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【医師監修】多系統萎縮症の末期症状とは?呼吸・嚥下障害の実際と家族が知っておきたい備えを解説

ご家族が「多系統萎縮症」と診断されて症状が進んでいく様子を見ながら、この先どうなるのか不安を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、多系統萎縮症の末期にあらわれる症状と、検討される医療的な選択肢、利用できる支援制度を解説します。
これから起こりうることと、今のうちに準備できることが整理できますので、ぜひ最後までご一読ください。
なお、再生医療の対象となる疾患や治療内容について詳しく知りたい方は、当院「リペアセルクリニック」の電話相談までお問い合わせください。
目次
多系統萎縮症の末期症状と進行経過
多系統萎縮症(MSA)は、体のバランスや動き、血圧や排尿などを調節する神経が、進行性に働かなくなっていく病気です。国の指定難病(告示番号17)に指定されています。
初期の症状の出方には個人差がありますが、進行するにつれて、ふらつき・動作の遅さ・立ちくらみ・排尿の不調が重なってあらわれるようになります。
発症から末期までの経過の目安
多系統萎縮症の発症から末期までの状態の経過についてまとめました。
| 項目 | 発症からの目安 | 主な状態 |
|---|---|---|
| 歩行が不安定になる | 数年 | ふらつき、転倒、ろれつが回りにくい |
| 車椅子が必要になる | 平均約5年 | 自力歩行が難しくなる |
| 寝たきりの状態 | 平均約8年 | 寝返りが打てず、飲み込みや発声の障害が進む |
| 病気とともに過ごす期間 | 9年程度 | ― |
ただし、これらは平均的な数値です。発症した年齢や合併症をどれだけ防げるかによって経過は変わるため、ご家族の状態にそのまま当てはまるものではありません。
残っている身体機能を維持し、日常生活を続けるためには、病状に合わせたリハビリテーションも重要です。具体的な訓練内容や病期ごとの目標は、以下の記事で詳しく解説しています。
※内部リンク:7月執筆「多系統萎縮症 リハビリ」
多系統萎縮症の末期症状①:呼吸の障害
末期でもっとも注意が必要なのが呼吸の障害です。生命に直結する症状であり、ご家族が知っておく意義がもっとも大きい部分でもあります。
睡眠時の喘鳴(いびきとは異なる高い音)
多系統萎縮症では、息を吸うときに「ヒューヒュー」という高い音が出る喘鳴がよくみられます。(文献2)
声帯を開く筋肉の動きが弱まり、空気の通り道が十分に開かなくなるために起こると考えられています。
単なるいびきと思われて見過ごされやすいのですが、進行すると空気の通り道がふさがれる危険につながります。早い段階から単独であらわれることもあるため、夜間の呼吸音の変化に気づいたら早めに主治医へ伝えてください。
睡眠中に呼吸が止まる
寝ている間に呼吸が繰り返し止まったり、不十分になったりすることもあります。(文献1)
呼吸の問題には、空気の通り道が狭くなって起こるものと、呼吸の指令を出す脳の部分の働きが弱まって起こるものの2種類があり、末期には両方が重なることがあります。
気管切開をしていても突然死が起こりうる
気管切開を行った後でも突然死が起こりうることが知られています。(文献4)
空気の通り道は確保できても、呼吸の指令そのものが弱まっている場合は防ぎきれないためです。
「気管切開をすれば安心」ではなく、何を防げて何は防げないのかを理解した上で判断することが大切です。
多系統萎縮症の末期症状②:飲み込みと会話の障害
多系統萎縮症が進行すると、飲み込みや会話に障害があらわれます。飲み込みの障害は、誤嚥性肺炎や栄養不足につながるため注意が必要です。
会話が難しくなる前に、意思伝達の方法も検討しておきましょう。
飲み込みの障害と誤嚥性肺炎
末期には、食べ物や飲み物を飲み込む機能が大きく低下します。(文献1)
問題になるのは食事のときだけではありません。飲み込む力が落ちると、自分の唾液が気づかないうちに気管へ入り込むようになり、繰り返す誤嚥性肺炎につながります。
誤嚥性肺炎は、多系統萎縮症の主要な死因のひとつです。
「むせる回数が増えた」「食事に時間がかかる」「体重が減ってきた」といった変化は、飲み込む機能が低下しているサインです。障害が強い場合には胃ろうが必要となることも多いとされています。(文献4)
声が出せず意思疎通が難しくなる
飲み込みに使う筋肉と声を出す筋肉は共通する部分が多いため、同じ時期に発声も難しくなります。初期の「ろれつが回りにくい」状態から、末期には声を出すこと自体ができなくなります。
一方で考える力は比較的保たれる方も多く、伝えたいのに伝えられない状態が起こりえるため、文字盤や意思伝達装置は、話せる段階から検討しておくことが大切です。
多系統萎縮症の末期症状③:全身の運動機能と自律神経の障害
多系統萎縮症の末期には、全身を動かす機能が大きく低下します。加えて、自律神経の障害により、血圧や排尿、体温の調節も不安定になりがちです。
ここでは、日常生活に影響する主な症状を見ていきましょう。
寝たきり・関節が硬くなる・床ずれ
末期には自力での動作がほとんどできなくなり、寝返りを打つことも難しくなります。
体を動かさない時間が長くなると、関節が硬くなって動かせる範囲が狭まる「拘縮(こうしゅく)」が進み、着替えやおむつ交換にも痛みを伴うようになります。
同じ部位が圧迫され続けることで床ずれもできやすくなるため、定期的な体位変換や皮膚の観察が重要です。
以下の記事では寝たきりにならないための対策について詳しく解説しています。
血圧・排尿・体温調節の不安定さ
立ち上がったときに血圧が下がり、失神を伴うこともあります。(文献2)
一方、横になると血圧が上がる場合もあるため、血圧の変化に応じた薬の調整や生活上の工夫が必要です。
また、自律神経の障害によって排尿機能も低下し、尿が出にくくなる場合と漏れてしまう場合の両方が起こります。さらに、体温調節の障害や便秘・下痢がみられることもあります。(文献3)
多系統萎縮症の末期に起こりやすい合併症と主な死因
| 起こりやすい合併症・状態 | ご家族が気づけるサイン |
|---|---|
| 誤嚥性肺炎 | 発熱、痰の増加、呼吸が荒い、食事中のむせ |
| 窒息・空気の通り道の閉塞 | 睡眠中の高い音の呼吸、苦しそうな様子 |
| 睡眠中の突然死 | 睡眠中の呼吸の停止、朝の様子の変化 |
| 尿路感染症 | 発熱、尿の濁りやにおいの変化 |
| 床ずれ・感染 | 皮膚の赤み、ただれ |
多系統萎縮症の末期に生命に関わるのは、病気そのものよりも、そこから生じる合併症であることが少なくありません。早く気づいて対応することで、重症化を防げる可能性があります。
多系統萎縮症の末期に検討される医療的な選択肢
多系統萎縮症の末期には、呼吸や栄養を保つための医療的な対応が必要になることがあります。選択肢によって期待できる効果や限界が異なるため、本人の希望と全身状態を踏まえて検討することが大切です。
ここでは、気管切開や人工呼吸器、胃ろうについて解説します。
気管切開・人工呼吸器を検討するとき
呼吸障害に対しては、鼻や口にマスクを装着し、機器から空気を送り込んで呼吸を補助する非侵襲性陽圧換気が用いられることがあります。(文献4)
手術をせずに呼吸を助けられる方法ですが、気道の狭窄が強い場合などには適さないこともあり、より重度の場合や、空気の通り道がふさがれる危険が高い場合には、気管切開が検討されます。
目安は、睡眠中の酸素の値が下がっている時間が長い場合や、はっきりとした喘鳴・呼吸の苦しさがある場合です。適切な方法は呼吸障害の程度や気道の状態、全身状態によって異なります。主治医と相談しながら、治療方針を決めましょう。
胃ろうを検討するとき
飲み込む力が大きく落ちた場合には、おなかから胃に直接栄養を送る「胃ろう」が選択肢になります。(文献4)
体重の減少が続く、誤嚥性肺炎を繰り返す、食事に時間がかかり本人が疲れきってしまう、といった段階が検討のタイミングです。
気管切開・人工呼吸器・胃ろうの効果と限界
| 医療的な選択肢 | 期待できること | 知っておきたい限界 |
|---|---|---|
| 気管切開・人工呼吸器 | 空気の通り道がふさがれる窒息を回避できる | ・気管切開後も突然死が起こりうる ・声を出しにくくなる |
| 胃ろう | ・栄養・水分・薬を安定して届けられる ・食事による疲労や誤嚥を減らせる | ・唾液の誤嚥は防げない ・病気の進行を抑えるものではない |
| マスクによる呼吸の補助 | 手術をせずに呼吸を助けられる | 気道の状態によっては適さない場合がある |
(文献4)
多系統萎縮症では、病状の進行に応じて気管切開や人工呼吸器、胃ろうといった医療的選択肢が検討されます。
これらは呼吸や栄養を支え、窒息や栄養不足のリスクを軽減して生活を維持するための重要な治療ですが、病気そのものの進行を止めることはできません。
気管切開後も突然死の可能性は残り、胃ろうを造設しても唾液の誤嚥は防げません。それぞれの効果と限界を理解した上で、本人の希望やQOL(生活の質)、家族の考えも踏まえ、主治医と十分に話し合って選択しましょう。
話せるうちに家族で話し合う
多系統萎縮症が進行すると、本人が言葉で意思を伝えることが難しくなります。そのため、話せるうちに今後の医療や過ごし方について、家族で話し合っておくことが大切です。
気管切開や人工呼吸器を希望するか、胃ろうをどう考えるか、最期をどこで過ごしたいかなど一度で決める必要はなく、状態の変化に合わせて話し合いましょう。
多系統萎縮症の末期の緩和ケアと在宅療養という選択
多系統萎縮症に根治的な治療法はなく、対症療法とリハビリテーションで症状を緩和する方針がとられています。(文献3)
病気が進んだ段階では、目標は「進行を抑えること」から「苦痛を和らげ、その人らしく過ごすこと」へと移り、在宅療養を希望する場合は、訪問診療医・訪問看護師・訪問リハビリ・ケアマネジャーが連携し、緊急時にも対応できる体制を整えることで、住み慣れた自宅で過ごせます。
ご家族だけで抱え込まず、早い段階からチームをつくることが負担の軽減につながるでしょう。
以下の記事では「多系統萎縮症が治った人はいるのか?」という疑問について詳しく解説します。
※内部リンク:7月執筆「多系統萎縮症 治った人」
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利用できる医療費助成・介護・福祉の制度
末期には、医療費に加えて介護サービスや福祉用具などの負担も大きくなります。こうした負担を軽減するために、医療費助成や介護保険、障害福祉に関する制度を利用できます。
主な制度と対象者、受けられる支援の内容は以下のとおりです。
| 利用できる制度 | 対象 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 特定医療費(指定難病)受給者証 | 難病指定医の診断を受け、重症度の基準を満たす方 | 医療費に所得に応じた自己負担上限額が設定される |
| 介護保険(特定疾病) | 40歳以上の方 | 訪問介護、訪問看護、車椅子や介護ベッドの貸与、施設入所 |
| 身体障害者手帳 | 肢体不自由、音声・言語機能障害などの認定を受けた方 | 補装具費の支給、自治体ごとの医療費助成 |
とくに知っておきたいのが介護保険です。通常は65歳以上が対象ですが、多系統萎縮症は特定疾病に該当するため、40歳以上であれば要介護認定を受けて利用できます。
窓口は自治体で異なるため、病院の医療相談室やケアマネジャーにご相談ください。
多系統萎縮症の末期症状に備えて早めに医療・介護体制を整えよう
多系統萎縮症の末期には、呼吸の障害、飲み込みの障害と誤嚥性肺炎、寝たきりに伴う拘縮や床ずれ、不安定な血圧や排尿の障害が重なってあらわれます。
生命に関わるのは合併症であることが多く、早めに気づいて対応することが重要です。
そして何より、進行すると本人が言葉で意思を伝えられなくなります。話せるうちに、どのような医療を望むかを話し合っておくことが大きな意味を持ちます。
ご家族だけで抱え込まず、医療・介護の専門職とチームを組んで支えられる体制を早めにつくっていきましょう。
なお、再生医療の対象となる疾患や治療内容について詳しく知りたい方は、当院「リペアセルクリニック」の電話相談までお問い合わせください。
多系統萎縮症の末期症状に関するよくある質問
多系統萎縮症の末期は必ず寝たきりになりますか?
発症後平均約8年で寝たきりの状態になると報告されています。(文献3)
ただし、進行の速さには個人差があり、リハビリテーションや福祉用具の活用によって身体機能を保つ取り組みには意味があります。
多系統萎縮症では突然死が起こることがありますか?
多系統萎縮症では、睡眠時無呼吸や声帯が十分に開かなくなる障害、呼吸中枢の障害などにより、突然死が起こることがあります。
気管切開で空気の通り道を確保しても、呼吸を調節する脳の働きが低下している場合は、突然死を完全には防げません。(文献4)
睡眠中に高い呼吸音がする、呼吸が止まるといった変化に気づいた場合は、早めに主治医へ伝えてください。
家族は介護に向けて何を準備すれば良いですか?
まずは訪問診療や訪問看護、介護保険サービスを利用できる体制を整えておきましょう。車椅子や介護ベッド、意思伝達装置なども、必要になる前から相談しておくと準備を進めやすくなります。
あわせて、気管切開や人工呼吸器、胃ろうを希望するか、どこで療養したいかについて本人の意思を確認することも重要です。家族だけで抱え込まず、主治医やケアマネジャー、病院の医療相談室へ早めに相談してください。
参考文献



















