前十字靭帯損傷とは?軽度から重度までの症状と治療法
目次
前十字靭帯損傷とは?軽度から重度までの症状と治療法
スポーツ選手にとって代表的な怪我の1つである前十字靱帯損傷。
よく耳にする怪我ですが、「軽度でも手術が必要なの?」と治療について詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。今回は、前十字靱帯損傷について、軽度から重度までの症状や治療法を解説します。
前十字靱帯の役割や損傷の原因
まずは前十字靱帯について解説し、前十字靱帯損傷の病態や原因を紹介します。
前十字靭帯は膝の関節を安定させる重要な靱帯
膝の関節はスネの骨(脛骨:けいこつ)と太ももの骨(大腿骨:だいたいこつ)からなり、肩関節や足の付け根にある股関節に比べ、骨同士の固定が弱い構造をしています。
そこで骨と骨をつなぎ合わせて関節を安定させる、4本の靱帯(じんたい)が重要な役割を果たしています。その中の1つが前十字靱帯で、脛骨が大腿骨に対して前の方にずれないように制御する役割を持っています。
前十字靭帯損傷の原因の多くはスポーツ
前十字靭帯損傷はバスケットボールやサッカー、スキー、ラグビーなどのスポーツ中に多くみられます。
その原因は接触型(コンタクト)と非接触型(ノンコンタクト)に分けられます。
2つのうち多いのが非接触型で、バスケットやサッカー、スキーなどジャンプや切り返しの多いスポーツで以下のような動作が損傷の引き金になります。
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また、接触型はラグビーや柔道などのコンタクトスポーツで膝に直接的な衝撃が加わり損傷するケースを言います。
スポーツ以外でも交通事故が原因として損傷する場合もあります。
前十字靱帯の損傷は安静では元に戻りにくい
前十字靱帯損傷の一番の特徴は、「正常に戻りにくい」という点です。
そのため、靱帯の損傷が軽いからといって、筋肉の怪我や骨折のように安静にしていれば治るという可能性が少ないとされています。
前十字靱帯損傷の症状
前十字靱帯損傷の症状は受傷から経過した時間や重症度によって異なります。
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受傷直後
受傷の直後にみられる症状は「膝の痛み」と「プツッという靱帯が切れるような音」です。この音は受傷する本人にはっきりと自覚されることが多く「ポップ音」と呼ばれます。
また、膝の力が抜けたように、急激に膝が曲がってしまう膝くずれが起こります。
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受傷から数時間後
受傷から時間が経過していくと靱帯損傷による出血・炎症で腫れたり、熱をもったりします。
前十字靱帯は関節の内にある靱帯です。そのため、出血した血液が関節の中にたまる関節血症が起こり、注射で血液を吸引することができます。
また、膝を完全に曲げ伸ばしをしたりすることが難しくなります。膝の腫れは筋肉の働きを妨げるため、徐々に膝の周りにある筋力の低下を引き起こします。
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受傷から数日後以降
前十字靭帯だけの損傷の場合、受傷時にみられたような痛みや腫れは徐々に軽減していき、1ヶ月ほどで日常生活に支障が出ないほどになることも多いです。
しかし、症状の改善は時間の経過とともに損傷時に生じた出血や炎症が治まっただけで、損傷自体は回復していません。
そのため、膝がグラグラするような不安定さが残ったり、膝くずれがおこったりします。損傷が重度であるほど、このような症状が強くみられます。
また、前十字靱帯損傷が重症な場合、膝関節の衝撃を吸収する役割を持つ半月板(はんげつばん)の損傷や骨折を合併することがあります。そのような場合は、受傷から時間が経過しても、痛みや膝の動きの制限が残ることがあります。
前十字靱帯損傷の治療法
前十字靱帯損傷における治療は「手術による治療」と手術を行わない「保存療法」に分けられます。
前十字靱帯損傷は手術を選択する場合が多い
前十字靱帯損傷が軽度であっても、靱帯は修復されないため膝の不安定さが残り続けます。放置すると膝への負担が強まり、半月板の損傷や関節の変形などにつながります。
そのため、スポーツに復帰をしたり、膝に負担のかかる仕事をしたりする場合は手術が行われます。また、損傷が重度だったり、他の部分の損傷を合併したりして、日常生活でも膝くずれを繰り返すような場合も手術が適応されます。
手術は前十字靱帯の代わりに使用する人工的に靱帯を使用する再建術(さいけんじゅつ)が行われます。靱帯の再建には筋肉が骨につく部分である腱(けん)を使用します。
手術後は8〜10ヶ月後にスポーツに復帰できることが多いと言われています。
年齢や活動量を踏まえて保存療法をする場合もある
長期的な視点では、靱帯が損傷したままだと将来の怪我につながったり、活動的な動きが制限されたりするため、年齢が若い場合は靱帯の再建手術をするケースが多いです。しかし、活動量が低く、損傷が軽度であれば日常生活に支障がなく過ごせることも少なくありません。
そのため、中高齢者で日常生活に支障がなかったり、スポーツや仕事で膝に負担をかけなかったりする場合は手術をしないこともあります。
保存療法としては、膝の関節を支える装具やサポーターを使用したりして膝を安定させて、膝にかかる負担を少なくします。また、自家製のサポーターとして、膝周辺の筋力を鍛えることがあります。
特に太ももの前にある大腿四頭筋(だいたいしとうきん)の筋力強化が重要です。この筋肉は膝を伸ばす筋肉ですので、前十字靱帯損傷後にみられる膝くずれへの対策になります。
まとめ・前十字靱帯損傷は放置せずに適切な治療を選択しましょう
前十字靱帯損傷は受傷直後に、はっきりとした症状がみられるものの、軽度の損傷の場合は症状が改善していくことも少なくありません。しかし、靱帯の損傷は治りにくく、放置すると膝に負担がかかり続け、別の怪我につながる可能性があります。
そのため、自己判断で放置せずに、整形外科を受診して正しい診断と治療をしてもらいましょう。
No.089
監修:医師 坂本貞範
当院の再生医療は、靭帯損傷にも対応する最先端治療です