脳幹出血を起こすとどうなる?治療と予後予測について医師が解説
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脳幹出血を起こすとどうなる?治療と予後予測について医師が解説
脳出血の中でも、脳幹出血(brainstem hemorrhage)は生存率が低いと言われています。それは、脳幹という生命維持にとって大切な部分の障害が起こってしまうからです。
重症である場合は、重度の意識や呼吸・循環障害をきたします。治療を行っても、意識回復せずに、脳死状態に陥ってしまったり、亡くなってしまったりすることもあります。
出血量が多くなくても、麻痺などの後遺症が残ると入院期間が長引いてしまいます。
この記事では、脳幹出血を起こした場合にどんな症状をきたすのか、そして治療や予後について解説していきます。
脳幹とはなにか

「脳幹」は中脳・橋・延髄という3つの部位から成り立っています。この部位には様々な神経の細胞や、そこから伸びる神経線維があります。感覚を脳に伝えたり、脳から手足などに指令を送ったりするための信号を伝達しています。
また、意識を保ったり、呼吸や血液の流れを調整したりと、生きていく上で重要な役割を担っています。
脳幹出血とは
脳出血とは脳にはりめぐらされた血管が破れてしまい、脳の中に出血を起こす病気です。脳出血が脳幹に起こると、「脳幹出血」と呼ばれます。脳出血全体のおよそ1割程度が脳幹出血とされています。
脳幹出血のほとんどは橋の出血です。そのため、「橋出血」という言葉は脳幹出血とほぼ同じ意味で使われることがあります。
多くの場合、原因は高血圧です。血管に非常に高い圧がかかり、破れてしまうことで起こります。脳は柔らかい組織で、血が広がっていくため、広い範囲に出血をきたしてしまいます。
一部の患者さんでは、血管の奇形が出血の原因になることがあります。高血圧による出血よりも、若い方に多いのが特徴です。代表的なものは、海綿状血管腫という血管が塊になったものです。血管奇形が原因だと、出血量は比較的少なく、症状が軽く済むことが多いとされています。ただし、繰り返し出血を起こすことも少なくありません。
脳幹出血の症状について
出血が少なく、軽症であれば、出血部位により多彩な症状をきたします。
脳幹出血の前兆の可能性として、初期に感じる軽症の症状の一例を挙げると下記のようなものがあります。
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脳幹出血以外の脳血管疾患でも、初期症状として起こる可能性があります。このような異変を感じたら、早い段階での受診が必要です。
出血が多い場合は、重篤な意識障害・呼吸障害をきたします。当初は意識あり、自発呼吸ありという状況でも、急激に悪化し、短時間で死に至ることもあります。
特に予後の悪い症例では、下記のような症状が認められます。
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脳幹出血の予後について
高血圧による脳幹出血では、重篤な場合は、急速に体の状態が悪化し、発症して数時間〜数日で亡くなってしまいます。脳のすべての働きがなくなり、人工呼吸器などのサポートがなければ生命を維持できない、「脳死」状態となってしまうこともあります。
もし一命を取り留めても、脳の障害を受けた範囲が広いと、後遺症が長く残ります。
血管の奇形によるものでは、症状は軽く、すぐに回復することもあります。一回の出血で命に関わることはほとんどありません。ただし、海綿状血管腫は、出血を繰り返すことで徐々に大きくなっていきます。そうなると、やはり重い後遺症に悩まされるかもしれません。
脳幹出血の治療について
高血圧による出血の場合は、基本的には血圧を下げ、体の状態を保つ保存的治療が最優先されます。
脳幹はすでに出血でダメージを受けており、手術で状況をより悪化させてしまう危険性が高いのです。そのため、手術適応は非常に限られます。
血管奇形が原因の場合は、状況によっては手術が検討されます。ただし、出血直後ではなく、時期を見て行う場合が多いです。
脳幹という重要な部分の手術は合併症リスクも高いです。手術するべきか、またそのタイミングについては慎重に判断しなければなりません。
脳幹出血についてよくあるQ & A
Q 脳幹出血を起こすと、どのくらい入院が必要になりますか? A 脳幹出血単独でのデータはありません。厚生労働省の統計では、脳の血管が詰まったり破れたりする「脳卒中」全般では平均入院期間は77.4日となっています。脳卒中を起こすと、神経にダメージが起こってしまうからです。 神経の回復は他の組織よりも遅く、麻痺や感覚障害などは完治しにくいものです。一番危ない時期を過ぎても、その後の体力の回復・リハビリテーションに時間がかかってしまうことが大きいでしょう。
Q 脳幹出血を起こさないために、どのようなことに気をつけたらいいでしょうか? A 一番重要なのは血圧の管理です。そして適切な運動を心がけ、減塩に努めましょう。すでに治療を受けている方は、しっかりと通院を続けてください。血圧が下がったからといって自己判断でお薬をやめないようにしましょう。 脳ドックなどで血管奇形が見つかった場合でも、出血症状がなければすぐに手術適応になることはありません。ただし、慎重な経過観察が必要になります。この場合も、血圧の管理は必要です。 |
まとめ・脳幹出血を起こさない為に予防が大切!
脳幹出血は時に死に至ることもある恐ろしい病気です。命に関わらない場合も、一度発症すると重い後遺症を残してしまう可能性があります。
予防の第一歩は適切な血圧管理を行い、健康的な生活を送ることにあります。定期的な健康診断を受け、必要な方は治療をしましょう。
この記事がご参考になれば幸いです。
No.S137
監修:医師 加藤 秀一
- <参考文献>
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