腱板断裂、放置していいの?その治療と予防方法について
公開日: 2021.03.16更新日: 2024.10.07
肩が痛い時、ほとんどの人は四十肩や五十肩かな?と思われるでしょう。確かに、肩が痛い場合四十肩や五十肩と診断される方は多くおられますが、実はその肩の痛みは肩腱板断裂(損傷)であったということはよくあります。
四十肩・五十肩はリハビリなどの保存療法でも治療はできます。しかし、肩腱板断裂は放置していて痛みが取れたとしても、断裂したところが自然に治っているわけではありません。一度切れた腱板は元に戻ることはないので注意が必要です。
この記事を読むとわかること
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目次
肩腱板断裂とは
肩腱板とは、4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋)のことを言います。これはインナーマッスルで肩の関節の安定を保つ役割があります。肩の表面にある三角筋はアウターマッスルで、腕を動かすための強い力を発揮します。
4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋)が切れることを肩腱板断裂といいます。インナーマッスルである腱板が切れることで痛みが出たり、腕が上がらなかったりする症状が現れるのです。
肩腱板断裂の症状
四十肩・五十肩の痛みの場合、徐々に痛みが出てくることが多く、症状が進むと腕(手)を動かす時や腕をあげるときに動かしにくいなどが特徴です。しかし、肩腱板断裂の場合は、腕の上げ下げの時に引っかかり、音が鳴る感じがして痛みが出る、夜間寝ていてもズキズキ痛む、片方の腕で支えないと怪我した方の腕が上がらないことが特徴となります。では、どうしてそのような症状の違いがあるのでしょうか。その鍵は次の原因にあります。
肩腱板断裂の原因 四十肩・五十肩との違い(比較)
まず四十肩・五十肩の原因ですが、肩関節は肩の周りの筋肉によって支えられており、その筋肉のバランスが崩れることによって徐々に炎症を起こし痛みが出ます。その筋肉のバランスが崩れる大半の年代が40~50代です。筋肉のバランスが崩れてきて関節に炎症を起こし、痛みが出て動かさなくなる。その結果、関節が固くなると『拘縮(文献①)』になります。機械を使わなくなると鉄が錆びて動きにくくなるのとよく似ています。
一方、肩腱板断裂は、腱板の断裂によって痛みが出ます。腱板が切れる原因には、怪我やスポーツなどによる外傷性のものと、加齢とともに弱くなって断裂する非外傷性(変性断裂)によるものがあります。腱板という筋肉が断裂してしまうので比較的急な痛みが出ることが多くみられます。
ただし、肩腱板断裂をそのまま放置していると、痛みのため関節を動かさなくなることで拘縮を起こすと、四十肩・五十肩とよく似た症状も重なります。
症状の違い(比較)
四十肩・五十肩と肩腱板断裂との痛みの比較ですが、よく似た症状もありますが主に次のような違いがあります。
肩腱板断裂
- ・転倒して手をついたら肩に激痛が走る
- ・荷物を持つときに音が鳴って痛みが出る
- ・腕を上げるときに肩にゴリゴリ感や引っかかり感がある
- ・ズキズキと夜間痛がある。特に痛い方の肩を下にしたときに痛みが強くなる
- ・腕が自力で上がらない。痛くない方の腕で支えると痛い方の腕は上がる
四十肩・五十肩
- ・手を背中に回したり、後ろに回すと痛い
- ・腕の動きが悪い
- ・肩から腕にかけて痛みや痺れがある
- ・夜間痛がある
具体的に肩のどこが痛くなるの?
腕を上げるとき、写真の赤いところがよく痛く感じます。
そのほか、寝ているときに肩から腕にかけて痛みが広がることもよくあります。
外来診察していると『他の病院で四十肩・五十肩と診断されて治療していたが一向に痛みが治らない。そこで他の病院でMRI検査をしてみると、肩腱板断裂と診断された』とよく聞く機会があります。なぜそのようなことが多く起こるのか、理由は次のようになります。 加齢による非外傷性(変性断裂)では、少しずつ時間をかけて腱板が切れた場合は痛みが出にくくなり、腱板断裂していても気づかないことがよくあります。実際、痛みのない健常者の肩のMRIを撮影したところ約60%の方に腱板断裂が見られたという論文発表もされています。(文献②) つまり、痛みのない非外傷性(変性断裂)の方が、気づかないうちに徐々に肩の炎症を起こします。そして四十肩・五十肩のような拘縮の症状が出てきて、病院でMRIの検査をしてみると怪我した覚えがないのに肩腱板断裂と診断されたということになるのです。 |
肩腱板断裂は放置してていいの?
痛みがなかったり、軽い痛みはあるが日常生活に問題がない場合
一度切れた腱板は自然に元には戻ることはありません。ただ、切れていても痛みがなかったり、注射や薬、リハビリで痛みが治ることもよくあります。痛みがなく日常生活に支障がなければ手術をしないのが一般的な治療方針です。しかし、先ほども言ったように痛みがなくても治っているわけではありません。それどころか、年数が経つにつれて断裂部が拡大していきます。断裂部が拡大するにつれて手術の成績も悪くなっていきます。
ではどうして腱板断裂の手術はしないのでしょうか。それは、手術の成功率があまり高くないところにあります。日常生活に問題のない患者様を手術することにしたものの、術後の後遺症で痛みに悩んでしまうことになる可能性があるのです。
では、術後の後遺症とはどのようなものがあるのでしょうか。
術後の関節拘縮体にメスを入れて関節の手術をするということは、術後の関節部の癒着が起こります。この癒着は術後のリハビリで対応しますが、完全に癒着が取れずに関節の可動域が悪くなりそれに伴い痛みが出ることが多々あるのです。痛みは、四十肩・五十肩に似ています。 腱板の再断裂腱板の手術の難しいところは、腱板を糸で結ぶとその糸により腱板が裂かれてしまい再断裂を起こすところです。再断裂の確率は20〜30%、大きな断裂では40〜60%と言われています。(文献③)そのほかにも、骨にアンカーという釘を打ち込むのですが、それによって骨折が生じたりアンカーが外れてしまうこともあります。もちろん、神経障害や感染症の可能性も考えなければいけません。 |
このような術後の後遺症や合併症があることで、医師としても痛みのない腱板断裂に対しては積極的には手術はお勧めしていないのが現状です。
それに代わる新しい治療の選択肢として肩腱板断裂に対しての幹細胞治療が今注目を集めています。詳しく知りたい方はこちらを参考にしてください。
▶手術をすすめられていましたが、幹細胞治療で完治した実際の症例
痛みが強くて日常生活が辛い方、早くスポーツ復帰したい方
一般的に手術適応となります。しかし、術後の再断裂などの後遺症を考えて新しい幹細胞という再生医療も選択肢の一つとなります。
肩腱板断裂になりやすい人
中高年以上の人
加齢によって腱板が変性していき少しの外力で切れてしまいます。草抜きや荷物の上げ下げやちょっとした転倒で手をついても断裂しやすくなります。
スポーツする人
野球やテニス、ゴルフなど、腕を上げる動作を繰り返すことによって断裂します。
現場作業員の方
壁の塗装や壁紙はり、荷物の上げ下ろしなど繰り返す動作の継続により断裂を起こします。
肩腱板断裂の痛みを和らげる方法
肩甲骨・胸郭のリハビリトレーニング
肩を動かすときには、肩甲骨の動きや胸郭の動きが連動しています。肩甲骨や胸郭の動きが柔軟になることで、肩腱板への負担が軽くなります。
肩関節の可動域リハビリトレーニング
肩関節周りの筋肉をストレッチすることで関節の可動域を増やします。
肩腱板断裂の時の寝方の注意点
痛い方の肩を下にすると痛みが増しますので、できれば仰向きに寝て写真①のように肩の位置より肘が下がらないように肩甲骨や腕の下にタオルを引きます。また、写真②のように枕やタオルを抱いて肩関節を安定させると痛みが和らぎます。
腱板損傷の4つの検査方法
診察をする上で、腱板が損傷しているかどうか、また損傷している場合はどの程度の損傷かを調べなければなりません。
ドロップアームテスト(Drop Arm Test)
例えばどのような動きで痛みが出るのか、どの程度の痛みが出るのか、筋力はどうかなどをチェックします。また腱板損傷を疑う場合におこなうテスト法として、ドロップアームテストがあります。
ドロップアームテストとは、検査をする人が支えながら90度まで外転(横方向への挙上)させていき、支えを外した状態からゆっくりと腕を下ろしていく。
自力で腕を支えられずに、急に腕が落ちるようであれば腱板の損傷を疑う。
また、小指を上にして斜め方向に腕を上げるときに肩に痛みが出る。
レントゲン検査
肩関節の痛みによる診断では、まず始めにレントゲンを撮られることがあります。
レントゲンは主に骨の状態を確認できる画像診断ですので、骨折の診断にはとても有効です。ところがレントゲンでは腱板が映らないため、損傷の程度を確認できません。
ただし腱板が断裂すると、関節の隙間が狭くなることがあり、また肩関節に骨棘(骨の端がトゲのようにとんがっている状態)が見られると、肩を動かした時に骨棘がある部分で炎症を起こす可能性があります。
このように、レントゲンで腱板自体を把握できませんが、関節の状態から腱板損傷の推察をすることはできます。
超音波検査
超音波検査は、腱板の断裂の程度や炎症の有無、石灰(カルシウムの塊)の沈着などの判断が可能です。超音波検査では、筋肉と筋肉の間にある筋膜や、滑液包に注射ができます。
また関節を動かしながら観察を行うことで筋肉の動きも見ることができ、患者様と一緒にモニターを確認することで、よりわかりやすい説明ができます。
M R I検査
腱板損傷の診断にはMRIでの検査が最も有効です。
MRIではレントゲンでは写らない腱板の描写が可能で、骨や関節包など腱板の周りの組織まで読み取ることができます。腱板損傷が起っている場合は、損傷している部位だけでなく、どれくらいの範囲まで損傷しているかを確認しなければなりません。
腱板損傷の治療法(保存療法、手術療法、再生医療)
腱板断裂の治療法には、手術をしない「保存療法」と、文字通り手術で治療する「手術療法」に分けられます。
腱板の損傷では筋肉と比べて血行が悪く、自然治癒が難しい疾患です。それに加えて、肩を動かす(筋肉が収縮する)と損傷した部分が広がる方向に力が加わり、むしろ断裂部分が広がることも多いです。
このように腱板損傷は保存治療をおこなっても、時間の経過とともに症状が悪化することもあり、保存療法の限界があります。また患者さん自身がどの程度の回復を望んでいるかによっても治療方針がわかれます。
痛みが収まり、しっかりと腕が挙がらなくても日常生活が送れる程度まで回復すれば良い方にとっては保存療法から取り組むと良いでしょうし、スポーツや仕事をしていて復帰のためにしっかりと治したい方は手術や、新しい治療として注目されている再生医療を選択する方が良いでしょう。
腱板損傷の治療:保存療法(リハビリ、痛みを抑える薬物療法)
痛みが強い時期の治療としては、薬物療法などで痛みを抑えることを第一に取り組みます。痛み止めの飲み薬や湿布薬などもありますが、強い痛みに対しては注射による治療が効果的です。
特にステロイドによる注射は高い治療効果をもたらしますが、頻繁にステロイドを投与すると腱が脆くなることがあり、またそれ以外にも様々な副作用があります。
ある程度痛みが軽減してきたら、肩関節が拘縮しないようリハビリに取り組みましょう。ストレッチなどで筋肉をほぐし、血流改善を促します。肩関節は肩甲骨の動きも大きく関わっているため、ストレッチや体操をする際は腕を動かすだけでなく、肩甲骨も意識して動かしてください。
また筋力トレーニングも効果的ですが、方法を誤ると同じ動作でも違った筋肉に刺激を送ることになるので気をつけましょう。最初に説明したように腱板は深層にある筋肉であり、腱板を鍛えるためには強い負荷は必要ありません。
なぜなら強い負荷をかけたトレーニングでは、ターゲットである腱板よりも表層にある三角筋などが優位に働くからです。そのため腱板の筋力トレーニングをするときは、軽めの重りやゴムチューブなどを使い、軽い負荷でたくさんの回数をおこなうように心がけましょう。
腱板損傷の治療:手術療法
腱板損傷の手術では、主に関節鏡視下術がおこなわれます。関節鏡視下術とは、1〜2cmほどの小さな穴から内視鏡と言われるカメラや手術器具を挿入し、断裂した腱板を元の骨の位置に縫い付ける術式です。この関節鏡を使った手術では傷口を大きく開かないため、体への負担が少なく感染率も低いです。
ただし手術を受けたからといって、すぐに元の状態に戻るわけではありません。手術をしても腱板に負荷がかかると再断裂をする恐れがあるので、しばらくは装具や三角巾を使って安静にする必要があります。
そして3週間から6週間が経つと腱板の接合部分が安定してくるので、徐々にリハビリを開始していきます。重症度にもよりますが目安としては、不便なく日常生活が送れるまでに約2〜3ヶ月、スポーツや重労働ができるまでには約6ヶ月かかります。(文献④)
腱板損傷に対する第三の選択肢、手術を避ける再生医療について
腱板の損傷部分に関しては、自然治癒の可能性は低いと言われています。その為、痛みが強く保存療法でのコントロールが効きづらい場合には、一般的に手術を選択される医療機関が多いと思われます。
一旦断裂した腱板を縫い合わせる手術を実施したとしても、腱板が元の正常の状態に戻るわけではありません。そのため、縫い合わせた腱板は時間の経過と共に再度損傷していき、縫合部分が徐々に裂けてしまい、最終的には腱板が再断裂をしてしまうことが少なくありません。
また、手術を受けた際に関節を切開して出来た傷口が癒着し、組織同士がくっついて肩関節の動きを阻害してしまいます。そうなると本来の肩関節の動きを取り戻せず、五十肩(肩関節周囲炎)のような痛みを生じてしまいます。
このような状態を防ぐ為に有用な選択肢であるのが再生医療です。一般的には再生の可能性が低いと言われている腱板に再生医療では幹細胞を投与することで、損傷部位に幹細胞が行き渡り、腱板が再生されていきます。
幹細胞治療で再生された腱板は、縫合術のように糸で縫い合わせているわけではないので、再断裂を起こす確率は極めて低いです。また入院や装具で安静にする必要がないため、拘縮を起こすことなく痛みや可動域制限が解消されます。
さらには手術をされた方にも再生医療は有効とされています。手術を受けた場合の最大のリスクは腱板縫合部分の再断裂です。そこで手術により縫い合わされた腱板に再生医療を併用することで、再断裂のリスクを抑えられるだけでなく、手術を受けた際の傷口の修復や術後に起こり得る疼痛の軽減にも期待されます。
▶こちらの動画でも詳しく解説しています。是非ご覧ください。
まとめ
腱板損傷は明らかな原因が元で発症することもあれば、加齢による変性などで発症することもがあります。特に50歳代以上では発症率が高く、身近に起こり得る疾患と言えます。
しかし、損傷の程度によっては保存療法が功を奏せず、時間の経過とともに断裂が広がり手術となることもある疾患です。手術になるような損傷を起こさないためにも原因を知って、まずは予防に努めましょう!
そして、少しでも肩に違和感を感じたら、医療機関を受診するなどして腱板損傷が拡大しないよう早めの治療に取り組みましょう。以上、腱板損傷の症状と治療法、併せてその原因と予防方法ついて、記させて頂きました。
参考にしていただければ幸いです。
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