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仙腸関節炎(仙腸関節炎障害)の治し方・痛みを和らげるケア【医師監修】
「仙腸関節のつらい痛みはどこで治療を受ければ良い?」
「仙腸関節炎の腰痛を治すためにできるセルフケアはある?」
仙腸関節は体重や外からの衝撃を常に受けるため、日常生活の中で不具合が起きやすい関節です。
仙腸関節炎の症状がでた場合は、適切な治療や自宅で行える予防策に取りくむ必要があります。
この記事では仙腸関節炎と診断されたときの治療法や、セルフケアの重要性をお話します。
ぜひこの記事を読んで仙腸関節炎の知識と症状を治す方法を知り、日ごろの腰痛改善につなげてください。
目次
仙腸関節炎(仙腸関節炎障害)とは?
仙腸関節炎とは上半身と脚をつなぐ仙腸関節に余計な負担がかかり、不具合が生じて腰まわりに痛みが生じることをいいます。
仙腸関節は骨盤の中心にある仙骨と、その左右にある腸骨とのつなぎ目に存在する動く幅の小さい関節です。
上半身の重さや地面からの衝撃を常に受けているため、いつもとちがう動きや長時間の同じ姿勢などで負荷がかかり、緩みや硬さが生じやすくなります。
仙腸関節の緩みや硬さが生じると、関節を支えている靭帯や筋肉の緊張も高まるため、周辺の痛みにつながります。
仙腸関節炎は女性の出産後に多くみられますが、年齢や性別関係なく腰痛の原因になるともいわれています。
日常的に起こりやすい疾患であるため、正しい治療法や対策を知って症状の緩和や予防をすることが大切です。
仙腸関節炎(仙腸関節炎障害)の治し方とセルフケア
仙腸関節炎は、痛みや不快感が生活の質に影響を与えるため、適切な治療とセルフケアが大切です。
この章では、仙腸関節炎を和らげるための治療法と、自宅でできるケアについて詳しく紹介します。
専門的な治療から、日々の生活で取り入れられるセルフケアの方法まで、幅広くカバーしていますので、自分に合った対策を見つけて、仙腸関節炎の症状を軽減させ、日常生活をより快適に過ごしましょう。
リハビリテーションと物理療法
リハビリテーションや物理療法は仙腸関節炎の症状を緩和させる最もポピュラーな方法です。
痛みのある部位に対して運動療法や電気治療などを行うことにより、症状を和らげる効果が期待できます。
また、痛みが生じる根本にもアプローチすることで、腰痛を治すだけでなく再発の予防や日常生活の復帰も期待できます。
とくに仙腸関節炎による症状を繰り返している方は、長年のお悩みを解決できるでしょう。
AKA-博田法による治療
AKA-博田法(Arthrokinematic Approach:関節運動学的アプローチ)は、不適合をきたしている仙腸関節の動きを正常化させて痛みを改善させる手技です。
治療者の手で関節のわずかな動きや回旋などを治すことで、正常なはたらきに戻します。
しかしAKA-博田法は修得の難しい技術であるため、正しい方法で行わないと症状を悪化させる可能性があります。
治療を受けたい場合は、日本AKA医学会に認定されている医師に相談してみると良いでしょう。
薬物治療
仙腸関節炎の痛みに対して、鎮痛薬の内服やブロック注射などの薬物治療も効果的です。
とくにブロック注射は仙腸関節の周囲に局所麻酔を行うことで痛みを減らし、関節の適合を良くすることが可能です。
始めは仙腸関節を覆っている靭帯に注射し、それでも、安静時や寝るときに痛みが残るようであれば、炎症がうたがわれる関節内にも注射します。
再生医療
仙腸関節炎の治療において、再生医療は新しい選択肢として注目されています。
リペアセルクリニックでは、幹細胞を用いた再生医療を通じて、関節の炎症を抑え、損傷した組織の修復を促す治療を提案しています。
幹細胞の持つ修復能力により、炎症の原因そのものに働きかけるため、従来の薬物治療やリハビリテーションでは得られない効果が期待でき、自然な治癒力を活かした治療で、患者さんが持つ本来の機能を取り戻すサポートをしています。
さらに詳しく再生医療について知りたい方は、以下で詳しく解説しています。また、問い合わせも可能ですので、ご相談ください。
自宅でできるセルフケアと予防策
自宅では安静にするほか、骨盤ベルトの装着や梨状筋のマッサージなどを行いながら様子を見ます。
骨盤ベルトは仙腸関節の不適合をおさえる効果のあるゴム製のベルトです。
骨盤に装着して仙腸関節の適合を良くすることで、痛みを和らげたり再発を予防したりする効果が期待できます。
梨状筋は仙腸関節の外側に付着して股関節を外旋させる(つま先を外に回す)小さな筋肉です。
仙腸関節炎になると緊張が増して硬さや痛みがでやすいのが特徴です。
マッサージを行うと筋肉の血流や柔軟性が良くなり、痛みの緩和につながります。
画像付きでわかりやすく解説します。
梨状筋のマッサージ方法
①膝を立てて座った状態で、マッサージをする側のお尻と座面の間にストレッチポールなどを置く
②ストレッチポールに体重をかけながらお尻を左右や前後に動かして梨状筋をほぐす
引用:園部俊晴.関節可動域.1版.㈱運動と医学の出版社.2023.329p.P38
仙腸関節炎(仙腸関節炎障害)の診断と治療
仙腸関節炎がうたがわれる場合は、整形外科やクリニックに行って医師の診断と理学療法士の治療を受けましょう。
実際の仙腸関節炎の診断と治療は以下のように行います。
専門医による診断プロセス
項目 | 点数 |
---|---|
One finger test(※)で上後腸骨棘(仙腸関節の上部分にある突起)を指す | 3 |
鼠径部(脚のつけね)に日ごろから痛みがある | 2 |
椅子に座る時に痛みが増す | 1 |
SIJ shear test(※)で痛みがでる | 1 |
上後腸骨棘を押すと痛みがでる | 1 |
仙結節靭帯(仙腸関節を覆う靭帯のひとつ)を押すと痛みがでる | 1 |
※One finger test…ひとさし指で痛みのある部位を指してもらう方法
※SIJ shear test…うつ伏せで仙腸関節を押して痛みを確かめる方法
また靭帯にブロック注射をしたときに、痛みが7割以上減る場合も確定診断としています。
有効なエクササイズとストレッチ
治療には仙腸関節を安定させる腹横筋のトレーニングや、股関節や骨盤の周囲にあるハムストリングスと腸腰筋のストレッチが有効です。
これらの筋肉には以下のような特徴があります。
筋肉 | ついている場所 | はたらき |
---|---|---|
腹横筋 | 骨盤から腹部の全体 | • お腹を凹ませる • 仙腸関節の適合を良くする |
ハムストリングス (大腿二頭筋と半腱様筋、半膜様筋) |
骨盤から太ももの裏側 | • 股関節を伸展させる(後ろに伸ばす) • 骨盤を後ろに傾ける |
腸腰筋 (大腰筋と小腰筋、腸骨筋) |
腰椎や骨盤から太ももの表側 | • 股関節を屈曲させる(前に曲げる) • 骨盤を前に傾ける |
これらのエクササイズやストレッチを行うことで、仙腸関節の適合が良くなったり骨盤や股関節の動きがスムーズになります。
結果、日常生活で仙腸関節にかかるストレスを減らす効果が期待できます。
手術療法の検討
さまざまな治療を行っても日常生活に支障をきたすほど痛みが強い場合は、仙腸関節の動きを固定する手術を検討します。
手術が適応となる状態は以下が例として挙げられます。
- • 6カ月以上の治療を行っても椅子に15分以上座れない
- • 痛みによってうつ伏せでなければ就寝ができない
- • 脚の強いしびれがでている
- • 痛みにより歩行に杖が必要となった
しかし別の疾患もうたがわれる場合は術後の改善が期待できないことも考えられるため、医師による慎重な判断が必要になります。
日常生活での予防策
仙腸関節炎は普段の生活から適切な姿勢やセルフトレーニングを習慣づけることによって、予防や再発防止が可能です。
以下に具体策を紹介していきます。
適切な姿勢の維持
日ごろから、仙腸関節や腰椎に負担のかからない立ち方や座り方を意識してとりましょう。
正しい姿勢を維持すると周囲の筋肉や靭帯が余計に緊張することがなくなり、仙腸関節の負担を減らす効果が期待できます。
気をつけるポイントを以下にまとめました。
- <立ち方>
①軽くお尻の穴をしめることを意識して、お尻が後ろに出ないようにする
②背骨が曲がったり反ったりして、上半身の位置が骨盤より前や後ろにいかないようにする(鏡の前に立って身体の真横から姿勢を確認すると良い)
- <座り方>
①背もたれによりかからず、骨盤を前に起こした状態で背骨を伸ばすことを意識する
②脚を組んだり、左右どちらかに体重を偏ったりする姿勢はひかえる
また、長時間の同じ姿勢は仙腸関節にストレスがかかる原因になりやすいので、デスクワークや立ち仕事では適度に姿勢を変えるようにしましょう。
運動とストレッチの重要性
日ごろから腹横筋やハムストリングス、腸腰筋のケアを行いましょう。
仙腸関節に関わる筋肉の強さや柔軟性を常にキープすることで、仙腸関節炎の予防が可能です。
以下に具体例を紹介します。
- <ドローイン(腹横筋の筋力トレーニング)>
①膝を立てながら仰向けになり、手を左右のお腹(へそより下)に置く
②息をゆっくり吐きながらお腹を凹ませる。このときにお腹の奥の筋肉が硬くなっていることを確認する
③時間をかけて10回、1日2セット行う
引用:成田崇矢.成田崇矢の臨床 腰痛.1版.㈱運動と医学の出版社.2023.315p.P203
- <ハムストリングスのストレッチ>
①膝を立てながら仰向けになる
②マッサージする側の膝を伸ばし、同時につま先を顔側に向ける
③筋肉が伸びた位置で20秒キープする。繰り返しながら3セット行う
引用:成田崇矢.成田崇矢の臨床 腰痛.1版.㈱運動と医学の出版社.2023.315p.P206
- <腸腰筋のストレッチ>
①マッサージする側の膝を床につけて、片膝立ちの姿勢をとる
②骨盤を前にゆっくり倒しながら股関節から太ももの前側につく筋肉を伸ばす
③筋肉が伸びた位置で20秒キープする。繰り返しながら3回セット行う
引用:成田崇矢.成田崇矢の臨床 腰痛.1版.㈱運動と医学の出版社.2023.315p.P207
しかし運動とストレッチは痛みが強い時期に行うと、仙腸関節まわりの筋肉や靭帯の緊張を高めて症状を悪化させる可能性があります。
ある程度痛みが落ち着いてから無理のない範囲で行いましょう。
仙腸関節炎(仙腸関節炎障害)の治し方に関するよくある質問
この章では、治療方法の選び方やセルフケアの実践方法、再発防止のためにできることなど、日ごろ、患者さんから多く寄せられる質問に対してわかりやすく回答していきます。
仙腸関節炎の治療に関する不安や悩みを解消し、最適なケア方法を選択するためのヒントを得ることができますので、ぜひ参考にしてください。
Q:.仙腸関節炎のときにやってはいけないことは何ですか?
A.仙腸関節に負担をかけるスポーツや動作は控えましょう。
野球やゴルフなどの回転動作が伴うスポーツは、症状を悪化させる可能性があります。中腰での作業や、重い荷物を持つ動作も仙腸関節にストレスがかかるためひかえましょう。
Q:.仙腸関節炎は温めたほうがいいですか?
A.仙腸関節炎は周囲の筋肉や靭帯の緊張が高まることにより痛みがでやすいため、温めたほうが症状が和らぐでしょう。
温めて血流を良くすることによりこれらの緊張がほぐれ、腰痛の改善が期待できます。
Q:治るまでの期間は?
仙腸関節炎の治療期間は、それぞれの状況や症状、治療方法によって異なります。
軽度の症状であれば、数週間から1カ月程度のリハビリやセルフケアで改善することがありますが、慢性化した場合や重度の炎症がある場合には、治療が数カ月に及ぶこともあります。
再生医療や物理療法を組み合わせることで回復を早めることができますが、治療の効果を最大化するには、継続的なケアと生活習慣の見直しが必要です。
Q:仙腸関節炎とヘルニアの違いは?
仙腸関節炎とヘルニアは、どちらも腰や背中に痛みを引き起こしますが、原因や症状の発生部位が異なります。
仙腸関節炎は、骨盤にある仙腸関節に炎症が起こることで痛みが生じますが、ヘルニア(とくに椎間板ヘルニア)は、背骨の椎間板が突出し、神経を圧迫することで痛みが発生します。
そのため、症状の特徴や治療法も異なり、正確な診断が必要です。
関連記事:ヘルニアの種類と後遺症に再生医療という新たな治療法
まとめ:仙腸関節炎はセルフケアも重要になる
この記事では仙腸関節炎の治療方法やセルフケアの重要性について解説しました。
整形外科やクリニックでの適切な治療や、日常生活で行える予防策を行って、仙腸関節にストレスがかかりにくい身体を作りましょう。
ぜひこの記事を参考にして腰痛に悩まされない毎日を送ってください。
参考文献 仙腸関節障害の確定診断法と手術療法の変法からみた低侵襲仙腸関節固定術の適応仙腸関節障害の今,そしてこれから |