膝に水が溜まる原因とは?初期症状や治療法を専門医が解説【写真・動画あり】
公開日: 2021.10.09更新日: 2024.10.07
病院やクリニックの外来で『膝の水は抜いてもクセになりませんか』と患者様からよく聞かれることがあります。
結論から言うと、水を抜いてもクセにはなりませんのでご安心ください。
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- ・なぜ膝に水が溜まるのか?
- ・初期症状はどんなものか?
- ・そしてどのように対処すれば治せるのか?
といった知識を正しく理解すれば怖いことはありませんので、原因や症状、そして対処方法など動画を交えながら専門医が説明していきたいと思います。
目次
膝に水が溜まる原因・メカニズム
なぜ膝に水が溜まるのかその仕組みを説明していきましょう。少し専門的な話になり恐縮ですが少しだけお付き合いください。
膝の関節は関節包という組織で覆われており、その内側に滑膜が存在します。その滑膜から、「関節液(滑液)」が出てきて関節内を満たします。関節液の役割は関節の栄養と関節の潤滑の2つです。関節液にはヒアルロン酸やタンパク質など栄養分が入っています。そして、関節の栄養分となった後に、老廃物としてまた滑膜から吸収されます。
このようにして関節内には1~3cc程の関節液が常に循環して存在している状態なのです。
そしてもう一つの潤滑の役目ですが、関節包の中の関節液は、膝関節の軟骨同士がぶつからないように関節の保護や潤滑を担い、スムーズな関節の曲げ伸ばしといった動きを実現するため存在し、歩いたり、走ったり、座ったりする仕草のあらゆる場面で無くてはならない大切な存在なのです。
機械に例えれば歯車に油をさして滑りを良くし、歯車の摩耗を防ぎつつ、滑らかな動きもサポートする。そんなイメージが近いと思われます。良くできた仕組みです。
このように、正常でも膝の水は少し存在しますが、何らかの原因で滑膜が炎症を起こすとそれに反応してたくさんの関節液を放出します。その結果として膝に水溜まる仕組みとなっているのです。病名として関節水腫と言われます。
膝の水が溜まる原因・メカニズムについて下記の動画でも詳しく説明しています。
滑膜に炎症が起こる3つの原因
では、なぜ滑膜に炎症が起こるのでしょうか。
原因①変形性膝関節症
40代以降の中年層や高齢者に多く、すり減った軟骨や半月板のかけらが原因で滑膜を刺激して水が溜まります。そのまま放置していると、軟骨のすり減りが進行していくのでできるだけ早く対処が必要となります。(文献1)
原因② 半月板損傷・靭帯損傷・骨折
スポーツや怪我などで、関節内の組織が損傷すると同時に滑膜が炎症をおこします。靭帯や骨、半月板に血管が通っているため、関節液に血液が混じって赤くなることが多く見られます。(文献2)
原因③感染症・偽痛風・リウマチなど
細菌やピロリン酸カルシウム、自己免疫疾患により関節液が溜まります。抜いた関節液は濁っていることが多く、さらに関節液の検査を行うことで原因が特定できます。(文献3)
膝に水が溜まったときの初期症状は?自分で治せる?
では、実際の診察の流れを見ていきましょう。まず、膝に水が溜まった時にはどんな症状が出るのでしょうか。
膝に水が溜まった時の初期症状
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などがあります。 上記のように膝に水が溜まる初期症状としては、膝が少し腫れて重たい感じから始まり、溜まる水が増えてくると、歩行や階段の上り下り、正座などが困難になってきます。
膝関節は関節包と呼ばれる袋に閉じ込められており、そこに多くの水が溜まると関節包がはち切れんばかりに張ってしまうことで痛みが出ます。一旦、水を抜くことでその張りがなくなることで痛みは激減します。要するに膝に水が溜まった時の痛みのほとんどは、関節包の突っ張りによるものとなります。その痛みは、水が溜まる原因疾患による痛みよりも痛い場合が多く見られます。
写真のように明らかに膝が腫れているのがわかります。ただし、溜まっている水が少ないと見た目ではわかりづらく、その時は膝を触って診察したり、画像検査としてエコーやMRIで判断します。経験上10cc程以下の水の量では、触診だけではわからないことがあります。
膝に溜まっているか自分で調べる方法
膝を伸ばした状態で座り、片方の手で膝のお皿の上をしっかりと掴みます。
そして、もう片方の手でお皿を上から押してみましょう。
少しぷよぷよしてお皿が浮いた感じがあれば、膝に水が溜まっている可能性があります。
膝に水が溜まったときに自分で治す方法
膝に水が溜まった時のマッサージ方法については下記の動画で説明しています。
あくまで、慢性期の痛みを緩和するためのもので、外傷の急性期や感染症、偽痛風などでは基本的にマッサージはしないほうがいいでしょう。マッサージにより痛みが強くなる場合は中止して医療機関と相談しましょう。
基本的には自分だけで治そうとせずに、必ず医療機関と相談しながら行いましょう。
膝に水が溜まった際は冷やしたらいい?温めたらいい?
変形性膝関節症などの慢性的な痛みの場合は温めるのが基本です。逆に、外傷後や感染、偽痛風などの急性期の痛みや膝が熱を持っている場合は冷やす方がいいでしょう。湿布に関しては冷湿布でも温湿布でもどちらでも大丈夫です。
膝に水が溜まった際にサポーターは有効?
膝のサポーターは膝の関節を安定させる効果があります。
▶サポーターに関してはこちらの記事で詳しく説明していますので参考にしてください。
膝に溜まった水は自然になくなる場合もある
膝に水が溜まっても、自然に治癒することはよくあります。ではどれくらいで治るのでしょうか。
原因である膝の炎症が落ち着けば、滑膜から放出される関節液は減少し、余分に増えた関節液は滑膜から吸収されることで、膝の水の量が減っていきます。自然治癒する期間として1日から数週間で水は吸収されます。
ただし注意点として、膝関節に水が溜まるということは膝の屈伸がしばらくできない状態になるため、膝の関節が固まる拘縮となります。そのため、膝の水を1ヶ月以上放置することはお勧めしません。膝の水が自然に治った後でも、拘縮は残ります。対処法として膝の水が引いた後や病院やクリニックで膝の水を抜いた後にや、必ずリハビリで関節の可動域訓練をして拘縮を予防しなければいけません。
そしてもう一つ注意しなければいけないことは、膝関節が熱を持っていたり、安静にしていても痛みが強い時です。この場合は、感染や自己免疫疾患、痛風、偽痛風などが疑われるため、早めに整形外科にかかることをお勧めします。
膝に水が溜まらないようにするにはどうしたらいい?具体的な予防法
膝に水が溜まらないようにする具体的な予防方法をご紹介していきます。
筋トレやマッサージ・ストレッチ
膝を支える筋肉を鍛えることで、関節の負担を減らします。また、マッサージやストレッチで筋肉に柔軟性を持たせて血行を促進することで炎症を抑えてくれます。
▼自宅で簡単にできる!変形性膝関節症の筋力トレーニング
ウォーキング
変形性膝関節症の場合、痛みが軽度であればある程度ウォーキングをしたほうがいいでしょう。
歩くことで、関節周りの筋力強化や軟骨の修復が期待できるからです。(文献4)
サポーターやテーピング
膝の安定性を保持してくれるので、痛みが強い時や予防には効果的です。
アイシング・湿布など
外傷による炎症にはアイシングが効果的です。湿布は冷・温湿布いずれでも消炎鎮痛作用が期待できます。
漢方薬
防己黄耆湯がよく使用されますが、効果には個人差があります。
膝に水が溜まった際の病院での治療方法
このように水を抜く(写真①)ときには、普段採血やヒアルロン酸の注射やブロック注射などの注射針より太い注射針を使用します。(写真②)
膝の注射は痛いの?
よく患者様には、『足の膝の水を抜くのは痛いでしょう?』と聞かれますが、針が太い分一般的には痛いものです。しかし長年の経験上、実はあまり痛くないように注射をするコツを知っているので(笑)、『思ったより、痛くなかった』と言ってくれる方が多いです。
そして、せっかく痛い思いをして針を刺していただいたので、水を抜いた後は針は刺したままで注射のシリンジを入れ替えて、ヒアルロン酸やステロイドなどの炎症止めの注入をします。
ただし注意点として、抜いた水の色(見た目)や濁りをみて感染症の疑いがある場合には、薬液は注入しません。透明の薄い黄色であれば問題ないのですが、濁りがあったり茶色や褐色のような場合は、感染や骨折などの外傷などがあるかの検査結果がわかるまでは、薬液の注入は行わないことがほとんどです。
水の量は多い時で、100ccになることもあります。
膝の水の色(見た目)と原因疾患
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膝の水を抜いた後の過ごし方や安静期間
変形性膝関節症
特に安静期間は必要ありません。
抜いた後でも積極的にウォーキングや筋力トレーニングなどの運動やリハビリ、マッサージが必要であり、痛みが軽度であれば仕事も可能です。
骨折や半月板損傷、靭帯損傷などの外傷
根本の外傷の安静期間に準じます。
感染症、偽痛風
感染や偽痛風の痛みや炎症が落ち着くまではあまり動かさない方が良いです。
膝の水を抜いた後の注意点
膝の水を抜いた後は、24時間はお風呂やシャワーなどは避けた方がいいでしょう。
膝の水を抜いた後は、針を刺した場所が痛む時がありますが数日で消えることが多いので心配はいらないでしょう。ただ、注射をした後に膝が熱を持ったり、腫れがひどくなったり、体温が高くなったりした場合は細菌感染の疑いがあります。
できるだけ早くかかりつけ医に診てもらうことをお勧めします。
膝の水を抜く間隔
膝の水を抜く間隔は、抜いた後に再び腫れたときに抜きます。この間隔は、症状によって様々ですが、膝の水を抜いてもすぐに繰り返し水が溜まる場合もよく見かけます。
外傷によって膝に水が溜まった場合、外傷が治ってくると同時に水も自然に吸収されるので、痛みがそれほど強くなければ、多少膝が腫れていても放置することもあります。
膝の水を抜くとクセになる?
冒頭でも少しお話しましたが、従来からよく耳にするのは、「膝の水を抜くと癖になる!だから抜かない方が良いのではないか?」という疑問点についてです。この意見は必ずしも正しくはありません。
膝に水が溜まっている原因は膝の炎症が強く関与しているため、「水を抜くから癖になる」というのではありません。
正しくは、炎症が続いているから→ 水が溜まり続けて→ 癖になっているのでは?!と感じるのです。
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したがって、重要なのは膝内部の炎症をしっかり抑制してコントロールすることにあります。時に水を抜かずに放置することは、滑膜部の炎症を長引かせる要因になりえます。
膝の水をどうする? |
繰り返し水が溜まる症状は、膝に溜まる関節液の中に炎症を引き起こす物質(炎症性サイトカイン)が含まれているからです。(文献5)
そのため、膝の水が溜まっているときは放置せず膝内部の炎症を鎮めることを念頭に治療を行っていただくことが理にかなっています。適切に治療に繋げるためには、まずは損傷部位を正しく把握して、同部に対してしっかりと炎症を制御するアプローチを行うことが大切です。また、膝に水が溜まった際に水を抜く処置を行う理由は他にもあります。例えば、水が溜まっている原因が細菌感染の場合では、放置すれば膝関節内部でどんどんと細菌が繁殖して、益々膝部が腫脹して自覚的にも痛くなってきます。
この場合にも、水が大量に溜まった状態のままで放置しますと、膝の重苦しい感じが持続して、膝の動きがさらに悪くなり、日常生活において正座が出来ない、あるいは左右の膝の伸展度が違うなどといったことが起こり得ます。さらに、正常とは言えない関節液には様々な物質が含まれていて、関節の軟骨そのものに悪影響を及ぼすことも十分に考えられます。
そして、膝に水が溜まっている原因が「変形性膝関節症」であった場合には、そのまま放置していると、どんどん病状が進行してしまい、末期になると人工関節の手術を選択するなど選択肢が狭められてしまいます。それだけは避けたいものですね。
再生医療による治療の可能性
ただ、このような手術しかないとの診断を受けた方への朗報として近年、医学の目覚ましい発展で人工関節を避ける方法があることもご報告しておきます。これは人工関節を避けるだけではなく、手術すら不要。ケースによっては日帰りの治療も可能とされています。それが「再生医療」といわれる先端医療で、傷ついた膝の軟骨を自力で修復させることで症状の改善を目指すものです。
もしも、あなたが人工関節など、手術しかないとの診断を受けて迷われているなら、日進月歩のこのような先端医療分野を検討されても良いかもしれません。
このように治療方法に光明が見えては来ましたが、まずは放置せず、手遅れになる前に整形外科をはじめとした専門医に出向むいて、膝の状態を診てもらい、それに適した治療を受けることが重要な視点となります。
▼よろしければこちらの動画もご覧ください。
まとめ|膝に水が溜まっているなら早めに専門医に相談しよう!
記事のポイントおさらい
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一般的に、膝関節は関節包で覆われており、その内側には「滑膜」と呼ばれる組織があります。関節包の内部は滑膜から分泌される関節液で満たされていますが、その量は通常では約1~3mL程度です。
ところが、いったん滑膜部が炎症を起こすと、関節液の量は概ね20~30mLにまで増加傾向を示し、「水が膝に溜まる」とはこのような状態を指しています。
膝の痛みや、膝が腫れ、膝に違和感を感じたら悪化を防ぐためにも早期に病院等、医療機関を受診しましょう。したがって、膝に水が溜まっている際には膝関節内の骨以外の組織である軟骨、靭帯、半月板などの状態を把握しやすいMRI画像なども基準にして専門医が詳しい状態を分かり安く評価した上で、生活スタイルを考慮した形で的確な治療を提案してもらいましょう。
今回の記事の情報が少しでも参考になれば幸いです。
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