかわらず関節リウマチの症状がある場合は早めに医療機関を受診しよう 関節リウマチの発症には遺伝的要素も含まれていますが、関節リウマチを遺伝性疾患と断定することは困難です。 関節リウマチ発症には環境要因も関係しているため、血縁者にリウマチ患者がいない場合でも発症するケースがあるためです。 手や指の関節痛や腫れなど、関節リウマチと思われる症状が見られた場合は、遺伝関係の有無に関わらず、早めに医療機関を受診しましょう。まずはかかりつけ医に相談し、リウマチ科や膠原病科、整形外科などにかかることが望ましい流れです。 当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しております。関節リウマチについて、不安や疑問がある方は、お気軽にお問い合わせください。 関節リウマチと遺伝に関するよくある質問 関節リウマチになりやすいのはどのような人ですか? 日本での関節リウマチ患者数は60万人〜100万人程度といわれており、人口の約0.5%から1%が関節リウマチ患者とされています。(文献2) 関節リウマチは女性に多い疾患であり、男女比は1対4程度です。 年齢で見ると、最も多いのは30代から50代とされてきました。しかし近年では、65歳以上で発症する「高齢発症関節リウマチ」も増えています。高齢で発症する場合、男女差は目立たない状況です。 関節リウマチ発症における遺伝以外の要因とは何ですか? 関節リウマチ発症における遺伝以外の要因として挙げられるものの中で、もっとも関係性が高いものは喫煙です。 喫煙は、関節リウマチの活動性を上昇させて、治療の効果も弱めます。喫煙歴がある方や現在喫煙中の方の場合、男性では2~3倍、女性では1.2~1.3倍程度発症率が高くなるとされています。(文献7) 歯周病も関節リウマチとの関連が注目されている要因です。 歯周病によって、口腔内を含めた体内のタンパク質がシトルリン化される可能性があります。(文献8)タンパク質がシトルリン化された結果作られる物質が、抗CCP抗体です。 抗CCP抗体は関節リウマチ発症に関連するとされています。 参考文献 (文献1) 京都大学医学部附属病院 リウマチセンター 京大リウマチ通信「関節リウマチと遺伝」2024年 https://www.racenter.kuhp.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2024/11/83433e4de1a85b5be643adaaefd24e8e.pdf(最終アクセス:2025年5月21日) (文献2) 慶應義塾大学病院「関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)」慶應義塾大学病院医療・健康情報サイトKOMPAS,2023年03月03日 https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000402/(最終アクセス:2025年5月21日) (文献3) 山本一彦.「関節リウマチ(RA):トピックス診断と治療の進歩Ⅰ.病因 1.関節リウマチの遺伝的要因」『日本内科学会雑誌』101(10), pp.2818-2823, 2012 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/101/10/101_2818/_pdf(最終アクセス:2025年5月21日) (文献4) 藤尾圭志.「関節リウマチのゲノム医療の入り口としてのHLA遺伝子」『臨床リウマチ』33(2), pp.92-98, 2021 https://www.jstage.jst.go.jp/article/cra/33/2/33_92/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月21日) (文献5) Kwangwoo Kim, et al.(2016). Imputing Variants in HLA-DR Beta Genes Reveals That HLA-DRB1 Is Solely Associated with Rheumatoid Arthritis and Systemic Lupus Erythematosus.PLOS ONE, 11(2), pp.1-7. https://journals.plos.org/plosone/article/file?id=10.1371/journal.pone.0150283&type=printable(最終アクセス:2025年5月21日) (文献6) Anna Krutyhołowa, et al. (2022).Host and bacterial factors linking periodontitis and rheumatoid arthritis. Frontiers in Immunology,13,pp.01-17. https://www.frontiersin.org/journals/immunology/articles/10.3389/fimmu.2022.980805/full(最終アクセス:2025年5月21日) (文献7) 川人豊「関節リウマチ(RA):トピックス診断と治療の進歩Ⅰ.病因 2.環境的要因」『日本内科学会雑誌』101(10), pp.2824-2829, 2012 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/101/10/101_2824/_pdf(最終アクセス:2025年5月21日) (文献8) 山本一彦「関節リウマチの発症:遺伝要因と環境要因」『日本温泉気候物理医学会雑誌』77(10), pp.20-21, 2013 https://www.jstage.jst.go.jp/article/onki/77/1/77_20/_pdf(最終アクセス:2025年5月21日)
2025.05.30 -
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「健康診断の血液検査でリウマチの数値が高いと指摘された」 「リウマチの数値が高い上に、関節が痛んだり腫れたりしている」 「関節リウマチの血液検査の内容を知りたい」 このような疑問や不安をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。 結論から申し上げますと、関節リウマチの血液検査にはさまざまな種類があります。血液検査で異常がなくても関節リウマチと診断される場合も少なくありません。 本記事では関節リウマチの血液検査について詳しく紹介します。 お悩みの症状が関節リウマチに関係しているかの目安がわかりますので、ぜひ最後までご覧ください。 関節リウマチにおける血液検査の種類 関節リウマチにおける血液検査の種類は、主に以下の3つです。 免疫に関する検査 炎症に関する検査 その他の血液検査 免疫に関する検査 ここでは免疫に関する検査として、リウマトイド因子と抗CCP抗体、MMP-3について説明します。 リウマトイド因子 リウマトイド因子とは、リウマチの診断および治療に有効な検査値で、一般的な基準値は15IU/ml以下です。(文献1) リウマトイド因子が50や100といった高値を示し、関節症状がある場合、リウマチである可能性が高いとされています。(文献2) ただし、関節リウマチ以外でも高値を示すこともあるため、この検査だけでリウマチと確定させることは難しいでしょう。(文献2) 抗CCP抗体 抗CCP抗体とは、関節リウマチの診断や予後の予測に関する検査値で、一般的な基準値は4.5U/ml未満です。(文献2)、(文献3) 検査値が高く、関節症状がある場合、関節リウマチの可能性がきわめて高いといえるでしょう。他のリウマチ因子とは異なり、リウマチ以外の疾患で高値を示すことはまれであるため、関節リウマチの診断に有効な検査です。 抗CCP抗体の数値が高い場合は、関節リウマチの中でも関節や骨の破壊が進みやすいタイプであることを意味します。 MMP-3 MMP-3は、関節リウマチにより炎症を起こしている滑膜で多く分泌される酵素であり、リウマチによる軟骨破壊の程度をあらわします。 MMP-3 の基準値は、以下のとおりです。(文献3) 男性:36.9~121.0 ng/ml 女性:17.3~59.7 ng/ml 関節リウマチの初期段階から上昇するといわれていますが、関節リウマチ以外の疾患やステロイド内服時でも高値を示す場合もあります。 関節リウマチ以外でMMP-3 が高値を示す疾患として挙げられるのは、全身性エリテマトーデスやリウマチ性多発筋痛症などです。 炎症に関する検査 ここでは炎症に関する検査として、CRPと赤血球沈降速度について説明します。 CRP CRPは、全身の急性炎症を示す指標です。 正常値は0.3mg/dl未満であり、炎症が強いときには10mg/dlを超える場合もあります。(文献3)、(文献4) 炎症や組織の破壊が起きたときに、白血球の仲間であるリンパ球や単球、マクロファージが炎症性サイトカインを分泌します。炎症性サイトカインにより肝臓の細胞が刺激された結果分泌されるタンパク質が、CRPです。 CRP値が高値を示す疾患は、関節リウマチ以外に複数存在します。主な疾患としては、以下のようなものが挙げられます。 肺炎 ウイルス性肝炎 腎盂腎炎 そのため、CRP値のみでの関節リウマチ診断は難しいといえるでしょう。 赤血球沈降速度 赤血球沈降速度は慢性炎症の指標です。 細長いガラス管の中に抗凝固剤(クエン酸)を加えた血液を入れて、1~2時間立てておきます。この間に、赤血球が沈んだ深さを検査値とします。 正常値は以下のとおりです。(文献3) 男性:1時間に10㎜未満 女性:1時間に20㎜未満 炎症が起こっているときは赤血球の沈む速度が速くなり、関節リウマチ患者では50㎜前後といわれています。(文献4) その他の血液検査 その他の血液検査として挙げられるのは、主に以下の4項目です。 貧血検査 肝機能検査 腎機能検査 肺機能検査 貧血検査 関節リウマチ患者は慢性的な炎症が原因で、貧血傾向にあります。これは炎症性サイトカインが原因で鉄分の吸収が抑制されるためです。 抗リウマチ薬(メトトレキサート)の副作用で貧血が出現する場合もあります。 貧血の程度を測るための検査値が、赤血球数やヘモグロビン値、血色素量などです。WHO(世界保健機構)の定義によると、成人男性ではヘモグロビン値13.0g/dl以下、成人女性ではヘモグロビン値12.0g/dl以下が貧血とされます。 貧血に関しては、以下の記事でも詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。 肝機能検査 関節リウマチ患者は、メトトレキサートをはじめとした薬の副作用により肝機能が低下する場合があるため、定期的に検査を実施します。 主な肝機能検査は、AST(別名GOT)やALT(別名GPT)です。医療機関ごとに異なりますが、どちらかの検査値が100U/Lを超えた場合は、内服薬を調整するケースが一般的です。(文献5) B型肝炎およびC型肝炎ウイルス検査を実施するケースもあります。肝炎ウイルスは感染しても無症状のことが多いのですが、リウマチの薬により免疫力が低下して、ウイルスが活性化する場合もあるためです。 関節リウマチと薬の関係については以下の記事でも解説しますので、あわせてご覧ください。 腎機能検査 関節リウマチ患者は薬の副作用により腎機能が低下する場合があるため、血液検査で経過を観察します。 主な腎機能検査は、クレアチニンやeGFRです。基準値は医療機関によって異なりますが、クレアチニン値が高い、もしくはeGFR値が低いと腎機能低下の疑いがあります。 リウマチのコントロールが不良の場合、「アミロイドーシス」と呼ばれる合併症を引き起こす可能性があります。アミロイドーシスとは、アミロイドと呼ばれるタンパク質が過剰に作られて、さまざまな臓器に付着した結果起こる疾患の総称です。 腎臓でアミロイドーシスが起きると、ネフローゼ症候群や腎不全を発症する場合があります。 肺機能検査 関節リウマチの合併症および副作用の1つとして、呼吸器疾患があります。重要な呼吸器疾患の1つが間質性肺炎(肺線維症)です。 一般的な肺炎は細菌やウイルス感染により肺に炎症が起こりますが、間質性肺炎は、肺胞の壁に当たる部分(肺胞壁)や肺胞を支える組織に炎症が起きます。その結果、肺全体が固くなります。 間質性肺炎の度合いを表す血液検査の1つが、KL-6です。医療機関ごとに異なりますが、一般的な基準値は500U/ml未満です。KL-6が高い場合は、間質性肺炎の発症もしくは悪化が考えられます。 関節リウマチにおける血液以外の検査 関節リウマチにおける血液検査以外の検査としては、画像検査があります。具体的には、レントゲン検査や超音波検査、MRI検査などです。 レントゲン検査では関節周囲の骨が薄くなる骨粗しょう症や、骨が削られたように欠ける骨びらんなどの状況がわかります。 超音波検査では炎症の状態がリアルタイムに把握できるほか、骨の状況も高感度で確認可能です。 MRI検査では、関節周囲の筋肉や軟骨などの炎症や腫れを確認できます。 血液検査で異常なしでも関節リウマチを発症している場合がある リウマトイド因子や抗CCP抗体などの血液検査が陰性であっても、関節リウマチと診断されるケースがあります。主に挙げられるのが、血清反応陰性関節リウマチとリウマチ性多発筋痛症です。 血清反応陰性関節リウマチの症状や治療法は、一般的な関節リウマチと同様です。血液検査が陰性であるため、超音波検査で関節の腫れや炎症を確認します。 60歳以上で発症する関節リウマチの場合、血清反応陰性例が多いとされています。(文献6) リウマチ性多発筋痛症は、両肩周囲のこわばりや痛みで発症し、手指や足指の腫れや関節痛が少ないのが特徴的です。(文献6) リウマチ性多発筋痛症は関節リウマチと異なり、少量のステロイド剤が治療に使われます。ステロイド剤の量は患者の状況によって調整します。リウマチ性多発筋痛症も高齢での発症が多い疾患です。 関節リウマチの治療については以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 血液検査の理解を深めて関節リウマチの改善に努めよう 関節リウマチにおける血液検査は、免疫や炎症に関する項目に加えて、貧血や肝機能、腎機能、肺機能などに関する項目があります。貧血や肝機能などの検査は、薬の副作用や合併症に関連したものです。 関節リウマチの場合、血液検査だけではなく画像診断も大事な指標です。 また、血液検査で異常なしであってもリウマチを発症しているケースもあります。関節痛や腫れ、変形など、リウマチと思われる症状でお悩みの方は、早めに医療機関を受診しましょう。 関節リウマチの方が日常で避けるべき行動について、下記の記事で紹介しています。あわせてご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。血液検査の結果に疑問や不安をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。 関節リウマチと血液検査に関するよくある質問 関節リウマチの有無は検査後にすぐわかるものですか? 関節リウマチの有無は、検査後すぐにわからないことが多いとされています。 血液検査、とくにリウマトイド因子や抗CCP抗体などは検査結果が判明するまでに数日から1週間程度かかるためです。 画像検査においても、レントゲン検査や超音波検査はすぐに結果がわかりますが、MRI検査の場合は結果がわかるまで数日かかることがあります。 これらの状況から見ても、関節リウマチの有無は検査後すぐにはわからないと考えた方が良いでしょう。 関節リウマチの検査は何科を受診すれば良いですか? リウマチ科や膠原病内科、整形外科などのリウマチ専門医がいる科の受診が望ましいでしょう。 近くの医療機関にこれらの診療科がない場合は、かかりつけの内科を受診して、専門医への紹介状を書いてもらうことをおすすめします。 当院「リペアセルクリニック」では、再生医療による関節リウマチの治療を実施しております。お気軽にご相談ください。 参考文献 (文献1) 一般社団法人日本リウマチ学会「リウマトイド因子標準化のガイドライン」一般社団法人日本リウマチ学会ホームページ https://www.ryumachi-jp.com/publish/guide/news110817/ (最終アクセス:2025年5月19日) (文献2) 京都大学医学部附属病院リウマチセンター「関節リウマチに関わる血液の検査結果の見方」2013年 https://www.racenter.kuhp.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2013/01/ra2013011702.pdf (最終アクセス:2025年5月19日) (文献3) 順天堂越谷病院「膠原病・リウマチの検査」2020年 https://hosp-koshigaya.juntendo.ac.jp/wp-content/uploads/2020/05/49a86a7ddc1e3f5f01e26b8a369af6e8.pdf (最終アクセス:2025年5月19日) (文献4) あゆみ製薬株式会社「リウマチの検査と診断」リウマチ情報 リウマチ患者さんとそのご家族の皆様へ https://www.ayumi-pharma.com/ja/healthcare/rheumatism/library/diagnosis/page2.html (最終アクセス:2025年5月19日) (文献5) 京都大学医学部附属病院 リウマチセンター「京大リウマチ通信 リウマチで注意する血液データ」2013年 https://www.racenter.kuhp.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2011/05/ra201303.pdf (最終アクセス:2025年5月19日) (文献6) 桑名正隆.「高齢者における診断・治療の進歩:関節リウマチ」『日本内科学会雑誌』111(3), pp.454-460, 2022 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/3/111_454/_pdf (最終アクセス:2025年5月19日)
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「関節リウマチと診断されて薬を飲み始めた」 「自分が今飲んでいる薬は、どのような効果があるのだろう」 「リウマチの薬は一生飲み続けるものだろうか」 このような疑問や不安を抱えている方も多く、とくに、関節リウマチと診断されて間もない方にとっては切実な問題です。 本記事では、関節リウマチの薬に関して詳しく解説します。 病気の進行が落ち着く「寛解状態」を目指すためにも、ぜひ最後までご覧ください。 関節リウマチの薬は主に5種類 関節リウマチの治療で用いられる薬は、主に以下の5種類です。 抗リウマチ薬 生物学的製剤 JAK阻害剤 非ステロイド性消炎鎮痛剤 副腎皮質ステロイド剤 抗リウマチ薬 抗リウマチ薬には、免疫異常や、関節の炎症およびリウマチの活動性を抑制するはたらきがあります。 メトトレキサート 抗リウマチ薬の第一選択肢がメトトレキサートです。一般的に抗リウマチ薬は、効果が出るまで1~2か月程度かかりますが、メトトレキサートは2~3週間程度で効果が出るといわれています。(文献1) メトトレキサートは、1週間に1日もしくは2日だけ内服する薬です。副作用軽減のために、内服日の2日後に葉酸を内服します。 メトトレキサートの副作用として挙げられるのは、口内炎や貧血、肝機能異常、間質性肺炎などです。 メトトレキサート以外の抗リウマチ薬 メトトレキサート以外の主な抗リウマチ薬を以下に示します。 薬剤名 特徴 内服方法 副作用 サラゾスルファピリジン 軽症から中等症の患者に有用 メトトレキサート内服不可の患者に用いられる 内服開始後1~2か月程度で効果が出る 朝食後と夕食後に1錠内服 1錠は250mgもしくは500㎎ 皮疹 かゆみ 発熱 肝機能障害 ブシラミン 日本で開発された抗リウマチ薬 軽症から中等症の患者に有用 内服開始後1~3か月程度で効果が出る 1日50㎎もしくは100㎎から開始 通常は1日100~200mg 消化器症状 皮疹 肝機能障害 腎機能障害 タンパク尿が出た場合は内服中止 タクロリムス 日本で開発された免疫抑制剤の一種 2005年に関節リウマチへの適応が認められた 血中濃度測定が保険適応になっている 夕食後に内服 成人は1回2錠(3㎎) 高齢者は1回1錠(1.5㎎) 腎機能障害 耐糖能異常 下痢 腹痛 (文献1) タクロリムス内服時にグレープフルーツを食べたり、他の薬剤を内服したりすると、血中濃度が必要以上に上昇する場合があります。 生物学的製剤 生物学的製剤とは、生物から産生されるタンパク質を応用して作られた薬の総称です。 関節リウマチは、免疫に関わる物質であるサイトカインが通常より増えて、関節の炎症や破壊が生じる疾患です。 生物学的製剤は、点滴や皮下注射によって、サイトカインおよびサイトカインを産み出す細胞の働きを抑えます。これにより炎症を和らげ、関節痛や腫れなどの症状を軽減させる仕組みです。 サイトカイン産生細胞には、炎症を引き起こすTNF-αや炎症に関与するIL-6などがあります。 主な生物学的製剤を以下に示します。 薬剤名 特徴 投与方法 投与間隔 インフリキシマブ TNF-αに作用する 点滴 4~8週間に1回 エタネルセプト TNF-αに作用する 皮下注射 1週間に2回 アダリムマブ TNF-αに作用する 皮下注射 2週間に1回 ゴリムマブ TNF-αに作用する 皮下注射 4週間に1回 セルトリズマブ TNF-αに作用する 皮下注射 2週間に1回 トシリズマブ IL-6に作用する 点滴 4週間に1回 サリルマブ IL-6に作用する 皮下注射 2週間に1回 アバタセプト T細胞に作用する 点滴 4週間に1回 T細胞とは、白血球の仲間であるリンパ球の1つであり、免疫機能をつかさどる細胞です。 生物学的製剤については以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 JAK阻害薬 JAK阻害薬は、分子標的型のリウマチ治療薬であり、関節に炎症を起こす分子「JAK」の働きを抑える効果があります。2013年3月にトファシチニブが日本で承認され、同年7月に発売されました。(文献2) 生物学的製剤は注射もしくは点滴での投与ですが、JAK阻害薬は内服可能な薬です。 トファシチニブ以外の主なJAK阻害剤としては、以下のようなものが挙げられます。(文献2) バリシチニブ ベフィシチニブ ウパダシチニブ フィルゴチニブ JAK阻害薬の副作用では、帯状疱疹の発症リスクが高いとされています。加えて、悪性腫瘍や狭心症、心筋梗塞などにも注意が必要です。 JAK阻害薬は費用が高額であるため、医療保険で自己負担3割の方の場合、毎月5万円程度の医療費が発生します。 非ステロイド性消炎鎮痛剤 主な非ステロイド性消炎鎮痛剤は、アスピリンやロキソニン、インドメタシンなどです。プロスタグランジンと呼ばれる、炎症を引き起こす物質の産生を抑えて、関節痛や腫れを軽減させる役割があります。 効き目が速い点が特徴ですが、関節変形を抑える効果は期待できないとされています。 主な副作用は胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍や、腎機能低下などです。 最近では、COX-2阻害薬と呼ばれる新しいタイプの薬剤が使用可能になりました。(文献3) 副腎皮質ステロイド剤 関節リウマチでは、症例により少量のステロイド剤を用いるケースがあります。主なステロイド剤は、プレドニンやリンデロン、デカドロンなどです。 炎症を抑える作用や免疫抑制作用が強く、はやく効果が出ます。しかし、骨粗しょう症や消化性潰瘍など、副作用も多いこともあり、リウマチ治療においては補助的な役割です。 抗リウマチ薬や生物学的製剤の使用により、ステロイドを減量もしくは中止する例も増えています。 関節リウマチにおける薬物療法の目的 関節リウマチにおける薬物療法の目的は、「症状を抑えること」から「寛解導入」に移行しています。寛解とは、病気の進行が落ち着いている状態です。 現在、関節リウマチ治療の最終ゴールは、以下3点の達成・維持とされています。 臨床的寛解(炎症がほぼ消えた状態) 構造的寛解(関節破壊の進行が抑えられている状態) 機能的寛解(身体機能の低下がみられない状態) 関節リウマチは進行性の疾患であり、進行を止めることは難しいと考えられていました。その考えに変化が生じたのは、2000年前後です。 1999年に抗リウマチ薬の1つであるメトトレキサートが保険適用され、2003年には生物学的製剤が国内で発売開始されました。これらの変化により、関節リウマチの進行を抑えられるようになったのです。 リウマチの薬を飲まないとどうなるのか 副作用が怖い、症状が改善されたなどの理由により、自己判断でリウマチの薬を飲まなくなる方も少なくありません。しかし、自己判断で薬を中止すると、症状が悪化する可能性が高まります。 とくに、メトトレキサートを中心とする抗リウマチ薬のみの治療を受けている場合は、自己判断で中止すべきではありません。内服をやめた場合、症状の悪化率が倍になったという研究データもあります。 日本リウマチ学会による「関節リウマチ治療ガイドライン2014」を要約すると、減薬の優先度は以下のとおりです。 ステロイド 生物学的製剤 抗リウマチ薬 薬を飲むことに不安や疑問がある方は、自己判断で中止せず、必ず主治医に相談しましょう。 関節リウマチの薬について理解した上で治療を受けよう 節リウマチの薬は、免疫に関係して関節の炎症を抑えたり、関節痛や腫れ、変形を軽減したりする効果があります。 関節リウマチは進行性の疾患ですが、新たな薬の開発が進んでいることもあり、寛解を目標にできるようになりました。しかし、寛解を目標にできるのは、指示どおりに薬を内服している場合です。 自己判断で薬を減らしたり止めたりすると、病気に良くない影響を与えます。副作用が不安である、症状が軽減されたなどの理由で、薬の減量や中止を考えている方は必ず主治医に相談しましょう。 当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。関節リウマチの薬や治療について疑問や不安のある方は、お気軽にお問い合わせください。 関節リウマチの薬に関するよくある質問 関節リウマチの薬が効かず症状が改善されない場合もありますか? 薬物治療の効果が得られないケースもあり、その場合は薬を見直します。 抗リウマチ薬の内服を始めて3か月経過しても効果が不十分であれば、量を増やすか、生物学的製剤に切り替えます。 生物学的製剤を投与する場合も、3~6か月程度の経過観察が必要です。経過観察の結果、効果が不十分と判明したときは、他の生物学的製剤やJAK阻害剤に変更します。 内服・投与治療による効果が見られない場合は、手術療法も選択肢に入ります。 リウマチの治療費が高すぎると感じます。医療費の補助はありますか? 生物学的製剤やJAK阻害剤などは薬代が高いため、医療保険で自己負担3割の方の場合、1か月の医療費が3万円以上になることも少なくありません。(文献4) 医療費を軽減する主な制度が、高額療養費制度です。1か月の医療費が所定の自己負担上限額を超えたときに、加入している医療保険から上限を超えた分が支給されます。 高額療養費制度について詳しく知りたい方は、加入している健康保険組合やお住まいの市区町村役場などにお問い合わせください。通院先の医療機関で確認できる場合もあります。 参考文献 (文献1) 順天堂大学医学部附属順天堂医院 膠原病・リウマチ内科「関節リウマチ」 https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/collagen/disease/disease01.html(最終アクセス:2025年5月16日) (文献2) 東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター「JAK阻害薬(ジャックそがいやく)」 https://twmu-rheum-ior.jp/diagnosis/ra/medication/biologics/jak.html(最終アクセス:2025年5月16日) (文献4) 公益財団法人日本リウマチ財団 リウマチ情報センター「非ステロイド抗炎症薬(消炎鎮痛薬)」 https://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/rheuma/dtherapy/nsaids/(最終アクセス:2025年5月16日) (文献4) 松野博明.「医療費を考慮した関節リウマチの治療」『臨床リウマチ』34(4), pp.268-274, 2022年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/cra/34/4/34_268/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月16日)
2025.05.30 -
- 関節リウマチ
- 内科疾患
「手の関節痛やこわばりのために病院を受診したら、関節リウマチと診断された」 「関節リウマチの原因は何だろう」 「なぜ自分が発症したのか知りたい」 このようにお考えの方も多いことでしょう。 関節リウマチは自己免疫疾患の1つですが、原因ははっきりと解明されていません。 本記事では、関節リウマチの原因と考えられる三要素や治療法などについて解説します。関節リウマチの概要がわかりますので、ぜひ最後までご覧ください。 関節リウマチの原因 関節リウマチとは、自己免疫疾患や膠原病の1つであり、好発年齢は30代から50代とされています。女性に多く、患者数は男性の約4倍といわれています。 関節リウマチ発症の仕組みは現在もはっきりと解明されておらず、原因不明です。(文献1) その中でも原因として考えられるものは、主に以下の三要素です。 免疫システム 環境要因 遺伝的要因 免疫システム 関節リウマチは自己免疫疾患の1つに含まれます。 体内の免疫システムに異常が起こり、関節中の組織である「滑膜」が免疫細胞によって攻撃され、炎症を起こすことが知られています。(文献2) 関節の炎症を引き起こす物質は、「サイトカイン」と呼ばれる免疫細胞から作られるタンパク質です。サイトカインの中でも、IL-6(インターロイキン6)やTNF-α(腫瘍壊死因子α)の影響が大きく、これらが過剰に生み出されると炎症が悪化します。 炎症の結果起こる症状として挙げられるのが、関節痛や腫れ、朝のこわばりなどです。関節以外の症状としては、微熱や倦怠感などが見られます。 関節リウマチの概要や症状については、以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 関連記事 関節リウマチの全貌!症状、治療、診断基準まで徹底解説 関節リウマチの初期症状は?チェックリスト付きで現役医師が解説 環境要因 関節リウマチと関連する環境要因は、主に以下のとおりです。 喫煙 ウイルス感染 細菌感染 歯周病 腸内細菌叢 喫煙は多くの研究において、関節リウマチの発症リスクを高め、治療効果を弱める因子であると示されています。(文献3) 遺伝的要因 ヒトの遺伝子の中でも、HLAと呼ばれる「ヒト白血球型抗原」が、関節リウマチの発症に関する代表的なものとされています。 それ以外にも、免疫に関わる遺伝子がリウマチ発症に関係しているとされています。リウマチ発症に関係するといわれる遺伝子は、主に以下のとおりです。 PADI4 CCR6 TNFAIP3 家系調査では、三親等以内に関節リウマチ患者がいる方は、発症率が33.9%との結果が示されました。(文献4)三親等以内とは、自分から見て以下の間柄に該当する方です。 親 祖父母 曾祖父母 おじ・おば 兄弟姉妹 子ども 孫 ひ孫 甥・姪 関節リウマチと遺伝の関係は下記の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 発症の原因?関節リウマチと各要因の関係性 この章では、関節リウマチと関係があると考えられるストレス、飲酒、性格の3つの要因について解説します。 関節リウマチとストレスの関係性 現時点では、ストレスが関節リウマチ発症の原因である明確なデータは示されていません。 しかし、ストレスは免疫機能の低下を引き起こすため、リウマチ発症に間接的な影響を及ぼすとも考えられます。規則正しい生活を心がけ、十分な休養をとり、身体的ストレスの軽減が大切です。 精神的ストレス軽減のためには、好きなことをする時間をとる、気の許せる友人と話すなど、自分なりのストレス解消法を持つことが大切です。関節リウマチの患者会に参加して、同じ病気を持つ方と気持ちをわかち合うのも1つの方法でしょう。 関節リウマチと飲酒の関係性 現時点では、飲酒が関節リウマチ発症を引き起こす明確なデータは示されていません。 米国の研究結果では、1日のアルコール含有量換算10g未満の飲酒は、関節リウマチの発症リスクを軽減する効果が期待できると示されています。アルコール含有量10g未満とは、少なめのグラスワイン1杯(約120ml)や日本酒0.5合程度です。 ただし、抗リウマチ薬であるメトトレキサートの副作用には、肝機能障害が含まれます。メトトレキサートは通常、1週間に1・2回服用するものですが、内服日は禁酒が望ましいでしょう。 主治医から飲酒を禁止されている方は、その指示を守りましょう。 関節リウマチと性格の関係性 関節リウマチの原因の中に、個人の性格は含まれません。しかし、ストレス耐性が低い方は、小さなことでもストレスをためやすいため、免疫力の低下を招きやすいといわれます。 神経症的傾向がある方は、関節リウマチ発症後、患部の様子を気にして何度も触れることが多く、病状を悪化させやすいといわれています。神経症的傾向とは、ストレスを感じやすく感情の浮き沈みが激しい性格傾向のことです。 我慢強い性格の方は、関節リウマチの症状が出現しても治療を受けずに我慢してしまい、重症化しやすい可能性があります。 関節リウマチの治療方法 関節リウマチの主な治療方法としては、薬物療法と手術療法が挙げられます。 薬物療法 関節リウマチの治療で使われる主な薬は、免疫異常に働きかける抗リウマチ薬と、関節痛を和らげる薬です。抗リウマチ薬の代表が、メトトレキサートです。メトトレキサートを最大限使っても効果が出ない場合は、生物学的抗リウマチ剤を注射します。(文献5) また、炎症性サイトカインの産生を阻害する効果を持つ、JAK阻害剤を内服するケースもあります。くわえて、炎症緩和のため少量のステロイド剤を併用する場合も少なくありません。 関節リウマチの薬に関しては下記の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 手術療法 関節リウマチで変形した関節を使いすぎると、変形がますます強まり、関節破壊も進みます。関節リウマチで手術対象となるのは、関節破壊が進み、変形や可動域制限が著しくなった場合です。 関節リウマチ患者に対して行われる手術は、主に以下のとおりです。(文献6) 人工関節置換術 頚椎および腰椎の手術 手指の腱断裂再建手術 外反母趾矯正手術 足関節固定術 人工関節置換手術を実施する部位としては、膝や股関節、足、肘、指などが挙げられます。 関節リウマチの悪化を防ぐ5つの生活習慣 関節リウマチの悪化を防ぐために大切な5つの生活習慣を以下に示します。 生活習慣 詳細 禁煙 喫煙は関節リウマチを悪化させる大きな要因であるため、禁煙が望ましい。 バランスの良い食事 関節リウマチの方は貧血や骨粗しょう症になりやすい。鉄分・カルシウム・ビタミンDを中心にバランスの良い食事を心がけよう。 適度な運動 ウォーキングやリウマチ体操などが望ましい。関節可動域の維持もしくは改善、痛みの軽減、筋力維持が期待できる。 適度な休息 関節リウマチは関節だけではなく全身が慢性的に消耗しやすい。疲れたときには、休憩や昼寝などで適度な休息を取ろう。 内服管理 自己判断で薬を減らしたり中止したりすると、症状の悪化につながる。指示通りに内服し、減量や中止を希望するときは、主治医に必ず相談しよう。 バランスの良い食事については以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 原因や治療法を知り関節リウマチの悪化を防ごう 関節リウマチの原因は、免疫システムの異常、環境要因、遺伝的要因の複合的な相互作用によると考えられますが、現時点では完全に解明されていません。 とくに、30代から50代の女性で、関節の腫れや痛み、原因不明の微熱や倦怠感などがある方は、早めに医療機関を受診しましょう。 関節リウマチと診断された場合は、薬物療法を続けつつ、悪化防止の行動につとめることが大切です。 当院「リペアセルクリニック」では、再生医療による関節リウマチの治療を実施しております。 以下の記事は、実際の関節リウマチ治療事例です。 関連記事:症例紹介 関節リウマチの症例 メール相談やオンラインカウンセリングも行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。 参考文献 (文献1) 東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター「関節リウマチとは」東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センターホームページ, 2023年10月13日 https://twmu-rheum-ior.jp/diagnosis/ra/about-rheumatism.html(最終アクセス:2025年5月14日) (文献2) 兵庫医科大学病院「関節リウマチ」兵庫医科大学PRESENTSもっとよく知る!病気ガイド https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/disease_guide/detail/8(最終アクセス:2025年5月14日) (文献3) 川人豊「関節リウマチ(RA):トピックス診断と治療の進歩Ⅰ.病因 2.環境的要因」『日本内科学会雑誌』101(10), pp.2824-2829, 2012 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/101/10/101_2824/_pdf(最終アクセス:2025年5月14日) (文献4) 湯川リウマチ内科クリニック「関節リウマチと遺伝」 https://yukawa-clinic.jp/knowledge/basicknowledge/genetic.html(最終アクセス:2025年6月5日) (文献5) 富山大学附属病院「最新の関節リウマチ治療―関節リウマチ」富山大学附属病院ホームページ https://www.hosp.u-toyama.ac.jp/amc/topic13/(最終アクセス:2025年5月14日) (文献6) 京都大学医学部附属病院リウマチセンター「関節リウマチの手術について」京都大学医学部附属病院リウマチセンター https://www.racenter.kuhp.kyoto-u.ac.jp/surgery(最終アクセス:2025年5月14日)
2025.05.30 -
- その他、整形外科疾患
「リウマチ検査は陰性なのに指や膝がズキズキする」 原因がわからず不安で情報の検索を続けていませんか? 本記事では変形性関節症や痛風など、リウマチ以外で関節痛を引き起こす主な疾患と見分け方、検査・治療の流れを整形外科医の視点で解説します。痛みを放置せず、早期に適切な対応を取るヒントを見つけてください。 リウマチではない関節痛とは 関節痛は多くの方が経験する症状ですが、必ずしも関節リウマチとは限りません。加齢や過度の使用、外傷、ほかの疾患によって引き起こされることがあります。適切な診断と治療で症状を緩和できることが多いので、長引く症状がある場合は早めに医師にご相談ください。 ここからは、リウマチではない関節痛について詳しく説明していきます。 関節リウマチとの決定的な違い 関節痛とリウマチは似た症状を示すことがありますが、決定的な違いがあります。一般的な関節痛は、使い過ぎや加齢による軽い違和感から始まることが多く、肩や手指、膝などに痛みやこわばり、腫れという症状です。関節の使用後に悪化し、休むと和らぐ傾向があります。 一方、関節リウマチは自己免疫疾患であり、関節の痛み・腫れ・こわばりといった症状に加え、関節を押したり動かしたりすると痛みが強まるのが特徴です。左右対称に症状が現れることが多く、両手の同じ指に症状が出るパターンが見られます。寒い季節や朝起きた直後に症状が強く出やすい傾向があります。 もっとも大きな違いは、リウマチが自己免疫疾患である点です。血液検査でリウマトイド因子(RF)や抗CCP抗体の存在を確認すると、診断の手がかりが得られます。リウマチは多発性の関節炎として左右対称に現れることが多いのに対し、一般的な関節痛は単関節に限られることもあります。 よくある誤解とチェックポイント 関節リウマチについては多くの誤解が存在します。まず、朝のこわばり=リウマチという考えがありますが、必ずしもそうとは限りません。朝のこわばりは変形性関節症や筋肉の硬直でも起こる症状であり、リウマチに特化したものではありません。 リウマチはどの年齢でも発症する可能性があります。日本リウマチ財団によると、人口の0.4%〜0.5%、30歳以上の人口の1%にあたる人が関節リウマチにかかると言われています。発症のピークは60歳代です。しかし、若い方でも症状が続く場合は専門医の診察を受けることが重要です。(文献1) リウマチの症状は個人差が大きく、典型的な症状が現れないこともあります。持続する関節の痛みや腫れがある場合は、自己判断せずに医療機関を受診してください。早期発見・早期治療により、関節の変形や機能障害を最小限に抑えられます。適切な治療を受けることで、多くの方が日常生活の質を維持しています。 リウマチではない関節痛を起こす主な疾患 関節痛の原因は実に多様で、リウマチ以外にも多くの疾患が関係しています。症状の特徴や現れ方を理解すると、より適切な対処につながります。以下の表では、リウマチと間違えやすい主な疾患とその特徴を紹介します。ご自身の症状に心当たりがある場合は、専門医にご相談ください。 疾患名 主な症状と特徴 更年期障害 ホルモンバランスの変化による関節痛、こわばり。肩や膝、手首などに現れやすく、他の更年期症状(ほてり、発汗など)を伴うことが多い。 変形性関節症(OA) 関節の軟骨がすり減ることで起こる痛み。負荷のかかる膝や股関節に多く、動かし始めに痛みが強く、徐々に和らぐ。年齢とともに発症リスクが高まる。 痛風 尿酸結晶が関節内にたまることで炎症を起こす。突然の激しい痛みが特徴で、足の親指の付け根など単関節に発症しやすい。 腱鞘炎・ばね指 指や手首を動かすための腱とその鞘の炎症。曲げ伸ばしで痛みが生じ、とくに朝に症状が強い。指が引っかかる感じや「バネ」のような動きが特徴的。 関節炎 手の関節の炎症。関節のこわばり、腫れ、痛みを伴うことが多い。 線維筋痛症 全身の広範囲に及ぶ慢性的な痛みがあり、中年以降の女性に多いのが特徴。手足のしびれや動悸、呼吸困難などを伴うことも多い。 手根管症候群 手首の「正中神経」と呼ばれる部分で神経が圧迫される状態。手のしびれや痛みを起こす。手首の反復運動や長時間のデスクワークなどが原因。 リウマチと通常の関節痛を見抜くセルフチェック方法 関節の痛みを感じたとき、それがリウマチなのか一般的な関節痛なのか気になるでしょう。医師の診断を受ける前に、ご自身でチェックできるポイントがいくつかあります。以下の項目を参考に症状を観察してみましょう。 ただし、これはあくまで目安です。正確に診断してもらうためにも医師の診察を受けてください。 痛みが強く出る時間帯・動作 痛みのパターンは疾患を見分ける重要な手がかりです。リウマチの場合、とくに朝起きたときや長時間同じ姿勢でいた後のこわばりがあり、微熱が出る場合もあります。また、だるさや食欲低下も見られます。 変形性関節症などの一般的な関節痛は、動き始めや負荷をかけたときに痛み、休むと痛みが和らぐ場合が多いです。日常生活の中で、どのようなときに痛みが増すのかを記録しておくと診断の参考になるでしょう。 部位と左右差 リウマチの特徴の一つに、左右対称に症状が現れることがあります。たとえば両手の同じ指や両膝など、体の左右で同じ部位に痛みや腫れが生じるケースです。対して、変形性関節症や腱鞘炎などは、使い過ぎや負担のかかり方によって片側に症状が出やすいことが多いです。 リウマチは手首や指の小さな関節から症状が現れることが多いのに対し、変形性関節症は主に体重のかかる膝や股関節などの大きな関節に生じやすいという違いもあります。 腫れ・熱感・発赤・可動域制限の有無 関節の炎症サインの有無も、リウマチを見分ける重要な手がかりです。リウマチでは、関節の腫れや熱感、発赤(赤み)などの炎症症状が明らかに見られることが多く、関節を動かす範囲(可動域)が制限されることもあります。全身症状として微熱や倦怠感、食欲不振などを伴うこともあります。 一方、一般的な関節痛では、軽度の腫れはあっても熱感や発赤が目立たないことが多く、全身症状も少ない傾向です。これらの症状に気づいたら、できるだけ早く医師に相談しましょう。 リウマチと関節痛における検査方法 関節痛の原因を特定するためには、さまざまな検査が必要です。医師は症状や経過に基づいて、適切な検査を選択します。 リウマチの診断には、画像検査と血液検査がとくに重要です。検査を組み合わせると、リウマチかそれ以外の関節痛かを見極められ、適切な治療につなげることができます。 画像検査 画像検査は関節の状態を視覚的に評価する重要な検査です。画像検査には以下の種類があります。 レントゲン検査:骨の変形や関節間隙の狭小化などを確認できる MRI:軟部組織の評価に優れており、関節の滑膜炎や骨髄浮腫、靭帯・腱の状態などを詳しく観察できる 関節超音波検査:リアルタイムで関節の炎症状態を評価でき、滑膜の肥厚や関節液の貯留、血流増加などを非侵襲的に検出できる 画像検査を適切に組み合わせれば、リウマチの早期発見や経過観察、ほかの関節疾患との鑑別が可能です。 血液検査 血液検査はリウマチの診断において必須の検査です。主な検査項目は以下のようになります。 検査項目 特徴 リウマトイド因子(RF) リウマチ患者の約80%で陽性となるが、健康な人やほかの疾患でも陽性になることがあるため、単独での診断確定は難しいとされている CRP(C反応性タンパク) 炎症の程度を示す指標で、関節の炎症が強いと値も高くなる 抗CCP抗体検査 リウマチの早期診断や予後予測に有用とされている 抗核抗体(ANA) リウマチだけでなく、ほかの膠原病の鑑別にも重要 (文献2) 血液検査の結果を総合的に判断し、臨床症状や画像所見と併せて診断が進められます。定期的な血液検査によって、病気の活動性や治療効果の評価も重要です。 リウマチではない関節痛の治療方法 関節リウマチではない関節痛の治療は、原因となる疾患や症状の重症度によって異なります。治療の目標は、痛みの軽減や炎症の抑制、関節機能の維持・改善、そして日常生活の質の向上です。 治療法は大きく分けて、薬物療法と注射治療があり、症状や病態に合わせて適切な治療法が選択されます。ここから詳しく解説します。 薬物療法 薬物療法は関節痛の治療においてもっとも一般的に用いられる方法です。症状や原因疾患に合わせて、適切な薬剤が選択されます。 非リウマチ性の関節痛に対しては、主に痛みや炎症を抑える対症療法が中心となります。使用される薬剤はさまざまですが、どの薬剤も効果と副作用のバランスを考慮して慎重に使用することが重要です。 自己判断での服用は避け、医師の指示に従いましょう。症状の変化や副作用が現れた場合は、すぐに医師に相談してください。 主な薬剤は以下のとおりです。 薬剤 特徴と効果 非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs) 炎症と痛みを抑える効果があり、速効性がある。胃腸障害や腎機能障害などの副作用に注意が必要。 アセトアミノフェン 鎮痛効果があり安全性が高い。比較的副作用が少なく、高齢者や他の薬剤が使用しづらい患者にも使用される。 オピオイド 強力な鎮痛効果があるが、依存性や呼吸抑制などの副作用があり、慎重に使用される。 漢方薬 さまざまな生薬の組み合わせにより、体質に応じた処方ができる。副作用が起こる場合もある。 注射治療 注射治療は、薬物療法で十分な効果が得られない場合や、より局所的な治療が必要な場合に選択されます。関節内や周囲の組織に直接薬剤を注入すれば、全身への副作用を最小限に抑えつつ、効果的に症状を緩和できるでしょう。 注射治療の種類によって効果の持続期間や適応疾患が異なるため、症状や病態に合わせて適切な治療法が選択されます。いずれの注射治療も、感染や出血などのリスクがあるため、清潔な環境で専門医により実施されることが重要です。 治療効果は個人差があり、一時的に症状が悪化する場合もありますので、医師の説明をよく聞いて判断しましょう。 以下は主な注射治療です。 注射治療 特徴と効果 ヒアルロン酸注射 関節内の潤滑機能を高め、クッション作用を補うため、直接患部に注射を行う。即効性はないが、定期的な注射で効果が持続する。 ステロイド注射 強力な抗炎症作用があり、即効性がある。頻回の使用は副作用をおこす可能性がある。 PFC-FD療法 自己血由来の成長因子を利用し、組織の修復・再生を促進する。比較的新しい治療法。 リウマチではない関節痛は放置せず早期の受診を心がけよう 関節痛を感じたとき、年齢のせいや、しばらく様子を見ようと放置してしまいがちです。しかし、持続する痛みは早めに医療機関を受診しましょう。 早期受診のメリットは多くあります。痛みの原因を正確に特定でき、早期に治療を開始すると効果が高まります。日常生活への支障も、最小限に抑えられるでしょう。 関節痛が起きたら、自己判断せず医師への相談が必要です。関節痛でお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」のメール相談やオンラインカウンセリングにてお気軽にお問い合わせください。 参考文献 文献1 公益財団法人 日本リウマチ財団「関節リウマチとは」公益財団法人 日本リウマチ財団 ホームぺージ https://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/rheuma/ (最終アクセス:2025年5月14日) 文献2 シーズン神奈川リウマチクリニック「リウマチで重要な3つの血液検査」シーズン神奈川リウマチクリニック ホームぺージ https://seasons-kanagawa.jp/blog/ra-bloodtest/ (最終アクセス:2025年5月14日)
2025.05.30 -
- その他、整形外科疾患
背中の痛みや手足のしびれが続くと「強いストレスが脊髄腫瘍を招いたのでは?」と不安になる方は少なくありません。 現代社会においてストレスは避けて通れないものとなっており、さまざまな健康問題との関連性が指摘されています。しかし、ストレスが腫瘍を直接つくるという科学的根拠は現時点で確認されていません。一方、慢性的なストレスは免疫低下や血流悪化を通じて症状を悪化させる恐れがあります。 本記事では脊髄腫瘍の主な原因とストレスとの関係性、早期発見のポイント、日常でできるセルフケアについてわかりやすく解説します。 脊髄腫瘍の原因とストレスの関係性 脊髄腫瘍の発生メカニズムについては、現在の医学でもまだ完全には解明されていません。しかし、もっとも有力な原因として考えられているのは、遺伝子の突然変異です。正常な細胞の遺伝子に変異が生じることで、細胞の増殖が制御できなくなり、腫瘍が形成されると考えられています。 まれなケースですが、家族性に発生する場合もあります。特定の遺伝子異常を持つ家系では、脊髄腫瘍を含むさまざまな腫瘍が発生するリスクが高まることが知られているのです。 現在の医学的知見では、ストレスそのものが脊髄腫瘍を引き起こす明確なエビデンス(科学的根拠)は確立されていません。しかし、後から説明するように、すでに発症した脊髄腫瘍の症状や経過に影響を与える可能性は否定できないと言えます。 脊髄腫瘍の主な原因 脊髄腫瘍は大きく分けて「原発性」と「転移性」の二つに分類されます。それぞれの特徴と発生原因について詳しく見ていきましょう。 原発性脊髄腫瘍 原発性脊髄腫瘍とは、脊髄や脊柱自体から発生する腫瘍のことを指します。これらの腫瘍は良性(進行が遅く、他の組織に広がりにくいもの)と悪性(進行が早く、浸潤性が高いもの)の両方があります。 原発性脊髄腫瘍の代表的なものには以下のようなタイプがあります。 髄膜腫:脊髄を覆う髄膜から発生する腫瘍で、多くは良性 神経鞘腫:神経の保護層(シュワン細胞)から発生する腫瘍で、多くは良性 星細胞腫:星状神経膠細胞から発生する腫瘍で、良性から悪性までさまざま 上衣腫:脳や脊髄の中心にある脳室系や中心管を覆う上衣細胞から発生する腫瘍で、良性から悪性までさまざま これらの腫瘍は通常、遺伝子の突然変異によって発生すると考えられていますが、その具体的なメカニズムはまだ完全には解明されていません。 転移性脊髄腫瘍 転移性脊髄腫瘍は、他の臓器で発生したがん細胞が血流やリンパ流を通じて脊髄に広がった場合に発生します。脊髄腫瘍全体の中では、この転移性のものが多くを占めています。 とくに転移しやすい原発巣(最初にがんが発生した場所)としては以下のがんが挙げられます。 肺がん 乳がん 前立腺がん 腎臓がん 甲状腺がん リンパ腫 黒色腫 (文献1) これらのがんは転移を起こしやすく、脊椎や脊髄周囲に転移する場合があります。転移性脊髄腫瘍の場合、原発巣でのがん発生が関与していることになります。 遺伝性疾患・放射線治療・年齢 脊髄腫瘍の発生リスクを高める要因として、いくつかの遺伝性疾患や環境因子、年齢などが挙げられます。 遺伝性疾患については、神経線維腫症2型が代表的です。この疾患では聴神経鞘腫を主とする腫瘍が特徴的であり、脊髄腫瘍のリスクも高まります。また、フォン・ヒッペル・リンドウ病では脳や脊髄のさまざまな部位に血管芽腫が発生することが知られています。 放射線治療との関連では、過去にほかの疾患の治療目的で放射線治療を受けた部位に、数年から数十年後に腫瘍が発生しているケースです。これは放射線被曝が、腫瘍形成のリスクを高める可能性があるといえます。 年齢も重要な要因の一つです。脊髄腫瘍はさまざまな年齢層で発生しますが、転移性脊髄腫瘍では中高年層での発症リスクが多い傾向です。 ストレスが脊髄腫瘍に及ぼす影響 ストレスそのものが脊髄腫瘍の直接的な原因となる明確な科学的根拠はありませんが、すでに発症した脊髄腫瘍の症状や経過に影響を与える可能性はあります。ここでは、ストレスが脊髄腫瘍患者の身体にどのような影響を与えうるのかを解説します。 免疫低下・炎症促進 ストレスが長期間続くと、体内でさまざまな生理的変化が起こります。とくに注目すべきは、免疫系への影響です。 長期的な心理ストレスが続くと、副腎皮質から分泌されるホルモンであるコルチゾールの分泌が慢性的に高まります。コルチゾールは本来、体のストレス応答を調整する重要なホルモンですが、過剰に分泌され続けると免疫機能に悪影響を及ぼします。具体的には、がん細胞を破壊するナチュラルキラー(NK)細胞やT細胞などの細胞性免疫の働きが鈍くなるのです。 コルチゾールは炎症性サイトカインの産生も促進し、神経組織にむくみや痛みを引き起こしやすい状態をつくります。免疫低下と炎症は、腫瘍そのものの増殖を直接促進する証拠はないものの、疼痛・しびれ・倦怠感といった自覚症状を強め、治療後の回復を遅らせる要因になる可能性があります。 痛み・しびれを増幅 慢性的なストレス状態では、交感神経が優位になり、痛み刺激を増幅する「中枢性感作」という現象が起こりやすくなります。中枢性感作とは、脊髄や脳の痛み伝達経路が過敏になり、通常なら痛みとして感じない程度の刺激でも痛みとして感じるようになる状態です。(文献2) 脊髄腫瘍による神経への圧迫がわずかであっても、中枢性感作によって実際に感じる痛みやしびれが強くなり、QOL(生活の質)が大きく低下する場合があります。痛みによる不眠や食欲不振が重なると、さらに痛みの閾値が下がる悪循環に陥りやすくなります。 脊髄腫瘍の予防につながるストレス解消法 現時点では、ストレスが脊髄腫瘍を直接引き起こす明確な科学的証拠はありません。しかし、ストレスが免疫機能に影響を与え、すでに発症した腫瘍の症状を悪化させる可能性は否定できません。 ここでは、日常生活で実践できるストレス解消法をご紹介します。脊髄腫瘍の直接的な予防にはならないかもしれませんが、全身の健康維持や症状緩和に役立つ可能性があります。 自律神経を整える 自律神経のバランスを整えることは、ストレス耐性を高め、免疫機能を維持する上で非常に重要です。食生活、運動、睡眠の3つの観点から自律神経を整える方法をご紹介します。 まず食生活については、規則正しく、バランスの良い食事を心がけることが基本です。とくに抗酸化物質を多く含む野菜や果物を積極的に摂取し、カフェインや刺激物の過剰摂取は避けましょう。また、日々の適切な水分補給も忘れないようにしましょう。 運動面では、ウォーキングやヨガなどの軽い有酸素運動を定期的に行うことがおすすめです。ただし、過度な運動は逆にストレスになるため、自分のペースで続けられる運動を選ぶことが大切です。可能であれば、自然の中で運動すると、より高いリラックス効果が得られます。 質の良い睡眠も自律神経のバランスを整えるために欠かせません。規則正しい睡眠スケジュールを維持し、寝る前のスマートフォンやパソコンの使用は控えましょう。ブルーライトは睡眠の質を下げることが知られています。 寝室の環境を整え(適切な温度、湿度、静けさを保つ)、就寝前には温かい入浴やストレッチ、読書などのリラックスルーティンを取り入れると良いでしょう。 趣味を楽しむ 日常生活の中で自分が純粋に楽しめる時間を持つことは、ストレス解消に非常に効果的です。音楽を聴くことはストレスホルモンの分泌を抑制し、リラックス効果をもたらします。読書によって物語の世界に没頭すれば、現実の悩みから一時的に離れられるでしょう。 また、以下のような趣味もおすすめです。 絵を描く 楽器を演奏する 料理をする 創作活動は脳内の報酬系を刺激し、幸福感をもたらします。 園芸や散歩など、自然と触れ合う活動もストレスホルモンの低下に効果的です。自分が心から楽しめる趣味を見つけ、定期的な時間の確保が重要です。 趣味の時間は「自分だけの時間」として大切にしましょう。日々の忙しさや責任から解放される時間を持つことで、心に余裕が生まれます。同じ趣味を持つ人々との交流も、新たな刺激や喜びをもたらしてくれます。趣味のサークルやオンラインコミュニティに参加すると、社会的つながりが広がり、それ自体がストレス耐性を高める効果があります。 脊髄腫瘍の治療中や経過観察中の患者さんにとっても、体調と相談しながら無理のない範囲で趣味の時間を持つことは、QOL(生活の質)の向上につながります。身体的な負担が少ない趣味から始めて、徐々に活動の幅を広げていくことも一つの方法です。趣味に没頭することで得られる時間は、痛みの知覚を和らげる効果もあるといわれています。 マインドフルネスを実践する マインドフルネスとは、「今この瞬間の体験に、評価や判断をせずに意識を向けること」を意味します。日常的にマインドフルネスを実践すれば、ストレスへの反応パターンを変え、心の平静を保ちやすくなるでしょう。 マインドフルネス瞑想の基本は、背筋を伸ばしリラックスした姿勢で座り、自然な呼吸に意識を向けることから始まります。息が入ってくる感覚、出ていく感覚に注意を払い、雑念が浮かんでも判断せず、優しく呼吸に意識を戻します。初めは5分程度から始め、徐々に時間を延ばしていきます。 日常生活の中でも、食事をするときは味や香り、食感に意識を向け、歩くときは足の裏の感覚や体のバランスを意識するなど、日常の行動に注意を向けることでマインドフルネスが実践可能です。何かを待つ時間があるときも、その間の呼吸や体の感覚に注意を向けてみましょう。 マインドフルネス実践は、特別な道具や場所を必要とせず、日常生活の中で簡単に取り入れられます。 ストレス解消を心がけて脊髄腫瘍の悪化・発症を防ごう 脊髄腫瘍の直接的な原因はストレスではありません。現在の医学的知見では、脊髄腫瘍の主な発生メカニズムは遺伝子の突然変異であり、家族性の要因や放射線被曝、加齢などがリスク因子となります。 しかし、すでに発症した脊髄腫瘍患者では、ストレスが免疫機能の低下や炎症の促進、痛みの増幅などを通じて症状を悪化させる可能性があります。そのため、日常生活におけるストレス管理が重要です。 脊髄腫瘍の症状(背部痛、しびれ、脱力感など)に気づいたら、早めに専門医を受診しましょう。 当院「リペアセルクリニック」では、脊髄腫瘍をはじめとする神経系疾患の診断・治療に経験豊富な医師が、一人ひとりに寄り添った医療を提供しています。メール相談やオンラインカウンセリングにてお気軽にお問い合わせください。 参考文献 文献1 MSDマニュアル家庭版「脊髄腫瘍」 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/09-%E8%84%B3-%E8%84%8A%E9%AB%84-%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB%E3%81%AE%E8%85%AB%E7%98%8D/%E8%84%8A%E9%AB%84%E8%85%AB%E7%98%8D(最終アクセス:2025年5月13日) 文献2 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター「心理的因子と痛みの関係における中枢性感作の媒介効果」畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターホームぺージ https://www.kio.ac.jp/nrc/2019/04/11/kio_nrc_press_20190411/(最終アクセス:2025年5月13日)
2025.05.30 -
- その他、整形外科疾患
「足が前に出ない」 「立ち上がろうとすると膝が崩れる」 急な歩行障害は筋肉や関節の異常と思いがちですが、背骨内の脊髄を圧迫する腫瘍が原因となる場合もあります。初期には腰痛やしびれ、疲労感といったありふれた症状に紛れやすく、年齢のせいと自己判断してしまうケースも少なくありません。 しかし圧迫が進むと排尿障害や感覚消失を伴い、歩行機能や日常生活動作の完全な回復には長期のリハビリが必要になることもあります。 本記事では現役の医師が、脊髄腫瘍の基本的知識や歩けなくなるメカニズム、診断・治療までを詳しく解説します。脊髄腫瘍について気になる方は、ぜひ参考にしてください。 【結論】脊髄腫瘍で歩けなくなる可能性はある 脊髄腫瘍は背骨の中で脊髄や神経を圧迫し、進行すると歩けなくなる恐れがあります。腫瘍が大きくなり神経を広範囲に圧迫すると、脚に力が入らず立ち上がれない、足が前へ出ないといった歩行不能が生じます。突然の歩行障害は、腫瘍内の出血による血種や腫瘍で弱った脊椎の骨折が要因のこともあり、緊急に受診が必要です。 初期症状や前兆として以下のようなものがあります。 手足や体幹のしびれや麻痺 筋力低下 腰や首の痛み 排尿や排便の障害 バランス感覚の低下 首や胸、腰のどの部分に腫瘍ができるかによって、症状が変わってきます。進行すると、四肢麻痺になる場合もあるでしょう。 脊髄は脳の指令を手足に伝える神経の幹線道路であり、その通り道が狭まると信号が遮断され筋肉が動かせなくなります。疲れや年齢のせいと放置すると取り返しのつかない麻痺に進行する恐れもあるため、違和感を覚えたら早期に専門医を受診し、画像検査と治療で歩行機能を守ることが大切です。 早期手術で神経圧迫を解除できれば症状の改善を期待でき、放射線療法や化学療法、リハビリと組み合わせると社会復帰の可能性が高まります。 術後はリハビリで筋力とバランスを取り戻すことが重要です。定期的な医療機関の受診と、ストレッチや姿勢改善など自宅でできる予防的ケアを併用することで、再発や機能低下を防ぎ、より早い社会復帰を目指せます。 脊髄腫瘍で歩けなくなる原因 脊髄腫瘍で歩けなくなる主な原因は、腫瘍が脊髄やその血管を圧迫し、電気信号と血流を遮断することです。圧迫が続くと神経線維の伝達が鈍り、筋肉に「動け」という命令が届かなくなります。さらに腫瘍内の出血で血種が生じたり、腫瘍が骨を侵食して脊椎が折れると、短時間で強い麻痺が出現するケースもみられるでしょう。 進行速度や症状の現れ方は発生部位によって異なり、以下のように歩行機能に影響します。 発生部位 代表的な症状 歩行への影響 頸髄 ・手足・体幹の感覚障害や麻痺(文献1) ・肩や手の痛み、頸部痛 ・手足のしびれ、ふらつき ・足の感覚が鈍い ・しびれや麻痺 ・ふらつき、転倒(文献2) 胸髄 ・胸〜腹部以下の感覚障害、下肢運動障害(文献1) ・背部痛、両足の筋力低下、ふらつき、手足のしびれ ・歩行に支障が出る ・ふらつき、転倒(文献2) 腰髄 ・手は無症状 ・下肢に感覚・運動障害(文献1) ・腰痛、足の痛み、筋力低下 ・歩行時足が痛い(文献2) ・しびれ こうした症状は加齢による腰痛などと誤解されやすく、放置すると治りづらい麻痺に進行するケースもあります。手足の痛みやしびれが数週間続く、歩幅が狭くなる、膝が崩れるといった異変を感じたら、整形外科や脳神経外科でMRIを含む精密検査を受けることが早期治療への近道です。 歩けない脊髄腫瘍の治療法 脊髄腫瘍による歩行障害には、以下の3つの治療が柱になります。 腫瘍を取り除く外科的手術 残った腫瘍を弱らせる放射線や化学療法 痛みや麻痺を和らげる投薬治療 ここからは各治療の流れとポイントをわかりやすく紹介します。 外科的手術 手術は腫瘍そのものをできるだけ取り除き、脊髄を押す力をなくす方法です。背骨の中はとても狭く神経は細いため、顕微鏡で拡大しながら腫瘍を少しずつ摘出します。腫瘍を取ったあとに背骨が不安定になる場合は、金属のねじや人工骨で固定して支えます。 圧迫が取れれば、しびれや力の入りにくさが改善し、歩く力が戻ることが多いです。手術は早いほど神経が元に戻りやすいので、症状が軽いうちに受けることが大切です。 ただし、脊髄を損傷するリスクもあるため、腫瘍と脊髄の境界がわかりにくいケースは完全な摘出は困難と言えるでしょう。腫瘍が完全に取れなかったり再発の恐れがある場合は、放射線など追加治療を組み合わせて経過を見守ります。 神経の損傷の程度によっては、手術後もすぐには神経の機能が回復しない場合もあり、手術後のリハビリが重要です。また、腫瘍が完全に取れなかったり再発の恐れがある場合は、放射線など追加治療を組み合わせて経過を見守ります。 脊髄腫瘍の治療は、外科的手術による減圧が第一の選択とされますが、部位や良性・悪性によっては放射線治療や化学療法を併用する場合も多いです。また、術前に放射線を照射し、腫瘍を縮小させてから手術で摘出するケースもあります。 良性腫瘍の場合は、手術で腫瘍がすべて取り除かれていれば、再発はほとんどないと言われています。良性腫瘍なら腫瘍の大きさが小さかったり、無症状であったりする場合は、急いで摘出せずに、経過観察になる場合も多いです。 放射線療法・化学療法 放射線療法は体の外から高いエネルギーの光を当て、腫瘍の細胞を弱らせて縮める治療です。手術で取り切れなかった部分や切除が難しい場所にある腫瘍に使われます。 悪性リンパ腫のように放射線が効きやすい腫瘍なら照射だけで症状が軽くなることもありますが、効きにくい腫瘍では手術や薬を組み合わせるケースが多いです。治療中は以下のような副作用が出る場合があります。 疲労感、だるさ、倦怠感 食欲不振 白血球減少、赤血球減少、血小板減少 など 放射線治療中に起こりやすい全身症状には、だるさや疲労感、食欲不振などが挙げられます。また、骨髄抑制による血球の減少が生じることもあります。疲労感は放射線そのものの影響に加え、がんと診断された精神的ストレスや外来通院の負担が重なることで強まる場合も多いです。 口や食道、胃腸に照射が当たると粘膜が炎症を起こし、飲食しづらくなって食欲が低下しやすくなります。また、骨盤や胸骨、背骨など骨髄が多い部位に広い範囲で照射すると血液をつくる力が弱まり、白血球・赤血球・血小板が減少する場合があるでしょう。 転移性脊椎腫瘍では原発がんに応じた全身化学療法が基本で、局所的な症状のコントロールに放射線や手術を追加します。化学療法単独で根治できる脊髄腫瘍は少なく、多くは手術や放射線後の補助療法、再発時の救済療法という位置づけです。 薬剤の選択を誤ると効果が乏しいだけでなく、白血球・血小板減少や悪心、脱毛など全身性の副作用が強く出るため、治療中は定期採血やMRIを行い、効果と副作用を天秤にかけながら投与量や間隔を調整します。 投薬治療 腫瘍が脊髄を圧迫している場合には、コルチコステロイド(デキサメタゾンなど)を大量投与してむくみを抑えます。腰痛や背部痛、排尿障害などの症状が見られた場合は、薬が追加されます。しかし、薬には副作用があるため、定期的に血液検査や肝臓・腎臓のチェックを行い、細かい量の調整が必要です。 近年は免疫を利用して腫瘍を攻撃する新しい薬も研究が進んでおり、将来の治療選択肢が広がると期待されています。痛みや不安が強い場合は、精神科のサポートや睡眠薬を併用しながら、体と心の両方を支えることが大切です。 投薬治療に不安を感じている方は、当院「リペアセルクリニック」のメール相談やオンラインカウンセリングにてお気軽にお問い合わせください。 脊髄腫瘍かも?と歩けない症状にお悩みの方は当院へご相談ください 歩行時のふらつきや脚に力が入らないなどいつもと違う感覚は、脊髄腫瘍が神経を圧迫しているサインかもしれません。 初期段階で治療を行い脊髄への圧迫を解除できれば、しびれや麻痺が劇的に改善し、仕事や趣味への復帰も十分に可能です。歩行障害は進行すると回復に時間がかかるため、症状が軽いうちの受診がポイントとなります。 年齢や疲労のせいと自己判断せず、少しでもおかしいと感じたら、当院「リペアセルクリニック」のメール相談やオンラインカウンセリングにてお気軽にお問い合わせください。 脊髄腫瘍を疑う歩けない方からよくある質問 そもそも脊髄腫瘍とはどんな病気ですか? 脊髄腫瘍とは、背骨の中を走る神経(脊髄)のまわりに腫瘍ができ、通り道を狭くしてしまう病気です。発生場所と性質でおおまかに3タイプに分かれます。 場所 主な発生源 特徴 治療の考え方 硬膜外(骨と脊髄の外側) ほかの臓器からの転移が最多 骨を壊しながら大きくなり、神経を強く圧迫 手術+放射線・薬でコントロール 硬膜内髄外(脊髄の内側、脊髄の外) 神経の膜や鞘からできる良性腫瘍 大きくなるまで無症状のこともある 小さければ経過観察、大きければ手術 硬膜内髄内(脊髄そのもの) 脊髄内部の細胞 悪性が多く進行が速い 早期に手術・放射線を検討 腫瘍が大きくなると、背中や手足の痛み・しびれ、力の入りにくさが出現します。放置すると歩行や排尿がむずかしくなることもあります。症状が軽いうちにMRIなどの精密検査を受け、専門医と治療方針を相談することが回復へとつながります。 脊髄腫瘍の診断・検査方法は? 脊髄腫瘍の診断は、まず以下の項目をチェックします。 痛み しびれ ふらつき 筋力低下 排尿排便障害 など このような神経症状を丁寧に評価します。 次に、レントゲンで骨の変形や破壊など異常をチェックした上で、神経や腫瘍を詳しく撮影できるMRIやCTを追加します。造影剤を用いたMRIで腫瘍の境界や血流を把握し、椎間板ヘルニアとの鑑別には、電気刺激を与える電気生理検査を併用することもあります。画像だけで腫瘍の状態が断定できない場合は、生検で組織を採取して良性・悪性や腫瘍の種類を最終確定します。 検査はMRIとCTを備えた医療機関で受けることが不可欠で、早期の診断がその後の回復を大きく左右します。神経機能を守るため、違和感が軽いうちに受診することが何より重要です。 参考文献 文献1 社会福祉法人「恩賜財団 済生会」ホームページ https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/spinal_cord_tumor/(最終アクセス:2025年5月12日) 文献2 地方独立行政法人 東京都立病院機構「東京都立神経病院」ホームページ https://www.tmhp.jp/shinkei/section/medical-department/neuro-surgery/neuro-surgery-disease/spinal-cord-tumor.html(最終アクセス:2025年5月12日)
2025.05.30 -
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
普段から坐骨神経痛に悩まされていると、夜も痛みのせいで眠れないのではないのでしょうか。実は坐骨神経痛の痛みが和らいだ状態で眠れる寝方はいくつかあります。 本記事では、坐骨神経痛の痛みを和らげる寝方を、妊娠中の場合や眠れない時の対処法とともに徹底解説します。 坐骨神経痛の痛みをなるべく気にせずに眠る方法やポイントを理解して、今夜からでも実践してみてください。 坐骨神経痛が和らぐ3つの寝方 腰の痛みに加えて、お尻から脚に至る範囲でしびれを伴う坐骨神経痛は、日常生活に様々な悪影響を及ぼします。 坐骨神経痛になると、痛みやしびれのあまり夜も熟睡できないことも多いです。 しかし、坐骨神経痛でも寝方を工夫するだけで、少しでも痛みを和らげながら眠れます。 坐骨神経痛の症状が和らぐ寝方を3つ紹介します。 仰向けで膝を立てて寝る 仰向けで寝るときは、膝を立てた状態での就寝をおすすめします。 坐骨神経痛の場合、普通に仰向けで眠るだけでは、腰が前の方に反るとともに敷布団から浮いた状態になる仕組みです。しかし、寝ている間に腰が敷布団から浮いた時、腰からお尻や脚に向かう神経を圧迫して痛みに襲われます。 そこで、仰向けで膝を立てて寝ることで、腰の反りによる神経の圧迫が緩んで痛みを抑えられます。ただ、意識的に膝を立てて寝ると熟睡できないため、立てた膝の裏側にクッションやタオルを置くのがおすすめです。 横向きで両膝の間にクッションを入れる 横向きで眠る際には、膝の間にクッションを入れた状態であれば熟睡が期待できます。 坐骨神経痛の方が横向きの睡眠で痛みが生じるのは、腰のほぼ中心を腰椎が通るのに対し、周辺には筋肉や内臓しかないためです。 横向きになった場合、腰回りの筋肉が一生懸命に体を支えようとします。その結果、骨盤内を通る坐骨神経が筋肉に圧迫されて痛みが強まる仕組みです。 横向きで寝る時、まず痛い部位を上に向けることで、筋肉による神経の圧迫で生じる痛みを抑えられます。加えて、両膝の間にクッションを挟むこともポイントです。挟んだクッションが腰を支えるとともに、足の筋肉が緩む分、痛みが軽減されます。 痛みを悪化させない寝返りの打ち方 寝ているときに寝返りを打つのはごく自然な現象ではあるものの、坐骨神経痛を抱えている方は寝返りの際に痛みに苦しみやすいです。 痛みを悪化させないように寝返りを打つには、まず仰向けの姿勢で両膝を立てます。この際に股関節も深く曲げるのがポイントです。 次に軽く腹筋に力を入れながら、上半身と下半身を同時に動かす形で寝返りを打ちます。 妊娠中の坐骨神経痛の寝方は? 妊娠中の方の場合は、横向きにして、痛みが出やすい側を上にするのが基本です。同時に膝を少しだけ曲げ、両膝の間にクッションなどを挟みます。 なお、寝る際にはお腹周りへの冷えを防ぐことで、坐骨神経痛の症状を緩和できます。また、これから横向きに寝る際には、胎児への影響を考えて一度主治医にもご相談ください。 坐骨神経痛の寝方の注意点 坐骨神経痛でも痛みを抑えながら眠れる方法やポイントを見てきましたが、寝方には注意すべき点もいくつかあります。 うつ伏せは避ける 坐骨神経痛の寝方では、うつ伏せは避けた方が良いのが一般的です。うつ伏せでは、寝る際に腰椎が反った状態になるため、強く痛みが出ます。 しかも、腰椎だけでなく首や背中にも負担がかかるため、坐骨神経痛が悪化するだけでなく首や肩にも痛みが出てくる場合もあります。 痛い方が下に来ないようにする 坐骨神経痛で痛みを感じる部位が下に来ないことも大切です。痛い方を下にした場合、坐骨神経が腰回りの筋肉と寝床とに挟まれるため、強い痛みが生じます。 このため、坐骨神経痛を抱えながらもゆっくり眠りたい方は、痛む部位が上に来るようにするのがおすすめです。 長時間同じ姿勢になるのを防ぐ 他にも長時間同じ姿勢で眠ることも避ける必要があります。寝返りを打たずに同じ姿勢で寝続けていると、特定の部位の筋肉に負荷がかかり続けるためです。 気付いたときに寝返りを打つなどして、極力同じ姿勢の寝方にならないようにします。もし、なかなか寝返りを打てないのであれば、筋トレやストレッチなどで筋肉の柔軟性を高めるのがおすすめです。 なお、坐骨神経痛では同じ寝方だけでなく、起きている間の座りっぱなしなどの同じ姿勢も避けなければなりません。座りっぱなしの場合は、30分に1度は席を離れて体を動かす癖をつけると良いでしょう。 坐骨神経痛の方におすすめの寝具の選び方 坐骨神経痛の症状を和らげるには、寝具の選び方も重要です。 まず、理想的なマットレスを選ぶポイントとして、以下の点が挙げられます。 適度な反発性のある 体圧が分散されやすい 厚みが十分あり、寝返りを打ちやすい 適度な反発性のあるマットレスは、寝ている時も立っている時と同じ姿勢を保つのが特徴です。立っている時の姿勢では、背骨も本来のS字カーブのような形になるため、背骨や腰に負担がかかりません。そのため、坐骨神経痛の方も痛みが軽減された状態で眠れます。 また「体圧が分散されやすい」点も、背中や腰など特定の部位に圧力が集中しにくい分、坐骨神経痛の痛みを感じにくいです。体圧が分散されやすいマットレスは均等に圧力が分散されるため、腰への負担が和らぎます。 さらにマットレスに十分な厚みがあれば、表面が床より高い位置にある分、寝返りを打っても腰にあまり負荷がかかりません。加えて、幅が十分に広ければ安心して寝返りを打てるため、さらに腰への負担を軽減できます。 マットレス以外に、枕も適切なものを選ぶことが大切です。枕も適切な高さで、頭が沈まない程度の硬さがあるものが向いています。高さについては、仰向けで寝たときに目線がやや下を向くものや、横向きになった際に背骨が頭の延長線上に来る程度のものがおすすめです。 坐骨神経痛で寝れないときの対処法 坐骨神経痛を抱えている場合、夜に熟睡できずに困る方もいるかと思います。 もし坐骨神経痛の痛みで眠れないときは、以下の方法をお試しください。 横向き姿勢を試す 横向きで寝る姿勢は、仰向けよりも腰や足への負担を軽くするとされています。なお、この際に痛みを感じる部位を上に向けるのがポイントです。 なお、寝るときに抱き枕やタオルなどを抱えた状態にすると、横向き姿勢を維持するのに役立ちます。 寝る前に水分を取る 坐骨神経痛で寝れないときは、寝る前に十分な水分を取ることも有効な対処法です。実は人は寝ている間に汗をかくため、睡眠中は水分が不足しがちです。 寝ている間に水分が流出すると、筋肉や神経が硬くなります。結果として筋肉が緊張したり、神経が興奮状態になったりするため、痛みやしびれを感じやすくなる仕組みです。 寝る前に水や白湯を飲むことで、夜中の急激な痛みやしびれを抑えられることが期待できます。 体が冷えないようにする 夜間に体を冷やさない工夫も、坐骨神経痛で眠れない対策として重要です。坐骨神経痛を抱えている場合、空調や冬の寒さなどで体が冷えると、血行不良になります。 坐骨神経は周りに多くの血管が張り巡らされているため、冷えの影響で血行不良が起きると、筋肉が硬くなったり緊張したりして痛みを感じやすいです。夏場に部屋を冷やしすぎないようにしたり、冬場はしっかり布団をかけたりする工夫が求められます。 まとめ|坐骨神経痛が和らぐ寝方でしっかり眠ろう 坐骨神経痛の方は、膝を立てた状態の仰向けや、膝の間にクッションを挟みながらの横向きがおすすめの寝方です。両方の寝方は坐骨神経の通る足腰への負担を軽減するため、痛みが和らいだ状態での睡眠が期待できます。 加えて、適切な反発性や厚みのある寝具を選ぶことも、坐骨神経痛の痛みを緩和させながらの睡眠に効果的です。他にも寝る前の水分補給のように、眠れない時の対処法も活かすと良いでしょう。 坐骨神経痛で眠れない方は、本記事で触れた方法で痛みが和らぐ寝方をお試しください。ただし、激しい痛みが続く場合や日常生活に大きな支障がある場合は、医療機関を受診することをおすすめします。 坐骨神経痛の寝方でよくある質問 坐骨神経痛で寝るときにクッションを足に挟むのはなぜ? 坐骨神経痛で寝るときにクッションを足に挟むと、腰への負担を軽減できるとともに、骨盤のゆがみを防げます。加えて、痛む側の足の筋肉が緩む分、より痛みを気にせずに眠りやすいです。 坐骨神経痛が悪化する寝方は? 坐骨神経痛が悪化する寝方の代表例がうつぶせ寝です。うつ伏せの状態で寝ると、腰が反る上に負担がかかってしまいます。 また、長時間同じ姿勢で寝返りを打たない寝方も、腰が圧迫を受けやすいために坐骨神経痛を悪化させやすいです。 坐骨神経痛で夜中に激痛が来るのはなぜ? 坐骨神経痛で夜中に激痛が来るのは、寝ている間に坐骨神経に大きな負担がかかっているためです。特にうつ伏せや寝返りの少ない寝方であれば、坐骨神経や腰回りに負担が集中しやすい分、激痛に悩まされることがあります。 ほかにも夜間の水分不足や冷えによる血行不良でも、激痛に襲われるケースがあるため、注意が必要です。
2025.05.29 -
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転倒などが原因で脊椎圧迫骨折と診断された時、日常生活に向けてどのようなリハビリが行われるのか気になるのではないのでしょうか。 脊椎圧迫骨折のリハビリは骨折直後から始まり、最初はベッド上でもできる簡単なものが行われます。続いて回復の度合いに応じて、歩行訓練などを行っていく流れです。 本記事では、脊椎圧迫骨折のリハビリ方法を、やってはいけないことや病院探しの方法とともに徹底解説します。 脊椎圧迫骨折のリハビリの内容を知っておくと、万が一骨折しても心の準備を済ませた上でリハビリに取り組めます。 【病期別】脊椎圧迫骨折のリハビリ方法 脊椎圧迫骨折の治療は安静が基本ではあるものの、日常生活への復帰を目指すリハビリも並行して進められます。 リハビリは安静にしている時期の筋力低下をなるべく防ぐため、骨折への治療開始直後から始められるケースが多いです。ただし、病期によってリハビリの内容は異なります。 ここでは、急性期・回復期・退院後それぞれのリハビリ内容を紹介します。 急性期リハビリ方法 脊椎圧迫骨折の痛みなどの症状が強く出る急性期は、骨折した後に患部を外側から支えるコルセットの完成を待つ時期です。コルセットの完成までの1週間程度、安静に過ごしながらもベッド上でできる内容でリハビリを進めます。 ベッド上での関節可動域(ROM)訓練 まず、ベッド上での関節可動域(ROM)訓練は、関節を動かせる範囲である関節可動域を維持するための訓練です。ベッドで安静にしてばかりいると、関節を自在に曲げ伸ばしできる範囲が狭くなります。関節可動域が狭くなると、骨折による痛みを感じやすかったり、運動能力が衰えたりするためです。 ベッドでできる関節可動域訓練は、患者様の状態に応じてスタッフに関節を動かしてもらったり、ご自身で関節を動かしたりします。具体的な内容も、ベッドで寝たり座ったりしながらの、手の曲げ伸ばしや足首や足指の運動などです。 腕や足の筋力をつける訓練 急性期のリハビリでは、腕や足の筋力をつける訓練も進めていくのが一般的です。関節可動域訓練よりも数日程度遅れて始まるもので、最初はベッド上でペットボトルの上げ下げや、膝の曲げ伸ばしなどを行います。 日数が経って、当初より痛みが落ち着いてきたら、ベッドから離れる離床訓練も始まる流れです。離床訓練では、まずベッドでの寝返りから起き上がり動作までの一連の動きを訓練します。 回復期リハビリ方法 治療が始まってからある程度症状が落ち着く回復期に入ると、リハビリも日常生活への復帰を目指して本格化するのが一般的です。以前のような日常生活を送れるように、歩行や筋力関係の訓練が行われます。 下半身の筋力の回復訓練 下半身の筋力を回復する訓練は、ベッドで安静にしている間に衰えた脚の部分の筋力を元に戻すために行うものです。 脊椎圧迫骨折は、骨粗鬆症によって骨密度が低下したところに、ちょっとしたつまづきや転倒が原因で起こります。そのため、足腰に筋力を回復させることは、脊椎圧迫骨折の再発を予防する上で欠かせません。 歩く訓練 歩く訓練(歩行訓練)は、回復期のリハビリで最も主要なものです。杖や歩行器を使いながら、歩幅やバランスを意識しつつ訓練を積み重ねていきます。 なお、訓練は平行棒の間を移動する形で進められるのが一般的です。すぐ近くには指導や何かあった場合に備えてリハビリスタッフが付き添います。 体幹を鍛える運動 体幹を鍛える運動も、回復期のリハビリで重要です。回復期の間は、骨折した脊椎がくっつくまでコルセットを装着します。コルセットは骨折から2ヶ月程度は装着するため、その間に体幹の筋力が衰えやすいです。 コルセットが外れた後に日常生活を徐々に再開できるように、歩行訓練や下肢の筋力回復と合わせて、体幹トレーニングを行います。腹筋運動やブリッジなどのストレッチで腹筋や背筋を鍛えたり、柔軟性を高めたりする流れです。 退院後の在宅リハビリ方法 退院した後は、定期的に通院しながら自宅でリハビリを継続します。そのため、自宅でできるリハビリの方法を知っていると、退院後もリハビリを頑張る上での助けになるでしょう。 ドローイン 「ドローイン」は、息を吐きながらお腹をへこませることで体幹を鍛えるエクササイズです。治療が進んでコルセットを外した直後は、体幹が骨折前よりも衰えているため、体幹を鍛え直すのに向いています。 ドローインに取り組むことで、安定した姿勢を維持する腹横筋をはじめとする腰回りの複数の筋肉を鍛えられるため、退院後のリハビリのメニューにおすすめです。 両手上げ 「両手上げ」は、椅子に座った状態で両手をゆっくり上げ下げします。背中の筋肉を鍛えられるのが特徴です。 とくに退院後で、コルセットが外れた段階であれば、じっくりと背中の筋力をつけられます。ただし、肩に痛みを感じる場合は、あまり無理に上げないようにするべきです。 スクワット 退院後のリハビリでは、スクワットもできます。肩幅程度に足を広げた状態で、まっすぐ前を見た状態で膝を曲げては戻すのが特徴です。 なお、膝を曲げる角度は最大で90度程度にしておくと、過度な負担がかかりません。下半身を鍛えられるため、転倒やつまづきによる圧迫骨折の再発を防ぐ上でも役に立ちます。 脊椎圧迫骨折リハビリ中のコルセット着用について 脊椎圧迫骨折の治療・リハビリで欠かせないものが、患部を固定するコルセットの着用です。コルセットは骨がくっつくまでの間はずっと着用する分、どの程度の期間にわたって装着するのかや注意すべき点が気になるかと思います。 脊椎圧迫骨折の治療を行っている間のコルセット着用のポイントは、次のとおりです。 コルセット着用期間の目安 まず、コルセットを着用する期間は、骨折してから2ヶ月程度が一般的とされます。骨折してから骨がくっつくまでの期間が2ヶ月前後とされているためです。ただし、骨折の程度が深刻だったり骨粗鬆症が進行していたりする方などは、着用期間が延びるケースがあります。 なお、コルセットを外すべき時期は、担当医師が痛みの程度や骨の癒合の状況から判断します。 コルセット着用時の注意点 コルセットを着用している間は、寝る時も含めてずっと着けっぱなしです。ただ、痩せている方はコルセットによる皮膚の圧迫で床ずれができる場合があります。もし、床ずれができることに不安を感じるのであれば、医師などと相談の上で眠る時のみ外すのも1つの方法です。 また、コルセットは骨折部位を外側から固定するものですが、体幹をねじる動きはできます。そのため、過度に体をねじりすぎると骨折部位の状態が悪化する点に注意が必要です。 さらに、強い勢いでの椅子への着席も避ける必要があります。着席した瞬間の反動で、再度圧迫骨折に至るケースがあるためです。 脊椎圧迫骨折のリハビリでの禁忌・やってはいけないこと 脊椎圧迫骨折のリハビリを進める際、禁忌(タブー)・やってはいけないこともいくつかあります。前もってやってはいけないことを知っておくと、リハビリの際に意識を払いやすいです。 体を丸めたりねじったりする まず、体を丸めたりねじったりする行為は避ける必要があります。とくに骨が癒合する前の時期にひねるなどした場合、患部の状態が悪化したり、さらに骨折箇所が増えたりしかねません。 治療期間が長引いて、退院の時期も後にずれるため、無理に体をねじるなどしない方が良いでしょう。 重いものを持たない また、脊椎圧迫骨折の治療中は、重い物を持ってはいけません。とくに床に置いてある物をいきなり持ち上げると、背骨に大きな負荷がかかります。 コルセットが外れるまでは、ご家族などに代わりに持ち上げてもらうのがおすすめです。 転倒に注意する さらに、高齢者であれば転倒に注意する必要があります。高齢者は若い年代に比べて足腰の筋力が衰えているため、些細なつまづきや転倒で骨折するケースも多いです。 手すりや杖を使って歩くことや、足元にものを散乱させないことなどと、安全に歩ける工夫が大切です。 脊椎圧迫骨折のリハビリができる病院の探し方 脊椎圧迫骨折してしまった場合、なるべく早めに受診やリハビリのできる病院を探しておく必要があります。 もし、リハビリが可能な病院を探す際には、回復期リハビリテーション病棟を備えた病院を探すのがおすすめです。回復期リハビリテーション病棟は、病気やけがが急性期から回復期に入った患者様向けに、専門スタッフのチームが集中的にリハビリを施す病棟を指します。 回復期リハビリテーション病棟のある病院を探す際に簡単な方法が、「回復期リハビリテーション病棟協会」の公式サイトを調べることです。公式サイトでは都道府県別に専門病棟のある医療機関を探せます。もし、インターネットの扱いが得意ではない方も、各地の協会や医療機関への電話で問い合わせられます。 まとめ|脊椎圧迫骨折のリハビリは無理なく続けよう 脊椎圧迫骨折のリハビリは、骨折直後から徐々に始まります。最初はベッド上での関節可動域訓練や筋力をつける訓練から行い、回復期に入ったところで歩行訓練などに入るのが一般的です。 治療が進んでコルセットを外した後も、自宅などで通院を続けていく必要があります。脊椎圧迫骨折からの回復には筋力を付けていくことが欠かせないため、無理のない範囲で継続していくことが大切です。 脊椎圧迫骨折のリハビリでよくある質問 腰椎や脊椎の圧迫骨折のリハビリの内容は? 腰椎や脊椎の圧迫骨折で行うリハビリは、骨折して間もない頃はベッド上での関節可動域(ROM)訓練やベッド上でできる簡単なストレッチを中心に行います。 その後、コルセットを装着した後は歩行訓練や下半身の筋力を付ける訓練を通じて、日常生活に復帰していく準備を進める流れです。退院後も自宅でできる筋トレやストレッチ、運動を行います。 腰椎や脊椎の圧迫骨折のリハビリで行うストレッチとは? 腰椎や脊椎の圧迫骨折のリハビリで行うストレッチで主なものは、次のとおりです。 腹筋運動 ブリッジ(お尻上げ運動):仰向けに寝た後で、両膝を曲げながらお尻を持ち上げる ドローイン:両膝を曲げた仰向けの姿勢から腹筋に力を入れつつ、ゆっくり息を吐く スクワット:まっすぐな姿勢から膝を曲げ伸ばす。曲げ伸ばしの角度は最大でも90度 四つん這いでの下肢伸展:四つん這いの状態から、片足を上げて後ろに伸ばす これらのストレッチや運動は、患者様の回復段階に応じて段階的に取り入れられます。 実施する際は、痛みを感じない範囲で無理をせず、理学療法士などの専門スタッフの指導のもとで行いましょう。 脊椎圧迫骨折のリハビリを進める際の評価項目とは? 脊椎圧迫骨折のリハビリを進める際、「評価項目」に基づいて患者様の状態などを確認・評価します。評価項目の具体的なポイントは、基本的に以下のとおりです。 コミュニケーション:認知症などの精神障害の有無 疼痛(とうつう):痛みの見られる部位や原因 関節可動域や筋力:体幹や股関節の状況。 姿勢 歩行能力:歩行できるかどうかや、歩ける距離・歩行器の必要性 バランス能力:転倒リスクの確認 なお、医療機関によって評価項目の内容が異なることもあります。
2025.05.29 -
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高齢で脊椎圧迫骨折と診断され、今後の治療の方法が気になる方もいるのではないのでしょうか。 高齢者の脊椎圧迫骨折は、当初はコルセットなどを着けて安静にしながら、リハビリに取り組んでいくのが一般的です。ただ、脊椎圧迫骨折は骨粗鬆症(骨粗しょう症)が関わっているため、日常生活を見直しながら骨を強くする習慣も欠かせません。 本記事では高齢者の脊椎圧迫骨折について、治療方法や期間、予防の方法を解説していきます。 高齢者の脊椎圧迫骨折の治療法 脊椎圧迫骨折の治療は、基本的には安静にすることが大切です。ただし、安静だけでなく、患者さんの状態に応じてさまざまな治療法を組み合わせて行います。 主な治療法には以下のようなものがあります。 保存療法:コルセットやギプスを着用して安静を保つ 薬物療法:鎮痛薬や骨粗鬆症の治療薬による症状緩和 手術療法:骨セメント注入術や固定術による根本的治療 リハビリテーション:筋力維持と機能回復を目的とした訓練 それぞれの治療法について、詳しく解説していきます。 保存療法|コルセットやギプスの着用 保存療法は脊椎圧迫骨折の治療で、最も基本的な手段です。とりわけ高齢者の場合は、体力の負担を抑えながら回復を図れる方法としてよく用いられます。 具体的には、硬めのコルセットやギプスを腰回りに装着することで、脊椎や腰を安定させるものです。脊椎圧迫骨折が起きてから1ヶ月は、骨折部位が不安定な状態で変形もしやすいため、コルセットなどで安定させます。 保存療法では月日が経つ中で、骨折部位が固定するのを待つのがポイントです。同時に痛みも2週間から1ヶ月程度で、次第に収まってきます。ただ、骨折部位の完全な回復までは数ヶ月はかかるため、その間はコルセットなどを装着するのが一般的です。 薬物療法|鎮痛薬や骨粗しょう症の治療薬 続いて薬物療法は、骨折した箇所の痛みが特に強い場合に用いられます。基本的に湿布や飲み薬などの、市販薬や病院で処方された薬物を使用するやり方です。痛みの程度によっては、骨折部位の筋肉の緊張を和らげる目的で、筋弛緩薬も使われます。 加えて、症状が落ち着いて床を離れられる段階に、高齢者の脊椎圧迫骨折の主な要因である骨粗しょう症の治療薬も投与されます。 手術療法|骨セメント注入術や固定術 手術療法は、保存療法で状況が好転しない場合や骨折部位の変形が著しいなどの状況が見られる時に用いられる方法です。手術療法では、つぶれた骨の内部をバルーンで広げた後、骨セメントを注入して骨自体を安定化させる「骨セメント注入術」が活用されます。骨セメント注入術は手術療法でも、患者の体への負担が少ない点も特徴です。 骨セメント注入術以外にも、骨をボルトなどで固定する「固定術」もあります。固定術は骨折箇所が3ヶ月以上見られるなどの深刻な状況で使われる術式です。 リハビリテーション|筋力維持が目的 リハビリテーションは、基本的には骨折や手術の直後から始まります。治療が始まって間もない頃は、ベッドで安静にしていることが大切ではあるものの、安静にしている間は筋力が低下しやすいです。筋力が低下した場合、再度骨折する危険性さえあります。 骨折や手術から1週間は、専門スタッフの指導を受けながらベッドでできるエクササイズを行う流れです。1週間経過してコルセットで骨折部位を固定した後は、歩行訓練やバランス訓練を積極的に行います。 さらにコルセットやギプスを外した後は、足腰の筋力を回復させるための体幹トレーニングを進めていくのが一般的です。 高齢者の脊椎圧迫骨折の治療期間の目安 高齢者が脊椎圧迫骨折してしまった時、具体的にどの程度の期間にわたって治療が必要なのか、気になる方もいるのではないでしょうか。 脊椎圧迫骨折の治療期間は、数週間から数ヶ月程度が目安です。特に最初の1ヶ月は、安静と可能な範囲での筋力回復が欠かせません。順調に治療や回復が進んだ場合は、3~4ヶ月程度で骨折部位が癒合(骨がくっついて治癒)していきます。 ただし、高齢者は若い年代の方よりも骨の修復に時間がかかるため、骨折の状況や程度などによって治療期間が長引く場合もあります。 高齢者の脊椎圧迫骨折の予防法 脊椎圧迫骨折の要因は、骨の量や密度が減ってしまう骨粗しょう症です。そのため、普段から骨を強く丈夫に保つことが、脊椎圧迫骨折の予防につながります。 また、一度脊椎圧迫骨折を経験した方は、再発リスクが高いため、予防対策がより重要です。ここでは、脊椎圧迫骨折の具体的な予防法を解説します。 骨を強くする食生活が大切 脊椎圧迫骨折や骨粗しょう症を防ぐには、まず骨を強くする食生活を意識します。 骨を強くする栄養素には骨を生成するカルシウムや、カルシウムの吸収を促すビタミンD、筋力の強化や骨の形成を助けるたんぱく質などが挙げられます。カルシウムは牛乳やチーズなどの乳製品や、カタクチイワシのような小魚に多く含まれる栄養素です。 またビタミンDは、鮭やサンマなどの魚類や、マイタケやキクラゲなどのキノコ類から多く摂取できます。たんぱく質も肉や魚のほか、納豆や味噌のような大豆食品に多いです。 なお、ビタミンDは、食事以外にも日光を浴びることでも生成されるため、意識的な外出や日光浴もおすすめできます。 適度な運動を取り入れる 骨粗しょう症、ひいては脊椎圧迫骨折を防ぐ上で適度な運動も効果的とされる方法です。 運動は骨に負荷を与えることで、骨密度を高めます。同時に筋力の維持・強化によって足腰が鍛えられ、脊椎への負荷が分散されるため、骨折のリスクを下げる効果も期待できます。 脊椎圧迫骨折の予防に役立つ運動には、ウォーキングが挙げられます。適度な負荷で骨の強化が期待でき、運動習慣がない方でも気軽に始められます。慣れてきたら、ジョギングなどより強度の高い運動に段階的に取り組むのも効果的です。 自宅内の歩行にも注意 脊椎圧迫骨折を予防するには、自宅内での歩行にも注意を払う必要があります。脊椎圧迫骨折を引き起こす人は、骨粗しょう症で骨密度が下がっている分、ちょっとした転倒や尻もちで骨折しやすいためです。 自宅内で歩く際には、段差や滑りやすい床は特に注意すべき箇所です。玄関や階段などにはあらかじめ手すりを設置し、歩く際もつかまるようにすれば転倒による骨折のリスクを下げられます。同時に滑りやすい床には、滑り止めシートやマットを敷くのもおすすめです。 脊椎圧迫骨折の治療でやってはいけないことは? 脊椎圧迫骨折の治療では、やってはいけない行為もいくつかあります。具体的には次のとおりです。 あおむけの状態で寝る:背中への負荷が大きくなるため、横向きの姿勢を推奨。 前かがみになる:骨折した部位に負荷がかかるため。 重い物を持つ:背骨に強い力や負荷がかかる。特に床に置いてあるものの持ち上げは禁忌。 体をひねる・反らす:骨折部位に負荷がかかり悪化の原因となるため。 飲酒・喫煙:骨の強度や密度を弱めるため。 これらの注意点を守ることで、症状の悪化や再発を防ぐことにつながります。不明な点があれば、必ず医師に相談してから行動しましょう。 まとめ|脊椎圧迫骨折は日頃からの予防が大事です 高齢者の脊椎圧迫骨折の治療は、基本的に保存療法で安静にしながら、運動やリハビリテーションを取り入れていきます。しかし、脊椎圧迫骨折自体は骨粗しょう症が根本的な原因であるため、骨を強くするための食事や運動の改善が重要です。 逆に考えれば、日頃から規則正しい食事や適度な運動を通じて骨粗しょう症を予防すれば、脊椎圧迫骨折のリスクは下げられます。 骨粗しょう症や脊椎圧迫骨折への対策を立てたい方は、日頃の食生活や運動の習慣を見直しましょう。 高齢者の脊椎圧迫骨折の治療に関してよくある質問 高齢者の圧迫骨折は治る? 高齢者の圧迫骨折は、コルセットなどで固定した状態での安静と運動を行うことで、2~3ヶ月程度で治るケースが多いです。 根本的な原因として骨粗しょう症があるため、日常生活の見直しや骨の強化で再発を防止できます。 高齢者の腰椎圧迫骨折の入院期間はどのくらい? 高齢者が腰椎圧迫骨折の手術を目的にした入院期間は、基本的には1週間程度が一般的です。 ただし、まれに合併症を引き起こす場合があり、その際には入院期間が延びることがあります。 なお、退院後も経過の確認のために、定期的な通院が必要です。 高齢者の圧迫骨折は寝たきりになりやすい? 高齢者は圧迫骨折がきっかけで寝たきりになるケースがあります。 骨折によって寝たり起きたりするだけでも痛みに苦しめられるため、体を動かす気力が下がってしまうためです。 痛みを恐れて体を動かさない状態が続くと筋力が低下し、さらに動くことが困難になり、寝たきりになってしまうことがあります。 圧迫骨折は放置するとどうなる? 圧迫骨折を適切に治療せずに放置すると、骨折した骨がつぶれたまま固まってしまい、背中が曲がった状態になることがあります。また、骨がきちんとくっつかずに、長期間痛みが続く場合もあります。 さらに、圧迫骨折を起こす方は骨がもろくなっていることが多いため、他の背骨や別の部位でも骨折を起こしやすいです。このため、一度圧迫骨折を起こした場合は、骨密度の検査や骨粗しょう症の治療を受けることが重要です。
2025.05.29 -
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「スポーツ中に突然腰が痛くなった」「重いものを持ったときに動けなくなった」 そんなときによく言われるのが「ぎっくり腰」です。 この急な腰痛の原因のひとつとして、「筋・筋膜性腰痛」があります。 筋・筋膜性腰痛は、腰の筋肉や筋膜に強い負担がかかって起こるもので、急性の痛みだけでなく、慢性的な腰のだるさや違和感として現れることもあります。 放置すると慢性化しやすいため、早めの対処が大切です。 この記事では、筋・筋膜性腰痛について、ぎっくり腰との関係や、治療法・予防法などをわかりやすく解説します。 筋・筋膜性腰痛の原因 筋・筋膜性腰痛は、腰の筋肉や筋膜に強い負担がかかることで起こる腰痛です。 スポーツ選手から座り仕事の方まで幅広く見られる症状で、適切な対処をしないと慢性化する恐れがあります。 主な原因 スポーツ時の過度な腰のひねり、反り、前かがみ 長時間の座り作業や重い物の持ち上げ 座りっぱなしの生活習慣 猫背などの悪い姿勢の継続 筋膜は筋肉を包む薄い膜で、正常時は筋肉の形状維持や力の伝達を担っています。しかし、腰に強い負荷がかかると筋肉や筋膜に損傷が生じ、強い痛みを感じるようになります。 慢性化すると、筋肉の緊張が高まり継続的な痛みとして現れるため、早期の治療が大切です。 筋・筋膜性腰痛の症状と特徴 筋・筋膜性腰痛になったことがない場合、どのような症状や特徴があるのか実感しにくいのではないのでしょうか。 筋・筋膜性腰痛の症状や特徴を前もって知っておくと、早期発見や適切な対処に役立ちます。 筋・筋膜性腰痛はどんな痛み?主な症状 筋・筋膜性腰痛の主な症状は、腰を動かしたときに、腰椎(腰の背骨)に沿って生じる痛みです。 ちょっとした動きで腰に弱い衝撃が加わっても痛みを感じる場合もあります。とくに、中腰での作業や重い物の運搬、スポーツ中の腰をひねる動作などが痛みを引き起こしやすいです。 急性の腰痛であればより強い痛みが発生し、動くことが苦痛に感じるケースもあります。強い痛みは長くて1ヶ月程度で治るものの、痛みが落ち着く前に腰にさらなる負荷をかけると、慢性化のリスクがある点に注意が必要です。 筋・筋膜性腰痛とぎっくり腰の違いと見分け方 筋・筋膜性腰痛とは、腰の筋肉やそれを包む筋膜に負担がかかって起こる痛みのことを指します。この筋・筋膜性腰痛の急性の痛みが、一般的に「ぎっくり腰」と呼ばれることがあります。 つまり、ぎっくり腰は腰の急な強い痛みの症状名で、その原因の一つとして筋・筋膜性腰痛が関係しているのです。 スポーツで急に腰をひねったときや、一気に重い物を持ち上げたときに、突然強い痛みが生じることがあります。これが急性の筋・筋膜性腰痛によって引き起こされる、「ぎっくり腰」の典型的な症状です。 痛みが強くて歩けない時は要注意!他の病気の可能性 筋・筋膜性腰痛の症状が続き、痛みが強すぎて歩けないときは、他の病気の可能性があります。筋・筋膜性腰痛は通常、腰回りの神経や血管に異常は見られません。 しかし、痛みが強くて歩けない上に、短い距離を歩いた後にそれ以上歩くのが困難になるときは、足腰の神経や血管の異常が考えられます。筋・筋膜性腰痛に加えて腰部脊柱管狭窄症も併発している可能性もあり得るため、なるべく早めの医療機関の受診が大切です。 筋・筋膜性腰痛の検査と診断 筋・筋膜性腰痛になった時、行われる検査や診断の内容を知っていると、実際に病院などで治療を受ける際に心の準備ができます。筋・筋膜性腰痛の検査と診断は、医師による診断と各種検査が一般的です。 医師の問診・触診 筋・筋膜性腰痛の症状は、主に医師の問診や触診を通じて診断されます。 担当医師が実際に患部を指で押して痛む場所や痛みの強さを確認したり、患者から症状について聞き取ったりしながら判断する流れです。 レントゲン検査・CT検査・MRI検査 医師の問診や触診とともに、レントゲン検査をはじめとする画像検査も補助的に用いられます。ただし、筋・筋膜性腰痛は筋肉や筋膜で発生しているため、基本的には画像検査から診断できないことも多いです。 レントゲン検査やMRIなどの画像検査では、まず骨や神経に異常がないかを確認します。そして、他の腰関連の疾患の特徴に当てはまらないことを確認しつつ、問診や触診の結果と合わせて最終的に診断する流れです。 ただし、急性の症状の場合はMRI検査によって、筋の損傷が見られるケースがあります。 筋・筋膜性腰痛の治療法 筋・筋膜性腰痛の主な治療法は、薬物療法とリハビリテーション(リハビリ)です。症状の程度や急性・慢性の違いによって、適切な治療方法を選択していきます。 薬物療法 薬物療法は、痛みや炎症を抑える薬剤を使って症状を軽減していく方法です。湿布や塗り薬のような外用薬や、非ステロイド性抗炎症薬のような飲み薬を使うのが一般的です。加えて、痛みや炎症の程度によっては、患部への神経ブロック注射が用いられるケースもあります。 急性期には薬物療法と併せて、患部のアイシング(冷却)を行います。一方、痛みや炎症が落ち着いてきた段階では、電気療法や温熱療法などの物理療法に切り替えていきます。患部を温めることで血行が促されたり、筋肉の緊張が和らいだりする分、症状の緩和や傷ついた患部の修復効果が期待できます。 リハビリテーション リハビリテーションも筋・筋膜性腰痛では一般的な治療方法です。痛みが軽減してきた段階で、腰やお腹の筋力を高めるためのトレーニングやストレッチを行います。 筋・筋膜性腰痛は、筋肉が硬くなることによる血流の悪化が痛みの原因の一つです。このため、運動を通じて血流を促し、筋肉の柔軟性を高めれば症状の改善が期待できます。 リハビリテーションでは、姿勢改善の指導も行われます。猫背のような良くない姿勢や動作の改善を通じて、筋・筋膜性腰痛の原因を根本から取り除いていくためです。 PRP療法 筋・筋膜性腰痛に対しては、再生医療の「PRP(多血小板血漿)療法」という治療選択肢もあります。 これは自身の血液から抽出した血小板を濃縮し、患部に注射する治療法です。とくに早期回復を目指すスポーツ選手をはじめ、趣味やレクリエーションでの運動を続けたい方などに用いられることがあります。 筋・筋膜性腰痛の予防法と再発防止策 筋・筋膜性腰痛は日常生活での過ごし方次第で、予防や再発防止が可能です。筋・筋膜性腰痛を避けるには、以下の方法を意識します。 正しい姿勢と基本動作を身につける 筋・筋膜性腰痛の予防には、正しい姿勢と基本動作が欠かせません。立つ際にはお腹に少し力を入れた状態で、上に引っ張られる状態を意識しながら背筋を伸ばします。 また座る際にも、椅子に深く腰掛けながら、背筋を伸ばすのがポイントです。椅子の高さも重要で、足裏が全体的に床につく程度の高さが理想的です。 逆に猫背や前かがみの姿勢、反り腰は腰への負担を強めるため、避ける必要があります。 筋膜の柔軟性を保つストレッチと運動を行う 筋・筋膜性腰痛の予防には、筋膜の柔軟性を保つストレッチや運動が効果的です。筋膜が硬くなると血流が悪化し痛みを引き起こすため、日常的な運動やストレッチで柔軟性を維持しましょう。 筋・筋膜性腰痛の予防でよく活用されるエクササイズは、以下のとおりです。 起き上がり運動:膝を曲げた状態であおむけになった後、軽く上体を起こしてキープする。 おへそのぞき運動:膝を曲げた状態であおむけになり、おへそをのぞきながらキープ。 うつ伏せから上体起こし:うつぶせの状態から上体を起こしてキープ。 ただし、やりすぎるとかえって症状が悪化するケースもあるため、無理のない範囲で行うことが必要です。加えて、原因によってはストレッチでもあまり効果が見込めない場合もあるため、事前に医師へ相談の上で取り組んでください。 生活習慣の改善とセルフケアに努める 生活習慣の改善やセルフケアも、筋・筋膜性腰痛の予防に役立ちます。筋・筋膜性腰痛は、筋肉や筋膜の働きが衰えているために痛みが生じる症状です。 そこで生活習慣の改善で、筋肉や筋膜の働きを高める必要があります。とくに食生活では、筋肉を生成するたんぱく質や、骨密度の向上を促すカルシウムなどが重要な栄養素です。可能な限り栄養素のバランスが取れた食事を心掛ければ、筋肉・筋膜や骨の働きを回復できます。 まとめ|早期の適切な治療で筋・筋膜性腰痛の改善を目指そう 筋・筋膜性腰痛は、スポーツなどでの無理な姿勢や、座ってばかりの生活での腰の使いすぎが原因の症状です。中でも急性のものは「ぎっくり腰」の主要な原因となり、強い痛みを伴います。 治療では、患部を安静にしつつ薬物を投与したり、リハビリを行ったりするのが一般的です。加えて、姿勢の改善やエクササイズ、食生活を心掛けることで予防効果があるとされています。 筋・筋膜性腰痛は放置すると、別の腰の病気を併発するケースもあります。腰に痛みを感じる時は、無理せずに早めの医療機関の受診が大切です。 筋・筋膜性腰痛に関してよくある質問 筋・筋膜性腰痛はどのくらいで治る? 筋・筋膜性腰痛は、一般的に3週間から3ヶ月程度で治っていくとされています。とくに強い痛みは、安静にしていれば数日程度で収まっていく流れです。 ただ、痛みがあるにもかかわらず適切な治療を受けなかったり、無理して腰に負担をかけ続けたりすると治るまでの期間が長期化します。 筋・筋膜性腰痛が治らないときの対処法は? 筋・筋膜性腰痛の治療はまず、薬物を投与して安静にしつつ様子を見ますが、それでも改善しない時は画像診断で別の原因がないかを見ていくのが一般的です。別の原因が見つかったときには、手術など他の治療法で症状の改善を試みます。 筋・筋膜性腰痛で歩けないほど痛い時はどうすればいい? 筋・筋膜性腰痛で歩けないほど痛い時は、急性の症状であれば安静にしながらアイシングで患部を冷やすのが基本です。ただ、慢性的に歩けないほどに痛い場合は間欠性跛行(かんけつせいはこう)や、腰部脊柱管狭窄症の疑いもあるため、早めに医療機関を受診する必要があります。
2025.05.29 -
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ヘルニアの治療により症状が改善した段階で、ランニングの再開を検討する方は少なくありません。しかし、運動再開によって症状が再び悪化する可能性への不安を抱える方も多いでしょう。 実はヘルニア発症後のランニングは、痛みが収まってきた頃であれば始めても問題ない場合があります。ただ、再開する際のポイントや注意点を理解した上で、無理のない範囲で行うことが重要です。 本記事では、ヘルニア発症後のランニングについて詳しく解説します。再発防止のポイントや治療法も紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。 ヘルニアでランニングしても大丈夫? ヘルニアを発症後、痛みが落ち着いてくるとランニングを再開したいと考える方もいるのではないでしょうか。 ヘルニア後のランニングは、症状次第では可能な場合があります。症状別にランニングしても問題がないのかを見ていきましょう。 急性期のランニングはNG ヘルニア発症から1~2週間の急性期、つまり症状が出て間もない時期や腰痛症状が続いているときのランニングは避けるべきです。ランニングは、地面を蹴った際に足を通して受ける衝撃が腰にも影響します。 ヘルニアの症状が持続している間にランニングを始めると、腰椎や椎間板などの患部に強い衝撃が及ぶため、症状が悪化しやすいです。症状がひどくならないようにするためにも、急性期はランニングを控える必要があります。 慢性期は軽いランニングやジョギングなら可 一方、慢性期でヘルニアの症状が落ち着いていれば、軽めのランニングやジョギングであれば可能です。 ただし、運動を再開するときは、自身で判断せず医師に相談の上で決めましょう。 いきなりランニングを再開するよりも、まずはランニングよりも負荷が軽いウォーキングから始めます。 ウォーキングに取り組んでみて患部が痛まないと感じたら、ジョギングやランニングとより負荷のあるエクササイズを再開していくのがおすすめです。 もし通常のウォーキングが辛く感じる時は、水中ウォーキング(水中歩行)が良いでしょう。水中ウォーキングは浮力も活かしながら歩く分、通常のウォーキング以上に足腰への負荷を抑えられるためです。 ただし、水中ウォーキングでも腰痛に見舞われる場合は、無理せず痛みが抜けるまでは安静にしている必要があります。 ヘルニアの手術後のランニングは大丈夫? ヘルニアの手術後に、早速ランニングしたい方もいるのではないでしょうか。 手術して間もない時期のランニングは、原則避けるべきです。ヘルニアは手術をしても数日から1週間、長い方では1ヵ月は痛みやしびれが継続します。回復の早い人でも術後数日は経過しないと、痛みが和らぎません。 術後に痛みやしびれが続いている間は、軽いウォーキングでさえも患部に負担を与えるため、回復が遅れてしまいます。せめて痛みやしびれが落ち着くまでは、ランニングを含めて運動は避けましょう。 ヘルニアでランニングする際の注意点 ヘルニアによる痛みやしびれが落ち着いてきて、ようやくランニングできる状態になっても、いくつか注意すべき点があります。 ヘルニアの手術・治療後にランニングに取り組む際は、以下の点にお気を付けください。 走るときの姿勢に注意 ヘルニアの治療後のランニングで気を付けなければいけないのが、走っている間の姿勢です。 とくに走っている最中は、腰を丸めた状態にならないようにします。 腰を丸めた状態は、椎間板や腰椎などヘルニアが発生しやすい部位に過剰な負担をかけるためです。治療後に腰を丸めたまま走ると、ヘルニアの悪化や再発の原因になります。 ヘルニアの治療後のランニングでは、骨盤を前に傾かせつつ、お腹の部分が前側に出るようにするのがコツです。お腹の部分が前側に張り出すことで、背中や腰の部分がぴんと張るため、足腰への負担を軽減できます。 ただし、骨盤を前に傾けてお腹を前に出しても痛みを感じる時は、まだランニングできる状態ではありません。ウォーキングのような、ランニングよりも負担がかからない運動に切り替えてください。 クッション性の高いランニングシューズを選ぶ ヘルニアの治療後にランニングに出かける時は、クッション性の高いランニングシューズを選ぶのがおすすめです。クッション性の高いシューズは、走っている間に地面を蹴った時に受ける衝撃を和らげる点で効果があります。 より安心できる状態でランニングに臨みたい場合は、底側のソールが厚いものを選びましょう。とくにインソール(中敷き)の入ったものであれば、足や身体を安定させるとともに、踵から腰に至るまでの部位への衝撃を和らげられます。 ランニング以外でヘルニアの再発を防止するポイント ヘルニアの治療後は、日常生活の様々な場面でもヘルニアが再発しないように気を付けることが大切です。 ランニング以外でヘルニアの再発を防げるポイントを4つ解説します。 日常生活での姿勢に注意 治療後は運動を含む日常生活で、姿勢に注意が必要です。ランニングの場合と同じく、猫背や前かがみのような丸めた姿勢は避け、背中がまっすぐになる姿勢を心がけます。立っている時は、背骨のS字カーブを保つことを意識するのがポイントです。 座っている時も立っている時と同じように、背中がまっすぐになるようにします。患部への負担を防ぐ意味でも、椅子に深く腰掛けた状態でクッションや背もたれを使うのがおすすめです。 ただし、長時間同じ姿勢でいるのは、かえって症状を悪化させかねません。立ちっぱなしや座りっぱなしなど同じ姿勢を避けるためにも、時々軽いストレッチや歩行を取り入れることも大切です。 無理のない筋トレを習慣づける ヘルニアを発症した場合、安静に過ごすのが基本ではあるものの、運動を全くしない状態は避ける必要があります。コルセットやサポーターなどを装着したまま安静にした状態が続くと、足腰の筋肉が弱くなったり、椎間板などが固くなって柔軟性が失われたりするためです。 ヘルニアによる痛みが和らいできたところで、無理のない範囲で筋トレを取り入れていきます。うつぶせの状態で膝をついた姿勢で、体を一直線に維持する「プランク」や、仰向けで膝を立てながらお尻を持ち上げる「ヒップリフト」などが代表的です。 筋トレを無理なく続けていけば、血流の活性化による症状の改善や、筋力の強化による椎間板への負担の軽減が期待できます。 ただし筋トレをやりすぎると、逆に症状が悪化するため、無理は禁物です。筋トレを開始するときは、医師に相談の上で進めましょう。 ストレッチで筋肉の柔軟性を高める ヘルニアの再発防止には、ストレッチで筋肉の柔軟性を高めることも大切です。ストレッチで筋肉や股関節の柔軟性が高まれば、痛みを和らげたり患部への負担を減らせます。 ヘルニア対策でよく使われるストレッチとして、以下のものが挙げられます。 両膝を抱える:仰向けで両膝を抱え、息を吐きながら胸に近付ける 体をひねる:仰向けで両膝を抱えつつ、肩を床につけたまま左右にゆっくりひねる 腰を上げる:仰向けの状態で両膝を90度以上立て、両手をお尻の下に置く。お尻を浮かせて、5秒間維持した後で下げる ただし、ストレッチの中には前屈ストレッチや捻転ストレッチのように、やってはいけないものもある点に注意が必要です。足腰や椎間板などへの過剰な負担で痛みが生じるため、かえって症状を悪化させてしまいます。ストレッチも筋トレ同様、医師に相談の上で始めましょう。 ダイエットや禁煙も大切 ヘルニアの症状が起きないようにするには、日頃からのダイエットや禁煙も大切です。体に余計な脂肪がついて体重が増えると、背骨や足腰に過度な負荷がかかります。 このため、体重が気になっていてヘルニアを発症している方は、規則正しい食事や無理のない運動で体重を減らすことが大切です。体重が減れば足腰への負担も減らせるため、症状の緩和が期待できます。ただし、過度のダイエットは筋肉まで減らしてしまうため、必要な栄養はしっかりと摂取しましょう。 また禁煙もヘルニアの防止に期待できます。タバコを日常的に吸っていると、ニコチンの作用で血流を減らしてしまうとともに、体内の各部位に必要な栄養分がいきわたらなくなるためです。 栄養不足に陥った部位は傷ついたりもろくなったりしやすいため、ヘルニアを発症するリスクが高まります。そのため、禁煙もまたヘルニアの防止には欠かせない手段です。 ヘルニアでやってはいけないことは? ヘルニアになってしまったときにやってはいけないこととして、まず安静にしてばかりの状態は避ける必要があります。ヘルニアの治療でひたすら安静にしていてストレッチなどを怠ると、足腰の筋力が衰えてしまうためです。 筋力が衰えると、患部にさらなる負担がかかり、症状はより悪化します。さらに安静期間中に体重が増えることも、症状悪化の要因の1つです。 加えて、腰に負担をかける姿勢も避ける必要があります。中腰や体をひねりながらしゃがむ状態で物を持ち上げた場合、椎間板に負荷がかかり患部の悪化リスクがあります。何か物を持ち上げなければならないときは、一旦しっかりと足を曲げたり腰を落としたりしてから拾いましょう。 ヘルニアの治療方法 ヘルニアには、主に保存療法と手術療法があるほか、治療と並行してリハビリテーションを行うのが一般的な流れです。 ここからは、ヘルニアの治療方法について解説します。 基本的には保存療法 ヘルニアの症状が軽度の場合、基本的に保存療法を施しつつ経過を観察します。保存療法には複数の手段があり、主なものは次のとおりです。 安静:腰に負担がかかる行為を避け、横向きで寝るなどして様子を見る コルセットなどの装着:コルセットやサポーターの装着により腰への負担を軽減する 薬物治療:飲み薬や、湿布をはじめとする外用薬などで痛みを和らげる 神経ブロック治療:痛みを感じる部位に局所麻酔やステロイド薬を投与 症状が重い時は手術療法 症状が重度の場合や保存療法でも改善が難しい場合は、手術療法が検討されます。手術を行う際は、椎間板切除術(Love法)や椎間固定術が主な方法です。 椎間板切除術は、全身麻酔を施した後に背中から皮膚を切り開いて行います。そして、背骨側に飛び出て神経を圧迫している椎間板部分を切除する方法です。 椎間固定術では、神経を圧迫している椎間板の部分を切除した後、ご自身の骨や人工の骨を挿入した上で固定します。 腰痛軽減後のリハビリテーション リハビリテーションは、保存療法・手術療法を経て症状が軽減した段階で行われる方法です。主な方法に運動療法と物理療法があります。 運動療法はリハビリで最も一般的な手段です。負担がかからない範囲で筋トレや体幹を鍛えるストレッチを行い、足腰などの筋力や柔軟性を高めていきます。 また物理療法では、温熱療法や電気療法などを施す方法です。温熱などによって血行を促したり筋肉をほぐしたりすることで、痛みを緩和するとともに運動療法の効果を高めます。 ヘルニアの治療には「再生医療」という選択肢もある ヘルニアの手術ができない方や、手術後の後遺症にお悩みの方には、「再生医療」も選択肢の1つです。 再生医療の幹細胞治療では、他の細胞に変化する能力を持つ幹細胞を患部に届けます。 当院「リペアセルクリニック」では、患者様の体内から採取・培養した幹細胞を脊髄の損傷個所に直接投与します。注射だけでなく、点滴との併用も可能です。 また、当院では幹細胞を冷凍せず、投与するたびに培養するのが特徴です。 ヘルニアに対する再生医療についての詳細は、以下をご覧ください。 まとめ|ヘルニア発症後のランニングは無理なく行おう ヘルニア発症後のランニングは、発症直後の急性期は避け、症状が落ち着いた慢性期であれば可能です。 ただし、自己判断はせずに医師に相談の上で開始することをおすすめします。 また、過度なランニングはかえって患部の状態を悪化させるため、無理のない範囲で走る点に注意しましょう。 いきなりランニングを始めるのではなく、まずはウォーキングから始め、強い痛みが生じなければジョギングやランニングを再開していくのがおすすめです。もし、軽いランニングで痛みを感じる時は、ウォーキングや水中ウォーキングで様子を見ると良いでしょう。 ヘルニア発症後のランニングは、患部の状態を見ながら行うべきかどうかや、走る程度を決めていくことが大切です。あくまでも無理することなく、可能な範囲でのランニングがポイントといえます。 ヘルニアの手術ができない方や、手術後の後遺症にお悩みの方は再生医療による治療もご検討ください。 ヘルニアとランニングに関する「よくある質問」 ヘルニアでもランニングを再開しても大丈夫ですか? ヘルニア発症後のランニングは、痛みがある程度落ち着いた慢性期になったら再開できる場合があります。腰の状態を慎重に見極める必要があるため、まずは医師との相談が大切です。 もし、ランニングを無理に行うと、かえって症状が悪化するケースがあります。加えて、ランニング以上に長距離を走るマラソン競技は、なおさら症状を深刻化させるリスクがあるため、おすすめできません。 ヘルニアがあっても運動してもいいの? ヘルニア発症後の運動は、安静に過ごすこととともに症状の改善が期待できる場合があります。とくに慢性期の筋トレやストレッチは、血行の促進や筋力の向上によってヘルニアからの回復が図れるケースがあるので推奨されます。
2025.05.29 -
- 足部、その他疾患
- 足部
「下肢閉塞性動脈硬化症に対してマッサージはしても良いの?」 「マッサージをしてはならないケースは?」 下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)に対する自己流のマッサージは危険です。病状によってはASOを悪化させる恐れもあるためです。ASOを改善するのであれば、適切な運動療法やフットケアが効果的です。 本記事では下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)に関して、以下の内容を解説します。 マッサージが禁忌となる3つのケース 効果的な運動療法 セルフケアにおける5つのポイント マッサージが推奨されてないケースを具体的に解説しています。ASOの適切な管理方法を身につけるために役立ててください。 下肢閉塞性動脈硬化症に対するマッサージが禁忌となる3つのケース 前提として、下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)に対して自己流のマッサージは危険です。マッサージにより血流が阻害されてASOを悪化させる恐れがあるためです。 とくに以下のような状況では、運動療法やマッサージは禁忌(きんき:実施してはならないこと)となります。ASOに対するマッサージ方法は医師に相談してください。 深部静脈血栓(しんぶじょうみゃくけっせん)が疑われる 潰瘍(かいよう)や炎症が起きている 安静時に痛みがある それぞれの詳細を解説します。 1.深部静脈血栓が疑われる 太ももから下側に腫れや赤み、痛みが現れているときは、深部静脈血栓が疑われるためマッサージは禁忌です。(文献1)深部静脈血栓とは、長時間足を動かさないで同一姿勢でいると、足の静脈に血栓(けっせん:血の塊)ができてしまうことです。 血栓が血流に乗ってしまうと、肺の血管を詰まらせて肺塞栓症(はいそくせんしょう)という危険な病気を引き起こす恐れがあります。深部静脈血栓が疑われる際にマッサージをすると、圧迫により血栓が剥がれて肺塞栓症に進展する危険性があります。(文献2) ASOにおいても血栓ができることがあるため注意が必要です。深部静脈血栓が疑われる症状が現れている場合は、速やかに医療機関を受診してください。 2.潰瘍(かいよう)や炎症が起きている 下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)のFontaine(フォンテイン)分類におけるⅣ度に該当する場合は、原則運動療法は禁忌です。(文献3)Fontaine分類とは、ASOの重症度をⅠ〜Ⅳ度で評価するための分類です。 このような重症例では皮膚や組織への血流が著しく低下しているため、マッサージによる組織への物理的な圧迫や摩擦が潰瘍や壊死部に対して悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、マッサージの実施も推奨できません。 Ⅳ度は、皮膚や筋肉への血流が不足している最も重い状態です。小さな傷や低温やけどをきっかけに以下のような症状が現れています。 症状 詳細 潰瘍(かいよう) 皮膚や粘膜が深く傷ついている状態 壊死(えし) 細胞の一部が壊れている状態 赤く炎症が起きている場合は、なんらかの感染症が発生している恐れもあります。これらの症状が現れている場合は、マッサージは行わず速やかに医療機関を受診してください。 3.安静時に痛みがある 安静時に痛みがある場合は、Fontaine分類におけるⅢ度に該当します。Ⅲ度も原則運動療法は禁忌です。(文献3)そのため、マッサージの実施も推奨できません。 ASOにおいて、II度とⅢ度の症状を間違えないように注意が必要です。症状の違いは以下の通りです。 分類 症状 II度 一定の距離を歩くと、ふくらはぎが締め付けられるような痛みが現れ歩けなくなる。休むと痛みがなくなり歩けるようになる。この状態を間欠性跛行(かんけつせいはこう)と呼ぶ。 Ⅲ度 歩く距離が徐々に短くなり、安静にしていても痛みが持続する。 (文献4) Ⅲ度の症状が現れている場合は、狭窄や閉塞が悪化している状態です。こちらも医療機関を受診して医師の指示に従ってください。 その他の下肢閉塞性動脈硬化症に対する禁忌 下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)の患者様は、弾性ストッキングを原則着用してはいけません。ASOの患者様が装着すると、圧迫により血行障害が悪化する恐れがあるためです。弾性ストッキングとはストッキングの圧力により、下肢の筋肉のポンプ作用を高めて血流を促す製品です。 ASOの患者様に対して弾性ストッキングの着用が必要になった際は、医師が慎重に検討します。医療現場では、2011年から2016年の間にASOの患者様に対して、弾性ストッキングを着用させてしまった事例が4件発生しています。(文献5) 万が一のために患者様本人と家族の間でも、ASOを患っている場合は原則弾性ストッキングを着用してはならないことを理解しておきましょう。 下肢閉塞性動脈硬化症に効果的な運動療法 下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)に対する運動療法は、Fontaine分類におけるⅠ度(冷寒やしびれ感がある)、Ⅱ度の方に推奨されています。有効な運動療法は歩行です。間欠性跛行の改善や歩行距離の向上を期待できます。歩行は以下のような流れで実施します。 がまんできる痛みが生じる強度で歩く 強い痛みが出る手前で休む この繰り返しを1回30〜60分行う 歩行は週3回を少なくとも3カ月間の実施が推奨されています。運動療法は「病院で行う監督下運動療法」と「自宅で行う在宅運動療法」があります。 監督下運動療法のほうが間欠性跛行の改善効果が高く、推奨されています。(文献6)自宅で運動療法を行う場合は、医師の指導を受けてからにしましょう。 下肢閉塞性動脈硬化症のセルフケアにおける5つのポイント ASOを管理するには、以下のようなポイントを抑えておくことが大切です。 フットケアを行う 高血圧を改善する 脂質異常症を改善する 血糖値をコントロールする 禁煙をする それぞれの詳細を解説します。 1.フットケアを行う ASOを管理するためには、以下のようなフットケアの実施が大切です。 フットケアの種類 詳細 足を冷やさない 足が冷えると血管が収縮してしまい血流が悪くなるため、以下のような方法で保温する。 靴下や電気毛布で足を温める 入浴や足浴をする 靴下は締め付けがきつすぎないものにする。 傷を作らない 小さな傷から感染症を引き起こすリスクがあるため、以下のことに注意する 足は清潔にして水虫予防をする 傷ができるリスクがあるため深爪しない 靴擦れのリスクを避けるため、足のサイズに合った靴を選ぶ 低温やけどに注意する 低温やけどから感染症を引き起こすリスクがある。電気あんかや湯たんぽ、カイロは直接肌に当てると低温やけどを起こすリスクがあるため、使用する際は間接的に保温する。 (文献4) 巻き爪は傷ができるリスクがあります。巻き爪がある方は形成外科などで治療してもらいましょう。 2.高血圧を改善する 高血圧は、動脈硬化(どうみゃくこうか:血管が弾力性を失っている状態)を引き起こすためASOを悪化させる原因です。ASOの方は以下の血圧値を目標として改善を目指しましょう。 年齢 降圧目標 75歳未満 130/80mmHg未満 75歳以上 140/90mmHg未満 (文献6) 高血圧の管理において減塩はとくに大切です。以下を参考にして減塩をしましょう。 麺類の汁は飲まない 外食や加工食品は避ける 薄味に味付けをする 香辛料や香草野菜、酸味などで味付けをする 調味料は酢やケチャップ、マヨネーズなど塩分が少ないものを上手に利用する 味噌汁などの汁物は具だくさんにして塩分量を減らす 漬物は自家製の浅漬けにして少量にする 3.脂質異常症を改善する 脂質異常症は下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)の悪化に関係しています。悪玉コレステロール値や中性脂肪値が高いと動脈硬化を進行させるためです。一般的にASOと脂質異常症を合併している方は、薬物療法が検討されます。(文献6) 薬物療法だけでなく以下のことに注意して、脂質異常症の改善を目指しましょう。 禁煙をする(受動喫煙も避ける) 標準体重を目指す 過食をしない アルコールの過剰摂取をしない 肉類や乳製品、卵黄の摂取を控える 魚類や大豆製品をおかずにする 野菜類や果物類、海藻類、穀類(精製されていない物)の摂取を増やす 脂質異常症を改善するための運動療法に関しては、医師と相談しながら進めましょう。 4.血糖値をコントロールする 糖尿病患者様は血糖値のコントロールが重要です。糖尿病は末梢神経障害の発症が多く、下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)と併存すると足病変(そくびょうへん:足に起こるトラブルの総称)を生じるリスクがあります。(文献6) 血糖値をコントロールするには、以下のような食習慣の改善が重要です。 ゆっくりとよく噛んで食べる 1日3食規則正しく食べる 食事は腹八分目にする 就寝前に食事や間食をしない 三大栄養素は炭水化物4〜6割、タンパク質2割、脂質2〜3割の割合にする 野菜類、海藻類、きのこ類、大豆製品、乳製品などさまざまな食品をバランス良く食べる 血糖値改善のための運動療法に関しては、医師と相談しながら進めましょう。 関連記事:糖尿病|食事で予防する、食生活を整えて病気の悪化や合併症を防ぐ 関連記事:糖尿病!運動療法なら改善はもとより予防にも効果を発揮 5.禁煙をする たばこは下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)を悪化させるだけではありません。ASOの治療方法である血行再建術(けっこうさいけんじゅつ:閉塞や狭窄した血管の血流を改善する治療)を実施した患者様の症状を再発させる恐れがあります。(文献4) これは、ニコチンに血管を収縮させる作用があるためです。他にも中性脂肪値を増加させるため、高血圧や脂質異常症、動脈硬化などを悪化させる原因にもなります。一人で禁煙できそうにない場合は、禁煙外来で医師に相談しましょう。 まとめ|下肢閉塞性動脈硬化症のマッサージ方法は医師に相談しよう 前提として下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)に対するマッサージは、自己流で行わず医師に相談しましょう。 深部静脈血栓が疑われる場合や重症度Ⅲ度とⅣ度のASOに対しては、マッサージを実施しないでください。 マッサージよりも、足を「保温する」「清潔にする」「傷を作らない」などのフットケアが大切です。また、高血圧や脂質異常症、糖尿病を合併している方は、それぞれの治療を進めて、食生活や運動習慣を見直してください。 ただし、運動療法の歩行は、病院で医療者の監督の下で実施するのが推奨されています。自宅で行う場合は医師の指導を受けてからにしましょう。 参考文献 (文献1) 冨岡 正雄,佐浦 隆一.「下肢DVT下でのリハビリテーション治療―整形外科疾患―」『Jpn J Rehabil Med』58(7), pp.724-730, 2021年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/58/7/58_58.724/_pdf(最終アクセス:2025年5月20日) (文献2) 厚生労働省「深部静脈血栓症/肺塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)について」厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10600000-Daijinkanboukouseikagakuka/0000121801.pdf(最終アクセス:2025年5月20日) (文献3) 林 富貴雄.「III. 治療と管理の実際 1.内科的治療(薬物療法運動療法)」『日本内科学会雑誌』97(2), pp.66-72, 2008年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/2/97_332/_pdf(最終アクセス:2025年5月20日) (文献4) 国立循環器病研究センター「閉塞性動脈硬化症」国立循環器病研究センターホームページ https://www.ncvc.go.jp/hospital/section/cvs/vascular/vascular-tr-03/(最終アクセス:2025年5月20日) (文献5) 日本医療機能評価機構「【3】下肢閉塞性動脈硬化症の患者への弾性ストッキング装着に関連した事例」日本医療機能評価機構ホームページ https://www.med-safe.jp/pdf/report_2016_4_T003.pdf(最終アクセス:2025年5月20日) (文献6) 日本循環器学会「2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン」日本循環器学会ホームページ https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Azuma.pdf(最終アクセス:2025年5月20日)
2025.05.27