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腱板断裂(損傷)における超音波(エコー)検査|特徴や画像所見を解説

「肩が痛くて腕が上がらない」
「夜中にズキズキとした痛みで目が覚めてしまう……」
辛い肩の症状に、毎日悩まされている方もいるでしょう。日常生活への支障が出る症状の原因として、肩の腱が切れてしまう「腱板(けんばん)断裂」が疑われます。
この記事では、腱板断裂(損傷)における診断で有効な超音波(エコー)検査の特徴について詳しく解説します。エコー所見や腱板断裂の治療方法についても紹介するので、診察を受けるか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
目次
腱板断裂における超音波(エコー)検査の特徴
腱板(けんばん)断裂における超音波(エコー)検査は、患者様の負担を抑えつつ正確な診断を行うために有効な検査方法です。
腱板断裂とは、肩の内部にある「腱板」という筋肉と腱の集まりが切れた状態を指します。
整形外科では、初診時にレントゲンを撮影し、症状のある部位や周辺部位に異常がないか確認します。ただし、腱板はレントゲンでは写らない組織であるため、腱板断裂の判断ができません。
診察時に腱板断裂が疑われる場合は、追加で超音波検査やMRI検査を行います。超音波検査の特徴について解説するので、肩の痛みで受診を検討している方は参考にしてください。
プローブを使用する
超音波検査では、皮膚の表面に透明なゼリーを塗り「プローブ」と呼ばれる小さなマイクのような形をした検査器具を肩に当てて検査します。プローブから発せられた超音波は、肩の中の筋肉や腱に反射して再び受信すると、鮮明な画像としてモニターに表示されます。
検査で使うプローブは検査部位に合わせて選ぶ必要があり、肩関節に使用されるのは「リニア型」や小型の「コンベックス型」と呼ばれる種類です。
腱板断裂の場合、超音波検査で筋肉や腱の厚さ、断裂の位置や範囲を正確に確認できます。プローブを動かしながら微妙な位置調整ができるため、小さな断裂や部分的な損傷を見逃さずに観察できる点はメリットです。
体に傷をつけない
超音波検査は、体に傷をつけず負担の少ない検査です。レントゲン検査による放射線被ばくの心配もなく、MRI検査のような強力な磁場も使用しません。
そのため、妊娠中の方や体内に金属がある方でも安心して検査を受けられます。検査に伴う痛みもほとんどなく、患者様への身体的な負担が少ない検査といえます。
超音波検査は、症状の経過観察や治療効果の判定を目的として容易に繰り返し実施できる検査方法です。
リアルタイムで観察が可能
超音波検査では、筋肉や腱の状態をリアルタイムで観察できるのも特徴の1つです。
肩を動かした際に起こる筋肉の伸縮や腱の動き、断裂部の変化などを即座に画像で確認できるため、静止画像ではわからない機能的な診断ができます。
これにより、動作による痛みの原因や断裂範囲を明確に把握できます。治療効果や経過を定期的に診断することで、患者様に適した治療計画を立てるのに役立ちます。
腱板断裂に対する超音波(エコー)検査の手順
腱板断裂が疑われる際に行う超音波(エコー)検査の手順は、以下のとおりです。
- ①椅子やベッドに座るか仰向けになり、肩関節を軽く伸ばした状態にする
- ②肘を曲げる筋肉につながる筋である上腕二頭筋長頭腱(ちょうとうけん)と腱の通る溝である結節間溝(けっせつかんこう)を中心にエコーで確認する
- ③筋肉の筋である肩甲下筋腱(けんこうかきんけん)や腱が付いている小結節付着部を中心に確認する
- ④プローブを肩の上方へ移動させて腕を上げる筋肉につながる筋である棘上筋腱(きょくじょうきんけん)や、後方へずらして腱全体を確認する
- ⑤棘上筋腱全体の断面をエコーで調べたあと、腕を外側にひねるための筋である棘下(きょくか)筋腱と付着部を腱の長さに沿って確認する
- ⑥さらに、肩の後方の骨である肩甲棘(けんこうきょく)の中央で肩後方の筋肉である棘下筋の厚みを両側計測する
腱板断裂の超音波検査では、断裂しやすい部分を重点的に観察し、腱の厚みや断裂の状態などを詳しく確認します。
肩甲下筋腱を調べる際は、患者様に肩を内側や外側にひねっていただき、腱や小結節付着部を確認します。また、棘上筋腱は腱の長さに沿って見るだけでなく、断面からの確認も重要です。
検査自体は10〜15分程度で終了し、ほとんど痛みを感じません。検査後はすぐに日常生活へ戻れるため、安心して検査を受けられます。
診察や検査への不安や疑問がある方は、下記よりお気軽にご相談ください。
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腱板断裂(損傷)のエコー所見
超音波(エコー)検査を行うと、腱板の各部位に生じた断裂や損傷の様子が確認できます。腱板は肩甲骨と腕の骨をつなぐ複数の筋肉や腱で構成されており、損傷部位によって画像所見は異なります。
なかでも、腱板断裂(損傷)が多い部位は、棘上筋と棘下筋です。
ここでは、腱板断裂で良くみられるエコー所見を紹介するので参考にしてください。
肩甲下筋腱断裂・損傷
腕を内側にひねる動作や肩関節を安定させる肩甲下筋腱が損傷すると、エコーでは腱の連続性が途切れ、不規則な陰影が映ります。部分的な損傷であれば腱の厚みが減少し、完全断裂の場合は腱が途切れて隙間が見えるのが特徴です。
断裂部分には、炎症による液体が溜まるケースも少なくありません。肩を内外にひねる動作を加えて検査すると、腱の動きが乏しく見えるのが確認できます。
肩甲下筋腱の断裂は、他の腱板筋腱に比べて頻度は低いものの、棘上筋腱断裂や棘下筋腱断裂と合併して発生する症例が多いといわれてます。
棘上筋腱断裂
腕を横に上げる動作において肩関節を安定させる棘上筋腱は、腱板のなかでも損傷を受けやすく、エコーでは断裂部分が鮮明に確認できます。正常な棘上筋腱は連続して滑らかな画像ですが、損傷や断裂があると腱の連続性が途絶え、低エコー(黒っぽく)に映るのが特徴です。
完全断裂になると断裂部の両端に隙間が生じ、腱が骨から離れている様子も観察できます。また、断裂部分には炎症による液体が溜まり、エコー画像で鮮明に写ります。
断裂・損傷部位に限局して、検査時の圧痛を認めた場合、棘上筋腱が疼痛の主な原因になっているケースが多いのも事実です。腱板断裂のなかで、とくに頻度が高いのは棘上筋腱断裂とされています。
棘下筋断裂
腕を外側にひねる動作に関与する棘下筋腱に断裂や損傷がある場合、エコーでは腱の形状が乱れ、途切れて見えます。正常な棘下筋腱は均一で整った線状に映りますが、断裂すると腱が薄くなったり、部分的に欠損したりします。
棘下筋は薄いため、左右を比較するのが重要です。断裂・損傷がある場合、頭側に低エコーに映るのが特徴です。
また、周囲には炎症による液体が貯留しているケースも少なくありません。腕を回しながら検査すると、損傷の程度や機能的な影響をリアルタイムで判断できるため、治療計画を決定する重要な手がかりになります。
棘下筋萎縮
棘下筋が長期間にわたり損傷・断裂したまま放置されると、筋肉が萎縮して薄くなります。エコーでは筋肉のボリュームが減少し、筋線維の模様が消失して白く映るのが特徴です。
棘下筋萎縮は投球動作で発症するケースが多く、進行すると肩の運動能力が低下し、腕を回す動作が難しくなります。エコーによって筋肉の厚さを測定し、正常な反対側の肩と比較すると、萎縮の程度や回復する可能性を把握できます。棘下筋萎縮は、損傷から時間が経過した際に見られる重要なエコー所見です。
腱板断裂の治療方法
腱板断裂の治療方法は、損傷の程度や患者様の年齢・生活スタイルを考慮して決められます。
主に、保存療法・手術療法・再生医療の3つの選択肢があり、症状やライフスタイルに合わせた治療方法を医師と相談して決定します。
それぞれの治療方法について紹介するので、診察を受ける際の参考にしてください。
治療方法に関する詳細は、こちらの記事も参考にしてください。
保存療法
保存療法は、手術を行わずに症状の改善を目指す治療方法の総称です。具体的な治療内容は以下のとおりです。
- 三角巾を使用して数週間安静にする
- 内服薬・外用薬を処方する
- 肩関節内に注射する
- ストレッチや筋力トレーニング
腱板断裂の治療では、三角巾を使用して肩の安静を保ち、負担を軽減します。痛みが強い場合には、消炎鎮痛剤の内服薬や外用薬(湿布や塗り薬)が処方されるケースが多くみられます。
また、炎症を抑えるためのステロイド注射や、関節の動きを滑らかにするヒアルロン酸注射を肩関節内や滑液包内に行う場合も少なくありません。
症状が落ち着いてきたら、理学療法を併用したストレッチや筋力トレーニングなどのリハビリテーションを行います。理学療法士による肩関節の可動域訓練や周囲の筋力トレーニング、正しい肩の使い方を習得し、症状の軽減と日常生活を送れるようにするのが目的です。
手術療法
手術療法は、保存療法で十分な効果が得られない場合や、断裂が大きく活動性の高い方、確実な機能回復を望む方などに検討されます。手術療法で検討されるのは、以下4つです。
- 鏡視下腱板修復術
- 腱板移植
- 人工関節置換術
- リバース型人工関節置換術
小さな切開でカメラ(関節鏡)を肩関節に挿入し、モニターで確認しながら行う鏡視下腱板修復術は、従来の手術に比べて体への負担が少なく、術後の回復も早いメリットがあります。
腱板断裂が大きく鏡視下で縫い合わせるのが困難な症例では、太ももの裏側や背中から腱を採取し、移植する腱板移植を選択するケースもあります。
ほかにも、人工関節を肩関節に取り付ける人工関節置換術やリバース型人工関節置換術も選択肢の1つです。
手術で腱を修復した後は、断裂の大きさや修復方法に応じた適切なリハビリテーションを行い、機能回復訓練を行うのが重要です。
再生医療
再生医療は、自己の細胞を用いて腱板の自然治癒力を活かす治療方法です。当院「リペアセルクリニック」では、主に以下の治療方法を実施しています。
- 幹細胞治療
- PRP治療
幹細胞治療では、脂肪細胞から採取した幹細胞を培養し、肩関節内に注射して患部に幹細胞を届けます。
一方、血液から血小板を多く含む血漿(PRP)を抽出して注射するPRP治療は炎症を抑える目的で行われるため、症状に適した治療方法を選択するのが重要です。
どちらの治療方法も自己細胞を使用するため、副作用やアレルギーのリスクも低く、安全性の高い治療として注目されています。
肩の痛みに対する治療方法でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

肩の痛みは⼿術しなくても治療できる時代です。
まとめ|腱板断裂(損傷)で行われるエコー検査への理解を深めよう
肩の痛みや腕の上がりにくさを引き起こす腱板断裂(損傷)に対する超音波(エコー)検査は、迅速かつ安全に診断できる検査方法です。
超音波検査ではプローブと呼ばれる検査器具を使用し、傷をつけずにリアルタイムで腱板の状態を確認できます。
腱板断裂(損傷)の治療方法は、注射やリハビリなどの保存療法、断裂した腱を修復する手術療法、自己細胞を活用する再生医療など多岐にわたります。治療方法を選択する際は、超音波検査を含む精密な診断に基づき、医師と十分に話し合って決定するのが大切です。
本記事を通じて、腱板断裂と超音波検査や治療法への理解を深め、ご自身の状態に適した医療を選択する参考になれば幸いです。