-
- その他、整形外科疾患
「最近になって足腰の衰えが気になる」「将来寝たきりになるのは避けたい」といった不安を抱えている方もいるでしょう。 ロコモティブシンドロームとは、運動器の障害によって移動機能が低下した状態のことです。ロコモティブシンドロームが進行すると、将来介護を必要とする可能性が高まるため、できるだけ早いうちから予防に努めることが大切です。 今回は、ロコモティブシンドロームの予防法を解説します。運動や体操、食事法など、日常生活で取り入れられる方法をまとめているので、ロコモティブシンドロームの予防に努めたい方は参考にしてください。 ロコモ予防の基本は運動習慣とバランスの良い食事 ロコモティブシンドロームを予防するために重要なのは、運動習慣と栄養バランスの取れた食事です。とくに中高年以降は、加齢とともに筋力や骨密度が自然に低下していきます。この自然な衰えにブレーキをかけるためには、筋肉量や骨量の維持・増加が不可欠です。 運動であれば、筋力や柔軟性、バランス能力を保つトレーニングが効果的です。また、食生活においては、筋肉や骨を強くするための栄養素を摂取する必要があります。 年齢を理由にあきらめるのではなく、今からできることを少しずつ継続していくと、ロコモティブシンドロームの予防につながります。 ロコモティブシンドロームの原因と症状 ロコモティブシンドロームを引き起こす生活習慣や身体的な要因は、以下の通りです。 運動習慣のない生活 肥満や痩せすぎ 活動量の低下(エレベーターや自動車などの利用) 腰や膝などの痛みや痺れの放置 変形性膝関節症・変形性脊椎症・骨粗しょう症などの運動器疾患 過度なスポーツによる怪我や障害 「階段の昇り降りがしんどい」「家の中でもつまずくようになった」といった症状が見られる場合は、ロコモティブシンドロームが進行している可能性があります。 なお、ロコモティブシンドロームは、健康的な体づくりを心がければ、進行を止めたり症状を改善させたりすることも可能です。 ロコモティブシンドロームの予防|運動習慣 ロコモティブシンドロームの予防には、運動習慣が不可欠です。ロコモティブシンドロームの予防に効果的な運動として、主に以下の3つが挙げられます。 ロコモーショントレーニング 腰痛に効く体操 膝痛に効く体操 それぞれ詳しく見ていきましょう。 ロコモーショントレーニング 日本整形外科学会は、元気な足腰を維持するための方法として、「ロコモーショントレーニング(ロコトレ)」を提唱しています。ロコトレの内容は「片脚立ち」と「スクワット」の2つの運動です。 片脚立ち 片脚立ちは、バランス能力を鍛えるためのシンプルなトレーニング方法です。 姿勢をまっすぐにする 床につかない程度に片脚を上げる 左右の脚で1分間ずつを1セットとし、1日に3セットほど取り組みましょう。なお、片脚立ちをする際は、転倒防止のために必ずつかまるものがある場所でおこなってください。支えを必要とする方は、無理をせず、机に手や指を置いて取り組んでも構いません。 スクワット スクワットは、下肢筋力を鍛えるためのトレーニングです。 脚を肩幅に広げて立つ お尻を後ろに引くように、2〜3秒かけてゆっくりと膝を曲げる ゆっくり元に戻る 5〜6回を1セットとして、1日3セットを目安におこないます。また、膝を曲げるときは、膝がつま先より前に出ないように意識してください。 なお、支えが必要な方は、椅子に腰かけ、机に手をついて立ち座りの動作を繰り返すだけでも効果的です。楽にスクワットできる方は、回数やセット数を増やして取り組みましょう。 腰痛に効く体操 ロコモティブシンドロームの予防には、腰痛に効く体操がおすすめです。ここでは、腰痛に効く体操として、「背筋体操」と「腹筋体操」の2つを紹介します。 背筋体操 背筋体操は、うつ伏せの体勢になり、以下のステップでおこないます。 お腹の下に枕を置き、うつ伏せに寝る 背中の筋肉を使って上半身をゆっくりと10cmほど持ち上げる 5〜10秒間キープする 上半身をゆっくりと元の位置に戻す 10回を1セットとして、1日3セットを目安に取り組みましょう。上半身を持ち上げるときは、反動を使わず、背筋を意識しながらゆっくりと動かすことがポイントです。 背筋体操によって腰回りの筋肉が安定すると、上半身の動きがスムーズになります。なお、腰や背中に痛みや違和感を感じる場合は、無理をせず体操を中止してください。 腹筋体操 腹筋体操はお腹周りの筋肉を鍛えるための体操です。 膝を曲げて仰向けに寝る お腹の力を使い、背中を丸めるように頭と両肩をゆっくりと上げる 5〜10秒間キープする 頭と両肩をゆっくりと下ろす 10回を1セットとして、1日3セットを目安におこないます。腹筋が鍛えられると、体幹が安定しやすくなり、バランス感覚を維持できるようになります。 腹筋体操に限らず、トレーニングや体操時には自然な呼吸を意識するのがポイントです。毎日取り組むことでさらなる効果が期待できるものの、体に負担を感じるときは休みながら体操を続けるようにしてください。 膝痛に効く体操 膝痛に効く体操として、大腿四頭筋訓練があります。大腿四頭筋が鍛えられると、脚力の維持・向上が期待でき、膝痛の改善やロコモティブシンドロームの予防につながります。 大腿四頭筋訓練の方法は、以下の通りです。 仰向けに寝る 片脚を軽く曲げ、もう一方の脚は太ももに力を入れて伸ばす 力を入れたまま、10cmの高さまでかかとをゆっくり上げる 5〜10秒キープする かかとをゆっくりと下ろす 左右各10回を1セットとして、1日3セットを目安におこないましょう。脚を持ち上げるときは、反動を使わず、筋肉を使ってゆっくりと動かすことがポイントです。背中や腰への負担を減らせるよう、柔らかいマットや布団の上でおこなうようにしてください。 ロコモティブシンドロームの予防|バランスの良い食事 ロコモティブシンドロームの予防には、運動だけではなく、毎日の食事管理も重要です。丈夫な骨や十分な筋肉量を保つためにも、必要な栄養素を意識的に摂取しましょう。 骨を丈夫にする食事 骨を強くするためには、以下の栄養素をバランス良く摂取する必要があります。 栄養素 主な働き 食材の例 カルシウム 骨をつくる 牛乳、チーズ、小魚 たんぱく質 骨のコラーゲン基質を構成する 肉、魚、卵、大豆製品 ビタミンD カルシウムの吸収を助ける 魚類、きのこ ビタミンK カルシウムの骨への定着を助ける 緑黄色野菜、納豆 食事を通してこれらの栄養素をバランス良く取り入れられると、骨密度の低下を防ぎ、骨折リスクを減らせます。 筋肉をつくる食事 筋肉量や質の維持は、ロコモティブシンドロームの予防に不可欠です。筋肉をつくるためにも、以下の栄養素を意識して摂取しましょう。 栄養素 主な働き 食材の例 たんぱく質 筋肉の材料をつくる 肉、魚、卵、大豆製品 ビタミンD 筋力の低下を防ぐ 魚類、きのこ ビタミンB6 タンパク質の代謝をサポートする 鶏肉、レバー、カツオ、マグロ 炭水化物 筋肉を動かすエネルギー源になる 米、パン、根菜類 脂質 筋肉を動かすエネルギー源になる 油脂類、乳製品、肉、魚 筋肉は鍛えるだけでなく、栄養補給と回復のセットで維持・増強されます。ロコモティブシンドロームを予防するためにも、バランスの良い食事を意識しましょう。 ロコモティブシンドロームの予防|定期検診 定期検診もロコモティブシンドロームの予防に役立ちます。 ロコモティブシンドロームの進行を防ぐためには、早期発見と適切な対応がポイントです。以下のような定期検診を受けることで、移動機能が低下している前兆に気づきやすくなります。 骨密度測定(骨粗しょう症のリスクを早期に把握できる) 筋力測定(握力や下肢筋力といった筋力の低下を客観的に評価できる) 歩行機能テスト(歩行速度やバランス能力などを確認できる) ロコモティブシンドロームの予防として、無理のない範囲で年に1〜2回の定期検診を受けておくことをおすすめします ロコモティブシンドロームのチェック方法 自分の状態を知ることは、ロコモティブシンドロームを予防する第一歩です。セルフチェックをしたり、ロコモ度テストをおこなったりすると、ロコモティブシンドロームかどうかを確認できます。 なお、ロコモティブシンドロームは自覚症状がないまま進行してしまうケースも珍しくありません。以下で、それぞれのチェック方法を解説するので、ぜひ参考にしてください。 7つのセルフチェック項目 ロコモティブシンドロームのセルフチェック項目は、以下の7つです。 片脚立ちで靴下がはけない 家の中でつまずいたりすべったりする 階段を上がるのに手すりが必要である 家のやや重い仕事が困難である(掃除機の使用・布団の上げ下ろしなど) 2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である 15分くらい続けて歩けない 横断歩道を青信号で渡りきれない 日常動作における困難さを確認し、1つでも該当する項目があれば、ロコモティブシンドロームが疑われます。 ロコモ度テスト ロコモティブシンドロームが疑われる場合は、ロコモ度テストの実施がおすすめです。ロコモ度テストは以下の3つで構成されており、移動機能の低下がどの程度進行しているかを確認できます。 立ち上がりテスト 2ステップテスト ロコモ25 ロコモ度テストは、医療機関や自治体の健康診断などでも実施されています。ロコモティブシンドロームに該当するかどうか気になる方は、専門家の指導のもとでテストを受けてみると良いでしょう。 ロコモティブシンドロームの改善方法 運動器の痛みや衰えなど、ロコモティブシンドロームの要因はさまざまです。複数の要因がつながったり重なったりするとロコモティブシンドロームになり、症状が進行すると普段の生活に支障をきたします。 ロコモティブシンドロームの予防・改善方法は、運動や食事以外にも、投薬や手術などがあります。諸要因に対する主な改善方法は、以下の通りです。 痛み・痺れ 運動・投薬・手術 関節可動域制限 運動・手術 柔軟性低下 運動 姿勢変化 運動・手術 筋力低下・麻痺 運動・栄養・手術 バランス能力低下 運動 なお、リペアセルクリニックでは、ロコモティブシンドロームの原因となる運動器疾患に対する再生医療をおこなっています。メール相談やオンラインカウンセリングも実施しているので、ぜひ気軽にご相談ください。 \まずは当院にお問い合わせください/ 運動習慣とバランスの良い食事でロコモの予防に努めよう ロコモティブシンドロームは予防できます。ロコモティブシンドロームは運動器の疾患や衰えだけではなく、運動不足や栄養の偏りといった生活習慣による影響が大きく、健康な体づくりが予防につながります。 無理のない範囲で日頃からロコモーショントレーニングや簡単な体操を取り入れると、筋力や柔軟性が高まり、移動機能の低下を防げます。また、筋肉量や骨量を維持するためには、バランスの良い食事も不可欠です。 ロコモティブシンドロームの予防で大切なのは、無理せずできることから取り組むことです。将来介護が必要になるリスクを少しでも減らせるよう、適度な運動習慣とバランスの良い食事を心がけましょう。
2025.04.30 -
- その他、整形外科疾患
「最近つまずきやすくなった」「階段の昇り降りがつらい」など、日常生活で移動機能の低下を感じるようになったら、ロコモティブシンドロームが疑われます。ロコモティブシンドロームとは、加齢や病気によって骨や関節、筋肉といった運動器の機能が低下し、立つ・歩くなどの移動能力が衰える状態のことです。 今回は、ロコモティブシンドロームの診断に役立つチェック方法を解説します。ロコモ度テストと呼ばれる方法や判定基準をまとめているので、ぜひ参考にしてください。 ロコモティブシンドロームのセルフチェック7項目 ロコモティブシンドロームを疑う場合は、まずセルフチェックを実施しましょう。以下の7項目のうち、1つでも該当する場合はロコモティブシンドロームが疑われます。(文献1) 片脚立ちで靴下がはけない 家の中でつまずいたりすべったりする 階段を上がるのに手すりが必要である 家のやや重い仕事が困難である(掃除機の使用・布団の上げ下ろしなど) 2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である 15分くらい続けて歩けない 横断歩道を青信号で渡りきれない ロコモティブシンドロームと一言でいっても、症状や程度は人それぞれで異なります。なお、ロコモティブシンドロームが疑われる場合は、医師の指導のもと予防や治療をおこなうことが一般的です。 ロコモ度テストによるチェック方法と3段階の判定基準 ロコモティブシンドロームのリスクをより詳しく評価するためには、「ロコモ度テスト」と呼ばれる以下の身体機能検査を実施します。 立ち上がりテスト 2ステップテスト ロコモ25 ロコモ度テストとは、日本整形外科学会が提唱するチェック方法で、それぞれの結果に基づき、進行度合いを3段階で評価します。(文献2) ロコモ度の判定基準 ロコモ度1 移動機能の低下が始まっている状態 ロコモ度2 移動機能の低下が進行している状態 ロコモ度3 移動機能の低下によって、日常生活に支障をきたしている状態 自覚症状がない場合でも、ロコモ度テストによってリスクの早期発見が可能です。 【ロコモ度テスト1】立ち上がりテスト 立ち上がりテストは、太ももを中心とした下肢の筋力を評価する検査です。10〜40cmまでの高さが異なる台を用意し、座った状態からの立ち上がり方法を確認します。 立ち上がりテストのチェック方法 立ち上がりテストは、両脚または片脚で実施します。まずは40cmの台に座って両脚テストを始めましょう。テスト中は無理をせず、膝に痛みを感じる場合は中止してください。 両脚テスト 立ち上がりテストは、まず40cmの台を使って両脚でおこないます。 両腕を組んで台に腰掛ける 反動をつけずに立ち上がる そのまま3秒間キープする 台に腰掛ける際は、両脚を肩幅に広げ、床に対して脛(すね)がおよそ70度(40cmの台の場合)になるようにします。なお、反動をつけると後方に転倒する恐れがある点に注意してください。 片脚テスト 40cmの台を使って両脚で問題なく立ち上がれたら、次は片脚テストを実施します。 両腕を組んで台に腰掛け、左右どちらかの脚を上げる(上げた脚は軽く曲げる) 反動をつけずに立ち上がる そのまま3秒間キープする 40cmの台を使って左右どちらの脚でも立ち上がれたら、台の高さを10cmずつ低くし、片脚テストを続けます。なお、40cmの台で片脚テストができなかった場合は、両脚テストに戻り、30cmから10cmずつ低い台に座ってどこまで立ち上がれるかチェックしましょう。 立ち上がりテストによるロコモ度の判定基準 立ち上がりテストによるロコモ度の判定基準は、下表の通りです。 立ち上がりテストによる判定基準 ロコモ度1 どちらか一方の片脚で40cmの台から立ち上がれないが、両脚で20cmの台から立ち上がれる ロコモ度2 両脚で20cmの台から立ち上がれないが、30cmの台から立ち上がれる ロコモ度3 両脚で30cmの台から立ち上がれない 40cmの台を使った片脚テストができた場合、左右とも片脚で立ち上がれた最も低い台がテスト結果です。40cmの台を使った片脚テストができなかった場合は、両脚で立ち上がれた最も低い台を基準に判定します。 各年代別の立ち上がれる台の高さは、20代が片脚20〜30cm、30~60代は片脚40cm、70台なら両脚10cmが目安になります。(文献3) 【ロコモ度テスト2】2ステップテスト 2ステップテストとは、歩幅の広さから下肢の筋力やバランス能力を測る検査です。 2ステップテストのチェック方法 2ステップテストは、以下の方法で値を算出します。 スタート位置を決め、両脚のつま先を合わせる できる限り大股で2歩踏み出し、両脚を揃える 2歩分の歩幅を測る 2回実施し、長いほうの記録を採用する 「2歩幅(cm)÷身長(cm)」の計算式で「2ステップ値」を算出する 2ステップテストは、介助者のもと、滑りにくい床で実施してください。また、無理をせず、バランスを崩さない範囲でおこないましょう。 2ステップテストによるロコモ度の判定基準 2ステップテストによるロコモ度の判定基準は、下表の通りです。 2ステップテストによる判定基準 ロコモ度1 2ステップ値が1.1以上1.3未満 ロコモ度2 2ステップ値が0.9以上1.1未満 ロコモ度3 2ステップ値が0.9未満 なお、2ステップ値は年齢別・性別の平均値が数値化されています。(文献3) 年齢別 男性 女性 20〜29歳 1.73〜1.64 1.68〜1.56 30〜39歳 1.68〜1.61 1.58〜1.51 40〜49歳 1.62〜1.54 1.57〜1.49 50〜59歳 1.61〜1.56 1.55〜1.48 60〜69歳 1.58〜1.53 1.52〜1.45 70〜79歳 1.52〜1.42 1.48〜1.36 ロコモ度に該当していなくても、年齢別の平均値から大きく外れている場合は、将来的にロコモティブシンドロームの状態になるリスクがあると考えられます。 【ロコモ度テスト3】ロコモ25 ロコモ25とは、専用の質問票で自身の身体機能や生活状況について回答し、ロコモ度を自己評価するチェック方法です。 ロコモ25のチェック方法 ロコモ25では、身体の痛みや普段の生活に関する25個の質問が用意されています。以下は主な質問内容です。 頚・肩・腕・手のどこかに痛み(しびれも含む)がありますか 背中・腰・お尻のどこかに痛みがありますか 下肢のどこかに痛み(しびれも含む)がありますか 普段の生活で身体を動かすのはどの程度つらいと感じますか ベッドや寝床から起きたり、横になったりするのはどの程度困難ですか 腰掛けから立ち上がるのはどの程度困難ですか 家の中を歩くのはどの程度困難ですか シャツを着たり脱いだりするのはどの程度困難ですか など 各質問に5段階(0〜4点)で回答し、合計点数を算出します。 全てのチェックリストを確認したい方は、ロコモonlineの「ロコモ度テスト結果記入用紙」をご覧ください。 ロコモ25によるロコモ度の判定基準 ロコモ25によるロコモ度の判定基準は、下表の通りです。 ロコモ25による判定基準 ロコモ度1 7点以上16点未満 ロコモ度2 16点以上24点未満 ロコモ度3 24点以上 「立ち上がりテスト」「2ステップテスト」「ロコモ25」の3つのテスト結果をもとに、ロコモ度を判定します。各テストの結果がどの段階に該当するかチェックし、該当するロコモ度の最も進行している段階が最終的な判定結果となります。 なお、いずれのテストでロコモ度の判定基準に該当しない場合は、現時点でロコモティブシンドロームが疑われる状態ではありません。 ロコモティブシンドロームの3大原因疾患 ロコモティブシンドロームの背景には、加齢に伴う運動器の疾患が関わっています。なかでも、以下の疾患は、ロコモティブシンドロームの3大原因疾患として知られています。(文献4) 変形性膝関節症 変形性腰椎症 骨粗しょう症 変形性膝関節症は膝関節の軟骨がすり減り、関節に炎症や変形が起こる疾患です。歩行時の痛みや階段の昇降困難など、移動機能の低下を直接的に引き起こします。 また、変形性腰椎症は、加齢や長年の負担によって腰の骨に変形やすり減りが生じ、腰痛などの症状を引き起こす疾患です。とくに中高年以降に多くみられ、運動器の老化現象の一つとされています。 骨粗しょう症を発症して骨密度が低下すると、骨折のリスクが高まります。とくに大腿骨や脊椎を骨折してしまうと、歩行困難や寝たきりの原因になりかねません。 いずれの疾患も放置すると症状が悪化し、移動機能の低下を進行させるリスクがあります。ロコモチェックの結果に限らず、普段の生活で気になる症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。 なお、リペアセルクリニックでは、ロコモティブシンドロームの原因疾患にあたる変形性膝関節症や変形性腰椎症に対する再生医療をおこなっています。メール相談やオンラインカウンセリングも実施しているので、ぜひ気軽にご相談ください。 \まずは当院にお問い合わせください/ ロコモティブシンドロームのチェック項目を把握し早期診断につなげよう ロコモティブシンドロームは、移動機能の低下を示す重要なサインです。日常生活において、よくつまずくようになったり、続けて家事をするのがしんどいと感じたりする場合は、ロコモティブシンドロームを疑いましょう。 自覚症状がロコモティブシンドロームに該当するかどうかは、7つのセルフチェック項目や3つのロコモ度テストを用いて判断できます。移動機能低下の進行を遅らせるためには、医師の指導のもと、予防や治療に取り組むと効果的です。 健康的な生活を続けるためにも、定期的にロコモティブシンドロームのチェック項目を確認し、必要に応じて医療機関を受診しましょう。 参考文献 (文献1) 日本整形外科学会「ロコチェック」ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト https://locomo-joa.jp/check/lococheck(最終アクセス:2025年4月17日) (文献2) 日本整形外科学会「ロコモ判定方法」ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト https://locomo-joa.jp/check/judge(最終アクセス:2025年4月17日) (文献3) ロコモチャレンジ!推進協議会ロコモ度テストサーキンググループ調査資料 https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2014/143031/201412014A/201412014A0002.pdf(最終アクセス:2025年4月17日) (文献4) 日本整形外科学会「もっと知ろう!ロコモティブシンドローム」 https://www.joa.or.jp/media/comment/locomo_more.html(最終アクセス:2025年4月17日)
2025.04.30 -
- 足部、その他疾患
- 手部、その他疾患
- 手部
- 足部
- その他、整形外科疾患
「足のしびれや自律神経の乱れを感じる」 「足にピリピリ感があり、日常生活に影響をきたしている」 最近、原因不明の足のしびれやピリピリ感はありませんか。日常生活や仕事にも影響が出始めると不安になりますよね。 とくに忙しい毎日を送っていると、足のしびれや自律神経の乱れがストレスによるものではないかと気になることでしょう。 それらの原因不明の症状は、末梢神経障害によるものかもしれません。 本記事では、末梢神経障害の症状とともに以下の内容について解説します。 末梢神経障害の原因 末梢神経障害の治療法 末梢神経障害を再発しないための注意点 末梢神経障害を放置せず、症状と原因を正しく理解し、早めに医療機関を受診しましょう。 末梢神経障害とは 区分 主な症状 感覚神経の障害 しびれ・冷感・灼熱感、感覚の低下、ピリピリ・チクチクする異常感覚 運動神経の障害 筋力低下、筋萎縮、歩行困難、運動機能の低下 自律神経の障害 発汗異常、立ちくらみ・めまい、便秘・下痢、排尿障害、動悸 症状の特徴 手足の先から始まる、左右対称に出る、徐々に進行する (文献1) 末梢神経障害とは、脳や脊髄から枝分かれした神経が傷つき、感覚や運動、自律神経の働きに異常が起きる状態のことを指します。 主に糖尿病やビタミン欠乏、ストレス、生活習慣の乱れなどが原因で引き起こされます。症状を放置すると徐々に進行し、重症化する恐れがあるため、早めに医療機関を受診しましょう。 以下の内容では、末梢神経障害に対してタリージェは効果があるのかを解説しております。 末梢神経障害の症状 症状の種類 概要 足のしびれ・冷感・灼熱感 足先にしびれや冷たさ、焼けつくような感覚が現れる 筋力低下 力が入りにくくなり、歩行時につまずきやすくなる 感覚の異常 触れた感覚が鈍くなる、逆に過敏になる 自律神経に異常をきたす 発汗や血圧、消化・排尿などの機能に影響が出ることがある 末梢神経障害の症状は多岐に渡ります。主な症状は以下の4つです。 足のしびれ・冷感・灼熱感 筋力低下 感覚の異常 自律神経に異常をきたす 少しでも違和感を覚えた場合は、早めに医療機関を受診しましょう。 足のしびれ・冷感・灼熱感 症状 内容の概要 足のしびれ 神経の障害で足の感覚が鈍くなり、しびれが起こる 足の冷感 自律神経の障害により血流が悪化し、冷たく感じる 足の灼熱感 足が焼けるように熱く感じられる 感覚神経がダメージを受けると現れる代表的な症状です。足先や足裏にジンジン、ピリピリといったしびれを感じたり、正座の後のような感覚が続いたりします。 また、実際の温度とは関係なく、足が冷たく感じたり熱く感じたりする症状が現れることもあります。 症状の持続性には個人差がありますが、少しでも違和感を覚えた場合は、医療機関を受診しましょう。 筋力低下 症状 内容の概要 筋肉の萎縮 神経の損傷によって筋肉が細くなり、見た目にも痩せてくることがある 歩行困難 足の筋力が低下し、ふらつきや転倒が起きやすくなる 日常生活動作の困難 手の筋力が弱まり、物をつかむ・ボタンを留めるなど細かな作業がしにくくなる (文献2)(文献3) 運動神経がダメージを受けると、筋肉を動かす指令がうまく伝わらなくなり、筋力が低下します。筋力が低下すると足の場合、スリッパが脱げやすくなったり、つま先が上がらずにつまずきやすくなります。 手の筋力であれば、物を落としやすくなり、私生活に支障をきたすでしょう。進行すると、歩行が不安になったり、物を持つことが困難になったりする可能性があります。 感覚の異常 症状 概要 しびれ(感覚鈍麻) 触れた感覚が鈍くなり、とくに手足の先に出やすい 違和感 焼ける・刺す・電気が走るような違和感など、多様なタイプの症状が現れる 異常感覚(錯感覚) 触れていないのに触れたように感じる 感覚過敏 軽い刺激でも強い不快感を覚える 温度感覚の異常 冷たさ・熱さに対する感覚が鈍くなる、または過敏になる 振動感覚の異常 携帯のバイブレーションなど、小さな振動を感じにくくなる 位置感覚の異常 ふらつきや物にぶつかりやすくなることも (文献4) しびれや冷感・灼熱感以外にも、さまざまな感覚の異常が現れます。 触った感じが鈍くなる感覚鈍麻が起こると、やけどや怪我をしても気づきにくくなることがあります。逆に軽い刺激に対して過敏になるアロディニアと呼ばれる状態になることもあり、症状はさまざまです。 感覚の異常は、QOL(生活の質)を低下させる原因になるだけでなく、症状によっては後遺症が出る可能性があります。 自律神経に異常をきたす 自律神経は、血圧、体温、発汗、消化、排泄など、自分の意思とは関係なく体の機能を調整する神経のことを指します。 具体的な症状としては、起立性低血圧や発汗異常、消化器症状、排尿障害など、全体にさまざまな不調が現れるため、重症化する前に早期発見が必要です。 また、自律神経とストレスの因果関係に関して、現時点で明確なエビデンスがありません。 研究段階ではあるものの、ストレスが末梢神経障害を引き起こす原因であるといわれているため、生活習慣に気をつける必要があります。 末梢神経障害の原因 原因 概要 ストレス 自律神経の乱れが血流や神経機能に影響を与え、感覚異常やしびれを引き起こすことがある 糖尿病(糖尿病性神経障害) 高血糖状態が神経にダメージを与え、しびれや感覚異常、違和感などの症状を引き起こす 過度なアルコール・喫煙 長期的な摂取は神経の栄養不足や血流障害を引き起こし、神経の働きを低下させる ビタミンB12欠乏 免疫異常や遺伝性の神経疾患、ウイルス感染などが神経を攻撃・障害し、末梢神経に異常をきたすことがある 末梢神経障害の原因は、主に糖尿病や過度なアルコール摂取・喫煙など生活習慣から来るものや遺伝的なものといわれています。 これから紹介する内容が当てはまる方は、末梢神経障害を発症させないためにも生活習慣の見直しが必要です。 ストレス性によるもの 要因 概要 自律神経の乱れ ストレスにより交感神経が過剰に働き、血管収縮や筋緊張が起こり、神経への血流が悪化する 炎症反応の促進 ストレスが炎症性物質の分泌を促進し、慢性的な炎症が神経を傷つける可能性がある 違和感の感受性亢進 脳の違和感を汲み取る領域が影響を受け、症状を感じやすくなる 生活習慣の乱れ ストレスが睡眠・食事・運動に影響し、神経への負担や回復力低下を招くことがある 過度な精神的ストレスが、直接的に末梢神経障害を引き起こすエビデンスはありません。 しかし、ストレスは血行不良や免疫機能の低下、睡眠不足などを招き、間接的に神経の健康に影響を与える可能性が指摘されています。 他に明らかな原因がなく、精神的な負荷を感じる時期に症状が悪化するような場合は、ストレスの関与が疑われるでしょう。 精神的な負荷が引き金になり、末梢神経障害を引き起こしている可能性を感じた場合は、ストレス環境から距離を取り、休息を取りましょう。 糖尿病(糖尿病性神経障害) 障害の種類 概要 感覚障害 足先のしびれ、ピリピリするような違和感など 運動障害 足に力が入らない、筋力の低下など 自律神経障害 立ちくらみ、便秘、発汗異常など (文献4) 糖尿病で長期間、血糖値が高い状態が続くと、細い血管がダメージを受けて血流の悪化や、糖代謝の異常によって神経細胞そのものが変性する神経障害が引き起こされます。 足先のしびれや感覚鈍麻から始まることが多く、進行すると筋力低下や自律神経症状も現れ、日常生活に大きな支障をきたします。 糖尿病を患っている方は、とくに足先のしびれや感覚鈍麻の症状に注意が必要です。 過度なアルコール摂取・喫煙 要因 概要 アルコールの毒性 神経細胞に直接ダメージを与え、長期摂取で変性や破壊を引き起こす ビタミンB群の欠乏 吸収阻害により神経の維持に必要な栄養素が不足し、障害リスクが高まる 肝機能障害 栄養代謝が妨げられ、神経細胞に必要な成分の供給が不足する 血管収縮・血流低下 ニコチンが血管を収縮させ、神経への酸素・栄養供給が不足し機能が低下する 酸化ストレス増加 神経細胞が酸化ダメージを受けやすくなり、障害のリスクが上がる 長期間にわたる過度なアルコール摂取は、神経毒性やアルコール代謝に伴う栄養障害により、末梢神経障害を引き起こします。 また、喫煙もニコチンによる血管収縮作用や血行不良を引き起こし、神経への酸素や栄養の供給を妨げるため、末梢神経障害のリスクがあります。 普段からお酒を飲む習慣がある、タバコを普段から吸う方は、末梢神経障害の症状に注意が必要です。 ビタミンB12欠乏症 原因 概要 摂取不足 動物性食品を控えた食事や偏った食生活により、ビタミンB12が不足する 吸収不良 胃や小腸の疾患により、ビタミンB12の吸収がうまくいかなくなる 薬剤の影響 一部の薬(メトホルミン、PPIなど)がビタミンB12の吸収を妨げることがある (文献4) ビタミンB12は、神経細胞の髄鞘を維持したり、神経伝達物質の合成を助けたりする役割があります。 偏った食生活でビタミンBの不足や、胃の切除手術後、特定の胃腸疾患などによってビタミンB12の吸収が妨げられると、欠乏症となり末梢神経障害を引き起こす恐れがあります。 普段から偏った食事や胃腸に疾患を持つ方は、ビタミンB12が不足しないよう工夫しましょう。 自己免疫疾患・遺伝性疾患・感染症 分類 代表疾患 特徴・メカニズム 自己免疫性 ギラン・バレー症候群 感染後に免疫が神経を攻撃すると、急に手足が動かしにくくなることがある CIDP(慢性型) 髄鞘を慢性的に攻撃し、筋力低下やしびれがゆっくり進行する 遺伝性 CMT(シャルコー・マリー・トゥース病) 遺伝子の異常で筋力や感覚に障害が出る、手足の変形を伴うこともある 感染症 帯状疱疹 ウイルスが神経にダメージを与えることで、神経痛が起こる その他(HIV、ライム病など) 神経を直接傷つけたり、免疫を介して障害を起こすことがある (文献5)(文献6)(文献7) 自己免疫疾患である、ギラン・バレー症候群やCIDPは、免疫が誤って末梢神経を攻撃し、障害を引き起こします。 遺伝子異常による家族性ニューロパチーや帯状疱疹後神経障害、ライム病、HIV感染などの感染症も原因となることがあります。 自己免疫疾患が疑われる場合は、専門の医療機関での検査が必要です。 末梢神経障害の治療法 治療法 概要 薬物療法 神経の過敏性を抑える薬(抗てんかん薬、抗うつ薬など)や、違和感の軽減を目的とした薬を使用 栄養療法 ビタミンB群や必要な栄養素を補い、神経の修復や維持をサポート 手術療法 神経の圧迫が原因の場合、圧迫部位を除去・緩和するための手術が行われる 再生医療 幹細胞や再生因子を用いて、傷ついた神経の修復や機能回復をめざす治療法 末梢神経障害の改善には、複数の治療法を組み合わせた適切な治療が必要です。以下で詳しく解説します。 薬物療法 分類 主な薬剤 概要 糖尿病性神経障害 血糖コントロール薬(メトホルミンなど) 血糖値を管理し、神経への負担を軽減 メコバラミン(ビタミンB12製剤) 神経の修復や維持に必要なビタミンB12を補う 自己免疫性神経障害 免疫グロブリン製剤、ステロイド薬 自己免疫による神経の炎症を抑える 免疫抑制薬(アザチオプリンなど) 免疫の過剰な働きを抑制し、神経への攻撃を防ぐ ビタミン欠乏性神経障害 ビタミンB1、B12、葉酸など 不足しているビタミンを補い、神経の機能回復を促す 症状に対する治療薬 プレガバリン、ガバペンチン、デュロキセチン 神経の興奮を抑え、しびれや神経障害性疼痛を緩和 抗けいれん薬(カルバマゼピンなど) 神経の過剰な信号を抑え、不快感を軽減 (文献8) 症状緩和を目的とし、しびれや不快な感覚を抑える薬が用いられます。 末梢神経障害の症状によって処方される薬剤が異なり、服用は医師の指示に従いながら服用し、自己判断で量を増減させたり中止したりしてはいけません。 薬剤の服用でも改善が見込めない場合や副作用が出た場合は、医師に相談しましょう。 栄養療法 栄養素 主な役割 多く含まれる食品例 ビタミンB群 神経の修復・機能維持 豚肉、レバー、魚、卵、緑黄色野菜 タンパク質 神経や筋肉の材料となる 肉、魚、大豆製品、卵 食物繊維 血糖コントロールや便通の改善 野菜、果物、海藻、きのこ類 抗酸化物質 神経の酸化ストレスを軽減・保護 緑黄色野菜、果物、ナッツ類 ビタミンB12 神経の構造維持・修復に関与 レバー、貝類、魚、乳製品 シスチン・テアニン 疼痛の緩和に関与するとされるアミノ酸 肉類、魚介類、玉ねぎ、緑茶(※食品によって含有量に差) (文献9) 末梢神経障害では、ビタミンB群(B1、B6、B12など)の補給が大切です。医師や管理栄養士の指導のもと、個々の状態に合わせた栄養管理を行います。 栄養療法を行う場合は、医師の指導に従い、偏った栄養補充は行わないようにしましょう。 手術療法 項目 概要 目的 神経の圧迫除去、損傷した神経の修復 代表的手術 神経剥離術、神経縫合・移植術、脊椎手術、胸郭出口症候群手術 メリット 薬やリハビリで改善しない症状の改善、根本原因の除去が可能 デメリット 手術リスクあり(感染・出血など)、術後リハビリが必要な場合もある、手術が適応外の場合もある 手術の適応例 圧迫や損傷が明確、重度の麻痺、薬剤療法などで症状が改善しない場合 症状が改善しない場合、その圧迫を取り除くための手術が選択肢に入ります。手術療法では、神経圧迫の除去や、神経の修復などが行われます。 手術が適応となるケースは限定的であり、術後もリハビリや後遺症が出る可能性もあるため、患者と医師の慎重な判断が必要です。 再生医療 損傷した神経細胞や組織の修復・再生を目指す再生医療は、末梢神経障害に対して、有効な治療法です。再生医療では、骨髄や脂肪から採取した幹細胞を損傷した神経組織に移植し、症状の改善を目指します。 薬剤療法で起こりうる副作用や、手術を必要としないのが魅力です。 再生医療については、以下の記事で解説しております。 末梢神経障害を再発しないための注意点 注意点 概要 血糖のコントロール 高血糖を防ぐことで、神経へのダメージを抑える ビタミンB群と栄養バランス 神経の修復・維持に必要な栄養素を不足なく摂取する アルコール・喫煙を控える 神経への直接的ダメージや血流悪化を防ぐ 適度な運動 血流促進・筋力維持により神経の機能を保つ ストレス管理・良質な睡眠 自律神経のバランスを整え、神経への負担を軽減する 末梢神経障害の治療後や、症状を悪化させないためには、原因への対処を継続するとともに、神経に負担をかけない生活習慣を心がけることが重要です。 末梢神経障害が再発しないための注意点を解説します。 血糖のコントロールを徹底する 方法 内容の概要 食事療法 バランスよく規則正しく食べる、食物繊維・低GI食品を積極的に摂取する 運動療法 有酸素運動(例:ウォーキング、水泳)を無理なく継続する 薬物療法 医師の指示で血糖降下薬を服用 定期検査 血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)を定期的に測定 糖尿病性神経障害の予防・進行抑制において重要なのは、血糖値を良好な範囲に維持することです。 医師の指示に従い、食事療法、運動療法、必要であれば薬物療法を継続し、定期的に血糖値をチェックしましょう。 継続的な血糖コントロールは、末梢神経障害の再発予防だけでなく、糖尿病との合併症などへの予防にもつながります。 ビタミンB群の摂取と栄養バランスを整える ビタミン 主な働き 不足時のリスク B1(チアミン) 糖質をエネルギーに変換、神経細胞のエネルギー源を供給 神経の炎症など B6(ピリドキシン) 神経伝達物質の合成、神経の興奮を抑制 しびれの発生など B12(コバラミン) 神経細胞の修復・再生をサポート 神経の変性・破壊、重度な神経障害のリスク ビタミンB群(とくにB1、B6、B12)は神経の機能維持に重要な役割を果たします。これらのビタミンを多く含む食品(豚肉、レバー、魚介類、豆類、緑黄色野菜など)を意識的に摂取しましょう。 特定の栄養素に偏った食事ではなく、全体的な栄養バランスが取れた食事を心がけることが大切です。 アルコール摂取と喫煙を控える アルコールは神経に直接的なダメージを与える可能性があります。喫煙は血行を悪化させ神経への栄養供給を妨げます。神経の健康を維持するためには、できる限りアルコール摂取を控え(節酒)、禁煙が大切です。 末梢神経障害の予防と症状改善のためにも、神経細胞を傷つける過度のアルコール摂取や、血管を収縮させるタバコは控えましょう。 適度な運動を日常に取り入れる 運動による効果 概要 血行促進 神経に酸素と栄養を届け、機能低下を防ぐ 筋力維持 筋力低下を防ぎ、神経への負担を軽減 血糖コントロール 血糖値を安定させ、神経へのダメージを軽減 ストレス軽減・自律神経調整 ストレスを和らげ、自律神経のバランスを整える 神経再生の促進 神経成長因子(NGF)の産生を促し、神経の修復や再生を助ける ウォーキングや軽いジョギング、ストレッチなどの適度な運動は、血行を促進し、神経への酸素や栄養の供給を改善する効果が期待できます。 運動を行う場合は、怪我に注意し、無理のない範囲で行うことが大切です。運動の内容は、医師の指示に従うようにしましょう。 ストレス管理や睡眠の質を高める 項目 主な方法 ストレス管理 リラックス時間の確保(入浴・音楽など)、適度な運動、専門家への相談 睡眠の質向上 規則正しい生活リズム、寝る前のスマホ・カフェイン・アルコールを避ける 過度なストレスや睡眠不足は、自律神経の乱れを招き、血行や免疫力を低下させ、神経症状を悪化させる原因になります。 趣味や入浴、瞑想など、自分に合った方法でリラックスし、ストレスをため込まないことが大切です。 規則正しい生活と十分な睡眠で、神経の修復を促しましょう。 末梢神経障害の症状がある方は早めに医療機関を受診しよう 足のしびれや感覚の異常、力の入りにくさなど、末梢神経障害を疑う症状がある場合は、自己判断せずに早めに医療機関を受診しましょう。 末梢神経障害は放置すると症状が進行し、悪化する恐れがあります。 少しでも末梢神経障害の疑いのある方は当院「リペアセルクリニック」にご相談ください。「再生医療」で末梢神経障害の改善を促します。 末梢神経障害の症状でお悩みの方は、「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にてお気軽にお問い合わせください。 参考記事 (文献1) 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「末梢神経障害」 https://www.pmda.go.jp/files/000145962.pdf(最終アクセス:2025年4月9日) (文献2) Michael C. Levin, et al.(2023)Weakness.MSD MANUAL Professional Version https://www.msdmanuals.com/professional/neurologic-disorders/symptoms-of-neurologic-disorders/weakness (Accessed: 2024-04-09) (文献3) Michael Rubin, et al. (2022).Peripheral Neuropathy.MSD MANUAL Professional Version https://www.msdmanuals.com/professional/neurologic-disorders/peripheral-nervous-system-and-motor-unit-disorders/peripheral-neuropathy (Accessed: 2024-04-09) (文献4) Larry E. Johnson, et al. (2024). Vitamin B12 Deficiency.MSD MANUAL Consumer Version https://www.msdmanuals.com/home/disorders-of-nutrition/vitamins/vitamin-b12-deficiency (Accessed: 2024-04-09) (文献5) Michael Rubin, et al. (2024). Guillain-Barré Syndrome (GBS).MSD MANUAL Consumer Version https://www.msdmanuals.com/home/brain-spinal-cord-and-nerve-disorders/peripheral-nerve-and-related-disorders/guillain-barr%C3%A9-syndrome-gbs(Accessed: 2024-04-09) (文献6) Michael Rubin,et al. (2022). Charcot-Marie-Tooth Disease.MSD MANUAL Consumer Version https://www.msdmanuals.com/home/brain-spinal-cord-and-nerve-disorders/peripheral-nerve-and-related-disorders/charcot-marie-tooth-disease(Accessed: 2024-04-09) (文献7) Kenneth M. Kaye, et al. (2023). Shingles.MSD MANUAL Consumer Version https://www.msdmanuals.com/home/infections/herpesvirus-infections/shingles(Accessed: 2024-04-09) (文献8) ガン科学療法を受ける患者さんへ末梢神経障害『東邦大学医療センター薬学部』, pp.1-2, 2020年 https://www.sakura.med.toho-u.ac.jp/sinryoka/yakuzai/ue7s91000000a3px-att/massyousinnkeisyougai.pdf(最終アクセス:2025年4月9日) (文献9) 木田 耕太「神経疾患における栄養療法,その基礎知識」, pp.1-5, 2020年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/39/1/39_8/_pdf(最終アクセス:2025年4月9日)
2025.04.30 -
- その他、整形外科疾患
「電気が走るような違和感に悩まされている」 「違和感のせいで日常生活に支障をきたしている」 神経障害性疼痛の症状は、身体に電気が走るような違和感が特徴です。神経障害性疼痛への対処法に悩んでいる方は少なくありません。 しかし、神経障害性疼痛は、適切な薬である程度改善が見込めます。本記事では、以下について詳しく解説します。 神経障害性疼痛とはどんな症状なのか 神経障害性疼痛は市販の薬や漢方薬では治らない理由 神経障害性疼痛の治療で使用される薬剤一覧 神経障害性疼痛薬を処方する際の注意点 神経障害性疼痛薬以外の治療法 最後には神経障害性疼痛薬についての質問をまとめておりますので、最後まで読み進めていただければ幸いです。 神経障害性疼痛とは 項目 内容 症状(違和感の特徴) 焼けるような感覚、刺すような感覚、電気が走るような感覚、触れただけで激しい感覚(アロディニア)など 原因 脊髄損傷や脳卒中などの中枢神経の障害、糖尿病や帯状疱疹による末梢神経の損傷、手術や外傷による神経損傷など 種類 脳や脊髄などの中枢神経の障害、末梢神経の障害など (文献1) 神経障害性疼痛は、神経系の損傷や機能異常によって生じる慢性的な違和感を指します。神経障害性疼痛の原因はさまざまで糖尿病、帯状疱疹、椎間板ヘルニア、多発性硬化症などが挙げられます。 症状も多岐に渡り、灼熱感、刺すような違和感、しびれ、知覚過敏などが現れるため、市販の薬では効果が薄く、治療には専門的な薬の処方が必要です。 神経障害性疼痛の症状は多岐に渡る上に、脳卒中などの重大な病気のサインである可能性も高いため、少しでも違和感を覚えたら、早めに医療機関を受診しましょう。 神経障害性疼痛は市販の薬や漢方薬では治らない 神経障害性疼痛は、神経系の損傷や機能異常が原因であるため、市販の鎮痛薬や漢方薬では根本的な治療につながりません。 市販の鎮痛薬(NSAIDsなど)は神経障害性疼痛に対して効果が限定的で、一時的な症状緩和に役立つ場合もありますが、神経系の損傷や機能異常に直接作用しません。 また、漢方薬は一部で用いられることはあるものの、科学的根拠に乏しく、十分なエビデンスがありません。 厚生労働省の資料においても、神経障害性疼痛の症状に対しては、市販の薬や漢方薬ではなく、神経障害性疼痛に対して処方薬が推奨されています。(文献2) 神経障害性疼痛の治療には、専門医による適切な診断と、病態に合わせた薬物療法やその他の治療が必要です。自己判断での薬の服用は避け、医師の診断に従うようにしましょう。 以下の記事では痛み止めについて紹介しています。市販の鎮痛薬の効果は一時的なものであることを念頭に入れた上でお読みいただければ幸いです。 神経障害性疼痛の治療で使用される薬剤一覧 神経障害性疼痛の治療で使用される主な薬剤は以下の5つです。 以下はすべて医療機関で処方される薬剤です。薬剤は医師の指示に従い、服用するようにしましょう。 プレガバリン(リリカ) デュロキセチン(サインバルタ) 三環系抗うつ薬(アミトリプチリンなど) カルバマゼピン(テグレトール) トラマドール(トラマール、トラムセット) 各薬剤の特徴・効果・副作用について解説します。 プレガバリン(リリカ) 項目 内容 薬剤の特徴 神経の過剰な興奮を抑制 効果 持続する神経痛の軽減、睡眠の質の改善 副作用 眠気、めまい、ふらつき、体重増加など 服用時の注意点 医師の指示に従って適切に服用し、自己判断による中止や用量変更は行わない (文献2)(文献3) プレガバリンは、神経の興奮を抑え、違和感を緩和する薬剤です。神経障害性疼痛の症状に有効な薬剤として使用されます。(文献4) 主に糖尿病性神経障害や帯状疱疹後神経痛の治療に使用されます。 副作用としては眠気やめまい、ふらつきが起こる可能性があるため、医師の指示に従い適切に服用しましょう。 デュロキセチン(サインバルタ) 項目 内容 薬剤の特徴 セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)に分類される抗うつ薬。神経障害性疼痛にも有効。 効果 違和感の伝達を抑制する下行性疼痛抑制系を活性化、神経の過敏状態を緩和、慢性的な違和感を軽減 副作用 吐き気、口の渇き、眠気、めまい、便秘、食欲低下など。服用初期に副作用が現れやすいため注意が必要 服用時の注意点 抗うつ薬としての作用もあるため、急な中止は避ける。医師の指示に従って、用量を段階的に調整する (文献5) デュロキセチンは、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)と呼ばれる抗うつ薬の一種であり、脳内および脊髄におけるセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害します。気分の調整だけでなく、神経障害性疼痛の違和感に対しても有効です。 服用初期に副作用(吐き気や口の渇き、眠気など)が現れる可能性があるため、医師の指示に従い用量を段階的に調整しながら服用しましょう。 三環系抗うつ薬(アミトリプチリンなど) 項目 内容 薬剤の特徴 セロトニンおよびノルアドレナリンの再取り込みを阻害する、神経障害性疼痛の緩和にも使用される 効果 下行性疼痛抑制系を活性化し、違和感の伝達を抑制 副作用 眠気、口渇、便秘、排尿困難、起立性低血圧、体重増加など 服用時の注意点 眠気などの副作用が出やすいため、少量から使用し、医師の指導のもとで用量調整を行うこと 三環系抗うつ薬は、神経障害性疼痛の治療に使用されている薬剤です。主にうつ病の治療薬として用いられますが、神経障害性疼痛の緩和にも効果があります。 三環系抗うつ薬は神経伝達物質の働きを調整し、神経障害性疼痛の症状を和らげます。 眠気などの副作用がでやすいため、医師の指導のもと少量から使用し、自己判断での用量調整は行わないようにしましょう。 カルバマゼピン(テグレトール) 項目 内容 薬剤の特徴 主に三叉神経痛などの発作性神経痛に効果あり 効果 発作性の激しい神経痛(とくに三叉神経痛)の抑制、異常な神経の興奮の沈静化による違和感を軽減 副作用 眠気、めまい、ふらつき、吐き気、肝機能障害、低ナトリウム血症、皮疹など 服用時の注意点 服用時の注意点 効果と副作用のバランスに注意。とくに高用量時や併用薬がある場合は、医師の指導のもと慎重な管理が求められる (文献3)(文献6)(文献7) カルバマゼピンは、抗てんかん薬の一種ですが、三叉神経痛などの神経障害性疼痛にも使用されます。 カルバマゼピンは、神経細胞のナトリウムチャネル(細胞膜に存在する膜タンパク質)を遮断し、神経の過剰な興奮を抑制します。 三叉神経痛のような発作性の激しい違和感に効果を発揮するのは、ナトリウムチャネル遮断作用が、異常な神経の興奮を鎮めるためです。(文献6) カルバマゼピンの服用には、医師の指導のもと慎重な管理が求められます。 トラマドール(トラマール、トラムセット) 項目 内容 薬剤の特徴 オピオイド系鎮痛薬の一種であり、中枢神経に作用し、比較的弱いながらも多機能な鎮痛効果を発揮する 効果 μオピオイド受容体への結合による鎮痛作用、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害による違和感の抑制 副作用 吐き気、便秘、眠気、めまい、発汗、依存性のリスクなど。高用量や長期使用では注意が必要 服用時の注意点 オピオイドとしての特性を持つため、依存や副作用への十分な注意が必要 (文献3)(文献6) トラマドール(トラマール、トラムセット)は、オピオイド系の鎮痛薬です。トラマドールは神経障害性疼痛の治療に用いられることがあります。 神経障害性疼痛の症状は、神経の損傷や機能異常によって生じる違和感が特徴です。 トラマドールは、オピオイド受容体への作用とセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用の2つの異なるメカニズムを介して神経障害性疼痛の不快感を緩和する効果が期待できます。 吐き気や依存性のリスクがあるため、医師の診断のもと服薬するのが基本です。 神経障害性疼痛薬を処方する際の注意点 神経障害性疼痛薬の処方には、いくつかの注意点があります。 神経障害性疼痛薬には副作用があるため、これから紹介する注意点を守りながら服用しましょう。 診察時に症状について正確に伝える 服薬管理と副作用を理解しておく 身体に異常が出た場合は薬の使用を中止する 神経障害性疼痛薬だけに頼らない 神経障害性疼痛薬の処方で注意すべき点を解説します。 診察時に症状について正確に伝える 伝えるべき情報 医師が得られる情報 治療への影響 違和感の種類 違和感の特徴を把握し、原因となる神経の損傷部位を特定 より適切な診断と、原因に応じた治療計画の策定 違和感の部位 違和感の原因となる神経の損傷部位を特定 原因に応じた適切な薬剤の選択 違和感の程度 治療効果の評価、投与量の調整 治療効果の最大化、副作用の最小化 症状の頻度 治療計画の策定、投与量の調整 患者の生活リズムに合わせた治療計画の策定 症状の変化 治療効果の評価、投与量の調整、生活指導 より効果的な治療の継続、症状の改善 違和感に伴う症状 症状の原因となる神経の損傷部位や程度を特定 原因に応じた適切な治療計画の策定 飲んでいる薬、アレルギー、既往歴 薬剤の選択、副作用のリスク評価 薬剤の選択、副作用のリスク評価 治療への希望や不安 患者の意向を考慮した治療計画の策定、精神的なサポート 患者が納得できる治療の提供 神経障害性疼痛の症状を正確に伝えることで、適切な治療を受けやすくなります。 医師は患者の情報をもとに、原因となる神経の損傷部位を特定し、症状にあった薬剤を処方するため、少しでも気になったことは隠さずに伝えましょう。 また薬剤の服用後は、副作用の有無や変化を伝えることで、より効果的な改善が望みやすくなります。適切な治療を受けるためにも、症状を詳しく伝えることを意識しましょう。 服薬管理と副作用を理解しておく 気を付けるべき項目 内容 服薬管理の徹底 薬は医師の指示どおりに正しく服用、飲み忘れ防止の工夫、服薬の記録をつけておく 副作用への対応 副作用(眠気、めまい、ふらつきなど)を事前に確認、体調の変化があればすぐ医師に相談、副作用を記録しておく 医師との情報共有 症状の変化や副作用を正確に伝える、生活習慣も治療に影響するため共有しておく 治療への姿勢 治療目標を医師と共有し前向きに取り組む、セルフケア(ストレッチ、リラックスなど)も積極的に実践 (文献8) 神経障害性疼痛薬の服用は服薬管理と副作用の理解を深めることが大切です。薬は医師の指示通りに正しく服用し、飲み忘れを防ぐ工夫や服薬の記録をつけましょう。 神経障害性疼痛薬は副作用が出る可能性もあるので、体調の変化に注意し、少しでも気になる症状があればすぐに医師へ相談しましょう。 症状の変化や生活習慣についても医師と共有し、治療目標に向けて前向きに取り組むことで、症状の改善につながります。 身体に異常が出た場合は薬の使用を中止する 気を付けるべき項目 内容 重大な副作用の回避 異常に気づいたらすぐに服用を中止し、医療機関を受診する 副作用に対しての心得 異変があった場合は使用を中止し、医師へ相談する 適切な治療の継続 副作用が出た場合でも、医師に相談し、薬の種類や量の調整を行えば、適切な治療を継続できる可能性がある (文献9) 神経障害性疼痛の薬を使用した際に、発疹やめまい、息苦しさなど身体に異常を感じた場合はすぐに服用を中止し、医師に相談しましょう。 まれに重い副作用が出ることがあり、早い段階で異変に気づくことで、重症化を防げます。 自己判断で薬を飲み続けることは危険ではあるものの、逆に勝手に中止するのも症状の悪化につながる可能性があります。 異常があれば中止と相談を徹底し、適切な治療を続けることが大切です。 神経障害性疼痛薬だけに頼らない 神経障害性疼痛は、神経の損傷や機能異常による複雑な違和感であり、薬だけでは根本的な解決に至らない場合があります。 神経障害性疼痛薬は症状を緩和する役割がある一方、副作用のリスクや効果には個人差があります。(文献2)(文献10) 心理療法、神経ブロック療法など、他の治療法と組み合わせることで、症状の緩和だけでなく、機能回復や生活の質の向上も期待できるでしょう。 他の治療法を行う場合は医師へ症状を正確に伝えつつ、指示に従いながら実践するのが大切です。 神経障害性疼痛薬以外の治療法 治療法 内容 期待できる効果 注意点 神経ブロック療法 違和感の原因となる神経に局所麻酔薬などを注射し、一時的に症状を和らげる 症状の緩和など 効果が一時的な場合もある 理学療法 専門家の指導のもとでストレッチや運動を行い、身体の機能を改善させる 筋力・柔軟性の回復、こわばりの軽減など 無理に動かすと症状が悪化する可能性があるため、医師の指導に従う 手術療法 圧迫されている神経の開放や、異常な神経の伝達を遮断するための手術です 症状の原因を根本から取り除ける可能性がある 手術後の回復などの兼ね合いから、慎重な判断が必要 再生医療 自分の細胞や成長因子を使って、傷ついた神経の回復を促す 神経の回復が望める 現段階では、取り扱っている医療機関が限られているため、事前に相談する必要がある 神経障害性疼痛は薬物療法だけでの完治が困難なため、他の治療法も組み合わせることが重要です。 薬物療法以外の治療法として有効なのは以下の4つです。 神経ブロック療法 理学療法 手術療法 再生治療 治療法について解説します。 神経ブロック療法 神経ブロック療法の種類 注入部位 適応疾患 硬膜外ブロック 脊髄を覆う硬膜の外側 腰痛、坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛など 神経根ブロック 脊髄から枝分かれした神経根の近く 椎間板ヘルニアによる神経根痛など 末梢神経ブロック 末梢神経 手足の神経痛など 星状神経節ブロック 首の付け根にある星状神経節 顔面痛、肩こり、頭痛など トリガーポイント注射 筋肉のコリや違和感があるトリガーポイント 筋筋膜性疼痛症候群など (文献11) 神経ブロック療法は、違和感を伝える神経に麻酔薬などを注射し、伝達を遮断することで症状を和らげる治療法です。硬膜外ブロックやトリガーポイント注射など、症状や部位によってさまざまな治療法があります。 神経ブロック療法の注意点として、効果は一時的な場合が多く、神経損傷、出血、感染などの合併症や、注射部位の痛み、腫れ、発赤、血圧低下、吐き気などの副作用が起こる可能性もあります。 神経ブロック療法は、根本的な治療ではなく、症状の緩和を目的とした対症療法です。そのため、原因疾患に対する治療も並行して行う必要があります。 治療内容と注意点をしっかり理解した上で、医師とよく相談して受けましょう。 理学療法 治療法 内容 効果 注意点 運動療法 ストレッチ、運動 柔軟性向上、血行促進 違和感があった際は、中止する 物理療法 温熱、寒冷、電気刺激 違和感の緩和、炎症抑制 温度や刺激に注意 徒手療法 マッサージ、関節調整 筋肉の緊張緩和 専門技術が必要 感覚再教育 感覚刺激訓練 違和感の改善 根気強く継続 心理療法 認知行動療法、瞑想 違和感の捉え方を改善 専門家が必要 (文献11) 理学療法では、運動やマッサージ、精神のケアを取り入れながら、症状の緩和を目指します。 理学療法では多様な方法で治療を行うため、患者の状態や環境に合わせて適切な方法を選ぶ必要があります。 患者の状態に合わせつつ、個別に組み合わせることで、より高い効果が期待できる治療法です。注意点として、自己判断で行わずに医師の指示に従いながら実践しましょう。 手術療法 手術法 内容 適応疾患 脊髄刺激療法(SCS) 脊髄を電気刺激し、違和感の伝達を抑制 慢性腰痛、CRPS、帯状疱疹後神経痛など 脊髄後根進入部破壊術(DREZ手術) 脊髄後角の神経細胞を破壊し、違和感の伝達を遮断 三叉神経痛、腕神経叢引き抜き損傷後疼痛など 定位脳手術 違和感の伝達に関わる脳の特定部位を刺激または破壊 中枢性疼痛、三叉神経痛など 末梢神経刺激療法(PNS) 末梢神経に電気刺激を与える 特定の末梢神経が原因の神経障害性疼痛 神経剥離術 神経周囲の癒着を剥離し、神経の圧迫を解除 外傷後の神経絞扼障害など (文献11) 手術療法は、薬物療法や神経ブロック療法などで効果が不十分な場合に検討されます。脊髄や末梢神経、脳を電気で刺激するなどの方法があります。 ただし、手術には出血や感染、神経損傷といったリスクが伴う上に、術後新たな違和感が出てくる可能性があるでしょう。 手術の結果には個人差があります。(文献11) 手術療法を実践する場合は、医師と十分に相談し、リスクと効果を理解した上で慎重に判断しましょう。 再生治療 再生医療は、幹細胞などを用いて、損傷した神経の修復や再生を目指す治療法です。神経障害性疼痛は、神経の損傷や機能異常によって生じます。 再生医療は、幹細胞や神経成長因子などを用いて、損傷した神経組織の修復や再生を促すため、長期的な疼痛緩和や機能回復が期待できるでしょう。 薬物療法や手術療法と違い、副作用や後遺症の出るリスクが少ないのが魅力です。 以下の記事では再生治療について詳しく解説しています。 神経障害性疼痛薬で改善しない症状は医療機関へ 神経障害性疼痛にはさまざまな症状があります。神経障害性疼痛の症状の中には、脳卒中などの中枢神経の障害や糖尿病が起因しているものもあります。 そのため、神経障害性疼痛薬で症状が改善しない場合は、重症化する前に医療機関を受診するのが大切です。 少しの違和感でも医療機関を受診したことで、重大な病気を発見できる可能性があります。 神経障害性疼痛薬を飲み続けているのに改善しない症状は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。 神経障害性疼痛薬を飲み続けているのに治らない症状でお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にてお気軽にお問い合わせください。 神経障害性疼痛薬についてよくある質問 薬はいつまで飲み続ける必要がありますか? 神経障害性疼痛の症状や進行具合によって異なります。 多くの場合、医師は症状に対して治療計画を立てるため、自己判断で薬の量を増やしたり減らしたり途中で服用をやめるのは厳禁です。(文献12) 薬をいつまで飲み続ける必要があるのか不安を抱えている方は、医師に相談しましょう。 薬の服用中に日常生活で注意すべきことはありますか? 日常生活に関しては、医師の指示に従いましょう。服用管理の徹底や副作用への注意を怠らないことが大切です。 また、治療は薬だけに頼るのではなく、バランスの良い食事や十分な睡眠なども取り入れるようにしましょう。 神経障害性疼痛の薬が効かない場合はどうすれば良いですか 医師に相談し、指示に従いましょう。 薬剤の変更や別の治療法を提案される可能性があるので、処方期間に感じた疑問や悩みを正直に伝えましょう。 参考文献 (文献1) James C. Watson, et al.(2022).Neuropathic Pain.MSD MANUAL consumer Version https://www.msdmanuals.com/home/brain-spinal-cord-and-nerve-disorders/pain/neuropathic-pain (Accessed: 2025-04-07) (文献2) 慢性疼痛治療ガイドライン作成ワーキンググループ「慢性疼痛治療ガイドライン」2018年 https://www.mhlw.go.jp/content/000350363.pdf(最終アクセス:2025年4月7日) (文献3) 「Ⅳ.神経障害性疼痛を呈する疾患」『日本ペインクリニック』,pp.1-34 https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide08_12.pdf(最終アクセス:2025年4月7日) (文献4) 「疼痛治療剤(神経障害性疼痛・線維筋痛症)処方箋医薬品注)プレガバリン口腔内崩壊錠」『日本ケミファ株式会社』,pp.1-9, 2024年 https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00068934.pdf(最終アクセス:2025年4月7日) (文献5) Jaberpreet S. Dhaliwal, et al. (2023)Duloxetine, PubMed https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31747213/(最終アクセス:2025年4月7日) (文献6) 「神経障害性疼痛に対する薬剤」『MSD マニュアルプロフェッショナル版』 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/multimedia/table/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E6%80%A7%E7%96%BC%E7%97%9B%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E8%96%AC%E5%89%A4(最終アクセス:2025年4月7日) (文献7) 「日本ペインクリニック学会誌 三叉神経痛におけるカルバマゼピン療法の現状」J-STAGE, 2019年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspc/26/1/26_17-0032/_html/-char/ja(最終アクセス:2025年4月7日) (文献8) 「神経障害性ガイドライン」, pp.11-39, https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide02_08.pdf(最終アクセス:2025年4月7日) (文献9) 厚生労働省「がんの痛みの治療における医療用麻薬の自己管理マニュアル~ 医療従事者の役割~」 https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001245822.pdf(最終アクセス:2025年4月7日) (文献10) 「Ⅱ.神経障害性疼痛の診断と治療」『日本ペインクリニック』,pp.1-13 https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide08_10.pdf(最終アクセス:2025年4月7日) (文献11) 「Ⅳ‒B 神経障害性疼痛」『p138-159 治療指針6版 第04章A-B.indd』, pp.1-17, https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shishin/6-11.pdf(最終アクセス:2025年4月7日) (文献12) 坪谷綾子.「その痛み止め,いつまで続けるか?」pp.1-4, 2023年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/chiikiigaku/37/8/37_45/_pdf/-char/en(最終アクセス:2025年4月7日)
2025.04.30 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
「なんか最近、お腹の調子が変かも。でも、きっと大したことないか」そんなふうに感じながら、つい忙しさを理由に後回しにしていませんか? お腹の不調は様々な原因で起こりますが、中には見過ごせない重要なサインが隠れていることもあります。実は、大腸がんは発症者が年間15万人いる日本で最も多い 「がん」です。(文献1) しかも、ほとんど初期自覚症状がないまま、静かに進行していく怖い病気ですので、早期発見、治療が非常に重要です。 この記事では、大腸がんを早期に見つけるための症状のヒントや、今からできる予防法、検査や治療のことまでまとめています。「病院に行くほどじゃないけど、ちょっと気になる」そんな方こそ、ぜひ最後まで読んでみてください。 大腸がんの症状チェックリスト 大腸がんで見られる症状にはどのようなものがあるでしょうか。以下に主な症状のチェックリストをまとめました。 症状 チェックポイント 血便・下血 便に血が混じる、または肛門から出血する症状です。便に鮮やかな赤い血が付着していたり、黒っぽいタール状の便が出ることがあります。 痔(じ)などでも起こり得ますが、便に血液が付く状態が続く場合は注意が必要です。 便通の異常 以前より便秘と下痢を繰り返す、便が細くなった(細い便)、排便してもまだ残っているように感じる(残便感)などの変化です。 腸の通り道が狭くなることで起こる症状で、普段のお通じのリズムと明らかに異なる変化が続く場合は要チェックです。 お腹の張り・痛み 腸にガスが溜まってお腹が張る、腹痛が起こる、お腹にしこり(腫瘤)が触れる症状があります。腸の一部がふさがってガスや便が滞留するとお腹が張って痛みを生じます。 進行すると腸閉塞(腸がふさがれて便が出なくなる状態)を引き起こし、激しい腹痛や嘔吐を伴うこともあります。 体重減少・貧血 食事量が変わっていないのに体重が減る、貧血によるめまいや疲れやすさ、動悸などが現れることがあります。 大腸がんが進行すると慢性的な出血や栄養吸収の障害により体重減少や貧血症状を引き起こすことがあります。 おならの回数・においの変化 最近おならが以前より頻繁に出る、臭いがきつくなったと感じる場合です。 後述しますが、大腸の状態変化によって腸内環境が乱れると、おならの発生量や臭いに影響が出ることがあります。 ただし大腸がんは早期の段階ではこれらの自覚症状がほとんど出ない点に注意が必要です。また、なかでも血便や下血といった症状は大腸がんでとくによく見られますが、痔など良性の病気でも起こりうるため自己判断で放置しないでください。(文献2) 便に血が混じる、便通異常が続くなど気になる症状がある場合は痔と決めつけず、早めに消化器科や肛門科など専門医を受診しましょう。 おならの回数・においの変化に注意 おならは大腸がんの典型的な症状として広く知られているわけではありませんが、腸内環境の変化を示すサインとなります。 大腸がんがある程度大きくなると腸の中の通り道が狭くなり、便やガスの流れが滞って腸内にガスが溜まりやすくなるため、その結果、おならの回数が増えることがあります。 また、腫瘍により腸内細菌のバランスが変化し、おならのにおいがいつもと違う強い臭いに変わる場合もあります。もちろん、おならの変化は食生活やストレス、腸内細菌の一時的な乱れなど、さまざまな要因でも起こり得ます。 そのため、 臭いがきついからといってすぐに大腸がんと結びつける必要はありません。 しかし、「最近明らかにおならの状況がおかしい」と感じる場合は、他の症状と合わせて注意してください。 日頃から自分の排便習慣やお腹の調子を観察し、少しでも不安な変化があれば検診を早めに受けましょう。 おならの状態は人に相談しにくいデリケートな内容ですが、恥ずかしがらずに専門家に伝えてください。 \まずは当院にお問い合わせください/ 大腸がんを防ぐために注意すべき生活習慣 大腸がんの発生には体質や遺伝的な要因もありますが、実はそれ以上に食事や運動などの生活習慣(環境因子)が大きく影響すると考えられています。(文献2) 日頃の生活を見直すことで、大腸がんのリスクを下げられる可能性があります。ここでは大腸がんを防ぐために気を付けたい生活習慣について、ポイントごとに解説します。 食事 食生活の欧米化に伴い、日本では大腸がんが増えていると言われます。実際、脂肪分の多い食事は大腸がんのリスクを高める要因のひとつです。(文献2) 肉類や揚げ物中心の高脂肪食ばかりではなく、野菜や果物、海藻類など食物繊維を豊富に含む食材を意識して摂りましょう。食物繊維は腸の働きを整え、発がん物質を絡め取って体外に排出するのを助けます。 さらにカルシウムの摂取も大腸がん予防に効果的な研究結果があるため、カルシウム豊富な牛乳や小魚、乳製品なども適度に取り入れ、栄養バランスの良い食事を心がけると良いでしょう。 逆に加工肉や赤身肉の過剰摂取は控えめにし、アルコールや香辛料の摂りすぎにも注意しましょう。 運動 日常的に体を動かす習慣も、大腸がん予防には重要です。運動不足の状態だと腸の動きが鈍り、発がん性物質が大腸粘膜に長く留まって影響を与えると考えられています。(文献2) 逆に適度な運動習慣は大腸がんの予防に効果的であるとされています。忙しい現代人はつい歩く時間が減りがちですが、通勤時に一駅分歩いてみる、エレベーターではなく階段を使うなど、日常の中でできる範囲で構いませんので意識的に体を動かしましょう。 定期的な運動は腸の蠕動(ぜんどう)運動を促し便通を良くする効果も期待できます。ウォーキングや軽いジョギング、サイクリングなど自分が無理なく続けられる運動から始めてみてください。 飲酒・喫煙のコントロール 喫煙と過度の飲酒は様々ながんのリスク要因です。大腸がんも例外ではなく、タバコを吸う人は吸わない人に比べて大腸ポリープや大腸がんが発生しやすいことがわかっています。また、アルコールの大量摂取は大腸の粘膜を傷つけ、がんのリスクを高めてしまいます。(文献3) 大腸がん予防のためにも、喫煙者の方はこれを機に禁煙にチャレンジしてみましょう。お酒はまったく飲まないに越したことはありませんが、難しい場合は休肝日を作る、一度に飲む量を減らすなど、できる範囲でコントロールしてください。 ストレス管理と睡眠 仕事や家庭の忙しさからくる慢性的なストレスや睡眠不足も、健康維持の大敵です。 ストレスそのものが直接がんの原因になるとまでは言えませんが、過度なストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、免疫力の低下や生活習慣の乱れを招きます。 その結果、間接的にがんのリスクを高める可能性がありますので、忙しい毎日の中でも自分なりのリフレッシュ方法(軽い運動、入浴、趣味の時間など)を見つけ、意識的に心身をリラックスさせる時間を作りましょう。 また、睡眠も非常に重要です。寝不足が続くと体の修復が追いつかず、腸の調子も乱れやすくなります。理想的な睡眠時間には個人差がありますが、日中に疲労感や眠気を感じない程度にしっかり眠るようにしましょう。 とくに働き盛りの30〜50代の方はつい休息を後回しにしがちですが、ご自身の体を労わることも長い目で見て大切です。ストレス解消と十分な睡眠で体調を整え、がんに負けない健康な体づくりを心がけてください。 大腸がんの初期症状は気づきにくいため定期健診が重要 大腸がんは日本で最も患者数が多いがんで、早期にはほとんど症状が現れず静かに進行します。そのため、症状の有無にかかわらず定期的に検診を受けることが極めて重要です。国は男女とも40歳以上に年1回の便潜血検査を推奨しており、多くの自治体や職場健診で受診できます。(文献2) ご家族に大腸がん歴がある方はとくに注意が必要です。家族性大腸ポリポーシスやリンチ症候群など遺伝的素因によって発症リスクが高まることがあり、近親者に若年発症者が複数いる場合は、40歳未満でも医師と相談し検査開始年齢を早めることをおすすめします。 検診直後でも安心は禁物です。検診と検診の合間にがんが新たに発生し、短期間で進行する例もありますので、血便や便通異常、便が細くなるなどの変化を感じたら、次回の検診を待たず速やかに精密検査を受けてください。 定期検診と、異変を自覚した際の早期受診が、早期発見と完治への鍵になります。忙しい日々の中でも年1回の検診を習慣化し、日々体から小さなサインを見逃さないよう心掛けましょう。 検査と治療の進め方 「便に血が付いていた」「検診で要精密検査と言われた」そのような場合、具体的にどのような検査を受け、どのように治療が進んでいくのでしょうか。 ここからは大腸がんの検査(診断)方法と治療の流れについて説明します。代表的な検査である便潜血検査と大腸内視鏡検査の手順、そして早期がんと進行がんそれぞれの場合の主な治療方法を見ていきましょう。 便潜血検査の流れ 便潜血検査は、便に混ざった肉眼では見えない微量の血液を調べる大腸がん検診です。自宅で簡単に受けられるため、忙しい方でも取り組みやすい検査といえます。 以下の流れで検査を進めます。 市区町村の検診案内や職場健診で配布されるキットを受け取る 採便は別々の日に2回行う 2日分採取し容器は健診機関などへ提出 結果を待つ 結果は「陰性」または「陽性」で通知されます。陰性なら便に血液反応がなかったことを示しますが、がんを完全に否定するものではありませんので継続して受診が重要です。 一方、陽性は必ずしも大腸がんを意味しませんが、ポリープや痔など何らかの出血源がある可能性を示します。陽性となった場合は放置せず、速やかに大腸内視鏡検査などの精密検査を受けてください。 事情により内視鏡が難しい場合は、注腸X線やCTコロノグラフィーといった代替検査も選択できますので、医師と相談し自分に合った方法で大腸を詳しく調べましょう。 大腸内視鏡検査の流れ 大腸内視鏡検査は、便潜血陽性や大腸がんが疑われる症状がある場合に実施する精密検査です。肛門から細い内視鏡を挿入し、大腸内部を直接観察します。 検査前日は消化の良い食事に切り替える 当日朝は下剤と水分で腸内を洗浄する 看護師の指示に従って検査室へ 横向きになり医師が内視鏡を挿入 医師が直腸から盲腸まで観察 検査中は空気や二酸化炭素で腸を膨らませるため、一時的にお腹が張ることがあります。不安な方は鎮静剤を使用して半睡眠状態で受けることも可能です。 検査中に炎症、ポリープ、がんが見つかれば、その場で組織を採取したり小さなポリープを切除(ポリペクトミー)できますが、粘膜表面にとどまる早期がんなら内視鏡切除だけで完全に取り切れる可能性があります。(文献1) 所要時間は通常20〜30分程度。鎮静剤使用時は回復後に帰宅できます。検査後のお腹の張りはガスが出れば解消します。結果は1週間程度で判明し、医師から説明を受けます。 合併症はまれで、多くの方が安全に受けられる重要な検査です。早期発見のためにも、医師におすすめされた場合は積極的に受けましょう。 早期発見の治療法と進行がんの場合 大腸がん治療は、病期によって方法もゴールも大きく変わります。ステージ0~I期の早期がんは粘膜内にとどまるため、内視鏡で病変を切除するか、腹腔鏡など最小限の手術で患部のみを取り除く治療が中心です。 切除できれば再発は少なく、入院期間も短く済みます。一方、がんが腸壁を越えたりリンパ節転移を伴うステージII~III期では、根治手術で腸と周囲リンパ節を広めに切除したうえで、再発予防を目的とした抗がん剤を数か月追加することが一般的です。 さらにステージIV期では完治より延命と生活の質維持が主眼となり、抗がん剤や分子標的薬を基本に、症状緩和のための手術・放射線を組み合わせます。肝臓や肺など転移が限局していれば、切除で長期生存をめざすケースもありますが、切除できない場合は放射線治療や薬物療法など外科手術以外の治療法を選択します。 いずれの段階でも年齢、体力、希望を踏まえ治療計画を個別に立てることが重要です。 早期で見つかれば内視鏡だけで完治できる可能性が高いのに対し、進行後は治療が複雑化し身体的・経済的負担も増します。便潜血検査と内視鏡検査を活用し、早期発見で負担の少ない治療につなげましょう。(文献2) まとめ|大腸がんの症状かな?と思ったらすぐに専門家に相談を! 大腸がんは日本で患者数の多い病気ですが、早期に発見さえできれば決して怖がる必要はありません。 「血便などの症状がないから自分は大丈夫」と油断せず、定期検診を受けて早期発見に努めることが何より重要です。 この記事でご紹介した症状チェックリストに該当するものがあれば、たとえ忙しくても放置せずに消化器の専門医に相談してください。とくに便に血が混じる、便秘と下痢を繰り返すなどの異変は、大腸がんに限らず体からの大切なサインです。 「恥ずかしい」「時間がない」と我慢して手遅れになる方がよほど大変ですので、勇気を出して受診してください。 また、普段からバランスの良い食事や適度な運動を心がけ、タバコやお酒を控えるといった生活習慣の改善も大腸がん予防に繋がります。 そして何より、おかしいなと違和感を感じたらすぐに専門家へ相談しましょう。一人で悩まず、早め早めの行動で大腸がんから自分と家族の健康を大切にしてください。 なお、当院「リペアセルクリニック」ではがん予防を目的とした「免疫細胞療法」を行っております。 詳しくは、以下のページをご覧ください。 参考文献 (文献1) 国立がん研究センター中央病院「大腸がんとは」https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/colorectal_surgery/140/index.html(最終アクセス:2025年04月22日) (文献2) 国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん(結腸がん・直腸がん)」2025年03月24日.https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/print.html(最終アクセス:2025年04月22日) (文献3)公益財団法人 日本対がん協会「がん予防・がん検診について」2022年10月5日https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_checkup/%E5%90%84%E7%A8%AE%E3%81%AE%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/%E5%A4%A7%E8%85%B8%E3%81%8C%E3%82%93%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AE%E6%84%8F%E7%BE%A9%E3%81%A8%E7%9B%AE%E7%9A%84.(最終アクセス:2025年04月22日)
2025.04.30 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
大腸がんは年間約15万5千人が新たに診断される日本人に多いがんで、とくに女性のがん死亡原因第1位です。 早期発見が生存率を大きく左右しますが、初期症状はほとんどなく、進行してから気づくケースも少なくありません。 こうした中「おならの異変が大腸がんの初期症状の一つである可能性」が注目されています。おならは誰にでも起こる生理現象ですが、その回数や臭いの変化が体の不調を反映することがあります。 本記事では大腸がん初期症状とおならの関連性について、危険なおならと正常なおならの違いを含めて解説します。 また、おなら以外の大腸がん初期症状についてもわかりやすく説明し、早期発見のためのポイントを紹介します。異変に気づいた際に自己判断せず医療機関を受診する重要性についても触れますので、ぜひ最後までご覧ください。 大腸がん初期症状と「おなら」の関連性 大腸がんの初期症状としておならの状態変化が挙げられることがあります。実際、「おならの頻度が増えた」「おならの臭いが強烈になった」「おならの際に腹痛を伴う」といった変化が見られる場合には注意が必要です。 大腸がんがあると腸内の環境に変化が生じ、以下のような理由でおならに異常が現れる可能性があります。 腸内の変化 説明 腸内にガスが溜まりやすくなる 大腸内に腫瘍ができると腸の通り道が部分的に狭くなり、食べ物の消化やガスの排出がスムーズに行かなくなります。 結果として腸内にガスが溜まり、おならの回数が増える原因となります。 腸内細菌のバランス変化 腫瘍から分泌される代謝産物や腫瘍の存在そのものが腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう:腸内の細菌バランス)に影響を与えることがあります。 その影響でガスの成分が変わり、おならの臭いが以前より異常に強くなることがあります。 腸の運動変化 腫瘍による刺激で腸の蠕動運動(ぜんどううんどう:腸が内容物を送り出す動き)が乱れることも指摘されています。 その結果、お腹がゴロゴロ鳴ったりガスが頻繁に発生します。とくに腹痛を伴うおならが続く場合は腸内でなんらかの異変が起きているサインかもしれません。 もっとも、おならの変化だけで大腸がんと断定はできません。おならの臭い・回数は食生活や体調によっても日常的に変動します。たとえば芋類や豆類を多く食べればおならの回数は増えますし、肉や卵を多く摂れば硫黄のような強い臭いになることもあります。 重要なのは「普段と比べて明らかに異常なおならが続くかどうか」です。次の項で危険なおならと正常なおならの違いを整理しますが、おならの異変に気づいたときは他の初期症状がないかも確認し、少しでも思い当たることがあれば早めに医療機関で相談してみましょう。 危険なおならと正常なおならの違いについて おならの種類 説明 正常なおならの範囲 健康な人でも1日に数回~十数回程度のおならは出ます。臭いも食事内容によって強くなることがありますが、一時的なものがほとんどです。 お腹が張って苦しくなるようなこともなく、ガスは自然に排出されます。 注意すべき異常なおなら 以前と比べて急におならの回数が増えたり、逆にまったくおならが出なくなったりする場合は腸内異常の兆候です。 また、臭いが異常に強烈(腐敗臭や卵が腐ったような硫黄臭)になった状態が続くのも要注意です。 さらに、おならに腹痛や腹部の張りを伴う場合も正常ではありません。これらの変化が見られるときは、単なる食生活の問題ではなく消化器の病気(大腸がんを含む)の可能性を考えて早めに受診しましょう。 普段のおならと比べて明らかにおかしいと思われるおならの特徴を押さえておきましょう。一般的なおなら(正常範囲)と、大腸がんなど病的な原因が疑われるおならとで何が違うのかを比較します。 上記のような危険なおならに該当する場合でも、それだけですぐ大腸がんと決めつけることはできません。ただし、おならの異常に加えて後述するような他の症状がみられる場合は、大腸がんの初期症状として現れている可能性があります。 おならと他の症状、両方の異変が重なったときは早期発見のチャンスでもあるため、自己判断せず医療機関で検査を受けることが大切です。 おなら以外の大腸がん初期症状 大腸がんは初期には自覚症状がほとんどありませんが、腫瘍がある程度大きくなってくると徐々に体の変化が現れ始めます。(文献2) 代表的な初期症状としては、血便、排便習慣の変化(便秘・下痢)、便が細くなる(便の狭小化)、残便感、貧血、腹痛、嘔吐などが挙げられます。 これらはいずれも大腸がん以外の病気でも起こり得る症状ですが、複数の症状が重なっている場合や、明らかにいつもと違う状態が続く場合には注意が必要です。以下にそれぞれの症状について、具体的にどのような様子か説明します。 血便 血便(けつべん)とは、便に血液が混じる症状です。大腸がんができると腫瘍表面の血管が傷つきやすくなり、便が通過する際に出血して便に血が付着することがあります。血便の特徴として、出血カ所が肛門に近いほど鮮やかな赤色になりやすい傾向があります。 直腸やS状結腸(大腸の一番下の部分)にがんがある場合は鮮血が混じりやすく、上行結腸(右側の大腸)など上流にある場合は暗めの色になることもあります。 少量の血便だと痔(じ)かな?と放置してしまう人もいますが、痔と大腸がんの見分けは自己判断ができません。とくに40代以降で血便が続く場合は痔の持病があっても油断せず、一度大腸内視鏡検査などで確認しましょう。 便秘、下痢 便秘や下痢が続く、あるいは便秘と下痢を繰り返すのも大腸がんの初期にみられることがあります。腫瘍が腸内にできると腸の動き(ぜん動運動)が乱れたり、腸管が狭くなることで便通リズムが狂いやすくなります。 その結果、頑固な便秘になったり、下痢が増えたりします。特徴的なのは、便秘と下痢を交互に繰り返すパターンです。腸に便が溜まって便秘になった後、下痢で一気に出る場合、腸内に通過障害が発生している可能性があります。 普段は便秘をしないのに急に便秘が続くようになった、下痢をする頻度が増えた、あるいは以前と比べて明らかに排便の習慣が変わった場合、大腸の異常を疑ってみましょう。 食生活の変化やストレスでも一時的に便通は変わりますが、原因に心当たりがないのに数週間以上そうした状態が続くなら念のため検査を受けることをおすすめします。 便の狭小化 便の狭小化(きょうさいか)とは、便が細くなる症状です。腸内を通る便の太さが腫瘍によって物理的に制限されるため、鉛筆のように細い便が出ることがあります。 とくに直腸やS状結腸など大腸の下部にがんがある場合、便が形作られる段階で細く絞られてしまうため、狭いリボン状の便が続くことがあります。 「最近、便が細長くなった」「いつもより便の径が明らかに細い」と感じたら注意が必要です。便の狭小化自体は他の要因でも起こりますが、従来との明らかな変化は見逃さないようにしましょう。 便秘・下痢の項目で述べた便通異常とあわせて、便の形状変化も大腸がん初期のサインの一つです。 残便感 残便感(ざんべんかん)とは、排便した後にまだ腸に便が残っているように感じる症状です。大腸がんが直腸付近にできると、腫瘍が物理的に邪魔をしたり肛門付近を刺激したりするため、トイレに行ってもまだ出し切れていない感じが続くことがあります。 残便感は便秘や過敏性腸症候群などでも起こるため、それ単体では判断が難しい症状です。しかし残便感が長く続く場合や、残便感とともに便に血が混じる・お腹が痛いといった他の症状がある場合は、大腸がんの疑いも考慮する必要があります。 一度排便してもすぐまたトイレに行きたくなる、いつもお腹に何か溜まっている感じがする、といった状態が続けば医療機関で相談しましょう。 貧血 大腸がんによる貧血(ひんけつ)は、腫瘍からの慢性的な出血が原因で起こります。便に目に見える血が出ていなくても、少しずつ出血していると体内の鉄分が失われていき、鉄欠乏性貧血になります。貧血になるとめまいや立ちくらみ、疲れやすさ、動悸、顔色が青白くなるなどの症状が現れます。 日常的に疲労感が強かったり、階段を上っただけで動悸・息切れがしたりする場合、血液検査で貧血が判明することがあります。とくに中高年で原因不明の貧血が見つかった場合、大腸を含む消化管からの出血が疑われます。 女性の場合は月経など他の要因もありますが、長引く貧血症状があるときは一度消化器の検査(便潜血検査や内視鏡検査)を受けましょう。 腹痛 腹痛(ふくつう)も大腸がんがある程度進行すると出てくることがあります。 腫瘍が大きくなり腸の中が狭くなると便の通過に支障が出るため、腸が詰まったような張った痛みや差し込むような痛みを感じますが、とくに下行結腸やS状結腸など便が固形になってから通る下部の大腸にがんがある場合、腸閉塞(ちょうへいそく:腸の詰まり)を起こしやすく、強い腹痛が起こりやすいとされています。 一方、上行結腸(右腹側)など大腸の右側にがんがある場合、内容物が液状のまま通過するため比較的痛みは出にくいとも言われます。 痛みの有無はがんの場所によって異なりますが、お腹の痛みが慢性的に続く場合や、便通と関連して腹痛が起きる場合は精密検査を受けることを検討しましょう。 嘔吐 一見関係なさそうな嘔吐(おうと)も、大腸がんの症状として起こることがあります。これは主に腸閉塞(腸がふさがった状態)に陥った場合に見られる症状です。腫瘍が腸管をふさぐほど大きくなると、食べ物や消化物が先に進めず行き場を失ってしまいます。 その結果、腸の内容物が逆流して嘔吐を引き起こすことがあります。ひどい場合には便のような臭いの嘔吐(吐物が腸の内容物)になるケースもあり、これは緊急手術が必要な状態です。大腸がんの初期段階で嘔吐まで生じることは稀ですが、腹痛や膨満感がひどく吐き気を催す場合には注意が必要です。 とくに食事とは関係なく繰り返し吐き気・嘔吐が起こる場合、消化管のどこかに閉塞が起きている可能性があります。放置すると脱水や深刻な状態に陥るため、早急に医療機関を受診してください。 以上のように、大腸がんが進行し始めるとさまざまな症状が現れます。ただし繰り返しになりますが、初期の大腸がんでは目立った症状が出ないことが多い点に注意が必要です。 「なんとなく調子が悪いけど病院に行くほどではないかな…」と思っているうちに見過ごしてしまうケースもあります。少しでもおかしいと感じる症状があれば、無理に楽観せず専門医に相談しましょう。 大腸がんを早期発見するためのポイント 大腸がんから身を守るには、早期発見・早期治療が何より重要です。早期であれば大腸がんは高い確率で完治が可能で、内視鏡による日帰り手術で治療できるケースも多くあります。 そのため、症状が出揃ってからではなく症状が軽微なうち、あるいは症状がない段階で発見が理想です。 早期発見のために心がけたいポイントとして、日頃からのセルフチェックと定期的ながん検診の受診があります。以下に具体的に解説します。 初期症状チェックリスト|該当したら医療機関へ まずは自分で気をつけたい初期症状のセルフチェックです。次のような症状に心当たりがある場合は要注意です。当てはまる項目が一つでもあれば、一度消化器科など専門医療機関で相談してみましょう。とくに複数当てはまる場合は放置しないでください。 便に血液や粘液が混じる、黒っぽい便が出る(血便・下血がある) おならの臭いが急に強くなった、おならの回数が急に増えた 便秘と下痢を繰り返すようになり、排便のリズムが乱れている 便が細くなった、最近出る便の量が減ったと感じる トイレに行ってもまだ出し切れていない感じ(残便感)がある 腹痛やお腹の張りが慢性的に続いている めまい・立ちくらみなど貧血症状が見られる 原因不明の体重減少がこの数カ月でみられる 食欲不振が継続している こうした症状は大腸がん以外でも起こり得ますが、年齢が高くなってから現れた場合や症状が長引いている場合は大腸がんの可能性も考えて早めに検査を受けることをおすすめします。様子を見ようと放置せず、まずは専門のクリニックで相談しましょう。 とくに血便は重要なサインですし、おならの異常も軽視しない方が良いポイントです。おかしいと思った時点で消化器内科を受診すれば、万が一がんであっても早期に発見できる可能性が高まります。 大腸がん検診を受ける 自覚症状の有無にかかわらず、定期的に大腸がん検診を受けることも早期発見には欠かせません。日本では現在、40歳以上の方は年に1回、大腸がん検診(便潜血検査)を受けることが推奨されています。(文献1) 便潜血検査とは便の中に血液が混じっていないか調べる検査です。検査の結果、陽性(便に血が混じっている疑い)となった場合には、精密検査として大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を行います。大腸がん検診は自治体の健康診断などでも実施されており、症状がないうちに検診を受けましょう。 大腸がんは早期であれば症状がない場合が多く、検診によって早期に発見し治療すると大腸がんで亡くなるリスクを大きく下げられます。(文献1) 実際、大腸がんは早期に発見できれば高い確率で治癒可能ながんです。 内視鏡検査でポリープや早期がんが見つかった場合、その場で切除して日帰りで治療を完了できるケースも多数あります。逆に言えば、検診を受けずに症状が出るまで放置してしまうと、発見時には進行して手術が大がかりになる・完治が難しくなるといったリスクが高まります。 とくに40代以上の方は忙しくても年に一度は大腸がん検診を受ける習慣を持ちましょう。また、ポリープが見つかった場合は医師の指示に従い定期的なフォローを受けることも大切です。 まとめ|初期症状のチェックや検診で大腸がんを早期発見しよう 大腸がんは早期には目立った症状が出にくい病気ですが、おならの異常や便通の変化など日常のサインを見逃さないことが早期発見につながります。「最近おならの様子がおかしい」「腹痛や血便が続いている」など、少しでも気になる初期症状がある場合は自己判断せず消化器の専門医に相談が重要です。 血便・便秘や下痢の反復・便の狭小化・残便感・貧血症状・腹痛・嘔吐など、大腸がんの疑いを示す症状はいくつかあります。これらの初期症状チェックを日頃から意識し、該当する症状があれば早めに医療機関を受診しましょう。 また、症状がなくても定期的に大腸がん検診を受けることが最大の防御策となります。幸い、大腸がんは早期に発見し適切に治療すれば怖がる必要はありません。違和感を感じたタイミングで勇気を出して専門クリニックを受診すれば、万が一大腸がんであっても早期のうちに治療でき、あなたの健康と命を守ることにつながります。 なお、当院「リペアセルクリニック」では、がん予防を目的として「免疫細胞療法」を行っております。 免疫細胞療法について詳しくは、以下のページをご覧ください。 参考文献 (文献1) 国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん検診について」https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/colon.html .2024年9月20日.(最終アクセス:2025年4月22日) (文献2) 国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん検診について」https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/print.html .2024年9月20日.(最終アクセス:2025年3月24日)
2025.04.30 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
多忙な30代は外食や運動不足、睡眠不足などで体調変化を見逃しやすい傾向があります。しかし統計によれば、日本では大腸がんが増加傾向にあり、30代の患者も確実に増えています。 大腸がんは早期発見なら内視鏡だけで治せる可能性が高いですが、初期症状が少ないため、30代の検診受診率は40代以降に比べても低いのが現状です。また「痛そう」「恥ずかしい」といった検査への先入観から、若い世代の検診受診率は特に低い傾向にあります。 この記事では、30代で発症が増えている背景をまず整理し、つづいて初期症状や受診のきっかけとなるエピソードを医師の視点で詳しく紹介します。さらに、生活習慣の改善ポイント、遺伝的リスク、そして検査までを丁寧に解説するので、理解を深めて適切に行動しましょう。 30代で大腸がんに気づく人が増えている理由 大腸がんは一昔前まで「中高年の病気」と考えられてきましたが、近年のデータでは30代後半から罹患率が顕著に上昇し始めることが確認されています(文献1)。 背景にはまず食生活の欧米化があります。牛肉や豚肉など赤身肉や加工肉をメインにした食事が増えると、腸内で発がん性物質が産生されやすくなる上、野菜や海藻の摂取が不足して便通が滞り、発がん物質が長時間腸壁に触れやすくなるのです。 次に運動不足も原因の一つです。リモートワークや長時間のデスクワークが常態化すると内容物を肛門側へと移動させる腸蠕動(ちょうぜんどう)が低下し、便秘が慢性化します。 便が腸管にとどまる時間が延びるほど有害物質は腸粘膜を刺激し続けるため、異常細胞が増殖するリスクが高まります。さらに30代は昇進や転職、出産育児などライフイベントが重なる時期であり、慢性的なストレスや睡眠不足が免疫力を弱め、損傷を受けた細胞の修復が追いつきにくくなります。 こうした生活スタイルの変化が重層的に重なり、これまで発症しないと思われていた年代でも大腸がんが顕在化してます。「若いから大丈夫」という思い込みをまず手放すことが、早期発見への第一歩となります。 30代で大腸がんに気づくきっかけ|初期症状 若くして大腸がんになった場合、食生活が悪かったと結論づけられがちですが、実は生活習慣で説明できない発症例も一定の割合で存在します。 その最たるものが免疫異常を背景とする炎症性腸疾患です。潰瘍性大腸炎やクローン病は発症ピークが10〜30代で、慢性的な粘膜炎症が続くことでDNA修復エラーを招き、組織学的に正常でも突然がん化するリスクがあります。 食べすぎ・飲みすぎ・運動不足のようなわかりやすい生活習慣だけを律すれば安心ではありません。若い世代における大腸がんの実態は、免疫、腸内細菌、遺伝子修復能、内臓脂肪など複雑に絡み合って発生する可能性もあります。 若いし健康診断で異常が見つからないから大丈夫と気を抜かず、家系歴や既往症がある人はもちろん、健康診断に問題がない人であっても、便通の変化や腹部違和感を覚えた段階で健診を受けることも視野に入れましょう。 30代で大腸がんに気づく例 身近な診療現場でも30代で診断される症例は年々増えており、大腸がん発症のきっかけはごくささいな違和感から始まります。 便潜血検査で早期がんが見つかるケースもある 会社の定期健診などで行われる便潜血検査が陽性の場合、原因が生理でないと認められた後に消化器内科へ紹介され、大腸内視鏡検査に進むことがあります。 大腸内視鏡検査を実施した結果、大腸に数ミリ大の早期がんが見つかり、その場で内視鏡的切除が完了するケースもあります。 早期発見できた場合、翌日から通常の生活に戻れ、職場復帰も約1週間程度で済むうえ、入院手術と比べて治療費を大幅に抑えられます。 初期症状や会社の定期健診を経験を通じて、若くても大腸がんが早期発見できたケースも珍しくありません。 便のにおいや排便時間の変化から進行がんが見つかるケースもある 朝の排便で「いつもより時間がかかる」「においが強い」「下痢と便秘を繰り返す」といった小さな違和感が続く場合、仕事や家事の忙しさから後回しにしてしまうことがあります。 しかし違和感が2〜3週間以上続くようなら、消化器内科で検査しましょう。実際に大腸内視鏡を行うと、 大腸に数センチのポリープが見つかり、大腸内視鏡検査で切除できた事例もあります。 このように、普段の便に違和感やいつもと違う匂いなどが数週間続いて病院に行った事で早期発見ができたケースもあります。 あと少し受診が遅れれば内視鏡だけでは対応できなかったかもしれません。便のにおい・形・通過時間の変化は放置厳禁のサイン と考え、早めに検査へ踏み切ることが重要です。もし症状が軽微でも検査に踏み切ることは非常に重要です。 30代で大腸がんになる原因とは なぜ30代で発症するのか。そのメカニズムは一つではなく、食事、運動、体重、嗜好品、ストレス、遺伝など複数の因子が複雑に絡み合っています。赤身肉を多く摂ると腸内細菌が二次胆汁酸を産生し、DNAを損傷する物質が増えることがわかっています。(文献2) 同時に野菜や果物に含まれる食物繊維や抗酸化物質を十分に摂らないと、このダメージを打ち消す力が低下します。また、運動不足で腸の動きが鈍ると便秘が定着し、有害物質が長く腸壁に触れ続ける時間が延びます。 さらに肥満はインスリン抵抗性を高め、インスリン様増殖因子が過剰に分泌されることで細胞増殖が促され、がん化しやすい環境が整います。過度の飲酒や喫煙も発がんリスクを跳ね上げます。 肝心なのは、これらの大半が今日から修正できる行動である点です。「歳だから仕方がない」のではなく「習慣を変えればリスクを下げられる」ことを認識して、発症を防ぎましょう。 食事が大腸がんに与える影響 食卓を振り返ると、朝は菓子パンとコーヒー、昼はハンバーガーやカツ丼、夜はコンビニの唐揚げ弁当、こんな日が続いていないでしょうか。 加工肉を毎日継続して50グラム前後摂る食習慣が大腸がんのリスクを18%高めたという研究結果があります(文献3)。 脂質の多い肉は消化過程で胆汁酸が増え、その一部が腸内細菌によって発がん性をもつ二次胆汁酸に変換されます。しかも野菜不足で便量が少ないと二次胆汁酸は腸壁を長く刺激し続け、細胞の遺伝子に傷をつけやすくなります。 逆に和食中心で野菜や海藻、味噌汁を毎食取り入れると、水溶性と不溶性の食物繊維が便のかさを増やし、有害物質をからめ取って速やかに体外へ運び出します。 また、発酵食品に含まれる乳酸菌は腸内で短鎖脂肪酸を産生し、粘膜のバリア機能を高める上、がん細胞の増殖を抑える働きが報告されています。 忙しいときでも、昼にサラダを一品追加する、夜に納豆やキムチを添える、といった小さな工夫で腸内環境は着実に良い方向へ動きます。 運動不足がもたらす腸への影響 座りっぱなしの時間が長い生活は腸にダメージを与えます。理由は主に3つあります。 物理的に体幹が動かないため腸蠕動(ちょうぜんどう)が鈍くなり、排便が遅くなる 筋肉活動が減ることで血流が低下し、腸粘膜への酸素供給が不足して修復能力が落ちる。 エネルギー消費が少ないまま高カロリー食を摂ると内臓脂肪が蓄積し、慢性的な炎症状態を引き起こす。 デスクワークの方はとくに運動する機会が少なく座りっぱなしになるため、意識的に運動する必要があります。推奨される運動量として、18歳から64歳は歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分行い、また息がはずみ汗をかく程度の運動は1週間に60分行いましょう。(文献4) 激しいスポーツをいきなり始める必要はなく、十分に歩幅を取ったウォーキングを一日30分、週5日行うだけでも腸の動きは活発になり、大腸がんの予防につながります。 遺伝的要因がもたらす若年発症リスク 家族に大腸がんや大腸ポリープの患者がいる場合、自分も同じ遺伝子を受け継ぐことでリスクが高くなることが知られています。 とくにリンチ症候群は若年での発症率が高く、10代後半から30代前半でがんが見つかることも珍しくありません。リンチ症候群は遺伝確率が50%とも言われ、全大腸がんの約2%〜5%をしめているともいわれています。右側結腸に多発しやすく、がんが複数同時に生じるケースもあります。 こうした疾患が家系に疑われる場合は、20代から定期的に大腸内視鏡検査を受けることが推奨されています。遺伝的リスクは変えられませんが、早期モニタリングによって進行を防ぐことは十分に可能ですので、家族歴がある方は定期検診を受けましょう。(文献5) ストレス・睡眠不足が与える腸内環境への影響 精神的ストレスが高まると交感神経が優位になり、腸への血流が制限され、腸蠕動(ちょうぜんどう)が弱まります。同時にストレスホルモンのコルチゾールが分泌され、免疫細胞の働きが落ち、腸粘膜の修復スピードが低下します。 睡眠不足はメラトニンの分泌を減らし、細胞の酸化ダメージを修復を妨げます。就寝前1時間は強い光を避け、ぬるめの湯で15分程度の入浴を行うと副交感神経が優位になり、入眠がスムーズになります。 寝る直前のスマートフォン操作を控える、休憩時間に深い呼吸で筋の緊張をほぐす、といった小さな習慣を行い、腸の健康を支えましょう。 大腸がんのサインに気づいたら検診を! 便に血が混じった、いつもと違う腹部の張りが2週間以上続く、急に便秘と下痢を行き来する。こうした兆候が現れたら「仕事が一段落したら受診しよう」ではなく、すぐ医療機関へ足を運んでください。 まずは痛みもなく数分で済む便潜血検査を行い、陽性であれば大腸内視鏡検査に進みます。内視鏡は鎮静剤を使用すれば眠っているうちに終わり、検査時間はおおむね15~30分です。検査でポリープが見つかれば、その場で切除し病理検査へ回すため、追加の手術や入院を避けられる可能性が高まります。 さらにCTCや腹部超音波を組み合わせれば転移の有無も短時間で確認できるため、治療方針を迅速に決定できます。検査を先延ばしにする心理的ハードルは「痛そう」「時間がない」といった誤解が大部分ですが、実際はとても簡単ですぐにできる検査ですので、気軽に受診してください。 まとめ|30代でもあなどれない大腸がん!気づくきっかけがあれば即受診を 大腸がんは30代でも確実に発症しうる疾患であり、そのリスクは食生活の欧米化、運動不足、ストレス過多といった現代的ライフスタイルの中で静かに高まっています。 ですが、血便や便通の変化といった初期サインを見逃さず、便潜血検査や大腸内視鏡をためらわずに受ければ、早期に発見し、内視鏡のみで完治を目指せる確率は非常に高くなります。 今こそ、ご自身の食事や運動、睡眠を振り返り、少しでも異変を感じたら勇気を出して専門医へ相談してください。「忙しくて時間が取れない」「検査に不安がある」という方もまずはお気軽にお問い合わせください。早期発見によって負担を最小限に抑え、あなたの大切な未来を守りましょう。 なお、当院「リペアセルクリニック」では、がん予防を目的とした「免疫細胞療法」を行っております。 詳しくは以下のページをご覧ください。 参考文献 (文献1)国立がん研究センター「大腸がん種別統計情報」国立がん研究センターホームページ, 2025年3月24日.https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/67_colorectal.html.(最終アクセス:2025年4月22日) (文献2)順天堂医学「生活習慣病としての大腸癌」国立がん研究センターホームページ,不明.https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjmj/50/4/50_338/_pdf.(最終アクセス:2025年4月22日) (文献3)農林水産省「国際がん研究機関(IARC)による加工肉及びレッドミートの発がん性分類評価について」 2024年8月22日.https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/meat.html.(最終アクセス:2025年4月22日) (文献4)厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」健康づくりのための身体活動基準・指針の改訂に関する検討会, 2025年3月17日.https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001171393.pdf.(最終アクセス:2025年4月22日) (文献5)国立がん研究センター「大腸がん(結腸がん・直腸がん)について」国立がん研究センターホームページ, 2025年3月24日.https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/print.html.(最終アクセス:2025年4月22日)
2025.04.30 -
- 足部、その他疾患
- 足部
足に異常を感じたことで、自身でネット検索したところ、「モートン病なのではないのか」と不安を抱く方もいるかと思います。モートン病は足の付け根部分の神経が圧迫されて痛みやしびれが生じる病気ではあるものの、似た症状の疾患は意外と種類が豊富です。 モートン病と似た症状や疾患を理解すれば、モートン病自体への知識もさらに深められます。 本記事では、モートン病に似た症状・疾患を、モートン病の知識とともに徹底解説します。 モートン病に似た症状・疾患を紹介 足先が痛んだりしびれたりするのを理由に、いろいろと調べてみてモートン病を疑う方もいるのではないのでしょうか。しかし、モートン病に似た症状や疾患は他にもいろいろとあるため、自己診断は危険です。 モートン病に似た症状や疾患に、以下のものがあります。 疾患名 症状 モートン病との違い 足の関節炎 足の各所で痛みや腫れなど 足指だけでなく足の各所で発生 足底筋膜炎 足裏に痛みや張りなど かかとや土踏まず付近で発生 足根管症候群 足裏に痛みやしびれ 足の甲や足首から上で症状はなし 中足骨疲労骨折 足の甲に痛みやしびれ 動いている時に症状痛みを感じる 中足骨骨頭痛(中足骨頭痛) 動いている時に足裏に痛みやしびれ(症状が進むとじっとしていても痛みなど) 中足骨そのものへの圧迫が原因 糖尿病性神経障害 末梢神経の障害によるしびれや冷え、痛み 糖尿病の進行が原因 坐骨神経痛 お尻から足先に及ぶ痛みやしびれ 症状が出る範囲が腰やお尻にまで及ぶ それぞれの症状について解説します。 足の関節炎 足の関節炎は、足部分の関節に痛みや腫れ、動作の制限などが生じる疾患です。原因は日常での足の使いすぎやケガ、細菌・ウイルスによる感染など多岐にわたります。 足指の付け根部分に症状が現れるモートン病と異なり、足の関節炎は足の各所の関節で症状が見られるのが特徴です。 治療は安静を心掛けつつ、症状が落ち着いた頃合いに少しずつ運動を開始します。加えて、痛みの程度によっては湿布やクリームなどを用いるのも1つの方法です。 足底筋膜炎 足底筋膜炎は、かかとや土踏まずに広がる足底筋膜に炎症が発生する疾患です。足底筋膜にかかる過度な負荷が原因で発症します。主に足先で症状が現れるモートン病とは、場所が異なります。 足底筋膜炎は、長時間のウォーキングやランニングのような足をよく使うスポーツをする方に多く発症する疾患です。加えて、長い時間立ち仕事に従事する方にも見られます。 治療は、かかとにサポーターなどの装具を身に着けつつ、消炎鎮痛剤などで痛みを抑えるのが一般的です。加えて、足の指や足首のストレッチで柔軟性を高めることで、足底筋膜への負担を和らげます。 足根管症候群 足根管症候群は、足首下の内くるぶし付近から足裏に向かう神経で生じる炎症です。神経が物理的に圧迫されることにより、足裏に痛みやしびれが生じます。 なお、モートン病では足の甲や足首から上の部分で痛みやしびれが見られますが、足根管症候群ではそれらの部位で症状は発生しません。 治療の際には、靴底に専用のパッドを入れたりビタミンB製剤などの薬物を投与したりして症状を緩和します。ただし、あまりにも症状が強い場合は、ステロイド注射や手術を選ぶ場合もあります。 中足骨疲労骨折 中足骨疲労骨折は、足の甲を通る中足骨にひびが入り、痛みやしびれが生じる症状です。とくに走り込みやジャンプ動作の多いスポーツを行う人に多く見られます。 モートン病と同じく足指から足の甲にかけて症状が発生するのが特徴です。しかし、モートン病は症状が進んだときにはじっとしていても痛む場合があるのに対し、中足骨疲労骨折は主に運動中に痛みが生じます。 治療は1ヵ月半から2ヵ月程度、患部に大きな負荷のかかる活動は自粛し、安静にするのが一般的です。 中足骨骨頭痛(中足骨頭痛) 中足骨骨頭痛(中足骨頭痛)は、中足骨(足の甲)の先端部分に過度な負荷がかかって発症します。発症当初は歩行やランニングの最中に足裏の痛みを感じる程度ではあるものの、症状が進むと何もしていなくても痛みが生じるのが特徴です。 なお、モートン病は中足骨付近の神経への圧迫で症状に見舞われるのに対し、中足骨骨頭痛の場合は中足骨自体への圧迫が原因とされます。 治療は、靴底にインソールを敷いて足への負担を抑えたり、炎症や痛みを和らげる薬物を使ったりするのが基本です。痛みが強い場合はステロイド注射や手術も選ばれます。 糖尿病性神経障害 糖尿病性神経障害は、糖尿病による合併症の一種です。糖尿病によって血糖値が高い状態が長期間続くと、手足などに伸びる末梢神経が損傷や機能低下を起こします。 とくに足先の末梢神経は、人体の部位でも比較的長く、血流や栄養が届きにくいのも特徴です。糖尿病による末梢神経の障害でも足の指先から足裏にかけてしびれや冷え、無感覚などの症状が現れます。 糖尿病性神経障害は糖尿病が原因であるため、糖尿病の進行を抑えるのが基本的な治療方針です。生活習慣の改善や薬物を使って症状を抑えつつ、痛みがある場合はビタミン剤などで対応します。 坐骨神経痛 坐骨(ざこつ)神経痛は、お尻から太もも、足先に至る広い範囲で痛みやしびれが生じる症状です。とくに痛みの場合、電気が走るような痛みや長時間ジンジンとする痛みが特徴に挙げられます。 坐骨神経痛は足先以外の部位が痛む点がモートン病との大きな違いです。また原因としては、脊柱管狭窄症や腰部椎間板ヘルニアなどが考えられています。 坐骨神経痛は自然治癒するケースもあるものの、医療機関を受診した上で、適切な治療を受けることが大切です。 医療機関の治療では、消炎鎮痛剤の投与やステロイド剤注射、サポーターなどが用いられます。ただし、症状が強い場合は手術も1つの選択肢です。 モートン病の見分け方 「専門医の診察を受ける前に、自身でモートン病を見分けられないか」と考える方もいるのではないのでしょうか。モートン病はセルフチェックなどで、ある程度は自身で見分けられます。 以下にモートン病の見分け方をご紹介しますが、自己判断で満足するのではなく、必ず医療機関を受診してください。 モートン病の初期症状と比較 モートン病は初期段階とある程度進行した段階とで、症状が若干異なります。まず、初期症状の代表例が次のとおりです。 足の指に対する感じ方で違和感を覚える 歩いていたり靴を履いていたりするときに足指付近に痛みやしびれがある 靴を脱いだりじっとしていたりするときは痛みなどが落ち着く 足の指を握ったり押したりすると痛みが強まる 基本的に足の指に違和感を感じるとともに、足の指に何らかの負荷をかけている間だけ痛む特徴があります。 なお、症状が進行した場合、以下のように変化するのが特徴です。 じっとしていても足指に痛みやしびれがある 強い痛みやしびれが長時間続く 足指だけでなく足の甲や足首にまで痛みが広がる 痛すぎて歩くのさえ苦痛になる つま先に力が入らない 以上の症状が見られるようであれば、モートン病の可能性があります。 モートン病のセルフチェック 続いて、モートン病のセルフチェック項目は以下のとおりです。 足の指や付け根に痛みやしびれがある 足の指を握ったり押したりした際に痛みやしびれがある 靴を脱いだり歩くのをやめたりすると痛みなどが落ち着く 運動時や立ち仕事の時に足先が痛む・しびれる つま先に力を入れるのが苦痛 足の指先や足の甲も痛い 以上の項目にあてはまるのであれば、医療機関の受診をおすすめします。 モートン病の予防法 足指の付け根に痛みやしびれを伴うモートン病の予防法を紹介します。 モートン病を予防するには、マッサージやストレッチによる足のケアや、適切な靴を選ぶことが重要です。それぞれの方法を詳しく解説します。 マッサージやストレッチによる足のケア モートン病を予防するうえで、すぐにでもできる方法がマッサージやストレッチによる足のケアです。マッサージやストレッチで足の指や足裏を刺激すると、血行の促進により改善効果が期待できます。 加えて、すでにモートン病の症状がある方も、マッサージやストレッチによって痛みやしびれを緩和できる可能性があります。ただし、あまりにも痛みやしびれが強すぎる方は、症状悪化のリスクを避けるために控えてください。 マッサージの方法 足をケアするマッサージ方法として、青竹踏みマッサージと足指のマッサージの2つを紹介します。 青竹踏みマッサージは、縦半分に切った青竹を使う方法です。 青竹踏みマッサージの手順 100円ショップなどで青竹を用意 はだしの状態で青竹の上に乗る 青竹の上で足踏みする(数分程度が目安) なお、青竹踏みマッサージと同じく足裏を刺激するものとして、テニスボールなどを使う方法もおすすめです。 テニスボールなどを使う方j法の手順 座った状態でテニスボールなどの上に足裏を乗せる 痛みやしびれが強い部分にボールを移動させる つま先からかかとまで一通り丁寧にマッサージする 続いて足指のマッサージは、足指の甲側と足裏側を手の指で挟みこんだうえで揉むやり方です。 甲側と足裏側に分けて30回から50回ずつ心地よさを感じる圧でマッサージしていきます。 すでに症状が出ているのであれば、痛みやしびれが出ている足指を優先的にやります。 適切なサイズの靴を選ぶ モートン病の予防では、適切なサイズの靴を選ぶことも大切です。 サイズの合う靴を選ぶ際には、足の長さだけでなく、靴の幅もチェックするのがポイントです。幅が狭いと両側から足をきつく圧迫し、逆に幅が広すぎると足に余計な力がかかります。なお足先に余裕のある靴も、つま先への負担を軽くする意味で重要です。 モートン病に似た症状は再生医療も選択肢のひとつ モートン病やモートン病と似た症状の疾患を治療する際は、再生医療もひとつの選択肢です。 再生医療では、患者様自身から採取した幹細胞や血液を利用します。ご自身の幹細胞・血液を用いるため、副作用のリスクが少ないのが特徴です。 当院「リペアセルクリニック」では、脂肪由来の幹細胞治療やPRP療法といった再生医療を提供しています。 モートン病などの症状にお悩みの方は、一度ご相談ください。 \まずは当院にお問い合わせください/ まとめ|モートン病に似た症状をきちんと理解しよう モートン病に似た症状や疾患は種類が多いため、足先の痛みやしびれだけではなかなか判断できません。 症状を見分ける方法はあるものの、正確な診断には専門医の力が不可欠です。 モートン病の疑いを持っているのであれば、似た症状の疾患があることもしっかり理解したうえで、医療機関を受診することが大切です。 モートン病と似た症状に関するよくある質問 モートン病と痛風の違いは? 足指の付け根に痛みを感じる病気には痛風も考えられます。しかし痛風は、足指の付け根だけでなく足の甲や膝、手の関節などの各所で起こる場合があるのが特徴です。 加えて痛風の原因として、生活習慣の乱れやストレスなどによる尿酸値の上昇が挙げられます。とくにレバーや魚の干物のようなプリン体を多く含むものや、アルコール類のように尿酸値の高いものの摂取で発症することも多いです。 モートン病の原因は何ですか? モートン病の原因として、足のつま先への強い負荷が知られています。とくにハイヒールのような足先を強く圧迫する履物の使用や長時間の立ち仕事、長時間のランニングで発症するケースが多いです。 加えて、外反母趾や偏平足のような足が変形する病気も、モートン病を引き起こす場合があります。 モートン病になったらやってはいけないことは? モートン病になったらやってはいけないことは次のとおりです。 ハイヒールなど足先の幅が狭い履物の使用 長時間にわたって中腰など同じ姿勢を維持すること 患部への無理なマッサージやストレッチ 長時間にわたる運動 基本的に足先に過度な負荷をかけることなく、安静にしていることが大切です。 モートン病を放置するとどうなりますか? モートン病を放置するとさらに症状が進んで、何もしていなくても足指の付け根を中心に痛みやしびれが出てきます。しかも、症状が起こる部位も足指付近だけでなく、足の甲やかかと付近にまで広がるのも特徴です。 強い痛みやしびれによって、歩行が難しくなる場合もあります。
2025.04.28 -
- 足部、その他疾患
- 足部
ウォーキングをこなしていて、足先の不具合から「歩きすぎでモートン病になってしまったのでは」と不安になる方もいるのではないのでしょうか。モートン病は確かに足の指の疾患ではあるものの、歩きすぎで発症することは基本ありません。 むしろ、歩きすぎ以外の別の要因でなってしまうことが多いため、事前に知っておくと予防にも役立ちます。 本記事では、モートン病は歩きすぎでなるのかを、原因や予防方法とともに徹底解説します。 モートン病の原因は「歩きすぎ」ではない モートン病は、足裏の指の付け根に激しい痛みや腫れが生じるのが特徴です。 足でも比較的先端の部分に症状が生じるため、「歩きすぎでなるのではないか」と心配する方もいます。 しかしモートン病は、普段の歩きすぎが直接の原因ではありません。 むしろモートン病は、後で触れるように加齢で足の形が変わってきたり、つま先に負担をかけるような靴などを履き続けたりすることが主な要因です。 このため、足に合う履物を履き続けるなどしていれば、歩きすぎてもモートン病になるリスクはあまり高くありません。 モートン病になる原因 モートン病の原因は、つま先への圧迫や加齢など複数の要因が考えられます。 以下で説明する原因をより詳しく知っておくと、今後モートン病の発症を防ぐうえで便利です。 ハイヒールによるつま先への圧迫 モートン病の原因としてよくあるのが、ハイヒールによるつま先への圧迫です。 ハイヒールはつま先部分のすぐ後ろからかかと部分に向かって高さが増していくのが特徴であるため、足の指の付け根を含む足の前側に常に圧力がかかります。 履いている間はつま先立ちの歩き方を強いられる分、とくに日常的に履き続けた場合は足の指付近に圧力が集中しすぎるため、モートン病にかかるリスクが高まりやすいです。 サイズの合わない靴 また、ハイヒール以外にご自身のサイズに合わない靴も、モートン病の原因になります。 より具体的には、足幅に余裕がないほどのきつい靴や、余裕がありすぎてぶかぶかする靴を履く場合です。 きつい靴を履いている時は、足の指や内部を通る神経が左右から圧迫される分、モートン病の発症リスクが上がります。 一方でぶかぶかする靴については、足が靴の中で安定しないために、足の指が反ってしまいます。 その結果、前足の部分とかかとで体重を支えながら歩く分、普段以上に前足に圧力がかかってモートン病になる危険性が高まります。 過度のランニング ランニングの習慣がある方は、やりすぎでモートン病になる場合があるため、注意が必要です。ランニングの際は、歩行の場合以上に強い力で地面を蹴るため、足が受ける衝撃も大きくなります。足への衝撃が大きい分、つま先付近の神経が圧迫され、モートン病の発症リスクが高まる仕組みです。 とくにランニング初心者は、必要以上の強度や距離で走る傾向にあるため、なおさら注意を要します。 加齢による足の変形 ほかにも加齢で足の形が変化することも、モートン病の原因の1つです。そもそも加齢で足の形が変形するのは、足裏についている筋肉や脂肪が年とともに衰えることが理由とされています。筋肉や脂肪が減少した場合、足の骨や神経が外部からの衝撃を受けやすい状態になります。 加齢による足の変形は外反母趾や偏平足、モートン病のリスクを高めるため、注意が必要です。外反母趾や偏平足は両方とも足のバランスを維持するアーチが低下している状態である分、なおさら足の骨や神経が受ける衝撃が大きくなります。 足が衝撃を受けて圧迫され続けた結果、モートン病の発症可能性を高める仕組みです。 モートン病を放置すると悪化リスクがあるので注意 モートン病を放置すると、症状がさらに悪化するリスクがあります。モートン病は発症当初こそ、歩いている間に限り、痛みやしびれが生じるのが特徴です。 しかし症状が進むと、歩いていなくても痛みやしびれが生じます。しかも、痛みを感じる部位が足の指の付け根部分だけでなく、かかとや足首にまで広がることまである点で厄介です。症状の進行で痛みやしびれが強くなりすぎることもあり、最悪の場合で痛みのあまり、歩けなくなることさえあります。 モートン病で歩けなくなるリスクを防ぐには、症状を感じた段階で早めに医療機関で診察してもらうことが大切です。 モートン病を悪化させないための予防策 モートン病は歩き方や靴の選び方など、日常生活の中でできる予防策が多くあります。以下の予防策を知って実践すると、モートン病の今以上の悪化を防止するうえで便利です。 足に負担をかけない歩き方を意識 モートン病の症状の進行を抑えるには、足に負担をかけない歩き方を意識する必要があります。主なポイントは、以下の通りです。 かかとでしっかり着地:かかと→土踏まず→足先(母指球:足の親指のふくらみ)の順に地面に付ける つま先に力を入れすぎない:入れすぎると神経を圧迫 足の外側に重心が来るように意識する 歩行中は足の指を広げる意識をする 加えて、歩いている最中は体を前後に大きく振ることもポイントになります。体を大きく振ることで、足の重心が改善される効果があるとされているためです。 ただし、大股で歩いた場合も足を痛める危険があるため、適度な歩幅を維持しましょう。 足にフィットする靴を選ぶ 歩き方だけでなく足にフィットする靴を選ぶことも大切です。 最も重視したいポイントは、自身の足のサイズに合っているかどうかです。サイズについては、足の長さだけでなく幅もよくチェックして選びます。 とくにつま先の部分に余裕があるものが重要です。履いた際に足の指を自然に広げられたり、甲の部分が靴に当たらなかったりすれば、足の指の付け根部分への負荷を軽減できます。 またモートン病対策で靴を選ぶときは、「クッション性」もポイントです。とくに以下の5点を確認します。 靴底の素材が適切な硬さであること 靴底が薄すぎないこと 靴紐やベルト、マジックテープできつさを調整できること 前足側に柔軟な素材が使われていること かかと側はしっかり固定されること とくにウォーキングシューズなどのスニーカー類がおすすめです。 足のストレッチやマッサージで柔軟性を高める モートン病を予防する際、足のストレッチやマッサージも役に立ちます。ストレッチやマッサージは足の柔軟性を高める分、痛みやしびれのある部位への圧迫を軽減できるためです。 ストレッチやマッサージの方法には、足の指の曲げ伸ばしや青竹踏み、足首のマッサージなどがあります。ただし、痛みやしびれが強い場合は無理にやることはおすすめできません。 体重の管理も不可欠 ほかにも体重の管理も欠かせない予防策です。肥満などで体重が増加した場合、人体を支える足への負荷も大きくなります。 モートン病を発症していない方でも体重が増えて足への負荷が増えた結果、モートン病のリスクが高まるため、注意が必要です。またモートン病になった方も、体重が増えればより症状が悪化します。 モートン病の予防や治療では、食生活の見直しや適度な運動による体重の管理も有効な手段です。 モートン病の治療は「再生医療」も選択肢の1つ モートン病の治療法としては、再生医療も1つの選択肢です。 再生医療には、主に「幹細胞治療」と「PRP療法」の二つがあります。 幹細胞治療:患者様から採取した幹細胞を培養し、患部に投与 PRP(多血小板血漿)療法:患者様から採取した血液を遠心分離器にかけて、血小板を濃縮した液体を患部に投与 幹細胞には、さまざまな細胞に変化する「分化能」という能力があり、血小板には傷ついた組織や細胞に集まり、成長因子を放出する働きがあります。 どちらも患者様自身の体内から抽出した幹細胞・血液を用いるため、副作用のリスクが低いのが特徴です。 再生医療について詳しくは、当院「リペアセルクリニック」にお問い合わせください。 \まずは当院にお問い合わせください/ まとめ|モートン病は歩行量よりも靴選びと歩き方による影響が大きい モートン病は普段の歩行量よりも、靴選びや歩き方の癖による影響が大きい病気です。とくにハイヒールのようにつま先が抑圧されやすい靴を日常的に履いている方は、モートン病のリスクが高まります。 モートン病の予防には、適切な靴を選ぶことや歩き方の改善、体重の管理などが大切です。ご自身の足を大切にできるような靴や歩き方を心掛けるだけで、モートン病のリスクを下げられます。 ウォーキングで歩きすぎだからという理由だけでは、モートン病のリスクは高くなりません。モートン病を予防したいのであれば、むしろ履く靴や歩き方、生活習慣を意識しましょう。 モートン病 歩きすぎに関するよくある質問 モートン病におすすめの靴下とは? モートン病には5本指ソックスをおすすめできます。通常の靴下と異なり、それぞれの指が1本ずつ包まれる構造であるため、足の指を動かしやすく圧迫も受けにくいためです。 加えて5本指ソックスによって指で地面をしっかり踏みしめられるため、足の指や足裏の筋肉を整えつつ、歩行が改善される効果があるとされています。 モートン病の初期症状はどんなものですか? モートン病の初期症状は、歩いている時やつま先の圧迫される履物を履いている時に、足の指の付け根に痛みやしびれを感じるのが特徴です。なお、じっとしていたり時間が経ったりすると、痛みが収まることもよくあります。 ほかにも、足の指の感覚の違和感も初期に見られる特徴です。 モートン病をセルフチェックする方法はありますか? モートン病は、以下の項目に基づいてセルフチェックできます。 足の指やその付け根に痛みやしびれがある 足の指を押したりつま先立ちしたりした時に痛みが強くなる ハイヒールの着用時に痛みを感じる ウォーキングやランニング、立ち仕事中に足先に痛みなどを感じる 靴を脱いだ時やじっとしている時などに痛みやしびれが落ち着く モートン病になったらやってはいけないことは? モートン病になった際にやってはいけないことは、次のとおりです。 ハイヒールや先端の細い靴を履くこと 長時間のウォーキングやランニング 患部への強めのマッサージやストレッチ 体重の不適切な管理(暴飲暴食や運動不足) 安静を基本にしつつ、無理のない程度のストレッチをすることやサイズの合わない靴を避けることなどがポイントといえます。 モートン病に似た症状に何がありますか? モートン病に似た症状や病気は以下のものが代表的です。 中足骨疲労骨折:足の甲の骨に負荷がかかることでひびが入る 足根管症候群:くるぶし付近の神経の圧迫による足の各所への症状 足底筋膜炎:足裏の足底筋膜の炎症で、足裏を中心に痛みや張り 糖尿病性神経障害:糖尿病の進行による足のしびれや痛み なおモートン病に似た症状・疾患は、ほかにも多くあります。なかには、モートン病のように足先に痛みやしびれが生じるものの、原因や細かい症状が異なるものもあるため、専門医の診察が欠かせません。
2025.04.28 -
- 足部、その他疾患
- 足部
足先が痛いために、ネット検索などで調べてみて「モートン病かもしれない」と感じる方もいるのではないのでしょうか。同時に「モートン病に見た目でわかる特徴があるのではないのか」と、気になる気持ちや不安が交錯している方もいるかと思います。 モートン病には見た目で判別できる特徴はありません。見た目よりも、むしろ足先などの痛みやしびれなどの症状で見分けるのが一般的です。ただ、セルフチェックの方法や医療機関での診断方法を知っておくと、今後の治療でも役に立ちます。 本記事では、モートン病の特徴について、症状や見分け方とともに徹底解説します。 モートン病に見た目の特徴はある? 足裏の指の付け根付近に痛みやしびれに悩んでいて、ご自身がモートン病なのではないかと疑う方もいるかと思います。 モートン病の疑いがあっても見た目に何の異常も見られないと、「モートン病は見た目で判断できないのか」と思うこともあるのではないのでしょうか。 本章では、モートン病の特徴について解説します。 明確な見た目の特徴はない モートン病には、見た目で明確にわかる特徴は現れません。 モートン病は足裏の中指や薬指、人差し指の付け根部分に症状が出るのが特徴ですが、該当する部分が赤く腫れたりむくんだりすることがありません。 外見上の異常が特に見られない分、見かけによるモートン病の判別は不可能です。 見た目で異常がわからないことから、長期間放置した結果、症状が進行してから受診するケースもあるため注意を要します。 足指の付け根の痛みやしびれが主な特徴 モートン病を発症した場合、足指の付け根部分の痛みやしびれが主な特徴として現れます。 初期段階でも、歩くだけで足指の付け根が痛む程度の症状が現れるのがポイントです。 さらに症状が進むと、歩いていなくても足裏部分や指の先端に焼けるような痛みやしびれを感じるようになります。 より症状が深刻になると、足の部分だけでなくふくらはぎの部分にまで強い痛みが及ぶケースもあります。 モートン病の見分け方|主に症状でチェック モートン病が見た目でわかりにくいのなら、判別も難しいと感じる方もいるのではないのでしょうか。 実はモートン病は、症状をもとに見分けることが可能です。 セルフチェックの方法もあるため、ご自宅でも判別できる場合があります。 モートン病の見分け方は以下の通りです。 初期症状からセルフチェックする方法 モートン病は初期症状の段階からセルフチェックで見分ける方法があります。 以下の項目に当てはまるようであれば、モートン病の可能性があるため、注意が必要です。 足指の付け根部分に痛みやしびれ、焼けつくような感覚を覚える 足指の付け根をつまんだり押したりすると痛い 履き物を脱ぐと、痛みやしびれが和らぐ 歩いている時や立ち仕事の時に足裏が痛む 歩くだけでも痛みやしびれを感じて辛い セルフチェックで「モートン病なのではないか」と感じたら、整形外科で専門医の診察を受けることをおすすめします。 つま先立ちとモルダーテストで症状の有無を確認 医療機関でモートン病を見分ける際、まず医師はつま先立ちで症状が見られるかどうかを確認するのが一般的です。 モートン病は足裏の指の付け根に痛みやしびれが生じるため、つま先立ちするだけでも症状が出てきます。 加えてモートン病の判別には、「モルダーテスト」と呼ばれる方法も一般的です。 モルダーテストでは、足指の両側を手で包み込む形で圧迫するように握りながら、痛みなど症状の有無を確認します。 モートン病の場合、足指と足指の間を通る神経が腫れているため、圧迫するように握っただけで痛みやしびれが出やすいです。 診断でも複数の手法で確認 モートン病の診断は、原則として複数の手法が使われます。特に病気や症状を正確に確定するための確定診断では、レントゲン検査やMRI検査などが用いられるものの、単体では確定が難しいためです。 レントゲン検査などで調べたうえで、足指の付け根部分の神経に腫れが見られればモートン病の診断が確定します。 モートン病に似た症状や病気はあるのか? モートン病は似た症状や病気が多いため、見た目や症状から自己診断するのは危険です。 モートン病に似た症状や病気として、次のものが挙げられます。 足の関節炎:足指の付け根だけでなく、足の各所に関節痛が発生。 足底筋膜炎:足裏にある足底筋膜の炎症で、特にかかとや土踏まず付近に発生。 中足骨疲労骨折:足の甲に生じる疲労骨折で、足指の付け根から甲にかけて痛む。 足根管症候群:内くるぶしの神経の圧迫で発生。足の指から足裏に至るまで痛みやしびれ。 腰椎椎間板ヘルニア:腰椎の圧迫で生じる神経障害。足だけでなく腰に痛み。 足の骨折:外傷や強い負荷で発生。軽く押すだけで痛み。青あざや腫れも見られることが多い。 神経障害:糖尿病やヘルニアなどが原因。痛みやしびれだけでなく冷えを感じることもある。 多くの病気や症状は、足指の付け根以外の部位に症状が出るため、それによってモートン病と見分けられます。ただし、より詳しい状況を医師に伝えたうえで、医師による正確な診断を受けることが大切です。 モートン病の治療では「再生医療」も1つの選択肢 モートン病の治療としては、再生医療も選択肢となります。 再生医療には、患者様から幹細胞を採取・培養して患部に投与する「幹細胞治療」と、血液を遠心分離器にかけて血小板を濃縮した液体を投与する「PRP療法」があります。 どちらも患者様自身の体内から抽出した幹細胞・血液を用いるため、アレルギー反応や拒絶反応のリスクが低い治療法です。 再生医療について詳細は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。 \まずは当院にお問い合わせください/ まとめ|モートン病は見た目での判断が難しいので症状で見分けよう モートン病は腫れやあざのように、見た目で判断できる症状がありません。 見た目ではなく、足指の付け根付近の痛みやしびれが主な特徴であるため、症状を見分けるには医師による検査や診断が欠かせません。 モートン病らしき症状や病気にお悩みの方は、ご自身の判断に頼るのではなく、医療機関の受診をおすすめします。 モートン病の見た目に関するよくある質問 モートン病は何科を受診すればいいですか? モートン病の診断や治療を受けられるのは整形外科です。ただ、痛みが出たときに急ぎで治療しなければいけない病気ではないため、何日か様子を見た後に受診しても問題ありません。 モートン病の原因は何ですか? モートン病は、足指の付け根が強い圧迫を受けることが直接の原因です。特にハイヒールのようなつま先が圧迫されやすい履物を履く方や、ジョギングや中腰での肉体労働のような前足に負荷のかかる活動が多い方がなる可能性があります。 また、外反母趾や偏平足などによる足の変形で発症するケースもあるため、注意が必要です。 モートン病で歩きすぎは良くないですか? モートン病になった際、歩きすぎは控えるべきとされています。ただでさえ痛みやしびれが生じているところに、歩くたびに自身の体重で足にさらなる負荷をかけてしまうためです。 その結果、さらに病状が悪化する可能性さえあります。なお、モートン病は歩きすぎで生じることはありません。 モートン病を放置するとどうなりますか? モートン病を放置した場合、症状はさらに悪化します。モートン病は初期症状の時点では、歩いたり立ったりしているときに限り痛みやしびれが生じるのが特徴です。 しかし症状が進むと、じっとしているだけでも痛みやしびれに悩まされます。加えて、痛みやしびれを感じる範囲も足先だけでなく、足の甲や足首にまで広がります。 痛みが強すぎて歩くことが苦痛に感じられる場合もあるため、なるべく早めの医療機関の受診がおすすめです。 モートン病を緩和するマッサージの方法を教えてください モートン病の症状を緩和するマッサージには、足指のマッサージや足裏のマッサージがあります。 足指のマッサージは、足指を心地良い指圧で行うもので、甲側と足裏側でそれぞれ30~50回程度が目安です。特に足裏側は丹念に行います。 また、足裏マッサージはテニスボールやマッサージボールを用意したうえで座り、自身の足をボールに乗せます。続いて特に痛みの強い部分にボールが来るように転がすやり方です。その後はつま先からかかとまで一通りマッサージします。 なお、両方とも痛みやしびれが強い場合は、無理にやらないようにしましょう。
2025.04.27 -
- 手部、その他疾患
- 手部
スマホ操作やキーボード入力の繰り返しで手首や指に激痛が走る腱鞘炎。日常生活の中で頻繁に起こるこの症状の効果的な治し方を知りたい方も多いのではないでしょうか。 腱鞘炎の治療は安静が基本であるとともに、ストレッチや温冷療法などさまざまな方法があります。 加えて、今後の再発を防ぐために自宅で簡単にできる予防法もあるため、知っておくのがおすすめです。 本記事では腱鞘炎の治し方について徹底解説します。自宅でできる対処法や予防法も紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。 腱鞘炎の治し方 腱鞘炎は手や指の使い過ぎで、手指の筋肉と骨を繋ぐ腱を包む腱鞘(けんしょう)で炎症が起きる症状です。腱鞘炎になると、手の甲や指に痛みや腫れが生じたり、しなやかな曲げ伸ばしが難しくなったりします。 腱鞘炎は日常生活に支障をきたすケースも多いため、症状を和らげて早く回復するための正しい治し方を知ることが重要です。 本章では、腱鞘炎の治し方について解説しますが、腱鞘炎の種類や症状を知りたい方は、あわせてこちらもご覧ください。 指や手首を安静にする 腱鞘炎の治し方で最も基本的な方法が、指や手首を安静にして過ごすことです。 腱鞘炎は指や手首の使い過ぎによって生じるため、まずは症状が出ている部位に極力負担をかけないようにします。治療に専念しているときは、症状の出ている部位とは逆側の指や手首を使うことが大切です。 例えば、右の親指が患部の場合は、左手を使うようにします。やむを得ず患部のある側の手を使わなければならないときは、できるだけ短い時間で済ませるようにしましょう。 ただし、安静にしている期間が長引くと、筋肉や腱の可動域が狭まる場合があります。 ある程度痛みが引いてきたら、少しずつ動かす機会を増やすことが大切です。 状況に応じた温冷療法 腱鞘炎の治療では、症状の段階に合わせた温冷療法が効果的です。 発症から2〜3日の急性期には冷却が推奨されます。氷嚢やアイスパックを薄いタオルで包み、15分程度患部に当てると、炎症による腫れや痛みを抑えられます。 一方、急性期を過ぎて症状が落ち着いてきたら温熱療法に切り替えましょう。温めることで血行が促進され、痛みの緩和や筋肉・腱の柔軟性回復につながります。 個人の症状や体質によって最適な方法は異なるため、判断に迷う場合は必ず医師に相談してください。 痛みを緩和するストレッチ 腱鞘炎になった際、痛みの緩和にストレッチも効果的です。 指や手首のストレッチは筋肉をほぐして痛みを和らげるだけでなく、血行を促す効果があるとされています。ストレッチは、リラックスした状態で行いましょう。 ここでは、指のストレッチと手首のストレッチの2つを紹介します。 指のストレッチ 指の痛みを緩和するストレッチは、次の手順・方法で進めます。 痛みのある手の掌を下に向ける 指を1本ずつ反対側の手で持ち、手の甲側にゆっくり反らす 指が伸びるのを感じたら、10~30秒程度キープ キープ後はゆっくり戻す 他の指も同様に動かす なお、指のストレッチは1日に2,3セット行うのがおすすめです。 ただし、あまりにも痛みが強いときは、無理をせずに安静にしてください。 手首のマッサージ 続いて手首のマッサージは、以下の手順で行います。 痛みのある手を机などの上に置く 反対側の手で痛みの生じている手の指を持ち、10秒程度反らせる 反らした指を元に戻す 手首のマッサージも、1日に複数セットやることが推奨されています。 痛み止めや装具の活用 腱鞘炎の治療では、痛み止めや装具も活用される手段です。 痛み止めには、ローションや塗り薬、湿布などの外用鎮痛消炎薬と、飲み薬のような内服薬があります。両方とも腱鞘炎による痛みや炎症を抑える目的で使用され、とくに痛みが増すときは外用鎮痛消炎薬と内服薬を併用するケースも多いです。 一方、装具については、サポーターがよく使われます。ただ、手や指は生活でよく使う部位であるため、完全には固定せず、指や手首の関節を覆うタイプを使用するのが一般的です。関節を覆うタイプであれば、指や手首を動かせる範囲を限定させながら、関節への負担を軽減します。 ステロイド剤注射治療 もし、痛み止めや装具を活用しても強い痛みが続くときは、ステロイド剤注射による治療も手段の1つです。 ステロイド剤注射は、炎症が見られる腱鞘に直接注射する形で、ステロイド剤を注入します。 ステロイド剤注射を行った場合、個人差はありますが2~3週間程度で症状の緩和が見られ、効果は3カ月から半年にわたって継続するケースが多くあります。 なお、糖尿病を抱えている方については、注射によって血糖値が上昇するリスクがあるため、注意と医師による慎重な判断が不可欠です。 手術による治療 腱鞘炎を痛み止め・装具やステロイド剤注射などの方法を用いても、症状が緩和しなかったり繰り返されたりする場合、手術を検討します。 腱鞘炎向けの手術は「腱鞘切開」が一般的です。症状の進行で腫れて分厚くなった鞘の部分を切り開きます。なお、局所麻酔を施した状態で行われるとともに、所要時間も10~20分程度と短めです。 腱鞘炎を予防する方法 指や手首に慢性的な痛みをもたらす腱鞘炎は、できれば事前に予防したいと感じる方もいるかと思います。 腱鞘炎を予防する方法は色々とあり、日常生活の中で簡単に実践できるものばかりです。 指や手首への負担を軽減する 腱鞘炎を予防するには、まず指や手首への負担を軽減することが大切です。 特に現代人は日常的にスマホを使う方が非常に多いため、スマホの操作が原因で腱鞘炎になる方も多くいます。 スマホの使用による腱鞘炎を予防するには、スマホを片手ではなく両手で持つのがポイントです。 片手で操作すると、持っている側の親指や手首に継続的な負担がかかるため、腱鞘炎を発症するリスクが高まります。 日頃片手でスマホを使っているのであれば、両手で持ったり操作したりする癖を付けるだけでも、腱鞘炎のリスクを下げられます。 また仕事やプライベートでパソコンを使う際も、手首の部分をクッションで支えるのがポイントです。 加えてスマホやパソコンを長時間利用する時は、こまめな休憩も腱鞘炎の予防に役立ちます。 スマホやパソコンを使う際、タイプ操作だけでなく前かがみの姿勢も腱鞘炎を誘発することがあるためです。 サポーターやテーピングもおすすめ 腱鞘炎の予防には、サポーターやテーピングもおすすめできます。 サポーターやテーピングは、特にテニスや野球のような手や指を使うスポーツ競技の場合、事前に手首などに巻いておくことで筋肉や腱への負担を和らげられる点がメリットです。 加えてテーピングは、関節を動かせる範囲を限定する分、腱を痛めたりけがを防いだりするのに効果を発揮します。 手首や指のストレッチで柔軟性を向上 日常生活の中で腱鞘炎を予防するには、手首や指のストレッチを心掛けることも大切です。 日頃からストレッチを行うことで、指や手首の腱の柔軟性を高めるとともに、指の付け根の腱を広げることによって圧迫を和らげる効果も期待できます。 特に指や手首をよく使うスポーツや仕事・作業に従事する方は、始める前の準備体操の時間などにストレッチの癖を付けておくと、腱鞘炎になる可能性を下げられます。 腱鞘炎の治療選択肢のひとつ「再生医療」について 腱鞘炎の治し方の選択肢として、再生医療もあります。 腱鞘炎の治療では、患者様自身から採取した血液の血小板を濃縮した「多血小板血漿(PRP)」を注射する方法がとられます。 手術によらない方法であるとともに、所要時間も最短30分程度である点も特徴です。 当院「リペアセルクリニック」では、腱鞘炎に対する治療として再生医療を行っています。 腱鞘炎の治療に再生医療をご検討の方は、当院へお気軽にご相談ください。 \まずは当院にお問い合わせください/ まとめ|腱鞘炎を治すには安静にして医療機関を受診しよう 腱鞘炎の治し方は、基本的には患部を安静にしつつ、医療機関を受診するのが基本です。 加えて、温冷療法や痛み止め・装具による治療も用いられるほか、症状が深刻な場合はステロイド剤の注射や手術も用いられます。 また、日常生活でもスマホの使い方に気を付けるなどの、腱鞘炎を予防できる方法もさまざまです。 ほかにも、最近では再生医療も腱鞘炎の治療で選べます。 腱鞘炎の治し方は簡単にできるものが非常に多いため、安静を心がけながら医療機関で医師の指導に従いつつ実践してみてください。 腱鞘炎の治し方に関するよくある質問 腱鞘炎がなかなか治らない理由は? 腱鞘炎がなかなか治らず、症状が長引くのは、いつの間にか指や手首を使いすぎているのが原因です。 特にスマホやパソコンを意識しないままに多く使い、それがきっかけで症状が長期化しているケースがよく見られます。 スマホやパソコンの操作は、タッチパネルやキーボード上でタイプ打ちするため、同じような動作の繰り返しで腱鞘炎に繋がりやすいです。 スマホなどを長時間操作しがちであれば、まずは操作する時間を減らすことをおすすめします。 腱鞘炎の治し方でやってはいけないことは? 腱鞘炎の治療中は、指や手を無理に動かすことはやってはいけません。 炎症が落ち着かない状態で無理に動かすと、症状がより悪化する可能性があるためです。 指の曲げ伸ばしや重いものの持ち運びはもちろんのこと、患部を押したり無理なストレッチを行ったりすることも避ける必要があります。 腱鞘炎の湿布の貼り方は? 腱鞘炎の治療で湿布を貼る際、患部の場所によって方法はさまざまです。 患部が指である場合は、湿布を小さめの大きさにカットしたうえで、包帯やテープで補強するように貼ります。 特におすすめの場所が指の第二関節です。腱鞘炎の発症時に炎症が起こりやすい靭帯性腱鞘(じんたいせいけんしょう)と呼ばれる部位があるため、湿布によって痛みを和らげられることがあります。 手首が患部であるときは、湿布をX字型に切って患部に交差する場所が来るように貼るのがポイントです。もし湿布だけで貼りつかないときは、上からテープや包帯で補強すると良いでしょう。 腱鞘炎の治し方で親指のマッサージはOKですか? 腱鞘炎の治し方で、親指をマッサージしても問題ありません。 ただし、親指の付け根部分を反対側の指の先ではなく、指の腹の部分や手のひらで優しく押したり揉んだりするのがコツです。
2025.04.27 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
自己免疫疾患にかかったとき、「性格と関係があるのでは?」と不安に思う方は少なくありません。 完璧主義や頑張りすぎる性格が影響しているのでは、と自分を責めてしまうこともあるでしょう。しかし、自己免疫疾患の原因は性格だけではなく、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。 本記事では、自己免疫疾患と性格の関係について正しく理解し、自分をいたわるためにできることをお伝えします。 自己免疫疾患と性格の関係 自己免疫疾患の発症メカニズムは複雑で、さまざまな要因が絡み合っています。近年、性格や心理的特性との関連性についても注目されていますが、その関係性は単純ではありません。 ここからは、自己免疫疾患と性格の関連性について説明していきます。 性格が原因と断言はできない 自己免疫疾患の発症には、遺伝的素因が大きく関わっています。家族内での発症傾向や特定の遺伝子変異が見つかっていることからも明らかです。環境因子(感染症、食事、有害物質への曝露など)も関連があります。 性格が自己免疫疾患と関連している可能性は示されていますが、病気の直接の原因ではありません。 真面目な性格だから病気になったわけではなく、以下のような流れで間接的に影響している可能性があります。 完璧主義の性格 → ストレスがたまりやすい → 睡眠不足や食生活の乱れ → 免疫系に負担 → 病気のリスク上昇 つまり、性格そのものではなく、性格によって生じる生活習慣の変化やストレスが、身体に影響を与えている可能性があるのです。 ストレスが影響する可能性 長期的なストレスは、神経系、内分泌系、免疫系に影響を与えます。慢性的なストレス状態では、自律神経が乱れて活性酸素やサイトカインが大量に発生し、細胞組織を破壊します。 完璧主義傾向や心配性といった性格の人は、同じ状況でもストレスを強く感じやすく、ストレス反応が長引く傾向があるでしょう。ストレスマネジメントが症状改善に効果的なケースが報告されていることからも、関連性があると言えます。 自己免疫疾患の人に多い性格傾向 研究や臨床観察から、自己免疫疾患を持つ方々に共通して見られる性格傾向があることが示されています。性格特性そのものが疾患を引き起こすわけではありませんが、ストレス反応や生活習慣を通じて健康状態に影響を与える可能性があります。 完璧主義・真面目 完璧主義者は高い基準を自分に課し、些細なミスも許せない傾向があります。もっと頑張るべきといった思いにとらわれ、達成感よりも足りない感覚に支配されがちです。この性格特性は、慢性的な緊張状態をもたらし、ストレスホルモンの分泌を促進させます。 真面目すぎる人は責任感が強く、「NO」と言えずに過剰な負担を抱え込みやすい傾向です。常に頑張り続ける姿勢が、休息不足や疲労の蓄積を引き起こし、免疫系の機能低下につながる可能性があります。 感情をためこみやすい とくに怒りや悲しみなどのネガティブな感情を適切に表現できない人は、それらを内側に抑え込む傾向があります。感情の抑圧は、自律神経系のバランスを崩し、交感神経優位の状態を長期間維持させることになるでしょう。 感情を溜め込むことで、免疫系の調節機能に悪影響を及ぼします。とくに、怒りの感情を表現できない場合、それが身体症状として現れることがあり、これが自己免疫反応を促進する可能性が指摘されています。感情を健全に表現し、処理するのが免疫機能の維持に重要です。 気を遣いすぎる 他者への過剰な配慮や気遣いは、社会的には高く評価される特性ですが、自分自身の健康を犠牲にする場合があります。常に周囲の期待に応えようとし、自分のニーズを後回しにする傾向は、慢性的なストレス源となります。 他者優先の生き方は、自己肯定感の低下や疲労感が蓄積し、免疫系の機能にも悪影響を与えます。自分の境界線が定まらずに断ることが難しい人は、エネルギーを使い果たし回復する時間を確保できないことで、免疫系のバランスが崩れやすくなります。 頑張りすぎる 限界を超えて努力し続ける性格の人は、休息や回復の重要性を軽視しがちです。もっとやらなきゃといった思いに駆られ、身体からの警告サインを無視して活動を続けることがあります。この止まれない性格特性は、慢性的な過労状態を引き起こします。 過度の頑張りは、交感神経の持続的な活性化を招き、コルチゾールなどのストレスホルモン分泌を増加させるのです。これにより、免疫系の調節機能が低下し、炎症反応が過剰になる可能性があります。 適切な休息をとることなく長期間にわたり高いストレス状態が続くと、自己免疫系の異常反応のリスクが高まります。バランスの取れた活動と休息のサイクルの確立が健康維持に重要です。 自己免疫疾患は性格だけが要因ではない 自己免疫疾患の発症メカニズムは複雑で、遺伝的要因、環境因子、ホルモンバランス、感染症など、さまざまな要素が絡み合っています。性格傾向はストレス反応を通じて影響する可能性はありますが、それだけで疾患が発症するわけではありません。 自分を責めない 自己免疫疾患を抱える方が「自分の性格が悪いから病気になった」と自責の念に駆られることがありますが、それは正確ではありません。疾患の発症には、以下の要因があります。 遺伝子 環境汚染物質への曝露 ウイルス感染 ホルモンバランスなど 以上のようなコントロールできない多くの要因が関係しています。 性格傾向がストレスに影響し、免疫系に影響を与える可能性はありますが、多くの要因の一部に過ぎません。完璧主義や頑張り屋といった特性は、社会的には高く評価されることも多く、それ自体が悪いわけではありません。 大切なのは、自分の特性を理解した上で、適切なセルフケアをすることです。自分を責めるのではなく、自分の体調と向き合い、必要なケアをしましょう。 病気の自分を受け入れる 自己免疫疾患は慢性疾患であることが多く、長期的な付き合いが必要です。まずは病気になった自分を受け入れることから始まります。自分の状態を認めることで、適切な対処法を見つける余裕が生まれるでしょう。 自分をいたわることは、ストレス軽減に直結します。以下の項目に気をつけましょう。 十分な睡眠 バランスの良い食事 適度な運動 リラクゼーション法の実践など このような基本的なセルフケアを大切にしましょう。また、断る勇気を持ち、自分の限界の尊重も必要です。 孤独はストレスを増大させるため、家族や友人との絆を大切にし、同じ疾患を持つ方々のコミュニティへの参加も心の支えになります。医師、心理士、栄養士などの専門家からの適切なサポートも、病気の管理には欠かせません。 自分の体調に合わせたライフスタイルの調整も必要です。無理をせず、体調の波に合わせて活動を調整しましょう。 自己免疫疾患と性格に向き合うためのセルフケア 自己免疫疾患と付き合っていく上で、性格傾向に由来するストレスの軽減は、病気の管理において重要です。完璧主義や頑張り屋といった性格特性を持つ方が、より健康的に日常生活を送るためのセルフケア方法を紹介します。 頑張りすぎない 自己免疫疾患を持つ方、完璧主義や責任感の強い性格の方は、体調が悪くても、やるべきことを優先しがちです。しかし、頑張り続ける姿勢が、実は免疫系に大きな負担をかけている可能性があります。 まずは自分の体調や限界を正直に認識することから始めましょう。今日はここまでといった境界線を明確に設け、それを超えないことが重要です。完璧を目指すのではなく、今の自分にとって適切なレベルを新たな目標として設定してみてください。 すべての依頼や期待に応える必要はありません。自分を守るための断る勇気を持ちましょう。過剰な責任感から解放されると、心身の緊張が緩和され、免疫系の働きにもポジティブな影響をもたらす可能性があります。 小さな休息をとる 忙しい日常の中でも実践できる短い休憩を意識的に取り入れましょう。5分から10分程度で行われる深呼吸やストレッチ、軽い運動など、短時間でもリラックスできる活動を日課にすると、ストレスホルモンの分泌を抑制し、自律神経のバランスを整えられます。 デスクワークが多い方は、長時間同じ姿勢でいると疲労が蓄積します。立ち上がって軽いストレッチをする、水分補給のために歩く、窓の外を眺めるなど、意識的に体の緊張をほぐす習慣をつけましょう。週末や休日には、完全に仕事から離れるデジタルデトックスの時間を設けることも効果的です。 自分が本当に楽しめる趣味や活動を見つけ、それを罪悪感なく楽しむ時間を確保するのも重要です。休むことも生産的な活動の一部だと捉えると、休息への抵抗感が減るでしょう。 気持ちを言葉にする 感情をためこみやすい方にとって、感情表現のトレーニングは重要です。信頼できる友人や家族に自分の気持ちを話すと、精神的な負担が軽減されます。話すことに抵抗がある場合は、まずは日記に書き出すことから始めてみましょう。日記をつけることで、自分の感情パターンを客観的に観察できます。 オンラインや対面の患者会など、同じ疾患を持つ人々とのつながりも心の支えになります。共感を得られる環境では、より自然に感情を表現できるようになるでしょう。自分の体験を共有すると、ほかの人の役に立つといった充実感も得られます。 専門家に頼る 自己免疫疾患と性格特性の両方に向き合うには、専門家のサポートが大切です。 定期的に主治医と相談し、症状の変化や治療の効果について率直に話し合いましょう。必要に応じて、栄養士や理学療法士、作業療法士など、多職種の専門家からのアドバイスを受けると、より包括的な健康管理が可能になります。 心身の健康は密接に関連しているため、心理面のケアが身体症状の改善にもつながることがあります。専門家に助けを求めることは、弱さではありません。自分一人で抱え込まず、利用できるサポートを最大限に活用するのは、病気との長い付き合いにおいて重要です。 なお、当院「リペアセルクリニック」では免疫細胞療法を行っております。主にがん予防に関する内容ではございますが、免疫力に不安を感じている方は、ぜひ下記ページもご覧ください。 自己免疫疾患と性格を正しく理解して前向きに善処しよう 自己免疫疾患の発症には、遺伝的要因や環境因子など複合的な要素が関わっており、性格は直接的な原因ではありません。完璧主義や頑張りすぎる傾向、感情を溜め込みやすいといった性格特性は、ストレス反応を通じて免疫系に影響を与える可能性はありますが、それだけで疾患が引き起こされるわけではないことを理解しましょう。 自分を責めるのではなく、自分の体と心に向き合うことが必要です。 頑張りすぎない 小さな休息をとる 気持ちを言葉にする 専門家に頼る このようなセルフケアの実践が大切です。自己免疫疾患といった現実を受け入れながらも、性格特性と上手に付き合うことで、ストレスを軽減し、心身のバランスを整えられます。 病気があっても自分らしく生きるための知恵と工夫を積み重ね、周囲のサポートも活用しながら、前向きな姿勢で日々を過ごしていきましょう。
2025.04.26 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
自己免疫疾患と診断されると、「寿命に影響があるのでは」と不安を感じる方も多いでしょう。実際、病気によっては健康に影響を及ぼすものもありますが、適切な治療と生活習慣の工夫で、十分に健康的な人生を送れます。 なかには、臓器や神経に障害を与える疾患もありますが、近年は医療の進歩により、多くの人が病気と上手に付き合いながら生活できるようになってきています。 本記事では、自己免疫疾患と寿命の関係をはじめ、病名ごとのリスクや注意点、健康寿命を延ばすためのポイントをわかりやすく解説します。不安を解消し、前向きに過ごすためのヒントとして、ぜひ参考にしてください。 【病名別】自己免疫疾患の平均寿命 自己免疫疾患は、免疫が自分の体を攻撃してしまう病気の総称です。症状や進行度は病気によって異なり、予後(寿命の目安)もさまざまです。 以下に、主な病名ごとの特徴と平均寿命の目安をまとめました。あくまで目安であり、実際は個人差が大きいことを理解しておきましょう。 病名 主な症状 寿命の目安(参考) 関節リウマチ 関節の腫れ・痛み・こわばり 平均寿命が10年縮む(文献1) 全身性エリテマトーデス(SLE) 発熱・倦怠感・皮膚や腎臓の障害 5年生存率は95%以上(文献2) 橋本病(慢性甲状腺炎) 疲労感・むくみ・寒がり 適切な治療を受ければ寿命への影響はほとんどない 1型糖尿病 高血糖・多尿・体重減少 女性の場合は7.9年、男性の場合は8.3年程度寿命が短くなる(文献3) 多発性硬化症(MS) 手足のしびれ・視力低下・歩行困難 無治療の場合、寿命は10年減少する(文献4) クローン病 腹痛・下痢・体重減少 診断後10年の累積生存率は96.9%と生命予後は良好(文献5) シェーグレン症候群 目や口の乾き・関節痛 寿命への影響はほとんどない 強皮症(全身性硬化症) 皮膚の硬化・内臓障害 「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」では発症5~6年以内に皮膚硬化の進行及び内臓病変が出現することが多い(文献6) 治療の進歩により、かつては寿命を大きく左右するとされていた疾患も、今ではコントロール可能な慢性疾患として向き合えるようになっています。早期発見と定期的な通院、そして生活習慣の見直しが、より長く元気に過ごすポイントです。不安な症状がある場合は、早めに専門医に相談しましょう。 自己免疫疾患と寿命の関係 自己免疫疾患は、免疫が自分の体の組織や臓器を攻撃してしまう病気です。発症する部位や重症度には幅があり、寿命への影響も病気ごとに異なります。全身性エリテマトーデス(SLE)や強皮症、多発性硬化症(MS)などは、内臓や神経を攻撃するため、重症化すると生命にかかわるリスクが高まります。 治療が困難なケースでは、腎不全・間質性肺炎・肺高血圧症・心筋炎などの合併症を引き起こすことがあり、これが寿命を縮める要因です。全身性エリテマトーデス(SLE)では腎臓障害の進行や、強皮症では肺の機能低下で呼吸不全に至る可能性もあります。 一方で、橋本病(慢性甲状腺炎)やシェーグレン症候群などは、適切な治療を行えば寿命にほとんど影響を与えないとされています。重要なのは、早期発見と正しい治療、そして定期的な検査による合併症の予防です。自己免疫疾患と上手に付き合うことで、健康寿命を延ばせます。 寿命と関係性のある自己免疫疾患と合併症リスク 自己免疫疾患は種類によって寿命への影響が異なります。とくに内臓や血管、神経系に障害を及ぼす疾患では、合併症の発症が命に関わるケースも多いです。 ここでは、自己免疫疾患が引き起こす代表的な合併症について解説し、健康寿命を延ばすために知っておきたいリスクと対策を紹介します。 心血管疾患との関連 自己免疫疾患では、慢性的な炎症が血管の内側(血管内皮)を傷つけ、動脈硬化を進行させると考えられています。さらに、治療に使われるステロイド薬や免疫抑制剤は、副作用として高血圧や脂質異常を引き起こすことがあり、心血管系への負担が大きいです。 とくに全身性エリテマトーデス(SLE)や関節リウマチの患者では、心筋梗塞や脳梗塞といった血管に関するリスクが高いといった研究報告もあります。動脈硬化が早期から進行する可能性があるため、予防的な対策が欠かせません。リスクを抑えるには、定期的な血液検査や血圧・コレステロール値の管理が重要です。 禁煙・減塩・野菜中心の食事・適度な運動といった生活習慣の改善も効果的です。必要に応じて内科や循環器科と連携し、自分に合った管理方法の継続が、心臓や血管を守るポイントとなります。 感染症リスクとの向き合い方 自己免疫疾患の治療では、過剰に働く免疫を抑えるために、ステロイドや免疫抑制剤が用いられることが一般的です。しかし、副作用として本来体を守るべき免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなるといったリスクが伴います。 軽い風邪でも重症化しやすく、肺炎や帯状疱疹、インフルエンザ、新型コロナウイルスなどにも注意が必要です。感染後の回復が遅れやすい傾向もあり、体力や免疫の回復に時間がかかることがあります。 感染症を防ぐには、ワクチンの活用が有効です。インフルエンザや肺炎球菌のワクチンは、主治医と相談して積極的に接種しましょう。 日常生活では以下の項目に注意してください。 手洗い・うがい マスクの着用 人混みを避ける 十分な睡眠 栄養を摂取する など 感染症の重症化を防ぐには、わずかな体調の変化にも早く気づき、早期に受診することが重要です。 がん発症リスク 自己免疫疾患では、体内の慢性的な炎症が長期間続くため、細胞の異常増殖が起こりやすくなり、がんのリスクが高まるとされています。関節リウマチやシェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス(SLE)などの患者では、悪性リンパ腫の発症率が一般の人に比べて高いといったデータがあります。 治療に使われる免疫抑制剤は、長期使用によりがんの発症リスクを高める可能性があると指摘されているのです。こうした背景から、自己免疫疾患を持つ人は、がん検診を定期的に受けることが非常に重要です。 乳がんや大腸がん、子宮頸がんなど、年齢や性別に応じた検診を受け、早期発見・早期治療を心がけましょう。日々の生活では、バランスの取れた食事、禁煙、十分な睡眠、ストレス管理など、日々の生活習慣を整えると、がん予防にもつながります。医師と連携しながら、長期的な健康を守る意識を持ちましょう。 自己免疫疾患における健康寿命を延ばす方法 自己免疫疾患と長く付き合っていくためには、病気とうまく共存する工夫が欠かせません。適切な治療の継続と生活習慣や心のケアを意識すれば、病気の進行を抑えて健康寿命を延ばせる可能性があります。 ここでは、自己免疫疾患における健康寿命を延ばすためにできる、3つの具体的な方法をご紹介します。 適切な医療管理 自己免疫疾患は慢性的に経過する病気であり、病状の変化に応じた医療管理が不可欠です。まず大切なのは、定期的に医療機関を受診し、血液検査や画像診断などで病気の進行や合併症の有無を確認することです。これにより、悪化の兆候を早期に察知し、迅速な対応が可能になります。 また、処方されている薬も時間とともに見直しが必要です。体調や生活状況の変化に応じて、薬の種類や用量を調整したり、新しい治療法を取り入れたりすると、副作用を抑えながら効果的なコントロールが期待できます。 自己判断で薬の中断は危険なので、疑問や不安があれば主治医に相談しましょう。患者自身も病気の知識を深め、医療チームと協力して治療を続けていく姿勢が、健康寿命を延ばす大きな鍵となります。 生活習慣の見直し 自己免疫疾患の進行を抑え、心身の状態を良好に保つには、日々の生活習慣が大きく影響します。とくに栄養バランスのとれた食事は、体の炎症を抑える助けとなります。加工食品や糖分、脂質を控えめにし、野菜や魚、発酵食品などを積極的に取り入れましょう。 無理のない範囲での運動もおすすめです。軽いストレッチやウォーキングは、血流を促し、筋力や免疫力の維持にもつながります。運動の習慣は気分の安定にも役立ちます。 また、禁煙や節酒、十分な睡眠の確保も忘れてはいけません。タバコは血管や免疫系に悪影響を与えるため、とくに避けるべきです。生活を見直し、体に負担の少ない環境を整えると、より安定した日常が送れます。 メンタルケアの重要性 自己免疫疾患は長期にわたって治療が必要になるため、気持ちが落ち込んだり不安を感じたりする場合が少なくありません。 「いつまでこの治療が続くのか」「症状が悪化したらどうしよう」などの悩みが、ストレスとなって体調にも影響を与えることがあります。 心の負担を軽減するには、まず誰かに話すことが大切です。家族や友人に気持ちを共有するだけでも、安心感につながることがあります。必要に応じて心理カウンセリングを受けるのも有効です。 最近では、同じ病気を持つ人同士が交流できるサポートグループやオンラインコミュニティも増えています。自分だけじゃないと感じられる場所があることは、精神的な支えになります。 心と体は密接に関係しているため、心のケアも治療の一環と考え、自分を大切にする時間を持ちましょう。 自己免疫疾患は恐れすぎず健康寿命の最大化を図ろう 自己免疫疾患は、完治が難しい場合もありますが、正しく向き合えば長く元気に暮らせる病気です。大切なのは「病気と共に生きる」といった姿勢を、前向きに持つことです。恐れすぎて閉じこもるのではなく、自分にできるケアや対策を日々積み重ねて、生活の質を高く保ちましょう。 症状をコントロールしながら、心身ともに安定した生活を送ることは、決して夢ではありません。自己免疫疾患と上手に付き合いながら、自分らしい人生を歩み、ぜひ健康寿命の最大化を目指してください。焦らず、自分のペースで続けることが大切です。 参考文献 文献1 宗像靖彦クリニック「リウマチについて」宗像靖彦クリニックホームぺージ https://munakata-cl.jp/content/riumachi/(最終アクセス:2025年4月15日) 文献2 難病情報センター「全身性エリテマトーデス(SLE)(指定難病49)」難病情報センターホームページ、2024年4月1日 https://www.nanbyou.or.jp/entry/215(最終アクセス:2025年4月15日) 文献3 おかもと内科・糖尿病クリニック「1型糖尿病」おかもと内科・糖尿病クリニックホームページ https://www.okamoto-diabetes-cl.com/diabetes-types1/(最終アクセス:2025年4月15日) 文献4 地方独立行政法人 東京都立病院機構 がん・感染症センター 都立駒込病院「多発性硬化症(Multiple Sclerosis, MS)とは」がん・感染症センター 都立駒込病院ホームページ https://www.tmhp.jp/komagome/outpatient/special/PML_MS_NMOcenter/tahatsusei_kokasho.html(最終アクセス:2025年4月15日) 文献5 難病情報センター「クローン病(指定難病96)」難病情報センターホームページ、2024年4月1日 https://www.nanbyou.or.jp/entry/219(最終アクセス:2025年4月15日) 文献6 難病情報センター「全身性強皮症(指定難病51)」難病情報センターホームページ、2024年4月1日 https://www.nanbyou.or.jp/entry/4027(最終アクセス:2025年4月15日)
2025.04.26 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
自己免疫疾患は、原因がはっきりとわかっていないことも多く、完治が難しいといわれています。しかし、実際には適切な治療と生活習慣の見直しによって、症状が大幅に改善し、日常生活にほとんど支障がない状態を目指すことが可能です。 本記事では、「自己免疫疾患は治ったと言えるのか?」といった疑問に対し、医学的な視点からわかりやすく解説。前向きに症状と向き合うための具体的なポイントも紹介します。 自己免疫疾患とは 自己免疫疾患とは、本来外敵から体を守るはずの免疫システムが誤って自分自身の細胞や組織を攻撃してしまう病気です。 この誤った免疫反応によって、体内で炎症が起こり、さまざまな症状や臓器障害を引き起こします。多くの場合、完全な治癒は難しく、長期的な管理が必要です。 ここからは、自己免疫疾患の基本的な仕組みや特徴を説明します。 自己免疫疾患の基本的な仕組み 自己免疫疾患は、免疫システムが正常な自己の細胞や組織を異物と誤認識し攻撃する疾患です。通常、免疫系は「自己」と「非自己」を区別して、ウイルスや細菌などの異物だけを排除します。 しかし、この識別機能に障害が生じると、自分の組織に対して免疫反応が起こります。自己免疫疾患は、全身に炎症が広がる「全身性自己免疫疾患」と、特定の臓器を攻撃する「臓器特異的自己免疫疾患」に分類されます。 たとえば、関節リウマチやSLEは「全身性自己免疫疾患」、1型糖尿病や橋本病は「臓器特異的自己免疫疾患」です。 自己免疫疾患の特徴 自己免疫疾患の大きな特徴は、慢性的な炎症や組織の破壊が長期にわたって進行する状態です。多くの場合、症状は寛解と再燃を繰り返し、徐々に悪化します。 自己免疫疾患の原因は複雑で、遺伝的要因、環境要因(感染、ストレス、紫外線暴露など)、自己抗原に対して免疫反応を示すなど複雑です。女性に多く発症する傾向があり、ホルモンの影響も示されています。診断は難しく、複数の検査や専門医の診察が必要です。 自己免疫疾患の完治が難しい理由 自己免疫疾患は一度発症すると、現在の医学では完全な治癒が難しい病気です。多くの場合、薬物療法などで症状をコントロールしながら共存していくことが治療の中心となります。病気と上手に付き合いながら、生活の質を維持していきましょう。 原因が完全には解明されていないため 自己免疫疾患の完治が難しい最大の理由は、その発症メカニズムや病態が複雑で、原因が完全には解明されていないことにあります。免疫システムのどの部分がどのように破綻し、なぜ自己を攻撃するようになるのかについては、多くの研究が進められているものの、まだ解明されていない点が多いです。 遺伝因子と環境因子の複雑な相互作用、個人差の大きさなども、治療法の開発を困難にしています。現在の治療は原因を取り除くのではなく、症状の緩和に主眼が置かれています。 自己免疫反応を完全に止めることが難しい 自己免疫疾患の治療では、異常な免疫反応の抑制が中心となりますが、自己免疫反応だけを選択的に抑える方法は限られています。現在の免疫抑制療法は、ステロイドや免疫抑制剤などを用いて免疫機能全体を抑制するため、症状の改善とともに、感染症へのリスク増加などの副作用も伴います。 特定の自己抗原に対する免疫反応のみを抑制する治療法の開発は進んでいるものの、実用化には至っていないケースが多いです。さらに、一度発症した自己免疫記憶は長期間持続するため、治療を中断すると再発が多いといった課題もあります。 自己免疫疾患における「治った」とは 自己免疫疾患では「治った」といった表現が医療現場と患者の間で認識のずれを生むことがあります。 多くの自己免疫疾患では真の意味での完治は難しく、むしろ「コントロールされている状態」や「寛解」といった概念が重要になります。患者様が自分の状態を正しく理解することが、長期的な疾患管理には欠かせません。 「完治」と「寛解」の違い 自己免疫疾患において、「完治」と「寛解」は医学的に異なる概念です。 項目 完治 寛解 定義 治療を終了しても症状が再発せず、病気が完全に消失した状態 症状が一時的に消失または軽減しているが、治療継続や経過観察が必要な状態 治療 投薬や治療が不要 治療の継続が必要 状態 疾患前の健康状態に戻る 体内では免疫学的な異常が継続していることが多い リスク 再発のリスクが極めて低い 治療を中断すると再燃するリスクがある 多くの自己免疫疾患では、完全な「完治」よりも「寛解」を目指した治療が現実的なアプローチとなります。寛解状態に達すれば、症状がない、または最小限の状態で日常生活を送ることが可能です。 重要なのは、たとえ症状がなくなっても定期的な検査や治療を継続することで、再燃を防ぎ長期的な健康を維持することです。 医療機関で使われる「寛解」の基準 医療現場では、自己免疫疾患の寛解を評価するため、いくつかの客観的な基準が用いられています。 臨床的寛解は、痛みや腫れなどの自覚症状や血液検査での炎症マーカーが消失した状態を指し、関節リウマチではDAS28(疾患活動性スコア)などの指標で評価されます。構造的寛解は、X線やMRIなどの画像検査で関節破壊や臓器障害の進行が停止している状態です。機能的寛解は、患者の日常生活動作に支障がない状態で、HAQ(健康評価質問票)などで評価されます。 これらの寛解基準を満たし、治療目標として設定されるケースが増えています。 自己免疫疾患の寛解を目指すためにできること 自己免疫疾患と診断されても、適切な治療と生活管理によって症状をコントロールし、寛解状態を目指せます。医師との協力関係を築き、治療を継続しながら、日常生活での自己管理にも取り組めば、病気と上手に付き合っていけます。 医師の指導に基づく適切な治療 自己免疫疾患と診断された場合の医師の指導に基づく適切な治療として、以下の2点を解説していきます。 薬物療法 定期的な検査と経過観察 薬物療法 ステロイド薬は多くの自己免疫疾患で治療の中心となり、強力な抗炎症作用によって症状をコントロールするために使用されます。急性期には高用量で開始し、症状の改善に伴って徐々に減量していくのが一般的です。 必要に応じて免疫抑制薬(アザチオプリン、メトトレキサートなど)を併用し、病状に応じて複数の薬剤を組み合わせることもあります。近年では、より標的を絞った生物学的製剤も選択肢として増えています。 ステロイド薬の減量後も、再燃予防のために免疫抑制療法を継続するケースが多く見られます。長期使用による副作用(眼圧上昇や緑内障、骨粗鬆症など)を防ぐため、定期的な検査が必要です。 定期的な検査と経過観察 自己抗体検査や血液検査で炎症や疾患活動性をモニタリングし、病態の進行や治療効果の確認は寛解の維持に欠かせません。炎症マーカーや自己免疫関連検査の数値変化は、目に見える症状が現れる前に体内の病気を反映する場合があります。 病状が安定していても、再燃のリスクがあるため定期的なフォローアップが推奨されます。検査結果は時期や体調によって変動するため、一時的な変化に一喜一憂せず、時間の経過を追うのが重要です。発熱や倦怠感などの症状悪化時には迅速に医療機関を受診し、治療方針の見直しを行う必要があります。 生活習慣の見直し 自己免疫疾患の管理には、薬物療法だけでなく日常生活の改善も重要な役割を果たします。 食事・運動・ストレス管理の3つの視点から生活習慣を見直しましょう。 バランスの取れた食事 自己免疫疾患には抗炎症作用のある食品が効果的です。 積極的に摂取したいもの 高たんぱく、高繊維食 新鮮な野菜や果物 青魚(オメガ3脂肪酸が豊富) 発酵食品(腸内環境を整える) セレン、鉄、亜鉛、マグネシウムなどのミネラル これらの食品は免疫システムのバランスを整え、炎症を抑制する働きがあります。特に個人の体質や症状に合わせた食事選択が重要です。 控えめにしたいもの 加工食品 高脂肪食品 精製糖質 これらの食品は体内の炎症を悪化させる可能性があるため、可能な限り自然食品を中心とした食生活を心がけましょう。 適度な運動と休息 適切な運動は炎症を抑制し、気分向上にも効果があります。 おすすめの運動 軽いウォーキング ヨガ 水中運動など低強度の運動 休息のポイント 十分な睡眠を確保する 疲労感を感じたらすぐに休む 体調に合わせて運動の強度や時間を調整する 無理のない範囲で定期的に運動することで、血流が改善され、免疫系の正常化を促進します。一日15~30分から始めてみましょう。 ストレス管理 ストレスは自己免疫疾患の発症や悪化の重要な要因です。 効果的な方法 深呼吸、瞑想、マインドフルネス 趣味や創作活動 自然の中で過ごす時間 患者会への参加や同じ疾患を持つ人との交流 必要に応じてカウンセリングや心理療法 ストレス管理は薬物療法と同じくらい重要な治療の一環です。自分に合ったリラクゼーション方法を見つけ、日常生活に取り入れていきましょう。 自己免疫疾患と向き合うために大切な考え方 自己免疫疾患は長期にわたって付き合っていく必要のある病気です。寛解と再燃を繰り返すことも多く、時に心理的な負担も大きくなります。しかし、適切な治療と心構えによって、病気があっても充実した人生を送ることは十分に可能です。病気と上手に付き合うための考え方を身につけましょう。 正しい情報を取り入れ自分に合った治療を続ける 自己免疫疾患と向き合うためには、まず医療機関や専門医からの正確な情報を基に、自分の病状やライフスタイルに合った治療法を選択しましょう。インターネット上には多くの情報がありますが、科学的根拠のない治療法や民間療法に惑わされないよう注意が必要です。 処方された薬を自己判断で中止したり、用量を変更したりせず、医師の指示に従うのが寛解への近道となります。治療には薬物療法だけでなく、食事や運動、ストレス管理などの生活習慣の見直しも含まれます。自分の体調の変化を記録し、医師との診察時に共有するのも効果的です。 自分を責めない・周囲に頼る 自己免疫疾患は本人の意思や生活習慣だけが原因ではなく、遺伝的要因や環境要因が複雑に絡み合って発症します。病気による制限や不安から自分を責めるのではなく、「今できること」に焦点を当てる姿勢が大切です。完璧を求めず、調子の良い日も悪い日も自分の体を尊重する心構えを持ちましょう。 一人で抱え込まず、家族や友人、患者会など周囲のサポートを積極的に活用し、孤立を防ぐことも重要です。必要に応じて心理カウンセラーなどの専門家に相談も、心理的な負担軽減になるでしょう。病気があっても自分らしい生活を送るためには必要です。 自己免疫疾患は「寛解」を目指して前向きに治療しよう 完治が難しい自己免疫疾患では、症状をコントロールし安定した状態(寛解)を目指すことが現実的な治療目標となります。現代の医療では、早期発見と適切な治療により、多くの患者様が症状を抑えながら日常生活を送っています。 医療機関や専門医から正確な情報を得て、自分の病状やライフスタイルに合った治療法の選択が大切です。薬物療法を基本としながら、バランスの取れた食生活や適度な運動、十分な休息、ストレス管理などの生活習慣の改善も治療の助けとなります。 病気による制限や不安から自分を責めず、できることとできないことを見極める柔軟性を持ちましょう。家族や友人、患者会などのサポートを積極的に活用して孤立感を防ぎ、必要に応じて専門家の心理的サポートを受けることも有効です。自己免疫疾患があっても、工夫と周囲の理解があれば、充実した人生を送ることは十分に可能です。 なお、当院「リペアセルクリニック」では免疫細胞療法を提供しております。 主にがん予防に関する内容ではございますが、免疫力に関してお悩みを抱えている方は、以下のページもあわせてご覧ください。
2025.04.26 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
「自己免疫疾患っていう名前は聞いたことあるけど、どんな病気かはよく知らない」 そんな方も多いのではないでしょうか?気になって調べ始めた方も多いかもしれません。 自己免疫疾患は、体を守るはずの免疫が、間違えて自分を攻撃してしまう病気です。名前だけ聞くと怖いイメージを持つかもしれませんが、正しく理解すれば、過度に心配する必要はありません。 この記事では、自己免疫疾患の基本や、よくある症状、治療についてわかりやすく紹介していきます。 自己免疫疾患とは 自己免疫疾患とは、私たちの体を守るはずの免疫システムが誤って自分自身の細胞や組織を攻撃してしまう病気です。通常は外敵から体を守る防御システムが、なんらかの理由で自分の体を敵と認識してしまい、慢性的な炎症や臓器障害を引き起こします。多くは完治が難しく、長期的な管理が必要となります。 免疫の基本的な役割 免疫とは、私たちの体に侵入したウイルスや細菌などの病原体を発見し、攻撃・排除するための防御システムです。白血球を中心とした免疫細胞が体内をパトロールし、異物を見つけると速やかに反応して体を守ります。 健康な免疫システムの最も重要な特徴は、「外敵」と「自己」を正確に区別できることです。免疫細胞は特殊なタンパク質を使って、体に入ってきた細菌やウイルスなどの異物を識別し、攻撃します。一方で、自分の体を構成する細胞や組織は「自己」として認識し、攻撃しないようプログラムされています。 この「自己」と「外敵」の区別が免疫システムの基本原理です。 自己免疫疾患の状態 自己免疫疾患では、本来味方であるはずの自分自身の組織や臓器を、免疫システムが「外敵」と間違えて攻撃してしまいます。これは、体を守るための軍隊が誤って自国の市民を攻撃しているような状態と言えるでしょう。 誤った攻撃は持続的に行われるため、攻撃の対象となる組織や臓器では慢性的な炎症が起こり、時間とともに機能障害が生じます。たとえば、膵臓のインスリン産生細胞が攻撃されれば1型糖尿病に、関節の滑膜が攻撃されれば関節リウマチになります。 自己免疫疾患の主な症状 自己免疫疾患の症状は非常に多様で、疾患の種類や進行度によって大きく異なります。共通する特徴として、慢性的な疲労感、原因不明の発熱、関節痛、皮膚の発疹などが見られます。症状が良くなったり悪化したりを繰り返す「寛解と再燃」のパターンを示すことも特徴的です。 症状が出る場所による違い 自己免疫疾患は攻撃される部位によって症状が大きく異なります。たとえば、関節リウマチでは免疫系が関節の滑膜を攻撃するため、関節の痛みや腫れ、朝のこわばりといった症状が特徴的です。全身性エリテマトーデス(SLE)では、皮膚や腎臓、心臓など複数の臓器が攻撃対象となり、蝶形紅斑と呼ばれる顔の発疹や腎機能障害などの症状が現れます。 消化器系が影響を受ける疾患としては、クローン病や潰瘍性大腸炎があり、腹痛や下痢、血便などの症状を引き起こします。甲状腺が攻撃されるバセドウ病では、動悸や発汗、体重減少などの甲状腺機能亢進の症状が現れるでしょう。 一つの自己免疫疾患であっても、複数の臓器や組織に影響を及ぼすことが少なくありません。たとえば、シェーグレン症候群では涙腺や唾液腺が攻撃され、ドライアイやドライマウスの症状が出現しますが、同時に関節や肺、腎臓にも影響が及ぶことがあります。 自己免疫疾患の代表的な種類 自己免疫疾患にはさまざまな種類があり、それぞれ特徴的な症状を示します。下記の表では、代表的な自己免疫疾患とその主な症状をまとめました。 疾患名 主な症状 バセドウ病 甲状腺機能亢進による動悸、体重減少、発汗過多、手の震え、目の突出など 関節リウマチ 関節の痛み・腫れ・こわばり、とくに手指や手首の関節に多く見られる、疲労感 橋本甲状腺炎 甲状腺機能低下による倦怠感、寒がり、体重増加、むくみ、皮膚の乾燥、便秘など 1型糖尿病 口渇、多飲、多尿、体重減少、疲労感、血糖値の上昇 全身性エリテマトーデス(SLE) 蝶形紅斑(顔の発疹)、関節痛、光線過敏、腎障害、貧血、発熱、疲労感 血管炎 血管の炎症による発熱、疲労感、体重減少、発疹、臓器障害(腎臓、肺、神経など) アジソン病 副腎皮質ホルモン不足による倦怠感、筋力低下、低血圧、皮膚の色素沈着、吐き気など 多発性筋炎 近位筋(肩や腰の筋肉)の対称性の筋力低下、筋肉痛、嚥下障害、間質性肺疾患 シェーグレン症候群 目や口の乾燥(ドライアイ、ドライマウス)、関節痛、疲労感、発熱 進行性の全身性強皮症 皮膚の硬化・緊張、レイノー現象(指先の色調変化)、関節痛、消化器症状、肺線維症 糸球体腎炎 血尿、蛋白尿、浮腫、高血圧、腎機能低下 (文献1) 症状は疾患によって大きく異なりますが、多くの自己免疫疾患では疲労感や発熱などの全身症状も共通して見られます。複数の自己免疫疾患を同時に発症する場合もあります。 自己免疫疾患の多くは完全な治癒は難しいものの、早期発見と適切な治療によって症状をコントロールし、生活の質を維持できます。 自己免疫疾患の原因 自己免疫疾患の正確な発症メカニズムは、現在も研究が進められています。単一の原因ではなく、遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。特徴的なのは、多くの自己免疫疾患で明らかな性差が見られることです。 遺伝的要因 自己免疫疾患には、家族内での発症傾向が認められるケースが多く、遺伝的な要素が重要な役割を果たしていると示唆されています。 とくに注目されているのが、HLA(ヒト白血球抗原)と呼ばれる遺伝子群です。これらの遺伝子は免疫システムの制御に関わっており、特定のHLA型を持つことで、特定の自己免疫疾患のリスクが高まることがわかっています。たとえば、HLA-DR4は関節リウマチと関連があるとされています。 しかし、遺伝的素因があるだけでは通常発症しません。同じ遺伝子を持つ一卵性双生児でも、両方が必ず発症するわけではないことから、遺伝子と環境要因の相互作用が重要と考えられています。 環境要因 環境要因は自己免疫疾患の引き金として働くことがあります。とくにウイルス感染は注目されている要因の一つです。たとえば、EBウイルス(エプスタイン・バーウイルス)は多発性硬化症や全身性エリテマトーデス(SLE)の発症リスクと関連があるとされています。 喫煙も重要な環境要因です。とくに関節リウマチでは、喫煙者は非喫煙者に比べて発症リスクが高くなります。また、全身性エリテマトーデス(SLE)では紫外線曝露が症状の悪化を引き起こすことが知られています。 強いストレスや過労も免疫系のバランスを乱す要因です。ストレスによるホルモンバランスの変化が免疫系に影響を与え、自己免疫疾患の発症や悪化につながる可能性が示唆されています。食生活や腸内細菌叢の変化も、近年研究が進んでいる分野です。 性差 自己免疫疾患の大きな特徴の一つに、女性の発症率が男性より高いことがあげられます。たとえば、アメリカでは、全身性エリテマトーデス(SLE)やシェーグレン症候群、関節リウマチなどでは、患者の80%が女性と報告されています。(文献2) この性差の主な原因は、女性ホルモン、とくにエストロゲンの影響と考えられています。エストロゲンには免疫系を活性化する作用があり、自己免疫反応を促進する可能性があるためです。 妊娠中や授乳期、更年期などホルモンバランスが大きく変化する時期に、自己免疫疾患の症状が変動する場合も多いです。関節リウマチは妊娠中に症状が改善し、出産後に悪化する症例がありますが、これはエストロゲンレベルの変動と関連していると考えられています。 自己免疫疾患の診断方法 自己免疫疾患の診断には複合的なアプローチが必要です。まず医師は詳細な問診をして、症状の経過や家族歴、生活習慣などを確認します。続いて身体診察で関節の腫れや皮膚の変化、内臓の異常などを評価します。 血液検査は、赤血球沈降速度(赤沈)や血算などです。必要に応じてX線検査、CT、MRI、超音波などの画像検査もして、関節や内臓の状態を詳しく観察します。場合によっては、生検(組織の一部を採取して顕微鏡で調べること)も診断には必要です。 自己免疫疾患の診断は単一の検査結果だけで確定できることは少なく、各種検査結果と臨床症状を総合的に判断します。 自己免疫疾患の治療方法 自己免疫疾患の治療では、免疫システムの過剰な反応を抑え、炎症を軽減させることが主な目標です。これにより症状をコントロールし、長期的な臓器障害を防ぎます。 治療薬としては、炎症を抑えるステロイド剤、免疫反応を抑制する免疫抑制剤などが用いられます。 治療は個々の患者の症状や重症度、年齢、合併症などを考慮して個別に計画されます。早期発見・早期治療が予後を大きく改善するため、症状に気づいたら早めの専門医への受診が重要です。定期的な通院と治療の継続が長期的なQOL(生活の質)の維持につながります。 自己免疫疾患における日常生活で気をつけたいポイント 感染症予防 ストレス管理 生活習慣の維持 自己免疫疾患と共に生きていく上で、日常生活での自己管理が重要です。多くの治療薬は免疫力を抑制するため、感染症にかかりやすくなります。手洗いやマスク着用などの基本的な感染予防策を心がけ、周囲に感染症の人がいる場合は接触を避けることも大切です。 ストレスは多くの自己免疫疾患の症状を悪化させる要因となるため、効果的なストレス管理法を見つけることが重要です。瞑想やヨガ、趣味に取り組むなど、自分に合ったリラックス法を取り入れましょう。 規則正しい生活習慣の維持も大切です。十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動は免疫の働きをサポートします。とくに疲労は症状悪化の引き金になることが多いため、無理をせず、必要に応じて休息を取りましょう。 自分の体調の変化に敏感になり、悪化のサインの早期発見も重要です。症状の日記をつけると、医師とのコミュニケーションに役立てられます。 自己免疫疾患を正しく理解し悩んだら早めの相談を 自己免疫疾患は、体の免疫システムが自分自身の組織を攻撃してしまう慢性疾患です。完全な治癒は難しいものの、医学の進歩により、多くの患者さんが症状をコントロールしながら充実した生活を送れるようになっています。 自己免疫疾患の多くは早期発見・早期治療が非常に重要です。関節の痛みや腫れ、原因不明の疲労感、皮膚の変化など、気になる症状が続く場合は、迷わず医療機関を受診しましょう。家族に自己免疫疾患の方がいる場合は、より注意が必要です。 インターネット上にはさまざまな情報が溢れていますが、自己判断で治療を中断したり、科学的根拠のない民間療法に頼ることは危険です。不安や疑問があれば、必ず担当医に相談しましょう。 患者会や支援グループなどのコミュニティも、情報共有や精神的なサポートを得る貴重な場です。同じ悩みを持つ人々との交流は、病気と向き合う勇気や知恵を与えてくれます。 自己免疫疾患と診断されても、適切な治療と自己管理によって、多くの方が充実した人生を送っています。正しい知識を持ち医療者と協力しながら、自分らしい生活を築いていきましょう。 参考文献 文献1 MSDマニュアル家庭版「自己免疫疾患」MSDマニュアル、2022年 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/15-%E5%85%8D%E7%96%AB%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E5%8F%8D%E5%BF%9C%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BB%96%E3%81%AE%E9%81%8E%E6%95%8F%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%87%AA%E5%B7%B1%E5%85%8D%E7%96%AB%E7%96%BE%E6%82%A3(最終アクセス:2025年4月13日) 文献2 早川純子ほか「性差医学からみた自己免疫疾患」『日大医誌』72(3).pp150-153、2013年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/72/3/72_150/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年4月13日)
2025.04.26 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
自己免疫疾患は、いまだにはっきりとした原因がわかっていない病気が多く、診断された方の多くが不安を抱えています。 「もしかしてストレスが原因?」「自分の生活に問題があったの?」と自分を責めてしまう人も少なくありません。 この記事では、自己免疫疾患の基本から原因に関する最新の考え方、そしてストレスとの関係についてわかりやすく解説します。 毎日の生活でできるストレスケアについても紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。 自己免疫疾患の基礎知識 自己免疫疾患とは、本来なら外敵から体を守るはずの免疫システムが、誤って自分自身の細胞や組織を「敵」と認識して攻撃してしまう病気です。つまり、私たちの体を守るべき免疫が、逆に自分自身に向かってしまう状態を指します。 免疫システムの誤作動によって、体内では慢性的な炎症反応が引き起こされ、さまざまな臓器や組織に障害が生じるようになります。症状や重症度は疾患によって大きく異なり、軽い体調不良から、日常生活に支障をきたす重症な状態、さらには命に関わるケースまで幅広く存在するのです。 発症の仕組みは完全には解明されていませんが、遺伝的要因、環境要因、ホルモンバランスの乱れなど、複数の要素が関与していると考えられています。 代表的な自己免疫疾患には、以下のような病気があります。 バセドウ病 関節リウマチ 橋本甲状腺炎 1型糖尿病 全身性エリテマトーデス 血管炎 アジソン病 多発性筋炎 シェーグレン症候群 進行性の全身性強皮症 糸球体腎炎 これらの疾患は、現代の医療でも完全な治癒が難しい場合が多いものの、早期発見と適切な治療により、症状の進行を抑えたり、生活の質を維持したりすることが可能です。 近年では新しい治療薬も登場し、より多くの患者様が日常生活を大切にしながら治療を続けられるようになっています。疾患への理解を深め、早めの対応を心がけることで、日常生活を送れるようになるでしょう。 【関連記事】 自己免疫疾患とは?原因・症状・代表的な病気をわかりやすく解説 関節リウマチの初期症状は?チェックリスト付きで現役医師が解説 自己免疫疾患の原因はストレスだけじゃない! 自己免疫疾患の発症メカニズムは複雑で、単一の原因ではなく複数の要因が組み合わさって発症すると考えられています。ストレスも一因ですが、それだけではありません。以下の要因が考えられます。 遺伝的な要因 自己免疫疾患には遺伝的な素因が大きく関わっています。家族に自己免疫疾患の患者がいる場合、ほかの家族も同様の、あるいは別の自己免疫疾患を発症するリスクが高まることが研究で示されています。特定の遺伝子変異が免疫系の調節機能に影響を与え、自己免疫反応を起こしやすくする体質を作ると考えられるのです。 ただし、遺伝的要因があるからといって必ず発症するわけではありません。同じ遺伝子を持つ一卵性双生児でも、片方だけが発症するケースも多く見られます。つまり遺伝は「発症しやすさ」を決める要因の一つに過ぎず、他の環境要因との相互作用が重要です。 環境要因 環境要因は自己免疫疾患の発症や進行に大きく関係します。特定のウイルスや細菌感染が免疫系を刺激し、その後の免疫反応の誤作動につながるケースです。 EBウイルス感染後に多発性硬化症や全身性エリテマトーデス(SLE)のリスクが高まることや、紫外線を過度に浴びることは、全身性エリテマトーデス(SLE)などの悪化要因と言われています。 喫煙も多くの自己免疫疾患のリスク因子として知られており、可能なら禁煙することをおすすめします。 ホルモンバランスや性差 自己免疫疾患の多くは女性の発症率が圧倒的に高く、その背景にはホルモンバランスの影響が考えられています。エストロゲンなど女性ホルモンは免疫系の活性化に関わる一方、テストステロンなど男性ホルモンには免疫反応を抑制する効果があるとされています。 思春期、妊娠期、産後、更年期など、女性のライフステージにおけるホルモン変動期に発症や症状変化が見られることも特徴的です。妊娠中に症状が改善する疾患がある一方、産後に症状が悪化したり発症したりする疾患もあり、ホルモンの複雑な影響が示唆されています。 ストレスと自己免疫疾患の関係 自己免疫疾患とストレスには複雑な関連性があります。近年の研究では、ストレスが免疫機能に影響を与え、自己免疫疾患の発症や悪化に関係する可能性が示されています。ストレスと免疫機能の関係性を正しく理解しておきましょう。 ストレスが免疫システムに与える影響 ストレスを感じると、人の体では以下のような変化が起こります。 交感神経が活性化する アドレナリンやノルアドレナリンなどのストレスホルモンが分泌される コルチゾールの分泌が増え、免疫系に影響を与える 長期的なストレスで免疫システムのバランスが崩れる 慢性的な炎症が進行し、自己免疫反応のリスクが高まる これらの変化は短期的には体を守りますが、長期間続くと問題が生じます。コルチゾールが長期間多い状態では、免疫機能を抑制する一方で炎症を促進し、このバランスの崩れが自己免疫反応を誘発しやすくします。 また、ストレスは睡眠や食生活にも悪影響を与え、間接的にも免疫機能を低下させます。心身の健康を保つためには、日常的なストレス対策が大切です。 ストレスが「引き金」になることもある 強い精神的ショックや、長く続くストレスの後に自己免疫疾患が現れることがあります。また、すでに病気がある人では症状が悪くなることもあります。 たとえば、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの患者様の多くが、発症前に大きなライフイベントや精神的ストレスを経験していたことを挙げています。 これは、ストレスによって遺伝的素因が「表面化」するものと考えられるでしょう。自己免疫疾患の素因をもともと持っていたとしても、通常の生活では発症しない場合が多いのですが、強いストレスを受けたことで発症に至る可能性が高まるのです。 慢性的なストレスによって免疫の働きが乱れ、自分の体を攻撃する抗体が作られやすくなるため、病気が進行する原因になる可能性があると指摘されています。こうした背景からも、心身のストレスマネジメントは、自己免疫疾患の予防や症状コントロールにおいて非常に重要な要素といえるでしょう。 ストレスだけが原因ではない ストレスは自己免疫疾患の発症や悪化において重要な要素の一つですが、それ単独で病気の原因になるわけではありません。 自己免疫疾患は典型的な「多因子疾患」とされ、遺伝的素因、環境因子、感染症、ホルモンバランスの変化など、さまざまな要因が複雑に絡み合って発症に至ります。ストレスはその中の一因にすぎず、必ずしも決定的な要素ではないのです。 患者様がこのことを理解するのは非常に重要です。「ストレスをためたから病気になった」と自分を責めるのではなく、複数の要因が重なった結果であると冷静に受け止めることが、前向きな治療への第一歩となります。 治療においても、ストレス管理は大切な柱ですが、それだけで完結するわけではありません。医学的な治療、適切な薬物療法、栄養バランスの取れた食事、十分な休養や運動など、生活全体を見直す総合的なアプローチが必要です。治療とセルフケアの両輪で症状のコントロールを目指していきましょう。 自己免疫疾患を防ぐストレスをためない方法 自己免疫疾患の予防や症状コントロールにおいて、ストレス管理は重要な要素の一つです。日常生活の中で無理なく続けられるストレス対策を取り入れ、心身のバランスを整えることが大切です。 自律神経や生活リズムを整える 日常生活でできるストレス対策として、以下の方法を取り入れてみましょう。 深呼吸や瞑想などのリラクゼーション法を実践する 趣味や好きなことに没頭する時間を確保する 規則正しい生活リズムを維持する 適度な運動を取り入れる バランスの取れた食事を心がける 質の良い睡眠をとる(就寝前のスマートフォン使用を控える) 自律神経のバランスを整えることは、ストレスに強い体づくりの基本です。朝起きた時や寝る前に5分間の深呼吸をするだけでも、リラックス効果が得られます。 また、音楽を聴く、読書をするなど、楽しい活動に集中する時間を意識的に作りましょう。趣味に没頭している時間は、ストレスホルモンの分泌が自然と抑えられます。 さらに、同じ時間に寝起きする習慣や適切な運動、バランスの良い食事も自律神経の安定につながります。特に質の良い睡眠は免疫機能の回復に欠かせません。 専門家との連携 自己免疫疾患を抱えている方のストレスケアは、自己流で行うよりも専門家のサポートを受けながら進めることが望ましいです。まずは主治医に現在のストレス状況や心配事を相談し、医学的見地からのアドバイスを受けましょう。 症状や状況によっては、心理カウンセラーや心療内科医など、メンタルヘルスの専門家のサポートを受けることも検討してください。認知行動療法などの心理療法は、ストレスへの対処法を学び、ネガティブな思考パターンを変えるのに効果的です。 自己免疫疾患の治療では、薬物療法による症状のコントロールと並行して、生活改善やメンタルケアをバランスよく取り入れることが大切です。患者会やオンラインコミュニティなどで同じ疾患を持つ人たちと交流するのも、精神的な支えになります。一人で抱え込まず、医療従事者や周囲の理解者と連携しながら、自分に合ったストレス管理法を見つけていきましょう。 自己免疫疾患とストレスの関係を正しく理解して、自分を守ろう 自己免疫疾患は、遺伝的要因、環境要因、ホルモンバランス、そしてストレスなど、さまざまな要素が複雑に影響し合って起こります。ストレスはその一部ですが、ストレスだけで発症するわけではありません。 大切なのは、「病気になったのは自分のせい」と自分を責めるのではなく、「自分の体と心を大切にする」という前向きな姿勢です。適切なストレス管理は症状の安定につながり、生活の質も向上します。自分のペースを尊重し、無理のない生活習慣を心がけましょう。 必要なときは周囲や専門家のサポートを求めることも大切です。小さな積み重ねが、自己免疫疾患とともに生きる上での大きな力になります。 なお、当院「リペアセルクリニック」では免疫細胞療法を提供しております。主にがん予防に関する内容ではございますが、免疫力に関して不安がある方は、以下のページもあわせてご覧ください。
2025.04.26 -
- 肘関節、その他疾患
- 肘関節
「テニス中に肘の外側を痛めた」 「テーピングをしながら様子を見ているけれど、本当に効果があるのかを知りたい」 このようなお悩みを持たれている方もいらっしゃることでしょう。 テーピングには、ケガの防止や応急処置など、複数の目的や効果があります。 本記事では、テーピングの方法や目的、効果などについて解説します。 整形外科を受診するタイミングについても解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。 肘の外側におけるテーピングの巻き方 ここでは、肘の外側が痛むときのテーピング方法を紹介します。第三者に巻いてもらう方法です。 本項目で紹介する方法では、キネシオロジーテープと呼ばれるテープを5本使用します。キネシオロジーテープとは、皮膚にしっかりと貼りつく伸縮性があるテープで、筋肉や筋膜の動きをサポートしたり循環を良くしたりする働きがあるものです。(文献1) また、以下で紹介しているものはあくまでも一例です。テーピングの方法は使用するテープによって異なります。購入したテープの取扱説明書や注意書きなどをよく読んでから行いましょう。 1本目の巻き方:短橈側手根伸筋の補助 1本目のテープを巻く前に、肘を90度に曲げて、手首を手のひら側に向けてください。その体勢で、肘から手首に向かってテープを貼ります。 テープは前腕の長さに合わせてカットしてください。 2本目の巻き方:総指伸筋の補助 1本目のテープと同じく、肘から手首に沿ってテープを貼ります。貼る場所は、1本目のテープよりも、やや小指側です。 1本目同様に、テープは前腕の長さに合わせてカットしてください。 3本目の巻き方:長橈側手根伸筋の補助 1本目、2本目のテープと同じように、肘から手首に沿ってテープを貼ります。貼る場所は、やや親指側です。 1本・2本目同様に、テープは前腕の長さに合わせてカットしてください。 4本目の巻き方:手首の補助 テーピング前に、手首の位置を元に戻します。それから手首の周りに沿って、テープを巻いていきましょう。 テープは手首を1周できる長さに合わせてカットしてください。 5本目の巻き方:前肘部の補助テープ 5本目のテープは、前肘部の内側を一周させるようにして巻きます。その際、テープが肘にかからないようにしてください。 テープは前肘部を1周できる長さに合わせてカットしてください。 肘の外側にテーピングを行う目的 肘の外側にテーピングを行う目的は、主に以下の3つです。 外傷予防 応急処置 再発予防 外傷予防 肘の外側にテーピングする目的の1つが、ねんざや打撲といった外傷の予防です。ケガをしていない部分をテーピングで固定し、関節の保護や可動域制限をはかります。 肘関節以外で外傷予防のテーピングが行われている部位は、足関節や手関節、指関節などです。(文献2) 応急処置 テーピングは、ねんざや打撲といった外傷に対する応急処置にも使われます。 以前、外傷の応急処置は、RICE(ライス)と呼ばれていました。 Rest:休ませる Ice:冷却する Compression:圧迫する Elevation:挙上する 現在は一部変更されて、PORICE(ポリス)と呼ばれています。 Protection:保護する Optimal Loading:適切な負荷をかける Ice:冷やす Compression:圧迫する Elevation:挙上させる テーピングは、圧迫の役割を担います。 PORICEをはじめとする捻挫の応急処置については、下記の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 再発予防 テーピングの目的で最も多いとされるものが、外傷の再発予防です。(文献2) 一度損傷した関節は不安定さが残り、通常とは異なる方向に動くこともあります。関節の動揺性と呼ばれるものです。不安定な関節をテーピングで補強および安定させることにより、動揺性が軽減され、同じ場所での外傷を防げます。 肘の外側へのテーピング効果 肘の外側にテーピングする効果は、主に以下の2つです。 痛みを軽減する 精神的な負担を軽減する 痛みを軽減する テーピングは、関節の部分的な圧迫および可動域制限により、痛みを軽減する効果があります。 外国の研究論文では、テーピングはサポーターよりも肘の外側痛を軽減する効果があると示されました。(文献3) ただし、テーピングに直接の治療効果はありません。テーピングをしていても、無理な運動をした場合は、ケガが悪化する可能性があります。 精神的な負担を軽減する 肘や膝といった関節のケガは再発しやすいといわれています。再発への不安がストレスになることもあるでしょう。 痛みやケガの原因にあわせた正しいテーピングにより、再発への不安を軽減できます。ストレス軽減のためにも、テーピングは正確に行いましょう。 肘の外側にテーピングする際の注意点 肘の外側にテーピングする際の注意点は、主に以下の2つです。 長時間のテーピングは控える 必要以上に圧を強めない 長時間のテーピングは控える 再発予防のために行う運動時のテーピングは、3~4時間が限度です。応急処置目的で行う安静時のテーピングは、一般的に3日間程度を目安とすることが推奨されています。 同じテープを長時間貼り続けると、皮膚に汗や汚れが付着して、かぶれを引き起こす可能性があります。 必要以上に圧を強めない 必要以上に強い圧でテーピングを行うと、痛みやしびれなどの血行障害および、筋肉や腱の損傷を引き起こす可能性があります。テーピングの過度な圧迫により、末梢神経が圧迫され、しびれや感覚異常などの神経障害が生じる可能性もゼロではありません。 テーピング時は、テープが皮膚に食い込んでいないか、痛みやしびれがないかなどを確認しましょう。 テーピングで肘の外側痛が改善しない場合は医療機関を受診しよう テーピングの主な効果は痛みの軽減ですが、施術しても改善しないケースもあります。 強い痛みのため日常生活に支障をきたしている、腕を動かすことが難しいといったときには、速やかに医療機関を受診して診察や治療を受けましょう。 当院においても、肘関節痛の治療を行っております。メール相談やオンラインカウンセリングを実施していますので、お気軽にご相談ください。 肘の外側の痛みとテーピングに関するよくある質問 ここでは、肘の外側の痛みとテーピングに関するよくある質問を2つ紹介します。 寝るときはテーピングを外した方が良いですか? 基本的に寝るときはテーピングを外す方が良いでしょう。長時間のテーピングは、皮膚のかぶれや血行障害を起こす可能性があるためです。 またテーピングの効果は、関節可動域の制限による外傷および再発の予防です。寝ているときは関節を大きく動かすことが少ないため、テーピングの効果も少ないといえます。 肘の外側が痛いときの治し方を教えてください 肘の外側が痛むときの治療法は、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)の内服や湿布薬の利用、ステロイド注射、手術療法などです。 医療機関によっては、再生医療による治療も行っています。肘の痛みで手術を受けたくない方は、再生医療も選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。 リペアセルクリニックでは、再生医療による肘関節痛の治療を受けられます。メール相談やオンラインカウンセリングを実施していますので、お気軽にご相談ください。 参考文献 (文献1) 日本医事新報社「テーピングの基本」日本医事新報社ホームページ https://www.jmedj.co.jp/files/item/books%20PDF/978-4-7849-5873-3.pdf(最終アクセス:2025年3月19日) (文献2) 日本スポーツ協会「テーピング 総論」日本スポーツ協会ホームページ https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/ikusei/doc/AT/text2018.06taping.pdf(最終アクセス:2025年3月19日) (文献3) Alireza Shamsoddini. (2019).The Immediate Effect of Taping and Counterforce Brace on Pain and Grip Strength in Patients with Tennis Elbow.Journal of Archives in Military Medicine, 7(1-2),pp.1-5. https://brieflands.com/articles/jamm-86314.pdf(最終アクセス:2025年3月19日)
2025.03.31 -
- 肘関節、その他疾患
- 肘関節
「肘の外側が痛い」 「ツボを押すと痛みが楽になると聞いたので、詳しいことを知りたい」 このような思いや疑問を持たれている方も多いことでしょう。 肘の外側には痛みに対して有効なツボがいくつかあります。 本記事では、肘の外側にあるツボの効果や、ツボ押し以外のセルフケア、医療機関での治療内容について解説します。 肘の痛みに関する複数の対処法がわかりますので、ぜひ最後までご覧ください。 肘の外側にあるツボ|曲池(きょくち) 曲池は、肘を曲げたときにできるシワの外側、一番端にあるツボです。 効果 肘から腕、肩にかけての痛みやこりに有効です。上半身の血行促進や、免疫系の調整にも効果があるとされており、東洋医学において重要なポイントであるといわれます。 押し方 押すときは、反対側の中指を使います。1・2・3とカウントしながら押して、4・5・6とカウントしながら指を離してください。押すときに息を吐き、離すときに息を吸います。 強く刺激しないように、優しく押しましょう。 肘の外側にあるツボ|肘髎(ちゅうりょう) 肘髎は、曲池のツボから肩側に向かって親指一本分上のところにあります。 効果 肘関節の痛みをはじめとする上肢の不調に有効なツボです。テニス肘や野球肘と呼ばれる、スポーツ障害にも効果があるツボで、上肢の血行を促進します。 押し方 反対側の親指で、軽く押します。1・2・3とカウントしながら押して、4・5・6とカウントしながら指を離してください。押すときに息を吐き、離すときに息を吸います。 強い刺激は避けて、痛いけれど気持ちが良い程度の強さで押しましょう。 肘の外側にあるツボ|手三里(てさんり) 手三里は、肘の外側から指三本分下(手首側)にあるツボです。 効果 肘や肩、腕の痛みやこりなどの不調に有効なツボです。胃腸の調子を整えたり、免疫力をアップしたりする効果もあります。 押し方 反対側の親指で軽く押します。1・2・3とカウントしながら押して、4・5・6とカウントしながら指を離してください。押すときに息を吐き、離すときに息を吸います。 皮膚に傷や炎症があるときはツボ押しを避けてください。強い刺激ではなく、痛いけれど気持ちが良い程度の強さで押しましょう。 肘の外側が痛む原因 肘の外側のツボ部分や、その周辺が痛む原因としてあげられるのは、主に以下の3つです。 上腕骨外側上顆炎(テニス肘) 変形性肘関節症 肘頭滑液包炎 症状や原因を表で示しました。 病名 症状 原因 上腕骨外側上顆炎 物を持ち上げたときや手首を動かしたときに、肘の外側が痛む 肘から前腕にかけての部分を繰り返し動かすことによる炎症が原因 テニス肘とも呼ばれるが、日常生活上の動作でも発症する場合がある 変形性肘関節症 肘の痛みや動かしにくさなどが生じる 加齢や肘の使いすぎなどによる、肘関節の軟骨の変形が原因 肘頭滑液包炎 肘がブヨブヨと腫れて、痛みが生じる 肘の使いすぎや炎症、細菌感染などが原因 以下の記事でも、肘の外側が痛む原因について解説していますので、あわせてご覧ください。 【関連記事】 テニス肘とは、テニス経験がなくても発症します!肘の痛みでお悩みの方へ 肘頭滑液包炎とは?肘が腫れてブヨブヨ痛い症状・治療法について現役医師が解説 肘の痛みに対するツボ押し以外のセルフケア 肘の外側が痛むときの対処法(セルフケア)は、ツボ押し以外にも複数あります。 主なセルフケアは以下のとおりです。 安静 アイシング ストレッチ サポーター着用 安静 肘に痛みを感じたときは、無理に動かさず安静にしましょう。肘を休ませることで痛みが和らぐケースが多くあります。 長時間のスマホ操作や、重い荷物を無理して持つなどの動作は、肘に負担がかかる原因です。できる限り控えてください。 痛みを我慢して動かすと症状が悪化したり、長引いたりします。無理をせず早めに対処することが大切です。 アイシング 肘が痛むときは、炎症が起きていると考えられます。冷たいタオルや氷のう、アイシングサポーターなどを活用して痛みがある部分を冷やしましょう。冷やすことで炎症が抑えられて、痛みが軽減します。 なお、冷湿布には炎症を抑えたり痛みを和らげる作用があるものの、冷やす効果は少ないとされています。(文献1) ストレッチ ストレッチによる手首や指の曲げ伸ばしは、肘への負担軽減や痛みの予防に有効です。 ストレッチの方法は以下のとおりです。 腕を前に伸ばして、手のひらを下に向ける 反対の手で、手首をゆっくり曲げる 気持ち良いと感じる部分で止めて、15秒ほどキープする 痛みが強いときは無理に動かさないでください。 サポーター着用 肘用のサポーターには、関節を固定して保護するはたらきや、肘への衝撃を吸収して痛みを和らげる効果があります。また、筋肉や腱への負担を軽減する役割もあります。 日常生活の中で生じた痛み、スポーツで酷使したことによる痛み、両方に有効です。 サポーター着用時は、ずれやゆるみがないように調整して、きつく締めすぎないようにしましょう。きつく締めすぎると、血行不良により痛みやしびれが悪化する可能性があります。 肘用のサポーターは、痛むときの対処だけではなく、予防にも有効です。 肘の外側が痛むときの治療法 ツボ押しを含めたセルフケアを続けても、肘の外側が痛む場合は、整形外科で治療を受けましょう。 医療機関での治療法は主に以下のとおりです。 薬物療法 ステロイド注射 手術療法 再生医療 薬物療法 NSAIDsと呼ばれる、非ステロイド性消炎鎮痛剤(ロキソニン、フェルビナク、モービックなど)の内服薬や湿布薬が処方されます。 内服薬を長期間飲み続けると、胃もたれや腹痛といった消化器系の副作用が出る場合もあります。薬を飲んでいて、副作用と思われる症状が現れた場合は、速やかに医師もしくは薬剤師に相談しましょう。 ステロイド注射 物が持てないほどの強い痛みがあるときや、痛みにより日常生活に支障をきたしているときには、ステロイド注射をする場合もあります。 ステロイド注射による鎮痛効果は、1~2か月程度続きますが、その後再び痛み出す場合もあります。根本的な治療ではなく、保存療法の1つと考えると良いでしょう。 ステロイド注射で痛みを和らげている間に、並行してリハビリを行い、根本的な症状改善につなげるケースもあります。 手術療法 薬物療法やステロイド注射を続けても痛みが治まらないときには、手術をする場合もあります。肘の外側の変形した部分や炎症を起こしている部分(腱組織や滑膜ヒダなど)を切除する手術です。 肘の外側を切開して行う方法や、内視鏡を用いて肘関節内から変性部分を切除する方法などがあります。(文献2) 損傷した腱や靱帯の手術に関しては、以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 再生医療 肘の痛みを治療する選択肢の1つが再生医療です。自分の脂肪や血液から採取して培養した幹細胞を身体に戻す幹細胞治療や、血小板を多量に含む血漿を患部に注射するPRP療法などがあります。 幹細胞治療もPRP療法も、自分の脂肪や血液由来のものを使用するため、アレルギー反応や拒絶反応などの可能性が低い治療法です。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。肘の痛みでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。 \無料オンライン診断実施中!/ 無料の再生医療ガイドブックはこちらから!>> 肘の外側が痛むときはツボや各種セルフケア、病院での治療で対処しよう 肘の外側が痛む原因は、肘の使いすぎや加齢による変化、炎症などさまざまです。 肘の外側が痛むときは、ツボ押しを含めたセルフケアを行い、それでも治らない場合は我慢せずに整形外科を受診しましょう。 薬物療法やステロイド注射、手術療法といった治療を受けられます。 再生医療も選択肢の1つであると覚えておくと良いでしょう。 肘の外側のツボに関するよくある質問 ここでは、肘の外側にあるツボに関するよくある質問を2つご紹介します。 スマホ肘に効くツボはどこですか? スマホ肘とは、長時間スマホ利用が原因で起こる、肘の痛みやしびれなどの症状です。 スマホ肘には、「曲池」や「手三里」などのツボが有効とされています。自分でツボを押すほか、鍼灸院でハリやお灸などの施術を受けることもツボ療法の1つです。 肘の内側のツボが痛む原因は何ですか? 肘の内側のツボが痛む原因としては、以下のようなものがあげられます。 上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘) 変形性肘関節症 肘部管症候群 本記事で紹介したツボやセルフケアで痛みが引かないときは、整形外科を受診しましょう。 参考文献 (文献1) 奈良県医師会「湿布を正しく使えていますか?」奈良県医師会ホームページ, 2023年12月8日 https://nara.med.or.jp/for_residents/16053/(最終アクセス:2025年3月19日) (文献2) 社会福祉法人恩賜財団済生会支部北海道 済生会小樽病院「肘外側の痛み、テニス肘(上腕骨外側上顆炎)をご存知ですか」済生会小樽病院ホームページ https://www.saiseikai-otaru.jp/hotnews/detail/00001039.html(最終アクセス:2025年3月19日)
2025.03.31 -
- テニス肘
- 肘関節、その他疾患
- 肘関節
朝起きてふとコップを持っただけなのに、肘の外側にズキッと痛みが走る。こんな経験はありませんか?何もしていないのに肘の外側が痛い場合、最も多い原因はテニス肘(上腕骨外側上顆炎)と呼ばれる状態です。 テニス肘とは名前のとおりテニスが原因で起こる肘の障害ですが、実際にはテニスなどのスポーツをしていなくても誰にでも生じる可能性があり、むしろテニス肘を発症した人の90%以上はテニス以外の要因で起こっているとの報告もあります。(文献1) もともとテニス肘は中年以降のテニス愛好家が発症しやすいためその名前がつきました。しかし、テニスをやってなくても肘の外側が痛むと、雑巾を絞る、物を持ち上げるといった何気ない動作でも痛みが走り、生活に支障をきたします。 本記事では、肘が痛くなってしまう主な原因と、肘外側の痛みを和らげるセルフケアの方法、さらに専門的な治療法について解説します。併せて、症状が長引く場合の受診の目安や早めに対策する重要性についても触れていきます。 何もしてないのに肘の外側が痛む主な原因 肘の外側が痛むと聞くと、テニス肘を連想される方も多いでしょう。しかし運動習慣がない場合でも、長時間のデスクワークやスマホ操作、重いものを持ち上げるなど思わぬ動作で肘周囲に負担がかかっている可能性があります。 パソコン作業やスマホ操作では肘や前腕の筋肉を固定した姿勢を長時間続けることが多く、それが腱の炎症を引き起こす原因になり得るのです。代表的な疾患から、その他の疾患によって発生した原因についてもみていきましょう。 テニス肘やスマホ肘などの代表的疾患 肘の外側が痛む原因としてまず疑われるのがテニス肘です。テニス肘は正式名称が上腕骨外側上顆炎と呼ばれ、肘の外側にある腱が使い過ぎによって損傷、変性すると起こる障害です。 ものをつかんで持ち上げたり手首をひねる動作で肘の外側に痛みが生じ、安静にしているときには痛みがほとんどないことが特徴です。(文献2) 繰り返しの手首や指の動作により肘の腱付着部(外側上顆)に過度の負担がかかると、小さな断裂や腱の摩耗が蓄積して炎症と痛みを引き起こします。(文献3)このため、テニスなどのスポーツ選手だけでなく、パソコン作業や家事など日常生活で手首・肘をよく使う人にも起こり得ます。 実際、テニス肘は肘の痛みの原因として非常に一般的で、米国の統計では人口の約3%が毎年発症するとされています。(文献1)また、近年スマートフォンやパソコンの使い過ぎによるスマホ肘と呼ばれる症状も増えています。 スマホ肘の多くはテニス肘、またはゴルフ肘として診断されますが、とくに肘の外側に痛みが出るケースが多いとされています。(文献4)スマホの画面を指でタッチしながらスライドさせる操作を頻繁かつ長時間続けたり、スマホ本体を長時間手で支えて持つような動作が肘に負担をかけ、腱付着部に炎症が起こって痛みが発生します。 症状としてはテニス肘と同様に、手のひらを下に向けて物を持ち上げたりドアノブを回す動作で肘に鋭い痛みが走り、逆にこうした動作をしなければ痛みはあまり出ない点が特徴です。スマホ肘も基本的にはテニス肘と同じく使い過ぎによる腱の障害なので、原因となる動作を控えて安静にすると、自然に改善します。 テニス肘について気になる方は、以下解説した別の記事についてもあわせてご確認ください。 神経痛やその他疾患との関係 肘の外側の痛みは、多くの場合は筋肉や腱の問題(いわゆるテニス肘)ですが、神経の痛みが関与しているケースも考えられます。 肘の周囲には橈骨(とうこつ)神経など複数の神経が走行しており、神経が圧迫・刺激されると肘の外側の痛みや腕の不調が生じます。(文献5) 例えば、橈骨神経が肘付近で締め付けられる後骨間神経症候群(橈骨トンネル症候群)は、肘から前腕にかけての痛みや手指の麻痺を引き起こし、テニス肘と症状が似ているためテニス肘と誤認されることもあります。 一方で、肘の内側に痛みやしびれが生じる場合は、尺骨神経が肘の内側で圧迫される肘部管症候群の可能性があります。 肘部管症候群では、肘の内側(小指側)に痛みが走るほか、手の小指や薬指にしびれ、感覚麻痺が現れるのが典型的な症状です。肘の外側が痛むテニス肘とは症状の部位が異なるため、しびれを伴う場合はこのような神経障害との鑑別が必要になります。 そのほか、肘の関節自体の疾患が痛みの原因となることもまれにあります。例えば、肘の内側の尺骨神経が圧迫されて発症する肘関節の変形性関節症も原因のひとつに考えられます。 しかし、肘関節の変形性関節症は明らかな外傷歴がある場合や長年にわたり肘関節に負荷がかかった場合に起こることが多く、突然発症するケースは稀です。 肘外側の痛みを和らげるセルフケア 肘の外側の痛みが軽度の場合は、セルフケアで症状が改善されるケースがあります。痛い部分を安静に保ちながら、無理のない範囲で筋肉や腱をほぐすことを心がけましょう。 以下のサポーター活用やストレッチを取り入れるだけで、肘周辺の負担を大幅に軽減できる可能性があります。 サポーターの活用 肘の外側の痛みがあるときは、市販の肘用サポーターを活用するのも効果的です。肘の少し下、前腕の部分に専用バンドで圧迫を加えると、肘の腱付着部への負荷が分散され痛みが軽減します。(文献5)(文献7)サポーターを使用する目的としては、肘を曲げて伸ばした際の腱の付着部にかかる緊張を緩和するためです。 正しい位置や装着方法については医師や理学療法士に相談して、自分に合った使い方を指導してもらいましょう。 ストレッチの実施 痛みを和らげ、再発を防ぐにはストレッチによるケアも重要です。肘の外側に付着する筋肉(手首や指を伸ばす前腕伸筋群)を日頃から柔軟に保つため、手首や指のストレッチをこまめに行いましょう。(文献2) 腕をまっすぐ伸ばした状態で、手のひらを身体の外側に向け、指先を下に向けたまま反対の手で指先をゆっくり押し込んで手首を曲げるストレッチが効果的です。このようなストレッチは可動域の維持や筋力の回復、硬直の緩和に役立ちます。(文献5) 日常動作の改善と定期的なケア 肘の外側の痛みを悪化させないためには、日常生活での動作の工夫や定期的なセルフケアも欠かせません。まず痛みを感じる動作や肘に負担のかかる動作(重い物を持つ、手首を強くひねる作業など)は可能な範囲で控え、同じ動作が続く場合は途中でこまめに休憩を入れるようにしましょう。 とくに近年では長時間のパソコン作業やスマートフォン操作によって肘に負担をかけているケースが多いため、作業環境や姿勢を見直すことも大切です。スマホを使用する際には肘を長時間曲げっぱなしにしない工夫(スマホスタンドを利用する、落下防止用のホールドリングを使う等)をするだけでも肘への負荷軽減に効果があります。(文献4) また可能であればスマホよりパソコンを使う、利き手と反対の手も活用する、といった方法で特定の肘にかかる負担を分散させましょう。痛みが強い間は長時間のスマホ操作は避け、途中で肘を伸ばしたり肩を回したりといったストレッチ休憩を取り入れることも有効です。(文献4) さらに、痛みが和らいだ後も定期的にストレッチや軽い筋力トレーニングの継続が再発予防の鍵となります。 肘周りの柔軟性と筋力を維持すると、肘の痛みの再発防止になります。また、日常生活では肘や手首だけで物を持ち上げず、体全体を使って持つようにする、重い荷物は両手で持つようにする等、動作の癖を見直すことも大切です。小さな積み重ねですが、こうしたセルフケアの継続が肘の健康維持につながります。 何もしてない肘外側の痛みにおける治療について 肘外側の痛みが続く場合、または痛みが強く生活に支障が出る場合には、医療機関での受診を検討しましょう。 X線や超音波などの検査を行うことで、テニス肘をはじめとした、肘の外側の痛みの原因を正確に把握しやすくなります。適切な治療法を選択すると、長期的な改善や再発予防が期待できます。 専門医が行う治療と再生医療の紹介 肘の外側の痛みが長引く場合やセルフケアで改善しない場合は、整形外科など専門医による治療を受けることを検討しましょう。医療機関ではまず痛みや炎症を抑えるための保存的治療が行われます。 保存療法の多くは痛みの軽減に有効で、実際テニス肘患者の80~95%は手術をせずに治療で改善するとの報告もあります。(文献5)以下、専門医が行う治療についてまとめた表になります。 治療法 内容 メリット 注意点 保存療法 痛みや炎症を抑える内服薬・湿布サポーターやテーピングリハビリテーション(ストレッチ・筋力強化)安静・アイシングなど日常生活でのセルフケア 大半のテニス肘は保存治療で改善し、手術を回避できる。治療費や身体への負担が比較的少ない。 改善に時間がかかる場合がある。日常動作の制限やセルフケアの継続が必要。 ステロイド注射 痛みの強い部分にステロイド薬を局所注射し、炎症・痛みを素早く抑制 即効性が高く、痛みを急速に和らげられる。 繰り返しの注射で腱付着部が弱くなるリスク長期的には状態が悪化する可能性があるため、慎重に使用。(文献5) 再生医療 PRP療法・幹細胞治療 血液や細胞を用いて組織の修復力を高める治療法。 PRP療法:高濃度の血小板血漿を注入。成長因子が炎症を抑え、損傷組織の修復を促進。幹細胞治療:脂肪由来などの幹細胞を移植組織の再生をサポート 従来の保存療法で十分改善しない痛みにもアプローチ可能。副作用リスクが低い。(自己細胞由来)入院や大きな手術を必要としない。 保険適用外のため費用は自己負担。症状が重い場合は幹細胞治療を検討するなど、適応を医師と慎重に相談する必要がある。 上記のうち保存療法を中心に行うことでテニス肘は基本的に治療できます。 一方、痛みが慢性化している場合や症状が重い場合には、再生医療も有効な選択肢となり得ます。当院でも、PRP療法や幹細胞治療などの再生医療を提供しており、肘の痛みを根本から治療します。 再生医療の詳細や適応については当院の別記事でも詳しく紹介しておりますので、興味のある方はぜひご参照ください。 受診の目安と早期対策の重要性 何もしていないのに肘の外側が痛む症状が続く場合、どのタイミングで受診すべきか悩まれるかもしれません。一般的には、安静にして様子を見ても痛みが2週間程度改善しない場合や、痛みで日常生活に支障が出ている場合には専門医の受診を検討してください。(文献8) また、肘や指先にしびれや脱力を伴う場合は、できるだけ早めに医師に相談しましょう。明らかな外傷がないのに激しい痛みが急に出現した場合や、肘の腫れ、熱感を伴う場合も感染症や他の疾患の可能性がありますので早急な受診が推奨されます。 痛みが軽いうちに適切な処置を行うことは、長引く肘痛を防ぐ上で非常に重要です。 テニス肘は放置すると慢性化し、治癒までに非常に長い時間を要するケースもあります。逆に、痛みを感じ始めた段階で早期に医療機関を受診し対策を講じれば、治療の選択肢も広がり症状の早期改善が期待できます。 適切な診断と治療を受けることが、肘の健康を守る近道です。 何もしていないのに肘の外側が痛むなら当院にご相談ください 何もしていないのに肘が痛くなる状態はテニス肘が代表的ですが、それだけでなく現代で発症しがちなスマホ肘や、それ以外の疾患による原因も考えられます。 急に痛みを感じても、その裏には腱の損傷や炎症、慢性的な負荷の蓄積など考えられる原因はさまざまですので、自己判断せず早急に診療を受けましょう。つらい肘の痛みを我慢して放置すると症状が長引くだけでなく、日常生活でさらに肘をかばうことで他の部位に負担が及ぶ恐れもあります。 当院では、一人ひとりの症状にあった再生治療を提供しております。何もしていないのに肘の外側が痛いお悩みをお持ちの方は、お気軽に当院にご相談ください。丁寧なカウンセリングと的確な検査によって原因を見極め、早期に痛みを改善して思い切り腕が使える快適な生活を取り戻すお手伝いをいたします。 参考文献 (文献1) Cleveland Clinic. Tennis Elbow (Lateral Epicondylitis). Cleveland Clinic Health Library.https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/7049-tennis-elbow-lateral-epicondylitis(Accessed:2025-03-22) (文献2) 日本整形外科学会『テニス肘(上腕骨外側上顆炎)』日本整形外科学会公式サイト.https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/lateral_epicondylitis.html(Accessed:2025-03-22) (文献3) American Academy of Orthopaedic Surgeons (AAOS). Tennis Elbow (Lateral Epicondylitis)-OrthoInfo.https://orthoinfo.aaos.org/en/diseases--conditions/tennis-elbow-lateral-epicondylitis/ (Accessed:2025-03-22) (文献4) 時事メディカル(時事通信社)『物を持ち上げると痛む使い過ぎはスマホ肘に』(福井大学医学部整形外科大木央講師監修)2021年9月11日.https://medical.jiji.com/topics/2247(最終アクセス:2025年3月22日) (文献5) Better Health Channel . Elbow pain.https://www.betterhealth.vic.gov.au/health/conditionsandtreatments/elbow-pain(Accessed:2025-03-22) (文献6) 一般社団法人日本脊髄外科学会「2.肘部管(ちゅうぶかん)症候群」 https://www.neurospine.jp/original39.html(最終アクセス2025年5月16日) (文献7) 日本臨床整形外科学会『上腕骨外側上顆炎(いわゆるテニス肘)』JCOA健康相談.https://jcoa.gr.jp/上腕骨外側上顆炎(いわゆるテニス肘)/(最終アクセス2025年3月22日) (文献8) Versus Arthritis (UK).Elbow pain – Causes, exercise, treatments.https://www.versusarthritis.org/about-arthritis/conditions/elbow-pain/(Accessed:2025-03-22)
2025.03.31 -
- 脊椎
- 脊柱管狭窄症
「脊柱管狭窄症と診断されたけれど、自分は重症なのだろうか?」 「脊柱管狭窄症の重症度分類を知りたい」 このような思いを持たれている方もいらっしゃることでしょう。 脊柱管狭窄症の重症度は、軽度から最重度までの4段階に分類されます。 本記事では、脊柱管狭窄症の重症度分類や診断方法、治療方法などについて詳しく解説します。 自分の重症度および自分に適した治療法がわかりますので、ぜひ最後までご覧ください。 脊柱管狭窄症の重症度分類 脊柱管狭窄症の重症度は以下の4段階に分かれています。 レベル.1(軽度) レベル.2(中程度) レベル.3(重度) レベル.4(最重度) 各段階の具体的な状況と、治療の方向性および回復の見込みについて解説します。 レベル.1(軽度) 具体的な状況と、治療および回復の見込みは以下のとおりです。 具体的な状況 立っているときや座っているときに痛みやしびれはあるものの、30分程度の歩行が可能です。 少し歩くと痛みやしびれが起こり、休憩すると症状がやわらぐ症状(間欠性跛行)は生じていません。 治療および回復の見込み 薬物療法や理学療法、ブロック注射などの保存療法で症状改善が見込めます。しかし、適切な治療を受けずに放置してしまうと、進行する可能性があります。 軽度の場合は、日常生活に支障をきたすことは少ないでしょう。しかし進行する可能性もあるので、適切な治療が必要です。 レベル.2(中程度) 具体的な状況と、治療および回復の見込みは以下のとおりです。 具体的な状況 10分から20分程度歩くと、間欠性跛行が生じます。 治療および回復の見込み 保存療法のみでは回復が難しいため、専門的なリハビリテーションが必要です。日常生活に支障がある場合は、手術を検討します。 中程度になると、少しずつ日常生活に支障が出てきます。手術が選択肢に入り始める時期です。 レベル.3(重度) 具体的な状況と、治療および回復の見込みは以下のとおりです。 具体的な状況 10分未満の歩行により間欠性跛行が生じます。下肢のしびれや痛みのほか、筋力低下や脱力感などの症状も出てきます。 治療および回復の見込み 根本的な専門リハビリで改善する可能性もありますが、保存療法の効果は限定的です。手術の検討が望ましいでしょう。日常生活がどのくらい不便であるかが判断材料です。 重度になると、日常生活への影響が大きくなってきます。手術が第一選択肢になる時期です。 レベル.4(最重度) 具体的な状況と、治療および回復の見込みは以下のとおりです。 具体的な状況 5分未満の歩行により間欠性跛行が生じます。下肢の痛みやしびれ、筋力低下も著しい状況です。膀胱直腸障害のため、排尿や排便に支障をきたします。 治療および回復の見込み 保存療法では回復が難しい状況です。膀胱直腸障害が出現している場合は、手術が必要になってきます。 最重度は歩行だけではなく排泄にも支障をきたしているため、手術が必要な段階です。 脊柱管狭窄症の重症度分類における注意点 脊柱管狭窄症の重症度は固定化されたものではなく、徐々に進行していくものです。重度や最重度の方も多くの場合、最初は軽度でした。 しかし、どの段階でも例外的なケースがあります。例をあげると「軽度でありながらも手術が必要である」、もしくは「最重度でも保存療法により経過観察中である」などです。 重症度分類とあわせて、個々の状況に応じた治療が大切です。適切な治療を受けるためにも、自分の状況を正確に医師へ伝えましょう。 脊柱管狭窄症の診断方法 脊柱管狭窄症を診断する方法は、主に以下の4種類です。 医師による問診 X線検査 MRI検査 脊髄造影 医師による問診 主な問診内容は、以下のとおりです。 下肢の痛みやしびれの強さ 症状が出ている部位(両側か片側か) 間欠性跛行の有無や強さ 間欠性跛行が生じるまでの時間 姿勢による症状の変化 下肢の筋力低下や反射異常 閉塞性動脈硬化症と症状が似ている場合は、下肢の動脈拍動やABI(足関節上腕血圧比)などで血流状態を調べます。 X線検査 X線検査で調べる所見は、主に以下のとおりです。 腰椎のすべりや側弯といった変形 骨折の有無 椎間板の狭さ 腰椎の不安定さ 一般的かつ、速く結果が出る検査ですが、X線単独での確定診断は難しいとされています。 MRI検査 MRI検査では、X線検査だけでは判別できない脊柱管内の神経圧迫状況や重症度を評価します。 しかし、ペースメーカーや人工内耳など、体内に電子機器が埋め込まれている方はMRI検査を受けられません。閉所恐怖症の方や脳動脈瘤手術用クリップが入っている方なども、MRI検査を受けられない可能性があります。 脊髄造影 脊髄造影は、MRI検査を受けられない方や、MRI検査の所見だけでは確定診断がつかない方に対して行われる検査です。この検査により、脊柱管の狭窄部位や程度がわかります。 脊髄造影検査の結果は、手術適応の有無や、手術様式を決める指標でもあります。 脊柱管狭窄症の治療方法 脊柱管狭窄症の治療方法は、主に以下の5種類です。 薬物療法 理学療法 ブロック注射 手術療法 再生医療 薬物療法や理学療法、ブロック注射は、保存療法に含まれます。 薬物療法 脊柱管狭窄症の薬物療法で用いられる主な薬は、以下のとおりです。 薬の種類 効果 血流改善薬 血流を改善して、痛みやしびれなどをやわらげる 消炎鎮痛剤 いわゆる「痛み止め」 飲み薬のほか、湿布や塗り薬もある 筋弛緩薬 筋肉の緊張をやわらげる ビタミンB12製剤 末梢神経に栄養を与える 神経障害性疼痛治療薬 痛みを伝える物質の過剰放出をおさえる 薬物療法は神経の圧迫そのものを改善するものではなく、痛みなどの症状を抑えるものです。そのため、薬物療法単独で根本的な回復は難しいといえるでしょう。 理学療法 主な理学療法としては、以下のようなものがあげられます。 牽引療法 温熱療法 運動療法 牽引療法とは、専用の機器を用いて腰椎を引っ張り、神経への圧迫を軽減する治療法です。通院で行うケースと入院して行うケースがあります。 温熱療法の効果は、血流促進や痛みの緩和、筋緊張の低下などです。温熱療法で用いられるものとしては、ホットパックやパラフィン浴、超音波などがあげられます。 運動療法は、理学療法士が患者の症状および健康状態を確認して、個々の運動プログラムのもと実施するものです。ストレッチや筋力トレーニングのほか、正しい姿勢指導を実施するケースもあります。 以下の記事では、脊柱管狭窄症におすすめのストレッチを紹介しています。あわせてご覧ください。 ブロック注射 ブロック注射は、痛みの原因となっている神経、もしくは神経近くの脊柱管内に局所麻酔薬やステロイド剤を注射する治療法です。硬膜外ブロック注射と神経根ブロック注射の2種類に分けられます。 痛みは強いものの、手術は必要ない方に用いられることが多い治療法です。軽度から中程度の方向けの治療といえるでしょう。 手術療法 重度、最重度の方の場合、手術療法が選択肢に入ります。主な手術方法として、固定術と除圧術の2種類があげられます。 手術の種類 内容 除圧術 椎弓と呼ばれる背中側の骨や厚くなった黄色靱帯などを切除して神経への圧迫を取り除く 固定術 不安定な脊椎や曲がった脊椎を金属式のスクリューやロッドで固定する 固定術は、除圧術と併用されることが多い術式です。 脊柱管狭窄症の手術療法については以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 再生医療 手術以外の選択肢として注目されているのが再生医療です。 手足の痛みやしびれはあるものの手術適応ではないと診断された方、手術適応ではあるができれば手術を避けたい方などが再生医療の対象です。軽度から最重度まで対応可能な治療法ともいえるでしょう。 再生医療の1つが、幹細胞治療です。自分の脂肪や血液由来の幹細胞を採取し、培養・増殖させ身体に戻す治療法で、アレルギーや拒絶反応のリスクが低いとされています。 リペアセルクリニックでは、幹細胞を脊髄腔内に直接注射する方法(脊髄腔内ダイレクト注射療法)により体内に入った数多くの幹細胞で、傷ついた神経細胞を再生できます。 脊柱管狭窄症でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。 メール相談やオンラインカウンセリングも行っております。 脊柱管狭窄症の重症度分類から適切な治療を受けよう 脊柱管狭窄症の重症度分類は軽度から最重度までとされていますが、症状は固定されるものではなく、変化するものです。重症度分類と自分の症状が合致しない例外的なケースもあります。 重症度分類と自分の状態、両者を充分に理解した上で、適した治療を受けましょう。 脊柱管狭窄症の重症度分類に関連するよくある質問 ここでは、脊柱管狭窄症の重症度分類に関連するよくある質問を2つ紹介します。 脊柱管狭窄症は難病指定ですか? 脊柱管狭窄症のうち、「広範脊柱管狭窄症」が指定難病となっています。(文献1) 広範脊柱管狭窄症とは、頚椎、胸椎、腰椎の広範囲にわたって脊柱管が狭窄し、神経症状が起こる病気です。「頚椎、胸椎、腰椎のいずれか2か所以上の狭窄から生じる神経症状のため、日常生活が大きく影響されること」が診断の条件です。 重症な腰部脊柱管狭窄症は障害者手帳の対象になりますか? 腰部脊柱管狭窄症を含む脊椎疾患による神経障害は、下肢の機能障害として障害者手帳の対象になる可能性があります。しかし、障害者手帳の対象になるかの判定は、重症度分類ではなく「どのくらい機能が低下しているか」です。 身体障害者手帳を申請する際は、都道府県知事、指定都市市長または中核市市長が指定する医師の診断書・意見書や申請者の写真が必要です。(文献2) 参考文献 (文献1) 難病情報センター「広範脊柱管狭窄症(指定難病70)」難病情報センターホームページ https://www.nanbyou.or.jp/entry/101 (最終アクセス:2025年3月18日) (文献2) 厚生労働省「障害者手帳」厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/techou.html (最終アクセス:2025年3月18日)
2025.03.31 -
- 脊椎
- 脊柱管狭窄症
- 腰部脊柱管狭窄症
「脊柱管狭窄症は整体で治るの?」 「整体を受けていても病院で治療を受けた方が良いの?」 上記のような疑問を持たれている方もいらっしゃることでしょう。 結論から申し上げますと、脊柱管狭窄症の根本原因は背骨の変形であるため、整体での根本治療は困難です。整体は、下肢の痛みやしびれといった症状を緩和する役割であると覚えておきましょう。 本記事では、整体のメリットやデメリットに加えて、脊柱管狭窄症における整体以外の改善方法を紹介します。 脊柱管狭窄症と整体に関するよくある質問も掲載しておりますので、整体について関心をお持ちの方はぜひ最後までご覧ください。 【結論】脊柱管狭窄症は整体で治せない! 結論から申し上げますと、脊柱管狭窄症を整体で完全に治すことは困難です。 脊柱管狭窄症の主な原因は、背骨の変形です。整体は骨の変形を治せないため、脊柱管狭窄症の根本的な治療はできません。 ただし、下肢の痛みやしびれといった症状の緩和は可能です。整体院ではセルフケアのアドバイスもおこなっています。施術に加えて、セルフケアの実践によっても、症状の緩和が期待できるでしょう。 整体による施術やセルフケアで症状が改善しない場合は、整形外科を受診しましょう。 脊柱管狭窄症の症状や原因などについては、以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。 脊柱管狭窄症において整体を受けるメリット 脊柱管狭窄症において整体を受けるメリットは、以下のような施術を受けられる点です。 骨盤のゆがみを矯正する 骨格を改善する 筋肉のコリをほぐす これらの施術により、正しい姿勢を維持できます。 正しい姿勢をとることは背骨への負担軽減、ひいては、下肢の痛みやしびれといった症状の緩和につながります。 脊柱管狭窄症において整体を受けるデメリット 脊柱管狭窄症において整体を受けるデメリットは、主に以下の2つです。 無資格者による不適切な施術と健康被害 長時間の施術による悪影響 無資格者による不適切な施術と健康被害 整体は医業類似行為の1つとされており、施術者に法的資格はなく、明確な定義もありません。 あん摩マッサージ、はり灸、指圧などとは異なり、無資格でも施術可能です。 無資格の施術者は知識や技術が不足していることも多く、有資格者よりも健康被害を引き起こすリスクが高い状況です。 国民生活センターは2012年8月2日、整体やマッサージ等の医業類似行為で危害が発生した相談が、2007年度以降の約5年間で825件寄せられたと報告しました。(文献1) このうち3割は、3週間以上の治療を要したと報告されています。 整体の事例としては、以下のようなものがあげられました。 身体のゆがみを直すために整体を受けたところ、腰痛が発生した 椎間板ヘルニアの持病がある人が整体を受けたところ、腰から足にかけて激痛が発生したため、救急病院を受診した 整体を受けて症状が悪化した場合や、新たな症状が現れた場合は整体の施術を中止し、早急に医療機関を受診して治療を受けましょう。 長時間の施術による悪影響 長時間整体やマッサージを受けると、筋肉や筋膜が損傷する可能性があります。筋肉の損傷が原因で炎症が起きた結果生じる現象が、いわゆる「もみ返し」です。 筋肉組織は損傷から回復する過程で厚くなって繊維化してしまい、最終的には柔軟性が失われます。 整体やマッサージを受ける際に、長時間受けることを希望する方も多いのですが、施術時間と効果は比例しないと覚えておきましょう。 脊柱管狭窄症における整体以外の改善方法 脊柱管狭窄症における整体以外の改善方法としてあげられるのは、以下の2つです。 生活習慣の改善 整形外科での治療 生活習慣の改善 適正体重に近づける 体重が多いと腰や椎間板に負担がかかり、痛みやしびれを引き起こします。肥満(BMI25以上)の方は、適正体重を目指して減量しましょう。 適正体重の範囲はBMI18.5から25までです。(文献2) BMIは体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)で計算できますので、「自分は肥満ではないか」と気になる方は、実際に計算してみましょう。 正しい姿勢を心がける 座るときは骨盤を立てた姿勢を保ちましょう。椅子に深く座ってお尻を背もたれに付けてから、身体を起こします。腰を反らせすぎないようにしてください。 長時間立ち続けると、痛みやしびれを引き起こす可能性があります。立ち仕事をするときは、5~10㎝程度の台に、ときどき片足を載せてみましょう。 寝るときは、膝と膝の間にまくらやクッションを挟みながら、横向きの姿勢をとることで、痛みが和らぎます。 整形外科での治療 整形外科における脊柱管狭窄症治療法は、主に以下の3つです。 保存療法 手術療法 再生医療 保存療法 保存療法の1つにあげられるのが、薬物療法です。 痛み止めである消炎鎮痛剤や、神経の血流を改善する経口プロスタグランジンE1製剤などを医師の指示どおり内服します。それ以外の薬としては、ビタミンB12や筋弛緩薬などがあります。 ストレッチや筋力トレーニング、ホットパックなどの理学療法も、保存療法の1つです。 以下の記事では、脊柱管狭窄症におすすめのストレッチについて解説しています。あわせてご覧ください。 ブロック注射も、保存療法に含まれます。 圧迫されている神経の近くにある脊柱管内に局所麻酔薬やステロイド剤を注射する方法が、硬膜外ブロック注射と呼ばれるものです。もう1つは、神経根ブロック注射と呼ばれるもので、圧迫されている神経の根元に局所麻酔薬やステロイド剤を注射します。 手術療法 手術療法の適応になるケースは、主に以下の3つです。 保存療法の効果が認められない 下肢の筋力低下が著しい 膀胱直腸障害が見られる 手術療法には、「除圧術」と「固定術」の2つがあります。(文献3) 除圧術とは、神経を圧迫する原因となっている骨や靱帯を削り、脊柱管を広げる手術です。 固定術とは、骨や靱帯を削って除圧した部分に、金属やネジ、人工骨などを入れて背骨を固定する方法です。固定術は除圧術と併用して行われることが多いとされています。 再生医療 整体や保存療法で症状が改善されない方や、「できれば手術を受けずに治したい」と考えている方への選択肢としてあげられるのが、再生医療です。 再生医療の1つに「幹細胞治療」があります。幹細胞とは、人間の体に存在している特殊な細胞で、身体の機能を修復する役割を持っています。 リペアセルクリニックで実施している再生医療の1つが「自己脂肪由来幹細胞治療」です。自分自身の脂肪から採取して増殖させた幹細胞を注射することで、脊柱管狭窄症の改善や回復が期待できます。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを行っています。脊柱管狭窄症でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。 脊柱管狭窄症は整体ではなく医療機関で治療しよう 脊柱管狭窄症は、整体だけでは根治しないものです。整体はあくまでも症状を一時的に和らげるためのものと認識しておきましょう。 脊柱管狭窄症の診断には、MRIやCTなどの画像検査が必要です。まずは医療機関で正確な診断を受けることが治療の第一歩となります。脊柱管狭窄症の根本治療を受ける場合は、整形外科をはじめとする医療機関を受診しましょう。 脊柱管狭窄症と整体に関するよくある質問 脊柱管狭窄症で整体を受ける場合は保険が適用されますか? 基本的に整体は保険適用外です。整体師は民間の資格者であり、整体は医師法で定義されている医療行為に該当しないためです。 整骨院や接骨院で、柔道整復師による施術を受ける場合は、保険適用になるケースもありますが、範囲は限られます。(文献4) 病気からくる痛みやこりに対する施術は、保険適用外です。 脊柱管狭窄症で整体を受ける場合は、全額自己負担であると覚えておくと良いでしょう。 脊柱管狭窄症を手術しないで治すことは可能ですか? 脊柱管狭窄症による各種症状の原因は、神経の圧迫です。(文献3) 根本治療のためには、神経の圧迫を取り除く手術が必要です。 整体や保存療法で経過を観察しつつ、症状の改善が見られなければ、手術が必要になるでしょう。 脊柱管狭窄症でやってはいけないことは何ですか? 腰を強く反らす姿勢は、避けてください。この姿勢は脊柱管を狭めてしまい、症状が悪化する可能性があります。 痛みがあるときのストレッチや筋トレも、避けましょう。症状の悪化につながります。 ストレッチや筋トレなど筋力低下防止のために身体を動かすときは、痛みがない程度で、腰を反らさない姿勢で行いましょう。 運動のために歩くときは、背筋を伸ばし過ぎないように心がけてください。杖やシルバーカーなどを使うと前かがみの姿勢になるため、痛みを軽減できます。 以下の記事でも、脊柱管狭窄症でやってはいけないことを紹介しています。あわせてご覧ください。 参考文献 (文献1) 独立行政法人国民生活センター「手技による医業類似行為の危害-整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も-」,2012年8月2日 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002lamn-att/2r9852000002latt.pdf (最終アクセス:2025年3月16日) (文献2) 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト eヘルスネット「肥満と健康」eヘルスネット[情報提供] https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-001.html (最終アクセス:2025年3月16日) (文献3) 独立行政法人国立病院機構 相模原病院「腰部脊柱管狭窄症について」相模原病院ホームページ https://sagamihara.hosp.go.jp/sinryouka/sekitsui-center-youbu.html (最終アクセス:2025年3月16日) (文献4) 全国健康保険協会 協会けんぽ「柔道整復師(整骨院・接骨院)のかかり方」全国健康保険協会ホームページ https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3070/r141/ (最終アクセス:2025年3月16日)
2025.03.31