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- 頭部
- 頭部、その他疾患
子どもがもやもや病と診断されて、困っている方もいるのではないでしょうか。 もやもや病は、脳の重要な血管である内頸動脈が細くなり、代わりに細い血管が多くなる病気です。大人と子どもでは、もやもや病の症状の出方やタイプ、そして注意点が異なります。 子どものもやもや病の症状や治療法などを知っておくと、今後病気に向き合っていく際に役に立ちます。本記事では、もやもや病の大人と子どもの違いや注意すべきポイントについて徹底解説していきましょう。 もやもや病の症状|子どもと大人の違い もやもや病は、脳の血管に生じる病気で、脳でも重要な血管である「内頸動脈」の終末部が徐々に細くなっていくのが特徴です。 脳に酸素や栄養を供給する脳血管は、血管が細くなるほど脳への血流が不足します。足りなくなった血流を補うため、内頚動脈の周囲に細い血管が網のように出現します。細い血管を脳血管撮影で映し出した際、煙のようにもやもやして見える点が、「もやもや病」の名前の由来です。 もやもや病の症状は大きく分けると、脳の血流不足である脳虚血と、発達した細い血管がちぎれて発生する脳出血が挙げられます。加えて、一時的な頭痛や言語障害などの症状が出るのも特徴です。 さらに子どもと大人とでは、症状の現れ方や注意点が異なります。 子どもの症状 子どものもやもや病は、小児もやもや病と呼ばれます。脳虚血症状がほとんどで脳出血はめったに例が見られません。 脳虚血症状では、手足の力が入らなかったりしびれたりするほか、言葉がうまく出ないなどの症状が急に起こります。 また、子どものもやもや病では、過呼吸(かこきゅう)によって脳虚血発作が誘発されやすい点も特徴的です。過呼吸は血中の二酸化炭素濃度を下げ、それにより脳血管が収縮して脳虚血発作が誘発されやすくなります。日常生活では、激しい運動や興奮状態など、呼吸が速くなる状況で注意が必要です。 一過性脳虚血発作は通常、数分から数時間で自然に回復します。ただし、これらの発作が繰り返されると脳梗塞につながる可能性があるため、軽視すべきではありません。 特に小さな子どもほど病気の進行が早い傾向があり、脳梗塞を発症するリスクが高いため、注意が必要です。 大人の症状 一方で大人のもやもや病では、脳の血流不足を補うために発達した細い血管が破れて起きる脳出血が多く見られます。 脳出血は、もやもや病による死亡や後遺症の最大の原因とされている症状です。後遺症が残った場合、脳機能の低下による高次脳機能障害や、運動障害によるマヒなどが発生するケースがあります。 また、成人のもやもや病では慢性的な頭痛を訴える患者様も多く、これも重要な症状の一つです。 もやもや病の検査 もやもや病かどうかを検査する方法は、MRI(磁気共鳴画像診断)・MRA(磁気共鳴血管造影)と脳血管造影検査(カテーテル検査)、脳血流検査の3つが代表的です。 MRI(磁気共鳴画像診断)・MRA(磁気共鳴血管造影) MRIでは脳の断層画像を撮影し、脳梗塞や出血などの病変を確認します。 MRAでは脳血管の形態を非侵襲的に評価でき、内頚動脈終末部の狭窄や閉塞、もやもや血管の発達状況を確認できます。放射線被曝がなく、造影剤なしでも検査可能なため、小児や定期的な経過観察に適しています。 脳血管造影検査(カテーテル検査) もやもや病の診断において重要な検査のひとつです。 足の付け根や手首から細いカテーテルを挿入し、造影剤を注入して脳血管を詳細に撮影します。 侵襲性(体への負担)があり、まれですが合併症のリスクがあるため、必要性を十分検討して実施されます。 脳血流検査 脳血流検査は、脳のどの部分にどれくらい血液が流れているかを調べる検査です。 特殊なカメラで撮影し、普通の状態と薬で血管を広げた状態の両方を調べることがあります。 この検査により、血管が血流を増やす能力を評価できます。この能力が弱い部分は将来脳梗塞のリスクが高まるため、手術が必要かどうかを判断する重要な材料になります。 症状が少ない方や手術効果の確認にも役立ちます。 小児での検査の注意点 小児では検査の協力が得られにくいため、年齢に応じた対応が必要です。 MRIやMRAでは、小さな子どもの場合、鎮静や全身麻酔を要することがあります。また、放射線被曝や造影剤使用についても配慮が必要です。 検査時の負担を最小限にするために、複数の検査をまとめて行ったり、年齢に応じた説明や準備を行うことが重要です。 もやもや病の治療 もやもや病の治療の目的は、脳梗塞や脳出血の防止です。 もやもや病を治療する方法に、薬による治療と、脳血流量を増やすためのバイパス手術があります。 薬による治療 薬による治療では、血液をサラサラにする抗血小板薬が用いられます。抗血小板薬は、血液が固まるのを防ぐとともに、血液の流れを円滑にする効果があるのが特徴です。 投薬により、一過性虚血発作を予防できます。ただし、効果が限定的であるため、次に紹介するバイパス手術が用いられるケースもあります。 バイパス手術 バイパス手術は、虚血型もやもや病の治療で、脳梗塞を予防する効果が認められています。 バイパス手術は、頭皮の血管を脳血管に直接つなぎ合わせる「直接バイパス術」と、頭皮の血管を周りの組織とともに脳の表面に接触させて、新たな血管の生成を促す「間接バイパス術」が主な方法です。加えて、両者の手法を組み合わせる「複合血行再建術」も用いられます。 大人の手術では直接バイパス術と複合血行再建術が、子どもの手術では間接バイパス術と複合血行再建術が行われます。 バイパス手術では、一過性脳虚血発作(TIA)や脳梗塞リスクなどの改善効果が報告されているのが現状です。(文献1) 小児もやもや病の注意点 子どもが小児もやもや病になった場合、脳虚血症状がたびたび見られるときは、激しい運動や楽器の演奏を控えさせる点に注意します。 激しい運動などをきっかけに、血流不足に陥るリスクがあるためです。そして、可能な限り早い段階で、子どもへの手術を主治医と相談する必要があります。 手術などの治療が終わった後は、子供の日常生活で必要以上の制限は不要です。ただ制限の要不要については、主治医との綿密な相談が大切です。 小児もやもや病になった子ども向けの就学支援 小児もやもや病の子どもは、たとえ脳梗塞などの症状がなくても、認知機能に関するさまざまな悩みを抱えることがあります。 特に計画立案や複数の課題の同時処理が難しいことがあり、学校生活に支障をきたすケースも見られます。 このような子どもたちの学校生活をサポートするため、厚生労働省の研究班による「医療関係者・教育関係者のためのもやもや病就学支援マニュアル」(2023年)が作成されました。(文献2) このマニュアルを活用し、医療機関と教育機関が連携して支援を行う取り組みが進められています。 まとめ|もやもや病の症状は大人と子どもで異なる もやもや病は子どもと大人で症状や注意すべき点、治療法が異なります。 いずれにしても脳梗塞や脳出血の症状が出る前に、適切な診断・治療を受けることが大切です。 また、脳卒中の後遺症に対しては、機能回復のためのリハビリテーションや再生医療による治療の選択肢があります。 再生医療をご検討方は、当院「リペアセルクリニック」でご相談ください。 もやもや病についてよくある質問 もやもや病は必ず手術しなければなりませんか? 症状が多発していない患者様であれば、すぐ手術をする必要はありません。 しかし、すでに脳虚血症状や脳血流検査での血流低下が認められる方などは、手術を勧めるのが一般的です。 また、子どもの場合は、将来の脳虚血や出血予防のために、手術による治療が広く考えられています。 以上に加えて、もやもや病の経験豊富な医師が的確な検査や年齢、患者様の状況を総合的に検討・判断していきます。 子どもの「もやもや病」の予後はどうなりますか? 子どものもやもや病は、症状のほとんどが脳虚血発作です。 このため、大きな脳梗塞が起こる前にバイパス手術を受けられれば、術後の脳梗塞の発症は少ないとされています。 また社会生活については、8割以上の子どもたちが通常の生活を送れる状況です。一方、2割弱は普通学級への就学困難や、卒業後の就職の困難が報告されています。 診断が遅れ、手術の時点で脳梗塞が起きた場合、その後の社会生活に支障が出てしまう可能性があります。そのため、早期の診断と適切なタイミングでのバイパス手術が非常に重要です。 もやもや病の検査費用はいくら? もやもや病の検査費用は、検査の種類によって異なります。 種類別もやもや病の検査費用の相場(3割負担の場合) MRI・MRA検査:8,000円~2万5,000円程度 CT検査:非造影は5,500円~8,000円程度/造影で7,500円~1万2,000円程度 ただし、具体的な金額は医療機関によって異なるため、詳しくは各医療機関にご確認ください。 参考文献 (文献1) 一般社団法人日本小児神経外科学会 「小児脳神経外科(もやもや病)」 一般社団法人日本小児神経外科学会公式サイト http://jpn-spn.umin.jp/sick/d.html(最終チェック日 2025年3月20日) (文献2) 京都大学医学部附属病院「もやもや病就学支援マニュアル」2023年. https://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/department/division/pdf/moyamoya/moyamoya_web.pdf (最終アクセス:2025年3月30日)
2023.09.25 -
- 大腿骨骨頭壊死
- 股関節
大腿骨頭壊死で注意すべき!やってはいけないこと 大腿骨頭壊死は、股関節の一部である「大腿骨頭」が血流障害によって、壊死してしまう病気です。 外傷や、過度のアルコール、過度のステロイド使用など様々な原因があります。なかには特に原因のない特発性もあり、指定難病にもなっています。 今回は、大腿骨頭壊死と診断されたら、どのようなことに気を付ければよいのか、またどのような生活を送るべきなのかについて詳しく解説します。症状の進行を防ぐために、是非参考にしてください。 大腿骨頭壊死の治療 大腿骨頭壊死は、年間2000~3000人が発症する病気です。「壊死」という病名は、なんだか恐ろしく、将来歩けなくなってしまうかも?と思われる方もいるでしょう。 ですが、適切な治療やリハビリを行うことで、進行を遅らせたり、日常生活に支障なく戻れたりする可能性が非常に高い病気でもあります。正しい知識を持って行動することが大切です。 1. 原因を知る 大腿骨頭壊死の原因がなんであるかを知ることが大切です。前述の通り、全く原因がない場合もありますが、アルコールやステロイドなど原因と疑われるものがある場合は、減らしたりやめたりすることができないか、検討してみましょう。 ただし、ステロイドは、もともとの病気をコントロールするために必要不可欠な場合が多いので、処方している主治医ともよく相談してから判断してください。 2. 進行度を知る 大腿骨頭壊死がどのくらい進行していて、壊死がどんな場所にあるかも重要なポイントになります。 壊死が発症初期であれば、体重をかけずに経過を見ることで壊死部が修復する可能性もあります。こちらも主治医とよく話し合い、治療の方針をしっかりと理解することが大切です。 3. 治療を検討する どうしても痛みが強い場合や、壊死が進行してしまっている場合は、関節を人工関節に変える手術を行うことが多くなります。 ただし、若年で人工関節を入れると、人工関節の耐用年数の問題で将来、再手術という可能性が高くなるため、できれば進行させない生活をすることが望ましいといえます。 4.再生医療という新たな選択肢 また近年では、人工関節などの手術をすることなく、入院も不要で骨や軟骨の再生を促して治療する最新の医療で「再生医療」という選択肢が増えました。実施できる医療機関はまだまだ少ないのが実情ですが、手術を行う前に、自身に適合するのかカウンセリングを受けてみるのもひとつです。 大腿骨頭壊死でやってはいけないこと 大腿骨頭壊死を進行させる一番のリスクは、大腿骨頭にかかる負荷が増大することです。 大腿骨頭は股関節を形成している部分であるため、立ったり歩いたりすると直接体重を受けてしまいます。そのため、1本杖や松葉杖を使用して、過度な負担がかからないようにすることが必要です。 注意!これをやったら壊死が進行!危険な行動とは 大腿骨頭壊死を発症した場合、激しい運動や階段昇降、重量物の運搬、長時間の立ち仕事など、股関節に持続的に強い負荷がかかることは避けるべきでしょう。 また、体重が増えてしまうことにも注意です。体重が増えると、増えた体重分、股関節にかかる負担が大きくなります。 また、壊死は股関節の前方に発生することが多いため、しゃがみこむ動作や、前屈動作など股関節を曲げる姿勢をとると、壊死部に負担がかかりやすいです。そのような姿勢もなるべく避けましょう。 そして、アルコールとタバコは絶対にやめましょう。 アルコールはそれ自体が、大腿骨頭壊死の原因となることがわかっています。また、骨密度を低下させる可能性もあるため、壊死で弱った骨をさらに弱くしてしまいます。 タバコも大腿骨頭壊死のリスクといわれています。さらにタバコは血行を悪化させ、骨壊死を加速させるリスクも指摘されており、絶対にやめましょう。 大腿骨頭壊死の禁忌事項(やってはいけないこと) 激しい運動や階段昇降 重量物の運搬 長時間の立ち仕事 股関節に持続的に強い負荷がかかること 体重増加 しゃがみこむ動作 前屈動作など股関節を曲げる姿勢 飲酒 喫煙 何より、この病気で一番良いのは、股関節に全く体重をかけないことにつきます。ただ、そのような生活をおくるのは事実上不可能です。しかし、少なくとも股関節に「持続的に強い負荷がかかる」動作や、「飲酒」や「喫煙」は避けることができるはずです。 大腿骨頭壊死を悪化させない理想の生活とは 生活について具体的にはどのようにすれば良いのでしょうか。最低限、以下の3点に気をつけて生活することが大切です。 ベッドや椅子を使用し、「洋式の生活」を心がける 股関節を深く曲げこむ動作が多い、こたつや布団、和式トイレなどの日本式の生活は、股関節に大きな負担を掛けます。なるべくベッドや椅子を使用し「洋式の生活」にすることを心がけましょう。 お風呂に浸かるなどし身体を温めて血行を良くする 大腿骨頭壊死は血流障害によって起こります。体を温めることは血行を良くすることにつながるため、お風呂に入るなど体を冷やさないように心がけることも大切です。 鎮痛剤を使用しながら安静期間を設ける 痛みが生じている場合は、無理をせず、鎮痛薬を適宜使用しながら安静の期間を設けることも必要です。 ただし、我慢しすぎて手術の時期を逃してはいけません。整形外科医の定期的な診察を受けつつ、これらの生活スタイルを工夫していきましょう。 大腿骨頭壊死についてよくあるQ&A 大腿骨頭壊死について、患者様からお伺いすることが多い質問を抜粋して以下表示いたしました。 Q:遺伝的に大腿骨頭壊死になりやすい人はいますか? 現在の研究では、大腿骨頭壊死が遺伝的に引き起こされることは確認されていません。ただし、ステロイド性の骨頭壊死に関しては、骨頭壊死を引き起こす遺伝子がある可能性までは研究でわかっており、今後さらなる研究が望まれます。 Q:どのくらいのステロイドを使うと大腿骨頭壊死になりやすいですか? 明確な危険量は分かっていませんが、内服開始から骨壊死が発生するまでの期間で、一日平均約15㎎を超える場合は、骨頭壊死のリスクが高まるといわれています。 これはプレドニゾロンというステロイドに換算した値ですので、実際に自分がどのような薬をどのくらい使用しているか気になる方は、主治医に確認してみてください。 まとめ:大腿骨頭壊死で注意すべき!やってはいけないこと 今回は大腿骨頭壊死になってしまったら、どのようなことに注意をすべきかに焦点を当てて解説しました。大腿骨頭壊死は、患者さんの生活習慣や行動が、その後の進行や症状を大きく左右する病気のひとつです。 病気に対する理解と自己管理が、大腿骨頭壊死とうまく向き合うポイントとなります。ご自身の病状をしっかりと把握し、進行予防に努めましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 ▼以下もご参考にして頂けます 骨壊死の分類|股関節・肩、膝の骨頭壊死症とは
2023.09.21 -
- 脳卒中
- 頭部
- 脳出血
橋出血はどんな初期症状が出るのだろう。 橋出血になったら、助かるのかな。 この記事を読んでいるあなたは、聞きなれない「橋出血」という病気について不安を抱いているのではないでしょうか。「これからどうなるのだろう」と、心配しているかもしれません。 橋出血とは、脳の中心部にある「橋(きょう)」という部分からの出血で、脳出血全体の5〜10%を占めます。初期症状として意識障害や頭痛が出るケースが多く、状態によっては助からないケースも珍しくありません。 本記事では、橋出血の初期症状や死亡率、予防法を詳しく解説します。記事を最後まで読めば、橋出血の全容がわかり、リハビリや再出血予防を含む今後の見通しをたてられるでしょう。 橋出血の初期症状は「意識障害や頭痛」 橋出血を含む脳出血は、突然脳の血管が破れて発症し、前兆や予兆がないケースも珍しくありません。しかし、初期症状がわかれば早期治療が可能となり、出血の拡大を予防できます。 橋出血の初期症状は、以下のとおりです。 なん何となく受け答えが悪い(意識障害) 強い頭痛が続く 手足がうまく動かせない 身体の片方だけ感覚が鈍い このような症状がある場合は、救急車の利用も考慮に入れ、できるだけ早く医療機関を受診してください。 また、当院リペアセルクリニックでは、脳梗塞や脳出血といった「脳卒中」の治療法の1つとして再生医療をおこなっています。「メール」や「オンラインカウンセリング」によるご相談も可能です。橋出血の治療法に興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。 橋出血における2つの症状 出血の部位や大きさによって異なりますが、橋出血の症状は「瞳孔の変化」と「四肢の麻痺」が特徴的です。また、意識障害、視覚障害、言語障害、呼吸障害などのさまざまな症状が出るケースもあります。 本章では、橋出血の特徴的な症状である瞳孔の変化と四肢の麻痺について、解説します。 瞳孔の変化 瞳孔とは、目の真ん中にある「黒目」のさらに中心にある黒い部分です。瞳孔のはたらきは、目の中に入る光の量の調整です。まぶしいときは光の取り込み量を減らすために縮小し、暗いときは取り込み量を増やすために拡大します。 脳の奥にある「橋」には、瞳孔の大きさを調整するための神経が通っています。そのため、橋出血によりこの神経が影響を受けると、瞳孔が極端に収縮するのです。両側瞳孔の高度縮小はpinpoint pupilともよばれ、橋出血に特徴的な所見です。 四肢の麻痺 橋には、四肢の運動機能を担う神経も通っています。橋からの出血がその部分を巻き込んだ場合、運動機能の調節ができなくなり、手足の麻痺があらわれます。広い範囲で出血が起こった場合は、片側だけでなく、四肢の麻痺となるでしょう。 ただし、出血量が少なければ、「片側の麻痺に留まる」「運動は保たれて感覚のみ麻痺する」などの場合もあります。片側に麻痺が出る際は、機能が失われた脳の反対側の手足に症状が出るケースが一般的です。 脳内における「橋」の役割については、以下の記事で詳しく説明しています。橋出血について詳しく知りたい方はあわせてチェックしていただければ幸いです。 橋出血の治療は「保存療法がメイン」 橋出血の治療は、原因となる血圧を下げる「血圧コントロール」「脳のむくみ予防の点滴」などの「保存療法」が基本です。 脳のほかの部位で出血したときは、血腫(出血によって生じた血の塊)を取り除く手術をするケースがあります。しかし、脳の深部にあり、正常な組織を傷つける可能性が高いため、基本的に橋出血の手術はおこなわれません。 また、身体を動かしても問題のない状態になり次第、日常生活に戻るためのリハビリもおこないます。 橋出血の治療法は、以下の記事で詳しく説明しています。 橋出血の死亡率は約50% 橋出血の死亡率は、約50%です。(文献1) 入院時の意識レベルが低い、出血が多いなどの場合は死亡率が高く、予後も不良です。場合によっては出血してから数時間で命を落とすケースもあります。 出血の範囲が小さく、量も少ない場合の予後は比較的良好で、退院後は自宅での生活に戻れる方もいます。しかし、運動麻痺や感覚麻痺などの後遺症が出る方も多いのが現実です。自宅での生活が難しければ、回復期リハビリテーション病院や病棟に移動してリハビリを続けるケースもあります。 当院「リペアセルクリニック」が取り扱う再生医療は、リハビリと併用すると身体機能の回復効果を高められます。「メール」や「オンラインカウンセリング」によるご相談も可能です。興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。 橋出血の予後については、以下の記事も参考にしてください。 橋出血の予防には血圧コントロールが大切 橋出血のみならず、脳出血の最も多い原因は高血圧です。高血圧は一般的な病気であり、多くの人が指摘されたことがあるのではないでしょうか。 高血圧は、ほかの生活習慣病と同じく、食事、運動が基本的な治療です。とくに塩分の摂りすぎには注意した方が良いでしょう。 血圧が高い状態が続いている場合は、投薬治療が必要な場合もあるため、医師に相談してください。 脳出血が再発すると、今回無事だった部位もダメージを受け、さらに後遺症が重くなる可能性も考えられます。再発を防ぐために、できる限りの対策をおこないましょう。 まとめ|橋出血の初期症状があらわれたらすぐに受診を 本記事では、橋出血の初期症状やその後あらわれる症状、死亡率などを詳しく解説しました。 橋出血の初期症状は、意識障害や頭痛などです。脳出血はいきなり起こるため、予兆や前兆がないケースもありますが、初期症状を知っておくことで早めの受診が可能になるでしょう。 また、意識がない、出血量が多いなどの場合の死亡率は高く、助からないケースも珍しくありません。高血圧は橋出血のリスクを高めるため、減塩や運動などの生活習慣にも気をつけましょう。 当院「リペアセルクリニック」では、脳卒中の再生医療(幹細胞治療)をおこなっています。壊れた脳細胞の再生ができれば、リハビリの効果を高める、再発防止などの効果が期待できるでしょう。 再生医療へのご質問・ご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けております。気になる点がありましたら、どうぞ気軽にご相談ください。 橋出血の初期症状に関するよくある質問 橋出血の症状が出た人におこなうリハビリは何? 橋出血後に姿勢の保持が難しい、歩行時のふらつきなどの「運動失調」という後遺症が出た場合、以下のようなリハビリをおこないます。 フレンケル体操 重り負荷での運動 弾性緊縛帯 固有受容性神経筋促通手技(proprioceptive neuromuscular facilitation:PNF) 橋出血後のリハビリについては、以下の記事で詳しく説明しています。 橋出血を予防する方法は何? 橋出血はほかの脳出血と同様に、「高血圧」によって起こるケースが多くみられます。完全な予防は困難ですが、適正な血圧の維持がリスクの低下につながるでしょう。 具体的な方法は、以下のとおりです。 生活習慣の見直し:減塩・適度な運動・健康的な食生活・禁煙 適切な薬物治療:処方された薬の正しい服用 橋出血の予防・再発予防のために、血圧が高い方は早めに治療を受けるようにしましょう。 脳出血を防ぐ方法は、以下の記事もぜひ参考にしてください。 参照文献 文献1 Behrouz R. Prognostic factors in pontine haemorrhage: A systematic review. Eur Stroke J. 2018 Jun;3(2):101-109. doi: 10.1177/2396987317752729. Epub 2018 Jan 8. PMID: 31008342; PMCID: PMC6460408.
2023.09.18 -
- ひざ関節
- 膝に赤みや腫れ
- 膝の慢性障害
「急に膝の皿が痛むのはなぜ?」 「膝の皿が痛いとき、自宅でできる対処法はある?」 結論、膝の皿が痛いときは、膝関節の軟骨がすり減っていたり、靭帯が損傷している可能性が考えられます。 対処法として、ストレッチや筋力トレーニングによる膝周辺の強化や、テーピングで膝を固定することによる応急処置は可能です。 しかし、原因や症状によっては逆効果になってしまい、痛みや症状を悪化させてしまうリスクもあります。 どのような治療を受けるべきか、そもそも病院に行くべき症状かわからないという方は、ぜひお電話で症状についてお聞かせください。 ▼無料の電話相談はこちら >>今すぐ電話してみる 膝の皿が痛い3つの原因 膝の皿が痛いときは、主に以下3つの原因が考えられます。 膝蓋大腿関節症 変形性膝関節症 膝蓋腱炎(ジャンパー膝) 膝の皿の痛みに悩んでいる方は、本章で紹介する病気に当てはまるかどうかチェックしてみてください。 原因1. 膝蓋大腿関節症(しつがいだいたいかんせつしょう) 加齢などによって膝蓋大腿関節にズレや炎症が起きると、軟骨がすり減って痛みが生じやすくなります。この状態を「膝蓋大腿関節症」と呼びます。 膝の皿の骨である膝蓋骨と大腿骨との間で障害が起こる病気で、膝を伸ばすときに痛みを感じやすいのが特徴です。膝の皿だけでなく、膝の皿の横や皿の周りが痛むケースもあります。 整形外科での診察・検査後、「保存療法」もしくは「手術療法」による治療をおこなうのが一般的です。 膝蓋大腿関節症は、とくに中高年の女性に多く見られます。女性で膝の皿の痛みに悩んでいる方は、一度医療機関を受診してみましょう。 「病院に行くべきかわからない」「病院に行く時間がない」という方は、ぜひお気軽にお電話にて症状についてご相談ください。 ▼無料の電話相談はこちら >>今すぐ電話してみる 原因2. 変形性膝関節症 変形性膝関節症とは、関節の軟骨が老化し、変形してしまう病気です。 主な原因は以下が挙げられます。 加齢 肥満 遺伝 骨折などの外傷 など 変形性膝関節症では、膝の皿に痛みを感じる、水が溜まるなどの症状がみられます。 発症初期は動作の開始時に痛むことが多く、治療せず放置すると安静時にも痛むようになったり、膝を伸ばせなくなったりすることもあります。 変形性膝関節症の治療は、以下のような方法が一般的です。 湿布や痛み止めの処方 ヒアルロン酸注射 リハビリテーション 装具の装着 人工関節術 など また、変形性膝関節症の治療には再生医療(幹細胞治療・PRP療法)も効果的であることがわかっています。 詳しくは以下の記事をご覧ください。 原因3. 膝蓋腱炎(ジャンパー膝) 膝蓋腱炎(ジャンパー膝)とは、膝の皿の下部にある「膝蓋腱」に繰り返し負担がかかることで損傷し、痛みを起こす病気です。 発症時は動作の始めや運動時に膝の皿の違和感を感じることが多く、症状が悪化すると日常生活でも痛むようになります。 膝蓋腱は、ジャンプ・着地などの跳躍動作やランニング時など、膝関節を屈伸したときに引っ張られる部位です。そのため、膝蓋腱に負担のかかる動作が多いスポーツ(サッカーやバレーボールなど)をしている人が発症しやすい病気です。 膝蓋腱炎(ジャンパー膝)の治療では、痛み止めの内服やヒアルロン酸、PRPなどの注射、ストレッチを行います。 重症の場合は「難治性膝蓋腱炎」の可能性があり、手術を検討するケースもあります。 日常的に跳躍動作の多いスポーツをしていて、膝の皿の痛みに悩んでいる方は、整形外科などの受診がおすすめです。 膝蓋腱炎(ジャンパー膝)については、以下の記事も参考にしていただけますと幸いです。 【今すぐできる】膝の皿が痛いときの2つの対処法 膝の皿が痛いとき、病院に行く前に自分でできる対処法は以下の2つです。 ストレッチ・トレーニング テーピング ただし、むやみに自分で対処をすると悪化してしまうケースもあるため、あくまで応急処置に留め、早めに整形外科を受診しましょう。 ストレッチ・トレーニング 膝の皿が痛むときは、膝の上の筋肉である「大腿四頭筋」や、太もも裏の筋肉である「ハムストリングス」のストレッチがおすすめです。また「殿筋」と呼ばれるお尻の筋肉をほぐすのも効果的です。 また膝の皿の痛みは、大腿四頭筋の筋力低下によって起こっているケースもあります。そのため、ストレッチだけでなく適度なトレーニングをおこなうのも良いでしょう。 それぞれの部位ごとのストレッチ・トレーニング方法は以下のとおりです。 ストレッチ(トレーニング)する部位 やり方 大腿四頭筋 <ストレッチ> 壁やイスを使ってバランスを保ちながら立ち、片足ずつ膝を曲げ、前ももを伸ばす <トレーニング> 仰向けに寝て、両膝を立てた状態から片方の膝を伸ばす。 床から10センチほど離したままキープし、ゆっくりおろす動作を両足10回ずつおこなう ハムストリング <ストレッチ> 膝を伸ばして座り、上半身を前に倒して太もも裏を伸ばす 殿筋 <ストレッチ> 両手を床に置き、体操座りの状態で床に座る 片方の足を反対の太ももの上に乗せる 両手で床を押し上げ、上体を太ももに近づける 殿筋が伸びていることを確認し、15秒程度キープする(反対も実施) ストレッチは、反動をつけず痛気持ちいい程度で、無理なくおこないましょう。 膝の皿が痛む場合のストレッチやトレーニングについては、以下の記事も参考にしてください。 テーピング 膝の皿の痛みを和らげるには、テーピングも効果的です。膝関節や周辺の筋肉の動きを制限し、運動時の膝の痛みをを緩和しやすくなります。 テーピングをおこなうときは、腱や筋肉を過度に圧迫しないよう注意しながら、シワのないように巻きましょう。 膝をサポートするテーピング方法は以下の記事で紹介しています。気になる方はチェックしてみてください。 膝の皿が痛い!病院を受診する目安 膝の皿の痛みで病院に行くべきか迷った場合は、以下の項目を参考にセルフチェックしてみましょう。 動作の始まり(歩き始めや立ち上がり)に膝の皿が痛む 起床時に膝の皿がこわばる感じがする 階段の上り下りをすると膝の皿が痛む 膝蓋腱を指で押すと痛む うつ伏せの状態で膝を曲げると床から股関節まわりが浮く 上記の項目に1つでも当てはまる場合、変形性膝関節症などの初期症状である可能性があります。 膝の皿の痛みが続くときは放置せず、早めに整形外科で専門医による診察・検査を受けましょう。 「病院に行くべきかわからない」「病院に行く時間がない」という方は、ぜひお気軽にお電話にて症状についてご相談ください。 ▼無料の電話相談はこちら >>今すぐ電話してみる まとめ|膝の皿が痛い原因を知り病院への受診を検討しよう 本記事では、膝の皿が痛いときの原因や今すぐできる対処法を解説しました。 膝の皿が痛む場合、膝蓋大腿関節症などの疾患の可能性も考えられます。ストレッチ・トレーニングやテーピングなどで一時的に対処し、痛みが続くなら早めに整形外科を受診しましょう。 当院「リペアセルクリニック」では、自己の幹細胞を用いた再生医療による治療をおこなっています。 関節部分に幹細胞を投与し、すり減った軟骨を再生させることで、手術なしで症状を改善できる可能性が高くなります。 従来の保存療法や人工関節術を受けることに抵抗がある方は、ぜひ当院の再生医療もご検討ください。 この記事が膝の皿の痛みの原因や自分でできる対処法を知るのに役立ち、最適な治療を受けるきっかけになれば嬉しく思います。 ▼無料の電話相談はこちら >>今すぐ電話してみる 膝の皿が痛いときによくある質問 急に膝の皿が痛くなるのはなぜですか。 急に膝の皿が急に痛む場合、筋力の低下や姿勢の悪さが原因の可能性があります。 大腿四頭筋腱炎など膝の疾患も考えられるため、痛みが続くなら早めに整形外科で診察・検査を受けましょう。 膝の皿が痛む原因については、以下の記事も参考にしていただければ嬉しく思います。 膝の皿が痛い!?考えられる病名とその原因、治療について徹底解説 曲げると膝の皿が痛いときはどうすれば良いですか。 膝を曲げると痛む場合は、できる限り安静にすることが第一です。膝が熱を持っていたり腫れていたりする場合は、炎症が引くまで冷やすのも良いでしょう。 40歳以上の中高年の方の場合は「変形性膝関節症」の可能性もあるため、不安な方は整形外科での受診がおすすめです。
2023.09.14 -
- ひざ関節
- 靭帯損傷
後十字靭帯損傷と呼ばれる怪我をご存じでしょうか。後十字靭帯は大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)をつなぐ重要な靭帯で、膝の裏側にあります。 靭帯損傷または断裂と聞くと、スポーツで起きるイメージを持つ方も多いでしょう。しかし、後十字靭帯損傷はスポーツだけではなく、転倒や交通事故によって起こるケースも少なくありません。 今回は、後十字靭帯損傷について、主な症状や診断方法、治療法について詳しく解説します。後遺症のリスクや完治までの期間などもまとめているので、ぜひ参考にしてください。 後十字靭帯損傷(断裂)とは 後十字靭帯損傷(断裂)とは、膝関節を構成する後十字靭帯が部分的または完全に断裂した状態のことです。 後十字靭帯が損傷または断裂すると、膝の安定性が失われ、運動時や日常生活において膝が崩れるような違和感が現れます。また、膝が腫れて痛みを感じるケースがほとんどです。 以下で、後十字靭帯の役割や損傷の原因などを解説するので、ぜひ参考にしてください。 後十字靭帯の主な役割 後十字靭帯は、膝関節の内側に位置し、大腿骨の内側顆から後方外側に向かって伸び、脛骨(すねの骨)の顆間隆起の後外方に停止します。後十字靭帯は、膝関節の安定性を保つために欠かせない靭帯です。 「後」十字靭帯と呼ばれる名前からわかるように、膝には「前」十字靭帯も存在します。膝の内部で2つの靭帯が十字型に見えることから、それぞれの名前で呼ばれています。人が膝を安定して動かせるのは、前十字靭帯と後十字靭帯が共に機能するためです。 後十字靭帯は、前十字靭帯よりも太さと強度があり、脛骨(すねの骨)が後ろに脱臼しないように保持する働きをしています。また、安定して膝を捻る動作ができるよう膝を支える役目も担っています。 後十字靭帯損傷(断裂)の原因 後十字靭帯損傷(断裂)は、主に膝を曲げた状態で強く地面に打ち付けることによって発生するケガです。たとえば、交通事故でダッシュボードに膝を強く打ち付けたり、転倒して膝から転んで強い衝撃を受けたりするケースなどが、典型的な受傷機転として挙げられます。 ほかにも、スポーツでは、ラグビーやアメリカンフットボールなど、コンタクトが激しいスポーツ中に受傷するケースがあります。実際に、後十字靭帯損傷は、交通事故やスポーツ動作によるものがほとんどです。 後十字靭帯損傷(断裂)の症状 後十字靭帯損傷(断裂)の多くは、膝を打ちつけたことによって、膝の皿の下に擦り傷や打撲などの外傷が見られます。場合によっては、関節内に少量の血が溜まることもあります。 また、靭帯だけではなく、後ろの関節包(関節を包んでいる袋)も損傷している場合には、膝後方に皮下出血が見られることもあるため注意が必要です。なかには、膝窩部(膝裏)の痛みや、膝を曲げると痛いといった症状を訴える方もいます。 後十字靭帯は、一部の損傷で済むケースも少なくありません。しかし、靭帯が完全に断裂し、膝の安定性が乏しい場合は、階段の上り下りやしゃがみ込むときに膝がグラグラする感覚があります。 ▼ 膝が痛むときに疑われる病気について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。 後十字靭帯損傷(断裂)の診断方法 後十字靭帯損傷(断裂)を疑う外傷があった場合、徒手検査と画像検査によって診断します。 以下で、後十字靭帯損傷の診断方法を解説するので、ぜひ参考にしてください。 徒手検査 後十字靭帯損傷(断裂)が疑われる場合は、まず診察を行い、膝関節の不安定性がないかどうかをチェックします。徒手検査とは、患部を動かしたり叩いたりして、患者の反応を観察し、治療すべき部位を特定するための検査です。 後十字靭帯損傷の検査として有名なものに、「後方引き出しテスト」と呼ばれる検査があります。後方引き出しテストの実施方法は、以下の2ステップです。 寝た状態で膝を曲げる 医師が脛骨(すねの骨)を後ろに押していく 後十字靭帯が機能していないと、後方引き出しテストをした際に、脛骨が後ろに落ち込んでしまうような感覚があります。 画像検査 後十字靭帯損傷(断裂)の画像診断は、レントゲンとMRIで実施します。靭帯自体はMRIだけでも評価できるものの、骨折を合併していないか確認するためにレントゲン撮影をするケースも少なくありません。 MRIでは、靱帯が完全に断裂しているのか、または部分的に損傷しているのかの評価が可能です。また、半月板や側副靱帯といったほかの部位の損傷についてもMRIで評価できます。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。後十字靭帯損傷が疑われる場合は、来院前でも良いのでぜひ気軽にご相談ください。 後十字靭帯損傷(断裂)の治療法 後十字靭帯の機能は、保存的治療でも比較的に良好に回復するとされています。そのため、一般的には保存療法が選択されるケースが多い傾向です。 以下で、後十字靭帯損傷(断裂)の治療法について解説するので、ぜひ参考にしてください。 保存療法 保存療法の場合は、基本的に膝関節の安定性を補助するための装具を2カ月程度使用します。保存療法は、後十字靭帯損傷が軽度で、膝の不安定感があまり強くない場合に選択する治療法です。 受傷から1〜2週間の急性期は、膝の腫脹や痛みがある時期のため、ある程度痛みが治るまでは負担をかけないように松葉杖やサポーターなどを使用します。また、痛みのない範囲で、早期から関節可動域訓練やストレッチなどを開始し、治療を進めていきます。 3週間程度で徐々に膝が動かせるようになり、装具を使用しながら筋力トレーニングやランニングなどを開始できるでしょう。その後、3カ月程度で8割を目安に筋力が回復したら、スポーツ復帰が可能です。 手術療法 後十字靭帯損傷(断裂)が重度で、保存療法では効果的な回復が見込めない場合には手術を選択します。手術は通常全身麻酔で行われます。 手術では、断裂した靱帯同士を縫合するのが難しいため、代わりにもも裏の筋肉(ハムストリング)の一部を採取し、靱帯のように形成して移植する方法が一般的です。 手術後は、膝を固定するために装具を使用し、術後3週間程度は体重をかけないようにします。入院期間は病院によって異なるものの、通常は膝に体重をかけられるようになると退院が可能です。 なお、後十字靭帯損傷の手術は、50万円前後の費用がかかるとされています。基本的には高額療養費制度の適応となるため、自己負担は軽減されます。高額療養費制度に関しては、加入している健康保険窓口で問い合わせてください。 再生医療 再生医療は、後十字靭帯損傷(断裂)を含めた膝関節の新しい治療法として注目されています。再生医療とは、損傷した靭帯や組織を修復するために体の自然治癒力を活用する治療法です。 再生医療には、主に以下の2種類があります。 幹細胞治療 患者自身から採取した幹細胞を膝関節内に注入する 炎症や痛みを抑えて、損傷部位の修復や改善を促進する効果が期待できる PRP療法 患者自身の血液から抽出した多血小板血漿(PRP)を膝関節内に注入する 成長因子の働きを利用し、損傷部位の修復を促進する効果が期待できる なお、リペアセルクリニックの再生医療では、採取する際の安全性が高く、体への負担が少ないとされている脂肪由来の幹細胞を使用しています。再生治療について詳しく知りたい方は、気軽にメール相談やオンラインカウンセリングをご利用ください。 運動療法(リハビリや筋トレ) 後十字靭帯損傷(断裂)後の回復において、リハビリテーションや筋力トレーニングなどの運動療法はとても重要です。適切な運動療法は、膝の可動域を回復させるだけではなく、筋力を強化して膝の安定性を高めることにつながります。 後十字靭帯損傷後の運動療法は、主に以下の要素を含みます。 膝関節の可動域訓練 筋力強化訓練 バランストレーニング 競技に特化した専門的なトレーニング とくに、スポーツ復帰を目指す場合はリハビリテーションが治療の中心的な役割を占めます。また、運動療法は、将来的な再発リスクを減らすためにも欠かせないプロセスの一つです。 ▼ 後十字靭帯損傷のリハビリにおける禁忌事項については、以下の記事で詳しく解説しています。 後十字靭帯損傷(断裂)の放置は後遺症のリスクを高める 後十字靭帯損傷(断裂)を放置すると、後遺症のリスクが高まるため注意が必要です。後十字靭帯損傷の主な後遺症として、以下のような症状が挙げられます。 膝の不安定性 膝の痛みの慢性化 膝のぐらつき 半月板損傷 変形性膝関節症 膝が不安定な状態のまま日常生活を送ると、大腿骨と脛骨の動きが通常よりも大きくなり、膝全体にストレスがかかります。この状態が長期間続くと、膝の軟骨や半月板などまで損傷が広がりかねません。 さらに悪化すると膝関節が変形してしまい、極端なO脚やX脚になってしまう可能性があるため注意してください。膝の痛みは放置せず、早めに医療機関を受診しましょう。 まとめ・後十字靭帯損傷(断裂)は早めに医療機関を受診しよう 後十字靭帯は膝を安定させるために重要な役割を果たしています。たとえ膝の痛みが軽い場合であっても、放置すると日常生活に支障が出るケースも少なくありません。 後十字靭帯を損傷(断裂)したら、損傷の程度やスポーツ復帰への希望有無など、状況に合わせて保存療法や手術療法などを選択します。そして、それぞれの治療方法に適したリハビリテーションを行い、膝の機能の回復に努めることが大切です。 少しでも膝に違和感を感じている場合は、自己判断で放置せず、早期に専門医を受診してください。 ▼ 変形性膝関節症について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。 後十字靭帯損傷(断裂)の治療に関するよくある質問 ここでは、後十字靭帯損傷(断裂)の治療に関するよくある質問をまとめました。 後十字靭帯損傷(断裂)の完治にはどれくらいの期間がかかる? 後十字靭帯損傷(断裂)の完治にかかる期間は、損傷の程度によって異なります。 保存療法の場合、一般的には2〜4カ月程度のリハビリテーション期間を経て、膝の安定性が回復する傾向です。また、手術療法の場合は、最終的なスポーツ復帰までには10〜12カ月かかると考えましょう。 後十字靭帯損傷(断裂)を早く治す方法はある? 後十字靭帯損傷(断裂)を早く治すためには、 早期の受診と適切な治療がとても重要です。 後十字靭帯損傷の治療にはさまざまな方法があるものの、いずれの場合もリハビリテーションが欠かせません。医師や理学療法士などの指導のもと、早期から継続的なリハビリテーションを行うことで、早い回復が期待できるでしょう。
2023.09.11 -
- 関節リウマチ
- ひざ関節
- 膝部、その他疾患
関節リウマチは全身の関節に炎症が起こり、痛みや腫れを起こす病気です。 進行すると関節の変形や機能の障害を残してしまいます。 関節リウマチでは膝の痛み、膝の腫れも多い症状です。 膝が痛いとき、変形性膝関節症と考え「年のせいでは?」と悩んでいる方もいるでしょう。 もし関節リウマチだった場合に放置していると、悪化してしまう可能性もあります。 この記事では関節リウマチによる膝関節炎の症状や治療法について解説していきます。 膝の痛みでお困りの方はぜひ参考にしてみてください。 膝の関節炎とリウマチの違い 関節炎とリウマチの違いは、大きく分けると以下の通りです。 関節炎 さまざまな原因で関節に起こる炎症の総称 リウマチ 関節炎を起こしている症状の1つ たとえば関節リウマチでは、自分の体を細菌やウイルスから守る免疫の異常によって関節の滑膜に炎症が起こります。 関節リウマチが起こると痛みや腫れを感じるでしょう。 関節リウマチは無治療のままで放置してしまうと、関節が変形など機能的な障害をきたすので注意しましょう。 以下の記事では関節炎の1つ「化膿性関節炎」について解説しています。 治療法や再発予防もまとめたので、具体的な症状なども把握しておきたい方は、ぜひご覧ください。 リウマチが発症する主な原因や症状 関節炎とリウマチの違いが理解できても「気づかないうちに痛みを感じるようになった」方もいるでしょう。 ここからは、リウマチになる主な原因と症状を順番に解説していきます。 関節リウマチの主な原因 関節リウマチの多くは40〜60歳代頃の中高年女性に発症します。 正確な原因はまだ明らかになっていませんが、自己免疫疾患とも言えるでしょう。 自分の組織に対して攻撃する抗体が作られてしまい、関節内の滑膜にリンパ系の細胞が集まって炎症性の物質が作られるのが原因とも考えられています。 【リウマチの発症が疑われるサイン】 起床時に関節部分がこわばっているように感じる 関節が腫れている 関節が熱っぽい 力が入りにくい 日常生活の作業が上手くいかない 家族にリウマチの患者がいる など 上記の症状が感じられる方はリウマチになっている可能性があるので、しっかり検査しておきましょう。 発症には遺伝的な要因や喫煙、歯周病などが関連しているとわかっています。 発症すると関節炎によって痛みや腫れを起こし、進行すると関節の変形を生じてしまうため、早期の発見と治療が大切です。 リウマチによる膝関節炎の症状 関節リウマチで多い症状は手や足の指の腫れ、痛み、朝のこわばりなどです。 膝関節で滑膜が増殖して炎症を起こすと膝関節炎をきたしてしまいます。 膝関節炎の主な症状は以下の通りです。 膝が腫れる 膝に水が溜まる 歩くときや階段での痛みを感じる 膝が曲がらない など 膝の痛みは膝裏に起こるケースが多く、曲げ伸ばしのときに音が生じた経験もあるでしょう。 炎症が強い場合には安静にしていても歩けないくらいの激痛が生じる場合もあるので注意してください。 なお、リウマチはあくまで関節炎の1つなので、以下の表で似ている症状をまとめました。 病名 主な症状 膠原病(こうげんびょう) 関節に痛みを感じたり血管症などの症状がある 線維筋痛症 手足の関節だけでなく筋肉に激痛を感じるケースがある 比較的女性が発症しやすい 関節炎とリウマチの違いについてだけでなく、細かい症状の違いや治療法などが気になる方は、以下の記事で詳しく解説していきます。 膝関節炎を放置するリスク 膝の関節炎を放置しておくと、関節の軟骨がなくなってしまうだけでなく、徐々に関節の変形が進んでいきます。 日常生活を送る上で「多少の痛みだから」と放置しすぎてしまうと、膝の曲げ伸ばしが難しくなるので注意してください。 骨同士のぶつかりだけで痛みを感じる可能性もあるので、症状が悪化してしまいます。 関節の変形を生じさせないためにも、早期の発見と治療が大切です。 リウマチによる膝関節炎の診断方法 リウマチの診断は問診、身体診察と血液検査、画像検査などを組み合わせて総合的に行います。関節が腫れて、痛む病気は複数あり、検査だけで関節リウマチと診断できない場合があるからです。 関節リウマチの診断基準を使用して診断を行うので、専門家である医師の診断が必須となります。 現在では2010年に米国、欧州リウマチ学会が合同で発表した分類基準を使用するケースが大半です。(文献1) 以下の4項目についてそれぞれ点数をつけ、合計して6点以上であれば関節リウマチと診断します。 診断基準 症状がある関節の数 症状が続いている期間 血液検査での炎症反応の数値 血液検査でのリウマトイド因子や抗CCP抗体の数値 血液検査では、リウマトイド因子や抗CCP抗体が重要で、多くの関節リウマチで陽性になります。 しかし、両方とも陰性でも関節リウマチと診断されたり、陽性でも関節リウマチではなかったりもします。 炎症反応は活動性を反映する指標ですが、リウマチ以外でも上昇する可能性もあるので診断結果は要チェックです。 画像検査は診断基準には含まれませんが、単純レントゲン写真では「骨びらん」と呼ばれる骨の異常な透過性がみられる場合があります。 関節エコーやMRI検査も滑膜炎の範囲、程度を評価するのに有用です。 リウマチによる膝関節の治療法 リウマチによる膝関節の治療法は、日常生活で応急処置をする方法はもちろん、専門医から薬を処方してもらう方法などがあります。 ここからは、自宅でできる応急処置から薬物治療などの治療法を解説していきます。 体や関節を保温する 膝の関節炎だけでなく、体の関節が動かしにくいと感じた場合、患部を保温すると効果が期待できます。 冬場はもちろん、夏場の冷房があたるのも避け、長袖や長ズボンを着用しておくのがおすすめです。 患部を保温しておくと関節部分の血液がよく流れ、こわばりなどを症状を軽減する効果が期待できるのです。 関節が腫れている場合は炎症が起きている可能性があるので、保温以外の治療法を選択する必要があります。 以下の記事では、関節リウマチの初期症状や治療を詳しくまとめているので、あわせてご覧ください。 食事や姿勢などの私生活を見直す 関節リウマチの患者様は、食生活だけでなく姿勢改善などを普段から実施してもらうのがおすすめです。 症状を悪化させないためにも、以下のポイントには要注意です。 砂糖や加工食品を摂取しすぎない 激しい運動を控える 首に負担をかけない 同じ姿勢を長時間とる 重いものを持つ 正座をする 喫煙をする ストレスを溜める など 詳しい改善項目は、以下の記事でまとめているので、ぜひ参考にしてください。 専門医から抗リウマチ薬を処方してもらう リウマチの治療法は基本的に薬物治療です。 リウマチと診断した早期から、抗リウマチ薬を開始し、痛みの程度に応じて炎症を抑えるステロイドや、鎮痛薬を併用します。 薬物治療を開始しても膝関節炎の症状が続く場合にはサポーターを使用したり、膝関節に注射をしたりする方法があります。 日本リウマチ学会による2020年のガイドラインから代表的なお薬を以下の一覧でまとめました。(文献2) 抗リウマチ薬 メトトレキサート(第一段階) 生物学的製剤やJAK阻害薬(第二段階) 関節リウマチはこれまで治療が難しく、関節の変形が進行してしまう患者様も多かったのですが、現在では薬剤の種類も多くなっています。 効果が高いお薬もあるため、適切に治療すれば症状を抑えられます。 しかし、膝の関節炎が治まらず、関節の変形や破壊が進行した場合、人工関節置換術などの手術治療が行われるので不安に感じている方もいるでしょう。 膝の痛みは現在、⼿術をしなくても治療できる時代になっているので、気になる方は気軽にお問い合わせください。 まとめ・関節炎とリウマチの違いを把握して適切な治療を行おう! 関節リウマチによる膝関節炎は、日常生活に大きな影響を与える深刻な疾患です。 膝の痛みや腫れを放置すると、関節の変形や機能障害が進行し、歩行困難や日常生活の質の低下を招く恐れがあります。 しかし、早期発見と適切な治療を行えば、症状の進行を抑え生活の質を維持できます。 関節リウマチの診断には、問診や身体診察、血液検査、画像検査が用いられるので、専門医による診断が必須です。 リウマトイド因子や抗CCP抗体の検査結果が重要な診断指標となり、診断基準に基づいて総合的に判断されます。 自己判断で治療を中断したり放置したりせず、定期的な診察と検査を受けるよう心がけましょう。 日常生活では関節に負担をかけないように注意し、適度な運動やストレッチを取り入れるのも大切です。 関節リウマチの早期発見と適切な治療を通じて、健康的で快適な生活を維持しましょう。
2023.09.10 -
- ひざ関節
- 靭帯損傷
後十字靭帯損傷(こうじゅうじじんたいそんしょう)とは、膝の関節内にある後十字靭帯の損傷を指します。 主に車の事故やバイク事故、ラグビーなどのコンタクトスポーツで他人と衝突して生じ、痛みや症状改善についてお悩みの方も多いことと存じます。 そこで本記事では、後十字靭帯損傷の治療方法やリハビリにおける禁忌事項について解説します。読者の方々の一助となるべく、分かりやすく内容をまとめているのでぜひご一読ください。 後十字靭帯損傷の治療法 後十字靭帯の単独損傷では、大腿四頭筋訓練を中心とした保存療法が行われます。 膝動揺性抑制装具(サポーター)を装着して早期から痛みの無い範囲で可動域訓練を行い、筋力低下を最小限にとどめるようにします。受傷初期は疼痛緩和と安静を兼ねてギプス固定を行うこともあります。 後十字靭帯単独損傷の場合には多少の緩みが残ってもスポーツ活動に支障をきたさないことが多いです。このことから、軽度な症状の場合には先ずは保存療法を試みるようにします。 後十字靭帯損傷のリハビリにおける禁忌 後十字靭帯損傷におけるリハビリの禁忌として以下の事項が挙げられます。 しゃがみ・膝立ち 正座 膝に直接負担をかける行為は症状を悪化させる危険性があり、完治を妨げる要因ともなります。 また、後方へのストレス(不安定性)が強く、日常動作に不自由を感じる際は靭帯再建術を考慮しなければなりません。速やかに最寄りの医療機関または当クリニックにご相談ください。 なお、当院も専門領域なので、不安がある方は下記のバナーをクリックのうえ、お気軽にお問い合わせください。 後十字靭帯損傷の完治期間 https://youtu.be/ZYOV-Er0mnU?si=krijmhYRz9t7Ggd_ 後十字靱帯損傷の完治までの期間・道のりとしては、ハムストリングスを用いた再建術後の理学療法、術直後には免荷で膝装具0° 固定し等尺性筋収縮運動を行います。 1〜2週間で部分荷重、スクワット運動開始とします。4週間で全荷重、4カ月でジョギング、水泳などのスポーツ復帰が可能となります。 期間 トレーニング内容 1〜2週間 部分荷重、スクワット運動開始 4週間 全荷重 4カ月 ジョギング、水泳などのスポーツ復帰 上記の期間を経て、全治までには数ヶ月を要します。 後十字靭帯損傷の予後は比較的良好とされていますが、自然治癒するわけではないことを覚えておきましょう。 最近では、早期の競技復帰を望むアスリートの間などで靭帯組織の修復に期待できる「再生医療」が注目されています。 ▼再生医療について詳しく見る 後十字靭帯損傷の診断方法 脛骨の後方ストレスへの不安定性とMRI画像で後十字靭帯断裂を確認し、後十字靭帯損傷を診断できます。 また、レントゲン写真では骨折の有無の判別が可能です。 くわえて、後十字靭帯損傷の診断方法のひとつにsagging(サギング)テストがあります。 脛骨が落ち、関節に窪みが生じていれば後十字靱帯断裂を疑います。 そもそも後十字靭帯損傷とは 後十字靭帯は、膝関節の中で前十字靭帯とともに関節を強固に連結している靱帯です。 大腿骨(太ももの骨)の内側と、脛骨(すねの骨)の中央をつなぎ、前十字靭帯と十字のかたちに交差して膝関節を支えています。普段は膝関節のひねる動作を支えたり、脛骨が後ろにずれないように支えるように働いたりしています。 後十字靭帯損傷は、膝裏にあたる位置にある靭帯損傷のことであり、後十字靭帯が一部あるいは完全に断裂した状態を指します。 また、混同しやすい傷病名として「後十字靭帯断裂」が挙げられます。詳細が気になる方は、以下の記事をご確認ください。 後十字靭帯損傷の原因 スポーツ外傷や交通事故などで、脛骨上端に、前から後ろへ向く大きな力が加わることで後十字靭帯が損傷するケースが多いとされています。 具体的には、以下のような受傷機転が考えられます。 交通事故 ダッシュボード損傷とも言われ、車が急停車しダッシュボードに膝(脛骨の上端部)をぶつけることによって起こります。 転倒 膝を90°曲げた状態で転倒すると脛骨が後ろへ押し込まれるため受傷します。 コンタクトスポーツ(ラグビーなど) 膝下にタックルを受けることで、後十字靭帯を損傷することがあります。 後十字靭帯損傷の症状 後十字靭帯損傷の症状を解説します。 急性期(受傷後3週間くらい) 膝の痛みと可動域制限がみられますが、歩ける場合が多いです。しばらくすると腫れ(関節内血腫)や、膝窩部の皮下出血が出現することもあります。 痛い部位は、膝の裏となります。また、脛骨に後方へのストレスをかけると、膝窩部に激痛がみられます。 急性期を過ぎると 痛み・腫れ・可動域制限はいずれも軽快してきます。しかしこの頃になると損傷部位によっては膝の不安定感が徐々に目立ってくることがあります。下り坂やひねり動作の際に症状が顕著となります。 慢性期の症例(受傷から時間がたった場合) 前十字靭帯損傷と比べると膝の機能障害は軽度ですが、歩行やスポーツ時に脛骨の後方ストレス(不安定感)を感じます。 また、関節軟骨変性による膝蓋大腿関節や内側の関節裂隙の圧痛や、仰向けで膝関節を90度屈曲すると、脛骨近位端が後方へ移動する落ち込み徴候(サギングサイン)が確認できます。 不安定感を放置してしまうと半月(板)損傷や軟骨損傷などを新たに引き起こし、慢性的な痛みや腫れ(水腫)が出現するおそれもあります。 まとめ|後十字靭帯損傷にお悩みの方は再生医療に注目 靱帯損傷は、靭帯の一部あるいは全部が断裂してしまうことです。 当院では、自己脂肪由来幹細胞治療やPRP療法を行っています。 後十字靭帯損傷後に膝の不安定感があったり、スポーツに早期復帰したいという方のために、膝の靭帯損傷をより早く治すために再生医療を提供しています。ご興味のある方は、ぜひ一度当院の無料相談を受けてみてください。 参考文献 膝の最前線. 理学療法科学 第23巻2号 「膝靭帯損傷」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる プライマリケアのための関節のみかた 下肢編(2)―膝(下)[臨床医学講座より] - 医科 - 学術・研究 | 兵庫県保険医協会
2023.09.07 -
- ひざ関節
- 靭帯損傷
「膝の外側に痛みがあり、動かすたびに不安定感を感じる..」 このような症状に悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。 外側側副靱帯損傷は、日常的に頻発する怪我ではないものの、適切な治療がなければ膝の機能に後遺症が残りやすく、場合によっては手術が必要になることもあります。とくにスポーツや事故による強い衝撃で起こることが多く、早期の診断と治療が重要です。 当院では、このような外側側副靱帯損傷に対して、再生医療も含めた治療法を提案し、患者様に合った治療選択ができるようサポートしています。本記事では、外側側副靱帯損傷の原因や症状、治療方法について詳しく解説し、適切な対策を知るための知識をお伝えします。是非お読みいただき、膝の健康を守るための一助となれば幸いです。 外側側副靭帯損傷とは 外側側副靱帯(がいそくそくふくじんたい)損傷は、膝の外側にある靭帯がスポーツや交通事故で外傷による損傷する怪我です。膝の関節は太ももの骨である大腿骨(だいたいこつ)とすねの骨である脛骨(けいこつ)、お皿の骨である膝蓋骨(しつがいこつ)からできています。比較的平らな面同士が合わさってできており、安定性に欠くため、大腿骨と脛骨の間を別の組織で補強しています。 外側側副靱帯損傷は、いくつかある靭帯損傷の中でも、比較的まれな怪我ですが、他の靭帯と一緒に損傷することが多く、場合によっては手術が必要になります。 「三段階」に分かれる症状 靭帯は膝関節を補強する組織の1つで、骨同士を固い組織でつなぎ、膝の安定性を高めています。外側側副靱帯は膝の外側にあり、膝の内側からの衝撃に抵抗する靭帯です。そのため、膝の内側から強い衝撃が加わると、外側側副靱帯にストレスが加わり、場合によって靭帯が傷ついたり、ちぎれたりして、外側側副靱帯損傷を引き起こします。 外側側副靱帯損傷の症状は損傷の程度に応じて三段階に分かれ、それぞれ異なる治療が必要になります。 症状の概要 具体的な症状 軽度の損傷 靭帯の微細な損傷で、腫れや軽度の痛みを伴いますが、膝の不安定さはありません。通常、数週間で自然に回復します。 中程度の損傷 靭帯が部分的に断裂し、腫れや痛みが強くなり、膝が少し不安定になることがあります。安静とリハビリが必要で、回復まで数カ月かかることもあります。 重度の損傷 靭帯が完全に断裂し、膝の強い不安定感を伴います。手術が必要となる場合が多く、回復には長期間のリハビリが必要です。 外側側副靱帯損傷の原因 外側側副靱帯は靭帯損傷の中でも比較的めずらしい怪我です。単独で生じることは少ないですが、外側側副靱帯が損傷している場合の特有の症状や原因があります。 外側側副靱帯損傷の原因は大きく分けて、スポーツ中の接触と交通事故に分けられます。スポーツでは、サッカーやラグビーのタックルや柔道の足払いなどで膝の内側に強い衝撃が加わり、外側側副靱帯が強制的に伸ばされて起こります。 交通事故の場合も、スポーツ同様に膝の外側が無理に伸ばされるような衝撃を受けることで、外側側副靱帯が損傷されるのです。どちらにせよ強い衝撃が原因となるため、外側側副靱帯が単独で損傷することは少なく、他の靱帯や半月板といった組織の損傷と合わさる場合が少なくありません。 外側側副靱帯損傷の症状 外側側副靱帯の損傷の症状は、膝の外側の痛みや腫れです。また、膝から下が内側に傾くような動きが生じると、傷ついた靱帯が伸ばされるため、痛みを生じます。たとえば、あぐらをかいた場合に膝の外側が痛い状態です。外側側副靱帯を損傷した状態で放置すると、膝がグラグラするように不安定感が生じます。 外側側副靱帯損傷の診断 外側側副靱帯が損傷しているかどうかは、以下の方法で診断されます。 診断方法 ・徒手検査(としゅけんさ) ・画像診断 それぞれの診断について具体的に解説します。 徒手検査(ストレステスト) 患者を仰向けに寝かせた状態で膝の内側と足首の外側を持ち、膝から下を内側に動かすように力を入れて、外側側副靱帯にストレスを加える内反(ないはん)ストレステストと呼ばれる検査をします。内反ストレステストで、痛みや関節が通常より大きく動く不安定性を認めた場合は、外側側副靱帯損傷が疑われます。 膝を軽く曲げた状態と完全に伸ばした状態といった両方の姿勢で検査を行い、膝屈曲位で症状が出た場合は外側側副靱帯の損傷、伸ばした状態で症状が出た場合は、他の靱帯の損傷も疑うことが必要です。 画像診断 外側側副靱帯の損傷はレントゲンでは異常を示しづらく、詳細な診断にはMRIを用います。MRIだと他の靭帯や半月板などの組織もはっきりと写るため、複合損傷や合併症の確認にも有効です。膝の痛みは⼿術しなくても治療できる時代です。 外側側副靱帯損傷の治療 外側側副靱帯損傷の治療外側側副靱帯の損傷の治療方法は手術を行わない保存療法と、手術を行う手術療法に分けられます。それぞれの治療方法について具体的に解説します。 保存療法 外側側副靱帯のみの損傷で、膝の不安定感が少なく、日常生活に大きな支障がなければ、手術による外科的な治療を行わない保存療法が選択されます。保存療法には装具療法やリハビリテーションがあります。 装具療法(テーピング・ギプスなど) 外側側副靱帯損傷により、膝が不安定になれば、さらなる損傷や膝周辺の痛みを伴うリスクが高まります。そのため、テーピングやギプスを着用して、膝の安定性を高めれば、外側側副靱帯へのストレスを減らせます。まず、怪我の直後(約1〜2週間)は、痛みや腫れが強い場合が多いため、膝の負担を軽減する目的でギプスや専用の装具で完全に固定します。この間は、膝にかかる負担を極力減らし、できるだけ安静にすることが重要です。 装具やサポーターの使用方法 以下は具体的な装具使用の目安です: 装着期間:リハビリ初期から約1〜3カ月間、必要に応じて日中はサポーターを着用する。 強度と頻度:日常生活では中等度のサポート力があるサポーターを使用し、膝の安定感を補います。運動や軽いトレーニング時には、強度が高いサポーターに切り替え、膝にかかる負担をさらに軽減します。 装着時間:運動や立ち仕事をする際には常に装着し、リラックスする時間帯や寝るときには外して膝を休ませるようにします。 リハビリテーション リハビリテーションでは、膝の安定性を高め、再発を防ぐために膝周辺の筋力を鍛える筋力トレーニングが行われます。初期の段階では、膝への負担が少ない静的な筋力トレーニングから始め、太ももやふくらはぎの筋肉を強化します。たとえば、週に3〜5回、各10〜15分程度の軽いトレーニングを推奨します。 トレーニングの例 静的トレーニング:たとえば「クアッドセッティング」(太ももの筋肉を収縮させる運動)や、「かかと押し運動」などを行い、膝に負荷をかけず筋力をつけます。 負荷の強化:リハビリが進むにつれ、少しずつ動的な運動やスクワットなどを加えて、膝周りの筋力を強化します。 関節の可動域を広げるストレッチと練習 装具で固定していたことによる関節の動きの制限を改善するため、1日に数回、各5〜10分程度のストレッチや可動域練習を行います。膝の柔軟性を取り戻すため、次のようなストレッチを行います。 ストレッチ例:「太ももの裏を伸ばすストレッチ」や「膝を曲げ伸ばしする運動」をゆっくりと行い、膝関節の動きをスムーズにします。 手術療法 複合靭帯損傷の場合や膝の不安定性が強い場合は、手術による治療が適応になります。手術は損傷した靱帯を他の部分の靱帯を使って再建する靱帯再建術が実施されます。手術後は状態に合わせて段階的なリハビリテーションが必要です。その後、スポーツ復帰して試合などの通常に戻れるまでは、3〜6カ月の治療期間がかかります。 再生医療 複合靭帯損傷や膝の不安定性が強い場合、一般的には靱帯再建術などの手術が適応され、損傷した靱帯を他の部位の靱帯を用いて再建します。手術後は状態に合わせた段階的なリハビリテーションが不可欠で、通常、スポーツや試合に完全復帰するまでに3〜6カ月の治療期間が必要です。 近年では、従来の手術やリハビリだけでなく、**再生医療(幹細胞治療やPRP療法)**も注目されています。再生医療は損傷した組織の再生を促し、後遺症を軽減しながら短期間での回復が期待できる治療法です。この治療は、スポーツ選手や早期の回復を望む人、後遺症や再発を防ぎたい人におすすめです。 再生医療の特徴と効果 特徴:幹細胞やPRP(自己血小板血漿)を用いることで、膝靱帯の損傷部位の組織再生を促進します。 効果:従来治療と比べ、短期間での回復が期待でき、後遺症の軽減や再発の防止に効果的とされています。 幹細胞治療 幹細胞治療は、人体にある「幹細胞」という、さまざまな組織に変化する能力を持つ細胞を利用した再生医療の一つです。幹細胞は通常は活動しませんが、体内の損傷や細胞減少を感知すると、分裂して傷ついたり不足している細胞に変わり、体の機能を修復します。 当クリニックでは、自己脂肪から採取した幹細胞を培養・増殖し、関節や組織に注入する「自己脂肪由来幹細胞治療」を行っています。この治療では、患者自身の細胞を使用するため、アレルギーや拒絶反応のリスクが低く、安全性の高い技術として注目されています。 幹細胞治療は、スポーツ障害や関節疾患の他、脳卒中や脊髄損傷、糖尿病、肝疾患などにも対応でき、さまざまな疾患への適応が期待されています。直接注射が難しい部位には、静脈注射によって幹細胞を体内に導入し、全身を巡らせることで臓器や組織の修復を促します。 PRP治療 PRP(Platelet Rich Plasma:多血小板血漿)治療は、再生医療の一種で、患者自身の血液から血小板を高濃度に抽出して患部に注入し、体の持つ「治癒力」を活性化させる治療法です。PRPには血小板が豊富に含まれており、血小板が分泌する成長因子が傷ついた組織の修復を促します。この治療により、痛みを軽減し、自己治癒力を高める効果が期待されます。 PRP治療の基本原理は、損傷した部位に新たな「ケガ」を作り出すことです。これにより、治癒が停滞していた組織が「損傷を受けている」と認識し、血小板成分による炎症反応と自己修復が再び活性化します。PRPには通常の血液の3〜5倍もの成長因子が含まれ、これが損傷した組織や細胞の修復を促進するため、早期の改善が期待できます。 外側側副靱帯損傷の治療選択は医師の診断で 外側側副靱帯損傷は、頻度が高い怪我ではありませんが、治療をせずに放置すると、膝の痛みや損傷部位の悪化を招く危険性があります。 診断には徒手検査やMRIなどの画像診断が用いられ、損傷の程度や他の合併症の有無が確認されます。治療法としては、保存療法(装具やリハビリによる膝の安定強化)が軽度の場合に適用され、重度の損傷や複合損傷には靱帯再建術などの手術が行われます。手術後は段階的なリハビリを必要とし、回復には数カ月を要します。 近年では、再生医療(幹細胞治療やPRP療法)も選択肢の一つとして注目されており、組織の再生を促し、回復期間を短縮させる効果が期待されています。とくに後遺症や再発を避けたい場合には再生医療も検討することをおすすめします。 膝の外側が痛んだり、膝がグラグラするような不安を感じたりした場合は、できるだけ早めに整形外科に受診しましょう。
2023.09.04 -
- ひざ関節
- 靭帯損傷
「ランナー膝の治し方を知りたい」「ランナー膝の原因って何?」 ランニングなどによって膝の痛みが出るランナー膝ですが、原因や改善策を知りたい方も多いのではないでしょうか。 ランナー膝は、適切な対策を取らないと慢性的な痛みへと発展する恐れがあります。 多くのランナーが悩む症状ですが、実は自宅でも改善できる方法もあります。 この記事では、症状を軽減する方法から、予防対策まで具体的に解説していきます。最後まで読めば、ランナー膝をぜひ最後までお読みください。 ランナー膝(腸脛靭帯炎)の治し方3選 ランナー膝(腸脛靭帯炎)は、膝の外側に痛みが生じるスポーツ障害です。とくに長距離ランナーに多く見られ、初期の対処が重要です。治療法は主に以下の3つがあります。 保存療法(安静・ストレッチ・リハビリなど) 運動環境・フォームの改善療法 外科的治療・再生医療 まずは自宅でできる保存療法、次はフォームや運動環境の改善、最後に外科の治療や再生医療といった選択肢です。ここからは、それぞれの方法について詳しく解説していきます。 保存療法(安静・ストレッチ・リハビリなど) 保存療法は、ランナー膝の最も一般的な治療法です。 痛みや炎症がある場合はランナー膝の原因となる運動を中止し、安静にするよう心がけましょう。膝をアイシングしたり、湿布を使ったりするのも効果的です。 炎症が改善したら、大腿筋膜張筋や股関節外側部を中心としたストレッチを行います。 リハビリで筋力を回復させることで、再発予防にもつながります。(文献1) 運動環境・フォームの改善療法 ランナー膝は、走る際のフォームや、履いているシューズを変えることで改善できる場合があります。 上半身が左右に揺れたり、膝が内側に入ったりする走り方は、ランナー膝を悪化させる原因になりかねません。そのため、体幹や股関節、足首などを強化し、膝に負担がかかりにくいフォームに矯正する必要があります。 また、着地時の衝撃を吸収してくれるインソールや、膝の動きを支えるサポーターなどを活用するのも良いでしょう。(文献2) 運動環境やフォームの改善は、ランナー膝の治療だけでなく予防にも効果的です。とくに日常的にランニングをする方は、普段から正しい走り方を意識し、膝の負担を軽減するシューズの使用がおすすめです。 外科的治療・再生医療 症状によっては外科的治療や再生医療も選択肢に含まれます。 ランナー膝の外科的治療は一般的でないものの、保存療法で効果が見られない場合や、難治性と診断された場合は手術を検討します(文献3)。 また、PRP療法をはじめとする再生医療を実施するケースもあります。PRP療法は、自分の血液から抽出した成分を注入し組織の再生を促進する方法であり、炎症の抑制や痛みの軽減が期待できます。 膝の痛みを再生医療を用いて治療する方法は、以下の記事もご覧ください。 ランナー膝(腸脛靭帯炎)における原因 ランナー膝(腸脛靭帯炎)は、膝の外側に痛みを引き起こすランニング障害です。 主な原因は以下の2つにわかれます。 ランナー膝の原因 詳細 選手側の問題 筋力のアンバランス 柔軟性の不足 O脚(内反膝) 練習内容や環境の問題 オーバートレーニング 不適切な靴 選手側が要因となるO脚では、腸脛靭帯が大腿骨に擦れやすく炎症のリスクを高めます。 また、オーバートレーニングのほか、下り坂・不整地でのランニングも摩擦が増して症状を悪化させる要因です。 ランナー膝(腸脛靭帯炎)の症状 ランナー膝(腸脛靭帯炎)は、膝の外側に痛みが生じる症状が特徴です。 軽症の場合、スポーツ後に痛みが出る程度ですが、放置すると中等症へ進行し、プレー中にも痛みを感じるようになります。 悪化すると、スポーツをしていないときでも痛みが現れ、日常生活にも影響する可能性があります。 重症化すると手術などの外科的治療が必要になり、入院やリハビリ期間が長引く可能性が高くなるため、膝の痛みを感じたら早めに整形外科に相談しましょう。 ランナー膝(腸脛靭帯炎)の診断 ランナー膝(腸脛靭帯炎)は、ランニングやジャンプの動作時や日常生活での痛み、膝の外側の圧痛の有無をヒアリングすることで診断されます。 また、レントゲンやMRIなどの画像診断や、「グラスピングテスト」と呼ばれる方法を用いて診断するケースもあります。 まとめ|ランナー膝は保存療法で効果が見られないなら他の治療法も検討しよう ランナー膝の治療は、保存療法だけでなく、予防対策を意識した運動環境・フォーム改善療法も並行しておこないます。再発を繰り返す場合や難治性と診断された場合は、手術療法や再生医療といった選択肢も検討しましょう。 当院「リペアセルクリニック」では、自己の幹細胞を用いた再生医療を提供しています。膝の靭帯部分に幹細胞を投与することで、手術なしで症状を改善できるケースもあります。 従来の保存療法や運動療法による治療で効果がみられない場合は、ぜひ当院の再生医療もご検討いただければ幸いです。 メールでの無料相談やオンラインカウンセリングも実施しておりますので、お気軽にご相談ください。 この記事がランナー膝の治療方法の選択肢を知るのに役立ち、治療を受けるきっかけになれば嬉しく思います。 ランナー膝(腸脛靭帯炎)についてよくある質問 ランナー膝(腸脛靭帯炎)ではどこをほぐすべきですか? ランナー膝の改善には、腸脛靭帯自体を直接ほぐすのではなく、大腿筋膜張筋や股関節、大腿部前面を重点的にストレッチするのが有効です。 フォームローラーやストレッチを使い、これらの筋肉を柔らかくし、症状の緩和と再発防止につながります。 ランナー膝のストレッチについては以下の記事もご覧ください。 ランナー膝でやってはいけないことは何ですか? ランナー膝の痛みを感じた際は、無理に動かさずスポーツを中止して安静にしましょう。とくに下り坂や傾斜がきついコースでのランニングは、膝に負担をかけやすいため控えるべきです。 負荷を調整しつつ、適切なストレッチやリハビリを行うことを意識してみてください。 ランナー膝を早く改善するポイントについては以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご覧ください。
2023.08.31 -
- お皿付近に違和感
- ひざ関節
- 膝部、その他疾患
「膝を捻挫して歩けるけど痛い」という方の中には、病院に行くべきか悩んでいる方もいるのではないでしょうか。 結論、膝の捻挫後に歩けるけど痛い場合は、靭帯断裂など重症な可能性があります。 軽症な場合は適切な応急処置とセルフケアで早期に回復するケースもありますが、靭帯断裂になってしまうと治療期間が長引くケースが多いです。 「捻挫後に歩けるけど痛い」「捻挫の痛みを早く治したい」という方は、ぜひお電話でご自身の症状や治療法についてご相談ください。 ▼無料の電話相談はこちら >>今すぐ電話してみる 従来の治療では、症状に応じて約4〜8週間の固定期間が必要ですが、先端医療である再生医療による治療で痛み症状の早期改善が期待できます。 捻挫の痛みを早く治したい方は、この機会に再生医療がどのような治療をするのかお問い合わせください。 膝を捻挫して歩けるけど痛いときに考えられる原因 膝を捻挫して歩けるけど痛いという場合は、靭帯断裂など重症な可能性があります。 膝の曲げ伸ばしを安定して行うために重要な働きをしているのが、関節を包む袋である「関節包」と関節を支える組織である「靭帯」です。 関節包と靭帯がしっかりと機能しているおかげで、私たちの膝は本来動かない方向へ曲がらないように制御されており、体重をかけても安定して歩けます。 しかし、相手との接触などで発症する「直接的な原因」と、つまずき・着地などにより発症する「間接的な原因」があります。 この「関節包」や「靭帯」を痛めてしまった状態を捻挫といいます。 ただし、「捻挫」と診断されるのは軽症の場合に限り、損傷が強く関節が不安定になった場合は靭帯損傷という診断になります。 近年の治療では、捻挫や靭帯断裂の早期回復が目指せる治療法として、再生医療による治療が注目されています。 「膝の捻挫を早く治したい」「再発のクセがつく前に治したい」という方は、まず今すぐ電話でご相談ください。 ▼無料の電話相談はこちら >>今すぐ電話してみる 膝を捻挫して歩けるけど痛いときの症状 膝を捻挫すると主に以下のような症状が現れます。 受傷直後の強い痛み 内出血とむくみの発生 膝全体の腫れ 受傷直後は痛みが強いですが、機能は比較的保たれている事が多く、その後も痛みを我慢して普通に生活できる方もいます。 ですが、徐々に内出血とむくみが出てきて、膝全体が腫れてきます。 膝全体が腫れると、膝を動かす際に痛みが生じます。また、左右を比較すると動かせる範囲が狭くなる「可動域制限」がでてきます。 ひどい場合は痛みで足が地面につかないケースも。 ただし、「捻挫」であれば一時的な症状なので、数日で改善するケースが多いです。 いつまでたっても痛みが引かない、腫れがひどくなってきたという場合は「靭帯損傷」のレベルまで症状が悪化している可能性があります。注意しましょう。 「歩けるけど痛い」「膝がぐらぐらして不安定」は要注意! 「ただひねっただけだと思って様子を見ていたら、実は靭帯損傷だった。」という事例は意外に多いです。 膝には主に4つの重要な靭帯があります。 前後方向の安定性を保つ前十字靭帯・後十字靭帯、左右方向の安定性を保つ内側側副靭帯・外側側副靭帯です。これらはバスケットボールやサッカーなどのスポーツはもちろん、転倒などでも痛めるケースがあります。 「歩けるけれども痛みが続く」や「膝がぐらぐらして不安定」と感じるときは、これらの靭帯を痛めている可能性があります。 また、靭帯を痛めていると関節の中に血が溜まることが多いです。 「もしかしたら当てはまるかも」と思った場合は、自己判断せずに病院を受診しましょう。 歩けるけど痛い 膝がぐらぐらして不安定 「靭帯」や「半月板」を損傷している恐れがあります。自己判断はせず、病院を受診しましょう! また、膝のクッションや安定性を保つ役割をしている組織に半月板が存在します。半月板は左右に1つずつありますが、こちらも膝をひねって痛めた際に損傷してしまうことがあります。 年を取ると徐々にすり減って切れやすくなります。特に、高齢の方はバスの乗り降りなど少しの段差を下りただけでも半月板が切れてしまう恐れも。「ブチッ」という感覚を伴うのが特徴的です。半月板損傷は検査しないと判明せず、病院でMRIなどを撮影しなければなりません。 一口に「捻挫」と言っても、紹介したような損傷が隠れている可能性もあります。ちょっとでも違和感があるなら、病院に受診するようにしてみてください。 膝を捻挫して歩けるけど痛いときの対処法 膝をひねってしまった受傷直後は、RICE処置を行いましょう。 Rest:安静 Ice:冷やす Compression:圧迫 Elevation:挙上 スポーツはすぐに中止し、歩行もできればしない方が望ましいです。氷や保冷材などを使って膝を冷やしながら、包帯などがあれば圧迫してください。 また、寝ているときは心臓より高い位置に足をあげておくと、膝が腫れてくるのを予防できます。その後は、なるべく早期に整形外科医の診察を受けてください。 膝を捻挫して歩けるけど痛いときに受けるべき診断方法は? 問診と身体診察で、どのような怪我が疑わしいのか予想がつく場合もあります。 基本的には、まずレントゲンで骨折がないかどうか確認します。レントゲンだけではわからない場合は、骨をより詳しく見るためにCT検査を行うこともあります。その後、靭帯損傷や半月板損傷が疑われる場合にはMRI撮影を実施します。 レントゲン撮影 CT検査 MRI撮影 検査の結果、手術が必要な靭帯損傷などの疑いがなければ保存療法になります。 損傷した関節包や靱帯が修復する期間は、通常3週間前後です。この期間は激しい運動や重労働などはせず、安静にしていましょう。安静を保つ目的で、一定期間添木や松葉杖・サポーターなどの使用を指定するケースもあります。 痛みが強い場合は、飲み薬や湿布を処方する場合もあります。ただし、鎮痛薬は痛みを止めるだけで治ったわけではないので、一番大事なのは膝の安静です。 そのまま通常の生活に戻れる場合は、晴れて治療終了です。しかしながら、安静にしていた影響で筋力が低下したり、動きが悪くなることがあります。 その際はリハビリテーションを実施して膝関節の機能を戻すとともに、次の怪我の予防も同時に行うことが大切です。 膝を捻挫して歩けるけど痛いときによくある質問 膝を捻挫して歩けるけど痛いときによくある質問をQ&A形式で紹介します。 膝関節を含む捻挫の予防法や対処法はありますか? 運動をされる場合は、適切なストレッチやウォーミングアップが大切です。筋肉の柔軟性を保ち、温めてしっかりと動かせる状態にしてから運動を始めることで、関節に負担がかかりにくくなります。 また、普段から下肢の筋力が衰えないように意識してトレーニングをしておくことも重要です。さらに、自分の足に合った靴を選ぶことも転倒の予防になります。 膝関節捻挫を引き起こしてからスポーツに復帰できる目安は? スポーツ復帰には、痛みがなくなっていることが大前提です。痛みがあるまま再開すると、膝をさらに痛めたり、かばって別の部位の怪我を引き起こしかねません。 一般的に、通常の捻挫であれば2〜3週間で痛みが落ち着くので、軽い運動から再開するように指導します。 膝に過度な負担をかけないよう、サポーターなどの補助具を使用することも勧められます。 膝関節捻挫は何科を受診すればよいですか? 膝関節捻挫は外傷により発症します。よって、整形外科を受診しましょう。 とはいえ、受傷した時間が深夜や早朝だと、最寄りの整形外科医が受診の時間外の場合もあるでしょう。このような場合は、整形外科のある最寄りの大きな病院に問い合わせるか、厚生労働省が推奨している「♯7119」に電話で相談してみてください。 あきらかに緊急性がない場合は当院へご相談ください。国内で10,000以上ある実績を元に、親身に対応いたします。 膝を捻挫して歩けるけど痛いときは重症の可能性あり!早めに医療機関を受診しよう この記事では、膝関節捻挫について解説しました。 膝関節捻挫は直接的・間接的な原因から発症し、受傷直後に強い痛みを伴います。病院を受診せずに痛みを我慢しその後も様子をみてしまう方も多いのが現状です。しかし、裏側に潜む靭帯や半月板の損傷も考えられます。 自己判断で無理せず、最寄りの医療機関を受診するよう心がけましょう。
2023.08.28 -
- ひざ関節
- 膝部、その他疾患
膝に痛みを起こす原因の一つが離断性骨軟骨炎です。離断性骨軟骨炎は10代〜20代に起こるケースが多く、膝軟骨の損傷となるため、初期のレントゲン写真ではわからない場合もあります。 主な原因は明らかにされていませんが、サッカーや野球などのスポーツによる負荷や血流障害が離断性骨軟骨炎に影響していると考えられています。 本記事では離断性骨軟骨炎の症状や原因、治療法について解説します。治療法も紹介するので、関節の違和感に悩んでいる方は参考にしてください。 離断性骨軟骨炎とは 離断性骨軟骨炎(りだんせいなんこつえん)とは軟骨が関節内に剥がれ落ちて、膝にさまざまな症状を起こす病気です。 血流不良で軟骨の下に位置する「軟骨下骨(なんこつかこつ)」が壊死し、離断性骨軟骨炎は引き起こされます。 離断性骨軟骨炎を発症しやすい年齢は10代〜20代で、スポーツ選手に多く見られます。また、男女比は2:1で、男性に多い病気です。 離断性骨軟骨炎の好発部位 離断性骨軟骨炎が起こりやすい部位は大腿骨の内側が85%ともっとも多く、外側が15%です。また、膝蓋骨(しつがいこつ、膝の皿)でも、稀に発症します。 離断性骨軟骨炎が発症する主な関節は、以下の通りです。 膝関節 肘関節 足首(距骨) 肩関節 膝関節は離断性骨軟骨炎を特に引き起こしやすい部位で、なかでも大腿骨の膝に近い部分の大腿骨内側顆(だいたいこつないそくか)で見られます。 なお、大腿骨の外側で起こった場合、円板上半月板(えんばんじょうはんげつばん)を合併する可能性もあるため注意が必要です。 離断性骨軟骨炎の症状 離断性骨軟骨炎の症状は、進行するにつれて悪化していきます。早期発見が重要になるため、初期症状を理解しておくのが大切です。 ここでは、離断性骨軟骨炎の症状を段階別に紹介します。 初期症状 離断性骨軟骨炎の初期症状は、運動後の不快感や鈍い痛み以外に特に症状がありません。病気が発症して初めの段階では、傷んだ軟骨が遊離していない状態のためです。 軽い違和感のみとなるため運動できますが、初期症状を放置してしまうと、次第に骨軟骨片が遊離して関節軟骨の引っかかりやズレを感じやすくなります。また、大きな軟骨の欠片が関節内に剥がれ落ちると、膝の中でゴリッと音がする場合もあります。 進行時の症状 離断性骨軟骨炎が進行した場合、痛みの増大や関節に違和感を覚えるようになります。軟骨の表面に亀裂や変化が生じると痛みが強くなり、スポーツをする際、支障をきたします。 また、膝の曲げ伸ばしをする際、骨軟骨片が関節に挟まると膝がロックして動かなくなるロッキングを引き起こす場合もあるため注意しましょう。 ロッキングが起こった場合は、無理に動かさずすみやかに医師の診断を受けるのが大切です。なお、離断性骨軟骨炎の症状が長期的に続くと、変形性関節症へ移行するリスクが生じます。 当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングを受け付けておりますので、治療に関する悩みがある方は、お気軽にお問い合わせください。 離断性骨軟骨炎の主な原因 離断性骨軟骨炎の原因は、明確にされていません。しかし、いくつかの原因によって症状を引き起こすと考えられています。 ここでは、離断性骨軟骨炎の主な原因を紹介します。 サッカーなどのスポーツによる膝や足首へ負荷 骨の急速な成長による血流障害 離断性骨軟骨炎が発症する原因を知りたい方は、参考にしてください。 サッカーなどのスポーツによる膝や足首へ負荷 離断性骨軟骨炎の原因は、繰り返される関節への衝撃やストレスの可能性が考えられます。反復する衝撃やストレスによって軟骨下の骨に負荷がかかると血流障害を起こし、軟骨が遊離しやすくなるためです。 たとえば、サッカーや野球、バスケットボールなどの激しいスポーツではジャンプや急な方向転換をともないます。膝や足首、肘へ負荷がかかりやすい動作の影響により、血流障害や壊死を引き起こして離断性骨軟骨炎が発症する場合があります。 若年スポーツ選手に多いため、膝や足首、肘に負担が大きい激しい運動は、離断性骨軟骨炎の原因の1つです。 骨の急速な成長による血流障害 離断性骨軟骨炎の原因には、成長期や思春期による骨の急速な成長が考えられます。骨が急速に成長すると、血行障害や骨への負荷が強まるためです。 成長期の子どもの軟骨はもろく、骨や軟骨に血液が供給されなければ、関節の骨が弱くなり軟骨が剥離しやすくなります。離断性骨軟骨炎は成長期に見られる病気のため、身体の発育にも影響していると推測されています。 スポーツ選手だけでなく、血流障害によっても離断性骨軟骨炎は引き起こされる点をあわせて押さえておきましょう。 離断性骨軟骨炎の診断方法 離断性骨軟骨炎における初期症状の診断方法にはMRI検査を行います。軟骨の損傷が原因となり、初期では通常のレントゲン写真で診断するのが難しいためです。 症状が進行して、骨軟骨片が分離する時期ではレントゲン写真で診断可能です。 また、肘の離断性骨軟骨炎はエコーでスクリーニング検査と診断できます。膝の離断性骨軟骨炎についても、エコーでの診断が可能と報告されてきています。 骨の状態をより詳しく知り、手術の計画を立てる際はCTスキャンで診断するのが一般的です。 離断性骨軟骨炎の治療 離断性骨軟骨炎の主な治療法を紹介します。 保存療法 手術療法 リハビリ療法 再生医療 ご自身の状態を踏まえたうえで、最適な治療法を検討しましょう。 保存療法 保存療法は、症状の緩和を目指す治療法です。離断性骨軟骨炎では関節の離脱や遊離がない場合、保存療法から試みます。 保存療法で実施される主な治療は、以下の通りです。 主な治療 治療内容 運動の制限 痛みが緩和するまでスポーツなどの運動を中断する 装具の使用 膝関節を固定して安定に保つため、ギブスやサポーターなどの装具を使用する 身長が伸びている発育期で軟骨片が離れていない場合、自然に修復されるのを期待して、膝関節の安静やサポーターなどの装具を使用する保存治療が選択されます。 痛みに対しては鎮痛薬や関節内注射などを行い、レントゲンやMRIで修復されている傾向が見られれば徐々に負荷を上げていきます。保存療法を試みて症状回復が見込めないときは、手術療法に切り替えるケースがほとんどです。 手術療法 症状が進行している、もしくは回復が見られない場合は、手術療法が選択されます。離断性骨軟骨炎の主な手術療法は、以下の通りです。 手術療法 手術内容 適応される症例 マイクロフラクチャー法 膝関節鏡を関節内に入れ、患部に数か所小さい穴を開けて出血により治癒を促進 比較的小さな範囲の軟骨が損傷されている場合 整復内固定術 不安定な骨軟骨片を骨釘や生体吸収性ピンなどを使用して固定 軟骨片が剥離して、遊離している場合 骨軟骨移植術 腿骨の体重がかからない部分から円柱状の軟骨片を採取して、損傷した部分に移植 損傷範囲が比較的大きく、遊離した軟骨片の状態が悪くて骨癒合を期待できない場合 適応する術式は患者さんの状態や希望、術者によって異なります。治療法については状態を把握したうえで主治医と相談し、納得いく治療プランを検討するのが大切です。 リハビリ療法 離断性骨軟骨炎のリハビリ療法は、保存療法の一環として行うケースと手術後に実施するものがあります。 離断性骨軟骨炎では手術だけではなく、その後のしっかりとしたリハビリテーションも重要です。 リハビリでは、可動域訓練や筋力トレーニングを中心に行い、肘や膝に負荷のかからない動作を身につけていきます。 身体に負担のかからない動作がわかるため、離断性骨軟骨炎の症状が回復し、スポーツを再開したあとやストレッチにもリハビリは役立ちます。 再生医療 再生医療は手術を必要としない治療法です。治療法の一つとなる幹細胞治療では、患者様自身から採取した幹細胞を培養し、ひざ関節に注入します。 当院「リペアルセルクリニック」の幹細胞治療では、脂肪由来の幹細胞を治療に活用します。米粒2~3粒ほどの採取のため、体への負担が少なくて済みます。 まとめ・離断性骨軟骨炎は早期診断と治療が重要 膝離断性骨軟骨炎は、主に10代~20代に起こりやすい病気です。膝関節の軟骨が関節内に剥がれ落ちて、痛みや引っかかりなどのさまざまな症状を起こします。 初期にはレントゲン写真でわからない場合が多いので、MRIでの精密検査が必要です。 治療法には保存療法や手術療法があります。手術療法は骨髄刺激法や整復内固定術、骨軟骨移植術などの術式がありますが、遊離した軟骨片の大きさや状態を総合的に判断して決定されます。 また、再生医療も選択肢の一つです。離断性骨軟骨炎は、症状が進行するとスポーツ復帰に時間を要します。早期発見・早期治療が大切になるため、ご自身の状態を踏まえたうえで、治療法を選択しましょう。 離断性骨軟骨炎に関するよくある質問 離断性骨軟骨炎を放置していたらどうなる? 離断性骨軟骨炎を放置していると、次第に骨軟骨が剥がれてしまい、痛みが強くなります。骨軟骨が完全に剝がれてしまった場合、膝がロックされたように動かなくなるロッキングを起こしたり、関節が変形したりする可能性があります。 痛みが強く、日常生活にも支障をきたす際は、治療法ではなく手術療法となるケースも少なくありません。完治までに時間を要する可能性もあるため、異常を感じた場合は放置せずすみやかに受診しましょう。 離断性骨軟骨炎は治療するとどれくらいでスポーツ復帰できますか? 離断性骨軟骨炎は、一般的に完治するまでに半年以上かかる可能性があります。そのため、スポーツ復帰できるのは数ヶ月〜1年くらい時間を要します。 症状が軽い場合は、保存療法としてスポーツ活動を中断し、安静となるケースがほとんどです。痛みがなくなったあとは、レントゲンやMRIなどで経過を見て段階的にスポーツ復帰できるよう進めていきます。 なお、離断性骨軟骨炎は再発する可能性があるため、自己判断せず医師の指示のもと治療を受けるのが大切です。 離断性骨軟骨炎は大人でも発症しますか? 離断性骨軟骨炎は一般的に10代〜20代に多い病気ですが、大人でも発症する場合があります。骨や軟骨に血液が供給されなくなると、骨が弱くなり軟骨が剥離し離断性骨軟骨炎を引き起こす場合があるためです。 また、離断性骨軟骨炎は遺伝的要因によって発症する可能性もあります。放置すると変形性関節症へ移行するリスクが生じるため、違和感を覚えた場合は受診しましょう。 離断性骨軟骨炎は、若年層のみ発症する病気ではない点に注意が必要です。
2023.08.24 -
- 膝の内側の痛み
- ひざ関節
- 靭帯損傷
内側側副(ないそくそくふく)靭帯損傷は、内側側副靭帯という膝の内側の安定性を保っている靭帯が何らかの原因で損傷を受けることです。 今回は、医師の目線から、内側側副靭帯損傷の症状や治療法について解説します。 内側側副靭帯損傷(MCL)とは? 内側側副(ないそくそくふく)靭帯損傷(MCL)とは、膝関節の裏側にある内側側副靭帯によくみられる外傷です。 靭帯が何らかの原因で損傷を受けた状態を指します。 内側側副靭帯損傷は、後述しますが珍しいものではありません。 自力での治療は難しいため、症状が疑われた場合は、早めに医師の診察を受けることが大切です。 また、放置してしまうと悪化する恐れがあるので、早めに受診しましょう。 内側側副靭帯の役割 内側側副靭帯は、膝の裏側にあって、関節が必要以上に開かないようにおさえる役割を果たします。 この靭帯は、膝関節に関わる大腿骨と脛骨をつないでいます。 しかし、2つの骨は、決して側面に受ける衝撃に強くありません。 しかし内側側副靭帯があることで、外部からの衝撃に耐性を発揮できます。 結果として、この靭帯により、強い衝撃があっても必要以上に関節が開かないようになります。 なお、膝関節には、前十字靭帯と後十字靭帯という靭帯があり、関節の側面には内側側副靭帯が、外側側副靭帯があります。 その中でも、内側側副靭帯は、特に膝の内側の安定性を保つ役割を持ちます。 内側側副靭帯損傷(MCL)の原因とは? スポーツ外傷や、交通事故などで、膝に外反強制(がいはんきょうせい:すねを無理に外側に向けられること)するような大きな力が加わった際に、内側側副靭帯損傷(MCL損傷)が起こりやすいとされています。 内側側副靭帯損傷は、膝の靭帯損傷の中で最も多いとされています。 メール相談:オンラインカウンセリングはこちら 内側側副靭帯損傷の4つの症状 次に、内側側副靭帯損傷に多い以下4つの症状に関して解説します。 痛みや腫れ 膝の不安定感 運動動作が困難になる 可動域の低下 内側側副靭帯損傷があると、上記する症状によって、スポーツへの参加や日常生活に支障が生じます。 それぞれ詳しく解説するので参考にしてください。 内側側副靭帯損傷の症状①痛みや腫れ 急性期(怪我をしてから3週間頃)に、膝の痛みと可動域制限がみられます。 しばらくして腫れ(関節内血腫)が目立ってくることもあります。 急性期が過ぎると、重症度にもよりますが、一般的に痛みや腫れ、可動域制限は軽快してきます。 内側側副靭帯の損傷の症状②膝の不安定感 この頃になると損傷部位によっては膝の不安定感が徐々に目立ってくることがあります。 ひねり動作の際にはっきりすることが多いです。 内側側副靭帯損傷の場合は、膝の内側の不安定感が出ます。 この状態のまま放置しておくと、新たに半月(板)損傷や軟骨損傷などを生じ、慢性的な痛みや腫れ(水腫)になってしまうこともあります。 内側側副靭帯の損傷の症状③運動動作が困難になる さらに、以下のような形で運動動作を取るのが困難になります。 痛みや腫れによって、ランニング、ジャンプなどがしにくくなる 症状が重い場合は歩きにくくなる 膝の安定感が失われ、思うように方向転換できなくなる スポーツの参加はもちろん、日常生活でも感じる方が多いです。 また、トレーニングができなくなるため、筋力が低下するという問題もあります。 内側側副靭帯の損傷の症状④可動域の低下 内側側副靭帯の損傷によって、動かせる関節の範囲が限られます。 膝をまっすぐにしたり、自由に曲げたりするのが難しくなります。 膝が固くなったようにも感じられます。その結果、足を引きずったような歩き方になるかもしれません。 内側側副靭帯損傷の重症度 内側側副靭帯損傷は、American Medical Associationの分類によって、1〜3度に分かれます。 1度 軽症ですが、治療とリハビリを行うことが推奨されます。 2度 中等症で、膝の外反動揺性つまりぐらぐら感を中程度に認めます。 初期治療(ギ プス固定、装具療法など)が重要となります。 3度 重症で、膝の外反動揺性が顕著であり、手術を要する場合が多いです。 内側側副靭帯損傷の検査方法 それでは、次に内側側副靱帯の検査方法について解説します。 ストレステスト 診察では膝関節にストレスを加えて緩みの程度を健側と比較します。 ① 外反ストレステスト(valgus stress test) 患者が仰向けになり、膝を伸ばした姿勢と30°膝に曲げた姿勢の2パターンでチェックをします。 医師などの検査者が膝関節の外側に一方の手を置き、他方の手で足関節を持ち膝関節に外反強制力、つまりすねを内側に向ける力を加え、膝関節の外反不安定性をみます。 この際、30°屈曲位で外反不安定性があれば、MCL損傷を疑います。 MCL単独損傷では伸展位での不安定性は認めません。 ② 内反ストレステスト(varus stress test) 外反ストレステストとは逆に、医師などの検査者が膝関節の内側に一方の手を置き、他方の手で足関節を持ち膝関節に内反強制力、つまりすねを外側に向ける力を加え、膝関節の内反不安定性をみます。 この際、30°屈曲位で内反不安定性があれば、内側側副靱帯損傷を疑います。 画像検査 画像診断ではMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像診断装置)が有用です。 X線(レントゲン)写真では靭帯は写りませんがMRIでは損傷した靭帯を描出できます。 また、半月(板)損傷合併の有無も同時に評価できます。 メール相談:オンラインカウンセリングはこちら 内側側副靭帯損傷の治療法 内側側副靭帯損傷の治療法は、損傷の程度や症状に基づいて決められます。 保存的治療 内側側副靭帯の単独靱帯損傷の場合には、手術ではなくリハビリテーション治療による保存的治療が選択されます。 受傷後急性期には、 RICE(安静または短期の固定、冷却、弾力包帯などによる圧迫、患肢の挙上)処置に引き続いて、できるだけ早期から筋力訓練を開始します。 サポーター装着 膝に不安定性がある場合は、損傷靱帯保護の目的で支柱付きのサポーター装用を考慮します。 手術療法 前十字靭帯や半月板との混合損傷や、重症度3度であり保存的治療では治らないことが予想される場合には手術療法が行われます。 膝の痛みは⼿術しなくても治療できる時代です。 関連記事:次世代の再生医療とは メール相談:オンラインカウンセリングはこちら 内側側副靱帯損傷についてよくある質問 Q1:内側側副靱帯損傷は自然に治りますか? A1 :内側側副靱帯損傷は、損傷の程度が軽い場合や部分的な断裂では、膝関節周囲の血流が豊富で栄養供給が行われやすいため、治癒しやすく保存療法が行いやすいといえます。 しかし完全な断裂など、重症の場合は自然治癒は期待しがたいので、靭帯の再腱術を行うことが必要になります。 Q2:内側側副靱帯損傷の固定期間はどれくらいですか? A2:個人差はありますが、約1〜2週間程度ギプスシーネやニーブレースなどで固定後、靭帯矯正サポーターを装着し、リハビリテーションとして可動域、歩行訓練を行っていきます。 膝装具は一般的には約6週間以上装着します。 膝の可動域と不安定性が、怪我をしていない方の膝と同じレベルまで改善したらスポーツ復帰が可能となります。 まとめ|内側側副靭帯損傷(MCL)とは?早く治す方法を現役医師が解説 今回の記事では、内側側副靭帯損傷の症状や治療法について解説しました。 内側側副靱帯損傷が起こると、その治療には数週間を要する場合が多いです。 しかしながら、再生医療によって、治療期間や回復までの時間を短くできる可能性があります。 こちらの動画も是非ご覧ください。 https://youtu.be/ZYOV-Er0mnU?si=ka6C0oujvcAaaLKY 膝の靭帯のメカニズムと再生医療について解説。 また当院では、自己脂肪由来幹細胞治療を行うことで、膝の靭帯損傷をより早く治し、筋力低下などを防ぐための再生医療を提供しています。 ご興味のある方は、ぜひ一度当院の無料相談を受けてみてください。 この記事がご参考になれば幸いです。 メール相談:オンラインカウンセリングはこちら
2023.08.21 -
- 大腿骨骨頭壊死
- 股関節
大腿骨頭壊死(難病)の種類と特発性大腿骨頭壊死3つの原因 大腿骨頭壊死という病名を聞いたことがあるでしょうか。「だいたいこっとうえし」と読み、股関節に起こる血流の障害が原因となる病気です。その中でも特発性と呼ばれるものは、難病に指定されています。 今回は、大腿骨頭壊死について、その種類や治療についても詳しく解説します。 特発性大腿骨頭壊死(ION)とは 特発性大腿骨頭壊死は英語でIdiopathic femoral head necrosisといい、IONと略されることが多いです。 大腿骨頭とは、大腿骨の一番頭側にある股関節を形成する大腿骨の一部分です。この一部の血流が低下して大腿骨頭に血が通わなくなり、骨組織が死んでしまったものを「大腿骨頭壊死」といいます。 外傷や放射線照射など、明らかな壊死の原因があるものを「症候性大腿骨頭壊死」といい、明らかな原因のないものを「特発性大腿骨頭壊死」といいます。 明らかに壊死の原因がある「症候性大腿骨頭壊死」 明らかな原因が不明なものを「特発性大腿骨頭壊死」 明らかな原因がある、症候性の大腿骨頭壊死は、大腿骨頸部骨折後に起こるものが最も多いです。骨折により血管が損傷され、大腿骨頭に血が通わなくなることが原因と考えられています。 そのほかは、股関節周囲に放射線照射した後や潜水夫などにおこる減圧症候群のひとつとして見られます。 症候性も特発性も、大腿骨頭に血流がなくなったことによって、骨が壊死します。その結果、体重を受ける骨である大腿骨頭が、徐々につぶれて変形することによって痛みを生じます。 特発性大腿骨頭壊死の3つの原因 特発性大腿骨頭壊死は、さらに3つに分類され、ステロイド治療歴があるものをステロイド性、アルコール多飲歴があるものをアルコール性、まったく原因のないものを狭義の特発性と呼びます。 ステロイド性 特発性大腿骨頭壊死(ステロイド治療歴) アルコール性 特発性大腿骨頭壊死(アルコール多飲歴) 狭義の特発性大腿骨頭壊死(原因不明) ステロイド投与歴やアルコール多飲歴が壊死発生に深く関与していることは間違いないですが、その機序は現在でも判明していません。 青年・壮年期に発症し、男性では40歳代、女性では30歳代にピークがあります。男性にやや多いと言われています。我が国では、年間2000人から3000人発症していると言われています。 大腿骨頭壊死の症状 では大腿骨頭壊死になると、どのような症状が起こるのでしょうか。 股関節の痛みには注意! 実は、壊死が起こっていても必ずしも症状が起こるわけではありません。発症当初は、自覚症状がないことが多いです。その後、体重がかかることによって壊死に至った部分がつぶれ、痛みをきたします。 発症する際は、股関節痛を自覚することが多く、階段を踏み外した時やバスのステップを下りた際など小さなストレスが股関節にかかった時に、突然痛みが生じる場合が多くみられます。このような痛みは、数週間で軽快し、いったんは痛みが落ち着くことが多いです。 ただし、痛みがなくなったからといって壊死が改善したわけではないため、再び股関節にストレスがかかった場合に疼痛が再燃する可能性があります。 大腿骨頭壊死の治療と予後 大腿骨頭壊死を発症してしまったら、気になるのは治療と予後についてです。 発症してしまったら 壊死部は荷重がかからなければ、数年で修復します。ただし、日常生活で股関節に体重をかけない生活をするのは難しく、徐々に壊死した部分が圧壊してしまいます。 壊死範囲が狭い場合や、体重がかからない部分の壊死ではすぐに手術はせず、日常生活での活動を制限しながら、経過観察を行います。痛みが強い場合や変形が進行している方では、壊死部に体重がかからないようにするための骨切り術や人工股関節置換術を行います。 放置するとどうなる? 痛みを我慢していると、どんどん股関節の変形が生じ、ひどい時には、下肢の長さの左右差がでてくる場合もあります。そうなっても人工関節の手術は可能ですが、手術の難易度が高くなったり、術後のリハビリが大変になったりと、放置してもいいことはありません。できるだけ早期に医師の診察を受け、治療介入を行いましょう。 大腿骨頭壊死についてよくあるQ&A Q:大腿骨頭壊死の診断には、どのような検査が必要ですか? すでに症状が出現している場合は、単純レントゲンでも、骨頭壊死の診断は可能ですが、壊死発症の超早期の場合は、変化がないこともあります。その際はMRIや骨シンチグラムなど詳しい検査を行うことで、特異的な所見を認めることがあります。 Q:難病申請と障害年金の申請は可能ですか? 特発性大腿骨頭壊死は、指定難病になっており、難病申請行うことができます。特発性大腿骨頭壊死と診断され、症状が一定の基準を満たす場合は、医療費の助成を受けることができます。患者様が、各都道府県や指定都市に申請します。 また、症状の程度や治療内容によっては、障害年金を受け取ることができます。どのくらい歩行などの日常生活に支障があるかによって、障害等級がきまります。 障害等級は1~3級があり、そのいずれかに当てはまる場合は障害年金の支給適応になります。人工関節などの手術を行った場合は、日常生活に戻れたとしても3級に認定される場合がありますので、特発性大腿骨頭壊死と診断された方は、申請を検討するのがよいでしょう。ただし、厚生年金保険料を納めていない場合は、3級相当の障害年金は支給されませんので、ご注意ください。 まとめ・大腿骨頭壊死(難病)の種類と特発性大腿骨頭壊死3つの原因 今回は大腿骨頭壊死について解説しました。一度発症してしまうと、治癒まで非常に時間がかかり、手術も必要となる可能性が高い疾患です。 ほかの病気でステロイドを使っている場合や、アルコールの多飲歴がある場合は、リスクが高くなりますので、少しでも気になる症状がある場合は、早めに整形外科を受診するようにしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 ▼以下もご覧になりませんか 大腿骨頭壊死に必要な検査や入院期間とは?医師が解説
2023.08.17 -
- 脳卒中
- 脳出血
- 頭部
橋出血(きょうしゅっけつ:英語名「pontine hemorrhage」)は、脳卒中の中でも、とくに生命予後の悪い疾患の1つです。 脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など、脳の血管が詰まったり破れたりする病気を総称して「脳卒中」と呼びます。 「脳卒中の症状ではないから大丈夫」と安心し、症状の発見が遅れると、重症を患う恐れがあります。 脳卒中の1つ「橋出血」の重症例では、意識・呼吸障害、四肢麻痺などをきたし、急激な経過で死に至るケースもあるのです。 本記事では、橋出血の症状・原因や治療について詳しく解説をしていきます。 橋出血とは 橋出血とは脳出血の1つで、5〜10%が橋出血に該当するといわれています。 突然脳の血管が破裂する症状なので、橋出血が発症すると以下の症状が起こります。 意識障害が起きる 頭痛が続く 手足の動きや感覚が鈍い など 血栓や動脈硬化で起こる脳梗塞を含め、脳の病態は複数あるので、早急に医療機関で受診しましょう。 なお、橋出血の疑いがすでにある方はとくに、以下の記事で初期症状や診断方法などを詳しくまとめました。 予後についても解説しているので、ぜひあわせてご覧ください。 橋出血の「橋」は脳幹における構造物 橋出血が起こる「橋」とは、脳の一部分である「脳幹」の1つです。 上にある中脳、下にある延髄と共に「脳幹」の構成をしています。 脳幹には、以下4つの構造物があります。 神経伝達路 神経の中継(分岐地点) 自律神経反射中枢 脳幹網様体 それぞれ構造の役割とともに、橋出血による症状について見ていきましょう。 ①神経伝達路としての役割と橋出血の症状 脳幹には神経線維の束が通っており、以下の役割を果たしています。 ・大脳から運動神経の伝達 ・大脳へ感覚神経の伝達 ・脳幹の真後ろにある小脳との連絡経路 橋出血は神経の伝導路が障害されるため、運動麻痺や感覚障害が起こるのです。 運動麻痺は出血の部位にもよりますが、重症例では両方の手・足ともに動かなくなる四肢麻痺をきたすケースもあります。 四肢麻痺と顔の麻痺まで加わる特殊な形に「閉じ込め症候群」があります。 意識や感覚は保たれますが、まばたきと一部の目の動き以外の運動がすべてできません。 看護・介護を行う人とのコミュニケーションは、眼の動きのみで行うのです。 他にも橋出血が発症すると幾つかの運動失調が起こります。 以下の記事では橋出血による運動失調の種類を詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。 ②神経の分岐・中継地点の役割と橋出血の症状 脳幹には、脳から直接伸びる末梢神経である脳神経核をはじめ、神経回路の分岐点や中継地点になる複数の神経核(神経細胞体の塊)があります。 橋出血が発症する「橋」にも、以下4つの脳神経核があります。 三叉神経;主に顔面の感覚を伝える 外転神経;眼球の運動の一部を支配する 顔面神経;表情筋など顔面の運動に関わる 内耳神経;聴覚や平衡感覚を司る 橋出血で障害を受けた際の症状は以下の通りです。 ・顔の感覚や運動の障害 ・眼球運動の障害 ・聴力障害 とくに三叉神経や顔面神経は舌の動きや感覚などにも関わる神経です。 橋出血が起こると飲み込み障害とも呼ばれる「嚥下(えんげ)障害」も起こる可能性があるので注意しましょう。 ③自律神経中枢の役割と橋出血の症状 自律神経は生命維持の上で必要な動作を調整する神経です。 意識せずとも呼吸をし、心拍数をコントロールしています。 明るさに応じて瞳孔の大きさを調節しているように、自律神経は、脳幹に中枢があるのです。 橋には呼吸の中枢があるため、橋出血の患者様は呼吸障害が多くみられます。 橋出血では瞳孔の異常も多く、瞳孔の縮小や瞳孔を開く交感神経の障害もあるためです。 ④脳幹網様体の役割と橋出血の症状 脳幹の中心から背中側には「網様体」と呼ばれる神経線維の束と神経細胞体が合わさった構造物があります。 網様体の役割は主に以下3つです。 脳幹内の自律神経中枢と連絡し、生命維持機能を果たす 筋肉の緊張をコントロールする 大脳へ刺激を与えて意識を保つ 重症の橋出血だけでなく、網様体の障害でも呼吸・循環障害をきたします。 網様体の損傷により、「意識障害」の症例もあり、重症例では急激な経過で昏睡状態に陥っているケースもあるため、注意が必要です。 橋の網様体には眼球の運動の中枢もあるので、出血部位や程度により、さまざまな眼の動きの異常が認められます。 代表的な症例は、眼の動きがまったくできず、真ん中で固定される眼球の正中固定位が挙げられます。 眼球が真下に急に動き、ゆっくり真ん中に戻ってくる「眼球浮き運動」が認められるケースもあるので注意しましょう。 なお、橋出血を含め脳卒中は、手術しなくても治療できる時代です。 詳しくは以下のページをご覧ください。 橋出血が起こる2つの原因とそれぞれの治療法 橋出血の原因として、高血圧と血管奇形の2つが挙げられます。 原因により治療法が異なるので、それぞれ解説していきます。 高血圧で起こる橋出血と治療 橋出血の最大の原因は高血圧です。 橋への栄養動脈が、高い圧により破綻してしまいます。 橋は小さい中に重要な構造物が詰まっているところなので、出血が一気に広がり損傷が起こると、短時間で致命的になるので要注意です。 損傷を受けた脳幹の回復は難しく、手術は基本的には行いません。 可能な限り血圧を下げ、呼吸や循環などの生命維持のサポートをするのが治療の中心です。 血管奇形で起こる橋出血と治療 高血圧性の橋出血よりも若い方に多いのが、脳の血管奇形(赤あざ)によるものです。 代表的なものに「海綿状血管腫」と呼ばれる血管の塊があります。 生まれつき静脈の成分が拡張した場合によくみられ、発症場所や大きさなどは人によって異なります。 海綿状血管腫を持っている一部の患者様は、局所的な出血を起こすケースが大半です。 出血は少量で、重篤になりにくい反面、何度も繰り返すリスクがあります。 出血が落ち着いているときに手術が考慮されるケースもあるので注意してください。 橋出血についてよくあるQ&A Q , 橋出血の検査はどのようなものがありますか? A , 橋出血に限らず疑わしい症状があれば、CT撮影をします。 脳は灰色に映りますが、出血がある部分は白くなります。 なお、血管奇形の診断にはMRI も有用です。 近年では脳ドックなどにより症状がないまま発見されるものも多くあります。 Q , 海綿状血管腫は必ず手術が必要ですか? A , 症状のない海綿状血管腫が出血を起こすのは、年間で1,000人中4〜6人程度です。 手術の合併症リスクの方が高く、全員におすすめできません。 ただし、一度出血を起こすと、2年以内の再出血リスクが高くなります。手術のメリットとリスクを比較しつつ、手術ができない場合は、放射線治療が考慮されるケースもあります。 橋出血の後遺症や予後について、以下の記事で詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。 まとめ・橋出血の症状を理解して適切に治療しよう! 橋出血は、重症例では命にかかわりかねない恐ろしい病気の1つです。 「橋」と呼ばれる部位でもあるため、神経伝達や自律神経においての重要な役割を果たしています。 高血圧は重症の橋出血のリスクになるため、しっかりと治療を受けるのがおすすめです。 症状を見つけるタイミングも当然早い方が良いので、少しでも不安に感じた方は医療機関でのカウンセリングを検討しましょう。 ▼以下もご参考下さい <参考文献> 東登志夫. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 364-368, 2014. 古谷一英. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 369-372, 2014. 茂木陽介, 川俣貴一. 日本臨牀. 80(増刊号2): 320-324, 2022. 医学書院 標準解剖学 第1版 メディックメディア 病気がみえるvol7. 脳・神経 第1版 中外医学社 イラスト解剖学 第7版 脳卒中診療ガイドライン2021
2023.08.14 -
- 頭部、その他疾患
- 頭部
もやもや病になってから性格が変わった気がする。 もやもや病による性格変化にはどのように対処すべき? この記事を読んでいるあなたは、自分や大切な人がもやもや病になり、性格変化が起きているのではないでしょうか。 「どのように接したら良いかわからない」と悩んでいる人もいるかもしれません。 結論、もやもや病による性格変化は、「高次脳機能障害」が関係している可能性があります。 以前とまったく同じ性格に戻すのは困難ですが、原因や対処を知れば、生活上の不便は軽減できます。 本記事では、もやもや病による性格変化のメカニズムと対処法について詳しく解説します。 記事を最後まで読めば性格変化の原因や対処法がわかり、毎日を快適に過ごしやすくなるでしょう。 もやもや病の後遺症で性格が変化することがある もやもや病は、脳の重要な動脈が狭くなった結果、通常では見られない細い血管(もやもや血管)が発達する病気です。もやもや血管は血流悪化や脳卒中のリスクが高く、脳機能の低下につながるケースも見られます。 また、脳機能の低下によって「高次脳機能障害」が生じると、性格変化が起こる可能性があります。高次脳機能障害とは「怪我や病気によって脳がダメージを受けた結果、複雑な処理ができなくなり、生活に支障が出る状態」です。 もやもや病でダメージを受けやすいのは、脳の「前頭連合野」と呼ばれる部位です。 前頭連合野には以下のようなはたらきがあります。(文献1) 前頭連合野の機能 説明 認知・実行機能 状況を深く理解したり推理したりする 心の理論・社会性機能 人の気持ちを想像したり、周りを見て行動したりする 情動・動機付け機能 積極的に行動したり、自己表現をしたりする どの機能も、人間が社会的な生活を送るのに欠かせません。 そのため、もやもや病によって前頭連合野の機能が失われると、「感情のコントロールができず自己中心的になる」「周りの状況を見て動けない」などが起こり、性格が変わったと思われやすいのです。 当院「リペアセルクリニック」では、もやもや病による脳卒中後の治療として再生医療(幹細胞治療)を提供しています。再生医療には、リハビリの効果を高めたり、後遺症を軽減したりする効果が期待できます。 もやもや病後の後遺症にお悩みの方は「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」へ気軽にご相談ください。 なお、もやもや病については、以下の記事で詳しく説明しています。 もやもや病の後遺症でみられる性格の変化 もやもや病の後遺症「高次脳機能障害」による性格の変化は、以下のとおりです。 記憶障害により物忘れが増える 注意障害により気が散りやすくなる 社会的行動障害により感情をコントロールできなくなる 遂行機能障害により段取りが悪くなる 本章の内容をもとに、気になる性格の変化が高次脳機能障害によるものなのかを考えてみましょう。 なお、性格変化以外の後遺症については、以下の記事もぜひ参考にしてください。 記憶障害により物忘れが増える もやもや病によって脳の記憶をつかさどる部分の機能が低下すると、「作業記憶(ワーキングメモリー)」が低下することがあります。 作業記憶とは、何かを行うときに一時的に置いておく「記憶の引き出し」です。記憶障害の症状例は、以下のとおりです。 聞いたことをすぐ忘れて何度も聞き返す 買い物に出かけても、何を買えばいいか忘れる ものを置いた場所を思い出せない 何度も同じことを聞いたり、頼みごとができなくなったりする結果、本人や周囲の人に不便が生じ、ストレスとなるケースは珍しくありません。 注意障害により気が散りやすくなる 注意障害とは、気が散りやすく一つの物事に集中できない状態です。生活に支障をきたす注意障害の症状は、以下のとおりです。 ぼんやりしていてミスが多い 2つのことを同時にできない(マルチタスクができない) 少しの変化に気をとられ、自分の動作が止まる 注意障害は、仕事や勉強などのパフォーマンスの低下につながりやすい症状といえるでしょう。 社会的行動障害により感情をコントロールできなくなる 社会的行動障害とは、自分の感情をうまくコントロールできない、衝動的な行動が増えるなどの状態です。以下のようなケースがあり、社会生活に問題が出る可能性も考えられます。 自己中心的になる 感情の振れ幅が大きくなる 思い通りにならないと大声を出す 興奮したり暴力をふるったりする 欲求を抑えられずにギャンブルや借金に走る 逆に、人や物事への興味や自発性がなくなるケースもあります。 遂行機能障害により段取りが悪くなる 遂行機能障害とは、物事を順序立てて行えなくなることです。具体的な症状は、以下のとおりです。 段取りが悪い 優先順位をつけられない 約束の時間に間に合わない 人に指示してもらわないと何もできない 臨機応変に行動できず、少しのトラブルにも対応できない 日常生活は、予期せぬ出来事がたくさん起こります。遂行機能障害によりその場に応じた対応ができなくなると、仕事や生活の維持に支障が出やすくなるかもしれません。 もやもや病による性格変化は検査・症状で診断する 性格変化がもやもや病による高次脳機能障害が原因なのかは、以下の内容から総合的に判断されます。(文献2) 何かの病気(今回はもやもや病)が原因で起きたものか 現在、脳機能が低下したことにより日常生活・社会生活に支障が出ているか MRIやCT、脳波検査などにより、認知障害の原因が脳の異常によるものと考えられるか 先天性疾患や発達障害、持病などが関連していないか なお、高次脳機能障害の診断は、原因となる脳の病気や怪我の急性期が過ぎ、症状が安定してから行われます。そのため、もやもや病と診断されてすぐではなく、ある程度の期間が必要です。 当院「リペアセルクリニック」では、もやもや病による脳卒中後の治療として再生医療(幹細胞治療)を提供しています。再生医療は、もやもや病による脳卒中後の身体機能の回復や再発予防を目指した治療法の一つです。 もやもや病による脳卒中が原因の高次機能障害にお悩みの方は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」へ気軽にご相談ください。 もやもや病で性格が変化したときの対処法 もやもや病で性格変化や行動変化が見られても、原因を知り適切に対処すれば、日常生活への支障を軽減できます。 本章では、「自分の性格が変わった場合」「家族や友人の性格が変わった場合」の2つの事例において、おすすめの対処法を解説します。 自分の性格が変わった場合 もやもや病にかかった場合、病気による変化を理解した上で、自分に合う対応を学ぶのがおすすめです。 具体的な対処法の例は以下のとおりです。(文献3) 無理のない範囲で運動し、体力をつける バランスの取れた食事や規則正しい生活を意識する 人と比較せず、自分の状況や希望に合わせた生活の目標を考える 地域のリハビリ科や精神科の病院、地域の保健福祉センターなどに相談してみるのも良い方法です。焦らずに、少しずつ進んでいきましょう。 家族や友人の性格が変わった場合 性格変化が周りの人に起きた場合は、もやもや病による影響を正しく理解し、適切なサポートを検討しましょう。 たとえば、本人がどのような状況でイライラしたり不自由したりしているかをチェックし、専門家からどのような生活や手助けが適しているかのアドバイスを受けます。相談先は病院や保健福祉センターなどです。 具体的な対策の例は、以下のとおりです。 気が散らない環境を整え、ものごとに集中できるようにする こまめにメモを取り、低下した記憶力をおぎなう 低下した機能を助ける訓練を受ける 一度の相談ですべての課題に対応するのは難しいため、相談と検討を繰り返しながら少しずつ本人の抱える困難に対応していきます。焦らずに、寄り添う姿勢を大切にしてみてください。 まとめ|もやもや病で性格変化が起きたら医療機関へ相談しよう 本記事では、もやもや病の後遺症による性格変化について、詳しく説明しました。 もやもや病のあとに性格が変わるのは、脳のダメージによる「高次脳機能障害」が原因の可能性があります。感情の制御をつかさどる「前頭連合野」がダメージを受けた結果、記憶障害や行動障害などが起こります。 性格変化は病気の後遺症であると理解し、専門家の指導のもとに適切な対応を行いましょう。 当院「リペアセルクリニック」では、損傷した脳に対する再生医療(幹細胞治療)を実施しています。再生医療は、もやもや病による脳卒中後の身体機能の回復や再発予防を目指した治療法の一つです。 「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」を行っております。気軽にご相談ください。 もやもや病による性格変化に関するよくある質問 高次脳機能障害は完治しますか? 脳に傷がある状態のため、高次脳機能障害を完全に治すことは困難です。しかし、得意・不得意を考慮した工夫により、生活上の不便は軽減できます。根気強くリハビリをおこないましょう。 脳卒中による高次脳機能障害があるとき、入院期間はどのくらいになりますか? 脳卒中では、発症直後の急性期を過ぎたあとは「回復期リハビリテーション病棟(回復期リハ病棟)」に移ってリハビリを続ける方が多く見られます。 回復期リハ病棟では、脳血管障害における一般的な入院期間は150日とされています。ただし、高次脳機能障害の合併があると、180日まで入院可能です。 期間すべてを使っての入院が必要というわけではありません。しかし、高次脳機能障害は麻痺と違い一見してわかりづらく、周りの理解が得られにくいケースが多いです。退院後を快適に過ごすために、社会復帰のためのリハビリや環境整備にしっかりと時間をかけましょう。 もやもや病による脳梗塞については、以下の記事もぜひ参考にしてください。 参考文献 (文献1) 渡邊正孝「頭連合野のしくみとはたらき|高次脳機能研究( 第36巻,第1号)」https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/36/1/36_1/_pdf (文献2) 厚生労働省 科学研究成果データベース「令和4年版高次脳機能障害診断基準 ガイドライン」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/36/1/36_1/_pdf (文献3) 相模原市「もしかしたら高次脳機能障害?」 https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/025/677/r03_pamphlet.pdf
2023.08.10 -
- 頭部
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もやもや病は遺伝するのか?家族性もやもや病、遺伝との関係 もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)は脳卒中を引き起こす脳血管の病気です。この病気は長きにわたって、原因不明の難病とされていました。しかし、一部では家族内で複数人のもやもや病患者さんがいることがわかっており、遺伝が関与する可能性が考えられています。 本記事では、家族性に発症するもやもや病について解説していきます。 もやもや病とは もやもや病患者さんでは、内頸動脈終末部という脳の主要な血管が徐々に狭窄を起こします。足りない血液を補うため、代わりに細い血管が多く発達します。MRA(磁気共鳴血管撮影法)や脳血管造影などの画像の検査では、このような細い血管がもやもやとした煙のように描出され、これがもやもや病という名前の由来です。 細い「もやもや血管」のせいで脳は血流不足を起こしやすくなります。脳に血が回らなくなる「脳虚血」の状態になると、再発性の脱力や手足の痺れ、てんかんなどを認めます。また、もやもや血管は高い血圧によるストレスで破れやすいです。そのため、一部の患者さんでは脳出血を起こします。 もやもや病はどんな人に発症する? もやもや病の患者さんは、人口10万人につき3〜10.5人ほどいるとされています。女性患者さんが男性の約2倍ほどです。 小児での発症 発症する年齢は最多が小児期で、5〜10歳頃が多いとされています。 子供の場合は、脳虚血発作を認めることが多いです。発作は、息を大きく早く吸ったり吐いたりする「過呼吸」により誘発されやすくなります。これは、二酸化炭素が減り、脳の血管が収縮しやすくなるためです。例えばハーモニカなどの楽器の演奏や、熱いラーメンをふーふーと冷ますことがリスクになります。また、痛み止めの効かない頭痛や、てんかんを起こすこともあります。 成人での発症 小児期以外で発症が多いのは、30〜40歳の成人です。 大人の場合は、半数は脳虚血の症状をきたしますが、残りの半分程度は脳出血で発症すると言われています。また、MRIの普及により、症状がなくても、脳ドックなどの機会に血管の異常が判明する患者さんも増えてきています。 家族性もやもや病 実は、もやもや病の10〜20%の方で、家族内の発症が認められているのです。そして、家族性もやもや病の一部では、「表現促進現象」を認めることがあります。表現促進現象とは、次の世代にうつるにつれて、発症年齢が早くなり、また、より重症化しやすくなることです。 もやもや病と関連した遺伝子とは? もやもや病は、発症に人種差があることもわかっています。この病気が発見されたのは日本でした。その後の報告でも、東アジアでは他の地域よりも多いことが判明しています。 家族内での発症や人種での違いがあることから、もやもや病の発症には、遺伝的な因子があるのではないかと考えられていました。 そして、近年、「RF213」という遺伝子に「遺伝子多型」があると、もやもや病が発症しやすくなるということが判明しています。 遺伝子多型 私たちの体を構成する細胞は23組46本の遺伝子を持っています。遺伝情報を構成するDNAは、塩基・リン酸・糖という3つの部品からなる「ヌクレオチド」が繋がってできたものです。このうち、塩基にはアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4種類があります。4種類の塩基の並びで遺伝情報が決まっています。 遺伝情報は、ヒト同士であればほとんどの部分は同一です。しかし、わずかに塩基配列のバリエーションが違う部分があります。この塩基配列の違いを遺伝子多型と呼びます。遺伝子多型があっても、個人間の差がないことも多いです。しかし、一部の遺伝子多型は、個人の特徴を決定づける肌や髪の色の違い、さまざまな体質の違いなどとなって現れます。 RF213遺伝子多型p.R4810K RF213遺伝子は、23ペアのうち17番目の染色体にある遺伝子です。もやもや病の日本人患者さんのRF213遺伝子を調べると、8〜9割もの患者さんにおいて「p .R4810K」という遺伝子多型があることがわかりました。このことから、RNF213遺伝子多型が、もやもや病の発症と大きく関わっていることが推察されます。 しかし、このp .R4810Kという遺伝子多型は、健常な日本人の1〜2%も持っていることがわかっています。つまり、RF213遺伝子多型を持っている人のごく一部がもやもや病を発症しているに過ぎないのです。 現在では、もやもや病の発症には、このような遺伝的な背景に加えて、何かしらのきっかけがあって起こるのではないかと考えられています。 もやもや病の遺伝についてよくあるQ&A Q , もやもや病の患者がいる家系なので子供の発症が心配です。画像検査は何歳からできますか? A ,結論から言うと、何歳から可能かは、お子さんの状況や、病院によって異なってきます。 外来で検査が可能なのはMRAという検査です。磁気を使って脳や血管の状態を調べるため、体への負担は大きくありません。ただし、じっとしていないと撮影は難しいです。狭い機械に入らなければいけないため怖がってしまう子もいます。場合によっては鎮静剤を使って眠った状態で検査をしないといけません。 その一方で、お子さんの場合は、早めに適切な対処をすると予後も良いことがわかっています。検査するかどうか、いつするのかについては病院に相談されることをお勧めします。 Q , もやもや病が心配なので、遺伝子検査はできますか? A , 残念ながら現時点で、RNF213遺伝子の多型を通常の診療で検査することはできません。そもそも、この遺伝子多型を持っているから発症するのではなく、あくまで「もやもや病を起こしやすい」遺伝子多型です。診断は遺伝子の検査ではなく、血管の画像の検査を中心に行います。 まとめ・もやもや病は遺伝するのか?家族性もやもや病、遺伝との関係 もやもや病は一部で家族性に発症を認めます。発症と関連した遺伝子も見つかっています。しかし、絶対に遺伝するわけではなく、発症についてはまだわかっていないことも多い病気です。過剰に遺伝を心配し過ぎる必要はありませんが、気になることは専門医としっかり相談をしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 〈参考文献〉 中川原. Brain Nursing. 31(11): 1064-1066, 2015. Koganebuchi K, et al. Ann Hum Genet. 85(5):166-177, 2021. 公益財団法人循環器病研究振興財団 知っておきたい循環器病あれこれ117 もやもや病…ここまできた診断・治療 難病情報センター.病気の解説(一般利用者向け) もやもや病(指定難病22).https://www.nanbyou.or.jp/entry/47.最終閲覧2023年7月3日. 難病情報センター.診断・治療指針(医療従事者向け) もやもや病(指定難病22).https://www.nanbyou.or.jp/entry/209.最終閲覧2023年7月3日 小児慢性特定疾病情報センター 対象疾病 39.もやもや病. https://www.shouman.jp/disease/details/11_15_039/. 最終閲覧2023年7月5日 ▼モヤモヤ病の原因など、以下のページも参考にされませんか もやもや病と言われたら|原因・治療法について医師が解説
2023.08.07 -
- 脳卒中
- 脳出血
- 頭部
橋出血の後遺症と予後予測|回復の見通しについて医師が解説 橋出血は非常に致死率の高い病気です。 かつて脳卒中は、日本人の死因の1位でした。しかし、医療技術が進歩するにつれて、脳卒中による死者数は徐々に減少しています。2022年においては死因の第4位でした。 橋出血は、その中でもいまだに生存率が低いとされており、発症すると半分近くの方が亡くなるという報告もあります。 本記事では、致命的になることの多い橋出血の予後の予測、また後遺症の回復について、解説をしていきます。 橋出血が重症化しやすいのはなぜか? 橋出血の最大の原因は高血圧です。高い血圧がかかり続けると、血管が急に破れてしまうことがあります。 血管をホース、血圧を水の勢いと考えてみてください。高血圧による脳出血は、勢いよく水を出しているホースが途中で破れてしまった状態と同じです。破れたところから、水はさらに激しく飛び散るでしょう。 脳は柔らかい組織で、一度出血すると簡単に止血できず、機能が急激に失われていきます。橋は意識や生命維持のための機能のコントロールを行う場所です。そのため、橋出血は死に直結することも少なくありません。 橋出血の生命予後に関わる症状とは? 重症の橋出血で起こる症状には次のようなものがあります。これらの症状は、橋出血において生命予後不良であることを示すものです。 発症早期の高度の意識障害 橋を含む脳幹は大脳へ刺激を与え、意識を保ちます。橋出血によりその刺激ができなくなると、昏睡状態など、高度の意識障害を認めます。 四肢麻痺 橋は大脳からの運動の伝達経路です。大脳の損傷でも麻痺は起こりますが、基本的には片麻痺(左右どちらかのみの麻痺)です。橋の広い範囲の出血では、運動神経が一気に障害されるので、四肢麻痺を呈します。 除脳硬直 意識障害下に、痛み刺激を加えると、手足が強く緊張して伸びたような姿勢になります。橋を含む脳幹のダメージにより、筋肉の緊張をコントロールすることができなくなるからです。 眼球正中位固定 橋には眼球の動きを司る部分があります。この障害により、目が真ん中から動かなくなります。 対光反射の消失 対光反射とは、瞳孔に光を当てた時、瞳孔の大きさが小さくなることです。この反射の中枢の「動眼神経」は橋の上の中脳にあります。橋出血の範囲が広いと中脳まで影響がおよび、対光反射は消失します。 失調性呼吸 脳幹の呼吸中枢が障害されるために起こる不規則な呼吸です。リズムも、一回ごとの呼吸の量も、バラバラで、呼吸が止まる直前の状態と考えられます。 中枢性過高熱 体温の調節中枢は脳幹のすぐ上にある間脳の視床下部というところです。広範な橋出血により、間脳までダメージが広がると、高い熱が出ます。 後遺症の治療について 重症にならず命が助かっても、出血で脳が傷つくと、後遺症が残ってしまうケースもあります。 例えば、神経の伝達経路の損傷による片麻痺、感覚障害などです。 橋は小脳という動作のコントロールに重要な部分と密接に関連しているため、運動失調によりふらついたり、動作がスムーズにいかなくなったりする方もいます。 また、物を飲み込む力が弱くなる嚥下障害も、頻度の高い後遺症です。飲み込みに関わる神経の多くは、橋をはじめとする脳幹から、顔・頸などに直接のびているからです。 後遺症のために、すぐに自宅に帰ることができなくなる方も多くいらっしゃいます。そのような場合に行うのが、リハビリテーションです。 急性期(発症直後の体の状態が安定しない時期)からリハビリが始まりますが、それだけでは不充分なことも多いです。そのため、患者さんの多くは、急性期がすぎると回復期病院(病棟)に移動し、集中的にリハビリを受けることになります。 リハビリの種類 理学療法・作業療法・言語聴覚療法の3種類があります。 理学療法 作業療法 言語聴覚療法 理学療法は、基本的な動作能力の回復を目指すリハビリです。 作業療法は日常生活に必要な作業の訓練を行います。同じリハビリでも、理学療法は立つ・歩くなどの基本的な動作、作業療法は着替え・入浴など応用的な動作が主体です。それぞれ、理学療法士・作業療法士という専門のスタッフがいます。 言語聴覚療法の担当は、言語聴覚士というスタッフです。構音障害などコミュニケーションの障害に対してリハビリを行います。また、橋出血に多い嚥下障害へのアプローチも行います。 リハビリの目標と後遺症の回復の見通しについて リハビリの最終的な目標は、個人個人の後遺症の具合、また退院後の生活環境を踏まえて決定していきます。そして、機能予後、つまり後遺症の回復見通しを勘案しながら、リハビリテーション計画を考えます。 では、回復の見通しはどのように立てるのでしょうか。 脳卒中全般で、発症時の重症度、画像の所見、入院時の日常生活動作(ADL)など、初期の評価からの機能予測についての研究が複数行われています。 また、急性期の回復の具合から、最終的な回復の見通しを立てる方法も模索されています。その中で、最初の1ヶ月での回復具合が大きいほど、最終的に自立した生活につながりやすいことが示されているのです。状態が許せば、早いうちから積極的なリハビリを行なうことは、回復につなげるために非常に重要です。 麻痺が回復するのは発症後どのくらいまでか 一般的に麻痺の回復は、3〜6ヶ月程度までと言われています。そのため、発症して早いうちから、集中的にリハビリに取り組むことが重要です。 この期間を過ぎてしまっても、リハビリを続ける意味がないわけではありません。麻痺の無い側でうまく補ったり、補助具を使ったりする訓練ができます。 まとめ・橋出血の後遺症と予後予測|回復の見通しについて医師が解説 橋出血は現在の医療の進歩をもってしても、いまだに生命予後の悪い病気です。 また、後遺症も残りやすく、回復には時間がかかります。早いうちにリハビリに集中的に取り組むことで、麻痺などの後遺症が軽くなる可能性がありますので、諦めないことが大切です。 この記事がご参考になれば幸いです。 ▼以下もご参考ください 橋出血による運動失調の種類とリハビリプログラム 〈参考文献〉 奥田佳延 他. Neurosurg Emerg 13:63-71,2008. 木村紳一郎 他. 脳卒中の外科. 39: 262-266, 2011. 東登志夫. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 364-368, 2014. 古谷一英. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 369-372, 2014. 佐藤栄志. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 373-375, 2014. 厚生労働省.令和4年(2022)人口動態統計月報年計の概況. 結果の概要. (閲覧2023年6月28日). 脳卒中診療ガイドライン2021
2023.08.03 -
- 大腿骨骨頭壊死
- 股関節
歩いていると、股関節に痛みを感じるようになってきた…… そんな人がインターネットで検索すると、「骨頭壊死」という単語を見かけることもあるでしょう。 「骨頭壊死」の文字をみて「骨が壊死したらどうなるの?」「どんな痛み?」と、怖くなっている人もいるかもしれません。 結論、骨頭壊死とは骨の一部が壊死する疾患で、針で刺されたような痛みを感じるのが特徴です。大腿骨や股関節に体重を乗せたときや動かしたときに痛むケースが多くあります。 本記事では骨頭壊死でどのような痛みが出るか、またどんなときに痛みを感じやすいかをまとめました。記事を最後まで読めば、骨頭壊死がどのような痛みなのかがわかり、自分の症状と照らし合わせて病院に行くべきか判断できるでしょう。 【結論】骨頭壊死になると「針で刺された」のような痛みを感じる 結論からいえば、骨頭壊死が起きると鋭い痛みを感じるようになります。これは骨頭にある骨軟骨が壊死し、痛みを感じる神経(痛みの受容体)が刺激されるためです。 この神経は「自由神経終末」と呼ばれる組織で、チクチクと鋭い痛みを発生させることが特徴と言われています。 そもそも骨頭壊死とは、関節を構成する骨頭への血流が途絶えることで、骨の一部が壊死する疾患です。 さまざまな病気や怪我が原因で血流が途絶えるといわれていますが、はっきりと原因がわからないことも多々あります。 原因が不明な骨頭壊死は「特発性骨壊死」と呼ばれていて、大腿骨(太ももの骨)に多い疾患です。 骨頭壊死は体重を乗せたときや関節運動で痛みを感じやすい 骨頭壊死が起きると、体重を乗せたときや関節を動かしたときに痛みを感じるようになります。 たとえば、大腿骨頭壊死の場合、立って体重を乗せたときに、壊死した骨頭に負荷がかかり、股関節に痛みを感じるでしょう。 また、股関節を動かしたとき(とくに内側に捻ったとき)にも大腿骨頭の壊死部に刺激が入るため、痛みを感じる可能性が高いです。 過去におこなわれた大腿骨頭壊死患者へのアンケートでも、「歩行時に痛みでずり足で歩いた」「痛みで足が上がらない」との回答が多く寄せられています。 (参考:羽原美奈子,前沢政次 ほか.特発性大腿骨頭壊死症患者が体験する生活上の困難.社会医学研究.2008,26(1),p.31-40) 骨頭壊死は大腿骨や股関節に起こりやすい 骨頭壊死は上腕骨(腕の骨)や脛骨(すねの骨)にも発症しますが、大腿骨骨頭に多く発生しやすいといわれています。大腿骨頭は体重がかかりやすい上、股関節の中に入り込んで血流が乏しいためです。 骨頭が壊死しただけでは痛みはありませんが、体重がかかることで壊死部がつぶれ、痛みを感じるようになります。 大腿骨頭壊死は骨折や脱臼に伴って起きることが多いため、予防のために転倒しないことが大切です。 また、アルコールもリスクとなるため、予防を考えたい人は生活習慣も見直しましょう。 治療では保存療法で杖の使用やリハビリを検討します。痛みや大腿骨頭の変形が強い場合は、手術も適応です。 なお、大腿骨頭壊死については以下の記事でも詳しく解説しています。気になる人はぜひこちらもチェックしてみてください。 骨頭壊死の初期症状 骨頭壊死の初期症状は壊死部分とその周囲の鋭い痛みです。とくに関節へ体重を乗せたときや関節を動かしたときに痛みを感じます。 たとえば大腿骨頭壊死では、体重をかけたときや足を上げたときの股関節痛が初期症状として多く、腰痛や殿部(お尻付近)・大腿部に痛みが出ることも珍しくありません。症状が進行すると骨の変形に伴う可動域制限や、変形性関節症へと移行していきます。 また、「単純性関節炎」は骨頭壊死と似た症状が出る疾患として有名です。急激に増悪する痛みが特徴ですが、関節の変形は伴いません。そのため、レントゲン画像の撮影で骨頭壊死との鑑別が可能です。 骨頭壊死は早期発見・早期治療が必要な疾患です。少しでも初期症状に当てはまる人は、ぜひ当院「リペアセルクリニック」のメール相談、もしくはオンラインカウンセリングにてお気軽にご相談ください。 大腿骨頭壊死について詳しく知りたい人はこちらの記事も参考にしてください。 骨頭壊死の原因 骨頭壊死は、関節の骨折や関節の脱臼に引き続いて起こることがあります。 特発性骨頭壊死の場合は、危険因子として、免疫異常の疾患(膠原病)や臓器移植などによるステロイド投与による副作用、アルコール、喫煙が関連していることがわかってきています。 とくに、ステロイドやアルコールについては国際的に基準が設けられており、ステロイドやアルコールをある程度の量を摂取した方に起こった骨頭壊死では、ステロイドやアルコールとの関連が考えられます。 また、関節の構造的に血流が乏しいと、骨頭壊死に至る可能性が高くなるため要注意です。 骨頭壊死で多い大腿骨頭壊死の場合、大腿骨の骨頭は、股関節内に深くおさまって血管が少ない特徴があります。そのため、何らかの原因で血流障害が起こると、骨に栄養や酸素などが運ばれなくなり、壊死が起こってしまうのです。 まとめ|骨頭壊死では鋭い痛みを感じる!症状が悪化する前に早めの受診がおすすめ 今回は骨頭壊死の痛み方についてまとめました。 骨頭壊死が起きると、体重をかけたときや関節運動時に鋭い痛みが生じます。とくに股関節の大腿骨頭に発症することが多く、初期症状の段階で早期発見・早期治療を進めていくことが重要です。 当院「リペアセルクリニック」では、大腿骨や股関節などの痛みに関する治療として、再生医療を行っています。骨頭壊死の初期症状に当てはまる痛みを感じたら、当院のメール相談、オンラインカウンセリングからご相談いただければ嬉しく思います。 この記事がすこしでも骨頭壊死で悩んでいる人の助けになれば幸いです。 骨頭壊死についてよくある質問 Q. 大腿骨頭壊死では必ず股関節が痛くなるの? A. 必ずしも、股関節が痛くなるわけではありません。 自覚症状としては、比較的急に生じる股関節部痛が特徴的ですが、腰痛、膝痛、殿部痛などで初発する場合もあります。 Q.大腿骨頭壊死では、必ず手術が必要なの? A. 骨頭壊死の病期によっては、手術が必要となる場合もあります。 一方、再生医療で骨頭壊死を治療する試みも始まっています。 当院では、エコーや特殊なレントゲン装置、そして特殊な注射針を使用して股関節内の軟骨損傷している部位を精査して、ダイレクトに幹細胞を注入する再生医療を用いた治療を行っています。また、PRP(多血小板血漿)の併用で、さらなる効果の増強を目指しています。
2023.08.01 -
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「視床出血の症状や後遺症は何があるの?」 「視床出血のリハビリ方法は?」 視床出血は、脳の中でも脳内ネットワークの中心となる視床で起こる出血です。 脳の中心である視床に出血が起きると、片麻痺や感覚障害、また運動失調の原因にもなります。 この記事では、視床出血で運動失調が起こる理由を始め、特徴や治療方法、リハビリなどを解説します。 再生医療の可能性も解説するので、視床出血後の症状に悩まれている方はぜひ参考にしてみてください。 視床出血とは【脳の視床で起こる出血】 視床出血は、脳卒中と総称される脳出血・脳梗塞・クモ膜下出血の中でも、脳の中の視床で起こる出血です。 主な原因は高血圧で、脳出血の中では、被殻(ひかく)出血の次に視床出血の頻度が高いとされています。(文献1) 視床と被殻は隣にあり、視床出血は脳室とも隣接しています。視床出血と被殻出血は、脳室にまで出血が広がるかどうかが違いのひとつです。 また、視床出血は、重症度によってI〜IIIに分類されます。 その中でも、脳室穿破(せんぱ:脳室と呼ばれる脳脊髄液がある部分まで出血が及んでいるか)の有無で「無=a」「有=b」とさらに細かく分類できるのがポイントです。 視床に限局しているものをⅠ、内包に進展したものをⅡ、視床下部または中脳に進展したものをⅢとしています。 簡単に述べると、出血が大きくなるほど、数字も大きくなるようなイメージで良いでしょう。 視床出血による症状 視床は、脳内ネットワークの中心になる場所で、感覚神経をはじめ、さまざまな神経線維がここを経由しています。 視床出血によって、以下のようにさまざまな症状が起こるのが特徴です(文献2) 片麻痺 瞳孔径の縮小 顔面神経麻痺(病変と反対側に起こる) 知覚障害 病変側への共同偏視 外転神経麻痺 半盲 嘔吐 運動失調 など 他にも、視床出血では失語症や半側空間無視、注意障害などの高次脳機能障害が起こる場合もあります。(文献3) また、他の脳卒中と同じように症状が出たばかりの急性期には、視床出血が原因となり、嚥下障害(食べ物の飲み込み運動に支障が出る)が起こる可能性もあるでしょう。(文献4) 嚥下運動は、大脳から脳幹に至るまでの複雑なネットワークによって成り立っているからです。 視床出血による運動失調が起こる理由 運動失調とは、動作や姿勢保持などの協調運動に起こる障害です。 運動麻痺がないときもあれば、軽症の運動麻痺があるケースも含まれます。 視床出血で失調症状がでるのは、小脳の運動機能調節に重要な経路に小脳や視床、大脳皮質、橋があるためです。 上記のいずれかが障害されても、小脳性運動失調を生じるのです。 また、視床出血によって、深部感覚が障害されるのも原因のひとつと考えられています。 【失調と麻痺の違いとは?】 失調と麻痺の違いは、筋力の低下があるかどうかです。 視床出血による運動失調だと、意識障害や片麻痺を伴う場合が多い傾向にあります。協調運動障害や不随意運動、感覚障害が認められる場合は少ないとされています。 つまり、運動失調の症状があっても、四肢の麻痺によるものなのか判別がつきにくいと考えられるのです。(文献5) 視床出血の種類と特徴 運動失調の種類には、以下のようなものがあります。 視床出血の失調症状では、四肢の失調症状や歩行の異常が認められます。 視床出血の治療方法 視床出血が起こったときの治療は、血圧を下げるのが中心となります。視床は脳の深部にあるため、手術適応にはなりにくいのです。 また、視床出血によって、水頭症と呼ばれる脳室に脳脊髄液がたまる症状になってしまう場合があります。 水頭症を放置しておくと、脳ヘルニア(脳の一部が頭蓋骨の外側に飛び出してしまう状態)になる危険性があるのです。 呼吸障害などが起こり生命に関わるため、シャント術の手術を行い、余分な髄液を脳室から腹腔にまで流します。 視床出血後のリハビリについて【後遺症が出る場合】 視床出血では、発症後から感覚障害があった場合、感覚障害の症状が残ったり、逆に半身の痛み(視床痛)が出現したりします。 運動失調が残る場合を始め、出血が大きいときは、片麻痺の後遺症が出る可能性もあるでしょう。 視床出血後、ある程度落ち着いた段階で、作業療法や理学療法などのリハビリを行います。 作業療法 理学療法 作業療法 作業療法では、麻痺している上肢(肩口から先の手)を積極的に使い、日常生活への復帰を目標とします。 たとえば、麻痺側の手を中心に動かして、食事に必要なお箸の使い方などを訓練する流れです。 リハビリは毎日続けて行うと、身体機能をサポートする働きかけにつながります。 理学療法 理学療法では、以下のように、日常生活を送る上で必要な動作の練習をします。 重り負荷 弾性包帯による圧迫 フレンケル体操 立ち上がりや立位時の荷重負荷練習 視覚誘導 視床出血後には片麻痺が出て、運動障害と運動失調症状が同時に起こる場合もあるでしょう。 そのため、視床出血後のリハビリの一つとして、免荷式(めんかしき)トレッドミルの機械を使い、歩行のリハビリを行います。 上記の方法は、体を上から吊るしてハーネスで体を支えると、足にかかる体重を調整できて、バランス感覚を鍛える働きかけにつながります。(文献7) 視床出血に関するリハビリについては、以下の記事で詳しく解説しているので、あわせて参考にしてみてください。 まとめ|視床出血による運動失調はリハビリと再生医療の治療法もある 視床は脳内ネットワークの中心で、視床出血が起こると運動失調などの症状が出る場合もあります。 視床出血は後遺症が残ってしまう可能性が高い疾患です。 ただ、当院ではリハビリに再生医療を組み合わせて、脳神経細胞の修復や身体機能の改善への取り組みを行っています。 また、関連する内容として、当院の患者様で視床出血後に左半身の麻痺があり、膝の強直における幹細胞治療の実績もあります。 脳卒中後の後遺症に対しての再生医療にご興味がある方は、ぜひ一度当院へご相談ください。 参考文献 文献1 加齢の面からみた脳出血の部位 文献2 脳出血部位と症状 (CM Fisher)|秋田大学 大学院医学系研究科 文献3 原著視床出血の高次脳機能障害 文献4 急性期脳出血における摂食・嚥下障害の検討 文献5 運動失調を主徴とした左視床出血の1例 文献6 神経メカニズムから捉える失調症状 文献7 運動失調に対するアプローチ
2023.07.27 -
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橋梗塞(橋出血)ではどんな症状が出るのだろう。 橋梗塞(橋出血)になったらどんなリハビリが必要なのかな。 この記事を読んでいるあなたは、橋梗塞の症状やリハビリについて不安を抱いているのではないでしょうか。「橋梗塞」という病気自体に馴染みがなく、今後の治療・リハビリの流れを知りたいと思っているかもしれません。 結論、橋梗塞になると麻痺やしびれなどが多く見られます。しかし、梗塞の程度や治療開始までにかかった時間などにより、その後の経過や必要なリハビリに個人差があるのも事実です。 本記事では、橋梗塞(橋出血)の症状やリハビリについて、詳しく解説します。記事を最後まで読めば、症状や経過がわかり、今後の見通しを立てやすくなるでしょう。 橋梗塞(橋出血)における4つの症状 橋梗塞(きょうこうそく)とは、脳の奥にある「脳幹」の一部、「橋(きょう)」という部分の血管が詰まり、脳細胞の機能が失われる病気です。橋梗塞は脳梗塞全体の約7%を占めるといわれています。(文献1) 橋は大部分の脳神経の出入口であり、運動や感覚をつかさどる神経が通る部分です。り、睡眠や覚醒、呼吸運動や循環機能などの「自律運動」をつかさどり、人間の生存や活動に重要な役割を果たします。っている重要な部分です。 そのため、橋梗塞(橋出血)が起こると、以下のような症状が出ることがあります。 運動失調 感覚障害 嚥下障害 四肢の麻痺(閉じ込め症候群) ほかにも、意識障害や高熱、瞳孔縮小、高血圧、呼吸異常、眼球運動障害などが出るケースもあります。 なお、橋梗塞(橋出血)による麻痺は、梗塞によって機能が失われた脳の反対側に見られるのが一般的です。 本章の内容をもとに、橋梗塞(橋出血)のおもな症状を理解しておきましょう。 橋出血の症状については、以下の記事で詳しく説明しています。 運動失調 運動失調とは、運動麻痺が認められにくい、または軽度であるにもかかわらず動作や姿勢保持などの協調運動ができなくなる状態です。 運動失調の代表的な症状は、以下のとおりです。(文献2) 言葉がうまく出ない 呂律がまわらなくなる 起立・歩行時にふらつく 字を書くのが下手になる ボタンかけがうまくできない 手が震えて、コップに入れた水をこぼす 箸がうまく使えず、スムーズな食事ができない 運動失調は、障害された部位によって以下の表にある3つの種類に大きく分けられます。(文献3) 運動失調の種類 特徴 小脳性運動失調 眼球のけいれん・揺れ(眼振) 言語障害(発音しにくい) 四肢の失調 運動時の手足の震え 両足を開いた不安定な歩き方(酩酊様歩行) 感覚性運動失調 四肢の失調 深部感覚障害 眼を閉じるとまっすぐ立てなくなる 膝を高く上げて前に放り出すような歩き方(踵打歩行) 前庭性運動失調 眼球のけいれん・揺れ(眼振) 歩行時の片側へのふらつき 橋と小脳は神経でつながっているため、橋梗塞(橋出血)が起こると小脳への伝達がさまたげられます。そのため、橋梗塞(橋出血)により小脳性運動失調をきたすケースがあるのです。 感覚障害 感覚障害とは、神経伝達がうまくできなくなり、手や身体などからの感覚に麻痺や違和感が出る症状です。 感覚障害の代表的な症状は、以下のとおりです。(文献4) しびれ感がある 少しの刺激でも強い痛みや刺激を感じる なにかを触っても感覚がしない(温かさ・硬さ・重さなど) 健康な人では、身体からの感覚は脳へスムーズに伝達されます。 しかし、橋梗塞(橋出血)により神経の伝達がさまたげられると、身体の感じた刺激がうまく脳へ伝わらなくなります。 その結果、「しびれる」「感覚がおかしい」など、生活の質に大きな影響が生じる感覚障害が出るのです。 運動失調や感覚障害については、以下の記事も参考にしてください。 嚥下障害 橋を含む「脳幹」で梗塞が起こると、飲み込みに関する神経が傷ついたり神経伝達が阻害されたりして、「嚥下障害」になるケースがよく見られます。(文献5) 嚥下障害のおもな症状は、以下のとおりです。 食べ物・飲み物でむせやすくなる 食べるのに疲れ、食事を嫌がるようになる 食べたものが気管に入る「誤嚥」のリスクが上がる 口から食べ物がこぼれるため、食事を楽しめなくなる 嚥下障害は、食べ物が気管に入って炎症が起こる「誤嚥性肺炎」のリスクが上がるのも大きな問題です。 ただし、一度食べられなくなっても、リハビリをすれば少しずつ機能が回復するケースもあります。 四肢の麻痺(閉じ込め症候群) 橋の機能が大きく失われ四肢がまったく動かせなくなると、眼球やまぶたしか自分の意思で動かせなくなる「閉じ込め症候群」になるケースがあります。 閉じ込め症候群は、本人の意識は保たれているにもかかわらず身体を動かせないのが大きな特徴です。 また、閉じ込め症候群の人は、嚥下機能も大きく低下する傾向があります。 その結果、誤嚥性肺炎をはじめとする感染症により命を落とすケースは珍しくありません。(文献6) 当院「リペアセルクリニック」では、橋梗塞(橋出血)の症状や後遺症に対して、再生医療(幹細胞治療)をおこなっています。治療により傷ついた脳細胞が再生されれば、橋梗塞によるつらい症状の改善が期待できます。 ご質問やご相談は「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」から、気軽にお問い合わせください。 橋梗塞(橋出血)による運動失調のリハビリプログラム4選 橋梗塞(橋出血)によって起きた運動失調に対するリハビリプログラムは、以下の4つです。 フレンケル体操 重り負荷での運動 弾性緊縛帯での運動 固有受容性神経筋促通手技(proprioceptive neuromuscular facilitation:PNF) 本章の内容をもとに、リハビリについて理解しておきましょう。 橋梗塞を含む脳梗塞のリハビリについては、以下の記事でも詳しく解説しています。リハビリ内容について詳しく知りたい方はあわせてチェックしてみてください。 フレンケル体操 フレンケル体操は、運動失調のリハビリとして古くから行われている治療法です。 自分の動きを目で見ながら身体の動きをコントロールし、同じ動作を繰り返します。 何度も繰り返し練習することで、協調運動を再びできるようにするのが狙いです。 重り負荷での運動 重り負荷での運動では、足や手の関節や腰に重りをつけ、負荷をかけた状態で運動をおこないます。 身体に重りが付くと、運動量が増えて身体が受ける感覚が強まります。その結果、過剰な運動を抑える力が働き、運動失調が軽減するのです。 弾性緊縛帯での運動 弾性緊縛帯での運動も、重り負荷での運動と同じ発想に基づくリハビリ方法です。 弾性緊縛帯とは、弾性包帯やサポーターなどの身体を圧迫して圧力をかけるものです。上肢・下肢近位部の関節を圧迫して身体への感覚を強化します。(文献7) 感覚入力が強化されると上下肢の過剰な運動が抑えられ、運動失調の軽減が期待できるでしょう。 固有受容性神経筋促通手技(proprioceptive neuromuscular facilitation:PNF) 固有受容性神経筋促通手技(proprioceptive neuromuscular facilitation:PNF)とは、筋肉や皮膚、関節などにある感覚の受容体を刺激しながら身体を動かすリハビリ方法です。 この手法は、治療者(セラピストなど)と患者本人のペアでおこないます。 1.治療者は患者の関節を交互に動かす 2.患者は関節を動かす治療者の動きに負けないように、関節を特定の位置に保つ 効果の持続は短時間にとどまりますが、毎日反復しておこなえば機能の回復が期待できるという報告もあります。 当院「リペアセルクリニック」では、橋梗塞(橋出血)後の治療として再生医療(幹細胞治療)をおこなっています。治療と並行して理学療法士、柔道整復師、鍼灸師などを含むチーム体制によるリハビリテーションも可能です。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」から気軽にお問い合わせください。 橋梗塞で行われる3つの治療 橋梗塞でおこなわれる治療は、以下の3つです。 血栓溶解療法(t-PA治療) 血管内治療(血栓回収療法) 抗血栓療法(内服治療) なかでも血栓溶解療法は、梗塞が生じてから4.5時間以内に始める必要があるため、早く気付いて治療を始めることが非常に大切です。 機能が失われた脳の部位によっては、急激に体調が悪化するリスクもあります。橋梗塞では呼吸や心機能などの全身管理を慎重におこないながら、スピーディな治療がおこなわれます。 橋梗塞を含む脳梗塞の治療については、以下の記事も参考にしてください。 まとめ|運動失調は橋梗塞(橋出血)の症状!リハビリで後遺症を改善しよう 本記事では、橋梗塞(橋出血)の症状や運動失調のリハビリについて詳しく解説しました。 橋梗塞は脳の奥にある「脳幹」の一部「橋」の血管が詰まり、脳細胞がダメージを受ける病気です。運動失調や感覚障害、嚥下障害などが起こり、必要に応じて治療やリハビリがおこなわれます。 適切なリハビリをおこなえば、後遺症の改善が少しずつ見込めるでしょう。 当院「リペアセルクリニック」では、橋梗塞をはじめとする脳梗塞に対して再生医療(幹細胞治療)を提供しています。 再生医療(幹細胞治療)は、ダメージを受けた脳細胞の再生による後遺症の回復や、リハビリ効果の向上などが期待できる治療です。 再生医療へのご質問・ご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けております。気になる点がありましたら、どうぞ気軽にご相談ください。 橋梗塞の症状やリハビリが気になる人によくある質問 橋梗塞と脳梗塞の違いは? 橋梗塞は脳梗塞の一部で、両者の違いは「梗塞の起きた部分の範囲」です。 橋梗塞:脳のなかにある「脳幹」のさらに一部「橋」で起こった梗塞のみを指す 脳梗塞:脳内で起きた梗塞すべてを指す つまり、橋梗塞の方が脳梗塞よりも起きた場所が限定された梗塞といえるでしょう。 脳梗塞については、以下の記事で詳しく解説しています。 運動失調と麻痺の違いは? なにかの運動をしようとする際に障害がある状態を、運動障害といいます。 運動障害には「運動麻痺」と「運動失調」があり、症状や原因に以下の違いがあります。 症状 原因 運動麻痺 筋肉を自分の意思で動かせない 筋肉そのものや、筋肉に命令を送る大脳皮質や脊髄・末梢神経がダメージを受けた 運動失調 スムーズな運動が難しい 運動に関わる筋肉の動きを調整する機能が失われた リハビリの効果を高めるための方法はあるの? リハビリの効果を高める方法には、「自己脂肪由来幹細胞の投与」があります。 自己脂肪由来幹細胞の投与には、リハビリの効果を高めることに加え、脳神経細胞の修復再生による運動失調からの回復効果も期待できます。 リハビリには失われた機能を改善する効果が期待できますが、橋梗塞(橋出血)により失われた脳細胞の再生は困難です。 また、発症から時間が経つにつれて、リハビリの効果はあらわれにくくなることもあります。 リハビリの効果が上がらない、早く効果を上げたいなどの方は再生医療の利用も検討してみてはいかがでしょうか。ご質問・ご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けております。どうぞ気軽にご相談ください。 リハビリ効果を上げる方法は、以下の記事でも詳しく解説しています。 参考文献 文献1 阿部宗一郎ほか,構音障害と両下肢感覚障害で発症した橋両腹外側梗塞の1例,”臨床神経”2017,57,764-768 文献2 脳神経内科の主な病気|日本神経学会 文献3 望月仁志,宇川義一,神経メカニズムから捉える失語症状,Jpn J Rehabil Med 2019;56:88-93 文献4 稲富惇一ら,感覚障害へのリハビリテーション,高知県作業療法1:37-42,2021 文献5 井熊大輔ら,橋梗塞における摂食嚥下障害の検討,脳卒中33 巻1号(2011:1) 文献6 佐藤岳史ら,経皮的電気神経刺激は閉じ込め症候群における四肢運動機能回復を促進する,脳卒中 31 : 211―216,2009 文献7 立野勝彦,失語症のリハビリテーション,リハビリテーション医学VOL. 28 NO. 10 1991年10月
2023.07.24 -
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脳卒中や脳出血の後遺症でふらふらする状態が続いている方は「体幹失調」かもしれません。 体幹失調とは、脳の障害により胴体(体幹)のバランスがうまく取れない状態です。ふらつきが続くと、転倒のリスクもあるため不安ですよね。 体幹失調は適切なリハビリ・治療を行うことで体幹の筋力やバランス感覚が改善され、ふらつきの緩和が期待できます。 本記事では、体幹失調の原因や効果的なリハビリについて解説します。体幹失調でお悩みの方は、本記事を参考に、体幹失調を改善する方法を実践してみてください。 また、当院「リペアセルクリニック」では再生医療による脳卒中の後遺症治療も行っております。メールやオンラインでの無料カウンセリングも実施しておりますので、気になる方はお気軽にご連絡ください。 体幹失調とは胴体のバランスが取れない状態 体幹失調は、運動失調の一種です。運動失調は「脳と筋肉の連携がうまくできていないため、体のバランスが取れずスムーズな動作が難しい状態」です。(文献1) その中でも体幹失調は「胴体」の運動失調として知られており、胴体のバランスがうまく取れない状態です。歩き方が不自然になり、転びやすくなる可能性もあるでしょう。 体幹失調では、以下のような歩き方の特徴が見られます。 足を広く開いて歩く 手足の動きがバラバラである 酔っぱらっているような歩き方をする 体幹失調の症状が強いと、座っているときも胴体がぐらぐら揺れるケースもあります。 脳幹梗塞で体幹失調が起こるメカニズム 脳の病気の一つである「脳幹梗塞(のうかんこうそく)」は、体幹失調を引き起こす原因となることがあります。 脳幹梗塞とは、脳と脊髄をつなぐ「脳幹」の血流がふさがれる脳梗塞の一種です。 脳幹は以下3点の重要な役割を担っています。(文献2) 脳と体の信号をつなげる 心臓や呼吸など、生命維持に必要な活動をコントロールする 動作のための指令を体に送る 脳幹梗塞が起こると、体のバランス感覚をつかさどる小脳や前庭迷路との連絡通路も障害されます。その結果、体幹失調の症状があらわれてふらつきやすくなるのです。 脳幹梗塞と似たような病気で「脳幹出血」があります。脳幹出血について詳しく知りたい方は下記のコラムを参考にしてください。 体幹失調のリスクがあるそのほかの脳障害 脳幹梗塞以外には、以下の脳の部位の障害により体幹失調があらわれる可能性が考えられます。 小脳 前庭迷路 脊髄 大脳 本章が体幹失調の原因への理解が深まり、脳の病気の早期発見や適切な対応に役立てられれば幸いです。 バランスの維持に関わる「小脳」の障害 動作を行う際に必要な関節・筋肉などを調整して活動する「協調運動」を担う小脳が障害されると、体幹失調があらわれる可能性があります。 小脳は、運動のコントロールやバランスの維持をする脳の部位です。さまざまな筋肉を連携させてスムーズな動作をするためには小脳の活動が欠かせません。 そのため小脳に障害が起こると、体幹失調のようにバランスが取れなくなったり、手足の細かい動きが不自然になったりする可能性が考えられるでしょう。 バランス感覚をつかさどる「前庭迷路」の障害 前庭迷路は内耳に位置しており、バランス感覚をつかさどっています。 前庭迷路が正常に働き、平衡バランスや空間認識(物体の位置や距離・形・大きさなどを立体的に認識する能力)を保っているのです。 しかし、前庭迷路が障害されると前庭迷路やそこから情報を伝える神経にダメージを受けます。そのため、体幹失調や物体の距離感がうまくつかめなくなる症状が目立つようになります。 反射的動作に関わる「脊髄」の障害 脊髄は以下の役割を果たしています。 体を動かすための動作をするよう脳から筋肉に指令する 熱いものに触ると手を引っ込めるような「反射的動作」の指令を体に送る 脊髄に障害が起こると、筋肉の伸び縮みの具合や関節の状態についての感覚(深部感覚)が障害されます。その結果、自分の筋肉や関節の状態がうまく把握できず、体幹失調のようなふらつきが起こるのです。 運動の計画に関わる「大脳」の障害 大脳の一部である「前頭葉」は、運動の計画や運動の指令を出す働きをします。目的に向かって歩く、ご飯を食べるなど日常的に行っている動作も無意識で順番通りに行っている方が多いでしょう。これらは前頭葉で情報を正確に処理して行われています。 前頭葉が障害されると、運動の計画や実行がうまくいかないため、体幹失調のような歩行困難や手足の動きが不自然になる症状があらわれるのです。 大脳は小脳とともに協調運動に関わっているため、小脳の障害と症状が類似しています。 体幹失調の改善におすすめの運動4選【リハビリが重要】 病院による体幹失調の治療は、リハビリが重要です。実際には以下のようなリハビリ方法が行われます。 フレンケル運動 運動学習 重り荷運動 弾性緊縛帯 本章を参考に、積極的にリハビリに取り組んでみてください。 当院「リペアセルクリニック」では、人体に元々ある幹細胞を活用した脳卒中・脳梗塞の後遺症の治療が可能です。詳しく知りたい方は、下記のリンクをご覧ください。 フレンケル運動 フレンケル運動とは、運動失調の方が体の動きや位置を把握する感覚や、協調運動が再びできるようになるリハビリ方法です。(文献3)たとえば、以下のようなフレンケル運動があります。 姿勢 方法 座った状態 1.床に何かしらの印(ゴミ箱のような身近にあるもの)を置く 2.座った状態になり、足で印をタッチする 横になった状態 1.仰向けになり、かかとを床につける 2.かかとを滑らせて片方ずつひざの曲げ伸ばしを行う 3.片足全体を床につけ、ひざを伸ばしたまま股関節を左右に動かす フレンケル体操では、無理のない範囲での段階的な難易度調整が重要です。初めは簡単な動作から始め、徐々に複雑な運動へと移行します。 運動学習 運動学習とは、運動の動作をいくつかの工程に分けて繰り返すリハビリ方法です。運動学習は、主に以下の3段階に分けて実践されます。 1.認知段階:一連の運動を行うためにはどのような動作をどの手順で行う必要があるのかを考える 2.連合段階:認知段階で学んだ運動を試行錯誤しながら行い、自然な動作を目指す 3.自動化段階:意識しなくても一連の運動が自然とできるようになる 何度も同じ動作を繰り返し、動きが上手になる訓練をする目的があります。 重り荷運動 重り荷運動は、手足に重りをつけて負荷をかけるリハビリ方法です。手足に負荷をかけると体幹の筋肉が鍛えられて安定し、体幹失調の症状を緩和する目的があります。 最初は軽い重りから始め、個人の症状に応じて徐々に重さを上げていくと、無理をせず体幹の筋肉トレーニングができるでしょう。 また、病院によっては靴の中に重りが含まれている装具を活用している場合もあります。(文献4) 弾性緊縛帯 弾弾性緊縛帯(だんせいきんばくたい)とは、ゴムのように伸縮性がある包帯です。 体幹や手足の付け根部分に適度な圧迫感を感じる程度に弾性緊縛帯を巻いて使用します。個人差はありますが、弾性緊縛帯を用いてリハビリすると、過度な動きを抑えながら体幹の安定性の向上が期待できるでしょう。 弾性緊縛帯を用いたリハビリにより小脳性運動失調症が改善した報告もあります。(文献5) 体幹失調に効果的なトレーニング3選【自宅でできる】 体幹失調のトレーニングは、自宅で取り組めるものもあります。おすすめのトレーニング方法は、以下の3つです。 寝ながら行う「ブリッジ運動」 立ちながら行う「ひざの屈伸運動」 座りながら行う「ゆらゆら運動」 いずれも手軽にできるトレーニング方法です。無理のない範囲で取り組んでみてください。 寝ながら行う「ブリッジ運動」 ブリッジ運動は、名前の通り橋の形になって体幹を鍛えるトレーニング方法です。実際には、下記の手順で行います。 1.床で仰向けになる 2.ひざを曲げる 3.太ももと股関節が一直線になる程度に腰を上げる 4.そのまま数秒程度キープする 5.ゆっくり腰を床に降ろす 実際に体幹の安定性やバランス感覚が改善された報告もあります。(文献6)強引にブリッジ運動を行うと腰を痛める原因になるため、無理のない範囲で行いましょう。 立ちながら行う「ひざの屈伸運動」 ひざの屈伸運動も、体幹の安定性の向上に効果的であるとの報告があります。(文献6)実際には、以下の手順で行いましょう。 1.立った状態のまま、手すりや壁や重たい家具などに手をかける 2.上半身は背筋を伸ばした状態で保ったまま、ひざを45度くらいに曲げる 3.2.の状態を5秒前後キープする 転倒する可能性があるため、手すりのような手をつかめる場所で行うようにしましょう。また、立った状態でもふらつきを感じる場合は、ひざの屈伸運動を控えることをおすすめします。 座って行う「ゆらゆら運動」 足に障害があり、まっすぐ立つ姿勢が難しい方は座ってできる「ゆらゆら運動」がおすすめです。 「ゆらゆら運動」は以下の手順で行います。事前にタオルを用意しましょう。 1.巻いたタオルをお尻の下に敷いて座る 2.背筋は伸ばしたままお尻の重心を左右に交互に移動させ、ゆらゆらさせる 自宅にいるときの隙間時間を活用し、ゆらゆら運動を実践してみてください。 脳梗塞の後遺症を改善するリハビリ方法について詳しく知りたい方は、下記のコラムを参考にしてください。 まとめ|体幹失調を改善するために定期的なリハビリを行いましょう 体幹失調とは、脳梗塞や脳出血などの障害により、胴体(体幹)のバランスがうまく取れない状態を指します。 体幹失調は日々のリハビリやトレーニングで症状の改善が期待できます。脳の病気の後遺症でふらつきや歩き方が気になる方は、積極的に実践してみてください。 当院「リペアセルクリニック」では、再生医療による治療を行っております。メールやオンラインでの無料カウンセリングも実施しておりますので、気になる方はお気軽にご連絡ください。 体幹失調についてよくある質問 体幹失調と麻痺の違いはなんですか? 麻痺とは、脳や神経のダメージにより体が自分の意志通りに動かせない状態です。筋肉がまったく動かせない、または動かすときに力が入らない症状が麻痺に該当します。 一方の体幹失調は、脳と筋肉の連携がうまくいっていない状態です。麻痺とは違い、筋肉自体は動かせます。ただし、筋肉をスムーズに動かせないため、歩くとふらつきが出たり、日常の動作がぎこちなくなったりします。 体幹が不安定だとどうなりますか? 体幹は体の中心にあり、頭や手足を除いた胴体の部分です。正しい姿勢を保ち、手足の動きを支える役割を果たしています。 体幹が不安定だと姿勢や手足の動きを支えきれず、バランスが取れなくなり歩行困難や転倒のリスクがあります。 そのため、体幹失調の場合は、体幹を鍛えるリハビリやトレーニングが重要となるのです。 参考文献一覧 文献1 後藤 淳. 運動失調に対するアプローチ. 関西理学.14:1-9,2014, p1-9. 文献2 NL, Demarest, RJ, Laemle, LB. Noback's Human Nervous System, Seventh Edition. 第 7 版, Humana Press, Totowa, NJ, 2012年, p217-238], 文献3 立野 勝彦. 失調症のリハビリテーション. リハビリテーション医学. 1991年10月, Vol.28 No.10, p774-778 文献4 安東範明.小脳性運動失調のリハビリテーション 医療―体幹・下肢について―. Jpn J Rehabil Med 2019;56:101-104, 文献5 吉村 ゆかり, 福田 宏幸, 小谷 尚也, 手島 礼子.小脳性運動失調症に対する弾性緊縛帯の効果. 理学療法学Supplement (第48回日本理学療法学術大会 抄録集). 2013年. Vol.40,No.2 文献6 阪本 誠,松木 明好, 谷 恵介, 木村 大輔.Core stability trainingにより運動失調および バランス障害が改善した重度小脳性および 感覚性運動失調の1症例. 理学療法科学 32(3):459–464,2017,
2023.07.20